IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニーの特許一覧

特表2024-540379非見通し線(NLOS)信号を増強するためにパッシブ反射体を使用するシステム及び方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-31
(54)【発明の名称】非見通し線(NLOS)信号を増強するためにパッシブ反射体を使用するシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
   H01Q 15/14 20060101AFI20241024BHJP
【FI】
H01Q15/14 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024526900
(86)(22)【出願日】2022-10-26
(85)【翻訳文提出日】2024-05-07
(86)【国際出願番号】 IB2022060306
(87)【国際公開番号】W WO2023084347
(87)【国際公開日】2023-05-19
(31)【優先権主張番号】63/263,775
(32)【優先日】2021-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505005049
【氏名又は名称】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100130339
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 憲
(74)【代理人】
【識別番号】100135909
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 和歌子
(74)【代理人】
【識別番号】100133042
【弁理士】
【氏名又は名称】佃 誠玄
(74)【代理人】
【識別番号】100171701
【弁理士】
【氏名又は名称】浅村 敬一
(72)【発明者】
【氏名】レメシュ,イヴァン
(72)【発明者】
【氏名】グラフ,マイケル エス.
(72)【発明者】
【氏名】マニュイロフ,セルゲイ アー.
(72)【発明者】
【氏名】サリバン,ジョン ジェイ.
【テーマコード(参考)】
5J020
【Fターム(参考)】
5J020AA03
5J020BA06
5J020BA17
5J020BD04
5J020DA03
(57)【要約】
非見通し線(NLOS)無線信号を増強するために、パッシブ反射体又はリフレクトアレイを使用するシステム及び方法が提供される。複数のリフレクトアレイが組み合わされて、広範囲のユーザ位置/ビーム角をカバーするように配置される。パッシブリフレクトアレイは、入射ビームを分割するように構成された第1のリフレクトアレイと、入射ビームを入射面外でステアリングするように構成された第2のリフレクトアレイとのうちの少なくとも1つを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線通信用の非見通し線(NLOS)信号を増強する方法であって、
第1のリフレクトアレイと第2のリフレクトアレイとを含む複数のパッシブリフレクトアレイであって、前記リフレクトアレイのうちの少なくとも1つが、約1.0mm~約10.0cmの範囲の波長λの入射無線周波数(RF)電磁波を反射するように構成された共振要素の繰り返し単位セルのパターンを備え、前記第1のリフレクトアレイが、その第1の長手方向に沿って第1の位相勾配を有し、前記第2のリフレクトアレイが、その第2の長手方向に沿って第2の位相勾配を有する、複数のパッシブリフレクトアレイを提供することと、
前記入射RF電磁波が少なくとも3dBの信号改善を伴って前記第1のパッシブリフレクトアレイ及び前記第2のパッシブリフレクトアレイによって反射されるように、前記第1のパッシブリフレクトアレイ及び前記第2のパッシブリフレクトアレイのうちの少なくとも1つを前記入射RF電磁波に面するように配置することと、を含む、方法。
【請求項2】
前記第1のリフレクトアレイ及び前記第2のリフレクトアレイのうちの少なくとも1つが、非線形ステアリング性能を提供する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1のリフレクトアレイ及び前記第2のリフレクトアレイのうちの少なくとも1つが、角度-空間分離を提供する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第1のリフレクトアレイ及び前記第2のリフレクトアレイのうちの前記少なくとも1つが、ビーム分割性能を提供する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記複数のパッシブリフレクトアレイのうちの少なくとも1つが、T接合部、L接合部、又は4方向接合部において天井又は床に配置される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記複数のパッシブリフレクトアレイのうちの前記少なくとも1つが、入射面外ステアリングを提供する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記入射RF電磁波が、送信端又は受信端上の適応ビーム形成を特徴とするネットワークからのものである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
無線通信用の非見通し線(NLOS)信号を増強するシステムであって、
1つ以上のパッシブリフレクトアレイであって、前記リフレクトアレイのうちの少なくとも1つが、約1.0mm~約10.0cmの範囲内の波長λの入射無線周波数(RF)電磁波を反射するように構成された共振要素の繰り返し単位セルのパターンを備える、1つ以上のパッシブリフレクトアレイを備え、
前記1つ以上のパッシブリフレクトアレイが、入射ビームを分割するように構成された第1のリフレクトアレイと、前記入射ビームを入射面外でステアリングするように構成された第2のリフレクトアレイとのうちの少なくとも1つを備える、システム。
【請求項9】
第1のリフレクトアレイ列の前記共振要素が、列方向が交互になるように配置されている、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記第1のリフレクトアレイ列の前記共振要素が、市松模様に配置されている、請求項8に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
ブロードバンドセルラーネットワークのための第5世代技術規格(5G)は、これまでマイクロ波又はミリ波、あるいはmmWaveと呼ばれてきた、6GHzから300GHzのスペクトル領域の高周波数電波を使用する。周波数電波が高いほど、有用な物理的範囲が短くなり、必要な地理的セルが小さくなる。高利得の高指向性アンテナを使用する見通し線(LOS)リンクは、集束ビームをモバイルユーザに直接提供する。このLOS接続を使用して、mmWave周波数での高い経路損失及び信号劣化が補償される。LOS接続のための無線周波数(RF)波のビームステアリングは、現在、モバイルネットワークプロバイダの周波数がmmWaveレジームに入りつつある現代の無線通信の不可欠な部分になりつつある。より高い周波数では、伝搬損失は典型的には増加するが、(例えば、建物の壁、窓ガラス、金属表面からの)反射によって生成される経路構成成分は、(例えば、損失、散漫散乱、又はマルチパス干渉に起因して)非効率的になり、様々なデッドゾーンをもたらす。この問題は、通常、基地局及び中継器のはるかに高密度のネットワークを導入することによって解決される。しかしながら、多数のアクティブ位相アレイアンテナ(アクティブビーム形成及び多入力多出力(MIMO)機能を必要とするので、ミリ波スペクトルでは更に複雑になる)、中継器、並びに関連する設置及びライセンシングを含む企業のコストは膨大である。
【発明の概要】
【0002】
無線通信における無線周波数(RF)波のビームステアリングのための費用効果の高い解決策を提供することが望まれている。一態様では、本開示は、無線通信用の非見通し線(NLOS)信号を増強する方法を提供する。本方法は、第1のリフレクトアレイと第2のリフレクトアレイとを含む複数のパッシブリフレクトアレイであって、リフレクトアレイの少なくとも1つが、約1.0mm~約10.0cmの範囲の波長λの入射無線周波数(RF)電磁波を反射するように構成された共振要素の繰り返し単位セルのパターンを備え、第1のリフレクトアレイが、その第1の長手方向に沿って第1の位相勾配を有し、第2のリフレクトアレイが、その第2の長手方向に沿って第2の位相勾配を有する、複数のパッシブリフレクトアレイを提供することと、入射RF電磁波が少なくとも3dBの信号改善で第1のパッシブリフレクトアレイ及び第2のパッシブリフレクトアレイによって反射されるように、第1のパッシブリフレクトアレイ及び第2のパッシブリフレクトアレイの少なくとも1つを入射RF電磁波に面するように配置することとを含み、信号改善は、複数のパッシブリフレクトアレイの恩恵なく測定されたベースライン信号強度に対する少なくとも1つのNLOS方向における信号強度の増加として定義される。
【0003】
別の態様では、本開示は、無線通信用の非見通し線(NLOS)信号を増強するシステムを提供する。システムは、1つ以上のパッシブリフレクトアレイを含み、リフレクトアレイの少なくとも1つは、約1.0mm~約10.0cmの範囲内の波長λの入射無線周波数(RF)電磁波を反射するように構成された共振要素の繰り返し単位セルのパターンを含む。1つ以上のパッシブリフレクトアレイは、入射ビームを分割するように構成された第1のリフレクトアレイと、入射ビームを入射面外でステアリングするように構成された第2のリフレクトアレイとのうちの少なくとも1つを含む。
【図面の簡単な説明】
【0004】
図1】いくつかの実施形態による、リフレクトアレイの幾何学的パターンの概略上面図である。
図1A】リフレクトアレイの反射挙動の概略図である。
図2A】例示的なリフレクトアレイの概略断面図及び上面図である。
図2B】様々な位相勾配∇φでの図2Aのリフレクトアレイの反射曲線のプロットである。
図2C】鏡面反射体の反射挙動の概略図である。
図2D】一定の位相勾配構造に対する反射挙動の概略図である。
図3A】一実施形態による、L接合部におけるリフレクトアレイの基本セットを有する屋内用途の概略図である。
図3B】一実施形態による、L接合部におけるリフレクトアレイの基本セットを有する屋内用途の概略図である。
図3C】一実施形態による、L接合部におけるリフレクトアレイの基本セットを有する屋内用途の概略図である。
図3D】一実施形態による、L接合部におけるリフレクトアレイの基本セットを有する屋内用途の概略図である。
図3E】一実施形態による、L接合部におけるリフレクトアレイの基本セットを有する屋内用途の概略図である。
図4A】一実施形態による、T接合部におけるリフレクトアレイの基本セットを有する屋内用途の概略図である。
図4B】一実施形態による、T接合部におけるリフレクトアレイの基本セットを有する屋内用途の概略図である。
図4C】一実施形態による、T接合部におけるリフレクトアレイの基本セットを有する屋内用途の概略図である。
図4D】一実施形態による、T接合部におけるリフレクトアレイの基本セットを有する屋内用途の概略図である。
図5A】一実施形態による、4方向接合部におけるリフレクトアレイの基本セットを有する屋内用途の概略図である。
図5B】一実施形態による、4方向接合部におけるリフレクトアレイの基本セットを有する屋内用途の概略図である。
図6A】ビーム分割反射挙動の概略図である。
図6B】入射面外ステアリングについての反射挙動の概略図である。
図6C】一実施形態による、天井及び床上のリフレクトアレイの組み合わせを有する屋内用途の概略図である。
図7A】一実施形態による、L接合部におけるリフレクトアレイの組み合わせを有する屋内用途の概略図である。
図7B】一実施形態による、T接合部におけるリフレクトアレイの組み合わせを有する屋内用途の概略図である。
図7C】一実施形態による、L接合部におけるリフレクトアレイの組み合わせを有する屋内用途の概略図である。
図7D】一実施形態による、T接合部におけるリフレクトアレイの組み合わせを有する屋内用途の概略図である。
図7E】一実施形態による、L接合部におけるリフレクトアレイの組み合わせを有する屋内用途の概略図である。
図7F】一実施形態による、L接合部におけるリフレクトアレイの組み合わせを有する屋内用途の概略図である。
図7G】一実施形態による、L接合部におけるリフレクトアレイの組み合わせを有する屋内用途の概略図である。
図7H】一実施形態による、T接合部におけるリフレクトアレイの組み合わせを有する屋内用途の概略図である。
図7I】一実施形態による、T接合部におけるリフレクトアレイの組み合わせを有する屋内用途の概略図である。
図7J】一実施形態による、4方向接合部におけるリフレクトアレイの組み合わせを有する屋内用途の概略図である。
図8A】特性決定設定の概略図である。
図8B】実施例0、1、及び2の上平面図である。
図8C】実施例0、1、及び2の反射対周波数曲線のプロットである。
図8D】実施例0、1、及び2の選択された0度→θ幾何形状の最良性能に対応する周波数での散乱曲線のプロットである。
図8E図8Cで選択された周波数についての反射角θ対入射角θのプロットである。
図8F】実施例0、1、及び2の信号強度対入射角のプロットである。
図8G】実施例1のリフレクトアレイフィルムの概略断面図である。
図8H】実施例2のリフレクトアレイフィルムの概略断面図である。
図9A】実施例3の上平面図である。
図9B】実施例4の上平面図である。
図9C】実施例5の上平面図である。
図9D】実施例4の特性決定設定の概略図である。
図9E】実施例5の特性決定設定の概略図である。
図9F】実施例0、3、4、及び5の反射スペクトルのプロットである。
図9G】実施例0、3、及び4の散乱曲線のプロットである。
図9H】実施例3~5のリフレクトアレイフィルムの概略断面図である。
図10A】実施例6のL接合部における試験環境の概略図である。
図10B】実施例6のアレイ1及びアレイ2のリフレクトアレイ組み合わせについての出力角対入射角のプロットである。
図10C】実施例6の出力角対周波数のプロットである。
図10D】実施例6の測定された全反射対周波数のプロットである。
図10E】L接合部における実施例6の試験設定の概略図である。
図10F】31.1GHzにおけるリフレクトアレイの全反射対全経路長のプロットである。
【0005】
以下の例示された実施形態の説明においては、本開示を実施することが可能な様々な実施形態を実例として示す添付の図面を参照する。本開示の範囲から逸脱することなく実施形態を利用することが可能であり、構造上の変更が行われ得る点は理解されるべきである。これらの図は、必ずしも一定の比率の縮尺ではない。図面で使用されている同様の番号は、同様の構成要素を示す。しかし、所与の図における構成要素を示すための番号の使用は、同じ番号で示されている別の図内の構成要素を限定することを意図していないことが理解されよう。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本開示は、T接合部、L接合部、及び4方向接合部などにおける非見通し線(NLOS)信号の増強を提供する。いくつかの実施形態では、通信ネットワークの一部分を別の部分に接続するために、パッシブ反射体又はリフレクトアレイ及びそれらの組み合わせ、例えば、金属化又は導電性フィルム、パッシブ中継器アンテナ、リフレクトアレイなどが提供され、ネットワークの各部分は、最終ユーザ、中継器、基地局、又は通信信号を再分配する別のアクティブ構成要素とすることができ、このネットワークの各構成要素又は単一の構成要素は、アクティブビームステアリングが可能である。ここで、非見通し線(「NLOS」)は、デバイスのユーザが無線アクセスを有しないか、著しく低減された有効範囲を有するか、又は何らかの種類の損なわれた有効範囲を有し得るゾーンを指す。本明細書で説明される実施形態は、例えば、航空路、廊下、オフィス空間の廊下又は地下階、倉庫、流通センター、工場の階などの屋内、通りの交差点、建物の妨害物、都市の谷間などの屋外の様々なシナリオに適合され得る一般的な解決策を提供する。
【0007】
本明細書で使用される場合、用語「リフレクトアレイ」は、給電アンテナ(近くにあっても遠くにあってもよく、静止していても移動していてもよい)によって照射されたときに、そのRF放射を特定の方向に反射する(又は複数の方向に再分配する)、接地面によって支持された位相シフト素子の平面アレイを指す。
【0008】
本明細書で使用される場合、用語「共振要素」又は「位相シフト素子」語は、無線周波数(RF)放射の存在下で共振するリフレクトアレイの基本構成要素を指し、それらの位相特性はそれらの寸法(幾何形状)に依存する。共振要素は、金属材料又は高誘電率若しくは高k誘電体材料で作ることができる、あるいは導電性平面又はメッシュ内の開放空間とすることができる。
【0009】
本明細書で使用される場合、用語「ビームステアリング」は、入射RF放射を特定の所望の量だけ(すなわち、動的な同調性なしに)再指向するリフレクトアレイの静的特性を指す。
【0010】
様々な実施形態では、1つ以上のリフレクトアレイ物品が、無線周波数(RF)波のビームステアリングのために提供される。リフレクトアレイ物品は各々、約1.0mm~約10.0cmの範囲内の自由空間波長λで入射無線周波数(RF)電磁波を反射するように構成された共振要素のパターンを含む周波数選択性表面(FSS)層を含んでもよい。いくつかの実施形態では、各共振要素は、ワイヤ状、パッチ状構造、又は導電性メッシュ内の空の空間を含んでもよい。リフレクトアレイ物品は、その主表面上に配置された連続金属メッシュのセルを画定する金属トレースによって形成されたパターン化導体を含む接地面層を更に含んでもよい。1つ以上の誘電体層が、共振要素と接地面層との間に挟まれるように、又はパターン化された層若しくは接地面層の両側に設けられ得る。
【0011】
図1は、いくつかの実施形態による、様々なリフレクトアレイの幾何学的パターンの概略上面図である。リフレクトアレイは各々、破線のそれぞれの矩形ボックスに示されるような繰り返し単位セルの2次元アレイを含むメタ構造であり得る共振要素のパターンを含む。メタ構造の幾何学的パターンは、様々なリフレクトアレイ角を提供するように設計することができる。ここで、リフレクトアレイ角θarray(複数のリフレクトアレイnについては、θarray,n又はθとしても示される)は、垂直に入射するRF波に対するその応答、すなわち、面法線に対する対応する反射角を記述するリフレクトアレイの固有の(周波数依存)特性を指す。図1Aは、特定の入射ベクトル(z軸に沿った面法線に対する入射角θ、及びx軸に対する投影角φを有する)を、特定の出射ベクトル(z軸に沿った面法線に対する反射角θ、及びx軸に対する投影角φを有する)へ選択的に反射するように構成されたメタ構造又はメタ表面の表現を示す。入射ベクトル及び出射ベクトルは、互いに一般化された幾何学的関係を有する。入射角θ=0の場合、反射角θはリフレクトアレイ角θarrayに対応する。
【0012】
ベンチマークとして、金属ミラーフィルムは、鏡面反射ステアリング性能を提供し、リフレクトアレイ角θarrayは約0度である。負のリフレクトアレイ角(θarray<0)は、正のリフレクトアレイ角|θarray|を有するリフレクトアレイが、がそのフィルム面(例えば、図1AのXY面)において180度回転された場合を指す。図1の実施形態では、パッシブリフレクトアレイ110は、約5度~約20度のリフレクトアレイ角θarrayを有する。パッシブリフレクトアレイ120は、約30度~約60度のリフレクトアレイ角θarrayを有する。パッシブリフレクトアレイ130は、約60度~約90度のリフレクトアレイ角θarrayを有する。パッシブリフレクトアレイ142、144はそれぞれ、約30度~約60度又は約-30度~約-60度のリフレクトアレイ角θarrayを有する。パッシブリフレクトアレイ152、154はそれぞれ、約60度~約90度又は約-60度~約-90度のリフレクトアレイ角θarrayを有する。パッシブリフレクトアレイ162、164は、それぞれ約15度~約90度のリフレクトアレイ角θarrayを有する。
【0013】
構造110、120、130(SKU1~3)は、一定の位相勾配条件を実質的に満たす一般的なリフレクトアレイを表す。構造110(SKU1)は、小さいリフレクトアレイ角(5度<θarray<20度)を有し、例えば、L接合部(例えば、図3Bを参照)、T接合部(例えば、図4Bを参照)、及び4方向接合部(例えば、図5Bを参照)、並びにL接合部(例えば、図3Cのような120構造と結合される)及びT接合部(例えば、図4Dのような142/144構造と結合される)のための補助構造に配置された2つ以上のリフレクトアレイパネル(例えば、ダブレット又は一対のリフレクトアレイ)を含むビーム経路において、ビームのわずかな再指向が好ましい(鏡面応答と比較して)場合に使用することができる。構造120(SKU2)は、中間値のリフレクトアレイ角θ(30度<θarray<60度)を有し、前述の補助構造を補完するために(例えば、図3Cを参照)、又は独立型ダブレットとして(例えば、図3Dを参照)使用することができる。後者の場合、最適性能は、両方のアレイがθarray=45度である、又は、それらのリフレクトアレイ角の合計がおよそ90度、すなわち、80度<|θarray,1|+|θarray,2|<100度であるときに提供される。構造130(SKU3)は、大きなリフレクトアレイ角(60度<θarray<90度)を有し、最も一般的に適用されるシナリオを表し、典型的には独立型として適用される。一実施形態では、構造130をダブレットとして適用することができ、その結果、図3Eに示されるように2つの別個の信号経路構成要素が得られる。
【0014】
構造142、144は、リフレクトアレイ角の中間値30度<|θarray|<60度に対してビーム分割挙動を示し、T接合のための補助構造として使用することができる(例えば、図4Dを参照)。この挙動を実施する1つの方法は、図6Aに視覚化されるように、上下の列が反対の順序で積み重ねられた2倍大きい単位セル(142)を製造することである。あるいは、反対向きのパッチ(144)の積層体を製造することができる。構造152、154は、142、144と同等であるが、より大きなリフレクトアレイ角30度<|θarray|<60度を使用しており、これは、T接合部における単一構造に使用することができる(例えば、図4Cを参照)。
【0015】
構造162は、入射面外ビーム再指向を実行することによって、L接合部の床及び天井を利用することができる(例えば、図6Cを参照)。その単位セルは、正方形のn×nの形状を有し、nは構成要素の数である。全ての列は、同じ勾配方向を有する(規則的な一定位相勾配構造の場合、15度<θarray<90度性能に変換される)。対応する構造が、そのビーム再指向性能(θ=θarray ,φ=0度、θ=θarray ,φ=90度)と共に図6Bに示されている。構造164は、反対向きのパッチ(162)の積層体を表し、T接合部の床及び天井に適用することができる(図6C)。構造162及び164は各々、信号を廊下の床及び天井にわたって案内するために、鏡面反射体(32)並びに小角度リフレクトアレイ(110)及び中間角度リフレクトアレイ(120)と組み合わせて使用され得る。
【0016】
図1の破線ボックス内に示される構造等の反復単位セルは、任意の好適な数の交互位相シフト素子を含んでもよい。繰り返し単位セルは、例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、又はそれ以上の位相シフト素子を含んでもよい。単位セルはx軸に寸法dxを有し、y軸に寸法dyを有し、要素はx-y平面にアレイとして配置される。共振要素は、x軸などの少なくとも1つの軸において周期的であるように配置され得る。単位セル内の位相シフト素子の数が1である場合、リフレクトアレイの性能は、鏡のような性能(鏡面反射)に低下する可能性がある。単位セル内の位相シフト素子の数が2つ又は3つである場合、リフレクトアレイが入射RFビームを適切にステアリングすることは困難である可能性があり、1つの反射ビームを得る代わりに、位相シフト素子のパターンが異なる方向に多くの散乱を生成する場合がある。リフレクトアレイのRF反射性能は、寸法dx/m及びdy/nに依存する場合があり、mはx軸における単位セル内の位相シフト素子の数であり、nはy軸における単位セル内の位相シフト素子の数である。本開示では、適切な寸法dx/m及びdy/nは、λ/10<dy/m<λ及びλ/10<dx/n<λとなるように選択され得、λは動作周波数の自由空間波長、すなわち、リフレクトアレイフィルムに入射する波の自由空間波長である。
【0017】
位相シフト素子として作用するために、共振要素は、適切な形状の周期的メタ構造のアレイを含んでもよい。図1に示す実施形態では、位相シフト素子は各々、「十字」形状を有する。位相シフト素子は、例えば、リング形状、「十字」又は「プラス記号」形状構造、リングの中心領域に配置された「十字」構造、三角形形状などの他の形状構造を含んでもよいと理解されたい。
【0018】
各共振要素は、ワイヤ状又はパッチ状の構造を有することができ、これは、誘電体層130の第1の主面132上に1つ以上の金属材料又は高k誘電体材料を設けることによって形成され得る。共振要素は各々、λ以下の横方向寸法を有する2次元幾何学的構造を有することができ、λは、動作周波数の自由空間波長、すなわち、リフレクトアレイフィルムに入射する波の自由空間波長である。共振要素は各々、例えば約10~約50,000マイクロメートルの範囲の横方向寸法を有してもよい。ワイヤ状共振要素は各々、例えば、約1.0~約50,000マイクロメートルの範囲の線幅と、動作周波数範囲内の選択された金属の表皮厚さの少なくとも5%の厚さとを有してもよい。金属共振要素の厚さは、例えば、約0.02~約100マイクロメートルの範囲であってもよい。ワイヤ状共振要素の線幅対厚さのアスペクト比は、例えば0.1~2500の範囲である。高k誘電体共振要素の厚さは、例えば、約1.0~約100,000マイクロメートルの範囲であってもよい。
【0019】
パッシブリフレクトアレイ142、144、152、154は各々、ビーム分割を実行する。ビーム分割挙動の概略図を図6Aに示す。例えば、垂直入射ビームは、2つの反射方向θ=±θに偏向させることができる。図4C図4Dに示されるように、局からの入射ビームは、T接合部の対向アームにおいてユーザに偏向される。ビーム分割を実行するパッシブリフレクトアレイは、交互の列方向を有する共振要素の列を含むことができる。図1に示されるように、リフレクトアレイ142、144、152、154の共振要素は、リフレクトアレイの列方向を交互にすることによって配置される。例えば、共振要素がx軸において周期的であるように配置される場合、単位セルの最大要素(複数可)は、y軸において隣接する単位セルの最小要素(複数可)に直接隣接して位置する。
【0020】
パッシブリフレクトアレイ162、164は各々、入射面外でビームステアリングを実行する。入射面外でのビームステアリングの概略図を図6Bに示す。構造162は、n個の別個の要素からなるn×n格子単位セルを特徴とし、その各列は、その下の列に対して右(左)に1つの要素だけシフトされる。この構造は、固有の特性θarray によって特徴付けることができ、これは(θi=θarray,φi=0度)を有する入射波及び(θr=θarray,φr=90度)を有する反射波が最大の信号伝送をもたらすパラメータを指す(例えば、図6A参照)。同じ要素から構成される一般的なリフレクトアレイ(すなわち、構造110、120、130)は、θarray=θarrayのリフレクトアレイ角をもたらすことに留意されたい。ビーム分割性能に162を追加する構造164は、構造162を特徴とする多数のパッチからなり、任意の2つの隣接するものの位相勾配が反対に配向されるように、「市松模様」パターンを形成して共に積層される。
【0021】
図2Aは、図1のリフレクトアレイ120の概略断面図及び上面図を、導入されたビーム角度規則とともに示す。リフレクトアレイ120は、誘電体層124上に配置された共振金属(又は高k誘電体)素子122のパターンを含む。図2Bは、異なる位相勾配∇φを有するリフレクトアレイ120の反射曲線のプロットを示す。ここで、位相勾配とは、垂直入射電磁波が2つの隣接する共振要素からの反射時に示す(最大位相変化の方向、すなわち、図2のx方向に沿っているが、一般的には、任意の方向に沿っていてもよい)、それらの中心間の距離(図2のpx)によって除算された位相進みの最大差を表す一定位相勾配リフレクトアレイの固有の特性を指す。位相勾配は、関係θcr=sin-1(|λ∇φ/2π|)によりリフレクトアレイ角に関連する。構造体120などのいくつかの構造では、y方向に沿った位相勾配は0であり、位相勾配パラメータは、表記∇φ及びdφ/dxとして互換的に言及することができる。リフレクトアレイ角に従って、位相勾配は、最大位相増加の方向(例えば、x軸に沿った要素のサイズの増加又は減少)に応じて、正又は負のいずれかであり得る。図2C及び図2Dは、典型的な鏡面反射体(例えば、位相勾配dφ/dx=0)及び一定の位相勾配構造(例えば、位相勾配dφ/dx=一定)の反射挙動を示す。図2Cの概略図(c1)、(c2)、(c3)は、それぞれ図2Bの点(c1)、(c2)、(c3)に対応する。図2Dの概略図(d1)、(d2)、(d3)は、それぞれ図2Bの点(d1)、(d2)、(d3)に対応する。図2Cの(c1)及び図2Dの(d1)の概略図は、臨界角θback=sin-1(sinθarray)/2)=sin-1(|λ∇φ/4π|)に対応する後方散乱条件(θ=θ=θback)を示し、式中、θarrayはリフレクトアレイ角であり、∇φはリフレクトアレイの位相勾配であり、λは入射無線周波数(RF)電磁波の自由空間波長である。図2Dの概略図(d2)は、(θ=0度、θ=θarray)のリフレクトアレイシナリオについての特性、すなわち、面法線から離れる反射角θarrayだけ(リフレクトアレイフィルムの面法線に対して約0度の入射角で)垂直入射ビームをステアリングすることを示す。図2Dの概略図(d3)は、臨界条件がθcr=sin-1(1-sinθarray)=sin-1(1-|λ∇φ/2π|)である、浅い角度(θ=θcr、θ=90度)に接近する反射ビームのシナリオを示す。
【0022】
図2Bは、より高い反射角θでは、十分に大きな位相勾配を有するリフレクトアレイは、ビーム掃引の範囲を大幅に拡張することができること(すなわち、非線形レジームが引き継ぐ場合、θcrに近づく入射角についてdθ/dθ>>1)を示す。例えば、位相勾配∇φ=312度/cm(30GHzの周波数でθarray=60度に対応する)を有するリフレクトアレイの場合、入射角dθの小さな変化は、反射角dθのより大きな変化、例えば、図2Bの点d2から点d3への変化をもたらす。鏡面反射体(すなわち、位相勾配∇φ=0度/cmを有する)の場合、変化しないままである(dθ=dθ)。
【0023】
いくつかの実施形態では、相互ビーム伝搬解決策の様々な基本セットが、屋内L接合部、T接合部、4方向接合部などの非見通し線(「NLOS」)ゾーンにおける信号を増強するために提供される。これらの解決策は、金属化フィルム(鏡面性能を伴う)並びに図1の110、120、130、142、及び144などの様々なリフレクトアレイに基づく。様々なミラーフィルム及びリフレクトアレイは、接合部の壁に配置することができる。最適化性能は、所与の状況及びアクティブネットワーク配置に対して最適化された特性を有する適切なリフレクトアレイを選択することによって達成することができる。そのようなセット構成は、それらの典型的な単一のポイントツーポイント使用事例と比較して、いくつかの技術的利点をもたらし得る。そのような利点の1つは、より良好な全体的NLOS有効範囲である。セットの別の利点は、一般性の向上、すなわち、対象の様々な角度にサービスを提供することができることであり、その結果、様々なユーザ要求を有限数の在庫管理ユニット(SKU)で満たすことができ、それにより、設置が単純化され、ユーザ依存のカスタマイズの必要性が最小化される。このようなリフレクトアレイの組み合わせはまた、相互関係の改善(すなわち、信号品質を損なうことなく移動ユーザと固定基地局との位置を交換することができる)、及び利用可能なマルチパス信号成分の数の増加(したがって、物理的障壁が存在するときの接続低下の可能性がより低い)を特徴とする。しかしながら、複数のリフレクトアレイを組み合わせることはまた、破壊的自己干渉(マルチパス歪みとして知られる)、自由空間経路損失の増加、及び基板損失などの付加的な損失を生成する場合がある。
【0024】
図3A図3E図4A図4D図5A図5B、及び図6Cは、それぞれ、L接合部、T接合部、及び4方向接合部におけるリフレクトアレイフィルム又はパネルの基本セットを用いた様々な屋内用途の概略図である。いくつかの解決策について、逆のデータ受信(RX)シナリオ及びデータ送信(TX)シナリオも示されている。概略的に描かれた基地局2及びユーザ4の位置は、それぞれTX側又はRX側の焦点位置に対応する。図3Aに示されるように、金属ミラーフィルム32が設けられて、L接合部において基地局2からの信号を反射してユーザ4に向ける。図3Bに示されるように、図1の2つのパッシブリフレクトアレイ110が設けられて、L接合部において基地局2からの信号を反射してユーザ4に向ける。図3Cに示されるように、図1のパッシブリフレクトアレイ110及びパッシブリフレクトアレイ120が設けられて、RX及びTXシナリオのためにL接合部において基地局2からの信号を反射してユーザ4に向ける。図3Dに示されるように、図1の2つのパッシブリフレクトアレイ120が設けられて、L接合部において基地局2からの信号を反射してユーザ4に向ける。図3Eに示されるように、図1の2つのパッシブリフレクトアレイ130が設けられて、L接合部において基地局2からの信号を反射してユーザ4に向ける。図4Aに示されるように、金属ミラーフィルム32が設けられて、T接合部において基地局2からの信号を反射してユーザ4に向ける。図4Bに示されるように、図1の4つのパッシブリフレクトアレイ110が設けられて、T接合部において基地局2からの信号を反射してユーザ4に向ける。図4Cに示されるように、図1のパッシブリフレクトアレイ152が設けられて、RX及びTXシナリオのためにT接合部において基地局2からの信号を反射してユーザ4に向ける。図4Dに示されるように、図1のパッシブリフレクトアレイ110及び142が設けられて、RX及びTXシナリオのためにT接合部において基地局2からの信号を反射してユーザ4に向ける。図5Aに示されるように、金属ミラーフィルム32が設けられて、4方向接合部において基地局2からの信号を反射してユーザ4に向ける。図5Bに示されるように、図1の4つのパッシブリフレクトアレイ110が設けられて、基地局2からの信号を反射して4方向接合部でユーザ4に向ける。
【0025】
いくつかの実施形態では、様々な金属化フィルム、リフレクトアレイ、及びそれらの組み合わせを、L接合部、T接合部、及び4方向接合部において、壁に加えて天井、床に適用することができる。リフレクトアレイは、任意の所望のサイズを有する任意の適切な形状であり得る。例えば、屋内用途では、リフレクトアレイは、1cm~500cmの長さ/幅、及び0.01mm~50mmの厚さを有するパネルの形態であり得る。本明細書に記載のリフレクトアレイは、グラフィックフィルム、接着フィルム、フレキシブル回路フィルムなどの他の機能性フィルム又はデバイスにも適用することができる。
【0026】
図6に示されるように、金属化フィルム、リフレクトアレイ(図1の110、120など)、及び入射面外のリフレクトアレイは、天井3及び床5上に配置される。入射面外の図1のリフレクトアレイ162は、ビームを一方向(例えば、図6Cの右方向)にのみ再指向させるので、L接合部により適している場合がある。入射面外の図1のリフレクトアレイ164は、追加のビーム分割挙動を有し、したがってビームを両方向に(たとえば、図6Cの反対の左方向及び右方向に)再指向することができるので、4方向接合部及びT接合部により適している場合がある。構造164は、追加されたビームスプリッタを有し、それは、左方向及び右方向の両方に役立つことができる(両方は、T接合部及び4方向接合部に存在する)。対照的に、構造162は、一方向にのみ反射することができる(L接合部のように、あらゆる方向に単一の方向転換のみを有する)。
【0027】
図3A図3D図4A図4D図5A図5B、及び図6に示すリフレクトアレイの様々な基本セットを組み合わせて、追加のマルチパス成分を生成する相補的なパッシブ信号エンハンサを形成することができる。図7A図7Jは、図3A図3D図4A図4D図5A図5B、及び図6に記載された基本セットからの機能要素の様々な組み合わせを示す。図7A図7Eのシステムは、リフレクトアレイの重なり合わない組み合わせを含む。図7F図7Jのシステムは、金属化フィルムとの組み合わせを更に含む。システムは、図6Cに示される実施形態などの天井及び床の解決策と更に組み合わせることができることを理解されたい。
【0028】
リフレクトアレイフィルム、リフレクトアレイフィルムの一部、リフレクトアレイフィルムの少なくとも一部を製造する方法、及びリフレクトアレイフィルムを使用する方法などの様々な実施形態が提供される。
【0029】
いくつかの実施形態では、パッシブ信号増強システムは、例えば、図1図3A図3E図4A図4D図5A図5B、及び図7A図7Jなどの本明細書に示されるリフレクトアレイから選択することができる第1のリフレクトアレイ及び第2のリフレクトアレイを含んでもよい。リフレクトアレイの少なくとも1つは、約1.0mm~約10.0cmの範囲内の波長λの入射無線周波数(RF)電磁波を反射するように構成された共振要素の繰り返し単位セルのパターンを含む。各共振要素は、ワイヤ状又はパッチ状の構造を含む。第1のリフレクトアレイは、その第1の長手方向に沿って第1の位相勾配を有する。第2のリフレクトアレイは、その第2の長手方向に沿って第2の位相勾配を有する。それぞれの位相勾配は、所望の用途に適した範囲とすることができる。例えば、第1の位相勾配は、5度/cm~5000度/cmの範囲内であり得る。第2の位相勾配は、5度/cm~5000度/cmの範囲内であり得る。第1のパッシブリフレクトアレイ及び第2のパッシブリフレクトアレイは、それぞれ第1の入射角及び第2の入射角で入射RF電磁波に向くように配置することができる。
【0030】
いくつかの実施形態では、第1のリフレクトアレイ及び第2のリフレクトアレイのうちの少なくとも1つが、非線形ステアリング性能を提供する。一定位相勾配メタ表面に基づくリフレクトアレイは、反射角が限界角θcr(先に定義)に近づくときに、1<|dθr/dθi|<無限大の範囲の導関数となるように非線形挙動を示し得る。
【0031】
いくつかの実施形態では、少なくとも2つのリフレクトアレイの組み合わせは、線形ステアリング性能を提供する。線形性は、基礎となるリフレクトアレイの各々に存在する非線形性の反対の正味の補償効果を介して達成することができる。図3Dに示された実施形態は、L接合部に2つのリフレクトアレイを含み、それらのリフレクトアレイ角の合計が80度<|θarray,1|+|θarray,2|<100度の範囲にあるような例示的な構造である。
【0032】
いくつかの実施形態では、第1のリフレクトアレイ及び第2のリフレクトアレイのうちの少なくとも1つが、鏡面ステアリング性能を提供する。鏡面ステアリング性能は、例えば、単位セルが単一の共振要素から構成される場合、金属ミラーフィルム、又は均一に配置された同一の共振要素を有する任意のリフレクトアレイ若しくはメタ表面を介して達成することができる。
【0033】
いくつかの実施形態では、第1のリフレクトアレイ及び第2のリフレクトアレイのうちの少なくとも1つが、ビーム分割性能を提供する。ビーム分割性能は、リフレクトアレイが、ある位相勾配を有し、(共振要素の寸法に関して、又はそれらの基礎となる位相進みに関してのいずれかで)2つの反対向きの副格子を含む単位セルを有するときに達成することができる。所望の性能は、最小の位相進みを生成する第1の副格子の要素が、最大の位相進みを生成する第2の副格子の要素のすぐ隣に位置するときに達成することができる(例えば、図1の構造142、152を参照)。ビーム分割挙動に到達するための代替アプローチは、規則的なリフレクトアレイのパッチを組み合わせることである(例えば、図1の構造144、154を参照)。
【0034】
いくつかの実施形態では、複数のパッシブリフレクトアレイのうちの少なくとも1つは、T接合部、L接合部、又は4方向接合部の垂直壁に配置される。複数のパッシブリフレクトアレイのうちの少なくとも1つが、T接合部、L接合部、又は4方向接合部において天井又は床に配置される。
【0035】
いくつかの実施形態では、複数のパッシブリフレクトアレイのうちの少なくとも1つが、入射面外ステアリングを提供する。入射面外ステアリング(より具体的には、入射面の90度回転)は、(例えば、一定の位相勾配構造に基づく)リフレクトアレイの単位セルが、次に最も近い列に対して(素子の寸法に対して、又はその下にある位相進みに対してのいずれかで)左(右)にシフトされた共振要素の列を含むときに達成することができる。例えば、第2のリフレクトアレイは、入射ビームを入射面外でステアリングするように設計することができ、この場合、第2のリフレクトアレイの共振要素は、パターンの後続のすべての列が、下にある列に対して素子の固定された数だけ左(右)にシフトされるように配置することができる。図1の構造162、164は、入射面外ビーム再指向を実行するための例示的な構造である。
【0036】
いくつかの実施形態では、入射RF電磁波は、(「単入力単出力」又はSISO、「多入力単出力」又はMISO、「単入力多出力」又はSIMO、「多入力多出力」又はMIMO、「マルチユーザ多入力多出力」又はMU-MIMO通信ネットワーク内の)送信端及び/又は受信端での適応ビーム形成を特徴とするネットワークからのものである。ネットワークのノードの少なくとも1つは、適応ビーム形成(すなわち、空間フィルタリング)が可能である。以前に提案された全てのリフレクトアレイ方式は、通常のブロードキャスト型ネットワークと同様に機能することができる。
【0037】
いくつかの実施形態では、無線通信用の非見通し線(NLOS)信号を増強するシステムは、1つ以上のパッシブリフレクトアレイを含んでもよい。リフレクトアレイのうちの少なくとも1つは、約1.0mm~約10.0cmの範囲内の波長λの入射無線周波数(RF)電磁波を反射するように構成された共振要素の繰り返し単位セルのパターンを含み、各共振要素は、ワイヤ状又はパッチ状の構造を含む。1つ以上のパッシブリフレクトアレイは、入射ビームを分割するように構成された第1のリフレクトアレイと、入射ビームを入射面外でステアリングするように構成された第2のリフレクトアレイとのうちの少なくとも1つを含む。第1のリフレクトアレイ及び第2のリフレクトアレイは、例えば、図1図3A図3E図4A図4D図5A図5B、及び図7A図7Jなどの本明細書に示される任意の適切なリフレクトアレイから選択することができる。いくつかの実施形態では、第1のリフレクトアレイ列の共振要素は、列方向が交互になるように配置される。いくつかの実施形態では、第1のリフレクトアレイ列の共振要素は、市松模様に配置される。いくつかの実施形態では、第2のリフレクトアレイの共振要素は、パターンのすべての後続の列が、下にある列に対して素子の固定された数だけシフトされるように配置される。
【実施例
【0038】
これらの実施例は単に例示を目的としたものであり、添付の特許請求の範囲を限定することを意味するものではない。
【0039】
モデル化プロセス
(i)CST Studio Suite Software(Dassault Systemes Company(WALTHAM,MA,U.S.A.)から市販されている)を用いた予備電磁シミュレーションの実行、(ii)光線光学近似理論(Ozgecan et al.、IEEE Wireless Communications Letters 9.5、(2019)を参照)、及び(iii)リフレクトアレイ理論を使用する遠距離性能の検証(J.Huang、「Reflectarray Antennas」、IEEE(2007)を参照)を含むモデル化プロセスを利用して、リフレクトアレイ物品をモデル化した。
【0040】
特性決定
様々な実施例の各種リフレクトアレイフィルムのビームステアリング性能を、図8Aに示すような特注の円弧設定を使用して特性決定した。RFミラーは、厚さ5マイクロメートルの発泡体の上に接着された厚さ38マイクロメートルのアルミニウム箔である。図8Aに示されるように、円弧92は、0.8メートルの半径を有する半円からなる。反射ビーム強度を周波数の関数として記録するために、送信器ホーンアンテナ94及び受信器ホーンアンテナ96を、円弧92に沿って様々な角度で独立して配置した。送信機ホーン94及び受信機ホーン96は、ERAVANT WR-28標準利得ホーンアンテナであった。それらを、ベクトルネットワークアナライザ(Agilent Technologies E836C)の2つのポートに接続した。
【0041】
実施例0、1、及び2
鏡面反射体(ベンチマークとして実施例0)及びリフレクトアレイ(実施例1及び2)を含む実施例を用意した。基準の実施例0は、12.7cm×12.7cm、厚さ38マイクロメートルの平坦なアルミニウムミラーである。実施例1及び2は、実施例1ではdφ/dx=237度/cm(実施例2では312度/cm)の位相勾配を有する一定位相勾配メタ表面と、実施例1では1.90mm(実施例2では1.93mm)の格子周期とに基づくリフレクトアレイである。以下の表1は、実施例0、1、及び2の説明を要約する。
【0042】
実施例0、1、及び2の上面図を図8Bに示す。実施例0を厚さ5マイクロメートルの発泡体の上に接着した。実施例1(「0~39度アレイ」)の積層フィルム(laminated film)断面を図8Gに示す。実施例2(「0~60度アレイ」)の積層フィルム断面を図8Hに示す。実施例1は、0.68mmの総厚を有し、125マイクロメートル厚のPET層の上にパターン化された接地層及びFSS層からなり、これらは内側に向けられ、1つの128マイクロメートル厚のPET層及び2つの光学的に透明な接着剤(OCA)層から製造された誘電体積層体クによって分離される。接地及びパターンの外側保護のために、追加の50マイクロメートル厚のPET及び50マイクロメートル厚のOCA層が、スタックの両側に追加される。実施例2は、0.76mmの総厚を有し、誘電体積層体によって分離された125マイクロメートル厚のPET層(外側保護層としても機能する)の上にパターン化された接地層及びFSS層からなり、誘電体積層体は、2つの129マイクロメートル厚のPETフィルム及び1つの50μmのPETフィルムから製造され、これらの全ては、50マイクロメートル厚のOCAの4つの層によって分離される。
【0043】
【表1】
【0044】
製造工程
以下の製造工程を使用して、実施例1及び2を作製した。図1に示すリフレクトアレイのような様々なリフレクトアレイを製造するために同様の工程を使用できることを理解すべきである。各サンプルは、2つの銅パターン層、すなわち、リングパターンの形態の共振器構造と、均一なグリッドパターンの形態の接地面とを有していた。フィルム基板は、光学グレードの熱安定化PETフィルム上に結合層及び銅シード層をスパッタコーティングすることによって調製した。スパッタリング/シードされたフィルム基板を5ミクロンの銅で電気めっきすることによって、パターン化された共振器構造及び接地面グリッドパターンを調製した。次に、露出した銅にフォトレジスト層を真空積層した。フォトレジストをレーザーダイレクトイメージングによって露光し、次いで未露光領域を現像した。パターン化されたフォトレジストは、塩化第二銅エッチング剤を使用する銅エッチング工程においてマスクとして機能し、続いて無電解スズ仕上げめっきを行った。
【0045】
機能性リフレクトアレイフィルムは、光学的に透明な接着剤(OCA)を使用して、パターン化共振器フィルムと接地面フィルムとの間にフィルム層を介在させてロール積層することによって調製した。60度及び39度のサンプルの接地面メッシュパターンは同一であった。メッシュ層は、192ミクロンの周期及び40ミクロンのトレース幅を有する正方形の繰り返し単位を有していた。実施例2(「0~60度アレイ」)の共振リング(「a」~「f」とラベル付けされている)、及び実施例1(「0~39度アレイ」)の共振リング(「a」~「h」とラベル付けされている)の寸法を、以下の表2に示す。両方のサンプルにおいて、全てのリングは40ミクロンのトレース幅を有する。ポリエステルテレフタレート(PET)フィルムは、MELINEX ST-504の商品名でTekra(New Berlin,WI)から市販されている。光学的に透明な接着剤(optically clear adhesive:OCA)は、光学的に透明な接着剤の商品名3M8212で3M Display Materials and Sysmtems(Oakdale,MN)から市販されている。
【0046】
【表2】
【0047】
リフレクトアレイ単位セル内の各リングには、(任意の加法定数まで定義されるように)単位セルの第1のリングの360/n度(サンプル2では360/6=60度であり、サンプル1では360/8=45度である)から単位セルの最後のリングの360度まで増分的に増加する位相応答を生成するように、特定の直径(実施例1及び2について表2に列挙される)が割り当てられており、ここでnは単位セル内の各列のリングの数である。これは、サンプル2については311.7度/cm、サンプル1については237.1度/cmの位相勾配に相当する(これは、サンプル2についてはdx=6dy、dy=1.925mm、サンプル1についてはdx=8dy、dy=1.898mmの格子周期に相当する)。最後に、一般化されたスネルの法則sin(θr)=sin(θi)+grad(φ)λ/2π(式中、grad(φ)は位相勾配である)を使用して、30GHz(実施例2)及び31.1GHz(実施例1)の動作周波数の場合、これは0~60度(実施例2)及び0~39度(実施例1)のビームステアリング性能をもたらす。
【0048】
特性決定
実施例1及び2の様々なリフレクトアレイフィルム、並びに12.7cmのRFミラーのビームステアリング性能を、図8Aに示すような特注の円弧設定を使用して特性決定した。図8Cは、実施例0、1、及び2の反射対周波数曲線のプロットを示す。サンプルを弧の中心に置いた。中心とホーンとの間の距離は0.8mであり、これは、Kaバンドホーンの測定に使用される遠距離場測定に対応する。そのような距離はまた、サンプルが12.7cm以下である限り、十分に平坦な波面をもたらす。実線は0度→θに対応し、θは、約30GHzで最大信号を生じた事前モデル化パラメータの近傍で選択された。破線は、エンドファイア角の組み合わせに対応し、これらは、対応する0度→θ点(それらが最大に達した周波数における)からより浅い反射角に一般化スネルの法則を拡張することによって選択された。図8Dは、選択された0度→θ幾何形状の最良性能に対応する周波数でプロットされた散乱曲線を示す。図8Eは、反射角θ対入射角θのプロットを示し、θ、θの組み合わせは(図8Cで選択された周波数に対して)最大反射信号をもたらす。対応する信号強度対プロットされた入射角が図8Fにプロットされている。図8C図8Fでは、共通の6つのデータ点が強調されており、(「i」n)-は、垂直入射の場合(すなわち、0度→θ)を示し、(「i」s)-は、実施例iの浅い反射角の場合を示す。
【0049】
図8D図8Fのプロットを以下に更に説明する。まず、実施例1及び2のリフレクトアレイの最適特性を求めた。製造前のモデル化結果は、CSTによって得られたものであり、これにより、それぞれ実施例1及び2について0度→45度@27.9GHz及び0度→60度@30GHzが得られた。0度→θ走査を実行した後、対象の周波数付近で最大の反射率をもたらした最適θが求められた。この手順により、図8Cに実線でプロットされた対応する曲線を用いて、それぞれ実施例1及び2について0度→40度@30.9GHz及び0度→60度@30GHzの最適値を求めた。約-16dBの最良性能は、鏡面幾何形状の実施例0のAlミラーによって達成され、一方、実施例1及び2は、それぞれ約-17dB及び約-18dBをもたらした。また、比較的平坦なスペクトルを有する実施例0とは異なり、実施例1及び2は、それぞれ12.3%及び9%の有限(約3dB)帯域幅を有する。これらの値は、現在の5G規格の仕様、例えば、n261及びn260帯域(それぞれの周波数において3%及び7.8%の帯域幅を有する)内である。
【0050】
次に、選択された0度→θリフレクトアレイ幾何形状について、他の回析次数に失われる信号の量を求めた。このために、垂直配向に対する入射ビームの角度を固定して、0度~80度の範囲内で反射角度の走査を行った。得られた散乱曲線は、実験データを表す点と、見やすくするための破線を用いて図8Dにプロットされている。-9dB(実施例2)及び-17dB(実施例1)の最大の信号漏れが、鏡面反射方向(0度→0度)に発生し、その後、-17dBの漏れが(両サンプルで)0度→-θ方向に発生する。実際に、実施例1及び2のようなサブ波長リフレクトアレイの場合(例えば、格子間隔はλ/5未満である)、唯一の可能な散乱の選択肢は、0次の鏡面反射(0度→0度)又は-1次の非鏡面反射(0度→-θ)のいずれかである。実施例1及び2について、そのような損失は比較的小さいことが判明したので、選択された0度→θ幾何形状は実際に最適に近い。
【0051】
最適な0度→θ構成が確立されると、製作された実施例は、広い範囲の入射角に対していわゆる一般化スネルの法則に従うことが検証された。これを行うために、選択された全ての入射角に対して、周波数が一定に保たれる場合に最大反射が達成される反射角を決定する必要がある。図8Eにおいてドットでプロットされた得られたデータ点は、実線でプロットされた理論的なスネルの法則(周波数及び位相勾配値は、製造されたサンプルの仕様によって与えられると仮定する)と非常に厳密に一致する。入射角の関数として対応するS21パラメータをプロットする図8Fから明らかなように(反射角は図8Eのスネルの法則に従って選択される)、図8Eの曲線の異なる部分は、異なる量の伝達されたパワーをもたらす。最大量のパワーは、後方散乱方向において常に達成され(例えば、図2Cの(c1)及び(d1)を参照)、反射角が浅くなるにつれて着実に低下し、θ約80度で約10dBの低下に達することが分かる。浅い反射角での帯域幅もいくらか低下し、図8Cで破線で示されているように、θ約80度で約8%に低下する。
【0052】
製造されたリフレクトアレイ(例えば、実施例1及び2)は、効率的に動作し、一般化されたスネルの法則と完全に一致する。このため、それらは、図3A図3D図4A図4D図5A図5B、及び図6で提案されたものなど、より複雑な設計を構築するための有効な機能ブロックと見なすことができる。
【0053】
実施例3、4、及び5
実施例3~5は、ビーム分割(図1のリフレクトアレイ142、144、152及び154など)及び入射面外でのビームステアリング(図1のリフレクトアレイ162及び164など)を実行するリフレクトアレイを実証するために製造された。通常のリフレクトアレイにビーム分割機能を追加するための1つの簡単な方法(すなわち、2つの方向への通常のビーム偏向を伴うθ=±θ)は、全ての隣接するシートが反対の向きを有するように、リフレクトアレイを複数のシートに積層することである。このアプローチは、各シートのサイズが適切であることを必要とし、小さすぎても(隣接するシートからの破壊的干渉による信号劣化につながるため)、大きすぎても(ビーム分割ではなく単一反射の支配につながるため)よくない。
【0054】
数値リフレクトアレイ理論(Huang & Encinar、2008)から、本開示では、破壊的干渉効果を排除するために、図1のリフレクトアレイ142、144、152、及び154に示されるように、すべての最大要素が最小要素のすぐ下に位置するように列を配向しなければならないことが分かる。実施例4は、θ:0→±60度機能を有するビームスプリッタの実施例であり(図9B及び図9Dを参照)、その特性は図9F及び図9Gに黄色で示されている。参考のために、実施例4の性能を、同じ単位セル要素から構成された典型的な0度→+60度構造を有する実施例3の性能と比較する(図9A、並びに図9F及び図9Gの紫色の線を参照)。ビームスプリッタは、典型的なリフレクトアレイよりも約2~3dB劣ることに留意されたい。これは、ビームスプリッタが効果的に電力分割器であるという事実と一致する。
【0055】
接合部の床/天井における入射面外ステアリングを達成するために(図6で緑色の矢印で示される)、より一般的なリフレクトアレイ式を使用することができ(Huang & Encinar、2008)、φ=0度、φ=90度の条件の適用後、以下の位相分布がもたらされる。
【数1】
同一の入射角及び反射角θ=θ=θ の場合(本明細書に説明される接合部に依然として関連する)、これは、図1のリフレクトアレイ162として概略的に視覚化される単純格子に縮小される。このタイプのリフレクトアレイの唯一の欠点は、TE偏光されたRFビームを部分偏光されたTMビームに(及びその逆に)変換することであり、これはいくらか効率の低い信号転送につながる。しかしながら、現代の携帯電話は、典型的には、2つのビーム偏波に敏感なアンテナを有しているので、少なくともいくらかの量の現在の信号が常に存在する。実施例5は、θ:60度→60度、φ:0度→90度機能を有する入射面外のリフレクトアレイの実施例であり(図9C及び図9Eを参照)、このスペクトルは、図9Fに赤色で示された最適な角度構成に対応する。実施例5のリフレクトアレイは、図1に示されるパターン162を有する(しかし、単位セル内に4×4素子を有する)。
【0056】
実施例3~5の積層フィルムの断面を図9Hに示す。各サンプルは、層厚0.77mmを有し、2つの50マイクロメートル厚のOCA層の間に挟まれた508マイクロメートル厚のポリカーボネート(PC)フィルムによって分離された127マイクロメートル厚のPET層(外側保護層としても機能する)の上にパターン化された38マイクロメートル厚のCu下地及びFSS層からなる。実施例3、4、及び5の結果を下の表3に示す。PCフィルムは、#38-20F-GGの商品名でCS Hyde Company(Lake Villa,IL)から市販されている。
【0057】
【表3】
【0058】
製造工程
以下の製造工程は実施例3~5について同じであった。各実施例は、正方形パッチの形態の共振器構造を有する薄いAlパターン層と、38マイクロメートル厚の銅の形態の接地面とを有していた。
【0059】
光学グレードの熱安定化PETフィルム上にTi(5nm)シード層を蒸着コーティングすることによって、フィルム基板を調製した。蒸着/シードフィルム基板に150nmのアルミニウムを堆積させることによって、パターン化された共振器構造を調製した。パターニングプロセスは、約0.1mm未満の特徴解像度を有する独自の技術に基づく。
【0060】
機能性リフレクトアレイフィルムは、OCAを使用して、パターン化共振器フィルムと接地面フィルムとの間にフィルム層を介在させてロール積層することによって調製した。全てのサンプルの接地面メッシュパターンは同一であり、1オンスの銅(単層FR-4基板から)に基づいていた。実施例3~5の共振正方形パッチ(「a」から「d」とラベル付けされている)の寸法を以下の表4に記載する。
【0061】
【表4】
【0062】
単位セルの最初のリングに対する360/n度(360/4=90度である)から単位セルの最後のリングに対する360度まで増分的に増加する(任意の加法定数まで定義される)位相応答を生成するように、リフレクトアレイ単位セル内の各正方形には特定のサイズ(表4に列挙)が割り当てられており、ここでnは単位セル内のリングの数である。これは、311.7度/cmの位相勾配に変換される(これは次に、dx=4dy、dy=2.887mmの格子周期に変換される)。最後に、一般化されたスネルの法則sin(θr)=sin(θi)+grad(φ)λ/2πを使用して、30GHzの動作周波数の場合、これは、0~60度のビームステアリング性能をもたらす。実施例3、4及び5は、図1の格子パターン120、142、及び162に対応するそれぞれのパターンを有する。実施例3~5の違いは、図9A図9Cに示されるように、y方向に沿った格子配列のみである。
【0063】
実施例6:L接合部におけるリフレクトアレイの基本セット
実施例6では、図3Dに示される構成に従って、複数のリフレクトアレイがL接合部に配置される。複数のリフレクトアレイの性能は、それらがビームステアリング構成に組み合わされたときに試験された。ここで、図10Aに示される試験環境として、建物内部のL角部を選択した。実施例1の複数のリフレクトアレイを組み合わせて、2つの大きな76.8cm×40.1cmの積層体(アレイ(Assay)1及びアレイ2)にし、次いでこれらをL接合部の両方の壁に配置した。巻き上げられたそのような構造は0度→45度ビーム再指向性能ではなく0度→40度で最適であるが、構造は、全体として、及び80度<|θ|+|θ|<100度に対する規定された以前のリフレクトアレイ角範囲内で、依然として良好に機能する(θ、θ角定義については図3Dの挿入図を参照)。これらのアレイの性能を、96.8cm×96.8cmのサイズを有する平坦なアルミニウムシート(すなわち、基準例0)の鏡面性能と比較する(45度投影はアレイ1又は2の寸法に匹敵する)。
【0064】
第1に、図3Dに示されるような理想化された構成/システムに対する予想されるビームステアリング性能を求めた。基本的な光線光学理論を使用して、このシステムの出力角δは、(図10Bの挿入図に視覚化されるように)以下の式(2)において垂直から外れた入力角θに依存することが分かる。
【数2】
式中、δは、(リフレクトアレイ角θを有するリフレクトアレイ1に関する)角度θでの入射ビームに応答する、(特性リフレクトアレイ角θarray=θを有するリフレクトアレイ2に関する)反射角である。アレイ1及びアレイ2のビームステアリング角度は、図3Dに示されるようにおおよそθ=90度-θとして関連する。結果として得られる、様々なθ、θの組み合わせについて得られる曲線が図10Bに示されており、異なるリフレクトアレイの組み合わせについての出力角対入射角が、光線光学理論で予測されるように示されている。図10Bに示されるように、垂直(水平)線は、アレイ1(アレイ2)において到達される浅い角度閾値条件に対応する。対称θ1、2=45度の組み合わせはユニタリ応答δ~θ+O(θ)を示し(図10Bでは青色で示される)、非対称のものは線形であるδ~θtan(θ)+O(θ)(θ1=60度、θ2=60度の場合、図10Bにおいて黒色で示される)。シミュレーション結果が示すように、δ及びθの実際の範囲は、アレイ2に入射するビームの大きな偏心変位と結合された後方散乱又は浅い角度条件によってではなく、システムの幾何学的制約によって制限される。このため、アレイ1の有効作業領域は、典型的には、近い距離(例えば、廊下の幅の約2倍の距離)で約50%であり、TX/RX側がそれから更に離れているとき、より効率的になる。
【0065】
アレイ1又は2におけるリフレクトアレイの最適角度は、45度ではなく40度であり(図3Dに示されたように、合計して90度にはならない)、実施例6の実際の出力角は、(図3Dに視覚化されるように、x=0の場合を考慮して、すなわち、θ=θ=45度を考慮に入れて)入力ビームが垂直に入射するときの周波数の関数として評価した。このために、光線光学及びリフレクトアレイ理論を使用して、図10Cにプロットされた曲線に到達し、これは、入射ビームが厳密に垂直である、複数の実施例1から構成される実施例6の出力角度対周波数のプロットを示す。余分のx軸(緑色)は、θ=θ=θ1、2で得られる((0→θ),(0→θ))システムについての有効なリフレクトアレイパラメータを示す。実施例6のリフレクトアレイは、元々、27.9GHz用に設計されており、この周波数では、出力角はδ=0度である。図8Cの単一リフレクトアレイスペクトルによって示されるように、この周波数で実際に転送することのできる信号の量は非常に小さい。対照的に、約31GHzの最適性能周波数では、予想されるステアリング角がδ=-8度にシフトすることが観察された。このシミュレーション結果は、(a)の実際のデータ点δ=-6.5度とほぼ一致しており、これは、2つのホーンアンテナ(ネットワークアナライザに接続されている)がリフレクトアレイから約10フィート(3.05m)離れて配置されたときに見出され、その結果、入射角はθ=0度に固定されたが、受信機は、信号最大値が(31.1GHzで)達成されるまで偏心して移動した。
【0066】
図10Dは、ネットワークアナライザを使用して記録されたリフレクトアレイの全反射スペクトルを示す。特に、実施例6のシステムの帯域中心は、実施例1の単一リフレクトアレイの帯域中心と比較して、約0.5GHzだけ右に移動する(図8Cの青色の実線を参照)。3dB帯域幅もまた、単一のリフレクトアレイによって到達される12.3%から約5.4%に低下し、これは、より大きなリフレクトアレイ面積(Huang & Encinar、2008)並びにそれらの相互近接場相互作用の結果である可能性が高い。サンプルを除去することは、(黄色で示されるように)約50dBの信号降下をもたらすこと、すなわち、L接合部は、mm波信号に対してほとんど貫通不可能であることが観察された。対照的に、鏡面幾何形状のアルミニウムミラーの配置は、直接見通し線(DLOS)の場合(2つのホーンが互いに面しているときに測定されたように、赤色で示される)に匹敵する信号(緑色で示される)をもたらす。全体として、最適な31.1GHz周波数では、リフレクトアレイはミラーよりも約9dB劣り、うち約4dBはより大きな累積光路に由来する。残りの約5dBの損失は、サンプル当たり約2.5dBとなり、これは図8Cで得られた値に匹敵する。小さな余分な損失が、積層されたリフレクトアレイを構成する素子の格子不整合に起因する破壊的干渉、並びに本発明者らが取り付けたサンプルの非平坦性によって生じる場合がある。
【0067】
最後に、送信機ホーン及び受信機ホーンをリフレクトアレイから7.62m(25フィート)及び10.7m(35フィート)離して配置して、より長い距離で相補的測定を行った(図10E)。この場合、TX側の信号発生器とRX側の電圧計を有する増幅器からなる異なる設定が使用された。31.1GHzの最適性能で得られた測定値は、リフレクトアレイについては青色で示し、鏡面Alミラーについては緑色で示す。Alミラーについては、(自由空間と等価である)合計距離経路損失モデルP~(d+d2)-2に対応する理論曲線がプロットされ、d(d)は送信機(受信機)からの距離である(Wu、2021)。全体として、より長い距離では、実施例6はAlミラーよりも約17dB劣ることが観察された。先の約9dBの数字と比較して2倍大きい値は、より長い距離での不十分なサンプル及びホーン整列の結果である可能性が高い。
【0068】
実施例6の結果から、リフレクトアレイは、一緒に組み合わされた後であっても(それらのリフレクトアレイ角がわずかに規格外であっても)、非常に良好に機能することが分かった。結果として得られる性能は、Alミラーの性能よりも幾分劣るが、L接合部の壁に何も存在しない場合と比較して少なくとも約50dB良好である。リフレクトアレイは、いったん適切に事前にモデル化され、一緒に配置されると、廊下の接合部などの問題のあるNLOSエリアにおけるミリ波信号伝搬を実質的に改善することができることが予想され得る。
図1
図1A
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
図7F
図7G
図7H
図7I
図7J
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図8F
図8G
図8H
図9A
図9B
図9C
図9D
図9E
図9F
図9G
図9H
図10A
図10B
図10C
図10D
図10E
図10F
【国際調査報告】