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特表2024-540479ストレプトコッカス・スイスに対するワクチンの製造方法およびそのワクチン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-31
(54)【発明の名称】ストレプトコッカス・スイスに対するワクチンの製造方法およびそのワクチン
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/52 20060101AFI20241024BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20241024BHJP
   A61K 39/09 20060101ALI20241024BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20241024BHJP
   C12N 15/57 20060101ALI20241024BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20241024BHJP
   C12N 1/21 20060101ALN20241024BHJP
【FI】
C12N9/52
A61K48/00
A61K39/09
A61K39/00 B
C12N15/57
C12N15/31
C12N1/21
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024529329
(86)(22)【出願日】2022-11-17
(85)【翻訳文提出日】2024-07-10
(86)【国際出願番号】 EP2022082177
(87)【国際公開番号】W WO2023088988
(87)【国際公開日】2023-05-25
(31)【優先権主張番号】21208911.4
(32)【優先日】2021-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510000976
【氏名又は名称】インターベット インターナショナル ベー. フェー.
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100216839
【弁理士】
【氏名又は名称】大石 敏幸
(74)【代理人】
【識別番号】100228980
【弁理士】
【氏名又は名称】副島 由加里
(74)【代理人】
【識別番号】100151448
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 孝博
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】ジェイコブス,アントニウス・アーノルドゥス・クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】ブロン,レムコ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C085
【Fターム(参考)】
4B065AA26X
4B065AA49Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA01
4B065CA33
4B065CA45
4C084AA13
4C084NA05
4C084ZB091
4C084ZB092
4C084ZB351
4C084ZB352
4C085AA03
4C085BA14
4C085CC07
4C085DD62
4C085EE01
(57)【要約】
本発明は、ストレプトコッカス・スイス(Streptococcus suis)による病原性感染に対してブタを防御するためのワクチンの製造方法に関する。該製造方法は、大腸菌(E.coli)においてIgMプロテアーゼ抗原を組換え発現させ、大腸菌を少なくとも500バールの圧力の高圧均質化操作に付して、大腸菌の細胞溶解と、ライセートの上清中へのIgMプロテアーゼ抗原の遊離とを誘発し、ペレットから上清を分離し、IgMプロテアーゼ抗原を含む上清を薬学的に許容される担体と混合してワクチンを生成させることを含む。本発明はまた、この製造方法によって製造されるワクチンに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストレプトコッカス・スイス(Streptococcus suis)による病原性感染に対してブタを防御するためのワクチンの製造方法であって、
・大腸菌(E.coli)においてストレプトコッカス・スイスのIgMプロテアーゼ抗原を組換え発現させ;
・大腸菌を少なくとも500バールの圧力の高圧均質化操作に付して、大腸菌の細胞溶解と、ライセートの上清中へのIgMプロテアーゼ抗原の遊離とを誘発し;
・ライセートのペレットから上清を分離し;
・IgMプロテアーゼ抗原を含む上清を薬学的に許容される担体と混合してワクチンを生成させる;
ことを含む、前記製造方法。
【請求項2】
高圧均質化操作中の圧力が少なくとも1000バールである、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
高圧均質化操作中の圧力が少なくとも1300バールである、請求項1または2記載の製造方法。
【請求項4】
高圧均質化操作中の圧力が少なくとも2000バールである、請求項1~3のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項5】
高圧均質化操作を行うために使用される装置が、フレンチ・プレッシャー・セル・プレスまたは顕微溶液化装置である、請求項1~4のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項6】
IgMプロテアーゼ抗原が完全IgMプロテアーゼ抗原である、請求項1~5のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項7】
完全IgMプロテアーゼ抗原が、血清型1、2または7のストレプトコッカス・スイス(Streptococcus suis)細菌のものである、請求項6記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項記載の製造方法を使用して得られるストレプトコッカス・スイス(Streptococcus suis)のIgMプロテアーゼ抗原を含むワクチン。
【請求項9】
ワクチンが、IgMプロテアーゼ抗原に対して少なくとも5%の天然大腸菌(E.coli)タンパク質を含む、請求項8記載のワクチン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の全般的分野
本発明は、全般的には、ストレプトコッカス・スイス(Streptococcus suis)細菌による病原性感染に対してブタを防御するためのワクチンの製造方法に関するものであり、該ワクチンは、大腸菌(E.coli)において組換え発現された、ストレプトコッカス・スイスのIgMプロテアーゼ抗原に基づく。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
ストレプトコッカス・スイス(Streptococcus suis)(S.suis)はブタにおける伝染性細菌性疾患の主要病原体の1つである。該病原体は、髄膜炎、関節炎、心膜炎、多発性漿膜炎、敗血症、肺炎および突然死を含む種々の臨床症候群を引き起こしうる。ストレプトコッカス・スイスは、最初はランスフィールド(Lancefield)群R、S、R/SまたはTとして定義されていたグラム陽性通性嫌気性球菌である。その後、細胞壁に存在する型特異的莢膜多糖抗原に基づく新たな分類系が提示された。これは、35個の血清型を含む系をもたらし(RasmussenおよびAndresen,1998,“16S rDNA sequence variations of some Streptococcus suis serotypes”,Int.J.Syst.Bacteriol.48,1063-1065)、これらのうち、血清型1、2、7および9が現在、特に欧州において、最も多く見られる。しかし、莢膜血清型は、不十分な病原性マーカーであることが認識されている。したがって、ストレプトコッカス・スイス感染の疫学と血清型決定アプローチの生物学的関連性とを理解するのを助ける代替的な系が開発された。それは、いわゆる多座配列型決定(multilocus sequence typing)(MLST)であり、Kingら,Journal of Clinical Microbiology,Oct.2002,p.3671-3680(Development of a Multilocus Sequence Typing Scheme for the pig pathogen Streptococcus suis: Identification of virulent clones and potential capsular serotype exchange”)に記載されている。その研究においては、92個の配列型が特定された。それらのうち、複数の配列型をそれぞれが含有するST複合体ST1、ST27およびST87が集団において優勢である。また、オックスフォード大学(University of Oxford)におけるストレプトコッカス・スイスMLSTウェブサイト(https://pubmlst.org/ssuis/)(Jolleyら,Wellcome Open Res 2018,3:124)(Wellcome Trustによる資金提供を受けたサイト)も参照されたい。これはKingらの論文を参照しており、任意のストレプトコッカス・スイス株の配列型の容易な特定を可能にする。
【0003】
ブタの集団におけるストレプトコッカス・スイスの制御(防除)は困難なようである。ストレプトコッカス・スイスはブタの常在性日和見病原体である。免疫系は感染のあらゆる機会に始動されるわけではないようである。更に、ストレプトコッカス・スイスは、十分に被包された病原体であり、病原性因子の攻防手段を用いて宿主免疫系を逃れる。これらの特性は、一緒になってこの重要な病原体と戦うための有効なワクチンの開発を困難にしている。ストレプトコッカス・スイスに対する既存のおよび試験的なワクチンをレビューしている概説論文が数年前に公開された(Mariela Segura:“Streptococcus suis vaccines:candidate antigens and progress,in Expert Review of Vaccines,Volume 14,2015,Issue 12,pp.1587-1608)。このレビューにおいては、臨床現場の情報および実験データがまとめられ、比較されていて、ストレプトコッカス・スイスに対するワクチン開発の現状の概要が記載されている。
【0004】
過去数年間で、抗原性または免疫原性ストレプトコッカス・スイス分子の網羅的なリストが報告されており、これらのほとんどは、感染したブタもしくはヒトからの回復期血清および/または実験室で生成された免疫血清を使用する免疫プロテオミクスによって見出された。WO2015/181356(IDT Biologika GmbH)は、IgMプロテアーゼ抗原(該タンパク質全体、または該タンパク質全体の約35%のみに相当する高度に保存されたMac-1ドメインのいずれか)が、バクテリンを含む初回ワクチン接種と所望により組合されてもよいIgMプロテアーゼ抗原でのワクチン接種によって、子ブタにおいて防御免疫応答を誘発しうることを示している。’356特許出願においては、IgMプロテアーゼ抗原は、全てではないとしてもほとんどのストレプトコッカス・スイス血清型、特に、最も優勢である血清型1、2、7および9にわたって高度に保存されているため、それは、ストレプトコッカス・スイス血清型、特に血清型1、2、7および9の間で広範な交差防御を達成するために使用されうると示唆されている。WO2017/005913(Intervacc AB)は、IgMプロテアーゼが種々のストレプトコッカス・スイス血清型にわたって高度に保存されていることを確認している。
【0005】
当技術分野においては、IgMプロテアーゼ抗原は、Seeleら,Journal of Bacteriology p.930-940,March 2013,Volume 195,Number 5(“Identification of a Novel Host-Specific IgM Protease in Streptococcus Suis”)において公開された技術を用いて製造されている。この技術においては、IgMプロテアーゼ抗原を大腸菌において組換え発現させ、天然条件下でNi2+-ニトリロ三酢酸アフィニティークロマトグラフィーによって精製する。この方法では、IgMプロテアーゼ抗原が高精製形態で得られうるが、収率は比較的低い。精製された抗原を薬学的に許容される担体と混合して、ストレプトコッカス・スイスによる病原性感染に対して防御するワクチンを得ることが可能である。
【発明の概要】
【0006】
発明の目的
IgMプロテアーゼ抗原を含むワクチンの代替的な製造方法を提供することが本発明の目的である。
【0007】
発明の概括
本発明の目的を達成するために、前記の「発明の全般的分野」の節に記載されているワクチンの製造方法を本発明において案出した。該製造方法は、大腸菌(E.coli)においてストレプトコッカス・スイス(Streptococcus suis)のIgMプロテアーゼ抗原を組換え発現させ、大腸菌を少なくとも500バールの圧力の高圧均質化操作に付して、大腸菌の細胞溶解と、得られたライセートの上清中へのIgMプロテアーゼ抗原の遊離とを誘発し、ライセートのペレットから上清を分離し、IgMプロテアーゼ抗原を含む上清を薬学的に許容される担体と混合してワクチンを生成させることを含む。
【0008】
大量のIgMプロテアーゼを得るためには、大腸菌の細胞溶解が必要であることが判明した。どうやら、IgMプロテアーゼ抗原は該細菌によって上清中に遊離されないようである。しかし、十分な量の抗原が、大腸菌細胞の残屑に結合したままではなく実際に上清中に遊離されるためには、細胞を少なくとも500バールの圧力の高圧均質化操作に付す必要があることも判明した。大量の抗原を上清中に遊離させることは、(相当量の)細胞残屑を含まないこの上清を、カラムによる高アフィニティー精製を要することなく、必要に応じて濾過、更なる清澄化、不活性化、濃縮などを行った後、抗原源として直接使用することによって、ワクチンが非常に簡便に製剤化されうる、という重要な利点を有する。そのような(または他の)精製は行われうるが、大腸菌自体に由来する他のタンパク質および小分子の存在はワクチンの安全性および有効性にとって主要な問題ではないことが判明した。したがって、本発明の方法を使用する場合には、精製工程が省略されうる。
【0009】
本発明の方法は、実施が容易であり、高収量で適切なワクチンを生成する。本発明は、この方法を使用して得られるストレプトコッカス・スイス(Streptococcus suis)のIgMプロテアーゼ抗原を含むワクチンにおいても具体化されている。このワクチンは、相当量の大腸菌タンパク質(特に、タンパク質の総量、すなわち総重量の5%、10%、15%、20%、25%、30%、50%以上または更にはそれ以上の割合)および他の大腸菌化合物(例えば、多糖)がワクチン中に存在しうる点で、公知ワクチンとは異なる。
【0010】
定義
ワクチンは、典型的には薬学的に許容される担体と組合されている、免疫学的に有効な量(すなわち、野生型微生物のチャレンジの負の効果を少なくとも低減するのに十分な程度に標的対象者の免疫系を刺激しうる量)の1以上の抗原を含む、対象への適用に適した組成物であり、これは、対象への投与に際して、感染を治療するための免疫応答を誘導し、すなわち、感染またはその感染に起因する疾患もしくは障害の予防、改善または治癒を助ける。
【0011】
微生物による病原性感染に対する防御は、防御免疫を達成することとと同じであり、すなわち、その微生物による病原性感染またはその感染に起因する障害の予防、改善または治癒を助けて、例えば、実際の感染、または病原体による病原感染から生じる1以上の臨床徴候を予防または軽減することである。
【0012】
ストレプトコッカス・スイスのIgMプロテアーゼ抗原は、ブタIgM(ブタIgGまたはブタIgAではない;Seeleら,Journal of Bacteriology,2013,195 930-940;およびVaccine 33:2207-2212;5 May 2015)、IdeSsuisとして示されるタンパク質、またはそれらの免疫原性部分(典型的には、全長酵素の少なくとも約30~35%の長さを有する)を特異的に分解する酵素である。酵素全体は約100~125kDaの重量を有し、これは約1000~1150アミノ酸に相当し、サイズはストレプトコッカス・スイスの血清型に左右される。WO2015/181356には、ストレプトコッカス・スイスのIgMプロテアーゼ抗原を表す幾つかの配列、すなわち、配列番号1、配列番号2、配列番号6、配列番号7および配列番号5が示されており、後者は全長酵素の免疫原性部分(Mac-1ドメインとして示されるもの、すなわち、配列番号7のアミノ酸80~414)である。全長酵素の免疫原性部分の他の例はWO2017/005913に記載されている。特に、IgMプロテアーゼは、WO2015/1818356の配列番号1によるプロテアーゼ、または重複領域において少なくとも70%、特に75、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99%から100%までの配列同一性を有するタンパク質でありうる。アミノ酸配列同一性は、blastpアルゴリズムをデフォルトパラメータで使用するBLASTプログラムによって確認されうる。種々の血清型のストレプトコッカス・スイスのIgMプロテアーゼは、70%を超える配列同一性、特に75、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99%から100%までの配列同一性を有すると予想される。例えば、該抗原の組換え産生系における収量を最適化するように製造された人工タンパク質は、必要な免疫原性機能を維持しながら、全酵素と比較してより低いアミノ酸配列同一性、例えば85%、80%、75%、70%または更には60%のアミノ酸配列同一性を有する可能性があり、本発明の意味でのストレプトコッカス・スイスのIgMプロテアーゼ抗原であると理解される。
【0013】
薬学的に許容される担体は、生体適合性媒体、すなわち、担体を含む組成物の投与の後に対象の免疫系に抗原を提示しうる、治療対象において投与後に有意な有害反応を誘発しない媒体である。そのような薬学的に許容される担体は、例えば、水および/または任意の他の生体適合性溶媒を含む液体、あるいは固体担体、例えば、凍結乾燥ワクチン(糖および/またはタンパク質に基づくもの)を得るために一般的に使用される固体担体であって、所望により免疫刺激剤(アジュバント)を含んでいてもよいものでありうる。所望により、安定剤、粘度調整剤、アジュバントまたは他の成分のような他の物質が、対応ワクチンの意図される用途または必要な特性に応じて添加される。
【0014】
上清は、結晶化、沈殿、遠心分離または他の処理の後に固体残渣の上に存在する液体である。
【0015】
ペレットは、例えば遠心分離または他の沈殿方法の後の、不溶性沈殿物である。
【0016】
高圧均質化は、液体を高圧で狭い隙間(典型的にはマイクロメートルの範囲)に押し込む機械操作であり、これによって非常に短い距離にわたって該液体の加速が生じ、それによって高いせん断応力が生じて、例えば粒子サイズが減少し、または細胞が細胞溶解する。用いられる典型的な圧力は100~2000バールである(Dumontら,International Journal of Pharmaceutics 541(2018)117-135)。均質化プロセス中に適用されるエネルギーの量が多いほど、粒子サイズは小さくなり、細胞溶解がより完全になる。
【0017】
顕微溶液化(マイクロフルイダイゼーション)は高圧均質化の一形態であり、これは、典型的には2000バールまでの高圧の、互いに直角に配向した2つの微細ジェットが生成するように、液体をマイクロチャネルを介して相互作用チャンバー内に送ることによって働く。それらの2つの微小流(マイクロストリーム)が衝突すると、突然の圧力低下が生じ、衝突時に生じる乱流、空洞形成(キャビテーション)およびせん断効果の結果として均質化が生じる。マイクロフルイダイザー(microfluidizer)を通過する回数の増加は均質化を改善するが、通過が3回を超えると効果はほとんどない。顕微溶液化用の装置は、Microfluidics(商標),Westwood,MA,USAから入手されうる。
【0018】
フレンチ・プレッシャー・セル・プレス(「フレンチプレス」とも称される)は、高圧下で細胞を狭いバルブに通すことによって細胞の細胞膜を破壊するために生物学的実験で使用される装置である。それは、細胞核を乱さずに細胞壁を破壊しうる。フレンチプレスは、ワシントンのカーネギー研究所(Carnegie Institution)のチャールズ・ステイシー・フレンチ(Charles Stacy French)によって発明された。該プレスは外部の油圧ポンプを使用して、液体サンプルを含有する、より大きなシリンダー内のピストンを駆動する。次いで高加圧サンプルがニードルバルブを通過して搾り出される。サンプルがバルブを通過すると、流体は、せん断応力およびデコンプレッション(減圧)を受けて細胞破壊が生じる。
【0019】
ストレプトコッカス・スイスの完全IgMプロテアーゼ抗原は、少なくとも、Mac-1ドメイン、構造機能に関連する領域、CNV領域および所望により細胞接着領域を含む抗原である(ストレプトコッカス・スイスのゲノムにおけるこれらの領域の特定に関しては、実施例1を参照されたい)。これが完全IgMプロテアーゼ抗原とみなされうるのは、シグナルペプチドは、天然に存在する(すなわち、野生型)分泌酵素にも存在しないと考えられており、細胞接着領域はプロテアーゼとしてのその機能に必須でないと考えられているからである。
【0020】
本発明の追加的な実施形態
本発明の方法の第1の追加的な実施形態においては、高圧均質化操作中の圧力は少なくとも1000バールである。このようにして、より多くのIgMプロテアーゼ抗原が上清中に遊離される。好ましくは、高圧均質化操作中の圧力は少なくとも1300バール、例えば1400、1500、1600、1700、1800、1900または更には少なくとも2000バールである。
【0021】
本発明による方法のもう1つの実施形態においては、高圧均質化操作を行うために使用される装置はフレンチ・プレッシャー・セル・プレスまたは顕微溶液化装置である。これらの装置は、本発明による方法を実施するのに特に適していることが判明した。好ましくは、顕微溶液化装置が使用される。
【0022】
本発明による方法の更にもう1つの実施形態においては、IgMプロテアーゼ抗原は完全IgMプロテアーゼ抗原である。少なくともMac-1ドメイン、構造機能に関連した領域、CNV領域および所望により細胞接着領域(ストレプトコッカス・スイスのゲノムにおけるこれらの領域の特定に関しては実施例1を参照されたい)を含むこのタイプの抗原は高レベルで発現可能であり、上清中に容易に遊離され、ワクチン抗原として非常に適していることが判明した。好ましくは、完全IgMプロテアーゼ抗原は血清型1、2または7のストレプトコッカス・スイス細菌のものである。抗原の組換え発現自体は血清型に左右されないが、これらの3つの血清型の抗原はストレプトコッカス・スイスの種々の血清型にわたって適度な防御をもたらすことが判明した。これに関しては、Intervet International BVの名義で欧州特許庁に優先権出願として2021年8月3日付で出願された欧州特許出願EP21189283.1(発明の名称:“A vaccine for protection against Streptococcus suis of various serotypes”)を参照されたい。
【0023】
次に、以下の特定の実施例を用いて、本発明を更に詳細に説明することとする。
【0024】
実施例
実施例1:ストレプトコッカス・スイスのゲノムの構造分析
実施例2:全IgMプロテアーゼ抗原を含むワクチンの製造
実施例3:ワクチンの防御効果
【0025】
実施例1
本実施例においては、ストレプトコッカス・スイスのゲノム、すなわち、IgMプロテアーゼをコードする部分の分析を記載して、該ゲノムのこの部分がどのように構造化されているかを示す。このために、WO2015/181356から公知であり、その特許出願において配列番号1として公開されている血清型2細菌のストレプトコッカス・スイスのゲノムを使用する。該配列は本特許の配列表に配列番号1として再度記載されている。タンパク質アノテーション(PDBSumおよびInterPro)に加えてNeedleman-Wunschアライメント(Needlemanら,1970;Laskowskiら,1997;Apweilerら,2000;デフォルト設定を参照されたい)を使用する配列類似性検索は、5つの領域が特定さるるIgMプロテアーゼゲノムの構造を示している。
【0026】
領域1(Met1~Thr34):1位からのシグナル配列;
領域2(Val35~Glu426):推定ヒドロラーゼ活性を有するMac-1ドメイン;
領域3(Thr427~Pro687):構造機能(例えば、適切なフォールディングに関与するもの)および基質結合に関連する領域;
領域4(Thr688~Ser919):ヒドロラーゼ活性を有する公知タンパク質配列に対する類似性を有する4つの反復(1{Thr688~Ser744}、2{Thr745~Ser801}、3{Thr802~Ser858}、4{Thr859~Ser919})からなる領域;これは、ゲノムのセクションが反復される、いわゆるCNV領域(コピー数変異領域)である;
領域5(Thr920~Lys1141):細胞壁アンカー機能を示す推定膜貫通領域(細胞接着領域)を含有する。
【0027】
他の血清型のストレプトコッカス・スイス細菌の構造はほぼ同じであるが、最も顕著な差異はCNV領域における反復数である。
【0028】
実施例2
本実施例においては、IgMプロテアーゼ抗原を含むワクチンの製造方法を示す。Seeleら(2013;前記を参照されたい)に記載されている方法を用い、BL21-AI(DE3)プラスミドを使用して、血清型2および血清型7のストレプトコッカス・スイス株の全IgMプロテアーゼ遺伝子を大腸菌内にクローニングした。誘導因子として、ラクトースと組合されたアラビノースを使用した。
【0029】
大腸菌細胞を、ラクトース、グルコース、グリセロール、酵母エキス、イーストラート、NaCl、KHPOおよびNaHPO4×2HOを含有する動物成分非含有培地内で培養した。まず、37℃で穏やかに振とうされた振とうフラスコの前培養を使用して、細胞を指数関数増殖期の中期まで増殖させた。次に、同じ培地を使用して、15L培養規模の実験室規模の発酵槽に、1%の接種物比率で細胞を接種した。4M NaOHおよび4M 酢酸溶液を使用して、pHを7.0に制御した。攪拌速度、気流および純酸素のカスケード制御を使用して、溶存酸素(pO2)を50%に制御した。温度を37℃に制御した。培地内のグルコースが枯渇(CEDEX分析装置を使用して判定した)するとすぐに、誘導因子としてアラビノースを添加した。適度なIgMプロテアーゼタンパク質濃度を得るために、培養を更に3時間継続した。
【0030】
この後、大腸菌細胞を培養から回収し、培地または0.04M PBS緩衝液中で、未濃縮状態で冷蔵保存し、あるいは遠心分離を用いて4倍まで濃縮した。その後、30.000PSI(2068バール)の顕微溶液化装置(Microfluidics)またはフレンチ・プレス・ホモジナイザー(600~2000バールの範囲)を使用して、細胞を破壊した。最後に、細胞破壊後の全画分を遠心分離し、上清およびペレットを分離し、BPL(ベータプロピオラクトン)を使用して不活性化した。公知BSAシリーズを参照体として用い、SDSゲルを使用して、タンパク質収量を測定した。IgMプロテアーゼはそれ以上は精製しなかった。
【0031】
細胞破壊中の圧力の影響を調べるために、顕微溶液化装置またはフレンチプレスにおいて、種々の圧力で大腸菌細胞(血清型2)を破壊する幾つかの実験を行った。表1は、細胞破壊中に適用した圧力と、細胞破壊後の遠心分離後の上清中のIgMプロテアーゼタンパク質の回収率との関係を示す。回収率は、細胞破壊および遠心分離後の上清中のIgMプロテアーゼタンパク質濃度を、細胞破壊後かつ遠心分離前のIgMプロテアーゼタンパク質濃度(つまり、全割合)で割り算し、100%を掛け算することによって計算する。装置のタイプの有意な影響は見られず、適用された圧力のみによる影響が見られた。
【表1】
【0032】
実施例3
この実施例3においては、実施例2の方法を使用して得られた抗原を使用して製造されたワクチンの防御効果を示す。
【0033】
研究デザイン
実施例2に従い得られた上清を、MSD Animal Healthから入手可能な(水中油型)アジュバントX-Solveと混合して、第1ワクチンの場合には1ml当たり35μgのIgMプロテアーゼの濃度、および第2ワクチンの場合には(油性アジュバントは同量で)1ml当たり3.5μgのIgMプロテアーゼの濃度とすることによって、ワクチンを製剤化した。この研究には、30頭の3週齢の子ブタを使用した。これらの子ブタを、それぞれ子ブタ10頭の3つの群に割り当てた(異なる同腹子を各群に均等に分配した)。群1および2には、3週齢および5週齢で、異なるワクチンを筋肉内に2回接種した。群1には、ワクチン接種当たり2mlの第1ワクチン(すなわち、ワクチン接種当たり70μgの抗原)を接種し、群2には、ワクチン接種当たり2mlの第2ワクチン(すなわち、用量当たり7μgのIgMプロテアーゼ抗原)を接種した。群3はワクチン未接種のチャレンジ対照として残した。7週齢で、子ブタをチャレンジ室に移動させ、直ちにチャレンジした。自然ストレスを模擬するために、移動とチャレンジとの間に順応期間を設けなかった。チャレンジ後、ストレプトコッカス・スイス感染の臨床徴候(例えば、意気消沈、運動障害および/または神経学的徴候)に関して子ブタを毎日観察し、0(徴候なし)から3(重症例)までの通常のスコア化系を用いてスコア付けした。重篤な影響を受けた動物を安楽死させ、死後検査した。研究終了時(チャレンジの11日後)に、全ての生存したブタを安楽死させ、死後検査した。ワクチン接種およびチャレンジの直前に、抗体測定のために血清を採取した。チャレンジの前および後の定期的な時点において、チャレンジ株の再分離のためにヘパリン血を採取した。
【0034】
結果
該ワクチンはいずれも、部位または全身の許容し得ない反応を誘発しなかったため、安全であると見なされうる。ワクチン接種の当日(3週齢)、ほとんどのブタは、低い乃至中等度の母体由来抗体価を有していた。ワクチン接種後、全てのワクチン群が抗体応答を示した(データ非表示)。チャレンジ後の種々のパラメータに関する結果を以下の表2に示す(生存期間は日数で示されている)。
【表2】
【0035】
結論
結果は、該ワクチンが、第2ワクチン接種の2週間後に、病原性ストレプトコッカス・スイスでのチャレンジに対する子ブタにおける防御を誘導したことを実証している。わずか7μgのワクチン用量が、十分な防御効果をもたらすことが可能であった。
【国際調査報告】