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特表2024-540260バイオプラスチックポリマーの酵素加水分解のための組換えSACCHAROMYCES CEREVISIAE株
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-31
(54)【発明の名称】バイオプラスチックポリマーの酵素加水分解のための組換えSACCHAROMYCES CEREVISIAE株
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/55 20060101AFI20241024BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20241024BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20241024BHJP
   C12N 9/16 20060101ALI20241024BHJP
   C12N 15/81 20060101ALN20241024BHJP
【FI】
C12N15/55 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/19
C12N9/16 Z
C12N15/81 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024526006
(86)(22)【出願日】2022-10-27
(85)【翻訳文提出日】2024-06-11
(86)【国際出願番号】 IB2022060342
(87)【国際公開番号】W WO2023073608
(87)【国際公開日】2023-05-04
(31)【優先権主張番号】2115470.3
(32)【優先日】2021-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523030522
【氏名又は名称】ウニヴェルシタ デッリ ストゥディ ディ パドヴァ
(71)【出願人】
【識別番号】514012007
【氏名又は名称】ステレンボッシュ ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ファヴァロ、ロレンツォ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィルユーン-ブルーム、マリンダ
(72)【発明者】
【氏名】マイバーグ、マルティヌス ヴェッセル
(72)【発明者】
【氏名】ファン ジル、ヴィレム ヘーベル
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA71Y
4B065AA80X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA31
4B065CA55
(57)【要約】
本発明は、S.cerevisiae細胞においてクチナーゼ様酵素(CLE1)を産生するための方法であって、その細胞において、クチナーゼ様酵素をコードし、かつ操作されたプロモーターに作動可能に連結されたコドン最適化された核酸を異種的に発現させることを含む、方法に関する。本発明は更に、クチナーゼ様酵素を異種的に発現することができる組換えS.cerevisiae細胞、及び細胞から得られた、又は本方法によって調製されたクチナーゼ様酵素に関する。また、組換えS.cerevisiae細胞からクチナーゼ様酵素を含む無細胞上清を調製する方法、及びバイオプラスチックポリマーの加水分解における無細胞上清又は組換えS.cerevisiae細胞の使用も提供される。
【選択図】図20
【特許請求の範囲】
【請求項1】
S.cerevisiae細胞においてクチナーゼ様酵素(CLE1)を産生するための方法であって、
前記細胞において、前記CLE1をコードする核酸を異種的に発現させることを含み、前記CLE1をコードする前記核酸が、S.cerevisiae中の発現のためにコドン最適化されており、更に、前記CLE1をコードする前記核酸が、操作されたプロモーターに作動可能に連結されている、方法。
【請求項2】
前記クチナーゼ様酵素が、配列番号2のアミノ酸配列を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記CLE1をコードする前記核酸が、配列番号1と実質的に同一のヌクレオチド配列を有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記操作されたプロモーターが、配列番号9と実質的に同一のヌクレオチド配列を有するTDHi操作されたプロモーターであるか、又は配列番号7と実質的に同一のヌクレオチド配列を有するTEF1i操作されたプロモーターである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記CLE1が、分泌シグナルを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記S.cerevisiae細胞が、S.cerevisiae Y294株、S.cerevisiae Ethanol Red V1株、S.cerevisiae M2n株、又はS.cerevisiae YI30株のものである、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記S.cerevisiae細胞を培養して、S.cerevisiae細胞の集団を得ることを更に含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記S.cerevisiae細胞の集団から無細胞上清を調製することを更に含み、前記無細胞上清が、前記CLE1酵素を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
組換えS.cerevisiae細胞であって、
クチナーゼ様酵素(CLE1)をコードする核酸を含み、前記CLE1をコードする前記核酸が、S.cerevisiaeにおける発現のためにコドン最適化されており、更に前記CLE1をコードする前記核酸が、操作されたプロモーターに作動可能に連結されており、
前記組換えS.cerevisiae細胞が、前記CLE1を異種的に発現することができる、組換えS.cerevisiae細胞。
【請求項10】
前記クチナーゼ様酵素が、配列番号2のアミノ酸配列を有する、請求項9に記載の組換えS.cerevisiae細胞。
【請求項11】
前記CLE1をコードする前記核酸が、配列番号1と実質的に同一のヌクレオチド配列を有する、請求項9又は10に記載の組換えS.cerevisiae細胞。
【請求項12】
前記操作されたプロモーターが、配列番号9と実質的に同一のヌクレオチド配列を有するTDHi操作されたプロモーターであるか、又は配列番号7と実質的に同一のヌクレオチド配列を有するTEF1i操作されたプロモーターである、請求項9~11のいずれか一項に記載の組換えS.cerevisiae細胞。
【請求項13】
前記CLE1が、分泌シグナルを含む、請求項9~12のいずれか一項に記載の組換えS.cerevisiae細胞。
【請求項14】
前記組換えS.cerevisiae細胞が、S.cerevisiae Y294株、S.cerevisiae Ethanol Red V1株、S.cerevisiae M2n株、又はS.cerevisiae YI30株のものである、請求項9~13のいずれか一項に記載の組換えS.cerevisiae細胞。
【請求項15】
請求項1~8のいずれか一項に記載の方法又は請求項9~14のいずれか一項に記載の組換えS.cerevisiae細胞によって産生される、クチナーゼ様酵素。
【請求項16】
クチナーゼ様酵素を含む無細胞上清を調製する方法であって、
請求項9~14のいずれか一項に記載の組換えS.cerevisiae細胞を培養して、S.cerevisiae細胞の集団を得ることと、
前記S.cerevisiae細胞の集団から無細胞上清を調製することと、を含む、方法。
【請求項17】
前記無細胞上清を濃縮することを更に含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記濃縮することが、凍結乾燥、濾過、沈殿及び/又はクロマトグラフィーによってである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
請求項8又は請求項16~18のいずれか一項に記載の方法によって調製される、無細胞上清。
【請求項20】
バイオプラスチックポリマーを加水分解するための、請求項15に記載のクチナーゼ様酵素又は請求項19に記載の無細胞上清の、使用。
【請求項21】
バイオプラスチックポリマーを加水分解する方法であって、前記ポリマーを、請求項15に記載のクチナーゼ様酵素又は請求項19に記載の無細胞上清とインキュベートすることを含む、方法。
【請求項22】
前記ポリマーと前記クチナーゼ様酵素又は前記無細胞上清との前記インキュベートが、約42℃~約45℃、かつ6.8~7のpHにおいてである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
バイオプラスチックポリマーを加水分解する方法であって、前記ポリマーを、請求項9~14のいずれか一項に記載の組換えS.cerevisiae細胞とインキュベートすることを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞内の操作された酵母構成的プロモーターの制御下で、クチナーゼ様酵素をコードするコドン最適化核酸の異種発現を含む、S.cerevisiae細胞内でクチナーゼ様酵素(CLE)を産生する方法を提供する。本発明は更に、クチナーゼ様酵素の異種発現が可能な組換えS.cerevisiae細胞に関する。本方法又は細胞によって産生されるクチナーゼ様酵素は、バイオプラスチックポリマーの加水分解に有用である。また、組換えS.cerevisiae細胞からクチナーゼ様酵素を含む無細胞上清を調製する方法、及びバイオプラスチックポリマーの加水分解における無細胞上清の使用も提供される。
【背景技術】
【0002】
バイオプラスチックは、バイオマスから製造されたプラスチック、又は自然/工業環境で分解される可能性のあるプラスチック、若しくはこれらの両方の特性を有するプラスチックとして広く定義されている。バイオプラスチック産業は世界のプラスチック産業のほんの一部を占めているが、世界のプラスチック市場でのシェアは着実に伸び続けており、2027年までに131億ドル規模の産業になると見込まれている。バイオプラスチック産業の主な推進力のうちの2つであるデンプンブレンド及びポリ乳酸(PLA)などの生分解性バイオプラスチックの現在の廃棄物管理戦略は、従来の有機廃棄物処理施設の一部を形成する。PLAは、その高い機械的強度、高い弾性率、生分解性、生体適合性、生体吸収性、透明性、省エネ性、低毒性及び加工性により、最も人気のある生分解性バイオプラスチックのうちの1つである。そのモノマー(乳酸)は、微生物発酵を介して植物バイオマスから生成され、乳酸は次いで重合されてPLAを形成する。嫌気性消化及び堆肥化は、現在、これらの材料の好ましい寿命終了処理であり、近い将来この役割を果たし続けるであろう。PLAは生分解性であると考えられているが、最近の研究では、処理中にいくつかのバイオプラスチックが持続することが示され、その結果、製品価値の低下及び加工の制約が生じる。更に、ライフサイクル分析により、これらの材料の長期的な持続可能な使用のためには、新しい効率的なリサイクルシステムが優先されるべきであることが確認されている。
【0003】
バイオプラスチックの分解が可能な微生物加水分解酵素は以前に特定されており、バイオプラスチックの大規模処理のためのそれらの使用は、現在のシステムに比べていくつかの利点を有し得る。加水分解酵素は、バイオプラスチックの処理のための従来のプロセスを高速化し、堆肥化及び嫌気性消化システムを損なうリスクを低減し、最終製品からこれらの材料を除去することができる。更に、これらの酵素は、穏やかな温度及びpHで機能し、特定のポリマーに対して特異性を有し、バイオプラスチックのためのクレイドル・トゥ・クレイドル(cradle-to-cradle)リサイクルシステムへの道を開く純粋なモノマーを送達することができる。しかしながら、現在、バイオプラスチックの大規模な処理のために特別に設計された市販の酵素剤(enzyme preparations)は存在しない。酵素ベースの戦略が、単独処理として、又は既存の戦略と組み合わせて、バイオプラスチックの大規模処理のための実行可能な選択肢となるためには、まだいくつかの要因に対処する必要がある。第一に、効率的なバイオプラスチック分解を可能にするカクテルを製造するためには、費用対効果が高くスケーラブルな酵素製造プロセスが必要である。第二に、酵素ベースの処理プロセスは、材料の追加の前処理又は溶媒、乳化剤及び他の化学触媒の使用を必要とせずに、穏やかな温度、pHレベルで効率的に機能するように簡素化する必要がある。
【0004】
バイオプラスチックの処理のための細胞外酵素の使用を説明する研究論文は、組換え酵素産生系におけるEscherichia coliなどの従来の原核生物宿主に焦点を当てているか、又は非従来型の原核生物及び真核生物宿主を利用して天然の細胞外酵素を産生する。組換え酵素を産生するための従来の真核宿主の使用は、原核生物系及び非従来の真核生物系に比べていくつかの利点を有する。これには、確立された遺伝子操作プロトコル、改善された酵素産生力価、複雑なタンパク質産生及び分泌機構、タンパク質精製の容易さ、GRASステータス、安価な基質での増殖、及び大規模培養のための既存の産業プロセス及びインフラストラクチャの使用が含まれる。
【0005】
真菌は無数の加水分解酵素を産生することが知られている。実際、プラスチック分解が可能ないくつかの真菌加水分解酵素が特性化されているが、特に細菌酵素と比較して、それらの使用はまだ比較的未開発である。クチナーゼ様酵素(CLE)は、広範囲のバイオプラスチックを加水分解することが示されているため、特に興味深い。これらの酵素は、典型的には、いくつかの真菌種を含む植物病原体と関連付けられる。したがって、工業的に適用可能な従来の真菌宿主は、他の真菌を含む他の真核生物に由来する細胞外酵素の産生に特に優れている。それでも、伝統的に産業で使用されている他の真核生物において天然真核生物由来の遺伝子を過剰発現させる際に克服する必要がある大きなハードルがあり、典型的には天然遺伝子の発現レベルが低い。天然真菌遺伝子の異種発現における主なボトルネックには、とりわけ、最適以下のGC含有量、低コドンバイアス指数、タンデムレアコドンの存在、強力なプロモーターの欠如、及び酵素産生を駆動するための効率的な分泌が含まれる。したがって、本発明の発明者らは、バイオプラスチックポリマーの処理中に適用するためのCLEを含むバイオプラスチック分解酵素の改善された産生のために、工業的に適用可能な真菌宿主における分子技術及び遺伝子工学的アプローチを使用した。
【0006】
具体的には、本発明の発明者らは、Cryptococcus属S-2由来のCLE1遺伝子の増強された発現及びバイオプラスチックの増加した加水分解を示す、遺伝子改変された工業的に適用可能な真核宿主を構築した。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、S.cerevisiae細胞においてクチナーゼ様酵素(CLE1)を産生するための方法に関し、本方法は、その細胞において、クチナーゼ様酵素をコードし、かつ操作されたプロモーターに作動可能に連結されたコドン最適化された核酸を異種的に発現させることを含む。本発明はまた、クチナーゼ様酵素を異種的に発現することができる組換えS.cerevisiae細胞、及び細胞から得られた、又は記載の方法によって調製されたクチナーゼ様酵素に関する。本発明は更に、組換えS.cerevisiae細胞からクチナーゼ様酵素を含む無細胞上清を調製する方法、及びバイオプラスチックポリマーの加水分解におけるクチナーゼ様酵素の使用に関する。
【0008】
本発明の第1の態様によれば、S.cerevisiae細胞においてクチナーゼ様酵素(CLE1)を作製するための方法が提供され、この方法は、この細胞においてCLE1をコードする核酸(CLE1遺伝子)を異種的に発現させることを含み、ここでは、CLE1をコードする核酸は、S.cerevisiaeにおける発現のためにコドン最適化され、更に、CLE1をコードする核酸は、操作されたプロモーターに作動可能に連結されている。
【0009】
本方法の第1の実施形態では、クチナーゼ様酵素は、配列番号2のアミノ酸配列を有し得る。
【0010】
本方法の第2の実施形態によれば、CLE1をコードする核酸は、配列番号1と少なくとも約80%、少なくとも約90%、約95%、約96%、約97%、約98%又は約99%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有する。本方法の一実施形態では、CLE1をコードする核酸は、配列番号1と実質的に同一のヌクレオチド配列を有する。
【0011】
本発明の方法の第3の実施形態では、操作されたプロモーターは、配列番号9と少なくとも約80%、少なくとも約90%、約95%、約96%、約97%、約98%又は約99%の配列同一性を有するか、若しくは配列番号9と実質的に同一のヌクレオチド配列を有する、TDHi操作されたプロモーターであり得るか、あるいは配列番号7と少なくとも約80%、少なくとも約90%、約95%、約96%、約97%、約98%又は約99%の配列同一性を有するか、若しくは配列番号7と実質的に同一のヌクレオチド配列を有する、TEF1i操作されたプロモーターであり得る。ENO1i、ADH2i、TDH3i、HXT7i、ENO1cxi、TDH3cxi、HXT7cxi、及びTEF1cxi操作されたプロモーターからなる群から選択されるプロモーターが挙げられるがこれらに限定されない、他の操作されたプロモーターがCLE1遺伝子からCLE1酵素を産生するのに好適であり得ることが当業者には理解されよう。
【0012】
本発明の方法の第4の実施形態によれば、CLE1酵素は、分泌シグナルを含み得る。好適には、分泌シグナルは、配列番号3又は配列番号5のアミノ酸配列を有し得る。
【0013】
本発明の方法の更なる実施形態では、S.cerevisiae細胞は、S.cerevisiae Y294株、S.cerevisiae Ethanol Red V1株、S.cerevisiae M2n株、又はS.cerevisiae YI30株のものであり得る。
【0014】
本発明の方法の一実施形態では、方法は、S.cerevisiae細胞を培養して、S.cerevisiae細胞の集団を得ることを更に含み得る。
【0015】
本発明のCLE1酵素の産生方法の更に別の実施形態では、方法は更に、S.cerevisiae細胞の集団から無細胞上清を調製することを含んでもよく、無細胞上清はCLE1酵素を含む。
【0016】
本発明の第2の態様によれば、クチナーゼ様酵素(CLE1)をコードする核酸であって、CLE1をコードする核酸は、S.cerevisiaeでの発現のためにコドン最適化され、CLE1をコードする核酸は、操作されたプロモーターに作動可能に連結され、組換えS.cerevisiae細胞は、CLE1を異種発現することができる、核酸を含む組換えS.cerevisiae細胞を提供する。
【0017】
組換えS.cerevisiae細胞の第1の実施形態では、クチナーゼ様酵素は、配列番号2のアミノ酸配列を有し得る。
【0018】
本発明の組換えS.cerevisiae細胞の第2の実施形態によれば、CLE1をコードする核酸は、配列番号1と少なくとも約80%、少なくとも約90%、約95%、約96%、約97%、約98%又は約99%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を有する。組換えS.cerevisiae細胞の一実施形態では、CLE1をコードする核酸は、配列番号1と実質的に同一のヌクレオチド配列を有する。
【0019】
本発明の組換えS.cerevisiae細胞の第3の実施形態では、操作されたプロモーターは、配列番号9と少なくとも約80%、少なくとも約90%、約95%、約96%、約97%、約98%又は約99%の配列同一性を有するか、若しくは配列番号9と実質的に同一のヌクレオチド配列を有する、TDHi操作されたプロモーターであり得るか、あるいは配列番号7と少なくとも約80%、少なくとも約90%、約95%、約96%、約97%、約98%又は約99%の配列同一性を有するか、若しくは配列番号7と実質的に同一のヌクレオチド配列を有する、TEF1i操作されたプロモーターであり得る。ENO1i、ADH2i、TDH3i、HXT7i、ENO1cxi、TDH3cxi、HXT7cxi、及びTEF1cxi操作されたプロモーターからなる群から選択されるプロモーターが挙げられるがこれらに限定されない、他の操作されたプロモーターがCLE1遺伝子からCLE1酵素を産生するのに好適であり得ることが当業者には理解されよう。
【0020】
本発明の組換えS.cerevisiae細胞の第4の実施形態によれば、CLE1酵素は、分泌シグナルを含み得る。好適には、分泌シグナルは、配列番号3又は配列番号5のアミノ酸配列を有し得る。
【0021】
本発明の組換えS.cerevisiae細胞の更なる実施形態では、当該S.cerevisiae細胞は、S.cerevisiae Y294株、S.cerevisiae Ethanol Red V1株、S.cerevisiae M2n株、又はS.cerevisiae YI30株のものであり得る。
【0022】
本発明の第3の態様によれば、本明細書に記載の本発明の方法によって産生されるか、又は本明細書に記載の本発明の組換えS.cerevisiae細胞によって異種的に産生されるクチナーゼ様酵素が提供される。一実施形態では、クチナーゼ様酵素は、配列番号2のアミノ酸配列を有し得る。
【0023】
本発明の第4の態様は、クチナーゼ様酵素を含む無細胞上清の調製方法を提供し、当該方法は、本明細書に記載の本発明の組換えS.cerevisiae細胞を培養してS.cerevisiae細胞の集団を得ることと、S.cerevisiae細胞の集団から無細胞上清を調製することと、を含む。
【0024】
無細胞上清の調製方法の一実施形態では、本方法は、無細胞上清を濃縮することを更に含んでもよい。無細胞上清を濃縮するための好適な方法には、凍結乾燥、濾過、及び/又はクロマトグラフィーによって無細胞上清を濃縮することが挙げられるが、これらに限定されない。
【0025】
本発明の第5の態様によれば、本明細書に記載の方法によって調製される無細胞上清用が提供される。
【0026】
本発明の別の態様では、ポリマーを加水分解するための、本明細書に記載の本発明の方法によって産生されるクチナーゼ様酵素の使用、又は本明細書に記載の本発明の組換えS.cerevisiae細胞によって異種的に産生されるクチナーゼ様酵素の使用、又は本明細書に記載の方法によって調製される無細胞上清の使用が企図される。
【0027】
ポリマーを、本明細書に記載の本発明の方法によって産生されるクチナーゼ様酵素、又は本明細書に記載の本発明の組換えS.cerevisiae細胞によって異種的に産生されるクチナーゼ様酵素、又は本明細書に記載の本発明の方法によって調製される無細胞上清とともにインキュベートすることを含む、バイオプラスチックポリマーを加水分解する方法も、本発明の主題を形成する。本明細書に記載の方法によって調製される無細胞上清によって加水分解される好適なバイオプラスチックとしては、ポリ(L-ラクチド)(PLLA)、ポリ(D-ラクチド)(PDLA)、及びポリ(DL-ラクチド)(PDLLA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリブチレンコハク酸塩(PBS)、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、及び熱可塑性デンプン(TPS)ブレンドを含むポリ乳酸(PLA)、並びにこれらの任意の組み合わせ又は混合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
バイオプラスチックポリマーを加水分解する方法の更なる実施形態によれば、ポリマーをクチナーゼ様酵素又は無細胞上清とともにインキュベートすることは、約42℃~約45℃(約42℃~約45℃かつ約6.8~7のpHといった)で行われ得る。
【0029】
本発明の更なる態様では、バイオプラスチックポリマーを、本発明の組換えS.cerevisiae細胞又は本発明のクチナーゼ様酵素を発現するS.cerevisiae細胞とインキュベートすることを含む、バイオプラスチックポリマーの加水分解方法が提供される。一実施形態では、組換えS.cerevisiae細胞は、バイオプラスチックポリマーを加水分解する方法の加水分解生成物を消費することができない変異株であってもよい。
【0030】
本発明に従って、本明細書に記載の本発明の組換えS.cerevisiae細胞を含むバイオリアクターも企図され、バイオリアクターは、組換えS.cerevisiae細胞によるクチナーゼ様酵素の異種産生、及びその後のクチナーゼ様酵素によるバイオプラスチックポリマーの加水分解のために構成される。
【0031】
ここで、以下の図を参照して例示としてだけ本発明の非限定的な実施形態を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本明細書に記載のS.cerevisiae発現ベクターのプラスミドマップ。A=プラスミドpBBH4は、対照として本明細書で使用され、CLE1酵素をコードする遺伝子を含まず;B=pBBH4-CLExsプラスミドは、XYNSEC(配列番号5)分泌シグナルを有するCryptococcus属S-2からのクチナーゼ様酵素をコードするコドン最適化遺伝子(配列番号1)を含むように構築され;C=pBBH4-CLEnsプラスミドは、天然分泌シグナル(配列番号3)及び発現に関与する操作されたTEF1iプロモーター(配列番号7)を有するCryptococcus属S-2からのクチナーゼ様酵素をコードするコドン最適化遺伝子を含むように構築され;D=プラスミドpBBH4-CLEwtプラスミドは、その天然分泌シグナル(配列番号3)及び発現に関与する操作されたTEF1iプロモーター(配列番号7)を有するCryptococcus属S-2(配列番号8)からの天然クチナーゼ様酵素を含むように構築され;E=pBBH4-CLEns-TDHiプラスミドは、その天然分泌シグナル(配列番号3)及び発現に関与する操作されたTDHiプロモーター(配列番号9)を有するCryptococcus属S-2(配列番号1)からのクチナーゼ様酵素をコードするコドン最適化遺伝子を含むように構築された。
図2】Y294[CLExs]及びY294[CLEns]株の上清中にCLE1タンパク質種(黒い矢印)が存在する一方で、タンパク質種がY294[BBH]株の上清中に存在しないことを示すSDS-PAGEゲル。分子マーカーは、最も左側に示される。
図3】寒天プレートを含有するトリブチリン上でのY294[CLExs]、Y294[CLEns]及びY294[BBH]株による加水分解ハロ形成を示す写真。Y294[CLEns]と比較して、Y294[CLExs]株に対してより大きな加水分解ハロが観察され、Y294[BBH]対照の周りにハロは観察されない。
図4】分泌されたCLE1タンパク質種が加水分解乳化PLA基質(実線=PLLA;破線=PDLA、それぞれL-及びD-乳酸異性体由来のポリマーを表す)において活性であったかどうかを評価するために、濁度ベースのアッセイを開発した。プロテイナーゼ-K(0.1MのKHPO緩衝液中の0.5mg/mL)(以下、市販のProK(●)と称する)を、PLLAでのアッセイ中に陽性対照として使用した。Y294[BBH](◆)、Y294[CLEns](■)及びY294[CLExs](▲)酵母株を2×SC-URA培地中で培養し、24、48及び72時間の増殖後に活性を測定した。エラーバーは、3回の反復の平均値からの標準偏差を表す。ProK陽性対照は、PLLA基質上で複数のアッセイラウンドにわたって一定の活性を送達したが、Y294[BBH]対照は、いずれの基質上も顕著な活性を示さなかった。両方の組換え酵母株は、両方のPLA基質上で経時的に活性の増加を示した。
図5】様々な酵母株及び市販のProKからの無細胞上清を使用した72時間の加水分解後のPDLA(点線のバー)及びPLLA(縞模様のバー)エマルジョンの加水分解の割合を示すグラフ。エラーバーは、3回の反復の平均値からの標準偏差を表す。PDLAエマルジョンの完全な加水分解は、組換えY294[CLEns]及びY294[CLExs]株によって72時間加水分解後に達成されたが、Y294[BBH]対照及び市販のProKは、濁度の著しい低下を示さなかった。組換えY294[CLEns]及びY294[CLExs]株並びに市販のProK陽性対照の両方について、PLLAエマルジョンのほぼ完全な加水分解も、72時間の加水分解後に観察された。
図6】PLLA(実線)及びPDLA(破線)粉末の様々な基質充填量からの乳酸産生を示すHPLC分析の結果。A=4g/L;B=10g/L及びC=25g/LのPLA粉末基質充填量。エラーバーは、3回の反復の平均値からの標準偏差を表す。基質濃度が上昇するにつれて乳酸産生価が上昇することは明らかである。Y294[CLEns]株は、両方の基質でY294[CLExs]対照株を上回った。
図7】PLA粉末の無細胞加水分解中の乳酸産生比及び生産性。Cnは、各時点での乳酸濃度を表し、Cfは、各セットアップで産生される乳酸の最終濃度である。最終濃度(%)並びに乳酸生産性(g/L/時)に対する各時点で産生された乳酸の比率を与える。シェーディングは、各時点での株の性能を示す(暗いシェーディング=より良い性能)。NA=入手不可能。
図8】37℃での10日間の加水分解期間にわたるPLLA(実線)及びPDLA(破線及び点線)フィルムからの乳酸産生を示すHPLC分析の結果。エラーバーは、3回の反復の平均値からの標準偏差を表す。かなりの量の乳酸が、組換えY294[CLEns]及びY294[CLExs]株由来の上清でPLAフィルムを加水分解することによって産生される。
図9】PLAフィルムの無細胞加水分解中の乳酸産生比及び生産性。Cnは、各時点での乳酸濃度を表し、Cfは、各セットアップで産生される乳酸の最終濃度である。最終濃度(%)並びに乳酸生産性(g/L/時)に対する各時点で産生された乳酸の比率を与える。シェーディングは、各時点での株の性能を示す(暗いシェーディング=より良い性能)。
図10】加水分解試験中のPDLAフィルム表面のSEM画像。A=無細胞上清で処理する前のPDLAフィルムであり;B=Y294[BBH]細胞からの無細胞上清で168時間インキュベートしたPDLAフィルム表面であり;C=Y294[CLEns]細胞からの無細胞上清で168時間インキュベートしたPDLAフィルム表面である。組換えY294[CLEns]株の上清でインキュベートしたフィルムでは、明確な加水分解パターンが観察されたが、Y294[BBH4]株では加水分解の兆候は観察されなかった。
図11】加水分解試験中のPDLAフィルム表面のSEM画像。A=Y294[CLEns]細胞由来の無細胞上清で24時間インキュベートしたPDLAフィルム表面であり;B=Y294[CLEns]細胞由来の無細胞上清で48時間インキュベートしたPDLAフィルム表面であり;白い矢印は加水分解された非晶質領域を示し、一方黒い矢印は非加水分解された結晶領域を示す。
図12】加水分解試験中のPLLAフィルム表面のSEM画像。A=Y294[CLEns]細胞からの無細胞上清で24時間インキュベートしたPLLAフィルム表面であり;白い矢印は、透明なピット形成を有する非晶質領域を示し、黒い矢印は、非加水分解結晶領域を示し;B=市販のProK(0.1M KHPO緩衝液中の0.5mg/mL)で24時間インキュベートしたPLLAフィルム表面であり、フィルム表面に対するより一般的な攻撃を示す。
図13】加水分解試験中のPLLAフィルム表面のSEM画像。A=Y294[CLEns]細胞由来の無細胞上清で24時間インキュベートしたPLLAフィルム表面であり;B=市販のProK(0.1M KHPO緩衝液中の0.5mg/mL)で24時間インキュベートしたPLLAフィルム表面である。
図14】示差走査熱量測定分析に基づく、Y294[CLEns](■)及びY294[BBH](◆)株由来の無細胞上清による加水分解中のPLLAフィルム結晶性を示すグラフである。結晶性の大幅な低下に続く急激な増加は、組換え株によるより多くの結晶領域の前の非晶質領域の加水分解を確認する。
図15】240時間のインキュベーション後のPLAフィルムの小規模加水分解試験からのデータを示すグラフ。A=Y294[BBH]対照と比較した重量損失の割合であり;B=HPLC分析によって決定された乳酸濃度である。エラーバーは、3回の反復の平均値からの標準偏差を表す。組換え酵母株由来の無細胞上清を用いた加水分解終了時に、実質的な体重減少及び乳酸産生が観察される。
図16】様々なPLAフィルムの240時間スケールアップ加水分解のためにY294[BBH]及びY294[CLEns]株由来の無細胞上清を使用する効果を示す写真。PDLAHMW及びPLLAHMWは、より高分子量のPLA材料を指す。Y294[CLEns]株の上清をインキュベートしたフィルムでは、極端な断片化が観察される。
図17】240時間のインキュベーション後の様々なPLAフィルム上のスケールアップ加水分解試験からのデータを示すグラフ。A=Y294[BBH]対照と比較した重量損失の割合であり;B=HPLC分析によって決定された乳酸濃度である。エラーバーは、3回の反復の平均値からの標準偏差を表す。反応体積をスケールアップした後、小規模加水分解試験と同様の体重減少及び乳酸濃度が観察される。
図18】Y294[CLEns]-TDHi及びY294[CLEns]株の上清中にCLE1タンパク質種(黒括弧)が存在する一方で、タンパク質種がY294[BBH]株の上清中に存在しないことを示すSDS-PAGEゲル。分子マーカーは、最も左側に示される。Y294[CLEns]-TDHi株は、以前に構築されたY294[CLEns]株よりも、細胞外分画において実質的に多くのCLE1を送達したことは明らかである。
図19】寒天プレートを含有する0.035g/Lのポリカプロラクトン上でのY294[CLEns]-TDHi、Y294[CLEns]及びY294[BBH]株による加水分解ハロ形成を示す写真。Y294[CLEns]と比較して、Y294[CLEns]-TDHi株に対してより大きな加水分解ハロが観察され、Y294[BBH]対照の周りにハロは観察されない。
図20】濁度ベースのアッセイを使用して、コドン最適化CLE1遺伝子及び野生型遺伝子を含む異なる操作プロモーターの制御下で、CLE1産生S.cerevisiae株の細胞外PDLA加水分解活性を評価した。Y294[BBH](▲)、Y294[CLEwt](x)、Y294[CLEns]-TDHi(●)及びY294[CLEns](■)酵母株を2×SC-URA培地中で培養し、24、48及び72時間の増殖後に細胞外PLA加水分解活性を測定した。エラーバーは、3回の反復の平均値からの標準偏差を表す。Y294[CLEwt]株は、Y294[CLEns]株よりも1.4倍低い活性をもたらしたが、一方Y294[CLEns]-TDHi株は、Y294[CLEns]株に比べて1.5倍増加した。
図21】組換えCLE1を使用したPLA加水分解のための最適温度は、様々なインキュベーション温度で実施された濁度ベースの酵素活性アッセイを使用して決定した。Y294[BBH](▲)及びY294[CLEns]-TDHi(●)株を2×SC-URA培地中で72時間培養した後、上清を遠心分離によって収集し、異なる温度でアッセイに使用した。Y294[CLEns]-TDHi株由来の細胞外PLA加水分解活性は、42℃(69U/mL)では、以前に報告された37℃(44U/mL)の最適温度よりも1.6倍高かった。
図22】Y294[CLEns]-TDHi株の上清中の組換えCLE1の安定性は、上清を37、42、45及び50℃で合計120時間インキュベートすることによって決定した。各温度での残留活性を、インキュベーションの72時間及び120時間後に、濁度ベースの酵素アッセイを使用して決定した。上清中の組換えCLE1は、120時間のインキュベーション後に37℃及び42℃で非常に安定であり、2つのそれぞれの温度でのインキュベーション後に100%及び94%の残留活性が検出された。残留活性の著しい低下は、45℃(75%の残留活性)及び50℃(28%の残留活性)での120時間のインキュベーション後に検出された。
図23】Y294[CLEns](■、Y294[CLEns]-TDHi(●)及びY294[BBH](▲)株由来の上清を用いた小規模加水分解試験において、37℃で10日間の加水分解期間にわたって10g/LのPLLAフィルムから放出された乳酸を示すHPLC分析の結果。エラーバーは、3回の反復の平均値からの標準偏差を表す。かなりの量の乳酸が、組換えY294[CLEns]及びY294[CLEns]-TDHi株由来の上清でPLAフィルムを加水分解することによって放出される。24時間の加水分解後、Y294[CLEns]-TDHi株由来の上清は、Y294[CLEns]株由来の上清を使用した場合よりもほぼ3g/L多くの乳酸を放出した。
図24】Y294[CLEns]-TDHi株由来の700mLの上清を使用したバイオリアクター実験において、7日間の加水分解期間にわたって10g/LのPLLAフィルムから放出された乳酸を示すHPLC分析の結果。72時間培養後、遠心分離によりY294[CLEns]-TDHi株由来の上清を回収した。3つの加水分解設定を改善されたPLA加水分解について調査し、第1の加水分解設定は、37℃及び非中和条件(pH制御なし)で行われ(▲)、第2の加水分解設定は、37℃及び中和条件(3MのKOHの添加によってpH6.8~7に維持して)で行われ(●)、並びに第3の加水分解設定は、42℃及び中和条件(3MのKOHの添加によってpH6.8~7に維持して)行われた(■)。エラーバーは、3回の反復の平均値からの標準偏差を表す。中和条件の影響は、37℃での非中和条件と比較して、より高い乳酸濃度の放出において明らかである。CLE1の42℃対37℃でのより高いPLA加水分解活性は、48時間後に11.7g/Lの乳酸の放出をもたらし、これは、37℃で見出されるものよりも4.5g/L高い。放出された最大乳酸濃度は、42℃での7日間の加水分解と中和条件の後に14.9g/Lに達し、PLAフィルムの78%の重量損失をもたらした。
【0033】
配列表
添付の配列表に列挙されている核酸及びアミノ酸配列は、ヌクレオチド塩基の標準的な文字の略語及びアミノ酸の標準的な3文字の略語を使用して示されている。当業者には、各核酸配列の1つの鎖のみが示されているが、相補鎖は、表示された鎖に対するいかなる言及においても含まれることが理解されるであろう。添付の配列表は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。添付の配列表において、
【0034】
配列番号1-コドン最適化されたCLE1遺伝子のヌクレオチド配列。
【0035】
配列番号2-CLE1のアミノ酸配列。
【0036】
配列番号3-CLE1の天然分泌シグナルのアミノ酸配列。
【0037】
配列番号4-CLE1のコドン最適化された天然分泌シグナルをコードするヌクレオチド配列。
【0038】
配列番号5-Trichoderma reesei xyn2由来の分泌シグナルのアミノ酸配列。
【0039】
配列番号6:Trichoderma reesei xyn2由来の分泌シグナルをコードするヌクレオチド配列。
【0040】
配列番号7-コドン最適化されたTEF1iプロモーターのヌクレオチド配列。
【0041】
配列番号8-天然の(コドン最適化されていない)CLE1遺伝子のヌクレオチド配列。
【0042】
配列番号9-TDHiプロモーターのヌクレオチド配列。
【発明を実施するための形態】
【0043】
ここで、本発明の全てではないが、いくつかの実施形態が示される添付の図面を参照して、本発明をより完全に以下に説明する。
【0044】
記載される本発明は、開示される特定の実施形態に限定されるべきではなく、変更及び他の実施形態は、本発明の範囲内に含まれることが意図される。特定の用語が本明細書で採用されるが、それらは一般的かつ説明的な意味でのみ使用され、限定の目的では使用されない。
【0045】
本明細書及び以下の特許請求の範囲を通して使用される場合、単数形の「a」、「an」及び「the」は、文脈により明らかにそうではないと指示されない限り、複数の形態を含む。
【0046】
本明細書で使用される用語及び専門語は、記載の目的のためであり、制限するものとみなされるべきではない。本明細書で使用される「含む(comprising)」、「含む(containing)」、「有する(having)」及び「含む(including)」という用語並びにその変形は、その後に列挙される項目及びその等価物並びに追加の項目を包含することを意図する。
【0047】
本発明は、その最も広い意味で、コドン最適化され、かつ操作された酵母プロモーターなどの分子工学技術を使用して、クチナーゼ様酵素(CLE)の異種発現の増強を示す組換え真核宿主を構築し、組換え酵素産生の改善をもたらすことに関する。また、様々な形態及び濃度のポリ乳酸(PLA)などのバイオプラスチックの処理を伴うプロセスにおける組換え酵母株由来の培養上清の使用についても説明する。PLA加水分解からの定量的データ、並びにPLAフィルム上のCLE1酵素の分解機構に関する洞察が提供される。
【0048】
本発明の発明者らは、Cryptococcus属S-2由来のCLE1遺伝子の増強された発現を示す、遺伝子改変された工業的に適用可能な真核宿主を構築した。S.cerevisiae宿主におけるCLE1遺伝子の発現可能性のインシリコ評価に続いて、発明者らは、異種発現が改善され得るキーポイントを特定し、組換えS.cerevisiaeを使用したPLA加水分解の伴う改善とともに、S.cerevisiaeにおけるCLE1発現及び組換え産生を大幅に増強することができた。精製又は濃縮なしの粗上清の使用は、以前に報告されたデータと比較して改善されたPLA加水分解をもたらしたが、実質的な裏付けとなる結果も本明細書に提供される。したがって、本研究は、市販のPLA及びデンプンブレンドなどのバイオプラスチック材料の分解のための組換え真核生物株による商業的なCLE1産生への潜在的に重要な工程を、単純であるが効率的な処理プロセスで示している。
【0049】
本発明の一実施形態では、バイオプラスチック分解酵素を非常に高い力価で過剰発現させるための組換えS.cerevisiae株の構築方法が提供される。本発明は、発現増強操作された酵母プロモーター、例えば、TEF1i(Myburgh et al.,2020)(配列番号7)又はTDHiプロモーター(配列番号9)の使用と併せて、酵母宿主細胞におけるCLE1酵素の発現及び産生の改善をもたらす、コドン最適化などの分子技術の使用を伴う。ここで、発明者らは、コドン最適化が細胞外タンパク質産生を大幅に改善し、濁度ベースの酵素アッセイにおいてPDLAエマルジョンに対するより高い加水分解活性をもたらすことを示す。具体的には、本発明の発明者らは、操作されたTDHiプロモーターを含む株が、TEF1iプロモーターよりも細胞外画分において有意に多くのCLE1を産生したことを示す。
【0050】
本発明の別の実施形態では、バイオプラスチックの分解のための、開発された組換え株の細胞外画分の使用が提供され、これは、市販のPLA材料からの著しい断片化、重量減少及びモノマー生産を可能にする。一実施形態では、PLAの処理のための方法は、いかなる材料前処理、溶媒の添加、活性向上乳化剤及び/又は他の触媒もなしに、穏やかな温度及びpHレベルでそのまま使用することができるその細胞外分画においてCLE1を産生する組換え酵母株の使用を含む。
【0051】
本明細書に提示されるデータは、CLE1活性を有する組換え酵母株を使用したPLA加水分解の第1の定量分析を提供する。一実施形態では、CLE1酵素は、遺伝子操作酵母プロモーターの制御下でコドン最適化遺伝子によってコードされ、組換え株に影響を及ぼして細胞外分画における非常に高い力価でバイオプラスチック分解CLE1酵素を産生するS.cerevisiaeにおける異種CLE1発現を著しく改善する。S.cerevisiaeにおけるCLE1発現可能性に対するコドン最適化の効果は、天然及びコドン最適化された遺伝子(表1)並びに提示された実験データのインシリコ解析によって実証される。別の実施形態では、本発明の組換え株は、濁度、乳酸産生、フィルム重量損失、及び断片化を定量化することによって、PLAエマルジョン、粉末、及びフィルムの様々な基質充填量に対する加水分解試験を通じて、異なる種類のPLA材料(PLLA及びPDLA)上で改善された加水分解能力を示すことが実証される。特に、様々なPLA基質の加水分解は、任意の追加の前処理、溶媒、乳化剤、又は他のpHレベルで、培養上清の精製又は濃縮なしで達成される。したがって、本発明の組換え株を使用してPLA材料が分解されるプロセスは、既知のCLE1発現株を使用するプロセスと比較して明らかに簡素化される。更に、PLAエマルジョンを使用した試験は、同様の加水分解時間で、既知のCLE1産生株と比較して、PLAのより高い充填量の完全な加水分解を示す。加えて、加水分解されたPLAフィルム上の走査電子顕微鏡写真及び示差走査熱量測定は、PLAフィルム上のCLE1酵素の分解機構に洞察を与え、これは、本明細書では、市販のPLA加水分解に典型的に使用される市販の酵素であるProKと称されるプロテイナーゼKとは異なる。
【0052】
更なる実施形態において、組換えS.cerevisiae株から得られた無細胞上清を使用したPLA基質の加水分解のための最適化された処理パラメータが提供される。具体的には、粗製上清中の組換えコドン最適化されたCLE1は、37℃での活性と比較して、42℃での乳化PDLA上での活性の1.6倍の増加を示した。粗上清中の酵素は、より高い温度で安定であることが確認され、42℃で120時間後に94%の活性を保持し、45℃で75%、50℃で28%を保持した。したがって、42℃のコドン最適化されたCLE1を有するPLA基質の加水分解のための最適温度は、野生型酵素について以前に報告された37℃よりも高い。加えて、本発明者らは、pHを6.8~7.0に維持しても、最初の48時間以内の乳酸放出を改善しないことを示したが、72時間以降のpH制御の利点は明らかであり、乳酸は168時間後に12.7g/Lに達し、37℃の非中和条件と比較して1.4倍の増加に相関する。中和条件下及び新たに特定されたPLA加水分解のための最適温度(42℃)でプロセスを実施すると、最初の48時間(放出された11.7g/L)内の乳酸放出が著しく増加し、これは、37℃でのものより1.6倍高く、0.25g/L/時の生産性に相関する。pH制御を用いた42℃での168時間の加水分解後の最終乳酸濃度は、pH制御を用いない37℃での9.36g/Lとは対照的に、14.92g/Lであった。
【0053】
「バイオプラスチックポリマー」という用語は、生分解性又は非生分解性のいずれかであり、生体ベース又は化石燃料ベースの資源に由来する任意の材料を指す。これらとしては、ポリ(L-ラクチド)(PLLA)、ポリ(D-ラクチド)(PDLA)、及びポリ(DL-ラクチド)(PDLLA)を含むポリ乳酸(PLA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、熱可塑性デンプン(TPS)ブレンド、及びポリエチレンテレフタレート(バイオ-PET)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0054】
「タンパク質」、「ペプチド」又は「ポリペプチド」は、翻訳後修飾(例えば、グリコシル化又はリン酸化)にかかわらず、天然若しくは非天然アミノ酸又はアミノ酸類似体を含む、2つ以上のアミノ酸の任意の鎖である。
【0055】
「核酸」、「核酸分子」及び「ポリヌクレオチド」という用語は、本明細書において互換的に使用され、cDNA、ゲノムDNA、及び合成DNAを含むリボヌクレオチド(RNA)及びデオキシリボヌクレオチド(DNA)の両方を包含する。核酸は、二本鎖又は一本鎖であってもよい。核酸が一本鎖である場合、核酸は、センス鎖又はアンチセンス鎖であり得る。核酸分子は、天然に存在するヌクレオチド若しくは非天然に存在するヌクレオチド、又はヌクレオチド類似体若しくは誘導体を含む、2つ以上の共有結合したヌクレオチドの任意の鎖であり得る。「RNA」は、2つ以上の共有結合した、天然に存在する、又は修飾されたリボヌクレオチドの配列を意味する。「DNA」という用語は、2つ以上の共有結合した、天然に存在する、又は修飾されたデオキシリボヌクレオチドの配列を指す。
【0056】
「単離された」という用語は、本明細書で使用され、その自然環境から取り除かれたことを意味する。
【0057】
「精製された」という用語は、汚染又は汚染物質を実質的に含まない形態の分子又は化合物の単離に関する。汚染物質は、通常、天然環境において分子又は化合物と会合し、したがって、精製されたことは、元の組成物の他の構成要素から分離された結果として純度が増加することを意味する。「精製された核酸」という用語は、ポリペプチド、脂質、及び炭水化物を含むがこれらに限定されない他の化合物から分離された核酸配列を表し、これらは通常、その天然状態で会合している。
【0058】
「無細胞上清」という用語は、本明細書で使用される場合、酵母細胞が除去されたが、組換えタンパク質を含む全ての細胞外産物を含有し、主に特定の培養期間の終わりに収集される培養ブロスを指す。無細胞上清は、典型的には、それが含まれる生成物が透析、クロマトグラフィー、濾過又は任意の他の方法によって精製されていない、その非濃縮形態のブロスを指す。無細胞上清は、遠心分離(典型的には、酵母については4000rpmで5分間)及び/又は培養物の濾過によって収集することができる。
【0059】
「相補的」という用語は、2つの核酸分子、例えば、DNA又はRNAを指し、これらは、ワトソン-クリック塩基対を形成して、2つの核酸分子間に二本鎖の領域を生成することができる。当業者には、核酸分子中の各ヌクレオチドが、二本鎖を形成するために、対立する相補鎖中のヌクレオチドと一致するワトソン-クリック塩基対を形成する必要はないことが理解されるであろう。したがって、1つの核酸分子は、高いストリンジェンシーの条件下で、第2の核酸分子とハイブリダイズする場合、第2の核酸分子に「相補的」である。本発明に従う核酸分子は、両方の相補的分子を含む。
【0060】
本明細書で使用される場合、「実質的に同一の」配列は、1つ以上の保存的置換、又は発現されたポリペプチドのうちの1つ以上又は核酸分子によってコードされるポリペプチドの活性を破壊しないか、又は実質的に低下させない配列の位置に位置する1つ以上の非保存的置換、欠失、若しくは挿入によってのみ参照配列と異なるアミノ酸又はヌクレオチド配列である。パーセント配列同一性を判定する目的のためのアラインメントは、当業者の知識の範囲内である様々な方法で達成することができる。これらとしては、例えば、ALIGN、Megalign(DNASTAR)、CLUSTALW又はBLASTソフトウェアなどのコンピュータソフトウェアの使用が挙げられる。当業者は、比較される配列の全長にわたって最大の整列を達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む、整列を測定するための適切なパラメータを容易に決定することができる。本発明の一実施形態では、本明細書に記載の配列と少なくとも約80%の配列同一性、少なくとも約90%の配列同一性、又は更に大きな配列同一性、例えば、約95%、約96%、約97%、約98%、若しくは約99%の配列同一性を有するポリペプチド又はポリヌクレオチド配列が提供される。
【0061】
代替的に、又は追加的に、2つの核酸配列は、高いストリンジェンシー条件下でハイブリダイズする場合、「実質的に同一」であり得る。ハイブリダイゼーション反応の「ストリンジェンシー」は、当業者によって容易に決定可能であり、概して、プローブ長、洗浄温度、及び塩濃度に依存する経験的計算である。一般に、より長いプローブは、適切なアニーリングのためにより高い温度を必要とするが、より短いプローブは、より低い温度を必要とする。ハイブリダイゼーションは、概して、相補鎖がそれらの融解温度を下回る環境に存在するときに、変性DNAが再アニーリングする能力に依存する。そのような「ストリンジェントな」ハイブリダイゼーション条件の典型的な例は、穏やかな振盪を伴う65℃で18時間のハイブリダイゼーション、洗浄緩衝液A中で65℃で12分間の第1の洗浄(0.5%SDS;2XSSC)、及び洗浄緩衝液B中で65℃で10分間の第2の洗浄(0.1%SDS;0.5%SSC)である。
【0062】
当業者は、本発明のCLE1酵素を含むポリペプチド、ペプチド又はペプチド類似体が、組換えDNA技術を使用してそれらの対応する核酸分子から調製され得ることを理解するであろう。ポリペプチド、ペプチド、及びペプチド類似体は、標準的な化学技術を使用して、例えば、溶液又は固相合成方法を使用した自動合成によって合成することもできる。自動化されたペプチド合成装置は市販されており、当該技術分野で既知の技法を使用する。
【0063】
本明細書で使用される場合、「遺伝子」という用語は、機能性産物、例えば、RNA、ポリペプチド又はタンパク質をコードする核酸を指す。遺伝子は、機能的産物をコードする配列の上流又は下流の調節配列を含み得る。
【0064】
本明細書で使用される場合、「コード配列」という用語は、特定のアミノ酸配列をコードする核酸配列を指す。他方では、「調節配列」は、上流、下流、又はコード配列内のいずれかに位置するヌクレオチド配列を指す。概して、調節配列は、関連するコード配列の転写、RNA処理若しくは安定性、又は翻訳に影響を与える。調節配列としては、エフェクター結合部位、エンハンサー、イントロン、ポリアデニル化認識配列、プロモーター、RNAプロセシング部位、ステムループ構造、及び翻訳リーダー配列が挙げられるが、これらに限定されない。
【0065】
いくつかの実施形態では、本発明の方法で使用される遺伝子は、他の配列に作動可能に連結され得る。「作動可能に連結された」とは、本発明のクチナーゼ様酵素をコードする核酸分子と調節配列とが、適切な分子が調節配列に結合したときにタンパク質の発現を可能にするような方法で連結されることを意味する。そのような作動可能に連結された配列は、発現のために宿主細胞に形質転換又はトランスフェクトすることができるベクター又は発現構築物に含有され得る。任意のベクター又は複数のベクターを、本発明のクチナーゼ様酵素を発現させる目的で使用することができることを理解されたい。
【0066】
「プロモーター」という用語は、核酸コード配列又は機能的RNAの発現を制御することができるDNA配列を指す。プロモーターは、完全に天然の遺伝子プロモーターに基づき得るか、又は天然に見られる異なるプロモーターからの異なる要素から構成され得る。異なるプロモーターは、異なる細胞タイプにおいて、又は異なる発達段階において、又は異なる環境若しくは生理学的条件に応答して、遺伝子の発現を指示することができる。「構成的プロモーター」は、ほとんどの場合、ほとんどの宿主細胞型において目的の遺伝子の発現を指示するプロモーターである。「操作されたプロモーター」は、異種遺伝子の組換え発現に使用される形態で天然に存在しないプロモーターを指す。操作されたプロモーターは、プロモーターによる異種遺伝子の発現を改善するために、3’-UAS、5’-UTRイントロン及び天然プロモーターなどの様々な調節エレメントで構成することができる。
【0067】
「組換え」という用語は、何かが組換えられたことを意味する。核酸構築物に関して使用される場合、この用語は、一緒に連結されるか、又は分子生物学的技術によって産生される核酸配列を含む分子を指す。タンパク質又はポリペプチドに言及する場合、「組換え」という用語は、天然源(例えば、生物学的試料)から単離されていない、例えば、分子生物学的技法の手段によって作製される組換え核酸構築物から発現する、タンパク質又はポリペプチド分子を指す。組換え核酸構築物は、それが天然ではライゲーションされないか、又はそれが天然では異なる位置でライゲーションされる核酸配列にライゲーションされるか、又はライゲーションされるように操作されるヌクレオチド配列を含み得る。したがって、組換え核酸構築物は、核酸分子が遺伝子工学を使用して、すなわちヒト介入によって操作されていることを示す。組換え核酸構築物は、形質転換によって宿主細胞に導入され得る。そのような組換え核酸構築物は、同一宿主細胞種に由来するか、又は異なる宿主細胞種に由来する配列を含み得る。
【0068】
「ベクター」という用語は、ポリヌクレオチド又は遺伝子配列を細胞に導入することができる手段を指す。プラスミド、ウイルス、バクテリオファージ、及びコスミドを含む、当該技術分野で知られる様々なタイプのベクターが存在する。概して、ポリヌクレオチド又は遺伝子配列は、カセットによってベクターに導入される。「カセット」という用語は、ベクター、例えば、本発明のクチナーゼ様酵素をコードするポリヌクレオチド又は遺伝子配列から発現されるポリヌクレオチド又は遺伝子配列を指す。カセットは概して、ベクターに挿入された遺伝子配列を含み、これはいくつかの実施形態において、ポリヌクレオチド又は遺伝子配列を発現するための調節配列を提供する。他の実施形態では、ベクターは、クチナーゼ様酵素の発現のための調節配列を提供する。更なる実施形態では、ベクターは、いくつかの調節配列を提供し、ヌクレオチド又は遺伝子配列は、他の調節配列を提供する。「調節配列」としては、プロモーター、転写終結配列、エンハンサー、スプライスアクセプター、ドナー配列、イントロン、リボソーム結合配列、ポリ(A)付加配列、及び/又は複製起点が挙げられるが、これらに限定されない。
【0069】
「異種発現」又は「異種的に発現する」という用語は、この遺伝子又は遺伝子断片を天然に有しない宿主生物における遺伝子又は遺伝子の一部の発現を指す。異種宿主への遺伝子の挿入は、組換え技術によって行われる。1つの非限定的な例では、Cryptococcus属S-2は、S.cerevisiae Y294、S.cerevisiae Ethanol Red V1、S.cerevisiae M2n、又はS.cerevisiae YI30が挙げられるが、これらに限定されないS.cerevisiae細胞などの非天然宿主細胞において異種的に発現され得る。
【0070】
いくつかの実施形態では、クチナーゼ様酵素を発現する組換え酵母株、そのような株の無細胞上清、又は本発明のクチナーゼ様酵素は、異なるバイオプラスチック、バイオプラスチック混合物、及びバイオプラスチックから作製される生物化合物の加水分解に十分に適している。そのようなバイオプラスチックとしては、ポリ(L-ラクチド)(PLLA)、ポリ(D-ラクチド)(PDLA)、及びポリ(DL-ラクチド)(PDLLA)、並びにポリカプロラクトン(PCL)、ポリブチレンコハク酸塩(PBS)、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、及び熱可塑性デンプン(TPS)ブレンドを含むポリ乳酸(PLA)の任意の組み合わせ又は混合物が挙げられ得るが、これらに限定されない。
【0071】
以下の実施例は、限定ではなく、例示として提供される。
【0072】
実施例1
ひずみ構造
以前はCryptococcus属S-2からのリパーゼとして知られていた天然クチナーゼ様酵素(CLE1)遺伝子(Genbankアクセッション番号AB671329.1-配列番号8)は、S.cerevisiaeにおけるその発現可能性を決定するために、インシリコアプローチを通して評価された。表1に示されるように、天然遺伝子は、高いGC含有量(65%)、非常に低いコドンバイアス(CBI、0.07)及びコドン適応指数(CAI、0.51)、並びに高い数の反復タンデムレアコドン(13%)を有する。これらの特徴は、天然宿主での適切な発現に重要であり得るが、これらの特徴は、S.cerevisiaeでの発現に悪影響を及ぼす可能性がある。転写は、高いGC含有量によって影響され得る。翻訳効率は、タンデムレアコドンがタンパク質分泌中にリボソーム一時停止及びボトルネックを引き起こす可能性がある一方で、コドン使用によって影響される。S.cerevisiaeにおける発現のためのCLE1遺伝子(配列番号1)のコドン最適化は、Optimumgene(商標)アルゴリズム(GeneScript)を使用して、GC含有量(44%)を減少させ、CBI(0.55)及びCAI(0.93)を大幅に増加させ、タンデムレアコドンを除去した(表1)。
【0073】
配列番号4のヌクレオチド配列によってコードされるその天然分泌シグナル(配列番号3)、又は配列番号6のヌクレオチド配列によってコードされるTrichoderma reesei xyn2遺伝子(XYNSEC(配列番号5))からの分泌シグナルのいずれかを有するコドン最適化CLE1遺伝子を、pBBH4酵母エピソームプラスミド(図1A)上のTEF1i操作酵母プロモーター(配列番号7)の下流に挿入して、pBBH4-CLEx及びpBBH4-CLEnsベクター(図1B及び1C、表2)を送達した。操作されたTEF1iプロモーターを構築し、これは参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、Myburgh et al.(FEMS Yeast Res.2020.20(6)、foaa047を参照されたい)に完全に記載されている。このプロモーターは、S.cerevisiaeにおけるアミラーゼ遺伝子の異種発現を強力に向上させることが示された。エピソームベクターをS.cerevisiae Y294株に形質転換して、組換えY294[CLExs]及びY294[CLEns]株を得た。
【0074】
その後の一連の実験では、追加のベクターを構築して、天然CLE1遺伝子の発現をコドン最適化された遺伝子と比較した。操作されたTEF1iプロモーターの制御下でのコドン最適化されたCLE1遺伝子の発現を、別の操作されたプロモーターであるTDHi下での発現と比較するために、別のベクターも構築した(図1)。このベクターはまた、実験において、天然CLE1遺伝子の発現をコドン最適化された遺伝子と比較するために使用された。
【0075】
天然のCLE1遺伝子(配列番号8)、すなわち、その天然の分泌シグナル(配列番号4)を有するS.cerevisiaeコドンの使用に最適化されていない天然のCLE1遺伝子(配列番号8)を、エピソームpBBH4プラスミド上の操作されたTEF1iプロモーター(配列番号7)の下流に挿入して、プラスミドpBBH4-CLEwtを得た(図1D)。配列番号1のヌクレオチド配列によってその全体がコードされる天然分泌シグナル(配列番号3)を有するコドン最適化CLE1遺伝子を、pBBH4酵母エピソームプラスミド上のTDHi操作酵母プロモーター(配列番号9)の下流に挿入して、pBBH4-CLEns-TDHiベクターを送達した(図1E)。操作されたTDHiプロモーターを構築し、これは参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、Myburgh et al.(FEMS Yeast Res.2020.20(6)、foaa047を参照されたい)に完全に記載されている。以前の実験では、代替分泌シグナルXYNSEC(配列番号5)の使用がCLE1タンパク質産生を増加させないことが示されたので、天然分泌シグナル(配列番号3)をこの後続のベクターで使用した。エピソームベクターをS.cerevisiae Y294株に形質転換して、組換えY294[CLEwt]及びY294[CLEns]-TDHi株を得た(表2)。
【0076】
本明細書で言及される全ての配列を、表3に提供する。
【表1】


【表2】



【表3-1】


【表3-2】

【0077】
実施例2
細胞外CLE1産生
図2に見られるように、SDS-PAGE分析は、Y294[CLExs]及びY294[CLEns]株の両方によるCLE1タンパク質の細胞外産生を確認した。タンパク質種は、容易に同定される(黒い矢じりで示される)が、CLE1タンパク質について予想される22kDaよりも大きい(25kDa)。これは、酵素の細胞外マトリックスへの分泌中に酵母細胞によってタンパク質種のグリコシル化が原因である可能性が最も高い。実際、差異的グリコシル化の徴候は、両方の株由来の試料において明らかであり、単一のCLE1タンパク質についてわずかなスミア又はいくつかのタンパク質シグナルとして観察される。酵素のグリコシル化は、その安定性に影響を及ぼすことが知られており、これは、バイオプラスチック材料の処理中に重要な要因であり得る。更に、タンパク質バンドの強度から、天然分泌シグナルを有するCLE1を産生するY294[CLEns]株が、Y294[CLExs]株よりも細胞外画分においてより多くの組換え酵素を送達したことが明らかである。
【0078】
図3は、トリブチリン(1%v/v)を含むSC-URA寒天プレート上のY294[CLEns]及びY294[CLExs]組換え株を取り囲む加水分解ハロ形成を示す。Y294[BBH]対照株は、ハロー形成を示さなかった。また、Y294[CLExs]と比較して、Y294[CLEns]の周りにより大きな加水分解ハロが形成されることも明らかである。
【0079】
図4は、PLLA(実線で表される)及びPDLA(破線で表される)基質溶液を、24時間、48時間及び72時間の酵母培養物から収集した上清でインキュベートすることを伴う、濁度ベースの酵素アッセイからの結果を示す。
【0080】
ProK陽性対照は、PLLA基質上の複数のアッセイラウンドにわたって一定の活性を示した。これは、測定が正確であり、異なる時点で再現可能であることを示している。Y294[BBH]対照は、PLLA又はPDLA基質のいずれにおいても著しい活性を示さず、濁度の低下が、PLAポリマーの自己加水分解ではなく、組換え(又は市販の)酵素の効果によるものであることを確認した。SDS-PAGE分析(図2)中に観察された分泌タンパク質種が、PLLA及びPDLA基質の両方に対して活性であったことは明らかである。
【0081】
Y294[CLEns]株は、PLLA基質上に実質的な活性レベルを送達し、48時間の培養後に10U/mLに達した。Y294[CLExs]株は、Y294[CLEns]株と比較して著しく低い活性レベルを示し、72時間培養後に活性3.12U/mLに達した。
【0082】
PLLA基質上の両方の組換え株について、PDLAと比較してより高い活性レベルを検出した。Y294[CLEns]及びY294[CLExs]株は、72時間後にそれぞれ20U/mL及び7.22U/mLに達した。これらの結果は、活性CLE1酵素が両方の組換えS.cerevisiae株によって産生されることを示す。しかしながら、Y294[CLEns]株が、酵素アッセイ中により良い活性レベルをもたらす、より多くの量の細胞外タンパク質を産生することは明らかである。
【0083】
実施例3
PLA粉末での小規模な無細胞加水分解
小規模な無細胞加水分解試験を、37℃で2.5mLの無細胞上清とインキュベートした0.075%w/vの最終濃度を有する乳化PLA基質を使用して実施した。図5は、PLAエマルジョンを使用した小規模加水分解試験の結果を示す。乳化PDLAの完全な(98%)加水分解は、Y294[CLEns]由来の上清を用いて72時間加水分解した後に達成されたが、PLLAのほぼ完全な(91%)加水分解は、同じ株によって達成された。対照及び市販のProKは、PDLA基質の濁度の低下を示さなかったが、市販のProKは、PLLA基質の完全な加水分解をもたらした。これは、天然Cryptococcus属S-2株由来の既知の精製及び濃縮CLE1調製物と比較して、PLAエマルジョンの完全加水分解のための同じような時間を示す。重要なことに、より高い濃度のPLA基質(0.075%w/v)は、既知の株(0.04%w/v基質)と比較すると、本組換え株を使用して完全に加水分解され、これは、本発明からの組換えS.cerevisiae株由来の上清をそのまま(精製又は濃縮なしで)使用した場合の改善された加水分解を示唆している。本発明の株が改善されたPLA加水分解を示すという証拠を更に増強することは、本発明の株による乳化PLAの加水分解中に界面活性剤が使用されなかったという事実であり、これに対して以前の加水分解研究はアッセイにPlysurf A210Gを含んでいた。Plysurfなどの界面活性剤は、様々な加水分解酵素によってPLA加水分解を増加させることが示されている。
【0084】
無細胞加水分解試験中にいくつかの時点で収集された試料に対してHPLC分析を実施して、残留乳酸濃度に反映されるようなPLLA及びPDLA粉末の加水分解を例証した。図6は、様々な基質濃度(A=4;B=10及びC=25g/LのPLA粉末充填量)を使用した、PLLA(実線)及びPDLA(破線)粉末の無細胞加水分解中の乳酸の産生を示す。実施された全ての実験において、Y294[CLEns]及びY294[CLExs]株の上清とともにインキュベートされた試料による遊離乳酸の実質的な産生がある。繰り返しになるが、Y294[CLEns]株によるCLE1分泌の改善により、Y294[CLExs]試料と比較してPLA粉末の加水分解が改善されることは明らかである。粉末濃度(基質充填量)の増加は、PLLA及びPDLAポリマーから産生される乳酸の最終濃度の増加をもたらした。Y294[CLEns]株由来の上清を使用して産生された乳酸の最高濃度は、25g/L PLLA及びPDLA粉末からそれぞれ5.73及び5.50g/Lであった(図6C)。
【0085】
図7は、最終濃度(%)並びに乳酸生産性(g/L/時)に対する各時点で産生された乳酸の比率を与える。シェーディングは、各時点での株の性能を示す(暗いシェーディング=より良い性能)。各時点で生成された乳酸の濃度(Cn)を、生成された乳酸の最終濃度(Cf)(図7でパーセンテージで表される)と比較して考慮すると、最終的な乳酸濃度の画分は、4及び25g/Lに比べて、10g/LのPLA粉末から大幅に高かった。10g/L PLLA粉末から、最終的な乳酸濃度の87%を、加水分解の最初の72時間以内に産生した。同様に、最終的な乳酸濃度の86%を、10g/LのPDLA粉末を使用して同じ時間で産生した。これは、乳酸のほとんどが72時間以内に産生されることを示している。PLLA及びPDLA粉末上でY294[CLEns]上清を使用した加水分解試験の乳酸産生率は、それぞれ0.155及び0.120g/L/時の最大率を示した。このデータは、遊離乳酸が組換え株由来の粗酵素抽出物を使用して産生され、基質の充填量がPLA加水分解の効率に影響することを示す。
【0086】
実施例4
PLAフィルム上の小規模な無細胞加水分解
PLA薄膜は、現実世界のPLA基材のより良い再現を提供する。そこで、PLAフィルムでインキュベートした10mL無細胞上清(粗酵素)を用いた小規模加水分解試験を行った。図8は、37℃での10日間の加水分解期間にわたるPLLA(実線)及びPDLA(破線及び点線)フィルムからの乳酸放出を示す。
【0087】
相当量の遊離乳酸を、10g/LのPLLA及びPDLAフィルムから産生した。驚くべきことに、PLAフィルムの加水分解は、粉末PLAと比較して、増加した乳酸放出のレベルをもたらした(図8)。粉末基質は、より大きな表面積を有し、フィルムよりもより良い酵素加水分解が期待される。加水分解期間(240時間)の終了時に、Y294[CLEns]株由来の上清で処理された試料は、それぞれ、10g/LのPLLA及びPDLAフィルムから6.84及び9.44g/Lの乳酸を得た。この直感に反する結果は、PLA材料の処理によって粉末粒子上により多くの疎水性表面が作り出されていることに起因する可能性がある。Y294[CLEns]株について、Y294[CLExs]株と比較して、以前の実験を通して観察された増強された効果は、PLAフィルムを使用した実験において更に顕著であり、おそらく、より良好な分泌により、したがって、細胞外分画におけるより高い酵素濃度に起因する。PLAフィルムの加水分解からより高い最終乳酸濃度が達成されたが、より低い乳酸産生比(Cn/Cf)(図9のパーセンテージで表される)は、粉末を使用する場合と比較して加水分解の最初の72時間以内に観察された。それにもかかわらず、最終的な乳酸濃度の49%及び76%は、PLLA及びPDLAフィルム加水分解の最初の72時間にそれぞれ産生された。更に、加水分解の最初の24時間において、10g/LのPDLAフィルムから産生された0.175g/L/時の乳酸を有するPDLAフィルムからより高い乳酸産生率が報告された。
【0088】
特定の加水分解パターンを識別するために、Y294[CLEns]株由来の無細胞上清でインキュベートされたPLAフィルムに対して走査型電子顕微鏡法(SEM)を実施した。Y294[CLEns]からの上清で処理したPLAフィルムのSEM分析は、分解の明確な兆候を示した(図10C)が、Y294[BBH]対照株由来の上清でインキュベートしたフィルムでは、分解パターンは明らかではなかった(図10B)。分解パターンは、24時間加水分解後にPDLAフィルム上で明らかであり、48時間後により顕著であった(それぞれ図11A及び11B)。加水分解は、フィルムの特定の領域で開始され、より大きな領域に加えてフィルムのマトリックス内に内側を含むように着実に外側に延びる(図11Bの白い矢印)。一般的にPLLAフィルムの分解はPDLAフィルムよりも低かったが、PLLAフィルムをY294[CLEns]株由来の上清で処理した場合、特異的なピット形成がより顕著であった(図12A及び13A)。
【0089】
また、24時間後に分解を示さない、より結晶性の領域(図11A及び12Aの黒い矢印)に移動する前に、非晶質領域(図11A及び12Aの白い矢印)で加水分解が開始されたことも明らかである(図12)。これは、市販のProKでインキュベートしたPLLAフィルムについて観察されたより一般的な加水分解パターンとは対照的である(図12B及び13B)。市販の酵素は、優先的に非晶質領域を加水分解するのではなく、同じ速度でフィルム表面を加水分解するようである(図12B及び13B)。結晶領域の前の非晶質領域の加水分解は、フィルムの結晶性の初期増加をもたらし(すなわち、フィルムがより脆くなる)、したがって、この初期加水分解中にフィルムの断片化がより顕著になる可能性がある。この観察は、Y294[CLEns]由来の上清を用いた加水分解を通して24時間間隔で収集されたPLLAフィルムのDSC分析によって確認された(図14)。最初の24時間における結晶性の初期の増加は、最初に非晶質領域が加水分解され、続いて結晶領域の加水分解に起因する72時間における結晶性の大幅な低下を示す。これは、SEM中に観察されたCLE1によるPLAフィルム加水分解の機序を裏付ける。
【0090】
小規模フィルム加水分解を行い、10mLの反応体積(10g/Lの薄膜)を使用して240時間加水分解後のフィルムの重量損失を決定した。簡単に言えば、PLAフィルムを酵素を添加する前に計量し、加水分解後にWhatmann濾紙で濾過した後、乾燥後に総試料を再び計量した。HPLC分析を実施して、加水分解から産生される最終的な乳酸濃度を決定した。組換え株の上清の各々で処理したフィルムは、加水分解期間の終わりに大幅な重量損失を示した(図15A)。BBH対照と比較して、PLLA及びPDLAフィルム試料についてそれぞれ約35%及び45%の最終的な重量損失に達した。これは、市販のProK酵素について報告されている31%の重量損失よりも高い。
【0091】
ここでも、組換え株及びPLLA及びPDLAフィルムの両方について、10g/Lのフィルム加水分解から実質的な乳酸産生が観察された。最終的な乳酸濃度4.30g/L及び4.79g/Lを、それぞれY294[CLExs]及びY294[CLEns]上清試料とのPLLAのインキュベート後に産生した(図15B)。一方最終的な乳酸濃度6.64g/L及び7.75g/Lを、それぞれY294[CLExs]及びY294[CLEns]上清試料とのPDLAのインキュベート後に産生した(図15B)。発明者らの知る限り、これは、CLE1酵素を発現する組換えS.cerevisiae株を使用したそのような広範囲のフィルム加水分解を示す最初の報告である。
【0092】
実施例5
PLAフィルム上での無細胞加水分解のスケールアップ
加水分解反応を50mLの作業量までスケールアップした。これらの実験のために、10g/Lの基質充填量を維持した。低分子量PDLA及びPLLAフィルムに加えて、2つの高分子量PLAポリマー(PDLAHMW及びPLAHMW)がこれらの実験に含まれた。
【0093】
加水分解反応のスケールアップは、小規模な実験で観察されたものと同様の傾向をもたらした。Y294[BBH]対照株由来の上清とインキュベートしたフィルムは、分解の兆候をほとんど又はまったく示さず、より高い分子量のPLLAHMW及びPDLAHMWポリマーは、より低い分子量のPLLA及びPDLA試料よりも分解の兆候を示さなかった(図16)。Y294[CLEns]株由来の上清で処理した低分子量PLLA及びPDLAフィルムは、240時間の加水分解後に極端な断片化を示し、より高い分子量のPLAHMW及びPDLAHMWポリマーではより少ない断片化が観察されたが、明らかにY294[BBH]対照よりも多かった。
【0094】
2つのPDLAポリマーの減量データは、図16に見られるように、低分子量ポリマーの断片化が増加しているにもかかわらず、PDLA及びPDLAHMW試料(それぞれ37%及び34%)、並びにPLLA及びPLLAHMWポリマー(それぞれ27%及び24%)について驚くほど類似した重量損失の割合を示した(図17A)。乳酸濃度は、フィルムの小規模加水分解中に観察されたものと同様であった(図17B)。予想通り、乳酸の最高濃度はPDLAフィルム(9.66g/L)から産生され、PDLAHMW(8.16g/L)、PLLA(6.09g/L)及びPLLAHMW(5.48g/L)が続いた。低分子量PLLA材料よりも高い分子量PDLAHMWポリマーからより高い濃度の乳酸が産生されたことに留意することは興味深い。
【0095】
本明細書で報告される研究は、精製、濃縮、又は界面活性剤の補充を必要とせずに細胞外画分を実施することによってPLAの分解を増強することを可能にする高レベルの細胞外CLE1を産生する組換えS.cerevisiae株の構築に関する包括的なデータを提供する。これは、組換えS.cerevisiae株を使用してPLA分解中に使用される活性剤を生成するためのPLA材料の加水分解のこのような肯定的な結果を示す最初の報告である。更に、それはまた、濁度、乳酸産生、及びフィルム重量損失の減少が全てPLA分解のための改善されたシステムを示唆する加水分解試験における組換え的に産生されたCLE1の使用の最も徹底的な評価を提供する。PLAフィルム加水分解の機序への洞察も提供される。
【0096】
実施例6
細胞外CLE1産生
図18に見られるように、SDS-PAGE分析は、Y294[CLEns]及びY294[CLEns]-TDHi株の両方によるCLE1タンパク質の細胞外産生を確認した。タンパク質種は容易に同定され(黒い矢印頭で示される)、操作されたTDHiプロモーターによって駆動される発現を有するY294[CLEns]-TDHi株が、Y294[CLEns]株よりも細胞外画分においてより多くの組換え酵素を送達したことは、タンパク質バンドの強度から明らかである。
【0097】
図19は、0.035g/Lのポリカプロラクトン(Mw 80 000)を含有するSC-URA寒天プレート上のY294[CLEns]及びY294[CLEns]-TDHi組換え株を取り囲む加水分解ハロ形成を示す。Y294[BBH]対照株はハロ形成を示さなかったが、Y294[CLEns]及びY294[CLEns]-TDHiの両方が加水分解ハロを産生した。また、Y294[CLEns]と比較して、Y294[CLEns]-TDHiの周りにより大きな加水分解ハロが形成されることも明らかである。
【0098】
図20は、濁度ベースの酵素アッセイからの結果を示す。アッセイは、24時間、48時間及び72時間の酵母培養物から採取された上清とともに乳化PDLA基質溶液をインキュベートすることを伴う。Y294[BBH]対照は、有意な活性を示さず、アッセイ条件下での濁度の任意の低下が、PLAポリマーの自己加水分解ではなく、組換え酵素の効果によるものであることを確認した。操作されたプロモーターの制御下でCLE1を発現する3株全てが活性を示し、コドン最適化配列を含む両方の株が全ての時点で活性の増加を示した。Y294[CLEwt]株は、Y294[CLEns]株で検出されたものよりも10U/mL少ない、21U/mLの最大活性に達した。Y294[CLEns]-TDHiは、72時間後に45U/mLに達した最良の株であり、Y294[CLEns]と比較して1.5倍の増加であり、コドン最適化CLE1遺伝子の発現のためにTDHi操作プロモーターを使用することの利点を示している。
【0099】
PLA加水分解の最適温度は、Y294[CLEns]-TDHi株(図21)の上清を使用して、様々なインキュベーション温度で濁度ベースのアッセイを実施することによって調査した。これは、以前の結果から最高の性能を発揮する株であると思われる。Y294[CLEns]-TDHi株によって産生される組換えCLE1は、42℃で、以前に報告された37℃の最適値よりも良好なPLA加水分解活性(1.6倍増加)を有することは明らかである。PLAのガラス転移(Tg)温度に近い温度で酵素加水分解を実施することは、固体PLAフィルムの酵素リサイクルを大幅に改善することができる。
【0100】
Y294[CLEns]-TDHi株の上清中の組換えCLE1種の安定性を、上清を37、42、45及び50℃で120時間インキュベートすることによって調査した。酵素活性は、37℃(100%の残留活性)及び42℃(94%の残留活性)で非常に安定したままであったが、45℃及び50℃での120時間のインキュベーション後に残留活性の低下が検出され、それぞれ75%及び28%に低下した(図22)。したがって、組換え酵素が42℃で非常に安定であるため、この温度でPLAフィルム加水分解を行うことが可能な選択肢である。
【0101】
実施例7
PLAフィルム上の小規模な無細胞加水分解
PLA薄膜は、現実世界のPLA基材のより良い再現を提供する。したがって、10mLの上清と10g/LのPLAフィルムを使用した小規模な加水分解試験を37℃で実施した。図23は、10日間の加水分解期間にわたってPLLAフィルムから放出された乳酸を示す。
【0102】
相当量の遊離乳酸を10g/LのPLLAフィルムから放出した。72時間の加水分解後、Y294[CLEns]及びY294[CLEns]-TDHi株由来の上清で処理した試料は、それぞれ5.22g/L及び7.87g/Lの乳酸を得た。加水分解の最後(240時間)に、Y294[CLEns]-TDHi株の上清を用いた処理は、Y294[CLEns]株の上清を用いて得られたものよりも3.31g/L多い9.10g/Lの乳酸を送達した。
【0103】
実施例8
PLAフィルムの無細胞加水分解のスケールアップ及びプロセス改善
PLA加水分解反応を、最高性能のY294[CLEns]-TDHi株由来の上清を使用して、対照バイオリアクター設定で700mLの作業量までスケールアップした。これらの実験には、10g/LのPLAフィルム充填量を使用したが、異なる温度(37℃及び42℃)及びpH制御の効果を検討した。加水分解混合物の攪拌を、中央インペラを用いて200rpmで維持し、3MのKOHの添加を、pH制御を必要とする設定で使用した。pHを6.8に設定し、ヒステリシス設定0.2を通して6.8と7との間で維持した。乳酸放出をHPLC分析を使用して合計168時間、24時間間隔で監視した(図24)。
【0104】
加水分解の最初の24時間において、類似の乳酸放出が3回全ての設定で観察された。より高い温度で加水分解を行う利点は、42℃で48時間後に37℃と比較して4.5g/L以上の乳酸を放出することに顕著である。72時間以降、pH制御の利点は、塩基を添加しない設定よりも、pH制御を伴う設定で乳酸放出がより増加したため、pH制御の利点もまた明らかである。最終的に、組換えCLE1酵素を使用したPLAフィルム加水分解のための最良の条件は、42℃であり、6.8~7でのpH制御を有することを見出した。これらの条件下で、168時間の加水分解後に14.9g/Lの乳酸を放出し、PLAフィルムで78%の重量損失をもたらした。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
【配列表】
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【国際調査報告】