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特表2024-540367注射デバイス用の薬剤ヒドロコルチゾン溶液
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-31
(54)【発明の名称】注射デバイス用の薬剤ヒドロコルチゾン溶液
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/573 20060101AFI20241024BHJP
   A61K 31/661 20060101ALI20241024BHJP
   A61P 5/38 20060101ALI20241024BHJP
   A61P 11/06 20060101ALI20241024BHJP
   A61K 47/20 20060101ALI20241024BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20241024BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
A61K31/573
A61K31/661
A61P5/38
A61P11/06
A61K47/20
A61K47/12
A61K47/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024526872
(86)(22)【出願日】2022-11-08
(85)【翻訳文提出日】2024-06-05
(86)【国際出願番号】 EP2022081164
(87)【国際公開番号】W WO2023083825
(87)【国際公開日】2023-05-19
(31)【優先権主張番号】21/11880
(32)【優先日】2021-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506257331
【氏名又は名称】クロスジェクト
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヴァンソン ロレット
(72)【発明者】
【氏名】ラコム オリヴィエ
(72)【発明者】
【氏名】イギニーズ マリヨン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076BB15
4C076CC15
4C076CC30
4C076DD26
4C076DD26Z
4C076DD41
4C076DD41Z
4C076DD43
4C076DD43Z
4C076DD56
4C076DD56S
4C076FF11
4C076FF36
4C076FF51
4C076FF63
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA10
4C086DA34
4C086GA13
4C086GA16
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA17
4C086MA66
4C086NA03
4C086ZA59
4C086ZC08
(57)【要約】
本発明は、溶液1mL当たり、mgで、-150mg~170mgのヒドロコルチゾン、又は、等しい量の、その薬学的に許容される塩、-2mg~7.5mgのモノチオグリセロール、-Qsp 1mLの溶媒、を含む、ヒドロコルチゾンの薬学溶液に関する。本発明はまた、急性副腎不全及び喘息の処置における、ヒドロコルチゾン薬学溶液の使用に関する。本発明はまた、注射デバイス及び本薬学溶液を含む注射キットに関する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤ヒドロコルチゾン溶液であって、前記溶液1mL当たり、mgで、少なくとも、
-150mg~170mgのヒドロコルチゾン、又は、等しい量の、その薬学的に許容される塩、
-2mg~7.5mgのモノチオグリセロール、
-Qsp 1mLの溶媒:「Qsp」とは、前記溶液の体積が1mLを満たすような、溶媒の量であることを意味する、「に十分な量」の略である、
を含む、薬剤ヒドロコルチゾン溶液。
【請求項2】
前記ヒドロコルチゾンの薬学的に許容される塩は、ヒドロコルチゾンリン酸ナトリウム、ヒドロコルチゾンコハク酸ナトリウム、ヒドロコルチゾンコハク酸水素、酪酸ヒドロコルチゾンヒドロコルチゾン、及び酢酸ヒドロコルチゾンから選択されることを特徴とする、請求項1に記載の薬学溶液。
【請求項3】
前記ヒドロコルチゾンの薬学的に許容される塩は、ヒドロコルチゾンリン酸ナトリウムであることを特徴とする、請求項2に記載の薬学溶液。
【請求項4】
少なくとも1種の緩衝剤を更に含むことを特徴とする、請求項1-3のいずれか1項に記載の薬学溶液。
【請求項5】
前記緩衝剤は、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、及びリン酸水素ナトリウムから選択されることを特徴とする、請求項4に記載の薬学溶液。
【請求項6】
前記薬学溶液のpHは、7~9、好ましくは7.5~8.5を占めること特徴とする、請求項1-5のいずれか1項に記載の薬学溶液。
【請求項7】
前記薬学溶液中のヒドロコルチゾンの濃度は、160mg/mLであることを特徴とする、請求項1-6のいずれか1項に記載の薬学溶液。
【請求項8】
前記溶液1mL当たり、mgで、
-210mg~220mgのヒドロコルチゾンリン酸ナトリウム、
-2mg~7.5mgのモノチオグリセロール、
-0.1mg~3.5mgの、少なくとも1種の緩衝剤、
-Qsp 1mLの溶媒、好ましくは、注射用水
を含むことを特徴とする、請求項4-7のいずれか1項に記載の薬学溶液。
【請求項9】
急性副腎不全及び喘息の処置で使用するための、請求項1-8のいずれか1項に記載の薬学溶液。
【請求項10】
前記溶液は、非経口、好ましくは、筋肉内投与に適した形態であることを特徴とする、請求項9に記載の薬学溶液。
【請求項11】
-注射デバイスと、
-請求項1-8のいずれか1項に記載の薬学溶液と、
を含む、注射キット。
【請求項12】
前記注射デバイスは、発火カートリッジを備えた無針注射デバイスであることを特徴とする、請求項11に記載の注射キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非経口、特に、筋肉内注射されることを目的とする、ヒドロコルチゾン又はその薬学的に許容される塩の薬剤溶液(以降、「薬剤ヒドロコルチゾン溶液」と略す)に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロコルチゾン及びヒドロコルチゾン塩は、抗炎症剤として使用可能であることが知られている。これらの活性物質を、特に、喘息、内分泌疾患、皮膚疾患、及びアレルギー状態、加えて、急性副腎不全の処置において使用することは一般的である。
【0003】
ヒドロコルチゾン及びその塩は、コルチコステロイド群に属する。
【0004】
ヒドロコルチゾン、加えてその塩は、酸化を受けやすい。これらの活性物質の薬学溶液が常に、少なくとも1種の酸化防止剤を含む理由は、このためである。
【0005】
例えば、13.39% m/vの濃度の(言い換えると、100mLの溶液に、この塩が13.39g存在する)ヒドロコルチゾンリン酸ナトリウムの薬剤溶液である、Efcortesol(商標)の商品名で、AMDIPHARM社から市販されている薬剤製品が知られている。本製品は、100mgのヒドロコルチゾンを含有する1mLのアンプル、又は、500mgのヒドロコルチゾンを含有する5mLのアンプルのいずれかでパッケージ化されている。Efcortesol(商標)は、
-キレート剤の機能もまた有する、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(以下、「EDTA二ナトリウム」と略す)、及び、抗菌剤でもあるホルムアルデヒド重亜硫酸ナトリウムの、2種類の酸化防止剤と、
-リン酸水素ナトリウム及びリン酸二水素ナトリウムと、
-注射用水と、を更に含む。
【0006】
しかし、ホルムアルデヒド重亜硫酸ナトリウムは、FDA(「FDA」とは、「食品医薬品局(Food and Drug Administration)」の頭字語である)のGRASリスト(「GRAS」とは、「一般に安全とみなされている(「Generally Recognized As Safe」)の頭字語である)に現れない。さらに、この酸化防止剤は、国際的な参考図書である「医薬賦形剤ハンドブック(Handbook of pharmaceutical excipients)」に、医薬賦形剤の情報源として記載されていない。
【0007】
さらに、筋肉注射中の治療適応症(例えば、急性副腎不全、喘息、又は、コルチコステロイドの急速かつ著しい取込みを必要とする、任意の疾患)に対して必要な用量-これは、注射体積がより少ないことを示唆するものであるが-を尊重するために、医薬製品のEfcortesol(登録商標)によりもたらされているものより高い、薬学溶液の濃度が必要となり得る。
【0008】
治療適応症に対して必要な、注射されるべきヒドロコルチゾンの用量は、一般的に、100mgの範囲であり、注射デバイス(特に、発火カートリッジを備えた無針注射デバイス)が含有できる、およそ0.6~0.7mLの薬学溶液、150~170mg/mLを占める濃度でヒドロコルチゾン、又は、等しい量でその薬学的に許容される塩を含有する、薬学溶液の体積を考慮に入れることが、申し分なく適切である。
【0009】
Efcortesol(登録商標)の周知の溶液よりも濃縮されることができ、時間が経過しても安定している、ヒドロコルチゾン又はその薬学的に許容される塩の、新規の薬学溶液をもたらすことが望ましいのは、このためである。上記溶液が、特性決定、及び、時間と労力がかかる毒性研究が必要となる、未知の不純物を、できる限り最小限しか示さないのであれば、これもまた有利である。
【発明の概要】
【0010】
本発明の発明者らは、ホルムアルデヒド重亜硫酸ナトリウム及びEDTA二ナトリウムである、Efcortesol(登録商標)の酸化防止剤を、上述したものの1つなどの、参考図書における医薬賦形剤の一覧に現れる、別の酸化防止剤で置き換えることにより、非経口、特に筋肉内注射されることを目的とする、ヒドロコルチゾン又はその薬学的に許容される塩の、新規の薬学溶液を開発しようと試みた。上記溶液は、
-著しい量の、特性決定を必要とする未知の不純物を含んではならず、
-時間が経過しても安定しており、
-可能な限り最低のオスモル濃度を呈する必要がある。
【0011】
150~170mg/mLを占める濃度のヒドロコルチゾン、または、等しい量のその薬学的に許容される塩の薬学溶液中で、定められた濃度のモノチオグリコール酸化防止剤を用いることで、これらの目的全てを申し分なく達成することができたことを、本発明の発明者らは発見した。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に従った様々な薬学溶液、及び、比較溶液に対する、時間の関数としての、第1不純物の含有量のグラフである。
図2】本発明に従った様々な薬学溶液、及び、比較溶液に対する、時間の関数としての、第2不純物の含有量のグラフである。
図3】基準dの満足度関数fのグラフである。
図4】基準dの満足度関数fのグラフである。
図5】基準dの満足度関数fのグラフである。
図6】薬学的に試験した各溶液に対する、全体的な満足度Dを表すグラフである。
図7】薬学的に試験した溶液のそれぞれに対する、3つの基準d~dの、累積の満足度値を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の第1の目的は、上記溶液1mL当たりで、mgで、少なくとも、
-150mg~170mgのヒドロコルチゾン、又は、等しい量の、その薬学的に許容される塩、
-2mg~7.5mgのモノチオグリセロール、
-Qsp 1mLの溶媒
を含む、ヒドロコルチゾンの薬学溶液である。
【0014】
「Qsp」とは、溶液の体積が1mLを満たすような、溶媒の量であることを意味する、「に十分な量」の略である。
【0015】
2mg/mL~7.5mg/mLを占める濃度でモノチオグリセロールを用いることによって、ヒドロコルチゾン溶液に、時間が経過しても申し分なく優れた安定性がもたらされる。
【0016】
さらに、モノチオグリセロールは、薬剤投与により権限を与えられる賦形剤である。
【0017】
最終的に、本発明に従った薬学溶液は、この様々な強制保管条件(即ち、温度及び相対湿度)の下で、非常に少量の不純物を含むことが発見された。
【0018】
したがって、本発明には、ヒドロコルチゾンの薬学溶液を安定化させるために、2mg/mL~7.5mg/mLを占める濃度で、酸化防止剤としてモノチオグリセロールを選択することが存在する。
【0019】
ヒドロコルチゾンの薬学的に許容される塩は、ヒドロコルチゾンリン酸ナトリウム、ヒドロコルチゾンコハク酸ナトリウム、ヒドロコルチゾンコハク酸水素、酪酸ヒドロコルチゾン、及び酢酸ヒドロコルチゾンから選択することができる。
【0020】
ヒドロコルチゾンの薬学的に許容される塩は、ヒドロコルチゾンリン酸ナトリウムであるのが好ましい。
【0021】
本発明の一実施形態では、上記薬学溶液中のヒドロコルチゾンの濃度は、160mg/mLである。
【0022】
本発明の一実施形態では、モノチオグリセロール濃度は、2.5mg/mL~5mg/mLを占める。
【0023】
本発明の一実施形態では、モノチオグリセロール濃度は、5mg/mL~7.5mg/mLを占める。
【0024】
溶媒は、ヒドロコルチゾン及びその塩、並びに、本発明に従った上記薬学溶液を含む他の化合物全てと相溶性の、任意の薬学的に許容される溶媒であることができる。溶媒は水、特に、注射デバイスで用いられる水(言い換えると、注射用水)、加えて、等浸透圧添加剤又は塩化ナトリウム溶液を含有する水である。注射用水は、超純水であり、細菌汚染物質を含有しない。
【0025】
薬学溶液は、少なくとも1種の緩衝剤を更に含むことができる。例えば、緩衝剤は、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、及びリン酸水素ナトリウムから選択することができる。
【0026】
緩衝剤は、リン酸二水素ナトリウムとリン酸水素ナトリウムの混合物であるのが好ましい。リン酸二水素ナトリウムの質量の、リン酸水素ナトリウムの質量に対する比率は、0.03~0.06を占めるのが、極めて有利である。
【0027】
本発明の一実施形態では、上記溶液中での緩衝剤の濃度は、0.1mg/mL~3.5mg/mLを占める。
【0028】
薬学溶液のpHは、7~9、好ましくは、7.5~8.5を占めるのが有利である。
【0029】
上記薬学溶液は、モノチオグリセロール以外の、少なくとも1種の許容される薬学的賦形剤を更に含むことができる。
【0030】
本発明の一実施形態では、薬学溶液は、上記溶液1mL当たり、mgで、
-210mg~220mgのヒドロコルチゾンリン酸ナトリウム、
-2mg~7.5mg、好ましくは、2mg~5mgのモノチオグリセロール、
-0.1mg~3.5mgの、少なくとも1種の緩衝剤、
-Qsp 1mLの溶媒、好ましくは、注射用水を含む。
【0031】
本発明の実施形態では、薬学溶液は、緩衝剤として、リン酸水素ナトリウムの質量における、リン酸二水素ナトリウムの質量比が、0.03~0.06を占める、リン酸二水素ナトリウムとリン酸水素ナトリウムの混合物を含むのが好ましい。
【0032】
本発明の目的はまた、少なくとも
a) 少なくとも溶媒及びモノチオグリセロールを含む混合物が、撹拌により調製されるステップと、
b) 撹拌しながら、ヒドロコルチゾン又はその薬学的に許容される塩が添加され、上記薬学溶液を得るステップと、
c) 任意選択的に、ステップb)の終了時に得られる薬学溶液にて、少なくとも1つの濾過ステップが実施されるステップと、を含む、上述した本発明に従った、薬学溶液の調製方法である。
【0033】
薬学溶液が緩衝剤を含む場合、これらの緩衝剤は、ステップa)の前に、互いに混合され、その後、ステップa)の混合物に添加されるのが、好ましい。
【0034】
薬学溶液が、モノチオグリセロール以外の、少なくとも1種の薬学的に許容される賦形剤を含む場合、本賦形剤は、ステップa)の混合物に添加することができる。
【0035】
濾過ステップは、清澄濾過及び滅菌濾過から選択される少なくとも1種の濾過を含むことができる。
【0036】
濾過ステップは、清澄濾過、続いて滅菌濾過で構成されるのが好ましい。
【0037】
本発明はまた、急性副腎不全、喘息、又は、コルチコステロイドの急速かつ著しい取込みを必要とする、任意の疾患から選択される疾患の処置における使用のための、上述した薬学溶液に関する。使用は、急性副腎不全及び喘息の処置であるのが好ましい。
【0038】
上記溶液は、有利には、非経口、好ましくは、筋肉内投与に適した形態である。
【0039】
本発明はまた、
-注射デバイスと、
-上述した本発明に従った薬学溶液と、
を含む、注射キット、好ましくは、筋肉注射キットに関する。
【0040】
有利には、注射デバイスにより送達される体積は、0.60mL~0.65mLを占める。
【0041】
上記注射デバイスは、使い捨てであることができる。例えば、すぐに使用できる予充填チューブに入れられる。
【0042】
本発明の好ましい実施形態では、上記デバイスは、装着される気体生成器のおかげで、予充填された使い捨ての無針自動注射デバイスである。デバイスは、発火カートリッジを備えた無針注射デバイスであることができる。これに関し、特許出願FR 2 815 544 A1号及び同第FR 2 807 946 A1号は、本注射デバイスの例について記載している。
【0043】
極めて有利には、注射デバイスは、クロスジェット社により、ZENEO(登録商標)の商品名で市販されているデバイスである。
【0044】
したがって、本発明に従った注射キットの一実施形態では、注射デバイスは、発火カートリッジを備えた無針注射デバイスである。
【0045】
本発明は、本発明に従った溶液の、非限定例、実験、及び比較結果を表す添付図面を参照して以下に記載される、詳細の説明を使用して、より良く理解されるであろう。
【実施例
【0046】
物理化学的性質、及び特に、
-ヒドロコルチゾンリン酸ナトリウム濃度が214.7mg/mLであり、モノチオグリセロール濃度が2mg/mL~7.5mg/mLを占める、本発明に従った4つの溶液;
-ヒドロコルチゾンリン酸ナトリウム濃度が214.7mg/mLであり、モノチオグリセロール濃度が、一端では0~1mg/mLを占め、他端では10mg/mLに等しい、5つの比較溶液、及び、最終的に、
-同一の試験条件下にするために、ヒドロコルチゾンリン酸ナトリウム濃度を増加させ、214.7mg/mLに設定し、本発明に従った溶液、及び、比較溶液の、ヒドロコルチゾンリン酸ナトリウム濃度に一致させたことを除き、参照製品Efcortesol(登録商標)と同様の溶液
の不純物含有量を比較するために、実験を行った。
【0047】
下表1は、上記溶液1mL当たりの、mgでの、参照製品Efcortesol(登録商標)(以下、「Ref」)と同様の製品組成を詳述する。
【0048】
【表1】
Efcortesol(登録商標)製品の組成を詳述する表1
【0049】
下表2は、溶液1mL当たりの、mgでの、5つの比較溶液(C1~C5)、及び、4つの、本発明に従った溶液(IQ1~IQ4)の組成を詳述する。
【0050】
【表2】
溶液C1~C5、及びIQ1~IQ4の組成を詳述する表2
【0051】
調製した溶液全てにおいて、上の表1及び2に詳述するとおり、214.7mg/mLのヒドロコルチゾンリン酸ナトリウム濃度は、160mg/mLのヒドロコルチゾンの濃度に等しい。
【0052】
溶液は全て、以下の方法で入手した:
a) 緩衝溶液をpH8.0で得るために、水にリン酸二水素ナトリウム及びリン酸水素ナトリウムを含有する混合物を、撹拌しながら調製し;
b) ステップa)で入手した溶液をバブリングし;
c) 酸化防止剤を含まない溶液C1を除き、酸化防止剤(即ち、溶液Refに対しては、EDTA二ナトリウム及びホルムアルデヒド重亜硫酸ナトリウム:並びに、他の溶液全てに対してはモノチオグリセロール)を、撹拌しながら添加し、化合物が完全に溶解するまで、撹拌を維持し;
d) 次に、ヒドロコルチゾンリン酸ナトリウムを、撹拌しながら混合物に添加し、当該撹拌は、この塩が完全に溶解して溶液が得られるまで続けた。
【0053】
ステップc)及びd)は、窒素流を掃引した絶縁体の下で実施した。
【0054】
窒素バブリングは部分的に不活性であり、これによって、薬学溶液の、酸素との接触を低減可能であり、故に、上記溶液の酸化を制限することができる。
【0055】
このようにして得た溶液を、先端に2つのキャップを装着したガラス管に入れた。
【0056】
より正確には、管を、0.65mLの溶液で満たした。窒素掃引を溶液表面に適用し、これらの管の上部空間に存在する酸素を除去した。最終的に、管を閉じた。
【0057】
溶液全てに対して、pH、オスモル濃度、及び、モノチオグリセロールの量を、75%の相対湿度、及び40℃の温度の下で、様々な保存時間で測定した。
【0058】
さらに、高速液体クロマトグラフィー(以下、「HPLC」と略す)により分析から、溶液全てに対する時間限界を測定した:
-上記溶液に存在する不純物全ての面積割合(%);上記溶液の純度割合(%)を推測することが可能となった;
-2つの不純物(即ち、相対溶出時間が1.26分だった「不純物1」、及び、相対溶出時間が1.29分だった「不純物2」)の面積割合(%);上記溶液中での、これら2つの不純物の含有量の、経時的な進展を推論することが可能であり、表7及び8に詳述し、図1及び2に示す。
【0059】
これらの面積割合(%)を、考慮した溶液のメインピークの面積に対して表す。
【0060】
HPLC分析を、以下の条件下で実施した:
-5μmの粒径、及び寸法(250×4.6)を有する、商品名Luna(登録商標)C18(2)で、Phenomenex社により市販されているカラム;
-1.5mL/分の流速;
-5μlの注入体積;
-190~400nmを占める可変波長を有する紫外線検出器、又は、光ダイオード検出器;
-254nmの波長;
-25℃(±)2℃のカラム温度;
-室温のサンプル;
-移動相A:精製水中の0.1(v/v)のトリフルオロ酢酸;
-移動相B:精製水中の0.1(v/v)トリフルオロ酢酸。
【0061】
下表3は、時間の関数としての、移動相の組成を詳述する。
【0062】
【表3】
時間の関数として移動相の組成を詳述する表3
【0063】
下表4は、40℃での、及び、75%の相対湿度下での、溶液の保管の、0に等しいtで、次いで、1、3、及び5ヶ月後に入手したpH値を詳述する。上記溶液の初期モノチオグリセロール含有量を、表4に呼び戻す。これらは、括弧内の数字である。「ND」とは、「測定せず」の略である。
【0064】
【表4】
pH値を詳述する表4
【0065】
表4に詳述する結果を考慮すると、過酷な条件、即ち、40℃、及び75%の相対湿度における保管にもかかわらず、溶液全てのpHが、時間が経過しても安定したままであったことに留意されたい。
【0066】
下表5は、40℃、及び、75%の相対湿度下での、1、3、及び5ヶ月の保管における、溶液C2~C5、及びIQ1~IQ4で残った、モノチオグリセロールの含有量を詳述する。上記溶液の初期モノチオグリセロール含有量を、表5に示す。これらは、括弧内の数である。
【0067】
【表5】
モノチオグリセロール含有量を詳述する表5
【0068】
表5に詳述する結果を考慮すると、溶液C2~C4に関しては、モノチオグリセロール含有量は、5ヶ月後に(かつ、溶液C2及びC3に関しては、3ヶ月以降に)完全に消失するまで、保管中に減少することに留意されたい。試験した溶液中で、モノチオグリセロールが減少する、又は更に、存在しなくなることによって、不純物が生成し、それ故に、試験した溶液が不安定となる。
【0069】
溶液C2~C4とは異なり、本発明に従った溶液IQ1~IQ4は、過酷な保管条件の下で5ヶ月後に、モノチオグリセロール含有量が常に高い。
【0070】
したがって、経時的に試験した溶液におけるモノチオグリセロール含有量の進展を監視することで、本発明に従った溶液IQ1~IQ4が特に、比較溶液C2~C4と比較して安定していることが示される。
【0071】
下表6は、40℃での、及び、75%の相対湿度下での保管の、0に等しいtで、次いで、1、3、及び5ヶ月後での、溶液の純度割合(%)を詳述する。上記溶液の初期モノチオグリセロール含有量を、表6に呼び戻す。これらは、括弧内の数である。
【0072】
【表6】
純度割合(%)を詳述する表6
【0073】
表6に詳述する結果を考慮すると、本発明に従った溶液IQ1~IQ4は、過酷な条件下で5ヶ月保管した後に、約99.3%の素晴らしい純度で存在することに留意されたい。
【0074】
下表7は、40℃での、及び、75%の相対湿度下での、溶液の保管の、0に等しい時間t、次いで、1、3、及び5ヶ月後における、上述した不純物1の面積割合(%)を詳述する。上記溶液の初期モノチオグリセロール含有量を、表7に呼び戻す。これらは、括弧内の数である。
【0075】
【表7】
不純物1の面積割合(%)を詳述する表7
【0076】
図1は、溶液のそれぞれに対する時間の関数としての、不純物1の面積割合(%)を表すグラフである。
【0077】
表7に詳述する結果を考慮すると、そして、図1における曲線の発展を考慮すると、本発明に従った溶液IQ1~IQ4は、比較溶液C1~C4の面積割合(%)よりも十分低い、不純物1の面積割合(%)を示すと留意されたい。
【0078】
下表8は、40℃での、及び、75%の相対湿度下での、溶液の保管の、0に等しい時間t、次いで、1、3、及び5ヶ月後における、上述した不純物2の面積割合(%)を詳述する。上記溶液の初期モノチオグリセロール含有量を、表8に示す。これらは、括弧内の数である。
【0079】
【表8】
不純物2の面積割合(%)を詳述する表8
【0080】
図2は、溶液のそれぞれに対する時間の関数としての、不純物2の面積割合(%)を表すグラフである。
【0081】
表8に詳述する結果を考慮すると、そして、図2における曲線の発展を考慮すると、含有量が時間の経過と共に増加傾向にある、比較溶液C1~C4とは違って、本発明に従った溶液IQ1~IQ4は、不純物2を含まないと留意されたい。
【0082】
下表9は、40℃での、及び、75%の相対湿度下での保管の、0に等しいtで、次いで、1、3、及び5ヶ月後で試験した溶液の、オスモル濃度(mOsmで表される)を詳述する。上記溶液の初期モノチオグリセロール含有量を、表9に呼び戻す。これらは、括弧内の数である。
【0083】
【表9】
試験溶液のオスモル濃度を詳述する表9
【0084】
非経口注射用の薬学溶液の開発の文脈において達成可能な主たる目的は、
1) 時間の経過と共に濃度が増加する不純物の存在と直接関連するパラメーターである、経時的な、良好な安定性;
2) 可能であれば等張性の、即ち、270~310mOsmを占める、オスモル濃度である。等張性が達成可能でない場合、オスモル濃度は、できる限り低くなければならない。
【0085】
上記表9に詳述する結果を考慮すると、比較溶液C5(即ち、モノチオグリセロール含有量が10mg/mLである溶液)のオスモル濃度が、本発明に従った溶液IQ1~IQ4のオスモル濃度よりも高いことに留意されたい。比較溶液C5のオスモル濃度パラメーターは、それ故、本発明に従った溶液IQ1~IQ4と比較して、さほど効率的ではない。
【0086】
さらに、これらの実験の文脈では、試験用液の中で、上で詳述した目的1)及び2)を最も満たす薬学溶液を特定するために、デリンガーの満足度関数を使用した。
【0087】
これに関し、George Derringeらによる、”Simultaneous optimization of several response Variables”という表題の出版物(Journal of quality technology,vol 12,n°4,1980年10月、214~219頁)は、この満足度関数の計算方法論について記載している。
【0088】
まとめると、デリンガーの満足度関数は、いくつかの変数応答(以下、「基準」と呼ぶ)の同時最適化を可能にする数学的ツールである。数学的ツールの使用は、薬学溶液の性能を示すために薬学分野では非常に古典的であり、いくつかの基準に基づき、異なる目的を最も良く満たすために開発された。
【0089】
これらの実験の一部として、評価すべき以下の3つの基準が存在した:
-不純物1の面積割合(%)、以下、「d」と示す;
-不純物2の面積割合(%)、以下、「d」と示す;
-オスモル濃度、以下「d」と示す。
【0090】
第1ステップは、40℃、及び、75%の相対湿度下で5ヶ月保管した後に、上述した3つの基準のそれぞれに対して、デリンガー関数を定義することで構成された。
【0091】
5ヶ月の期間は、試験薬学溶液に少しでも存在している筈の場合、不純物が、40℃、及び75%の相対湿度下での保管条件下で成長する時間の終了時を示すため、興味深い期間である。
【0092】
基準d~dの値を、各試験用液に対して計算した。この計算をするために、評価した各基準に対して、0~1を占める満足度値を付与するために、変数の変化を加えた。
【0093】
より正確には、各基準に対して、値1を、試験用液全ての中で最も満足のいく、考慮される基準の値に割り当てた(即ち、基準dに関しては、不純物1の最小の面積割合(%)、基準dに関しては、不純物2の最小の面積割合(%)、及び、基準dに関しては、最低のオスモル濃度)。値0を、試験用液全ての中で最も満足のいかない、考慮される基準の値に割り当てた(即ち、基準dに関しては、不純物1の最大の面積割合(%)、基準dに関しては、不純物2の最大の面積割合(%)、及び、基準dに関しては、最大のオスモル濃度)。
【0094】
下表10~12は、それぞれ、基準d~dに対して、1~0の、割り当てられたこれらの値をまとめる。
【0095】
【表10】
表10は、基準d(不純物1の面積%)に関する
【0096】
【表11】
表11は、基準d(不純物2の面積%)に関する
【0097】
【表12】
表12は、基準d(オスモル濃度)に関する
【0098】
これらの3つの表から、評価したd~dのそれぞれに対して、3つの線形満足度関数f1、f2、及びf3を測定した。
【0099】
図3は、基準dの満足度関数f1のグラフである。
【0100】
図4は、基準dの満足度関数f2のグラフである。
【0101】
図5は、基準dの満足度関数f3のグラフである。
【0102】
基準dの満足度関数f1から、各試験溶液に対して、上記基準dに対する満足度値が計算される。
【0103】
下表13は、各試験溶液に対する、不純物1の面積割合(%)、及び、関数f1から計算した、基準dに対する満足度値を詳述する。
【0104】
【表13】
【0105】
基準dの満足度関数f2から、各試験溶液に対して、上記基準dに対する満足度値を計算した。
【0106】
下表14は、各試験溶液に対する、不純物2の面積割合(%)、及び、関数f2から計算した、基準dに対する満足度値を詳述する。
【0107】
【表14】
【0108】
基準dの満足度関数f3から、各試験溶液に対して、上記基準dに対する満足度値を計算した。
【0109】
下表15は、各試験溶液に対する、オスモル濃度、及び、関数f3から計算した、基準dに対する満足度値を詳述する。
【0110】
【表15】
【0111】
次に、試験薬学溶液の満足度値全ての幾何平均に対応する、全満足度「D」を計算した。この全満足度Dによって、様々な試験薬学溶液を互いに比較し、これらを互いに関連付けて分類することが可能となる:高い全満足度Dを得る試験用液が、上で詳述した目的のまとまり全てを最も良く満たす薬学溶液に対応する。
【0112】
下表16は、試験薬学溶液のそれぞれに対する、全満足度Dを詳述する。
【0113】
【表16】
【0114】
図6は、試験薬学溶液のそれぞれの、全満足度Dを表すグラフである。
【0115】
さらに、図7は、試験薬学溶液のそれぞれに対する、3つの基準d~dの、累積の満足度値を表すグラフである。
【0116】
表16に詳述する結果を考慮すると、そして、図6及び7を考慮すると、本発明に従った溶液IQ1~IQ4は、薬学溶液を開発するために達成する必要のある目的の最大充足、即ち、少量の不純物(この場合、不純物1及び2)、並びに、可能な限り低いオスモル濃度を示すことに留意されたい。これは、全満足度D、及び、個別の満足度の累積が低い、比較溶液C1~C5には当てはまらない。
【0117】
したがって、デリンガーの満足度関数を実装する数学的ツールは、2~7.5mg/mLを占めるモノチオグリセロール濃度を選択することによって、経時的な安定性、及び、可能な限り低いオスモル濃度という、薬学溶液開発のための、上で定義した目的を申し分なく満たすため、最適化された、150~170mg/mLを占める濃度の、ヒドロコルチゾン(又は、等しい量の、その薬学的に許容される塩)の薬学溶液を得ることが可能となることをはっきりと示す。
【0118】
この最適化は、モノチオグリセロール濃度の、2~7.5mg/mLのこの区間の外側では観察されないことに留意すべきである。実際、全満足度Dは、この区間のいずれかの側で(即ち、溶液C1~C4に関しては、一方の側で、溶液C5に関しては、他方の側で)低い。溶液C1~C4は、不純物含有量に関して最適化されていない。溶液C5は、オスモル濃度に関して最適化されていない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】