(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-31
(54)【発明の名称】心室補助装置の性能最適化
(51)【国際特許分類】
A61M 60/508 20210101AFI20241024BHJP
【FI】
A61M60/508
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024526935
(86)(22)【出願日】2022-11-02
(85)【翻訳文提出日】2024-07-05
(86)【国際出願番号】 EP2022080578
(87)【国際公開番号】W WO2023078948
(87)【国際公開日】2023-05-11
(32)【優先日】2021-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523183390
【氏名又は名称】エレム バイオテック エセ.エレ.
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】サンティアゴ,アルフォンソ
(72)【発明者】
【氏名】バスケス,マリアノ
【テーマコード(参考)】
4C077
【Fターム(参考)】
4C077HH03
4C077HH08
4C077HH13
4C077HH15
4C077HH18
4C077HH19
4C077JJ07
4C077JJ19
4C077JJ20
(57)【要約】
心室補助装置1などの心室補助療法を開始又は動作させる効果を決定する方法が記載される。患者の心臓3の1つ以上のパラメータ及び心室補助療法の1つ以上のパラメータが決定される。次に、心室補助療法が使用されるか又は使用されることになる少なくとも1つの心室の機械的及び流体力学的モデルを使用して、心室補助療法を開始又は動作させることによって患者の心臓3の予測関心対象量を計算する。これは、所定の構成目的が達成されるまで反復的に実行されてもよい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
心室補助装置を構成する方法において、
患者の心臓の1つ以上のパラメータを決定するステップと、
前記心室補助装置の1つ以上のパラメータを決定するステップと、
前記心室補助装置が使用される又は使用されることになる少なくとも1つの心室の機械的及び流体力学的モデルを使用して、前記決定されたパラメータを用い、前記心室補助装置を動作させることによって前記患者の心臓に関する予測関心対象量を計算するステップと、
前記患者の心臓の前記1つ以上のパラメータ及び/又は前記心室補助装置の前記1つ以上のパラメータを変化させて、前記予測関心対象量を再び計算するステップであって、所定の構成目的を満たすように決定されたパラメータのセット及び関連する予測関心対象量が開発されるまでこのステップを繰り返すステップと、
前記所定の構成目的に従って前記心室補助装置を構成するステップと、
を含む方法。
【請求項2】
前記構成目的は、所定の基準を満たす前記予測関心対象量のうちの1つ以上を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記所定の基準は、性能、安全性、及び有効性のうちの1つ以上の指標である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
患者の心臓の前記パラメータは、患者の不確実な母集団における任意の患者の心臓に関連する、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
患者の心臓の前記パラメータは、患者の解剖学的形状又は心臓活動に関する1つ以上の解剖学的パラメータを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記1つ以上の解剖学的パラメータは、心臓形態、心室容積、駆出率、及び心拍数のうちの1つ以上を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
患者の心臓の前記パラメータは、患者のシステム状態に関する1つ以上の全身パラメータを含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記1つ以上の全身パラメータは、動脈主圧力、動脈抵抗、及び動脈キャパシタンスのうちの1つ以上を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記心室補助装置の前記1つ以上のパラメータがポンプ動作状態パラメータを含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記1つ以上のポンプ動作状態パラメータは、ポンプ速度波形、固有心拍数とのポンプ同期、及びポンプ性能関数のうちの1つ以上を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記関心対象量は、前記計算から導出される1つ以上の量を含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記関心対象量は、滞留時間、速度の大きさ、運動エネルギー、歪み時間及び拍動性指数のうちの1つ以上を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記所定の条件が血栓形成の可能性に関する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
予測関心対象量を計算する前記ステップは、元の心臓の幾何学的形状から決定される第1の固体力学メッシュと、流れを発生させるために入口及び出口を押し出すことによって作成される第2の流体力学メッシュとにわたってモデル化することを含む、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
予測量を計算する前記ステップは、前記ナビエ・ストークス方程式を解くことを含む、請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
心室補助装置(VAD)は、心臓の機能を部分的又は完全に置き換えることを目的とする埋め込み型人工ポンプである。VADは、左心室を補助するため(LVAD)に最も頻繁に設計されるが、右心室を補助するために(RVAD)又は両心室を補助するため(BiVAD)に使用することができる。
【背景技術】
【0002】
VADは、進行した心不全の患者に救命療法を提供し、将来の心臓移植への橋渡しとして、又は(VADへの依存が永続的であることを意図した)目的療法として使用される。生存率の改善にもかかわらず、複数の副作用がこれらの治療に関連している。主な合併症は、出血又は血栓症として依然として発生し、症例の約20%で発生する[4,6]。
【0003】
1つの重要な問題は、VADの使用に起因する左心室(LV)の流れパターンの変化がLVの停滞領域を誘発する可能性があることである。その後の世代のLVADは、停滞領域を破壊しようとするポンプ速度の変調である「人工パルス」パターンを導入している。しかしながら、これは問題に対する完全な解決策ではなく、VADの移植における幾つかの他の変数は、血栓症のリスク、特にカニューレの位置合わせ及び配置に影響を及ぼすことが示されている[10,11]。しかしながら、試行錯誤の手法を伴うことなく、そのような手法の成功又は失敗を決定すること、又は個人に対するVADの設置又は動作の最良の条件を特定することは困難である。
【0004】
VAD使用に関連する炎症の証拠[2]もあり、該炎症は血栓症のリスク増加につながる。これは、内皮病変のリスク及び記載された異常な流れパターン[5]と相まって、血栓形成のためのVirchowの三つ組[3]の3つの構成部分である。局所的な流れの条件は、生成される血栓の種類にも影響する。高速及び高剪断応力は、フィブリンを凝集させ、したがっていわゆる白色血栓を形成する血小板活性化[8]をもたらす。これに対し、停滞したゆっくりとした再循環流及び低い剪断応力は、赤血球を含む全ての血液成分の凝集[9]並びにフィブリンで浸潤した白血球[7]をもたらし、いわゆる赤色血栓をもたらす。
【0005】
これに関連して、VADは、一般に、吸引によって心室から血液を除去する遠心ポンプ又は軸ポンプによって構成される。最高速度は、ロータの周囲で生成される。最低速度は、吸引ドメインの遠方場(この場合はLV自体)で生成される。したがって、白い血栓がロータ付近に生成され、赤い血栓が吸引ドメイン(LV)の遠距離に生成される。白色血栓形成の問題は、一般に、適切なポンプ設計によって、例えば流体力学的又は磁気軸受の使用によって対処される。
【0006】
流れが心室からカニューレポンプの内側、ロータ、及び大動脈と接続するための出口移植片への流路の残りの部分に迂回された後、流れは、患者の解剖学的構造又は状態によって影響を受けると考えられる純粋に工学的な問題になり、無視できる効果しかもたらさない。依然として有効に対処されなければならない主な実用上の困難は、LV自体における赤色血栓形成の問題である。
【0007】
特に、VAD手法の有効性に関する信頼できるデータを得ることは困難である。VADの臨床試験及び動物研究は、現実の正確な現れであるが、以下を含む。
・高コスト。
・低い(多くの場合、統計的に関連しない)数のサンプル。
・患者パラメータに対する制御はほとんど又は全くない。
・倫理的問題。
・重要な測定可能な情報(例えば流体力学)へのアクセスがほとんど又は全くない。
VADのベンチテストは、臨床試験(又は数値モデリング)と比較して幾つかの利点及び欠点を有することが見出されているが、以下を含む。
・高価な低用途機器の要件。
・変数に対する不十分な制御。
・測定値が乏しい。
・ユーザエラー。
【0008】
これに対し、コンピュータシミュレーションは、臨床、動物及びベンチ研究よりも安価であり、特定の機器を必要とせず、変数に対する高レベルの制御を可能にし、高レベルの詳細で関心対象量を得ることを可能にする。
【発明の概要】
【0009】
第1の態様において、本開示は、心室補助療法を開始又は動作させる効果を決定する方法であって、患者の心臓の1つ以上のパラメータを決定するステップと、心室補助療法の1つ以上のパラメータを決定するステップと、心室補助療法が使用される又は使用されることになる少なくとも1つの心室の機械的及び流体力学的モデルを使用して、心室補助療法を開始又は動作させることによって患者の心臓における予測関心対象量を計算するステップとを含む方法を提供する。
【0010】
この方法は、パラメータのうちの1つ以上を変更するステップと、その後、所定の目的を満たすために、決定されたパラメータのセット及び関連する予測関心対象量が得られるまで、変更されたパラメータのための計算ステップを継続するステップとを伴うことができる。この目的は、可変値の範囲にわたって動作空間を識別することであり得る。目的は、所定の基準(性能、安全性及び有効性の指標など)を満たす予測関心対象量をもたらす心室補助療法のパラメータを決定することであり得る。心室補助療法は、心室補助装置、例えば左心室補助装置の埋め込み及び操作であり得る。
【0011】
原則として、患者の心臓からのパラメータを特定の患者に関して取得することができるが、特に関心のある手法は、不確実な母集団についてこれらのパラメータを決定することである。患者の心臓のパラメータは、被験者の解剖学的形状又は心臓活動(例えば、心臓の形態及び他の被験者に特有の幾何学的形状、拡張末期容積などの心室容積、駆出率及び心拍数)又は被験者の全身状態(例えば、動脈平均圧力、動脈抵抗又は動脈キャパシタンス)に関連し得る。VADに関する心室補助療法のパラメータは、被験者のカニューレ埋め込み仕様(埋め込み位置、挿入深さ、カニューレ角度、カニューレ形状、カニューレ形状)又はVADポンプ動作条件(ポンプ速度波形、固有心拍数とのポンプ同期、ポンプ性能関数(H-Q関数))を含むことができる。
【0012】
関心対象量は、計算から直接得られてもよく(例えば、心室速度及び圧力場)、又は導出されてもよい(滞留時間、速度の大きさ、運動エネルギー、歪み時間及び拍動性指数など)。所定の条件は、例えば、血栓形成のリスクが高い領域を回避することに関連してもよく、これらは、高い滞留時間、低い運動エネルギー、高い歪み時間及び低い拍動性指数のうちの1つ以上によって特徴付けられる。
【0013】
計算は、元の心臓形状から決定された固体力学メッシュと、固体から流れを発生させるための入口及び出口を押し出すことによって作成された流体力学メッシュの2つのメッシュにわたって行われてもよい。計算は、ナビエ・ストークス方程式の使用を含み得る。
【0014】
したがって、VAD治療手法の正確なコンピュータモデルを可能にすることを目的としたツールのフレームワークが提供され、このフレームワークは、特に以下を可能にする。
・心不全の異なる段階を有する患者の母集団の作成
・ユーザ定義のポンプ調節プロトコルの適用
・流体の停滞に関連する関心対象量(QoI)の測定
・弁及び心室壁に対する圧力及び応力に関連するQoIの測定
・以下のうちの1つ以上を達成するためのモデルの反復:
-不確実な母集団に対して速度変調プロトコルを最適化する
-患者にとって最適な速度変調を見つける
-患者にとって最適なカニューレ形状の角度及び位置を見つける
これらのツールを使用して、例えばLVADの場合、LVADポンプに流体チャネルを提供する際の左心室の適切なカニューレ挿入によって、及び患者に適したVAD動作(特に速度変調)を事前設定することによって、VADを最も効果的に植え込み、構成することを可能にすることができる。
【0015】
開示内容
ここではLVADが詳細に考慮されているが、上記の手法は、より一般的に(例えば、RVAD及びBiVADについても同様である)VADに適用され得ることに留意すべきである。したがって、VADという用語は以下で一般的に使用されるが、これは実際にはLVADに特に関連する任意の問題が論じられるLVADである。
文脈上、VADの構成のための標準的なプロセスを考慮することが有用である。VADの設置後、VAD速度の最適化は、ランプ研究を使用してインプラント後の患者に対して日常的に行われる。VAD速度を広範囲にわたってゆっくり増加させながら、心臓の形状及び機能の経胸壁心エコー測定を行う。LVADの場合、最終的なポンプ速度は、全体的な心拍出量、左心室(LV)除荷の効率、及び流れの拍動性の維持のバランスをとることによって選択される。幾つかの変数は、LV拡張末期寸法、LV収縮末期径、大動脈弁(AoV)開口の頻度、弁逆流の程度、右心室(RV)収縮期圧、血圧、及び各速度設定での心拍数(HR)を含む標準的なエコービューから評価される。更に、VADポンプ出力、拍動性指数及び流量が記録される。例えば、Thoratec HeartMate IIの場合、ランプ速度プロトコルは8k[rpm]の速度で開始し、12k[rpm]の速度に達するまで2分ごとに400[rpm]ずつ増加する。LVAD速度が増加すると、AoV開口の周波数及び流れの拍動性と同様に、LV容積が減少する。より高いLVAD速度での過剰なLV負荷軽減は、右心臓に対する需要を増加させ、三尖弁逆流を引き起こし、LVAD流入カニューレへの流れを乱す吸引事象も生じ得る。
【0016】
LVAD速度選択のための臨床診療は、まず、血行動態が寿命、例えば65mmHgを超える平均動脈圧及び体表面積(BSA)の2.2[L/分/m2]の最小心臓指数と互換性があるようにする。LV除荷を最適化するために、心室中隔位置は、左又は右のいずれかに向かって曲がってはならない。これらの条件が満たされる場合、LVAD速度は、軽度の僧帽弁逆流又は大動脈弁閉鎖不全症を維持しながら断続的なAoV開放を達成するように選択される。LVAD患者におけるデノボAoV機能不全の発症は、AoV開口部の欠如に関連している。興味深いことに、AoV機能不全は、支持中にAoVが閉じたままであったLVAD患者の大部分(66%)で発生したが、AoVが規則的に開いていたLVAD患者ではめったに発生しなかった(8%)。
【0017】
患者特異的LVAD速度較正は、適切な心血管支援を確保し、長期支援に関連する有害事象の頻度を最小限に抑えるために重要である。しかしながら、ランプエコー研究は、費用及び不便さのために、移植後の最初の月の後に日常的に行われない。したがって、被験者の特性について心拍出量及び大動脈弁開放を予測する計算ツールは、ランプ検査の要件を低減し、回復に寄与する速度調整パラダイムをサポートしながらも、長期にわたって必要とされる速度調整に寄与することができる。最高リスク装置とともに計算ツールを使用して、LVAD速度選択が設置から有効範囲内にあるようにし、ランプ研究の結果として有意な補正が必要とされる可能性を最小限に抑え、患者に対するリスクを低減することができる。
【0018】
ここで、添付図面を参照して、例として、本開示の特定の実施形態を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】関心のあるパラメータ及び関心対象量の役割を示す、本開示の実施形態で使用するためのモデルの概要を与える。
【
図2】本開示の実施形態を実施するための例示的なコンピューティングアーキテクチャを示す。
【
図3】本開示の実施に係る数値結果と実験結果との間の比較を示す散布図である。
【
図4A】1つのポンプ速度調節プロトコルについての9人の患者の母集団についての箱ひげ図及び散布図を示し、大動脈流についての結果を示す。
【
図4B】
図4Aと異なるポンプ速度調節プロトコルについての9人の患者の母集団についての箱ひげ図及び散布図を示し、運動エネルギーについての結果を示す。
【
図4C】
図4A及び
図4Bと異なるポンプ速度調節プロトコルについての9人の患者の母集団についての箱ひげ図及び散布図を示し、拍動性指数についての結果を示す。
【
図5】本開示の現実世界の実施に関与するシステムを概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図5は、本開示の現実世界の実施に関与するシステムを全体的に示す。心室補助装置(VAD)1は、人の心臓3の動作を補助するために人体2に埋め込まれて示されている。ここで、VAD1は、左心室補助装置(LVAD)であり、ポンプ室11内のポンプ10と、左心室3aから大動脈3bに血液がポンプ輸送されるように接続管12とを備える。VAD1は、制御ユニット4によって制御され、バッテリ5によって給電される(ここでは、VAD1への電力接続で制御ユニット4に電力を供給するように示されているが、他の構成も当然利用可能である)。制御ユニット4は、コンピュータ6を介してプログラムされ、本開示の実施において、コンピュータのプログラミングは、高性能コンピュータ7及びリモートコンピュータ8を使用するモデリングによってサポートされる。以下に説明するように、このモデリングは、VAD1の動作パラメータを決定することができるが、VADの植込みに関与する特徴(植込みのためのカニューレ挿入位置など)を決定するために使用することもできる。
【0021】
ここで、効果的なLVAD設置及び初期構成に使用することができるLVAD実施後の左心室流量をモデル化するための計算ツールの物理的基礎及び計算実施について以下に説明するが、より一般的にはVADに関連し、LVADへの特定の適用がここに示されている。本発明者らはまた、計算モデルが目的に適合することを実証するために必要な概略ステップを以下に示す。V&V40[1]規格は、計算モデルの信頼性を確立する完了した検証、妥当性確認、及び不確実性定量化(VVUQ)活動の関連性及び適合性を評価するためのフレームワークを提供する。規格は、最初のステップとして、以下を識別することを必要とする。(1)対象の質問、これは、ツールが回答を見つける質問であり、(2)使用状況(CoU)、これは計算モデルの特定の役割及び範囲であり、(3)関心対象量(QoI)、これらは、予測に使用されるCoUに関連する測定値であり、(4)モデルの影響、これは決定を下す際のモデルの寄与であり、(5)モデルリスク及び決定結果、これは、誤ったモデル結果が患者の害をもたらす可能性である。
【0022】
使用状況(CoU)
心臓-LVAD計算モデルは、停滞した心室流をもたらし得る動作状態を識別することによって、LVADの前臨床設計及び開発を支援するために使用され得る。したがって、これは、ベースライン動作基準が一般的な母集団にとって安全であるように選択されるようにするべく使用することができ、これがモデルで使用されている場合、患者固有のデータに基づいて事前確率調整を提供するために使用することもできる。これは、ここでは、製造された溶液及びメッシュ収束研究において観察された収束率;12の操作条件を用いたベンチ実験に対する妥当性確認を使用した、混合されたアレアリティ-エピステミック入力を用いた不確実性定量(UQ)を計算することによるコード及び数値検証によって示される。
【0023】
次に、心臓-LVAD計算モデルを使用して、流れの停滞に関連するとともに血栓形成に関連し得る領域を強調する関心対象量(QoI)を抽出する(関連する特性には、停滞時間、運動エネルギー及び歪みが含まれるが、これらに限定されない)。動物実験とは異なり、提案されたモデルは、重度の心不全の作業条件に関する洞察を提供する。
【0024】
入力パラメータ
本明細書に記載の手法は、特定の被験者に個別化された、及び/又は提案された治療手法を反映する更なる入力パラメータを含み得ることが企図される。関連するパラメータは、患者の形状、ポンプの埋め込み、及びポンプの動作を特徴付けるパラメータを含む。そのような入力は、生成されたモデルの精度を改善することができ、したがって、モデルから導出することができる測定値、及び任意の推奨される治療行為の信頼性を改善することができる。
【0025】
使用され得る例示的な入力パラメータは、独立して又は任意の組み合わせで使用され得る以下を含む。これらのパラメータは、特定の被験者から識別することができ、ユーザによって決定することができ、及び/又は母集団データから生成することができる。例えば、母集団の既知の平均値を使用することができ、母集団は、一般的な健康な集団、又は疾患状態、年齢、性別などの様々な基準のために選択された母集団であり得る。
A.被験者の解剖学的形状及び/又は心臓活動に関連するパラメータ
A.1.被験者特有の幾何学的形状(例えば、心臓の形態、及び線維柱帯形成)
A.2.拡張末期容積(EDV)などの心室容積
A.3.駆出率(EF)
A.4.心拍数(HR)
B.被験者の全身状態:
B.1.動脈平均圧
B.2.動脈抵抗
B.3.動脈キャパシタンス
C.被験者カニューレ埋め込み仕様
C.1.カニューレ位置埋め込み
C.2.カニューレ挿入深さ
C.3.カニューレ角度
C.4.カニューレ形状
C.5.カニューレ形状(例えば、カニューレ直径)
D.ポンプ動作条件
D.1.時変ポンプ速度波形(一定速度を含む)
D.2.固有心拍数との時変ポンプ速度同期点。
D.3.速度によるポンプ性能関数の特性評価(H-Q関数とも呼ばれ、ここで、Hは圧力ヘッド、Qは流量である)。
【0026】
これらの変数の幾つかの使用は、特定の実装形態の文脈において以下で更に説明される。上記のリストは非限定的であることに留意すべきである。
ここで、セクションA及びBのパラメータは被験者の特性であり、したがって、それら自体がモデリングプロセスからの出力の一部を形成しないことに留意すべきである。これに対し、セクションC及びDのパラメータは、注入プロセス(セクションC)の一部として、又はポンプの選択もしくは制御(セクションD)によって実施において変更又は制御することができる特徴である。パラメータ、モデル、及び関心対象量の間の関係を
図1に示す。
【0027】
出力:関心対象量(QoI)
本明細書に記載のモデルは、モデルから直接測定され得る、又はこれらの測定値を更に処理することによって提供され得るQoIを生成する。QoIは以下の通りである。
【0028】
A.未加工QoI:以下に示すモデルでは、これらは、ナビエ・ストークス方程式の解の直後に抽出されたQoIである。他の構造要素又は物理的な考慮事項(電気生理学など)を含むモデルの変更は、他の方程式の解を含み、追加の又は異なるQoIにつながる可能性がある。これらは、工業的及び臨床的使用のための関連情報を抽出するために、追加の後処理工程(項目B,C,D...)を必要とする。
A.1.心室速度場
A.2.心室圧領域
B.積分されたQoI又は微分したQoI(例えば、体積QoI):体積的に計算され、取得された情報を増強する速度場及び圧力場を用いて実行される動作。
B.1.滞留時間:ドメイン内の流体粒子によって費やされる時間。
B.2.速度の大きさ:点ごとの流速の二乗平均平方根。
B.3.速度エネルギー:流速の点平均二乗に流体密度を掛けたもの。
B.4.歪み時間:対称歪みテンソルの第1の不変量から得られた流れ歪みの測定値。
B.5.拍動性指数(局所的なエリアにおける最大流速変動、ここで、高い拍動性指数は、血液のより大きな加速/減速を意味し得る。)
【0029】
C.曲線QoI:3D結果の時変曲線への縮小を可能にする積分されたQoI又は微分したQoI(B)の体積積分。それらは、関心領域(ROI)における挙動を表す。例えば、これらの曲線QoIのROIは、LV全体、カニューレポケット及び大動脈基部領域だけでなく、単一の局在化を含む、潜在的な血栓形成領域であり得る任意の他の領域であってもよい。
C.1.QoIの平均化:時間ステップごとのROIにおけるQoIの平均。
C.2.最大/最小QoI:各時間ステップについてのドメイン内の最大及び最小。
【0030】
D.スカラQoI:曲線QoIの単数表示。特定の時間窓の間の曲線QoIのある種の時間積分によって得られる。
D.1.時間平均スカラQoI:幾つかの時間境界間の曲線QoIの平均(例えば、1.23[s]~3.24[s]-時間窓は、収縮期であってもよく、LVAD速度変調の位相の上昇であってもよい。)
D.2.最大/最小スカラQoIs:曲線の最小値及び最大値。
【0031】
曲線QoI及びスカラQoIは、結果の複雑さを低減し、ビデオ出力と比較して差異を検出する能力を高める方法として使用することができる。各体積QoIは、関連する曲線QoIを有する。例えば、運動エネルギー出力は、場、曲線及びスカラ表示を有する。
【0032】
身体的結果との対応及び最適手法の選択
上記のQoIから、停滞の領域など、所与のVAD手法の可能性のある結果に関する情報を提供することができる出力モデルの特性を識別することが可能である。停滞領域、したがって血栓形成のリスクが高い領域は、以下のうちの1つ以上を伴う領域である。
A)高滞留時間
B)低運動エネルギー
C)高い歪み時間
D)低拍動性指数
【0033】
2つの装置又は提案された手法を比較する場合、「最良の」装置又は手法は、反対のことを実証するもの、すなわち、
A)滞留時間の低下
B)より高い運動エネルギー
C)低い歪み時間
D)高拍動性
である。
【0034】
数値モデルの信頼性
VVUQは、設計指針又は規制上の証拠としてシミュレーション結果を使用することを必須としないが、結果の信頼性を確実に高める。例えば、ASMEV&V40[1]は、シミュレーション結果を比較し、信頼性を保証するために実験データを必要とする。
【0035】
容易にアクセス可能で再現可能なベンチ実験は、モデルの信頼性を評価するのに特に効果的な方法である。そのようなベンチ実験は、VAD用の接続管を含む可撓性材料で作られた少なくとも理想的な心室モデルを含むことができる。そのようなベンチ実験は、入口、出口、及び空洞における流れ及び圧力の測定値、並びに空洞の粒子画像速度測定(PIV)を得ることができるはずである。これらの装置はパルス複製器として知られており、読者は以下のリンクで市販の選択肢を見つけることができる:https://vivitrolabs.com/product/pulse-duplicator/。
【0036】
モデルの動作原理
例示的な分析を以下に示す。
A 1回の分析のためのシーケンス:
1.心室拡張末期容積(EDV)、駆出率(EF)、及び心拍数(HR)を選択することによって、ベースライン患者又はベースライン母集団を作成する。予測が単一の患者に対するものである場合、これらのパラメータは単一の値として選択される。予測が母集団に対するものである場合、パラメータは確率分布として特徴付けられ、その後、分布は、計算するために母集団から患者のサンプルを得るためにサンプリングされる。
【0037】
2.患者の心拍は、患者固有のパラメータに適合するように心室メッシュを変形させる流体構造相互作用(FSI)シミュレーションによって計算される。この手法は、正確であるが計算上比較的安価にすることができる。この技術はまた、カニューレの挿入又は角度付け、又は前述の任意の他の入力パラメータなどの他の幾何学的特徴を修正するために使用することができる。カニューレの位置及び/又は形状を変更するために、新しい幾何学的形状を使用することができ、又は変位境界を使用して元の幾何学的形状を変形させて所望の幾何学的構成を得ることができる。
【0038】
この実施形態におけるFSIは、2つのメッシュの構築を含む。固体力学メッシュは、元のジオメトリから直接作成される。CFDメッシュは、固体ドメインを閉じ、入口及び出口を押し出して流れの発達を確実にすることによって作成される。メッシュは、線形テスラヘドラド、ピラミッド、及び五角形を使用して空間的に離散化される。時間離散化には、1次台形則が用いられる。
3.適用する処理を記載する。これには、以下が含まれる。
a.時間可変ポンプ速度(すなわち、速度変調)。これは、ベースライン速度の大きさ、及び速度が変化する回数、大きさ、方向(上昇又は下降)、及び頻度である。
b.速度変調に使用される場合、固有心拍数(例えば、等体積収縮中にサイクル上昇が起こる)との同期点を提供する。
c.動作条件におけるポンプ性能を表すH-Q曲線。これは、少なくとも動作条件の極端な場合のHQ曲線を含む。中間H-Q曲線は、線形補間器を介して自動的に得られる。
【0039】
4.速度変調及びポンプ特性(すなわち、適用する処理)を選択する。これは、ポンプのH-Q性能曲線によって行われる(H-Qは、ポンプによって流体に加えられるヘッド/圧力(H)の増加に起因してどれだけの流れ(Q)が生成され得るかのグラフ式である)。各ポンプ速度に対して単一のH-Q曲線があり、その後、H-Q曲線は未知の速度を見つけるために線形補間される。
【0040】
5.シミュレーションを実行する。シミュレーションエンジンは、有限要素法(FEM)に基づいており、流体問題においてメッシュを変形させることを可能にする任意ラグランジュ-オイラー公式を使用する非圧縮性ニュートンナビエ・ストークス方程式を含む。
及び
ここで、μは流体の動粘度、ρは密度、v
iは速度、pは機械的圧力、f
iは体積力項、
はドメイン速度である。課された境界変位に起因して流体ドメインが変形すると、内側ノードの変形は拡散方程式を介して計算される。解決ドメインは、脳室内液及び流入/流出伝導路を含む。
【0041】
僧帽弁入口は、一定の圧力のP
LAを有する。大動脈モデルは、RC並列インピーダンスR
pと直列に接続された抵抗器R
s、及びC
pの3つの構成要素を伴う0D Windkesselモデルを有する。変形する心室壁、並びに流体ドメインの残りの部分には、ドメイン変形の速度が課される。これは
であり、ここで、
は変形された境界における速度である。
【0042】
圧力依存流境界条件は、以下で更に説明するように、LVAD流出で提供される。残りの境界は
を有し、ここで、初期流体速度は
である。
【0043】
僧帽弁及び大動脈弁は、弁領域の圧力駆動多孔質層を介してモデル化される。この多孔質媒体は、形状
を伴う運動量方程式の右辺に等方性の力を加え、この場合、
であり、ここで、Pは材料多孔度であり、I
ijは単位行列である。この戦略は、閉じ込められた流体の潜在的な不良状態段階に対する堅牢な数値スキームを提供する。経弁圧の潜在的に急激な変化を伴う滑らかな変化を確保するために、多孔度は、以下のように双曲線接線を通じて駆動される。
ここで、P
maxは最大可能多孔度であり、sは曲線の勾配であり、Δp
Vは経弁圧力降下であり、
は基準圧力勾配である。実際には、Δp
V>>
の場合、弁は閉じており、Δp
V<<
の場合、弁は開いている。経弁圧勾配の過渡的なピークに起因する疑似弁の開放及び/又は閉鎖を回避するために、測定値は、メディアンフィルタを使用してフィルタリングされる。
【0044】
LVAD境界条件には、決定された速度におけるポンプの特性性能曲線によって与えられる圧力-流量伝達関数が使用される。これらの圧力-流量曲線(H-Q曲線とも呼ばれる)は、ポンプ入口と出口との間の圧力差と、ポンプがその速度で供給できる流量との間の関係を提供する。時間可変速度の結果としてシミュレーション中にポンプ速度が変化する場合、その速度の対応するH-Q曲線が使用される。
Δp
VAD=P
Ao-P
LVがポンプの出口と入口との間の圧力差であり、Q
VADがポンプを通る流量である場合、圧力-流量関係は以下のように近似することができる。
各Δp
VADには単一のQ
VADがあり、その逆もあり、この関係は境界条件として使用することができ、それにより、計算された圧力差Δp
VADの流量を課すことができ、このようにして流量はこの式を満たすように制約される。
【0045】
上記のように、大動脈出口は、集中した全身動脈をモデル化するWindkessel(二次R-RCモデル)と結合される。出口及び入口における逆流は、高粘度層を通して安定化される。
【0046】
6.関心対象量(QoI)を抽出する。Qoisは、複数の関心領域(ROI)及び時間窓の体積平均、平均、最大値、最小値、及び標準偏差と共に、その場で計算される。これらは上に列挙されており、以下のように定義することができる。
a.生QoI及び導出QoI:
i.速度場-ドメインの各点の速度は、ナビエ・ストークス方程式の解であり、心室流体運動を決定する量である。これは、運動エネルギー(K)、滞留時間TR、歪み時間TD及び拍動性指数を計算するためにも使用される。
【0047】
ii.圧力場:ナビエ・ストークス方程式で連続性を強制した後に得られる圧力。
iii.滞留時間フィールド-これは、流体粒子によって関心のあるドメインで費やされる時間である。TRが高い領域は、潜在的に赤い血栓形成の危険エリアであるが、血栓の危険性を必ずしも意味しない。例えば、渦は、同等の高い滞留時間を有する領域であるが、血栓形成リスクを生じない。したがって、TRは、運動エネルギー(K)及び歪み時間(TD)のような他の量と併せて考慮する必要がある。
【0048】
iv.歪み時間 フィールド-これは、流体がせん断するのに必要な時間を表す、時間単位を有する歪みテンソルから導出される指標である。層流は、せん断がほとんどないために高いTDを有するが、高度に乱流は、渦が粘性エネルギー散逸を伴う高いせん断を生成するために小さいTDを有する。
【0049】
v.運動エネルギー場-これは、
ρv
2として計算され、ρは流体密度であり、vは速度の大きさである。これは流体エネルギーの指標である。高い運動エネルギー領域は、高い滞留時間も有し得るが、血栓リスクを伴わない。しかしながら、Kはガリレオ不変量ではないため、歪みがほとんど又はまったくない高Kの領域が存在する可能性があり(例えば、心房から心室に移動する流体のボーラス)、したがって、これは渦度の指標で考慮する必要があり得る。
【0050】
vi.拍動性指数-これは、体積測定の、拍動ごとの測定である。各拍動について、ドメインの各点で、所定のサンプリング周波数を使用して最大vmax、最小vmin、及び平均vavg速度が計算される。その後、ドメインの各点について、拍動性指数は以下のように計算される。
PI=(vmax-vmin)/vavg
拍動ごとに得られた。
PIは流体速度変動の指標であるため、定常流はPI=0[-]であり、非常に過渡的な流れはPI>>0[-]である。
【0051】
7.これらの生のQoI及び処理されたQoIは、特定の患者-装置の組み合わせによって誘発される停滞領域を予測する対応する曲線及びスカラQoIを取得するために、量及び/又は時間において積分される。
【0052】
上記の手法は例示的なものであり、幾つかの点で変更され得ることに留意すべきである。多くの方法で対処することができる1つの要因は、心室(心内膜)壁の動きである。これを達成するために、適切な補間アルゴリズムを使用して、心内膜のVAD問題表面メッシュの各ノード/要素に位置対時系列を課すことができる。この系列は、関数として表わされてもよく、テーブルとして提供されてもよい。これを、
・壁運動を示す患者画像から導出された一方向スキームとして;
・電気機械シミュレーションから導出された一方向方式として-心室機械運動は電気生理学によって駆動され、結合された電気機械シミュレーションは壁運動を取得するために使用される;
・固体力学シミュレーションから導出された一方向スキームとしてーこの場合、心室機械運動は心膜圧力によって駆動される;
・電気機械シミュレーションからの双方向方式として-分離された電気機械流体力学問題が解かれ、結果として生じる心内膜壁運動が、VAD問題表面メッシュの運動を心内膜に課すために使用される;及び
・、VAD問題と同じドメインで解決される,完全結合電気機械流体力学問題を有する双方向方式として、
導き出すことができる幾つかの方法がある。
B)自動化ツール(A)で定義された単一のシミュレーションは、クラスタとしてHPC環境で実行され、今後のより大きなシミュレーションプロセスのビルディングブロックとして扱われ、このより大きなシミュレーションプロセスは、このビルディングブロックを実質的にブラックボックスとして扱う。ここに示す例示的な手法(
図2を参照)では、外部システム(DARE,DAkota SeRvEr)が、1つ以上の入力パラメータからブラックボックス実行を自動化し、潜在的な結果を返すことを担う。より一般的には、自動化ツールは、患者/装置の組み合わせの入力サンプル(単一の患者又は母集団の場合であっても)を読み取り、実行のためにHPC環境に事後的に提出されるジョブ入力ファイルを作成することによって、ジョブ構成、実行、及び結果検索を自動化する。プロセスは、最終パラメータを有する自動化ツールによって置き換えられるフラグを含むファイルのテンプレートセットから始まる。入力が作成されると、ファイルがHPC環境と交換され、ジョブがキューに提出される。HPCキューマネージャは、各タスクに優先順位を割り当てる役割を担う。自動化ツールは、ジョブを提出した後、成功したジョブ終了を求める前に、可変(ジョブサイズ及び長さに依存する)時間量だけ待つ。ジョブが完了すると、自動化ツールは、ユーザ定義の後処理スクリプト(例えば、スクリプトは、出力ファイルから単一の列を抽出するための命令セットを含むことができる)を実行し、最終スカラを取得する。これらのスカラは、最終的な所望の結果であってもよいし、最適化ループの一部であってもよい。自動化ツールの複数のインスタンスを並行して起動することができ、完全な並列効率を可能にする。潜在的に障害のある接続による終了を回避するために、SSH(セキュアシェル)例外処理の実装によって堅牢性が得られる。
【0053】
自動化ツールの動作は以下の通りである。すなわち、
・リモート(クラスタ)とローカルのディレクトリツリーを作成する。
・テンプレートファイルへのシンボリックリンクを作成する。
・必要なテンプレートファイルを修正する。
・実行を開始する。
・完了を待つ、及び/又はエラーを検出する
・後処理スクリプトを実行する。
・結果を取得する。
【0054】
C)サンプリングツール例示的なサンプリングツールはDakota(Sandia)であるが、任意の他の適切なサンプリングツールを使用して、自動化ツールがシミュレーションを構成及び実行するために使用する実行用の新しいパラメータを選択することができる。サンプリングツールは、
・範囲/分布からパラメータを選択し、
・必要に応じて、所望の出力を得るために入力を最適化し、
・結果を集め、
・確率的コロケーション(SC)、多項式カオス拡張(PCE)、又は任意の他の低次元モデル(ROM)技術(事例依存)を用いて性能についての代用モデルを作成する、
必要がある。
【0055】
D)データ検索入力/出力の傾向及び統計的関連性を示す散布図及び箱ひげ図を作成する。このようにして、QoIは、関心のある特定の質問に回答するために使用され得る。
ここで使用される計算手法をより詳細に説明する。
円筒管内の2Dポアズイユ及び3Dウォームズリー流れ問題について、[12]のセクション2に従って数値コード検証が実行される。これらの問題は、真値として使用される自明でない分析解を有する。どちらの場合も、[13]のように半分にすることによってグリッドが体系的に洗練されるので、離散化誤差が監視される。メッシュ区画間の比をri,j=ri/rjと定義すると、r1,2=r2,3=r=2.0であり、推奨される最小値である1.3よりもかなり大きい数値である[12]。速度フィールドは、数値モデルから得られた生の変数でもあるため、検証されるべき関心対象量(QoI)である。
【0056】
計算メッシュが適切に収束することが確立される必要がある。例えば、解iとjとの間の二乗平均平方根誤差(RMSE)は、L2ノルム
によって定義される。
全ての場合が計算され、計算された誤差ε
1、2及びε
2、3が計算されると、観察される収束の順序は次のように計算される[14]:
この場合、r
i,j=r
j,k=r=2.0であるため、q
i,k(p
i,k)=0:0であり、したがって、前の連立方程式は、以下のように縮小されることに留意すべきである。
計算された3つの速度場u
1,u
2,u
3;u
1について、u
1は最も粗いものであり、3つの細分レベルについて、数値スキームの収束の順序は以下によって与えられる。
観測されたp値を用いて、グリッド収束指数(GCI)は、[14]として計算することができる。
この不確実性推定値は、真の数学的値f
Tの範囲内の間隔f±U
95%を95%の確率で提供する。
【0057】
実装では、VVUQ計画を使用して、特定のモデルの適用を説明することができる(並びにモデルを効果的に使用できるかどうかを判定するための基礎を提供する)。LVADの例は以下の通りであり得る。
【0058】
関心のある質問:心尖部に植え込まれたLVADの場合、選択されたポンプ速度は、HF患者母集団をカバーするHR及びEFの範囲に関して、(a)完全な大動脈弁開放(Q
Ao>5[cm
3/s);及び(b)生命に適合する心拍出量(
[cm
3/s])をもたらす。
【0059】
使用状況(CoU):先に示したように、心臓-LVAD計算モデルは、所与のポンプ速度に対して大動脈基部、LVAD及びLV内の流れを特徴付けることによって、LVADの前臨床設計及び開発を支援するために使用することができる。
【0060】
関心対象量(QoI):妥当性確認中に使用されるQoIは、出口境界を通る最大流量及び平均流量(LVAD流量QVAD及び大動脈基部流量QAo)である。
【0061】
モデルは、ドメイン内の停滞領域に関する情報を提供する。ここでは、異なるEDV及びEFを有する9人の被験者の母集団を3つの速度変調プロトコル(固定、L1、L2)で治療した。このモデルは、大動脈流及び運動エネルギーの統計的差異を示さないが、拍動性指数(PI)の明らかな増加がある。これは、L1及びL2が固定処置よりも血栓塞栓症になりにくい可能性があることを示している。これは、ツールの出力の単一の例である。これを
図3及び
図4A~
図4Cに示す。
【0062】
図3は、数値結果(青色)と実験結果(オレンジ色)との比較を示す散布図である。これは、ほとんどのQoIについて良好な相関を示す。
図4A~
図4Cは、3つのカテゴリー(固定、L1、L2)に分けられた9人の患者の母集団の箱ひげ図及び散布図を示す。大動脈流(
図4A)又は3つのカテゴリー間の運動エネルギー(
図4B)についてそれらの間に統計的差はないが、拍動性指数の統計的に有意な増加がある(
図4C)。
【0063】
本開示の実施形態の例示的な適用
本開示は、その実施形態において、単一の患者又は患者母集団のいずれかを記述する所与の入力セットから、VAD療法(具体的に示されたモデルにおけるLVAD療法)が重要な動作指標(性能、安全性及び有効性の指標など)を予測することができるツールを記述する。例示的かつ非限定的なアプリケーションのセットを以下に説明する。
【0064】
1.不確実な母集団に対するLVAD療法の最適化
パラメータ化された不確実な母集団は、確率分布によって記述することができる。モデリングは、このパラメータ化された母集団及び治療パラメータのセットによって定義された空間にわたって行われ得る。これにより、治療パラメータ(例えば、安全性、有効性及び性能の指標)を母集団全体で最適化することが可能になる。これは、例えば、治療の適用のための好ましいベースラインを作成するために使用することができる。
【0065】
2.LVAD埋め込み位置及び構成の外科的案内
予め定義された患者パラメータについて、LVAD埋め込みプロセスの最適化されたパラメータをモデル化することが可能である。これらは、注入位置及び動作構成を含んでもよい。このプロセスは、動作計画を確立するのに役立つ動作の計画段階で実行することができる。実施形態では、そのようなガイダンスは手術中に実行することもでき、これには異なる計算戦略(例えば、計算時間を加速するための縮小順序モデルの使用)が必要になる場合がある。
【0066】
3.仮想ランプ調査(箱内情報として)
ツールを使用して、VAD装置と共に「箱内」に提供される表形式データを作成することができ、これを使用して、患者の状態に照らして装置の構成を決定することができる。例えば、LVAD移植後の1つの重要なパラメータは、(長期の逆流を回避するために必要とされる)大動脈弁開放を依然として可能にしながら設定することができる最大ポンプ速度である(したがって、心拍出量を最大化する)。そのような表形式の情報は、患者の状態に応じてポンプ速度の初期値を提供することができ、これにより、その後に必要とされる試験及び最適化時間の量を低減することができる。
【0067】
4.計算バイオマーカーの発見及び開発
このツールは、VAD及びLVADのパラメータ化を発展させるための計算バイオマーカー及び指標を発見し、その後開発するために使用することができる。この開発の目標は、典型的には、肯定的な結果の可能性を最大化する目的で、装置の動作を開発及び最適化することである。微分したマーカーは、ツールからの量、量の関数、及び結果(直接的及び間接的に計算された両方)の任意の組み合わせに基づく統計的指標及びリスク指標を含むことができ、そのようなバイオマーカーによって提供される実際的な有用性(システムの最も実用的に効果的な説明を提供する際)は、それらの開発において特に考慮される。ここでは、時間ベースの要因及び過渡的な要因が重要であることが判明し得る。
【0068】
5.臨床医の支援のための精度予測患者特異的LVAD性能評価
これは、定時的であっても寿命であってもよい。それぞれの場合に異なる手法を使用してもよい。
a.定時的 感受性分析は、患者特有の生理学的情報入力のために(多くの場合を使用して)実行され得る。次いで、VADパラメータを最適化して、所与の患者にとって最良のシナリオを正確な時点でもたらすことができ、これは、例えば、血栓形成のリスクを最小限に抑え(滞留時間等)、患者に対するVADの構造的影響を最小限に抑える(例えば、心臓壁の吸引又は強制的な弁の開放を回避し、心室又は他の場所に課される応力及び歪みを制限する)ために行うことができる。実施される治療について、これは、妥当な配置、適切なカニューレ形状、インプラント深さ、ポンプ速度及び圧力関連プロファイルを考慮したシナリオ分析を含み得る。生理学的感受性もここで考慮され得る。
b.長手方向(寿命)予測 上記の「定時的」手法は、心不全悪化経路を考慮しながら従うことができる。現在、これは、経験的プロセスであり、心不全は時間とともに起こりやすくなり、VAD動作条件を更新する必要があることが知られているが、これを達成するための体系的なプロセスはない。このツールを使用して、観察された医療事象に基づく劣化経路を用い、潜在的な将来の患者状態を関連する最適化された動作パラメータにリンクする患者警告テーブルを確立することができる。関連する生物医学的マーカーを使用して、患者に合わせて調整され、臨床的意思決定を支援するように適合された有効な患者/装置管理ガイドラインを作成することができる。
【0069】
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