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特表2024-540542耐熱性FGF10ポリペプチド又はその断片,及びその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-31
(54)【発明の名称】耐熱性FGF10ポリペプチド又はその断片,及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/50 20060101AFI20241024BHJP
   C12N 15/19 20060101ALI20241024BHJP
   A61K 38/18 20060101ALI20241024BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20241024BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20241024BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20241024BHJP
   A61K 8/64 20060101ALI20241024BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
C07K14/50 ZNA
C12N15/19
A61K38/18
A61P11/00
A61P17/02
A61P9/00
A61K8/64
A61Q19/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024529603
(86)(22)【出願日】2022-11-21
(85)【翻訳文提出日】2024-07-05
(86)【国際出願番号】 EP2022082545
(87)【国際公開番号】W WO2023089157
(87)【国際公開日】2023-05-25
(31)【優先権主張番号】21209408.0
(32)【優先日】2021-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518185691
【氏名又は名称】エナンティス スポレチノスト エス ルチェニム オメゼニム
(74)【代理人】
【識別番号】110002398
【氏名又は名称】弁理士法人小倉特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハロウプコヴァー,ラトカ
(72)【発明者】
【氏名】シュチェパーンコヴァー,ヴェロニカ
(72)【発明者】
【氏名】ホラツコヴァー,アネタ
(72)【発明者】
【氏名】ベドナー,ダヴィト
(72)【発明者】
【氏名】クタルコヴァー,カテリーナ
(72)【発明者】
【氏名】ラスコヴァー,ヴェロニカ
【テーマコード(参考)】
4C083
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C083AD411
4C083CC02
4C083EE01
4C084AA02
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA22
4C084BA23
4C084DB54
4C084MA63
4C084NA03
4C084ZA36
4C084ZA59
4C084ZA89
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA01
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
本発明は,FGF10活性を有し,配列番号:1のSer69~Ser208のアミノ酸配列を有するか若しくはそれから成る配列番号:3,又は配列番号:1のLeu40~Ser208のアミノ酸配列を有するか若しくはそれから成る配列番号:5と少なくとも85%の配列同一性を有するか若しくはそれから成る耐熱性FGF10ポリペプチド,あるいは少なくともアミノ酸置換L152Fを含むその断片に関する。アミノ酸置換V123I,Q175E,及びN181Dのいずれかが更に含まれ得ることが好ましい。本発明は更に,再生医療若しくは他の関連医療用途又は化粧品における対象の耐熱性FGF10ポリペプチドの使用を開示する。更に,本発明は,ヒト胚性幹細胞の増殖及び分化又は,スフェロイド並びにオルガノイドの形成及び分化に適した対象の熱安定性FGF10ポリペプチドを含む培地を開示する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
FGF10活性を有し,配列番号:1のSer69~Ser208のアミノ酸配列を有する配列番号:3と少なくとも85%の配列同一性を有する若しくはそれから成る耐熱性FGF10ポリペプチド又はその断片であって,前記耐熱性FGF10ポリペプチド又はその断片は少なくともアミノ酸置換L152Fを含む,耐熱性FGF10ポリペプチド。
【請求項2】
前記耐熱性FGF10ポリペプチドは,配列番号:3若しくはその断片を有する又はそれから成り,前記耐熱性FGF10ポリペプチド又はその断片は少なくともアミノ酸置換L152Fを含む,請求項1記載の耐熱性FGF10ポリペプチド。
【請求項3】
前記耐熱性FGF10ポリペプチド又はその断片は更に,V123I,Q175E及び,N181Dから成る群より選択される少なくとも1つのアミノ酸置換から成る,請求項1又は2記載の熱安定性FGF10ポリペプチド。
【請求項4】
前記耐熱性FGF10ポリペプチド又はその断片は更に,V123I,Q175E及び,N181Dから成る群より選択される少なくとも2つのアミノ酸置換を含む,請求項1又は2記載の耐熱性FGF10ポリペプチド。
【請求項5】
前記耐熱性FGF10ポリペプチド又はその断片は更に,3つのアミノ酸置換V123I,Q175E及び,N181Dを含む,請求項1又は2記載の熱安定性FGF10ポリペプチド。
【請求項6】
更に以下:
‐ 配列番号:4の少なくとも一部若しくは全アミノ酸又は,配列番号:3のN末端のメチオニン;
及び/又は
‐ N末端又はC末端部分における,最大長が20のアミノ酸である少なくとも1つの短い融合アミノ酸配列(タグ)
を有する,請求項1~5いずれか1項記載の耐熱性FGF10ポリペプチド。
【請求項7】
前記耐熱性FGF10ポリペプチドは,配列番号:1のLeu40~Ser208のアミノ酸配列を有する配列番号:5若しくはその断片と少なくとも85%の配列同一性を有する又はそれから成り,前記耐熱性FGF10ポリペプチド又はその断片は,少なくともアミノ酸置換L152Fを含む,請求項1記載の耐熱性FGF10ポリペプチド。
【請求項8】
前記耐熱性FGF10ポリペプチドは,配列番号:5若しくはその断片を有する又はそれから成り,前記耐熱性FGF10ポリペプチド又はその断片は,少なくともアミノ酸置換L152Fを含む,請求項7記載の耐熱性FGF10ポリペプチド。
【請求項9】
前記耐熱性FGF10ポリペプチド又はその断片は更に,V123I,Q175E及び,N181Dから成る群より選択される少なくとも1つのアミノ酸置換を含む,請求項7又は8記載の耐熱性FGF10ポリペプチド。
【請求項10】
前記耐熱性FGF10ポリペプチド又はその断片は更に,V123I,Q175E及び,N181Dから成る群より選択される少なくとも2つのアミノ酸置換を含む,請求項7又は8記載の耐熱性FGF10ポリペプチド。
【請求項11】
前記耐熱性FGF10ポリペプチド又はその断片は更に3つのアミノ酸置換,V123I,Q175E及び,N181Dを含む,請求項7又は8記載の耐熱性FGF10ポリペプチド。
【請求項12】
配列番号:5,配列番号:7,配列番号:8,配列番号:9,配列番号:10,配列番号:11,配列番号:12又は配列番号:13から成るFGF10ポリペプチドの群より選択される請求項7~11いずれか1項記載の耐熱性FGF10ポリペプチド。
【請求項13】
更に以下
‐ 配列番号:6のアミノ酸の少なくとも一部若しくは全部又は,配列番号:5のN末端のメチオニン;
及び/又は
‐ N末端又はC末端部分における,最大長が20のアミノ酸である少なくとも1つの短い融合アミノ酸配列(タグ)
を有する請求項7~12いずれか1項記載の耐熱性FGF10ポリペプチド。
【請求項14】
更に,配列番号:5,配列番号:7,配列番号:8,配列番号:9,配列番号:10,配列番号:11,配列番号:12,又は配列番号:13のいずれかのN末端で,配列番号:6を有する請求項7~12いずれか1項記載の耐熱性FGF10ポリペプチド。
【請求項15】
再生医療における使用,好ましくは様々なストレスを掛けた後の肺上皮再生又は,創傷及び潰瘍の治癒又は,他の関連する医療用途,例えば心臓治療のための請求項1~14いずれか1項記載の耐熱性FGF10ポリペプチド。
【請求項16】
化粧品中での,好ましくはコラーゲン合成,皮膚強度,抗老化治療及び,毛髪成長の非治療的刺激を支援する際の,請求項1~14いずれか1項記載の耐熱性FGF10ポリペプチドの使用。
【請求項17】
ヒト胚性幹細胞の増殖及び分化又は,スフェロイド及びオルガノイド,好ましくは肺オルガノイド,胃オルガノイド,肝オルガノイド,膵臓オルガノイド及び,前立腺オルガノイドの形成及び分化のための培地であって,前記培地中に10ng/mL~500ng/mLで有効量の請求項1~14いずれか1項記載の耐熱性FGF10ポリペプチドを含む培地。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,野生型FGF10と比較して熱安定性(thermal stability又はthermostability)が改善された耐熱性(thermostable)改変線維芽細胞成長因子10(FGF10)又はその断片(フラグメント),並びにスフェロイド及びオルガノイドの培養,再生医療,又は他の関連医療用途若しくは化粧品におけるその使用に関する。本発明は更に,ヒト胚性幹細胞の増殖及び分化,並びにスフェロイド及びオルガノイドの形成及び分化に好適なFGF10から成る培地に関する。
【背景技術】
【0002】
線維芽細胞成長因子10(FGF10,ケラチノサイト成長因子2,KGF‐2,KGF2,又はrhKGF2とも称する)は,ヘパリンと相互作用する線維芽細胞成長因子の5つのパラクリン作用サブファミリー(paracrine-acting subfamilies)のうちの1サブファミリーに属する。近縁のFGF3,FGF7,及びFGF22と共に,FGF10はいわゆるFGF7サブファミリーを形成する。このサブファミリーは,そのメンバーが間葉でのみ分泌され,上に重なる上皮に存在するレセプターFGFR1(FGFR1b)とFGFR2(FGFR2b)との「b」アイソフォームを特異的に活性化するという点で,他のFGFより独特である(Itoh, N. & Ornitz, D.M., 2004, Trends Genet. 20:563‐569)。FGF10は胚の器官形成及び組織パターン化に重要な役割を担い,細胞増殖及び細胞分化の制御を経て成体哺乳動物の創傷治癒及び組織恒常性を媒介する(Beenken, A. & Mohammadi, M., 2009, Nat. Rev. Drug Discov. 8:235‐253)。FGF10は上皮‐間葉相互作用を媒介することが分かっており,この相互作用は肺の発生及び様々なストレスを経た後の再生に不可欠である(Tong, L. et al., 2016, Sci. Rep. 6:21642)。FGF10は更に,四肢,甲状腺,下垂体,腎臓,歯,毛包,唾液腺,内耳,胸腺,腺胃,及び膵臓の発生にも必要である(Itoh, N., 2016, Cytokine Growth Factor Rev. 28:63-69)。
【0003】
ヒトFGF10のcDNAは,37アミノ酸の疎水性N末端シグナルペプチドを有する208アミノ酸残基タンパク質をコードする。FGF10は脊椎動物種で,遺伝子構造とアミノ酸配列との両方において高度に保存されている(Ornitz, D.M & Itoh, N., 2001, Genome Biol. 2: 3005)。脊椎動物種全体では,オルソロガスなFGF10タンパク質同士は約85%のアミノ酸配列同一性及び類似の生物学的機能を共有している(Ornitz, D.M & Itoh, N., 2015, Rev. Dev. Biol. 4:215-266)。FGF10は,保存された約120アミノ酸のコア領域(アミノ酸75~166及び176~205)を含み,この領域は他のパラクリンFGFメンバーと相同性(約30~60%)であり(Emoto, H. et al., 1997, J. Biol. Chem. 272: 23191-23194),12本のβ‐鎖から成るβ‐三葉結び目フォールドを有する(Yeh, B.K. et al., 2003, Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 100:2266-2271)。FGF10のコア領域では,アミノ酸のほとんどがFGFR2レセプターとの相互作用に重要である。
【0004】
FGF10とFGFR2bレセプターとの選択的相互作用は,レセプターを自己リン酸化し,その後,細胞内シグナル伝達経路(RAS‐MAPK,PI3K‐AKT,及びPLCγ1)を活性化し,細胞生存を促進し,分裂促進性細胞応答を誘導し,細胞移動性を媒介する。上皮増殖や,胚発生中及び出生後の生活中における分化系列決定を制御する能力,並びにげっ歯類動物モデルで実証された損傷後の上皮再生を刺激する能力があることから,FGF10の主な治療可能性は,肺胞細胞の損傷を予防し,損傷した肺の正常な上皮機能を回復させることにある(Yuan, T. et al., 2018, Front. Genet. 9:418)。FGF10の可能性ある他の治療用途には,創傷治癒(米国特許第6,653,284号明細書),心臓疾患の治療(Rochairs, F. et al., 2014, Cardiovasc. Res. 104:432-442),又は肥満及び代謝性疾患の治療(Fisher, C. et al., 2017, Nat. Commun. 8:2079)が挙げられる。治療用途以外にも,FGF10は様々な胚性幹細胞,スフェロイド,及びオルガノイドの培地の成分として使用されることが多い(US 6,692,961 B1; Rabata, A. et al., 2020, Front. Cell Dev. Biol. 21:574)。
【0005】
しかし,FGF10の実用的な可能性は,その短い半減期(無細胞培地中では24時間未満),低い熱安定性,及び生物学的活性の急速な喪失を伴うタンパク質分解に対する脆弱性から実証された固有の不安定性により制限されている(Buchtova, M. et al., 2015, Cell. Mol. Life Sci., 72: 2445-2459; Chen, G. et al., 2012, Stem Cells 30:623‐630)。FGF10の安定性が低いことは,このタンパク質の貯蔵,輸送,及び実用化にとって大きな障害となっている。安定性が低いため,FGF10は細胞培養で頻繁に入れ替えなければならず,濃度の変動が細胞の適応度に悪影響を及ぼす可能性がある。分解の結果生じた非折り畳み型又は凝集型タンパク質形態は毒性や免疫原性を有する可能性があるため,治療用途についても同様である(Chen, B.L. & Arakawa, T., 1996, J. Pharm. Sci. 85:419-426)。
【0006】
FGF10安定化の典型的なプロセスはヘパリンの添加に代表される。ヘパリン結合はFGF10を熱や酸による変性から保護し,半減期を延長する(Buchtova, M. et al., 2015, Cell. Mol. Life Sci., 72: 2445-2459)。しかし,ヘパリンは主に肥満細胞により生成され,その抗凝固特性は細胞環境の脆弱なバランスに更に影響を及ぼす可能性があるため,ヘパリンの使用は生理的用途ではない。FGF10を医療や化粧品に使用するためには,より高い安定性を得るための様々な方法を開発しなければならない。
【0007】
ヘパリンを使用せずにFGF10を安定化させるために,他の戦略も採用されている。WO2013/082196(又は米国特許10,039,807号)に記載されている戦略は,ヘパリン模倣スルホン酸ポリマー及びコポリマーをFGF10と併用して安定化を図るものである。他の戦略は,還元剤(米国特許第7,754,686号),ショ糖オクタ硫酸塩添加(米国特許第5,202,311号),ヒドロキシプロピルセルロース添加(米国特許第5,189,148号),硫酸グルカン添加(欧州特許第0345660号),ポリアニオン‐PEG接合体(Khondee, S., et al., 2011, Biomacromolecules 12:3880-3894),又はキレート剤(米国特許第5,217,954号)を用いてFGFポリペプチドを安定化している。特許文献,米国特許第8,304,387号には,凍結乾燥に有用なケラチノサイト増殖因子(KGF)の新規な安定的製剤が記載されており,ここではKGFは糖,界面活性剤,又は増量剤と併用している。欧州特許750628号明細書には,組換え技術により生成されたFGF10が記載されている。このようなポリペプチド,又はこのようなポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは,治療目的,例えば,創傷,火傷,及び潰瘍の治癒を促進する目的で,神経細胞障害による神経細胞損傷を予防し,皮膚老化及び脱毛を予防するために使用することが可能である。しかし,この形態のポリペプチドは,いかなる手段によっても安定化されていない。
【0008】
安定化添加物の添加に代わるアプローチとして,タンパク質工学が挙げられる。タンパク質工学は,タンパク質の安定性を高めるアミノ酸配列の置換を導入する。特許文献,欧州特許第0950100号明細書は,N末端又はC末端部分を切断し,C末端置換R194E,R194Q,K191E,K191Q,R188E,R188Qを有する人工形態のFGF10ポリペプチドに言及しており,これら置換は大腸菌(E.coli)でのタンパク質発現レベル及び溶解性を高める目的で構築され,治療用途に使用可能である。しかし,これらの文献は,突然変異や切断が,提供されたFGF10変異体の熱安定性や半減期に影響を与えるとは述べておらず,支持もしていない。特許文献,米国特許第6,653,284号明細書は,軟部組織の成長及び再生を必要とする治療用途のための,N末端又はC末端部分のいずれかを切断したFGF10ポリペプチドの液体製剤及び凍結乾燥製剤に言及している。FGF10のいずれの切断形態についても,熱安定性又は半減期の向上は実証されていない。特許文献,WO2001/002433号は,N末端部分で切断され,置換R68G,R68S,R68A,R78A,R80A,K81A,K87A,K91A,K136A,K137A,K139A,K144A,K148E,K149E,K151A,K153A,K155A,R174A,K183A,K183Q,K183E,R187A,R188A,R188E,又はK191Eを有するFGF10ポリペプチドの複数の突然変異形態に言及しており,これらは,活性の促進,安定性の増加,収率の向上,又は溶解性の改善を示し,創傷治癒を促進する治療用途に使用可能である。FGF10ポリペプチドの他の安定化する可能性がある置換,N105D,C106F,K144R,K153M,及びI156Rは,最近イン・シリコ(In silico)デザインにより同定されているが,これらは実験的に実証されていない(Alizadeh, A.K., et al., 2021, Growth Factors 38:197-209)。
【発明の概要】
【0009】
本発明は,ヒトFGF10ポリペプチド(配列番号:1)に由来し,スフェロイド及びオルガノイドの培養,再生医療若しくは他の関連医療用途,又は化粧品に使用できる,単離された熱安定性人工ポリペプチドを提供する。
MWKWILTHCA SAFPHLPGCC CCCFLLLFLV SSVPVTCQAL GQDMVSPEAT
NSSSSSFSSP SSAGRHVRSY NHLQGDVRWR KLFSFTKYFL KIEKNGKVSG
TKKENCPYSI LEITSVEIGV VAVKAINSNY YLAMNKKGKL YGSKEFNNDC
KLKERIEENG YNTYASFNWQ HNGRQMYVAL NGKGAPRRGQ KTRRKNTSAH
FLPMVVHS(配列番号:1)
【0010】
FGF10ポリペプチドの天然の不安定性に起因する欠点は,FGF10活性を有し,配列番号:1又はその機能的断片と85%の配列同一性を有する単離された耐熱性改変ポリペプチドを提供する本発明により解消される。
【0011】
本発明の主題は,FGF10活性を有し,配列番号:1のSer69~Ser208のアミノ酸配列を有する配列番号:3と少なくとも85%の配列同一性を有する若しくはそれから成る耐熱性FGF10ポリペプチド又は,その断片であり,前記耐熱性FGF10ポリペプチド又はその断片は少なくともアミノ酸置換L152Fを含む。
【0012】
本発明の好ましい実施態様によれば,耐熱性FGF10ポリペプチドは,配列番号:3若しくはその断片を有する又はそれから成り,耐熱性FGF10ポリペプチド又はその断片は少なくともアミノ酸置換L152Fを含む。
【0013】
本発明の好ましい実施態様は,V123I,Q175E及びN181Dから成る群より選択される少なくとも1つ又は,少なくとも2つ又は,少なくとも3つのアミノ酸置換を更に含む耐熱性FGF10ポリペプチド又はその断片を開示する。即ち,本発明に従ったポリペプチドは常に,少なくともL152F置換;又は,L152Fと,V123I及び/若しくはQ175E及び/若しくはN181Dとを組み合わせた2つ,3つ又は,4つの置換の組み合わせを示す。
【0014】
ヒトFGF10ポリペプチド(配列番号:1)のアミノ酸配列は208のアミノ酸から成り,アミノ酸配列の配列番号:1のN末端アミノ酸領域MWKWILTHCA SAFPHLPGCC CCCFLLLFLV SSVPVTC(配列番号:2)はN末端シグナルペプチドに相当し,このシグナルペプチドはタンパク質の転位を目的とし,通常,成熟ポリペプチドで除去される。従って,シグナルペプチドは,本発明に従ったFGF10ポリペプチドのアミノ酸配列中に存在してもしなくてもよい。大腸菌においてFGF10ポリペプチドの組換え生成を行うようないくつかの実施態様では,前記シグナルペプチドは単独のアミノ酸メチオニン(M)のみで置換してもよい。
【0015】
成熟ヒトFGF10ポリペプチドは,その生物学的活性を失うことなく,そのN末端において最大31アミノ酸で更に切断してもよく,従って,N末端Metの有無にかかわらず,Ser69~Ser208のアミノ酸配列から成る(アミノ酸番号は,配列番号:1に対応する)。
【0016】
様々な脊椎動物種のFGF10ポリペプチド同士が約85%の配列同一性を有し,類似の機能を示し,類似の生物学的活性を有することは,当該技術分野において更に公知である。
【0017】
本発明の対象は単離された改変耐熱性FGF10ポリペプチドに関し,前記FGF10ポリペプチドはFGF10活性を示し,以下から成る:
(a)配列番号:1のSer69~Ser208のアミノ酸配列と少なくとも85%の配列同一性を有する又はそれから成る,耐熱性FGF10ポリペプチド(配列番号:3参照);
(b)配列番号:3又はその断片を有する若しくはそれから成る耐熱性FGF10ポリペプチド;並びに
(c)少なくとも安定化アミノ酸置換L152F(配列番号:3)又は,安定化置換L152Fと,V123I,Q175E若しくはN181Dから成る群より選択される少なくとも1つの追加の安定化アミノ酸置換との組み合わせを有する(a又はb)耐熱性ポリペプチド。
【0018】
好ましくは,耐熱性FGF10ポリペプチド配列の最大長は228のアミノ酸,より好ましくは190のアミノ酸である。
【0019】
配列番号:3において太字及び下線で記したアミノ酸は,このアミノ酸配列の84位で突然変異している;この部分は,配列番号:1に従ったアミノ酸番号におけるアミノ酸置換L152Fに対応する。
【0020】
いくつかの実施態様では,耐熱性ポリペプチドは更に,以下のアミノ酸置換のうちの少なくとも1つ又は,少なくとも2つ又は,少なくとも3つを含む:
‐ 前記アミノ酸配列の配列番号:3における55位のアミノ酸置換I(配列番号:1に従った番号におけるアミノ酸置換V123Iに対応する);
‐ 前記アミノ酸配列の配列番号:3における107位のアミノ酸置換E(配列番号:1に従った番号におけるアミノ酸置換Q175Eに対応する);
‐ 前記アミノ酸配列の配列番号:3における113位のアミノ酸置換D(配列番号:1に従った番号におけるアミノ酸置換N181Dに対応する)。
【0021】
いくつかの実施態様では,耐熱性FGF10ポリペプチドは,配列番号:3のN末端部分で,アミノ酸配列MWKWILTHCA SAFPHLPGCC CCCFLLLFLV SSVPVTCQAL GQDMVSPEAT NSSSSSFSSP SSAGRHVR(配列番号:4)の少なくとも一部又は全部を有してもよい。他の実施態様では,耐熱性FGF10ポリペプチドは,配列番号:3のN末端部分でメチオニン(M)を有してもよい。いくつかの実施態様では,耐熱性FGF10ポリペプチドは,そのN末端又はC末端部分で最大長が20のアミノ酸である短い融合アミノ酸配列(タグとして知られている)を有してもよい。耐熱性FGF10ポリペプチド配列のN末端及びC末端での延長に関する前記実施態様同士は組み合わせることが可能である。
【0022】
本発明の他の好ましい実施態様によれば,耐熱性FGF10ポリペプチドは更に,以下を有する:
‐ 配列番号:4の少なくとも一部若しくは全アミノ酸又は,配列番号:3のN末端のメチオニン;
及び/又は
‐ N末端又はC末端部分における,最大長が20のアミノ酸である少なくとも1つの短い融合アミノ酸配列(タグ)。
【0023】
好ましい実施態様では,本発明は,配列番号:5と少なくとも85%の配列同一性を有する配列を有する又はそれから成る耐熱性FGF10ポリペプチドを開示する:
配列中,太字及び下線で記したアミノ酸は保持する必要がある。
【0024】
好ましくは,耐熱性FGF10ポリペプチド配列の最大長は228のアミノ酸,より好ましくは190のアミノ酸である。
【0025】
アミノ酸配列の配列番号:5は配列番号:1のLeu40~Ser208の断片に対応する。配列番号:5において太字及び下線で記したアミノ酸は,このアミノ酸配列の113位で突然変異している;この部分は,配列番号:1に従った番号におけるアミノ酸置換L152Fに対応する。
【0026】
本発明の他の好ましい実施態様によれば,耐熱性FGF10ポリペプチドは,配列番号:1のLeu40~Ser208のアミノ酸配列を有する配列番号:5又はその断片と少なくとも85%の配列同一性を有する又はそれから成り,当該耐熱性FGF10ポリペプチド又はその断片は,少なくともアミノ酸置換L152Fを含む。
【0027】
本発明の他の好ましい実施態様によれば,耐熱性FGF10ポリペプチドは,配列番号:5又はその断片を有する又はそれから成り,当該耐熱性FGF10ポリペプチド又はその断片は,少なくともアミノ酸置換L152Fを含む。
【0028】
いくつかの実施態様では,耐熱性FGF10ポリペプチドは更に,以下のアミノ酸置換のうちの少なくとも1つ又は,少なくとも2つ又は,少なくとも3つを含む:
‐ 前記アミノ酸配列の配列番号:5における84位のアミノ酸置換I(配列番号:1に従った番号におけるアミノ酸置換V123Iに対応する);
‐ 前記アミノ酸配列の配列番号:5における136位のアミノ酸置換E(配列番号:1に従った番号におけるアミノ酸置換Q175Eに対応する);
‐ 前記アミノ酸配列の配列番号:5における142位のアミノ酸置換D(配列番号:1に従った番号におけるアミノ酸置換N181Dに対応する)。
【0029】
本発明の他の好ましい実施態様によれば,耐熱性FGF10ポリペプチド又はその断片は更に,V123I,Q175E及びN181Dから成る群より選択される少なくとも1つ又は,少なくとも2つ又は,少なくとも3つのアミノ酸置換を含む。
【0030】
いくつかの実施態様では,耐熱性ポリペプチドは,配列番号:5のN末端部分でアミノ酸配列MWKWILTHCA SAFPHLPGCC CCCFLLLFLV SSVPVTCQA(配列番号:6)の少なくとも一部又は全部を有してもよい。他の実施態様では,耐熱性ポリペプチドは,配列番号:5のN末端部分でメチオニン(M)を有してもよい。いくつかの実施態様では,耐熱性ポリペプチドは,そのN末端部分又はC末端部分で,最大長が20のアミノ酸である短い融合アミノ酸配列(タグとして知られている)を有してもよい。耐熱性ポリペプチド配列のN末端及びC末端での延長に関する前記実施態様同士は組み合わせることが可能である。
【0031】
本発明の詳細な説明及び本発明の実施例では,配列番号:1に従ったアミノ酸置換の番号を使用する。即ち,切断されたアミノ酸配列を使用する場合でも,ヒトFGF10ポリペプチドの全アミノ酸配列に対する番号を使用する。
【0032】
本発明に従った耐熱性FGF10ポリペプチド又はその断片は,4MBr‐5細胞増殖アッセイでは未変化のFGF10活性を有する。このアッセイでは,肺上皮4MBr‐5細胞はFGF10ポリペプチドの天然配位子であるFGFレセプター2b(FGFR2b)を発現している(図2,6,14,及び17参照)。有利にも,本発明に従った耐熱性FGF10ポリペプチド又はその断片は,37℃で長期間,安定で変化していない生物学的活性を示す(図7,9,及び10参照)。
【0033】
本発明の耐熱性FGF10ポリペプチドは,FGF10野生型又はその断片と比較して大幅に安定しているため,特に有利である。この安定性は,ポリペプチド分子が本来有する安定性に起因している。添加物(即ちヘパリン)又は担体分子(即ちウシ血清アルブミン(BSA))などの,タンパク質安定性を促進する他の化合物を添加する必要はない。同時に,耐熱性FGF10ポリペプチドの生物学的活性は保たれる。開示した耐熱性FGF10ポリペプチドは,研究及び臨床用途に使用できる。
【0034】
本発明に従った耐熱性FGF10ポリペプチド又はその断片は非修飾のFGF10活性を有し,その融解温度は,野生型FGF10ポリペプチドと比較して7~19℃,好ましくは10~19℃高い。本発明に従った全ての耐熱性FGF10ポリペプチドは,指定変異導入法(site-directed mutagenesis)により又は,人工遺伝子合成により構築し,発現ベクターpET28bにサブクローン化し,均質に精製し(SDS‐PAGE電気泳動により測定したタンパク質純度≧95%),続いて安定性(融解温度測定)及び生物学的活性について特性解析を行った。
【0035】
配列番号:5及び配列番号:7~配列番号:13から選択されるアミノ酸配列又はその断片と少なくとも85%の配列同一性を有する若しくはそれから成る,全長最大228のアミノ酸(より好ましくは全長最大190のアミノ酸)の耐熱性FGF10ポリペプチドがより好ましい。
【0036】
本発明の他の好ましい実施態様によれば,耐熱性FGF10ポリペプチドは,配列番号:5,配列番号:7,配列番号:8,配列番号:9,配列番号:10,配列番号:11,配列番号:12又は,配列番号:13から成る耐熱性FGF10ポリペプチドの群より選択される。
【0037】
いくつかの実施態様では,配列番号:5及び,配列番号:7~配列番号:13のいずれかの耐熱性ポリペプチドは,そのN末端部分で,アミノ酸配列MWKWILTHCA SAFPHLPGCC CCCFLLLFLV SSVPVTCQA(配列番号:6)の少なくとも一部又は全部を有してもよい。他の実施態様では,配列番号:5及び,配列番号:7~配列番号:13のいずれかの耐熱性ポリペプチドは,そのN末端部分でメチオニン(M)を有してもよい。いくつかの実施態様では,配列番号:5及び,配列番号:7~配列番号:13のいずれかの耐熱性ポリペプチドは,そのN末端部分又はC末端部分で,最大長が20のアミノ酸である短い融合アミノ酸配列(タグとして知られている)を有してもよい。耐熱性ポリペプチド配列のN末端及びC末端での延長に関する前記実施態様同士は組み合わせることが可能である。
【0038】
本発明の他の好ましい実施態様によれば,耐熱性FGF10ポリペプチドは更に以下を有する:
‐ 配列番号:6のアミノ酸の少なくとも一部若しくは全部又は,配列番号:5のN末端のメチオニン;
及び/又は
‐ N末端又はC末端部分における,最大長が20のアミノ酸である少なくとも1つの短い融合アミノ酸配列(タグ)。
【0039】
本発明の別の実施態様は,FGF10活性を有する耐熱性FGF10ポリペプチドを開示する。本発明に従った耐熱性FGF10ポリペプチドは更に,配列番号:5,配列番号:7,配列番号:8,配列番号:9,配列番号:10,配列番号:11,配列番号:12又は,配列番号:13のいずれかのN末端で,配列番号:6を有する。
【0040】
本発明に従ったFGF10ポリペプチド又はその断片又はそのムテイン(mutein)の生物学的活性は,4MBr‐5細胞を増殖させるための有効用量中央値であるED50(最大生物学的効果の半分を達成するのに必要なポリペプチドの濃度)により定量的に表すことが可能であり,この効果のためのED50は<15ng/mL,好ましくは<12ng/mLである。FGF10の生物学的活性は,過去に報告されたような,培養肺上皮増殖アッセイにより評価できる(Rubin, J.S. et al., 1989, Proc Natl Acad Sci U S A, 86:802-806)。
【0041】
本発明のより好ましい実施態様は,再生医療における使用,好ましくは様々なストレスを掛けた後の肺上皮再生又は,創傷及び潰瘍の治癒又は,他の関連する医療用途,例えば心臓治療のための,本発明に従った耐熱性FGF10ポリペプチドを開示する。
【0042】
本発明のより好ましい実施形態は,化粧品中での,好ましくはコラーゲン合成,皮膚強度,抗老化治療及び,毛髪成長の非治療的刺激を支援する際の耐熱性FGF10ポリペプチドの使用を開示する。
【0043】
本発明のより好ましい実施形態は,ヒト胚性幹細胞の増殖及び分化又は,スフェロイド及びオルガノイド,好ましくは肺オルガノイド,胃オルガノイド,肝オルガノイド,膵臓オルガノイド及び,前立腺オルガノイドの形成及び分化のための培地であって,前記培地中に10ng/mL~500ng/mLで有効量の耐熱性FGF10ポリペプチドを含む培地を開示する。
【0044】
本発明のこれらの特徴及び他の特徴,目的及び,利点は,以下の説明からより深く理解されるであろう。本明細書では,添付の図面を参照する。図面は本明細書の一部を構成し,ここでは本発明の実施態様は限定するものではなく,例として示している。
【0045】
発明の詳細な説明
定義
本明細書で使用されるいくつかの用語の定義を下記に示す。特記しない限り,ここに使用される技術及び科学用語は全て本発明の属する分野の当業者に一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0046】
FGF10ポリペプチドのアミノ酸配列を説明するために,本発明では,アミノ酸の標準的な1文字略号を使用する:
アラニン:A,システイン:C,アスパラギン酸:D,グルタミン酸:E,フェニルアラニン:F,グリシン:G,ヒスチジン:H,イソロイシン:I,リジン:K,ロイシン:L,メチオニン:M,アスパラギン:N,プロリン:P,グルタミン:Q,アルギニン:R,セリン:S,トレオニン:T,バリン:V,トリプトファン:W,及びチロシン:Y。
【0047】
ここで使用される限り,「耐熱性」という用語は,タンパク質の「熱安定性」という用語と同義であり,熱力学的安定性及び動力学的安定性を包含する。熱力学的安定性は,タンパク質の折り畳まれた状態(未変性機能的タンパク質)及び,広げられた状態又は部分的に広げられた状態との間の平衡に関連し,これら2つのタンパク質状態間のギブス自由エネルギーの差として定義される。動力学的安定性は,タンパク質の折り畳み及び非折り畳みの速度(即ち,動力学)を反映し,タンパク質の未変性状態を,非機能形態(広げられた状態又は部分的に広げられた状態,不可逆的に変性したタンパク質,凝集したタンパク質)から「分離する」自由エネルギー障壁に関連する。
【0048】
ここで使用される限り,FGF10タンパク質の「融解温度」(Tm)という用語は,タンパク質の50%が折り畳まれ,50%が広げられた温度を指す。融解温度は熱力学的安定性の直接的な指標である。Tmは,以下の実施例で更に述べる円偏光二色性(CD)分光法,示差走査熱量測定法(DSC),示差走査蛍光分析法(DSF)など,当技術分野で公知の任意の好適な方法により測定できる。CD分光法は,温度又は他の可変な物理化学的パラメータ(例えば,塩,変性剤又は,有機共溶媒の濃度)の関数として,タンパク質の二次構造及び立体構造変化をモニターすることに適した方法である。DSCは,構造変化が起こる際に上昇又は下降を調節した温度範囲内でタンパク質サンプルに生じる熱エネルギーの取り込みを直接評価できるようにする熱力学的な方法である。DSFは,固有の蛍光の変化を追跡することにより,タンパク質の全体的な三次構造の変化を温度の関数としてモニターする方法である。
【0049】
ここで使用される限り,FGF10ポリペプチドの「構造的半減期」又は「二次構造の半減期」という用語は,定義されたプロセス条件下で,タンパク質二次構造の指標である楕円率が半分に減少するのに掛かる時間の量を指す。半減期は動力学的安定性の直接的な指標である。
【0050】
ここで使用される限り,「野生型」という用語は,種の中で最も一般的なアミノ酸配列を有する未変性FGF10を指す。本明細書では,野生型FGF10とは,169のアミノ酸から成る19.1kDaのタンパク質である配列番号:1のLeu40~Ser208の断片に対応するヒトFGF10の組換え成熟型(the recombinant mature form)である(配列番号:14):
L GQDMVSPEAT NSSSSSFSSP SSAGRHVRSY NHLQGDVRWR
KLFSFTKYFL KIEKNGKVSG TKKENCPYSI LEITSVEIGV VAVKAINSNY
YLAMNKKGKL YGSKEFNNDC KLKERIEENG YNTYASFNWQ HNGRQMYVAL
NGKGAPRRGQ KTRRKNTSAH FLPMVVHS (配列番号:14)
【0051】
好ましくは,「野生型」FGF10は,分子量21.4kDa,190のアミノ酸長のHisタグ及びトロンビン切断部位をN末端部分で含むヒトFGF10の組換え成熟型を指す(配列番号:15):
MGSSHHHHHH SSGLVPRGSH MLGQDMVSPE ATNSSSSSFS SPSSAGRHVR
SYNHLQGDVR WRKLFSFTKY FLKIEKNGKV SGTKKENCPY SILEITSVEI
GVVAVKAINS NYYLAMNKKG KLYGSKEFNN DCKLKERIEE NGYNTYASFN
WQHNGRQMYV ALNGKGAPRR GQKTRRKNTS AHFLPMVVHS (配列番号:15)
【0052】
最大20のアミノ酸の短い融合アミノ酸配列,いわゆるタグ又はペプチドタグは,組換えポリペプチドの発現,溶解性,精製及び,検出を容易にする。当業者であれば,一般に,タグをポリペプチドのN末端又はC末端部分に付加しても,その生物学的機能(例えば,生物学的活性又は安定性)は有意な影響を受けないことは分かっている。タグ,そのアミノ酸配列及び,それらの使用法は当業者に公知である。一般的に使用されるタグとしては,例えば,ALFAタグ,Aviタグ,Cタグ,ポリグルタミン酸タグ,ポリアルギニンタグ,Eタグ,FLAGタグ,HAタグ,Hisタグ,Mycタグ,NEタグ,Rho1D4タグ,Sタグ,Sofタグ1,Sofタグ3,Spotタグ,Strepタグ,T7タグ,TCタグ,Tyタグ,V5タグ,VSVタグ,Xpressタグ,Isopepタグ,Spyタグ,Snoopタグ,Dogタグ又は,Sdyタグが挙げられる。
【0053】
ここで使用される限り,「ヒトFGF10由来のポリペプチド」又は「耐熱性FGF10ポリペプチド」という用語は,FGF10活性を有し,配列番号:3若しくは配列番号:5と少なくとも85%の配列同一性を有する又はそれから成るポリペプチドを指す。
【0054】
ここで使用される限り,「FGF10の2点(two-point)突然変異体」という用語は,配列番号:5又はその断片を有し,アミノ酸置換L152Fと,V123I,Q175E及びN181Dから成る群より選択される1つの付加的なアミノ酸置換との組み合わせから成る耐熱性FGF10ポリペプチドを指す。その耐熱性FGF10ポリペプチドは,配列番号:7(置換L152F及びV123Iを含む)を有する耐熱性FGF10ポリペプチド,配列番号:8(置換L152F及びQ175Eを含む)を有する耐熱性FGF10ポリペプチド,又は配列番号:9(置換L152F及びN181Dを含む)を有する耐熱性FGF10ポリペプチドであることが好ましい。
【0055】
ここで使用される限り,「FGF10の多点(multiple-point)突然変異体」という用語は,配列番号:5又はその断片を有し,アミノ酸置換L152Fと,V123I,Q175E及びN181Dから成る群より選択される少なくとも2つ又は3つの付加的なアミノ酸置換との組み合わせから成る耐熱性FGF10ポリペプチドを指す。その耐熱性FGF10ポリペプチドは,配列番号:10(置換L152F,V123I及びQ175Eを含む)を有する耐熱性FGF10ポリペプチド,配列番号:11(置換L152F,V123I及びN181Dを含む)を有する耐熱性FGF10ポリペプチド,配列番号:12(置換L152F,Q175E及びN181Dを含む)を有する耐熱性FGF10ポリペプチド,又は配列番号:13(置換L152F,V123I,Q175E及びN181Dを含む)を有する耐熱性FGF10ポリペプチドであることが好ましい。
【0056】
ここで使用される限り,「FGF10の4点(4-point)突然変異体」という用語は,「FGF10‐STAB」と同義であり,アミノ酸置換L152F,V123I,Q175E及びN181Dから成る配列番号:5又はその断片を有する耐熱性FGF10ポリペプチドを指す。その耐熱性FGF10ポリペプチドは,配列番号:13を有する耐熱性FGF10ポリペプチドであることが好ましい。
【0057】
ここで使用される限り,「ハヤブサ(Falco peregrinus)由来のFGF10」という用語は「FGF10‐Fp」と同義であり,配列番号:1のアミノ酸配列Ser69~Ser208又はLeu40~Ser208をそれぞれ有するFGF10ポリペプチドの機能的断片に対応する配列番号:3又は配列番号:5と88%の配列同一性を有するFGF10ポリペプチドを指す。136個のアミノ酸のうち16個において修飾を有するFGF10‐Fpポリペプチドは,配列番号:3又は配列番号:5の両方と比較すると,非修飾のFGF10活性を有し(実施例14に記載),アミノ酸配列の配列番号:16を有する。
LQGDVRKRK LYSYNKYFLK IEKNGKVSGT KKENCPFSIL EITSVEIGVV
AVKSIKSNYY LAMNKKGKVY GSKEFNSDCK LKERIEENGY NTYASLNWKH
NGRQMFVALN GRGATKRGQK TRRKNTSAHF LPMVVMS(配列番号:16)
【0058】
ここで使用される限り,「FGF10‐Fpの単一点(single point)突然変異体」という用語は,「FGF10‐Fp+L152F」と同義であり,配列番号:1に従った番号において置換L152Fに対応するアミノ酸配列番号:16の80位に安定化アミノ酸置換Fを含み,配列番号:3又は配列番号:5と88%の配列同一性を有する耐熱性GF10ポリペプチドを指す。FGF10‐Fp+L152Fは,配列番号:16や非修飾のFGF10活性(実施例14に記載)と比較して安定性が向上し,かつ,アミノ酸配列番号:17を有する。
【0059】
ここで使用される限り,「ヒトFGF10由来ポリペプチド」という用語は,「FGF10突然変異体」及び「FGF10ムテイン」と同義であり,ヒトFGF10ポリペプチド(配列番号:1)又はその断片と比較して,本発明に従った置換のいずれかを示す少なくとも1つの異なるアミノ酸配列を有する修飾FGF10ポリペプチド配列を指す。
【0060】
ここで使用される限り,「ポリペプチド」という用語は「タンパク質」と同義である。本発明のポリペプチドは,組換えポリペプチド,天然ポリペプチド又は,合成ポリペプチドであってもよく,好ましくは組換えポリペプチドである。
【0061】
ここで使用される限り,「FGF10の活性」という用語は,「FGF10の生物学的活性」と同義である。そのFGF10の活性は,本発明に従ったFGF10ポリペプチド若しくはヒトFGF10ポリペプチド由来のポリペプチド又は,その断片又は,そのムテインの生物学的活性を意図する。活性(機能的)ポリペプチドは,本発明に従った被験FGF10ポリペプチドのアミノ酸配列及び構造の完全部分であり,FGF10ポリペプチドは,細胞表面レセプター,ヘパラン硫酸又は,その構造類似体ヘパリンとの結合相互作用(iterations)を担う全ての機能的に重要なアミノ酸から成る。ポリペプチドの機能に必須なFGF10のアミノ酸(例えば,ポリペプチド‐レセプター相互作用に重要なアミノ酸)は,当技術分野で周知の方法,例えばX線結晶構造解析や核磁気共鳴を含む構造解析,指定変異導入法(site-directed mutagenesis),又はアラニンスキャンニング変異解析(alanine-scanning mutagenesis)などの構造分析により同定できる。FGF10ポリペプチドの機能的に重要なアミノ酸は,Yeh, K.B. et al., 2003, Proc Natl Acad Sci U S A, 100:2266‐2271; and Zinkle, A. & Mohammadi, M., 2019, Front. Genet. 10:102に見られる。
【0062】
組織の発生及び修復におけるFGF10ポリペプチドの生物学的機能は,線維芽細胞増殖因子レセプター2(FGFR2)への結合を介して作動する。細胞外免疫グロブリンドメインIIIの選択的スプライシングにより生じるFGFRアイソフォーム「b」(IIIb)及び「c」(IIIc)のうち,FGF10は主にFGFR2bレセプターとの選択的相互作用を介して作用する。FGF10とFGFR2bとの結合相互作用は,レセプターを二量化及び自己リン酸化し,その後,細胞内シグナル伝達経路(RAS‐MAPK,PI3K‐AKT及びPLCγ1)を活性化し,細胞生存を促進し,分裂促進性細胞応答を誘導し,細胞移動性を媒介する。FGF10ポリペプチドは主に肺の間葉系で発現する。肺の間葉系では,FGF10ポリペプチドは,胚性肺発生中及び出生後の生活中における上皮増殖及び分化系列決定の調節に重要な役割を担っている。他の標的細胞としては,一般に,上皮由来の細胞,例えば,FGFR2bレセプターを発現すること又は,FGF10に応答することが当技術分野で知られている,四肢,小腸及び大腸の両方並びに,腎臓,胸腺,肝臓及び,心臓などの様々な他の器官の発生に関与する細胞が挙げられる。
【0063】
生物学的活性は,例えば細胞増殖及び/又は基質リン酸化などの当技術分野で公知の方法で測定できる。従って,「FGF10活性を有するポリペプチド」としては,細胞増殖アッセイ(例えば,実施例4,8,13,及び14に記載の肺上皮4MBr‐5細胞増殖アッセイ)及び,基質リン酸化(例えば,実施例9及び10に記載のERK1/2リン酸化)においてFGF10活性を示し,FGFR2bレセプターに結合するポリペプチドが挙げられる。
【0064】
本発明に従った耐熱性FGF10ポリペプチド又は,その断片又は,そのムテインは,4MBr‐5細胞増殖アッセイにより測定するED50値(有効量の中央値)が≦15ng/mL,好ましくは<12ng/mLであれば,FGF10活性を有すると考える。活性の程度はFGF10タンパク質の活性と同一である必要はないが,「FGF10活性を有するポリペプチド」は,FGF10‐wtと比較してほぼ類似の活性を示すことが好ましい(即ち,候補ポリペプチドは,参照FGF10タンパク質より高い活性を示すか,又は約2倍以上低い活性を示さない)。
【0065】
ここで使用される限り,「有効用量の中央値」という用語は,「ED50値」と同義であり,最大増殖の半量を達成するのに必要な(即ち,最大生物学的活性の50%を達成するのに必要な),本発明に従った耐熱性FGF10ポリペプチド又は,その断片又は,そのムテインの濃度を指す。
【0066】
FGF10ポリペプチドの生物学的活性は,FGF10の生物学的活性を保持する耐熱性FGF10ポリペプチドの機能的断片の存在を必要とする。ここで使用される限り,「断片」という用語は「機能的断片」と同義であり,全ての機能的に重要なアミノ酸,即ちポリペプチドとFGFレセプターとの相互作用やヘパラン硫酸との相互作用を担うアミノ酸を有する耐熱性FGF10ポリペプチドの配列及び構造の無傷(intact)部分を指す。FGF10配列(配列番号:1)のN末端部分で37(シグナル配列を欠損した成熟FGF10ポリペプチドに相当する)~68アミノ酸を切断しても,FGF10活性が維持されたままであることは当業者に公知である。また,FGFR2bレセプターに結合し,活性化し又は,阻害することによりFGF10活性を模倣するFGF10の模倣ペプチドである短いFGF10ペプチドは,以前に報告されている(特許文献,米国特許第6,653,284号,及び欧州特許出願公開第0950100号を参照)。
【0067】
FGF10ポリペプチドは,様々な脊椎動物種同士で約85%の配列同一性を示す。従って,当業者であれば,85%の配列同一性はFGF10ポリペプチドの生物学的活性に悪影響を及ぼさないことは理解している。配列同一性は少なくとも90%,91%,92%,93%,94%,95%,96%,97%,98%,99%及び,100%であることが好ましい。熱安定性FGF10ポリペプチドはまた,本発明に従った少なくとも1つ以上の安定化アミノ酸置換も示す。従って,本発明に従った被験耐熱性FGF10ポリペプチドのTmは,少なくとも7℃,好ましくは少なくとも10℃,より好ましくは少なくとも14℃上昇し,同時に,所望の生物学的活性を保持しており,即ち,細胞表面の標的FGFレセプターと結合し,未処理のコントロール細胞と比較して培養細胞の成長,増殖又は,生存を誘発することが可能である。
【0068】
ここで使用される限り,「ムテイン」という用語は,「突然変異体(mutant)」及び「変異体(variant)」と同義であり,本発明に従った安定化アミノ酸置換を有して所望の生物学的活性を有する耐熱性FGF10ポリペプチドの機能的ムテインを指す。更に,ムテインは,配列番号:3又は配列番号:5と少なくとも85%の配列同一性を有する場合には,付加的な置換(点置換,点挿入及び点欠失)を有する耐熱性FGF10ポリペプチドの機能的ムテインを指す。従って,機能的FGF10ポリペプチドは,本発明の安定化アミノ酸置換を有し,配列番号:3又は配列番号:5のアミノ酸を少なくとも85%以上を有する。当業者は,アミノ酸置換がポリペプチドの機能に著しく影響する(例えば,1つの脂肪族アミノ酸を第2の脂肪族アミノ酸で置換する)可能性が低いか又は可能性がないことは完全に認識している。一般に,同様の機能を示す残基を使用する場合,三次構造を形成する残基を置換することが可能である。例えば,配列変異の15%はL‐アミノ酸の保存的置換であることが好ましい。ここでは,新たに挿入されたアミノ酸は,元の置換アミノ酸と同様の物理化学的特性を有し,技術常識によれば,タンパク質の構造,活性及び,安定性に対する影響は無いか又は,最小であると予想される。当業者に公知の保存的置換の例としては,1つの疎水性残基を別の残基と置換すること,又は荷電残基若しくは極性残基を別の残基と置換することが挙げられる。このような保存的置換には,以下:(i)グリシン,アラニン,バリン,ロイシン及び,イソロイシン;(ii)フェニルアラニン,チロシン及び,トリプトファン;(iii)セリン及びトレオニン;(iv)アスパラギン酸及びグルタミン酸;(v)グルタミン及びアスパラギン;並びに(vi)リジン,アルギニン及び,ヒスチジンの各群内のアミノ酸置換が挙げられる。どのアミノ酸変化が表現型的にサイレントである可能性が高いか(即ち,タンパク質の機能に重大な悪影響を及ぼす可能性が無いか)についての更なる指針は,Bowie, J.U. et al., 1990, 'Deciphering the Message in Protein Sequences: Tolerance to Amino Acid Substitutions', Science 247:1306-1310に見られる。他の例では,改変がタンパク質の非重要領域(即ち,タンパク質の機能にとって重要でないタンパク質領域)で起こる場合,残基のタイプは全く重要でない場合もある。
【0069】
ここで使用される限り,「配列同一性」という用語は,2つのポリペプチド配列間の関係を指し,参照アミノ酸配列の全長に渡る位置配列同一性のパーセンテージで定義する。位置配列同一性のパーセンテージは,所与のアラインメントにおいて,定義した長さ全体に渡って同一位置にある全く同じ残基の数に100を掛けて決定する。最大限対応させてアラインメントさせたときに2つのポリペプチドのアミノ酸残基が同一であれば,2つのポリペプチドは「100%配列同一性」である。配列アラインメントのバイオインフォマティクス法は当技術分野で周知である。位置配列同一性のパーセンテージは,標準的なソフトウェアプログラムを用いて計算できる。好ましいコンピュータプログラムとしては,BLASTP,MatGAT,Water(EMBOSS),Matcher(EMBOSS),LALIGNが挙げられるが,これらに限定されるものではない。周知のSmith-Watermanアルゴリズムもまた,配列同一性を決定するために使用できる。
【0070】
本発明に従った耐熱性FGF10ポリペプチドのアミノ酸配列は,FGF10ポリペプチドの参照配列(配列番号:3又は配列番号:5)と同一であってもよく,即ち配列同一性は100%であってもよい。あるいは,その参照配列と異なる,特定の整数を最大数とするアミノ酸置換(最大15%の配列変異に相当する)を含んでもよく,この場合FGF10ポリペプチドの配列同一性は100%未満である。配列変異に寄与するこれらのアミノ酸変化は,点置換,点挿入,点欠失又はこれらの組み合わせにより形成される場合もある。この変化は,参照ポリペプチドのN末端部,C末端部又は参照ポリペプチドのこれらの末端部間のいずれかで起こり,参照ポリペプチドの個々のアミノ酸間で個別に又は参照配列の1つ以上の連続した領域で広がる。
【0071】
霊長類,マウス,ラット,ウサギ,ブタ,イヌ,ウシ,ウマ,タカ,トカゲ,ヒトなどの脊椎動物種では,FGF10は高度に保存されており,広範な種の間で少なくとも85%の配列同一性を示す。当業者であれば,例えば非ヒト起源のFGF10配列を用いれば耐熱性FGF10ポリペプチドが15%配列変異する(本明細書に記載の85%の配列同一性に相当)ことは理解している。耐熱性FGF10ポリペプチドと少なくとも85%の同一性を有する本発明の実施態様に従ったFGF10タンパク質は,一般にFGFファミリーの他のメンバーは配列同一性がかなり低いことから,FGF10に類似するタンパク質以外のタンパク質を含む可能性は低い。
【0072】
本発明に従ったヒトFGF10に由来するFGF10ポリペプチドは,遺伝子合成又は変異導入(mutagenesis)により調製できる。一般に,FGF10ポリペプチドをコードする遺伝子は発現ベクターにクローン化され,次いで形質転換された宿主生物,好ましくは微生物中で発現する。宿主生物は外来遺伝子を発現し,所与の発現条件下でFGF10ポリペプチドを生成する。FGF10ポリペプチドをコードする遺伝子はまた,酵母や哺乳動物細胞などの真核生物中で調製することも可能である。
【0073】
組換えFGF10‐wt(5’‐3’)のヌクレオチド配列とpET28bベクター中の上流配列との例を以下に示す(配列番号:18)。開始コドンatg及び停止コドンTAAは灰色で記し,N末端Hisタグ(6×His)は太字及び下線で記し,トロンビン切断認識部位は黒色で記し,発現ベクターpET28bへのクローン化を可能にするNcoI,NdeI,XhoIの制限部位は下線で記している(ccatgg‐5’NcoI,CATATG‐5’NdeI,及びCTCGAG‐3’XhoI)。FGF10ポリペプチドのコード配列は開始コドンatgで始まり,終止コドンTAAで終わる。
【0074】
本発明に従ったアミノ酸置換の挿入に使用するFGF10ポリペプチドは,霊長類,マウス,ラット,ウサギ,ブタ,イヌ,ウシ,ウマ,タカ,ヘビ,トカゲ及びヒトなどの任意の脊椎動物種から単離できる。FGF10ポリペプチドはヒト由来であることが好ましい。しかし,ヒトFGF10のアミノ酸配列(配列番号:1)又は耐熱性FGF10ポリペプチド(配列番号:3,配列番号:5)と少なくとも85%,若しくは86%,87%,88%,89%,90%,91%,92%,93%,94%,95%,96%,97%,98%,99%,100%配列同一性を有する哺乳動物,鳥類,若しくは爬虫類のFGF10ポリペプチドの生物学的に活性な形態を使用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0075】
図1】精製したFGF10‐wt及びその単一点突然変異体(以下の置換N71E,T86F,I118V,V123I,I126Y,N127Y,L152F,H171Y,R174Y,Q175E,Y177F,N181D,V205Pのうち1種を有する)のSDS‐PAGEゲルを示す。タンパク質マーカー:116,66.2,45,35,25,18.4,14.4kDa。組み換えFGF10‐wt,並びにN末端Hisタグ及びトロンビン切断部位を有するその突然変異体のMは約21.4kDaである。
図2】FGF10‐wt及び安定性が向上したその単一点突然変異体により誘導された肺上皮4MBr‐5細胞の増殖を示す。FGF10‐wt,並びにアミノ酸置換V123I,L152F,Q175E及び,N181Dを有するその単一点突然変異体の効果について測定したED50値はそれぞれ0.8,0.4,1.4,0.2,1.6ng/mLであった。各データポイントは3連サンプルの平均値を表す。エラーバーは記号の大きさより小さく,一般に4%未満であった。
図3】精製したFGF10‐wt及び,安定性を高めたその4点突然変異体FGF10‐STABのSDS‐PAGEゲルを示す。タンパク質マーカー:116,66.2,45,35,25,18.4,14.4kDa。組み換えFGF10‐wt,及びN末端にHisタグ及びトロンビン切断部位を有するFGF10‐STABのMは約21.4 kDaである。
図4】FGF10‐wtとその4点突然変異体FGF10‐STABとの熱安定性の比較を示す。融解温度(Tm)はDSFにより測定した。
図5】4つの安定化アミノ酸置換(V123I+L152F+Q175E+N181D)の導入を行うタンパク質工学により媒介したFGF10ポリペプチド安定化と,ヘパリン添加により媒介したポリペプチド安定化との程度の比較を示す。タンパク質の安定化は,安定化したFGF10ポリペプチドと安定化していない(野生型ポリペプチド)FGF10ポリペプチドとの間の融解温度の差(ΔTm)として表している。TmはDSFにより測定した。
図6】FGF10‐STABに誘導された肺上皮4MBr‐5細胞の増殖を示す。この効果について測定したED50値は0.2ng/mLであり,これは組み換えFGF10‐wtについて予測したED50値<15ng/mLと一致している。各データポイントは3連サンプルの平均値を表す。エラーバーは記号の大きさより小さく,一般に4%未満であった。
図7】長時間のインキュベート中,37℃で生物学的活性を保持するFGF10‐STABの能力を示す。(A)FGF10‐wt及びFGF10‐STABを,細胞処理の前に完全培地中で10分,30分,1時間,2時間,4時間,6時間,8時間,12時間,14時間,及び24時間プレインキュベートした。FGFR2レセプターを内因性発現している哺乳動物腺癌MCF7細胞を完全培地中で24時間培養した。その後,細胞をFGF10‐wt又はFGF10‐STABで30分間刺激し,リン酸化ERKl/2について免疫ブロットした。培地アリコート中のFGF10レベルをローディングコントロールとして用いた。野生型FGF10の生物学的活性は熱プレインキュベートの時間経過と共に低下したが,耐熱化したFGF10‐STABは37℃で24時間経過後でも完全な生物学的活性を保持していた。(B)ImageJソフトウェアを用いて行ったウエスタンブロットのデンシトメトリー分析。(C)ローディングコントロールのデンシトメトリー分析。エラーバーは3つの独立した実験から得られた平均値の標準誤差を表す。スチューデントのt検定:***p<0.001,**p<0.01,*p<0.05。
図8】37℃,長時間のインキュベート中での,二次構造を保持するFGF10‐STABの能力を示す。両タンパク質の二次構造の変化はCD分光法によりモニターした。(A)750mMのNaClを含む25mMリン酸バッファー(pH7.5)中の濃度0.2mg/mLのFGF10‐wt及びFGF10‐STABの構造的完全性を,200~260nmの波長範囲に渡って,37℃で24時間楕円率をモニターすることにより追跡した(測定の最大時間は,CD分光法プロトコルで使用した圧縮窒素を用いたボンベの容量により制限した)。FGF10‐STABは37℃で24時間,二次構造を保持したが,227nmで評価したFGF10‐wtの二次構造の測定した半減期は11.6時間であった。(B)37℃,24時間のタンパク質インキュベート前後で記録したFGF10‐wt及びFGF10‐STABのCDスペクトル。適切に折り畳まれたFGF10タンパク質サンプルは,227nm付近を中心とするブロードな正のピークを有し,204nm付近が最小値であるCDスペクトルを示した。これはβ‐IIタイプのβリッチタンパク質に特徴的である。37℃,24時間のインキュベート後のFGF10‐STABは,加熱インキュベート前と同一のCDスペクトル形状及び強度を示したが,37℃でインキュベート中のFGF10‐wtは立体構造変化を起こしており,これは,インキュベート前に記録したFGF10‐wtのスペクトルとはCDスペクトル形状及び強度が異なっていることにより分かる。
図9】pKrox24(MapERK)‐DsRedレポーターを有するTR01GベクターでトランスフェクションしたMCF7細胞において,FGFRシグナル伝達の持続的活性化を誘導するFGF10‐STABの能力を示す。(A)新鮮なFGF10‐wt及びFGF10‐STABの刺激により誘導したMCF7細胞中のpKrox24レポーターのトランス活性化。(B)37℃で2時間サンプルをプレインキュベートした後にFGF10‐wt及びFGF10‐STABを刺激することにより誘導したMCF7細胞中のpKrox24レポーターのトランス活性化。FGFを介したpKrox24誘導を,DsRed蛍光のライブセルイメージングにより24時間モニターした。
図10】37℃で7日間インキュベートした後の肺上皮4MBr‐5細胞の増殖を誘導するFGF10‐STABの能力を示す。FGF10‐wt及びFGF10‐STABを37℃の温度に1,3,及び7日間曝露し,次いで4MBr‐5細胞の処理に使用した。プロットは,FGF10サンプルで3日間培養した後に測定したレゾルフィン蛍光を示す。各データポイントは3連サンプルの平均値を表す。エラーバーは記号の大きさより小さく,一般に4%未満であった。FGF10‐STABは全プレインキュベート期間後も細胞増殖を誘導する能力を保持しているが,FGF10‐wtの細胞増殖を誘導する能力は,37℃で1日インキュベートした後には既に減少している。
図11】タンパク質トリプシン分解に対するFGF10‐wtとFGF10‐STABとの耐性の比較を示す。(A)FGF10‐wt及び(B)FGF10‐STABをトリプシン(最終濃度2μgプロテアーゼ/100μgFGF10)により37℃で180分間消化した。反応生成物をSDS‐PAGEで可視化した。時間0分と5分との間の差は,組み換えFGF10ポリペプチドのN末端部分(N末端Hisタグ,トロンビン切断部位,及びそれに続く29アミノ酸により形成された)の切断による可能性が最も高いが,これはFGF10の生物学的機能には悪影響を及ぼさない。
図12】配列番号:1のアミノ酸配列Ser69~Ser208から成る精製FGF10ポリペプチド(FGF1069‐208)及び置換L152Fを有するその安定な変異体(FGF1069‐208+L152F)のSDS‐PAGEゲルを示す。タンパク質マーカー:116,66.2,45,35,25,18.4,14.4kDa。組み換えFGF1069‐208並びに,N末端Hisタグ及びトロンビン切断部位を有するFGF1069‐208+L152FのMは,約18.5kDaである。
図13】アミノ酸配列Ser69~Ser208(FGF1069‐208)及び,置換L152Fを有するその安定な変異体(FGF1069‐208+L152F)から成るFGF10ポリペプチドが適切に折り畳まれていることを実証するFGF10ポリペプチドのCDスペクトルを示す。
図14】(A)アミノ酸配列Ser69~Ser208から成るFGF10ポリペプチド(FGF1069‐208)及び(B)置換L152Fを有するその安定な変異体(FGF1069‐208+L152F)により誘導した肺上皮4MBr‐5細胞の増殖を示す。FGF1069‐208及びFGF1069‐208+L152Fのこの効果について測定したED50値はそれぞれ0.5及び1.9ng/mLであった。各データポイントは,3連サンプルの平均値を表す。エラーバーは記号の大きさより小さく,一般に4%未満であった。
図15】ハヤブサ由来のFGF10(FGF10‐Fp)及び置換L152Fを有するその安定な変異体(FGF10‐Fp+L152F)に相当する,配列番号:3又は配列番号:5と88%の配列同一性を有する,精製FGF10ポリペプチドのSDS‐PAGEゲルを示す。タンパク質マーカー:116,66.2,45,35,25,18.4,14.4kDa。組み換えFGF10‐Fp並びに,N末端Hisタグ及びトロンビン切断部位を有するFGF10‐Fp+L152FのMは,約17.9kDaである。
図16】FGF10ポリペプチドのCDスペクトルを示し,FGF10アミノ酸配列に12%の変異(即ち,配列番号:3又は配列番号:5と88%の配列同一性を有するFGF10‐Fp)を導入しても,タンパク質の二次構造は変化しないことを実証している。同時に,配列番号:3又は配列番号:5と88%の配列同一性を有するFGF10ポリペプチド(FGF10‐Fp+L152F)に単一点安定化置換L152Fを導入しても,タンパク質の二次構造は変化しない。
図17】(A)ハヤブサ由来のFGF10に対応する配列番号:3又は配列番号:5と88%の配列同一性を有するFGF10ポリペプチド(FGF10‐Fp)及び(B)置換L152Fを有するその安定な変異体(FGF10‐Fp+L152F)により誘導した肺上皮4MBr‐5細胞の増殖を示す。FGF10‐Fp及びFGF10‐Fp+L152Fのこの効果について測定したED50値はそれぞれ12.7及び6.1ng/mLであった。各データポイントは,3連サンプルの平均値を表す。エラーバーは記号の大きさより小さく,一般に4%未満であった。
図18】FGF10‐wtのものより高い,FGF10‐STABの肺細胞塊(lungospheres)及び肺オルガノイド形成効率を示す。プロットは平均±SDを示す。
【発明を実施するための形態】
【0076】
下記の実施例は本発明の実施態様を説明するために示される。示された実施例は,説明的な性質のものであり,限定することを意図してはいない。本発明の試験の中でここに記載されたものに似ているか等価である方法及び材料を使用することができるが,適切な方法及び材料を下記に述べる。
【0077】
実施例1.エネルギーベース及び進化ベースアプローチによる,FGF10において安定化できる可能性のある単一点突然変異のイン・シリコデザイン
解像度が2.9ÅのFGF10‐FGFR2b複合体の利用可能な結晶構造(PDB ID 1NUN)をRCSB PDBデータベースからダウンロードし,エネルギーベースアプローチ(energy-based approach)により,FGF10での置換を安定化できる可能性を予測するために使用した。全ての配位子及び水分子を除去し,FGF10分子に対応する分離鎖Aを含んでアミノ酸残基Ser69~His207を含むpdbファイルを作成することにより,複合体構造を解析用に準備した。タンパク質側鎖を最小化し,最小化が適正に行われたか否かを判定するためにスコア化した。可能性のある全ての単一点突然変異の安定効果をフォースフィールド計算(force-field calculations)により推定した。特定の位置における20変異全てについてΔΔG自由エネルギーを収集した。進化の保存は,相同配列の系統発生分析により推定した。更なる分析のために,ΔΔG<-1.0kcal/mol及び保存≦7である突然変異を選択した。レセプター結合部位及びヘパリン結合部位に位置する残基のような機能的に適切な位置は,タンパク質機能を損なう突然変異の発生を最小限にするために,選択から除外した。
【0078】
進化ベースアプローチ(evolution-based approach)によりFGF10において安定化できる可能性のある置換を予測するために,FGF10及び関連タンパク質の多重配列アライメントを構築した。FGF10タンパク質配列(配列番号:1)を,NCBIのnrデータベースに対するPSI‐BLAST(Altschul et al., 1997, Nucleic Acids Res. 25:3389‐3402)サーチのクエリとして使用した。PSI‐BLASTを3回行った後に収集した,e値が10-15である配列を,CD‐HIT(Li, W. & Godzik, A., 2006, Bioinformatics 22:1658-1659)により同一性閾値90%でクラスター化した。得られた200を超える配列のデータセットを,デフォルトパラメーターを使用し,P値閾値を変えて,CLANS(Frickey & Lupas, (2004). Bioinformatics. 20, 3702‐3704)でクラスター化した。10-29のP値でFGF10と共にクラスター化した配列を抽出し,MUSCLEプログラム(Edgar, R.C., 2004, BMC Bioinformatics 5:113)でアラインメントさせた。129配列から成る最終アラインメントを,単純なコンセンサスアプローチを使用するバックトゥーコンセンサス分析(back-to-consensus analysis)のインプットとして使用した。この分析はコンセンサスのカットオフ値0.5を使用して行った。このことは与えられた残基が,コンセンサス残基として割り当てられるべき全ての分析された配列の少なくとも50%で,与えられた位置で存在する必要があることを意味する。コンセンサスにより同定した突然変異は,フォースフィールド計算で評価したΔΔG<0.5kcal/molのカットオフ値をパスしなければならない。
【0079】
エネルギーベースアプローチ及び進化ベースアプローチの両方により同定した最良の14個の突然変異のリストを表1に収載する。同定した14個の突然変異は全て実験的検証のために選択した。アミノ酸番号はヒトFGF10ポリペプチドの配列(配列番号:1)に対応している。
【0080】
【表1】
【0081】
実施例2.FGF10の14個の単一点突然変異体の構築及びその発現並びに,アフィニティークロマトグラフィーによる均一になるまでの精製
OneClick法及びPhusionポリメラーゼ(New England Biolabs)により,ウェブプログラムOneClickの説明書及びポリメラーゼメーカーの推奨に従って,突然変異体組み換え遺伝子を構築した。FGF10の突然変異誘発は,テンプレートとしてのベクターpET28b‐His‐トロンビン::fgf10及び,所望の突然変異を有する2つの逆相補的オリゴヌクレオチドを用い,全プラスミドPCRにより行った。得られた構築物を大腸菌NEB5‐アルファコンピテント細胞に形質転換した。細胞をカナマイシン(50μg/mL)を含む寒天プレート上にプレーティングし,37℃で一晩培養した。プラスミドを単離し,ヌクレオチド配列を市販シーケンシングにより確認した。大腸菌BL21(DE3)細胞を発現ベクターで形質転換し,カナマイシンを含む寒天プレート上にプレーティングし,37℃で一晩培養した。単一のコロニーを,カナマイシン(50μg.mL)を含むLB培地10mLに接種し,細胞を37℃で一晩培養した。一夜培養液(Overnight culture)を,カナマイシンを含むLB培地1Lに接種した。細胞を37℃で培養した。その発現を,終濃度0.5mMになるまでイソプロピルb‐D‐1‐チオガラクトピラノシド(IPTG)で誘導した。その後,細胞を20℃で一晩培養した。培養の終わりに,バイオマスを遠心分離により採取し,バッファー(20mMのリン酸水素二カリウム塩及びリン酸二水素カリウム,pH7.5,0.5MのNaCl,10mMのイミダゾール)により洗浄した。懸濁液中の細胞を音波処理により破壊し,細胞ライセートを遠心分離した。シングルステップニッケルアフィニティークロマトグラフィー(single-step nickel affinity chromatography)を使用して,粗抽出液からタンパク質を精製した。ピークフラクション中のタンパク質の存在を15%のポリアクリルアミドゲル中のSDS‐PAGEにより証明した。精製したタンパク質を,750mMのNaClを含むリン酸バッファーに対して透析した。SDS‐PAGE電気泳動(図1)で検証されたように,アフィニティークロマトグラフィーによるFGF10突然変異体の精製により,95%を超える純度の均質なタンパク質が得られた。ほとんどのFGF10単一点突然変異体の収量は,細胞培養液1リットル当たり10~21mgの範囲であった。唯一の例外は,FGF10突然変異S143Pによりタンパク質収量が約90%減少したことである。従って,この突然変異は後の分析から除外した。
【0082】
実施例3.単一点FGF10変異体の熱安定性の測定
エネルギーベース及び進化ベースアプローチにより予測した単一点FGF10突然変異体の熱安定性を,示差走査蛍光分析法(DSF)及び示差走査熱量測定法(DSC)により測定した。750mMの塩化ナトリウムを含む20mMのリン酸バッファー(pH7.5)中の0.2mg/mL及び1.0mg/mLのタンパク質溶液は熱で折り畳まれず,その後,NanoTemper Prometheus DSFシステム及びVP-capillary DSCシステムをそれぞれ使用して固有の蛍光及び熱容量の変化をモニターした。その測定は1℃/分の加熱速度で25~90℃の温度で行った。融解温度(Tm)は,DSF実験の場合は規格化した蛍光熱転移の中点として又は,DSC実験の場合は見かけの熱容量ピークの最大値としてそれぞれ評価した。結果を表2に収載する。ΔTm≧2℃の安定性増加突然変異を有する単一点突然変異体を生物学的活性試験のために選択し(実施例4参照),非修飾の活性が確認された時点で,自由エネルギー計算を用い,安定化変異を多点突然変異体に組み合わせた(combine)(実施例5参照)。
【0083】
【表2】
【0084】
実施例4.肺上皮4MBr‐5細胞増殖アッセイを用いた,安定性が向上した単一点FGF10突然変異体の生物学的活性試験
FGF10は間葉系細胞中で発現し,上皮で発現したFGFレセプター2b(FGFR2b)と結合することにより,上皮‐間葉系シグナル伝達を促進する。4MBr‐5アカゲザルの気管支上皮細胞は増殖するために上皮成長因子(EGF)を必要とするが,その細胞はFGFR2bを天然に発現することから,代わりにFGF10を用いて細胞増殖を誘導してもよい。FGFR2bシグナル伝達が活性化すると,分裂促進反応が起こり,この分裂促進反応はレサズリンベースアッセイなどの様々な細胞増殖/生存率アッセイを用いて定量することが可能である。レサズリンは細胞透過性の酸化還元指標であり,細胞増殖に起因する成長培地の化学的還元に応答して,非蛍光青色色素レサズリンから高蛍光赤色色素レゾルフィンに変換されることにより,細胞生存率を反映する。蛍光シグナルはサンプル中の生細胞数に比例する。
【0085】
熱力学的安定性を高めたFGF10変異体の生物学的活性を試験するため,4MBr‐5細胞を,150μLの4MBr‐5飢餓培地(Ham's F-12K-Gibco,10%ウシ新生仔血清,1%ペニシリンG/硫酸ストレプトマイシン,2μg/mLヘパリン)が入った96ウェルプレートに,7.5×103個/ウェルで播種した。播種から3時間後,細胞を適切に接着するために,細胞をタンパク質処理した。FGF10変異体を飢餓培地で連続希釈し,50μLのタンパク質溶液をウェルに添加した。FGF10変異体の最終濃度は0.001ng/mL~2000ng/mLの範囲であり,各濃度を3重に試験した。マウスEGFをポジティブコントロールとして用いた。培養3日後,各ウェルに20μLのレサズリン溶液を添加し,プレートを一晩インキュベートした。Synergy 4Hリーダー(BioTek,米国)で蛍光測定(励起560nm,発光590nm)により代謝活性を測定した。FGF10による細胞増殖は,オンラインソフトウェアED50 Calculator(AAT Bioquest,米国)により計算した有効量ED50(最大増殖の半分を達成するのに必要なタンパク質の濃度)の中央値で表す。
【0086】
FGF10‐wt及びその熱安定性単一点変異体は,4MBr‐5細胞の増殖を効果的に誘導した(図2)。有効量の中央値(ED50)の比較から,全ての熱安定性単一点変異体は,FGF10‐wt(ED50=0.8ng/mL)と同様に4MBr‐5細胞(ED50値は0.2~1.6ng/mLの範囲)の増殖の誘導に有効であることが明らかになった。4MBr‐5細胞を用いた細胞増殖アッセイで測定した市販の組換えヒトFGF10分子の予測ED50値は<15ng/mLである。この実施例は,FGF10の熱安定性単一点変異体の変化していない生物学的活性を実証している。
【0087】
実施例5.FGF10ポリペプチドの多点突然変異体のイン・シリコ検証
非修飾の生物学的活性を保持しながら安定化することが実験的に確認された,上記で選択した単一点置換全てを,可能性のある全ての二点及び多点突然変異体にイン・シリコで組み合わせ,それらのエネルギーをフォースフィールド計算により推定した。Kelloggら(Kellogg, E. et al., 2011, Proteins, 79:830-838)に従い,Rosettaソフトウェアのddgモノマーモジュールにバックボーンの柔軟性(backbone flexibility)を組み込んだプロトコル16を用い,2点突然変異体及び多点突然変異体の両方をイン・シリコで設計した。側鎖リパッキング(side chain repacking)にはソフト反発設計エネルギー関数(soft-repulsive design energy function)を使用した。距離制限なく,全タンパク質に対して最適化を行った。反発項への加重を増加させながら最適化を3回行った。50回繰り返して得られた最小エネルギーを,安定性効果を表す最終パラメータとして採用した。多点突然変異体の計算した自由エネルギーと,個々の安定化突然変異からの寄与エネルギーの合計として推定した予測ΔΔG値との比較を表3にまとめている。多点突然変異体のΔΔGの計算値と,個々の安定化突然変異の合計ΔΔGとの間で観察された差から,個々の突然変異は互いに大幅な拮抗作用を示さず,それらの組み合わせが安定なFGF10ポリペプチドをもたらすことが示唆された。
【0088】
【表3】
【0089】
実施例6.4点FGF10突然変異体の構築,精製及び,熱安定性試験
FGF10,FGF10‐STABの4点突然変異体をコードする遺伝子を商業的に合成し,T7lacプロモーターの制御下,発現ベクターpET28b‐His‐トロンビンのNdel部位及びXhol部位でサブクローン化した。得られた構築物を大腸菌NEB5‐アルファコンピテント細胞に形質転換した。この細胞をカナマイシン(50μg/mL)を含む寒天プレート上にプレーティングし,37℃で一晩培養した。プラスミドを単離し,ヌクレオチド配列を市販のシーケンシングにより確認した。大腸菌BL21(DE3)細胞を発現ベクターで形質転換し,カナマイシンを含む寒天プレート上にプレーティングし,37℃で一晩培養した。単一のコロニーを,カナマイシン(50μg/mL)を含むLB培地10mLに接種し,細胞を37℃で一晩培養した。一夜培養液を,カナマイシン含むLB培地1Lに接種した。細胞を37℃で培養した。その発現を,終濃度0.5mMになるまでIPTGで誘導した。その後,細胞を20℃で一晩培養した。培養の終わりに,バイオマスを遠心分離により採取し,精製バッファー(20mMのリン酸水素二カリウム塩及びリン酸二水素カリウム,pH7.5,0.5MのNaCl,10mMのイミダゾール)により洗浄し,湿潤バイオマスを-80℃で凍結させた。解凍した培養液を音波処理により破壊し,ライセートを遠心分離した。シングルステップニッケルアフィニティークロマトグラフィーを使用して,粗抽出液からFGFq10‐STABを精製した。精製したタンパク質を,750mMのNaClを含むバッファーに対して透析した。15%ポリアクリルアミドゲル中のSDS‐PAGEによりタンパク質の純度を明らかにした(図3)。FGF10‐STABの平均収量は細胞培養液1リットル当たり12mgであった。FGF10‐STABの熱安定性は,タンパク質溶液を1.0mg/mLに希釈し,DSF及びDSCにより測定した。測定は25~90℃の温度で1℃/分の昇温速度で行った。融解温度(Tm)は,規格化した蛍光熱転移の中点として又は,DSF及びDSC実験の場合は見かけの熱容量ピークの最大値としてそれぞれ評価した。FGF10‐STABのTmは64℃であり,これはFGF10‐wtと比較して融解温度が19℃上昇したことを意味する(図4)。
【0090】
実施例7.ヘパリンの安定化効果を上回るタンパク質工学によるFGF10ポリペプチドの安定化
ヘパリン添加の安定化効果は,FGF10ポリペプチドを含むFGFタンパク質ファミリーの様々なメンバーについて以前から報告されている。そこで,FGF10ポリペプチドの安定化形態であるFGF10‐STABの熱安定性に対するヘパリンの効果を試験し,FGF10‐wtに対するヘパリンの安定化効果と比較した。ヘパリン濃度の範囲でのFGF10‐STAB及びFGF10‐wtの融解温度を,タンパク質溶液を1.0mg/mLに希釈し,DSFにより測定した。測定は25~90℃の温度で1℃/分の昇温速度で行った。Tmは,規格化した蛍光熱転移の中点として評価した。FGF10‐wtの融解温度(Tm46℃;ヘパリン非存在下で測定)は,5~15μMのヘパリン存在下で大幅に上昇したが(Tm57℃),タンパク質工学により安定化したFGF10‐STABの熱安定性は,試験した最高ヘパリン濃度(15μM)存在下でも影響を受けなかった。ヘパリンを介したFGF10ポリペプチドの安定化では融解温度が10℃上昇したが,タンパク質工学を介した(即ち,4つの安定化アミノ酸置換の導入)FGF10安定化では融解温度は19℃上昇した(図5)。この実施例は,タンパク質工学によるFGF10の安定化がヘパリンの安定化効果を補い,更にヘパリンの安定化効果を凌駕することを実証している。
【0091】
実施例8.肺上皮4MBr‐5細胞増殖アッセイによる,安定性を高めた4点FGF10突然変異体の生物学的活性試験
4点FGF10突然変異体,FGF10‐STABの生物学的活性を,4MBr‐5細胞系を用いた細胞増殖アッセイにより測定した(Rubin, J.S. et al., 1989, Proc Natl Acad Sci U S A, 86:802-806)。分析に先立ち,凍結乾燥形態のFGF10を水中で再構築し,最終濃度100μg/mLになるように0.1%BSAで希釈し,その直後に使用するか又は,-20℃で保存した。4MBr‐5細胞を150μLの4MBr‐5飢餓培地(Ham's-12K-Gibco(登録商標)+10%ウシ新生仔血清+1%ペニシリンG/硫酸ストレプトマイシン+2μg/mLヘパリン)が入った96ウェルプレートに,7.5×103個/ウェルで播種した。播種から3時間後,細胞を適切に接着するために,細胞をタンパク質処理した。FGF10‐STABを飢餓培地で連続希釈し,50μLのタンパク質溶液をウェルに添加した。FGF10の最終濃度は0.001ng/mL~2000ng/mLの範囲であり,各濃度を3重に試験した。マウスEGFをポジティブコントロールとして用いた。培養3日後,各ウェルに20μLのレサズリン溶液を添加し,プレートを一晩インキュベートした。Synergy 4Hリーダーで蛍光測定(励起560nm,発光590nm)により代謝活性を測定した。FGF10による細胞増殖は,オンラインソフトウェアED50 Calculatorにより計算した有効量ED50(最大増殖の半分を達成するのに必要なタンパク質の濃度)の中央値で表す。FGF10‐STABの測定したED50値,即ち4MBr‐5細胞の増殖において最大反応の2分の1を誘導するFGF10‐STABの濃度は0.21ng/mLであり,これはこの効果について予測される組換えFGF10‐wtのED50値(<15ng/mL)と完全に一致する(図6)。従ってこの実施例は,FGF10‐STABの生物学的活性が変化していないことを実証している。
【0092】
実施例9.構造的半減期の向上により,37℃で長時間インキュベートしても生物学的活性を維持する熱安定化4点FGF10変異体,FGF10‐STAB
FGFタンパク質の固有な不安定性はその生物学的機能を制限し,長期間に渡ってFGFレセプターシグナル伝達を活性化できないことは明らかである(Buchtova, M. et al., 2015, Cell. Mol. Life Sci., 72: 2445-2459)。FGF10‐STABの熱力学的安定性の向上がどのように,37℃での長時間インキュベート後に細胞シグナル伝達を維持する能力と相関するかを評価するため,乳腺癌MCF7細胞シグナル伝達アッセイにより,ERK経路の活性化を介してFGF10‐STABの生物学的活性をモニターした。MCF7細胞はFGFR2レセプターを内在的に発現する。このFGFR2レセプターは,ERK1/2を含むその下流のエフェクターと共にFGF10との相互作用で活性化される。FGF10の生物学的活性が37℃で低下すると,ERK1/2リン酸化(pERK1/2)は低下する。MCF7細胞は完全培地(10%FBS及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM);Thermo Fisher Scientific)で増殖させた。ウェスタンブロット実験のために,MCF7細胞200,000個/ウェルを0.5mLの完全培地が入った24ウェルプレートにプレーティングし,翌日,最終濃度10ng/mLのFGF10で30分間刺激し,2倍Laemmliサンプルバッファー中に溶解した。この処理のために,FGF10を完全培地で0.5μg/mLの濃度に希釈し,37℃で最大24時間プレインキュベートした。細胞ライセートを煮沸し(95℃,7分間),SDS‐PAGEで分解し,PDVF膜に転写し,pERK1/2及びERK1/2レベルを抗体及び化学発光により可視化した。FGF10を含む培地のアリコートをプレインキュベートの各時点で収集し,等量の2倍Laemmliサンプルバッファーと混合し,煮沸してFGF10についてウェスタンブロットした。以下の抗体を用いた:ウサギモノクローナル抗pERK(4376;Cell Signaling),ウサギポリクローナル抗ERK(9102;Cell Signaling),ウサギポリクローナル抗FGF10(sc‐7917;SCBT)及び,ヤギ抗ウサギIgG‐HRP(A6667;Sigma‐Aldrich)。FGF10‐wtの生物学的活性は熱プレインキュベートの時間経過と共に低下したが,熱安定化FGF10‐STAB変異体は37℃で24時間後でも完全な生物学的活性を保持していた(図7)。
【0093】
同時に,37℃でのインキュベート中の,FGF10‐wt及びその熱安定化4点突然変異体FGF10‐STABの構造的完全性を円偏光二色性(CD)分光法によりモニターした。750mMのNaClを含む25mMリン酸バッファー(pH7.5)中における濃度0.2mg/mLのFGF10‐wt及びFGF10‐STABの二次構造の変化を,200~260nmの波長範囲に渡って37℃で楕円率をモニターすることにより追跡した。データは,タンパク質が入った0.1cmの石英キュベットを用い,1nmのバンド幅で5分間隔で記録した。試験したFGF10変異体の記録した変性曲線(単一指数関数)は,Origin2019bソフトウェア(OriginLab,ノーサンプトン,マサチューセッツ州)を用いて指数関数的減衰曲線に全体的に当てはめた。FGF10二次構造の半減期t1/2は,タンパク質の二次構造の指標である楕円率の初期値が元の値の1/2に減少するために必要な時間として定義し,収集したデータから減衰定数(τ)として次式に従って評価した:t1/2=ln(2)/λ=τln(2)。式中,λは指数関数的減衰定数である。t1/2は227nmで収集したデータから評価し(図8A),227nmでは,両FGF10タンパク質変異体のCDスペクトルは最大の楕円率を示した(図8B)。FGF10‐STABは明らかにFGF10‐wtを上回っており,FGF10‐wtのt1/2は11.6時間であるのに対し,FGF10‐STABの二次構造のt1/2は37℃で>24時間である(図8A)。この実施例は,野生型FGF10の生物学的活性の低下は37℃で熱プレインキュベートした後の二次構造の消失で表わされているのに対し,FGF10‐STABはその二次構造が保持されているため,37℃で1日インキュベートした後も完全な生物学的活性を保持していることを実証している。
【0094】
実施例10.MCF7細胞レポーターアッセイによる4点FGF10変異体FGF10‐STABの長期的生物学的活性試験
pKrox24(MapERK)‐DsRedレポーターを有するTR01GベクターでトランスフェクションしたMCF7細胞を用い,延長FGFRシグナル伝達を活性化するFGF10‐STABの能力を蛍光レポーターアッセイで試験した。pKrox24(MapERK)‐DsRedは,細胞培養液へのFGF10添加時のFGFRシグナル伝達活性化に反応し,FGFR/ERK MAPシグナル伝達経路を刺激するFGF10の能力の高感度モニタリングを可能にした。レポーターアッセイでは,pKrox24(MapERK)プロモーターの制御下でDsRed(イソギンチャクモドキ(Discosoma)赤色蛍光タンパク質)を発現する50,000個のMCF7細胞を,0.5mLの完全培地が入った24ウェルプレートにプレーティングした。翌日,最終濃度100ng/mLのFGF10で24時間細胞を刺激した。自動インキュベート顕微鏡BioStation CT(Nikon)によりDsRedの発現を24時間の全期間に渡ってモニターし,pKrox24(MapERK)‐DsRedでトランスフェクションした無FGF10細胞(FGF10-free cells)であるコントロールについて記録したシグナルに対してプロットした。細胞処理では,FGF10を完全培地中100ng/mLの濃度に希釈し,37℃で2時間プレインキュベートした。
【0095】
組換えFGF10‐wtで細胞を処理すると,FGFR/ERK MAPキナーゼ経路の活性化に反応するpKrox24レポーターの転写が誘導された。FGFを介したpKrox24誘導を24時間モニターし,その誘導はFGF10‐STABで処理した細胞ではFGF10‐wtと比較して約2.5倍強かった(図9A)。FGF10を細胞に添加する前に完全培地中で2時間プレインキュベートすると,FGF10‐STABによる通常の活性化と比較して,FGF10‐wtではpKrox24誘導はほとんど見られなかった(図9B)。この実施例は,FGF10‐STABが,血清存在下でのアンフォールディング及びタンパク質分解に抵抗性のあるFGFRシグナル伝達の活性化を持続できることを実証している。
【0096】
実施例11.4MBr‐5細胞を用いた4点FGF10突然変異体の熱安定性測定
37℃に7日間曝露した後の4MBr‐5細胞の増殖を促進するFGF10‐STABの能力を更に試験し,タンパク質安定性を更に探求した。4MBr‐5細胞を,150μLの4MBr‐5飢餓培地(Ham's F-12K-Gibco,10%新生仔ウシ血清,1%ペニシリンG/硫酸ストレプトマイシン,2μg/mLヘパリン)が入った96ウェルプレートに,7.5×103個/ウェルで播種した。播種から3時間後,細胞を適切に接着するために,細胞をタンパク質処理した。試験に先立ち,FGF10‐STAB及びFGF10‐wtの両方を8μg/mLの濃度で37℃で1日,3日及び,7日間インキュベートした。プレインキュベート後,タンパク質溶液を飢餓培地で連続希釈し,0.001ng/mL~2000ng/mLの最終濃度のタンパク質溶液50μLをウェルに添加した。各タンパク質濃度を3重に試験した。マウスEGFをポジティブコントロールとして用いた。培養3日後,各ウェルに20μLのレサズリン溶液を添加し,プレートを一晩インキュベートした。Synergy 4Hリーダーで蛍光測定(励起560nm,発光590nm)により代謝活性を測定した。FGF10‐STABを37℃で24時間,3日間及び,7日間プレインキュベートしても,4MBr‐5細胞の増殖を効果的に誘導するタンパク質の能力に影響はなかった(図10)。3回の試験期間,37℃でプレインキュベートした後に測定したFGF10‐STABのED50値は<15ng/mLであり,これはプレインキュベートしていないタンパク質のED50値に相当する(ED50=0.37ng/mL)。一方,FGF10‐wtを37℃で24時間,3日及び,7日間処理すると,タンパク質活性は徐々に低下し,これはED50値の上昇により実証された(図10及び表4)。この実施例は,37℃で7日間プレインキュベートした後でも,FGF10‐STABの生物学的活性は変化しないことを示している。
【0097】
【表4】
【0098】
実施例12.タンパク質分解に対する耐性が改善された熱安定化4点FGF10突然変異体
タンパク質分解に対するFGF10‐STABの耐性を特性解析するために,1mg/mLのFGF10‐STAB及びFGF10‐wtを,750mM塩化ナトリウムを含む20mMリン酸バッファー中,37℃で15分間インキュベートした。次にトリプシン(最終濃度2μgプロテアーゼ/100μgFGF10)をタンパク質溶液に添加し,消化混合物を37℃でインキュベートした。選択した時間ごとにアリコートを取り出し,等容量の電気泳動希釈液に添加し,95℃で5分間加熱し,SDS‐ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分析した。タンパク質バンドをデンシトメトリー分析により分析した。FGF10‐wt分解の進行が観察され,トリプシンとのインキュベート10分後には既にタンパク質は残っていなかった。対照的に,10分では顕著なタンパク質分解は認められず,トリプシンとのインキュベート180分後でさえ,経時的に強度が減少しているFGF10‐STABのバンドが検出できた(図11)。この実施例は,FGF10‐wtと比較して,タンパク質分解に対するFGF10‐STABの抵抗性が促進されていることを実証している。
【0099】
実施例13.配列番号:1のアミノ酸配列Ser69~Ser208を形成し,FGF10安定性及び活性に悪影響を及ぼさない,成熟型ヒトFGF10ポリペプチドからの31アミノ酸のN末端切断
成熟型ヒトFGF10ポリペプチドから31アミノ酸のN末端切断がタンパク質安定性及び活性に影響を及ぼさないことを実証するために,配列番号:1のSer69~Ser208のアミノ酸配列及び,置換L152Fを有するその安定的変異体から成るFGF10ポリペプチドを構築し,特性解析を行った。N末端Metを有するアミノ酸配列Ser69~Ser208(FGF1069‐208)から成るFGF10ポリペプチドを,Q5(登録商標)Site-Directed Mutagenesis Kit(New England Biolabs)を用い,メーカーの説明書に従って指定変異導入法(side-directed mutagenesis)により構築した。変異導入は,テンプレートとしてのプラスミドpET28b‐His‐トロンビン::fgf10及び、NEBaseChanger(商標)ツールを用いて設計した2つのオリゴヌクレオチド(Fw:AGCTATAATCATCTGCAGGGTGATGTTCG,Rv:CATATGGCTGCCGCGCGG)を用い,全プラスミドPCRにより行った。次いで,テンプレートとしてのベクターpET28b‐His‐トロンビン::fgf1069‐208及び,所望の突然変異を有する2つの重複していないオリゴヌクレオチドを用い,全プラスミドPCRにより,単一点置換L152F(突然変異の番号は配列番号:1に対応する)をFGF1069‐208ポリペプチドに導入した。得られた構築物を大腸菌NEB5‐アルファコンピテント細胞に形質転換した。細胞をカナマイシン(50μg/mL)を含む寒天プレート上にプレーティングし,37℃で一晩培養した。プラスミドを単離し,ヌクレオチド配列を市販のシークエンシングで確認した。大腸菌BL21(DE3)細胞を発現ベクターで形質転換し,カナマイシンを添加した寒天プレートにプレーティングし,37℃で一晩培養した。単一のコロニーを,カナマイシン(50μg.mL)を含むLB培地10mLに接種し,細胞を37℃で一晩培養した。一夜培養液を,カナマイシンを含むLB培地1Lに接種した。細胞を37℃で培養した。その発現を,終濃度0.5mMになるまでIPTGで誘導した。その後,細胞を20℃で一晩培養した。培養の終わりに,バイオマスを遠心分離により採取し,精製バッファー(20mMのリン酸水素二カリウム塩及びリン酸二水素カリウム,pH7.5,0.5MのNaCl,10mMのイミダゾール)により洗浄し,湿潤バイオマスを-80℃で凍結させた。解凍した培養液を音波処理により破壊し,ライセートを遠心分離した。シングルステップニッケルアフィニティークロマトグラフィーを使用して,粗抽出液からタンパク質を精製した。精製したタンパク質を,750mMのNaClを含むバッファーに対して透析した。15%ポリアクリルアミドゲル中のSDS‐PAGEによりタンパク質の純度を明らかにした(図12)。FGFポリペプチドが適切に折り畳まれ,熱安定性であることをCD分光法により測定した。CDスペクトルは,ChirascanCD分光分析装置を用い,毎分100nm,応答時間1秒,バンド幅2nmで,200~260nmから収集した。FGF1069‐208ポリペプチド及びその変異体FGF1069‐208+L152FのCDスペクトルは,組み換えヒトFGF10(FGF10‐wt)及び,同じ安定化アミノ酸置換L152Fから成るその変異体のCDスペクトルと同等であったことから,N末端切断はFGF10ポリペプチドの折り畳みに悪影響を及ぼさないことが示唆された(図13)。750mM塩化ナトリウムを含む20mMリン酸バッファーpH7.5中の0.2mg/mLタンパク質溶液の熱アンフォールディングを,ChirascanCD分光分析装置を用い,1℃/分の昇温速度で,25℃~90℃の温度範囲に渡り,227nmでの楕円率をモニターすることにより追跡した。融解温度(Tm)を,正規化した楕円率熱転移の中点として評価した。FGF1069‐208はFGF10‐wt(Tm53.0℃)と同程度のTm(52.7℃)を示すことから,N末端切断はFGF10ポリペプチドの熱安定性に負の影響も正の影響も及ぼさない。両FGF10ポリペプチド,FGF10‐wt及びFGF1069‐208に安定化アミノ酸置換L152Fを導入すると,一貫して安定性が7℃増加する。FGF1069‐208ポリペプチド及びその変異体FGF1069‐208+L152Fの生物学的活性を,4MBr‐5細胞系を用いた細胞増殖アッセイにより測定した(Rubin, J.S. et al., 1989, Proc Natl Acad Sci U S A, 86:802-806)。4MBr‐5細胞を150μLの4MBr‐5飢餓培地(Ham's F-12K-Gibco,10%新生仔ウシ血清,1%ペニシリンG/硫酸ストレプトマイシン,2μg/mLヘパリン)が入った96ウェルプレートに,7.5×103個/ウェルで播種した。播種から3時間後,細胞をタンパク質処理した。最終タンパク質濃度は0.001ng/mL~2000ng/mLの範囲であった。処理後,細胞を更に3日間培養した。レサズリン蛍光アッセイにより細胞増殖を測定した。実験は3重に行った。FGF1069‐208及びFGF1069‐208+L152Fは共に,FGF10‐wtと同程度の4MBr‐5細胞増殖促進能を示し(図14),測定したED50値はそれぞれ0.5及び1.9ng/mLであり,この効果の予測ED50値<15ng/mLに相当する。
【0100】
実施例14.タンパク質の熱安定性及び活性を失うことなく達成できる熱安定性FGF10アミノ酸配列の12%の変化
ハヤブサ由来のFGF10(FGF10‐Fp)に相当する配列番号:3又は配列番号:5と88%の配列同一性を有するFGF10ポリペプチドをコードする遺伝子を人工的に合成し,T7lacプロモーターの制御下で発現ベクターpET28b‐His‐トロンビンのNdel部位及びXhol部位でサブクローン化した。次いで,テンプレートとしてのベクターpET28b‐His‐トロンビン::fgf10‐fp及び,所望の突然変異を有する2つの重複していないオリゴヌクレオチドを用い,全プラスミドPCRにより,単一点置換L152F(突然変異の番号は配列番号:1に対応する)を,配列番号:3又は配列番号:5と88%の配列同一性を有するFGF10‐FPポリペプチドに導入した。得られた構築物を大腸菌NEB5‐アルファコンピテント細胞に形質転換した。細胞をカナマイシン(50μg/mL)を含む寒天プレート上にプレーティングし,37℃で一晩培養した。プラスミドを単離し,ヌクレオチド配列を市販のシークエンシングで確認した。大腸菌BL21(DE3)細胞を発現ベクターで形質転換し,カナマイシンを添加した寒天プレートにプレーティングし,37℃で一晩培養した。単一のコロニーを,カナマイシン(50μg/mL)を含むLB培地10mLに接種し,細胞を37℃で一晩培養した。一夜培養液を,カナマイシンを含むLB培地1Lに接種した。細胞を37℃で培養した。その発現を0.5mMの終濃度までIPTGで誘導した。その後,細胞を20℃で一晩培養した。培養の終わりに,バイオマスを遠心分離により採取し,精製バッファー(20mMのリン酸水素二カリウム塩及びリン酸二水素カリウム,pH7.5,0.5MのNaCl,10mMのイミダゾール)により洗浄し,湿潤バイオマスを-80℃で凍結させた。解凍した培養液を音波処理により破壊し,ライセートを遠心分離した。シングルステップニッケルアフィニティークロマトグラフィーを使用して,粗抽出液からタンパク質を精製した。精製したタンパク質を,750mMのNaClを含むバッファーに対して透析した。15%ポリアクリルアミドゲルのSDS‐PAGEによりタンパク質の純度を明らかにした(図15)。FGFポリペプチドが適切に折り畳まれ,熱安定性であることをCD分光法により測定した。CDスペクトルは,ChirascanCD分光分析装置を用い,毎分100nm,応答時間1秒,バンド幅2nmで,200~260nmから収集した。アミノ酸置換L152Fを含む,配列番号:3又は配列番号:5と88%の配列同一性を有するFGF10ポリペプチド及びその単一点変異体のCDスペクトルは,組み換えヒトFGF10‐wt及び同じアミノ酸置換L152Fから成るその変異体のCDスペクトルと同等であったことから(図16),アミノ酸配列を12%変えた新たに構築したFGF10ポリペプチドの折り畳みは適切であることが示唆された。750mM塩化ナトリウムを含む20mMリン酸バッファーpH7.5中の0.2mg/mLタンパク質溶液の熱アンフォールディングを,ChirascanCD分光分析装置を用い,1℃/分の昇温速度で,25℃~90℃の温度範囲に渡り,227nmでの楕円率をモニターすることにより追跡した。融解温度(Tm)を,正規化した楕円率熱転移の中点として評価した。配列番号:3又は配列番号:5と88%の配列同一性を有する組換えタカFGF10ポリペプチド(FGF10‐Fp)の融解温度は,組換えヒトFGF10(FGF10‐wt)より5℃高かった。観察されたFGF10ポリペプチドの融解温度の差は,鳥類の深部体温がヒトの体温より一般的に3~6℃高いことに起因すると考えられる(McCafferty, D.J., et al., 2015, Anim. Biotelemetry 3:33)。しかし,FGF10‐wtとFGF10‐Fpの両ポリペプチドに同じ安定化突然変異L152Fを導入すると,融解温度がそれぞれ7℃及び5℃上昇した。
【0101】
FGF10‐Fp及び,単一点置換L152Fを有するその変異体(FGF10‐Fp+L152F)の生物学的活性を,4MBr‐5細胞系を用いた細胞増殖アッセイにより測定した(Rubin, J.S. et al., 1989, Proc Natl Acad Sci U S A, 86:802-806)。4MBr‐5細胞を150μLの4MBr‐5飢餓培地(Ham's F-12K-Gibco,10%新生仔ウシ血清,1%ペニシリンG/硫酸ストレプトマイシン,2μg/mLヘパリン)が入った96ウェルプレートに,7.5×103個/ウェルで播種した。播種から3時間後,細胞をタンパク質処理した。最終タンパク質濃度は0.001ng/mL~2000ng/mLの範囲であった。処理後,細胞を更に3日間培養した。レサズリン蛍光アッセイにより細胞増殖を測定した。実験は3重に行った。4MBr‐5の増殖アッセイで測定したFGF10‐Fp及びFGF10‐Fp+L152FのED50値はそれぞれ12.7及び6.1ng/mLであった(図17)。この実施例は,生物学的活性を保持しつつ耐熱性FGF10ポリペプチドの安定性をあまり損なわずに,12%のアミノ酸配列変化を導入できることを実証している。
【0102】
実施例15.肺細胞塊及び肺オルガノイドの形成を促進する培地中のFGF10‐STABの存在。
FGF10は肺の発生,分化及び,再生において重要な役割を担っている。そこで,肺細胞塊及び肺オルガノイドの形成,分岐及び,分化に対するFGF10‐STABの効果を調べた。肺上皮細胞を前述のように単離し(Rabata, A. et al., 2017, Methods Mol Biol, 1612:149-165),非接着条件下で培養した。肺細胞塊培地(フェノールレッドを含まないDMEM/F12中,ビタミンAを含まない1 x B‐27,100U/mLのペニシリン,100μg/mLのストレプトマイシン,4μg/mLのヘパリン,20ng/mLのマウスEGF,10ng/mLのFGF10‐wt又はFGF10‐STAB,10μMのY-27632)2mL/ウェルを含む,ポリHEMAで処理した6ウェルプレートに,2.5×104~5×104細胞でソーティングしない(Unsorted)肺上皮細胞を播種した。プレートを37℃,5%COの加湿雰囲気中でインキュベートした。新鮮な肺細胞塊培地(Y‐27632を含まない)を3日毎に添加した。10~15日間培養した後,肺細胞塊を計数した。肺細胞塊形成効率は,形成された肺細胞塊の数と播種した細胞の数との比として計算した。
【0103】
3Dマトリゲル(Matrigel)中の肺オルガノイド培養では,肺上皮細胞をマトリゲルに再懸濁し,マトリゲルでコーティングしたドーム状24ウェルプレートにプレーティングした(50μLマトリゲル/ウェル中1.0~1.5×104細胞)。プレートを37℃で45分間インキュベートした後,1mLの培地(フェノールレッドを含まないDMEM/F12中,ビタミンAを含まない1 x B‐27,100U/mLのペニシリン,100μg/mLのストレプトマイシン,20ng/mLのマウスEGF,2nMのFGF10‐wt又はFGF10‐STAB,10μMのY-27632)を各ウェルに添加した。細胞を37℃,5%COの加湿雰囲気下でインキュベートした。培地を3日毎に交換した。21日間培養した後,肺オルガノイドを計数した。オルガノイド形成効率は,形成された肺オルガノイドの数と播種した細胞の数との比として計算した。
【0104】
得られた結果から,FGF10‐STABではFGF10‐wtより高い肺細胞塊形成効率及びオルガノイド形成効率が観察された(図18)。更に,FGF10‐STABで形成されたオルガノイドは基底細胞マーカーより,分岐が多く,気道及び肺胞細胞マーカーの染色率が高かった。この実施例は,肺細胞塊/肺オルガノイド培地中にFGF10‐STABが存在すると,肺細胞塊/オルガノイドの形成及び分化が促進されることを実証している。

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【配列表】
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【国際調査報告】