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特表2024-540502GPIアンカーを含む膜表在性タンパク質
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-31
(54)【発明の名称】GPIアンカーを含む膜表在性タンパク質
(51)【国際特許分類】
   C07K 19/00 20060101AFI20241024BHJP
   C07K 14/705 20060101ALI20241024BHJP
   C07K 14/715 20060101ALI20241024BHJP
   C07K 14/52 20060101ALI20241024BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20241024BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20241024BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20241024BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20241024BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20241024BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20241024BHJP
   C12N 5/078 20100101ALI20241024BHJP
   C12N 5/0781 20100101ALI20241024BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20241024BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241024BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20241024BHJP
   A61K 38/02 20060101ALI20241024BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20241024BHJP
   A61K 47/64 20170101ALI20241024BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20241024BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20241024BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20241024BHJP
【FI】
C07K19/00 ZNA
C07K14/705
C07K14/715
C07K14/52
C07K16/28
C12N15/62 Z
C12N15/13
C12N15/12
C12N15/63 Z
C12N5/10
C12N5/078
C12N5/0781
C12N5/0783
A61P35/00
A61P35/02
A61K38/02
A61K39/395 N
A61K39/395 T
A61K47/64
A61K48/00
A61K35/76
A61K35/17
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024529423
(86)(22)【出願日】2022-11-15
(85)【翻訳文提出日】2024-07-12
(86)【国際出願番号】 CN2022131974
(87)【国際公開番号】W WO2023088246
(87)【国際公開日】2023-05-25
(31)【優先権主張番号】202111361248.7
(32)【優先日】2021-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523136226
【氏名又は名称】上海君賽生物科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】SHANGHAI JUNCELL THERAPEUTICS CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金 華 君
(72)【発明者】
【氏名】周 ▲イン▼
(72)【発明者】
【氏名】王 超
(72)【発明者】
【氏名】黄 晨
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C084
4C085
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AA94X
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA44
4B065CA46
4C076AA11
4C076BB01
4C076BB11
4C076BB13
4C076BB16
4C076CC27
4C076EE41
4C076EE59
4C084AA01
4C084AA02
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4C084AA07
4C084AA13
4C084BA03
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4C084BA44
4C084MA17
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4C084ZB272
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4C085BB43
4C085EE01
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4C085GG02
4C085GG04
4C085GG08
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB65
4C087CA12
4C087MA17
4C087MA44
4C087MA52
4C087MA55
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZB26
4C087ZB27
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA02
4H045DA50
4H045DA76
4H045EA28
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、GPIアンカーを含む膜表在性タンパク質を提供し、機能的ドメインとGPIアンカーとを含む融合タンパク質およびその用途を具体的に提供する。前記融合タンパク質は、免疫細胞を効果的に活性化および増殖させ、免疫細胞の効果や機能を向上させることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能的ドメインとGPIアンカーとを含み、
好ましくは、前記機能的ドメインは二量化または多量化によりその機能が実行される、融合タンパク質。
【請求項2】
前記GPIアンカーは、CD44、CD56、CD73、CD55、Thy1、AchE、IAP、ALPP、CD59、CD14、CD16、CD24、CD28、CD48、CD52、CD58、CD66a、CD66c、CD66d、CD66e、CD67、CD87、CD108、CD157、uPAR、JMHタンパク質、GDNFR、CNTFR、TAG-1、PrP、ホスファチジルイノシトールタンパク質、アラーモン7、CEA、GFR、Ly6G、トランスフェリン受容体、コンタクチン(F3)およびT-カドヘリンから選ばれる1種または複数種或いはそのGPIアンカードメインを含み、
好ましくは、前記GPIアンカーは、CD52、CD48、CD55、ALPP、CD90タンパク質から選ばれる1種または複数種或いはそのGPIアンカードメインを含み、
より好ましくは、前記GPIアンカーは、SEQ ID NO:2の232~268番目に示される配列を有し、或いはそれと少なくとも90%の配列同一性を有すると共にGPIアンカー構造を形成する機能的バリアントを有することを特徴とする、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項3】
前記機能的ドメインは、抗体またはその抗原結合断片、および/または、アミノ酸に基づくサイトカインまたはその機能断片を含み、好ましくは、前記抗体は遮断抗体および活性化抗体を含み、前記サイトカインはインターロイキンまたはその受容体、ケモカインまたはその受容体、インターフェロンおよびTNF-αを含み、
より好ましくは、前記融合タンパク質は、
前記抗体は腫瘍関連抗原をターゲティングする抗体であること、
前記インターロイキンまたはその受容体は、IL-2、IL-4、IL-6、IL-7、IL-8、IL-10、IL-12、IL-15、CD25、IL-7R、IL-12Rβ1、IL-12Rβ2およびIL-15Rから選ばれる1種または複数種を含むこと、
前記ケモカインまたはその受容体は、CXCL2、CXCL3、CXCL4、CXCL5、CXCL6、CXCL7、CXCL8、CXCL9、CXCL10、CXCL11、CXCL12、CXCL13、CXCL14、CCL1、CCL2、CCL3、CCL4、CCL5、CCL7、CCL8、CCL11、CCL13、CCL14、CCL15、CCL17、CCL18、CCL19、CCL20、CCL21、CCL22、CCL23、CCL24、CCL25、CCL26、CCL27、CCL28、CXCR1、CXCR2、CXCR3A、CXCR3B、CXCR4、CXCR5、CXCR6、CCR2、CCR5、CCR1、CCR3、CCR4、CCR6、CCR7、CCR8、CCR9、CCR10およびXCR1から選ばれる1種または複数種を含むこと、
前記インターフェロンはIFN-γであること、から選ばれる1つまたは複数の特徴を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の融合タンパク質。
【請求項4】
前記融合タンパク質は、前記機能的ドメインと前記GPIアンカーとの間にあるスペーサー領域を、さらに任意に含み、
好ましくは、前記スペーサー領域は、リンカーおよび/またはタンパク質細胞外領域を含み、前記タンパク質細胞外領域は、例えば、CD8細胞外領域および/またはBCMA細胞外領域であり、
より好ましくは、
前記リンカーは、SEQ ID NO:4の177~188番目に示される配列を有し、或いはそれと少なくとも90%の配列同一性を有する配列を有し、および/または
前記タンパク質細胞外領域は、SEQ ID NO:2の177~231番目および/またはSEQ ID NO:4の189~242番目に示される配列を有し、或いはそれと少なくとも90%の配列同一性を有する配列を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の融合タンパク質。
【請求項5】
前記融合タンパク質はシグナルペプチドをさらに含み、
好ましくは、前記シグナルペプチドは、前記GPIアンカーの対応するタンパク質のシグナルペプチドであり、
より好ましくは、前記シグナルペプチドは、CD52、CD48、CD55、ALPP、CD90タンパク質シグナルペプチドの何れか1種または複数種であることを特徴とする、請求項1または2に記載の融合タンパク質。
【請求項6】
(1)請求項1~5の何れか1項に記載の融合タンパク質のコーディング配列、或いはその増幅プライマーまたは検出プローブとする断片、
(2)(1)と少なくとも80%の配列同一性を有するバリアント、
(3)(1)または(2)の相補配列、から選ばれる配列を含む、核酸分子。
【請求項7】
請求項6に記載の核酸分子を含み、
好ましくは、クローニングベクター、発現ベクターまたは統合ベクターである、核酸コンストラクト。
【請求項8】
(1)請求項1~5の何れか1項に記載の融合タンパク質を含有、発現および/または分泌し、および/または
(2)請求項6に記載の核酸分子と、請求項7に記載の核酸コンストラクトと、の何れか1種または複数種を含み、
好ましくは、リンパ球であり、
より好ましくは、前記リンパ球は、T細胞、NK細胞またはTIL細胞であり、
より好ましくは、前記T細胞またはTIL細胞は外来性TCRおよび/またはCARをさらに発現する、細胞。
【請求項9】
請求項1~5の何れか1項に記載の融合タンパク質、請求項6に記載の核酸分子、請求項7に記載の核酸コンストラクトおよび請求項8に記載の細胞の何れか1種または複数種、および薬学的に許容される添加物を含む、医薬組成物。
【請求項10】
請求項1~5の何れか1項に記載の融合タンパク質、請求項6に記載の核酸分子、請求項7に記載の核酸コンストラクト、請求項8に記載の細胞、および請求項9に記載の医薬組成物の何れか1種または複数種の、抗腫瘍薬物の製造における応用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバイオテクノロジー分野に関し、具体的には、GPIアンカーを含む膜表在性タンパク質に関する。
【背景技術】
【0002】
膜貫通型タンパク質は、通常、膜貫通型ドメインである膜貫通型ポリペプチドを介して膜表面に定着している。なお、一般的なポリペプチドである膜貫通型ドメインのほかに、タンパク質も翻訳後に発生された脂質修飾によって膜表面に定着されても良い。脂質修飾の大半は細胞質内に発生して、タンパク質が膜に定着し、場合によって特定の膜マイクロドメインに定着するのを助ける。別の脂質修飾として、グリコシルホスファチジルイノシトール(Glycosylphosphatidylinositol、GPI)修飾は、小胞体膜の内腔側に発生する。GPIの主要構造が小胞体膜に合成された後、全体的に小胞体移行(ER translocation)直後の前駆体タンパク質に輸送されて、新生のGPIアンカー型タンパク質が形成される。新生のGPIアンカー型タンパク質が改めて小胞体とゴルジ体に修飾を数回も行った後、成熟のGPIアンカー型タンパク質が形成されて、最終的に細胞膜の表面に輸送され、GPI構造を介して細胞膜の脂質二重層に組み込まれる膜表在性タンパク質になる。
【0003】
GPIアンカー型タンパク質のGPI部分は、保守的な主要構造となる多糖と、ホスファチジルイノシトールと、多糖の分岐鎖とからなる。その主要構造となる多糖の構造は、EtNP-6Manα2-Manα6-(EtNP)2Manα4-GlNα6-myoinositol-phospholipidである。タンパク質部分が殆ど膜貫通領域欠失の疎水性ポリペプチドであり、C末端に共有結合するGPIが細胞膜に定着される。例えば、サイトカイン、抗体などの、二量体または多量体を形成することで機能する分子にとっては、GPIアンカー型タンパク質の構造を介して膜表面に定着する場合、より効果的に機能できる。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、機能的ドメインとGPIアンカーとを含む融合タンパク質を提供する。
【0005】
1つまたは複数の実施形態において、前記機能的ドメインは、二量化または多量化によりその機能が実行される。
【0006】
1つまたは複数の実施形態において、前記機能的ドメインは、抗体またはその抗原結合断片、および/または、アミノ酸に基づくサイトカインまたはその機能断片を含む。
【0007】
1つまたは複数の実施形態において、前記サイトカインは、インターロイキンまたはその受容体、ケモカインまたはその受容体、インターフェロンおよびTNF-αを含む。
【0008】
1つまたは複数の実施形態において、前記インターロイキンまたはその受容体は、IL-2、IL-4、IL-6、IL-7、IL-8、IL-10、IL-12、IL-15、CD25、IL-7R、IL-12Rβ1、IL-12Rβ2およびIL-15Rから選ばれる1種または複数種を含む。
【0009】
1つまたは複数の実施形態において、前記ケモカインまたはその受容体は、CXCL2、CXCL3、CXCL4、CXCL5、CXCL6、CXCL7、CXCL8、CXCL9、CXCL10、CXCL11、CXCL12、CXCL13、CXCL14、CCL1、CCL2、CCL3、CCL4、CCL5、CCL7、CCL8、CCL11、CCL13、CCL14、CCL15、CCL17、CCL18、CCL19、CCL20、CCL21、CCL22、CCL23、CCL24、CCL25、CCL26、CCL27、CCL28、CXCR1、CXCR2、CXCR3A、CXCR3B、CXCR4、CXCR5、CXCR6、CCR2、CCR5、CCR1、CCR3、CCR4、CCR6、CCR7、CCR8、CCR9、CCR10およびXCR1から選ばれる1種または複数種を含む。
【0010】
1つまたは複数の実施形態において、前記インターフェロンはIFN-γである。
【0011】
1つまたは複数の実施形態において、前記抗体は、遮断抗体および活性化抗体を含む。
【0012】
1つまたは複数の実施形態において、前記抗体は、腫瘍関連抗原をターゲティングする抗体であり、例えば、HER2、HER3、CD137またはPD-1をターゲティングする抗体である。
【0013】
1つまたは複数の実施形態において、前記GPIアンカーは、CD44、CD56、CD73、CD55、Thy1、AchE、IAP、ALPP、CD59、CD14、CD16、CD24、CD28、CD48、CD52、CD58、CD66a、CD66c、CD66d、CD66e、CD67、CD87、CD108、CD157、uPAR、JMHタンパク質、GDNFR、CNTFR、TAG-1、PrP、ホスファチジルイノシトールタンパク質、アラーモン7、CEA、GFR、Ly6G、トランスフェリン受容体、コンタクチン(F3)およびT-カドヘリンから選ばれる1種または複数種或いはそのGPIアンカードメインを含む。
【0014】
1つまたは複数の実施形態において、前記GPIアンカーは、CD52、CD48、CD55、ALPP、CD90タンパク質から選ばれる1種または複数種或いはそのGPIアンカードメインを含む。
【0015】
1つまたは複数の実施形態において、前記GPIアンカーは、SEQ ID NO:2の232~268番目に示される配列を有し、或いは、それと少なくとも90%の配列同一性を有すると共に、GPIアンカー構造を形成する機能的バリアントを有する。
【0016】
1つまたは複数の実施形態において、前記機能的ドメインは前記GPIアンカーのN末端方向にある。
【0017】
1つまたは複数の実施形態において、前記融合タンパク質は、前記機能的ドメインと前記GPIアンカーとの間にあるスペーサー領域を、さらに任意に含む。
【0018】
1つまたは複数の実施形態において、前記スペーサー領域の長さが12~66aaであり、例えば、12aa、54aa、55aaまたは66aaである。
【0019】
1つまたは複数の実施形態において、前記スペーサー領域は、リンカーおよび/またはタンパク質細胞外領域を含む。
【0020】
1つまたは複数の実施形態において、前記リンカーは、SEQ ID NO:4の177~188番目に示される配列を有し、或いはそれと少なくとも90%の配列同一性を有する配列を有する。
【0021】
1つまたは複数の実施形態において、前記タンパク質細胞外領域は、CD8細胞外領域および/またはBCMA細胞外領域である。
【0022】
1つまたは複数の実施形態において、前記タンパク質細胞外領域は、SEQ ID NO:2の177~231番目またはSEQ ID NO:4の189~242番目に示される配列を有し、或いはそれと少なくとも90%の配列同一性を有する配列を有する。
【0023】
1つまたは複数の実施形態において、前記融合タンパク質は、シグナルペプチドをさらに含む。
【0024】
1つまたは複数の実施形態において、前記シグナルペプチドは、前記GPIアンカーの対応するタンパク質のシグナルペプチドである。
【0025】
1つまたは複数の実施形態において、前記シグナルペプチドは、CD52、CD48、CD55、ALPP、CD90タンパク質シグナルペプチドの任意1種または複数種である。
【0026】
本発明は、
(1)本明細書の第1様態に記載の融合タンパク質のコーディング配列、または、その増幅プライマー或いは検出プローブとする断片、
(2)(1)と少なくとも80%の配列同一性を有するバリアント、
(3)(1)または(2)の相補配列、から選ばれる配列を含む、核酸分子をさらに提供する。
【0027】
本発明の別の様態は、本明細書の何れか1つの実施形態に記載の核酸分子を含む、核酸コンストラクトを提供する。
【0028】
1つまたは複数の実施形態において、前記核酸コンストラクトはクローニングベクター、発現ベクターまたは統合ベクターである。
【0029】
本発明の別の様態は、
(1)本明細書の第1様態の何れか1つの実施形態に記載の融合タンパク質を含有、発現および/または分泌し、および/または
(2)本明細書の何れか1つの実施形態に記載の核酸分子と、核酸コンストラクトと、の任意1種または複数種を含む、宿主細胞を提供する。
【0030】
1つまたは複数の実施形態において、前記宿主細胞は、リンパ球であり、例えば、T細胞、NK細胞、TIL細胞などである。
【0031】
1つまたは複数の実施形態において、前記リンパ球は、T細胞、NK細胞または腫瘍浸潤リンパ球(TIL)である。
【0032】
1つまたは複数の実施形態において、前記T細胞またはTIL細胞は外来性TCRおよび/またはCARをさらに発現する。
【0033】
1つまたは複数の実施形態において、前記T細胞は、CAR-T細胞、TCR-T細胞を含む。
【0034】
本発明は、本明細書の何れか1つの実施形態に記載の宿主細胞をインキュベートすることを含む、本明細書の第1様態の何れか1つの実施形態に記載の融合タンパク質の製造方法をさらに提供する。
【0035】
本発明の別の様態は、本明細書の何れか1つの実施形態に記載の融合タンパク質、核酸分子、核酸コンストラクトおよび細胞の任意1種または複数種、並びに薬学的に許容される添加物を含む、医薬組成物を提供する。
【0036】
本発明は、本明細書の何れか1つの実施形態に記載の融合タンパク質、核酸分子、核酸コンストラクト、細胞および医薬組成物の任意1種または複数種の、抗腫瘍薬物の製造における応用をさらに提供する。
【0037】
本発明は、必要とする対象に、本明細書の何れか1つの実施形態に記載の融合タンパク質、核酸分子、核酸コンストラクトおよび細胞の任意1種または複数種を、治療および/または予防有効量で投与することを含む、腫瘍を治療および/または予防するための方法をさらに提供する。
【0038】
本発明の優位性:
1)GPIアンカー型タンパク質によりサイトカインまたは抗体を免疫細胞の表面に定着させることで、免疫細胞を効果的に活性化および増殖させ、免疫細胞の効果や機能を向上させることができる。
【0039】
2)GPIアンカー型タンパク質により細胞膜の表面に定着される外来性タンパク質、例えば、サイトカインや抗体などは、通常のアミノ酸膜貫通型ドメインによる定着と比較すれば、その発現強度が明らかに向上された。
【0040】
3)CN110709416Aにより開示されたGPIシグナル配列と比較すれば、本発明に使用されるCD52が完全なタンパク質であるため、本発明のCD52によって定着される膜表在性タンパク質は、潜在的な新しい抗原配列に組み込まれず、免疫原性が低く、その後のインビボ応用をさらに助長する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】GPIアンカーにより膜表面にサイトカインを発現するT細胞およびEGFPを発現するT細胞の、顕微鏡明視野形態である。
図2】GPIアンカーにより膜表面にサイトカインを発現するT細胞の数量である。
図3】GPIアンカーにより膜表面にサイトカインを発現するT細胞の生存率である。
図4】GPIアンカーにより膜表面にサイトカインを発現するT細胞のフローサイトメトリー結果である。
図5】GPIアンカーにより膜表面にサイトカインを発現するT細胞のサイトカイン分泌レベルである。
図6】GPIアンカーにより膜表面にサイトカインとTCRを発現するT細胞の発現のフローサイトメトリー結果である。
図7】ET比1:1の条件で、GPIアンカーにより膜表面にサイトカインとTCRを発現するT細胞の発現の、標的細胞に対する殺傷効果である。
図8】ET比0.5:1の条件で、GPIアンカーにより膜表面にサイトカインとTCRを発現するT細胞の発現の、標的細胞に対する殺傷効果である。
図9】GPIアンカーにより膜表面にHER2抗体を発現するTILの発現の、相同的対合の腫瘍初代細胞に対する殺傷効果である。
図10】GPIアンカーにより膜表面にHER2抗体とTCRを発現するT細胞の発現の、標的細胞に対する殺傷効果である。
図11】異なるGPIタンパク質により膜表面に定着されるサイトカインを発現するT細胞の数量である。
図12】異なるGPIタンパク質により膜表面に定着されるサイトカインを発現するT細胞の生存率である。
図13】異なるGPIタンパク質により膜表面に定着されるサイトカインとTCRを発現するT細胞およびTCR-T細胞の、0.5:1ET比での、標的細胞に対する殺傷効果である。
図14】TCR-TおよびGPIタンパク質により定着される膜表面サイトカインを発現するTCR-T細胞をインビボで投与された担腫瘍マウスの腫瘍体積変化である。
図15】TCR-TおよびGPIタンパク質により定着される膜表面サイトカインを発現するTCR-T細胞をインビボで投与された担腫瘍マウスの腫瘍蛍光値変化である。
図16】TCR-TおよびGPIタンパク質により定着される膜表面サイトカインを発現するTCR-T細胞をインビボで投与された担腫瘍マウスの腫瘍蛍光生体イメージングである。
図17】TCR-TおよびGPIタンパク質により定着される膜表面サイトカインを発現するTCR-T細胞をインビボで投与された担腫瘍マウスの末梢血におけるヒトリンパ球数量である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
別段の定義がない限り、本発明の実施は、分子生物学(組換え技術を含む)、微生物学、細胞生物学、生化学および免疫学の通常技術を使用し、これらはいずれも当分野の技術範囲内である。これらの技術は文献により十分に説明されている。例えば、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版(Sambrookら、1989)や、Oligonucleotide Synthesis(M.J.Gait編集、1984)や、Animal Cell Culture(R.I.Freshney編集、1987)や、Methods in Enzymology(Academic Press、Inc.)や、Current Protocols in Molecular Biology(F.M.Ausubelら編集、1987版およびその定期更新版)や、PCR:The Polymerase Chain Reaction(Mullisら編集、1994)や、A Practical Guide to Molecular Cloning(Perbal Bernard V.、1988)や、Phage Display:A Laboratory Manual(Barbasら、2001)が挙げられる。
【0043】
GPIアンカー型タンパク質は、脂質の相互作用または多糖の相互作用により細胞膜における脂質ラフト(lipid raft)と結合する。発明者は研究において、例えば、サイトカイン、抗体などの、二量体または多量体を形成することで機能する分子にとって、GPIアンカー型タンパク質の構造を介して膜表面に定着することで、これらの分子がそれぞれの機能をより効果的に発揮でき、例えば、免疫細胞の増殖や活性化および標的細胞の殺傷レベルを効果的に向上できること、を発見した。
【0044】
本発明は、まず、機能的ドメインとGPIアンカーを含む融合タンパク質を提供する。GPIアンカーは機能的ドメインを細胞の表面(例えば、免疫細胞)に定着させることで、機能的ドメインの二量化または多量化を促進する。好ましくは、前記機能的ドメインは前記GPIアンカーのN末端方向にある。
【0045】
前記GPIアンカーは、CD44、CD56、CD73、CD55、Thy1、AchE、IAP、ALPP、CD59、CD14、CD16、CD24、CD28、CD48、CD52、CD58、CD66a、CD66c、CD66d、CD66e、CD67、CD87、CD108、CD157、uPAR、JMHタンパク質、GDNFR、CNTFR、TAG-1、PrP、ホスファチジルイノシトールタンパク質、アラーモン7、CEA、GFR、Ly6G、トランスフェリン受容体、コンタクチン(F3)およびT-カドヘリンから選ばれる1種または複数種、或いは、そのGPIアンカードメイン(本明細書においてGPIシグナル配列とも呼ばれる)を含む。好ましくは、前記GPIアンカーはCD52タンパク質またはそのGPIアンカードメインである。本分野においてGPIアンカー型タンパク質またはそのアンカードメイン配列が知られている。さらに、当業者は、GPIアンカー型タンパク質の配列からそのアンカードメイン配列を容易に取得できる。
【0046】
1つまたは複数の実施形態において、前記GPIアンカーは、SEQ ID NO:2の232~268番目に示される配列を有し、或いは、それと少なくとも90%の配列同一性を有すると共に、GPIに共有結合する機能的バリアントを有する。或いは、GPIアンカーは、CD48 GPIドメイン、CD55 GPIドメイン、ALPP GPIドメイン、CD90 GPIドメインであってもよく、そのアミノ酸配列はそれぞれCN110709416A明細書の14ページに記載されるSEQ ID NO:15~18に示される。
【0047】
本明細書において、機能的ドメインは、二量化または多量化によりその機能を実行できる任意のポリペプチドまたはタンパク質を含む。幾つかの実施形態において、前記機能的ドメインはサイトカインまたはその機能断片を含む。
【0048】
本明細書に係る機能的ドメインとするサイトカインは、主にアミノ酸に基づくポリペプチド類サイトカインであり、インターロイキンまたはその受容体、ケモカインまたはその受容体、インターフェロン、TNF-αを含むが、これらに限定されるものではない。前記インターロイキンまたはその受容体は、IL-2、IL-4、IL-6、IL-7、IL-8、IL-10、IL-12、IL-15、CD25、IL-7R、IL-12Rβ1、IL-12Rβ2およびIL-15Rから選ばれる1種または複数種を含む。前記ケモカインまたはその受容体は、CXCL2、CXCL3、CXCL4、CXCL5、CXCL6、CXCL7、CXCL8、CXCL9、CXCL10、CXCL11、CXCL12、CXCL13、CXCL14、CCL1、CCL2、CCL3、CCL4、CCL5、CCL7、CCL8、CCL11、CCL13、CCL14、CCL15、CCL17、CCL18、CCL19、CCL20、CCL21、CCL22、CCL23、CCL24、CCL25、CCL26、CCL27、CCL28、CXCR1、CXCR2、CXCR3A、CXCR3B、CXCR4、CXCR5、CXCR6、CCR2、CCR5、CCR1、CCR3、CCR4、CCR6、CCR7、CCR8、CCR9、CCR10およびXCR1から選ばれる1種または複数種を含む。前記インターフェロンは、例えば、IFN-γである。上記サイトカインは、その既知の任意形態、例えば、サブタイプ、誘導体を含む。これらのサイトカインのアミノ酸配列は、当業者の通常の知識範囲内にある。
【0049】
前記機能的ドメインは抗体またはその抗原結合断片であってもよい。本明細書において、広義的な「抗体」は、抗原に特異的に結合する任意のタイプの分子、例えば、全長抗体(免疫グロブリンFc領域を有する)、重鎖抗体、ナノボディ、ミニボディ、アフィボディ、受容体の標的結合ドメイン、細胞接着分子、リガンドなどであってもよい。幾つかの具体的な実施形態において、抗体は、モノクローナル抗体、マルチエピトープ特異性を有する抗体組成物、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、ダイアボディ、一本鎖分子、および抗体断片、特に抗原結合断片、例えば、Fab、F(ab’)2およびFvを含む。前記抗体は遮断抗体、活性化抗体を含む。腫瘍に向ける実施形態において、好ましくは、前記抗体は腫瘍関連抗原をターゲティングする抗体であり、例えば、HER2、HER3、CD137またはPD-1をターゲティングする抗体である。例示的に、前記HER2をターゲティングする抗体は一本鎖抗体であり、好ましくは、SEQ ID NO:8の25~268番目に示される配列を有する。或いは、例示的に、前記CD137をターゲティングする抗体は一本鎖抗体であり、好ましくは、SEQ ID NO:10の25~269番目に示される配列を有する。
【0050】
前記融合タンパク質は、前記機能的ドメインと前記GPIアンカーとの間にあるスペーサー領域を、さらに任意に含む。スペーサー領域を利用するか否かは、当業者の通常の選択によるため、スペーサー領域が必ずしも存在するとは限らない。通常、スペーサー領域の長さは10~70aaであり、好ましくは、12~66aaであり、例えば、12aa、54aa、55aaまたは66aa、或いは上記任意の2つの数字の間の範囲である。スペーサー領域は、リンカーを含んでもよく、例えば、Gおよび/またはSからなるポリペプチド配列であり、例えば、GS、GSG、GSSG、SGS、GGGGSのn回(例えば3回)反復のポリペプチドである。例示的なリンカーは、SEQ ID NO:4の177~188番目に示される配列を有し、或いはそれと少なくとも90%の配列同一性を有する配列を有する。スペーサー領域は特定のタンパク質の細胞外領域を含んでもよい。例えば、CD8細胞外領域、BCMA細胞外領域である。例示的なリンカーのタンパク質細胞外領域は、SEQ ID NO:2の177~231番目またはSEQ ID NO:4の189~242番目に示される配列を有し、或いは、それと少なくとも90%の配列同一性を有する配列を有する。
【0051】
本発明の融合タンパク質は、機能に影響を与えられるように、修飾されてもよい。本発明は修飾を有するグリコシル化様態の融合タンパク質を含む。或いは、望まないグリコシル化部位を除去するように修飾してもよい。前記融合タンパク質は、発現、分泌、精製を容易に実施するための修飾、例えば、シグナルペプチドをさらに有してもよい。1つまたは複数の実施形態において、シグナルペプチドは、前記GPIアンカーの対応するタンパク質のシグナルペプチドである。例示的に、本明細書の融合タンパク質のシグナルペプチドは、CD52、CD48、CD55、ALPP、CD90タンパク質シグナルペプチドの任意1種または複数種である。
【0052】
具体的な実施例において、本発明の融合タンパク質は、N末端からC末端まで、(1)IL-7、CD8細胞外領域、CD52を有すると共に、N末端にCD52シグナルペプチドを任意に有する構造、(2)IL-7、リンカー、BCMA細胞外領域、CD52を有すると共に、N末端にCD52シグナルペプチドを任意に有する構造、(3)Her2抗体、リンカー、CD52を有すると共に、N末端にCD52シグナルペプチドを任意に有する構造、(4)CD137抗体、リンカー、CD52を有すると共に、N末端にCD52シグナルペプチドを任意に有する構造、(5)IL-7、CD8細胞外領域、CD48 GPIアンカードメインを有すると共に、N末端にCD48シグナルペプチドを任意に有する構造、(6)IL-7、CD8細胞外領域、CD55 GPIアンカードメインを有すると共に、N末端にCD55シグナルペプチドを任意に有する構造、(7)IL-7、CD8細胞外領域、ALPP GPIアンカードメインを有すると共に、N末端にALPPシグナルペプチドを任意に有する構造、(8)IL-7、CD8細胞外領域、CD90 GPIアンカードメインを有すると共に、N末端にCD90シグナルペプチドを任意に有する構造、から選ばれる何れか1つの構造を有する。
【0053】
本発明の融合タンパク質は、それと相同な機能を有すると共にその示される配列を有する変異形態、をさらに含む。これらの変異形態は、幾つかの(通常、1~50個、好ましくは1~30個、1~20個、1~10個、1~8個、1~5個の)アミノ酸の欠失、挿入および/または置換、並びにC末端および/またはN末端における1つまたは複数の(通常、20個以内、好ましくは10個以内、より好ましくは5個以内の)アミノ酸の付加または欠失を含む(これらに限定されるものではない)。例えば、本分野において、近いか又は類似的な特性を持つアミノ酸で置換する場合、通常、タンパク質の機能が変化することはない。本分野において、通常、類似的な特性を持つアミノ酸は、類似的な側鎖を有するアミノ酸ファミリーであり、本分野では明確に定義されている。これらのファミリーは、塩基性側鎖を有するアミノ酸(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、無電荷の極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、無極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、乳酸、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β‐分岐側鎖を有するアミノ酸(例えば、スレオニン、バリン、イソロイシン)、および芳香族側鎖を有するアミノ酸(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を含む。また、例えば、アミノ基末端および/またはカルボキシ基末端に1つまたは複数のアミノ酸が付加された場合でも、通常、ポリペプチドまたはタンパク質の機能が変化することはない。一般的に知られている様々な非遺伝性コードアミノ酸の保存的なアミノ酸置換については、本分野で既に知られている。その他の非コードアミノ酸の保存的な置換はその物理特性と遺伝性コードアミノ酸の特性との比較によって決定される。
【0054】
前記融合タンパク質と高い相同性(例えば、SEQ ID NO:2または4に示される配列との相同性が70%以上であり、好ましくは、相同性が80%以上であり、より好ましくは、相同性が90%以上であり、例えば、相同性が95%、98%または99%である)を有すると共に、融合タンパク質と類似的または相同な機能を有する任意のポリペプチドも、本発明に含まれる。前記「相同または類似的な機能」は、主に、融合タンパク質の機能的ドメインの機能(例えば、抗腫瘍)およびGPIアンカーの機能(即ち、GPIに共有結合することで膜に定着されること)である。
【0055】
本発明は、保護が要請される融合タンパク質の類似体をさらに含む。これらの類似体と元の融合タンパク質との相違点は、アミノ酸配列の差異であってもよく、配列に影響を与えない修飾形態の差異であってもよく、或いは両方を兼ね備える。これらのタンパク質の類似体は、自然発生または誘発の遺伝子変異体を含む。誘発変異体は様々な技術により得られるが、例えば、放射により、または突然変異誘起剤に暴露させることで、ランダムな突然変異を誘発し、或いは、部位特異的突然変異誘発法またはその他の既知の分子生物学技術により得られる。類似体は、天然L-アミノ酸と異なる残基(例えば、D-アミノ酸)を有する類似体、および非天然または合成のアミノ酸(例えば、β、γ-アミノ酸)を有する類似体、をさらに含む。本発明のタンパク質は、上記に挙げられる代表的なタンパク質に限定されるものではないと理解すべきである。
【0056】
本発明のポリペプチド断片、誘導体または類似体は、さらに、(i)成熟したポリペプチドがその他の化合物(例えば、ポリエチレングリコールなどの、ポリペプチドの半減期を延長する化合物)に融合して形成されたポリペプチド、或いは(ii)付加されたアミノ酸配列が当該ポリペプチド配列に融合して形成されたポリペプチド(例えば、リーダー配列、分泌配列、或いは当該ポリペプチドを精製するための配列またはタンパク質構成配列)であってもよい。本明細書の定義によれば、これらの断片、誘導体および類似体は、当業者が周知する範囲に属する。
【0057】
本発明は、さらに、本発明の融合タンパク質またはそのバリアント、類似体、誘導体をコードするポリヌクレオチド配列、および当該配列を含む核酸分子に関する。前記ポリヌクレオチドはDNA形態またはRNA形態であってもよい。DNA形態はcDNA、ゲノムDNAまたは人工合成DNAを含む。DNAは一本鎖または二本鎖であってもよい。DNAはコード鎖または非コード鎖であってもよい。
【0058】
本発明は、さらに、上記核酸分子の変異体に関し、当該変異体が本発明と相同なアミノ酸配列を有する融合タンパク質またはその断片、類似体および誘導体をコードする。前記変異体は、自然発生の対立遺伝子変異体または非自然発生の変異体であってもよい。これらのヌクレオチド変異体は、置換変異体、欠失変異体および挿入変異体を含む。本分野で知られている通り、対立遺伝子変異体は、ポリヌクレオチドの置換形態の1つであり、1つまたは複数のヌクレオチドの置換、欠失または挿入であってもよいが、それによりコードされるポリペプチドの機能を実質的に変更することはない。本明細書に使用されるように、縮重変異体は、本発明において、前記融合タンパク質をコードするがコード領域配列に相違点がある核酸配列である。「ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド」は、前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含んでもよく、コーディングおよび/または非コーディング配列を付加するポリヌクレオチドをさらに含んでもよい。
【0059】
本発明は、さらに、上記配列とハイブリダイズ(相補)すると共に、2つの配列間が少なくとも50%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%の相同性を有するポリヌクレオチドに関する。本発明は、特に、ストリンジェントな条件で、本発明に係るポリヌクレオチドとハイブリダイズすることができるポリヌクレオチドに関する。本発明において、「ストリンジェントな条件」とは、(1)例えば0.2×SSC、0.1%SDS、60℃など低いイオン強度および高い温度でのハイブリダイゼーションおよび溶出、または、(2)例えば50%(v/v)ホルムアミド、0.1%子ウシ血清/0.1%Ficoll、42℃など変性剤によるハイブリダイゼーション、または、(3)2つの配列間の同一性が少なくとも90%以上であり、より好ましくは95%以上である場合のみハイブリダイゼーションが発生する。幾つかの実施形態において、ハイブリダイズ可能なポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドは、SEQ ID NO:1または2に示される成熟ポリペプチドと同じ生物学的機能および活性を有する。
【0060】
本発明に記載の変異体の配列はその由来配列と少なくとも95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有してもよい。本発明に記載の配列同一性は配列分析ソフトウエアを利用して測定できる。例えば、デフォルト引数を使用するコンピュータプログラムBLAST、特にBLASTPまたはBLASTNが挙げられる。
【0061】
本発明の融合タンパク質コーディング配列の全長配列或いはその断片(例えばプライマーまたはプローブ)は、通常、PCR増幅法、組換え法または人工合成法により得られる。PCR増幅法について、本発明に開示される関連アミノ酸またはヌクレオチド配列、特にオープンリーディングフレーム配列によりプライマーを設計すると共に、市販されるDNAライブラリーまたは当業者によく知られている通常の方法で製造されたcDNAライブラリーをテンプレートとして増幅して関連配列を取得した。また、特に、例えば、プライマーまたはプローブなど、断片の長さが短い場合に、人工合成法により関連配列を合成してもよい。例えば、ソフトPrimer Expressなど、本分野で知られているプライマーおよびプローブ配列の設計方法はいずれも本明細書に使用できる。
【0062】
本発明は、本明細書に記載のポリヌクレオチド配列、およびこれらの配列に操作可能に連結される1つまたは複数の調節配列を含む核酸コンストラクトにも関する。本発明に記載のポリヌクレオチドは、前記融合タンパク質の発現を確実にするように、様々な方法で操作されてもよい。核酸コンストラクトをベクターに挿入する前に、発現ベクターの相違点または要求に応じて核酸コンストラクトを操作してもよい。組換えDNA方法でポリヌクレオチド配列を変更する技術は本分野で既知である。
【0063】
調節配列は、適切なプロモーター配列であってもよい。プロモーター配列は通常、タンパク質を発現しようとするコード配列と操作可能に連結する。プロモーターは、変異、トランケート、およびハイブリッドプロモーターを含む、選択された宿主細胞において転写活性を示す任意のヌクレオチド配列であってもよく、宿主細胞と相同または異種である細胞外または細胞内ポリペプチドをコードする遺伝子から得られる。調節配列は、適切な転写ターミネーター配列、すなわち転写を終結させるために宿主細胞によって認識される配列であり得る。ターミネーター配列は、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の3’末端に操作可能に連結される。選択された宿主細胞において機能する任意のターミネーターが本発明で使用することができる。調節配列は、適切なリーダー配列であってもよく、宿主細胞翻訳にとって非常に重要なmRNAの非翻訳領域であり得る。リーダー配列は、当該ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の5’末端に操作可能に連結される。選択された宿主細胞において機能する任意のターミネーターが本発明で使用することができる。
【0064】
特定の実施形態において、前記核酸コンストラクトはベクターである。ベクターは、クローニングベクターであってもよく、発現ベクター、または統合ベクターであってもよい。本発明のポリヌクレオチドは、例えば、プラスミド、ファージミド、ファージ誘導体、動物ウイルスおよびコスミドなどの、様々なタイプのベクターにクローニングされてもよい。クローニングベクターは本発明の融合タンパク質のコーディング配列を提供するために利用されてもよい。発現ベクターはウイルスベクターの形態で細胞に提供されてもよい。通常、本発明のポリヌクレオチドをプロモーターに操作可能に連結すると共に、コンストラクトを発現ベクターに導入することで、本発明のポリヌクレオチドの発現が実現される。統合ベクターは本明細書に記載の発現カセットを宿主ゲノムに統合するために利用され、例えば、pNB、pNCなどの、PBトランスポゾンシステムにより遺伝子を統合する統合ベクターである。通常、適切なベクターは、少なくとも1種の有機体において機能を果たす複製起点と、プロモーター配列と、転写および翻訳ターミネーターと、便利な制限酵素部位、および/または1つまたは複数の選択可能な標識と、を含む。これらの配列は当業者が必要に応じて選定できる。
【0065】
タンパク質の発現を評価するために、細胞に導入される発現ベクターは、ウイルスベクターによってトランスフェクトまたは感染を求められる細胞集団から発現細胞を同定および選択することを容易にするために、選択可能なマーカー遺伝子および/またはレポーター遺伝子を含んでもよい。選択可能な標識は、単独のDNAに持ち込まれると共に、コトランスフェクション工程に利用できる。選択可能な標識とレポーター遺伝子の両者の側鎖は、宿主細胞において発現できるように、適切な調節配列を有しても良い。有用で選択可能な標識は例えばneoなどの抗生物質耐性遺伝子を含む。適切なレポーター遺伝子は、ルシフェラーゼ、β-ガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、分泌型アルカリフォスファターゼまたは緑色蛍光タンパク質遺伝子をコードする遺伝子を含んでも良い。適切な発現システムは、よく知られていると共に、既知の技術により製造でき、または市販により取得できる。
【0066】
本明細書に記載のポリヌクレオチドは、通常PCR増幅法によって得ることができる。具体的には、本明細書に開示されるヌクレオチド配列、特にオープンリーディングフレーム配列によりプライマーを設計すると共に、市販されるcDNAライブラリーまたは当業者によく知られている通常の方法で製作されたcDNAライブラリーをテンプレートとして増幅して関連配列を取得することができる。長い配列の場合、通常、PCR増幅を2回または複数回実施してから、それぞれ増幅された断片を正確な順番で繋げる必要がある。或いは、本明細書に記載の核酸分子を直接的に合成しても良い。
【0067】
遺伝子を細胞に導入するおよび遺伝子を細胞内に発現させる方法は、当該技術分野において公知である。ベクターは、本分野で知られている任意の方法によって、例えば哺乳動物、細菌、酵母または昆虫細胞などの宿主細胞に容易に導入することができる。例えば、発現ベクターは、物理的、化学的または生物学的手段によって宿主細胞に導入することができる。
【0068】
ポリヌクレオチドを宿主細胞に導入するための物理的方法には、リン酸カルシウム沈殿法、リポフェクション法、粒子衝撃法、マイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法などが含まれる。関心を持っているポリヌクレオチドを宿主細胞に導入するための生物学的方法には、DNAとRNAベクターの使用が含まれる。ポリヌクレオチドを宿主細胞に導入するための化学的手段としては、マクロ複合体、ナノカプセル、ミクロスフェア、ビーズなどのコロイド分散系、ならびに水中油型エマルジョン、ミセル、混合ミセル、およびリポソームを含む脂質系システムが挙げられる。
【0069】
本明細書において、宿主細胞は、本明細書に記載の融合タンパク質を含有、発現および/または分泌する。本明細書において、細胞がポリペプチドなどの特定の分子を含有または含み、発現、分泌すると記述した場合、「含有」とは前記分子が前記細胞内またはその表面に含まれることであり、「発現」とは当該細胞が前記分子を生産することであり、「分泌」とは当該細胞が発現された分子を細胞外へ分泌することである。宿主細胞は、本発明のタンパク質のコーディング配列または本明細書に記載のベクターを提供するために、最終的に疾患を治療するための免疫細胞(例えばT細胞)を含むほかに、例えば、大腸菌細胞などの、免疫細胞の生産プロセスで使用される様々な細胞も含む。細胞が発現および/または分泌するタンパク質は本分野で周知の精製方法により精製できる。
【0070】
本発明に適用されるT細胞は、様々な由来の、様々なタイプのT細胞であってもよい。例えば、T細胞は健康個体のPBMCに由来してもよい。特定の実施形態において、本明細書は、本明細書に記載の融合タンパク質を安定的に発現するTCR-T細胞、CAR-T細胞、TIL細胞を提供する。当業者はこれらの細胞の取得方法をよく知っている。特定の実施形態において、T細胞を取得した後、まず、適量(例えば30~80ng/ml、例えば50ng/ml)のCD3抗体で刺激し活性化させてから、適量(例えば30~80IU/ml、例えば50IU/ml)のIL2を含む培地で培養して、使用に備える。
【0071】
そのため、特定の実施形態において、本発明は遺伝子修飾の細胞(例えば免疫細胞)を提供し、当該遺伝子修飾の免疫細胞は、本明細書に記載の核酸分子を含み、または本明細書に記載のベクターを含み、または本明細書に記載の方法で製造して取得し、または本明細書に記載の融合タンパク質を安定的に発現する。
【0072】
本明細書は、融合タンパク質、核酸分子、核酸コンストラクトおよび細胞の任意1種または複数種、および薬学的に許容される添加物を含む、医薬組成物を提供する。本明細書において、薬学的に許容される添加物は、薬理学的および/または生理学的に被験者や活性成分と相溶性があるベクターおよび/または賦形剤である。特定の実施形態において、医薬組成物における許容される添加物などは、好ましくは、採用される用量と濃度で受験者に対して無毒である。幾つかの実施形態において、医薬組成物は、例えば、組成物のpH値、浸透性、粘度、清澄度、色、等張性、におい、無菌性、安定性、溶解または放出速度、吸収または浸透を改善、維持または保留するための物質を含んでもよい。これらの物質は既存技術でよく知られており、pH調整剤、界面活性剤、イオン強度増強剤、希釈剤、キャリア、可溶化剤、乳化剤、防腐剤および/またはアジュバントを含むが、これらに限定されるものではない。具体的には、薬学的に許容される適切な添加物は、本分野で免疫細胞、特にT細胞の投与によく利用される添加物であってもよい。例えば、REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCES、第18版、A.R.Genrmo編集、1990、Mack Publishing Companyを参照する。所望の投与経路、送達方式および必要とされる用量によって最適な医薬組成物を決定する。
【0073】
本発明の医薬組成物は非経口送達で使用してもよい。或いは、組成物は吸入または消化器(例えば、経口)送達で使用してもよい。前記薬学的に許容される組成物は本分野の技術により製造する。その他の医薬組成物は当業者にとって明らかであり、持続的にまたは制御的に放出される送達調製物に免疫細胞、特に免疫細胞(例えばT細胞)が含まれる調製物を含む。幾つかのその他の持続的または制御可能な送達方式を提供するための技術(例えば、リポソームベクター、生分解性微粒子または多孔質ビーズおよびデポ注射)も当業者によく知られている。細胞を含む薬物組成物は、腫瘍、リンパ節または感染部に直接的に注入してもよい。
【0074】
インビボで投与する医薬組成物は、通常、無菌製剤の形態で提供する。無菌ろ過膜によりろ過することで殺菌を実現する。非経口投与に利用される組成物は凍結乾燥の形態または溶液で(例えば凍結保存製剤)保存できる。非経口組成物は、通常、無菌アクセスポートを有する容器、例えば皮下注射針によって穿通可能な栓を有する静脈内溶液バッグ、またはバイアルに入れられる。
【0075】
医薬組成物は、調製されると、溶液、懸濁液、ゲル、乳液、固体、結晶、凍結保存物、或いは、脱水または凍結乾燥粉末の形態で無菌バイアルに保存される。前記医薬調製物(例えば、凍結保存製剤)はレディー・ツー・ユースの形態または投与直前再調製の形態で保存できる。例えば、本明細書に記載の医薬組成物の送達に適用されるのは凍結保存製剤であってもよく、これにより、細胞を損傷せずに遠距離輸送に耐えられる。細胞そのもの以外に、凍結保存製剤は、通常、細胞凍結保存液、ヒト血清アルブミン(HSA)などの成分をさらに含む。投与前(例えば静脈輸注)に、凍結保存される医薬組成物は、低温で保存する必要がる(例えば液体窒素に置く)。凍結保存製剤は、解凍後に、直接的にまたは輸注組成物に調製されてから、患者に輸注される。当業者は通常の凍結保存液の成分および濃度をよく知っている。例えば、凍結保存液または輸注組成物は、塩化ナトリウム、グルコース、酢酸ナトリウム、塩化カリウムまたは塩化マグネシウムなどをさらに含んでもよく、その濃度は当業者(例えば、経験のある医者)が細胞、疾患、患者などの状況に基づいて決定される。本発明は単回用量投与単位を生成するための試薬キットを更に提供する。本発明の試薬キットは、細胞凍結保存液または凍結保存製剤を有する第1容器と、輸注調製物を有する任意の第2容器をそれぞれ含む。本発明の特定の実施形態において、シングルチャンバーおよびマルチチャンバープレフィルドシリンジ(例えば、液体用シリンジ)を含む試薬キットを提供する。
【0076】
本明細書は、本明細書に記載の核酸コンストラクトを含む、試薬キットをさらに提供する。試薬キットは、前記核酸コンストラクトの細胞へのトランスフェクションに適用される様々な試薬と、前記組換え発現ベクターの細胞へのトランスフェクションを当業者に指導するための任意の取扱説明書と、をさらに含んでもよい。
【0077】
本発明は、本発明の何れか1つの実施形態に記載の融合タンパク質、細胞または医薬組成物を投与することで、患者の疾患を治療する方法を提供する。本明細書に記載の疾患は、様々ながん(腫瘍)を含み、腺がん、肺がん、結腸がん、大腸がん、乳がん、卵巣がん、子宮頸がん、胃がん、胆管がん、胆嚢がん、食道がん、膵臓がん、前立腺がんなどの固形腫瘍と血液腫瘍、およびB細胞リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、急性リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病、ヘアリ細胞白血病、急性骨髄性白血病などの白血病とリンパ腫を含む。好ましくは、前記疾患は、本明細書に記載の機能的ドメイン(本明細書に記載の抗体またはサイトカイン)の二量化または多量化からメリットを得る腫瘍である。
【0078】
本明細書において、用語「患者」、「個体」、「対象」は交換して使用できるが、任意の生体を含み、好ましくは動物であり、より好ましくは哺乳動物(例えば、ラット、マウス、イヌ、ネコ、ウサギなど)であり、最も好ましくはヒトである。「治療」は、対象に対して本明細書に記載される治療方案を採用して、少なくとも1つの陽性治療効果(例えば、がん細胞数減少、腫瘍体積減少、がん細胞の周辺器官への浸潤速度低下または腫瘍転移または腫瘍成長の速度低下)を得ることである。通常、医薬組成物に細胞が治療有効量で含まれる。治療有効量とは、対象における疾患または病状の治療、予防、軽減および/または緩和が実現できる用量である。患者の年齢、性別、罹患病状およびその重症度、患者のその他の体調などの要素によって治療有効量が決定される。本明細書において、通常、被験者または患者が哺乳動物であり、特に、ヒトである。
【0079】
採用しようとする本発明の融合タンパク質または免疫細胞を含む医薬組成物の治療有効量は、例えば、治療程度および目標によって決定される。当業者に理解されるように、患者を効果的に治療するための治療案は、部分的に、送達される分子、適応症、投与経路および患者の大きさ(体重、体表または器官の大きさ)および/または状況(年齢、一般健康状況、療法の被験者の抗がん反応を活性化させる能力)によって変化する。幾つかの実施形態において、最適の治療効果を得るために、臨床医が投薬量を設定して、投与経路を改変してもよい。
【0080】
投与頻度は使用される調製物における免疫細胞の薬物動態パラメータによって決定される。代表的には、臨床医は組成物を所望の効果を実現する投薬量まで投与する。従って、組成物は1回用量として投与してもよく、或いは2回以上の用量(必要とされる分子を同じ量で含んでもよくまたは含まなくてもよい)として経時的に、または移植デバイスまたはカテーテルを介して連続注入として投与してもよい。
【0081】
医薬組成物の投与経路は、通常、持続放出システムによるかまたは移植デバイスによる、例えば、経口、静脈内、腹膜内、脳内(脳実質内)、脳室内、筋肉内、眼内、動脈内、門脈または病巣内の経路による注射を通じた公知の方法に従う。
【0082】
本発明の幾つかの実施形態において、本発明の融合タンパク質、細胞または医薬組成物は、本分野の既知のその他の療法と併用してもよい。前記療法は、化学療法、放射線治療、免疫抑制剤を含むが、これらに限定されない。例えば、本分野における周知の腫瘍抗原により仲介される疾患を治療するための放射線治療または化学療法製剤と併用して治療してもよい。
【0083】
本発明は、本明細書の何れか1つの実施形態に記載の融合タンパク質、核酸分子、核酸コンストラクト、細胞および医薬組成物の任意1種または複数種の、抗腫瘍薬物の製造における応用をさらに提供する。本明細書において、「抗腫瘍」とは、腫瘍体積の減少、腫瘍細胞数の減少、転移数の減少、期待寿命の増加またはがんに関する様々な生理症状の改善と示す生物学的効果である。
【0084】
本発明について、下記実験実施例を参考にして、更に詳しく記述した。これらの実施例は、説明するために提示されるものであり、特に断りのない限り、限定的なものではない。そのため、本発明は、下記実施例に限定されるものではなく、本明細書により提供される示唆によって明らかになる任意および全ての変化を含むものである。実施例に使用される方法と試薬は、特に断りのない限り、本分野における通常の方法と試薬である。
【実施例
【0085】
実施例
抗体および機器
OKT3はThermoFisherより購入、製品番号:14-0037-82
CD28抗体はThermoFisherより購入、製品番号:14-0281-82
エレクトロポレーターLonza Nucleofector 2bはLonzaより購入、製品番号:AAB-1001
【0086】
実施例1、CD52リンカーによって定着される膜表在性タンパク質の発現ベクターの構築
CD52リンカーによって定着される膜表在性タンパク質を含む下記コーディング配列の合成:
【0087】
1、IL-7およびCD52リーディングフレームの融合タンパク質アミノ酸配列とコーディング配列:
IL-7-CD52-1:CD52シグナルペプチド-IL-7-CD8細胞外領域-CD52、コーディング核酸配列:SEQ ID NO:1、タンパク質配列:SEQ ID NO:2、
IL-7-CD52-2:CD52シグナルペプチド-IL-7-linker-BCMA細胞外領域-CD52、コーディング核酸配列:SEQ ID NO:3、タンパク質配列:SEQ ID NO:4、
IL-7-CD8TM:CD8シグナルペプチド-IL-7-CD8細胞外領域-CD8膜貫通領域、コーディング核酸配列:SEQ ID NO:5、タンパク質配列:SEQ ID NO:6
【0088】
2、HER2抗体およびCD52リーディングフレームの融合タンパク質アミノ酸配列とコーディング配列:
αHer2-CD52:CD52シグナルペプチド-αHer2-linker-CD52、コーディング核酸配列:SEQ ID NO:7、タンパク質配列SEQ ID NO:8、
【0089】
3、CD137活性化抗体およびCD52リーディングフレームの融合タンパク質アミノ酸配列とコーディング配列:
αCD137-CD52:CD52シグナルペプチド-αCD137-linker-CD52配列:コーディング核酸配列:SEQ ID NO:9、タンパク質配列SEQ ID NO:10
【0090】
PCT特許出願WO2022078310A1明細書の21ページの実施例1に記載される方法で、pKB20ベクターを構築した。当該実施例に記載される方法で、IL-7-CD52-1、IL-7-CD52-2、IL-7-CD8TM、αHer2-GPIおよびαCD137-GPIの発現カセットを含むpKB20ベクターを構築して、それぞれpKB20-IL-7-CD52-1、pKB20-IL-7-CD52-2、pKB20-IL-7-CD8TM、pKB20-αHer2-CD52およびpKB20-αCD137-CD52と名付けた。同実施例に記載される方法で、EGFPを発現するベクターpKB20-EGFPを構築した。得られた組換えプラスミドをE.coli(DH5c)に形質転換し、シークエンシングを行った結果、正確である場合、Qiagen社のプラスミド精製試薬キットでプラスミドを抽出し精製して、各組換え発現ベクターの高品質プラスミドを得た。
【0091】
実施例2、腫瘍抗原NY-ESO-1 TCR発現ベクターの製造
NY-ESO-1抗原ペプチドSLLMWITQC(HLA-A02:01)を識別するTCRのα鎖とβ鎖をコードする遺伝子DNA配列を合成し、両者はP2Aペプチド断片をコードするDNA配列により連結し、連結された配列がSEQ ID NO:11に示される。さらに、SEQ ID NO:11の3’末端に、P2Aペプチド断片をコードするDNAによりEGFPをコードするDNA配列を連結して、得られた配列がSEQ ID NO:12に示される。合成を会社に依頼してSEQ ID NO:12を取得し、PCT特許出願WO2022078310A1明細書の21ページの実施例1に記載される方法で、SEQ ID NO:12を製造されたpKB20ベクターにクローニングし、pKB20-TCRと名付けた。PCT特許出願WO2022078310A1明細書の21ページの実施例1に記載される方法で、PBトランスポザーゼ発現カセットを含まないベクターpKC20を製造して取得した。同実施例に記載される方法で、SEQ ID NO:12を製造されたpKC20ベクターにクローニングし、pKC20-TCRと名付けた。得られた組換えプラスミドをE.coli(DH5c)に形質転換し、シークエンシングを行った結果、正確である場合、Qiagen社のプラスミド精製試薬キットでプラスミドを抽出し精製して、各組換え発現ベクターの高品質プラスミドを得た。
【0092】
実施例3、CD52リンカーによって定着される膜表面IL-7を発現するT細胞の製造および培養
下記工程で実施例1における発現ベクターによりPBMCを電気変換し、CD52リンカーによって定着される膜表面IL-7を発現するT細胞を製造した。使用されるPBMCはAllCells社より購入し、健康成人の末梢血に由来する。
【0093】
1)懸濁細胞を50ml遠心分離チューブに収集して、1200rmpで3min遠心分離する。
【0094】
2)上澄みを捨て、生理食塩水を入れて再懸濁させ、1200rmpで3min遠心分離し、生理食塩水を捨てる。この工程を繰り返して細胞を計数する。
【0095】
3)1.5Ml遠心分離チューブを5つ取り、それぞれ5×10個細胞を入れて、1200rmpで3min遠心分離する。
【0096】
4)上澄みを捨て、電気変換試薬キット(Lonza社より購入)を取り、18μLのsolution I試薬と82μLのsolution II試薬を入れ、第1チューブに5μgのpKB20-IL-7-CD52-1プラスミドを入れ、第2チューブに5μgのpKB20-IL-7-CD52-2プラスミドを入れ、第3チューブに5μgのpKB20-IL-7-CD8TMプラスミドを入れ、第4チューブおよび第5チューブにそれぞれ5μgのpKB20-EGFPプラスミドを入れる。
【0097】
5)遠心分離チューブにプラスミドが混合された細胞懸濁液を電気変換カップに移動し、エレクトロポレーターに入れ、プログラムT020を選択して、エレクトロポレーションを行う。
【0098】
6)試薬キットのマイクロピペットで電気変換された細胞懸濁液を、AIM-V培養液を入れた6ウェルプレートのウェル(2%FBSを含むAIM-V培養液)に移動し、均一に混合して、37℃、5%COインキュベータに置き、4~6時間静置して培養する。さらに、5μg/mLのOKT-3と5μg/mLのCD28抗体を含む混合液で6ウェルプレートの5つのウェルをコーティングし、各ウェルに1mLの混合液を入れ、6ウェルプレートを37℃でインキュベートする。
【0099】
7)6時間後、抗体コーティング混合液を取り除き、PBSで2回洗浄する。電気変換後に37℃、5%COインキュベータで静置して培養した細胞を、OKT-3とCD28抗体でコーティングされた6ウェルプレートに移動して、各ウェルに培養液を3mLまで補充し、pKB20-IL-7-CD52-1、pKB20-IL-7-CD52-2とpKB20-IL-7-CD8TMを電気変換する細胞培養液にIL-2を入れず、pKB20-EGFPを電気変換する2ウェル細胞のうちの1ウェル細胞の培養液にIL-2(pKB20-EGFP-IL-2-)を入れず、もう1つのウェルの細胞の培養液にIL-2を最終濃度が500U/mLとなるように入れて培養し(pKB20-EGFP-IL-2+)、各群細胞の成長状況をそれぞれ観察した。
【0100】
結果は図1図2および図3に示される。図1は、pKB20-IL-7-CD52-2を電気変換するT細胞(IL-7-CD52-2)とpKB20-EGFPを電気変換した後にIL-2を通常通りに入れて培養する(EGFP-IL-2+)T細胞の、顕微鏡における形態である。EGFP-IL-2+群T細胞と比較すれば、IL-7-CD52-2群T細胞の凝集程度がより顕著であり、T細胞成長中の凝集は通常、自身活性化レベルの向上に関連する。図2は、電気変換後に13日間まで培養し、pKB20-IL-7-CD52-1群とpKB20-IL-7-CD52-2群の細胞数量がpKB20-IL-7-CD8TM群より明らかに高く、上記3群の細胞数量がpKB20-EGFP-IL-2+群より明らかに高いことを示している。pKB20-EGFP-IL-2-群は顕著な細胞増殖を示していない。図3は、pKB20-IL-7-CD52-1群、pKB20-IL-7-CD52-2群とpKB20-IL-7-CD8TM群の細胞生存率がほぼ同じく、90%以上であり、pKB20-EGFP-IL-2+群よりやや高いことを示している。pKB20-EGFP-IL-2-群の細胞生存率は、電気変換後に7日間培養してから低下し始め、電気変換後13日間で20%前後まで低下した。図1図3の結果によれば、膜表面に定着されるIL-7が細胞培養液におけるIL-2の代わりにPBMC細胞に対して顕著な活性化と増殖作用を果たすと共に、CD52のGPIによって細胞膜表面に定着されるIL-7がPBMCに対する刺激と増殖効果の向上は通常のポリペプチドである膜貫通型ドメインの膜表面定着効果より優れることが分かる。
【0101】
実施例4、CD52リンカーによって定着される膜表面IL-7を発現する陽性T細胞比率の検出
A、間接法で細胞膜表面に定着されるIL-7発現陽性の細胞比率を検出し、方法は下記の通りである。
【0102】
1)pKB20-IL-7-CD52-1、pKB20-IL-7-CD52-2とpKB20-IL-7-CD8TM群細胞をそれぞれ収集して、細胞ごとに1×10個細胞を収集し、1000rpmで3min遠心分離する。
【0103】
2)上澄みを捨て、生理食塩水をそれぞれ入れ、細胞を再懸濁させて、1000rpmで3min遠心分離する。
【0104】
3)上澄みを捨て、100μL生理食塩水をそれぞれ入れ、細胞を再懸濁させ、各チューブに1μLのビオチン標識を実施した抗IL-7抗体(Biolegendより購入、製品番号:506602)をそれぞれ入れて、4℃で30分間インキュベートする。
【0105】
4)適量の生理食塩水をそれぞれ入れ、1000rpmで3min遠心分離し、2回洗浄して、上澄みを捨てる。
【0106】
5)100μL生理食塩水をそれぞれ入れ、細胞を再懸濁させ、1μLのPE標識を実施したストレプトアビジン(Thermo Fisherより購入、製品番号:S20982)を各チューブにそれぞれ入れ、均一に混合して、4℃で30minインキュベートする。
【0107】
6)適量の生理食塩水をそれぞれ入れ、1000rpmで3min遠心分離し、2回洗浄して、上澄みを捨てる。
【0108】
7)400μL生理食塩水で再懸濁させて、フローサイトメータにより検出する。
【0109】
フローサイトメトリーの結果によれば、pKB20-IL-7-CD52-1、pKB20-IL-7-CD52-2とpKB20-IL-7-CD8TM群細胞の外来遺伝子の発現陽性の細胞比率が30%以上である。
【0110】
B、pKB20-IL-7-CD52-2群細胞の細胞外領域に含まれるBCMA細胞外ドメインをラベルとして、直接法で実施例3により得られたpKB20-IL-7-CD52-2群細胞に対して、フローサイトメータにより外来遺伝子の発現陽性の細胞比率を検出し、方法は下記の通りである。
【0111】
1)pKB20-IL-7-CD52-2群細胞を1×10個収集して、1000rpmで3min遠心分離する。
【0112】
2)上澄みを捨て、生理食塩水をそれぞれ入れ、細胞を再懸濁させて、1000rpmで3min遠心分離する。
【0113】
3)上澄みを捨て、100μL生理食塩水をそれぞれ入れ、細胞を再懸濁させ、各チューブに2μLのBCMAフローサイトメトリー用抗体(Biolegendより購入、製品番号:357504)をそれぞれ入れて、室温で30分間インキュベートする。
【0114】
4)適量の生理食塩水をそれぞれ入れ、1000rpmで3min遠心分離し、2回洗浄して、上澄みを捨てる。
【0115】
5)400μL生理食塩水で再懸濁させて、フローサイトメータにより検出する。
【0116】
結果は図4に示される。pKB20-IL-7-CD52-2群細胞のBCMA+細胞比率が33.62%であり、pKB20-IL-7-CD52-2群細胞の陽性細胞比率が30%以上であった。間接法で検出された結果とほぼ一致している。
【0117】
実施例5、CD52リンカーによって定着される膜表面IL-7を発現するT細胞のIFN-γ分泌検出
実施例3により製造して取得された各群細胞を収穫し、HTRF IFN-γ検出試薬キット(Cisbio Human IFN gamma kit製品番号:62HIFNGPET)により取扱説明書に記載される方法でIFN-γ分泌レベルを検出する。結果は図5に示される。図5は、各群細胞から上澄みに分泌するIFN-γ濃度が25000pg/mLを超えたことを示している。ここで、pKB20-IL-7-CD52-2群細胞のIFN-γ分泌レベルはpKB20-IL-7-CD52-1群とpKB20-IL-7-CD8TM群より高く、pKB20-EGFP-IL-2+群の分泌レベルに相当する。T細胞の表面でのCD52アンカーによる発現がIL-2によるインキュベートと類似するサイトカイン分泌効果を持つことを示している。
【0118】
実施例6、CD52リンカーによって定着される膜表面IL-7を発現するTCR-Tの製造
ヒト活性化T細胞の製造:
5μg/mlの抗CD3抗体と5μg/mlの抗CD28抗体を含むコーティング液により6ウェルプレートを室温で2~4時間コーティングし、コーティング液を吸い取ってから、生理食塩水でウェルプレートを1~3回洗浄し、2%FBSを含むAIM-V培地を入れて使用に備える。ヒト末梢血PBMC(HLA-02:01、ALLCELLSより購入)を37℃水浴で蘇生させ、PBMCを2~4h接着培養した。そのうち、接着していない懸濁細胞はナイーブT細胞である。懸濁細胞を15ml遠心分離チューブに収集して、1200rmpで3min遠心分離し、上澄みを捨て、生理食塩水を入れて、1200rmpで3min遠心分離し、生理食塩水を捨て、この工程を繰り返す。さらに、洗浄されたナイーブT細胞を、用意された培地を入れた抗体コーティングウエルに移動し、37℃、5%COで3~4日培養してから、その後の実験に利用される。
【0119】
NY-ESO-1 TCR-EGFPを発現、およびNY-ESO-1 TCR-EGFP+CD52リンカーによって定着される膜表面IL-7を発現するTCR-T細胞の、電気変換により製造する:
【0120】
1)AIM-V培地を1ウェルあたり2mLで12ウェルプレートの2つのウェルに事前に入れてから、インキュベータに入れて、37℃、5%COで1時間予熱する。
【0121】
2)下記表の1ウェルあたり単回使用量の電気変換液の配合比で2ウェル調製する。
【表1】
【0122】
3)得られた活性化T細胞を取り、2つのEPチューブに入れ、各EPチューブに細胞をそれぞれ5×10個入れて、1200rpmで5min遠心分離し、上澄みを捨ててから、500μL生理食塩水で細胞を再懸濁させ、遠心分離工程を繰り返し、細胞を洗浄して沈殿させる。
【0123】
4)2)で配置された電気変換液系2ウェルのうちの1ウェルに6μgのプラスミドpKB20-TCRを入れて、もう1つのウェルに3μgのpKC20-TCR+3μgのpKB20-IL-7-CD52-2を入れてから、室温で30min以内静置する。
【0124】
5)4)で配置された、プラスミドを含む電気変換液で再懸濁させた2チューブの活性化T細胞から、細胞再懸濁液を1チューブあたり100μLでゆっくりと吸い取り、100μLのLONZA電気変換カップに移動し、電気変換カップをLONZA NucleofectorTM2b電気変換槽に入れて、電気変換プログラムを立ち上げた。電気変換プログラムはT-020を選択する。
【0125】
6)電気変換を完了してから、電気変換カップをゆっくりと取り出し、細胞懸濁液を吸い取り、EPチューブに移動した。予熱されたAIM-V培地を1チューブあたり200μL入れてから、1)における12ウェルプレートの予熱されたAIM-V培地を含むウェルに移動し、37℃、5%CO2で培養した。1h培養してから、最終濃度が5μMとなるように化合物G150(MedChemExpressより購入)を入れた。その後、13日間培養し続け、その間に細胞増殖状況に応じて継代し、13日間後、各電気変換サンプルの細胞数と細胞生存率について検出した。
【0126】
上記方法により製造された外来遺伝子を発現する細胞を、それぞれTCR-T、IL-7-CD52-TCR-Tと名付けた。
【0127】
得られた上記細胞に対して、フローサイトメータ(Beckman Cytoflex)によりEGFP陽性の細胞比率を検出した。TCR-Tに対して、EGFP陽性細胞がNY-ESO-1 TCR遺伝子の発現陽性の細胞だと考えられる。IL-7-CD52-2とTCRをコトランスフェクションした細胞に対して、pKC20ベクターにPBトランスポザーゼの発現カセットを含まないため、EGFP陽性は、TCR-EGFPの成功した統合発現の依存するPBトランスポザーゼが、IL-7-CD52-2遺伝子をコードするpKB20ベクターの発現に由来することを示している。そのため、IL-7-CD52-2とTCRをコトランスフェクションした細胞において、EGFP陽性細胞がIL-7-CD52-2とNY-ESO-1 TCRの二重統合発現だと考えられる。
【0128】
得られたフローサイトメトリー結果は図6に示される。図6の1行目はTCR-Tフローサイトメトリー結果であり、2行目はIL-7-CD52-TCR-Tフローサイトメトリー結果である。図5は、TCR-TにおけるTCR統合発現陽性の細胞の、GFP陽性細胞による反応の比率が27.92%であり、IL-7-CD52-TCR-TにおけるIL-7-CD52-2とTCR二重統合発現陽性の細胞の、GFP陽性細胞による比率が13.48%であることを示している。
【0129】
実施例7、CD52リンカーによって定着される膜表面IL-7を発現するTCR-Tの、標的細胞に対する殺傷
NY-ESO-1発現陽性のHLA-A02:01型黒色腫細胞系A375(アメリカンタイプカルチャーコレクションATCCより購入、Cat.CRL-1619)を選定して標的細胞とし、ACEA社のリアルタイム非標識細胞機能アナライザー(RTCA)で実施例6により製造して取得したTCR-TとIL-7-CD52-TCR-T細胞のインビトロ殺傷活性を検出した。具体的な工程は下記の通りである。
【0130】
(1)ゼロ設定:各ウェルに50μLのDMEMまたは1640培養液を入れ、装置に入れ、step1を選択して、ゼロ設定する。
【0131】
(2)標的細胞プレーティング:黒色腫細胞A375を、1ウェルあたり10個細胞/50μLで検出電極を含むプレートにプレーティングし、細胞が安定的になるまで数分間静置してから、装置に入れ、step2を開始して、細胞を培養する。
【0132】
(3)エフェクター細胞の添加:標的細胞を細胞指数(Cell Index)が1.0に達するように24h培養した後、step2を一時的に停止し、エフェクター細胞を1ウェルあたり50μLで添加する。実施例6における陽性細胞比率に従って、それぞれ1:1、0.5:1といったET比でエフェクター細胞数量を添加し、step3を開始し、80h以上共培養し続けて、細胞の増殖曲線を観察する。
【0133】
結果を図7図8に示す。図7および図8は、ET比1:1および0.5:1の条件で、IL-7-CD52-TCR-Tの標的細胞A375に対する殺傷レベルがTCR-Tより明らかに高く、CD52リンカーによって定着されるIL-7の発現がTCR-T細胞の抗原に対する認識および標的細胞に対する殺傷力を明らかに向上させることを示している。
【0134】
実施例8、CD52リンカーによって定着される膜表面抗HER2抗体を発現する腫瘍浸潤リンパ球の製造およびインビトロ殺傷の検出
乳腺腫瘍組織の腫瘍浸潤リンパ球(TIL)の製造:
切除されたばかりのHER2+乳がん標本を収集し、直ちに無菌条件で処理する。具体的な方法は下記の通りである。乳腺腫瘍標本の周りの正常な組織と壊死部分を除去し、標本の異なる部分から1~2mmサイズの組織ブロックを切り取り、24ウェルプレートの各ウェルにそれぞれ1つ入れる。各ウェルにそれぞれ2mL完全培地(10%FBSを含むAIM-V培地)と3000IU/mLのIL-2を入れる。24ウェルプレートを37℃、5%CO2インキュベータで培養する。培養開始後の5~6日間に全てのウェルに半分の液を交換する。その後、TIL成長状況に応じて、1~2日間おきに半分の液を交換する。ウェル内にTILが一杯になるまで成長し、しかも全ての接着細胞が除かれると、各ウェル内に一杯になるまで成長したTILを収集する。
【0135】
CD52リンカーによって定着される膜表面抗HER2抗体を発現するTILの製造、および腫瘍初代細胞のインビトロ殺傷:
実施例3に記載される方法で、上記製造された乳腺腫瘍TIL細胞に対して、実施例1により製造されたpKB20-αHer2-CD52ベクターを電気変換して、αHer2-CD52-TILを製造して取得した。部分的に同じ乳腺腫瘍組織を取り、単細胞懸濁液に酵素消化してから、実施例7に記載される方法でRTCAアナライザーのウェルをプレーティングし、腫瘍細胞の成長速度に応じて、エフェクター細胞の添加時間を標的細胞プレーティング後の16時間に調整して、TIL群とαHer2-CD52-TIL群に分けて、TIL群のET比を0.5:1に設定し、αHer2-CD52-TIL群をそれぞれ0.5:1、1:1、2:1の3つのET比群に設定して、異なる群別の殺傷効果差異を観察した。
【0136】
結果は図9に示されるように、同じET比(0.5:1)の前提で、αHer2-CD52-TILの初代乳がん細胞に対する殺傷効果が修飾されていないTILより明らかに高い。ET比の向上に伴って、αHer2-CD52-TILの初代乳がん細胞に対する殺傷効果も明らかに向上するため、αHer2-CD52のTIL表面における発現がTILの相応する相同的対合の標的細胞に対する殺傷力を明らかに向上させることを示している。
【0137】
実施例9、CD52リンカーによって定着される膜表面CD137抗体を発現するTCR-Tの製造および標的細胞のインビトロ殺傷
実施例6に記載される方法で、実施例1により製造されたpKB20-αCD137-CD52ベクターとpKC20-TCRベクターをT細胞にコトランスフェクションして、αCD137-CD52-TCR-Tを取得した。使用されるT細胞は実施例6で使用されるT細胞と同じロットである。実施例7に記載される方法で、αCD137-CD52-TCR-Tと実施例6により製造されたTCR-Tを利用して、標的細胞A375に対してRTCA殺傷を検出した。プレーティングしたA375の成長速度に応じて、エフェクター細胞の添加時間を標的細胞プレーティング後の16時間に調整して、TCR-T群とαCD137-CD52-TCR-T群に分けて、TCR-T群のET比を0.5:1に設定し、αCD137-CD52-TCR-T群をそれぞれ0.5:1、1:1、2:1の3つのET比群に設定して、異なる群別の殺傷効果差異を観察した。
【0138】
結果は図10に示されるように、同じET比(0.5:1)の前提で、αCD137-CD52-TCR-Tの標的細胞A375に対する殺傷効果が修飾していないTCR-Tより明らかに高い。ET比の向上に伴って、αCD137-CD52-TCR-TのA375細胞に対する殺傷効果も明らかに向上するため、αCD137-CD52のTCR-T表面における発現がTCR-Tの標的細胞に対する殺傷力を明らかに向上させることを示している。
【0139】
実施例10、その他のGPIタンパク質によって定着される膜表面IL-7の発現ベクターの構築
下記IL-7-GPIアンカー型タンパク質の融合タンパク質をそれぞれ構築する
【0140】
IL-7-CD48:CD48シグナルペプチド-IL-7-CD8細胞外領域-CD48 GPIシグナル配列、そのコーディング核酸配列:SEQ ID NO:13、タンパク質配列:SEQ ID NO:14
【0141】
IL-7-CD55:CD55シグナルペプチド-IL-7-CD8細胞外領域-CD55 GPIシグナル配列、そのコーディング核酸配列:SEQ ID NO:15、タンパク質配列:SEQ ID NO:16
【0142】
IL-7-ALPP:ALPPシグナルペプチド-IL-7-CD8細胞外領域- ALPP GPIシグナル配列、そのコーディング核酸配列:SEQ ID NO:17、タンパク質配列:SEQ ID NO:18
【0143】
IL-7-CD90:CD90シグナルペプチド-IL-7-CD8細胞外領域- CD90 GPIシグナル配列、そのコーディング核酸配列:SEQ ID NO:19、タンパク質配列:SEQ ID NO:20
【0144】
そのうち、CD48 GPIシグナル配列、CD55 GPIシグナル配列、ALPP GPIシグナル配列とCD90 GPIシグナル配列のアミノ酸配列はそれぞれCN110709416A明細書の14ページに記載されるSEQ ID NO:15~18に示される。
【0145】
実施例1に記載される方法で、IL-7-CD48、IL-7-CD55、IL-7-ALPPおよびIL-7-CD90の発現カセットを含むpKB20ベクターを構築して、それぞれpKB20-IL-7-CD48、pKB20-IL-7-CD55、pKB20-IL-7-ALPPおよびpKB20-IL-7-CD90と名付けた。得られた組換えプラスミドをE.coli(DH5c)に形質転換し、シークエンシングを行った結果、正確である場合、Qiagen社のプラスミド精製試薬キットでプラスミドを抽出し精製して、各組換え発現ベクターの高品質プラスミドを得た。
【0146】
実施例11、その他のGPIタンパク質によって定着される膜表面IL-7を発現するT細胞の製造および培養
実施例3に記載される方法で、pKB20-IL-7-CD48、pKB20-IL-7-CD55、pKB20-IL-7-ALPPおよびpKB20-IL-7-CD90を利用して、健康ヒトのドナーに由来するPBMCを電気変換し、電気変換後の細胞培養液にIL-2を入れず、IL-7-CD48、IL-7-CD55、IL-7-ALPPおよびIL-7-CD90を発現するT細胞を製造した。各群細胞の成長状況をそれぞれ観察して、実施例3により製造されたIL-7-CD52を発現するT細胞と比較し、IL-7-CD8TMを発現するT細胞を対照群とする。
【0147】
結果を図11図12に示す。図11は、IL-7-CD90を発現するT細胞の増殖レベルがIL-7-CD8TMを発現する対照群とほぼ相当する。IL-7-CD48、IL-7-CD55、IL-7-ALPPを発現するT細胞の増殖レベルはIL-7-CD8TMの対照群より明らかに高い。IL-7-CD52-2を発現するT細胞の増殖レベルはその他の各群より高い。図12は、各群の異なる膜表面IL-7ベクターを電気変換したT細胞の生存率は異なる時点でもほぼ同じであることを示している。
【0148】
上記結果によれば、GPIタンパク質により定着される膜表面IL-7を発現するT細胞は、T細胞の活性化および増殖レベルをそれぞれ違う程度で向上させ、CD52により定着される膜表面IL-7を発現するT細胞の活性化および増殖の向上程度は、CD48、CD55、ALPPおよびCD90により定着される膜表面IL-7を発現するT細胞より、明らかに高い。
【0149】
実施例12、その他のGPIタンパク質により定着される膜表面IL-7を発現するTCR-Tの製造およびインビトロ殺傷の検出
実施例6に記載される方法で、pKC20-TCR+pKB20-IL-7-CD48、pKC20-TCR+pKB20-IL-7-CD55、pKC20-TCR+pKB20-IL-7-ALPPおよびpKC20-TCR+pKB20-IL-7-CD90をそれぞれコトランスフェクションし、IL-7-CD48-TCR-T、IL-7-CD55-TCR-T、IL-7-ALPP-TCR-TおよびIL-7-CD90-TCR-Tを製造して取得し、フローサイトメトリーによりIL-7-CD48-TCR-T、IL-7-CD55-TCR-T、IL-7-ALPP-TCR-TおよびIL-7-CD90-TCR-Tを検出した陽性細胞比率はそれぞれ15.09%、16.74%、12.53%および17.66%である。
【0150】
実施例7に記載される方法で、A375細胞系を選定して標的細胞とし、IL-7-CD48-TCR-T、IL-7-CD55-TCR-T、IL-7-ALPP-TCR-T、IL-7-CD90-TCR-Tおよび実施例6により製造されたTCR-T、IL-7-CD52-TCR-Tをエフェクター細胞とし、生細胞でET比0.5:1を計算して、殺傷を検出した。エフェクター細胞を標的細胞と90時間以上共培養して、細胞増殖の曲線を観察した。
【0151】
結果は図13に示される。ET比0.5:1の条件で、各群の異なるGPIタンパク質により定着される膜表面IL-7を発現するTCR-Tの、標的細胞A375に対する殺傷効果は、膜表面IL-7を発現しないTCR-Tより明らかに優れる。各群のGPIにより定着される膜表面IL-7を発現するTCR-Tにおいて、IL-7-CD52-2を発現するIL-7-CD52-TCR-Tの、標的細胞に対する殺傷効果は、IL-7-CD48-TCR-T、IL-7-CD55-TCR-T、IL-7-ALPP-TCR-TおよびIL-7-CD90-TCR-Tより明らかに優れる。これにより、GPIにより定着される膜表面IL-7を発現することで、TCR-Tの標的細胞に対する殺傷効果をより効果的に向上できるが、CD52により定着される膜表面IL-7の発現による、TCR-Tの標的細胞に対する殺傷効果の向上は、その他のGPIタンパク質より顕著である。
【0152】
実施例13、CD52リンカーによって定着される膜表面IL-7を発現するTCR-Tの、体内腫瘍組織に対する殺傷効果
実験動物
免疫不全B-NDGマウス(Biocytogenより購入)を選定して、CDXモデル構築用実験動物とする。
【0153】
実験設計と群分け:下記表2に示される
【表2】
【0154】
実験動物に投与する細胞は、実施例6により製造されたTCR-TおよびIL-7-CD52-TCR-Tである。尾静脈注射投与前に細胞を遠心分離してPBSに再懸濁させ、細胞密度が1×10/mLであるPBS細胞懸濁液を調製する。
【0155】
動物飼養
B-NDGマウスを必要な用量で購入した後、SPF級実験動物飼育室に飼養する。適応期間が7~10日間である。
【0156】
環境:マウスを動物飼育室の透明な樹脂製檻に入れる。檻の床材は高圧滅菌が行われた木屑やとうもろこしの芯であり、定期的に交換する。動物飼育室に高効率エアフィルターを配置して、温度を20~26℃(68~79°F)に保持し、相対湿度が40~70%である。観測し続けると共に、温度と湿度を記録する。照明条件は1日で12時間蛍光灯照射と12時間照明無しである。
【0157】
餌と水:実験用マウスは専門のマウス餌(放射線により消毒済み、Shanghai SLAC Laboratory Animal Co.,Ltd、中国)を無限量で摂取し、任意の時間で滅菌に近い清潔な水を支障なく飲用してもよい。
【0158】
腫瘍細胞の接種
各マウスの右側皮下にA375-Luc2腫瘍細胞(アメリカATCCより購入、Cat.CRL-1619-LUC2)をマウス1匹あたり2×10細胞で接種する。腫瘍の成長を促進するために、接種は0.1mLの50%マトリックスを含む培地で行う。
【0159】
動物の群分けと投与
腫瘍体積が~50mm程度に達した場合、18匹の動物を腫瘍体積でランダムに群分けして(n=6)、全ての群がベースラインにおいて比較可能性を有するようにする。群分け当日をP0とする。実験期間において動物体重と腫瘍体積を週2回測定し、毎日、動物の臨床症状を観察する。腫瘍体積がmmで示す。計算式はV=0.5×a×bである。但し、aとbはそれぞれ腫瘍の長径と短径である。実験終了の当日に各群のマウスから末梢血を採血し、ヒトCD45フローサイトメトリー用抗体(Biolegendより購入、Cat.304036)で染色した後、フローサイトメータによる検出を行う。同日に各群のマウスにルシフェラーゼの基質フルオレセインを注射することで反応させてから、小動物生体イメージング観測装置により生体蛍光イメージングを行い、各群のマウスの腫瘍負荷の大きさを観察して、蛍光値を記録した。
【0160】
結果
実験結果は図14~17に示される。群同士の腫瘍体積の差、腫瘍蛍光値の差異およびリンパ球の血液密度の差異は、対応のない両側t検定により統計的分析を行う。:p<0.05、**:p<0.01、***:p<0.001。図14は、投与後21日目まで、PBS対照群を注射する担腫瘍マウスに比べて、TCR-T細胞投与群のマウス腫瘍体積の増大が顕著に抑制されるが、TCR-T投与群に比べて、IL-7-CD52-2 TCR-T投与群の腫瘍体積がさらに顕著に小さくなる。図15は腫瘍蛍光値および腫瘍体積のトレンドが一致することを示している。投与21日間後にTCR-T投与群の腫瘍蛍光値はPBS群より明らかに低い。IL-7-CD52-2 TCR-T投与群の蛍光値が0に近い。図16はIL-7-CD52-2 TCR-T投与群のマウス体内にA375-Luc2腫瘍細胞の蛍光が殆ど見えなくなることを示している。図17は、投与後21日目に、TCR-T投与群のマウス体内のヒトリンパ球密度がPBS投与群よりある程度で増加するが、IL-7-CD52-2 TCR-T投与群のマウス体内の末梢血におけるヒトリンパ球密度がTCR-T群より急に増加することを示している。
【0161】
上記結果によれば、IL-7-CD52-2の発現は、TCR-T細胞体内において腫瘍に対する殺傷効果が明らかに向上した。
【0162】
本発明の具体的な実施形態について詳しく記述したにも関わらず、当業者は、開示された全ての教示に基づき、その詳細内容について様々な修正と置換を実施してもよく、これらの変更がすべて本発明の保護範囲にあると理解すべきである。本発明の全範囲は、添付される請求項およびその任意の同等物より提示される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
【配列表】
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【国際調査報告】