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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-31
(54)【発明の名称】単離された核酸分子およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/12 20060101AFI20241024BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20241024BHJP
   C12N 15/86 20060101ALI20241024BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20241024BHJP
   C12N 15/85 20060101ALI20241024BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20241024BHJP
   A61P 7/04 20060101ALI20241024BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20241024BHJP
   A61K 38/37 20060101ALI20241024BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20241024BHJP
   A61K 31/711 20060101ALI20241024BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20241024BHJP
【FI】
C12N15/12 ZNA
C12N15/113 Z
C12N15/86 Z
C12N15/864 100Z
C12N15/85 Z
C12N5/10
A61P7/04
A61K48/00
A61K38/37
A61K35/76
A61K31/711
A61K35/12
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024526801
(86)(22)【出願日】2022-11-01
(85)【翻訳文提出日】2024-06-27
(86)【国際出願番号】 CN2022128833
(87)【国際公開番号】W WO2023078220
(87)【国際公開日】2023-05-11
(31)【優先権主張番号】202111289091.1
(32)【優先日】2021-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524165078
【氏名又は名称】グリトゲン セラピューティクス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ユー トンフイ
(72)【発明者】
【氏名】ヤン ジョウ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン ジアンホン
(72)【発明者】
【氏名】シェン リージュン
(72)【発明者】
【氏名】ラオ イー
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4C084AA13
4C084DC15
4C084NA14
4C084ZA53
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA53
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB65
4C087BC83
4C087CA09
4C087CA12
(57)【要約】
【要約】
単離された核酸分子およびその使用を提供することを課題とする。該核酸分子は、肝臓特異的発現調節エレメントと、目的遺伝子とを含み、前記肝臓特異的発現調節エレメントは前記目的遺伝子の発現量および/または活性を増加させることができる。また、前記単離された核酸分子を含むベクター、診断用組成物または医薬組成物、およびそれらの使用も提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
肝臓特異的発現調節エレメントと、肝臓特異的発現調節エレメントに作動可能に連結された目的遺伝子とを、5’から3’方向にこの順に含む単離された核酸分子であって、前記肝臓特異的発現調節エレメントは、配列番号10に示される塩基配列を有する発現調節エレメントと比較して、前記目的遺伝子の発現レベルおよび/または活性を少なくとも50%増加させる、単離された核酸分子。
【請求項2】
前記肝臓特異的発現調節エレメントは、
a)イヌserpinA1遺伝子由来のプロモーターまたはその機能的断片、および
b)アフリカツメガエルアルブミン遺伝子由来のプロモーターまたはその機能的断片
を含む、請求項1に記載の単離された核酸分子。
【請求項3】
前記肝臓特異的発現調節エレメントは、配列番号1に示される塩基配列を含む、請求項1~2のいずれか一項に記載の単離された核酸分子。
【請求項4】
前記目的遺伝子の3’末端に位置するポリアデニル化シグナル配列を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の単離された核酸分子。
【請求項5】
前記ポリアデニル化シグナルは、一般的なハタネズミポリオーマウイルス(Common vole polyomavirus)に由来するポリアデニル化シグナルである、請求項4に記載の単離された核酸分子。
【請求項6】
前記ポリアデニル化シグナルは、一般的なハタネズミポリオーマウイルス(Common vole polyomavirus)分離株KS13に由来するポリアデニル化シグナルである、請求項4~5のいずれか一項に記載の単離された核酸分子。
【請求項7】
前記ポリアデニル化シグナルは、配列番号3に示される塩基配列を含む、請求項4~6のいずれか一項に記載の単離された核酸分子。
【請求項8】
前記目的遺伝子は、目的タンパク質をコードし、前記目的タンパク質はレポータータンパク質、治療用タンパク質および/または予防用タンパク質を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の単離された核酸分子。
【請求項9】
前記目的遺伝子は、Bドメイン欠失第VIII因子(FVIII)変異体をコードする、請求項1~8のいずれか一項に記載の単離された核酸分子。
【請求項10】
前記FVIII変異体は、配列番号7に示されるアミノ酸配列を含む、請求項9に記載の単離された核酸分子。
【請求項11】
前記目的遺伝子は、配列番号2または6に示される塩基配列を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の単離された核酸分子。
【請求項12】
前記肝臓特異的発現調節エレメント、前記目的遺伝子および前記ポリアデニル化シグナル配列を、5’から3’方向にこの順に含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の単離された核酸分子。
【請求項13】
前記肝臓特異的発現調節エレメントの5’末端および前記ポリアデニル化シグナル配列の3’末端に位置するAAV逆方向末端反復配列ITRをさらに含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の単離された核酸分子。
【請求項14】
前記AAV ITRは、AAV5およびAAV2からなる群から選択されるAAV血清型に由来する、請求項13に記載の単離された核酸分子。
【請求項15】
前記AAV ITRは、配列番号4~5のいずれかに示される塩基配列を含む、請求項13~14のいずれか一項に記載の単離された核酸分子。
【請求項16】
配列番号9に示される塩基配列を含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の単離された核酸分子。
【請求項17】
請求項1~16のいずれか一項に記載の単離された核酸分子を含む、ベクター。
【請求項18】
ウイルスベクターまたはポリヌクレオチドベクターである、請求項17に記載のベクター。
【請求項19】
プラスミド、コスミドまたはトランスポゾンである、請求項17~18のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項20】
AAVベクターを含むウイルスベクターである、請求項17~19のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項21】
前記AAVベクターは、AAV8ベクターである、請求項20に記載のベクター。
【請求項22】
請求項1~16のいずれか一項に記載の単離された核酸分子および/または請求項17~21のいずれか一項に記載のベクターを含む、宿主細胞。
【請求項23】
請求項1~16のいずれか一項に記載の単離された核酸分子、請求項17~21のいずれか一項に記載のベクター、および/または請求項22に記載の宿主細胞を含む、診断用組成物または医薬組成物。
【請求項24】
請求項1~16のいずれか一項に記載の単離された核酸分子または請求項17~21のいずれか一項に記載のベクターを宿主細胞に導入し、前記宿主細胞内で前記目的遺伝子を発現させることを含む、目的遺伝子の発現方法。
【請求項25】
請求項1~16のいずれか一項に記載の単離された核酸分子、請求項17~21のいずれか一項に記載のベクター、および/または請求項22に記載の宿主細胞を含む、キット。
【請求項26】
請求項1~16のいずれか一項に記載の単離された核酸分子もしくは請求項17~21のいずれか一項に記載のベクターを哺乳動物もしくは哺乳動物細胞に投与すること、または哺乳動物もしくは哺乳動物細胞を請求項1~16のいずれか一項に記載の単離された核酸分子もしくは請求項17~21のいずれか一項に記載のベクターに接触させることを含む、請求項1~16のいずれか一項に記載の単離された核酸分子を哺乳動物または哺乳動物細胞内に送達する方法。
【請求項27】
FVIII因子に関連する疾患または障害を治療、緩和および/または予防するための医薬品の調製における、請求項1~16のいずれか一項に記載の単離された核酸分子、請求項17~21のいずれか一項に記載のベクター、および/または請求項22に記載の宿主細胞の使用。
【請求項28】
前記疾患あるいは障害には、血友病A、血小板減少症および/または血液凝固疾患が含まれる、請求項27に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、バイオ医薬品分野に関し、特に、単離された核酸分子およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
分子生物学の発展に伴い、遺伝子治療は、肝臓のタンパク質合成の機能障害による関連疾患を含む、一連の障害や疾患の治療に実験的および臨床的に使用されてきた。肝臓はタンパク質の翻訳後修飾機能を備えているため、遺伝性血液疾患の遺伝子治療の重要な標的臓器となっており、肝臓遺伝子治療は、機能遺伝子を遺伝的欠陥のある個体に導入し、体内で長期間遺伝子を効率的に発現させることができる。しかし、現在の肝臓遺伝子治療を制限している主な要因は、肝臓における遺伝子の発現レベルが低いことであり、発現レベルが低い原因の一つは、転写活性が弱いことであり、生体内で遺伝子の高発現を高めるため、肝臓に高効率な発現調節配列を構築する必要があった。
【0003】
宿主細胞における目的遺伝子の発現を促進するため、通常、目的遺伝子は、目的遺伝子の発現に必要な各種調節エレメントも含む構築物に含まれる。これらの調節エレメントとしては、例えば、プロモーター、エンハンサー、開始シグナル、終結シグナル、および他の調節エレメントが挙げられる。エレメント間が理想的に共同して働くことにより、宿主細胞内での目的遺伝子の安定した発現を促進できるだけでなく、目的遺伝子の機能または活性を実現するのに十分な発現レベルを達成できる。プロモーターおよびその他の調節エレメントは、細胞型特異性、形質導入効率、発現レベルおよび持続時間を決定する。宿主細胞における目的遺伝子の高効率且つ安定した発現は達成しにくい可能性がある。したがって、宿主細胞における目的遺伝子の高効率且つ安定した発現に役立つ核酸分子またはベクターを開発することが急務になっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Sambrook et al.(1989)
【非特許文献2】Altschul et al.、J.Mol.Biol.215:403(1990)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願は、肝臓特異的発現調節エレメント、目的遺伝子(例えば、Bドメイン欠失FVIII変異体をコードするポリヌクレオチド)、およびポリアデニル化(polyadenylation)シグナル配列(例えばKs13 poly A)を含み得、該目的遺伝子が高い発現レベルおよび/または活性を有する、単離された核酸分子を提供する。本願の肝臓特異的発現調節エレメントは、配列番号10に示される塩基配列を使用した発現調節エレメントと比較して、目的遺伝子の発現レベルおよび/または活性を増加させることができる。本願のポリアデニル化シグナル配列は、配列番号8に示される塩基配列を使用したポリアデニル化シグナル配列と比較して、目的遺伝子の発現レベルおよび/または活性を増加させることができる。
【0006】
一態様において、本願は、肝臓特異的発現調節エレメントと、肝臓特異的発現調節エレメントに作動可能に連結された目的遺伝子とを、5’から3’方向にこの順に含む単離された核酸分子を提供し、前記肝臓特異的発現調節エレメントは、配列番号10に示される塩基配列を使用した発現調節エレメントと比較して、前記目的遺伝子の発現レベルおよび/または活性を少なくとも50%増加させる。
【0007】
いくつかの実施形態において、前記肝臓特異的発現調節エレメントは、a)イヌserpinA1遺伝子由来のプロモーターまたはその機能的断片、およびb)アフリカツメガエル(Xenopus laevis)アルブミン遺伝子由来のプロモーターまたはその機能的断片を含む。
【0008】
いくつかの実施形態において、前記肝臓特異的発現調節エレメントは、前記イヌserpinA1遺伝子由来のプロモーターまたはその機能的断片、前記アフリカツメガエルアルブミン遺伝子由来のプロモーターまたは機能的断片を、5’から3’方向にこの順に含む。
【0009】
いくつかの実施形態において、前記肝臓特異的発現調節エレメントは、配列番号1に示される塩基配列を含む。
【0010】
いくつかの実施形態において、前記単離された核酸分子は、前記目的遺伝子の3’末端に位置するポリアデニル化シグナル配列を含む。
【0011】
従来技術のポリアデニル化シグナル配列と比較して、前記ポリアデニル化シグナルは、前記目的遺伝子の発現レベルおよび/または活性を少なくとも20%(例えば少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも99%以上)増加させることができる。BGH poly Aおよび/またはsv40 poly Aと比較して、前記ポリアデニル化シグナルは、前記目的遺伝子の発現レベルおよび/または活性を少なくとも20%増加させることができる。
【0012】
いくつかの実施形態において、前記ポリアデニル化シグナルは、一般的なハタネズミポリオーマウイルス(Common vole polyomavirus)由来のポリアデニル化シグナルである。
【0013】
いくつかの実施形態において、前記ポリアデニル化シグナルは、一般的なハタネズミポリオーマウイルス(Common vole polyomavirus)分離株KS13由来のポリアデニル化シグナルである。
【0014】
いくつかの実施形態において、前記ポリアデニル化シグナルは、配列番号3に示される塩基配列を含む。
【0015】
いくつかの実施形態において、前記目的遺伝子は、目的タンパク質をコードし、前記目的タンパク質はレポータータンパク質、治療用タンパク質および/または予防用タンパク質を含む。
【0016】
いくつかの実施形態において、前記目的遺伝子は、Bドメイン欠失第VIII因子(FVIII)変異体をコードする。いくつかの実施形態において、前記目的遺伝子は、GFPをコードする。いくつかの実施形態において、前記目的遺伝子は、ルシフェラーゼをコードする。
【0017】
いくつかの実施形態において、前記FVIII変異体は、配列番号7に示されるアミノ酸配列を含む。
【0018】
いくつかの実施形態において、前記目的遺伝子は、配列番号2または6に示される塩基配列を含む。
【0019】
いくつかの実施形態において、前記単離された核酸分子は、前記肝臓特異的発現調節エレメント、前記目的遺伝子および前記ポリアデニル化シグナル配列を、5’から3’方向にこの順に含む。
【0020】
いくつかの実施形態において、前記単離された核酸分子は、肝臓特異的発現調節エレメントの5’末端および前記ポリアデニル化シグナル配列の3’末端に位置するAAV逆方向末端反復配列ITRをさらに含む。
【0021】
いくつかの実施形態において、前記AAV ITRは、AAV5およびAAV2からなる群から選択されるAV血清型に由来する。
【0022】
いくつかの実施形態において、前記AAV ITRは、配列番号4~5のいずれかに示される塩基配列を含む。
【0023】
いくつかの実施形態において、前記単離された核酸分子は、配列番号9に示される塩基配列を含む。
【0024】
別の態様において、本願は、前記単離された核酸分子を含むベクターを提供する。
【0025】
いくつかの実施形態において、前記ベクターは、ウイルスベクターまたはポリヌクレオチドベクターである。
【0026】
いくつかの実施形態において、前記ベクターは、プラスミド、コスミドまたはトランスポゾンである。
【0027】
いくつかの実施形態において、前記ベクターは、AAVベクターを含むウイルスベクターである。
【0028】
いくつかの実施形態において、前記AAVベクターは、AAV8ベクターである。
【0029】
別の態様において、本願は、前記単離された核酸分子および/または前記ベクターを含む宿主細胞を提供する。
【0030】
別の態様において、本願は、前記単離された核酸分子、前記ベクターおよび/または前記宿主細胞を含む診断用組成物あるいは医薬組成物を提供する。
【0031】
別の態様において、本願は、前記単離された核酸分子または前記ベクターを宿主細胞に導入し、前記宿主細胞内で前記目的遺伝子を発現させることを含む目的遺伝子の発現方法を提供する。
【0032】
別の態様において、本願は、前記単離された核酸分子、前記ベクターおよび/または前記宿主細胞を含むキットを提供する。
【0033】
別の態様において、本願は、前記単離された核酸分子もしくは前記ベクターを哺乳動物もしくは哺乳動物細胞に投与すること、または哺乳動物もしくは哺乳動物細胞を前記単離された核酸分子もしくは前記ベクターに接触させることを含む、前記単離された核酸分子を哺乳動物または哺乳動物細胞内に送達する方法を提供する。
【0034】
別の態様において、本願は、FVIII因子に関連する疾患または障害を治療、緩和および/または予防するための医薬品の調製における、前記単離された核酸分子、前記ベクターおよび/または前記宿主細胞の使用を提供する。
【0035】
いくつかの実施形態において、前記疾患または障害には、血友病A、血小板減少症および/または血液凝固疾患が含まれる。
【0036】
別の態様において、本願は、必要とする被験体に前記単離された核酸分子、前記ベクターおよび/または前記宿主細胞を投与することを含む、FVIII因子に関連する疾患または障害の治療、緩和および/または予防方法を提供する。
【0037】
いくつかの実施形態において、前記疾患または障害には、血友病A、血小板減少症および/または血液凝固疾患が含まれる。
【0038】
別の態様において、本願は、FVIII因子に関連する疾患または障害を治療、緩和および/または予防するための前記単離された核酸分子、前記ベクターおよび/または前記宿主細胞の使用を提供する。
【0039】
いくつかの実施形態において、前記疾患または障害には、血友病A、血小板減少症および/または血液凝固疾患が含まれる。
【0040】
当業者は、下記の詳細な説明から本願の他の態様および利点を容易に理解することができる。下記の詳細な説明では、本願の例示的な実施形態のみを示して説明する。当業者が理解するように、本願の内容により、当業者は、本願に係る発明の精神および範囲から逸脱することなく、開示された具体的実施形態に変更を加えることができる。また、本願の添付の図面および明細書における説明は、単に例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。
【0041】
本願に係る発明の具体的特徴は、添付の特許請求の範囲に記載されている。下記の詳細に説明する例示的な実施形態および図面を参照して本願に係る発明の特徴および利点をさらに理解することができる。図面を以下に簡単に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】本願の単離された核酸分子は、血友病AマウスのFVIII発現を回復させることができることを示す図である。
図2】異なる調節エレメント下での目的遺伝子FVIIIの発現活性を示す図である(GT001は、本願の特定の発現ベクター群、D2はpolyA置換後の発現ベクター群、D1はプロモーター置換後の発現ベクター群、ブランクコントロールはFVIIIノックアウト群を示し、野生型対照は野生マウス群を表す)。
図3】目的遺伝子を任意に発現させるための本願の発現核酸分子の発現活性を示す図である(野生型対照は、野生マウス群、ブランクコントロールはFVIIIノックアウト群、D1-F9はFIXの発現に用いられるプロモーター置換後の発現ベクター、GT001-F9はFIXの発現に用いられる本願の特定の発現ベクター群を表す)。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、特定の具体的実施例を挙げて本願の発明の実施形態を説明し、当業者は本明細書に開示された内容から本願の発明その他の利点および効果を容易に理解することができる。
【0044】
(用語定義)
本願において、「単離された」という用語は、生物学的成分(核酸分子、タンパク質、ウイルスまたは細胞など)が、天然に存在する環境内の他の細胞成分(例えば、他の染色体成分および染色体外のDNAとRNA、タンパク質と細胞)を実質的に含まないように精製されていることを意味する。単離された核酸分子およびタンパク質は、標準的な精製法によって精製された核酸分子およびタンパク質が含まれる。この用語は、宿主細胞内での組換え発現によって調製された核酸分子およびタンパク質、ならびに化学的に合成された核酸分子およびタンパク質も包含する。
【0045】
本願において、「イヌserpinA1遺伝子」という用語は、一般にα1-アンチトリプシンをコードする遺伝子を指す。場合によっては、イヌは、ラテン語名カニス・ルプス・ファミリーアス(Canis lupus familiaris)のイヌであり得る。別の場合には、「イヌserpinA1遺伝子」は、8番染色体(配列についてはNCBIアクセッション番号NC_006590.3を参照できる)の63,388,498~63,400,377番目に示される塩基配列又はその変異体を含み得る。「イヌserpinA1遺伝子」由来のプロモーターは、8番染色体下流鎖の63,398,647~63,398,492番目に示される塩基配列またはその変異体を含み得る。
【0046】
本願において、「アフリカツメガエルアルブミン遺伝子」という用語は、一般に、GenBankアクセッション番号Z26825.1に示される核酸配列を含むことを意味する。そのプロモーターは、上記配列の1540~1605番目の塩基配列を含み得る。
【0047】
本願において、「コドン」という用語は、所定のアミノ酸をコードしている3つのヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチドを意味する。遺伝コードの縮退があるため、いくつかのアミノ酸は複数のコドンによってコードされている。同じアミノ酸をコードするこれらの異なるコドンの相対的使用頻度は、個々の宿主細胞において異なる。したがって、ある特定のアミノ酸は、異なるコドンのセットによってコードされ得る。同様に、あるポリペプチドのアミノ酸配列も、異なる核酸によってコードされ得る。したがって、ある特定のアミノ酸は、異なるコドンのセットによってコードされてよく、これらのコドンのそれぞれは、所与の宿主細胞内で、ある使用頻度を有する。本願において、「コドン最適化」という用語は、ポリペプチドをコードする核酸中の1つ、少なくとも1つ、または複数のコドンを、対応する細胞における相対的使用頻度が異なるコドンで置換することを意味する本願において、「コドン最適化されたポリヌクレオチド」という用語は、ポリペプチドをコードする親核酸中の1つ、少なくとも1つ、または複数のコドンを、その細胞における相対的使用頻度が異なり、且つ、同じアミノ酸残基をコードするコドンで置換することにより得た、細胞における改良された発現を有するよう改変された、ポリペプチドをコードする核酸を意味する。
【0048】
本願において、「FVIII」および「FVIII因子」という用語は、一般に血液凝固第VIII因子を指し、FVIIIは効果的な血液凝固に必要なタンパク質であり、凝固における補因子機能を発揮し得る。約100ng/mlの血中FVIII濃度は正常範囲内であると考えられる。FVIIIの欠乏は血友病Aに関連しており、被験体の血液1ミリリットル当たりFVIIIの量が約1ng未満の場合に重篤な疾患を引き起こす。
【0049】
本願において、「FVIII変異体」という用語は、一般に、野生型FVIIIに基づいて特定の改変を受けたタンパク質を指し、この改変には、Bドメインの欠失を含む。すなわち、FVIII変異体とは、Bドメインが欠失したFVIIIタンパク質を意味する。
【0050】
本願において、「プロモーター」という用語は、一般に下流(3’末端)または上流(5’末端)の核酸配列の転写を駆動するために必要な核酸配列を指す。プロモーターは通常、それによって転写される遺伝子の近くに位置する。 プロモーターはまた、転写の開始部位から数千塩基対も離れた位置にあり得る、ターミナルエンハンサーまたはリプレッサーエレメントを含み得る。
【0051】
本願において、「機能的断片」という用語は、より大きな対応物(例えば、プロモーター)と同じ活性または能力を保持するポリペプチドまたはポリヌクレオチドの断片を意味する。機能的断片の活性レベルは、より大きな対応物の活性レベルと同じであってもよく、小さくてもよく、または大きくてもよい。例えば、プロモーターの機能的断片は、プロモーターよりも少ないポリヌクレオチドで構成されている可能性があるが、それでも転写を促進する能力を保持している。
【0052】
本願において、「目的遺伝子」という用語は、一般に核酸分子、ベクター、宿主細胞またはキットに含まれ、遺伝子産物をコードできる外来性DNAまたはcDNAを指す。遺伝子産物は、機能または活性を有する、ポリペプチド、タンパク質またはポリヌクレオチド(例えばアンチセンスDNA、miRNA、siRNA、shRNA)であり得る。
【0053】
本願において、「レポータータンパク質」という用語は、一般に生化学的性質を通じて分析的に識別可能なシグナルを提供することで、検出を可能にするタンパク質を意味する。一般的に使用されるレポータータンパク質は、酵素、蛍光団、化学発光タンパク質、および電気化学発光タンパク質などであり得る。
【0054】
本願において、「治療用タンパク質」という用語は、一般に疾患、病状または障害を治療、予防、または緩和するために用いられることができるタンパク質を意味する。
【0055】
本願において、「予防用タンパク質」という用語は、一般に病態または疾患の何らかの症状が検出される前に、この病態または疾患を予防するために用いられることができるタンパク質を意味する。
【0056】
本願において、「作動可能に連結された」という用語は、一般に第1の核酸配列と第2の核酸配列が機能的関係にある場合、第1の核酸配列が第2の核酸配列に作動可能に連結されていることを意味する。例えば、プロモーターがコード配列の転写または発現に影響を及ぼす場合、プロモーターはコード配列に作動可能に連結される。
【0057】
本願において、「ポリアデニル化シグナル配列」、「polyAシグナル配列」という用語は、一般に特定の核酸配列セグメントの一次転写物の切断およびポリアデニル化を誘導するための核酸配列を指す。ポリアデニル化シグナル配列は、SV40、ウシ成長ホルモン(BGH)遺伝子、免疫グロブリン遺伝子、およびチミジンキナーゼ遺伝子(tk、例えば単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼポリアデニル化シグナル)由来のポリアデニル化シグナル配列から選択され得る。
【0058】
本願において、「ベクター」という用語は、一般に挿入された核酸分子を宿主細胞中および/または宿主細胞間で移入する、適切な宿主細胞内で自己複製できる核酸分子を指す。ベクターには、主にDNAまたはRNAを細胞に挿入するためのベクター、主にDNAまたはRNAを複製するためのベクター、ならびに主にDNAまたはRNAの転写および/または翻訳の発現に用いられるベクターが含まれ得る。ベクターには、上記の各種機能を有するベクターも含まれ得る。ベクターは、適切な宿主細胞に導入された時、転写され、ポリペプチドに翻訳され得るポリヌクレオチドであってもよい。通常、ベクターを含む適切な宿主細胞を培養することにより、ベクターは、所望の発現産物を産生することができる。
【0059】
本願において、「AAVベクター」または「ウイルスベクター」という用語は、一般に天然に存在する、入手可能なアデノ随伴ウイルス、および人工AAVに由来するベクターを指す。AAVには、異なる血清型AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12もしくはAAV13、および任意のAAV変異体または混合物が含まれ得る。通常、AAVゲノムの両端には逆方向末端反復配列(ITR)がある。「ITR」または「逆方向末端反復配列」という用語は、AAVの溶解および潜伏ライフサイクルを完了するのに必要なT字型回文構造を形成する、AAVおよび/または組換えAAVに存在する核酸配列のセグメントを指す。
【0060】
本願において、「宿主細胞」という用語は、一般に核酸配列で形質転換されているか、または形質転換され得ることで目的遺伝子を発現する、哺乳類細胞などの細胞を指す。「宿主細胞」には親細胞およびその子孫細胞が含まれ、ここで、目的遺伝子の導入が可能であるか、あるいは目的遺伝子がすでに存在する限り、子孫細胞が元の親細胞と形態または遺伝子構造において同一であるかどうかに関係なく、その子孫細胞が含まれる。
【0061】
したがって、本願は、1つ以上の生物学的活性を保持する遺伝子およびタンパク質の変異体(例えば、本明細書に記載のタンパク質をコードするポリヌクレオチドの変異体)を含む。タンパク質またはポリペプチドのこのような変異体は、タンパク質またはポリペプチドが変更されたまたは追加の特性を有するように、組換えDNA技術で改変された、もしくは改変され得るタンパク質またはポリペプチドを含む。例えば、変異体は、タンパク質に血漿中でのタンパク質の安定性を向上させるか、タンパク質の活性を向上させる。変異体は、参照配列、例えば天然に存在するポリヌクレオチド、タンパク質、またはペプチドとは異なる場合がある。ヌクレオチド配列レベルでは、天然に存在する変異遺伝子および非天然に存在する変異遺伝子は、参照遺伝子と典型的には少なくとも約50%同一、より典型的には少なくとも約70%同一、さらにより典型的には少なくとも約80%同一である(90%以上の同一性)を示す。アミノ酸配列レベルでは、天然に存在する変異タンパク質および非天然に存在する変異タンパク質は、参照タンパク質と典型的にはと少なくとも約70%同一、より典型的には少なくとも約80%同一、さらにより典型的には少なくとも約90%以上同一であるが、ほとんど同一でない領域(例えば、60%未満、50%未満、さらには40%未満など、70%未満の同一性部分)は、非保存領域内で許容される。他の実施形態において、配列は、参照配列と少なくとも60%、70%、75%以上同一である(例えば、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%以上の同一性)。ポリヌクレオチド、タンパク質またはポリペプチドにヌクレオチドおよびアミノ酸の変化を導入する手順は当業者に知られている(例えば非特許文献1参照)。
【0062】
本願において、用語「配列類似性」、「同一性」、「相同性」およびこれらの変形文法は、一般に2つ以上の実体が「整列した」配列である場合、同一であることを指す。したがって、例えば、2つのポリペプチド配列が同じである場合、それらは、少なくとも参照される領域または部分内に同じアミノ酸配列を有する。2つのポリヌクレオチド配列が同じである場合、それらは、少なくとも参照される領域または部分内に同じポリヌクレオチド配列を有する。同一性は、配列の所定ゾーン(領域またはドメイン)を含む場合がある。同一性の「ゾーン」または「領域」は、参照される2つ以上の実体の同じ部分を指す。したがって、2つのタンパク質または核酸配列が1つ以上の配列ゾーンまたは領域内で同じである場合、これらは、この領域内で同一性を有する。「整列した」配列とは、参照配列と比較して、欠失または付加がなされた塩基またはアミノ酸(ギャップ)を含むことが多い、複数のポリヌクレオチドまたはタンパク質(アミノ酸)配列を指す。2つの配列間の同一性(相同性)の程度は、コンピュータプログラムと数学的アルゴリズムを使用して確認できる。配列同一性(相同性)のパーセントを計算するアルゴリズムは、一般に比較される領域またはゾーンにおける配列ギャップおよび不一致を計算するために使用される。例えば、BLAST(例えばBLAST2.0)検索アルゴリズム(例えばNCBIを通じて公的に入手可能な特許文献2を参照)は、以下のような例示的な検索パラメータを有する:不一致-2、ギャップオープン5、ギャップ伸長2。
【0063】
本願において、本願では、「キット」という用語は、一般に試薬と他の材料の組み合わせを指す。キットは、試薬、例えば緩衝液、タンパク質安定化試薬、シグナル発生システム(例えば、蛍光シグナル発生システム)、抗体、対照タンパク質、および試験容器(例えば、マイクロタイタープレートなど)を含むことが意図される。「キット」という用語は、試薬および/または他の材料の特定の組み合わせに限定されることを意図したものではない。一実施形態において、キットは試薬の使用説明書も含む。検査キットは、任意の適切な方法で包装することができ、一般に単一の容器または(必要に応じて)複数の容器に入った成分および試験を実施するための説明書を具備する。いくつかの実施形態において、キットは、陽性対照サンプルも含むことが好ましい。当技術分野で知られているさまざまな方法でキットを製造することができる。
【0064】
本願において、「投与」という用語は、一般に当技術分野で知られている任意の経路を経由して、物質(例えば、本願の単離された核酸分子またはベクター)を、それを必要とするヒトまたは動物に送達することを意味する。医薬担体および製剤または組成物も当技術分野において一般的に知られている。投与経路には、静脈内、筋肉内、皮内、皮下、経皮、粘膜、腫瘍内、もまたは粘膜が含まれ得る。あるいは、これらの用語は、本願の単離された核酸分子またはベクターを細胞もしくは培養細胞および/または被験体の細胞もしくは臓器に送達することを示してもよい。このような投与または導入は、インビボ、インビトロ、または先にインビボ、次にインビトロで起こり得る。以下の方法により本願の単離された核酸分子またはベクターを細胞に導入することができる。トランスフェクション(一般に物理的手段(例えば、リン酸カルシウムトランスフェクション、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、もしくはリポフェクション)により、異種DNAを細胞に挿入することを指す)、感染(一般に感染因子(すなわち、ウイルス)による導入を指す)、または形質導入(一般にウイルスによる細胞の安定した感染、もしくはウイルス因子(例えば、バクテリオファージ)を通じたある微生物から別の微生物への遺伝物質の移入を指す)
【0065】
本願において、「接触」という用語は、一般に当技術分野で知られている任意の経路を経由して物質(例えば、本願の単離された核酸分子またはベクター)を被験体(例えば、哺乳動物または哺乳動物細胞)に導入し、生体内(in vivo)で物質を細胞と接触させることを意味する。接触は、直接的であっても間接的であってもよい。例えば、マイクロインジェクションによる細胞の直接注入である。別の例として、細胞の周囲の培地中に提供されるか、または被験体に投与されることにより生体内(in vivo)で物質を細胞と接触させることができる。
【0066】
本願において、「血友病」という用語は、一般に血液凝固障害を指す。「血友病A」は、一般に機能的第VIII因子を欠乏する個体におけるX連鎖劣性遺伝の障害(recessive X-linked gene disorder)を指す。
【0067】
本願において、「含む」という用語は、一般に明示的に指定された特徴を含むことを意味するが、他の要素を排除することを意味するものではない。
【0068】
本願において、「約」という用語は、一般に、指定の値の0.5%~10%上下の範囲内の変動、例えば0.5%、1%、1.5%、2%、2.5%、3%、3.5%、4%、4.5%、5%、5.5%、6%、6.5%、7%、7.5%、8%、8.5%、9%、9.5%、または10%の範囲内の変動を指す。
【0069】
単離された核酸分子
肝臓特異的発現調節エレメント
一態様において、本願は、肝臓特異的発現調節エレメントと、肝臓特異的発現調節エレメントに作動可能に連結された目的遺伝子とを含む単離された核酸分子を提供し、肝臓特異的発現調節エレメントは、配列番号10に示される塩基配列を使用した発現調節エレメントと比較して、目的遺伝子の発現レベルおよび/または活性を少なくとも50%増加させることができる。例えば、肝臓特異的発現調節エレメントは、目的遺伝子の発現レベルまたは活性を少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%増加させることができる。発現レベルは、肝臓もしくは肝細胞において測定することができ、または血液においても測定することができる。
【0070】
本願において、「発現調節エレメント」という用語は、一般に作動可能に連結されたポリヌクレオチドの発現に影響を与えるエンハンサーおよびプロモーターなどの核酸配列を指す。これらのエレメントは、シスまたはトランスに作動できる。発現調節は、転写、翻訳、スプライシング、メッセージ安定性などのレベルで機能できる。通常、転写を調節する発現調節エレメントは、転写されたポリヌクレオチドの5’末端(すなわち、「上流」)の近くに並置される。発現調節エレメントはまた、転写された配列の3’末端(すなわち、「下流」)、または転写物内(例えば、イントロン内)に位置し得る。発現調節エレメントの具体例は、プロモーターであり、プロモーターは一般に転写された配列の5’末端に位置する。発現調節エレメントには、多くの異なる細胞型においてポリヌクレオチドの発現を促進することができる遍在性または無差別プロモーターも含まれ得る。「組織特異的発現調節エレメント」という用語は、一般に肝臓、脳、中枢神経系、脊髄、目、または肺などの特定の組織または細胞において活性を示す発現調節エレメントを指す。
【0071】
本願の肝臓特異的発現調節エレメントは、プロモーターを含み得、プロモーターは目的遺伝子の5’末端に位置し、目的遺伝子に作動可能に連結されていてもよい。プロモーターは、本願の単離された核酸分子の発現に影響を与えることができる。例えば、プロモーターは、転写、翻訳、スプライシング、メッセージ安定性などのレベルで機能することができ、これにより、多くの異なる細胞型における本願の単離された核酸分子の発現を駆動することができる。この出願において、プロモーターは肝臓特異的プロモーターであってもよい。肝臓特異的プロモーターとは、肝臓の組織や細胞において活性を示すプロモーターを指す。
【0072】
場合によっては、本願の肝臓特異的発現調節エレメントは、イヌserpinA1遺伝子由来のプロモーターまたはその機能的断片を含み得る。イヌserpinA1遺伝子由来のプロモーターは、野生型イヌserpinA1遺伝子由来のプロモーターの改変された変異体であってもよい。場合によっては、本願の発現調節エレメントは、アフリカツメガエルのビテロゲニンA2遺伝子由来のプロモーターまたはその機能的断片を含み得る。場合によっては、発現調節エレメントは、アフリカツメガエルアルブミン遺伝子由来のプロモーターまたはその機能的断片を含み得る。アフリカツメガエルアルブミン遺伝子由来のプロモーターは、野生型アフリカツメガエルアルブミン遺伝子由来のプロモーターの改変された変異体であってもよい。
【0073】
本願の肝臓特異的発現調節エレメントは、a)イヌserpinA1遺伝子由来のプロモーターまたはその機能的断片、およびb)アフリカツメガエルアルブミン遺伝子由来のプロモーターまたはその機能的断片を含み得、
場合によっては、肝臓特異的発現調節エレメントは、イヌserpinA1遺伝子由来のプロモーターまたはその機能的断片、アフリカツメガエルアルブミン遺伝子由来のプロモーターまたは機能的断片を、5’から3’方向にこの順に含む。
【0074】
更に、本願において、単離された核酸分子は、イントロンも含み得、イントロンは本願の単離された核酸分子の発現に影響を及ぼすことができる。例えば、イントロンは、転写、翻訳、スプライシング、メッセージ安定性などのレベルで機能することができ、これにより、多くの異なる細胞型における本願の単離された核酸分子の発現を駆動することができる。場合によっては、イントロンは、本願の単離された核酸分子の5’末端に位置することができる。例えば、イントロンはプロモーターの5’末端に位置し、プロモーターに作動可能に連結され得る。
【0075】
本願において、肝臓特異的発現調節エレメントは、配列番号1に示される塩基配列を含み得る。本願において、肝臓特異的発現調節エレメントは、配列番号1に示される塩基配列と少なくとも90%(例えば少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%)の同一性を有する核酸配列を含み得る。
【0076】
ポリアデニル化シグナル配列
本願において、単離された核酸分子は、ポリアデニル化シグナル配列、例えばSV40、ウシ成長ホルモン(BGH)遺伝子、ウサギβグロブリン(RBG)遺伝子、ポリオーマウイルスおよびチミジンキナーゼ遺伝子(TK)に由来するポリアデニル化シグナル配列またはそれらの変異体を含み得る。
【0077】
本願において、ポリアデニル化シグナル配列は、一般的なハタネズミポリオーマウイルス(Common vole polyomavirus)に由来するポリアデニル化シグナルであってもよい。いくつの実施形態において、ポリアデニル化シグナルは、一般的なハタネズミポリオーマウイルス(Common vole polyomavirus)分離株KS13由来のポリアデニル化シグナルである。
【0078】
例えば、ポリアデニル化シグナル配列は、配列番号3に示される塩基配列、または配列番号3に示される塩基配列と少なくとも90%(例えば少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%)の同一性を有する核酸配列を含み得る。
【0079】
ポリアデニル化シグナル配列(例えば、KS13-polyAシグナル配列)は、ベクター中の目的遺伝子の発現レベルおよび/または活性を少なくとも20%増加させることができる。例えば、ポリアデニル化は、目的遺伝子の発現レベルまたは活性を少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%増加させることができる。発現レベルは、肝臓もしくは肝細胞において測定することができ、または血液においても測定することができる。
【0080】
場合によっては、SV40、BGH遺伝子、RBG遺伝子、ポリオーマウイルスおよびTK遺伝子に由来するポリアデニル化シグナル配列またはそれらの変異体と比較して、ポリアデニル化シグナル配列(例えばKS13-polyAシグナル配列)は、ベクター中の目的遺伝子の発現レベルおよび/または活性を少なくとも20%増加させることができる。
【0081】
本願において、単離されたポリヌクレオチドは、肝臓特異的発現調節エレメントおよびポリアデニル化シグナル配列を含み得、肝臓特異的発現調節エレメントは配列番号1に示される塩基配列を含み得、ポリアデニル化シグナル配列は配列番号3に示される塩基配列を含み得る。
【0082】
目的遺伝子
本願において、単離された核酸分子は、肝臓特異的発現調節エレメントに作動可能に連結された目的遺伝子をさらに含み得る。肝臓特異的発現調節エレメントおよび目的遺伝子は、直接隣り合っていてもよいし、挿入されたヌクレオチドにより分離されていてもよい。場合によっては、肝臓特異的発現調節エレメントと目的遺伝子は、イントロン(例えば本願のイントロン)により分離され得る。場合によっては、肝臓特異的発現調節エレメントと目的遺伝子との間にイントロンが含まれない。
【0083】
本願の目的遺伝子は、ポリペプチド、タンパク質、もしくはポリ核酸をコードすることができ、またはそれ自体が、機能的もしくは活性なポリ核酸、例えばアンチセンスDNAおよびRNA(例:miRNA,siRNA及びshRNA)を含むアンチセンス核酸もしくは阻害性オリゴヌクレオチドに転写されることもできる。場合によっては、目的遺伝子は、レポータータンパク質を含む目的タンパク質をコードすることができる。レポータータンパク質は、酵素、蛍光標識、放射性同位体含有分子、および化学発光分子または電気化学発光分子であり得る。レポータータンパク質の例としては、緑色蛍光タンパク質(GFP)、蛍光強化型緑色蛍光タンパク質(eGFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、蛍光強化型黄色蛍光タンパク質(eYFP)、シアン蛍光タンパク質(CFP)、蛍光強化型シアン蛍光タンパク質(eCFP)、青色蛍光タンパク質(BFP)、蛍光強化型青色蛍光タンパク質(eBFP)、MmGFP(Zernicka-Goetz et al.、Development、124:1133-1137、1997)、dsRed、ルシフェラーゼおよびβ-ガラクトシダーゼ(lacZ)が挙げられるが、これらに限定されない。例えば、ホタルルシフェラーゼおよびウミシイタケルシフェラーゼであり得る。
【0084】
いくつかの他の場合には、目的遺伝子は、治療用遺伝子であり得る。治療用遺伝子は、治療用ペプチド、治療用ポリペプチド、治療用タンパク質、または治療用ポリ核酸をコードすることができる。治療用ペプチド、治療用ポリペプチド、あるいは治療用タンパク質は、欠陥のある内因性ペプチド、ポリペプチド、もしくはタンパク質の機能を回復または置換するために使用できるペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質であり得る。場合によっては、治療用タンパク質または治療用ポリ核酸は、宿主細胞における1種以上のタンパク質またはポリ核酸の発現レベルおよび/または活性を変化するために用いられることができる。
【0085】
いくつかの他の場合には、目的遺伝子は、予防用遺伝子であり得る。予防用遺伝子は、予防用ペプチド、予防用ポリペプチド、予防用タンパク質、または予防用ポリ核酸をコードすることができる。予防用ペプチド、予防用ポリペプチド、または予防用タンパク質は、欠陥のある内因性ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質の機能を回復または置換するために使用できるペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質であり得る。場合によっては、予防用タンパク質または予防用ポリ核酸は、宿主細胞における1種以上のタンパク質またはポリ核酸の発現レベルおよび/または活性を変化するために用いられることができる。
【0086】
場合によっては、目的タンパクは、細胞代謝、免疫応答、造血機能、炎症応答、細胞成長および/もしくは増殖、細胞分化、ならびに/またはストレス応答に関与または影響を与えることができる。目的タンパク質の例としては、FVIII因子、FIX因子、FVII因子、FX因子、インターフェロン-α、インターフェロン-β、インターフェロン-γ、インターロイキン1(IL-1)、インターロイキン2(IL-2)、インターロイキン3(IL-3)、インターロイキン4(IL-4)、インターロイキン5(IL-5)、インターロイキン6(IL-6)、インターロイキン7(IL-7)、インターロイキン8(IL-8)、インターロイキン9(IL-9)、インターロイキン10(IL-10)、インターロイキン11(IL-11)、インターロイキン12(IL-12)、ケモカイン(CXCモチーフ)リガンド5(CXCL5)、顆粒球コロニー形成刺激因子(G-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)、幹細胞因子(SCF)、ケラチノサイト成長因子(KGF)、単球走化性タンパク質-1(MCP-1)、腫瘍壊死因子(TNF)、アファミン(afamin(AFM))、α-ガラクトシダーゼA、aL-イズロニダーゼ、リソソームα-グルコシダーゼ、フェニルアラニンヒドロキシラーゼ、リポ蛋白リパーゼ、アポリポ蛋白、低密度リポタンパク質受容体(LDL-R)、アルブミン、グルコース-6-ホスファターゼ、抗体、ナノボディ、抗ウイルスドミナント不活化タンパク質(antiviral dominant inactivated proteins)、およびこれらの断片、サブユニットまたは突然変異体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0087】
本願において、目的遺伝子は第VIII因子(FVIII)をコードすることができる。例えば、目的遺伝子は、Bドメインが欠失した第VIII因子(FVIII)変異体をコードすることができる。例えば、FVIII変異体は、配列番号7に示されるアミノ酸配列、または配列番号7に示されるアミノ酸配列と少なくとも90%(例えば少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%)の同一性を有するアミノ酸配列を含み得る。
【0088】
本願において、目的遺伝子は配列番号6に示される塩基配列、または配列番号6に示される塩基配列と少なくとも90%(例えば少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%)の同一性を有する塩基配列を含み得る。
【0089】
本願において、目的遺伝子は、コドン最適化されたポリヌクレオチドであり得る。本願において、目的遺伝子は、配列番号2に示される塩基配列、または配列番号2に示される塩基配列と少なくとも90%(例えば少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%)の同一性を有する塩基配列を含み得る。
【0090】
本願において、単離されたポリヌクレオチドは、肝臓特異的発現調節エレメント、目的遺伝子およびポリアデニル化シグナル配列を、5’末端から3’末端の方向にこの順に含み得、肝臓特異的発現調節エレメントは配列番号1に示される塩基配列を含み得、ポリアデニル化シグナル配列は配列番号3に示される塩基配列を含み得る。
【0091】
本願において、単離されたポリヌクレオチドは、肝臓特異的発現調節エレメント、目的遺伝子、およびポリアデニル化シグナル配列を、5’末端から3’末端の方向にこの順に含み得、肝臓特異的発現調節エレメントは配列番号1に示される塩基配列を含み得、ポリアデニル化シグナル配列は配列番号3に示される塩基配列を含み得、目的遺伝子はFVIIIタンパク質をコードし得る。例えば、目的遺伝子は、配列番号2または6に示される塩基配列を含んでもよい。
【0092】
その他のエレメント
本願において、単離された核酸分子の特定の成分(例えば、発現調節エレメントおよび/または目的遺伝子)をベクター(例えば、AAVベクター)にパッケージングすることを容易にするため、 例えば単離された核酸分子の特定の成分(例えば、発現調節エレメントおよび/または目的遺伝子)をAAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12またはAAV13ベクターにパッケージングすることができる。例えば、単離された核酸分子の特定の成分(例えば、発現調節エレメントおよび/または目的遺伝子)をAAV8ベクターにパッケージングすることができる。
【0093】
本願の単離された核酸分子は、エンハンサーの5’末端およびポリアデニル化シグナル配列の3’末端に位置し得るAAV逆方向末端反復配列ITRをさらに含み得る。AAV ITRは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12またはAAV13、およびにこれらの天然あるいは人工変異体を含むがこれらに限定されない、AAVの任意の血清型に由来することができる。野生型AAV ITRと比較して、本願のAAV ITRに含まれる核酸配列は、ヌクレオチドの挿入、欠失、および/または置換を受けた核酸配列であってもよい。更に、単離された核酸分子の AAV ITRは、所望の機能(例えば、遺伝子治療において目的遺伝子を複製およびパッケージングできる)を有する限り、異なる血清型もしくは異なる血清型に由来するものであってもよい。場合によっては、本願のAAV ITRは、AAV5およびAAV2からなる群から選択されるAAV血清型に由来し得る。例えば、AAV ITRは、配列番号4~5のいずれかに示される塩基配列を含み得る。
【0094】
特定の場合において、塩基配列は、クローニング技術により調製することも、合成的に生成することもでき、増幅法によっても調製できる。増幅方法には、ポリメラーゼ連鎖反応 (PCR)、リガーゼ連鎖反応 (LCR)、転写ベース増幅システム(TAS)、および自立配列複製システム (self-sustained sequence replication system、3SR) が含まれる。多くのクローニング方法、合成方法、増幅方法が当技術分野において一般的に知られている。
【0095】
本願において、本願の単離された核酸分子は、肝臓特異的発現調節エレメント、目的遺伝子およびポリアデニル化シグナル配列を、5’末端から3’末端の方向にこの順に含み得る。場合によっては、ポリアデニル化シグナル配列は、KS13-polyAシグナル配列であってもよい。例えば、本願の単離された核酸分子は、肝臓特異的発現調節エレメント、目的遺伝子およびKS13-polyAシグナル配列を、5’末端から3’末端の方向にこの順に含み得る。
【0096】
例えば、本願の単離された核酸分子は、配列番号9に示される塩基配列を含み得る。
【0097】
ベクター、宿主細胞および方法
別の態様において、本願は、本願に記載の単離された核酸分子を含み得るベクターも提供する。ベクターは、ウイルスベクター、例えばAAVベクター(例えば、AAV8ベクター)、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルスまたは肝炎ウイルスベクターであり得る。ベクターは、ポリヌクレオチドベクター、例えばプラスミド、コスミドまたはトランスポゾンであってもよい。
【0098】
適用可能なベクターは、広範囲に記載されており、当技術分野において一般的に知られている。当業者は、本願の単離された核酸分子を含むベクターが、原核細胞および/または真核細胞におけるベクターの複製に必要とされる他の配列およびエレメントも含み得ることを理解するであろう。例えば、本願のベクターは、原核生物レプリコン、すなわち、原核生物宿主細胞(例えば、細菌宿主細胞)において宿主自身の複製および維持を誘導する能力を有する塩基配列を含み得る。レプリコンは、当技術分野において一般的に知られている。場合によっては、ベクターは、ベクターを原核生物および真核生物における複製および組み込みに適したものにするシャトルエレメントを含み得る。更に、ベクターは、検出可能なマーカーを発現できる遺伝子(例えば、薬剤耐性遺伝子)を含んでもよい。ベクターは、レポーター遺伝子、例えば、蛍光タンパク質または他の検出可能なタンパク質をコードできる遺伝子を有していてもよい。
【0099】
場合によっては、ベクターは、ウイルスベクター、例えばAAV、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、および肝炎ウイルスであり得る。ベクターゲノムの一部として核酸分子(例えば、本願の単離された核酸分子)を含むウイルスベクターを産生する方法は当技術分野において一般的に知られており、当業者が過度の実験を行う必要がなく行うことができる。他の場合には、ベクターは、本願の単離された核酸分子をパッケージングする組換えAAVビリオンであってもよい。組換えAAVを産生する方法は、本願の単離された核酸分子をパッケージング細胞株に導入して、AAV cap遺伝子およびrep遺伝子のヘルパー機能を提供すること、ならびにパッケージング細胞株から組換えAAVを回収することを含み得る。さまざまな種類の細胞をパッケージング細胞株として使用できる。
【0100】
別の態様において、本願は、本願に記載の単離された核酸分子またはベクターを含み得る宿主細胞を提供する。場合によっては、宿主細胞は、核酸分子またはベクターを増幅、複製、パッケージング/または精製するために用いられることができる。他の場合には、宿主細胞は、単離された核酸分子またはベクターに含まれる目的遺伝子を発現するために用いられることができる。例えば、本願の単離された核酸分子またはベクターを宿主細胞、例えば肝臓細胞に導入することができる。当業者は、単離された核酸分子またはベクターを宿主細胞に導入するのに必要な条件、および細胞内での目的遺伝子の発現を支持または促進する条件を理解するであろう。また、この方法は、インビボまたはインビトロの方法であってもよい。
【0101】
宿主細胞には、原核細胞および真核細胞が含まれ得る。場合によっては、宿主細胞は哺乳動物宿主細胞であり得る。例えば、宿主細胞を使用してウイルスベクターをパッケージングする場合、宿主細胞は1種以上のプラスミドでトランスフェクトされるか、またはパッケージングに必要なアクセサリー分子(accessory molecules)を提供できる1種以上のウイルスで感染させることもできる。他の場合には、宿主細胞はゲノムから1種以上のアクセサリー分子を安定して発現できる。当業者であれば、本願のベクターの増幅、複製、パッケージングおよび/または精製に適した宿主細胞を選択することができる。特定の例では、単離された核酸分子またはベクターが目的遺伝子を発現できるようにするために、宿主細胞は、肝臓由来の細胞、例えばHUH7およびHepG2細胞、もしくは被験体から分離された肝細胞であり得る。
【0102】
別の態様において、本願は、本願に記載の単離された核酸分子または本願に記載のベクターを宿主細胞に導入し、目的遺伝子を宿主細胞内で発現させることを含む、目的遺伝子発現方法も提供する。
【0103】
医薬組成物およびキット
別の態様において、本願は、本願に記載の単離された核酸分子、ベクター、または宿主細胞を含む診断用組成物あるいは医薬組成物も提供する。AAVベクターおよびその他の組成物、薬剤、薬物、生物製剤(タンパク質)、例えば、薬学的に許容される担体、賦形剤、希釈剤およびアジュバントは、本願の診断用組成物および医薬組成物に組み込むことができる。担体、賦形剤、希釈剤およびアジュバントとしては、緩衝剤、抗酸化剤、タンパク質、親水性ポリマー、アミノ酸、単糖類、二糖類および他の炭水化物、キレート剤、糖アルコール、塩形成対イオン(salt-forming counter ions)、および/または非イオン性界面活性剤が挙げられる。
【0104】
組成物が核酸分子または核酸分子ベクター(例えば、プラスミド)を含有する場合、核酸分子または核酸分子ベクターは、「裸のDNA(naked DNA)」として存在してもよく、またはマイクロ粒子もしくはナノ粒子(リポソーム、ミセル、脂質粒子、セラミック/無機粒子、ウイルス様粒子を含む)などの送達ベクターにおいて調製されてもよい。
【0105】
本願の医薬組成物、方法および使用は、必要とする被験体に十分な量または有効量で投与することができる。「有効量」または「十分な量」とは、単回用量もしくは多数回用量で、単独で、または1種以上の他の組成物(薬物などの治療薬)、治療、レジメン、もしくは治療レジメン、薬剤と組み合わせて、任意の期間(長期もしくは短期)にわたって検出可能な反応、任意の測定可能なもしくは検出可能な程度、または任意の期間(例えば、数分間、数時間、数日間、数ヶ月間、数年間あるいは治癒するまで続く)にわたって期待されたもしくは所望の結果もしくは利益をもたらす量を意味ずる。投与経路は、特に限定されない。例えば、治療有効量の核酸分子またはベクターは、筋肉内、膣内、静脈内、腹腔内、皮下、表皮(epidermally)、皮内、直腸、眼内、経肺、頭蓋内、骨内、経口、口腔、または鼻腔を経由して被験者に投与できる。核酸分子またはベクターは、単回用量または多数回用量で、異なる間隔で投与することができる。
【0106】
別の態様において、本願は、単離された核酸分子、ベクター、および/または宿主細胞を含むキットも提供する。キットは、一般に成分の説明、もしくはその中の成分をインビトロ、インビボ、もしくはエクスビボ(indirectly in vivo)で使用する説明を含むラベルまたは説明書を包括する。
【0107】
使用および用途
別の態様において、本願は、単離された核酸分子もしくはベクターを哺乳動物もしくは哺乳動物細胞に投与すること、または哺乳動物もしくは哺乳動物細胞を単離された核酸分子もしくはベクターに接触させることを含む、単離された核酸分子を哺乳動物または哺乳動物細胞内に送達する方法を提供する。
【0108】
例えば、前記方法は、本願の単離された核酸分子もしくはベクターを哺乳動物もしくは哺乳動物の分泌細胞に投与すること、または哺乳動物もしくは哺乳動物の分泌細胞を単離された核酸分子もしくはベクターに接触させることを含む。別の例として、前記方法は、本願の単離された核酸分子もしくはベクターを哺乳動物もしくは哺乳動物の内皮細胞に投与すること、または哺乳動物もしくは哺乳動物の内皮細胞を単離された核酸分子もしくはベクターに接触させることを含む。
【0109】
投与には、静脈内、筋肉内、皮内、皮下、経皮、粘膜、腫瘍内または粘膜などの経路を経由した投与が含まれ得る。投与方法には、トランスフェクション、感染または形質導入も含まれ得る。
【0110】
接触は、直接的であっても間接的であってもよい。例えば、マイクロインジェクションによる細胞の直接注入である。別の例として、細胞の周囲の培地中に提供されるか、または被験体に投与されることにより生体内で物質を細胞と接触させることができる。
【0111】
別の態様において、本願は、FVIII因子に関連する疾患または障害を治療、緩和および/または予防するための医薬品の調製における、単離された核酸分子、ベクターまたは宿主細胞の使用も提供する。疾患または障害には、血友病A、血小板減少症および/または血液凝固疾患が含まれる。
【0112】
別の態様において、本願は、必要とする被験体に単離された核酸分子、ベクターまたは宿主細胞を投与することを含む、FVIII因子に関連する疾患または障害の治療、緩和および/または予防方法も提供する。疾患または障害には、血友病A、血小板減少症および/または血液凝固疾患が含まれる。
【0113】
別の態様において、本願は、FVIII因子に関連する疾患または障害を治療、緩和および/または予防するための単離された核酸分子、ベクターまたは宿主細胞の使用も提供する。疾患または障害には、血友病A、血小板減少症和/あるいは血液凝固疾患が含まれる。
【0114】
いかなる理論にも拘束されることなく、以下の実施例は、目的遺伝子の発現レベルを増加させる本願の核酸分子およびその使用などを例示するためのものであって、本願の発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【実施例
【0115】
(実施例1.組換えAAVベクターの作製)
核酸分子の各エレメントの塩基配列
本願の単離された核酸分子は、5’から3’方向への順で以下を含む:
肝臓特異的発現調節エレメント(配列番号1)、
目的遺伝子(配列番号2)、
KS13-polyAシグナル配列(配列番号3)、および
肝臓特異的発現調節エレメントの5’末端およびKS13-polyAの3’末端にはそれぞれAAV ITRがある(核酸配列はそれぞれ5’ITR:配列番号4;3’ITR:配列番号5)。
【0116】
この核酸分子をGT001と命名した。
【0117】
対照核酸分子D1の構築:GT001内の肝臓特異的発現調節エレメントを配列番号10で示される塩基配列を有するプロモーターで置き換えた。
【0118】
対照核酸分子D2の構築:GT001内のKS13-polyAシグナル配列をSPA、SV40あるいはBGHのpoly Aの塩基配列で置き換えた。
【0119】
AAV8ベクターのパッケージング
HEK293細胞を直径4x10/100mlの濃度で10%FBS含有DMEM培地のプレートに播種し、5%CO下の37℃湿潤環境にて一晩培養した。翌日、本願の核酸分子または対照核酸分子、AAV8カプシドタンパク質およびヘルパープラスミドを含むPEIトランスフェクション混合物を調製し、次いで、このトランスフェクション混合物を細胞培養培地に添加して、トランスフェクションしてから6時間後、培地を10%FBS含有DMEMに交換し、トランスフェクションの72時間後に細胞を回収した。100mM塩化ナトリウム、2mM塩化マグネシウムおよび10mMトリスを含有する緩衝液(pH=8)に細胞を再懸濁し、-80℃で保存した。
【0120】
AAV8ベクターの精製と定量分析
rAAV8を含むHEK-293細胞の凍結融解を3回繰り返し、50U/mLBenzonaseを加え、37℃で30分間処理してカプセル化されていないDNAを除去し、3000gで10分間遠心分離して細胞をペレット化させ、上清を超遠心のために移し替えた。イオジキサノール遠心分離システムを準備し、10mlシリンジを使用してイオジキサノール溶液を4つの濃度勾配17%、25%、40%、60%の順序で33ml Optiseal tube(Beckman)に加えた。各濃度のイオジキサノール溶液(6mlの17%、6mlの25%、5mlの40%、4mlの60%)をOptisealチューブの底からゆっくりと加えた。添加後、Optisealチューブの上部にサンプル名を表記し、40%と60%の境界に線を引いた。次に、テストチューブを使用して上清を慎重に遠心管に加え、53000g、14℃で2時間40分間遠心分離した。
【0121】
あらかじめマークした線(40%と60%の境界線)に沿って5mlシリンジの針をOptisealチューブに挿入し、40%部分の溶液(約2~3ml)を吸引して新しい15mlチューブに移した。 ウイルス溶液を平衡化した100K Centrifuge filterに加え、1xPBS(10-4 F188)を約50ml ラインまで加え、3500rpmで10分間遠心分離した。廃液を除去し、さらに1xPBS(10-4 F188)をトップまで加え、3500rpmで10分間遠心分離した。この操作を3回繰り返した。300~500μlの1xPBS(10-4 F188)を加えてウイルスを回収し、1.5mlのEPチューブに移した。次に、説明書に従いキットを使用して、精製されたAVVベクターゲノムについてqPCR定量分析を実施し、ウイルス原液の力価を測定した。
【0122】
(実施例2 血友病Aマウスモデルに対する本願の単離された核酸分子の修復能力)
実施例1で得られた組換えAAV8ベクターを、血友病Aモデルマウスに4×1011vg/kgの用量で尾静脈より注射し、それぞれ注射2週間後に血清中のFVIII活性を測定し、マウスの症状を測定した。結果は、図1に示すように、本願の単離された核酸分子GT001が血友病AマウスのFVIII発現を回復できることを示している。
【0123】
(実施例3 本願の単離された核酸分子の発現活性の検出)
同様に、実施例1で得られた対照核酸分子D1およびD2、ならびに本願の単離された核酸分子GT001をAAV8でパッケージングし、組換えAAV8ベクターを血友病Aモデルマウスに尾静脈から注射してFVIII発現を回復させた。結果は、対照核酸分子D1およびD2と比較して、本願の単離された核酸分子GT001のFVIII変異体の発現活性が増加していることを示している。
【0124】
図2は、異なる調節エレメント下での目的遺伝子FVIIIの発現活性を示している。例えば、本願のプロモーターを対照プロモーターに置換して構築したD1は、本願の特定の発現ベクターよりも発現効果が著しく低く、別の例として、本願のpolyAシグナル配列をSPA polyAなどの対照polyAで置換して得られたD2の発現効果は、本願の特定の発現ベクターよりも著しく低い。結果は、本願の特定の単離された核酸分子GT001がFVIII発現を回復できることを示している。
【0125】
(実施例4 本願の単離された核酸分子の発現活性の検出)
本願の発現核酸分子中のFVIII遺伝子をFIX遺伝子などの他の目的遺伝子で任意に置換することによって、本願の発現核酸分子は発現活性を増加させる同様の効果を示すことができた。
【0126】
図3は、目的遺伝子を任意に発現させるための本願の発現核酸分子の発現活性を示す。
各種分子をAAV8でパッケージングし、組換えAAV8ベクターを血友病Bモデルマウスに6×1011vg/kgの用量で尾静脈より注射し、注射2週間後に血清中のFIX活性を測定した。結果は、本願の特定の単離された核酸分子GT001の目的遺伝子をFIX遺伝子に置換して得たGT001-F9分子が、血友病BマウスにおけるFIX発現を回復できることを示す。対照分子D1(対照プロモーターを含む)内の目的遺伝子をFIX遺伝子に置換して得たD1-F9分子では、発現効果は本願の特定の発現ベクターよりも著しく低かった。
【0127】
前述の詳細な説明は、解釈および例として提供されたものであり、添付の特許請求の範囲を限定することを意図したものではない。本願に記載の実施形態に対する多種多様な変化は当業者にとって明らかであり、添付の特許請求の範囲およびその均等物の範囲内に収める。
図1
図2
図3
【配列表】
2024540349000001.xml
【手続補正書】
【提出日】2024-07-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
肝臓特異的発現調節エレメントと、肝臓特異的発現調節エレメントに作動可能に連結された目的遺伝子とを、5’から3’方向にこの順に含む単離された核酸分子であって、前記肝臓特異的発現調節エレメントは、配列番号1に示される塩基配列を含む、単離された核酸分子。
【請求項2】
前記目的遺伝子の3’末端に位置するポリアデニル化シグナル配列を含む、請求項1に記載の単離された核酸分子。
【請求項3】
前記ポリアデニル化シグナルは、一般的なハタネズミポリオーマウイルス(Common vole polyomavirus)に由来するポリアデニル化シグナルである、請求項に記載の単離された核酸分子。
【請求項4】
前記ポリアデニル化シグナルは、一般的なハタネズミポリオーマウイルス(Common vole polyomavirus)分離株KS13に由来するポリアデニル化シグナルである、請求項2に記載の単離された核酸分子。
【請求項5】
前記ポリアデニル化シグナルは、配列番号3に示される塩基配列を含む、請求項2に記載の単離された核酸分子。
【請求項6】
前記目的遺伝子は、目的タンパク質をコードし、前記目的タンパク質はレポータータンパク質、治療用タンパク質および/または予防用タンパク質を含む、請求項1に記載の単離された核酸分子。
【請求項7】
前記目的遺伝子は、Bドメイン欠失第VIII因子(FVIII)変異体をコードする、請求項1に記載の単離された核酸分子。
【請求項8】
前記FVIII変異体は、配列番号7に示されるアミノ酸配列を含む、請求項に記載の単離された核酸分子。
【請求項9】
前記目的遺伝子は、配列番号2または6に示される塩基配列を含む、請求項1に記載の単離された核酸分子。
【請求項10】
前記肝臓特異的発現調節エレメントの5’末端および前記ポリアデニル化シグナル配列の3’末端に位置するAAV逆方向末端反復配列ITRをさらに含む、請求項2に記載の単離された核酸分子。
【請求項11】
前記AAV ITRは、AAV5およびAAV2からなる群から選択されるAAV血清型に由来する、請求項10に記載の単離された核酸分子。
【請求項12】
前記AAV ITRは、配列番号4~5のいずれかに示される塩基配列を含む、請求項10に記載の単離された核酸分子。
【請求項13】
配列番号9に示される塩基配列を含む、請求項1に記載の単離された核酸分子。
【請求項14】
請求項1に記載の単離された核酸分子を含む、ベクター。
【請求項15】
ウイルスベクターまたはポリヌクレオチドベクターである、請求項14に記載のベクター。
【請求項16】
プラスミド、コスミドまたはトランスポゾンである、請求項14に記載のベクター。
【請求項17】
AAVベクターを含むウイルスベクターである、請求項14に記載のベクター。
【請求項18】
前記AAVベクターは、AAV8ベクターである、請求項17に記載のベクター。
【請求項19】
請求項1に記載の単離された核酸分子を含む、宿主細胞。
【請求項20】
請求項1~13のいずれか一項に記載の単離された核酸分子、請求項1418のいずれか一項に記載のベクター、および/または請求項19に記載の宿主細胞を含む、診断用組成物または医薬組成物。
【請求項21】
請求項1~13のいずれか一項に記載の単離された核酸分子または請求項1418のいずれか一項に記載のベクターを宿主細胞に導入し、前記宿主細胞内で前記目的遺伝子を発現させることを含む、目的遺伝子の発現方法。
【請求項22】
請求項1~13のいずれか一項に記載の単離された核酸分子、請求項1418のいずれか一項に記載のベクター、および/または請求項19に記載の宿主細胞を含む、キット。
【請求項23】
請求項1~13のいずれか一項に記載の単離された核酸分子もしくは請求項1418のいずれか一項に記載のベクターを哺乳動物もしくは哺乳動物細胞に投与すること、または哺乳動物もしくは哺乳動物細胞を請求項1~13のいずれか一項に記載の単離された核酸分子もしくは請求項1418のいずれか一項に記載のベクターに接触させることを含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の単離された核酸分子を哺乳動物または哺乳動物細胞内に送達する方法。
【請求項24】
FVIII因子に関連する疾患または障害を治療、緩和および/または予防するための医薬品の調製における、請求項1~13のいずれか一項に記載の単離された核酸分子、請求項1418のいずれか一項に記載のベクター、および/または請求項19に記載の宿主細胞の使用。
【請求項25】
前記疾患あるいは障害には、血友病A、血小板減少症および/または血液凝固疾患が含まれる、請求項24に記載の使用。
【請求項26】
配列番号1に示される塩基配列を含む、肝臓特異的発現調節エレメント。
【国際調査報告】