(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-31
(54)【発明の名称】叢状神経線維腫の治療又は予防に使用するためのニトロキソリン
(51)【国際特許分類】
A61K 31/47 20060101AFI20241024BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20241024BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241024BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241024BHJP
A61K 31/4184 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
A61K31/47
A61P25/00
A61P35/00
A61P43/00 105
A61K31/4184
A61P43/00 121
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024527790
(86)(22)【出願日】2022-11-18
(85)【翻訳文提出日】2024-05-13
(86)【国際出願番号】 GB2022052933
(87)【国際公開番号】W WO2023089328
(87)【国際公開日】2023-05-25
(32)【優先日】2021-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521362427
【氏名又は名称】ヒールクス リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HEALX LTD
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100230891
【氏名又は名称】里見 紗弥子
(72)【発明者】
【氏名】デイビッド ブラウン
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
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4C086ZB21
4C086ZB26
4C086ZC75
(57)【要約】
本発明は、叢状神経線維腫の治療又は予防に使用するための、ニトロキソリン又はその薬学的に許容される塩を含む組成物に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
叢状神経線維腫の治療又は予防に使用するための、ニトロキソリン又はその薬学的に許容される塩を含む組成物。
【請求項2】
叢状神経線維腫の治療における、請求項1に記載の使用するための組成物。
【請求項3】
前記治療又は予防の対象が神経線維腫症I型を有する、請求項1又は2に記載の使用するための組成物。
【請求項4】
前記治療又は予防の前記対象がヒトである、前述の請求項のいずれか一項に記載の使用するための組成物。
【請求項5】
前記組成物が、30mg~600mg、好ましくは50mg~500mg、より好ましくは100mg~400mg、更により好ましくは150mg~350mg、最も好ましくは200mg~300mgのニトロキソリンを含む、前述の請求項のいずれか一項に記載の使用するための組成物。
【請求項6】
投与が1日2回の用量で行われる、前述の請求項のいずれか一項に記載の使用するための組成物。
【請求項7】
前記用量がニトロキソリン45mg~900mg、好ましくは75mg~750mg、より好ましくは150mg~600mg、更により好ましくは225mg~525mg、最も好ましくは300mg~450mgである、請求項6に記載の使用するための組成物。
【請求項8】
投与が1日3回の用量で行われる、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用するための組成物。
【請求項9】
前記用量が、ニトロキソリン30mg~600mg、好ましくは50mg~500mg、より好ましくは100mg~400mg、更により好ましくは150mg~350mg、最も好ましくは200mg~300mgである、請求項8に記載の使用するための組成物。
【請求項10】
投与が1日4回の用量で行われる、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用するための組成物。
【請求項11】
前記用量がニトロキソリン15mg~500mg、好ましくは50mg~400mg、より好ましくは100mg~300mg、更により好ましくは125mg~225mg、最も好ましくは150mg~200mgである、請求項10に記載の使用するための組成物。
【請求項12】
経口又は静脈内投与される、前述の請求項のいずれか一項に記載の使用するための組成物。
【請求項13】
非経口、経皮、舌下、直腸又は吸入投与により投与される、請求項1~11のいずれか一項に記載の使用するための組成物。
【請求項14】
ニトロキソリン又は薬学的に許容される塩が、前記組成物中の唯一の活性剤である、前述の請求項のいずれか一項に記載の使用するための組成物。
【請求項15】
前記組成物が、セルメチニブ又はその薬学的に許容される塩を更に含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の使用するための組成物。
【請求項16】
セルメチニブ又はその薬学的に許容される塩を含む第2の組成物と組み合わせて使用するためのものであり、前記2つの組成物が、前記対象に同時に、別々に、又は連続的に投与される、請求項1~14のいずれか一項に記載の使用するための組成物。
【請求項17】
セルメチニブの量が、1mg~75mg、好ましくは5mg~50mg、より好ましくは10mg~35mg、最も好ましくは15mg~30mgである、請求項15又は16に記載の使用するための組成物。
【請求項18】
叢状神経線維腫の治療又は予防に使用するための薬剤の製造のための、ニトロキソリン又はその薬学的に許容される塩の使用。
【請求項19】
請求項2~17に記載の追加の特徴のいずれかを有する、請求項18に記載の使用。
【請求項20】
ニトロキソリン又はその薬学的に許容される塩を含む組成物を患者に投与することを含む、叢状神経線維腫を治療又は予防する方法。
【請求項21】
請求項2~17に記載の追加の特徴のいずれかを有する、請求項20に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニトロキソリンの新しい用途に関する。
【背景技術】
【0002】
神経線維腫は、末梢神経系における良性神経鞘腫瘍である。症例の90%では、これらは独立した腫瘍として発見されるが、残りは常染色体優性遺伝疾患である神経線維腫症I型(NF1)の患者で発見される。神経線維腫は、身体的変形や痛みから認知障害に至るまで、様々な症状を引き起こす可能性があり、また悪性腫瘍に変化する可能性がある。
【0003】
叢状神経線維腫は、発達初期に皮膚の神経から、又は脳神経や近位の大きな末梢神経鞘などのより内部の神経束から発生する。叢状神経線維腫は、シュワン細胞(SC)、線維芽細胞、脱顆粒マスト細胞、及び血管細胞で構成される(Hirota S et al.,Arch Pathol Lab Med.1993;117(10):996-9)。叢状神経線維腫は進行的に拡大し、生涯にわたる罹病及び死亡の原因となる可能性があり、生涯で悪性末梢神経鞘腫瘍に変化する発生率は10~15%である。
【0004】
NF1は、ニューロフィブロミンというタンパク質をコードするNF1腫瘍抑制遺伝子の生殖細胞系列変異によって引き起こされる。ニューロフィブロミンはGTPase活性化(GAP)タンパク質として機能し、活性なGTP結合型を不活性なGDP結合型に変換することで細胞内シグナル伝達タンパク質Rasを不活性化する。これは次にRas活性の下方制御につながる。ニューロフィブロミン活性の喪失によりRas活性が増加し、これにより細胞の成長と増殖に必要な多くの遺伝子の転写が促進される。叢状神経線維腫は、NF1患者の約15%~40%に現れる。
【0005】
内部叢状神経線維腫は、組織の複数の層を貫通して広がり、手術を試みると健康な組織又は臓器に損傷を与えるため、手術で完全に除去するのは非常に困難である。叢状神経線維腫は、ある特定の領域で発生した場合に重度の臨床的合併症を引き起こす可能性を含め、外観の損傷、神経学的欠損、及び他の臨床的欠損を引き起こす可能性がある。
【0006】
また、叢状神経線維腫を治療するための薬理学的標的を同定するために多大な努力がなされてきた。特に、叢状神経線維腫は頻繁に、開発中の薬剤の転用取り組み及びリポジショニングの標的となっている。このタスクには、多くの異なる標準と方法が適用されている。多くの場合、転用候補は主に臨床パターンマッチングに基づいて特定されているが、他の場合では、治療標的を同定するために基本的な疾患機序が広範に研究され、その後、徹底的な前臨床検証が行われている。
【0007】
現在のところ、手術が依然として主な治療選択肢である。しかしながら、それらは大きく、組織の境界を横切る可能性があるため、除去は困難である。2020年、FDAは、症候性で手術不能な叢状神経線維腫を患う2歳以上のNF1小児患者の治療として、MEK阻害剤Koselugo(セルメチニブ)を承認した。しかし、すべての患者が治療に反応するわけではなく、腫瘍は部分的にしか縮小しない。セルメチニブは、マイトジェン活性化プロテインキナーゼキナーゼ(MAPKキナーゼ、MEK、MAP2K、及びMAPKK)の選択的阻害剤であり、系統名は6-(4-ブロモ-2-クロロアニリノ)-7-フルオロ-N-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-メチルベンズイミダゾール-5-カルボキサミドである。
【0008】
全体として、叢状神経線維腫を治療するための取り組みは、いくつかの興味深い可能性をもたらしたが、多くの努力にもかかわらず決定的な成功には至っていない。このことは、新しい治療法の必要性を浮き彫りにしている。
【0009】
ニトロキソリンは抗生物質としてヒトに使用されており、広く使用されていないが、1960年代から市販されている。これは、尿路感染症などのバイオフィルム感染症の治療又は予防に使用される。これはバイオフィルムを破壊するのに特に効果的であり、この作用の原因は金属カチオンのキレート化特性であると考えられている。ニトロキソリンは肝臓で代謝されて、対応する硫酸塩及びグルクロニド代謝物になる。これらの代謝産物は両方とも抗菌活性を共有しているという証拠がある。また、抗増殖作用を介して抗癌治療にも使用されている。ニトロキソリンの系統名は、5-ニトロキノリン-8-オールである。
【発明の概要】
【0010】
本発明は、叢状神経線維腫の治療又は予防に使用するための、ニトロキソリン又はその薬学的に許容される塩を含む組成物である。以下に示すin vitroデータから明らかなように、ニトロキソリンは叢状神経線維腫の治療及び予防に効果的である。
【0011】
本発明の第1の態様は、叢状神経線維腫の治療又は予防に使用するための、ニトロキソリン又はその薬学的に許容される塩を含む組成物である。
【0012】
本発明の第2の態様は、叢状神経線維腫の治療又は予防に使用するための薬剤の製造のための、ニトロキソリン又はその薬学的に許容される塩の使用である。
【0013】
本発明の第3の態様は、叢状神経線維腫を治療又は予防する方法を提供し、この方法は、ニトロキソリン又はその薬学的に許容される塩を含む組成物を患者に投与することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】in vitroアッセイにおけるWT及びNF1欠損シュワン細胞の増殖(上)及びアポトーシス(下)におけるニトロキソリンの用量反応を示す図である。
【
図2】叢状神経線維腫のPostn-Cre
+ Nf1
fl/flマウスモデルにおける近位神経体積(A)及び腫瘍数(B)に対するニトロキソリン治療の効果を示す図である(n=6、*=p値<0.05(フィッシャーのLSD検定/ダネットの検定))。
【
図3】腫瘍/神経の幅及びキャリパー測定方法を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
NF1遺伝子(「腫瘍抑制遺伝子」)の不活性バージョンのみを発現し、機能性ニューロフィブロミンの発現を完全に喪失させる非ミエリン形成シュワン細胞は、叢状神経線維腫の起源である。NF1遺伝子は、細胞増殖を調節するタンパク質をコードする。シュワン細胞には、ミエリン形成と非ミエリン形成の2種類がある。ミエリン形成シュワン細胞は大きな直径(1マイクロメートルを超える)の末梢神経系(PNS)軸索をミエリンで覆うが、非ミエリン形成シュワン細胞は小さな直径のPNS軸索を細胞質突起で取り囲む。変異していない非ミエリン形成シュワン細胞では、軸索の周囲にあるシュワン細胞の集合体はRemak束と呼ばれる。一方、変異した非ミエリン形成シュワン細胞は、正常なRemak束を形成しない。代わりに、それらは、標的軸索を適切に取り囲んで分離することができず、叢状神経線維腫を引き起こす。更に、非ミエリン形成シュワン細胞は、そのNF1遺伝子が不活性化されると、急速に増殖し始める。
【0016】
増殖する非ミエリン形成シュワン細胞は、NF1遺伝子に対してヘテロ接合性である様々な種類の細胞の、非ミエリン形成シュワン細胞によって生じた過形成病変への遊走を促進する化学誘引物質を分泌するという仮説が立てられている。これらの細胞型には、線維芽細胞、神経周膜細胞、内皮細胞、及びマスト細胞が含まれる。その後、マスト細胞はマイトジェン又は生存因子を分泌し、発達中の腫瘍微小環境を変化させて神経線維腫の形成を引き起こす。
【0017】
本発明において、以下のin vitroデータによって実証されるように、ニトロキソリンは、NF1欠損シュワン細胞の細胞増殖を阻害し、アポトーシスを増加させるため、叢状神経線維腫の効果的な治療法である。好ましくは、ニトロキソリンは、叢状神経線維腫の治療又は予防のために使用され、対象は神経線維腫症I型を有する。
【0018】
本明細書で使用される「治療」又は「治療すること」という用語は、治療的(治癒的)処置を指し、これには、叢状神経線維腫のサイズを縮小することが含まれる。神経線維腫の存在を検出するには、タンパク質黒色腫阻害活性の血液検査を使用することができる。本明細書で使用される「予防」又は「予防すること」という用語は、「予防的」処置を指し、これには、非ミエリン形成シュワン細胞が変異している(例えば、NF1欠損)が、叢状神経線維腫が発症していない患者に本発明の組成物を投与することが含まれる。変異した(例えば、NF1欠損)非ミエリン形成シュワン細胞は、急速に増殖するなど、増殖し始めている可能性がある。
【0019】
「患者」及び「対象」は同義で使用され、ニトロキソリンが投与される対象を指す。好ましくは、対象は、ヒトである。好適には、対象は神経線維腫症I型を有する。一実施形態では、患者は小児患者、好ましくは2歳以上の小児患者であり、好ましくは、小児患者はNF1を有する。
【0020】
一実施形態では、ニトロキソリンは叢状神経線維腫の治療又は予防に使用され、患者は、叢状神経線維腫の一部若しくはすべてを除去する手術を受けたか、又は受ける予定である。これは、叢状神経線維腫が大きく、及び/又は組織境界を越えて拡大しているため、手術によってすべてを除去することは困難であり、及び/又は少なくともその一部を迅速に除去することが望ましい/有益な場合に、特に有利であり得る。
【0021】
「手術」という用語は、当該技術分野における通常の意味を有する。手術は、診断又は治療上の理由から、臓器/器官系/組織に対する物理的介入を基本原則とする侵襲的技術である。
【0022】
本明細書で使用される場合、薬学的に許容される塩は、薬学的に許容される酸又は塩基との塩である。薬学的に許容される酸には、塩酸、硫酸、リン酸、二リン酸、臭化水素酸又は硝酸などの無機酸と、クエン酸、フマル酸、マレイン酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、コハク酸、酒石酸、安息香酸、酢酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、サリチル酸、ステアリン酸、ベンゼンスルホン酸又はp-トルエンスルホン酸などの有機酸の両方が含まれる。薬学的に許容される塩基には、アルカリ金属(例えば、ナトリウム又はカリウム)及びアルカリ土類金属(例えば、カルシウム又はマグネシウム)の水酸化物、並びにアルキルアミン、アリールアミン又は複素環式アミンなどの有機塩基が含まれる。
【0023】
本発明は、叢状神経線維腫の治療又は予防に使用するための、ニトロキソリン又はその薬学的に許容される塩を含む組成物を対象とする。
【0024】
代替の実施形態では、本発明は、叢状神経線維腫の治療又は予防に使用するための、ニトロキソリン又はその薬学的に許容される塩を含む組成物を対象とし、ここで、ニトロキソリンは、この組成物中の唯一の活性剤である。唯一の活性剤とは、組成物が、叢状神経線維腫の治療又は予防に使用できる他の成分を含まないことを意味する。代替の実施形態では、組成物は叢状神経線維腫を治療するための第2の活性剤を更に含み、好ましくは、第2の活性剤は、セルメチニブ又はその薬学的に許容される塩である。
【0025】
代替の実施形態では、本発明は、セルメチニブ又はその薬学的に許容される塩を含む第2の組成物と組み合わせて使用するための、ニトロキソリン又はその薬学的に許容される塩を含む組成物を対象とし、ここで、2つの組成物は、対象に同時に、別々に、又は連続的に投与される。
【0026】
本明細書で使用される場合、「別々の」投与とは、薬物が同じ全体的な投与計画(数日を含む場合もある)の一部として投与されることを意味するが、同じ日に投与されることが好ましい。本明細書で使用される場合、「同時に」とは、薬物が一緒に摂取されるか、又は単一の組成物として製剤化されることを意味する。本明細書で使用される場合、「連続的に」とは、薬物がほぼ同時に、好ましくは互いに約1時間以内に投与されることを意味する。好ましくは、薬物は同時に投与される、すなわち一緒に摂取されるか、又は単一の組成物として製剤化される。最も好ましくは、薬物は単一の組成物として製剤化される。
【0027】
本発明の組成物は、薬学的に許容される担体を含んでもよい。「薬学的に許容される担体」とは、組成物の他の成分と適合し、受容者にとって有害ではない、充填剤又は結合剤などの任意の希釈剤又は賦形剤を意味する。薬学的に許容される担体は、標準的な薬学的慣行に従って、所望の投与経路に基づいて選択することができる。
【0028】
本発明では、組成物は様々な剤形で投与することができる。一実施形態では、組成物は、経口、直腸、非経口、鼻腔内若しくは経皮投与、又は吸入若しくは座薬による投与に適した形式で製剤化することができる。
【0029】
組成物は、例えば錠剤、トローチ、ロゼンジ、水性又は油性懸濁液、分散性粉末又は顆粒として経口投与することができる。好ましくは、組成物は、経口投与に適するように製剤化され、例えば錠剤及びカプセルである。錠剤及びカプセルは、シロップ、アカシア、ゼラチン、ソルビトール、トラガカント、セルロース、又はポリビニルピロリドンなどの結合剤、ラクトース、スクロース、コーンスターチ、リン酸カルシウム、ソルビトール、又はグリシンなどの充填剤、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール、又はシリカなどの滑沢剤、及びラウリル硫酸ナトリウムなどの界面活性剤を用いて調製することができる。液体組成物は、例えばソルビトールシロップ、メチルセルロース、シュガーシロップ、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース、又は食用脂肪などの懸濁剤、レシチン又はアカシアなどの乳化剤及び界面活性剤、アーモンド油、ココナッツ油、タラ肝油、又はピーナッツ油などの植物油、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)及びブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)などの防腐剤のような従来の添加剤を含んでもよい。液体組成物を、例えばゼラチン中に封入して、単位剤形を得ることができる。
【0030】
組成物はまた、皮下、静脈内、筋肉内、胸骨内、経皮、又は注入技術によって、非経口的に投与することもできる。
【0031】
組成物はまた、吸入によって投与することもできる。吸入薬の利点は、経口経路で摂取される多くの薬剤と比較して、血液供給が豊富な領域に直接送達されることである。したがって、肺胞の表面積が膨大で血液供給が豊富であり、初回通過代謝が回避されるため、吸収は非常に迅速である。
【0032】
本発明はまた、本発明の組成物を含む吸入装置を提供する。典型的には、上記装置は定量吸入器(MDI)であり、薬剤を吸入器から押し出すための薬学的に許容される化学推進剤を含む。
【0033】
組成物はまた、鼻腔内投与によって投与することもできる。鼻腔の透過性の高い組織は、薬剤を非常に受け入れやすく、迅速かつ効率的に吸収する。経鼻薬物送達は注射よりも痛みや侵襲が少なく、患者の不安を軽減する。この方法では、吸収が非常に速く、初回通過代謝が通常回避され、したがって患者間の変動が低下する。更に、本発明は、本発明による組成物を含む鼻腔内装置も提供する。
【0034】
組成物はまた、経皮投与によって投与することもできる。局所送達には、経皮及び経粘膜パッチ、クリーム、軟膏、ゼリー、溶液又は懸濁液を使用することができる。したがって、本発明は、組成物を含む経皮パッチも提供する。
【0035】
組成物はまた、舌下投与によって投与することもできる。したがって、本発明は、組成物を含む舌下錠も提供する。
【0036】
組成物はまた、患者の正常な代謝以外のプロセスによる物質の分解を低減する薬剤、例えば抗菌剤、あるいは、患者に、又は患者上若しくは患者内に生息する共生生物若しくは寄生生物に存在する可能性があり、かつ化合物を分解することができるプロテアーゼ酵素の阻害剤と共に製剤化されてもよい。
【0037】
経口投与用の液体分散液は、シロップ、エマルション、及び懸濁液であってもよい。
【0038】
懸濁液及びエマルションは、担体として、例えば、天然ゴム、寒天、アルギン酸ナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、又はポリビニルアルコールを含んでもよい。筋肉内注射用の懸濁液又は溶液は、活性化合物と共に、薬学的に許容される担体(例えば、滅菌水、オリーブ油、オレイン酸エチル、グリコール(例えば、プロピレングリコール))、及び所望であれば、適切な量の塩酸リドカインを含んでもよい。
【0039】
注射又は注入用の溶液は、担体として、例えば滅菌水を含んでもよく、又は好ましくは、それらは滅菌水性等張生理食塩水の形態であってもよい。
【0040】
本発明の一実施形態において、組成物は、叢状神経線維腫を治療又は予防するのに有効な量で投与される。有効量は当業者には明らかであり、年齢、性別、体重を含む多くの要因に依存し、医師は有効量を決定することができるであろう。
【0041】
好ましい実施形態では、組成物は、30mg~600mg、好ましくは50mg~500mg、より好ましくは100mg~400mg、更により好ましくは150mg~350mg、最も好ましくは200mg~300mgのニトロキソリンを含む。
【0042】
組成物は、1日1回、1日2回、1日3回、又は1日4回投与されてもよい。
【0043】
本発明の一実施形態では、組成物は少なくとも1日1回投与される。好ましくは、1日1回の用量として投与される。好ましくは、1日1回の用量は、ニトロキソリン90mg~1800mg、好ましくは150mg~1500mg、より好ましくは300mg~1200mg、更により好ましくは450mg~1050mg、最も好ましくは600mg~900mgである。
【0044】
本発明の一実施形態では、組成物は1日2回投与される。好ましくは、各用量はニトロキソリン45mg~900mg、好ましくは75mg~750mg、より好ましくは150mg~600mg、更により好ましくは225mg~525mg、最も好ましくは300mg~450mgである。
【0045】
本発明の一実施形態では、組成物は1日3回投与される。好ましくは、各用量は、ニトロキソリン30mg~600mg、好ましくは50mg~500mg、より好ましくは100mg~400mg、更により好ましくは150mg~350mg、最も好ましくは200mg~300mgである。
【0046】
本発明の一実施形態では、組成物は1日4回投与される。好ましくは、各用量は、ニトロキソリン15mg~500mg、好ましくは50mg~400mg、より好ましくは100mg~300mg、更により好ましくは125mg~225mg、最も好ましくは150mg~200mgである。
【0047】
好ましくは、投与計画は、ニトロキソリンの1日の総投与量が1500mgを超えないようなものである。
【0048】
好適には、ニトロキソリンの用量は、50~250mg/kg、より好ましくは60~200mg/kg、更により好ましくは80~170mg/kg、例えば100~150mg/kgであり得る。
【0049】
好適には、ニトロキソリンの有効量は、細胞内で1~150μM、好ましくは10~100μM、より好ましくは25~50μMの濃度をもたらす。
【0050】
好適には、ニトロキソリンを含む組成物、及び第2の活性剤、好ましくはセルメチニブを含む第2の組成物は、1日1回投与である。好適には、2つの組成物は同時に投与される、すなわちニトロキソリンとセルメチニブは一緒に摂取される。組成物はまた、連続的に、すなわちほぼ同時に、好ましくは互いに約1時間以内に投与することもできる。
【0051】
組成物がセルメチニブを含む実施形態、又は組成物がセルメチニブを含む第2の組成物と組み合わせて使用される実施形態では、好適には、セルメチニブを含む組成物は、1mg~75mgのセルメチニブ、好ましくは5mg~50mgのセルメチニブ、より好ましくは10mg~35mgのセルメチニブ、最も好ましくは15mg~30mgのセルメチニブを含む。
【0052】
好適には、対象に投与されるセルメチニブの有効量は、セルメチニブ1mg/m2~75mg/m2、好ましくはセルメチニブ5mg/m2~50mg/m2、より好ましくはセルメチニブ10mg/m2~35mg/m2、最も好ましくはセルメチニブ15mg/m2~30mg/m2である。
【0053】
叢状神経線維腫を治療又は予防するために、ニトロキソリンを含む組成物は、長期的な投与計画、すなわち、長続きする長期治療において使用される。好適には、この計画は少なくとも1ヶ月間、好適には少なくとも2ヶ月間、例えば少なくとも3ヶ月間続く。
【0054】
本発明はまた、叢状神経線維腫の治療又は予防において同時に、別々に、又は連続的に使用するための、(i)少なくとも1回用量のニトロキソリン又はその薬学的に許容される塩、及び任意に(ii)少なくとも1回用量のセルメチニブ又はその薬学的に許容される塩を含むキットに関する。
【0055】
本発明はまた、叢状神経線維腫の治療又は予防に使用するための薬剤の製造のための、ニトロキソリン又はその薬学的に許容される塩の使用に関する。本発明のこの実施形態は、上述の好ましい特徴のいずれかを有し得る。
【0056】
本発明はまた、叢状神経線維腫を治療又は予防する方法に関し、この方法は、ニトロキソリン又はその薬学的に許容される塩を含む組成物を患者に投与することを含む。本発明のこの実施形態は、上述の好ましい特徴のいずれかを有し得る。投与方法は、上記の経路のいずれかに従ってもよい。
【0057】
誤解を避けるために、本発明はまた、in vivoで反応して本発明の化合物を生成するプロドラッグも包含する。
【0058】
実験セクション
実施例1-WT及びNF1欠損シュワン細胞を用いたin vitro薬物試験
この試験では、不死化野生型(WT)及びNF1欠損(Nf1-/-)シュワン細胞(SC)を利用して、ニトロキソリンの有効性と、細胞増殖を減少させ、アポトーシスを増加させ、全体的な細胞生存率を増加させるその能力とを調べた。
【0059】
Nf1-/-SCは、in vivo表現型と一致して、in vitroでの生存及び増殖が増加する(Kim HA et al.,Mol Cell Biol.1997;17(2):862-72)。本試験では、WT(ipn02.3λ)及びNF1-/-(ipNF95.6)不死化ヒト由来SC株を利用する。ニトロキソリンの選択性を、NF1-/-細胞とWT細胞の間で比較した。
【0060】
細胞を、105μMから開始して段階希釈したニトロキソリンで処理し、48時間インキュベートした。インキュベーション期間後、増殖、生存率、及びアポトーシスアッセイを以下に記載するように実施した。
・ATP消費を測定するCellTiter-Gloアッセイ(Promega)を使用して細胞増殖を評価した。簡単に説明すると、WT及びNf1-/-細胞を、37℃、5%CO2加湿インキュベーター中で、ニトロキソリンを添加又は添加せずに、1%グルタミン、10%FBS、2%重炭酸ナトリウム及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含有する100μlのDMEM中の96ウェルディッシュ中に10,000細胞/ウェルの濃度で48時間、三連でプレーティングした。インキュベーション後、100μlのCellTiterGlo試薬を各ウェルに添加した。10分後、96ウェルマイクロプレート照度計を使用してプレートを読み取った。
・Caspase-Glo 3/7キット(Promega)を使用して細胞アポトーシスを評価した。簡単に説明すると、WT及びNf1-/-細胞を、37℃、5%CO2加湿インキュベーター中で、ニトロキソリンを添加又は添加せずに、1%グルタミン、10%FBS、2%重炭酸ナトリウム及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含有する100μlのDMEM中の96ウェルディッシュ中に10,000細胞/ウェルの濃度で48時間、三連でプレーティングした。インキュベーション後、100μlのCaspase-Glo 3/7試薬を各ウェルに添加した。10分後、96ウェル照度計を使用してプレートを読み取り、caspase 3/7活性を測定した。
【0061】
結果
ニトロキソリンは、
図1に示すように、用量反応様式で細胞増殖を阻害し、アポトーシスを増加させた。抗増殖効果は、WT及びNf1
-/-シュワン細胞において1μMを超える濃度で観察された。アポトーシスの誘導は、両方のSCで3μMを超える濃度で明らかであったが、増加の大きさは10μMを超える濃度ではNf1
-/-SCで有意に大きかった。
【0062】
実施例2-Nf1-KOマウスにおけるin vivo薬物試験
この試験の目的は、神経線維腫症1型のマウスモデル、より具体的には叢状神経線維腫を発症するモデルにおけるニトロキソリンの効果を評価することであった。この試験は、アストラゼネカがpNFに対するセルメチニブの承認に使用した試験と同じである。
【0063】
動物
この試験では、叢状神経線維腫のPostn-Cre+ Nf1fl/flマウスモデルを使用する。これらのマウスに発生する神経線維腫は、ヒトの疾患を忠実に再現している(Burks et al.2019)。マウス(雄及び雌)が叢状神経線維腫を確立した生後4ヶ月の時点で、マウスを3つの処置群に無作為に割り付け、ニトロキソリン120mg/kg QD、120mg/kg BD又はビヒクル(90%コーン油中10%DMSO)を強制経口投与した。マウスを12週間処置し、その後屠殺した。マウスを灌流し、10%中性緩衝ホルマリン中で固定した。
【0064】
神経の体積
全身を5%ギ酸中で脱灰し、脊髄近位神経樹を解剖し、マウス1匹あたり4本の神経にわたる神経幅(それに沿って形成された腫瘍を含む)をキャリパー(
図3に示す)で測定した。その後、以下のスフェロイド計算を使用して神経の体積を計算した。0.52×(幅)2w 長さ。
【0065】
腫瘍数
腫瘍数を定量化するために、神経をパラフィンブロックに加工し、切断し、マッソントリクローム染色を使用してコラーゲンを染色した。腫瘍数は臨床医によってこれらのスライドから採点された。
【0066】
統計分析
GraphPad Prism(Ver9)を使用してデータのグラフ及び統計分析を作成した。
【0067】
結果
両方の投与スケジュール(120mg/kg QD及び120mg/kg BD)で、ニトロキソリンで処置したマウスは、ビヒクル処置の対照マウスと比較して近位神経体積が小さかった(
図2)。叢状腫瘍は近位神経に沿って形成されるため、近位神経の体積の減少は叢状腫瘍のサイズの縮小として解釈することができる。神経の総体積の減少に加えて、ビヒクル対照と比較して、ニトロキソリン処置マウスでは、神経に沿った腫瘍数の減少が観察された(
図2)。
【0068】
結論
ニトロキソリンは、in vitroでNf1-/-シュワン細胞の細胞増殖を阻害し、アポトーシスを増加させる。叢状神経線維腫のマウスモデルにおいて、ニトロキソリン治療マウスは、ビヒクル対照動物と比較して、近位神経の体積が小さく、腫瘍が少なかった。したがって、ニトロキソリンは叢状神経線維腫を軽減、治療、及び予防することが期待される。
【0069】
参考文献
Burks CA,Rhodes SD,Bessler WK,Chen S,Smith A,Gehlhausen JR,Hawley ET,Jiang L,Li X,Yuan J,Lu Q,Jacobsen M,Sandusky GE,Jones DR,Clapp DW,Blakeley JO.Ketotifen Modulates Mast Cell Chemotaxis to Kit-Ligand,but Does Not Impact Mast Cell Numbers,Degranulation,or Tumor Behavior in Neurofibromas of Nf1-Deficient Mice.Mol Cancer Ther.2019 Dec;18(12):2321-2330。
【国際調査報告】