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▶ ザ ユナイテッド ステイツ オブ アメリカ, アズ リプレゼンテッド バイ ザ セクレタリー, デパートメント オブ ヘルス アンド ヒューマン サービシーズの特許一覧

特表2024-540360グリピカン-3(GPC3)を標的にするIgG4ヒンジ含有キメラ抗原受容体およびその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-31
(54)【発明の名称】グリピカン-3(GPC3)を標的にするIgG4ヒンジ含有キメラ抗原受容体およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/28 20060101AFI20241024BHJP
   C07K 14/725 20060101ALI20241024BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20241024BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20241024BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20241024BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20241024BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20241024BHJP
   C12N 15/867 20060101ALI20241024BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241024BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20241024BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20241024BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20241024BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20241024BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20241024BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
C07K16/28
C07K14/725 ZNA
C07K19/00
C12N15/12
C12N15/13
C12N15/62 Z
C12N5/10
C12N15/867 Z
A61P35/00
A61K39/395 E
A61K39/395 T
A61K35/17
A61K35/76
A61K48/00
A61K31/7088
A61P35/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024526841
(86)(22)【出願日】2022-11-09
(85)【翻訳文提出日】2024-07-04
(86)【国際出願番号】 US2022079554
(87)【国際公開番号】W WO2023086829
(87)【国際公開日】2023-05-19
(31)【優先権主張番号】63/277,287
(32)【優先日】2021-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514144836
【氏名又は名称】ザ ユナイテッド ステイツ オブ アメリカ, アズ リプレゼンテッド バイ ザ セクレタリー, デパートメント オブ ヘルス アンド ヒューマン サービシーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ホー, ミッチェル
(72)【発明者】
【氏名】コルーリ, アーティ
(72)【発明者】
【氏名】リー, ナン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C085
4C086
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AA93Y
4B065AA94X
4B065AA97Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA44
4C084AA13
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZB26
4C085AA13
4C085AA14
4C085CC01
4C085CC08
4C085DD62
4C085EE01
4C085EE03
4C085GG01
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA03
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZB26
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB37
4C087BB65
4C087BC83
4C087MA02
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZB26
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA50
4H045DA75
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
グリピカン-3(GPC3)を標的にし、かつヒトIgG4由来の12-アミノ酸ヒンジ領域を有する、最適化されたキメラ抗原受容体(CAR)を記載する。また、最適化されたCARは、CD8またはCD28のいずれか由来の膜貫通ドメイン、細胞内共刺激ドメイン、および細胞内シグナル伝達ドメインを含む。最適化されたCARを発現する免疫細胞または誘導多能性幹細胞を使用して、GPC3陽性固形腫瘍を処置することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キメラ抗原受容体(CAR)であって、
グリピカン-3(GPC3)に特異的に結合する細胞外抗原結合ドメイン;
配列番号43または配列番号52に記載のIgG4ヒンジ領域からなるヒンジ領域;
膜貫通ドメイン;
細胞内共刺激ドメイン;および
細胞内シグナル伝達ドメイン
を含む、キメラ抗原受容体(CAR)。
【請求項2】
前記細胞外抗原結合ドメインが、GPC3特異的単一ドメイン抗体を含む、請求項1に記載のCAR。
【請求項3】
前記単一ドメイン抗体が、配列番号18の相補性決定領域1(CDR1)、CDR2、およびCDR3配列を含む、請求項2に記載のCAR。
【請求項4】
前記CDR1、CDR2、およびCDR3配列が、それぞれ、
配列番号18の残基31~35、50~65、および96~105;または
配列番号18の残基26~33、51~57、および96~105
を含む、請求項3に記載のCAR。
【請求項5】
前記単一ドメイン抗体のアミノ酸配列が、配列番号18に対して少なくとも90%同一であり、かつ配列番号18の前記CDR1、CDR2、およびCDR3配列を含む、請求項3または請求項4に記載のCAR。
【請求項6】
前記単一ドメイン抗体のアミノ酸配列が、配列番号18を含むか、配列番号18からなる、請求項2~5のいずれか1項に記載のCAR。
【請求項7】
前記抗原結合ドメインがGPC3特異的scFvを含む、請求項1に記載のCAR。
【請求項8】
前記scFvが、重鎖可変(VH)ドメインおよび軽鎖可変(VL)ドメインを含み、前記VHドメインが、配列番号20の相補性決定領域1(CDR1)、CDR2、およびCDR3配列を含み、前記VLドメインが、配列番号22のCDR1、CDR2、およびCDR3配列を含む、請求項7に記載のCAR。
【請求項9】
前記VHドメインのCDR1、CDR2、およびCDR3配列が、それぞれ、配列番号20の残基31~35、50~68、および101~106を含み、前記VLドメインのCDR1、CDR2、およびCDR3配列が、それぞれ、配列番号22の残基24~40、56~62、および95~103を含む;あるいは、
前記VHドメインのCDR1、CDR2、およびCDR3配列が、それぞれ、配列番号20の残基26~33、51~60、および99~106を含み、前記VLドメインのCDR1、CDR2、およびCDR3配列が、それぞれ、配列番号22の残基27~38、56~58、および95~103を含む、請求項8に記載のCAR。
【請求項10】
前記VHドメインのアミノ酸配列が、配列番号20に対して少なくとも90%同一であり、かつ配列番号20のCDR1、CDR2、およびCDR3配列を含む;そして
前記VLドメインのアミノ酸配列が、配列番号22に対して少なくとも90%同一であり、かつ配列番号22のCDR1、CDR2、およびCDR3配列を含む、請求項8または請求項9に記載のCAR。
【請求項11】
前記VHドメインのアミノ酸配列が、配列番号20を含むか、配列番号20からなる;そして
前記VLドメインのアミノ酸配列が、配列番号22を含むか、配列番号22からなる、請求項8~10のいずれか1項に記載のCAR。
【請求項12】
前記scFvのアミノ酸配列が、配列番号14の残基1~245を含む、請求項8~11のいずれか1項に記載のCAR。
【請求項13】
前記膜貫通ドメインが、CD28膜貫通ドメインを含む、請求項1~12のいずれか1項に記載のCAR。
【請求項14】
前記共刺激ドメインが、4-1BBシグナル伝達部分を含む、請求項1~13のいずれか1項に記載のCAR。
【請求項15】
前記シグナル伝達ドメインが、CD3ζシグナル伝達ドメインを含む、請求項1~14のいずれか1項に記載のCAR。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか1項に記載のCARを発現する単離された細胞。
【請求項17】
免疫細胞または誘導多能性幹細胞(iPSC)である、請求項16に記載の単離された細胞。
【請求項18】
前記免疫細胞が、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、またはマクロファージである、請求項17に記載の単離された細胞。
【請求項19】
請求項1~15のいずれか1項に記載のCARをコードする核酸分子。
【請求項20】
プロモーターに作動可能に連結された請求項19に記載の核酸分子。
【請求項21】
5’から3’への方向に、
第1の顆粒球マクロファージコロニー刺激因子受容体シグナル配列(GMCSFRss)をコードする核酸;
前記抗原結合ドメインをコードする核酸;
前記IgG4ヒンジ領域をコードする核酸;
前記膜貫通ドメインをコードする核酸;
前記共刺激ドメインをコードする核酸;
前記シグナル伝達ドメインをコードする核酸;
自己切断2Aペプチドをコードする核酸;
第2のGMCSFRssをコードする核酸;および
短縮ヒト上皮増殖因子受容体(huEGFRt)をコードする核酸
を含む、請求項19に記載の核酸分子。
【請求項22】
前記第1のGMCSFRssをコードする前記核酸の5’側にヒト伸長因子1α(EF1α)プロモーター配列をさらに含む、請求項21に記載の核酸分子。
【請求項23】
請求項19~22のいずれか1項に記載の核酸分子を含むベクター。
【請求項24】
前記ベクターがレンチウイルスベクターである、請求項23に記載のベクター。
【請求項25】
請求項19~22のいずれか1項に記載の核酸分子または請求項23もしくは請求項24に記載のベクターを含む、単離された細胞。
【請求項26】
免疫細胞または誘導多能性幹細胞(iPSC)である、請求項25に記載の単離された細胞。
【請求項27】
前記免疫細胞が、T細胞、B細胞、NK細胞、またはマクロファージである、請求項26に記載の単離された細胞。
【請求項28】
薬学的に許容され得る担体および請求項1~15のいずれか1項に記載のCAR、請求項16~18および25~27のいずれか1項に記載の細胞、請求項19~22のいずれか1項に記載の核酸分子、または請求項23もしくは請求項24に記載のベクターを含む組成物。
【請求項29】
被験体におけるGPC3陽性癌を処置する方法であって、治療有効量の請求項1~15のいずれか1項に記載のCAR、請求項16~18および25~27のいずれか1項に記載の細胞、請求項19~22のいずれか1項に記載の核酸分子、請求項23もしくは請求項24に記載のベクター、または請求項28に記載の組成物を前記被験体に投与する工程を含む、方法。
【請求項30】
被験体におけるGPC3陽性癌の腫瘍成長または転移を阻害する方法であって、治療有効量の請求項1~15のいずれか1項に記載のCAR、請求項16~18および25~27のいずれか1項に記載の細胞、請求項19~22のいずれか1項に記載の核酸分子、請求項23もしくは請求項24に記載のベクター、または請求項28に記載の組成物を前記被験体に投与する工程を含む、方法。
【請求項31】
前記GPC3陽性癌が固形腫瘍である、請求項29または請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記GPC3陽性癌が、肝細胞癌(HCC)、黒色腫、卵巣明細胞癌、卵黄嚢腫瘍(YST)、神経芽細胞腫、肝芽腫、ウィルムス腫瘍、肺の扁平上皮癌、精巣非セミノーマ性胚細胞腫瘍、脂肪肉腫、子宮頸部上皮内新形成、副腎の腺腫、シュワン細胞腫、または胎児性腫瘍である、請求項29~31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
前記GPC3陽性癌がHCCである、請求項32に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、2021年11月9日出願の米国仮出願第63/277,287号(その全体が本明細書中で参考として援用される)に基づく利益を主張している。
【0002】
分野
本開示は、IgG4由来のヒンジ領域を含む腫瘍抗原グリピカン-3(GPC3)に特異的な最適化されたキメラ抗原受容体(CAR)に関する。本開示は、さらに、固形腫瘍の処置のためなどのGPC3標的化IgG4ヒンジ含有CARの使用に関する。
【0003】
政府支援の謝辞
本発明を、国立衛生研究所によって授与されたプロジェクト番号Z01 BC010891の下で政府支援を受けて実施した。政府は、本発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0004】
背景
肝細胞癌(HCC)は、予後が不良な高侵襲型の腫瘍である。キメラ抗原受容体(CAR)操作Tリンパ球を使用した免疫療法は、造血性悪性疾患において顕著に応答している。しかしながら、固形腫瘍の場合、臨床的な成功には大きな障壁がある。ほとんどの固形腫瘍における主な障壁は、癌細胞上および正常組織上の両方のバイオマーカー発現が広範であるために、毒性が高いことである。最も特徴づけられている腫瘍関連抗原の1つであるグリピカン3(GPC3)はHCCに高度に特異的であるため、これはHCCには当てはまらない。GPC3(細胞表面腫瘍胎児性タンパク質)は、HCCで高度に上方制御されるが、正常組織中で発現されないか、低レベルで発現される。したがって、GPC3を標的にすると、治療薬を正常組織ではなくHCC部位に排他的に送達させることが独自に可能である。
【0005】
GPC3標的化CAR T細胞は、第1相臨床試験において有効性が制限されることが実証されており、これは、適切な腫瘍浸潤の欠如および腫瘍の範囲内で持続的で強力な免疫応答を誘導できないことの両方に起因する可能性が高い。したがって、in vitroおよびin vivoにおける効力が改善されたCAR T細胞を開発する必要がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
要旨
ヒトIgG4由来のヒンジ領域およびヒトCD8またはヒトCD28のいずれかに由来する膜貫通ドメインを含む最適化されたGPC3特異的キメラ抗原受容体(CAR)を本明細書中に開示する。GPC3を標的にするIgG4-ヒンジ含有CARがGPC3陽性細胞をin vitroで特異的に溶解し、動物モデルにおいてGPC3陽性腫瘍の根絶に非常に有効であることを本明細書中に実証する。
【0007】
GPC3に特異的な細胞外抗原結合ドメイン;IgG4ヒンジ領域;膜貫通ドメイン;細胞内共刺激ドメイン;および細胞内シグナル伝達ドメインを含むCARを本明細書中に提供する。いくつかの態様では、CARは、配列番号43に記載の改変されたIgG4ヒンジ配列からなるヒンジ領域を含む。他の態様では、CARは、配列番号52に記載の野生型IgG4配列からなるヒンジ領域を含む。いくつかの態様では、抗原結合ドメインは、GPC3特異的単一ドメイン抗体HN3のCDR配列またはGPC3特異的抗体hYP7、YP7、YP9、YP8、YP6、YP9.1、もしくはHS20のVHおよびVLのCDR配列を含む。いくつかの例では、CARの膜貫通ドメインはCD28膜貫通ドメインである。他の例では、CARの膜貫通ドメインはCD8膜貫通ドメインである。
【0008】
開示のCARをコードする核酸分子をさらに提供する。いくつかの態様では、核酸分子は、5’から3’方向に、第1の顆粒球マクロファージコロニー刺激因子受容体シグナル配列(GMCSFRss)をコードする核酸;抗原結合ドメインをコードする核酸;IgG4ヒンジ領域をコードする核酸;膜貫通ドメインをコードする核酸;共刺激ドメインをコードする核酸;シグナル伝達ドメインをコードする核酸;自己切断2Aペプチドをコードする核酸;第2のGMCSFRssをコードする核酸;および短縮ヒト上皮増殖因子受容体(huEGFRt)をコードする核酸を含む。いくつかの例では、核酸分子は、第1のGMCSFRssをコードする核酸の5’側にヒト伸長因子1α(EF1α)プロモーター配列をさらに含む。開示の核酸分子を含むベクター(レンチウイルスベクターなど)をさらに開示する。
【0009】
本明細書中に開示のCARを発現し、そして/あるいは本明細書中に開示の単離された核酸分子またはベクターを含む単離された免疫細胞(T細胞、B細胞、NK細胞、またはマクロファージなど)および誘導多能性幹細胞(iPSC)も提供する。
【0010】
本明細書中に開示の薬学的に許容され得る担体およびCAR、核酸分子、ベクター、または細胞を含む組成物をさらに提供する。
【0011】
被験体におけるGPC3陽性癌を処置するか、あるいは、GPC3陽性癌の腫瘍成長または転移を阻害する方法も提供する。いくつかの態様では、この方法は、治療有効量の本明細書中に開示のCAR、核酸分子、ベクター、細胞、または組成物を被験体に投与する工程を含む。いくつかの例では、GPC3陽性癌は、肝細胞癌(HCC)などの固形腫瘍である。
【0012】
本開示の前述および他の目的および特徴は、添付の図面を参照して進めていく以下の詳細な説明からより明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A図1A~1B:Jurkat結合アッセイ。hYP7-CD8H-CD8TM、HN3-CD8H-CD8TM、HN3-IgG4H-CD28TM、HN3-IgG4H-CD8TM、またはHN3-CD8H-CD28TMのCARを発現するJurkat T細胞を、GPC3-hFc(図1A)またはGPC1-hFc(図1B)に曝露した。全てのhYP7およびHN3 CAR発現Jurkat細胞は、GPC3-hFcに特異的に結合した。
図1B】同上。
図2A図2A~2D:(図2A)CAR T細胞構築物の略図。構築物は、CD8またはIgG4のヒンジ(H)、およびCD8またはCD28の膜貫通(TM)ドメインを有するHN3またはhYP7のいずれかを含んでいた。(図2B)細胞膜中のCAR T細胞構築物の描写。(図2C)11日間にわたってモニタリングされたCAR発現細胞の細胞カウント。(図2D)8日目にCAR陽性細胞によって測定した場合のCAR構築物の形質導入効率。これらの結果は、操作されたCARをドナーT細胞中で発現することができることを実証している。
図2B-C】同上。
図2D】同上。
図2E-F】図2E~2H:GPC3発現HCC細胞株Hep3B(図2E)、Huh7(図2G)、およびHepG2(図2H)またはGPC3陰性Hep3B-GPC3-KO-C3細胞(図2F)と共に培養したCAR T細胞によって誘導された細胞死滅を示すグラフ。特異的溶解を、異なるエフェクター対標的比で測定した。操作されたCAR T細胞は、Hep3B細胞、Huh7細胞、およびHepG2細胞を強力に死滅させたが、Hep3B GPC3ノックアウト(KO)細胞はそうではなく、これは、抗原特異的死滅であることを実証している。
図2G-H】同上。
図3A-B】図3A~3D:(図3A)NOD-SCID-ガンマ(NSG)マウスモデルを使用した実験研究デザインの略図。Hep3B GFP/ルシフェラーゼ発現細胞(300万個)をNSGマウスにIP注射し、12日間生着させた。マウスを、0日目に500万個のhYP7-CD8H-CD8TM、hYP7-IgG4H-CD28TM、HN3-IgG4H-CD8TM、またはHN3-IgG4H-CE28TMのCAR T細胞で処置し、定期的に画像化した。(図3B)腫瘍サイズを示す生物発光画像。(図3C)35日間にわたる画像化の結果の生物発光定量。(図3D)研究の全過程にわたる生存曲線。結果は、10日以内にHN3-IgG4H-CD28TM CAR T細胞が腫瘍を完全に根絶し、マウスが研究の全過程にわたって腫瘍を担持しない状態を維持したことを示した。
図3C-D】同上。
図4A-B】図4A~4D:(図4A)NSGマウスモデルを使用した実験研究デザインの略図。Hep3B GFP/ルシフェラーゼ発現細胞(300万個)をNSGマウスにIP注射し、12日間生着させた。マウスを、0日目に500万個のHN3-CD8H-CD8TM、HN3-IgG4H-CD28TM、HN3-IgG4H-CD28TM-M、またはHN3-IgG4H-CD28TM-LのCAR T細胞で処置し、定期的に画像化した。(図4B)腫瘍サイズを示す生物発光画像化の結果。(図4C)15日間にわたる画像化の結果の生物発光定量。(図4D)研究の全過程(67日間)にわたる生存曲線。結果は、7日以内にHN3-IgG4-CD28TM CAR T細胞が腫瘍を消失させ、処置マウスが研究期間にわたって腫瘍を担持しない状態を維持したことを示した。さらに、HN3-IgG4H-CD28TM CAR T細胞で処置したマウスは、最も高い生存率を示し、この群のおよそ40%のマウスが少なくとも67日間の研究期間にわたって生存し、腫瘍を担持しない状態を維持した。
図4C-D】同上。
図5A-B】図5A~5F:(図5A~5B)CD4およびCD8 T細胞およびT細胞サブセットの分析。T細胞サブセットは、幹細胞メモリー細胞(Tscm)、セントラルメモリー細胞(Tcm)、エフェクターメモリー再発現CD45RA細胞(Temra)、およびエフェクターメモリー細胞(Tem)からなる。(図5A)2週目では、T細胞は、CD4/CD8比が類似していた。TemraおよびTemは、T細胞ランドスケープにおいて優位であった。(図5B)5週目では、CD8 T細胞が最も豊富であった。Temra細胞が富化され、増殖機能、メモリー機能、およびエフェクター機能に関与していた。(図5C)マウス血液由来のCAR T細胞カウントの経時変化。(図5D)マウス血液由来のT細胞のPD1発現の経時変化。(図5E)5週目の疲弊マーカーパネル。(図5F)CAR発現T細胞によって誘導されたHep3B腫瘍細胞の死滅。HN3-IgG4H-CD28TM構築物は、腫瘍細胞溶解の誘導が最も高かった。
図5C-D】同上。
図5E】同上。
図5F】同上。
図6A-B】図6A~6D:(図6A)NSGマウスモデルを使用した実験研究デザインの略図。Huh7 GFP/ルシフェラーゼ発現細胞をマウスにIP注射し(-12日目)、12日間生着させた。マウスに、0日目に1500万個の非形質導入T細胞またはhYP7-CD8H-CD8TMもしくはHN3-IgG4H-CD28TMのCAR T細胞をIP注射し、4週間にわたって定期的に画像化した。(図6B)腫瘍サイズを示す生物発光画像化の結果。(図6C)研究の全過程(処置後28日間)にわたる生存曲線。(図6D)28日間の研究終了時の腫瘍容積。
図6C-D】同上。
図7A図7A~7B:(図7A)30分間および3時間CAR T細胞に曝露した腫瘍細胞中の活性および合計のβカテニン、GPC3、およびGAPDHのウェスタンブロット。(図7B)CAR T細胞をHep3B 腫瘍細胞と共に培養した場合のCAR T細胞におけるNFATシグナル伝達。
図7B】同上。
【発明を実施するための形態】
【0014】
配列表
添付の配列表に列挙した核酸配列およびアミノ酸配列を、連邦規則集第37巻1.822に定義の通り、ヌクレオチド塩基については標準的な文字の略号、およびアミノ酸については一文字表記を使用して示す。各々の核酸配列の一方の鎖のみを示すが、表示の鎖を任意に参照することによって相補鎖が含まれると理解される。配列表を、XMLファイル(ファイル名4239-107164-02.xml(91,430バイト)、作成日2022年10月25日)として提出し、この配列表は、本明細書中で参考として援用される。添付の配列表において:
配列番号1は、HN3-CD8H-CD8TMをコードする核酸配列である。
配列番号2は、HN3-CD8H-CD8TMのアミノ酸配列である。
配列番号3は、HN3-CD8H-CD28TMをコードする核酸配列である。
配列番号4は、HN3-CD8H-CD28TMのアミノ酸配列である。
配列番号5は、HN3-IgG4H-CD28TMをコードする核酸配列である。
配列番号6は、HN3-IgG4H-CD28TMのアミノ酸配列である。
配列番号7は、HN3-IgG4H-CD8TMをコードする核酸配列である。
配列番号8は、HN3-IgG4H-CD8TMのアミノ酸配列である。
配列番号9は、HN3-IgG4H-CH3-CD28TMをコードする核酸配列である。
配列番号10は、HN3-IgG4H-CH3-CD28TMのアミノ酸配列である。
配列番号11は、HN3-IgG4H-CH2CH3-CD28TMをコードする核酸配列である。
配列番号12は、HN3-IgG4H-CH2CH3-CD28TMのアミノ酸配列である。
配列番号13は、hYP7-IgG4H-CD28TMをコードする核酸配列である。
配列番号14は、hYP7-IgG4H-CD28TMのアミノ酸配列である。
配列番号15は、hYP7-CD8H-CD8TMをコードする核酸配列である。
配列番号16は、hYP7-CD8H-CD8TMのアミノ酸配列である。
配列番号17は、抗体HN3をコードする核酸配列である。
配列番号18は、抗体HN3のアミノ酸配列である。
配列番号19は、抗体hYP7のVHドメインをコードする核酸配列である。
配列番号20は、抗体hYP7のVHドメインのアミノ酸配列である。
配列番号21は、抗体hYP7のVLドメインをコードする核酸配列である。
配列番号22は、抗体hYP7のVLドメインのアミノ酸配列である。
配列番号23は、抗体YP9.1のVHドメインをコードする核酸配列である。
配列番号24は、抗体YP9.1のVHドメインのアミノ酸配列である。
配列番号25は、抗体YP9.1のVLドメインをコードする核酸配列である。
配列番号26は、抗体YP9.1のVLドメインのアミノ酸配列である。
配列番号27は、抗体YP8のVHドメインをコードする核酸配列である。
配列番号28は、抗体YP8のVHドメインのアミノ酸配列である。
配列番号29は、抗体YP8のVLドメインをコードする核酸配列である。
配列番号30は、抗体YP8のVLドメインのアミノ酸配列である。
配列番号31は、抗体YP9のVHドメインをコードする核酸配列である。
配列番号32は、抗体YP9のVHドメインのアミノ酸配列である。
配列番号33は、YP9クローン9のVLドメインをコードする核酸配列である。
配列番号34は、YP9クローン9のVLドメインのアミノ酸配列である。
配列番号35は、YP9クローン10のVLドメインをコードする核酸配列である。
配列番号36は、YP9クローン10のVLドメインのアミノ酸配列である。
配列番号37は、YP9クローン1のVLドメインをコードする核酸配列である。
配列番号38は、YP9クローン1のVLドメインのアミノ酸配列である。
配列番号39は、抗体HS20のVHドメインをコードする核酸配列である。
配列番号40は、抗体HS20のVHドメインのアミノ酸配列である。
配列番号41は、抗体HS20のVLドメインをコードする核酸配列である。
配列番号42は、抗体HS20のVLドメインのアミノ酸配列である。
配列番号43は、改変されたIgG4ヒンジ領域のアミノ酸配列である。
配列番号44は、GMSCFRssのアミノ酸配列である。
配列番号45は、CD8αヒンジのアミノ酸配列である。
配列番号46は、CD28膜貫通ドメインのアミノ酸配列である。
配列番号47は、CD8α膜貫通ドメインのアミノ酸配列である。
配列番号48は、4-1BBのアミノ酸配列である。
配列番号49は、CD3ζのアミノ酸配列である。
配列番号50は、自己切断T2Aペプチドのアミノ酸配列である。
配列番号51は、huEGFRtのアミノ酸配列である。
配列番号52は、野生型IgG4ヒンジ領域のアミノ酸配列である。
配列番号53は、抗体YP7のVHドメインをコードする核酸配列である。
配列番号54は、抗体YP7のVHドメインのアミノ酸配列である。
配列番号55は、抗体YP7のVLドメインをコードする核酸配列である。
配列番号56は、抗体YP7のVLドメインのアミノ酸配列である。
配列番号57は、抗体YP6のVHドメインをコードする核酸配列である。
配列番号58は、抗体YP6のVHドメインのアミノ酸配列である。
配列番号59は、改変されたCH2ドメインのアミノ酸配列である。
配列番号60は、野生型CH2ドメインのアミノ酸配列である。
【0015】
詳細な説明
I.略語
CAR キメラ抗原受容体
CDR 相補性決定領域
EF1α 伸長因子1アルファ
EGF 上皮増殖因子
EGFR 上皮増殖因子受容体
GPC3 グリピカン-3
GMCSFRss 顆粒球マクロファージコロニー刺激因子受容体シグナル配列
HCC 肝細胞癌
huEGFRt ヒト短縮上皮増殖因子受容体
IP 腹腔内
iPSC 誘導多能性幹細胞
KO ノックアウト
NK ナチュラルキラー
NSG NOD-SCID-ガンマ
scFv 単鎖可変断片
TM 膜貫通
cm セントラルメモリーT細胞
em エフェクターメモリーT細胞
emra エフェクターメモリーT細胞再発現CD45RA
scm 幹細胞メモリーT細胞
VH 重鎖可変
VL 軽鎖可変
【0016】
II.用語の概要
別段の記述がない限り、技術用語を、従来の使用法に従って使用する。分子生物学における多数の一般的な用語の定義は、Krebs et al.(eds.),Lewin’s genes XII,published by Jones&Bartlett Learning,2017に見出され得る。本明細書中で使用される場合、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈上そうでないと明確に示されない限り、単数および複数の両方を指す。例えば、用語「1つの抗原(an antigen)」は、単数または複数の抗原を含み、句「少なくとも1つの抗原」と等価であると見なすことができる。本明細書中で使用される場合、用語「含む(comprises)」は、「含む(includes)」を意味する。別段の指示がない限り、核酸またはポリペプチドのために付与されたありとあらゆる塩基サイズまたはアミノ酸サイズ、および全ての分子量または分子質量の値は近似値であり、説明のために提供されるとさらに理解すべきである。本明細書中に記載の方法および材料と類似するか等価な多数の方法および材料を使用することができるが、特に好適な方法および材料を本明細書中に記載する。矛盾する場合、用語の説明を含む本明細書を優先するであろう。さらに、材料、方法、および実施例は、例示のみを目的とし、本発明の制限を意図しない。
【0017】
種々の実施形態の概説を容易にするために、以下の用語を説明する:
【0018】
4-1BB:T細胞受容体(TCR)活性化リンパ球、および他の細胞(ナチュラルキラー細胞が挙げられる)によって発現される共刺激分子。4-1BBのライゲーションによってシグナル伝達カスケードが誘導され、その結果、サイトカインが産生され、抗アポトーシス分子が発現され、免疫応答が増強される。4-1BBの例示的なアミノ酸配列を、配列番号48として本明細書中に記載する。
【0019】
投与:任意の有効な経路によって被験体に薬剤(本明細書中に提供したCARまたはCAR発現細胞など)を提供するか与えること。例示的な投与経路としては、経口、注射(皮下、筋肉内、皮内、腹腔内、静脈内、動脈内(肝動脈内が挙げられる)、前立腺内、および腫瘍内など)、舌下、直腸、経皮、鼻腔内、膣、および吸入経路が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの例では、投与は局所投与である。いくつかの例では、投与は全身投与である。
【0020】
抗体:GPC3などの抗原のエピトープを認識して結合する(例えば、特異的に認識して特異的に結合する)少なくとも1つの可変領域を含むポリペプチドリガンド。哺乳動物イムノグロブリン分子は、重(H)鎖および軽(L)鎖から構成され、これらの各々がそれぞれ重鎖可変(V)領域および軽鎖可変(V)領域と称される可変領域を有する。合わせて、V領域およびV領域は、抗体によって認識される抗原の結合を担う。哺乳動物イムノグロブリンには抗体分子の機能活性を決定づける以下の5つの主な重鎖クラス(またはアイソタイプ)が存在する:IgM、IgD、IgG、IgA、およびIgE。哺乳動物において見出されない抗体アイソタイプとしては、IgX、IgY、IgW、およびIgNARが挙げられる。IgYは、鳥類および爬虫類によって産生される一次抗体であり、哺乳動物のIgGおよびIgEといくらか機能が類似している。IgW抗体およびIgNAR抗体は軟骨魚類によって産生され、一方で、IgX抗体は両生類で見出される。
【0021】
抗体可変領域は、「フレームワーク」領域および「相補性決定領域」または「CDR」として公知の超可変領域を含む。CDRは、主に抗原のエピトープへの結合を担う。抗体のフレームワーク領域は、三次元空間中にCDRを配置および整列させるのに役立つ。所与のCDRのアミノ酸配列の境界を、いくつかのナンバリングスキーム(Kabat et al.によって記載されたもの(Sequences of Proteins of Immunological Interest,U.S.Department of Health and Human Services,1991;「Kabat」ナンバリングスキーム)、Chothia et al.によって記載されたもの(Chothia and Lesk,J Mol Biol 196:901-917,1987;Chothia et al.,Nature 342:877,1989;およびAl-Lazikani et al.,(JMB 273,927-948,1997を参照のこと;「Chothia」ナンバリングスキーム)、およびImMunoGeneTics(IMGT)データベース(Lefranc,Nucleic Acids Res 29:207-9,2001を参照のこと;「IMGT」ナンバリングスキーム)が挙げられる)のうちのいずれかを使用して容易に決定することができる。KabatおよびIMGTデータベースは、オンラインで保持されている。
【0022】
「単一ドメイン抗体」は、さらなる抗体ドメインが不在で、抗原または抗原のエピトープに特異的に結合することができる単一のドメイン(可変ドメイン)を含む抗体を指す。単一ドメイン抗体としては、例えば、Vドメイン抗体、VNAR抗体、ラクダ科動物VH抗体、およびVドメイン抗体が挙げられる。VNAR抗体は、軟骨魚類(テンジクザメ科のサメ、オオセ科のサメ、ツノザメ科のサメ、およびイヌザメなど)によって産生される。ラクダ科動物VH抗体は、自然界では軽鎖を欠く、重鎖抗体を産生するいくつかの種(ラクダ、ラマ、アルパカ、ヒトコブラクダ、およびグアナコが挙げられる)によって産生される。
【0023】
「モノクローナル抗体」は、リンパ球の単一のクローンまたは単一抗体のコード配列がトランスフェクトされている細胞によって産生される抗体である。モノクローナル抗体は、公知の方法によって産生される。モノクローナル抗体としては、ヒト化モノクローナル抗体が挙げられる。
【0024】
「キメラ抗体」は、ある種(ヒトなど)由来のフレームワーク残基および別の種由来のCDR(一般に抗原結合を付与する)を有する。
【0025】
「ヒト化」抗体は、ヒトフレームワーク領域および非ヒト(例えば、マウス、ウサギ、ラット、サメ、または合成)イムノグロブリン由来の1またはそれを超えるCDRを含むイムノグロブリンである。CDRを提供する非ヒトイムノグロブリンは、「ドナー」と称され、フレームワークを提供するヒトイムノグロブリンは、「アクセプター」と称される。1つの態様では、全てのCDRは、ヒト化免疫グロブリン中のドナー免疫グロブリンに由来する。定常領域は存在する必要はないが、存在する場合、ヒト免疫グロブリン定常領域と実質的に同一でなければならない(すなわち、少なくとも約85~90%同一、例えば、約95%またはそれを超えて同一)。それ故に、場合によってCDRを例外としたヒト化免疫グロブリンの全ての部分は、天然のヒト免疫グロブリン配列の対応する部分と実質的に同一である。ヒト化抗体は、CDRを提供するドナー抗体と同一の抗原に結合する。ヒト化または他のモノクローナル抗体は、抗原結合や他のイムノグロブリン機能に実質的に影響を及ぼさないさらなる保存的アミノ酸置換を有することができる。
【0026】
結合親和性:抗原に対する抗体または他の抗原結合分子の親和性。1つの態様では、親和性は、Frankel et al.,Mol.Immunol.,16:101-106,1979によって記載されたScatchard法の修正形態によって計算される。別の態様では、結合親和性は、抗原/抗体解離速度によって測定される。別の態様では、高結合親和性は、競合放射免疫アッセイによって測定される。別の態様では、結合親和性は、ELISAによって測定される。いくつかの態様では、結合親和性は、バイオレイヤー干渉法(BLI)テクノロジーに基づいたOctetシステム(Creative Biolabs)を使用して測定される。他の態様では、Kdは、BIACORES-2000またはBIACORES-3000(BIAcore,Inc.,Piscataway,N.J.)を使用した表面プラズモン共鳴アッセイを使用して測定される。他の態様では、抗体親和性を、フローサイトメトリーによって測定する。抗原(GPC3など)に「特異的に結合する」抗体またはCARは、前述の抗原に高い親和性で結合し、かつ他の無関係の抗原には有意に結合しない抗体またはCARである。
【0027】
化学療法剤:異常細胞成長を特徴とする疾患の処置において治療有用性を有する任意の化学剤。かかる疾患としては、腫瘍、新生物、および癌が挙げられる。1つの態様では、化学療法剤は、GPC3陽性腫瘍の処置で有用な薬剤である。1つの態様では、化学療法剤は放射性化合物である。本明細書中に提供した方法と共に使用することができる例示的な化学療法剤は、Slapak and Kufe,Principles of Cancer Therapy,Chapter 86 in Harrison’s Principles of Internal Medicine,14th edition;Perry et al.,Chemotherapy,Ch.17 in Abeloff,Clinical Oncology 2nd ed.,(C)2000 Churchill Livingstone,Inc;Baltzer,L.,Berkery,R.(eds.):Oncology Pocket Guide to Chemotherapy,2nd ed.St.Louis,Mosby-Year Book,1995;Fischer,D.S.,Knobf,M.F.,Durivage,H.J.(eds):The Cancer Chemotherapy Handbook,4th ed.St.Louis,Mosby-Year Book,1993)に開示されている。併用化学療法は、癌を処置するための1つを超える薬剤の投与である。1つの例は、放射性または化学的な化合物と併用されるGPC3標的化CAR T細胞の投与である。1つの例では、化学療法剤は、生物学的製剤、例えば、治療抗体(例えば、治療モノクローナル抗体)、例えば、抗GPC3抗体、ならびに他の抗癌抗体、例えば、抗PD1または抗PDL1(例えば、ペムブロリズマブおよびニボルマブ)、抗CTLA4(例えば、イピリムマブ)、抗EGFR(例えば、セツキシマブ)、抗VEGF(例えば、ベバシズマブ)、またはこれらの組み合わせ(例えば、抗PD-1および抗CTLA-4)である。併用化学療法は、癌を処置するための1つを超える薬剤の投与である。
【0028】
キメラ抗原受容体(CAR):抗原結合部分(単一ドメイン抗体またはscFvなど)およびシグナル伝達ドメイン(T細胞受容体(例えば、CD3ζ)由来のシグナル伝達ドメインなど)を含むキメラ分子。多くの例では、CARは、抗原結合部分、ヒンジ領域、膜貫通ドメイン、およびエンドドメインから構成される。エンドドメインは、典型的には、免疫受容体チロシンベースの活性化モチーフ(ITAM)を有するシグナル伝達鎖(CD3ζまたはFcεRIγなど)を含む。いくつかの場合、エンドドメインは、少なくとも1つのさらなる共刺激ドメイン(CD28、4-1BB(CD137)、ICOS、OX40(CD134)、CD27、MYD88-CD40、KIR2DS2、および/またはDAP10など)の細胞内部分をさらに含む。いくつかの例では、CARは、多特異性(二重特異性など)またはバイシストロン性である。多重特異性CARは、少なくとも2つの抗原結合ドメイン(scFvおよび/または単一ドメイン抗体など)(各々が異なる抗原または同一抗原上の異なるエピトープに結合する)から構成される単一のCAR分子である(例えば、米国特許出願公開第2018/0230225号を参照のこと)。例えば、二重特異性CARは、2つの抗原結合ドメイン(各々が異なる抗原に結合する)を有する単一のCAR分子を指す。バイシストロン性CARは、2つの完全なCAR分子(各々が異なる抗原に結合する抗原結合部分を含む)を指す。いくつかの場合、バイシストロン性CAR構築物は、切断リンカーによって連結された2つの完全なCAR分子を発現する。二重特異性またはバイシストロン性のCARを発現する免疫細胞(T細胞、B細胞、NK細胞、またはマクロファージなど)またはiPSCは、結合部分が指向する抗原の両方を発現する細胞に結合することができる(例えば、Qin et al.,Blood 130:810,2017;および国際公開第2018/213337号を参照のこと)。いくつかの態様では、CARは、Xu et al.(Cell Discovery 4:62,2018)に記載の二本鎖抗体-T細胞受容体(AbTCR)またはLiu et al.(Sci Transl Med 13(586):eabb5191,2021)に記載の合成T細胞受容体および抗原受容体(STAR)である。
【0029】
相補性決定領域(CDR):抗体の結合親和性および特異性を定義する超可変アミノ酸配列領域。哺乳動物イムノグロブリンの軽鎖および重鎖の各々は、それぞれL-CDR1、L-CDR2、L-CDR3、およびH-CDR1、H-CDR2、H-CDR3と命名された3つのCDRを有する。単一ドメイン抗体は、本明細書中でCDR1、CDR2、およびCDR3と称される3つのCDRを含む。
【0030】
保存的バリアント:本開示の文脈では、「保存的」アミノ酸置換は、GPC3に対する抗体などのタンパク質の親和性に実質的に影響を及ぼすことも低下させることもない置換である。一例として、GPC3に特異的に結合するモノクローナル抗体は、最大で約1、最大で約2、最大で約5、および最大で(most)約10、または最大で約15の保存的置換を含み、GPC3ポリペプチドに特異的に結合することができる。また、用語「保存的バリアント」は、バリアントが活性を維持することを条件として、非置換の親アミノ酸の代わりの置換されたアミノ酸の使用を含む。非保存的置換は、タンパク質の活性(親和性など)を低下させる置換である。
【0031】
機能的に類似するアミノ酸を提供する保存的アミノ酸置換の表が公知である。以下の6つの群は、相互に保存的置換であると見なされるアミノ酸の例である:
1)アラニン(A)、セリン(S)、トレオニン(T);
2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);
3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);
4)アルギニン(R)、リジン(K);
5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);および
6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)。
【0032】
本明細書中のいくつかの態様では、本明細書中に開示の任意のアミノ酸配列と比較して10以下、9以下、8以下、7以下、6以下、5以下、4以下、3以下、2以下、または1以下のアミノ酸置換を含むアミノ酸配列を提供する。
【0033】
接触:直接的な物理的関連下に置かれること;固体および液体の両方が含まれる。
【0034】
縮重バリアント:遺伝暗号の結果として縮重する配列を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。20種の天然アミノ酸が存在し、そのほとんどが1つを超えるコドンによって特定される。したがって、ポリペプチドのアミノ酸配列が不変である限り、全ての縮重ヌクレオチド配列が含まれる。
【0035】
エピトープ:抗原決定基。これらは、抗原性を示す(特異的な免疫応答を誘発する)分子上の特定の化学基またはペプチド配列である。抗体は、ポリペプチド上の特定の抗原エピトープに特異的に結合する。
【0036】
フレームワーク領域:CDR間に挿入されたアミノ酸配列。フレームワーク領域としては、軽鎖可変フレームワーク領域および重鎖可変フレームワーク領域が挙げられる。フレームワーク領域は、抗原結合に適切な方向にCDRを保持する働きをする。
【0037】
融合タンパク質:2つの異なる(異種)タンパク質の少なくとも一部を含むタンパク質。
【0038】
グリピカン-3(GPC3):グリコシルホスファチジルイノシトールアンカーによって細胞表面に付着されたヘパラン硫酸(HS)プロテオグリカンのグリピカンファミリーのメンバー(Filmus and Selleck,J Clin Invest 108:497-501,2001)。GPC3遺伝子は、およそ70kDのコアタンパク質をコードし、このタンパク質は、フューリンによって切断されてN末端40kD断片およびC末端30kD断片を産生することができる。2つのHS鎖は、GPC3のC末端部分に付着している。GPC3および他のグリピカンファミリータンパク質は、細胞分裂および細胞成長の制御で役割を果たす。GPC3は、HCCおよびいくつかの他のヒトの癌(黒色腫、肺の扁平上皮癌、および卵巣の明細胞癌が挙げられる)で高度に発現されるが(Ho and Kim,Eur J Cancer 47(3):333-338,2011)、正常組織では発現されない。GPC3は、SGB、DGSX、MXR7、SDYS、SGBS、OCI-5、SGBS1、およびGTR2-2としても公知である。
【0039】
ヒトGPC3の4つのイソ型が公知である(イソ型1~4)(Ho and Kim,Eur J Cancer 47(3):333-338,2011)。GPC3の4つのイソ型の核酸配列およびアミノ酸の配列が公知である(GenBank受入番号:NM_001164617およびNP_001158089(イソ型1);NM_004484およびNP_004475(イソ型2);NM_001164618およびNP_001158090(イソ型3);ならびにNM_001164619およびNP_001158091(イソ型4)が挙げられる)。
【0040】
GPC3陽性癌:GPC3を発現または過剰発現する癌。GPC3陽性癌の例としては、HCC、黒色腫、卵巣明細胞癌、卵黄嚢腫瘍(YST)、神経芽細胞腫、肝芽腫、ウィルムス腫瘍、肺の扁平上皮癌、精巣非セミノーマ性胚細胞腫瘍、脂肪肉腫、子宮頸部上皮内新形成、副腎の腺腫、シュワン細胞腫、および胎児性腫瘍が挙げられるが、これらに限定されない(Ho and Kim,Eur J Cancer 47(3):333-338,2011;Baumhoer et al.,Am J Clin Pathol 129(6):899-906,2008;Saikali and Sinnett,Int J Cancer 89(5):418-422,2000)。
【0041】
肝細胞癌(HCC):ウイルス性肝炎に起因する肝炎、肝臓毒素、または肝硬変(アルコール中毒症に原因することが多い)を有する患者で典型的に生じる肝臓の原発性悪性疾患。HCCは、悪性ヘパトームとも呼ばれる。
【0042】
異種の:別個の遺伝源または種に由来すること。
【0043】
宿主細胞:ベクターを増殖させ、そのDNAを発現させることができる細胞。細胞は原核細胞または真核細胞であり得る。いくつかの例では、原核細胞は、大腸菌細胞である。いくつかの例では、真核細胞は、ヒト細胞(ヒト胚性腎臓(HEK)細胞など)である。本用語には、本件の宿主細胞の任意の子孫も含まれる。複製中に起こる変異が存在し得るので、全ての子孫が親細胞と同一ではないかもしれないと理解される。しかしながら、用語「宿主細胞」を使用する場合、かかる子孫が含まれる。
【0044】
免疫応答:免疫系の細胞(B細胞、T細胞、または単球など)の刺激に対する応答。1つの態様では、応答は、特定の抗原に特異的である(「抗原特異的応答」)。1つの態様では、免疫応答は、T細胞応答(CD4応答またはCD8応答など)である。別の態様では、応答はB細胞応答であり、結果として特異的抗体が産生される。
【0045】
単離された:「単離された」生物学的成分(核酸、タンパク質(抗体が挙げられる)、またはオルガネラなど)は、前述の成分が存在する環境(細胞など)中の他の生物学的成分(例えば、他の染色体および染色体外のDNAおよびRNA、タンパク質およびオルガネラ)から実質的に分離または精製されている。「単離」されている核酸およびタンパク質として、標準的な精製方法によって精製された核酸およびタンパク質が挙げられる。また、この用語は、宿主細胞中での組換え発現によって調製された核酸およびタンパク質ならびに化学合成された核酸を包含する。
【0046】
標識:分子の検出を容易にするために抗体またはタンパク質などの別の分子に直接または間接的に抱合された検出可能な化合物または組成物。標識の非限定的な具体例としては、蛍光タグ、酵素結合、および放射性同位体が挙げられる。1つの例では、「標識された抗体」は、抗体中への別の分子の組み込みを指す。例えば、標識は、放射性標識したアミノ酸の組み込み、またはマーカーを付けたアビジン(例えば、光学的方法または比色法によって検出することができる蛍光マーカーまたは酵素活性を含むストレプトアビジン)によって検出することができるビオチニル部分のポリペプチドへの付着などの検出可能なマーカーである。ポリペプチドおよび糖タンパク質を標識するための種々の方法が公知であり、使用され得る。ポリペプチドのための標識の例としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:放射性同位体または放射性ヌクレオチド(35S、11C、13N、15O、18F、19F、99mTc、131I、H、14C、15N、90Y、99Tc、111In、および125Iなど)、蛍光標識(フルオレセインイソチオシアナート(FITC)、ローダミン、ランタニドリン光体など)、酵素標識(セイヨウワサビペルオキシダーゼ、ベータ-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼなど)、化学発光マーカー、ビオチニル基、二次レポーターによって認識される所定のポリペプチドエピトープ(ロイシンジッパー対配列、二次抗体の結合部位、金属結合ドメイン、エピトープタグなど)、または磁性剤(ガドリニウムキレートなど)。いくつかの態様では、標識は、潜在的な立体障害を軽減するための様々な長さのスペーサーアームが付着している。
【0047】
リンカー:いくつかの場合、リンカーは、可変重鎖を可変軽鎖に間接的に結合させる働きをする抗体結合断片(Fv断片など)内のペプチドである。また、「リンカー」は、標的部分(抗体など)をエフェクター分子(細胞毒素または検出可能な標識など)に連結させる働きをするペプチドを指すことができる。用語「抱合」、「接合」、「結合」、または「連結」は、2つのポリペプチドから1つの連続したポリペプチド分子を作製すること、または放射性核種もしくは他の分子のポリペプチド(scFvなど)への共有結合性の付着を指す。具体的な文脈では、この用語は、リガンド(抗体部分など)のエフェクター分子への接合について言及することを含む。化学的手段または組換え手段のいずれかによって連結することができる。「化学的手段」は、抗体部分とエフェクター分子との間の、2つの分子間で共有結合が形成されて1つの分子が形成されるような反応を指す。
【0048】
哺乳動物:この用語には、ヒトおよび非ヒト哺乳動物の両方が含まれる。同様に、用語「被験体」には、ヒトおよび獣医学的被験体(マウス、ラット、ウシ、ネコ、イヌ、ブタ、および非ヒト霊長類など)の両方が含まれる。
【0049】
黒色腫:メラノサイト(色素メラニンを生成する細胞)由来の癌の形態。メラノサイトは、主に皮膚で見出されるが、腸内および眼内にも存在する。皮膚の黒色腫としては、表在性拡大型黒色腫、結節性黒色腫、末端部黒子黒色腫、および悪性黒子(黒色腫)が挙げられる。上記のタイプのうちのいずれかは、メラニンを生成し得るか、無色素性であり得る。同様に、任意のサブタイプは、侵襲的な挙動および局所再発の傾向のマーカーである線維形成(神経親和性の緻密線維性反応)を示し得る。他の黒色腫としては、明細胞肉腫、粘膜黒色腫、およびブドウ膜黒色腫が挙げられる。
【0050】
新形成、悪性疾患、癌、または腫瘍:新生物は、過剰な細胞分裂に起因する組織または細胞の異常な成長である。新生物が成長すると腫瘍を産生することができる。個体中の腫瘍量は「全身腫瘍組織量」であり、腫瘍の数、体積、または重量として測定することができる。転移しない腫瘍は、「良性」と称される。周囲の組織に侵入し、そして/あるいは転移することができる腫瘍は、「悪性」と称される。
【0051】
神経芽細胞腫:胚性神経堤細胞から生じる固形腫瘍。神経芽細胞腫は、一般に、副腎内または副腎周囲に生じるが、交感神経組織が見出されるいかなる場所(腹部、胸部、頸部、または脊椎付近の神経組織中など)にも生じることができる。神経芽細胞腫は、典型的には、5歳未満の小児に生じる。
【0052】
作動可能に連結された:第1の核酸配列が第2の核酸配列と機能的関係にある場合、第1の核酸配列は第2の核酸配列と作動可能に連結されている。例えば、プロモーターがコード配列の転写または発現に影響を及ぼす場合、プロモーターはコード配列に作動可能に連結されている。一般に、作動可能に連結されたDNA配列は連続しており、2つのタンパク質コード領域を接合する必要がある場合、同一の読み枠中に存在する。
【0053】
卵巣癌:卵巣(卵子(すなわち、卵)が形成される女性生殖腺対のうちの1つ)の組織中に形成される癌。ほとんどの卵巣癌は、卵巣上皮癌(卵巣表面上の細胞中から始まる癌)または悪性胚細胞腫瘍(卵細胞中から始まる癌)のいずれかである。
【0054】
卵巣明細胞癌:発症率が全卵巣悪性疾患の5%未満の上皮卵巣癌の特徴のある組織病理学的亜型。顕微鏡下で観察すると、この腫瘍型の細胞の内側は透明である。
【0055】
薬学的に許容され得る担体:有用な薬学的に許容され得る担体は従来のものである。Remington:The Science and Practice of Pharmacy,22nd ed.,London,UK:Pharmaceutical Press,2013)は、本明細書中に開示のCAR発現免疫細胞および他の組成物の薬学的送達に好適な組成物および製剤を記載している。一般に、担体の性質は、使用される特定の投与様式に依存するであろう。例えば、非経口製剤は、通常、薬学的および生理学的に許容され得る流体(水、生理食塩水、平衡塩類溶液、デキストロース水溶液、またはグリセロールなど)をビヒクルとして含む注射液を含む。固体組成物(粉末、丸薬、錠剤、またはカプセルの形態など)のために、従来の無毒の固体担体には、例えば、医薬品グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、またはステアリン酸マグネシウムが含まれ得る。生物学的に天然の担体に加えて、投与すべき医薬組成物は、少量の無毒の補助剤(湿潤剤または乳化剤、防腐剤、およびpH緩衝剤など、例えば、酢酸ナトリウムまたはソルビタンモノラウラートなど)を含むことができる。
【0056】
疾患の予防、処置、または改善:疾患の「予防」は、疾患の発症の完全な阻害を指す。「処置」は、発症が開始された後の疾患もしくは病的症状の兆候もしくは徴候を改善する(全身腫瘍組織量の低下または転移の数もしくはサイズの減少など)治療的介入を指す。「改善」は、疾患(癌など)の兆候または徴候の数または重症度の低下を指す。
【0057】
精製された:精製されたという用語は、絶対純度である必要はなく;むしろ、相対的用語であることが意図される。したがって、例えば、精製されたペプチド調製物は、ペプチドまたはタンパク質が細胞内でのその天然の環境にある場合よりもペプチドまたはタンパク質が富化されている調製物である。1つの態様では、調製物は、タンパク質またはペプチドが調製物の総ペプチドまたはタンパク質含有量の少なくとも50%存在するように精製されている。実質的な精製は、他のタンパク質または細胞成分からの精製を意味する。実質的に精製されたタンパク質は、少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、または98%の純度である。したがって、非限定的な1つの具体例では、実質的に精製されたタンパク質は、他のタンパク質または細胞成分を90%含まない。
【0058】
組換え:組換え核酸は、天然に存在しない配列を有するか、あるいは本来は分離されている2つの配列セグメントの人為的組み合わせによって作製された配列を有するものである。この人為的な組み合わせは、しばしば、化学合成または核酸の単離されたセグメントの人為的操作(例えば、遺伝子工学技術)によって行われる。
【0059】
試料(または生物試料):被験体から得たゲノムDNA、RNA(mRNAが挙げられる)、タンパク質、またはこれらの組み合わせを含む生物標本。例としては、末梢血、組織、細胞、尿、唾液、組織生検、細針吸引液、外科標本、および剖検材料が挙げられるが、これらに限定されない。1つの例では、試料としては、腫瘍生検(腫瘍組織生検など)が挙げられる。
【0060】
配列同一性:アミノ酸配列または核酸配列の間の類似性は、配列間の類似性について表されるか、そうでなければ、配列同一性と称される。配列同一性は、同一率(または類似性もしくは相同性)について測定されることが多い;百分率が高いほど2つの配列は類似性が高い。ポリペプチドまたは核酸分子のホモログまたはバリアントは、標準的な方法を使用してアラインメントしたときに配列同一度が比較的高いであろう。
【0061】
比較のための配列のアラインメント法は、公知である。様々なプログラムおよびアラインメントアルゴリズムは、Smith and Waterman,Adv.Appl.Math.2:482,1981;Needleman and Wunsch,J.Mol.Biol.48:443,1970;Pearson and Lipman,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.85:2444,1988;Higgins and Sharp,Gene 73:237,1988;Higgins and Sharp,CABIOS 5:151,1989;Corpet et al.,Nucleic Acids Research 16:10881,1988;およびPearson and Lipman,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.85:2444,1988に記載されている。Altschul et al.,Nature Genet.6:119,1994は、配列アラインメント法および相同性計算を詳細に検討している。
【0062】
配列解析プログラムblastp、blastn、blastx、tblastn、およびtblastxと関連付けて用いるためのNCBIの基本的な局所アラインメント検索ツール(BLAST)(Altschul et al.,J.Mol.Biol.215:403,1990)は、いくつかの情報源(国立生物工学情報センター(NCBI,Bethesda,MD)が挙げられる)およびインターネットから入手可能である。このプログラムを用いた配列同一性の決定方法の説明は、インターネット上のNCBIウェブサイトで利用可能である。
【0063】
GPC3に特異的に結合する抗体またはCARのホモログおよびバリアントは、典型的には、NCBI Blast2.0においてデフォルトパラメーターに設定したギャップ挿入blastpを使用して、抗体またはCARのアミノ酸配列との全長にわたるアラインメントによってカウントした場合に、少なくとも約75%、例えば、少なくとも約80%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%の配列同一性を有することを特徴とする。約30アミノ酸を超えるアミノ酸配列を比較する場合、デフォルトパラメーター(ギャップ伸長コスト11および残基あたりのギャップコスト1)に設定されたデフォルトBLOSUM62行列を使用したBlast2配列機能を使用する。短いペプチド(およそ30アミノ酸未満)をアラインメントする場合、デフォルトパラメーター(オープンギャップ9、伸長ギャップペナルティー1)に設定されたPAM30行列を用いたBlast2配列機能を使用してアラインメントを行うべきである。参照配列に対する類似性がさらにより高いタンパク質は、この方法によって査定する場合に同一率が増加するであろう(少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性など)。全配列未満を配列同一性について比較しようとする場合、ホモログおよびバリアントは、典型的には、10~20アミノ酸の短いウィンドウにわたって少なくとも80%の配列同一性を保有するであろうし、参照配列に対するその類似性に応じて少なくとも85%または少なくとも90%または95%の配列同一性を保有し得る。かかる短いウィンドウにわたる配列同一性の決定方法は、インターネット上のNCBIウェブサイトで利用可能である。これらの配列同一性の範囲は、ガイダンスのみを提供する;提供された範囲外に非常に有意なホモログが得られる可能性が十分に起こり得る。
【0064】
扁平上皮癌:扁平細胞(皮膚、眼、様々な内部器官の表面、ならびに中空器官およびいくつかの腺管の内膜を形成する薄く平坦な細胞)由来の癌のタイプ。扁平上皮癌は、類上皮癌とも称される。扁平上皮癌の1つのタイプは、肺の扁平上皮癌である。扁平上皮癌は、最もよく見られるタイプの皮膚癌である。
【0065】
被験体:生きている多細胞の脊椎生物(ヒトおよび獣医学的被験体の両方(ヒトおよび非ヒト哺乳動物、例えば、ブタ、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ウマ、ウシ、イヌ、ネコ、および非ヒト霊長類が挙げられる)が挙げられるカテゴリー)。
【0066】
合成の:研究室において人為的手段によって産生されることであって、例えば、合成の核酸またはタンパク質(例えば、抗体)を、実験室で化学合成することができる。
【0067】
治療有効量:処置される被験体において所望の効果を達成するのに十分な特定の物質の量。例えば、これは、腫瘍の成長を阻害または抑制するのに必要な量であり得る。1つの態様では、治療有効量は、腫瘍を消失させるか、サイズを減少させるか、転移を予防する(例えば、処置前のサイズ/体積/数と比較して、例えば、腫瘍のサイズおよび/または体積を少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも50%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、またはさらには100%低下させ、そして/あるいは転移の数および/またはサイズ/体積を少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも50%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、またはさらには100%低下させる)のに必要な量である。被験体に投与するとき、所望のin vitroでの効果が得られることが示されている(例えば、腫瘍中の)標的組織濃度が得られる投薬量を一般に使用するであろう。
【0068】
ベクター:宿主細胞に導入され、それにより、形質転換された宿主細胞が産生される核酸分子。ベクターは、複製起点などの宿主細胞中での複製を可能にする核酸配列を含み得る。また、ベクターは、1またはそれを超える選択可能なマーカー遺伝子および他の公知の遺伝要素を含み得る。いくつかの例では、ベクターは、ウイルスベクター(レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、またはアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターなど)である。
【0069】
III.いくつかの態様の概要
CAR T細胞は、CD19+B細胞の悪性疾患の処置を一変させた;しかしながら、固形腫瘍においてはいくつかの障壁(腫瘍特異的抗原の不足、CAR T細胞が腫瘍部位で効率的に拡大できないこと、および不均一な抗原発現が挙げられる)によって限られた成功しか収められていない(Kochenderfer et al.,Blood.2012;119(12):2709-2720;Porter et al.,N Eng J Med 2011;365(8):725-733;Jiang et al.,Front Immunol 2017;7:690;Gao et al.,Clin Cancer Res 2014;20(24):6418-6428;Ishiguro et al.,Sci Transl Med 2017;9(410)aal4291;Ishiguro et al.,Cancer Res 2008;68(23):9832-9838;Losic et al.,Nat Commun 2020;11(1):291)。本開示は、CARの構造成分を正確に変化させる合理的な操作ストラテジーを使用してこれらの課題に対処する。具体的には、GPC3標的化CARを発現する免疫細胞が、IgG4由来の短いヒンジ配列を構築物中に使用した場合に最も有効であったことを本明細書中に開示する。さらに、IgG4ヒンジ(IgG4H)をCD28膜貫通(CD28TM)ドメインと組み合わせると最も強力な抗腫瘍効果が得られた(図3A~3Dおよび4A~4D)。また、本明細書中に開示のデータは、GPC3標的化IgG4H-CD28TM CAR免疫細胞が強力なCD8 T細胞およびTemraの応答を誘導し(図5B)、驚異的に迅速で持続的な腫瘍根絶に至ることを実証している。
【0070】
GPC3に特異的に結合する細胞外抗原結合ドメイン;野生型または改変されたIgG4ヒンジ領域;膜貫通ドメイン;細胞内共刺激ドメイン;および細胞内シグナル伝達ドメインを含むCARを本明細書中に提供する。いくつかの態様では、ヒンジ領域は、改変されたIgG4ヒンジ配列ESKYGPPCPPCP(配列番号43)を含むか、この配列からなる。他の態様では、ヒンジ領域は、野生型IgG4配列ESKYGPPCPSCP(配列番号52)を含むか、この配列からなる。いくつかの態様では、膜貫通ドメインは、CD28膜貫通ドメインまたはCD8膜貫通ドメインを含む。
【0071】
いくつかの態様では、CARの抗原結合ドメインは、高親和性でGPC3に特異的に結合する。いくつかの例では、抗原結合ドメインは、GPC3特異的単一ドメイン抗体またはGPC3特異的scFvを含む。いくつかの例では、抗原結合ドメインは、GPC3特異的単一ドメイン抗体HN3由来の1またはそれを超えるCDR配列(1つ、2つ、または3つ全てのCDR配列など)を含む。他の例では、抗原結合ドメインは、GPC3特異的モノクローナル抗体hYP7、YP9.1、YP8、YP9、YP6、YP7、またはHS20由来の1またはそれを超えるCDR配列(1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、または6つ全てのCDR配列など)を含む。
【0072】
いくつかの態様では、CARの抗原結合ドメインは、配列番号18(HN3)のCDR1、CDR2、およびCDR3配列を含む単一ドメイン抗体である。いくつかの例では、CDR1、CDR2、およびCDR3配列は、それぞれ、配列番号18の残基31~35、50~65、および96~105;または配列番号18の残基26~33、51~57、および96~105を含む。具体例において、単一ドメイン抗体のアミノ酸配列は、配列番号18に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一である(かつ配列番号18のCDR1、CDR2、およびCDR3配列を含む)。特定の非限定的な例において、単一ドメイン抗体のアミノ酸配列は、配列番号18を含むか、配列番号18からなる。
【0073】
他の態様では、CARの抗原結合ドメインは、重鎖可変(VH)ドメインおよび軽鎖可変(VL)ドメインを含み、VHドメインは、配列番号20(hYP7のVHドメイン)のCDR1、CDR2、およびCDR3配列を含み、VLドメインは、配列番号22(hYP7のVLドメイン)のCDR1、CDR2、およびCDR3配列を含む。いくつかの例では、VHドメインのCDR1、CDR2、およびCDR3配列は、それぞれ、配列番号20の残基31~35、50~68、および101~106;または配列番号20の残基26~33、51~60、および99~106を含む。いくつかの例では、VLドメインのCDR1、CDR2、およびCDR3配列は、それぞれ、配列番号22の残基24~40、56~62、および95~103;または配列番号22の残基27~38、56~58、および95~103を含む。具体例において、VHドメインのアミノ酸配列は、配列番号20に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一である(かつ配列番号20のCDR1、CDR2、およびCDR3配列を含む);そして/あるいはVLドメインのアミノ酸配列は、配列番号22に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一である(かつ配列番号22のCDR1、CDR2、およびCDR3配列を含む)。特定の非限定的な例において、VHドメインのアミノ酸配列は、配列番号20を含むか、配列番号20からなる;そして/あるいはVLドメインのアミノ酸配列は、配列番号22を含むか、配列番号22からなる。他の特定の例では、抗原結合ドメインは、配列番号14の残基1~245のアミノ酸配列を含むscFvである。
【0074】
他の態様では、CARの抗原結合ドメインは、VHドメインおよびVLドメインを含み、VHドメインは、配列番号24(YP9.1のVHドメイン)のCDR1、CDR2、およびCDR3配列を含み、VLドメインは、配列番号26(YP9.1のVLドメイン)のCDR1、CDR2、およびCDR3配列を含む。いくつかの例では、VHドメインのCDR1、CDR2、およびCDR3配列は、それぞれ、配列番号24の残基31~35、50~68、および101~106;または配列番号24の残基26~33、51~60、および99~106を含む。いくつかの例では、VLドメインのCDR1、CDR2、およびCDR3配列は、それぞれ、配列番号26の残基24~40、56~62、および95~103;または配列番号26の残基27~38、56~58、および95~103を含む。具体例において、VHドメインのアミノ酸配列は、配列番号24に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一である(かつ配列番号24のCDR1、CDR2、およびCDR3配列を含む);そして/あるいはVLドメインのアミノ酸配列は、配列番号26に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一である(かつ配列番号26のCDR1、CDR2、およびCDR3配列を含む)。特定の非限定的な例において、VHドメインのアミノ酸配列は、配列番号24を含むか、配列番号24からなる;そして/あるいはVLドメインのアミノ酸配列は、配列番号26を含むか、配列番号26からなる。
【0075】
他の態様では、CARの抗原結合ドメインは、VHドメインおよびVLドメインを含み、VHドメインは、配列番号28(YP8のVHドメイン)のCDR1、CDR2、およびCDR3配列を含み、VLドメインは、配列番号30(YP8のVLドメイン)のCDR1、CDR2、およびCDR3配列を含む。いくつかの例では、VHドメインのCDR1、CDR2、およびCDR3配列は、それぞれ、配列番号28の残基31~35、50~68、および101~106;または配列番号28の残基26~33、51~60、および99~106を含む。いくつかの例では、VLドメインのCDR1、CDR2、およびCDR3配列は、それぞれ、配列番号30の残基24~40、56~62、および95~103;または配列番号30の残基27~38、56~58、および95~103を含む。具体例において、VHドメインのアミノ酸配列は、配列番号28に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一である(かつ配列番号28のCDR1、CDR2、およびCDR3配列を含む);そして/あるいはVLドメインのアミノ酸配列は、配列番号30に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一である(かつ配列番号30のCDR1、CDR2、およびCDR3配列を含む)。特定の非限定的な例において、VHドメインのアミノ酸配列は、配列番号28を含むか、配列番号28からなる;そして/あるいはVLドメインのアミノ酸配列は、配列番号30を含むか、配列番号30からなる。
【0076】
他の態様では、CARの抗原結合ドメインは、VHドメインおよびVLドメインを含み、VHドメインは、配列番号58(YP6のVHドメイン)のCDR1、CDR2、およびCDR3配列を含み、VLドメインは、配列番号30(YP6のVLドメイン)のCDR1、CDR2、およびCDR3配列を含む。いくつかの例では、VHドメインのCDR1、CDR2、およびCDR3配列は、それぞれ、配列番号58の残基31~35、50~68、および101~106;または配列番号28の残基26~33、51~60、および99~106を含む。いくつかの例では、VLドメインのCDR1、CDR2、およびCDR3配列は、それぞれ、配列番号30の残基24~40、56~62、および95~103;または配列番号30の残基27~38、56~58、および95~103を含む。具体例において、VHドメインのアミノ酸配列は、配列番号58に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一である(かつ配列番号58のCDR1、CDR2、およびCDR3配列を含む);そして/あるいはVLドメインのアミノ酸配列は、配列番号30に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一である(かつ配列番号30のCDR1、CDR2、およびCDR3配列を含む)。特定の非限定的な例において、VHドメインのアミノ酸配列は、配列番号58を含むか、配列番号58からなる;そして/あるいはVLドメインのアミノ酸配列は、配列番号30を含むか、配列番号30からなる。
【0077】
他の態様では、CARの抗原結合ドメインは、VHドメインおよびVLドメインを含み、VHドメインは、配列番号32(YP9のVHドメイン)のCDR1、CDR2、およびCDR3配列を含み、VLドメインは、配列番号34、36、または38(YP9クローン9、YP9クローン10、およびYP9クローン1のVLドメイン)のCDR1、CDR2、およびCDR3配列を含む。いくつかの例では、VHドメインのCDR1、CDR2、およびCDR3配列は、それぞれ、配列番号32の残基31~35、50~68、および101~106;または配列番号32の残基26~33、51~60、および99~106を含む。いくつかの例では、VLドメインのCDR1、CDR2、およびCDR3配列は、それぞれ、配列番号34、36、または38の残基24~40、56~62、および95~103;または配列番号34、36、または38の残基27~38、56~58、および95~103を含む。具体例において、VHドメインのアミノ酸配列は、配列番号32に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一である(かつ配列番号32のCDR1、CDR2、およびCDR3配列を含む);そして/あるいはVLドメインのアミノ酸配列は、配列番号34、36、または38に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一である(かつ配列番号34、36、または38のCDR1、CDR2、およびCDR3配列をそれぞれ含む)。特定の非限定的な例において、VHドメインのアミノ酸配列は、配列番号32を含むか、配列番号32からなる;そして/あるいはVLドメインのアミノ酸配列は、配列番号34、36、または38を含むか、配列番号34、36、または38からなる。
【0078】
他の態様では、CARの抗原結合ドメインは、重鎖可変(VH)ドメインおよび軽鎖可変(VL)ドメインを含み、VHドメインは、配列番号54(YP7のVHドメイン)のCDR1、CDR2、およびCDR3配列を含み、VLドメインは、配列番号56(YP7のVLドメイン)のCDR1、CDR2、およびCDR3配列を含む。いくつかの例では、VHドメインのCDR1、CDR2、およびCDR3配列は、それぞれ、配列番号54の残基31~35、50~68、および101~106;または配列番号54の残基26~33、51~60、および99~106を含む。いくつかの例では、VLドメインのCDR1、CDR2、およびCDR3配列は、それぞれ、配列番号56の残基24~40、56~62、および95~103;または配列番号56の残基27~38、56~58、および95~103を含む。具体例において、VHドメインのアミノ酸配列は、配列番号54に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一である(かつ配列番号54のCDR1、CDR2、およびCDR3配列を含む);そして/あるいはVLドメインのアミノ酸配列は、配列番号56に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一である(かつ配列番号56のCDR1、CDR2、およびCDR3配列を含む)。特定の非限定的な例において、VHドメインのアミノ酸配列は、配列番号54を含むか、配列番号54からなる;そして/あるいはVLドメインのアミノ酸配列は、配列番号56を含むか、配列番号56からなる。
【0079】
他の態様では、CARの抗原結合ドメインは、VHドメインおよびVLドメインを含み、VHドメインは、配列番号40(HS20のVHドメイン)のCDR1、CDR2、およびCDR3配列を含み、VLドメインは、配列番号42(HS20のVLドメイン)のCDR1、CDR2、およびCDR3配列を含む。いくつかの例では、VHドメインのCDR1、CDR2、およびCDR3配列は、それぞれ、配列番号40の残基31~35、50~66、および97~105;または配列番号40の残基26~33、51~58、および97~105を含む。いくつかの例では、VLドメインのCDR1、CDR2、およびCDR3配列は、それぞれ、配列番号42の残基24~34、50~56、および89~97;または配列番号42の残基27~32、50~52、および89~97を含む。具体例において、VHドメインのアミノ酸配列は、配列番号40に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一である(かつ配列番号40のCDR1、CDR2、およびCDR3配列を含む);そして/あるいはVLドメインのアミノ酸配列は、配列番号42に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一である(かつ配列番号42のCDR1、CDR2、およびCDR3配列を含む)。特定の非限定的な例において、VHドメインのアミノ酸配列は、配列番号40を含むか、配列番号40からなる;そして/あるいはVLドメインのアミノ酸配列は、配列番号42を含むか、配列番号42からなる。
【0080】
いくつかの態様では、CARの膜貫通ドメインは、CD28膜貫通ドメインを含む。いくつかの例では、CD28膜貫通ドメインのアミノ酸配列は、配列番号46に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一である。特定の非限定的な例において、CD28膜貫通ドメインのアミノ酸配列は、配列番号46を含むか、配列番号46からなる。他の態様では、CARの膜貫通ドメインは、CD8膜貫通ドメインを含む。いくつかの例では、CD8膜貫通ドメインのアミノ酸配列は、配列番号47に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一である。特定の非限定的な例において、CD8膜貫通ドメインのアミノ酸配列は、配列番号47を含むか、配列番号47からなる。
【0081】
いくつかの態様では、CARの共刺激ドメインは、4-1BBシグナル伝達部分を含む。いくつかの例では、4-1BBシグナル伝達部分のアミノ酸配列は、配列番号48に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一である。特定の非限定的な例において、4-1BBシグナル伝達部分のアミノ酸配列は、配列番号48を含むか、配列番号48からなる。
【0082】
いくつかの態様では、CARのシグナル伝達ドメインは、CD3ζシグナル伝達ドメインを含む。いくつかの例では、シグナル伝達ドメインのアミノ酸配列は、配列番号49に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一である。特定の非限定的な例において、CD3ζシグナル伝達ドメインのアミノ酸配列は、配列番号49を含むか、配列番号49からなる。
【0083】
いくつかの態様では、CARのアミノ酸配列は、配列番号2、4、6、8、10、12、および14のうちのいずれか1つに対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一である。いくつかの例では、CARのアミノ酸配列は、配列番号2、4、6、8、10、12、および14のうちのいずれか1つを含む。具体例において、アミノ酸配列は、配列番号6(HN3-IgG4H-CD28TM)または配列番号14(hYP7-IgG4H-CD28TM)を含む。
【0084】
本明細書中に開示のCARをコードする核酸分子をさらに提供する。いくつかの態様では、核酸分子は、プロモーター(誘導性または構成性のプロモーターなど)に作動可能に連結されている。いくつかの例では、核酸分子は、配列番号1、3、5、7、9、11、および13のうちのいずれか1つに対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一である。特定の例では、核酸分子は、配列番号1、3、5、7、9、11、および13のうちのいずれか1つを含む。非限定的な具体例では、核酸分子は、配列番号5(HN3-IgG4H-CD28TM)または配列番号13(hYP7-IgG4H-CD28TM)を含む。
【0085】
いくつかの態様では、核酸分子は、5’から3’への方向に、第1の顆粒球マクロファージコロニー刺激因子受容体シグナル配列(GMCSFRss)をコードする核酸;抗原結合ドメインをコードする核酸;IgG4ヒンジ領域をコードする核酸;膜貫通ドメインをコードする核酸;共刺激ドメインをコードする核酸;シグナル伝達ドメインをコードする核酸;自己切断2Aペプチドをコードする核酸;第2のGMCSFRssをコードする核酸;および短縮ヒト上皮増殖因子受容体(huEGFRt)をコードする核酸を含む。いくつかの例では、核酸分子は、第1のGMCSFRssをコードする核酸の5’側にヒト伸長因子1α(EF1α)プロモーター配列をさらに含む(国際公開第2019/094482号を参照のこと)。
【0086】
本明細書中に開示の核酸分子を含むベクターをさらに提供する。いくつかの例では、ベクターは、ウイルスベクター(レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、またはアデノ随伴ウイルスベクターなど)である。
【0087】
本明細書中に開示のCARをコードする核酸分子を含み、そして/あるいは本明細書中に開示のCARを発現する単離された細胞も提供する。いくつかの態様では、細胞は、免疫細胞(T細胞、B細胞、NK細胞、またはマクロファージなど)である。他の態様では、細胞は、誘導多能性幹細胞(iPSC)である。
【0088】
薬学的に許容され得る担体(水または生理食塩水など)および本明細書中に開示のCAR、核酸分子、ベクター、または細胞を含む組成物をさらに提供する。いくつかの例では、組成物は凍結されている。いくつかの例では、組成物は、凍結されており、かつ細胞およびDMSOまたは他の冷凍保存剤を含む。いくつかの例では、組成物は凍結乾燥されている。
【0089】
被験体におけるGPC3陽性癌を処置するか、あるいは、GPC3陽性癌の腫瘍成長または転移を阻害する方法も提供する。いくつかの態様では、この方法は、治療有効量の本明細書中に開示のCAR、核酸分子、ベクター、細胞、または組成物を被験体に投与する工程を含む。いくつかの例では、GPC3陽性癌は固形腫瘍である。特定の非限定的な例において、GPC3陽性癌は、肝細胞癌(HCC)、黒色腫、卵巣明細胞癌、卵黄嚢腫瘍(YST)、神経芽細胞腫、肝芽腫、ウィルムス腫瘍、肺の扁平上皮癌、精巣非セミノーマ性胚細胞腫瘍、脂肪肉腫、子宮頸部上皮内新形成、副腎の腺腫、シュワン細胞腫、または胎児性腫瘍である。具体例において、GPC3陽性癌はHCCである。
【0090】
IV.GPC3特異的抗体配列
本明細書中に開示のCARは、GPC3に特異的に結合する抗体(またはその抗原結合断片)を含む。いくつかの態様では、抗体は、HN3(ヒト単一ドメイン(VH)モノクローナル抗体)またはhYP7(ヒト化マウス抗体)(scFv形式)である。他の態様では、抗体は、YP9、YP8、YP6、YP7、もしくはYP9.1(scFv形式など)、またはそのヒト化バージョンである。さらに他の態様では、抗体は、ヒト抗体であるHS20(scFv形式など)である。HN3、hYP7、YP9、YP8、YP6、YP7、YP9.1、およびHS20抗体は、PCT公開番号国際公開第2012/145469号、国際公開第2012/145469号、および国際公開第2019/094482号に記載されている。HN3、hYP7、YP9、YP8、YP6、YP7、YP9.1、およびHS20のヌクレオチドおよびアミノ酸配列を以下に提供する。表1~13は、KabatおよびIMGTを使用して決定した場合のHN3のCDR1、CDR2、およびCDR3、ならびにhYP7、YP9、YP8、YP6、YP7、YP9.1、およびHS20のVHおよびVLドメインのCDR1、CDR2、およびCDR3のアミノ酸の位置を列挙している。代替のナンバリングスキーム(ParatomeまたはChothiaのナンバリングスキームなど)を使用して、CDRの境界を容易に決定することができる。
【化1】
【表1】
【化2-1】
【化2-2】
【表2】
【表3】
【化3-1】
【化3-2】
【表4】
【表5】
【化4-1】
【化4-2】
【表6】
【表7】
【化5-1】
【化5-2】
【化5-3】
【表8】
【表9】
【化6-1】
【化6-2】
【表10】
【表11】
【化7-1】
【化7-2】
【表12】
【表13】
【0091】
V.GPC3標的化CAR配列
HN3単一ドメイン抗体およびhYP7 scFvを使用し、CD8ヒンジ(配列番号45)、IgG4ヒンジ(配列番号43)、IgG4-CH3ヒンジ、またはIgG4-CH2-CH3ヒンジのいずれか、およびCD8膜貫通(TM)ドメイン(配列番号47)またはCD28膜貫通ドメイン(配列番号46)のいずれかを利用して、いくつかの異なるCAR構築物を生成した。以下に提供したCARアミノ酸配列では、抗原結合配列(HN3単一ドメインまたはhYP7 VH-リンカー-VL)に下線を引き、ヒンジ領域(CD8α、IgG4、IgG4-CH3、またはIgG4-CH2-CH3)を太字で示し、TMドメイン(CD8αまたはCD28)を斜体で示す。
【化8-1】
【化8-2】
【表14】
【化9】
【表15】
【化10-1】
【化10-2】
【表16】
【化11】
【表17】
【化12-1】
【化12-2】
【表18】
【化13-1】
【化13-2】
【表19】
【0092】
HN3-IgG4H-CH2CH3-CD28TM CAR中に含まれるCH2ドメインは、以下の配列を有する改変されたCH2ドメインである(配列番号59;置換されたアミノ酸残基に下線を引いている):
【化14】
【0093】
いくつかの態様では、野生型CH2ドメインを、改変されたCH2ドメインの代わりに使用する(例えば、以下の配列を有する野生型CH2ドメイン(配列番号60)):
【化15-1】
【化15-2】
【表20】
【化16-1】
【化16-2】
【表21】
【0094】
VI.キメラ抗原受容体(CAR)
GPC3特異的CARおよびCARを発現するように操作された細胞(例えば、T細胞、B細胞、NK細胞、マクロファージ、およびiPSC)を本明細書中に開示する。一般に、CARは、結合部分、細胞外ヒンジ/スペーサーエレメント、膜貫通領域、およびシグナル伝達機能を果たす細胞内ドメインを含む(Cartellieri et al.,J Biomed Biotechnol 2010:956304,2010;Dai et al.,J Natl Cancer Inst 108(7):djv439,2016)。多くの例では、結合部分は、モノクローナル抗体の抗原結合断片(scFvまたは単一ドメイン抗体など)である。スペーサー/ヒンジ領域は、典型的には、IgGサブクラス(IgG1、IgG4など)、IgD、およびCD8ドメイン由来の配列を含む。本明細書中のいくつかの態様では、ヒンジ領域は、配列番号43に記載の改変されたIgG4ヒンジ配列を含む(または、からなる)。本明細書中の他の態様では、ヒンジ領域は、配列番号52に記載の野生型IgG4ヒンジ配列を含む(または、からなる)。膜貫通ドメインは、種々の異なるT細胞タンパク質(CD3ζ、CD4、CD8、CD28、または誘導性T細胞共刺激分子(ICOS)など)に由来することができる。いくつかの異なるエンドドメインが、CARを生成するために使用されている。例えば、エンドドメインは、ITAMを有するシグナル伝達鎖(CD3ζまたはFcεRIγなど)からなることができる。いくつかの例では、エンドドメインは、少なくとも1つのさらなる共刺激ドメインの細胞内部分(CD28、4-1BB(CD137、TNFRSF9)、OX-40(CD134)、ICOS、CD27、MYD88-CD40、キラー細胞免疫グロブリン様受容体 2DS2(KIR2DS2)、および/またはDAP10など)をさらに含む。
【0095】
また、CARは、例えば、抗原結合ドメインのN末端にシグナルペプチド配列を含むことができる。シグナルペプチド配列は、任意の好適なシグナルペプチド配列(顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子受容体(GMCSFR)、イムノグロブリン軽鎖カッパ、またはIL-2由来のシグナル配列など)であり得る。シグナルペプチド配列は細胞表面上でCARの発現を容易にし得るが、発現したCAR中のシグナルペプチド配列の存在は、CARが機能するのに必要ではない。細胞表面上のCARの発現の際に、シグナルペプチド配列を、CARから切り出し得る。したがって、いくつかの態様では、CARはシグナルペプチド配列を欠く。
【0096】
いくつかの態様では、本明細書中に開示のCARは、ヒトEGFRの短縮バージョン(huEGFRt;以下のVII項でより詳細に考察されている)も発現する構築物(レンチウイルスベクターなど)から発現される。CARおよびhuEGFRtは、形質導入された細胞中での発現の際に、CARがhuEGFRtから切断されるように自己切断ペプチド配列(T2Aなど)によって分離されている(国際公開第2019/094482号を参照のこと)。
【0097】
本明細書中で考察されたいくつかの態様では、CAR構築物は、N末端からC末端の方向に以下のアミノ酸配列をコードする:
GMCSFRss:MLLLVTSLLLCELPHPAFLLIP(配列番号44)
NdeI:HM
抗原結合:scFvまたは単一ドメイン抗体配列
SpeI:TS
ヒンジ:改変されたIgG4(ESKYGPPCPPCP;配列番号43)、野生型IgG4(ESKYGPPCPSCP;配列番号52)、またはCD8α(TTTPAPRPPTPAPTIASQPLSLRPEACRPAAGGAVHTRGLDFACD;配列番号45)
TM:CD28(FWVLVVVGGVLACYSLLVTVAFIIFWV;配列番号46)またはCD8α(IYIWAPLAGTCGVLLLSLVIT;配列番号47)
【化17】
【0098】
本明細書中に開示のCARを発現する免疫細胞(T細胞、B細胞、NK細胞、またはマクロファージなど)またはiPSCを使用して、腫瘍細胞(例えば、GPC3陽性腫瘍細胞)などの特異的細胞型を標的にすることができる。CARを発現する免疫細胞(T細胞など)を使用することは、CARを発現する免疫細胞がHLAに拘束されず、したがって、標的抗原を発現する腫瘍を有する任意の患者に使用することができるので、標準的なCTLベースの免疫療法より普遍的である。
【0099】
したがって、GPC3特異的抗体(またはその結合断片)を含むCARを本明細書中に提供する。CARをコードする単離された核酸分子およびベクター、ならびにCARを発現する宿主細胞(T細胞、B細胞、NK細胞、マクロファージ、またはiPSCなど)も提供する。GPC3特異的モノクローナル抗体から構成されるCARを発現する細胞を、GPC3を発現する癌(HCC、黒色腫、卵巣明細胞癌、卵黄嚢腫瘍(YST)、神経芽細胞腫、肝芽腫、ウィルムス腫瘍、肺の扁平上皮癌、精巣非セミノーマ性胚細胞腫瘍、脂肪肉腫、子宮頸部上皮内新形成、副腎の腺腫、シュワン細胞腫、または胎児性腫瘍など)の処置のために使用することができる。
【0100】
VII.短縮ヒトEGFR(huEGFRt)
ヒト上皮増殖因子受容体は、4つの細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、および3つの細胞内ドメインから構成される。EGFRドメインは、以下のN末端からC末端への順序で見出される:ドメインI-ドメインII-ドメインIII-ドメインIV-膜貫通(TM)ドメイン-膜近傍ドメイン-チロシンキナーゼドメイン-C末端テール。ドメインIおよびドメインIIIは、リガンド結合に関与するロイシンリッチドメインである。ドメインIIおよびドメインIVは、システインリッチドメインであり、EGFRリガンドと接触していない。ドメインIIは、他のEGFRファミリーメンバー由来の類似ドメインとのホモ二量体またはヘテロ二量体の形成を媒介し、ドメインIVは、ドメインIIとジスルフィド結合を形成することができる。EGFR TMドメインは、細胞膜を1回貫通し、タンパク質二量体化で役割を果たし得る。細胞内ドメインは、膜近傍ドメイン、チロシンキナーゼドメイン、およびC末端テールを含み、EGFRシグナル伝達を媒介する(Wee and Wang,Cancers 9(52),doi:10.3390/cancers9050052;Ferguson,Annu Rev Biophys 37:353-373,2008;Wang et al.,Blood 118(5):1255-1263,2011)。
【0101】
本明細書中で「huEGFRt」称されるヒトEGFRの短縮バージョンは、ドメインIII、ドメインIV、およびTMドメインのみを含む。したがって、huEGFRtは、ドメインI、ドメインII、および3つ全ての細胞内ドメインを欠く。huEGFRtは、EGFに結合することができず、シグナル伝達活性を欠く。しかしながら、この分子は、特定のEGFR特異的モノクローナル抗体(FDA承認されたセツキシマブ(PCT公開番号国際公開第2011/056894号)など)に結合する能力を保持している。
【0102】
本明細書中に開示のhuEGFRtおよびGPC3特異的CARの両方をコードする構築物(レンチウイルスベクターなど)での免疫細胞(T細胞、B細胞、NK細胞、またはマクロファージなど)またはiPSCの形質導入により、形質導入された細胞を、標識されたEGFRモノクローナル抗体セツキシマブ(エルビタックス(商標))を使用して選択可能である。例えば、セツキシマブをビオチンで標識することができ、形質導入された細胞を、(Miltenyi Biotecなどから)市販されている抗ビオチン磁性ビーズを使用して選択することができる。また、huEGFRtの同時発現により、養子移入されたCAR発現細胞のin vivoでの追跡が可能である。さらに、huEGFRtを発現する細胞へのセツキシマブの結合により、ADCCエフェクター細胞の細胞傷害性が誘導され、それにより、治療終了時などに形質導入された免疫細胞またはiPSCをin vivoで消失させる機序が得られる(Wang et al.,Blood 118(5):1255-1263,2011)。
【0103】
本明細書中のいくつかの態様では、huEGFRtのアミノ酸配列は、配列番号51に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一である。いくつかの例では、huEGFRtのアミノ酸配列は、配列番号51を含むか、配列番号51からなる。他の態様では、huEGFRtのアミノ酸配列は、配列番号51と比較して10以下、9以下、8以下、7以下、6以下、5以下、4以下、3以下、2以下、または1以下のアミノ酸置換を含む。いくつかの例では、アミノ酸置換は、保存的置換である。
【0104】
VIII.CAR発現細胞組成物
1またはそれを超える薬学的または生理学的に許容され得る担体、希釈剤、または賦形剤と組み合わせてCAR発現細胞を含む組成物を提供する。CAR発現細胞は、iPSC、T細胞(例えば、CD3T細胞、例えば、CD4および/またはCD8T細胞)、B細胞、NK細胞、マクロファージ、または任意の他の好適な免疫細胞であり得る。そのような組成物は、緩衝液(中性緩衝化食塩水、リン酸緩衝食塩水など);炭水化物(グルコース、マンノース、スクロースデキストラン、またはマンニトールなど);タンパク質;ポリペプチドまたはアミノ酸(グリシンなど);酸化防止剤;キレート剤(EDTAまたはグルタチオンなど);アジュバント(例えば、水酸化アルミニウム);および保存剤を含み得る。いくつかの例では、細胞含有組成物は、冷凍保存剤(DMSOまたはグリセロールなど)を含む。いくつかの例では、細胞含有組成物は、培養培地(DMEMまたはRPMIなど)を含み、血清(FBSなど)をさらに含み得る。いくつかの例では、細胞含有組成物は、凍結されているか液体の形態である。細胞は、レシピエントに対して自家性であり得る。しかしながら、細胞は、異種(同種)であってもよい。
【0105】
細胞に関して、細胞を導入するために種々の水性担体(例えば、緩衝化生理食塩水など)を使用することができる。これらの溶液は無菌であり、一般に、望ましくない物質を含まない。これらの組成物を、従来の滅菌技術によって滅菌し得る。組成物は、pH調整剤および緩衝剤、ならびに毒性調整剤などの生理学的条件に近づけることが必要な場合の薬学的に許容され得る補助剤(例えば、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、および乳酸ナトリウムなど)を含み得る。これらの製剤中の濃度は大きく変動する可能性があり、選択される特定の投与様式および被験体のニーズに従って、主に流体の体積、粘度、および体重などに基づいて選択されるであろう。
【0106】
組成物の正確な投与量を、年齢、体重、腫瘍サイズ/全身腫瘍組織量、転移の範囲、および患者(被験体)の症状の個人差を考慮して、医師が決定することができる。本明細書中に記載のCAR発現免疫細胞(T細胞、B細胞、マクロファージ、および/またはNK細胞)またはiPSCを含む医薬組成物を、10~10細胞/kg体重、例えば、10~10細胞/kg体重(前述の範囲内の全ての整数値を含む)の投薬量で投与し得ると一般に述べることができる。例示的な用量は、10細胞/kg~約10細胞/kg、例えば、約5×10細胞/kgから約7.5×10細胞/kgまで、例えば、約2.5×10細胞/kg、または約5.0×10細胞/kgである。
【0107】
組成物を、これらの投薬量で1回または複数回(2、3、4、5、6、7、8、9、または10回など)投与することができる。組成物を、公知の免疫療法による注入技術を使用して投与することができる(例えば、Rosenberg et al.,New Eng.J.of Med.319:1676,1988を参照のこと)。組成物を、1日1回、1週間に1回、1ヶ月に2回、または1ヶ月に1回投与することができる。いくつかの非限定的な例では、組成物を、静脈内投与用に製剤化し、複数回投与する。適切な投薬量を臨床試験によって決定し得るが、投与の量および頻度を、被験体の症状、ならびに被験体の疾患のタイプおよび重症度などの要因によって決定するであろう。
【0108】
いくつかの態様では、CARをコードする核酸分子を、細胞(T細胞、B細胞、NK細胞、マクロファージ、またはiPSCなど)に導入し、被験体に細胞を最初に投与し、その後に細胞を1またはそれを超える回数で投与し、ここで、1またはそれを超える回数のその後の投与は、前の投与から15日後未満(例えば、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、または2日後)の投与である。1つの態様では、被験体に1週間あたり1回を超えてCAR発現細胞を投与する(例えば、開示のCAR発現細胞を1週間あたり2、3、または4回投与する)。1つの態様では、被験体にCAR発現細胞を1週間あたり1回を超える回数で投与し(例えば、1週間あたり2、3、または4回の投与)(サイクルとも称される)、その後の1週間はCAR発現細胞を投与せず、次いで、CAR発現細胞の1またはそれを超える回数のさらなる投与(例えば、1週間あたり1回を超えるCAR発現細胞の投与)を被験体に行う。別の態様では、被験体(例えば、ヒト被験体)に、1サイクルを超えるCAR発現細胞を投与し、各々のサイクル間の期間は、10、9、8、7、6、5、4、または3日未満である。1つの態様では、CAR発現細胞を、1週間あたり1日おきに3回投与する。別の態様では、CAR発現細胞を、少なくとも2、3、4、5、6、7、8週間、またはそれを超えて投与する。患者に投与すべき上記処置の投薬量は、処置を受ける症状および処置のレシピエントの正確な性質に応じて変動するであろう。ヒトへの投与のための投薬量を、慣例にしたがって調整することができる。
【0109】
いくつかの態様では、CAR発現細胞は、in vivoで複製することができ、その結果長期で持続され、腫瘍の制御を維持することができる。様々な態様では、被験体に投与されるiPSC、T細胞、B細胞、マクロファージ、もしくはNK細胞、またはこれらの細胞の子孫は、被験体への細胞の投与後、少なくとも4ヶ月間、5ヶ月間、6ヶ月間、7ヶ月間、8ヶ月間、9ヶ月間、10ヶ月間、11ヶ月間、12ヶ月間、13ヶ月間、14ヶ月間、15ヶ月間、16ヶ月間、17ヶ月間、18ヶ月間、19ヶ月間、20ヶ月間、21ヶ月間、22ヶ月間、23、または1年間被験体中に存続する。他の態様では、細胞およびその子孫は、被験体へのCAR発現細胞の投与後、6ヶ月未満、5ヶ月未満、4ヶ月未満、3ヶ月未満、2ヶ月未満、1ヶ月未満(例えば、3週間、2週間、1週間)存在する。
【0110】
組成物を、任意の従来の様式で(注射、摂取、輸液、体内移植、移植が挙げられる)投与し得る。開示の組成物を、患者の経動脈、皮下、皮内、腫瘍内、リンパ節内、髄内、筋肉内、動脈内(肝動脈(HAIなど)または大腿動脈が挙げられる)、静脈内(i.v.)注射、前立腺内(例えば、前立腺癌のため)、または腹腔内に投与することができる。いくつかの態様では、組成物を、皮内注射または皮下注射によって患者に投与する。他の態様では、開示の組成物を、i.v.注射によって投与する。他の態様では、開示の組成物を、動脈内注射によって投与する。また、組成物を、腫瘍またはリンパ節中に直接注射することができる。
【0111】
いくつかの態様では、白血球を採取し、ex vivoで富化するか枯渇させて目的の細胞(例えば、iPSC、T細胞、B細胞、マクロファージ、および/またはNK細胞)を選択および/または単離する白血球搬出を被験体に実施することができる。これらの細胞単離物を、公知の方法によって拡大し、1またはそれを超えるCAR構築物を導入できるように処置し、それにより、CARを発現する自家細胞を作製し得る。本明細書中のいくつかの態様では、CAR発現細胞を、CARおよび短縮形態のヒトEGFR(huEGFRt)を発現するレンチウイルスベクターを使用して生成する。huEGFRtの同時発現により、上記VIII項に記載のhuEGFRtを認識する抗体(例えば、セツキシマブ、PCT公開番号国際公開第2011/056894号を参照のこと)を使用して、CAR発現免疫細胞を選択および精製可能である。
【0112】
いくつかの態様では、免疫細胞(T細胞、B細胞、NK細胞、および/またはマクロファージなど)を、赤血球を溶解し、いくつかの場合、例えば、パーコール(商標)勾配による遠心分離または逆流遠心溶出法によって単球を枯渇させることによって末梢血から単離する。T細胞の特異的な亜集団(CD3+、CD28+、CD4+、CD8+、CD45RA+、およびCD45RO+T細胞など)を、ポジティブ選択技術またはネガティブ選択技術によってさらに単離することができる。例えば、T細胞を、抗CD3/抗CD28(例えば、3×28)抱合ビーズ(DYNABEADS(登録商標)M-450 CD3/CD28 Tなど)との所望のT細胞のポジティブ選択に十分な時間のインキュベーションによって単離することができる(米国特許出願公開第20140271635号を参照のこと)。非限定的な例では、時間は約30分間である。他の非限定的な例では、時間は、30分間から36時間までまたはそれを超える時間の範囲およびその間の全ての整数値である。さらなる非限定的な例では、時間は、少なくとも1、2、3、4、5、または6時間、10~24時間、24時間またはそれを超える時間である。より長いインキュベーション時間を使用して、他の細胞型と比較してT細胞が少ない任意の状況(免疫無防備状態の個体からの単離など)においてT細胞を単離することができる。さらに、より長いインキュベーション時間を使用すると、CD8+T細胞の捕捉効率を上昇させることができる。したがって、時間を単純に短縮または延長させることにより、T細胞をCD3/CD28ビーズに結合させることが可能であり、そして/あるいはT細胞に対するビーズの比を増加または減少させることにより、T細胞の亜集団を、培養開始時または過程中の他の時点で自在に優先的に選択することができる。さらに、ビーズまたは他の表面上の抗CD3および/または抗CD28抗体の比を増加または減少させることにより、T細胞の亜集団を、培養開始時または他の所望の時点で自在に優先的に選択することができる。複数ラウンドの選択も使用することができる。
【0113】
ネガティブ選択による細胞集団の富化を、ネガティブ選択された細胞に固有の表面マーカーに指向する抗体と組み合わせて行うことができる。1つの方法は、ネガティブ選択された細胞上に存在する細胞表面マーカーに指向するモノクローナル抗体のカクテルを使用する負の磁性免疫接着またはフローサイトメトリーによる細胞の分取および/または選択である。例えば、ネガティブ選択によってCD4+T細胞を富化するために、モノクローナル抗体カクテルは、典型的には、CD14、CD20、CD11b、CD16、HLA-DR、およびCD8に対する抗体を含む。1またはそれを超えるサイトカインを発現するT細胞集団を選択することができる。細胞発現のスクリーニング方法は、PCT公開国際公開第2013/126712号に開示されている。
【0114】
ポジティブ選択またはネガティブ選択による所望の細胞集団の単離のために、細胞および表面(例えば、ビーズなどの粒子)の濃度を、細胞およびビーズの接触が確実に最大になるように変動させることができる。いくつかの態様では、10億個の細胞/mlの濃度を使用する。さらなる態様では、1億個超の細胞/mlを使用する。他の態様では、1000万、1500万、2000万、2500万、3000万、3500万、4000万、4500万、5000万、5500万、6000万、6500万、7000万、7500万、8000万、8500万、9000万、9500万、1億個の細胞/mlの細胞濃度を使用する。理論に拘束されないが、高濃度で使用すると、細胞収量、細胞活性化、および細胞発現を増加させることができる。より低い細胞濃度も使用することができる。理論に拘束されないが、T細胞と表面(例えば、ビーズなどの粒子)の混合物を著しく希釈すると、粒子と細胞との間の相互作用が最小になる。これにより、粒子に結合すべき所望の抗原を大量に発現する細胞が選択される。例えば、CD4+T細胞は、希釈された濃度でCD28をCD8+T細胞より高いレベルで発現し、より高い効率で捕捉される。いくつかの態様では、使用される細胞濃度は5×10/mlである。他の態様では、使用濃度は、約1×10/mlから1×10/mlまで、およびその間の任意の整数値であり得る。
【0115】
IX.処置方法
治療有効量の本明細書中に開示のGPC3標的化CAR発現免疫細胞(T細胞、B細胞、NK細胞、またはマクロファージなど)またはCAR発現iPSCを被験体に投与することによる被験体における癌の処置方法を本明細書中に提供する。治療有効量の本明細書中に開示のGPC3標的化CAR発現細胞を被験体に投与することによる被験体における腫瘍成長または転移の阻害方法も本明細書中に提供する。したがって、いくつかの例では、方法は、腫瘍のサイズ、体積、および/または重量を、例えば、処置前の腫瘍のサイズ、体積、および/または重量と比較して、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも50%、少なくとも50%、少なくとも75%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%減少させる。いくつかの例では、方法は、転移のサイズ、体積、および/または重量を、例えば、処置前の転移のサイズ、体積、および/または重量と比較して、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも50%、少なくとも50%、少なくとも75%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%、または100%減少させる。いくつかの例では、方法は、GPC3陽性癌を有する被験体の生存期間を、例えば、本明細書中に提供した処置を行わなかった生存期間と比較して、少なくとも3ヶ月間、少なくとも6ヶ月間、少なくとも9ヶ月間、少なくとも12ヶ月間、少なくとも18ヶ月間、少なくとも24ヶ月間、少なくとも(at last)36ヶ月間、少なくとも48ヶ月間、または少なくとも60ヶ月間延長する。いくつかの例では、これらの効果の組み合わせが達成される。
【0116】
被験体におけるGPC3陽性癌の処置方法を具体的に提供する。いくつかの態様では、方法は、被験体に、治療有効量の、GPC3標的化CARおよびhuEGFRtをコードする核酸分子を含む単離された免疫細胞またはiPSCを投与する工程、または治療有効量の、GPC3標的化CARおよびhuEGFRtを同時発現する単離された免疫細胞またはiPSCを投与する工程を含む。いくつかの態様では、GPC3陽性癌は、肝細胞癌(HCC)、黒色腫、卵巣明細胞癌、卵黄嚢腫瘍(YST)、神経芽細胞腫、肝芽腫、ウィルムス腫瘍、肺の扁平上皮癌、精巣非セミノーマ性胚細胞腫瘍、脂肪肉腫、子宮頸部上皮内新形成、副腎の腺腫、シュワン細胞腫、または胎児性腫瘍である。具体的な態様では、処置される癌はHCCである。
【0117】
本明細書中に開示の方法のいくつかの態様では、単離された免疫細胞はTリンパ球である。いくつかの例では、Tリンパ球は自家Tリンパ球である。他の態様では、単離された宿主細胞は、B細胞、NK細胞、またはマクロファージである。
【0118】
治療有効量のCAR発現免疫細胞またはiPSCは、疾患の重症度、疾患のタイプ、および患者の一般的な健康状態に依存するであろう。治療有効量のCAR発現細胞およびその組成物は、徴候(複数可)の主観的な軽減または臨床医もしくは他の適格な観察者によって指摘された客観的に同定可能な改善(腫瘍の容積または転移の減少など)のいずれかを提供するものである。
【0119】
本明細書中に開示のCAR発現細胞および組成物を、他の抗癌剤の投与または治療上の処置(腫瘍の外科的切除など)によって投与することもできる。任意の好適な抗癌剤を、本明細書中に開示の組成物と組み合わせて投与することができる。例示的な抗癌剤としては、化学療法剤(例えば、分裂阻止因子、アルキル化剤、代謝拮抗物質、挿入抗生物質、増殖因子阻害剤、細胞周期阻害剤、酵素、トポイソメラーゼ阻害剤、抗生存剤、生物学的応答調節物質、抗ホルモン(例えば、抗アンドロゲン)、および抗血管形成剤など)が挙げられるが、これらに限定されない。他の抗癌処置としては、放射線療法および癌細胞または他の細胞を特異的に標的にする抗体(例えば、mAb)(例えば、抗PD-1、抗CLTA4、抗EGFR、または抗VEGF)が挙げられる。1つの例では、癌を、本明細書中に開示のGPC3標的化CAR免疫細胞(iPSC、T細胞、B細胞、NK細胞、またはマクロファージなど)および1またはそれを超える治療mAb(PD-L1抗体(例えば、デュルバルマブ、KN035、コシベリマブ、BMS-936559、BMS935559、MEDI-4736、MPDL-3280A、またはMEDI-4737)、またはCLTA-4抗体(例えば、イピリムマブまたはトレメリムマブ)のうちの1つまたは複数など)の投与によって処置する。1つの例では、癌を、本明細書中に開示のGPC3標的化CAR免疫細胞(iPSC、T細胞、B細胞、NK細胞、またはマクロファージなど)および、例えば、以下の1またはそれを超えるmAbの投与によって処置する:3F8、アバゴボマブ、アデカツムマブ、アフツズマブ、アラシズマブ、アレムツズマブ、アルツモマブペンテタート、アナツモマブ・マフェントクス、アポリズマブ、アルシツモマブ、バビツキシマブ、ベクツモマブ、ベリムマブ、ベシレソマブ、ベバシズマブ、ビバツズマブ・メルタンシン、ブリナツモマブ、ブレンツキシマブ・ベドチン、カンツズマブ・メルタンシン、カプロマブ・ペンデチド、カツマキソマブ、CC49、セツキシマブ、シタツズマブ・ボガトクス、シクスツムマブ、クリバツズマブ・テトラキセタン、コナツムマブ、ダセツズマブ、デツモマブ、エクロメキシマブ、エクリズマブ、エドレコロマブ、エプラツズマブ、エルツマキソマブ、エタラシズマブ、ファーレツズマブ、フィギツムマブ、ガリキシマブ、ゲムツズマブ・オゾガマイシン、ギレンツキシマブ、グレムバツムマブ・ベドチン、イブリツモマブ・チウキセタン、イゴボマブ、イムシロマブ、インテツムマブ、イノツズマブ・オゾガマイシン、イピリムマブ、イラツムマブ、ラベツズマブ、レキサツムマブ、リンツズマブ、ロルボツズマブ・メルタンシン、ルカツムマブ、ルミリキシマブ、マパツムマブ、マツズマブ、メポリズマブ、メテリムマブ、ミラツズマブ、ミツモマブ、モロリムマブ、ナコロマブ・タフェナトクス、ナプツモマブ・エスタフェナトクス、ネシツムマブ、ニモツズマブ、ノフェツモマブ・メルペンタン、オファツムマブ、オララツマブ、オポルツズマブ・モナトクス、オレゴボマブ、パニツムマブ、ペムツモマブ、ペルツズマブ、ピンツモマブ、プリツムマブ、ラムシルマブ、リロツムマブ、リツキシマブ、ロバツムマブ、サツモマブ・ペンデチド、シブロツズマブ、ソネプシズマブ、タカツズマブ・テトラキセタン、タプリツモマブ・パプトクス、テナツモマブ、TGN1412、チシリムマブ(トレメリムマブ)、チガツズマブ、TNX-650、トラスツズマブ、トレメリムマブ、ツコツズマブ・セルモロイキン、ベルツズマブ、ボロシキシマブ、ボツムマブ、ザルツムマブ、またはこれらの組み合わせ。
【0120】
1つの例では、癌を、本明細書中に開示のGPC3標的化CAR免疫細胞(iPSC、T細胞、B細胞、NK細胞、またはマクロファージなど)および/または1またはそれを超えるアルキル化剤、例えば、ナイトロジェンマスタード(メクロレタミン、シクロホスファミド、メルファラン、ウラシルマスタード、またはクロラムブシルなど)、スルホン酸アルキル(ブスルファンなど)、ニトロソ尿素(カルムスチン、ロムスチン、セムスチン、ストレプトゾシン、またはダカルバジンなど)を投与することによって処置する。
【0121】
1つの例では、癌を、本明細書中に開示のGPC3標的化CAR免疫細胞(iPSC、T細胞、B細胞、NK細胞、またはマクロファージなど)、ならびに1またはそれを超える代謝拮抗物質、例えば、葉酸アナログ(メトトレキサートなど)、ピリミジンアナログ(5-FUまたはシタラビンなど)、およびプリンアナログ、例えば、メルカプトプリンまたはチオグアニンを投与することによって処置する。
【0122】
1つの例では、癌を、本明細書中に開示のGPC3標的化CAR免疫細胞(iPSC、T細胞、B細胞、NK細胞、またはマクロファージなど)、ならびに1またはそれを超える天然物(ビンカアルカロイド(ビンブラスチン、ビンクリスチン、またはビンデシンなど)、エピポドフィロトキシン(エトポシドまたはテニポシドなど)、抗生物質(ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ブレオマイシン、プリカマイシン、またはマイトマイシンCなど)、および酵素(L-アスパラギナーゼなど)などが挙げられる)を投与することによって処置する。
【0123】
1つの例では、癌を、本明細書中に開示のGPC3標的化CAR免疫細胞(iPSC、T細胞、B細胞、NK細胞、またはマクロファージなど)、ならびに1またはそれを超える白金配位錯体(シスプラチンとしても公知のシス-ジアミン-ジクロロ白金IIなど)、置換尿素(ヒドロキシ尿素など)、メチルヒドラジン誘導体(プロカルバジンなど)、および副腎皮質(adrenocrotical)抑制薬(ミトタンおよびアミノグルテチミドなど)を投与することによって処置する。
【0124】
1つの例では、癌を、本明細書中に開示のGPC3標的化CAR免疫細胞(iPSC、T細胞、B細胞、NK細胞、またはマクロファージなど)、ならびに1またはそれを超えるホルモンまたはアンタゴニスト、例えば、副腎皮質ステロイド(プレドニゾンなど)、プロゲスチン(カプロン酸ヒドロキシプロゲステロン、酢酸メドロキシプロゲステロン、および酢酸メゲストロール(magestrol acetate)など)、エストロゲン(ジエチルスチルベストロールおよびエチニルエストラジオールなど)、抗エストロゲン(タモキシフェンなど)、およびアンドロゲン(テステロンプロピオナートおよびフルオキシメステロンなど)を投与することによって処置する。
【0125】
1つの例では、癌を、本明細書中に開示のGPC3標的化CAR免疫細胞(iPSC、T細胞、B細胞、NK細胞、またはマクロファージなど)、ならびに1またはそれを超える化学療法薬、例えば、アドリアマイシン、アルケラン、Ara-C、BiCNU、ブスルファン、CCNU、カルボプラチナム、シスプラチナム、シトキサン、ダウノルビシン、DTIC、5-FU、フルダラビン、ハイドレア、イダルビシン、イフォスファミド、メトトレキサート、ミトラマイシン、マイトマイシン、ミトキサントロン、ナイトロジェンマスタード、タキソール(または他のタキサン、例えば、ドセタキセル)、ベルバン、ビンクリスチン、VP-16、ゲムシタビン(ジェムザール)、ハーセプチン、イリノテカン(カムプトザール、CPT-11)、ロイスタチン、ナベルビン、リツキサンSTI-571、タキソテール、トポテカン(ハイカムチン)、ゼローダ(カペシタビン)、ゼベリン、およびカルシトリオールを投与することによって処置する。
【0126】
1つの例では、癌を、本明細書中に開示のGPC3標的化CAR免疫細胞(iPSC、T細胞、B細胞、NK細胞、またはマクロファージなど)、ならびに1またはそれを超える免疫調節薬、例えば、AS-101(Wyeth-Ayerst Labs.)、ブロピリミン(Upjohn)、ガンマインターフェロン(Genentech)、GM-CSF(顆粒球マクロファージコロニー刺激因子;Genetics Institute)、IL-2(CetusまたはHoffman-LaRoche)、ヒト免疫グロブリン(Cutter Biological)、イムレグ(Imreg of New Orleans,La.)、SK&F 106528、およびTNF(腫瘍壊死因子;Genentech)を投与することによって処置する。
【0127】
本明細書中に提供した処置と組み合わせて使用することができる別の処置は、外科的処置、例えば、癌またはその一部の外科的切除である。処置の別の例は、照射療法、例えば、腫瘍の根治または外科的切除前の腫瘍の縮小を支援するための腫瘍部位への放射性物質またはエネルギー(体外放射線療法など)の投与である。
具体例において、方法は、被験体に、治療有効量の(1)GPC3標的化CARおよびhuEGFRtをコードする核酸分子を含む単離された免疫細胞またはiPSCを投与すること、または治療有効量の、GPC3標的化CARおよびhuEGFRtを同時発現する単離された免疫細胞またはiPSCを投与することによってHCCを処置する工程を含む。いくつかの例では、方法は、被験体に、治療有効量の1またはそれを超える他の化学療法剤または生物学的作用因子を投与する工程をさらに含む。いくつかの態様では、1またはそれを超える他の化学療法剤または生物学的作用因子は、5-FU、シスプラチン、ゲムシタビン、オキサリプラチン、ドキソルビシン、カペシタビン、フロクスウリジン、またはミトキサントロン、例えば、ゲムシタビン+オキサリプラチン(GEMOS)、フロクスウリジン、シスプラチン、およびオキサリプラチン、または5-FU、オキサリプラチン、およびロイコボリン(FOLFOX)のうちの1つまたは複数である。いくつかの態様では、1またはそれを超える他の化学療法剤または生物学的作用因子は、ソラフェニブ、レンバチニブ、レゴラフェニブ、カボザンチニブ、およびラムシルマブのうちの1つまたは複数である。いくつかの態様では、1またはそれを超える他の化学療法剤または生物学的作用因子は、免疫療法薬、例えば、ペムブロリズマブおよび/またはニボルマブである。
【0128】
以下の実施例を、ある特定の特徴および/または態様を説明するために提供する。これらの実施例は、本開示を特定の記載の特徴または態様に制限すると解釈されないものとする。
【実施例
【0129】
実施例
完全なヒトHN3ナノボディは、いくつかの魅力的な特徴(ヒトにおける免疫原性の懸念を和らげる能力;マウスおよびヒトGPC3への異種間結合;およびWnt遮断能が挙げられる)を有する(Li et al.,Hepatology 70(4):1231-1245,2019;Fleming et al.,Hepatology 71(5):1696-1711,2020;Feng et al.,Proc Natl Acad Sci USA 110(12):E1083-E1091,2013;Chen et al.,Cancer Immunol Immunother 66(4):475-489,2017;Phung et al.,mAbs 4(5):592-599,2012;Gao et al.,Hepatology 60(1527-3350):576-587,2014;Zhang and Ho,Sci Rep 6:633878,2016)。完全なヒトHN3の特徴は、マウス由来scFvと比較して免疫原性による制約が小さいことである。異種間の特徴は、マウスモデルにおける前臨床試験を迅速に行い、ナノボディの内容を変更することなくヒトで研究することが可能である。最後に、HN3ナノボディは、GPC3のネイティブなWnt結合ドメインを特異的に標的にし、そして不活化する。Wntシグナル伝達の上方制御がHCC病理発生における重要因子であるので、天然結合領域の活用は有利である(de La Coste et al.,Proc Natl Acad Sci USA 95(15):8847-8851,1998;Cancer Genome Atlas Research Network,Cell 169(7):1327-1341,2017;Laurent-Puig et al.,Gastroenterology 120(7):1763-1773,2001;Zucman-Rossi et al.,Hepatology 43(3):515-524,2006;Capurro et al.,Cancer Res 65(14):6245-6254,2005)。
【0130】
以下の実施例は、GPC3陽性腫瘍細胞に輸送するためのターゲティングエレメントとしてHN3ナノボディまたはhYP7 scFvを使用したGPC3標的化CARの合理的なデザインを記載する。ヒンジおよび膜貫通ドメインの正確な操作によって抗腫瘍有効性が最大になることを本明細書中で実証している。各々のヒンジおよび膜貫通成分の寄与を分析することにより、ヒンジおよび膜貫通が相乗的に作用すると判定した。
【0131】
下記のデータは、IgG4ヒンジおよびCD28膜貫通を含むHN3操作T細胞が迅速で強力な持続的抗腫瘍応答を誘導したことを実証している。さらに、これらの抗腫瘍応答は、他のCAR T細胞で認められない特異的CD8+Temraシグネチャーと相関していた。
【0132】
実施例1:材料と方法
この実施例は、実施例2~6に記載の研究で使用した材料および実験手順を記載する。
【0133】
細胞モデル
Hep3B(HCC)、HepG2(肝芽腫)、HEK-293T、およびJurkat細胞株を、American Type Culture Collection(Manassas,VA)から購入した。Hep3BおよびHepG2を、ルシフェラーゼを発現するレンチウイルスで形質導入した。Hep3BKO GFP-ルシフェラーゼ細胞株を、以前に記載のようにCRISPR/CAS9ノックアウトを使用して樹立した。細胞株を、10%ウシ胎児血清(FBS)、1%L-グルタミン、および1%ペニシリン-ストレプトマイシンを補足したダルベッコ改変イーグル培地中で5%COを含む加湿雰囲気下にて37℃で培養した。健康なドナーの末梢血由来の末梢血単核球(PBMC)を、製造者の説明書に従ってFicoll(GE Healthcare,Chicago,IL)を使用して単離した。Jurkat細胞を、10%ウシ胎児血清、1%L-グルタミン、および1%ペニシリン-ストレプトマイシンを補足したRPMI-1640培地中で5%COを含む加湿雰囲気下にて37℃で成長させた。
【0134】
Jurkat結合およびJurkat NFκBレポーター
Jurkat細胞を、CAR含有レンチウイルスを用いて感染多重度(MOI)5で形質導入した。7日後、細胞表面EGFRtを、抗ヒトIgG-フィコエリトリン(APC)抱合抗体を使用して査定した。hFcでタグ化したGPC3タンパク質(ACRO)のCAR発現Jurkat細胞への細胞表面結合を、抗ヒトIgG-フィコエリトリン(APC)抱合抗体(Jackson ImmunoResearch,West Grove,PA)を使用して査定した。
【0135】
CAR T細胞の産生
CAR T細胞を、以前に記載のように産生した(Li et al.,Gastroenterology 158(8):2250-2265,2020)。簡潔に述べれば、HEK-293T細胞を、カルフェクチン(SignaGen,Rockville,MD)を使用してパッケージングプラスミドpsPAX2(Addgene番号12260)およびエンベロープ型プラスミドpMD2.G(Addgene番号12259)で同時トランスフェクトした。レンチウイルス粒子を回収し、濃縮し、機能力価を、EGFRtマーカーを使用して査定した。健康なドナー由来のPBMCを、抗CD3/抗CD28抗体をコーティングしたビーズを使用して、インターロイキン2(Invitrogen,Carlsbad,CA)の存在下で24時間刺激した。細胞カウントおよび生存能を追跡するために、生存細胞を、トリパンブルーを使用してカウントした。
【0136】
細胞死滅研究
細胞溶解アッセイを、以前に記載のようにGPC3 CARで形質導入したルシフェラーゼ発現細胞株およびT細胞を使用して行った(Wang et al.,Blood 118(5):1255-1263,2011)。簡潔に述べれば、腫瘍細胞をT細胞と表示のエフェクター-標的比で24時間インキュベートした。ライセートの発光を、ルシフェラーゼアッセイシステム(Promega)を使用してプレート分光光度計(Victor,Perkin Elmer)にて分析した。各々の試料の特異的溶解を、標的細胞のみの発光(それぞれ0%溶解および100%溶解に対応する)を使用して計算した。
【0137】
動物研究
異種移植片マウスモデルを、NOD-SCID-ガンマ(NSG)マウスに3×10個のHep3B細胞または1×10個のHuh7 GFP-ルシフェラーゼ細胞を腹腔内注射することによって樹立した。平均腫瘍生物発光が1×10に到達したとき、マウスに、5×10個の非形質導入の正常ヒトドナーT細胞または操作されたHN3 CAR T細胞を腹腔内または静脈内に注射した。処置したマウスを、Xenogen IVIS-200Spectrumカメラにて1~4週目の間は週に2回、4週目以後は週1回画像化した。IACUC承認された罹病率エンドポイント(苦痛の任意の兆候が挙げられる)に到達したときにマウスを安楽死させた。
【0138】
実施例2:HN3ナノボディCAR Jurkat細胞は、抗原特異性を保持する
いくつかのCAR構築物を、(1)抗原結合ドメインとしてのHN3またはhYP7 scFv、(2)改変されたIgG4由来のヒンジ領域(IgG4H)またはCD8由来のヒンジ領域(CD8H)、および(3)CD8(CD8TM)またはCD28(CD28TM)由来の膜貫通ドメインを使用して生成した:HN3-CD8H-CD8TM、HN3-IgG4H-CD28TM、HN3-IgG4H-CD8TM、HN3-CD8H-CD28TM、hYP7-CD8H-CD8TM、およびhYP7-IgG4H-CD88TM。これらのCAR構築物を、図2Aおよび図2Bに示す。T細胞を、CAR含有レンチウイルスで形質導入し、細胞カウントを、トランスフェクション後11日目まで測定した(図2C)。形質導入したT細胞の細胞カウントは、非形質導入T細胞と有意に異ならなかった。また、CAR構築物の形質導入効率を、8日目のCAR陽性細胞の検出によって測定した(図2D)。
【0139】
操作されたGPC3標的化CARの抗原特異性および細胞結合能を試験するために、CAR構築物でトランスフェクトしたT細胞株(Jurkat)を作出し、ヒトFcでタグ化したGPC3(GPC3-hFc)への結合を査定した。最初に、CARレンチウイルスによって発現された短縮EGFRマーカーを使用して、全てのCAR構築物で首尾の良い形質導入(95~98%)が確認された。次に、全てのJurkat-CAR構築物が1、2、および5μg/mLでGPC3-hFcに効率よく(75.8~98.6%)結合することが実証された(図1A)。全てのCAR T細胞は、同一濃度でGPC3-hFcに特異的に結合し(図1A)、GPC1-hFc(図1B)に結合しなかった。概して、このデータは、HN3および操作されたHN3 CARがGPC3に特異的に結合し、他のグリピカンへの非特異的結合は最小であることを示す。
【0140】
実施例3:HN3-IgG4H-CD28TM CAR T細胞は、in vitroでの高いおよび低い抗原密度の設定で活性を増強する
高い抗原密度の状況と低い抗原密度の状況を対比してCAR T細胞の効力を試験するために、種々の抗原密度を有する複数のHCC細胞株(Hep3B、HepG2、およびHuh7)を使用した(Fu et al,Hepatology 70(2):563-576,2019)。これらの細胞株を、腫瘍進行度が異なるレベルの多様な患者から単離した。Hep3B細胞はGPC3を高発現し、一方で、Huh7細胞はGPC3をより低い程度に発現する。HN3-IgG4H-CD28TM CAR T細胞が全てのHCC株において最も高い細胞死滅を示した一方で、HN3-IgG4H-CD28TM CAR T細胞は低抗原密度のHuh7細胞において高い活性を示したことが見出された(図2E~2H)。HN3-CD8H-CD28TM CAR T細胞はHN3-CD8H-CD8TM CAR T細胞と比較して40%の死滅改善が実証され、CD28TMが低いおよび高い抗原密度条件下の両方においてCAR Tの効力を増大させることを示していた。しかしながら、CD28TMのみではより低い比で100%死滅を誘導するには不十分である。HN3-CD8H-CD28TMをHN3-IgG4H-CD28TMと比較して、IgG4Hは効力を10~20%増加させた。全てのCAR T細胞は、GPC3ノックアウト細胞株との反応が最小であり(図2F)、これらの条件下では同種抗原反応性および抗原特異的細胞死滅のレベルが低かった。まとめると、これらの結果は、HN3-IgG4H-CD28TMが試験した中で最も強力なCAR構築物であることを示す。IgG4ヒンジおよびCD28 TMの両方は、GPC3 CAR T細胞治療の抗腫瘍効果を非依存的に増強する。
【0141】
実施例4:Fcを持たないIgG4HおよびCD28TMドメインはin vitroでHN3効力を増強する
ヒンジの長さが抗原結合に影響を及ぼすかどうかを試験するために、Fc成分を組み込み、短いヒンジ(IgG4H)、中程度のヒンジ(IgG4-CH3)、および長いヒンジ(IgG4-CH2CH3)を有するHN3 CAR T細胞を試験した(Smith et al.,Sci Transl Med.11(485):eaau7746,2019;Jonnalagadda et al.,Mol Ther 23(4):757-768,2015)。細胞カウントおよび形質導入アッセイは、長いヒンジの構築物は同一MOIで拡大するのがより遅く、あまり有効に発現しないことを示した。全ての構築物は、GPC3ノックアウトHep3B細胞(ell)との反応が最小であり、抗原特異的相互作用を示していた。HN3-IgG4H-CD28TM CAR T細胞は、中程度および長いヒンジのCAR T細胞より優れていた。これらのデータは、Fcを使用したヒンジの伸長は必要なく、in vivoでのHN3-GPC3相互作用を妨害する可能性があることを実証している。要するに、このデータから、IgG4HおよびCD28TMを共に使用してin vitroでの強力な死滅を誘導するようにHN3ナノボディを操作することができることが確認された。
【0142】
実施例5:HN3-IgGH-CD28TM CAR T細胞は、マウスにおいて高GPC3 HCC異種移植片を根絶する
in vitroでの操作されたCAR T細胞の特異性および細胞傷害性の両方が実証されたので、in vivo抗腫瘍活性を試験するためにさらなる研究を行った。第1の研究では(図3A)、Hep3B GFP/ルシフェラーゼ発現細胞(300万個)をNSGマウスにIP注射し、12日間生着させた。マウスを、0日目に500万個のhYP7-CD8H-CD8TM、hYP7-IgG4H-CD28TM、HN3-IgG4H-CD8TM、またはHN3-IgG4H-CD28TM CAR T細胞で処置し、定期的に画像化した。結果を、図3B~3Dに示す。in vitroでの所見と一致して、HN3-IgG4H-CD28TM CAR T細胞は高い抗腫瘍活性を実証し、腫瘍は10日以内に根絶された。対照的に、HN3-IgG4H-CD8TM群の腫瘍は、一部が応答し、研究中に成長し続けた。非形質導入T細胞、HN3-CD8H-CD8TM、およびhYP7-CD8H-CD8TM CAR T細胞で処置したマウスの生存期間中央値は、それぞれ27、29、および30日であった。対照的に、HN3-IgG4H-CD28TM、およびHN3-IgG4H-CD8TMで処置した3匹のマウスは、研究終了時まで(35日目)生存した。HN3-IgG4H-CD28TM群は、腫瘍サイズの迅速な減少が3日目から開始され、最終的に全研究期間にわたって腫瘍を担持しない状態を維持した。
【0143】
scFvとナノボディの性能の問題に取り組むために、HN3-IgG4H-CD28TMと比較するためにhYP7-IgG4H-CD28TM CAR T細胞を含めた。hYP7-IgGH-CD28TM構築物は、in vitroで形質導入することが困難であり、形質導入率は25~30%であった。これらの課題にもかかわらず、構築物は、特にHep3B株およびHepG2株において試験した細胞でうまく機能した。驚いたことに、in vivoでは、hYP7構築物は腫瘍退縮の誘導が30日目まで遅延された一方で、操作されたHN3構築物は3日以内に腫瘍退縮を誘導した。これらのデータは、同一の用量レベルでHN3-IgG4-CD28TMがhYP7-IgG4-CD28TMより強力であることを示唆している。
【0144】
上記と同一の研究条件を使用した第2の研究では(図4A)、Fc含有CAR T細胞のin vivo抗腫瘍活性を試験した。結果を図4B~4Dに示す。in vitroでの所見と一致して、HN3-IgG4H-CD28TM群では、腫瘍は7日以内に退縮した。HN3-IgG4H-CD28TM群の全ての腫瘍は完全に根絶され、67日後に再成長しなかった。Fc成分を含むCAR T細胞で処置したマウスは、部分応答を示した。特に、HN3-IgG4H-CH3-CD28TM群(「HN3-IgG4H-CD28TM-M」)の5匹のマウスのうちの4匹は24日目に腫瘍が存在せず、HN3-IgG4H-CH2CH3-CD28TM(「HN3-IgG4H-CD28TM-L」)群の5匹のマウスのうちの2匹は15日目に腫瘍が存在しなかった。HN3-CD8H-CD8TM群は、CAR T細胞処置に応答しなかった。
【0145】
in vivoでの低抗原密度モデルでは(Huh7)、6匹のマウスのうち5匹で顕著な腫瘍退縮が認められた(図6A~6D)。まとめると、これらのデータは、HN3-IgG4H-CD28TM構築物が迅速かつ持続的な抗腫瘍応答を達成するのに最も強力であることを示した。
【0146】
実施例6:GPC3を標的にするキメラ抗原受容体T細胞はCD8+およびTemraサブセットを富化する
CAR T細胞、疲弊マーカー、およびT細胞サブセットの数をモニタリングするために、研究マウス由来の血液を分析した(Chen et al.,Cancer Discov 11(9):2186-2199,2021;Ma et al.,Cancer Discov 3(4):418-429,2013;Xu et al.,Blood 123(24):3750-3759,2014)。結果を図5A~5Fに示す。28日目に、HN3-IgG4H-CD28TM群由来のマウスがHN3-CD8H-CD8TM処置群よりもCAR T細胞数が数対数倍多く、大きな増殖応答を示していた。さらに、PD1発現はHN3-IgG4H-CH3-CD28TM群で最低であった(Guo et al.,Front Pharmacol 9:1118,2018)。T細胞応答を理解するために、CD8発現とCD4発現を対比して試験し、Tscm、Tcm、Tem、およびTemraを含むT細胞サブセットも試験した。操作されたCAR T細胞は、多数のCAR陽性CD8 T細胞を保有していた。T細胞は、早期には類似の表現型を示していたが、4週目および5週目までにin vivoでメモリー機能およびエフェクター機能の両方を示した。4週目および5週目までに、HN3-IgG4H-CD28TM群のほとんどのCAR T細胞はCD8+表現型を有し、エフェクター機能に携わっていた。これらのデータは、2~5週間にわたってCAR T細胞が拡大してCD8+Temraに明確に移行し、これが抗腫瘍応答に非常に重要なようであることを示す。セントラルメモリーT細胞も集団のサブセット内に維持されており、両方のT細胞型が疲弊の回避および腫瘍部位への輸送の継続に必要であることを示した。CD8+Temraのこの優勢は、Huh7腫瘍群における不応答者で認められなかった。まとめると、これは、CD8+Temra細胞の初期の移行が退縮および持続的な応答の誘導に重要であるという仮説を支持している。
【0147】
実施例7:HN3-IgG4H-CD28TMは、HCCにおいてWntシグナル伝達を遮断し、NFATを活性化する
in vivoでの効力が認められたので、GPC3発現Hep3B細胞に曝露されときにHN3構築物が腫瘍Wntシグナル伝達を遮断する能力を試験した(図7A)。Hep3B細胞と30分間および3時間共培養したときのHN3-IgG4H-CD28TM CAR T細胞で、活性βカテニンおよび総βカテニンのレベルの両方の減少が認められた。操作されたHN3 CAR T細胞は、総βカテニンを迅速に阻害し、3時間で活性βカテニンを完全に無効にした(図7A)。30分間でさえ、操作されたHN3構築物の総βカテニンレベルはより低かった。これらのデータから、Wntシグナル伝達がHN3ベースのCAR T細胞の直接の標的であること、および3時間以内にHN3に指示されたCAR T細胞がβカテニン活性化を直接阻害することが確認された。
【0148】
CAR T細胞がin vivoでどのように作用するのかを理解するために、NFATがT細胞シグナル伝達で役割を果たすのかどうかを判定するための試験を行った(Wilson et al.,Nat Commun 6:6818,2015;Li et al.,Cancer Cell 31:383-395,2017;Capurro et al.,J Cell Sci 127:1565-1575,2014)。各々の時点にわたって、CD8H-CD8TMを含む元の構築物と比較してHN3-IgG4H-CD28TM CAR T細胞においてNFATシグナル伝達が段階的に高くなった。代表的な画像化ウィンドウにおいてCAR細胞がHep3B細胞よりも多数存在するときに、NFATシグナル伝達の飽和が4時間で最大に到達した(図7B)。細胞のカウントおよびサイズによってtdTomatoシグナルを定量した場合、HN3-IgG4H-CD28TMとHN3-CD8H-CD8TMとの対比におけるNFATシグナル伝達の間の相違は顕著であった。HN3-IgG4H-CD28TM処置Hep3B細胞におけるNFATシグナル伝達は、200の範囲全体においてより多数の細胞で開始され、細胞数およびシグナル強度に関して4時間以内に倍増する。これらの所見は、NFATを介したシグナル伝達がHN3-CD8H-CD8TMよりもHN3-IgG4H-CD28TMにおけるT細胞活性化で多く見られることを示していた。概して、HN3-IgG4H-CD28TM CAR T細胞においてNFATが確実に上方制御されることが認められた。データ全体に基づいて、抗原-CAR相互作用を微調整することによって前述の細胞におけるこれらの機序が変化し、それにより、腫瘍を強力かつ持続的に根絶することが提案される。
【0149】
記載の本開示の態様の意図を逸脱することなく、記載の方法または組成物の正確な詳細を変更または修正し得ることが明らかであろう。本発明者らは、全てのかかる修正および変更が以下の特許請求の範囲の範囲および意図の範囲内にあると主張する。
図1A
図1B
図2A
図2B-C】
図2D
図2E-F】
図2G-H】
図3A-B】
図3C-D】
図4A-B】
図4C-D】
図5A-B】
図5C-D】
図5E
図5F
図6A-B】
図6C-D】
図7A
図7B
【配列表】
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【国際調査報告】