IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ザ イエロー シック ホールディング ゲーエムベーハーの特許一覧

特表2024-540205炭化ケイ素含有材料、前駆体組成物、およびそれらの製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-31
(54)【発明の名称】炭化ケイ素含有材料、前駆体組成物、およびそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/068 20060101AFI20241024BHJP
【FI】
C01B21/068 H
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024525796
(86)(22)【出願日】2022-10-27
(85)【翻訳文提出日】2024-05-15
(86)【国際出願番号】 EP2022080152
(87)【国際公開番号】W WO2023073145
(87)【国際公開日】2023-05-04
(31)【優先権主張番号】102021128398.1
(32)【優先日】2021-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524159192
【氏名又は名称】ザ イエロー シック ホールディング ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】THE YELLOW SIC HOLDING GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100104570
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 光弘
(72)【発明者】
【氏名】グルーリッヒ=ウェーバー・ジークムント
(57)【要約】
炭化ケイ素含有材料の前駆体組成物を製造するための方法であって、ナノスケール二酸化ケイ素、特にヒュームドシリカと、ナノスケールカーボン、特にカーボンブラックと、を混合する方法を開示する。また、このようにして製造された前駆体組成物、この前駆体組成物から炭化ケイ素含有材料を製造する方法、および、このようにして製造された炭化ケイ素含有材料も開示する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化ケイ素含有材料製造用の前駆体組成物を製造する方法であって、
ナノスケール二酸化ケイ素とナノスケールカーボンとを混合するステップ
を含む方法。
【請求項2】
前記ナノスケールカーボン中のカーボンは5~100nmの大きさの粒子で存在する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ナノスケールカーボンがカーボンブラックである、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記カーボンブラックが導電性カーボンブラックである。請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記ナノスケールカーボンが、5×10-2Ω・cm以下の比抵抗を有する、請求項1ないし4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ドーパントまたは合金材料を混合物に添加する、請求項1ないし5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ナノスケール二酸化ケイ素と前記ナノスケールカーボンとの混合物にさらに溶剤を加え、
前記混合物を700°C以下の温度で乾燥させる、請求項1ないし6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記乾燥が150°C以下の温度で行われ、乾燥したナノスケールの前駆体組成物が得られる、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記乾燥が250°C以下の温度で行われ、乾燥したマイクロスケールの前駆体組成物が得られる、請求項7記載の方法。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれか一項に係る方法によって製造された前駆体組成物。
【請求項11】
金属、Al、B、およびNが、10ppm以下の量、好ましくは5ppm以下の量含まれ、ドーパントまたは合金材料が添加されている場合にはその添加量を超える、請求項10記載の前駆体組成物。
【請求項12】
炭化ケイ素含有材料を製造する方法であって
請求項10または11に係る前駆体組成物を加熱により前記炭化ケイ素含有材料に変換する方法。
【請求項13】
前記炭化ケイ素含有材料への前記前駆体組成物の変換がアディティブマニュファクチャリングプロセスにおいて実行される、請求項12記載の方法。
【請求項14】
請求項7に従属する限りにおいて、前記炭化ケイ素含有材料はバッテリ電極の電極材料である、請求項12記載の方法。
【請求項15】
請求項12ないし14のいずれか一項に係る方法によって製造された炭化ケイ素含有材料。
【請求項16】
請求項6に従属する限りにおいて、さらに前記ドーパントまたは合金材料を含む、請求項15記載の炭化ケイ素含有材料。
【請求項17】
金属、Al、B、およびNを、それぞれ10ppm以下の量、好ましくは5ppm以下含み、ドーパントまたは合金材料が添加されている場合にはその添加量を超えて含む、請求項15または16記載の炭化ケイ素含有材料。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本発明は、炭化ケイ素含有材料およびその製造(そのような製造方法に用いるための前駆体組成物およびそのような前駆体組成物の製造方法を含む)に関する。
【0002】
周知のデグサ法(Degussa process)では、炭素熱反応により、SiOとCとの乾燥混合物からSiCが生産される。具体的には、炭素熱還元により、二酸化ケイ素を含有する化合物から炭化ケイ素が生産される。特に、砂、各種シリカ、またはシラン加水分解物は、二酸化ケイ素含有化合物として使用可能である。糖またはフェノール樹脂などの有機バインダ系は、炭素熱還元用の炭素含有材料として用いられることが多い。通常、このために、二酸化ケイ素および炭素含有材料は、1400°Cを超える温度に加熱される。粒子状の二酸化ケイ素の使用により生産されるのは、通常、炭化ケイ素層または炭化ケイ素顆粒である。
【0003】
しかし、デグサ法(Degussa process)は、実際には十分な効果をあげていない。使用されるSiO-C混合物はゆるくて、反応物が互いに離れすぎているため、SiCへの炭素熱反応が不完全にしか進行しない。反応によりCOおよびCOが大量に生じ、生産されたSiCには過剰なSiが残存する。このことは、品質、経済性、およびエコロジーの観点から満足のいくものではない。
【0004】
また、アディティブマニュファクチャリングを用いた、炭化ケイ素を含有する構造体の製造も知られている。例えば、炭化ケイ素を含有する構造体は、レーザ誘起いわゆる選択的合成結晶化によるパウダーベッドプロセスを用いることによって、ケイ素および炭素を含有する前駆体から作製することができる。選択的合成結晶化については、例えば、独国特許出願公開第102017110362号明細書および独国特許出願公開第102015105085号明細書に開示されている。このプロセスでは、シラン加水分解物および糖類と、場合によっては他の添加物と、をベースとした前駆体顆粒が、パウダーベッドに使用されて、レーザビームによって選択的に炭化ケイ素または炭化ケイ素合金に変換される。ゾルゲルプロセスにおいて、例えば、シリケート、糖溶液、アルコール、および他の添加物を混合してゾルを形成して、それを約70°Cでゲル化することにより、前駆体顆粒が生産される。その後、約200°Cで乾燥、約1000°Cで熱分解する。
【0005】
電極、特にリチウムイオンバッテリ用のアノードは、ナノまたはマイクロ結晶SiC、またはアモルファスSiCから作製することができる。バッテリ効率を向上させるには、例えばナノまたはマイクロ構造のSiCを用いることによって、表面積を増大させ、リチウムをより効率的に電極材料に混入させることが目標とされる。一例として、連続気泡発泡体を形成する互いにつながった炭化ケイ素繊維で作られたナノ構造の炭化ケイ素発泡体が挙げられる。反応条件、特に炉内の温度レジームに応じて、分離した炭化ケイ素繊維またはナノ構造の炭化ケイ素含有発泡体のいずれかを、適切な前駆体材料から得ることができる。シラン加水分解物および糖を含有する前駆体顆粒からそのような電極材料を製造するための方法が独国特許出願公開第102014116868号明細書に記載されている。独国特許出願公開第102017114243号明細書には、炭化ケイ素を含有する繊維および発泡体を液体または気体の前駆体から製造するための、対応する方法が記載されている。
【0006】
しかしながら、炭素源として糖を含有する前駆体の使用には不都合がある。糖、特に液糖溶液を前駆体顆粒の製造に使用することにより、シリコン含有の出発材料との良好で均質な混合が実現されるが、糖は、水素および酸素の含有量が多いため、炭素熱還元プロセスの分解反応中にガスを大量に放出する傾向がある。これらのガスのほとんどは、COやメタンなどの、気候に悪影響を与えるガスである。これは、確実な資源浪費にもつながる。強力なガスの生成によって炭化ケイ素の部位選択的な堆積がより困難になるため、ガスの放出は、炭化ケイ素の部位選択的な形成および堆積によるアディティブマニュファクチャリングの妨げにもなる。
【0007】
窒化ケイ素製造の隣接分野では、米国特許出願公開第2020/0038955号明細書が、窒素雰囲気中、パウダーベッド内に少量の黒鉛が存在する状態において、レーザ照射によって砂状の二酸化ケイ素を窒化ケイ素および一酸化炭素に変換する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】独国特許出願公開第102017110362号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第102015105085号明細書
【特許文献3】独国特許出願公開第102014116868号明細書
【特許文献4】独国特許出願公開第102017114243号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2020/0038955号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記従来の技術に鑑み、本発明は、炭化ケイ素含有材料およびその製造方法、並びに、そのような製造方法で使用するための前駆体組成物および前駆体組成物を製造するための方法であって、より効率的で、生成される炭化ケイ素含有材料の特性をより正確に制御可能とするものを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題の解決は、添付の特許請求の範囲において特定された、炭化ケイ素含有材料、方法および前駆体組成物により達成される。
【0011】
本発明は、ナノスケールの二酸化ケイ素およびナノスケールの炭素、特に高多孔質のヒュームドシリカ(より正確には、ヒュームド二酸化ケイ素)およびカーボンブラック粒子を、本発明に係る方法において広範囲に混合することができ、これらの混合物が、炭化ケイ素製造のための効率的な前駆体組成物または前駆体として適しているとの知見に基づく。具体的には、これらの材料を固体混合物に使用することを困難にさせるシリカ粒子の静電気帯電が、導電性カーボンブラックの使用によって回避される。
【0012】
ナノスケールのヒュームドシリカに炭素を空間的に特に高密度に付着させることにより、SiOの最適な炭素熱還元が可能となる。このようにして、資源・環境的に優しい方法で高品質のSiCを生成することができる。SiOとCとが空間的に近接していないことによる従来のCOおよびCO発生も、例えば糖の分解からの他のガスの有害な発生も防止される。原料およびエネルギがより効率的に使用され、有害な温室効果ガスの発生が少なく、生産されるSiCは、不純物が少なくその構造が制御しやすいので、より高品質である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施形態を説明する。実施形態には、炭化ケイ素含有材料製造用の前駆体として前駆体組成物を製造する方法、そのように製造された前駆体組成物自体、前駆体組成物の使用により炭化ケイ素含有材料を製造する方法、およびこれにより製造された炭化ケイ素含有材料が含まれる。
【0014】
前駆体組成物を製造する方法:
【0015】
粉末状のナノスケールSiOおよびナノスケールのカーボンは、前駆体組成物製造用の出発材料として機能する。SiOおよび炭素は、それぞれ、約5~100nmの大きさ(それぞれの粒子の最大直径)の粒子(一次粒子)で存在する。
【0016】
ナノスケールのSiOの例としては、AEROSIL、HDKまたはCAB-O-SILの商品名で販売されているものなどのヒュームドシリカがあげられる。
【0017】
ナノスケールカーボンの例としては、カーボンブラック、すなわち粒子サイズが最大約100nmの炉煤などの工業用カーボンブラックがあげられる。カーボンブラックは導電性であることが有利であり、これにより、混合物中のシリカ粒子の静電気帯電が防止され、比較的高密度の混合物が得られる。したがって、高い粉末導電性、すなわち、粉末の比抵抗が5×10-2Ω・cm以下、好ましくは1×10-2Ω・cm以下の高導電性カーボンブラックが好ましい。カーボンブラックは特に調達が経済的であるが、上述の特性を有するグラフェンまたはカーボンナノチューブも使用することができる。
【0018】
まず、2つのナノスケール成分であるSiOおよびC、この例ではヒュームドシリカ およびカーボンブラックを、望ましい物質量比(Stoffmengenverhaeltnis)で混合する。好ましい質量比は、SiO(ヒュームドシリカ)1部に対してC(カーボンブラック)2.4~3.1部である。その結果、従来技術におけるゾルまたはゲルとは対照的なナノスケールの物質混合物が得られる。
【0019】
その後、粉末状の混合物に溶剤を加える。アルコール、好ましくはエタノールなどの揮発性の高い溶剤が好ましい。溶剤の量は、確実に、得られる混合物が容易に攪拌できて良好な混合性が実現されるのに十分である限り、重要ではない 。実際の量はSiOの比表面積に応じて定まる。SiO粒子のBETによる比表面積が通常約200m/gであれば、SiO1質量部に対してエタノール約2.2~3質量部を加えることができる。混合性は、C粒子(カーボンブラック)をSiO粒子(ヒュームドシリカ)内へと洗い流すのに役立つ。この機能には、C粒子(カーボンブラック)のナノスケールが特に重要である。
【0020】
2つの成分であるSiOおよびCを最初に混合し、次に溶剤を加えるという上述のシーケンスでは、成分の電気的特性が利用されて、乾燥段階ですでに良好な混合が可能であり、その後、溶剤の適用により最適化される。溶剤が一方の成分と良好に混合可能であり、かつ、このために必要ないずれの安定剤が、その後に製造される炭化ケイ素含有材料に、許容できない特性をもたらさないならば、シーケンスを変更して、一方の成分を最初に溶剤と混合してから他方の成分を加えることもできる。
【0021】
原理上、水も使用可能な溶剤である。しかし、例えば電子機器およびバッテリの製造などの多くの用途において要求される純度を水で実現するのはより手間がかかる。
【0022】
どのようなドーパントまたは合金材料も、必要に応じて溶剤とともに前駆体組成物に導入することができ、それらは、その後前駆体組成物から製造される炭化ケイ素含有材料に含有されることになる。
【0023】
溶媒中の2つの成分(このケースでは、ヒュームドシリカおよびカーボンブラック)の混合物を連続的に攪拌する。継続的な攪拌により、最初にカーボンブラックが巨視的にヒュームドシリカの高多孔質SiOナノ構造内へと押し流され、2つの成分の優れた浸透が確保される。
【0024】
次のステップでは、混合物を、好ましくは連続的な攪拌下において乾燥させる。プロセス制御に応じて、乾燥ステップにより、前駆体組成物のナノスケールからマイクロスケールの粒子と、その後生成される対応サイズスケールSiCと、が得られる。例えば、 ナノスケールSiCはバッテリアノードに有利であり、マイクロスケールSiCはAM(アディティブマニュファクチャリング)に有利である。乾燥中に気相に変移した溶剤を蒸留または再凝結よって回収することが好ましい。
【0025】
多くの用途に好ましい前駆体組成物のナノスケールの粒子を形成するためには、乾燥ステップにおいて、混合物を最高約100°Cまたはほんのわずかに上回る温度に加熱する。ナノスケールの前駆体粒子またはそれから得られるナノスケールのSiCの乾燥ステップにおける対応プロセスパラメータ(Prozesseckwerte)は、比較的急速な攪拌、および、最終温度が低く、経時的な温度勾配が小さな加熱である。ここで、急速な攪拌とは、毎分約2~10回転で攪拌することを意味する。最終温度が低く、温度勾配が小さいということは、溶剤が実質的にそれ以上逃げないので混合物が乾燥しているように見えるまで、最初、混合物を約100°Cで攪拌することを意味する。しかし、粒子にはそのときまだ、後で凝集を引き起こす可能性がある残留水分が含まれている。これは、温度をゆっくりと、通常約1時間以内に最高約150°Cまたは好ましくは最高120°Cまでさらに上昇させることにより除去される。炭素がCOに酸化されるのを防止するために、それ以上の高温は避ける必要がある。混合物が配置された反応器内をわずかに負圧にすることは、除湿を促進するとともに、できるだけ少ない酸素しか存在しないようにするのに有益である。不活性ガス下でプロセスを実行することもこれをサポートする。
【0026】
3分間に約1回転でゆっくりと攪拌しながら、溶剤を、最高250°C好ましくは最高200°Cのより高温で最初により早く蒸発させると、前駆体組成物のマイクロスケール粒子が得られる。これは、SiO粒子が結合してより大きな粒子を形成するためである。さらにより広範な凝集を防止して粒子サイズを制御するために、残留水分も、これらの粒子から除去する必要がある。このために、溶剤の最初の蒸発後、大きくなった粒子から残留水分も逃げるまで約2時間乾燥を継続する。
【0027】
このようにして乾燥させた混合物は前駆体組成物であり、この前駆体組成物から、炭化ケイ素含有材料を、以下においてさらに説明する方法のステップにより製造することができる。
【0028】
ここでは、公知のプロセスにおいてのような約1000°Cでの熱分解は起こらない。熱分解の重大な欠点は、粒子のナノスケールの性質が失われることである。使用するSiO粒子がナノスケールの寸法を有する場合であっても、特に糖などの炭水化物を炭素源として用いる場合、熱分解中、これは保持されない。これは、乾燥プロセス中にSiO粒子が互いにくっついて徐々に大きな粒子を形成し、熱分解中に硬化するからである。本明細書で説明した方法では、これは、カーボンブラックなどのナノスケールカーボンを炭素源として用いることにより、および/または、ナノスケールSiO2およびナノスケールカーボンからの前駆体組成物の製造中の温度が、700°Cを超えない、好ましくは400°Cを超えない、さらに好ましくは250°Cを超えないこと、またはナノスケールの粒子を形成する場合に150°Cを超えないことにより回避される。
【0029】
他の利点は、ナノスケールSiOおよびナノスケールカーボンからの前駆体の製造および前駆体への合金またはドープ剤の導入のいずれにも化学反応が必要でないことである。したがって、合金およびドーパントは、その後のSiC材料で必要とされるような純粋な元素・物質として混合物に導入することができる。したがって、製造された混合物は、2つの成分であるSiOaおよびCと、溶剤と、必要に応じて合金およびドーピング材料と、からなることが好ましい。
【0030】
前駆体組成物:
【0031】
上述の方法により製造された前駆体組成物は、主に、カーボンが埋め込まれたヒュームドシリカのナノスケール(または、乾燥中の温度がより高い特定の変例形ではマイクロスケール)の粒子(一次粒子)を含み、必要に応じて、添加されたドーパントおよび合金化材料を含む。ナノスケール粒子は、5~1000nmの範囲、通常約20~200または1000nmの範囲の粒子サイズを有する。マイクロスケール粒子は、1~1000μm、通常約1または20~200μmの範囲の粒子サイズを有する。
【0032】
したがって、本前駆体組成物の粒子は、公知の前駆体組成物の顆粒よりもはるかに小さい。
【0033】
さらに、本前駆体組成物は、ナノスケールカーボン(工業用カーボンブラック)からではなく炭素源としての糖または有機バインダ系などの材料から作られる公知の前駆体よりも、はるかに純度が高い。金属、Al、BまたはNの不純物など、意図的に添加された上述のドーパントまたは合金化剤を超える不可避の不純物(残留不純物)は、それぞれ数ppmの量、通常10ppm以下、好ましくは5ppm以下の量しか存在していない。
【0034】
炭化ケイ素含有材料を製造するための方法、およびそのような方法で製造された炭化ケイ素含有材料:
【0035】
本明細書に開示された前駆体組成物は、炭化ケイ素含有材料を製造するための公知の方法において、公知の前駆体の代わりに用いることができる。
【0036】
これらの方法において、前駆体組成物は、約1400°Cから2000°C、好ましくは1700°Cから1900°Cの温度に加熱され、反応してSiCを形成する。主に固体拡散が起きて、CがSiOに拡散し、SiCが炭素熱反応で形成される。SiCは、気相でも形成することができ、プロセスに応じて、その場でまたは気相からある程度の移動後に堆積させることができる。
【0037】
例えば、本前駆体組成物は、アディティブマニュファクチャリング、例えば、独国特許出願公開第102017110362号明細書および独国特許出願公開第102015105085号明細書に係るレーザ誘起選択的合成結晶化を用いたパウダーベッドプロセスにおいて、前駆体顆粒の代わりに有利に使用される。本前駆体組成物は、ナノスケール構造であり、シリコンおよびカーボンが近接しているため、顆粒状の前駆体が用いられる場合よりも、レーザビームに曝されたときのガス発生がより少なく、レーザビームの効果がビーム照射位置によりはっきりと限定される。このことは、より精密な構造を、一貫して高い品質で製造可能であることを意味する。
【0038】
本前駆体組成物はまた、例えば独国特許出願公開第102014116868号明細書に係る制御加熱反応器内でバッテリ電極用の電極材料を製造する場合においても、前駆体顆粒の代わりに有利に用いられる。電極、特にリチウムまたはナトリウムイオンバッテリ用のアノードは、この方法で製造される。反応条件、特に温度レジームに応じて、ナノまたはマイクロ結晶質の炭化ケイ素、分離した炭化ケイ素繊維、またはナノ構造の炭化ケイ素含有発泡体を得ることができる。特に好ましい方法は、二酸化ケイ素およびカーボンブラック粒子の粉末状混合物の前駆体組成物からの気相堆積による、炭化ケイ素のアノード材料としてのナノ構造の炭化ケイ素発泡体の製造である。
【0039】
特に本前駆体組成物におけるナノスケール構造およびシリコンとカーボンとの近接性により、このようにして得られた炭化ケイ素材料および生成物は、公知の前駆体で生成したものよりも、より均質で、より均一な構造であり、より高品質である。さらに、前駆体組成物がより高純度であるために、それらも特に純度が高い。金属、Al、BまたはNの不純物など、ドーパントまたは合金元素に加えて残留する不純物は、材料中に、それぞれ数ppm、通常10ppm以下、好ましくは5ppm以下の量しか含まれない。このようにして、例えば、高純度のβ-SiCを製造することができる。
【0040】
これにより、応用範囲が広がり、生成された炭化ケイ素含有材料を、インゴットまたはウェハ製造用の高純度な出発材料として使用することができ、そこで、Pドープすることもでき、あるいは、バッテリアノード材料またはSiCによるワークピースコーティングとしても使用することができる。また、本明細書に開示された特性を有する前駆体組成と炭化ケイ素含有材料と生成物とは、開示された製造方法から独立して有利である.
【0041】
本明細書に開示された方法は容易に産業規模で適用可能である。

【国際調査報告】