(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-31
(54)【発明の名称】抗メソテリン抗体試薬
(51)【国際特許分類】
C07K 16/28 20060101AFI20241024BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20241024BHJP
C07K 16/30 20060101ALI20241024BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20241024BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20241024BHJP
C12N 15/867 20060101ALI20241024BHJP
C12N 15/869 20060101ALI20241024BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20241024BHJP
C12N 5/09 20100101ALI20241024BHJP
C12N 5/078 20100101ALI20241024BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20241024BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20241024BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241024BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20241024BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20241024BHJP
A61K 35/763 20150101ALI20241024BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20241024BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20241024BHJP
G01N 33/531 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
C07K16/28 ZNA
C07K16/46
C07K16/30
C12N15/13
C12N15/864 100Z
C12N15/867 Z
C12N15/869 Z
C12N15/63 Z
C12N5/09
C12N5/078
A61K39/395 N
A61K39/395 T
A61K39/395 L
A61K45/00
A61P35/00
A61P37/04
A61K35/76
A61K35/763
A61K47/68
G01N33/53 D
G01N33/531 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024526723
(86)(22)【出願日】2022-11-04
(85)【翻訳文提出日】2024-06-26
(86)【国際出願番号】 US2022079282
(87)【国際公開番号】W WO2023081806
(87)【国際公開日】2023-05-11
(32)【優先日】2021-11-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】592017633
【氏名又は名称】ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】マウス, マルセラ ヴィー.
(72)【発明者】
【氏名】ベイリー, ステファニー
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C084
4C085
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA92Y
4B065AA93X
4B065AA94X
4B065AA94Y
4B065AB01
4B065AC14
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4C076CC41
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4C085DD61
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4H045AA11
4H045AA30
4H045BA70
4H045BA71
4H045BA72
4H045DA76
4H045EA28
4H045EA51
4H045FA74
(57)【要約】
本開示は、抗メソテリン抗体試薬、前記試薬をコードする核酸、前記抗体試薬及び核酸を含む細胞、並びに前記のものを対象に投与することを含むがんの治療方法に関する。
【選択図】
図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メソテリン又はその一部に結合する抗体試薬であって、
(a)三つの相補性決定領域CDR-H1、CDR-H2、及びCDR-H3を含む重鎖可変ドメイン(VH)であって、CDR-H1が、配列番号:13のアミノ酸配列、又は配列番号:13の1、2、若しくは3以下のアミノ酸置換を含むアミノ酸配列を含み;CDR-H2が、配列番号:14のアミノ酸配列、又は配列番号:14の1、2、若しくは3以下のアミノ酸置換を含むアミノ酸配列を含み;かつCDR-H3が、配列番号:15のアミノ酸配列、又は配列番号:15の1、2、若しくは3以下のアミノ酸置換を含むアミノ酸配列を含む、重鎖可変ドメイン(VH)と、
(b)三つの相補性決定領域CDR-L1、CDR-L2、及びCDR-L3を含む軽鎖可変ドメイン(VL)であって、CDR-L1が、配列番号:16のアミノ酸配列、又は配列番号:16の1、2、若しくは3以下のアミノ酸置換を含むアミノ酸配列を含み;CDR-L2が、配列番号:17のアミノ酸配列、又は配列番号:17の1、2、若しくは3以下のアミノ酸置換を含むアミノ酸配列を含み;かつCDR-L3が、配列番号:18のアミノ酸配列、又は配列番号:18の1、2、若しくは3以下のアミノ酸置換を含むアミノ酸配列を含む、軽鎖可変ドメイン(VL)
を含む、抗体試薬。
【請求項2】
抗体又は抗体断片を含む、請求項1に記載の抗体試薬。
【請求項3】
免疫グロブリン分子、組換え抗体、ジスルフィド結合Fv、ラクダ科動物抗体、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、単鎖可変断片(scFv)、キメラ抗体、単一ドメイン抗体、CDRグラフト抗体、二重特異性抗体、ダイアボディ、抗原結合断片(Fab)、F(ab’)2、及びFvからなる群から選択される、請求項1又は請求項2に記載の抗体試薬。
【請求項4】
抗体がヒト抗体又はヒト化抗体である、請求項1から3の何れか一項に記載の抗体試薬。
【請求項5】
scFvである、請求項1から4の何れか一項に記載の抗体試薬。
【請求項6】
(a)三つの相補性決定領域CDR-H1、CDR-H2、及びCDR-H3を含む重鎖可変ドメイン(VH)であって、CDR-H1が、配列番号:13のアミノ酸配列を含み;CDR-H2が、配列番号:14のアミノ酸配列を含み;かつCDR-H3が、配列番号:15のアミノ酸配列を含む、重鎖可変ドメイン(VH)と、
(b)三つの相補性決定領域CDR-L1、CDR-L2、及びCDR-L3を含む軽鎖可変ドメイン(VL)であって、CDR-L1が、配列番号:16のアミノ酸配列を含み;CDR-L2が、配列番号:17のアミノ酸配列を含み;かつCDR-L3が、配列番号:18のアミノ酸配列を含む、軽鎖可変ドメイン(VL)
を含む、請求項1から5の何れか一項に記載の抗体試薬。
【請求項7】
(a)三つの相補性決定領域CDR-H1、CDR-H2、及びCDR-H3を含む重鎖可変ドメイン(VH)であって、CDR-H1が、配列番号:13のアミノ酸配列からなり;CDR-H2が、配列番号:14のアミノ酸配列からなり;かつCDR-H3が、配列番号:15のアミノ酸配列からなる、重鎖可変ドメイン(VH)と、
(b)三つの相補性決定領域CDR-L1、CDR-L2、及びCDR-L3を含む軽鎖可変ドメイン(VL)であって、CDR-L1が、配列番号:16のアミノ酸配列からなり;CDR-L2が、配列番号:17のアミノ酸配列からなり;かつCDR-L3が、配列番号:18のアミノ酸配列からなる、軽鎖可変ドメイン(VL)
を含む、請求項1から6の何れか一項に記載の抗体試薬。
【請求項8】
配列番号:19のアミノ酸配列、又は配列番号:19のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列のVHドメインを含む、請求項1から7の何れか一項に記載の抗体試薬。
【請求項9】
配列番号:20のアミノ酸配列、又は配列番号:20のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列のVLドメインを含む、請求項1から8の何れか一項に記載の抗体試薬。
【請求項10】
配列番号:21のアミノ酸配列、又は配列番号:21のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列のVH-VLドメインを含む、請求項1から9の何れか一項に記載の抗体試薬。
【請求項11】
配列番号:22のアミノ酸配列、又は配列番号:22のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列のVL-VHドメインを含む、請求項1から9の何れか一項に記載の抗体試薬。
【請求項12】
メソテリンタンパク質が配列番号:23のアミノ酸配列を含む、請求項1から11の何れか一項に記載の抗体試薬。
【請求項13】
請求項1から12の何れか一項に記載の抗体試薬と第二の抗体試薬とを含む、二重特異性抗体試薬。
【請求項14】
第二の抗体試薬が腫瘍抗原に結合する、請求項13に記載の二重特異性抗体試薬。
【請求項15】
第二の抗体試薬が結合する腫瘍抗原が固形腫瘍抗原である、請求項14に記載の二重特異性抗体試薬。
【請求項16】
第二の抗体試薬が、CD3、上皮増殖因子(EGFR)、及びそれらの何れかの一部からなる群から選択されるタンパク質に結合する、請求項13に記載の二重特異性抗体試薬。
【請求項17】
請求項1から12の何れか一項に記載の抗体試薬と第二の抗体試薬との間に切断可能な部分を含む、請求項13から16の何れか一項に記載の二重特異性抗体試薬。
【請求項18】
請求項1から12の何れか一項に記載の抗体試薬又は請求項13から17の何れか一項に記載の二重特異性抗体試薬とコンジュゲート部分とを含む抗体コンジュゲート。
【請求項19】
コンジュゲート部分が細胞傷害性薬剤である、請求項18に記載の抗体コンジュゲート。
【請求項20】
細胞傷害性薬剤が、オゾガマイシン、ベドチン、ブレオマイシン、アウリスタチン、メイタンシノイド、カリケアマイシン、エムタンシン、デルクステカン、ゴビテカン、マホドチン、デュオカルマジン、ソラブタンシン、及びテシリンからなる群から選択される、請求項19に記載の抗体コンジュゲート。
【請求項21】
コンジュゲートが検出可能部分である、請求項18に記載の抗体コンジュゲート。
【請求項22】
検出可能部分が、蛍光分子、発色分子、アフィニティー精製タグ、放射性同位体、重同位体、ヌクレオチドプローブ、又はナノ粒子を含む、請求項21に記載の抗体コンジュゲート。
【請求項23】
請求項1から12の抗体試薬の何れか一つ又は請求項13から17の二重特異性抗体の何れか一つをコードする核酸配列を含む核酸分子。
【請求項24】
ベクター又はプラスミドである、請求項23に記載の核酸分子。
【請求項25】
請求項23又は請求項24に記載の核酸分子を含むウイルスベクター。
【請求項26】
アデノウイルス随伴ベクター、レンチウイルスベクター、又は腫瘍溶解性単純ヘルペスウイルスである、請求項25に記載のウイルスベクター。
【請求項27】
請求項1から12の何れか一項に記載の抗体試薬、請求項13から17の何れか一項に記載の二重特異性抗体試薬、請求項18から22に記載の抗体コンジュゲート、又は請求項23から24の何れか一項に記載の核酸分子を含む、細胞。
【請求項28】
ヒト細胞である、請求項27に記載の細胞。
【請求項29】
ヒト細胞が免疫細胞である、請求項28に記載の細胞。
【請求項30】
がん細胞である、請求項27から29の何れか一項に記載の細胞。
【請求項31】
請求項1から12の何れか一項に記載の抗体試薬、請求項13から17の何れか一項に記載の二重特異性抗体試薬、請求項18から22に記載の抗体コンジュゲート、請求項23から24の何れか一項に記載の核酸分子、又は請求項27から30の何れか一項に記載の細胞を含む、組成物。
【請求項32】
請求項1から12の何れか一項に記載の抗体試薬、請求項13から17の何れか一項に記載の二重特異性抗体試薬、請求項18から22に記載の抗体コンジュゲート、又は請求項23から24の何れか一項に記載の核酸分子、請求項25から26の何れか一項に記載のウイルスベクター、又は請求項27から30の何れか一項に記載の細胞の治療有効量を含む組成物。
【請求項33】
薬学的に許容される添加物を更に含む、請求項31又は請求項32に記載の組成物。
【請求項34】
対象におけるがんの治療方法であって、請求項1から12の何れか一項に記載の抗体試薬、請求項13から17の何れか一項に記載の二重特異性抗体試薬、請求項18から22に記載の抗体コンジュゲート、請求項23から24の何れか一項に記載の核酸分子、請求項25から26の何れか一項に記載のウイルスベクター、請求項27から30の何れか一項に記載の細胞、又は請求項31から33の何れか一項に記載の組成物を対象に投与することを含む、方法。
【請求項35】
がんが一つ又は複数の固形腫瘍の存在を特徴とする、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
がんがメソテリンを発現する、請求項34又は請求項35に記載の方法。
【請求項37】
がんが、中皮腫、膵臓がん、卵巣がん、肺がん、子宮内膜がん、胆道がん、乳がん、胸膜がん、結腸直腸がん、虫垂がん、食道がん、胸腺がん、子宮頸がん、及び胃がんからなる群から選択される、請求項34から36の何れか一項に記載の方法。
【請求項38】
対象がヒトである、請求項34から37の何れか一項に記載の方法。
【請求項39】
試料中のメソテリンタンパク質を検出する方法であって、試料を請求項21又は請求項22に記載の抗体コンジュゲートと接触させることを含む、方法。
【請求項40】
抗体コンジュゲートを試料と接触させることを更に含む、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
メソテリンタンパク質を検出する方法が、ウエスタンブロット、免疫組織化学、免疫細胞化学、酵素結合免疫吸着アッセイ、蛍光顕微鏡検査、フローサイトメトリー、又は蛍光活性化細胞選別(FACS)比色分析を実施することを含む、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
試料がメソテリンを含む、請求項40又は請求項41に記載の方法。
【請求項43】
抗体コンジュゲートを対象に投与することを更に含む、請求項40に記載の方法。
【請求項44】
磁気共鳴画像法、超音波、コンピュータ断層撮影スキャン、陽電子放射断層撮影法、又は単一光子放射型コンピュータ断層撮影法を使用して、対象における抗体コンジュゲートを検出することを含む、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
対象から試料を収集することを更に含む、請求項43に記載の方法。
【請求項46】
抗体コンジュゲートを試料と接触させることを更に含む、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
メソテリンタンパク質を検出する方法が、ウエスタンブロット、免疫組織化学、免疫細胞化学、酵素結合免疫吸着アッセイ、蛍光顕微鏡法、フローサイトメトリー、又は蛍光活性化細胞選別(FACS)比色分析を実施することを含む、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
メソテリンの領域IIIのエピトープに結合する、請求項1から12の何れか一項に記載の抗体試薬。
【請求項49】
RLAFQNMNGSEY(配列番号:37)のアミノ酸配列を含むエピトープに結合する、請求項48に記載の抗体試薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願]
この出願は、内容全体が出典明示によりここに援用される、2021年11月4日出願の「抗メソテリン抗体試薬」と題された米国仮出願第63/275866号に対して米国特許法第119条(e)項に基づく利益を主張する。
【0002】
[連邦支援研究]
この発明は、国立がん研究所が授与したR01CA238268及び国立衛生研究所が授与したT32CA009216に基づく政府支援を受けてなされた。政府は、本発明において所定の権利を有する。
【0003】
[電子配列表への参照]
電子配列表(M105370027WO00-SEQ-ARM.xml;サイズ:79568バイト;作成日:2022年11月3日)の内容は、その全体が出典明示によりここに援用される。
【背景技術】
【0004】
MSLN遺伝子は、巨核球増強因子(MPF)と呼ばれる31kDaの可溶性N末端タンパク質と、MSLN(メソテリン)と呼ばれる40kDaの膜結合断片の二種の生成物に切断されるグリコシルホスファチジルイノシトールアンカー膜糖タンパク質である71キロダルトン(kDa)の前駆体をコードする。メソテリンは中皮細胞で発現され、中皮腫を含む様々ながんで過剰発現される。メソテリンは、がん細胞を検出する腫瘍抗原として使用できる。メソテリンに結合する抗体試薬は、がんの診断又は治療と、がん治療薬の製造に有用でありうる。メソテリンを標的とする追加及び代替の抗体試薬に対する必要性が存在する。
【発明の概要】
【0005】
ここに記載されるのは、メソテリンを標的とする抗体試薬及び抗体コンジュゲートであり、これらは、例えばがん、形質細胞疾患若しくは障害、又は自己免疫疾患若しくは障害などの疾患又は障害を有する対象の治療に有用でありうる。またここに提供されるのは、前記抗体試薬及びコンジュゲートをコードする核酸及びベクター、並びにここに記載される抗体試薬、抗体コンジュゲート、核酸、又はベクターを含む細胞である。またここに提供されるのは、ここに記載される抗体試薬及び他の組成物を含む薬学的組成物である。更に提供されるのは、ここに記載される組成物を投与することにより対象におけるがんを治療する方法、並びにここに記載される抗体試薬又は抗体コンジュゲートと試料を接触させることを含む試料中のメソテリンタンパク質を検出する方法である。
【0006】
従って、一態様では、本開示は、メソテリン又はその一部に結合する抗体試薬であって、(a)三つの相補性決定領域CDR-H1、CDR-H2、及びCDR-H3を含む重鎖可変ドメイン(VH)であって、CDR-H1が、配列番号:13のアミノ酸配列、又は配列番号:13の1、2、若しくは3以下のアミノ酸置換を含むアミノ酸配列を含み;CDR-H2が、配列番号:14のアミノ酸配列、又は配列番号:14の1、2、若しくは3以下のアミノ酸置換を含むアミノ酸配列を含み;かつCDR-H3が、配列番号:15のアミノ酸配列、又は配列番号:15の1、2、若しくは3以下のアミノ酸置換を含むアミノ酸配列を含む、重鎖可変ドメイン(VH)と、(b)三つの相補性決定領域CDR-L1、CDR-L2、及びCDR-L3を含む軽鎖可変ドメイン(VL)であって、CDR-L1が、配列番号:16のアミノ酸配列、又は配列番号:16の1、2、若しくは3以下のアミノ酸置換を含むアミノ酸配列を含み;CDR-L2が、配列番号:17のアミノ酸配列、又は配列番号:17の1、2、若しくは3以下のアミノ酸置換を含むアミノ酸配列を含み;かつCDR-L3が、配列番号:18のアミノ酸配列、又は配列番号:18の1、2、若しくは3以下のアミノ酸置換を含むアミノ酸配列を含む、軽鎖可変ドメイン(VL)を含む、抗体試薬に関する。
【0007】
幾つかの実施態様では、抗体試薬は抗体又は抗体断片を含む。幾つかの実施態様では、抗体試薬は、免疫グロブリン分子、組換え抗体、ジスルフィド結合Fv、ラクダ科動物抗体(カメリド抗体)、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、単鎖可変断片(scFv)、キメラ抗体、単一ドメイン抗体、CDRグラフト抗体、二重特異性抗体、ダイアボディ、抗原結合断片(Fab)、F(ab’)2、及びFvからなる群から選択される。幾つかの実施態様では、抗体はヒト抗体又はヒト化抗体である。幾つかの実施態様では、抗体試薬はscFvである。
【0008】
幾つかの実施態様では、抗体試薬は、(a)三つの相補性決定領域CDR-H1、CDR-H2、及びCDR-H3を含む重鎖可変ドメイン(VH)であって、CDR-H1が、配列番号:13のアミノ酸配列を含み;CDR-H2が、配列番号:14のアミノ酸配列を含み;かつCDR-H3が、配列番号:15のアミノ酸配列を含む、重鎖可変ドメイン(VH)と、(b)三つの相補性決定領域CDR-L1、CDR-L2、及びCDR-L3を含む軽鎖可変ドメイン(VL)であって、CDR-L1が、配列番号:16のアミノ酸配列を含み;CDR-L2が、配列番号:17のアミノ酸配列を含み;かつCDR-L3が、配列番号:18のアミノ酸配列を含む、軽鎖可変ドメイン(VL)を含む。幾つかの実施態様では、抗体試薬は、(a)三つの相補性決定領域CDR-H1、CDR-H2、及びCDR-H3を含む重鎖可変ドメイン(VH)であって、CDR-H1が、配列番号:13のアミノ酸配列からなり;CDR-H2が、配列番号:14のアミノ酸配列からなり;かつCDR-H3が、配列番号:15のアミノ酸配列からなる、重鎖可変ドメイン(VH)と、(b)三つの相補性決定領域CDR-L1、CDR-L2、及びCDR-L3を含む軽鎖可変ドメイン(VL)であって、CDR-L1が、配列番号:16のアミノ酸配列からなり;CDR-L2が、配列番号:17のアミノ酸配列からなり;かつCDR-L3が、配列番号:18のアミノ酸配列からなる、軽鎖可変ドメイン(VL)を含む。
【0009】
幾つかの実施態様では、抗体試薬は、配列番号:19のアミノ酸配列、又は配列番号:19のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列のVHドメインを含む。幾つかの実施態様では、配列番号:20のアミノ酸配列、又は配列番号:20のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列のVLドメインを含む。幾つかの実施態様では、抗体試薬は、配列番号:21のアミノ酸配列、又は配列番号:21のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列のVH-VLドメインを含む。幾つかの実施態様では、抗体試薬は、配列番号:22のアミノ酸配列、又は配列番号:22のアミノ酸配列と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列のVL-VHドメインを含む。
【0010】
幾つかの実施態様では、メソテリンタンパク質は、配列番号:23のアミノ酸配列を含む。
【0011】
別の態様では、本開示は、ここに記載の抗体試薬と第二の抗体試薬とを含む、二重特異性抗体試薬に関する。幾つかの実施態様では、第二の抗体試薬は腫瘍抗原に結合する。幾つかの実施態様では、第二の抗体試薬が結合する腫瘍抗原は固形腫瘍抗原である。幾つかの実施態様では、第二の抗体試薬は、CD3、上皮増殖因子(EGFR)、及びそれらの何れかの一部からなる群から選択されるタンパク質に結合する。幾つかの実施態様では、二重特異性抗体は、ここに記載の抗体試薬と第二の抗体試薬との間に切断可能な部分を含む。
【0012】
別の態様では、本開示は、ここに記載の抗体試薬又はここに記載の二重特異性抗体試薬とコンジュゲート部分とを含む抗体コンジュゲートに関する。幾つかの実施態様では、コンジュゲート部分は細胞傷害性薬剤である。幾つかの実施態様では、細胞傷害性薬剤は、オゾガマイシン、ベドチン、ブレオマイシン、アウリスタチン、メイタンシノイド、カリケアマイシン、エムタンシン、デルクステカン、ゴビテカン、マホドチン、デュオカルマジン、ソラブタンシン、及びテシリンからなる群から選択される。幾つかの実施態様では、コンジュゲートは検出可能部分である。幾つかの実施態様では、検出可能部分は、蛍光分子、発色分子、アフィニティー精製タグ、放射性同位体、重同位体、ヌクレオチドプローブ、又はナノ粒子を含む。
【0013】
別の態様では、本開示は、ここに記載の抗体試薬の何れか一つ又はここに記載の二重特異性抗体の何れか一つをコードする核酸配列を含む核酸分子に関する。幾つかの実施態様では、核酸分子はベクター又はプラスミドである。
【0014】
別の態様では、本開示は、ここに記載の核酸分子を含むウイルスベクターに関する。幾つかの実施態様では、ウイルスベクターは、アデノウイルス随伴ベクター、レンチウイルスベクター、又は腫瘍溶解性単純ヘルペスウイルスである。
【0015】
別の態様では、本開示は、ここに記載の抗体試薬、二重特異性抗体試薬、抗体コンジュゲート、又は核酸分子を含む、細胞に関する。幾つかの実施態様では、細胞は、ヒト細胞である。幾つかの実施態様では、ヒト細胞は免疫細胞である。幾つかの実施態様では、細胞はがん細胞である。
【0016】
別の態様では、本開示は、ここに記載の抗体試薬、二重特異性抗体試薬、抗体コンジュゲート、核酸分子、又は細胞を含む、組成物に関する。幾つかの実施態様では、組成物は、抗体試薬、二重特異性抗体試薬、抗体コンジュゲート、核酸分子、ウイルスベクター、又は細胞の治療有効量を含む。幾つかの実施態様では、組成物は、薬学的に許容される添加物を更に含む。
【0017】
別の態様では、本開示は、対象におけるがんの治療方法であって、ここに記載の抗体試薬、二重特異性抗体試薬、抗体コンジュゲート、核酸分子、ウイルスベクター、細胞、又は組成物を対象に投与することを含む、方法に関する。幾つかの実施態様では、がんは一つ又は複数の固形腫瘍の存在を特徴とする。幾つかの実施態様では、がんはメソテリンを発現する。幾つかの実施態様では、がんは、中皮腫、膵臓がん、卵巣がん、肺がん、子宮内膜がん、胆道がん、乳がん、胸膜がん、結腸直腸がん、虫垂がん、食道がん、胸腺がん、子宮頸がん、及び胃がんからなる群から選択される。幾つかの実施態様では、対象はヒトである。
【0018】
別の態様では、本開示は、試料中のメソテリンタンパク質を検出する方法であって、試料を、例えば検出可能部分を含む、ここに記載の抗体コンジュゲートと接触させることを含む、方法に関する。幾つかの実施態様では、本方法は、抗体コンジュゲートを試料と接触させることを含む。幾つかの実施態様では、メソテリンタンパク質を検出する方法は、ウエスタンブロット、免疫組織化学、免疫細胞化学、酵素結合免疫吸着アッセイ、蛍光顕微鏡検査、フローサイトメトリー、又は蛍光活性化細胞選別(FACS)比色分析を実施することを含む。幾つかの実施態様では、試料はメソテリンを含む。幾つかの実施態様では、本方法は、抗体コンジュゲートを対象に投与することを更に含む。幾つかの実施態様では、対象における抗体コンジュゲートを検出することは、磁気共鳴画像法、超音波、コンピュータ断層撮影スキャン、陽電子放射断層撮影法、又は単一光子放射型コンピュータ断層撮影法を使用することを含む。幾つかの実施態様では、本方法は、対象から試料を収集することを更に含む。
【0019】
別の態様では、本開示は、メソテリンに結合する抗体試薬に関し、抗体試薬はメソテリンの領域IIIのエピトープに結合する。幾つかの実施態様では、抗体試薬は、RLAFQNMNGSEY(配列番号:37)のアミノ酸配列を含むエピトープに結合する。
【0020】
便宜上、本明細書、実施例、及び添付の特許請求の範囲において使用される幾つかの用語及び語句の意味を以下に示す。特に明記されていない限り、又は文脈から暗示されていない限り、次の用語及び語句には、以下に示す意味が含まれる。意味は特定の実施態様を説明するのを助けるために提供しており、技術的範囲は特許請求の範囲によってのみ限定されるため、請求項記載の技術を限定することは意図していない。特に定義されていない限り、ここで使用される全ての技術的及び科学的用語は、この技術が属する分野の当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有している。当該分野における用語の使用法とここに提供したその意味との間に明らかな矛盾がある場合、明細書内に提供される意味が優先するものとする。
【0021】
ここで使用される場合、「抗体試薬」という用語は、少なくとも一つの免疫グロブリン可変ドメイン又は免疫グロブリン可変ドメイン配列を含み、所与の抗原に特異的に結合するポリペプチドを指す。抗体試薬は、抗体(例えば、全長抗体)又は抗体の抗原結合ドメインを含むポリペプチドを含みうる。何れかの態様の幾つかの実施態様では、抗体試薬は、モノクローナル抗体又はモノクローナル抗体の抗原結合ドメインを含むポリペプチドを含みうる。例えば、抗体試薬は、重(H)鎖可変領域(ここではVHと略記)と軽(L)鎖可変領域(ここではVLと略記)を含みうる。別の例では、抗体試薬は、二つの重(H)鎖可変領域と二つの軽(L)鎖可変領域を含む。「抗体試薬」という用語は、抗体の抗原結合断片(例えば、一本鎖抗体、Fab及びsFab断片、F(ab’)2、Fd断片、Fv断片、scFv、CDR、及びドメイン抗体(dAb)断片(例えば、de Wildt等,Eur.J.Immunol.26(3):629-639,1996(これは、その全体が出典明示によりここに援用される)を参照)並びに完全抗体を包含する。「抗体試薬」という用語は、多重特異性抗体、例えば二重特異性抗体を包含する。抗体試薬は、IgA、IgG、IgE、IgD、又はIgM(並びにそれらのサブタイプ及び組み合わせ)の構造的特徴を有しうる。抗体試薬は、マウス、ウサギ、ブタ、ラット、及び霊長類(ヒト及び非ヒト霊長類)及び霊長類化抗体を含む、任意の供給源からの抗体を含みうる。抗体試薬は、またミディボディ、ヒト化抗体、キメラ抗体なども含みうる。完全ヒト抗体結合ドメインは、例えば、当業者に知られている方法を使用してファージディスプレイライブラリーから選択することができる。更に、抗体試薬は、ラクダ科動物抗体などの単一ドメイン抗体を含む。幾つかの実施態様では、抗体試薬は、サメ抗体由来のナノボディを含む。幾つかの実施態様では、抗体試薬は、ダイアボディを含む。幾つかの実施態様では、抗体試薬は、ヒト生殖系列配列を有するフレームワークを含む。別の実施態様では、抗体試薬は、IgG、IgG1、IgG2、IgG2A、IgG2B、IgG2C、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2、IgD、IgM、及びIgE定常ドメインからなる群から選択される重鎖定常ドメインを含む。幾つかの実施態様では、抗体試薬は、定常ドメイン、例えばFc領域を含む。免疫グロブリン定常ドメインは、重鎖又は軽鎖定常ドメインを指す。ヒトIgG重鎖及び軽鎖定常ドメインアミノ酸配列並びにそれらの機能的バリエーションが知られている。重鎖に関して、幾つかの実施態様では、ここに記載の抗体試薬の重鎖は、アルファ(α)、デルタ(δ)、イプシロン(ε)、ガンマ(γ)又はミュー(μ)重鎖でありうる。幾つかの実施態様では、ここに記載の抗体の重鎖は、ヒトアルファ(α)、デルタ(δ)、イプシロン(ε)、ガンマ(γ)又はミュー(μ)重鎖を含みうる。幾つかの実施態様では、ここに記載の抗体試薬は、ヒトガンマ1 CH1、CH2、及び/又はCH3ドメインを含む。幾つかの実施態様では、VHドメインのアミノ酸配列は、当該技術分野で既知の任意のものなどの、ヒトガンマ(γ)重鎖定常領域のアミノ酸配列を含む。ヒト定常領域配列の非限定的な例は、当該技術分野において開示されており、例えば、米国特許第5693780号及び上掲のKabat EA等,(1991)を参照のこと。幾つかの実施態様では、抗体試薬は、リンカーポリペプチド又は免疫グロブリン定常ドメインに連結された本開示の一つ又は複数の抗原結合断片を含むポリペプチドを含む。リンカーポリペプチド(例えば、ここに記載のリンカー)は、ペプチド結合によって結合された二つ以上のアミノ酸残基を含み得、一つ又は複数の抗原結合部分を連結するために使用される。抗体試薬は、抗体又はその一部と一つ又は複数の他のタンパク質又はペプチドとの共有結合又は非共有会合によって形成される、より大きな免疫接着分子の一部であってもよい。そのような免疫接着分子の例には、ストレプトアビジンコア領域を使用して四量体scFv分子を作製するもの(Kipriyanov,S.M.等(1995)Human Antibodies and Hybridomas 6:93-101)並びにシステイン残基、マーカーペプチド、及びC末端ポリヒスチジンタグを使用して二価及びビオチン化scFv分子を作製するもの(Kipriyanov,S.M.等(1994)Mol.Immunol.31:1047-1058)が含まれる。
【0022】
「抗メソテリン抗体」、「メソテリンに結合する抗体」、及び「メソテリンに特異的に結合する抗体」という用語は、抗体が、メソテリンを標的とすることで予防、診断及び/又は治療薬として有用であるように十分な親和性でメソテリンに結合することができる抗体を指す。一実施態様では、無関係の非メソテリンタンパク質への抗メソテリン抗体の結合の度合いは、例えば、ラジオイムノアッセイ(RIA)によって測定して、メソテリンへの抗体の結合の約10%未満である。所定の実施態様では、メソテリンに結合する抗体は、≦1μM、≦100nM、≦10nM、≦1nM、又は≦0.1nM(例えば10-6、10-7、又は10-8M以下、例えば10-6Mから10-9M)の解離定数(KD)を有する。所定の実施態様では、メソテリンに結合する抗体は、≦1nM、≦0.1nM、≦0.01nM、又は≦0.001nM(例えば10-9、10-10、10-11、又は10-12M以下、例えば10-9Mから10-12M)の解離定数(KD)を有する。
【0023】
ここで使用される場合、「CDR」という用語は、抗体可変配列内の相補性決定領域を指す。重鎖及び軽鎖の可変領域の各々には、可変領域の各々に対して、三つのCDRがあり、CDR1、CDR2及びCDR3と命名されている。ここで使用される「CDRセット」という用語は、抗原に結合できる単一可変領域に生じる三つのCDRの群を指す。これらのCDRの正確な境界は、異なる系によって異なって定義されている。Kabatによって記述された系(Kabat等,Sequences of Proteins of Immunological Interest(National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1987)及び(1991))は、抗体の任意の可変領域に適用できる明確な残基番号付け系を提供するだけでなく、三つのCDRを定義する正確な残基境界をまた提供する。これらのCDRはKabat CDRと呼ばれることがある。CDRのサブ部分は、L1、L2及びL3又はH1、H2及びH3と命名され得、ここで、「L」と「H」はそれぞれ軽鎖領域と重鎖領域を示す。これらの領域はChothia CDRと呼ばれることがあり、その境界はKabat CDRとオーバーラップする。Kabat CDRとオーバーラップするCDRを定義する他の境界は、Padlan(FASEB J.9:133-139(1995))及びMacCallum(J Mol Biol 262(5):732-45(1996))によって記載されている。更に他のCDR境界の定義は、上記の系の一つに厳密には従わない場合があり、それでもKabat CDRとオーバーラップするが、特定の残基若しくは残基群又はCDR全体が抗原結合に顕著な影響を与えないという予測又は実験的知見を考慮して、それらは短縮又は延長される場合がある。ここで使用される方法では、これらの系の何れかに従って定義されたCDRを利用しうるが、好ましい実施態様では、Kabat又はChothiaで定義されたCDRを使用する。
【0024】
ここで使用される場合、「CDRグラフト抗体」という用語は、ある種由来の重鎖及び軽鎖可変領域配列を含むが、VH及び/又はVLのCDR領域の一又は複数の配列が別の種のCDR配列に置き換えられている抗体、例えば、マウスCDRの一又は複数(例えば、CDR3)がヒトCDR配列で置き換えられているマウス重鎖及び軽鎖可変領域を有する抗体を指す。
【0025】
ここで使用される場合、「フレームワーク」又は「フレームワーク配列」という用語は、CDRを除いた可変領域の残りの配列を指す。CDR配列の正確な定義は異なる系によって決定されうるため、フレームワーク配列の意味は、それに応じて異なる解釈となる。6つのCDR(軽鎖のCDR-L1、CDR-L2、及びCDR-L3と重鎖のCDR-H1、CDR-H2、及びCDR-H3)はまた、軽鎖と重鎖のフレームワーク領域を各鎖の4つのサブ領域(FR1、FR2、FR3及びFR4)に分割し、そこでは、CDR1がFR1とFR2の間に、CDR2がFR2とFR3の間に、CDR3がFR3とFR4の間に配置される。FR1、FR2、FR3、又はFR4などの特定のサブ領域を特定しない場合、他者が言及するフレームワーク領域は、単一の天然に存在する免疫グロブリン鎖の可変領域内の組み合わせたFRを表す。ここで使用される場合、FRは4つのサブ領域の一つを表し、FRはフレームワーク領域を構成する4つのサブ領域のうちの二つ以上を表す。ヒト重鎖及び軽鎖アクセプター配列は、当該技術分野で知られている。一実施態様では、当該技術分野で知られているアクセプター配列を、ここに開示される抗体に使用することができる。
【0026】
ここで使用される場合、「ヒト抗体」という用語は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列由来の可変及び定常領域を有する抗体を指す。本開示のヒト抗体は、例えばCDR、特にCDR3に、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基(例えば、インビトロでのランダム又は部位特異的変異誘発或いはインビボでの体細胞変異によって導入される変異)を含みうる。しかしながら、ここで使用される「ヒト抗体」という用語は、マウスなどの別の哺乳動物種の生殖細胞系列に由来するCDR配列がヒトフレームワーク配列上に移植された抗体を含むことは意図していない。
【0027】
ここで使用される場合、「ヒト化抗体」という用語は、非ヒト種(例えば、マウス)由来の重鎖及び軽鎖可変領域配列を含むが、VH及び/又はVL配列の少なくとも一部がより「ヒト様の」、すなわちヒト生殖系列可変配列により類似するように改変されている抗体を指す。ヒト化抗体の一タイプは、CDRグラフト抗体であり、ヒトCDR配列が非ヒトVH及びVL配列に導入され、対応する非ヒトCDR配列が置き換えられている。一実施態様では、ヒト化メソテリン抗体及び抗原結合部分が提供される。そのような抗体は、伝統的なハイブリドーマ技術を使用してマウスメソテリンモノクローナル抗体を取得し、その後、Kasaian等のPCT公開番号WO2005/123126A2に開示されているもののような、インビトロ遺伝子工学を使用してヒト化することによって、産生することができる。
【0028】
ここで使用される「単離抗体」は、異なる抗原特異性を有する他の抗体を実質的に含まない抗体を指すことを意図する(例えば、メソテリンに特異的に結合する単離抗体は、メソテリン以外の抗原に特異的に結合する抗体を実質的に含まない)。しかし、メソテリンに特異的に結合する単離抗体は、他の種由来のメソテリンなどの他の抗原に対して交差反応性を有する場合がある。更に、単離抗体は、他の細胞物質及び/又は化学物質を実質的に含まない場合がある。
【0029】
ここで使用される場合、「特異的に結合する」という用語は、分子が結合パートナーに、結合アッセイ又は他の結合状況において結合パートナーを適切な対照と区別するために分子が使用されうるようにする親和性又は結合活性の度合いで結合する能力を指す。抗体に関して、「特異的に結合する」という用語は、抗体が特異的抗原に、適切な参照抗原と比較して、例えば、ここに記載されているように、抗原への結合を通じて所定の細胞、例えば筋細胞への優先的な標的化を可能にする度合いで、特異的抗原を他のものから区別するために抗体が使用されうるようにする親和性又は結合活性の度合いで結合する能力を指す。幾つかの実施態様では、抗体が標的への結合に対して少なくとも約10-4M、10-5M、10-6M、10-7M、10-8M、10-9M、10-10M、10-11M、10-12M、10-13M、又はそれ以下のKDを有するならば、抗体は標的に特異的に結合する。
【0030】
ここで使用される場合、「対象」はヒト又は動物を意味する。通常、動物は、霊長類、齧歯類、家畜、又は狩猟動物などの脊椎動物である。霊長類には、例えば、チンパンジー、カニクイザル、クモザル、及びマカク、例えば、アカゲザルが含まれる。齧歯類には、例えば、マウス、ラット、マーモット、フェレット、ウサギ及びハムスターが含まれる。家畜及び狩猟動物には、例えば、ウシ、ウマ、ブタ、シカ、バイソン、バッファロー、ネコ種、例えば、飼い猫、イヌ種、例えば、イヌ、キツネ、オオカミ、鳥種、例えば、ニワトリ、エミュー、ダチョウ、及び魚、例えば、マス、ナマズ及びサケが含まれる。幾つかの実施態様では、対象は哺乳動物、例えば霊長類、例えばヒトである。「個体」、「患者」、及び「対象」という用語は、ここでは互換的に使用される。対象は、治療を必要とする状態(例えば、なかでも中皮腫、又は他のタイプのがん)又はそのような状態に関連した一又は複数の合併症と以前に診断されたか、又はそれに罹患し若しくはそれを有していると判定され、場合によっては、その状態又はその状態に関連する一又は複数の合併症に対して治療を既に受けているものでありうる。或いは、対象はまたそのような状態又は関連する合併症を有していると過去には診断されたことがないものでありうる。例えば、対象は、その状態又はその状態に関連する一又は複数の合併症に対する一又は複数の危険因子を示すもの或いは危険因子を示さない対象でありうる。
【0031】
特定の状態の治療を「必要とする対象」は、その状態を有し、その状態を有していると診断され、又はその状態を発症するリスクがある対象でありうる。
【0032】
ここで使用される場合、「腫瘍抗原」及び「がん抗原」という用語は、がん細胞によって差次的に発現され、それによってがん細胞を標的とするために利用できる抗原を意味するために互換的に使用される。がん抗原は、明らかに腫瘍特異的な免疫反応を潜在的に刺激することができ、又は分子(例えば、抗体試薬又は抗体コンジュゲート)を腫瘍に選択的に標的とするために使用されうる抗原である。これらの抗原の幾つかは、必ずしも発現されているわけではないが、正常細胞によってコードされている。これらの抗原は、正常細胞では通常サイレントであり/発現されないもの、分化の所定の段階でのみ発現されるもの、及び胚性及び胎児性抗原などの一過性に発現されるものとして特徴付けることができる。他のがん抗原は、がん遺伝子(例えば、活性化Rasがん遺伝子)、サプレッサー遺伝子(例えば、変異体p53)、及び内部欠失又は染色体転座から生じる融合タンパク質など、変異細胞遺伝子によってコードされている。更に他のがん抗原は、RNA及びDNA腫瘍ウイルスで運ばれるものなど、ウイルス遺伝子によってコードされうる。多くの腫瘍抗原が、複数の固形腫瘍の点から定義されている:免疫によって定義されたMAGE1、2、及び3;MART-1/Melan-A、gp100、がん胎児性抗原(CEA)、ヒト上皮増殖因子受容体(HER2)、ムチン(例えば、MUC-1)、前立腺特異的抗原(PSA)、及び前立腺酸性ホスファターゼ(PAP)。加えて、B型肝炎(HBV)、エプスタインバー(EBV)、及びヒトパピローマ(HPV)によってコードされる幾つかなどのウイルスタンパク質は、それぞれ肝細胞癌、リンパ腫、及び子宮頸がんの発症において重要であることが示されている。腫瘍抗原の例は以下に提供され、例えば、メソテリン、EGFR、EGFRvIII、CD19、PSMA、B細胞成熟抗原(BCMA)、インターロイキン13受容体サブユニットα-2(IL13Ra2)などを含む。幾つかの実施態様では、腫瘍抗原は腫瘍関連抗原である。腫瘍関連抗原は、がん細胞又は腫瘍の近くに存在しうるが、必ずしもがん細胞又は腫瘍に付着している必要はない。例えば、腫瘍関連抗原は、腫瘍を取り囲むか又は腫瘍に隣接する細胞外マトリックスに(例えば、正常組織と比較して増加したレベルで)存在するマーカーでありうる。
【0033】
ここで使用される場合、「Treg抗原」又は「Treg関連抗原」は、制御性T(Treg)細胞によって発現される抗原を意味するために互換的に使用される。これらの抗原は、場合によっては、本開示の抗体試薬、抗体コンジュゲート、及び方法によって標的とされうる。Treg抗原の例は以下に提供され、例えば、GARP、LAP、CD25、及びCTLA-4を含む。幾つかの実施態様では、GARPを標的とする抗体試薬は、配列番号:11を含む。幾つかの実施態様では、GARPを標的とする抗体試薬は、ラクダ科動物抗体又は単一ドメイン抗体である。幾つかの実施態様では、LAPを標的とする抗体試薬は、配列番号:12を含む。幾つかの実施態様では、LAPを標的とする抗体試薬は、配列番号:12のVH及びVLドメインを含む。幾つかの実施態様では、LAPを標的とする抗体試薬は、N末端からC末端にかけてVHドメイン、ついでVLドメインを含む。幾つかの実施態様では、LAPを標的とする抗体試薬は、N末端からC末端にかけてVLドメイン、ついでVHドメインを含む。
【0034】
ここで使用される場合、「キメラ」という用語は、少なくとも二種以上の異なるポリヌクレオチド分子の部分の融合産物を意味する。一実施態様では、「キメラ」という用語は、既知のエレメント又は他のポリヌクレオチド分子の操作を通して産生される遺伝子発現エレメントを意味する。
【0035】
ここで使用される場合、「T細胞エンゲージ抗体分子」又は「TEAM」という用語は、それぞれがタンデムに連結された単鎖可変断片(scFv)を含むポリペプチドを意味する。任意選択的には、scFvはリンカー(例えば、グリシンリッチリンカー)によって連結される。TEAMの一方のscFvがT細胞表面抗原(例えば、T細胞受容体(TCR)又はその一部(例えば、CD3εサブユニット))に結合し、他方が標的抗原(例えば、腫瘍抗原)に結合する。幾つかの実施態様では、T細胞表面抗原はTreg抗原である。
【0036】
幾つかの実施態様では、「活性化」は、検出可能な細胞増殖を誘導するように十分に刺激されているT細胞の状態を意味しうる。幾つかの実施態様では、活性化は誘導されたサイトカイン産生を意味しうる。他の実施態様では、活性化は、検出可能なエフェクター機能を意味しうる。ここで使用される「活性化されたT細胞」は、少なくとも、増殖性T細胞である。
【0037】
ここで使用される場合、「治療有効量」という用語は、所望の生物学的効果を実現するために必要な又は十分な量を指す。例えば、本開示のCAR、CAR T細胞、又は抗体試薬の治療有効量は、がんの一つ又は複数の症状を改善するのに十分な量でありうる。ここで提供される教示と組み合わせて、様々な活性化合物の中から選択し、効力、相対的バイオアベイラビリティ、患者の体重、有害な副作用の重症度及び好ましい投与方法などの要因を比較検討することにより、実質的な毒性を引き起こさず、特定の対象を治療するのに完全に有効な、効果的な予防又は治療処置レジメンを計画することができる。任意の特定の用途に対する有効量は、治療される疾患若しくは状態、投与される特定の治療化合物、対象のサイズ、又は疾患若しくは状態の重症度などの要因に応じて変化しうる。当業者であれば、過度の実験を必要とせずに、本開示に関連する特定の治療化合物の有効量を経験的に決定することができる。
【0038】
ここで使用される場合、「特異的結合」及び「特異的に結合する」という用語は、第一のエンティティが第二の標的エンティティに、それが非標的である第三のエンティティに結合するよりも大きい特異性及び親和性で結合する、二つの分子、化合物、細胞及び/又は粒子間の物理的相互作用を意味する。幾つかの実施態様では、特異的結合は、同じ条件下で第三の非標的エンティティに対する親和性よりも少なくとも10倍、少なくとも50倍、少なくとも100倍、少なくとも500倍、少なくとも1000倍又はそれ以上大きい、第二の標的エンティティに対する第一のエンティティの親和性を意味しうる。所与の標的に特異的な試薬は、利用されているアッセイの条件下でその標的に対して特異的な結合を示すものである。非限定的な例には、同族結合パートナー(例えば、T細胞上に存在する刺激及び/又は共刺激分子)タンパク質を認識して結合する抗体又はリガンドが含まれる。
【0039】
ここで使用される場合、「作用可能に連結された」という用語は、プロモーターなどの第一ポリヌクレオチド分子が、目的の遺伝子などの第二の転写可能なポリヌクレオチド分子に連結され、そこで、ポリヌクレオチド分子が、第一ポリヌクレオチド分子が第二ポリヌクレオチド分子の機能に影響を与えるように配されていることを指す。二つのポリヌクレオチド分子は、単一の近接ポリヌクレオチド分子の一部であってもなくてもよく、隣接してもしていなくてもよい。例えば、プロモーターは、そのプロモーターが細胞内の目的の遺伝子の転写を調節し又は媒介するならば、目的の遺伝子に作用可能に連結されている。
【0040】
幾つかの実施態様では、ここに記載されるポリペプチド(又はそのようなポリペプチドをコードする核酸)は、ここに記載されるアミノ酸配列の一つの機能的断片でありうる。ここで使用される場合、「機能的断片」とは、当該技術分野において知られ又はここに後述されるアッセイに従って野生型参照ポリペプチドの活性の少なくとも50%を保持するペプチドの断片又はセグメントである。機能的断片は、ここに開示される配列の保存的置換を含みうる。
【0041】
ここで使用される場合、「バリアント」という用語は、天然又は参照ポリペプチドと実質的に相同であるが、一つ又は複数の欠失、挿入、又は置換のために天然又は参照ポリペプチドのものとは異なるアミノ酸配列を有するポリペプチドを意味する。幾つかの実施態様では、ここに記載されるポリペプチドは、ここに記載されるポリペプチド又は分子のバリアントでありうる。幾つかの実施態様では、ここに記載されるポリペプチドは、ここに記載される抗体試薬のバリアントである。幾つかの実施態様では、バリアントは保存的修飾バリアントである。保存的置換バリアントは、例えば、天然ヌクレオチド配列の変異によって得ることができる。バリアントポリペプチドをコードするDNA配列は、天然又は参照DNA配列と比較した場合、ヌクレオチドの一つ又は複数の付加、欠失、又は置換を含むが、非バリアントポリペプチドの活性を保持するバリアントタンパク質又はその断片をコードする配列を包含する。多種多様なPCRに基づく部位特異的変異誘発アプローチが当該技術分野において知られており、当業者によって適用されうる。バリアントアミノ酸又はDNA配列は、天然又は参照配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又はそれ以上、同一でありうる。天然配列とバリアント配列間の相同性の度合い(同一性パーセント)は、例えば、ワールドワイドウェブ上でこの目的のために一般的に用いられる無料公開のコンピュータープログラム(例えば、デフォルト設定のBLASTp又はBLASTn)を使用して二つの配列を比較することによって決定できる。
【0042】
ここで使用される場合、「ポリヌクレオチド」という用語は、ヌクレオシドのポリマーを示すために、「核酸」と互換的に使用される。典型的には、ポリヌクレオチドは、ホスホジエステル結合によって結合された、DNA又はRNAに天然に見出されるヌクレオシド(例えば、アデノシン、チミジン、グアノシン、シチジン、ウリジン、デオキシアデノシン、デオキシチミジン、デオキシグアノシン、及びデオキシシチジン)で構成される。しかしながら、この用語は、天然に存在する核酸に見出されるか否かにかかわらず、化学的又は生物学的に修飾された塩基、修飾された骨格などを含むヌクレオシド又はヌクレオシドアナログを含む分子を包含し、そのような分子が所定の用途に好ましい場合がある。この出願がポリヌクレオチドに言及する場合、DNA、RNAの両方と、何れの場合にも一本鎖及び二本鎖形態(及び各一本鎖分子の相補鎖)が提供されることが理解される。ここで使用される「ポリヌクレオチド配列」は、ポリヌクレオチド物質自体及び/又は特定の核酸を生化学的に特徴付ける配列情報(すなわち、塩基の略語として使用される一連の文字)を指しうる。ここに提示されるポリヌクレオチド配列は、他に示されない限り、5’から3’の方向で提示される。
【0043】
ここで使用される場合、「ポリペプチド」という用語は、アミノ酸のポリマーを意味する。「タンパク質」及び「ポリペプチド」という用語は、ここでは互換的に使用される。ペプチドは、比較的短いポリペプチドであり、典型的には約2から60アミノ酸長である。ここで使用されるポリペプチドは、典型的には、タンパク質に最も一般的に見出される20のL-アミノ酸などのアミノ酸を含む。しかしながら、当該技術分野において知られている他のアミノ酸及び/又はアミノ酸アナログを使用することができる。ポリペプチド内のアミノ酸の一又は複数が、例えば、炭水化物基、リン酸基、脂肪酸基、コンジュゲーションのためのリンカー、官能基などの化学エンティティを加えることによって修飾されうる。非ポリペプチド部分が共有的又は非共有的に結合したポリペプチドは、依然として「ポリペプチド」と考えられる。例示的な修飾には、グリコシル化及びパルミトイル化が含まれる。ポリペプチドは、天然源から精製され、組換えDNA技術を使用して産生され、又は一般的な固相ペプチド合成などの化学的手段によって合成されうる。ここで使用される「ポリペプチド配列」又は「アミノ酸配列」という用語は、ポリペプチド物質自体及び/又はポリペプチドを生化学的に特徴付ける配列情報(すなわち、アミノ酸名の略語として使用される一連の文字又は3文字コード)を指しうる。ここに提示されるポリペプチド配列は、他に示されない限り、N末端からC末端の方向で提示される。
【0044】
ここで使用される場合、ここで使用される「組換え抗体」という用語は、組換え手段によって調製され、発現され、作製され若しくは単離される全ての抗体、例えば、宿主細胞にトランスフェクトされた組換え発現ベクターを使用して発現される抗体(本開示でより詳細に説明される)、組換えコンビナトリアル抗体ライブラリーから単離される抗体(Hoogenboom H.R.,(1997)TIB Tech.15:62-70;Azzazy H.,及びHighsmith W.E.,(2002)Clin.Biochem.35:425-445;Gavilondo J.V.,及びLarrick J.W.(2002)BioTechniques 29:128-145;Hoogenboom H.,及びChames P.(2000)Immunology Today 21:371-378)、免疫グロブリン遺伝子についてトランスジェニックである動物(例えば、マウス)から単離される抗体(例えば、Taylor,L.D.等(1992)Nucl.Acids Res.20:6287-6295;Kellermann S-A.,及びGreen L.L.(2002)Current Opinion in Biotechnology 13:593-597;Little M.等(2000)Immunology Today 21:364-370)或いは免疫グロブリン遺伝子配列を他のDNA配列にスプライシングすることを含む任意の他の手段によって調製され、発現され、作製され若しくは単離される抗体を含むことが意図される。幾つかの実施態様では、組換え抗体は組換えヒト抗体である。このような組換えヒト抗体は、ヒト生殖系列免疫グロブリン配列に由来する可変領域及び定常領域を有する。しかし、所定の実施態様では、このような組換えヒト抗体は、インビトロ変異誘発(又は、ヒトIg配列のトランスジェニック動物が使用される場合は、インビボ体細胞変異誘発)に供せられ、よって、組換え抗体のVH及びVL領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖系列VH及びVL配列に由来し、それらに関連しているものの、インビボのヒト抗体生殖系列レパートリー内に天然には存在しない可能性がある配列である。本開示の一実施態様は、ヒトメソテリンに結合できる完全ヒト抗体を提供し、これは、限定されないが、Jermutus等のPCT公開番号WO2005/007699A2に開示されているものなどのヒトIgファージライブラリーを使用するなど、当該技術分野で周知の技術を使用して産生することができる。
【0045】
ここで使用される場合、「ベクター」という用語は、宿主細胞への送達又は異なる宿主細胞間の移動が可能な核酸コンストラクトを意味する。ここで使用される場合、ベクターは、ウイルス性又は非ウイルス性でありうる。「ベクター」という用語は、適切な制御エレメントと会合されると複製することができ、遺伝子配列を細胞に移すことができる任意の遺伝因子を包含する。ベクターには、限定されないが、クローニングベクター、発現ベクター、プラスミド、ファージ、トランスポゾン、コスミド、人工染色体、ウイルス、ビリオンなどが含まれうる。
【0046】
ここで使用される場合、「発現ベクター」という用語は、ベクター上の転写調節配列に連結された配列からのRNA又はポリペプチドの発現を指示するベクターを意味する。発現される配列は、必ずしもではないが、細胞にとって異種性であることが多い。発現ベクターは追加のエレメントを含み得、例えば、発現ベクターは二種の複製系を有し得、それにより、二種の生物において、例えばヒト細胞において発現のため、また原核生物宿主においてクローニング及び増幅のために、維持されることが可能になる。「発現」という用語は、適用可能であれば、限定されないが、例えば、転写、転写物プロセシング、翻訳及びタンパク質フォールディング、修飾及びプロセシングを含む、RNA及びタンパク質の産生と、適切にはタンパク質の分泌に関与する細胞内プロセスを意味する。「発現産物」には、遺伝子から転写されたRNA、及び遺伝子から転写されたmRNAの翻訳によって得られたポリペプチドが含まれる。「遺伝子」という用語は、適切な調節配列に作用可能に連結された場合にインビトロ又はインビボでRNAに転写(DNA)される核酸配列を意味する。遺伝子は、コード領域の前後の領域、例えば5’非翻訳(5’UTR)又は「リーダー」配列及び3’UTR又は「トレーラー」配列、並びに個々のコード化セグメント(エクソン)間の介在配列(イントロン)を含んでも含まなくてもよい。
【0047】
ここで使用される場合、「ウイルスベクター」という用語は、ウイルス起源の少なくとも一つのエレメントを含み、ウイルスベクター粒子にパッケージされる能力を有する核酸ベクターコンストラクトを意味する。ウイルスベクターは、非必須のウイルス遺伝子の代わりに、ここに記載のポリペプチドをコードする核酸を含みうる。ベクター及び/又は粒子は、インビトロ又はインビボの何れかで核酸を細胞に移入する目的のために利用されうる。ウイルスベクターの多くの形態が当該分野において知られている。
【0048】
「組換えベクター」とは、インビボで発現することができる異種核酸配列又は「導入遺伝子」を含むベクターを意味する。ここに記載のベクターは、幾つかの実施態様では、他の適切な組成物及び治療法と組み合わせることができることを理解されたい。幾つかの実施態様では、ベクターはエピソームである。適切なエピソームベクターの使用は、対象において目的のヌクレオチドを高コピー数の染色体外DNAに維持する手段を提供し、それによって染色体への組込みの潜在的な影響を排除する。
【0049】
ここで使用される場合、「治療する(treat)」、「治療」、「治療する(treating)」、又は「改善」という用語は、目的が、疾患又は障害、例えば中皮腫、膵臓がん、卵巣がん、肺がん、子宮内膜がん、胆道がん、胃がん、乳がん、胸膜がん、結腸直腸がん、虫垂がん、食道がん、胸腺がん、又は子宮頸がん或いは他のがん、疾患、又は障害に関連する状態の進行又は重症度を逆転させ、緩和し、改善し、阻害し、減速させ、又は停止させることである治療的処置を意味する。「治療する(treating)」という用語は、病気、疾患又は障害の少なくとも一つの副作用又は症状を低減させ又は緩和させることを含む。一つ又は複数の症状又は臨床マーカーが減少した場合、治療は一般に「効果的」である。或いは、疾患の進行が減少し又は停止した場合、治療は「効果的」である。すなわち、「治療」には、症状又はマーカーの改善だけでなく、治療を行わない場合に予想されうる症状と比較して、症状の進行又は悪化の停止又は少なくとも緩徐化も含まれる。有益な又は望ましい臨床結果には、限定されないが、一つ又は複数の症状の緩和、疾患の範囲の縮小、疾患の安定した状態、疾患進行の遅延又は緩徐化、疾患状態の改善又は緩和、寛解(部分又は完全)、及び/又は死亡率の低下が、検出可能であろうと検出不可能であろうと、含まれる。疾患の「治療」という用語はまた疾患の症状又は副作用からの緩和をもたらすこと(対症療法を含む)を含む。
【0050】
ここで使用される場合、「薬学的組成物」という用語は、薬学的に許容される担体、例えば、製薬業界で一般的に使用される担体と組み合わせた活性剤を意味する。「薬学的に許容される」という語句は、ここでは、健全な医学的判断の範囲内で、過度な毒性、刺激、アレルギー反応、又は他の問題や合併症を伴わないで、妥当な効果/リスク比に見合って、人間や動物の組織と接触して使用されるのに適した化合物、物質、組成物、及び/又は剤形を指すために用いられる。態様の何れかの幾つかの実施態様では、薬学的に許容される担体は、水以外の担体でありうる。態様の何れかの幾つかの実施態様では、薬学的に許容される担体は、クリーム、エマルジョン、ゲル、リポソーム、ナノ粒子、及び/又は軟膏でありうる。態様の何れかの幾つかの実施態様では、薬学的に許容される担体は、人工又は改変された担体、例えば、活性成分がその中では天然に生じることが見出されない担体でありうる。
【0051】
ここで使用される場合、量に関連して使用される「約」又は「およそ」という用語は、前記量の±1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10%、例えば、±1%又は±10%の周辺の値の範囲を指す。
【0052】
ここで使用される場合、「a」、「an」、及び「the」という単数形の用語は、文脈が明らかに他の意味を示さない限り、複数の指示対象を含む。同様に、「又は」という語は、文脈が明確に別のことを示していない限り、「及び」を含むことが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0053】
添付の図面は、正確な比率で描かれることを意図したものではない。特許又は出願ファイルは、カラーで完成させた少なくとも一つの図面を含む。カラー図面を含むこの特許又は特許出願刊行物のコピーは、請求と必要な料金の支払いに応じて庁から提供される。
【
図1】
図1は、本開示の二種の例示的な抗メソテリン抗体試薬の、メソテリンでコーティングされたプレートのウェルへの結合を測定したELISAデータのグラフを示す。
【
図2A】
図2A~2Fは、本開示の例示的な抗メソテリン抗体試薬であるMGHmeso1の様々な細胞株への結合を特徴付けるウェスタンブロット画像、フローサイトメトリーデータ、及び蛍光顕微鏡画像を示す。
図2Aは、MGHmeso1の細胞株Jeko-1、AsPC-1、BxPC-3、Capan-2、Panc-1、PDAC3、NCI-H226、OVCAR3、及びOVCAR4からの溶解物への結合のアッセイを示すウェスタンブロット画像を示す。分子量マーカーは、GAPDHをメンブレンプローブ対照として用いて、メソテリン前駆体及びメソテリン切断型の位置を特定する。
【
図2B】
図2Bは、MGHmeso1のJeko-1、AsPC-1、BxPC-3、Capan-2、Panc-1、及びNCI-H226細胞への結合のアッセイにおけるフローサイトメトリーデータのグラフを示す。
【
図2C】
図2Cは、MGHmeso1のAsPC-1、BxPC-3、Capan-2、又はPanc-1細胞への結合のアッセイを示す蛍光顕微鏡写真を示し、左はDAPI染色画像、中央はMGHmeso1染色画像、右はマージ(DAPIとMGHmeso1)画像である。
【
図2D】
図2Dは、AsPC-1細胞に二次抗体のみを与えた場合の対照蛍光顕微鏡写真を示す。
【
図2E】
図2Eは、MGHmeso1のNCI-H226細胞への結合のアッセイを示す蛍光顕微鏡写真であり、左はDAPI染色画像、中央はMGHmeso1染色画像、右はマージ(DAPIとMGHmeso1)画像である。
【
図2F】
図2Fは、NCI-H226細胞に二次抗体のみを与えた場合の対照蛍光顕微鏡写真を示す。
【
図3A-3C】
図3A~3Fは、本開示の例示的な抗メソテリン抗体試薬であるMGHmeso1を含むCAR、又は以前から知られている抗メソテリン抗体であるSS1を含むCARを含むCAR T細胞からのサイトカイン分泌及び細胞殺傷のグラフを示す。説明文:NA、トランスフェクションなし;PMA/イオノマイシン、陽性対照;Meso、メソテリン;及びCD19。
図3AはIFN-γのレベルを示し、
図3BはIL-2のレベルを示し、
図3CはGM-CSFのレベルを示す。
【
図3D-3E】
図3DはTNF-αのレベルを示し、
図3EはグランザイムBのレベルを示す。
図3E~3Fは、非形質導入細胞(点線)、MGHmeso1又はSS1を含むCARを含むCAR T細胞への曝露時のCapan-2膵臓がん細胞(メソテリン陽性)(
図3E)又はJeKo-1リンパ腫細胞(メソテリン陰性)(
図3F)の溶解のグラフを示す。
【
図4A】
図4A~4Bは、MGHmeso1のエピトープマッピングを示す。
図4Aは、MGHmeso1のメソテリン断片への結合のマイクロアレイを示す。
【
図4B】
図4Bは、マイクロアレイ内のメソテリンの異なるエピトープに対するMGHmeso1の結合強度の定量を示す。
【
図5A-5B】
図5A~5Dは、MGHmeso1抗体が、SS1含有CARのメソテリンエピトープへの結合をブロックしないことを示しており、SS1とMGHmeso1が異なるメソテリンエピトープに結合することを示している。
図5Aは、SS1又はMGHmeso1コンストラクトを含むCAR-T細胞がCapan-2細胞株に対して類似した毒性を有することを示している。
図5Bは、SS1又はMGHmeso1コンストラクトを含むCAR-T細胞がPanc-1細胞株に対して類似した毒性を有することを示している。
図5A~5Bは、1:1の比でACEAアッセイを使用して実施し、細胞溶解を経時的に測定した。NT-処理なし、UTD=非形質導入。
【
図5C-5D】
図5C~5Dは、SS1又はMGHmeso1コンストラクトを含むCAR-T細胞が産生され、1:1の比でACEAアッセイを使用してAsPC-1細胞に対して試験したことを示している。CAR-T及びAsPC-1培養物に処理を行わない(NT)か、又は3ug/mlのIgG若しくはMGHmeso1 mAbで処理し、細胞溶解を経時的に測定した。
図5Cは、MGHmeso1抗体処理がSS1 CAR T細胞の有効性を低下させないことを示している。
図5Dは、MGHmeso1抗体処置によりMGHmeso1 CAR T細胞療法の有効性が低下することを示している。
【発明を実施するための形態】
【0054】
ここに提供されるのは、メソテリンタンパク質又はその一部に結合する抗体試薬及び抗体コンジュゲートである。理論に縛られるつもりはないが、MSLN(uniprot.org/uniprot/Q13421)は、一部の組織(例えば、胸膜、心膜、腹膜)の正常な中皮細胞に発現され、一部の上皮細胞(例えば、卵巣、精巣鞘膜、精巣網、及び卵管)に微量に発現されるが、様々ながん細胞には豊富に発現される。例えば、それぞれがここに出典明示により援用される、Lv,Jiang,及びLi,Peng.“Mesothelin as a biomarker for target therapy”.Biomark Res.2019;7:18;及びHassan等“Mesothelin Immunotherapy for Cancer:Ready for Prime Time?”J Clin Oncol.2016 Dec 1;34(34):4171-4179を参照のこと。メソテリンは、様々ながんに関連する(例えば、様々ながんで過剰発現される)細胞のマーカーとして使用することができ、メソテリン又はその一部に結合する抗体試薬及び抗体コンジュゲートは、メソテリンを含む細胞を標的とするために(例えば、メソテリンを含む細胞の存在を特定するため、又はメソテリン関連疾患を治療するために)使用することができる。
【0055】
[抗体試薬]
本開示は、部分的には、メソテリン又はその一部に特異的に結合する抗体試薬を提供する。メソテリン配列は、例えばヒトメソテリン(NCBI遺伝子ID:10232)及びポリペプチド(例えば、プレタンパク質NCBI Ref Seq:NP_005814.2)など、多数の種について知られている。メソテリンは、その天然に存在するバリアント、分子、及び対立遺伝子を含む、ヒトメソテリンを指しうる。ヒトメソテリンのホモログ及び/又はオルソログは、当業者によって、例えばメソテリンオルソログ検索機能を使用するか、又は参照メソテリン配列に類似する配列について所与の種について利用可能な配列データを検索することにより、そのような種について容易に特定される。幾つかの実施態様では、メソテリンに特異的に結合する抗体試薬は、例えばヒトメソテリンに加えて、ヒトメソテリンのホモログ及び/又はオルソログに特異的に結合する。
【0056】
幾つかの実施態様では、抗体試薬は、モノクローナル、ヒト、ヒト化、又はキメラの一つ、二つ、三つ、又は全てである。抗体試薬は、一つ又は複数の完全長抗体又はその抗体断片(例えば、メソテリンに結合する抗体断片)を含みうる。抗体断片は、Fab、Fab’-SH、Fv、scFv、及び(Fab’)2断片からなる群から選択されうる。幾つかの例では、抗体はIgG抗体(例えば、IgG1抗体)である。そのような抗体は、3日以上(例えば1週間以上、例えば2週間以上、例えば1ヶ月以上、例えば2ヶ月以上、例えば3ヶ月以上、例えば4ヶ月以上、例えば5ヶ月以上、例えば6ヶ月以上)の半減期を有しうる。
【0057】
例示的な抗メソテリン抗体試薬のアミノ酸配列を以下に示す。
【0058】
幾つかの実施態様では、抗体試薬は、三つの相補性決定領域、すなわちCDR-H1、CDR-H2、及びCDR-H3を含む重鎖可変ドメイン(VH)を含む。幾つかの実施態様では、CDR-H1は、配列番号:13のアミノ酸配列、又はそれに対して1、2、又は3以下のアミノ酸置換を有するアミノ酸配列を含む。幾つかの実施態様では、CDR-H2は、配列番号:14のアミノ酸配列、又はそれに対して1、2、又は3以下のアミノ酸置換を有するアミノ酸配列を含む。幾つかの実施態様では、CDR-H3は、配列番号:15のアミノ酸配列、又はそれに対して1、2、又は3以下のアミノ酸置換を有するアミノ酸配列を含む。幾つかの実施態様では、CDR-H1、CDR-H2、及び/又はCDR-H3に対する1、2、又は3のアミノ酸置換は、保存的アミノ酸置換である。
【0059】
幾つかの実施態様では、抗体試薬は、三つの相補性決定領域、すなわちCDR-L1、CDR-L2、及びCDR-L3を含む重鎖可変ドメイン(VL)を含む。幾つかの実施態様では、CDR-L1は、配列番号:16のアミノ酸配列、又はそれに対して1、2、又は3以下のアミノ酸置換を有するアミノ酸配列を含む。幾つかの実施態様では、CDR-L2は、配列番号:17のアミノ酸配列、又はそれに対して1、2、又は3以下のアミノ酸置換を有するアミノ酸配列を含む。幾つかの実施態様では、CDR-L3は、配列番号:18のアミノ酸配列、又はそれに対して1、2、又は3以下のアミノ酸置換を有するアミノ酸配列を含む。幾つかの実施態様では、CDR-L1、CDR-L2、及び/又はCDR-L3に対する1、2、又は3のアミノ酸置換は、保存的アミノ酸置換である。
【0060】
幾つかの実施態様では、抗体試薬は、配列番号:19に対して少なくとも80%の配列同一性(例えば、少なくとも81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性)又はその配列を有する重鎖可変ドメイン(VH)配列を含む。更なる例では、抗体試薬は、配列番号:20に対して少なくとも80%の配列同一性(例えば、少なくとも81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性)又はその配列を有する軽鎖可変ドメイン(VL)配列を含む。幾つかの例では、抗体試薬は、配列番号:19に対して少なくとも80%の配列同一性(例えば、少なくとも81%、82%、83%、84%、85%、86%、97%、98%、99%の配列同一性)又はその配列を有するVH配列と、配列番号:20に対して少なくとも80%の配列同一性(例えば、少なくとも81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性)又はその配列を有するVL配列を含む。
【0061】
幾つかの実施態様では、抗体試薬は、N-C方向にVH及びVLを含むscFvを含む。幾つかの実施態様では、scFvは、配列番号:21に対して少なくとも80%の配列同一性(例えば、少なくとも81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性)又はその配列を有するアミノ酸配列を有する。
【0062】
幾つかの実施態様では、抗体試薬は、N-C方向にVL及びVHを含むscFvを含む。幾つかの実施態様では、scFvは、配列番号:22に対して少なくとも80%の配列同一性(例えば、少なくとも81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性)又はその配列を有するアミノ酸配列を有する。
【0063】
幾つかの例では、本開示のメソテリン抗体の何れかは、ここに記載されるメソテリン抗体のCDR-H1、CDR-H2、CDR-H3、CDR-L1、CDR-L2、及び/又はCDR-L3配列の何れかと実質的に類似する一又は複数のCDR(例えば、CDR-H又はCDR-L)配列を有する。幾つかの実施態様では、ここに記載の抗体のVH(例えば、CDR-H1、CDR-H2、又はCDR-H3)及び/又はVL(例えば、CDR-L1、CDR-L2、又はCDR-L3)領域に沿った一つ又は複数のCDRの位置は、メソテリンへの免疫特異的結合が維持される(例えば、元の抗体の結合の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%が実質的に維持される)限り、1、2、3、4、5、又は6つのアミノ酸位置によって変化しうる。例えば、幾つかの実施態様では、ここに記載の抗体のCDRを定義する位置は、メソテリンへの結合が維持される(例えば、元の抗体の結合の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%が実質的に維持される)限り、CDRの位置に対して、CDRのN末端及び/又はC末端境界を1、2、3、4、5、又は6アミノ酸だけシフトすることによって変化しうる。別の実施態様では、ここに記載の抗体のVH(例えば、CDR-H1、CDR-H2、又はCDR-H3)及び/又はVL(例えば、CDR-L1、CDR-L2、又はCDR-L3)領域に沿った一又は複数のCDRの長さは、メソテリンへの結合が維持される(例えば、元の抗体の結合の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%が実質的に維持される)限り、1、2、3、4、5、又はそれ以上のアミノ酸だけ変化しうる(例えば、短くなり又は長くなりうる)。
【0064】
幾つかの実施態様では、抗体試薬は、メソテリンに対する免疫特異的結合が維持される(例えば、元の抗体の結合と比較して、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%が実質的に維持される)限り、ここに記載のCDR(例えば、ここに記載の例示的な抗メソテリン抗体からのCDR)の一又は複数よりも1、2、3、4、5以上のアミノ酸が短いCDR-L1、CDR-L2、CDR-L3、CDR-H1、CDR-H2、及び/又はCDR-H3を含む。幾つかの実施態様では、抗体試薬は、メソテリンへの結合が維持される(例えば、元の抗体の結合と比較して、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%が実質的に維持される)限り、ここに記載のCDR(例えば、ここに記載の例示的な抗メソテリン抗体からのCDR)の一又は複数よりも1、2、3、4、5以上のアミノ酸が長いCDR-L1、CDR-L2、CDR-L3、CDR-H1、CDR-H2、及び/又はCDR-H3を含む。幾つかの実施態様では、ここに記載のCDR-L1、CDR-L2、CDR-L3、CDR-H1、CDR-H2、及び/又はCDR-H3のアミノ部分は、メソテリンへの結合が維持される(例えば、元の抗体の結合と比較して、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%が実質的に維持される)限り、ここに記載のCDRの一又は複数(例えば、ここに記載の例示的な抗メソテリン抗体からのCDR)と比較して、1、2、3、4、5以上のアミノ酸だけ延長されうる。幾つかの実施態様では、ここに記載のCDR-L1、CDR-L2、CDR-L3、CDR-H1、CDR-H2、及び/又はCDR-H3のカルボキシ部分は、メソテリンへの結合が維持される(例えば、元の抗体の結合と比較して、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%が実質的に維持される)限り、ここに記載のCDR(例えば、ここに記載の例示的な抗メソテリン抗体からのCDR)の一又は複数と比較して、1、2、3、4、5以上のアミノ酸だけ延長されうる。幾つかの実施態様では、ここに記載のCDR-L1、CDR-L2、CDR-L3、CDR-H1、CDR-H2、及び/又はCDR-H3のアミノ部分は、メソテリンへの結合が維持される(例えば、元の抗体の結合と比較して、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%が実質的に維持される)限り、ここに記載のCDR(例えば、ここに記載の例示的な抗メソテリン抗体からのCDR)の一又は複数と比較して、1、2、3、4、5以上のアミノ酸だけ短縮されうる。幾つかの実施態様では、ここに記載のCDR-L1、CDR-L2、CDR-L3、CDR-H1、CDR-H2、及び/又はCDR-H3のカルボキシ部分は、メソテリンへの結合が維持される(例えば、元の抗体の結合と比較して、例えば、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%が実質的に維持される)限り、ここに記載のCDR(例えば、ここに記載の例示的な抗メソテリン抗体からのCDR)の一又は複数と比較して、1、2、3、4、5以上のアミノ酸だけ短縮されうる。任意の方法を使用して、例えば、当該技術分野で記載されている結合アッセイ及び条件を使用して、メソテリンへの結合(例えば、免疫特異的結合)が維持されるかどうかを確認することができる。
【0065】
更なる態様では、上記の実施態様の何れかに係る抗メソテリン抗体試薬は、以下のセクションに記載されるような、特徴の何れかを、単独で又は組み合わせて、含みうる。
【0066】
[抗体親和性]
幾つかの実施態様では、ここに提供される抗体試薬は、≦10μM、≦1μM、≦100nM、≦10nM、≦1nM、≦0.1nM、又は≦0.01nMの解離定数(KD)を有しうる。一実施態様では、抗体試薬は、約5nMと約1μMの間のKDでメソテリンに結合する。(例えば、抗メソテリン抗体又はその断片を含む)抗体試薬の親和性及び結合反応速度は、限定されないが、バイオセンサー技術(例えば、OCTET又はBIACORE)を含む任意の適切な方法を使用して試験できる。
【0067】
一実施態様では、KDは、放射性標識抗原結合アッセイ(RIA)によって測定される。一実施態様では、RIAは、目的の抗体のFab型及びその抗原を用いて実施される。例えば、抗原に対するFabの溶液結合親和性は、非標識抗原の一連の滴定下で最小濃度の(125I)標識抗原でFabを平衡化し、次に抗Fab抗体コートプレートで結合抗原を捕捉することによって、測定されうる(例えば、Chen等,J.Mol.Biol.293:865-881(1999)を参照)。アッセイの条件を確立するために、MICROTITER(登録商標)マルチウェルプレート(Thermo Scientific)を、50mMの炭酸ナトリウム(pH9.6)中の5μg/mlの捕捉抗Fab抗体(Cappel Labs)で一晩コートし、続いてPBS中の2%(w/v)のウシ血清アルブミンで室温(約23℃)において2から5時間ブロックされる。非吸着プレート(Nunc#269620)において、100pM又は26pMの[125I]-抗原を(例えば、抗VEGF抗体,Fab-12の評価と一致する、Presta等,Cancer Res.57:4593-4599(1997))目的のFabの段階希釈液と混合する。次に、目的のFabを一晩インキュベートする;しかしながら、確実に平衡に到達するようにするために、インキュベーションはより長い期間(例えば、約65時間)継続してもよい。その後、混合物を、室温でのインキュベーション(例えば、1時間)のために捕捉プレートに移す。次に、溶液を除去し、プレートをPBS中0.1%のポリソルベート20(TWEEN-20(登録商標))で8回洗浄する。プレートが乾燥したら、150μl/ウェルのシンチラント(MICROSCINT-20TM;Packard)を添加し、プレートをTOPCOUNTTMガンマカウンター(Packard)で10分間カウントする。最大結合の20%以下をもたらす各Fabの濃度を、競合結合アッセイで使用するために選択する。
【0068】
別の実施態様によれば、KDは、BIACORE(登録商標)表面プラズモン共鳴アッセイを使用して測定される。例えば、BIACORE(登録商標)-3000(BIAcore,Inc.,Piscataway,NJ)を使用したアッセイを、約10応答単位(RU)で固定化抗原CM5チップを用いて25℃において実施する。一実施態様では、カルボキシメチル化デキストランバイオセンサーチップ(CM5,BIACORE,Inc.)を、供給業者の説明書に従って、N-エチル-N’-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド塩酸塩(EDC)及びN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)で活性化させる。抗原を10mMの酢酸ナトリウム,pH4.8で5μg/ml(約0.2μM)に希釈した後、5μl/分の流量で注入し、約10応答単位(RU)の結合タンパク質を達成する。抗原注入に続いて、1Mのエタノールアミンを注入して未反応群をブロックする。動態測定では、Fabの二倍段階希釈液(0.78nMから500nM)を、約25μl/分の流量で25℃において0.05%のポリソルベート20(TWEEN-20TM)界面活性剤(PBST)を含むPBSに注入する。結合速度(kon)と解離速度(koff)を、結合センサーグラムと解離センサーグラムを同時にフィッティングすることにより、単純な一対一のラングミュア結合モデル(BIACORE(登録商標)評価ソフトウェアバージョン3.2)を使用して計算する。平衡解離定数(KD)を、比kon/koffとして計算する。例えば、Chen等,J.Mol.Biol.293:865-881(1999)を参照のこと。上記の表面プラズモン共鳴アッセイによってオン速度が106M-1s-1を超える場合、オン速度は、撹拌キュベットを備えた8000シリーズSLM-AMINCOTM分光光度計(ThermoSpectronic)又はストップフローを装備した分光光度計(Aviv Instruments)のような分光計で測定して、増加濃度の抗原の存在下で、PBS,pH7.2中20nMの抗抗原抗体(Fab型)の25℃における蛍光発光強度の増減を測定する蛍光消光技術(励起=295nm;発光=340nm、16nmバンドパス)を使用して決定できる。
【0069】
[抗体断片]
幾つかの実施態様では、ここに提供される抗体試薬は、抗体断片を含む。幾つかの実施態様では、抗体断片は、メソテリン又はその一部に特異的に結合する。幾つかの実施態様では、抗体試薬は、メソテリン又はその一部に特異的に結合する第一の抗体断片と、非メソテリン抗原、例えば、腫瘍抗原又はT細胞抗原に特異的に結合する一又は複数種の追加の抗体断片とを含む。抗体断片には、限定されないが、当該技術分野で知られている、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)2、Fv、及びscFv断片が含まれる。当該技術分野で知られているように、二価又は二重特異性でありうる二つの抗原結合部位を有するダイアボディも含まれる。トリアボディとテトラボディもまた知られている。単一ドメイン抗体はまた抗体の重鎖可変ドメインの全部又は一部、或いは軽鎖可変ドメインの全部又は一部を含む抗体断片である。所定の実施態様では、単一ドメイン抗体は、ヒト単一ドメイン抗体である。
【0070】
抗体断片は、ここに記載されるように、限定されないが、インタクトな抗体のタンパク質分解消化、並びに組換え宿主細胞(例えば、大腸菌又はファージ)による産生を含む、様々な技術によって作製されうる。
【0071】
[キメラ及びヒト化抗体]
幾つかの実施態様では、ここに提供される抗体試薬はキメラ抗体である。「キメラ抗体」という用語は、(A)一つの種由来の重鎖及び軽鎖可変領域配列と別の種由来の定常領域配列とを含む抗体、例えば、ヒト定常領域に連結されたマウス重鎖及び軽鎖可変領域を有する抗体;又は(B)クラス又はサブクラスが親抗体のものから変更されている「クラススイッチ」抗体の何れかを指す。一例では、キメラ抗体は、非ヒト可変領域(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、又は非ヒト霊長類、例えばサルに由来する可変領域)とヒト定常領域とを含む。キメラ抗体には、それらの抗原結合断片が含まれる。
【0072】
幾つかの実施態様では、キメラ抗体は、ヒト化抗体である。典型的には、非ヒト抗体は、親の非ヒト抗体の特異性及び親和性を保持しながら、ヒトに対する免疫原性を低下させるためにヒト化される。一般に、ヒト化抗体は、HVR、例えば、CDR(又はその一部)が非ヒト抗体に由来し、FR(又はその一部)がヒト抗体配列に由来する一つ又は複数の可変ドメインを含む。ヒト化抗体は、場合によっては、ヒト定常領域の少なくとも一部をまた含む。幾つかの実施態様では、ヒト化抗体中の幾つかのFR残基は、例えば、抗体の特異性又は親和性を回復させ又は改善するために、非ヒト抗体(例えば、HVR残基が由来する抗体)からの対応する残基で置換される。
【0073】
ヒト化に使用されうるヒトフレームワーク領域には、限定されないが、「ベストフィット」法を使用して選択されたフレームワーク領域(例えば、Sims等 J.Immunol.151:2296(1993)を参照);軽鎖又は重鎖可変領域の特定のサブグループのヒト抗体のコンセンサス配列に由来するフレームワーク領域(例えば、Carter等 Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89:4285(1992);及びPresta等 J.Immunol.,151:2623(1993)を参照);ヒト成熟(体細胞変異)フレームワーク領域又はヒト生殖系列フレームワーク領域(例えば、Almagro及びFransson,Front.Biosci.13:1619-1633(2008)を参照);及びFRライブラリーのスクリーニングに由来するフレームワーク領域(例えば、Baca等,J.Biol.Chem.272:10678-10684(1997)及びRosok等,J.Biol.Chem.271:22611-22618(1996)を参照)が含まれる。
【0074】
幾つかの実施態様では、ここに提供される抗体試薬は、軽鎖可変ドメインを含み、軽鎖可変ドメインは更に軽鎖定常領域を含む。幾つかの実施態様では、軽鎖定常領域は、κ又はλ軽鎖定常領域である。幾つかの実施態様では、κ又はλ軽鎖定常領域は、哺乳動物、例えば、ヒト、サル、ラット、又はマウス由来である。幾つかの実施態様では、軽鎖定常領域は、ヒトκ軽鎖定常領域である。幾つかの実施態様では、軽鎖定常領域は、ヒトλ軽鎖定常領域である。幾つかの実施態様では、軽鎖定常領域は、ここに提供される軽鎖定常領域の何れかのバリアントである。幾つかの実施態様では、軽鎖定常領域は、ここに提供される例示的な抗メソテリン抗体試薬の軽鎖定常領域の何れかと少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、98%、又は99%同一であるアミノ酸配列を含む。
【0075】
[ヒト抗体]
幾つかの実施態様では、ここに提供される抗体試薬は、ヒト抗体(例えば、ヒトモノクローナル抗体(HuMab)、例えば、抗メソテリンHuMab)である。ヒト抗体は、当該技術分野で知られている様々な技術を使用して産生することができる。
【0076】
ヒトモノクローナル抗体は、Kohler及びMilstein,Nature 256:495(1975)に記載された標準的な体細胞ハイブリダイゼーション技術などの様々な既知の技術を使用して産生することができる。体細胞ハイブリダイゼーション手順が好ましいが、原理上は、モノクローナル抗体を産生するための他の技術、例えば、Bリンパ球のウイルス又は癌化、ヒト抗体遺伝子ライブラリーを使用するファージディスプレイ技術をまた用いることができる。
【0077】
場合によっては、ヒト抗体は、ヒト対象から得られたヒトB細胞から直接重鎖及び軽鎖遺伝子をクローニングすることによって得られる。B細胞は、(例えば、フローサイトメトリー、例えば、FACSによって)末梢血から分離され、B細胞マーカーについて染色され、抗原結合について評価される。重鎖及び軽鎖可変領域(又は重鎖及び軽鎖全体)をコードするRNAが抽出され、DNAに逆転写され、そこから抗体遺伝子が(例えば、PCRによって)増幅され、配列決定される。次に、既知の抗体配列を使用して、既知の標的抗原(例えば、メソテリン)に対する組換えヒト抗体を発現させることができる。
【0078】
場合によっては、ヒト抗体は、抗原投与に応答してインタクトなヒト抗体又はヒト可変領域を有するインタクトな抗体を産生するように改変されたトランスジェニック動物に免疫原(例えば、メソテリン)を投与することによって調製されうる。そのような動物は典型的には、内因性免疫グロブリン遺伝子座に置き換わるか、又は染色体外に存在するか、又は動物の染色体にランダムに組み込まれる、ヒト免疫グロブリン遺伝子座の全部又は一部を含む。そのようなトランスジェニックマウスでは、内因性免疫グロブリン遺伝子座が一般に不活化されている。そのような動物によって産生されたインタクトな抗体からのヒト可変領域が、例えば、異なるヒト定常領域と組み合わせることによって、更に改変されうる。
【0079】
場合によっては、ヒト抗体はハイブリドーマベースの方法によってもまた作製することができる。ヒトモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを作製するための好ましい動物系は、マウス系である。マウスにおけるハイブリドーマ産生は、免疫化プロトコル及び免疫化された脾細胞を単離し融合するための技術を含み、当該技術分野でよく知られている。ヒトモノクローナル抗体の産生のためのヒト骨髄腫及びマウス-ヒトヘテロ骨髄腫細胞株が記載されている。
【0080】
ヒト抗体はまたヒト由来のファージディスプレイライブラリーから選択されたFvクローン可変ドメイン配列を単離することによって作製されうる。次に、そのような可変ドメイン配列を、所望のヒト定常ドメインと組み合わせることができる。抗体ライブラリーからヒト抗体を選択するための技術は以下に説明する。
【0081】
抗メソテリン抗体はまた、例えば、米国特許第4816567号に記載されているように、組換え方法及び組成物を使用して産生することもできる。一実施態様では、ここに記載の抗メソテリン抗体をコードする単離された核酸が提供される。そのような核酸は、抗体のVLを含むアミノ酸配列及び/又はVHを含むアミノ酸配列(例えば、抗体の軽鎖及び/又は重鎖)をコードしうる。更なる実施態様では、そのような核酸を含む一つ又は複数のベクター(例えば、発現ベクター)が提供される。更なる実施態様では、そのような核酸を含む宿主細胞が提供される。そのような一実施態様では、宿主細胞は、(1)抗体のVLを含むアミノ酸配列及び抗体のVHを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含むベクター、又は(2)抗体のVLを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含む第一のベクターと抗体のVHを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含む第二のベクターを含む(例えば、それで形質転換されている)。一実施態様では、宿主細胞は真核生物、例えばチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞又はリンパ系細胞(例えば、Y0、NS0、Sp20細胞)である。一実施態様では、抗メソテリン抗体を作製する方法が提供され、該方法は、抗体の発現に適した条件下で、上で提供されたような、抗体をコードする核酸を含む宿主細胞を培養し、場合によっては抗体を宿主細胞(又は宿主細胞培養培地)から回収することを含む。
【0082】
抗メソテリン抗体の組換え産生では、例えば上記のような、抗体をコードする核酸が単離され、宿主細胞における更なるクローニング及び/又は発現のために一つ又は複数のベクターに挿入される。そのような核酸は、一般的な手順を使用して(例えば、抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することができるオリゴヌクレオチドプローブを使用することによって)容易に単離され配列決定されうる。
【0083】
抗体をコードするベクターのクローニング又は発現に適した宿主細胞には、ここに記載の原核生物又は真核生物細胞が含まれる。例えば、抗体は、特にグリコシル化及びFcエフェクター機能が必要とされない場合、細菌中で産生されうる。発現後、抗体は、可溶性画分中の細菌細胞ペーストから単離され得、更に精製されうる。
【0084】
原核生物に加えて、糸状菌又は酵母などの真核微生物は、そのグリコシル化経路が「ヒト化」されている真菌又は酵母株を含み、抗体をコードするベクターの適切なクローニング又は発現宿主であり、部分的又は完全にヒトのグリコシル化パターンを持つ抗体の産生をもたらす。
【0085】
グリコシル化抗体の発現に適した宿主細胞は、多細胞生物(無脊椎動物及び脊椎動物)にまた由来する。無脊椎動物細胞の例には、植物及び昆虫細胞が含まれる。特にヨトウガ(Spodoptera frugiperda)細胞のトランスフェクションのために、昆虫細胞と組み合わせて使用されうる多くのバキュロウイルス株が同定されている。植物細胞培養物もまた宿主として利用されうる。
【0086】
脊椎動物細胞もまた宿主として使用されうる。例えば、懸濁液中で増殖するように適合化された哺乳動物細胞株が有用でありうる。有用な哺乳動物宿主細胞株の他の例は、SV40によって形質転換されたサル腎臓CV1株(COS-7);ヒト胎児腎臓株(例えば、Graham等,J.Gen Virol.36:59(1977)に記載されている293又は293細胞);ベビーハムスター腎臓細胞(BHK);マウスセルトリ細胞(例えば、Mather,Biol.Reprod.23:243-251(1980)に記載されているTM4細胞);サル腎臓細胞(CV1);アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO-76);ヒト子宮頸がん細胞(HELA);イヌ腎臓細胞(MDCK;バッファローラット肝細胞(BRL 3A);ヒト肺細胞(W138);ヒト肝細胞(Hep G2);マウス乳腺腫瘍(MMT060562);例えば、Mather等,Annals N.Y.Acad.Sci.383:44-68(1982)に記載されているようなTRI細胞;MRC5細胞;及びFS4細胞である。他の有用な哺乳動物宿主細胞株には、DHFR-CHO細胞を含むチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、及び骨髄腫細胞株、例えばY0、NS0、及びSp2/0が含まれる。
【0087】
[抗体バリアント]
幾つかの実施態様では、抗体試薬は、ここに記載されるか、又は当該技術分野で知られている抗メソテリン抗体試薬のアミノ酸配列バリアントでありうる。例えば、抗体試薬の結合親和性及び/又は他の生物学的特性を改善することが望ましい場合がある。抗体のアミノ酸配列バリアントは、抗体をコードするヌクレオチド配列に適切な修飾を導入することによって、又はペプチド合成によって調製されうる。そのような修飾には、例えば、抗体のアミノ酸配列内の残基の欠失、及び/又は挿入、及び/又は置換が含まれる。最終コンストラクトが所望の特徴、例えば、抗原結合性を有するという条件下で、欠失、挿入、及び置換の任意の組み合わせを行って、最終コンストラクトに到達することができる。
【0088】
所定の実施態様では、一つ又は複数のアミノ酸置換を有する抗体バリアントが提供される。置換変異誘発の対象となる部位には、CDR及びFRが含まれる。保存的置換は、表2に「好ましい置換」という見出しの下で示される。より実質的な変化は、「例示的置換」の見出しの下で表2に提供され、アミノ酸側鎖クラスに関して以下に更に説明される。アミノ酸置換を目的の抗体に導入し、生成物が所望の活性、例えば、保持/改善された抗原結合性、減少した免疫原性、又は改善されたADCC又はCDCについてスクリーニングされうる。
【0089】
アミノ酸は、共通の側鎖特性に従ってグループ化されうる:
(1)疎水性:ノルロイシン、Met、Ala、Val、Leu、Ile;
(2)中性親水性:Cys、Ser、Thr、Asn、Gln;
(3)酸性:Asp、Glu;
(4)塩基性:His、Lys、Arg;
(5)鎖配向に影響を与える残基:Gly、Pro;
(6)芳香族:Trp、Tyr、Phe。
非保存的置換では、これらのクラスの一つのメンバーを別のクラスに交換する必要がある。
【0090】
一つのタイプの置換バリアントは、親抗体(例えば、ヒト化又はヒト抗体)の一つ又は複数の超可変領域残基を置換することを含む。一般に、更なる研究のために選択される結果として生じるバリアントは、親抗体に対して所定の生物学的特性(例えば、親和性の増加、免疫原性の低下)に変更(例えば、改善)を有し、及び/又は親抗体の所定の生物学的特性を実質的に保持している。例示的な置換バリアントは、親和性成熟抗体であり、これは、例えば、ここに記載されるものなど、ファージディスプレイベースの親和性成熟技術を使用して、簡便に作製されうる。簡単に説明すると、一つ又は複数のCDR残基が変異され、バリアント抗体がファージにディスプレイされ、特定の生物学的活性(例えば、結合親和性)についてスクリーニングされる。
【0091】
改変(例えば、置換)は、例えば、抗体親和性を改善するために、CDRにおいてなされうる。そのような改変は、CDRの「ホットスポット」、すなわち、体細胞成熟過程中に高頻度で変異を受けるコドンによってコードされる残基、及び/又は抗原に接触する残基で行われ得、得られるバリアントVH又はVLが結合親和性について試験される。二次ライブラリーから構築し再選択することによる親和性成熟が、当該技術分野で知られている。親和性成熟の幾つかの実施態様では、多様性が、様々な方法(例えば、エラープローンPCR、鎖シャッフリング、又はオリゴヌクレオチド特異的変異誘発)の何れかによって成熟のために選択される可変遺伝子中に導入される。ついで、二次ライブラリーが作製される。ついで、ライブラリーをスクリーニングして、所望の親和性を持つ抗体バリアントが同定される。多様性を導入する別の方法は、幾つかのCDR残基(例えば、一度に4~6残基)がランダム化されたCDR指向のアプローチを伴う。抗原結合に関与するCDR残基は、例えばアラニンスキャニング変異誘発又はモデリングを使用して、特異的に同定することができる。特にCDR-H3及びCDR-L3がしばしば標的とされる。
【0092】
所定の実施態様では、置換、挿入、又は欠失は、そのような改変が抗原に結合する抗体の能力を実質的に低下させない限り、一つ又は複数のCDR内で生じうる。例えば、実質的に結合親和性を低下させない保存的改変(例えば、ここに提供される保存的置換)をCDR内で行うことができる。このような改変は、例えば、CDR内の抗原接触残基の外側で生じうる。上に提供されたバリアントVH及びVL配列の所定の実施態様では、各CDRは未改変か、又はわずか一、二、若しくは三のアミノ酸置換を含む。
【0093】
変異誘発のために標的とされうる抗体の残基又は領域の同定のための有用な方法は、Cunningham及びWells(1989)Science,244:1081-1085に記載されるように「アラニンスキャニング変異誘発」と呼ばれる。この方法では、標的残基の残基又は群(例えば、Arg、Asp、His、Lys及びGluなどの荷電残基)が同定され、抗原と抗体の相互作用が影響を受けるかどうかを決定するために、中性又は負に帯電したアミノ酸(例えば、アラニン又はポリアラニン)により置換される。更なる置換が、最初の置換に対する機能的感受性を示すアミノ酸の位置に導入されうる。或いは又は加えて、抗体と抗原の間の接触点を同定するための抗原-抗体コンジュゲートの結晶構造。そのような接触残基及び隣接残基は、置換候補として標的とされ得、又は排除されうる。バリアントは、所望の特性を含むかどうかを決定するためにスクリーニングされうる。
【0094】
アミノ酸配列挿入物には、1残基から100以上の残基を含むポリペプチドの長さに及ぶアミノ-及び/又はカルボキシル末端融合体、並びに単一又は複数のアミノ酸残基の配列内挿入物が含まれる。末端挿入物の例には、N末端メチオニル残基を有する抗体が含まれる。抗体分子の他の挿入バリアントには、抗体の血清半減期を増大させる酵素(例えばADEPTのための)又はポリペプチドに対する抗体のN末端又はC末端への融合物が含まれる。
【0095】
所定の実施態様では、改変は抗体のFc領域に対してなされうる。これらの改変は、単独で、或いは一つ又は複数の抗体可変ドメイン又はその領域(例えば、一つ又は複数のCDR又はFR)への改変に加えて、なされうる。Fc領域への改変は、例えば、オプソニン化細胞に対するC1q結合力を増加させることにより、抗体エフェクター機能(例えば、補体依存性細胞傷害性(CDC))の向上をもたらしうる。CDCを向上させる例示的な変異には、例えば、Fc変異E345R、E430G、及びS440Yが含まれる。従って、抗メソテリン抗体試薬は、IgG六量体形成及びその後の補体の第一成分であるC1の動員及び活性化を促進する、一つ又は複数のCDC増強Fc変異を含みうる。
【0096】
所定の実施態様では、抗体のFc領域のアミノ酸配列の改変は、宿主における抗体の半減期を変化させうる。新生児Fc受容体(FcRn)への結合を変化させる所定の変異は、血清中の抗体の半減期を延長しうる。例えば、重鎖位置252にチロシン、重鎖位置254にスレオニン、及び重鎖位置256にグルタミン酸を有する抗体は、劇的に延長された血清中半減期を有しうる(例えば、米国特許第7083784号を参照)。
【0097】
幾つかの実施態様では、ここに記載の抗体のFc領域に一つ、二つ又はそれ以上の変異(例えば、アミノ酸置換)が導入され、血清半減期、補体結合性、Fc受容体結合性、及び/又は抗原依存性細胞傷害性などの抗体の一又は複数の機能特性が変更される。
【0098】
幾つかの実施態様では、例えば米国特許第5677425号に記載されているように、ヒンジ領域内のシステイン残基の数が変更される(例えば、増加又は減少される)ように、Fc領域(CH1ドメイン)のヒンジ領域内に一つ、二つ又はそれ以上の変異(例えば、アミノ酸置換)が導入される。CH1ドメインのヒンジ領域内のシステイン残基の数は、例えば、軽鎖及び重鎖のアセンブリーを容易にするため、或いは抗体の安定性を変更する(例えば、増加又は減少させる)ため、或いはリンカー結合を容易にするために変更することができる。
【0099】
幾つかの実施態様では、ここに記載の抗体のFc領域内に一つ、二つ又はそれ以上の変異(例えば、アミノ酸置換)が導入され、エフェクター細胞の表面上でのFc受容体(例えば、活性化Fc受容体)に対する抗体の親和性が増加又は減少される。抗体のFc受容体に対する親和性を減少又は増加させる抗体のFc領域における変異と、このような変異をFc受容体又はその断片に導入する技術は、当業者に知られている。抗体のFc受容体に対する親和性を変化させるために行うことができる抗体のFc受容体における変異の例は、例えば、Smith P等(2012)PNAS 109:6181-6186、米国特許第6737056号、及び国際公開番号WO02/060919、WO98/23289、及びWO97/34631に記載されており、これらは出典明示によりここに援用される。
【0100】
幾つかの実施態様では、IgG定常ドメイン又はそのFcRn結合断片(好ましくはFc又はヒンジ-Fcドメイン断片)に一つ、二つ又はそれ以上のアミノ酸変異(例えば、置換、挿入又は欠失)が導入され、インビボでの抗体の半減期が変化させられる(例えば、減少又は増加される)。インビボでの抗体半減期を変化させる(例えば、減少又は増加させる)変異の例については、例えば、国際公開番号WO02/060919;WO98/23289;及びWO97/34631;及び米国特許第5869046号、第6121022号、第6277375号及び第6165745号を参照のこと。
【0101】
幾つかの実施態様では、抗体試薬(例えば、抗メソテリン抗体試薬)のエフェクター機能を変更させるために、一つ、二つ又はそれ以上のアミノ酸置換がFc領域内に導入される。このアプローチは、米国特許第5624821号及び第5648260号に更に詳細に記載されている。幾つかの実施態様では、定常領域ドメインの(点変異又は他の手段による)除去又は不活性化により、循環抗体のFc受容体結合性が減少し、それによって腫瘍の局在化を増加させる可能性がある。定常ドメインを除去又は不活性化し、それによって腫瘍の局在化を増加させる変異の説明については、例えば、米国特許第5585097号及び第8591886号を参照のこと。幾つかの実施態様では、ここに記載の抗体試薬のFc領域内に一又は複数のアミノ酸置換を導入して、Fc領域上の潜在的なグリコシル化部位を除去し、Fc受容体結合性を低下させることができる(例えば、Shields R L等,(2001)J Biol Chem 276:6591-604を参照)。
【0102】
幾つかの実施態様では、ここに記載の抗体試薬の定常領域における一又は複数のアミノ酸を異なるアミノ酸残基に置換して、抗体試薬が、変化したC1q結合性、及び/又は低減若しくは消失した補体依存性細胞傷害性(CDC)を有するようにすることができる。このアプローチは、米国特許第6194551号(Idusogie等)に更に詳細に記載されている。幾つかの実施態様では、ここに記載の抗体試薬のCH2ドメインのN末端領域における一又は複数のアミノ酸残基を変化させ、それによって抗体試薬の補体固定能力を変化させる。このアプローチは、国際公開番号WO94/29351に更に詳細に記載されている。幾つかの実施態様では、ここに記載の抗体試薬のFc領域を改変して、抗体依存性細胞傷害性(ADCC)を媒介し、及び/又はFcγ受容体に対する抗体の親和性を増加させる抗体試薬の能力を増加させる。このアプローチは、国際公開番号WO00/42072に更に詳細に記載されている。
【0103】
アミノ酸配列の改変は、当業者に知られている多数の技術の何れかによって達成することができる。変異は、例えば、天然配列の断片へのライゲーションを可能にする制限部位に隣接している変異配列を含むオリゴヌクレオチドを合成することによって、特定の遺伝子座に導入することができる。ライゲーション後、得られた再構築配列は、所望のアミノ酸の挿入、置換、又は欠失を有するアナログをコードする。或いは、オリゴヌクレオチド指定部位特異的変異誘発手順を用いて、必要とされる置換、欠失、又は挿入に従って改変された特定のコドンを有する改変されたヌクレオチド配列を得ることができる。このような改変を行う技術は十分に確立されており、例えば、その全体が出典明示によりここに援用される、Walder等(Gene 42:133,1986);Bauer等(Gene 37:73,1985);Craik(BioTechniques,January 1985,12-19);Smith等(Genetic Engineering:Principles and Methods,Plenum Press,1981);及び米国特許第4518584号及び第4737462号によって開示されたものが含まれる。ポリペプチドの適切な立体配座の維持に関与しない任意のシステイン残基はまた、分子の酸化安定性を改善し、異常な架橋を防ぐために、一般にセリンで置換されうる。逆に、システイン結合をポリペプチドに加えて、その安定性を改善し又はオリゴマー化を促進することもできる。
【0104】
幾つかの実施態様では、抗体試薬は修飾され、例えば、グリコシル化、リン酸化、SUMO化、及び/又はメチル化を介して修飾される。幾つかの実施態様では、抗体試薬は、一又は複数の糖又は炭水化物分子に結合されたグリコシル化抗体である。幾つかの実施態様では、一又は複数の糖又は炭水化物分子は、N-グリコシル化、O-グリコシル化、C-グリコシル化、グリピエーション(GPIアンカー付着)、及び/又はホスホグリコシル化を介して抗体試薬に結合される。幾つかの実施態様では、一又は複数の糖又は炭水化物分子は、単糖、二糖、オリゴ糖、又はグリカンである。幾つかの実施態様では、一又は複数の糖又は炭水化物分子は、分岐オリゴ糖又は分岐グリカンである。幾つかの実施態様では、一又は複数の糖又は炭水化物分子は、マンノース単位、グルコース単位、N-アセチルグルコサミン単位、又はリン脂質単位を含む。幾つかの実施態様では、約1~10、約1~5、約5~10、約1~4、約1~3、又は約2の糖分子が存在する。幾つかの実施態様では、グリコシル化抗体は、完全に又は部分的にグリコシル化される。幾つかの実施態様では、抗体は、化学反応又は酵素的手段によってグリコシル化される。幾つかの実施態様では、抗体は、インビトロ又は細胞内でグリコシル化され、これは、場合によっては、N-又はO-グリコシル化経路における酵素、例えばグリコシルトランスフェラーゼが欠損していてもよい。
【0105】
[メソテリンに対するモノクローナル抗体の特徴付け]
本開示のヒトモノクローナル抗体の配列情報は、当該技術分野でよく知られている配列決定技術を使用して確認することができる。
【0106】
同様に、メソテリンに対する抗体の親和性は、また標準的な手法を使用して評価することができる。例えば、Biacore3000を使用して、HuMabのメソテリンへの親和性を決定することができる。HuMabは、例えばアミンカップリング(センサーチップCM5)を介して、Biacoreチップ(GE healthcare)の表面に捕捉される。捕捉されたHuMabを、様々な濃度の溶液中のメソテリンに曝露することができ、親和性(KD)のKon及びKoffを、例えばBIAevaluationソフトウェアによって計算することができる。
【0107】
本開示のヒトモノクローナル抗体はまた、ELISA、ウエスタンブロットなどの様々な既知の技術を使用して、メソテリンへの結合について特徴付けることができる。一般に、抗体は、最初にELISAによって特徴付けられる。幾つかの実施態様では、ELISAアッセイを使用して、抗体を、よって、メソテリン免疫原と陽性反応性を示す抗体を産生するハイブリドーマをスクリーニングすることができる。次に、好ましくは高い親和性で、メソテリンに結合するハイブリドーマをサブクローニングし、更に特徴付けることができる。次に、(ELISAにより)親細胞の反応性を保持する各ハイブリドーマからの一つのクローンを、細胞バンク作製及び抗体精製のために選択することができる。
【0108】
幾つかの実施態様では、競合アッセイを使用して、メソテリンへの結合について本開示の抗メソテリン抗体試薬と競合する抗体を同定することができる。所定の実施態様では、そのような競合する抗体は、本開示の抗メソテリン抗体試薬によって結合される同じエピトープ(例えば、線状又は立体構造エピトープ)に結合する。抗体が結合するエピトープをマッピングするための詳細な例示的方法は、Morris(1996)“Epitope Mapping Protocols,”Methods in Molecular Biology vol.66(Humana Press,Totowa,NJ)に提供される。
【0109】
幾つかの態様では、MGHmeso1抗体試薬は、メソテリンの領域III(アミノ酸487-598)のメソテリンエピトープに結合する。幾つかの態様では、MGHmeso1抗体試薬は、RLAFQNMNGSEY(配列番号:37)を含むメソテリンエピトープに結合する。幾つかの実施態様では、MGH1meso1抗体試薬は、SS1抗体とは異なるエピトープに結合する。
【0110】
[抗体コンジュゲート]
幾つかの実施態様では、本開示の抗メソテリン抗体試薬は、リンカーによって(例えば、ジスルフィド又は非切断性チオエーテルリンカーによって)抗体コンジュゲートとしての部分に共有結合されうる。幾つかの実施態様では、部分は薬物部分であり、抗体コンジュゲートは抗体薬物コンジュゲート(ADC)である。幾つかの実施態様では、部分は検出可能部分であり、例えば、抗体コンジュゲートの検出又は定量を容易にする。抗体が共有結合されている薬物は、抗体にコンジュゲートされていない場合、細胞傷害性又は細胞分裂阻害効果を有しうる。抗体薬物コンジュゲートは、より高い選択性、故により低い有効用量を達成するために、メソテリンを発現する細胞(例えば、メソテリンを発現する腫瘍組織)に細胞傷害性薬剤の有効用量を選択的に送達するために使用することができる。より高い選択性を達成することにより、抗体薬物コンジュゲートの使用は、薬物の全身曝露を低減し、忍容性を高めうる。加えて、抗体薬物コンジュゲートは、薬物及び/又は抗体がその非コンジュゲート形態で投与される場合と比較して、薬物及び/又は抗体のバイオアベイラビリティを改善しうる。
【0111】
様々なリンカータイプ及び戦略が当該技術分野で知られており、これらの何れか又は全てが、本開示の抗体試薬と共に使用することが想定される。幾つかの実施態様では、リンカーは生分解性であり、例えば、(例えば、標的組織及び/又は細胞に存在する)内因性プロテアーゼによって切断可能である。幾つかの実施態様では、リンカーはプロテアーゼ切断可能部位を含む。幾つかの実施態様では、リンカーは、pH感受性部位、例えば、酸性pHに感受性である部位、例えば、酸性条件下で加水分解する部位を含む。幾つかの実施態様では、リンカーは生理学的条件下で安定であり、例えば、部分の放出前に抗体がその部分を標的組織(例えば、メソテリン発現腫瘍細胞)に標的化するのに十分安定である。幾つかの実施態様では、リンカーはジスルフィド結合、例えば、グルタチオン感受性ジスルフィド結合を含む。幾つかの実施態様では、抗体試薬にコンジュゲートされた薬物部分は、リンカーの切断後にのみ活性となる。幾つかの実施態様では、抗体試薬にコンジュゲートされた薬物部分は、(例えば、標的細胞のリソソーム内において)抗体試薬のタンパク質分解消化後にのみ活性となる。幾つかの実施態様では、リンカーは、切断不可能なヘテロ二官能性チオエーテルリンカー、例えば、N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(スクシンイミジル-4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート又はSMCC)を含む、例えばマレイミドリンカーである。
【0112】
様々な薬物部分が当該技術分野において知られており、これらの何れか又は全てを、本開示の抗体試薬と共に使用することが想定される。幾つかの実施態様では、薬物は、オゾガマイシン、ベドチン、ブレオマイシン、アウリスタチン、メイタンシノイド、カリケアマイシン、エムタンシン、デルクステカン、ゴビテカン、マホドチン、デュオカルマジン、ソラブタンシン、テシリン、又はそれらの何れかの関連化学バリアントを含む(Joubert等 Pharmaceuticals(Basel).2020 Sep;13(9):245)。
【0113】
様々な検出可能部分が当該技術分野において知られており、これらの何れか又は全てを、本開示の抗体試薬と共に使用することが想定される。幾つかの実施態様では、検出可能部分は、蛍光分子、発色分子、アフィニティー精製タグ、放射性同位体、重同位体、ヌクレオチドプローブ、又はナノ粒子から選択される。幾つかの実施態様では、検出可能部分は蛍光分子、例えば緑色蛍光タンパク質(GFP)である。幾つかの実施態様では、検出可能部分は放射標識されており、例えば放射性同位元素を含む。幾つかの実施態様では、検出可能部分は比色分析技術によって検出可能である。
【0114】
[多重特異性抗体試薬]
幾つかの実施態様では、抗体試薬は多重特異性であり、二つ以上の標的抗原に特異的に結合することができる。幾つかの実施態様では、抗体試薬は二重特異性(すなわち、二重特異性抗体試薬)である。幾つかの実施態様では、二重特異性抗体試薬はメソテリンと第二の抗原に特異的に結合する。幾つかの実施態様では、第二の抗原は腫瘍抗原である。幾つかの実施態様では、第二の抗原は、メソテリン発現がん細胞によって(例えば、その表面上に)発現される。幾つかの実施態様では、第二の抗原は、上皮増殖因子受容体(EGFR)、BCMA、CD19、CD37、癌胎児抗原(CEA)、上皮細胞接着分子(EpCAM)、EphA3、Her2/neu、MUC1、TGF-βRII、コロニー刺激因子1受容体(CSF1R)、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、又は前立腺幹細胞抗原(PSCA)である。
【0115】
多重特異性抗体試薬は、第一の抗原(例えば、メソテリン)に結合する全長抗体又はその抗体断片を含む第一の結合ドメインと、第二の抗原(例えば、腫瘍抗原)に結合する異なる全長抗体又はその抗体断片を含む第二の結合ドメインとを含みうる。第一及び第二の結合ドメインは、リンカー配列によって連結されうる。幾つかの実施態様では、リンカー配列は、可動性リンカーである。例えば、本開示の抗体試薬に有用なリンカー配列には、限定されないが、グリシン/セリンリンカー、例えば、GGGSGGGSGGGS(配列番号:31)及びGly4Ser(G4S)(配列番号:38)リンカー、例えば(G4S)3(GGGGSGGGGSGGGGS(配列番号:32))及び(G4S)4(GGGGSGGGGSGGGGSGGGGS(配列番号:33));その内容が全体として出典明示によりここに援用されるWhitlow等,Protein Eng.6(8):989-95,1993に記載されているGSTSGSGKPGSGEGSTKG(配列番号:34)のリンカー配列;その内容が全体として出典明示によりここに援用されるAndris-Widhopf等,Cold Spring Harb.Protoc.2011(9),2011に記載されているGGSSRSSSSGGGGSGGGG(配列番号:35)のリンカー配列;並びにその内容が全体として出典明示によりここに援用されるSblattero等,Nat.Biotechnol.18(1):75-80,2000に記載されているCre-Lox組換え部位を含むコード配列又はエピトープタグなどの追加の機能性を持つリンカー配列が含まれる。
【0116】
[T細胞エンゲージ抗体分子(TEAM)]
ここにまた提供されるのは、(文献では二重特異性T細胞エンゲージャー又はBiTETMとも呼ばれる)T細胞エンゲージ抗体分子(TEAM)として知られる二重特異性抗体試薬である。そのような分子は、T細胞抗原に結合することによって(例えば、CD3に結合することによって)、並びに標的抗原、例えば、メソテリンに結合することによって、T細胞を標的にすることができる。TEAMは、例えば、腫瘍微小環境においてT細胞応答を増強するために使用できる。幾つかの実施態様では、T細胞抗原はTreg抗原である。幾つかの実施態様では、Treg抗原は、GARP、LAP、CD25、及びCTLA-4から選択される。TEAMの二つの成分は、ここに記載のリンカー(例えば、グリシン/セリンベースのリンカー)によって場合によっては互いに分離され得、また、例えば、抗メソテリン成分のN末端に抗CD3成分を、又はその逆の何れかの配向で連結されうる。幾つかの実施態様では、GARPを標的とする抗体試薬は、配列番号:11を含む。幾つかの実施態様では、GARPを標的とする抗体試薬は、ラクダ科動物抗体又は単一ドメイン抗体である。幾つかの実施態様では、LAPを標的とする抗体試薬は、配列番号:12を含む。幾つかの実施態様では、LAPを標的とする抗体試薬は、配列番号:12のVH及びVLドメインを含む。幾つかの実施態様では、LAPを標的とする抗体試薬は、N末端からC末端に向けてVHドメイン、次にVLドメインを含む。幾つかの実施態様では、LAPを標的とする抗体試薬は、N末端からC末端に向けてVLドメイン、次にVHドメインを含む。
【0117】
DIQMTQSPSSLSASLGDRVTITCQASQSISSYLAWYQQKPGQAPNILIYGASRLKTGVPSRFSGSGSGTSFTLTISGLEAEDAGTYYCQQYASVPVTFGQGTKVELK(配列番号:11)
【0118】
MKLWLNWIFLVTLLNDIQCEVKLVESGGGLVQPGGSLSLSCAASGFTFTDYYMSWVRQPPGKALEWLGFIRNKPNGYTTEYSASVKGRFTISRDNSQSILYLQMNVLRAEDSATYYCARYTGGGYFDYWGQGTTLTVSSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGSMMSSAQFLGLLLLCFQGTRCDIQMTQTTSSLSASLGDRLTISCRASQDISNYLNWYQQKPDGTVKLLIYYTSRLHSGVPSRFSGSGSGTDYSLTISNLEQADIATYFCQQGDTLPWTFGGGTKLEIK(配列番号:12)
【0119】
ここに記載された方法に有用な例示的なTEAMには、CD3結合ドメイン及びメソテリン結合ドメインが含まれる。そのようなTEAMには、CD3結合ドメインとして抗CD3 scFvが含まれうる。抗CD3 scFvは、当該技術分野で知られている任意の抗CD3抗体に由来しうる。メソテリン結合ドメインは、ここに記載されたメソテリンに特異的に結合する任意の抗体試薬、例えば、全長抗体又はその抗体断片(例えば、メソテリンに結合する抗体断片)を含みうる。
【0120】
例えば、TEAMは、上記のように抗メソテリン抗体に由来するメソテリン結合ドメインを含みうる。幾つかの実施態様では、メソテリン結合ドメインは、配列番号:19に対して少なくとも80%の配列同一性(例えば、少なくとも81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性)、又はその配列を有するVHを含む。更なる実施態様では、メソテリン結合ドメインは、配列番号:20に対して少なくとも80%の配列同一性(例えば、少なくとも81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性)、又はその配列を有するVL配列を含む。所定の実施態様では、メソテリン結合ドメインは、配列番号:19に対して少なくとも80%の配列同一性(例えば、少なくとも81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性)、又はその配列を有するVH配列と、配列番号:20に対して少なくとも80%の配列同一性(例えば、少なくとも81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性)、又はその配列を有するVL配列を含む。
【0121】
メソテリン結合ドメインが、CD3結合ドメインのN末端に配置されうるか、又はCD3結合ドメインが、メソテリン結合ドメインのN末端に配置されうる。メソテリン結合ドメイン及びCD3結合ドメインは、場合によっては、リンカー配列、例えば、配列番号:31~35(ここに記載)のリンカー配列、並びにここに記載されているか又は当該技術分野で知られている任意の他のリンカーを介して連結されうる。
【0122】
[抗体の産生方法]
例えば組換えDNAプロトコルの使用を通して、抗体、抗体断片、又は抗原結合剤を取得し、及び/又は産生するために、適切な方法論を使用することができる。幾つかの実施態様では、抗体はまたハイブリドーマの作製を通して産生されうる(例えば、Kohler,G及びMilstein,C.“Continuous cultures of fused cells secreting antibody of predefined specificity”Nature,1975,256:495-497を参照)。目的の抗原が、組換え又は天然に存在する形態若しくはエンティティなど、任意の形態若しくはエンティティで免疫原として使用されうる。ハイブリドーマは、特定の抗原を標的とする抗体を産生する少なくとも一種のハイブリドーマを見出すために、標準的な方法、例えば、ELISAスクリーニングを使用してスクリーニングされる。抗体はまた、抗体を発現するタンパク質発現ライブラリー、例えば、ファージディスプレイライブラリーのスクリーニングを通して産生されうる。幾つかの実施態様では、ファージディスプレイライブラリーデザインをまた使用してもよい(例えば、米国特許第5223409号(1991年3月1日出願)、「新規結合タンパク質の定向進化」;国際公開第1992/18619号(1992年4月10日出願)、「ファージミドを使用するヘテロ二量体受容体ライブラリー」;国際公開第1991/17271号(1991年5月1日出願)、「組換えライブラリスクリーニング法」;国際公開第1992/20791号(1992年5月15日出願)、「特異的結合対のメンバーの産生方法」;国際公開第1992/15679号(1992年2月28日出願)「改良されたエピトープディスプレイファージ」を参照のこと)。幾つかの実施態様では、目的の抗原は、齧歯類又はヤギなどの非ヒト動物を免疫するために使用されうる。幾つかの実施態様では、ついで、抗体が非ヒト動物から得られ、多くの方法論を使用して、例えば組換えDNA技術を使用して、任意選択的に改変されうる。抗体産生及び方法論の更なる例は、当該技術分野で知られている(例えば、Harlow等“Antibodies:A Laboratory Manual”,Cold Spring Harbor Laboratory,1988を参照)。
【0123】
[抗体試薬をコードする核酸]
また提供されるのはここに記載の抗体試薬をコードする核酸コンストラクト及びベクターである。幾つかの実施態様では、核酸コンストラクト及びベクターは、細胞内で抗体試薬を発現させるために使用される。ここに記載の細胞内での抗体試薬の効率的な発現は、タンパク質をコードする核酸のmRNA、DNA、又は遺伝子産物を検出する標準的なアッセイを使用して評価することができる。例えば、RT-PCR、FACS、ノーザンブロッティング、ウエスタンブロッティング、ELISA、又は免疫組織化学を使用することができる。ここに記載の抗体試薬は、構成的に発現され、又は誘導的に発現されうる。幾つかの例では、抗体試薬は、組換え核酸配列によってコードされる。
【0124】
幾つかの実施態様では、抗体試薬をコードするポリヌクレオチド配列は、プロモーターに作用可能に連結される。プロモーターは、構成的に発現されるプロモーター(例えば、EF1αプロモーター)又は誘導的に発現されるプロモーター(例えば、NFATプロモーター)でありうる。
【0125】
更に、本開示のポリヌクレオチドは、自殺遺伝子の発現を含みうる。これは、投与された細胞の外部の薬物媒介制御を促進するためになされうる。例えば、自殺遺伝子を使用することにより、例えば、有害事象の場合に、抗体試薬を発現する細胞を、例えば患者から枯渇させることができる。一例では、FK506結合ドメインが、カスパーゼ9プロアポトーシス分子に融合される。このように改変された細胞(例えば、T細胞)は、免疫抑制薬タクロリムスに対して感受性になる。自殺遺伝子の他の例は、チミジンキナーゼ(TK)、CD20、チミジル酸キナーゼ、切断型前立腺特異的膜抗原(PSMA)、切断型低親和性神経成長因子受容体(LNGFR)、切断型CD19、及び改変Fasであり、これらは特定の分子(例えば、TK+細胞に対するガンシクロビル)又は抗体又は抗体薬物コンジュゲートの投与による条件付きアブレーションでトリガーされうる。
【0126】
本開示の細胞における発現のための抗体試薬をコードする配列を含むコンストラクトは、ベクター内に含めることができる。幾つかの実施態様では、ここに記載のポリペプチド(例えば、抗体試薬)をコードする核酸は、ベクターに含められる。ここに記載の態様の幾つかにおいて、ここに記載の所与のポリペプチドをコードする核酸配列、又はその任意のモジュールは、ベクターに作用可能に連結される。選択された核酸配列は、当該技術分野で知られている技術を使用してベクターに挿入され、レトロウイルス粒子にパッケージ化されうる。ついで、組換えウイルスを単離し、例えば、インビトロ又はエクスビボで細胞に送達されうる。幾つかの実施態様では、ベクターは、ウイルスベクター又は非ウイルスベクターである。幾つかの実施態様では、ウイルスベクターは、レトロウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター)、アデノウイルスベクター、又はアデノ随伴ウイルスベクターである。
【0127】
幾つかの実施態様では、ベクターはレトロウイルスベクターである。レンチウイルスなどのレトロウイルスは、目的の遺伝子又はキメラ遺伝子をコードする核酸配列を送達するための簡便なプラットフォームを提供する。選択された核酸配列は、当該技術分野において知られている技術を使用して、ベクターに挿入され、レトロウイルス粒子にパッケージ化されうる。ついで、組換えウイルスは単離され、例えば、インビトロ又はエクスビボで細胞に送達されうる。レトロウイルス系は当該技術分野においてよく知られており、その全体が出典明示によりここに援用される、例えば、米国特許第5219740号;Kurth及びBannert(2010)“Retroviruses:Molecular Biology,Genomics and Pathogenesis”Calster Academic Press(ISBN:978-1-90455-55-4);及びHu等,Pharmacological Reviews 52:493-512,2000に記載されている。効率的なDNA送達のためのレンチウイルス系は、OriGene(Rockville,MD)から購入できる。
【0128】
幾つかの実施態様では、ここに記載の抗体試薬は、抗体試薬をコードする核酸を含む発現ベクターのトランスフェクション又はエレクトロポレーションによって哺乳動物細胞で発現される。トランスフェクション又はエレクトロポレーション法は、当該技術分野で知られている。
【0129】
[細胞及び使用]
ここに記載される技術の一態様は、ここに記載される抗体試薬の何れかを含む哺乳動物細胞;又はここに記載される抗体試薬の何れかをコードする核酸に関する。一実施態様では、哺乳動物細胞は抗体試薬又はそのような抗体試薬をコードする核酸を含む。哺乳動物細胞又は組織は、ヒト、霊長類、ハムスター、ウサギ、齧歯類、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマ、ヤギ、イヌ又はネコ由来でありうるが、任意の他の哺乳動物細胞を使用してもよい。何れかの態様の好ましい実施態様では、哺乳動物細胞はヒトである。
【0130】
何れかの態様の幾つかの実施態様では、哺乳動物細胞は免疫細胞である。ここで使用される場合、「免疫細胞」は、免疫応答においてある役割を果たす細胞を指す。免疫細胞は造血起源であり、リンパ球、例えばB細胞及びT細胞;ナチュラルキラー細胞;骨髄系細胞、例えば単球、マクロファージ、好酸球、マスト細胞、好塩基球、及び顆粒球を含む。幾つかの実施態様では、免疫細胞は、T細胞;NK細胞;NKT細胞;リンパ球、例えばB細胞及びT細胞;及び骨髄系細胞、例えば単球、マクロファージ、好酸球、マスト細胞、好塩基球、及び顆粒球である。一実施態様では、免疫細胞はT細胞である。
【0131】
他の実施態様では、免疫細胞は、がん、形質細胞障害、又は自己免疫疾患を有するか、又は有すると診断された個体から得られる。
【0132】
幾つかの実施態様では、細胞は、例えば、ポリペプチド(例えば、抗体試薬)の発現に適した細胞株の不死化細胞である。幾つかの実施態様では、細胞は、HEK293又はチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である。理論に縛られることを望まないが、ここに記載の抗体試薬を発現することができる不死化細胞は、所望の量の抗体試薬を産生するために有用でありうる。
【0133】
別の態様では、本開示は、ここに記載の抗体試薬、ここに記載の抗体試薬をコードする核酸(例えば、ベクター)、ここに記載の抗体試薬若しくは核酸を含む細胞、又は前述の何れかを含む薬学的組成物を対象に投与することを含む、対象のがんを治療する方法を提供する。ここで使用される「がん」は、その独特の形質、正常な細胞制御の喪失により、未制御の成長、分化の欠如、局所組織浸潤、及び転移が生じる細胞の過剰増殖を指しうる。例示的ながんには、限定されないが、中皮腫、膵臓がん、卵巣がん、肺がん、子宮内膜がん、胆道がん、胃がん、乳がん、胸膜がん、結腸直腸がん、虫垂がん、食道がん、胸腺がん、又は子宮頸がんが含まれる。固形腫瘍は、骨、筋肉、又は臓器に見出され得、肉腫又は癌腫でありうる。ここに記載の技術の何れかの態様は、本出願に列挙されていないがんを含む、あらゆる種類のがんを治療するために使用できると考えられる。ここで使用される場合、「腫瘍」という用語は、例えば悪性タイプ又は良性タイプの細胞又は組織の異常な増殖を指す。
【0134】
例えば、ここに記載の状態の治療における、又はここに記載の反応(例えば、がん細胞の減少)を誘導する、抗体試薬の効力は、熟練した臨床医によって判定されうる。しかしながら、ここに記載の方法による治療後に、ここに記載の状態の兆候又は症状の一又は複数が有益な形で変化し、他の臨床的に許容される症状が改善、若しくは寛解さえされ、又は所望の反応が、例えば少なくとも10%誘導される場合、治療は、その用語がここで使用される「有効な治療」とみなされる。有効性は、例えば、ここに記載の方法に従って治療された状態のマーカー、指標、症状、及び/又は発生率、或いは任意の他の適切な測定可能なパラメーターを測定することによって、評価することができる。ここに記載の方法による治療は、状態のマーカー又は症状のレベルを、例えば少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%又は少なくとも90%又はそれ以上、低下させることができる。
【0135】
有効性は、入院によって評価される個体の状態が悪化しないこと、又は医療介入を必要としないこと(すなわち、疾患進行が停止していること)によってもまた測定されうる。これらの指標を測定する方法は、当業者に知られており、及び/又はここに記載されている。
【0136】
治療には、個体又は動物(幾つかの非限定的例にはヒト又は動物が含まれる)における疾患の任意の治療が含まれ、(1)疾患の抑制、例えば、症状(例えば、疼痛又は炎症)の悪化の防止;又は(2)疾患の重症度の緩和、例えば、症状の退行の誘発が含まれる。疾患の治療に有効な量とは、それを必要とする対象に投与された場合、その疾患に対してここで定義される用語としての有効な治療をもたらすのに十分な量を意味する。薬剤の有効性は、状態又は所望の反応の物理的指標を評価することによって判定することができる。そのようなパラメーターの何れか一つ、又はパラメーターの任意の組み合わせを測定することによって、投与及び/又は治療の有効性をモニタリングすることは当業者の技量の範囲内である。所与のアプローチの有効性は、ここに記載の状態の動物モデルにおいて評価することができる。実験動物モデルを使用する場合、マーカーに統計的に有意な変化が観察される場合に治療の有効性が証明される。
【0137】
別の態様では、本開示は、試料中のメソテリンタンパク質を検出する方法であって、試料をここに記載の抗体試薬又は抗体コンジュゲートと接触させることを含む方法を提供する。幾つかの実施態様では、抗体コンジュゲートは、例えば検出を容易にするために、ここに記載の検出可能部分を含む。幾つかの実施態様では、検出方法は、ウエスタンブロット、免疫組織化学、免疫細胞化学、酵素結合免疫吸着測定法、蛍光顕微鏡法、フローサイトメトリー、又は蛍光活性化細胞選別(FACS)比色分析を実施することを含む。幾つかの実施態様では、試料は、対象、例えばヒト対象から採取される。幾つかの実施態様では、試料は、細胞、例えば腫瘍又は疑わしい腫瘍から採取された細胞、例えば生検試料を含む。別の態様では、本開示は、対象におけるここに記載の抗体コンジュゲートの検出方法であって、抗体コンジュゲート、抗体コンジュゲートをコードする核酸、抗体コンジュゲート若しくはそれをコードする核酸を含む細胞、又は前述の何れかを含む薬学的組成物を対象に投与することを含む方法を提供する。幾つかの実施態様では、検出方法は、磁気共鳴画像法、超音波、コンピュータ断層撮影スキャン、陽電子放射断層撮影法、又は単一光子放射型コンピュータ断層撮影法を使用して、対象者における抗体コンジュゲートを検出することを含む。幾つかの実施態様では、ここに記載のメソテリンタンパク質の検出方法は、対象から試料(例えば、腫瘍又は疑わしい腫瘍、例えば生検試料)を収集することを含む。
【0138】
この出願を通して引用される、参照文献、発行済み特許、公開特許出願、及び同時係属中の特許出願を含む、全ての特許及び他の刊行物は、例えば、ここに記載される技術に関連して使用されるかもしれないそのような刊行物に記載された方法論を説明し開示する目的で、出典明示によりここに明示的に援用される。これらの刊行物は、本出願の出願日より前のそれらの開示についてのみ提供される。この点に関し如何なるものも、発明者等が先行技術の理由で又は任意の他の理由のためにそのような開示に先行する権利がないことの自認と解釈されるべきではない。日付に関する全ての記述又はこれらの文書の内容に関する提示は、出願人が入手できる情報に基づいており、これらの文書の日付又は内容の正確さに関して何ら自認を構成するものではない。
【0139】
本開示の実施態様の説明は、網羅的であること又は本開示を開示された正確な形態に限定することを意図したものではない。本開示の特定の実施態様及び実施例を例示目的でここで説明するが、関連分野の当業者が認識するように、本開示の範囲内で様々な均等の変形が可能である。例えば、方法の工程又は機能が所与の順序で提示されているが、代替の実施態様では、異なる順序で機能を実行してもよく、又は機能は実質的に同時に実施されてもよい。ここで提供される開示の教示は、必要に応じて他の手順又は方法に適用することができる。ここに記載される様々な実施態様は、更なる実施態様を提供するために組み合わせることができる。本開示の態様は、必要に応じて、変更して、上記の参考文献及び出願の組成物、機能、及び概念を用いて本開示のまた更なる実施態様を提供することができる。更に、生物学的機能の均等性の考慮により、種類又は量において生物学的又は化学的作用に影響を与えることなく、タンパク質構造に幾らかの変更を加えることができる。詳細な説明に照らして、これらの変更及び他の変更を本開示に加えることができる。そのような変更は全て、添付の特許請求の範囲内に含まれることが意図される。
【0140】
前述の実施態様の何れかの特定の要素は、他の実施態様の要素と組み合わせるか、又は置き換えることができる。更に、本開示の所定の実施態様に関連する利点をこれら実施態様の文脈において説明したが、他の実施態様もまたそのような利点を示し得、全ての実施態様が本開示の範囲内に入るために必ずしもそのような利点を示す必要はない。
【0141】
ここに記載される技術は、決して更なる限定であると解釈されるべきではない、次の実施例によって更に例証される。
【実施例】
【0142】
次は、有用な方法と組成物の実施例である。ここに提供された説明に鑑みると、様々な他の実施態様が実施されてもよいことが理解される。
【0143】
実施例1:例示的な抗メソテリン抗体試薬の作製及び特徴付け
マウスを組換えヒトメソテリンで免疫化し、本開示の二種の例示的な抗体試薬を産生した。二種の抗体試薬は、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)に結合させたヤギ抗マウスIgGを使用して、メソテリン(リン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)中2μg/ml、100μl/ウェル)に対するELISAにおいて評価した(
図1)。結果は、両方の抗体がメソテリンに結合することを示した。例示的な抗体試薬2を、更なる研究のために選択し、MGHmeso1と命名した。
【0144】
メソテリン発現細胞に結合するMGHmeso1の能力をウェスタンブロット(
図2A)及びフローサイトメトリー(
図2B)によって評価した。リンパ腫(JeKo-1)、膵臓(AsPC-1、BxPC-3、Capan-2、Panc-1、PDAC3)、肺(NCI-H226)、及び卵巣(OVCAR3、OVCAR4)細胞株を培養で増殖させ、収集してウェスタンブロット解析に使用した。タンパク質をBCA定量し、50μg/レーンでロードして、セミドライ転写を使用してPVDFメンブレンに転写した。メンブレンをMGHmeso1抗体(6.6ug/ml)及びGAPDH(1:10000)で一晩5%脱脂乳を含むTBST中でプロービングした後、洗浄して5%乳TBST中で抗マウスHRP二次抗体と共に室温において1時間インキュベートした。JeKo-1及びPDAC3がメソテリン陰性対照細胞であった。ウェスタンブロットの結果(
図2A)から、MGHmeso1がメソテリン発現細胞を認識し、メソテリン陰性細胞を認識しないことが証明された。
【0145】
フローサイトメトリー解析では、必要に応じてTrypLEを使用して細胞株を剥離し、室温において20分間、MGHmeso1抗体(0.66ug/ml)で染色した。細胞を洗浄し、室温において20分間、抗マウスAF647 IgG二次抗体でインキュベートした。洗浄後、細胞をFortessaにかけ、FlowJoソフトウェアを使用して解析した(
図2B)。JeKo-1がメソテリン陰性対照細胞であった。結果から、MGHmeso1がメソテリン発現細胞を認識し、メソテリン陰性細胞を認識しないことが更に確認された。
【0146】
蛍光顕微鏡を使用して、MGHmeso1のメソテリン発現細胞である膵臓細胞(
図2C~2D)及び肺細胞(
図2E~2F)への結合を更に特徴付けした。膵臓細胞株(AsPC-1、BxPC-3、Capan-2、Panc-1)及び肺細胞株(NCI-H226)を培養して増殖させ、TrypLEを使用して剥離し、iBidiガラス底顕微鏡スライドに蒔いて2日間培養した。細胞を固定し、ブロックし、4℃においてMGHmeso1抗体(75μg/ml)を使用して一晩染色した。スライドを洗浄し、抗マウスAF647二次抗体で室温において45分間インキュベートした後、洗浄し、DAPIを含むPro-long Gold Mediumでスライドを密封した。スライドを、オリンパス顕微鏡を使用して40倍で画像化した。特異性の対照として、AsPC-1細胞(
図2D)又はNCI-H226細胞(
図2F)に二次抗体のみを与えた。結果は、MGHmeso1が、メソテリンを発現する膵臓細胞株又は肺細胞に結合することを示し、更に、例示的な抗体試薬MGHmeso1がメソテリンに結合し、メソテリン発現細胞を認識できることが確認される。
【0147】
実施例2:例示的な抗メソテリン抗体試薬を含むCARコンストラクト
配列番号:13~20(表3)のアミノ酸配列を含み、実施例1において産生され特徴付けられた例示的な抗体試薬MGHmeso1を、4種のCAR Tコンストラクト(配列番号:2~5)の一部として試験するために選択した。
【0148】
【0149】
例示的な抗体試薬であるMGHmeso1を含むCARを含む例示的なメソテリンCAR T細胞のサイトカイン発現プロファイルを、既知の抗メソテリン抗体であるSS1を含むCARを含むCAR T細胞のサイトカイン発現プロファイルと比較した(
図3A~3E)。T細胞は3人の正常ドナーから収集し、活性化し、SS1を含むCARをコードするプラスミド又は本開示の例示的な抗メソテリン抗体試薬であるMGHmeso1を含むCARをコードするプラスミドで形質導入し、IL-2中で10日間増殖させた。
図3A~3Eは、これらのT細胞と非形質導入細胞におけるサイトカイン産生を比較している。結果には、MGHmeso1を含む例示的なメソテリンCARとSS1を含むCARの両方の発現が、CAR T細胞におけるINF-γ、IL-2、GM-CSF、TNF-α、及びグランザイムBの発現を大幅に増加させたことが示された。抗原特異的な殺傷を確認するために、メソテリン陽性膵臓がん(Capan-2)又はメソテリン陰性リンパ腫細胞(JeKo-1)細胞株を用いて、一晩(22時間)のルシフェラーゼベースの殺傷アッセイで細胞溶解を評価した。N=3。結果には、両方のCAR T細胞がメソテリン陽性Capan-2細胞を特異的に溶解したが、メソテリン陰性JeKo-1細胞(マントル細胞リンパ腫)を溶解しなかったことが示された(
図3E~3F)。
図3A~3Eの結果は、例示的な抗体試薬MGHmeso1を含むCARを含む例示的なメソテリンCAR T細胞が、以前から知られている抗メソテリン抗体を用いるものと同様の細胞機能及び細胞傷害性を示すことを実証しており、本開示の抗メソテリン抗体試薬の有用性を示している。
【0150】
実施例3:MGHmeso1抗体試薬メソテリンエピトープの決定
MGHmeso1エピトープ結合部位を、マイクロアレイ結合を使用したPEPperMAP(登録商標)エピトープマッピングを使用して決定した(
図4A)。簡単に言うと、MGHmeso1エピトープを決定するために630個のメソテリンペプチド断片を産生した。ペプチド断片は全て15アミノ酸長で、14アミノ酸のペプチド-ペプチドオーバーラップがあった。これらはペプチドマイクロアレイに二重にプリントした。HAペプチドもマイクロアレイにプリントし、対照として使用した。MGHmeso1抗体を含む溶液をマイクロアレイ上で洗浄し、MGHmeso1に結合する二次抗体を使用して蛍光に基づいてMGHmeso1結合を検出した。
【0151】
結果は、複数の可能なMGHmeso1エピトープを示した:LSEPPED(配列番号:39)、GPQACTRFFSRITK(配列番号:40)、WRQPERTILRPRF(配列番号:41)、RLAFQNMNGSEY(配列番号:37)、及びDWILRQ(配列番号:42)(
図4B)。マイクロアレイスポットの形態に関連する明瞭さに基づいて、RLAFQNMNGSEY(配列番号:37)がMGHMeso1結合エピトープであると予想される。RLAFQNMNGSEY(配列番号:37)は、メソテリンの領域III(アミノ酸487~598)に位置している。メソテリンの様々な領域は、Zhang等 Scientific Reports 5.1(2015):1-14で説明されている。
【0152】
更なる実験により、SS1抗体とMGHmeso1抗体がCARにおいて使用した場合に類似の効果を有しており、異なるメソテリンエピトープに結合するという証拠が得られた。SS1含有CAR T細胞(SS1 BBz CAR T細胞)とMGHmeso1含有CAR-T細胞(MGHmeso1 L/H BBz CAR T細胞)の効果を、二種の異なるがん細胞株Capan-2とPanc-1(両方とも膵臓がん)に対して試験した。
図5A~5B。結果には、SS1 BBz CAR T細胞とMGHmeso1含有CAR-T細胞が類似した細胞傷害性を有することが示されている。SS1とMGHmeso1が同じエピトープに結合するかどうかを判定するために、SS1 BBz CAR T細胞とMGHmeso1 L/H BBz CAR T細胞をMGHmeso1抗体の存在下で投与した。結果には、MGHmeso1抗体がMGHmeso1 L/H BBz CAR T細胞の細胞傷害性を低下させるが、SS1 BBz CAR T細胞は低下させないことが示されており、これはMGHmeso1とSS1が異なるメソテリンエピトープに結合することを示している。
【配列表】
【国際調査報告】