(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-31
(54)【発明の名称】Si含有アノードを有する、プレリチウム化されたリチウム金属酸化物リチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20241024BHJP
H01M 10/0565 20100101ALI20241024BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20241024BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20241024BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20241024BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20241024BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20241024BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20241024BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20241024BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20241024BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20241024BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0565
H01M10/0562
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/36 E
H01M4/38 Z
H01M4/48
H01M4/587
H01M4/131
H01M4/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024526830
(86)(22)【出願日】2022-10-12
(85)【翻訳文提出日】2024-07-04
(86)【国際出願番号】 US2022046362
(87)【国際公開番号】W WO2023101760
(87)【国際公開日】2023-06-08
(32)【優先日】2021-11-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513089291
【氏名又は名称】パシフィック インダストリアル デベロップメント コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】タン,ビン
(72)【発明者】
【氏名】リャオ,ユハオ
(72)【発明者】
【氏名】ラジェフスキー,アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】ウー,ウェイ
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ03
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AM03
5H029AM07
5H029AM12
5H029AM16
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ05
5H029HJ19
5H050AA08
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA29
5H050CB02
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB29
5H050DA02
5H050DA03
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA05
5H050HA19
(57)【要約】
充電可能電池で使用可能な電気化学セルは、正極と、負極とを備える。正極は、集電体と、プレリチウム化されたカソード活物質とを有し、プレリチウム化されたカソード活物質は、Li
1+xMn
2O
4と、Li
1+xNi
0.5Mn
1.5O
4と、Li
1+xNiO
2と、Li
1+xCoO
2と、Li
1+xNi
aCo
bMn
cAl
dO
2とのうちの1つ以上から形成されており、ここで、xは0.1~1.0の範囲であり、a+b+c+d=1、a≧0.5、0≦b≦0.3、0≦c≦0.3、0≦d≦0.05である。負極は、集電体と、少なくとも炭素とシリコン物質の混合物を含むアノード活物質とを有し、シリコン物質は、シリコン金属、SiO
y、又は、これらの混合物又は複合体であり、yは、0≦y<2の範囲にあり、炭素は、グラファイト、ソフトカーボン、又はハードカーボンである。セルの正極は、初回サイクルクーロン効率(CE
cathode)を示し、負極は、初回サイクルクーロン効率(CE
anode)を示し、CE
cathodeはCE
anodeよりも小さい。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
充電可能な電気化学セルであって、該電気化学セルは、
正極であって、
該正極は、集電体と、プレリチウム化されたカソード活物質とを有し、
前記プレリチウム化されたカソード活物質は、Li
1+xMn
2O
4と、Li
1+xNi
0.5Mn
1.5O
4と、Li
1+xNiO
2と、Li
1+xCoO
2と、Li
1+xNi
aCo
bMn
cAl
dO
2とのうちの1つ以上を含み、
ここで、xは0.1~1.0の範囲であり、a+b+c+d=1、a≧0.5、0≦b≦0.3、0≦c≦0.3、0≦d≦0.05である、
正極と、
負極であって、
該負極は、集電体と、少なくとも炭素とシリコン物質の混合物を含むアノード活物質とを有する、
負極と
を備え、
前記シリコン物質は、シリコン金属、SiO
y、又は、これらの混合物又は複合体であり、
yは、0≦y<2の範囲にあり、
前記炭素は、グラファイト、ソフトカーボン、又はハードカーボンであり、
前記正極は、初回サイクルクーロン効率(CE
cathode)を有し、
前記負極は、初回サイクルクーロン効率(CE
anode)を有し、
前記CE
cathodeは前記CE
anodeよりも小さい、
充電可能な電気化学セル。
【請求項2】
請求項1又は2に記載のセルであって、
前記プレリチウム化されたカソード活物質のxは、0.3~0.6の範囲である、
セル。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のセルであって、
前記正極は、追加のカソード活物質をさらに有し、
これにより、前記混合物では、前記プレリチウム化されたカソード活物質と前記追加のカソード活物質の質量比は、99.9:0.1~1:99の範囲にある、
セル。
【請求項4】
請求項3に記載のセルであって、
前記プレリチウム化されたカソード活物質と前記追加のカソード活物質の質量比は、99.9:0.1~約51:49の範囲にある、
セル。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のセルであって、
前記アノード活物質では、シリコン物質と炭素の質量比は、約10:90~約99.9:0.1の範囲にある、
セル。
【請求項6】
請求項5に記載のセルであって、
シリコン物質と炭素の前記質量比は、約20:80~約40:60の範囲にある、
セル。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のセルであって、
前記シリコン物質は、1マイクロメートル(μm)未満の平均粒子径を有する、
セル。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載のセルであって、
前記シリコン物質は、1μm~4μmの平均粒子径を有する、
セル。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか1項に記載のセルであって、
前記シリコン物質は、4μmを超える平均粒子径を有する、
セル。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載のセルであって、
前記アノード活物質中の前記炭素は、グラファイトである、
セル。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載のセルであって、
前記セルは、電解質をさらに有し、
前記電解質は、不燃性有機電解質か、重合体(polymeric)電解質又はゲル電解質か、無機電解質か、又は、これらの組み合わせである、
セル。
【請求項12】
請求項11に記載のセルであって、
前記電解質は、不燃性ゲル電解質である、
セル。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載のセルであって、
前記セルは、3.0mAh/cm
2以上の面積当たりの可逆カソード容量負荷を有する、
セル。
【請求項14】
請求項13に記載のセルであって、
前記面積当たりの可逆カソード容量負荷は、4.5mAh/cm
2以上である、
セル。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか1項に記載のセルであって、
前記CE
cathodeは、前記CE
anodeよりも少なくとも1.0%~10%低い、
セル。
【請求項16】
請求項1~14のいずれか1項に記載のセルであって、
前記CE
cathodeは、前記CE
anodeよりも10%以上低い、
セル。
【請求項17】
請求項1~16のいずれか1項に記載のセルであって、
前記セルは、2回以上の形成サイクルでセル電圧が最大に達するように構成されており、
前記セル電圧は、各形成サイクル後に増加する、
セル。
【請求項18】
請求項1~16のいずれか1項に記載のセルであって、
前記セルが、2回以上の形成サイクルでセル電圧が最大に達するように構成されており、
前記セル電圧は、少なくとも1回の形成サイクル後に増加する、
セル。
【請求項19】
電気自動車で使用するの電池パックであって、
請求項1~18のいずれか1項に記載の複数のセルを備え、
前記複数のセルは、全体的な容量を増加させるために、直列構成又は並列構成で配置されている、
電池パック。
【請求項20】
充電可能な電気化学セルであって、該電気化学セルは、
正極であって、
該正極は、集電体と、プレリチウム化されたカソード活物質と、任意の追加のカソード活物質とを有し、
前記プレリチウム化されたカソード活物質は、Li
1+xMn
2O
4の式F-1に従い、ここで、xは0.1~1.0の範囲である、
正極と、
負極であって、
該負極は、集電体と、少なくともグラファイトとシリコン物質の混合物を含むアノード活物質を有する、
負極と
を備え、
前記シリコン物質は、シリコン金属、SiO
y、或いはそれらの混合物又は複合体であり、
yは、0≦y<2の範囲にあり、
前記アノード活物質では、シリコン物質とグラファイトの質量比は、約10:90~約99.9:0.1の範囲にあり、
前記正極は、初回サイクルクーロン効率(CE
cathode)を有し、
前記負極は、初回サイクルクーロン効率(CE
anode)を有し、
前記CE
cathodeは、
i)少なくとも1.0%、
ii)最大10%、又は、
iii)10%以上、
のいずれか1つの範囲に入る量だけ、前記CE
anodeよりも小さい、
充電可能な電気化学セル。
【請求項21】
請求項20に記載のセルであって、
前記正極は、追加のカソード活物質をさらに有し、
これにより、前記混合物では、前記プレリチウム化されたカソード活物質と前記追加のカソード活物質の質量比は、99.9:0.1~1:99の範囲にある、
セル。
【請求項22】
請求項20又は21に記載のセルであって、
前記シリコン物質は、
i)1マイクロメートル(μm)未満、
ii)1μm~4μmの間、又は
iii)4μmを超える、
のうちいずれか1つの範囲の平均粒子径を有する、
セル。
【請求項23】
請求項20~22のいずれか1項に記載のセルであって、
前記セルは、電解質をさらに有し、
前記電解質は、不燃性有機電解質か、重合体(polymeric)電解質又はゲル電解質か、無機電解質か、又は、これらの組み合わせである、
セル。
【請求項24】
請求項20~23のいずれか1項に記載のセルであって、
前記セルは、3.0mAh/cm
2以上の面積当たりの可逆カソード容量負荷を有する、
セル。
【請求項25】
請求項20~24のいずれか1項に記載のセルであって、
前記セルは、2回以上の形成サイクルでセル電圧が最大に達するように構成されており、
前記セル電圧は、各形成サイクル後又は少なくとも1回の形成サイクル後に増加する、
セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年11月3日に出願された米国仮出願第63/275,066号の、合衆国法典第35巻第119(e)条に基づく出願日の利益を主張する。この米国特許仮出願の内容の全体を参照により本明細書に援用する。
【0002】
本発明は、概して、充電可能な電池に関する。より具体的には、本開示は、充電可能な電池に使用可能な電気化学セルについて記載する。
【背景技術】
【0003】
本節の記載は、本開示に関連する背景情報を提供するものにすぎず、先行技術を構成しうるものではない。
【0004】
電気自動車(Electric vehicle、EV)は、内燃機関(Internal Combustion Engine、ICE)を搭載した車両に取って代わる可能性のある、次世代の車両になりつつある。電気自動車(EV)の主要部品は電池である。この電池は、車両のコスト、走行距離、安全性の大きな部分を占める。必要なエネルギー量を提供するために、EVで使用される電池は、通常は、複数のセルで構成されている。多くの場合、電池に使用されるセルの数は、数百個から数千個に及ぶ場合がある。充電が必要になるまでの車両の走行距離を伸ばし、且つ、車両の全体的な安全性を向上させるためには、個々のセルレベルでの電池のエネルギー密度と安全性を向上させる必要がある。
【0005】
EV用途で使用される従来のリチウムイオンセルは、アノード(例えばグラファイト等)、カソード(例えばリチウム金属酸化物/リン酸塩等)、LiPF6を含む有機電解質を備えている。従来のセルの問題点の1つは、熱暴走時に火災を引き起こす可能性があることであり、これは主に有機電解質とグラファイトアノードとの相互作用に起因する。さらに、アノードに使用されるグラファイト活物質は、限られた量の比容量(すなわち、理論値=372mAh/g)しか示さないため、セルのエネルギー密度が制限される。全体的な安全性を向上させ且つエネルギー密度を増やすために、電池業界は、固体電解質を含む不燃性電解質を使用するリチウム金属セルの開発に関心を持ち続けてきた。しかし、このタイプのセルの商業化には多くの課題がある。
【0006】
エネルギー密度を増加させるために、シリコンを単独で使用するか、グラファイトとブレンドして使用することができる。テスラ社の21700電池等のセルは、アノードのシリコン含有率が低い(すなわち、グラファイトに対して10重量%未満)市販のセルである。シリコン(Si)金属又はシリコン酸化物のさらに増加させることは、いくつかの理由により、市販のセルでは達成されていない。理由の1つは、シリコン又はシリコン酸化物とグラファイトとを含有するアノード物質の初回クーロン効率(CEanode)が80%未満であり、カソード物質の初回CEcathode(すなわち、92%超)よりもはるかに低いことに起因する。もう1つの理由は、適度な量又は大量のシリコン(例えば、10重量%以上)を含むセルのサイクル寿命が、アノードをプレリチウム化しないと比較的短いことである。しかし、アノード物質のプレリチウム化に利用可能な処理は、プレリチウム化された物質が脆くなり、空気中の水分や酸素に敏感になるため、費用対効果が高くない。したがって、適度な量又は大量のシリコン(例えば、10重量%以上)を含有するアノード活物質を製造するためには、低コストのプレリチウム化処理が望ましい。
【発明の概要】
【0007】
本開示は、概して、充電可能電池で使用可能な電気化学セルを提供する。この充電可能な電気化学セルは、正極と、負極とを備える。正極は、集電体と、プレリチウム化されたカソード活物質とを有し、プレリチウム化されたカソード活物質は、Li1+xMn2O4と、Li1+xNi0.5Mn1.5O4と、Li1+xNiO2と、Li1+xCoO2と、Li1+xNiaCobMncAldO2とのうちの1つ以上を含み、ここで、xは0.1~1.0の範囲であり、a+b+c+d=1、a≧0.5、0≦b≦0.3、0≦c≦0.3、0≦d≦0.05である。負極は、集電体と、少なくとも炭素とシリコン物質の混合物を含むアノード活物質とを有し、シリコン物質は、シリコン金属、SiOy、又は、これらの混合物又は複合体であり、
yは、0≦y<2の範囲にあり、炭素は、グラファイト、ソフトカーボン、又はハードカーボンである。正極は、初回サイクルクーロン効率(CEcathode)を有し、負極は、初回サイクルクーロン効率(CEanode)を有し、CEcathodeはCEanodeよりも小さい。望ましい場合は、プレリチウム化されたカソード活物質のxは、0.3~0.6の範囲である。
【0008】
正極は追加のカソード活物質をさらに有し、これにより、前記混合物では、前記プレリチウム化されたカソード活物質と前記追加のカソード活物質の質量比は、99.9:0.1~1:99の範囲にあってもよい。或いは、質量比は、99.9:0.1~約51:49の範囲にある。
【0009】
アノード活物質では、シリコン物質と炭素の質量比は、約10:90~約99.9:0.1の範囲にあってもよく、或いは、約20:80~約40:60の範囲にあってもよい。シリコン物質は、1マイクロメートル(μm)未満の平均粒子径を有してもよく、或いは、1μm~4μmの平均粒子径を有してもよく、或いは、4μmを超える平均粒子径を有してもよい。アノード活物質中の炭素は、グラファイトであってもよい。
【0010】
セルは、電解質をさらに有してもよい。電解質は、不燃性有機電解質か、重合体(polymeric)電解質又はゲル電解質か、無機電解質か、又は、これらの組み合わせであってもよい。或いは、電解質は、不燃性ゲル電解質である。
【0011】
セルは、3.0mAh/cm2以上の面積当たりの可逆カソード容量負荷を有してもよく、或いは、面積当たりの可逆カソード容量負荷は、4.5mAh/cm2以上であってもよい。また、CEcathodeは、CEanodeよりも少なくとも1.0%~10%低くてもよく、或いは、CEcathodeは、CEanodeよりも10%以上低くてもよい。
【0012】
セルは、2回以上の形成サイクルでセル電圧が最大に達するように構成されており、セル電圧は、各形成サイクル後に増加してもよい。或いは、セルが、2回以上の形成サイクルでセル電圧が最大に達するように構成されており、セル電圧は、少なくとも1回の形成サイクル後に増加する。
【0013】
本開示の別の態様によれば、電気自動車で使用する電池パックが提供される。電池パックは、一般的に、前述し且つここでさらに定義する複数のセルを備える。複数のセルは、全体的な容量を増加させるために、直列構成又は並列構成で配置されている。
【0014】
本開示の別の態様によれば、充電可能な電気化学セルが提供される。セルは、通常、正極と、負極とを備える。正極は、集電体と、プレリチウム化されたカソード活物質と、任意の追加のカソード活物質とを有し、プレリチウム化されたカソード活物質は、Li1+xMn2O4の式F-1に従い、ここで、xは0.1~1.0の範囲である。
負極は、集電体と、少なくともグラファイトとシリコン物質の混合物を含むアノード活物質を有し、シリコン物質は、シリコン金属、SiOy、或いはそれらの混合物又は複合体であり、ここで、yは0≦y<2の範囲にある。アノード活物質では、シリコン物質とグラファイトの質量比は、約10:90~約99.9:0.1の範囲にある。正極は、初回サイクルクーロン効率(CEcathode)を有し、負極は、初回サイクルクーロン効率(CEanode)を有し、CEcathodeは、i)少なくとも1.0%、ii)最大10%、又は、iii)10%以上、のいずれか1つの範囲に入る量だけ、CEanodeよりも小さい。セルは、3.0mAh/cm2以上の面積当たりの可逆カソード容量負荷を有する。セルは、2回以上の形成サイクルでセル電圧が最大に達するように構成されており、セル電圧は、各形成サイクル後又は少なくとも1回の形成サイクル後に増加する。このセルの正極は、追加のカソード活物質をさらに有し、これにより、混合物では、プレリチウム化されたカソード活物質と追加のカソード活物質の質量比は、99.9:0.1~1:99の範囲にある。このセルのシリコン物質は、i)1マイクロメートル(μm)未満、ii)1μm~4μmの間、又は、iii)4μmを超える、のうちいずれか1つの範囲の平均粒子径を有する。
【0015】
このセルは、電解質をさらに有してもよい。この電解質は、不燃性有機電解質か、重合体(polymeric)電解質又はゲル電解質か、無機電解質か、又は、これらの組み合わせであってもよい。
【0016】
適用可能なさらなる分野は、ここで与えられる説明から明らかになるであろう。なお、説明及び具体的な例は、説明のみを目的としており、本開示の範囲を制限することを意図したものではない。
【0017】
以下においては、本開示が十分に理解されるように、添付の図面を参照して、例示した本開示の様々な形態を説明する。各図面の構成要素は、必ずしも縮尺通りに描かれているわけではなく、むしろ本発明の原理を例示することに重点が置かれている。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本開示の教示における、アノード、カソード、電解質、及びセパレータを備える電気化学セルの模式図である。
【
図2】
図2は、アノード活物質を有する電極、カソード活物質を有する電極、及びフルセルの特性の計算を提供する表である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書に記載する図面は、図解の目的のみのものであり、本開示の範囲を限定することが意図されるものでは決してない。説明及び図面全体を通して、対応する参照符号は、類似の又は対応する部分及び特徴を示すことを理解されたい。
【0020】
以下の記載は、本質的に例示にすぎないものであり、いかなる方法においても本開示やその応用又は用途を限定することを意図するものではない。例えば、本明細書に記載された教示に従って調製且つ使用される電気化学セルは、電気自動車(EV)で使用するための電池セルとして、本開示全体を通して説明されるものであり、その目的は、各構造要素とその使用をより完全に例示説明するためである。このような電気化学セルを他の用途に組み込んで使用することは、「二次」リチウム電池等の他の充電可能電池のセルとして限定されることなく、且つ、本開示の範囲内であると考えられる。
【0021】
本明細書で使用される「電池セル」又は「セル」は、電池の基本的な電気化学的装置を指すものであり、電極と、セパレータと、電解質とを含む。対照的に、「電池」又は「電池パック」とは、セルの集合体、例えば1つ又は複数のセルを指し、この電池は、筐体と、電気的な接続と、場合によっては制御及び保護用の電子機器とを備えるものである。
【0022】
本開示の目的上、「約」及び「実質的に」という語は、本明細書においては、測定可能な値及び範囲に関して使用されるものであり、これは、当業者には既知の予想される変動(例えば、測定の限界及び変動性)に起因する。
【0023】
本開示の目的上、ある要素の「少なくとも1つ」及び「1つ又は複数」という場合は、これらの語は入れ替えて使用することができ、同じ意味を有する場合がある。単数の要素又は複数の要素を包含することを指すこれらの語は、要素の末尾に接尾語「(複数形)」で表すこともできる。例えば、「少なくとも1つの金属」、「1つ又は複数の金属」、及び「金属(複数形)」は、入れ替えて使用することができ、同じ意味を有することが意図される。
【0024】
本開示は、概して、充電可能セル(リチウムイオン電池用の二次電池等)におけるプレリチウム化されたカソード活物質の使用を提供する。
図1を参照すると、電気化学セルは、一般に、正極10と負極20を備える。正極10は、活物質(カソード)5と集電体7を有し、負極20は、活物質(アノード)15と集電体17を有する。さらに、セルは、リチウムイオンを含む非水系電解質30とセパレータ25を含む。これらの構成要素は全て、ケース、エンクロージャ、ポーチ、バッグ、円筒状のシェル等に密封されている(一般に電池の「筐体」と呼ばれる)。セパレータ25は、カソード5をアノード15から電気的に絶縁しながら、リチウムイオンがそれらの間を流れることを可能にする。イオンの流れは、セパレータ(すなわち、固体状態の反応機構を介して)によって導通されてもよく、又は、セパレータ25(膜など)の多数の孔に浸透する液体電解質30が存在することによって導通されてもよい。
【0025】
引き続き
図1を参照すると、カソード活物質5は、Li
1+xMn
2O
4、Li
1+xNi
0.5Mn
1.5O
4、Li
1+xNiO
2、Li
1+xCoO
2、Li
1+xNi
aCo
bMn
cAl
dO
2、Li
1+xFePO
4、Li
1+xFe
eMn
fPO
4の1つ以上を含むプレリチウム化された物質である。ここで、xは、0.1~1.0の範囲であり、a+b+c+d=1、a≧0.5、0≦b≦0.3、0≦c≦0.3、0≦d≦0.05、e+f=1.0、e<fである。アノード活物質15は、少なくともグラファイトとシリコン物質の混合物を含む。ここで、シリコン物質は、シリコン金属、SiO
y、又は、これらの混合物又は複合体であり、yは0≦y<2の範囲である。正極は初回サイクルクーロン効率(CE
cathode)を有し、負極は初回サイクルクーロン効率(CE
anode)を有し、CE
cathode<CE
anodeである。
【0026】
本明細書で使用されるクーロン効率(CE)は、放電容量(mAh/g)と充電容量(mAh/g)の比として定義される。各電極(すなわち、正極10又は負極20)それぞれにおいて、CEは、通常は、100%未満であり、特に初回の充放電サイクルでは、副反応の発生による不可逆容量損失のためにそのようになる。例えば、電気化学セルのアノード側(すなわち、負極20)では、有機電解質30が低電位範囲で分解し、アノード活物質15(すなわち、グラファイト又はシリコン粒子)の表面に固体電解質界面(Solid Electrolyte Interface、SEI)膜を形成する可能性があり、これは不可逆的に容量を消費する。電気化学セルのカソード側(すなわち、正極10)では、カソード活物質5の表面において電解質30の分解も発生するが、グラファイト/シリコンアノード活物質15で発生する分解よりも低いレベルで発生する。この分解は、不可逆的な結晶変化の形成をもたらす可能性もある。
【0027】
アノード活物質としてグラファイトを含有する従来の負極は、一般に、初回のサイクルで約95%のクーロン効率(CEanode)を示す。しかし、セルのエネルギー密度を増加させるために、負極のグラファイトにシリコンを添加すると、クーロン効率(CEanode)が90%以下に低下する。比較として、LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2(NCM-811)等のカソード活物質を含有する従来の正極は、初回のサイクルで約92%のクーロン効率(CEcathode)を示す。したがって、従来の正極でグラファイト/シリコンアノード活物質を使用すると、CEanode<CEcathodeであるセルが提供される。
【0028】
本開示によれば、フルセルの初回の充電プロセス中に必要なリチウムイオンを与えるために、プレリチウム化されたカソード活物質5が電気化学セル1で使用される。このプレリチウム化されたカソード活物質5を有する正極10の初回クーロン効率(CEcathode)は、グラファイト/シリコンアノード活物質15を有する負極20の初回クーロン効率(CEanode)よりも小さい。正極10と負極20のCEの差が十分に大きい場合、初回のカソード充電容量が初回のアノード充電容量よりも大きくなる状況を可能にするために、変更された充電手順を使用することができる。
【0029】
引き続き
図1を参照すると、本開示のプレリチウム化されたカソード活物質5は、従来のカソード活物質と同様に、充放電サイクル中の電子/リチウムイオンの貯蔵及び放出において活性な物質である。しかし、初回の放電工程中に取り込まれる電子及びリチウムイオンの量よりも、より多くの電子及びリチウムイオンを初回の充電工程において放出する。この初回の充電工程中に正極10から放出される余分な量の電子及びリチウムイオンは、負極20で発生する初回のサイクル容量損失を補うために、アノード活物質15によって吸収される。
【0030】
本開示の別の態様によれば、カソードの初回クーロン効率を低下させるために、プレリチウム化されたカソード活物質か、又は、プレリチウム化されたカソード活物質と別のアノード活物質とのブレンドが、正極に使用される。プレリチウム化されたカソード活物質中のリチウムの量は、プレリチウム化工程中に導入されるリチウム含有量を制御することによって定められるものであり、初回クーロン効率CEcathodeが90%以下、或いは80%以下、或いは70%以下となるようにする。プレリチウム化工程を受けることができるこのような従来のカソード活物質のいくつかの例としては、元のLiMn2O4、LiNi0.5Mn1.5O4、LiNiO2、LiCoO2、LiNiaCobMncAldO2が挙げられるが、これらに限定されない。ここで、xは0.1~1.0の範囲であり、a+b+c+d=1、a≧0.5、0≦b≦0.3、0≦c≦0.3、及び0≦d≦0.05である。プレリチウム化されたリチウム金属酸化物は、単独で使用することも、他のカソード活物質、例えば従来のカソード活物質と組み合わせて使用することもでき、プレリチウム化されたカソード活物質と他のカソード活物質との質量比は、用途の要件に応じて約99:9:0.1~約10:90の範囲である。或いは、プレリチウム化されたカソード活物質と従来の又は他のカソード活物質との質量比は、99.9:0.1~1:99であり、或いは、約95:5~約10:90の間であり、或いは、約90:10~約20:80の範囲であり、或いは、約80:20~約30:70の範囲であり、或いは、70:30~40:60であり、或いは、約60:40~約50:50であり、或いは、99.9:0.1よりも大きく約51:49までである。
【0031】
引き続き
図1を参照すると、正極10のカソード活物質5は、一般に、F-1に示す化学式を有するプレリチウム化された物質を含む。
Li
1+xMn
2O
4 (F-1)
ここで、xは、0.1≦x≦1.0の範囲内であり、或いは、0.3≦x≦0.6の範囲内である。市販されているLiMn
2O
4は、一般的にわずかに余分なリチウムを有するように形成されており、通常は最大5%であり、製造工程中に失われるリチウムの量を補うために常に10%よりも大幅に少ない。プレリチウム化されたカソード活物質5を本開示の「アノードレス」セル1で使用するためには、余分なリチウムの量は少なくとも10%以上である必要がある。この場合にのみ、アノードに利用可能な余分なリチウムの量があり、セル1に関連するサイクル寿命を改善又は向上させることができる。これは、例えば、式F-1でx≧0.1となるように、市販されているLiMn
2O
4中の余分なリチウムの量を増やす必要があることを意味する。
【0032】
式F-1(Li1+xMn2O4)に従ったプレリチウム化された活物質を使用することに加えて、本開示の範囲を超えずに、他のプレリチウム化されたリチウム金属酸化物系物質も単独で又は式F-1の物質と組み合わせて、電気化学セル設計で使用することができる。これらの他のプレリチウム化されたリチウム金属酸化物系物質としては、Li1+xNi0.5Mn1.5O4、Li1+xNiO2、Li1+xCoO2、又はLi1+xNiaCobMncAldO2(xは0.1~1.0の範囲であり、a+b+c+d=1、a≧0.5、0≦b≦0.3、0≦c≦0.3、及び0≦d≦0.05)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0033】
プレリチウム化された活物質は、1つ又は複数の炭素添加剤を含んでもよい。これらの炭素添加剤は、カーボンナノチューブ、グラフェン、グラファイト、カーボンブラック、及び任意の導電性炭素から選択することができる。プレリチウム化された活物質5から形成された正極10を有するセルは、3.0mAh/cm2以上の面積当たりの可逆カソード容量を有する必要がある。或いは、4.5mAh/cm2以上を有する必要がある。
【0034】
プレリチウム化されたカソード活物質5に10%~100%の余分なリチウムを組み込むと、LiMn2O4の結晶構造がスピネルから正方晶系に変化し、これはサイクル中にスピネルに戻すことができる。プレリチウム化されたカソード活物質5中のリチウム含有量が高すぎる場合(すなわち、式F-1でx>1.0)、充電中にスピネル結晶相に容易に戻すことができない非正方晶系の結晶相が形成され、セル1の可逆容量が低下する。
【0035】
プレリチウム化されたカソード活物質の調製は、市販の化合物を比較的穏やかな還元剤に暴露することによって、溶液中で行うことができる。市販の化合物としては、LiMn2O4等が挙げられるが、これらに限定されない。この還元剤としては、ブチルリチウム(例えば、n-BuLi、tert-BuLi)、リチウムナフタレン、又はヨウ化リチウムが挙げられるが、これらに限定されない。ブチルリチウムは、空気に暴露されている際は非常に反応性が高く、火災の危険性があることが知られている。火災の危険性を低減するために、より穏やかな還元剤、例えばリチウムナフタレン等を使用することが、カソード活物質のプレリチウム化においては好ましい。リチウムナフタレンの有機溶液は、空気に暴露されても大量の熱を発生させず、火災の危険性もないため、プレリチウム化されたカソード活物質の製造工程は、ブチルリチウムを使用するプロセスよりも経済的である。このように、製造工程の経済的な実現可能性(低コスト等)があることで、本開示により、プレリチウム化されたカソード活物質を有している、より低い初回CEを有するカソードの手に入り易さと利用性は実用化される。
【0036】
引き続き
図1を参照すると、電気化学セル1のアノード活物質15は、一般に、シリコン含有物質である。このアノード活物質15は、グラファイト、ソフトカーボン、ハードカーボン、又はこれらを組み合わせた形態の炭素と、ブレンド又は混合された様々なシリコン物質から選択することができる。或いは、炭素はグラファイトである。シリコン物質は、シリコン(Si)金属、シリコン酸化物(SiO
y)、又は、これらの組み合わせ、又は、これらから形成されたSi/SiO
y複合体から選択されるが、これらに限定されない。いくつかの具体的な例としては、Siナノ粒子、Siマイクロ粒子、SiO
yナノ粒子、SiO
yマイクロ粒子、Si/SiO
y複合粒子が挙げられるが、これらに限定されない。シリコン物質は、1マイクロメートル(μm)未満の平均粒子径(D50)を示してもよい。或いは、0.1μm~1μmの間、或いは、1μm~4μmの間、或いは、4μm超、或いは、4μm~50μmの間を示してもよい。
【0037】
純粋なシリコン(Si)金属アノード活物質を用いて負極を形成することによるエネルギー密度の利点は疑問視されており、その理由は、サイクル中に発生する体積膨張が大きく、純粋なシリコンアノード活物質に関連する脱リチウム化電位が高いからである。したがって、本開示によれば、アノード活物質は、シリコン物質と炭素の混合物又はブレンドであり、シリコン/炭素の質量比は、エネルギー密度の改善と良好なサイクル寿命を確保するために、10/90~99.9/0.1未満、或いは、15:85~80:20、或いは、20:80~40:60の範囲である。
【0038】
シリコンは、電気化学セルの動作中に発生する充電及び放電工程中に、大きな体積変化を示す。初回の充電工程中に、シリコン粒子ははるかに大きくなり、例えば、元のサイズの最大400%までになる。これらのシリコン粒子が膨張すると、電解質の分解により固体電解質界面(SEI)膜の形成をもたらす可能性のある新しい表面が生成される。その結果、純粋なシリコン電極の初回CEは約60%まで低くなる可能性がある。この低い初回CEでは、カソード物質の一部が可逆的に使用されなくなり、セルの全体的なエネルギー密度が低下する。アノード活物質とカソード活物質の両方を完全に利用するために、負極と正極からの初回CE値は、少なくとも同じである必要がある。したがって、純粋なシリコンアノード活物質を含む負極の初回CEと正極の初回CEを一致させるためには、正極の初回CEを60%に下げる必要がある。
【0039】
しかし、負極と正極からの初回CEを一致させることも、セルの全体的な性能にとって最良の方法ではない。なぜなら、セルのエネルギーとセルのサイクル寿命が依然として制限されているためである。サイクル中の純粋なシリコンアノード活物質の連続的な体積変化により、負極でCEがすでに100%未満である状態で新しいSEI膜が連続的に形成され、サイクル寿命が短くなる。この問題を克服するために、本開示のプレリチウム化されたカソード活物質を有する正極の初回CEを減少させ、正極が負極の初回クーロン効率(CEanode)よりも小さい初回クーロン効率(CEcathode)を示すようにする。この場合、フルセルの初回の充電工程中に、余分なリチウムがアノード活物質に挿入される。余分なリチウムは、サイクル中に電解質にゆっくりと戻って放出され、アノード活物質の表面で発生する連続的な電解質分解による容量損失を補い、それによって、セルのサイクル寿命を延ばすことができる。
【0040】
アノード活物質とカソード活物質は、活物質を1つ又は複数のバインダーと様々な質量比で混合することによって、負極と正極で使用するための所望の形状に形成することができる。例えば、追加のカソード活物質又は添加剤又はその両方の有無にかかわらず、プレリチウム化されたカソード活物質を含むカソード活物質は、バインダーと混合することができ、このバインダーには、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、カルボキシメチルセルロース(cmc)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアクリレート、又はそれらの混合物又はブレンドを含むが、これらに限定されない。炭素とシリコン物質の混合物を含むアノード活物質は、バインダーと混合することができ、このバインダーには、カルボキシメチルセルロース(cmc)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリル酸、ポリアクリレート、ポリイミド、又はそれらの混合物又はブレンド含むが、これらに限定されない。活物質(すなわち、アノード又はカソード)とバインダーの質量比は、70:30~99.9:0.1、或いは70:30~99:1、或いは80:20~99:1、或いは80:20~95:5の範囲であってもよく、活物質とバインダーの比率が大きいほど、より高いエネルギー密度を必要とする用途で使用される。
【0041】
正極10の集電体7は、リチウム電池の電極に使用するために当該技術分野で知られている任意の金属で作製することができ、例えば、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、銅、炭素、亜鉛、ガリウム、銀、及び、これらの組み合わせ又はこれらからなる合金が挙げられるが、これらに限定されない。負極20で使用される集電体17は、リチウムイオンと反応しない金属箔であってもよい。このような金属箔のいくつかの例としては、Cu、Fe、Ti、Ni、Mo、W、Zr、Mn、炭素、及びリチウム金属合金が挙げられるが、これらに限定されない。或いは、負極20の集電体17用の金属箔は、Cu、Fe、Ni、又は、これらの混合物又は合金を含む。1つ又は複数の正極10又は負極20又はその両方で使用される集電体7、17は、リチウムとの合金を形成可能な金属を少なくとも1つ有してもよい。
【0042】
図1を再び参照し、電解質30は、正極10と負極20との間に位置し且つそれらと接触しており、これにより、電解質30は、負極20と正極10との間におけるリチウムイオンの可逆的な流れを支持する。セパレータ25は、セパレータ25を通るリチウムイオンの可逆的な流れに対して透過性を有しつつも、正極10を負極20から電気的に絶縁するように構成されている。
【0043】
電解質は、任意の不燃性電解質であってもよい。或いは、電解質は、例えば、高濃度のリチウム塩が溶解された有機電解質等の、不燃性有機溶媒を含む液体電解質であってもよい。電解質は、重合体(polymeric)電解質又はゲル電解質であってもよく、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、又はそれらの混合物にリチウム塩が溶解されたもの等であるが、これらに限定されない。電解質は、無機電解質であってもよく、セラミック酸化物、ガラス、又は硫化物電解質が挙げられるが、これらに限定されない。
【0044】
リチウム塩のいくつかの具体例としては、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)、リチウムビス(オキサラト)ホウ酸塩(LiBOB)、及びリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSi)が挙げられるが、これらに限定されない。これらのリチウム塩は、有機溶媒と溶液を形成してもよく、いくつか例を挙げると、炭酸エチレン(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、炭酸ジエチル(DEC)、炭酸ジメチル(DMC)、炭酸プロピレン(PC)、炭酸ビニレン(VC)、及び炭酸フルオロエチレン(FEC)等がある。電解質の具体的な例としては、炭酸エチレンと炭酸ジエチルの混合物中の1モルのLiPF6溶液(EC/DEC=50/50体積%)である。
【0045】
セパレータ25は、アノード活物質15とカソード活物質5とが接触せず且つリチウムイオンがそこを流れるように確実にさせる。セパレータ25は、重合体(polymeric)膜であってもよく、この重合体(polymeric)膜は、半結晶構造を有するポリオレフィン系材料(ポリエチレン、ポリプロピレン、これらの混合物等)や、微多孔性ポリ(メチルメタクリレート)グラフト、シロキサングラフトポリエチレン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)ナノファイバーウェブを含むが、これらに限定されない。
【0046】
本開示で提示する具体例は、本発明の様々な実施形態を例示するためもののであり、本開示の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。本明細書に記載された実施形態は、明確で簡潔な明細書を書くことができるように説明してきたが、実施形態を様々に組み合わせたり分けたりしても、本発明から逸脱しないことを意図しており、理解されるであろう。例えば、本明細書に記載されている全ての好ましい特徴は、本明細書に記載されている本発明の全ての態様に適用可能であることが理解されるであろう。
【0047】
ある実施例(EX-1)では、正極の初回クーロン効率(CEcathode)は、動作電位範囲内で負極の初回クーロン効率(CEanode)よりも約1%低い。2番目の実施例(EX-2)では、正極の初回クーロン効率(CEcathode)は、負極の初回クーロン効率(CEanode)よりも約5%低い。さらに3番目の実施例(EX-3)では、正極の初回クーロン効率(CEcathode)は、負極の初回クーロン効率(CEanode)よりも約15%低い。これらの各実施例では、シリコン物質と炭素の同じ比率を有するアノード活物質を有する負極が使用されたが、正極では、プレリチウム化工程中に、異なるリチウム量がLiNi0.8Co0.1Mn0.1O2(NCM-811)に導入され、これが初回CEcathodeの観察可能な違いの原因となっている。一般に、負極は、C/10又はC/20でLi/Li+に対して50mV~Li/Li+に対して1.0Vの間でサイクルされ、初回のサイクルCEanodeと比容量が決定される。正極は、Li/Li+に対して3.0V~Li/Li+に対して4.35Vの間でサイクルされ、初回のサイクルCEcathodeと比容量が決定される。特定のアノード及びカソードの要件に応じて、様々な電位範囲を使用することができる。
【0048】
図2を参照すると、3つの実施例(EX-1、EX-2、及びEX-3)の性能を比較例(C-1)の性能と比較した表が示されている。比較例(C-1)は、負極に実施例(EX-1、EX-2、及びEX-3)と同じアノード活物質を含むが、正極にカソード活物質として従来のLiNi
0.8Co
0.1Mn
0.1O
2(NCM-811)を使用する。データは、正極の初回CE
cathode(すなわち、C-1では90%)を増加させると、カソード容量の一部のみが可逆的に使用されることを示している(すなわち、シリコン/グラファイトアノードでは4.0mAhに対して3.0mAh)。CE
cathodeがCE
anodeよりもわずかに小さい場合(EX-1)、リチウムめっきを回避するために設計された10%の余分なアノード活物質のために、カソード活物質の利用率は、シリコン/グラファイトアノードによって使用される4.0mAhに近い(すなわち、4.0mAhに対して3.9mAh)。初回CE
cathodeをさらに下げると(例えば、EX-2では70%)、セル容量はEX-1よりも高くなる。初回CE
cathodeをさらに減らすと(EX-3を参照)、カソードからの充電容量は、アノード活物質からの容量よりも大きくなる可能性がある(すなわち、アノード活物質では5.9mAhに対してカソード活物質では6.7mAh)。これは、セルが最大電圧まで完全に充電された場合に、リチウムめっきが予想されることを意味する。この場合、セルが最大電圧まで充電されていないと、カソード活物質が完全に充電されていないため、セル容量が減少する。しかし、この問題は、充電手順を変更することによって軽減することができる。
【0049】
本開示の別の態様によれば、セルを1工程で最大電圧まで充電するのではなく、手順を複数工程のプロセスに変更することができる。例えば、セルを最初に低いセル電圧まで充電し、サイクルした後、セルをより高い電圧まで充電することができる。必要であれば、セルをサイクルする工程とセルを充電する工程(すなわち、形成サイクル)を繰り返して、セルが最大電圧に達するまで行うことができる。したがって、セルは、2回以上の形成サイクルでセル電圧が最大に達するように構成することができ、セル電圧は、各形成サイクル後又は少なくとも1回の形成サイクル後に増加する。
【0050】
シリコン/炭素(例えば、シリコン/グラファイト)電極を含む負極は、一般に、セルの連続的なサイクルに伴ってクーロン効率(CE)が徐々に増加する。例えば、初回CEanodeが75%である、EX-1、EX-2、及びEX-3で使用されるシリコン/炭素アノード活物質のCEanodeは、連続的なサイクルに伴って徐々に増加し、75%~80%の範囲のCEに、次に85%~90%の範囲のCEに、最後に約97%になる。初回のサイクル後、アノード活物質でかなりの量の容量の不可逆損失が依然として発生する可能性がある。この場合、貯蔵された余分なリチウムは、特に、セルのサイクル性能が安定するまでの最初の数サイクルの容量損失を補うのに役立つ。したがって、本開示によれば、負極からの初回の充電(すなわち、リチウム化)容量は、正極からの初回の充電容量よりも小さく、発生する変化に適応するために変更された充電手順が使用される。必要な場合又は望ましい場合、セル温度を上昇させて、アノード活物質の表面で発生する副反応を加速させることができる。
【0051】
本開示のさらに別の態様によれば、1つ又は複数の電気化学セルを組み合わせて、電気自動車(EV)で使用されるリチウムイオン二次電池等の、より大きな容量の電池又は電池パックを形成することができる。1つ又は複数の電気化学セルは、電池又は電池パックを形成するために、直列、並列、又はそれらの組み合わせで組み込まれてもよい。当業者であれば、リチウムイオン二次電池で電気化学セルを使用することに加えて、同じ原理を使用して、1つ又は複数のこの電気化学セルを筐体に封入して、他の用途で使用することができることも理解されよう。
【0052】
筐体は、当該技術分野においてそのような用途に使用されることが公知の任意の材料で構築されてもよく、且つ、特定の用途に必要とされる又は望ましいとされる任意の形状にすることができる。例えば、リチウムイオン電池は、一般に、円筒形、角形、又はソフトパウチの3つの異なる主要な形態又は形状で収容される。円筒形電池の筐体は、アルミニウム、鋼等で作製できる。角形電池は、一般に、円筒形ではなく長方形の筐体を有する。ソフトパウチ筐体は、様々な形状及びサイズで作製できる。これらのソフト筐体は、内側、外側、又はその両方をプラスチックでコーティングされたアルミニウム箔ポーチで構成されていてもよい。ソフト筐体は、重合体(polymeric)型のケースであってもよい。筐体に使用される高分子組成物は、リチウムイオン二次電池に従来使用されている任意の公知の重合体(polymeric)材料であってもよい。多数の中の1つの具体例として、内側にポリオレフィン層及び外側にポリアミド層を有するラミネートパウチを使用することが挙げられる。
【0053】
本明細書では、実施形態を、明確で簡潔な明細書を書くことができるように説明してきたが、実施形態を様々に組み合わせたり分けたりしても、本発明から逸脱しないことを意図しており、理解されるであろう。例えば、本明細書に記載されている全ての好ましい特徴は、本明細書に記載されている本発明の全ての態様に適用可能であることが理解されるであろう。
【0054】
当業者は、本開示を鑑みて、本開示の趣旨又は範囲から逸脱又は超過することなく、本明細書に開示される具体的な実施形態において多くの変更を加えることができ、それでもなお同様又は類似の結果を得ることができることを理解するであろう。当業者は、本明細書に報告されているあらゆる特性が、複数の異なる方法で得られる、通常測定される特性を表すことを、さらに理解するであろう。本明細書に記載された方法は、そのような方法の1つを表しており、他の方法を使用しても本開示の範囲を超えることはない。
【0055】
本発明の様々な形態の上記説明は、例示及び説明のために記載されている。上記説明は、網羅的であること、又は本発明を開示されている正確な形態に限定すること、を意図するものではない。上記の教示に照らして、多数の変更又は変形が可能である。本発明の原理及びその実際の応用例を最もよく説明するために、議論された形態が選択され説明されている。これにより、当業者が、企図された特定の用途に適した様々な形態で、様々な修正を加えて本発明を最もよく利用することが可能になる。そのような変更及び変形の全ては、それらが適正に、合法的に、且つ公平に権利を有する範囲に従って解釈される場合に、添付の特許請求の範囲によって決定される本発明の範囲に含まれる。
【手続補正書】
【提出日】2024-07-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
充電可能な電気化学セルであって、該電気化学セルは、
正極であって、
該正極は、集電体と、プレリチウム化されたカソード活物質とを有し、
前記プレリチウム化されたカソード活物質は、Li
1+xMn
2O
4と、Li
1+xNi
0.5Mn
1.5O
4と、Li
1+xNiO
2と、Li
1+xCoO
2と、Li
1+xNi
aCo
bMn
cAl
dO
2とのうちの1つ以上を含み、
ここで、xは0.1~1.0の範囲であり、a+b+c+d=1、a≧0.5、0≦b≦0.3、0≦c≦0.3、0≦d≦0.05である、
正極と、
負極であって、
該負極は、集電体と、少なくとも炭素とシリコン物質の混合物を含むアノード活物質とを有する、
負極と
を備え、
前記シリコン物質は、シリコン金属、SiO
y、又は、これらの混合物又は複合体であり、
yは、0≦y<2の範囲にあり、
前記炭素は、グラファイト、ソフトカーボン、又はハードカーボンであり、
前記正極は、初回サイクルクーロン効率(CE
cathode)を有し、
前記負極は、初回サイクルクーロン効率(CE
anode)を有し、
前記CE
cathodeは前記CE
anodeよりも小さい、
充電可能な電気化学セル。
【請求項2】
請求項1に記載のセルであって、
前記プレリチウム化されたカソード活物質のxは、0.3~0.6の範囲である、
セル。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のセルであって、
前記正極は、追加のカソード活物質をさらに有し、
これにより、前記混合物では、前記プレリチウム化されたカソード活物質と前記追加のカソード活物質の質量比は、99.9:0.1~1:99の範囲にある、
セル。
【請求項4】
請求項3に記載のセルであって、
前記プレリチウム化されたカソード活物質と前記追加のカソード活物質の質量比は、99.9:0.1~約51:49の範囲にある、
セル。
【請求項5】
請求項
1又は2に記載のセルであって、
前記アノード活物質では、シリコン物質と炭素の質量比は、約10:90~約99.9:0.1の範囲にある、
セル。
【請求項6】
請求項5に記載のセルであって、
シリコン物質と炭素の前記質量比は、約20:80~約40:60の範囲にある、
セル。
【請求項7】
請求項
1又は2に記載のセルであって、
前記シリコン物質は、1マイクロメートル(μm)未満の平均粒子径を有する、
セル。
【請求項8】
請求項
1又は2に記載のセルであって、
前記シリコン物質は、1μm~4μmの平均粒子径を有する、
セル。
【請求項9】
請求項
1又は2に記載のセルであって、
前記シリコン物質は、4μmを超える平均粒子径を有する、
セル。
【請求項10】
請求項
1又は2に記載のセルであって、
前記アノード活物質中の前記炭素は、グラファイトである、
セル。
【請求項11】
請求項
1又は2に記載のセルであって、
前記セルは、電解質をさらに有し、
前記電解質は、不燃性有機電解質か、重合体(polymeric)電解質又はゲル電解質か、無機電解質か、又は、これらの組み合わせである、
セル。
【請求項12】
請求項11に記載のセルであって、
前記電解質は、不燃性ゲル電解質である、
セル。
【請求項13】
請求項
1又は2に記載のセルであって、
前記セルは、3.0mAh/cm
2以上の面積当たりの可逆カソード容量負荷を有する、
セル。
【請求項14】
請求項13に記載のセルであって、
前記面積当たりの可逆カソード容量負荷は、4.5mAh/cm
2以上である、
セル。
【請求項15】
請求項
1又は2に記載のセルであって、
前記CE
cathodeは、前記CE
anodeよりも少なくとも1.0%~10%低い、
セル。
【請求項16】
請求項
1又は2に記載のセルであって、
前記CE
cathodeは、前記CE
anodeよりも10%以上低い、
セル。
【請求項17】
請求項
1又は2に記載のセルであって、
前記セルは、2回以上の形成サイクルでセル電圧が最大に達するように構成されており、
前記セル電圧は、各形成サイクル後に増加する、
セル。
【請求項18】
請求項
1又は2に記載のセルであって、
前記セルが、2回以上の形成サイクルでセル電圧が最大に達するように構成されており、
前記セル電圧は、少なくとも1回の形成サイクル後に増加する、
セル。
【請求項19】
電気自動車で使用するの電池パックであって、
請求項
1又は2に記載の複数のセルを備え、
前記複数のセルは、全体的な容量を増加させるために、直列構成又は並列構成で配置されている、
電池パック。
【請求項20】
充電可能な電気化学セルであって、該電気化学セルは、
正極であって、
該正極は、集電体と、プレリチウム化されたカソード活物質と、任意の追加のカソード活物質とを有し、
前記プレリチウム化されたカソード活物質は、Li
1+xMn
2O
4の式F-1に従い、ここで、xは0.1~1.0の範囲である、
正極と、
負極であって、
該負極は、集電体と、少なくともグラファイトとシリコン物質の混合物を含むアノード活物質を有する、
負極と
を備え、
前記シリコン物質は、シリコン金属、SiO
y、或いはそれらの混合物又は複合体であり、
yは、0≦y<2の範囲にあり、
前記アノード活物質では、シリコン物質とグラファイトの質量比は、約10:90~約99.9:0.1の範囲にあり、
前記正極は、初回サイクルクーロン効率(CE
cathode)を有し、
前記負極は、初回サイクルクーロン効率(CE
anode)を有し、
前記CE
cathodeは、
i)少なくとも1.0%、
ii)最大10%、又は、
iii)10%以上、
のいずれか1つの範囲に入る量だけ、前記CE
anodeよりも小さい、
充電可能な電気化学セル。
【請求項21】
請求項20に記載のセルであって、
前記正極は、追加のカソード活物質をさらに有し、
これにより、前記混合物では、前記プレリチウム化されたカソード活物質と前記追加のカソード活物質の質量比は、99.9:0.1~1:99の範囲にある、
セル。
【請求項22】
請求項20又は21に記載のセルであって、
前記シリコン物質は、
i)1マイクロメートル(μm)未満、
ii)1μm~4μmの間、又は
iii)4μmを超える、
のうちいずれか1つの範囲の平均粒子径を有する、
セル。
【請求項23】
請求項
20又は21に記載のセルであって、
前記セルは、電解質をさらに有し、
前記電解質は、不燃性有機電解質か、重合体(polymeric)電解質又はゲル電解質か、無機電解質か、又は、これらの組み合わせである、
セル。
【請求項24】
請求項
20又は21に記載のセルであって、
前記セルは、3.0mAh/cm
2以上の面積当たりの可逆カソード容量負荷を有する、
セル。
【請求項25】
請求項
20又は21に記載のセルであって、
前記セルは、2回以上の形成サイクルでセル電圧が最大に達するように構成されており、
前記セル電圧は、各形成サイクル後又は少なくとも1回の形成サイクル後に増加する、
セル。
【国際調査報告】