(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-31
(54)【発明の名称】開放セル孔金属スポンジ構造を有する三次元金属成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/38 20060101AFI20241024BHJP
H01M 4/42 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/42
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024529503
(86)(22)【出願日】2022-11-11
(85)【翻訳文提出日】2024-07-03
(86)【国際出願番号】 EP2022081588
(87)【国際公開番号】W WO2023088797
(87)【国際公開日】2023-05-25
(32)【優先日】2021-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524184932
【氏名又は名称】グリッロ-ヴェルケ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】GRILLO-WERKE AG
【住所又は居所原語表記】Weseler Str. 1, 47169 Duisburg Deutschland
(74)【代理人】
【識別番号】110002251
【氏名又は名称】弁理士法人眞久特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヘスナウイ,カトリン
(72)【発明者】
【氏名】ヴィスニエフスキ,ユルゲン
(72)【発明者】
【氏名】ゲールケ,ペトラ
(72)【発明者】
【氏名】メルツァー,アーミン
(72)【発明者】
【氏名】プレンゲル,フランク
(72)【発明者】
【氏名】ジルケ,ミュラー
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA19
5H050BA02
5H050BA11
5H050CB11
5H050CB13
5H050HA01
5H050HA06
5H050HA08
5H050HA09
5H050HA15
(57)【要約】
【要約】
本発明は、亜鉛、スズ、鉛、インジウム、アルミニウム、マグネシウム、若しくはビスマス、又はこれらいずれかの金属の合金から開放セル孔金属成形体を製造する方法、及びそれにより得られた前記金属成形体のアノードとしての使用に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程:
a) 溶融された金属を用いる工程と、
b) 第一開口部と第二開口部とを有し、内腔に向く前記第一開口部がその下端を成し、前記内腔に向く前記第二開口部がその上端を成す三次元鋳造鋳型を用いる工程と、
c) 前記鋳造鋳型に、前記金属の融点において粒状の空隙形成剤を充填する工程と、
d) 前記溶融された金属を前記鋳造鋳型の前記第一開口部と接触させる工程と、
e) 前記鋳造鋳型の前記第一開口部と前記第二開口部との間に圧力差を与え、それにより前記溶融された金属を前記鋳造鋳型の内部に流入させる工程と、続いて、
f) 前記溶融された金属を前記鋳造鋳型の内部で凝固させる工程
とを含み、一次電池、二次電池、及び全固体電池におけるアノードとしての使用のための三次元金属成形部材の製造方法であって、開放セル孔による金属スポンジ構造を有し、前記金属が、亜鉛、スズ、鉛、インジウム、アルミニウム、マグネシウム、若しくはビスマス、又はこれらいずれかの金属の合金から選択されるものであることを特徴とする三次元金属成形部材の製造方法。
【請求項2】
更に、
g) 前記三次元金属成形部材から前記空隙形成剤を完全に又は部分的に除去する工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の三次元金属成形部材の製造方法。
【請求項3】
前記金属が亜鉛又は亜鉛合金であることを特徴とする請求項1又は2に記載の三次元金属成形部材の製造方法。
【請求項4】
工程e)において、陰圧にするものであり、該陰圧が、好ましくは50~900mbar、より好ましくは250~750mbar、更に好ましくは400~600mbarの範囲に設定されるものであることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の三次元金属成形部材の製造方法。
【請求項5】
工程e)において、陽圧にするものであり、該陽圧が、好ましくは20mbar~10barの範囲に設定されるものであることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の三次元金属成形部材の製造方法。
【請求項6】
前記空隙形成剤が、塩、好ましくは無機塩であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の三次元金属成形部材の製造方法。
【請求項7】
凝固後の前記金属成形部材の細孔の径が0.01~20mm、好ましくは0.04~18mm、より好ましくは0.06~16mm、更に好ましくは0.1~14mmであることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の三次元金属成形部材の製造方法。
【請求項8】
前記金属成形部材の空隙率が10~90体積%、好ましくは50~75体積%、より好ましくは60~70体積%であることを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の三次元金属成形部材の製造方法。
【請求項9】
亜鉛又は亜鉛の比率が98重量%の亜鉛合金製である前記金属成形部材の密度が0.7~6.3g/cm
3であることを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載の三次元金属成形部材の製造方法。
【請求項10】
工程d)における前記接触が、前記第一開口部が成す前記下端ごと前記鋳造鋳型を前記溶融された金属中に浸漬するものである請求項1~9のいずれかに記載の三次元金属成形部材の製造方法。
【請求項11】
前記鋳造鋳型を、その高さの10~35%まで前記溶融された金属中に浸漬するものであることを特徴とする請求項10に記載の三次元金属成形部材の製造方法。
【請求項12】
結合剤を使用しないことを特徴とする請求項1~11のいずれかに記載の三次元金属成形部材の製造方法。
【請求項13】
請求項1~12のいずれかに記載の方法により得られる金属成形部材の一次電池、二次電池、又は全固体電池のアノードとしての使用。
【請求項14】
請求項1~12のいずれかに記載の方法により得られる金属成形部材の鋼及び鋼鉄強化コンクリートのカソード腐食防止用のアノードとしての使用。
【請求項15】
前記金属成形部材が亜鉛又は亜鉛合金からなるものであることを特徴とする請求項13又は14に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛、スズ、鉛、インジウム、アルミニウム、マグネシウム、ビスマス、又はこれらいずれかの金属の適切な合金製の開放セル孔構造を有する金属成形部材の製造方法、それにより製造された前記金属成形部材、及びその使用、特に、電池、充電式電池、及び全固体電池におけるアノードとしての使用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電池、特に充電式電池は、いわゆるエネルギー循環において重要な役割を果たしている。充電式電池の応用は、据置型畜電池と電力ネットワーク安定化畜電システム(エネルギー畜電システム)の両面で検討されている。エネルギー畜電システムは、家庭用分野でも、特に太陽エネルギーの畜電のために採用されているが、車両用分野や民生用分野でもますます採用されるようになっている。
【0003】
多孔質金属成形部材を用いた充電式電池は、ニッケル水素二次電池、鉛蓄電池、更にはリチウムイオン充電式電池の代替としての大きな可能性を有している。最も普及し、最も一般的に知られているのは、民生用分野ではリチウムイオン充電式電池であり、車両用分野では鉛蓄電池である。
【0004】
しかし、リチウムの採掘に高レベルの環境汚染を伴うことが多いため、特にリチウムを含む充電式電池(又は二次電池)は、ますます批判の対象となりつつある。更に、資源には限りがあるが、ニッケル水素二次電池にはセリウムやランタンなどの希土類元素が使用されている。
【0005】
近年、亜鉛は、一次電池及び二次電池に用いる代替材料として重要性を増してきている。例えば、亜鉛を主剤とするスポンジ構造のアノードは、鉛製アノードに比べると密度の点でかなり有利である。亜鉛を電池材料として採用した場合、たとえ量産したとしても原料不足となる心配がない。更に、レアメタル類や希土類元素を使用せず、リサイクル可能なため、亜鉛の使用は持続可能性が高い。更に、亜鉛電極は一次電池の分野でも使用することができるため、高い潜在能力を持っている。
【0006】
亜鉛電池には、例えば、リチウムイオン二次電池におけるような安全性(可燃性成分に由来するリスク)についての懸念がない。亜鉛電池は、最も一般的には水性電解質を含んでおり、従って不燃性である。
【0007】
(Ni/Zn電池;Zn/空気電池;Zn/Ag電池;Zn/Mn電池;又はZn/臭素電池のような)電池用として、亜鉛電極は、通常、粉末から製造される(非特許文献1)。具体的には、亜鉛粉末はプレスされるか、あるいは添加剤と共に混合された後に、例えばカレンダー法によってプレスされる(非特許文献2)。別法として焼結法により製造される場合もある(特許文献1)。
【0008】
亜鉛充電池、即ち、亜鉛製の電極、特に亜鉛製のアノードを備えた充電式電池が技術的に実現可能かどうかの必須条件の一つは、基本的に高出力の電池としてサイクル安定性を有するかどうかである。従来の亜鉛電極には、充電/放電の過程で発生する構造変化に起因する問題があった。
【0009】
その原因としては、「デンドライト成長」やいわゆる「形状変化効果」などが知られている。「デンドライト成長」とは、充電の過程で亜鉛電極上に長い結晶構造が成長することを意味し、それが内部短絡を引き起こして電池の故障につながる場合がある。「形状変化効果」とは、電流の分布が不均一であったり重力の効果によって引き起こされる、電極下部領域での局所的な亜鉛の析出を意味する。この電極の形状変化もまた最終的に内部短絡を引き起こし、電池の故障につながる場合がある。
【0010】
前記文献によれば、電池の故障を回避するための対策として電極を構造化することが既に知られている(非特許文献1)。アノード構造を三次元化することによって、構造上の欠陥が回避され、充放電能が大きく改善される。三次元の電極構造の作製は、電池粉末を用いて検討され、亜鉛の多孔質構造体は湿式の製法によって作製されている(非特許文献3)。
【0011】
上記製造方法の特性として、このような構造の細孔径と細孔の構造とは制約されている。この構造は基本的に使用する粉末の原材料によって特徴づけられ、またその多孔質構造を保持するために多くの場合、結合剤を使用する必要がある。そのようにして製造された構造は一貫して金属のみによる構造ではないという欠点があり、そのため、充電の過程で、電荷が不均一に散逸し、亜鉛が局所的に析出する可能性がある(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第3663297A号公報
【特許文献2】ドイツ特許第60014465T2号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Trueb & Ruetschi、1998、Batteries and Accumulators 、Springer publishers
【非特許文献2】Birke & Schiemann, 2013, Akkumulatore Vergangenheit, Gegenwart und Zukunft Energiespeicher.Munich: Herbert Utz Verlag GmbH
【非特許文献3】Joseph F. Parker, C.N. (April 28, 2017). Rechargeable nickel-3D zinc batteries: An energy-dense, safer alternative to lithium-ion. Science
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従って、前記従来技術の欠点を回避する新規な構造体又はその製造方法が必要とされており、特に、多孔性を可能とする製造方法が必要とされている。それと同時に、得られる細孔の径は、後に成形される成形部材自体の大きさとは関係なく、可能な限り広い範囲にわたって設定することを可能とすべきである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
驚くべきことに、圧力差法によって、開放セル孔構造を有する三次元成形部材が得られることが見出された。本出願において使用する「開放セル孔」構造とは、成形部材がスポンジ状の形態である、即ち、開放された金属スポンジ構造を有することを意味する。「開放セル孔」は、前記金属スポンジ構造が前記金属以外の材料で充填されているかどうかとは無関係に、独立して、前記金属の前記構造のみに関するものである。このような成形部材はアノードとして、特に一次電池又は二次電池のアノードとして、使用することができる。
【0016】
第1の実施形態において、本発明の目的は、下記の工程:
a) 溶融された金属を用いる工程と、
b) 第一開口部と第二開口部とを有し、内腔に向く前記第一開口部がその下端を成し、前記内腔に向く前記第二開口部がその上端を成す三次元鋳造鋳型を用いる工程と、
c) 前記鋳造鋳型に、前記金属の融点において固体粒状の空隙形成剤を充填する工程と、
d) 前記溶融された金属を前記鋳造鋳型の前記第一開口部と接触させる工程と、
e) 前記鋳造鋳型の前記第一開口部と前記第二開口部との間に圧力差を与え、それにより前記溶融された金属を前記鋳造鋳型の内部に流入させる工程と、続いて、
f) 前記溶融された金属を前記鋳造鋳型の内部で凝固させる工程
とを含み、アノード、特に一次電池、二次電池、及び全固体電池におけるアノードとしての使用のための三次元開放セル孔金属成形部材の製造方法であって、前記金属が、亜鉛、スズ、鉛、インジウム、アルミニウム、マグネシウム、若しくはビスマス、又はこれらいずれかの金属の合金から選択されるものであることを特徴とする三次元開放セル孔金属成形部材の製造方法によって達成される。
【0017】
本発明の製造方法によって、開放セル孔による金属スポンジ構造を有する金属成形部材を製造することができる。「開放セル孔」は、前記金属スポンジの前記構造自体に関するものであって、その空隙又は細孔が前記金属以外の材料で充填されているかどうかとは独立して無関係である。
【0018】
本発明によれば、この製造方法は、更に、
g) 前記三次元成形部材から前記空隙形成剤を除去する工程を含んでいてもよい。
【0019】
この空隙形成剤の前記除去は、完全に行うこともできるし、部分的に行うこともできる。本発明によれば、前記空隙形成剤を除去せずに、充填された金属スポンジ構造内にプロセス材料としてそのまま残しておくこともできる。
【0020】
このように、好ましい実施形態では、本発明の製造方法は以下の工程:
a) 溶融された金属を用いる工程と、
b) 第一開口部と第二開口部とを有し、内腔に向く前記第一開口部がその下端を成し、前記内腔に向く前記第二開口部がその上端を成す三次元鋳造鋳型を用いる工程と、
c) 前記鋳造鋳型に、前記金属の融点において固体粒状の空隙形成剤を充填する工程と、
d) 前記溶融された金属を前記鋳造鋳型の前記第一開口部と接触させる工程と、
e) 前記鋳造鋳型の前記第一開口部と前記第二開口部との間に圧力差を与え、それにより前記溶融された金属を前記鋳造鋳型の内部に流入させる工程と、続いて、
f) 前記溶融された金属を前記鋳造鋳型の内部で凝固させる工程と、更に、
g) 前記三次元金属成形部材から前記空隙形成剤を部分的に除去する工程
を含むことができる。
【0021】
特に好ましくは、本発明の製造方法は以下の工程:
a) 溶融された金属を用いる工程と、
b) 第一開口部と第二開口部とを有し、内腔に向く前記第一開口部がその下端を成し、前記内腔に向く前記第二開口部がその上端を成す三次元鋳造鋳型を用いる工程と、
c) 前記鋳造鋳型に、前記金属の融点において固体粒状の空隙形成剤を充填する工程と、
d) 前記溶融された金属を前記鋳造鋳型の前記第一開口部と接触させる工程と、
e) 前記鋳造鋳型の前記第一開口部と前記第二開口部との間に圧力差を与え、それにより前記溶融された金属を前記鋳造鋳型の内部に流入させる工程と、続いて、
f) 前記溶融された金属を前記鋳造鋳型の内部で凝固させる工程と、更に、
g) 前記三次元金属成形部材から前記空隙形成剤を完全に除去する工程
を含むものである。
【0022】
本発明による製造方法の工程f)に従って前記溶融された金属を凝固させた後、前記金属成形部材を前記鋳造鋳型から取り外すことができる。しかし、本発明によれば、前記金属成型部材をそのまま前記鋳造鋳型内に残すことも可能であるし、必要に応じて、前記金属成型部材を前記鋳造鋳型内に残したまま、その金属成型部材から前記空隙形成剤を前記鋳造鋳型内で除去することもできる。更にまた、本発明によれば、前記金属成形部材から前記空隙形成剤を前記鋳造鋳型の外部へ完全に又は部分的に除去することもできる。
【発明の効果】
【0023】
更なる実施形態では、本発明の目的は、本発明の製造方法によって得られた開放セル孔によるスポンジ構造を有する金属成形部材によって達成される。
【0024】
更に別の実施形態では、本発明の目的は、開放セル孔によるスポンジ構造を有する前記金属成形部材のアノードとしての使用、特に一次電池、二次電池、又は全固体電池におけるアノードとしての使用によって達成される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は本発明の工程を模式的に示すものである。
【
図2】
図2は本発明の製造方法によって製造された構造体の細孔径及び分布を有する成形部材の断面を示すものである。
【
図3】
図3は本発明の製造方法によって製造された構造体の細孔径及び分布を有する成形部材の断面を示すものである。
【
図4】
図4は構造体の比表面積を金属組織学的に決定するための画像を示すものである。
【
図5】
図5は試験用二次電池の充電/放電曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明の実施形態及び好適な設定について更に詳細に説明する。以下に説明されている特徴は任意に組み合わせることができ、たとえ個別の実施形態についてのみ示されている場合であっても、別途明示的に記載されていない限り、全ての実施形態に適用されるものである。
【0027】
本発明の製造方法によれば、機能的な空隙形成剤を用いた精錬冶金法によって、開放セル孔による金属スポンジ構造を有する金属成形部材を製造することができる。前記金属スポンジ構造を形成する前記金属としては、電池合金であってもよく、即ち、一次電池又は二次電池の電極に用いられる金属及び合金を使用することができる。本発明によれば、これらの金属及び合金には、亜鉛、スズ、鉛、インジウム、アルミニウム、マグネシウム、ビスマス、又はこれらいずれかの金属の適切な合金が挙げられる。
【0028】
前記機能的な空隙形成剤は、対応する金属又は合金の融点において固体の粒状である。前記粒、即ち、個々の粒子の径及びその形状によって、製造される前記金属成形部材の空隙率が決定される。従って、前記空隙形成剤について、異なる径と形状とを有する粒、及びその統計的分布を適宜選択することによって、得られる三次元構造を自由に設定することができる。
【0029】
本発明によれば、機能的な空隙形成剤として、塩又は酸化物、好ましくは塩、より好ましくは無機塩が使用される。どのような塩を選択するかは、一方で、前記溶融された金属を凝固させた後にその塩を除去するかどうかに依存する。他方、後述の前記成形部材の望ましい構造が、前記空隙形成剤の選択に影響を与える要因となる。具体的には、塩化ナトリウム、フッ化カリウム、塩化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化リチウム、酸化鉛(IV)、酸化亜鉛、若しくは硫酸亜鉛、又はこれら化合物の2種若しくは3種以上の混合物を空隙形成剤として使用することができる。
【0030】
好ましい実施形態では、前記粒は結合剤を含まない。従って、本発明によれば、特定の前処理を施すことなく前記粒を前記鋳造鋳型内に導入することができる。それにより、前記金属成形部材の製造後に結合剤を除去する必要がなく、結合剤によって起こり得る副反応を考慮する必要もない。
【0031】
本発明の製造方法では、液状の前記溶融された金属を重力に逆らって前記鋳造鋳型の底部から頂部に侵入させることができ、そうすると、結合剤の添加を省略することができる。仮に、前記溶融された金属を、空隙形成剤を充填した鋳造鋳型の上方から加えると、前記空隙形成剤が頂部に浮き上がってしまう。そうすると、その空隙形成剤によってもたらされるはずであった当初想定していたスポンジ構造はもはや存在せず、想定していた前記構造を作り出すのはほぼ不可能である。これを回避するため、前記空隙形成剤が頂部に浮き上がるのを防ぐ結合剤が使用される場合がある。ところが、それでは、前記空隙形成剤である化合物とその粒子間の経路が、前記結合剤によって充填されてしまうため、得られる前記金属成形部材の正確な構造を予測することが困難になってしまう。更に、前記結合剤は、後の用途へ適用する際の不都合にならないように選択される必要がある。先行技術には多数の適切な結合剤が開示されているものの、本発明の製造方法によって初めて、結合剤を除くことが可能となったのである。従って、好ましい実施形態では、本発明による前記空隙形成剤に結合剤は含まれない。
【0032】
本発明による製造方法の一実施形態では、本発明の製造方法は、前記三次元金属成形部材から前記空隙形成剤を完全に又は部分的に除去する工程g)を含む。この工程は、好ましくは、前記空隙形成剤をすすぎによって除去することによって施される。また、別の好ましい実施形態では、前記空隙形成剤は、プロセス材料として前記三次元金属成形部材のネットワーク構造内に残存していてもよい。
【0033】
この様に、本発明の製造方法により、開放セル孔による金属スポンジ構造を有する金属成形部材を提供することができる。前記空隙形成剤は粒の形態で存在し、充填タイプとして前記三次元鋳造鋳型の中に導入され、この粒子間に空隙が形成される。その後、圧力差を与えることによって、これらの空隙が前記溶融された金属である液体金属によって充填される。前記液体金属を凝固させることによって、前記機能的な空隙形成剤を含んだ開放セル孔による金属スポンジ構造である三次元構造体が得られる。本発明に従えば、この機能的な空隙形成剤は、完全に又は部分的に除去することができ、あるいは前記成形部材内に残存させることもできる。
【0034】
もし、凝固した前記金属成形部材から前記空隙形成剤を除去しようとする場合には、前記空隙形成剤として溶媒に可溶な塩を選択することが好ましい。特に好適な溶媒としては、水、アルコール、酸又はアルカリ、エタノール、メタノール、ジエチルエーテル、又はテトラヒドロフランなどが挙げられる。特に好ましい実施形態では、前記塩として水溶性の無機塩が使用される。それにより、前記空隙形成剤を水ですすいで取り除くことができる。
【0035】
前記塩として、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の塩化物塩を用いることができる。各塩の結晶の径は、それぞれの塩の調製時に予め設定することができる。その代わりに、前記塩の結晶は、例えば、粉砕及び篩い分けによって所望の径に調整することができる。
【0036】
次に、所望の粒子径と粒子径分布を有するこれらの前記塩を、前記鋳造鋳型に導入する。前記鋳造鋳型には第一開口部と第二開口部がある。前記空隙形成剤を前記鋳造鋳型の内部に留めるために、前記鋳造鋳型は、前記空隙形成剤が前記鋳造鋳型の少なくとも1つの開口部、好ましくは前記第一開口部と前記第二開口部に留まるようにする装置を備えている。この装置としては、例えば、その目開きが前記空隙形成剤又は前記空隙形成剤の前記粒子径によって定められるグリッド、セラミックフィルター、ネット、グラスウール、スチールウールなどが挙げられる。
【0037】
前記鋳造鋳型は、その内部が、後に成形される成形部材の設計に対応するように三次元的に設計されている。従って、前記鋳造鋳型は、内腔に向く上端と下端とを有する。これら2つの端部間の高さhは、任意に選択することができる。その底面は任意の所望の形状に設計することができる。前記底面の形状は、円形、楕円形、又は多角形であってもよい。本発明によれば、その鋳造体の断面は、高さhの全体にわたって同じであってもよい。また、本発明によれば、前記断面は異なっていてもよい。更にまた、底から上へ、又は上から底へ先細りであってもよい。また前記鋳造鋳型の高さhの途中で、前記断面が数か所で連続的又は不連続的に変化してもよい。得られた前記金属成形部材を後処理することも可能であり、それによって複雑な構造を得ることもできる。
【0038】
本発明によれば、前記鋳造鋳型の内部には圧力差が与えられる。本発明では、例えば、真空ポンプなどの圧力差を生じさせる装置を、前記溶融された金属と接触しない前記鋳造鋳型の前記第二開口部に接続することによって行うことができる。しかし、本発明によればまた、周囲の圧力よりも高い陽圧にすることも可能であり、それにより、前記溶融された金属中に浸漬された前記鋳造鋳型の下端である前記第一開口部を通って、前記溶融された金属が、重力に逆らって前記鋳造鋳型の内部に押し上げられる。
【0039】
本発明の一つの実施形態では、真空ポンプは、任意の異なる方式で前記鋳造鋳型へ接続することができる。例えば、この目的のために、前記鋳造鋳型の前記第二開口部に接続する接続部材を使用してもよい。ここでもまた、この接続形式は前記鋳造鋳型の形状によって異なるものである。
【0040】
圧力差を与える装置は、陽圧を生成するポンプであってもよい。従って、前記鋳造鋳型に接続できるポンプは、前記鋳造鋳型の内部を陰圧または陽圧にすることができる。このような陰圧または陽圧とは、周囲の圧力との差を示すものである。実際の圧力は、前記溶融された金属の種類、前記空隙形成剤の種類、及び前記鋳造鋳型の実際の空間設計によって異なるものである。
【0041】
本発明によれば、前記空隙形成剤が充填された前記鋳造鋳型は、内腔に向く前記第一開口部が成すその下方端部が前記溶融された金属の中に浸漬される。前記鋳造鋳型は、工程終了時には対応する金属又は金属合金で充填されるように、前記溶融された金属中に浸漬される。前記鋳造鋳型をその全高さにわたって前記溶融された金属の中に完全に浸漬させることは、前記鋳造鋳型の外側に前記金属が付着して材料の損失につながるため、必要でなく望ましくもない。前記鋳造鋳型は、その高さの約10~35%が前記溶融された金属の中に浸漬されることが好ましい。
【0042】
続いて、圧力差が与えられる。前記溶融された金属は陰圧によって前記鋳造鋳型の内部に吸い込まれ、前記空隙形成剤間の隙間は完全に充填される。その後、前記金属は前記鋳造鋳型内で凝固する。凝固の挙動はその吸引速度に影響され得る。前記吸引速度は、バルブとノズルを通る流れによって制御される。凝固化の途中でも陰圧のままであるため、前記鋳造鋳型とその空隙を完全に、確実に充填することができる。
【0043】
本発明において、陰圧にするということは、前記圧力を大気圧である1バール未満まで低下させることを意味する。陰圧は、好ましくは50~900mbar、より好ましくは250~750mbar、更に好ましくは400~600mbarの範囲に設定される。実際の圧力は、採用する前記金属又は合金の種類によって異なるだけでなく、前記鋳造鋳型の実際の三次元的設計によっても異なる。
【0044】
本発明によれば、陽圧にするということは、前記溶融された金属が、例えば注入炉を介して、陽圧によって前記鋳造鋳型内に押し込まれることを意味する。ここで、陽圧は、好ましくは10~900mbar、より好ましくは40~500mbarの範囲に設定される。これは、その圧力が周囲圧力よりもその値だけ高いことを意味する。
【0045】
本発明の製造方法によって、採用した金属のスポンジ構造を有する金属成形部材からなる、均一で寸法安定性のある三次元構造体を得ることができる。この金属スポンジ構造は内部に空隙を有する。前記空隙形成剤を適切に選択することによって、制御された方法で前記空隙の形状を調整することができる。また、前記空隙を球形又は立方体の形状に調整することもできる。それによって、空隙率を10~90体積%に調整することが可能である。前記成形部材について、前記空隙の形状と前記空隙率とを組み合わせたり、それらを入れ替えたりすることもできる。前記空隙形成剤の粒子を選択的に分布させることによって、前記成形部材内部における前記空隙の径と空隙の構造を制御することができる。従って、例えば、前記成形部材には、ある領域に微細な空隙構造が存在し、別の領域には粗い空隙構造が存在してもよい。例えば、前記空隙形成剤として異なる種類の塩を適宜選択することによって製造することができる。同種の塩を異なるサイズ及び/又は形状で使用することも可能である。従って、前記鋳造鋳型内に前記空隙形成剤を充填することによって、それぞれの前記径/形状を有する前記空隙形成剤が存在する領域を決定することができ、後に前記金属成形部材における対応する空隙径の分布に反映されることになる。
【0046】
異なる種類の塩を適宜選択することによって、あるサブ領域においてだけ前記空隙形成剤が前記金属スポンジ構造の前記空隙から洗い流されている一方、別のサブ領域では、前記空隙形成剤が洗い流されずにプロセス材料として依然として存在するような金属成形体を製造することもできる。これは、異なる溶媒に対して溶解する異なる塩を適宜選択することにより可能になる。更に、本発明の製造方法では、前記空隙形成剤及び前記溶融された金属以外の成分を使用しないことが可能である。従来技術に開示されているような結合剤は必ずしも必要ではない。本発明の製造方法は、好ましくは、結合剤を使用せず、使用する前記空隙形成剤又は前記金属若しくは合金にも結合剤が含まれないことを特徴とする。
【0047】
前記空隙率によって、前記成形部材の密度も決定される。本発明の製造方法によれば、空隙形成剤を含まない前記成形部材に関して、0.5~9.5g/cm3の範囲の密度を有する成形部材を製造することができる。金属として亜鉛又は亜鉛の比率が少なくとも98重量%の亜鉛合金を使用すると、0.7~6.5g/cm3の範囲の密度が実現できる。
【0048】
本発明の製造方法によれば、連続的導電性金属構造体を製造することができる。これは、前記開放セル孔による金属スポンジ構造によって液体又は気体を通過させることができるものである。本発明の製造方法は、製造される前記金属成型部材の大きさとは無関係に、前記鋳造鋳型、前記空隙形成剤及び前記溶融された金属以外には、他の材料、添加剤、結合剤などは必要としないものである。
【0049】
本発明の製造方法により、本発明に従って製造された前記金属成型部材を一次電池、二次電池、又は全固体電池のアノードとして使用することが可能になる。前記金属成型部材の構造によって、前記電池の容量が直ちに大きく改善され、また前記電池の寿命を大幅に延長することができる。例えば、アノードの下部領域において、活性物質の再配列が抑制されるため、アノードの形状が安定化し、耐用年数が長くなる。
【0050】
驚くべきことに、亜鉛は、放電中は放電部位の付近に残留し、充電中には放電部位の近傍で回収できることが判明した。そのため、亜鉛は、特に二次電池において使用することが好ましい。また、亜鉛は、アノードの中央部に集中的に堆積することが判明した。即ち、亜鉛は電解液中には拡散せず、アノード内での一様な分布が維持される。
【0051】
更に、デンドライト成長が明らかに減少し、内部短絡のリスクが減少したことが認められた。
【0052】
圧力差を用いて鋳造された前記鋳物によって、前記鋳造鋳型によって予め決められた三次元形状と、採用した前記空隙形成剤により前記金属スポンジ構造の内部に予め決められた空隙分布とを有する開放セル孔を有する金属成形部材が形成される。従って、亜鉛、スズ、鉛、インジウム、アルミニウム、マグネシウム、若しくはビスマス、又はこれらの金属の合金からなる複雑な三次元ネットワーク構造体を得ることができる。そのような構造体は、特に、一次電池(使い捨て電池)、二次電池(充電式電池、蓄電池)、又は(三次元)全固体電池のアノードとしての使用に適している。
【0053】
得られた前記金属成形部材は強度が高く、寸法安定性を有している。従って、前記空隙形成剤の除去前又は除去後に前記金属成型部材に機械的処理を施すこともできる。それにより、非常に特殊な形状の電極も作製することができる。
【0054】
本発明の製造方法によれば、0.01~20mm、好ましくは0.04~18mm、より好ましくは0.06~16mm、更に好ましくは0.1~14mmの範囲の細孔径を有する前記金属成形部材を製造することができる。空隙率は、好ましくは10~90体積%、より好ましくは50~75体積%、更に好ましくは60~70体積%である。前記開放セル孔による金属泡状構造のため、前記成形部材内部の前記空隙はすべて相互に連通している。前記成形部材をアノードとして適用する場合、その毛細管力によって、電解質溶液は前記成形部材の内部に吸い込まれる。そのため、大きな表面積が得られ、従って、前記アノードと前記電池の前記電解質との間に良好な相互作用が得られる。また、本発明によれば、得られた前記金属成形部材は、この大きな表面積によって、鋼及び鋼鉄強化コンクリートのカソード腐食防止用のアノードとしても使用することができる。
【実施例】
【0055】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0056】
[実施例]
電池用亜鉛製のアノードが、本発明の製造方法によって製造された。前記圧力差は陰圧を与えることによって設定された。
【0057】
それのために、内径が55mm、長さが1,000mmである円筒形状の鋳造鋳型を用いた。前記鋳造鋳型に、平均粒径が0.4~1.25mmの塩化ナトリウムを充填した。前記鋳造鋳型は、前記空隙形成剤である前記塩化ナトリウムをその内部に留めるために、その下端を成す開口部にセラミックフィルターを備えていた。
【0058】
前記鋳造鋳型の上端(内腔中上向きで、縦方向における末端)には、それを成す開口部にノズルが接続されており、前記ノズルは可撓性のチューブを介して真空ポンプに接続された。
【0059】
500mbarの陰圧に設定された。前記鋳造鋳型が前記溶融された金属で完全に充填され、前記溶融された金属が凝固した後、前記塩化ナトリウムが水で洗い流された。
【0060】
【0061】
図2及び
図3は、上記実施例で説明した本発明の製造方法によって製造された、異なる細孔径及び分布を有する成形部材の断面を示すものである。
【0062】
微細な金属泡状構造と0.15~0.7mmの細孔径を有する成形部材を
図2に示す。その密度は1.9g/cm
3であり、空隙率は73.4体積%であった。
図3に示す成形部材は、粗い金属泡状構造を有するものであった。その細孔径は0.4~1.25mmであり、その密度は3.0g/cm
3であり、空隙率は58.0体積%であった。
【0063】
図4は、
図2及び
図3に示す前記構造体の比表面積を金属組織学的に決定するための基礎とした画像を示すものである。
図4において、
図2の成形部材が左側に再現されており、
図3の成形部材が右側に再現されている。
【0064】
結果を下記の表に示す。
【0065】
【産業上の利用可能性】
【0066】
上記金属スポンジ構造体の繰返し安定性をテストするために、水酸化ニッケル(Ni(OH)
2)をカソードとして構成した試験用二次電池を使用した。この試験用二次電池を充電と放電の繰返し試験にかけ、電流と電圧を記録した。その充電容量と放電容量を
図5に示す。その結果、このようにして製造された試験用二次電池が、電力損失なしに多くの繰返し回数にわたって機能することが示されている。
【国際調査報告】