(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-31
(54)【発明の名称】多剤併用型の抗菌性コーティング
(51)【国際特許分類】
A61L 27/28 20060101AFI20241024BHJP
A61L 27/34 20060101ALI20241024BHJP
A61L 27/54 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
A61L27/28
A61L27/34
A61L27/54
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024529650
(86)(22)【出願日】2022-11-18
(85)【翻訳文提出日】2024-06-06
(86)【国際出願番号】 EP2022082475
(87)【国際公開番号】W WO2023089126
(87)【国際公開日】2023-05-25
(32)【優先日】2021-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514116305
【氏名又は名称】ユーエムセー・ユトレヒト・ホールディング・ベー・フェー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ファーテメ・ヤハンマルド・ホセイナバディ
(72)【発明者】
【氏名】アマドレザ・マジェド・ホセイナバディ
(72)【発明者】
【氏名】サベル・アミン・ヤヴァリ
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AB00
4C081BA14
4C081CA162
4C081CE01
4C081DA15
4C081EA06
(57)【要約】
本発明は、ポリマーベースの抗菌性コーティング、好ましくは医療器具に関連する感染の予防、及び/又は治療のためのポリマーベースの抗菌性コーティングに関する。また本発明は、コーティング、及び医療器具表面にコーティングとして適用することが可能な中間の抗生物質調製物の製造方法に関する。本発明の一部としてのコーティングは、複数の抗生物質、好ましくは親水度、及び/又は極性の異なる二種類以上の抗生物質の間で互換性がある。本発明の一部であるコーティングは、好ましくは6週間以上に渡って複数の抗生物質を有効量放出する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗菌性調製物の調製方法であって:
a) ポリマーを含む第一の溶媒を提供する工程であって、前記第一の溶媒は、フッ素系溶媒であり、前記ポリマーは、脂肪族ポリエステルである、工程;
b) 第一の抗生物質を含む第二の溶媒を提供する工程であって、前記第一の抗生物質は、疎水性であり、及び/又は非極性有機溶媒に可溶である、工程;
c) 工程a)のポリマーを含む第一の溶媒と、工程b)の第一の抗生物質を含む第二の溶媒とを混合する工程であって、工程a)のポリマーを含む第一の溶媒より動的粘度の低い混合物を得る、工程;
d) 第二の抗生物質を含む第三の溶媒を提供する工程であって、前記第二の抗生物質は、親水性であり、及び/又は極性非プロトン有機溶媒に可溶である、工程;
e) 工程c)で得られた混合物と工程d)の第二の抗生物質を含む第三の溶媒とを混合して、抗菌性調製物を得る工程
を含む方法。
【請求項2】
前記工程c)の混合物、及び/又は前記抗菌性調製物は、1 mPa・s~20 Pa・s (パスカル-秒)、好ましくは1 mPa・s~2 Pa・s、より好ましくは1 mPa・s~200 mPa・sの動的粘度を有する、請求項1に記載の抗菌性調製物の調製方法。
【請求項3】
脂肪族ポリエステルは、疎水性脂肪族ポリエステルであり、好ましくはPDLG(DL-ラクチド/グリコリド コポリマー)、PLGA(L-ラクチド/グリコリド コポリマー)、PLC(L-ラクチド/カプロラクトン コポリマー)、PCLポリカプロラクトン、PD[ポリ(D-ラクチド)]、PL[ポリ(L-ラクチド)]、又はPDL[(ポリ(DL-ラクチド)]のうち一つ以上であり、より好ましくはPDLGである、請求項1又は2に記載の抗菌性調製物の調製方法。
【請求項4】
第一の抗生物質は、リファマイシン、疎水性ハイドロキノロン、マクロライド、テトラサイクリン、又はリンコサミドのうち一つ以上であり、好ましくはリファンピンである、請求項1~3のいずれか一項に記載の抗菌性調製物の調製方法。
【請求項5】
第二の抗生物質は、グリコペプチド、アミノグリコシド、β-ラクタム、カルバペネム、親水性フルオロキノロン、又はストレプトグラミンのうちの一つ以上であり、好ましくはバンコマイシンである、請求項1~4のいずれか一項に記載の抗菌性調製物の調製方法。
【請求項6】
フッ素系溶媒は、フルオロカーボン、フルオロアルコール、又はそれらの混合物、好ましくはテトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロイソプロパノール、トリフルオロエタノール、及びトリフルオロプロパノールのうち一つ以上であり、より好ましくはテトラフルオロエチレンである、請求項1~5のいずれか一項に記載の抗菌性調製物の調製方法。
【請求項7】
前記方法において:
- 第二の溶媒は、非極性有機溶媒、極性非プロトン有機溶媒、又はそれらの混合物、好ましくはクロロホルム、ペンタン、ヘキサン、ベンゼン、ジエチルエーテル、及び1,40-ジオキサンのうちの一つ以上であり、より好ましくはクロロホルムであり:並びに/又は、
- 第三の溶媒は、一つ以上の極性非プロトン有機溶媒であり、好ましくはジメチルスルホキシド、ジクロロメタン、テトラハイドロフラン、酢酸エチル、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン、及びヘキサメチルリン酸トリアミドのうち一つ以上であり、より好ましくはジメチルスルホキシドである、
請求項1~6のいずれか一項に記載の抗菌性調製物の調製方法。
【請求項8】
前記方法において:
- 工程a)においては、ポリマーが、第一の溶媒中で50~500 mg/ml、好ましくは100~300 mg/mlの濃度で存在し;
- 工程b)においては、第一の抗生物質が、第二の溶媒中で25~500 mg/ml、好ましくは50~350 mg/mlの濃度で存在し;
- 工程c)での混合は、第一の抗生物質を含む第二の溶媒と、ポリマーを含む第一の溶媒とが、1:1~1:2.5、好ましくは1:1.5~1:2の割合で実施され;
- 工程d)においては、第二の抗生物質が、第三の溶媒中で25~500 mg/ml、好ましくは50~300 mg/mlの濃度で存在し;及び/又は、
- 工程e)においては、第二の抗生物質を含む第三の溶媒と、工程c)の混合物との混合が、1:2~1:7、好ましくは1:3~1:6、より好ましくは1:4~1:5の割合で実施される
請求項1~7のいずれか一項に記載の抗菌性調製物の調製方法。
【請求項9】
抗菌性コーティングを調製するための、好ましくはディップコーティング、スピンコーティング、スプレー、エレクトロスピン、電気泳動堆積、スパッタコーティング、サーマルスプレー、プラズマスプレー、ゾルゲル、又はレイヤーバイレイヤーコーティング、好ましくはエレクトロスプレーによって抗菌性コーティングを調製するための、請求項1~8のいずれか一項により得られる抗菌性調製物の使用。
【請求項10】
抗菌性コーティングの調製方法であって、前記方法が、請求項1~8のいずれか一項により得られる抗菌性調製物を基材へ適用する工程、及び前記抗菌性調製物における一つ以上の溶媒を除去する工程を含み、好ましくは前記適用がディップコーティング、スピンコーティング、スプレー、エレクトロスピン、電気泳動堆積、スパッタコーティング、サーマルスプレー、プラズマスプレー、ゾルゲル、レイヤーバイレイヤーコーティング、より好ましくはエレクトロスプレーによって実施される、抗菌性コーティングの調製方法。
【請求項11】
-抗菌性調製物1 ml当り10~300 mg、好ましくは50~150 mg/mlの濃度のポリマーであって、前記ポリマーは脂肪族ポリエステル、好ましくは、疎水性脂肪族ポリエステルであり、より好ましくはPDLG (DL-ラクチド/グリコリド コポリマー)、PLGA(L-ラクチド/グリコリド コポリマー)、PLC(L-ラクチド/カプロラクトン コポリマー)、PCL (ポリカプロラクトン)、PD [ポリ(D-ラクチド)]、PL[ポリ(L-ラクチド)]、若しくはPDL[(ポリ(DL-ラクチド)]のうち一つ以上であり、最も好ましくはPDLGである、ポリマー;
-抗菌性調製物1 ml当たり10~200 mg、好ましくは20~100 mg/mlの濃度の第一の抗生物質であって、前記第一の抗生物質は疎水性であり、及び/若しくは非極性有機溶媒に可溶であり、好ましくはリファマイシン、疎水性ハイドロキノロン、マクロライド、テトラサイクリン、若しくはリンコサミドのうち一つ以上であり、より好ましくはリファンピンである、第一の抗生物質;
-抗菌性調製物1 ml当たり10~200 mg、好ましくは20~100 mg/mlの濃度の第二の抗生物質であって、前記第二の抗生物質は親水性であり、及び/若しくは極性非プロトン有機溶媒に可溶であり、好ましくはグリコペプチド、アミノグリコシド、β-ラクタム、カルバペネム、親水性フルオロキノロン、若しくはストレプトグラミンのうち一つ以上であり、より好ましくはバンコマイシンである、第二の抗生物質;
-抗菌性調製物に対して10~50%(v/v)、好ましくは20~40%(v/v)の濃度の非極性有機溶媒であって、前記非極性有機溶媒は好ましくはクロロホルム、ペンタン、ヘキサン、ベンゼン、ジエチルエーテル、及び1,40-ジオキサンのうち一つ以上であり、より好ましくはクロロホルムである、非極性有機溶媒;並びに
-抗菌性調製物に対して1~40%(v/v)、好ましくは10~30%(v/v)の濃度の極性非プロトン有機溶媒であって、前記極性非プロトン有機溶媒は好ましくはジメチルスルホキシド、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン、及びヘキサメチルリン酸トリアミドのうち一つ以上であり、より好ましくはジメチルスルホキシドである、極性非プロトン有機溶媒、
を含み、1 mPa・s~200 mPa・s (パスカル-秒)の動的粘度を有する抗菌性調製物。
【請求項12】
-抗菌性コーティングに対して40~90質量%、好ましくは50~80質量%の量でのポリマーであって、脂肪族ポリエステル、好ましくは疎水性脂肪族ポリエステルである、ポリマー;
-抗菌性コーティングに対して5~40質量%、好ましくは10~30質量%の量での第一の抗生物質であって、疎水性であり、及び/又は非極性有機溶媒に可溶である、第一の抗生物質;並びに、
-抗菌性コーティングに対して5~40質量%、好ましくは10~30質量%の量での第二の抗生物質であって、親水性であり、及び/又は極性非プロトン有機溶媒に可溶である、第二の抗生物質、
を含み、前記第一の抗生物質、及び前記第二の抗生物質は前記ポリマーによって作用されるマトリックス中に含まれ、抗菌性コーティングが10%以下のポロシティを有する、抗菌性コーティング。
【請求項13】
前記抗菌性コーティングにおいて:
- 脂肪族ポリエステルは、PDLG(DL-ラクチド/グリコリド コポリマー)、PLGA(L-ラクチド/グリコリド コポリマー)、PLC(L-ラクチド/カプロラクトン コポリマー)、PCLポリカプロラクトン、PD[ポリ(D-ラクチド)]、PL[ポリ(L-ラクチド)]、若しくはPDL[(ポリ(DL-ラクチド)]の一つ以上であり、好ましくはPDLGであり;
- 第一の抗生物質は、リファマイシン、疎水性ヒドロキノロン、マクロライド、テトラサイクリン、若しくはリンコサミドの一つ以上であり、好ましくはリファンピンであり;及び/又は、
- 第二の抗生物質は、グリコペプチド、アミノグリコシド、β-ラクタム、カルバペネム、親水性フルオロキノロン、若しくはストレプトグラミンのうちの一つ以上であり、好ましくはバンコマイシンである
請求項12に記載の抗菌性コーティング。
【請求項14】
抗菌性コーティングにおいて:
-抗菌性コーティングは単層抗菌性コーティングであり、好ましくは10~1000 μm、好ましくは50~500 μm、より好ましくは100~250 μmの厚さであり;
-抗菌性コーティング中の全ポリマー含量は、単一のポリマーによって90~100質量%、好ましくは95~100質量%、より好ましくは99~100質量%、最も好ましくは100質量%であり;及び/又は
-抗菌性コーティングの表面は、70°以上、好ましくは80°以上、より好ましくは90°以上の静的水接触角によって定義される疎水性であり;及び/又は、
-抗菌性コーティングは、20~1000 nm、好ましくは20~500 nm、より好ましくは20~200 nmの平均表面粗さを有する
請求項12又は13に記載の抗菌性コーティング。
【請求項15】
医療器具関連感染の治療、及び/又は予防、好ましくは整形外科インプラント関連感染の治療、及び/又は予防のための、請求項11に記載の抗菌性調製物、又は請求項12~14のいずれか一項に記載の抗菌性コーティング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーベースの抗菌性コーティングに関するものであり、好ましくは、医療器具に関連した感染症の予防、及び/又は治療のためのものである。さらに、本発明はコーティングの製造方法、及び医療器具表面にコーティングとして塗布することが可能である、その中間体抗生物質調製物に関する。
【背景技術】
【0002】
細菌感染症は医療器具を移植する際の主要なリスクである。特にスタフィロコッカス属菌(Staphylococcus spp.)は処理に対する耐性を示すバイオフィルムを器具上に形成することができる。持続的な感染は、結果的に器具の除去を必要とするかもしれない。この理由のために、手術を受けている患者はしばしばバイオフィルム形成の可能性を最小化するために抗生物質又はほかの抗菌性物質(抗菌薬)で処置される。
【0003】
好ましくは、予防措置は複数の抗生物質の持続的な放出を提供する。第一に、これは臨床的に証明されていることだが、複数の抗生物質の送達は、一種類の抗生物質の使用と比較して、細菌への(器具に関連した)感染を防ぐことに対してより効果的である。例えば、それぞれ異なる作用機序(mechanism of action)を持つ抗生物質の組み合わせは、遊離(free- floating)細菌、及びバイオフィルム形成(biofilm-forming)細菌の双方を、より適して、根絶することができる。第二に、医療器具感染は直接(すなわち、即発性感染(immediate infection)、治療痕へのコンタミネーションを介した)又は、手術後数週から数か月の後(すなわち、遅発性感染(delayed infection)、感染部位からより離れた場所からの細菌の拡散を介した)発生することもある。そのため、即発性、及び遅発性感染を防ぐための適切な薬剤の放出は、数時間から数週の範囲を有するものであり、これはその構成に依存する。
【0004】
予防的な抗生物質は一般に全身的に(systematically)送達されるが、抗生物質用の局所投与システムは、全身への薬剤毒性を最小化しながら、より高い局所的な薬剤濃度を提供することができる。例えば、整形外科の分野では、バンコマイシン、及びゲンタマイシンは、共通して、担体物質としてポリメチルメタクリレート(PMMA)ビーズを用いて、手術部位に送達される。しかしながら、再吸収性ポリマー(resorbable polymers)はPMMAビーズに比べていくつかの利点がある。何故ならば、再吸収性ポリマーは、ビーズを除去するための二回目の手術の必要性がなくなるからである。さらには、薬剤の放出動態を調整することで適切なタイミングでの薬剤放出を実現することができる。それにより、薬剤放出は薬剤の拡散、及び分解速度、並びに選択されたポリマーの化学構造に起因することとなる。
【0005】
抗菌性ポリマー組成物は薄膜(Thin film、「抗菌性コーティング」とも称される)として、インプラントの表面を細菌のコロニー形成から最適に守るために様々な技術により器具の表面に塗布できる。抗菌性ポリマーコーティングの製造は、一般的に、以下の工程:
1.ポリマー調製物を得るために、ポリマーを溶媒に溶かす工程;
2.抗生物質調製物を得るために、抗生物質を溶媒に溶かす工程;
3.ポリマー抗生物質調製物を得るために、ポリマー調製物と抗生物質調製物を混ぜる工程;
3.医療器具上にコーティングとしてポリマー抗生物質調製物を塗布する工程;
4.(任意選択により)溶媒を蒸発させる工程
を含む。
【0006】
臨床的な大きな需要に関わらず、前述の方法で複数の抗生物質を同一のポリマーコーティングの中に組み込む(incorporation)ことは容易ではない。二種以上の抗生物質(及び必要な溶媒)が、異なる物理化学的特性(親水度、極性、及び/又は水への混和性)を有する場合に、多剤併用型のポリマーコーティングの製造は、特に困難である。その理由は、例えば、以下が挙げられる。
【0007】
- 第一に、異なる親水性/極性を持つ抗生物質は異なる有機溶媒を必要とすると考えられる。疎水性ポリマー組成物中では、親水性の薬剤は充填効率が低い、という問題を有する。そのため、脂溶性薬剤は疎水性ポリマー組成物中で好まれることが多く、親水性薬剤は親水性ポリマー組成物中で好まれることが多い。加えて、脂溶性薬剤は広く有機溶媒に溶解する、一方で親水性薬剤は限られた有機溶媒にのみ適合する(米国特許第2010215716号)。単に複数の抗生物質をそれぞれの有機溶媒中で混ぜ合わせると、典型的には、薬剤の低い溶解性、弱い混和性、及び/又は薬剤の沈殿が引き起こされる。最終的には、このことが、薬剤の低い充填効率、及び望まない薬剤放出特性(すなわち、薬剤の不足、又は非持続的な放出)を引き起こす。
【0008】
- 第二に、ポリマー調製物中の高分子ポリマーの含量が多いと、典型的に、ポリマー抗生物質調製物の粘度が高くなる。これが、様々なコーティング方法のうちの一つによって、均質で薄膜コーティングを形成することを妨げている。例えば、エレクトロスプレー(electrospraying)は好まれるコーティング法であるが、調製物の粘度が比較的低い必要がある。粘度が高いポリマー抗生物質コーティングでは、結果として不均質、又は不均一なコーティングになり、弱い薬剤放出特性を示す。ポリマー調製物中のポリマー含量がより高いと、高いポリマー‐薬剤比が確保できるため、(二種以上の)抗生物質を多量に組み込むことができる。(二種以上の)抗生物質をより多く含むことで、より良いカプセル化、改良されたコーティング、及び薬物の放出期間の延長が可能になる。
【0009】
- 第三に、ポリマー組成物からの薬剤の放出速度は薬剤の拡散速度に影響を受ける。一般的に、親水性(極性)、及び疎水性(非極性)の抗生物質をポリマーコーティングに組み込むと、予測不能な抗生物質の拡散速度を引き起こすと考えられている。さらには、親水性(極性)、及び疎水性(非極性)の抗生物質の拡散率のミスマッチが、同じポリマーで適切に加えられなかった場合に起こることが従来技術では観察される。
【0010】
物理化学的特性が異なる抗生物質を同時に送達(共輸送)するために、様々なアプローチが調査されてきた。例としては、親水性薬剤を水溶性コアの中にカプセル化して、脂溶性抗生物質をリン脂質二重層内に輸送する脂質ナノ粒子、例えばリポソームの使用が挙げられる(Forier ら J Control Release. 2014 Sep 28;190:607-23)。一方で、この方法論は即発性(数時間)、及び遅発性(数週間)感染のどちらに対しても防ぐための十分な持続的薬剤の放出特性は得られない。代わりに、異なる物理化学的特性(例えば、親水度、極性、及び/又は水への混和性)を持つ多剤の同時送達(共輸送)はそれぞれの薬剤放出特性を広い時間範囲で調節するために異なるポリマー組成物の使用を選択した(Ritsema. Int J Pharm 2018 Sep 11;548(2):730-739, Jahanmard ら J Control Release. 2020 Oct 10;326:38-52)。例えば、親水性、及び疎水性抗生物質は、その後に特定の構造に組み合わされる異なるポリマーにそれぞれカプセル化された。この方法を用いて、親水性バンコマイシンは疎水性ポリカプロラクトン(PCL)ポリマー繊維に、疎水性リファンピンは疎水性ポリ乳酸・グリコール酸(poli lactic glycolic acid,PLGA)繊維にカプセル化され、繊維はその後、層状に塗布された(Jahanmard ら J Control Release. 2020 Oct 10;326:38-52.)。
【0011】
多剤併用型の抗菌性ポリマーコーティング、とりわけ、単一の薄膜内、及び/又は、単一のポリマーマトリクス内に選択した(すなわち、臨床的シナリオにあわせて)異なる抗生物質を組み込む上で容易に適用可能な、コーティング調製物に対する需要が存在する。
【0012】
さらに具体的には、以下のような点で需要がある:
-抗菌性コーティング、とりわけ、異なる物理化学的特性、例えば異なる親水度(極性)を持つ二種以上の抗生物質を、単一のポリマーマトリクスに、好ましくは、同一のポリマーマトリクス内の単一の層状コーティング中に組み込んだ、コーティング調製物。
【0013】
- 異なる物理化学的特性、例えば異なる親水度(極性)を持ち、コーティング手段(好ましくは、エレクトロスプレーのようなスプレーイング)で適用するための適切な調製物の特徴(低い粘度、高い薬剤充填率、高い薬剤溶解性)を持つ、二種以上の抗生物質を組み込んだ、抗菌性調製物。
【0014】
- 単一のポリマーマトリクス中で、例えばインプラントの移植後少なくとも数週間(好ましくは6週間以上)、微生物の増殖を抑制、及び/又は殺菌するために効果的な量の、薬剤の放出特性を延長するために、十分な含量で(例えば、異なる物理化学的特徴を持つ)二種以上の抗生物質をカプセル化した、抗菌性コーティング。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Forier ら J Control Release. 2014 Sep 28;190:607-23
【非特許文献2】Ritsema. Int J Pharm 2018 Sep 11 ;548(2):730-739
【非特許文献3】Jahanmard ら J Control Release. 2020 Oct 10;326:38-52
【非特許文献4】Wang ら Electrospraying: Possibilities and Challenges of Engineering Carriers for Medical Applications- A Mini Review. Front. Chem., 25 April 2019
【非特許文献5】Soliman ら (Acta Biomaterialia 6 (2010) 1227-1237)
【非特許文献6】Bartos ら Biomed Eng Online. 2018 Aug 17;17(1):110
【非特許文献7】Biomaterials. 2008 May;29(13):1989- 2006
【非特許文献8】Adv Drug Deliv Rev. 2011 Apr 30;63(4-5):209-20
【発明の概要】
【0017】
本開示は抗菌性調製物(コーティング溶液)、好ましくは多剤併用型の抗菌性調製物、及びその製造方法に関する。本開示は、さらには、例えば、スプレー(例えば、エレクトロスプレー)、スピンコーティング、又はエレクトロスピンによって抗菌性調製物を薄膜として医療器具上に塗布したときに得られる抗菌コーティングに関する。本開示はさらに、医療器具に関連した感染症、特に、整形外科的手術でのインプラントに関連した感染症の予防、及び/又は治療における、抗菌性調製物、及び抗菌コーティングの使用に関する。
【0018】
本発明者らは、抗菌性コーティングを事後的に塗布するためのポリマー抗生物質調製物を製造する方法において、疎水性(非極性)抗生物質、例えば、リファマイシン、マクロライド、又はテトラシリンを使用することで調製物の粘度が大きく低下することを発見した。疎水性(非極性)抗生物質は好ましくは、以下の方法;
a) ポリマーを含む第一の溶媒を提供する工程であって、前記第一の溶媒はフッ素系溶媒であり、前記ポリマーは脂肪族ポリエステルである、工程;
b) 第一の抗生物質を含む第二の溶媒を提供する工程であって、前記第一の抗生物質は疎水性(非極性)、及び/又は非極性有機溶媒に可溶である、工程;
c) 工程a)のポリマーを含む第一の溶媒と、工程b)の第一の抗生物質を含む第二の溶媒とを混合して、工程a)のポリマーを含む第一の溶媒より動的粘度の低い混合物を得る工程;
d) 第二の抗生物質を含む第三の溶媒を提供する工程であって、前記第二の抗生物質が好ましくは、親水性(極性)、及び/又は極性非プロトン有機溶媒である、工程;
e) 工程c)で得られた混合物溶液と、工程d)の第二の抗生物質を含む第三の溶媒とを混合して、抗菌性調製物を得る工程
で適用されることで、粘度の低い調製物が得られることを発見した。
【0019】
第一の抗生物質、及び第二の抗生物質は、特定の臨床的需要(例えば、感染症の種類、手術の種類、医療器具の種類など)に基づいて選択されてもよい。
【0020】
本開示による抗菌性調製物は、好ましくは、1 mPa・s~20 Pa・s(パスカル-秒)、好ましくは、1 mPa・s~2 Pa・s、さらに好ましくは、1 mPa・s~200 mPa・sの動的粘度を有する。低い粘度を有する抗菌性調製物は、特に、(例えば、動的粘度が200 mPa・s~20 Pa・sの時)エレクトロスプレーを含むスプレーでの、又は(例えば、動的粘度が200 mPa・s~20 Pa・sの時)スピンコーティング及びエレクトロスピンを含むスピンでの、コーティングを可能にする。
【0021】
一つの好適な実施形態では、本開示による抗菌性調製物は、0.1~500 mPa・s、好ましくは、1~250 mPa・s、より好ましくは、10~200 mPa・s、よりさらに好ましくは、20~100 mPa・sの動的粘度を有する。
【0022】
好ましくは、本開示による抗菌性調製物は、高いポリマー、及び薬剤含量を有する。例えば、ポリマー含量は、抗菌性調製物の40~90質量%、好ましくは、50~80質量%のポリマーとしうる。例えば、第一の抗生物質(好ましくは疎水性の抗生物質、例えば、リパマイシン)、及び第二の抗生物質(好ましくは親水性抗生物質、例えば、バンコマイシ)がそれぞれ、抗菌性調製物の5~40質量%、好ましくは10~30質量%、存在してもよい。加えて、又は代わりに、ポリマーは、抗菌性調製物の、10~300 mg/ml(w/v)で、好ましくは50~150 mg/mlで存在してもよい。第一の抗生物質(好ましくは疎水性抗生物質、例えば、リファピシン)、及び第二の抗生物質(好ましくは親水性抗生物質、例えば、バンコマイシン)はそれぞれ、抗菌性調製物の10~200 mg/mlで、好ましくは20~100 mg/mlで存在してもよい。
【0023】
一つの実施形態では、疎水性(非極性)抗生物質を非極性、又は極性の非プロトン溶媒に溶かすことで、抗菌性調製物が調製される。ポリマー抗生物質組成物の粘度を低下させるために、抗生物質溶液は、フッ素系溶媒に(好ましくはフルオロカーボン、又はフルオロアルコール)に溶かしたポリマー(好ましくは脂肪族ポリエステル、より好ましくは疎水性の脂肪族ポリエステル)と混ぜられる。このポリマー抗生物質調製物は、多剤併用型の抗菌性調製物を得るために提供される、第二の抗生物質を含む溶液と効果的に組み合わせてもよい。例えば:PDLG(DL-ラクチド/グリコリド コポリマー)はポリマー溶液としてのテトラフルオロエチレン中で提供されてもよい、リファンピシンは)第一の抗生物質溶液としての非極性有機溶媒(好ましくは、クロロホルム)中で提供されてもよい、及びバンコマイシンは第二の抗生物質溶液としての極性非プロトン溶媒(好ましくはジメチルスルホキシド)中で提供されてもよい。コーティングの工程に続き、単一ポリマーマトリクスの中にどちらも分散した、高い含量の疎水性(非極性)及び親水性(極性)抗生物質を含む、抗菌性コーティングを得ることができる。
【0024】
本発明者たちはさらに、本開示による抗菌性調製物が、ほかの考えられる利点の中でコーティング製造に関するいくつかの利点をもたらすことを発見した。抗菌性調製物は、例えばスプレーやスピンといった技術での、コーティングを可能にする。本開示による抗菌性調製物は、多量の薬剤を組み込むことが可能である。加えて、本発明の抗菌性調製物の粘度を低下させることで、とりわけ、より均一なコーティング、早い乾燥時間、少ない縮小量、より完全な充填、より少ない気泡(air pockets)を誘導できる。
【0025】
本発明者らはさらに、本開示による抗菌性調製物、及びコーティングとしての、その事後的な塗布は、(複数の)抗生物質の選択を、たとえ使用したい複数の抗生物質が異なる物理化学的特性(例えば、親水度、極性)を有していても、容易に適用できることを発見した。例えば、親水性アミノグリコシド(好ましくはトブラマイシン、ゲンタマイシン、ストレプトマイシン、若しくはネオマイシン)、又は親水性グリコペプチド(好ましくは、バンコマイシン)は、疎水性リファマイシン(好ましくは、リファンピン)、疎水性マクロライド(好ましくは、エリスロマイシン)、又は疎水性テトラサイクリン(好ましくは、ミノサイクリン)と、薬剤の高い溶解性、及び抗菌性調製物の低い粘度を保ちながら、組み合わせることができることが示された。
【0026】
本開示による抗菌性調製物の提供による利点のおかげで、高いポリマー、及び/又は高い薬剤量を有する多剤併用型抗菌性コーティングが実現可能となった。例えば、ポリマーが抗菌性コーティングの40~90質量%、好ましくは、50~80質量%で存在する。第一、及び第二の抗生物質はそれぞれ、抗菌性コーティングの5~40質量%、好ましくは10~30質量%で存在する。
【0027】
本発明者らは、抗菌性コーティング中の、高い薬剤含量(、及び抗生物質の併用)が長期、例えば、少なくとも6週間以上の薬剤送達をもたらすことを発見した。さらには、本発明者らは、Staphylococci spp.(すなわち、最も一般的な金属インプラント感染症の原因菌)に対する抗菌効果の維持を示し、例えば、Staphylococci spp.に対する殺菌効果が最大で6週間、示された。
【0028】
本開示の好適な実施形態では、第二(親水性、又は疎水性)の抗生物質と一緒に用いられた場合の、リファンピンの長期の送達に、コーティングが適しているということが、示された。リファンピンは、浮遊性、及びバイオフィルム状態のどちらにあるStaphylococci spp.であっても殺菌することが可能であるという点で特有である、しかしながら、リファンピンに対する耐性を予防するために、第二の抗生物質とともに共送達されなければならない。リファンピンは大きな疎水性分子である。第二の抗生物質は一般に使用される広スペクトラム抗生物質、例えば、ゲンタマイシン、バンコマイシン、又はトブラマイシンでもよい、しかし、典型的にこれらは大きい親水性/極性分子である。本発明者らは、このような好ましい薬剤の組み合わせを、単一のポリマー、及び単一の薄膜コーティングとして、本開示の抗菌性調製物により組み込まれてもよいことを発見した。
【0029】
より好適な実施形態では、本開示の一部としての抗菌性コーティングが、バンコマイシンと一緒に用いられる長期のリファンピン送達に適している。予想外にも、本発明者らは、親水性抗生物質(例えば、バンコマイシン)の存在が、ポリマーマトリクスからの疎水性抗生物質(例えば、リファンピン)の拡散を遅らせることができるという事実を発見した。逆に、リファンピンの存在はバンコマイシンの拡散を遅らせることができる。両方の抗生物質がより多く放出されるよりもむしろより同時に放出されるので、抗菌効果は増強され、細菌による耐性発達のリスクは低下する。本発明者らは、疎水性抗生物質を、簡単に疎水性ポリマーマトリクスの外に拡散させない、そして、親水性抗生物質を組み込むことで、疎水性抗生物質のより良い放出、及びより良い拡散を助けることができると考えている。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】コーティングされたチタニウムディスクからのリファンピシン放出特性。疎水性薬剤、及び/又は非極性有機溶媒の役割が試験された。PDLG(DL-ラクチド/グリコリド コポリマー)が(テトラフルオロエチレンに溶解され)コーティング溶液中でポリマーとして使用された。数値は平均+/-標準偏差を表す(n=3)。Rif:リファンピシン、Van:バンコマイシン、DMSO:ジメチルスルホキシド。
【
図2】コーティングされたチタニウムディスクからのバンコマイシン放出特性。疎水性薬剤、及び/又は非極性有機溶媒の役割が試験された。PDLG(DL-ラクチド/グリコリド コポリマー)が(テトラフルオロエチレンに溶解され)コーティング溶液中でポリマーとして使用された。数値は平均+/-標準偏差を表す(n=3)。Rif:リファンピシン、Van:バンコマイシン、DMSO:ジメチルスルホキシド。
【
図3】コーティングされたチタニウムディスクからのリファンピシン放出特性。異なる疎水性/親水性薬剤の組み合わせが試験された。PDLG(DL-ラクチド/グリコリド コポリマー)が(テトラフルオロエチレンに溶解され)コーティング溶液中でポリマーとして使用された。数値は平均+/-標準偏差を表す(n=3)。Rif:リファンピシン、DMSO:ジメチルスルホキシド。
【
図4】コーティングされたチタニウムディスクからのバンコマイシン放出特性。異なる疎水性/親水性薬剤の組み合わせが試験された。PDLG(DL-ラクチド/グリコリド コポリマー)が(テトラフルオロエチレンに溶解され)コーティング溶液中でポリマーとして使用された。数値は平均+/-標準偏差を表す(n=3)。Rif:リファンピシン、Van:バンコマイシン、DMSO:ジメチルスルホキシド。
【
図5】コーティングされたチタニウムディスクからのリファンピシン放出特性。異なるポリマー(溶液A)が (テトラフルオロエチレンに溶解され)比較された。コーティング溶液は、リファンピシン/クロロホルム(溶液A)、及びバンコマイシン/ジメチルスルホキシド(溶液D)をさらに含んだ。加えて、異なるコーティング方法も試験された。数値は平均+/-標準偏差を表す(n=3)。PDLG:DL-ラクチド/グリコリド コポリマー、PLDL:L-ラクチド/DL-ラクチド コポリマー、PLC:L-ラクチド/カプロラクトン コポリマー、PL:ポリ(L-ラクチド)、PCL:ポリカプロラクトン。
【
図6】コーティングされたチタニウムディスクからのバンコマイシン放出特性。異なるポリマー(溶液A)が (テトラフルオロエチレンに溶解され)比較された。コーティング溶液はさらに、リファンピシン/クロロホルム(溶液A)、及びバンコマイシン/ジメチルスルホキシド(溶液D)を含んだ。加えて、異なるコーティング方法も試験された。数値は平均+/-標準偏差を表す(n=3)。PDLG:DL-ラクチド/グリコリド コポリマー、PLDL:L-ラクチド/DL-ラクチド コポリマー、PLC:L-ラクチド/カプロラクトン コポリマー、PL:ポリ(L-ラクチド)、PCL:ポリカプロラクトン。
【
図7】コーティングされたチタニウムディスクからのリファンピシン放出特性。PDLG(DL-ラクチド/グリコリド コポリマー)が(テトラフルオロエチレンに200 mg/mlとなるよう溶解され)コーティング溶液中でポリマーとして使用された。コーティング溶液は、リファンピシン/クロロホルム(溶液A、70 mg/ml、又は50 mg/ml)、及びバンコマイシン/ジメチルスルホキシド(溶液D、70 mg/ml、又は50 mg/ml)をさらに含んだ。数値は平均+/-標準偏差を表す(n=3)。PDLG:DL-ラクチド/グリコリド コポリマー、Rif:リファンピシン、Van:バンコマイシン。
【
図8】コーティングされたチタニウムディスクからのバンコマイシン放出特性。PDLG(DL-ラクチド/グリコリド コポリマー)が(テトラフルオロエチレンに200 mg/mlとなるよう溶解され)コーティング溶液中でポリマーとして使用された。コーティング溶液はさらに、リファンピシン/クロロホルム(溶液A、70 mg/ml、又は50 mg/ml)、及びバンコマイシン/ジメチルスルホキシド(溶液D、70 mg/ml、又は50 mg/ml)を含んだ。数値は平均+/-標準偏差を表す(n=3)。PDLG:DL-ラクチド/グリコリド コポリマー、Rif:リファンピシン、Van:バンコマイシン。
【
図9】二つの方法で得られたコーティング溶液の粘度の違い。方法Aでは、最初にリファンピシンはクロロホルムに溶解された後、ポリマー(PLGA)溶液と混合された。方法Bでは、リファンピシンは直接、ポリマー(PCL)溶液に加えられた。リファンピシン/ポリマー溶液は、コーティング溶液を得るためにバンコマイシン溶液と混合された。方法A、及び方法Bにより得られた溶液はそれぞれシェーカーに設置され、シェーカーの速度は0~500 rpmまで加速したのち完全に停止するまで減速した。画像は45秒間毎秒撮影された。水平軸方向の線は、振盪プロセス中の溶液の流れを示している。
【
図10】方法Aにより得られたコーティング溶液をエレクトロスプレーすることで得られたコーティングの異なる拡大倍率でのAFM画像。
【
図11】方法Bにより得られたコーティング溶液をエレクトロスプレーすることで得られたコーティングの異なる拡大倍率でのAFM画像。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本開示の詳細な説明
本開示は抗菌性調製物の製造方法であって:
a) ポリマーを含む第一の溶媒を提供する工程であって、前記第一の溶媒は、好ましくは、フッ素系溶媒であり、前記ポリマーは、好ましくは、脂肪族ポリエステルである、工程;
b) 第一の抗生物質を含む第二の溶媒を提供する工程であって、前記第一の抗生物質は、好ましくは、疎水性(非極性)、及び/又は非極性有機溶媒に可溶である、工程;
c) 工程a)のポリマーを含む第一の溶媒と、工程b)の第一の抗生物質を含む第二の溶媒とを混合する工程であって、好ましくは、工程a)のポリマーを含む第一の溶媒より動的粘度の低い混合物を得る、工程;
d) 第二の抗生物質を含む第三の溶媒を提供する工程であって、前記第二の抗生物質は、好ましくは、親水性(極性)、及び/又は極性非プロトン有機溶媒に可溶である、工程;
e) 工程c)で得られた混合物と、工程d)の第二の抗生物質を含む第三の溶媒とを混合して、抗菌性調製物を得る、工程と
を含む製造方法に関する。
【0032】
以上の通り、本開示は、ここで開示されている抗菌性調製物の調製方法によって得られる抗菌性調製物であって:
- 好ましくは、抗菌性調製物1 ml当り10~300 mg、より好ましくは、50~150 mg/mlの濃度のポリマーであって、好ましくは、脂肪族ポリマー、例えば、疎水性脂肪族ポリエステルであり、より好ましくは、PDLG (DL-ラクチド/グリコリド コポリマー)、PLGA(L-ラクチド/グリコリド コポリマー)、PLC(L-ラクチド/カプロラクトン コポリマー)、PCL (ポリカプロラクトン)、PD [ポリ(D-ラクチド)]、PL[ポリ(L-ラクチド)]、若しくはPDL[(ポリ(DL-ラクチド)]のうち一つ以上であり、最も好ましくは、PDLGである、ポリマー;
- 好ましくは、抗菌性調製物1 ml当たり10~200 mg、より好ましくは、20~100 mg/mlの濃度の第一の抗生物質であって、好ましくは、疎水性、及び/若しくは非極性有機溶媒に可溶であり、好ましくは、リファンピシン、疎水性ハイドロキノロン、マクロライド、テトラサイクリン、若しくはリンコサミドのうち一つ以上であり、より好ましくは、リファンピンである、第一の抗生物質;
- 好ましくは、抗菌性調製物1 ml当たり10~200 mg、より好ましくは、20~100 mg/mlの濃度の第二の抗生物質であって、好ましくは、親水性、及び/若しくは極性非プロトン有機溶媒に可溶であり、好ましくは、グリコペプチド、アミノグリコシド、β-ラクタム、カルバペネム、親水性フルオロキノロン、若しくはストレプトグラミンのうち一つ以上であり、より好ましくは、バンコマイシンである、第二の抗生物質;
- 好ましくは、抗菌性調製物に対して10~50%(v/v)、より好ましくは、20~40%(v/v)の濃度の非極性有機溶媒であって、好ましくは、クロロホルム、ペンタン、ヘキサン、ベンゼン、ジエチルエーテル、及び1,40-ジオキサンのうち一つ以上であり、より好ましくは、クロロホルムである、非極性有機溶媒;並びに/又は、
- 好ましくは、抗菌性調製物に対して1~40%(v/v)、より好ましくは、10~30%(v/v)の濃度の極性非プロトン有機溶媒であって、好ましくは、ジメチルスルホキシド、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン、及びヘキサメチルリン酸トリアミドのうち一つ以上であり、より好ましくは、ジメチルスルホキシドである、極性非プロトン有機溶媒、
を含む、抗菌性調製物に関する。
【0033】
本開示はまた、抗菌性コーティングの調製方法であって、本明細書に開示される抗菌性調製物を基材(substrate)(好ましくは医療器具、より好ましくは整形外科用インプラント)に適用する工程と、抗菌性調製物中の一つ以上の溶媒を除去する工程とを含む方法であって、 前記基材への適用は、好ましくは、ディップコーティング、スピンコーティング、スプレー、エレクトロスピン、電気泳動堆積、スパッタコーティング、サーマルスプレー、プラズマスプレー、ゾルゲル、レイヤーバイレイヤーコーティング、より好ましくは、エレクトロスプレーを用いて実施される、抗菌性コーティングの調製方法に関する。
【0034】
本開示はさらに、ここで開示される抗菌性コーティングの調製方法によって得られる、抗菌性コーティングであって:
- 好ましくは、抗菌性コーティングの40~90質量%、より好ましくは、50~80質量%の量のポリマーであって、脂肪族ポリエステル、好ましくは、疎水性脂肪族ポリエステルである、ポリマー;
- 好ましくは、抗菌性コーティングの5~40質量%、より好ましくは、10~30質量%の量の第一の抗生物質であって、疎水性、及び/又は非極性有機溶媒に可溶である、第一の抗生物質;並びに、
- 好ましくは、抗菌性コーティングの5~40質量%、より好ましくは、10~30質量%の濃度の第二の抗生物質であって、親水性、及び/又は極性非プロトン有機溶媒に可溶である、第二の抗生物質、
を含み、
前記第一の抗生物質、及び前記第二の抗生物質は、前記ポリマーによってもたらされるマトリクス内に含まれている、抗菌性コーティングに関する。
【0035】
一つの実施形態では、ここで開示されている抗菌性調製物の調製方法は、
以下の工程:
a) ポリマーを含む第一の溶媒を提供する工程であって、前記第一の溶媒はフッ素系溶媒であり、前記ポリマーは脂肪族ポリエステルである、工程;
b) 第一の抗生物質を含む第二の溶媒を提供する工程であって、前記第一の抗生物質は疎水性(非極性)、及び/又は非極性有機溶媒に可溶である、工程;
c) 工程a)のポリマーを含む第一の溶媒と、工程b)の第一の抗生物質を含む第二の溶媒とを混合する工程であって、工程a)のポリマーを含む第一の溶媒より動的粘度の低い混合物を得る、工程;
d) 第二の抗生物質を含む第三の溶媒を提供する工程であって、前記第二の抗生物質が、親水性、及び/又は極性非プロトン有機溶媒に可溶である、工程;
e) 工程c)で得られた混合物と、工程d)の第二の抗生物質を含む第三の溶媒とを混合して、抗菌性調製物を得る、工程と
を含む。
【0036】
本開示で使用される用語「抗菌性(antimicrobial)物質」は、微生物(例えば、細菌、糸状菌、ウイルス、好ましくは細菌)の生育を阻害、及び/又は死滅させる物質に関する。本開示で使用される用語「抗菌性(antimicrobial)」はさらに、抗菌性物質の有する、微生物に対する生育を阻害、及び/又は死滅させる、効果を指し示してもよい。本明細書で開示される抗菌剤には、好ましくは、抗生物質、抗ウイルス剤、抗真菌剤、及び抗寄生虫剤の一つ以上が含まれる。好ましくは、本明細書に開示される抗菌剤は消毒薬(antiseptic)ではない。
【0037】
本開示で使用される用語「抗生物質(antibiotic)」は、細菌、及び/若しくは真菌を標的とし;並びに/又は、細菌、及び/若しくは真菌の機能を阻害する、抗菌性化合物、又は抗菌性薬剤、に関する、用語である。抗生物質は、典型的には微生物由来の有機物質で、一般的に、細菌、及び真菌の中の特定の標的分子に結合する。それらの作用機構は:核酸合成の阻害、タンパク質の生合成阻害、膜の崩壊、代謝拮抗薬としての機能、細胞壁の生合成阻害のうち一つ以上でもよい。好適な実施形態では、コーティング、及び/又はコーティング溶液には、本開示の一部として、消毒薬(antiseptics)を含まない。消毒薬は化学物質に関するものであり、典型的に、非特異的な機構により、細菌増殖を減らす、又は殺菌する化学物質である。消毒薬は典型的には、無差別に有機化合物に反応し、微生物を死滅させる小さい分子(ペルオキシド、ヨウ素、フェノール)、又は細菌の細胞壁を崩壊させるより複雑な分子のどちらかにその作用機構に従って分類される。一般的な消毒薬の例としては、フェノール類、アルコール、キノリン類、ジグアニド類(例えば、クロルヘキシジン)、アルコール類、ペルオキシド類、ヨウ素があげられる。消毒薬は、一般的に局所的に適用され、その毒性から通常は内服での使用、又は摂取ができない。従って、消毒薬は一般的に本開示で言及する、抗菌物質、又は抗生物質に適さない。
【0038】
一つの実施形態では、本開示は消毒薬、例えば前記した消毒薬を使用しない。
【0039】
ここで使用される用語「ポリマー」は、ホモポリマー、及びコポリマーの、どちらか/両方を指し示してもよい。ホモポリマーは、一種類の単量体のみを含むポリマーである。コポリマーは、2(以上)の異なる種類の単量体が同じポリマー鎖に接続されることで、形成されるポリマーである。本開示中のコポリマーは、交互コポリマー(典型的には二種類のみの繰り返し単位を含み、その繰り返し単位がポリマー鎖に沿って交互に配置されている)、ブロックコポリマー(典型的には繰り返し単位を含み、その繰り返し単位が同じブロック内に存在する)、又はグラフトコポリマー(典型的には異なる化学構造の枝を含み、その枝は主鎖に結合している)であってもよい。本開示中で開示されるポリマーは天然ポリマー、又は及び/又は、合成ポリマーであってもよい。
【0040】
本開示中で開示されるポリマーは、:
ポリ(α-エステル)、ポリグリコリド、ポリラクチド[例えば、ポリ(L-乳酸)(PLLA)、ポリ(D-乳酸)(PDLA)、ポリ(D,L-乳酸)(PDLLA)、メソ-ポリ(乳酸)]、ポリカプロラクトン、ポリ(フマル酸プロピレン)、ポリアンヒドリド、ポリアセタール、ポリ(オルトエステル)、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリホスファゼン、ポリホスホエステルのうち一つ以上、又はこれら一つ以上を含むコポリマーであってもよい。本開示中で開示されるポリマーは、コンビネーションポリマー、すなわちモノマーが複数の分解性基を含むポリマー[例えばポリ(エステルエーテル)、ポリ(アミドエステル)]であってもよい。本開示中で開示されるポリマーは、例えば、コラーゲン、エラスチン、アルブミン、フィブリンのうち一つ以上のタンパク質であってもよい。本開示中で開示されるポリマーは、多糖類(例えば、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、キチン、キトサン、アルギネート、デキストラン、アガロース、マンナン、イヌリン)であってもよい。本開示中で開示されるポリマーは、天然ポリ(アミノ酸)[例えば、ポリ(γ-グルタミン酸)、ポリ(L-リジン)]であってもよい。本開示中で開示されるポリマーは、合成ポリ(アミノ酸)[例えば、ポリ(L-グルタミン酸)、ポリ(アスパラギン酸)]であってもよい。
【0041】
好ましくは、本開示中で言及するポリマーは再吸収性を有する。本開示中で使用される用語「再吸収性(resorbable)」は、水性媒体(aqueous medium)で、及び/又は体内へとインプラントを移植して時間がたったのちに、分解される物質を表すために使用される。ある物質(コーティングなど)の再吸収性は、一般的に、物理化学的分解、酵素活性、細胞分解(免疫反応、異物反応)の組み合わせによって決定される。好ましくは、ある物質の分解速度は、体内では異なるかもしれないが、その物質の分解速度は、コントロールされたin vitro 環境で確立される。コントロールされたin vitro 環境は、その物質が37℃で過剰なPBS(pH7.4)中でインキュベートされることを含んでいてもよく、8週間後、好ましくは、6週間後、より好ましくは4週間後に少なくとも50質量%が分解されていれば、そのポリマーは「再吸収性」を有する。
【0042】
本開示中と使用される用語「再吸収性(resorbable)」は「生体再吸収性(bioresorbable)」、「(生)分解性[(bio)degradable]」、「(生)腐食性[(bio)erodible]」、に交換して使用されてもよい。
【0043】
本開示中で使用される用語「溶媒」は、液体であって、材料/物質が溶解して溶液を形成することができる、液体に関する。好ましくは、ある液体が、特定の材料/物質の溶媒として機能するのは、前記材料/物質が、前記液体に対して、少なくとも100分の0.1(0.1 mg/ml)、好ましくは100分の1(1 mg/ml)の溶解度を有する場合である。
【0044】
本開示中で使用される用語「可溶」は、対象の物質(例えば、ポリマー、又は抗生物質)が、液体(好ましくは溶媒)に対して、少なくとも100分の0.1(0.1 mg/ml)、好ましくは100分の1(1 mg/ml)の溶解度を有することを意味する。溶解度は典型的には、液体(溶媒)中に過剰量の物質を懸濁して、25℃で24時間振盪する技術に従って測定される。溶液を濾過した後、例えばUV(紫外線)、又はHPLC(高速液体クロマトグラフィー)を使用して、溶液中の物質濃度を測定する。
【0045】
本開示中で使用される用語「フッ素系溶媒」は、フッ素を含む溶媒に関する。本開示中で使用される用語「フッ素系溶媒」は、本開示では「フルオラス溶媒」、及び「フルオロ溶媒」と互換的に使用することができる。本開示中に開示される用語「フッ素系溶媒」は、好ましくは、フルオロアルコール又は、フルオロカーボンのうち一つ以上である。本開示中で開示されるフルオロアルコールは、(2,2,2,-トリフルオロエタノール)、トリフルオロエチルアルコール、ヘキサフルオロ-2-プロパノール、及びトリフルオロプロパノールのうち一つ以上であってよい。本開示中で開示されるフルオロカーボンは、ジクロロフルオロメタン(CHCl2F)、トリクロロフルオロメタン(CCl3F)、テトラフルオロメタン(CF4)、ジフルオロジクロロメタン(CHCl2F2)、クロロジフルオロメタン(CHClF2)、及びテトラフルオロエチレン(TFE、C2F4)のうち一つ以上であってもよい。
【0046】
種々の実施形態では、本開示中で開示される、ポリマーのための溶媒は、本開示中で開示される、フッ素系溶媒ではない。一つの実施形態において、本開示中で開示されるポリマーのための溶媒は、非極性溶媒である。一つの実施形態において、本明細書に開示されるポリマーのための溶媒は、極性非プロトン溶媒である。実施形態において、本明細書に開示されるポリマーのための溶媒は、極性プロトン性溶媒である。
【0047】
本開示中において、用語「疎水性」は、好ましくは抗生物質やポリマーを表す際に、用語「非極性」、又は「脂溶性」と互換的に使用されてもよい。本開示中において、用語「親水性」は、好ましくは抗生物質やポリマーを表す際に、「極性」と互換的に使用されてもよい。本開示中で開示される、疎水性、及び/又は非極性の化合物(例えば、抗生物質やポリマー)は、好ましくは、0より大きいLog P値、及び/又は1より大きいP値を有する。本開示中で開示される、親水性、及び/又は極性化合物(例えば、抗生物質やポリマー)は、好ましくは、0より小さいLog P値、及び/又は1より小さいP値を有する。本開示中で使用される「Log P」は、好ましくは、分子/化合物が、どの程度の親水性(極性)、又は疎水性(非極性、脂溶性)を有するかの尺度としてのn-オクタノール-水の分配係数を指す。どれだけ容易に分子/化合物が水相と有機相の間で分配するかを示す。より極性が高く、親水性を有する、分子/化合物は、より低いLog Pを有し、水相に存在することを好む。より非極性で疎水性の分子/化合物は、より高いLog Pを有し、有機相に好ましく分配する。Log PはLog10[分配係数(Partition coefficient)]に等しく、分配係数(P)は有機分配液中の溶質濃度を水分配液中の溶質濃度で割った商に等しい。例えば、Log P値が1であれば、有機相:水相の分配が10:1であることを意味する。当業者は、ある分子/化合物の分配係数(n-オクタノール-水)を決定する最も正確な方法をよく知っている。典型的には、適切な方法は、フラスコ振盪法である(OECD. 107: Partition Coefficient (n-octanol/water):Shake Flask Method. OECD Guidelines for the Testing of Chemicals, 1995)。
【0048】
本開示中で使用される「非極性溶媒」は、好ましくは、双極子モーメントが2.0(デバイ、D)より小さい、好ましくは1.5より小さい、比誘電率が15.0より小さい、好ましくは5.0より小さい、及び/又は水と非混和性の溶媒を指し示す。本開示中で開示する非極性溶媒は、好ましくはクロロホルム、ペンタン、ヘキサン、ベンゼン、ジエチルエーテル、1,40-ジオキサン、四塩化炭素、塩化メチレンのうち一種以上である。
【0049】
本開示中で使用される「極性プロトン性溶媒」は、好ましくは、双極子モーメントが1.5~2.0(デバイ、D)、比誘電率が15.0を超える、好ましくは30.0を超える、及び/又は水と混和性を有する溶媒を指し示す。本開示中で開示する極性プロトン性溶媒は、好ましくは、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-プロパノール、n-ブタノール、酢酸のうち一つ以上である。
【0050】
本開示中で使用される「極性非プロトン溶媒」は、好ましくは、双極子モーメント(デバイ、D)が2.0を超える、より好ましくは3.0を超える、比誘電率が15.0を超える、好ましくは30.0を超える、及び/又は水と混和性を有する溶媒を指す。本開示中で開示する極性非プロトン溶媒は、好ましくは、ジメチルスルホキシド、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン、ヘキサメチルリン酸トリアミドのうち一種以上であり、より好ましくは、ジメチルスルホキシドである。
【0051】
好ましくは、本開示中で開示する「双極子モーメント」(デバイ単位)は、電荷間の距離に電荷を掛けたものに等しい。分子の双極子モーメントは、式(1):
【数1】
によって計算することができる。
【0052】
本開示中で開示される「双極子モーメント」もまた、実験により確立されてもよい。
【0053】
本開示中で使用される「比誘電率」は、絶縁体に電界を印加することによって、どの程度容易にある物質が分極することができるかを指し示す。比誘電率は無次元変数であり、式(2):
【数2】
を用いて特定することができる。
ここで、式(2)では:
ε
r=比誘電率
ε=物質の誘電率(C
2/(N m
2))
ε
0=真空、又は自由空間の誘電率(8.854187817 10
-12 C
2/(N m
2))
である。
【0054】
比誘電率は、気温によって変化しうる。好ましくは、比誘電率は20~25 ℃下で確立される。本開示中で開示される「比誘電率」もまた、実験で確立されてもよい。
【0055】
本開示中で使用される用語「水との混和性を有する(miscible with water)」は、水と混ぜたときに均質な混合物を形成する物質(典型的には液体)を意味する。二つの物質の混和性は、しばしば光学的(optically)に特定される。二つの混和性を有する液体が組み合わされたとき、結果として生じる液体は透明である。混合物が濁っている場合は、二つの物質は混和性を有さない。「混和性を有する」とは、物質を水と混ぜ合わせたときに、二層が生成されないことを意味する。「混和性を有さない」とは、任意の比率で二層が生成されることを意味する。
【0056】
本開示中で開示される抗菌性調製物の製造方法の一つの実施形態では:
- 工程c)の混合物、及び/又は抗菌性調製物は、1 mPa・s~20 Pa・s (パスカル-秒)、好ましくは、1 mPa・s~2 Pa・s、より好ましくは、1 mPa・s~200 mPa・sの動的粘度を有する。
【0057】
本開示中で開示される方法においては、工程c)の混合物、及び/又は抗菌性調製物は、少なくとも0.01 mPa・s、又は少なくとも0.1 mPa・s、又は少なくとも1 mPa・s、又は少なくとも10 mPa・s、又は少なくとも100 mPa・s、又は少なくとも1 Pa・s、又は少なくとも10 Pa・s、又は少なくとも100 Pa・s、又は少なくとも1000 Pa・sの動的粘度を有してもよい。加えて、又は代替的に、本開示中で開示される方法においては、工程c)の混合物、及び/又は抗菌性調製物は、1000 Pa・s以下、又は100 Pa・s以下、又は10 Pa・s以下、又は1 Pa・s以下、又は100 mPa・s以下、又は10 mPa・s以下、又は1 mPa・s以下、又は0.1 mPa・s以下、又は0.01 mPa・s以下の動的粘度を有してもよい。
【0058】
本開示中で使用される用語「動的粘度」はある流体の持つ流れに対する内部抵抗に関する用語であって、すなわち、流体が流れるために必要な力の大きさ関する。動的粘度は一般に、ニュートン・秒/平方メートル(N・s/m2)、パスカル・秒(Pa・s)、キログラム/メートル/秒(kg・m-1・s-1)、又はポアズ(P)で表される。好ましくは、本開示中で開示される動的粘度は、市販の自動粘度計(例えば、m- VROC, RheoSense, 20~25℃での試料体積100マイクロリットルを用いて計測した)を用いて計測される
【0059】
一つの実施形態では、本開示中で開示されるポリマーは、例えば本開示中で開示される親水性(極性)ポリマーである。一つの実施形態では、本開示で開示されるポリマーは、例えば本開示で開示される疎水性(非極性)ポリマーである。一つの実施形態では、脂肪族ポリエステルは、疎水性脂肪族ポリエステルであり、好ましくは、PDLG(DL-ラクチド/グリコリド コポリマー)、PLGA(L-ラクチド/グリコリド コポリマー)、PLC(L-ラクチド/カプロラクトン コポリマー)、PCLポリカプロラクトン、PD[ポリ(D-ラクチド)]、PL[ポリ(L-ラクチド)]、又はPDL[(ポリ(DL-ラクチド)]のうち一つ以上であり、より好ましくはPDLGである。
【0060】
一つの実施形態では、ポリマーは、PGA(ポリグリコリド)、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリ(プロピレングリコール)(PPG)、PEGジアクリレート(PEGDA)、及びPEGジメタクリレート(PEGDMA)からなる群から選択される一つ以上である。一つの実施形態では、ポリマーは脂肪族ポリエーテル、例えば、PEG、又はPPGである。
【0061】
一つの実施形態では、脂肪族ポリエステルは親水性(極性)でも疎水性(非極性)でもない。
【0062】
一つの実施形態では、本開示中で開示される第一の抗生物質は、リファマイシン、疎水性ハイドロキノロン、マクロライド、テトラサイクリン、又はリンコサミドのうち一つ以上であり、好ましくは、リファンピンである。
【0063】
本開示中で言及するリファマイシンは、好ましくは、リファンピン、リファマイシンB、リファブチン、リファペンチン、及びリファキシミンのうち一つ以上である。本開示中で開示される「リファンピン」はリファンピシンとしても公知であり、そのため、「リファンピン」は「リファンピシン」と相互互換的に使用されてもよい。本開示中で言及される疎水性ハイドロキノロンは、好ましくは、レボフロキサシン、モキシフロキサシンのうち一つ以上である。本開示中で言及されるマクロライドは、エリスロマイシン、ロキシスロマイシン、アジスロマイシン、クラリスロマイシンのうち一つ以上である。本開示中で言及されるテトラサイクリンは、好ましくはテトラサイクリン、オキシテトラサイクリン、ジオキシサイクリン、チゲサイクリン、ミノサイクリンのうち一つ以上である。本開示中で言及されるリンコサミドは、好ましくはリンコマイシン、クリンダマイシン、ピルリマイシンのうち一つ以上である。
【0064】
一つの実施形態では、本開示中で開示される第二の抗生物質は、グリコペプチド、アミノグリコシド、β-ラクタム、カルバペネム、親水性フルオロキノロン、又はストレプトグラミンのうち一つ以上であり、好ましくはバンコマイシンである。
【0065】
本開示中で言及されるアミノグリコシドは、好ましくはトブラマイシン、ゲンタマイシン、ネオマイシン、ストレプトマイシンのうち一つ以上である。本開示中で言及されるβ-ラクタムは、好ましくはペニシリン、セファロスポリン、ピペラシリンのうち一つ以上である。本開示中で言及されるグリコペプチドは、好ましくは、バンコマイシン、テイコプラニン、レラバンシン、ラモプラニンのうち一つ以上である。本開示中で言及されるカルバペネムは、好ましくはイミペネム、メロペネムのうち一つ以上である。本開示中で言及される親水性フルオロキノロンは、好ましくはノルフロキサシン、シプロフロキサシンのうち一つ以上である。本開示中で言及されるストレプトグラミンは、好ましくはプリスチナマイシン、バージニアマイシンのうち一つ以上である。
【0066】
一つの実施形態では、本開示中で開示されるフッ素系溶媒は、フルオロカーボン、フルオロアルコール、又はそれらの混合物、好ましくはテトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロイソプロパノール、トリフルオロエタノール、及びトリフルオロプロパノールのうち一つ以上であり、より好ましくは、テトラフルオロエチレンである。
【0067】
本開示中で開示される抗菌性調製物の製造方法の一つの実施形態では:
- 第二の溶媒は、非極性有機溶媒、極性非プロトン有機溶媒、又はそれらの混合物、好ましくはクロロホルム、ペンタン、ヘキサン、ベンゼン、ジエチルエーテル、及び1,40-ジオキサンのうちの一つ以上であり、より好ましくはクロロホルムである:及び/又は、
- 第三の溶媒は、一つ以上の極性非プロトン有機溶媒であり、好ましくはジメチルスルホキシド、ジクロロメタン、テトラハイドロフラン、酢酸エチル、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン、及びヘキサメチルリン酸トリアミドのうち一つ以上であり、より好ましくはジメチルスルホキシドである。
【0068】
一つの実施形態では、本開示で開示される第一の溶媒は、極性非プロトン溶媒(例えば、本開示中で開示される一つ以上の極性非プロトン溶媒)である。
【0069】
一つの実施形態では、第一の溶媒は、極性非プロトン溶媒である。
【0070】
一つの実施形態では、第一の溶媒は、非極性溶媒(例えば、本開示中で開示される一つ以上の非極性溶媒)である。
【0071】
本開示中で開示される抗菌性調製物の製造方法の一つの実施形態では:
- 工程a)においては、ポリマーが、第一の溶媒中で50~500 mg/ml、好ましくは100~300 mg/mlの濃度で存在する;
- 工程b)においては、第一の抗生物質が、第二の溶媒中で25~500 mg/ml、好ましくは50~350 mg/mlの濃度で存在する;
- 工程c)での混合においては、第一の抗生物質を含む第二の溶媒と、ポリマーを含む第一の溶媒とが、1:1~1:2.5、好ましくは1:1.5~1:2の割合で実施される;
- 工程d)においては、第二の抗生物質が、第三の溶媒中で25~500 mg/ml、好ましくは50~300 mg/mlの濃度で存在する;及び/又は、
- 工程e)においては、第二の抗生物質を含む第三の溶媒と、工程c)の混合物との混合が、1:2~1:7、好ましくは1:3~1:6、より好ましくは1:4~1:5の割合で実施される。
【0072】
本開示中で開示される抗菌性調製物の製造方法の工程a)において、ポリマーは、第一の溶媒中で少なくとも1 mg/ml、又は少なくとも10 mg/ml、又は少なくとも50 mg/ml、又は少なくとも100 mg/ml、又は少なくとも200 mg/ml、又は少なくとも300 mg/ml、又は少なくとも400 mg/ml、又は少なくとも500 mg/ml、又は少なくとも1 g/ml、又は少なくとも2 g/ml、又は少なくとも5 g/ml、又は少なくとも10 g/mlの濃度で存在してもよい。加えて、又は代替的に、ポリマーは、第一の溶媒中で10 g/ml以下、又は5 g/ml以下、又は2 g/ml以下、又は1 g/ml以下、又は500 mg/ml以下、又は400 mg/ml以下、又は300 mg/ml以下、又は200 mg/ml以下、又は100 mg/ml以下、又は50 mg/ml以下、又は10 mg/ml以下、又は1 mg/ml以下の濃度で存在してもよい。
【0073】
本開示中で開示される抗菌性調製物の製造方法の工程b)において、第一の抗生物質は、第二の溶媒中で少なくとも1mg/ml、又は少なくとも10 mg/ml、又は少なくとも50 mg/ml、又は少なくとも100 mg/ml、又は少なくとも200 mg/ml、又は少なくとも300 mg/ml、又は少なくとも350 mg/ml、又は少なくとも400 mg/ml、又は少なくとも500 mg/ml、又は少なくとも1 g/ml、又は少なくとも2 g/ml、又は少なくとも5 g/ml、又は少なくとも10 g/mlの濃度で存在してもよい。加えて、又は代替的に、第一の抗生物質は、第二の溶媒中で10 g/ml以下、又は5 g/ml以下、又は2 g/ml以下、又は1 g/ml以下、又は500 mg/ml以下、又は400 mg/ml以下、又は350 mg/ml以下、又は300 mg/ml以下、又は200 mg/ml以下、又は100 mg/ml以下、又は50 mg/ml以下、又は10 mg/ml以下、又は1 mg/ml以下の濃度で存在してもよい。
【0074】
本開示中で開示される抗菌性調製物の製造方法の工程c)において、第一の抗生物質を含む第二の溶媒と、ポリマーを含む第一の溶媒との工程c)での混合が、少なくとも1:1、又は少なくとも1:1.5、又は少なくとも1:2、又は少なくとも1:2.5、又は少なくとも1:3、又は少なくとも1:3.5、又は少なくとも1:4、又は少なくとも1:4.5、又は少なくとも1:5、又は少なくとも1:6、又は少なくとも1:7、又は少なくとも1:8、又は少なくとも1:9、又は少なくとも1:10、又は少なくとも1:20の割合で実施されてもよい。加えて、又は代替的に、第一の抗生物質を含む第二の溶媒と、ポリマーを含む第一の溶媒との工程c)での混合は、1:20以下、又は1:10以下、又は1:9以下、又は1:8以下、又は1:7以下、又は1:6以下、又は1:5以下、又は1:4.5以下、又は1:4以下、又は1:3.5以下、又は1:3以下、又は1:2.5以下、又は1:2以下、又は1:1.5以下、又は1:1以下の割合で実施されてもよい。
【0075】
本開示中で開示される抗菌性調製物の製造方法の工程d)において、第二の抗生物質が、第三の溶媒中で少なくとも1mg/ml、又は少なくとも10 mg/ml、又は少なくとも50 mg/ml、又は少なくとも100 mg/ml、又は少なくとも200 mg/ml、又は少なくとも300 mg/ml、又は少なくとも400 mg/ml、又は少なくとも500 mg/ml、又は少なくとも1 g/ml、又は少なくとも2 g/ml、又は少なくとも5 g/ml、又は少なくとも10 g/mlの濃度で存在してもよい。加えて、又は代替的に、第二の抗生物質が、第三の溶媒中で10 g/ml以下、又は5 g/ml以下、又は2 g/ml以下、又は1 g/ml以下、又は500 mg/ml以下、又は400 mg/ml以下、又は300 mg/ml以下、又は200 mg/ml以下、又は100 mg/ml以下、又は50 mg/ml以下、又は10 mg/ml以下、又は1 mg/ml以下の濃度で存在してもよい。
【0076】
本開示中で開示される抗菌性調製物の製造方法の工程e)において、第二の抗生物質を含む第三の溶媒と、工程c)の混合物との混合が、少なくとも1mg/ml、又は少なくとも10 mg/ml、又は少なくとも50 mg/ml、又は少なくとも100 mg/ml、又は少なくとも200 mg/ml、又は少なくとも300 mg/ml、又は少なくとも400 mg/ml、又は少なくとも500 mg/ml、又は少なくとも1 g/ml、又は少なくとも2 g/ml、又は少なくとも5 g/ml、又は少なくとも10 g/mlの割合で実施される。第二の抗生物質を含む第三の溶媒と、工程c)の混合物との混合が、少なくとも10 g/ml以下、又は5 g/ml以下、又は2 g/ml以下、又は1 g/ml以下、又は500 mg/ml以下、又は400 mg/ml以下、又は300 mg/ml以下、又は200 mg/ml以下、又は100 mg/ml以下、又は50 mg/ml以下、又は10 mg/ml以下、又は1 mg/ml以下の割合で実施される。
【0077】
一つの態様では、本開示は抗菌性調製物に関する開示であって:
- 抗菌性調製物1 ml当り10~300 mg、好ましくは、50~150 mg/mlの濃度のポリマーであって、脂肪族ポリマー、好ましくは疎水性脂肪族ポリエステルであり、より好ましくは、PDLG (DL-ラクチド/グリコリド コポリマー)、PLGA(L-ラクチド/グリコリド コポリマー)、PLC(L-ラクチド/カプロラクトン コポリマー)、PCL (ポリカプロラクトン)、PD [ポリ(D-ラクチド)]、PL[ポリ(L-ラクチド)]、若しくはPDL[(ポリ(DL-ラクチド)]のうち一つ以上であり、最も好ましくは、PDLGである、ポリマー;
- 抗菌性調製物1 ml当たり10~200 mg、好ましくは、20~100 mg/mlの濃度の第一の抗生物質であって、疎水性、及び/若しくは非極性有機溶媒に可溶であり、好ましくは、リファマイシン、疎水性ハイドロキノロン、マクロライド、テトラサイクリン、若しくはリンコサミドのうち一つ以上であり、より好ましくは、リファンピンである、第一の抗生物質;
- 抗菌性調製物1 ml当たり10~200 mg、好ましくは、20~100 mg/mlの濃度の第二の抗生物質であって、親水性、及び/若しくは極性非プロトン有機溶媒に可溶であり、好ましくは、グリコペプチド、アミノグリコシド、β-ラクタム、カルバペネム、親水性フルオロキノロン、若しくはストレプトグラミンのうち一つ以上であり、より好ましくは、バンコマイシンである、第二の抗生物質;
- 抗菌性調製物に対して10~50%(v/v)、好ましくは、20~40%(v/v)の濃度の非極性有機溶媒であって、好ましくは、クロロホルム、ペンタン、ヘキサン、ベンゼン、ジエチルエーテル、及び1,40-ジオキサンのうち一つ以上であり、より好ましくは、クロロホルムである、非極性有機溶媒;並びに/又は、
- 抗菌性調製物に対して1~40%(v/v)、好ましくは、10~30%(v/v)の濃度の極性非プロトン有機溶媒であって、好ましくは、ジメチルスルホキシド、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン、及びヘキサメチルリン酸トリアミドのうち一つ以上であり、より好ましくは、ジメチルスルホキシドである、極性非プロトン有機溶媒、
を含む、抗菌性調製物に関する。
【0078】
本開示の抗菌性調製物において、ポリマー、第一の抗生物質、及び/又は第二の抗生物質は、少なくとも1mg/ml、又は少なくとも10 mg/ml、又は少なくとも50 mg/ml、又は少なくとも100 mg/ml、又は少なくとも200 mg/ml、又は少なくとも300 mg/ml、又は少なくとも350 mg/ml、又は少なくとも400 mg/ml、又は少なくとも500 mg/ml、又は少なくとも1 g/ml、又は少なくとも2 g/ml、又は少なくとも5 g/ml、又は少なくとも10 g/mlの量で存在してもよい。加えて、又は代替的に、ポリマー、第一の抗生物質、及び/又は第二の抗生物質は、10 g/ml以下、又は5 g/ml以下、又は2 g/ml以下、又は1 g/ml以下、又は500 mg/ml以下、又は400 mg/ml以下、又は350 mg/ml以下、又は300 mg/ml以下、又は200 mg/ml以下、又は100 mg/ml以下、又は50 mg/ml以下、又は10 mg/ml以下、又は1 mg/ml以下の量で存在してもよい。
【0079】
本開示の抗菌性調製物において、非極性有機溶媒は、少なくとも1%、又は少なくとも2%、又は少なくとも5%、又は少なくとも10%、又は少なくとも20%、又は少なくとも30%、又は少なくとも40%、又は少なくとも50%、又は少なくとも60%、又は少なくとも70%、又は少なくとも80%、又は少なくとも90%の濃度(抗菌性調製物に対してv/v)で存在してもよい。加えて、又は代替的に、非極性有機溶媒は、90%以下、又は80%以下、又は70%以下、又は60%以下、又は50%以下、又は40%以下、又は30%以下、又は20%以下、又は10%以下、又は5%以下、又は2%以下、又は1%以下の濃度(抗菌性調製物に対してv/v)で存在してもよい。
【0080】
一つの実施形態では、本開示中で開示される抗菌性調製物は、1 mPa・s~20 Pa・s (パスカル-秒)、好ましくは1 mPa・s~2 Pa・s、より好ましくは1 mPa・s~200 mPa・sの動的粘度を有する。
【0081】
本開示中で開示される抗菌性調製物は、少なくとも0.01 mPa・s、又は少なくとも0.1 mPa・s、又は少なくとも1 mPa・s、又は少なくとも10 mPa・s、又は少なくとも100 mPa・s、又は少なくとも1 Pa・s、又は少なくとも10 Pa・s、又は少なくとも100 Pa・s、又は少なくとも1000 Pa・sの動的粘度を有してもよい。加えて、又は代替的に、本開示中で開示される抗菌性調製物は、1000 Pa・s以下、又は100 Pa・s以下、又は10 Pa・s以下、又は1 Pa・s以下、又は100 mPa・s以下、又は10 mPa・s以下、又は1 mPa・s以下、又は0.1 mPa・s以下、又は0.01 mPa・s以下の動的粘度を有してもよい。
【0082】
一つの態様では、本開示は抗菌性コーティングを調製するための(本開示中で開示される方法で得られる)抗菌性調製物の使用に関する開示である。本開示中の抗菌性コーティングの調製は、好ましくはディップコーティング、スピンコーティング、スプレー、エレクトロスピン、電気泳動堆積、スパッタコーティング、サーマルスプレー、プラズマスプレー、ゾルゲル、レイヤーバイレイヤーコーティング、より好ましくは、エレクトロスプレーを用いて実施される。
【0083】
一つの態様では、本開示は抗菌性コーティングの製造方法に関する開示であって、方法は、本開示中で開示される抗菌性調製物の製造方法の種々の実施形態の一つによって得られる抗菌性調製物の基材へ適用する工程と、及び抗菌性調製物中の一つ以上の溶媒を除去する工程とを含む。本開示中の抗菌性コーティングの製造方法において、適用は好ましくは、ディップコーティング、スピンコーティング、スプレー、エレクトロスピン、電気泳動堆積、スパッタコーティング、サーマルスプレー、プラズマスプレー、ゾルゲル、レイヤーバイレイヤーコーティング、より好ましくは、エレクトロスプレーを用いて実施される。
【0084】
本開示中で開示される用語「エレクトロスプレー」は、静電気力、及び表面張力を用いて液体(例えば、抗菌性調製物)を基材上に堆積させ、基材に向けられる一世代(generation)以上の帯電した単分散液滴(monodisperse)を生成する方法に関する。典型的には、エレクトロスプレー法では、高電圧電源、液体を保持するために金属キャピラリーでキャップされた容器(例えば、シリンジ)、液体の流れを制御するポンプ、及び接地されたコレクター(例えば、金属基材)が使用される。ニードルに高電界が適用されるとき、帯電した液体ジェットが分解されて液滴になる。ノズルの先端では、帯電した溶液が分解されてマイクロスケールの液滴しうる。さらに、体積に比べて大きい表面積を有する、子滴が形成されることができる。この方法は、噴霧距離と溶液組成に応じて複数回発生することができ、その結果、単分散液滴が数世代、最も典型的には二世代にわたって発生する。これは最終的にコレクター上で一般的に狭い粒度分布を持つ小さな粒子を形成する。本開示中で開示される「エレクトロスプレー法」は、「エレクトロスプレー蒸着法」又は「エレクトロダイナミックスプレー法」と相互互換的に使用することができる。当業者は、エレクトロスプレー技術のバリエーションとその適用についてよく知っている(例えば、 Wang ら、 Electrospraying: Possibilities and Challenges of Engineering Carriers for Medical Applications―A Mini Review. Front. Chem., 25 April 2019)。
【0085】
好ましくは、本明細書に開示されるエレクトロスプレー法は:
抗菌性調製物を、ニードル(例えば、スチール製)を備えたシリンジ(例えば、3 mL~5 mL)に注入する。必要な電界を形成するために、ニードルとコーティングされる金属の対象物との間に電圧が適用される。電圧は好ましくは10~30 kV(例えば16 kV)である。コーティング溶液は、シリンジニードルを通して(例えばシリンジポンプを使用して)、好ましくは0.1~1 ml/h(例えば0.5 ml/h)の流量で供給される。エレクトロスプレーされた液滴は、ニードルの先端から適切な距離、好ましくは5~15 cm(例えば8 cm)の位置に置かれた(金属の)コーティング対象物に付着する。コーティングされた対象物は、有機溶媒を除去するためにさらに(例えば、コールドトラップ、液体窒素とともに真空に保つことによって)処理されてもよいという方法、又は類似の方法を使用する。
【0086】
本開示中で開示される「基材」は、金属、ポリマー、ガラス、バイオガラス、及び/又はエラストマーであってもよく、好ましくは金属、より好ましくはステンレス鋼(例えば316Lなどの外科用等級のステンレス鋼)、コバルトクロム(Co- Cr)合金、純粋な市販のチタン(Ti)、又はTi合金である。基材は、好ましくは医療器具の表面である。本開示中で開示される「医療器具」は、典型的には、医療診断、及び/又は治療の一環として被験者の体内に挿入することが可能な、又は挿入するように設計された器具である。医療器具は、分解可能、又は分解不可能であってもよい。医療器具の一般的な例として:ステント、カテーテル、ペースメーカー、植え込み型心臓除細動器、冠動脈ステント、分解性グラフト、耳管、眼間レンズ、植え込み型インスリンポンプ、子宮内装置、外科用メッシュインプラント、乳房インプラント、整形外科用インプラント、人工関節、がある。本開示中で使用される用語「医療器具(medical device)」は、「生物医学的器具(biomedical device)」、「埋め込み型器具(implantable device)」、「インプラント」、又は「(生物)医学的インプラント」と相互互換的に使用されてもよい。
【0087】
本開示中で開示される物質中の溶媒の「除去」(例えば、抗菌性調製物中での除去や抗菌性コーティング中での除去)は、物質中の溶媒の量を特定のレベルまで減少させる任意の方法を含んでもよい。溶媒の除去は、好ましくは溶媒を蒸発させることで行われる。蒸発の好ましい方法は、物質中の残留溶媒の量が特定のレベルまで減少するまで、物質を室温(20~22 ℃)に放置することを含む。別の好ましい方法は、物質中の溶媒量が特定のレベルまで減少するまで、高温(例えば22~50 ℃)で物質を乾燥させることである。加えて、又は代替的に、例えば、溶媒の蒸発を補助するために、物質中の溶媒量が特定のレベルまで減少するまで、物質を圧縮ガス(アルゴン、窒素、ヘリウム、空気など)中に入れてもよい。 残留溶媒の特定のレベルは、典型的には、溶媒が安全で人体に有害な影響を及ぼさないと考えられるレベルである。当業者は、人体で使用する物質に許容される残留溶媒の量は、溶媒の種類、及び残留溶媒を運搬する物質の治療的使用に依存することをよく知っている。
【0088】
一つの態様では、本開示は抗菌性コーティングに関する開示であって:
-抗菌性コーティングに対して40~90質量%、好ましくは50~80質量%の量でのポリマーであって、脂肪族ポリエステル、好ましくは疎水性脂肪族ポリエステルである、ポリマー;
-抗菌性コーティングに対して5~40質量%、好ましくは、10~30質量%の量での第一の抗生物質であって、疎水性、及び/又は、非極性有機溶媒に可溶である、第一の抗生物質;並びに、
-抗菌性コーティングに対して5~40質量%、好ましくは、10~30質量%の量での第二の抗生物質であって、親水性、及び/又は、極性非プロトン有機溶媒に可溶である、第二の抗生物質、
を含み、
第一の抗生物質、及び第二の抗生物質は前記ポリマーによって作用されるマトリックス中に含まれる、抗菌性コーティングに関する開示である。
【0089】
本開示中で開示される抗菌コーティングでは、ポリマー、第一の抗生物質、及び/又は第二の抗生物質は、(抗菌コーティングの重量に対して)少なくとも1%、又は少なくとも5%、又は少なくとも10%、又は少なくとも20%、又は少なくとも30%、又は少なくとも40%、又は少なくとも50%、又は少なくとも60%、又は少なくとも70%、又は少なくとも80%、又は少なくとも90%の量で(独立して)存在してもよい。加えて、又は代替的に、ポリマー、第一の抗生物質、及び/又は第二の抗生物質は、(抗菌コーティングの重量に対して)90%以下、又は80%以下、又は70%以下、又は60%以下、又は50%以下、又は40%以下、又は30%以下、又は20%以下、又は10%以下、又は5%以下、又は1%以下の量で(独立して)存在してもよい。
【0090】
本開示中で開示される抗菌性コーティングの一つの実施形態では:
- 脂肪族ポリエステルは、PDLG(DL-ラクチド/グリコリド コポリマー)、PLGA(L-ラクチド/グリコリド コポリマー)、PLC(L-ラクチド/カプロラクトン コポリマー)、PCLポリカプロラクトン、PD[ポリ(D-ラクチド)]、PL[ポリ(L-ラクチド)]、若しくはPDL[(ポリ(DL-ラクチド)]の一つ以上であり、好ましくはPDLGである;
- 第一の抗生物質は、リファマイシン、疎水性ヒドロキノロン、マクロライド
テトラサイクリン、若しくはリンコサミドの一つ以上であり、好ましくはリファンピンである;及び/又は、
- 第二の抗生物質は、グリコペプチド、アミノグリコシド、β-ラクタム、カルバペネム、親水性フルオロキノロン、若しくはストレプトグラミンのうちの一つ以上であり、好ましくはバンコマイシンである。
【0091】
本開示中で開示される抗菌性コーティングの一つの実施形態では:
- 抗菌性コーティングは単層抗菌性コーティングであり、好ましくは10~1000 μm、より好ましくは50~500 μm、さらに好ましくは100~250 μmの厚さである;
- 抗菌性コーティング中の全ポリマー含量は、単一のポリマーによって90~100質量%、好ましくは95~100 質量%、より好ましくは99~100 質量%、最も好ましくは100 質量%であり、及び/又は
- 抗菌性コーティングの表面は、70°以上、好ましくは80°以上、より好ましくは90°以上の静的水接触角によって定義される疎水性であり;及び/又は、
- 抗菌性コーティングは、20~1000 nm、好ましくは20~500 nm(例えば、50~400 nm、又は100~300 nm)、より好ましくは20~200 nmの平均表面粗さを有する。
【0092】
本開示中で開示される抗菌性コーティングは、少なくとも1 μm、又は少なくとも5 μm、又は少なくとも10 μm、又は少なくとも20 μm、又は少なくとも30 μm、又は少なくとも40 μm、又は少なくとも50 μm、又は少なくとも60 μm、又は少なくとも70 μm、又は少なくとも80 μm、又は少なくとも90 μm、 又は、少なくとも100 μm、又は少なくとも200 μm、又は少なくとも300 μm、又は少なくとも400 μm、又は少なくとも500 μm、又は少なくとも600 μm、又は少なくとも700 μm、又は少なくとも800 μm、又は少なくとも900 μm、又は少なくとも1000 μm、又は少なくとも2000 μm、又は少なくとも3000 μm、又は少なくとも4000 μm、又は少なくとも5000 μmの厚さを有してもよい。加えて、又は代替的に、本開示中で開示される抗菌性コーティングは、5000 μm以下、又は4000 μm以下、又は3000 μm以下、又は2000 μm以下、又は1000 μm以下、又は900 μm以下、又は800 μm以下、又は700 μm以下、又は600 μm以下、又は500 μm以下、 又は、400 μm以下、又は300 μm以下、又は200 μm以下、又は100 μm以下、又は90 μm以下、又は80 μm以下、又は70 μm以下、又は60 μm以下、又は50 μm以下、又は40 μm以下、又は30 μm以下、又は20 μm以下、又は10 μm以下、又は5 μm以下、又は1 μm以下の厚さを有してもよい。
【0093】
本開示中で開示される抗菌性コーティングの「厚さ」は、平均の厚さに関する用語であって、例えば、少なくとも1 mm2、好ましくは少なくとも1 cm2の抗菌性コーティングから特定される平均の厚さに関する。平均の厚さは、標準偏差が20%以下になるように、サンプル(の一部)に対して実施された十分な測定に基づいてもよい。本開示中で開示される抗菌性コーティングの厚さは、好ましくは分光反射率法で測定される。分光反射率法は、典型的にはある波長範囲で薄膜から反射される光の量を、入射光が試料表面に垂直な状態で測定する。好ましい方法では、コーティングの厚さは、400~850 nmの波長範囲を使用して、入射光顕微鏡にセットアップされたFilmetrics薄膜測定システム(例えば、F40、Filmetrics Europe GmbH、又は、同様のもの)を使用して測定される。光学屈折率は、好ましくはn=1.5と仮定される。
【0094】
本開示中で使用される用語「粗さ(roughness)」はコーティングの粗さに関する用語である。「粗さ」は、好ましくは(例えば、標準偏差が、20%以下になるように十分に実施された測定に基づいた)平均の粗さに関する用語である。本開示中で開示される抗菌性コーティングの粗さは、好ましくは原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定される。好ましい方法では、表面の粗さは、空気存在下の室温でタッピングモードにて記録しながら原子間力顕微鏡(AFM、イージースキャン、又は同様のもの)を使用して測定する。
【0095】
本発明者らは、本発明の抗菌性調製物が、ポロシティを有さない、又は減少したポロシティを有する、すなわち減少した孔サイズ、及び/又は減少した孔径を有するコーティングの形成を可能にする、ことを発見した。明確なポロシティを有さないコーティングを達成することができた。
【0096】
一つの実施形態では、抗菌性コーティングは、本開示で開示されるポロシティによって定義することができる、密度、及び形態を有する。
【0097】
コーティングのポロシティが低い/ポロシティを有さないことにより、ほかに比べて:
- 例えば抗生物質をより持続的に放出する、抗生物質の放出;
- より均一なコーティング
- より少ないエアポケット
- 例えば移植中の剥離が改善される、より強固なインプラント物質への付着;
- 例えば移植がより容易になる、より薄いコーティング;
- 細胞の向上した接着性;
- より高い薬剤充填率(濃度);
- より高いポリマー充填率(濃度)
において一つ以上の利点をもたらすことができる。
【0098】
好ましい一つの実施形態では、本開示中で開示される抗菌性コーティングは:
- 20%以下、若しくは10%以下、若しくは1%以下、若しくは0.1%以下のポロシティ;及び/又は、
- 1 μm以下、好ましくは0.1 μm以下、より好ましくは0.01 μm以下の孔径
を有する。
【0099】
ここで、抗菌性調製物は本開示中で開示される方法によって得られる。
【0100】
好ましい一つの実施形態では、本開示中で開示される抗菌性コーティングはポロシティを有さない。
【0101】
本開示中で使用される用語、コーティングの「ポロシティ」はコーティングの総体積に対する、(固形)コーティングのない部分(例えば、空気やその他の気体によって形成される空隙や空洞)体積の割合を意味する。ポロシティは、典型的には0~1の範囲の体積に対する割合、又は0~100%の範囲のパーセンテージで表される。本発明の文脈では、ポロシティは好ましくはパーセンテージ(%)で表される。当業者は、物質のポロシティを測定するいくつかの方法をよく知っている。ポロシティ(又は、孔径)を測定するための好ましい方法は、水銀ポロシメトリー、液体侵入、重量測定、及び顕微鏡法(例えば、共焦点レーザー走査型顕微鏡法、共焦点レーザー走査型顕微鏡法、走査型電子顕微鏡法)が含まれる。液体浸透法、重量測定法、走査型電子顕微鏡(SEM)でポロシティ(又は、孔径)を測定するための好ましい方法は、Solimanらによって示されている (Acta Biomaterialia 6 (2010) 1227-1237) 。 好ましい液体侵入方法では、コーティングしたサンプルをエタノール(密度ρEtOH=0.789 g/mlの浸透液体)に浸漬する前に秤量し、エタノールを空隙容積に拡散させるためシェーカーテーブル上に一晩放置して後、キムワイプでブロットし、再度秤量する。ポロシティは侵入したエタノールの体積VEtOHを侵入後の総体積で割ることにより、ε = VEtOH/(VEtOH + Vcoating)で求められる。好ましい重量測定方法では、ポロシティはε = 1ρAPP/ρPCLとして評価され、ここで見かけのコーティング密度ρAPPは質量/体積比として測定される。好ましいSEM方法では、ポロシティε=VFは、サンプルの上面SEM顕微鏡写真に見られるポロシティパーセントVFから推測される平均投影ポロシティとして特定される。パーセントVFは、2次元SEM画像中の貫通空隙をカウントし、合計することによって特定される。例えば、Matlab(MathWorks Inc.)のスクリプトを使用して、グレースケール画像を白黒フォーマットに変換し、自動化された方法でポロシティ(すなわち、白画素の割合)を計算することができる。本開示中で使用される用語「ポロシティ」、好ましくは、0.5 cm2のコーティング表面積、及び/又は100 μmのコーティング厚さについて特定されるような、又は~50 mgのコーティングの乾燥重量について決定されるような、平均ポロシティを意味する。
【0102】
- 本開示中で使用される用語「孔径」は、例えばポリマーコーティングが持つ、多孔質構造の孔の直径を意味する。孔径は、測定技術や、2次元的なアプローチで評価するか3次元的なアプローチで評価するかによって定義が異なるため、一義的な定義がない(Bartos ら Biomed Eng Online. 2018 Aug 17;17(1):110)。本開示中で言及される孔径は、走査型電子顕微鏡(SEM)、例えば、以下;画像解析ソフトウェア(例えば米国国立衛生研究所(National Institutes of Health)のフリーウェア ImageJ ソフトウェアのマニュアルモードを使用する)の平均値により、特定される。二つの直交するセクション(perpencidular sections)ごとに40個の孔を評価し、それぞれ直交するセクションごとにSEM顕微鏡写真(100倍で撮影)合計4枚について繰り返す。無作為に選択した孔の、長径(孔を横切る壁から壁までの最長距離)と短径(孔を横切る壁から壁までの最短距離)について分析する。長径、及び短径の平均が孔径を特定する。本開示中で使用される「孔径」は、好ましくは例えば、0.5 cm2のコーティング表面積、及び/若しくは100 μmのコーティング厚さについて特定される平均孔径、又は~50 mgのコーティングの乾燥重量量について特定される平均孔径を意味する。本発明の文脈における用語「孔径」は、用語「ポアサイズ」と相互互換的に使用することができる。
【0103】
一つの実施形態では、本開示中で開示される抗菌性コーティングは、75%以下、又は70%以下、又は65%以下、又は60%以下、又は55%以下、又は50%以下、又は45%以下、又は40%以下、又は35%以下、又は30%以下、又は25%以下、又は20%以下、又は15%以下、又は10%以下、又は5%以下、又は1%以下、又は0.5%以下、又は0.1%以下、又は0.05%以下、又は0.01%以下、又は0.001%以下のポロシティを有する。好ましくは、本開示中で開示される抗菌性コーティングは、0.0001%~10%、より好ましくは0.001~1%、さらに好ましくは0.01~0.1%のポロシティを有する。一つの実施形態では、本開示中で開示される抗菌性コーティングは、ポロシティを有さない(すなわち0%)。
【0104】
一つの実施形態では、本開示中で開示される抗菌性コーティングは、100 μm以下、又は50 μm以下、又は25 μm以下、又は10 μm以下、又は5 μm以下、又は1 μm以下、又は0.5 μm(500 nm)以下、又は0.4 μm(400 nm)以下、又は0.3 μm(300 nm)以下、又は0.2 μm(200 nm)以下、又は0.1 μm(100 nm)以下、又は0.05 μm(50 nm)以下、又は0.01 μm(10 nm)以下、又は0.001μm(1 nm)以下の平均孔径を有する。好ましくは、本開示中で開示される抗菌性コーティングは、0.00001~1 μm、より好ましくは0.0001~0.1 μm、より好ましくは0.001~0.01 μm 0.1%の孔径を有する。一つの実施形態では、本開示中で開示される抗菌性コーティングは、孔径を有さない(0 μm)。
【0105】
一つの態様では、本開示は、医療器具関連感染の治療、及び/又は予防、好ましくは整形外科インプラント関連感染の治療、及び/又は予防のための
本開示中で開示される方法で得られる抗菌性調製物、
本開示中で開示される抗菌性コーティング、及び/又は
本開示中で開示される方法で得られる抗菌性コーティング
に関する。
【0106】
抗菌性調製物は、好ましくは本開示中で開示される方法で得られる/得られた、抗菌性調製物である。抗菌性コーティングは、好ましくは本開示中で開示された抗菌性調製物を用いたコーティングによって得られる/得られた、抗菌性コーティングである。
【0107】
本開示中で開示される「医療器具に関連した感染症」、及び又は、「整形外科的インプラントに関連した感染症」は、好ましくは微生物、典型的には酵母(例えば、Candida albicans)、又は例えばStaphylococcus ssp. (例えば、 Staphylococcus aureus, Staphylococcus epidermidis)、 Streptococcus ssp. (例えば、 Streptococcus bovis)、 Enterococcus ssp.などの細菌、並びに例えばKlebsiella、Enterobacter、 Acinetobacter、 Pseudomonas、及びEscherichia ssp.など(ほかの)グラム陰性菌に起因する感染症である。本開示中で開示される医療器具に関連した感染症、及び/又は整形外科的インプラントに関連した感染症は、例えばバンコマイシン耐性型Enterococcus、メチシリン耐性型Staphylococcus aureus 、メチシリン耐性型Staphylococcus epidermidis、及び多剤耐性型グラム陰性菌などの抗生物質耐性株に起因する感染症としうる。「医療器具に関連した感染症」、及び/又は「整形外科的インプラントに関連した感染症」における感染(the infection)は医療器具/インプラントの表面に、典型的にはバイオフィルムの形態で存在してもよい。加えて、又は代替的に、感染(the infection)は医療器具/インプラント周辺の組織内に存在するかもしれない。「医療器具に関連した感染症」、及び/又は「整形外科的インプラントに関連した感染症」は外科的手術(例えば、開放創があり、そこから体内に微生物が侵入する)の結果、及び/又は体内における医療器具/インプラントの存在(例えば、微生物が医療器具/インプラントに付着したり、組織の損傷、及び/又は免疫反応の変化などにより、微生物が医療器具/インプラント周囲の組織でより生存しやすくなったりする)の結果であってもよい。
【0108】
本開示で開示される「整形外科的インプラント」は、人工器官、骨ネジ、骨ピン、フック、ロッド、骨代替物、内固定具、外固定具、髄内釘、Kワイヤ、スペーサ、ケージ、人工フレーム、アンカー、関節釘、及び骨プレートのうちの一つ以上であってもよい。本技術の整形外科的インプラントは、固体金属、例えば、金、銀、ステンレス鋼、白金、パラジウム、イリジウム、鉄、ニッケル、銅、チタン、アルミニウム、クロム、コバルト、モリブデン、バナジウム、タンタル、及びこれらの合金を含むことができる。好ましい実施形態では、整形外科的インプラントは、サージカルステンレス鋼、チタニウム、及び/又はチタニウム合金を含む金属を含む。整形外科的インプラントは、例えば選択的レーザー溶融、金属3Dプリント、直接金属レーザー焼結、及び/又は付加製造(additive manufacture)によって製造される、固体インプラント、又は(部分的に)多孔質インプラントであってもよい。
【0109】
本開示で使用される「整形外科的インプラントに関連した感染症」は、被験者に新たに定着したもの、すなわち、被験者が感染症に罹患していなかったか、又は以前に診断されていなかった、感染症であってもよい。また、「整形外科的インプラントに関連した感染症」は、抗生物質の全身投与のみ、又は他の治療法では治療がうまくいかず、再手術が必要となる感染症であってもよい。例えば、整形外科的インプラントに関連した感染の予防、及び/又は治療は、元のインプラントを除去し、新しいインプラント(好ましくは本開示中で開示される抗菌性コーティングを含む)を導入する再手術の一部であってもよい。再手術は、一段階、又は二段階手術としうる。一段階再手術では、典型的には、感染した整形外科的インプラントは取り除かれ、感染部位が潅注され、新たな整形外科的インプラントが挿入される。二段階再手術では、典型的には感染した整形外科的インプラントを除去し、抗生物質を充填したスペーサを埋め込む一度目の手術が行われる。スペーサは、通常数週間(例えば4~8週間、通常は6週間)被験者に留置され、その間、全身への抗生物質投与を受けることができる。感染が治まった後、二度目の手術が行われ、スペーサが取り除かれ、新しい整形外科的インプラントが導入される。本開示中で開示される抗菌性コーティングは、初めての手術(まだ患者が感染症に罹患していない)の一部として、一段階再手術の一部として、及び/又は二段階再手術の一部として、整形外科的インプラントの表面に存在してもよい。一つの実施形態では、抗菌性コーティングは、例えば二段階再手術で使用されるスペーサの表面に存在する。以上のように、用語「インプラント」は、「スペーサ」と相互互換的に使用されてもよい。
【0110】
本開示中で開示される抗菌性コーティングの一つの実施形態では:
第一、及び第二の抗生物質の量が、合計で、抗菌性コーティングの質量に対して、20質量%~60質量%、好ましくは、30質量%~50質量%である;並びに/又は、
第一、及び第二の抗生物質の合計とポリマーの比が、1:1~1:3であり、好ましくは1:1.5~2.5である。
【0111】
本開示中で開示される抗菌性コーティングでは、第一、及び第二の抗生物質の合計と、ポリマーとの比が、少なくとも1:1、又は少なくとも1:1.5、又は少なくとも1:2、又は少なくとも1:2.5、又は少なくとも1:3、又は少なくとも1:3.5、又は少なくとも1:4、又は少なくとも1:4.5、又は少なくとも1:5、又は少なくとも1:6、又は少なくとも1:7、又は少なくとも1:8、又は少なくとも1:9、又は少なくとも1:10、又は少なくとも1:20である。加えて、又は代替的に、第一、及び第二の抗生物質の合計と、ポリマーとの比が、1:20以下、又は1:10以下、又は1:9以下、又は1:8以下、又は1:7以下、又は1:6以下、又は1:5以下、又は1:4.5以下、又は1:4以下、又は1:3.5以下、又は1:3以下、又は1:2.5以下、又は1:2以下、又は1:1.5以下、又は1:1以下である。
【0112】
本開示中で開示される抗菌性コーティングでは、第一、及び第二の抗生物質の合計量は(抗菌性コーティングの重量当たり)、以下のようであってもよい。
【0113】
一つの態様では、本開示は、抗菌性調製物の調製における動的粘度低下剤としての抗生物質、及び/又は溶媒の使用であって、
-抗生物質は、好ましくは疎水性、及び/又は好ましくは非極性有機溶媒に可溶であり、好ましくはリファマイシン、疎水性ハイドロキノロン、マクロライド、テトラサイクリン、又はリンコサミドのうち一つ以上であり、より好ましくはリファンピンである;
- 溶媒は、好ましくは非極性有機溶媒であり、より好ましくはクロロホルム、ペンタン、ヘキサン、ベンゼン、ジエチルエーテル、及び1,40-ジオキサンのうち一つ以上であり、より好ましくは、クロロホルムである;並びに/又は、
- 抗菌性調製物は、好ましくはコーティング調製物としての、より好ましくはディップコーティング、スピンコーティング、スプレー、エレクトロスピン、電気泳動堆積、スパッタコーティング、サーマルスプレー、プラズマスプレー、ゾルゲル、レイヤーバイレイヤーコーティングにおける、最も好ましくはエレクトロスプレーにおける使用のためのものである、
使用に関する。
【0114】
加えて、又は代替的に、本開示中で開示される抗生物質、並びに/又は溶媒の使用は、
- 好ましくは疎水性、及び/又は、好ましくは非極性有機溶媒に可溶であり、好ましくはリファマイシン、疎水性ハイドロキノロン、マクロライド、テトラサイクリン、リンコサミドのうち一つ以上であり、より好ましくはリファンピンである、第一の抗生物質;並びに、
- 好ましくは親水性、及び/又は、好ましくは極性非プロトン有機溶媒に可溶であり、好ましくはグリコペプチド、アミノグリコシド、β-ラクタム、カルバペネム、親水性フルオロキノロン、若しくはストレプトグラミンのうち一つ以上であり、より好ましくはバンコマイシンである、第二の抗生物質
を含んでもよい。
【0115】
本開示中で使用される用語「含む(comprise)」、又は「含む(to comprise)」、及びそれらの活用形は、前記用語が、その語に続く項目は含まれるが、具体的に言及されていない項目は除外されないことを意味する非限定的な意味で使用される状況を指し示す用語である。さらにそれは、より限定的な動詞「実質的に、からなる(to consist essentially of)」及び「からなる(to consist of)」を網羅的に含む。
【0116】
不定冠詞「a」又は「an」による要素への言及は、文脈から要素が一つであることが明らかで、一つだけが要求される場合を除いて、その要素が二つ以上存在する可能性を排除しない。したがって通常、不定冠詞「a」又は「an」は、「少なくとも一つ」を意味する。
【0117】
用語「増加」及び「増加したレベル」並びに「減少」及び「減少したレベル」は、有意に増加、若しくは有意に減少する能力、又は有意に増加したレベル、若しくは有意に減少したレベルを指す。一般的には、コントロール、又はレファレンス内で対応するレベルに対して、少なくとも5%、例えば10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、それぞれ超、又は、未満であるとき、レベルは増加、又は減少すると表す。代替的に、コントロール、又はレファレンス内のレベルと比較して統計的に有意に増加、若しくは減少しているとき、試料中のレベルは増加、又は減少しうる。
【実施例】
【0118】
実施例1
1.目的
本研究の目的は、抗菌性コーティングの調製で必要なパラメーターの決定であり、ここで、コーティングは好ましくは
1)選択した異なる複数の抗生物質(好ましくは疎水性/非極性、及び親水性/極性の薬剤の組み合わせ)を組み込むために容易に適応可能である、
2)単一ポリマーの薄いコーティングとして適用可能である、
3)高い薬剤含量で組み込むことができる、及び
4)エレクトロスプレーを含む種々のコーティング技術で適用するために十分低い粘度を有する
という特徴を有する。
【0119】
抗菌性コーティングの製造のための一般的な方法は:
1. 再吸収性ポリマー、及び抗生物質をそれぞれ適した溶媒へ溶解する工程、
2. ポリマー-抗生物質溶液を得るために、ポリマー溶液と抗生物質溶液とを混合する工程、
3. ポリマー-抗生物質溶液をコーティングとして医療器具上に適用する工程、
4.溶媒を蒸発させる工程
の工程で実施される。
【0120】
主要なパラメーター:
- 溶媒の属性(例えば、非極性 対 極性有機溶媒)、
- 抗生物質の属性(例えば、疎水性/非極性 対 親水性/極性抗生物質)、
- ポリマー溶液、第一の抗生物質溶液、及び第二の抗生物質溶液の混ぜる順序、
- 再吸収性ポリマーの属性(例えば、ポリエステル 対 非ポリエステル)、
- 最適な薬剤/ポリマーの濃度、及び比
並びに、その組み合わせは、コーティング溶媒のコーティング性、薬剤放出特性、及び抗菌効果への有効性を調べるため評価された。
【0121】
種々のコーティング溶液のコーティング性を特定するための主な基準として、薬剤の溶解性、及び粘度が使用された。エレクトロスプレーは、一般的に他のコーティング方法と比較して低い粘度のコーティング溶液を必要とする技術的に困難な方法であることから好ましいコーティング方法として選定された。
【0122】
【0123】
2.2. 抗菌性調製物の調製
すべての以下の工程は室温にてヒュームフード内で実施した。
1.ポリマー溶液(溶液A)は、テトラフルオロエチレン(TFE,Sigma,Germany)に12時間撹拌しながら200 mg/mlの濃度になるまで、脂肪族ポリエステルを溶解させて調製した。
2. 第一の抗生物質溶液(溶液B)は、クロロホルム(VFE,France)又はジメチルスルホキシド(DMSO,Merck,Germany)に撹拌しながら50~250 mg/mlの濃度になるまで(親水性、又は疎水性の)第一の抗生物質を溶解させて調製した。
3. 粘度低下薬剤-ポリマー溶液(溶液C)は、溶液Aに30~40%(v/v)の割合になるよう溶液Bを滴下して、混合溶液を6時間撹拌して調製した。
4. 第二の抗生物質溶液(溶液D)はジメチルスルホキシドに40℃で撹拌しながら50~250 mg/mlの濃度になるまで第二の抗生物質(親水性)を溶解させて調製した。
5. コーティング溶液(溶液E)は、溶液Cに24時間撹拌しながら15~20%(v/v)の割合になるように溶液Dを滴下して調製した
【0124】
2.3.コーティング
チタニウムディスク(直径8 mm、高さ4 mm)は、市販の純粋なチタニウム(CP-Ti)粉末(1級、医療グレード品質、LPW、UK)から製造した。チタニウムディスクはエレクトロスプレー、エレクトロスピン、又はスピンコーティングによってコーティングが適用された。
【0125】
エレクトロスプレー、及びエレクトロスピンは、自作一軸溶液エレクトロスピンシステムを含んでいた。簡潔に述べると、薬剤-ポリマー溶液は27ゲージ(G)ニードルを備えた3 mlシリンジに充填された。ニードルとインプラントの間には16~20 kV(Heinzinger, Germany)の電圧が付加された。シリンジポンプ(World precision instruments, US)はニードルを通じて0.5~1 ml/hの流速で注入するために用いられた。ポリマー溶液は、ニードルから8cmの距離に配置されたインプラント上に直接スプレーされた。コーティングされたインプラントは、すべての有機溶媒を除去するため3日間コールドトラップ(液体窒素)とともに真空下に置いた。
【0126】
スピンコーティングの方法は、室温で200~600 rpmの範囲でスピンコーター(450 SPIN COATER, Netherlands)を用いて様々な回転速度で実施された。すべてのコーティングの実験において、体積20 μlの最終溶液が回転の工程開始前にインプラントの中央に滴下された。その後、スピナーの電源を入れ、インプラント表面にコーティングの層を作りだした。この方法は、望ましいコーティングが形成されるまで継続された。コーティング後、試料は真空下で3日間乾燥された。
【0127】
異なるコーティングの方法は、コーティング前後のディスクを計量することで特定されるコーティングの蒸着が合計5~15 mgであることが発見された。
【0128】
2.4.粘度の測定
抗菌性調製物の有する動的粘度は、m- VROC viscometer(Rheo Sence)を用いて測定した。
【0129】
2.5.薬剤放出特性
抗生物質の放出動態はインプラントをPBS(ph 7.4)中で37℃にてインキュベートすることで特徴づけた。上清は、図で示した日に取り除かれ、分析まで-20℃で保存した。放出された液体の薬剤濃度はBEH C18 カラム(1.7 μm, 2.1 mm × 50 mm)、及び Waters 2996 PDA 検出器を備えた、ACQUITY ssUPLC H-Class PLUS Bio システム(Waters Corporation, US)を用いて測定した。薬剤濃度は、バンコマイシン(233 nm)、及びリファンピン(264 nm)のための波長を用いて定量し、Rif(ACN中で1 mg/ml)、及びVan(MQ中で1 mg/ml)のストック溶液をPBSで希釈して得られた検量線に対して正規化した。
【0130】
2.6. (生育)阻止円
インプラントは、抗生物質を溶出させるために4、又は6週間PBS中にて37℃でインキュベートした。第4週、及び第6週における薬剤溶出の有無とその量は細菌に対する生育阻止円を用いて測定した。最後に、インプラントは、細菌集落を提供するためOD600=0.01(約107 CFU/ml)で調製された細菌懸濁液0.5 mlを接種したトリプチカーゼ寒天培地上に配置された。37℃下で24時間経過後、細菌の生育阻止円(cmで表記)を測定した。
【0131】
3.結果
3.1.異なる抗菌性調製物のコーティング性
エレクトロスプレー法で実施された薄膜コーティングを形成するための種々の(多剤)コーティング溶液の適合性を特定した。均一で粘度の低い溶液を得るために、疎水性抗生物質(リファンピシン、エリスロマイシン、ミノサイクリン)、及び/又は非極性溶媒(クロロホルム)の存在が重要であることが分かった(表1)。疎水性抗生物質、及び非極性溶媒が欠如しているコーティング調製物(表1における下から3行)では、薬剤溶解性の不足と過度に高い粘度からコーティングすることができなかった。従って、疎水性抗生物質、及び/又は非極性溶媒が粘度低下効果を有することが立証された。
【0132】
疎水性抗生物質(リファンピシン、エリスロマイシン、ミノサイクリン)は、適したコーティング溶液を得るために非極性(クロロホルム)、又は極性(ジメチルスルホキシド、DMSO)溶媒のいずれにも溶解しうる(表1)。従って、疎水性抗生物質の粘度低下効果は、溶解する溶媒に依存しない可能性がある。
【0133】
ポリマー溶液、及び抗生物質溶液を混合する順番は、粘度の低いコーティング溶液を実現するために重要であった。すなわち、疎水性抗生物質、及び/又は非極性溶媒とポリマー溶液を混合すると、低い粘度を有するポリマー溶液が得られ、その後親水性抗菌性溶液(例えば、トブラマイシン、ゲンタマイシン、バンコマイシンを含む)と混合しても維持された。対照的に、最初に、親水性抗生物質、及び/又は極性溶媒とポリマー溶液とを混合した場合は、粘度低下効果は観察されなかった。従って、低粘度ポリマー溶液、又は低粘度コーティング溶液は得られなかった。むしろ、親水性抗生物質と組み合わせることで得られた高粘度溶液は、コーティングすることができなかった。
【0134】
表1:薬剤の溶解性、及び溶液の粘度から特定される、基材表面への薄膜コーティングの形成における異なるコーティング溶液の適合性
溶媒A中に抗生物質Aを含む溶液は、最初に、TFE中にPDLGを含む溶液と混合された。この混合液は次に、溶媒B中に抗生物質Bを含む溶液と混合された。第一の溶媒としての疎水性抗生物質、及び/又は(薬剤-ポリマー溶液と混合した)非極性溶媒を含む調製物は、疎水性/親水性薬物の組合せに関わらず、優れたコーティング特性を示した(グループ1~12)。第一の溶媒としての疎水性抗生物質、及び/又は(薬剤-ポリマー溶液と混合した)非極性溶媒が欠如した調製物は、コーティングすることができないと示された。
【表1】
【0135】
3.2.異なるポリマーの抗菌性調製物のコーティング性
試験に用いたすべての(疎水性)脂肪族ポリエステル(PDLG、PLC、PLDL、PCL、PL)は、本抗菌性コーティングのための担体物質(carrier material)として適していることが発見された(表2)。対照的に、(親水性)ポリエーテル、例えばポリ(エチレングリコール)は粘度低下効果を示さなかった。よって、疎水性抗生物質(リファンピシン、エリスロマイシン、ミノサイクリン)の粘度低下効果は、特に、(疎水性の)脂肪族ポリエステルと組み合わさった場合に、達成した。
【0136】
表2:溶液の薬剤溶解性、及び粘度から特定される、基材表面への薄膜コーティングを形成するのに適したコーティング溶液の製造における再吸収性ポリマーが有する親水度/極性の強弱の影響
(疎水性抗生物質、及び/又は非極性溶媒と混合した)脂肪族ポリエステルを含む調製物は、優れたコーティング特性を示した(グループ1~5)。疎水性抗生物質、及び/又は非極性溶媒と混合された、親水性ポリエーテルを含む調製物は、コーティングすることができなかった(グループ6)。
DMSO:ジメチルスルホキシド、PDLG:DL-ラクチド/グリコリド コポリマー、PLC:L-ラクチド/カプロラクトン コポリマー、PLDL:L-ラクチド/DL-ラクチド コポリマー、PCL:ポリカプロラクトン、PL:ポリ(L-ラクチド)。
【表2】
【0137】
3.3.薬剤放出特性
薬剤放出特性は、少なくとも疎水性抗生物質(リファンピシン)、又は非極性溶媒(クロロホルム)を含む低粘度コーティング溶液から得られたコーティングにおけるリファンピシン(
図1)、及びバンコマイシン(
図2)の放出の維持が実証された。これらのコーティングは、最大6週間にわたるStaphylococcus aureusの最小生育阻止濃度(MIC)以上の薬剤放出を示した。コーティング溶液中の異なる特性を有する脂肪族ポリエステル(コ)ポリマーにおいても、類似した薬剤放出特性が示された(
図3、
図4)。これはさらに脂肪族ポリエステルポリマーが粘度低下効果、及び高い薬剤充填率に貢献しうることを支持する結果であった。
【0138】
3.4.異なる技術でのコーティング性における粘度の役割
抗菌性調製物の粘度は、適用に用いるコーティング手法に影響を及ぼすことが発見された。エレクトロスピンが、(1~200ポアズ以下、0.1~20Pa・s)の粘度を有する抗菌性調製物において、最適であることが発見された。この粘度の範囲では、最初のジェット(initial jet)ではひとつひとつの液滴まで分解しない可能性がある。むしろ、ジェット(jet)が標的に向かって進みながら、溶媒はポリマー繊維を残して蒸発しうる。より低い粘度(例えば、1~100 mPa・s)では表面張力が繊維の形成に支配的に影響し、繊維よりもむしろ液滴を形成しうることが発見された。このため1~100 mPa・sの抗菌性調製物の粘度においてエレクトロスプレーが可能であった。スピンコーティングは、比較的広い粘度の範囲で実施しうることが発見された。
【0139】
持続的な薬剤放出特性は、異なる技術手法、例えばスプレー(エレクトロスプレー)、スピンコーティング、又はエレクトロスピンでコーティングとして適用された、低粘度コーティング溶液で観察された(
図5、
図6)。これは疎水性抗生物質、及び/又は非極性溶媒の有する粘度低下効果が、異なる製造技術の使用を可能にし、種々の治療への応用に実現する可能性を強めた。
【0140】
3.5.薬剤放出における疎水性、及び親水性抗生物質の間の相互作用
コーティング中の親水性、及び疎水性抗生物質の間の相互作用が持続的な薬剤放出を可能にしうることが発見された。リファンピシン、又はバンコマイシンのいずれか一方のみを含むコーティングでは比較的高い爆発的放出が観察されたのに対し、リファンピシン、及びバンコマイシンは組み合わせることで薬剤放出がより持続した。その結果、両薬剤の放出特性は同等となり、感染の根絶(滅菌)により効果的であると推定される。
【0141】
予想外にも本発明者らは、親水性抗生物質(例えばバンコマイシン)がポリマーマトリクスからの疎水性抗生物質(例えば、リファンピシン)の拡散を増強しうることを発見した。その一方、リファンピシンはバンコマイシンの拡散を遅延させうることも発見した。その結果、両薬剤の放出特性は同等となり、感染の根絶により効果的である。この特定の実験において、PLDGは濃度200 mg/ml(溶液A)に溶解され、リファンピシンは濃度50~70 mg/ml(溶液B)に溶解され、バンコマイシンは濃度50~70 mg/ml(溶液D)に溶解された。
【0142】
3.6.改良されたコーティングの抗菌性効果
低粘度コーティング溶液によって得られたコーティングの長期抗菌性効果は、生育阻止円を利用した手法でStaphylococcus aureus(最も一般的な金属製インプラント感染症の原因菌)の生育を阻止することを示した。低粘度コーティング溶液、すなわち疎水性抗生物質、及び/又は非極性溶媒を有する溶液に基づいたコーティングにおいて抗菌活性は、第4、及び第6週目においても観察された(表3)。コーティングの長期抗菌活性は使用される脂肪族ポリエステルに依らないことが観察された(表4)。さらには、コーティングの長期抗菌活性は、試験に用いたすべての親水性薬剤-疎水性薬剤の組み合わせで観察された(表5)。
【0143】
表2:Staphylococcus aureusに対する、コーティングされたインプラントの抗菌性効果
第一の溶媒としての疎水性抗生物質、及び(薬剤-ポリマー溶液と混合された)非極性溶媒を含むコーティング溶液を用いて製造されたコーティングは、少なくとも6週間にわたって微生物の生育阻止円を示す抗菌活性を示した。本実験においては、TFE(テトラフルオロエチレン)に溶かしたPDLG(DL-ラクチド/グリコリド コポリマー)をポリマー溶液として使用した。コーティングはエレクトロスプレーにより実施された。
#エレクトロスプレーで実施されたコーティングは不均質であった。
【表3】
【0144】
表4:Staphylococcus aureusに対する、コーティングしたインプラントの抗菌性効果
(テトラフルオロエチレンに溶解された)脂肪族ポリエステルを含むコーティング溶液を用いて製造されたコーティングは、少なくとも6週間にわたって微生物の生育阻止円を示す抗菌活性を示した。コーティング溶液はさらに、第一の抗生物質溶液としてリファンピシン/クロロホルム、第二の抗生物質溶液としてバンコマイシン/ジメチルスルホキシドを含む。コーティングはエレクトロスプレーにより実施された。PDLG:DL-ラクチド/グリコリド コポリマー、PLC:L-ラクチド/カプロラクトン コポリマー、PLDL:L-ラクチド/DL-ラクチド コポリマー、PCL:ポリカプロラクトン、PL:ポリ(L-ラクチド)。
【表4】
【0145】
表5:Staphylococcus aureusに対する、コーティングされたインプラントの抗菌性効果
コーティングは、TFE(テトラフルオロエチレン)に溶解したPDLG(DL-ラクチド/グリコリド コポリマー)に基づいたポリマー溶液、並びに、クロロホルムに溶解させた疎水性(リファンピシン、エリスロマイシン、ミノサイクリン)、及びジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解させた親水性抗生物質(バンコマイシン、トブラマイシン、ゲンタマイシン)の異なる組み合わせを用いて製造された。種々の組み合わせにおいて、少なくとも6週間にわたって微生物の生育阻止円を示す抗菌活性を示した。
【表5】
【0146】
適した薬剤:ポリマー比は1:1.5~1:2.5の範囲(例えば1:2)であることが発見された。ポリマーに対してより多量の薬剤が含まれる場合、薬剤はより持続性の低い放出特性を示した。ポリマーに対してより少量の薬剤が含まれる場合、薬剤はより持続性の高い放出特性を示した、しかしながら、これはより低い1日当たりの平均薬剤流出量につながってしまう(例えば、最小生育阻止濃度を下回る可能性がある)。
【0147】
4.結論
これらの実験によって、種々のコーティング手法(例えば、スプレー法、スピン法)についての基礎を形成しうる、及び優れた持続的な(少なくとも6週間の持続性が実証された)抗菌活性を有する、低粘度コーティング溶液のための調製物が同定された。
【0148】
特に、低粘度コーティング溶液から得られるコーティングは、
1)選択した異なる抗生物質(好ましくは疎水性/非極性、及び親水性/極性の薬剤の組み合わせ)を組み込むために容易に適応可能である、
2)単一ポリマーの薄膜コーティングとして適用可能である、
3)高い薬剤含量で組み込むことができる、及び
4)エレクトロスプレーを含む種々のコーティング技術で適用するために十分低い粘度を有する
という特徴を有する。
【0149】
予想外にも、非極性、又は極性非プロトン溶媒において提供された疎水性抗生物質(例えば、リファマイシン、マクロライド、テトラサイクリン)は、それらの粘度低下効果からコーティング溶液内で重要な役割を果たしうることを発見した。さらには、第一の抗生物質(すなわち、好ましくは疎水性/非極性抗生物質を含む)溶液が、最大の粘度低下効果を得るために、好ましくは最初に非極性有機溶媒と混合される。ポリマーは好ましくは脂肪族ポリエステルであることが示された。ポリマーは好ましくは、疎水性脂肪族ポリエステルであるが、本発明者らは、特定の実施形態においては親水性脂肪族ポリエステルであっても機能しうると考えている。
【0150】
コーティング溶液は、望ましい抗生物質が異なる物理化学的特性(例えば、親水度/極性の強弱)を有する場合でも、選択した複数の抗生物質にコーティングを容易に適応させることができることが発見された。低い粘度は(例えば、1 mPa・s~200 mPa・sの動的粘度で実施される)エレクトロスプレーを含むスプレー、又は(例えば、200 mPa・s~20 Pa・sの動的粘度で実施される)スピンコーティング、及びエレクトロスピンを含むスピンによるコーティングを可能にしうる。
【0151】
驚くべきことに、ここで確立されたコーティングは、組み込まれた薬剤(親水性、及び疎水性薬物)間の相互作用を示すことができ、これにより、より持続的な薬剤放出やより高い薬剤活性を可能にする。その結果、ここで確立されたコーティングは、広い時間的範囲においてStaphylococcus aureus(すなわち最も一般的な金属製インプラント感染の原因菌)の根絶(滅菌)に効果的であった。
【0152】
実施例2
1.目的
この実験における目的は、コーティング溶液、及びそれにより形成されたコーティングのそれぞれの特性について二つの方法を比較することであった。
【0153】
2.方法
コーティング溶液の調製-方法A
1. 遮光したガラス容器(20×15 mm)内で室温にてマグネティックスターラーを用いて200 RPMで一晩撹拌しながら、TFE(ABCR)に200 mg/mlのPDLG5010(Corbion)を溶解させた。蓋はパラフィルムで密閉した。(溶液A)
2.2 mLエッペンドルフ内でクロロホルム(Sigma-Aldrich)に175 mg/mlのリファンピシン(USP、Cepham Life Science)を溶解させ、ボルテックスミキサーを用いて5分間撹拌した。(溶液B)
3.溶液Aをマグネティックスターラーで撹拌しながら、溶液Bを体積比70:30(溶液A:B)となるようにポジティブディスプレイスメント式ピペットを用いて溶液Aに滴下した。混合液は遮光して2時間撹拌した。(溶液C)
4.2 mlエッペンドルフ内でDMSO(Sigma-Aldrich)に250 mg/mlのバンコマイシンHCL(USP、Cepham Life Sciences)を溶解させ、エッペンドルフサーモミキサーを用いて40℃に加熱し、2200 RPMで10分間撹拌した。(溶液D)
4.溶液Cを1500 RPMでマグネティックスターラーを用いて撹拌しながら、溶液Dを体積比85:15(溶液C:D)となるようにポジティブディスプレイスメント式ピペットを用いて溶液Cに滴下した。混合液は室温で遮光して1500 RPMで24時間撹拌した。(溶液E)
【0154】
コーティング溶液の調製-方法B
1.遮光したガラス容器(20×15 mm)内で室温にてマグネティックスターラーを用いて200 RPMで一晩撹拌しながらヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP、Sigma-Aldrich)に200 mg/mlのPCL(Corbion)を溶解させた。蓋はパラフィルムで密閉した。10 mg/mlのリファンピシン(USP、Cepham Life Science)はPCL/HFIP溶液に直接加えた。溶液が透明になったことが観察されるまで(20分間)遮光してシェーカーで500 RPMで撹拌した。(溶液A)
3.2 mlエッペンドルフ内でMilliQ(超純水)に10 mg/mlのバンコマイシンHCL(USP、Cepham Life Sciences)を溶解させ、ボルテックスミキサーを用いて固体が溶けるまで10秒間撹拌した。混合液は遮光して15分間放置した。(溶液B)
4. 溶液Aをマグネティックスターラーで撹拌しながら溶液Bを体積比90:10(溶液A:B)となるように、ピペットを用いて溶液Aに滴下した。混合液は遮光せず1時間撹拌した。(溶液C)
【0155】
エレクトロスプレー
溶液は、実施例1(セクション2.3.)で示した方法を用いて、22 Gのニードルを使用し、17 kVの電圧、8 cmの距離、及び0.5~0.6 mL/h の流速でチタニウムディスク表面にエレクトロスプレーした。
【0156】
粘度の測定
方法A、及び方法Bにより得られた溶液は、シェーカーに設置され、シェーカーの速度は0から500 rpmまで加速したのち完全に停止するまで減速した。画像は45秒間毎秒撮影された。水平軸方向の線は振盪プロセス中の溶液の流れを示している。抗菌性調製物の動的粘度は、m- VROC viscometer(Rheo Sence)を用いて測定した。
【0157】
コーティングの形態
コーティングの形態を特徴づけるために、Nanosensors プローブ(シリコンカンチレバー)を備えた原子間力顕微鏡(AFM、Amibos tech、US)をタッピングモードにて空気存在下で使用した。正確な試験結果を得るため、それぞれのマトリクスにつき、20×20 mmのスキャンを行った(n=5)。平均粗さ(Ra)はスキャニングプローブ画像処理装置(SPIP)ソフトウェア(バージョン6.7、Image Metrology A/S、Denmark)を用いて測定した。ポロシティ、及び孔サイズは電子顕微鏡画像のスキャンに基づいて特定した。
【0158】
3.結果
図9は、方法Aにより得られたコーティング溶液が方法Bにより得られたコーティング溶液と比較して、より高い流動性、及びより低い粘度を有していることを示している。
【0159】
方法Aにより得られたコーティング溶液は、動的粘度が200 mPa・s未満であった、その一方で、方法Bにより得られたコーティング溶液は(Pa・sで表される範囲で)より大きな動的粘度を有していた。
【0160】
方法Aを使用することで、薬剤は沈殿せず、優れた薬剤の溶解性、及び混和性を示した。
方法Bでは、薬剤の沈殿を防ぐためにより徹底的な撹拌が必要であり、それにより準最適(suboptimal)な薬剤の溶解性、及び混和性を示した。
【0161】
方法Aでは、エレクトロスプレーの過程で溶液が液滴にまで分解されることで粒子が堆積し、均質で粗さの低いフィルムをもたらした。これにより、密で滑らかなコーティングが実現した(
図10)。方法Aにより得られたコーティングは、明白な孔を有さなかった。
【0162】
方法Bでは、エレクトロスプレーの過程でランダムな配向を持つ繊維を生成するため、液滴に分解されるのではなく、ジェットを連続的な形状に保った。これにより、孔を有するより高い表面粗さのコーティングが得られた(
図11)。方法Bにより得られたコーティングは、70~85%のポロシティを有し、孔の直径平均は1~10 μmであった。
【0163】
方法Bで得られた繊維に基づいたコーティングにおける孔の形態は、既に報告されている文献のエレクトロスピンコーティングと一致した(Biomaterials. 2008 May;29(13):1989-2006; Adv Drug Deliv Rev. 2011 Apr 30;63(4-5):209-20)。
【0164】
バンコマイシンをトブラマイシンに置き換えても類似したコーティングが得られたことから、異なる親水性抗生物質が使用できることが示された。異なる疎水性脂肪族ポリエステルを使用した場合に類似した結果が得られた。例えば、方法BにおいてPCLの代わりにPLGAを使用した場合でも類似した結果が得られた。さらに、フルオロカーボン溶媒は変更可能であることが分かった。例えば、方法Aにおいてテトラフルオロエチレン(TFE)の代わりにヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)を使用した場合でも似た結果が得られた。
【0165】
実施例2の結果は、表6に要約されている。
【表6】
【国際調査報告】