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▶ ヘルムホルツ・ツェントルム・ミュンヘン・ドイチェス・フォーシュンクスツェントルム・フュア・ゲズントハイト・ウント・ウンベルト・ゲーエムベーハーの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-31
(54)【発明の名称】中皮ECM移動の調節物質
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20241024BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20241024BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20241024BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241024BHJP
   A61K 38/00 20060101ALI20241024BHJP
   A61K 38/39 20060101ALI20241024BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20241024BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20241024BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20241024BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20241024BHJP
   C12N 15/115 20100101ALN20241024BHJP
   C12N 15/113 20100101ALN20241024BHJP
   C07K 16/28 20060101ALN20241024BHJP
   C12N 15/864 20060101ALN20241024BHJP
   C12N 15/861 20060101ALN20241024BHJP
【FI】
A61K45/00
A61K48/00
A61K35/76
A61P43/00 105
A61K38/00
A61K38/39
C12Q1/02
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
C12N15/12 ZNA
C12N15/115 Z
C12N15/113 140Z
C07K16/28
C12N15/864 100Z
C12N15/861 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024526603
(86)(22)【出願日】2022-11-07
(85)【翻訳文提出日】2024-06-05
(86)【国際出願番号】 EP2022080892
(87)【国際公開番号】W WO2023079127
(87)【国際公開日】2023-05-11
(31)【優先権主張番号】21206688.0
(32)【優先日】2021-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509160867
【氏名又は名称】ヘルムホルツ・ツェントルム・ミュンヘン・ドイチェス・フォーシュンクスツェントルム・フュア・ゲズントハイト・ウント・ウンベルト・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【弁理士】
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】フィッシャー アドリアン
(72)【発明者】
【氏名】ミュック-ホイスル マルティン
(72)【発明者】
【氏名】リンケビッチ ユヴァル
(72)【発明者】
【氏名】カドリ サフアン
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4C084
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
2G045AA40
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ03
4B063QQ08
4B063QQ79
4B063QR66
4B063QS03
4B063QS28
4B063QX02
4C084AA13
4C084AA17
4C084BA44
4C084DC50
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZB211
4C084ZC412
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087NA14
4C087ZB21
4H045AA11
4H045AA30
4H045DA75
4H045EA20
4H045FA71
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
本発明は、内部器官の表面を形成する中皮細胞によって産生される細胞外マトリックス(ECM)の、前記器官の損傷を受けているかまたはそのリスクがある対象の前記器官の損傷部位に向かう移動、を調節するための方法における使用のための化合物に関する。加えて、本発明は、中皮細胞によって産生される細胞外マトリックス(ECM)の、対象の内部器官の損傷部位に向かう移動、の調節物質を同定するための特定のインビボスクリーニング方法における使用のための化合物にも関する。さらに、本発明は、中皮に由来する単一細胞懸濁液における、外部刺激に向かうECMの移動の調節物質を同定するための独特なインビトロスクリーニング方法にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部器官の表面を形成する中皮細胞によって産生される細胞外マトリックス(ECM)の、前記器官の損傷を受けているかまたはそのリスクがある対象の前記器官の損傷部位に向かう移動、を調節するための方法における使用のための化合物であって、調節が阻害または促進である、前記化合物。
【請求項2】
調節が、前記化合物が中皮細胞を特異的に標的とすることができることを含む、請求項1記載の使用のための化合物。
【請求項3】
中皮細胞によって産生されるECMの移動の前記調節に関与している遺伝子をコードする転写構築物である、前記請求項のいずれか一項記載の使用のための化合物。
【請求項4】
前記遺伝子が、csta、tgfb、tgfbr2、ctsb、aebp1、col1a1、adamTs1、dcn、sparc、timp1、c1、c2、c3、c4、saa3、hsf1、およびdtr、またはそれらの組合せからなる群より選択される、請求項3記載の使用のための化合物。
【請求項5】
前記遺伝子が、mgp、crip1、plac8、lgals1、およびifi27l2a、またはそれらの組合せからなる群より選択される、請求項3または4記載の使用のための化合物。
【請求項6】
前記転写構築物がDNAを含み、好ましくは、前記転写構築物がDNA構築物である場合に前記構築物が、中皮特異的制御エレメントおよび/もしくは中皮特異的プロモーターエレメントおよび/もしくは中皮特異的エンハンサーエレメントをさらに含み、かつ/または、前記転写構築物がDNA構築物である場合に前記構築物がRNA標的配列またはタンパク質標的配列をさらに含む、請求項3~5のいずれか一項記載の使用のための化合物。
【請求項7】
前記中皮特異的プロモーターエレメントが、CRIP1、LGALS1、MGP、SAA3、またはSEPP1プロモーターのいずれか1つ、好ましくはCRIP1である、請求項6記載の使用のための化合物。
【請求項8】
前記転写構築物がRNAを含み、好ましくは、前記転写構築物がRNA構築物である場合に前記構築物がRNA標的配列またはタンパク質標的配列をさらに含む、請求項3~5のいずれか一項記載の使用のための化合物。
【請求項9】
前記化合物が、中皮特異的受容体のアゴニストまたはアンタゴニストであり、好ましくは、前記アゴニストまたはアンタゴニストが、抗体、siRNA、核酸、アプタマー、ペプチド、タンパク質、脂質、または有機低分子より選択される、請求項1~8のいずれか一項記載の使用のための化合物。
【請求項10】
前記中皮特異的受容体が、MSLN1、GPM6A、PDPN、TGF-β受容体、LTB4受容体BLT2、ポドプラニン、およびProcrからなる群より選択される、請求項9記載の使用のための化合物。
【請求項11】
前記化合物が、注射または注入によって投与され、好ましくは、前記投与が、静脈内に、腹腔内に、胸膜内に、髄腔内に、心膜穿刺によって、またはリンパ系を介して実施される、前記請求項のいずれか一項記載の使用のための化合物。
【請求項12】
前記化合物が、ウイルスベクターを介して、リポソームを介して、トランスフェクション試薬を介して、細胞外小胞を介して、または直接的に投与され、好ましくは、前記ウイルスベクターがアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターおよび/またはアデノウイルス(AV)ベクターである、請求項11記載の使用のための化合物。
【請求項13】
前記内部器官が、肺、腎臓、心臓、肝臓、胃、膀胱、脳、腹膜、子宮、脾臓、膵臓、または腸のいずれか1つである、前記請求項のいずれか一項記載の使用のための化合物。
【請求項14】
調節が阻害である場合に前記器官の損傷が慢性創傷に関連するか、または調節が促進である場合に前記器官の損傷が線維増殖性疾患に関連する、前記請求項のいずれか一項記載の使用のための化合物。
【請求項15】
中皮細胞によって産生される細胞外マトリックス(ECM)の、対象の内部器官の損傷部位に向かう移動、の調節物質を同定するためのインビボスクリーニング方法における使用のための化合物であって、
前記方法が、
a)対象の内部器官のECMを標識と接触させる段階;
b)前記器官に損傷を導入する段階;
c)前記器官の表面を形成する中皮細胞を、関心対象の化合物と接触させる段階;
d)前記器官のECMが標識されているが前記器官の中皮細胞は前記関心対象の化合物と接触させられていない対照対象と比べて、前記器官の損傷部位に向かうECM移動を前記関心対象の化合物が調節するかどうかを、1つの検出方法を用いて判定する段階
を含み、
ここで、前記器官の損傷部位に向かうECMの移動の調節によって前記関心対象の化合物がECM移動の調節物質であることが示され、かつここで、段階b)および段階c)を入れ替えることができる、
前記化合物。
【請求項16】
中皮に由来する単一細胞懸濁液における、外部刺激に向かう細胞外マトリックス(ECM)の移動の調節物質を同定するためのインビトロスクリーニング方法であって、
前記方法が、
a)中皮に由来する単一細胞懸濁液を、既に標識されたECMと接触させる段階、または、前記中皮に由来する単一細胞懸濁液を、前記細胞がECMを産生することを可能にする適切な条件下に置き、次いで、産生された前記ECMを標識と接触させる段階;
b)前記単一細胞を外部刺激に曝露する段階;
c)前記単一細胞を関心対象の化合物と接触させる段階;
d)前記ECMが標識されているが前記単一細胞は前記関心対象の化合物と接触させられていない対照単一細胞懸濁液と比べて、前記外部刺激に向かうECM移動を前記関心対象の化合物が調節するかどうかを、1つの検出方法を用いて判定する段階
を含み、
ここで、前記外部刺激に向かうECMの移動の調節によって前記関心対象の化合物がECM移動の調節物質であることが示され、かつここで、段階b)および段階c)を入れ替えることができる、
前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、あらゆる目的のためにその内容全体が参照により本明細書に組み入れられる、2021年11月5日に出願された欧州特許出願公開第21206688.0号の優先権の恩典を主張する。
【0002】
発明の技術分野
本発明は、内部器官の表面を形成する中皮細胞によって産生される細胞外マトリックス(ECM)の、前記器官の損傷を受けているかまたはそのリスクがある対象の前記器官の損傷部位に向かう移動、を調節するための方法における使用のための化合物であって、調節が阻害または促進である、前記化合物に関する。加えて、本発明は、中皮細胞によって産生される細胞外マトリックス(ECM)の、対象の内部器官の損傷部位に向かう移動、の調節物質を同定するための特定のインビボスクリーニング方法における使用のための化合物も含む。さらに、本発明は、中皮に由来する単一細胞懸濁液における、外部刺激に向かうECMの移動の調節物質を同定するための独特なインビトロスクリーニング方法にも関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
損傷した組織は、細胞外マトリックスの自然増加によって、硬い解剖学的構造に置き換えられる。これらの補充された硬い構造的かつ機械的な連続体によって、生物の生存が可能になる。正常な修復が失敗する場合、その結果は、治癒しない慢性創傷または増悪した瘢痕化および線維化のいずれかである(Eming, S. A., Martin, P. & Tomic-Canic, M. Wound repair and regeneration: Mechanisms, signaling, and translation. Sci. Transl. Med. 6, (2014)(非特許文献1); Guo, S. & DiPietro, L. A. Critical review in oral biology & medicine: Factors affecting wound healing. J. Dent. Res. 89, 219-229 (2010) (非特許文献2))。悪化した創傷および過剰な瘢痕化は、患者および世界の保健医療システムにとって極めて大きな負担であり、米国だけで、1年あたり数百億ドルの費用がかかっている(Nussbaum, S. R. et al. An Economic Evaluation of the Impact, Cost, and Medicare Policy Implications of Chronic Nonhealing Wounds. Value Heal. 21, 27-32 (2018) (非特許文献3); Shetty, A. & Syn, W. Health and Economic burden of Nonalcoholic Fatty Liver Disease in the United States and Its Impact on Veterans. 14-19 (2019) (非特許文献4))。
【0004】
先進諸国における全死亡数の半分は、腎臓、肝臓、心臓、または肺の線維化に起因し、Covid-19における肺感染は、永続的な線維化を引き起こす(P. Zhang et al. (2020), Bone Res. 8(非特許文献5))。線維増殖性疾患は、器官内にみとめられる任意の種類の線維化、瘢痕形成、ケロイド、および器官外徴候である線維性癒着を含んでおり、これはまた、他の多くの慢性の疾患および損傷においても起こり、状況を器官の機能障害、不全、および死亡の方向へ決定づける、最も重大な意味を持つ段階である。
【0005】
線維増殖性疾患は、免疫系および炎症によって始まると考えられているが、内部器官の損傷、例えば炎症(例えば、肺における肺炎)がどのように結合組織の沈着を引き起こして、線維化および瘢痕化の形態または慢性創傷のいずれかを招くのかは明らかではない。
【0006】
したがって、対象の内部器官の損傷を有すること、その損傷部位に向かってECMが移動すること、およびその後に線維増殖性疾患または慢性創傷が生じること、の背後にある臨床状況を調査することが、当技術分野において必要とされている。
【0007】
よって、本発明の目的は、この必要性を満たすことである。
【0008】
本発明の解決法は、以下に説明され、添付の実施例において例証され、図に例示され、特許請求の範囲に反映される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Eming, S. A., Martin, P. & Tomic-Canic, M. Wound repair and regeneration: Mechanisms, signaling, and translation. Sci. Transl. Med. 6, (2014)
【非特許文献2】Guo, S. & DiPietro, L. A. Critical review in oral biology & medicine: Factors affecting wound healing. J. Dent. Res. 89, 219-229 (2010)
【非特許文献3】Nussbaum, S. R. et al. An Economic Evaluation of the Impact, Cost, and Medicare Policy Implications of Chronic Nonhealing Wounds. Value Heal. 21, 27-32 (2018)
【非特許文献4】Shetty, A. & Syn, W. Health and Economic burden of Nonalcoholic Fatty Liver Disease in the United States and Its Impact on Veterans. 14-19 (2019)
【非特許文献5】P. Zhang et al. (2020), Bone Res. 8
【発明の概要】
【0010】
本発明は、損傷領域へのECM移動および既存のマトリックスの物理的位置変更についての新規のメカニズムを扱う。このメカニズムは、線維症の化学モデルおよびウイルスモデル、ならびにエキソビボヒト試料において、様々な内部器官の表面の既存の細胞外マトリックス(ECM)をN-ヒドロキシスクシンイミド-エステルで標識することによって、明らかにされた。基本的には、本発明者らは、ECMが移動していること、およびこの移動が病原性状態においてある役割を果たしていること、について調査した。具体的には、中皮細胞が、ECMの産生および移動を引き起こしていることが実証された。言い換えると、ECMを産生し、かつ各内部器官の最外層として表面を形成する中皮細胞を標的とすることにより、対象の器官の損傷部位に向かうECMの移動を調節し、したがって、ECM移動を阻害するかまたはそれを促進することができる。中皮細胞がECMを産生し、次いでECMが中皮細胞とともに器官の表面を形成することが分かっているので、前記細胞に間接的または直接的に影響を及ぼし/前記細胞を標的とし、好ましくは前記細胞を特異的に標的とし、それによって、前記器官の損傷を受けているかまたはそのリスクがある対象の前記器官の損傷部位に向かうECMを調節することができる。器官表面のECMの一部は中皮細胞以外の他の細胞型からも提供され得るものの、中皮細胞が、ECM産生およびECM移動に主に寄与している。このことは、まだ明確にされていない新しい臨床状況を明るみにする。
【0011】
したがって、第1の局面において、本発明は、内部器官の表面を形成する中皮細胞によって産生される細胞外マトリックス(ECM)の、前記器官の損傷を受けているかまたはそのリスクがある対象の前記器官の損傷部位に向かう移動、を調節するための方法における使用のための化合物であって、調節が阻害または促進である、前記化合物に関する。
【0012】
加えて、本発明はまた、本明細書の他の箇所で定義される使用のための化合物であって、調節が、前記化合物が中皮細胞を特異的に標的とすることができることを含む、前記化合物も含み得る。
【0013】
本発明はまた、本明細書の他の箇所で定義される使用のための化合物であって、中皮細胞によって産生されるECMの移動の調節に関与している遺伝子をコードする転写構築物である、前記化合物も含み得る。
【0014】
さらに、本発明はまた、本明細書の他の箇所で定義される使用のための化合物であって、遺伝子が、csta、tgfb、tgfbr2、ctsb、aebp1、col1a1、adamTs1、dcn、sparc、timp1、c1、c2、c3、c4、saa3、hsf1、およびdtr、またはそれらの組合せからなる群より選択される、前記化合物も想定し得る。加えてまたはその代わりに、本発明はまた、本明細書の他の箇所で定義される使用のための化合物であって、遺伝子が、mgp、plac8、crip1、lgals1、およびifi27l2a、またはそれらの組合せからなる群より選択される、前記化合物も想定し得る。
【0015】
さらに、本発明はまた、本明細書の他の箇所で定義される使用のための化合物であって、転写構築物がDNAまたはRNAを含む、前記化合物も包含し得る。
【0016】
さらに、本発明はまた、本明細書の他の箇所で定義される使用のための化合物であって、転写構築物がDNA構築物である場合に、前記構築物が、中皮特異的制御エレメントおよび/または中皮特異的プロモーターエレメントおよび/または中皮特異的エンハンサーエレメントをさらに含む、前記化合物も包含し得る。好ましくは、本発明はまた、本明細書の他の箇所で定義される使用のための化合物であって、転写構築物がDNA構築物である場合に、中皮特異的プロモーターエレメントが、CRIP1、LGALS1、MGP、SAA3、またはSEPP1プロモーターのいずれか1つ、好ましくはCRIP1である、前記化合物も包含し得る。
【0017】
加えて、本発明はまた、本明細書の他の箇所で定義される使用のための化合物であって、転写構築物がDNA構築物である場合に、前記構築物がRNA標的配列またはタンパク質標的配列をさらに含む、前記化合物も含み得る。
【0018】
さらに、本発明はまた、本明細書の他の箇所で定義される使用のための化合物であって、転写構築物がRNA構築物である場合に、前記構築物がRNA標的配列またはタンパク質標的配列をさらに含む、前記化合物も含み得る。
【0019】
加えて、本発明はまた、本明細書の他の箇所で定義される使用のための化合物であって、中皮特異的受容体のアゴニストまたはアンタゴニストである、前記化合物も包含し得る。
【0020】
さらに、本発明はまた、本明細書の他の箇所で定義される使用のための化合物であって、アゴニストまたはアンタゴニストが、抗体、siRNA、核酸、アプタマー、ペプチド、タンパク質、脂質、または有機低分子より選択される、前記化合物も含み得る。
【0021】
加えて、本発明はまた、本明細書の他の箇所で定義される使用のための化合物であって、中皮特異的受容体が、MSLN1、GPM6A、PDPN、TGF-β受容体、LTB4受容体BLT2、ポドプラニン、およびProcrからなる群より選択される、前記化合物も包含し得る。
【0022】
さらに、本発明はまた、本明細書の他の箇所で定義される使用のための化合物であって、注射または注入によって投与される、前記化合物も含み得る。
【0023】
加えて、本発明はまた、本明細書の他の箇所で定義される使用のための化合物であって、投与が、静脈内に、腹腔内に、胸膜内に、髄腔内に、心膜穿刺によって、またはリンパ系を介して実施される、前記化合物も包含し得る。
【0024】
さらに、本発明はまた、本明細書の他の箇所で定義される使用のための化合物であって、ウイルスベクターを介して、リポソームを介して、トランスフェクション試薬を介して、細胞外小胞を介して、または直接的に投与される、前記化合物も含み得る。
【0025】
さらに、本発明はまた、本明細書の他の箇所で定義される使用のための化合物であって、ウイルスベクターがアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターおよび/またはアデノウイルス(AV)ベクターである、前記化合物も想定し得る。
【0026】
加えて、本発明はまた、本明細書の他の箇所で定義される使用のための化合物であって、AAVベクターまたはAVベクターであるベクターが、RGDモチーフを含むペプチドを含む、前記化合物も包含し得る。
【0027】
加えて、本発明はまた、本明細書の他の箇所で定義される使用のための化合物であって、内部器官が、肺、腎臓、心臓、肝臓、胃、膀胱、腹膜、脳、子宮、脾臓、膵臓、または腸のいずれか1つである、前記化合物も含み得る。
【0028】
本発明はまた、本明細書の他の箇所で定義される使用のための化合物であって、ECM移動の調節が阻害である場合に、器官の損傷が慢性創傷に関連する、前記化合物も含み得る。
【0029】
本発明はまた、本明細書の他の箇所で定義される使用のための化合物であって、ECM移動の調節が促進である場合に、器官の損傷が線維増殖性疾患に関連する、前記化合物も含み得る。
【0030】
本発明はまた、本明細書の他の箇所で定義される使用のための化合物であって、ECM移動の調節が促進である場合に、器官の損傷が、線維症、好ましくは、肺線維症、肝線維症、腎線維症、心線維症、膀胱線維症、脳線維症、子宮線維症、脾臓線維症、膵臓線維症、または胃線維症のいずれか1つである、線維増殖性疾患に関連する、前記化合物も含み得る。
【0031】
第2の局面において、本発明は、中皮細胞によって産生される細胞外マトリックス(ECM)の、対象の内部器官の損傷部位に向かう移動、の調節物質を同定するための特定のインビボスクリーニング方法における使用のための化合物に関し、前記方法は、
a)対象の内部器官のECMを標識と接触させる段階;
b)前記器官に損傷を導入する段階;
c)前記器官の表面を形成する中皮細胞を、関心対象の化合物と接触させる段階;
d)前記器官のECMが標識されているが前記器官の中皮細胞は前記関心対象の化合物と接触させられていない対照対象と比べて、前記器官の損傷部位に向かうECMの移動を前記関心対象の化合物が調節するかどうかを、1つの検出方法を用いて判定する段階
を含み、
ここで、前記器官の損傷部位に向かうECMの移動の調節によって前記関心対象の化合物がECM移動の調節物質であることが示され、かつここで、段階b)および段階c)を入れ替えることができる。
【0032】
最後に、第3の局面において、本発明は、中皮に由来する単一細胞懸濁液における、外部刺激に向かう細胞外マトリックス(ECM)の移動の調節物質を同定するためのインビトロスクリーニング方法に関し、前記方法は、
a)中皮に由来する単一細胞懸濁液を、既に標識されたECMと接触させる段階、または前記中皮に由来する単一細胞懸濁液を、前記細胞がECMを産生することを可能にする適切な条件下に置き、次いで、産生されたECMを標識と接触させる段階;
b)前記単一細胞を外部刺激に曝露する段階;
c)前記単一細胞を関心対象の化合物と接触させる段階;
d)ECMが標識されているが単一細胞は前記関心対象の化合物と接触させられていない対照単一細胞懸濁液と比べて、前記外部刺激に向かうECM移動を前記関心対象の化合物が調節するかどうかを、1つの検出方法を用いて判定する段階
を含み、
ここで、前記外部刺激に向かうECMの移動の調節によって前記関心対象の化合物がECM移動の調節物質であることが示され、かつここで、段階b)および段階c)を入れ替えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1A図1: 中皮層は、移転される瘢痕組織の供給源である。(A)Col1結合ペプチドに基づく追跡設定のワークフロー。AAV粒子によってトランスダクションされた中皮細胞は、コラーゲン結合ペプチドを発現して、コラーゲン線維の細胞型特異的な沈着を可能にする(n=3)。スケールバー:肺表面100μM。(B)中皮細胞は、移転される瘢痕組織の供給源である。ブレオマイシン施与後14日目に、肺を摘出した(n=5)。スケールバー:肺表面100μM、組織学的概観1000μM;20μM(臓側胸膜および高倍率)。(C)0日目、3日目、7日目、10日目、14日目、21日目、および28日目にマウスを犠死させて行ったシングルセルRNAseq実験のワークフローから、中皮細胞が、ブレオマイシン誘発性肺線維症の経過中に、著しく動的なマトリックス遺伝子発現を有することが、示される。画像の定量。示されたデータは平均±SDである。多重比較のために一元配置ANOVAを使用した(***P<0.001)。
図1B-1】図1Aの説明を参照のこと。
図1B-2】図1Aの説明を参照のこと。
図1C-1】図1Aの説明を参照のこと。
図1C-2】図1Aの説明を参照のこと。
図2-1】図2: 胸膜瘢痕の蓄積および侵入は、中皮TGFβシグナル伝達によって引き起こされる。(A)TGFβは、胸膜瘢痕組織の侵入を誘発する。肺生検材料を1ngの組換えTGFβとともに48時間インキュベートした(n=3)。スケールバー:20μM。(B)化学的に誘発された損傷肺における胸膜マトリックス侵入は、中皮におけるTGFβの動態に従う。リン酸化SMAD(pSMAD)は、活性TGF-βシグナル伝達の読み取り値の役目を務めた(n≧5)。スケールバー:50μM。(C)慢性の肺インフェステーションは、持続的な中皮TGFβシグナル伝達をもたらす(n≧3)。スケールバー:50μM。(D)TGFβ誘発性肺線維症モデルのワークフロー。マウスに、NHS-FITC標識ミックスを胸膜内注射した。翌日、100ngの組換えTGFβを注射して、中皮TGF-βシグナル伝達の増大をもたらした(n≧5)。(E)活性な中皮TGFβシグナル伝達は、組換えTGFβ注射後14日目にマトリックス侵入をもたらす(n=5)。スケールバー:1000μM(概観)。(F)TGFβに誘発された胸膜マトリックス侵入は、体重減少を引き起こす。(n=5)。7日目の二元配置ANOVA検定:P<0.001。(G)組換えTGFβを1回注射することにより、持続的な活性中皮TGFβシグナル伝達が誘発され、肺間質中のPDGFR+細胞の数が増加した((G')’(n=5)。スケールバー:50μM。(H)活性TGF-βをコードするAAVベースの粒子は、中皮TGF-βレベルを上昇させる(n=3)。スケールバー:50μM。(I)中皮TGFβ活性化は、肺線維症を促進する。活性TGF-βをコードするAAV粒子を、胸膜内に適用した(n=5)。H&Eを用いて、構造変化を可視化した。スケールバー:蛍光:1000μM;H&E:100μM。(J)中皮TGFβ活性化は体重減少をもたらし、死亡率の上昇を伴った。(n=5);統計的比較のためにログ・ランク検定を使用した。(K)中皮TGFβ活性化により、間質pSMADレベルは上昇し、PDGFR+細胞は増加する(K)’(n=5)。スケールバー:50μM。(L)ドミナントネガティブTGF-Β受容体をコードするAAVベースの粒子は、中皮細胞においてロバストに発現する(n=3)。(M)中皮細胞におけるTGF-βの標的阻害は、胸膜マトリックスのブレオマイシン誘発性侵入を妨害する。ドミナントネガティブTGF-Β受容体をコードするAAV粒子を胸膜内に適用し;5日後にブレオマイシンを施与し;ブレオマイシン施与後14日目に器官を採取した(n=5)。H&Eを用いて、構造変化を可視化した。スケールバー:蛍光:1000μM;H&E:100μM。(N)中皮TGFβを阻害すると、ブレオマイシンによって誘発されたTGFβシグナル伝達が妨害され、肺間質中のPDGFR+細胞の数が増加した(N)’(n=5)。(O)中皮TGFβを阻害すると、ブレオマイシンによって誘発される死亡が予防される(n=5)。統計的比較のためにログ・ランク検定を使用した。画像の定量。示されたデータは平均±SDである。多重比較のために一元配置ANOVAを使用した(***P<0.001)。
図2-2】図2-1の説明を参照のこと。
図2-3】図2-1の説明を参照のこと。
図2-4】図2-1の説明を参照のこと。
図2-5】図2-1の説明を参照のこと。
図2-6】図2-1の説明を参照のこと。
図2-7】図2-1の説明を参照のこと。
図2-8】図2-1の説明を参照のこと。
図2-9】図2-1の説明を参照のこと。
図2-10】図2-1の説明を参照のこと。
図3-1】図3: 中皮カテプシンBは、胸膜マトリックスを放出させ、肺線維症を増悪させる。(A)線維性ヒト肺およびブレオマイシン処置した動物に由来する中皮細胞は、コラーゲン、カテプシンB、およびチオールプロテアーゼメディエーターの発現の増大を示す。ブレオマイシン施与マウスおよびILD患者からのscRNA-Seqデータ。(B)カテプシンBの発現は、ブレオマイシン誘発性胸膜線維症の経過に対応している(n≧5)。スケールバー:50μM。(C)慢性肺感染症は、持続的な中皮カテプシンB発現をもたらす(n=5)。スケールバー:50μM。(D)胸膜内に適用された組換えTGFβは、14日後に中皮カテプシンB発現をトリガーする(n=5)。スケールバー:50μM。(E)中皮TGFβシグナル伝達は、14日後にカテプシンBレベルの上昇をもたらす(n=5)。スケールバー:50μM。(F)中皮細胞におけるTGFβの標的阻害は、ブレオマイシンによって誘発されるカテプシンB発現を妨害する。ドミナントネガティブTGF-Β受容体をコードするAAV粒子を胸膜内に適用し;5日後にブレオマイシンを施与し;ブレオマイシン施与後14日目に器官を採取した(n=5)。スケールバー:50μM。(G)AAVベースの粒子は、中皮特異的なカテプシンBまたはカテプシン阻害物質であるシスタチンの過剰発現をもたらす(n=3)。スケールバー:50μM。(H)中皮カテプシンの活性化によって、ブレオマイシンによって誘発される死亡率が決まる(n=5)。統計的比較のためにログ・ランク検定を使用した。(I)犠死させた動物の、中皮カテプシンBを過剰発現する肺は、ブレオマイシン施与後7日目に大量のマトリックス侵入を示したが、中皮シスタチンを過剰発現する肺は、ブレオマイシン投与後2週間に胸膜マトリックスを含まなかった(n≧4)。H&Eを用いて、構造変化を可視化した。スケールバー:蛍光 1000μM;H&E 100μM。示されたデータは平均±SDである。多重比較のために一元配置ANOVAを使用した(***P<0.001)。
図3-2】図3-1の説明を参照のこと。
図3-3】図3-1の説明を参照のこと。
図3-4】図3-1の説明を参照のこと。
図3-5】図3-1の説明を参照のこと。
図3-6】図3-1の説明を参照のこと。
図3-7】図3-1の説明を参照のこと。
図4】肺線維症発症のモデル。(A)中皮の単層は、健康な肺においてマトリックス貯蔵部の薄層を包んでいる。(B)肺損傷が起こると、炎症細胞が動員され、それにより、中皮TGFβシグナル伝達が活性化され、胸膜マトリックス貯蔵部が集積する。(C)中皮カテプシンBは、胸膜マトリックスプールを遊離させ、内側への侵入および肺線維症をトリガーする。
図5-1】図5: ウイルスを投与されたマウスの肝臓および腎臓は、肺に似たシグナル伝達プロファイルを示す。(A)ウイルス施与は、TGFβシグナル伝達の活性化、酸化ストレス、およびカテプシンの増大をもたらす。肝臓(B)および腎臓(C)における発現。腹部のマトリックス運命追跡設定のワークフロー。マウスにN-ヒドロキシスクシンイミド-フルオレセインイソチオシアナート(NHS-FITC)標識ミックスを腹腔内注射し、ヘルペスウイルスを鼻腔内に適用し、15日目および45日目に犠死させた。マウスの肝臓(n≧1)および腎臓(n≧2)の組織画像。スケールバー:20μM。示されたデータは平均±SDである。多重比較のために一元配置ANOVAを使用した(***P<0.001)。
図5-2】図5-1の説明を参照のこと。
図5-3】図5-1の説明を参照のこと。
図5-4】図5-1の説明を参照のこと。
図5-5】図5-1の説明を参照のこと。
図5-6】図5-1の説明を参照のこと。
図5-7】図5-1の説明を参照のこと。
図5-8】図5-1の説明を参照のこと。
図5-9】図5-1の説明を参照のこと。
図6A図6: 流動性マトリックスの流れを断つと、肺線維症が予防される。(A)ブレオマイシン誘発性肺線維症モデルにおける薬理学的処置レジメンのワークフロー。(B)および(C):ピルフェニドン、ニンテダニブ、およびカテプシンB阻害物質は、ブレオマイシン誘発性損傷後の死亡を予防し、胸膜マトリックスプールを救出する(n=5)。統計的比較のためにログ・ランク検定を使用した。スケールバー:1000μM(肺);500μM(心臓)。(D~F)ブレオマイシン損傷後2週間のマウス肺についての免疫蛍光およびH&E画像(n=5)。スケールバー:50μM(免疫染色);100μM(H&E)。画像の定量。示されたデータは平均±SDである。多重比較のために一元配置ANOVAを使用した(***P<0.001)。(G)カテプシンBを阻害すると、線維性ヒト肺組織における流動性マトリックスの流動が妨害される。N=3;スケールバー:20μM。統計学的比較を、対応のないt検定によって行った。示されたデータは平均±SDである。
図6B図6Aの説明を参照のこと。
図6C図6Aの説明を参照のこと。
図6D-1】図6Aの説明を参照のこと。
図6D-2】図6Aの説明を参照のこと。
図6E図6Aの説明を参照のこと。
図6F図6Aの説明を参照のこと。
図6G図6Aの説明を参照のこと。
図7A図7: 中皮細胞は、移転されるECMの供給源である。(A)トランスダクションされた中皮細胞は、コラーゲンに結合する、mCherryに融合されたCNA35を発現する。腹腔内注射後5日目の代表的な免疫染色。(B)CNA35-mcherryレポーターおよびNHS-FITC表面標識をトランスダクションされた動物の、損傷後24時間の開腹閉鎖。n=5つの生物学的レプリケート。組織像:500μm。(C)CNA35-mcherryレポーターおよびNHS-FITC表面標識をトランスダクションされた動物の、損傷後24時間の創傷。n=6つの生物学的レプリケート。組織像:50μm。(D)(C)におけるFITC+CNA35+シグナルのパーセンテージ。(E)中皮細胞は、損傷後7日目に、活性なpSMAD2/3シグナル伝達を示す。n=6つの生物学的レプリケート。組織像:50μm。両側マンホイットニー;*<0.05。
図7B図7Aの説明を参照のこと。
図7C図7Aの説明を参照のこと。
図7D図7Aの説明を参照のこと。
図7E図7Aの説明を参照のこと。
図8A図8: インビトロおよびインビボの、中皮における、mRNAを介したロバストな導入遺伝子発現。(A)ヒト中皮細胞を裸のmCherry mRNAで1回(左)、およびmCherry mRNA+リポフェクタミン(商標)MessengerMAX(商標)で1回(右)、処理した。処理後24時間に画像を撮影した。n=5。(B)マウスにmCherry mRNAとin vivo-jetPEI(登録商標)の混合物を胸膜内注射し、注射後24時間に器官を採取し可視化した。M6Aは、中皮特異的マーカーの役割を果たす。
図8B-1】図8Aの説明を参照のこと。
図8B-2】図8Aの説明を参照のこと。
図9A図9: 中皮細胞における標的発現のための別の候補遺伝子。(A)PCLSワークフローのスキーム。マウス肺を採取し、アデノ随伴ウイルスを含む溶液中でインキュベートする。その後、肺を、NHS-FITCを含む標識溶液中でインキュベートする。肺を薄いスライスに切断し(精密切断肺スライス;PCLS)、ブレオマイシンまたはPBS対照の存在下でインキュベートする。指定の時点の後、表面マトリックス侵入(移動)を可視化し、定量する。
図9B】中皮細胞における標的発現のための別の候補遺伝子。(B)3日間および5日間のインキュベーション後の、PCLSエクスビボアッセイ法におけるECM侵入の定量。IFI27L2AのAAVを介した過剰発現により、胸膜ECMの有意な侵入が誘発される。LGALS1、PLAC8、DCN、およびSPARCの過剰発現は、ブレオマイシンによって誘発されるECM侵入を有意に妨害する。
図9C】中皮細胞における標的発現のための別の候補遺伝子。(C)インキュベーション後5日目のPCLSの代表的な蛍光画像。
図10】中皮発現I。ブレオマイシンの気管内施与後5日目、10日目、および14日目のマウス肺におけるCRIP1、LGALS1、MGP、およびSAA3の中皮タンパク質発現の定量。中皮細胞における強いタンパク質発現(好ましくは5日目に既にある、例えば、CRIP1またはMGPの発現)は、そのような中皮細胞において、それらに対応するプロモーター(例えば、CRIP1またはMGP)もまた高度に活性化されており、したがって、それらを中皮特異的プロモーターエレメントとして転写構築物において使用できること、を示す。
図11A図11: 中皮発現II。単独および次いで(A)CRIP1、(B)LGALS1、(C)MGP、(D)SAA3、または(E)SEPP1のいずれかと組み合わせた、中皮特異的受容体GPM6aの発現についての代表的な蛍光染色画像。
図11B図11Aの説明を参照のこと。
図11C図11Aの説明を参照のこと。
図11D図11Aの説明を参照のこと。
図11E図11Aの説明を参照のこと。
【発明を実施するための形態】
【0034】
発明の詳細な説明
本発明を以下に詳細に説明するが、本発明は、本明細書において説明される特定の方法論、プロトコール、および試薬に限定されず、これらは様々であり得ることが理解されるべきである。また、本明細書において使用される専門用語は、特定の態様を説明することだけを目的とし、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲を限定することは意図しないことも理解されるべきである。他に規定されない限り、本明細書で使用される技術用語および科学用語はすべて、当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有している。
【0035】
以下に、本発明の要素について説明する。これらの要素は、具体的な態様とともに列挙されるが、任意の様式および任意の数でこれらを組み合わせて、付加的な態様を作り出してもよいことが理解されるべきである。本明細書の全体にわたって記載される様々に説明される実施例および好ましい態様は、明示的に説明される態様のみに本発明を限定すると解釈されるべきではない。本明細書は、明示的に記載された態様を任意の数の開示されたおよび/または好ましい要素と組み合わせる態様を裏付け、包含すると理解されるべきである。さらに、本明細書において説明される全要素についての任意の入れ替えおよび組合せは、文脈上別段の指示がない限り、本出願の説明によって開示されるとみなされるべきである。
【0036】
本明細書および以下の特許請求の範囲の全体を通して、文脈において特に指示がない限り、「含む(comprise)」という語、ならびに「含む(comprises)」および「含む(comprising)」などの変形は、記載された、メンバー、整数、もしくは段階、またはメンバー、整数、もしくは段階の群を含むが、他の任意の、メンバー、整数、もしくは段階、またはメンバー、整数、もしくは段階の群を除外しないことを意味すると理解されるが、いくつかの態様においては、このような他のメンバー、整数、もしくは段階、またはメンバー、整数、もしくは段階の群が、除外されてもよい。すなわち、主題は、記載された、メンバー、整数、もしくは段階、またはメンバー、整数もしくは段階の群、を含むことにある。本明細書において使用される場合、「含む(comprising)」という用語は、「含有する(containing)」もしくは「含む(including)」という用語、または時には、本明細書において使用される場合、「有する(having)」という用語で置き換えられてよい。本明細書において使用される場合、「からなる(consisting of)」は、指定されていない任意の要素、段階、または成分を除外する。
【0037】
本発明を説明する文脈において(特に、特許請求の範囲の文脈において)使用される「1つの(a)」および「1つの(an)」ならびに「その(the)」という用語ならびに同様の指示対象は、本明細書において別段の定めもなく、文脈によって明らかに矛盾もしない限り、単数形と複数形の両方を包含すると解釈されるべきである。本明細書における値の範囲の列挙は、その範囲内に含まれる別個の各値に個々に言及する簡略な方法としての役割を果たすためのものにすぎない。本明細書において別段の定めがない限り、個々の各値は、本明細書に個別に列挙されるかのように、本明細書中に組み入れられる。
【0038】
本明細書において説明される方法はすべて、本明細書において別段の定めがない限り、または文脈によって明らかに矛盾しない限り、任意の適切な順序で実施することができる。本明細書において提供される任意およびすべての例、または例示的な文言(例えば、「などの(such as)」)の使用は、本発明をより上手く例示するためのものにすぎず、別の様式で請求される本発明の範囲に制限を与えない。本明細書中のいかなる文言も、特許請求されていない任意の要素が本発明の実践に必須であることを示すと解釈されるべきではない。
【0039】
別段の定めがない限り、要素の系列の前にある「少なくとも」という用語は、その系列中のあらゆる要素を指すと理解されるべきである。「少なくとも1つの」という用語は、1つまたは複数、例えば、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、およびそれより多くを指す。当業者は、本明細書において説明される本発明の具体的な態様に対する数多くの等価物を認識するか、または単なる日常的な実験を用いて確認することができるであろう。このような等価物は、本発明によって包含されると意図される。
【0040】
「および/または」という用語は、本明細書において使用される場合はいつでも、「および」、「または」、および「前記用語によって連結される要素のすべてまたは他の任意の組合せ」の意味を含む。
【0041】
本明細書において使用される場合、「からなる(consisting of)」は、特許請求の範囲の要素において指定されていない任意の要素、段階、または成分を除外する。本明細書において使用される場合、「から本質的になる(consisting essentially of)」は、特許請求の範囲の基本的および新規の特徴に実質的に影響を及ぼさない材料も段階も除外しない。
【0042】
「含む(including)」という用語は、「含むが、限定されるわけではない(including but not limited to)」ことを意味する。「含む」および「含むが、限定されるわけではない」は、同義的に使用される。
【0043】
「約」という用語は、プラスまたはマイナス20%、好ましくはプラスまたはマイナス10%、より好ましくはプラスまたはマイナス5%、最も好ましくはプラスまたはマイナス1%を意味する。
【0044】
本明細書の説明および特許請求の範囲の全体を通して、文脈において特に指示がない限り、単数形は複数形を包含する。特に、不定冠詞が使用される場合、本明細書は、文脈において特に指示がない限り、単数だけでなく複数も企図していると理解されるべきである。
【0045】
本発明は、本明細書において説明される特定の方法論、プロトコール、材料、試薬、および物質などに限定されず、したがって様々であり得ることが理解されるべきである。本明細書において使用される専門用語は、特定の態様を説明することのみを目的とし、特許請求の範囲によってのみ定義される本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0046】
本明細書の本文全体を通して、いくつかの文書が引用される。本明細書において引用される各文書(すべての特許、特許出願、科学的出版物、製造業者の仕様書、説明書などを含む)は、前出または後出を問わず、それらの全体が参照により本明細書に組み入れられる。本明細書中のいかなるものも、先行発明のせいで、本発明がそのような開示に先行する権利がないことを認めるものとして解釈されるべきではない。参照により組み入れられる資料が本明細書と矛盾するか、または一致しない場合、本明細書が任意のそのような資料に優先するものとする。
【0047】
本明細書において引用されるすべての文書および特許文書の内容は、その全体が参照により組み入れられる。
【0048】
本発明およびその利点のより良好な理解は、例示を目的として提供されるにすぎない以下の実施例から得られる。これらの実施例は、本発明の範囲を限定することを決して意図しない。
【0049】
これまでに説明した手段の欠点のいくつかを克服するために、本発明者らは、本明細書において定義される対象の内部器官の表面を形成する細胞である中皮細胞によって産生される細胞外マトリックス(略称:ECM)の移動を調節する際に適用するための、有望な新規の化合物を、本明細書において提供した。
【0050】
要約すると、本発明は、中皮細胞によって生成されるECMの、器官の損傷を受けているかまたはそのリスクがある対象の前記器官の損傷部位に向かう移動を、本明細書において以下に定義される様々な化合物を適用することによって、(阻害または促進することを含む)調節するための、新しい手段を明らかにする。
【0051】
本発明による「細胞外マトリックス(略称:ECM)」は、細胞によって分泌される細胞外分子の集合体を指す。本発明のECMは、ヒアルロナンおよびプロテオグリカンに埋もれ込んでいるコラーゲン原線維、ミクロフィブリル、および弾性線維から構成され得る。好ましくは、ECMは、タンパク質、多糖、および/またはプロテオグリカンを含む。これらの構成成分は、本発明によるECM構成成分を指し得る。このようなECM構成成分は、本明細書において定義されるスクリーニング方法において、ECM、特にECM構成成分と接触させるために使用される標識に、共有結合され得る。好ましくは、ECMはまた、本明細書において説明される筋膜マトリックス、漿膜、および/または外膜の細胞、例えば、中皮細胞、マクロファージ、好中球、および/または線維芽細胞、最も好ましくは中皮細胞、を含み得る。
【0052】
前記ECMは、中皮細胞によって主に生産/生成され、中皮細胞は、ECM産生およびECM移動に寄与しており、したがってこの移動は中皮ECM移動とも呼ばれる。言い換えると、ECMは、本明細書で定義されるようにそれを産生する、中皮細胞に由来する。中皮に由来するECMは、内部器官の発生中または維持中に作られ、損傷時には、絶えず生成される。特に、中皮細胞によるECMの産生とは、前記細胞が、例えば刺激された場合に、1型コラーゲンなどのECM分子を分泌し、それによって、そのような分子の発現の増大をもたらすことを、意味する。本明細書において定義されるこれらの分子は、その後、ECMを形成する。ホメオスタシスにおいて、中皮細胞の下にECMの貯蔵部がある。中皮細胞におけるECMタンパク質の発現レベルは低く、貯蔵部を維持する役割を果たす。損傷が起こると、貯蔵部を構成するECMタンパク質が、損傷部位に移転される。並行して、中皮細胞における発現レベルは、大きく上昇して、(i)損傷部位に動員される、より多くのタンパク質を提供し、かつ(ii)貯蔵部を再び満たす。したがって、既に移動してしまったECMは、中皮細胞によって新たに産生された新しいECMで補充され、その後、前記新しいECMが再び移動されることにより、ECMの恒常的な流動がもたらされる;これは、線維症の中心的特徴である。
【0053】
ECMを産生する中皮細胞はまた、内部器官の表面も形成している。したがって、前記細胞は、本明細書において定義される対象の器官の表面を構成している。言い換えると、内部器官の表面は、最外層としての前記細胞と、それらが前述のように産生する、その下にあるECMとからなる。したがって、内部器官の表面は、中皮細胞および本明細書において定義される細胞外マトリックスから構成される、外側の漿膜/層である。
【0054】
本発明者らは、この度、中皮細胞のすべてまたは反応性画分のいずれかがECM産生およびその移動の原因であり、したがって、中皮細胞がそのようなメカニズムのメディエーターであり、新たな臨床状況が生じる理由であることを発見した。「中皮細胞」という用語は、本明細書において使用される場合、当業者に公知の中皮に由来し得る任意の細胞を指す。したがって、中皮細胞がECMを産生することを知ることにより、前記細胞を標的とし、それによって、本明細書の他の箇所で定義される器官の損傷部位に向かうECM移動を調節することができる。したがって、本明細書において定義されるECM移動の調節はまた、化合物が、直接的または間接的なメカニズムを介して、好ましくは、本明細書において定義される直接的なメカニズムによって、器官の最外層を形成する中皮細胞を標的とすることができることも、含み得る。したがって、中皮細胞は、本発明の化合物によって標的とされ、その影響を受け;前記化合物は、次いで、前記細胞によって産生されるECMの、本明細書において定義される対象の器官の損傷部位に向かう移動を、調節する。この文脈において、「中皮細胞を標的とする」という用語は、本発明の化合物が、(例えば、すなわち本明細書において定義されるベクター(その場合、中皮細胞を標的とする)を用いた、本明細書において定義される化合物のトランスダクションを介して)直接的に中皮細胞に働きかけることができること、または適用可能な化合物が免疫細胞、好ましくは好中球(その場合、次に、中皮細胞を特異的に標的とする因子を分泌する)の刺激を介して間接的に中皮細胞に働きかけることができること、を意味する。したがって、適用可能な化合物を用いて免疫細胞に働きかけることによって、免疫細胞は活性化され、次に、中皮細胞を活性化し(これは、中皮細胞を間接的に標的とすることを指すが、「中皮細胞を標的とする」という用語に含まれ得る)、それによって、中皮細胞によって産生されるECMの移動もまた、調節され得る。「特異的に標的とする(specifically targeting)」もしくは「特異的に標的とする(to target specifically)」または「十分な/必要とされる特異性で標的とする/標的とする(to target / targeting with sufficient / required specificity)」という用語は、本明細書において定義される本発明の化合物が、中皮細胞に直接的に働きかけることのみできること、または言い換えると、本発明の化合物が中皮細胞を特に標的とすること、を意味する。本明細書において定義される転写物である化合物に関して、前記転写物のトランスダクションは、本明細書において定義される化合物が中皮細胞を特異的に標的とする場合、他の細胞よりも中皮細胞に対して、より有効である。この文脈において、「中皮細胞を標的とする」または「中皮細胞を特異的に標的とする」という用語が本明細書において使用される場合、すべての中皮細胞または中皮細胞の反応性画分のみが、本発明の化合物によって標的とされる(その場合、ECM移動の調節に十分である)ことを意味する。本明細書において定義される中皮特異的受容体のアンタゴニストまたはアゴニストである化合物に関して、「特異的に標的とする」という用語は、本明細書の他の箇所で定義される「特異的に結合する」という用語を含む。
【0055】
この文脈において、「損傷」は、1)本明細書において定義される創傷、または2)器官の表面を破損することを指さないが、器官表面の他の任意の乱れ、例えば刺激物として酸を用いる場合を含み得る、任意の刺激状態、または3)内部器官表面のふぞろいを示す他の任意の徴候、を指し得る。したがって、「損傷部位」は、ECMの沈着を必要とする損傷した部位、すなわち器官中の損傷の位置、を指し得る。これは、対象の身体にECM沈着の必要性をシグナルで伝える、器官内の部位である。シグナルは、例えば創傷によって引き起こされる損傷などによって、トリガーされる。通常、ECM沈着は、創傷を修復するために必要とされる。したがって、ECM沈着を必要とする損傷部位は、好ましくは創傷である。「創傷」は、例えば暴力に起因する、本明細書において定義される対象の任意の身体組織についての連続性の中断(例えば、器官組織のダメージを受けた表面)であり、ここで、暴力は、例えば手術を含む、外部から働きかける実体の任意の作用を包含すると理解される。この用語は、開放創および閉鎖創を含む。「傷害」という用語は、本出願内で「損傷」という用語と同義的に使用され得る。
【0056】
「ECMの移動」または「ECM移動」「中皮ECM移動」という用語は、本明細書において定義される器官の損傷した部位に向かうマトリックスの流入/侵入を指し得、したがって、器官の最外表面の一部であるマトリックスの、外側から内側への移動を指し得る。損傷が器官内で起こった場合、ECMが、中皮細胞によって産生され、次いで、外側(器官の表面)から、前記損傷が前記器官内で位置している場である内側に、移動する。
【0057】
要約すると、本発明の利点は、化合物が、中皮への(中皮)特異性を有することである。したがって、処置または予防の選択肢が、より特異的であることができる。これは、(i)標的候補を絞り込み、同時に、非中皮細胞によって引き起こされる有害作用を回避する、注射経路、および/または(ii)本明細書の他の箇所で定義される化合物の特異性を高めること、によって可能になり得る。
【0058】
前述したように、「調節すること」または「調節」という用語は、ECMの移動を「阻害すること」、「阻害」、または「促進すること」、「促進」を含む。したがって、阻害および促進の両方が、臨床的価値を有し、ゆえに目標になり得る。本発明の化合物が、本明細書の他の箇所で説明される器官の損傷部位に向かうECMの移動を阻害するならば、これは、その場合、前記部位でのECMの過剰な沈着を防止し、それによって、線維増殖性疾患を阻止すると思われる。ECMの沈着を必要とする損傷部位に向かうECM移動の阻害が、前記部位での過剰なECM沈着を防止することが、好ましい。したがって、ECMの過剰な沈着は、線維増殖性疾患に関連する。言い換えると、マトリックスの移動が、ECMの過剰な沈着をもたらし、これは、次いで線維増殖性疾患をもたらす/線維増殖性疾患に関連する。したがって、線維増殖性疾患を処置または予防することとは、ECMの沈着を必要とする損傷部位に向かうECM移動を阻害することができる本発明の化合物を適用することを意味する。ECM移動の「阻害」または「阻害すること」という用語はまた、本発明の化合物が適用され得る場合に、ECMの行き先変更/の行き先を変え、それによって、本明細書において定義される損傷部位に向かうマトリックスの流動を停止させることも、含み得る。ECM移動を促進することにより、糖尿病、加齢などの慢性創傷を有する人々において、ならびに創傷を閉鎖/修復するためにマトリックスの局所産生が有益である状況、例えば、腹壁ヘルニアおよび骨盤部ヘルニア、気胸などを有する状況において、創傷の閉鎖/修復が可能になると思われる。言い換えると、場合によっては、本明細書の他の箇所で説明される器官の損傷部位に向かうECMの動員/ECM移動を加速させることもまた、望ましく、前記部位でのECMの不十分な沈着を防止し、それによって、悪化した創傷の治癒を促進する。ECMの沈着を必要とする損傷部位に向かうECM移動の促進が、前記部位での不十分なECM沈着を防止することが、好ましい。したがって、ECMの不十分な沈着は、慢性創傷に関連する。言い換えると、マトリックスの移動がない/減らされる(阻害される)ことが、ECMの不十分な沈着をもたらし、これは、次いで慢性創傷をもたらす/慢性創傷に関連する。したがって、慢性創傷を処置または予防することとは、ECMの沈着を必要とする損傷部位に向かうECM移動を促進することができる本発明の化合物を適用することを意味する。
【0059】
したがって、ECM移動の調節が阻害である場合、ECMの沈着を必要とする損傷部位に向かうECM移動が阻害され、ここで、本明細書において定義される対象の内部器官の損傷は、したがって、慢性創傷に関連し得る。「慢性創傷」とは、ほとんどの創傷が順序立った一連の段階を経て予測可能な時間で治癒するのに対して、そのように治癒しない(好ましくは本明細書において定義される)創傷であり;約2~3ヶ月以内に治癒しない創傷は、通常、慢性とみなされる。例えば、慢性創傷は、多くの場合、あまりにも長く炎症段階のままであり、皮膚および時にはさらに深部の組織において開放部として残る。慢性創傷は決して治癒しない場合があり、または治癒するのに数年かかる場合がある。
【0060】
ECM移動の調節が促進である場合、ECMの沈着を必要とする損傷部位に向かうECM移動が促進/加速され、ここで、本明細書において定義される対象の内部器官の損傷は、したがって、線維増殖性疾患に関連し得る。「線維性」疾患または「線維増殖性」疾患とは、瘢痕形成ならびに/または結合組織による細胞外マトリックスの過剰産生、例えば線維化および/もしくは線維性癒着、を特徴とする疾患を指す。線維性疾患は、器官の組織ダメージ(例えば創傷)または任意の刺激作用の結果として起こり得、これは、器官の表面を破損することを指さないが、器官表面の他の任意の乱れまたは内部器官表面のふぞろいを示す他の任意の徴候を含み得る。線維性疾患は、本明細書において定義される対象の身体の実質的にすべての器官において、起こり得る。線維性疾患または線維増殖性疾患の例には、特発性肺線維症、線維性間質性肺疾患、間質性肺炎、線維型の非特異性間質性肺炎、嚢胞性線維症、肺線維症(肺の線維症とも呼ばれる)、珪肺症、アスベスト肺、喘息、慢性閉塞性肺肺疾患(COPD)、肺動脈高血圧症、肝線維症、肝硬変、糸球体硬化症、腎線維症(腎臓の線維症とも呼ばれる)、子宮線維症(例えば子宮内膜線維症)、脾臓線維症、膵臓線維症、脳線維症、心線維症、膀胱線維症、胃線維症(腸線維症とも呼ばれる)、糖尿病性腎症、心疾患、線維性心臓弁膜症、全身性線維症、関節リウマチ、ケロイド、例えば手術、例えばヘルニアを治すための手術に起因する過剰瘢痕、化学療法薬誘発性線維症、放射線誘発性線維症、黄斑変性症、網膜および硝子体の網膜症、アテローム性動脈硬化症、ならびに再狭窄、線維性癒着が含まれるが、それらに限定されるわけではない。線維性の疾患または障害と線維増殖性の疾患または障害とは、本明細書において同義的に使用される。
【0061】
好ましい態様において、線維増殖性疾患は、マトリックスが内部器官において異常に集積している/積み重なっている、任意の種類の線維症を指し、好ましくは、肺線維症、肝線維症、腎線維症、心線維症、膀胱線維症、脳線維症、脾臓線維症、膵臓線維症、子宮線維症(特に子宮内膜線維症)、および胃線維症からなる群より選択される。別の好ましい態様において、この用語は、過剰な瘢痕およびケロイドを指す。線維症、瘢痕、およびケロイドはすべて、線維増殖性疾患の器官内徴候を指す。例えば「肺線維症」などの、「線維症」の特定の用語によって、前記用語は、前記特定の線維症の様々な形態のすべてを含む。「ケロイド」という用語は、損傷部位を越えて進行的に大きくなる、初期および治っていない創傷の臨床的特徴(例えば、かゆみ、炎症、および疼痛)を有する、異常な瘢痕である。
【0062】
別の好ましい態様において、線維増殖性疾患とは、線維増殖性疾患の器官外徴候を意味する線維性癒着を指す。「癒着」または「癒着形成」という用語は、向かい合わせの活性化された中皮細胞間の膜接着の結果として生じる、本明細書において定義される対象に由来する内部器官の表面の結合を指し得る。
【0063】
本発明の「内部器官」という用語は、当業者に公知である、本明細書において定義される対象の身体の任意の器官、好ましくは肺、腎臓、心臓、肝臓、胃、膀胱、腹膜、脳、脾臓、膵臓、子宮、脳、または大腸および小腸を含む腸、のいずれか1つを指す。このような用語はまた、皮膚または任意の顔面組織も含み得る。より好ましい態様において、内部器官は、肺、腎臓、肝臓、または心臓のいずれか1つである。さらにより好ましい態様において、内部器官は肺である。あるいは、さらにより好ましい態様において、内部器官は腎臓である。あるいは、さらにより好ましい態様において、内部器官は肝臓である。あるいは、さらにより好ましい態様において、内部器官は心臓である。このような内部器官は、当業者に公知である、本明細書において定義される対象の腔のいずれかに属する内部器官とさらに定義され得る。「腔」という用語は、「腹腔、肺腔、および/または心臓腔」を含み得るがそれらに限定されるわけではない。内部器官としての肺は、肺腔に属する。内部器官としての心臓は、心臓腔に属する。内部器官としての肝臓、腎臓、膀胱、腸、胃、および/または腹膜は、腹腔に属する。脾臓、膵臓、および/または子宮は、骨盤腔に属する。脳は、頭蓋腔に属する。本明細書において説明される内部器官はまた、「腹部腔の器官」とも定義され得る。腹部腔の器官は、当業者に公知である腹部腔の一部である、当業者に公知である任意の内部器官を含み得る。この用語は、肺、心臓、腎臓、肝臓、胃、腹膜、腸、脾臓、膵臓、子宮、および膀胱などの器官、好ましくは、肺、腎臓、心臓、および肝臓を含み得るがそれらに限定されるわけではない。
【0064】
「器官の損傷を受けているかまたはそのリスクがある対象」という用語は、脊椎動物対象(単に脊椎動物とも呼ばれる)を指す。このような脊椎動物には、任意の哺乳動物、任意の爬虫類動物、任意の鳥、任意の魚、または任意の両生類動物が含まれる。好ましくは、対象は、哺乳動物または爬虫類動物である。さらにより好ましくは、対象は哺乳動物である。最も好ましくは、対象はヒトである。本明細書において定義される対象は、本明細書において定義される器官の損傷を既に受けていてもよい。この場合、ECM移動を調節する本発明の化合物を適用することは、対象のある種の処置、好ましくは、本明細書において定義される線維増殖性疾患または本明細書の他の箇所で既に定義されている慢性創傷の処置、を指し得る。あるいは、本明細書において定義される対象は、器官の本明細書において定義される損傷が発生し/起こる可能性があり、次いで、それが線維増殖性疾患または慢性創傷のいずれかに関連する、リスクがある。この場合、ECM移動を調節する本発明の化合物を適用することは、したがって、対象に対するある種の予防を指し得る。
【0065】
本明細書において定義される器官の損傷部位に向かうECM移動を調節するための方法における使用のための化合物は、中皮特異的である任意の化合物、例えば小分子など、であることができる。このような化合物はまた、中皮特異的である場合、当業者に公知の任意の遺伝子編集ツール、例えばCRISPR-Casを含み得る。このような化合物はまた、細胞または細胞由来の物質も含み得る。本発明者らが、本明細書において定義される化合物に言及する場合、前記化合物はまた、任意の医療デバイス(例えば、スキャフォールド、縫合糸、または当業者に公知である他の任意のデバイス)に結合されてもよい。以下に、本発明の様々な化合物を紹介する。
【0066】
ECMの移動の調節に関与している遺伝子をコードする転写構築物
第1の態様において、本発明の化合物は、中皮細胞によって産生されるECMの移動の調節に関与している遺伝子をコードする、転写構築物である。「転写構築物」という用語は、「遺伝子構築物」とも呼ばれ得る。本発明のこのような構築物は、DNAまたはRNAを含む。本明細書において使用される「DNA」という用語は、ゲノムDNAおよび/またはミトコンドリアDNAを含む。本明細書において使用される「RNA」という用語は、mRNA、miRNA、gRNA、および/またはrRNAを含む。DNAを含む構築物は、転写鋳型を含む構築物を指すか、またはDNA構築物を指す。RNAを含む構築物は、転写産物を含む構築物を指すか、またはRNA構築物を指す。DNAベースの転写鋳型においてのみ見えるがRNAベースの転写物においては見えないプロモーターを含む構築物を説明するために、この区別は重要である。
【0067】
転写構築物がDNA構築物である場合、前記構築物は、中皮特異的制御エレメントおよび/または中皮特異的プロモーターエレメントおよび/または中皮特異的エンハンサーエレメントをさらに含む。中皮細胞特異的である任意の制御エレメント、プロモーターエレメント、および/またはエンハンサーエレメント(単に制御、プロモーター、エンハンサーとも呼ばれる)が、本明細書において含まれ得る。この文脈において、「中皮特異的」とは、上記のエレメントのうちの1つまたは複数を含む構築物が、本明細書において定義される中皮細胞において特異的に機能性をもたらすことを意味する。
【0068】
詳細には、中皮細胞の活性化状態に関連する本発明のすべての上方制御される遺伝子の任意のプロモーターが、使用され得る。一般に、プロモーターの選択は、用途に依存する。予防のために使用される場合、すなわち、中皮細胞が活性化される可能性があるにすぎない場合、活性化状態に関連するプロモーターが選択されるべきである。病態において使用される場合、すべての中皮細胞が活性化されていることが既知であるとき(例えば、肺線維症の発症後)は、中皮細胞において構成的に発現されるプロモーターもまた、適切であり得る。好ましいプロモーターエレメントは、はっきりと定義されたMSLN-プロモーターである。あるいは、別の好ましいプロモーターは、構成的な中皮プロモーターM6Aである。あるいはまた、別の好ましいプロモーターは、活性化中皮細胞プロモーターHSFである。中皮特異的である別の好ましいプロモーターは、CRIP1プロモーター、LGALS1プロモーター、MGPプロモーター、SAA3プロモーター、またはSEPP1プロモーターのいずれか1つである。1つの態様において、中皮特異的プロモーターエレメントは、CRIP1プロモーターである。別の態様において、中皮特異的プロモーターエレメントは、LGALS1プロモーターである。別の態様において、中皮特異的プロモーターエレメントは、MGPプロモーターである。別の態様において、中皮特異的プロモーターエレメントは、SAA3プロモーターである。別の態様において、中皮特異的プロモーターエレメントは、SEPP1プロモーターである。さらにより好ましい態様において、中皮特異的プロモーターエレメントは、CRIP1プロモーターまたはMGPプロモーターのいずれかであり、主に好ましくはCRIP1プロモーターである(図10および図11を参照されたい)。
【0069】
同じことが、必要に応じて変更を加えて、エンハンサーエレメントおよび/または制御エレメントに当てはまり、したがって、例えば、本発明において使用されるすべての上方制御される遺伝子のエンハンサーエレメントに当てはまる。本発明の好ましいエンハンサーエレメントは、ヒトサイトメガロウイルス(hCMV)のエンハンサーエレメントである。増強は非特異的であるが、発現レベルの上昇は非常に高く、特異性はプロモーターによってもたらされる。好ましい態様において、本発明は、本明細書において定義されるプロモーターエレメントを使用することに加えて、制御エレメントおよびエンハンサーエレメントの適用を含む。制御エレメントは、転写因子の結合による遺伝子発現の制御を可能にする、遺伝子に隣接する(または遺伝子内の)DNAの領域を指し得る。いくつかの制御エレメントは、プロモーターの近くに位置し(近位エレメント)、一方、他の制御エレメントは、より遠くに位置する(遠位エレメント)。調節タンパク質は、典型的には、遠位の制御エレメントに結合するのに対し、転写因子は、通常、近位エレメントに結合する。どちらの制御エレメントも本発明において使用され得、したがって、本明細書に含まれる。
【0070】
本明細書において定義されるDNA構築物およびまたRNA構築物(いかなるプロモーターエレメントなども含まない)は、RNA標的配列またはタンパク質標的配列をさらに含み得る。好ましくは、本明細書において定義されるDNA構築物およびまたRNA構築物は、RNA標的配列をさらに含み得る。このようなRNA標的配列は、RNAの分解を媒介する細胞型特異的メディエーターによって認識され、したがって、RNAが翻訳されることを妨げ得る。この文脈において、細胞型特異的メディエーターとは、RNA、糖残基、およびタンパク質などを指し得る。さらにより好ましくは、本明細書において定義されるDNA構築物およびまたRNA構築物は、miRNA標的配列をさらに含み得る。RNA標的配列、特にmiRNA標的配列もまた、構築物の細胞特異性をもたらすエレメントである。RNA標的配列は、本発明のDNA構築物またはRNA構築物のある種の制御エレメントを指し得る。通常、非標的細胞(非中皮細胞)は、このような特定のRNA標的配列を認識し、次いで前記RNAを分解し、その結果、タンパク質発現/免疫応答がなくなる。したがって、RNA標的配列、特にmiRNA標的配列は、非中皮細胞に特異的である。しかし、標的細胞(中皮細胞)は、中皮細胞を特異的に標的とするための化合物として使用される本発明の構築物中に、この特異的RNA標的配列が含まれるおかげで、そのようなRNAを分解せず、したがって、その結果、前記RNAが発現される。好ましい態様において、使用される配列は、中皮細胞では発現されないが、本発明の定義された化合物がある場合は活性にならないはずである細胞では発現されるmiRNAの標的である。好ましくは、miR-142-3pまたはmiR-150-5pによって認識される配列が、使用される。miRNA標的配列は、本明細書において言及される各miRNAに特有であるいくつかの種類のシード配列マッチのうちの1つを特徴とし得る。
【0071】
本明細書において定義される転写構築物は、好ましくは、中皮細胞によって産生されるECMの移動の調節に関与している特定の遺伝子をコードする。遺伝子は、好ましくは、csta、tgfb、tgfbr2、ctsb、aebp1、col1a1、adamTs1、dcn、sparc、timp1、c1、c2、c3、c4、saa3、hsf1、およびdtr、またはそれらの組合せからなる群より選択される(下記の表1も参照されたい)。加えてまたはその代わりに、遺伝子は、好ましくは、mgp、crip1、plac8、lgals1、およびifi27l2a、またはそれらの組合せからなる群より選択される。さらにより好ましくは、遺伝子は、csta、tgfb、dcn、sparc、tgfbr2、およびctsb、またはそれらの組合せからなる群より選択される。したがって、ECMの移動の調節に関与し、かつ本明細書において定義される転写物によってコードされる遺伝子は、cstaである。ECMの移動の調節に関与し、かつ本明細書において定義される転写物によってコードされる遺伝子は、tgfbである。ECMの移動の調節に関与し、かつ本明細書において定義される転写物によってコードされる遺伝子は、dcnである。ECMの移動の調節に関与し、かつ本明細書において定義される転写物によってコードされる遺伝子は、sparcである。ECMの移動の調節に関与し、かつ本明細書において定義される転写物によってコードされる遺伝子は、tgfbr2である。ECMの移動の調節に関与し、かつ本明細書において定義される転写物によってコードされる遺伝子は、ctsbである。ECMの移動の調節に関与し、かつ本明細書において定義される転写物によってコードされる遺伝子は、mgpである。ECMの移動の調節に関与し、かつ本明細書において定義される転写物によってコードされる遺伝子は、crip1である。ECMの移動の調節に関与し、かつ本明細書において定義される転写物によってコードされる遺伝子は、plac8である。ECMの移動の調節に関与し、かつ本明細書において定義される転写物によってコードされる遺伝子は、lgals1である。ECMの移動の調節に関与し、かつ本明細書において定義される転写物によってコードされる遺伝子は、ifi27l2aである。
【0072】
他の態様において、ECMの移動の調節に関与し、かつ本明細書において定義される転写物によってコードされる遺伝子は、aebp1である。別の態様において、ECMの移動の調節に関与し、かつ本明細書において定義される転写物によってコードされる遺伝子は、col1a1である。別の態様において、ECMの移動の調節に関与し、かつ本明細書において定義される転写物によってコードされる遺伝子は、adamTs1である。別の態様において、ECMの移動の調節に関与し、かつ本明細書において定義される転写物によってコードされる遺伝子は、timp1である。別の態様において、ECMの移動の調節に関与し、かつ本明細書において定義される転写物によってコードされる遺伝子は、c1である。別の態様において、ECMの移動の調節に関与し、かつ本明細書において定義される転写物によってコードされる遺伝子は、c2である。別の態様において、ECMの移動の調節に関与し、かつ本明細書において定義される転写物によってコードされる遺伝子は、c3である。別の態様において、ECMの移動の調節に関与し、かつ本明細書において定義される転写物によってコードされる遺伝子は、c4である。別の態様において、ECMの移動の調節に関与し、かつ本明細書において定義される転写物によってコードされる遺伝子は、saa3である。別の態様において、ECMの移動の調節に関与し、かつ本明細書において定義される転写物によってコードされる遺伝子は、hsf1である。別の態様において、ECMの移動の調節に関与し、かつ本明細書において定義される転写物によってコードされる遺伝子は、dtrである。
【0073】
本発明の実施例によれば、本発明者らは、本明細書において定義される損傷が、中皮におけるTGFβ発現をトリガーして、マトリックス流入を可能にするカテプシンBを活性化することにより、本明細書において定義される線維増殖性疾患を引き起こし得るかまたは悪化させ得ること、を実証した。さらに、線維症カスケードの最上流でTGFβおよびカテプシンBが誘導されること、ならびに中皮TGFβを介した中皮細胞活性化または中皮細胞によるカテプシンB発現に対して薬理学的介入および遺伝学的介入を行うと、マトリックス侵入(流入)が阻害され、したがって線維症などの線維増殖性疾患が抑えられること、も明らかにされた。
【0074】
例えば遺伝子cstaをコードする前述の転写構築物を導入することによって、シスタチンAが発現される。シスタチンAは、カテプシンBプロテアーゼに結合して妨害する、およびカテプシンを阻害するための内因性抑制的タンパク質の1つとみなすことができる、直接的阻害物質である。このことと一致して、シスタチンAを過剰発現させることによって中皮カテプシンBを抑制すると、すべてのマトリックス移動が停止し、したがって、器官の損傷が線維増殖性疾患、例えば線維症と関連する場合には、線維増殖性疾患、例えば線維症が抑えられる(図3を参照されたい)。逆もまた同様で、例えばtgfbおよび/またはctsbをコードする転写構築物を導入することにより、TGFベータおよび/またはカテプシンBプロテアーゼが発現されて、マトリックス流入が増加し、したがって、損傷が慢性創傷に関連する場合には、創傷閉鎖/修復が可能になる。
【0075】
例えば切断型遺伝子tgfbr2をコードする前述の転写構築物を導入することによって、TGFベータ受容体IIのドミナントネガティブ変異体が発現される。この変異体は、次いで、内因性TGFベータ受容体複合体の機能性を妨害する。中皮TGFβシグナル伝達を阻害するだけで、マトリックスの集積およびマトリックスの侵入が完全に阻止された(図2を参照されたい)。
【0076】
(表1)選択された遺伝子およびこれに関する基礎的経路
【0077】
例えば遺伝子dtrをコードする前述の転写構築物を導入することにより、ジフテリア毒素受容体が中皮細胞上に発現され、ECM阻害が必要とされる可能性がある場合には、ジフテリア毒素が次いで前記受容体に結合し、前記細胞を死滅させることができる。その場合、特定の構築物はまた、本明細書において定義される特定の中皮特異的プロモーター、例えば、好ましいものとしてMSLNプロモーター、を含んでもよい。
【0078】
遺伝子lgals1、dcn、sparc、もしくはplac8のいずれか1つまたはそれらの組合せをコードする前述の転写構築物を導入することにより、発現される対応するタンパク質は、マトリックス移動の阻害をもたらし、したがって、線維症などの線維増殖性疾患を抑える。遺伝子ifi27l2aおよび/またはmgpをコードする前述の転写構築物を導入することにより、発現される対応するタンパク質は、マトリックス移動の促進をもたらし、したがって、損傷が慢性創傷に関連する場合には、創傷の閉鎖/修復を可能にする(図9を参照されたい)。
【0079】
したがって、マトリックス移動を阻害するためには、転写構築物によってコードされる遺伝子は、csta、tgfbr2、lgals1、dcn、sparc、もしくはplac8のいずれか1つまたはそれらの組合せである。したがって、マトリックス移動を促進するためには、転写構築物によってコードされる遺伝子は、tgfb、ctsb、mgp、もしくはifi27l2aのいずれか1つまたはそれらの組合せである。
【0080】
中皮特異的受容体のアンタゴニストまたはアゴニスト
第2の態様において、本発明の化合物は、中皮特異的受容体のアンタゴニストまたはアゴニストである。「アンタゴニスト」という用語は、受容体への結合時に生物学的応答自体を呼び起こすのではなく、アゴニストを介した生物学的応答を阻害または低減する、受容体リガンドを指す。アンタゴニストは、それらの受容体に対して親和性を有するが、本質的に有効性を有さない。この用語はまた、それらの受容体の活性(オルソステリック)部位もしくはアロステリック部位におよび/または受容体機能に通常は関与しない他の結合部位に結合する、アンタゴニストも含む。一般に、「アンタゴニスト」という用語は、完全アンタゴニストおよび部分アンタゴニスト、可逆的アンタゴニストおよび不可逆的アンタゴニストを含む。本発明によれば、アンタゴニストは、好ましくは、中皮特異的受容体に特異的に結合する。一般に、「アゴニスト」という用語は、本明細書において使用される場合、結合時に受容体を活性化して生物学的応答をもたらす、受容体リガンドを指す。アンタゴニストとは対照的に、アゴニストは、それらの受容体に対して親和性および有効性の両方を有する。一般に、「アゴニスト」という用語は、完全アゴニストおよび部分アゴニスト、可逆的アゴニストおよび不可逆的アゴニストを含む。
【0081】
一般に、本発明の「アンタゴニスト」または「アゴニスト」は、本明細書において指定される中皮特異的受容体またはそのバリアントもしくは断片に結合するかまたは特異的に結合し、かつ中皮特異的受容体によって媒介される生物学的応答を妨害もしくは低減する(すなわち、アンタゴニストとして作用する)かまたは中皮特異的受容体によって媒介される生物学的応答を活性化する(すなわち、アゴニストとして作用する)、任意の分子、例えば、抗体、siRNA、核酸、アプタマー、ペプチド、タンパク質、脂質、または有機低分子、であってよい。
【0082】
アンタゴニストおよびアゴニストは、例えば、当業者に公知のスクリーニングアッセイ法を用いて、容易に見付けることができる。当業者は、例えば特定の中皮特異的受容体結合ドメインを含む、タンパク質のリガンドが、中皮特異的受容体に結合することおよびアンタゴニスト作用またはアゴニスト作用を示すことができる作用物質を調製するための鋳型として使用され得ることを、容易に認識するであろう。例えば、タンパク質リガンドまたはペプチドリガンドの場合、そのバリアントおよび断片を、遺伝子工学の日常的な方法を用いて容易に調製することができる。本発明のアンタゴニストおよびアゴニストは、本明細書において説明される中皮特異的受容体に特異的に結合する(すなわち、好ましくは、中皮特異的受容体以外の標的に対して交差反応性を示さない)ことが想定され、これは、例えば、中皮特異的受容体ノックダウン宿主細胞における抗体結合を評価することによって容易に試験することができる。
【0083】
本明細書において説明されるように、本明細書において提供されるアンタゴニストおよびアゴニスト、例えば抗体の、中皮特異的受容体への特異的結合が、好ましい。あらゆる文法的形態の「に結合する」および「認識する」という用語は、本明細書において同義的に使用される。
【0084】
一般に、「特異的に結合する」という用語は、結合物質、特にアンタゴニストまたはアゴニスト、例えば抗体が、その意図される標的(すなわち、本明細書において説明される中皮特異的受容体)に、その非標的分子に対してよりも高い親和性で結合することを示す。好ましい抗体は、少なくとも約107M-1、好ましくは約108M-1~約109M-1、約109M-1~約1010M-1、または約1010M-1~約1012M-1の親和性で、結合する。したがって、好ましくは、「特異的に結合する」という用語は、アンタゴニストまたはアゴニスト、例えば抗体が、その意図される標的(すなわち、中皮特異的受容体)にもっぱら結合することを示す。
【0085】
この文脈において、本発明の受容体に関して、「中皮または中皮特異的」という用語は、受容体が中皮細胞上でのみ発現され、免疫細胞上でも他の任意の細胞上でも発現されないことを意味する。受容体は、すべての中皮細胞の表面または活性化された中皮細胞のみの表面のいずれかで、発現される。好ましくは、受容体は、活性化された中皮細胞の表面で発現される。活性化された中皮細胞のみの表面で発現される受容体に対するアンタゴニストを適用すると、細胞の不活性化が起こり得、したがって、これは、ECM移動が関わっている任意の病態に対する良好な処置とみなされる。したがって、本発明のアンタゴニストとは、中皮特異的受容体への結合時に生物学的応答自体を呼び起こすのではなく、媒介される生物学的応答を阻害または低減する、中皮特異的受容体リガンドを指す。
【0086】
好ましい態様において、本明細書において提供されるアンタゴニストまたはアゴニストは、抗体である。本明細書において提供される抗体は、好ましくは、所望の生物学的活性、すなわち、本明細書において説明される中皮特異的受容体への特異的結合、を示す。当技術分野において周知であるとおり、抗体とは、免疫グロブリン分子の可変領域中に位置している少なくとも1つのエピトープ認識部位を介して標的(エピトープ)に特異的に結合することができる、免疫グロブリン分子である。本明細書において使用される「抗体」という用語は、モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体、ならびにそれらの(天然に存在するまたは合成の)断片またはバリアントを含み、必要とされる特異性を有する抗原結合断片を有する抗体部分を含む融合タンパク質、および必要とされる特異性を有する抗原結合部位または断片(エピトープ認識部位)を含む立体配置が改変された他の任意の抗体、を含む。例示的な例には、dAb、ナノボディ、アフィボディ、Fab、Fab'、F(ab')2、Fv、単鎖Fv(scFv)、ダイアボディ、およびCH3ドメインに連結されたscFvを含むミニボディ、が含まれる。「抗原結合部位」を含む他の抗体フレームワークまたはスキャフォールドが、本発明に従って使用され得ることが、理解されるであろう。したがって、「抗体」という用語はまた、これらのスキャフォールドも含む。言及したスキャフォールドには、例えば、抗体のCDRをグラフティングすることができる、免疫グロブリンをベースとしない抗体およびスキャフォールドが含まれる。このようなスキャフォールドには、例えば、アンチカリン、アビマー、アフィリンなどが含まれる。
【0087】
siRNAおよび核酸もまた、中皮特異的受容体のアンタゴニストまたはアゴニストとして有用であり得る。「siRNA」という用語は、「低分子干渉RNA」または「サイレンシングRNA」と同義的に使用される。siRNAは、標的核酸の配列の相補物に対して少なくとも95%の配列同一性を有する少なくとも20個の連続したヌクレオチドからなる配列を典型的に含む、二本鎖「アンチセンス」RNA分子であるが、siRNAはまた、プロモーター配列ならびに転写終結シグナルおよびポリアデニル化シグナルを含む、遺伝子の調節配列も、対象とし得る。
【0088】
中皮特異的受容体発現を低減および/または阻害することができる他の核酸または遺伝子編集技術には、アプタマー、シュピーゲルマー(登録商標)、rRNA、nc-RNA(アンチセンスRNA、L-RNAシュピーゲルマー、サイレンサーRNA、マイクロRNA(miRNA)、ショートヘアピンRNA(shRNA)、低分子干渉RNA(siRNA)、リピート関連低分子干渉RNA(rasiRNA)を含む)もまた、含まれ得る。このような非コード核酸分子は、例えば、中皮特異的受容体mRNAの分解を指示するか、または中皮特異的受容体mRNAの翻訳を混乱させるために使用することができる。特に、核酸分子によってコードされ得、中皮特異的受容体の発現を低減および/または阻害することができる、そのような遺伝子編集技術はまた、CRISPR-Cas9遺伝子編集ツールも指し得る。このようなツールは、規則的な間隔をもってクラスター化された短鎖反復回文配列(CRISPR)関連タンパク質9(Cas9タンパク質)もしくは前記Cas9をコードする核酸分子;および標的配列特異的CRISPR RNA(crRNA)およびトランス活性化型crRNA(tracr RNA)もしくは前記RNAをコードする核酸分子;または標的配列特異的crRNAおよびtracrRNAもしくは前記RNAをコードする核酸分子を含むキメラRNA配列、を含む。
【0089】
一般に、ペプチド、脂質、およびタンパク質は、中皮特異的受容体シグナル伝達によって媒介される生物学的応答を抑制するか(アンタゴニスト)または誘起するか(アゴニスト)に応じて、中皮特異的受容体のアンタゴニストまたはアゴニストとして使用され得る。「ポリペプチド」および「タンパク質」という用語は、本明細書において同義的に使用される。タンパク質、脂質、およびペプチドは、本明細書において定義される中皮特異的受容体に特異的に結合することが、想定される。本明細書においてこれまでに説明したように、当業者は、本明細書において定義される中皮特異的受容体に特異的に結合することができる、ペプチド、脂質、およびタンパク質のアンタゴニストまたはアゴニストを、容易に見付けることができるであろう。前記タンパク質、脂質、およびペプチドを、その後、例えば公知のスクリーニングアッセイ法を用いて、アンタゴニスト活性またはアゴニスト活性について試験することができる。
【0090】
有機低分子もまた、本明細書において定義される中皮特異的受容体のアゴニストまたはアンタゴニストとして使用され得、したがって、中皮特異的受容体のアゴニストまたはアンタゴニストとして作用することができる。有機低分子は、本明細書において定義される中皮特異的受容体に特異的に結合することが、想定される。有機低分子についてのハイスループットなスクリーニングアッセイ法は、当技術分野で容易に利用可能であり、アゴニスト活性またはアンタゴニスト活性を示し得る、本明細書において提供される特定の中皮特異的受容体のリガンドを見付けるために使用され得る。このような有機低分子には、糖または他の非タンパク質性実体が含まれ得るがそれらに限定されなくてよい。
【0091】
好ましい態様において、中皮特異的受容体は、MSLN1、GPM6A、PDPN、TGF-β受容体、LTB4受容体BLT2、ポドプラニン、およびProcrからなる群より選択される。さらにより好ましい態様において、中皮特異的受容体は、活性化されている中皮細胞上で発現される、MSLN1である。したがって、任意のMSLN1特異的抗体によって前記受容体を標的とすることにより、前記受容体を発現する活性化された中皮細胞を不活性化することができ、この場合もやはり、本発明によれば前記細胞が原因であるECM移動を調節する。アンタゴニストまたはアゴニスト、好ましくは抗体、が特異的に結合する中皮特異的受容体はまた、GPM6Aであることもできる。アンタゴニストまたはアゴニスト、好ましくは抗体、が特異的に結合する中皮特異的受容体はまた、PDPNであることもできる。アンタゴニストまたはアゴニスト、好ましくは抗体、が特異的に結合する中皮特異的受容体はまた、TGF-β受容体であることもできる。アンタゴニストまたはアゴニスト、好ましくは抗体、が特異的に結合する中皮特異的受容体はまた、LTB4受容体BLT2であることもできる。アンタゴニストまたはアゴニスト、好ましくは抗体、が特異的に結合する中皮特異的受容体はまた、ポドプラニンであることもできる。アンタゴニストまたはアゴニスト、好ましくは抗体、が特異的に結合する中皮特異的受容体はまた、Procrであることもできる。最も好ましい態様において、中皮特異的受容体はGPM6Aである(図11を参照されたい)。
【0092】
本発明のさらなる態様において、本明細書において定義される転写物の適用はまた、中皮細胞によって産生されるECMの移動を調節するために本明細書においても説明される、中皮特異的受容体のアンタゴニストまたはアゴニスト(好ましくはアンタゴニスト、例えば、MSLN1受容体の抗体)の適用と組み合わせることもできる。
【0093】
化合物の投与
本明細書において定義される化合物は、注射または注入によって、内部器官が位置している腔に投与され得る。組成物が注入によって投与される予定である場合、医薬品グレードの無菌水または生理食塩水を含む注入ボトルを用いて、前記組成物を与えることができる。注入はまた、化合物が安定化タンパク質を必要とする場合、アルブレックまたは関連する希釈剤にそれを混ぜて送達することを含み得る。組成物が注射によって投与される場合、投与前に成分が混合され得るように、無菌注射用水または生理食塩水を入れたアンプルが提供され得る。本明細書において定義される化合物は、液状形態として、特に水性形態として、またはゲルなどの固形形態として、投与され得る。
【0094】
好ましい態様において、化合物の投与は、腹腔内に、静脈内に、胸膜内に、髄腔内に、心膜穿刺を介して、またはリンパ系を介して、実施される。したがって、化合物が肺に(肺腔に)、または肝臓、腎臓、腸、膀胱、胃、腹膜に(もしくは腹腔に位置する他の任意の内部器官に)、または脾臓、子宮、膵臓に(もしくは骨盤腔に位置する他の任意の内部器官に)投与される予定である場合、本発明の化合物は、腹腔内にもしくは胸膜内に、またはさらに、静脈内にもしくはリンパ系を介して、投与され得る。化合物が心臓に(心腔に)投与される予定である場合、本発明の化合物は、心膜穿刺を介して(特に中心ラインを介して)投与され得る。化合物がまた、例えば脳に(頭蓋腔に)投与される予定である場合、本発明の化合物は、髄腔内に(特にシャントを介して)投与され得る。したがって、本発明の化合物の投与経路は、標的とされる本明細書において定義される器官に応じて変わる。さらにより好ましい態様において、化合物の投与は、腹腔内に、胸膜内に、または心膜穿刺を介して、実施される。
【0095】
本発明の好ましい態様において、本明細書において定義される化合物は、ウイルスベクターを介して投与される。別の好ましい態様において、本明細書において定義される化合物は、リポソームを介して投与される。別の好ましい態様において、本明細書において定義される化合物は、トランスフェクション試薬を介して投与される。別の好ましい態様において、本明細書において定義される化合物は、細胞外小胞を介して投与される。別の好ましい態様において、本明細書において定義される化合物は、直接的に投与される。化合物それ自体が本明細書において定義されるように投与される場合、これは、本明細書において定義されるウイルスベクター、リポソーム、トランスフェクション試薬、および本明細書において定義される細胞外小胞のいかなる適用も伴わない、化合物の直接的投与を指す。本発明の最も好ましい態様において、本明細書において定義される化合物は、ウイルスベクターを介して投与される。
【0096】
本明細書において使用されるウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルス(略称:AAV)ベクターおよびアデノウイルス(略称:AV)ベクターを含み得る。好ましくは、本明細書において使用されるウイルスベクターは、AVベクターおよび/またはカプシド改変AAVベクターを指し、さらにより好ましくは、カプシド改変AAVベクターは、本明細書において定義されるように、特定のRGDペプチドを含むAAV血清型8(AAV8)ベクターを指す。どちらのベクターも、同等の有効性で、中皮細胞への化合物のトランスダクションを可能にする。血清型8は、中皮細胞にトランスダクションすることができる最も有望な候補血清型であると同定されている。しかし、他の血清型もまた、RGDモチーフを含むペプチド配列(例えば、RGDを含むペプチド)の組込み後に中皮細胞を標的とするために、適切である可能性がある。化合物が、AVベクターを介して本明細書において定義されるように投与される場合、前記ベクターを遺伝子操作する必要がない場合がある。言い換えると、カプシドタンパク質のうちの1つにおいてRGDモチーフがコードされているので、AVベクターのカプシドを遺伝子操作する必要がない場合がある。化合物が、AAVベクターを介して本明細書において定義されるように投与される場合、前記ベクターは、RGDモチーフを含むペプチド配列を含み得る。言い換えると、RGDモチーフを含むペプチド配列を遺伝子操作によってAAVベクターのカプシドタンパク質のいずれか1つに組み込んだ後にのみ、前記AAVベクター、好ましくはAAV血清型8ベクターは、中皮細胞の効率的なトランスダクションを実現する。したがって、AAVベクターに対するRGDペプチド組込みは、中皮細胞を標的とする効率を高める。
【0097】
本発明によれば、化合物が、本明細書において定義されるDNA構築物である場合、前記化合物は、好ましくはウイルスベクターを介して、例えば、AVベクターまたはAAVベクター(好ましくはAAV血清型8(AAV8)ベクター)を介して、投与され得る。さらにより好ましくは、本発明によれば、化合物が、本明細書において定義されるDNA構築物である場合、前記化合物は、RGDモチーフを含むペプチド配列を含むAAVベクター(好ましくはAAV血清型8(AAV8)ベクター)を介して、投与され得る。
【0098】
前記の特定のペプチド配列は、インテグリン受容体への特異的結合を可能にする。RGDモチーフを認識するインテグリンは、いくつかの細胞型で発現され、したがって中皮細胞でも発現される。したがって、本明細書において定義されるウイルスベクターに含まれる、RGDモチーフを含むペプチドは、中皮特異的ではない。しかし、前記細胞がECM移動のメディエーターであることが本発明者らによって実証されたので、インテグリン受容体が中皮細胞上でも発現されることに基づくRGDを介したターゲティングと本明細書において定義される局所適用とを組み合わせることによって、ECM移動を調節する際に前記細胞を特異的にターゲティングすることが可能になる。特に、本発明において使用される特定のペプチドは、AAVベクターのカプシドタンパク質VP1に組み込まれ得る。本明細書において定義される前記ペプチドはまた、AAVベクターのカプシドタンパク質VP2にも組み込まれ得る。本明細書において定義される前記ペプチドはまた、AAVベクターのカプシドタンパク質VP3にも組み込まれ得る。本明細書において定義される前記ペプチドはまた、AAVベクターのカプシドタンパク質VP1、VP2、および/またはVP3のいずれか1つに組み込まれ得る。RGDモチーフを含む挿入されたペプチドはまた、AAVベクターのすべてのVP(VP1、VP2、およびVP3)に存在してもよい。VP2およびVP3は、VP1と同一であるがN末端の小さな一部分を欠く、タンパク質である。本発明において、本明細書において定義されるAAVベクターという用語が、RGDモチーフを含むペプチドを含む場合、この用語は、RGDモチーフを含むペプチドが、本明細書において定義されるAAVベクターのカプシドタンパク質VP1、VP2、もしくはVP3のいずれか1つ(またはすべて)に組み込まれ得ることを意味する。具体的には、RGDモチーフを含むペプチドを含むAAV血清型8(AAV8)ベクター(AAV8RGDとも呼ばれる)が本明細書において適用される場合、このペプチドは、VP1タンパク質内のアミノ酸484と485の間に組み込まれ得る。したがって、改変は、すべてのVP(VP1、VP2、およびVP3)に存在する。しかし、(他のキャプシド改変AAVのために使用される)他の組込み部位もまた、効率的なトランスダクションを実現するために適切であり得る。
【0099】
好ましい態様において、RGDモチーフを含むペプチドとは、
を指す。RGDモチーフには、下線を引いており、RGDモチーフは、細胞インテグリンに対して高い接近能力を有している。その隣接配列が、本発明のベクターのAAVカプシド表面における最適な提示に関与している。
【0100】
本発明によれば、RGDモチーフを含み、かつその隣接配列が、ベクターのAVカプシド表面またはAAVカプシド表面における最適な提示に関与している、任意のペプチドが使用され得る。好ましくは、ペプチドは、SEQ ID NO: 1のアミノ酸配列に対して少なくとも約70%の同一性を有するアミノ酸配列を含み得る。具体的には、本明細書において説明されるRGDモチーフを含むペプチドは、SEQ ID NO: 1のアミノ酸配列のアミノ酸配列に対して少なくとも約70%の同一性、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%(少なくとも約96%、97%、98%、99%、またはさらに100%を含む)の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み得る。
【0101】
前記化合物が、本明細書において定義されるRNA構築物である場合、化合物は、好ましくはリポソームを介して投与され得る。本発明によれば、化合物が、転写構築物、好ましくは本明細書において定義されるRNA構築物である場合、前記化合物はまた、本明細書において定義される注射または注入を介して、直接的に、すなわち、いかなるウイルスベクターも、リポソームも、トランスフェクション試薬も、本明細書の他の箇所で定義される細胞外小胞も用いずに「裸のmRNA」として、それを必要とする対象に投与されてよい。
【0102】
本発明によれば、前記化合物が、本明細書において定義される中皮特異的受容体のアンタゴニストまたはアゴニスト、好ましくは抗体、さらにより好ましくはMSLN1受容体の抗体である場合、化合物はまた、いかなるウイルスベクターも、リポソームも、トランスフェクション試薬も、本明細書の他の箇所で定義される細胞外小胞も用いずに、本明細書において定義される注射または注入を介して直接的に、それを必要とする対象に投与されてよい。
【0103】
前記化合物はまた、トランスフェクション試薬を介して、本明細書において定義されるように投与されてもよい。この文脈において、化合物は、本明細書において定義される転写構築物であってよい。トランスフェクション試薬は、裸の核酸または精製された核酸、例えば裸のDNAまたはRNA、を本発明の化合物として真核細胞に導入するために使用され得る。試薬は、リポフェクタミンを指すがそれに限定されるわけではない。
【0104】
現在、本明細書において使用される細胞外小胞について以下の3つの主なサブグループが、科学文献で定義されている:a)アポトーシス小体、b)細胞微粒子(「微小胞」または「エクトソーム」とも呼ばれる)、およびc)エキソソーム(Yanez-Mo et al., Journal of Extracellular Vesicles 2015, 4: 27066を参照されたい)。通常、アポトーシス小体は、直径約1~5μmの範囲のサイズを有し、アポトーシス中に形質膜の泡状突起形成が起こる際に放出されるのに対し、第2のグループは、形質膜を直接切り取り、直径約100~1000nmのサイズを有する様々なサイズの小胞を含む。エキソソームは、直径約30~100nmのサイズを有し、通常、多小胞体(MVB)に含まれる管腔内小胞(ILV)であり、MVBと形質膜との融合時に細胞外環境に放出される(Colombo et al., Ann Rev Cell Dev Biol. 2014;30:255-89)。本発明において、好ましくは、エキソソームが適用され得、これを用いて、本明細書において定義される化合物が投与される。
【0105】
インビボのスクリーニング方法
別の態様において、本発明は、中皮細胞によって産生される細胞外マトリックス(ECM)の、対象の内部器官の損傷部位に向かう移動、の調節物質を同定するためのインビボスクリーニング方法において使用される、本発明の化合物を含む。このインビボスクリーニング方法は、マトリックス標識およびフェイトマッピングを含むことに基づき、生物における新規のインビボモデルを確立するものである。化合物に関する各定義、またはスクリーニング方法に関して使用され、本明細書においてこれまでに定義された他の任意の用語もまた、ここで適用可能であり得る。
【0106】
本明細書において定義される、内部器官の損傷部位に向かうECM移動の1つの調節物質/複数の調節物質を同定するための方法は、ECMを標識する段階を含む。したがって、ECMを標識することによって、ECMは観察のために可視化される。調節物質は、ECM移動を低減/阻害するか、または加速/促進し得るので、ECM移動を観察することによって、ECM移動の調節物質の同定が可能になる。説明したように、標識されたECMの移動を可視化することにより、ECM移動の低減/阻害に基づいて、ECM移動の阻害物質である調節物質の同定が可能になり、一方で、ECM移動の促進物質である調節物質は、ECM移動の加速/促進に基づいて同定することが可能である。理論に拘束されるわけではないが、ECM移動の低減/阻害は、ECM沈着を必要とする部位、例えば創傷、におけるECM沈着の減少をもたらすのに対し、ECM移動の加速/促進は、ECM沈着を必要とする部位、例えば創傷、におけるECM沈着の加速をもたらすと想定される。
【0107】
本明細書において使用される場合の、ECM移動の低減とは、ECM移動の阻害に等しい。ECM沈着を必要とする部位へのECM移動の阻害は、好ましくは、前記部位でのECMの過剰な沈着を防止する。
【0108】
本明細書において使用される場合の、ECM移動の加速とは、ECM移動の促進に等しい。ECM沈着を必要とする部位へのECM移動の促進は、好ましくは、前記部位でのECMの不十分な沈着を防止する。
【0109】
「ECM移動の調節物質を同定すること」または「ECM移動の調節物質の同定」は、そのような調節物質をスクリーニングすること、および同定またはスクリーニングした後に、そのような調節物質を単離すること、すなわち提供すること、を含む。
【0110】
「インビボ」という用語は、「エクスビトロ」を指し、本明細書において同義的に使用され得る。したがって、スクリーニング方法は、生きている対象において実施される。この文脈において、「対象」という用語は、任意の生物、例えば、本明細書の他の箇所で定義される脊椎動物、好ましくは哺乳動物対象、を指す。哺乳動物対象は、当業者に公知である任意の哺乳動物を指し得る。好ましくは、哺乳動物対象は、ヒト、ヒトではない霊長類動物、マウス、またはラットである。
【0111】
段階(a)
本明細書において使用される内部器官の定義は、ここでも適用可能であり得る。器官のECMを標識と接触させるために使用される内部器官とは、好ましくは、本明細書の他の箇所で定義されるように、肺、腎臓、心臓、肝臓、胃、膀胱、腹膜、脾臓、脳、膵臓、子宮、または腸を指し、さらにより好ましくは、前記器官は、肺、腎臓、肝臓、または心臓のいずれか1つである。
【0112】
本発明の方法の段階a)において、「接触させる」または「接触させること」という用語が使用される場合、この用語は、器官の、好ましくは中皮細胞を含む器官表面のECM、ならびに本明細書の他の箇所で定義されるECMを、前記ECMのECM構成成分に共有結合する標識と接触させることを意味する。好ましい態様において、「接触させる」または「接触させること」という用語は、「選択的に接触させる」または「接触させること」を指す。この文脈において、「選択的に接触させる」とは、器官のECM全体ではなく器官表面のECMの1つまたは複数の部分を、本明細書の他の箇所で定義される標識と接触させることを意味する。言い換えると、「選択的に接触させる」という用語が本明細書において使用される場合、器官のECMの限られたごく特定の箇所を、本明細書の他の箇所で定義される標識と接触させ、それによって、本発明の器官に対する局所的なECM標識を実施する。好ましくは、ECMに含まれるタンパク質が、標識される。しかし、ECMの他の構成成分、例えば炭水化物が標識され得ることもまた、想定される。この文脈において、接触させる段階は、標識を、標識する必要がある器官表面のECMと接触させるために、本明細書において定義される標識を、インビボスクリーニング方法において使用される対象に投与すること、を含み得る。ここで、投与することという用語は、注射もしくは注入による投与または経口的投与、好ましくは注射を指し得る。投与は、全身的または局所的に実施され得る。全身的という用語は、経腸的に、例えば経口的に;注射または注入により非経口的に、例えば、静脈内に、髄腔内に、腹腔内に、もしくは胸膜内に、またはリンパ系を介して;あるいは直腸に、を指し得る。好ましい態様において、接触させる段階は、本明細書の他の箇所で定義されるように標的とされる必要がある器官に応じて、静脈内に、髄腔内に、腹腔内に、もしくは胸膜内に、心膜穿刺によって、またはリンパ系を介して(局所的を指す)、標識を対象に投与することを含む。すなわち、対象が肺線維症モデルである場合、肺表面は、標識、好ましくはNHSエステルの胸膜内注射によって、標識され得る。対象が肝線維症モデルである場合、肝臓表面は、標識、好ましくはNHSエステルなどの腹腔内注射によって、標識され得る。
【0113】
「標識」は、器官組織に由来する試料中の標識の存在および/または濃度を示す検出可能な(例えば、視覚的に、電子的に、または別の様式で)シグナルを生成することができる、分子または物質である。その結果、例えば、試料中の標識された分子の存在、位置、および/または濃度を、(検出可能な)標識によって生成されるシグナルを検出することによって検出することができる。標識は、直接的または間接的に検出することができる。標識は、分子、例えば、タンパク質、ポリペプチド、または他の実体の、任意の位置に、結合され得るかまたは組み込まれ得ることが、認識されるであろう。特定の態様において、標識は、適切な基質(例えばルシフェリン)と反応して、検出可能なシグナルを生じ得ることが、認識されるであろう。具体的には、検出可能な標識は、フルオロフォア、酵素(ペルオキシダーゼ、ルシフェラーゼ)、放射性標識物質、蛍光タンパク質であることができる。他の検出可能な標識には、化学発光標識、電気化学発光標識、生物発光標識、ポリマー、ポリマー粒子、金属粒子、ハプテン、および色素が含まれる。
【0114】
「フルオロフォア」(または蛍光色素)は、光励起時に光を再放出することができる蛍光性化学化合物である。フルオロフォアの例には、5-(および6)-カルボキシフルオレセイン、5-または6-カルボキシフルオレセイン、6-(フルオレセイン)-5-(および6)-カルボキサミドヘキサン酸、フルオレセインイソチオシアナート、ローダミン、テトラメチルローダミン、ならびにCy2、Cy3、およびCy5などの色素、AMCAを含む任意に置換されたクマリン、PerCP、R-フィコエリトリン(RPE)およびアロフィコエリトリン(APC)を含むフィコビリタンパク質、テキサスレッド、プリンストンレッド、無機蛍光標識、例えば、コーティングされたCdSeナノ結晶のような半導体材料をベースとする粒子、が含まれる。
【0115】
蛍光タンパク質の例には、例えば、シリウス、藍銅鉱、EBFP、EBFP2、TagBFP、mTurquoise、ECFP、セルリアン、CyPet、TagCFP、mTFPl、mUkGl、mAGl、AcGFPl、TagGFP2、EGFP、GFP、mWasabi、EmGFP、YFP、TagYPF、Ypet、EYFP、Topaz、SYFP2、Venus、シトリン、mKO、mK02、mOrange、mOrange2、TagRFP、TagRFP-T、mStrawberry、mRuby、mCherry、mRaspberry、mKate2、mPlum、mNeptune、mKalama2、T-Sapphire、mAmetrine、mKeima、UnaG、dsRed、eqFP611、Dronpa、KFP、EosFP、Dendra、およびIrisFPが含まれる。
【0116】
酵素標識として使用される酵素の例には、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリホスファターゼ(ALPまたはAP)、β-ガラクトシダーゼ(GAL)、グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ、β-N-アセチルグルコサミミダーゼ、β-グルクロニダーゼ、インベルターゼ、キサンチンオキシダーゼ、ホタルルシフェラーゼ、およびグルコースオキシダーゼ(GO)が含まれる。
【0117】
放射性標識(放射性標識物質)の例には、水素、ヨウ素、コバルト、セレン、トリチウム、炭素、硫黄、およびリンの放射性同位体が含まれる。2H、3H、13C、14C、15N、18F、31P、32P、35S、67Ga、76Br、99mTc(Tc-99m)、mIn、123I、125I、131I、153Gd、169Yb、および186Re。
【0118】
本発明によれば、標識は、好ましくは、ECMを標識することができる色素および/またはタグを含む。標識が色素である場合、蛍光色素が好ましい。蛍光色素とは、フルオロフォアに結合された試薬を指し得る。具体的には、試薬は、N-ヒドロキシスクシンイミドエステルもしくはスクシンイミジルエステル(NHS)またはスルホジクロロフェノール(SDP)-エステルを指す。好ましい態様において、試薬は、N-ヒドロキシスクシンイミドエステル/スクシンイミジルエステル(NHS-エステル)を指す。本発明において使用される場合、NHSエステルとは、N-ヒドロキシスクシンイミドエステルまたはスクシンイミジルエステルを意味する。NHSエステルまたはSDPエステルは、タンパク質のN末端およびリジンのような細胞外アミンと反応して、ECM構成成分を標識する。本明細書において定義されるフルオロフォア(例えば、Alexa 488、Alexa 568、Alexa 647、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアナート(FITC)、パシフィックブルーなど)とコンジュゲートされたNHS/SDPエステルが、ECMを可視化するために使用され得る。蛍光色素、好ましくは本明細書において定義されるフルオロフォアに結合されたNHS-エステル、または本明細書において定義される放射性標識物質が、スクリーニング方法において使用される標識として、本明細書において好まれる。
【0119】
上記から明らかであるように、NHSエステルは、細胞外アミンを標識するのに十分である。ECM移動の現象を解き明かす際に不可欠な段階は、移動した物質が創傷領域内で架橋する可能性である。異なるタンパク質クラスのタンパク質およびペプチドの第1級アミンは、共有結合される。1つの好ましい態様において、本発明のNHSエステルは、第1級アミンを標識するために使用され得る。アミンは、イオン対を有する塩基性窒素原子を含む、化合物および官能基である。これらは、窒素上の置換基の性質および数に基づいて分類され得る。天然には、第1級アミン、第2級アミン、および第3級アミンが存在する。第1級アミン(第1級アミン基とも呼ばれる)は、アンモニアの水素原子3個のうちの1個がアルキル基または芳香族基によって置換される場合に、生じる。重要な第1級アルキルアミンには、メチルアミン、ほとんどのアミノ酸が含まれ、一方、第1級芳香族アミンには、アニリンが含まれる。本発明の方法によれば、本明細書の他の箇所で定義されるECM構成成分の特定のアミノ酸の第1級アミン基が、前述の標識によって標識される。好ましい態様において、本明細書の他の箇所で定義されるECM構成成分のリジンの第1級アミン基が、標識される。
【0120】
スクシンイミジル(NHS)-エステル標識によるアミン染色は、すべてのアミン含有ECM構成成分を標識する際に効果があり、この染色は、1つの特異的標的を標識する抗体のような選択性を持たない。この染色は、死滅組織のために開発されたものであり、アルカリ性pHを必要とし、したがって、生体組織にダメージを与えることが想定された。したがって、現在、生体組織へのNHS/SDP-エステルの使用に関する報告はなく、そのため、器官上のすべてのアミン含有ECM分子を可視化する方法は存在しない。
【0121】
NHSエステル標識は、診断アプローチにおいて使用され得る。診断研究の場合、NHSエステル標識は、NHSエステルの相対存在量を調査することによって線維症などの線維増殖性疾患および前記疾患の疾患進行を検出するために、使用され得る。診断アプローチはまた、創傷治癒または創傷の進行をモニターすることであってもよい。このシナリオでは、NHSエステルを前述の別のレポーター分子と組み合わせることが、有利であり得る。1つの好ましい態様において、NHSエステル染色剤は、任意の種類のレポーターまたは蛍光色素と組み合わされてよい。
【0122】
好ましくは、そのような蛍光色素には、Alexa Fluor 488 NHS-エステル、NHS-フルオレセイン(5/6-カルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル)、Alexa Fluor 568 NHS-エステル、パシフィックブルースクシンイミジルエステル、Alexa Fluor 647 NHS-エステル(N-ヒドロキシスクシンイミドエステルまたはスクシンイミジルエステル)、Alexa Fluor 488 5-SDP-エステルまたはNHS-ローダミン(5/6-カルボキシ-テトラメチル-ローダミンスクシンイミジルエステル)が含まれるが、それらに限定されるわけではない。前述の各蛍光色素は、本明細書の他の箇所で説明される各器官組織に由来するECMマトリックスのECM構成成分を標識することができる。
【0123】
NHSエステルは、本明細書の他の箇所で定義されるように標的とされる必要がある器官に応じて、(好ましくは注射によって)全身的にまたは局所的に、好ましくは、腹腔内にもしくは胸膜内に、またはさらに静脈内に、髄腔内に、またはリンパ系を介して(全身的を指す)、あるいは心膜穿刺によって(局所的を指す)、投与され得る。別のシナリオでは、NHSエステルは、全身のECMを標的とするための化合物に結合されてよい。NHSエステルが化合物に結合または連結される場合、任意の種類の化合物が適切であり得る。しかし、治療的化合物が好ましい。NHSエステルに結合される化合物はまた、本明細書において説明される細胞外マトリックス(ECM)移動の調節物質であってもよく、これは、関心対象の化合物を指す。
【0124】
本発明の方法で使用される標識がタグを含むこともまた、本明細書に含まれる。「タグ」は、親和性タグ(精製タグとも呼ばれる)、例えば、ビオチンタグ、ヒスチジンタグ、Flagタグ、ストレプトアビジンタグ、strep IIタグ、インテイン、マルトース結合タンパク質、IgAまたはIgGのFc部分、プロテインAまたはプロテインGであり得る。好ましくは、本発明の方法において使用され、NHS/SDPエステルともコンジュゲートするタグは、ビオチンタグである。したがって、本明細書の他の箇所で定義されるこのようなタグはまた、ウェスタンブロット法または質量分析のようにタンパク質生化学を用いてECM構成成分を解析するためにも、使用され得る。本発明によれば、タグ、好ましくはビオチンタグに結合されたNHS-エステルはまた、スクリーニング方法において使用される標識としても、本明細書において好ましい。
【0125】
本発明の方法はまた、段階(a')、すなわち、本明細書において定義される器官表面を、ECMに含まれる細胞、好ましくは中皮細胞を可視化する標識と接触させる段階、をさらに含むことによって範囲を拡大され得る。この文脈において、標識とは、細胞全体を捕捉する、側方拡散によって広がる親油性膜蛍光色素、を指す。付加的な標識段階は、器官のECMを本明細書の他の箇所で説明される第1の標識と接触させる前または後に、実施され得る。このような膜染色は、ECMの沈着を必要とする器官中の損傷部位に向かうECM移動をより上手く特定/追跡するのに、役立ち得る。
【0126】
段階(b)
対象の器官のECMを本明細書において定義される標識と接触させた後、本発明による損傷が、次いで、前記器官に導入される。「導入する」または「導入すること」という用語は、本明細書において定義される損傷が起こる/生じる器官(の表面)に対して任意の侵害が加えられることを意味する。この特定の文脈において、「侵害」という用語は、創傷が生じる器官の表面を破損すること、または前記器官の他の任意の刺激/乱れを起こすこと、または前記器官の表面のふぞろいを示す他の任意の徴候を起こすこと、を指し得る。
【0127】
特定の器官に損傷を導入するための好ましい態様において、医薬品が、対象に投与され得る。医薬品には、ブレオマイシン、四塩化炭素(CCl4)、LPS、またはザイモサンが含まれるが、それらに限定されるわけではない。したがって、段階b)は、肺線維症が導入されるべきである場合には、本明細書において定義される対象にブレオマイシンを投与することによって器官に損傷を導入することを、好ましくは含む。また、段階b)は、肝線維症が導入されるべきである場合には、本明細書において定義される対象に四塩化炭素(CCl4)を投与することによって器官に損傷を導入することを、好ましくは含む。また、段階b)は、腹膜線維症が導入されるべきである場合には、本明細書において定義される対象にLPSまたはザイモサンを投与することによって器官に損傷を導入することを、好ましくは含む。この文脈において、「投与すること」または「投与」とは、本明細書において定義されるように、注射もしくは注入または経口的、好ましくは注射、を指し得る。この場合もやはり、器官に損傷を導入する医薬品は、本明細書の他の箇所で定義されるように標的とされる器官に応じて、腹腔内に、髄腔内に、静脈内に、胸膜内に、もしくは心膜穿刺によって、またはリンパ系を介して、好ましくは投与される。
【0128】
ブレオマイシンが、器官、例えば肺に損傷を導入するための医薬品として適用/投与される場合、これは、気管への注射によって投与される。四塩化炭素(CCl4)が、器官、例えば肝臓に損傷を導入するための医薬品として適用/投与される場合、これは、腹腔内注射によって投与される。LPSまたはザイモサンが、器官、例えば腹膜に損傷を導入するための医薬品として適用/投与される場合、これは、腹腔内注射によって投与される。
【0129】
段階(c)
本発明の方法の段階c)において、「接触させる」または「接触させること」という用語が使用される場合、この用語は、器官の損傷部位に向かうECM移動を調節するかどうか試験される関心対象の化合物を、本明細書において定義される器官の表面を形成する、標的とされる中皮細胞と、再び接触させること、を指す。接触させる段階は、さらに、本明細書の他の箇所で定義されるインビボスクリーニング方法において使用される対象に前記化合物を投与する段階を含んでよい。この文脈において、「投与すること」または「投与」とは、本明細書において定義されるように、注射もしくは注入または経口的、好ましくは注射、を指し得る。さらにより好ましくは、関心対象の化合物の投与は、本明細書の他の箇所で定義されるように標的とされる器官に応じて、マイクロダーマルによって、腹腔内に、静脈内に、髄腔内に、胸膜内に、心膜穿刺によって、もしくはリンパ系を介して、または腔洗浄によって、実施される。本明細書において定義される対象に関心対象の化合物を投与した後、化合物は、次いで、本明細書の他の箇所で考察される特定の中皮特異性の寄与により、標的とされる器官の最外表面を形成する中皮細胞と接触する。
【0130】
「関心対象の化合物」という用語は、ECM移動の調節物質であるかどうかを確認するために本発明の方法において試験される化合物を指す。このような調節物質は阻害物質であることができ、したがって、ひとたび阻害物質が器官の最外表面を形成する中皮細胞と接触すると、器官の損傷部位に向かうECM移動を阻害する。しかし、このような調節物質はまた、促進物質/誘導物質を指してもよく、したがって、ひとたび促進物質が中皮細胞と接触すると、器官の損傷部位に向かうECM移動を促進/誘導する。好ましくは、関心対象の化合物は、阻害物質であり得る。さらにより好ましくは、関心対象の化合物は、本明細書において定義される転写構築物または同様に本明細書において定義される中皮特異的受容体のアンタゴニストを指す。
【0131】
本発明の別の態様において、また段階b)と段階c)を入れ替えることもできる。これは、本明細書において定義される対象に関心対象の化合物を投与することによって中皮細胞を関心対象の化合物と接触させる段階c)がまた、同様に本明細書において定義される損傷を導入する段階b)の前に適用されることを、意味する。これが、関心対象の化合物の投与が損傷点滴注入の前に適用される場合、これは予防的処置を指し得るのに対して、前述のように段階b)が段階c)の前である場合、これは従来の処置を指し得る。
【0132】
段階(d)
本発明の方法の段階d)における、「検出する」または「検出すること」とも呼ばれる「判定する」または「判定すること」という用語が本明細書において使用される場合、これは、任意の検出方法、例えば、造影CT、MRI、またはX線、を使用することによって、行われ得るかまたは達成され得る。「検出方法」という用語は、本明細書において使用される場合、目視検査などの画像化方法または画像化データをそれによって収集するタンパク質生化学方法を指す。「目視検査」という用語は、顕微鏡を用いることによって、好ましくは蛍光立体顕微鏡を用いることによって、または造影CT、MRI、質量分析、もしくはX線、またはさらに、自動目視検査解析、すなわち、顕微鏡生成画像からのアルゴリズム解析のいずれか1つを用いることによって、関心対象の化合物が本明細書の他の箇所で定義されるECM移動を実際に調節するかどうかを可視化することを指す。タンパク質生化学的方法はまた、当業者に公知のラマン分光法を含み得る。本明細書において定義される任意の画像化方法によるか、またはさらに当業者に公知の任意のタンパク質生化学方法による、この検出は、器官表面のECMは本明細書の他の箇所で定義されるように標識もされているが前記器官表面の中皮細胞は関心対象の化合物と接触させられていない、本明細書において定義される対照対象、と比べて実施される。したがって、インビボ方法の段階a)および段階b)は、前記対照対象に対しても実施され、細胞と関心対象の化合物とを接触させる段階c)のみが、前記対照対象に対しては実施されていない。
【0133】
対照対象は、インビボスクリーニング方法において使用される対象と同じ生物である。すなわち、インビボスクリーニング方法の対象がヒトである場合、対照対象もまたヒトであり、またはインビボスクリーニング方法の対象がマウスである場合、対照対象もまたマウスである。言い換えると、対象と対照対象は同じ種である。
【0134】
検出/判定段階の間に受け取られる画像化データ内のシグナルは、器官のECMに接触させるために使用された標識から受け取られる反映されたシグナルとみなすことができる。方法は、本明細書において定義される画像化方法から受け取られる画像化データを、対照対象に由来する参照画像化データと比較する段階を、さらに含んでよい。対象から収集された画像化データを、対照対象に由来する参照画像化データと比較する場合、方法は、前記対象の器官の中皮細胞を関心対象の化合物と接触させた後に本明細書において定義される画像化方法によって測定される、器官の損傷部位に向かう標識されたECMの移動を、器官表面の中皮細胞が関心対象の化合物と接触させられていない対照対象の器官の損傷部位に向かう標識されたECMの移動と比較する段階を含む。これは、「と比べて」または「と比較すること」という用語に含まれる。画像化方法を適用することにより、および上記で定義されるように画像化データを比較することにより、対象の器官の損傷部位に向かうECM移動の減少/阻害があると判定される場合、関心対象の化合物は、阻害物質であるとみなされてよく、したがって、調節としてECM移動の阻害を有する。画像化方法を適用することにより、および上記で定義されるように画像化データを比較することにより、対象の器官の損傷部位に向かうECM移動の促進があると判定される場合、関心対象の化合物は、促進物質であるとみなされてよく、したがって、調節としてECM移動の促進を有する。
【0135】
本発明はまた、中皮細胞によって産生される細胞外マトリックス(ECM)の、対象の内部器官の損傷部位に向かう移動、の調節物質を同定するためのインビボスクリーニング方法も含み、前記方法は、
a)対象の内部器官のECMを標識と接触させる段階;
b)前記器官に損傷を導入する段階;
c)前記器官の表面を形成する中皮細胞を、関心対象の化合物と接触させる段階;
d)前記器官のECMが標識されているが前記器官の中皮細胞は前記関心対象の化合物と接触させられていない対照対象と比べて、前記器官の損傷部位に向かうECMの移動を前記関心対象の化合物が調節するかどうかを、1つの検出方法を用いて判定する段階
を含み、
ここで、前記器官の損傷部位に向かうECMの移動の調節によって前記関心対象の化合物がECM移動の調節物質であることが示され、かつここで、段階b)および段階c)を入れ替えることができる。上記でなされたような定義は、ここでも適用可能であり得る。
【0136】
インビトロスクリーニング方法
別の態様において、本発明は、中皮単一細胞懸濁液における、外部刺激に向かう細胞外マトリックス(ECM)の移動の調節物質を同定するためのインビトロスクリーニング方法を含む。インビトロスクリーニング方法は、手動または自動で実施することができる。その場合、スクリーニング方法のすべての段階を手動もしくは自動で実施してもよく、またはいくつかの段階のみを手動もしくは自動で実施してもよい。この方法は、エクスビボ器官/オルガノイド培養物で実行するための、および体全体のインビボ動物応答を理解する際の、基本的知識を提供する。方法は、マトリックス移動を誘導するための化合物のスクリーニング、単一細胞レベルでの作用様式の確立、単一細胞レベルでの毒性、薬力学、および薬物動態学の測定に使用され得る。化合物に関する各定義、またはスクリーニング方法に関して使用され、本明細書においてこれまでに定義された他の任意の用語もまた、必要な場合は、ここで適用可能であり得る。
【0137】
段階a)
本明細書において使用される「中皮からの(に由来する)単一細胞懸濁液」とは、中皮に由来する/中皮層に由来する細胞の混合集団、したがって、中皮/中皮層に由来する任意の細胞(免疫細胞、上皮細胞、間質細胞)の不均一集団を指すか、または中皮に由来する/中皮層に由来する細胞の予め選択され精製された集団、したがって、予め選択され精製された中皮部分集団(例えば、間質細胞のみ、免疫細胞のみ、もしくは上皮細胞のみ)を指す。「中皮単一細胞懸濁液」という用語もまた、本明細書において同義的に使用され得る。
【0138】
「懸濁液を既に標識されたECMと接触させること」という用語が本明細書において使用される場合、これは、中皮に由来する単一細胞懸濁液が、インビトロで既に生産された既に標識されたECM上にまたはそれと一緒に、置かれることを意味する。その場合、このようなマトリックスは、前もって精製されており、懸濁液内の細胞によって天然には産生されなかった、外因性マトリックスを指し得る。したがって、外因性マトリックスは、本明細書において使用される懸濁液内の中皮細胞に属さない。外因性ECMの標識は、インビボスクリーニング方法について論じたようにして実施することができる。したがって、この文脈における、標識されたECMとは、本明細書の他の箇所で定義される標識と接触させられたECMを指し得る。好ましくは、ECMは、ビオチンタグに結合されたNHS-エステルで標識されているか、フルオロフォアに結合されたNHS-エステルなどの蛍光色素で標識されているか、または本明細書において定義される放射性標識物質で標識されている。代替法として、懸濁液を適切な条件下に置くこともでき、これは、当業者に公知の適切な細胞培養物中に前記懸濁液を加えることを含み、これにより、次いで、中皮細胞が自身のECMを天然に産生することが可能になる。適切な条件下に置かれた単一細胞懸濁液に含まれる中皮細胞によって次いで産生されたECMは、その後、本明細書の他の箇所で定義される標識で標識される/と接触させられる。このマトリックスは懸濁液内の中皮細胞に属するので、このようなECMは内因性マトリックスを指し得る。これらの2つの代替法は、(例えば、外因性マトリックスをその上に載せることができるか、もしくは細胞をその上に載せることができ、次いで前記細胞が自身のECMを天然に産生する、(プラスチック)プレートを用いて;または、懸濁液の細胞がその中で増殖し、次いで自身のECMを産生するか、もしくはゲルが外因性マトリックスによって形成され、次いで細胞懸濁液がその上に載せられる、ゲルを用いて)、2D系および/または3D系で実施することができる。
【0139】
段階b)
この文脈において、「外部刺激」という用語は、本明細書において定義される損傷(本明細書において、細胞への傷害とも定義される)、化学的刺激、または走化性勾配を指すが、それらに限定されるわけではない。当業者に公知であるこれらの曝露段階はまた、懸濁液中の単一細胞をいくつかの外部刺激に、したがって本明細書において定義される刺激の任意の組合せに、曝露することを含んでもよい。ここで、器官ではなく細胞に関する損傷の定義が、ここで適用可能であり得る。外部刺激が関心対象の化合物であり得ることもまた、本明細書に含まれ得る。これは、関心対象の化合物が、例えば、薬物または化学誘引物質などを指す場合であると思われる。その場合、段階b)は段階c)を指す。
【0140】
段階c)
段階c)における、本明細書の他の箇所で定義される関心対象の化合物と接触させる段階は、関心対象の化合物を本明細書において定義されるECM/中皮細胞懸濁液上に添加する(例えば、ピペットで分注する)か、または関心対象の化合物をECM/中皮細胞懸濁液内に埋め込むことによって、実施され得る。接触させる段階は、その方式に依存する(例えば、2D系を使用するかまたは3D系を使用するか)。このような接触させる段階において、関心対象の化合物は、ECM移動を調節するために、懸濁液内の中皮細胞を直接的および/または間接的に標的とするべきである。関心対象の化合物は、本明細書において定義される段階b)を実施する前に懸濁液の中皮細胞に添加されてもよく、または関心対象の化合物は、本明細書において定義される段階b)を実施した後に懸濁液の中皮細胞に添加されてもよい。このような方法の段階c)は、手動または自動のいずれかで実施することができる。
【0141】
段階d)
続いて、このようなECM移動は、次いで、適切かつ本明細書において定義される任意の画像化方法を含む、本明細書において説明される任意の検出方法によって検出/記録され、その後、先行技術において公知である蛍光測定法およびAI/機械学習などの技術を用いて定量される。検出されるECMの移動は、外部刺激(場合によっては、関心対象の化合物)が適用された場所がどこであれ、そこに向かうものであるか、またはそこから離れるものであることができる。このような判定段階は、上記で定義されたものと同じである対照単一細胞懸濁液と、したがってまた、本明細書の他の箇所で定義される中皮単一細胞懸濁物とも比べて、実施される。ただし、単一細胞懸濁液が上記で定義されたように接触されられたかまたは本明細書において定義される適切な条件下で細胞自体によって産生された、対照のECMは、標識されてはいるが、対照の細胞は、関心対象の化合物と接触させられていない。
【実施例
【0142】
発明の実施例
以下の実施例は、本発明を例示するが、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0143】
材料および方法
患者由来の組織
この研究で使用したすべての組織(PFA、ST)は、患者の適切なインフォームドコンセントを得て入手した。実験手順はすべて、倫理委員会審査番号/研究プロトコール番号:333-10親試験番号:BA34/2018に従って実施した。
【0144】
マウスの収容および飼育
Jackson LaboratoriesまたはCharles RiverからC57BL/6Jマウスを購入し、EU指令2010/63に従ってHelmholtz Animal Facilityで飼育し維持した。C57BL/6バックグラウンドのIFN-γ-R-/-マウスは、もともとはJackson Laboratory(Bar Harbor, ME, USA)から入手し、その後に、Helmholtz Zentrum MunchenにおいてSPF条件下で飼育し繁殖させた。動物を個別換気ケージに収容し、動物収容室を、12時間の光サイクルで一定の温度および湿度に維持した。動物には、水および固形飼料を制約なしに与えた。動物実験はすべて、オーバーバイエルン政府によって審査および承認され、プロジェクト番号ROB-55.2-2532.Vet_02-19-101またはROB-55.2-2532.Vet_02-18-97として登録され、厳格な政府ガイドラインおよび国際ガイドラインのもとで実施された。この研究は、動物研究に関するすべての関連する倫理規定を遵守している。
【0145】
インビボマトリックス運命追跡
本発明者らは、5μlのNHS-エステル(25mg/ml)を5μlの100mM pH9.0重炭酸ナトリウム緩衝液と混合し、40μlのPBSと合わせて総体積を50μlにすることによって、標識溶液を作った。標識溶液は、30Gカニューレを用いて、イソフルラン麻酔下で胸膜内に適用した(肺線維症モデルおよび/または心臓線維症モデルの場合)。腹部標識は、100μlの標識溶液を腹腔内に注射することによって実施した(肝線維症モデルおよび/または腎線維症モデルの場合)。
【0146】
ブレオマイシン誘発性肺炎モデル
肺線維症の誘発のためのブレオマイシンの口腔咽頭投与を、両方の性別のC57BL/6Jマウス(6~8週齢)において、拮抗的な麻酔のもとで実施する。足指ピンチ反射がなくなった後、マウスを、上顎の門歯を支えとして置き、それによって、直立の姿勢で保つ。舌をピンセットで端に寄せて注意深く固定し、動物の鼻をピンセットで覆う。鼻を塞いだままにすることによって、マウスに強制的に口呼吸させる。ピペットを用いて、ブレオマイシンを2単位/kg KGWの投与量で80μlのPBSに溶解し、注意深く喉に入れる。動物が溶液を吸入するとすぐに、吸入されると考えられる。
【0147】
ホットプレートに移す(持続時間約30~60秒)。拮抗後、動物を14日間飼育した。ブレオマイシン施与の1時間前および1日おきに、ニンテダニブを腹腔内に10μM、添加した。
【0148】
薬理学的レジメン
ピルフェニドン(0.07mg/kg)、ニンテダニブ(0.21mg/kg)、およびカテプシン阻害物質B(0.15mg/kg)を、生理的食塩水に加え、100μlの量を、ブレオマイシン施与の1時間前および1日おきに腹腔内注射した。
【0149】
ヘルペス誘発性肺炎モデル
マウスは、MHV-68感染期間中、個別換気ケージに収容した。総量30μlの、PBSで希釈した5×104プラーク形成単位のMHV-68に、マウスを鼻腔内(i.n.)感染させた。鼻腔内(i.n.)感染に先立って、マウスをメデトミジン-ミダゾラム-フェンタニルで麻酔し、NHS-FITCを適用して器官表面を標識した。所定の時点で、マウスを頚椎脱臼によって犠死させ、その後の実験のために組織を加工処理した。
【0150】
組換えTGFモデル
100ngの組換えTGF-βを、30Gカニューレを用いてイソフルラン麻酔下で胸膜内に適用した。
【0151】
プラスミド構築
AAV作製に用いられるプラスミドを構築するために、SuperScript IV逆転写酵素(Life Technologies)を用いて、C57BL/6マウス組織から抽出されたmRNAからcDNAを生成した。生産されたcDNAを、KOD Hot Start DNAポリメラーゼ(Merck Millipore)を用いてマウスTGFβ(TGFb)、マウスカテプシンB(CTSB)およびマウスシスタチンA(CSTA)、マウスDcn、マウスSparc、マウスmgp、マウスplac8、マウスlgals1、ならびにマウスifi27l2aのコード配列を増幅するPCRの鋳型として、用いた。類似体、すなわち、公開されているヒト型に基づくマウスTGFβRIIのドミナントネガティブ変異体(TGFbRII-DN)を作製した。プラスミドeGFP-proα2(I)(Sergey Leikinによって提供された;Addgeneプラスミド119826番;http://n2t.net/addgene:119826;RRID:Addgene_119826)をベースとし、eGFPをFlagタグコーディング配列で置き換えて、Flagタグ付きマウスコラーゲン1a2(Col1a2-Flag)を作出した。PCR産物をpAAV-Cp-SV40pAにクローニングした。これは、(i)組み込まれた導入遺伝子の強力な過剰発現を媒介するように、(ii)最小限の大きさの十分に確立された構成成分を用いて、(iii)トランスジェニック配列の能力を最大化するように、構築された。作出された発現カセットは、AAV2由来の逆方向末端反復(ITR)に挟まれた、それぞれのエンハンサー(Cp)を含むヒトサイトメガロウイルス(CMV)の最初期プロモーター、共通コザック配列、およびシミアンウイルス40のポリアデニル化シグナル配列(SV40pA)、を含む。この発現カセットを、生産時のAAVベクターゲノムの効率的な生成およびパッケージングに不可欠なAAV血清型2の2つの逆方向末端反復(ITR)の間に、組み込んだ。クローニングには、In-Fusion HDクローニングプラス(Takara Bio Inc.)を用い、最終的なプラスミドを配列決定によって確認した(S. Omari et al. (2018) Proc. Natl. Acad. Sci. 115)。カプシド改変AAV8RGDを作製するために、James M. Wilsonからの提供物であるプラスミドpAAV2/8(Addgeneプラスミド112864番;http://n2t.net/addgene:112864;RRID:Addgene_112864)を、以前に公開されているAAV2カプシド改変と同様に、VP1のアミノ酸584と585の間にペプチドTGCDCRGDCFCGを組み込むことによって、改変した。最終的なプラスミドpAAV2/8RGDを、配列決定によって確認した。配列はリポジトリにアップロードされており、プラスミド構築手順の詳細を、要請することによって得ることができる。
【0152】
AAV生産
AAV8RGD-TGFb、AAV8RGD-TGFbRII-DN、AAV8RGD-CTSB、AAV8RGD-CSTA、AAV8RGD-Col1a2-Flag、AAV8RGD-Dcn、AAV8RGD-Sparc、AAV8RGD-MGP、AAV8RGD-Lgals1、AAV8RGD-Plac8、およびAAV8RGD-Ifi27l2aのためのAAV調製物の生産および精製を、AAVpro(登録商標)精製キットMaxi(Takara Bio Inc.)プロトコールに従って実施した。手短に言えば、5個のT225フラスコを、キットAAVpro(登録商標)ヘルパーフリーシステム(AAV6)(Takara Bio Inc.)からのプラスミドpHelper、AAV2由来repタンパク質および改変AAV8キャプシドタンパク質のコード配列を含むプラスミドpAAV2/8RGD、ならびにそれぞれの導入遺伝子を有するAAVゲノムを含むpAAV-Cp-SV40pA派生物で、三重トランスフェクトした。トランスフェクション後96時間に、細胞を回収し、3回の凍結融解サイクルで細胞を破壊することにより、AAVベクター粒子を放出させた。ゲノムDNAをCryonase低温活性ヌクレアーゼで消化し、AAVベクター粒子を濾過(0.45μmフィルター)によって細胞片から分離した。最後に、AAV粒子を、100kDaのサイズ排除カラムを用いて低分子混入物から分離し、濃縮した。最終AAV調製物の力価を、AAVpro力価測定キット(qPCR)V2(Takara Bio Inc.)を用いて、qPCRによって測定した。
【0153】
マウスにおけるAAV適用
マウスにAAVを適用するために、ウイルスベクター調製物を、最終濃度が6×108個のウイルス粒子/μlになるようにPBS(1×)で希釈した。50μlの各ベクター希釈物を、30Gカニューレによる胸膜内注射(ウイルス粒子3×1010個の総用量)のために使用した。
【0154】
肺生検材料のエクスビボ培養
C57BL/6J雄マウス(6~8週齢)を使用して、肺マトリックスの移動を研究した。器官回収後、マウス肺の4mm生検パンチを作製した。マトリックスの異所での標識を実現するために、本発明者らは、NHS-エステルを100mM pH9.0重炭酸ナトリウム緩衝液と1: 1で混合することによって、標識溶液を作った。滅菌済みワットマン濾紙(Sigma Aldrich)生検パンチをNHS標識溶液に浸し、肺生検材料上に局所的に置いた。1分後、標識パンチを取り除いた。マウス肺生検材料を、健康なヒトドナーおよび突発性肺線維症ヒトドナーから単離された異なるサブタイプの免疫細胞(0.1×106個の細胞/生検材料)からなる、RPMI培地(1%Pen/Strepおよび0.1%AmBを含み、10%FBS)中で同時培養した。次いで、免疫細胞を伴うマウス肺生検材料を、37℃で、5%CO2を供給されるエキソビボ条件で培養した。
【0155】
48時間後、マウス肺生検材料を4%ホルマリンで固定し、4℃で一晩インキュベートした後、PBSで洗浄した。ヒト肺組織を得、標識し、前述のようにして24時間培養した。
【0156】
組織標本の組織学
器官を摘出したら、2%ホルムアルデヒド中、4℃で一晩、器官を固定した。翌日、固定した組織をダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(DPBS、GIBCO、14190-094番)中で3回洗浄し、目的に応じて、最適切削温度コンパウンド(Sakura、4583番)中に包埋し、凍結し、-20℃で保存するか、または0.2%ゼラチン(Sigma Aldrich、G1393番)、0.5%トリトンX-100(Sigma Aldrich、X100番)、および0.01%チメロサール(Sigma Aldrich、T8784番)を含むPBS(PBS-GT)中で4℃で保存した。固定した組織を最適切削温度(OCT)に包埋し、Microm HM 525(Thermo Scientific)を用いて切断した。手短に言えば、切片を、氷冷アセトン中で-20℃にて5分間固定し、次いでPBSで洗浄した。次いで、切片を、PBS中10%血清を用いて、室温で60分間、非特異的結合についてブロックし、次いで、ブロッキング溶液に混合した一次抗体とともに、4℃で一晩インキュベートした。翌日、洗浄後、切片を、蛍光性二次抗体を含むPBS中で、室温で120分間、インキュベートした。最後に、切片を洗浄し、Hoechst 33342核酸染色剤(Invitrogen、H1399番)とともにインキュベートし、ddH2Oで2回洗浄し、フルオロマウントG(登録商標)(Southern Biotech、0100-01番)で封入し、暗所にて4℃で保存した。
【0157】
組織学およびマウスエクスビボ画像化
組織切片を、M205 FCA立体顕微鏡(Leica)およびZEISS AxioImager Z2m (Carl Zeiss)下で画像化した。マウス生検パンチを、M205 FCA立体顕微鏡(Leica)下で画像化した。データをImaris 9.1.3(Bitplane)およびImageJ(1.52i)で処理した。コントラストおよび輝度を、可視性を良くするために調整した。組織学的小片に対してフルオロマウントおよび標準パラメーター設定を用いて、THUNDER処理(thundering)を行った。
【0158】
3D光シートイメージング
ホールマウント試料を染色し、改変3DISCOプロトコールを用いて透明化した。試料を、テトラヒドロフラン(Sigma Aldrich、186562番)の増加系列(50%、70%、3×100%;それぞれ60分)中で脱水し、続いてジクロロメタン(Sigma Aldrich、270997番)中で30分間透明化し、最終的にベンジルエーテル(Sigma Aldrich、108014番)中に浸漬した。透明にした試料を、光シート蛍光顕微鏡(LaVision BioTec)を用いて、ベンジルエーテル中に沈めたままで画像化した。ベンジルエーテル中に沈めたままで、白色光レーザー(SuperK Extreme EXW-9; NKT Photonics)を用いて、平面光シートによって標本の2つの側面を照射した。標本チャンバーをレーザー光シートに通して5mm幅で垂直に移動させることによって、光学的断層像を記録した。三次元再構築は、Imarisイメージングソフトウェア(v9.1.3、Bitplane)を用いて行った。
【0159】
3D多光子画像化
多光子画像化のために、試料を4%NuSieve GTGアガロース溶液(Lonza、50080番)中に包埋した。画像化は、波長可変パルスレーザー(Spectra Physics、Insight DS+)に連結された25倍の水浸対物レンズ(HC IRAPO L 25×/1.00W)を用いて実施した。多光子励起された画像を、外部のノンデスキャンハイブリッド光検出器(HyDs)を用いて記録した。以下のバンドパス(BP)フィルターを検出に使用した:第二高調波発生(SHG)に対するHC 405/150 BPおよび緑色チャネルに対するET 525/50 BP。Leica Application suite X(v3.3.0、Leica)を用いて重なり部分を滑らかに融合して、タイル画像をマージし、Imarisソフトウェア(v9.1.3、Bitplane)によってデータを可視化した。
【0160】
画像の定量
組織切片を用いてマトリックス侵入を計算して、ImageJ(1.52i)によって面積当たりのFITCシグナルを定量した。免疫標識の定量を、ランダムに分布したROI/FOVにおいて実施した。FijiプラグインFraklac V. 2.5およびLocalThickness_V-4.0.2を用いて、多光子画像を解析した。
【0161】
scRNA-Seq解析
ブレオマイシンタイムコース実験から得た、マウス肺全体の溶解物についての単一細胞配列決定データを、中皮細胞に関して再解析した(Strunz et al.(2020) Nat. Commun. 11)。中皮細胞内で複数の時点にまたがって差次的に発現された遺伝子を、以前に説明されているように((Strunz et al.(2020) Nat. Commun. 11)、RのパッケージスプラインおよびImtestを用いて同定した。PBS対照とブレオマイシン誘発性肺線維症試料とで差次的に発現された遺伝子を、scanpyのallMarkers機能を用いて計算した。これらの遺伝子を、統合されたヒトILD(間質性肺疾患)肺細胞アトラスに由来する、ヒトILD患者と対照とで差次的に中皮細胞内で発現された遺伝子と、比較した(C. H. Mayr et al. (2020). SSRN Electron. J., 1-30)。
【0162】
質量分析
組織を急速凍結し、組織破砕装置(Qiagen)を用いて粉砕した。微粉砕した組織を、溶解緩衝液(20mMトリス-HCl pH7.5、1%トリトンX-100、2%SDS、100mM NaCl、1mMオルトバナジン酸ナトリウム、9.5mMフッ化ナトリウム、10mMピルビン酸ナトリウム、10mM β-グリセロホスファート)中に再懸濁し、プロテアーゼ阻害物質(コンプリートプロテアーゼインヒビターカクテル、Pierce)を添加し、氷上で10分間維持した。次いで、試料を超音波処理し、10,000gで5分間、スピンダウンした。上清を-80℃で保存した。タンパク質濃度を、製造業者のプロトコール(Pierce)に従ってBCAアッセイ法によって測定した。
【0163】
タンパク質プルダウンは以下のとおりであった。溶解物をプルダウン緩衝液(プロテアーゼおよびホスファターゼ阻害物質を添加した、20mMトリス-HCl pH7.5、1%トリトンX-100、100mM NaCl)で希釈し、製造業者の取扱い説明書に従って、ダイナビーズ(Thermo Fisher)とともにローテータ上で4℃で一晩インキュベートした。翌日、試料をそれぞれ、洗浄緩衝液1(プルダウン緩衝液+2%SDS)で2回、次いで洗浄緩衝液2(還元型0.5%トリトンX-100を含むプルダウン緩衝液)で希釈し、最後に、洗浄緩衝液3(20mMトリス-HCl pH7.5および100mM NaCl)で2回洗浄した。次いで、ビーズを溶出緩衝液(20mMトリス-HCl pH7.5、100mM NaCl、および50mM DTT)中に再懸濁し、37℃で30分間インキュベートした。最後に、試料を98℃で5分間煮沸し、上清を-80℃で保存した。改変されたFASP手順を用いて、試料を消化した。DTTおよびIAAを用いた還元およびアルキル化の後、タンパク質をMicrocon(登録商標)遠心フィルター(Sartorius Vivacon 500 30kDa)に載せて遠心分離し、0.1Mトリス/HCl pH8.5に混合した8M尿素で3回、50mM重炭酸アンモニウムで2回、洗浄した。フィルター上のタンパク質を、0.5μgのLys-C(Wako Chemicals)を用いて室温で2時間消化し、1μgのトリプシン(Promega)を用いて37℃で16時間消化した。ペプチドを遠心分離(14000gで10分)によって集め、0.5%TFAで酸性にし、測定するまで-20℃で保存した。消化したペプチドを、HPLCシステム(Thermo Fisher Scientific)に自動的にロードした;このHPLCシステムは、ナノトラップカラム(内径100μm×2cm、Acclaim PepMAP 100 C18、5μm、100Å/サイズ、LC Packings、Thermo Fisher Scientific)を装備され、95%緩衝液A(HPLCグレード水に混合した2%ACN、0.1%ギ酸(FA))および5%緩衝液B(HPLCグレード水に混合した98%ACN、0.1%FA)において行われ、流速は30μl/分であった。5分後、ペプチドを溶出させ、これらを、0.1%ギ酸中3~40%アセトニトリルの非線形勾配を用いて、流速250nl/分で105分間、分析用カラム(nanoEase MZ HSS T3カラム、100Å、1.8μm、75μm×250mm、Waters)にかけて、分離した。溶出するペプチドを、Q Exactive HF質量分析計(Thermo Fisher Scientific)において、溶出中に直接、解析した;Q Exactive HF質量分析計は、HPLCシステムに連結され、ナノスプレーイオン源を備え、データ依存モードで操作された。MSスペクトルを60,000の分解能で記録し、各MS1サイクル後、10個の最も豊富なペプチドイオンをフラグメント化のために選択した。マウス試料に由来する生スペクトルを、Progenesis QIソフトウェア(バージョン4.1、Nonlinear Dynamics、Waters)を用いて解析し、以下の検索パラメーターとともにMascot(Matrix Science、バージョン2.6.2)を用いて、SwissProtマウスデータベース(16,872個の配列)に対して検索した:10ppmのペプチド質量許容差および0.02Daのフラグメント質量許容差、2箇所の未切断が許容され、カルバミドメチル化が固定修飾として設定され、カムチオプロパノイル、メチオニン、およびプロリンの酸化は可変修飾として許容された。Mascotに組み込まれたデコイデータベース検索では、平均偽発見は5%未満であった;このとき、検索は、マスコットパーコレーターのスコアカットオフ値を13とし、有意性閾値p値を用いて、検索を実施した。ペプチドの割り当てをProgenesis QIソフトウェアに再インポートし、各タンパク質に割り振られたすべての独特なペプチドの存在量を合計し、正規化した。ヒト試料に由来する生スペクトルを、Proteome Discoverer 2.4ソフトウェア(Thermo Fisher Scientific; バージョン2.4.1.15)を用いて、SwissProtヒトデータベース(20,237個の配列)に対するデータベース検索(Sequest HT検索エンジン)により、解析した;その際、完全なトリプシン特異性を考慮に入れ、最大2箇所の切断されなかったトリプシン切断部位、前駆体の質量許容差10ppm、断片の質量許容差0.02Daを許容した。カルバミドメチル化を固定修飾として設定し、カムチオプロパノイル、メチオニン、およびプロリンの酸化を可変修飾として許容した。ペプチドスペクトルマッチおよびペプチドを検証し、各スペクトルについてトップスコアのヒットのみを受け入れ、FDR<1%および事後エラー確率<0.05のカットオフ値を満たすために、パーコレーターを使用した。タンパク質の最終リストは、厳密な節約原理に従った;これは、すべての適格なペプチドについての合計され正規化された存在量を含む。
細胞外エレメントは、マトリックス遺伝子データベースに対するデータベース検索によって同定した。EnrichRウェブツールを用いて、遺伝子オントロジー解析を実施した。
【0164】
mRNAトランスフェクション
ヒト中皮Met5A細胞(200,000個の細胞)に、リポフェクタミン(Life Technologies)を用いて、2μgのCleanCap mCherry mRNA(tebu bio)をトランスフェクトした。in-vivo-jetpei(Polyplus transfection)を製造業者のプロトコールに従って用いて、0.5μg/g体重をマウスに胸膜内注射した(したがって実施例5を参照されたい)。
【0165】
肝臓組織および腹膜領域を得るための損傷モデル
手術の30分前に、マウスは、メタミゾール(200mg/kg体重)の事前皮下注射を受けた。麻酔は、メデトミジン(500μg/kg)、ミダゾラム(5mg/kg)、およびフェンタニル(50μg/kg)のカクテル(以下、MMFと呼ぶ)の腹腔内注射によって施された。麻酔深度のモニタリングは、足趾反射に基づいて評価した。眼にビパンテンクリームを塗って乾燥を避け、腹部を剪毛し、ベタジンおよび滅菌リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で消毒した。動物を、39℃の加温板上で仰向けの状態で保った。皮膚および腹膜を切開して、正中線開腹(1~1.5cm)を行った。4つのフックを切開部の周辺に配置し、開創器および磁性ベースプレートに固定することにより、邪魔されずに腹腔および肝臓に到達することを可能にした。
【0166】
エレクトロポレーションピンセットを介して、30V 50msパルスを1秒間隔で8サイクル印加することにより、肝臓表面への局所的ダメージを誘発した。切開部を閉じる前に、ブプレノルフィン(0.1mg/kg)を腹部にピペットで注入して、最初の術後鎮痛を可能にした。長期鎮痛のために、メタミゾール(Novalgin、200mg/kg)を毎日の注射によって与えた。腹膜および皮膚を、2本の別々の4-0絹縫合糸(Ethicon)で閉じた。切開部を閉じると、アチパメゾール(1mg/kg)およびフルマゼニル(0.25mg/kg)の皮下カクテル注射によってメデトミジンおよびミダゾラムに拮抗的に作用することにより、マウスを覚醒させた。マウスを加温パッド上で回復させ、その後、1匹ずつ収容した。指定された時点の後にマウスを犠死させ、肝臓組織を得た。腹膜モデルにおいて、外科的手順は、前述のとおりであったが、腹膜領域に印を付けた(したがって実施例4を参照されたい)。
【0167】
結果
実施例1:器官に拡散するマトリックス貯蔵部は表面中皮に由来する(実施例4も参照されたい)
創傷内に移動するマトリックスは胸膜中皮の真下に位置するため、本発明者らは、肺内で傷跡を残す移動可能なマトリックスが実際に中皮細胞に由来するかどうかを正式に実証しようとした。この目的のために、本発明者らは、AAV8ベースの系を使用して、コラーゲン1-FLAG(Col1-FLAG)レポータータグを中皮に特異的にトランスダクションした。この系において、Col1転写物を新規に発現するトランスダクションされた細胞は、コラーゲンヘリックスと一体となるCol1-FLAG融合タンパク質を生成し、それによってCol1の組織供給源を明らかにする。AAV8RGD-Col1-FLAGの胸膜内投与は、中皮細胞の着実かつ特異的なウイルストランスダクションをもたらし(図1A)、間質はまったく標識されなかった。次いで、肺表面をNHSエステルで標識して、前述のようにマトリックスプールをタグ化し、続いて、気管にブレオマイシンを投与した。これにより、コラーゲン1-FLAGレポーター(黄色)について共陽性である間質への、NHSエステル陽性流動性物質(緑色)の著しい流動が起こった。既存および新たに沈着したマトリックスを示す、緑色+黄色+のダブルポジティブ部分は、血管外膜および細気管支の周囲で豊富であり、それらは肺に全面的に拡散した。これは、最後には肺に蓄積する線維化が、損傷後に絶えず新規に生成されている中皮由来マトリックスの胸膜プールに一部には由来することを示す(図1B)。
【0168】
肺線維症におけるマトリックスが中皮に由来することを実証した後、本発明者らは、ブレオマイシン誘発性肺線維症における中皮遺伝子発現動態を調査した。本発明者らは、ブレオマイシン処置した場合の肺中皮のscRNA-Seqデータセットを、ブレオマイシン施与後3日目、7日目、10日目、14日目、21日目、および28日目に解析した(図1C)。中皮細胞は、ブレオマイシン曝露後に複数種のマトリックスタンパク質を動的に発現し、これは線維症のステージに依存した。健康な肺中皮(0日目)は、コラーゲンCol4a3、Col4a4、ラミニン、およびムチンファミリーメンバーを発現し、これは、健康な中皮のために基底膜を維持することおよび滑らかにして線維化させない役割とつじつまが合う。ブレオマイシン後3日目に、中皮細胞は、線維化促進性メディエーターTGFβのレベルを上昇させ、1型、4型、5型、7型、12型、および14型の様々な線維性コラーゲンを高いレベルで有したことから、多様な線維性コラーゲンがマトリックス貯蔵部に蓄積することが示された。ブレオマイシン後7日目に、中皮細胞は、1型、4型、6型、7型、14型、および27型のさらなるコラーゲンファミリーサブメンバー、ならびにフィビュリン、すなわち、細胞外タンパク質繊維に組み込まれ、細胞形質転換に関与する分泌糖タンパク質、を発現した。拡散が始まるステージである10日目に、本発明者らは、カテプシンファミリーメンバーB、C、D、E、F、H、およびSなどのチオールプロテアーゼが甚だしく上方制御されることを見出した。ブレオマイシン後の一段と進行したステージで、すなわち28日目に、中皮細胞は、コラーゲンおよびプロテアーゼの発現レベルを甚だしく低下させて、マトリックスタンパク質発現をベースラインの恒常性状態でみとめられるものに戻した。これらのデータは、中皮細胞による付着プロファイルの流動的な変化が線維化の発達を反映していることを実証する。
【0169】
実施例2:中皮TGFβは単独で線維化をトリガーする
本発明者らは、免疫細胞がマトリックスの侵入および線維化をトリガーするのに用いるシグナル伝達経路を特徴付けようとし、当然ながら、公知の主なプロポネントであるTGFβを調査しようと努めた。本発明者らは、免疫細胞の線維性カスケードが中皮TGFβ発現で始まり得るだろうかと考えた。マウス肺生検材料を顆粒球で処理し、続いて、2種のTGFβ阻害物質、RepsoxおよびLDN-212854、を別個の実験で投与した(図2A)。両方の化学的アッセイ法においてTGFβシグナル伝達を阻害すると、TGFβ誘発性シグナル伝達の主要メディエーターであるリン酸化SMAD(pSMAD)が減少した。さらに、TGFβを阻害すると、顆粒球の存在下でさえ、マトリックスの侵入が減少した。さらに、顆粒球の添加のみで、中皮におけるリン酸化SMADシグナル伝達が増大した。これらの知見は、顆粒球が、中皮におけるTGFβ発現をトリガーして、マトリックスの蓄積および拡散を開始させることを示す。
【0170】
中皮TGFβ発現のみで、移転されたマトリックスが肺に拡散し線維化を引き起こし得るかどうかを調査するために、本発明者らは、組換えTGFβ(rTGFβ、図2A)の存在下で、エクスビボのマウス胸膜マトリックス追跡アッセイ法を実施した。rTGFβは、間質へのマトリックスの大量の流入を伴う、肺表面でのマトリックスプールの拡大および肥厚化を誘発した。次に、本発明者らは、線維性肺におけるTGFβシグナル伝達をインビボで調査した。本発明者らは、ブレオマイシン処置肺に由来する中皮における、線維化の回復時に消失する、SMADの大量のリン酸化を検出し(図2B)、中皮における活性化されたSMADシグナル伝達は、インビボでの胸膜マトリックスプールの肥厚化と同時に起こっていた。さらに、ウイルスモデルにおいて、胸膜内壁における大量のpSMADシグナル伝達および胸膜マトリックスプールの肥厚化があった(図2C)。次に、本発明者らは、胸膜中皮においてTGFβを特異的に過剰発現させ、NHSエステルと組み合わせることによってインビボでマトリックスプールを標識することにより、マトリックス移動および線維化進行への中皮TGFβの関与を調査した。動物に組換えTGFβを胸膜内注射すると、中皮におけるSMADの強いリン酸化が活性化された(図2D)。この後、1週間以内に胸膜マトリックスプールが肥厚化した。TGFβ処置後2週間に、肺は、移転されたマトリックスで完全に満たされ、これは、PDGFR+筋線維芽細胞の存在量の増加、間質性線維症、著しい体重減少および死亡を伴った(図2E~G)。このことは、中皮TGFβが胸膜マトリックスプールの集積を誘発し、続いてこれが内側に向けて放出/遊離されて線維化を引き起こす、段階的プロセスを示唆している。
【0171】
マトリックス移動および線維化の原因であるTGFβシグナル伝達が中皮に由来するかどうかをさらに裏付けるために、本発明者らは、TGFβの活性化バリアントをコードするベクターを使用し、TGFβの活性化バリアントを中皮において安定に発現させた(図2H)。損傷がない場合、中皮においてTGFβの活性型を過剰発現させると、胸膜表面でマトリックスが集積し、これは、マトリックス物質の大量の流入、PDGFR+筋線維芽細胞の量の増加、間質性線維症、体重減少、および死亡を伴った(図2I~K)。このことから、中皮TGFβが、単独で、胸膜マトリックスプールを内側に遊離させて線維化を促進することが実証される。
【0172】
次に、本発明者らは、中皮特異的TGFβノックダウンによって、化学物質誘発性損傷の存在下で線維化が抑制され得るかどうかを、調査した。この目的のために、本発明者らは、入ってくるTGFβを遮り、したがって、そのシグナル伝達を妨げる、ドミナントネガティブTGFβ受容体デッド変異体を、細胞において、もっぱら臓側胸膜の中皮細胞において、過剰発現させた(図2L)。次に、本発明者らは、これらのマウスの気管にブレオマイシンを注射することによって、ブレオマイシン誘発性線維症に対する中皮TGFβ阻害の効果を調査した(図2M)。実際に、中皮TGFβシグナル伝達を阻害することだけで、マトリックスの集積およびマトリックスの侵入が完全に妨害され、リン酸化SMADのシグナル伝達、PDGFR+筋線維芽細胞、線維化の進行が妨げられ、ブレオマイシン誘発性の死亡が阻止されて、結果的に100%の生存率となった(図2M~O)。
【0173】
実施例3:TGFβはカテプシンBを介してマトリックス拡散および線維化を引き起こす
中皮TGFβは、胸膜表面のマトリックスプールを拡大するので、本発明者らは、器官へのマトリックスの遊離および流入についての候補メディエーターに関してscRNAseqデータを再考した。肺線維症への新たな関連を明らかにするために、本発明者らは、ブレオマイシンモデルの中皮細胞におけるコラーゲンおよびチオールプロテアーゼの遺伝子発現を、ヒト間質性肺疾患患者のものと比較した(図3A)。本発明者らの理論的根拠は、胸膜マトリックスプールはタンパク質の線維状網様構造であるため、内側へのその遊離はプロテアーゼによって媒介されるにちがいない、というものであった。マウスおよびヒトの線維症のトランスクリプトームを解析することによって、本発明者らは、中皮細胞が、ブレオマイシンに応答して、および線維性ヒト肺において、カテプシンおよびそれらの阻害性対応物であるシスタチンを上方制御することを、見出した。具体的には、カテプシンBは、ブレオマイシン処置後10日目にピークに達し始め、間質内に移転されたマトリックスの存在量の増加と相関しており;カテプシンBタンパク質は、線維症が回復する時期である45日目には存在しなかった(図3B)。さらに、本発明者らのウイルス感染モデルは、肺(図3C)ならびに肝臓および腎臓(図5)を覆う中皮におけるカテプシンB発現の同様の増大をトリガーした。
【0174】
カテプシンBがTGFβの下流にあり、TGFβがマトリックス侵入を引き起こすのに必要とされるかどうかを研究するために、本発明者らは、AAVウイルス送達を使用して、中皮において特異的にTGFβを過剰発現させた。実際に、中皮においてTGFβを過剰発現することにより、いかなる化学物質による損傷もウイルスによる損傷もない状況で、カテプシンBの発現が誘発され、その後、内側へのマトリックスの大量の移動が起こった(図3Dおよび3E)。しかし、ブレオマイシンの存在下では、ドミナントネガティブ変異型で中皮TGFβを阻害すると、カテプシンB発現のレベルが甚だしく低下し、マトリックスの放出が妨害された(図3F)。
【0175】
カテプシンBを用いた特異的薬理学的救出の実現可能性を証明するために、本発明者らは、マウスにNHSエステルを与えて、上記のように胸膜表面を標識し、次いで、気管にブレオマイシンを注射し、その後、カテプシンBの活性中心を不可逆的に妨害するカテプシンB阻害物質であるZ-FA-FMKで処置した。陽性対照として、本発明者らは、2つしかない、肺線維症に対して承認されている市販の抗線維症薬である、ニンテダニブおよびピルフェニドンを使用した。これらはどちらも、疾患の進行を妨げる抗炎症活性および抗線維化活性を有する。ブレオマイシンの存在下で、カテプシンBに対する薬理学的介入により、肺へのマトリックス侵入および線維化の発達は完全に防止され、ブレオマイシン誘発性の死亡が抑止され(図6A~F)、肺損傷動物の生存率が100%に上昇した。これらの比率は、ニンテナニブおよびピルフェニドンに匹敵した。これらの比率は、ニンテナニブおよびピルフェニドンに匹敵した。線維性肺組織の中皮細胞は、高レベルのチオールプロテアーゼを産生するため、本発明者らは、ヒト肺組織および心臓を用いて自分達の阻害物質レジメンを検証した(図6G)。TGFβの下流の中皮カテプシンBが線維化を促進することを証明するために、本発明者らは、カテプシンBおよびシスタチンA(カテプシンBプロテアーゼに結合し妨害する直接的阻害物質)のAAVベクターベースの構築物を過剰発現させた(図3G)。カテプシンB構築物およびシスタチンA構築物の両方を、肺中皮細胞において安定に発現させ、その後、マウスにおいて、NHSエステルを胸膜注射してマトリックスプールを標識し、ブレオマイシン処置を行った(図3H)。中皮カテプシンBの過剰発現のみの場合、対照ベクターで処置された動物と比べて、マトリックス流入および死亡が甚だしく増加した。逆に、シスタチンAを過剰発現させることによって中皮カテプシンBを抑制すると、ブレオマイシン後14日目の線維化のピークでさえ、すべてのマトリックス移動が止まり、ブレオマイシン誘発性の死亡が完全に防がれた。これらの機構的知見は、マトリックス移動、線維化、および死亡を促進するものとして、中皮TGFβをカテプシンBと直接的に関連付けるものである(図3I)。本発明者らは、中皮TGFβ発現によってマトリックスプールが集積し、次いでこれらが、カテプシンB活性化によって触媒されるプロセスにおいて放出されて、マトリックス流入および器官線維化が起こる、と結論づけている(図4)。
【0176】
要約すると、本発明者らは、炎症が、中皮におけるTGFβ:カテプシンBシグナル伝達カスケードをトリガーし、これにより、胸膜マトリックスプールが拡大することと、胸膜プールからタンパク質性物質が遊離して肺に拡散して瘢痕組織を生じて線維化を引き起こすこと、の両方が起こることを、実証する。ニンテダニブおよびピルフェニドンの両方とも、マトリックスの移動を阻害することによって抗線維化効果を発揮し、本発明者らの知見は、シスタチンAによる中皮カテプシンBの薬理学的阻害が、器官線維化に立ち向かい疾患進行を改善するための一段と特異的かつ有効な処置として役立ち得ることを、示す。マトリックス拡散は、組織/器官損傷の一般的原理である可能性が高く、多くのヒト線維性病態への臨床的影響が潜在的にある。
【0177】
実施例4:移転される線維性マトリックスは中皮に由来する
創傷内に移動するマトリックスは中皮の真下に位置するため、本発明者らは、次に、創傷内で形成する、肺(実施例1を参照されたい)とは異なる器官に由来するマトリックスが、実際に中皮細胞に由来するかどうかを正式に確かめようとした。移動可能なマトリックスの細胞供給源を同定するために、本発明者らは、mCherry蛍光タンパク質に融合された天然コラーゲン1結合タンパク質レポーター(CNA35)を使用した(図7A)。この系において、トランスダクションされた細胞のみが、コラーゲンヘリックスと一体となるCol1CNA35-mCherry融合タンパク質を生成し、それによって、Col1の特異的組織源が明らかになり、生組織におけるコラーゲン沈着のリアルタイムでの可視化および定量が可能になった。
【0178】
移転されるマトリックスの中皮供給源に的を絞るために、本発明者らは、ウイルスによって、器官表面のある領域にCNA35-mCherryをトランスフェクトし、こうして、中皮のみによって産生される新たに合成されるコラーゲンをタグ化した。5日後に、本発明者らは、次いで、マトリックスをNHS-FITCで標識し、CNA35-mCherryタグもNHS-FITCタグも欠く遠くの表面を、肝臓創傷および腹膜創傷に供した。創傷領域の光シート画像(図7B)および組織切片(図7C)から、創傷に移転するCNA35-mCherryとNHS-FITCとのダブルポジティブマトリックスの広範囲での蓄積が明らかになった。位置変更したこの物質は、腹膜創傷および肝臓創傷の総コラーゲンのそれぞれ70%および80%を構成した(図7D)。元の標識部位の免疫化学的染色もまた、有意な量の中皮細胞が活性なTGFβシグナル伝達を1週間後に示すことを示した。このことは、活性な中皮細胞が流動性のマトリックスプールを補充することを示唆する(図7E)。
【0179】
実施例5:mRNAトランスフェクション
市販のmCherry mRNAが、リポフェクタミンを用いてヒト中皮Met5A細胞に成功裡に導入され、トランスフェクション後24時間に大量のmCherry発現を示した(図8A)。このことは、mRNAを介した中皮細胞のリプログラミングが魅力的な方法であることを実証した。
【0180】
次に、本発明者らは、胸膜内注射による、PolyPlusを介したmRNAのインビボトランスフェクションを使用した。実際に、トランスフェクションミックスの注射から24時間以内に、本発明者らは、mCherry陽性である肺中皮の大きな部分を検出することができた(図8B)。
【0181】
実施例6:PCLSのエクスビボモデルによる、ECM移動に重要なさらなる候補遺伝子の検証
成体マウス肺から精密切断肺スライス(PCLS)を得た。成体C57BL/6Jマウスに、ケタミン/キシラジン(0.9%NaCl中100mg/kgおよび10mg/kg)を用いて、腹腔内注射によって麻酔をかけた。前胸壁を切開し、気管を注意深く露出させ、肺に生理食塩水を灌流させた。輪状軟骨のすぐ下の、気管の前壁に、小さな開口部を作った。硬い金属カニューレ(P14)を、気管を通して主気管支の分岐部の1ミリメートル上まで注意深く挿入し、縫合糸によって所定の位置に固定した。カニューレ挿入後、1×DMEM培地(Life Technologies;カタログ番号31966-021)を用いて調製した37℃の1.5%低融点アガロース(Sigma;カタログ番号A9414)で、肺を膨張させた。過度にも最適以下にも膨張させずに肺を完全に膨張させることを可能にする体積(1mlアガロース)で、アガロースを注入して両方の肺を膨張させ、それらを胸腔内に原位置で維持した。膨張後、胸腔に氷を1分間適用することによってアガロースを凝固させた。続いて、肺を、心臓および気管とともに体から摘出し、氷冷した無血清DMEMに浸した。その後、肺を、DMEM培地中で様々なAAVとともに37℃でインキュベートし、PBSで10分間、3回洗浄し、NHS-FITCを用いて表面を標識した。同様のサイズのスライスに確実になるように、左肺葉のみを使用し、冷DMEM培地中でビブラトーム(Zeiss Hyrax V50ビブラトーム)を用いて、300μmに横方向に切断した。得られたスライスを、すべての実験において、24ウェルプレートに入れた氷冷DMEM中に入れた。次いで、PCLSを温かいDMEMで2回洗浄して、余分なアガロースを組織から取り除き、37℃でインキュベートした。ブレオマイシンを、対応する群の培地に添加し(0.1U/mL)、スライスを、5%CO2および95%空気の存在下、37℃でインキュベートした。培地に1%ペニシリン-ストレプトマイシン(Life Technologies;カタログ番号15140122)を添加し、培地を3日目に交換した。ECM移動を、M205 FCA立体顕微鏡(Leica)を用いて3日目および5日目に評価した(図9)。
【0182】
実施例7:新規の不可欠なプロモーターの発見
図10および図11(実施例6の場合のような標本)に関して、このプロセスにおいて、提示された遺伝子(crip1、lgals1、mgp、saa3、およびsepp1)を過剰発現させた。マウス肺の免疫染色を、ブレオマイシン投与後の様々な時点(5日目、10日目、および14日目、図10を参照されたい)において画像化した。各時点のシグナル/タンパク質の量を用いて、いつどのタンパク質が発現されたか、したがって、いつどのプロモーターが活性であるかを見分けた。これらのデータは、適用すると興味深いのはどのプロモーターであるかを明確に示す。
【0183】
考察
肺線維症などの、損傷した線維性の器官は、線維芽細胞によって新たに合成される結合組織に主に由来する瘢痕を形成すると想定されている。予め作られた胸膜結合組織が、器官表面から位置変更して間質空間および血管空間に拡散して、線維化に先行し、かつ線維化に必須な前提条件をもたらすことを明らかにすることにより、本明細書において示されるデータは新しい概念をもたらす。この新しい瘢痕物は、線維性構成要素ならびに対応する酵素を連れて来て、組織をその場で線維性瘢痕へと成熟させる。したがって、肺は、主に、既存の結合組織に続いて線維芽細胞を次いで位置変更させることによって、瘢痕化および線維化をトリガーする。本発明者らは、移転される瘢痕混合物が、TGFβによって活性化された後にカテプシンBを介してこのタンパク質性物質を遊離する、胸膜および内臓の中皮細胞、に由来することを示す(図3)。さらに、本発明者らは、ひとたびTGFβ:カテプシンBシグナル伝達カスケードが中皮において活性化されると、線維化が免疫細胞とは無関係に起こり得ることを明らかにするが、免疫細胞が中皮を活性化し、それによってマトリックスの集積および内側への侵入を開始させて、器官線維化を引き起こすことも、明らかにする。この結果は中皮マトリックスが線維性瘢痕化に必須な前提条件であることを実証しているが、線維芽細胞はマトリックスを沈着させ、瘢痕化を一層進ませる。しかし、これは、最初のマトリックス拡散に対する二次応答のせいぜい一部でしかあり得ない。さらに、実験は、マトリックス拡散がない場合は、ブレオマイシンへの曝露後または肺損傷後でさえ、線維芽細胞が休止状態のままでありマトリックスを全く沈着させないということを実証する。本発明者らは、線維化の発生源が器官の中皮被覆であることを示すだけでなく、免疫細胞および炎症が中皮を刺激して、カテプシンプロテアーゼを介して働くTGFシグナル伝達カスケードをトリガーすることも示す。マトリックス拡散および線維化の進行は、本発明者らが示すように、ピルフェニドンおよびニンテダニブの場合のように、長期の炎症抑制を必要とすることなく、局所的な中皮カテプシンBによって誘導され得るか、または局所的な中皮シスタチンA処置によって妨害され得る。したがって、中皮細胞におけるTGFβ: カテプシンシグナル伝達経路は、Covid関連の肺炎および任意の器官における線維化から保護するための複数の中心拠点を提供する。まとめると、化学的損傷モデルおよびウイルス損傷モデルを用いたこれらの知見から、免疫と中皮のクロストークが明らかになる。
【0184】
項目
1. 内部器官の表面を形成する中皮細胞によって産生される細胞外マトリックス(ECM)の、前記器官の損傷を受けているかまたはそのリスクがある対象の前記器官の損傷部位に向かう移動、を調節するための方法における使用のための化合物。
2. 調節が、前記化合物が中皮細胞を特異的に標的とすることができることを含む、項目1の使用のための化合物。
3. 調節が阻害または促進である、項目1または2の使用のための化合物
4. 中皮細胞によって産生されるECMの移動の前記調節に関与している遺伝子をコードする転写構築物である、前記項目のいずれか1つの使用のための化合物。
5. 前記遺伝子が、csta、tgfb、tgfbr2、ctsb、aebp1、col1a1、adamTs1、dcn、sparc、timp1、c1、c2、c3、c4、saa3、hsf1、およびdtrからなる群より選択される、項目4の使用のための化合物。
6. 前記転写構築物がDNAを含み、好ましくは、前記転写構築物がDNA構築物である場合に前記構築物が、中皮特異的制御エレメントおよび/もしくは中皮特異的プロモーターエレメントおよび/もしくは中皮特異的エンハンサーエレメントをさらに含み、かつ/または、前記転写構築物がDNA構築物である場合に前記構築物がRNA標的配列またはタンパク質標的配列をさらに含む、項目4または5の使用のための化合物。
7. 前記転写構築物がRNAを含み、好ましくは、前記転写構築物がRNA構築物である場合に前記構築物がRNA標的配列またはタンパク質標的配列をさらに含む、項目4または5の使用のための化合物。
8. 前記化合物が、中皮特異的受容体のアゴニストまたはアンタゴニストであり、好ましくは、前記アゴニストまたはアンタゴニストが、抗体、siRNA、核酸、アプタマー、ペプチド、タンパク質、脂質、または有機低分子より選択される、項目1~7のいずれか1つの使用のための化合物。
9. 前記中皮特異的受容体が、MSLN1、GPM6A、PDPN、TGF-β受容体、LTB4受容体BLT2、ポドプラニン、およびProcrからなる群より選択される、項目8の使用のための化合物。
10. 前記化合物が、注射または注入によって投与され、好ましくは、前記投与が、静脈内に、腹腔内に、胸膜内に、髄腔内に、心膜穿刺によって、またはリンパ系を介して実施される、前記項目のいずれか1つの使用のための化合物。
11. 前記化合物が、ウイルスベクターを介して、リポソームを介して、トランスフェクション試薬を介して、細胞外小胞を介して、または直接的に投与され、好ましくは、前記ウイルスベクターがアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターおよび/またはアデノウイルス(AV)ベクターである、項目10の使用のための化合物。
12. 前記内部器官が、肺、腎臓、心臓、肝臓、胃、膀胱、脳、腹膜、子宮、脾臓、膵臓、または腸のいずれか1つである、前記項目のいずれか1つの使用のための化合物。
13. 調節が阻害である場合に前記器官の損傷が慢性創傷に関連するか、または調節が促進である場合に前記器官の損傷が線維増殖性疾患に関連する、前記項目のいずれか1つの使用のための化合物。
14. 中皮細胞によって産生される細胞外マトリックス(ECM)の、対象の内部器官の損傷部位に向かう移動、の調節物質を同定するためのインビボスクリーニング方法における使用のための化合物であって、
前記方法が、
a)対象の内部器官のECMを標識と接触させる段階;
b)前記器官に損傷を導入する段階;
c)前記器官の表面を形成する中皮細胞を、関心対象の化合物と接触させる段階;
d)前記器官のECMが標識されているが前記器官の中皮細胞は前記関心対象の化合物と接触させられていない対照対象と比べて、前記器官の損傷部位に向かうECM移動を前記関心対象の化合物が調節するかどうかを、1つの検出方法を用いて判定する段階
を含み、
ここで、前記器官の損傷部位に向かうECMの移動の調節によって前記関心対象の化合物がECM移動の調節物質であることが示され、かつここで、段階b)および段階c)を入れ替えることができる、
前記化合物。
15. 中皮に由来する単一細胞懸濁液における、外部刺激に向かう細胞外マトリックス(ECM)の移動の調節物質を同定するためのインビトロスクリーニング方法であって、
前記方法が、
a)中皮に由来する単一細胞懸濁液を、既に標識されたECMと接触させる段階、または、前記中皮に由来する単一細胞懸濁液を、前記細胞がECMを産生することを可能にする適切な条件下に置き、次いで、産生された前記ECMを標識と接触させる段階;
b)前記単一細胞を外部刺激に曝露する段階;
c)前記単一細胞を関心対象の化合物と接触させる段階;
d)前記ECMが標識されているが前記単一細胞は前記関心対象の化合物と接触させられていない対照単一細胞懸濁液と比べて、前記外部刺激に向かうECM移動を前記関心対象の化合物が調節するかどうかを、1つの検出方法を用いて判定する段階
を含み、
ここで、前記外部刺激に向かうECMの移動の調節によって前記関心対象の化合物がECM移動の調節物質であることが示され、かつここで、段階b)および段階c)を入れ替えることができる、
前記方法。
図1A
図1B-1】
図1B-2】
図1C-1】
図1C-2】
図2-1】
図2-2】
図2-3】
図2-4】
図2-5】
図2-6】
図2-7】
図2-8】
図2-9】
図2-10】
図3-1】
図3-2】
図3-3】
図3-4】
図3-5】
図3-6】
図3-7】
図4
図5-1】
図5-2】
図5-3】
図5-4】
図5-5】
図5-6】
図5-7】
図5-8】
図5-9】
図6A
図6B
図6C
図6D-1】
図6D-2】
図6E
図6F
図6G
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
図8A
図8B-1】
図8B-2】
図9A
図9B
図9C
図10
図11A
図11B
図11C
図11D
図11E
【配列表】
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【国際調査報告】