(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-31
(54)【発明の名称】シリコンアノードバインダー
(51)【国際特許分類】
C08F 220/04 20060101AFI20241024BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20241024BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20241024BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20241024BHJP
C08F 220/56 20060101ALI20241024BHJP
C08F 230/02 20060101ALI20241024BHJP
C08F 220/26 20060101ALI20241024BHJP
C08F 220/60 20060101ALI20241024BHJP
C08F 220/58 20060101ALI20241024BHJP
C08L 33/26 20060101ALI20241024BHJP
C08F 8/44 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
C08F220/04
H01M4/62 Z
H01M4/139
H01M4/13
C08F220/56
C08F230/02
C08F220/26
C08F220/60
C08F220/58
C08L33/26
C08F8/44
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024528608
(86)(22)【出願日】2022-11-18
(85)【翻訳文提出日】2024-05-14
(86)【国際出願番号】 EP2022082487
(87)【国際公開番号】W WO2023089133
(87)【国際公開日】2023-05-25
(32)【優先日】2021-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513092877
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ イタリー エス.ピー.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ビーソ, マウリツィオ
(72)【発明者】
【氏名】ビズドハ, ヴォイチェフ
(72)【発明者】
【氏名】キャスタン, ジャン-クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】マウリ, ステファノ
(72)【発明者】
【氏名】ウィルソン, デービッド ジェームズ
【テーマコード(参考)】
4J002
4J100
5H050
【Fターム(参考)】
4J002AB032
4J002BG131
4J002DA016
4J002DA017
4J002DA026
4J002DA027
4J002DA036
4J002DA037
4J002DJ018
4J002DJ038
4J002DJ048
4J002FD117
4J002FD332
4J002FD338
4J002GQ00
4J002HA06
4J100AJ01Q
4J100AJ02Q
4J100AJ03Q
4J100AJ08R
4J100AL08R
4J100AM15P
4J100AM17P
4J100AM19P
4J100AM21R
4J100BA08R
4J100BA11R
4J100BA17H
4J100BA56R
4J100BA64R
4J100BC73R
4J100CA05
4J100CA31
4J100DA55
4J100FA04
4J100HA31
4J100HB39
4J100JA43
5H050AA07
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050DA10
5H050DA11
5H050DA18
5H050EA08
5H050EA28
5H050GA02
5H050GA03
5H050GA10
5H050GA22
5H050HA02
(57)【要約】
本発明は、非水電解質二次電池用バインダー、二次電池用負極スラリー、二次電池用負極及びそれらを含む二次電池に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターポリマー[ポリマー(P)]であって、
(A1)式(III)のα,β-エチレン性不飽和カルボン酸モノマー[モノマー(AA)]に由来する繰返し単位であって、
【化1】
式中、R
a、R
b及びR
cは、互いに同一であるか又は互いに異なり、水素原子及びC
1~C
3炭化水素基から独立して選択される、
モノマー(AA)に由来する繰返し単位と、
(A2)式(I)の(メタ)アクリルアミドモノマー[モノマー(AM)]に由来する繰返し単位であって、
【化2】
式中、
R
1及びR
2は、互いに同じであるか又は互いに異なり、水素原子、1~6個の炭素原子を有する直鎖又は分岐鎖アルキル基、カルボン酸基又はアミド基から選択され得、
R
3は、水素原子又はメチル基を表し、
R
4及びR
5は、互いに同じであるか又は互いに異なり、水素原子又は1~6個の炭素原子を有する直鎖若しくは分岐鎖アルキル基から選択され得る、
モノマー(AM)に由来する繰返し単位と、
(B)モノマー(AA)及びモノマー(AM)とは異なるモノマー(M)に由来する繰返し単位であって、前記モノマー(M)が以下の式(II)を有し、
【化3】
式中、
R
iは、H、-COOH、-CH2COOH又はアルキル基からなる群から選択され、前記アルキル基は、好ましくはメチル基であり、
R
ii及びR
iiiは、互いに同じであるか又は互いに異なり、水素原子又は1~6個の炭素原子を有する直鎖若しくは分岐鎖アルキル基から選択され得るか、又は-COOH基であり得、
Aは、-C(O)-O-基又は-C(O)-NH-基からなる群から選択される連結であり、
R
xは、水素原子、又はエーテル(-O-)、複素環基、スルホン酸基(-SO
3H)、ホスホン酸基(-PO
3H
2)及びリン酸基(-OPO
3H
2)からなる群から選択される少なくとも1つの官能基を含む直鎖若しくは分岐鎖C
3~C
20炭化水素鎖部分から選択される、
モノマー(M)に由来する繰返し単位と、
からなる、ターポリマー[ポリマー(P)]。
【請求項2】
前記モノマー(M)が、
-式(IIa)の化合物、
【化4】
-式(IIb)の化合物、
【化5】
又は
-式(IIc)の化合物
【化6】
からなる群から選択され、
前記式(IIa)~(IIc)において、nは1~15の整数である、請求項1に記載のポリマー(P)。
【請求項3】
前記モノマー(M)が、
-式(IId)の化合物
【化7】
又は
-式(IIe)の化合物
【化8】
からなる群から選択される、請求項1に記載のポリマー(P)。
【請求項4】
式(III)のモノマー(AA)が、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、クロトン、メチル(メタ)アクリル酸、エチル(メタ)アクリル酸、プロピル(メタ)アクリル酸、イソプロピル(メタ)アクリル酸、n-ブチル(メタ)アクリル酸、2-エチルヘキシル(メタ)アクリル酸、n-ヘキシル(メタ)アクリル酸及びn-オクチル(メタ)アクリル酸からなる群から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載のポリマー(P)。
【請求項5】
式(I)の前記(メタ)アクリルアミドモノマー[モノマー(AM)]が、(メタ)アクリルアミド、又はN-アルキルアクリルアミド、N,N-ジアルキルアクリルアミド等のN-置換(メタ)アクリルアミドからなる群から選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載のポリマー(P)。
【請求項6】
-1~95%、特に5~50%、好ましくは20~40%の、モノマー(AA)に由来する繰返し単位、
-1~90%、好ましくは25~90%、より好ましくは50~80%の、モノマー(AM)に由来する繰返し単位、及び
-0.1~50%、例えば1~30%、特に1~20%、更には2~15%の、モノマー(M)に由来する繰返し単位
を含み、
前述のモル%の全ては、前記ポリマー(P)の繰返し単位の総モル数を基準とする、請求項1~5のいずれか一項に記載のポリマー(P)。
【請求項7】
-5~50%、好ましくは20~40%の、モノマー(AA)に由来する繰返し単位、
-25~90%、より好ましくは50~80%の、モノマー(AM)に由来する繰返し単位、及び
-0.1~50%、例えば1~30%、特に1~20%、更には2~15%の、モノマー(M)に由来する繰返し単位
を含み、
前述のモル%の全ては、前記ポリマー(P)の繰返し単位の総モル数を基準とする、請求項6に記載のポリマー(P)。
【請求項8】
モノマー(AA)がその中和形態である、請求項1~7のいずれか一項に記載のポリマー(P)。
【請求項9】
前記モノマー(AA)の中和形態がリチウム化形態である、請求項9に記載のポリマー(P)。
【請求項10】
水性電極形成組成物[組成物(Comp)]であって、
b)請求項1~9のいずれか一項に記載の少なくとも1つのポリマー(P)と、
b)電極活物質と、
c)水性溶媒と、
d)任意選択的な、少なくとも1つの導電性付与添加剤と、
を含むことを特徴とする、水性電極形成組成物[組成物(Comp)]。
【請求項11】
少なくとも1つの増粘剤を更に含む、請求項10に記載の組成物(Comp)。
【請求項12】
電極[電極(E)]を作製するためのプロセスであって、
(i)少なくとも1つの表面を有する金属基材を提供することと、
(ii)請求項10又は11のいずれか一項に記載の組成物(Comp)を提供することと、
(iii)工程(ii)で提供された前記組成物(Comp)を、工程(i)で提供された前記金属基材の前記少なくとも1つの表面に適用し、これにより前記少なくとも1つの表面への前記組成物(Comp)でコーティングされた金属基材を含む組立体を提供することと、
(iv)工程(iii)において提供された組立体を乾燥させることと、
(v)工程(iv)で得られた前記乾燥した組立体に対して圧縮工程を行って本発明の電極(E)を得ることと、
を含む、電極[電極(E)]を作製するためのプロセス。
【請求項13】
請求項12に記載のプロセスによって得られる電極[電極(E)]。
【請求項14】
請求項13に記載の少なくとも1つの電極(E)を含む電気化学デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年11月22日に出願された欧州特許出願第21306622.8号の優先権を主張し、本出願の全内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、非水電解質二次電池用バインダー、二次電池用負極スラリー、二次電池用負極及びそれらを含む二次電池に関する。
【背景技術】
【0003】
リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池は、電子機器の電源として広く用いられている。高容量及び長いサイクル寿命特性が望ましいが、現在のリチウムイオン電池は、負極の容量によって電荷の蓄積が制限されている。
【0004】
リチウムイオン二次電池の高容量化方法の一例として、負極にケイ素原子を含む活物質が使用され得る。
【0005】
ケイ素は、理論容量が約4,200mAh/gであるため、高容量電池の用途において容量に関して重要である。しかしながら、ケイ素の体積は充電時に約4倍膨張するため、充放電中に、体積の膨張は、活物質間の電気的接続の破壊、集電体からの活物質の剥離、及び電極による活物質の侵食に起因する固体電解質界面(SEI)層の形成等の不可逆的な反応、並びにそれらに伴う寿命の低下を引き起こす。更に、電流バインダーは、充電サイクルの安定性が低下するために電池寿命が著しく低下する前に、限られたケイ素負荷(最大10重量%)にしか対応しない。
【0006】
現在、より大きいエネルギー密度の貯蔵を可能にするケイ素含有アノード向けの新規なバインダーの開発に専念する多くの活動が存在する。
【0007】
典型的には有機ポリマーであるバインダーは、アノード層全体にわたる活物質と、製造中にアノードが上に堆積する集電体との間の接触を維持する結合マトリックスとして機能する。
【0008】
シリコンアノードに適合する次世代バインダーを開発するために、多くのアプローチが追求されている。
【0009】
ポリアクリル酸、ポリアミック酸、ポリアクリルアミド、及び他の水素結合構造を含む、追求されている複数のポリカルボキシラートバインダー及び誘導体が存在する。
【0010】
Miranda,A.et al.(“A Comprehensive Study of Hydrolyzed Polyacrylamide as a Binder for Silicon Anodes”Appl.Mater.Interfaces,2019,11,44090-44100)には、良好な接着性、高い強度、及び高い電気化学的貯蔵容量を備えた複合シリコンアノードの作製における部分加水分解ポリアクリルアミドの使用が開示されている。
【0011】
ポリカルボキシラート、特にポリアクリル酸に関しては、水酸化リチウム等の塩基で中和することによって最初にそれらをリチウム塩に変換することに利点があることも十分に文書化されている。これは、主に、初期容量を減少させる可能性があるセル内の遊離酸基によるリチウムイオンの捕捉を回避するために行われる。
【0012】
国際公開第2015/163302号パンフレットは、架橋ポリアクリル酸ナトリウムコポリマーの水溶液を使用することによって、10サイクルの充電及び放電後の容量維持率を改善することができることを開示している。ポリアクリル酸ナトリウムは、水溶性の高強度高弾性バインダーとして使用されてきた。ポリアクリル酸ナトリウムを使用することにより、ケイ素含有活物質を含む電池の充放電に伴う体積変化を抑制又は低減し、サイクル特性を向上させることが期待される。しかしながら、ポリアクリル酸ナトリウムを主成分として含むコポリマーの水溶液を用いた場合には、負極スラリーのコーティング及び乾燥工程中に電極にクラックが発生するため、ポリアクリル酸ナトリウムを含むコポリマーの水溶液を適用することが実用上困難であると考えられる。
【0013】
ケイ素を多く含むアノードの劣化を防止するための現在の戦略にもかかわらず、それらの効果には限界があるようであり、この分野で有意義な進歩を実現するために必要な、より高レベルのケイ素に到達する明確な突破口は未だ存在しない。分子間の協同効果を利用してバインダーの性能を高めるための混合バインダー系については、数多くの開示が存在する。
【0014】
米国特許出願公開第2020/0343556号明細書は、(メタ)アクリル酸系モノマーに由来する単位、及び(メタ)アクリロニトリルモノマーに由来する単位を含む、第1のコポリマーと、芳香族ビニル系モノマーに由来する単位、及びカルボン酸部分を含むエチレン性不飽和モノマーに由来する単位を含む、第2のコポリマーとのブレンドを含む非水電解質二次電池用バインダーを提供する。当該バインダーは、負極の電極膨張を抑制又は低減することができ、サイクル特性を改善することができる。
【0015】
本出願人は、予想外にも、特定のモノマーと、カルボン酸基及びアクリルアミドを有するモノマーから選択される少なくとも1つのモノマーとの共重合によって得られる特定のポリマーが、高いサイクル安定性及び電気化学的安定性を示す電極、特にケイ素に富むアノード用のバインダーの調製に使用され得ることを見出した。
【発明の概要】
【0016】
本発明の目的は、ターポリマー[ポリマー(P)]であって、
(A1)式(III)のα,β-エチレン性不飽和カルボン酸モノマー[モノマー(AA)]に由来する繰返し単位であって、
【化1】
式中、R
a、R
b及びR
cは、互いに同一であるか又は互いに異なり、水素原子及びC
1~C
3炭化水素基から独立して選択される、
モノマー(AA)に由来する繰返し単位と、
(A2)式(I)の(メタ)アクリルアミドモノマー[モノマー(AM)]に由来する繰返し単位であって、
【化2】
式中、
R
1及びR
2は、互いに同じであるか又は互いに異なり、水素原子、1~6個の炭素原子を有する直鎖又は分岐鎖アルキル基、カルボン酸基又はアミド基から選択され得、
R
3は、水素原子又はメチル基を表し、
R
4及びR
5は、互いに同じであるか又は互いに異なり、水素原子又は1~6個の炭素原子を有する直鎖若しくは分岐鎖アルキル基から選択され得る、
モノマー(AM)に由来する繰返し単位と、
(B)モノマー(AA)及びモノマー(AM)とは異なるモノマー(M)に由来する繰返し単位であって、当該モノマー(M)が以下の式(II)を有し、
【化3】
式中、
R
iは、H、-COOH、-CH
2COOH又はアルキル基からなる群から選択され、アルキル基は、好ましくはメチル基であり、
R
ii及びR
iiiは、互いに同じであるか又は互いに異なり、水素原子又は1~6個の炭素原子を有する直鎖若しくは分岐鎖アルキル基から選択され得るか、又は-COOH基であり得、
Aは、-C(O)-O-基又は-C(O)-NH-基からなる群から選択される連結であり、
R
xは、水素原子、又はエーテル(-O-)、複素環基、スルホン酸基(-SO
3H)、ホスホン酸基(-PO
3H
2)及びリン酸基(-OPO
3H
2)からなる群から選択される少なくとも1つの官能基を含む直鎖若しくは分岐鎖C
3~C
20炭化水素鎖部分から選択される、
モノマー(M)に由来する繰返し単位と、
からなるターポリマー[ポリマー(P)]である。
【0017】
本発明の別の目的は、電気化学デバイス用の電極の作製に使用するための水性電極形成組成物[組成物(Comp)]であって、
a)少なくとも1つのポリマー(P)と、
b)電極活物質と、
c)水性溶媒と、
d)任意選択的な、少なくとも1つの導電性付与添加剤と、
を含むことを特徴とする水性電極形成組成物[組成物(Comp)]である。
【0018】
別の目的において、本発明は、電極[電極(E)]を作製するためのプロセスであって、当該プロセスは、
(i)少なくとも1つの表面を有する金属基材を提供することと、
(ii)上で定義される組成物(Comp)を提供することと、
(iii)工程(ii)で提供された組成物(Comp)を、工程(i)で提供された金属基材の少なくとも1つの表面に適用し、これにより少なくとも1つの表面への当該組成物(Comp)でコーティングされた金属基材を含む組立体を提供することと、
(iv)工程(iii)で提供された組立体を乾燥させることと、
(v)工程(iv)で得られた乾燥した組立体に対して圧縮工程を行って本発明の電極(E)を得ることと、
を含む、電極[電極(E)]を作製するためのプロセスを提供する。
【0019】
更なる態様において、本発明は、本発明のプロセスによって得ることができる電極[電極(E)]に関する。
【0020】
更になお一層の目的において、本発明は、本発明の少なくとも1つの電極(E)を含む電気化学デバイスに関する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に関連して、用語「重量パーセント」(重量%)は、構成要素の重量と混合物の総重量との間の比として計算した混合物中の特定の構成要素の含有量を示す。液体組成物の総固体含有量(TSC)に言及するとき、重量パーセント(重量%)は、液体中の全ての不揮発性成分の重量間の比を示す。
【0022】
「電気化学セル」という用語は、本明細書では、正極、負極及び液体電解質を含む電気化学セルであって、単層又は多層のセパレータが当該電極の一方の少なくとも1つの表面に付着している電気化学セルを意味することが意図される。
【0023】
電気化学セルの非限定的な例は、特に、電池、好ましくは二次電池及び電気二重層コンデンサを含む。
【0024】
本発明の目的のために、「二次電池」とは、充電式電池を示すことを意図する。二次電池の非限定的な例は、特に、アルカリ又はアルカリ土類二次電池を含む。
【0025】
当技術分野で公知のように、電極形成組成物は、物質の組成物、典型的には、液体組成物であり、固体構成要素は、液体に溶解又は分散されており、それを金属基材上に付着させ、それに続いて乾燥させ、結果として電極を形成することができ、金属基材は、電流コレクタの機能を果たす。電極形成組成物は、典型的には、少なくとも電気活物質及び少なくともバインダーを含む。
【0026】
本発明の電極形成組成物[組成物(Comp)]は、バインダーとして機能する少なくとも1つのポリマー(P)を含む。
【0027】
ポリマー(P)
ポリマー(P)は、上で定義されるモノマー(M)、上で定義されるα,β-エチレン性不飽和カルボン酸モノマー[モノマー(AA)]及び(メタ)アクリルアミドモノマー[モノマー(AM)]の混合物のラジカル共重合によって得ることができる。
【0028】
上で定義される式(III)の少なくとも1つのα,β-エチレン性不飽和カルボン酸モノマー(AA)は、好ましくは、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、クロトン、メチル(メタ)アクリル酸、エチル(メタ)アクリル酸、プロピル(メタ)アクリル酸、イソプロピル(メタ)アクリル酸、n-ブチル(メタ)アクリル酸、2-エチルヘキシル(メタ)アクリル酸、n-ヘキシル(メタ)アクリル酸及びn-オクチル(メタ)アクリル酸からなる群から選択される。
【0029】
式(I)の(メタ)アクリルアミドモノマー[モノマー(AM)]は、好ましくは、(メタ)アクリルアミド又はN-アルキルアクリルアミド、N,N-ジアルキルアクリルアミド等のN-置換(メタ)アクリルアミドからなる群から選択される。
【0030】
モノマー(M)の残基Rxにおける「複素環基」としては、イミダゾリジノン等の少なくとも1つの窒素原子化合物を有する飽和複素環基が挙げられる。
【0031】
式(II)中のAが-C(O)-O-基である第1の変形によれば、モノマー(M)は、例えば、式(IIa)の化合物、
【化4】
式(IIb)の化合物、
【化5】
又は、式(IIc)の化合物
【化6】
であり得、式(IIa)~(IIc)中、R
i、R
ii及びR
iiiは上に定義される通りであり、nは1~40の整数である。
【0032】
式(II)中のAが-C(O)-NH-基である第2の変形によれば、モノマー(M)は、例えば、式(IId)の化合物、
【化7】
又は、式(IIe)の化合物
【化8】
であり得、式(IId)及び(IIe)において、R
i、R
ii及びR
iiiは上に定義される通りである。
【0033】
典型的には、ポリマー(P)は、
-モノマー(M)、
-モノマー(AA)及び/又は
-モノマー(AM)
の混合物の、
フリーラジカル源の存在下での、ラジカル共重合によって得られる。
【0034】
任意のフリーラジカル源を使用することができる。スチレン等の、適切なモノマーを使って、例えば温度を上げることによって、自然発生的にフリーラジカルを発生させることが特に可能である。好ましくは適切なUV感受性の開始剤の存在下で、照射によって、特にUV照射によってフリーラジカルを発生させることが可能である。ラジカル又はレドックス型の開始剤又は開始剤系を使用することが可能である。フリーラジカル源は、水溶性であっても水溶性でなくてもよい。水溶性開始剤又は少なくとも部分的に水溶性の開始剤を使用することが好ましいことがある。
【0035】
一般に、フリーラジカルの量が多ければ多いほど、重合はより容易に開始される(それが促進される)が、得られるコポリマーのモル質量はより低くなる。以下の開始剤:
-過酸化物、例えば、過酸化水素、tert-ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、tブチルペルオキシアセタート、t-ブチルペルオキシベンゾアート、t-ブチルペルオキシオクトアート、t-ブチルペルオキシネオデカノアート、t-ブチルペルオキシイソブチラート、ラウロイルペルオキシド、t-アミルペルオキシピバラート、t-ブチルペルオキシピバラート、ジクミルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、過硫酸カリウム又は過硫酸アンモニウム、
-アゾ化合物、例えば、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-ブタンニトリル)、4,4’-アゾビス(4-ペンタン酸)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2-(t-ブチルアゾ)-2-シアノプロパン、2,2’-アゾビス{2-メチル-N-[1,1-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’-アゾビス(N,N’-ジメチレンイソブチルアミジン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス(N,N’-ジメチレンイソブチルアミド)、2,2’-アゾビス{2-メチル-N-[1,1-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’-アゾビス{2-メチル-N-[1,1-ビス(ヒドロキシメチル)エチル]プロピオンアミド}、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]又は2,2’-アゾビス(イソブチルアミド)二水和物、
-レドックス系であって、過酸化水素、アルキルペルオキシド、パーエステル、パーカルボナート等と、任意の鉄塩、チタン塩、亜鉛ホルムアルデヒドスルホキシラート又はナトリウムホルムアルデヒドスルホキシラート、及び還元糖との混合物等の組合せを含む、レドックス系、
-メタ重亜硫酸ナトリウム等の、アルカリ金属重亜硫酸塩、及び還元糖と組み合わせた、アルカリ金属又はアンモニウムパースルファート、パーボラート又はパークロラート、並びに
-ベンゼンホスホン酸等の、アリールホスフィン酸及び同様な性質の他のもの、及び還元糖と組み合わせたアルカリ金属パースルファート
が特に使用されてもよい。
【0036】
重合温度は特に、25℃~95℃であり得る。温度は、フリーラジカル源に依存し得る。それがUV開始剤型の源ではない場合には、50℃~95℃、より好ましくは60℃~80℃で操作することが好ましいであろう。一般に、温度が高ければ高いほど、より容易に重合は開始される(それが促進される)が、得られるコポリマーのモル質量はより低くなる。
【0037】
本発明の好ましい実施形態によれば、モノマー(AA)に由来する繰返し単位と、モノマー(AM)に由来する繰返し単位と、モノマー(M)に由来する繰返し単位とを含むポリマーを得るために、フリーラジカル源の存在下、1つのモノマー(AA)、1つのモノマー(AM)及び1つのモノマー(M)をラジカル重合することにより、ポリマー(P)が得られる。
【0038】
ポリマー(P)は、任意の制御されたラジカル重合によって調製することもできる。これらの中でも、キサンタート(MADIX)の相互交換による可逆的付加-断片化連鎖移動(RAFT)及び高分子設計を挙げることができる。
【0039】
RAFT又はMADIX制御ラジカル重合剤(本明細書では以下、「RAFT/MADIX剤」と言われる)の使用は、例えば国際公開第98/058974A号パンフレット(RHODIA CHIMIE)、1998年12月30日及び国際公開第98/01478A号パンフレット(E.I.DUPONT DE NEMOURS AND COMMONWEALTH SCIENTIFIC AND INDUSTRIAL RESEARCH ORGANIZATION)、1998年1月15日に開示されている。
【0040】
好ましくは、ポリマー(P)は、モノマー(AA)、モノマー(AM)及びモノマー(M):
-モノマー(AA):1~95%、特に5~50%、好ましくは20~40%、
-モノマー(AM):1~90%、好ましくは25~90%、より好ましくは60~80%、
-モノマー(M):0.1~50%、例えば1~30%、特に1~20%、更には2~15%
の総量に基づいて、以下のモル比を有する混合物のラジカル共重合によって得られる。
【0041】
結果として、ポリマー(P)は、好ましくは、
-1~95%、特に5~50%、好ましくは20~40%の、モノマー(AA)に由来する繰返し単位、
-1~90%、好ましくは25~90%、より好ましくは50~80%の、モノマー(AM)に由来する繰返し単位、及び
-0.1~50%、例えば1~30%、特に1~20%、更には2~15%の、モノマー(M)に由来する繰返し単位
を含み、
前述のモル%の全ては、ポリマー(P)の繰返し単位の総モル数を基準とする。
【0042】
本発明の好ましい実施形態では、ポリマー(P)は、
-5~50%、好ましくは20~40%の、モノマー(AA)に由来する繰返し単位、
-25~90%、より好ましくは50~80%の、モノマー(AM)に由来する繰返し単位、及び
-0.1~50%、例えば1~30%、特に1~20%、更には2~15%の、モノマー(M)に由来する繰返し単位
を含み、
前述のモル%の全ては、ポリマー(P)の繰返し単位の総モル数を基準とする。
【0043】
更に、本発明によるポリマー(P)は、好ましくは、少なくとも90kDa、例えば90~5000kDa、好ましくは850kDa~2000kDaの数平均分子量(Mn)を有する。
【0044】
好ましい実施形態によれば、ポリマー(P)は、約100kDa~10000kDa、好ましくは1000kDa~3000kDaの重量平均分子量を有する統計的(ランダム)コポリマーであり、モノマー(AA)、モノマー(AM)及びモノマー(M)の混合物のラジカル重合によって、好ましくは約:
-20~40%のモノマー(AA)、
-50~80%のモノマー(AM)、及び
-2~15%のモノマー(M)
のモル比によって得られる。
【0045】
本発明の一実施形態によれば、ポリマー(P)は、RAFT/MADIX剤を使用した制御ラジカル重合によって得られるブロックコポリマーである。
【0046】
本明細書で使用される「ブロックコポリマー」とは、ジブロック、トリブロック又はマルチブロックであり得る真のブロックポリマーを含むがこれらに限定されない任意の制御された構造コポリマーを意図し、直鎖スターポリマー;櫛;及びグラジエントポリマーとしても知られる。グラジエントポリマーは、ポリマー鎖に沿って組成が徐々に変化する直鎖ポリマーであり、ランダムな構造からブロック状の構造まで及ぶ可能性がある。ブロックコポリマーの各ブロックは、それ自体、ホモポリマー、ランダムコポリマー、ランダムターポリマー、又はグラジエントポリマーであり得る。
【0047】
ポリマー(P)は、固体若しくは乾燥形態又はベクトル化形態、例えば溶液若しくはエマルジョン若しくは懸濁液の形態、特に水溶液の形態で提供することができる。ベクトル化形態、例えば水溶液は、特に3~50重量%、例えば5~30重量%のポリマー(P)を含むことができる。ポリマー(P)を含む水溶液は、特に、ラジカル重合プロセスの最後の水相調製プロセスによって得られる溶液であり得る。
【0048】
ポリマー(P)は、モノマー(AA)に由来する繰返し単位を含むので、適切には、その中和形態のポリマー[ポリマー(P-N)]に変換され得、したがって、中和形態の少なくともα,β-エチレン性不飽和カルボン酸に由来する繰返し単位を含む。
【0049】
したがって、一実施形態では、本発明は、ポリマー(P-N)を提供し、当該ポリマーは、
(A1)中和形態のα,β-エチレン性不飽和カルボン酸モノマー[モノマー(AA)]に由来する繰返し単位と、
(A2)式(I)の(メタ)アクリルアミドモノマー[モノマー(AM)]であって、
【化9】
式中、
R
1及びR
2は、互いに同じであるか又は互いに異なり、水素原子、1~6個の炭素原子を有する直鎖又は分岐鎖アルキル基、カルボン酸基又はアミド基から選択され得、
R
3は、水素原子又はメチル基を表し、
R
4及びR
5は、互いに同じであるか又は互いに異なり、水素原子又は1~6個の炭素原子を有する直鎖若しくは分岐鎖アルキル基から選択され得る、
式(I)の(メタ)アクリルアミドモノマー[モノマー(AM)]と、
(B)モノマー(AA)及びモノマー(AM)とは異なる少なくとも1つのモノマー(M)に由来する繰返し単位であって、当該モノマー(M)が以下の式(II)を有し、
【化10】
式中、
R
iは、H、-COOH、-CH
2COOH又はアルキル基からなる群から選択され、アルキル基は、好ましくはメチル基であり、
R
ii及びR
iiiは、互いに同じであるか又は互いに異なり、水素原子又は1~6個の炭素原子を有する直鎖若しくは分岐鎖アルキル基から選択され得るか、又は-COOH基であり得、
Aは、-C(O)-O-基又は-C(O)-NH-基からなる群から選択される連結であり、
R
xは、水素原子、又はエーテル(-O-)、複素環基、スルホン酸基(-SO
3H)、ホスホン酸基(-PO
3H
2)及びリン酸基(-OPO
3H
2)からなる群から選択される少なくとも1つの官能基を含む直鎖若しくは分岐鎖C
3~C
20炭化水素鎖部分から選択される、
少なくとも1つのモノマー(M)に由来する繰返し単位、
からなる。
【0050】
ポリマー(P-N)は、上で定義したようにポリマー(P)のモノマー(AA)に由来する繰返し単位の酸基を中和することによって調製することができ、酸基の中和は、一価カチオンを含む塩[塩(S)]、好ましくはアルカリ金属塩、適切な溶媒又はアンモニアのいずれかを用いて行われる。
【0051】
塩(S)は、酸基を中和できる任意の塩とすることができる。いくつかの実施形態では、塩(S)は、炭酸リチウム、水酸化リチウム、炭酸水素リチウム、及びそれらの組合せからなる群から選択されるリチウム塩、好ましくは炭酸リチウムである。いくつかの実施形態では、リチウム塩は水酸化リチウムを含有しない。
【0052】
ポリマー(P)を中和する工程で使用するための溶媒は、塩(S)又はアンモニア及び得られたポリマー(P-N)を溶解することができる任意の溶媒であり得る。好ましくは、溶媒は、水、NMP、及びアルコール、例えば、メタノール、イソプロパノール、及びエタノール等の水性溶媒のうちの少なくとも1つから選択される。より好ましくは、溶媒は水性溶媒である。更により好ましくは、溶媒は水である。
【0053】
好ましくは、溶媒中の塩(S)の含有量は、溶媒及び塩(S)の総重量に基づいて、0.5~10重量%、好ましくは1~5重量%の範囲である。
【0054】
塩(S)がリチウム塩であるいくつかの実施形態では、溶媒中のリチウム塩の濃度は、少なくとも0.25当量、0.5当量、0.8当量、1当量、1.5当量、2当量、2.5当量、3当量、4当量のリチウムを酸基に対して提供する。いくつかの実施形態では、溶媒中のリチウム塩の濃度は、最大で5当量、好ましくは最大で4当量のリチウムを酸基に対して提供する。
【0055】
当該実施形態によれば、ポリマー(P-N)は、少なくとも1つのα,β-エチレン性不飽和カルボン酸モノマーのリチウム化形態に由来する繰返し単位を含む。
【0056】
中和後の溶液中のポリマー(P-N)の含有量は、溶媒及びポリマー(P-N)の総重量に基づいて、0.5~40重量%、好ましくは2~30重量%、より好ましくは4~20重量%の範囲である。
【0057】
ポリマー(P-N)は、中和後に溶液から固体として単離し、任意選択的に後の使用のために貯蔵することができる。また、固体ポリマー(P-N)を水に溶解(又は再溶解)して、後述する電極形成組成物を調製することもできる。しかしながら、好ましくは、中和後のポリマー(P-N)を含む溶液は、以下に記載されるようにバインダー組成物を調製する際に、任意選択的に水で更に希釈して、直接使用することができる水溶液である。
【0058】
好ましい実施形態では、ポリマー(P)のリチウム塩、すなわちポリマー(P-Li)は、約10重量%のポリマー(P)を含有する水溶液を完全に中和するためにある量のLiOHを添加することによって調製された。得られた溶液は、6.5~9の範囲のpHを有し、約10重量%のポリマー(P-Li)を含有していた。
【0059】
中和されたポリマー溶液は、中和されたポリマーが増加した粘度を示すので、スラリーの処理及び分散能力において利点を有する。更に、ポリマー(P-Li)は、7より高いpHを有するスラリーで処理した場合に、通常、より良好な性能を示すリチウム化ケイ素型とより適合するpHを有する。更なる利点は、モノマー(AA)に由来する繰返し単位の塩化形態が、セル中の遊離酸基によるリチウムイオンの捕捉を回避することができ、これが第1のサイクルのクーロン効率、したがって初期容量を減少させる可能性があることである。
【0060】
電極形成組成物[組成物(Comp)]
電極形成組成物(Comp)に使用され得るポリマー(P)の量は、様々な要因に左右される。1つのそのような要因は、活物質の表面積及び量、並びに電極形成組成物に添加される導電性付与添加剤の表面積及び量である。これらの要因は、バインダー粒子が導電材料粒子と導電性材料粒子との間にブリッジを提供し、それらを接触させ続けるため、重要であると考えられる。
【0061】
本発明の電極形成組成物[組成物(Comp)]は、1種以上の電極活物質を含む。本発明の目的のためには、用語「電極活物質」は、電気化学デバイスの充電段階及び放電段階中にアルカリ若しくはアルカリ土類金属イオンをその構造中に組み入れるか又は挿入する、及びそれから実質的に放出することができる化合物を意味することを意図する。電極活物質は、好ましくは、リチウムイオンを組み入れる又は挿入する、及び放出することができる。
【0062】
本発明の電極形成組成物(Comp)における電極活物質の性質は、当該組成物が負極(アノード)又は正極(カソード)の製造に使用されるかどうかによって異なる。
【0063】
リチウムイオン二次電池用の正極を形成する場合、電極活物質は、式LiMQ2(式中、Mは、Co、Ni、Fe、Mn、Cr及びV等の遷移金属から選択される少なくとも1つの金属であり、Qは、O又はS等のカルコゲンである)の複合金属カルコゲナイドを含むことができる。これらの中でも、式LiMO2(式中、Mは、上で定義されたものと同じものである)のリチウム系複合金属酸化物を使用することが好ましい。これらの好ましい例としては、LiCoO2、LiNiO2、LiNixCo1-xO2(0<x<1)及びスピネル構造化LiMn2O4を挙げることができる。
【0064】
代替形態として、リチウムイオン二次電池のための正極を形成する場合には更に、電極活物質は、式M1M2(JO4)fE1-f(式中、M1は、リチウムであり、M1金属の20%未満に対応する別のアルカリ金属によって部分的に置換され得、M2は、Fe、Mn、Ni又はこれらの混合物から選択される+2の酸化レベルの遷移金属であり、0を含めてM2金属の35%未満に対応する、+1~+5の酸化レベルの1つ以上の更なる金属によって部分的に置換され得、JO4は、任意のオキシアニオンであり、Jは、P、S、V、Si、Nb、Mo又はこれらの組合せのいずれかであり、Eは、フルオリド、ヒドロキシド又はクロリドアニオンであり、fは、通常、0.75~1に含まれるJO4オキシアニオンのモル分率である)のリチウム化又は部分的にリチウム化された遷移金属オキシアニオン系電気活物質を含み得る。
【0065】
上記に定義されているようなM1M2(JO4)fE1-f電気活物質は、好ましくは、ホスファートをベースとし、秩序立った又は修飾されたカンラン石構造を有し得る。
【0066】
より好ましくは、正極を形成する場合の電極活物質は、式Li3-xM’yM’’2-y(JO4)3(式中、0≦x≦3であり、0≦y≦2であり、M’及びM’’は、同じ又は異なる金属であり、それらの少なくとも1つは、遷移金属であり、JO4は、好ましくは、別のオキシアニオンで部分的に置換されていてもよいPO4であり、Jは、S、V、Si、Nb、Mo又はそれらの組合せのいずれかである)を有する。更により好ましくは、電極活物質は、式Li(FexMn1-x)PO4(式中、0≦x≦1であり、xは好ましくは1である)のホスファート系の電気活物質である(すなわち式LiFePO4のリチウム鉄ホスファートである)。
【0067】
リチウムイオン二次電池用の負極を形成する場合、電極活物質は、好ましくは、1種以上の炭素系材料及び/又は1種以上のケイ素系材料を含み得る。
【0068】
いくつかの実施形態では、炭素系材料は、天然若しくは人工グラファイト等のグラファイト、グラフェン、又はカーボンブラックから選択され得る。これらの材料は、単独で又はその2つ以上の混合物として使用され得る。
【0069】
炭素系材料は、好ましくは、グラファイトである。
【0070】
ケイ素系化合物は、クロロシラン、アルコキシシラン、アミノシラン、フルオロアルキルシラン、ケイ素、塩化ケイ素、炭化ケイ素、酸化ケイ素及びリチウム化ケイ素からなる群から選択される1つ以上であり得る。
【0071】
より特定すると、ケイ素系化合物は、酸化ケイ素又は炭化ケイ素であり得る。
【0072】
電極活物質中に存在する場合、ケイ素系化合物は、電気活性化合物の総重量に対して1~70重量%、好ましくは5~30重量%の範囲の量で含まれる。
【0073】
1種以上の任意選択的な導電性付与添加剤が、本発明の組成物から作られる結果として生じる電極の導電性を改善するために添加されてもよい。電池用の導電剤は、当技術分野において公知である。
【0074】
それらの例には、カーボンブラック、グラファイト微粉末、カーボンナノチューブ、グラフェン、若しくは繊維等の炭素系材料、又はニッケル若しくはアルミニウム等の金属の微粉末若しくは繊維が挙げられ得る。任意選択の導電剤は、好ましくは、カーボンブラックである。カーボンブラックは、例えば、ブランド名、Super P(登録商標)又はKetjenblack(登録商標)で入手可能である。
【0075】
存在する場合、導電剤は、上で記載した炭素系材料と異なる。
【0076】
任意選択的な導電剤の量は、好ましくは、電極形成組成物中の総固形分の0~30重量%である。特に、カソード形成組成物については、任意選択的な導電剤は、典型的には、組成物内の固形分の総量の0重量%~10重量%、より好ましくは0重量%~5重量%である。
【0077】
ケイ素系電気活性化合物を含まないアノード形成組成物については、任意選択的な導電剤は、典型的には、組成物内の固形分の総量の0重量%~5重量%、より好ましくは0重量%~2重量%であり、一方、ケイ素系電気活性化合物を含むアノード形成組成物については、より多い量の、典型的には、組成物内の固形分の総量の0.5~30重量%の任意選択的な導電剤を導入することが有益であることが分かった。
【0078】
更に、本発明の電極形成組成物は、少なくとも1つの増粘剤を含有することができ、存在するとき、増粘剤(レオロジー調整剤とも称される)の量は、特に限定されず、一般に、組成物(Comp)の総重量に対して、0.1~10重量%、好ましくは0.5~5重量%の範囲である。増粘剤は、キャスティング法のための組成物の適切な粘度を提供しながら、本発明の水性組成物からの粉末状電極材料の沈降を防ぐか又は遅くするために一般に添加される。
【0079】
好適な増粘剤の非限定的な例としては、とりわけ、カルボキシル化メチルセルロースのようなカルボキシル化アルキルセルロース等の有機増粘剤、並びモンモリロナイト及びベントナイトのような天然粘土、ラポナイトのような人造粘土並びにシリカ及びタルクのような他のもの等の無機増粘剤が挙げられる。
【0080】
本発明の組成物(Comp)の総固形分(TSC)は、典型的には、組成物(Comp)の総重量に対して15~70重量%、好ましくは40~60重量%に含まれる。組成物(Comp)の全固形分は、特にポリマー(P)、電極活物質、及び増粘剤等の任意の固体の不揮発性追加添加剤を含む、その全ての不揮発性成分の累積であると理解される。
【0081】
水性バインダー溶液を別々に調製し、続いて電極活物質と、任意選択的な導電性材料及び他の添加剤とを組み合わせて組成物(Comp)を調製する場合、安定な溶液を形成するのに十分な量の水が使用される。使用される水の量は、安定した溶液を形成するために必要な最小量から、電極活物質、任意選択的な導電性材料、及び他の固体添加剤が添加された後に電極混合物中で望まれる総固形分を達成するために必要な量までの範囲であってよい。
【0082】
電極(E)
本発明の電極形成組成物(Comp)は、電極[電極(E)]の製造プロセスにおいて使用することができ、当該プロセスは、
(i)少なくとも1つの表面を有する金属基材を提供することと、
(ii)上で定義された電極形成組成物[組成物(Comp)]を提供することと、
(iii)工程(ii)で提供された組成物(Comp)を、工程(i)で提供された金属基材の少なくとも1つの表面に適用し、これにより少なくとも1つの表面への当該組成物(Comp)でコーティングされた金属基材を含む組立体を提供することと、
(iv)工程(iii)において提示された組立体を乾燥させることと、
(v)工程(iv)で得られた乾燥した組立体に対して圧縮工程を行って本発明の電極(E)を得ることと、
を含む。
【0083】
金属基材は、一般に、銅、アルミニウム、鉄、ステンレス鋼、ニッケル、チタン又は銀等の金属でできた箔、メッシュ又はネットである。
【0084】
本発明のプロセスの工程(iii)の下で、電極形成組成物(Comp)は、典型的には、キャスティング、印刷及びロールコーティング等の任意の好適な手順によって金属基材の少なくとも1つの表面上に適用される。
【0085】
任意選択的に、工程(iii)は、工程(ii)において提供される電極形成組成物(Comp)を、工程(iv)において提供される組立体上に適用することによって、典型的には1回以上繰り返され得る。
【0086】
本発明のプロセスの工程(iv)下において、乾燥は、大気圧下又は真空下のいずれかで行われ得る。代わりに、乾燥は、例えば、典型的には特に水分が除かれた(0.001%v/v未満の水蒸気含有量)不活性ガス下等の改変された雰囲気下で行うことができる。
【0087】
乾燥温度は、本発明の電極(E)からの水性媒体の蒸発による除去を達成するように選択されるであろう。
【0088】
工程(v)において、工程(iv)で得られた乾燥組立体をカレンダー加工プロセス等の圧縮工程にかけることで、本発明の電極(E)の目標空隙率及び密度を達成することができる。
【0089】
好ましくは、工程(iv)で得られた乾燥組立体は、ホットプレスされ、圧縮工程中の温度は、25℃~130℃に含まれ、好ましくは約60℃である。
【0090】
電極(E)の好ましい目標の密度は、1.4~2g/cc、好ましくは少なくとも1.55g/ccに含まれる。電極(E)の密度は、電極の構成要素の密度に電極配合物中のそれらの質量比を掛けた積の合計として算出される。
【0091】
更なる態様において、本発明は、本発明のプロセスによって得ることができる電極[電極(E)]に関する。
【0092】
したがって、本発明は、
- 少なくとも1つの表面を有する金属基材と、
- 当該金属基材の少なくとも1つの表面上に直接接着させられた、
a)少なくとも1つのポリマー(P)と、
b)電極活物質と、
c)水性溶媒と、
d)任意選択的な、少なくとも1つの導電性付与添加剤と、
を含む、組成物からなる少なくとも1つの層と、
を含む、電極(E)に関する。
【0093】
当該金属基材の少なくとも1つの表面上へ直接接着された組成物は、電極の製造プロセス中に、例えば工程(iv)(乾燥)において、及び/又は圧縮工程(v)において、水性溶媒が少なくとも部分的に除去されている本発明の電極形成組成物(Comp)に対応する。したがって、本発明の電極形成組成物(Comp)に関して記載される好ましい実施形態は全て、製造プロセス中に除去される水性媒体を除いて、本発明の電極において、当該金属基材の少なくとも1つの表面上へ直接接着させられた組成物にも適用できる。
【0094】
本発明の好ましい実施形態では、電極(E)は負極である。より好ましくは、負極はケイ素系電極活物質を含む。
【0095】
更に好ましい実施形態では、本発明は、電極の総重量を基準として、
-0.5~15重量%、好ましくは0.5~10重量%のポリマー(P)、
-45~95重量%、好ましくは70~90重量%の炭素系材料、
-3~50重量%、好ましくは10~50重量%のケイ素系材料%、及び
-0~5重量%、好ましくは0.5~2.5重量%、より好ましくは約1重量%の導電性付与添加剤、
を含む負極に関する。
【0096】
本発明の電極(E)は、電気化学デバイスでの、特に二次電池での使用に特に好適である。
【0097】
本発明の二次電池は、好ましくは、アルカリ二次電池又はアルカリ土類二次電池である。
【0098】
本発明の二次電池は、より好ましくはリチウムイオン二次電池である。
【0099】
本発明による電気化学デバイスは、当業者に公知の標準的な方法によって調製することができる。
【0100】
参照により本明細書に援用される任意の特許、特許出願、及び刊行物の開示が、ある用語を不明確にし得る程度にまで本出願の記載と矛盾する場合は、本記載が優先するものとする。
【0101】
ここで、本発明を以下の実施例に関連して説明するが、その目的は、単に例示的なものであるにすぎず、本発明の範囲を限定することを意図しない。
【実施例】
【0102】
原材料
AA:Aldrichから入手可能なアクリル酸;
AM:SNFから入手可能なアクリルアミドモノマー(50%水溶液);
Aldrichから入手可能なイタコン酸;
SIPOMER WAMII:Solvayから入手可能、水中50%;
SIPOMER PAM100:Solvayから入手可能;
AMPS(2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸)、Aldrichから入手可能;
MPEGMA750(メトキシポリオキシエチレンメタクリラート)、Evonikから入手可能、水中50%、商品名VISIOMER(登録商標)MPEG 750 MA W;
移動剤:新たに調製した1重量%のSolvayからRhodixan A1として入手可能なRAFT型移動剤のエタノール溶液;
WVRから入手可能な粉末形態の過硫酸ナトリウム;(10重量%の水溶液を重合実験の直前に調製した);
Aldrichから入手可能な粉末形態のナトリウムホルムアルデヒドスルホキシラート;(10重量%の水溶液を重合実験の直前に調製した);
V-50開始剤):(2,2’-アゾビス(2-メチル-プロピオンアミジン)二塩酸塩)Aldrichから粉末形態で入手可能;(10重量%の水溶液を重合実験の直前に調製した);
水酸化リチウム一水和物(純度98%)Sigma-Aldrichから入手可能;(8重量%の水溶液を、実施例P-1の場合、重合実験の直前に調製した)
信越化学工業株式会社から市販されている酸化ケイ素、KSC-1064、理論容量は約2100mAh/gである;
グラファイト、Imerys S.A.からのACTILION2;
Imerys S.AからSC45として入手可能なカーボンブラック;
Nippon PaperからMAC 500LCとして入手可能なカルボキシメチルセルロース(CMC);
日本ゼオン株式会社からZeon(登録商標)BM-480Bとして入手可能なスチレンブタジエンゴム(SBR)懸濁液(水中40重量%);
Solvionicの、2重量%のVCと10重量%のF1ECとを含むEC/DMC 1/1 v/v中に1MのLiPF6が入っている電解質混合物。
【0103】
ポリマーP-1、P-2、P-3、P-4、P-5及びP-5の合成手順
合成プロセスは、周囲との熱交換を最小限に抑えるために、熱的に隔離された反応器内(Thermos様フラスコ)で行った。
【0104】
反応器には、小さな還流システム、機械的撹拌システム、窒素パージライン及び原料供給ラインが設置された複数の入口を含む蓋が装備されていた。
【0105】
第1の工程では、全てのモノマー、溶媒(水)及び任意選択的に移動剤を反応器に装入し、室温で約1時間、撹拌及び窒素パージ下に維持した。窒素パージ工程の前の実施例P-1の場合、反応混合物のpHをLiOH8%水溶液でpH=2.5に調整した。次いで、レドックス型開始剤を反応混合物に添加した。熱開始剤も同時に反応混合物に添加した。開始剤を機械的に撹拌しながら反応混合物中で数分間均質化し、次いで、撹拌及び窒素パージを停止した。
【0106】
発熱効果として、室温から約80~90℃までの反応混合物温度の上昇が約30分~1時間以内に得られた。次いで、反応混合物を反応フラスコ内で更に24時間維持した。
【0107】
ポリマーP-1、P-2、P-3、P-4、P-5及びP-5の合成に使用される試薬の装入を以下の表1に示す。
【0108】
ポリマーP-6の合成手順
全合成は、温度制御加熱システム、還流システムが設置された複数の入口を含む蓋、機械的撹拌システム、窒素パージライン及び原料供給ラインを備えた反応器内で行った。
【0109】
重合の第1の工程において、全モノマーの10%及び溶媒(水)の50%を反応器に装入し、室温で約1時間、撹拌及び窒素パージ下に維持した。次いで、V-50である熱開始剤の一部(総量の20%)を反応混合物に添加した。開始剤を機械的に撹拌しながら反応混合物中で均質化し、外部加熱浴を用いて温度を65℃に上昇させた。65℃で15分間の温度安定化の後、残りの溶媒(水)に可溶化した残りのモノマーを連続供給で4時間かけて反応混合物に添加した。途中及びモノマー供給工程の終わりに、開始剤の2つの部分(各部分は全開始剤量の20%である)をショット方式で添加した。外部加熱/冷却システムにより、重合反応熱(発熱効果)を65℃に制御した。次いで、反応混合物の温度を1時間かけて80℃まで上げ、開始剤の最後のペンディング部分をショット方式で添加し、反応を2時間続けた。次いで、反応混合物を室温まで冷却した。流動性粘性生成物を反応器から更に排出し、固形分(安定した質量まで130℃で加熱した1グラムの試料)、残留モノマー(HPLC分析)及び分子量分布(SEC MALS分析)を考慮して分析した。
【0110】
特定のポリマー実施例に使用されるモノマーのモル比を表1に示す。
【0111】
【0112】
ポリマーP-6の合成に使用される試薬の装入を以下の表2に示す。
【0113】
【0114】
次いで、流動性の高粘性ゲル様生成物をフラスコから排出し、それらの固形分(130℃で安定した質量まで加熱した1グラムの試料)、残留モノマー(HPLC分析)及び分子量分布(SEC MALS分析)を得るために分析した。
【0115】
ポリマーP-1~P-6の特性を表3に要約する。
【0116】
【0117】
分子量の決定
ポリマーの質量分布をSEC MALS分析(SEC:サイズ排除クロマトグラフィ-MALS:多角度レーザ散乱)により測定して、g/モルで表される実数値を得た。
【0118】
SEC MALS分析を、2つの検出器:
-示差屈折率計RI-濃度検出器
-MALS検出器(多角度レーザ散乱)-質量検出器
を備えたHPLCチェーンを用いて行った。
【0119】
Liポリマー水溶液の一般的調製手順
5重量%の約40gのポリマー水溶液を、所望のpH値になるまで、Mettler Toledo製の滴定装置T5を使用して、LiOH水溶液(水中4.25重量%のLiOH)で滴定した。
【0120】
電極形成組成物及び負極の調製
電極形成組成物及び負極を、以下の装置を用いて下記に詳述するように調製した:
機械式ミキサ:傾斜インペラを備えたDispermat(登録商標)シリーズの遊星ミキサ(Speedmixer)及び高剪断機械ミキサ;
フィルムコーター/ドクターブレード:Elcometer(登録商標)4340モータ付き/Zehntner ZUA2000;
真空オーブン:真空によるBINDER VD 23;及びロールプレス:精密4インチホットローリングプレス/100℃までカレンダー処理。
【0121】
実施例1-ターポリマーアノード3%バインダー
CMCの2重量%の22.0gの水溶液、0.44gのカーボンブラック、8.448gの酸化ケイ素、33.792gのグラファイト及び17.790gの脱イオン水を混合することによって水性組成物を調製した。遊星ミキサ中で10分間穏やかに撹拌した後、ポリマーP-3の水中5%固形分含有溶液17.53gを添加した。混合物を遊星ミキサで10分間穏やかに撹拌することにより均質化し、次いで1時間穏やかに撹拌することにより再度混合した。1時間後、剪断力を低下させ、スラリーを低撹拌によって再び混合する。
【0122】
このようにして得たバインダー組成物をドクターブレードを用いて厚さ18.5μmの銅箔上にキャストし、コーティング層を、90℃の温度で約70分間オーブン中で乾燥させることにより、負極を得た。乾燥したコーティング層の厚さは約60μmであった。次いで、電極をロールプレスで60℃でホットプレスすることで、1.6g/ccの目標の密度を得た。得られた負極は、以下の組成を有していた。19.2重量%の酸化ケイ素、76.8重量%のグラファイト、2重量%のイタコン酸(含有量21.4%~id48)、1重量%のCMC及び1重量%のカーボンブラック。こうして、電極E1を得た。電極の品質は、セル試験について十分に良好である。
【0123】
実施例2-ターポリマーアノード3%バインダー
CMCの2重量%の22.0gの水溶液、0.44gのカーボンブラック、8.448gの酸化ケイ素、33.792gのグラファイト及び26.153gの脱イオン水を混合することによって水性組成物を調製した。遊星ミキサ中で10分間穏やかに撹拌した後、ポリマーP-6の水中9.6%固形分含有溶液9.167gを添加した。混合物を遊星ミキサで10分間穏やかに撹拌することにより均質化し、次いで1時間穏やかに撹拌することにより再度混合した。1時間後、剪断力を低下させ、スラリーを低撹拌によって再び混合する。
【0124】
このようにして得たバインダー組成物をドクターブレードを用いて厚さ18.5μmの銅箔上にキャストし、コーティング層を、90℃の温度で約70分間オーブン中で乾燥させることにより、負極を得た。乾燥したコーティング層の厚さは約60μmであった。次いで、電極をロールプレスで60℃でホットプレスすることで、1.6g/ccの目標の密度を得た。得られた負極は、以下の組成を有していた。19.2重量%の酸化ケイ素、76.8重量%のグラファイト、2重量%のSipomer WAMII(含有量2.5%~id56)、1重量%のCMC及び1重量%のカーボンブラック。こうして、電極E2を得た。電極の品質は、セル試験について十分に良好である。
【0125】
実施例3-ターポリマーアノード3%バインダー
CMCの2重量%の20.0gの水溶液、0.40gのカーボンブラック、7.52gの酸化ケイ素、30.080gのグラファイト及び10.127gの脱イオン水を混合することによって水性組成物を調製した。遊星ミキサ中で10分間穏やかに撹拌した後、ポリマーP-1の水中5%固形分含有溶液31.873gを添加した。混合物を遊星ミキサで10分間穏やかに撹拌することにより均質化し、次いで1時間穏やかに撹拌することにより再度混合した。1時間後、剪断力を低下させ、スラリーを低撹拌によって再び混合する。
【0126】
このようにして得たバインダー組成物をドクターブレードを用いて厚さ18.5μmの銅箔上にキャストし、コーティング層を、90℃の温度で約70分間オーブン中で乾燥させることにより、負極を得た。乾燥したコーティング層の厚さは約60μmであった。次いで、電極をロールプレスで60℃でホットプレスすることで、1.6g/ccの目標の密度を得た。得られた負極は、以下の組成を有していた。18.8重量%の酸化ケイ素、75.2重量%のグラファイト、4重量%のAMPS(含有量20%-id27)、1重量%のCMC及び1重量%のカーボンブラック。こうして、電極E3を得た。電極の品質は、セル試験について十分に良好である。
【0127】
実施例4-ターポリマーアノード3%バインダー
CMCの2重量%の20.0gの水溶液、0.40gのカーボンブラック、7.52gの酸化ケイ素、30.080gのグラファイト及び10.127gの脱イオン水を混合することによって水性組成物を調製した。遊星ミキサ中で10分間穏やかに撹拌した後、ポリマーP-2の水中5%固形分含有溶液31.873gを添加した。混合物を遊星ミキサで10分間穏やかに撹拌することにより均質化し、次いで1時間穏やかに撹拌することにより再度混合した。1時間後、剪断力を低下させ、スラリーを低撹拌によって再び混合する。
【0128】
このようにして得たバインダー組成物をドクターブレードを用いて厚さ18.5μmの銅箔上にキャストし、コーティング層を、90℃の温度で約70分間オーブン中で乾燥させることにより、負極を得た。乾燥したコーティング層の厚さは約60μmであった。次いで、電極をロールプレスで60℃でホットプレスすることで、1.6g/ccの目標の密度を得た。得られた負極は、以下の組成を有していた。18.8重量%の酸化ケイ素、75.2重量%のグラファイト、4重量%のMPEGMa(含有量10%-id30)、1重量%のCMC及び1重量%のカーボンブラック。こうして、電極E4を得た。電極の品質は、セル試験について十分に良好である。
【0129】
比較例CE1:スチレンブタジエンゴム(SBR)及びカルボキシメチルセルロース(CMC)を含む負極
CMCの2重量%の25.0gの水溶液、及び0.50gのカーボンブラックを混合して、水性組成物を調製し、遊星ミキサで10分間穏やかに撹拌した後、9.60gの酸化ケイ素、38.4gのグラファイト及び23.861gの脱イオン水を添加した。混合物を遊星ミキサで10分間穏やかに撹拌することにより均質化し、次いで1時間穏やかに撹拌することにより再度混合した。
【0130】
約1時間混合した後、2.639gのSBR懸濁液を組成物に添加し、低撹拌で1時間再び混合した。
【0131】
このようにして得たバインダー組成物をドクターブレードを用いて厚さ18.5μmの銅箔上にキャストし、コーティング層を、90℃の温度で約70分間オーブン中で乾燥させることにより、負極を得た。乾燥したコーティング層の厚さは約60μmであった。次いで、電極をロールプレスで60℃でホットプレスすることで、1.6g/ccの目標の密度を得た。得られた負極は、以下の組成を有していた。19.2重量%の酸化ケイ素、76.8重量%のグラファイト、2重量%のSBR、1重量%のCMC及び1重量%のカーボンブラック。電極CE1をこのようにして得た。電極の品質は、セル試験について十分に良好である。
【0132】
電池の製造
E1、E2、E3、E4及びCE1に従って作製した負極の小さなディスクを、CUSTOMCELLSから購入した平衡化したNMC正極ディスクと一緒に打ち抜くことによって、Arガス雰囲気下のグローブボックス内でコインセル(CR2032タイプ、直径20mm)を作製した。コインセルの作製に使用した電解質は、Solvionicの、2重量%のVCと10重量%のF1ECとを含むEC/DMC 1/1 v/v中に1MのLiPF6が入っている混合物であった。ポリエチレンセパレータ(東燃化学合同会社より市販)は入手したものをそのまま使用した。
【0133】
容量維持率の試験
1CのCレートでのフルセルのサイクル安定性(開放容量を3回測定し、以下の表4に示す):
【0134】
【0135】
結果は、本発明の電極を含む電池における放電容量維持率が、比較例1の電極を使用して作製された電池の放電容量維持率よりも驚くほどはるかに高いことを示している。
【国際調査報告】