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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-31
(54)【発明の名称】DSG2組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 19/00 20060101AFI20241024BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20241024BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20241024BHJP
   A61P 9/06 20060101ALI20241024BHJP
   A61P 9/04 20060101ALI20241024BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20241024BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241024BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20241024BHJP
   C07K 14/705 20060101ALI20241024BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20241024BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20241024BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20241024BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20241024BHJP
   C12N 15/62 20060101ALN20241024BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20241024BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20241024BHJP
【FI】
C07K19/00 ZNA
A61K38/17
A61K39/395 Y
A61P9/06
A61P9/04
A61P9/00
A61K39/395 N
A61P43/00 121
C07K16/18
C07K14/705
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N15/62 Z
C12N15/12
C12N15/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024525855
(86)(22)【出願日】2022-11-02
(85)【翻訳文提出日】2024-05-30
(86)【国際出願番号】 US2022079106
(87)【国際公開番号】W WO2023081674
(87)【国際公開日】2023-05-11
(31)【優先権主張番号】63/274,707
(32)【優先日】2021-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523223191
【氏名又は名称】アルバダ セラピューティクス インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】ARVADA THERAPEUTICS,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】フー、シー イン
(72)【発明者】
【氏名】タイラー、ライアン エドワード
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA87X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA44
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA07
4C084BA01
4C084BA41
4C084CA17
4C084CA18
4C084CA19
4C084NA14
4C084ZA361
4C084ZA362
4C084ZA381
4C084ZA382
4C084ZC751
4C085AA21
4C085AA33
4C085BB11
4C085BB33
4C085BB34
4C085BB35
4C085BB36
4C085BB37
4C085BB41
4C085BB42
4C085EE01
4C085GG02
4C085GG04
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045EA23
4H045FA74
4H045GA22
4H045GA26
(57)【要約】
本開示は主に、本願に開示される組成物を投与することによって疾患を治療する組成物及び方法に関する。本願では、DSG2融合ポリペプチド、及びそれに関連する方法であって、心筋細胞の機能の治療及び改善方法を含む方法が提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
デスモグレイン2(DSG2)融合ポリペプチドを含む単離されたポリペプチドであって、前記DSG2融合ポリペプチドは、
a.DSG2タンパク質の全体又は一部であって、前記DSG2タンパク質は、ホモ・サピエンス(Homo sapiens)DSG2タンパク質、ハツカネズミ(Mus musculus)DSG2タンパク質、ドブネズミ(Rattus norvegicus)DSG2タンパク質、アカゲザル(Macaca mulatta)DSG2タンパク質、イヌ(Canis lupus familiaris)DSG2タンパク質、又はゼブラフィッシュ(Danio rerio)DSG2タンパク質である、前記DSG2タンパク質の全体又は一部;及び
b.免疫グロブリンタンパク質の全体又は一部であって、前記免疫グロブリンタンパク質は、ヒト又はイヌの免疫グロブリンタンパク質である、前記免疫グロブリンタンパク質の全体又は一部
を含む、前記単離されたポリペプチド。
【請求項2】
前記DSG2タンパク質は、ホモ・サピエンスDSG2タンパク質(配列番号1)である、請求項1に記載の単離されたポリペプチド。
【請求項3】
前記DSG2タンパク質は、ハツカネズミDSG2タンパク質(配列番号14)である、請求項1に記載の単離されたポリペプチド。
【請求項4】
前記DSG2タンパク質は、ドブネズミDSG2タンパク質(配列番号15)である、請求項1に記載の単離されたポリペプチド。
【請求項5】
前記DSG2タンパク質は、アカゲザルDSG2タンパク質(配列番号16)である、請求項1に記載の単離されたポリペプチド。
【請求項6】
前記DSG2タンパク質は、イヌDSG2タンパク質(配列番号17)である、請求項1に記載の単離されたポリペプチド。
【請求項7】
前記DSG2タンパク質は、ゼブラフィッシュDSG2タンパク質(配列番号18)である、請求項1に記載の単離されたポリペプチド。
【請求項8】
前記DSG2ポリペプチドは、前記DSG2タンパク質の一部を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の単離されたポリペプチド。
【請求項9】
前記DSG2タンパク質の一部は、前記DSG2タンパク質の細胞外領域の全体又は一部である、請求項8に記載の単離されたポリペプチド。
【請求項10】
前記DSG2タンパク質の一部は、前記DSG2タンパク質の細胞外領域の全体である、請求項3に記載の単離されたポリペプチド。
【請求項11】
前記DSG2融合ポリペプチドは、免疫グロブリンタンパク質の一部を含む、請求項1に記載の単離されたポリペプチド。
【請求項12】
前記免疫グロブリンタンパク質は、IgG、IgM、IgA、IgD、又はIgEから選択される、請求項11に記載の単離されたポリペプチド。
【請求項13】
前記免疫グロブリンタンパク質はIgEである、請求項12に記載の単離されたポリペプチド。
【請求項14】
前記免疫グロブリンはIgGである、請求項12に記載の単離されたポリペプチド。
【請求項15】
前記IgGはIgG1、IgG2、IgG3、又はIgG4である、請求項14に記載の単離されたポリペプチド。
【請求項16】
前記免疫グロブリンタンパク質の一部は、Fc領域、Fab領域、重鎖可変(VH)ドメイン、重鎖定常ドメイン、軽鎖可変(VL)ドメイン、又は軽鎖定常ドメインである、請求項11~15のいずれか一項に記載の単離されたポリペプチド。
【請求項17】
前記免疫グロブリンタンパク質の一部はFc領域である、請求項14~16のいずれか一項に記載の単離されたポリペプチド。
【請求項18】
前記Fc領域はヒトFc領域であり、前記ヒトFc領域は、ヒトIgG1Fc領域(配列番号5)、ヒトIgG2Fc領域(配列番号7)、ヒトIgG3Fc領域(配列番号9)、又はヒトIgG4Fc領域(配列番号11)である、請求項14~17のいずれか一項に記載の単離されたポリペプチド。
【請求項19】
前記Fc領域はイヌFc領域であり、前記イヌFc領域は、イヌIgG重鎖DFc領域(配列番号20)、イヌIgG重鎖AFc領域(配列番号22)、イヌIgG重鎖BFc領域(配列番号24)、又はイヌIgG重鎖CFc領域(配列番号26)である、請求項14~18のいずれか一項に記載の単離されたポリペプチド。
【請求項20】
前記免疫グロブリンタンパク質の一部は重鎖定常領域である、請求項16に記載の単離されたポリペプチド。
【請求項21】
前記重鎖定常はヒト重鎖定常領域であり、前記ヒト重鎖定常領域は、ヒトIgG1重鎖定常ドメイン(配列番号4)、ヒトIgG2重鎖定常ドメイン(配列番号6)、ヒトIgG3重鎖定常ドメイン(配列番号8)、又はヒトIgG4重鎖定常ドメイン(配列番号10)である、請求項20に記載の単離されたポリペプチド。
【請求項22】
前記重鎖定常はイヌ重鎖定常領域であり、前記イヌ重鎖定常領域は、イヌIgG重鎖定常ドメイン鎖D(配列番号19)、イヌIgG重鎖定常ドメイン鎖A(配列番号21)、イヌIgG重鎖定常ドメイン鎖B(配列番号23)、又はイヌIgG重鎖定常ドメイン鎖C(配列番号25)である、請求項20に記載の単離されたポリペプチド。
【請求項23】
前記DSG2融合ポリペプチドはリンカーをさらに含む、請求項1~22のいずれか一項に記載の単離されたポリペプチド。
【請求項24】
前記リンカーの長さは、約5アミノ酸から約50アミノ酸までである、請求項23に記載の単離されたポリペプチド。
【請求項25】
前記リンカーはGGGGS(配列番号12)、EAAAK(配列番号13)、GGGGS(配列番号27)、又はIEGRMD(配列番号28)である、請求項24に記載の単離されたポリペプチド。
【請求項26】
前記DSG2融合ポリペプチドはアフィニティタグをさらに含む、請求項1~25のいずれか一項に記載の単離されたポリペプチド。
【請求項27】
DSG2タンパク質の細胞外領域全体は、配列番号3のアミノ酸配列を含む、請求項10に記載の単離されたポリペプチド。
【請求項28】
前記DSG2タンパク質の一部は、前記DSG2タンパク質の細胞外領域の一部である、請求項9に記載の単離されたポリペプチド。
【請求項29】
前記DSG2タンパク質の細胞外領域の一部は、細胞外カドヘリンドメイン1(EC1)、細胞外カドヘリンドメイン2(EC2)、細胞外カドヘリンドメイン3(EC3)、細胞外カドヘリンドメイン4(EC4)、及び細胞外アンカードメイン(EA)からなる群から選択される少なくとも1つのドメインを含む、請求項6に記載の単離されたポリペプチド。
【請求項30】
請求項1~29のいずれか一項に記載の単離されたポリペプチドを発現する細胞。
【請求項31】
心筋細胞における催不整脈性表現型を低減する方法であって、前記心筋細胞を請求項1~29のいずれか一項に記載のDSG2融合ポリペプチドと接触させることを含む方法。
【請求項32】
前記催不整脈性表現型は抗DSG2抗体に関連している、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
心筋細胞の電気的機能を改善する方法であって、前記心筋細胞を請求項1~29のいずれか一項に記載のDSG2融合ポリペプチドと接触させること、及び心筋細胞ナトリウムスパイク(μV/m)を測定することを含み、前記DSG2融合ポリペプチドとの接触後の前記ナトリウムスパイクの上昇は、心筋細胞の電気的機能の改善の指標である、方法。
【請求項34】
前記心筋細胞は抗DSG2抗体にあらかじめ曝露されている、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
血清DSG2自己抗体に関連する状態を治療する方法であって、対象を請求項1~29のいずれか一項に記載の単離されたポリペプチド又は請求項30に記載の細胞と接触させることを含む方法。
【請求項36】
対象における不整脈及び/又は心筋症を治療する方法であって、
対象を請求項1~29のいずれか一項に記載の単離されたポリペプチド又は請求項30に記載の細胞と接触させること、及び
動悸、めまい、立ちくらみ、失神、心不全、及び駆出率の低下からなる群から選択される不整脈に関連する1つ以上の症状を測定すること、及び/又は
不整脈、動悸、立ちくらみ、めまい、失神、心筋炎、心不全、心拍出量の低下、及び駆出率の低下からなる群から選択される心筋症に関連する1つ以上の症状を測定すること
を含む方法。
【請求項37】
前記不整脈及び/又は心筋症は不整脈原性右室心筋症である、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記不整脈及び/又は心筋症はサルコイドーシスに関連している、請求項36に記載の方法。
【請求項39】
前記不整脈及び/又は心筋症は拡張型心筋症である、請求項36に記載の方法。
【請求項40】
前記不整脈及び/又は心筋症は血清抗DSG2抗体に関連している、請求項36に記載の方法。
【請求項41】
対象における心臓異常を治療する方法であって、前記対象を請求項1~29のいずれか一項に記載の単離されたポリペプチド又は請求項30に記載の細胞と接触させることを含み、前記対象の血清は抗DSG2抗体を含む、方法。
【請求項42】
対象における抗DSG2抗体を減少させる方法であって、
(i)前記対象を請求項1~29のいずれか一項に記載の単離されたポリペプチド又は請求項30に記載の細胞と接触させること、及び
(ii)前記対象における抗DSG2抗体のレベルを測定すること
を含み、前記対象を前記単離されたポリペプチドと接触させることが、前記抗DSG2抗体のレベルを低下させる、方法。
【請求項43】
前記抗DSG2抗体は、約1%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、又は100%減少する、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
請求項1~29のいずれか一項に記載の単離されたポリペプチド及び少なくとも1つの治療剤を含む組成物。
【請求項45】
前記少なくとも1つの治療剤は抗CD20抗体である、請求項44に記載の組成物。
【請求項46】
前記少なくとも1つの治療剤はFcRn阻害抗体である、請求項44に記載の組成物。
【請求項47】
前記少なくとも1つの治療剤は静脈内免疫グロブリン(IVIG)である、請求項44に記載の組成物。
【請求項48】
前記少なくとも1つの治療剤はエクリズマブである、請求項44に記載の組成物。
【請求項49】
血清抗DSG2自己抗体に関連する症状を治療する方法であって、前記対象を請求項1~29のいずれか一項に記載の単離されたポリペプチド、少なくとも1つの治療剤、又はそれらの組み合わせと接触させることを含む方法。
【請求項50】
前記対象は前記少なくとも1つの治療剤と接触する、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記少なくとも1つの治療剤は抗CD20抗体である、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記少なくとも1つの治療剤はFcRn阻害抗体である、請求項50に記載の方法。
【請求項53】
前記少なくとも1つの治療剤は静脈内免疫グロブリン(IVIG)である、請求項50に記載の方法。
【請求項54】
前記少なくとも1つの治療剤はエクリズマブである、請求項50に記載の方法。
【請求項55】
抗デスモグレイン2(DSG2)自己抗体に起因する疾患又は障害の治療に使用するための医薬組成物であって、前記医薬組成物は、
DSG2の細胞外ドメインへの抗DSG2抗体の結合を阻害する融合ポリペプチドを含み、前記融合ポリペプチドは、
配列番号1のアミノ酸残基50~609と少なくとも約85%の配列同一性を有するヒトDSG2タンパク質の細胞外領域、又はその一部と、アフィニティタグとを含む、医薬組成物。
【請求項56】
前記ヒトDSG2タンパク質の前記細胞外領域の一部は、細胞外カドヘリンドメイン1(EC1)、細胞外カドヘリンドメイン2(EC2)、細胞外カドヘリンドメイン3(EC3)、細胞外カドヘリンドメイン4(EC4)、及び細胞外アンカードメイン(EA)からなる群から選択されるDSG2ドメインのいずれか1つ又は組み合わせを含む、請求項55に記載の医薬組成物。
【請求項57】
前記アフィニティタグは免疫グロブリンのFc領域である、請求項55又は56に記載の医薬組成物。
【請求項58】
前記免疫グロブリンはIgG1又はIgG4である、請求項57に記載の医薬組成物。
【請求項59】
前記免疫グロブリンは、配列番号31の配列を有するIgG1のバリアントである、請求項57に記載の医薬組成物。
【請求項60】
前記免疫グロブリンは、配列番号32の配列を有するIgG4のバリアントである、請求項57に記載の医薬組成物。
【請求項61】
前記アフィニティタグはポリヒスチジンタグである、請求項55又は56に記載の医薬組成物。
【請求項62】
ヒトDSG2タンパク質の細胞外領域又はその一部と前記アフィニティタグとの間に位置するリンカー配列をさらに含む、請求項55~61のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項63】
前記リンカー配列は、配列番号12、13、27、又は28である、請求項62に記載の医薬組成物。
【請求項64】
前記疾患又は障害は不整脈及び/又は心筋症である、請求項55~63のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項65】
前記不整脈及び/又は心筋症は、不整脈原性右室心筋症(ARVC)、サルコイドーシス、COVID-19の急性後遺症、又は拡張型心筋症である、請求項64に記載の医薬組成物。
【請求項66】
前記不整脈及び/又は心筋症は、ウイルスによって近位又は遠位で引き起こされる、請求項64又は65に記載の医薬組成物。
【請求項67】
前記ウイルスは、SARS-CoV2、アデノウイルス、肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、パルボウイルス、単純ヘルペスウイルス、エコーウイルス、エプスタイン・バーウイルス、風疹、サイトメガロウイルス、又はHIVである、請求項66に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
配列表
本願は、WIPO標準ST26に従ったXML形式の配列表とともに提出されている。10383-108749-04.xmlというタイトルの配列表ファイルは、2022年10月24日に作成され、サイズは48,369バイトである。配列表の電子形式の情報は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
病気の進行を調節する因子の中でも、免疫系の調節不全は中心的な役割を果たしていると考えられている。免疫系は、傷害や抗原に対する反応の個人差が大きいことを特徴とする、高度に制御された多細胞の複雑な防御システムで構成されている。生理学的状態においては、自己の構成要素と外来の構成要素とを区別するようにプログラムされており、外来のものと認識された構造と相互作用して排除する。このプロセスは、自己組織が攻撃される病的な状況に変化することがあり、これは自己免疫疾患を引き起こし得る。
【0003】
循環自己抗体は心臓病と重大な関連があると言われている。それらの普及率、作用機序、及び潜在的な治療調節が徹底的に調査されている。心筋の損傷が重要な開始イベントであると考えられているが、遺伝的素因、環境及びエピジェネティック調節因子、及びその他のまだ不明のメカニズムが、末梢血で観察される病的な抗体価の発現や心筋構造の炎症の強度に重要である。Caforioらは前向き研究で、循環する抗心臓自己抗体が疾患の発現に先行し、疾患発症の独立した予測因子となる可能性があることを示した(非特許文献1;その内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。
【0004】
現在、疾患、特に心臓病に関連する自己抗体を治療及び/又は管理するための治療戦略が欠如している。本開示は、心臓疾患、感染症などであるがこれらに限定されない疾患を治療するための、DSG2融合ポリペプチドベースの組成物及び方法を提供する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Caforio et al.Circulation.2007;115:76-83
【発明の概要】
【0006】
本開示は、単離されたポリペプチドを含む組成物を提供する。本開示のポリペプチドは、DSG2タンパク質の全体又は一部を含み得る。いくつかの実施形態では、単離されたポリペプチドは、デスモグレイン2(DSG2)融合ポリペプチドである。DSG2融合ポリペプチドは、(a)DSG2タンパク質の全体又は一部、及び/又は(b)免疫グロブリンタンパク質の全体又は一部を含み得る。DSG2タンパク質は、ホモ・サピエンス(Homo sapiens)DSG2タンパク質、ハツカネズミ(Mus musculus)DSG2タンパク質、ドブネズミ(Rattus norvegicus)DSG2タンパク質、アカゲザル(Macaca mulatta)DSG2タンパク質、イヌ(Canis lupus familiaris)DSG2タンパク質、又はゼブラフィッシュ(Danio rerio)DSG2タンパク質であり得る。免疫グロブリンタンパク質は、ヒト又はイヌの免疫グロブリンタンパク質であり得る。
【0007】
一実施形態では、前記DSG2タンパク質は、ホモ・サピエンスDSG2タンパク質(配列番号1)であり得る。一実施形態では、前記DSG2タンパク質は、ハツカネズミDSG2タンパク質(配列番号14)であり得る。一実施形態では、前記DSG2タンパク質は、ドブネズミDSG2タンパク質(配列番号15)であり得る。一実施形態では、前記DSG2タンパク質は、アカゲザルDSG2タンパク質(配列番号16)であり得る。一実施形態では、前記DSG2タンパク質は、イヌDSG2タンパク質(配列番号17)であり得る。一実施形態では、前記DSG2タンパク質は、ゼブラフィッシュDSG2タンパク質(配列番号18)であり得る。
【0008】
一実施形態では、前記DSG2ポリペプチドは、DSG2タンパク質の一部を含み得る。前記DSG2タンパク質の一部は、DSG2タンパク質の細胞外領域を含み得る。いくつかの態様では、DSG2の細胞外領域全体が前記融合ポリペプチドに含まれ得る。一実施形態では、DSG2の細胞外領域全体は、配列番号3のアミノ酸配列を含む。本開示の実施形態は、DSG2の細胞外領域の一部も含み得る。例えば、前記細胞外領域の一部は、細胞外カドヘリンドメイン1(EC1)、細胞外カドヘリンドメイン2(EC2)、細胞外カドヘリンドメイン3(EC3)、細胞外カドヘリンドメイン4(EC4)、及び/又は細胞外アンカードメイン(EA)であり得る。いくつかの態様では、DSG2融合ポリペプチドは細胞外領域の2つのドメインを含む。例えば、前記2つのドメインは、EC4EA、EC1EC2、EC2EC3、EC3EC4、EC1EA、EC1EC3、EC2EC4、及び/又はEC3EAであり得る。いくつかの態様では、DSG2融合ポリペプチドは、細胞外領域の3つのドメインを含む。例えば、前記3つのドメインは、EC1EC3EA、EC1EC4EA、EC1EC3EA、EC3EC4EA、EC1EC2EC3、EC2EC3EC4、及び/又はEC2EC4EAであり得る。いくつかの態様では、前記DSG2融合ポリペプチドは、細胞外領域の4つのドメインを含み得る。例えば、前記3つのドメインは、EC1EC2EC4EA、EC2EC3EC4EA、EC1EC2EC3EC4EA、EC1EC2EC3EC4、及び/又はEC1EC2EC3EAであり得る。
【0009】
DSG2融合ポリペプチドは、免疫グロブリンの一部を含み得る。前記一部は、Fc領域、Fab領域、重鎖可変(VH)ドメイン、重鎖定常ドメイン、軽鎖可変(VL)ドメイン、及び/又は軽鎖定常ドメインであり得る。一態様では、免疫グロブリンの前記一部はFc領域であり得る。前記免疫グロブリンは、IgG、IgM、IgA、IgD、及び/又はIgEであり得る。非限定的な例として、前記免疫グロブリンはIgGであり得る。前記組成物は、IgG1、IgG2、IgG3、及び/又はIgG4などのIgGを含み得る。前記Fc領域は、ヒトFc領域又はイヌFc領域であり得る。本開示で有用な免疫グロブリンの一部の非限定的な例としては、ヒトIgG1Fc領域(配列番号5)、ヒトIgG2Fc領域(配列番号7)、ヒトIgG3Fc領域(配列番号9)、又はヒトIgG4Fc領域(配列番号11)、イヌIgG重鎖DFc領域(配列番号20)、イヌIgG重鎖AFc領域(配列番号22)、イヌIgG重鎖BFc領域(配列番号24)、又はイヌIgG重鎖CFc領域(配列番号26)、ヒトIgG1重鎖定常ドメイン(配列番号4)、ヒトIgG2重鎖定常ドメイン(配列番号6)、ヒトIgG3重鎖定常ドメイン(配列番号8)、又はヒトIgG4重鎖定常ドメイン(配列番号10)、イヌIgG重鎖定常ドメイン鎖D(配列番号19)、イヌIgG重鎖定常ドメイン鎖A(配列番号21)、イヌIgG重鎖定常ドメイン鎖B(配列番号23)、又はイヌIgG重鎖定常ドメイン鎖C(配列番号25)が挙げられる。
【0010】
本開示のポリペプチドは、リンカー配列をさらに含み得る。リンカーの長さは、約5アミノ酸から約50アミノ酸までであり得る。一実施形態では、リンカーはGGGGS(配列番号12)であり得る。別の態様では、リンカーは、EAAAK(配列番号13)、GGGGS(配列番号27)、又はIEGRMD(配列番号28)であり得る。
【0011】
一実施形態は、抗デスモグレイン2(DSG2)自己抗体によって引き起こされる疾患又は障害の治療に使用するための医薬組成物である。この組成物は、抗DSG2抗体のDSG2細胞外ドメインへの結合を阻害する融合ポリペプチドを含む。融合ポリペプチドは、配列番号1のアミノ酸残基50~609と少なくとも約85%の配列同一性を有するヒトDSG2タンパク質の細胞外領域又はその一部と、アフィニティタグとを含む。ヒトDSG2タンパク質の細胞外領域の一部は、細胞外カドヘリンドメイン1(EC1)、細胞外カドヘリンドメイン2(EC2)、細胞外カドヘリンドメイン3(EC3)、細胞外カドヘリンドメイン4(EC4)、及び細胞外アンカードメイン(EA)からなる群から選択されるDSG2ドメインのいずれか1つ又は組み合わせを含み得る。アフィニティタグは、IgG1などの免疫グロブリンのFc領域又はそのバリアントであり得る。バリアントは配列番号31の配列を有し得る。アフィニティタグは、IgG4のFc領域又はそのバリアントであり得る。バリアントは配列番号32の配列を有し得る。あるいは、アフィニティタグは、ポリヒスチジンペプチドなどのより小さいタンパク質又はペプチドによって提供され得る。融合ポリペプチドのいくつかの実施形態は、ヒトDSG2タンパク質の細胞外領域又はその一部とアフィニティタグとの間に位置するリンカー配列を含む。いくつかの実施形態では、リンカー配列は配列番号12、13、27又は28である。いくつかの実施形態では、疾患又は障害は、不整脈原性右室心筋症(ARVC)、サルコイドーシス、又は拡張型心筋症などの不整脈である。いくつかの実施形態では、疾患又は障害は、不整脈原性右室心筋症(ARVC)、サルコイドーシス、又は拡張型心筋症などの心筋症である。不整脈や心筋症は、SARS-CoV2、アデノウイルス、肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、パルボウイルス、単純ヘルペスウイルス、エコーウイルス、エプスタイン・バーウイルス、風疹、サイトメガロウイルス、HIVなどのウイルスによって引き起こされ得る。
【0012】
本開示は、心筋細胞における催不整脈性表現型を低減する方法を提供する。そのような方法は、心筋細胞を本開示の組成物と接触させることを含み得る。いくつかの実施形態では、催不整脈性表現型は抗DSG2抗体に関連するか、又は抗DSG2抗体によって引き起こされ得る。本開示はまた、心筋細胞を本開示の組成物と接触させることにより、催不整脈性表現型を軽減又は修正する方法も提供する。催不整脈性表現型の軽減又は修正は、心筋細胞ナトリウムスパイク(μV/m)を使用して測定され得る。本開示は、本明細書に記載の組成物を使用する治療方法も提供する。
【0013】
本開示はまた、血清DSG2自己抗体に関連する状態を治療する方法も提供する。そのような方法は、本明細書に記載された組成物、又は本明細書に記載された組成物を発現する細胞を対象に投与することを含み得る。いくつかの実施形態では、前記状態は不整脈であり得る。いくつかの実施形態では、前記状態は心筋症であり得る。いくつかの態様では、前記状態は自己免疫疾患であり得る。
【0014】
本開示は、対象における不整脈及び/又は心筋症を治療する方法を提供する。そのような方法は、対象を本開示の単離されたポリペプチド又は細胞と接触させること、続いて、心電図上の異常拍動、めまい、立ちくらみ、動悸、胸痛、息切れ、駆出率の低下、心拍出量の低下、及び/又は心不全などの不整脈に関連する1つ以上の症状又は臨床所見を測定することを含み得る。そのような方法は、対象を本開示の単離されたポリペプチド又は細胞と接触させること、続いて、不整脈、動悸、心筋炎、心不全、心拍出量の低下、及び/又は駆出率の低下などの心筋症に関連する1つ以上の症状を測定することを含み得る。非限定的な例として、心筋症は、不整脈原性右室心筋症(ARVC)、サルコイドーシス、拡張型心筋症であり得る。心筋症は、ウイルス(例えば、SARS-CoV2、アデノウイルス、肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、パルボウイルス、単純ヘルペスウイルス、エコーウイルス、エプスタイン・バーウイルス、風疹、サイトメガロウイルス、又はHIV)、細菌(ブドウ球菌、連鎖球菌、ボレリア)、寄生虫(トリパノソーマ又はトキソプラズマ)又は真菌(カンジダ、アスペルギルス、又はヒストプラズマ)によっても引き起こされ得る。いくつかの実施形態では、対象は血清中に検出可能なレベルの抗DSG2抗体を有し得る。
【0015】
本開示はまた、本明細書に記載のDSG2融合ポリペプチドを用いて対象における心臓異常を治療する方法も提供する。いくつかの実施形態では、対象は血清抗DSG2抗体を有し得る。本開示はまた、本明細書に記載のDSG2融合ポリペプチドを用いて対象における抗DSG2抗体を減少させる方法も提供する。いくつかの実施形態では、抗DSG2抗体レベルは、約1%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、又は100%減少し得る。
【0016】
本明細書では、DSG2融合ポリペプチドを含む組成物が提供される。また、本明細書では、少なくとも1つの治療剤を含む組成物も提供される。いくつかの実施形態では、本開示の組成物は、DSG2融合ポリペプチドと本明細書に記載の少なくとも1つの治療剤との組み合わせを含み得る。いくつかの実施形態では、組成物は治療剤のみを含む。治療剤の非限定的な例としては、抗CD20抗体、FcRn阻害抗体、静脈内免疫グロブリン(IVIG)、及び/又はエクリズマブなどの補体阻害剤が挙げられる。また、本明細書では、本明細書に記載のDSG2融合ポリペプチド及び/又は治療剤を使用して、血清抗DSG2自己抗体に関連する症状を治療する方法も提供される。いくつかの実施形態では、血清抗DSG2自己抗体に関連する状態は、心臓疾患又は感染症であり得る。心臓疾患は、ARVC、サルコイドーシス、拡張型心筋症、又は抗DSG2抗体に関連する任意の心臓疾患であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
前述の、ならびにその他の目的、特徴、及び利点は、添付の図面に示されているように、本開示の特定の実施形態の以下の説明から明らかになるであろう。図面は必ずしも縮尺通りではなく、本開示の様々な実施形態の原理を示すことに重点が置かれている。
図1A】DSG2FP#1を使用した抗DSG2抗体及びARVC血清の阻害率を示す。
図1B】DSG2FP#2を使用した抗DSG2抗体及びARVC血清の阻害率を示す。
図1C】DSG2FP#3を使用した抗DSG2抗体及びARVC血清の阻害率を示す。
図1D】DSG2FP#4を使用した抗DSG2抗体及びARVC血清の阻害率を示す。DSG2融合ポリペプチドをサイズ排除クロマトグラフィーにかけ、様々な画分を検査した。画分「C」は約350kDaの予測MWを有し、追加の実験に使用された。図1B図1C図1Dでは、タンパク質調製物全体(「調製物全体」)を「画分C」と比較した。
図2A】リドカインと抗DSG2抗体が、多重電極アレイ(MEA)アッセイにおいてヒトiPSC心筋細胞でのナトリウムスパイクを減衰させることを示す、電圧(μV)対時間(ミリ秒)のグラフの第1のシリーズである。ナトリウムスパイクの減衰は、DSG2FP#1(図2Aで「DSG2融合ポリペプチド」と表示)の添加によって逆転し、これは、DSG2FP#1が抗DSG2抗体のナトリウムスパイクに対する効果を完全に阻害することを示している。
図2B】ビヒクル、ウサギIgG、及び抗VCAM-1抗体の対照試験がMEAアッセイにおいてナトリウムスパイクに影響を与えないことを示す、電圧(μV)対時間(ミリ秒)のグラフの第2のシリーズである。
図3】多電極アレイ(MEA)アッセイでヒトiPSC心筋細胞に抗DSG2抗体及び抗DSG2抗体+DSG2FP#1(図3では「デコイ」と表示)を処理した後の細胞指数を示しており、DSG2FP#1が抗DSG2抗体の効果を完全に阻害することを示している。
図4A】検出アッセイにおける抗DSG2抗体信号のグラフである。
図4B】様々な群における阻害率と信号対背景比との相関関係を示す。対照群及びARVC弱い臨床データ群のデータポイントはy軸上に集まっており、これら2つの群間で信号比にほとんど差がないことを示している。
図5】電気化学的免疫測定法で評価した、一連の組換えDSG2融合タンパク質によるARVC患者血清のDSG2細胞外ドメインへの結合の阻害を示す一連の棒グラフを示す。
図6】電気化学的免疫アッセイで評価した、リンカーあり又はなしでの組換えDSG2(50-609)-IgG4Fc融合タンパク質による抗DSG2抗体のDSG2細胞外ドメインへの結合の阻害を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
詳細な説明
I.はじめに
自己抗原と呼ばれる自己タンパク質に対する自己抗体の産生は、多くの自己免疫疾患の特徴である。患者の体液中の自己抗体の免疫反応性は、自己免疫疾患が疑われる場合に重要な診断情報を提供する。自己抗体のスペクトルは、所与の自己免疫疾患に関して臨床的に有益な情報となることがよくある。一部の自己免疫疾患では、1つのみ又は少数の標的自己抗原に対する自己抗体のみが存在するが、他の状態では複数の標的に対する自己抗体が共存することもある。最も一般的な70の自己免疫疾患の間で、ゲノムにコード化されている推定20,000個のヒトタンパク質のうち約100個が、最も一般的な抗原標的を構成していると考えられている。しかし、稀な疾患において発見された自己抗体の数はますます増えており、さらなる疾患でも自己抗体関連の自己免疫が現れる可能性が高いことが示唆されている。
【0019】
多くの自己免疫疾患の治療は、利用可能な介入の有効性及び副作用の程度が様々であるため、最適というわけではない。自己免疫疾患の治療の進歩には、自己抗体が病因にどのように関与しているかなど、疾患特有の情報が必要になる。
【0020】
デスモグレイン2は、心臓カドヘリンタンパク質の1つである。カドヘリンはカルシウム依存性の接着分子であり、多くの組織において細胞間の機械的な接着を提供する。通常、3つのカルシウムイオン(合計12個)が、連続する5つの細胞外カドヘリン(EC)ドメインの各ペアの間に存在する結合モチーフのポケットに入り、反対側の細胞のカドヘリンドメインをトランス結合させるために90度の立体配座にするために必要な三日月形を提供する。この90度の立体配座は、各EC1ドメイン上のトリプトファン残基を代替カドヘリンの疎水性ポケットに同時に挿入させることができるため、結合にとって重要である。ミスセンス変異や抗体の近位細胞外DSG2ドメインへの結合などを通じてこの方向を妨げると、結合及び接着が減少し得る。Chatterjeeらは、心臓デスモグレイン2(DSG2)タンパク質に対する自己抗体がARVC患者の血清に共通する特徴であることを特定した(Chatterjee D,etal.,Eur.Heart J.2018;39(44):3932-3944;その内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。これらの自己抗体は、2つの独立した対照血清セット、及び他の形態の遺伝性心筋症の対象の血清には基本的に存在しなかったため、ARVCに特異的であった。抗DSG2抗体は、心臓に限らず器官に肉芽腫を引き起こす全身性炎症性疾患であるサルコイドーシスの一部の症例でも見つかることがある。抗DSG2抗体は、心臓病変を伴うサルコイドーシス患者にも見られる(Suna et al.2020,Eur.Heart Journal,第41巻、補足2号、2020年11月、ehaa946.2127;その内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。拡張型心筋症と診断された患者は、ARVCに関連する同じデスモソームタンパク質に変異を有し得る。これらの観察は、拡張型心筋症患者の中には、抗DSG2自己抗体によって媒介されるARVC様疾患を実際に患っているが、ARVCに関連する典型的な年齢や症状に当てはまらないため拡張型心筋症と診断されている患者がいることを示唆している。抗DSG2自己抗体は、例えば心筋に直接影響を及ぼすことが知られている感染症の状況において、心臓細胞の損傷及び活性化された免疫系の組み合わせがある場合に発生すると考えられている。したがって、抗DSG2抗体(例えば、DSG2自己抗体)を標的とする戦略は、COVID-19、COVID-19後症候群、及び/又は心臓疾患(例えばARVC)などを含むがこれらに限定されない、抗DSG2抗体の存在から生じる症状及び疾患の治療に有益であり得る。
【0021】
本開示は、抗DSG2抗体を標的とするDSG2融合ポリペプチドに関連する組成物及び方法を提供する。したがって、本開示のDSG2融合ポリペプチドは、抗DSG2抗体に関連する疾患及び/又は自己免疫反応に関連する疾患(COVID-19、COVID-19後心臓症候群、ARVCなどであるがこれらに限定されない)の治療における実行可能な治療戦略となり得る。DSG2融合ポリペプチドは、心臓細胞損傷に関連する他の疾患、例えば、限定するものではないが、不整脈性心筋症(AC)、サルコイドーシス、抗DSG2自己抗体を伴う拡張型心筋症、及び、コクサッキーウイルス、アデノウイルス、エコーウイルス、パルボウイルス、風疹、及び/又はサイトメガロウイルスによって引き起こされるものを含むがこれらに限定されないウイルス感染症などの疾患の治療にも使用され得る。
【0022】
II.組成物
いくつかの実施形態では、本開示は、DSG2融合ポリペプチドを含む組成物を提供する。本明細書に記載の組成物は、抗DSG2抗体と結合又は相互作用することができる。一実施形態では、本開示の組成物は抗DSG2抗体の活性を調節することができる。一実施形態では、本開示の組成物は、抗DSG2抗体の活性を阻害することができる。
【0023】
いくつかの実施形態では、本開示は、DSG2タンパク質を含む。いくつかの態様では、DSG2タンパク質は、DSG2タンパク質全体であってもよく、又はDSG2タンパク質の一部であってもよい。いくつかの実施形態では、DSG2タンパク質は、他の任意のタンパク質又はタンパク質の断片と融合されてもよい。
【0024】
本開示のDSG2融合ポリペプチドは、タンパク質タグを含み得る。タンパク質タグは、様々な目的で提供される組換えタンパク質に含まれるタンパク質又はペプチド配列であり、通常はN末端又はC末端に配置される。本実施形態では、タンパク質タグは主にアフィニティタグとして機能するが、発現、溶解性、生物活性、及び薬物動態特性の向上などの他の利点も提供することができる。アフィニティタグはタンパク質に付加され、アフィニティ技術を使用して粗生物学的供給源からタンパク質を精製できるようにする。アフィニティタグの例には、キチン結合タンパク質(CBP)、マルトース結合タンパク質(MBP)、ストレプトアビジン、グルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)などがある。6xHis又はヘキサヒスチジンとして知られる一般的なポリヒスチジンは、固定化された金属イオンを含むマトリックスに結合する、広く使用されているタンパク質タグである。
【0025】
可溶化タグは、特に大腸菌などの種で発現される組換えタンパク質に使用されることで、タンパク質の適切な折り畳みを助け、封入体内での凝集を防ぐ。これらのタグは、チオレドキシン(TRX)及びポリ(NANP)を含む。いくつかのアフィニティタグは、MBPやGSTのように可溶化剤としての二重の役割を有する。免疫グロブリンのFc領域も有用であり、アフィニティタグと二量体化・可溶化剤の両方として機能し、また、市販のELISAキットを使用してタンパク質発現を検出する手段を提供する。IgG-Fcタグを追加することで、タンパク質発現収量を増加させること、及び組換えタンパク質の体内薬物動態に影響を与えることもできる。
【0026】
以下に記載する例示的な実施形態のいくつかでは、融合タンパク質のタンパク質タグは、6xHisと表記される、6つの連続したヒスチジン残基を有するポリヒスチジンタグである。他の例では、タンパク質タグは、IgG1(配列番号5)又はIgG4(配列番号11)を含むIgGのFc領域である。これらの融合ポリペプチドの実施形態は、抗DSG2抗体への結合に関して活性を示す。
【0027】
DSG2融合ポリペプチドは、DSG2タンパク質全体又はDSG2タンパク質の一部と、免疫グロブリンタンパク質の全体又は一部を含むアフィニティタグを含み得る。いくつかの実施形態では、DSG2融合ポリペプチドはリンカーペプチドをさらに含み得る。いくつかの実施形態では、DSG2タンパク質の全体又は一部は、免疫グロブリンではないタンパク質に融合されてもよい。DSG2タンパク質は、TRX、ポリ(NANP)、MBP、GST、又はポリヒスチジンなどのアフィニティタグなどのタンパク質又はタンパク質の断片に融合されてもよく、これにより、in vitro又はin vivoでのDSG2タンパク質の発現及び精製を改善できる。
【0028】
いくつかの実施形態では、融合ポリペプチドのタンパク質タグはPASポリペプチドタグである。PAS配列は親水性で非荷電の生物学的ポリマーであり、ポリエチレングリコール(PEG)と非常によく似た生体物理学的特性を持ち、これを薬物に化学的に結合することは血漿半減期を延長する確立された方法である。対照的に、PASポリペプチドは遺伝子レベルで治療用タンパク質との融合を提供し、完全に活性なタンパク質の生成を可能にし、in vitroカップリング又は修飾工程を不要にする(Schlapschy et al.,Protein Eng.Des.Sei.,2013,26(8),489-501、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)。PASポリペプチドを融合タンパク質に追加するプロセスは、「PAS化」として知られている。いくつかの実施形態では、PASポリペプチドの組み込みに代わる非タンパク質タグとしてポリエチレングリコール(PEG)が使用される。PEG部分を追加するプロセスは「PEG化」として知られている。融合タンパク質の特定の実施形態のPAS化又はPEG化により、アフィニティクロマトグラフィーの代わりにサイズ排除クロマトグラフィーによって融合タンパク質を精製する能力が得られる場合がある。
【0029】
心臓細胞の介在板内のDSG2変異は、不整脈、拡張型心筋症、特にARVC(不整脈原性右室心筋症)などの心臓疾患に関係していると考えられている。Chatterjeeらは、ARVC患者の血清中に共通する特徴として、心臓DSG2タンパク質に対する自己抗体を特定した(Chatterjee D,et al.,Eur Heart J.2018;39(44):3932-3944;その内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。これらの自己抗体は、2つの独立した対照血清セット、及び他の形態の遺伝性心筋症の対象の血清には基本的に存在しなかったため、ARVCに特異的であった。本開示は、DSG2自己抗体を標的とする治療戦略としてDSG2融合ポリペプチドを提供する。いくつかの実施形態では、本開示のDSG2融合ポリペプチドは、DSG2自己抗体に結合することができる。いくつかの実施形態では、本開示のDSG2融合ポリペプチドがDSG2自己抗体に結合すると、対象における内因性DSG2への自己抗体の結合が妨げられる。本開示のこの態様では、DSG2融合ポリペプチドはデコイタンパク質又はリガンドトラップとして機能する。
【0030】
Chatterjeeらは、DSG2タンパク質は、心筋細胞の損傷又はデスモソームの変異の結果として、細胞外空間及び/又は循環中に露出又は放出されるエピトープを含み得ると提唱している。これらのエピトープの露出は、任意の心臓の損傷(例えば、限定するものではないが、感染性心筋炎及び/又は心臓外傷)によっても発生し得る。いくつかの実施形態では、本開示の組成物は、いかなる変異を含まなくてもよい。そのように放出されたDSG2タンパク質は抗原提示細胞と結合してT細胞反応を刺激し、観察された自己抗体を生成し得る。遺伝子変異による潜在性エピトープの露出は、他の形態の自己免疫に寄与する可能性がある。いくつかの実施形態では、本開示のDSG2融合ポリペプチドは、DSG2における1つ以上の変異を含むエピトープを含み得る。
【0031】
DSG2融合ポリペプチドは、可溶性及び/又は組換えポリペプチドであり得る。DSG2融合ポリペプチドのコンポーネントの配置は、適切なタンパク質発現及び/又は意図された治療効果を達成するために最適化され得る。いくつかの実施形態では、DSG2融合ポリペプチドは、本明細書に記載されるフォーマットを含み得る。ここで提供されるフォーマットは、コンポーネント間の「;」によって区切られたN末端からC末端までのコンポーネントを含む。DSG2融合ポリペプチドのフォーマットの非限定的な例としては、(i)DSG2タンパク質の全体又は一部;Fc領域、(ii)Fc領域;DSG2タンパク質の全体又は一部、(iii)DSG2タンパク質の全体又は一部;リンカー;Fc領域、(iv)Fc領域;リンカー;DSG2タンパク質の全体又は一部、(v)アフィニティタグ;DSG2タンパク質の全体又は一部、(vi)DSG2タンパク質の全体又は一部;アフィニティタグ、(vii)DSG2タンパク質の全体又は一部;リンカー;アフィニティタグ、(viii)アフィニティタグ;リンカー;DSG2タンパク質の全体又は一部が挙げられる。
【0032】
DSG2タンパク質
いくつかの実施形態では、本開示のDSG2融合ポリペプチドは、DSG2タンパク質全体を含み得る。デスモソームカドヘリンデスモグレイン2(DSG2)は、心臓や消化管などの上皮組織及び非上皮組織で発現される膜貫通細胞接着タンパク質である。DSG2は、細胞間の接着と構造の完全性を支える主要な構造であるデスモソームユニットの不可欠な部分である。DSG2は増殖及びアポトーシスを含む数多くの細胞プロセスを制御することが示されている。いくつかの実施形態では、DSG2タンパク質は、1,118個のアミノ酸からなり、配列番号1のアミノ酸配列を含むヒトDSG2タンパク質(UniProt ID:Q14126;ENSEMBL ID:ENSP00000261590.8)である。一実施形態では、DSG2タンパク質は、配列番号2(NCBI参照配列:NM_001943.5.;ENSMBL ID:ENST00000261590.13)の核酸配列によってコードされ得る。
【0033】
いくつかの実施形態では、本開示のDSG2融合ポリペプチドは、配列番号1のアミノ酸50~1118を含む完全にプロセシングされたDSG2タンパク質であり得る。
DSG2タンパク質はまた、配列番号1の配列に関して1つ以上の変異を含み得る。いくつかの実施形態では、DSG2タンパク質の変異は、疾患状態に関連する変異であり得る。一実施形態では、病状は不整脈原性右室異形成/心筋症であり得る。いくつかの実施形態では、本開示のDSG2融合ポリペプチドは、DSG2に1つ以上の変異を含むエピトープを含み得る。非限定的な例として、DSG2融合ポリペプチドは、配列番号1のアミノ酸485~531及び/又はアミノ酸586~610の領域に1つ以上の変異を含み得る。
【0034】
DSG2は細胞接着タンパク質のカドヘリンスーパーファミリーに属し、細胞外領域、膜貫通ドメイン、及び細胞内シグナル伝達領域の3つの異なる領域を共通の特徴とする。いくつかの実施形態では、DSG2の細胞外領域は、配列番号1のアミノ酸50~609である配列番号3のアミノ酸配列を有し得る。カドヘリンファミリータンパク質の細胞外領域には、カドヘリンモチーフ又はECドメインとして知られるカルシウム結合モチーフの繰り返しが様々な数で含まれている。DSG2は、本明細書ではEC1、EC2、EC3、EC4と呼ばれる4つのECドメインを含む。DSG2は、膜に近い細胞外アンカー(EA)ドメインも含む。いくつかの実施形態では、本開示のDSG2融合ポリペプチドは、DSG2の細胞外領域全体を含み得る。いくつかの態様では、DSG2融合ポリペプチドは、EC1、EC2、EC3、EC4、及び/又はEAなどであるがこれらに限定されない少なくとも1つのドメインを含み得る。いくつかの実施形態では、EC1ドメインは配列番号1のアミノ酸50~155であり得る。いくつかの実施形態では、EC2ドメインは配列番号1のアミノ酸151~268であり得る。いくつかの実施形態では、EC3ドメインは配列番号1のアミノ酸264~384であり得る。いくつかの実施形態では、EC4ドメインは配列番号1のアミノ酸382~495であり得る。いくつかの実施形態では、EAドメインは配列番号1のアミノ酸491~609であり得る。表1は、DSG2タンパク質のアミノ酸配列とDSG2の細胞外領域のアミノ酸配列を示している。いくつかの実施形態では、本開示のDSG2タンパク質は、表1の配列又は表1の配列の断片のいずれかと少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%、又は100%の同一性を有し得る。
【0035】
いくつかの実施形態では、DSG2タンパク質は非ヒトDSG2タンパク質である。いくつかの実施形態では、DSG2タンパク質はMus musculus(マウス)DSG2タンパク質である。一実施形態では、DSG2タンパク質は1,122個のアミノ酸を含み得、配列番号14のアミノ酸配列を含み得る。いくつかの実施形態では、DSG2タンパク質は、Rattus norvegicus(ラット)DSG2タンパク質である。一実施形態では、ラットDSG2タンパク質は1,128個のアミノ酸を含み得、配列番号15のアミノ酸配列を含み得る。いくつかの実施形態では、DSG2タンパク質は非ヒト霊長類(NHP)DSG2タンパク質である。いくつかの態様では、NHP DSG2タンパク質はMacaca mulatta(アカゲザル)DSG2タンパク質であり、これは1,115個のアミノ酸を含み得、配列番号16のアミノ酸配列を含み得る。いくつかの実施形態では、DSG2タンパク質は、Canis lupus familiaris(イヌ)DSG2タンパク質である。いくつかの実施形態では、イヌDSG2タンパク質は1,119個のアミノ酸を含み得、配列番号17のアミノ酸配列を含み得る。いくつかの実施形態では、DSG2タンパク質はDanio rerio(ゼブラフィッシュ)DSG2タンパク質である。いくつかの実施形態では、ゼブラフィッシュDSG2タンパク質は1,142個のアミノ酸を含み得、配列番号18のアミノ酸配列を含み得る。
【0036】
【表1-1】
【0037】
【表1-2】
【0038】
【表1-3】
【0039】
【表1-4】
【0040】
本開示のDSG2融合ポリペプチドは、DSG2の細胞外領域の1つ以上のドメインを含み得る。DSG2の細胞外領域のドメインは、1つ以上のECドメイン又はEAドメインの繰り返しを、直列に、又は混合順序で含み得る。例えば、DSG2融合ポリペプチドは、EC1、EC2、EC3、EC4、又はEAドメインの2、3、又はそれ以上の繰り返しを含み得る。DSG2の細胞外領域の2つ以上のドメイン及び/又はドメインの2つ以上の繰り返しが存在する場合、これらのドメインは、本明細書に記載されるリンカーを介して作動可能に連結され得る。
【0041】
いくつかの実施形態では、DSG2融合ポリペプチドは、DSG2の細胞外領域の2つのドメインを含み得る。本開示の融合ポリペプチドに存在するDSG2の細胞外領域のドメインの非限定的な例としては、EC1EC2、EC1EC3、EC1EC4、EC1EA、EC2EC1、EC2EC3、EC2EC4、EC2EA、EC3EC1、EC3EC2、EC3EC4、EC3EA、EC4EC1、EC4EC2、EC4EC3、EC4EA、EAEC1、EAEC2、EAEC3、及び/又はEAEC4が挙げられる。
【0042】
いくつかの実施形態では、DSG2融合ポリペプチドは、DSG2の細胞外領域の3つのドメインを含み得る。本開示の融合ポリペプチドに存在するDSG2の細胞外領域のドメインの非限定的な例としては、EC1EC2EC3、EC1EC2EC4、EC1EC2EA、EC1EC3EC2、EC1EC3EC4、EC1EC3EA、EC1EC4EC2、EC1EC4EC3、EC1EC4EA、EC1EAEC2、EC1EAEC3、EC1EAEC4、EC2EC1EC3、EC2EC1EC4、EC2EC1EA、EC2EC3EC1、EC2EC3EC4、EC2EC3EA、EC2EC4EC1、EC2EC4EC3、EC2EC4EA、EC2EAEC1、EC2EAEC3、EC2EAEC4、EC3EC1EC2、EC3EC1EC4、EC3EC1EA、EC3EC2EC1、EC3EC2EC4、EC3EC2EA、EC3EC4EC1、EC3EC4EC2、EC3EC4EA、EC3EAEC1、EC3EAEC2、EC3EAEC4、EC4EC1EC2、EC4EC1EC3、EC4EC1EA、EC4EC2EC1、EC4EC2EC3、EC4EC2EA、EC4EC3EC1、EC4EC3EC2、EC4EC3EA、EC4EAEC1、EC4EAEC2、EC4EAEC3、EAEC1EC2、EAEC1EC3、EAEC1EC4、EAEC2EC1、EAEC2EC3、EAEC2EC4、EAEC3EC1、EAEC3EC2、EAEC3EC4、EAEC4EC1、EAEC4EC2、及び/又はEAEC4EC3が挙げられる。
【0043】
いくつかの実施形態では、DSG2融合ポリペプチドは、DSG2の細胞外領域の4つのドメインを含み得る。本開示の融合ポリペプチドに存在するDSG2の細胞外領域のドメインの非限定的な例としては、EC1EC2EC3EC4、EC1EC2EC3EA、EC1EC2EC4EC3、EC1EC2EC4EA、EC1EC2EAEC3、EC1EC2EAEC4、EC1EC3EC2EC4、EC1EC3EC2EA、EC1EC3EC4EC2、EC1EC3EC4EA、EC1EC3EAEC2、EC1EC3EAEC4、EC1EC4EC2EC3、EC1EC4EC2EA、EC1EC4EC3EC2、EC1EC4EC3EA、EC1EC4EAEC2、EC1EC4EAEC3、EC1EAEC2EC3、EC1EAEC2EC4、EC1EAEC3EC2、EC1EAEC3EC4、EC1EAEC4EC2、EC1EAEC4EC3、EC2EC1EC3EC4、EC2EC1EC3EA、EC2EC1EC4EC3、EC2EC1EC4EA、EC2EC1EAEC3、EC2EC1EAEC4、EC2EC3EC1EC4、EC2EC3EC1EA、EC2EC3EC4EC1、EC2EC3EC4EA、EC2EC3EAEC1、EC2EC3EAEC4、EC2EC4EC1EC3、EC2EC4EC1EA、EC2EC4EC3EC1、EC2EC4EC3EA、EC2EC4EAEC1、EC2EC4EAEC3、EC2EAEC1EC3、EC2EAEC1EC4、EC2EAEC3EC1、EC2EAEC3EC4、EC2EAEC4EC1、EC2EAEC4EC3、EC3EC1EC2EC4、EC3EC1EC2EA、EC3EC1EC4EC2、EC3EC1EC4EA、EC3EC1EAEC2、EC3EC1EAEC4、EC3EC2EC1EC4、EC3EC2EC1EA、EC3EC2EC4EC1、EC3EC2EC4EA、EC3EC2EAEC1、EC3EC2EAEC4、EC3EC4EC1EC2、EC3EC4EC1EA、EC3EC4EC2EC1、EC3EC4EC2EA、EC3EC4EAEC1、EC3EC4EAEC2、EC3EAEC1EC2、EC3EAEC1EC4、EC3EAEC2EC1、EC3EAEC2EC4、EC3EAEC4EC1、EC3EAEC4EC2、EC4EC1EC2EC3、EC4EC1EC2EA、EC4EC1EC3EC2、EC4EC1EC3EA、EC4EC1EAEC2、EC4EC1EAEC3、EC4EC2EC1EC3、EC4EC2EC1EA、EC4EC2EC3EC1、EC4EC2EC3EA、EC4EC2EAEC1、EC4EC2EAEC3、EC4EC3EC1EC2、EC4EC3EC1EA、EC4EC3EC2EC1、EC4EC3EC2EA、EC4EC3EAEC1、EC4EC3EAEC2、EC4EAEC1EC2、EC4EAEC1EC3、EC4EAEC2EC1、EC4EAEC2EC3、EC4EAEC3EC1、EC4EAEC3EC2、EAEC1EC2EC3、EAEC1EC2EC4、EAEC1EC3EC2、EAEC1EC3EC4、EAEC1EC4EC2、EAEC1EC4EC3、EAEC2EC1EC3、EAEC2EC1EC4、EAEC2EC3EC1、EAEC2EC3EC4、EAEC2EC4EC1、EAEC2EC4EC3、EAEC3EC1EC2、EAEC3EC1EC4、EAEC3EC2EC1、EAEC3EC2EC4、EAEC3EC4EC1、EAEC3EC4EC2、EAEC4EC1EC2、EAEC4EC1EC3、EAEC4EC2EC1、EAEC4EC2EC3、EAEC4EC3EC1、及び/又はEAEC4EC3EC2が挙げられる。
【0044】
いくつかの実施形態では、DSG2融合ポリペプチドは、DSG2の細胞外領域の5つのドメインを含み得る。本開示の融合ポリペプチドに存在するDSG2の細胞外領域のドメインの非限定的な例としては、EC1EC2EC3EC4EA、EC1EC2EC3EAEC4、EC1EC2EC4EC3EA、EC1EC2EC4EAEC3、EC1EC2EAEC3EC4、EC1EC2EAEC4EC3、EC1EC3EC2EC4EA、EC1EC3EC2EAEC4、EC1EC3EC4EC2EA、EC1EC3EC4EAEC2、EC1EC3EAEC2EC4、EC1EC3EAEC4EC2、EC1EC4EC2EC3EA、EC1EC4EC2EAEC3、EC1EC4EC3EC2EA、EC1EC4EC3EAEC2、EC1EC4EAEC2EC3、EC1EC4EAEC3EC2、EC1EAEC2EC3EC4、EC1EAEC2EC4EC3、EC1EAEC3EC2EC4、EC1EAEC3EC4EC2、EC1EAEC4EC2EC3、EC1EAEC4EC3EC2、EC2EC1EC3EC4EA、EC2EC1EC3EAEC4、EC2EC1EC4EC3EA、EC2EC1EC4EAEC3、EC2EC1EAEC3EC4、EC2EC1EAEC4EC3、EC2EC3EC1EC4EA、EC2EC3EC1EAEC4、EC2EC3EC4EC1EA、EC2EC3EC4EAEC1、EC2EC3EAEC1EC4、EC2EC3EAEC4EC1、EC2EC4EC1EC3EA、EC2EC4EC1EAEC3、EC2EC4EC3EC1EA、EC2EC4EC3EAEC1、EC2EC4EAEC1EC3、EC2EC4EAEC3EC1、EC2EAEC1EC3EC4、EC2EAEC1EC4EC3、EC2EAEC3EC1EC4、EC2EAEC3EC4EC1、EC2EAEC4EC1EC3、EC2EAEC4EC3EC1、EC3EC1EC2EC4EA、EC3EC1EC2EAEC4、EC3EC1EC4EC2EA、EC3EC1EC4EAEC2、EC3EC1EAEC2EC4、EC3EC1EAEC4EC2、EC3EC2EC1EC4EA、EC3EC2EC1EAEC4、EC3EC2EC4EC1EA、EC3EC2EC4EAEC1、EC3EC2EAEC1EC4、EC3EC2EAEC4EC1、EC3EC4EC1EC2EA、EC3EC4EC1EAEC2、EC3EC4EC2EC1EA、EC3EC4EC2EAEC1、EC3EC4EAEC1EC2、EC3EC4EAEC2EC1、EC3EAEC1EC2EC4、EC3EAEC1EC4EC2、EC3EAEC2EC1EC4、EC3EAEC2EC4EC1、EC3EAEC4EC1EC2、EC3EAEC4EC2EC1、EC4EC1EC2EC3EA、EC4EC1EC2EAEC3、EC4EC1EC3EC2EA、EC4EC1EC3EAEC2、EC4EC1EAEC2EC3、EC4EC1EAEC3EC2、EC4EC2EC1EC3EA、EC4EC2EC1EAEC3、EC4EC2EC3EC1EA、EC4EC2EC3EAEC1、EC4EC2EAEC1EC3、EC4EC2EAEC3EC1、EC4EC3EC1EC2EA、EC4EC3EC1EAEC2、EC4EC3EC2EC1EA、EC4EC3EC2EAEC1、EC4EC3EAEC1EC2、EC4EC3EAEC2EC1、EC4EAEC1EC2EC3、EC4EAEC1EC3EC2、EC4EAEC2EC1EC3、EC4EAEC2EC3EC1、EC4EAEC3EC1EC2、EC4EAEC3EC2EC1、EAEC1EC2EC3EC4、EAEC1EC2EC4EC3、EAEC1EC3EC2EC4、EAEC1EC3EC4EC2、EAEC1EC4EC2EC3、EAEC1EC4EC3EC2、EAEC2EC1EC3EC4、EAEC2EC1EC4EC3、EAEC2EC3EC1EC4、EAEC2EC3EC4EC1、EAEC2EC4EC1EC3、EAEC2EC4EC3EC1、EAEC3EC1EC2EC4、EAEC3EC1EC4EC2、EAEC3EC2EC1EC4、EAEC3EC2EC4EC1、EAEC3EC4EC1EC2、EAEC3EC4EC2EC1、EAEC4EC1EC2EC3、EAEC4EC1EC3EC2、EAEC4EC2EC1EC3、EAEC4EC2EC3EC1、EAEC4EC3EC1EC2、及び/又はEAEC4EC3EC2EC1が挙げられる。
【0045】
DSG2タンパク質の一部、及びDSG2融合ポリペプチドに存在する可能性のある構成の非限定的な例を表2に示す。表2に記載されているDSG2ドメインのいずれも、本明細書で提供されるリンカーのいずれかを使用して、融合ポリペプチド内の別のドメイン又は別のDSG2ドメインに作動可能に連結することができる。本開示の組成物は、表2に記載されているいずれかのドメインの一部又は断片を含み得る。本開示のポリペプチドに含まれる配列番号1又は配列番号3のドメイン又はドメインの組み合わせは、表2に定義されたドメインの上流又は下流に1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、30、40又は50アミノ酸だけ延長されてもよい。いくつかの実施形態では、本開示のポリペプチドに含まれる配列番号1又は配列番号3のドメイン又はドメインの組み合わせは、表2に定義されたドメインのN末端又はC末端で1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、30、40又は50アミノ酸分トランケートされ得る。非限定的な例として、DSG2タンパク質の細胞外領域は、配列番号1のアミノ酸50~609にわたるアミノ酸から拡張され得る。
【0046】
【表2】
【0047】
免疫グロブリンタンパク質
いくつかの実施形態では、本開示のDSG2融合ポリペプチドは、免疫グロブリンタンパク質の全体又は一部を含み得る。免疫グロブリンタンパク質は、IgG、IgM、IgA、IgD、又はIgEであり得る。一実施形態では、免疫グロブリンタンパク質はIgGであり得る。IgGの非限定的な例としては、IgG1、IgG2、IgG3、及び/又はIgG4が挙げられる。DSG2融合ポリペプチドは、免疫グロブリンの領域又は一部を含み得る。免疫グロブリンの領域の非限定的な例としては、Fc領域、Fab領域、重鎖可変(VH)ドメイン、重鎖定常ドメイン、軽鎖可変(VL)ドメイン、及び/又は軽鎖定常ドメインなどが挙げられる。
【0048】
DSG2融合ポリペプチドは、免疫グロブリンの1つ以上のFc領域を含み得る。いくつかの実施形態では、Fc領域は、第1定常領域免疫グロブリンドメイン(例えば、CH1)又はその一部を含み得、場合によってはヒンジの一部も含み得る。他の態様では、Fc領域は、第1定常領域免疫グロブリンドメインを含まない。したがって、Fcは、IgA、IgD、及びIgGの最後の2つの定常領域免疫グロブリンドメイン(例えば、CH2及びCH3)、IgE及びIgMの最後の3つの定常領域免疫グロブリンドメイン、及びこれらのドメインのN末端にある柔軟なヒンジを指し得る。IgA及びIgMの場合、Fc領域はJ鎖を含み得る。IgGの場合、Fc領域は免疫グロブリンドメインCγ2及びCγ3(Cγ2及びCγ3)及びCγ1(Cγ1)とCγ2(Cγ2)との間の下部ヒンジ領域を含む。いくつかの実施形態では、Fc領域は、免疫グロブリンのトランケートされたCH1ドメイン、ならびにCH2及びCH3を指す。Fc領域の境界は変化する可能性があるが、ヒトIgG重鎖Fc領域は、通常、カルボキシル末端に残基E216又はC226又はP230を含むように定義され、この番号付けはKabat抗体ナンバリングシーケンスと同様にEUインデックスに従う。
【0049】
いくつかの実施形態では、DSG2融合ポリペプチドはヒト免疫グロブリンタンパク質を含み得る。いくつかの実施形態では、DSG2融合ポリペプチドは、非ヒト免疫グロブリンタンパク質を含み得る。非ヒト免疫グロブリンタンパク質は、イヌ、ラット、マウス、又は霊長類の免疫グロブリンタンパク質であり得る。免疫グロブリンの部分配列の非限定的な例を表3に示す。いくつかの実施形態では、DSG2融合ポリペプチドは、表3の配列のいずれか又は表3の配列の断片と少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%、又は100%の同一性を有する免疫グロブリンタンパク質又はその一部を含み得る。
【0050】
【表3-1】
【0051】
【表3-2】
【0052】
【表3-3】
【0053】
いくつかの実施形態では、DSG2融合ポリペプチドは、IgG1の重鎖定常領域のアミノ酸100~330(GenBankアクセッション番号P01857.1、配列番号4)を含み得る。いくつかの実施形態では、DSG2融合ポリペプチドは、IgG1の重鎖定常領域のFc領域を表す、本明細書では配列番号5として提供されるIgG1の重鎖定常領域(配列番号4)のアミノ酸104~330を含み得る。いくつかの実施形態では、DSG2融合ポリペプチドは、配列番号5のバリアント(P329G LALAと表す)(Euアミノ酸番号命名法を使用)を含み得る。このバリアントはIgG1のFc領域にL234A/L235A/P329G変異を含み、本明細書では配列番号31として提供される。「P329G LALAバリアント」は、免疫グロブリンのFcγRとClqの相互作用を低下させることが示されており、そのため、生体内でのDSG2融合ポリペプチドの発現によって引き起こされる免疫反応を最小限に抑える(Schlothauer,et al.Protein Eng.Des.Sel.2016,29(10),457-466、その全文は参照により本明細書に組み込まれる)。いくつかの代替実施形態では、IgG1タンパク質はL234A、L235A、及びP329G変異を含まない。
【0054】
いくつかの実施形態では、DSG2融合ポリペプチドは、IgG4(GenBankアクセッション番号P01861.1、配列番号10)のアミノ酸99~327を含み得、これは、本明細書では配列番号11として提供され、IgG4重鎖定常領域のFc領域を表す。いくつかの実施形態では、DSG2融合ポリペプチドは、S228P、L235E、及びP329G(Euアミノ酸番号命名法を使用)と表される3つの変異を含む配列番号11のバリアントを含み得る。これら3つの変異を含むバリアントの配列は、本明細書では配列番号32として提供される。
【0055】
IgG4のヒトIgG4 S228P/L235E/P329Gバリアント(本明細書では「SPLE P329G」とも呼ばれる)は、以前に最小限のFcγR結合活性を示したIgG4のバリアントである(Newman et al.2001,Clin.Immunol.,98,164-174を参照;その内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。いくつかの実施形態では、IgG4タンパク質は上記の変異を含まない。
【0056】
シグナル配列
シグナル配列(シグナルペプチド、標的シグナル、標的ペプチド、局在配列、トランジットペプチド、リーダー配列、又はリーダーペプチドと呼ばれることもある)は、タンパク質(例えば、本開示のポリペプチド)を指定された細胞内位置及び/又は細胞外位置に誘導する。シグナル配列は、特定の場所に向かうように運命づけられた、新しく合成されたタンパク質の大部分のN末端に存在する短い(5~50アミノ酸長)ペプチドであり得る。シグナル配列はシグナル認識粒子(SRP)によって認識され、タイプI及びタイプIIシグナルペプチドペプチダーゼを使用して切断される。ヒトタンパク質由来のシグナル配列を本開示のDSG2融合ポリペプチドとして組み込むことで、本開示のポリペプチドを特定の細胞内位置及び/又は細胞外位置に誘導することができる。これらのシグナル配列は実験的に検証されており、切断可能である(Zhang et al.,Protein Sci.2004,13:2819-2824)。
【0057】
いくつかの実施形態では、シグナル配列は、本開示のポリペプチドのN末端又はC末端に位置し得、必ずしも必須ではないが、本明細書で述べるように、ポリペプチドから切断されて「成熟」ポリペプチドを生成し得る。
【0058】
いくつかの例では、シグナル配列は、天然に分泌されるタンパク質に由来する分泌シグナル配列、及びそのバリアントであり得る。
場合によっては、本開示のポリペプチドを標的細胞の表面膜に誘導するシグナル配列が使用され得る。本開示のポリペプチドを標的細胞の表面で発現させることは、本開示のポリペプチドの非標的生体内環境への拡散を制限するのに有用であり、それによって本開示のポリペプチドの安全性プロファイルを改善できる可能性がある。さらに、本開示のポリペプチドの膜提示により、生理学的及び定性的なシグナル伝達が可能になるとともに、ポリペプチドの安定化及びリサイクルが可能になり、半減期が長くなる可能性がある。
【0059】
シグナル配列は、ウイルス、酵母、細菌などの他の生物からの異種シグナル配列であってもよく、これにより、本開示のポリペプチドを核などの特定の細胞内部位に誘導することができる(例えば、EP1209450)。他の例としては、酵素などの融合タンパク質の分泌を増加させることができるトリコデルマ由来のアスパラギン酸プロテアーゼ(NSP24)シグナル配列(例えば、Cervin及びKimの米国特許第8,093,016号)、細菌リポタンパク質シグナル配列(例えば、Lau及びRiouxのPCT公開番号1991/09952号)、大腸菌エンテロトキシンIIシグナルペプチド(例えば、Kwonらの米国特許第6,605,697号)、大腸菌分泌シグナル配列(例えば、Malleyらの米国特許出願公開第2016/090404号)、メチロトローフ酵母由来のリパーゼシグナル配列(例えば、米国特許第8,975,041号)、及びコリネ型細菌由来のDNaseのシグナルペプチド(例えば、米国特許第4,965,197号)(それぞれの内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)が挙げられる。
【0060】
いくつかの実施形態では、シグナルペプチドは、IgG1シグナルペプチド又はIgG2シグナルペプチドであり得る。いくつかの実施形態では、シグナルペプチドは、アミノ酸配列METDTLLLWVLLLWVPGSTG(配列番号29)を有するマウスIgGκカッパ軽鎖シグナルペプチドであり得る。このシグナルペプチドは、トランスジーン発現を改善するために使用されるシグナルペプチドの中で最もよく特徴付けられたものの1つである(Fonseca et al.,Vaccine,2018,36(20):2799-2808、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)。以下に記載する融合タンパク質の例示的な実施形態(DSG2FP#1を除く)は、発現時に配列番号29のシグナルペプチドを含んでいた。その後、抗DSG2抗体の阻害を試験する前に、各融合タンパク質からのタンパク質生成中にシグナルペプチドは切断された。
【0061】
リンカー
いくつかの実施形態では、本開示のDSG2融合ポリペプチドは、少なくとも1つのリンカーを含み得る。リンカーは、本開示のポリペプチドの1つ以上の領域の間に配置され得る。一実施形態では、リンカーは、DSG2タンパク質の全体又は一部と免疫グロブリンタンパク質の全体又は一部との間に配置され得る。一態様では、リンカーは、DSG2タンパク質の1つ以上のドメインの間に配置され得る。
【0062】
いくつかの実施形態では、リンカーはポリペプチドであり得る。いくつかの実施形態では、リンカーはアミノ酸残基の組み合わせを含み得る。いくつかの実施形態では、リンカーは約1~50個のアミノ酸残基を含み得る。いくつかの実施形態では、リンカーは、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45又は50個のアミノ酸残基を含み得る。
【0063】
本開示のリンカーは、約1~100アミノ酸長であり、エフェクターモジュールの任意のドメイン/領域を連結し得る(ペプチドリンカーとしても知られている)。リンカーは、1~40アミノ酸長、又は2~30アミノ酸長、又は20~80アミノ酸長、又は50~100アミノ酸長であり得る。リンカーの長さは、ポリペプチドの構成の種類に応じて、及びポリペプチドの結晶構造に基づいて最適化されてもよい。場合によっては、より短いリンカー長を選択することが好ましい場合がある。いくつかの態様では、ペプチドリンカーは、ペプチド結合によって連結されたアミノ酸、好ましくはペプチド結合によって連結された1~20個のアミノ酸から構成され得、アミノ酸は、グリシン(G)、アラニン(A)、バリン(V)、ロイシン(L)、イソロイシン(I)、セリン(S)、システイン(C)、トレオニン(T)、メチオニン(M)、プロリン(P)、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)、ヒスチジン(H)、リジン(K)、アルギニン(R)、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、アスパラギン(N)、及びグルタミン(Q)の20個の天然アミノ酸から選択される。これらのアミノ酸の1つ以上は、当業者に理解されるように、グリコシル化されていてもよい。いくつかの態様では、ペプチドリンカーのアミノ酸は、アラニン(A)、グリシン(G)、プロリン(P)、アスパラギン(R)、セリン(S)、グルタミン(Q)、及びリジン(K)から選択され得る。
【0064】
いくつかの実施形態では、リンカーはフレキシブルリンカー又はリジッドリンカーであり得る。フレキシブルリンカーは、小さい非極性の(例えば、Gly)又は極性の(例えば、Ser又はThr)アミノ酸で構成され得る。これらのアミノ酸はサイズが小さいため柔軟性があり、結合している機能ドメインの動きが可能になる。最も一般的に使用されるフレキシブルリンカーは、一続きの、主にグリシンとセリン残基で構成される配列を有する(「GS」リンカー)。最も広く使用されているフレキシブルリンカーの例は、(Gly-Gly-Gly-Gly-Ser)nの配列を有する。コピー数「n」を調整することで、このGSリンカーの長さは、機能ドメインの適切な分離を実現するため、又は必要なドメイン間相互作用を維持するために最適化され得る。いくつかの実施形態では、リンカーは、柔軟性を維持するためのThrやAlaなどの追加のアミノ酸、ならびに溶解性を向上させるためのLysやGluなどの極性アミノ酸を含み得る。いくつかの実施形態では、DSG2融合ポリペプチドは、純粋にグリシン残基からなる(Gly)8などのフレキシブルリンカーを含み得る。リンカー配列は、水溶液中での良好な溶解性を維持するために、大きい疎水性残基を避けた。
【0065】
いくつかの実施形態では、リンカーはリジッドリンカーであり得る。リジッドリンカーの非限定的な例としては、(EAAAK)n(n=1~5)の配列を有するリンカーが挙げられる。いくつかの実施形態では、リジッドリンカーはプロリンに富む配列(XP)nを有してもよく、Xは任意のアミノ酸、好ましくはAla、Lys、又はGluを示す。
【0066】
いくつかの実施形態では、リンカーはGGGGGS(配列番号12)又はEAAAK(配列番号13)であり得る。いくつかの実施形態では、リンカーはGGGGS(配列番号27)であり得る。いくつかの実施形態では、リンカーはIEGRMD(配列番号28)であり得る。
【0067】
DSG2融合ポリペプチド
融合ポリペプチドの特定の実施形態を、以下に記載される実施例において調査した。以下の説明では、コンポーネントはN末端からC末端までの形式で表され、コンポーネントはセミコロンで区切られる。調査したDSG2融合ポリペプチドの1つは、R&D Systems(rndsystems.com)から入手したもので、「組換えヒトデスモグレイン2Fcキメラタンパク質、CF」と命名されている。この融合ポリペプチドは、線維芽細胞をプレートのウェルに接着させるために開発された研究ツールであり、治療目的で抗DSG2抗体を阻害するという観点からはこれまで研究されていなかった。本明細書において「ツールデコイ」及び「DSG2FP#1」と互換的に命名されるこの融合ポリペプチドの構造は、DSG2の細胞外ドメインの全配列を表すGenBankアクセッション番号CAA81226の残基Ala49からGly608を含むN末端(本明細書では配列番号30として含まれる);配列IEGRMD(配列番号28)を有するリンカー;及びヒトIgG1の残基Pro100からLys330(配列番号4)を含む。表4のいくつかの例示的実施形態では、DSG2細胞外ドメインは、ヒトDSG2配列(配列番号1)のアミノ酸50~609を含む。表4のいくつかの例示的実施形態では、免疫グロブリンのFc領域はIgG1Fcドメイン又はIgG4Fcドメインである。表4のいくつかの例示的実施形態では、IgG1配列は配列番号4のアミノ酸100~330又は104~330を含む。表4のいくつかの例示的実施形態では、IgG4配列は、配列番号10のアミノ酸99~327を含む。表4のいくつかの例示的実施形態では、IgG1配列は配列番号31であり、これは本明細書では「P329G LALAバリアント」と呼ばれることがある。いくつかの実施形態では、免疫グロブリンタンパク質は、IgG4のヒトIgG4 S228P/L235E/P3229Gバリアント(配列番号32)であり得る。より明確にするために、上記で説明したバリアントの変異の名称は、Eu抗体番号命名法を参照したものであり、この段落で特定された配列内の位置を参照したものではない。いくつかの実施形態では、DSG2融合ポリペプチドは、ジスルフィド結合二量体として合成され得る。
【0068】
いくつかの実施形態では、DSG2融合ポリペプチドは少なくとも1つのリンカーを含み得る。リンカーは、融合タンパク質の任意の2つのコンポーネントの間に存在することができる。
【0069】
表4にDSG2融合ポリペプチドの例を示す。
【0070】
【表4】
【0071】
治療薬
いくつかの実施形態では、本開示は、血清抗DSG2抗体に関連する状態、疾患、障害又は症状を標的とする治療剤を提供する。いくつかの実施形態では、治療剤は免疫グロブリンタンパク質を含み得る。いくつかの実施形態では、治療剤は、リツキシマブなどであるがこれに限定されない抗CD20抗体であり得る。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の治療剤は、Fab又はFcフラグメントのいずれかを標的とすることにより、自己抗体の機能の阻害をもたらし得る。いくつかの実施形態では、治療剤は静脈内投与される免疫グロブリン(IVIG)であり得る。過剰なIgGを投与すると、FcRnが飽和し、その結果、すべてのIgG分子(自己抗体を含む)がより迅速に除去される可能性がある。いくつかの実施形態では、治療剤は、FcRn阻害モノクローナル抗体であり得る。一実施形態では、FcRn阻害モノクローナル抗体は、SYNT001(Blumberg LJ,et al.Sci Adv.2019年12月18日;5(12):eaax9586.doi:10.1126/sciadv.aax9586;その内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)であり得る。いくつかの実施形態では、治療剤は、エクリズマブなどの抗C5抗体であり得る。自己免疫疾患における補体系の活性化は、免疫細胞とその免疫複合体の結合につながる可能性があり、その後の細胞内シグナル伝達イベントは発病機序にとって重要である。
【0072】
本開示の治療剤は、単独で使用してもよいし、本明細書に記載のDSG2融合ポリペプチドと組み合わせて使用してもよい。DSG2融合ポリペプチドと組み合わせて使用する場合、治療剤は、対象にDSG2融合ポリペプチドが提供される前に、提供されるのと同時に、又は提供された後に投与され得る。一実施形態では、治療剤は、ARVCではない抗DSG2抗体に関連する状態の治療のためのCAARである。
【0073】
一実施形態では、本開示の組成物は、CAAR及びDSG2融合ポリペプチドなどの治療薬の組み合わせを含み、ARVC、COVID-19、COVID-19後症候群、サルコイドーシス、拡張型心筋症、又は抗DSG2抗体に関連する任意の疾患などであるがこれらに限定されない疾患の治療に使用することができる。
【0074】
ポリヌクレオチド
いくつかの実施形態では、本開示のポリペプチドは、本明細書に記載のポリヌクレオチド又はそのバリアントによってコードされる。例示的な核酸又はポリヌクレオチドには、リボ核酸(RNA)、デオキシリボ核酸(DNA)、トレオース核酸(TNA)、グリコール核酸(GNA)、ペプチド核酸(PNA)、ロックド核酸(LNA、β-D-リボ構成を有するLNA、a-L-リボ構成を有するα-LNA(LNAのジアステレオマー)、2’-アミノ官能基を有する2’-アミノ-LNA、及び2’-アミノ官能基を有する2’-アミノ-a-LNAを含む)、エチレン核酸(ENA)、シクロヘキセニル核酸(CeNA)、又はそれらのハイブリッドもしくは組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。
【0075】
したがって、参照配列、特にポリペプチド配列に対して、置換、挿入及び/又は付加、欠失、及び共有結合修飾を含むペプチド又はポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが本明細書に開示される。例えば、1つ以上のリジンなどの配列タグ又はアミノ酸を、本明細書に記載のペプチド配列(例えば、N末端又はC末端)に追加することができる。配列タグはペプチドの精製や局在化に使用できる。リジンはペプチドの溶解性を高め、又はビオチン化を可能にするために使用できる。あるいは、ペプチド又はタンパク質のアミノ酸配列のカルボキシ末端領域及びアミノ末端領域に位置するアミノ酸残基を任意に欠失させることで、トランケートされた配列を提供することもできる。配列の用途に応じて、例えば、可溶性であるか固体支持体に結合したより大きい配列の一部として配列を発現するために、特定のアミノ酸(例えば、C末端又はN末端残基)を代わりに欠失させてもよい。
【0076】
本明細書に記載のポリヌクレオチドによってコードされるべきポリペプチドの所望の構成要素として特徴のいずれかが特定又は定義されると、これらの特徴の移動、交換、反転、削除、ランダム化、又は複製によって、これらの特徴のいくつかの操作及び/又は変更のいずれかが実行され得る。さらに、特徴を操作すると、本明細書に記載された分子の改変と同じ結果を生じ得ることが理解される。例えば、ドメインを削除する操作を行うと、核酸を改変して全長よりも短い長さの分子をコードするようにした場合と同様に、分子の長さの変化をもたらすであろう。
【0077】
III.医薬組成物及び送達
本明細書に記載の融合ポリペプチドは治療剤として使用され得る。いくつかの実施形態では、本開示は、少なくとも1つの薬学的に許容される担体及び融合ポリペプチドを含む医薬組成物を提供する。
【0078】
いくつかの実施形態では、組成物はヒト、ヒト患者、又は対象に投与される。本明細書で提供される医薬組成物の説明は、主にヒトへの投与に適した医薬組成物に関するものであるが、そのような組成物は総じて他の動物、例えば非ヒト動物、例えば非ヒト哺乳動物への投与にも適していることは、当業者には理解されるであろう。ヒトへの投与に適した医薬組成物を、様々な動物への投与に適したものにするための改変は十分に理解されており、通常の熟練獣医薬理学者は、必要があるにしても通常の実験のみで、そのような改変を設計及び/又は実行することができる。医薬組成物の投与が想定される対象としては、ヒト及び/又は他の霊長類;哺乳動物(イヌ、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ネコ、マウス、及び/又はラットなどの商業関連の哺乳動物を含む);及び/又は鳥類(家禽、ニワトリ、アヒル、ガチョウ、及び/又はシチメンチョウなどの商業関連の鳥類を含む)が挙げられるが、これらに限定されない。非限定的な例として、本開示の組成物は、ARVCを治療するためにイヌに投与され得る。
【0079】
本明細書では、1つ以上の薬学的に許容される賦形剤と組み合わせて使用できる融合ポリペプチド及びその医薬組成物が提供される。
いくつかの実施形態では、本開示の融合ポリペプチド及び医薬組成物は、皮下経路又は静脈内経路を介して送達され得る。
【0080】
いくつかの実施形態では、薬学的に許容される賦形剤には、所望の特定の剤形に適したあらゆる溶媒、分散媒体、希釈剤、又はその他の液体ビヒクル、分散又は懸濁助剤、界面活性剤、等張剤、増粘剤又は乳化剤、防腐剤、固体結合剤、潤滑剤、香味剤、安定剤、抗酸化剤、浸透圧調整剤、pH調整剤などが含まれるが、これらに限定されない。医薬組成物を製剤化するための様々な賦形剤及び組成物を調製するための技術は、当該技術分野で既知である(参照:Remington:The Science and Practice of Pharmacy,第21版,A.R.Gennaro(Lippincott,Williams&Wilkins,メリーランド州ボルチモア,2006;その全体が参照により本明細書に組み込まれる)。従来の賦形剤媒体の使用は、本開示の範囲内で考慮され得るが、従来の賦形剤媒体が、望ましくない生物学的効果を生じさせるか、又は医薬組成物の他の成分と有害な方法で相互作用するなど、物質又はその誘導体と適合しない場合はこの限りではない。
【0081】
いくつかの実施形態では、薬学的に許容される賦形剤は、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%純粋であり得る。いくつかの実施形態では、賦形剤は、ヒト用及び獣医用としての使用が承認されたものである。いくつかの実施形態では、賦形剤は米国食品医薬品局によって承認されたものであり得る。いくつかの実施形態では、賦形剤は医薬品グレードであり得る。いくつかの実施形態では、賦形剤は、米国薬局方(USP)、欧州薬局方(EP)、英国薬局方、及び/又は国際薬局方の基準を満たすものであり得る。
【0082】
医薬組成物の製造に使用される薬学的に許容される賦形剤には、不活性希釈剤、分散及び/又は造粒剤、界面活性剤及び/又は乳化剤、崩壊剤、結合剤、防腐剤、緩衝剤、潤滑剤、及び/又は油が含まれるが、これらに限定されない。そのような賦形剤は、任意選択で医薬組成物に含まれてもよい。組成物は、ココアバターや坐剤ワックスなどの賦形剤、着色剤、コーティング剤、甘味料、香味料、及び/又は芳香剤も含み得る。
【0083】
例示的な希釈剤としては、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、リン酸カルシウム、リン酸二カルシウム、硫酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、リン酸ナトリウム、ラクトース、スクロース、セルロース、微結晶セルロース、カオリン、マンニトール、ソルビトール、イノシトール、塩化ナトリウム、乾燥デンプン、コーンスターチ、粉砂糖など、及び/又はそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0084】
造粒及び/又は分散剤の例としては、ジャガイモデンプン、トウモロコシデンプン、タピオカデンプン、デンプングリコール酸ナトリウム、粘土、アルギン酸、グアーガム、柑橘類パルプ、寒天、ベントナイト、セルロース及び木製品、天然スポンジ、陽イオン交換樹脂、炭酸カルシウム、ケイ酸塩、炭酸ナトリウム、架橋ポリビニルピロリドン(クロスポビドン)、カルボキシメチルデンプンナトリウム(デンプングリコール酸ナトリウム)、カルボキシメチルセルロース、架橋カルボキシメチルセルロース(クロスカルメロース)ナトリウム、メチルセルロース、アルファ化デンプン(starch1500)、微結晶デンプン、水不溶性デンプン、カルボキシメチルセルロースカルシウム、ケイ酸アルミニウムマグネシウム(VEEGUM(登録商標))、ラウリル硫酸ナトリウム、第四級アンモニウム化合物等、及び/又はそれらの組み合わせなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0085】
界面活性剤及び/又は乳化剤の例としては、天然乳化剤(例えば、アカシア、寒天、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、トラガカント、chon-drux、コレステロール、キサンタン、ペクチン、ゼラチン、卵黄、カゼイン、羊毛脂、コレステロール、ワックス、及びレシチン)、コロイド状粘土(例えば、ベントナイト(ケイ酸アルミニウム)及びVEEGUM(登録商標)(ケイ酸マグネシウムアルミニウム)、長鎖アミノ酸誘導体、高分子量アルコール(例えば、ステアリルアルコール、セチルアルコール、オレイルアルコール、トリアセチンモノステアラート、エチレングリコールジステアラート、グリセリルモノステアラート、及びプロピレングリコールモノステアラート、ポリビニルアルコール)、カルボマー(例えば、カルボキシポリメチレン、ポリアクリル酸、アクリル酸ポリマー、及びカルボキシビニルポリマー)、カラギーナン、セルロース誘導体(例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、粉末セルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース)、ソルビタン脂肪酸エステル(例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウラート(TWEEN(登録商標)20)、ポリオキシエチレンソルビタン(TWEEN(登録商標)60)、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート(TWEEN(登録商標)80)、ソルビタンモノパルミタート(SPAN(登録商標)40)、ソルビタンモノステアラート(SPAN(登録商標)60)、ソルビタントリステアラート(SPAN(登録商標)65)、グリセリルモノオレアート、ソルビタンモノオレアート(SPAN(登録商標)80)、ポリオキシエチレンエステル(例えば、ポリオキシエチレンモノステアラート(MYRJ(登録商標)45)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリエトキシル化ヒマシ油、ポリオキシメチレンステアラート、及びSOLUTOL(商標))、ショ糖脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル(例えば、CREMOPHOR(登録商標))、ポリオキシエチレンエーテル(例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(BRIJ(登録商標)30)、ポリ(ビニルピロリドン)、ジエチレングリコールモノラウラート、オレイン酸トリエタノールアミン、オレイン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、オレイン酸エチル、オレイン酸、ラウリン酸エチル、ラウリル硫酸ナトリウム、PLUORINC(商標)F68、POLOXAMER(商標)188、臭化セトリモニウム、塩化セチルピリジニウム、塩化ベンザルコニウム、ドクサートナトリウムなど、及び/又はそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0086】
例示的な結合剤としては、デンプン(例えば、コーンスターチ及びデンプン糊など);ゼラチン;糖類(例えば、スクロース、グルコース、デキストロース、デキストリン、糖蜜、ラクトース、ラクチトール、マンニトール);アミノ酸(例えば、グリシンなど);天然及び合成ガム(例えば、アカシア、アルギン酸ナトリウム、アイリッシュモス抽出物、パンワール(panwar)ガム、ガティガム、イサポール殻粘液、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、微結晶セルロース、セルロースアセタート、ポリ(ビニルピロリドン)、ケイ酸アルミニウムマグネシウム(VEEGUM(登録商標))、及びカラマツアラボガラクタン(arabogalactan));アルギン酸塩、ポリエチレンオキシド;ポリエチレングリコール;無機カルシウム塩;ケイ酸;ポリメタクリラート;ワックス;水;アルコール;等々;及びそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0087】
例示的な防腐剤としては、抗酸化剤、キレート剤、抗菌防腐剤、抗真菌防腐剤、アルコール防腐剤、酸性防腐剤、及び/又は他の防腐剤が挙げられるが、これらに限定されない。酸化は、特に液体mRNA製剤の場合、mRNAの潜在的な劣化経路となる。酸化を防ぐために、抗酸化剤を製剤に添加することができる。例示的な抗酸化剤には、α-トコフェロール、アスコルビン酸、アコルビル(acorbyl)パルミタート、ベンジルアルコール、ブチル化ヒドロキシアニソール、EDTA、m-クレゾール、メチオニン、ブチル化ヒドロキシトルエン、モノチオグリセロール、メタ重亜硫酸カリウム、プロピオン酸、没食子酸プロピル、アスコルビン酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、チオグリセロール及び/又は亜硫酸ナトリウムが挙げられるが、これらに限定されない。例示的なキレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、クエン酸一水和物、エデト酸二ナトリウム、エデト酸二カリウム、エデト酸、フマル酸、リンゴ酸、リン酸、エデト酸ナトリウム、酒石酸、及び/又はエデト酸三ナトリウムが挙げられる。例示的な抗菌防腐剤としては、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、ベンジルアルコール、ブロノポール、セトリミド、塩化セチルピリジニウム、クロルヘキシジン、クロロブタノール、クロロクレゾール、クロロキシレノール、クレゾール、エチルアルコール、グリセリン、ヘキセチジン、イミドウレア、フェノール、フェノキシエタノール、フェニルエチルアルコール、硝酸フェニル水銀、プロピレングリコール、及び/又はチメロサールが挙げられるが、これらに限定されない。例示的な抗真菌防腐剤としては、ブチルパラベン、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、安息香酸、ヒドロキシ安息香酸、安息香酸カリウム、ソルビン酸カリウム、安息香酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウム、及び/又はソルビン酸が挙げられるが、これらに限定されない。例示的なアルコール防腐剤としては、エタノール、ポリエチレングリコール、フェノール、フェノール化合物、ビスフェノール、クロロブタノール、ヒドロキシ安息香酸、及び/又はフェニルエチルアルコールが挙げられるが、これらに限定されない。例示的な酸性防腐剤としては、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンE、ベータカロチン、クエン酸、酢酸、デヒドロ酢酸、アスコルビン酸、ソルビン酸、及び/又はフィチン酸が挙げられるが、これらに限定されない。その他の防腐剤としては、トコフェロール、酢酸トコフェロール、メシル酸デテロキシム(deteroxime)、セトリミド、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、エチレンジアミン、ラウリル硫酸ナトリウム(SLS)、ラウリルエーテル硫酸ナトリウム(SLES)、亜硫酸水素ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、メタ重亜硫酸カリウム、GLYDANTPLUS(登録商標)、PHENONIP(登録商標)、メチルパラベン、GERMALL(登録商標)115、GERMABEN(商標)、NEOLONE(登録商標)、KATHON(登録商標)、及び/又はEUXYL(登録商標)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0088】
いくつかの実施形態では、安定性を向上させるために、医薬溶液のpHはpH5~pH8に維持される。pHを制御するための例示的な緩衝液には、リン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、コハク酸ナトリウム、ヒスチジン(又はヒスチジン-HCl)、炭酸ナトリウム、及び/又はリンゴ酸ナトリウムが挙げられるが、これらに限定されない。別の実施形態では、上記の例示的な緩衝液は、追加の一価対イオン(カリウムを含むがこれに限定されない)とともに使用されてもよい。二価陽イオンも緩衝液の対イオンとして使用できるが、複合体の形成やmRNAの分解が起こるため、これらは好ましくない。
【0089】
緩衝剤の例としては、クエン酸緩衝液、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、塩化アンモニウム、炭酸カルシウム、塩化カルシウム、クエン酸カルシウム、グルビオン酸カルシウム、グルセプト酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、D-グルコン酸、グリセロリン酸カルシウム、乳酸カルシウム、プロパン酸、レブリン酸カルシウム、ペンタン酸、第二リン酸カルシウム、リン酸、第三リン酸カルシウム、水酸化リン酸カルシウム、酢酸カリウム、塩化カリウム、グルコン酸カリウム、カリウム混合物、第二リン酸カリウム、第一リン酸カリウム、リン酸カリウム混合物、酢酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、第二リン酸ナトリウム、第一リン酸ナトリウム、リン酸ナトリウム混合物、トロメタミン、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、アルギン酸、パイロジェンフリー水、等張食塩水、リンゲル液、エチルアルコールなど、及び/又はそれらの組み合わせも挙げられるが、これらに限定されない。
【0090】
例示的な潤滑剤としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸、シリカ、タルク、麦芽、ベヘン酸グリセリル、水素添加植物油、ポリエチレングリコール、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、ロイシン、ラウリル硫酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウム等、及びそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0091】
例示的な油としては、アーモンド、アプリコットカーネル、アボカド、ババス、ベルガモット、ブラックカラントシード、ボラージ、ケイド、カモミール、キャノーラ、キャラウェイ、カルナウバ、ヒマシ、シナモン、ココアバター、ココナッツ、タラ肝、コーヒー、トウモロコシ、綿実、エミュー、ユーカリ、月見草、魚、亜麻仁、ゲラニオール、ひょうたん、ブドウ種子、ヘーゼルナッツ、ヒソップ、ミリスチン酸イソプロピル、ホホバ、ククイナッツ、ラバンジン、ラベンダー、レモン、リツエアクベバ、マカデミアナッツ、アオイ、マンゴー種子、メドウフォーム種子、ミンク、ナツメグ、オリーブ、オレンジ、オレンジラフィー、パーム、パームカーネル、ピーチカーネル、ピーナッツ、ケシの実、カボチャの種、菜種、米ぬか、ローズマリー、ベニバナ、白檀、サスクアナ(sasquana)、セイボリー、シーバックソーン、ゴマ、シアバター、シリコーン、大豆、ヒマワリ、ティーツリー、アザミ、ツバキ、ベチバー、クルミ、及び小麦胚芽の油が挙げられるが、これらに限定されない。例示的な油としては、ステアリン酸ブチル、カプリル酸トリグリセリド、カプリン酸トリグリセリド、シクロメチコン、セバシン酸ジエチル、ジメチコン360、ミリスチン酸イソプロピル、鉱油、オクチルドデカノール、オレイルアルコール、シリコーンオイル、及び/又はそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0092】
配合者の判断により、ココアバターや坐剤ワックスなどの賦形剤、着色剤、コーティング剤、甘味料、香味料、及び/又は芳香剤が組成物中に存在してもよい。
添加剤の例としては、生理学的に生体適合性のある緩衝剤(例えば、トリメチルアミン塩酸塩)、キレート剤(例えば、DTPA又はDTPAビスアミドなど)又はカルシウムキレート錯体(例えば、カルシウムDTPA、CaNaDTPA-ビスアミド)の添加、又は、任意選択で、カルシウム塩又はナトリウム塩(例えば、塩化カルシウム、アスコルビン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、又は乳酸カルシウム)の添加が挙げられる。さらに、抗酸化剤や懸濁剤も使用できる。
【0093】
いくつかの実施形態では、本開示の組成物は、治療上有効な結果をもたらす任意の経路で投与され得る。これらには、経腸(腸内への)、胃腸内、硬膜外(epidural)(硬膜内への)、経口(口からの)、経皮、硬膜外(peridural)、脳内(大脳内への)、脳室内(脳室内への)、上皮(皮膚への塗布)、皮内、(皮膚自体の中への)、皮下(皮膚の下)、鼻腔投与(鼻からの)、静脈内(静脈内への)、静脈内ボーラス、静脈内点滴、動脈内(動脈内への)、筋肉内(筋肉内への)、心臓内(心臓内への)、骨内注入(骨髄内への)、脊髄内(脊柱管内への)、腹腔内(腹膜内への注入又は注射)、膀胱内注入、硝子体内(眼からの)、海綿体内注射(病的腔への) 腔内(陰茎の根元への)、膣内投与、子宮内、羊膜外投与、経皮(全身分布のために無傷の皮膚を通じた拡散)、経粘膜(粘膜を通じた拡散)、経膣、吸入(鼻からの吸入)、舌下、唇下、浣腸、点眼(結膜への)、点耳、耳介(耳内又は耳を経由して)、頬側(頬に向けて)、結膜への、皮膚への、歯への(1本の歯又は複数の歯への)、電気浸透、頸管内、副鼻腔内、気管内、体外式、血液透析、浸潤、間質、腹部内、羊膜内、関節内、胆管内、気管支内、滑液包内、軟骨内(軟骨の中)、馬尾内(馬尾の中)、脳槽内(小脳髄質大槽の中)、角膜内(角膜の中)、歯科角質内、冠動脈内(冠動脈の中)、陰茎海綿体内(陰茎の海綿体の拡張可能な空間の中)、椎間板内(椎間板の中)、管内(腺の管の中)、十二指腸内(十二指腸の中)、硬膜内(硬膜の中又は下)、表皮内(表皮への)、食道内(食道への)、胃内(胃の中)、歯肉内(歯肉の中)、回腸内(小腸の遠位部の中)、病変内(局所病変の中又はそこへの直接導入)、管腔内(管腔の中)、リンパ内(リンパ管の中)、髄内(骨髄腔の中)、髄膜内(髄膜の中)、眼内(眼の中)、卵巣内(卵巣の中)、心膜内(心膜の中)、胸膜内(胸膜の中)、前立腺内(前立腺の中)、肺内(肺又はその気管支の中)、洞内(鼻洞又は眼窩周囲洞の中)、脊髄内(脊柱の中)、滑膜内(関節の滑膜腔の中)、腱内(腱の中)、精巣内(精巣の中)、髄腔内(脳脊髄軸のあらゆるレベルにおける脳脊髄液の中)、胸郭内(胸郭の中)、管内(臓器の管の中)、腫瘍内(腫瘍の中)、鼓室内(中耳の中)、血管内(血管の中)、心室内(心室の中)、イオントフォレシス(電流を用いて可溶性塩のイオンを体の組織に浸透させる)、洗浄(開いた傷口や体腔を洗浄又は洗い流す)、喉頭への(喉頭に直接)、経鼻胃(鼻から胃への)、密閉包帯法、眼への(外眼部への)、口腔咽頭への(口と咽頭に直接)、非経口、経皮、関節周囲、硬膜周囲、神経周囲、歯周、直腸、呼吸器への(局所的又は全身的な効果を得るために経口又は経鼻吸入により呼吸器内へ)、眼球後(橋の後ろ又は眼球の後ろ)、心筋内(心筋に入る)、軟部組織、くも膜下、結膜下、粘膜下、経胎盤(胎盤を通過して)、経気管(気管の壁を通過して)、経鼓室(鼓室を横切って)、尿管への、尿道への、膣への、仙骨ブロック、診断的、神経ブロック、胆汁潅流、心臓潅流、光線療法又は脊髄への投与が含まれるが、これらに限定されない。特定の実施形態では、組成物は、血液脳関門、血管関門、又は他の上皮関門を通過できるような方法で投与され得る。
【0094】
治療上有効な投与量は、当業者によって容易に決定され、疾患の重症度及び経過、患者の健康状態及び治療に対する反応、ならびに治療する医師の判断に依存する。
IV.使用方法
本明細書では、本開示のDSG2融合ポリペプチド組成物の使用方法が提供される。一実施形態では、本開示の組成物は、DSG2自己抗体に関連する疾患を治療するために使用され得る。一実施形態では、本開示の組成物は、任意の病因のDSG2抗体に関連する心毒性を軽減する。いくつかの実施形態では、DSG2融合ポリペプチド組成物は、対象における抗DSG2抗体を減少させるために使用され得る。対象は、抗DSG2抗体を生成することが知られている症状、疾患、又は障害を有していなくてもよい。いくつかの実施形態では、DSG2融合ポリペプチド組成物は、血清DSG2抗体レベルを低下させるために使用され得る。本開示の融合ポリペプチドは、DSG2抗体レベルを約1%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、又は100%低下させ得る。
【0095】
いくつかの実施形態では、心筋における抗DSG2抗体の不整脈誘発作用及び/又は心筋症誘発作用に関連する任意の疾患を、本明細書に記載のDSG2融合ポリペプチドで治療することができる。そのような適応症の非限定的な例としては、不整脈原性右室心筋症(ARVC)、サルコイドーシス、拡張型心筋症、感染後心筋症、心機能低下、駆出率低下、心不全、不整脈、及び心筋炎が挙げられる。
【0096】
治療の有効性又は疾患の改善は、例えば、疾患の進行、疾患の寛解、症状の重症度、痛みの軽減、生活の質、心臓検査における異常所見の減少、治療効果を持続するために必要な薬の投与量、疾患マーカーのレベル、あるいは治療中の又は予防の対象となる所与の疾患に適したその他の測定可能なパラメータを測定することによって評価できる。そのようなパラメータのいずれか1つ、又はパラメータの任意の組み合わせを測定することによって、治療又は予防の有効性をモニタリングすることは、十分に当業者の能力の範囲内である。融合ポリペプチド又はその医薬組成物の投与に関連して、疾患又は障害「に対して有効」とは、臨床的に適切な方法で投与すると、症状の改善、治癒、疾患負荷の軽減、寿命の延長、生活の質の向上、輸血の必要性の軽減、又は特定の種類の疾患又は障害の治療に精通している医師によって一般的に肯定的であると認識されるその他の効果など、少なくとも一部の患者に有益な効果をもたらすことを示す。
【0097】
治療又は予防効果は、病気の状態を示す1つ以上のパラメータに、多くの場合は統計的に有意な大幅な改善が見られる場合、又は、本来であれば予測される症状の悪化や発現が見られない場合は明らかである。一例として、疾患の測定可能なパラメータの少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、30%、40%、50%、又はそれ以上の好ましい変化は、有効な治療の指標となり得る。所与の化合物又は組成物の有効性は、当該技術分野で知られている所与の疾患の実験動物モデルを使用して判断することもできる。実験動物モデルを使用する場合、マーカー又は症状の統計的に有意な変化が観察されたときに治療の有効性が証明される。
【0098】
いくつかの実施形態では、本開示のDSG2融合ポリペプチドは、対象の心臓異常を治療するために使用され得る。いくつかの実施形態では、治療される対象は血清抗DSG2抗体を有していてもよい。
【0099】
心筋症及び不整脈
いくつかの実施形態では、本開示の組成物は不整脈を治療するために使用され得る。不整脈とは、心臓の電気活動の不適切な又は異常なパターンを指す。本開示の組成物は、不整脈原性右室心筋症、サルコイドーシス、COVID-19の急性後遺症、拡張型心筋症、肥大型心筋症、及び/又は拘束型心筋症などの疾患の非限定的な例に見られるように、1つ以上のタイプの不整脈を治療するために使用され得る。一実施形態では、心筋症の患者は血清中に血清DSG2自己抗体を発現する場合がある。
【0100】
いくつかの実施形態では、本開示の組成物は心筋症の治療に使用され得る。心筋症とは、心室の筋肉壁の構造及び機能の障害を指す。本開示の組成物は、不整脈原性右室心筋症、サルコイドーシス、COVID-19の急性後遺症(PASC)、拡張型心筋症、肥大型心筋症、及び/又は拘束型心筋症などであるがこれらに限定されない、1つ以上のタイプの心筋症を治療するために使用され得る。一実施形態では、心筋症の患者は血清中に血清DSG2自己抗体を発現する場合がある。
【0101】
一実施形態では、本開示の組成物は、不整脈原性右室心筋症(ARVC)を治療するために使用され得る。不整脈原性右室心筋症/異形成(ARVC/ARVD)は、心室性不整脈、心不全、及び突然死に関連する心筋障害である。ARVCは、劇症及び再発性不整脈を特徴とする心臓疾患であり、後期には心筋症の発症とそれに伴う心筋の線維性脂肪置換を伴う。心筋細胞デスモソームの構造タンパク質及びシグナル伝達タンパク質の遺伝子変異に加えて、患者の免疫系もARVCに関係していると考えられている。DSG2タンパク質の変異はARVCと関連しており、この疾患の患者ではDSG2を標的とする自己抗体が特定されている。ARVC患者の約50%には既知のデスモソーム変異がないが、それでもこれらの患者はDSG2自己抗体を発現する可能性がある。いくつかの実施形態では、DSG2融合タンパク質は、DSG2タンパク質に1つ以上の変異を有するARVC患者の治療に使用できる。いくつかの態様では、DSG2融合タンパク質は、DSG2タンパク質に既知の変異がないARVC患者の治療に使用され得る。いくつかの実施形態では、本開示のDSG2融合ポリペプチドは、ARVCに関連するDSG2自己抗体を標的とすることができる。
【0102】
不整脈及び/又は心筋症は、例えばコクサッキーウイルスやコロナウイルスなどの感染によって引き起こされる急性炎症プロセスに関連する臨床所見となり得、そのような心筋の炎症は心筋炎と呼ばれる。いくつかの実施形態では、心筋炎は、ウイルス、細菌、寄生虫、及び/又は真菌によって引き起こされ得る。いくつかの実施形態では、本開示の組成物は、ウイルスに関連する心筋炎を治療及び/又は予防するために使用され得る。心筋炎に関連するウイルスの非限定的な例としては、風邪の原因となるアデノウイルス、COVID-19;B型肝炎及びC型肝炎;特に子供に軽い発疹(第5病)を引き起こすパルボウイルス;及び/又は単純ヘルペスウイルス、胃腸感染症を引き起こすエコーウイルス、単核球症を引き起こすエプスタイン・バーウイルス、風疹、サイトメガロウイルス、及びHIVがある。
【0103】
いくつかの実施形態では、本開示の組成物は、細菌によって引き起こされる心筋炎を治療及び/又は予防するために使用され得る。心筋炎に関連する細菌の非限定的な例としては、ブドウ球菌、連鎖球菌、及び/又はボレリアなどが挙げられる。いくつかの実施形態では、本開示の組成物は、寄生虫によって引き起こされる心筋炎を治療及び/又は予防するために使用され得る。心筋炎に関連する寄生虫の非限定的な例としては、トリパノソーマ・クルージ(Trypanosoma cruzi)やトキソプラズマが挙げられ、昆虫によって伝染し、シャーガス病と呼ばれる症状を引き起こすものもある。いくつかの実施形態では、本開示の組成物は、真菌によって引き起こされる心筋炎を治療及び/又は予防するために使用され得る。心筋炎に関連する真菌の非限定的な例としては、カンジダ、アスペルギルス、及びヒストプラズマなどの他の真菌が挙げられる。
【0104】
不整脈原性右室心筋症(ARVC)
不整脈原性右室心筋症(ARVC)は、不整脈原性右室異形成/心筋症(ARVD/C)としても知られている。これは複雑で壊滅的な心臓病であり、若い人やアスリートによく見られ、臨床的特徴に関して多様性を示す。典型的なARVCの臨床症状には、動悸、不整脈性失神前状態/失神、心室性不整脈による心臓突然死などがあり、主に電気的(primary electrical)な関与を示唆している。しかし、ARVC患者は、典型的には病気の後期に、心筋の菲薄化と拡張からなる心筋リモデリング、及び心室(右心室及び/又は左心室)の機能障害、及び/又は心筋の線維性脂肪置換など、構造的疾患に関連する臨床症状を示すこともあり、これらは主に構造的(primary structural)な関与を示唆する。この疾患の構造的性質はARVCとしてさらに強化されている。ARVCは「デスモソームの疾患」と呼ばれ、ヒトの遺伝子研究では患者の約40~50%がデスモソーム細胞間接合部の構成要素をコードする遺伝子(例えば、デスモプラキン(DSP)、プラコグロビン(JUP)、プラコフィリン2(PKP2)、デスモグレイン2(DSG2))に変異があることが示されているが、遺伝学的研究では、異常な遺伝子だけではARVC疾患を引き起こすのに十分ではないことが強く示唆されている。
【0105】
現在、ARVCに有効な治療法はなく、ARVCに特化した治療法、スクリーニングレジメン、薬剤のランダム化試験は実施されていない。その結果、ARVC患者の治療戦略は主に電気生理学的影響の症状緩和に向けられており、臨床専門知識、レジストリに基づく後ろ向き研究の結果、及びモデルシステムでの研究に基づいている。その結果、ARVC患者に対する既存の治療法は、抗不整脈薬(ソタロール、アムニオダロン、ベータ遮断薬)の使用に依存しており、患者が抗不整脈治療に抵抗性又は不耐性になった場合は、植込み型除細動器や心臓カテーテルアブレーションなどのより侵襲的な選択肢に移行する。しかし、現在の治療法では病気の管理に効果が限られており、40%ものARVC患者が最初の診断後10~11年以内に死亡しており、ARVC患者に対するより効果的な治療法の開発の必要性が浮き彫りになっている。
【0106】
COVID-19
本明細書に記載のDSG2融合ポリペプチド又は融合ポリペプチドを含む組成物は、COVID-19又はCOVID-19の長期的影響を治療するために投与することができる。
【0107】
いくつかの実施形態では、本開示の組成物は、COVID-19及び/又はSARS-CoV-2に感染した個人の治療に有用であり得る。感染者には症状のある人、症状が出る前の人、及び無症状の人がいる。世界保健機関(WHO)によると、COVID-19の感染は、SARS-CoV-2に感染した症状のある人、症状が出る前、及び無症状の人から起こる可能性がある。症状のある感染とは、人が症状を経験する前に起こる感染を指す場合がある。発症前感染とは、COVID-19の症状が現れる前の感染を指す場合がある。
【0108】
COVID-19は、発熱や悪寒、咳、息切れや呼吸困難(difficulty breathing)、疲労感、筋肉痛や体の痛み、頭痛、味覚や嗅覚の新たな喪失、喉の痛み、鼻づまりや鼻水、吐き気や嘔吐、下痢、呼吸困難(trouble breathing)、胸部の持続的な痛みや圧迫感などであるがこれらに限定されない1つ以上の症状を伴う場合がある。いくつかの実施形態では、COVID-19感染は無症状であり得るが、それでも抗DSG2抗体を生じさせ得る。
【0109】
DSG2融合ポリペプチドは、COVID-19疾患の1つ以上の段階の治療に使用され得る。通常、SARS-CoV-2に感染した成人は、病気の重症度に応じて次のカテゴリーに分類される。ただし、各カテゴリーの基準は、臨床ガイドラインや臨床試験によって重複したり、異なる場合があり、患者の臨床状態は時間の経過とともに変化する可能性がある(COVID-19治療ガイドラインパネル。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療ガイドライン。国立衛生研究所。www.covid19treatmentguidelines.nih.gov/で入手可能。2020年11月12日にアクセスし、その全文が参照により本明細書に組み込まれる)。いくつかの実施形態では、本開示の組成物は、ウイルス学的検査(すなわち、核酸増幅検査又は抗原検査)を使用してSARS-CoV-2の検査で陽性となるが、COVID-19と一致する症状を有しない個人を含み得る無症候性又は発症前感染症を治療するためのものであり得る。いくつかの実施形態では、本開示の組成物は、COVID-19の様々な兆候及び症状(例えば、発熱、咳、咽頭痛、倦怠感、頭痛、筋肉痛、吐き気、嘔吐、下痢、味覚及び嗅覚の喪失)のいずれかを有するが、息切れ、呼吸困難、及び胸部画像の異常のいずれも有しない個人を含む軽度の病気を治療するためのものであり得る。いくつかの実施形態では、本開示の組成物は、臨床評価又は画像診断中に下気道疾患の証拠を示し、海抜ゼロ地点での室内空気で酸素飽和度(SpO2)が94%以上である個人を含み得る中程度の病気を治療するためのものであり得る。いくつかの実施形態では、本開示の組成物は、海抜ゼロ地点での室内空気でSpO2が94%未満、動脈血酸素分圧対吸入酸素分率(PaO2/FiO2)の比が300mmHg未満、呼吸回数が1分あたり30回超、又は肺浸潤が50%超である個人を含む重篤な病気を治療するためのものであり得る。いくつかの実施形態では、本開示の組成物は、呼吸不全、敗血症性ショック、及び/又は多臓器不全を有する個人を含む重篤な病気を治療するためのものであり得る。
【0110】
COVID-19に関連する1つ以上の症状を予防する方法も本明細書に提供される。一実施形態では、ウイルスへの曝露と症状発現の間には潜伏期間があるため、本開示の組成物は、症状発現前であるがウイルスへの曝露後に対象に提供され得る。新型コロナウイルスSARS-CoV-2の潜伏期間は通常2~14日間で、平均は5日間である(Lombardi et al.,J.Hosp.Infect.2020 doi:10.1016/j.jhin.2020.03.003;その内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。
【0111】
本開示の組成物は、COVID-19の治療に使用することが推奨される1つ以上の治療剤と組み合わせて投与することもできる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載のDSG2融合ポリペプチドは、レムデシビル、クロロキン、ヒドロキシクロロキン、アジスロマイシン、ロピナビル、リトナビル、イベルメクチン、インターロイキン阻害剤、インターフェロン、キナーゼ阻害剤、グルココルチコステロイド、及び/又はSARS CoV-2モノクローナル抗体(例えば、バムラニビマブ、カシリビマブ、イムデビマブ)などであるがこれらに限定されない1つ以上の治療剤と組み合わせて使用され得る。
【0112】
2019年から、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)がパンデミックを引き起こし、何百万人もの人々がコロナウイルス疾患(COVID-19と呼ばれる)に感染し(Wu et al.,2020 Nature 579,265-269)、世界中で100万人を超える死者を出した。SARS-CoV-2に感染した患者は、無症状から重篤な病気に至るまで、様々な臨床症状を経験し得る。新たな研究によると、場合によっては、たとえ軽症であった人でも、最初の回復後も長期間にわたって症状が続くことがあることが示唆されている。この症状は、COVID-19後症候群、又は「長期的COVID-19」又は「長期COVID-19」又は「COVID-19の急性後遺症(PASC)」と呼ばれている。現在推定されているところによると、COVID-19に感染した患者の最大28%は、急性COVID-19感染から回復してから3か月経っても動悸が続くとのことである(Puntmann,et al.,Nature Med.2022,28,2117-2123、その全文は参照により本明細書に組み込まれる)。さらに、COVID-19の急性感染が治まった後でも、患者は駆出率の低下や心筋症を発症する可能性もある。COVID-19後の心臓の徴候及び症状は、他の臓器系への影響と共存する場合もあるが、単独で現れる場合もある。長期COVIDの患者は、不整脈のみ、心筋症のみ、又はその両方を呈する場合がある。心筋症の患者は、無症状の患者から、劇症心不全、不整脈、及び/又は突然心臓死を起こす患者までにおよぶ。
【0113】
COVID-19ウイルスであるSARS-CoV-2は、特に肺と心臓を中心に複数の器官系に影響を及ぼす。COVID-19感染患者では、心臓バイオマーカー、特に高感度トロポニン及び/又はクレアチンキナーゼMBの上昇がよく観察されている。Bavishiらによって行われた臨床分析のレビューでは、COVID-19感染患者の20%に心筋障害が発生したことが判明した(Prog Cardiovasc Dis.2020 9-10月号;63(5):682-689)。COVID-19に関連する心筋障害の考えられるメカニズムには、1)心筋炎をもたらす病的なT細胞及び単球を介して媒介される過剰炎症及びサイトカインストーム、2)心筋細胞の損傷につながる呼吸不全及び低酸素血症、3)心筋細胞におけるACE2発現とそれに続く保護シグナル伝達経路のダウンレギュレーション、4)過凝固及び冠状動脈微小血管血栓症の発症、5)びまん性内皮障害、及び/又は、6)炎症及び/又はストレスによる冠動脈プラーク破裂又は需給不一致によるCOVID-19後症候群の心筋虚血/心筋梗塞があるが、これらに限定されるわけではない。
【0114】
いくつかの実施形態では、本開示の組成物は、COVID-19後症候群の治療に使用され得る。急性COVID-19から回復した後も症状が持続する患者の報告が増えており、ここでは「COVID-19後症候群」と呼び、これらの症状に苦しむ個人は一般に「ロングホーラー」と呼ばれている。いくつかの実施形態では、患者が1か月まで、2か月まで、3か月まで、4か月まで、5か月まで、6か月まで、1年以上、1つ以上の症状に苦しんでいる場合、COVID-19後症候群であるとみなされる場合がある。
【0115】
COVID-19後症候群は、心血管障害を含む複数の臓器障害とも関連している。COVID-19から回復してから数か月後に行われた画像検査では、軽度のCOVID-19の症状しか経験していない人でも、心筋に長期的な損傷があることが示された。COVID-19後症候群は、不整脈及び/又は心筋炎及び/又は心筋症のリスク増加とも関連しているようである。
【0116】
現在、COVID-19及びCOVID-19後症候群を治療及び/又は管理するための治療戦略が欠如している。COVID-19の心臓症状は、これらの患者に必要な膨大な資源と潜在的な集中治療サポートにより、医療システムに多大な負担をかける。特に、COVID-19及びCOVID-19後症候群に関連する心筋障害の発生率及び死亡率を低下させるために、炎症反応を抑制する治療法の開発が緊急に必要とされている。本開示は、COVID-19及び/又はCOVID-19後症候群などであるがこれらに限定されない疾患を治療するためのDSG2融合ポリペプチドベースの組成物及び方法を提供する。
【0117】
本開示の組成物は、COVID-19後症候群(すなわち、COVID-19後心臓症候群)における心血管系に関連する1つ以上の症状を治療するために使用され得る。COVID-19から最近回復した患者100人を対象としたある研究では、心臓磁気共鳴画像検査により、78人(78%)に心臓障害があり、60人(60%)に心筋炎が継続していることが明らかになったが、これは既往症、急性疾患の重症度と全体的な経過、及び最初の診断からの時間とは無関係であった(Puntmann et al.JAMA Cardiol.2020;5(11):1265-1273)。より小規模な研究では、アスリートの15%に急性COVID-19からの回復後に心筋異常の証拠が見られた。一実施形態では、DSG2融合ポリペプチドは、COVID-19後症候群の対象の心筋炎を治療するために使用され得る。
【0118】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の組成物は、いかなる心臓適応症にも関連しないCOVID-19後症候群の治療に使用され得る。
いくつかの実施形態では、本開示の組成物は、COVID-19の最初の診断後、最大数週間、数か月、及び/又は数年間、COVID-19の症状を示す対象を治療するために使用され得る。いくつかの実施形態では、COVID-19後症候群の患者は、COVID-19の最初の診断後、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、8週間、9週間、10週間、11週間、12週間、1か月、2か月、3か月、4か月、5か月、6か月、7か月、8か月、9か月、10か月、11か月、12か月、1年、2年、3年、4年、5年又はそれ以上の間及び/又はその期間を経過した後に症状を示す可能性がある。COVID-19の診断は、当技術分野で知られている方法(例えば、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応及び/又は抗体検査)を使用して確立することができる。いくつかの実施形態では、COVID-19後症候群に罹患した対象は、本開示の組成物で治療され得る。
【0119】
いくつかの実施形態では、本開示の組成物は、心不全の明白な症状の有無にかかわらず、心機能の低下、最も顕著には駆出率の低下を発症したCOVID-19患者を治療するために使用され得る。いくつかの実施形態では、本開示の組成物は不整脈を治療するために使用され得る。
【0120】
本開示の組成物は、COVID-19後症候群に関連する1つ以上の症状を緩和することができる。いくつかの実施形態では、COVID-19後症候群の症状は急性COVID-19と同じである場合がある。いくつかの側面では、COVID-19後症候群に関連する症状は、息切れ、疲労、浮腫、起座呼吸、運動の制限(limitations to exertion)、認知能力の低下、動悸、めまい、失神、立ちくらみ、心不全、及び/又は不整脈などであり得る。
【0121】
いくつかの実施形態では、本開示の組成物は、COVID-19ではない患者でも報告されている集中治療後症候群と重複する症状を伴うCOVID-19後症候群を治療するために使用され得る。
【0122】
いくつかの実施形態では、本開示の組成物は、心血管系(例えば、心筋の炎症)、呼吸器系(肺機能異常)、腎臓系(急性腎障害)、皮膚(発疹、脱毛)、神経系合併症(嗅覚及び味覚の問題、睡眠障害、集中力の低下、記憶障害)、及び/又は精神疾患(うつ病、不安、気分の変化)に関連する1つ以上の長期合併症を有する可能性があるCOVID-19後症候群の対象を治療するために使用され得る。
【0123】
いくつかの実施形態では、本開示の組成物は、1つ、2つ、又はそれ以上の関連する併存症を有する可能性があるCOVID-19後症候群の対象を治療するために使用され得る。併存症の非限定的な例としては、高血圧、甲状腺疾患、免疫障害、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、高血圧、肥満、精神疾患、及び糖尿病が挙げられるが、これらに限定されない。
【0124】
V.定義
ドメイン:本明細書においてポリペプチドについて言及する場合、「ドメイン」という用語は、1つ以上の識別可能な構造的又は機能的特徴又は特性(例えば、結合能力、タンパク質間相互作用の部位としての機能)を有するポリペプチドのモチーフを指す。
【0125】
発現ベクター:本明細書において使用される「発現ベクター」という用語は、転写可能な遺伝子産物の少なくとも一部をコードする核酸配列を含むベクターを指す。発現ベクターは、様々な制御配列を含むことができる。制御配列とは、特定の宿主生物内で作動可能に連結されたコード配列の転写及び場合によっては翻訳に必要な核酸配列を指す。転写と翻訳を制御する制御配列に加えて、ベクター及び発現ベクターは、他の機能を果たす核酸配列も含むことができる。この用語には、in vitro又はin vivoのいずれかで宿主細胞に送達されるポリヌクレオチドを含む組換えプラスミド又はウイルスも含まれる。いくつかの実施形態では、宿主細胞は一過性細胞株又は安定細胞株である。いくつかの実施形態では、宿主細胞はCHO細胞、HEK293細胞、及びNS0細胞からなる群から選択される。
【0126】
特徴:ポリペプチドについて言及する場合の「特徴」は、異なるアミノ酸配列に基づく分子の構成要素として定義される。本明細書に記載のポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドの特徴には、局所的な立体配座形状、折り畳み、ループ、ハーフループ、ドメイン、ハーフドメイン、部位、末端、又はそれらの任意の組み合わせが含まれる。
【0127】
融合タンパク質:本明細書において使用される「融合タンパク質」又はキメラタンパク質という用語は、同じポリペプチドに天然には存在しない2つ以上のアミノ酸配列又はそれらの活性断片を含むタンパク質又はポリペプチドを指す。いくつかの実施形態では、2つ以上の別個のポリペプチドが、作動可能に共有結合、例えばペプチド結合により化学的結合、又は融合している。組換え融合ポリペプチドは、組換えDNA技術によって人工的に作成される。
【0128】
ハーフドメイン:本明細書においてポリペプチドについて言及する場合、「ハーフドメイン」という用語は、特定されたドメインの一部分であって、それが由来するドメインに存在するアミノ酸の数の少なくとも半分を有する部分を意味する。ドメインには必ずしも偶数のアミノ酸残基が含まれるとは限らないことが理解されている。したがって、ドメインが奇数のアミノ酸を含むか、又は奇数のアミノ酸を含むことが確認される場合、奇数ドメインのハーフドメインは、ドメインの整数部分又は次の整数部分(ドメインのアミノ酸数/2±0.5アミノ酸)を構成する。例えば、7アミノ酸ドメインとして識別されるドメインは、3アミノ酸又は4アミノ酸のハーフドメインを生成し得る(7/2=3.5±0.5は3又は4)。また、サブドメインはドメイン又はハーフドメイン内で識別され得、これらのサブドメインは、派生元のドメイン又はハーフドメインで識別される構造的又は機能的特性のすべてよりも少ない特性しか持たないことも理解される。また、本明細書に記載のいずれかのドメインタイプを構成するアミノ酸は、ポリペプチドのバックボーンに沿って連続している必要はない(すなわち、隣接しないアミノ酸同士が構造的に折り畳まれることで、ドメイン、ハーフドメイン、又はサブドメインを生成してもよい)ことも理解される。
【0129】
免疫応答:本明細書において使用される「免疫応答」という用語は、炎症、外傷、免疫障害、又は感染症もしくは遺伝性疾患に関連する状態を指す。これらの状態は、例えば、抗体、免疫細胞、サイトカイン、ケモカイン、その他のシグナル伝達分子など、細胞及び全身の防御システムに影響を及ぼし得る様々な因子の発現によって特徴付けられる。
【0130】
リンカー:本明細書において使用される「リンカー」は、2つ以上のポリペプチドを共有結合で結合する官能基(例えば、化学物質又はポリペプチド)を指す。本明細書において使用される「ペプチドリンカー」は、2つのタンパク質を互いに結合するために使用される2つ以上のアミノ酸である。
【0131】
調節:本明細書で使用される「調節」という用語は、当該技術分野で認識されており、応答の上方調節(すなわち、活性化又は刺激)、下方調節(すなわち、阻害又は抑制)、又はこれら2つの組み合わせ又は単独を指す。
【0132】
ポリヌクレオチド:本明細書において使用される「ポリヌクレオチド」という用語は、ホスホジエステル結合によってつながったヌクレオチドの配列を指す。本明細書では、ポリヌクレオチドは5’から3’に向かう方向で提示される。ポリヌクレオチドは、デオキシリボ核酸(DNA)分子又はリボ核酸(RNA)分子である。ポリヌクレオチドがDNA分子である場合、その分子は遺伝子又はcDNA分子であり得る。ここでは、ヌクレオチド塩基は、アデニン(A)、グアニン(G)、チミン(T)、シトシン(C)、イノシン(I)、及びウラシル(U)の1文字コードで示される。ポリヌクレオチドは、当業者に周知の標準的な技術を使用して調製することができる。
【0133】
ポリペプチド:いくつかの実施形態では、本開示の組成物は、ポリペプチド又はタンパク質、あるいはそれらのバリアントである。本開示によれば、任意のアミノ酸ベースの分子(天然又は非天然)は「ポリペプチド」と呼ばれ、この用語には「ペプチド」、「ペプチド模倣物」、及び「タンパク質」が含まれる。本明細書において、「ポリペプチド」とは、ほとんどの場合ペプチド結合によって連結されたアミノ酸残基(天然又は非天然)のポリマーを意味する。ここで使用される用語は、あらゆるサイズ、構造、又は機能のタンパク質、ポリペプチド、及びペプチドを指す。「ペプチド模倣体」又は「ポリペプチド模倣体」とは、分子内に天然ポリペプチドには見られない構造要素が含まれるポリペプチド(つまり、20種類のタンパク質構成アミノ酸のみで構成されるポリペプチド)である。いくつかの実施形態では、ペプチド模倣物は、天然ペプチドの生物学的作用を再現又は模倣することができる。
【0134】
ポリペプチドバリアント:「ポリペプチドバリアント」という用語は、天然配列又は参照配列とはアミノ酸配列が異なる分子を指す。アミノ酸配列バリアントは、天然配列又は参照配列と比較して、アミノ酸配列内の特定の位置に置換、欠失、及び/又は挿入を有し得る。通常、バリアントは、天然配列又は参照配列に対して少なくとも約50%の同一性(相同性)を有し、好ましくは天然配列又は参照配列に対して少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約90%の同一性(相同性)を有する。
【0135】
組換え:本明細書において使用される「組換え」という用語は、自然界に一般的に見られるものとは異なる遺伝的実体を指す。ポリヌクレオチド又は遺伝子に適用される場合、これは、ポリヌクレオチドが、クローニング、制限及び/又はライゲーションのステップ、ならびに自然界に見られるポリヌクレオチドとは異なる構造の生成をもたらすその他の手順の様々な組み合わせの産物であることを意味する。
【0136】
サンプル:本書で使用される「サンプル」という用語は、ソースから採取され、及び/又は分析又は処理のために提供されるアリコート又は部分を指す。いくつかの実施形態では、サンプルは、組織、細胞、又は構成部分(例えば、血液、粘液、リンパ液、滑液、脳脊髄液、唾液、羊水、羊水臍帯血、尿、膣液、及び精液を含むがこれらに限定されない体液)などの生物学的供給源からのものである。いくつかの実施形態では、サンプルは、例えば、血漿、血清、脊髄液、リンパ液、皮膚の外部部分、呼吸器、腸管、泌尿生殖器管、涙、唾液、乳汁、血球、腫瘍、又は器官を含むがこれらに限定されない、生物全体又はその組織、細胞、又は構成部分のサブセット、あるいはその画分又は一部から調製されたホモジネート、溶解物又は抽出物であるか、又はそれらを含むことができる。いくつかの実施形態では、サンプルは、タンパク質などの細胞成分を含む可能性のある栄養ブロス又はゲルなどの培地であるか、又は培地を含む。いくつかの実施形態では、「一次」サンプルはソースのアリコートである。いくつかの実施形態では、一次サンプルは、分析又は他の用途のためにサンプルを準備するために、1つ以上の処理(例えば、分離、精製などの)ステップにかけられる。
【0137】
配列同一性:「配列同一性」という用語は、配列アラインメントによって示される同一のヌクレオチド又はアミノ酸の割合を示す。例えば、それぞれ20個のアミノ酸残基を有する2つのペプチドは、2つの位置の違いを除いてアミノ酸配列が同一である場合、18/20、つまり90%の配列同一性を有する。
【0138】
実質的に:本明細書において使用される「実質的に」という用語は、対象とする特性又は性質の完全又はほぼ完全な範囲又は程度を示す質的な状態を指す。生物学分野の通常の技術者であれば、生物学的現象や化学的現象が完結したり、完全性に向かって進んだり、絶対的な結果を達成したり回避したりすることはほとんどないということを理解するであろう。したがって、本明細書において「実質的に」という用語は、多くの生物学的現象や化学的現象に内在する潜在的な完全性の欠如を捉えるために使用されている。
【0139】
末端:本明細書において、ポリペプチドを指す場合の「末端」という用語は、ペプチド又はポリペプチドの末端を指す。このような末端は、ペプチド又はポリペプチドの最初の部位又は最後の部位だけに限定されず、末端領域の追加のアミノ酸を含む場合もある。本明細書に記載のポリペプチドベースの分子は、N末端(遊離アミノ基(NH2)を有するアミノ酸で終端)及びC末端(遊離カルボキシル基(COOH)を有するアミノ酸で終端)の両方を有することを特徴とし得る。ここで説明するタンパク質は、場合によっては、ジスルフィド結合又は非共有結合力によって結合された複数のポリペプチド鎖(多量体、オリゴマー)で構成されている。この種のタンパク質は複数のN末端及びC末端を有することになる。あるいは、ポリペプチドの末端は、場合によっては、有機コンジュゲートなどの非ポリペプチドベースの部分で始まるか終わるように改変され得る。
【0140】
治療有効量:本明細書において使用される「治療有効量」という用語は、疾患、障害、及び/又は状態に罹患しているか、又は罹患しやすい対象に投与された場合、疾患、障害、及び/又は状態を、治療し、その症状を改善し、診断し、予防し、及び/又はその発症を遅らせるのに十分な、送達される薬剤の量を意味する。
【0141】
治療:本明細書において使用される「治療」という用語は、特定の疾患、障害、及び/又は状態の1つ以上の症状又は特徴を部分的に又は完全に軽減し、改善し、向上させ、緩和し、発症を遅延させ、進行を抑制し、重症度を軽減し、及び/又は発生率を低下させることを指す。治療は、疾患、障害、及び/又は状態の兆候を示さない対象、及び/又は疾患、障害、及び/又は状態の初期兆候のみを示す対象に対して、疾患、障害、及び/又は状態に関連する病状の発症リスクを低減する目的で実施され得る。
【0142】
治療:本明細書において使用される「治療」、「処置」などの用語は、病理学的プロセスの緩和又は軽減を指す。本開示の文脈では、本明細書で以下に記載される他の状態のいずれかに関連し、「治療」、「処置」などの用語は、そのような状態に関連する少なくとも1つの症状を軽減又は緩和すること、又はそのような状態の進行又は予測される進行を遅らせるか、又は逆転させることを意味する。
【0143】
治療用量:本明細書において、「治療用量」とは、治療適応症に対処又は緩和する過程で投与される治療薬の1回以上の用量を指す。治療用量は、体液又は生体システムにおける治療薬の所望の濃度又は活性レベルを維持するために調整され得る。
【0144】
VI.均等物及び範囲
本開示では、様々な実施形態が具体的に示され、説明されているが、本明細書に開示され、添付の特許請求の範囲に記載されている実施形態の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態及び詳細に様々な変更を加えることができることは、当業者には理解されるであろう。
【0145】
当業者であれば、日常的な実験のみを使用して、本明細書に記載された特定の実施形態と同等のものを多数認識又は確認することができるであろう。本開示の範囲は、上記の説明に限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲に記載されるとおりである。
【0146】
特許請求の範囲において、「1つ」、「前記」などの冠詞は、特に反対のことが示されていない限り、又は文脈から明らかでない限り、1つ又は2つ以上を意味する場合がある。グループの1つ以上のメンバー間に「又は」が含まれる請求項又は説明は、反対のことが示されていない限り、又は文脈から明らかでない限り、グループメンバーのうちの1つ、複数、又はすべてが所与の製品又は方法に存在する、使用される、又は他の態様で関連する場合に満たされていると見なされる。本開示には、グループのただ1つのメンバーが所与の製品又は方法に存在する、使用される、又は他の態様で関連する実施形態が含まれる。本開示には、複数のグループメンバー又はすべてのグループメンバーが所与の製品又は方法に存在する、使用される、又は他の態様で関連する実施形態が含まれる。
【0147】
また、「含む」という用語はオープンな意味を持ち、追加の要素又はステップを含めることを許容するが、それが必須というわけではない。したがって、本願において「含む」という用語が使用される場合、「からなる」及び「又は含む」という用語も包含され、開示されることになる。
【0148】
範囲が指定されている場合は、上限値・下限値も含まれる。さらに、特に明記されていない限り、又は文脈及び当業者の理解から明らかでない限り、範囲として表現される値は、本開示の異なる実施形態では、文脈上明らかに別段の定めがない限り、その範囲の下限値の単位の10分の1までの任意の特定の値又は記載された範囲内の部分範囲とみなすことができる。
【0149】
さらに、先行技術に該当する本開示の特定の実施形態は、請求項のいずれか1つ以上から明示的に除外される場合があることを理解されたい。そのような実施形態は当業者に既知であるとみなされるため、本明細書に明示的に除外が記載されていなくても除外され得る。本明細書に開示された組成物の特定の実施形態は、先行技術の存在に関連するか否かに関わらず、いかなる理由でも、いずれか1つ以上の請求項から除外することができる。
【0150】
引用したすべての情報源、例えば、本明細書で引用した参考文献、出版物、データベース、データベースエントリ、及び技術は、引用文献に明示的に記載されていない場合でも、参照により本願に組み込まれる。引用した情報源と本願の記述が矛盾する場合は、本願の記述が優先されるものとする。
【0151】
セクション及び表の見出しは限定を意図したものではない。
実施例
実施例1.DSG2融合ポリペプチド及び抗DSG2抗体との相互作用
DSG2融合ポリペプチドの候補には、IgGFc又はそのバリアントに融合されたDSG2の細胞外ドメイン(ECD)部分が含まれる。ECDを免疫グロブリンのFc部分に結合させることは、タンパク質の安定性の向上、PK特性の強化、効率的な精製を可能にするため、DSG2融合ポリペプチドに有益であると考えられた。表4は、取得又は調製されたDSG2融合ポリペプチドを示す。
【0152】
DSG2融合ポリペプチドの調製物全体は、ワンステップアフィニティ精製によって見られるように、非常に不均一であることが確認された。生産の初期評価では、高い凝集性が示唆された。表5に示すように、動的光散乱(DLS)では、すべての候補が>0.25の平均ポリマー分布指数(PDI)を示し、これは、凝集又は沈殿が進んだために、サンプルに複数のサイズの粒子が含まれている可能性があることを示している。6つの候補を参照サンプルと比較した。6つの候補すべてにおいて、ピーク1モードの直径が約4~8倍の大きさを示した。IgG4を含む融合ポリペプチドは、IgG1を含む融合ポリペプチドと比較して、ピーク1モード直径が約2倍大きいことが示された。
【0153】
【表5】
【0154】
表6は、候補DSG2融合ポリペプチドの融解温度Tm値を示す。3つのTm値の存在は、候補となるDSG2融合ポリペプチドに分析前に凝集体が含まれている可能性があることを示唆している。温度が上昇するにつれて、集合体は動き始め、展開し、拡散し始めた。3番目のTm値を含む4つのサンプルの微分グラフは、融点後の遷移を示した。分析中に提供されたTm値は、すべてのDSG2融合ポリペプチド間で同様の値を示した。これは、構造の熱安定性が類似していることを示唆している可能性がある。
【0155】
【表6】
【0156】
DSG2融合ポリペプチドを、抗DSG2抗体メソスケールディスカバリー(MSD)アッセイによって抗DSG2抗体を阻害する能力について試験した。試験したDSG2FP#2、DSG2FP#3、DSG2FP#4、DSG2FP#5、DSG2FP#6、DSG2FP#7融合ポリペプチドは、抗DSG2抗体に結合してブロックすることができた。DSG2融合ポリペプチドDSG2FP#1は、抗DSG2抗体及びARVC患者から得られた血清(以下、ARVC血清とも呼ばれる)に結合してブロックすることができた(図1A参照)。DSG2融合ポリペプチドをサイズ排除クロマトグラフィーにかけ、様々な溶出画分を調べた。画分「C」は約350kDaの予測MWを示し、追加の実験に使用された。表7及び図1B図1C、及び図1Dに示すように、画分Cを濃縮することで、DSG2融合ポリペプチドがARVC患者血清を阻害する能力が向上した。この効果は、DSG2FP#4よりもDSG2FP#2及びDSG2FP#3で顕著である。
【0157】
【表7】
【0158】
実施例2.抗DSG2抗体及びDSG2融合ポリペプチドの心機能への効果
心筋細胞における抗DSG2抗体の効果を決定するために、心臓in vitro催不整脈(CiPA)アッセイを実施した(Sager etal.Am Heart J 2014;167:292-300;その内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。CiPAは、次の4つの要素で構成されることが想定されている:(1)心臓イオンチャネルアッセイに対する試験薬剤の効果の評価;(2)イオンチャネルの結果に基づいて心臓活動電位をコンピュータでモデリングし、データを心機能と統合すること;(3)モデリング結果を確認するためにヒト心室筋細胞における試験薬剤の効果を実験的に測定すること;及び(4)結果のスコアリング。マルチ電極アレイ(MEA)アッセイはCiPAの構成要素である。MEAアッセイは、ヒト人工多能性幹細胞(iPSC)由来の心筋細胞を使用して、自発的なECGのような電場電位を記録することで2次元の興奮伝播を評価する。以下で定量化されるナトリウムスパイクは、心筋細胞内の特定のナトリウムチャネル電流の測定値であり、Blinova K,etal.Cell Rep.2018年9月25日;24(13):3582-3592(その内容は全体として参照により本明細書に組み込まれる)でも説明されている。CiPAは、FDA及びEMAによって臨床的に検証された心筋細胞ベースのアッセイとみなされている。アッセイにおける不整脈信号は、抗DSG2抗体などの特定の薬剤がヒトに不整脈を引き起こす可能性があることの証拠とみなされる。評価されるパラメータには、電気信号伝播のコンポーネントのスパイクの変化(例えば、ナトリウムスパイク)の測定と、細胞インピーダンス及び細胞数の関数である細胞インデックスが含まれる。ナトリウムスパイクの変化は不整脈の兆候である可能性があり、細胞指数(CI)の変化は細胞結合の変化を示している可能性がある。
【0159】
市販の抗DSG2抗体を心筋細胞CiPAアッセイで試験した。抗DSG2抗体は心筋細胞のナトリウムスパイクを抑えることがわかり、この効果は時間と用量に依存していた。電圧(μV)は、0、1時間、12時間、24時間、48時間、72時間、及び96時間の時間間隔で測定される。図2に示すように、抗DSG2抗体(0.5μg/mL)のナトリウムスパイクに対する効果は、10μMリドカイン(陽性対照)の効果と同等であった。抗DSG2抗体の心筋細胞ナトリウムスパイクに対する効果は、1.1μg/mLのDSG2融合ポリペプチド、DSG2FP#1によって回復した。予想通り、陰性対照、ビヒクル、ウサギIgG、及び0.5μg/mLの抗VCAM-1抗体は、時間の経過とともにナトリウムスパイクに変化を引き起こさなかった。
【0160】
抗DSG2抗体の様々な用量は細胞指数に影響を及ぼした。細胞指数は、細胞層の電流に対する伝導率と反比例する。細胞層全体の導電率の上昇は、細胞層に隙間が増えていることを示している可能性があり、これは細胞同士の接着が弱まっていることを示唆する。したがって、細胞層全体の伝導率が上昇すると、細胞指数の低下をもたらし得る。用量反応は観察されなかった。抗DSG2抗体の濃度は0.00005μg/mLから5μg/mLまで変化した。高用量のリドカイン(陽性対照)による処理では、細胞指数が著しく低下し、細胞死が起こったと考えられる。リドカインの濃度は3μMから100μMまで変化した。注目すべきことに、陰性対照(ビヒクル、抗VCAM-1抗体、ウサギIgG)のいずれも細胞指数の減少を示さなかった。抗DSG2抗体の濃度は0.00005μg/mLから5μg/mLまで変化した。抗DSG2抗体の細胞指数に対する影響は、DSG2融合ポリペプチド、DSG2FP#1の添加によって逆転した(図3及び表8参照)。
【0161】
【表8-1】
【0162】
【表8-2】
【0163】
実施例3.ARVC患者のDSG2抗体レベル
ARVC診断は、タスクフォース基準として知られている複雑なツールに基づいており、もたらされるARVC診断に関する信頼性のレベルは様々である。ARVCの病状及び重症度の指標としてのDSG2抗体の有用性を調査した。ARVCと診断された患者から約50ccの血清を収集した。分析には合計10人のARVC患者と5人の健康な対照を使用した。ARVC血清サンプルを、患者の医療記録で入手可能なデータに基づいて、より確実な診断とそれほど確実でない診断に分け、抗DSG2抗体レベルを、抗DSG2抗体メソスケールディスカバリー(MSD)に基づくアッセイを使用して比較した。アッセイの結果、アッセイにおける抗DSG2抗体の信号強度は、診断臨床データの信頼性とよく相関していることが示された。強力な臨床データのある患者から採取したARVC血清サンプルでは、他の2つの群と比較して、抗DSG2抗体のレベルが高かった(図4A及び図4B)。強力な臨床データのある患者の血清サンプルからのアッセイ信号も、競合するDSG2ポリペプチドDSG2-Fc(DSG2FP#1)を追加することでブロックすることができた。
【0164】
実施例4.様々なアフィニティタグを有するDSG2融合ポリペプチドによる、ARVC患者の血清中に存在する抗DSG2抗体の、DSG2細胞外ドメインへの結合の阻害
DSG2融合ポリペプチドに、ARVC患者の血清中の抗DSG2抗体のDSG2細胞外ドメインへの結合を阻害する能力があるかどうかを、電気化学的免疫測定法で調査した。融合ポリペプチドを最終濃度5μg/mLになるように添加し、患者血清を最終濃度10%(v/v)で使用した。結果は図5の棒グラフに示されており、961、965、978、986、及び964の数字はARVC患者の血清サンプルを示している。
【0165】
図5において、左から1番目のデータシリーズは、DSG2FP#1(上記では配列番号30のアミノ酸49~608;リンカー(IEGRMD(配列番号28));IgG1のアミノ酸100~330(配列番号4)として記載)のものである。左から2番目のデータシリーズは、DSG2(50~602)-6xHisのものである。これは、配列番号1のDSG2アミノ酸50~602(完全な細胞外ドメイン)とヘキサヒスチジンペプチドタグとの融合ポリペプチドである。左から3番目のデータシリーズは、配列番号1のDSG2アミノ酸50~155(EC1)とヘキサヒスチジンペプチドタグの融合であるEC1(50~155)-6xHisと、配列番号1のDSG2アミノ酸151~268(EC2)とヘキサヒスチジンペプチドタグとの融合であるEC2(151~268)-6xHisとを含む融合ポリペプチドの組み合わせのものである。左から4番目のデータシリーズは、EA(491~602)-6xHisのものであり、配列番号1のDSG2アミノ酸491~602(EA)とヘキサヒスチジンペプチドタグとの融合である。図5の阻害結果では、100%阻害が完全な阻害を示しており、DSG2FP#1によって最良の阻害活性が得られることを示している。2つの追加アッセイは、IgG1Fc領域の代わりにヘキサヒスチジンタグを含む融合ポリペプチドによる少なくとも60%の阻害活性を示している。したがって、ARVC患者の血清中の抗DSG2抗体のDSG2細胞外ドメインへの結合を、IgGのFc領域以外のアフィニティタグを有するDSG2融合ポリペプチドで阻害できることは明らかである。他のアフィニティタグがDSG2ポリペプチドの代替の実施形態において有用であると判断される可能性があり、その例としては、CBP、MBP、ストレプトアビジン、及びGSTなどが挙げられるが、これらに限定されない。さらに、EA領域を含む細胞外ドメイン(ECD)の一部を有する融合ポリペプチドは、ARVC患者の血清中の抗DSG2抗体のDSG2細胞外ドメインへの結合の阻害を示す。これらの発見は、DSG2細胞外ドメイン又はその一部を含む融合ポリペプチドが、様々なアフィニティタグと組み合わせることで、抗DSG2抗体とDSG2細胞外ドメインとの相互作用を阻害することによって機能する様々な心臓不整脈を含む、抗DSG2自己抗体に起因する疾患の治療に使用するのに適した治療薬になることを予測する根拠を提供する。
【0166】
実施例5.IgG4アフィニティタグを有するDSG2融合ポリペプチドによるDSG2細胞外ドメインへの抗DSG2抗体の結合の阻害
2つの組換えDSG2融合ポリペプチドによる抗DSG2抗体のDSG2細胞外ドメインへの結合の阻害を電気化学的免疫測定法で評価した。融合ポリペプチドを最終濃度5mg/mLになるように添加した。抗DSG2抗体を最終濃度500ng/mLで使用した。結果を図6に示す。アッセイにおける完全な阻害は100%阻害である。DSG2組換えタンパク質:黒いバーはDSG2-(IgG4)FC(DSG2FP#6)のものであり、これは配列番号1のアミノ酸50~609で表されるDSG2細胞外ドメインと、配列番号11のIgG4Fcドメインアミノ酸99~332との融合タンパク質である。灰色のバーは、DSG2-GGGGS-(IgG4)FC(DSG2FP#7)のものであり、これは配列番号1のアミノ酸50~609で表されるDSG2細胞外ドメインの全長と、GGGGSペプチドリンカー(配列番号12)及び配列番号11のIgG4Fcドメインアミノ酸99~332との融合タンパク質である。
【0167】
両方の融合ポリペプチドは、80%超の同様の阻害活性を示す。これは、ヒトIgG4Fc領域をアフィニティタグとして使用しても、融合ポリペプチドの抗DSG2抗体阻害機能が損なわれず、この場合のリンカーの存在が阻害活性に大きな影響を与えないことを示す。これらの発見は、DSG2細胞外ドメイン又はその一部を含む融合ポリペプチドが、他の免疫グロブリンのFc領域を含む様々なアフィニティタグと組み合わせることで、様々な心臓不整脈を含む抗DSG2自己抗体に起因する疾患の治療に使用するのに適した治療薬となることを予測する根拠を提供する。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図5
図6
【配列表】
2024540220000001.xml
【国際調査報告】