(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-31
(54)【発明の名称】ミクログリア機能障害を治療し、代謝機能障害を改善するための方法および組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20241024BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20241024BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20241024BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20241024BHJP
A61P 25/14 20060101ALI20241024BHJP
A61P 27/06 20060101ALI20241024BHJP
A61P 21/04 20060101ALI20241024BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20241024BHJP
A61K 31/37 20060101ALI20241024BHJP
A61K 38/46 20060101ALI20241024BHJP
A61K 45/06 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P25/00
A61P25/28
A61P25/16
A61P25/14
A61P27/06
A61P21/04
A61P21/00
A61K31/37
A61K38/46
A61K45/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024525791
(86)(22)【出願日】2022-11-08
(85)【翻訳文提出日】2024-06-24
(86)【国際出願番号】 IB2022000668
(87)【国際公開番号】W WO2023079366
(87)【国際公開日】2023-05-11
(32)【優先日】2021-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524158896
【氏名又は名称】アルティメット メディシン アーゲー
(71)【出願人】
【識別番号】524154669
【氏名又は名称】アルベルト・ルートヴィヒ大学フライブルク
(74)【代理人】
【識別番号】100080182
【氏名又は名称】渡辺 三彦
(74)【代理人】
【識別番号】100142572
【氏名又は名称】水内 龍介
(72)【発明者】
【氏名】ザライ アンタル
(72)【発明者】
【氏名】ブランク トーマス
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA17
4C084AA20
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4C084ZA332
4C084ZA941
4C084ZA942
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA08
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4C086ZA02
4C086ZA15
4C086ZA16
4C086ZA18
4C086ZA22
4C086ZA33
4C086ZA94
(57)【要約】
本開示は、それを必要とする被験者において、認知障害、神経変性疾患、または神経機能障害を治療または発症率を低下させるための方法および組成物に関する。本方法は、腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤を被験者に投与することを含む、方法に関する。本開示はまた、そのような被験者を特定する、方法に関する。
【選択図】
図1a
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それを必要とする被験者において、ミクログリアにおける酸化ストレスまたはミトコンドリア機能不全、またはミクログリア機能不全の発症率を低下させる方法であって、治療有効量の腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤を前記被験者に投与することを含む、方法。
【請求項2】
それを必要とする被験者において、認知障害を治療する、または認知障害の発症率または悪化率を低下させる方法であって、治療有効量の腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤を前記被験者に投与することを含む、方法。
【請求項3】
被験者において、神経変性疾患を治療する、または神経変性疾患の発症率または進行率を低下させる方法であって、治療有効量の腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤を前記被験者に投与することを含む、方法。
【請求項4】
それを必要とする被験者において、神経機能障害の発症率または悪化率を低下させる方法であって、治療有効量の腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤を前記被験者に投与することを含む、方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の方法であって、
(i)前記被験者が、基準レベルと比較して、被験者の生体試料中のN6-カルボキシメチルリジン(CML)、CML前駆体、CML代謝産物、またはCML類似体の上昇したレベルを有すると以前に特定されており;および/または
(ii)本方法は、基準レベルと比較して、前記被験者の生体試料中のCML、CML前駆体、CML代謝産物、またはCML類似体のレベルが上昇しているとして前記被験者を特定することをさらに含む、方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の方法であって、
(i)前記被験者が、基準レベルと比較して、前記腸管バリアの透過性の上昇したレベルを有すると以前に特定されており;および/または
(ii)本方法は、基準レベルと比較して、前記腸管バリアの透過性の上昇したレベルを有するものとして前記被験者を特定することをさらに含む、方法。
【請求項7】
前記生体試料は、体液(例えば、唾液、尿、血液、血清、血漿、脳脊髄液、または糞便)または組織試料(例えば、脳組織)からなる、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記被験者が、
(i)認知障害;および/または
(ii)神経変性疾患
を有すると特定または診断されている、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記被験者が、
(i)認知障害;および/または
(ii)神経変性疾患
の発症リスクの増大を有すると特定されている、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記被験者のミクログリアにおける細胞内および/またはミトコンドリアの活性酸化種(ROS)のレベルの低下をもたらす、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記被験者のミクログリアにおける誘導性一酸化窒素合成酵素(iNOS)の発現の減少をもたらす、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
Cdkn1a、Cyba、Cybb、Duoxa1、Il1b、Tgfbr2、Tlr2、Tlr4、Tlr5、Axl、Hif1a、Lcn2、Mmp2、Rela、Trex1、S100a8、およびS100a9からなる群より選択される前記被験者のミクログリアにおける1つ以上の遺伝子の発現の減少をもたらす、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
Foxp1、Nrf1、Trp53、G6pdx、Pdk2、Stat3、およびUcp2からなる群より選択される前記被験者のミクログリアにおける1つ以上の遺伝子の発現の増加をもたらす、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記被験者から得られた前記生体試料中のCML、CML前駆体、CML代謝産物、またはCML類似体のレベルを決定することをさらに含む、請求項5または7に記載の方法。
【請求項15】
請求項3、8(ii)および9(ii)のいずれか1項に記載の方法であって、
前記神経変性疾患は、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、前頭側頭型認知症、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、緑内障、筋強直性ジストロフィー、進行性核上性麻痺、脊髄性筋萎縮症、多系統萎縮症、運動失調症、および血管性認知症、からなる群より選択される、方法。
【請求項16】
被験者の組織中のCML、CML前駆体、CML代謝産物、またはCML類似体の蓄積率を低下させる方法であって、治療有効量の腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤を前記被験者に投与することを含む、方法。
【請求項17】
(i)ミクログリア機能障害の発症、(ii)認知障害、または(iii)神経変性疾患の発症のリスクの増大を有する被験者を特定する方法であって、基準レベルと比較して、前記被験者から得られた生体試料中のCML、CML前駆体、CML代謝産物、またはCML類似体の上昇したレベルを有する被験者を特定することを含む、方法。
【請求項18】
それを必要とする被験者の血液または脳試料内の、CML、CML前駆体、CML代謝産物、またはCML類似体の濃度を低下させる方法であって、治療有効量の腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤を前記被験者に投与することを含む、方法。
【請求項19】
それを必要とする被験者において、認知障害または神経変性疾患を予防または治療するために、CML、CML前駆体、CML代謝産物、またはCML類似体の血液または脳試料中の濃度を低下させる方法であって、治療有効量の腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤を前記被験者に投与することを含む、方法。
【請求項20】
それを必要とする被験者において、認知障害または神経変性疾患を予防または治療するために、腸管透過性を低下させる方法であって、治療有効量の腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤を前記被験者に投与することを含む、方法。
【請求項21】
前記腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤は、腸アルカリホスファターゼ(IAP)、リポテイコ酸、メトホルミン、エラグ酸(EA)、ウロリチンA、酪酸、グルタミン、オベチコール酸(OCA)、ジベルチン、またはクルクミン、またはそれらの誘導体を含む、請求項1~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤はIAPである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤はEAである、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤は、IAP、リポテイコ酸、メトホルミン、EA、ウロリチンA、酪酸、グルタミン、OCA、ジベルチン、もしくはクルクミン、または薬学的に許容されるそれらの塩を含む医薬組成物として製剤化される、請求項1~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤が、経口投与、経皮投与、吸入、経鼻投与、局所投与、静脈内投与、動脈内投与、筋肉内投与、または皮下投与により投与される、請求項1~24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤の投与後に、前記被験者が、
(a)血液試料中のCML、CML前駆体、CML代謝産物、またはCML類似体の濃度の低下;
(b)脳組織試料中のCML、CML前駆体、CML代謝産物、またはCML類似体の濃度の低下;
(c)腸管透過性の低下;
(d)細菌叢ディスバイオシスの減少;
(e)腸上皮におけるオートファジーのレベルの上昇;
(f)ミクログリアにおける細胞性および/またはミトコンドリアROSのレベルの減少;
(g)ミクログリアの集団におけるアデノシン三リン酸(ATP)のレベルの上昇;
(h)ミクログリアにおけるiNOSの発現の低下;
(i)ミクログリアにおける、Cdkn1a、Cyba、Cybb、Duoxa1、Il1b、Tgfbr2、Tlr2、Tlr4、Tlr5、Axl、Hif1a、Lcn2、Mmp2、Rela、Trex1、S100a8、およびS100a9からなる群より選択される、1つ以上の遺伝子の発現の減少;および
(j)Foxp1、Nrf1、Trp53、G6pdx、Pdk2、Stat3、およびUcp2からなる群より選択される、ミクログリアにおける1つ以上の遺伝子の発現の増加、
の1つ以上を示す、請求項1~9および14~16、18~25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
ミクログリア機能障害を発症するリスクが増大した被験者を特定する方法であって、基準レベルと比較して、前記被験者から得られた生体試料中のCML、CML前駆体、CML代謝産物、またはCML類似体の上昇したレベルを有する被験者を特定することを含み、このようなレベルの上昇は、前記被験者がミクログリア機能障害を発症するリスクが増大したことを示す、方法。
【請求項28】
認知障害のリスクが増大した被験者を特定する方法であって、基準レベルと比較して、前記被験者から得られた生体試料中のCML、CML前駆体、CML代謝産物、またはCML類似体の上昇したレベルを有する被験者を特定することを含み、このようなレベルの上昇は、前記被験者が認知障害を発症するリスクが増大していることを示す、方法。
【請求項29】
神経変性疾患を発症するリスクが増大した被験者を特定する方法であって、基準レベルと比較して、前記被験者から得られた生体試料中のCML、CML前駆体、CML代謝産物、またはCML類似体の上昇したレベルを有する被験者を特定することを含み、このようなレベルの上昇は、前記被験者が神経変性疾患を発症するリスクが増大していることを示す、方法。
【請求項30】
前記生体試料は、組織試料または体液試料である、請求項28~29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記体液試料は、唾液、尿、血液、血清、血漿、脳脊髄液、または糞便である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記組織試料は、脳組織である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記生体試料中のCML、CML前駆体、CML代謝産物、またはCML類似体の量は、クロマトグラフィー(例えば、高速液体クロマトグラフィー)、質量分析、液体クロマトグラフィー質量分析、または核磁気共鳴分光法によって、またはイムノアッセイによって測定される、請求項27~30のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年11月8日に出願された米国仮出願第63/276,996号の利益および優先権を主張するものであり、その開示全体は、あらゆる目的のために参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、被験者における神経変性障害、認知障害、または神経機能障害の発症率を治療または低下させるための方法および組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
正常な脳の老化では、ミクログリアはしばしば、神経変性を示す明確な転写プロファイルを示す(非特許文献1)。同時に、老化したヒトの脳のミクログリアは、形態学的変化を示し、他の組織(例えば、ニューロン)を支持する能力が低下し(非特許文献2)、ジストロフィーになる。ミクログリアのホメオスタシスの加齢性変化は、内因性および外因性因子を介したミクログリアホメオスタシスの加齢性変化による可能性が高いことが示唆されている。中枢神経系(CNS)と末梢環境との双方向の相互作用を媒介する外的因子が何であるかは、まだ解明されていない。
【0004】
今日までの努力にもかかわらず、神経変性疾患、認知障害、神経機能障害を治療する、あるいはその発症率を低下させるための新たな治療法が依然として必要とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Salter et al.(2014)CELL,158:l5-24
【非特許文献2】Streit et al.(2004)GLIA 45:208-212
【非特許文献3】Long et al.(2017)NAT.GENET.,49:568-578
【非特許文献4】Tremblay et al.(2012)GLIA,60:541-558
【非特許文献5】Langfelder et al.(2008)BMC BIOINFORMATICS,9:559
【非特許文献6】Baker et al.(2011)NATURE,479:232-236
【非特許文献7】Stefanatos et al.(2018)FEBS LETT.,592:743-758
【非特許文献8】Streit(2006)TRENDS NEUROSCI.,29:506-510
【非特許文献9】Sun et al.(2010)ARCH.BIOCHEM.BIOPHYS.,494:130-137
【非特許文献10】Zhao et al.(2010)BIOSCI.REP.,30:233-241
【非特許文献11】Mossad et al.(2021)NAT.AGING,1:1127-1136
【非特許文献12】Hayes et al.(2018)SCI.REP.,8:14184
【非特許文献13】Thevaranjan et al.(2017)CELL HOST MICROBE,21:455-466.e4
【非特許文献14】Raghu et al.(2016)FOOD FUNCT.,7:1574-1583
【非特許文献15】Kuhn et al.(2020)JCI INSIGHT,5:e134049
【非特許文献16】Singh et al.(2020)SCI.REP.,10:3107
【非特許文献17】Yates et al.,(2009)ANNU.REV.BIOMED ENG.11:49-79
【非特許文献18】Afgan et al.(2018)NUCLEIC ACIDS RES.,46:W537-W544
【非特許文献19】Jordao et al.(2019)SCIENCE,363:eaat7554
【非特許文献20】Yilmaz et al.(2019)NAT.MED.,25:323-336
【非特許文献21】Caporaso et al.(2010)NAT.METHODS,7:335-336
【非特許文献22】McMurdie et al.(2012)PAC.SYMP.BIOCOMPUT.,235-246
【非特許文献23】Callahan et al.(2016)F1000RES.,5:1492
【非特許文献24】Evans et al.(2009)ANAL.CHEM.,81:6656-6667
【非特許文献25】Harris(2003)D.C.QUANTITATIVE CHEMICAL ANALYSIS 6TH EDN(W H Freeman and Co.)
【非特許文献26】Gomes et al.(2013)CELL,155:1624-1638
【非特許文献27】Lopez-Otm et al.(2013)CELL,153:1194-1217
【非特許文献28】Tessier et al.(2016)MOL.NUTR.FOOD RES.,60:2446-2456
【非特許文献29】Mariat et al.(2009)BMC MICROBIOL.,9:123
【非特許文献30】Vaiserman et al.(2020)BMC MICROBIOL.,20:221
【非特許文献31】Hu et al.(2019)FOOD FUNCT.,10:1736-1746
【非特許文献32】Mossad et al.(2022)NATURE NEUROSCIENCE,25:295-305
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、腸内細菌叢によって産生され、加工食品にも含まれる代謝産物N6-カルボキシメチルリジン(CML)が、ミクログリアにおける加齢に関連した酸化ストレスとミトコンドリア障害を促進する可能性があり、加齢に伴って脳内でCMLの量が増加すると、認知障害や神経変性障害を引き起こす可能性があるという発見に、部分的に基づくものである。さらに、加齢に伴う被験者の体液や組織試料中のCMLの増加や蓄積は、加齢の進行に伴う腸管透過性の亢進に起因する可能性があり、その結果、CMLが腸壁を通過して被験者の体液や組織に移行するレベルが高くなると考えられることが発見された。これらの発見に基づいて、神経変性障害、認知障害、神経機能障害を治療したり、その発症率を低下させたりする治療法を提供することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一態様において、本開示は、必要な被験者の、ミクログリアにおける酸化ストレスまたはミトコンドリア機能障害の発症率、ミクログリアにおけるミトコンドリア機能障害の発症率、またはミクログリア機能障害の発症率を低下させる方法を提供する。本方法は、治療有効量の腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤を被験者に投与することを含む。
【0008】
別の態様において、本開示は、必要な被験者の、認知障害の治療法または認知障害の発症率または悪化を低下させる方法を提供する。本方法は、治療有効量の腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤を被験者に投与することを含む。
【0009】
別の態様において、本開示は、被験者の、神経変性疾患の治療法または神経変性疾患の発症率または進行率を低下させる方法を提供する。本方法は、治療有効量の腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤を被験者に投与することを含む。
【0010】
別の態様において、本開示は、必要な被験者の、神経機能障害の発症率または悪化を低下させる方法を提供する。本方法は、治療有効量の腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤を被験者に投与することを含む。
【0011】
前述した各態様において、一実施形態では、被験者は、被験者の生体試料中のN6-カルボキシメチルリジン(CML)、CML前駆体、CML代謝産物(本明細書では、CML代謝産物およびCML分解産物という用語は互換的に使用される)、またはCML類似体のレベルが、基準レベルと比較して上昇していることを前もって確認されている。代替的または追加的に、別の実施形態において、本方法は、被験者の生体試料中のCML、CML前駆体、CML代謝産物、またはCML類似体のレベルが、基準レベルと比較して上昇しているとして被験者を特定することをさらに含む。状況に応じて、本方法は、被験者から得られた生体試料中のCML、CML代謝産物、またはCML類似体のレベルを決定することをさらに含む。さらに、状況に応じて、生体試料は、被験者の体液(例えば、唾液、尿、血液、血清、血漿、脳脊髄液、または糞便)または組織試料(例えば、脳組織)を含む。
【0012】
前述の各態様および実施形態において、(i)被検者は、腸管バリアの透過性のレベルが、基準レベルと比較して上昇しているとして、前もって特定される;および/または(ii)本方法は、腸管バリアの透過性のレベルが、基準レベルと比較して上昇することによって被験者を特定することをさらに含む。
【0013】
前述の各態様および実施形態において、被験者は、(i)認知障害;および/または(ii)神経変性疾患を有すると、特定または診断される。代替的にまたは追加的に、被験者は(i)認知障害;および/または(ii)神経変性疾患の発症リスクを有するとして特定される。
【0014】
特定の実施形態において、神経変性疾患はアルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、前頭側頭型認知症、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、緑内障、筋強直性ジストロフィー、進行性核上麻痺、脊髄性筋萎縮症、多系統萎縮症、運動失調、および血管性認知症から構成される群から選択される。
【0015】
前述の各態様および実施形態において、状況に応じて、本方法は、1つ以上の(i)被験者のミクログリア内の、細胞のおよび/またはミトコンドリアの活性酸素種(ROS)のレベルの減少、(ii)被験者のミクログリア内の、誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)の発現の減少、(iii)Cdknla、Cyba、Cybb、Duoxa1、Il1b、Tgfbr2、Tlr2、Tlr4、Tlr5、Axl、Hif1a、Lcn2、Mmp2、Rela、Trexl、S100a8、およびS100a9から構成される群から選択された、被験者のミクログリア内の1つ以上の遺伝子発現の減少、および(iv)Foxp1、Nrf1、Trp53、G6pdx、Pdk2、Stat3、およびUcp2から構成される群から選択された、被験者のミクログリア内の1つ以上の遺伝子発現の増加、という結果になる。
【0016】
別の態様において、本開示は、被験者の組織内の、CML、CML前駆体、CML代謝産物、またはCML類似体の蓄積率を減少させる方法を提供する。本方法は、治療有効量の腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤を被験者に投与することを含む。
【0017】
別の態様において、本開示は、(i)ミクログリア機能障害の発生、(ii)認知障害、または(iii)神経変性疾患の発症のリスク増加を含むときに、被験者を特定する方法を提供する。本方法は、被験者から得られた生体試料内の、CML、CML前駆体、CML代謝産物、またはCML類似体が、基準レベルと比べて上昇したレベルを有する被験者を特定することを含む。
【0018】
別の態様において、本開示は、必要な被験者の血液または脳試料の、CML、CML前駆体、CML代謝産物、またはCML類似体の凝集を軽減させる方法を提供する。本方法は、治療有効量の腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤を被験者に投与することを含む。
【0019】
別の態様において、本開示は、必要な被験者の認知障害または神経変性疾患を抑制するまたは治療するために、血液または脳試料の、CML、CML前駆体、CML代謝産物、またはCML類似体の凝集を軽減させる方法を提供する。本方法は、治療有効量の腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤を被験者に投与することを含む。
【0020】
別の態様において、本開示は、必要な患者の認知障害または神経変性疾患を抑制するまたは治療するために、腸管透過性を軽減させる方法を提供する。本方法は、治療有効量の腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤を被験者に投与することを含む。
【0021】
前述の各態様および実施形態において、腸管バリア機能増強剤は、腸アルカリホスファターゼ(IAP)、ポリフェノール(例えば、エラグ酸(EA)およびリポタイコ酸)、メトホルミン、ウロリチンA、酪酸、グルタミン、オベチコール酸(OCA)、ジベルチン、クルクミン、スペルミジン、グルタミン、またはAMP活性化プロテインキナーゼ、または誘導体を含む。具体的に、前述の各態様および実施形態において、腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤は、腸アルカリホスファターゼ(IAP)、エラグ酸(EA)、バイオティクス、プロバイオティクス、プレバイオティクス、ポストバイオティクスを含む。特に好適な実施形態において、腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減は除去するための薬剤はIAPである。具体的に、特に好適な実施形態において、腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減は除去するための薬剤はEAである。前述の各態様および実施形態において、腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤は、医薬組成物として処方される。
【0022】
状況に応じて、腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤は、経口投与、経皮投与、吸入、経鼻投与、局所投与、静脈内投与、動脈内投与、筋肉内投与、皮下投与によって、投与される。
【0023】
腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤を投与する際に、被験者は、1つ以上の(a)血液試料内の、CML、CML前駆体、CML代謝産物、またはCML類似体の凝集の軽減;(b)脳組織試料内の、CML、CML前駆体、CML代謝産物、またはCML類似体の凝集の軽減;(c)腸管透過性の軽減;(d)細菌叢ディスバイオシスの軽減;(e)腸管上皮内のオートファジーレベルの増加;(f)ミクログリア内の、細胞のおよび/またはミトコンドリアのROSのレベルの減少;(g)ミクログリア集団内の、アデノシン三リン酸(ATP)のレベルの増加;(h)ミクログリア内のiNOSの発現減少;(i)Cdknla、Cyba、Cybb、Duoxa1、Il1b、Tgfbr2、Tlr2、Tlr4、Tlr5、Axl、Hif1a、Lcn2、Mmp2、Rela、Trexl、S100a8、およびS100a9からなる群から選ばれたミクログリア内の1つ以上の遺伝子発現の減少;および/または(j)Foxp1、Nrf1、Trp53、G6pdx、Pdk2、Stat3、およびUcp2からなる群から選ばれたミクログリア内の1つ以上の遺伝子発現の増加を示す。
【0024】
別の態様において、本開示は、ミクログリア機能障害の発症リスクが増加するときに被験者を特定する方法を提供する。本方法は、被験者から得られた生体試料内の、CML、CML前駆体、CML代謝産物、またはCML類似体が、基準レベルと比べて上昇したレベルを有する被験者を特定することを含み、そのようなレベルの上昇は被験者がミクログリア機能障害の発症リスクの増加を有することを示す。
【0025】
別の態様において、本開示は、認知障害の発症リスクが増加するときに被験者を特定する方法を提供する。本方法は、被験者から得られた生体試料内の、CML、CML前駆体、CML代謝産物、またはCML類似体が、基準レベルと比べて上昇したレベルを有する被験者を特定することを含み、そのようなレベルの上昇は被験者が認知障害の発症リスクの増加を有することを示す。
【0026】
別の態様において、本開示は、神経変性疾患の発症リスクが増加するときに被験者を特定する方法を提供する。本方法は、被験者から得られた生体試料内の、CML、CML前駆体、CML代謝産物、またはCML類似体が、基準レベルと比べて上昇したレベルを有する被験者を特定することを含み、そのようなレベルの上昇は被験者が神経変性疾患の発症リスクの増加を有することを示す。
【0027】
前述の各態様では、生体試料は組織(例えば、脳組織)または体液試料(例えば、唾液、尿、血液、血清、血漿、脳脊髄液、または糞便)である。生体試料中のCML、CML前駆体、CML代謝産物、またはCML類似体の量は、例えば、クロマトグラフィー(例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC))、質量分析法、液体クロマトグラフィー質量分析法(LCMS)、核磁気共鳴分光法、または免疫測定法を含む、当技術分野で公知の分析技術によって測定できることが予期される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1a-1gは、若齢マウスおよび加齢マウスにおけるミクログリア上のトランスクリプトソームに対する細菌叢の相互作用を示す一連の概略図およびグラフを示す。
図1aは、被験者の老化における腸内細菌叢を介したCML蓄積の概略図である。CMLはミクログリアの老化、特に酸化ストレスとミトコンドリア損傷を誘導する。腸-血液バリアの完全性を若返らせることにより、ミクログリアにおけるCMLの蓄積と有害な効果を制限する。
【0029】
図1bは、特定の病原体フリー(SPF)および細菌フリー(GF)環境で成長させた若齢成体マウス(6-10週齢)および加齢マウス(96-104週齢)の脳全体から蛍光活性化細胞選別(FACS)で分離したミクログリアについて、RNAシーケンシング(RNA-seq)を行う実験アプローチの概略図である。
【0030】
図1cは、SPFマウス(n=6,16)とGFマウス(n=6,8)から分離したミクログリアのトランスクリプトーム(正規化遺伝子数)の主成分分析(PCA)である。
【0031】
図1dは、GFマウス対SPFマウスにおいて、年齢群間でアップレギュレートおよびダウンレギュレートされた差次的発現遺伝子(DEG)の数を示す棒グラフである。
図1eは、年齢に依存しないGFマウス対SPFマウスにおけるDEGのサブセット(ミクログリアGFシグネチャー)のヒートマップである。記号付きの遺伝子リスト(左)は、その機能アノテーション(左上)を示す。各列は生物学的レプリケートであり、各行は遺伝子である。DEG(Wald P(adj)<0.05および絶対倍率変化>1.5)。zスコアは正規化遺伝子数から計算した(ハッシュドグレーはアップレギュレーション、非ハッシュドグレーはダウンレギュレーション)。
【0032】
図1fは、年齢にわたるモジュール特性相関である。各サブプロットは、加重遺伝子共発現ネットワーク分析(WGCNA)によって抽出されたすべてのモジュール固有遺伝子(ME)の描写とともに異なる群を表す(グレースケールは相関係数を表す;半径:スケール log10(Padj)))。
【0033】
図1gは、モジュール内に濃縮された有意な遺伝子オントロジー(GO)用語を、それぞれのlog10(Padj)とともに描写する。モジュール(ME1~ME10)あたりの遺伝子数を示す。統計:
図1f-g、両側P値は、Wald検定によって得られ、Benjamini-Hochberg法を用いた多重検定によって補正した。
【0034】
図2a-2iは、それぞれ、細菌叢がミクログリアにおける加齢に関連した酸化ストレスおよびミトコンドリア機能不全に寄与することを示すグラフおよび顕微鏡写真のセットである。
【0035】
図2aは、活性酸素種(ROS)関連ME(上からME1、ME2、ME8)を示すグラフである(グレースケール:相関係数;直径:スケール log10(Padj))。
【0036】
図2bは、若齢成体および加齢SPFおよびGFマウスのミクログリアにおけるME(1,2,8)のROS関連遺伝子のヒートマップである。各列は生物学的レプリケートである。ヒートマップの右側にリストされた遺伝子は、ヒートマップに続くテキストで上から下へ順にリストされている。
【0037】
図2cは、若齢成体SPFマウスに対する細胞ROSの定量化を示す棒グラフである。データは、SPF(n=18,14)およびGF(n=13,10)を含む3つの独立した実験からの平均値+semとして示される。
【0038】
図2dは、若齢成体SPFマウスに関するミクログリアのiNOS陽性、Iba-1陽性領域の定量化を示す棒グラフである。データは、SPF(n=14,9)およびGF(n=10,9)を含み、2つの実験からの平均値+semとして示される。
【0039】
図2eは、加齢SPFおよびGFマウスの大脳皮質におけるIba-1、iNOS、DAPIの免疫蛍光染色を示す画像である。スケールバー、40μm。
【0040】
図2fは、代謝関連のME10を示す(グレースケール:相関係数;直径:スケール log10(Padj)))。
【0041】
図2gは、加齢SPFおよびGFマウスの大脳皮質ミクログリアにおける健常ミトコンドリアと異常ミトコンドリアの割合を示す棒グラフである。各点は、1匹のマウスから採取した30-35個の細胞の平均を表す。データは、加齢SPFマウスとGFマウス(それぞれn=8)を含む2つの独立した実験から得られた平均値+semとして示した。シダックの多重比較検定による二元配置分散分析(*P<0.05、*P<0.01、***P<0.001;NSは有意でない)。正確なP値は図中に報告されている。
【0042】
図2hは、加齢SPFおよびGFマウスのミクログリアの電子顕微鏡のセットである。灰色の矢頭:健常、白の矢頭:異常。スケールバー2μm。ミトコンドリア形態の拡大顕微鏡写真。スケールバー、500nm
【0043】
図2iは、若齢成体SPFマウスに関連するミクログリアのミトコンドリア活性を示す棒グラフである。データは、SPF(n=17,14)およびGF(n=9,13)を含む3つの実験からの平均値+semとして示される。各点は1匹のマウスを表す。統計:
図2c、2dおよび2i、テューキーの事後検定による二元配置分散分析。
【0044】
図3a-3gは、血清および脳代謝産物の細菌叢および加齢に関連した制御を示すグラフおよびチャートのセットである。
図3aは、血清試料中の短鎖脂肪酸(SCA)濃度を示す棒グラフである。各点は1匹のマウスを表す。データは、若齢成体および加齢SPFマウス(n=5,6)を含む1つの実験からの平均値+semとして示した。
【0045】
図3bは、若齢成体および加齢SPFマウスの血清(n=5,6)および脳組織(n=5,5)試料の、ノンターゲットメタボロミクス分析からの、特異的に豊富な代謝産物の火山プロットのセットである。
【0046】
図3cは、血清(106)と脳(164)から得られた特異的に豊富な代謝産物を示すベン図である。;および重複/交差(19)を示す。
【0047】
図3dは、血清および脳検体の両方について、若齢マウスと比較した場合に、加齢で異なる発現量を示した代謝産物を示すグラフである。生化学的名称:アスタリスクは、基準に基づいて確認されていない化合物を示す。x軸上の0より左側の棒は、若齢マウスと比較して加齢マウスで発現低下した代謝産物を示し、一方でx軸の0より右側の棒は、若齢マウスと比較して加齢マウスで発現増加した代謝産物を示す。
【0048】
図3e-3fは、TwinsUKのデータバンクからの(検出可能な場合の)ヒト加齢コホートにおける血清のノンターゲットメタボロミクスで、それぞれ定量したCML(
図3e)とTMAO(
図3f)のそれぞれの点プロットのセットである。データは、非特許文献3から示される。中央線;傾きと切片のベストフィット値とエラーバー(95%信頼区間(CI))、a.u.,任意単位。正確なP値は図に示されている。
【0049】
図3gは、若齢成体マウスおよび加齢SPFおよびGFマウス(若齢成体マウス、n=5;加齢マウス、各n=8)の脳のターゲットメタボロミクスによる代謝産物のサブセットを描写したヒートマップである。各列は、1匹の動物からのデータを表し、各行は代謝産物を表す。
【0050】
図4a-4lは、CMLが細菌叢を介したミクログリアの老化に寄与していることを示す。それぞれの模式図、グラフのセット、および顕微鏡写真である。
図4aは、若齢成体SPFマウスにCML、TMAO、酢酸ナトリウムまたはプロピオン酸ナトリウムを2週間毎日腹腔内投与した代謝産物処理の概略図である。
図4bは、ROSの定量化を示す棒グラフである。
図4cは、ミトコンドリア活性を示す棒グラフである。
図4dは、ATPレベルを示す棒グラフである。
図4b-dにおいて、各点は1つのミクログリアを表す。
図4b―4dにおいて、各点は1匹のマウスを表し、ビヒクル処置マウス(n=4)と比較して描かれた。データは、平均値+semを表している。
【0051】
図4eは、脳におけるターゲットメタボロミクスによるCMLの定量を示す棒グラフである。データは、SPFおよびGFマウス(若齢成体、n=5:加齢、各n=8)からの平均値+semで示される。
図4fは、ビヒクル処置またはCML注入した若齢成体マウス(n=5)の脳を示す棒グラフである。
【0052】
図4gは、CMLとビヒクル注入マウスのミクログリア内のDEGを表すヒートマップである。各列は生物学的レプリケートであり、各行は遺伝子である。DEG(Wald検定 Padj<0.05 絶対倍率変化>1.5)。アップレギュレーションはハッシュドグレーで、ダウンレギュレーションはハッシュドグレー以外で。
図4hはCML特有の(ラベル化された)遺伝子をもつ加齢マウス(点)からのSPFミクログリアとGFミクログリア内における火山プロットである。
【0053】
図4iは、若齢成体および加齢の、SPFおよびGFマウスのマウス大脳皮質内の、CML、Iba-1、およびDAPIの免疫蛍光染色画像である。スケールバー、50μm(概要)および10μm(挿入図)。
【0054】
図4jは、若齢成体および加齢の、SPF(n=9.8)およびGF(n=9,9)マウスの、マウス大脳皮質内の、CMLIba-1陽性細胞の割合を示したグラフである。データは、平均値+semで示される。
【0055】
図4kは、ヒト大脳皮質におけるCMLIba-1陽性細胞と年齢の割合を、線形回帰で表したグラフである。各点は1個人を表す(n=43;ピアソンの相関係数:r=0.5793,R2=0.3356、P<0.001)。男性、n=23、ライトグレー。女性、n=20、ダークグレー。年齢、1歳から88歳。中央線:傾きと切片のベストフィット値。ダークグレー線:95%信頼区間。
【0056】
図4lは、ヒト大脳皮質のCML、Iba-1、DAPIの免疫蛍光染色画像である。スケールバー、50μm(概略)および10μm(挿入図)。白い破線ボックスは細胞体を示す。統計:
図4fにおいて、マン・ホイットニーのU検定による両側検定。
図4Gにおいて、ピアソンの相関分析による両側検定。
図4b-4dにおいて、ダネットの事後検定にしたがった一元配置分散分析。
図4e、4jにおいて、テューキーの事後検定にしたがった二元配置分散分析(*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001)、またP値は図中に示されている。
【0057】
図5a-5jは、加齢による腸-血液バリアの破綻がCMLの急増を引き起こすことを、それぞれ示す、棒グラフと概略図のセットである。
図5aは加齢SPFおよびGFマウス(n=5)から得られた新鮮な糞便内における、ターゲットメタボロミクス(LC-MS)によるCMLの定量化を示す棒グラフである。
図5b-5cは、SPF(n=5,5)またはGF(n=9,4)の条件下で飼育した若齢および加齢マウス(
図5b)と、若齢または加齢の糞便細菌叢移植(FMT)(n=8)を受けた若齢および加齢のGFマウス(
図5c)において、経口摂取後に循環系に移行したFITC蛍光標識デキストラン(4kDa)の割合によって測定された腸管透過性を示す棒グラフのセットである。
図5dは、SPFまたはGF(n=5)条件下で飼育した若齢成体マウスと加齢マウスにおける、経口投与4時間後に循環系に移行したCMLの違いを示す棒グラフである。
【0058】
図5eは、概略図である。:18カ月のSPFマウスにビヒクル(20%ヒドロキシプロピル-p-シクロデキストリン、1xPBS)、EAまたはIAPを10週間にわたり3日おきに経口投与した(n=4)。
図5fは、経口投与後に蛍光FITC-デキストラン(4kDa)の循環系への移行率によって測定された腸管透過性を示す棒グラフである。
図5gは、脳内のターゲットメタボロミクス(LC-MS)によるCMLの定量化を示す棒グラフである。
図5hは、CellROXプローブシグナルの相対平均蛍光強度の定量化を示す棒グラフである。
図5iは、相対的細胞ATPの定量化を示す棒グラフである。統計:
図5a、5cについて、マン・ホイットニーのU検定による両側検定。
図5f-5iについて、ダネットの事後検定にしたがった一元配置分散分析。
図5b、5dについて、テューキーの事後検定にしたがった二元配置分散分析(*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001)。P値は図中に示されている。データは平均値+semで示されている。
【0059】
図6a-6hは、細菌叢がミクログリアの形態において加齢に関連した差異を引き起こすが、細胞密度には影響を与えないことを示す一連の画像と棒グラフである。
図6aは、若齢成体および加齢のSPFマウスとGFマウスの大脳皮質におけるIba-1陽性ミクログリアの免疫組織学的検出を示す画像を含む。スケールバー、20μm。
【0060】
図6bは、大脳皮質におけるミクログリアの密度を要約した棒グラフである。SPF(n=9,8)およびGF(n=9,8)
【0061】
図6cは、全群の大脳皮質ミクログリアの代表的な3次元再構成図である。スケールバー、10μm。
【0062】
図6d-6hは、IMARISに基づいた、細胞形態の半自動定量化を示す棒グラフであり、各グラフはそれぞれ、総分枝長(gm;
図6d)、総分枝面積(μm
2、
図6e)、分岐点数(
図6f)、細胞体体積(μm
3、
図6g)、および細胞体球形度(
図6h)を示す。各シンボルは、マウス1匹につき少なくとも4個の細胞を測定した平均値を示す。データは、若齢成体および加齢マウスを含む、2つの独立した実験を示す。SPF(n=8,8)およびGF(n=8,8)。統計解析:
図6b-6h、テューキーの事後検定にしたがった二元配置分散分析(*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001、ns=有意でない)。データは平均値+SEMで示される。P値は、図中に示されている。
【0063】
図7a-7bは、フローサイトメトリーのためのゲート戦略とMACS分離の純度を示す一連のグラフである。
図7aは、RT-qPCRとRNA-シークエンシングのための細胞選別戦略を示す一連のグラフで、(1)骨髄系細胞をサイズと粒度でゲーティングした場合の結果を示し、(2)と(3)単一細胞のみを含む場合の結果を示し、および(4)それぞれ、T細胞、B細胞、単球、顆粒球を除くために、生細胞と系統細胞をそれぞれ、CD3,CD19,CD45R,Ly6CおよびLy6Gと、Fixable Viability Dye eFluor(登録商標)780陰性でゲーティングした結果を示し、および(5)は、ミクログリアをCD45Intと陽性CD11bでゲーティングした結果を示す。
【0064】
図7bは、細胞のATPアッセイに使用した細胞の純度を示すグラフである。ミクログリア細胞をパーコール分離(挿入
図1)で分離し、CD11b MACS細胞分離システム(Miltenyi Biotec、米国;挿入
図2)を用いて濃縮し、最終結果を示す(挿入
図3)、各点は1匹のマウスを示す。データは、平均値±SEMで示される。
【0065】
図8a-8dは、GFおよびSPFマウスのどちらの性別からの、ミクログリアの転写プロファイルを示す。
【0066】
図8aは、選別化された細胞の純度を示すための様々な種類の免疫細胞に特有の遺伝子(正規化された遺伝子)のヒートマップである。
図8bは、試料間のWaldのクラスタリングを示すヒートマップである。
図8cは、固有遺伝子モジュールにおける全遺伝子のヒートマップである。
【0067】
図8dは、代謝産物に関連したモジュール固有遺伝子ME10における遺伝子のヒートマップである。Z値は、正規化カウントとして計算された。
【0068】
図9a-9hはそれぞれ、雌雄SPFおよびGFマウスのミクログリアの、加齢に関連したミトコンドリア生理機能を示す、一連の顕微鏡写真および棒グラフである。
図9aは、大脳皮質ミクログリアの、健常ミトコンドリアと異常ミトコンドリアの代表的な電子顕微鏡写真である。
図9bはミクログリア毎の、ミトコンドリア領域の定量化を示す棒グラフである。
図9cは、ミクログリア毎の、ミトコンドリア数を示す棒グラフである。
図9bおよび
図9cは加齢SPFおよびGFマウス(n=8)から生成された一連の棒グラフである。
図9dは、RNAシークエンシング解析(正規化された遺伝子を数える)に基づいたミクログリアの、Hifla mRNA発現を示す棒グラフである。
図9eは、若齢成体および加齢の、SPF(n=8,8)およびGFマウス(n=7,10)のミクログリアの、RT-qPCRによるHifla mRNA発現を示す棒グラフである。
図9fは、若齢成体および加齢のSPFおよびGFマウスのミトコンドリア質量(MitoTracker Green MFI)を示す棒グラフである。
図9gは、若齢成体および加齢のSPFおよびGFマウスのミトコンドリア膜電位(ΔΨm)(TMRM染色MFI)を示す棒グラフである。
図9hは、雄の若齢成体および加齢のSPFおよびGFマウスの細胞ATPの定量化を示す棒グラフである。データは、若齢成体および加齢マウスから生成された。統計:
図9fおよび
図9gについて、SPF(n=17,14)およびGF(n=9,13);
図9hについて、SPF(n=23,17)およびGF(n=14,11);
図9b-9hについて、データは平均値+semで示されている。
図9bおよび
図9cについての統計解析、マン・ホイットニーのU検定(両側)および
図9e-9hについての統計解析、テューキーの事後検定にしたがった二元配置分散分析(*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001、ns=有意でない)。P値は図中に示されている。
【0069】
図10a-10fは、CMLがマクロファージの代謝産物を調節することを示す一連の棒グラフである。
図10a-10bは、加齢マウスの血清(
図10a)および脳(
図10b)内の、十分豊富な代謝産物における経路エンリッチメント解析を示すグラフである(プロットされているものは、上位15エンリッチ経路である)。カラースケール(黒~ライトグレー)、各径路内で検出された代謝産物のトータル数と重要代謝産物の数との比率。ドットサイズは、各径路の重要な代謝産物の多さを反映する。経路エンリッチメント解析は、Metabolonのクライアントポータルを用いて自動的に行われた。
【0070】
図10cは、ビヒクルまたはCMLをi.p.処置した若齢成体マウス(n=5)の大脳皮質ミクログリアの、トータルのミトコンドリア数における、健常ミトコンドリアと異常ミトコンドリアの割合を示す棒グラフである。
【0071】
図10dおよび10eは、それぞれ、実験6時間前に無血清培地で培養した骨髄由来マクロファージ(BMDM)の細胞内ROS(
図10d)およびミトコンドリア活性(
図10e)を示す棒グラフである。細胞は、CMLの濃度を増加させながら48時間インキュベートした後、採取して測定した。各点は、生物学的レプリケートである(n=3)。
【0072】
図10dは、CellROXプローブシグナルの相対MFIの定量化を示す棒グラフである。
図10eは、ミトコンドリア質量(MitoTracker Green MFI)に対して正規化されたミトコンドリア膜電位(ΔΨm)(TMRM染色MFI)として表現されたミトコンドリア活性を示す棒グラフである。
図10fは、ビヒクルまたはCMLを腹腔内投与処置した若齢成体マウスから単離したミクログリアのトランスクリプトーム(正規化遺伝子数)の主成分分析(PCA)である。
図10c-10fについての統計:データは平均値+SEMで示されている。各点は1匹のマウスを示す。統計解析:
図10cについて、シダックの多重検定にしたがった二元配置分散分析、
図10dおよび10eについて、ダネットの事後検定にしたがった一元配置分散分析(***p<0.001,ns=有意でない)。P値は図中に示されている。
【0073】
図11a-11fは、腸内細菌叢組成の、年齢依存性の変化を示すグラフである。
図11aは、PCAプロット(β多様性)であり、
図11bは、腸内細菌叢指標のシャノンおよびシンプソンのα多様性プロットである。これが統計的に有意であるかどうかを決定するために、ノンパラメトリックマン・ホイットニーのU検定(両側)が、試料を比較するために使用された。;veganパッケージのAdonis(距離行列を使用する分散分析)が、β多様性に関する群の効果を評価するために、使用された。
【0074】
図11cは、異なる年齢の雄マウスにおける門レベルでの腸内細菌叢組成プロファイルの相対的存在量を示すグラフである(各色は、1つの細菌門を表す;図のキーは、それぞれの色がグラフ上のその位置に隣接して位置する細菌門を表すように空間的に配置されている)。
図11dは、糞便試料中の、ファーミキューテス/バクテロイデーテス比率(F/R)を示す棒グラフである。
図11eは、ラクノスピラ科の相対的存在量を示す棒グラフである。
図11fは、加齢によって発現量の異なる属の相対量を示した一連のグラフである。テスト群間の門レベルおよび属レベルの分類学的差異は、“線形モデルによる多変量解析”(MaAsLin)Rパッケージを用いて特定される。統計:
図11a-11fはSPF条件下で飼育された若齢成体および加齢雄マウス(n=5,10)からのデータを示す一連のグラフであり、各点は1匹の動物からのデータを示す。
図11dおよび11eは、平均値+SEMのデータを示す。
図11bおよび11fは、箱ひげ図であり、中央の線は中央値を表し、箱の上下の境界線は第1子分数と第3子分数(25パーセンタイルおよび75パーセンタイル)に対応する。上ひげは、ヒンジからそれぞれの境界の四分位範囲(IQR)の1.5倍以内の最高値まで、下ひげはそれぞれの境界から境界のIQRの1.5倍以内の最低値まで伸びている。IQRは、第1四分位値と第3四分位値との間の距離である。
図11dおよび11eで使用された統計は、マン・ホイットニーのU検定(両側)である。
【0075】
図12a-12eは、加齢に関連したミクログリアのCMLの蓄積が腸を介することを示す一連の棒グラフである。
図12aは、SPFまたはGF下で飼育された若齢成体および加齢マウス(n=5)において、経口摂取後4時間後に循環系へ移行したCMLに対するターゲットメタボロミクス(LC/MS)を示す棒グラフである。ライトグレー;経口投与前、ダークグレー;経口投与後4時間。各点は1匹のマウスについての個々の測定を示す。
【0076】
図12b-12eは、ビヒクルまたはCML(腹腔内投与(i.p.)または経口投与(o.g.)(各n=4))を注射した若齢成体および加齢マウスのデータのグラフおよび顕微鏡写真である。各点は1匹のマウスを示す。
図12bは、大脳皮質内の定量化されたCML Iba-1陽性細胞の割合を示す棒グラフである。
図12cは、マウス大脳皮質内のCML、Iba-1、およびDAPI免疫蛍光標識画像である。スケールバー、50μm(概要)および10μm(挿入図)。
図12dは、MFIを決定することによって、関連細胞ROSプローブシグナルの定量化を示すグラフである。
図12eは、関連細胞ATPの定量化を示すグラフである。統計:
図12a、12b,12d,および12eについて、各点は1匹のマウスを示す。データは、平均値+SEMで示されている。
図12b、12d、および12eについての統計解析)テューキーの事後検定にしたがった二元配置分散分析(*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001、ns=有意でない)。P値は図中に示されている。
【0077】
1.定義
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」、および”「the」は、文脈上明らかにそうでないことが支持されない限り、複数の参照言語を含む。したがって、例えば、「腸管バリア機能増強剤」への言及は、2種以上のそのような腸管バリア機能増強剤の混合物を含み得る。
【0078】
本明細書で使用される場合、2つ以上の言及された対象に関連する「および/または(and/or)」という表現は、文脈および使用から別様に理解されない限り、言及された対象の各々および2つ以上の言及された対象の様々な組み合わせを個別に含む。本明細書で使用される場合、特に別段の指示がない限り、「または(or)」という語は、「どちらか/または(either/or)」という排他的な意味ではなく、「および/または」という包括的な意味で使用される。
【0079】
用語「含む(include)」、「含む(includes)」、「含んでいる(including)」、「有する(have)」、「有する(has)」、「有している(having)」、「含む(contain)」、または「含んでいる(containing)」の使用は、その文法的等価物を含め、一般的に、オープンエンドおよび非限定的なものとして理解されるべきであり、例えば、特に明記されない限り、またはその文法的等価物から理解されない限り、追加の未反復要素またはステップを除外しない。
【0080】
用語「約(about)」は定量的な値の前に使用されている場合、特に別段の記載がない限り、本開示では、特定の定量値自体も含まれる。本明細書で使用される場合、約という用語は、別段の指示または推論がない限り、公称値からの±10%の変動を指す。
【0081】
本明細書で使用される場合、「投与する(administering)」および「投与(administration)」という用語は、被験者に薬剤(例えば、腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤)を提供するあらゆる方法を指す。このような方法は、経口投与、経皮投与、吸入、経鼻投与、局所投与、膣内投与、眼内投与、耳内投与、脳内投与、脊髄投与、脳内液投与、直腸投与、および静脈内投与、動脈内投与、筋肉内投与、皮下投与などの注射可能な投与を含む非経口投与が挙げられるが、これらに限定されない。投与は連続的または断続的に行うことができる。場合により、腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤を、治療目的で投与できる。他の場合において、腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤を、被験者における疾患または病態の予防のため、あるいは被験者(例えば被験者の脳)における1つまたは複数の免疫細胞(例えばミクログリア)機能の改善のために投与されるなど、予防的に投与できる。
【0082】
本明細書で使用される場合、「有効量(effective amount)」または「量効(amount effective)」または「治療有効量(therapeutically effective amount)」という用語は、所望の結果(例えば治療上の利益)を達成するのに十分な量、または望ましくない状態に効果を及ぼすのに十分な量を指す。例えば、腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤の「治療有効量」は、被験者において所望の結果を達成するため、または疾患に影響を及ぼすために十分な量を指す場合がある。代替的に、または追加的に、腸管バリア機能増強剤の「治療有効量」は、被験者の(例えば、被験者から得られた生体試料中)のCML、CML前駆体、CML代謝産物および/またはCML類似体のレベルおよび/または活性を低下させるのに十分な、または腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤を投与される被験者(例えば、被験者の脳内)の免疫細胞(例えば、ミクログリア)の1つ以上の機能を改善するのに十分な、腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための腸管バリア機能増強剤の量を指す場合がある。特定の被験者に対する特定の治療上有効な用量レベルは、以下を含む様々な要因に依存する。:被験者の年齢、体重、健康全般、性別、食事、民族、および/または、地理的位置;投与時間;投与経路;使用した腸管バリア機能増強剤の排泄率;治療期間;使用された特定の腸管バリア機能増強剤と併用または同時に使用される薬物、および医療技術で公知の同様の因子。例えば、治療薬の投与量を、所望の治療効果を得るのに必要な量よりも低いレベルから開始し、所望の効果が得られるまで徐々に投与量を増加させることは、当業者の技術範囲内である。必要であれば、1日の有効量を複数回に分けて投与することもできる。したがって、単回投与組成物は、1日投与量を構成するために、そのような量またはその約数を含むことができる。投与量は、禁忌がある場合には、個々の医師が調整することができる。投与量はさまざまで、毎日1回または複数回、1日または数日間投与することができる。いくつかの実施態様において、腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤を予防的に有効な量で投与することができる。
【0083】
所定のパラメータに関して本明細書で使用する場合、「上昇したレベル(elevated level)」という用語は、基準レベルと比較して、検出可能に高い(例えば、約5-10%、10-20%、20-30%、30-40%、40-50%、50-60%、60-70%、70-80%、80-90%、85-95%、またはそれ以上;例えば、約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、99%、またはそれ以上の)レベルを指す。例えば、本明細書で使用する場合、被験者のCML,CML前駆体、CML代謝産物、またはCML類似体の上昇したレベルとは、CML、CML前駆体、CML代謝産物、またはCML類似体の基準レベルと比較して、検出可能なほど高い(例えば約5~10%、10~20%、20~30%、30~40%、40~50%、50~60%、60~70%、70~80%、80~90%、または85~95%、またはそれ以上;例えば、約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、99%、またはそれ以上)レベルを指す場合がある。例えば、被験者(例えば、被験者の脳)における免疫細胞(例えば、ミクログリア)の1つ以上の機能の上昇レベルとは、被験者(例えば、被験者の脳)における免疫細胞(例えば、ミクログリア)の1つ以上の機能の基準レベルと比較して、検出可能なほど高い(例えば、約5-10%、10-20%、20-30%、30-40%、40-50%、50-60%、60-70%、70-80%、80-90%、85-95%、またはそれ以上;例えば、約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、99%、またはそれ以上)を指す場合がある。特定の実施形態において、腸管バリアの透過性の増加レベルは、対照被験者における腸管バリアの透過性の基準レベルと比較して、検出可能なほど高い(例えば、約5~10%、10~20%、約5~10%、10~20%、20~30%、30~40%、40~50%、50~60%、60~70%、70~80%、80~90%、または85~95%、またはそれ以上;例えば、対照被験者における腸関門の透過性の基準レベルと比較して、被験者における腸関門の透過性の約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、99%、またはそれ以上)被験者の腸管バリアの透過性のレベルを指す場合がある。
【0084】
特定の実施形態において、上昇または増加は、基準レベルと比較したパラメータまたは値において、約1%~約300%、約1%~約280%、約1%~約260%、約1%~約240%、約1%~約220%、約1%~約200%、約1%~約180%、約1%~約160%、約1%~約140%、約1%~約120%、約1%~約100%、約1%~約80%、約1%~約60%、約1%~約40%、約1%~約20%、約20%~約300%、約20%~約280%、約20%~約260%、約20%~約240%、約20%~約220%、約20%~約200%、約20%~約180%、約20%~約160%、約20%~約140%、約20%~約120%、約20%~約100%、約20%~約80%、約20%~約60%、約20%~約40%、約40%~約300%、約40%~約280%、約40%~約260%、約40%~約240%、約40%~約220%、約40%~約200%、約40%~約180%、約40%~約160%、約40%~約140%、約40%~約120%、約40%~約100%、約40%~約80%、約40%~約60%、約60%~約300%、約60%~約280%、約60%~約260%、約60%~約240%、約60%~約220%、約60%~約200%、約60%~約180%、約60%~約160%、約60%~約140%、約60%~約120%、約60%~約100%、約60%~約80%、約80%~約300%、約80%~約280%、約80%~約260%、約80%~約240%、約80%~約220%、約80%~約200%、約80%~約180%、約80%~約160%、約80%~約140%、約80%~約120%、約80%~約100%、約100%~約300%、約100%~約280%、約100%~約260%、約100%~約240%、約100%~約220%、約100%~約200%、約100%~約180%、約100%~約160%、約100%~約140%、約100%~約120%、約120%~約300%、約120%~約280%、約120%~約260%、約120%~約240%、約120%~約220%、約120%~約200%、約120%~約180%、約120%~約160%、約120%~約140%、約140%~約300%、約140%~約280%、約140%~約260%、約140%~約240%、約140%~約220%、約140%~約200%、約140%~約180%、約140%~約160%、約160%~約300%、約160%~約280%、約160%~約260%、約160%~約240%、約160%~約220%、約160%~約200%、約160%~約180%、約180%~約300%、約18%~約280%、約180%~約260%、約180%~約240%、約180%~約220%、約180%~約200%、約200%~約300%、約200%~約280%、約200%~約260%、約200%~約240%、約200%~約220%、約220%~約300%、約220%~約280%、約220%~約260%、約220%~約240%、約240%~約300%、約240%~約280%、約240%~約260%、約260%~約300%、約260%~約280%、約280%~約300%)の増加で表すことができる。
【0085】
本明細書で使用される、「腸管バリア機能増強剤(gut barrier function enhancer)」とは、被験者の腸からのCML、CML前駆体、CML代謝産物、および/またはCML類似体の通過、および腸から被験者の組織または体液へのCML、CML代謝産物、CML前駆体、および/またはCML類似体の蓄積率を、中間体を介して直接的または間接的のどちらかで、時間とともに減少させる薬剤を指す。腸管バリア機能増強剤の非限定的な例は、腸アルカリホスファターゼ(IAP)、ポリフェノール(例えば、エラグ酸(EA)およびリポテイコ酸)、メトホルミン、ウロリチンA、酪酸、グルタミン、オベチコール酸(OCA)、ジベルチン、クルクミン、スペルミジン、グルタミン、またはAMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)、またはそれらの誘導体である。例えば、IAPは、被験者の腸からのCML、CML代謝産物、CML前駆体、および/またはCML類似体の通過、および腸から被験者の組織または体液へのCML、CML代謝産物、CML前駆体、および/またはCML類似体の蓄積率を直接低下させる腸管バリア機能増強剤である。EAは、被験者の腸からのCML、CML代謝産物、CML前駆体、および/またはCML類似体の通過、および腸から被験者の組織または体液へのCML、CML代謝産物、CML前駆体、および/またはCML類似体の蓄積率を間接的に(例えば、中間体を介して)低下させる腸管バリア機能増強剤の一例である。EAは、ミオシン軽鎖2(MLC2)シグナルを介して、細胞孔を形成するクローディン-4、-7、-15の発現を低下させると考えられているため、間接的に腸のバリア機能を高める。
【0086】
本明細書で使用される、「腸内細菌叢ディスバイオシス(gut microbiota dysbiosis)」とは、例えば、腹部膨満感、鼓腸、痙攣、腸管透過性の喪失に伴う炎症、粘膜表面の形成不全、および緩衝能のための栄養素の不十分な再利用のうちの1つ以上を含む様々な症状をもたらし得る、被験者の腸内の微生物(例えば、有益微生物および/または病原性微生物)の相対的存在量または存在における不均衡を指す。ディスバイオシスには、有益な微生物の損失、および/または病原性微生物(例えば、pathobionts)の拡大が含まれる。ディスバイオシスは、様々な疾患状態に関連する炎症促進作用および免疫調節異常を誘発すると考えられている。本明細書で使用する「腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤」とは、中間体を介して直接的または間接的のどちらかで、腸内細菌叢ディスバイオシスで生じる腸内細菌叢の調節異常を改善する薬剤を指す。腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための(例えば、直接的または間接的な)薬剤の非限定的な例としては、IAPおよびEA、バイオティクス、プレバイオティクス、プロバイオティクスおよびポストバイオティクスが挙げられるが、これらに限定されない。例えば、有益な微生物を消化管に特異的に送達することにより、腸内マイクロバイオームに直接的な影響を与えるので、プロバイオティクスは、腸内細菌叢ディスバイオシスを直接的に軽減または除去するための薬剤である。例示的なプロバイオティクスには、ラクトバチルス属、ビフィドバクテリウム属、およびストレプトコッカス属に属する細菌が含まれる。プレバイオティクスは、健康上の利益を引き出す特定の有益な細菌種の増殖を促進し、例示的なプレバイオティクスとしては、リポテイコ酸およびポリフェノールが挙げられる。ポストバイオティクスは、例えば、マイクロバイオームによってそのライフサイクル中に生成された代謝産物、発酵産物、ミネラル(例えば、亜鉛およびセレン)、微量元素、微量栄養素、細胞表面タンパク質、および有機酸であり、環境ユビオシスに寄与する産物であることが特徴である。ポストバイオティクスは細菌叢の構造を間接的に形成し、それによって腸内細菌叢ディスバイオシスを間接的に軽減または除去する薬剤となる。
【0087】
本明細書において、「神経変性疾患(neurodegenerative disease)」または「神経変性障害(neurodegenerative disorder)」という用語は、互換的に使用され、中枢神経系または末梢神経系の構造および/または機能の進行性変性によって特徴づけられる障害の異種群の1つ以上の状態を指す。神経変性疾患は、可動性、協調性、筋力、感覚、および認知に不可欠な細胞および神経系の結合に対する進行性の損傷に起因する様々な状態を包含する。一般的な神経変性疾患には、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、前頭側頭型認知症、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、緑内障、筋強直性ジストロフィー、進行性核上性麻痺、脊髄性筋萎縮症、多系統萎縮症、運動失調症、血管性認知症、またはその他の認知症が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0088】
本明細書で使用される、「医薬組成物(pharmaceutical composition)」という用語は、活性剤(例えば、腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤)と、不活性または活性な担体との組み合わせを指し、組成物をin vivoまたはex vivoでの診断的または治療的使用に特に適したものとする。本明細書で使用される、「医薬組成物」という用語は、被験者への投与に適した形態で、本開示の腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤を含む製剤であり得る。一実施形態では、医薬組成物は、バルクまたは単位剤形である。単位剤形は、例えば、カプセル、点滴バッグ、錠剤、エアロゾル吸入器のシングルポンプ、またはバイアルを含む、様々な形態のいずれかである。組成物の単位用量中の有効成分(例えば、開示された腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤、またはそれらの塩、水和物、溶媒和物もしくは異性体の製剤)の量は、有効量であり、関係する特定の治療に応じて変化し得る。当業者であれば、被験者の年齢および状態に応じて投与量を日常的に変化させることが必要な場合があることを理解するであろう。投与量も投与経路に依存する。例えば、経口、肺、直腸、非経口、経皮、皮下、静脈内、筋肉内、腹腔内、吸入、頬側、舌下、胸膜内、髄腔内、経鼻など、様々な経路が考えられる。腸管バリア機能増強剤の局所投与または経皮投与のための剤形としては、粉末、スプレー、軟膏、ペースト、クリーム、ローション、ゲル、溶液、パッチおよび吸入剤を含む。一実施形態では、腸管バリア機能増強剤は、無菌条件下で、薬学的に許容される担体、および必要な保存剤、緩衝剤、または推進剤と混合される。
【0089】
本明細書で使用される、「薬学的に許容される担体(pharmaceutically acceptable carrier)」という用語は、合理的な利益/リスク比に見合った、過剰な毒性、刺激、アレルギー反応、または他の問題または合併症なしに、ヒトおよび動物の組織と接触して使用するのに適した緩衝剤、担体、および賦形剤を指す。薬学的に許容される担体としては、リン酸塩緩衝液、水、エマルション(例えば、油/水または水/油エマルションなど)、および様々な種類の界面活性剤などの標準的な薬学的担体のいずれかが含まれる。組成物はまた、安定剤および保存剤を含み得る。担体、安定剤およびアジュバントの例については、例えば、Adeboye Adejare,Remington.The Science and Practice of Pharmacy(23d ed.2020)を参照のこと。薬学的に許容される担体には、医薬投与と相性が良い緩衝剤、溶媒、分散媒体、コーティング剤、等張および吸収遅延剤などが含まれる。薬学的に活性な物質に対するこのような媒体および薬剤の使用は当技術分野で知られている。
【0090】
用語「薬学的有効量(pharmaceutically effective amount)」、「薬理学的有効量(pharmacologically effective amount)」、「生理学的有効量(physiologically effective amount)」、または腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤の「有効量(effective amount)」は、互換的に使用され、本明細書に記載されるような1つまたは複数の医薬組成物中に存在する生物活性薬剤または生物活性薬剤の組み合わせの量を指し、そのような組成物が投与されたときに予想される生理学的応答を与えるために、治療される被験者の血流中または作用部位(例えば、肝系、腎系、循環器系、肺、胃腸系、大腸系など)に所望のレベルの活性薬剤または薬剤を提供するために必要である。
【0091】
本明細書で使用される場合、「予防(prevent)」または「予防する(preventing)」という用語は、特に事前の行動によって、何かが起こるのを不可能にする、回避する、取り除く、未然に防ぐ、阻止する、または妨げることを指す。本明細書において「軽減(reduce)」、「抑制(inhibit)」または「予防(prevent)」が使用される場合、特に別段の指示がない限り、他の2つの単語の使用も明示的に意図されていることを理解されたい。「予防」という用語は、ある事象の可能性を100%排除することを必要としない。むしろ、事象の発生の可能性が、本明細書に記載の化合物または方法の存在下で減少したことを示す。様々な局面において、用語は、哺乳動物(例えば、ヒト)を含む被験者の任意の処置を対象とし、以下を含む:(i)疾患に罹患する素因を有し得るが、疾患に罹患しているとまだ診断されていない被験者において、疾患の発生を予防すること;(ii)疾患の発生を抑制するか、または疾患の進行率を低下させるなど、疾患を阻害すること;または(iii)疾患の退行を引き起こすなど、疾患を緩和すること。
【0092】
パラメータまたは割合に関して本明細書で使用される、「軽減(reduce)」または「軽減する(reducing)」または「減少(decrease)」または「減少する(decreasing)」または「緩和(alleviate)」または「緩和する(alleviating)」という用語は、対照と比較してパラメータまたは割合がより小さくなる(例えば、約5~10%、10~20%、20~30%、30~40%、40~50%、50~60%、60~70%、70~80%、80~90%、または85~95%;例えば、約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、99%、またはそれ以上)ように、パラメータまたは割合の検出可能な変化を指す。
【0093】
本明細書で使用される、文脈に応じた、「対照(control)」とは、本明細書に記載の組成物および/または方法に曝露されていない試料、または対照被験者を指す。「対照被験者(control subject)」は、本明細書に開示される組成物および/または方法を受けていない被験者を指す。本明細書で使用される、「テスト被験者(test subject)」とは、本明細書に記載される組成物および方法を受けた、または受ける予定の被験者を指す。パラメータを参照して本明細書で使用される、「適切な対照(suitable control)」は、対照被験者(例えば、本明細書に記載される治療を受ける前のテスト被験者;または本明細書に記載される治療を受けなかった、被験者と異なる被験者または被験者と同様の症状を有する被験者の群)におけるパラメータを指す場合がある。例えば、本明細書においてCML、CML前駆体、CML代謝産物、またはCML類似体のレベルに関して使用される、「適切な対照」は、被験者(例えば、本明細書に記載の治療を受ける前の被験者;または本明細書に記載の治療を受けなかった、異なる被験者または被験者と同様の症状を有する被験者群)におけるCML、CML類似体、CML前駆体、またはCML代謝産物のレベルを指す場合がある。
【0094】
パラメータに関して本明細書で使用される、「基準レベル(reference level)」は、そのパラメータの確立された正常レベル、または確立された標準対照を指す場合がある。例えば、CML、CML前駆体、CML代謝産物、またはCML類似体のレベルに関して本明細書で使用する場合、基準レベルは、神経変性疾患、または認知障害の症状を示さない、および/または神経変性疾患、または認知障害を発症するリスクが増加していない被験者または被験者群におけるCML、CML前駆体、CML代謝産物、またはCML類似体のレベルを指す場合がある。
【0095】
用語「被験者(subject)」、「個人(individual)」および「患者(patient)」は、互換的に使用され、本明細書に記載される方法および/または組成物によって処置される生物を指す。このような生物は、好ましくは、哺乳動物(例えば、ネズミ、類人猿、ウマ、ウシ、ブタ、イヌ、ネコなど)を含むが、これらに限定されず、より好ましくは、ヒトを含む。この用語は、特定の年齢または性別を示すものではない。したがって、成人および新生児の被験者は、男性であるか女性であるかにかかわらず、被験者とすることが意図されている。例えば、被験者はヒトであり得る。特に、被験者は、神経変性疾患を有するか、または脳機能障害を発症するリスクが増大したヒトであり、神経機能に障害を有するか、神経変性疾患を有するか(例えば、神経変性疾患を有すると以前に特定または診断された被験者)、または神経変性疾患を発症するリスクが増大したと特定された被験者であり得、認知障害を有するか、または認知障害を発症するリスクが増大したと特定された被験者であり得る。
【0096】
本明細書で使用される、用語「治療する(treating)」には、任意の効果を含み、例えば、状態、疾患、障害などの改善、またはその症状の改善をもたらす、軽減、低減、調節、改善、または除去が含まれる。
【0097】
本明細書で使用される、「治療(treatment)」という用語は、疾患または障害を治癒、改善、安定化、または予防する目的で被験者を医学的に管理することを指す。特定の実施形態において、この用語は、被験者(例えば、被験者の脳内)における1つ以上の免疫細胞(例えば、ミクログリア)の機能の改善を意味する。この用語には、積極的治療、原因治療(例えば、疾患の原因に向けられた治療)、緩和的治療(例えば、疾患に伴う症状または合併症の緩和を目的とした治療)、予防的治療(例えば、疾患または疾患の発症を遅延、最小化、進行率の低下、または部分的もしくは完全に抑制することを目的とした治療)、および支持的治療(例えば、別の治療を補完するために採用される治療)が含まれる。治療には、疾患に関連する1つ以上の症状および/または合併症を治癒、抑制、軽減、緩和、および/または改善することも含まれる。治療には、疾患に関連する症状および/または合併症の、予防および/または進行率の低下および/または発症の遅延も含まれる。治療にはまた、疾患の広がりの縮減;疾患の進行率の遅延または減速または減少;疾患の改善または緩和;および検出可能であるか検出不可能であるかにかかわらず寛解(部分的であるか全体的であるかにかかわらず)も含まれる。疾患の「改善または緩和」とは、治療がない場合の程度または時間経過と比較して、疾患の程度および/または望ましくない臨床症状が軽減されること、および/または進行の時間経過または速度が遅くまたは長くなることを意味する。治療は、疾患に関連する症状または合併症の完全な改善を必要とせず、症状および/または疾患の根本的な危険因子を軽減する実施形態を包含する。治療を必要とするものには、既に疾患を有するもの、疾患を有するリスクのあるもの、または状態もしくは障害が予防されるべきものが含まれる。
【0098】
本明細書を通して、組成物が特定の成分を有する、含む、またはそれからなるとして記載される場合、または工程および方法が特定のステップを有する、含む、またはそれからなるとして記載される場合、さらに、本質的に、または引用された成分からなる本発明の組成物が存在すること、および本質的に、または引用された処理ステップからなる本発明による工程および方法が存在することが企図される。
【0099】
本出願において、ある要素または構成要素が、引用された要素または構成要素のリストに含まれ、および/またはそのリストから選択されると述べられている場合、その要素または構成要素は、引用された要素または構成要素のうちの任意の1つであり得るか、またはその要素または構成要素は、引用された要素または構成要素のうちの2つ以上からなる群から選択され得ることが理解されるべきである。
【0100】
さらに、本明細書に記載される方法の要素および/または特徴は、本明細書において明示的であろうと暗示的であろうと、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、様々な方法で組み合わせることができることを理解すべきである。例えば、特定の化合物への言及がなされる場合、その化合物は、文脈から別様に理解されない限り、本明細書に開示される組成物の種々の実施形態において、および/または本明細書に開示される方法において使用され得る。言い換えれば、本出願内において、実施形態は、明確かつ簡潔な本出願が記載され引用されることを可能にする方法で、記載され引用されてきたが、実施形態は、本教示から離れることなく、様々に組み合わされ、または分離されてもよいことが意図され、理解されるであろう。例えば、本明細書に記載され表現されたあらゆる特徴は、本明細書に記載され表現された本発明の全ての態様に適用可能であることが理解されるであろう。
【0101】
「少なくとも1つの(at least one of)」という表現は、文脈および使用から別段理解されない限り、表現の後に記載された対象の各々、および記載された対象の2つ以上の様々な組合せを個別に含むと理解されたい。
【0102】
本発明が動作可能である限り、ステップの順序や特定の動作を実行する順序は重要ではないことを理解されたい。さらに、2つ以上のステップまたは動作を同時に行ってもよい。
【0103】
本明細書におけるあらゆる例、または例示的な言語、例えば「のような(such as)」または「含む(including)」の使用は、単に本発明をより良く説明することを意図したものであり、請求されない限り、本発明の範囲を限定するものではない。本明細書中のいかなる文言も、請求されていない要素が本発明の実施に必須であることを示すものとして解釈されるべきではない。
II.一般的な発見と考察
【0104】
本開示は、部分的には、腸内細菌叢によって産生される代謝産物N6-カルボキシメチルリジン(CML)が、ミクログリアにおける加齢に関連する酸化ストレスおよびミトコンドリア損傷を駆動し、加齢に伴い脳内で増加するCML量が、認知障害、および神経変性障害をもたらし得るという発見に基づいている。さらに、被験者の加齢に伴う体液や組織試料中のCMLの増加または蓄積は、加齢の進行に伴う腸管透過性の亢進に起因する可能性があることが発見されており、その結果、より高レベルのCMLが腸壁を通過して被験者の体液や組織に入ると考えられている。これらの発見に基づき、神経変性疾患、認知障害、神経機能障害を治療したり、その発症率を低下させたりする治療法を提供することが可能である。
【0105】
加齢に伴いミクログリア機能は低下するが、本研究以前には、加齢過程におけるミクログリアと腸内細菌叢の相互作用はよく特徴付けられていなかったようである。本明細書で開示するように、無菌および特定の病原体を含まない条件下で飼育した若齢成体マウスと加齢マウスのミクログリアトランスクリプトームを比較したところ、腸内細菌叢がミクログリア遺伝子発現の加齢に伴う変化に影響していることが判明した。また、腸内細菌叢の不在は、加齢マウスの脳のミクログリアにおける酸化ストレスを減少させ、ミトコンドリア機能障害を改善することも明らかになった。血清と脳組織における偏りのないメタボローム解析から、加齢脳のミクログリアにはN6-カルボキシメチルリジン(CML)が蓄積していることが明らかになった。CMLは活性酸素種のバーストを媒介し、ミクログリアのミトコンドリア活性とATP貯蔵を阻害するようである。ヒトの血清と脳におけるCMLレベルの加齢依存的上昇も検証された。さらに、加齢マウスでは、細菌叢に依存した腸管透過性の亢進が、CMLレベルの上昇を媒介した。本明細書に記載された研究により、加齢マウスのミクログリアの特異的な特徴が、腸内細菌叢によってどのように制御されているのかについての知見が得られる。
【0106】
より具体的には、
図1aに模式的に示すように、特定病原体フリー(SPF)条件下で生育したマウスは、無菌(GF)条件下で生育したマウスに比べて、脳内の腸管由来CMLのレベルが高いことが発見された。その結果、SPFマウスの脳はGFマウスに比べて活性酸素が多くなり、ATPが低下した。加齢が進むと、SPFマウスの方がGFマウスよりもミクログリアが活性化する。また、腸管バリア機能を高める薬剤が、加齢過程における腸由来CMLの放出を遅らせることも発見された。また、加齢に伴う腸内細菌叢ディスバイオシスを除去する薬剤が、加齢過程で産生される腸管由来CMLの量を減少させることも発見された。これらの薬剤は、認知障害や神経変性疾患の発症を抑制することができる。
【0107】
加齢に伴い腸内細菌叢がミクログリアのトランスクリプトーム・プロファイルを変化させる
大脳皮質では、加齢に伴ってミクログリア細胞密度が高くなることが報告されている(非特許文献4)。若齢成体マウスと加齢マウスとの間で、特異的病原体フリー(SPF)動物および細菌フリー(GF)動物の大脳皮質におけるミクログリア細胞密度の増加が認められたが(参照、
図6a~6b)、加齢SPFマウスとGFマウスとの間には差は認められなかった(参照、
図6a~6b)。老化ミクログリアの最も顕著で最初に特定された特徴の一つは、その形態の変化である。SPFマウスとGFマウスのミクログリアにおける潜在的な形態学的変化を決定するために、定量的形態再構築が行われた。SPFマウスのミクログリアは、細胞体積の増加とともに、総分岐面積、総分岐長、分岐点の数の減少を示したが(
図6c-6g参照)、細胞体の球形度は両群間で変化しなかった(
図6h参照)。これらのデータは、SPFマウスでは年齢がミクログリアの形態に影響を及ぼすが、GFマウスではミクログリアは変化せず、高分岐化したことを示している。
【0108】
加齢脳におけるミクログリア生理機能の細菌叢依存性変化をさらに評価するために、GFまたはSPF条件下で飼育された、若齢成体(6~10週齢)および加齢(96~104週齢)の雌雄マウスの全脳からFACS精製ミクログリア(
図7aおよび
図8a参照)に対してRNA-seqを行った(
図1bおよび
図8b参照)。GFマウスとSPFマウスにおける、両年齢群にわたるミクログリアの遺伝子発現プロファイルの違いおよび、GFマウスとSPFマウスから単離されたミクログリア間のトランスクリプトーム上の差異は、高年齢でより顕著であった(
図1d参照)。SPFマウスのミクログリアと比較すると、GFマウスのミクログリアでは年齢に依存しない遺伝子発現パターン(ミクログリアGFシグネチャー)が出現し、これには細胞骨格(例えばSdc3、Sult1a1、Tuba4a)や免疫機能(例えばCtse、Ero1lb、Htra3、Kcnma1、Notch4、Nr1d2、Rab4a、Wdfy1)に関連する遺伝子が含まれていた(
図1e参照)。さらに、ミクログリアGFシグネチャーには、ミトコンドリア機能の制御に関連する遺伝子(例えば、B4galnt1、Gpr137b、Gstm1、Mcur1、Mtfp1、NntおよびPlcd3)が含まれており、ミクログリアの代謝プロファイルを制御する細菌叢の能力が示された(
図1e参照)。次に、加重遺伝子共発現ネットワーク解析(WGCNA)を用いて、年齢と細菌叢に関するミクログリアの遺伝子発現の機能的変化を特徴付けた(非特許文献5)。分散の50%以上を有意に説明した遺伝子(Wald Padj<0.05)は、共発現パターンに基づいてモジュール固有遺伝子(ME)に分類された。SPFまたはGF飼育下の若齢成体群を比較したところ(非特許文献6)、免疫機能とエピジェネティック制御に関連する遺伝子ネットワーク、それぞれME1、ME5、ME6、ME7にわずかな違いが発見された。しかしながら、2つのモジュールが各年齢群に特徴的であった。加齢SPF群のME1とME4には、ミトコンドリア代謝や脂質局在化などのプロセスに関連する遺伝子が含まれており、加齢GF群のME2とME6には、免疫応答、ヒストンリシンメチル化、細胞形態形成を制御する遺伝子が含まれていた。
【0109】
次に、加齢に関連したMEに対する細菌叢の寄与を調査した。加重遺伝子共発現ネットワーク解析(WGCNA)により、加齢GFマウスのミクログリアは、SPFマウスの一般的な加齢傾向を踏襲していたが、その規模は低く(
図1f-1g参照)、若齢成体群に近いクラスターを形成していた(
図8b参照)。例えば、免疫応答(例えば、Axl、Crlf2、Tnfsf8、Tnfsf10、Ccl12、Fgr、Il1b、Il6st、Spp1およびTlr2)、インターフェロンシグナル伝達(例えば、Cxcl10/8、Ifi207、Ifit2/8およびStat1)、炎症応答(例えば、Cd180、Ldlr、S100a8およびS100a9など)およびミクログリア細胞遊走(Ccl12およびCxcl10など)に関連するME1およびME8の遺伝子は、加齢SPFマウスのミクログリアにおいて特異的なアップレギュレーションを示したが、若齢成体群および加齢GFマウスのいずれにおいても、負の相関または低い相関を示した(
図2aおよび
図8c-8d参照)。加齢SPF群のME1とME4には、ミトコンドリア代謝や脂質局在化などのプロセスに関連する遺伝子が含まれ、一方で加齢GF群のME2とME6には、免疫応答、ヒストンリジンメチル化、細胞形態形成の制御を行う遺伝子が含まれた(
図8c)。免疫応答(例えば、Axl、Crlf2、Tnfsf8、Tnfsf10、Ccl12、Fgr、Il1b、Il6st、Spp1、およびTlr2)、インターフェロンシグナル伝達(例えば、Cxcl10 8、Ifi207、Ifit2 8、およびStat1)、炎症応答(例えば、Cd180、Ldlr、S100a8、S100a9など)、ミクログリア細胞遊走(Ccl12、Cxcl10など)に関連する、ME1およびME8の遺伝子は、加齢SPFマウスのミクログリアにおいて特異的な発現上昇を示したが、若齢成体群および加齢GFマウスではいずれも負の相関または低い相関を示した。ME1とME8は、ミトコンドリア代謝過程、過酸化水素代謝過程、活性酸素代謝過程を含み、加齢SPF群で強い相関を示した。加齢GFマウスに高度に濃縮されたME2は、酸素含有化合物に対する反応と関連していた(
図8c)。ME2に含まれる遺伝子には、Foxp1、Nrf1、Trp53などの細胞内ROSレベルを調節する遺伝子や、G6pdx、Pdk2、Stat3、Ucp2などのミトコンドリアROSの調節に関与する遺伝子が含まれるが、加齢SPFマウスのミクログリアでは、年齢をマッチさせたGFマウスと比較して発現量が少なく、加齢SPFマウスのROSレベルが最適な細胞内範囲に保てないことを示している。加齢脳におけるROSの蓄積は、ミトコンドリア損傷およびミトコンドリア機能障害と関連している(非特許文献7)。ME3、ME5、ME9では、ミトコンドリアの集合、糖質代謝、酸化的リン酸化に関連する遺伝子に顕著な変化が見られた。これらの遺伝子はSPFマウスでもGFマウスでも発現が上昇したが、ここでは保護ROS制御遺伝子がダウンレギュレートされたので、SPFマウスではミトコンドリアの損傷がより顕著であった。さらに、加齢GFマウスでは、ミトコンドリアの構造と機能を維持する遺伝子の発現が上昇した(
図8d)。ミクログリアは加齢とともにトランスクリプトームプロファイルに変化を示し、細菌叢に依存した分岐が見られた。
【0110】
加齢GFマウスのミクログリアにおける酸化ストレスの減少
ミクログリアにおける細胞老化の主な特徴は、酸化ストレスの増加であり、これは活性酸素種(ROS)の細胞内レベルの上昇を指す(非特許文献8)。加齢関連モジュールのパスウェイを調べると、細菌叢に依存するミクログリアの酸化ストレス制御へのつながりがいくつか見つかった。ミトコンドリア代謝過程、過酸化水素代謝過程、ROS代謝過程を含むME1とME8は、加齢SPF群で強い相関を示した。加齢GFマウスで高度に濃縮されたME2は、酸素含有化合物に対する反応と関連していた(
図1f-1gおよび
図2a参照)。ミクログリアのROS関連遺伝子の発現レベルがマウスの年齢と飼育条件によって調節されていることを確認するため、年齢が関係するME1、ME2、ME8のROS関連遺伝子を選択的に解析した。加齢SPFマウスのミクログリアにおいてのみ、Cdkn1a、Cyba、Cybb、Duoxa1、Il1b、Tgfbr2、Tlr2、Tlr4およびTlr5のようないくつかの免疫活性化およびROS促進遺伝子、ならびにAxl、Hif1a、Lcn2、Mmp2、Rela、Trex1、S100a8およびS100a9のようなROS応答遺伝子の特異的な発現上昇が認められた(
図2b参照)。Foxp1、Nrf1、Trp53のような細胞内ROSレベルを制御する遺伝子や、G6pdx、Pdk2、Stat3、Ucp2のようなミトコンドリアのROS制御に関与する遺伝子を含むME2の遺伝子は、年齢をマッチさせたGFマウスと比較して、加齢SPFマウスのミクログリアでは発現が少なかった(
図2b参照)。若齢成体および加齢SPFマウスから単離したミクログリアにおけるROS産生をCellROXフローサイトメトリーアッセイでモニターしたところ、ROSの有意な上昇が加齢とともに観察され、加齢GFマウスでは減少していた(
図2c参照)。誘導性一酸化窒素合成酵素(iNOS)の活性化は、過剰ROSの生成に直接関係しているようである(非特許文献9、非特許文献10)。免疫組織化学(IHC)を用いると、SPF条件下でのミクログリアiNOS発現の年齢依存的増加が観察されたが、GFマウスではあまり顕著ではなかった(
図2d-2e参照)。
【0111】
ROSの増加がミクログリアの機能にどのような影響を及ぼすかを調べたところ、ミトコンドリアのアセンブリー、糖代謝および酸化的リン酸化に関連する遺伝子に変化が起こることがわかった(
図2f参照)。ミクログリアのミトコンドリアを電子顕微鏡で観察すると、加齢SPFマウスでは、加齢GFマウスに比べて、ミクログリアあたりのミトコンドリアの質量や数には変化がなかったが、クリステがあまり明瞭でない、あるいは破壊された損傷ミトコンドリアの割合がかなり高いことが明らかになった。加齢SPFマウスのミクログリアでピークに達した細胞内ROSの蓄積は、低酸素誘導因子1サブユニットα(Hif1a)の発現を誘導するようである。加齢脳におけるミトコンドリア機能障害は代謝シフトを引き起こし、ミクログリアの過度の活性化と関連している。若齢成体マウスは同様のHif1a発現を示したが、RNA-seqおよび逆転写による定量的PCR(RT-qPCR)では、加齢SPFマウスのミクログリアにおけるHif1a発現がGFマウスよりも高いことが示された(
図9d-9e参照)。加齢動物の細胞では酸化的リン酸化の効率が低下し、ATP産生の減少につながる。ミトコンドリアの膜貫通電位(ΔΨm)はATP産生の主要な原動力であると思われる。加齢に伴うミトコンドリア質量の増加を考慮し、ミトコンドリア活性をミトコンドリア質量に対するミトコンドリアの膜貫通電位としてプロットした。ミトコンドリア活性は、SPFマウスでは加齢に伴う低下と細胞内ATPリザーバーの減少を示したが、GFマウスのミクログリアでは両者ともそれほど顕著ではなかった(
図2i、
図7b、
図9h参照)。これらのデータを総合すると、細菌叢は加齢脳のミクログリアにおける酸化ストレスの増加に寄与しており、それはミトコンドリアへの直接的な損傷と関連していることがわかる。
【0112】
細菌叢に依存したCMLの加齢による蓄積
若齢成体および加齢SPFマウスの血清試料中の短鎖脂肪酸(SCFA)濃度を、標的液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)代謝産物分析を用いて特定した(
図3a参照)。若齢成体マウスおよび加齢マウスの血清中では酢酸塩が最も多く、若齢成体マウスと比較して加齢マウスの血清中では酢酸塩およびプロピオン酸塩の濃度が高かった。酪酸/イソ酪酸および吉草酸/イソ吉草酸は変化しなかった。偏りのないスクリーニングでは、ノンターゲットメタボロミクスデータセットを使用し、SPF条件下で飼育した若齢成体マウスと加齢マウスの血清および脳試料を調査した(
図3b~3c参照)(参照、非特許文献11)。パスウェイの濃縮解析により、いくつかの組織特異的なパスウェイの変化が明らかになった。例えば、ピリミジン、イノシトール、カルニチン、およびアミノ酸代謝に関連するいくつかの経路(例えば、リジン、ポリアミン、チロシン)は、加齢マウスの血清においてより影響を受けていた(
図10a参照)。ビタミンA、トコフェロール、プリン代謝、セラミド関連経路、ペントースリン酸経路は、加齢マウスの脳で特異的に変化した(
図10b参照)。脂肪酸代謝および終末糖化産物(AGEs)の経路は、加齢マウスの血清および脳試料の両方で共通して変化した(
図10a-10b参照)。加齢マウスの血清と脳組織の両方で有意に発現が上昇した代謝産物から、腸で制御され血流を介して脳に到達した可能性のある代謝産物を特定することができた。これらの代謝産物には、パルミトレイン酸(16:1n7)、TMAO、1-オレオイル-2-ドコサヘキサエノイル-グリセロホスホリルコリン(18:1/22:6)、CMLおよびスタキドリンが含まれた(
図3d参照)。マウスで見られた加齢に関連した濃度変化の一部は、ヒトの血液試料でも確認された。ヒト加齢コホート(TwinsUKデータバンク)の血清/血漿のノンターゲットメタボロミクスでは、マウスで見られたCML(
図3e参照)およびTMAO(
図3f参照)の加齢に伴う濃度変化が再現された。若齢成体および加齢のSPFおよびGFマウスの脳組織からのターゲットメタボロミクスにより、加齢マウスの脳組織におけるCMLおよびTMAOの増加には、機能的な腸内細菌叢(例えばSPFマウス)が必要であることが示された。加齢GFマウスは、若齢成体GFマウスと比較してわずかな変化しか示さなかった(
図3g参照)。
【0113】
CMLは加齢に伴うミクログリア機能障害を増強する
次に、in vivoにおけるミクログリアに対するこれらの代謝産物の機能的効果が評価された。CML、TMAO、酢酸塩、およびプロピオン酸塩がさらなる評価のために選択された。加齢ミクログリアにおけるROS産生増加の原因となる代謝産物を特定するために、各代謝産物を若齢成体マウスに別々に投与した。腸管から循環系への吸収プロファイルの違いによるアーティファクトの可能性を避けるため、若齢成体マウスにCML、TMAO、酢酸ナトリウム、またはプロピオン酸ナトリウムを1日1回、2週間にわたって腹腔内注射した(
図4a参照)。TMAO、酢酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウムは、細胞内ROS産生にもミクログリアの代謝機能にも影響を与えなかった。しかしながら、CML処理は加齢マウスのミクログリアにおいて見られた変化を部分的に再現した。
【0114】
CMLは酸化ストレスを増加させ、代謝活性を低下させ、細胞のATP貯蔵量を減少させた(
図4b-4d参照)。さらに、CMLはミクログリアのミトコンドリア構造に直接損傷を与えることにより、ミトコンドリア機能障害を引き起こした(
図10c参照)。CML治療の影響はミクログリアだけにとどまらず、マクロファージにも悪影響を与えた。特に骨髄由来マクロファージ(BMDM)は、in vitroで酸化ストレスの用量依存的増加および代謝活性の低下を示した(
図10d-10e参照)。循環CMLは、内因性のメイラード反応、食物、または腸内細菌叢による終末糖化産物(AGEs)の変換に由来する可能性がある。脳内CMLレベルは、加齢SPFマウスでは増加したが、加齢GFマウスでは増加しなかった(
図4e参照)。CMLは、若齢成体および加齢GFマウスの脳組織でも、若齢成体SPFマウスと同程度のレベルで検出可能であった。これらの結果は、腸内細菌叢が加齢脳におけるCMLレベルの上昇には必要であるが、若齢成体マウスに見られるベースラインレベルには必要ないことを示している。したがって、これらの結果はまた、CMLの腹腔内注射後にみられたミクログリアにおけるミトコンドリア機能の調節不全が、脳のCML濃度の上昇に起因しており、加齢脳における設定を再現していることも示している(
図4f参照)。ミクログリアのRNA-seq解析から、CMLの腹腔内投与は、ROS関連遺伝子S100a9およびS100A8および、A430033K04Rik、Chic1、Ltf、Ngp、Pglyrp1、Scai、Zkscan2などの他の細菌叢や老化に関連する遺伝子の発現を上昇させることが示された(
図4g-4hおよび
図10f参照)。
【0115】
大脳皮質ミクログリアにおけるCMLの免疫蛍光染色は、ミクログリアがCMLによって直接標的にされるかどうかに対処し、SPFおよびGF条件下で飼育されたマウスは、加齢とともにCML陽性ミクログリアの割合が増加することを示した。加齢SPFマウスのミクログリアの約30%がCML陽性であり、加齢GFマウスのミクログリアは加齢によるCMLの蓄積が少なかった(
図4i-4j参照)。さらに、マウスの大脳皮質で見られたCML陽性ミクログリアの加齢依存的増加は、ヒトの大脳皮質にも存在することが検証された。1歳から88歳までのヒトの脳組織(合計n=43、男性23、女性20)が得られ、年齢と、ヒト大脳皮質におけるCML陽性ミクログリアの割合との間に正の相関(r=0.5793、R
2=0.3356、P<0.001)が観察された(
図4k-4l)。マウスでは、ミクログリアのRNA-seq解析から、CMLをi.p.注射すると、ROS関連遺伝子であるS100a9およびS100A8、およびA430033k04Rik、Chic1、Ltf、Ngp、Pglyrp1、Scai、Zkscan2などの他の細菌や加齢に関連する遺伝子の発現が上昇することが示された。これらの知見は、加齢に伴うCMLの蓄積が、ROSの増加を含む直接的な形でミクログリアの代謝機能障害を誘導し、脳の恒常性と脳機能を徐々に破壊する可能性があることを示している。
【0116】
加齢細菌叢は腸-血液バリアを破壊することによってCMLレベルを促進する
16S リボソーム RNA-seqによる年齢依存的な腸内細菌叢の変化は、特に加齢におけるCMLレベルおよびミクログリア機能の差異が細菌叢の有無に依存するという知見に基づいて特徴付けられた。若齢成体マウスと加齢マウスの細菌叢プロファイルが異なることは、ブレイ・カーティス非類似度指標およびシャノンとシンプソンのα多様性指標を用いたβ多様性解析によって確認された(
図11a-11b参照)。両年齢群の腸内細菌叢は、2つの門(
図11c参照)、すなわちファーミキューテスとバクテロイデーテスに支配されていた。ファーミキューテスとバクテロイデーテスの相対的な存在比は、ヒトでは加齢になるにつれて変化し、異なる年齢段階における細菌プロファイルの全体的な変化と関連づけることができることが注目された。ファーミキューテスとバクテロイデーテスの比率の有意な加齢依存的減少が観察され、ファーミキューテス門、ラクノスピラ科は加齢マウスで有意に減少した(
図11d-11e参照)。細菌属では、ツリバクター(Turibacter)、アロプレボテラ、パラサテレラ、ビフィドバクテリウム、マセリバクテロイデス(Macellibacteroides)、アリスティペス センス ストリクト 1(Alistipes sensu stricto 1)、ぺプトストレプトコッカセアエ インケルタエセディス(Peptostreptococcaceae incertaesedis)およびパラバクテロイデスの増加が加齢マウスで観察された。この結果は、パントエア、アノキシバチルス、ラクノスピラセアエ インケルタエ セディス、クルトバクテリウムおよびアセトアチファクター(Acetatifactor)が加齢マウスで減少したのとは対称的であった(
図11f参照)。これらの結果は、若齢成体マウスと加齢マウスの細菌叢をプロファイリングすると、いくつかの分類学的レベルで変化が見られることを示している。糞便中CMLのターゲットメタボロミクス(LC-MS)により、加齢GFマウスの糞便は加齢SPFマウスのものよりCMLレベルが高いことが明らかになり、加齢に伴うCMLの脳内蓄積に細菌叢が間接的に関与していることが示された(
図5a参照)。
【0117】
加齢マウスは、若齢成体マウスと比較して腸管透過性の亢進を示し(非特許文献12)、現象は細菌叢の存在に依存している(非特許文献13)。透過性が亢進すると、代謝産物が消化管内から腸管上皮をより自由に通過し、血流に入るようになるため、脳と糞便中のCMLレベルの不一致を説明できるかもしれない。この仮説を検証するため、経口投与後のFITC-デキストラン(4kDa)の循環への移行を定量化することで腸管透過性を測定した。加齢SPFマウスでは高い腸管透過性が観察され、加齢GFマウスのバリア機能は若齢成体SPFおよびGFマウスと同等であった(
図5b参照)。若齢成体GFマウスに加齢細菌叢をコロニー形成させると、若齢成体GFマウスに若齢腸内細菌叢を投与した後に認められた透過性と比較して、細菌叢依存的に腸管透過性が上昇した(
図5c参照)。このことは、経口摂取後のCMLの循環への移行が、加齢SPFマウスで最も高いという観察結果と一致した(
図5dおよび
図12a参照)。CMLの投与経路の違いがミクログリアへのCMLの蓄積に影響するかどうかを評価するために、経口投与ではなく腹腔内投与でCMLを投与した若齢成体マウスを調べた。そのようなマウスでは、大脳皮質により多くのCML陽性ミクログリアが認められた(
図12b-12c参照)。加齢マウスでは、CMLの投与経路はCML陽性ミクログリアの割合に影響を及ぼさなかった(
図12b-12c参照)。腹腔内投与および経口投与の両ルートによるCML投与は、加齢マウスのミクログリアにおける加齢に関連した細胞内ROSの増加と代謝機能の低下を有意に悪化させた。若齢成体マウスでは、このような効果はCMLの腹腔内投与後にのみ検出可能であった(
図12d-12e参照)。加齢に伴うミクログリアへのCMLの蓄積に腸管バリアが重要な役割を果たしていることを検証するため、加齢SPFマウス(18ヵ月齢)に、エラグ酸(EA)を3日ごとに10週間経口投与し(非特許文献14)、エラグ酸は、加齢に伴う細菌叢ディスバイオシスを軽減させ、腸上皮のオートファジーを誘導することにより、腸の漏出性の原因となることが知られているクローディンや、腸管バリア機能の内因性エンハンサーである腸アルカリホスファターゼ(IAP)の発現を亢進させるので、CMLの蓄積を抑制する(非特許文献15、非特許文献16)(
図5e参照)。EAは腸管透過性に直接的な影響を及ぼさなかったが、IAP処置した加齢マウスは腸の漏出性が低下した(
図5f参照)。EAもIAPも、それぞれ間接的または直接的に、脳内のCML蓄積を減少させた(
図5g参照)。EA処置およびIAP処置した加齢マウスのミクログリアは、ビヒクル処置した加齢マウスと比較して、細胞内ROSの有意な減少およびATPレベルの増加を示した(
図5h-5i参照)。これらの所見は、加齢によって誘発される細菌叢の変化が、腸管バリアの完全性を破壊し、加齢マウスおよびヒトの脳におけるCMLの蓄積を促進することを実証している。
【0118】
これらの観察結果を総合すると、認知障害または神経変性障害を発症するリスクがある、または発症している被験者を特定するためのアプローチが提供される。さらに、これらの観察結果は、認知障害または神経変性障害を発症する、または発症しているリスクのある被験者を治療するためのアプローチを提供する。
【0119】
III.治療方法
本明細書において提供されるのは、それを必要とする被験者において、ミクログリアにおける酸化ストレスもしくはミトコンドリア機能不全の発症率、ミクログリアにおけるミトコンドリア機能不全の発症率、またはミクログリア機能不全の発症率を低下させる方法である。本方法は、治療有効量の腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤を被験者に投与することを含み、それにより、被験者の、ミクログリアにおける酸化ストレスの発症率、またはミクログリアにおけるミトコンドリア機能不全の発症率、またはミクログリア機能不全の発症率を低下させる。
【0120】
また、それを必要とする被験者において、認知障害を治療する、または認知障害の発症率もしくは悪化率を低下させる方法が提供される。本方法は、治療有効量の腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤を被験者に投与することを含み、それにより、被験者において認知障害を治療するか、または認知障害の発症率もしくは悪化率を低下させる。
【0121】
また、被験者における神経変性疾患を治療する、または神経変性疾患の発症率もしくは進行率を低下させる方法が提供される。本方法は、治療有効量の腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤を被験者に投与することを含み、それにより、神経変性疾患を治療するか、または被験者における神経変性疾患の発症率もしくは進行率を低下させる。
【0122】
また、それを必要とする被験者における神経機能障害の発症率または悪化率を低下させる方法が提供される。本方法は、治療有効量の腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤を被験者に投与することを含み、それによって、被験者における神経機能障害の発症率または悪化率を低下させる。
【0123】
また、腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤による治療のために被験者を選択する方法であって、以下を含む方法が提供される:(a)被験者から得られた生体試料中に、基準レベルと比較して上昇したレベルのCML、CML前駆体、CML代謝産物(本明細書ではCML分解産物とも称する)、またはCML類似体を有する被験者を特定する方法;および(b)特定された被験者を、腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤による治療のために選択する方法。本方法は、任意選択で、被験者における腸管バリアの透過性を決定すること、および基準レベル(例えば、健康な被験者の腸管バリア透過性のレベル)と比較して、腸管バリア透過性のレベルが増加した被験者を、腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤による治療のために選択することをさらに含む。
【0124】
例示的なCML前駆体としては、(E)-N6-((2S,3R,4R,5R)-2,3,4,5,6-ペンタヒドロキシヘキシリデン)-L-リジン、N6-((3S,4R,5R)-3,4,5,6-テトラヒドロキシ-2-オキソヘキシル)-L-リジン、L-リジン、およびオキサルアルデヒドが挙げられる。
【0125】
例示的なCML代謝産物としては、カルボキシメチルカダベリン(CM-CAD)、2-アミノ-6-(ホルミルメチルアミノ)ヘキサン酸、5-(カルボキシメチルアミノ)ペンタン酸、カルボキシメチル-カダベリン、カルボキシメチル-エピカテキン、(5-アミノペンチル)グリシン、N6-(カルボキシメチル)-N6-(2,3-ジヒドロキシ-5-(3,5,7-トリヒドロキシクロマン-2-イル)フェニル)-L-リジン、N-カルボキシメチル-Δ1-ピペリジニウムが挙げられる。
【0126】
例示的なCML類似体としては、Nω-(カルボキシメチル)アルギニン(CMA)およびNε-(1-カルボキシエチル)リジン(CEL)が挙げられる。
【0127】
また、本明細書には、被験者から得られた生体試料中のCML、CML前駆体、CML代謝産物、またはCML類似体が基準レベルと比較して上昇したレベルを有すると特定された被験者に、治療有効量の腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤を投与することを含む、被験者を治療する方法が提供される。特定の実施形態において、被験者はまた、基準レベル(例えば、健常被験者における腸管バリア透過性レベル)と比較して、腸管バリア透過性レベルの上昇を有することが特定されている。
【0128】
また、本明細書には、被験者の組織におけるCML、CML前駆体、CML代謝産物、またはCML類似体の蓄積率を低下させる方法が提供される。本方法は、治療有効量の腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤を被験者に投与することを含む。
【0129】
また、本明細書には、(i)ミクログリア機能障害、(ii)認知障害、または(iii)神経変性疾患の発症のリスクが増大した、治療に適した被験者を特定する方法が提供される。本方法は、基準レベルと比較して、被験者から得られた生体試料中のCML、CML前駆体、CML代謝産物、またはCML類似体の上昇したレベルを有する被験者を特定することを含む。
【0130】
また、本明細書には、それを必要とする被験者において、ミクログリアにおける酸化ストレスまたは代謝ストレスの発症率を低下させる方法が提供される。本方法は、治療有効量の腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤を被験者に投与することを含む。
【0131】
また、本明細書には、それを必要とする被験者において、ミクログリアにおけるミトコンドリア機能不全の発症率を低下させる方法が提供される。本方法は、治療有効量の腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤を被験者に投与することを含む。
【0132】
また、本明細書には、それを必要とする被験者において、ミクログリア機能不全の発症率を低下させる方法が提供される。本方法は、治療有効量の腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤を被験者に投与することを含む。
【0133】
また、本明細書には、それを必要とする被験者において、ミクログリアの1つ以上の活性または機能を増加させる方法が提供される。本方法は、治療有効量の腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤を被験者に投与することを含む。
【0134】
また、本明細書には、それを必要とする被験者において、認知障害の発症率または悪化率を低下させる方法が提供される。本方法は、治療有効量の腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤を被験者に投与することを含む。
【0135】
また、本明細書には、それを必要とする被験者において、認知障害を治療する方法が提供される。本方法は、治療有効量の腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤を被験者に投与することを含む。
【0136】
また、本明細書には、被験者において、神経変性疾患の発症率または進行率を低下させる方法が提供される。本方法は、治療有効量の腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤を被験者に投与することを含む。
【0137】
また、本明細書には、被験者において、神経変性疾患を治療する方法が提供される。本方法は、治療有効量の腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤を被験者に投与することを含む。
【0138】
また、本明細書には、それを必要とする被験者において、神経機能障害の発症率または悪化率を低下させる方法が提供される。本方法は、治療有効量の腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤を被験者に投与することを含む。
【0139】
また、本明細書には、それを必要とする被験者において、血液または脳試料中のCML、CML前駆体、CML代謝産物、またはCML類似体の濃度を低下させる方法が提供される。本方法は、治療有効量の腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤を被験者に投与することを含む。
【0140】
また、本明細書には、それを必要とする被験者において、認知障害または神経変性疾患を予防または治療するために、血液または脳試料中のCML、CML前駆体、CML代謝産物、またはCML類似体の濃度を低下させる方法が提供される。本方法は、治療有効量の腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤を被験者に投与することを含み、それにより、被験者における認知障害または神経変性疾患を予防または治療する。
【0141】
また、本明細書には、それを必要とする被験者において、認知障害または神経変性疾患を予防または治療するために、血液または脳試料中のCML、CML前駆体、CML代謝産物、またはCML類似体の濃度を低下させる方法が提供される。本方法は、治療有効量の腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤を被験者に投与することを含み、それにより被験者における認知障害または神経変性疾患を予防または治療する。
【0142】
また、本明細書には、それを必要とする被験者において、認知障害または神経変性疾患を予防または治療するために、腸の透過性を低下させる方法が提供される。本方法は、治療有効量の腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤を被験者に投与することを含み、それによって、被験者における認知障害または神経変性疾患を予防または治療する。
【0143】
本明細書に記載される方法のいずれかの特定の実施形態において、被験者は、基準レベルと比較して、被験者の生体試料中にCML、CML前駆体、CML代謝産物、またはCML類似体の上昇したレベルを有するものとして以前に特定されている。本明細書に記載の方法のいずれかの特定の実施形態において、本方法は、基準レベルと比較して、被験者の生体試料中のCML、CML前駆体、CML代謝産物、またはCML類似体のレベルが上昇しているとして被験者を特定することをさらに含む。本明細書に記載される方法のいずれかの特定の実施形態では、生体試料は組織試料または体液試料である。いくつかの実施形態において、体液試料は、唾液、尿、血液、血清、血漿、脳脊髄液、または糞便である。いくつかの実施形態では、組織試料は脳組織である。
【0144】
本明細書に記載される方法のいずれかの特定の実施形態において、被験者は、基準レベル(例えば、健常被験者における腸管バリア透過性のレベル)と比較して、腸管バリア透過性の増加したレベルを有するものとして以前に特定されている。本明細書に記載される方法のいずれかの特定の実施形態において、本方法は、基準レベル(例えば、健常被験者における腸管バリア透過性のレベル)と比較して、腸管バリア透過性の増加したレベルを有するものとして被験者を特定することをさらに含む。本明細書に記載される方法のいずれかの特定の実施形態において、被験者は、認知障害を有すると特定または診断されている。本明細書に記載される方法のいずれかの特定の実施形態において、被験者は、認知障害を発症するリスクが増大していると特定されている。本明細書に記載される方法のいずれかの特定の実施形態において、被験者は、神経変性疾患を有すると特定または診断されている。本明細書に記載される方法のいずれかの特定の実施形態において、被験者は、神経変性疾患を発症するリスクが増大していると特定されている。
【0145】
腸管バリア透過性の増加レベルを特定するための方法には、当該技術分野で公知の分析技術を含めることができ、例えば、経口摂取された化合物(例えば、標識化合物または非標識化合物)の量を被験者の組織または体液試料中で測定する方法が含まれる。一つのアプローチでは、標識化合物(例えば、それぞれクロム-51やフルオレセインイソチオシアネート(FITC)などの放射性標識または蛍光標識で標識された代謝産物)を被験者が経口摂取する。投与後、被験者から採取した生体試料(血液や尿など)中の標識化合物の取り込みを測定する。標識化合物の量は、被験者の腸管透過性の指標となる。代替的に、または追加的に、ラクチュロース:マンニトール(LM)排泄試験を用いて腸管透過性を測定することもできる。LM排泄試験は、2つの非代謝糖分子(ラクチュロースおよびマンニトール)が腸粘膜を透過する能力を直接測定する定量的アッセイであり、それによって腸管バリア透過性を測定する。例示的なLM試験において、結果は摂取したラクチュロースとマンニトールの量と尿中に排泄されたラクチュロースとマンニトールの量の比として表すことができる。これは式を使って測定できる。
【0146】
[化1]時間(t)における累積排泄量=[tにおける糖の排泄濃度(mg/mL)]×tにおける総尿量(mL)。
【0147】
そして、時間tまでの各糖の累積排泄量(mg)は、累積排泄量(mg)×100を、摂取した糖の総量(mg)で割ることにより百分率で表される。
【0148】
例えば、摂取したラクチュロースの総量が5グラムであり、摂取したマンニトールの総量が1グラムである場合、健康な被験者の尿中のラクチュロースおよびマンニトールの排泄量の正常値は、ラクチュロースについては約0.35%(0.020%から1.803%の範囲)であり、マンニトールについては12.3%(約1.480%から43.75%の範囲)である。これらの平均値より高い値は、被験者の腸管透過性が高いことを示している。
【0149】
本明細書に記載される方法のいずれかの特定の実施形態において、本方法は、被験者のミクログリアにおける細胞内および/またはミトコンドリアの活性酸素種(ROS)のレベルの低下をもたらす。本明細書に記載される方法のいずれかの特定の実施形態において、本方法は、被験者のミクログリアにおける誘導性一酸化窒素合成酵素(iNOS)の発現の低下をもたらす。本明細書に記載される方法のいずれかの特定の実施形態において、本方法は、Cdkn1a、Cyba、Cybb、Duoxa1、Il1b、Tgfbr2、Tlr2、Tlr4、Tlr5、Axl、Hif1a、Lcn2、Mmp2、Rela、Trex1、S100a8、およびS100a9からなる群より選択される被験者のミクログリアにおける1つ以上の遺伝子の発現の低下をもたらす。本明細書に記載の方法のいずれかの特定の実施形態において、本方法は、Foxp1、Nrf1、Trp53、G6pdx、Pdk2、Stat3、およびUcp2からなる群から選択される被験者のミクログリアにおける1つまたは複数の遺伝子の発現の増加をもたらす。本明細書に記載される方法のいずれかの特定の実施形態において、本方法は、被験者におけるミクログリアの1つ以上の活性の増加をもたらす。
【0150】
本明細書に記載のいずれかの方法のいくつかの実施形態において、被験者から得られた生体試料中のCML、CML前駆体、CML代謝産物、またはCML類似体のレベルを決定することをさらに含む。本明細書に記載のいずれかの方法のいくつかの実施形態は、被験者における腸管バリア透過性のレベルを決定することをさらに含む。
【0151】
本明細書に記載される方法のいずれかの特定の実施形態において、神経変性疾患は、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、前頭側頭型認知症、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、緑内障、筋強直性ジストロフィー、進行性核上性麻痺、脊髄性筋萎縮症、多系統萎縮症、運動失調症、血管性認知症、または他の認知症の群から選択されるが、これらに限定されない。
【0152】
本明細書に記載の方法のいずれかの特定の実施形態では、腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤の投与後、被験者には、以下のうちの1つ以上が表れる:(a)血液試料中のCML、CML前駆体、CML代謝産物、またはCML類似体の濃度の低下;(b)脳組織試料中のCML、CML前駆体、CML代謝産物、またはCML類似体の濃度の低下;(c)腸管透過性の低下;(d)細菌叢ディスバイオシスの減少;(e)腸上皮におけるオートファジーのレベルの増加;(f)ミクログリアにおける細胞および/またはミトコンドリアのROSレベルの減少;(g)ミクログリア集団におけるアデノシン三リン酸(ATP)のレベルの増加;(h)ミクログリアにおけるiNOSの発現の減少;(i)ミクログリアにおける、Cdkn1a、Cyba、Cybb、Duoxa1、Il1b、Tgfbr2、Tlr2、Tlr4、Tlr5、Axl、Hif1a、Lcn2、Mmp2、Rela、Trex1、S100a8、およびS100a9からなる群より選択される1つ以上の遺伝子の発現の減少;および(j)Foxp1、Nrf1、Trp53、G6pdx、Pdk2、Stat3、およびUcp2からなる群より選択される、ミクログリアにおける1つ以上の遺伝子の発現の増加。
【0153】
また、本明細書には、ミクログリア機能障害を発症するリスクが増大した被験者を特定する方法が提供される。本方法は、基準レベルと比較して、被験者から得られた生体試料中のCML、CML前駆体、CML代謝産物、またはCML類似体のレベルの上昇を有する被験者を特定することを含み、このようなレベルの上昇は、被験者がミクログリア機能障害を発症するリスクの増加を有することを示す。
【0154】
特定の実施形態において、本方法は、基準レベル(例えば、健常被験者における腸管バリア透過性のレベル)と比較して増加したレベルの腸管バリア透過性を有する被験者を、ミクログリア機能障害を発症するリスクが増加したものとして特定することをさらに含む。
【0155】
また、本明細書には、認知障害のリスクが増加していると被験者を特定する方法が提供される。本方法は、基準レベルと比較して、被験者から得られた生体試料中のCML、CML前駆体、CML代謝産物、またはCML類似体の上昇したレベルを有する被験者を特定することを含み、そのような上昇したレベルは、被験者が認知障害を発症するリスクの増加を有することを示す。特定の実施形態において、本方法は、基準レベル(例えば、健常被験者における腸管バリア透過性レベル)と比較して増加した腸管バリア透過性レベルを有する被験者を、認知障害を発症するリスクが増加していると特定することをさらに含む。
【0156】
また、本明細書には、神経変性疾患を発症するリスクが増大した被験者を特定する方法が提供される。本方法は、基準レベルと比較して、被験者から得られた生体試料中のCML、CML前駆体、CML代謝産物、またはCML類似体の上昇したレベルを有する被験者を特定することを含み、このような上昇したレベルは、被験者が神経変性疾患を発症するリスクが増加していることを示す。特定の実施形態において、本方法は、基準レベル(例えば、健常被験者における腸管バリア透過性のレベル)と比較して、腸管バリア透過性のレベルが上昇している被験者を、神経変性疾患を発症するリスクが増加していると特定することをさらに含む。
【0157】
CML、CML前駆体、CML代謝産物、またはCML類似体の存在を特定し、その量を定量するための方法としては、例えば、クロマトグラフィー(例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC))、質量分析法、液体クロマトグラフィー質量分析法(LC-MS)、核磁気共鳴分光法、または免疫測定法を含む、当該技術分野において公知の分析技術を挙げることができる。
【0158】
例えば、CML、CML前駆体、CML代謝産物、またはCML類似体の量は、クロマトグラフィー法、質量分析(MS)法、クロマトグラフィー法に続くMS法、電気泳動法、電気泳動法に続くMS法、核磁気共鳴(NMR)法、およびそれらの組み合わせの1つ以上によって、組織または体液試料中に検出および/または定量することができる。例示的なクロマトグラフィー法としては、パルスアンペロメトリック検出を用いる強陰イオン交換クロマトグラフィー(SAX-PAD)、液体クロマトグラフィー(LC)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、超高速液体クロマトグラフィー(UPLC)、薄層クロマトグラフィー(TLC)、アミドカラムクロマトグラフィー、およびそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。例示的な質量分析(MS)としては、タンデムMS、LC-MS、LC-MS/MS、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析(MALDI-MS)、フーリエ変換質量分析(FTMS)、質量分析によるイオン移動度分離(IMS-MS)、電子移動解離(ETD-MS)、多重反応モニタリング(MRM)、およびこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。例示的な電気泳動法には、キャピラリー電気泳動(CE)、CE-MS、ゲル電気泳動、アガロースゲル電気泳動、アクリルアミドゲル電気泳動、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)に続いて特定の糖鎖構造を認識する抗体を用いたウェスタンブロッティング、およびそれらの組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。例示的な核磁気共鳴(NMR)としては、一次元NMR(1D-NMR)、二次元NMR(2D-NMR)、相関分光法磁気角スピニングNMR(COSY-NMR)、全相関分光法NMR(TOCSY-NMR)、異核単量子コヒーレンスNMR(HSQC-NM R)、異核多重量子コヒーレンス(HMQC-NMR)、回転核オーバーハウザー効果分光法NMR(ROESY-NMR)、核オーバーハウザー効果分光法(NOESY-NMR)、およびこれらの組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。CML、CML前駆体、CML代謝産物、または目的のCML類似体を決定、検出、および/または測定するために、当該技術分野で公知のMSの任意の方法を使用することができ、例えば、LC-MS、ESI-MS、ESI-MS/MS、MALDI-TOF-MS、MALDI-TOF/TOF-MS、タンデムMS等が挙げられる。質量分析計は一般に、イオン源と光学系、質量分析器、データ処理エレクトロニクスを含む。質量分析器には、飛行時間型(TOF)や四重極型(Q)などの走査型質量分析計やイオンビーム質量分析計、イオントラップ(IT)、オービトラップ(Orbitrap)、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(FT-ICR)などのトラップ型質量分析計が含まれ、本明細書に記載の方法で使用されてもよい。様々なMS法の詳細は文献に記載されている(参照:非特許文献17).
【0159】
例示的なイムノアッセイとしては、これらに限定されないが、免疫組織化学的および/またはウェスタンブロット分析、免疫沈降、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、酵素結合免疫濾過アッセイ(ELIFA)が挙げられる。
【0160】
例えば、いくつかの実施形態では、抗体-標的複合体が形成されるのに十分な条件下で、試料を標的分析物(例えば、CML)に特異的な抗体と接触させ、複合体を検出する。分析物の存在は、血漿や血清を含む多種多様な組織や試料のいずれかを用いたウェスタンブロット法またはELISA法など、様々な方法で検出してもよい。このようなアッセイ形式を用いる広範なイムノアッセイ技術が利用可能であり、例えば、参照は、米国特許第4,016,043号、同第4,424,279号、同第4,018,653号である。これらには、従来の競合的結合アッセイと同様に、非競合的タイプのシングルサイトおよび2サイトまたは“サンドイッチ”アッセイの両方が含まれる。これらのアッセイには、標識抗体と標的分析物との直接結合も含まれる。得られた複合体は、例えば酵素、蛍光標識、発色標識、放射性核種を含む分子(すなわち放射性同位元素)、または化学発光分子などの標識によって放出されるシグナルによって検出することができる。
【0161】
様々な実施形態において、CMLは、Immunochem(カタログ番号ICP2188)、Creative Diagnostics(カタログ番号DMABT-Z59348)、Creative BioLabs(カタログ番号AGM-233YJ)、Hycult Biotech(カタログ番号HM5013)、Abcam(カタログ番号ab125145、ab27683、ab27685、ab27684、またはab30922)、MyBioSource(カタログ番号MBS390033またはMBS390034)、Kerafast(カタログ番号EMS302)、およびBiotechne(カタログ番号MAB3247-SPまたはMAB3247)、または現在知られているまたは後に特定される抗CML抗体のような、抗CML抗体で検出される。
【0162】
様々な実施形態において、CMLは、CGYJ107、CML26、6C7、MAB3247、またはCMS-10抗CML抗体クローンを用いて検出される。
【0163】
種々の実施形態において、N(6)-(1-カルボキシエチル)-L-リジン(CEL)などのCML類似体は、Abcam(カタログ番号ab145095)またはCosmo Bio(カタログ番号CAC-AGE-M02)からの抗CEL抗体などの抗CEL抗体で検出される。様々な実施形態において、CELはCEL-SP抗CEL抗体クローンで検出される。
【0164】
代替的な方法では、免疫組織化学(“IHC”)および染色プロトコルを用いて、試料中のCML、CML前駆体、CML代謝産物、またはCML類似体の発現を調べることができる。組織切片のIHC染色は、試料中の標的の存在を評価または検出する信頼性の高い方法であることが示されている。IHCおよび免疫蛍光法は、一般に発色法または蛍光法により、その場で細胞抗原をプローブし可視化するために抗体を使用する。組織試料は、従来の方法論により固定(すなわち、保存)することができる(例えば、“Manual of Histological Staining Method of the Armed Forces Institute of Pathology”第3版(1960)Lee G.Luna,HT(ASCP)Editor,The Blakston Division McGraw-Hill Book Company,New York;The Armed Forces Institute of Pathology Advanced Laboratory Methods in Histology and Pathology(1994)Ulreka V.Mikel,Editor,Armed Forces Institute of Pathology,American Registry of Pathology,Washington,D.C.を参照のこと)。一般に、試料はまず固定され、次いで一連のアルコールで脱水され、パラフィンまたは他の切片用媒体で浸潤・包埋され、組織試料が切片化される。代替的に、組織を切片化し、得られた切片を固定してもよい。免疫組織化学に使用される一次抗体および/または二次抗体は通常、放射性同位元素、コロイド金粒子、蛍光標識、発色標識、酵素基質標識などの検出可能な部分で標識される。
【0165】
IV.医薬組成物、医薬品および投与経路
本明細書に記載の方法は、1種以上の腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤、またはそれらの薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物、および少なくとも1種の薬学的に許容される担体を含む医薬組成物または医薬品を使用する。
【0166】
腸管バリア機能増強剤は、被験者の組織または体液中のCML、CML前駆体、CML代謝産物、またはCML類似体の濃度を低下させるために使用され得る。典型的な腸管バリア機能増強剤としては、例えば、腸アルカリホスファターゼ(IAP)(典型的なCAS番号 9001-78-9(仔牛))、ポリフェノール(例えば、エラグ酸(EA)(典型的なCAS番号 476-66-4)またはリポテイコ酸)、メトホルミン(典型的なCAS番号 657-24-9)、ウロリチンA(典型的なCAS番号 1143-70-0)、酪酸(典型的なCAS番号 156-54-7)、グルタミン(典型的なCAS番号 56-85-9)、オベチコール酸(OCA)(典型的なCAS番号 459789-99-2)、ジベルチン、またはクルクミン(典型的なCAS番号 458-37-7)、またはそれらの誘導体を含む。
【0167】
腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤は、被験者内のCML、CML前駆体、CML代謝産物、またはCML類似体の濃度を低下させるために使用され得る。腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための典型的な薬剤としては、例えば、IAP、EA、バイオティクス、プロバイオティクス(例えば、Biohm Health社のBiohm Probiotic BoostおよびBiohm Colon Cleanse)、プレバイオティクスおよびポストバイオティクスが挙げられる。典型的なプロバイオティクスには、ラクトバチルス属(例えば、ラクトバチルス アシドフィルスまたはラクトバチルス ラムノサス)、ビフィドバクテリウム属(例えば、ビフィドバクテリウム ブレーべ)、サッカロミケス属(例えば、サッカロミケス セレビシエ)およびストレプトコッカス属(例えば、ストレプトコッカス サーモフィルス)に属する細菌が含まれる。プレバイオティクスは、健康上の利益をもたらす特定の有益な細菌種の増殖を促進し、典型的なプレバイオティクスとしては、リポテイコ酸およびポリフェノールが挙げられる。ポストバイオティクスは、例えば、代謝産物、発酵産物、ミネラル(例えば、亜鉛およびセレン)、微量元素、微量栄養素、細胞表面タンパク質、およびマイクロバイオームによってそのライフサイクル間に生成される有機酸である。
【0168】
本明細書に記載される方法にしたがって、記載される腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤、またはそれらの塩、溶媒和物、もしくはプロドラッグは、選択される投与経路に応じて、種々の形態で被験者に投与されてもよい。したがって、本明細書に記載の組成物は、例えば、経口投与、非経口投与、およびそれに応じて製剤化された医薬組成物による投与のために製剤化されてもよい。非経口投与には、静脈内投与、腹腔内投与、皮下投与、筋肉内投与、経皮投与、鼻腔内投与、肺内投与、髄腔内投与、脳室内投与、胸膜内投与、直腸内投与、および局所投与が含まれる。
【0169】
特定の実施形態によれば、本発明の実施に有用な薬学的に許容される組成物の担体は、経口投与または静脈内投与のために製剤化される。
【0170】
本明細書に記載の化合物を含有する医薬組成物は、一般に公知の方法、例えば、従来の混合、溶解、造粒、賦形、乳化、カプセル化、封入、または凍結乾燥工程によって製造されてもよい。医薬組成物は、薬学的に使用され得る製剤への化合物の加工を容易にする賦形剤および/または補助剤を含む1つ以上の薬学的に許容される担体を用いて、従来の方法で製剤化されてもよい。適切な製剤は、選択された投与経路に依存することが理解される。
【0171】
経口組成物は一般に、不活性希釈剤または食用薬学的に許容される担体を含む。これらは、ゼラチンカプセルに封入され得るか、または錠剤に圧縮され得る。経口治療投与の目的のために、本明細書に記載の化合物は、賦形剤と組み込んで、錠剤、トローチ、またはカプセルの形態で使用することができる。経口組成物はまた、洗口剤として使用するために流体担体を用いて調製することもでき、この場合、流体担体中の化合物は経口的に適用され、そして振り混ぜられ、去痰されるか、または嚥下される。薬学的に適合性のある結合剤、および/またはアジュバント物質を組成物の一部として含めることができる。錠剤、丸薬、カプセル剤、トローチ剤などは、以下の成分、活性成分(例えば、腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤)のうちのいずれかを含むことができる。;微結晶セルロース、トラガントガムまたはゼラチンなどの結合剤;デンプンまたは乳糖などの賦形剤、アルギン酸、プリモジェルまたはトウモロコシデンプンなどの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウムのような滑沢剤;コロイド状二酸化ケイ素のような滑沢剤;スクロースまたはサッカリンのような甘味剤;またはペパーミント、サリチル酸メチル、オレンジ香料のような香味剤。
【0172】
注射用に適した医薬組成物には、滅菌水溶液(水溶性の場合)または分散液、および滅菌注射用溶液または分散液を即座に調製するための滅菌粉末が含まれる。静脈内投与の場合、非限定的に適切な担体としては、生理的食塩水、静菌水、またはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)が挙げられる。いずれの場合も、組成物は無菌でなければならず、容易に注射できる程度に流動性がなければならない。組成物は、製造および保存の条件下で安定でなければならず、細菌や真菌などの微生物の汚染作用に対して保護されなければならない。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液状ポリエチレングリコールなど)、およびそれらの適当な混合物を含む溶媒または分散媒体とすることができる。適切な流動性は、例えば、レシチンのようなコーティングの使用、分散液の場合の必要な粒子径の維持および界面活性剤の使用によって維持され得る。微生物の作用の防止は、種々の抗菌剤および抗真菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなどによって達成され得る。多くの場合、等張剤、例えば糖類、マンニトールやソルビトールなどの多価アルコール、塩化ナトリウムなどを組成物内に含めることが好ましい。注射用組成物の吸収の延長は、組成物中に吸収を遅延させる薬剤、例えばモノステアリン酸アルミニウムやゼラチンを含有させることによってもたらすことができる。
【0173】
無菌注射液は、必要に応じて上記に列挙した成分の1つまたは組み合わせとともに、適切な溶媒中に必要量の活性成分を取り込み、次いで濾過滅菌することにより調製され得る。一般的に、分散液は、基本的な分散媒と上記に列挙した成分の中から必要な他の成分を含む無菌ビヒクルに活性成分を組み込むことによって調製される。無菌注射液を調製するための無菌粉末の場合、調製方法は真空乾燥と凍結乾燥であり、あらかじめ無菌ろ過した溶液から活性成分と任意の追加所望成分の粉末を得る。
【0174】
吸入による投与の場合、腸管バリア機能増強剤は、適切な推進剤、例えば二酸化炭素のような気体、またはネブライザーを含む、加圧容器またはディスペンサーからエアロゾルスプレーの形態で送達される。
【0175】
全身投与は、経粘膜または経皮によることもできる。経粘膜または経皮投与の場合、浸透させるバリアに適切な浸透剤が製剤中で使用される。このような浸透剤は、一般的に当該技術分野で知られており、例えば、経粘膜投与のためには、洗浄剤、および胆汁酸塩が挙げられる。経粘膜投与は、鼻腔スプレーまたは坐薬の使用により達成され得る。経皮投与の場合、活性腸管バリア機能増強剤は、当技術分野で一般的に知られているように、軟膏、軟膏、ゲル、またはクリームに製剤化される。
【0176】
活性腸管バリア機能増強剤は、インプラントやマイクロカプセル化送達系を含む放出制御製剤など、体内からの急速な排泄から腸管バリア機能増強剤を保護する薬学的に許容される担体とともに調製され得る。生分解性で生体適合性のあるポリマーとしては、エチレン酢酸ビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、ポリ乳酸などが使用され得る。このような製剤の調製方法は、当業者には明らかであろう。これらの材料は、Alza CorporationおよびNova Pharmaceuticals,Inc.から商業的に入手することもできる。リポソーム懸濁液(ウイルス抗原に対するモノクローナル抗体で感染細胞を標的としたリポソームを含む)も、薬学的に許容される担体として使用できる。これらは、当業者に公知の方法、例えば、米国特許第4,522,811号明細書に記載されている方法にしたがって調製することができる。
【0177】
経口または非経口組成物を投与単位形態で製剤化することは、投与の容易性および投与量の均一性から有利である。本明細書で使用される投与単位形態とは、治療される被験者に対する単位投与量として適した物理的に離散した単位を指し;各単位が、必要な医薬担体と関連して所望の治療効果をもたらすように計算された所定量の活性腸管バリア機能増強剤を含む。投与単位形態の仕様は、活性腸管バリア機能増強剤の固有の特性および達成されるべき特定の治療効果によって決定され、それに直接依存する。
【0178】
治療的適用において、本開示にしたがって使用される医薬組成物の投与量は、選択される投与量に影響を及ぼす他の要因の中でも、薬剤、年齢、体重、およびレシピエント被験者の臨床状態、および治療を実施する臨床医または開業医の経験および判断によって変化する。一般的に、用量は、本明細書に開示される疾患または障害の症状を遅らせ、好ましくは退行させ、そして好ましくは疾患または障害の完全な退行を引き起こすのに十分であるべきである。医薬品の有効量は、臨床医または他の適格な観察者によって指摘されるような客観的に特定可能な改善をもたらすものである。
【0179】
医薬組成物は、投与のための説明書とともに、容器、パック、またはディスペンサーに含まれ得ることを理解されたい。
【0180】
V.腸管バリア機能増強剤のスクリーニング方法
また、本明細書には、被験者の組織または体液試料中のCML、CML前駆体、CML代謝産物、またはCML類似体の蓄積率を低下させるための候補薬剤のスクリーニング方法であって、以下を含む:哺乳動物において第一の時点で得られた生体試料中のCML、CML前駆体、CML代謝産物、またはCML類似体の第一のレベルを決定すること;被験者に薬剤を投与すること;および哺乳動物において第二の時点で得られた生体試料中のCML、CML前駆体、またはCML代謝産物の第二のレベルを決定すること;ここで、第一のレベルと比較して第二のレベルの減少をもたらす薬剤が、被験者の組織におけるCML、CML前駆体、CML代謝産物、またはCML類似体の蓄積率を減少させるための候補薬剤として特定される。
【0181】
また、本明細書には、被験者におけるミクログリアの酸化ストレスまたは代謝ストレスの発現率を低下させるための候補薬剤のスクリーニング方法であって、以下を含む:第一の時点で哺乳動物において得られた生体試料中のCML、CML前駆体、CML代謝産物、またはCML類似体の第一のレベルを決定すること;被験者に薬剤を投与すること;および第二の時点で哺乳動物において得られた生体試料中のCML、CML類似体、CML前駆体、またはCML代謝産物の第二のレベルを決定すること;ここで、第一のレベルと比較して第二のレベルの減少をもたらす薬剤が、被験者のミクログリアにおける酸化ストレスまたは代謝ストレスの発現率を減少させるための候補薬剤として特定される。
【0182】
また、本明細書には、被験者におけるミクログリアのミトコンドリア機能不全の発症率を低下させるための候補薬剤のスクリーニング方法であって、以下を含む:第一の時点で哺乳動物において得られた生体試料中のCML、CML前駆体、CML代謝産物、またはCML類似体の第一のレベルを決定すること;被験者に薬剤を投与すること;および第二の時点で哺乳動物において得られた生体試料中のCML、CML前駆体、CML代謝産物、またはCML類似体の第二のレベルを決定すること;ここで、第一のレベルと比較して第二のレベルの減少をもたらす薬剤が、被験者におけるミクログリアのミトコンドリア機能不全の発症率を減少させるための候補薬剤として特定される。
【0183】
また、本明細書には、被験体におけるミクログリア機能不全の発症率を低下させるための候補薬剤のスクリーニング方法であって、以下を含む:第一の時点で哺乳動物において得られた生体試料中のCML、CML前駆体、CML代謝産物、またはCML類似体の第一のレベルを決定すること;被験者に薬剤を投与すること;および第二の時点で哺乳動物において得られた生体試料中のCML、CML前駆体、CML代謝産物、またはCML類似体の第二のレベルを決定すること;ここで、第一のレベルと比較して第二のレベルの減少をもたらす薬剤が、被験体におけるミクログリア機能不全の発症率を減少させるための候補薬剤として特定される。
【0184】
また、本明細書には、被験者におけるミクログリアの1つ以上の機能を増加させるための候補薬剤のスクリーニング方法であって、以下を含む:哺乳動物において第一の時点で得られた生体試料中のCML、CML前駆体、CML代謝産物、またはCML類似体の第一のレベルを決定すること;被験者に薬剤を投与すること;および哺乳動物において第二の時点で得られた生体試料中のCML、CML前駆体、CML代謝産物、またはCML類似体の第二のレベルを決定すること;ここで、第一のレベルと比較して第二のレベルの減少をもたらす薬剤が、被験者においてミクログリアの1つ以上の機能を増加させるための候補薬剤として特定される。
【0185】
また、本明細書には、被験者における認知障害の発症率または悪化率を低下させるための候補薬剤のスクリーニング方法であって、以下を含む:哺乳動物において第一の時点で得られた生体試料中のCML、CML前駆体、CML代謝産物、またはCML類似体の第一のレベルを決定すること;被験者に薬剤を投与すること;および哺乳動物において第二の時点で得られた生体試料中のCML、CML前駆体、CML代謝産物、CML類似体の第二のレベルを決定すること;ここで、第一のレベルと比較して第二のレベルの減少をもたらす薬剤が、被験者における認知障害の発症率または悪化率を減少させるための候補薬剤として特定される。
【0186】
特定の実施形態では、生体試料中のCML、CML前駆体、CML代謝産物、またはCML類似体の量が測定される。このような薬剤の量を測定するための方法は、セクションIIIにおいて上述されており、例えば、クロマトグラフィー(例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC))、質量分析法、液体クロマトグラフィー質量分析法(LC-MS)、核磁気共鳴分光法、または免疫測定法が挙げられる。
【0187】
これらのスクリーニング方法の特定の実施形態において、本方法は、候補薬剤を動物モデルで試験することをさらに含む。
【0188】
実施例
以下に、本発明を実施するための具体的な実施形態の例である。実施例は、例示のみを目的として提供されるものであり、本発明の範囲を何ら限定することを意図するものではない。
【0189】
実施例1.腸内細菌叢は、N6-カルボキシメチルリジン(CML)を介してミクログリアにおける加齢関連酸化ストレスおよびミトコンドリア損傷を駆動する
本実施例では、若齢成体マウスおよび加齢マウスにおいて、腸内細菌叢と脳を連絡するメッセンジャーとしてCMLが発見されたことを記載する。
【0190】
無菌および特定の病原体を含まない条件下で飼育された若齢成体マウスおよび加齢マウスのミクログリアトランスクリプトームを比較したところ、ミクログリア遺伝子発現の加齢に伴う変化に細菌叢が影響していることが判明した。腸内細菌叢の欠如は、加齢マウスの脳のミクログリアにおける酸化ストレスを減少させ、ミトコンドリア機能障害を改善した。血清と脳組織の偏りのないメタボローム解析により、加齢脳のミクログリアにおけるN6-カルボキシメチルリジン(CML)の蓄積が明らかになった。CMLは活性酸素種のバーストを媒介し、ミクログリアのミトコンドリア活性とATPレベルを阻害した。ヒトの血清と脳におけるCMLレベルの加齢依存的上昇が検証され、加齢マウスの細菌叢依存的な腸管透過性の上昇がCMLレベルの上昇を媒介することが判明した。これらの結果は、腸内細菌叢が加齢脳のミクログリアのホメオスタシスにどのような影響を及ぼすかを示すとともに、代謝産物レベルでの分子表現型解析により、主要な先進糖化最終産物(AGE)であるCMLが、加齢に関連したミクログリア機能不全を引き起こす重要な化合物であることが特定された。
【0191】
方法
ヒト組織
ドイツのフライブルク大学病院神経病理学研究所で、43人(1~88歳の女性20人、男性23人;8側頭葉、25前頭葉)の健康な脳のホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)大脳皮質組織を、十分な訓練を受けた神経病理学者により検査した(対照組織またはBraakステージIおよびII)。
【0192】
マウス
特定病原体フリー(SPF)および無菌(GF)飼育のC57BL/6マウスを、6~10週齢(若齢成体)および96~104週齢(加齢)で分析した。非標的メタボローム解析における加齢群のマウスは17~18ヶ月齢であった。非標的メタボロミクスおよび細菌叢プロファイリングでは雄マウスのみを用いた以外は、すべての群に雌雄のマウスを含めた。マウスは12時間明期/12時間暗期サイクル、温度18~23℃、湿度40~60%の条件下で飼育され、餌と水は自由摂取とした。ケージの影響を避けるため、1実験群につき少なくとも3つの異なるケージのマウスを分析した。治療には、若齢成体マウス(8週齢)にCML(0.735mg/kg;Iris Biotech)、トリメチルアミンN-オキシド(TMAO)(3.95mg/kg;Sigma-Aldrich)、酢酸ナトリウム(59mg/kg;Sigma-Aldrich)、プロピオン酸ナトリウム(4.61mg/kg;Sigma-Aldrich)を14日間、毎日腹腔内または経口投与した。加齢動物におけるCMLの調節のために、18ヶ月齢のSPF飼育C57BL/6マウスに、ビヒクル(20%ヒドロキシプロピル-p-シクロデキストリン in 1xリン酸緩衝生理食塩水(PBS))、10mg/kgエラグ酸(EA)、または3,000U/kg腸アルカリホスファターゼ(IAP)を10週間にわたり3日ごとに経口投与した。in vivoでの腸管透過性を評価するため、トレーサーとしてフルオレセインイソチオシアネート(FITC)標識デキストラン(4kDa;Sigma-Aldrich)を用いた。簡単に説明すると、マウスは80mg/ml FITC-デキストラン200plを経口投与する4時間前に餌を奪われ、4時間後に餌も水も奪われた。血液は4時間後に後眼窩で採血し、励起波長493nm、発光波長518nmの蛍光プレートで蛍光強度を測定した。CMLに対するin vivo腸管透過性を評価するため、マウスを200plのCML(0.36mM)で処置した。処置直前と処置後4時間に後眼窩で採血を行った。循環系に移行したCMLは液体クロマトグラフィー質量分析計(LC-MS)で測定した。すべての動物実験は、ドイツの地方行政当局(Regierungsprasidium Freiburg)の承認を得ており、それぞれの国、連邦、および施設の規則ならびに欧州実験動物科学連盟のガイドラインにしたがって実施された。
【0193】
マウス組織試料の調製
マウスを、ケタミン(100mg/kg体重)およびキシラジン(10mg/kg体重)で致死的に麻酔し、次に左心室から1xPBSで灌流した。組織検査のため、脳は4%パラホルムアルデヒド(PFA)中で一晩保存した。フローサイトメトリーおよび磁気活性化細胞選別(MACS)ビーズ細胞選別のために、脳を解剖し、均質化し、70pmのメッシュで濾過した。遠心分離(220g、5分間、4℃)後、ペレットを37%パーコールに懸濁し、その後30分間、800g、4℃で遠心分離した。上層からミエリンを除去し、細胞ペレットを1xPBSで1回洗浄した後、抗体染色を行った。
【0194】
免疫組織化学
脳を4%PFAで一晩固定し、パラフィンに包埋した。ミクログリア細胞密度を評価するために、3μm厚の傍矢状切片を抗Iba-1抗体(1:500希釈、カタログ番号019-19741;WAKO)で染色した。免疫組織化学(IHC)については、エピトープをpH6で熱による抗原回収によりアンマスクした。一次抗体を一晩(4℃)インキュベートした後、ビオチン標識ヤギ抗ウサギ二次抗体(1:1,000希釈;SouthernBiotech)と室温で45分間インキュベートした。その後、ストレプトアビジン-ホースラディッシュペルオキシダーゼ(SouthernBiotech)が、室温で45分間に加えられた。3,3‘-ジアモンベンジジン褐色発色剤(Dako)を用いて抗体のシグナルを分解した。核はヘマトキシリンで対比染色した。画像はBZ-9000 Biorevo顕微鏡(Keyence)で取得し、ImageJ v.1.53f(National Institutes of Health)ソフトウェアで解析した。
【0195】
免疫蛍光
脳を4%PFAで固定し、30%スクロースで脱水し、ティシュ―・テック OCTコンパウンド(Sakura Finetek)に包埋した。クライオスタット(SM2000R; Leica Biosystems)を用いて14μm厚の凍結切片を得た。マウスとヒトの脳のFFPE組織をミクロトームで切開し、5pmの切片を得た。切片は、5%ウシ血清アルブミン(BSA)を含むPBSでブロックし、0.5% Triton X-100ブロッキング溶液で透過処理した。以下の一次抗体を4℃で一晩インキュベートした:ウサギ抗Iba-1(1:500希釈;WAKO);モルモット抗Iba-1(1:1,000希釈;Synaptic Systems);抗iNOS(1:500希釈;Thermo Fisher Scientific)または抗CML(1:500;Abcam)。二次抗体(Alexa Fluor 488、568、647標識、1:500希釈)を室温で2時間インキュベートした。ミクログリアの三次元(3D)再構築のために、脳組織からのフリーフローティング30pm凍結切片を抗Iba-1(1:500希釈)で、4℃で48時間標識し、続いてAlexa Fluor 647標識二次抗体を1:500希釈で、4℃で一晩インキュベートした。加齢マウスおよびヒトの組織における自家蛍光を除去するため、スライドをTrueBlack Lipofuscin Autofluorescence Quencherで処理した。核を4‘,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)で対比染色した。カバースリップはProLong Diamond Antifade Mountant(Thermo Fisher Scientific)を用いてマウントした。画像は、20x/0.75開口数(NA)対物レンズを用いたBZ-9000 Biorevo顕微鏡、Olympus Fluoview 1000共焦点レーザー顕微鏡、または20x/0.75 NA対物レンズ(HC PL APO 20x/0.75 NA IMM CORR CS2)を用いたTCS SP8 X(Leica Microsystems)を用いて取得した。ミクログリアの3D再構成には、Imaris v.8.02(Bitplane)を用い、マウス1匹につき少なくとも5個の細胞を用いて画像を解析した。その他の画像はすべて、Photoshop CC 2015(Adobe)またはImageJ v.1.53f(National Institutes of Health)を用いて処理・解析した。
【0196】
電子顕微鏡検査
大脳皮質から採取した脳標本を、まず3%グルタルアルデヒドで4℃、一晩固定し、ソレンセン緩衝液で洗浄した後、1%四酸化オスミウムに移し、室温で2時間処理した。次に、試料を、エタノール(30-100%)、100%プロピレンオキシド、樹脂/プロピレンオキシド(1:2(v/v))、樹脂/プロピレンオキシド(2:1(v/v))の順で段階的に脱水した。試料は75℃で24時間重合して樹脂に包埋した。その後、700nmの半切片を切り出し、2%トルイジンブルーで染色して関心領域を定め、酢酸ウラニルとクエン酸鉛(Leica Reichert Ultrastainer)で切片を造影した後、ウルトラミクロトーム(Leica Reichert Ultracut S)を用いて70nmの超薄切片をさらに作製した。ミクログリアのミトコンドリア表現型を評価するために、CM100電子顕微鏡(Philips)を用いて、7,900倍または46,000倍の画像を取得した。iTEMソフトウェア2012(Olympus)を用いて、マウス1匹あたり30~35細胞の画像を処理・解析した。
【0197】
骨髄由来マクロファージ細胞培養
細胞は37℃、5%CO2、加湿インキュベーターで培養した。マウスBMDMは、脛骨および大腿骨骨髄吸引液から分化させた。組換えマウスマクロファージコロニー刺激因子(Immunotools)を20ng/mlで使用した。分化7日後、BMDMを24ウェルプレートに3連で1ウェルあたり5×105個播種した。培地は実験の6時間前に無血清培地に切り替えた。細胞は、濃度の上がるCML(未処理、0.1pM、1pM、10pM、100pM、1mM)と48時間インキュベートした後、測定用に回収した。
【0198】
フローサイトメトリー
RT-qPCRおよびRNAシークエンシング(RNA-seq)のための細胞選別は、MoFlo Astrios(Beckman Coulter;
図7a)を用いて行った。表面染色の前に、Fixable Viability Dye eFluor 780(1:1,000希釈;Thermo Fisher Scientific)を用いて死細胞を排除し、続いてFcレセプターブロッキング抗体CD16/CD32(1:200希釈、クローン2.4G2;BD Bioscience)とインキュベートした。表面染色には以下の抗体を用いた:抗CD45(1:200希釈、クローン30-F11;Thermo Fisher Scientific);抗CD11b(1:200希釈、クローンM1/70;Thermo Fisher Scientific)。以下の系統抗体を用いた(すべて1:300希釈):抗CD3(クローン17A2;BioLegend);抗CD19(クローン6D5;BioLegend);抗CD45R(クローンRA3-6B2;BD Biosciences);Ly6C(クローンAL-21;BD Biosciences);Ly6G(クローン1A8;BD Biosciences)。ミクログリア細胞の反応性酸化種(ROS)を評価するために、CellROX DeepRed試薬(5pM;Thermo Fisher Scientific)を用いた。ミトコンドリア活性の評価には、テトラメチルローダミンメチルエステル過塩素酸塩、メチルエステル,過塩素酸塩(50nM;Thermo Fisher Scientific)とMitoTracker Green FM(20nM;Thermo Fisher Scientific)を用いた。死細胞は、FACSCanto II(BD Biosciences)を用いたフローサイトメトリー解析の前に、DAPIで短時間インキュベートすることにより除外した。データはFACSDiva v.6 software(Becton Dickinson)で取得した。取得後の解析はFlowJo v.10(FlowJo LLC)を用いて行った。
【0199】
細胞内ATP測定
蛍光活性化細胞選別(FACS)の細胞内ストレスを回避するために、磁気活性化細胞選別(MACS)分離システム(Miltenyi Biotec;
図7b)を用いてミクログリア細胞を分離した。この細胞懸濁液を、Fcレセプターブロッキング抗体CD16/CD32(クローン2.4G2;BD Biosciences)およびビオチン化抗CD11b抗体(クローンM1/70;Thermo Fisher Scientific)とインキュベートした。その後、抗ビオチンマイクロビーズ(Miltenyi Biotec)を細胞懸濁液に添加し、製造者の指示にしたがってポジティブセレクションを行った。各試料から、1ウェルあたり10,000個の細胞を96ウェルプレートに3連でプレーティングした。細胞内ATPは、CellTiter-Gloアッセイ(Promega Corporation)を用い、製造者の指示にしたがって測定した。
【0200】
RNA-Seq
FACS選別したCD11b陽性CD45intLin陰性ミクログリア(試料あたり10,000細胞)から、Arcturus PicoPure RNA Isolation Kit(Thermo Fisher Scientific)を用いて、製造者のプロトコルにしたがって全RNAを抽出した。SMARTer v4 Ultra Low Input RNA Kit for Sequencing(Clontech)を用いて一本鎖の相補的DNAを作成した。二本鎖cDNAは長距離PCR(11サイクル)で増幅し、磁気ビーズクリーンアップで精製した。ライブラリー調製は、Illumina Nextera XT試料調製ガイド(Illumina)の記載にしたがって行った。シーケンスランは、HiSeq 1000システムユーザーガイドにしたがい、インデックス付き50サイクルシングルリードプロトコルとTruSeq SBS v3 Reagentsを用いてHiSeq 1000装置(イルミナ)で行った。BCLファイルはCASAVA1.8.2ソフトウェアでFASTQファイルに変換した。ライブラリー調製とRNA-seqは、ドイツ、レーゲンスブルク大学のGenomics Core Facility‘Center of Excellence for Fluorescent Bioanalytics’で実施した。
【0201】
FASTQファイルに保存されたシーケンシングリードの品質をFastQC v.0.67で評価し、Trim Galore! v.0.4.3でトリミングした。STAR aligner v.2.5.2を用いて、RefGeneアノテーションを行い、リードをマウスゲノムmm10(University of California Santa Cruz)上にマッピングした。FeatureCount v.1.5.3を用いてBAMファイルから各遺伝子にマップされたリード数(カウント数)を抽出した。FASTQファイルから遺伝子カウントを抽出するプロセスは、Galaxyプラットフォーム上で実行した(非特許文献18)。マッピング率が低い(75%未満)3試料を除去した。
【0202】
差分発現解析はDESeq2 v.1.32.0を用いて行った。DESeq2によって生成された正規化カウントを、アーティファクトまたは他の細胞型による汚染について評価した。使用した遺伝子のリストは、単一細胞RNA-seqデータ(非特許文献19)に基づいている。R v.4.1.0を使用して、Ward error sum of squares階層的クラスタリング法とPCAを実行した。DESeq2モデルを用いて、調整P<0.05(Wald検定)および絶対変化量>1.5の差次的発現遺伝子(DEG)を特定した。ヒートマップは、Rパッケージpheatmap v.1.0.8を用いて、DEGのスケール(zスコア)正規化リードカウントから、行の階層的クラスタリング(完全法)を用いて計算した。正規化された発現データに対して、RパッケージWGCNA v.1.69を用いてWGCNAを行った。計算効率のため、分散の50%以上を説明する遺伝子のみを残すように遺伝子をフィルターした(10,848遺伝子を残し、7,265遺伝子を削除)。モジュール-形質相関分析は、WGCNAパッケージを使用して、各変数のペア間のPeason相関と相関のスチューデント漸近P値を計算することにより、モジュール固有遺伝子(ME)と異なる形質(細菌叢と年齢の組み合わせ)の間で行われた。マウスのゲノムワイドアノテーション(org.Mm.eg.db v.3.13.0)とWallenius近似を用いて、goseq v.1.44.0を用いて異なるME中の遺伝子のジーンオントロジー(GO)濃縮解析を行った。
【0203】
0.05誤発見率(FDR)カットオフを用いて、過剰濃縮GOカテゴリーを抽出した。ROS関連遺伝子のリストは、GO:0000302、GO:2000377、酸化ストレス(WikiPathways)から抽出した。
【0204】
RT-qPCR
Hifla遺伝子発現は、TaqManアッセイ(Mm00468869_m1)を用いて測定した。データは、ホメオスタシスにおける若齢成人SPF雄群のミクログリアから得られた値に対して正規化し、相対的遺伝子発現レベルを△△CT法により決定した。CT値が35サイクル以下の場合、遺伝子発現は検出されないとした。
【0205】
マイクロバイオームプロファイリング
全DNAを、変更された製造者の説明書にしたがいQIAamp DNA stool kit(QIAGEN)を用いて糞便試料から単離した(非特許文献20)。簡単に述べると、100-200mgを500plのASLバッファー中で、TissueLyserを用いたビーズビーティングステップにより30Hzで3分間ホモジナイズし、続いて95℃で2回の追加溶解ステップを行った。その後、試料を200plのグラム陽性菌用溶解バッファー(20mg/ml リゾチーム、20mM Tris-HCl、pH8.0、2mM EDTA、1.2% Triton;Sigma-Aldrich)でインキュベートした。DNAを精製し、26pMの濃度でプールし、プールしたライブラリーを、製造者の説明書にしたがって、IonTorrent PGMシステムで16S rRNA遺伝子のV5/V6領域の塩基配列を決定した(Thermo Fisher Scientific)。
【0206】
試料あたり平均38,209の高品質リードをマイクロバイオームプロファイリングに使用した。リードは、類似度97%の操作的分類単位(OTU)にクラスタリングされた。データは、QIIME v.1.9.1パイプラインを使用して、低品質(塩基コール精度;q<25)試料をフィルタリングした後、さらに解析した;4,500リードを超える試料は、さらなる解析のために保持した(非特許文献21)。OTUは、97%の配列同一性閾値でUCLUSTを使用して選択し、その後SILVAデータベースリリース119を使用して分類法を割り当てた。αおよびβ多様性はR v.3.4のphyloseqパイプラインを用いて計算した。ノンパラメトリックマン・ホイットニーのU検定を用いて試料間のα多様性を比較し、vegan Rパッケージv2.5-7のAdonisを用いてphyloseqによるβ多様性の群の影響を評価した(非特許文献22、非特許文献23)。被検群間の門レベルおよび属レベルの分類学的差異は、「線形モデルによる多変量解析」Rパッケージv0.0.4を用いて特定した。プロットはphyloseqオブジェクトを用いてggplot2 v.3.3.5で作成した。少なくとも30%の試料に存在する分類群と、総カウント数の0.0001%以上を含むOTUのみを考慮した。A P<0.05およびq<0.05のFDR(Benjamini-Hochberg補正)が有意性のカットオフ値として用いられた。
【0207】
ノンターゲットメタボロミクス
若齢成体マウス群および加齢マウス群の血清および脳の生データを採掘した。ノンターゲットMS解析は、Metabolonで行われた(非特許文献24)。ピークは曲線下面積を用いて定量した。各試料の各代謝産物の生の面積カウントは、装置の日間チューニングの違いによるばらつきを補正するために、各実行日の中央値で正規化し、各実行の中央値を1.0に設定した。これにより、試料間のばらつきは保持されたが、生のピーク面積が大きく異なる代謝産物を同様のグラフスケールで比較することができた。欠損値は、正規化後に観測された最小値でインプットされた。
【0208】
LC-MSによるターゲットメタボロミクス
試料は、事前冷却した(-80°C)抽出溶液(80:20 メタノール LC-MS グレード:Milli-Q H2O)で抽出した。LC-MSによる標的代謝産物の定量は、多重反応モニタリング(MRM)モードで動作するAgilent 6495 QQQ-MSと連動したAgilent 1290 Infinity II UHPLC システムを使用して実施した。MRM設定は、純粋な標準物質を使用して、すべての化合物に対して個別に最適化した。LC分離は、Phenomenex Luna プロピルアミンカラム(50x2mm、3-pm パーティクル)を用いて、100%バッファー B (90% アセトニトリル中 5mM 炭酸アンモニウム)から90%バッファー A (水中 10mM NH4)の溶媒グラジエントで行った。流速は1,000から750pl/minであった。オートサンプラーの温度は5度、注入量は2plであった。ピーク面積は各代謝産物の標準物質に基づいて特定し、MassHunter v.B.08.02(Agilent)を使用して算出した。SCFAについては、マウス血清中の酢酸塩(C2、59.04g/mol)、プロピオン酸塩(C3、73.07g/mol)、酪酸(およびイソ酪酸、C4、87)、吉草酸(およびイソ吉草酸、101)を定量した。代謝産物を抽出するため、各試料10plを4本のチューブに加え、90plのアセトニトリルを加え、標準物質を連続希釈(4段階)した。C2(mg/ml)(L1:0;L2:0.002;L3:0.004;L4:0.006)、C3(mg/ml)(L1:0;L2:0.0002;L3:0.0004;L4:0.0006)、C4(mg/ml)(L1:0;L2:0.0005;L3:0.001;L4:0.0015)、C5(%)(L1:0;L2:0.0002;L3:0.0004;L4:0.0006)、C4(mg/ml)(L1:0;L2:0.000025%;L3:0.00005%;L4:0.000075%)であった。試料を20,000g、10分間、4℃で遠心分離し、上清50plを新しいチューブに移した。高性能LC-四重極飛行時間分析法では、各試料2plを注入した。酪酸とイソ酪酸のピーク、および吉草酸とイソ吉草酸のピークは頑健に区別できなかった;そのため、各組の濃度値は両方の部位に対応する。各試料は2回分析し、平均値を回帰直線の作成に使用した。;濃度は標準添加法(非特許文献25)で計算した。
【0209】
ヒトのメタボロミクスデータ
TwinsUK成人双生児登録には、主に女性で、英国の一般集団と同様の疾患や生活習慣を持つ約14,000人が登録されている。St.Thomas‘Hospital Research Ethics Committeeはこの研究を承認し、すべての双子はインフォームド・コンセントを文書で得た。CMLとTMAOについては、加齢コホートを含む血液メタボローム研究からデータを抽出し、Metabolonプラットフォームで実行した。簡単に説明すると、代謝産物比率は、アンターゲット超高性能LC-MS/MSプラットフォームを使用して、Metabolonによって血液試料から測定された。代謝産物は実行日の中央値でスケーリングされ、対数変換された。
【0210】
統計
試料サイズを事前に決定するための統計的手法は用いなかった。データの分布は正規分布と仮定した。該当する場合、動物は無作為に異なる実験群に割り付けられた。実験者は群の割り当てに関して盲検であった。RNA-seq、ノンターゲットメタボロミクス、微生物プロファイリング以外の統計解析は、Prism 9.0(GraphPad Software)を用いて行った。
【0211】
研究結果
腸内細菌叢が加齢におけるミクログリアのトランスクリプトームプロファイルを変化させる
大脳皮質では、加齢に伴ってミクログリア細胞密度が高くなることが以前に報告されている。
【0212】
若齢成体マウスと加齢マウスとの間で、特異的細菌非存在(SPF)動物および細菌非存在(GF)動物の大脳皮質におけるミクログリア細胞密度の増加が確認されたが(参照、
図6a―6b)、加齢SPFマウスとGFマウスとの間に差は認められなかった(参照、
図6a―6b)。SPFマウスおよびGFマウスのミクログリアにおける潜在的な形態学的変化を決定するために、定量的形態学的再構成を行った。SPFマウスのミクログリアは、細胞体積の増加とともに、総分岐面積、総分岐長および分岐点数の減少を示した(
図6c-6g参照)。細胞体の球形度は群間で変化しなかった(
図6h参照)。これらのデータは、SPFマウスでは年齢がミクログリアの形態に影響を及ぼしたが、GFマウスではミクログリアは変化せず、高ram化したことを示している。
【0213】
加齢脳におけるミクログリア生理の細菌叢依存性変化をさらに評価するために、GFまたはSPF条件下で飼育された、若齢成体(6~10週齢)および加齢(96~104週齢)雌雄マウスの全脳からFACS精製ミクログリア(参照、
図7aおよび
図8a)に対してRNA-seqを行った(参照、
図1bおよび
図8b)。PCAにより、GFマウスとSPFマウスの両年齢群におけるミクログリアの遺伝子発現プロファイルが明らかになった(
図1c参照)。GFマウスとSPFマウスから単離されたミクログリア間のトランスクリプトームの違いは、年齢が高いほど顕著であった(
図1d参照)。SPFマウスのミクログリアと比較すると、GFマウスのミクログリアでは、細胞骨格(例えば、Sdc3、Sult1a1、Tuba4a)や免疫機能(例えば、Ctse、Ero1lb、Htra3、Kcnma1、Notch4、Nr1d2、Rab4a、Wdfy1)に関連する遺伝子を含む、年齢に依存しない遺伝子発現パターン(ミクログリアGFシグネチャー)が出現した(
図1e参照)。さらに、ミクログリアのGFシグネチャーには、ミトコンドリア機能の制御に関連する遺伝子(例えば、B4galnt1、Gpr137b、Gstm1、Mcur1、Mtfp1、NntおよびPlcd3)が含まれており、ミクログリアの代謝プロファイルを制御する細菌叢の能力が示された(
図1e参照)。次に、加重遺伝子共発現ネットワーク解析(WGCNA)を用いて、年齢と細菌叢に関するミクログリアにおける遺伝子発現の機能的変化を特徴付けた(
図1f-1gおよび
図8c参照)。有意に(Wald Padj<0.05)分散の50%以上を説明した遺伝子は、その共発現パターンに基づいてモジュール固有遺伝子(ME)に入れられた。SPF群とGF群の比較では、免疫機能とエピジェネティック制御に関連する遺伝子ネットワーク、それぞれ、ME1、ME5、ME6、ME7、にわずかな違いが認められた。2つのモジュールが各年齢群に特徴的であった。加齢のSPF群のME1とME4には、ミトコンドリア代謝や脂質局在化などのプロセスに関連する遺伝子が含まれており、加齢のGF群のME2とME6には、免疫応答、ヒストンリジンメチル化、細胞形態形成を制御する遺伝子が含まれていた(
図8d参照)。加齢SPF群のME1とME4には、ミトコンドリア代謝や脂質局在化などのプロセスに関連する遺伝子が含まれ、加齢GF群のME2とME6には、免疫応答、ヒストンリジンメチル化、細胞形態形成を制御する遺伝子が含まれた(
図8c)。ME1およびME8に含まれる、免疫応答(例えば、Axl、Crlf2、Tnfsf8、Tnfsf10、Ccl12、Fgr、Il1b、Il6st、Spp1、Tlr2)、インターフェロンシグナル伝達(例えば、Cxcl10 8、Ifi207、Ifit2 8、Stat1)、炎症応答(例えば、Cd180、Ldlr、S100a8、S100a9)、ミクログリア細胞遊走(例えば、Ccl12、Cxcl10)に関連する遺伝子は、加齢SPFマウスのミクログリアにおいて特異的な発現上昇を示したが、若齢成体群および加齢GFマウスではいずれも陰性または低い相関を示した。ME1とME8は、ミトコンドリア代謝過程、過酸化水素代謝過程、活性酸素代謝過程を含み、加齢SPF群で強い相関を示した。加齢GFマウスに高度に濃縮されたME2は、酸素含有化合物に対する反応と関連していた(
図8c)。ME2に含まれる遺伝子には、Foxp1、Nrf1、Trp53のような細胞内ROSレベルを制御する遺伝子や、G6pdx、Pdk2、Stat3、Ucp2のようなミトコンドリアのROS制御に関与する遺伝子が含まれるが、加齢SPFマウスのミクログリアでは、年齢をマッチさせたGFマウスと比較して発現量が少なく、加齢SPFマウスのROSレベルが細胞の最適範囲に保たれていないことを示している。加齢脳におけるROSの蓄積は、ミトコンドリアの損傷やミトコンドリア機能障害と関連している。実際、ME3、ME5、ME9では、ミトコンドリアのアセンブリー、糖代謝、酸化的リン酸化に関連する遺伝子に顕著な変化が見られた。これらの遺伝子はSPFマウスでもGFマウスでも発現が上昇したが、ここではROSを制御する保護遺伝子がダウンレギュレートされていたので、SPFマウスではミトコンドリアの損傷がより顕著であった。さらに、加齢のGFマウスでは、ミトコンドリアの構造と機能を維持する遺伝子がアップレギュレートされた(
図8d)。
【0214】
次に、加齢に関連したMEに対する細菌叢の寄与を調べた。WGCNAの結果、加齢GFマウスのミクログリアは、SPFマウスの一般的な加齢傾向にしたがったが、その程度は低く(
図1f-1g参照)、若齢成体群に近いクラスターを形成していた(
図8b参照)。例えば、免疫応答(例えば、Axl、Crlf2、Tnfsf8、Tnfsf10、Ccl12、Fgr、Il1b、Il6st、Spp1およびTlr2)、インターフェロンシグナル伝達(例えば、Cxcl10/8、Ifi207、Ifit2/8およびStat1)、炎症応答(例えば、Cd180、Ldlr、S100a8およびS100a9)およびミクログリア細胞遊走(例えば、Ccl12およびCxcl10)に関連するME1およびME8の遺伝子は、加齢SPFマウスのミクログリアにおいて特異的なアップレギュレーションを示し、若齢成体群および加齢GFマウスで負の相関または低い相関を示した(
図2aおよび
図8c-8d参照)。ミクログリアは、細菌叢に依存した乖離を伴って、加齢に伴うトランスクリプトーム・プロファイルの変化を示した。
【0215】
加齢GFマウスのミクログリアにおける酸化ストレスの減少
加齢関連モジュールのパスウェイを調べると、細菌叢に依存するミクログリアにおける酸化ストレスの制御との関連がいくつか見つかった。ME1およびME8は、ミトコンドリア代謝過程、過酸化水素代謝過程およびROS代謝過程を含む、加齢SPF群において強い相関を示した。加齢のGFマウスで高度に濃縮されたME2は、酸素含有化合物に対する反応と関連していた(
図1f-1gおよび
図2a参照)。ミクログリアROS関連遺伝子の発現レベルがマウスの年齢および飼育条件によって調節されていることを確認するために、加齢に関連するME1、ME2およびME8のROS関連遺伝子を選択的に解析した(
図2b参照)。加齢SPFマウスのミクログリアにおいてのみ、Cdkn1a、Cyba、Cybb、Duoxa1、Il1b、Tg fbr2、Tlr2、Tlr4およびTlr5のようないくつかの免疫活性化およびROS促進遺伝子、ならびにAxl、Hif1a、Lcn2、Mmp2、Rela、Trex1、S100a8およびS100a9のようなROS応答遺伝子の特異的な発現上昇が認められた(
図2b参照)。Foxp1、Nrf1、Trp53のような細胞内ROSレベルを制御する遺伝子や、G6pdx、Pdk2、Stat3、Ucp2のようなミトコンドリアのROS制御に関与する遺伝子を含むME2の遺伝子は、年齢をマッチさせたGFマウスと比較して、加齢SPFマウスのミクログリアでは発現が少なかった(
図2b参照)。CellROXフローサイトメトリーアッセイを用いて、若齢成体および加齢SPFマウスから単離したミクログリアにおけるROS産生をモニターしたところ、加齢とともにROSの有意な上昇が観察され、加齢GFマウスではその上昇が抑制された(
図2c参照)。誘導性一酸化窒素合成酵素(iNOS)の活性化は、過剰なROSの生成に直接関連している。免疫組織化学(IHC)を用いると、SPF条件下でミクログリアiNOS発現の加齢依存的増加が観察されたが、GFマウスではあまり顕著ではなかった(
図2d-2e参照)。
【0216】
どれだけROSが増加したかを調べることは、ミクログリア機能に影響を与える。ME3、ME5およびME9を観察した。ミトコンドリアのアセンブリー、糖代謝および酸化的リン酸化に関連する遺伝子の変化が見られた(
図2f参照)。ミクログリアのミトコンドリアを電子顕微鏡で観察すると、GFマウスと比較してSPFマウスでは、ミクログリアあたりのミトコンドリアの質量や数に変化はなかったが、損傷したミトコンドリアの割合がかなり高く、クリステがあまり明瞭でない、あるいは破壊されていることさえ明らかになった(
図2g-2hおよび
図9a-9c参照)。加齢SPFマウスのミクログリアにおいてピークに達した細胞内ROSの蓄積は、低酸素誘導因子1サブユニットα(Hif1a)の発現を誘導し得る。HIF1aは、脳の擬似低酸素状態におけるROSと関連しており、ミトコンドリア代謝を直接変化させることができる(非特許文献26)。加齢脳におけるミトコンドリアの機能不全は、ミクログリアの誇張された活性化に関連する代謝シフトを引き起こす。若齢成体マウスは同様のHif1a発現を示したが、RNA-seqおよび逆転写による定量的PCR(RT-qPCR)は、加齢SPFマウスのミクログリアにおけるHif1a発現がGFマウスよりも高いことを示した(
図9d-9e参照)。加齢動物の細胞では、酸化的リン酸化の効率が低下し、ATP産生の減少につながる(非特許文献27)。ミトコンドリアの膜貫通電位(ΔΨm)は、ATP産生の主要な原動力である。加齢に伴うミトコンドリア量の増加を考慮し(
図9f-9g参照)、ミトコンドリア活性を、ミトコンドリア量に対するミトコンドリアの膜貫通電位としてプロットした。ミトコンドリア活性は、SPFマウスでは加齢に伴う低下と細胞内ATPリザーバーの減少を示したが、GFマウスのミクログリアでは両者ともそれほど顕著ではなかった(
図2i、
図7b、
図9h参照)。これらのデータを総合すると、細菌叢は加齢脳のミクログリアにおける酸化ストレスの増加に寄与しており、それはミトコンドリアへの直接的な損傷と関連していることがわかる。
【0217】
細菌叢に依存したCMLの加齢に伴う蓄積
若齢成体および加齢SPFマウスの血清試料中の短鎖脂肪酸濃度を、標的液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)代謝産物分析を用いて特定した(
図3a参照)。若齢成体マウスおよび加齢マウスの血清中では酢酸塩が最も多く、若齢成体マウスと比較して加齢マウスの血清中では酢酸塩およびプロピオン酸塩の濃度が高かった。酪酸/イソ酪酸および吉草酸/イソ吉草酸は変化しなかった(
図3a参照)。偏りのないスクリーニングでは、ノンターゲットメタボロミクスデータセットを使用し、SPF条件下で飼育した若齢成体マウスと加齢マウスの血清および脳試料を調査した(
図3b~3c参照)。パスウェイの濃縮解析により、いくつかの組織特異的なパスウェイの変化が明らかになった。例えば、ピリミジン、イノシトール、カルニチン、およびアミノ酸代謝に関連するいくつかのパスウェイ(例えば、リジン、ポリアミンおよびチロシン)は、加齢マウスの血清においてより影響を受けた(
図10a参照)。ビタミンA、トコフェロール、プリン代謝、セラミド関連経路、ペントースリン酸経路は、加齢マウスの脳で特異的に変化した(
図10b参照)。脂肪酸代謝および終末糖化産物(AGEs)のパスウェイは、加齢マウスの血清および脳試料の両方で共通して変化した(
図10a-10b参照)。加齢マウスの血清と脳組織の両方で有意に発現が上昇した代謝産物から、腸で制御され血流を介して脳に到達する可能性のある代謝産物を特定することができた。これらの代謝産物には、パルミトレイン酸(16:1n7)、TMAO、1-オレオイル-2-ドコサヘキサエノイル-グリセロホスホリルコリン(18:1/22:6)、CMLおよびスタキドリンが含まれた(
図3d参照)。マウスで見られた加齢に関連した濃度変化の一部は、ヒトの血液試料でも確認された。ヒト加齢コホート(TwinsUKデータバンク)の血清/血漿のノンターゲットメタボロミクスでは、マウスで見られたCML(
図3e参照)とTMAO(
図3f参照)の加齢に伴う濃度変化が再現された。若齢および加齢のSPFおよびGFマウスの脳組織からのターゲットメタボロミクスにより、加齢マウスの脳組織におけるCMLおよびTMAOの増加には、機能的な腸内細菌叢(例えばSPFマウス)が必要であることが示された。加齢のGFマウスは、若いGFマウスと比較してわずかな変化しか示さなかった(
図3g参照)。
【0218】
CMLは加齢に伴うミクログリア機能障害を増強する
次に、in vivoでのミクログリアに対するこれらの代謝産物の機能的効果を評価した。次の候補代謝産物がさらなる評価のために選択された:CML、TMAO、酢酸塩、およびプロピオン酸塩である。加齢ミクログリアにおけるROS産生増加の原因となる代謝産物を特定するため、各代謝産物を若齢成体マウスに別々に投与した。腸管から循環系への吸収プロファイルの違いによる潜在的なアーティファクトを避けるため、若齢成体マウスにCML、TMAO、酢酸ナトリウム、またはプロピオン酸ナトリウムを1日1回、2週間にわたって腹腔内注射した(
図4a参照)。TMAO、酢酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウムは、細胞内ROS産生にもミクログリアの代謝機能にも影響を及ぼさなかった。しかしながら、CML処置は加齢マウスのミクログリアにおいて見られた変化を部分的に再現することができた。
【0219】
CMLは酸化ストレスを増加させ、代謝活性を低下させ、細胞内のATP貯蔵量を減少させた(
図4b-4d参照)。さらに、CMLはミクログリアのミトコンドリア構造に直接損傷を与えることにより、ミトコンドリア機能障害を引き起こした(
図10c参照)。CML治療の影響はミクログリアだけにとどまらず、マクロファージにも悪影響を与えた。骨髄由来マクロファージ(BMDM)は、in vitroで酸化ストレスの用量依存的増加と代謝活性の低下を示した(
図10d-10e参照)。循環CMLは、内因性メイラード反応、食物、または腸内細菌叢によるAGEsの変換に由来し得る(非特許文献28)。脳内CML濃度は、加齢SPFマウスでは増加したが、加齢GFマウスでは増加しなかった(
図4e参照)。CMLは、若齢成体および加齢GFマウスの脳組織においても、若齢成体SPFマウスと同程度のレベルで検出可能であった。これらの結果は、腸内細菌叢が加齢脳におけるCMLレベルの上昇には必要であるが、若齢成体マウスに見られるベースラインレベルには必要ないことを示している。したがって、これらの結果は、CMLの腹腔内注射後にみられたミクログリアにおけるミトコンドリア機能の調節不全が、脳のCML濃度の上昇に起因しており、加齢脳における設定を再現していることも示している(
図4f参照)。ミクログリアのRNA-seq解析から、CMLの腹腔内投与は、ROS関連遺伝子S100a9とS100A8、およびA430033K04Rik、Chic1、Ltf、Ngp、Pglyrp1、Scai、Zkscan2などの微生物や加齢に関連する遺伝子の発現を上昇させることが示された(
図4g-4hおよび
図10f参照)。
【0220】
大脳皮質ミクログリアにおけるCMLの免疫蛍光染色は、ミクログリアがCMLによって直接標的にされるかどうかを調べ、SPFおよびGF条件下で飼育されたマウスでは、加齢とともにCML陽性ミクログリアの割合が増加することを示した。加齢SPFマウスのミクログリアの約30%がCML陽性であり、加齢GFマウスのミクログリアは加齢によるCMLの蓄積が少なかった(
図4-i-4j参照)。さらに、マウスの大脳皮質で見られたCML陽性ミクログリアの加齢依存的増加は、ヒトの大脳皮質にも存在することが検証された。1歳から88歳までのヒトの脳組織(合計n=43、男性23、女性20)が得られ、年齢とヒト大脳皮質におけるCML陽性ミクログリアの割合との間に正の相関(r=0.5793、R
2=0.3356、P<0.001)が観察された(
図4k-4l参照)。マウスでは、ミクログリアのRNA-seq解析から、CMLをi.p.注射すると、ROS関連遺伝子であるS100a9とS100A8、およびA430033k04Rik、Chic1、Ltf、Ngp、Pglyrp1、Scai、Zkscan2のような他の微生物や加齢に関連する遺伝子の発現が上昇することが示された。これらの知見は、加齢に伴うCMLの蓄積が、ROSの増加を含む直接的な形でミクログリアの代謝機能障害を誘導し、脳の恒常性と脳機能を徐々に破壊する可能性があることを示している。
【0221】
加齢細菌叢は腸血液関門を破壊することによってCMLレベルを駆動する
16SリボソームRNA-seqによる年齢依存的な腸内細菌叢の変化は、特に加齢期におけるCMLレベルおよびミクログリア機能の差異が細菌叢の有無に依存するという知見に基づいて特徴づけられた。若齢成体マウスと加齢マウスの細菌叢プロファイルが異なることは、ブレイ・カーティス非類似度指標とシャノンおよびシンプソンα多様性指標を用いたβ多様性解析によって確認された(
図11a-11b参照)。両年齢群の腸内細菌叢は、2つの門、すなわちファーミキューテス門とバクテロイデーテス門に支配されていた(
図11c参照)。ファーミキューテス門とバクテロイデーテス門の相対存在比は、ヒトでは加齢になるにつれて変化し、異なる年齢段階における細菌プロファイルの全体的な変化と関連づけることができる(非特許文献29)。ファーミキューテス門とバクテロイデーテス門の比率における有意な加齢依存性の減少が観察され(非特許文献30)、ファーミキューテス門、ラクノスピラ科は加齢マウスにおいて有意に減少した(
図11d-11e参照)。細菌属では、ツリバクター(Turibacter)属、アロプレボテラ(Alloprevotella)属、パラステラ属、ビフィドバクテリウム属、マセリバクテロイデス(Macellibacteroides)属、アリスティペス センス ストリクト 1属、ペプトストレプトコッカセアエ インケルタエ セディス(Peptostreptococcaceae incertae sedis)属、パラバクテロイデス属の増加が加齢マウスで観察された。この発見は、パントネア、アノキシバチルス、ラクノスピラセアエ インケルタエ セディス、クルトバクテリウム、アセトアチファクター(Acetatifactor)の存在量が加齢マウスで減少したのとは対照的であった(非特許文献31)(参照、
図11f)。これらの知見は、若齢成体マウスと加齢マウスの細菌叢をプロファイリングすると、いくつかの分類学的レベルで変化が見られることを示している。糞便ペレット中のCMLのターゲットメタボロミクス(LC-MS)測定により、加齢GFマウスの糞便ペレットは加齢SPFマウスのものよりもCMLレベルが高いことが明らかになり、加齢に伴う脳内CML蓄積における細菌叢の間接的役割が実証された(
図5a参照)。
【0222】
加齢マウスは若齢成体マウスに比べて腸管透過性が亢進しており、この現象は細菌叢の存在に依存している。透過性の亢進により、代謝産物が消化管内から腸上皮をより自由に通過し、血流に入ることが可能となり、脳内と糞便中のCMLレベルの不一致を説明できる可能性がある。この仮説を検証するため、経口投与後のFITC-デキストラン(4kDa)の循環への移行を定量化することで腸管透過性を測定した。加齢SPFマウスでは高い腸管透過性が観察され、加齢GFマウスのバリア機能は若齢成体SPFマウスおよびGFマウスと同等であった(
図5b参照)。若齢GFマウスに加齢細菌叢をコロニー形成させると、若齢GFマウスに若齢腸内細菌叢を投与した後に認められた透過性と比較して、細菌叢依存的に腸管透過性が上昇した(
図5c参照)。このことは、経口摂取後のCMLの循環への移行が、加齢SPFマウスで最も高いという観察結果と一致した(
図5dおよび
図12a参照)。CMLの適用経路の違いがミクログリアへのCMLの蓄積に影響するかどうかを評価するために、経口投与ではなく腹腔内投与でCMLを受けた若齢成体マウスを研究した。このようなマウスは、大脳皮質でより多くのCML陽性ミクログリアを示した(
図12b-12c参照)。加齢マウスでは、CMLの投与経路はCML陽性ミクログリアの割合に影響を及ぼさなかった(
図12b-12c参照)。腹腔内投与および経口投与の両ルートによるCML投与は、加齢マウスのミクログリアにおける加齢に関連した細胞内ROSの増加と代謝機能の低下を有意に悪化させた。若齢成体マウスでは、このような効果はCMLの腹腔内投与後にのみ検出可能であった(
図12d-12e参照)。加齢に伴うミクログリアへのCMLの蓄積に対する腸管バリアの重要な役割を検証するために、加齢SPFマウス(18ヶ月齢)に、加齢に伴う細菌叢ディスバイオシスを軽減し、腸上皮のオートファジーを誘導することによって、CMLの蓄積を防ぐエラグ酸(EA)、または腸管バリア機能の内因性増強因子である腸アルカリホスファターゼ(IAP)を3日ごとに10週間経口投与した(
図5e参照)。EAは腸管透過性に影響を及ぼさなかったが、IAPを投与した加齢マウスは腸管漏出性が低下した(
図5f参照)。EAもIAPも、それぞれ間接的または直接的に、脳内のCML蓄積を減少させた(
図5g参照)。EAおよびIAP処置した加齢マウスのミクログリアは、ビヒクル処置した加齢マウスと比較して、細胞内ROSの有意な減少およびATPレベルの増加を示した(
図5h-5i参照)。これらの知見は、加齢による細菌叢の変化が、腸関門の完全性を破壊し、加齢マウスやヒトの脳でCMLの蓄積を促進していることを示している(
図1a参照)。
【0223】
例2.認知障害または神経変性疾患を発症するリスクが増大した被験者の特定
被験者は、例えば、ミクログリア機能障害を発症するリスクの増大、認知障害のリスクの増大、または神経変性疾患を発症するリスクの増大を有することを、被験者から得られた生体試料中のCML、CML前駆体、CML代謝産物、またはCML類似体のレベルが基準レベルと比較して上昇している被験者を特定することを含む方法によって特定することができる。生体試料は、例えば、血液、血清、または血漿であり得る。
【0224】
いくつかの実施形態では、生体試料中のCML、CML前駆体、CML代謝産物、またはCML類似体の量は、クロマトグラフィー(例えば、高速液体クロマトグラフィー)、質量分析、液体クロマトグラフィー質量分析、または核磁気共鳴分光法によって測定される。生体試料中のCML、CML前駆体、CML代謝産物、またはCML類似体のレベルの上昇が観察された場合、被験者は、例えば、ミクログリア機能障害を発症するリスクの上昇、認知障害のリスクの上昇、または神経変性疾患を発症するリスクの上昇を有すると特定することができる。
【0225】
実施形態
本明細書において、特定の実施形態では、腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤による治療のために被験者を選択する方法が記載され、本方法は以下を含む。:(a)被験者から得られた生体試料中に、基準レベルと比較して上昇したレベルのCML、CML前駆体、CML分解産物、またはCML代謝産物を有する被験者を特定する;および(b)特定された被験者を、腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤による治療のために選択する。
【0226】
本明細書において、特定の実施形態では、被験者から得られた生体試料中のCML、CML前駆体、CML分解産物、またはCML代謝産物のレベルが基準レベルと比較して上昇していると特定された被験者に、治療有効量の腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤を投与することを含む、被験者を治療する方法が記載される。
【0227】
本明細書において、特定の実施形態では、被験者の組織または体液試料中のCML、CML前駆体、CML分解産物、またはCML代謝産物の蓄積率を低下させる方法であって、治療有効量の腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤を被験者に投与することを含む方法が記載される。
【0228】
本明細書において、特定の実施形態では、それを必要とする被験者において、ミクログリアにおける酸化ストレスまたは代謝ストレスの発現率を低下させる方法が記載され、本方法は、治療有効量の腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤を被験者に投与することを含む。
【0229】
本明細書において、特定の実施形態では、それを必要とする被験者において、ミクログリアにおけるミトコンドリア機能不全の発症率を低下させる方法が記載され、本方法は、治療有効量の腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤を被験者に投与することを含む。
【0230】
本明細書において、特定の実施形態では、それを必要とする被験者において、ミクログリア機能不全の発症率を低下させる方法が記載され、本方法は、治療有効量の腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤を被験者に投与することを含む。
【0231】
本明細書において、特定の実施形態では、それを必要とする被験者において、ミクログリアの1つ以上の機能を増加させる方法が記載され、本方法は、治療有効量の腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤を被験者に投与することを含む。
【0232】
本明細書において、特定の実施形態では、それを必要とする被験者において、認知障害の発症率または悪化率を低下させる方法が記載され、本方法は、治療有効量の腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤を被験者に投与することを含む。
【0233】
本明細書において、特定の実施形態では、それを必要とする被験者において、認知障害を治療する方法が記載され、本方法は、治療有効量の腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤を被験者に投与することを含む。
【0234】
本明細書において、特定の実施形態では、被験者における神経変性疾患の発症率または進行率を低下させる方法が記載され、本方法は、治療有効量の腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤を被験者に投与することを含む。
【0235】
本明細書において、特定の実施形態では、被験者における神経変性疾患を治療する方法であって、本方法は、治療有効量の腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤を被験者に投与することを含む。
【0236】
本明細書において、特定の実施形態では、それを必要とする被験者において、神経機能障害の発症率または悪化率を低下させる方法が記載され、本方法は、治療有効量の腸管バリア機能増強剤および/または腸内細菌叢ディスバイオシスを軽減または除去するための薬剤を被験者に投与することを含む。
【0237】
特定の実施形態において、被験者は、基準レベルと比較して、被験者の生体試料中のCML、CML前駆体、CML分解産物、またはCML代謝産物のレベルが上昇していることが以前に特定されている。
【0238】
特定の実施形態において、本方法は、被験者の生体試料中のCML、CML前駆体、CML分解産物、またはCML代謝産物のレベルが基準レベルと比較して上昇しているとして被験者を特定することをさらに含む。
【0239】
特定の実施形態において、被験者は、基準レベルと比較して上昇したレベルの腸関門の透過性を有すると以前に特定されている。
【0240】
特定の実施形態において、本方法は、基準レベルと比較して上昇したレベルの腸関門の透過性を有するものとして被験者を特定することをさらに含む。
【0241】
特定の実施形態において、生体試料は、唾液、尿、血液、血清、血漿、脳脊髄液、脳組織、または糞便を含む。
【0242】
特定の実施形態において、被験者は、認知障害を有すると特定または診断されている。
【0243】
特定の実施形態において、被験者は、認知障害を発症するリスクが増大していると特定されている。
【0244】
特定の実施形態において、被験者は、神経変性疾患を有すると特定または診断されている。
【0245】
特定の実施形態において、被験者は、神経変性疾患を発症するリスクが増大していると特定されている。
【0246】
特定の実施形態において、本方法は、被験者のミクログリアにおける細胞内および/またはミトコンドリアROSのレベルの低下をもたらす。
【0247】
特定の実施形態において、本方法は、被験者のミクログリアにおけるiNOSの発現の低下をもたらす。
【0248】
特定の実施形態において、本方法は、被験者のミクログリアにおいて、Cdkn1a、Cyba、Cybb、Duoxa1、Il1b、Tgfbr2、Tlr2、Tlr4、Tlr5、Axl、Hif1a、Lcn2、Mmp2、Rela、Trex1、S100a8、およびS100a9からなる群から選択される1つ以上の遺伝子の発現の低下をもたらす。
【0249】
特定の実施形態において、本方法は、被験者のミクログリアにおいて、被験者のFoxp1、Nrf1、Trp53、G6pdx、Pdk2、Stat3、およびUcp2からなる群から選択される1つ以上の遺伝子の発現の増加をもたらす。
【0250】
特定の実施形態において、本方法は、被験者から得られた生体試料中のCML、CML前駆体、CML分解産物、またはCML代謝産物のレベルを決定することをさらに含む。
【0251】
特定の実施形態において、神経変性疾患は、以下からなる群より選択される:アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、前頭側頭型認知症、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、緑内障、筋強直性ジストロフィー、進行性核上性麻痺、脊髄性筋萎縮症、多系統萎縮症、運動失調症、血管性認知症、または他の認知症。
【0252】
本明細書において、特定の実施形態では、ミクログリア機能不全を発症するリスクが増大しているとして被験者を特定する方法であって、本方法は、基準レベルと比較して、被験者から得られた生体試料中のCML、CML前駆体、CML分解産物、またはCML代謝産物のレベルが上昇している被験者を特定することを含み、このような上昇したレベルは、被験者がミクログリア機能不全を発症するリスクが増大していることを示す。
【0253】
本明細書において、特定の実施形態では、認知障害のリスクが増大しているとして被験者を特定する方法であって、本方法は、基準レベルと比較して、被験者から得られた生体試料中のCML、CML前駆体、CML分解産物、またはCML代謝産物のレベルが上昇している被験者を特定することを含み、このような上昇したレベルは、被験者が認知障害を発症するリスクが増大していることを示す。
【0254】
本明細書において、特定の実施形態では、神経変性疾患を発症するリスクが増大しているとして被験者を特定する方法であって、本方法は、基準レベルと比較して、被験者から得られた生体試料中のCML、CML前駆体、CML分解産物、またはCML代謝産物のレベルが上昇している被験者を特定することを含み、このような上昇したレベルは、被験者が神経変性疾患を発症するリスクが増大していることを示す。
【0255】
本明細書において、特定の実施形態では、被験者の組織試料または体液試料中のCML、CML前駆体、CML分解産物、またはCML代謝産物の蓄積率を減少させるための候補薬剤をスクリーニングする方法であって、本方法は以下を含む:哺乳動物において第一の時点で得られた生体試料中のCML、CML前駆体、CML分解産物、またはCML代謝産物の第一のレベルを決定すること;被験者に薬剤を投与すること;および哺乳動物において第二の時点で得られた生体試料中のCML、CML前駆体、CML分解産物、またはCML代謝産物の第二のレベルを決定すること;ここで、第一のレベルと比較して第二のレベルの減少をもたらす薬剤が、被験者の組織におけるCML、CML前駆体、CML分解産物、またはCML代謝産物の蓄積率を減少させるための候補薬剤として特定される。
【0256】
本明細書において、特定の実施形態では、被験者におけるミクログリアの酸化ストレスまたは代謝ストレスの発現率を低下させるための候補薬剤をスクリーニングする方法であって、本方法は以下を含む:哺乳動物において第一の時点で得られた生体試料中のCML、CML前駆体、CML分解産物、またはCML代謝産物の第一のレベルを決定すること;被験者に薬剤を投与すること;および哺乳動物において第二の時点で得られた生体試料中のCML、CML前駆体、CML分解産物、またはCML代謝産物の第二のレベルを決定すること;ここで、第一のレベルと比較して第二のレベルの減少をもたらす薬剤が、被験者のミクログリアにおける酸化ストレスまたは代謝ストレスの発現率を減少させるための候補薬剤として特定される。
【0257】
本明細書において、特定の実施形態では、被験者におけるミクログリアの酸化ストレスまたは代謝ストレスの発現率を低下させるための候補薬剤をスクリーニングする方法であって、本方法は以下を含む:哺乳動物において第一の時点で得られた生体試料中のCML、CML前駆体、CML分解産物、またはCML代謝産物の第一のレベルを決定すること;被験者に薬剤を投与すること;および哺乳動物において第二の時点で得られた生体試料中のCML、CML前駆体、CML分解産物、またはCML代謝産物の第二のレベルを決定すること;ここで、第一のレベルと比較して第二のレベルの減少をもたらす薬剤が、被験者のミクログリアにおける酸化ストレスまたは代謝ストレスの発現率を減少させるための候補薬剤として特定される。
【0258】
本明細書において、特定の実施形態では、被験者におけるミクログリアのミトコンドリア機能不全の発症率を低下させるための候補薬剤をスクリーニングする方法であって、本方法は以下を含む:哺乳動物において第一の時点で得られた生体試料中のCML、CML前駆体、CML分解産物、またはCML代謝産物の第一のレベルを決定すること;被験者に薬剤を投与すること;および第二の時点で哺乳動物において得られた生体試料中のCML、CML前駆体、CML分解産物、またはCML代謝産物の第二のレベルを決定すること;ここで、第一のレベルと比較して第二のレベルの減少をもたらす薬剤が、被験者におけるミクログリアのミトコンドリア機能不全の発症率を減少させるための候補薬剤として特定される。
【0259】
本明細書において、特定の実施形態では、被験者におけるミクログリア機能不全の発症率を減少させるための候補薬剤をスクリーニングする方法であって、本方法は以下を含む:哺乳動物において第一の時点で得られた生体試料中のCML、CML前駆体、CML分解産物、またはCML代謝産物の第一のレベルを決定すること;被験者に薬剤を投与すること;および第二の時点で哺乳動物において得られた生体試料中のCML、CML前駆体、CML分解産物、またはCML代謝産物の第二のレベルを決定すること;ここで、第一のレベルと比較して第二のレベルの減少をもたらす薬剤が、被験者におけるミクログリア機能不全の発症率を減少させるための候補薬剤として特定される。
【0260】
本明細書において、特定の実施形態では、被験者におけるミクログリアの1つ以上の活性を増加させるための候補薬剤をスクリーニングする方法であって、本方法は以下を含む:哺乳動物において第一の時点で得られた生体試料中のCML、CML前駆体、CML分解産物、またはCML代謝産物の第一のレベルを決定すること;被験者に薬剤を投与すること;および第二の時点で哺乳動物において得られた生体試料中のCML、CML前駆体、CML分解産物、またはCML代謝産物の第二のレベルを決定すること;ここで、第一のレベルと比較して第二のレベルの減少をもたらす薬剤が、被験者におけるミクログリアの1つ以上の活性を増加させるための候補薬剤として特定される。
【0261】
本明細書において、特定の実施形態では、被験者における認知障害の発症率または悪化率を低下させるための候補薬剤をスクリーニングする方法であって、本方法は以下を含む:哺乳動物において第一の時点で得られた生体試料中のCML、CML前駆体、CML分解産物、またはCML代謝産物の第一のレベルを決定すること;被験者に薬剤を投与すること;および第二の時点で哺乳動物において得られた生体試料中のCML、CML前駆体、CML分解産物、またはCML代謝産物の第二のレベルを決定すること;ここで、第一のレベルと比較して第二のレベルの減少をもたらす薬剤が、被験者における認知障害の発症率または悪化率を減少させるための候補薬剤として特定される。
【0262】
本明細書において、特定の実施形態では、被験者において認知障害を治療するための候補薬剤をスクリーニングする方法であって、本方法は以下を含む:哺乳動物において第一の時点で得られた生体試料中のCML、CML前駆体、CML分解産物、またはCML代謝産物の第一のレベルを決定すること;被験者に薬剤を投与すること;および第二の時点で哺乳動物において得られた生体試料中のCML、CML前駆体、CML分解産物、またはCML代謝産物の第二のレベルを決定すること;ここで、第一のレベルと比較して第二のレベルの減少をもたらす薬剤が、被験者において認知障害を治療するための候補薬剤として特定される。
【0263】
本明細書において、特定の実施形態では、被験者における神経変性疾患の発症率または進行率を低下させるための候補薬剤をスクリーニングする方法であって、本方法は以下を含む:哺乳動物において第一の時点で得られた生体試料中のCML、CML前駆体、CML分解産物、またはCML代謝産物の第1のレベルを決定すること;被験者に薬剤を投与すること;および第二の時点で哺乳動物において得られた生体試料中のCML、CML前駆体、CML分解産物、またはCML代謝産物の第二のレベルを決定すること;ここで、第一のレベルと比較して第二のレベルの減少をもたらす薬剤が、被験者における神経変性疾患の発症率または進行率を減少させるための候補薬剤として特定される。
【0264】
本明細書において、特定の実施形態では、被験者における神経変性疾患を治療するための候補薬剤をスクリーニングする方法であって、本方法は以下を含む:哺乳動物において第一の時点で得られた生体試料中のCML、CML前駆体、CML分解産物、またはCML代謝産物の第一のレベルを決定すること;被験者に薬剤を投与すること;および第二の時点で哺乳動物において得られた生体試料中のCML、CML前駆体、CML分解産物、またはCML代謝産物の第二のレベルを決定すること;ここで、第一のレベルと比較して第二のレベルの減少をもたらす薬剤が、被験者における神経変性疾患を治療するための候補薬剤として特定される。
【0265】
本明細書において、特定の実施形態では、被験者における神経機能障害の発症率または悪化率を低下させるための候補薬剤をスクリーニングする方法であって、本方法は以下を含む:哺乳動物において第一の時点で得られた生体試料中のCML、CML前駆体、CML分解産物、またはCML代謝産物の第一のレベルを決定すること;被験者に薬剤を投与すること;および第二の時点で哺乳動物において得られた生体試料中のCML、CML前駆体、CML分解産物、またはCML代謝産物の第二のレベルを決定すること;ここで、第一のレベルと比較して第二のレベルの減少をもたらす薬剤が、被験者における神経機能障害の発症率または悪化率を減少させるための候補薬剤として特定される。
【0266】
特定の実施形態において、本方法は、候補薬剤を動物モデルで試験することをさらに含む。
【0267】
参照による援用
本明細書の本文を通じて引用されるすべての刊行物および特許(すべての特許、特許出願、科学刊行物(例えば、非特許文献32)、製造者の仕様書、説明書などを含む)は、上述または下述にかかわらず、あらゆる目的のためにその全体が参照により援用される。参照により援用される資料が本明細書と矛盾または矛盾する範囲においては、本明細書があらゆるそのような資料に優先する。
【0268】
均等物
本発明は、その趣旨または本質的な特徴から逸脱することなく、他の特定の形態で具体化してもよい。したがって、前述の実施形態は、本明細書に記載された発明を限定するよりもむしろ、あらゆる点で例示的であると考えられる。したがって、本発明の範囲は、前述の説明によるものよりむしろ、添付の特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲の意味および均等物の範囲内に入るあらゆる変更は、そこに包含されることが意図される。
【国際調査報告】