(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-31
(54)【発明の名称】イオントラップ型量子コンピュータにおける2量子ビットゲートのユニバーサルゲートパルス
(51)【国際特許分類】
G06N 10/00 20220101AFI20241024BHJP
【FI】
G06N10/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024526527
(86)(22)【出願日】2022-10-24
(85)【翻訳文提出日】2024-06-13
(86)【国際出願番号】 US2022078610
(87)【国際公開番号】W WO2023215010
(87)【国際公開日】2023-11-09
(32)【優先日】2021-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520132894
【氏名又は名称】イオンキュー インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】ブリューメル レインホールド
(72)【発明者】
【氏名】グルゼシアク ニコデム
(72)【発明者】
【氏名】リー ミン
(72)【発明者】
【氏名】マクシモフ アンドリー
(72)【発明者】
【氏名】ナム ユンソン
(57)【要約】
計算プロセスの少なくとも一部を実行する方法は、第一のイオン鎖内の第一のトラップイオンのペアに印加されるパルスのパルス関数を位相空間条件に基づいて計算するステップであって、位相空間条件が、第一のイオン鎖の最高及び最低の運動モード周波数によって設定された範囲を含む周波数区間内の等間隔の合成周波数を使用して導出されるステップと、計算されたパルス関数に基づいてパルスを生成するステップと、生成されたパルスを第二のイオン鎖内の第二のトラップイオンのペアのそれぞれに印加して、第二のイオン鎖内の第二のトラップイオンのペア間でもつれゲート操作を実行するステップとを含む。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
計算プロセスの少なくとも一部を実行する方法であって、
第一のイオン鎖内の第一のトラップイオンのペアに印加されるパルスのパルス関数を位相空間条件に基づいて計算するステップであって、前記位相空間条件が、前記第一のイオン鎖の最高及び最低の運動モード周波数によって設定された範囲を含む周波数区間内の等間隔の合成周波数を使用して導出される、ステップと、
計算された前記パルス関数に基づいて前記パルスを生成するステップと、
生成された前記パルスを第二のイオン鎖内の第二のトラップイオンのペアのそれぞれに印加して、前記第二のイオン鎖内の前記第二のトラップイオンのペア間でもつれゲート操作を実行するステップと
を含む、方法。
【請求項2】
前記第二のイオン鎖内のトラップイオンの数は、前記第一のイオン鎖内のトラップイオンの数とは異なる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第二のトラップイオンのペアは、前記第一のトラップイオンのペアと同じである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第二のトラップイオンのペアは、前記第一のトラップイオンのペアとは異なる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記パルス関数の計算は更に、安定化条件に基づいて実行され、
前記安定化条件は、前記等間隔の合成周波数を使用して導出される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記パルス関数の計算は更に、ゲート角度条件とパワー最適化条件に基づいて実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記パルス関数は、基底関数を使用して分解され、前記パルス関数の計算は、前記基底関数の係数を計算するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
イオントラップ型量子コンピューティングシステムであって、
それぞれが2つの超微細状態を有し、量子ビットを定義する複数のトラップイオンを含む第一のイオン鎖を含む量子プロセッサと、
前記第一のイオン鎖内の前記複数のトラップイオンに提供されるレーザビームを放射するように構成された1つ以上のレーザと、
古典的コンピュータであって、
第二のイオン鎖内の第一のトラップイオンのペアに印加されるパルスのパルス関数を位相空間条件に基づいて計算するステップであって、前記位相空間条件が、前記第二のイオン鎖の最高及び最低の運動モード周波数によって設定された範囲を含む周波数区間内の等間隔の合成周波数を使用して導出される、ステップと、
計算された前記パルス関数に基づいて前記パルスを生成するステップと
を含む操作を実行するように構成された古典的コンピュータと、
システムコントローラであって、制御プログラムを実行して、前記1つ以上のレーザを制御して前記量子プロセッサで、
生成された前記パルスを前記第一のイオン鎖内の第二のトラップイオンのペアのそれぞれに印加して、前記第一のイオン鎖内の前記第二のトラップイオンのペア間でもつれゲート操作を実行するステップと、
前記量子プロセッサ内の量子ビット状態の集団を測定するステップと
を含む操作を実行するように構成されたシステムコントローラと
を含み、
前記古典的コンピュータは更に、前記量子プロセッサ内の測定された量子ビット状態の集団を出力するように構成される、イオントラップ型量子コンピューティングシステム。
【請求項9】
前記第二のイオン鎖内のトラップイオンの数は、前記第一のイオン鎖内のトラップイオンの数とは異なる、請求項8に記載のイオントラップ型量子コンピューティングシステム。
【請求項10】
前記第二のトラップイオンのペアは、前記第一のトラップイオンのペアと同じである、請求項8に記載のイオントラップ型量子コンピューティングシステム。
【請求項11】
前記第二のトラップイオンのペアは、前記第一のトラップイオンのペアとは異なる、請求項8に記載のイオントラップ型量子コンピューティングシステム。
【請求項12】
前記パルス関数の計算は更に、安定化条件に基づいて実行され、
前記安定化条件は、前記等間隔の合成周波数を使用して導出される、請求項8に記載のイオントラップ型量子コンピューティングシステム。
【請求項13】
前記パルス関数の計算は更に、ゲート角度条件とパワー最適化条件に基づいて実行される、請求項8に記載のイオントラップ型量子コンピューティングシステム。
【請求項14】
前記パルス関数は、基底関数を使用して分解され、前記パルス関数の計算は、前記基底関数の係数を計算するステップを含む、請求項8に記載のイオントラップ型量子コンピューティングシステム。
【請求項15】
イオントラップ型量子コンピューティングシステムであって、
古典的コンピュータと、
それぞれが2つの超微細状態を有し、量子ビットを定義する複数のトラップイオンを含む第一のイオン鎖を含む量子プロセッサと、
制御プログラムを実行して、1つ以上のレーザを制御して前記量子プロセッサで操作を実行するように構成されたシステムコントローラと、
不揮発性メモリであって、1つ以上のプロセッサによって実行されると、前記イオントラップ型量子コンピューティングシステムに、
前記古典的コンピュータによって、第二のイオン鎖内の第一のトラップイオンのペアに印加されるパルスのパルス関数を位相空間条件に基づいて計算するステップであって、前記位相空間条件が、前記第二のイオン鎖の最高及び最低の運動モード周波数によって設定された範囲を含む周波数区間内の等間隔の合成周波数を使用して導出されるステップと、
前記古典的コンピュータによって、計算された前記パルス関数に基づいて前記パルスを生成するステップと、
前記システムコントローラによって、生成された前記パルスを前記第一のイオン鎖内の第二のトラップイオンのペアのそれぞれに印加して、前記第一のイオン鎖内の前記第二のトラップイオンのペア間でもつれゲート操作を実行するステップと、
前記システムコントローラによって、前記量子プロセッサ内の量子ビット状態の集団を測定するステップと、
前記古典的コンピュータによって、前記量子プロセッサ内の測定された量子ビット状態の集団を出力するステップと
を含む操作を実行させる複数の命令が記憶されている不揮発性メモリと
を含む、イオントラップ型量子コンピューティングシステム。
【請求項16】
前記第二のイオン鎖内のトラップイオンの数は、前記第一のイオン鎖内のトラップイオンの数とは異なる、請求項15に記載のイオントラップ型量子コンピューティングシステム。
【請求項17】
前記第二のトラップイオンのペアは、前記第一のトラップイオンのペアと同じである、請求項15に記載のイオントラップ型量子コンピューティングシステム。
【請求項18】
前記第二のトラップイオンのペアは、前記第一のトラップイオンのペアとは異なる、請求項15に記載のイオントラップ型量子コンピューティングシステム。
【請求項19】
前記パルス関数の計算は更に、安定化条件に基づいて実行され、
前記安定化条件は、前記等間隔の合成周波数を使用して導出される、請求項15に記載のイオントラップ型量子コンピューティングシステム。
【請求項20】
前記パルス関数の計算は更に、ゲート角度条件に基づいて実行される、請求項15に記載のイオントラップ型量子コンピューティングシステム。
【請求項21】
前記パルス関数の計算は更に、パワー最適化条件に基づいて実行される、請求項15に記載のイオントラップ型量子コンピューティングシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般的に、量子コンピュータを使用して計算を実行する装置及び方法に関し、より具体的には、イオントラップ型量子コンピュータにおいて、もつれゲート操作を実行することによって計算を実行する装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有望な量子コンピューティング用アーキテクチャがいくつか登場するにつれて、対応可能な量子コンピュータのサイズも増加している。これにより、必然的に、そのような量子コンピュータを構築し動作させるために必要なプロセスの複雑さが増大する。イオントラップ型量子コンピュータにおいて、任意の論理ゲートを構築する基本ゲートである2量子ビットもつれゲートは、通常、量子ビットのペアごとに個々に設計され、最適化される。したがって、量子コンピュータにおける量子ビットの数が増加するにつれて、量子ビットのペアの数は二次関数的に増加し、全ての量子ビットのペアに対する2量子ビットもつれゲートの設計はますます困難なタスクになる。
【0003】
したがって、量子ビットの数が増加するにつれて複雑さを増大させることなく、2量子ビットもつれゲートを実行する装置及び方法を設計する方法が必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の実施形態は、計算プロセスの少なくとも一部を実行する方法を含む。方法は、第一のイオン鎖内の第一のトラップイオンのペアに印加されるパルスのパルス関数を位相空間条件に基づいて計算するステップであって、位相空間条件が、第一のイオン鎖の最高及び最低の運動モード周波数によって設定された範囲を含む周波数区間(interval)内の等間隔の合成周波数を使用して導出されるステップと、計算されたパルス関数に基づいてパルスを生成するステップと、生成されたパルスを第二のイオン鎖内の第二のトラップイオンのペアのそれぞれに印加して、第二のイオン鎖内の第二のトラップイオンのペア間でもつれゲート操作を実行するステップとを含む。
【0005】
本開示の実施形態は、イオントラップ型量子コンピューティングシステムを更に含む。イオントラップ型量子コンピューティングシステムは、それぞれが2つの超微細状態を有し、量子ビットを定義する複数のトラップイオンを含む第一のイオン鎖を含む量子プロセッサと、第一のイオン鎖内の複数のトラップイオンに提供されるレーザビームを放射するように構成された1つ以上のレーザと、古典的コンピュータであって、第二のイオン鎖内の第一のトラップイオンのペアに印加されるパルスのパルス関数を位相空間条件に基づいて計算するステップであって、位相空間条件が、第二のイオン鎖の最高及び最低の運動モード周波数によって設定された範囲を含む周波数区間内の等間隔の合成周波数を使用して導出されるステップと、計算されたパルス関数に基づいてパルスを生成するステップとを含む操作を実行するように構成された古典的コンピュータと、システムコントローラであって、制御プログラムを実行して、1つ以上のレーザを制御して量子プロセッサで、生成されたパルスを第一のイオン鎖内の第二のトラップイオンのペアのそれぞれに印加して、第一のイオン鎖内の第二のトラップイオンのペア間でもつれゲート操作を実行するステップと、量子プロセッサ内の量子ビット状態の集団(population)を測定するステップとを含む、操作を実行するように構成されたシステムコントローラとを含み、古典的コンピュータは更に、量子プロセッサ内の測定された量子ビット状態の集団を出力するように構成される。
【0006】
本開示の実施形態は、イオントラップ型量子コンピューティングシステムを更に含む。イオントラップ型量子コンピューティングシステムは、古典的コンピュータと、それぞれが2つの超微細状態を有し、量子ビットを定義する複数のトラップイオンを含む第一のイオン鎖を含む量子プロセッサと、制御プログラムを実行して、1つ以上のレーザを制御して量子プロセッサで操作を実行するように構成されたシステムコントローラと、1つ以上のプロセッサによって実行されると、イオントラップ型量子コンピューティングシステムに以下の操作を実行させる複数の命令が記憶されている不揮発性メモリとを含み、操作は、古典的コンピュータによって、第二のイオン鎖内の第一のトラップイオンのペアに印加されるパルスのパルス関数を位相空間条件に基づいて計算するステップであって、位相空間条件が、第二のイオン鎖の最高及び最低の運動モード周波数によって設定された範囲を含む周波数区間内の等間隔の合成周波数を使用して導出されるステップと、古典的コンピュータによって、計算されたパルス関数に基づいてパルスを生成するステップと、システムコントローラによって、生成されたパルスを第一のイオン鎖内の第二のトラップイオンのペアのそれぞれに印加して、第一のイオン鎖内の第二のトラップイオンのペア間でもつれゲート操作を実行するステップと、システムコントローラによって、量子プロセッサ内の量子ビット状態の集団を測定するステップと、古典的コンピュータによって、量子プロセッサ内の測定された量子ビット状態の集団を出力するステップとを含む。
【図面の簡単な説明】
【0007】
本開示の上記特徴を詳細に理解することができるように、上で簡単に要約された本開示のより具体的な記載は、いくつかが添付の図面に示されている実施形態を参照することによって説明することができる。しかしながら、添付の図面は、本開示の典型的な実施形態のみを説明しているため、その範囲を限定すると見なされるべきではないことに留意されたい。なぜなら、本開示は、他の同等に有効な実施形態を認めることができるからである。
【0008】
【
図1】一実施形態に係るイオントラップ型量子コンピューティングシステムの部分概略図である。
【
図2】一実施形態に係る、イオンをグループに閉じ込めるイオントラップの概略図を示す。
【
図3】一実施形態に係る、トラップイオンのグループ内の各イオンの概略エネルギー図を示す。
【
図4A】一実施形態に係る例示的なユニバーサルゲートパルスの特性を示す。
【
図4B】一実施形態に係る例示的なユニバーサルゲートパルスの特性を示す。
【
図4C】一実施形態に係る例示的なユニバーサルゲートパルスの特性を示す。
【
図4D】一実施形態に係る例示的なユニバーサルゲートパルスの特性を示す。
【
図5A】一実施形態に係る5つの異なる例示的なユニバーサルゲートパルスの性能を示す。
【
図5B】一実施形態に係る5つの異なる例示的なユニバーサルゲートパルスの性能を示す。
【
図5C】一実施形態に係る5つの異なる例示的なユニバーサルゲートパルスの性能を示す。
【
図6】計算プロセスの少なくとも一部を実行するために使用される方法600を示すフローチャートを示す。
【0009】
理解を容易にするために、可能な場合には、図に共通する同一の要素を示すために同一の参照番号を使用する。図及び以下の説明では、X軸、Y軸及びZ軸を含む直交座標系を使用する。図面の矢印で表される方向は、便宜上、正の方向であると想定される。いくつかの実施形態で開示された要素は、具体的な明記がなく、他の実装で有益に利用されてもよいと考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書に記載の実施形態は、任意の長さのイオン鎖内の任意のイオンのペアに対して普遍的に2量子ビットもつれゲート操作を実行するために使用できるパルス整形方法に関する。このユニバーサルゲートパルスは、イオン鎖内の特定のイオンのペアに対して設計されると、イオン鎖内の他のイオンのペアに印加することができる。
【0011】
トラップイオンを使用して量子計算を実行できるシステム全体には、古典的コンピュータ、システムコントローラ及び量子レジスタが含まれる。古典的コンピュータは、グラフィックス処理ユニット(GPU)などのユーザインタフェースを使用して実行する量子アルゴリズムを選択するステップと、選択した量子アルゴリズムを一連のユニバーサル論理ゲートにコンパイルするステップと、一連のユニバーサル論理ゲートをレーザパルスに変換して量子レジスタに印加するステップと、中央処理ユニット(CPU)を使用してレーザパルスを最適化するパラメータを事前に計算するステップとを含む、サポート及びシステム制御タスクを実行する。古典的コンピュータで開始された計算操作中に、古典的コンピュータ内の不揮発性メモリに記憶される、量子アルゴリズムを分解して実行するタスクを実行するソフトウェアプログラムは、量子レジスタを使用して複雑な計算タスクの完了を開始するために使用される。量子レジスタは、様々なハードウェアと結合されたトラップイオンを含み、これらのハードウェアは、トラップイオンの内部超微細状態(量子ビット状態)を操作するレーザと、トラップイオンの内部超微細状態(量子ビット状態)を読み出す音響光学変調器を含む。システムコントローラは、選択されたアルゴリズムの量子レジスタでの実行を開始する時に、古典的コンピュータからパルスの事前に計算されたパラメータを受信し、選択されたアルゴリズムを量子レジスタで実行するために使用されるいずれか及び全ての態様の制御に関連する様々なハードウェアを制御し、量子レジスタの読み出し値を戻し、これによりアルゴリズムの実行を終了する時に、量子計算の結果を古典的コンピュータに出力する。古典的コンピュータのソフトウェアは、次に、量子レジスタから受信した結果を使用して、古典的コンピュータで最初に開始された計算操作を完了する。
【0012】
(一般的なハードウェア構成)
図1は、一実施形態に係るイオントラップ型量子コンピューティングシステム100又は単にシステム100の部分概略図である。システム100は、ハイブリッド量子古典コンピューティングシステムを表すことができる。システム100は、古典的な(デジタル)コンピュータ102及びシステムコントローラ104を含む。
図1に示されるシステム100の他の構成要素は、Z軸に沿って延びるトラップイオンの鎖106(即ち、互いにほぼ等間隔の円として示される5つの鎖)を含む量子プロセッサに関連する。トラップイオンの鎖106内の各イオンは、核スピンIと電子スピンSとの差がゼロであるように核スピンI及び電子スピンSを有するイオン、例えば、正のイッテルビウムイオン
171Yb
+、正のバリウムイオン
133Ba
+、正のカドミウムイオン
111Cd
+又は
113Cd
+であり、これらの全ては、核スピンI=1/2及び
2S
1/2超微細状態を有する。いくつかの実施形態では、トラップイオンの鎖106内の全てのイオンは、同じ種及び同位体(例えば、
171Yb
+)である。いくつかの他の実施形態では、トラップイオンの鎖106は、1つ以上の種又は同位体を含む(例えば、いくつかのイオンは
171Yb
+であり、いくつかの他のイオンは
133Ba
+である)。なおさらなる実施形態では、トラップイオンの鎖106は、同じ種の様々な同位体(例えば、Ybの異なる同位体、Baの異なる同位体)を含んでもよい。トラップイオンの鎖106内のイオンは、別々のレーザビームで個々に処理される。古典的コンピュータ102は、中央処理ユニット(CPU)、メモリ及びサポート回路(又はI/O)(図示せず)を含む。メモリは、CPUに接続され、読み取り専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、フロッピーディスク、ハードディスク又は任意の他の形式のデジタルストレージなどで、ローカル又はリモートで、すぐに利用できるメモリの1つ以上であってもよい。ソフトウェア命令、アルゴリズム及びデータは、CPUに命令するためにコード化され、メモリ内に記憶され得る。サポート回路(図示せず)も、従来の方法でプロセッサをサポートするためにCPUに接続される。サポート回路は、従来のキャッシュ、電源、クロック回路、入力/出力回路、サブシステムなどを含んでもよい。
【0013】
例えば、開口数(NA)が0.37の対物レンズなどのイメージング対物レンズ108は、イオンからY軸に沿って蛍光を収集し、個々のイオンを測定するために、各イオンをマルチチャネル光電子増倍管(PMT)110にマッピングする。X軸に沿って提供される、レーザ112からのラマンレーザビームは、イオンに対して操作を実行する。回折ビームスプリッタ114は、マルチチャネル音響光学変調器(AOM)118を使用して個々に切り替えられるラマンレーザビーム116のアレイを作成する。AOM118は、ラマンレーザビーム116の放射を個々に制御することによって、個々のイオンに選択的に作用するように構成される。ラマンレーザビーム116と共伝搬しないグローバルラマンレーザビーム120は、異なる方向から全てのイオンを一度に照射する。いくつかの実施形態では、単一のグローバルラマンレーザビーム120ではなく、個々のラマンレーザビーム(図示せず)を使用して、個々のイオンを照射することができる。システムコントローラ(「RFコントローラ」とも呼ばれる)104は、AOM118を制御するため、トラップイオンの鎖106内のトラップイオンに印加されるレーザパルスの強度、タイミング及び位相を制御する。CPU122は、システムコントローラ104のプロセッサである。ROM124は、様々なプログラムを記憶し、RAM126は、様々なプログラム及びデータの作業メモリである。ストレージユニット128は、ハードディスクドライブ(HDD)又はフラッシュメモリなどの不揮発性メモリを含み、電源が切られても様々なプログラムを記憶する。CPU122、ROM124、RAM126及びストレージユニット128は、バス130を介して相互接続される。システムコントローラ104は、ROM124又はストレージユニット128に記憶され、RAM126を作業領域として使用する制御プログラムを実行する。制御プログラムは、データの受信及び分析、ならびに本明細書で説明された、イオントラップ型量子コンピューティングシステム100を実装し動作させるために使用される方法及びハードウェアのいずれか及び全ての態様の制御に関連する様々な機能を実行するためにCPU122によって実行することができるプログラムコードを含むソフトウェアアプリケーションを含む。
【0014】
図2は、一実施形態に係る、鎖106内にイオンを閉じ込めるイオントラップ200(ポールトラップとも呼ばれる)の概略図を示す。閉じ込め電位は、静的(DC)電圧と無線周波数(RF)電圧の両方によって印加される。静的(DC)電圧V
Sがエンドキャップ電極210及び212に印加されて、Z軸(「軸方向」又は「縦方向」とも呼ばれる)に沿ってイオンを閉じ込める。鎖106内のイオンは、イオン間のクーロン相互作用のため、軸方向にほぼ均等に分布する。いくつかの実施形態では、イオントラップ200は、Z軸に沿って延びる4つの双曲線形状の電極202、204、206及び208を含む。
【0015】
操作中、(振幅VRF/2を有する)正弦波電圧V1は、対向する1対の電極202、204に印加され、正弦波電圧V1から180°の位相シフト(及び振幅VRF/2)を有する正弦波電圧V2は、駆動周波数ωRFで対向する他対の電極206、208に印加されて、四重極電位を生成する。いくつかの実施形態では、正弦波電圧は、対向する1対の電極202、204のみに印加され、対向する他対の電極206、208は、接地される。四重極電位は、トラップイオンのそれぞれに対してZ軸に垂直なX-Y平面(「半径方向」又は「横方向」とも呼ばれる)において有効な閉じ込め力を生成し、その閉じ込め力は、RF電界が消失する鞍点(即ち、軸方向(Z方向)の位置)からの距離に比例する。各イオンの半径方向(即ち、X-Y平面の方向)の運動は、半径方向の鞍点に向かう復元力を伴う調和振動(経年運動と呼ばれる)として近似され、それぞればね定数kxとkyによってモデル化できる。いくつかの実施形態では、半径方向のばね定数は、四重極電位が半径方向に対称である場合に等しいものとしてモデル化される。しかしながら、望ましくない場合には、半径方向のイオンの運動は、物理的なトラップ構成のある程度の非対称性、電極の表面の不均一性による小さなDCパッチ電位などのために歪む場合があり、かつこれら及び他の外部の歪みの原因のため、イオンは、鞍点から中心を外れる場合がある。
【0016】
図示していないが、異なるタイプのトラップは、微細加工トラップチップであり、上述したものと同様のアプローチを使用してイオン又は原子を微細加工トラップチップの表面上の適所に保持するか又は閉じ込める。上記ラマンレーザビームなどのレーザビームは、表面のすぐ上にあるイオン又は原子に照射できる。
【0017】
図3は、一実施形態に係る、トラップイオンの鎖106内の各イオンの概略エネルギー
図300を示す。トラップイオンの鎖106内の各イオンは、核スピンIと電子スピンSとの差がゼロであるように核スピンI及び電子スピンSを有するイオンである。一例では、各イオンは、ω
01/2π=12.642812GHzの周波数差(「キャリア周波数」と呼ばれる)に対応するエネルギー分割を有する、核スピンI=1/2及び
2S
1/2超微細状態を有する正のイッテルビウムイオン
171Yb
+であってもよい。他の例では、各イオンは、全てが核スピンI=1/2及び
2S
1/2超微細状態を有する正のバリウムイオン
133Ba
+、正のカドミウムイオン
111Cd
+又は
113Cd
+であってもよい。量子ビットは、|0>と|1>で表される2つの超微細状態で形成され、超微細基底状態(即ち、
2S
1/2超微細状態のうちの低エネルギー状態)が|0>を表すために選択される。以下、「超微細状態」、「内部超微細状態」及び「量子ビット」という用語は、|0>と|1>を表すために交換可能に使用される場合がある。各イオンを、ドップラー冷却又は分解サイドバンド冷却などの既知のレーザ冷却法により、フォノン励起なしで任意の運動モードの運動基底状態の近くまで冷却し(即ち、イオンの運動エネルギーが低下してもよい)、次に量子ビット状態を光ポンピングによって超微細基底状態|0>で準備することができる。
【0018】
各トラップイオンの個々の量子ビット状態は、例えば、励起された
2P
1/2レベル(|e>で表される)を介して355ナノメートル(nm)のモードロックレーザによって操作され得る。
図3に示すように、レーザからのレーザビームは、ラマン構成で1対の非共伝搬レーザビーム(周波数ω
1を有する第一のレーザビーム及び周波数ω
2を有する第二のレーザビーム)に分割され、
図3で説明するように、|0>と|e>の間の遷移周波数ω
0eに関して、一光子遷移離調周波数Δ=ω
1-ω
0eによって離調され得る。二光子遷移離調周波数δは、トラップイオンに第一及び第二のレーザビームによって提供されるエネルギー量の調整を含み、それらを組み合わせて使用すると、トラップイオンが超微細状態|0>と|1>の間で移動する。一光子遷移離調周波数Δが二光子遷移離調周波数(単に「離調周波数」とも呼ばれる)δ=ω
1-ω
2-ω
01(以下、±μで表され、μが正の値である)よりもはるかに大きい場合、それぞれ状態|0>と|e>の間、及び状態|1>と|e>の間でラビ振動が発生する単一光子ラビ周波数Ω
0e(t)とΩ
1e(t)(時間に依存し、第一と第二のレーザビームの振幅と位相によって決定される)、ならびに励起状態|e>からの自然放出率、2つの超微細状態|0>と|1>の間のラビ振動(「キャリア遷移」と呼ばれる)は、二光子ラビ周波数Ω(t)で誘導される。二光子ラビ周波数Ω(t)は、Ω
0eΩ
1e/2Δに比例する強度(即ち、振幅の絶対値)を有し、ここで、Ω
0eとΩ
1eは、それぞれ第一と第二のレーザビームによる単一光子ラビ周波数である。以下、量子ビットの内部超微細状態(量子ビット状態)を操作するためのラマン構成におけるこの非共伝搬レーザビームのセットは、「複合パルス」又は単に「パルス」と呼ばれてもよく、結果として生じる二光子ラビ周波数Ω(t)の時間依存パターンは、パルスの「振幅」又は単に「パルス」と呼ばれてもよく、それらは、以下で図示され、更に説明される。離調周波数δ=ω
1-ω
2-ω
01は、複合パルスの離調周波数又はパルスの離調周波数と呼ばれてもよい。第一及び第二のレーザビームの振幅によって決定される二光子ラビ周波数Ω(t)の振幅は、複合パルスの「振幅」と呼ばれてもよい。
【0019】
なお、本明細書に提供される説明で使用される特定の原子種は、イオン化されたときに安定し、かつ明確に定義された2レベルエネルギー構造と、光学的にアクセス可能な励起状態とを有する原子種の一例にすぎないため、本開示に係るイオントラップ型量子コンピュータの可能な構成、仕様などを限定することを意図するものではない。例えば、他のイオン種は、アルカリ土類金属イオン(Be+、Ca+、Sr+、Mg+及びBa+)又は遷移金属イオン(Zn+、Hg+、Cd+)を含む。
【0020】
(もつれゲート操作)
イオントラップ型量子コンピュータでは、イオン間のクーロン相互作用により発生するトラップイオンの鎖106の運動モードは、トラップイオンの鎖106内の2量子ビットイオン(i番目のイオンとj番目のイオン)間のもつれを仲介するデータバスとして機能することができ、このもつれは、2つのイオン間でXXゲート操作を実行するために使用される。つまり、2つのイオンのそれぞれは、運動モードともつれ、そして、当技術分野で知られているように、このもつれは、運動側波帯励起を使用することによって、2つのイオン間のもつれに転送される。具体的には、2つのイオン(i番目のイオンとj番目のイオン)の組み合わせ状態は、運動側波帯の複合パルスからなるレーザパルスを2つのイオンにゲート持続時間τにわたって印加することによって変換され、レーザパルスは、組み合わせ状態の変換が意図したXXゲート操作に従う(「ゲート角度条件」と呼ばれる)が、鎖106内に残っているトラップイオンの状態がゲート持続時間τの終了時にも変化しないままである(「位相空間条件」と呼ばれる)ように、ゲート持続時間τにわたって整形される。以下、ゲート角度条件と位相空間条件は共に「ゲート操作条件」と呼ばれる。このようなレーザパルスを整形する技術は通常、ゲート持続時間τにわたるレーザパルスの振幅変調、周波数変調又は位相変調に基づくものである。これらの技術の中で、100%の忠実度(即ち、ゲート操作条件が正確に満たされる)で正確なXXゲート操作を実行するレーザパルス整形を提供する、本明細書では正確な振幅周波数変調(E-AMFM)法と呼ばれる正確で計算効率の高いパルス整形技術が提案されている。E-AMFM法は更に、運動モード周波数ドリフトΔωpに関して所望の程度KまでのXXゲート操作の忠実度の能動的安定化(以下、「安定化条件」と呼ばれる)、及びレーザパルスのパワー最適化(「パワー最適化条件」と呼ばれる)などの特徴を提供することができる。なお、ゲート操作条件の数は、トラップイオンの鎖106内のイオンの数、及び/又は能動的安定化の程度Kに等しい能動的安定化条件の数が増加するにつれて増加する。したがって、トラップイオンの長い鎖106(即ち、鎖106内のイオンの数が多い)及び/又は能動的安定化のより高い程度Kのために、正確なXXゲート操作を実行するのにより多くの条件を満たす必要があるように、レーザパルスを整形する必要があり、これにより、パワー最適化パルス整形を選択する際の自由度(即ち、振幅と位相の可能な値)が減少する。以下に説明する実施例では、同じレーザパルスは、i番目のイオンとj番目のイオンの両方に印加される。しかしながら、いくつかの実施形態では、異なるレーザパルスは、i番目のイオンとj番目のイオンに印加される。
【0021】
以下、パルス整形方法について更に詳しく説明する。まず、レーザパルスの振幅変調と離調変調は、それぞれ振幅関数Ω(t)と離調周波数関数μ(t)と呼ばれる。更に、
【数1】
として定義されるレーザパルスのパルス関数g(t)が使用され、
【数2】
のように基底関数Q
n(t)(n=1,2,…,N
A)を使用して分解できる。ここで、A
nは、基底関数Q
n(t)(n=1,2,…,N
A)に関連する制御パラメータである。以下に説明する実施例では、正弦関数
【数3】
が基底関数Q
n(t)として使用される。しかしながら、基底関数Q
n(t)は、互いに直交する任意の関数であり得る。基底関数Q
n(t)の数N
Aは、収束を達成するために選択される十分に大きな数である。
【0022】
レーザパルスの印加による2つの量子ビット(i番目の量子ビットとj番目の量子ビット)の組み合わせ状態の変換について、
【数4】
のようにもつれ相互作用χ
ijの観点から説明することができる。ここで、もつれ相互作用χ
ijは、パルス関数g(t)の観点から、
【数5】
のように書くことができる。
【数6】
は、i番目のイオンと周波数ω
pを有するp番目の運動モードの間の結合強度を定量化するラムディッケパラメータである。2つの量子ビットの組み合わせ状態の変換に対応する最大もつれゲート
【数7】
は、
【数8】
が満たされる場合に、達成される。
【0023】
上記位相空間条件は、レーザパルスの送達によって運動モードが励起されるにつれて初期位置から変位した鎖106内のトラップイオンが初期位置に戻ることを必要とする。重ね合わせ状態|0>±|1>にある鎖106内のl番目のトラップイオンは、ゲート持続時間τ中にp番目の運動モードの励起によって変位し、p番目の運動モードの位相空間(位置と運動量)の軌道
【数9】
をたどる。位相空間の軌道
【数10】
は、l番目のトラップイオンに印加されるレーザパルスの振幅関数Ω(t)及び離調関数μ(t)によって決定される。したがって、N個のトラップイオンの鎖106に対して、条件
【数11】
(即ち、軌道
【数12】
,l=i,jが閉じている)がP個の運動モード(p=1,2,…,P,P=N)の全てに対して課されなければならない。
【0024】
運動モード周波数ドリフトΔω
pに対する次数Kの安定化条件は、
【数13】
のように説明することができる。
【0025】
あるいは、位相空間条件と次数Kの安定化条件は、共に
【数14】
のように書くことができる。
【0026】
これらの条件は、行列形式で
【数15】
のように書くことができる。ここで、i番目及びj番目のイオンに同じパルスが印加されると仮定すると、行列要素
【数16】
は、
【数17】
のように定義される。i番目及びj番目のイオンに異なるパルスを印加すると、同様の行列形式が得られる。
【0027】
ゲート角度条件は、レーザパルスによってi番目のイオンとj番目のイオンの間に生成されるもつれ相互作用χ
ijが所望の値θ
ijを有することを必要とする。最大もつれを有するXXゲート操作を
【数18】
で実行することができる。
【0028】
(ユニバーサルゲートパルス)
本明細書に記載の実施形態では、上記位相空間条件をほぼ満たすが、任意の長さを有するイオン鎖内の任意のイオンのペアに印加できるユニバーサルゲートパルスが考案される。
【0029】
イオンのペア間にXXゲート操作を引き起こすユニバーサルゲートパルスのパルス関数(「ユニバーサルパルス関数」とも呼ばれる)g
(u)(t)を構築する際に、上記位相空間条件と安定化条件は、それぞれ近似位相空間条件と近似安定化条件に置き換えられ、運動モードpの周波数ω
p(単に「運動モード周波数」とも呼ばれる)は、運動モード周波数の周波数区間内の等間隔の合成周波数(「グリッド周波数」とも呼ばれる)
【数19】
のセットに置き換えられる。周波数区間は、イオン鎖の最低の運動モード周波数から最高の運動モード周波数までの範囲を含むように設定される。このように構成されたユニバーサルゲートパルスを印加して、任意の長さのイオン鎖内の任意のイオンのペア間でXXゲート操作を実行することができる。以下、長さがNの(即ち、N個のイオンを含む)イオン鎖は、単に「N-イオン鎖」と呼ばれる場合がある。
【0030】
具体的には、グリッド周波数
【数20】
は、
【数21】
の整数倍の集合として
【数22】
に設定され、ここで、τはゲート持続時間であり、qは下限整数q
minと上限整数q
maxの間の整数区間I
q内の整数である(q∈I
q=[q
min,q
max])。下限整数q
minと上限整数q
maxは、周波数区間の下限
【数23】
と上限
【数24】
を[ω
min,ω
max]として決定する。ここで、グリッド周波数の総数
【数25】
は、Q=q
max-q
min+1である。
【0031】
ユニバーサルパルス関数
【数26】
について、ここで、
【数27】
は基底関数Q
n(t)に関連する制御パラメータであり、近似位相空間条件は、上記位相空間条件における運動モード周波数ω
pをグリッド周波数
【数28】
に置き換えることによって、重要でない要素まで導出でき、
【数29】
ここで、[0,τ]上の正弦関数と余弦関数の直交性により、最後の行が続く。なお、[0,τ]上の正弦関数の直交性により、n≠q時の時間積分はゼロである。したがって、n=q時の制御パラメータ
【数30】
は、ゼロに設定され、
【数31】
その結果、
【数32】
の
【数33】
の値に関係なく、位相空間条件が満たされるようにる。
【0032】
運動モード周波数ドリフトΔω
pに関する次数Kの近似安定化条件は、上記安定化条件における運動モード周波数ω
pをグリッド周波数
【数34】
に置き換えることによって、
【数35】
として導出でき、そして、すべての整数μ=1,2,…,K及びq’=1,2,…Q・Kに対して、行列形式で
【数36】
として簡略化でき、ここで、
【数37】
は、
【数38】
のN
A制御パラメータベクトルであり、行列要素
【数39】
は、
【数40】
として定義される。
【0033】
安定化条件を満たすために、ベクトル
【数41】
、M
(u)の零空間から選択され、零空間は、M
(u)の作用でゼロにマッピングされるベクトル空間として定義される。この条件から導出されるN
A-(Q・K)零空間ベクトル
【数42】
のセットは、運動モード周波数ω
pの任意のセットに対する位相空間条件をほぼ満たすユニバーサルパルス関数g
(u)(t)に対応する。
【0034】
更に、ゲート角度条件及びパワー最適化条件が満たされるように、零空間ベクトル
【数43】
の線形結合が制御パラメータベクトル
【数44】
として計算される。
【0035】
ゲート角度条件は、
【数45】
のような行列形式であり、ここで、行列Dは、要素D
mnを有する。
【数46】
【0036】
パワー最適化条件は、制御パラメータベクトル
【数47】
のノルム
【数48】
が最小化されるときに満たされる。いくつかの実施形態では、位相空間条件を適用した後、無視できる量の不忠実度が許容され、その結果、ユニバーサルゲートパルスの送出に必要なパワーを低減することができる。
【0037】
当業者であれば、ユニバーサルパルス関数g(u)(t)がイオン鎖の運動モード周波数ωpから独立していることを理解するであろう。ユニバーサルパルス関数g(u)(t)は、運動モード周波数ωpが事前に設定された周波数区間内にある限り、イオン鎖の運動モードωpの数P(イオン鎖内のイオンの数Nと一致する)にも依存しない。ユニバーサルパルス関数g(u)(t)は、特定の数のイオン(即ち、特定の長さ)を有するイオン鎖内の特定のイオンのペア間でXXゲート操作を引き起こすために計算されると、任意の長さのイオン鎖内の任意のイオンのペア間でXXゲート操作を引き起こすために使用することができる。
【0038】
本明細書で指定された方法に従って計算されたユニバーサルパルスは、異なる量子ビットのペアにわたる比較的小さいパワー変動(スケール因子)と、運動モード周波数ドリフトΔωpに対するロバストネスとを特徴とする。更に、ユニバーサルパルスは、異なる数のトラップイオンに対してうまく機能するが、非ユニバーサルパルスの場合はそうとは言えない。
【0039】
(ユニバーサルゲートパルスの実施例)
ユニバーサルゲートパルスの実施例は、ユニバーサルゲートパルスの性能を評価するために、本明細書で説明される。具体的には、ユニバーサルゲートパルスのパワー要件と、運動モード周波数ドリフトΔω
pに対するユニバーサルゲートパルスの印加によって実行されるXXゲート操作のロバストネスが評価される。パワー要件の尺度として、
【数49】
して定義されるユニバーサルゲートパルスg
(u)(t)の二乗平均平方根(RMS)ラビ周波数が使用される。ロバストネスの尺度として、i番目のイオンとj番目のイオンの間のXXゲート操作のα-不忠実度ε
αとχ-不忠実度が使用される。α-不忠実度ε
αは、
【数50】
して定義され、位相空間条件からの逸脱を測定するために使用することができる。χ-不忠実度ε
χは、|χ
ij-θ
ij|
2として定義され、ゲート角度条件からの逸脱を測定するために使用することができる。
【0040】
図4A、4B、4C及び4Dは、例示的なユニバーサルゲートパルスの特性を示す。
図4A、4B及び4Cにおいて、ユニバーサルパルス関数g
(u)(t)は、N
A個の基底関数
【数51】
用いてゲート持続時間τ=500μsに対して構築され、ここで、N
Aは、約500未満である。パルスを決定するために使用されるイオンは、イオン2及び3である。周波数区間は、[2.954,3.060]MHzに設定され、隣接するグリッド周波数間の間隔は、
【数52】
kHzある。
図4Aは、制御パラメータ
【数53】
402の絶対値
【数54】
MHzで示す。制御パラメータ
【数55】
は、ゼロに設定され、n∈I
q=[q
min,q
max]であり、ここで、q
minは、1477であり、q
maxは、1530である。
図4Bは、
図4Aに示される制御パラメータ
【数56】
有するユニバーサルパルス関数g
(u)(t)から導出される振幅関数Ω
(u)(t)を示す。
図4Cは、9-イオン鎖の運動モード周波数ω
p/2π 406、7-イオン鎖の運動モード周波数408、及びグリッド周波数
【数57】
410(破線で示す)を示す。
図4Dは、理論的に予測されるα-不忠実度
【数58】
について、運動モード周波数ドリフトΔω
pの関数として、3-イオン鎖の場合に412、7-イオン鎖の場合に414、9-イオン鎖の場合に416を示す。この実施例では、ユニバーサルパルスは、3-イオン鎖のi番目のイオンとj番目のイオン(i=0,j=0)に対して計算され、そして、i番目のイオンとj番目のイオン(i=0,j=0)の3-、7-、9-イオン鎖に印加され、全ての運動モード周波数ω
pは、
【数59】
に従って均一にシフトされた。パルスが1つのイオン鎖長に対してのみ計算された場合でも、3つのイオン鎖長の全てに対してロバストネスの大きなウィンドウが観察される。
【0041】
図5A、5B及び5Cは、5つの異なる例示的なユニバーサルゲートパルスの性能を示す。これらの実施例では、ユニバーサルパルス関数は、N
A個の基底関数
【数60】
用いてゲート持続時間τ=500μsに対して構築され、ここで、N
Aは、199である。周波数区間は、[3.874,3.962]MHzに設定され、隣接するグリッド周波数間の間隔は、
【数61】
kHzである。5つの異なるユニバーサルゲートパルスp1、p2、p3、p4及びp5は、特定の長さNのイオン鎖内の特定のイオンのペア(i番目のイオンとj番目のイオン)に対してXXゲート操作を最大もつれ(即ち、θ
ij=π/2)で実行するように計算され、すべてのユニバーサルゲートパルスは、Nが5、10、20、30、40又は50に等しい長さを有するイオン鎖内の全てのイオンのペアに印加される。
【0042】
ユニバーサルゲートパルスp1は、2-イオン鎖内の1つのイオンのペアi=0,j=0に対して計算された。ユニバーサルゲートパルスp2とp3はそれぞれ、50-イオン鎖内の1つのイオンのペアi=0,j=0と1つのイオンのペアi=48,j=49に対して計算された。ユニバーサルゲートパルスp4とp5はそれぞれ、100-イオン鎖内の1つのイオンのペアi=0,j=0と1つのイオンのペアi=98,j=99に対して計算された。
【0043】
図5A、5B及び5Cはそれぞれ、RMSラビ周波数、α-不忠実度ε
αが10
-4より小さい運動モード周波数ドリフトΔω
pの範囲、及びχ-不忠実度ε
χが10
-4より小さい運動モード周波数ドリフトΔω
pの範囲を示す。
図5A、5B及び5Cは、ユニバーサルゲートパルスが最初に計算されたイオンのペアに関係なく、ユニバーサルパルスの性能がイオン鎖内の異なる位置にあるイオンのペア間でほぼ同じであることを示す。
【0044】
図6は、計算プロセスの少なくとも一部を実行するために使用される方法600を示すフローチャートを示す。
【0045】
ブロック610では、第一のイオン鎖内の第一のトラップイオンのペアに印加されるパルスのパルス関数を位相空間条件に基づいて計算する。位相空間条件は、第一のイオン鎖の最高及び最低の運動モード周波数によって設定された範囲を含む周波数区間内の等間隔の合成周波数を使用して導出される。
【0046】
ブロック620では、計算されたパルス関数に基づいてパルスを生成する。
【0047】
ブロック630では、生成されたパルスを第二のイオン鎖内の第二のトラップイオンのペアのそれぞれに印加して、第二のイオン鎖内の第二のトラップイオンのペア間でもつれゲート操作を実行する。
【0048】
本明細書に記載の実施形態では、任意の長さのイオン鎖内の任意のイオンのペアに対して普遍的に2量子ビットもつれゲート操作を実行するために使用できるパルス整形方法が記載される。このユニバーサルゲートパルスは、イオン鎖内の特定のイオンのペアに対して設計されると、任意の長さのイオン鎖内の他のイオンのペアに印加することができる。したがって、このようなユニバーサルゲートパルスにより、全てのイオンのペアに対する2量子ビットもつれゲートの設計の複雑さが大幅に軽減され、これにより、大規模なイオントラップ型量子コンピュータにおける全体的な計算の複雑さが軽減される。
【0049】
上記は特定の実施形態を対象としているが、他のさらなる実施形態は、その基本的な範囲から逸脱することなく考案することができ、その範囲は、以下の特許請求の範囲によって決定される。
【国際調査報告】