(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-31
(54)【発明の名称】IgA Fc-IgG Fcタンデム型タンパク質構築物
(51)【国際特許分類】
C07K 16/18 20060101AFI20241024BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20241024BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20241024BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20241024BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20241024BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20241024BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20241024BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20241024BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20241024BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20241024BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20241024BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241024BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20241024BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
C07K16/18 ZNA
C07K16/46
C12N15/13
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K48/00
A61P35/00
A61P31/00
A61K39/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024526745
(86)(22)【出願日】2022-11-07
(85)【翻訳文提出日】2024-07-02
(86)【国際出願番号】 EP2022080998
(87)【国際公開番号】W WO2023079147
(87)【国際公開日】2023-05-11
(32)【優先日】2021-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515202863
【氏名又は名称】オスロ ユニヴェルジテットサイケフス ホーエフ
(71)【出願人】
【識別番号】510179537
【氏名又は名称】ウニヴァーシテテット イ オスロ
【住所又は居所原語表記】P.O. Box 1072,Blindern,0316 Oslo Norway
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】アンデルセン、ヤン テリエ
(72)【発明者】
【氏名】フォス、スティアン
(72)【発明者】
【氏名】メスター、シモーヌ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA90X
4B065AA93Y
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA44
4C084AA13
4C084NA14
4C084ZB261
4C084ZB321
4C085AA13
4C085BA01
4C085BB11
4C085BB33
4C085BB36
4C085BB42
4H045AA11
4H045BA41
4H045DA75
4H045EA22
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、ヒトIgA Fc領域およびヒトIgG Fc領域を含み、前記ヒトIgA Fc領域のC末端が、前記ヒトIgG Fc領域のN末端に結合されているタンパク質構築物を提供する。このような構築物は、標的指向化ドメインをさらに含むことができる。前記構築物を含む組成物および前記構築物の治療的使用も提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトIgA Fc領域とヒトIgG Fc領域とを含み、前記ヒトIgA Fc領域のC末端が、前記ヒトIgG Fc領域のN末端に結合されている、タンパク質構築物。
【請求項2】
前記IgA Fc領域が、IgA1 Fc領域またはIgA2 Fc領域であり、好ましくはIgA2 Fc領域である、請求項1に記載のタンパク質構築物。
【請求項3】
前記IgG Fc領域が、IgG 1Fc領域またはIgG2 Fc領域である、請求項1または2に記載のタンパク質構築物。
【請求項4】
前記構築物が、Fc受容体に結合可能であるか、またはFcエフェクター機能が可能である、請求項1から3のいずれか一項に記載のタンパク質構築物。
【請求項5】
前記構築物が、FcαRに結合可能、1種以上のFcγRに結合可能、FcRnに結合可能、C1qに結合可能、CDCを誘導可能、ADCCを誘導可能、および/またはADCPを誘導可能である、請求項4に記載のタンパク質構築物。
【請求項6】
前記ヒトIgA Fc領域のC末端が、リンカーによって、および/または、CH1ドメインによって、前記ヒトIgG Fc領域のN末端に結合されている、請求項1から5のいずれか一項に記載のタンパク質構築物。
【請求項7】
前記リンカーが、ペプチドリンカーであり、好ましくは、抗体ヒンジ領域を含むペプチドリンカーである、請求項6に記載のタンパク質構築物。
【請求項8】
前記IgG Fc領域または前記IgA Fc領域が、エフェクター機能を強化もしくは血漿中半減期を増加させる変異または改変を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載のタンパク質構築物。
【請求項9】
前記変異または改変が、Fc受容体への結合を増加させ、好ましくはFcRnへの結合を増加させるか、またはC1q結合を増加させる、請求項8に記載のタンパク質構築物。
【請求項10】
前記Fc領域が、以下を含むことを特徴とする改変IgG Fc領域である、請求項8または9に記載のタンパク質構築物:
(i)311位(またはこれに対応する位置)に、アルギニン(R)残基、または、リジン(K)残基等の類似の残基;
(ii)428位(またはこれに対応する位置)に、グルタミン酸(E)残基、または、アスパラギン酸(D)残基等の類似の残基;および
(iii)434位(またはこれに対応する位置)に、トリプトファン(W)残基、または、チロシン(Y)残基もしくはフェニルアラニン(F)残基等の類似の残基。
【請求項11】
標的指向化ドメイン、好ましくは受容体ドメインもしくは受容体リガンド、または、抗原結合ドメインをさらに含む、請求項1から10のいずれか一項に記載のタンパク質構築物。
【請求項12】
前記抗原結合ドメインが、抗体またはその抗原結合断片である、請求項11に記載のタンパク質構築物。
【請求項13】
前記抗体が、IgA抗体もしくはその抗原結合断片、またはIgG抗体もしくはその抗原結合断片である、請求項12に記載のタンパク質構築物。
【請求項14】
前記標的指向化ドメインが、癌細胞上または感染性病原体上の標的分子に結合する、請求項11から13のいずれか一項に記載のタンパク質構築物。
【請求項15】
前記癌細胞が、固形腫瘍もしくは血液癌由来である、または前記感染性病原体が、細菌である、請求項14に記載のタンパク質構築物。
【請求項16】
請求項1から15のいずれか一項に記載のタンパク質構築物をコードするヌクレオチド配列を含む、1つ以上の核酸分子;または
そのような核酸分子を含む1つ以上の発現ベクター;または
前記発現ベクター、前記核酸分子、もしくは請求項1から15のいずれか一項に記載のタンパク質構築物を含む、1つ以上の宿主細胞。
【請求項17】
請求項1から15のいずれか一項に記載のタンパク質構築物の製造方法であって、
(i)請求項16に記載の、1つ以上の発現ベクターまたは1つ以上の核酸配列を含む宿主細胞を、コードされたタンパク質構築物の発現に適した条件下で培養する工程、および
任意選択的に、(ii)発現されたタンパク質構築物を、前記宿主細胞から、または、増殖培地/上清から、単離または取得する工程、を含む方法。
【請求項18】
タンパク質産物を精製する工程、および/または、タンパク質産物を少なくとも1つの追加成分を含む組成物へと製剤化する工程をさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
請求項1から15のいずれか一項に記載のタンパク質構築物、または請求項16に記載の1つ以上の核酸分子もしくは発現ベクターを含む、組成物、好ましくは、薬学的に許容可能な組成物。
【請求項20】
治療における使用のための、請求項1から15のいずれか一項に記載のタンパク質構築物。
【請求項21】
請求項20に記載の使用のためのタンパク質構築物であって、
前記タンパク質構築物が、標的または抗原に結合する、標的指向化ドメイン、好ましくは受容体ドメインもしくは受容体リガンド、または、抗原結合ドメインを含み、
前記タンパク質構築物が、前記標的または抗原の発現によって特徴付けられる疾患の治療または予防に使用するためのものであり、
好ましくは、前記疾患が、癌であるか、または前記標的もしくは前記抗原を発現する病原体に起因する感染症である、タンパク質構築物。
【請求項22】
標的または抗原の発現によって特徴付けられる疾患を治療または予防する方法であって、
好ましくは、前記疾患が、癌または前記標的または前記抗原を発現する病原体に起因する感染症であり、
前記方法が、治療有効量の請求項1から15のいずれか一項に記載のタンパク質構築物を、それを必要とする対象に投与する工程を含み、
前記タンパク質構築物が、標的または抗原に結合する標的指向化ドメイン、好ましくは受容体ドメインもしくは受容体リガンド、または標的または抗原に結合する抗原結合ドメインを含む、方法。
【請求項23】
請求項1から15のいずれか一項に記載のタンパク質構築物の使用であって、
前記タンパク質構築物が、標的または抗原の発現によって特徴付けられる疾患の治療または予防に使用するための医薬品の製造において、当該標的または抗原に結合する、標的指向化ドメイン、好ましくは受容体ドメインもしくは受容体リガンド、または抗原結合ドメインを含み、
好ましくは、前記疾患が、癌または前記標的または前記抗原を発現する病原体に起因する感染症である、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全体としてタンパク質構築物の分野に関するものであり、より詳細には、タンデムに結合されたIgA Fc領域とIgG Fc領域とを含むタンパク質構築物の分野に関するものである。本発明はまた、標的指向化ドメインまたは標的指向化リガンド、例えば、抗原結合ドメインをさらに含む、このようなタンパク質構築物に関する。さらに本発明は、このようなタンパク質構築物を含む組成物、このようなタンパク質構築物の製造方法、ならびに、このようなタンパク質構築物を採用した治療方法および使用に関する。
【0002】
モノクローナル抗体は、ますます広い範囲の疾患の治療に適用されつつあり、2020年の承認率は過去2番目に高く、癌を標的とする抗体がその大半を占めている。
【0003】
例を挙げると、免疫グロブリン(Ig)Gをベースとする治療薬、例えば、IgG抗体は、Fc媒介エフェクター機構により癌細胞を除去し得るが、このような機構としては、古典的なFcγ受容体(FcγR)の関与により、それに続く抗体依存性細胞傷害(ADCC)および/または抗体依存性細胞貪食(ADCP)等のエフェクター機能を誘導することが挙げられる。さらに、IgG抗体は、標的に結合すると補体系をリクルートし、続いて補体依存性細胞傷害(CDC)を誘導し得る。
【0004】
これが動機付けとなりFc工学操作戦略が開発され、エフェクター機能を強化したIgGバリアントが創出された。IgG抗体を使用するさらなる利点はその血漿中半減期の長さであり、それゆえにIgG異化の恒常性調節因子として作用する胎児性Fc受容体(FcRn)によって細胞内分解からレスキューされ、生物学的利用能が確保されることである。血漿中半減期は、FcRn結合を向上させるようなFc工学操作により、さらに延長され得る。
【0005】
しかしながら、最適なエフェクター機能特性および良好な薬物動態の両方に特化した、より強力なフォーマットが必要とされている。
【0006】
本発明は、IgAの構造要素とIgGの構造要素とを組み合わせ、FcγRおよびFcαRの両方に効率的に関与できるように工学操作された抗体フォーマットを提供する。具体的には、驚くべきことに、IgG Fc領域に結合させたIgA Fc領域であって、当該IgA Fc領域のC末端が当該IgG Fc領域のN末端に結合しているものは、有利なエフェクター機能、ならびに複数のエフェクター分子の効率的な関与を示す。特に、本発明の構築物は、補体活性化における重要な工程であるC1qへの結合が向上している。加えて、本発明のタンパク質構築物は、効果的なFcRn結合により良好な血漿中半減期を示し、それゆえに細胞内分解から効率的にレスキューされる。
【0007】
さらに本発明では、驚くべきことに、IgA Fc領域のC末端がIgG Fc領域のN末端に結合された本発明が提供するタンパク質構築物は、逆の配向(orientation)となるように工学操作された構築物、すなわち、IgG Fc領域のC末端がIgA Fc領域のN末端に結合された構築物と比べて、特性が向上することが実証されている。
【0008】
よって、第一の態様では、本発明は、IgA Fc領域、好ましくは、ヒトIgA Fc領域と、IgG Fc領域、好ましくはヒトIgG Fc領域とを含むタンパク質構築物であって、前記ヒトIgA Fc領域のC末端が前記ヒトIgG Fc領域のN末端に結合されたタンパク質構築物を提供する。
【0009】
本明細書中で使用するFc領域(またはFc断片もしくはフラグメント結晶化可能領域)という用語は、Fc受容体と相互作用する能力を有するか、または抗体エフェクター機能(例えば、抗体依存性細胞傷害)をもたらす(または付与する)抗体の一部を含むか、またはこれに該当する。天然に存在するFc領域(またはFc断片)は、抗体のCH2ドメインおよびCH3ドメインのアミノ酸配列を含有する(またはそれを含むか、もしくはそれからなる)二本の同一鎖で構成される(二量体である)。Fc断片の二本の鎖は、一般的には、少なくとも1つのシステインブリッジ(システイン残基間のジスルフィド結合)によって、互いに結合されている。
【0010】
切断、変異導入、もしくは改変されたFc領域(またはFc断片)、例えば、断片Fc領域またはバリアントFc領域、特に、IgG-Fc領域またはIgA-Fc領域の断片またはバリアントを使用してもよく、これらは、例えば、出発材料である(starting)変異導入していない、もしくは野生型のFc領域と比べて、Fc受容体、例えば、FcRnと相互作用する能力および/またはエフェクター機能を付与する能力が、維持される、または存在している、または向上することを条件として含まれている。例を挙げると、FcR、例えば、FcRnへの結合が向上した適切な変異体、あるいは、向上もしくは増加した半減期または向上もしくは増加したエフェクター機能を有する(または付与する)適切な変異体は、当該技術分野においては周知されかつ報告されており、これらのいずれを使用してもよい。
【0011】
このように、本発明のタンパク質構築物は、IgA抗体のFc領域(またはFc断片)を含む。このようなIgA Fc領域(またはフラグメント結晶化可能領域)は、FcαRI受容体に対する結合能を有する、および/または、適切なIgA抗体エフェクター機能(例えば、抗体依存性細胞傷害ADCCまたは抗体依存性細胞貪食ADCP)をもたらす(または付与する)ことができる。先に概略を述べたように、このようなFc領域は、典型的にはIgA抗体のCH2ドメインおよびCH3ドメインを含む。
【0012】
一部の実施形態では、本発明のタンパク質構築物において使用されるIgA Fc領域は、尾部(tailpiece)が改変(または変異導入、不活性化、もしく切断)されているか、または尾部を含まない(もしくは尾部が除去されている)。
【0013】
よって、IgA Fc領域(またはFc断片)には、尾部が改変、変異導入、不活性化、切断、または除去されたものが含まれる。しかしながら、このようなIgA Fc領域にも、IgA抗体のCH2ドメインおよびCH3ドメインは依然として含まれる。好ましいIgA Fc領域は、IgAヒンジ領域の全部または一部をさらに含み、例えば、少なくともIgA Fc領域を含む二本のポリペプチド鎖を連結するジスルフィド結合の形成に関与する部分および/またはFcエフェクター機能に関与する部分をさらに含む。
【0014】
尾部とは、典型的には、IgA重鎖定常領域のC末端側終端部(C-terminal end)における18アミノ酸からなる領域(または伸長部)であるか、または重合(例えば、二量体の形成)に必須のシステイン残基を含むFc領域である。
【0015】
よって、好ましい実施形態では、本発明のタンパク質構築物において、IgA尾部は改変、変異導入、不活性化、切断、または除去されている。一部のこのような実施形態では、重合に必須のシステイン残基は、改変、変異導入、不活性化、切断、または除去されている。尾部のこのような除去または改変等は、IgA Fc領域のC末端とIgG Fc領域のN末端との結合を可能にする上でも好都合である。
【0016】
IgA尾部は、当業者にはよく知られている(例えば、Janeway et al., 2001, Immunobiology: The Immune System in Health and Disease, 5th Edition, New York: Garland Science)。IgA1尾部の一例は、配列PTHVNVSVMAEVDGTCY(配列番号30)によって表すことができる。
【0017】
典型的には、IgA Fc領域を含む二本のポリペプチド鎖間には、少なくとも1つの結合(好ましくは、少なくとも1つのジスルフィド結合)が存在する。例えば、IgA抗体重鎖間には、典型的には、ジスルフィド結合が存在する。
【0018】
本発明の構築物に使用されるIgA Fc領域は、IgA抗体の任意のサブタイプ由来、例えば、IgA1由来またはIgA2由来、好ましくは、IgA2由来とすることができる。
【0019】
よって、本発明は、IgA Fc領域がIgA1 Fc領域またはIgA2 Fc領域、好ましくはIgA2 Fc領域であるタンパク質構築物を提供する。
【0020】
一部の実施形態では、前記IgA Fc領域を工学操作または改変し、強化または改変された特性、例えば、抗体依存性細胞傷害(ADCC)もしくは抗体依存性細胞貪食(ADCP)の誘導を含み得るエフェクター機能の強化もしくは改変、あるいは、例えば、FcRαIのようなFcα受容体への共関与または結合の増加を含むようにしてもよい。これらの特徴を有する(または付与する)適切なFc変異体は、当該技術分野においては周知されかつ報告されており、これらのいずれを使用してもよい。
【0021】
上述のように、本発明の構築物に使用する適切なFc領域(IgA Fc領域)は、CH2ドメインおよびCH3ドメインを含む。一部の実施形態では、CH1ドメインを含ませることができる。しかしながら、他の実施形態では、CH2ドメインおよびCH3ドメイン(あるいは、FcαR、例えば、FcαR1と相互作用する能力を保持もしくは有するその断片もしくはバリアント、またはIgA抗体エフェクター機能および好ましくは二量体化能をもたらすか、もしくは付与するその断片またはバリアント)のみが、構築物に含まれるIgA抗体の部分である。例えば、一部の実施形態では、軽鎖抗体ドメイン、例えば、IgA抗体の軽鎖抗体ドメイン、特に、軽鎖定常ドメイン(CLドメイン)または軽鎖可変ドメイン(VL)は、構築物には含まれないであろう。他の例では、重鎖CH1ドメインまたは重鎖可変ドメイン(VH)、例えば、IgA抗体の重鎖CH1ドメインまたは重鎖可変ドメイン(VH)は、構築物には含まれないであろう。他の実施形態では、本明細書中の他の箇所に記載されているように、ヒンジ領域、例えば、IgAヒンジ領域またはIgGヒンジ領域が、構築物に含まれるであろう。ヒンジ領域が含まれる場合、これらのヒンジ領域は、好都合なことに、その本来の位置に含ませることができる、すなわち、例えば、IgA CH2領域とCH1領域との間(このようなCH1領域が存在する場合)において、当該IgA CH2領域のN末端に連結または結合させることができる。あるいは、このようなヒンジ領域は、本明細書中の他の箇所に記載されているように、構築物のIgA CH2ドメインを標的指向化ドメインに連結させるために使用することができる。
【0022】
しかしながら、一部の実施形態、例えば、IgA Fc領域がIgA抗体の一部である実施形態では、軽鎖定常ドメイン(CLドメイン)および/または軽鎖可変領域(VL)、および/または重鎖定常ドメイン(CH1ドメイン)および/または重鎖可変領域(VH)が含まれるであろう。換言すれば、一部の実施形態では、VLドメインおよび/またはVHドメインを任意選択的にCLドメインおよび/またはCH1ドメインと共に含む抗原結合ドメインが、構築物中に存在するであろう。好ましい実施形態では、このような抗原結合ドメインは、IgA抗体に由来するであろう。他の好ましい実施形態では、このような抗原結合ドメインは、IgG抗体に由来するであろう。好ましい実施形態では、ヒンジ領域、例えば、IgAヒンジ領域またはIgGヒンジ領域を使用して、前記抗原結合ドメイン、例えば、CH1ドメインにIgA CH2領域を連結させることができる。
【0023】
好ましい実施形態では、IgA Fc領域は、ヒトIgA Fc領域である。IgA抗体およびIgA Fc領域の定常領域をコードする配列、ならびに、CH1ドメイン、ヒンジドメイン、CH2ドメイン、およびCH3ドメインの位置は、当業者であれば容易に入手可能である。例えば、ヒト免疫グロブリン重定常アルファ(human Immunoglobulin heavy constant alpha)1をコードする遺伝子は、IGHA1として知られており(例えば、Uniprot:P01876参照)、ヒト免疫グロブリン重定常アルファ2をコードする遺伝子は、IGHA2として知られている(例えば、Uniprot:P01877を参照)。
【0024】
例えば、例示的なIgA1重鎖定常領域アミノ酸配列は、本明細書において配列番号5として記載され、例示的なIgA2重鎖定常領域アミノ酸配列は、本明細書において配列番号6として記載されており、これらの配列から、CH1ドメイン、CH2ドメイン、および/またはCH3ドメインの例示的な配列、適宜、好ましくはCH2ドメインおよびCH3ドメインの例示的な配列を、任意選択的にヒンジ領域と共に構築物に含ませるために得ることができる。例示的な配列を、表1に示している。
【0025】
IgA Fc領域を含む本発明のタンパク質構築物の一部の実施形態において、IgA Fc領域の最後(C最末端)のアミノ酸残基は、Burナンバリングで452位に対応する残基(例えば、Burナンバリングで452位におけるA)である。表1に示す種々の配列の例示参照。BurナンバリングスキームについてはLiuら(Science. 1976 Sep 10;193(4257):1017-20)に記載されており、これは、本明細書に記載のIgA分子およびIgA断片に好適な番号付けシステムである。
【0026】
本発明のタンパク質構築物は、IgG抗体のFc領域(またはFc断片)をさらに含む。このようなIgG Fc領域(またはフラグメント結晶化可能領域)は、IgG Fcγ受容体もしくはFcRnもしくはC1qに対する結合能を有し、かつ/または、適切なIgG抗体エフェクター機能(例えば、ADCCもしくはADCP、または補体依存性細胞傷害CDC)をもたらす(または付与する)ことができる。先に概略を述べたように、このようなFc領域は、典型的にはIgG抗体のCH2ドメインおよびCH3ドメインを含む。
【0027】
典型的には、IgG Fc領域を含む二本のポリペプチド鎖間には、少なくとも1つの結合(好ましくは、少なくとも1つのジスルフィド結合)が存在する。例えば、IgG抗体重鎖間には、典型的には、ジスルフィド結合が存在する。好ましいIgG Fc領域は、IgGヒンジ領域の全部または一部をさらに含むものであり、例えば、少なくともIgG Fc領域を含む二本のポリペプチド鎖を連結するジスルフィド結合の形成に関与する部分および/またはFcエフェクター機能に関与する部分をさらに含む。
【0028】
本発明の構築物に使用されるIgG Fc領域は、IgG抗体の任意のサブタイプ由来、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4由来とすることができる。一部の実施形態では、IgG1 Fc領域またはIgG2 Fc領域が使用される。一部の実施形態では、好ましくは、IgG1 Fcが使用される。一部の実施形態では、好ましくは、IgG2Fcが使用される。
【0029】
特定の一実施形態では、ヒトIgA2 Fc領域およびヒトIgG2 Fc領域を含み、前記ヒトIgA2 Fc領域のC末端が前記ヒトIgG2 Fc領域のN末端に結合されているタンパク質構築物であって、前記ヒトIgG2 Fc領域が、
(i)EUナンバリングによる311位にアルギニン(R)残基;
(ii)EUナンバリングによる428位にグルタミン酸(E)残基;および
(iii)EUナンバリングによる434位にトリプトファン(W)残基;
を含み、IgGヒンジが前記IgA2 Fc領域と前記IgG2 Fc領域との間に位置するタンパク質構築物が提供される。
【0030】
特定の一実施形態では、ヒトIgA2 Fc領域およびヒトIgG2 Fc領域を含み、前記ヒトIgA2 Fc領域のC末端が前記ヒトIgG2 Fc領域のN末端に結合されているタンパク質構築物であって、前記ヒトIgG2 Fc領域が、
(i)EUナンバリングによる311位にアルギニン(R)残基;
(ii)EUナンバリングによる428位にグルタミン酸(E)残基;および
(iii)EUナンバリングによる434位にトリプトファン(W)残基;
を含み、ヒトIgG2ヒンジが前記IgA2 Fc領域と前記IgG2 Fc領域との間に位置するタンパク質構築物が提供される。
【0031】
特定の一実施形態では、ヒトIgA2 Fc領域およびヒトIgG2 Fc領域を含み、前記ヒトIgA2 Fc領域のC末端が前記ヒトIgG2 Fc領域のN末端に結合されているタンパク質構築物であって、前記ヒトIgG2 Fc領域が、
(i)EUナンバリングによる311位にアルギニン(R)残基;
(ii)EUナンバリングによる428位にアスパラギン酸(D)残基;および
(iii)EUナンバリングによる434位にトリプトファン(W)残基;
を含み、IgGヒンジが前記IgA2 Fc領域と前記IgG2 Fc領域との間に位置するタンパク質構築物が提供される。
【0032】
特定の一実施形態では、ヒトIgA2 Fc領域およびヒトIgG2 Fc領域を含み、前記ヒトIgA2 Fc領域のC末端が前記ヒトIgG2 Fc領域のN末端に結合されているタンパク質構築物であって、前記ヒトIgG2 Fc領域が、
(i)EUナンバリングによる311位におけるリシン(K)残基;
(ii)EUナンバリングによる428位にアスパラギン酸(D)残基;および
(iii)EUナンバリングによる434位にトリプトファン(W)残基;
を含み、IgGヒンジが前記IgA2 Fc領域と前記IgG2 Fc領域との間に位置するタンパク質構築物が提供される。
【0033】
特定の一実施形態では、ヒトIgA2 Fc領域およびヒトIgG3 Fc領域を含み、前記ヒトIgA2 Fc領域のC末端が前記ヒトIgG3 Fc領域のN末端に結合されているタンパク質構築物であって、前記ヒトIgG3 Fc領域が、
(i)EUナンバリングによる311位にアルギニン(R)残基;
(ii)EUナンバリングによる428位にグルタミン酸(E)残基;
(iii)EUナンバリングによる434位にトリプトファン(W)残基;および
(iv)EUナンバリングによる435位にヒスチジン(H)残基;
を含み、IgGヒンジが前記IgA2 Fc領域と前記IgG3 Fc領域との間に位置するタンパク質構築物が提供される。
【0034】
上述の具体的な実施形態の全てにおいて、IgG2領域またはIgG3領域の代わりに、IgG1 Fc領域を対応する変異と共に使用してもよい。
【0035】
よって、本発明は、前記IgG Fc領域がIgG1 Fc領域またはIgG2 Fc領域であり、好ましくはIgG1 Fc領域であるタンパク質構築物を提供する。
【0036】
一部の実施形態では、前記IgG Fc領域を工学操作または改変し、強化または改変された特性、例えば、抗体依存性細胞傷害(ADCC)もしくは抗体依存性細胞貪食(ADCP)、補体依存性細胞傷害(CDC)を含み得るエフェクター機能の強化もしくは改変、または半減期の増加もしくはFcγ受容体への共関与または結合の増加を含むようにしてもよい。
【0037】
上述のように、本発明の構築物に使用する適切なFc領域(IgG Fc領域)は、CH2ドメインおよびCH3ドメインを含む。CH1ドメインは、一般的にはIgG Fc領域の一部として含まれないであろう。しかしながら、一部の実施形態では、CH1ドメイン、例えばIgG CH1ドメインを、例えば、IgG Fc領域のCH2ドメインおよびCH3ドメインのN末端に位置するように本発明の構築物に含ませることができ、例えば、当該構築物のIgA Fc領域とIgG Fc領域との間に位置するように含ませることができる。しかしながら、他の実施形態では、CH2ドメインおよびCH3ドメイン(あるいは、FcgRまたはFcRnまたはC1qと相互作用する能力を保持もしくは有するその断片またはバリアント、またはIgG抗体エフェクター機能および好ましくは二量体化能をもたらすか、もしくは付与するその断片またはバリアント)のみが、構築物に含まれるIgG抗体の部分である。他の実施形態では、本明細書中の他の箇所に記載されているように、ヒンジ領域、例えば、IgGヒンジ領域が、構築物に含まれるであろう。ヒンジ領域が含まれる場合、これらのヒンジ領域は、好都合なことに、その本来の位置に含ませることができる、すなわち、本発明のタンデム型構築物中の、例えば、IgG CH2領域とIgA CH3領域との間において、当該IgG CH2領域のN末端に連結または結合させることができる。したがって、好ましくは、このようなヒンジ領域は、当該構築物のIgG CH2ドメインを当該構築物のIgA CH3ドメインに連結するために使用することができる。換言すれば、IgG Fc領域をIgA Fc領域に連結するために使用することができる。
【0038】
しかしながら、一部の実施形態、例えば、IgA Fc領域が抗原結合ドメインに結合される実施形態では、軽鎖定常ドメイン(CLドメイン)および/または軽鎖可変領域(VL)、および/または重鎖定常ドメイン(CH1ドメイン)および/または重鎖可変領域(VH)を含ませることができる。換言すれば、一部の実施形態では、構築物中に、VLドメインおよび/またはVHドメインを任意選択的にCLドメインおよび/またはCH1ドメインと共に含む抗原結合ドメインが存在するであろう。一部の実施形態では、このような抗原結合ドメインは、IgG抗体由来のもととすることができる。
【0039】
好ましい実施形態では、IgG Fc領域は、ヒトIgG Fc領域である。IgG抗体およびIgG Fc領域の定常領域をコードする配列、ならびに、CH1ドメイン、ヒンジドメイン、CH2ドメイン、およびCH3ドメインの位置は、当業者であれば容易に入手可能である。例えば、ヒト免疫グロブリン重定常ガンマ(human Immunoglobulin heavy constant gamma)1をコードする遺伝子は、IGHG1として知られ(例えば、Uniprot:P01857を参照)、ヒト免疫グロブリン重定常ガンマ2をコードする遺伝子は、IGHG2として知られ(例えば、Uniprot:P01859を参照)、ヒト免疫グロブリン重定常ガンマ3をコードする遺伝子は、IGHG3として知られ(例えば、Uniprot:P01860を参照)、ヒト免疫グロブリン重定常ガンマ4をコードする遺伝子は、IGHG4として知られている(例えば、Uniprot:P01861を参照)。
【0040】
例えば、例示的なIgG1重鎖定常領域アミノ酸配列は、配列番号1として本明細書に記載され、例示的なIgG2重鎖定常領域アミノ酸配列は、配列番号2として本明細書に記載され、例示的なIgG3重鎖定常領域アミノ酸配列は、配列番号3として本明細書に記載され、例示的なIgG4重鎖定常領域アミノ酸配列は、配列番号4として本明細書に記載されており、これらの配列から、CH1ドメイン、CH2ドメイン、および/またはCH3ドメインの例示的な配列を適宜、好ましくはCH2ドメインおよびCH3ドメインの例示的な配列を、任意選択的にヒンジ領域と共に、構築物に含ませるために得ることができる。例示的な配列を、表1に示している。グリコシル化パターンおよび/または安定性が改変された工学操作IgG重鎖定常領域およびIgG Fcバリアントもまた、周知である。前記周知のEUナンバリングスキームは、本明細書に記載のIgG分子およびIgG断片に好適な番号付けシステムである。
【0041】
本発明の構築物では、Fc領域の配向(orientation)が重要である。このため、IgA Fc領域は、IgG Fc領域のN末端に配置されている。具体的には、IgA Fc領域のC末端が、IgG Fc領域のN末端に結合されている、すなわち、IgA Fc領域を構成する2つのポリペプチドの各々のC末端またはC末端側終端部が、IgG Fc領域を構成する2つのポリペプチドの各々のN末端またはN末端側終端部(N-terminal end)に結合されている。IgA Fc領域のC末端は、IgG Fc領域のN末端に、直接、すなわち、リンカーなしで、結合させることができる。ただし、IgA Fc領域のC末端は、IgG Fc領域のN末端に、間接的に、すなわち、以下に記載されているようなリンカーを用いて結合することが可能である。
【0042】
本発明の構築物において、IgA Fc領域およびIgG Fc領域は、いずれも各Fc領域の機能性が少なくとも保持されるように、好ましくは、向上されるように配置されている。比較のための適切な分子および構築物は、当業者に周知であろう。例を挙げると、保持または向上については、例えば、適切な全長IgG抗体または全長IgA抗体(例えば、
図1aまたは1b参照)におけるIgA Fc領域単独またはIgG Fc領域単独との比較、あるいは、IgA Fc領域とIgG Fc領域の配向が逆である以外は本発明のタンパク質構築物と同等であるタンパク質構築物、すなわち、IgG Fc領域のC末端がIgA Fc領域のN末端に結合されている構築物との比較で判断することができる。このような分子の一例を、
図1cに示している。
【0043】
よって、本発明の構築物は、例えばFcαRもしくはFcγR等の適切なFcR、またはFcRnに結合可能であり、かつ/または、Fcエフェクター機能、例えば、ADCC誘導能、CDC誘導能、およびADCP誘導能から選択される1つ以上のFcエフェクター機能が可能である。当該技術分野において周知であり記載されているように、ADCC誘導能およびADCP誘導能は、このような機能を発揮できる様々な種類の細胞上の適切なFcR、例えば、ADCPの場合にはマクロファージ上、ADCCに関してはPMN細胞またはNK細胞上の適切なFcRに適切なFc領域が結合することによって生じる。CDC誘導能は、一般的には、Fc領域がC1複合体の成分、好ましくはC1qに結合することによって起こる。FcRnへの結合能は、血漿中半減期にとって重要である。
【0044】
よって、本発明の構築物は、FcRに結合可能であるか、またはFcエフェクター機能が可能である。例を挙げると、前記構築物は、各種FcαR、例えば、Fcα1、各種FcγR、例えば、FcγRI、FcγRIIa、FcγRIIb、FcγRIIc、FcγRIIIa、もしくはFcγRIIIbの1つ以上、および/またはFcRnへの結合が可能である。これに代わるものとして、またはこれに加えて、前記構築物は、CDC誘導、ADCC誘導、および/またはADCP誘導が可能である。CDCを誘導するために、本発明の好ましい構築物は、C1qに結合可能である。
【0045】
好ましくは、IgA Fc領域(またはFc断片)を含む本発明のタンパク質構築物は、FcαR(例えば、ヒトFcαR)に対する結合能を有するか、または保持する。FcαRは、FcαRIまたはCD89とも称される。一部の実施形態では、本発明のタンパク質構築物は、FcαRIの組換えバージョン(例えば、組換えヒトFcαRI)に対する結合能を有する。例えば、多形核白血球(PMN)上に発現されたFcαRIに結合する(またはFcαRIと架橋する)本発明のタンパク質構築物中のIgA Fc領域は、抗体依存性細胞傷害(ADCC)をもたらし得る。よって、本発明の構築物中にIgA Fc領域およびIgG Fc領域の両方が含まれることが、当該構築物のFcαRIへの結合能に有意に影響を及ぼさないことが好ましい。本発明者らは、本発明の構築物中にIgA Fc領域およびIgG Fc領域の両方が含まれることが、当該構築物のFcαRIへの結合能に有意に影響を及ぼさない、または当該結合能を低下させないことを、本明細書中で報告している(実施例1参照)。換言すれば、本発明の構築物は、FcαRIに結合する(または、結合したままでいる)ことができる。
【0046】
よって、一部の実施形態では、IgA Fc領域を含む本発明のタンパク質構築物は、対照タンパク質のFcαRIへの結合能と比べて、有意に変化していない(もしくは変化していない)か、または実質的に同等である(もしくは同等である、もしくは匹敵する)か、または向上したのFcαRIへの結合能を有し、前記対照タンパク質は、例えば、IgA Fc領域を含む対照タンパク質であって、例えば、IgA抗体であり、例えば、本発明の構築物に含まれるIgA Fc領域のサブタイプに応じて選択される、IgA1抗体もしくはIgA2抗体(
図1a参照)等の適切なサブタイプの全長IgA抗体(例えば、野生型全長IgA抗体)であるか、または、単一のIgA Fc領域を含む別の適切な構築物、例えば、単一のIgA Fc領域を当該構築物中の唯一のFc領域として含む別の適切な構築物である。好ましくは、対照タンパク質は、それが比較される本発明のタンパク質構築物と実質的に同一(もしくは同一)または同等であるが、例外(または相違)は、当該対照タンパク質構築物が、本発明で規定されるIgG Fc領域を含まないことである。一部の実施形態では、本発明のタンパク質構築物はIgA抗体を含み、一方、例示的な対照タンパク質は、同一のIgA抗体を含み、唯一の相違点(本発明のタンパク質と比べて)が、当該対照タンパク質が本発明で規定されるIgG Fc領域を含まないことである。
【0047】
適切な対照タンパク質は、好ましくは、本発明のタンパク質構築物と同一もしくは同等の標的指向化ドメインまたは同一もしくは同等の抗原結合ドメインを含む。
【0048】
機能的に有効となるようなFcαRIとの結合レベル、例えば、Fcエフェクター機能、例えば、ADCCを可能にするレベルでのFcαRIとの結合が所望される。本発明のタンパク質構築物のFcαRIへの結合能は、任意の適切な方法またはアッセイにより評価すればよく、当業者であれば適切なアッセイに通じている。前記考察は、任意の適切なアッセイによって決定された(または評価された)FcαRI結合に関するものであってもよい。典型的には、そして好ましくは、ELISAアッセイが使用される。本発明のタンパク質構築物のFcαRI結合を決定するために特に好ましいアッセイが、本明細書の実施例1に記載されている。
【0049】
IgG Fc領域(またはFc断片)を含む本発明のタンパク質構築物は、FcγR(例えば、ヒトFcγR)への結合能を有する、または保持することが好ましい。白血球上に見られるヒトIgGの受容体には、FcγRI(CD64)、FcγRIIa、FcγRIIb、FcγRIIc(CD32)、およびFcγRIIIa、FcγRIIIb(CD16)の3つのクラスが存在するが、本発明のタンパク質構築物は、これらFcγ受容体の1つ以上に対する結合能、または好ましくは全てに対する結合能を有する。一部の実施形態において、本発明のタンパク質構築物は、FcγRの組換えバージョン(例えば、組換えヒトFcγR)に対する結合能を有する。例えば、ナチュラルキラー細胞、マクロファージ、単球、または好酸球等のエフェクター細胞上に発現したFcγRに結合する(または当該FcγRと架橋する)本発明のタンパク質構築物中のIgG Fc領域は、抗体依存性細胞傷害(ADCC)をもたらし得る。よって、本発明の構築物中にIgA Fc領域およびIgG Fc領域の両方が含まれることが、当該構築物のFcγRへの結合能に有意に影響を及ぼさないことが好ましい。
【0050】
本発明者らは、本発明の構築物中にIgA Fc領域およびIgG Fc領域の両方が含まれることが、当該構築物のFcγRへの結合能を、例えば、適切なサブタイプ(例えば、本発明の構築物に含まれるIgG Fc領域のサブタイプに応じて選択される)の全長IgG抗体と比べて、有意に低下させないことを本明細書中で報告している(実施例1および実施例2参照)。前記3つのクラスのFcγRのそれぞれに対する結合が試験されているが、本発明の構築物は、これらの1つ以上に対して良好な結合を示す。具体的には、FcγRI、FcγRIIa(R131バリアントおよびH131バリアントの両方)、FcγRIIb、FcγRIIIa(F158バリアントおよびV158バリアントの両方)、およびFcγRIIIbへの結合が試験されている。いずれの場合でも、FcγRに対する結合は、適切な全長IgG抗体による当該結合と少なくとも同等である。驚くべきことに、一部の例では、具体的には、本発明の構築物のFcγRI、FcγRIIa(R131バリアントおよびH131バリアントの両方)、FcγRIIb、FcγRIIIa-V、およびFcγRIIIbへの結合は、全長IgG抗体による当該結合と比べて、向上(増加)しているか、または優れている。さらに、一部の例では、本発明の構築物の結合は、本発明の構築物における配向とは逆の配向を備えた構築物、すなわち、IgG Fc領域のC末端がIgA Fc領域のN末端に結合されている構築物の結合と比べて、向上(増加)しているか、または優れている。
【0051】
NK細胞は、FcγRIIIaを発現し、IgG抗体の架橋時にADCCを媒介する主要な細胞集団であると考えられている。よって、本発明の構築物の向上したFcγRIIIa結合能は、NK細胞への結合能の向上を可能にし、これにより効率的にADCCを媒介するという点で特に有利と考えられる。
【0052】
よって、一部の実施形態では、IgG Fc領域を含む本発明のタンパク質構築物は、対照タンパク質の同等のFcγRへの結合能と比べて、有意に変化していない(もしく変化していない)か、または実質的に同等である(もしくは同等である、もしくは匹敵する)か、または向上(または増加)したのFcγRへの結合能を有し、前記対照タンパク質は、例えば、IgG Fc領域を含む対照タンパク質であって、例えば、IgG抗体であり、例えば、IgG1抗体、IgG2抗体、IgG3抗体、もしくはIgG4抗体等の適切なサブタイプの全長IgG抗体(例えば、野生型全長IgG抗体)であるか、または、単一のIgG Fc領域を含む別の適切な構築物、例えば、単一のIgG Fc領域を当該構築物中の唯一のFc領域として含む別の適切な構築物である。好ましくは、対照タンパク質は、それが比較される本発明のタンパク質構築物と実質的に同一(もしくは同一)または同等であるが、例外(または相違)は、当該対照タンパク質構築物が、本発明で規定されるIgA Fc領域を含まないことである。
【0053】
適切な対照タンパク質は、好ましくは、本発明のタンパク質構築物と同一もしくは同等の標的指向化ドメインまたは同一もしくは同等の抗原結合ドメインを含む。
【0054】
機能的に有効となるようなFcγRとの結合レベル、例えば、上述のFcγRのいずれかとの結合レベル、例えば、Fcエフェクター機能、例えば、ADCCを可能にするレベルでのFcγRとの結合が所望される。本発明のタンパク質構築物のFcγRへの結合能は、任意の適切な方法またはアッセイにより評価すればよく、当業者であれば適切なアッセイに通じている。前記考察は、任意の適切なアッセイによって決定された(または評価された)FcγR結合に関するものであってもよい。典型的には、そして好ましくは、ELISAアッセイが使用される。本発明のタンパク質構築物のFcγR結合を決定するための特に好ましいアッセイが、本明細書の実施例1に記載されている。
【0055】
FcRnはI型膜糖タンパク質であり、主としてエンドソーム等の酸性細胞内区画に発現する。FcRnの既知の役割の一つは、エンドサイトーシス後にIgGまたはアルブミン等の特定の分子を血清に戻すリサイクルにおける役割である。例えば、FcRnはCH2ドメインとCH3ドメインの界面で、IgGのFc領域と2:1の化学量論比で相互作用する(すなわち、1分子のIgG-Fcが2分子のFcRnに結合する)。リサイクルは、IgG-FcのFcRnに対するpH依存性の結合によって促進される。これに関し、IgG-FcはpH6.0または6.5では高親和性でFcRnに結合するが、pH7.4では結合しない。このように、FcRnは酸性化エンドソーム内で(IgG-Fc領域を介して)IgGに結合するが、その後、生理的/中性pHにおけるFcRnからのIgGの解離が、例えば、FcRn-IgG複合体を含むリサイクリングエンドソームが細胞膜と融合してIgGを血清中に放出して戻す際に起こる。この機構により、IgGはリソソーム分解を回避し得るものであり、FcRnを介したリサイクルが、循環におけるIgGの長い半減期(IgG1、IgG2、IgG4の血清中半減期は約21日であり、FcRnとの結合効率がこれらより低いIgG3の血清中半減期は約7日である)の原因であると考えられている。IgA抗体のFc領域は、FcRnへの結合能が良好でなく、このことが、比較的短い血清中半減期(約1日)の一因と考えられている。
【0056】
好ましくは、IgG Fc領域(またはFc断片)を含む本発明のタンパク質構築物は、FcRn(例えば、ヒトFcRn)に対する結合能、好ましくはpH依存性の結合能を有するか、または保持する。一部の実施形態では、本発明のタンパク質構築物は、FcRnの組換えバージョン(例えば、組換えヒトFcRn)に対する結合能を有する。本明細書中の他の箇所に記載されているように、IgG Fc領域はFcRnと結合するが、このことは、IgG抗体が、pH依存性機構により分解からレスキューされ、比較的長い血清中半減期を有することを意味する。よって、本発明の構築物中にIgA Fc領域およびIgG Fc領域の両方が含まれることが、当該構築物のFcRnに対するpH依存性の結合能に有意に影響を及ぼさないことが好ましい。本発明者らは、本発明の構築物中にIgA Fc領域およびIgG Fc領域の両方が含まれることが、当該構築物のFcRnへの結合能に対し、例えば、適切なサブタイプ(例えば、本発明の構築物に含まれるIgG Fc領域のサブタイプに応じて選択される)の全長IgG抗体と比べて有意に影響を及ぼさない、または低下させないことを本明細書中で報告している(実施例1参照)。
【0057】
よって、一部の実施形態では、本発明のタンパク質構築物は、FcRnに対する好ましくはpH依存性の結合能を有する。より具体的には、好ましくは、本発明のタンパク質構築物は、酸性pH(例えば、pH5.5)ではFcRnへの結合能を有するが、中性のpH(例えば、pH7.4)ではFcRnへの有意な結合能(または結合能)を有さない(あるいは、有意な結合もしくは結合を示さない、または有意に低下した結合を示す、または弱親和性もしくは低親和性の結合を示す)。驚くべきことに、本発明者らは、本発明の構築物のFcRnへの結合能が、全長IgG抗体の結合と比べて、向上(もしくは増加)しているか、または優れていることを示した(実施例1参照)。また、本発明の構築物のFcRnへの結合は、本発明の構築物における配向とは逆の配向を備えた構築物、すなわち、IgG Fc領域のC末端がIgA Fc領域のN末端に結合されている構築物の結合と比べて、向上(もしくは増加)しているか、または優れていることが示されている。一部の実施形態では、本明細書中の他の箇所に記載されているようなREW変異を含むことで、FcRn結合をさらに向上させることができる。
【0058】
よって、一部の実施形態では、本発明のタンパク質構築物のFcRnに対する結合能、好ましくはpH依存性のFcRnに対する結合能は、対照タンパク質のFcRnへの結合能と比べて、有意に変化していない(もしく変化していない)か、または実質的に同等である(もしくは同等である、もしくは匹敵する)か、または向上(増加)しており、前記対照タンパク質は、例えば、IgG Fc領域を含む対照タンパク質であって、例えば、IgG抗体であり、例えば、IgG1抗体、IgG2抗体、IgG3抗体、またはIgG4抗体等の適切なサブタイプの全長IgG抗体(例えば、野生型全長IgG抗体)であるか、または、単一のIgG Fc領域を含む別の適切な構築物、例えば、単一のIgG Fc領域を当該構築物中の唯一のFc領域として含む別の適切な構築物である。好ましくは、対照タンパク質は、それが比較される本発明のタンパク質構築物と実質的に同一(もしくは同一)または同等であるが、例外(または相違)は、当該対照タンパク質構築物が、本発明で規定されるIgA Fc領域を含まないことである。適切な対照タンパク質は、好ましくは、本発明のタンパク質構築物と同一もしくは同等の標的指向化ドメインまたは同一もしくは同等の抗原結合ドメインを含む。
【0059】
機能的に有効となるようなFcRnとの結合レベル、例えば、構築物のリサイクルを可能にするレベル、および/または同等もしくは向上した血清中半減期を可能にするレベルでのFcRnへの結合が所望される。本発明のタンパク質構築物のFcRnとの結合能は、任意の適切な方法またはアッセイによって評価すればよく、当業者であれば適切なアッセイに通じている。前記考察は、任意の適切なアッセイによって決定された(または評価された)FcRn結合に関するものであってもよい。典型的には、そして好ましくは、ELISAアッセイが使用される。典型的には、そして好ましくは、FcRn結合のpH依存性を評価するために、並列ELISAアッセイを実施し、中性pH(例えばpH7.4)でのアッセイと酸性pH(例えばpH5.5)でのアッセイを行ってもよい。本発明のタンパク質構築物のFcRn結合を決定するための特に好ましいアッセイが、本明細書の実施例1に記載されている。
【0060】
好ましくは、本発明のタンパク質構築物は、FcRnに依存して(またはFcRnの媒介によって)リサイクルされ、細胞内分解から(例えば、リソソーム分解から)レスキューされ得る。本明細書中の他の箇所に記載されているように、IgA抗体は、典型的にはインビボ半減期が短い(例えば、約1日の半減期)という問題を有する。本発明者らは、本発明の構築物中にIgA Fc領域およびIgG Fc領域の両方が含まれることにより、IgA抗体(またはIgA Fc領域が存在するか、当該IgA Fc領域が唯一のFc領域である他の構築物)に対し、FcRn依存性機構を介したリサイクル能およびレスキュー能を付与(または能力を強化、もしくは能力を増加)できることを本明細書中で実証している(実施例1参照)。
【0061】
加えて、本発明者らは、本発明の構築物中にIgA Fc領域およびIgG Fc領域の両方が含まれることが、IgG Fc領域(またはFc断片)を含む当該構築物の、FcRn依存性機構を介したリサイクル能およびレスキュー能を低下させないことを本明細書中で実証している(実施例1参照)。実際、本発明者らは、FcRnを介した本発明の構築物のリサイクルおよびレスキューは、適切な全長IgG抗体、例えば、IgG1抗体のリサイクルおよびレスキューと少なくとも同等であることを示している。驚くべきことに、FcRnを介した本発明の構築物のリサイクルおよびレスキューは、全長IgG抗体のリサイクルおよびレスキューと比べて向上(増加)しているか、または優れていることが示されている。また、FcRnを介した本発明の構築物のリサイクルおよびレスキューは、本発明の構築物における配向とは逆の配向を備えた構築物、すなわち、IgG Fc領域のC末端がIgA Fc領域のN末端に結合されている構築物のリサイクルおよびレスキューと比べて、向上(増加)しているか、または優れていることが示されている。理論に制約されることを望むものではないが、FcRnに結合し、リサイクルおよびレスキューされるこの能力が、(本明細書中の他の箇所にも記載されているように)本発明のタンパク質構築物において観察されるインビボ半減期の増加の原因であると考えられる。
【0062】
好ましい実施形態では、本発明のタンパク質構築物のFcRn依存性機構を介したリサイクル能およびレスキュー能は、対照タンパク質のFcRn依存性機構を介したリサイクル能およびレスキュー能と比べて、維持されているか、または有意に変化していない(例えば、IgG Fc含有対照タンパク質と比べて)か、または増加(好ましくは有意に増加)している。
【0063】
一部の実施形態では、本発明のタンパク質構築物のFcRn依存性機構を介したリサイクル能およびレスキュー能は、対照タンパク質のFcRn依存性機構を介したリサイクル能およびレスキュー能と比べて、例えば、少なくとも1.2倍、少なくとも1.3倍、少なくとも1.4倍、少なくとも1.5倍、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも4倍、少なくとも5倍、少なくとも6倍、少なくとも7倍、少なくとも8倍、少なくとも9倍、少なくとも10倍、少なくとも11倍、少なくとも12倍、少なくとも13倍、少なくとも14倍、または少なくとも15倍増加している(例えば、最大1.5倍、最大2倍、最大3倍、最大4倍、最大5倍、最大6倍、最大7倍、最大8倍、最大9倍、最大10倍、最大11倍、最大12倍、最大13倍、最大14倍、最大15倍、最大20倍、最大50倍、または最大100倍の増加があり、1.2倍または1.5倍~100倍の増加、1.2倍または1.5倍~50倍の増加、1.2倍または1.5倍~20倍の増加、1.2倍または1.5倍~10倍の増加、3倍~100倍の増加、3倍~50倍の増加、3倍~20倍の増加、3倍~10倍の増加、5倍~100倍の増加、5倍~50倍、5倍~20倍、または5倍~10倍の増加、10倍~100倍の増加、10倍~50倍、10倍~20倍、または10倍~15倍の増加等が挙げられる)。
【0064】
リサイクルおよびレスキューにおける増加が達成される場合、適切な対照タンパク質は、IgA Fc領域を含む対照タンパク質であって、例えば、IgA抗体であり、例えば、本発明の構築物に含まれるIgA Fc領域のサブタイプに応じて選択される、IgA1抗体またはIgA2抗体等の適切なサブタイプの全長IgA抗体(例えば、野生型全長IgA抗体)であるか、または、単一のIgA Fc領域を含む別の適切な構築物、例えば、単一のIgA Fc領域を構築物中の唯一のFc領域として含む別の適切な構築物である。好ましくは、このような対照タンパク質は、それが比較される本発明のタンパク質構築物と実質的に同一(もしくは同一)または同等であるが、例外(または相違)は、当該対照タンパク質構築物が、本発明で規定されるIgG Fc領域を含んでいないことである。一部の実施形態では、本発明のタンパク質構築物はIgA抗体を含み、一方、例示的な対照タンパク質は、同一のIgA抗体を含むが、唯一の相違点(本発明のタンパク質と比べて)が、当該対照タンパク質が本発明で規定されるIgG Fc領域を含まないことである。
【0065】
あるいは、リサイクルおよびレスキューにおける増加が達成される場合や、またはリサイクルおよびレスキューの維持が観察される場合、例えば、リサイクルおよびレスキューが有意に変化していない(もしくは変化していない)か、もしくは対照タンパク質のリサイクル能およびレスキュー能と実質的に同等である(もしくは同等である、もしくは匹敵する)場合には、適切な対照タンパク質は、IgG Fc領域を含む対照タンパク質であってもよく、例えば、IgG抗体であり、例えば、IgG1抗体、IgG2抗体、IgG3抗体、またはIgG4抗体等の適切なサブタイプの全長IgG抗体(例えば、野生型全長IgG抗体)であるか、または、単一のIgG Fc領域を含む別の適切な構築物、例えば、単一のIgG Fc領域を構築物中の唯一のFc領域として含む別の適切な構築物であってもよい。好ましくは、対照タンパク質は、それが比較される本発明のタンパク質構築物と実質的に同一(もしくは同一)または同等であるが、例外(または相違)は、当該対照タンパク質構築物が、本発明で規定されるIgA Fc領域を含まないことである。
【0066】
適切な対照タンパク質は、好ましくは、本発明のタンパク質構築物と同一もしくは同等の標的指向化ドメインまたは同一もしくは同等の抗原結合ドメインを含む。
本発明のタンパク質構築物のFcRn依存性機構を介したリサイクル能およびレスキュー能は、任意の好適なアッセイまたは方法で決定したものであればよく、当業者であれば好適なアッセイまたは方法に通じているであろう。前記考察は、任意の適切なアッセイによって決定された(または評価された)FcRn依存性機構を介したリサイクルおよびレスキューに関するものであってもよい。
【0067】
一部の実施形態では、FcRn依存性機構を介してリサイクルおよびレスキューされる本発明のタンパク質の能力は、ヒト内皮細胞に基づくリサイクルアッセイ(HERA)において決定(または評価)されたものである。このようなHERAを使用して、本発明のタンパク質構築物の、FcRnに対するpH依存性の結合能を評価することも可能である。好適なHERAは、当該技術分野で公知である(例えば、Grevys et al., 2018, Nat. Commun., 9(1):621)。本発明のタンパク質構築物のFcRn依存性機構を介したリサイクル能およびレスキュー能を決定するための例示的なHERAが、本明細書の実施例1に記載されている。
【0068】
典型的には、そして好ましくは、本発明のタンパク質構築物は、治療上有用なインビボ半減期(例えば、哺乳動物での循環、好ましくは、ヒトでの循環における治療上有用な半減期、または、治療上有用な血清中半減期もしくは治療上有用な血漿中半減期)を有する。IgA抗体は、典型的には、インビボ半減期が短い(例えば、約1日の半減期)という問題を有する。本発明者らは、本発明の構築物中にIgA Fc領域およびIgG Fc領域の両方が含まれることが、当該構築物のインビボ半減期を有意に低下させないことを本明細書中で実証している(実施例1参照)。実際、本発明の構築物によれば、IgAをベースとするタンパク質、例えば、IgA抗体(例えば、全長、例えば、野生型のIgA1またはIgA2抗体)またはIgAをベースとする抗体(例えばIgA1またはIgA2に基づく抗体)のインビボ半減期が有意に延長される(または増加する)ことが示されている。
【0069】
これは、IgA Fc領域を含むIgA抗体またはタンパク質構築物、特に、IgA Fc領域を唯一のFc領域として含むIgA抗体またはタンパク質構築物であって、当該IgA Fc領域がなければ、その短い半減期のためにインビボでの(例えば、治療目的の)使用はできない(または、使用に最適ではない)可能性がある構築物でも、本発明に従ってそれらを調製またはタンパク質構築物に組み込むことによりその半減期が延長するように改変できるという有利な特性である。
【0070】
加えて、本発明者らは、本発明の構築物中にIgA Fc領域およびIgG Fc領域の両方が含まれることが、当該構築物のインビボ半減期を有意に低下させないことを、本明細書中で実証している(実施例1参照)。実際、本発明者らは、本発明の構築物のインビボ半減期は、適切な全長IgG抗体、例えば、IgG1抗体のインビボ半減期と比べて有意な差はない、または同等である(もしくは、若干短いだけである)ことを示した。さらに、本発明の構築物のインビボ半減期は、本発明の構築物における配向とは逆の配向を備えた構築物、すなわち、IgG Fc領域のC末端がIgA Fc領域のN末端に結合されている構築物のインビボ半減期と比べて、向上(増加)しているか、または優れていることが示されている。一部の実施形態では、本明細書中の他の箇所に記載されているようなREW変異を含むことで、インビボ半減期をさらに向上させることができる。
【0071】
好ましい実施形態では、本発明のタンパク質構築物のインビボ半減期は、対照タンパク質のインビボ半減期と比べて、(例えば、IgG Fc含有対照タンパク質と比べて)維持されているか、または有意に変化していないか、または増加(好ましくは、有意に増加)している。
【0072】
一部の実施形態では、本発明のタンパク質構築物のインビボ半減期は、少なくとも3日、または少なくとも4日、または少なくとも5日、または少なくとも6日、または少なくとも7日(例えば、最大4日、最大5日、最大6日、最大7日、最大8日、最大10日、最大15日、最大20日、最大22日、または最大25日、例えば、3日~5日、3日~7日、4日~7日または5日~7日または6日~7日または4日~22日または5日~22日または6日~22日)である。好ましい実施形態では、インビボ半減期は、哺乳動物におけるインビボ半減期であり、例えば、マウス等の実験動物において、またはヒトにおいて評価されるインビボ半減期である。インビボ半減期は、マウス、特に、マウスFcRnではなくヒトFcRnを発現するマウス等の実験動物またはヒトにおける血清中半減期または血漿中半減期(または循環もしくは血流における半減期)であってもよい。一部の実施形態では、インビボ半減期はβ相半減期である。
【0073】
一部の好ましい実施形態では、本発明のタンパク質構築物、例えば、IgA抗体(例えば、IgA1抗体またはIgA2抗体)を含むタンパク質は、対照タンパク質のインビボ半減期と比べて、インビボ半減期が増加(好ましくは有意に増加)している。
【0074】
一部の実施形態では、本発明のタンパク質構築物(例えば、IgA抗体(例えば、IgA1抗体またはIgA2抗体)を含むタンパク質)のインビボ半減期は、対照タンパク質のインビボ半減期と比べて、少なくとも3倍、少なくとも4倍、少なくとも5倍、少なくとも6倍、少なくとも7倍、少なくとも8倍、少なくとも9倍、または少なくとも10倍増加している(例えば、対照タンパク質のインビボ半減期と比べて、例えば、最大3倍、最大4倍、最大5倍、最大6倍、最大7倍、最大8倍、最大9倍、最大10倍、最大15倍、または最大20倍の増加があり、3倍~5倍の増加、3倍~8倍の増加、3倍~10倍の増加、3倍~20倍の増加、5倍~8倍の増加、5倍~10倍の増加、または5倍~20倍の増加等が挙げられる)。
【0075】
インビボ半減期の増加が達成される場合、適切な対照タンパク質は、IgA Fc領域を含む対照タンパク質であって、例えば、IgA抗体であり、例えば、本発明の構築物に含まれるIgA Fc領域のサブタイプに応じて選択される、IgA1抗体またはIgA2抗体等の適切なサブタイプの全長IgA抗体(例えば、野生型全長IgA抗体)であるか、または、単一のIgA Fc領域を含む別の適切な構築物、例えば、単一のIgA Fc領域を構築物中の唯一のFc領域として含む別の適切な構築物である。好ましくは、このような対照タンパク質は、それが比較される本発明のタンパク質構築物と実質的に同一(もしくは同一)または同等であるが、例外(または相違)は、当該対照タンパク質構築物が、本発明で規定されるIgG Fc領域を含んでいないことである。一部の実施形態では、本発明のタンパク質構築物はIgA抗体を含み、一方、例示的な対照タンパク質は、同一のIgA抗体を含むが、唯一の相違点(本発明のタンパク質と比べて)が、当該対照タンパク質が本発明で規定されるIgG Fc領域を含まないことである。
【0076】
あるいは、インビボ半減期の維持または少なくとも維持が観察される場合、例えば、インビボ半減期が、対照タンパク質のインビボ半減期と比べて有意に変化していない(もしくは変化していない)か、または実質的に同等である(もしくは同等である、もしくは匹敵する)場合には、適切な対照タンパク質は、IgG Fc領域を含む対照タンパク質であってもよく、例えば、IgG抗体、例えば、IgG1抗体、IgG2抗体、IgG3抗体、またはIgG4抗体等の適切なサブタイプの全長IgG抗体(例えば、野生型全長IgG抗体)であるか、または、単一のIgG Fc領域を含む別の適切な構築物、例えば、単一のIgG Fc領域を構築物中の唯一のFc領域として含む別の適切な構築物であってもよい。好ましくは、対照タンパク質は、それが比較される本発明のタンパク質構築物と実質的に同一(もしくは同一)または同等であるが、例外(または相違)は、当該対照タンパク質構築物が、本発明で規定されるIgA Fc領域を含まないことである。
【0077】
適切な対照タンパク質は、好ましくは、本発明のタンパク質構築物と同一もしくは同等の標的指向化ドメインまたは同一もしくは同等の抗原結合ドメインを含む。
インビボ半減期(または血漿中半減期または血清中半減期)は、任意の好適な方法で決定すればよく、当業者であれば好適な方法に通じているであろう。一部の実施形態では、インビボ半減期は、実験動物(例えば、実験マウス)で決定したものであり、また一部の実施形態では、インビボ半減期に関連する前記考察および値は、(例えば、本明細書中の他の箇所に記載されているように)マウスモデルにおいて決定されたインビボ半減期に関するものである。他の実施形態において、インビボ半減期に関する前記考察および値は、ヒトにおいて観察されるインビボ半減期に関するものである。
【0078】
インビボ半減期を決定するために好ましいこのような方法では、マウス、例えば、ヒトFcRnを発現するが、マウスFcRnを発現しないマウス(ホモ接合体Tg32マウス(B6.Cg-Fcgrttm1Dcr Tg(FCGRT)32Dcr/DcrJ; The Jackson Laboratory)等)を使用して、本発明のタンパク質構築物の半減期を決定する。好ましいマウスは、実施例1に記載されている。インビボ半減期を決定するための例示的な方法は、本明細書の実施例1に記載されている。
【0079】
本発明者らは、有利なことに、本発明の構築物が、実際の生体内の状況または生理的に関連する状況をより忠実に表すようにしたマウスモデルにおいても良好に機能することを本明細書中で実証している(実施例1参照)。このマウスモデル、例えば、上述のマウスモデルを改変したものでは、プールされたヒトIgG分子の収集物を、例えば、IVIg製剤の形態でマウスに前投与(pre-loaded)している。このようなヒトIgG分子を過剰量存在させることで、このような分子が、例えば、内因性抗体の形で存在し、このような高レベルのIgGが、FcRnの結合およびリサイクルをめぐって競合するという生体内の状況をより正確に表していると考えられる。よって、FcRn上のIgG結合部位に対する競合が存在し得る。本発明者らは、有利なことに、本発明の構築物が、互いに競合するIgG分子の存在下であっても好ましい半減期を示すことを実証している。よって、このようなモデルでは、本発明の構築物のインビボ半減期は、本明細書中の他の箇所に記載されているような適切な対照タンパク質、例えば、IgG1等の野生型全長IgG抗体のインビボ半減期と比べて、有意に変化していない(もしくは変化していない)か、または実質的に同等である(もしくは同等である、もしくは匹敵する)か、または若干短いだけである。この効果は、例えば、先に記載されているように、また実施例1に記載されているように、ヒトFcRnトランスジェニックマウスにおいて実証されている。一部の実施形態では、本明細書中の他の箇所に記載されているようなREW変異を含ませることで、このようなモデルにおけるインビボ半減期をさらに向上させることができる。
【0080】
一部の抗体が有する別の重要なエフェクター機能は、古典的補体経路を活性化する能力(補体依存性細胞傷害またはCDCとして知られている)である。抗体または他の適切なタンパク質構築物のCDC誘導能は、一般的に、当該抗体または当該構築物のFc領域が、C1複合体の成分、好ましくはC1qに結合することによって媒介される。そして、この相互作用により、CDCを介し、当該抗体(または当該構築物)が結合した標的細胞の溶解が誘導される。一般的に、CDC誘導能は、対象のFc領域、ならびに、当該Fc領域がC1qと結合できるか否か(またはどの程度結合できるか)によって変動する。例えば、野生型ヒトIgG1 Fc領域および野生型ヒトIgG3 Fc領域は、一般的に、C1qに結合してCDCを誘導する能力が良好である。IgG2 Fc領域またはIgG4 Fc領域は、一般に、これを行う能力が弱いか、または低い。ヒトIgA Fc領域は、一般的には、C1qに結合してCDCを誘導する能力を有していないか、または、C1qに結合してCDCを誘導する能力が弱い。
【0081】
好ましくは、本発明のタンパク質構築物は、C1q(例えば、ヒトC1q)に対する結合能を有するか保持する、あるいは、C1q(例えば、ヒトC1q)に対する結合能の増加または向上を示す。
【0082】
よって、この結果として、本発明のタンパク質構築物は、好ましくは、CDC誘導能を有するか保持する、またはCDC誘導能の増加もしくは向上を示す。
【0083】
一部の実施形態では、本発明のタンパク質構築物は、C1qの組換えバージョン(例えば、組換えヒトC1q)に対する結合能を有する。本明細書中の他の箇所に記載されているように、IgG Fc領域、特に、IgG1 Fc領域およびIgG3 Fc領域は、C1qへの結合が良好であるが、このことは、これらの血清型の抗体が、一般的に良好なCDC活性を示すことを意味している。よって、一部の実施形態では、IgG1 Fc領域またはIgG3 Fc領域を含むタンパク質構築物、特に、IgG1 Fc領域を含むタンパク質構築物が好ましい。しかしながら、IgA Fc領域、例えば、IgA1Fc領域およびIgA2 Fc領域は、一般的に、CDC活性が良好でないか、またはCDC活性を有していない。よって、本発明の構築物中にIgA Fc領域およびIgG Fc領域の両方が含まれることが、例えば、IgG Fc領域を介した当該構築物のC1qへの結合能に有意に影響を及ぼさないことが好ましい。さらに、本発明の構築物中にIgA Fc領域およびIgG Fc領域の両方が含まれることが、IgA抗体(またはIgA Fc領域が存在するか、当該IgA Fc領域が唯一のFc領域である他の構築物)に、C1qに対する結合能を付与(または当該能力を強化、もしくは当該能力を増加)できることが好ましい。
【0084】
本発明者らは、本発明の構築物中にIgA Fc領域およびIgG Fc領域の両方が含まれることにより、IgA抗体に対し(よって、IgA Fc領域が存在するか、当該IgA Fc領域が唯一のFc領域である他の構築物に対し)、例えば、本発明の構築物に含まれるIgA Fc領域のサブタイプに応じて選択される適切なサブタイプの、例えば、全長IgA抗体(例えば、野生型全長IgA抗体)と比べて、C1qへの結合能を付与できる(もしくは当該能力を強化できる、もしくは当該能力を増加できる)ことを本明細書中で実証している(実施例1参照)。
【0085】
加えて、本発明者らは、本発明の構築物中にIgA Fc領域およびIgG Fc領域の両方が含まれることが、IgG Fc領域(またはFc断片)を含む当該構築物のC1qへの結合能を、例えば、前記適切なサブタイプの全長IgG抗体(例えば、野生型全長IgA抗体)と比べて低下させないことを本明細書中で実証している(実施例1参照)。実際、本発明者らは、本発明の構築物のC1qへの結合能は、適切な全長IgG抗体(例えば、野生型全長IgG抗体)、例えば、IgG1抗体またはIgG2抗体のC1qへの結合能と少なくとも同等であることを示している。驚くべきことに、かつ有利なことに、IgG1 Fc領域を含む本発明の構築物のC1qへの結合能は、全長IgG1抗体のC1qへの結合能と比べて向上しているか、または優れていることが示されている。(例えば、全長IgG1抗体における)単独のIgG1 Fc領域と比べて、IgG1 Fc領域とIgA Fc領域とを有する本発明の構築物について観察されたこの向上は予測し得なかったものであり、かつ、このC1qへの結合能の向上は、本発明のタンパク質構築物のCDC誘導能の向上にもつながっているはずと考えられる。実際、このことは、本発明のタンパク質構築物(実施例1および実施例2参照)において、当該構築物が、例えば、適切な全長IgG抗体(例えば、野生型全長IgG抗体)、例えば、IgG1抗体またはIgG2抗体と比べて、これらのCDC誘導能に匹敵するか、または向上もしくは増加したCDC誘導能を示していることで証明されている。本明細書中の他の箇所に記載されているようなREW変異を含むことで、CDC誘導をさらに向上させることができる。加えて、REW変異の有無にかかわらず、本明細書中の他の箇所および実施例2に記載される本発明の伸長型構築物もまた、CDC誘導能のこのような向上を示す。
【0086】
また、本発明の構築物のC1qへの結合能は、本発明の構築物における配向とは逆の配向を備えた構築物、すなわち、IgG1 Fc領域のC末端がIgA Fc領域のN末端に結合されている構築物のC1qへの結合能と比べて、向上しているか、または優れていることが示されている。本発明の構築物のCDC誘導能は、本発明の構築物における配向とは逆の配向を備えた構築物、すなわちIgG Fc領域のC末端がIgA Fc領域のN末端に結合された構築物のCDC誘導能よりも向上(増加)しているか、または優れていることが示されている。
【0087】
よって、好ましい実施形態では、本発明のタンパク質構築物のC1qへの結合能は、(例えば、IgG Fc含有対照タンパク質と比べて)維持されている、もしくは有意に変化していないか、または、対照タンパク質のC1qへの結合能と比べて増加(好ましくは、有意に増加)している。
【0088】
よって、好ましい実施形態では、本発明のタンパク質構築物のCDC誘導能は、(例えば、IgG Fc含有対照タンパク質と比べて)維持されている、もしくは有意に変化していないか、または、対照タンパク質のCDC誘導能と比べて増加(好ましくは、有意に増加)している。
【0089】
一部の実施形態では、本発明のタンパク質構築物は、使用される標的指向化ドメインに応じて、ある種の細胞、例えば、癌細胞、例えば、CD20またはHER2を発現する細胞または癌細胞のCDCを誘導することが可能である。あくまで例示目的であり、網羅的な列挙を意図するものではないが、本発明のタンパク質構築物は、CD20を発現する癌細胞、例えば、Raji細胞、WSU-NHL細胞、またはSU-DHl4細胞を含む癌性B細胞株のCDCを誘導可能であることが示された。
【0090】
CDCの誘導は、適切な標的細胞の溶解率%を求めることにより簡便に測定できる。溶解率%の値は、当然のことながら、対象とする細胞の種類によって異なる。しかしながら、例示する本発明の構築物によれば、癌細胞の溶解率%レベルは良好であり、例えば、異なる種類の癌細胞に対し、少なくともまたは最大40%の溶解が見られ、少なくともまたは最大45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、または85%の溶解レベルが観察される。あくまで例示目的であるが、CD20標的指向化ドメインを有する本発明のタンパク質構築物は、少なくともまたは最大40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、または85%のRaji細胞(CD20発現癌細胞株)の溶解を誘導することができる。
【0091】
一部の実施形態では、本発明のタンパク質構築物のC1qに対する結合能(またはCDC誘導能)は、対照タンパク質のC1qに対する結合能と比べて、例えば、少なくとも1.1倍、少なくとも1.2倍、少なくとも1.3倍、少なくとも1.4倍、少なくとも1.5倍、少なくとも1.6倍、少なくとも1.7倍、少なくとも1.8倍、少なくとも1.9倍、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも4倍、少なくとも5倍、少なくとも6倍、少なくとも7倍、少なくとも8倍、少なくとも9倍、または少なくとも10倍増加している(例えば、最大1.1倍、最大1.2倍、最大1.3倍、最大1.4倍、最大1.5倍、最大1.6倍、最大1.7倍、最大1.8倍、最大1.9倍、最大2倍、最大3倍、最大4倍、最大5倍、最大6倍、最大7倍、最大8倍、最大9倍、最大10倍、最大15倍、または最大20倍の増加があり、1.2倍~20倍の増加、1.2倍~10倍、1.2倍~8倍、1.3倍~20倍の増加、1.3倍~10倍の増加、1.3倍~8倍の増加等が挙げられる)。
【0092】
C1qに対する結合能(またはCDC誘導能)の増加が達成される場合、適切な対照タンパク質は、IgA Fc領域を含む対照タンパク質であって、例えば、IgA抗体であり、例えば、本発明の構築物に含まれるIgA Fc領域のサブタイプに応じて選択される、IgA1抗体またはIgA2抗体等の適切なサブタイプの全長IgA抗体(例えば、野生型全長IgA抗体)であるか、または、単一のIgA Fc領域を含む別の適切な構築物、例えば、単一のIgA Fc領域を構築物中の唯一のFc領域として含む別の適切な構築物である。好ましくは、このような対照タンパク質は、それが比較される本発明のタンパク質構築物と実質的に同一(もしくは同一)または同等であるが、例外(または相違)は、当該対照タンパク質構築物が、本発明で規定されるIgG Fc領域を含んでいないことである。一部の実施形態では、本発明のタンパク質構築物はIgA抗体を含み、一方、例示的な対照タンパク質は、同一のIgA抗体を含むが、唯一の相違点(本発明のタンパク質と比べて)が、当該対照タンパク質が本発明で規定されるIgG Fc領域を含まないことである。
【0093】
あるいは、C1qに対する結合能(またはCDC誘導能)の増加が達成される場合や、またはC1qに対する結合能(またはCDC誘導能)の維持が観察される場合、例えば、C1qに対する結合能(またはCDC誘導能)が有意に変化していない(もしくは変化していない)か、もしくは対照タンパク質のC1qに対する結合能(またはCDC誘導能)と実質的に同等である(もしくは同等である、もしくは匹敵する)場合には、適切な対照タンパク質は、IgG Fc領域を含む対照タンパク質、例えば、IgG抗体であり、例えば、本発明の構築物に含まれるIgG Fc領域のサブタイプに応じて選択される、IgG1抗体、IgG2抗体、IgG3抗体、またはIgG4抗体等の適切なサブタイプの全長IgG抗体(例えば、野生型全長IgG抗体)であってもよいし、または、単一のIgG Fc領域を含む別の適切な構築物、例えば、単一のIgG Fc領域を構築物中の唯一のFc領域として含む別の適切な構築物であってもよい。好ましくは、このような対照タンパク質は、それが比較される本発明のタンパク質構築物と実質的に同一(もしくは同一)または同等であるが、例外(または相違)は、当該対照タンパク質構築物が、本発明で規定されるIgA Fc領域を含まないことである。
【0094】
適切な対照タンパク質は、好ましくは、本発明のタンパク質構築物と同一もしくは同等の標的指向化ドメインまたは同一もしくは同等の抗原結合ドメインを含む。
【0095】
機能的に有効となるようなC1qとの結合レベル、例えば、CDC活性の誘導を可能にするレベルでのC1qとの結合が所望される。本発明のタンパク質構築物のC1qとの結合能は、任意の適切な方法またはアッセイによって評価すればよく、当業者であれば適切なアッセイに通じている。前記考察は、任意の適切なアッセイによって決定された(または評価された)C1q結合に関するものであってもよい。典型的には、そして好ましくは、ELISAアッセイが使用される。本発明のタンパク質構築物のC1q結合を決定するための特に好ましいアッセイは、本明細書の実施例1に記載されている。同様に、本発明のタンパク質構築物のCDC誘導能は、任意の適切な方法またはアッセイによって評価すればよく、当業者であれば適切なアッセイに通じている。前記考察は、任意の適切なアッセイによって決定された(または評価された)CDC誘導能に関するものであってもよい。典型的には、そして好ましくは、標的細胞(すなわち、本発明の構築物によって認識される標的抗原を発現する細胞が使用される)のCDC誘導溶解を測定可能なアッセイが使用され、例えば、クロム放出アッセイ、またはカルセインAMに基づくCDCアッセイ等の蛍光放出アッセイが使用される。適切な細胞、例えば、癌細胞、例えば、癌性B細胞の例としては、本明細書の実施例に記載されている通りであり、Raji細胞、WSU-NHL細胞、またはSU-DHl4細胞が挙げられる。本発明のタンパク質構築物のCDC活性を決定するための特に好ましいアッセイは、本明細書の実施例1に記載されている。
【0096】
一部の抗体が持つもう一つの重要なエフェクター機能は、ADCC誘導能である。抗体または他の適切なタンパク質構築物のADCC誘導能は、一般的に、抗体または構築物のFc領域がエフェクター細胞上の適切なFcRに結合することによって媒介される。そして、この相互作用が引き金となってエフェクター細胞におけるシグナル伝達カスケードを誘発することができ、その結果、様々な因子が分泌され、最終的には抗体(または構築物)が結合した標的細胞が破壊される。一般的に、ADCCの誘導能およびADCC誘導の効力は、対象のFc領域、ならびに、当該Fc領域がエフェクター細胞上のFcRと結合できるか否か(またはどの程度結合できるか)によって変動する。ADCCの誘導は、活性化受容体と抑制性受容体との比率にも左右される。例えば、IgG抗体は、ナチュラルキラー(NK)細胞、マクロファージ、単球、および好酸球等のエフェクター細胞上のFcγRとの結合を介してADCCを誘導することができる)。野生型ヒトIgG1 Fc領域および野生型ヒトIgG3 Fc領域は、一般的に優れた(高い)ADCC誘導能を有し、IgG2 Fc領域またはIgG4 Fc領域は、一般的に、より弱いまたはより低いADCC誘導能を有する。一方、IgA抗体(例えば、IgA1抗体およびIgA2抗体)は、一般的に、多形核白血球(PMN)上、主として好中球上のFcαR(FcαRI)との結合を介して良好な(高い)ADCC誘導能を有する。
【0097】
よって、好ましい実施形態では、本発明のタンパク質構築物は、抗体依存性細胞傷害活性(ADCC)誘導能を有するか、または保持する。よって、好ましい実施形態では、本発明のタンパク質構築物のADCC誘導能は、(例えば、適切なFc含有対照タンパク質、例えば、本発明の構築物に含まれるIgA Fc領域および/またはIgG Fc領域のサブタイプに応じて選択されるサブタイプの、例えば、全長IgA抗体または全長IgG抗体(例えば、野生型全長IgA抗体または野生型全長IgA抗体)と比べて)維持されている、または有意に変化していない、または有意に低下していないか、あるいは、前記ADCC誘導能は、例えば、適切なFc含有対照タンパク質(例えば、本発明の構築物に含まれるIgAFc領域および/またはIgG Fc領域のサブタイプに応じて選択される適切なサブタイプの、例えば、全長IgAまたは全長IgG、例えば、野生型全長IgA抗体または野生型全長IgG抗体)のADCC誘導能と比べて、増加(好ましくは、有意に増加)している。
【0098】
IgA Fc領域を含む本発明の構築物について、当該構築物は、好中球の関与を介してADCCを誘導可能であることが好ましい。IgG Fc領域を含む本発明の構築物について、当該構築物は、NK細胞の関与を介してADCCを誘導可能であることが好ましい。よって、IgG Fc領域およびIgA Fc領域の両方を含む本発明の好ましい構築物は、好中球およびNK細胞の両方の関与を介してADCCを誘導可能であることが好ましい。
【0099】
有意レベルのADCC活性が、本発明の構築物において、維持されているか、または保持されているか、または存在する。例えば、機能的に有効となるようなADCCレベル、例えば、適切な標的細胞の殺傷を可能にするレベルでのADCCが所望される。本発明のタンパク質構築物のADCC誘導能は、任意の適切な方法またはアッセイによって評価すればよく、当業者であれば適切なアッセイに通じている。前記考察は、任意の適切なアッセイによって決定された(または評価された)ADCCに関するものであってもよい。典型的には、そして好ましくは、標的細胞(すなわち、本発明の構築物によって認識される標的抗原を発現する細胞が使用される)のADCC誘導溶解を測定可能なアッセイが使用され、例えば、クロム放出アッセイが使用される。典型的には、そして好ましくは、ADCC活性は、特異的溶解または特異的細胞溶解の量(例えば、特異的溶解率%または特異的細胞溶解率%)で表してもよい。
【0100】
一部の抗体が持つもう一つの重要なエフェクター機能は、ADCP誘導能である。抗体または他の適切なタンパク質構築物のADCP誘導能は、一般的に、抗体または構築物のFc領域がエフェクター細胞上の適切なFcRに結合することによって媒介され、当該エフェクター細胞は、これにより貪食が可能であり、したがって、当該抗体(または構築物)が結合した標的細胞を破壊することが可能である。一般的に、ADCPの誘導能およびADCP誘導の効力は、対象のFc領域、ならびに、当該Fc領域が、貪食が可能なエフェクター細胞上のFcRと結合できるか否か(またはどの程度結合できるか)によって変動する。例えば、IgG抗体は、マクロファージ等のエフェクター細胞上のFcγRに結合することでADCPを誘導することができる。野生型ヒトIgG1 Fc領域および野生型ヒトIgG2領域は、一般的に優れた(高い)ADCP誘導能を有する。一方、IgA抗体(例えば、IgA1抗体およびIgA2抗体)は、マクロファージ等の適切なエフェクター細胞上のFcαR(FcαRI)との結合を介したADCP誘導能が中程度に過ぎない。
【0101】
よって、好ましい実施形態では、本発明のタンパク質構築物は、抗体依存性細胞貪食(ADCP)の誘導能を有するか、または保持する。よって、好ましい実施形態では、本発明のタンパク質構築物のADCP誘導能は、(例えば、適切なFc含有対照タンパク質、例えば、本発明の構築物に含まれるIgA Fc領域および/またはIgG Fc領域のサブタイプに応じて選択されるサブタイプの、例えば、全長IgAまたは全長IgG(例えば、野生型全長IgA抗体または野生型全長IgA抗体)と比べて)維持されている、または有意に変化していない、または有意に低下していないか、あるいは、前記ADCP誘導能は、例えば、適切なFc含有対照タンパク質(例えば、本発明の構築物に含まれるIgAFc領域および/またはIgG Fc領域のサブタイプに応じて選択される適切なサブタイプの、例えば、全長IgAまたは全長IgG、例えば、野生型全長IgA抗体または野生型全長IgG抗体)のADCP誘導能と比べて、増加(好ましくは、有意に増加)している。
【0102】
本発明の構築物において、有意レベルのADCP活性が、維持されているか、または保持されているか、または存在している。例えば、機能的に有効となるようなADCPレベル、例えば、適切な標的細胞の貪食を可能にするレベルでのADCPが所望される。本発明のタンパク質構築物のADCP誘導能は、任意の適切な方法またはアッセイによって評価すればよく、当業者であれば適切なアッセイに通じている。前記考察は、任意の適切なアッセイによって決定された(または評価された)ADCPに関するものであってもよい。典型的には、そして好ましくは、標的細胞(すなわち、本発明の構築物によって認識される標的抗原を発現する細胞が使用される)のADCP誘導溶解を測定可能なアッセイが使用され、例えば、マクロファージを使用して標的細胞の貪食を誘導するアッセイが使用される。
【0103】
好ましくは、IgG Fc領域に結合されたIgA Fc領域を含む本発明のタンパク質構築物は、本明細書に記載される機能的特性の1つ以上、好ましくは全てを有する。
【0104】
好ましくは、上述の能力および特性は、適切な対照(例えば、対照タンパク質)と比べた場合に、測定可能レベルまたは有意レベルで、より好ましくは、統計的に有意なレベルで観察される。本明細書中に記載のあらゆる統計解析において、関連する対照、またはその他の比較対象の実体もしくは測定値との統計的有意差は、0.1未満の確率値、好ましくは0.05未満(もしくは0.05以下)の確率値を有することが好ましい。適切な統計的有意性の決定方法は、当該技術分野において周知であり、文書化されており、これらのいずれを用いてもよい。
【0105】
本発明のタンパク質構築物において、IgA Fc領域のC末端は、IgG Fc領域のN末端に結合されている。このような結合は、任意の好都合な手段で行うことができ、例えば、中間物を伴わない直接的なものであっても、または中間物を介した間接的なものであってもよく、前記中間物としては、リンカー、またはタンパク質もしくはポリペプチドの配列、単位、もしくはドメイン、例えば、構造的な配列、単位、もしくはドメイン、例えば、本明細書中の他の箇所で記載されているCH1ドメイン等が挙げられる。このように、IgA Fc領域およびIgG Fc領域は、各Fc領域が変わらずその機能を実行できるような任意の適切な方法により、互いに繋ぎ合わせる、または連結することができる。本発明の一部の実施形態では、タンパク質構築物は、例えば、IgA Fc領域とIgG Fc領域とを結合するため、および/または、IgA Fc領域を、本明細書中の他の箇所に記載されているような標的指向化ドメインまたは抗原結合ドメイン等、構築物の他の部分に結合するために、構築物の異なる部分間にリンカー(物理的なリンカーまたはリンカー分子)を含むであろう。
【0106】
よって、本発明の好ましい構築物では、IgA Fc領域のC末端は、リンカーによって、IgG Fc領域のN末端に結合されている。任意の適切なリンカー分子を使用することができるが、このようなリンカー分子は当業者に周知であろう。例えば、ペプチド(もしくはポリペプチド)リンカーまたは化学リンカーまたは他の共有結合リンカーを、適宜使用することができる。
【0107】
ペプチドまたはタンパク質(ポリペプチド)リンカーが、一般的には好ましい。このようなペプチドリンカーは、非天然もしくは天然のアミノ酸を含み得る、またはネイティブもしくは非ネイティブ(例えば、合成)の配列を含み得るものであるが、当該技術分野では周知であり、よって、当業者であれば、本発明のタンパク質構築物の各種構成要素を安定的に、ただし、正しい空間定位または空間最適化をもって互いに結合するために、適切な配列、長さ、および/または柔軟性/剛性を有する適切なリンカーを容易に選択することができ、これにより、個々の構成要素が互いに繋ぎ合わせまたは結合されると、上述の所要の機能的特性(すなわち、各構成要素、例えば、IgA Fc領域およびIgG Fc領域の機能的特性、または本明細書中の他の箇所に記載されているような標的指向化ドメインまたは抗原結合ドメインの機能)が保持される。
【0108】
よって、リンカーまたはスペーサーは、結合されたタンパク質の折り畳みを助けることができ、スペーサーまたはリンカーの長さおよび/または柔軟性/剛性は、各構成要素の最良または十分な機能的折り畳みを可能にするように適宜調整できる。当業者であれば適切な長さを容易に決定することができ、任意の適切なアミノ酸数とすることができる。ただし、例示的な長さとして、少なくとも5個、10個、15個、20個、25個、30個、35個、40個、もしくは45個のアミノ酸長(例えば、少なくとも6個、7個、8個、もしくは9個のアミノ酸長、または少なくとも11個、12個、13個、もしくは14個のアミノ酸長)、または5個もしくは10個のアミノ酸~50個もしくは60個もしくは70個のアミノ酸、例えば、5個もしくは10個のアミノ酸~15個、20個、25個、30個、35個、40個、45個、50個、60個、もしくは70個のアミノ酸、または15個~20個、25個、30個、35個、40個、45個、50個、60個、もしくは70個のアミノ酸、または20個~25個、30個、35個、40個、45個、50個、60個、もしくは70個のアミノ酸、または25個~30個、35個、40個、45個、50個、60個、もしくは70個のアミノ酸、または30個~35個、40個、45個、50個、60個、もしくは70個のアミノ酸が挙げられる。好ましいリンカーは、15個~30個のアミノ酸長とすることができ、例えば、最大15個、20個、25個、もしくは30アミノ酸長(または、最大40個もしくは50個もしくは60個もしくは70個のアミノ酸長)とすることができる。
【0109】
本発明の構築物のいくつかは、本明細書において伸長型構築物(extended constructs )と記載されるが、これは、これらの構築物におけるタンデムなIgA Fc領域およびIgG Fc領域が、伸長型ではない本発明の構築物におけるこれらの領域と比べて、より離れているためである。本明細書中の他の箇所に記載されているように、特定の一実施形態では、これは、CH1ドメイン(または代替の構造的なタンパク質配列、単位、もしくはドメイン)と、任意選択的に、例えば、本明細書中に記載されているような、抗体ヒンジ領域等のさらなるリンカーを1つ以上含むことによって達成される。しかしながら、他の実施形態では、上述のものよりも長い(伸長された)リンカーまたはスペーサーを含めることによって、これを達成することができる。よって、このような実施形態では、本発明の構築物においてタンデムなIgA Fc領域およびIgG Fc領域との間に存在する(または、前記領域を結合する)これらのリンカーは、80個、90個、100個、105個、110個、115個、120個、125個、128個、129個、130個、135個、140個、145個、または150個のアミノ酸長、例えば、90個、100個、または120個~150個のアミノ酸長であるか、少なくともこれらのアミノ酸長であるか、最大でこれらのアミノ酸長とすることができる。
【0110】
先に概略を述べたように、適切なリンカーは、ネイティブまたは非ネイティブ(例えば、合成)配列を含む(またはそれらからなる)ものとしてもよい。例示的な非ネイティブまたは合成のリンカーは、当該技術分野において報告されており、グリシン残基および/またはセリン残基を含む(またはそれからなる)リンカー、例えば、GSリンカーを挙げることができ、前記GSリンカーは、1つ以上のG4Sリンカー(GGGGS(配列番号44))の反復等、GS配列の反復を1つ以上含んでもよい。
【0111】
リンカーとして使用可能な、例示的なネイティブまたは天然に存在するペプチドまたはポリペプチド配列もまた、当業者には周知であろう。例えば、本発明のタンパク質構築物においてIgA Fc領域のC末端をヒトIgG Fc領域のN末端に結合するために使用されるペプチド(またはポリペプチド)リンカーは、抗体ヒンジ領域を含むことが、好都合であり、かつ好ましい。このようなヒンジ領域の配列は、当該技術分野において周知であり、文書化されており、例示的な配列を表1に示している。例えば、適切なヒンジ領域は、IgA抗体ヒンジ領域またはIgG抗体ヒンジ領域を含む。本明細書中の他の箇所でも説明されているように、本発明の構築物では、IgA Fc領域のC末端をIgG FcのN末端に連結するために、IgGヒンジ領域、例えば、当該構築物のIgG Fc領域に使用されるIgGサブタイプ(IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4)由来のIgGヒンジ領域を使用することが、特に好都合である。このような抗体ヒンジ領域は、その全てまたは一部(例えば、断片)を使用し得るものであり、これらは、構築物の構成要素の機能的特性が保持されること、好ましくは、ヒンジ領域の機能的特性が保持されることを条件として、構築物に含まれる。
【0112】
リンカーの性質、および適切なリンカー長等の他の特性を選択し、例示された構築物で使用されている、例えば、ヒンジ領域等のリンカーについて観察されるものと同一(または類似)の効果を達成することは、当業者にとって標準的かつ日常的な手順であろう。好ましい長さの例示が、本明細書中の他の箇所に示されている。
本発明の他の好ましい実施形態では、特に、本発明の伸長型構築物において、IgA Fc領域のC末端は、CH1ドメインによって、IgG Fc領域のN末端に結合することができる。換言すれば、CH1ドメインを中間物として使用し、IgA Fc領域とIgG Fc領域とを結合することができる。このような実施形態では、任意のCH1ドメインを使用することができ、例えば、IgGまたはIgAのCH1ドメイン等、いくつかの例を表1に示している。好ましい実施形態では、CH1ドメインはIgG CH1ドメインであり、例えば、IgG1 CH1ドメインである。このような好ましい中間物は、CH1ドメインを含んでもよく、例えば、前記および本明細書中の他の箇所に記載されているような他のリンカーまたはスペーサー要素をさらに含んでもよい。例を挙げると、1つ以上のリンカー、例えば、ペプチドリンカーが存在してもよく、例えば、1つ以上の抗体ヒンジ領域が存在してもよい。このような実施形態では、CH1ドメインは、構築物のタンデム部分においてIgA Fc領域とIgG Fc領域との間に位置しており、リンカーを使用することにより、CH1ドメインのN末端をIgA Fc領域のC末端に、および/またはCH1ドメインのC末端をIgG Fc領域のN末端に、簡便に連結することができる。本明細書中の他の箇所に記載されているように、このようなリンカーとして、抗体ヒンジ領域を使用することができる。他の実施形態と同様に、CH1ドメインの性質に一致するヒンジ領域を使用することが特に簡便である。よって、CH1ドメインがIgG CH1ドメインである場合、一部の実施形態では、前記リンカーは、当該IgG CH1ドメインに使用されているIgGサブタイプ(IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4)由来のIgGヒンジ領域であろう。好ましい実施形態では、CH1ドメインは、IgG1 CH1ドメインである。このような実施形態および他の実施形態では、好ましいリンカーは、IgG1ヒンジ領域である。このような伸長型構築物として好ましいものが、実施例2に示されており、当該伸長型構築物は、例えば、N末端からC末端に向かう方向に、IgA Fc領域(例えば、IgA2)、IgGヒンジ領域(例えば、IgG1ヒンジ領域)、CH1ドメイン(例えば、IgG1 CH1ドメイン)、さらなるIgGヒンジ領域(例えば、IgG1ヒンジ領域)、およびIgG Fc領域(例えば、IgG1 Fc領域)を含んでいる。
【0113】
本発明の伸長型構築物に関するこのような実施形態および他の実施形態において、IgA Fc領域のC末端とIgG Fc領域のN末端とを結合する(これらの間にある)構築物の領域の好ましい全長は、本発明の構築物で使用されるリンカーまたはスペーサーに関して本明細書中の他の箇所に記載されている通りであり、例えば、少なくともまたは最大150個のアミノ酸長である。
【0114】
ペプチド(またはポリペプチド)リンカーを使用する利点は、当該構築物における複数のポリペプチド鎖を単一のポリペプチドとして、例えば、融合タンパク質または融合ポリペプチドとして製造することが可能となることである。
【0115】
「融合タンパク質」、「融合ポリペプチド」等の用語は、本明細書では、同一ポリペプチド配列または同一オープンリーディングフレーム(ORF)中の2つ以上のタンパク質成分の機能的接合を表すために使用される。このような融合タンパク質のある例は、遺伝子融合物と記載することもできるが、これは、これら融合タンパク質が同一核酸配列によってコードされるからである(「融合遺伝子」または「融合ヌクレオチド配列」と呼ばれることもある)。このような融合タンパク質では、2つ(またはそれ以上)のタンパク質成分(または、これらをコードする核酸配列)を直接隣接させることができるが、同様にかつ好ましくは、当該成分を、例えば、上述のように、適切なペプチドもしくはポリペプチドからなるスペーサーまたはリンカーで接合することができる。
【0116】
本発明の構築物は、2つのFc二量体をタンデムに、または互いに隣接するように含んでいるため、このような実施形態では、タンパク質構築物は、2つの融合ポリペプチド(または融合ポリペプチド鎖)を簡便に含んでいる。このような実施形態では、各融合ポリペプチドは、(i)IgA Fc領域の一方の鎖を構成するポリペプチド(すなわち、IgA Fc二量体の一方の鎖)、および(ii)IgG Fc領域の一方の鎖を構成するポリペプチド(すなわち、IgG Fc二量体の一方の鎖)を含み、IgG Fc領域の前記ポリペプチド鎖は、IgA Fc領域の前記ポリペプチド鎖に対し、C末端に配置される(または位置している)。
【0117】
よって、このような実施形態では、ポリペプチド鎖(融合ポリペプチド)は、典型的には、N末端側終端部からC末端側終端部にわたって、IgA Fc二量体の半分を含むポリペプチドおよびIgG Fc二量体の半分を含むポリペプチドを含んでいる。本明細書中の他の箇所に記載されているように、IgA Fc領域(または二量体)を構成するポリペプチドのN末端側終端部は、適切な標的指向化ドメインまたは抗原結合ドメイン等の他の実体に結合(または融合)してもよい。よって、本発明のタンパク質構築物(または当該構築物のIgA Fc領域構成要素およびIgG Fc領域構成要素)を使用し、他の適切な実体とのFc融合体またはFc融合タンパク質を創出することができる。換言すれば、互いに結合された当該構築物のIgA Fc領域構成要素およびIgG Fc領域構成要素は、例えば、目的とする任意のポリペプチドまたはタンパク質に融合させることが可能なポリペプチド単位とすることができる。
【0118】
当業者であれば融合ポリペプチドを生成する方法に通じており、このような方法としては、例えば、融合ポリペプチドをコードする核酸分子を(例えば、宿主細胞中で)発現させることが挙げられる。このような核酸分子は、典型的には、融合ポリペプチドの各種成分をフレーム内でコードする連続したヌクレオチド配列を含む。本件の場合、このような核酸分子は、IgA Fc領域の一方の鎖を構成するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列と、IgG Fc領域の一方の鎖を構成するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列とを含む連続したヌクレオチド配列であって、IgG Fc領域の前記鎖をコードする前記ヌクレオチド配列が、IgA Fc領域の前記鎖をコードする核酸分子の3’末端に位置しているヌクレオチド配列を含み得る。そして、発現されると、前記二本のポリペプチド鎖間で二量体化が起こり、完全なIgA領域およびIgG Fc領域(二量体)を形成することができる。
【0119】
先の記載は、構築物のIgA Fc領域とIgG Fc領域との間のリンカーまたはスペーサーの存在に焦点を当てているが、リンカー配列は、本発明の構築物中の他の箇所に適宜含まれてもよく、例えば、構築物中に存在し得る他の構成要素の間に含まれてもよい。よって、本発明のいくつかの構築物では、リンカーは、IgA Fc領域のN末端またはN末端側終端部と、その位置に存在する任意の他の所望の実体、本明細書中の他の箇所に記載されているような標的指向化ドメインまたは抗原結合ドメイン等との間に含まれてもよい。このようなリンカーは、上述のような形態とすることができ、例えば、ネイティブまたは非ネイティブ(合成)ペプチドリンカーとすることができる。この連結に好都合かつ好ましいペプチド(ポリペプチド)リンカーは、抗体ヒンジ領域の形態とすることができ、IgA抗体ヒンジ領域、例えば、構築物のIgA Fc領域に使用されているIgAサブタイプ(IgA1、IgA2)由来のIgAヒンジ領域とすれば好都合である。しかしながら、本明細書中の他の箇所に記載されているように、他の実施形態では、IgGヒンジ領域、例えば、IgG1ヒンジ領域を使用することができる。このような抗体ヒンジ領域の全てまたは一部(例えば、断片)を、構築物の構成要素の機能的特性が保持されること、好ましくは、ヒンジ領域の機能的特性が保持されることを条件として使用し得る。
【0120】
ペプチド(ポリペプチド)リンカーは、一部の態様では好都合かつ好ましいが、連結される各種構成要素の機能的特性(本明細書中の他の箇所に記載)が、個々の構成要素が互いに繋ぎ合わせまたは結合されると保持されることを条件として、その他あらゆる適切な繋ぎ合わせまたは結合の手段を使用してもよく、例を挙げると、化学リンカーを含む他の任意の形態のリンカー、例えば、化学的架橋剤を使用してもよい。異なるタンパク質またはポリペプチド同士を繋ぎ合わせ(または結合または接合または連結またはコンジュゲート)させるための好適な架橋剤および方法が、当該技術分野で公知である。
【0121】
よって、一部の実施形態では、本発明の構築物のIgA Fc領域およびIgG Fc領域を別々に製造し、その後、これらを互いに結合(または繋ぎ合わせまたは接合または連結またはコンジュゲート)してもよい。
【0122】
一部の実施形態では、リンカーは存在しない。よって、例えば、一部の実施形態では、IgA Fc領域を構成するポリペプチドは、本発明に基づいて、IgG Fc領域を構成するポリペプチドに直接繋ぎ合わせてもよい。このような直接的な繋ぎ合わせにより、融合ポリペプチドに関しては、IgG Fc領域の第1の(すなわち、N末端の)アミノ酸が、IgA Fc領域の最終の(すなわち、C末端の)アミノ酸に直接(ペプチド結合によって)融合されてもよい(すなわち、間にリンカーがない)。
【0123】
本発明のタンパク質構築物では、任意のIgG Fc領域またはIgA Fc領域を使用することができる。よって、一部の実施形態では、これらの領域は、野生型の配列またはネイティブ配列を含むか、またはこれらに相当するであろう。しかしながら、他の実施形態では、IgG Fc領域および/またはIgA Fc領域は、変異または改変、特に、Fc領域のエフェクター機能を増加もしくは強化させる変異または改変、あるいは、血漿中半減期を増加もしくは強化させる変異または改変を含むことができる。適切な変異Fc領域または改変Fc領域は、当該技術分野において周知されかつ報告されており、これらのいずれを使用してもよい。
【0124】
好ましい変異または改変としては、Fc受容体への結合を増加もしくは強化するものであり、好ましくはFcRnへの結合を増加もしくは強化するもの、またはC1q結合を増加または強化するものである。
【0125】
一部の実施形態では、本発明の構築物での使用に好ましいFc領域(IgG Fc領域、例えば、IgG1 Fc領域、IgG2 Fc領域、IgG3 Fc領域、またはIgG4 Fc領域)は、下記改変の1つ以上を含むことを特徴とする改変IgG Fc領域である:
(i)311位(またはこれに対応する位置)に、アルギニン(R)残基、または、類似の残基(リジン(K)残基等);
(ii)428位(またはこれに対応する位置)に、グルタミン酸(E)残基、または、類似の残基(アスパラギン酸(D)残基等);および
(iii)434位(またはこれに対応する位置)に、トリプトファン(W)残基、または、類似の残基(チロシン(Y)残基もしくはフェニルアラニン(F)残基等)。
【0126】
これらの位置は、CH1ドメインのASTKが118位から始まるIgG領域の標準的なEUナンバリングを用いて定義される(例えば、http://www.imgt.org/IMGTScientificChart/Numbering/Hu_IGHGnber.html#refs参照)。よって、本発明の様々な構築物におけるこれら残基の位置(またはこれらに対応する位置)は、容易に決定できる。実際、これら改変IgG Fc領域は、本明細書ではREW変異とも称され、例示的な配列のいくつかを表1に示している。311位、428位、および434位における野生型の残基は、IgG1およびIgG2では、それぞれQ、M、およびNである。
【0127】
本発明の好ましい実施形態では、前記改変の2つ以上が存在し、最も好ましくは前記3つの改変が全て存在する。このような改変が国際公開第2017/158426号にさらに記載されているが、これらは、FcRnに対するpH依存性結合を増加または強化する効果を有する変異または改変の例である。本発明者らは、このような改変がC1qへの結合を増加できることについても、本明細書中に示している。また、CDC誘導の増加についても示している。一部の実施形態では、このような改変は、IgG2 Fc領域に使用することが好ましい。一部の実施形態では、このような改変は、IgG1 Fc領域に使用することが好ましい。一部の実施形態では、このような改変は、IgG3 Fc領域に使用することが好ましく、任意選択的に下記R435H変異と共にIgG3 Fc領域に使用することが好ましい。一部の実施形態では、このような改変は、IgG4 Fc領域に使用することが好ましい。一部の実施形態では、REW置換が好ましい。
【0128】
本発明の構築物におけるIgG Fc領域で使用可能な、別の好ましい、考えられる追加の改変としては、Stapleton et al., 2011, Nat. Comm. 20(2):599に記載されているようなR435H変異が挙げられる。このような改変には、FcRnへの結合を増加させる効果もあり、構築物がIgG3 Fc領域を含む場合に使用することが好ましい。ここでも、この位置は、上述のようにEUナンバリングシステムを用いて定義されている。
【0129】
好ましい実施形態では、本発明の構築物は、標的指向化ドメイン(または標的指向化単位)をさらに含むものであり、例えば、標的指向化ドメイン(または標的指向化単位)にさらに結合される。このような標的指向化ドメインは、所望の標的分子または標的実体に結合可能な、例えば、特異的に結合可能な、任意の実体とすることができる。よって、このような標的指向化ドメインは、受容体、好ましくは受容体ドメイン(例えば、リガンドに対する受容体もしくは受容体ドメイン)もしくは受容体リガンド(例えば、受容体もしくは受容体リガンドに対するリガンド)、または抗原結合ドメインとすることができる。好ましい標的指向化ドメインおよび標的分子は、タンパク質またはポリペプチドである。よって、好ましい標的指向化ドメインは、結合性タンパク質である。
【0130】
一部の実施形態では、本発明のタンパク質構築物の標的指向化ドメインは、抗原結合ドメインであるか、または抗原結合ドメインを含む。
【0131】
本発明のタンパク質構築物における使用に好ましい抗原結合ドメインは、抗体または抗体断片であり、例えば、抗体の抗原結合断片が挙げられる。
【0132】
よって、本発明の好ましい実施態様では、タンパク質構築物は、抗体(もしくは免疫グロブリン)、またはその抗原結合断片を含む。
【0133】
本発明のタンパク質構築物のN末端領域はIgA Fc領域を含むため、特に好ましい抗体は、IgA抗体またはその抗原結合断片であり、この場合、Fc領域は前記構築物中に既に備えられている。一部の実施形態では、前記IgA抗体は、IgA1抗体である。一部の実施形態では、前記IgA抗体は、IgA2抗体である。他の実施形態では、IgG抗体またはその抗原結合断片が、抗原結合ドメインとして使用される。一部の実施形態では、前記IgG抗体は、IgG1抗体である。一部の実施形態では、前記IgG抗体は、IgG2抗体である。一部の実施形態では、前記IgG抗体は、IgG3抗体である。一部の実施形態では、前記IgG抗体は、IgG4抗体である。異なるクラスの抗体のサブユニット構造および三次元配置が周知である。
【0134】
本明細書中で使用する「抗体」および「免疫グロブリン」という用語は、抗原結合ドメインを含むあらゆる免疫学的結合剤を広く指す。この用語は、抗原結合ドメインを含む抗体断片を包含する。
【0135】
当業者であれば理解すると思われるが、「抗体」という用語に包含される免疫学的結合試薬は、あらゆる抗体およびその抗原結合断片を含むか、またはその範囲がこれらにまで及ぶものであり、全抗体(すなわち全長抗体)、二量体抗体、三量体抗体、および多量体抗体;二特異性抗体;キメラ抗体;組換え抗体および工学操作抗体、ならびにこれらの断片が挙げられる。
【0136】
抗体をベースとする様々な構築物および断片を調製して使用する技術は、当該技術分野において周知である。モノクローナル抗体が特に好ましい。
【0137】
前記抗体または抗体断片は、3つのCDRドメインを含む抗体軽鎖可変領域(VL)と、3つのCDRドメインを含む抗体重鎖可変領域(VH)とを含むことが好ましい。まとめると、一般的に、前記6つのCDRによって抗体に対する抗原結合特異性が付与されるものではあるが、3つのCDRのみを有する単一ドメイン抗体を同様に使用することができ、特に、低程度または中程度の親和性での結合しか所望されない場合には、1つまたは2つのCDR領域であっても抗原結合を媒介することが可能である。また、重鎖可変領域および軽鎖可変領域は、4つのフレームワーク領域(アミノ末端からカルボキシ末端にかけてFR1、FR2、FR3およびFR4)を有する。これらのフレームワーク領域は、CDRを離間させている。一般的には前記VLおよび前記VHが抗原結合部位を形成するが、一般的に3つのCDRドメインのみを含む、例えば、抗原に結合可能なVL領域またはVH領域を含む単一ドメイン抗体を使用することも可能である。
【0138】
本発明の構築物に使用される抗体のCDRは、天然に存在する抗体および/または有効に工学操作された抗体に見られるような適切なフレームワーク領域によって、互いに離間されていることが好ましい。よって、CDR配列は、抗原結合を可能にするため、適切なフレームワークまたは足場(scaffold)内に設けられるか、または組み込まれることが好ましい。このようなフレームワーク配列またはフレームワーク領域として、適宜、天然に存在するフレームワーク領域であるFR1、FR2、FR3、および/またはFR4を用いて適切な足場を形成してもよいし、あるいは、例えば、種々の天然に存在するフレームワーク領域を比較することによって同定される、コンセンサスフレームワーク領域を用いてもよい。あるいは、非抗体足場または非抗体フレームワーク、例えば、T細胞受容体フレームワークを使用することができる。
【0139】
本発明の構築物に使用するための抗体または抗体断片は、抗原結合部位を構成するCDR配列およびFR配列を含む適切な可変ドメインに加えて、抗体定常領域、例えば、重鎖定常領域および/または軽鎖定常領域をさらに含んでもよい。重鎖の定常領域は、3つの定常ドメインCH1、CH2、およびCH3を含み、軽鎖の定常領域は、CL定常ドメインを含む。本発明の一部の実施形態では、抗体(または断片)は、CH1ドメインおよび/またはCLドメインをさらに含むであろう。好ましい実施形態では、これらのドメインはIgA抗体由来であろう。よって、本発明の好ましい構築物は、IgA Fc領域と、VL領域および/またはVH領域とに加えて、CH1領域およびCL領域、好ましくは、IgA抗体に対応または由来するCH1領域およびCL領域を備えている。他の好ましい実施形態では、これらのドメインは、IgG抗体に由来するであろう。よって、本発明の好ましい構築物は、IgA Fc領域と、VL領域および/またはVH領域とに加えて、CH1領域およびCL領域、好ましくは、IgG抗体に対応または由来するCH1領域およびCL領域を備えている。
【0140】
このような定常領域のための適切な配列は、当該技術分野において周知であり、文書化されている。
【0141】
重鎖および軽鎖由来の定常領域の完全な相補体が本発明の構築物に含まれる場合、このような構築物は、典型的には「全長」抗体または「全」抗体を含むものと称される。好ましい実施形態では、タンパク質構築物は、全(または全長)抗体、好ましくは、全(または全長)IgA抗体を含む。二本の重鎖および二本の軽鎖を含む「全」または「全長」抗体は、一部の実施形態において好ましい。全長IgA抗体が含まれる場合、当該全長IgA抗体のIgA Fc領域により、請求項に記載の構築物のIgA Fc領域を提供できる。
【0142】
しかしながら、一部の実施形態では、タンパク質構築物の抗原結合ドメインは、全抗体または全長抗体を含まない。一部の実施形態では、タンパク質構築物は、抗体の抗原結合断片、好ましくは、IgA抗体の断片を含む。他の好ましい実施形態では、IgG抗体の断片を使用することができる。このような抗原結合断片は、3つまたは6つのCDRを含んでもよく、例えば、sdAb抗体またはscFv抗体またはFv抗体であってもよいし、また、CH1領域および/またはCL領域を含んでもよく、例えば、Fab断片であってもよい。抗体の適切な抗原結合断片およびフォーマットが当該技術分野において公知であり、これらのいずれを使用してもよい。好都合なことに、本発明のタンパク質構築物は2つの抗原結合ドメイン(または他の標的指向化ドメイン)を含み、これらは1つずつIgA Fc領域/IgA Fc断片の各鎖に繋ぎ合わせまたは結合されているため、例えば、抗原結合ドメインは、Fab2断片の形態とすることができる。実際、一部の実施形態、例えば、本明細書中の他の箇所に記載されているような本発明の伸長型構築物では、例えば、当該構築物のIgA Fc領域とIgG Fc領域とを結合する中間物として、本明細書中の他の箇所に記載されているCH1ドメイン(または代替の構造的なタンパク質配列、単位、もしくはドメイン)または伸長リンカー配列の存在と併用する場合、IgGのFab2断片、例えば、IgG1のFab2断片の使用が好ましい。これら2つの抗原結合ドメイン(または他の標的指向化ドメイン)は、同一であっても異なっていてもよい。同様に、1つの抗原結合ドメイン(または他の標的指向化ドメイン)のみを使用することが可能であり、例えば、これをIgA Fc領域/断片の一方の鎖にのみ結合することができる。
【0143】
タンパク質構築物が、例えば、sdAb(例えば、ナノボディ抗体もしくはVHH抗体、またはVH抗体もしくはVL抗体)またはscFv断片のような、単一のポリペプチド鎖で構成される抗原結合断片または標的指向化ドメインを含む一部の実施形態では、本発明のタンパク質構築物は、二本のポリペプチド鎖を含む(またはそれらからなる)ことができる。
【0144】
タンパク質構築物が、二本のポリペプチド鎖で構成される抗原結合断片または標的指向化ドメイン、例えば、Fab断片を含むか、あるいは、例えば、全長抗体によって提供される一部の実施形態では、本発明のタンパク質構築物は、四本のポリペプチド鎖を含む(またはそれらからなる)ことができる。
【0145】
よって、本発明によれば、タンパク質構築物は、IgA Fc領域およびIgG Fc領域を構成(または形成)する、例えば、本発明の構築物中に存在する、隣接する、または融合されたタンデムなFc領域を構成(または形成)する、二本のポリペプチド鎖を含む(またはそれらからなる)。
【0146】
一部の実施形態では、本発明の構築物に使用するための抗体(または抗原結合断片)は、(例えば、IgG抗体または他のクラスの抗体から)IgAフォーマット(例えば、IgA1またはIgA2フォーマット)へと再フォーマットされている。よって、一部の実施形態では、前記抗体(または抗原結合断片)は、非IgA抗体の抗原結合ドメイン(例えば、非IgA抗体の抗原結合ドメイン、例えば、IgG抗体の抗原結合ドメインから得られた、もしくはそれに由来する、もしくはそれをベースとするもの)を含むIgA抗体である。抗体をIgAフォーマットに再フォーマットする方法は、当該技術分野においては周知であり、当業者であればそのような方法に通じているであろう。
【0147】
一部の実施形態では、本発明の構築物に使用するためのIgA抗体(またはその抗原結合断片)は、単量体の形態を維持するため(例えば、二量体化を防ぐため)に改変(または変異導入)されている。この観点から適切な改変としては、本明細書中の他の箇所に記載されているように、改変(または変異導入または不活性化または切断)された尾部を有するIgA抗体、または尾部を含まない(または尾部が除去された)IgA抗体が挙げられる。
【0148】
好ましい実施形態では、本発明の構築物に使用するための標的指向化ドメイン、例えば、受容体、受容体ドメイン、リガンド、受容体リガンド、抗原結合ドメイン、抗体(またはその抗原結合断片)を構成する配列は、ヒト配列である。これに関し、ヒト配列、例えば、ヒト抗体は、一般的にヒトの療法に使用する上で有望な利点を有し、例えば、ヒト免疫系は、当該抗体を異物として認識しないはずである等が挙げられる。
【0149】
他の好ましい実施形態では、本明細書中の他の箇所に示すように、好ましいIgA Fc領域および/またはIgG Fc領域は、ヒトFc領域である。
【0150】
抗体分子に関連して本明細書中で使用する「ヒト」という用語は、可変領域(例えば、VH領域、VL領域、CDR領域、またはFR領域)および好ましくは定常抗体領域を有する抗体であって、ヒトレパートリーから単離された、もしくはヒトレパートリーに由来する、または、ヒトもしくはヒトレパートリー中、例えば、ヒト生殖細胞もしくはヒト体細胞中、または体液中、またはファージディスプレイライブラリ等のヒト抗体ライブラリー中に見出される配列に由来または対応するものを指す。同様に、標的指向化ドメイン(または結合性タンパク質)またはFc領域に関連して本明細書中で使用する「ヒト」という用語は、ヒトから単離された、もしくはヒトに由来する、または、ヒト中、例えば、ヒト生殖細胞もしくはヒト体細胞中に見出される配列に対応するタンパク質配列を指す。よって、このようなヒト配列は、ヒト試料、例えば、ヒト体液またはヒト細胞から取得可能である。また、ヒト化配列、例えば、ヒト化標的指向化ドメイン、抗原結合ドメイン、抗体もしくは抗体断片、またはヒト化Fc領域も、構築物に使用することができる。
【0151】
非抗体または非免疫グロブリンベースの標的指向化ドメインまたは結合性タンパク質もまた、本発明の構築物に使用することができ、それ自体で特定の標的分子または標的抗原に特異的に結合する能力のために選択することができる。このような分子は、抗体ミミック(または抗体ミメティック)とも称される。適切な非免疫グロブリンベースの標的指向化ドメインまたは結合性タンパク質の例は、当該技術分野で公知でありかつ報告されており、以下が挙げられる:Adnectin(例えば、Compound Therapeutics, Inc.社,ウォルサム、マサチューセッツ州)等の、例えば、フィブロネクチンタイプIIIドメインの10番目のモジュールに基づくフィブロネクチン(またはフィブロネクチンをベースとする分子);affimer(例えば、Avacta社);アンキリン反復タンパク質(例えば、Molecular Partners AG社、チューリッヒ、スイス);リポカリン、例えば、アンティカリン(anticalin)(例えば、Pieris Proteolab AG社、フライジング、ドイツ);ヒトAドメイン(例えば、Avimers社);ブドウ球菌プロテインA(例えば、Affibody AG社、スウェーデン);チオレドキシン;およびガンマ-B-クリスタリンまたはユビキチンをベースとする分子、例えば、アフィリン(affilin)(例えば、Scil Proteins GmbH社、ハレ、ドイツ)。上述のように、このような分子は、標的抗原結合を媒介する適切なCDRをグラフトする足場としても使用できる。例えば、適切な免疫グロブリンベースの標的指向化ドメインまたは結合性タンパク質のCDRは、適切な非免疫グロブリンの足場にグラフトすることができる。
【0152】
一般的には、前記標的指向化ドメインは、本発明の構築物のN末端側終端部またはN末端領域に位置する。よって、好ましい実施形態では、前記標的指向化ドメインは、構築物のIgA Fc領域のN末端側に結合されており、例えば、IgA Fc領域のN末端またはN末端側終端部に結合されている。このような結合は、直接的な結合、または、本明細書中の他の箇所に記載されているように、例えば、リンカーを介した、好ましくは抗体ヒンジ領域を介した、間接的な結合とすることができる。もちろん、標的指向化ドメインのその標的への結合能が、本発明の構築物に組み込まれても保持される(または有意に影響されない)ことが重要である。
【0153】
標的指向化ドメインが結合する好ましい標的分子は、治療的(または臨床的)に関連する標的タンパク質(または標的抗原)である。よって、一部の実施形態では、本発明のタンパク質構築物は、標的指向化ドメインによって疾患関連標的タンパク質(または標的抗原)に結合する。疾患関連標的タンパク質(または標的抗原)は、その発現(例えば、望ましくない発現または異常発現または過剰発現)が疾患に関連する標的タンパク質(または抗原)であってもよい。一部の実施形態では、前記疾患は、癌(または腫瘍)であり、例えば、乳癌のような固形腫瘍、または血液癌である。あるいは、前記疾患は、病原体によって、例えば、細菌等の感染性病原体によって引き起こされる。
【0154】
よって、一部の実施形態では、前記標的指向化ドメインは、所定の癌(または腫瘍)タンパク質または抗原(例えば、癌特異的タンパク質もしくは癌特異的抗原、または癌関連タンパク質もしくは癌関連抗原、または腫瘍特異的タンパク質もしくは腫瘍特異的抗原、または腫瘍関連タンパク質もしくは腫瘍関連抗原)に結合する。一部の実施形態において、前記癌は、乳癌である。他の実施形態において、前記標的指向化ドメインは、感染性因子、例えば、細菌に関連するタンパク質または抗原に結合する。
【0155】
よって、一部の実施形態では、前記標的指向化ドメイン、例えば、前記抗原結合ドメインは、癌細胞上または感染性病原体上の標的分子に結合する。好ましくは、前記癌細胞は、固形腫瘍または血液癌由来である、または、前記感染性病原体は、細菌である。一部の実施形態では、前記癌または固形腫瘍は、乳癌である。
【0156】
例示的な癌関連標的は、ヒト上皮細胞増殖因子受容体のメンバーである。よって、一部の実施形態では、本発明の構築物、例えば、標的指向化ドメイン(例えば、抗原結合ドメイン)を含む構築物は、HER2に結合する。HER2タンパク質の過剰発現は、ある種の乳癌の発症および進行において、重要な役割を果たし得る。
【0157】
一部の実施形態では、本発明の構築物は、抗HER2抗体の抗原結合ドメインを含み、例えば、抗体トラスツズマブを含む。
【0158】
さらに別の例示的な癌関連標的であり、例えば、癌性B細胞株と関連し、よって血液癌の治療に適切な癌関連標的として、CD20が挙げられる。よって、一部の実施形態では、本発明の構築物、例えば、標的指向化ドメイン(例えば、抗原結合ドメイン)を含む構築物は、CD20に結合する。よって、好ましい構築物は、抗CD20抗体またはその抗原結合断片を含む。CD20タンパク質の過剰発現は、ある種の血液癌、特に、B細胞が関与する癌の発症および進行において、重要な役割を果たし得る。
【0159】
別の態様では、本発明は、タンパク質(好ましくは、IgA抗体もしくはその断片、または本明細書に記載の代替の標的指向化ドメイン)のインビボ半減期(例えば、血漿中半減期または血清中半減期)を延長する方法であって、当該タンパク質等を、本発明のタンパク質構築物に組み込む(好ましくは、例えば、IgA Fc領域のN末端に結合している当該構築物のN末端側終端部に組み込む)こと、または、本発明のタンパク質構築物(または上述のようなポリペプチド単位)を、前記タンパク質等に(好ましくは、前記タンパク質のC末端側終端部に)繋ぎ合わせることを含む。本発明の他の態様および好ましい実施形態のタンパク質およびタンパク質構築物の種々の特徴に関する記載は、本発明のこの態様にも、必要な変更を加えて適用される。
【0160】
本発明の構築物に使用するFc領域は、任意の供給源または種から取得できるか、由来するか、または任意の供給源または種からのFc領域に対応することができ、あるいは、Fc受容体への結合能またはエフェクター機能の誘導能が保持されることを条件として、その断片またはバリアントとすることができる。哺乳動物の供給源または種が好ましく、任意の適切な哺乳動物の供給源または種を使用すればよく、例えば、ヒトまたは任意の畜産動物、家畜、もしくは実験動物が使用できる。具体例としては、マウス、ラット、ブタ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ウサギ、ウマ、ウシ、および非ヒト霊長類(例えば、カニクイザル)が挙げられる。ただし、前記哺乳動物は、ヒトであることが好ましい。様々な種由来のFc領域の配列が当該技術分野で公知であり、よって、本発明で使用するための適切なFc領域は、標準的な技術、例えば、組換え技術により容易に生成または製造できる。
先の記載は、本発明のタンパク質構築物を説明することに焦点を当てているが、前記タンパク質構築物は、このようなタンパク質構築物の全部または一部をコードする適切な核酸分子を使用して簡便に調製または製造されるであろう。
【0161】
よって、本発明のタンパク質構築物、例えば、本明細書中で定義される組換えタンパク質構築物、またはその部分(例えば、タンパク質構築物の単鎖または第1鎖もしくは第2鎖)をコードするヌクレオチド配列を含む核酸分子、例えば、1つ以上の核酸分子(例えば、核酸分子のセット)は、本発明のさらに別の態様を成すことがわかるであろう。このような核酸分子を、例えば、1つ以上含む発現ベクター、および前記発現ベクターまたは核酸分子またはタンパク質構築物を含む宿主細胞は、さらに別の態様を成す。
【0162】
典型的には、本発明のタンパク質構築物をコードする前記1つ以上の核酸断片が、当該タンパク質構築物、例えば、組換えタンパク質構築物の製造を容易にするために、1つ以上の適切な発現ベクターに組み込まれる。
【0163】
したがって、本発明は、本発明の1つ以上(またはセットの)核酸分子と、本発明の当該核酸分子によってコードされるタンパク質配列の転写および翻訳に必要な調節配列とを含有する、もしくは含む、発現ベクター、例えば、1つ以上の発現ベクター、例えば、1つ以上の組換え発現ベクターを企図している。前記ベクターは、抗生物質耐性および当該ベクターの複製を可能にする配列をさらに含んでもよい。好適なベクターおよび調節配列は、当業者には周知であろう。
【0164】
本発明の発現ベクター、例えば、組換え発現ベクター、または本発明の核酸分子は、宿主細胞に導入することで形質転換された宿主細胞を製造することができる。「で形質転換された」、「でトランスフェクトされた」、「形質転換」および「トランスフェクション」という用語は、当該技術分野で公知の多くの可能な技術の1つによる細胞への核酸(例えば、ベクター)の導入を包含することを意図している。宿主細胞を形質転換およびトランスフェクトするための好適な方法が、Sambrook et al., 1989(Sambrook, Fritsch and Maniatis, Molecular Cloning:A Laboratory Manual, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, NY, 1989)およびその他の実験用テキストに記載されている。
【0165】
好適な宿主細胞としては、多種多様な真核宿主細胞および原核細胞が挙げられる。例えば、本発明の分子は、酵母細胞、または哺乳動物細胞、または大腸菌もしくはピキア・パストリス等の原核細胞において発現させることができる。
【0166】
本発明のタンパク質構築物および核酸分子は、一般的には「単離された」または「精製された」ものである。「単離された」または「精製された」という用語は、典型的には、それが由来する、または産生される供給源からの細胞物質または他のタンパク質(もしくは他の核酸)を実質的に含まないタンパク質または核酸を指す。
【0167】
本発明のタンパク質構築物は当該技術分野で周知の記載されている数種類の方法のいずれで調製してもよいが、組換え法を用いた調製が最も好ましいことを、当業者であれば理解するであろう。例えば、構築物の各種構成要素は、単一のポリペプチド鎖または複数のポリペプチド鎖上に適宜コードすることができ、その後、前記各種構成要素を接合または連結するか、または前記複数のポリペプチド鎖が他の方法で互いに会合して本発明のタンパク質構築物を形成する。
【0168】
よって、本発明のさらに別の態様は、本発明のタンパク質構築物を製造する方法であって、本発明の宿主細胞を培養する工程を含む方法を提供する。好ましい方法は、(i)本発明の1つ以上の発現ベクターまたは本発明の1つ以上の核酸配列を含む宿主細胞を、コードされたタンパク質構築物の発現に適した条件下で培養する工程と、(ii)発現されたタンパク質構築物を、前記宿主細胞または増殖培地/上清から単離または取得する任意の工程、とを含む。このような製造方法は、タンパク質産物を精製する工程および/またはタンパク質産物を薬学的に許容可能な担体または賦形剤等の追加成分を少なくとも1つ含む組成物へと製剤化する工程をさらに含んでもよい。
【0169】
本発明の好ましいタンパク質構築物は、一般的に、二本の同一ポリペプチド鎖(例えば、標的指向化ドメインが、存在しないか、または単鎖抗体等の単一のポリペプチド鎖である場合)または一対の同一ポリペプチド鎖(例えば、前記標的指向化ドメインが、別個の重鎖および軽鎖を有する抗体または抗体断片等、二本のポリペプチド鎖で構成される場合)を含むため、よって、このような実施形態では、単一または二本のポリペプチド鎖が、適宜、宿主細胞内で発現され、本発明の完全なタンパク質構築物を当該宿主細胞内で構築し、そこから単離または精製することができる。本発明のタンパク質構築物は、当業者に周知の標準的な方法によって製造、精製、または単離することができる。
【0170】
本発明はまた、本発明のタンパク質構築物を、本発明の構築物中に存在するいずれの標的指向化ドメインとも異なる少なくとも1つの他の薬剤(例えば、治療剤)に機能的に有効となるように繋ぎ合わせた様々な複合タンパク質およびその断片を提供する。「免疫複合体」という用語は、タンパク質構築物と他の有効な薬剤(例えば、治療剤)との機能的に有効な関連を定義するために広く使用される。組換え融合タンパク質が、特に企図されている。標的指向化ドメインが標的に結合可能であり、他の薬剤が送達時に十分に機能する限り、繋ぎ合わせの様式は好適であろう。
【0171】
一部の実施形態では、本発明のタンパク質構築物は、免疫複合体化していないその「裸の」形態、例えば、標的指向化ドメインを、タンデムなIgA Fc領域およびIgG Fc領域と共に含む形態で使用(例えば、治療的に使用)される。
【0172】
本発明のタンパク質構築物(または本発明の1つ以上の核酸分子、または本発明の発現ベクター、または本発明の免疫複合体)を含む組成物は、本発明のさらに別の態様を成す。1つ以上の本発明のタンパク質構築物(または1つ以上の本発明の核酸分子、または1つ以上の本発明の発現ベクター、または1つ以上の本発明の免疫複合体)を、好適な希釈剤、担体、または賦形剤との混合物中に含む製剤(組成物)は、本発明の好ましい実施態様を構成する。このような製剤は、医薬用であってもよく(医薬組成物であり)、よって、本発明の組成物は、薬学的に許容可能な組成物であることが好ましい。好適な希釈剤、賦形剤、および担体は、当業者に公知である。
【0173】
本発明の組成物は、例えば、経口投与、経鼻投与、非経口投与、静脈内(intravenal)投与、局所投与、または直腸投与に好適な形態としてもよい。特に記載しない限り、投与は典型的には非経口経路で行われ、好ましくは、皮下注射、筋肉内注射、嚢内注射、髄腔内注射、腹腔内注射、腫瘍内注射、経皮注射、または静脈注射によって行われる。一部の実施形態では、皮下投与が好ましい。
【0174】
本明細書中で定義する本発明の組成物は、被覆錠剤、鼻腔スプレーもしくは肺スプレー、溶液、リポソーム、粉末、カプセル、または徐放性形態等、従来の薬学的投与形態としてもよい。これらの形態の調製には、従来の製薬用賦形剤、ならびに通常の製造方法を使用すればよい。
【0175】
注射液は、例えば、好適な保存剤または安定剤の添加等、従来の方法で製造すればよい。その後、前記溶液を注射用のバイアルまたはアンプルに充填する。
【0176】
点鼻薬も、同様に水溶液で製剤化すればよく、エアゾール噴射剤と共にスプレー容器に充填するか、または手動圧縮手段を備えたスプレー容器に充填する。
【0177】
非経口投与は、注射器、任意選択的にペン型注射器を用いて、皮下注射、筋肉内注射、または静脈注射により行ってもよい。あるいは、非経口投与は、輸液ポンプにより行うことができる。別の選択肢としては、分子またはタンパク質構築物を鼻腔スプレーまたは肺スプレーの形態で投与するための、粉末または液体であってもよい組成物が挙げられる。さらに別の選択肢として、本発明の分子またはタンパク質構築物は、例えば、パッチから、任意選択的にイオン導入パッチから経皮投与することも可能であるし、または、経粘膜投与、例えば、頬側投与(bucally)することも可能である。
【0178】
好適な投与単位は、当業者が決定できる。
【0179】
前記医薬組成物は、同時投与レジメンまたは併用レジメンに関しては、さらに別の有効成分(例えば、本明細書中の他の箇所に記載されているもの)を追加で含んでもよい。
【0180】
本明細書で定義される本発明のタンパク質構築物は、インビトロまたはインビボでの適用およびアッセイのための分子ツールとして使用してもよい。よって、本発明のさらなる態様は、本明細書で定義される本発明のタンパク質構築物(または他の分子)を含む試薬、およびそのようなタンパク質構築物(または他の分子)の、例えば、インビトロまたはインビボでのアッセイにおける分子ツールとしての使用を提供する。
【0181】
本発明のさらなる態様は、療法に使用するための本発明のタンパク質構築物(例えば、標的指向化ドメインを含む構築物、例えば、IgA抗体またはその断片を含む構築物)を提供する。療法には、治療(例えば、既存の疾患の治療)または予防(予防処置(prophylaxis))が含まれる。一部の実施形態では、既存の疾患の積極的治療が好ましい。
【0182】
一部の実施形態では、本発明は、所定の標的または抗原に結合する標的指向化ドメイン、例えば、受容体、受容体ドメイン、リガンド、受容体リガンド、または抗原結合ドメインを含む本発明のタンパク質構築物(例えば、IgA抗体もしくはIgG抗体またはその断片を含む構築物)であって、例えば、細胞表面における前記標的または抗原の発現(例えば、前記標的または抗原の望ましくないまたは異常な発現)によって特徴付けられる(またはこれに関連する)疾患の治療に使用するためのタンパク質構築物を提供する。
【0183】
例えば、一部の実施形態では、本発明は、所定の癌(または腫瘍)抗原(例えば、癌特異的抗原または癌関連抗原または腫瘍特異的抗原または腫瘍関連抗原)に結合する標的指向化ドメイン、例えば、受容体、リガンド、または抗原結合ドメインを含む、本発明のタンパク質構築物(例えば、IgA抗体もしくはIgG抗体またはその断片を含む構築物)であって、癌(または腫瘍)の治療に使用するためのタンパク質構築物を提供する。一部の実施形態では、癌または腫瘍抗原は、CD20であり、使用される標的指向化ドメインは、CD20に結合するものである。
【0184】
例えば、一部の実施形態では、本発明は、病原体によって発現される所定の分子または抗原(例えば、病原体特異的抗原または病原体関連抗原)に結合する標的指向化ドメイン、例えば、受容体、リガンド、または抗原結合ドメインを含む本発明のタンパク質構築物(例えば、IgA抗体もしくはIgG抗体またはその断片を含む構築物)であって、前記病原体に起因または関連する感染症の治療に使用するためのタンパク質構築物を提供する。好ましい感染性病原体は、細菌である。
【0185】
一部の実施形態では、本発明は、Her2タンパク質に結合する標的指向化ドメイン、例えば、受容体、受容体ドメイン、リガンド、受容体リガンド、または抗原結合ドメインを含む、本発明のタンパク質構築物(例えば、IgA抗体もしくはIgG抗体またはその断片を含む構築物)であって、Her2陽性癌、例えば、Her2陽性乳癌の治療に使用するためのタンパク質構築物を提供する。一部の実施形態では、抗原結合ドメイン(VLドメインおよびVHドメイン)は、抗体トラスツズマブであるか、または抗体トラスツズマブをベースとする。
【0186】
他の実施形態では、本発明は、経粘膜送達に使用するための本発明のタンパク質構築物を提供するものであり、例えば、本明細書に記載されているような治療目的での使用は、適切な投与経路による、例えば、鼻腔内投与または肺内投与による本発明のタンパク質構築物の経粘膜送達によって行われる。
【0187】
別の態様において、本発明は、療法、例えば、本明細書中の他の箇所に記載されているような療法に使用するための本発明の免疫複合体を提供する。
【0188】
本発明はさらに、療法に使用するため、または上述の疾患もしくは状態のいずれかの治療もしくは予防に使用するための医薬品または組成物の製造における、本発明のタンパク質構築物の使用、好ましくは、本発明の組換えタンパク質構築物の使用を提供する。
【0189】
本発明はさらに、上述の疾患または状態のいずれかの治療または予防の方法であって、治療有効量の本発明のタンパク質構築物、好ましくは組換えタンパク質構築物を、それを必要とする対象に投与する工程を含む方法を提供する。
【0190】
本明細書中の他の箇所に記載されているような、本発明の代替的かつ好ましい実施形態および特徴は、特に治療的使用に関し、これら本発明の治療方法および使用にも同様に当てはまる。
【0191】
本発明の核酸分子または発現ベクターは、本明細書に記載の治療方法または使用においても、同様に使用できる。
【0192】
本発明による疾患または状態の治療(例えば、既存の疾患の治療)には、前記疾患または状態の治癒、あるいは、疾患の何らかの軽減もしくは緩和(例えば、疾患の重症度の軽減)または疾患の症状の何らかの軽減もしくは緩和が含まれる。
【0193】
本明細書中の他の箇所の開示から明らかとなるように、本発明の方法および使用は、疾患の予防、ならびに疾患の積極的治療(例えば、既存疾患の治療)に好適である。よって、予防的治療もまた、本発明に包含される。このため、本発明の方法および使用において、治療には、適切な場合、予防処置または予防も含まれる。
このような予防的(または保護的)な態様は、健康もしくは正常な、またはリスクのある対象に対し、簡便に実施することができ、完全な予防および有意な予防の両方を含むことができる。同様に、有意な予防とは、疾患の重症度または疾患の症状が、治療が施されなかった場合に予想される重症度または症状と比べて軽減される(例えば、測定可能または有意に軽減される)シナリオを含み得る。
【0194】
本発明のタンパク質構築物および組成物および方法および使用は、他の治療薬または治療剤と併用することができる。
【0195】
よって、本発明の「併用」実施形態には、例えば、本発明のタンパク質構築物を、当該タンパク質構築物に機能的に有効となるように繋ぎ合わせられていない薬剤または治療剤と併用する場合が含まれる。本発明の他の「併用」実施形態では、本発明のタンパク質は、本発明のタンパク質構築物自体を、併用する薬剤または治療剤に、機能的に有効となるように関連させた、または組み合わせた免疫複合体である。機能的に有効となるような繋ぎ合わせには、本明細書中に記載され、かつ当該技術分野で公知である直接および間接的なあらゆる繋ぎ合わせの形態が含まれる。
【0196】
したがって、本発明は、生物学的有効量の少なくとも本発明の第1のタンパク質構築物と、生物学的有効量の少なくとも第2の生物学的薬剤とを、任意選択的に少なくとも第1の組成物または容器中に含む、組成物、医薬組成物、治療用キット、および医薬品カクテルを提供する。前記「少なくとも第2の生物学的薬剤」は、多くの場合、治療剤であるが、そうである必要はない。
【0197】
前記少なくとも第2の生物学的薬剤として治療剤が含まれる場合、このような治療薬は、典型的には、前記で定義した障害の1つ以上の治療に関連した使用のためのものであろう。
【0198】
よって、特定の実施形態では、「少なくとも第2の治療剤」は、前記治療用キットまたはカクテルに含まれるであろう。当該用語は、本発明のタンパク質構築物が第1の治療剤であることに鑑みて選択されている。
【0199】
本発明の特定の実施形態において、前記第2の治療剤は、放射線治療剤、化学療法剤、血管新生阻害剤、アポトーシス誘導剤、抗チューブリン剤、抗細胞剤もしくは細胞傷害性剤、ステロイド、サイトカイン拮抗剤、サイトカイン発現阻害剤、ケモカイン拮抗剤、ケモカイン発現阻害剤、ATPアーゼ阻害剤、抗炎症剤、シグナル経路阻害剤、チェックポイント阻害剤、抗癌剤、その他の抗体、または凝固剤であってもよい。
【0200】
一般的に言えば、前記少なくとも第2の治療剤は、本発明のタンパク質構築物と実質的に同時に対象に投与してもよく、例えば、単一の薬学的組成物からの投与、または、隔たりなく一緒に投与される2つの薬学的組成物からの投与等が挙げられる。
【0201】
あるいは、前記少なくとも第2の治療剤は、本発明のタンパク質の投与と順次的に対象に投与することができる。本明細書中で使用する「順次的に」とは、少なくとも第2の治療剤が、本発明のタンパク質構築物の投与とは異なる時間に対象に投与されるように「ずらして(staggered)」投与することを意味する。一般的に、前記2つの薬剤は、当該2つの薬剤がそれぞれの治療効果を発揮することを可能にするために効果的な時間間隔で投与される、すなわち、これらは「生物学的に有効な時間間隔」で投与される。前記少なくとも第2の治療剤は、本発明のタンパク質の投与前の生物学的に有効な時期、または本発明のタンパク質投与後の生物学的に有効な時期に対象に投与すればよい。
【0202】
本明細書に記載されるインビボでの方法および使用(例えば、治療目的での使用)は、一般的に、哺乳動物で実施される。例えば、ヒトおよび畜産動物、家畜、または実験動物等、あらゆる哺乳類を治療し得る。具体例としては、マウス、ラット、ブタ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ウサギ、ウマ、ウシ、およびサル(例えば、カニクイザル)が挙げられる。ただし、前記哺乳動物は、ヒトであることが好ましい。よって、本明細書で使用される用語「患者」または「対象」は、そのような哺乳動物を含む。よって、本発明により治療される対象または患者は、ヒトが好ましいであろう。
【0203】
治療有効量は、臨床的評価に基づいて決定されるであろうし、かつ、容易に監視できる。
【0204】
本発明の組成物および方法および使用は、他の治療薬または診断薬と併用してもよい。
【0205】
本発明はさらにキットを含み、当該キットは、本発明のタンパク質構築物(もしくは免疫複合体)もしくは組成物を1つ以上、または本発明のタンパク質構築物をコードする核酸分子を1つ以上、または本発明の核酸分子を含む発現ベクター、例えば、組換え発現ベクターを1つ以上、または前記発現ベクター、例えば、組換え発現ベクター、もしくは本発明の核酸分子を含む宿主細胞を1つ以上を含む。好ましくは、前記キットは、本明細書に記載の方法および使用、例えば、本明細書に記載の治療方法に使用するためのキットであるか、または本明細書に記載のインビトロアッセイもしくはインビトロ方法に使用するためのキットである。好ましくは、前記キットは、キットの構成品の使用説明書を含む。好ましくは、前記キットは、本明細書中の他の箇所に記載されているような疾患の治療または予防のためのものであり、任意選択的に、このような疾患の治療または予防のためのキットの構成品の使用説明書を含む。
【0206】
本出願全体を通して使用される「a」および「an」という用語は、当該用語の後に上限が具体的に記載されている場合を除き、言及されている構成要素または工程の「少なくとも1つ」、「少なくとも第1の」、「1つ以上」、または「複数」を意味するものとして使用されている。
【0207】
さらに、「comprise(含む)」、「comprises(含む)」、「has(有する)」もしくは「having(有する)」、または他の同等の用語が本明細書中で使用される場合、一部のより具体的な実施形態では、これらの用語には、「consists of(からなる)」もしくは「consists essentially of(本質的に~からなる)」または他の同等の用語が包含される。特定の工程を含む方法は、適切な場合、これらの工程からなる方法も含む。
【0208】
本明細書に記載の「増加(increase)」または「強化(enhance)」または「向上(improve)」という用語(または同等の用語)には、適切な対照と比較した場合におけるあらゆる測定可能な増加または上昇が含まれる。適切な対照は、当業者であれば容易に特定すると考えられ、適切な例が本明細書に記載されている。前記増加は、適切な対照でのレベルまたは値と比べた場合に、有意、例えば、臨床的または統計的に有意とされ、例えば、確率値0.05未満または0.05以下で、有意、例えば、臨床的または統計的に有意とされることが好ましい。
【0209】
本明細書に記載の「減少(decrease)」または「低下/軽減(reduce)」という用語(または同等の用語)には、適切な対照と比べた場合に測定可能な減少または低下/軽減が含まれる。適切な対照は、当業者であれば容易に特定すると考えられ、適切な例が本明細書に記載されている。前記減少は、適切な対照でのレベルまたは値と比べた場合に、有意、例えば、臨床的または統計的に有意とされ、例えば、確率値0.05未満または0.05以下で、有意、例えば、臨床的または統計的に有意とされることが好ましい。
【0210】
特定のパラメーターのレベルまたは値の差の統計的有意性を決定する方法は、当該技術分野において周知であり、文書化されている。例えば、本明細書では、減少または増加が一般的に統計的に有意であるとみなされるのは、スチューデントt検定、マン・ホイットニーU順位和検定、カイ二乗検定またはフィッシャーの正確確率検定、一元配置分散分析検定または二元配置分散分析検定等の有意性検定を適宜用いた統計的比較が、0.05未満または0.05以下の確率値を示す場合である。
【0211】
本明細書に開示されるアミノ酸配列の一部のリストおよびそれらの配列ID(配列番号)
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【0212】
本発明の伸長型構築物で使用するためのいくつかのIgA Fc-IgG Fc融合体の例示的配列を以下に示す。これらはすべて、IgG CH1、IgGヒンジ、IgA CH2、IgA CH3、IgGヒンジ、IgG CH1、IgGヒンジ、IgG CH2、IgG CH3のフォーマットをとる。
【表2】
【表3】
【表4】
【表5】
【表6】
【表7】
【表8】
【表9】
【表10】
【表11】
【表12】
【0213】
本発明の伸長型構築物において使用するためのいくつかのIgA Fc-IgG Fc融合体の例示的配列を以下に示す。これらはすべて、IgA CH1、IgAヒンジ、IgA CH2、IgA CH3、IgGヒンジ、IgG CH2、IgG CH3というフォーマットをとる。
【表13】
【表14】
【0214】
次に、本発明を、以下の非限定的な実施例において、以下の図面を参照しながらさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0215】
【
図1】
図1:抗Her2抗体フォーマットの設計。IgG1およびIgA2をベースに、4種類の抗体バリアントを製造した。a)尾部のないIgA2は、FcαRIに対するFc結合部位を有する。b)IgG1は、FcγRおよびC1qに対する重複結合部位を下部ヒンジおよびC
H2ドメインに有し、FcRnに対する結合部位をC
H2-C
H3エルボー領域に有する。Fc工学操作IgG1バリアントには、低親和性FcγRおよびC1qへの結合を消失させるが、FcRnへの結合は消失させないPGLALA置換が含まれていた。c)タンデムIgG1-IgA2バリアントは、尾部のない、ヒンジ領域を含むIgA2-Fcに融合した全長IgG1からなる。d)タンデムIgA2-IgG1バリアントは、ヒンジ領域を含むIgG1-Fcに融合した、尾部のない全長IgA2からなる。当図はBioRenderで作成した。
【
図2】
図2:pH依存性のヒトFcRn結合および延長された血漿中半減期。a)pH5.5とpH7.4で行ったELISAセットアップであり、滴定量の抗体バリアントでウェルをコーティングし、続いて、ALPコンジュゲートストレプトアビジン(STV)と共にプレインキュベートしたビオチン化ヒトFcRnを添加した。図をわかりやすくするため、一つのタンデム配向のみを示している。当図はBioRenderで作成した。b)ELISAの結果であり、pH5.5およびpH7.4における、滴定量の抗体バリアントに対するヒトFcRnの結合を示す。代表的な実験の二連平均±標準偏差で示している。c)HERAの結果であり、リサイクル工程後、ELISAにより培地中で検出された抗体バリアントの量を示す。各抗体をHMEC-1細胞に3時間添加し、続いて、徹底的に洗浄し、さらに3時間インキュベートしてから、培地を回収した。代表的な実験の三連平均±標準偏差で示している。d)ヒトFcRnトランスジェニック(Tg)マウスにおける血漿中半減期試験において、抗体フォーマットを静脈内投与し、血液試料の採取を1日目から23日目まで行った。当図はBioRenderで作成した。e)平均値±SDで示した抗体フォーマットの血漿中半減期(%)(n=5)。両側不対T検定、ns>0.05、***=p<0.001
【
図3】
図3:IgA2-IgG2フォーマットおよびFcγRIIIbの結合。a)IgG2は、FcγR、C1q、およびFcRnに対する異なる結合部位を有する。IgA2-IgG2は、ヒンジ領域を含むIgG2-Fcに融合した、尾部のない全長IgA2からなる。b)pH7.4で行ったELISAの結果であり、ウェルに直接コーティングした滴定量の抗体バリアントに対するヒトFcγRIIIbの結合を示す。代表的な実験の二連平均±標準偏差で示している。
【
図4】
図4:IgA2-IgG1の強化されたオンターゲットC1q結合。a)Her2捕捉抗体バリアントへのC1qの結合を測定するために用いたELISAセットアップ。結合したC1qは、ウサギ抗C1q抗体を一次抗体、抗ウサギHRPコンジュゲート抗体を二次抗体として用いて検出した。b~d)ELISAの結果であり、滴定量の抗Her2 IgGベースの抗体バリアントへのC1q結合を示す。代表的な実験の二連平均±標準偏差で示している。
【
図5-1】
図5:Her2抗体バリアントのFcγRおよびFcαRIへの結合。a)組換えHer2をウェルにコーティングしてELISAセットアップを行い、続いて、滴定量の抗体フォーマットを添加した。His
6×タグ付きヒトFcαRIまたは部位特異的ビオチン化ヒトFcγRを添加し、抗His
6×-ALPまたはALPコンジュゲートストレプトアビジン(STV)でそれぞれ検出した。図をわかりやすくするため、一つのタンデム配向のみを示している。当図はBioRenderで作成した。pH7.4における、b)FcαRI、c)FcγRI、d)FcγRIIa-R131、e)FcγRIIa-H131、f)FcγRIIb、g)FcγRIIIa-F158、h)FcγRIIIa-V158、およびi)FcγRIIIbについてのELISAの結果。代表的な実験の二連平均±標準偏差で示している。
【
図6-1】
図6:抗Her2 IgG2ベースの抗体フォーマットのFc受容体結合能。ELISAの結果であり、当該受容体の滴定量の抗体バリアントへの結合を示す。pH7.4での、a)His
6×タグ付きヒトFcαRI、部位特異的ビオチン化したもの、b)FcγRI、c)FcγRIIa-R131、d)FcγRIIa-H131、e)FcγRIIb、f)FcγRIIIa-F158、g)FcγRIIIa-V158、およびh)FcγRIIIb。代表的な実験の二連平均±標準偏差で示している。
【
図7】
図7:UMAB2 IgG2ベースの抗体フォーマットのタンパク質の完全性(integrity)および結合特性。a)アフィニティー精製およびサイズ排除精製した抗体の非還元(NR)および還元(R)SDS-PAGE解析。b~d)ELISAにおける、抗カッパ抗体、抗Fc抗体、および抗IgA抗体への抗体の結合。代表的な実験の二連平均±標準偏差で示している。
【
図8】
図8:カルセインAMに基づくアッセイにおけるC1q結合およびCDC活性。ELISAの結果であり、滴定量のa)抗CD20抗体バリアントおよびb)抗Her2抗体バリアントに対するC1q結合を示す。c)CD20発現標的細胞にカルセインAMを負荷し、ついでNHSおよび抗体バリアントと混合し、そしてカルセイン放出によって細胞の溶解を測定するCDCアッセイの概略図。図をわかりやすくするため、一つのタンデム配向のみを示している。当図はBioRenderで作成した。d~e)WSU-NHLおよびSU-DHL4を標的細胞とした、抗体バリアントおよびNHS存在下における、カルセイン負荷CD20発現細胞株の特異的溶解率(%)。代表的な実験の二連平均±標準偏差で示している。
【
図9-1】
図9:抗CD20抗体フォーマットのFc受容体結合能。ELISAの結果であり、当該受容体の滴定量の抗体バリアントへの結合を示す。pH7.4での、a)His
6×タグ付きヒトFcαRI、部位特異的ビオチン化したもの、b)FcγRI、c)FcγRIIa-R131、d)FcγRIIa-H131、e)FcγRIIb、f)FcγRIIIa-F158、g)FcγRIIIa-V158、およびh)FcγRIIIb。代表的な実験の二連平均±標準偏差で示している。
【
図10-1】
図10:抗体バリアントのpH依存性ヒトFcRn結合。a~b)ELISAの結果であり、pH5.5およびpH7.4における、滴定量の抗Her2抗体バリアントに対するヒトFcRnの結合を示す。c~d)ELISAの結果であり、pH5.5およびpH7.4における、滴定量の抗CD20抗体バリアントに対するヒトFcRnの結合を示す。代表的な実験の二連平均±標準偏差で示している。
【
図11】
図11:カルセイン-AMに基づくアッセイにおけるRaji標的細胞に対するCDC活性。a~b)UMAB2抗体バリアントおよび正常ヒト血清(NHS)存在下でのCD20発現Raji標的細胞の特異的溶解率(%)。3回の独立した実験における二連平均±標準偏差で示している。
【
図12】
図12:抗Her2抗体フォーマットのFcyRIIIa結合能。ELISAの結果であり、Her2特異的IgA2-IgG1およびIgG1-IgA2タンデムフォーマットに対するFcyRIIIa(V158アロタイプ)の結合を示している。代表的な実験の二連平均±標準偏差で示している。
【
図13】
図13:抗Her2抗体バリアントのpH依存性のFcRn結合。a~b)ELISAの結果であり、pH5.5およびpH7.4における、滴定量の抗Her2抗体バリアントに対するヒトFcRnの結合を示す。代表的な実験の二連平均±標準偏差で示している。
【
図14】
図14:競合の存在下でのヒトFcRn発現マウスにおける抗体フォーマットの血漿中半減期。試験抗体の投与の2日前に、500mg/kgのIVIgを前投与したヒトFcRnトランスジェニックマウスにおける抗体バリアントの血漿中半減期。抗体バリアントを0日目に静脈内投与し、続いて、血液試料の採取を1日目から23日目まで行った。平均±標準偏差で示している(n=5)。
【
図15】
図15:新規IgG1/IgA2抗体フォーマットの設計。CD20(UMAB2)に特異的なIgG1およびIgA2をベースとし、2つの追加の抗体バリアントを設計した。当該フォーマットは、IgA2 Fc(Cα2およびCα3)に融合したIgG1 Fab
2と、これに続くIgG1ヒンジ、IgG1 C
H1、第3のIgG1ヒンジ、およびC末端IgG1 Fc(C
H2およびC
H3)を含む。C末端のIgG1 Fcは、野生型(WT)であるか、またはREW技術によるアミノ酸置換で改変されている。
【
図16】
図16:カルセイン-AMに基づくアッセイにおける、新規なIgG1/IgA2タンデムフォーマットのRaji標的細胞に対するCDC活性。新規なUMAB2 IgG1/IgA2タンデムフォーマットおよびNHS存在下でのCD20発現Raji標的細胞の特異的溶解率(%)。代表的な実験の二連平均±標準偏差で示している。
【実施例】
【0216】
実施例1:タンデムIgA Fc-IgG Fc融合タンパク質の調製
ここでは、IgA由来およびIgG由来、具体的にはIgA FcおよびIgG Fc由来の構造要素を組み合わせた抗体設計パネルであって、FcγRおよびFcαRIの両方の効率的な関与を可能にする抗体設計パネルについて報告する。同時に、FcRnによる細胞内分解から効率的にレスキューされ、このことがヒトFcRnトランスジェニックマウスにおける長い血漿中半減期につながるIgA-IgGタンデムフォーマットを特定した。このフォーマットは、全長IgA2をIgG1-Fcと組み合わせたものであり、CD20発現Raji細胞のCDC誘導殺傷の良好な誘導、およびFcRnへの良好なpH依存性の結合をもたらすことが判明している。加えて、抗CD20 IgA2-IgG2を、オンターゲットな六量体形成の強化のためのFc工学操作戦略と組み合わせると、当該タンデムフォーマットは、CD20発現癌B細胞株のCDC誘導殺傷の強力な誘導を生じさせた。
【0217】
材料および方法
抗体産生および精製
抗HER2トラスツズマブまたは抗CD20 UMAB2由来の可変配列をコードするDNAセグメント(Meyer, S. et al. British journal of haematology 180, 808-820 (2018))を、先に記載したベクターpEE14.4-kappaLC、pEE14.4-IgA1、およびpEE14.4-IgA2(m1)に、IgA2-HCおよびカッパLCコード配列と共に、フレーム内でサブクローニングした。タンデムバリアントについては、全長IgG1-HCをコードするcDNAを、前記ヒンジドメインおよび前記IgA2-CH2-CH3ドメインをコードする配列と共に、フレーム内でサブクローニングした。IgA2の尾部をコードするDNAセグメントは欠失させた。前記IgA2-IgG1/2-Fcタンデムバリアントについては、対応するヒンジ領域を含むIgG1-Fc、IgG2-Fc、およびIgG2-Fc-REWをコードするcDNAを、前記IgA2-HCに対応するDNAと共に、フレーム内でサブクローニングした。実施例2で使用するIgG1 Fab2-IgA2 Fc-H1-CH1-H1-IgG1 Fc伸長型タンデムバリアントについては、全定常領域をコードするcDNAを合成し、トラスツズマブまたはUMAB2可変領域と共に、フレーム内でサブクローニングした。
付着性のHEK293E懸濁細胞株およびExpi293懸濁細胞株を、Lipofectamine2000またはExpifectamine(ThermoFisher社)を用いて、前記HCおよびLCをコードするベクターでそれぞれ一過性にコトランスフェクトした。回収した上清を、CaptureSelect IgG-CH1を予め充填したカラム(ThermoFisher社)、またはカラム(Atoll社)に充填したCaptureSelect IgA親和性マトリックス(ThermoFisher)上に、メーカーの記載に従って供した。溶出した精製タンパク質を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)(Merck社)に緩衝液交換し、Amicon Ultra-15ml 100Kスピンカラム(Millipore社)を用いて濃縮し、次いで、AEKTA Avant装置(Cytiva Lifesciences社)に連結したSuperdex 200 increase 10/300GLカラム(GE Healthcare社)を使用したサイズ排除クロマトグラフィーで精製した。溶出した単量体タンパク質は、Amicon Ultra-5 ml 100Kカラム(Millipore社)を用いて濃縮し、SDS-PAGE(ThermoFisher社)を用いて分析した。
【0218】
ELISA
ELISAは、PBS(100μl)で希釈した抗原または抗体バリアントをEIA/RIA 96ウェルプレート(CorningCostar社)にコーティングし、4℃で一晩(ON)インキュベートすることにより行った。翌日、プレートを、4%脱脂乳(S)(ITW試薬)を含有する250μlのPBS(Merck社)で室温(RT)で1時間ブロッキングした。その後形成される全ての層間で、0.05% Tween 20(T)(Merck社)を含有する250μlのPBSを用いてプレートを4回洗浄した。特に記載のない限り、試料は全て、PBS/S/Tで希釈した総量100μlを添加し、室温で1~2時間インキュベートした。
抗原結合を調べるために、組換えヒトHer2(1.0 μg/ml;Sino Biological社)をウェルにコーティングし、そして、翌日に滴定量の抗体(7.0~0.0032nM)を添加した。ALPコンジュゲート抗ヒトカッパLC抗体(Southern Biotech社)、抗ヒトIgG-Fc抗体(Merck社)、または抗IgA-Fc抗体(Merck社)を第二層として用い、当該第二層において、ジエタノールアミン緩衝液(pH9.8)に溶解したALP基質(Merck社)を添加して結合を可視化した。Sunrise分光光度計(TECAN社)を用いて、405nmで吸光度を測定した。同一のセットアップを用いてHis6×タグ付きヒトFcαRI(2μg/ml;Sino Biological社製)の結合を測定し、ALPコンジュゲートHis6×タグ抗体(Abcam社製)(1:5000)で検出した。さらに、部位特異的ビオチン化FcγRI、FcγRIIa-H131、FcγRIIa-R131、FcγRIIb、FcγRIIIa-V156、FcγRIIIa-F156、およびFcγRIIIb(0.25μg/mL;Sino Biological社)に対する結合を、ALPコンジュゲートストレプトアビジン(Roche Diagnostic社)(1:1のモル比)を用いて室温で20分間プレインキュベートさせてから、前記プレートに添加することによって行った。結合したタンパク質は、上述の方法で検出した。また、セットアップは、抗体バリアント(66.87nM~1.04nM)を直接コーティングし、続いてALPコンジュゲートストレプトアビジン(1:1のモル比)でプレインキュベートしたビオチン化FcγRIIIb(0.5 μg/ml)を添加することによって行った。
ヒトFcRnの結合を調べるため、滴定量(7.0nM~0.0032nM)の抗体フォーマットをウェルにコーティングした。部位特異的ビオチン化ヒト可溶性FcRn(0.25μg/ml;Immunitrack社)およびALPコンジュゲートストレプトアビジン(Roche Diagnostics)の1:1複合体を、室温で20分間インキュベートしてから、前記プレートに添加した。結合したタンパク質を、上述の方法で可視化した。このセットアップは、pH5.5または7.4のPBS/TおよびPBS/S/Tを用いて行った。
ヒトC1q結合を調べるため、組換えヒトHer2(5.0μg/mlまたは10.0μg/ml:Sino Biological社製)をコーティングし、滴定量の抗体フォーマットをそれぞれ添加した(42.0nM~0.32nMまたは66.87nM~1.04 nM)。また、抗体バリアント(200.0nM~3.12nM)を直接コーティングすることによって、C1q結合を行った。ベロナール緩衝液(Complement Technology社)で希釈したヒトC1q(0.336μg/mLまたは0.5μg/mL;Complement Technology社)を添加し、37℃で30分間インキュベートした後、ウサギ由来の抗C1q抗体を添加した(1:5000または1:10000、Dako社)。最後に、抗ウサギ-HRP(1:5000;GE Healthcare社)をプレートに添加し、3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)基質液(Merck Millipore社)を添加して可視化した。吸光度を、620nmで測定するか、または、1M HClを50μl添加して反応を停止させ、Sunrise分光光度計(TECAN社)を用いて450nmで測定した。
【0219】
HERA
HERAは、若干の変更を加えた上で、従前の方法(Grevys et al., 2018, Nat.Commun.,9(1):621)により行った。HA-hFcRn-EGFPを安定的に発現している(>100倍)HMEC-1細胞を、7.5×104細胞/ウェルとなるように48ウェルプレート(CorningCostar)に播種し、増殖培地(Gibco MCDB 131培地(ThermoFisher社)、10%加熱不活性化FCS(Merck社)、2mM L-グルタミン(ThermoFisher社)、1% Pencillin-Streptomycin(Merck社)、10ng/ml マウス上皮成長因子(ThermoFisher社)、1μg/ml ヒドロコルチゾン(Merck社))中で1日培養した。5μg/ml ブラストサイジン(ThermoFisher社)および100μg/ml G418(ThermoFisher社)を添加することにより、前記細胞の安定的なFcRn発現を確保した。前記細胞をHank’s平衡塩溶液(HBSS)(ThermoFisher社)で洗浄し、1時間飢餓状態にしてから、125μlのHBSS(pH7.4)で希釈した800nMの抗体フォーマットを前記細胞に添加し、次いで3時間インキュベートした。そして、細胞を氷冷HBSS(pH7.4)で洗浄してから、FCSを含有しないが、MEM非必須アミノ酸(ThermoFisher社)を添加した増殖培地を細胞に添加し、さらに3時間インキュベートした。その後、培地試料を回収し、存在する抗体の量をELISAにより定量した。これは、上述のようにHer2をコーティングし、続いてブロッキング(PBS/S)および洗浄(PBS/T)を行ってから前記HERA試料を添加することにより行った。前記抗体の結合を、抗Fc-ALP抗体(Merck社)をPBS/S/Tで希釈したもの(1:5000)を用いて検出し、上述の方法で測定した。
【0220】
CDC
カルセインAM放出CDCアッセイを行った。1×107個のWSU-NHL細胞、SU-DHL4細胞、またはRaji細胞を、1μlのカルセインAM(Merck社)で30分間染色した。そして、前記細胞をHBSS(Thermofisher社)で洗浄し、RPMI(Merck社)中に細胞密度が1×106となるように再懸濁した。その後、5×104個の細胞を、滴定量の抗CD20抗体(140nM~0.729nM)およびNHS(Complement Technology社製)(最終濃度25%)と共にV字型96ウェルプレートに添加した。RIPA緩衝液(Thermofisher社製)を、抗体およびNHSの代わりに用い、1:1の希釈率で標的細胞の最大溶解率を測定した。基礎遊離は、抗体および/またはNHSの非存在下で測定した。前記プレートを37℃で1時間インキュベートし、2000rpmで10分間遠心分離した。上清を黒色透明底の光学96ウェルViewplate(Perkin Elmer社)に移し、Envisionプレートリーダー(Perkin Elmer社)を用いて蛍光強度を485nm励起/510nm発光で測定してから、各抗体フォーマットの溶解活性率を算出した。
【0221】
インビボ半減期調査
実験は、The Jackson Laboratory社の動物実験委員会(Animal Care and Use Committee)による承認を受け、承認されたガイドラインおよび規則に従い、The Jackson Laboratory社(JAX Services, Bar Harbor, ME)内で行った。簡単に説明すると、ヒトFcRnを発現しているが、マウスFcRnを発現していないヘミ接合体Tg32マウス(B6.Cg-Fcgrt
tm1Dcr Tg(FCGRT)32Dcr/DcrJ;The Jackson Laboratory社)を使用して、抗体フォーマットの血漿中半減期を求めた。記載がある場合には、マウスに対し、Her2特異的抗体フォーマットを投与する48時間前に、500mg/kgの静脈内免疫グロブリン(IVIg)(ピリヴィジェン;CSL Behring社)を前投与した。各試験物を、雄マウス(年齢:8週~9週、体重:22g~27g)のみを用いた、5匹のマウスで構成される複数の群において調べた。マウスに等モル量の試験物(1.0mg/kgのIgA2およびIgG1、1.3mg/kgのタンデムバリアント)を静脈注射し、注射後1日目、2日目、3日目、4日目、5日目、7日目、10日目、12日目、16日目、19日目、および23日目に血液試料を後眼窩洞から採取した。採血直後に血液試料を処理し、血漿を単離させ、50%グリセロール/PBSで希釈して-20℃で保存した。ELISAで定量する場合、血漿試料を1:50~1:400(または1:25、1:50、1:100、もしくは1:400)の希釈率でPBS/S/Tで希釈した。半減期のデータは、1日目と比較した注射後所定の時点における残存タンパク質に基づいて算出したパーセンテージで示している。Prism 8を用いて非線形回帰分析を行い、次の式を用いて半減期を算出した:
【数1】
式中、t
1/2は、所定の抗体の半減期、A
eは抗体の残存量、A
0は1日目の抗体量、tは経過時間である。
【0222】
統計解析
図の作成および統計解析は、Mac用GraphPad Prism 8(バージョン8.1.2;GraphPad Software Inc.社)、Mac用マイクロソフトエクセル(バージョン16.35)およびBioRender.comを用いて行った。
【0223】
結果
タンデム抗体の設計および製造
タンデム抗体フォーマットを設計するため、トラスツズマブ由来のHer2特異性を有する、IgG1およびIgA2重鎖(HC)コード発現ベクター(Carter, P. et al. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 89, 4285-4289 (1992))を、対応するヒンジ配列が含まれるIgA2-Fc(尾部なし)またはIgG1-Fcをコードする配列と、それぞれ組み合わせた。野生型IgG1に加え、低親和性FcγRおよびC1qに関与する能力を消失させた工学操作バージョン(P329G、L234AおよびL235A;PGLALA)も組み込んだ(Schlothauer, T. et al. Protein engineering, design & selection: PEDS 29, 457-466 (2016))。前記抗体を産生するため、構築したベクターを、抗Her2ヒトカッパ軽鎖(LC)をコードするベクターと組み合わせた(Meyer, S. et al. mAbs 8, 87-98 (2016)およびMester, S. et al. mAbs 13, 1893888 (2021))。前記抗体バリアントの模式図を、
図1a~1dに示す。
精製したタンパク質を、ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)により分析したところ、タンデムバリアントは親抗体の分子量より約50kDa大きい分子量で移動した。還元条件下では、前記バリアントは、それらのHC(50kDa~75kDa)およびLC(25kDa)にそれぞれ対応する2つの異なるバンドで移動した(データは示さず)。タンデムバリアントは、その親である対応物と同程度の量(1~2g/L)で産生され、酵素結合免疫吸着測定(ELISA)において、組換えヒトHer2に結合した(データは示さず)。
【0224】
タンデム設計は、FcRnと結合し、血漿中半減期を延長した
設計した抗体のヒトFcRnへの結合能を比較するため、ELISAを行った(
図2a)。FcRnは、IgG1のC
H2-C
H3エルボー領域に酸性pHでは結合し、中性pHでは結合も遊離もしないという、厳密にpH依存性の結合を示す(
図1b)ため、当該アッセイはpH5.5およびpH7.4で行った。その結果、両タンデムバリアントは、IgG1と同様のpH依存性で受容体に結合するが、IgA2は結合しないことが実証された(
図2b)。
次に、ヒトFcRnを安定的に過剰発現する付着性ヒト微小血管内皮細胞(HMEC-1)を使用し、ヒト内皮細胞に基づくリサイクルアッセイ(HERA)(Grevys, A. et al. Nature communications 9, 621 (2018))を用いてFcRnによる細胞内分解からの抗体のレスキュー能を調べた。簡単に説明すると、前記抗体を前記細胞に添加し、続いてインキュベーション工程を行ってから、培地を除去して交換した。さらなるインキュベーションの後、前記培地を回収し、細胞内分解からのレスキューの測定値として、存在する抗体の量を定量した。HERAの結果は、予想した通り、IgG1は細胞内分解からレスキューされるが、IgA2は細胞内分解からレスキューされないことを示していた。加えて、IgA2-IgG1は、IgG1-IgA2という逆の配向のタンデムフォーマットよりも効率的にレスキューされ、さらにはIgG1よりも若干多くレスキューされた(
図2c)。
これがどのようにインビボでの血漿中半減期につながるかを検討するため、前記抗体フォーマットをヒトFcRnトランスジェニックマウスに静脈内投与し、続いて血液試料を経時的に採取してから、ELISAによる定量を行った(
図2d)。IgA2の血漿中半減期はわずか0.9日であったが、IgA2-IgG1は最も大幅な半減期の増加を示し(6.8日)、これに対し、IgG1-IgA2の半減期はIgA2と比べて中程度に過ぎなかった(2.7日)。このように、タンデムバリアント間で明確な2.5倍の差を測定し、IgA2-IgG1は、IgG1の半減期(9.2日)に最も近い半減期を示した(
図2e)。
【0225】
タンデムバリアントはFcエフェクター結合を示す
FcαRIはIgA2のC
H2-C
H3エルボー領域と結合する(Herr, A.B. et al. Nature 423, 614-620 (2003))が、IgG1は、C
H2ドメインの下側ヒンジおよび上部において、種々のFcγRに関与する(Sondermann, P. et al.et al. Nature 406, 267-273 (2000)およびRadaev, S et al. The Journal of biological chemistry 276, 16469-16477 (2001))(
図1b)。同族Her2抗原に捕捉された場合のタンデムバリアントのFcエフェクター分子結合特性を調べるために、一セットのELISAを実施した(
図5a)。その結果、FcαRIはIgA2よりわずかに弱いものの、両タンデムバリアントに結合するが、IgG1には結合しないことが明らかとなった(
図5b)。FcγRへの結合を調べたところ、IgA2-IgG1がFcγRIIbおよびFcγRIIIa-V、特にデコイ受容体FcγRIIIbに若干強く結合した以外は、いずれのタンデムバリアントもIgG1と同様の結合反応を示すことが確認された(
図5c~
図5i)。各種FcγRは、FcγRIを除き、いずれもPGLALA含有IgG1バリアントと結合しなかったが、これは公開されているデータと一致している(Schlothauer, T. et al. Protein engineering, design & selection: PEDS 29, 457-466 (2016))。IgA2は、予想通り、いずれのFcγRとも結合しなかった。
【0226】
IgG1由来またはIgG2由来のFcと組み合わせたIgA2はFc受容体結合を示す
好中球はFcγRIIIbを発現し、これはIgG1媒介ADCCを妨害するデコイ受容体として作用することがわかっている(Brandsma, A.M. et al. Frontiers in immunology 10, 704 (2019), and Treffers, L.W. et al. Frontiers in Immunology 9, 3124 (2018))。しかしながら、IgG2サブクラスはこの特定の受容体に関与しない(Williams, T.E. et al. Biophys J 79, 1858-1866 (2000), and Bruhns, P. et al. Blood 113, 3716-3725 (2009))。したがって、我々は、IgG1-FcをIgG2-Fcに置き換えて、好ましいタンデム配向を再設計した(
図3a)。生成された抗Her2 IgG2ベースのバリアントは良好に産生され、組換えHer2と結合した(データは示さず)。Fc受容体への結合に関し、IgA2-IgG2は、ここでもやはりFcαRIに関与する能力を有することが示されたが、ここでも、IgA2と同程度ではなかった。一方、IgG2およびIgA2-IgG2は、いずれもFcγRIIaに対する結合を示したが、FcγRIIIbに対する結合は示さなかった(
図6)。IgG2ベースのバリアントがFcγRIIIbに関与しないことを確認するため、ELISAウェルに多量の抗体を直接コーティングし、その後、前記受容体を添加した。その結果、IgA2-IgG1はIgG1と同程度に良好に結合するが、IgG2、IgA2-IgG2、およびIgA2は全く結合しないという厳密な差異が明らかとなった(
図3b)。
【0227】
IgA2-IgG1はC1q結合を強化することを示す
補体因子C1qは、FcγRと部分的にオーバーラップする結合部位である、C
H2ドメインの下側ヒンジおよび上部を介してIgGと結合する(
図1b)。しかしながら、補体カスケードを開始しCDCを誘導するC1qの能力は、細胞表面抗原への結合時におけるFc:Fc接触を介したIgG六量体形成に依存している(Diebolder, C.A. et al. Science (New York, N.Y.)343, 1260-1263 (2014))。前記設計した抗体フォーマットのC1q結合を測定するため、これら抗体フォーマットを、ELISAにおいてコーティングした組換えHer2に捕捉させた(
図4a)。際だったことに、C1qは、IgG1に対するよりも強くIgA2-IgG1に結合し、IgG1に次いでIgG1-IgA2タンデムバリアントに結合した(
図4b~
図4c)。IgG1-PGLALAでは、C1q結合は全く測定されないか、または弱い結合しか測定されず(
図4b~
図4d)、一方、IgA2では結合しなかった(
図4b~
図4c)。このように、IgG1-FcをIgA2に融合させるとC1q結合が強化されたが、このことは、このタンデム設計が、Her2との結合時にFc:Fc相互作用および六量体形成に有利に働くことを強く裏付けている。加えて、IgG2のC1q
69の結合は弱いものに過ぎず(
図4d)、タンデムIgA2-IgG2バリアントはC1qに関与しなかった(
図4d)。
【0228】
IgA2-IgG2のFc工学操作がCDC活性を高める
関連する系におけるタンデムフォーマットのオンターゲットC1q結合活性強化の効果を探るため、我々は、悪性CD20発現B細胞株のCDC誘導殺傷に使用可能な、最近開発されたキメラ抗CD20特異的抗体(UMAB2)(Evers, M. et al. mAbs 12, 1795505 (2020)およびMeyer, S. et al. British journal of haematology 180, 808-820 (2018))を利用した。この抗体の可変配列を、IgA2、IgG2、および前記IgA2-IgG2タンデムバリアントをコードするベクターに導入した。C1qに対するIgG2の結合は弱いものに過ぎない(
図4d)にもかかわらず、このようにした根拠は、3つのアミノ酸置換(Q311R、M428E、およびN434W:REW)をIgG2ベースのバリアントに導入し、その効果を評価するためであった。産生された抗CD20抗体は、SDS-PAGEでは予想通りの分子量で移動し、ELISAではインタクトな結合完全性を示した(
図7)。
可溶性組換えCD20は存在しないため、ELISAにおいて抗体バリアントを直接コーティングしてC1q結合を行ったところ、IgG2およびIgA2-IgG2のいずれに対しても結合は弱いものに過ぎなかったが、IgG1に対しては最も強い結合を示した(
図8a)。これは、抗原に捕捉された際の抗Her2バリアントのデータ(
図4d)、ならびに直接コーティングした場合のデータ(
図8b)と一致している。しかしながら、前記REW置換を導入した場合には、両方の特異性を持つIgG2に対する、中程度に強化されたC1q結合が測定された(
図8a~
図8b)。同様に、IgA2-IgG2は弱い結合を示したが、前記REW置換を導入した場合には、より強い結合が測定された(
図8a~
図8b)。それでもなお、前記REW含有IgA2-IgG2タンデムバリアントは、IgG1に匹敵するほどの強さではC1qに結合しなかった(
図8a~
図8b)。
さらに、NHSの存在下、抗体を介した溶解後に放出される蛍光色素カルセインによる標的細胞の標識に依拠するカルセインAMに基づくCDCアッセイを行った(
図8c)。ここで、CD20高発現細胞株SU-DHL4およびCD20低発現細胞株WSU-NHLをそれぞれ用いたところ、CD20高発現では、IgA2-IgG2-REWの強力なCDC誘導能が確認され、次いでIgA2-IgG2も確認された(
図8d-
図8e)。IgG2-REWはIgG2を上回るCDC誘導を示したものの、その活性は抗体濃度が低くなると失われたが、タンデムバリアントのCDC活性は維持された(
図8d)。低CD20発現では、REW含有バリアントのみがCDC媒介性の溶解を誘導した(
図8e)。
これらを総合すると、REW置換はIgG2のCDC誘導能を強化し、この効果はREW含有IgG2-Fcを全長IgA2とタンデムに組み合わせた場合にさらに強くなることが実証された。これは、CD20発現のレベルが高い場合および低い場合の両方で観察された。
また、IgA2およびIgA2-IgG2のいずれも、REW置換を伴う場合でも、デコイ受容体FcγRIIIbとは結合せず(
図9h)、一方、FcαRIに関与する能力は保持する(
図9a)ことが確認された。野生型とREW含有バリアントとの間では、測定される差異はないか、または僅かであったが、一方、IgG2ベースのバリアントはIgG1と比べてより選択的にFcγRに結合し(
図9a~
図9h)、予想されるIgG2結合特性と一致していた(Williams, T.E. et al. Biophys J 79, 1858-1866 (2000)、およびVidarsson, G. et al. Frontiers in Immunology 5 (2014))。
また、REW含有IgA2-IgG2は、ヒトFcRnとpH依存的に結合し、酸性pHで結合が増加することが示された(
図10)。このことは、REW置換がIgA2-IgG2フォーマットの半減期の延長につながることを強く示唆している。
【0229】
考察
先に示したように、我々は、IgAとIgGの構造的特徴を組み合わせて、複数のエフェクター機能を持つ抗体フォーマットを作製した。我々は、ヒトFcRnに関与する能力が良好なフォーマットを特定した。これは、IgA2をIgG1-Fcに融合させたタンデムバリアントで達成され、HERAにおいて分解からの効率的なレスキューと、ヒトFcRn発現マウスにおいてIgA2と比べて7倍よりも長い半減期とをもたらした。これにより、IgG1-IgA2という逆のタンデム配向の半減期よりも、2.5倍長い半減期となった。したがって、我々は、2つのタンデムバリアントの血漿中半減期における明確な違いを測定し、これにより、IgA2-HCのC末端側終端部にIgG1-Fcを付加することが、インビトロおよびインビボの両方で、分解からのヒトFcRn媒介性の効率的なレスキューに最も適した配向であることが示された。
さらに、我々は、C1qに関与し、CDC媒介性の細胞殺傷を誘導する当該フォーマットの能力について調べた。特に、我々は、有利なことに、IgA2-IgG1という配向によれば、ELISAにおいてHer2上に捕捉される際、IgG1と比べてC1q結合が向上されることを見出した。
また、REW置換と組み合わせたIgA2-IgG2フォーマットについても調べた。有利なことに、REW置換は、IgG2およびIgA2-IgG2の両方について、直接コーティングした場合(抗Her2および抗CD20)、ELISAにおけるC1qへの結合を向上させることがわかった。
前記C1q結合アッセイで観察された効果と同様に、IgG2-REWはCDC媒介能を獲得し、当該能力は、高標的濃度で最も顕著であった。REW含有IgA2-IgG2は、CD20発現癌B細胞を標的とする場合に、細胞CDCアッセイにおいて極めて良好に機能した。このことは、IgA2-IgG2-REWが、標的細胞上のCD20との結合によってFc:Fc六量体構造を形成する高い能力を有し、IgG2-REWよりもはるかに効率的な補体カスケードの誘導を可能にすることを示唆している。この結果はまた、REW置換がIgAFc-IgGFcフォーマットの半減期の延長につながることを強く示唆している。これと合致して、REW含有IgA2-IgG2は、ヒトFcRnとpH依存的に結合し、酸性pHで結合が増加した。このように、REW置換は、当該構築物の特性、例えば、C1q結合およびCDC、ならびにFcRn結合についてもさらに強化することが示された。
【0230】
さらなる結果
C末端側終端部のIgG1-Fcによる強力なCDC活性
タンデム配向のCDC活性を調べるために、NHS存在下、抗体を介した溶解後に放出される蛍光色素カルセインAMによる標的細胞の標識に依拠するカルセインAM放出CDCアッセイを行った(
図8c)。ここでは、補体抑制性受容体のレベルに対して低レベルでCD20を発現し、よって「殺傷しにくい(hard-to-kill)」と考えられるRaji細胞を用いた。これらの結果(
図11a)は、本発明のIgA2-IgG1構築物の強力なCDC誘導能を確認し、かつ、ELISAにおけるIgG1-WTのものと同様の効率的なC1q結合と一致していたが、逆のタンデム配向のIgG1-IgA2フォーマットは、IgG1-PGLALA(C1q結合を消失させた変異体)と同様に、不十分な結合を示した。
【0231】
Fc工学操作がCDC活性を強化する
我々は、タンデムフォーマットにREW変異を導入することにより、CDC活性をさらに強化できることを示した(
図11b)。具体的には、IgA2-IgG1-REW配向は、逆のタンデム配向と比べて、より高レベルのCDCを誘導した。IgA2-IgG1構築物にREWを導入することにより、我々は、IgG1-WTのCDC活性よりも幾分高いレベルのCDC活性を達成した。
これらを総合すると、IgA2-IgG1配向は、C1qへの関与および標的抗原に結合した際のCDCの媒介において、IgG1-IgA2配向と比べて優れていることが実証された。他の実験において、我々は、いずれのタンデムフォーマットも、標的抗原との結合がない場合には、ヒト血清中で補体活性化を引き起こさないことも明らかにした(データは示さず)。このことは、当該構築物を治療のために使用する場合には、安全性の観点から重要である。
【0232】
FcyRIIIaに対するIgA2-IgG1の強い結合
NK細胞はFcyRIIIaを発現しており、IgG抗体の架橋によってADCCを媒介する主要な細胞集団であると考えられている。そこで、同族Her2抗原に捕捉されたときの、タンデム配向のFcyRIIIaの結合を調べた。その結果(
図12参照)、いずれの配向/フォーマットも受容体に結合したが、IgA2-IgG1配向は、逆のタンデム配向と比べて、より強い結合を示した。
これらを総合すると、このことは、IgA2-IgG1配向は、逆の配向と比べて、NK細胞上のFcyRIIIaへの向上した結合能を有し得るものであり、これにより効率的にADCCを媒介し得るものであることを示している。
【0233】
タンデムフォーマットはFcRnと結合する
タンデムフォーマットのヒトFcRnへの結合能を測定するため、ELISAを行った(
図2a)。FcRnは、IgG1のC
H2-C
H3エルボー領域に酸性pHでは結合し、中性pHでは結合も遊離もしないという、厳密にpH依存性の結合を示す(
図1b)ため、当該アッセイはpH5.5およびpH7.4で行った。その結果(
図13)、両タンデムバリアントは、受容体に対しpH依存性結合を示すが、IgA2-IgG1配向は逆の配向と比べてより強力な結合を示し、また、IgG1 WTと比べてもより強い結合を示すことが実証された。
これらのフォーマットにREWを導入した場合、pH5.5では強化された結合が測定されたが、pH7.4では結合程度は低いままであった。
【0234】
タンデムフォーマットは競合モデルにおいて半減期を延長した
生理的関連状況における抗体フォーマットのインビボ血漿中半減期を測定するため、前記抗体を、IVIgを前もって負荷したヒトFcRnトランスジェニックマウスに静脈内投与し、続いて血液試料を経時的に採取してから、ELISAによる定量を行った(
図2d)。
当該トランスジェニックマウスでは、マウスIgGがヒトFcRnと結合する能力が低いことに加え、当該マウスは、病原体フリーの飼育環境の結果、内因性マウスIgGのレベルが低い。そこで我々は、前記マウスにヒトIgGを注射し、高レベルのIgGがFcRnの結合およびリサイクルと競合する生理的関連状況を模倣した。
IgA2の血漿中半減期はわずか0.8日であったが(
図14)、IgA2-IgG1では半減期の増加が見られた(3.1日)。しかしながら、同じ特異性を有するIgG1では、若干長くなった半減期が測定されただけであった(4.4日)。前記タンデムフォーマット(IgA2-IgG1)にREW変異を導入したところ、IgG1の半減期と同様の半減期が測定された(4.5日)。
これらを総合すると、IgA2-IgG1タンデムフォーマットは、IgA2単独とは対照的に、FcRnの関与に競合する高レベルのヒトIgGの存在下、FcRnによって処理され、レスキューされる。IgA2-IgG1バリアントは、親型IgG1と比べて半減期が低下しているが、これは、REWを導入することで補われる。
【0235】
実施例2:代替の(伸長型)IgA Fc-IgG Fcタンデムフォーマットの設計
ここでは、IgA Fc由来およびIgG Fc由来の構造要素、具体的には、IgA2 FcとIgG1 Fcとの組み合わせはそのままである代替のタンデム設計であって、実施例1と同様に、FcγRおよびFcαRIの両方に対する効率的な関与を可能にするタンデム設計について報告する。このフォーマットは、IgA Fc(ここではIgA2 Fc)とIgG Fc(ここではIgG1 Fc)とを組み合わせたものであり、さらなるIgG1-CH1ドメインを含むことでより離間している(すなわち、伸長されたフォーマット)。具体的には、IgG1 Fabおよびヒンジ領域がIgA2 Fcに融合され、IgG1ヒンジ、IgG1 CH1ドメイン、第3のIgG1ヒンジ、そして全長IgG1 Fcがこれに続いている(このような構築物をIgG1 Fab
2-IgA2 Fc-H1-CH1-H1-IgG1 Fcと表記する、
図15参照)。当該設計をさらに前記REW Fc工学操作戦略とも組み合わせ、前記REW置換をC末端IgG1 Fcドメインに導入した。抗CD20特異性および抗HER2特異性は、IgG1 Fab2断片の形態である抗原結合断片によってもたらされる。
【0236】
材料および方法
抗体産生および精製については、実施例1に記載されている。CDCアッセイは、実施例1に記載されている通りに行った。
【0237】
結果
抗CD20 IgG1 Fab2-IgA2 Fc-H1-CH1-H1-IgG1 Fc(WTまたはREW)について、低レベルのCD20を発現するRaji細胞という形態の「殺傷が困難な」標的細胞に対するそのCDC媒介能を調べたところ、当該新規タンデムフォーマットは、IgA2-IgG1フォーマットならびにIgG1の殺傷活性よりも強力な殺傷活性をもたらした(
図16)。前記REW置換をC末端IgG1 Fcドメインに導入すると、CDC活性がさらに強化された。
これらの新たな伸長型CH-1含有フォーマットもまた、FcγRIIIa-Vについて試験した場合、実施例1に記載した本発明のIgA2-IgG1含有タンデム構築物およびIgG1-WTと同様に、Fcγ受容体に結合することが示された(データは示さず)。
【配列表】
【国際調査報告】