(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-31
(54)【発明の名称】黒液からメタノールを生産するための方法および装置
(51)【国際特許分類】
C07C 27/00 20060101AFI20241024BHJP
C07C 31/04 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
C07C27/00 350
C07C31/04
C07C27/00 340
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024528547
(86)(22)【出願日】2022-11-16
(85)【翻訳文提出日】2024-05-14
(86)【国際出願番号】 FI2022050754
(87)【国際公開番号】W WO2023089238
(87)【国際公開日】2023-05-25
(32)【優先日】2021-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520102646
【氏名又は名称】アンドリッツ オサケ ユキチュア
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チェンナ、ナヴィーン
(72)【発明者】
【氏名】グレイス、オットー
(72)【発明者】
【氏名】ペソラ、アイノ
(72)【発明者】
【氏名】テルボラ、ペッカ
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AA04
4H006BD84
4H006BE30
4H006BE31
(57)【要約】
黒液を含有する供給原料酸化剤を反応器に供給することによって、リグニンがメタノールに酸化される方法および方法を行うように構成されたシステムが提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタノールを生産する方法であって、
i.黒液を含む供給原料を用意すること;
ii.80~160℃の範囲の温度で運転されるプレコンディショニング反応器内で前記供給原料をプレコンディショニングして、プレコンディショニングされた供給原料を用意すること;
iii.前記供給原料または前記プレコンディショニングされた供給原料を、第2の反応器に移送すること;および
iv.前記第2の反応器に少なくとも1種の酸化剤を供給して、前記黒液中に存在するリグニンのメトキシル基をメタノールに酸化するための反応混合物を生産すること
を含む、方法。
【請求項2】
アルカリ条件でプレコンディショニングすることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
空気、酸素、およびそれらの混合物から選択される酸化剤が、前記プレコンディショニング反応器に供給されるプレコンディショニングすることを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ステップiv.における前記酸化剤が、酸素、オゾン、空気、またはそれらの任意の組合せから選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記酸化剤が、ノズルまたは入口ポートを通って、前記プレコンディショニング反応器および/または前記第2の反応器に供給される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記反応混合物のPHが、8~14の範囲、好ましくは9~13の範囲、より好ましくは11~12の範囲から選択される値に調整される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記プレコンディショニング反応器および/または前記第2の反応器が、85~140℃の範囲、好ましくは約90℃の温度で運転される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記プレコンディショニング反応器および/または前記第2の反応器が、2~16バール(G)の範囲、好ましくは3~14バール(G)の範囲から選択される圧力で運転され、最も好ましくは4~10バール(G)の範囲を形成するか、または圧力が約8バール(G)である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記供給原料が軟材黒液および/または硬材黒液を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記供給原料が硫黄性化合物を含有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
酸化された供給原料が、パルプ工場の黒液循環に戻される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記プレコンディショニング反応器および/または前記第2の反応器が、メタノールが少なくとも部分的にガス形態であり、前記反応器が液化ユニットまたはストリッパーオフガスラインに直接流体接続している条件で運転される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の方法を行うための手段を備えるシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、メタノールの生産に関する。本開示は、排他的ではないが、パルプ工場で生産された黒液からメタノールを生産するためのプロセスおよび装置に、特に関する。
【背景技術】
【0002】
このセクションは、最新技術を代表する本明細書に記載のいかなる技法も承認することなく、有用な背景情報を示す。
【0003】
パルプ工場で生産される黒液(BL)は、様々な有機および無機化合物を含有する。BLは、例えばリグニンを含有し、乾燥固体の総量のうち、13%はフェノール性リグニンであり、19%は非フェノール性リグニンである。
【0004】
黒液中に存在するリグニンを使用してメタノールを生産するプロセスを開発することが目的である。
【発明の概要】
【0005】
添付の特許請求の範囲は、保護の範囲を規定する。特許請求の範囲によって網羅されない説明および/または図面における、装置、システム、生産物および/またはプロセスの任意の例および/または技術的説明は、本発明の実施形態としてではなく、本発明を理解するために有用な背景技術または例として本明細書に提示される。
【0006】
本プロセスは、パルプ工場には通常存在しない黒液酸化反応器を使用して、BLリグニンのフェノール性および/または非フェノール性メトキシル基をメタノールに変換する。一実施形態では、本プロセスおよび/またはシステムは、パルプ工場に統合される。
【0007】
反応器の現在の運転条件は、ほぼすべてのフェノール性または/および非フェノール性リグニンのメトキシル基をメタノールおよび酸化リグニンに変換することができる。メタノールが低温で沸騰すると、メタノールの大部分を、単純なストリッピングおよび/または蒸留カラムを使用することによって抽出することができる。
【0008】
黒液などの工業的プロセスから生じる廃棄流および副流中のリグニンからメタノールを生産するプロセスを提供することが、本開示の目的である。別の目的は、メタノール生産および/またはリグニン加工における既存の技術に対して、代替の解決策を提供することである。
【0009】
第1の態様によれば、メタノールを生産するプロセスであって、
i.黒液を含む供給原料を用意すること;
ii.場合により、プレコンディショニング反応器内で供給原料をプレコンディショニングして、プレコンディショニングされた供給原料を用意すること;
iii.供給原料またはプレコンディショニングされた供給原料を、第2の反応器に移送すること;および
iv.第2の反応器に少なくとも1種の酸化剤を供給して、黒液中に存在するリグニンのメトキシル基をメタノールに酸化するための反応混合物を生産すること
を含む、プロセスが提供される。
【0010】
本開示では、プレコンディショニングステップが使用される第1の態様によるプロセスは、2ステッププロセスまたは2反応器プロセスとも称される。
【0011】
本開示では、プレコンディショニングが使用されない第1の態様によるプロセスは、1ステッププロセスまたは1反応器プロセスとも称される。
【0012】
一実施形態では、プロセスは、140~300℃の範囲の温度、アルカリ条件でプレコンディショニングすることを含む。このプロセスにプレコンディショニングステップを含めることは、例えば、高い硫黄含有量の黒液を使用する場合に有利である。プレコンディショニングにより、少なくとも部分的な硫黄性化合物の除去を達成することができる。
【0013】
一実施形態では、空気、酸素、およびそれらの混合物から選択される酸化剤がプレコンディショニング反応器に供給される、プロセスのプレコンディショニング。
【0014】
一実施形態では、プロセスにおいて、ステップiv.における酸化剤は、酸素、オゾン、空気、またはそれらの任意の組合せから選択される。
【0015】
一実施形態では、プロセスにおいて、酸化剤は、ノズルまたは入口ポートを通って、プレコンディショニング反応器および/または第2の反応器に供給される。
【0016】
一実施形態では、プロセスにおいて、反応混合物のPHは、8~14の範囲、好ましくは9~13の範囲、より好ましくは11~12の範囲から選択される値に調整される。
【0017】
一実施形態では、プロセスにおいて、プレコンディショニング反応器および/または第2の反応器は、80~160℃の範囲、好ましくは85~140℃の範囲、より好ましくは約90℃の温度で運転される。
【0018】
一実施形態では、プロセスにおいて、プレコンディショニング反応器および/または第2の反応器は、2~16バール(G)の範囲、好ましくは3~14バール(G)の範囲から選択される圧力で運転され、最も好ましくは4~10バール(G)の範囲を形成するか、または圧力は約8バール(G)である。
【0019】
一実施形態では、プロセスにおいて、供給原料は軟材黒液および/または硬材黒液を含む。
【0020】
一実施形態では、プロセスにおいて、供給原料は硫黄性化合物を含有する。
【0021】
一実施形態では、プロセスにおいて、酸化された供給原料は、パルプ工場の黒液循環に戻される。
【0022】
一実施形態では、プロセスにおいて、プレコンディショニング反応器または第2の反応器は、メタノールが少なくとも部分的にガス形態であり、反応器がメタノールを凝縮するように構成された液化ユニットまたはストリッパーオフガス(SOG)ラインに直接流体接続している条件で運転される。一実施形態では、ストリッパーオフガスは一緒に収集され、次いで凝縮器ユニット内で凝縮される。
【0023】
第2の態様によれば、第1の態様またはその実施形態のいずれかのプロセスを行うための手段を備えるシステムが提供される。
【0024】
第1の態様の一実施形態では、ステップiv.で使用される酸化剤は、プレコンディショニングステップで使用される酸化剤とは異なる。
【0025】
第1の態様の一実施形態では、プレコンディショニングステップにおける酸化剤は空気であり、ステップivにおける酸化剤は酸素、オゾン、空気、またはそれらの任意の組合せから選択される。
【0026】
酸化剤(複数可)が本プロセスの供給原料に供給されると、酸化剤が酸化反応においてリグニン中に存在するメトキシル基をメタノールに変換する反応混合物が形成される。本プロセスを用いて黒液を加工する通常の場合のように、より反応性の高い硫黄性化合物が供給原料中に存在する場合、リグニンの酸化が始まる前に硫黄性化合物が酸化される。一実施形態では、フェノール性および非フェノール性リグニンの両方が、本プロセスによって酸化される。
【0027】
一実施形態では、プレコンディショニング反応器および/または第2の反応器は、パルプ工場の黒液パイプラインに流体接続されている。したがって、これらの反応器、ならびに本明細書に開示のシステムの他の部分を、パルプ工場の統合されたユニットであるように設置することができる。
【0028】
一実施形態では、反応器内で生産した酸化された供給原料は、酸化処理が終了した後に、パルプ工場の黒液パイプラインに戻される。
【0029】
別の実施形態では、反応器(複数可)は、メタノールが少なくとも部分的に蒸気形態であり、反応器が液化ユニットまたは液体形態のメタノールを回収するために使用されるストリッパーオフガスラインに直接流体接続している条件で運転される。
【0030】
いくつかの例示的な実施形態が、添付の図面を参照して説明される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】例示的な実施形態として、2つの反応器を備えるシステムにおいて、本プロセスを実施するように構成されたシステムのある特定の部分を概略的に示す。
【
図2】例示的な実施形態として、1つの反応器を備えるシステムにおいて、本プロセスを実施するように構成されたシステムのある特定の部分を概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本明細書では、同様の参照符号は、同様の要素またはステップを示す。
【0033】
本開示では、Adtは風乾トンを指す。
【0034】
一実施形態では、黒液は、希黒液であるか、またはそれから構成される。
【0035】
一実施形態では、本プロセスは、反応器に触媒を添加することなく実施される。
【0036】
一実施形態では、プレコンディショニングは、供給原料を、好ましくはアルカリ条件で加熱することを含む。プレコンディショニングステップは、供給原料の乾燥固体(DS)含有量を上昇させ、同時に揮発性の硫黄化合物を生産することによって供給原料の硫黄含有量を低下させる。さらに、クラフト黒液を加工する場合、熱処理は粘度を低下させる。加熱ステップ(液熱処理、LHT)における硫黄放出の要因は、有機硫黄化合物の形成である。メチルメルカプタン(MM)、ジメチルスルフィド(DMS)およびジメチルジスルフィド(DMDS)の量は、蒸解液の硫化度および黒液の生産に使用される木材種に依存する。LHTにおいて、供給原料から形成および放出される主な化合物は、MMおよびDMSである。LHTプレコンディショニング中に形成される硫黄化合物を、プレコンディショニング反応器から蒸気として除去することができる。プレコンディショニング反応器としてLHT反応器を使用する場合、LHT反応器を140~300℃の温度範囲で運転することができる。好ましくは、より良好な硫黄除去を達成するために、温度は175℃を超える。
【0037】
一実施形態では、硫黄の放出は、供給原料として黒液を使用する場合、およそ2~5kgS/Adtである。硫黄性化合物を、蒸気として反応器から除去することができ、次いで、非凝縮性ガス(NCG)収集に続き得る。
【0038】
このように、任意のプレコンディショニングステップを使用して、二酸化硫黄の排出を低減することができる。さらに、本プロセスでは、プレコンディショニングステップは、第2の反応器内の酸化ステップにおいて、別様に酸化剤と反応する硫黄を除去するので有利である。プレコンディショニングの結果として、供給原料の硫黄含有量は、酸化剤と接触した場合に低く、したがって酸化剤の消費が低減される。プレコンディショニングされた供給原料を使用する場合、酸化剤はリグニンと反応し、硫黄性化合物とは反応しない。
【0039】
プレコンディショニングステップが使用される場合、プレコンディショニング後に得られる供給原料を、本明細書ではプレコンディショニングされた供給原料と呼ぶ。
【0040】
一実施形態では、プロセスはプレコンディショニングステップを含まない。例えば、供給原料の硫黄含有量が低い場合、プレコンディショニングステップを省略することができる。また、酸化剤の消費を低減することが望まれない場合には、プレコンディショニングステップを省略することができる。
【0041】
一実施形態では、プレコンディショニングは、供給原料を酸化剤で酸化することを含む。一実施形態では、プレコンディショニングステップで使用される酸化剤は、空気、酸素、またはそれらの任意の混合物である。
【0042】
プレコンディショニングの一実施形態では、酸化剤を添加する前に、供給原料が加熱される。別の実施形態では、供給原料は、酸化剤を添加する前に、選択されたプレコンディショニング温度よりも約10~20℃低い温度まで加熱される。
【0043】
一実施形態では、プレコンディショニングは、第2の反応器内の酸化処理と同じ運転条件で実施される。
【0044】
一実施形態では、プレコンディショニングは、供給原料を加熱および酸化剤で酸化することを含む。一実施形態では、本プロセスで使用される黒液は、20~50質量%の乾燥固体、例えば20、30、40または50質量%の乾燥固体を含有する。
【0045】
本開示では、CODは、mg/lとして表される化学的酸素要求量を指す。CODは、ISO6060:1989 水質-化学的酸素要求量の決定に準拠して求めることができる。
【0046】
本明細書で使用される場合、「含む(comprising)」という用語は、「含む(including)」、「含む(containing)」、および「包含する(comprehending)」のより広い意味、ならびに「からなる(consisting of)」および「のみからなる(consisting only of)」というより狭い表現を含む。
【0047】
一実施形態では、プロセスのステップは、いずれかの態様、実施形態、または請求項で特定される順序で実施される。別の実施形態では、プロセスの先行するステップで得られる生産物または中間体に対して実施されるように指定されたプロセスの任意のステップは、該生産物または中間体に対して直接、すなわち、該2つの連続するステップの間で生産物または中間体を化学的および/または物理的に変化させ得る追加の、任意の、または補助的な加工ステップなしに実施される。
【0048】
一実施形態では、本プロセスは工業的プロセスである。別の実施形態では、工業的プロセスは、産業で使用されるボリュームに規模拡大されない実験室規模の方法などの小規模な方法を除外し得る。
【0049】
一実施形態では、黒液中に存在するリグニンは、少なくとも部分的に溶解または可溶化される。
【0050】
本プロセスでは、反応性スルフィドは、酸化の開始時またはプレコンディショニングステップ中に少なくとも部分的に非反応性スルファートに変換される。反応性硫黄が酸化されるか、そうでなければ供給原料から除去された後、リグニンの酸化は、同じ反応器または脱硫された供給原料が移送された第2の反応器などの別個の反応器内のいずれかで実施される。リグニンの酸化プロセスは、一連の反応器の数を最小限にして、または硫黄酸化およびリグニンの酸化の両方が起こる単一の反応器でさえ実行することができる。単一反応器システムを使用する場合、供給原料は加熱によってプレコンディショニングされ得、酸化剤は、酸化処理の温度よりも約10~20℃低い温度を有する供給原料に添加され得る。2つ以上の反応器の使用は、プロセスのより良好な制御を可能にし、反応性硫黄化合物が既に酸化されている供給原料に対してのみ、酸素またはオゾンなどのより高価な酸化剤を使用するために好ましい場合がある。
【0051】
リグニンは、本プロセスによってメタノールに変換され得るメトキシル基を含む。
【0052】
リグニンは非フェノール性またはフェノール性のいずれかであり、リグニンのおよそ40%はフェノール性であり、60%は非フェノール性である。フェノール性リグニンは、穏やかな酸化条件に対して反応性であるが、非フェノール性リグニンは、メタノールを生産するためにより多くの酸化条件およびより強い環境を必要とする。本明細書に開示の運転条件および酸化剤を用いて、リグニン構造中で利用可能なフェノール性および非フェノール性リグニンのメトキシル基をメタノールに変換することができる。
【0053】
本プロセスでは、酸化反応、特にリグニンの酸化反応は、リグニンのフェノール性または/および非フェノール性メトキシル基をメタノールに変換するために、第2の反応器などの少なくとも1つの酸化反応器内で実行され得る。別の実施形態では、一連の2つ、3つまたは4つなどの2つ以上のリグニンの酸化反応器が使用される。それにより、単一の第2の反応器の代わりに、リグニンの酸化を、複数のリグニンの酸化反応器を備える反応ゾーンで実施することができる。
【0054】
一実施形態では、少なくとも1つの反応器内部の圧力および温度は、メタノールが液相のままであるように選択される。
【0055】
一実施形態では、反応混合物のpHは、8~14の範囲、好ましくは12~14の範囲から選択される値に調整される。調整は、任意のアルカリまたは酸を用いて行うことができる。一実施形態では、pHの調整は、水酸化ナトリウム、白液および酸化された白液から選択されるアルカリを用いて行われる。pHの調整は、最初に酸化処理の開始時に、および/またはリグニンの酸化反応中に行って、pHを選択されたpH値またはその付近に維持することができる。硫黄化合物の酸化を実施する場合、場合により、pHは上記の値に調整される。
【0056】
一実施形態では、反応器は、リグニンの酸化反応などの酸化反応が最大200分、例えば10~200分、50~150分、60~120分、80~120分または約100分実施されるように運転される。一実施形態では、2つ以上の反応器が使用される場合、時間は、酸化剤を反応器(複数可)に供給することを含む、酸化反応条件が維持される総時間を指す。
【0057】
図1に示される2反応器構成を使用する場合、2つの反応器内の供給原料の総滞留時間は、好ましくは1000分以下である。
【0058】
一実施形態では、プレコンディショニング反応器内の供給原料の滞留時間は、最大1000分、例えば30~100分、または500~1000分である。これらの滞留時間は、プレコンディショニングが酸化処理を含む場合に好ましい。
【0059】
一実施形態では、第2の反応器内の滞留時間は、最大1000分、例えば50~1000分、または500~1000分である。
【0060】
一実施形態では、反応器(複数可)内の非凝縮性ガス(NCG)は、反応器(複数可)と流体連通している非凝縮性ガスハンドリングシステムによって除去される。
【0061】
2ステッププロセスの一実施形態では、プレコンディショニング反応器は、約90℃の温度、11~12の範囲のpH、4~8バールの範囲の圧力を含む条件で、酸化剤として空気または酸素を最大100分間使用することによって運転される。
【0062】
2ステッププロセスの一実施形態では、第2の反応器は、約90℃の温度、11~12の範囲のpH、4~8バールの範囲の圧力を含む条件で、酸化剤として酸素またはオゾンを最大100分間使用することによって運転される。
【0063】
一実施形態では、供給原料は軟材黒液を含有する。本プロセスによる軟材黒液の加工は、NaOHなどのアルカリを添加することによって、pHを制御するステップを含み得る。供給原料として軟材黒液を使用する場合、酸化反応中の運転温度は好ましくは約90℃であり、場合により圧力は約4~8バールである。圧力は、所望の圧力を維持するために第2の反応器に供給される酸素などのガス状酸化剤を使用することによって、制御することができる。より高い圧力を使用して、メタノールの生産を増加させることができる。
【0064】
好ましい実施形態では、供給原料としての軟材黒液は、追加のアルカリによるpH制御なしに、約90℃および約8バールの圧力で加工される。
【0065】
本プロセスの供給原料として軟材黒液を使用する場合、23kg/Adtほどの追加のメタノールを生産することができた。それにより、黒液からの総メタノール生産を、30kg/パルプのAdt超に増加させることができる。本プロセスを用いない場合、以前のプロセスの総メタノール生産は、およそ6~10kg/Adtパルプである。
【0066】
好ましい実施形態では、供給原料は硬材黒液を含有する。硬材黒液は、メタノールの収率が高いため、好ましい。供給原料として硬材黒液を使用する場合、運転温度は好ましくは約90℃であり、場合により圧力は約8バールである。圧力は、所望の圧力を維持するために第2の反応器に供給される酸素などのガス状酸化剤を使用することによって、制御することができる。
【0067】
一実施形態では、酸化剤はガス状である。
【0068】
一実施形態では、ガス状酸化剤を使用して、反応器内部の圧力を所望のレベルに維持する。例えば、8バールの圧力は、反応器内部の酸素分圧が8バールになるように、反応器に酸素を供給することによって達成することができる。
【0069】
一実施形態では、酸化剤は、反応器内部、または反応器の壁、底板、および/もしくは天板に配置されたノズルまたは入口ポートを通って反応器に供給される。
【0070】
別の実施形態では、酸化剤は、ケミカルダイナミックミキサーまたは混合循環で混合される。
【0071】
一実施形態では、反応器は、連続撹拌タンク反応器またはプラグフロー反応器の撹拌タンク反応器である。
【0072】
一実施形態では、酸化された供給原料は、酸化処理後に、パルプ工場の黒液ラインに戻される。パルプ工場の黒液ラインに供給される酸化された供給原料は、増加した量のメタノールを含有するので、本プロセスは、パルプ工場におけるメタノールの生産を増強し、より多くのメタノールを黒液から回収することができる。
【0073】
酸化された黒液生産物を、蒸発プラントに戻すことができ、そこでメタノールは、汚染凝縮物からストリッピングカラムおよびメタノール液化ユニットを使用することによって回収される。場合により、メタノール精製が続いてもよい。メタノール精製は、例えば蒸留によって、または一連の蒸留カラムを備える精製プラントで実施することができる。別の実施形態では、メタノールは、蒸発プラントで汚染凝縮物として蒸発させることによって精製することができ、そこから、汚染凝縮物ストリッパーおよび任意のメタノール液化ユニットからなる汚染凝縮物処理によってメタノールを分離することができる。
【0074】
本プロセスの別の利点は、パルプ工場に存在するメタノール蒸発、凝縮および精製ユニットなどの既存のメタノール回収手段を利用して、本プロセスを用いて生産されたメタノールを回収できることである。このように、第2の反応器内で生産されたメタノールは、第2の反応器で生産された流体を供給することにより、既存の設備を用いて回収することができる。
【0075】
代替的または追加的に、本プロセスを用いて生産されたメタノールは、酸化反応器の近くで回収される。この実施形態では、反応器は、メタノールの少なくとも一部が蒸気形態であるように、好ましくは運転され、したがって、メタノールを、反応器と流体接続している液化ユニットに直接回収することができる。一実施形態では、酸化反応およびメタノールの除去は同時に起こる。液化ユニットが反応器と直接流体接続している場合、酸化された供給原料中に存在し、形成されたメタノールの少なくとも一部は、酸化された供給原料がパルプ工場の黒液循環に戻される前に回収される。
【0076】
さらなる代替または追加の実施形態では、メタノールは、反応器と流体接続されているストリッパーオフガス(SOG)ラインで回収される。一実施形態では、SOGラインは反応器と直接流体接続されている。
【0077】
代替的または追加的に、反応器からのガスは、パルプ工場で生産される少なくとも1種のさらなるガス供給源に流体接続されているSOGラインに導かれる。この構成では、反応器内で生産されたメタノール含有ガスは、パルプ工場に存在する設備、例えば黒液ストリッパー内で加工することができる。
【0078】
メタノールは低温で沸騰するので、酸化された濾液から蒸発したガスの単純なストリッピングおよび/または蒸留を使用することによって、メタノールの大部分を抽出することができる。これは、メタノールが汚染凝縮物に移され、そこから回収される黒液蒸発プラントで行うことができる。次いで、凝縮されたメタノールを、ストリッピングおよびメタノール液化ユニットに移すことができる。
【0079】
一実施形態では、本プロセスは連続プロセスである。連続プロセスを、パルプ工場のプロセスに統合することができる。
【0080】
本プロセスを実施するように構成されたシステムのある特定の部分を開示する例示的な実施形態を、2反応器システムを示す
図1に示し、ここでは、プレコンディショニング反応器200は、反応器の入口ライン150を介してパルプ工場のBLライン100に接続されており、BLを反応器200に供給するように構成することができる。
【0081】
プレコンディショニング反応器200は、酸化物質供給の入口ライン201に接続されており、矢印2011によって示される方向でプレコンディショニング反応器200に任意の酸化剤を供給するように構成することができる。アルカリを、矢印2021によって示される方向でアルカリ供給の入口ライン202を通ってプレコンディショニング反応器に供給することができる。酸または他の化学物質がプレコンディショニング反応器に供給されてpHを調整する場合、該薬剤を、入口201、202を通って、または
図1に示されていない第1の反応器の別の入口を通って、プレコンディショニング反応器に供給することができる。
【0082】
第1の反応器の出口ライン290は、プレコンディショニング反応器を第2の反応器300に接続し、リグニンの酸化が起こる第2の反応器300に脱硫した供給原料を供給する。好ましい実施形態では、酸素またはオゾンに対して反応性である硫黄化合物は、プレコンディショニング反応器内で少なくとも部分的に除去され、第2の反応器に入る供給原料は、著しい量のそのような化合物を含有しない。したがって、第2の反応器では、酸化剤は、主にリグニンのメトキシル基を酸化する。
【0083】
第2の反応器300には、酸化物質を第2の反応器に矢印3011によって示される方向で供給するように構成することができる、酸化物質供給の入口ライン301が接続されている。アルカリを、矢印3021によって示される方向でアルカリ供給の入口ライン302を通って第2の反応器に供給することができる。酸または他の化学物質が第2の反応器に供給されてpHを調整する場合、該薬剤を、入口301、302を通って、または
図1に示されていない第2の反応器の別の入口を通って、第2の反応器に供給することができる。
【0084】
第2の反応器の出口ライン390は、反応器の入口ライン150がBLライン100に接続する位置よりも下流の位置で、BLライン100に接続されている。酸化された濾液を、ライン390を通って反応器から黒液循環に除去することができる。
【0085】
酸化プロセスで生産されたメタノールは、第2の反応器内の酸化された黒液に溶解される。過剰な酸素または空気が使用され、すべての反応性スルフィド化合物がプレコンディショニング反応器内で酸化される場合、少量のメタノールが第1の反応器内で形成され得る。メタノールを、酸化された供給原料から回収することができ、それを、パルプ工場に存在する設備を使用することによってBLライン100に供給することができ、BLまたは他のメタノール含有供給原料からメタノールを除去するために使用される。そのような実施形態では、点線で示されるユニット400および/または500は任意であり、必ずしもシステムに存在しない。
【0086】
代替または追加の実施形態では、
図1は、反応器300の内部で形成された蒸気からメタノールを直接除去するために使用することができる、液化ユニット500およびストリッパーオフガス(SOG)ライン400を示す。
図1に示される実施形態では、これらのユニットは、第2の反応器300に直接接続されている。反応器のガス出口510は、液化ユニット500に流体接続されており、ガスおよび/または気相中のメタノールを含むガスを、第2の反応器300の内部から液化ユニット500に導く。ガスから凝縮されたメタノールは、液化ユニット500から、液化ユニットの出口590を通ってメタノール貯蔵部595に導かれる。メタノール貯蔵部595は、BLライン100からメタノールを回収するユニット(
図1には図示せず)など、パルプ工場の他のメタノール回収ユニットからメタノールを受け取るように構成することもできる。
【0087】
別の代替または追加の実施形態では、
図1は、第2の反応器からSOGライン400に、ガスおよび/または気相中のメタノールを含むガスを導くように、反応器のガス出口410が流体接続されているSOGライン400を示す。ガスから凝縮されたメタノールは、SOGライン400から、出口490を通ってメタノール貯蔵部495に導かれる。メタノール貯蔵部495は、BLライン100からメタノールを回収するユニット(図示せず)など、パルプ工場の他のメタノール回収ユニットからメタノールを受け取るように構成することができる。SOGライン400はまた、入口ライン900によって示されるように、パルプ工場の他の供給源からガスを受け取るように構成することもできる。
【0088】
材料を移送するように構成され、
図1に示されている入口および出口ラインは、プロセスのより良好な制御を可能にし、システムの異なる部分におけるガス状および液体蒸気の効率的な移送を確実にするために、1つまたは複数のバルブおよび1つまたは複数のポンプを装備することができる。システムのパイプまたはベッセルにサンプリング点を配置して、プロセス中の材料および他のプロセスパラメータの分析を可能にすることができる。
【0089】
本プロセスを実施するように構成されたシステムのある特定の部分を開示する例示的な実施形態を、1反応器システムを示す
図2に示し、ここでは、第2の反応器350は、反応器の入口ライン160を介してパルプ工場のBLライン100に接続されており、BLを第2の反応器350に供給するように構成することができる。
【0090】
第2の反応器350には、酸化物質を第2の反応器に矢印3511によって示される方向で供給するように構成することができる、酸化物質供給の入口ライン351が接続されている。アルカリを、矢印3521によって示される方向でアルカリ供給の入口ライン352を通って第2の反応器に供給することができる。酸または他の化学物質が第2の反応器に供給されてpHを調整する場合、該薬剤は、入口351、352を通って、または
図2に示されていない第1の反応器の別の入口を通って、第2の反応器に供給することができる。
【0091】
反応器の出口ライン395は、反応器の入口ライン160がBLライン100に接続する位置よりも下流の位置で、BLライン100に接続されている。酸化された濾液を、ライン395を通って第2の反応器から黒液循環に除去することができる。
【0092】
メタノールを、酸化された供給原料から回収することができ、それを、パルプ工場に存在する設備を使用することによってBLライン100に供給することができ、BLまたは他のメタノール含有供給原料からメタノールを除去するために使用される。そのような実施形態では、
図2に点線で示されるユニット450および/または550は、必ずしもシステムに存在しない。
【0093】
代替または追加の実施形態では、
図2は、第2の反応器350の内部で形成された蒸気からメタノールを直接除去するために使用することができる、液化ユニット550およびSOGライン450を示す。
図2に示される実施形態では、これらのユニットは、第2の反応器350に直接接続されている。反応器のガス出口551は、液化ユニット550に流体接続されており、ガスおよび/または気相中のメタノールを含むガスを、第2の反応器350から液化ユニット550に導く。ガスから凝縮されたメタノールは、液化ユニット550から、液化ユニット出口580を通ってメタノール貯蔵部585に導かれる。メタノール貯蔵部585は、BLライン100からメタノールを回収するユニット(
図2には図示せず)など、パルプ工場の他のメタノール回収ユニットからメタノールを受け取るように構成することもできる。
【0094】
別の代替または追加の実施形態では、
図2は、第2の反応器からSOgライン450に、ガス相中のメタノールを含むガスを導くように、反応器のガス出口451が流体接続されているSOGライン450を示す。ガスから凝縮されたメタノールは、SOGライン450から、出口480を通ってメタノール貯蔵部485に導かれる。メタノール貯蔵部485は、BLライン100からメタノールを回収するユニット(図示せず)など、パルプ工場の他のメタノール回収ユニットからメタノールを受け取るように構成することができる。メタノール貯蔵部485はまた、入口ライン950によって示されるように、パルプ工場の他の供給源からガスを受け取るように構成することもできる。
【0095】
材料を移送するように構成され、
図2に示されている入口および出口ラインは、プロセスのより良好な制御を可能にし、システムの異なる部分におけるガス状および液相の効率的な移送を確実にするために、1つまたは複数のバルブおよび1つまたは複数のポンプを装備することができる。システムのパイプまたはベッセルにサンプリング点を配置して、プロセス中の材料および他のプロセスパラメータの分析を可能にすることができる。
【0096】
加熱および/または冷却手段を反応器(複数可)内に配置して、反応器の運転温度を制御することができる。
【0097】
例
例1.軟材黒液からのメタノール生産
供給原料として軟材黒液を使用して、本プロセスにおける異なる運転条件の効果を研究した。運転条件およびメタノール生産に対するそれらの効果を表1に示す。
【0098】
実験では、1つの8リットルバッチ反応器を使用した。酸化剤として純粋O2を使用した。運転圧力は4~8バール(g)であった。圧力はO2流量で制御した。温度は80~100℃であった。いくつかの試験では、pHを、NaOHを添加することによって制御した。滞留時間は最大300分であった。MeOHを、GCを用いてBLから直接測定し、また、P-NMRを用いてリグニンのメトキシル基含有量の変化を分析することによって測定した。
【0099】
以下の略語が使用される:DM:質量%での乾燥物質;tds:全溶解固形分。
【表1】
【0100】
結果が示すように、軟材黒液中に存在するリグニンは、本プロセスによって効果的にメタノールに変換された。
【0101】
リグニンからのメタノールの効果的な生産は、表1に示されるすべての条件で達成された。パラメータの各々は、圧力を増加させ、pHを増加させ、反応時間を増加させると、メタノール生産を個々に増加させた。圧力を8バールに増加させた場合、および90℃の温度を使用した場合、実験においてメタノール生産がさらに増加した。
【0102】
結果は、メタノールを生産するためにpH制御が不要であり、アルカリ添加なしで高いメタノール生産に達することができることを示している。さらに、DS%含有量が低いほど、HW黒液およびSW黒液の両方についてより良好な結果をもたらした。
【0103】
例2.硬材黒液からのメタノール生産
供給原料として硬材黒液を使用して、本プロセスにおける異なる運転条件の効果を研究した。運転条件およびメタノール生産に対するそれらの効果を表2に示す。
【0104】
実験では、1つの8リットルバッチ反応器を使用した。酸化剤として純粋O
2を使用した。運転圧力は4~8バール(g)であった。圧力はO
2流量で制御した。温度は90℃であった。pHを制御しなかった。反応時間は200分であった。MeOHを、GCを用いてBLから直接測定し、また、P-NMRを用いてリグニンのメトキシル基含有量の変化を分析することによって測定した。
【表2】
【0105】
結果が示すように、硬材黒液中に存在するリグニンは、本プロセスによって効果的にメタノールに変換された。硬材黒液を用いたメタノールの収率は、軟材を用いた場合よりも大きい。
【0106】
リグニンからのメタノールの効果的な生産は、表2に示されるすべての条件で達成された。圧力が増加させると、メタノール生産が増加した。
【0107】
さらに、pH制御なしで、著しいメタノール生産が観察された。より高い圧力を用いると、メタノール生産の収率がより高かった。
【0108】
前述の説明は、特定の実装および実施形態の非限定的な例として、本発明を実施するために本発明者らによって現在企図されている最良の態様の完全かつ有益な説明を提供した。しかしながら、本発明は、前述のもので提示された実施形態の詳細に限定されず、本発明の特徴から逸脱することなく、同等の手段を使用した他の実施形態で、または実施形態の異なる組合せで実装することができることは、当業者には明らかである。
【0109】
さらに、上記で開示された例示的な実施形態の特徴のいくつかを使用して、他の特徴の対応した使用なしに有利にすることができる。したがって、前述の説明は、本発明の原理の単なる例示であり、本発明を限定するものではないと考えられるべきである。そのため、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。
【国際調査報告】