(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-31
(54)【発明の名称】抑制因子を克服するためのT細胞ベースの免疫療法用の遺伝子標的
(51)【国際特許分類】
C12N 5/078 20100101AFI20241024BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20241024BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20241024BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20241024BHJP
C12N 15/09 20060101ALI20241024BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20241024BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241024BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20241024BHJP
【FI】
C12N5/078
C12N5/10 ZNA
C12N15/12
C12N5/0783
C12N15/09 100
C12N15/09 110
C12N15/113 Z
A61P35/00
A61K35/17
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024529307
(86)(22)【出願日】2022-11-17
(85)【翻訳文提出日】2024-06-18
(86)【国際出願番号】 US2022080064
(87)【国際公開番号】W WO2023092020
(87)【国際公開日】2023-05-25
(32)【優先日】2021-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2022-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506115514
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
【氏名又は名称原語表記】The Regents of the University of California
(71)【出願人】
【識別番号】505438764
【氏名又は名称】ザ ジェイ. デイビッド グラッドストーン インスティテューツ ア テスタメンタリー トラスト イスタブリッシュド アンダー ザ ウィル オブ ジェイ. デイビッド グラッドストーン
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】マルソン アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】シフルット エリック
(72)【発明者】
【氏名】カルネヴァーレ ジュリア
(72)【発明者】
【氏名】アシュワース アラン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA93Y
4B065AA94X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA01
4B065CA24
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB65
4C087NA14
4C087ZB26
(57)【要約】
本明細書では、刺激されたときに、野生型T細胞と比較して増殖の高まりを示す遺伝子改変されたT細胞、そのようなT細胞を作製する方法、およびがんなどの疾患の治療のために当該T細胞を使用する方法が提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
T細胞負調節遺伝子によりコードされるポリペプチド産物の発現または活性を、腫瘍微小環境(TME)における1つまたは複数の免疫抑制条件下で阻害する、該T細胞負調節遺伝子に対する遺伝子改変
を含む遺伝子改変された造血細胞であって、該ポリペプチド産物の発現または活性が、対照の野生型造血細胞と比較して少なくとも60%阻害されている、前記遺伝子改変された造血細胞。
【請求項2】
前記T細胞負調節遺伝子に対する遺伝子改変が、該遺伝子を不活化する、請求項1に記載の遺伝子改変された造血細胞。
【請求項3】
前記遺伝子改変された造血細胞がT細胞である、請求項1または2に記載の遺伝子改変された造血細胞。
【請求項4】
前記T細胞がCD8+ T細胞またはCD4+ T細胞である、請求項3に記載の遺伝子改変された造血細胞。
【請求項5】
前記T細胞負調節遺伝子が、クラスター化され、規則的に間隔があいた、短い回文構造の反復(CRISPR)システムを用いて阻害されている、請求項1、2、3、または4に記載の遺伝子改変された造血細胞。
【請求項6】
前記T細胞負調節遺伝子が、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)システムを用いて阻害されている、請求項1、2、3、または4記載の遺伝子改変された造血細胞。
【請求項7】
前記T細胞負調節遺伝子が、ジンクフィンガーヌクレアーゼシステムを用いて阻害されている、請求項1、2、3、または4記載の遺伝子改変された造血細胞。
【請求項8】
前記T細胞負調節遺伝子が、メガヌクレアーゼシステムを用いて阻害されている、請求項1、2、3、または4記載の遺伝子改変された造血細胞。
【請求項9】
前記T細胞負調節遺伝子が、阻害性RNAを用いて阻害されている、請求項1、2、3、または4記載の遺伝子改変された造血細胞。
【請求項10】
前記T細胞負調節遺伝子が、shRNA、siRNA、マイクロRNA、またはアンチセンスRNAを用いて阻害されている、請求項1、2、3、または4記載の遺伝子改変された造血細胞。
【請求項11】
前記T細胞負調節遺伝子が、ALAS1、AMBRA1、ANKRD32、ARHGAP15、C15orf40、C3orf33、C8orf44、CARKD、CD300LB、CENPB、CHL1、CHST3、CLEC4M、COL15A1、COL25A1、CORO1A、CUL3、CWC27、CYC1、DOK2、DUSP4、ENG、FAM49B、FKBP1A、FUBP1、GAB3、GLRX、GREB1L、GTF2H2、GTF2I、HAUS1、HIST1H2AD、HIST1H2BC、HOXA10、IGFBP4、IRF2BP2、IYD、KCNK4、KDM6B、L1CAM、LAMA3、LHX8、MOB3C、MBTD1、MRPL17、MRPL33、MTIF2、MYO1H、NEFL、NFKB1A、NFKB2、NMT1、ORC6、PCBP2、PCGF1、PDCD6IP、PDCL、PFN1、PIM2、PIWIL4、PLGLB2、PLXNA4、PDE4C、NXX2-6、POTEJ、PPIA、PPP2R5D、PTPRG、RFPL1、RNF13、RNF185、RNF7、RPRD1B、RPS6KL1、SEL1L3、SEPW1、SH3BGRL、SIRT7、SIT1、SLC47A1、SLC9A3、SP1、ST5、STAT6、TBL1Y、TGFBR1、TGFBR2、TGIF2、TICRR、TMEM62、TNK1、TNS2、TP53BP1、TTN、TUFM、UPK1B、UQCRC1、WWOX、XCL1、ZBTB7A、ZFYVE28、ZNF101、ZNF436、ZNF506、ZNF716、およびZNF805からなる群より選択される、請求項1に記載の遺伝子改変されたT細胞。
【請求項12】
前記T細胞負調節遺伝子が、CHST3、TTN、NMT1、RPS6KL1、STAT6、C8orf44、PDCL、TP53BP1、WWOX、GLRX、ZNF506、TNS2、またはTBL1Yである、請求項1~11のいずれか一項に記載の遺伝子改変されたT細胞。
【請求項13】
前記T細胞負調節遺伝子が、UQCRC1、IRF2BP2、RPRD1B、AMBRA1、DUSP4、またはPCBP2である、請求項1~11のいずれか一項に記載の遺伝子改変されたT細胞。
【請求項14】
前記T細胞負調節遺伝子が、CUL3、CORO1A、RFPL1、HIST1H2AD、PLGLB2、SH3BGRL、GLRX、ARHGAP15、CHL1、SIT1、CYC1、AMBRA1、GAB3、DOK2、FUBP1、またはPDCD6IPである、請求項12に記載の遺伝子改変されたT細胞。
【請求項15】
前記T細胞負調節遺伝子が、KDM6B、COL15A1、ZFYVE28、CARKD、ZNF101、HOXA10、C3orf33、ALAS1、CYC1、ZBTB7A、FAM49B、MRPL17、GREB1L、PPP2R5D、SLC9A3、CWC27、またはGTF2H2である、請求項12に記載の遺伝子改変されたT細胞。
【請求項16】
前記T細胞負調節遺伝子が、ZNF716、XCL1、NFKB2、POTEJ、SP1、NEFL、KCNK4、TNK1、CLEC4M、PCGF1、RNF13、SLC47A1、ZNF436、WWOX、ANKRD32、SEL1L3、SEPW1、またはCOL25A1である、請求項12に記載の遺伝子改変されたT細胞。
【請求項17】
前記T細胞負調節遺伝子が、CENPB、CD300LB、IYD、ST5、RNF7、MBTD1、MRPL33、MYO1H、PIWIL4、ZNF805、HIST1H2BC、UPK1B、LAMA3、ENG、ORC6、TICRR、C15orf40、TUFM、RNF185、PTPRG、HAUS1、TMEM62、IGFBP4、L1CAM、またはMTIF2である、請求項1~11のいずれか一項に記載の遺伝子改変されたT細胞。
【請求項18】
前記T細胞負調節遺伝子が、PFN1、FAM49B、PDE4C、NKX2-6、FKBP1A、GTF2I、LHX8、MOB3C、NFKB1A、PIM2、PLXNA4、FAM105A、SIRT7、またはTGIF2である、請求項1~11のいずれか一項に記載の遺伝子改変されたT細胞。
【請求項19】
請求項1~18のいずれか一項に記載の遺伝子改変されたT細胞を含む、細胞の集団。
【請求項20】
請求項1~18のいずれか一項に記載の遺伝子改変された造血細胞を含む細胞の集団を、がんを有する対象に投与する段階を含む、がんを治療する方法。
【請求項21】
対照の野生型T細胞と比較して変調された免疫機能を有し、かつT遺伝子によってコードされるポリペプチドの発現を阻害するための遺伝子改変を含む、遺伝子改変されたT細胞であって、
該ポリペプチドの発現が、該対照の野生型T細胞と比較して少なくとも60%阻害されており、
該遺伝子が、ALAS1、AMBRA1、ANKRD32、ARHGAP15、C15orf40、C3orf33、C8orf44、CARKD、CD300LB、CENPB、CHL1、CHST3、CLEC4M、COL15A1、COL25A1、CORO1A、CUL3、CWC27、CYC1、DOK2、DUSP4、ENG、FAM49B、FKBP1A、FUBP1、GAB3、GLRX、GREB1L、GTF2H2、GTF2I、HAUS1、HIST1H2AD、HIST1H2BC、HOXA10、IGFBP4、IRF2BP2、IYD、KCNK4、KDM6B、L1CAM、LAMA3、LHX8、MOB3C、MBTD1、MRPL17、MRPL33、MTIF2、MYO1H、NEFL、NFKB1A、NFKB2、NMT1、ORC6、PCBP2、PCGF1、PDCD6IP、PDCL、PFN1、PIM2、PIWIL4、PLGLB2、PLXNA4、PDE4C、NXX2-6、POTEJ、PPIA、PPP2R5D、PTPRG、RFPL1、RNF13、RNF185、RNF7、RPRD1B、RPS6KL1、SEL1L3、SEPW1、SH3BGRL、SIRT7、SIT1、SLC47A1、SLC9A3、SP1、ST5、STAT6、TBL1Y、TGFBR1、TGFBR2、TGIF2、TICRR、TMEM62、TNK1、TNS2、TP53BP1、TTN、TUFM、UPK1B、UQCRC1、WWOX、XCL1、ZBTB7A、ZFYVE28、ZNF101、ZNF436、ZNF506、ZNF716、およびZNF805からなる群より選択される、
前記遺伝子改変されたT細胞。
【請求項22】
前記遺伝子が不活化されている、請求項21に記載の遺伝子改変されたT細胞。
【請求項23】
前記T細胞がCD8+ T細胞またはCD4+ T細胞である、請求項22に記載の遺伝子改変されたT細胞。
【請求項24】
前記遺伝子が、CRISPRシステム、TALENシステム、ジンクフィンガーヌクレアーゼシステム、メガヌクレアーゼシステム、siRNA、アンチセンスRNA、マイクロRNA、またはヘアピンRNAを用いて阻害されている、請求項21~23のいずれか一項に記載の遺伝子改変されたT細胞。
【請求項25】
請求項21~24のいずれか一項に記載の遺伝子改変されたT細胞を含む、細胞培養物。
【請求項26】
以下の段階を含む、がんを有する対象の治療のための遺伝子改変された細胞集団を作製する方法:
患者から造血細胞を取得する段階;
ALAS1、AMBRA1、ANKRD32、ARHGAP15、C15orf40、C3orf33、C8orf44、CARKD、CD300LB、CENPB、CHL1、CHST3、CLEC4M、COL15A1、COL25A1、CORO1A、CUL3、CWC27、CYC1、DOK2、DUSP4、ENG、FAM49B、FKBP1A、FUBP1、GAB3、GLRX、GREB1L、GTF2H2、GTF2I、HAUS1、HIST1H2AD、HIST1H2BC、HOXA10、IGFBP4、IRF2BP2、IYD、KCNK4、KDM6B、L1CAM、LAMA3、LHX8、MOB3C、MBTD1、MRPL17、MRPL33、MTIF2、MYO1H、NEFL、NFKB1A、NFKB2、NMT1、ORC6、PCBP2、PCGF1、PDCD6IP、PDCL、PFN1、PIM2、PIWIL4、PLGLB2、PLXNA4、PDE4C、NXX2-6、POTEJ、PPIA、PPP2R5D、PTPRG、RFPL1、RNF13、RNF185、RNF7、RPRD1B、RPS6KL1、SEL1L3、SEPW1、SH3BGRL、SIRT7、SIT1、SLC47A1、SLC9A3、SP1、ST5、STAT6、TBL1Y、TGFBR1、TGFBR2、TGIF2、TICRR、TMEM62、TNK1、TNS2、TP53BP1、TTN、TUFM、UPK1B、UQCRC1、WWOX、XCL1、ZBTB7A、ZFYVE28、ZNF101、ZNF436、ZNF506、ZNF716、およびZNF805からなる群より選択されるT細胞阻害性遺伝子の発現を阻害する段階;
該T細胞阻害性遺伝子が阻害されている造血細胞を選択する段階;
選択された造血細胞集団をエクスビボで拡大増殖させる段階。
【請求項27】
前記造血細胞が造血幹細胞である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記造血細胞がT細胞である、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記造血細胞がCD8+ T細胞またはCD4+ T細胞である、請求項26に記載の方法。
【請求項30】
前記T細胞阻害性遺伝子が、CRISPRシステム、TALENシステム、ジンクフィンガーヌクレアーゼシステム、メガヌクレアーゼシステム、siRNA、アンチセンスRNA、マイクロRNA、またはショートヘアピンRNAを用いて阻害されている、請求項26、27、28、または29に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2022年4月13日に出願された米国仮出願第63/330,673号および2021年11月17日に出願された米国仮出願第63/280,487号の優先権の恩典を主張するものであり、それぞれの出願はあらゆる目的のために参照により組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
キメラ抗原受容体(CAR)T細胞療法は、一部の侵襲性の強い血液悪性腫瘍に対する免疫治療として大きな変革をもたらしてきた。さらに、T細胞受容体(TCR)遺伝子導入T細胞は、初期臨床試験で有望な結果を示している。しかしながら、多くのがん、特に固形腫瘍は、現在のCARまたはTCRベースのT細胞療法に応答しなかったり、初期応答後に急速に進行したりする。腫瘍塊の内部では、免疫抑制性の微小環境が抗腫瘍免疫の有効性に対する重大な障壁となっている(例えば、Anderson, et al., Cancer Cell 31, 311-325, 2017(非特許文献1); Binnewies, et al., Nat. Med. 24, 541-550, 2018(非特許文献2)を参照されたい)。その上、抗原への持続的な曝露はT細胞の機能不全につながる可能性があり、これにより、操作されたT細胞においてエフェクター機能と長期持続性とのバランスをとる必要性が強調されている(例えば、Vardhana, et al., Nat. Immunol. 21, 1022-1033, 2020(非特許文献3); Wei, et al., Nature 576, 471-476, 2019(非特許文献4))。選択遺伝子を標的とした操作は、養子T細胞療法の有効性を高める戦略として検証されつつある。大規模なCRISPRスクリーニングは、操作されたT細胞の有効性を高めることができる遺伝的摂動の発見を加速することが可能である。本発明者らは以前、初代ヒトT細胞における発見プラットフォームを開発し、それを応用して、T細胞増殖の新規な遺伝的調節因子を特定した(Shifrut, et al., Cell 175, 1958-1971.e15, 2018(非特許文献5); WO2020/014235(特許文献1))。低酸素の腫瘍微小環境における高レベルのアデノシンに応答して上昇したアデノシンA2A阻害性シグナル伝達をシミュレートするために、アデノシンアンタゴニストが使用された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Anderson, et al., Cancer Cell 31, 311-325, 2017
【非特許文献2】Binnewies, et al., Nat. Med. 24, 541-550, 2018
【非特許文献3】Vardhana, et al., Nat. Immunol. 21, 1022-1033, 2020
【非特許文献4】Wei, et al., Nature 576, 471-476, 2019
【非特許文献5】Shifrut, et al., Cell 175, 1958-1971.e15, 2018
【発明の概要】
【0005】
発明の簡単な概要
本開示は、一部には、腫瘍微小環境(TME)において一般的に遭遇する様々な免疫抑制条件を用いて、腫瘍微小環境で見られる種々の形の抑制に対して抵抗性を付与し得る遺伝子標的を特定するための、偏りのない遺伝子スクリーニングの開発に基づいている。固有のチェックポイントシグナルをモデル化するために、本発明者らは、腫瘍浸潤T細胞においてしばしば抑制されるT細胞活性化の重要な経路であるカルシウム/カルシニューリンシグナル伝達のインヒビター(タクロリムスおよびシクロスポリン)に焦点を当てた(Park, et al, Front. Immunol. 11, 195, 2020; Martinez, et al., Immunity 42, 265-278, 2015)。TMEにおける顕著な外因性の阻害性シグナルを模倣するために、我々は、腫瘍内でT細胞機能を制限する正規の抑制性サイトカインであるTGFβを使用した(Kloss, et al., Mol. Ther. 26, 1855-1866, 2018)。最後に、複数のタイプの腫瘍では制御性T細胞(Treg)がT細胞機能不全の重要なメディエーターであるため(Plitas, et al, Immunity 45, 1122-1134, 2016)、本発明者らは、細胞間相互作用を分析し、かつTregによるエフェクターT細胞の抑制に対して抵抗性を付与する遺伝子を明らかにするために、我々のスクリーニング・プラットフォームを適応させた。
【0006】
したがって、一局面では、T細胞刺激の負の調節因子をコードする遺伝子(本明細書ではT細胞負調節遺伝子とも呼ばれる)に対する遺伝子改変、例えば該遺伝子によってコードされるポリペプチド産物の発現または活性を阻害する遺伝子改変を含む、遺伝子改変された造血細胞が本明細書に提供され、ここで、該ポリペプチド産物の発現または活性は、対照の野生型造血細胞と比較して少なくとも60%阻害されている。いくつかの態様では、T細胞刺激の負の調節因子をコードする遺伝子に対する遺伝子改変は、該遺伝子を不活化するものである。いくつかの態様では、遺伝子改変された造血細胞はT細胞である。いくつかの態様では、該T細胞はCD8+ T細胞またはCD4+ T細胞である。いくつかの態様では、T細胞負調節遺伝子は、遺伝子編集技術、例えば、クラスター化され、規則的に間隔があいた、短い回文構造の反復(CRISPR)システム、例えば、CRISPR干渉(CRISPRi)、CRISPRoff、機能喪失型変異を導入する塩基編集などを用いて阻害される。あるいは、T細胞負調節遺伝子は、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)システム、ジンクフィンガーヌクレアーゼシステム、またはメガヌクレアーゼシステムを用いて阻害され得る。いくつかの態様では、T細胞負調節遺伝子は、アンチセンスRNA、siRNA、マイクロRNA、またはショートヘアピンRNAを用いて阻害される。いくつかの態様では、改変されるT細胞負調節遺伝子は、ALAS1、AMBRA1、ANKRD32、ARHGAP15、C15orf40、C3orf33、C8orf44、CARKD、CD300LB、CENPB、CHL1、CHST3、CLEC4M、COL15A1、COL25A1、CORO1A、CUL3、CWC27、CYC1、DOK2、DUSP4、ENG、FAM49B、FKBP1A、FUBP1、GAB3、GLRX、GREB1L、GTF2H2、GTF2I、HAUS1、HIST1H2AD、HIST1H2BC、HOXA10、IGFBP4、IRF2BP2、IYD、KCNK4、KDM6B、L1CAM、LAMA3、LHX8、MOB3C、MBTD1、MRPL17、MRPL33、MTIF2、MYO1H、NEFL、NFKB1A、NFKB2、NMT1、ORC6、PCBP2、PCGF1、PDCD6IP、PDCL、PFN1、PIM2、PIWIL4、PLGLB2、PLXNA4、PDE4C、NXX2-6、POTEJ、PPIA、PPP2R5D、PTPRG、RFPL1、RNF13、RNF185、RNF7、RPRD1B、RPS6KL1、SEL1L3、SEPW1、SH3BGRL、SIRT7、SIT1、SLC47A1、SLC9A3、SP1、ST5、STAT6、TBL1Y、TGFBR1、TGFBR2、TGIF2、TICRR、TMEM62、TNK1、TNS2、TP53BP1、TTN、TUFM、UPK1B、UQCRC1、WWOX、XCL1、ZBTB7A、ZFYVE28、ZNF101、ZNF436、ZNF506、ZNF716、およびZNF805からなる群より選択される遺伝子である。いくつかの態様では、T細胞負調節遺伝子は、CHST3、TTN、NMT1、RPS6KL1、STAT6、C8orf44、PDCL、TP53BP1、WWOX、GLRX、ZNF506、TNS2、またはTBL1Yである。いくつかの態様では、T細胞負調節遺伝子は、UQCRC1、IRF2BP2、RPRD1B、AMBRA1、DUSP4、またはPCBP2である。いくつかの態様では、T細胞負調節遺伝子は、CUL3、CORO1A、RFPL1、HIST1H2AD、PLGLB2、SH3BGRL、GLRX、ARHGAP15、CHL1、SIT1、CYC1、AMBRA1、GAB3、DOK2、FUBP1、またはPDCD6IPである。いくつかの態様では、T細胞負調節遺伝子は、KDM6B、COL15A1、ZFYVE28、CARKD、ZNF101、HOXA10、C3orf33、ALAS1、CYC1、ZBTB7A、FAM49B、MRPL17、GREB1L、PPP2R5D、SLC9A3、CWC27、またはGTF2H2である。いくつかの態様では、T細胞負調節遺伝子は、ZNF716、XCL1、NFKB2、POTEJ、SP1、NEFL、KCNK4、TNK1、CLEC4M、PCGF1、RNF13、SLC47A1、ZNF436、WWOX、ANKRD32、SEL1L3、SEPW1、またはCOL25A1である。いくつかの態様では、T細胞負調節遺伝子は、CENPB、CD300LB、IYD、ST5、RNF7、MBTD1、MRPL33、MYO1H、PIWIL4、ZNF805、HIST1H2BC、UPK1B、LAMA3、ENG、ORC6、TICRR、C15orf40、TUFM、RNF185、PTPRG、HAUS1、TMEM62、IGFBP4、L1CAM、またはMTIF2である。
【0007】
さらなる局面では、本明細書の例えばこの段落に記載されるような、遺伝子改変された造血細胞、例えばT細胞を含む、細胞の集団が本明細書に提供される。いくつかの態様では、造血細胞、例えばT細胞は、本明細書に記載されるような遺伝子改変を2つ以上含み得る。
【0008】
さらなる局面では、本明細書の例えば前段落に記載されるような、遺伝子改変された造血細胞を含む細胞の集団を投与する段階を含む、がんの治療方法が本明細書に提供される。
【0009】
別の局面では、対照の野生型T細胞と比較して、例えば低下した、変調された免疫機能を有し、かつT細胞遺伝子によってコードされるポリペプチドの発現を阻害する遺伝子改変を含む、遺伝子改変されたT細胞が本明細書に提供され、ここで、該ポリペプチドの発現は、対照の野生型T細胞と比較して少なくとも60%阻害されており、該遺伝子は、ALAS1、AMBRA1、ANKRD32、ARHGAP15、C15orf40、C3orf33、C8orf44、CARKD、CD300LB、CENPB、CHL1、CHST3、CLEC4M、COL15A1、COL25A1、CORO1A、CUL3、CWC27、CYC1、DOK2、DUSP4、ENG、FAM49B、FKBP1A、FUBP1、GAB3、GLRX、GREB1L、GTF2H2、GTF2I、HAUS1、HIST1H2AD、HIST1H2BC、HOXA10、IGFBP4、IRF2BP2、IYD、KCNK4、KDM6B、L1CAM、LAMA3、LHX8、MOB3C、MBTD1、MRPL17、MRPL33、MTIF2、MYO1H、NEFL、NFKB1A、NFKB2、NMT1、ORC6、PCBP2、PCGF1、PDCD6IP、PDCL、PFN1、PIM2、PIWIL4、PLGLB2、PLXNA4、PDE4C、NXX2-6、POTEJ、PPIA、PPP2R5D、PTPRG、RFPL1、RNF13、RNF185、RNF7、RPRD1B、RPS6KL1、SEL1L3、SEPW1、SH3BGRL、SIRT7、SIT1、SLC47A1、SLC9A3、SP1、ST5、STAT6、TBL1Y、TGFBR1、TGFBR2、TGIF2、TICRR、TMEM62、TNK1、TNS2、TP53BP1、TTN、TUFM、UPK1B、UQCRC1、WWOX、XCL1、ZBTB7A、ZFYVE28、ZNF101、ZNF436、ZNF506、ZNF716、およびZNF805からなる群より選択される。いくつかの態様では、T細胞負調節遺伝子は、CHST3、TTN、NMT1、RPS6KL1、STAT6、C8orf44、PDCL、TP53BP1、WWOX、GLRX、ZNF506、TNS2、またはTBL1Yである。いくつかの態様では、T細胞負調節遺伝子は、UQCRC1、IRF2BP2、RPRD1B、AMBRA1、DUSP4、またはPCBP2である。いくつかの態様では、T細胞負調節遺伝子は、CUL3、CORO1A、RFPL1、HIST1H2AD、PLGLB2、SH3BGRL、GLRX、ARHGAP15、CHL1、SIT1、CYC1、AMBRA1、GAB3、DOK2、FUBP1、またはPDCD6IPである。いくつかの態様では、T細胞負調節遺伝子は、KDM6B、COL15A1、ZFYVE28、CARKD、ZNF101、HOXA10、C3orf33、ALAS1、CYC1、ZBTB7A、FAM49B、MRPL17、GREB1L、PPP2R5D、SLC9A3、CWC27、またはGTF2H2である。いくつかの態様では、T細胞負調節遺伝子は、ZNF716、XCL1、NFKB2、POTEJ、SP1、NEFL、KCNK4、TNK1、CLEC4M、PCGF1、RNF13、SLC47A1、ZNF436、WWOX、ANKRD32、SEL1L3、SEPW1、またはCOL25A1である。いくつかの態様では、T細胞負調節遺伝子は、CENPB、CD300LB、IYD、ST5、RNF7、MBTD1、MRPL33、MYO1H、PIWIL4、ZNF805、HIST1H2BC、UPK1B、LAMA3、ENG、ORC6、TICRR、C15orf40、TUFM、RNF185、PTPRG、HAUS1、TMEM62、IGFBP4、L1CAM、またはMTIF2である。いくつかの態様では、該遺伝子は不活化される。いくつかの態様では、T細胞はCD8+またはCD4 T細胞である。いくつかの態様では、該遺伝子は、CRISPRシステム、TALENシステム、ジンクフィンガーヌクレアーゼシステム、メガヌクレアーゼシステム、siRNA、アンチセンスRNA、マイクロRNA、またはショートヘアピンRNAを用いて阻害される。さらなる局面では、本発明は、例えば本明細書のこの段落に記載されるような、遺伝子改変されたT細胞を含む細胞培養物を提供する。
【0010】
さらなる局面では、がんを有する対象の治療のための遺伝子改変された細胞集団を作製する方法が本明細書に提供され、この方法は以下の段階を含む:患者から造血細胞を取得する段階;ALAS1、AMBRA1、ANKRD32、ARHGAP15、C15orf40、C3orf33、C8orf44、CARKD、CD300LB、CENPB、CHL1、CHST3、CLEC4M、COL15A1、COL25A1、CORO1A、CUL3、CWC27、CYC1、DOK2、DUSP4、ENG、FAM49B、FKBP1A、FUBP1、GAB3、GLRX、GREB1L、GTF2H2、GTF2I、HAUS1、HIST1H2AD、HIST1H2BC、HOXA10、IGFBP4、IRF2BP2、IYD、KCNK4、KDM6B、L1CAM、LAMA3、LHX8、MOB3C、MBTD1、MRPL17、MRPL33、MTIF2、MYO1H、NEFL、NFKB1A、NFKB2、NMT1、ORC6、PCBP2、PCGF1、PDCD6IP、PDCL、PFN1、PIM2、PIWIL4、PLGLB2、PLXNA4、PDE4C、NXX2-6、POTEJ、PPIA、PPP2R5D、PTPRG、RFPL1、RNF13、RNF185、RNF7、RPRD1B、RPS6KL1、SEL1L3、SEPW1、SH3BGRL、SIRT7、SIT1、SLC47A1、SLC9A3、SP1、ST5、STAT6、TBL1Y、TGFBR1、TGFBR2、TGIF2、TICRR、TMEM62、TNK1、TNS2、TP53BP1、TTN、TUFM、UPK1B、UQCRC1、WWOX、XCL1、ZBTB7A、ZFYVE28、ZNF101、ZNF436、ZNF506、ZNF716、およびZNF805からなる群より選択されるT細胞負調節遺伝子の発現を阻害する段階;T細胞負調節遺伝子が阻害されている造血細胞を選択する段階;ならびに選択された造血細胞集団をエクスビボで拡大増殖させる段階。いくつかの態様では、T細胞負調節遺伝子は、CHST3、TTN、NMT1、RPS6KL1、STAT6、C8orf44、PDCL、TP53BP1、WWOX、GLRX、ZNF506、TNS2、またはTBL1Yである。いくつかの態様では、T細胞負調節遺伝子は、UQCRC1、IRF2BP2、RPRD1B、AMBRA1、DUSP4、またはPCBP2である。いくつかの態様では、T細胞負調節遺伝子は、CUL3、CORO1A、RFPL1、HIST1H2AD、PLGLB2、SH3BGRL、GLRX、ARHGAP15、CHL1、SIT1、CYC1、AMBRA1、GAB3、DOK2、FUBP1、またはPDCD6IPである。いくつかの態様では、T細胞負調節遺伝子は、KDM6B、COL15A1、ZFYVE28、CARKD、ZNF101、HOXA10、C3orf33、ALAS1、CYC1、ZBTB7A、FAM49B、MRPL17、GREB1L、PPP2R5D、SLC9A3、CWC27、またはGTF2H2である。いくつかの態様では、T細胞負調節遺伝子は、ZNF716、XCL1、NFKB2、POTEJ、SP1、NEFL、KCNK4、TNK1、CLEC4M、PCGF1、RNF13、SLC47A1、ZNF436、WWOX、ANKRD32、SEL1L3、SEPW1、またはCOL25A1である。いくつかの態様では、T細胞負調節遺伝子は、CENPB、CD300LB、IYD、ST5、RNF7、MBTD1、MRPL33、MYO1H、PIWIL4、ZNF805、HIST1H2BC、UPK1B、LAMA3、ENG、ORC6、TICRR、C15orf40、TUFM、RNF185、PTPRG、HAUS1、TMEM62、IGFBP4、L1CAM、またはMTIF2である。いくつかの態様では、造血細胞は造血幹細胞である。いくつかの態様では、造血細胞はT細胞、例えばCD8+またはCD4+ T細胞である。いくつかの態様では、T細胞負調節遺伝子は、CRISPRシステム、TALENシステム、ジンクフィンガーヌクレアーゼシステム、メガヌクレアーゼシステム、siRNA、アンチセンスRNA、マイクロRNA、またはショートヘアピンRNAを用いて阻害される。
【0011】
定義
本明細書で使用する単数形の「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、文脈上明らかに別段の指示がない限り、複数形を指すことも意図されている。
【0012】
「ポリヌクレオチド」および「核酸」という用語は、交換可能に使用され、デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドのいずれかの、任意の長さのヌクレオチドのポリマー形態を指す。この用語には、RNA、DNA、ならびに前述のものの合成形態および混合ポリマーが含まれる。特定の態様では、ヌクレオチドは、リボヌクレオチド、デオキシヌクレオチド、またはいずれかの種類のヌクレオチドの修飾形態もしくはアナログ、およびこれらの組み合わせを指す。さらに、ポリヌクレオチドは、天然に存在するおよび/または天然に存在しないヌクレオチド結合によって一緒に連結された天然ヌクレオチドおよび修飾ヌクレオチドのいずれかまたは両方を含み得る。核酸分子は、化学的または生化学的に修飾されていてもよいし、非天然または誘導体化ヌクレオチド塩基を含んでいてもよい。このような修飾には、例えば、標識、メチル化、1つまたは複数の天然ヌクレオチドのアナログによる置換、ヌクレオチド間修飾、例えば、非荷電結合(例えば、メチルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホルアミデート、カルバメートなど)、荷電結合(例えば、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエートなど)、ペンダント部分(例えば、ポリペプチド)、インターカレーター(例えば、アクリジン、ソラレンなど)、キレート剤、アルキル化剤、および修飾された結合(例えば、αアノマーの核酸など)が含まれる。「ポリヌクレオチド」および「核酸」はまた、一本鎖、二本鎖、部分二重鎖、三重鎖、ヘアピン型、環状および南京錠型の構造を含む、あらゆる位相幾何学的構造(topological conformation)を含むことも意図されている。核酸配列への言及は、別段の定めがない限り、その相補体を包含する。したがって、特定の配列を有する核酸分子への言及は、その相補的配列を有する相補鎖を包含すると理解すべきである。ポリペプチド配列をコードする「ポリヌクレオチド」または「核酸」への言及には、コドン最適化された核酸および同じポリペプチド配列をコードする代替コドンを含む核酸も含まれる。
【0013】
本明細書で使用する「相補的」または「相補性」という用語は、ヌクレオチドまたは核酸間の特異的な塩基対合を指す。塩基対合は完全に相補的であっても、部分的に相補的であってもよい。
【0014】
「遺伝子」という用語は、ポリペプチド鎖の産生またはコード化に関与するDNAのセグメントを指すことができる。それは、コード領域の前後の領域(リーダーおよびトレーラー)、ならびに個々のコードセグメント(エクソン)間の介在配列(イントロン)を含んでいてもよい。遺伝子は、HUGO遺伝子命名法委員会によって割り当てられたヒト遺伝子の記号と命名法によって定義される。
【0015】
「プロモーター」は、核酸の転写を指示する1つまたは複数の核酸制御配列として定義される。本明細書で使用するプロモーターには、転写開始部位付近の必要な核酸配列が含まれる。プロモーターには、任意で、遠位のエンハンサーまたはリプレッサーエレメントも含まれ、これらは転写開始部位から数千塩基対も離れて位置し得る。
【0016】
「発現を阻害すること」という用語は、遺伝子またはタンパク質の発現を阻害または低減させることを指す。遺伝子(すなわち、転写因子をコードする遺伝子、または転写因子によって調節される遺伝子)の発現を阻害または低減させるために、遺伝子の配列および/または構造は、その遺伝子が転写(DNAの場合)または翻訳(RNAの場合)されないように、あるいは機能性タンパク質(例えば、転写因子)を産生するために転写または翻訳されないように、改変され得る。遺伝子の発現を阻害または低減させるための様々な方法は、本明細書でさらに詳しく説明される。いくつかの方法では、野生型遺伝子に核酸の置換、付加、および/または欠失を導入することができる。いくつかの方法では、遺伝子に一本鎖切断または二本鎖切断を導入することもできる。タンパク質(例えば、T細胞阻害性タンパク質)の発現を阻害または低減させるためには、上述したように、そのタンパク質をコードする遺伝子またはポリヌクレオチドの発現が阻害または低減され得る。他の態様では、例えば抗体またはプロテアーゼを用いて、タンパク質の発現を阻害または低減させるために、そのタンパク質が直接的に標的化され得る。発現の「阻害」とは、基準対照レベルと比較して、少なくとも10%の減少、例えば、少なくとも約20%、または少なくとも約30%、または少なくとも約40%、または少なくとも約50%、または少なくとも約60%、または少なくとも約70%、または少なくとも約80%、または少なくとも約90%の減少、または100%(すなわち、基準サンプルと比較してレベルの消失)までの減少を指す。本明細書で使用する「不活化された」という用語は、遺伝子によってコードされるポリペプチド産物の発現を阻止することを指す。不活化は、転写、翻訳、およびタンパク質発現を含むがこれらに限定されない、遺伝子発現の任意の段階またはプロセスで起こり得、また、不活化は、DNA、mRNAなどのRNA、およびポリペプチドを含むがこれらに限定されない、任意の遺伝子または遺伝子産物に影響を及ぼし得る。いくつかの態様では、「発現の阻害」は、改変された細胞のある割合の不活化を反映し、例えば、標的遺伝子が不活化されていない細胞をも含む集団中の細胞の少なくとも約20%、または少なくとも約30%、または少なくとも約40%、または少なくとも約50%、または少なくとも約60%、または少なくとも約70%、または少なくとも約80%、または少なくとも約90%もしくはそれ以上の不活化を反映する。
【0017】
本明細書で使用する「遺伝子改変」という用語は、遺伝子の発現を変化させるための細胞への任意の改変を指す。このような改変には、ゲノムへの改変だけでなく、阻害性RNAのような阻害性配列を細胞に導入する改変も含まれる。
【0018】
本明細書で使用する、細胞のゲノムを改変するという文脈における「改変すること」という語句は、標的ゲノム領域でのゲノム配列に構造変化を誘導することを指す。例えば、この改変は、細胞のゲノムにヌクレオチド配列を挿入するという形をとることができる。例えば、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を、T細胞中の内因性細胞表面タンパク質をコードするゲノム配列に挿入することができる。そのヌクレオチド配列は、機能性ドメインまたはその機能性断片をコードし得る。このような改変は、例えば、標的ゲノム領域内に二本鎖切断を誘導するか、または標的ゲノム領域を挟んで対向する鎖に一対の一本鎖ニックを誘導することによって行うことができる。標的ゲノム領域に、またはその内部に、一本鎖または二本鎖切断を誘導するための方法は、ヌクレアーゼドメイン、例えばCas9、またはその誘導体と、標的ゲノム領域に向けられたガイド、例えばガイドRNAの使用を含む。
【0019】
「患者」、「対象」、「個体」などの用語は、本明細書では交換可能に使用され、任意の動物、例えば霊長類などの哺乳類を指す。特定の非限定的な態様では、患者、対象または個体は、ヒトである。
【0020】
本明細書では、「治療」、「治療すること」などの用語は、一般に、所望の薬理学的および/または生理学的効果を得ることを意味するために使用される。そうした効果は、疾患、状態、もしくはその症状を完全にもしくは部分的に防止するという観点から予防的であり、かつ/または疾患もしくは状態および/または疾患もしくは状態に起因する、症状などの、有害事象を部分的にもしくは完全に治癒するという観点から治療的であり得る。本明細書で使用する「治療」は、対象の疾患または状態のあらゆる治療を包含し、以下が含まれる:(a)疾患または状態の素因があり得るが、それを有するとまだ診断されていない対象において、その疾患または状態の発症を予防すること;(b)疾患または状態を阻害すること(例えば、その発症を止めること);あるいは(c)疾患または状態を軽減すること(例えば、疾患または状態の退行を引き起こすこと、1つ以上の症状の改善をもたらすこと)。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1-1】
図1a~h:初代ヒトT細胞における多重ゲノムワイドCRISPRスクリーニングでは、免疫抑制条件に対する抵抗性のモジュレーターとして、RASA2がノミネートされる。a,ヒトT細胞において抵抗性遺伝子標的を見つけ出すためのゲノムワイドスクリーニングの概略図。b,実施した全スクリーニングにわたって共通のヒット(zスコア>1.5)。バーの高さは、スクリーニング間で共通のヒットの数であり、下のパネルでドットにより接続される。(c,d)個々のガイド(垂直線)のlog2倍率変化(LFC、x軸);背景は各条件における全体的なガイド分布をグレースケールで示す。c,RASA2を標的とするガイド(ピンクの線)は、全ての抑制条件にわたって、分裂細胞において濃縮された。d,RASA2を標的とする複数の異なるガイドは、生物学的レプリケート(n=4人のドナー)にわたって、TCR刺激スクリーニングで分裂細胞において濃縮された。RasGAPファミリーの他のメンバーを標的とするガイドは、どちらの方向にも一貫して濃縮されなかったが、RasGEF RASGRP1を標的とするガイドは、予想されたように分裂細胞から枯渇した。
【
図1-2】
図1a~h:初代ヒトT細胞における多重ゲノムワイドCRISPRスクリーニングでは、免疫抑制条件に対する抵抗性のモジュレーターとして、RASA2がノミネートされる。e,RASA2アブレーションがアデノシン、シクロスポリン、タクロリムス、およびTGFβに対する抵抗性を与えることを実証するための増殖アッセイ。CFSE分布は、試験した全ての抑制条件にわたって、RASA2アブレーションが、対照編集(CTRL)と比較して、より強力な増殖を促したことを示している。f,抑制条件下でのインビトロがん殺傷アッセイ中のがん細胞増殖のプロット。NY-ESO-1腫瘍抗原に特異的なTCRを発現するT細胞は、異なるインヒビターを添加した共培養物の生細胞顕微鏡検査により測定して、RASA2をアブレーションした場合に、がん細胞増殖のより良好な制御を示した。AUCは、がん細胞の増殖曲線下面積である(n=2ドナー、平均±SEM、*p<0.05、**p<0.01、および***p<0.001(両側対応のあるStudent's t検定))。g,抑制アッセイから、RASA2アブレーションは増殖のTreg抑制に対してT細胞を抵抗性にすることが確認される。エフェクターCD8 T細胞を抗CD3/CD28で刺激し、ドナーに適合したTregと共に異なるTreg:CD8比で共培養した。バーは、刺激から4日後にフローサイトメトリーで測定したCD8細胞数を示す(CTRLはノンターゲティングガイドを示す;1群あたりn=4ドナー、平均±SEM、**p<0.01および***p<0.001(両側対応のあるStudent's t検定))。h,RASA2アブレーションは、代表的な1人のドナーの場合、対照編集T細胞(CTRL)と比較して、がん殺傷アッセイにおいてTreg抑制に対してT細胞を抵抗性にした;斜線部分は3回の技術的レプリケートの95%信頼区間である。
【
図2A】
図2a~d:T細胞抵抗性に対する多重ゲノムワイドCRISPRスクリーニング。a,各スクリーニングにユニークなヒットを含む、スクリーニング条件(x軸)にわたって共通のヒット(y軸)(zスコア>1.5、方法)。
【
図2B】
図2a~d:T細胞抵抗性に対する多重ゲノムワイドCRISPRスクリーニング。b,全スクリーニング条件における遺伝子レベルZスコアのペアワイズPearsonの相関係数のヒートマップ。
【
図2C】
図2a~d:T細胞抵抗性に対する多重ゲノムワイドCRISPRスクリーニング。c,y軸にp値(MAGeCK RRA検定および方法)とx軸に遺伝子レベルzスコアを示すボルケーノプロット。RASA2およびTMEM222が各スクリーニングにおいて、さらに、ADORA2A、TGFBR1およびPPIA(シクロスポリン結合タンパク質)が、それぞれ、特定の抑制条件、すなわち、アデノシン、TGFβおよびシクロスポリンにおいて、強調表示されている。垂直線は、交差ヒットの判定に使用したzスコアの閾値を示す。
【
図2D】
図2a~d:T細胞抵抗性に対する多重ゲノムワイドCRISPRスクリーニング。d,ここに示した異なる抑制スクリーニング条件にわたっての、RasGAP遺伝子およびRasGEF RASGRP1を標的とするガイドのlog倍率変化(LFC)(刺激およびTregスクリーニングではn=4、アデノシン、シクロスポリンおよびタクロリムスではn=2、ならびにTGFβスクリーニングではn=1)。
【
図3-1】
図3a~o:RASA2アブレーションはT細胞の活性化とエフェクター機能を促進し、かつ抗原に対する感受性を高める。a,T細胞におけるRasシグナル伝達および下流の転写プログラムの略図。b,左:Jurkat細胞における効率的なRASA2アブレーションを示すウェスタンブロット;ビンキュリン(Vinc)はローディング対照。右:TCR刺激後のJurkat細胞におけるGTP結合した活性Ras。c,MAPKおよびAkt/mTOR経路におけるリン酸化タンパク質のフローサイトメトリーによるスケール変更された平均蛍光強度(MFI)(線は平均を示し、トリプリケートでn=2ドナー、**p<0.01(Wilcoxon検定))。d,フローサイトメトリーで測定した初代ヒトT細胞におけるリン酸化ERKの動態(トリプリケートでn=2ドナー、平均±SEM、**p<0.01(Wilcoxon検定))。e,エフェクターサイトカインのレベルを、刺激したT細胞の細胞内染色とフローサイトメトリーにより測定した(トリプリケートでn=2ドナー、平均±SEM、*p<0.05および**p<0.01(Wilcoxon検定))。f,g,漸増濃度(log2(μl/ml))の抗CD3/CD28複合体(f)または漸増濃度の同種NY-ESO-1ペプチドを事前にロードしたT2細胞(g)でTCR刺激してから10分後の、フローサイトメトリーにより測定したリン酸化ERKレベル(y軸)。ドットは個々のドナー(n=2)であり、線はフィッティングされた4パラメーターの用量応答曲線である。h,左列:操作されたNalm6がん標的細胞上のCD19レベルをフローサイトメトリーで測定し(緑色)、染色されない細胞(灰色)と比較した。右列:生細胞顕微鏡でアネキシンレベルにより測定された、様々なCD19レベルを発現する標的Nalm6細胞のCAR T細胞殺傷;代表的な1人のドナー由来の技術的複製の平均±SEM。
【
図3-2】
図3a~o:RASA2アブレーションはT細胞の活性化とエフェクター機能を促進し、かつ抗原に対する感受性を高める。i,各パネルの上に示した転写因子に応答する各mCherryレポーターに対して陽性のJurkat細胞の割合。エラーバーはトリプリケートのSEMである。j,TCR刺激から48時間後のRASA2編集T細胞と対照編集T細胞間での発現変動遺伝子の遺伝子セット濃縮解析。正規化された濃縮スコア(normalized enrichment score:NES)はx軸に示され、発現の変化の方向を示し、各ドットのサイズはp値(パーミュテーション検定)である。k,発表されたシングルセルRNA-Seqデータセットからの、刺激を受けたRASA2 KO T細胞における発現変動遺伝子(y軸)。円の色は平均発現であり、そのサイズは遺伝子転写物が検出された細胞の割合である。データは、2人のドナー間で集約された、4つの異なる標的遺伝子摂動(x軸)について示されている。l~o,発表されたデータセットにおけるRASA2の発現。l,リステリア感染のマウスモデル(n=3、平均±SEM)。m,インビトロ活性化ヒトT細胞(n=91ドナー、線は平均、ドットは個々のドナー、****p<0.0001(Wilcoxon検定))。n,腫瘍浸潤T細胞(TIL)のマウスモデル;x軸はT細胞導入後の日数を示す(n=3マウス、平均±SEM)。o,ヒト患者の腫瘍浸潤T細胞(オレンジ色)または末梢T細胞(緑色)におけるRASA2発現(100万個あたりの転写物(transcripts per million:TPM)、y軸)。各ドットは個々の細胞であり、ボックスは上位四分位点と下位四分位点を示し、水平線は中央値である(大腸がん(CRC)ではn=12ドナー、非小細胞肺がん(NSCLC)ではn=14ドナー、Wilcoxon検定の正確なp値を下に示す)。
【
図4-1】
図4a~m:RASA2アブレーションは、がん標的への曝露の繰り返し中に機能的T細胞の持続性を改善する。a,インビトロで機能的T細胞の持続性を測定するための実験システム。b,標的がん細胞との共培養を48時間ごとに繰り返すことによってT細胞を刺激した。T細胞の生存率とCD39レベルを、各回の刺激後にフローサイトメトリーで測定した(n=4ドナー、平均±SEM)。c,標的細胞による1回目と5回目の刺激後の、RNA-SeqによるT細胞におけるTOXとGZMBの発現。(n=4、線は個々のドナーをつないでいる)。d,1回目と5回目の刺激後のT細胞間での発現変動遺伝子の遺伝子セット濃縮解析では、反復刺激後に酸化的リン酸化遺伝子が枯渇することが示される。調整p値(padj)は、パーミュテーション検定によるものである。e,TCR-T細胞と標的がん細胞との共培養では、T細胞は複数回の刺激後にがん細胞の増殖を徐々に制御できなくなることがわかる。
【
図4-2】
図4a~m:RASA2アブレーションは、がん標的への曝露の繰り返し中に機能的T細胞の持続性を改善する。f,複数回の刺激後のT細胞のフローサイトメトリーで測定された疲弊マーカーは、RASA2 KO T細胞と対照編集T細胞(CTRL)間で同程度のレベルを示す(n=4ドナー、平均±SEM、*p<0.05、nsはp>0.05(Wilcoxon検定))。g,複数回の刺激後のRASA2 KO T細胞は、対照細胞と比較して、より高いレベルのリン酸化ERKおよびCD69を示す(n=2ドナー)。h,CAR-T細胞とTCR-T細胞の両方にわたって、フローサイトメトリーで測定された、繰り返し刺激後のT細胞におけるエフェクターサイトカイン産生(TCRではn=2、平均±SEM、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001(Wilcoxon検定))。i,複数回の刺激後のT細胞の上清中のサイトカインを測定するマルチプレックスELISA(n=4人のドナー、ドットは技術的複製、線は平均サイトカインレベル、*p<0.05および**p<0.01(Wilcoxon検定))。
【
図4-3】
図4a~m:RASA2アブレーションは、がん標的への曝露の繰り返し中に機能的T細胞の持続性を改善する。j,がん細胞殺傷アッセイでは、対照編集TCR-T細胞は5回の刺激後にがん細胞の増殖を制御できないが、RASA2アブレーションは強固で持続的な殺傷能力をもたらすことが示される。k,T細胞が繰り返し刺激にさらされた後の共培養ウェルのイメージング、ここでは、残存するがん細胞がそれらのRFP核タグによって可視化される。スケールバーは1mmである。l,7人のドナーおよび様々なエフェクターT細胞:標的細胞比にわたっての、(j)でのアッセイの要約統計。AUCはがん細胞の増殖曲線下面積である。線は平均値±SEMを示す(n=7人のドナー)。m,RASA2をアブレーションしたCAR-T細胞は、標的細胞による6回の前刺激にもかかわらず、効率的ながん細胞殺傷を維持した。
【
図5-1】
図5a~l:RASA2アブレーションは、複数の前臨床モデルにおいて、操作されたT細胞によるインビボ腫瘍制御を改善する。(a,b)1×10
6個のNY-ESO-1+ A375メラノーマ細胞を脇腹注射によりNSGマウスに植え付けて、1×10
6個のNY-ESO-1特異的1G4 TCR-T細胞を尾静脈(TV)から注射した。マウスの腫瘍の成長をキャリパー測定でモニタリングした。RASA2 KO T細胞を投与されたマウスは、腫瘍負荷の減少を示した(1群あたりn=6マウス、平均±SEM、*p<0.05(両側対応のあるStudent's t検定))。(c,d)NY-ESO-1を発現するように操作した0.3×10
6個のNalm6白血病細胞をNSGマウスに注射し、ルシフェラーゼベースの生物発光を用いて腫瘍量を測定した。マウス1匹につき0.5×10
6個のRASA2-KO NY-ESO-1特異的1G4 TCR-T細胞を注射したところ、対照遺伝子座編集TCR-T細胞と比較して腫瘍負荷が減少した(RASA2 KO T細胞ではn=5マウス、CTRL T細胞ではn=4マウス、平均±SEM、*p<0.05(両側対応のあるStudent's t検定))。(e,f)0.5×10
6個のNalm6細胞をNSGマウスに植え付けて、0.2×10
6個のCD19特異的CAR T細胞を尾静脈から注射した。マウスの腫瘍の成長をルシフェラーゼベースの生物発光によりモニタリングした。RASA2 KO T細胞を投与されたマウスは、腫瘍負荷の減少を示した(1群あたりn=7マウス、平均±SEM、****p<0.0001(両側対応のあるStudent's t検定))。
【
図5-2】
図5a~l:RASA2アブレーションは、複数の前臨床モデルにおいて、操作されたT細胞によるインビボ腫瘍制御を改善する。g,(f)でのコホートの生物発光画像、背面図。h,(f)に示したコホートの白血病モデルの生存曲線。ログランク検定によるp値(i~l)。i,腹腔内(IP)LM7モデルのスキーム。NSGマウスに0日目に1×10
6個のLM7-ffLuc腫瘍細胞をIP注射し、7日後に1×10
5個のCtrlまたはRASA2 KO EphA2-CAR T細胞を単回IP投与した。j,定量的生物発光イメージング(平均±SEM、CTRLではn=10、RASA2ではn=14、*p<0.05(両側対応のあるStudent's t検定))。k,各処置群の代表的な画像。l,(j)でのLM7コホートの生存曲線(CTRLではn=10;RASA2群ではn=14;ログランク検定による正確なp値)。
【
図6】スクリーニングから得られた遺伝子標的は、一般的なもの(PAN)または特定の抑制状況に特有なものとして選択され、T細胞において個別にノックアウトされた。CFSE染色した編集T細胞を刺激し、異なる抑制条件下で培養した。対照細胞と比較した、遺伝子ごとに増殖する細胞の割合を抑制条件ごとに表示する(n=2ドナー、トリプリケートで遺伝子標的あたり2つのsgRNA。FDR調整p値<0.05のカットオフを用いて、各条件下で有意な抵抗性の役割を果たすことがわかった遺伝子が強調される。
【
図7A】
図7Aおよび7B:がん細胞殺傷活性とTCR-T細胞増殖活性の検証。初代T細胞にNY-ESO1 TCRを形質導入し、リストされた各遺伝子(PFN1、PDE4C、RASA2、CBLB、GTF2、TGIF2およびセーフハーバー対照遺伝子座AAV)についてCRISPR編集した。標的遺伝子の大部分について、2つの異なるsgRNAを使用した。次に、編集された細胞を、適合したMHCI上に同種ペプチドを発現するA375がん細胞と共培養した。がん細胞の殺傷(
図7A)をIncucyte生細胞イメージングシステムで測定した。線の順序、120時間の時点で上から下へ:AAVS1対照、PFN1_g2、PDE4C_g1、PFN1_g1、TGIF2_g2、GTF2_g2、GTF2_g1、TGIF2_g1、CBLB_g1、PDE4C_g2、RASA2_g1。TCR-T細胞は刺激に応答するその増殖能力についても試験した(
図7B)。遺伝子ごとのデータ点、左から右へ:RASA2_g1、AAVS1_g1対照、CBLB_g1、CBLB_g2、PFN_g1、PFN_g2、PDE4C-g1、PDE4C_g2、GTF2i_g1、GTF2i_g2、TGIF2_g1、TGIF2_g2。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本開示の詳細な説明
一局面では、本開示は、対応する非改変T細胞と比較して、細胞、例えば腫瘍細胞に対して増強された細胞傷害性を示す操作されたT細胞を提供する。このような操作されたT細胞は、例えば腫瘍微小環境において、増殖に負の影響を及ぼす、すなわちT細胞刺激の負の調節因子である、T細胞遺伝子の発現または活性を阻害するように改変される。こうした遺伝子は、本明細書ではT細胞負調節遺伝子と呼ばれる。いくつかの態様では、このような遺伝子の阻害は、免疫抑制シグナル、例えば、限定するものではないが、TGFβ、低酸素の腫瘍微小環境で見られる高レベルのアデノシン、および/または抑制されたカルシウム/カルシニューリンシグナル伝達などに対する抵抗性を付与する。いくつかの態様では、T細胞遺伝子、例えばエフェクターT細胞の阻害は、制御性T細胞(Treg)による抑制に対して抵抗性を付与する。
【0023】
本発明によるT細胞負調節遺伝子の改変は、T細胞中の該遺伝子の改変に限定される必要はない。この改変はT細胞受容体(TCR)依存性であるが、他の造血細胞にも適用可能である。したがって、いくつかの態様では、本発明に従って改変される細胞は、CD8+ T細胞などのT細胞である。いくつかの態様では、該細胞は造血幹細胞である。さらなる態様では、該細胞は、幹メモリーT細胞、エフェクターメモリーT細胞、セントラルメモリーT細胞、またはナイーブT細胞である。いくつかの態様では、本発明による改変は、CD4+ T細胞、またはNK細胞、またはガンマデルタT細胞に対して行われる。T細胞サブセットのレビューは、例えば、Sallusto et al., Annual Rev. Immunol. 22745-763, 2004; Mueller et al., Annual Rev. Immunol 31:137-161, 2013; メモリー幹T細胞については、Gattinoni, et al., Nature Med. 23:18-27, 2018に提供される。マーカーによるサブセットの説明は、OMIP Wiley Online Libraryで入手可能である(例えば、Wingender and Kronenberg, OMIP-030: Characterization of human T cell subsets via surface markers Cytometry Part A 87A:1067-1069, 2015を参照されたい)。
【0024】
標的負調節遺伝子の発現は、該遺伝子が活性タンパク質産物を発現しないように阻害され、いくつかの態様では不活化され得る。いくつかの態様では、細胞の集団は、該遺伝子が不活化された細胞について濃縮され得る。
【0025】
いくつかの態様では、発現を阻害するように改変されるT細胞負調節遺伝子は、ALAS1、AMBRA1、ANKRD32、ARHGAP15、C15orf40、C3orf33、C8orf44、CARKD、CD300LB、CENPB、CHL1、CHST3、CLEC4M、COL15A1、COL25A1、CORO1A、CUL3、CWC27、CYC1、DOK2、DUSP4、ENG、FAM49B、FKBP1A、FUBP1、GAB3、GLRX、GREB1L、GTF2H2、GTF2I、HAUS1、HIST1H2AD、HIST1H2BC、HOXA10、IGFBP4、IRF2BP2、IYD、KCNK4、KDM6B、L1CAM、LAMA3、LHX8、MOB3C、MBTD1、MRPL17、MRPL33、MTIF2、MYO1H、NEFL、NFKB1A、NFKB2、NMT1、ORC6、PCBP2、PCGF1、PDCD6IP、PDCL、PFN1、PIM2、PIWIL4、PLGLB2、PLXNA4、PDE4C、NXX2-6、POTEJ、PPIA、PPP2R5D、PTPRG、RFPL1、RNF13、RNF185、RNF7、RPRD1B、RPS6KL1、SEL1L3、SEPW1、SH3BGRL、SIRT7、SIT1、SLC47A1、SLC9A3、SP1、ST5、STAT6、TBL1Y、TGFBR1、TGFBR2、TGIF2、TICRR、TMEM62、TNK1、TNS2、TP53BP1、TTN、TUFM、UPK1B、UQCRC1、WWOX、XCL1、ZBTB7A、ZFYVE28、ZNF101、ZNF436、ZNF506、ZNF716、およびZNF805である。いくつかの態様では、造血細胞、例えばエフェクターT細胞などのT細胞は、第2のT細胞負調節遺伝子の発現を阻害する第2の改変をさらに含む。
【0026】
機能を評価するために、いくつものアッセイ法を用いることができる。例示的なアッセイでは、例えばT細胞受容体(TCR)刺激に応答する、T細胞増殖応答が測定される。典型的なアッセイは、実施例のセクションに記載される。アッセイには、CFSE(または他の同様の色素)希釈、増殖ベースのアッセイ、特定の部位でのインビボ拡大増殖、または活性化もしくはエフェクター機能、例えば、サイトカイン産生、細胞表面マーカーの誘導、またはグランザイム産生の他のマーカーのソーティングが含まれるが、これらに限定されない。
【0027】
いくつかの態様では、T細胞負調節遺伝子は、遺伝子欠失によって不活化される。本明細書で使用する「遺伝子欠失」とは、遺伝子由来の、または遺伝子の近傍にある、DNA配列の少なくとも一部を除去することを指す。いくつかの態様では、遺伝子欠失を受ける配列は、遺伝子のエクソン配列を含む。いくつかの態様では、遺伝子欠失を受ける配列は、遺伝子のプロモーター配列を含む。いくつかの態様では、遺伝子欠失を受ける配列は、遺伝子のフランキング配列を含む。いくつかの態様では、遺伝子配列の一部が遺伝子から除去される。いくつかの態様では、完全な遺伝子配列が染色体から除去される。いくつかの態様では、宿主細胞は、本明細書中の態様のいずれかに記載される遺伝子欠失を含む。いくつかの態様では、該遺伝子は、遺伝子配列中の少なくとも1つのヌクレオチドまたはヌクレオチド塩基対の欠失によって不活化され、その結果、非機能性の遺伝子産物をもたらす。いくつかの態様では、該遺伝子は遺伝子欠失によって不活化され、この場合には、遺伝子配列中の少なくとも1つのヌクレオチドの欠失が、元の遺伝子産物の機能または活性をもはや示さない遺伝子産物、つまり機能不全の遺伝子産物をもたらす。いくつかの態様では、該遺伝子は遺伝子の付加または置換によって不活化され、この場合には、遺伝子配列への少なくとも1つのヌクレオチドまたはヌクレオチド塩基対の付加または置換が、非機能性の遺伝子産物をもたらす。いくつかの態様では、該遺伝子は遺伝子不活化によって不活化され、この場合には、遺伝子配列への少なくとも1つのヌクレオチドの組込みまたは置換が、元の遺伝子産物の機能または活性をもはや示さない遺伝子産物、つまり機能不全の遺伝子産物をもたらす。いくつかの態様では、該遺伝子は付加または置換によって不活化され、この場合には、遺伝子配列への少なくとも1つのヌクレオチドの組込みまたは置換が、機能不全の遺伝子産物をもたらす。いくつかの態様では、宿主細胞は、本明細書中の態様のいずれかに記載される遺伝子欠失を含む。
【0028】
宿主細胞中のT細胞負調節遺伝子を不活化するか、またはT細胞機能を抑制するために本明細書に記載の標的遺伝子を不活化するための方法および技術には、限定するものではないが、低分子干渉RNA(siRNA)、低分子ヘアピンRNA(shRNA;短鎖ヘアピンRNAとも呼ばれる)、クラスター化され、規則的に間隔があいた、短いパリンドロームリピート(CRISPR)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、相同組換え、非相同末端結合、およびメガヌクレアーゼが含まれる。例えば、O'Keefe, Mater Methods, 3, 2013; Doench et al., Nat Biotechnol, 32, 2014; Gaj et al., Trends Biotechnol, 31, 2014; およびSilva et al., Curr Gene Ther, 11, 2011を参照されたい。
【0029】
阻害性RNA
いくつかの態様では、T細胞負調節遺伝子は、低分子干渉RNA(siRNA)システムによって不活化される。標的遺伝子を不活化するsiRNA配列は、siRNAの長さ、例えば21~23ヌクレオチドまたはそれ以下;開始コドンと終止コドンの50~100ヌクレオチドを含む領域の回避;イントロン領域の回避;4つ以上の同じヌクレオチドのストレッチの回避;GC含量が30%未満または60%超である領域の回避;リピートの回避および配列複雑性が低い領域の回避;一塩基多型部位の回避;ならびに他のオフターゲット遺伝子中の配列に相補的な配列の回避などを考慮して、特定することができる;(例えば、Rules of siRNA design for RNA interference, Protocol Online, May 29, 2004; およびReynolds et al., Nat Biotechnol, 22:3236-330 2004を参照されたい)。
【0030】
いくつかの態様では、siRNAシステムは、長さが約10~200ヌクレオチド、または長さが約10~100ヌクレオチド、または長さが約15~100ヌクレオチド、または長さが約10~60ヌクレオチド、または長さが約15~60ヌクレオチド、または長さが約10~50ヌクレオチド、または長さが約15~50ヌクレオチド、または長さが約10~30ヌクレオチド、または長さが約15~30ヌクレオチドであるsiRNAヌクレオチド配列を含む。いくつかの態様では、siRNAヌクレオチド配列は約10~25ヌクレオチドの長さである。いくつかの態様では、siRNAヌクレオチド配列は約15~25ヌクレオチドの長さである。いくつかの態様では、siRNAヌクレオチド配列は、少なくとも約10、少なくとも約15、少なくとも約20、または少なくとも約25ヌクレオチドの長さである。いくつかの態様では、siRNAシステムは、標的mRNA分子の領域に対して少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、または100%相補的なヌクレオチド配列を含む。いくつかの態様では、siRNAシステムは、標的pro-mRNA分子の領域に対して少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、または100%相補的なヌクレオチド配列を含む。いくつかの態様では、siRNAシステムは二本鎖RNA分子を含む。いくつかの態様では、siRNAシステムは一本鎖RNA分子を含む。いくつかの態様では、宿主細胞は、本明細書中の態様のいずれかに記載されるsiRNAシステムを含む。いくつかの態様では、宿主細胞は、本明細書中の態様のいずれかに記載される活性siRNA分子にプロセシングされるpro-siRNAヌクレオチド配列を含む。いくつかの態様では、宿主細胞は、標的mRNA分子の領域に対して少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、または100%相補的なsiRNAヌクレオチド配列を含む。いくつかの態様では、宿主細胞は、本明細書中の態様のいずれかに記載されるsiRNA分子をコードする発現ベクターを含む。いくつかの態様では、宿主細胞は、本明細書中の態様のいずれかに記載されるpro-siRNA分子をコードする発現ベクターを含む。
【0031】
いくつかの態様では、siRNAシステムは送達ベクターを含む。いくつかの態様では、宿主細胞は送達ベクターを含む。いくつかの態様では、送達ベクターはpro-siRNAおよび/またはsiRNA分子を含む。
【0032】
いくつかの態様では、T細胞負調節遺伝子は、低分子ヘアピンRNA(shRNA;短鎖ヘアピンRNAとも呼ばれる)システムによって不活化される。shRNAシステムによる遺伝子不活化が利用可能である。いくつかの態様では、shRNAシステムは、長さが約10~200ヌクレオチド、または長さが約10~100ヌクレオチド、または長さが約15~100ヌクレオチド、または長さが約10~60ヌクレオチド、または長さが約15~60ヌクレオチド、または長さが約10~50ヌクレオチド、または長さが約15~50ヌクレオチド、または長さが約10~30ヌクレオチド、または長さが約15~30ヌクレオチドであるヌクレオチド配列を含む。いくつかの態様では、shRNAヌクレオチド配列は約10~25ヌクレオチドの長さである。いくつかの態様では、shRNAヌクレオチド配列は約15~25ヌクレオチドの長さである。いくつかの態様では、shRNAヌクレオチド配列は、少なくとも約10、少なくとも約15、少なくとも約20、または少なくとも約25ヌクレオチドの長さである。いくつかの態様では、shRNAシステムは、T細胞阻害性核酸mRNA分子の領域に対して少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、または100%相補的なヌクレオチド配列を含む。いくつかの態様では、shRNAシステムは、pro-mRNA分子の領域に対して少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、または100%相補的なヌクレオチド配列を含む。いくつかの態様では、shRNAシステムは二本鎖RNA分子を含む。いくつかの態様では、shRNAシステムは一本鎖RNA分子を含む。いくつかの態様では、宿主細胞は、本明細書中の態様のいずれかに記載されるshRNAシステムを含む。いくつかの態様では、宿主細胞は、本明細書中の態様のいずれかに記載される活性shRNAヌクレオチド配列にプロセシングされるpre-shRNAヌクレオチド配列を含む。いくつかの態様では、pro-shRNA分子はDNAで構成される。いくつかの態様では、pro-shRNA分子はDNA構築物である。いくつかの態様では、宿主細胞は、T細胞負調節遺伝子mRNA分子の領域に対して少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、または100%相補的なshRNAヌクレオチド配列を含む。いくつかの態様では、宿主細胞は、本明細書中の態様のいずれかに記載されるshRNA分子をコードする発現ベクターを含む。いくつかの態様では、宿主細胞は、本明細書中の態様のいずれかに記載されるpro-shRNA分子をコードする発現ベクターを含む。
【0033】
いくつかの態様では、shRNAシステムは送達ベクターを含む。いくつかの態様では、宿主細胞は送達ベクターを含む。いくつかの態様では、送達ベクターはpro-shRNAおよび/またはshRNA分子を含む。いくつかの態様では、送達ベクターはウイルスベクターである。いくつかの態様では、送達ベクターはレンチウイルスである。いくつかの態様では、送達ベクターはアデノウイルスである。いくつかの態様では、該ベクターはプロモーターを含む。
【0034】
CRISPR
いくつかの態様では、T細胞負調節遺伝子の発現を阻害することは、CRISPR/CAS方法論を用いて達成される。遺伝子発現を低減させるためにCRISPR/Casシステムを使用する例示的な方法は、様々な刊行物、例えば米国特許出願公開第2014/0170753号に記載されている。CRISPR/Casシステムは、Casタンパク質と、T細胞負調節遺伝子の標的モチーフにハイブリダイズしかつCasタンパク質を標的モチーフに誘導する少なくとも1~2つのリボ核酸とを含む。細胞内の標的ポリヌクレオチド配列を改変することができるCRISPR/Casシステムは、どれも使用することができる。いくつかの態様では、CRISPR/CasシステムはCRISPRタイプIシステムであり、いくつかの態様では、CRISPR/CasシステムはCRISPRタイプIIシステムである。いくつかの態様では、CRISPR/CasシステムはCRISPRタイプVシステムである。
【0035】
本発明で使用するCasタンパク質は、天然に存在するCasタンパク質またはその機能性誘導体であり得る。「機能性誘導体」には、対応する天然配列ポリペプチドと共通の生物学的活性を有するという条件で、天然配列の断片、および天然配列ポリペプチドとその断片の誘導体が含まれるが、これらに限定されない。本明細書で意図される生物学的活性とは、DNA基質を断片へと加水分解する機能性誘導体の能力のことである。「誘導体」という用語は、ポリペプチドのアミノ酸配列バリアント、共有結合修飾体、およびその融合体、例えばCasタンパク質誘導体を包含する。Casポリペプチドまたはその断片の適切な誘導体には、Casタンパク質またはその断片の変異体、融合体、共有結合修飾体が含まれるが、これらに限定されない。
【0036】
Casヌクレアーゼには3つの主要なタイプ(タイプI、タイプII、およびタイプIII)と、5つのタイプI、3つのタイプII、および2つのタイプIIIタンパク質を含む10のサブタイプがある(例えば、Hochstrasser and Doudna, Trends Biochem Sci, 2015:40(1):58-66を参照されたい)。タイプIIのCasヌクレアーゼには、Cas1、Cas2、Csn2、およびCas9が含まれる。これらのCasヌクレアーゼは当業者に公知である。例えば、化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)野生型Cas9ポリペプチドのアミノ酸配列は、例えば、NBCI Ref. Seq. No. NP_269215に記載されており、また、ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)野生型Cas9ポリペプチドのアミノ酸配列は、例えば、NBCI Ref. Seq. No. WP_011681470に記載されている。本明細書に記載の方法で使用できるいくつかのCRISPR関連エンドヌクレアーゼは、例えば、米国出願公開第2014/0068797号、同第2014/0302563号、および同第2014/0356959号に開示されている。Casヌクレアーゼの非限定的な例には、Cas1、Cas1B、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas6、Cas7、Cas8、Cas9(Csn1およびCsx12としても知られる)、Cas10、Csy1、Csy2、Csy3、Cse1、Cse2、Csc1、Csc2、Csa5、Csn2、Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Csm6、Cmr1、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cmr6、Csb1、Csb2、Csb3、Csx17、Csx14、Csx10、Csx16、CsaX、Csx3、Csx1、Csx15、Csf1、Csf2、Csf3、Csf4、これらのホモログ、これらのバリアント、これらの変異体、およびこれらの誘導体が含まれる。
【0037】
Cas9ホモログは、以下の分類群の細菌を含むがこれらに限定されない、多種多様な真正細菌に見出される:アクチノバクテリア門(Actinobacteria)、アクウィフェクス門(Aquificae)、バクテロイデテス門-クロロビウム門(Bacteroidetes-Chlorobi)、クラミジア門-ウェルコミクロビウム門(Chlamydiae-Verrucomicrobia)、クロロフレクサス門(Chlroflexi)、シアノバクテリア門(Cyanobacteria)、ファーミキューテス門(Firmicutes)、プロテオバクテリア門(Proteobacteria)、スピロヘータ門(Spirochaetes)、およびテルモトガ門(Thermotogae)。代表的なCas9タンパク質は、化膿レンサ球菌Cas9タンパク質である。追加のCas9タンパク質およびそのホモログは、例えば、Chylinksi, et al., RNA Biol. 2013 May 1; 10(5): 726-737; Nat. Rev. Microbiol. 2011 June; 9(6): 467-477; Hou, et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 2013 Sep 24;110(39):15644-9; Sampson et al., Nature. 2013 May 9; 497(7448):254-7; およびJinek, et al., Science. 2012 Aug 17;337(6096):816-21に記載されている。本明細書で提供されるCas9ヌクレアーゼのバリアントは、宿主細胞における効率的な活性または安定性の向上のために最適化され得る。したがって、操作されたCas9ヌクレアーゼも想定される。化膿レンサ球菌由来のCas9は、crRNAに相補的でない標的DNAを切断するRuvC様ドメインと、crRNAに相補的な標的DNAを切断するHNHヌクレアーゼドメインを含む、2つのエンドヌクレアーゼドメインを有する。Cas9の二本鎖エンドヌクレアーゼ活性には、標的配列内の標的モチーフの3'側のすぐ後に続く、プロトスペーサー関連モチーフ(protospacer-associated motif:PAM)として知られる短い保存配列(2~5ヌクレオチド)も関係している。
【0038】
さらに、Casヌクレアーゼ、例えばCas9ポリペプチドは、以下を含むがこれらに限定されない、様々な細菌種に由来し得る:ベイロネラ・アティピカル(Veillonella atypical)、フソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)、フィリファクター・アロシス(Filifactor alocis)、ソロバクテリウム・モーレイ(Solobacterium moorei)、コプロコッカス・カタス(Coprococcus catus)、トレポネーマ・デンティコラ(Treponema denticola)、ペプトニフィルス・ドゥエルデニ(Peptoniphilus duerdenii)、カテニバクテリウム・ミツオカイ(Catenibacterium mitsuokai)、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)、リステリア・イノクア(Listeria innocua)、スタフィロコッカス・シュードインターメディウス(Staphylococcus pseudintermedius)、アシダミノコッカス・インテスチン(Acidaminococcus intestine)、オルセネラ・ウリ(Olsenella uli)、オエノコッカス・キタハラエ(Oenococcus kitaharae)、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)、フィネゴルディア・マグナ(Finegoldia magna)、マイコプラズマ・モービレ(Mycoplasma mobile)、マイコプラズマ・ガリセプチカム(Mycoplasma gallisepticum)、マイコプラズマ・オビニューモニエ(Mycoplasma ovipneumoniae)、マイコプラズマ・カニス(Mycoplasma canis)、マイコプラズマ・シノビエ(Mycoplasma synoviae)、ユーバクテリウム・レクターレ(Eubacterium rectale)、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)、ユーバクテリウム・ドリカム(Eubacterium dolichum)、ラクトバチルス・コリニフォルミス亜種トルクエンス(Lactobacillus coryniformis subsp. Torquens)、イリオバクター・ポリトロプス(Ilyobacter polytropus)、ルミノコッカス・アルバス(Ruminococcus albus)、アッカーマンシア・ムシニフィラ(Akkermansia muciniphila)、アシドサーマス・セルロリティカス(Acidothermus cellulolyticus)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)、ビフィドバクテリウム・デンチアム(Bifidobacterium dentium)、コリネバクテリウム・ジフテリア(Corynebacterium diphtheria)、エルシミクロビウム・ミヌタム(Elusimicrobium minutum)、ニトラチフラクター・サルスジニス(Nitratifractor salsuginis)、スファエロカエタ・グロバス(Sphaerochaeta globus)、フィブロバクター・スクシノゲネス亜種スクシノゲネス(Fibrobacter succinogenes subsp. Succinogenes)、バクテロイデス・フラジリス(Bacteroides fragilis)、カプノサイトファーガ・オクラセア(Capnocytophaga ochracea)、ロドシュードモナス・パルストリス(Rhodopseudomonas palustris)、プレボテラ・ミカンス(Prevotella micans)、プレボテラ・ルミニコラ(Prevotella ruminicola)、フラボバクテリウム・コルムナーレ(Flavobacterium columnare)、アミノモナス・パウチボランス(Aminomonas paucivorans)、ロドスピリルム・ルブラム(Rhodospirillum rubrum)、カンジダタス・プニセイスピリラム・マリナム(Candidatus Puniceispirillum marinum)、ベルミネフロバクター・エイセニアエ(Verminephrobacter eiseniae)、ラルストニア・シジジイ(Ralstonia syzygii)、ディノロセオバクター・シバエ(Dinoroseobacter shibae)、アゾスピリルム属(Azospirillum)、ニトロバクター・ハムバーゲンシス(Nitrobacter hamburgensis)、ブラディリゾビウム属(Bradyrhizobium)、ウォリネーラ・スシノゲネス(Wolinella succinogenes)、カンピロバクター・ジェジュニ亜種ジェジュニ(Campylobacter jejuni subsp. Jejuni)、ヘリコバクター・ムステラエ(Helicobacter mustelae)、バチルス・セレウス(Bacillus cereus)、アシドボラックス・エブレウス(Acidovorax ebreus)、クロストリジウム・パーフリンゲンス(Clostridium perfringens)、パルビバクラム・ラバメンチボランス(Parvibaculum lavamentivorans)、ロゼブリア・インテスティナリス(Roseburia intestinalis)、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)、パスツレラ・ムルトシダ亜種ムルトシダ(Pasteurella multocida subsp. Multocida)、サッテレラ・ワッズウォルテンシス(Sutterella wadsworthensis)、プロテオバクテリア(proteobacterium)、レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)、パラサッテレラ・エクスクレメンティホミニス(Parasutterella excrementihominis)、ウォリネーラ・スシノゲネス(Wolinella succinogenes)、およびフランシセラ・ノビシダ(Francisella novicida)。
【0039】
他のRNA媒介ヌクレアーゼには、Cpf1(例えば、Zetsche et al., Cell, Volume 163, Issue 3, p759-771, 22 October 2015参照)およびそのホモログが含まれる。
【0040】
本明細書で使用する「Cas9リボ核タンパク質」複合体および同様の用語は、Cas9タンパク質とガイドRNA、Cas9タンパク質とcrRNA、Cas9タンパク質とトランス活性化型crRNA(tracrRNA)との間の複合体、またはそれらの組み合わせ(例えば、Cas9タンパク質、tracrRNA、およびcrRNAガイドRNAを含む複合体)を指す。本明細書に記載されるいずれの態様においても、Cas9ヌクレアーゼは、別のRNA媒介ヌクレアーゼ、例えば代替Casタンパク質またはCpf1ヌクレアーゼで置換され得ることが理解されよう。
【0041】
いくつかの態様では、Casタンパク質はポリペプチドの形でT細胞に導入される。したがって、例えば、特定の態様では、Casタンパク質は、当技術分野でよく知られている細胞透過性ポリペプチドまたは細胞透過性ペプチドに結合または融合され得る。細胞透過性ペプチドの非限定的な例には、Milletti F, Drug Discov. Today 17: 850-860, 2012に記載されるものが含まれ、関連する開示内容はその全体が参照により本明細書に組み入れられる。場合によっては、T細胞はCasタンパク質を産生するように遺伝的に操作されてもよい。
【0042】
いくつかの態様では、Cpf1ヌクレアーゼまたはCas9ヌクレアーゼとgRNAとは、リボ核タンパク質(RNP)複合体として細胞内に導入される。
【0043】
いくつかの態様では、RNP複合体は、約1×105個~約2×106個の細胞(例えば、1×105個~約5×105個の細胞、約1×105個~約1×106個の細胞、1×105個~約1.5×106個の細胞、1×105個~約2×106個の細胞、約1×106個~約1.5×106個の細胞、または約1×106個~約2×106個の細胞)に導入され得る。いくつかの態様では、該細胞は改変された細胞の集団を拡大増殖させるのに有効な条件下で培養される。また、本明細書では細胞の集団が開示され、該集団では、少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、99%またはそれ以上の細胞のゲノムが、本明細書に記載されるT細胞負調節遺伝子の発現を阻害する遺伝子改変または異種ポリヌクレオチドを含む。いくつかの態様では、該集団は細胞の亜集団からなり、亜集団のそれぞれは本明細書に記載されるT細胞負調節遺伝子の発現を阻害するための異なる遺伝子改変を有する。
【0044】
いくつかの態様では、RNP複合体はエレクトロポレーションによってT細胞に導入される。RNP複合体を導入するために細胞をエレクトロポレーションするための方法、組成物、および装置は、当技術分野で利用可能であり、例えば、WO 2016/123578、WO/2006/001614、およびKim, J.A. et al. Biosens. Bioelectron. 23, 1353-1360 (2008)を参照されたい。RNP複合体を導入するために細胞をエレクトロポレーションするための追加的または代替的な方法、組成物、および装置には、以下に記載されるものが含まれる:米国特許出願公開第2006/0094095号; 同第2005/0064596号; または同第2006/0087522号; Li, L.H. et al. Cancer Res. Treat. 1, 341-350 (2002); 米国特許第6,773,669号; 同第7,186,559号; 同第7,771,984号; 同第7,991,559号; 同第6,485,961号; 同第7,029,916号; および米国特許出願公開第2014/0017213号; 同第2012/0088842号; Geng, T. et al., J. Control Release 144, 91-100 (2010); ならびにWang, J., et al. Lab. Chip 10, 2057-2061 (2010)。
【0045】
いくつかの態様では、Cas9タンパク質は、活性エンドヌクレアーゼの形態であり得、その結果、ガイドRNAとの複合体の一部またはDNAテンプレートとの複合体の一部として標的核酸に結合されると、その標的核酸に二本鎖切断が導入されるようになる。本明細書に記載の方法では、Cas9ポリペプチドまたはCas9ポリペプチドをコードする核酸がT細胞に導入され得る。二本鎖切断はHDRによって修復され、DNAテンプレートがT細胞のゲノムに挿入される。本明細書に記載の方法では、様々なCas9ヌクレアーゼが利用可能である。例えば、ガイドRNAにより標的化される領域のすぐ3'側のNGGプロトスペーサー隣接モチーフ(protospacer adjacent motif:PAM)を必要とするCas9ヌクレアーゼを利用し得る。このようなCas9ヌクレアーゼは、NGG配列を含むTRACのエクソン1またはTRABのエクソン1の領域を標的とすることができる。別の例として、直交性(orthogonal)PAMモチーフ要件を持つCas9タンパク質は、隣接NGG PAM配列を持たない配列を標的とするために使用され得る。直交性PAM配列特異性を有する代表的なCas9タンパク質には、Esvelt et al., Nature Methods 10: 1116-1121 (2013)に記載されるものが含まれるが、これらに限定されない。
【0046】
いくつかの場合には、Cas9タンパク質はニッカーゼであり、その結果、ガイドRNAとの複合体の一部として標的核酸に結合されると、その標的核酸に一本鎖切断またはニックが導入されるようになる。それぞれが構造的に異なるガイドRNAに結合される、一対のCas9ニッカーゼは、標的ゲノム領域の2つの近位部位に標的化されるため、その標的ゲノム領域、例えばTRAC遺伝子のエクソン1またはTRBC遺伝子のエクソン1に一対の近位一本鎖切断を導入することができる。ニッカーゼの対は特異性を向上させることができる;なぜなら、オフターゲット効果がシングルニックをもたらす可能性が高く、これらは一般的に塩基除去修復機構によって損傷なしに修復されるからである。例示的なCas9ニッカーゼには、D10AまたはH840A変異を持つCas9ヌクレアーゼが含まれる(例えば、Jinek et al., Science 337:816-821, 2012; Qi et al., Cell, 152(5):1173-1183, 2012; Ran et al., Cell 154: 1380-1389, 2013を参照されたい)。一態様では、化膿レンサ球菌由来のCas9ポリペプチドは、D10、G12、G17、E762、H840、N854、N863、H982、H983、A984、D986、A987、またはこれらの任意の組み合わせの位置に少なくとも1つの変異を含む。このようなdCas9ポリペプチドおよびそのバリアントの説明は、例えば、国際特許公開番号WO 2013/176772に記載されている。Cas9酵素は、D10、E762、H983、またはD986の変異だけでなく、H840またはN863の変異をも含む可能性がある。場合によっては、Cas9酵素はD10AまたはD10N変異を含み得る。さらなる態様では、Cas9酵素はH840A、H840Y、またはH840Nを含み得る。いくつかの態様では、Cas9酵素は、D10AとH840A;D10AとH840Y;D10AとH840N;D10NとH840A;D10NとH840Y;またはD10NとH840Nの置換を含み得る。置換は、Cas9ポリペプチドを触媒的に不活性にしかつ標的DNAに結合できるようにする、保存的または非保存的置換であり得る。
【0047】
いくつかの態様では、Casヌクレアーゼは、オフターゲット効果が低減されかつ強力なオンターゲット切断を有する、高忠実度または向上した特異性のCas9ポリペプチドバリアントであり得る。オンターゲット特異性が改善されたCas9ポリペプチドバリアントの非限定的な例としては、以下が挙げられる:Slaymaker et al., Science, 351(6268):84-8 (2016)に記載されるSpCas9 (K855A)、SpCas9 (K810A/K1003A/R1060A)(eSpCas9(1.0)とも呼ばれる)、およびSpCas9 (K848A/K1003A/R1060A)(eSpCas9(1.1)とも呼ばれる)バリアント、ならびにKleinstiver et al., Nature, 529(7587):490-5 (2016)に記載され、次の変異:N497A、R661A、Q695A、およびQ926Aのうちの1つ、2つ、3つ、または4つを含むSpCas9バリアント(例えば、SpCas9-HF1は4つ全ての変異を含む)。
【0048】
いくつかの態様では、標的モチーフは、本発明のCRISPR/Casシステムのオフターゲット効果を最小限にするように選択され得る。例えば、いくつかの態様では、標的モチーフは、細胞内の他の全てのゲノムヌクレオチド配列と比較した場合に、少なくとも2つのミスマッチを含むように選択される。いくつかの態様では、標的モチーフは、細胞内の他の全てのゲノムヌクレオチド配列と比較した場合に、少なくとも1つのミスマッチを含むように選択される。当業者であれば、オフターゲット効果を最小限にするのに適した標的モチーフを選択するために、様々な技術を用いることができることを理解するであろう(例えば、バイオインフォマティクス解析)。
【0049】
いくつかの態様では、本明細書に記載されるT細胞負調節遺伝子の遺伝子発現の配列特異的抑制のために、CRISPRiが採用される。CRISPRi法の説明は、例えば、Engreitz et al., Cold Spring Harb Perspect Biol, 2019, 1 l:a035386に載っている。いくつかの態様では、CRISPRiシステムは、抑制ドメインに機能的に連結されたdCas9ポリペプチドまたはdCasl2ポリペプチドを含む。いくつかの態様では、抑制ドメインは、Kriippel-associated box(KRAB)リプレッサードメイン、NuEリプレッサードメイン、NcoRリプレッサードメイン、SIDリプレッサードメイン、SID4Xリプレッサードメイン、EZH2リプレッサードメイン、FOGリプレッサードメイン、DNMT3 Aリプレッサードメイン、およびDNMT3Lリプレッサードメインからなる群より選択される。
【0050】
いくつかの態様では、T細胞負調節遺伝子をサイレンシングするために、CRISPRoffが採用される(例えば、Nunez JK, Chen J, Pommier GC, et al. Genome-wide programmable transcriptional memory by CRISPR-based epigenome editing. Cell, 2021;0(0). doi: 10.1016/j.cell.2021.03.02.を参照されたい)。
【0051】
いくつかの態様では、T細胞負調節遺伝子に点変異を導入するために、塩基編集が採用される。DNA塩基エディターは、触媒的に損なわれたCasヌクレアーゼと、一本鎖DNA(ssDNA)上で働くが二本鎖DNA(dsDNA)上では働かない塩基改変酵素との融合体からなる。DNA内のその標的遺伝子座に結合すると、ガイドRNAと標的DNA鎖との塩基対合により、Rループ内で一本鎖DNAの小さなセグメントの置換が起こる。この一本鎖DNAバブル内のDNA塩基は、デアミナーゼ酵素によって改変される。真核細胞での効率性を向上させるため、触媒的に機能しないヌクレアーゼはまた、非編集DNA鎖にもニックを生成し、編集済みの鎖をテンプレートとして用いて非編集鎖を修復するように細胞を誘導する。DNA塩基エディターとしては、考えられる4つ全てのトランジション変異(CからT、AからG、TからC、およびGからA)を媒介できるものが入手可能である。例えば、Rees & Liu, Nat. Rev. Genet. 19:770-788, 2008およびそこで引用された文献を参照されたい。
【0052】
本明細書全体を通して使用されるガイドRNA(gRNA)配列とは、部位特異的ヌクレアーゼまたは標的化されたヌクレアーゼと相互作用しかつ細胞のゲノム内の標的核酸と特異的に結合またはハイブリダイズする配列であり、その結果、gRNAと標的化されたヌクレアーゼとは、その細胞のゲノム内の標的核酸に共局在するようになる。各gRNAは、ゲノム内の標的DNA配列と特異的に結合またはハイブリダイズする、約10~50ヌクレオチドの長さのDNAターゲティング配列またはプロトスペーサー配列を含む。例えば、そのターゲティング配列は、約10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、または50ヌクレオチドの長さであり得る。いくつかの態様では、gRNAは、crRNA配列とトランス活性化型crRNA(tracrRNA)配列を含む。いくつかの態様では、gRNAはtracrRNA配列を含まない。
【0053】
sgRNAは、当業者には理解されるように、採用する特定のCRISPR/Casシステム、および標的ポリヌクレオチドの配列に応じて選択され得る。上で示したように、いくつかの態様では、該1~2つのリボ核酸はまた、標的ポリヌクレオチド配列以外の核酸配列とのハイブリダイゼーションを最小限にするようにも選択され得る。いくつかの態様では、該1~2つのリボ核酸は、細胞内の他の全てのゲノムヌクレオチド配列と比較した場合に、少なくとも2つのミスマッチを含む標的モチーフにハイブリダイズする。いくつかの態様では、該1~2つのリボ核酸は、細胞内の他の全てのゲノムヌクレオチド配列と比較した場合に、少なくとも1つのミスマッチを含む標的モチーフにハイブリダイズする。いくつかの態様では、該1~2つのリボ核酸は、Casタンパク質によって認識されるデオキシリボ核酸モチーフにすぐ隣接する標的モチーフにハイブリダイズするように設計される。いくつかの態様では、該1~2つのリボ核酸のそれぞれは、標的モチーフ間に位置する変異型アレルを挟む、Casタンパク質によって認識されるデオキシリボ核酸モチーフのすぐ隣の標的モチーフにハイブリダイズするように設計される。ガイドRNAは、例えばウェブサイトcrispr.mit.eduで、容易に入手できるソフトウェアを用いて設計することもできる。1つまたは複数のsgRNAは、当技術分野で知られた方法に従って、Casタンパク質が存在するT細胞にトランスフェクションによって導入することができる。
【0054】
場合によっては、DNAターゲティング配列には、複数の遺伝要素に結合させるために、ゆらぎ(wobble)または縮重(degenerate)塩基を組み込むことができる。場合によっては、該結合領域の3'末端または5'末端の19ヌクレオチドは、標的遺伝要素(複数可)と完全に相補的である。場合によっては、該結合領域はまた、安定性を高めるために改変され得る。例えば、非天然ヌクレオチドを組み込んで、分解に対するRNA耐性を高めることができる。場合によっては、該結合領域は、結合領域における二次構造の形成を回避または低減するように改変または設計され得る。場合によっては、該結合領域はG-C含量を最適化するように設計され得る。場合によっては、G-C含量は好ましくは約40%~約60%(例えば、40%、45%、50%、55%、60%)である。
【0055】
いくつかの態様では、gRNAまたはその一部の配列は、T細胞負調節遺伝子の標的領域と相補的である(例えば、完全に相補的である)か、または実質的に相補的である(例えば、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%相補的である)ように設計される。いくつかの態様では、ポリヌクレオチド中のターゲティング領域と相補的で、それに結合するgRNAの部分は、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、もしくは40、またはそれ以上のヌクレオチド長であるか、あるいは約10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、もしくは40、またはそれ以上のヌクレオチド長である。場合によっては、ポリヌクレオチド中のターゲティング領域と相補的で、それに結合するgRNAの部分は、約19~約21ヌクレオチド長である。場合によっては、gRNAには、複数の標的領域に結合させるために、ゆらぎ塩基または縮重塩基を組み込むことができる。場合によっては、gRNAは、安定性を高めるために改変され得る。例えば、非天然ヌクレオチドを組み込んで、分解に対するRNA耐性を高めることができる。場合によっては、gRNAは、二次構造の形成を回避または低減するように改変または設計され得る。場合によっては、gRNAはG-C含量を最適化するように設計され得る。場合によっては、G-C含量は約40%~約60%(例えば、40%、45%、50%、55%、60%)である。場合によっては、該結合領域は、メチル化またはリン酸化ヌクレオチドなどであるがこれらに限らない、修飾ヌクレオチドを含むことができる。
【0056】
いくつかの態様では、gRNAは、1つまたは複数のヌクレオチドを置換、欠失、または付加することによって、発現のために最適化され得る。いくつかの場合には、コード核酸テンプレート由来の非効率的な転写をもたらすヌクレオチド配列が欠失または置換され得る。例えば、ある場合には、gRNAはRNAポリメラーゼIIIプロモーターに機能的に連結された核酸から転写される。このような場合、RNAポリメラーゼIIIによる非効率的な転写をもたらすgRNA配列、例えば、Nielsen et al., Science. 2013 Jun 28;340(6140):1577-80に記載されるものは、欠失または置換され得る。例えば、1つまたは複数の連続したウラシルをgRNA配列から欠失または置換することができる。場合によっては、ウラシルが対応するアデニンに水素結合している場合、gRNA配列はアデニンとウラシルを交換するように変更され得る。この「A-Uフリップ」により、連続したウラシルヌクレオチドの数を減らすことで発現を向上させながら、gRNA分子の全体的な構造と機能を保持することが可能である。
【0057】
いくつかの態様では、gRNAは安定性のために最適化され得る。安定性は、gRNA:ヌクレアーゼ相互作用の安定性を最適化すること、gRNA:ヌクレアーゼ複合体のアセンブリを最適化すること、RNA不安定化配列要素を除去もしくは変更すること、またはRNA安定化配列要素を追加することによって高めることができる。いくつかの態様では、gRNAは、gRNA媒介ヌクレアーゼと相互作用する領域の近位に、またはその領域に隣接して、5'ステム-ループ構造を含む。5'ステム-ループ構造の最適化により、gRNA:ヌクレアーゼ複合体の安定性またはアセンブリを高めることができる。場合によっては、5'ステム-ループ構造は、ステム-ループ構造のステム部分の長さを延ばすことによって最適化される。
【0058】
gRNAは、当技術分野で公知の方法により修飾され得る。場合によっては、その修飾は、以下の配列要素のうちの1つまたは複数の付加を含み得るが、これらに限定されない:5'キャップ(例えば、7-メチルグアニル酸キャップ);3'ポリアデニル化テール;リボスイッチ配列;安定性制御配列;ヘアピン;細胞内局在化配列;検出配列または標識;1つまたは複数のタンパク質に対する結合部位。修飾はまた、以下のうちの1つまたは複数を含むがこれらに限定されない非天然ヌクレオチドの導入を含み得る:蛍光ヌクレオチドおよびメチル化ヌクレオチド。
【0059】
また、本明細書では、宿主細胞内でgRNAを産生するための発現カセットおよびベクターも提供される。発現カセットは、gRNAをコードするポリヌクレオチドに機能的に連結されたプロモーター(例えば、異種プロモーター)を含むことができる。プロモーターは、誘導性または構成性であり得る。プロモーターは組織特異的であり得る。場合によっては、プロモーターはU6、H1、または脾限局巣形成ウイルス(SFFV)の長い末端反復プロモーターである。場合によっては、プロモーターはヒト伸長因子1プロモーター(EF1A)と比べて弱い哺乳類プロモーターである。ある場合には、弱い哺乳類プロモーターは、ユビキチンCプロモーターまたはホスホグリセリン酸キナーゼ1プロモーター(PGK)である。ある場合には、弱い哺乳類プロモーターは、誘導因子の非存在下でのTetOnプロモーターである。場合によっては、TetOnプロモーターが利用されるとき、宿主細胞はテトラサイクリントランス活性化因子とも接触する。いくつかの態様では、選択されたgRNAプロモーターの強度は、Cas9またはdCas9の量に比例する量のgRNAを発現するように選択される。発現カセットは、プラスミド、ウイルスベクター、レンチウイルスベクターなどのベクター内に存在し得る。場合によっては、発現カセットは宿主細胞内にある。gRNA発現カセットは、エピソームであっても、宿主細胞内に組み込まれてもよい。
【0060】
代替の標的化されたヌクレアーゼシステムを用いた改変
いくつかの態様では、T細胞制御遺伝子の発現を阻害するようにT細胞を改変する際に使用される標的化されたヌクレアーゼは、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)またはメガTALである(例えば、Merkert and Martin “Site-Specific Genome Engineering in Human Pluripotent Stem Cells,” Int. J. Mol. Sci. 18(7): 1000(2016) を参照されたい)。
【0061】
T細胞負調節遺伝子の発現を阻害するジンクフィンガーヌクレアーゼ
いくつかの態様では、T細胞負調節遺伝子が標的化された変化を含む改変されたT細胞は、ZFNを用いて発現を阻害することにより作製される。遺伝子発現を低減させるためにZFNを使用する方法は、例えば、米国特許第9,045,763号に、さらにDurai et al., Nucleic Acid Research 33:5978-5990, 2005; Carroll et al. Genetics Society of America 188: 773-782, 2011; およびKim et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93: 1156-1160にも記載されている。
【0062】
ZFNは、DNA結合ドメインに融合されたFokIヌクレアーゼドメイン(またはその誘導体)を含む。ZFNの場合には、DNA結合ドメインが1つまたは複数のジンクフィンガーを含む。ジンクフィンガーは、1つまたは複数の亜鉛イオンによって安定化された小さなタンパク質構造モチーフである。ジンクフィンガーは、例えばCys2His2を含むことができ、約3bpの配列を認識し得る。特異性が知られている様々なジンクフィンガーを組み合わせて、約6、9、12、15または18bpの配列を認識するマルチフィンガーポリペプチドを作成することができる。特定の配列を認識するジンクフィンガー(およびその組み合わせ)を生成するために、ファージディスプレイ、酵母ワンハイブリッドシステム、細菌ワンハイブリッドおよびツーハイブリッドシステム、および哺乳動物細胞を含めて、様々な選択およびモジュールアセンブリ技術が利用可能である。
【0063】
ZFNは、二量体化することでDNAを切断する。したがって、非パリンドロームDNA部位を標的とするために、一対のZFNが使用される。2つの個々のZFNは、それらのヌクレアーゼの間隔を適切にあけて、DNAの対向鎖に結合する(例えば、Bitinaite et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95: 10570-5, 1998を参照されたい)。ZFNは、DNAに二本鎖切断を生じさせることができ、これが不適切に修復されるとフレームシフト変異を引き起こすことがあり、細胞内の標的遺伝子の発現および発現レベルの低下につながる。
【0064】
T細胞負調節遺伝子を阻害するTALEN
いくつかの態様では、標的化された変化を含むT細胞は、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)を用いて所望のT細胞負調節遺伝子を阻害することにより作製される。TALENは、ゲノム部位の周囲にペアで結合して、特定の部位でゲノムを切断するようにFoKIなどの非特異的ヌクレアーゼを誘導するという点でZFNに似ているが、DNAトリプレットを認識する代わりに、各ドメインは単一のヌクレオチドを認識する。遺伝子発現を低減させるためにTALENを使用する方法は、例えば、米国特許第9,005,973号;Christian et al. Genetics 186(2): 757-761, 2010; Zhang et al. 2011 Nature Biotech. 29: 149-53, 2011; Geibler et al. 2011 PLoS ONE 6: e19509, 2011; Boch et al. 2009 Science 326: 1509-12; Moscou et al. 2009 Science 326: 3501に開示されている。
【0065】
TALENを作成するには、通常TALEタンパク質を、野生型でも変異型でもよいFokIエンドヌクレアーゼに融合させる。FokIをTALENで使用するために、FokIにはいくつかの変異が加えられている;それらは、例えば、切断特異性または活性を改善する。Cermak et al., Nucl. Acids Res. 39:e82, 2011; Miller et al., Nature Biotech. 29:143-8, 2011; Hockemeyer et al., Nature Biotech. 29:731-734, 2011; Wood et al., Science 333:307, 2011; Doyon et al., Nature Methods 8:74-79, 2010; Szczepek et al., Nature Biotech. 25:786-793, 2007; およびGuo et al., J. Mol. Biol. 200:96, 2010。
【0066】
FokIドメインは二量体として機能し、通常、標的ゲノムの部位に対するユニークなDNA結合ドメインを適切な向きと間隔で含む2つの構築物を使用する。TALE DNA結合ドメインとFokI切断ドメインとの間のアミノ酸残基の数、および2つの個々のTALEN結合部位間の塩基の数は、両方とも高レベルの活性を達成するための重要なパラメーターであると考えられる(例えば、Miller et al., 2011, 前掲)。
【0067】
メガヌクレアーゼ
「メガヌクレアーゼ」は、高度に特異的であり得るレアカットエンドヌクレアーゼまたはホーミングエンドヌクレアーゼであり、少なくとも12塩基対の長さ、例えば12~40塩基対または12~60塩基対の長さの範囲のDNA標的部位を認識する。メガヌクレアーゼは、エンドヌクレアーゼの少なくとも1つの触媒ドメインと、核酸標的配列を特定する少なくとも1つのDNA結合ドメインまたはタンパク質とを含む融合タンパク質のような、モジュール型DNA結合ヌクレアーゼであり得る。DNA結合ドメインは、一本鎖または二本鎖DNAを認識する少なくとも1つのモチーフを含むことができる。メガヌクレアーゼは単量体でも二量体でもよい。
【0068】
本明細書に記載される方法のいくつかの態様では、メガヌクレアーゼは、T細胞負調節遺伝子の発現を阻害するか、または本明細書に記載される免疫機能を抑制する遺伝子の発現を阻害するために使用され得る。ある場合には、メガヌクレアーゼは天然に存在する(自然界に見られる)ものまたは野生型であり、他の場合には、メガヌクレアーゼは非天然の、人工の、操作された、合成の、または合理的に設計されたものである。特定の態様では、本明細書に記載の方法で使用し得るメガヌクレアーゼには、I-CreIメガヌクレアーゼ、I-CeuIメガヌクレアーゼ、I-MsoIメガヌクレアーゼ、I-SceIメガヌクレアーゼ、これらのバリアント、これらの変異体、およびこれらの誘導体が含まれるが、これらに限定されない。
【0069】
有用なメガヌクレアーゼとその遺伝子編集への応用に関する詳細な説明は、例えば、以下に見い出せる:Silva et al., Curr Gene Ther, 2011, 11(1):11-27; Zaslavoskiy et al., BMC Bioinformatics, 2014, 15:191; Takeuchi et al., Proc Natl Acad Sci USA, 2014, 111(11):4061-4066;ならびに米国特許第7,842,489号;同第7,897,372号;同第8,021,867号;同第8,163,514号;同第8,133,697号;同第8,021,867号;同第8,119,361号;同第8,119,381号;同第8,124,36号;および同第8,129,134号。
【0070】
本明細書に記載の方法を用いた任意のT細胞制御遺伝子の発現の阻害効率は、例えば、定量的PCR、ウェスタンブロット、フローサイトメトリーなど、当技術分野で周知の方法を用いてmRNAまたはタンパク質の量を測定することにより評価され得る。いくつかの態様では、阻害効率を確定するために、タンパク質のレベルが評価される。特定の態様では、標的遺伝子発現の低減効率は、標的化された改変を持たない対応する細胞と比較して、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも50%、少なくとも60%、または少なくとも80%、または少なくとも90%、またはそれ以上である。特定の態様では、低減効率は約10%~約90%である。特定の態様では、低減効率は約30%~約80%である。特定の態様では、低減効率は約50%~約80%である。いくつかの態様では、低減効率は約80%以上である。
【0071】
治療方法および組成物
本明細書に記載された方法はどれも、ヒト対象から得られたT細胞、例えばCD8+ T細胞を改変するために使用され得る。本発明に従って改変されたT細胞は、固形腫瘍などの多くのがんの治療に用いることができる。
【0072】
がんの治療方法
いくつかの態様では、T細胞は、本明細書に記載される1つまたは複数のT細胞負調節遺伝子の発現を低減させるように改変される。いくつかの態様では、改変されるT細胞負調節遺伝子は、ALAS1、AMBRA1、ANKRD32、ARHGAP15、C15orf40、C3orf33、C8orf44、CARKD、CD300LB、CENPB、CHL1、CHST3、CLEC4M、COL15A1、COL25A1、CORO1A、CUL3、CWC27、CYC1、DOK2、DUSP4、ENG、FAM49B、FKBP1A、FUBP1、GAB3、GLRX、GREB1L、GTF2H2、GTF2I、HAUS1、HIST1H2AD、HIST1H2BC、HOXA10、IGFBP4、IRF2BP2、IYD、KCNK4、KDM6B、L1CAM、LAMA3、LHX8、MOB3C、MBTD1、MRPL17、MRPL33、MTIF2、MYO1H、NEFL、NFKB1A、NFKB2、NMT1、ORC6、PCBP2、PCGF1、PDCD6IP、PDCL、PFN1、PIM2、PIWIL4、PLGLB2、PLXNA4、PDE4C、NXX2-6、POTEJ、PPIA、PPP2R5D、PTPRG、RFPL1、RNF13、RNF185、RNF7、RPRD1B、RPS6KL1、SEL1L3、SEPW1、SH3BGRL、SIRT7、SIT1、SLC47A1、SLC9A3、SP1、ST5、STAT6、TBL1Y、TGFBR1、TGFBR2、TGIF2、TICRR、TMEM62、TNK1、TNS2、TP53BP1、TTN、TUFM、UPK1B、UQCRC1、WWOX、XCL1、ZBTB7A、ZFYVE28、ZNF101、ZNF436、ZNF506、ZNF716、およびZNF805である。したがって、いくつかの態様では、以下の段階を含む、ヒト対象におけるがんの治療方法が本明細書に提供される:(a)該対象からT細胞、例えばCD8+ T細胞を取得する段階;(b)本明細書に記載される方法のいずれかを用いて、T細胞負調節遺伝子、例えばこの段落に開示された遺伝子の発現を低減させるようにT細胞を改変する段階;および(c)改変されたT細胞を該対象に投与する段階。
【0073】
いくつかの態様では、がんを患う対象から得られたT細胞、例えばCD8+ T細胞は、エクスビボで拡大増殖され得る。該対象のがんの特徴から、一連のテーラードの細胞改変(例えば、1つまたは複数の負調節遺伝子標的の選択)を決定することができ、これらの改変を本明細書に記載される方法のいずれかを用いてT細胞に適用することができる。その後、改変されたT細胞を該対象に再導入することができる。この戦略は、がん特異的T細胞の対象の天然レパートリーを十分に利用して、その機能を増強するものであり、これが、変異原性がん細胞を迅速に排除するための多様な武器を提供する。
【0074】
どのようながんでも、本明細書に記載される遺伝子改変されたT細胞を用いて治療することができる。いくつかの態様では、がんはがん腫または肉腫である。いくつかの態様では、がんは血液がんである。いくつかの態様では、がんは、乳がん、前立腺がん、精巣がん、腎細胞がん、膀胱がん、肝臓がん、卵巣がん、子宮頸がん、子宮内膜がん、肺がん、大腸がん、肛門がん、膵臓がん、胃がん、食道がん、肝細胞がん、腎臓がん、頭頸部がん、神経膠芽腫、中皮腫、メラノーマ、軟骨肉腫、または骨もしくは軟部組織肉腫である。いくつかの態様では、がんは、副腎皮質がん、肛門がん、虫垂がん、星細胞腫、基底細胞がん、胆管がん、骨腫瘍、脳幹部神経膠腫、脳腫瘍、小脳星細胞腫、大脳星細胞腫、上衣腫、髄芽腫、テント上原始神経外胚葉性腫瘍、視経路および視床下部神経膠腫、または気管支腺腫である。いくつかの態様では、がんは、急性リンパ芽球性白血病、急性骨髄性白血病、バーキットリンパ腫、中枢神経系リンパ腫、慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、毛様細胞白血病、慢性骨髄増殖性疾患、骨髄異形成症候群、成人急性骨髄増殖性疾患、多発性骨髄腫、皮膚T細胞リンパ腫、ホジキンリンパ腫、または非ホジキンリンパ腫である。いくつかの態様では、がんは、線維形成性小円形細胞腫、脳室上衣腫、類上皮型血管内皮腫(EHE)、ユーイング肉腫、頭蓋外胚細胞腫瘍、性腺外胚細胞腫瘍、肝外胆管がん、眼内メラノーマ、網膜芽細胞腫、胆嚢がん、消化管カルチノイド腫瘍、消化管間質腫瘍(GIST)、胚細胞腫瘍、妊娠性絨毛性腫瘍、胃カルチノイド、心臓がん、下咽頭がん、視床下部および視経路神経膠腫、小児眼内メラノーマ、膵島細胞がん、カポジ肉腫、喉頭がん、口唇および口腔がん、脂肪肉腫、非小細胞肺がん、小細胞肺がん、マクログロブリン血症、男性乳がん、骨の悪性線維性組織球腫、髄芽腫、メラノーマ、メルケル細胞がん、中皮腫、転移性扁平上皮頸部がん、口腔がん(mouth cancer)、多発性内分泌腫瘍症候群、菌状息肉症、慢性、粘液腫、鼻腔・副鼻腔がん、鼻咽喉がん、神経芽細胞腫、乏突起神経膠腫、口腔がん(oral cancer)、口腔咽頭がん、骨肉腫、卵巣上皮がん、卵巣胚細胞腫瘍、卵巣低悪性度腫瘍、副鼻腔・鼻腔がん、副甲状腺がん、陰茎がん、咽頭がん、褐色細胞腫、松果体星細胞腫、松果体胚腫、松果体芽腫、テント上原始神経外胚葉性腫瘍、下垂体腺腫、形質細胞腫瘍、胸膜肺芽腫、原発性中枢神経系リンパ腫、腎細胞がん、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、唾液腺がん、子宮肉腫、セザリー症候群、非メラノーマ皮膚がん、メラノーマメルケル細胞皮膚がん、小腸がん、扁平上皮がん、頸部扁平上皮がん、咽頭がん、胸腺腫、甲状腺がん、腎盂・尿管移行上皮がん、絨毛性腫瘍、妊娠性、尿道がん、子宮がん、膣がん、外陰がん、ワルデンストレーム・マクログロブリン血症、またはウィルムス腫瘍である。
【0075】
特定の態様では、遺伝子改変されたT細胞、または遺伝子改変されたT細胞のサブタイプの個々の集団は、約100万~約1000億個の範囲で対象に投与され、例えば、100万~約500億個の細胞(例えば、約500万個、約2500万個、約5億個、約10億個、約50億個、約200億個、約300億個、約400億個、または前述の値のいずれか2つによって定義される範囲)、例えば、約1000万~約1000億個の細胞(例えば、約2000万個、約3000万個、約4000万個、約6000万個、約7000万個、約8000万個、約9000万個、約100億個、約250億個、約500億個、約750億個、約900億個、または前述の値のいずれか2つによって定義される範囲)、場合によっては、約1億個~約500億個の細胞(例えば、約1億2000万個、約2億5000万個、約3億5000万個、約4億5000万個、約6億5000万個、約8億個、約9億個、約30億個、約300億個、約450億個)、またはこれらの範囲の中間の任意の値が投与される。
【0076】
いくつかの態様では、総細胞の用量および/または細胞の個々の亜集団の用量は、104~109細胞/キログラム(kg)体重または約104~109細胞/キログラム(kg)体重の範囲内であり、例えば、105~106細胞/kg体重の間、例えば、少なくとも約1×105細胞/kg、1.5×105細胞/kg、2×105細胞/kg、5×105細胞/kg、または1×106細胞/kg体重である。
【0077】
適切な投与量は、治療するがんの種類、疾患の重症度と経過、以前の治療法、対象の病歴と細胞応答、および主治医の裁量によって決定され得る。組成物および細胞は、いくつかの態様では、一度に、または一連の治療にわたって、対象に適切に投与される。
【0078】
細胞は、任意の適切な手段によって投与され、例えば、ボーラス注入、注射、例えば静脈内もしくは皮下注射、眼内注射、眼周囲注射、網膜下注射、硝子体内注射、経中隔注射、強膜下注射、脈絡膜内注射、前房内注射、結膜下注射、テノン嚢下注射、眼球後注射、眼球周囲注射、または後胸膜近傍送達によって投与され得る。いくつかの態様では、それらは、非経口、肺内、および鼻内投与によって投与され、局所治療が望まれる場合には、病巣内投与によって投与される。非経口注入には、筋肉内、静脈内、動脈内、腹腔内、または皮下投与が含まれる。いくつかの態様では、所定の用量は細胞の単回ボーラス投与により投与される。いくつかの態様では、それは、例えば3日以内の期間にわたる、細胞の複数回ボーラス投与により、または細胞の連続注入投与により投与される。
【0079】
いくつかの態様では、細胞は、併用治療の一部として、例えば、抗体または操作された細胞もしくは受容体または薬剤、例えば細胞傷害性薬剤もしくは治療薬などの、別の治療的介入と同時に、または任意の順序で連続的に、投与される。いくつかの態様では、細胞は1つまたは複数の追加の治療薬と共投与されるか、あるいは別の治療的介入と関連して、同時にまたは任意の順序で連続的に投与される。いくつかの状況では、細胞は、細胞集団が1つまたは複数の追加の治療薬の効果を増強するように、あるいはその逆となるように、十分に近い時間内に別の治療薬と共投与される。いくつかの態様では、細胞は1つまたは複数の追加の治療薬の前に投与される。いくつかの態様では、細胞は1つまたは複数の追加の治療薬の後に投与される。
【0080】
本明細書で引用された出版物およびそれらを引用する資料は、その全体が参照により本明細書に具体的に組み入れられる。
【実施例】
【0081】
以下の実施例は、例示・説明のために提供されるが、特許請求される発明を限定するものではない。
【0082】
実施例1:腫瘍微小環境における免疫抑制に関与する遺伝子の特定
抑制的な腫瘍微小環境およびT細胞固有のチェックポイントは、固形腫瘍を標的とする操作されたT細胞の有効性に影響を及ぼす可能性がある(Lim, et al., Cell 168, 724-740, 2017)。本発明者らは、TMEで遭遇する様々な阻害性シグナルに対してT細胞を抵抗性にする可能性のある遺伝的摂動を見つけ出すための体系的なアプローチを開発した。本発明者らは以前、アデノシンアゴニスト(Shifrut et al., 2018, 前掲; WO2020/014235)(CGS-21680)を使用して、低酸素TMEにおける高レベルのアデノシンに応答して上昇したアデノシンA2A阻害性シグナル伝達をシミュレートした(Sitkovsky, et al., Annu. Rev. Immunol. 22, 657-682, 2004)。本実施例では、この戦略を拡張して、腫瘍微小環境におけるT細胞機能への複数の課題をモデル化した。固有のチェックポイントシグナルをモデル化するために、本発明者らは、腫瘍浸潤T細胞においてしばしば抑制されるT細胞活性化の重要な経路であるカルシウム/カルシニューリンシグナル伝達のインヒビター(タクロリムスおよびシクロスポリン)に焦点を当てた(Park, et al, 2020; Martinez, et al., 2015, いずれも前掲)。TMEにおける顕著な外因性の阻害性シグナルを模倣するため、我々は、腫瘍内でT細胞機能を制限する正規の抑制性サイトカインであるTGFβを使用した(Kloss et al, 2018, 前掲)。最後に、制御性T細胞(Treg)は、複数の腫瘍タイプにおいてT細胞機能不全の重要なメディエーターであるため(Plitas et al, 2016, 前掲)、我々のスクリーニング・プラットフォームを適応させて、細胞間相互作用をアッセイし、かつTregによるエフェクターT細胞の抑制に対して抵抗性を付与する遺伝子を明らかにした。
【0083】
これらの抑制条件に対して抵抗性の調節因子を特定するために、我々の、初代ヒトT細胞におけるプール型ゲノムワイドCRISPRノックアウトスクリーニングのSLICE(sgRNA lentiviral infection with Cas9 electroporation(Cas9エレクトロポレーションを伴うsgRNAレンチウイルス感染))方法論を適用した(Shifrut et al, 2018, WO2020/014235、これは参照により組み入れられる)。我々は、複数の独立したドナーおよび抑制条件にわたって、初代ヒトT細胞において合計6種類のゲノムワイドスクリーニングを解析した(
図1aおよび方法)。それぞれの条件において、細胞を再刺激した後、非分裂細胞(CFSE高)よりも分裂細胞(CFSE低)で濃縮されたsgRNAを見つけるためのFACSソーティングによって、T細胞の増殖を促進させる遺伝子標的を特定した。スクリーニングヒットの解析により、同様の抑制的キュー(例えば、タクロリムスおよびシクロスポリン)間の関係が強調され、ADORA2AとTGFBR1がそれぞれアデノシン条件とTGFβ条件で高スコアを示すことで、これらの抑制スクリーニングの特異性が確認された(
図2a~c)。
【0084】
これらのスクリーニングにより、抑制条件下で以下の遺伝子が特定された:
アデノシン処置(低酸素TMEと関連):CHST3、TTN、NMT1、RPS6KL1、STAT6、C8orf44、PDCL、TP53BP1、WWOX、GLRX、ZNF506、TNS2、およびTBL1Y;
刺激:UQCRC1、IRF2BP2、RPRD1B、AMBRA1、DUSP4、およびPCBP2;
Treg抑制スクリーニング:CUL3、CORO1A、RFPL1、HIST1H2AD、PLGLB2、SH3BGRL、GLRX、ARHGAP15、CHL1、SIT1、CYC1、AMBRA1、GAB3、DOK2、FUBP1、およびPDCD6IP;
シクロスポリン処置:KDM6B、COL15A1、ZFYVE28、CARKD、ZNF101、HOXA10、C3orf33、ALAS1、CYC1、ZBTB7A、FAM49B、MRPL17、GREB1L、PPP2R5D、SLC9A3、CWC27、およびGTF2H2;
タクロリムス処置:ZNF716、XCL1、NFKB2、POTEJ、SP1、NEFL、KCNK4、TNK1、CLEC4M、PCGF1、RNF13、SLC47A1、ZNF436、WWOX、ANKRD32、SEL1L3、SEPW1、およびCOL25A1;
TGFβ処置:T CENPB、CD300LB、IYD、ST5、RNF7、MBTD1、MRPL33、MYO1H、PIWIL4、ZNF805、HIST1H2BC、UPK1B、LAMA3、ENG、ORC6、TICRR、C15orf40、TUFM、RNF185、PTPRG、HAUS1、TMEM62、IGFBP4、L1CAM、およびMTIF2。
【0085】
スクリーニングから得られた候補のさらなる解析および特性評価/検証
さらなるデータ解析および特性評価/検証の実験を遺伝子標的に対して実施した。特に、多様な抑制条件に対して選択的またはより一般的である遺伝子標的の検出を改善するために、我々は、高分裂細胞におけるsgRNA濃縮を異なる条件にわたって比較することで、我々のスクリーニングデータの新しい解析を生み出した。この解析を用いて、大規模なアレイ実験でのさらなる機能検証のために、異なる抑制条件に対してより一般的な抵抗性と対比して選択的な抵抗性を付与すると予測された遺伝子候補を選択した。
【0086】
我々は、これらの標的に対して多くのsgRNAを選択し、ここで、遺伝子あたり2つのsgRNAを持つ22の標的遺伝子を含み(表2)、全ての実験は2人のT細胞ドナーにおいて実施した。CRISPR RNPを用いて各標的遺伝子を編集した後、細胞を並行して拡大増殖させ、CFSEで染色し、4つの異なる抑制条件+ビヒクルで再刺激した。細胞をフローサイトメトリーで解析して、各抑制条件下での増殖能力に対する各標的遺伝子の影響を評価した。結果を
図6にまとめてある。
【0087】
遺伝子は、FDR調整p値<0.05のカットオフを用いて、特定の条件に対して重要な役割を持つものとして特定された。予想されたように、ADORA2A、TGFBR1とTGFBR2、FKBP1A、およびPPIAは、それぞれ、アデノシン、TGFB、タクロリムス、およびシクロスポリン条件下で抵抗性を付与する。PDE4CとNKX2-6はアデノシン条件下で比較的選択的な抵抗性を付与することがわかり、また、NFKB2はカルシニューリンインヒビター(タクロリムスとシクロスポリン)条件下で抵抗性を高めることがわかる。TMEM222は、スクリーニングでは非常に高いスコアを示すが、このアレイ検証では増殖上の利点を高めない(ドットは個別のレプリケート、黒の垂直線は平均、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、および***p<0.0001(対応のないStudent's t検定))。
【0088】
これらの大規模なアレイノックアウト実験を用いて、我々は、これらの遺伝子標的の多く、例えばPFN1、FAM49B、CBLBなどが多様な抑制条件にわたって予測された抵抗性を与えることも確認し、より選択的な抵抗性を与える新しい遺伝子も特定した。例えば、ADORA2AとFAM105Aのノックアウトが、以前の研究から予測されたように、アデノシン抵抗性を付与することを示すことに加えて、アデノシン応答性に影響を及ぼすことがこれまで知られていなかった遺伝子であるPDE4CとNKX2-6が、アデノシン(CGS-21680)抑制に対する強力で比較的選択的な抵抗性を与えることがわかる。興味深いことに、TGFBR1とTGFBR2のアブレーションはTGFB抑制に対する強い抵抗性を与えたが、アデノシン抑制条件とのクロストークも観察された - これらのTGFB受容体をノックアウトすると、アデノシン抑制に対する抵抗性も生じた。
【0089】
また、タクロリムスとシクロスポリンに対する選択的抵抗性は、それらの既知の標的であるFKBP1AまたはPPIAをノックアウトした場合に観察されたが、NFKB2を標的とした場合にも、両薬剤に対する選択的抵抗性が見られた。
【0090】
RASA2、CBLB、PFN1、PDE4C、GTF2i、およびTGIF2遺伝子もまた、がん細胞殺傷に対する効果を評価するために標的とされた(
図7Aおよび7B)。初代T細胞にNY-ESO1 TCRを形質導入し、各遺伝子についてCRISPR編集を行い、その際、ほとんどの遺伝子に2つの異なるsgRNAを使用した。AAVS1セーフハーバーを対照遺伝子座として標的化した。次に、編集した細胞を、適合MHCI上に同種ペプチドを発現するA375がん細胞と共培養し、その結果生じるがん細胞の殺傷をIncucyte生細胞イメージングシステムにより測定した(
図7A)。TCR-T細胞はまた、刺激に応答するそれらの増殖能力についても試験された(
図7B)。
図7Aに示したデータは、試験した全ての標的遺伝子が、腫瘍抗原特異的T細胞においてノックアウトされた場合に、殺傷効果を与えることを示した。
図7Aの一番上の点線は、対照sgRNAで編集したTCR-T細胞を示す。他の遺伝子を標的とするsgRNAの他のデータ点はどれもこの線より下にあり、より良好な腫瘍制御が実証される。したがって、これらの結果は、これらの標的遺伝子のどれを編集しても、腫瘍細胞の殺傷が高まることをさらに裏付けている。
図7Bのデータは、これらの標的遺伝子のほぼ全てを編集することが、対照編集細胞に比べて増殖効果を与えたことを示している。総合すると、これらのデータは、T細胞療法の抗がん能力を高めるために、RASA2、CBLB、TGIF2、GTF2i、PDE4C、またはPFN1を標的とすることをさらに裏付けている。
【0091】
要約すると、本実施例に記載された検証実験は、選択的および汎抑制的(pan-suppressive)な抵抗性遺伝子を標的とすることを支持するさらなるデータを提供する。
【0092】
方法
健康なドナー由来の初代T細胞の分離
治験審査委員会(Institutional Review Board:IRB)が承認した同意書とプロトコルを備えた、匿名化された健康なドナー由来のLeukopakを、StemCell Technologies社(カタログ番号200-0092)から購入した。スクリーニングには、健康なドナー由来のTrimaアフェレーシス(Blood Centers of the Pacific, San Francisco, CA)後の白血球除去チャンバーからの残留物を使用した。初代ヒトT細胞は、EasySepヒトT細胞分離キット(カタログ番号17951)を使用し、メーカーのプロトコルに従ってEasySepマグネットを用いて分離した。細胞を適切な培養容器に播種し、ImmunoCult(Stem Cell Technologies社,カタログ番号10971)を12.5μl/mlで用いて活性化した。細胞は培養下で全体を通して100万個/mLの密度に保ち、50IU/mLのIL2と共に培養した。細胞を、5%ウシ胎児血清、50μM 2-メルカプトエタノール、および10mM N-アセチルL-システインを添加したX-Vivo-15培地で培養した。PBMCは、Bambanker(Bulldog Bio社)無血清細胞凍結培地を用いて、1バイアルあたり618 5×107細胞で凍結した。
【0093】
抑制条件下でのプール型CRISPR-KOスクリーニングおよびヒットの検証
プール型CRISPR-KOスクリーニングは、以前に記載されたように実施した(Shifrut et al, 2018, 前掲)。簡単に説明すると、分離したT細胞を上記のように刺激し、24時間後にゲノムワイドBrunello sgRNAライブラリーを発現させるためにレンチウイルスプールを形質導入した(Doench, et al. Nat. Biotechnol. 34, 184-191, 2016)。形質導入から24時間後、T細胞をPBSで1回洗浄し、Cas9タンパク質をエレクトロポレーションして、上記のように培養下で拡大増殖させた。14日目に、T細胞をCFSEで染色し、タクロリムス(TOCRIS社,カタログ番号3631 - 最終50nM)、シクロスポリン(TOCRIS社,カタログ番号1101 - 最終50nM)、CGS-21680(TOCRIS社,カタログ番号1063 - 最終20μM)またはTGF-β1(Biolegend社,カタログ番号781802 - 最終10ng/ml)のいずれかの存在下にImmunoCultで刺激した。Treg条件では、適合ドナーのCD4+CD127低CD25+ Tregを、磁気濃縮(STEMCELL社,カタログ番号18063)を用いて0日目に分離し、抗CD3/CD28で刺激し、CFSE染色されたエフェクターT細胞と1:1の比率で混合されるまで培養下で増殖させた。全てのスクリーニングのために、再刺激から3日後に、染色されたT細胞をCFSE高集団とCFSE低集団に選別し、溶解し、以前に記載されたように(Shifrut et al., 2018)ゲノムDNAを次世代シーケンシングに備えた。
【0094】
スクリーニングのヒットは、MAGeCK v0.5.9を使用し、デフォルトパラメーターを用いた対応のある解析(paired analysis)により特定した。タクロリムスとシクロスポリンの場合は、分裂細胞のみを収集し、適合ドナー由来の非分裂細胞と比較した。サンプルの80%以上においてリードカウントが50未満のガイドを取り除いた。共通のヒットを見つけるために、遺伝子レベルのlog2倍率変化値をスケール変更してzスコアを得た。95%パーセンタイルのzスコア(zs>1.54)を超える遺伝子を、共通のヒット解析のヒットとして定義して、
図1bと
図2aを作成した。
【0095】
実施例2:RASA2アブレーションは、複数のインヒビターキューに対するT細胞抵抗性を付与する
本発明者らはまた、偏りのない遺伝子スクリーニングを上記のような様々な免疫抑制条件下で使用して、RASA2アブレーションが複数の阻害性キューに対するT細胞抵抗性に及ぼす影響を調べた。これらの研究は、RASA2のアブレーションが抗原に対する感受性を高め、かつCAR-T細胞およびTCR-T細胞のエフェクター機能と長期持続性の両方を改善することを示した。我々はまた、液性腫瘍と固形腫瘍の両方に対するT細胞療法の複数の前臨床モデルにおいて、RASA2欠損抗原特異的T細胞が腫瘍制御を高めて、生存期間を延長することも示した。
【0096】
スクリーニングは実施例1に記載したように行った。異なるスクリーニング間で共通のヒット(zスコア>1.5、方法)の解析は、2つの候補抵抗性標的遺伝子のコアセットに収束した:TMEM222とRASA2である(
図1b)。我々は以前、ノックアウトされるとT細胞増殖およびインビトロがん細胞殺傷能力を高める遺伝子標的として、RASA2を特定した(Shifrut et al, 2018, WO2020/014235)。RASA2アブレーションが複数の免疫抑制環境下でT細胞の増殖能力をも促進するという発見を踏まえて、我々は次に、RASA2アブレーションの効果を特徴づけること、および養子細胞療法の様々な前臨床モデルにおいてRASA2ノックアウト(KO)T細胞の性能を検証することに焦点を当てた。
【0097】
RASA2はRas-GTPase活性化タンパク質(RasGAP)であり、Rasシグナル伝達を抑制すると予測されているが、T細胞生物学における機能は知られていない(King et al, Sci. Signal. 6, re1, 2013; Chen, et al., Mol. Cell 45, 196-209, 2012; Arafeh, et al., Nat. Genet. 47, 1045 1408-1410, 2015)。これらのスクリーニングでは、RASA2はT細胞の増殖を阻害するという点でRasGAPファミリーの中でユニークであった;このことは、複数のドナーにおける複数のRASA2標的化ガイドが分裂中のT細胞において濃縮されていることによって証明されている(
図1c~d)。対照的に、Rasグアニンヌクレオチド交換因子RASGRP1を標的とするガイドは、分裂中のT細胞から枯渇しており、TCRシグナル伝達の正の制御因子としてのその既知の役割が確認された(Priatel, et al., Immunity 17, 617-627, 2002)。(
図1d)。個別のCRISPRガイドを用いた標的化されたRASA2アブレーションは、4つ全ての抑制分子条件下においてスクリーニングで観察された増殖上の利点を再現した(
図1e)。我々はまた、RASA2欠損T細胞が、これらの免疫抑制条件下でがん細胞のインビトロ殺傷増加を実証できるかどうかも検証した。
【0098】
RASA2アブレーションは、これらの抑制条件にわたって、対照編集T細胞と比較して、TCR-T細胞によるがん細胞の殺傷を高めた(
図1f)。Tregとの共培養抑制アッセイにより、RASA2アブレーションは、Treg媒介による増殖の阻害に対してエフェクターT細胞を抵抗性にすることがさらに確認された(
図1g)。この抑制に対する抵抗性は、Tregの存在下で実施したがん殺傷アッセイでも明らかであった(
図1h)。RASA2欠損エフェクターT細胞はその強固な細胞傷害機能を維持したが、対照編集T細胞は抑制性Tregの存在下では腫瘍細胞の増殖を制御することができなかった。これらの知見は、RASA2がT細胞増殖および細胞傷害機能の負の調節因子であること、およびRASA2アブレーションが複数の形のT細胞抑制に対して抵抗性を付与し得ることを示している。
【0099】
RASA2はRasシグナル伝達のTCR刺激依存的な負の調節因子である
本発明者らは次に、RASA2アブレーションが初代ヒトT細胞において下流のシグナル伝達イベントをどのように変調するのかを明らかにしようとした。RASA2は、GTPase活性を刺激することによってRasを不活化する、RasGAPのGAP1mファミリーのメンバーである(King et al. Sci. Signal. 6, re1, 2013)。したがって、RASA2は、細胞の活性化、増殖、および分化を制御するT細胞内の複数の経路の主要な交点であるRasシグナル伝達を弱めていると予測される(Kortum et al, Trends Immunol. 34, 259-268, 2013; Lapinski et al., Am. J. Clin. Exp. Immunol. 1, 147-153, 2012)(
図3a)。RasGAPとしてのその役割の裏付けとして、RASA2アブレーションは、Jurkat T細胞と初代ヒトT細胞の両方において、TCR刺激依存的に、対照と比較して総活性Rasレベルを増加させた(
図3b)。このTCR刺激への依存性は、特にベースラインレベルに一貫して変化が見られない、RASA2 KO T細胞を刺激した場合に、リン酸化ERK(pERK)シグナル伝達、活性化(CD69)、および増殖(CFSE)が上昇することで確認された。我々は、RASA2アブレーションが、T細胞療法における遺伝子編集標的としてのT細胞の安全性を損わせ得る無秩序なT細胞増殖を引き起こさないことを確認する必要があった。TCR刺激が存在しないと、対照T細胞とRASA2 KO T細胞の両方の生存率は着実に低下し、IL2の使用中止はこの低下を促進した。RASA2アブレーションは、MAPキナーゼ経路のMEKおよびERKなどの、重要なRASシグナル伝達メディエーター、ならびにmTORの下流の40Sリボソームタンパク質S6の刺激誘発リン酸化のより高いレベルをもたらした(
図3c)。RASA2 KO T細胞は、MAPキナーゼシグナル伝達の全体的な動態が対照細胞と同様であったものの、pERKおよびpMEKレベルのピーク振幅はより高くなった(
図3d)。さらに、RASA2欠損T細胞では、TCR刺激に応答して、対照T細胞と比較してより高いレベルの複数のエフェクターサイトカインが検出された(
図3e)。まとめると、これらの結果は、TCR刺激T細胞では、RASA2アブレーションが一連の重要なシグナル伝達経路を高めて、より強力なエフェクター機能を促すことを実証している。しかしながら、RASA2アブレーションは無秩序な増殖を引き起こすことはない;なぜなら、TCR刺激T細胞においてその効果が選択的に認められ、かつノックアウト細胞がサイトカイン依存性のままであったからである。
【0100】
RASA2をアブレーションしたTCR-T細胞とCAR-T細胞は低抗原レベルに対する感受性がより高い
次に、本発明者らは、T細胞におけるRASA2アブレーションがより低いレベルの標的同種抗原に対する感受性を増幅させるかどうかを検証した。RASA2をアブレーションしたT細胞は、広範囲の抗CD3/CD28濃度にわたって、対照T細胞と比較してより高いレベルのpERKおよび活性化レベルを有していた(
図3f)。この抗原感受性をより生理的な刺激を用いて測定するために、抗原特異的T細胞を、上昇する濃度の同種NY-ESO-1ペプチドを事前にロードしたT2細胞と共培養した。このアッセイにより、RASA2アブレーションは、様々なペプチド濃度にわたって、より高いレベルのpERKをもたらし、より低いレベルの抗原に対してT細胞を効果的に感作することが確認された(
図3g)。抗原感受性の向上は、標的抗原の発現が低いがん細胞を検出して殺傷できるT細胞を操作する上で特に重要であると考えられる(Feucht et al., Nat. Med. 25, 82-88, 2019; Majzner, et al., Cancer Discov. 10, 702-723, 2020)。これを検証するために、T細胞を、CD19表面タンパク質を標的とするCARを発現するように操作し、RASA2遺伝子座または対照遺伝子座のいずれかを破壊するように編集した。我々は、感受性が最も高いCARであると報告されたCD28ベースのCD19 CARを使用して、RASA2アブレーションにより低抗原の標的に対する感受性をさらに一層高められるかどうかを調べた。これらのCAR-T細胞を、様々なレベルのCD19を発現するように操作したがん細胞と共培養し、がん細胞の殺傷をアネキシン染色によりアッセイした。RASA2 KO CAR-T細胞と対照CAR-T細胞のいずれも、抗原レベルが高い白血病細胞を効果的に殺傷するが、RASA2 KO CAR-T細胞は、最低レベルのCD19を発現する白血病細胞と培養した場合に、対照T細胞と比べて最も顕著な殺傷効果を示した(
図3h)。総合すると、これらのデータは、RASA2をアブレーションしたT細胞が低レベルの抗原に対して感作され、抗原の乏しいがん細胞を検出して殺傷するその能力が強化されていることを示唆している。
【0101】
RASA2のアブレーションは操作されたT細胞の転写リプログラミングを促進する
次に、本発明者らは、RASA2アブレーションの下流の転写イベントをプロファイリングした。最初に、T細胞活性化の鍵となる転写プログラムを評価するために、Jurkat T細胞転写レポーターシステムのセットを使用した。これらのレポーター株をアクチベータータンパク質1(AP-1)、活性化T細胞核因子(NFAT)、および核因子カッパB(NFκB)の応答エレメントで操作し、mCherry蛍光レポーターの発現を駆動する。これらのレポーター株は、RASA2アブレーションがAP-1およびNFκBのTCR刺激誘発転写活性を顕著に増加させ、NFATの転写活性を比較的低い程度に増加させ、RasおよびMAPKシグナル伝達経路の確立された下流転写効果と一致することを明らかにした(
図3i)。RASA2アブレーションの下流の初代T細胞における転写変化を体系的にプロファイリングするために、標的がん細胞と48時間共培養した後、RASA2編集または対照編集した抗原特異的T細胞に対してRNA-Seq解析を行った。RASA2 KO T 細胞において最も上方制御された遺伝子のうちの2つは、Rasシグナル伝達を減弱させることが知られている遺伝子、DUSP6とSPRED2であり、これらは、Rasシグナル伝達が上昇した状況でのフィードバック機構として上方制御された可能性が高い(Wakioka et al, Nature 412, 647-651, 2001; Li, et al., Nat. Med. 18, 1518-1524, 2012)。遺伝子セット濃縮解析では、RASA2 KO T細胞において上方制御された複数の重要な経路、例えば、細胞周期、転写活性、および細胞代謝に関連するものなどが強調された(
図3j)。興味深いことに、T細胞機能に対する代謝状態の重要性を考慮すると、RASA2欠損T細胞は酸化的リン酸化および解糖に関与する遺伝子の発現増加を示した。これらの代謝変化が活性化過剰(hyper-activated)T細胞に一般的に共通するのかどうかを検証するために、我々は、CRISPR摂動した初代ヒトT細胞で以前に作成されたシングルセルRNA-seq(scRNA-Seq)データセットを解析した(Shifrut et al, 2018)。RASA2 KO T細胞において発現が変動する遺伝子を、TCRシグナル伝達の十分に特徴づけられた負の調節因子であるCBLBを欠くT細胞と比較した。RASA2とCBLBのアブレーションは両方ともGZMB、MKI67、およびCDKN3のレベルを増加させ、CD62LとTCF7を減少させたが(
図3k)、我々の解析は、RASA2のアブレーションがユニークな遺伝子特徴をも誘導したことを明らかにした。この特徴には、MRPL12、TOMM40、TFAM、UCP232,33など、ミトコンドリア活性に関与するコア遺伝子の発現の変動が含まれていた。RASA2による代謝調節は、免疫細胞からの何千もの転写データセットにわたる、酸化的リン酸化を駆動する遺伝子とRASA2発現との間の強い負の相関によって明確に示された(データは示さず)。全体として、RASA2 KO T細胞の転写状態の我々の解析では、一般的にセントラルメモリーT細胞に関連する、より高い酸化的リン酸化状態と結びついたエフェクターメモリー状態の高まりが明らかになった(Chapman, et al, Nat. Rev. Immunol. 20, 55-70, 2020)。
【0102】
RASA2はT細胞生物学における役割がこれまで記載されていないため、我々は次に、T細胞におけるその内因的転写調節を評価した。我々が以前に発表したscRNA-Seqデータセット(Shifrut et al, 2018)の解析は、ヒトT細胞では刺激後にRASA2が下方制御されることを明らかにした。マウスの急性細菌感染(Philip et al, Nature 545:452-456, 2017)とインビトロ活性化ヒトT細胞の大規模コホート(Schmiedel, et al., Cell 175, 1701-1715.e16, 2018)の2つの発表されたRNA-Seqデータセットのさらなる解析からは、T細胞刺激がRASA2発現レベルを急激に下方制御することが確認された(
図3,l~m)。刺激後のRASA2のこの急激な内因的減少は、エフェクター機能亢進の機会をT細胞に与える可能性があり、一方、RASA2の遺伝的アブレーションは、RASA2の完全かつ永続的な喪失を通して、この現象を増幅させる可能性がある。さらに、我々は、外部データセットの解析を通して、RASA2がT細胞の疲弊と機能不全に関与しているかどうかを検討した。T細胞の機能調節におけるチェックポイントの役割と一致して、RASA2は、腫瘍浸潤T細胞だけでなく、慢性感染にさらされた(Pauken et al, Science 354:1160-1165, 2016)または抗原刺激5を繰り返し受けたマウスT細胞においても上方制御された(
図3n)。ヒト患者由来の発表されたscRNA-seqデータセット(Zhang, et al, Nature 564, 268-272, 2018; Guo et al, Nat. Med. 24, 978-985, 2018)からも、末梢T細胞と比較して、腫瘍浸潤T細胞においてRASA2レベルが高いことが明らかにされ、これにより、腫瘍微小環境においてT細胞の応答性を減衰させる上でのRASA2の潜在的役割が示唆されている(
図3o)。これらの観察から、急性刺激時には下方制御されるRASA2が、慢性的に刺激されたT細胞では、固有のシグナル伝達チェックポイントとして機能するように誘導され得ることが示唆される。
【0103】
RASA2アブレーションは、腫瘍に繰り返し曝露された後のT細胞の持続性とがん細胞殺傷能力を高める
次に、本発明者らは、T腫瘍浸潤T細胞で上方制御されることが判明したRASA2のアブレーションが、慢性抗原曝露により誘発されるT細胞機能不全を改善するかどうかを検証した。そのため、我々は、抗原特異的T細胞と新鮮な標的腫瘍細胞とを、1:1のエフェクター対標的(E:T)比で48時間ごとに繰り返し共培養する、反復刺激アッセイを確立した(
図4a)。この反復刺激アッセイでは、NY-ESO-1特異的T細胞の相対的な濃縮、T細胞の生存率と活性化レベルの低下、および疲弊したT細胞40のマーカーであるCD39の誘導が示された(
図4b)。さらに、反復刺激後、GZMBおよび酸化的リン酸化に関連する遺伝子の発現が減少した一方、TOX発現は増加し、これにより、T細胞の機能不全状態5が示唆された(
図4c~d)。実際、T細胞は、繰り返し曝露された後、がん細胞の増殖を徐々に制御できなくなった(
図4e)。この反復刺激アッセイを用いて、我々は、RASA2のアブレーションが、観察されたT細胞生存率の低下を部分的に打ち消すことに気がついた(データは示さず)。正規のT細胞疲弊マーカー(LAG3、PD1、TIM3、CD39)のレベルは、複数回の刺激後にRASA2編集T細胞と対照編集T細胞の間で同様であり、これにより、RASA2 KO T細胞はあまり疲弊していないことが示唆された(
図4f)。さらに、RASA2アブレーションは、繰り返し刺激した後、対照編集T細胞と比較して、pERK、活性化レベル、エフェクターメモリー状態、および複数のエフェクターサイトカインをより高いレベルに増加させた(
図4g~h)。RASA2欠損T細胞のこのエフェクター状態の高まりは、刺激を受けたT細胞の上清中の免疫調節性サイトカインおよび細胞溶解性分子を測定するELISAアッセイを用いて、独立して確認された(
図4i)。興味深いことに、上昇したサイトカインの中で、RASA2 KO T細胞は、代謝リプログラミングで潜在的な役割を果たしている可能性がある重要な免疫調節性サイトカインであるIL-10を、対照細胞と比較して著しく高いレベルで分泌することがわかった。RNA-Seq解析により、RASA2 KO T細胞は、繰り返し刺激した後に、対照編集T細胞と比較して、より高いレベルの細胞周期遺伝子(VRK1、AURKA、KNL1)、脂肪酸代謝遺伝子(SLC27A2)、およびミトコンドリア遺伝子を発現することが示された(データは示さず)。このミトコンドリア遺伝子転写の増加は、RASA2を欠くCAR-T細胞とTCR-T細胞の両方において、フローサイトメトリーによるミトコンドリア質量の直交測定でさらに裏付けられた(データは示さず)。全体として、これらの知見から、RASA2の遺伝的アブレーションは、抗原曝露が繰り返される状況において、T細胞の生存能力、活性化、および代謝の良好な状態(metabolic fitness)を保護することが示唆される。
【0104】
次に、我々は、RASA2をアブレーションしたT細胞のがん細胞殺傷能力が、腫瘍抗原への反復曝露によって影響されるかどうかを検証した。RASA2アブレーションを受けたT細胞は、最初の刺激の際にがん細胞殺傷アッセイで中程度の効果を示したが、この効果は複数回の刺激後により顕著になった(
図4j,k)。対照編集T細胞が刺激を受けるたびにがん細胞の増殖を徐々に制御できなくなったのとは対照的に、RASA2をアブレーションしたT細胞は、複数回の刺激後にも強力な殺傷能力を維持していた(データは示さず)。このがん細胞殺傷効果は、複数のヒト血液ドナー間で、様々なエフェクターT細胞とがん細胞の比率にわたって一貫していた(
図4l)。我々は次に、RASA2喪失によるT細胞機能不全に対するこの抵抗性が、CAR-T細胞において再現されるかどうかを調べた。RASA2を欠失させたCD19特異的CAR T細胞を、CD19を発現するがん細胞と繰り返し共培養した(データは示さず)。TCR-T細胞モデルで見られたように、RASA2編集CAR-T細胞は、がん細胞の反復曝露後に標的細胞を効率的に殺傷し続けたが、対照編集CAR-T細胞は腫瘍細胞の増殖を制御することができなかった(
図4m)。この持続的殺傷は、2つの異なるCD19+がん細胞株と複数のヒト血液ドナーを用いても一貫していた(データは示さず)。RASA2 KOまたは対照CAR-T細胞のいずれかを抗原陰性がん細胞と共培養した場合の、がん細胞の殺傷の欠如によって実証される(データは示さず)ように、反復刺激後のこの殺傷効果は特異的であった。まとめると、これらの結果から、標的抗原に繰り返し曝露されたT細胞は、腫瘍細胞の増殖を徐々に制御できなくなる一方、RASA2のアブレーションはこの機能不全状態からTCR-T細胞とCAR-T細胞の両方をレスキューすることが示される。RASA2欠損の操作されたT細胞は、液性腫瘍と固形腫瘍の両方の前臨床モデルにおいてインビボ抗腫瘍応答を改善する。
【0105】
これらの知見の橋渡し的適合性(translational relevance)を明らかにするため、我々は次に、養子T細胞療法の複数の前臨床モデルにおいて、RASA2のアブレーションが操作されたT細胞の性能を改善するかどうかを検証した。まず、NY-ESO-1を発現するA375メラノーマ細胞を免疫不全NSGマウスの脇腹に植え付けた(
図5a)。1G4 NY-ESO-1特異的TCR42を発現するように操作され、かつRASA2または対照遺伝子座をアブレーションするように編集されたT細胞を、尾静脈注射により導入した。RASA2欠損T細胞を導入すると、対照編集T細胞を投与したマウスと比較して、腫瘍の成長が大幅に遅くなり、生存率が向上した(
図5b)。TCR-T細胞におけるRASA2アブレーションが液性腫瘍の制御をも改善するかどうかを検証するために、NY-ESO-1を発現するように操作されたNalm6白血病細胞をマウスに尾静脈から注射した(
図5c)。この白血病モデルでは、RASA2欠損TCR-T細胞は腫瘍の制御を改善し10、A375メラノーマモデル252の結果と一致した(
図5d)。したがって、RASA2アブレーションは、液性腫瘍と固形腫瘍の両モデルにおいて、操作されたTCR養子T細胞療法の有効性を高めた。
【0106】
このインビボでのRASA2 KOの効果がCAR-T細胞の状況に適用できるかどうかを検証するために、以前に記載されたように(Eyquem, et al., Nature 543, 113-117, 2017)、TRAC遺伝子座へのCD19-28z CARのノックインによりCD19特異的CAR-T細胞を作製し、同時にRASA2またはセーフハーバー対照遺伝子座(AAVS1)のいずれかの破壊を加えた。これらのCAR-T細胞を、Nalm6白血病細胞を移植したNSGマウスに静脈内移入した(
図5e)。TRAC遺伝子座でのCARノックインは、レトロウイルスベクターで発現させたCARと比較して、T細胞の機能不全を低減させ、かつT細胞の持続性を増加させることが示されている(Eyquem et al, 前掲)。それにもかかわらず、RASA2欠損TRAC CAR-T細胞は、腫瘍の制御において対照TRAC CAR-T細胞よりも顕著な利点を有することがわかった;これは、複数の異なるヒト血液ドナーからの細胞で処置した動物のコホートにおいて、生物発光イメージングにより測定される(
図5f,g)。この低減した腫瘍負荷は、結果的に、RASA2欠損TRAC CAR-T細胞を投与したマウスの生存期間を大幅に引き延ばした(
図5h)。対照編集CAR-T細胞を注射された全てのマウスは60日目までに安楽死させる必要があったが、RASA2 KO 268ヒトT細胞を投与したマウスの大部分は60日を過ぎても生存し、一部のマウスは100日を超えて持続性のある応答を示した。養子T細胞移入単独がマウスの健康に及ぼす影響を評価するため、腫瘍のないマウスにT細胞を注射して、経時的に追跡した。さらに、腫瘍抗原で刺激されたT細胞を評価するために、Nalm6白血病を有するマウスの追加のコホートを、腫瘍のクリアランスを達成するために対照CD19 CAR-T細胞およびRASA2 KO CD19 CAR-T細胞で処置し、これらのマウスを120日以上観察した。これらのコホートの両方において、RASA2 KO T細胞投与マウスと対照T細胞投与マウスに、目視検査および体重による違いは観察されず、RASA2 KOは、対照T細胞と比較して、レシピエント動物の血球数または病理組織学的所見を変化させなかった(データは示さず)。全体として、これらのデータは、CAR T細胞においてRASA2をアブレーションすることで、この前臨床モデルにおいて明らかな安全性リスクの増加なしに抗腫瘍効果と生存率を改善できることを実証している。
【0107】
最後に、固形腫瘍に対するCAR-T細胞療法を開発する際の主要な臨床上の課題を考慮して、本発明者らは、RASA2 KOが固形腫瘍の前臨床モデルでもCAR-T細胞の機能を強化できるかどうかを検証した。我々は、以前に記載した腹腔内局所領域骨肉腫(LM7)モデル44とEphA2.CD28z CAR45を発現するT細胞を利用した。LM7骨肉腫細胞株をNSGマウスの腹膜に注射し、続いてEphA2特異的CARを発現するように操作されたT細胞を注射した(
図5i)。腫瘍負荷の生物発光測定により、CAR-T細胞におけるRASA2のアブレーションは、このモデルでは、対照CAR-T細胞286と比較して、腫瘍の成長を大幅に遅らせ、生存期間を引き延ばすことが明らかになった(
図5j~l)。腫瘍のクリアランスを達成したマウスのサブセットでは、RASA2 KO CAR-T細胞は174日目の腫瘍の再負荷をクリアランスすることができ、このことは、RASA2 KO CAR-T細胞が著しく持続性のあるインビボ機能を備えていることを示唆している。まとめると、RASA2アブレーションは、液性腫瘍と固形腫瘍の両方の様々な前臨床モデルに対するTCR-T細胞およびCAR-T細胞の性能を改善することが判明し、これにより、複数の適応症にまたがるその有望な橋渡し的潜在能力(translational potential)が強調される。
【0108】
本明細書に記載された実施例および態様は、例示のみを目的とするものであり、それらに照らして様々な修正または変更が当業者に示唆され、それらは本出願の精神および範囲内に、ならびに添付の特許請求の範囲内に含まれることが理解される。本明細書で引用された全ての出版物、特許、および特許出願は、引用された内容に関して参照により本明細書に組み入れられる。
【0109】
(表1)免疫抑制性TME因子をモデル化するスクリーニングからの陽性ヒット
【0110】
【手続補正書】
【提出日】2024-07-19
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
【国際調査報告】