IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ バクスター・インターナショナル・インコーポレイテッドの特許一覧 ▶ バクスター・ヘルスケヤー・ソシエテ・アノニムの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-31
(54)【発明の名称】機能化された合成外科用メッシュ
(51)【国際特許分類】
   A61L 31/04 20060101AFI20241024BHJP
   A61L 31/06 20060101ALI20241024BHJP
   A61L 31/14 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
A61L31/04 110
A61L31/06
A61L31/14 500
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024529588
(86)(22)【出願日】2022-11-16
(85)【翻訳文提出日】2024-07-10
(86)【国際出願番号】 US2022079931
(87)【国際公開番号】W WO2023097153
(87)【国際公開日】2023-06-01
(31)【優先権主張番号】63/282,570
(32)【優先日】2021-11-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591013229
【氏名又は名称】バクスター・インターナショナル・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】BAXTER INTERNATIONAL INCORP0RATED
(71)【出願人】
【識別番号】501453189
【氏名又は名称】バクスター・ヘルスケヤー・ソシエテ・アノニム
【氏名又は名称原語表記】Baxter Healthcare S.A.
【住所又は居所原語表記】Thurgauerstr.130 CH-8152 Glattpark (Opfikon) Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140453
【弁理士】
【氏名又は名称】戸津 洋介
(72)【発明者】
【氏名】ルイス, ケビン マイケル
(72)【発明者】
【氏名】ノードハウス, マーク アラン
(72)【発明者】
【氏名】グリーン, ジョン-ブルース ディー.
(72)【発明者】
【氏名】クロンガウズ, ヴァディム ブイ.
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AC03
4C081BA13
4C081CA021
4C081CA161
4C081CA171
4C081DA06
4C081DB03
4C081DB07
(57)【要約】
本明細書において、外科用メッシュ材料並びにその製造方法及び使用が開示される。本明細書において、化学的に機能化されたポリマー材料を含む合成外科用メッシュが開示されている。前記ポリマー材料が、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ(L-ラクチド)(PLL)、ポリグリコール酸(PGA)及びそのコポリマー、乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA)、ポリ(グリコリド-co-カプロラクトン)、及びポリ(グリコリド-co-トリメチレンカーボネート)のうちの少なくとも1種を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学的に機能化されたポリマー材料を含む、合成外科用メッシュ。
【請求項2】
前記ポリマー材料が、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ(L-ラクチド)(PLL)、ポリグリコール酸(PGA)及びそのコポリマー、乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA)、ポリ(グリコリド-co-カプロラクトン)、及びポリ(グリコリド-co-トリメチレンカーボネート)のうちの少なくとも1種を含む、請求項1に記載の合成外科用メッシュ。
【請求項3】
生分解性である、請求項1に記載の合成外科用メッシュ。
【請求項4】
前記メッシュの表面が、カチオン性官能基、アニオン性官能基、双性イオン性官能基、又は中性(非イオン性)官能基のうちの少なくとも1つで機能化されている、請求項1に記載の合成外科用メッシュ。
【請求項5】
前記カチオン性官能基が、アンモニウム、グアニジニウム、ホスホニウム、ピリジニウム、スルホニウム、Fe3+、Cr3+、Al3+、Ba2+、Sr2+、Ca2+、Mg2+、ポリカチオン、ポリリシン、又はポリアルギニンのうちの少なくとも1つを含む、請求項4に記載の合成外科用メッシュ。
【請求項6】
前記双性イオン性官能基が、ポリベタイン、スルホベタインメタクリラート(SBMA)、カルボキシベタインメタクリラート(CBMA)、又はポリアンホライトのうちの少なくとも1つを含む、請求項4に記載の合成外科用メッシュ。
【請求項7】
前記アニオン性官能基が、カルボキシラート、ホスファート、スルファート、スルホナート、PEG、ポリアミド、又は多糖のうちの少なくとも1つを含む、請求項4に記載の合成外科用メッシュ。
【請求項8】
不織布である、請求項1に記載の合成外科用メッシュ。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の合成外科用メッシュを含む、外科処置の実施における使用のためのキット。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか一項に記載の合成外科用メッシュを埋め込むステップを含む、外科処置の実施の方法。
【請求項11】
前記外科処置が、ヘルニア修復手技を含む、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2021年11月23日出願の米国仮特許出願第63/282,570号の利益を主張し、その全内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
[分野]
本明細書は、外科用メッシュ材料の製造及び使用に関する。
【0003】
[背景]
外科用メッシュは、ヘルニアの周囲など、損傷した組織が治癒するときにその組織を支持するメディカルデバイスである。外科医は、メッシュをヘルニアの周囲に配置し、そのメッシュを縫合、ステープル、又は接着剤で取り付ける。メッシュの孔により、組織がデバイス内に成長することが可能になる。外科用メッシュは、米国では毎年、ヘルニア手術10件のうち9件で使用されている。
【0004】
現在、いくつかの形態の外科用メッシュが使用されており、パッチは、弱くなった又は損傷した組織の上又は下に置くように設計されており、プラグは、組織の穴の中に収まり、シートは、患者の特定の状態に合わせて患者仕様に切断され、装着することができる。
【0005】
現在のメッシュ設計は、効果的ではあるが、特に細胞内方成長及び組織の癒着に関しては最適な性能を提供していない。したがって、システム、デバイス、及び方法の改良が望まれている。
【0006】
[概要]
本開示は、新規なクラスの完全合成の生分解性外科用メッシュを提供する。開示の諸実施形態は、現在の生物学的メッシュと比較して組織と接触している表層メッシュ表面での細胞内方成長を競合的に促進し、内臓と接触している表面での組織接着性が最小であることを示している。
【0007】
開示の諸実施形態は、生分解性を制御するためだけでなく、細胞内方成長並びにヘルニア用メッシュに必要とされる安定性及び強度を提供できるように設計された構造を有するスキャフォールドを作製するために表面電荷及び特定の電荷パターニング法を使用する。
【0008】
開示の諸実施形態は、例えば、例えば化学的又は物理的結合によって固定化された表面種を含むスキャフォールド表面被覆物を含む。諸実施形態において、表面種は、抗菌剤を含んでもよい。
【0009】
開示の諸実施形態はまた、開示の外科用メッシュ材料を作製する方法を含む。
【0010】
開示の諸実施形態はまた、開示の外科用メッシュ材料を使用する方法を含む。
【0011】
開示の諸実施形態はまた、開示の外科用メッシュ材料を含むキットを含む。
【0012】
[詳細な説明]
開示の外科用メッシュ実施形態は、細胞内方成長の潜在能力を向上させ、内臓組織接着性を最小にし、生分解性を有し、したがって、患者の転帰を向上させる合成外科用メッシュを含む。完全合成デバイスとして、開示の諸実施形態は、製造方法及び機能化によって区別される。例えば、現在の合成メッシュはポリマー材料(複数可)の織りパターンを使用して製造されているが、開示の諸実施形態は、均一な不織布ポリマー材料を含んでもよい。さらに、現在の合成メッシュは特定の機能のために複数の材料を使用しているが、本開示は、特定の治療目標を実現するために合成部位により機能化されたポリマー材料を提供する。
【0013】
定義:
「施用(administration)」又は「施用すること(to administer)」は、メディカルデバイス、材料、又は薬剤を対象に与える(即ち、施用する)工程を意味する。本明細書に開示の材料は、多くの適切な経路で施用することができるが、典型的には外科処置に関連して採用される。
【0014】
「患者」は、医療的又は獣医療的なケアを受けるヒト又はヒト以外の対象を意味する。
【0015】
「治療上有効な量」は、治療目標を実現するために必要な薬剤、材料、又は組成物のレベル、量、又は濃度を意味する。
【0016】
「治療する(treat)」、「治療すること(treating)」、又は「治療(treatment)」は、傷害を受けた若しくは損傷した組織を治癒すること、又は既存の若しくは認識された疾患、障害、若しくは状態を変更、変化、強化、改善、改良、及び/若しくは美化することなどによって、所望の治療的又は美容的成果を実現するような、症状、疾患、障害、又は状態の緩和又は軽減(いくらかの軽減、著しい軽減、ほぼ完全な軽減、及び完全な軽減を含む)、解決又は予防(一時的又は恒久的)を意味する。
【0017】
本開示は、スキャフォールドを含む生分解性合成メッシュを含む合成外科用メッシュ材料を提供する。諸実施形態において、メッシュは、創傷治癒、自己接着性、抗癒着性、並びに殺菌性及び/又は静菌性を高めるために化学的に機能化される。諸実施形態において、メッシュの面(複数可)は、ポリマー材料(複数可)の固有の性質を利用して、及び/又は結合した合成部位を介して、機能化することができる。諸実施形態において、メッシュは、生分解性である1種又は複数種の様々なポリマー積層体及び/又は織物を含んでもよい。
【0018】
諸実施形態において、外科用メッシュは、細胞内方成長を誘導するように帯電される。
【0019】
諸実施形態において、外科用メッシュは、内臓組織の癒着を低減するために少なくとも1つの機能化された部位を含む。
【0020】
諸実施形態において、外科用メッシュは、抗癒着層の一部として溶出可能な抗菌剤を含む。
【0021】
諸実施形態において、外科用メッシュは、生分解性である。
【0022】
外科用メッシュのスキャフォールディング
開示する外科用メッシュ実施形態のスキャフォールディングは、以下の2つの主要な機能を有する;1)創傷が治癒する間、ヘルニアなどの処置領域に機械的完全性(mechanical integrity)を提供すること、及び2)表層組織細胞が増殖することができる多孔質空間を提供し、それによって創傷を治癒すること。
【0023】
スキャフォールディングの機械的完全性は、スキャフォールドの作製に使用するポリマーの形態と機械的性質の両方によって決定される。したがって、開示の諸実施形態は、特定の治療目標に適したスキャフォールディング材料の決定及び製造を含む。
【0024】
諸実施形態において、スキャフォールド形態は、多孔質の固体泡状マトリックス、織布ナノ繊維メッシュ、パターン化フィルム、ハイドロゲル、又はそれらの任意の組合せを含んでもよい。
【0025】
スキャフォールディングの二次的な機能は、創傷が修復されるにつれて分解することである。諸実施形態において、合成生分解性ポリマー材料は、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ(L-ラクチド)(PLL)、ポリグリコール酸(PGA)及びそのコポリマー、例えば、乳酸・グリコール酸共重合体(PLGA)、ポリ(グリコリド-co-カプロラクトン)、及びポリ(グリコリド-co-トリメチレンカーボネート)などを含んでもよい。
【0026】
スキャフォールディングの弾性プロファイル及び構造配置は、細胞侵入において重要な役割を果たすことが知られている。いくつかの天然に存在する織物構造モチーフは工業界では一般的であるが、開示の諸実施形態は、細胞侵入とそれに続く組織血管新生に適切な環境を提供するために、適切なポリマー材料と協同して構造配置を設計することを含む。例えば、内方成長及び血管新生を促進するために選択されるメッシュ材料は、ヘルニアの兆候により生じる機械的ストレスに適合しない可能性がある。したがって、諸実施形態において、開示のスキャフォールド材料は、複数の材料を含んでもよい。例えば、一実施形態において、スキャフォールドは、適切な安定性を維持する強度を有し、急速に分解しないポリマーで作られた別個の構造構成物を含む。諸実施形態において、複数のスキャフォールド材料は、内方成長用構造体と同時に作製することができ、又は別々に作成してラミネーション若しくは他の方法によって組み合わせることができる。
【0027】
開示のスキャフォールディング材料を製造する方法は、例えば、3D印刷、マルチインクジェット印刷、ホログラフィック印刷、鋳造、エンボス加工、フォトリソグラフィ又はフレキシグラフィ印刷を含んでもよい。
【0028】
スキャフォールドの表面機能化
諸実施形態において、ポリマーメッシュ材料(複数可)の表面機能化は、細胞間相互作用を増強し、細胞間相互作用を阻害し、表層組織表面への接着を増大させ、内臓への組織癒着を阻止し、及び/又はポリマーメッシュの上若しくは中での病原体の増殖若しくはコロニー形成を停止若しくは減少させる。
【0029】
諸実施形態において、ポリマーメッシュ材料(複数可)の表面機能化は、細胞外マトリックス(ECM)内の生物学的種との相互作用、及び/又は、例えば、静電相互作用によって、例えば、細胞接着、付着、移動、若しくは走性などの特定の生物学的応答を引き出すように設計された分子の固定化を強化することができる。
【0030】
開示の諸実施形態において、メッシュ表面は、例えば、ECM内の特定の生体分子又は細胞と相互作用する、又は相互作用を防止するカチオン性官能基、アニオン性官能基、双性イオン性官能基、又は中性(非イオン性)官能基で機能化されていてもよい。さらに、ポリマーマトリックス材料は、一斉に又は個別に、生物学的に活性な分子を永続的に固定化するための共有結合界面反応に適した反応性表面化学物質で修飾することができる。反応性表面種は、アミン基、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アルデヒド基、エポキシ基、及びスルフヒドリル基を含むことができ、従来のカップリング/架橋化学物質を使用して生体分子にグラフトすることができる。表面化学物質の修飾には、ラジカル重合、カチオン重合、又はアニオン重合を利用するいくつかの異なる方法がある。諸実施形態において、これらのプロセスには、機能化された合成マトリックスの周囲にECMを再構築し、細胞の侵入及び増殖を促進するという正味の効果がある。
【0031】
カチオン性機能化
開示の諸実施形態において、機能性カチオン種は、アンモニウム基、グアニジニウム基、ホスホニウム基、ピリジニウム基、及びスルホニウム基を含んでもよい。さらに、分子間引力を付与するために、多価金属カチオン、例えば、Fe3+、Cr3+、Al3+、Ba2+、Sr2+、Ca2+、及びMg2+など、並びに/又はポリカチオン、例えば、ポリリシン、ポリアルギニンなどを使用することができる。
【0032】
例えば、Mg2+を抗癒着性非イオン性ポリマーの酸素基と錯化すると、抗癒着機構の効率が向上することにより相乗効果が得られる。一般に、カチオン性基は、すべての細胞膜の主要成分であるリン脂質二重層の負に帯電した極性頭部基と電荷結合し、それによって細胞を付着させることができる。
【0033】
或いは、カチオン種は、ECM内の生体材料と電荷結合することができ、生体材料はその後、その生物学的応答を介して細胞と相互作用することができる。例えば、生理的pHが7.4の場合、表面アミンのプロトン化によって正電荷が生じ、その正電荷が、フィブロネクチンなどの負に帯電した接着性糖タンパク質を引き寄せる。フィブロネクチンは、コラーゲン及び細胞表面インテグリンと結合し、それによって、細胞の細胞骨格の再編成が引き起こされ、細胞の移動及び分化が促進される。同様に、カチオン種は、プロテオグリカン、多糖、及びコラーゲンと電荷結合し、それによって、生理的条件下でそれらの生物学的応答が引き起こされる。
【0034】
アニオン性、双性イオン性、又は中性(非イオン性)機能化
開示の諸実施形態において、メッシュ表面は、様々なポリマー、例えば、多糖、ポリペプトイド、ポリ双性イオン、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリオキサゾリン、ポリグリセロール(PG)デンドロン、及びグリコミメティックポリマーをグラフトすることによって電荷修飾(即ち、アニオン性、双性イオン性、又は中性)することができる。細胞凝集へのこれらのポリマー/化合物の効果は、ある種の細胞表面受容体の遮断と、他の受容体、例えば、細胞外表面への付着に関与し、それによって細胞接着を媒介する受容体などの活性化とを伴う可能性がある。例えば、組織間の立体障壁を形成するPEGを使用することにより、組織内の細胞接着が最小限に抑えられることが実証されている。
【0035】
開示の機能性アニオン種は、ポリマーの親水性を高めるカルボン酸基、リン酸基、硫酸基、及びスルホン酸基を含んでもよい。この特徴は、電気的中性及び水素結合アクセプター/ドナーの化学構造とともに、PEG、ポリアミド、及び多糖などの多くの非又は抗癒着性材料クラスの共通の特徴である。ヘパリン、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ヒドロキシアクリラート、及びヒアルロン酸を含むいくつかの多糖が非又は抗癒着性の性能を示し、そのいずれもが本明細書の様々な実施形態における使用に適する可能性がある。
【0036】
研究により、疎水性と疎油性の両方の性質を有する双性イオン性表面はタンパク質吸収に抵抗することが示されている。より大きな微生物及びタンパク質は、本質的に両親媒性であり、疎水性表面への親和性を有するものもあれば、親水性表面への親和性を有するものもあることから、様々な付着機構によって動かすことができる。したがって、単に親水性又は疎水性の表面だけでは、血液などの複雑な環境に長時間晒された場合の癒着形成に対する抵抗が不十分であることが多い。したがって、開示の諸実施形態は、防汚性を有するポリ双性イオン種、例えば、スルホベタインメタクリラート(SBMA)及びカルボキシベタインメタクリラート(CBMA)など、同じモノマー単位に正及び負の電荷を有するポリベタインを含む。
【0037】
開示の諸実施形態における使用に適したポリ双性イオン性材料の別のクラスは、天然アミノ酸など、2種の異なるモノマー単位に1:1の正と負の電荷を担持するポリアンホライトである。諸実施形態において、非汚染特性を実現するために、ポリ双性イオン性材料の電荷基を平衡にしたナノスケールの均質な混合物を利用する。電荷が中性からずれると、タンパク質とポリマー表面との間の静電相互作用が誘発されて、タンパク質吸着が引き起こされる可能性がある。また、強固に結合した水層が、表面でのタンパク質吸収を阻止する物理的及びエネルギー的障壁を形成するため、ポリ親水性及びポリ双性イオン性材料は、表面近くの水和層と相関していると考えられる。
【0038】
さらに、機能化されたポリマー鎖の柔軟性(即ち、表面パッキング及び鎖長)は、タンパク質耐性において役割を果たし、タンパク質がメッシュ表面に近づくと、ポリマー鎖が圧縮されて立体反発が生じ、エントロピーの望ましくない減少によりタンパク質の吸着が妨げられる。中性(非イオン性)ポリマーはまた、水分子と相互作用できる親水性基(例えば、アミド、エーテル)並びに疎水性基(例えば、ビニル骨格)からなる。例えば、PEGは、その化学的及び物理的性質に著しい影響を及ぼすヒドロキシル末端基を有する中性の親水性ポリエーテルである。PEGは、例えば半減期を延長するためにタンパク質の機能化に広く用いられており、製品の安全性が実証されている。
【0039】
開示の諸実施形態は、天然(即ち、動物又は植物をベースとする)ポリマー、改質天然ポリマー、又は合成ポリマーのいずれかである抗癒着材料を含んでもよい。例えば、開示の抗癒着材料は、抗癒着性/防汚性ポリマーのコンドロイチン硫酸、デキストラン、カルボキシメチルデキストラン、ヒアルロン酸、アルギン酸塩、ペクチン、セルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、酸化再生セルロース、キチン、カルボキシメチルキチン、カルボキシメチルキトサン、ポリマンヌロン酸、ポリグルクロン酸、ポリグルロン酸、ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリビニルピロリドン、PTFE、発泡PTFE(ePTFE)、ポリエチレングリコール(PEG)、PEGステアラート、PEGソルビタンモノラウラート、ポリプロピレングリコール、ポリプロピレン、ポリエステルなどを、単独で又は組み合わせて、溶液、エアロゾル、発泡体、ハイドロゲル、又はフィルム若しくは繊維の形態の固体材料として含んでもよい。開示の諸実施形態において、PEGを適用して、アニオン性及び双性イオン性ポリマーについて既に記載されているのと同等の方法で抗癒着性面を生成する。例えば、諸実施形態において、従来のカップリング化学を使用して、PEGを、迅速な生分解プロファイルで設計されたハイドロゲルベースのヘルニア用メッシュに固定化する。
【0040】
一般に知られているように、過剰な水和は生体接着に有害である。したがって、メッシュ表面のポリマーをカルボキシル化することによって、超分子会合を増加させることができる。諸実施形態において、ポリマーのカルボキシル残基の密度を増加させることによって、比較的高いpHでも(水と)水素結合する可能性がより高くなる。したがって、諸実施形態において、これらのタイプの生体高分子は、治癒中に組織を互いに分離する物理的障壁として作用する水和ゲルを形成し、その結果、隣接する構造間の癒着が形成されないようにすることができる。
【0041】
生理活性、接着性、静菌性、及び殺菌性の機能化
スキャフォールディングの支持及び/又は細胞内方成長速度の誘導のための追加のメッシュ層成分は、イオン電荷官能基と組み合わせて又はそれとは別に、材料の含浸又は「播種」を含んでもよい。諸実施形態において、材料は、天然でも合成でもよく、当技術分野で一般的に知られている様々な試薬によって架橋されても又はされなくてもよい。
【0042】
例えば、追加のメッシュ成分は、コラーゲン、ゼラチン、ヒアルロン酸、キトサン、アルギン酸塩、寒天、κ-カラゲナン、ヘパリン、セルロース、デンプン、PEG、PBLG、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、テネイシン、ラミニン、コンドロイチン硫酸、アルブミン、マルトデキストリン、エラスチン、グリコサミノグリカン、ポリグリカン、ポリペプチド、ケラチン、有機変性シリカ、ペクチン、ポリヒドロキシブチラート、ポリエステルのコポリマー、ポリカルボナート、ポリ無水物、多糖、ポリヒドロキシアルカノアート、アミノ酸残基、及びアミノ酸配列を、単独で又は組み合わせて含んでもよい。
【0043】
追加のメッシュ成分は、電荷及び/又は架橋化学を介してメッシュ表面に固定化することができる抗菌剤、例えば、ビグアニド又は第四級アミンなどを単独で又は組み合わせて含んでもよい。諸実施形態において、これらの種は、細胞内方成長の活性化及び抗菌防御という二重の役割を果たすことができる。これらの官能基は、従来のカップリング/架橋化学を介して、酵素、抗体、タンパク質、脂質、脂肪酸、アミノ酸残基、及びグリコサミノグリカン(GAG)などの生物活性部位に結合させることができる。
【0044】
開示の外科用メッシュに追加成分を関連させるためのさらなる方法は、化学的結合よりはむしろ物理的結合を含んでもよい。例えば、抗菌剤などの成分は、溶媒流延又は「浸漬被覆」によって開示のメッシュスキャフォールドに物理的に結合させることができ、この場合、メッシュ基材は、被覆材料を含有する溶液に一定速度で浸される(「浸漬される」)。一定時間浸した後、メッシュを一定速度で溶液から取り出す。メッシュから余分な液体を排出した後、液体から溶媒が蒸発して、薄い層が形成される。例えば、シランアンカー型抗菌剤は、開示の外科用メッシュなどの多孔質表面に浸漬被覆によって付着させることができる。浸漬被覆の利点は、このプロセスによってメッシュが不浸透性フィルムになるのではなく、メッシュの多孔性を維持し、この多孔性が細胞内方成長において重要となり得ることである。さらに、浸漬被覆の使用により、外科用メッシュの前処理の必要性が低減又は排除される。
【0045】
さらなる開示の諸実施形態は、例えば、ゼラチン、コラーゲン、HA、成長促進剤、TGF-β、FGF、VEGF、それらの組合せなどの生物製剤を含んでもよい。
【0046】
市販品/キット
本発明の外科用メッシュ及び関連材料は、当分野で行われる通常の工程、例えば、適切な滅菌及び包装工程によって市販品として仕上げることができる。例えば、材料は、例えば異なる吸収波長を有する光開始剤(例えば、Irgacure184、2959)、好ましくは水溶性開始剤(例えば、Irgacure2959)を使用して、UV/vis照射(200~500nm)によって処理することができる。このような照射は、通常、1~60分の照射時間で行われるが、特定の方法によっては、より長い照射時間を適用してもよい。本開示による材料は、使用まで無菌状態を保持するように最終的に無菌包装し、適切な容器(箱など)に(例えば、特定の製品情報リーフレットを追加することにより)パッケージ化することができる。
【0047】
さらなる諸実施形態によれば、外科用メッシュ材料はまた、患者に材料を施用する際に必要な他の成分と組み合わせたキットの形態で提供することができる。例えば、開示のキットは、外科手術において並びに/又は傷害及び/若しくは創傷の治療における使用のためのものなどであり、例えば、止血材料、及び少なくとも1つの施用デバイス、例えば、緩衝液、シリンジ、チューブ、カテーテル、鉗子、はさみ、ガーゼ、滅菌パッド、又はローションをさらに含んでもよい。
【0048】
キットは、特定の欠損状況(deficiencies)に基づいて、治療用に設計される様々な形態で設計される。
【0049】
使用方法
開示の諸実施形態の使用方法は、開示の外科用メッシュを利用する外科処置、例えば、ヘルニア修復手技の実施を含んでもよい。
【実施例
【0050】
以下の非限定的な実施例は、代表的な実施形態のより完全な理解を容易にするために例示目的でのみ提供される。この実施例は、本明細書に記載する実施形態のいずれをも限定すると解釈すべきではない。
【0051】
実施例1
様々な実施形態の試験
帯電メッシュ材料の細胞内方成長の増加を実証する
市販のメッシュは、正と負の両方の官能基で修飾されており、ある範囲の表面電荷密度を有している。市販のメッシュに表面電荷を付与するために、正と負に帯電したアクリラートの直接光重合など、他のいくつかの表面修飾方法が使用される。最初に、これらの方法では、様々な濃度の正と負に帯電したアクリラートを含む溶液にメッシュを浸漬する。
【0052】
次いで、これらの反応重合性樹脂を含浸させたメッシュを、光重合又は放射線重合し、未反応成分を除去するために十分に濯ぐ。
【0053】
浸漬法に加えて、プラズマを使用する堆積法も使用される。これらの方法では、市販のメッシュを反応性基(例えば、アリルアミン)を含むプラズマに曝露させる。これにより、様々な量の表面電荷密度を有するメッシュが製造される。この場合、これらのアミン基は、生理的条件下で正に帯電する。表面修飾の方法とは無関係に、電荷密度は比色法で測定される。(1)帯電メッシュ(試験)、(2)非帯電メッシュ(参考)、(3)生物学的メッシュ(参考)、及び(4)無処理対照(陰性対照)の細胞内方成長の比較には、in vitroスクラッチアッセイ(Liang、2007)が使用される。細胞内方成長は、細胞の移動速度及び傷のある領域の細胞数を測定することによって比較する。
【0054】
実施例2
様々な実施形態の試験
機能化メッシュ材料の細胞付着の減少
市販のメッシュを抗癒着性部位により機能化する。これは、電荷密度の代わりに抗癒着方法を使用するが、前の実施例と全面的に類似した方法で実施される。この場合、被覆はポリエチレングリコール側基を含む。別の方法では、抗癒着性面としてもよく知られているように、ハイドロゲル材料に架橋するための浸漬配合物による修飾が含まれる。修飾は分光学的に追跡され、抗癒着特性はin vitroコロニー形成アッセイ(Canute、2012)で測定されるが、このアッセイは、(1)機能化メッシュ(試験);(2)機能化されていない帯電メッシュ(試験、上記から);(3)機能化帯電メッシュ(試験);(4)機能化されていない非帯電メッシュ(参考);及び(5)生物学的メッシュ(参考)の細胞コロニー形成を比較するために使用される。細胞コロニー形成は、付着した細胞の数をカウントし、I型コラーゲンの産生を評価することによって測定される。
【0055】
実施例3
様々な実施形態の試験
合成ポリマーメッシュ及びその製造方法の最適化
光架橋モノマーの様々な配合物から構成される従来のフォトリソグラフィメッシュは、様々な配合物及び様々な形状で製造され、いくつかには複数のフィルムを一緒に積層することが含まれる。得られたフィルムは、その機械的完全性並びに生分解性について試験される。
【0056】
実施例4
様々な実施形態の試験
成功した構成を組み合わせて単一メッシュにする
抗癒着性面及び細胞内方成長促進面を有し、細胞内方成長を支持する適切な構造を有し、適切な引張強度を有し、プログラムされた生分解性を有する合成メッシュを作製するために、上記の実験から得られたデータを組み合わせ、使用する。
【0057】
実施例5
様々な実施形態の試験
後続の実験計画
追加の実験には、細胞侵入への生物製剤の効果について含めることができる。例えば、帯電メッシュ材料にゼラチンをイオン的に固定化してもよいし、又はグルタルアルデヒド及びゲニピンなどの既知の架橋化学を使用してゼラチンを共有結合させてもよい。さらに他の実験には、メッシュ材料に抗菌剤をイオン的、共有結合的、又は溶媒浸漬被覆で付着させて固定化することによる、経時的な抗菌効果について含めることができる。
【0058】
実施例6
ヘルニア修復における使用
機能化された帯電表面を含む開示の外科用メッシュは、ヘルニア修復手術中に腹腔鏡によって埋め込まれる。メッシュは、内臓組織の癒着を軽減させながら、細胞内方成長を増加させる。
【0059】
最後に、本明細書の諸態様は、特定の諸実施形態を参照することによって強調されているが、当業者なら、これらの開示した諸実施形態が、本明細書に開示した主題の原理の単なる例示に過ぎないことを容易に理解されよう。したがって、開示した主題が、本明細書に記載した特定の方法論、プロトコル、及び/又は試薬などに決して限定されないことが理解されよう。したがって、本明細書の趣旨から逸脱することなく、本明細書の教示に従って、開示した主題の様々な修正若しくは変更、又は代替的な構築を行うことができる。最後に、本明細書で使用する用語は、特定の諸実施形態を説明するためだけのものであり、特許請求の範囲によってのみ定義される本開示の範囲を限定することを意図するものではない。したがって、本開示の諸実施形態は、明確に図示及び記載されたものに限定されない。
【0060】
本明細書に記載した方法及びデバイスを実行するための、本発明者にとって既知の最良の様式を含むいくつかの実施形態を本明細書に記載している。もちろん、これらの記載の諸実施形態の変形は、前述の説明を読めば当業者には明らかになるであろう。したがって、本開示は、適用法によって許容される、本明細書に添付する特許請求の範囲に記載した主題のすべての修正及び等価物を含む。さらに、すべての可能な変形における上述の諸実施形態の任意の組合せが、本明細書に別段の指示がない限り、又は文脈と明らかに矛盾していない限り、本開示によって包含される。
【0061】
本開示の代替実施形態、要素、又は工程のグループ分けは、限定として解釈されるべきではない。各グループメンバーは、個別に、又は本明細書で開示する他のグループメンバーと任意に組み合わせて参照され、特許請求することができる。グループのうちの1つ又は複数のメンバーを、便宜上、及び/又は特許性の理由から、グループに含めてもよいし、又はグループから削除してもよいことが予想される。このような任意の包含又は削除が行われた場合、本明細書は、添付の特許請求の範囲において使用するすべてのマーカッシュグループの記述を満たすように修正されたグループを含むものと認められる。
【0062】
別段の指示がない限り、本明細書及び特許請求の範囲において使用する特性、品目、量、パラメータ、性質、期間などを表すすべての数値は、すべての場合において用語「約(about)」に修飾されていると理解すべきである。本明細書で使用する場合、用語「約」は、そのように修飾された特性、品目、量、パラメータ、性質、又は期間が、記載した特性、品目、量、パラメータ、性質、又は期間の値の上及び下のプラスマイナス10%の範囲を包含することを意味する。したがって、本明細書及び添付の特許請求の範囲に記載した数値パラメータは、反対であることの指示がない限り、変動する可能性のある近似値である。各数値表示は、少なくとも、均等論の適用を特許請求の範囲に限定しようとするものではなく、報告する有効数字の桁数が考慮され、通常の四捨五入法が適用されていると少なくとも解釈すべきである。本開示の広範な範囲を示す数値範囲及び数値が近似値であるにもかかわらず、具体例に示す数値範囲及び数値は、可能な限り正確に報告されている。しかし、いかなる数値範囲又は値も、本質的に、それぞれの試験測定において見出される標準偏差から必然的に生じる若干の誤差を含む。本明細書における値の数値範囲の記載は、その範囲内にあるそれぞれの個別の数値を個々に参照する簡単な方法として機能することを単に意図している。本明細書に別段の指示がない限り、数値範囲のそれぞれの個別の値は、本明細書に個別に記載しているものとして本明細書に組み込まれる。
【0063】
本開示を説明する文脈において(特に、以下の特許請求の範囲の文脈において)使用する用語「1つの(a、an)」、「その(the)」、及び同様の指示対象は、本明細書に別段の指示がない限り、又は文脈と明らかに矛盾していない限り、単数形と複数形の両方を包含すると解釈すべきである。本明細書に記載した方法はすべて、本明細書に別段の指示がない限り、又は文脈と明らかに矛盾していない限り、任意の適切な順序で実施することができる。本明細書で提供するあらゆる例、又は例示的な文言(例えば、「など(such as)」)の使用は、単に開示をより理解しやすくすることを意図しており、別途請求する範囲を制限するものではない。本明細書のいかなる文言も、本明細書に開示した諸実施形態の実施に必須の、特許請求の範囲に係らない任意の構成要件を示すと解釈すべきではない。
【0064】
本明細書に開示した特定の諸実施形態は、特許請求の範囲において、「からなる(consisting of)」又は「から本質的になる(consisting essentially of)」という文言を使用してさらに限定することができる。特許請求の範囲において使用する場合、出願されたもの又は補正により追加されたものであるかにかかわらず、移行用語「からなる」は、特許請求の範囲において指定されていないいずれの要素、工程、又は成分も除外する。移行用語「から本質的になる」は、特許請求の範囲を、指定した材料又は工程、及び基本的及び新規な特性(複数可)に実質的に影響を及ぼさないものに限定する。このように特許請求する本開示の諸実施形態は、本明細書において本質的又は明示的に説明されており、可能である。
【国際調査報告】