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特表2024-540396固体分散体、その製造方法及びそれを含む固形製剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-31
(54)【発明の名称】固体分散体、その製造方法及びそれを含む固形製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/437 20060101AFI20241024BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20241024BHJP
   A61K 47/40 20060101ALI20241024BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20241024BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20241024BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20241024BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20241024BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20241024BHJP
   A61K 47/16 20060101ALI20241024BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241024BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20241024BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20241024BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20241024BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20241024BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
A61K31/437
A61K47/38
A61K47/40
A61K47/34
A61K47/32
A61K47/14
A61K47/12
A61K47/10
A61K47/16
A61P35/00
A61P11/00
A61K9/14
A61K9/20
A61K9/48
A61P43/00 111
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024526965
(86)(22)【出願日】2022-11-01
(85)【翻訳文提出日】2024-05-30
(86)【国際出願番号】 CN2022129074
(87)【国際公開番号】W WO2023078265
(87)【国際公開日】2023-05-11
(31)【優先権主張番号】202111308836.4
(32)【優先日】2021-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524117778
【氏名又は名称】ハイファ バイオファーマ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カン、ヨン
(72)【発明者】
【氏名】チュー、ミャオ
(72)【発明者】
【氏名】マー、ユアンホイ
(72)【発明者】
【氏名】リウ、レイ
(72)【発明者】
【氏名】クオ、シーイェン
(72)【発明者】
【氏名】シェン、チンカン
(72)【発明者】
【氏名】コン、メイユイ
(72)【発明者】
【氏名】カオ、リー
(72)【発明者】
【氏名】シオン、ピン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA31
4C076AA36
4C076AA53
4C076DD27
4C076DD38
4C076DD41
4C076DD44
4C076DD46
4C076DD47
4C076DD49
4C076DD50
4C076DD55
4C076DD58
4C076EE06
4C076EE07
4C076EE10
4C076EE16
4C076EE23
4C076EE32
4C076EE33
4C076EE39
4C076EE48
4C076EE50
4C076GG12
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB05
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA35
4C086MA37
4C086MA52
4C086NA02
4C086ZA59
4C086ZB26
(57)【要約】
固体分散体、その製造方法及びそれを含む固形製剤である。固体分散体は、化合物Aと、薬学的に許容されるマトリックスポリマーとを含み、薬学的に許容されるマトリックスポリマーは、腸溶性高分子ポリマー及び非腸溶性高分子ポリマーを含み、前記化合物Aは、1-{(6-[(1-メチル)-4-ピラゾリル]-イミダゾール[1,2-a]ピリジン)-3-スルホニル}-6-[(1-メチル)-4-ピラゾリル]-1-ヒドロ-ピラゾリル[4,3-b]ピリジンである。固体分散体は、化合物Aの溶解度及び溶解安定性を顕著に向上させ、薬物の過飽和維持時間を延ばして薬物のバイオアベイラビリティを向上させることができる。固体分散体を用いて製造された固形製剤は、体内バイオアベイラビリティが化合物Aの経口投与の要件を満たす。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化合物Aと、薬学的に許容されるマトリックスポリマーとを含み、前記薬学的に許容されるマトリックスポリマーは、腸溶性高分子ポリマー及び非腸溶性高分子ポリマーを含み、前記化合物Aは、1-{(6-[(1-メチル)-4-ピラゾリル]-イミダゾール[1,2-a]ピリジン)-3-スルホニル}-6-[(1-メチル)-4-ピラゾリル]-1-ヒドロ-ピラゾリル[4,3-b]ピリジンであり、前記化合物Aと前記薬学的に許容されるマトリックスポリマーとの重量比は、1:3~1:35である、ことを特徴とする固体分散体。
【請求項2】
前記腸溶性高分子ポリマーは、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ポリアクリル酸メチル、ポリビニルアセテートフタル酸エステル、フタル酸酢酸セルロース及びコハク酸酢酸セルロースから選ばれる1種又は複数種であり、
及び/又は、前記非腸溶性高分子ポリマーは、ポリビニルカプロラクタム-ポリ酢酸ビニル-ポリエチレングリコールグラフトコポリマー、コポビドン、ポビドン、ポリビニルアルコール、2-ヒドロキシ-β-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びヒドロキシプロピルセルロースから選ばれる1種又は複数種であり、
及び/又は、前記腸溶性高分子ポリマーと前記非腸溶性高分子ポリマーとの重量比は、2:1~10:1である、ことを特徴とする請求項1に記載の固体分散体。
【請求項3】
(1)前記腸溶性高分子ポリマーがヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート及び/又はヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートであり、
(2)前記非腸溶性高分子ポリマーがコポビドン、ポリビニルアルコール、ポビドン及びヒドロキシプロピルメチルセルロースから選ばれる1種又は複数種であり、
(3)前記固体分散体が任意に流動化剤、可塑剤及び界面活性剤のうちの1種又は複数種をさらに含み、
(4)前記腸溶性高分子ポリマーと前記非腸溶性高分子ポリマーとの重量比が2:1~6:1であり、及び
(5)前記化合物Aと前記薬学的に許容されるマトリックスポリマーとの重量比が1:4~1:25であり、好ましくは、1:5~1:15であるという条件のうちの1種又は複数種を満たす、ことを特徴とする請求項1に記載の固体分散体。
【請求項4】
(1)前記化合物Aと前記腸溶性高分子ポリマーとの重量比が1:2~1:15であり、好ましくは1:3~1:10であり、
(2)前記化合物Aと前記非腸溶性高分子ポリマーとの重量比が2:1~1:10であり、好ましくは2:1~1:5であり、
(3)前記流動化剤がコロイドシリカ、動物脂肪、植物脂肪及びワックスから選ばれる1種又は複数種であり、
(4)前記流動化剤と前記化合物Aとの重量比が1:1~1:100であり、
(5)前記可塑剤がO-アセチルクエン酸トリブチル、O-アセチルクエン酸トリエチル、安息香酸ベンジル、アセトンクロロホルム、デキストリン、フタル酸ジブチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジメチル、グリセリン、モノステアリン酸グリセリル、ステアリン酸ポリオキシル40、マンニトール、鉱物油、ラノリンアルコール、パルミチン酸、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリ酢酸ビニル、プロピレングリコール、2-ピロリドン、ソルビトール、ステアリン酸、トリアセチン、クエン酸トリブチル、トリエタノールアミン及びクエン酸トリエチルから選ばれる1種又は複数種であり、
(6)前記可塑剤と前記化合物Aとの重量比が1:1~1:20であり、
(7)前記界面活性剤が陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤及び非イオン性界面活性剤から選ばれる1種又は複数種であり、前記陰イオン性界面活性剤が好ましくはドデシル硫酸ナトリウム及び/又はポリエステルナトリウムであり、前記陽イオン性界面活性剤が好ましくはセトリミド、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム及びラウリン酸から選ばれる1種又は複数種であり、前記非イオン性界面活性剤が好ましくはポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油誘導体、ポリオキシエチレンステアリン酸エステル及びポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテルブロックコポリマーから選ばれる1種又は複数種であり、及び
(8)前記界面活性剤と前記化合物Aとの重量比が1:1~1:10であるという条件のうちの1種又は複数種を満たす、ことを特徴とする請求項3に記載の固体分散体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の固体分散体の製造方法であって、
(1)前記固体分散体の各成分を溶融又は溶解により均一に混合して均一な分散体を得るステップと、
(2)前記均一な分散体を固化して固体分散体を得るステップとを含む、ことを特徴とする製造方法。
【請求項6】
前記固化は、溶融押出法であり、前記固体分散体の製造方法は、
(1)前記溶融押出法において、溶融押出装置のスリーブ温度が150~220℃であり、
(2)前記溶融押出法において、溶融押出装置のスクリュー押出回転数が50~300rpmであり、
(3)前記溶融押出法において、供給速度が10~100rpmであり、及び
(4)前記溶融押出法が、
(1a)前記固体分散体の各成分を均一に混合して粉末状混合物を得ることと、
(2a)前記粉末状混合物をホットメルト押出機フィーダーに入れ、押出し、粉砕し、篩分け処理して化合物Aを含む固体分散体を得ることとを含むという条件のうちの1種又は複数種を満たす、ことを特徴とする請求項5に記載の固体分散体の製造方法。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか1項に記載の固体分散体及び薬学的に許容される添加剤を含み、好ましくは、前記薬学的に許容される添加剤は、流動化剤、結合剤、崩壊剤、充填剤、潤滑剤、着色剤、pH調整剤、界面活性剤、潤滑剤及び安定剤のうちの1種又は複数種を含む、ことを特徴とする固形製剤。
【請求項8】
前記固体分散体の総成分で、フタル酸の含有量は、≦6.0wt%であり、好ましくは≦4.8wt%である、請求項1~4のいずれか1項に記載の固体分散体又は請求項7に記載の固形製剤。
【請求項9】
請求項1~4のいずれか1項に記載の固体分散体又は請求項7に記載の固形製剤のタンパク質チロシンキナーゼ障害の関連疾患及び/又は腫瘍を予防及び/又は治療する薬物の製造における用途。
【請求項10】
前記疾患及び/又は腫瘍は、固形癌を含み、例えば、肺癌、胃癌、食道癌、結腸癌、結腸直腸癌、肝臓癌、腎細胞癌、頭頸部癌、甲状腺癌、卵巣癌、乳癌、膵臓癌、前立腺癌、口腔癌、悪性膠癌、横紋筋肉癌又は骨癌であり、
好ましくは、前記疾患及び/又は腫瘍は、肺癌、胃癌、肝臓癌、腎細胞癌、卵巣癌、乳癌、膵臓癌、前立腺癌又は甲状腺癌であり、
より好ましくは、前記疾患及び/又は腫瘍は、肺癌、例えば非小細胞肺癌である、請求項9に記載の用途。
【請求項11】
有効量の請求項1~4のいずれか1項に記載の固体分散体又は請求項7に記載の固形製剤をそれを必要とする個体に投与することを含む、タンパク質チロシンキナーゼ障害の関連疾患及び/又は腫瘍を予防及び/又は治療する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、出願日が2021年11月5日の中国特許出願2021113088364の優先権を要求する。本願は、上記中国特許出願の全文を引用したものである。
【0002】
本発明は、薬物製剤の分野に属し、具体的には、固体分散体、その製造方法及びそれを含む固体薬物製剤、並びに前記固体分散体のタンパク質チロシンキナーゼ障害の関連疾患及び腫瘍を予防及び/又は治療する薬物の製造における用途に関する。
【背景技術】
【0003】
特許CN104230922Aには、化合物A(1-{(6-[(1-メチル)-4-ピラゾリル]-イミダゾール[1,2-a]ピリジン)-3-スルホニル}-6-[(1-メチル)-4-ピラゾリル]-1-ヒドロ-ピラゾリル[4,3-b]ピリジン)が開示され、化合物A及びその薬学的に許容される塩の、生体内のタンパク質チロシンキナーゼ障害に関連する細胞異常増殖、形態変化及び運動機能亢進に関連する疾患、及び血管新生又は癌転移に関連する疾患を予防又は治療するための薬物の製造における用途、特にC-Met阻害剤としての薬物の製造における用途が挙げられる。
【0004】
C-Metの過剰発現は、ヒト肝臓癌、胆管癌、膵臓癌、肺癌、甲状腺癌、胸膜間質腫瘍など、特に転移する腫瘍に見られる。その作用は、腫瘍細胞間の接着に影響を与え、細胞外マトリックスの分解を促進し、血管新生を誘導し、細胞増殖を促進することなどを含み得る。これらは、C-Metが腫瘍治療の重要なターゲットであることを示す。化合物Aは、高選択性のC-Met阻害剤であり、そのC-Metに対する阻害作用、体内外での抗腫瘍作用の強度などの面でいずれも従来の臨床応用の同類薬物INCB28060(CAS番号:1029712-80-8)より優れる。化合物Aは、活性が強く、毒性や副作用が小さく、良好な将来性を有する。
【0005】
化合物Aに対するさらなる研究により、それは、pH1.2~7.4の緩衝塩水溶液における平衡溶解度が1.0μg/mL未満であり、水難溶性薬物であることを発見した。動物レベルの研究結果により、化合物Aの通常の製剤を直接投与した後に体内のバイオアベイラビリティが1%未満であり、体内吸収が低く、治療作用を効果的に発揮できず、可溶化して経口吸収を向上させた後に使用する必要があることを示した。
【0006】
発明者らは、現在の一般的に使用される従来の可溶化と吸収促進手段を実施し、化合物Aには、いずれも(1)~(4)の問題があることを発見した:(1)化合物Aを塩にするように試み、その結果、その溶解度に顕著な改善がないことを発見し、(2)化合物Aを様々な結晶形にするように試み、その結果、様々な結晶形の溶解度に顕著な差異がないことを発見し、(3)化合物Aを微粉化した後に可溶化して吸収を促進するように試み、その結果、バイオアベイラビリティが3.3%のみであり、経口投与に適さないことを発見し、(4)化合物Aを可溶化剤で可溶化溶液にするように試みたが、化合物Aの融点が250℃を超え、結晶傾向が強く、溶液を放置した後に晶析現象が発生し、長期安定性が低く、晶析後に再溶解できず、薬物吸収が低いという問題を解決できない。
【発明の概要】
【0007】
本発明が解決しようとする技術的課題は、従来技術における化合物Aの水への溶解性が低く、体内バイオアベイラビリティが低いという欠陥を克服するために、固体分散体、その製造方法及びそれを含む固形製剤を提供することである。
【0008】
本発明の固体分散体における化合物Aは、模擬腸液での溶解度が高く、さらに、本発明の固体分散体は、化合物Aの溶解度及び溶解安定性を顕著に向上させ、薬物沈殿を防止し、薬物の過飽和維持時間を延ばして薬物のバイオアベイラビリティを向上させることができる。本発明の固形製剤は、高いバイオアベイラビリティを有する。
【0009】
本発明は、固体分散体を製造する製造プロセスを改良することにより、分散体における成分の分解を効果的に制御し、特にマトリックスポリマー材料の分解を制御し、それにより分散体の不純物含有量を低減する。本発明はさらに、固体分散体の粉砕プロセス及び固体分散体粉末の混合プロセスを最適化することにより、固体分散体による錠剤の打錠可能性を大幅に向上させ、それによって錠剤の硬度が低く、脆性粉砕度が低く、輸送中の粉末脱落が深刻であるなどの状況を回避する。
【0010】
一態様では、本発明は、固体分散体を提供し、化合物Aと、薬学的に許容されるマトリックスポリマーとを含み、そのうち、前記薬学的に許容されるマトリックスポリマーは、腸溶性高分子ポリマー及び非腸溶性高分子ポリマーを含み、前記化合物Aは、1-{(6-[(1-メチル)-4-ピラゾリル]-イミダゾール[1,2-a]ピリジン)-3-スルホニル}-6-[(1-メチル)-4-ピラゾリル]-1-ヒドロ-ピラゾリル[4,3-b]ピリジンであり、前記化合物Aと前記薬学的に許容されるマトリックスポリマーとの重量比は、1:3~1:35である。
【0011】
さらに、前記固体分散体は、任意に流動化剤、可塑剤及び界面活性剤のうちの1種、2種又は3種をさらに含む。
【0012】
本発明の具体的な実施形態において、好ましくは、前記腸溶性高分子ポリマーは、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMCAS)、ポリアクリル酸メチル、ポリビニルアセテートフタル酸エステル(PVAP)、フタル酸酢酸セルロース(酢酸フタル酸セルロース)及びコハク酸酢酸セルロースから選ばれる1種又は複数種であり、より好ましくは、前記腸溶性高分子ポリマーは、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート及び/又はヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートである。
【0013】
本発明の具体的な実施形態において、好ましくは、前記非腸溶性高分子ポリマーは、ポリビニルカプロラクタム-ポリ酢酸ビニル-ポリエチレングリコールグラフトコポリマー(Soluplus)、コポビドン(即ち、N-ビニルピロリドン/酢酸ビニルコポリマー、PVP/VA)、ポビドン(即ち、ポリビニルピロリドン、PVP)、ポリビニルアルコール、2-ヒドロキシ-β-シクロデキストリン(HPBCD)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)及びヒドロキシプロピルセルロース(HPC)から選ばれる1種又は複数種であり、より好ましくは、前記非腸溶性高分子ポリマーは、コポビドン、ポリビニルアルコール、ポビドン及びヒドロキシプロピルメチルセルロースから選ばれる1種又は複数種である。
【0014】
本発明の特定の実施形態では、前記薬学的に許容されるマトリックスポリマーはヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートとポビドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートとコポビドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートとポビドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートとヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートとポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートとコポビドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートとポリビニルアルコール、フタル酸酢酸セルロースとポビドン、又はコハク酸酢酸セルロースとコポビドンという任意の組み合わせを含む。
【0015】
本発明の1つの具体的な実施形態において、前記腸溶性高分子ポリマーと前記非腸溶性高分子ポリマーとの重量比は、2:1~10:1であってもよく、好ましくは2:1~6:1であり、例えば、2:1、2.5:1、3:1、3.5:1、4:1、4.5:1、5:1又は6:1である。
【0016】
本発明の1つの具体的な実施形態において、前記化合物Aと前記薬学的に許容されるマトリックスポリマーとの重量比は、1:4~1:25であってもよく、好ましくは1:5~1:15であり、例えば、1:4、1:5、1:5.5、1:6、1:7.5、1:8、1:9、1:10、1:12、1:15又は1:21である。体内pK試験により、化合物Aと薬学的に許容されるマトリックスポリマーとの重量比が1:4~1:25である場合、製造された固体分散体の溶解度を向上させるとともに、化合物Aの体内での露出量を顕著に向上させることができることが分かった。
【0017】
本発明の具体的な実施形態において、前記化合物Aと前記腸溶性高分子ポリマーとの重量比は、1:2~1:15であってもよく、より好ましくは1:3~1:10であり、例えば、1:3、1:4、1:4.5、1:5、1:6、1:8又は1:10である。
【0018】
本発明の具体的な実施形態において、前記化合物Aと前記非腸溶性高分子ポリマーとの重量比は、2:1~1:10であってもよく、好ましくは2:1~1:5であり、より好ましくは1:1~1:5、又は1:2~1:5であり、例えば、2:1、1:1、1:1.5、1:2、1:2.5、1:3、1:5、1:8、又は1:10である。
【0019】
本発明の具体的な実施形態において、前記流動化剤は、本分野の通常の流動化剤であってもよく、好ましくは、前記流動化剤は、コロイドシリカ、動物脂肪、植物脂肪及びワックスから選ばれる1種又は複数種であり、例えば、コロイドシリカである。前記流動化剤の使用量は、本分野の流動化剤の通常の使用量に応じて選択することができ、好ましくは、前記流動化剤と前記化合物Aとの重量比は、1:1~1:100であり、好ましくは1:4~1:50であり、例えば、1:6、1:10、1:15、1:20、1:30、1:50、1:80又は1:100である。
【0020】
本発明の具体的な実施形態において、可塑剤の存在は、前記固体分散体の加工性を向上させることができ、前記可塑剤は、本分野の通常の可塑剤であってもよく、好ましくは、前記可塑剤がO-アセチルクエン酸トリブチル、O-アセチルクエン酸トリエチル、安息香酸ベンジル、アセトンクロロホルム、デキストリン、フタル酸ジブチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジメチル、グリセリン、モノステアリン酸グリセリル、ステアリン酸ポリオキシル40、マンニトール、鉱物油、ラノリンアルコール、パルミチン酸、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリ酢酸ビニル、プロピレングリコール、2-ピロリドン、ソルビトール、ステアリン酸、トリアセチン、クエン酸トリブチル、トリエタノールアミン及びクエン酸トリエチルから選ばれる1種又は複数種であり、より好ましくは、前記可塑剤は、モノステアリン酸グリセリル及び/又はステアリン酸ポリオキシル40などのガラス転移温度が低い可塑剤である。
【0021】
前記可塑剤の使用量は、本分野の可塑剤の通常の使用量に応じて選択することができ、好ましくは、前記可塑剤と前記化合物Aとの重量比は、1:1~1:20であり、好ましくは1:1~1:5であり、例えば、1:1.5、1:2、1:2.5、1:5、1:10、1:15又は1:20である。
【0022】
本発明の具体的な実施形態において、前記界面活性剤は、本発明の固体分散体の治療ポテンシャルをさらに強化することができる。前記界面活性剤は、本分野の通常の界面活性剤であってもよく、好ましくは、前記界面活性剤は、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤及び非イオン性界面活性剤から選ばれる1種又は複数種である。
【0023】
前記陰イオン性界面活性剤は、好ましくはドデシル硫酸ナトリウム(ラウリル硫酸ナトリウム)及び/又はポリエステルナトリウムである。前記陽イオン性界面活性剤は、好ましくはセトリミド、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム及びラウリン酸のうちの1種又は複数種である。前記非イオン性界面活性剤は、好ましくはポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(例えば、ツイーン80、60、40及び20)、ポリオキシエチレンヒマシ油誘導体(例えば、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(Cremophor RH40))、ポリオキシエチレンステアリン酸エステル及びポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテルブロックコポリマー(例えば、ポロキサマー)のうちの1種又は複数種である。より好ましくは、前記界面活性剤は、ドデシル硫酸ナトリウム、ポリエステルナトリウム、ラウリン酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油誘導体、ポロキサマー及びポリオキシエチレンステアリン酸エステルのうちの1種又は複数種である。最も好ましくは、前記界面活性剤は、ドデシル硫酸ナトリウム及び/又はポリオキシエチレンステアリン酸エステルである。
【0024】
前記界面活性剤の使用量は、本分野の界面活性剤の通常の使用量に応じて選択することができ、好ましくは、前記界面活性剤と前記化合物Aとの重量比は、1:1~1:10であり、好ましくは、1:1~1:5であり、例えば、1:2.5、1:3、1:4、1:5、1:8又は1:10である。
【0025】
本発明の具体的な実施形態において、前記固体分散体は、化合物A、薬学的に許容されるマトリックスポリマー、流動化剤及び可塑剤を含み、そのうち、前記薬学的に許容されるマトリックスポリマーは、腸溶性高分子ポリマー及び非腸溶性高分子ポリマーを含む。
【0026】
本発明の具体的な実施形態において、前記固体分散体は、化合物A、薬学的に許容されるマトリックスポリマー、流動化剤及び可塑剤で構成され、そのうち、前記薬学的に許容されるマトリックスポリマーは、腸溶性高分子ポリマー及び非腸溶性高分子ポリマーを含む。
【0027】
本発明の具体的な実施形態において、前記固体分散体は、化合物A、薬学的に許容されるマトリックスポリマー、流動化剤、可塑剤及び界面活性剤を含み、そのうち、前記薬学的に許容されるマトリックスポリマーは、腸溶性高分子ポリマー及び非腸溶性高分子ポリマーを含む。
【0028】
本発明の具体的な実施形態において、前記固体分散体は、化合物A、薬学的に許容されるマトリックスポリマー、流動化剤、可塑剤及び界面活性剤で構成され、そのうち、前記薬学的に許容されるマトリックスポリマーは、腸溶性高分子ポリマー及び非腸溶性高分子ポリマーを含む。
【0029】
本発明において、薬学的に許容されるマトリックスポリマーが腸溶性高分子ポリマー及び非腸溶性高分子ポリマーを含む場合、前記固体分散体の溶解度を向上させることができるだけでなく、固体分散体の加工性の向上にも有利である。発明者らは、従来技術を基に通常の固体分散体技術を用いて化合物Aに対して可溶化と吸収促進を行うように試みたが、研究結果により、通常の方法に応じて単一のマトリックスポリマーで製造した化合物Aの固体分散体にいずれも一定の問題があり、例えば、通常の非腸溶性マトリックスポリマーであるコポビドンを単独で用いて製造した化合物Aの固体分散体が模擬腸液での90分間の溶出度が90%未満であり、過飽和安定性が低く、バイオアベイラビリティが6.3%のみ(比較実施例3、実験実施例2、3、4)であることが発見し、腸溶性マトリックスポリマーであるヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートを単独で用いて製造した化合物Aの固体分散体は、化合物Aの溶解度をわずかに向上させることができるが、時間の経過とともに溶解度が低下し、これは、薬物析出現象が発生し、過飽和状態安定性が低く(比較実施例4)、薬物吸収の向上に不利であることを示し、体内研究結果により、そのバイオアベイラビリティが12.4%のみ(実験実施例4)であることを示した。
【0030】
本発明者らはさらに意外に、本発明の固体分散体が模擬腸液において安定な平均粒径100~200nmの混合型ミセルを形成できることを発見し、さらにミセル可溶化原理により薬物の溶解度を顕著に向上させるとともに、薬物沈殿をさらに回避し、薬物の過飽和維持時間を延ばし、薬物のバイオアベイラビリティを向上させる。本発明の固体分散体は、通常の固体分散体薬物が沈殿しやすいという欠点を克服する。
【0031】
別の態様では、本発明は、
(1)前記固体分散体の各成分を溶融又は溶解により均一に混合して均一な分散体を得るステップと、
(2)前記均一な分散体を固化して固体分散体を得るステップとを含む前記固体分散体の製造方法をさらに提供する。
【0032】
本発明の具体的な実施形態において、前記固化は、溶媒揮発法又は溶融押出法などであってもよく、好ましくは溶融押出法である。
【0033】
前記溶融押出法(ホットメルト押出法)は、熱及び/又は機械的応力を印加することで均一な分散体を製造し、具体的には、溶融押出法は、化合物A、薬学的に許容されるマトリックスポリマーなどの薬物と、可塑剤などの補助材料とを溶融状態で混合し、押出して固体分散体を形成する。当該方法は、薬物(例えば、結晶薬物)を加熱溶融した後に非晶質又は分子状態で担体材料(薬学的に許容されるマトリックスポリマー)に分散させ、最終的に難溶性薬物の溶解度、溶出速度及び経口バイオアベイラビリティを向上させることができる。前記溶融押出法で得られた均一な分散体は、溶融体とも呼ばれ、「溶融体」とは、液体状態又はゴム類似状態を指し、そのうち一つの成分が他の成分に均一に包埋される可能性がある。一般に、一つの成分が溶融し、他の成分が溶融物に溶解して溶融体を形成する。溶融体の形成は、通常、薬用マトリックスポリマーの軟化点に関し、溶融体の製造は、様々な方法によって行うことができる。成分の混合は、溶融体の形成前、形成中又は形成後に行うことができる。例えば、まず成分の混合を行い、次に、加熱するか又は同時に混合し加熱する。通常、溶融体において活性物質は、均一に分散すべきであり、溶融体は、ペースト状又は粘稠状を呈する。通常、本発明において作業温度は、押出機のタイプ又は使用する押出機の構造のタイプによって決定される。押出機内の成分の溶融、混合、溶解に必要なエネルギーの一部は、加熱素子によって提供することができる。押出機内の材料の摩擦及びせん断は、混合物に大量のエネルギーを提供し、成分の均一な溶融体の形成に寄与することもできる。押出物は、押出機の成形モジュールによって実現することができ、固化前又は固化後に押出物をブロックに切断することができる。前記溶融押出法の押出温度は、70~250℃であり、好ましくは80~230℃であり、最も好ましくは120~210℃である。
【0034】
前記溶融押出法において、前記溶融体の生成、押出は、通常の装置で行うことができ、好ましくは押出機及びニーダーで行われる。前記押出機は、単軸押出機、二軸押出機又は他の多軸押出機を含むロッド式押出機であってもよく、好ましくは二軸押出機であり、それは、順方向又は逆方向に回転可能であり、かつ任意にニーディングディスクが取り付けられる。
【0035】
本発明の一つの好ましい実施形態において、前記溶融押出法は、
(1a)前記固体分散体の各成分を均一に混合して粉末状混合物を得ることと、
(2a)前記粉末状混合物をホットメルト押出機フィーダーに入れ、押出し、粉砕し、篩分け処理して化合物Aを含む固体分散体を得ることとを含む。
【0036】
前記溶融押出法において、溶融押出装置のスリーブ温度は、150~220℃であり、好ましくは150~200℃、150~180℃、180~200℃であり、より好ましくは160~180℃である。温度が150~200℃である場合、温度上昇やスクリュー回転数低下(滞留時間上昇)による不純物の増加を回避できる。
【0037】
前記溶融押出法において、溶融押出装置のスクリュー押出回転数は、50~300rpmであり、好ましくは50~240rpm、50~180rpm、100~210rpm又は180~240rpmである。
【0038】
前記溶融押出法において、供給速度は、10~100rpm、好ましくは50~100rpm又は50~70rpmである。
【0039】
前記溶融押出法において、例えば、薬学的に許容されるマトリックスポリマーが腸溶性高分子ポリマーであるヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート又はポリビニルアセテートフタル酸エステルを含む場合、押出スリーブ温度、スクリュー回転数及び供給速度を制御することで不純物であるフタル酸の含有量の増加を回避することができる。
【0040】
好ましくは、固体分散体中のフタル酸の含有量は、(固体分散体の総成分で)6wt%以下であり、より好ましくは、フタル酸の含有量は、4.8wt%以下である。
【0041】
別の好ましい実施形態では、前記溶媒揮発法は、
(1b)前記固体分散体の各成分を溶媒に溶解して、均一な分散体を得るステップと、
(2b)前記均一な分散体中の溶媒を除去して前記固体分散体を得るステップとを含む。
【0042】
前記ステップ(1b)において、前記溶媒は、本分野の通常の溶媒であってもよく、好ましくは前記溶媒は、ケトン系溶媒、ハロゲン化アルカン系溶媒、アルコール系溶媒及び水から選ばれる1種又は複数種である。前記ケトン系溶媒は、好ましくはアセトンである。前記アルコール系溶媒は、好ましくはイソプロパノール、メタノール及び/又はエタノールである。前記ハロゲン化アルカン系溶媒は、好ましくは塩素化アルカンであり、より好ましくはジクロロメタン又はトリクロロメタンである。前記溶媒は、アセトン、アセトン/ジクロロメタン、メタノール/ジクロロメタン、アセトン/水、アセトン/メタノール、アセトン/エタノール、ジクロロメタン/エタノール又はエタノール/水などから選ばれ、そのうち、「/」は、両者の混合溶媒を表す。
【0043】
ステップ(2b)における溶媒除去方法は、本分野の通常の溶媒除去方法であってもよく、好ましくは、回転蒸発、真空減圧乾燥、噴霧乾燥、凍結乾燥及び薄膜蒸発であり、又は、低温凍結及び凍結乾燥により溶媒除去を実現してもよく、溶媒制御の沈殿、pH制御の沈殿及び低温共研磨などの他の技術を使用してもよい。
【0044】
別の態様では、本発明は、前記固体分散体と薬学的に許容される添加剤とを含む固形製剤をさらに提供する。
【0045】
前記固形製剤において、前記薬学的に許容される添加剤は、本分野の通常の薬学的に許容される添加剤であってもよく、好ましくは、前記薬用添加剤は、流動化剤、結合剤、崩壊剤、充填剤、着色剤、pH調整剤、界面活性剤、潤滑剤、安定剤(例えば、酸化防止剤、光安定剤、ラジカル捕捉剤、微生物攻撃に対抗する安定剤など)などのうちの1種又は複数種を含む。前記添加剤の具体的な選択範囲及び使用量は、本分野の通常の選択である。
【0046】
前記固形製剤において、前記結合剤は、本分野の通常の結合剤であってもよく、好ましくは、前記結合剤は、コポビドン、ポビドン、メチルセルロース、エチルセルロース及びヒドロキシプロピルセルロースから選ばれる1種又は複数種である。
【0047】
前記固形製剤において、前記着色剤は、本分野の通常の着色剤であってもよく、前記着色剤の使用量は、本分野の通常の使用量であってもよい。
【0048】
前記固形製剤において、前記崩壊剤は、固形製剤が胃で迅速に崩壊することを促進し、かつ放出された顆粒同士の分離を保持する。好ましくは、前記崩壊剤は、架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム及び/又は架橋ポリビニルピロリドン(すなわち、架橋ポビドンPVPP)などの架橋ポリマーを含む。
【0049】
前記固形製剤において、好ましくは、前記充填剤は、乳糖、ショ糖、マンニトール、リン酸水素カルシウム、微結晶セルロース、澱粉及びイソマルトースから選ばれる1種又は複数種である。
【0050】
前記固形製剤において、好ましくは、前記結合剤は、ポビドン、コポビドン、メチルセルロース、エチルセルロース及びヒドロキシプロピルセルロースなどから選ばれる1種又は複数種である。そのうち、薬学的に許容されるマトリックスポリマーとしてのポビドン、コポビドンは、結合剤の役割を果たしてもよい。
【0051】
前記固形製剤において、好ましくは、前記潤滑剤は、ポリエチレングリコール(例えば、分子量が1000~6000である)、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム及びフマル酸ステアリルナトリウムなどから選ばれる1種又は複数種である。
【0052】
前記固形製剤において、好ましくは、前記pH調整剤は、本分野の通常のpH調整剤であり、好ましくはクエン酸である。
【0053】
前記固形製剤は、膜コーティングをさらに含み、膜コーティングは、味を改善し精緻な外観を提供することができ、例えば、錠剤の膜コーティングは、嚥下の快適性に寄与することができる。前記膜コーティングは、本分野の通常の膜コーティングであってもよく、前記膜コーティングは、防湿性コーティングであってもよい。前記膜コーティングは、通常、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース及びアクリル酸エステル又はプロピオール酸メチルコポリマーなどの重合成膜材料を含む。膜コーティングは、重合成膜材料に加えて、ポリエチレングリコールなどの可塑剤、ツイーンなどの界面活性剤、タルクなどの粘着防止剤、及び二酸化チタン又は酸化鉄などの任意の顔料を含んでもよい。これらの添加剤は、固形製剤の総重量の約0~約20%を占めることができる。
【0054】
本発明の具体的な実施形態において、好ましくは、前記固体分散体は、前記固形製剤の質量の60~90%であってもよい。
【0055】
本発明の具体的な実施形態において、好ましくは、前記薬用添加剤は、前記固形製剤の質量の15~40%であってもよい。
【0056】
別の態様では、本発明は、前述の固体分散体の粉末又は粒子を薬用添加剤と混合して固形製剤を製造するというステップを含む前述固形製剤の製造方法をさらに提供する。
【0057】
好ましくは、前記固体分散体の粉末又は粒子は、前記固体分散体を粉砕、ミリング又は研磨して得られる。
【0058】
固形製剤を製造する過程で、本発明はさらに、固体分散体の粉砕プロセスに対する最適化、及び混合プロセスに対する最適化により、製品の固体分散体で製造された固形製剤の錠剤の打錠性を大幅に向上させ、製剤の錠剤の硬度が低く脆性が低く輸送と粉末脱落が深刻であるなどの状況を回避する。例えば、ホットメルト押出法を用いて固体分散体を製造する場合、粉砕回転数が5000~5400rpmであり、又は/及び篩分けメッシュ数が60~120メッシュである場合、製造された固体分散体が良好な粒径分布を有し、それによって固形製剤を製造する過程での打錠性を効果的に向上させる。固形製剤を製造する場合、固体分散体と薬用添加剤との混合時間が20~40minであるとき、得られた混合物は、良好な混合均一性を有し、かつその打錠性が高く、製造された製剤の錠剤の硬度は、約80~135Nである。従って、粉砕プロセスパラメータ及び混合プロセスの最適化と制御により、固体分散体で製造された錠剤の打錠性を効果的に向上させ、それによって固形製剤の薬用可能性を向上させることができる。
【0059】
本発明の固形製剤は、2mg~1500mgの化合物Aを含有してもよい。患者は、一般的には、成人又は小児であってもよく、他の哺乳動物を治療してもよい。
【0060】
本発明が提供する固形製剤は、粘膜を介して患者に投与するのに適する製剤であり、すなわち粘膜に投与して膜を透過して吸収することができる。そのため、適切な投与経路は、吸入による投与、経口投与、鼻腔内投与及び直腸投与を含む。特に好ましくは経口投与である。当業者であれば、投与経路に応じて錠剤、カプセル剤又は他の製剤形態を選択することができる。しかし、他の投与経路、例えば、腸管外を排除するものではない。例えば、本発明に係る固形製剤は、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤などであってもよい。
【0061】
本発明の固形製剤は、他の態様で得られた固形製剤よりも高いバイオアベイラビリティを有し、本発明の一つの具体的な実施形態において、化合物Aの固形製剤の相対バイオアベイラビリティは、微粉化製剤の1000%以上であり、化合物Aの固形製剤の相対バイオアベイラビリティは、通常の固体分散体製剤の600%以上であり、化合物Aの固形製剤の絶対バイオアベイラビリティは、40%より大きい(実験実施例4参照)。バイオアベイラビリティの向上は、通常の製剤(例えば、通常の微粉化製剤IR錠剤)を用いて観察される相当の暴露量の必要な使用量を低減することに寄与し、薬物の有効治療量を低減し、薬物の治療効果を向上させ、薬物のコストを削減し、薬物の毒性や副作用を低減することができる。
【0062】
別の態様では、本発明は、前記固体分散体又は固形製剤のタンパク質チロシンキナーゼ障害の関連疾患及び/又は腫瘍を予防及び/又は治療するための薬物の製造における用途をさらに提供する。
【0063】
本発明の好ましい実施形態において、前記タンパク質チロシンキナーゼ障害の関連疾患及び/又は腫瘍は、固形癌を含み、例えば、肺癌、胃癌、食道癌、結腸癌、結腸直腸癌、肝臓癌、腎細胞癌、頭頸部癌、甲状腺癌、卵巣癌、乳癌、膵臓癌、前立腺癌、口腔癌、悪性膠癌、横紋筋肉癌又は骨癌であるが、これに限定されない。
【0064】
好ましくは、前記疾患及び/又は腫瘍は、肺癌、胃癌、肝臓癌、腎細胞癌、卵巣癌、乳癌、膵臓癌、前立腺癌又は甲状腺癌である。
【0065】
より好ましくは、本明細書に記載の疾患及び/又は腫瘍は、肺癌、特に非小細胞肺癌(NSCLC)である。
【0066】
別の態様では、本発明は、前記固体分散体又は固形製剤のC-Met阻害剤の製造における用途をさらに提供する。
【0067】
前記C-Met阻害剤は、生体内のタンパク質チロシンキナーゼ障害に関連する細胞異常増殖、形態変化及び運動機能亢進に関連する疾患、血管新生又は癌転移に関連する疾患の予防又は治療に用いられ、例えば、腫瘍成長と転移の治療又は予防に用いられる薬物である。
【0068】
別の態様では、本発明は、タンパク質チロシンキナーゼ障害の関連疾患及び腫瘍を予防及び/又は治療するための方法をさらに提供し、有効量の前記固体分散体又は固形製剤をそれを必要とする個体に投与することを含む。
【0069】
別の態様では、本発明は、前記固体分散体又は固形製剤を含むセットキットを提供する。
【0070】
本明細書に用いられる「治療」は、疾患又は病症又はその症状(例えば、癌)に対する、軽減、治癒、症状緩和、症状減少、生存期間延長及び進展遅延を含むが、これらに限定されないために、必要な個体に本発明の組み合わせを投与することを含み、癌の場合、前記治療は、固形腫瘍の成長を抑制すること、腫瘍体積を減少させること、腫瘍の転移及び微小転移の成長又は発展を予防することなどを含む。「進展遅延」とは、前記組み合わせを、癌の治療を待つ前段階又は早期にある患者、対応する癌のプレフォームが診断された及び/又は対応する癌が進展する可能性がある状況にあると診断された患者に投与することを指す。
【0071】
本明細書に用いられる「予防」は、疾患又は病証又はその症状(例えば、癌)の発生又は発生頻度に対する抑制又は遅延を含み、通常、病証又は症状の発生前、特にリスクを有する個体の病証又は症状の発生前の薬物の投与を指す。「予防」は、癌の発生や再発を防止することをさらに含む。
【0072】
本明細書で使用される「有効量」とは、本開示の活性剤を(i)~(iii)のために使用する量(例えば、治療有効量、特に併用治療有効量)を指す。(i)特定の疾患の治療、(ii)特定の疾患の1種又は複数種の症状の軽減、改善又は解消、又は(iii)本明細書に記載の特定の疾患の1種又は複数種の症状の発症の予防又は遅延。癌の場合、治療有効量の活性剤は、癌細胞の数を減少させ、腫瘍の大きさを小さくし、癌細胞の周囲の器官への浸潤を阻害(すなわち、ある程度で緩和し、好ましくは停止)し、腫瘍転移を阻害(すなわち、ある程度で緩和し、好ましくは停止)し、腫瘍の成長をある程度で阻害し、及び/又は癌に関連する1種又は複数種の症状をある程度で緩和することができる。
【0073】
本明細書に用いられる「個体」又は「患者」とは、哺乳動物及び非哺乳動物を指す。哺乳動物とは、哺乳類の任意のメンバーを指し、ヒト、非ヒト霊長類動物、牛、馬、羊、豚、ウサギ、犬及び猫などを含むが、これらに限定されない。「個体」の場合、特定の年齢や性別を限定しない。好ましくは、個体又は患者は、ヒトである。
【0074】
本発明に用いられる「薬学的に許容される」とは、無毒で生物学的に耐えられ、個体への投与に適したものを指す。
【0075】
本発明に用いられる「薬学的に許容される塩」とは、化合物Aの無毒の、生物学的に耐えられ個体への投与に適した酸付加塩又は塩基付加塩を指し、塩酸塩、臭化水素酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩、硫酸塩、亜硫酸塩、硝酸塩等などの化合物Aと無機酸とで形成した酸付加塩、ギ酸塩、酢酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、メタンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、2-ヒドロキシエタンスルホン酸塩、安息香酸塩、サリチル酸塩、ステアリン酸塩などの化合物Aと有機酸とで形成した酸付加塩、及び化合物Aと式HOOC-(CH-COOH(式中、nは、0~4である)のアルカンジカルボン酸とで形成した塩などを含むが、これらに限定されない。「薬学的に許容される塩」は、化合物Aと薬学的に許容されるナトリウム、カリウム、カルシウム、アルミニウム、リチウム及びアンモニウムなどの陽イオンとで形成した塩基付加塩も含む。
【0076】
本明細書に用いられる「ポリマー」とは、共有結合により連結された繰り返し構造単位で構成されるマクロ分子を指す。当該用語は、直鎖状及び分岐状ポリマー、環状ポリマー(例えば、環状オリゴ糖(シクロデキストリンを含む)、ホモポリマー及びコポリマー)を含む。
【0077】
本明細書に用いられる「マトリックスポリマー」とは、低吸湿性及び高軟化温度を示す材料を指し、ポリマー又は2種又は複数種のポリマーのブレンドを含む。
【0078】
本明細書に用いられる「高軟化温度」とは、示差走査熱量測定(DSC)により測定された材料のガラス転移温度(Tg)又は融点(Tm)>100℃を指し、ここで、Tgは、非晶性又は形態のポリマーに適する量であり、Tmは結晶性又は形態のポリマーに適したメトリックである。
【0079】
本明細書に用いられる「界面活性剤」とは、薬学的に許容される界面活性剤を指す。
【0080】
本明細書に用いられる「固体分散体」とは、化合物を賦形剤担体に分散させる体系を指す。当該体系における薬物の状態に対して、固体分散体は、このような意味で、薬物が結晶化又は非結晶化薬物の離散ドメイン又は独立分子で賦形剤担体内に分散した組成物を含むことができる。薬物-賦形剤複合体全体に対して、固体分散体は、丸剤、錠剤、フィルム又はミセルなどの比較的大きな固体物質であってもよく、又はそれらはミクロンオーダー又はナノスケールの一次粒子又はその凝集体で構成される自由流動粉末として存在してもよい。本発明において、固体分散体の定義は、ドライブレンド又はウェットブレンド又はドライブレンド操作による物理混合物及び化合物結晶と他の補助材料との単純な混合物を含まない。
【0081】
本明細書に用いられる用語「AUC」は、薬物血中濃度時間曲線下面積を指し、その通常の意味、すなわち、例えば、0から24時間までの血漿濃度-時間曲線下の面積を使用する。AUCは、濃度に時間を乗じた単位を有する。試験濃度-時点が決定されると、AUCは、例えば、コンピュータプログラム又はラダー法によって容易に計算され得る。
【0082】
本分野の常識に違反しない限り、上記各好ましい条件を任意に組み合わせると、本発明の各好ましい実施例が得られる。
【0083】
本発明に用いられる試薬及び原料は、いずれも市販されている。
【0084】
本発明の積極的な進歩効果は、以下のとおりである:
本発明の固体分散体は、化合物Aの溶解度及び溶解安定性を顕著に向上させ、薬物の過飽和維持時間を延ばして化合物Aの固形製剤のバイオアベイラビリティを向上させることができる。本発明の固形製剤は、高いバイオアベイラビリティを有する。バイオアベイラビリティが高いため、通常の製剤で観察される相当暴露量に必要な用量が少なく、薬物の有効治療用量を低減し、薬物の治療効果を向上させ、薬物コストを削減し、薬物の毒性や副作用を低減することができる。
【0085】
本発明はさらに、固体分散体を製造するプロセス、特に押出プロセスを改良することにより、分散体における成分の分解を効果的に制御し、それによって分散体の不純物含有量を低減する。本発明はさらに、固体分散体粉砕プロセスと固体分散体粉末の混合プロセスを最適化することにより、固体分散体で製造された錠剤の打錠性を大幅に向上させ、それによって錠剤の硬度が低く、脆性粉砕度が低く、輸送中の粉末脱落が深刻であるなどの状況を回避する。
【図面の簡単な説明】
【0086】
図1図1は、本発明の製造実施例1で製造された固体分散体を5%SDS-模擬腸液で希釈した後の粒径図である。
図2図2は、本発明の製造実施例5、6、7及び比較実施例1、3で製造された各種の固形製剤の体外溶出比較図(n=6)である。
図3図3は、本発明の製造実施例5で製造された固形製剤の加速条件で6ヶ月放置した後の体外溶出と0ヶ月の体外溶出の比較図(n=6)である。
図4図4は、本発明の製造実施例6で製造された固形製剤の加速条件で6ヶ月放置した後の体外溶出と0ヶ月の体外溶出の比較図(n=6)である。
図5図5は、本発明の製造実施例7で製造された固形製剤の加速条件で6ヶ月放置した後の体外溶出と0ヶ月の体外溶出の比較図(n=6)である。
図6】本発明の製造実施例5、6、7及び比較実施例1、3で製造された各種の固形製剤の溶解安定性の考察図である。
【発明を実施するための形態】
【0087】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明を前記実施例の範囲に限定するものではない。以下の実施例において具体的な条件が明確に記載されない実験方法は、通常の方法及び条件に従って、又は商品説明書に従って選択される。
【0088】
本発明において、使用される試薬、装置の由来及び商品名は、いずれも初めて現れる時に明記され、その後に使用される同じ試薬は、特に明記されない限り、いずれも初めて明記された内容と同じであり、通常、注釈されない試薬は、国薬集団化学試薬有限公司から購入される。ここで、化合物Aは、上海薬物研究所によってCN104230922Aに開示された方法に従って自ら合成された。
【0089】
実験動物:ビーグル犬、雄性、体重8~10kg。由来は、上海薬物研究所実験動物センターである。被験動物は、試験日の3~7日間前に試験場所で適応飼育した。
実施例1
【化1】
【0090】
製造方法:ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(50.0重量部)(日本信越化学工業株式会社、HP-55)、コポビドン(25.0重量部)(PVP/VA64、BASF)、ステアリン酸ポリオキシル40(5.0重量部)(湖南爾康製薬株式会社、S40)、ドデシル硫酸ナトリウム(4.0重量部)(BASF)を化合物A(10.0重量部)及びコロイドシリカ(1.0重量部)(EVONIK、Aerosil)と混合し、次に当該粉末状混合物を、押出回転数100rpm及び温度190℃の二軸押出機(スクリュー径11mm、Thermo Scientific)に入れ、混合物をスクリューによりストランド状に押出し、ホットメルト押出したストランド状物を粉砕処理して60メッシュの篩にかけ、化合物Aを含む固体分散体1を得た。
【0091】
固体分散体1の粉末に5%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)及びpH6.8の模擬腸液(水1リットルあたりに6.8gのリン酸二水素カリウム及び0.944gの水酸化ナトリウムを含有する)を加えて溶解した後に形成したポリマーミセルの粒径を測定し(Zetasizer Nano ZSレーザー粒度計、英国マルバーン機器有限公司)、測定した本製品の平均粒径は、182.3nmであった(図1)。
【0092】
固体分散体1と化合物Aの原薬粉末をそれぞれ異なる濃度のSDS界面活性剤(1%、3%、5%)を含有するpH6.8の模擬腸液に入れて化合物Aの溶解度を測定し(37℃、100rpmで6h振とう)、そのうち、固体分散体群を3h、6hの時点でサンプリングし、測定結果を表1に示す。当該測定結果により、本発明で製造された固体分散体1が原薬化合物Aの溶解度を顕著に向上させることができ、かつ固体分散体1が6hの時点でも良好な溶解度を保持でき、結晶化しないことを示した。
【表1】
【0093】
注意:水1リットルあたり、ドデシル硫酸ナトリウム10g、リン酸二水素カリウム6.8g及び水酸化ナトリウム0.944gを含有し、
水1リットルあたり、ドデシル硫酸ナトリウム30g、リン酸二水素カリウム6.8g及び水酸化ナトリウム0.944gを含有し、
水1リットルあたり、ドデシル硫酸ナトリウム50g、リン酸二水素カリウム6.8g及び水酸化ナトリウム0.944gを含有する。
【0094】
固体分散体1粉末を加速条件(40℃±2℃、75%±5%RH)で6ヶ月放置した後に溶解度を測定し(37℃、100rpmで6h振とう)、上記1%、3%、5%SDS-pH6.8の模擬腸液における溶解度は、それぞれ153.4μg/mL、449.6μg/mL、875.3μg/mLであった。加速条件で6月放置した後、本発明の固体分散体1が依然として化合物Aに対して良好な可溶化作用を有することを示した。
【0095】
上記溶解度測定結果から明らかなように、本実施例で製造された固体分散体1は、薬物が結晶化せず、薬物の沈殿を効果的に防止することができ、かつ過飽和安定性及び長期放置安定性が良好であり、薬物の過飽和維持時間を延ばし、薬物の体内での有効な吸収を確保することができる。
実施例2
【化2】
【0096】
製造方法:ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(55.0重量部)(日本信越化学工業株式会社、HP-50)、コポビドン(20.0重量部)(PVP/VA64、BASF)、モノステアリン酸グリセリル(6.0重量部)(湖南爾康製薬株式会社)、ドデシル硫酸ナトリウム(6.0重量部)を化合物A(15.0重量部)及びコロイドシリカ(1.0重量部)と混合し、次に当該粉末状混合物を押出回転数150rpm及び温度200℃の二軸押出機(スクリュー径11mm)に入れ、混合物をスクリューによりストランド状に押出し、ホットメルト押出したストランド状物を粉砕処理して100メッシュの篩にかけ、化合物Aを含む固体分散体2を得た。
【0097】
固体分散体2を異なる濃度のSDS界面活性剤(1%、3%、5%)を含有するpH6.8の模擬腸液に入れて化合物Aの溶解度を測定した(37℃、100rpmで6h振とう)。測定により、化合物Aを含む固体分散体2は、1%SDS-pH6.8の模擬腸液において溶解度が115.70μg/mLであり、上記3%SDS-pH6.8の模擬腸液において溶解度が424.5μg/mLであり、上記5%SDS-pH6.8の模擬腸液において溶解度が723.1μg/mLであった。当該試験結果により、化合物Aを含む固体分散体2が化合物Aの溶解度を顕著に向上できることを示した。
実施例3
【化3】
【0098】
製造方法:ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(50.0重量部)(日本信越化学工業株式会社、型番:HF)、ポビドン(15.0重量部)(PVP K12、BASF)、ドデシル硫酸ナトリウム(4.0重量部)(BASF)、モノステアリン酸グリセリル(12.0重量部)(湖南爾康製薬株式会社)を化合物A(12.0重量部)及びコロイドシリカ(2.0重量部)と混合し、次に当該粉末状混合物を押出回転数100rpm及び温度180℃の二軸押出機(スクリュー直径11mm)に入れ、混合物をスクリューによりストリップ状に押出し、ホットメルト押出したストリップ状物を粉砕処理して90メッシュの篩にかけ、化合物Aを含む固体分散体3を得た。
【0099】
固体分散体3を5%SDS-pH6.8の模擬腸液に入れて化合物Aの溶解度を測定し(37℃、100rpmで6h振とう)、測定により、化合物Aを含む固体分散体3は、5%SDS-pH6.8の模擬腸液において溶解度が815.5μg/mLであった。当該試験結果により、化合物Aを含む固体分散体3が化合物Aの溶解度を顕著に向上でき、かつ安定であることを示した。
実施例4
【化4】
【0100】
製造方法:ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(60.0重量部)(型番:HP-50)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(15.0重量部)(HPMC HME 15 LV、米国デュポン社)、ドデシル硫酸ナトリウム(2.0重量部)、ステアリン酸ポリオキシル40(8.0重量部)、コロイドシリカ(2.0重量部)及び化合物A(8.0重量部)をアセトン/ジクロロメタン(体積比2:1)混合溶媒に溶解し、次に当該溶媒をロータリーエバポレーターで30℃で乾燥させ、得られた物質を40℃の真空乾燥ボックスで12h以上乾燥させて残留の有機溶媒を除去し、得られた固体物質を粉砕処理して60メッシュの篩にかけ、化合物Aを含む固体分散体4を得た。
【0101】
固体分散体4を5%SDS-pH6.8の模擬腸液に入れて化合物Aの溶解度を測定し(37℃、100rpmで3h及び6h振とう)、測定により、化合物Aを含む固体分散体4は、5%SDS-pH6.8の模擬腸液において3h、6hの時点での溶解度がそれぞれ765.5と715.6μg/mLであった。当該測定結果により、化合物Aを含む固体分散体4が化合物Aの溶解度を顕著に向上させることができ、かつ長い過飽和維持時間があり、薬物吸収に有利であることを示した。
実施例5
【0102】
実施例1で製造された固体分散体1(95.0重量部)をコポビドン(17.4重量部)(PVP/VA64、BASF)、架橋ポビドン(3.6重量部)(米国国際特品会社)及びフマル酸ステアリルナトリウム(1.0重量部)(ドイツJRS集団薬用補料会社)と均一に混合し、単発式打錠機で585.0mgの錠剤にプレスした。次に、錠剤をコーティングパンに入れ、60℃の温度で薄膜コーティング用水性分散液(Opadry、上海カラコンコーティング技術有限公司)を用いて錠剤に対して薄膜コーティングを行い、化合物Aを含有する固形製剤1を得て、当該固形製剤は、錠剤であった。
実施例6
【0103】
実施例2で製造された固体分散体2(103.0重量部)を、微結晶セルロース(13.2重量部)(台湾名台化工株式会社)、アルファ化澱粉(8.0重量部)(上海カボコンコーティングテクノロジー株式会社)、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(4.8重量部)(日本信越化学工業株式会社)及びステアリン酸マグネシウム(1.0重量部)(安徽山河薬用株式会社)と均一に混合し、充填式カプセル充填機を用いて0#カプセルで260mg/ショットに応じてカプセルを充填し、化合物Aを含有する固形製剤2を得て、当該固形製剤は、カプセル剤であった。
実施例7
【0104】
実施例3で製造された固体分散体3(95.0重量部)を、乳糖(12.0重量部)(オランダDFE Pharma社製)、架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム(4.0重量部)及びフマル酸ステアリルナトリウム(1.0重量部)と均一に混合し、単発式打錠機で467mgの錠剤にプレスした。次に、錠剤をコーティングパンに入れ、60℃の温度で薄膜コーティング用水性分散液(Opadry、上海カラコンコーティング技術有限公司)を用いて錠剤に対して薄膜コーティングを行い、化合物Aを含有する固形製剤3を得て、当該固形製剤は、錠剤であった。
実施例8
【化5】
【0105】
製造方法:ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(45.0重量部)(日本信越化学工業株式会社)、コポビドン(10.0重量部)(PVP/VA64、BASF)、ステアリン酸ポリオキシル40(5.0重量部)(Croda Singapore Pte Ltd)と化合物A(10.0重量部)及びコロイドシリカ(0.5重量部)(JRS)とを前処理して均一に混合し、粉末状混合物を得た。次に、当該粉末状混合物を押出回転数100~240rpm及び温度160~200℃の二軸押出機(スクリューの直径18mm、LEISTRITZ)に入れ、供給速度50~70rpmで、混合物をスクリューによってストリップ状に押出し、押出物を急速冷間圧延ローラーで押圧して冷却し、ホットメルト押出のストリップ状物をハンマー式粉砕機に入れて粉砕処理し、化合物Aを含む固体分散体5を得た。
【0106】
本実施例において、得られた粉末状混合物に対して、それぞれ異なるプロセスパラメータの溶融押出装置を通って異なる化合物Aを含む固体分散体を得て、DSC及びXRPD測定により、これらの分散体は、いずれもアモルファスであった。なお、製造過程での固体分散体の分解生成物であるフタル酸をそれぞれ測定し、結果を以下の表2に示す。
【表2】
【0107】
結果から分かるように、ホットメルト押出温度が高くなるにつれてフタル酸の分解レベルが高くなり、スクリュー回転数及び供給速度が低くなるにつれてフタル酸の分解レベルが高くなった。プロセスパラメータの最適化により、温度上昇及び滞留時間の延長による不純物であるフタル酸の増加を効果的に回避することができた。
【0108】
この実施例において、固体分散体の粉砕プロセスについても研究し、研究により、粉砕回転数が5000~5400rpmであり、又は/及び粉砕後の篩分けのメッシュ数が60~120メッシュである場合、製造した固体分散体が比較的良好な粒径分布(例えば、D90<200μm)を有し、それによって固形製剤を製造する過程での打錠性を効果的に向上させることを発見した。
実施例9
【0109】
実施例8で製造された固体分散体5(75.0重量部)とコポビドン(16.0重量部)(PVP/VA64、BASF)、架橋ポビドン(20.5重量部、ASHLAND)、クエン酸(2.0重量部、Merck)を混合バケット内において混合し、混合回転数は、10rpmであり、混合時間は20~40minであり、次にドデシル硫酸ナトリウム(3.0重量部、BASF)及びフマル酸ステアリルナトリウム(0.6重量部、JRS)を添加して潤滑混合し、混合回転数は10rpmであり、混合時間は、3~10minであり、均一に混合された総混合粉末を得た。フェイト打錠機で打錠して600mgの錠剤にプレスし、対応する製剤4を得た。
【0110】
この実施例において、固体分散体5を混合して打錠する際に、異なる混合プロセスを研究して、錠剤を製造する場合の錠剤の打錠性を考察した。結果から分かるように、固体分散体と薬用添加剤との混合時間が20~40minである場合、得られた総混合粉末は、良好な混合均一性を有し、かつ総混合粉末の打錠性が良好であり、錠剤の硬度が約80~135Nであった。また、薬用添加剤を添加して混合する場合、特に界面活性剤及び潤滑剤(あれば)を添加する場合、潤滑混合時間を10min以内に制御する際に得られた総混合粉末の打錠性が良好であった。潤滑混合時間が長すぎると、粉末の打錠性に悪影響を与えるという問題があり、得られた錠剤の硬度が50~70Nであり、脆性に悪影響を与える。
実施例10
【化6】
【0111】
製造方法:ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(35.0重量部)(HP-55、日本信越化学工業株式会社)、コポビドン(5.0重量部)(PVP/VA64、BASF)、ステアリン酸ポリオキシル40(5.0重量部)(Croda Singapore Pte Ltd)と化合物A(10.0重量部)及びコロイドシリカ(0.5重量部、EVONIK)とを混合し、粉末状混合物を得た。次に当該混合物を異なる製造方法で処理して対応する固形製剤を得た。
【0112】
製造方法1):粉末状混合物をジクロロメタン/メタノール(体積比10:1)混合溶媒に溶解し、溶解後、当該溶媒をロータリーエバポレーターで40℃で乾燥させた後、サンプルを真空乾燥オーブン(40℃、真空度0.9bar)に移して一晩(12h以上)放置して残留の有機溶媒を除去し、得られた乾燥物を研磨粉砕した後に80メッシュの篩にかけ、化合物Aを含む固体分散体6粉末を得た。
【0113】
製造方法2):粉末状混合物を押出機のスクリュー回転数120rpm及び温度175℃の二軸押出機に入れ、混合物をスクリューによりストランド状に押出し、ホットメルト押出したストランド状物を粉砕処理した後に80メッシュの篩にかけ、化合物Aを含む固体分散体7粉末を得た。
【0114】
分散体粉末の溶解挙動及びX線回折で2つのプロセスで製造された固体分散体を考察すると、両者の溶解度に有意差がなく、薬物に対する可溶化能力が同一であることを発見した。
【0115】
固体分散体6(55.5重量部)、固体分散体7(55.5重量部)をそれぞれコポビドン(18.5.0重量部)(PVP/VA64、BASF)、架橋ポビドン(20.5重量部、ASHLAND)、クエン酸(2.0重量部、Merck)と混合バケットに入れ、混合回転数は、15rpmであり、混合時間は20minであり、ドデシル硫酸ナトリウム(3.0重量部、BASF)及びフマル酸ステアリルナトリウム(0.5重量部、JRS)を添加して潤滑させ、混合回転数は、15rpmであり、混合時間は、5minであり、均一に混合された総混合粉末を得た。打錠機で打錠して500mgの錠剤にプレスした後、化合物Aを含有する固形製剤T1、T2をそれぞれ得た。
【表3】
【0116】
表3から分かるように、溶媒揮発法によって製造された固形製剤T1の溶出速度は、ホットメルト押出法によって製造された固形製剤T2の溶出速度よりも速いが、30min後、両者は、完全に放出し、両者の溶出挙動は、ほぼ一致し、有意差がなく、これは、溶媒揮発法、ホットメルト押出法という2つのプロセスによって製造された製剤の品質がほぼ一致することを示し、それによって固体分散体6、7の溶解度に有意差がないと推測した。
【0117】
なお、固形製剤T1、T2でそれぞれビーグル犬(北京瑪斯生物技術有限公司、n=6)に対してバイオアベイラビリティの測定を行い、薬物動態測定方法は、実験実施例4における実施例5と同様であり、LC-MS/MSでサンプル中の化合物Aの濃度を測定し、WinNonLin(8.3版、Pharsight)を用いて非コンパートメントモデルに応じて、ビーグル犬の投与後の化合物Aの薬物動態パラメータを計算した。
【表4】
【0118】
結果により、溶媒揮発法(回転蒸発)により製造された固形製剤T1の相対バイオアベイラビリティが溶融押出法により製造された固形製剤T2の相対バイオアベイラビリティの57.67%であることを示した。
実施例11
【化7】
【0119】
製造方法:ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(58.0重量部)(日本信越化学工業株式会社)、ポリビニルアルコール(15.0重量部)(Merck)、ステアリン酸ポリオキシル40(10.0重量部)(南京威爾化工株式会社)を化合物A(12.0重量部)及びコロイドシリカ(2.0重量部)と混合し、次に当該粉末状混合物を押出回転数200rpm及び温度200℃の二軸押出機(スクリュー径16mm)に入れ、混合物をスクリューによりストランド状に押出し、ホットメルト押出したストランド状物を粉砕処理した後に60メッシュの篩にかけ、化合物Aを含む固体分散体8を得た。
【0120】
固体分散体8を5%SDS-pH6.8の模擬腸液に入れて化合物Aの溶解度を測定し(37℃、100rpmで6h振とう)、測定により、化合物Aを含む固体分散体8は、5%SDS-pH6.8の模擬腸液において6hの溶解度が657.8μg/mLであった。当該試験結果により、化合物Aを含む固体分散体8が化合物Aの溶解度を顕著に向上できることを示した。
比較実施例
比較実施例1
【0121】
化合物Aをジェットミル(MC JETMILL-50、JETPHARMA SOLUTIONS SA社)で平均粒径が約20μm(12.5重量部)になるまで微粉化処理し、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(57.7重量部)、ステアリン酸ポリオキシル40(4.7重量部)、ドデシル硫酸ナトリウム(2.3重量部)、コロイドシリカ(0.9重量部)、コポビドン(17.3重量部)(PVP/VA64、BASF)、架橋ポビドン(3.6重量部)及びフマル酸ステアリルナトリウム(1.0重量部)と均一に混合し、単発式打錠機で400.0mgの微粉化IR錠剤にプレスした。次に、錠剤をコーティングパンに入れ、60℃の温度で薄膜コーティング用水性分散液(Opadry、上海カラコンコーティング技術有限公司)を用いて錠剤に対して薄膜コーティングを行い、化合物Aを含有する通常の固形製剤Iを得て、当該固形製剤は、通常の微粉化製剤であった。
比較実施例2
【0122】
化合物A(0.3重量部)を、プロピレングリコール(40.7重量部)(米国ダウ・ケミカル社)、ポリオキシエチレンヒマシ油(59.0重量部)(BASF)を適切な容器に入れ、化合物Aが完全に溶解するまで70~110℃で300rpmの速度で撹拌し、化合物Aを含有し濃度が3mg/mL(1wt%)である液体製剤を得て、化合物Aを含有する液体製剤IIを得た。
比較実施例3
【化8】
【0123】
製造方法:コポビドン(75.0重量部)(PVP VA64、BASF)、ステアリン酸ポリオキシル40(5.0重量部)(湖南爾康製薬株式会社、S40)、ドデシル硫酸ナトリウム(4.0重量部)(BASF)を化合物A(10.0重量部)及びコロイドシリカ(1.0重量部)(EVONIK、Aerosil)と混合し、次に当該粉末状混合物を押出回転数100rpm及び温度170℃の二軸押出機(スクリュー直径11mm、Thermo Scientific)に入れ、混合物をスクリューによりストリップ状に押出し、ホットメルト押出したストリップ状物を粉砕処理して60メッシュの篩にかけ、化合物Aを含む固体分散体10を得た。
【0124】
固体分散体10(95.0重量部)をコポビドン(17.4重量部)(PVP VA64、BASF)、架橋ポビドン(3.6重量部)(米国国際特品会社)及びフマル酸ステアリルナトリウム(1.0重量部)(ドイツJRS集団薬用補料会社)と均一に混合し、単発式打錠機で585.0mgの錠剤にプレスした。次に、錠剤をコーティングパンに入れ、60℃の温度で薄膜コーティング用水性分散液(Opadry、上海カラコンコーティング技術有限公司)を用いて錠剤に対して薄膜コーティングを行い、化合物Aを含有する通常の固体分散体製剤IIIを得て、当該固形製剤は、腸溶性高分子ポリマーを含有しない固体分散体で製造された固形製剤であった。
比較実施例4
【化9】
【0125】
製造方法:ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(40.0重量部)(型番:HP-50)、ステアリン酸ポリオキシル40(5.0重量部)(湖南爾康製薬株式会社、S40)、ドデシル硫酸ナトリウム(4.0重量部)(BASF)を化合物A(10.0重量部)及びコロイドシリカ(1.0重量部)と混合し、次に当該粉末状混合物を、押出回転数150rpm及び温度180℃の二軸押出機(スクリュー径11mm)に入れ、混合物をスクリューによりストランド状に押出し、化合物Aを含む固体分散体11を得た。
【0126】
固体分散体11をSDS界面活性剤(1%)を含有するpH6.8の模擬腸液に入れて化合物Aの溶解度を測定した(37℃、100rpmで3h、6h振とう)。測定により、化合物Aを含む固体分散体6の1%SDS-pH6.8の模擬腸液における3hの溶解度が53.7μg/mLであり、6hの溶解度が43.3μg/mLであり、当該測定結果により、化合物Aを含む固体分散体6が化合物Aの溶解度をわずかに向上させることができるが、時間が経るにつれて、溶解度が低下したことを示し、薬物析出現象が生じ、過飽和状態の安定性が低く、薬物吸収に不利であることを示した。
【0127】
固体分散体11(300.0重量部)を、乳糖(100.0重量部)、架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム(20.00重量部)及びフマル酸ステアリルナトリウム(2.00重量部)と均一に混合し、単発式打錠機で422mgの錠剤にプレスし、化合物Aを含む固体分散体製剤IVを得た。
比較実施例5
【化10】
【0128】
製造方法:ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(80.0重量部)(型番:HP-50)、コポビドン(50.0重量部)(PVP VA64、BASF)、ドデシル硫酸ナトリウム(1.0重量部)、モノステアリン酸グリセリル(25.0重量部)、コロイドシリカ(1.0重量部)及び化合物A(50.0重量部)を混合し、次に当該粉末状混合物を押出回転数150rpm及び温度200℃の二軸押出機(スクリュー直径11mm)に入れ、混合物をスクリューによりストリップ状に押出し、得られた固体物質を粉砕処理して60メッシュの篩にかけ、化合物Aを含む固体分散体12(本発明の重量部の範囲外の固体分散体)を得た。
【0129】
固体分散体12をSDS界面活性剤(1%)を含有するpH6.8の模擬腸液に入れて化合物Aの溶解度を測定した(37℃、100rpmで3h、6h振とう)。測定により、化合物Aを含む固体分散体6の1%SDS-pH6.8の模擬腸液における3hの溶解度が31.3μg/mLであり、6hの溶解度が22.4μg/mLであり、当該測定結果により、化合物Aを含む固体分散体12が化合物Aに対する溶解度向上作用が極めて小さく、かつ時間が経るにつれて、溶解度が低下したことを示し、薬物析出現象が生じ、過飽和状態の安定性が低く、薬物吸収の向上に不利であることを示した。
【0130】
固体分散体12(207.0重量部)を、乳糖(50.0重量部)、架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム(10.00重量部)及びフマル酸ステアリルナトリウム(2.00重量部)と均一に混合し、単発式打錠機で269mgの錠剤にプレスし、化合物Aを含む固体分散体製剤Vを得た。
実験実施例
実験実施例1
【0131】
平衡溶解度及び浸透率考察
平衡溶解度の考察:一連の溶媒における化合物Aの原料の溶解度を考察し、主な溶媒は、水、pH1.2の模擬胃液(水1リットルあたり2gの塩化カリウム及び7mLの塩酸を含む)、pH4.5のリン酸塩緩衝液(水1リットルあたり12.9gのクエン酸及び0.63gのリン酸水素二ナトリウムを含む)、pH6.8の模擬腸液を含み、化合物Aを約0.1g取り、それぞれ100mLの上記溶媒に添加し、37℃のシェーカーで100rpmで24h振とうし、上澄み液を取って8000rpmで15min遠心分離した後にHPLCにより化合物Aの濃度を測定した。様々な媒体における化合物Aの溶解度を表5に示す。
【表5】
【0132】
浸透率の考察:Caco-2細胞モデルを用いて化合物Aの浸透性を評価した。LC/MS/MS法を用いて化合物A、陽性対照薬であるアテロール、プラノロール及びジゴキシンの濃度を測定し、見かけの浸透係数(Papp)及び見かけの浸透係数の比率をPapp比率=Papp(B→A)/Papp(A→B)に従って計算し、かつこれに基づいて当該化合物の浸透性及びそれがP-gpの基質であるか否かを評価した。結果を表6に示す。
【表6】
【0133】
表6から、上記溶解度試験結果において、化合物Aは、様々なpH媒体における溶解度がいずれも1μg/mL未満であり、ほとんど不溶性又は不溶性薬物であることが分かり、表6における浸透率の考察結果により、化合物Aが高浸透性の特徴を有し、高濃度の場合、薬物の溶解度に起因して浸透係数が低濃度の場合と大きく異なり、2.00及び50.0μMの濃度範囲においてCaco-2細胞に顕著なエキソサイトーシスがなかった。
実験実施例2
【0134】
体外溶出試験考察
上記実施例5、実施例6及び実施例7で製造された固形製剤1、2、3並びに比較実施例1及び比較実施例3で製造された固形製剤I、IIIを取り、中国薬局方2015年版4部通則(0931)第二法装置(パドル法)に従って溶出度試験を行った。単一用量単位の各製剤を37℃及び50rpmの撹拌速度で1000mLの5%SDS-pH6.8の模擬腸液に置き、5、10、15、30、45、60及び90min後、8mLのサンプルを取り出して液体を同体積補充した。取り出したサンプルを3倍希釈した後、紫外-可視分光光度法(中国薬局方2015年版4部通則0401)により、316nmの波長でそれぞれ吸光度を測定し、対応する製剤の溶出量を計算し、かつ溶出曲線を作成した(図2参照)。
【0135】
実施例5、6、7で製造された固形製剤1、2、3を40±2℃、75%±5%RHの加速条件下で6ヶ月放置した後に上記と同じ条件で薬物の溶出挙動を測定し、溶出曲線を作成した(図3図4及び図5参照)。
【0136】
図2~5から分かるように、実施例5、6、7で製造された固形製剤1、2、3は、IRの通常の製剤I(通常の微粉化製剤、比較実施例1)及び通常の固体分散体製剤III(非腸溶性高分子ポリマーを含有する固体分散体のみで製造された固形製剤、比較実施例3)よりも化合物Aの溶出速度及び溶解度を顕著に向上させることができ、かつ加速条件で放置した後の本発明の固形製剤は、溶出挙動が顕著に変化せず、薬物に対する可溶化効果が良好で、安定性が良好であった。
実験実施例3
【0137】
溶解安定性考察
上記実施例5、実施例6及び実施例7、比較実施例1及び比較実施例3で製造された製剤を取り、細かく研磨し、単一用量単位の各製剤を秤量して37℃及び100rpmの撹拌速度で250mLの3%SDS-pH6.8の模擬腸液に置き、1h、2h、4h、6h、8h後、サンプルを取り出して8000rpmで15min遠心分離した後、HPLCにより化合物Aの濃度を測定し、かつ時間-濃度曲線を作成した(図6参照)。
【0138】
図6から、本発明の実施例5、実施例6、実施例7で製造された固形製剤は、8h以内の溶解安定性が良好であり、過飽和状態が安定であり、薬物の吸収に有利であるが、IRの通常の製剤(通常の微粉化製剤、比較実施例1)及び通常の固体分散体製剤(腸溶性高分子ポリマーを含有しない固体分散体で製造された固形製剤、比較実施例3)は、2hで溶解度の低下が発生し、時間が経ることにつれて薬物濃度が持続的に低下することが分かり、これは、薬物析出現象が発生し、過飽和状態の安定性が低く、薬物の吸収に不利であることを示した。
実験実施例4
【0139】
イヌ体内バイオアベイラビリティ研究
上記実施例5、実施例7、比較実施例1、比較実施例3、比較実施例4及び比較実施例5で製造された製剤を取ってそれぞれ満腹ビーグル犬(n=3、上海薬物研究所実験動物センター)に経口投与した。上記実施例5、実施例7、比較実施例1、比較実施例3、比較実施例4及び比較実施例5で製造された製剤の投与量は、50mg/匹であった。試験前に食物を統一に与え、30min後に薬物を投与し、試験過程全体で水を与えることができ、ウォッシュアウト期間は、7日間であった。投与前(0h)及び投与後の0.25、0.5、1.0、2.0、4.0、6.0、8.0、12、24、48及び72hで四肢静脈から0.5mL採血し、EDTA-K抗凝固試験管に入れ、3500rpmで10min遠心分離し、血漿を分離し、-70℃の冷蔵庫で冷凍保存して測定に供えった。
【0140】
上記比較実施例2の液体製剤を取り、生理食塩水で6倍希釈した後に1mg/kgの化合物Aの用量(2mL/kg)で満腹ビーグル犬(n=3)に静脈注射投与した。試験前に食物を統一に与え、30min後に薬物を投与し、試験過程全体で水を与えることができた。投与前(0h)及び投与後の5min、0.25、0.5、1.0、2.0、4.0、6.0、8.0、12、24、48及び72hで血液サンプルを0.5mL取り、EDTA-K抗凝固試験管に入れ、3500rpmで10min遠心分離し、血漿を分離し、-70℃の冷蔵庫で冷凍保存して測定に供えった。
【0141】
LC-MSによりサンプル中の化合物Aの濃度を測定した。Phoenix6.4ソフトウェア(米国Pharsight社)の非コンパートメントモデルを用いてビーグル犬の投与後の化合物Aの薬物動態パラメータを計算し、データ概要を表7に示す。
【表7】
【0142】
結果から分かるように、比較実施例1で製造されたIRの通常の製剤(通常の微粉化製剤)、比較実施例3で製造された通常の固体分散体製剤(非腸溶性高分子ポリマーを含有する固体分散体のみで製造された固形製剤)、比較実施例4で製造された固体分散体製剤(腸溶性高分子ポリマーを含有する固体分散体のみで製造された固形製剤)、比較実施例5で製造された固体分散体製剤(本発明の重量部の範囲外の固体分散体製剤)に比べて、本発明の実施例5で製造された固形製剤1及び実施例7で製造された固形製剤3は、いずれも化合物Aのバイオアベイラビリティを顕著に向上させることができ、体内吸収が良好であった。比較実施例1、比較実施例3、比較実施例4及び比較実施例5では、体内吸収が悪かった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】