(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-31
(54)【発明の名称】新規な寒天分解細菌由来のGH117A α-ネオアガロビオース加水分解酵素及びこれを用いたL-AHGの産生方法
(51)【国際特許分類】
C12N 9/42 20060101AFI20241024BHJP
C12P 19/02 20060101ALI20241024BHJP
C12N 1/20 20060101ALN20241024BHJP
C12N 1/21 20060101ALN20241024BHJP
C12N 15/56 20060101ALN20241024BHJP
C12N 15/63 20060101ALN20241024BHJP
【FI】
C12N9/42 ZNA
C12P19/02
C12N1/20 A
C12N1/21
C12N15/56
C12N15/63 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024526609
(86)(22)【出願日】2022-03-31
(85)【翻訳文提出日】2024-06-28
(86)【国際出願番号】 KR2022004631
(87)【国際公開番号】W WO2023080357
(87)【国際公開日】2023-05-11
(31)【優先権主張番号】10-2021-0148524
(32)【優先日】2021-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524162756
【氏名又は名称】キョンプク ナショナル ユニバーシティ インダストリー-アカデミック コオペレーション ファンデイション
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100231902
【氏名又は名称】吉田 李花
(72)【発明者】
【氏名】キム ヨン ホ
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AF02
4B064CA21
4B064CB07
4B064CC06
4B064CC07
4B064CC24
4B064CD02
4B064DA01
4B064DA20
4B065AA01X
4B065AA01Y
4B065AA26X
4B065AA26Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA31
4B065CA44
4B065CA50
(57)【要約】
本発明は、寄託番号KCTC 13629BPにて寄託された新規な寒天分解細菌セルビブリオ属菌(Cellvibrio sp.)KY-GH-1由来のGH117A α-ネオアガロビオース加水分解酵素(GH117A α-neoagarobiose hydrolase, α-NABH)及び前記酵素を用いた3,6-アンヒドロ-L-ガラクトース(3,6-anhydro-L-galactose, L-AHG)の産生方法に関する。本発明の新規な寒天分解細菌セルビブリオ属菌KY-GH-1由来のGH117A α-ネオアガロビオース加水分解酵素は、ネオアガロビオースを基質として温度範囲とpH範囲に大きく制限されることなくL-AHGを高い効率にて産生することができるので、発酵産業、食品産業、医薬品産業などに広範に活用することができるという抜群の効果がある。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1を含む、GH117A α-ネオアガロビオース加水分解酵素(GH117A α-neoagarobiose hydrolase,α-NABH)。
【請求項2】
寄託番号KCTC 13629BPであるセルビブリオ属菌(Cellvibrio sp.)KY-GH-1菌株起源であることを特徴とする、請求項1に記載のGH117A α-ネオアガロビオース加水分解酵素(GH117A α-neoagarobiose hydrolase, α-NABH)。
【請求項3】
GH117A α-ネオアガロビオース加水分解酵素(GH117A α-neoagarobiose hydrolase, α-NABH)遺伝子が取り込まれた大腸菌形質転換体から得られることを特徴とする、請求項2に記載のGH117A α-ネオアガロビオース加水分解酵素(GH117A α-neoagarobiose hydrolase, α-NABH)。
【請求項4】
前記GH117A α-ネオアガロビオース加水分解酵素(GH117A α-neoagarobiose hydrolase, α-NABH)遺伝子は、発現ベクター(expression vector)にクローニング(cloning)されて大腸菌に取り込まれることを特徴とする、請求項3に記載のGH117A α-ネオアガロビオース加水分解酵素(GH117A α-neoagarobiose hydrolase, α-NABH)。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のGH117A α-ネオアガロビオース加水分解酵素(GH117A α-neoagarobiose hydrolase, α-NABH)をネオアガロビオース(neoagarobiose, NA2)に処理して酵素的に分解する、3,6-アンヒドロ-L-ガラクトース(3,6-anhydro-L-galactose, L-AHG)の産生方法。
【請求項6】
前記処理は、25~45℃の温度範囲において行われることを特徴とする、請求項5に記載の3,6-アンヒドロ-L-ガラクトース(3,6-anhydro-L-galactose, L-AHG)の産生方法。
【請求項7】
前記処理は、pH 6.0~10.0のpH範囲において行われることを特徴とする、請求項5に記載の3,6-アンヒドロ-L-ガラクトース(3,6-anhydro-L-galactose, L-AHG)の産生方法。
【請求項8】
前記処理は、Mn
2+をさらに加えて行われることを特徴とする、請求項5に記載の3,6-アンヒドロ-L-ガラクトース(3,6-anhydro-L-galactose, L-AHG)の産生方法。
【請求項9】
前記Mn
2+は、MnCl
2、MnSO
4またはこれらの混合物の形態であることを特徴とする、請求項9に記載の3,6-アンヒドロ-L-ガラクトース(3,6-anhydro-L-galactose, L-AHG)の産生方法。
【請求項10】
前記処理は、トリス(2-カルボキシエチル)-ホスフィン(Tris(2-carboxyethyl)-phosphine, TCEP)をさらに加えて行われることを特徴とする、請求項5に記載の3,6-アンヒドロ-L-ガラクトース(3,6-anhydro-L-galactose, L-AHG)の産生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、寄託番号KCTC 13629BPにて寄託された新規な寒天分解細菌セルビブリオ属菌(Cellvibrio sp.)KY-GH-1由来のGH117A α-ネオアガロビオース加水分解酵素(GH117A α-neoagarobiose hydrolase, α-NABH)及び前記酵素を用いた3,6-アンヒドロ-L-ガラクトース(3,6-anhydro-L-galactose, L-AHG)の産生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
寒天は、海洋紅藻類から見つかる細胞壁多糖類であり、アガロースとアガロペクチンの2種類の成分の混合物である。アガロースは、α-1,3-連結された3,6-アンヒドロ-L-ガラクトース(L-AHG)とβ-1,4-連結されたD-ガラクトースの交差的な残基から構成される。アガロペクチンは、同じ繰り返し単位を有しているが、L-AHG残基の一部はL-ガラクトース硫酸で、かつ、D-ガラクトース残基の一部はピルビン酸アセタール4,6-O-(1-カルボキシエチリデン)-D-ガラクトースで置換されている。寒天は、微生物の分解に強い安定的なゲルマトリックスを形成するため、食品産業及び微生物の培養培地においてゲル化素材として広く用いられている。
【0003】
約15属の海洋性細菌と7属の非海洋性細菌が寒天分解能を有しており、寒天を唯一の炭素源として用いることができる。寒天を炭素源として資化させるために、寒天分解細菌は、様々な寒天分解酵素の組み合わせ、すなわち、アガラーゼの組み合わせを有しており、これを通じて寒天を単糖類であるL-AHGとD-ガラクトースとに加水分解する。アガラーゼは、切断方式に応じて2種類の類型に分ける。α-アガラーゼ(EC 3.2.1.158)は、α-1,3-グリコシド結合を切断するのに対し、β-アガラーゼ(EC 3.2.1.81)は、β-1,4-グリコシド結合を切断する。
【0004】
これまで報告されているアガラーゼは、そのほとんどが、アガロースを加水分解してネオアガロオリゴ糖(neoagarooligosaccharides, NAOS)を産生するエンド型β-アガラーゼに属する。これに対し、アガロースを加水分解してアガロオリゴ糖(agarooligosaccharides, AOS)を生成するα-アガラーゼについての報告はほとんどない。炭水化物活性酵素(Carbohydrate-Active Enzymes, CAZyme)データベースに収録された細菌性アガラーゼの間のアミノ酸配列の類似性を基準として、アガラーゼを互いに異なるグリコシド加水分解酵素(glycosidehydrolase, GH)ファミリーに分類することができる。すなわち、β-アガラーゼは、GH16、GH50、GH86及びGH118などの様々なGHファミリーに分類され、α-アガラーゼは、GH96及びGH117ファミリーに分類される。GH16、GH86及びGH118β-アガラーゼは、それぞれネオアガロテトラオース(NA4)/ネオアガロヘキサオース(NA6)、NA6/ネオアガロオクタオース(NA8)及びNA8/ネオアガロデカオース(NA10)を産生するためにアガロースをエンド型加水分解方式により切断する。GH50ファミリーβ-アガラーゼは、エンド型またはエキソ型アガロース分解活性を通じて最終生成物としてNA2、NA4またはNA2/NA4を産生する。GH96α-アガラーゼは、アガロースを主としてA4に加水分解する。GH117 α-ネオアガロビオース加水分解酵素(α-neoagarobiose hydrolase, α-NABH)は、NA2をL-AHG及びD-ガラクトースに加水分解する。
【0005】
抗酸化剤、抗腫瘍、プレバイオティクス、抗炎症剤、抗糖尿病及び抗肥満、肌の補湿及び美白、抗齲蝕活性などのアガロース分解産物の様々な生物学的な活性は、アガロースの構成単糖類であるL-AHGの存在と関連があると推察される。しかしながら、L-AHG生物学的な活性に対する直接的な証拠を提供可能な生体内研究に利用できる十分な量のL-AHGが未だ商業的に供給されていないが故に、L-AHGの商用化を可能にする量産技術の開発が切望されているのが現状である。
【0006】
アガロースからL-AHGを産生するために開発された最近の酵素工程は、アガロースをNA2に分解した後、これをL-AHG及びD-ガラクトースに最終的に分解する目的で、GH50 β-アガラーゼとGH117 α-NABHを共同処理する方法を採択している。このとき、アガロースを糖化させてL-AHG及びD-ガラクトースを産生するためには、アガロースをNA2に効率よく加水分解するエキソ型GH50β-アガラーゼのみならず、NA2に特異的に働いて単糖類L-AHGとD-ガラクトースに加水分解するGH117 α-NABHの開発が依然として必要であるのが現状である。
【0007】
先行研究において、本発明の発明者らは、セルビブリオ属菌KY-GH-1(KCTC 13629BP)菌株の全体のゲノム配列を分析して、アガロースをL-AHG及びD-ガラクトースに加水分解するアガラーゼを暗号化させる遺伝情報を探索した。KY-GH-1菌株は、~77kb領域にわたって存在するアガラーゼ遺伝子クラスター内に3つのGH50ファミリーβ-アガラーゼ遺伝子(GH50A、GH50B及びGH50C)と2つのGH117ファミリーα-NABH遺伝子(GH117A及びGH117B)を有していることが確認された。後続研究を行うことで、本発明の発明者らは、GH50A β-アガラーゼが3つの同位酵素(isozymes)の中で最も高いエキソ型β-アガラーゼ活性を発揮することを明らかにした。しかしながら、2つのGH117 α-NABH同位酵素のうちのいずれがNA2をL-AHG及びD-ガラクトースに加水分解する活性がさらに強いかについては未だに判明されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような従来の技術の問題を解決するために案出されたものであって、本発明が解決しようとする課題は、NA2からL-AHGの産生に必要な効率よいα-NABHを開発し、これを用いてL-AHGを高い効率にて産生する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記のような課題を解決するために、本発明は、配列番号1を含むGH117A α-ネオアガロビオース加水分解酵素(GH117A α-neoagarobiose hydrolase, α-NABH)を提供する。
【0010】
前記GH117A α-ネオアガロビオース加水分解酵素(GH117A α-neoagarobiose hydrolase, α-NABH)は、寄託番号KCTC 13629BPであるセルビブリオ属菌(Cellvibrio sp.)KY-GH-1菌株起源であることが好ましい。
【0011】
前記GH117A α-ネオアガロビオース加水分解酵素(GH117A α-neoagarobiose hydrolase, α-NABH)は、GH117A α-ネオアガロビオース加水分解酵素(GH117A α-neoagarobiose hydrolase, α-NABH)遺伝子が取り込まれた大腸菌形質転換体から得られることが好ましい。
【0012】
前記GH117A α-ネオアガロビオース加水分解酵素(GH117A α-neoagarobiose hydrolase, α-NABH)遺伝子は、発現ベクター(expression vector)にクローニング(cloning)されて大腸菌に取り込まれることが好ましい。
【0013】
また、本発明は、前記GH117A α-ネオアガロビオース加水分解酵素(GH117A α-neoagarobiose hydrolase, α-NABH)をネオアガロビオース(neoagarobiose, NA2)に処理して酵素的に分解する3,6-アンヒドロ-L-ガラクトース(3,6-anhydro-L-galactose, L-AHG)の産生方法を提供する。
【0014】
前記処理は、25~45℃の温度範囲において行われることが好ましい。
【0015】
前記処理は、pH 6.0~10.0のpH範囲において行われることが好ましい。
【0016】
前記処理は、Mn2+をさらに加えて行われることが好ましい。
【0017】
前記Mn2+は、MnCl2、MnSO4またはこれらの混合物の形態であることが好ましい。
【0018】
前記処理は、トリス(2-カルボキシエチル)-ホスフィン(Tris(2-carboxyethyl)-phosphine, TCEP)をさらに加えて行われることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の新規な寒天分解細菌セルビブリオ属菌KY-GH-1由来のGH117A α-ネオアガロビオース加水分解酵素は、ネオアガロビオースを基質として温度範囲とpH範囲に大きく制限されることなくL-AHGを高い効率にて産生することができるので、発酵産業、食品産業、医薬品産業などに広範に活用することができるという抜群の効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】セルビブリオ属菌KY-GH-1のGH117A α-NABH及びGH117B β-NABHのアミノ酸配列を比較したものである。アミノ酸配列は、クラスタルX[Larkin et al. 2007]を用いて同一性が最大限に現れるように「開いた」読み枠(open reading frame)を整列しており、このとき、各アミノ酸は、単一の文字の略語にて示した。2つの配列の間の同一の残基は、配列の上端に星印にて目印を付けている。各アミノ酸残基は、クラスタルX色構成表を用いて強調している。欠損は、ダッシュにて目印を付けている。
【
図2】E. coli発現システムにおいて発現された組換えHisタグ付きGH117A及びGH117B α-NABHのSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動及び薄層クロマトグラフィー(TLC)分析によるNA2-加水分解活性を検定した結果である。(A)E. coli BL21(DE3)形質転換体を0.125mM IPTGの存在下で培養して組換えHisタグ付きGH117AもしくはGH117B α-NABH酵素タンパク質の合成を誘導した後、細胞を回収して総分画、可溶性分画及び不溶性分画に分画した。次いで、同一の量の各分画を取って電気泳動した。(B)精製された組換えGH117A α-NABH及びGH117B α-NABHのSDS-PAGE。電気泳動レーン;SM、予め染色されたタンパク質サイズマーカー;Crude GH117A α-NABH及びCrude GH117A β-NABH、それぞれGH117A α-NABH及びGH117B α-NABHを発現する大腸菌形質転換体から得た可溶性分画;精製されたGH117A α-NABH及び精製されたGH117B α-NABH、ニッケル-ニトリロ三酢酸(Ni-NTA)精製システムにより精製された組換えHisタグ付き酵素。(C-E)材料及び方法に記載されているように、それぞれの精製された組換え酵素タンパク質にて0.4%のNA2または1.0%のNAOSを処理した後、各酵素反応物をTLCにより分析した。
図2には、代表的な結果を示しており、2回の追加の実験においてもほとんど同じ結果が示された。
【
図3】標準品NA2、NA4またはNA6をGH117A α-NABH酵素処理して得た加水分解産物のTLC分析結果を示す。NA2(0.4%)、50mM Tris-HCl(pH 7.5)及び精製されたGH117A α-NABH(10μg/mL)を混合して反応させた。同一の量の各個別の酵素反応物を取ってTLCにより分析した。標準品D-ガラクトースはシグマアルドリッチ社から、かつ、標準品NA2、NA4、NA6などはカルボシンス(Carbosynth)社(イギリスのバークシャー州)から購入した。L-AHGは、NA2をGH117A β-NABH酵素にて処理して加水分解した後、これから精製して用いた。
図3には代表的な結果を示しており、2回の追加の実験においても略同じ結果が示された。
【
図4】GH117A α-NABHによる基質NA2の時間ごとの処理による加水分解生成物のTLC及び液体クロマトグラフ質量分析法(LC-MS/MS)による分析結果を示す。(A)NA2(0.4%)と50mM Tris-HCl(pH 7.5)において精製されたGH117A α-NABH(10μg/mL)とともに混合した後、指定された時間の間に35℃において反応させた。次いで、同一の量の各酵素反応物をTLCにより分析した。(B)各酵素反応物のLC-MS/MSによる分析は、材料及び方法の欄において解説された通りに行った。
図4には代表的な結果を示しており、2回の追加の実験においても略同じ結果が示された。
【
図5】セルビブリオ属菌KY-GH-1GH117A α-NABHのアミノ酸配列とGenBankデータベースにおいて確保した9個のGH117ファミリーα-NABHの多重アミノ酸配列を比較したものである。(A)アミノ酸は、クラスタルXを用いて最大限の同一性が現れるように「開いた」読み枠(open reading frame)を整列しており、このとき、各アミノ酸を単一の文字の略語にて示した[Larkin et al. 2007]。すべての配列の間の同一の残基は、配列の上端に星印にて目印を付けている。保存的な置換はコロンにて、反保存的な置換は点にて目印をつけており、各残基はクラスタルX色構成表にて強調した。欠損はダッシュにて目印を付けている。(B)セルビブリオ属菌KY-GH-1GH117A α-NABHと9個の関連するGH117A α-NABHとの間の系統学的な関係は、アミノ酸配列の類似性に基づいている。根付き系統樹は、非加重結合法(Unweighted Pair Group Method with Arithmetic mean,UPGMA)[Sneath and Sokal 1973]により構成した。ノードの数字は、ブートストラップの発生レベルである。50%以上の値のみを示した。目盛り付き棒は、50個のヌクレオチド当たりに1つの置換を示す。
【
図6】精製されたGH117A α-NABHの分子体クロマトグラフィー分析結果を示す。(A)精製されたGH117A α-NABHの分子体クロマトグラフィープロファイルは、150mM NaClを含有する40mM Tris-HCl(pH 8.0)により平衡化されたSuperdex(商標名)200 Increase 10/300 GLカラムを用いて行った。このとき、500μg GH117A α-NABHを含有するタンパク質溶液をカラムに注入し、カラムは、0.3mL/minの流速にて4℃において溶出し、タンパク質溶出プロファイルは、280nmにおける吸光度を測定してモニターリングした。(B)精製されたGH117A α-NABHの分子量の測定のためには、同じカラム溶出条件下で次のような分子量サイズマーカータンパク質を用いた:位置a、フェリチン(440kDa);位置b、アルドラーゼ(158kDa);位置c、卵アルブミン(44kDa);位置d、リボヌクレアーゼA(13.7kDa)。GH117A α-NABHの溶出ピーク位置は矢印にて目印を付けている。
【
図7】GH117A α-NABHの生化学的な特性を示す。(A,B)酵素活性に対する温度及びpHの影響は、0.4%のNA2及び10μg/mLの精製されたGH117A α-NABHを用いて測定した。各値は、平均±SEM(n=3、各実験当たりに3回繰り返す)にて示した。(C,D)精製されたGH117A α-NABHの温度及びpH安定性は、個別のpHまたは温度において酵素を4時間かけて処理した後に調べた。各値は、平均±SEM(n=3、各実験当たりに3回繰り返す)にて示した。(E)精製されたGH117A α-NABHのKm及びVmax値に対するラインウィーバー・バークプロットは、示された濃度の酵素及び基質NA2を用いて調べた。
図7には代表的な結果を示しており、2回の追加の実験においても略同じ結果が示された。
【
図8】GH117A α-NABH活性に対する金属イオン、還元剤及びキレート剤の効果を示す。GH117A α-NABH酵素活性に及ぼす金属イオン、SH還元剤TCEP(トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン)及びキレーターEDTA(エチレンジアミン四酢酸)の5mM濃度における個別の効果(A)及び5mM MnSO
4/5mM TCEPの共同処理効果または5mM MnSO
4/10mM TCEPの共同処理効果を測定するために、精製された酵素(10μg/mL)を20mM Tris-HCl緩衝液(pH 7.5)、0.4%のNA2と混合した後、35℃において30分間処理した。このとき、色々なイオンと試薬を処理せずに測定した酵素活性を100%と定義した。各値は、平均±SD(n=3、各実験当たりに3回繰り返して測定)にて示した。*P<0.05及び**P<0.01。
【
図9】GH117A α-NABH酵素により触媒されたNA2のL-AHG/D-ガラクトースへの完全な加水分解及び加水分解生成物からのSephadex(商標名)G-10カラムクロマトグラフィーを用いたL-AHGの精製を示す。(A)NA2(2.0~5.0%)を最適な反応条件(5mM MnSO
4及び10mM TCEP、35℃、pH 7.5)下でGH117A α-NABH(40μg/ml)にて14時間かけて処理した後、NA2の加水分解によるL-AHG及びD-ガラクトースへの転換を確認するためにTLC分析を行った。(B)GH117A α-NABH酵素により触媒されたNA2の加水分解生成物からL-AHGを回収するために、4.0%のNA2(10ml)をGH117A α-NABH酵素(20μg/ml)にて最適な条件下で14時間かけて処理した後、凍結乾燥させた。凍結乾燥された試料を3次蒸留水に溶かした後、これをSephadex(商標名)G-10カラムを用いて分子体クロマトグラフィーにより分画した。各分画中のL-AHGの存否は、TLCにより分析した。
図9には代表的な結果を示しており、2回の追加の実験においても略同じ結果が示された。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について詳しく説明する。
【0022】
本発明においては、E. coli発現システムとpET-30aベクタープラスミドを用いて得た組換えタンパク質GH117A α-NABHとGH117B α-NABHの酵素活性を比較した。その結果として、GH117B α-NABHに比べてGH117A α-NABHの方が二糖類であるNA2を単糖類であるL-AHG及びD-ガラクトースに加水分解する酵素活性が遥かに高いことを確認した。また、最適な反応条件下でNA2基質をL-AHGとD-ガラクトース生成物に転換するGH117A α-NABH酵素(配列番号1の塩基配列または配列番号2のアミノ酸配列参照)の効率性を調べた。
【0023】
したがって、本発明は、配列番号1を含むGH117A α-ネオアガロビオース加水分解酵素(GH117A α-neoagarobiose hydrolase, α-NABH)を提供する。
【0024】
前記GH117A α-ネオアガロビオース加水分解酵素(GH117A α-neoagarobiose hydrolase, α-NABH)は、寄託番号KCTC 13629BPであるセルビブリオ属菌(Cellvibrio sp.)KY-GH-1菌株起源であることが好ましい。
【0025】
前記GH117A α-ネオアガロビオース加水分解酵素(GH117A α-neoagarobiose hydrolase, α-NABH)は、GH117A α-ネオアガロビオース加水分解酵素(GH117A α-neoagarobiose hydrolase, α-NABH)遺伝子が取り込まれた大腸菌形質転換体から得られることが好ましい。
【0026】
前記GH117A α-ネオアガロビオース加水分解酵素(GH117A α-neoagarobiose hydrolase, α-NABH)遺伝子は、発現ベクター(expression vector)にクローニング(cloning)されて大腸菌に取り込まれることが好ましい。
【0027】
また、本発明は、前記GH117A α-ネオアガロビオース加水分解酵素(GH117A α-neoagarobiose hydrolase, α-NABH)をネオアガロビオース(neoagarobiose, NA2)に処理して酵素的に分解する3,6-アンヒドロ-L-ガラクトース(3,6-anhydro-L-galactose, L-AHG)の産生方法を提供する。
【0028】
前記処理は、25~45℃の温度範囲において行われることが好ましい。
【0029】
前記処理は、pH 6.0~10.0のpH範囲において行われることが好ましい。
【0030】
前記処理は、Mn2+をさらに加えて行われることが好ましい。
【0031】
前記Mn2+は、MnCl2、MnSO4またはこれらの混合物の形態であることが好ましい。前記MnCl2、MnSO4またはこれらの混合物の濃度は、1~10mM、好ましくは、3~8mM、より好ましくは、4~6mM、最も好ましくは、5mMであってもよい。
【0032】
前記処理は、トリス(2-カルボキシエチル)-ホスフィン(Tris(2-carboxyethyl)-phosphine, TCEP)をさらに加えて行われることが好ましい。前記TCEPの濃度は、1~10mM、好ましくは、3~8mM、より好ましくは、4~6mM、最も好ましくは、5mMであってもよい。
【0033】
以下では、具体的な実施例を挙げて本発明についてさらに詳しく説明する。下記の実施例は、本発明の好適な一つの具体例を記載したものであり、下記の実施例に記載されている事項によって本発明の権利範囲が限定されて解釈されるものではないということは明らかである。
【実施例】
【0034】
1.材料及び方法
1.1.材料
制限酵素(NedI及びXhoI)及びT4リガーゼはロシュ(Roche)社(スイスバーゼル)から購入した。ナフトレソルシノール、D-ガラクトース、イソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシド(IPTG)、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)、3,5-ジニトロサリチル酸(DNS)、クマシーブリリアントブルー(CBB)R-250、カナマイシンはシグマアルドリッチ社(アメリカ合衆国ミズーリ州セントルイス)から購入した。Micro BCA(商標名)キットはピアース(Pierce社)(アメリカ合衆国イリノイ州ロックフォード)から購入し、蛍光表示器F254によりコーティングされたシリカゲル60アルミニウム薄層クロマトグラフィー(TLC)プレートはメルク(Merck)社(ドイツのダルムシュタット)から購入した。PageRuler(商標名)Pre-stained Protein Ladder及びNi-NTA resinはサーモフィッシャーサイエンティフィック社(アメリカ合衆国イリノイ州ロックフォード)から購入した。C-末端6xHisタグ付きタンパク質の発現のためのベクターpET-30aはEMDミリポア(Millipore)社(アメリカ合衆国マサチューセッツ州ビレリカ)から購入し、E. coli BL21(DE3)はノバゲン(Novagen)社(アメリカ合衆国ウィスコンシン州マディソン)から購入した。Bio-Gel P-2はバイオ・ラッド・ラボラトリーズ社(アメリカ合衆国カリフォルニア州ハーキュリーズ)から購入し、Sephadex(商標名)G-10はGEヘルスケアバイオサイエンスAB(スウェーデンウプサラ)から購入した。NA2~NA18を含むネオアガロオリゴ糖(NAOS)混合物はシンラ(新羅)大学のイ・サンヒョン博士から提供された[Lee et al., 2008]。先行研究において先に報告した通り、ネオアガロビオース(neoagarobiose, NA2)は、組換えGH50A β-アガラーゼにて処理して生成されたアガロース加水分解物から精製した[Kwon et al., 2020]。すなわち、加水分解物を凍結乾燥させた後、3次蒸留水に溶かし、Bio-Gel P-2カラムを用いて分子体クロマトグラフィーを行った。カラムを3次蒸留水(DI)で溶出させた後、各分画をTLCにより分析してNA2のみを含有する分画のみを回収し、これを凍結乾燥させてNA2粉末を得た。標準品NA2、NA4及びNA6は、カルボシンス(Carbosynth)社(イギリスのバークシャー州)から購入した使用した。
【0035】
1.2.E. coli発現システムを用いたGH117A及びGH117B α-NABH遺伝子のクローニング及び発現
セルビブリオ属菌KY-GH-1の2種類のGH117ファミリーα-NABH遺伝子は、NdeI-順方向プライマー(GH117Aの場合、5’-CGCATATGGGTGATCTTCCAGAAAA-3’(配列番号3);GH117Bの場合、5’-GACAT-ATGAGCGACCAAGATTCTG-3’(配列番号4))及びXhoI-逆方向プライマー(GH1117Aの場合、5’-AACTCGAGGGAT-GCTACATTCTGAAAGG-3’(配列番号5);GH117Bの場合、5’-GGCTCGAGTGGATTGGATTTTCTAGCTT-3’(配列番号6))を用いてPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)方法により遺伝体DNAから増幅させた。増幅されたPCR産物を精製し、NedI/XhoIにて処理した後、T4リガーゼを用いてpET-30a発現ベクターに連結した。組換えpET-30aプラスミドを大腸菌BL21(DE3)に形質転換した。このとき、GH117A α-NABH遺伝子またはGH117B α-NABH遺伝子を含有する形質転換体は、LB/カナマイシン(50μg/mL)寒天プレートにおいて30℃において一晩中培養した後に選び抜いた。組換えGH117A α-NABHもしくはGH117B α-NABHの発現の誘導は、先に説明された通りに行った[Studier et al., 1990]。すなわち、各形質転換体は、25℃においてLB/カナマイシン(50μg/mL)培地において培養した後、OD600が0.5~0.6に達したときに0.15mM IPTG(イソプロピル-β-チオガラクトピラノシド)を加え、これを25℃において3時間かけてさらに培養して組換えGH117 α-NABHタンパク質の合成を誘導した。
【0036】
1.3.シーケンス分析及び系統樹の構成
9個のGH117ファミリーα-NABHのアミノ酸配列は、NCBIデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov)を用いたBLAST検索により獲得した。個別のオープンリーディングフレームのアミノ酸配列はクラスタルX[Larkin et al., 2007]。保存されたアミノ酸残基は、クラスタルX色構成表を用いて強調表示をした。UPGMAを用いてアミノ酸配列の類似性に基づいて個別のGH117ファミリー構成員を含む根付き系統樹を構成した[Sneath and Sokal, 1973]。
【0037】
1.4.細胞溶解物、タンパク質の定量及びドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)
形質転換体により生成された組換え酵素タンパク質を分離しかつ確認するために、細胞を40mM Tris-HCl緩衝液(pH 8.0)に懸濁させ、10秒間20回の超音波処理により破砕し、4℃において30分間抽出した後、総分画、可溶性分画及び不溶性分画の3つの分画に分けた[Jun et al., 1996]。細胞溶解物のタンパク質の定量は、Micro BCA(商標名)キット(ピアース(Pierces)社製、アメリカ合衆国イリノイ州ロックフォード)を用いて行った。同一の量の細胞溶解物(10μg)をラエムリ方法[Laemmli, 1970]に準拠して8%のSDS-ポリアクリルアミドゲルにおいて電気泳動した。電気泳動の後にゲルをCBB R-250(クマシーブリリアントブルーR-250)により染色してタンパク質バンドを検出した。電気泳動ゲル上において特定の組換えタンパク質の濃度を定量するために、ゲル上の組換えタンパク質バンドの密度を測定した後、その測定された単位を、同一のゲル上において検出される連続して希釈されたウシ血清アルブミン(BSA)のバンドの密度測定単位として確保した標準曲線と比較した。このとき、ゲル上のタンパク質バンドの密度の測定は、ImageQuant(商標名)TLソフトウェア(アマシャム(Amersham)社製、アメリカ合衆国イリノイ州アーリントンハイツ)を用いて行った[Syrovy and Hodny, 1991]。
【0038】
1.5.組換えHisタグ付きα-NABHの精製
組換えHisタグ付きGH117A α-NABHまたはHisタグ付きGH117B α-NABHを精製するために、まず、可溶性の形態の組換えHisタグ付きGH117A α-NABHまたは組換えHisタグ付きGH117B α-NABHを含有するE. coli形質転換体の細胞溶解物の可溶性分画を確保した。これらの可溶性分画に含有されている組換え酵素タンパク質は、Ni-NTAレジンを用いた固定化金属イオン親和性のクロマトグラフィー方法により精製した[Spriestersbach et al., 2015]。
【0039】
1.6.分子体クロマトグラフィーによるGH117A α-NABHの分子量の測定
分子体クロマトグラフィーは、40mM Tris-HCl(pH 8.0)及び150mM NaClにより平衡化させたSuperdex(商標名)200 Increase 10/300 GLカラム(GEヘルスケア社製)を用いて行った。精製されたGH117A α-NABH(0.5mg/0.5mL)をカラムに注入し、分子体クロマトグラフィーの条件下で4℃において0.3mL/minの流速にて行われ、タンパク質の溶出は、280nmの波長において測定した。カラムは、フェリチン(440kDa)、アルドラーゼ(158kDa)、卵アルブミン(44kDa)及びリボヌクレアーゼA(13.7kDa)のようなサイズマーカーを用いてタンパク質の分子量に比べての保持容量の標準曲線を確保し、これを基準として精製されたGH117A α-NABH分子量を測定した。
【0040】
1.7.GH117 α-NABHの活性分析
GH117 α-NABHの活性は、DNS方法[Miller, 1959]を用いてNA2から放出された還元糖を検出することにより測定した。GH117 α-NABHの活性を測定するために、精製された酵素溶液(~2μg/100μl)を20mM Tris-HCl緩衝液(pH 7.5)に溶解された同じ体積の0.8%のNA2と混合した。35℃において30分間反応させた後、反応混合物において形成された還元糖をDNS試薬を用いて発色させて測定した。酵素活性の1単位は、1分当たりに1μmolのD-ガラクトースに相当する還元力を生成する酵素の量と定義した。GH117A α-NABHの酵素反応速度定数は、NA2の基質溶液(1~10mg/ml, 20mM Tris-HCl, pH 7.5)に定められた量の酵素を加えて測定した。Km及びVmax値は、GraphPad Prism 8統計パッケージ(グラフパッドソフトウェア(GraphPad Software)社製、アメリカ合衆国)を用いてラインウィーバー・バーク方程式において計算した。
【0041】
1.8.薄層クロマトグラフィー(TLC)
【0042】
GH117 α-NABHを処理したNA2加水分解物のTLC分析は、SilicaGel 60アルミニウムプレートにおいて行われ、n-ブタノール-エタノール-H2O[3:2:2(v/v)]溶媒を用いて展開した。TLC上の糖物質の確認のために、エタノールに0.2%(w/v)のナフトレソルシノール(シグマアルドリッチ社製)と10%(v/v)のH2SO4を加えた発色溶液をTLC板に吹き付けた後、80℃において加熱して検出した。
【0043】
1.9.サイズ排除カラムクロマトグラフィーによるL-AHGの精製
NA2加水分解産物からL-AHGを精製するために、NA2をGH117A α-NABHにより最適な反応条件(5mM MnSO4, 10mM TCEP 35℃, pH 7.5)下で14時間かけて処理した後、酵素反応物を凍結乾燥させた。凍結乾燥された試料を3次蒸留水(DI)に溶解し、Sephadex(商標名)G-10カラム(I.D.1.3x90cm)を用いて分子体クロマトグラフィーを行った。カラムを蒸留水(DI)に溶出しながら、2mLにて各分画を収集した。L-AHGを含有する分画をTLCにより測定して確認して回収し、凍結乾燥させた。
【0044】
1.10.タンダム質量分析法(液体クロマトグラフ質量分析法(LC-MS/MS))を用いた液体クロマトグラフィーによる酵素反応生成物の確認
LC-MS/MS分析は、超高速高分離液体クロマトグラフ(ACQUITY UPLC H-Class)コアシステム(ウォーターズ社製、アメリカ合衆国マサチューセッツ州ミルフォード)付きエレクトロスプレーイオン化(ESI:Electrospray ionization)イオンソースと接続したXevo TQ-Sマイクロ質量分析計を用いて行った[Zeng et al., 2016; Koti et al., 2013]。試料の溶出は、溶媒流速200μL/min及び40℃に保持したWaters Acquity UPLC Spherisorb aminoカラム(2mm×100mm、3μm粒子径)を用いて行った。LCシステムは、(A)0.1%のホルム酸水溶液と(B)0.1%のアセトニトリルから構成した。基質NA2の酵素加水分解物においてD-ガラクトースとL-AHGを確認するために、まず、クロマトグラフィーは、A:Bを95:5の割合にて混合した溶媒から開始して3分間行い、A:Bの勾配を漸進的に変更してクロマトグラフィーの開始後の13分には75:25の割合になるようにし、15分に至るまではA:Bの75:25の割合を保持した。次いで、A:Bの割合がクロマトグラフィーの開始後の16分には再び初期状態である95:5に変更されるようにしてクロマトグラフィーの開始後の30分でクロマトグラフィーを止めるまでこの割合を保持した。注入量は5μLであり、サンプルマネージャーの温度は5℃に設定した。質量分析計検出器の条件は、次のように設定した:毛細管電圧、2.0kV;コーン電圧、20V;ソース温度、150℃;脱溶媒温度、250℃;脱溶媒ガスの流れ、550m/h;コーンガスの流れ、5L/h;質量範囲、100~800。
【0045】
1.11.統計分析
別に断りのない限り、データは、最小限に3回の独立した実験を用いて示した。すべてのデータは、平均±標準偏差(SD、各グループn≦3に対して)にて書き表わした。統計分析は、スチューデントのt検定を用いて2つのグループの間の差と一元分散分析の有意性を評価した後、ダネットの多重比較事後テストを用いて3つ以上のグループを比較した。P値<0.05は、統計的な有意性を示す。統計分析は、SPSS Statisticsバージョン23(IBM社製、アメリカ合衆国ニューヨーク州アーモンク)を用いて行った。
【0046】
2.結果
2.1.セルビブリオ属菌KY-GH-1由来GH117A α-NABHs及びGH117B α-NABH酵素のE. coli及びpET-30aベクターシステムを用いたC-末端Hisタグ付き組換えタンパク質としての発現
本発明の発明者らは、先行研究においてセルビブリオ属菌KY-GH-1の全体のゲノム配列の分析を行うことで、2つのGH117 α-NABH遺伝子(α-CvNabh117A及びα-CvNabh117B)の存在を確認した。
図1に示されているように、α-CvNabh117Aは、40.9kDaタンパク質(GH117A α-NABH)を構成する364個のアミノ酸を暗号化させる「開いた」読み枠(open reading frame;ORF)を有しているのに対し、α-CvNabh117Bは、44.2kDaタンパク質(GH117B α-NABH)を構成する392個のアミノ酸を暗号化させる「開いた」読み枠(ORF)を有していることが示された。このとき、α-CvNabh117AのORF塩基配列は、α-CvNabh117Bのものと53%の類似性を示し、アミノ酸配列は、相互間に35%の類似性を示した。このことは、セルビブリオ属菌KY-GH-1菌株が有している2つのGH117 α-NABHsの間には、相同性が高くないことを示す。一方、GH117A α-NABHとGH117B α-NABH酵素タンパク質の両方には、N-末端信号ペプチド配列が存在しないため、このことは、2つの酵素が両方ともセルビブリオ属菌KY-GH-1菌株の細胞の内部、すなわち、細胞質において機能することができることを示唆する。
【0047】
本発明においては、このようなデータに基づいて2つの酵素を大腸菌発現システムを用いて組換えHisタグ付き酵素タンパク質として過発現させかつ精製し、これらの精製された組換えGH117A α-NABHまたは組換えGH117B α-NABHのうちのどちらがNA2に対してさらに高い酵素活性を有するか、かつ、さらに選択的な酵素活性を有するかを調べた。組換えGH117A α-NABHまたはGH117B α-NABHを発現する各E. coli形質転換体の酵素タンパク質の発現をIPTG処理により誘導した後、細胞を回収し、超音波破砕して総分画、可溶性分画及び不溶性分画を得た。各分画の同一の量を取って8%のSDSポリアクリルアミドゲルにおいて電気泳動した後、ゲルをCBBにより染色してタンパク質バンドを確認することにより各組換え酵素の可溶性/不溶性の割合を調べた。
図2のaに示されているように、GH117A α-NABH及びGH117B α-NABHは、両方とも形質転換細胞の可溶性分画において優勢的に検出され、不溶性封入体(inclusion body)分画において検出される各組換え酵素の量は有意ではなかった。Ni-NTA精製システムを用いてHisタグ付きGH117A及びGH117B酵素を細胞可溶性分画において精製したとき、8%のSDS-PAGEにおいて単一のタンパク質バンドとして検出された(
図2のb)。精製された組換えGH117A及びGH117B酵素タンパク質の分子量(MW)を電気泳動ゲル上のサイズマーカーと比較したとき、組換えGH117A酵素タンパク質は~39.0kDa、そしてGH117B酵素タンパク質は~44.8kDaであることが確認された。
【0048】
GH117A α-NABHとGH117B α-NABHのNA2加水分解活性をTLCにより調べたとき、GH117A α-NABHは、NA2をL-AHGとD-ガラクトースに完全に加水分解するのに対し、GH117B α-NABHは、NA2の加水分解に失敗した(
図2のc)。GH117A α-NABHとGH117B α-NABHの基質特異性の差をさらに調べるために、基質(NA2~NA18のNAOS混合物)を各酵素により時間ごとに処理しながら、反応時間に伴う分解生成物をTLCにより分析した。その結果、NA2~NA18のNAOS混合物のうち、NA2の場合にのみGH117A α-NABH処理により加水分解されてL-AHGとD-ガラクトースに転換され、NA2加水分解は、酵素反応が開始される時点から始まってL-AHGの生成量が60分の反応期間の間に増え続けた(
図2のd)。しかしながら、同じ条件下でNA4~NA18は、GH117A α-NABHにより分解されなかった。このことは、NAOS(NA2~NA18)のうち、NA2がGH117A α-NABH加水分解作用に特化した唯一の基質であることを示す。一方、GH117B α-NABHは、NAOS(NA2~NA18)混合物のうちのいずれも加水分解することができないことが示された(
図2のe)。NA2がGH117A α-NABH加水分解作用の唯一の基質であることを確認するために、標準品NA2、NA4またはNA6をそれぞれ酵素にて処理し、個別の加水分解物をTLCにより分析した。その結果、NA2は、L-AHGとD-ガラクトースに完全に分解されたが、NA4とNA6は分解されなかったことが示され、NA2がGH117A α-NABH触媒作用の唯一の基質であることを確定した(
図3)。
【0049】
また、TLC分析の結果、0.4%のNA2を精製された組換えGH117 α-NABH(10μg/ml)をもって50mM Tris-HCl緩衝液(pH 7.5)、35℃において処理したとき、NA2の加水分解が反応時間に正比例して増加し、反応時間60分には単糖類に完全に転換されることが確認された(
図4のa)。併せて、LC-MS/MS分析を行うことで、酵素の加水分解作用により時間依存的にNA2がL-AHGとD-ガラクトースに転換されることをさらに証明した(
図4のb)。これらの結果は、KY-GH-1菌株においてGH117A α-NABHがアガロース糖化の最終の酵素段階であるNA2のL-AHG及びD-ガラクトースへの加水分解に欠かせない必須的な酵素であることを裏付ける。
【0050】
2.2.GH117A α-NABHのアミノ酸配列と他の菌株由来の関連酵素のアミノ酸配列との比較
GH117A α-NABHのアミノ酸配列をクラスタルXプログラムを用いて他の寒天分解細菌由来のGH117A α-NABHのアミノ酸配列と比較分析した[Larkin et al., 2007]。
図5のaに示されているように、セルビブリオ属菌KY-GH-1GH117A α-NABH(GenBank受託番号WP_151030319.1)は、セルビブリオ属菌KY-YJ-3GH117A α-NABH(GenBank受託番号WP_151057276.1)と97.5%の類似性を示した。また、KY-GH-1GH117A α-NABHは、セルビブリオ属菌パールリバー(pealriver)(GenBank受託番号WP_049629412.1)[Xie et al., 2017]、セルビブリオ属菌BR(GenBank受託番号WP_007640738.1)及びセルビブリオ属菌OA-2007(GenBank受託番号WP_062065015.1)[Syazni et al., 2015]と97.3%、97.3%、96.7%の類似性を示した。このことは、セルビブリオ属菌GH117A α-NABHの間には高いレベルの相同性があることを示す。
【0051】
一方、GH117A α-NABHのアミノ酸配列は、アグロバクテリウム・ハリオティス(Agrobacterium haliotis)(GenBank受託番号WP_096085215.1)、ギルビマリヌス・ポリサッカロリティカス(Gilvimarinus polysaccharolyticus)(GenBank受託番号WP_049720980.1)、ギルビマリヌス・チネンシス(Gilvimarinus chinensis)(GenBank受託番号WP_020208680.1)、ビブリオ・フルビアリス(Vibrio fluvialis)(GenBank受託番号WP_171934150.1)及びビブリオ属菌EJY3(GenBank受託番号014232194.1)のGH117A α-NABHのアミノ酸配列とは、それぞれ77.5%、77.4%、77.2%、76.8%及び76.5%の類似性を示した。
【0052】
個別のGH117A α-NABHの根付きの系統樹において、セルビブリオ属菌KY-GH-1GH117A α-NABHは、海洋性アグロバクテリウム・ハリオティス(Agrobacterium haliotis)、ギルビマリヌス・ポリサッカロリティカス(Gilvimarinus polysaccharolyticus)、ギルビマリヌス・チネンシス(Gilvimarinus chinensis)、ビブリオ・フルビアリス(Vibrio fluvialis)及びビブリオ属菌EJY3由来のGH117A α-NABHに比べて非海洋性環境下で分離されたセルビブリオ属菌KY-YJ-3、セルビブリオ属菌パールリバー、セルビブリオ属菌BR及びセルビブリオ属菌OA-2007のGH117A α-NABHsとさらに密接にグループ化された(
図5のb)。
【0053】
GH117A α-NABHsの同族体(homologs)が高いレベルのアミノ酸配列の相同性にてすべての寒天分解細菌に存在するということを示す現在の分析結果は、NA2基質のα-1,3-結合を加水分解して単糖類であるL-AHG及びD-ガラクトースを産生する酵素であるGH117A β-NABHが寒天分解細菌が有しているアガロースの糖化工程において欠かせない必須的な構成酵素であることを示唆する。
【0054】
2.3.GH117A α-NABHの酵素学的特性
いくつかのGH117ファミリーα-ネオアガロオリゴ糖加水分解酵素(α-NAOSH)とα-NABHが細胞質の内部に存在せよ、細胞の外部に存在せよ、いずれにせよ、二量体の形態で存在しながら酵素機能を行うことが報告された。この研究において、E. coli発現システムを用いて産生した組換えGH117A α-NABHの場合であっても、二量体の形態でNA2をL-AHGとD-ガラクトースに加水分解するか否かを確認するために、精製された組換えGH117A α-NABHの分子量をSuperdex(商標名)200 Increase 10/300 GLカラムを用いた分子体クロマトグラフィーにより測定した。
【0055】
その結果、測定されたGH117A α-NABHの分子量は、92.1kDaであることが示された(
図6)。364個のアミノ酸から構成されたGH117A α-NABHの計算された分子量は40.9kDaであり、これは、SDS-PAGE分析により推定されるGH117A α-NABH分子量(~39.0kDa)と一致するため、分子体クロマトグラフィーデータは、精製されたGH117A α-NABHが二量体として存在することを示す。
【0056】
NA2からL-AHGを量産するに当たって、組換えGH117A α-NABHの有効性をきわめるために、酵素特性を調べた。GH117A α-NABH酵素活性に及ぼす温度の影響を調べたとき、35℃において最も高い活性を示した(
図7のa)。25~45℃の範囲を外れた温度において最大の活性度の50%未満が保持された。酵素は、6.0~10.0(最適なpH 7.5)のかなり広いpH範囲において活性を示した(
図7のb)。酵素は、35℃まで安定的であった。しかしながら、40℃において4時間かけて処理した後、最大の活性の40%しか保持されず、45℃以上の温度において4時間かけて処理した後には、ほとんどの酵素活性を失った(
図7のc)。GH117A α-NABHは、7.0~7.5のpH範囲において安定的であったものの、6.0未満の酸性pHにおいては速やかに不活性となり、pH 8.0~10.0においては4時間かけての処理の後に50~60%の活性を保持した。このような観察結果は、GH117A α-NABHが酸性pHよりもアルカリ性pHにおいてさらに安定していることを示す(
図7のd)。基質NA2に対するGH117A α-NABHの酵素反応速度定数であるKm、Vmax、Kcat及びKcat/Km値は、それぞれ16.0mM、20.8U/mg、14.2s
-1及び8.9×10
2s
-1・M
-1であった(
図7のe)。
【0057】
GH117A α-NABH活性は、5mM MnCl
2、5mM MnSO
4及び5mM TCEPが存在する場合にそれぞれ1.4倍、1.5倍及び1.2倍向上したが、5mM EDTAの存在下では酵素活性の85%を抑制した(
図8のa)。酵素活性に対するMn
2+及びTCEPの強化効果は、容量依存的な方式により、5mM MnSO
4及び10mM TCEPは、酵素活性をそれぞれ最大のレベルである1.5倍及び1.7倍に増加させた(
図8のb)。また、5mM MnSO
4と10mM TCEPが同時に存在する場合には、酵素活性が約2.4倍まで格段に上昇してGH117A α-NABH活性に対するMn
2+及びTCEPの相乗効果を確認した。
【0058】
このような結果は、GH117A α-NABHが適切な酵素活性を示すためにマンガンイオンを必要とする可能性があるが、マンガンイオンとの相互作用が5mM EDTAのキレート作用に抵抗できるほどには強くない可能性があることを示唆する。
【0059】
2.4.最適な条件下でGH117A α-NABHによるNA2処理により産生可能なL-AHGの歩留まり
GH117A α-NABHがNA2からのL-AHGの産生に効率よい酵素であるか否かを調べるために、GH117A α-NABHがL-AHGとD-ガラクトースに完全に加水分解し得るNA2の最大の濃度を調べた。様々な濃度(2.0%、3.0%、4.0%及び5.0%)のNA2を最適な反応条件(5mM MnSO
4及び10mM TCEP、20mM Tris-HCl、pH 7.5、35℃)下でGH117A α-NABH(40μg/ml)と14時間かけて反応させた後、各加水分解産物をTLCにより分析した。その結果、酵素の触媒作用によるNA2基質のL-AHG及びD-ガラクトースへの完全な加水分解は、2.0~5.0%の濃度のNA2においていずれも観察された(
図9のa)。しかしながら、6.0%以上のNA2濃度においては、不完全な加水分解が観察された(データ省略)。
【0060】
一方、5%のNA2(8ml)をGH117A α-NABH(40μg/mL)にて最適な反応条件下で14時間かけて処理した後、酵素反応物を凍結乾燥させた。乾燥された試料を3次蒸留水に溶解し、Sephadex(商標名)G-10カラムを用いた分子体クロマトグラフィーにより分画した。各分画のTLC分析を行った結果、30~31分画においてはD-ガラクトースが、33~39分画においてはL-AHGが確認された(
図9のb)。分画33~39を回収し、凍結乾燥させて粉末の状態のL-AHGを得た。酵素処理により確保した400mgのNA2の加水分解物を2回にわたってSephadex(商標名)G-10カラムクロマトグラフィーにより分画した結果、理論的な最大の歩留まりの~92%に相当する総~192mgのL-AHGを回収した。
【0061】
3.議論
本発明においては、淡水由来の寒天分解細菌であるセルビブリオ属菌KY-GH-1由来のGH117A β-NABH酵素をE. coli発現システムを用いて可溶性のHisタグ付き組換えタンパク質として産生し、産生された組換えGH117A β-NABH酵素の基質特異性を調べた結果として、二糖類であるNA2のα-1,3-結合は、加水分解して単糖類であるL-AHGとD-ガラクトースに転換するものの、NA4~NA18などの様々なDPsのNAOSが有しているα-1,3-結合に対しては、加水分解能を全く発揮することができないことを確認した。また、5.0%のNA2基質を組換えGH117A β-NABH酵素にて最適な反応条件下で処理して完全にL-AHGとD-ガラクトースに加水分解した後、加水分解物からL-AHGをSephadex(商標名)G-10カラムを用いた分子体クロマトグラフィーにより精製したとき、400mgのNA2から産生可能なL-AHGの理論上の最大の歩留まりの~92%に相当する~192mgのL-AHGを回収した。
【0062】
先行研究において、本発明の発明者らは、寒天分解細菌であるセルビブリオ属菌KY-GH-1菌株の全体の遺伝体の塩基配列を分析した結果、GH117A α-NABH(364個のアミノ酸、40.9kDa)及びGH117B α-NABH(392個のアミノ酸、44.2kDa)を暗号化させる2つの暫定的なGH117 α-NABH遺伝子(α-CvNabh117A及びα-CvNabh117B)を含有していると推察したが、GH117 α-NABH酵素は、二糖類NA2を単糖類であるL-AHGとD-ガラクトースに加水分解する機能を用いて、アガロースの酵素的な糖化の最後の段階に寄与することが知られている。たとえ2種類の組換えHisタグ付きGH117 α-NABH酵素が両方ともE. coli形質転換体内において可溶性の形態で発現されたとはいえ、GH117A α-NABHのみがNA2を単糖類に加水分解する機能を示している。このことは、GH117A α-NABHがセルビブリオ属菌KY-GH-1菌株におけるアガロース分解の最終の酵素段階に欠かせない必須的な酵素であることを示す。色々な研究文献において、α-NABHを含むGH117ファミリーα-NAOSHは、NA2を基質として認識し、これをL-AHG及びD-ガラクトースに加水分解することが報告されているが、このようなα-NAOSHは、NA2基質にのみ特異的なものではなく、NA4にも働いてL-AHGの生成とともにアガロトリオース(A3)を生成して残存させ、かつ、NA6にも働いてL-AHGの生成とともにアガロペンタオース(A5)を生成して残存させることが報告されている。特に、最近に研究されたストレプトミセス・コエリカラーA3のα-NAOSHは、2~14の様々な重合度(DPs)のNAOSに働いてこれらの非還元性の末端において最初のα-1,3-グリコシド結合のみを加水分解することが報告されている。本発明において、組換えGH117A α-NABH酵素タンパク質をE. coli発現システムにより産生しかつ精製して確保した後、様々なDPsのNA2~NA18を含有するNAOS混合物を基質として用いてその基質特異性を調べた結果、NA2は、L-AHGとD-ガラクトースに加水分解されるのに対し、残りのNA4~NA18などは、GH117A α-NABHの酵素活性により全く影響を受けないことが確認された。のみならず、標準品NA2、NA4またはNA6を用いたGH117A α-NABHの基質特異性に関する追加の調査においても、NA2がGH117A α-NABの唯一の基質であり、L-AHG及びD-ガラクトースに完全に加水分解されることが判明された。このような結果は、GH117A α-NABHがNA2の加水分解に特化した酵素であり、このようなNA2基質特異性を有している側面からみて、既存に報告されている酵素とははっきりと区別されるということを示す。一方、GH117B α-NABHのアミノ酸配列がGH117A α-NABHのアミノ酸配列と35%の類似性を共有するものの、NA2~NA18のうちのいずれも加水分解することができず、GH117B α-NABHの酵素機能がNAOS(NA2~NA18)からのL-AHGの産生には寄与しないことを確認した。セルビブリオ属菌KY-GH-1菌株におけるGH117B α-NABHの役割は、未だに判明されておらず、未判明のままで残っている。
【0063】
GH117A α-NABHのアミノ酸配列をNCBI GenBankデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)において見つけた上位9個の同族体とともにクラスタルXプログラムを用いて整列したとき、GH117A α-NABH同族体は、海洋性及び非海洋性のあらゆる寒天分解細菌に存在し、高いレベルの配列相同性(76.5~97.5%)を有していることが確認された。このことは、GH117A α-NABHが細菌性寒天分解酵素系の必須的な構成員であることを示唆する。また、このような9個のGH117 α-NABHsの中で、ビブリオ属菌EJY3菌株のGH117A α-NABHは、唯一に酵素特性が調べられてNA2及びNA4を基質として分解することが報告されている。したがって、本発明において報告するGH117A α-NABHに関する現在のデータは、GH117A α-NABHとかなりの相同性を示すGH117ファミリーα-NABHsに対する洞察力を提供することができる。
【0064】
また、このような9個のGH117 α-NABHのうちのいずれも、これまで酵素特性に対して調べなかったため、この研究において報告されたGH117A α-NABHに関する現在のデータは、GH117A α-NABHとかなりの相同性を示すGH117ファミリーα-NABHsに対する洞察力を提供することができる。
【0065】
NA2に対するGH117A α-NABHの酵素反応速度定数であるKm及びVmax値(16.0mM及び20.8U/mg)は、ビブリオ属菌JT0107のα-NAOSH(5.37mM及び92U/mg)を含んで他に報告されているα-NABHs、すなわち、セルビブリオ属菌OA-2007のα-NAOSH(6mM及び19U/mg)、セルビブリオ属菌WU-0601のα-NAOSH(5.8mM及び60U/mg)、アガロボランス・ギルバス(Agarovorans gilvus)WH0801のα-NABH(6.45mM及び6.98U/mg)、ガヤドモナス・ジュービニエゲ(Gayadomonas joobiniege)G7のα-NABH(4.5mM及び1.33U/mg)及びストレプトマイセス・コエリカラー(Streptomyces coelicolor)A3のα-NAOSH(11.57mM及びデータ無し)などと比較すべきものであった。また、GH117A α-NABHは、NA2に対するVmax及びKcat値(20.8U/mg及び14.2s-1)に関しては、他の比較される酵素よりもさらに触媒的なものであることが示された。また、これまで報告されているα-NAOSHのうちのいずれも、NA2のα-1,3-グリコシド結合のみを加水分解するGH117A α-NABHのNA2に特化した酵素作用とは対照的に、NA2に対する基質特異性を示さなかったという点で注目すべきである。
【0066】
一般に、Mg2+及びNa+の存在に依存すると報告されている海洋性β-アガラーゼとは異なり、セルビブリオ属菌KY-GH-1菌株由来のGH117A α-NABH酵素活性は、MgCl2またはNaClにより大きく影響を受けなかった。その代わりに、GH117A α-NABH酵素活性は、Mn2+または還元剤TCEPの存在下で濃度依存的に格段に向上した。GH117A α-NABH酵素活性に対するMn2+及びTCEPの相乗効果が観察されて、5mM MnSO4及び10mM TCEPが共存する場合には、酵素活性が2.4倍まで向上することが示された。これと同時に、NA2基質に対するGH117A α-NABHの酵素反応速度定数であるKm、Vmax、Kcat及びKcat/Km値は、それぞれ5.8mM、33.7U/mg、23.0s-1及び4.0×103s-1・M-1であることが示された(データ省略)。このような研究結果は、GH117A α-NABH酵素活性がMn2+/TCEPの存在により濃度依存的に増進されることがこの酵素のユニークな酵素学的特性であることを示す。
【0067】
最適な反応条件(5mM MnSO4、10mM TCEP、20mM Tris-HCl、pH 7.5、35℃)下で、GH117A α-NABH(40μg/ml)酵素は、最大で5.0%のNA2を単糖類であるL-AHGとD-ガラクトースに完全に加水分解することができた。GH117A α-NABH酵素処理によりNA2基質から生成されたL-AHGは、酵素反応物をSephadex(商標名)G-10カラムを用いて分子体クロマトグラフィーを行って分画したときに容易に精製することができた。このような方法により、GH117A酵素処理により得られる5%のNA2の加水分解物からL-AHGを精製したとき、L-AHGの回収率は、理論的な最大の歩留まりの~92%であることが示された。
【0068】
最近、多糖類であるアガロースからの構成単糖類であるL-AHGの量産と関連して、エキソ型β-アガラーゼによるアガロース分解を用いたNA2産生段階及び後続するGH117 α-NABHによるNA2のL-AHG及びD-ガラクトースへの加水分解段階を進める2段階の酵素工程が提案されている。また、β-アガラーゼとα-NABH酵素を共同-固定化した後、アガロースをL-AHGにより加水分解するのに活用する方法に関しても報告されている。しかしながら、このような先行研究において提案された酵素処理工程は、使用された酵素の酵素学的特性によって改善されるべき非効率的な側面があると推察される。すなわち、使用されたエキソ型β-アガラーゼは、アガロースからNA2の他にも色々なDPsのNAOSを生成し、かつ、使用されたGH117 α-NABHは、NA2に特化した酵素ではなく、NA4とNA6にも働いてそれぞれL-AHG/アガロトリオース(A3)及びL-AHG/アガロペンタオース(A5)を生成することができて、多糖類であるアガロースが単糖類であるL-AHGとD-ガラクトースに分解される効率が低下するという欠点を有する酵素であった。
【0069】
したがって、アガロースからNA2を主な生成物として産生可能な効果的なエキソ型GH50β-アガラーゼのみならず、NA2基質に対してのみ特異的にα-1,3-グリコシド結合を加水分解可能なNA2に特化したGH117 α-NABHの開発が、アガロースの酵素的な糖化を用いて単糖類を産生する効率よい酵素工程のために切望されているのが現状であるといえる。
【0070】
本発明において開示されたGH117A β-NABH酵素特性に基づいて、NA2の加水分解に特化したGH117A β-NABHを用いると、NA2からL-AHGを生成する1段階の酵素工程がL-AHGの量産の標準になる筈であり、かつ、L-AHGの量産の加速化にも大きく寄与できることが期待される。併せて、アガロースをNA2に効率よく転換可能な強力なエキソ型GH50A β-アガラーゼとGH117A α-NABHを複合処理する方法もまた、L-AHGの産生のためにアガロースを糖化させる工程として有用になる筈であると確信するところである。
【0071】
4.まとめ
本発明の結果は、寒天分解セルビブリオ属菌KY-GH-1菌株由来の組換えGH117A α-NABHは、最大で5%のNA2を単糖類であるL-AHG及びD-ガラクトースに完全に加水分解することができることを示す。基質であるNA2を除いては、NA4~NA18のうちのいずれもGH117A α-NABHの加水分解作用を受けないことを確認したため、このことから、GH117A α-NABH酵素作用は、NA2に特化していることを明らかにした。基質NA2に対するGH117A α-NABH酵素の加水分解作用の最適な温度とpHは、それぞれ35℃と7.5であった。GH117A α-NABH酵素は35℃まで、そしてpH 7.0~7.5の範囲においては安定しているのに対し、35℃以上及びpH 7.0~7.5の範囲を超えては不安定であることが示された。GH117A α-NABH酵素活性は、5mM MnSO4及び10mM TCEPの存在下で2.4倍向上した。NA2に対するGH117A α-NABH酵素の反応速度定数、すなわち、Km、Vmax、Kcat及びKcat/Km値は、それぞれ16.0mM、20.8U/mg、14.2s-1及び8.9×102s-1・M-1であった。特に、5mM MnSO4及び10mM TCEPが共存する場合には、NA2基質に対するGH117A α-NABHのKm、Vmax、Kcat及びKcat/Km値がそれぞれ5.8mM、33.7U/mg、23.0s-1及び4.0×103s-1・M-1であることが示された。このような組換えα-NABHの酵素学的な特性は、二糖類であるNA2を単糖類であるL-AHG及びD-ガラクトースに分解する1段階酵素工程を用いたL-AHGの量産に有用になる可能性があることを示唆する。代案としては、このような糖化過程を、エキソ型加水分解方式によりアガロースをNA2に効率よく分解可能な強力なGH50ファミリーβ-アガラーゼと併合する工程も有用になる可能性があることを示唆する。
【0072】
最後に、GH117A α-NABHとアミノ酸配列において、76.5~97.5%の類似性を共有する9個のα-NABHの中で、76.8%の類似性を有するビブリオ属菌EJY3菌株由来のGH117A α-NABHの酵素特性の他には、これまで調べられたことがなかったため、本発明において開示する寒天分解細菌セルビブリオ属菌KY-GH-1のGH117A α-NABH酵素に関する研究結果は、他の寒天分解細菌由来であるものの、GH117A α-NABHと類似性を有するα-NABH酵素に対する洞察力を提供することができる。
【受託番号】
【0073】
寄託機関名:韓国生命工学研究院
受託番号:KCTC 13629BP
受託日:2018年8月27日
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2024-06-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1
の塩基配列によりコードされるアミノ酸配列、又は配列番号2のアミノ酸配列を有する、GH117A α-ネオアガロビオース加水分解酵
素。
【請求項2】
寄託番号KCTC 13629BPであるセルビブリオ属菌(Cellvibrio sp.)KY-GH-1菌株起源であることを特徴とする、請求項1に記載のGH117A α-ネオアガロビオース加水分解酵
素。
【請求項3】
GH117A α-ネオアガロビオース加水分解酵
素遺伝子が取り込まれた大腸菌形質転換体から得られることを特徴とする、請求項2に記載のGH117A α-ネオアガロビオース加水分解酵
素。
【請求項4】
前記GH117A α-ネオアガロビオース加水分解酵
素遺伝子は、発現ベクタ
ーにクローニン
グされて大腸菌に取り込まれることを特徴とする、請求項3に記載のGH117A α-ネオアガロビオース加水分解酵
素。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のGH117A α-ネオアガロビオース加水分解酵
素をネオアガロビオー
スに処理して酵素的に分解する、3,6-アンヒドロ-L-ガラクトー
スの産生方法。
【請求項6】
前記処理は、25~45℃の温度範囲において行われることを特徴とする、請求項5に記載の3,6-アンヒドロ-L-ガラクトー
スの産生方法。
【請求項7】
前記処理は、pH 6.0~10.0のpH範囲において行われることを特徴とする、請求項5に記載の3,6-アンヒドロ-L-ガラクトー
スの産生方法。
【請求項8】
前記処理は、Mn
2+をさらに加えて行われることを特徴とする、請求項5に記載の3,6-アンヒドロ-L-ガラクトー
スの産生方法。
【請求項9】
前記Mn
2+は、MnCl
2、MnSO
4またはこれらの混合物の形態であることを特徴とする、請求項
5に記載の3,6-アンヒドロ-L-ガラクトー
スの産生方法。
【請求項10】
前記処理は、トリス(2-カルボキシエチル)-ホスフィ
ンをさらに加えて行われることを特徴とする、請求項5に記載の3,6-アンヒドロ-L-ガラクトー
スの産生方法。
【国際調査報告】