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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-31
(54)【発明の名称】マイクロ流体チップ
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20241024BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
C12M1/00 C
C12M1/34 D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024526851
(86)(22)【出願日】2021-10-29
(85)【翻訳文提出日】2024-07-01
(86)【国際出願番号】 FI2021050735
(87)【国際公開番号】W WO2023073276
(87)【国際公開日】2023-05-04
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524166352
【氏名又は名称】プロビオント オーイー
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】プーア、ベネデク
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA08
4B029BB11
4B029FA10
(57)【要約】
マイクロ流体デバイス(100)は、基板と機能ユニット(102)とを備える。各機能ユニット(102)は、第1の流路(106)によって流体連通するように配置された第1のチャンバ(104)と、第2の流路(110)によって流体連通するように配置された第2のチャンバ(108)とを備える。マイクロ流路アレイ(114)は、第1の流路(106)と第2の流路(108)とを接続するように配置される。細胞を培養する方法は、第1のチャンバ(104)に免疫細胞を提供すること、第2のチャンバ(108)に癌細胞を提供すること、デバイス(100)をインキュベートすること、及び免疫細胞の癌細胞への移動を観察しながら、免疫細胞及び/又は癌細胞をカウントすること、を含む。この製造方法では、機能ユニットを画定するために基板が提供され、キャスト成形される。各機能ユニットは、第1の流路によって流体連通するように配置された第1のチャンバと、第2の流路によって流体連通するように配置された第2のチャンバとを備える。マイクロ流路アレイは、第1の流路と第2の流路とを接続するように配置される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ流体デバイス(100)であって、
-ガス透過性の基板と、
-1つ以上の機能ユニット(102)と、を備え、
各機能ユニット(102)は、
-第1の流路(106)によって流体連通するように配置された2つの第1のチャンバ(104)と、
-第2の流路(110)によって流体連通するように配置された2つの第2のチャンバ(108)と、
-前記第1の流路(106)と前記第2の流路(110)とを接続するように配置されたマイクロ流路アレイ(114)と、を備え、
-前記マイクロ流路アレイ(114)、前記マイクロ流路アレイ(114)と流体連通する前記第1の流路(106)の部分、及び前記マイクロ流路アレイ(114)と流体連通する前記第2の流路(110)の部分は、各機能ユニット(102)の動作部分を形成する、
マイクロ流体デバイス(100)。
【請求項2】
各機能ユニット(102)は、分離されたユニットであり、他の機能ユニット(102)のいずれとも流体連通しておらず、好ましくは独立して装填されるように構成されている、請求項1に記載のマイクロ流体デバイス(100)。
【請求項3】
前記マイクロ流路アレイの幅(L)が、30μm~9000μm、好ましくは3000μm~7000μm、より好ましくは4000μm~6000μmの範囲にある、請求項1又は請求項2に記載のマイクロ流体デバイス(100)。
【請求項4】
前記マイクロ流路アレイの幅(L)が、30μm~2000μm、好ましくは50μm~100μmの範囲にある、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のマイクロ流体デバイス(100)。
【請求項5】
前記マイクロ流体デバイス(100)は、顕微鏡検査用のスライド上に配置される、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のマイクロ流体デバイス(100)。
【請求項6】
前記マイクロ流体デバイス(100)は、マイクロプレート上に配置される、請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載のマイクロ流体デバイス(100)。
【請求項7】
前記マイクロ流体デバイス(100)の少なくとも一部、任意選択で前記第1のチャンバ(104)及び前記第2のチャンバ(108)を除いた前記マイクロ流体デバイス(100)の本質的に全部又は大部分が、透明に覆われている、請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載のマイクロ流体デバイス(100)。
【請求項8】
前記第1のチャンバ(104)の各々は、100μm~3cmの高さを有すると共に、0.5mm~10mm、好ましくは3mm~5mmの半径を有する本質的に円形の断面、又は0.7mm~314mm、好ましくは28mm~78.5mmにわたる面積を有する任意の他の二次元形状を有する、請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載のマイクロ流体デバイス(100)。
【請求項9】
前記第2のチャンバ(108)の各々は、100μm~3cmの高さを有すると共に、
200μm~400μmの半径、又は前記第2チャンバ(108)の各々を装填するために使用される装填装置の半径の外径に対応する半径を有する、本質的に円形の断面に対応する表面積を有する、請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載のマイクロ流体デバイス(100)。
【請求項10】
前記第1の流路(106)の高さは、10μm~300μm、好ましくは170μm~190μm、例えば189μmであり、前記第1の流路(106)の幅は、200μm~3000μm、好ましくは1190μmであり、前記第2の流路(110)の高さは、10μm~300μm、好ましくは170μm~190μm、例えば189μmであり、前記第2の流路(110)の幅は、100μm~1000μm、好ましくは490μmであり、前記第1の流路(106)の長さは、少なくとも前記マイクロ流路アレイ(114)の長さであり、前記第2の流路(110)の長さは、少なくとも前記マイクロ流路アレイ(114)の長さである、請求項1から請求項9までのいずれか1項に記載のマイクロ流体デバイス(100)。
【請求項11】
前記マイクロ流路アレイ(114)内のマイクロ流路(116)の各々は、
-5μm~20μm、好ましくは10μm~15μmの高さ(h)と、
-10μm~15μm、好ましくは11μm~13μmの幅(w)と、
-100μm~2000μm、好ましくは100μm~1000μmの長さ(l)と、
-20μm~40μm、好ましくは27μm~37μmの前記マイクロ流路(116)間の距離(d)と、を有する、
請求項1から請求項10までのいずれか1項に記載のマイクロ流体デバイス(100)。
【請求項12】
前記マイクロ流体デバイス(100)が、1個~384個の機能ユニット(102)を備える、請求項1から請求項11までのいずれか1項に記載のマイクロ流体デバイス(100)。
【請求項13】
前記マイクロ流体デバイス(100)がPDMSを含む、請求項1から請求項12までのいずれか1項に記載のマイクロ流体デバイス(100)。
【請求項14】
細胞を培養する方法であって、
請求項1~13のいずれか1項に記載のマイクロ流体デバイス(100)を提供することと、
少なくとも1つの第1のチャンバ(104)に少なくとも免疫細胞を提供することと、
少なくとも1つの第2のチャンバ(108)に少なくとも癌細胞を提供することと、
前記マイクロ流体デバイス(100)をインキュベートすることと、
前記癌細胞への前記免疫細胞の移動を観察しながら、前記免疫細胞及び/又は前記癌細胞をカウントすることと、
を含む、方法。
【請求項15】
1つ以上の自動ピペットによって、前記少なくとも1つの第1のチャンバ(104)に少なくとも免疫細胞を提供すること、及び/又は前記少なくとも1つの第2のチャンバ(108)に少なくとも癌細胞を提供すること、を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
マイクロ流体チップの製造方法であって、
-基板を提供することと、
-前記基板の厚さを30μm~3.5mmに制限し、前記基板を加工して、1つ以上の機能ユニット(102)を画定することと、
-前記基板を硬化させることと、
を含み、
各機能ユニット(102)が、
-第1の流路(106)によって流体連通するように配置された2つの第1のチャンバ(104)と、
-第2の流路(110)によって流体連通するように配置された2つの第2のチャンバ(108)と、
-前記第1の流路(106)と前記第2の流路(110)とを接続するように配置されたマイクロ流路アレイ(114)と、
-前記マイクロ流路アレイ(114)と流体連通する前記第1の流路(106)の部分と、前記マイクロ流路アレイ(114)と流体連通する前記第2の流路(110)の部分と、を接続するように配置された動作部分と、を備える、
マイクロ流体チップの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、細胞を培養するためのデバイスに関する。より具体的には、本出願は、細胞、スフェロイド、及びオルガノイドをin vitroで培養するためのデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ流体チップは、癌細胞への免疫細胞の遊走(immune cell migration)を評価することで、免疫療法の有効性を研究するための1つの解決策として適用されている。最先端のチップの1つは、Businaro等によって開発され(Lab Chip 13 (2013) 229-239)、いくつかの免疫療法アプローチの効果を試験するために使用されている(例えば、Lucarini等 J. Investig. Dermatol. 137 (2017) 159-169)。これらのアッセイでは、多くの場合、癌細胞に三次元環境を提供するためにマトリゲルが使用されてきた。また、完全ヒトin vitroマイクロ流体チップアッセイは、個別化された医療を目的とした免疫療法の試験に使用されている(Al Samadi等、Experimental Cell Research 383 (2019) 111508)。一般に、マイクロ流体チップの設計は、免疫調節剤の有無にかかわらず、癌細胞への免疫細胞の遊走と、それらの細胞傷害活性の両方を試験するために使用されてきた。チップ設計は重要であり、正確で再現性のある測定のためにはサンプルの体積を十分に大きくする必要がある一方で、撮像や測定のためには顕微鏡スライド上に収まるようにチップを小型化する必要がある。Businaro等のような現在の設計では、チップ上の単一のサンプルの測定しかできない。
【0003】
したがって、従来技術のデバイスでは、撮像のための限られた可能性しか提供できない場合があり、一方で、これらのデバイスは装填も面倒である場合がある。従来、マイクロ流体チップデバイスは、各チャンバをピペットによって個別に装填するように手作業で装填されるが、これには、時間がかかり、手間がかかり、及び/又は人為的ミスの対象となり得る。デバイスの装填に自動ピペットを使用しようとすると、通常、気泡の形成の問題が見られ、自動ピペットによる装填は信頼性に欠けるものとなる。さらに、既知のデバイスでは、ガス交換が制限され、細胞への栄養供給も制限される。
【発明の概要】
【0004】
開示された発明の目的は、改良されたデバイスを提供し、従来技術の細胞培養デバイスに関連する問題の少なくとも一部を軽減することである。
【0005】
本出願の一態様によれば、マイクロ流体デバイスは、ガス透過性の基板と1つ以上の機能ユニットとを備えている。各機能ユニットは、第1の流路によって流体連通するように配置された2つの第1のチャンバを備えている。各機能ユニットは、第2の流路によって流体連通するように配置された2つの第2のチャンバを備えている。各機能ユニットは、第1の流路と第2の流路とを接続するように配置されたマイクロ流路アレイを備えている。マイクロ流路アレイ、マイクロ流路アレイと流体連通する第1の流路の部分、及びマイクロ流路アレイと流体連通する第2の流路(110)の部分は、各機能ユニット(102)の動作部分を形成する。
【0006】
本出願の別の態様によれば、マイクロ流体デバイスの各機能ユニットは、分離されたユニットであってもよい。これは、任意の1つの機能ユニットが、他の機能ユニットのいずれとも流体連通していないことを意味する。各機能ユニットは、独立して装填されるように配置されてもよい。マイクロ流路アレイの幅は、30μm~9000μm、好ましくは3000μm~7000μm、より好ましくは4000μm~6000μmの範囲とすることができる。或いは、マイクロ流路アレイの幅は、30μm~2000μm、好ましくは50μm~100μmの範囲とすることができる。マイクロ流路アレイはマイクロ流路を含み、マイクロ流路は、幅が10μm~15μm、好ましくは11μm~13μm、高さが5μm~20μm、好ましくは10μm~15μm、長さが10μm~2000μm、好ましくは10μm~1000μm、各マイクロ流路間の間隔は20μm~40μmであってもよい。
【0007】
本出願の別の態様によれば、マイクロ流体デバイスの第1のチャンバの各々は、100μm~3cmの高さを有すると共に、0.5mm~10mm、好ましくは3mm~5mmの半径を有する本質的に円形の断面、又は0.7mm~314mm、好ましくは28mm~78.5mmにわたる面積を有する任意の他の二次元形状を有することができる。マイクロ流体デバイスの第2のチャンバの各々は、100μm~3cmの高さを有すると共に、200μm~400μmの半径、又は第2チャンバの各々を装填するために使用される装填装置の半径の外径に対応する半径を有する、本質的に円形の断面に対応する表面積を有することができる。マイクロ流体デバイスの第1の流路は、10μm~300μm、好ましくは170μm~190μm、例えば189μmの高さと、200μm~3000μm、好ましくは1190μmの幅とを有することができる。マイクロ流体デバイスの第2の流路は、10μm~300μm、好ましくは170μm~190μm、例えば189μmの高さと、100μm~1000μm、好ましくは490μmの幅とを有することができる。マイクロ流体デバイスの第1の流路の長さは、少なくともマイクロ流路アレイの長さとすることができ、マイクロ流体デバイスの第2の流路の長さは、少なくともマイクロ流路アレイの長さとすることができる。
【0008】
本出願の別の態様によれば、マイクロ流体デバイスの少なくとも一部、任意選択で第1のチャンバ及び第2のチャンバを除いたマイクロ流体デバイスの本質的に全部又は大部分は、透明に覆われていてもよい。
【0009】
本出願の一態様によれば、マイクロ流体デバイスは、顕微鏡検査用のスライド上に配置されるように構成されてもよい。本出願の別の態様によれば、マイクロ流体デバイスは、マイクロプレート上に配置されるように構成されてもよい。実験に応じて、マイクロ流体デバイスは、1個~384個の機能ユニットを含むことができる。
【0010】
本出願の一態様によれば、マイクロ流体デバイスはPDMSを含むことができる。PDMS又はPDMSの適切な誘導体は、適切なガス透過性を提供することができる。これは、細胞培養において重要なガス交換を容易にする。
【0011】
細胞を培養する方法によれば、マイクロ流体デバイスは、少なくとも免疫細胞を有する少なくとも1つの第1のチャンバと、少なくとも癌細胞を有する少なくとも1つの第2のチャンバとを備えている。マイクロ流体デバイスをインキュベートし、その後、癌細胞への免疫細胞の移動を観察しながら、免疫細胞及び/又は癌細胞をカウントする。少なくとも1つの第1のチャンバ用の少なくとも免疫細胞、及び/又は少なくとも1つの第2のチャンバ用の少なくとも癌細胞は、1つ以上の自動ピペットによって提供される。
【0012】
マイクロ流体チップの製造方法によれば、マイクロ流体チップの基板が提供される。基板の厚さは、30μm~3.5mmに制限される。基板は、1つ以上の機能ユニットを画定するように加工される。各機能ユニットは、第1の流路によって流体連通するように配置された2つの第1のチャンバを備えている。各機能ユニットは、第2の流路によって流体連通するように配置された2つの第2のチャンバを備えている。各機能ユニットは、第1の流路と第2の流路とを接続するように配置されたマイクロ流路アレイを備えている。各機能ユニットは、マイクロ流路アレイと流体連通する第1の流路の部分と、マイクロ流路アレイ(114)と流体連通する第2の流路の部分と、を接続するように配置された動作部分を備えている。この方法によれば、基板は、その後、硬化される。
【0013】
従来技術の自動ピペット操作(automatic pipetting)による解決策は、長い流路を有する。長い流路は、ピペット操作中に大きな圧力降下(pressure drop)を引き起こす。流路が短いと、圧力降下が小さくなる。圧力降下が小さくなると、液体をデバイスに注入する際に、液体の流れをより良く制御できるようになる。自動ピペットは、最小限の抵抗で液体を「滴下」するためのものであり、背圧がかかるキャビティに注入するためのものではないので、これは重要なポイントである。したがって、細胞培養実験で典型的に使用されるより粘性の高い液体は、マイクロ流体流路に注入することが困難な場合がある。このような理由から、流路を短くすることにより、信頼性の高い充填プロセスと、充填中の気泡形成の可能性の低減とを実現する。もう1つのポイントは、サンプルの必要量が少なければ、試験に必要とされる薬剤も少なくて済むことである。これは、例えば、免疫チェックポイント阻害薬や他の抗体ベースの治療薬など、薬物のコストが大きくなる可能性があるいくつかのin vitro試験のコストを下げる上で、明らかな利点である。
【0014】
新しいデバイスの動作における別の改良点は、マイクロ流路のプライミング時間、すなわち、両側からの液体の装填後にマイクロ流路内に最初に存在するエアポケットの消失がより速く、したがって、デバイスのより迅速な動作を可能にすることである。
【0015】
従来技術と比較した開示された解決策の主な相違点は、改善されたデバイス構造(流路及び/又はチャンバの配置、サイズ、形状、及び/又は寸法を指す)、特に、少なくとも流路構造であり、この構造により、複数(例えば、最大384個)の機能ユニットを単一チップ上に配置することを可能にする。機能ユニットは、第1の流路によって接続された2つの第1のチャンバと、第2の流路によって接続された2つの第2のチャンバとを備えている。第1の流路及び第2の流路は、マイクロ流路アレイによって接続されている。本明細書では、「接続された」という用語は、概して流体連通を意味し得る。
【0016】
本発明者は、新鮮な培地を充填するために含まれる従来技術の側部チャンバ及び側部流路は、十分な細胞生存率を提供するのに不要である可能性があることを発見した。これらの流路を無くすことにより、マイクロ流路アレイの他方の側から生じる化学的シグナルによって駆動されて、細胞が移動しようとする反対方向からデバイスの動作中に形成される栄養濃度勾配の影響を排除又は減少させる結果となりうる。したがって、本発明によるデバイスは、このような側部流路なしで実現することができ、栄養濃度勾配を減少させることができる。
【0017】
従来技術では、細胞に十分な栄養供給を行うためには、大きな側部容器/側部チャンバが必要であると想定している。このため、より多くの機能ユニットをスライド上に取り付けることができなかった。本構成による開示されたマイクロ流体デバイスでは、チャンバ及び/又は流路の形状、具体的には高さ及び/又は容積に起因して、細胞の量当たりより多くの液体をチャンバ内及び流路内に装填することができ、機能ユニットの全体的にコンパクトなサイズを維持しながら、十分な栄養供給を可能にする。液体は、例えば、マトリゲル、又はフィブリノゲンなどのゲル形成添加剤を添加した他の粘性媒体とすることができる。従来技術の解決策では、これまで150μLの容積が使用されてきた。本明細書で提案される構成では、総容積は、1μL~1000μL、好ましくは1μL~500μL、より好ましくは1μL~100μLとすることができる。従来技術における細胞懸濁液の細胞含有量は、癌細胞については3μL、免疫細胞については150μLである。本構成では、細胞懸濁液容量の細胞含有量は、0.1μL~149μL、好ましくは0.1μL~2.9μL、より好ましくは0.5μL~2μL、さらに好ましくは1μL~2μLとすることができる。
【0018】
液体は、細胞培養培地とすることができる。細胞培養培地は、細胞又はオルガノイドの種類及びアッセイに基づいて選択される。一般に、すべての細胞培養培地は、エネルギー源としての炭素源、タンパク質の構成単位としてのアミノ酸、及び細胞の生存と成長を促進するビタミンを含む。さらに、培地の平衡塩溶液は、細胞内の浸透圧を最適化し、酵素反応の補因子として働く必須金属イオンを供給するために、イオンの等張混合物を維持する必要がある。さらに、緩衝液(例えば、重炭酸塩又はHEPES)を使用して、培地中のバランスのとれたpHを維持する。
【0019】
装填される液体は、三次元細胞培養に適したハイドロゲルを形成するように設計されていることが重要である。これらのハイドロゲルは、ナノ結晶(すなわち、ナノフィブリル化セルロース)、キトサン、アルギネート、ヒアルロナン、ポリペプチド、コラーゲン、ゼラチン、フィブリノゲン、アガロース、又はこれらの任意の組合せやこれらの複合形態に基づくそれらの官能基化物(functionalized versions)を含むリストから選択され得るが、これらに限定される訳ではない。好適な合成ハイドロゲルは、例えば、ポリエチレングリコール、ポリウレタン、ポリ(ε-カプロラクトン)、又はこれらの任意の他の官能基化物やこれらの組み合わせであり得る。培地の他の成分としては、例えば、ラミニン、エンタクチン、ヘパラン硫酸プロテオグリカン、腫瘍増殖因子などを挙げることができる。
【0020】
薬剤の有効性を評価するために、薬剤、例えば、ペンブロリズマブ、ニボルマブ、セミプリマブ、アテゾリズマブ、アベルマブ、デュルバルマブ、及び/又は直接的又は間接的な治療目的で癌細胞又は免疫細胞の受容体をブロックする能力を有する任意の他のモノクローナル抗体ベースの薬剤を、細胞懸濁液に添加してもよい。
【0021】
ハイドロゲルの形成は、細胞懸濁液をマイクロ流体流路に注入した後に起こることが重要である。ゲル形成は、熱又は光によって開始され得る。低温(4~25℃)の細胞懸濁液をチャンバに注入した後、デバイスを37℃に置いてもよい。熱によってゲル形成が開始され、癌のマイクロ環境を模倣したハイドロゲルが形成される。
【0022】
機能ユニットの各々は分離されていてもよく、すなわち、デバイスの任意の他の機能ユニットと物理的に接触していなくてもよい。したがって、機能ユニットの各々は、任意の種類のサンプルを独立して装填するのに適していてもよい。このことは、2つの側部が中央流路を介して連通することができるが、中央流路に装填される細胞懸濁液の使用が1種類に制限される従来技術に勝る利点である。本発明では、各機能ユニットは、同一又は類似の種類のサンプルを装填されてもよく、又は各機能ユニットは、例えば、異なる種類のサンプルを装填されてもよい。
【0023】
本明細書では、サンプルとは、自発的な自己移動が可能な細胞やその他の細胞小器官(organelles)を含む懸濁液、又は観察される生理学的機能の任意の変化を引き起こすために添加される化学成分の懸濁液を意味する。サンプルの種類は、上記の組成が異なるサンプルを指すことがあり、したがって、個々に検査されるべきである。本発明では、異なる種類のサンプルが、同じデバイス上の別々の機能ユニットに配置され得る。
【0024】
典型的には、例えば、薬剤の種類又は投与量は、同じデバイス上で投与されるサンプル毎に異なる場合がある。他のシナリオとしては、細胞の種類が異なるサンプルや、細胞(または癌)のマイクロ環境を定義する他の化学的因子の濃度や種類が異なるサンプルが挙げられる。
【0025】
本発明の有利な実施形態では、第1の流路及び第2の流路の動作部分の長さ(マイクロ流路アレイを介して互いにインタフェースされ、接続されている流路の部分の長さ、すなわちマイクロ流路アレイの幅)は、従来技術と比較して短くすることができ、より高速な撮像を可能にし、部位(site)をより迅速に捕捉し、したがって、装填された細胞への光退色及び紫外線曝露を低減することができる。また、この新しい設計は、1つのチップ上での同時撮像を可能にする。
【0026】
マイクロ流体流路のサイズや形状など、デバイスの独特の構造により、例えば、標準的な顕微鏡スライドのサイズに適合するように、単一のマイクロ流体チップ内に、(実施形態に応じて)2個~10個、例えば3個~5個又は6個~10個の機能ユニットを配置することが可能となる。顕微鏡のトレイホルダの表面積は、85.5mm×127.5mmであるか、85.5mm×127.5mmに適合する。したがって、マイクロ流体チップのサイズ範囲は、標準的な顕微鏡スライドサイズである26mm×76mmと、複数の機能ユニットを有する大型スライドを組み込むか、85.5mm×127.5mmの全表面積を有するアダプタフレーム上に配置された複数の標準的な顕微鏡スライドを組み込むことができるトレイの全体サイズと、の間で定義することができる。デバイスのサイズや構造と、流路及び機能ユニットなどの構成要素のサイズや構造は、例えば、標準的な顕微鏡及び/又は顕微鏡スキャナデバイスのステージに適合するように、実験や顕微鏡スライドのサイズに合わせて調整することができる。
【0027】
マイクロ流体デバイスの機能ユニットが、顕微鏡スライドの代わりにマイクロプレート上に配置される場合、例えば、1個~384個の機能ユニットを有するマイクロ流体デバイスを構築することができる。このようなマイクロプレートアプローチのさらなる利点は、ピペット操作に加えて、例えばロボットによるピペット操作やプレートリーダを使用して、撮像がさらに自動化され得ることである。したがって、本発明は、単一のチップ上で複数のサンプルの試験及び/又は撮像を可能にする、マイクロ流体チップデバイスを構築するための新規な方法を提供することができる。
【0028】
複数の、例えば、2つ以上、又は3つ以上の機能ユニットを設けることによって、例えば、3種類~10種類の異なる条件(異なる薬剤の組み合わせ又は投与量)の下で、免疫応答の並行かつ同時の監視(すなわち、免疫細胞の癌細胞への移動の観察)が可能となる。機能ユニットのサイズ及び個数は、チップの面積、顕微鏡ステージの面積、及び/又は顕微鏡の走査領域の面積によって決定され得る。薬剤の種類に応じて、薬剤は、注入前に免疫細胞含有培地及び癌細胞含有培地のいずれか一方又は両方と混合することができる。このデバイスを他のシナリオで使用する場合、両側のチャンバに注入する前に、複数の薬剤の混合物又は組合せを液体に添加することができる。
【0029】
1つのデバイスに複数の機能ユニットを搭載することにより、異なるサンプルを監視する間に、例えば、デバイスを載せたスライドを読み取り装置(例えば、蛍光顕微鏡又は顕微鏡スライドスキャナ)から取り外すことなく、異なるサンプルを同時に監視することができる。
【0030】
動作部分は、マイクロ流路アレイに沿った両側からの流路セクション全体、すなわち、マイクロ流路アレイと流体連通する第1の流路及び第2の流路の部分として定義される。本発明の実施形態によるデバイスにおける流路の動作部分の長さは、撮像にとっても有益であり得る。なぜなら、単一のユニットを撮像することにより、撮像に要する時間が短くなり、撮影されるショットが少なくなり、繋ぎ合わせる画像が少なくなるからである。読み取り装置のために広い対物レンズを使用すると仮定すると、1回の撮像ショットで動作部分全体を撮像することができ、画像の繋ぎ合わせが不要となる。或いは、特定のセクションのみを選択して撮像することもできる。
【0031】
提示されたチャンバと流路の構造により、機能ユニット全体を、従来技術よりも少なくとも30%、好ましくは少なくとも50%、又はより好ましくは少なくとも75%短くすることができる。
【0032】
流路の長さを短くすることによって、デバイスに注入するために必要なサンプルの量を減らすことができるという明らかな利点がある。このことは、サンプル(例えば、生検サンプルから分離されたもの)中の利用可能な細胞の数が限られているが、デバイスが適切に機能するために、培地中の細胞の濃度が等しく維持されなければならない場合に、特に重要である。提案された構成を用いることで、マイクロ流路アレイの両側の細胞群(cell populations)が互いに適切にインタフェースすることが可能な環境を提供することができる。すなわち、細胞は、マイクロ流路アレイの両側に均等に分布している。マイクロ流路アレイの幅、すなわち、第1の流路及び第2の流路の動作部分の長さは、30μm~9000μm、好ましくは3000μm~7000μm、より好ましくは4000μm~6000μmとすることができる。
【0033】
一実施形態によれば、マイクロ流路アレイの幅は、30μm~2000μm、好ましくは50μm~100μmとすることができる。これは、サンプルの容量(sample volumes)は非常に小さいが、細胞容量(cell volume)と総容量(total volume)との間の高い濃度比がアッセイによって必要とされる場合に有利であり得る。
【0034】
さらに、流路形状(第1の流路、第2の流路、及び/又はマイクロ流路アレイ)が従来技術よりも小さい容積の流路を提供する提供されたデバイスでは、容積又はキャビティは、流路を充填するために必要な流体をより少なくするため、デバイスはより小さいサンプルでも機能する。これは、利用可能な又は必要とされる細胞、スフェロイド、又はオルガノイドの数が限られている場合や、検査される薬剤又は他の物質の入手可能性やコストが限られている場合に、明白な利点となる。
【0035】
さらに、開示されたマイクロ流体デバイスは、自動ピペットによる第1のチャンバ及び/又は第2のチャンバへの確実な充填を可能にし得る流路形状(具体的には、短い流路又は少なくとも流路の短い動作部分)を有する。装填は、自動ピペットを使用する場合に達成することが困難であり得る、流路内の気泡形成を防止しながら行われるべきである。従来技術の流路の長さは長いので、粘度が高い場合、注入された流体の圧力降下は、流路に沿って大きくなり、装填中に層流を生成するための自動ピペットの能力を超える可能性がある。その結果、従来技術のデバイスでは、装填中に気泡が発生する場合がある。しかしながら、本発明では、流路に沿った層流を可能にし、注入中の乱流を本質的に防止することができ、したがって、気泡形成は本質的に解消されるか、又は少なくとも低減され得る。
【0036】
一実施形態によれば、チャンバの表面積は、それらの意図される装填容積に応じて変化し得る。容積が小さいチャンバは、小さい表面積又は半径を有することができ、それらは、細胞懸濁液が注入されたときに先端のシールを提供するために、典型的には、200μm~400μmの半径の本質的に円形の断面に対応するか、又は装填装置(例えば、ピペット)の半径の外径に一致する。注入時に気泡形成を防止するために、適切なシールは重要である。一方、意図する容積が大きいチャンバは、チャンバ表面上でのガス交換を促進するために、より大きな表面積を有することができる。
【0037】
このデバイスは、癌及びその他の疾患の個々の患者において、免疫療法を目的として使用されることが意図されている薬剤の有効性を予測するプラットフォームを提供することができる。このデバイスは、個々の患者において誘発される免疫応答の評価が、個々の患者に薬剤を投与する前に、最適な薬剤の種類、投与量、及び組合せを同定するために不可欠である疾患の治療において、個別化戦略を開発するためのin vitro又はex vivoのマイクロ流体プラットフォームとして使用されることが意図されている。
【0038】
本発明の一実施形態によるデバイスは、ガラス、PDMS、Flexdym ポリマー、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、PMMA、セラミック、シリコーン、及び/又はチオール-エン(thiol-ene)を含むことができる。流路の機能セクションの材料は、適切なガス透過性を提供するPDMS又はPDMSの適切な誘導体から生成することができる。デバイスの複合アセンブリを考慮する場合、他の材料(ガラス、Flexdym、チオール-エン、又はその任意の誘導体、COC、又は十分に低い濁度と高い透明度を有する任意のブロック共重合体)を使用することができる。
【0039】
当業者には理解されるように、本デバイスの様々な実施形態に関する上述の説明は、必要な変更を加えた上で、デバイスの製造方法の実施形態に柔軟に適用することができ、逆もまた同様である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図面は、開示された実施形態を説明するために提示されたものであり、実施形態の使用範囲を限定するものと解釈されるべきではない。図面は、特定の縮尺ではない。
【0041】
図1図1(A)は先行技術のデバイスを示し、図1(B)は顕微鏡スライド上の本発明のマイクロ流体チップデバイスの実施形態の傾斜側面図である。
図2図2は、図1Bのマイクロ流体チップデバイスの実施形態の傾斜側面図の一部分の拡大図である。
図3図3は、図2のマイクロ流体チップデバイスの実施形態の傾斜側面図の一部分の拡大図である。
図4図4は、マイクロ流体チップデバイスの一実施形態の一部の傾斜側面図の拡大図を示す。
図5図5は、顕微鏡スライド上のマイクロ流体チップデバイスの一実施形態の上面図である。
図6図6は、本発明の一実施形態による細胞の培養方法のフローチャートである。
図7図7は、本発明の一実施形態によるデバイスの製造方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下では、いくつかの実施形態を参照して解決策をより詳細に説明するが、これらは限定的なものと見なされるべきではない。
【0043】
詳細な説明では、「チャンバ」及び「円形ウェル」は互換的に使用される場合がある。詳細な説明では、「細胞」は、細胞、細胞凝集体、スフェロイド、及びオルガノイドを含む拡張された用語として使用される場合がある。詳細な説明の文脈において、「含む(comprising)」という用語は、開放的な用語として使用され得るが、閉鎖的な用語である「からなる(consisting of)」も含む。
【0044】
図1(A)は、従来技術のデバイス001を示す。このデバイスは、一次流路004によって接続された少なくとも2つの一次チャンバ002を備えている。また、このデバイスは、二次流路008によって接続された2組の二次チャンバ006を備えている。一次流路004の両側では、一次流路004は、一次マイクロ流路アレイ010を介して二次流路008に接続されている。
【0045】
デバイス001はまた、多数の側部容器又は側部チャンバ012を備えている。側部チャンバ012は、側部流路014及び二次マイクロ流路アレイ016によって二次流路008に接続されている。側部チャンバ012は、細胞を含有する一次流路及び二次流路に隣接して設けられ、側部チャンバ012は、二次マイクロ流路アレイ016を介して二次流路008と連通し、栄養素の新鮮な供給源としての役割を果たすと共に、細胞を含有する流路(複数可)又はチャンバ(複数可)のゲルマトリックスに水分を補給するためのものであり、使用中の収縮を防止することも目的としている、
【0046】
従来技術のデバイスでは、構成要素002~016が1つの機能ユニットを形成していると考えることができ、これは1つの細胞の種類又は1つの細胞サンプル又は細胞相互作用の種類を研究するのに適している。機能ユニットによって占有されるスペースに起因して、例えば1つの顕微鏡スライド上で同時に使用することができる機能ユニットの数は、1つだけに制限される。
【0047】
図1(B)は、本発明の一実施形態によるデバイス100を示しており、このデバイスは、顕微鏡スライド200上に配置されている。デバイス100は、1つ以上の機能ユニット102を備えており、機能ユニット102の各々は、第1の流路106によって流体連通(fluid contact)するように配置された2つの第1のチャンバ104と、第2の流路110によって流体連通するように配置された2つの第2のチャンバ108と、を備えている。マイクロ流路アレイ(図1では明確に見えない)は、第1の流路と第2の流路とを接続するように配置されている。
【0048】
機能ユニット102は、2つの第1のチャンバ104、第1の流路106、2つの第2のチャンバ108、第2の流路110、及びマイクロ流路アレイから構成できる。
【0049】
デバイス100及び機能ユニット102は、図1(A)に関連して図示されているような、側部チャンバ及び側部流路を備えずに提供され得る。
【0050】
第1のチャンバ104及び/又は第2のチャンバ108は、本質的に円筒形状とすることができ、流体を受け入れる円形ウェルを提供するために選択された半径を有する円形の基部(circular base)を有する。円筒壁は、チャンバの高さを画定することができる。また、第1のチャンバ104及び/又は第2のチャンバ108は、いくつかの異なる形状を具現化してもよく、例えば、基部を長方形とすることができる。壁の高さと共に、例えば基部の形状の大きさは、第1のチャンバ104及び/又は第2のチャンバ108の各々の容積を画定するように選択されてもよい。
【0051】
図1(B)のデバイス100は、3つの機能ユニット102を備えている。また、他の個数の機能ユニット102が採用されてもよい。機能ユニット102の大きさ、又は流路及び/又はチャンバの大きさが、特定の使用事例のシナリオのために採用され得る機能ユニットの個数を決定してもよい。
【0052】
デバイス100は、少なくともデバイス100の基部を形成する基板112を備えると考えられる。基板材料は、例えば、シリコーン(ポリジメチルシロキサン(PDMS))を含むことができ、基板材料は、デバイス上に配置された構造、すなわち、チャンバ及び流路を画定することができる。基板の厚さは、30μm~3.5mmとすることができる。基板の厚さは可変であってもよく、すなわち、基板は局所的に薄くてもよい。床(floor)の厚さは、0.03mm~3mm、好ましくは0.05mm~2mm、より好ましくは0.1mm~0.9mmとすることができる。屋根(roof)の厚さは、0.05mm~20mm、好ましくは0.1mm~3mm、より好ましくは0.11mm~2mmとすることができる。流路及び/又はチャンバの壁の厚さは、10μm~50μmとすることができる。
【0053】
使用時には、第1のチャンバ104には免疫細胞懸濁液が供給され、第2のチャンバには癌細胞が供給され得る。免疫細胞懸濁液は、培地(medium)中に少なくとも免疫細胞を含むことができる。免疫細胞懸濁液は、タンパク質と、癌細胞のin vivoマイクロ環境を模倣する目的で添加されるその他の有機化合物及び無機化合物の混合物と、をさらに含んでいてもよい。
【0054】
癌細胞懸濁液は、培地中に懸濁された少なくとも癌細胞とハイドロゲル形成添加剤とを含むことができる。例えば、マトリゲルや、フィブリノゲンなどのゲル形成添加剤を添加した他の粘性培地を使用することができる。
【0055】
注入前の免疫細胞懸濁液中の免疫細胞は、第1の細胞トラッキング色素で染色され得る。癌細胞懸濁液中の癌細胞は、第2の細胞トラッキング色素で染色され得る。免疫細胞が癌細胞と相互作用し、その相互作用の結果、癌細胞が死滅して溶解すると、癌細胞の染色に使用された蛍光色素の発光色が変化する。これは、蛍光顕微鏡、スキャナ、又はその他の適切な代替の読み取り装置の下で監視することができる。
【0056】
また、このデバイスは、癌細胞や免疫細胞以外の他の細胞を培養する目的にも使用され得る。使用されるサンプルは、例えば、研究対象の生理学的現象を模倣する材料を含むことができる。サンプルは、例えば、薬剤、ホルモン、抗体、又は癌マイクロ環境特異的タンパク質を含むことができる。
【0057】
図2は、図1のマイクロ流体チップデバイス100の実施形態の傾斜側面図の一部を拡大して示す。第1のチャンバ102は、第2のチャンバ108、第1の流路106、及び第2の流路110と共に部分的に図示されている。第1の流路106と第2の流路110とを接続するマイクロ流路アレイ114も概略的に図示されている。
【0058】
デバイス100の全体的な厚さは、所望のピペット操作量(pipetting volumes)、すなわち、チャンバ104、108に送達される流体の容量によって決定され得る。ピペット操作量は、第1のチャンバ及び/又は第2のチャンバの高さ及び/又は半径(又は、円筒形チャンバ以外の形状の場合は他の寸法)を決定するために使用され得る。ピペット操作量は、第1のチャンバ及び第2のチャンバの各々について1μL~1000μLとすることができる。第1のチャンバ及び/又は第2のチャンバによって囲まれる容積は、本質的にピペット操作量に対応するように選択されてもよい。マイクロ流体デバイスの全体的な厚さは、130μm~2cmとすることができる。デバイス100の全体的な高さ/厚さは、チャンバ104、108の高さに依存する場合がある。
【0059】
一実施形態によれば、流路の長さに対して定義された範囲は、問題となる実験の種類を表すことができる。換言すれば、細胞、スフェロイド、及びオルガノイドは、それぞれ異なる直径を有しているので、流路の形状は、注入される細胞、スフェロイド、又はオルガノイドの直径に応じて異なってもよい。オルガノイドやスフェロイドが注入されるデバイスのバージョンでは、流路110の流路の深さと流路の幅は、スフェロイドの直径の2倍とすることができる。流路110のためのサンプル容量(sample volume)は、総容積に等しくてもよく、流路106の容積はサンプル容量と等しくてもよい。サンプル容量は、リザーバ106を充填することなく、流路内に直接注入され得る。このセクションの総容積は、流路106に2つのリザーバを加えた容積であってもよく、細胞を含まない細胞培養懸濁液で満たされていてもよい。
【0060】
チャンバ104、108の高さは、半径と共に、実験の長さに応じて装填され得る流体(細胞培養物)サンプルの量を決定する。第1のチャンバ104及び第2のチャンバ108のそれぞれの高さh及び/又はhは、以下の通りである。チャンバ104の高さは、(円筒リングが基部に取り付けられている場合)100μm~3cmとすることができ、チャンバ108の高さは、上記範囲内でチャンバ104と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0061】
一実施形態では、デバイス100の少なくとも一部が、ガラスや透明ポリマーなどの本質的に透明な材料で覆われてもよい。第1のチャンバ104及び第2のチャンバ108を除くデバイス100の本質的に全部又は大部分が覆われてもよい。図2は、本質的に覆われ得るデバイス100の領域Aを示す。デバイス100の1つ以上(例えば、全部)の機能ユニット102が覆われてもよく、被覆は、少なくとも第1の流路106、第2の流路110、及びマイクロ流路アレイ114に適用される。
【0062】
図2は、流路の動作部分を示しており、これは本質的にマイクロ流路アレイの幅Lに対応する。したがって、第1の流路及び第2の流路の動作部分は、マイクロ流路アレイ114を介して流体連通している流路の部分を指してもよく、流路の動作部分の長さは、マイクロ流路アレイ114の幅Lによって画定されてもよい。
【0063】
一実施形態によれば、機能ユニットは、動作部分が、マイクロ流路アレイ114と、マイクロ流路アレイ114と流体連通(fluid connection)している第1の流路106と、マイクロ流路アレイ114と流体連通している第2の流路110と、を含み得るように構成されてもよい。マイクロ流路アレイ114と流体連通する第1の流路106の部分は、第1の流路106の全長の少なくとも75%、好ましくは少なくとも95%、さらに好ましくは100%とすることができる。マイクロ流路アレイ114と流体連通する第2の流路110の部分は、第2の流路110の全長の少なくとも50%、好ましくは少なくとも75%、さらに好ましくは少なくとも95%とすることができる。
【0064】
幅Lは、マイクロ流路の個数、それらの寸法、及び/又はそれらの間隔によって定義されてもよい。マイクロ流路アレイの幅Lは、マイクロ流路アレイの両側のチャンバを装填するために使用される自動ピペット操作装置の精度に依存する場合がある。マイクロ流路アレイの幅Lは、30μm~9000μm、好ましくは3000μm~7000μm、より好ましくは4000μm~6000μmとすることができる。
【0065】
一実施形態によれば、マイクロ流路アレイの幅Lは、30μm~2000μm、好ましくは50μm~100μmとすることができる。これは、サンプル容量は非常に少ないが、細胞容量と総容量との間の高い濃度比がアッセイで必要とされる場合に有利であり得る。
【0066】
図3は、図2のマイクロ流体チップデバイスの実施形態の傾斜側面図の一部の拡大図である。第1の流路106、第2の流路110、及びマイクロ流路アレイ114が図示されている。
【0067】
第2の流路の高さhは、10μm~300μm、好ましくは170μm~190μm、例えば189μmとすることができる。第1の流路の高さは、第2の流路の高さと、同じ範囲内であってもよく、同等であってもよい。第1の流路及び/又は第2の流路の高さは、従来技術の状況と比較して、より良好な撮像(より小さい焦点深度)のために最適化されると共に、より多くの栄養素を細胞に供給するために最適化されてもよい。デバイスが、例えばPDMS等の単層スライドで作製されている場合、より良好な撮像のためにチャンバの高さを低くすることと、より多くの栄養素を供給するためにチャンバの高さを高くすることとは、トレードオフの関係にある。チャンバ104及びチャンバ108に、円筒形のサンプル保持リングが追加で取り付けられる場合、より大きいサンプル保持部品を用いて、より薄く、より良好な撮像が可能な構造を実現することが可能である。高倍率が必要とされる場合、ポリマー部分の厚さ、すなわち流路天井と基板上面との間の距離は、焦点深度がはるかに小さい高倍率の顕微鏡レンズの接近を可能にするように選択されるべきである。
【0068】
第1の流路106の幅は、200μm~3000μm、好ましくは1190μmとすることができる。第1の流路は、免疫細胞や、容量が大きく及び/又は到達が容易な(easier attainability)アッセイ細胞の種類のために使用され得る。第2の流路110の幅は、100μm~1000μm、好ましくは490μmとすることができる。第2の流路110は、容量が小さく及び/又は到達が制限される癌細胞又はアッセイ細胞の種類のために使用され得る。
【0069】
図4は、マイクロ流体チップデバイス100の一実施形態の一部の傾斜側面図の拡大図を示す。具体的には、図4(A)及び図4(B)が、本発明の一実施形態によるマイクロ流路アレイ114の一部を図示している。
【0070】
マイクロ流路アレイ114は、複数のマイクロ流路116を備えている。マイクロ流路116の各々は、5μm~20μm、好ましくは10μm~15μmの高さhを有することができる。
【0071】
マイクロ流路116は、20μm~40μm、好ましくは27μm~37μm、例えば32μmの距離dだけ離間されていてもよい。マイクロ流路間の間隔又は距離の意図された機能の1つは、マイクロ流路に入るときと、他方の側でマイクロ流路から出るときに、細胞を互いに分離することである。これにより、細胞(例えば癌細胞)が隣接するマイクロ流路上に傾いて、細胞が、相互作用を起こし、出口でマイクロ流路を塞ぐのを防止することができる。
【0072】
マイクロ流路116は、10μm~15μm、好ましくは11μm~13μm、例えば12μmの幅wを有することができる。
【0073】
マイクロ流路アレイ内の個々のマイクロ流路116各々の長さlは、異なっていてもよい。化学的シグナル伝達及び移動距離のための異なる空間的勾配シナリオを達成するために、いくつかの異なる長さlを使用することができる。マイクロ流路116(又はマイクロ流路アレイ114)の長さlは、10μm~2000μm、好ましくは10μm~1000μmとすることができる。マイクロ流路(アレイ)の長さl及びマイクロ流路116の個数を選択するために、マイクロ流路アレイの両側の第1の流路及び/又は第2の流路の長さ(又は、マイクロ流路アレイ114と物理的に接触している第1の流路及び第2の流路の長さの少なくとも一部)を考慮に入れることができる。第1の流路及び/又は第2の流路の長さは、サンプル容量(複数可)によって決定されてもよい。サンプル容量は、両側で1μL~1000μLとすることができる。細胞懸濁液容積の細胞含有量は、0.1μL~149μL、好ましくは0.1μL~2.9μL、より好ましくは0.5μL~2μL、さらに好ましくは1μL~2μLとすることができ、マイクロ流路116の個数は、3個~250個とすることができる。マイクロ流路は、偏在するマイクロ流路のサブグループにグループ分けされてもよい。
【0074】
一実施形態によれば、第2の流路、例えば癌細胞側の第2の流路の最適な容積は、細胞懸濁液を含んで1μL~5μLとすることができる。第2の流路が腫瘍スフェロイド又はオルガノイドで充填されている場合、流路容積は5μL~25μLの範囲とすることができる。第1の流路側は、通常、免疫細胞懸濁液や他の種類の細胞を含み、その容積はより大きく、最適な容積は20μL~1000μL、典型的には50μL~200μLとすることができる。
【0075】
マイクロ流路アレイ114のマイクロ流路116は、毛細管力によって駆動され、両側から液体/ゲルでプローブされ、充填され得る。マイクロ流路内にエアポケットが残る場合がある。それらのエアポケットは、通常、培地中に溶解することによって、及び/又はデバイスのポリマーマトリックスのナノ細孔を通して自然に押し出されることによって、消失する。この押し出しは、液体を両側からマイクロ流路内に引き込む毛細管力によって促進される。もう1つの重要な要件は、流路を充填している間に、液体がマイクロ流路に入り込まないことである。この特徴は、マイクロ流路の内部キャビティに面して使用されるポリマーの表面特性によって影響を受ける。材料の選択及び表面特性の変更を使用して、永久気泡の形成を回避し、デバイス内部に捕捉されたエアポケットの除去を容易にすることができる。
【0076】
図1図4の実施形態によれば、第2の流路110は、2つの90度の角度を成すように配置されている。これは必須ではない。第2の流路110は直線状であってもよく、又は第2のチャンバ108間に適度な間隔を提供する任意の角度、すなわち、便利で安全なピペット操作のために十分な空間を提供する任意の角度を有していてもよい。
【0077】
図5は、顕微鏡スライド上のマイクロ流体チップデバイスの一実施形態の上面図である。チャンバ(第1のチャンバ及び第2のチャンバ)の表面積又は半径は、ピペット先端の半径と顕微鏡スライドの幅の大きさに基づいて変化してもよい。
【0078】
第1のチャンバ104各々の表面積と第2のチャンバ108各々の表面積とは、0.5mm~10mmの半径を有する本質的に円形の断面に対応することができる。チャンバ104、108がそれよりも大きい場合、構造の安定性に影響を及ぼすことなく、デバイスの組み立て易さにも影響を及ぼすことなく、それらを1つの標準的な顕微鏡スライドに適合させることは困難になる。
【0079】
一実施形態によれば、第2のチャンバ108各々の表面積又は半径は、癌細胞又は他の種類の細胞の懸濁液が注入されるときにピペット先端の密封性を提供するために、十分に小さくてもよく、典型的には、半径200μm~400μmの本質的に円形の断面に対応するか、または装填装置(例えばピペット)の半径の外径に一致してもよい。注入時に気泡形成を防止するために、適切なシールは極めて重要である。
【0080】
一実施形態によれば、第1のチャンバ104各々の表面積は、第2のチャンバ108各々の表面積よりも大きくてもよい。第1のチャンバ104の各々は、リザーバを充填する前に流路106に注入された細胞(典型的には、免疫細胞)に栄養を供給する目的と、蒸発の影響を緩和する目的との両方の目的のために、余分な液体を保持する。第1のチャンバ104の表面積の典型的な範囲は、3mm~5mmの半径を有する本質的に円形の断面に対応することができる。
【0081】
第1のチャンバ104のピペット操作領域の表面積が大きいほど、免疫細胞懸濁液の細胞栄養素を有する培地のための通気容器(open air container)としての役割を果たすことができ、液体とインキュベータの雰囲気との間のガス交換をより良好に行うことができる。
【0082】
第2のチャンバ108のピペット操作領域が小さいほど、狭い第2の流路内に注入されるゲルサンプルの蒸発を制限し、したがって、流路内容物の収縮を防止することができる。注入口の半径は、より良好な生存率、細胞数、及び懸濁液のガス交換の必要性を達成するために、装填される懸濁液の物理的特性や細胞の種類(ゲルマトリックス中にあることが必要な場合)に応じて選択することができる。
【0083】
マイクロ流体デバイス100をマイクロプレート上に配置する場合、個々の機能ユニット102の同様の寸法を使用することができる。機能ユニット102は、マイクロプレートのウェル毎に独立して設けられていてもよい。代替的に、ガラスなどのマイクロプレートサイズの平坦面が使用されてもよく、本出願の図7及びその説明に記載された方法に従って、機能ユニット102の各々は平坦面上に配置されてもよい。平坦面が使用される場合、機能ユニット102の各々の位置は、所望の数のウェルを有するマイクロプレート上のウェルの位置と一致するように配置されてもよい。例えば、マイクロ流体デバイス100が96個の機能ユニット102を有するように配置される場合、機能ユニット102の位置は、96個のウェル又は384個のウェルのマイクロプレートのウェル位置と一致するように配置されてもよい。これにより、マイクロプレートリーダは、例えば、機能ユニット102の各々から1つ、2つ、又は4つの読み取り位置を得ることができる。機能ユニット102がマイクロプレート上にどのように組み立てられるかにかかわらず、得られる解決策は、それぞれが別個のウェル又は対応するウェル位置として定義される、すべての機能ユニット102の繰り返しの自動分析を可能にする。
【0084】
図6は、本発明の一実施形態による細胞の培養方法のフローチャートである。第1の細胞が、例えばヒト末梢血単核細胞から、細胞培養のために提供される(120)。第1の細胞が調製され、第1の細胞から第1のサンプルが形成される(122)。第2の細胞が、例えば癌細胞やオルガノイドから、細胞培養のために提供される(130)。第2の細胞が調製され、第2の細胞から第2のサンプルが形成される(132)。第2のサンプルは、デバイス100上の第2の流路110に注入される(134)。第2のサンプルが注入されたデバイスは、細胞培養インキュベータ中で、例えば30分間、インキュベート(incubate、培養)される(134)。その後、第1のサンプルが、デバイス100上の第1の流路106に注入される(124)。第1のサンプルの第1の細胞の生存及び浸透圧を確保するために、栄養培地が第1のチャンバ104に添加される(126)。流路106及び流路110の両方がそれらのサンプルを受け取った後、サンプルを有するデバイスは、例えば12時間~72時間、インキュベートされる(138)。インキュベート後、第1のサンプルからの第1の細胞と第2のサンプルからの第2の細胞が、機能ユニット102の動作部分のマイクロ流路アレイ114内に移動し、サンプルが撮像される(140)。
【0085】
例示的な実施形態によれば、第2の流路110に注入されるサンプルは、腫瘍組織サンプル、又はオルガノイドなどの対応するサンプルから調製することができる。研究対象のサンプルは、生検(biopsy)、手術の前後に(perioperatively)、又は他の手段によって得ることができる。サンプルが腫瘍サンプルである場合、対象の組織細胞や癌関連線維芽細胞が存在することを確実にするために、サンプルは腫瘍の中心に隣接する領域から採取され得る。サンプルの重要な断片を、好ましくは1mm~2mmまで分離し、次いで細かく切断してもよい。サンプル片は、氷冷したハンクス平衡塩溶液(HBSS;100U/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン、及び250ng/mlファンギゾンを含んで供給される)中で細かく切断してもよい。次に、サンプル片を、4℃、1000rpm(200×g)で、5分間遠心分離することができる。次に、上清を捨て、遠心分離工程を繰り返す前に、新鮮なHBSS緩衝液を加えてもよい。次に、組織片ペレットを、クロストリジウム属ヒストリチカム菌(Clostridium histolyticum)由来の1mg/mlコラゲナーゼI型を含有する5mlのHBSS緩衝液に懸濁し、37℃で2時間、ロッカープラットフォーム上に置くことができる。次に、チューブを遠心分離し、上清を捨て、新鮮なHBSS緩衝液で置換してから、再度、遠心分離を行ってもよい。処理されたサンプルをHBSS緩衝液に懸濁し、100μmのセルストレーナを用いて濾過し、通過した単一細胞を回収して、遠心分離することができる。上清を捨て、細胞ペレットをDMEM/F-12に懸濁してもよい。
【0086】
例示的な実施形態によれば、癌細胞又はオルガノイドからの細胞ペレットは、例えば、Celltrace Far Redで染色され、培地中で室温で液体である溶液に懸濁させてもよい。これは、流路110に注入された後、ハイドロゲルECMを形成するために実行されてもよい。この溶液は、下の成分から以下の濃度で調製してもよい。2.4mg/mlのミオゲル(Myogel)、0.5mg/mlのフィブリノゲン、0.3U/mlのトロンビン、及び33.3μg/mlのアプロチニン。これらの試薬は、10%の患者血清及び免疫チェックポイント阻害薬を含むDMEM/F12培地中で希釈されてもよい。例えば、PD-1阻害薬、超解像顕微鏡撮像用の蛍光タンパク質及びバイオセンサ、又は光を用いて生物学的プロセスを操作するための遺伝学的にエンコードされた光遺伝学ツールを、追加してもよい。ミオゲルの可能な代替物としては、Lymphogel、ECMgel(Sigma社製)、Cultrex(登録商標)BME(Amsbio社製)、Geltrex(登録商標)(Gibco Life Technologies社製)、及びECMatrix(登録商標)(Millipore社製)が挙げられる。これらの製品は、マウス腫瘍組織のホモジネートであり、ヒトTMEMとは組成が異なるため、ヒトでの研究においては同じ欠点を有する。次に、流路キャビティに導入される細胞数を最大にするように設定された所与のマイクロ流路の寸法及び容積に適したサンプル中の細胞の数及び濃度をもたらす量で、追加成分が加えられてもよい。追加成分は、細胞クラスタの形成を防止することができる。癌細胞の代わりにオルガノイドが使用される場合、オルガノイドは、凝集体を形成することなくマイクロ流路に導入できる濃度で適用することができる。
【0087】
例示的な実施形態によれば、第1の流路106に注入されるサンプルは、ヒト末梢血単核細胞(MNC)又は対応するサンプルから調製することができる。サンプルは、標的組織、又はin vitro細胞培養物から単離されてもよい。ヒト末梢血MNCが使用される場合、それらは、癌患者の軟膜(buffy coat)から単離されてもよい。MNCは、密度勾配法を介して単離されてもよい。末梢血MNCは、適応型及び自然免疫型の免疫細胞(T細胞、B細胞、NK細胞、単球、及び樹状細胞)から個々に、又はそれらの任意の組み合わせの混合物として構成される。T細胞は分離され、CAR-T細胞療法プロトコルに従ってさらに処理されてもよい。次に、それらは、単独療法又は併用療法としての有効性評価のin vitro評価のために、単独で又は他の免疫細胞と組み合わせて使用されてもよい。キメラ抗原受容体(CAR)をエンコードする遺伝子をT細胞に組み込むプロセスは、任意のCAR-T細胞療法の一部として定義された任意のプロトコルに従って実施することができる。癌患者からの血清は、室温で30分間凝固させ、4℃の冷蔵遠心分離機にて2000rpmで10分間遠心分離することによって調製することができる。この血清は、免疫細胞懸濁液を調製する際に、10体積%で添加されてもよい。免疫刺激薬と免疫チェックポイント阻害薬、又は超解像顕微鏡撮像用の蛍光タンパク質とバイオセンサ、又は光を用いて生物学的プロセスを操作するための遺伝学的にエンコードされた光遺伝学ツールを、添加することができる。その他の成分は、マイクロ流路キャビティに導入される細胞数を最大にするように設定された所与のマイクロ流路の寸法及び容積に適したサンプル中の細胞の数及び濃度をもたらす量で、加えられてもよい。追加成分は、細胞クラスタ、凝集体の形成を防止することができる。
【0088】
例示的な実施形態によれば、癌細胞懸濁液を含むサンプルを、第2の流路110に装填することができる。次に、チップが30分間インキュベータ内に置かれると、ECMヒドロゲルが形成される。次に、免疫細胞懸濁液を含むサンプルを、第1の流路106に装填することができる。第1の流路106への細胞懸濁液の直接注入に続いて、第1のチャンバ104に追加の緩衝液を装填して、栄養素を供給し、培養中の第1の流路106の乾燥を防止することができる。
【0089】
一実施形態によれば、デバイス100は、流路110及び流路106の両方が装填された後に、細胞培養インキュベータ内に置かれてもよい。デバイス100を細胞培養インキュベータ内に入れた後の12時間で、機能ユニット102の動作部分を形成する第1の流路106と第2の流路110との平行セクション間のマイクロ流路アレイ114がプライミングされ(be primed)、マイクロ流路116内に捕捉された気泡が除去され得る。インキュベーション後、デバイス100は、蛍光顕微鏡によって、次の36時間にわたって複数回撮像され得る。この間に癌細胞に対する免疫応答が形成され、免疫細胞はマイクロ流路116を通って癌細胞に向かって移動する。癌細胞に到達すると、免疫チェックポイントがブロックされるために、癌細胞が無力化される可能性がある。デバイス100を撮像している間に、マイクロ流路アレイ114を通過する免疫細胞の数がカウントされ、免疫応答の直接的な指標としての役割を果たす。免疫細胞によって無力化された癌細胞は、それらの蛍光における色の変化によって観察することが可能である。免疫細胞によって攻撃され、死滅した癌細胞の数は、薬物療法又は併用薬物療法による治療の有効性を直接示す指標となり得る。当業者には明らかであるように、上述した手順は、複数の機能ユニットにおいて並行して繰り返すことができ、それによって、二重サンプリングや参照サンプリングや、異なる投与量、異なる細胞、又は異なる薬剤でのサンプリングを同時に行うことが可能になる。
【0090】
一実施形態によれば、複数の薬剤及び/又は薬剤候補、或いは、薬剤及び/又は薬剤候補の組合せを使用することができる。これらには、以下に列挙される薬剤及び薬剤候補と、以下の表1~表4に列挙される薬剤及び薬剤候補が含まれ得るが、これらに限定される訳ではない。
【0091】
表1:免疫チェックポイント標的に対する阻害機能を有する薬剤及び薬剤候補の例
【0092】
【表1】
【0093】
表2:免疫チェックポイント標的以外にも阻害機能を有する薬剤及び薬剤候補
【0094】
【表2】
【0095】
表3:既存の免疫チェックポイント阻害薬
【0096】
【表3】
【0097】
表4:新規な免疫チェックポイント阻害分子とその他の阻害標的
【0098】
【表4】
【0099】
表1~表4に列挙された薬剤及び薬剤候補の他に、中国国内で開発された免疫チェックポイント阻害薬及び薬剤候補である、Tuoyi(toripalimab)、Tyvyt(Sintilimab)、Tislelizumab、Camrelizumab、AK105、CS1001、CS1003、zimberelimab、HLX-10、KN046、SHR-1316が、使用され得る。また、他のヒト化IgG4抗PD-1モノクローナル抗体薬及び薬剤候補、例えば、Spartalizumab(PDR001)、Dostarlimab、TSR042、MGA012、Sasanlimab(PF-06801591)、Budigalimab(ABBV-181)、BI754091なども使用され得る。また、皮下投与されるPD-L1ナノボディであるEnvafolimab(KN035)、完全ヒトIgG1 PD-L1モノクローナル抗体薬又は薬剤候補であるCosibelimab (CK-301)、二官能性融合タンパク質、ヒトIgG1 PD-L1モノクローナル抗体薬又は薬剤候補であるBintrafusp alfa (M7824)に融合されたTGFβRII細胞外ドメイン、及び/又は、VISTA、PD-L1、及びPD-L2 CA-170の低分子阻害薬も、使用され得る
【0100】
図7は、本発明の一実施形態によるデバイスの製造方法のフローチャートである。デバイスを製造するために、基板が提供される(150)。基板は、デバイス内に必要な流体連通を形成するためにキャスト成形される(152)。流体連通は、第1のチャンバ104と第1の流路106との間、第2のチャンバ108と第2の流路110との間、マイクロ流路アレイ114と第1の流路106との間、及びマイクロ流路アレイ114と第2の流路110との間に設けられる(154)。最後に、基板を硬化させて、機能デバイス100を得る(156)。
【0101】
マイクロ流体デバイス100を作製するための方法は、従来技術に記載されているような標準的なソフトリソグラフィに基づくことができる。基板の厚さは、30μm~3.5mmとすることができる。基板の厚さが局所的に薄くなると、マイクロ流路から気泡が逃げる垂直距離が短くなるため、ガス透過性が増加する可能性がある。
【0102】
マイクロ流路アレイ114は、第1の流路106側及び第2の流路110側の両方から装填されるので、気泡はマイクロ流路アレイ114内に留まらざるを得ない。したがって、サンプルの装填前及び装填中にマイクロ流路116内に捕捉された気泡は、マイクロ流路アレイ114内に残留する。ガス透過性の増加は、気泡がより速く逃げることを可能にし、これにより、マイクロ流路アレイ114のプライミング(priming)をより迅速に行うことができるようになる。
【0103】
細胞培養に適切なレベルのガス透過性を提供し、デバイス100のプライミング中にマイクロ流路からの気泡の除去を容易化するために、デバイス100の細胞培養及び細胞遊走の機能部分には、PDMS又は同等のガス透過性を有する他の材料を使用することが好ましい。PDMS構造部品は、金型の上にキャストし、架橋剤との混合後に材料を熱硬化させることによって、意図した形状にすることができる。光硬化性PDMSを使用することもでき、光硬化は、キャスト後に、又は付加製造(3Dプリンティング)プロセスの一部として適用することができる。さらに、ロールツーロールナノインプリント(Roll to Roll nanoimprinting)は、熱硬化プロセス又は光硬化プロセスの両方のプロセス、又はそれらの組み合わせに使用することもできる。
【0104】
PDMSの他に、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレート(PEGDA)、環状オレフィンコポリマー(COC)、及び環状オレフィンポリマー(COP)、又は任意の他の熱可塑性プラスチック、或いはこれらの材料の任意の組み合わせなど、他の熱可塑性材料を単独で又は互いに組み合わせて使用して、デバイス100の構造部分及び機能部分の両方を形成することができる。これらの材料を使用して、マイクロインジェクション成形又はホットエンボス加工を行うことにより、主要なチップ構造の流路及び支持構造を意図した形状にすることができる。ロールツーロールエンボス加工や、ロールツーロールインプリンティングは、大量生産するための別の方法である。
【0105】
キャスティング又はモールディング用の金型は、付加製造、CNCマイクロミリング法、電気めっき法、又はリソグラフィ法によって作製することができ、これらの方法は、複製されるマイクロ流路構造を形成するモールディングツールに、材料をエッチング又は追加する様々な方法を含むことができる。
【0106】
本出願の多くの変形例が、上述の説明に照らして当業者に示唆されるであろう。そのような明らかな変形例は、添付の特許請求の範囲の完全に意図された範囲内にある。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】