(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-31
(54)【発明の名称】対象となる基板上にグラフェン又は酸化グラフェンを直接堆積させる方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/186 20170101AFI20241024BHJP
【FI】
C01B32/186
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024527106
(86)(22)【出願日】2022-11-03
(85)【翻訳文提出日】2024-07-01
(86)【国際出願番号】 EP2022080712
(87)【国際公開番号】W WO2023079018
(87)【国際公開日】2023-05-11
(32)【優先日】2021-11-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524169283
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ピカルディ・ジュール・ヴェルヌ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ムスタファ・ジュイアド
(72)【発明者】
【氏名】ミムーン・エル・マルシ
(72)【発明者】
【氏名】ミシェル・ルジュヌ
【テーマコード(参考)】
4G146
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AB07
4G146AC11B
4G146AC16B
4G146AC20B
4G146AC30B
4G146AD21
4G146BA12
4G146BC09
4G146BC32A
4G146BC38A
4G146BC38B
(57)【要約】
本発明は、プラズマ化学気相成長法を使用して少なくとも1つの炭素前駆体のガス供給源から対象となる基板上にグラフェン又は酸化グラフェンを直接堆積させる方法に属する。本発明はまた、この方法を実施するためのデバイスに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ化学気相成長法を使用して少なくとも1つの炭素前駆体のガス供給源から基板上にグラフェン又は酸化グラフェンを堆積させる方法であって、
炭素前駆体がエチレンからなること、及びキャリヤーガスの不在下で18~40℃の温度で実施されること、を特徴とする、方法。
【請求項2】
基板が、ガラス;セルロース系材料、例えば紙又は木材;合成有機材料、例えばポリスチレン又はポリエステル、特にポリエチレンテレフタレート又はポリ(乳酸);金属、好ましくはニッケル及び銅以外の金属;金属酸化物又は金属炭化物、例えばシリカ、アルミナ又はサファイア;並びにケイ酸塩、例えばケイ酸アルミニウム及び/又はケイ酸マグネシウムから選択される材料でできていることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
グラフェンを別の基板に移す後続の工程を含まない、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記プラズマ化学気相成長が、酸化グラフェンを形成するための酸素のシングルフラッシュ後に行われることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
エチレンの流量が、5sccm~20sccm、好ましくは約10sccmであることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
必要数のグラフェン又は酸化グラフェン層の形成を可能にする継続時間、例えば単一グラフェン層を形成するためには2秒~10秒、好ましくは5秒、単一酸化グラフェン層を形成するためには40秒~80秒、好ましくは1分行われる、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
20~30℃の温度で実施される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
1.33x10
-5バール~4x10
-5バール、好ましくは約1.8x10
-5バールの圧力で実施される、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
プラズマに供給される電力は、150W~400W、好ましくは約300Wであることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
基板上にグラフェン又は酸化グラフェンを生成するのに適したデバイスであって、
- エチレンからなる炭素前駆体のガス供給源を含む容器、
- (a)基板を保持するのに適した試料台を含むプラズマチャンバーと、(b)電源を含み、プラズマチャンバーに接続されているか又はプラズマチャンバーを含むプラズマ発生器と、を含むプラズマ反応器、
- プラズマチャンバーを真空下に置くのに適した、プラズマチャンバーと流体連通したポンプ装置、並びに
- エチレンを容器からプラズマチャンバー内に供給するための手段
を含む、デバイス。
【請求項11】
プラズマチャンバー内で試料台を傾斜、揺動又は回転させる手段を含む、請求項10に記載のデバイス。
【請求項12】
電源が、直流電流、マイクロ波及び高周波を発生させるシステム、好ましくは高周波を発生させるシステム、より好ましくは容量結合高周波から選択されることを特徴とする、請求項10又は11に記載のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ化学気相成長法を使用して少なくとも1つの炭素前駆体のガス供給源から対象となる基板上にグラフェン又は酸化グラフェンを直接堆積させる方法に属する。本発明はまた、この方法を実施するためのデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
グラフェンは、ハニカム格子に配置されたsp2炭素原子からなる厚さ0.34nmの二次元結晶である。グラフェンは、炭素のいくつかの同素形に属し、それにはカーボンナノチューブ、フラーレン又はグラファイトも含まれる。この物質は、透明でありながら、高い電気伝導率(その調製方法によって異なる)、良好な機械的特性(グラフェンは同じ厚さの鋼鉄よりも300倍強靭であり、ダイヤモンドよりも硬い)、及び熱伝導率を特徴とする。グラフェンはさらに、水及びUVを遮断する。この範囲の性能特徴により、グラフェンは、したがって、ナノエレクトロニクス及びマイクロエレクトロニクスの分野、特に電界効果トランジスタ;グラフェンが透明電極に組み込まれ得る光起電力デバイス及び有機発光ダイオード(OLED);エネルギーの分野、特にリチウムイオン電池又はスーパーキャパシタ中の電極材料として;熱可塑性若しくは熱硬化性ポリマーに基づく複合材料又はセメントの製造;例えば基板の難燃性又は耐摩耗性を高めるためのコーティング;バイオセンサー;又はバイオ薬品を含む、種々の潜在的な用途の完璧な候補となる。グラフェンは、特に、柔軟及び透明な電子部品、例えばタッチスクリーンの製造に使用することができる。
【0003】
これらの用途では、グラフェンは、基板上の単層グラフェン、又は自立形単層グラフェン、数層のグラフェン(2~5炭素層)、多層グラフェン(5~10炭素層)、グラフェンナノプレートレット又はグラフェン粉末として使用される。グラフェンの存在は通常、ラマン分光法によってsp2結合炭素を特定するか、又は原子間力顕微鏡(AFM)によって実際の炭素層の数を測定することで確認される。
【0004】
グラフェンが適している多くの用途で酸化グラフェンを使用することも示唆されている。酸化グラフェンは単原子層材料でもあり、グラフェンとは違って、親水性であり、電気絶縁体として働く。酸化グラフェン(又はGrO)は、官能化グラフェンとしても知られているグラフェン様シート(rGrO)に還元されてもよい。
【0005】
グラフェンを生成するための技術の中で、化学気相成長(CVD)を挙げることができる。この方法は、通常、高温(800~1000℃)でCH4とH2を反応させて気相中で炭素を生成し、次いでそれが、反応器中に予め導入されている触媒(通常ニッケル又は銅等の遷移金属)に吸着することを含む。一般に、これらの触媒は、多結晶粒子を含む金属シートの形態である。粒子配向によって、いくつかのGr層が、触媒上で形成される。
【0006】
CVD技術の大きな欠点の1つは、グラフェンが触媒上に堆積され、このように形成されたグラフェンを対象となる基板、例えば電子用途用の誘電体基板上に移す追加の工程を必要とすることである。このために、ウェットベンチを使用して、適切な強酸化合物で金属触媒を化学的に攻撃してもよい。化学エッチング後、グラフェン薄層は、酸性溶液の上面に浮かんでいるのが見られ、特別な工具で回収される。次いで回収された層は、水で濯いでから対象となる基板上に移される。これらの移送工程は、明らかに時間がかかる。その上、これらの工程は、汚染及び構造欠陥を誘導する可能性があるので、グラフェンの性能に悪影響を及ぼし得る。
【0007】
CVD技術の中で、PECVD(プラズマCVDを表す)は、CVD法のエネルギーの一部を、高周波(RF)又はマイクロ波(MW)プラズマによってもたらされるイオン化のエネルギーで置き換えることにある。プラズマブーストによって生成される高エネルギー電子は、炭化水素前駆体のイオン化、励起及び解離を比較的低い温度で促進する。この技術は、金属触媒の不在下で所望の基板上にグラフェンを直接成長させる能力があるため、受け入れられている。
【0008】
しかしながら、PECVDによってグラフェンを成長させる試みは、475℃よりも低い温度で触媒基板上(KJ. Pengら、J. Mater. Chem.、C 2013年、1、3862)で、また450℃よりも低い温度で誘電体基板上(D.C. Weiら、Angew. Chem. Int. Ed. 2013年、52、14121)でグラフェンを生成するのに失敗している。
【0009】
上記の方法は全てメタンを炭素前駆体として使用する。しかしながら、メタンは、温室効果ガスであり、大気中の熱を閉じ込める能力が二酸化炭素の25倍と考えられている。その上、メタンは、高濃度では窒息剤として機能する場合があり、工業環境で反応物質として使用するには特別な対策が必要である。
【0010】
メタンは、種々の他の炭素前駆体、例えばPECVD法におけるエチレン等と置き換えてもよいことが米国特許第9,150,418号に既に示唆されている。しかしながら、この方法は一般に、800℃の温度で実施される。この特許の
図4及び
図6は、室温で実施される代替の方法を記載している。
図6に示されているプロセスでは、基板(銅箔又は別の基板等)は、低圧環境で維持され、次いで水素及びメタンが室温で処理チャンバーに流入され、RFプラズマが開始され、それによってグラフェンが基板上に形成されると言われている。
図4は、H
2及びCH
4が処理チャンバーに流入される前にRFプラズマが消滅される類似のプロセスを示す。前述の先行技術と同様に、これらの実施形態は、メタンを炭素前駆体として使用する。加えて、この文献は、グラフェンを形成し、同時に基板表面から酸化銅を除去するために、キャリヤーガス、好ましくは水素が、炭素前駆体と共に処理チャンバー内に流される必要があることを明らかにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】KJ. Pengら、J. Mater. Chem.、C 2013年、1、3862
【非特許文献2】D.C. Weiら、Angew. Chem. Int. Ed. 2013年、52、14121
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
これに関して、工業的及び経済的に許容可能な条件下で、すなわち有毒な反応物質、汚染金属触媒及び/又は高温を使用せずに、対象となる基板上にグラフェンを直接堆積させる方法を提供する必要性が依然として残っている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、今回、上記方法で炭素前駆体として使用されたメタンを、あらゆるキャリヤーガスの不在下でエチレンと置換し、それによってほぼ室温でグラフェンが成長することにより、この必要性が満たされる可能性かあることを見出した。
【0015】
したがって、本発明は、プラズマ化学気相成長法を使用して少なくとも1つの炭素前駆体のガス供給源から基板上にグラフェン又は酸化グラフェンを堆積させる方法において、炭素前駆体がエチレンからなり、キャリヤーガスの不在下で18~40℃の温度で実施されることを特徴とする、に属する。
【0016】
本発明はまた、基板上にグラフェン又は酸化グラフェンを生成するのに適したデバイスであって、
- エチレンからなる炭素前駆体のガス供給源を含む容器、
- (a)基板を保持するのに適した試料台を含むプラズマチャンバーと、(b)電源を含み、プラズマチャンバーに接続されているか又はプラズマチャンバーを含むプラズマ発生器と、を含むプラズマ反応器、
- プラズマチャンバーを真空下に置くのに適した、プラズマチャンバーと流体連通したポンプ装置、並びに
- エチレンを容器からプラズマチャンバー内に供給するための手段
を含むデバイスに属する。
【0017】
本発明の方法は、エチレンを使用し、これは有害ではないガスである。加えて、この方法は、室温付近の温度で実施され、したがってエネルギー消費が少なく、高温に対し感受性が高い基板上にグラフェンを堆積させるのに好適である。したがって、本発明の方法は、様々な基板に直接適用することができる。この方法はさらに、例えばプラズマで洗浄することによって基板を処理する任意の前工程の省略を可能にする。さらに、本発明の方法では、高品質、大面積のグラフェン、例えば約15x15cm2又はさらに100cm2若しくは200cm2の生成物を成長させることが可能である。本発明によるデバイスはまた、炉を必要としないため、先行技術のデバイスよりも安価である。
【0018】
本発明による方法は、少なくとも1つの炭素前駆体、すなわちエチレンのガス供給源から基板上にグラフェン又は酸化グラフェンを堆積させることを含む。
【0019】
基板は、任意の材料でできていてもよく、例えば、ガラス;セルロース系材料、例えば紙又は木材;合成有機材料、例えばポリスチレン又はポリエステル、特にポリエチレンテレフタレート又はポリ(L-乳酸)及びポリ(D,L-乳酸)を含むポリ(乳酸);好ましくはニッケル及び銅以外の金属;金属酸化物又は金属炭化物、例えばシリカ、アルミナ又はサファイア;並びにケイ酸塩、例えばケイ酸アルミニウム及び/又はケイ酸マグネシウムから選択されてもよい。基板は、任意の形状であってもよく、平らである必要はない。
【0020】
本発明では、プラズマ化学気相成長(PECVD)法を用いて堆積を行う。プラズマは、直流電流、マイクロ波、又は好ましくは高周波電圧を使用する高周波(RF)によって発生させることができる。プラズマに供給される電力は通常、150W~400W、好ましくは約300Wから構成される。
【0021】
この方法は、キャリヤーガス、特に水素、アルゴン、窒素、塩素等のハロゲン、及びその混合物から選択される任意のガスの不在下で実施される。しかしながら、この方法は、グラフェンの代わりに酸化グラフェンを形成するために、5sccm~20sccm、好ましくは10sccmの酸素の30秒~120秒、好ましくは60秒間のシングルフラッシュ後に行われてもよい。その上、エチレンは、炭素前駆体の唯一のガス供給源として使用される。ガス供給源の流量は、5sccm~20sccmであってもよく、好ましくは約10sccmである。
【0022】
前述のように、堆積及び任意選択の酸素のシングルフラッシュの両方を含む本発明の方法は、18~40℃、例えば20~30℃の温度で実施される。これは通常、必要数のグラフェン又は酸化グラフェン層の形成を可能にする継続時間、例えば単一グラフェン層を形成するためには2秒~10秒、好ましくは5秒、単一酸化グラフェン層を形成するためには40秒~80秒、好ましくは1分行われる。その上、この方法は通常、1.33x10-5バール~4x10-5バール、好ましくは約1.8x10-5バールの圧力で実施される。
【0023】
必要とされる層が堆積された後、エチレン流を停止させ、次いで基板をプラズマチャンバーから取り出すことができる。
【0024】
したがって、単一工程でグラフェン又は酸化グラフェンを基板上に直接形成することが可能である。この基板は、触媒特性を有する必要はないが、対象となる任意の基板であり得るので、本発明の方法は一般に、グラフェンを別の基板に移す後続の工程を含まない。その上、この方法は通常、基板の任意の前処理工程、例えば水素若しくはアルゴンプラズマ処理、化学エッチング、物理的加工、イオンビーム衝撃、超音波洗浄、電解研磨、又はレーザーアブレーションを含まない。プラズマチャンバーを本発明の方法以外の目的で使用する場合、この方法は、例えば任意選択で基板の存在下でアルゴンをチャンバー内に流入することによって、プラズマチャンバーを洗浄する予備工程を含み得る。
【0025】
本発明はまた、上記の方法の実行に適したデバイスに属する。したがって、このデバイスは、エチレンからなる炭素前駆体のガス供給源を含む容器を含む。この容器は、プラズマ反応器と流体連通しており、プラズマ反応器はプラズマ発生器と基板を保持するのに適した試料台を含むプラズマチャンバーとを含む。エチレンを容器からプラズマチャンバー内に供給するための手段が提供されている。酸化グラフェンを形成しなければならない場合には、本発明のデバイスは、酸素をプラズマチャンバー内に導入するための手段をさらに含み得る。質量流量制御装置は、ガス供給源の流れを制御するために提供されている場合がある。本発明のデバイスは、プラズマチャンバーを真空下に置くのに適したポンプ装置をさらに含む。ポンプ装置とプラズマチャンバーを接続する真空ラインには、1つ又は複数の圧力計及び任意選択で1つ又は複数の真空制御弁が備えられていてもよい。プラズマチャンバーは、管の形態であってもよく、通常石英、アルミナ、ガラス又は任意の他の非反応性材料でできている。本発明の実施形態によれば、デバイスは、プラズマチャンバー内で試料台を傾斜、揺動又は回転させる手段をさらに含んでもよく、それによって基板のいくつかの面又は全面がグラフェン又は酸化グラフェンでコーティング可能になる。その上、グラフェン形成を制御するために、プラズマチャンバーは、光学装置、特に光ファイバーケーブルを用いてプラズマチャンバーに接続された光学分光計と連結することができる。代替的又は追加的に、プラズマチャンバーは、グラフェン形成中に生成した水素等の副産物を検出及び分析するために、質量分析計と接続していてもよい。
【0026】
最後に、プラズマチャンバーは、一般にプラズマチャンバー外にガス(グラフェン形成中に生成した水素等)を排出するための手段を備えている。
【0027】
プラズマチャンバーは、電源を含むプラズマ発生器に接続されているか、又はその中に少なくとも部分的に含まれる。電源は、直流電流、マイクロ波及び高周波を発生させるシステム、好ましくは高周波を発生させるシステム、より好ましくは容量結合高周波から選択されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明に基づいて得られたGrのX線回折図を表す図である。
【
図2】本発明に基づいて得られたGrOのX線回折図を表す図である。
【
図3】本発明の基づくケイ素基板上に堆積されたGrのラマンスペクトルを表す図である。
【
図4】振動モードを示す、本発明に基づくガラス基板上に堆積されたGrのラマンスペクトルを表す図である。
【
図5】振動モードを示す、本発明に基づくガラス基板上に堆積されたGrOのラマンスペクトルを表す図である。
【
図6】200~800nmの範囲の石英基板上に堆積されたGrの光学吸光度を示す図である。
【
図7】グラフェンの電気抵抗率(電圧掃引+/-0.3V)を表す図である。
【
図8】本実験で使用されている非被覆Si基板と比較して、種々の厚さ(1~4層)のグラフェンの層でできたフィルムの仕事関数のばらつきを示す図である。
【
図9】その厚さ(1~4層)によるグラフェンフィルムの電流のばらつきを示す図(
図9A)、及び、その厚さ(1~4層)によるグラフェンフィルムの抵抗のばらつきを示す図(
図9B)である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、例示的な目的でのみ示し、添付の請求項によって定義されている本発明の範囲を制限するものではない、以下の実施例に鑑みてより良く理解されるであろう。
【実施例】
【0030】
(実施例1)
グラフェン及び酸化グラフェンフィルムの調製
カスタム処理チャンバーを備えた標準的な容量プラズマPECVDデバイスを使用した。プラズマ反応器の電力は300Wであり、チャンバー内の圧力を10-5バールに設定した。生成すべき所望のGrの層の数に応じて、エチレンガスを、5秒以上の10sccmの流れで、ガラス基板を含有するチャンバーに導入した。
【0031】
GrOを生成するため、上の工程を実施する前に酸素のシングルフラッシュを10sccmで60秒行った。
【0032】
(実施例2)
グラフェン及び酸化グラフェンフィルムの分析及び特性
実施例1に基づいて得られたGr及びGrOを分析してそれらの結晶構造を確認した。
【0033】
種々の実験をさらに行って、成長したままのグラフェン及び酸化グラフェンの特性を測定した。必要な場合に、これらの実験で使用した基板上に実施例1の方法を直接再現した。
【0034】
XRD分析:
成長したままのグラフェンのX線回折図を、高分解能D8 Discover Bruker回折計(Cu Kアルファ放射線、0.154nm)で、2シータ揺動モードで5°~90°の範囲において実施した。
【0035】
図1及び
図2に示すように、本発明に基づいてPECVDによって成長したGr及びGrOは、一般に文献に記載されているものと同じ結晶構造を示した。
【0036】
ラマン分光法:
CCD検出器を装備したマイクロラマンRenishaw分光計を使用して、成長したままのグラフェンのラマンスペクトルを室温で記録した。励起(532nm)のために緑色レーザーを使用した。記録したスペクトルは、レーザー出力0.8mW、積算5回において露光時間20秒で1000cm-1~3500cm-1から得られた。
【0037】
図3~
図5に示すように、本発明に基づいてPECVDによって成長したGr及びGrOは、一般に文献に記載されているものと同じスペクトルを示した。Gr及びGrOの典型的な振動の存在は、製造が成功したことのサインである。最適化シーケンスに従って2つの陰影を分離した。
【0038】
UV-VIS近IR:
成長したままのグラフェンの光学的特性は、モノクロメーターを備えたUV-可視-近赤外分光光度計JASCO V-670を使用し、反射モード及び透過モードの両方において2nmステップでスペクトル範囲200~1500nmで操作して得た。
【0039】
図6は、本発明のPECVD単層Grで記録された透過率を示し、これは文献で報告されている透過率、特に光学的挙動で観察される270~300nmの遷移と類似しているようである。
【0040】
電気的測定:
電気的測定は、Solartron ImpedanceアナライザーSI-12060を使用して、成長したままのグラフェンについて室温で実施した。
【0041】
+/-8ボルトを印加し、プローブを2つ使用して発生した電流を測定した。
【0042】
本発明に基づいて得られたPECVD Grに対して行った電気的測定は、数層のCVD Grで得られたものと同じ程度の抵抗率(約6KΩ-1)を示す。
【0043】
グラフェン仕事関数の測定:
走査プローブベースの技術、いわゆるケルビンプローブフォース顕微鏡(KPFM)を使用して、グラフェン層の仕事関数を測定した。この方法により、5nmレベルまでの空間分解能で試料の仕事関数の測定が可能になる。本発明に基づいて製造したグラフェンの固有のナノスケール電子的特性を確認するために、絶縁Si基板上に種々の厚さのフィルムを調製した。
図8に見られるように、グラフェン層の仕事関数を、層の数に応じて測定した。
【0044】
そのままのグラフェンの仕事関数は、剥き出しのSi基板と比較して300meV増加を示す。興味深いことに、異なる厚さのフィルムに対する仕事関数の値は、平均値付近の約4.65 eVでなぜか安定している。この値は、バルクのグラファイトのものに近づく。この観察は、通常機械的剥離、SiC上のエピタキシー又はCVDによって調製される入手可能な文献で報告されているグラフェン層とは対照的である。これらの後者のタイプのグラフェンでは、仕事関数は、下にある基板に応じて層の数と共に増加又は減少することが観察されている。それらのばらつきは、基板とグラフェンの間の電荷の界面移動によって説明された。全てのフィルム厚に対する本発明者らのグラフェンフィルムの仕事関数が比較的安定な値であることは、この場合の界面の品質がより高いことを示す。
【0045】
ナノスケールにおけるグラフェンの抵抗の測定:
ナノスケールで伝導率(又は抵抗)を測定することは、いわゆる電流検出型原子間力顕微鏡(C-AFM)を使用して行う。この方法は、電流増幅器に接続された走査電極としてナノメートル電流検出型AFMプローブを使用し、AFMチップと背面電極の間に電圧差を印加することによって、層を流れる電流(背面電極への実験的な接続に応じて垂直又は横方向)を測定した。
【0046】
厚さが異なる(1LG~4LG)本発明に基づくグラフェンフィルムの電流及び抵抗を測定し、結果を
図9(
図9A及び
図9B)に報告する。
【0047】
これらの図から分かるように、グラフェンフィルムの抵抗は、1LG及びSi基板と比較して、2LGでは1桁程度減少し、より厚いグラフェンフィルムが面内伝導性用途に有利になる。
【国際調査報告】