(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-31
(54)【発明の名称】改良されたバリン生産のための微生物および方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/21 20060101AFI20241024BHJP
C12N 1/20 20060101ALI20241024BHJP
C12N 15/31 20060101ALI20241024BHJP
C12P 13/08 20060101ALI20241024BHJP
C12P 1/02 20060101ALI20241024BHJP
C12P 1/04 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
C12N1/21 ZNA
C12N1/20 A
C12N15/31
C12P13/08 D
C12P1/02 Z
C12P1/04 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024529699
(86)(22)【出願日】2022-11-17
(85)【翻訳文提出日】2024-07-17
(86)【国際出願番号】 EP2022082274
(87)【国際公開番号】W WO2023089028
(87)【国際公開日】2023-05-25
(32)【優先日】2021-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505311917
【氏名又は名称】メタボリック エクスプローラー
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】ペリーヌ、バスール
(72)【発明者】
【氏名】トマ、デフォーゲレ
(72)【発明者】
【氏名】セリーヌ、レイノー
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AE05
4B064CA02
4B064CA06
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4B065AB01
4B065BA02
4B065CA17
(57)【要約】
本発明は、改良されたバリン生産のために遺伝子改変された微生物であって、スレオニンデアミナーゼをコードするilvA遺伝子を過剰発現し、および/または増加したスレオニンデアミナーゼ活性を示し、またDNA結合性転写二重制御因子をコードする変異型argP遺伝子を含む、微生物に関する。本発明はまた、前記微生物を使用したバリン生産のための方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バリン生産のために遺伝子改変された微生物であって、スレオニンデアミナーゼをコードするilvA遺伝子を過剰発現し、ならびに/あるいは対応する野生型微生物における発現レベルおよび/またはスレオニンデアミナーゼ活性と比較して増加したスレオニンデアミナーゼ活性を示し、DNA結合性転写二重制御因子をコードする変異型argP遺伝子をさらに含む、微生物。
【請求項2】
前記ilvA遺伝子が、例えば、前記ilvA遺伝子の発現を制御するプロモーターを改変することによって、微生物中に存在する前記ilvA遺伝子のコピー数を増加させることによって、またはilvA mRNAの安定性を改良すること、もしくはリボソーム結合部位を最適化することでIlvAタンパク質の量を増加させることにより、プラスミドから前記ilvA遺伝子を過剰発現させることによって、前記微生物において過剰発現される、請求項1に記載の微生物。
【請求項3】
前記ilvA遺伝子が、微生物中に存在する前記ilvA遺伝子のコピー数を増加させることによって、好ましくは少なくとも2コピーの遺伝子をもたらすことによって、より好ましくは2コピーの遺伝子をもたらすことによって、前記微生物において過剰発現される、請求項1または2に記載の微生物。
【請求項4】
前記変異型argP遺伝子が、128位のアミノ酸の置換、好ましくはAspによるGluの置換をもたらすように改変されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の微生物。
【請求項5】
さらに、鉄エンテロバクチン外膜輸送体をコードするfepA遺伝子を過剰発現し、ならびに/あるいは対応する野生型微生物における発現レベルおよび/または鉄エンテロバクチン外膜輸送体活性と比較して増加した鉄エンテロバクチン外膜輸送体活性を示す、請求項1~4のいずれか一項に記載の微生物。
【請求項6】
前記fepA遺伝子が、遺伝子改変によって、例えば、前記fepA遺伝子の発現を制御するプロモーターを改変することによって、微生物中に存在するfepA遺伝子のコピー数を増加させることによって、またはfepA mRNAの安定性を改良すること、もしくはリボソーム結合部位を最適化することでFepAタンパク質量を増加させることによりプラスミドからfepA遺伝子を過剰発現させることによって、好ましくはfepA遺伝子の発現を制御するプロモーターを変異させることによって、過剰発現される、請求項5に記載の微生物。
【請求項7】
前記fepA遺伝子が、前記fepA遺伝子の発現を制御するプロモーター配列中の少なくとも1つの塩基置換によって過剰発現される、請求項6に記載の微生物。
【請求項8】
IdhA、adhEおよびmgsAからなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子の欠失をさらに含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の微生物。
【請求項9】
vdh、ilvD、ilvC、ilvB、およびilvN
*からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子の過剰発現をさらに含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の微生物。
【請求項10】
前記微生物が、細菌の腸内細菌科(Enterobacteriaceae)、コリネバクテリア科(Corynebacteriaceae)、バシラス科(Bacillaceae)、連鎖球菌科(Streptococcae)、もしくはラクトバシラス科(Lactobacillae)に属するか、または真菌、例えば、半子嚢菌(Hemiascomycetus)、糸状菌(filamentous fungus)、もしくは酵母の科に属する、請求項1~9のいずれか一項に記載の微生物。
【請求項11】
前記腸内細菌科細菌は大腸菌(Escherichia coli)であり、前記コリネバクテリア科細菌はコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)であり、または前記バシラス科は枯草菌(Bacillus subtilis)であり、前記連鎖球菌科はストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophiles)であり、前記ラクトバシラス科はラクトバチルス・ラクティス(Lactobacillus lactis)であり、前記半子嚢菌酵母はサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)またはヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)であり、前記糸状菌はトリコデルマ・レゼイ(Tricchoderma rezeii)またはアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)であり、好ましくは、前記微生物は大腸菌である、請求項10に記載の微生物。
【請求項12】
2022年10月19日にパスツール研究所のコレクション・ナショナレ・デ・カルチューレ・デ・ミクロオルガニズム(Collection Nationale de Cultures de Microorganismes,Pasteur Institute)、25 Rue du Docteur Roux、75724 PARIS Cedex 15、FRANCEに寄託された、番号CNCM I-5911である、請求項1に記載の微生物。
【請求項13】
a)請求項1~12のいずれか一項に記載のバリン生産のために遺伝子改変された微生物を、炭素源を含む適切な培養培地で培養するステップと、
b)培養培地からバリンを回収するステップと
を含む、バリン生産のための方法。
【請求項14】
バリンを回収するステップが、少なくとも、
a)不溶性有機不純物を除去するための発酵培地の清澄化のステップと、
b)可溶性有機不純物および無機不純物を除去するための活性炭などの吸着剤上での前ステップの産物の処理のステップと、
c)得られた産物の水分の蒸発および結晶化のステップと、
d)バリンを回収するステップと
を含む、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改良されたバリン生産のために遺伝子改変された微生物、および前記微生物を使用した改良されたバリン生産のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アミノ酸は、食品、動物飼料、化粧品、医薬品および化学産業を含む多くの産業分野において使用されており、推定5~7%の世界市場年間成長率を有する(Leuchtenbergerら、2005)。
【0003】
分岐鎖アミノ酸はまた、除草剤および抗生物質、例えばポリケチドの合成における前駆体としても機能する。分岐鎖アミノ酸は、肝臓で代謝される多くの他のアミノ酸とは異なり、主として筋肉で代謝され、身体を動かすためのエネルギー源として使用される。
【0004】
分岐鎖アミノ酸(BCAA)は、化学合成、タンパク質加水分解物からの抽出、または微生物発酵を介して生産されてもよい。これらの技術のうち、関連する経済的利点および環境的利点から、発酵が今日最も一般的に使用されている。特に、発酵は、主要炭素源として、豊富で再生可能であり、および/または安価な材料を使用する有用な方法を提供する。さらに、化学合成を使用する場合にはD-エナンチオマーとL-エナンチオマーの両方が等モル量で生成され、L-エナンチオマーのさらなる下流での単離が必要とされるが、発酵はL-エナンチオマーのみを生産する。
【発明の概要】
【0005】
これらのうち、バリン分岐鎖アミノ酸は、哺乳動物において合成され得ない9種類の必須アミノ酸の中のものとしてヒトおよび多くの家畜種の栄養にとって特に重要である。L-バリンは、通常、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)および大腸菌(Escherichia coli)の変異株を用いる細菌発酵によって製造されてきた。これまでのところ、ほとんどのBCAA生産株は、ランダム変異誘発によって開発されてきた。これらの微生物株は、それらの正確な生理学的代謝を理解することが難しいという理由から、菌株をさらに改良することが困難であるという欠点を有する。したがって、本発明が属する技術分野において、バリン生産性の高い能力を有する微生物を開発する必要があり、結果として低コストでバリンを生産するための新規な方法を提供する。
【0006】
本発明は、バリン生産のために遺伝子改変された微生物、および前記微生物を使用したバリン生産のための方法に関する。バリン生産のために遺伝子改変された微生物は、スレオニンデアミナーゼをコードするilvA遺伝子を顕著に過剰発現し、ならびに/あるいは対応する野生型微生物における発現レベルおよび/またはスレオニンデアミナーゼ活性と比較して増加したスレオニンデアミナーゼ活性を示す。また、この微生物は、DNA結合性転写二重制御因子(DNA-binding transcriptional dual regulator)をコードする変異型argP遺伝子を含む。
【0007】
実際、本発明者らは、驚いたことに、このような微生物は、ilvA遺伝子の発現または対応する酵素活性が改変されないか、またはむしろ減弱され、さらには欠失される従来技術の方法とは対照的に、ilvA遺伝子を過剰発現し、および/またはスレオニンデアミナーゼ活性を増加させることによって改良されたバリン生産を示すことを見出した。
【0008】
好ましくは、本発明による遺伝子改変された微生物においては、ilvA遺伝子は、例えば、ilvA遺伝子の発現を制御するプロモーターを改変することによって、微生物中に存在するilvA遺伝子のコピー数を増加させることによって、またはilvA mRNAの安定性を改良すること、もしくはリボソーム結合部位を最適化することでIlvAタンパク質の量を増加させることによりプラスミドからilvA遺伝子を過剰発現させることによって、好ましくは、ilvA遺伝子の発現を制御するプロモーターを変異させることによって、組換え微生物において過剰発現される。
【0009】
より好ましくは、ilvA遺伝子は、微生物中に存在するilvA遺伝子のコピー数を増加させ、2コピーの遺伝子をもたらすことによって、組換え微生物において過剰発現される。
【0010】
好ましくは、微生物は、鉄エンテロバクチン外膜輸送体をコードするfepA遺伝子のさらなる過剰発現をさらに含み、ならびに/あるいは対応する野生型微生物における発現レベルおよび/または鉄エンテロバクチン外膜輸送体活性と比較して増加した鉄エンテロバクチン外膜輸送体活性を示す。
【0011】
好ましくは、微生物は、IdhA、adhEおよびmgsAからなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子の欠失をさらに含む。
【0012】
好ましくは、微生物は、vdh、ilvD、ilvC、ilvB、およびilvN*からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子の過剰発現をさらに含む。
【0013】
好ましくは、微生物は、細菌の腸内細菌科(Enterobacteriaceae)、コリネバクテリア科(Corynebacteriaceae)、バシラス科(Bacillaceae)、連鎖球菌科(Streptococcae)、もしくはラクトバシラス科(Lactobacillae)に属するか、または真菌、例えば、半子嚢菌(Hemiascomycetus)、糸状菌(filamentous fungus)、もしくは酵母の科に属する。
【0014】
好ましくは、前記腸内細菌科細菌は大腸菌(Escherichia coli)であり、前記コリネバクテリア科細菌はコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)であり、または前記バシラス科は枯草菌(Bacillus subtilis)であり、前記連鎖球菌科はストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophiles)であり、前記ラクトバシラス科はラクトバチルス・ラクティス(Lactobacillus lactis)であり、前記半子嚢菌酵母はサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)またはヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)であり、前記糸状菌はトリコデルマ・レゼイ(Tricchoderma rezeii)またはアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)であり、より好ましくは、前記微生物は大腸菌である。
【0015】
好ましくは、微生物は、2022年10月19日にパスツール研究所のコレクション・ナショナレ・デ・カルチューレ・デ・ミクロオルガニズム(Collection Nationale de Cultures de Microorganismes,Pasteur Institute)、25 Rue du Docteur Roux、75724 PARIS Cedex 15、FRANCEに寄託された番号CNCM I-5911の微生物である。
【0016】
本発明はさらに、
a)本明細書で提供された実施形態のいずれかに記載のバリン生産のために遺伝子改変された微生物を、炭素源を含む適切な培養培地で培養するステップと、
b)培養培地からバリンを回収するステップと
を含む、バリン生産のための方法をさらに含む。
【0017】
好ましくは、バリンを回収するステップが、少なくとも、
a)不溶性有機不純物を除去するための発酵培地の清澄化のステップと、
b)可溶性有機不純物および無機不純物を除去するための活性炭などの吸着剤上での前ステップの産物の処理のステップと、
c)得られた産物の水分の蒸発および結晶化のステップと、
d)バリンを回収するステップと
を含む。
【0018】
好ましくは、炭素源は、アラビノース、フルクトース、ガラクトース、グルコース、ラクトース、マルトース、スクロース、キシロース、または任意の多糖類、例えば、デンプン、セルロースもしくはヘミセルロース、およびそれらの任意の組合せから選択される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明を詳細に説明する前に、本発明は、特に例示された微生物および/または方法に限定されるものではなく、当然のことながら変わり得ることを理解されたい。本明細書で使用される用語は、単に本発明の特定の実施形態を説明するためのものであり、限定することを意図するものではないことも理解されたい。本発明は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0020】
上記または下記にかかわらず本明細書で引用されているすべての刊行物、特許、特許出願は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。さらに、本発明の実施は、特に断りのない限り、当技術分野の技術範囲内にある従来の微生物学的技術および分子生物学的技術を用いる。このような技術は当業者には周知であり、文献においても十分に説明されている。
【0021】
別段の定義がない限り、本明細書において使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野における当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載のものと類似または同等の任意の材料および方法が本発明を実施または試験するために使用され得るが、好ましい材料および方法は提供されている。
【0022】
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用される場合、単数形の「a」、「an」、および「the」は、文脈上明らかに別段の表示がない限り、複数形の言及を含むことに留意されたい。したがって、例えば、「微生物」という言及は複数のそのような微生物を含み、「内因性遺伝子」という言及は1または2以上の内因性遺伝子に言及する、などである。
【0023】
「含む(comprise)」、「含む(comprises)」および「含む(comprising)」という用語は包括的な意味で使用され、すなわち、記載した特徴の存在を特定するために使用されるが、本発明の様々な実施形態におけるさらなる特徴の存在または追加を除外するものではない。
【0024】
本発明の第1の態様は、バリン生産のために遺伝子改変された微生物に関する。
【0025】
「微生物」という用語は、本明細書において使用される場合、生存している微視的生物を指し、単一細胞または多細胞生物であってよく、一般に自然界で発見され得る。本発明の文脈において、微生物は、好ましくは、細菌、酵母、または真菌である。好ましくは、本発明の微生物は、腸内細菌科、コリネバクテリア科、バシラス科、連鎖球菌科、もしくはラクトバシラス科、または真菌、例えば半子嚢菌、糸状菌もしくは酵母の科から選択される。より好ましくは、本発明の微生物は、大腸菌、コリネバクテリウム、バチルス、ストレプトコッカス、ラクトバチルス属の種である。さらにより好ましくは、前記腸内細菌科細菌は大腸菌であり、前記コリネバクテリア科細菌はコリネバクテリウム・グルタミカムであり、または前記バシラス科は枯草菌であり、前記連鎖球菌科はストレプトコッカス・サーモフィルスであり、前記ラクトバシラス科はラクトバチルス・ラクティスであり、前記半子嚢菌酵母はサッカロミセス・セレビシエまたはヤロウィア・リポリティカであり、前記糸状菌はトリコデルマ・レゼイまたはアスペルギルス・ニガーである。最も好ましくは、本発明の微生物は大腸菌である。
【0026】
「組換え微生物」または「遺伝子改変された微生物」という用語は、本明細書では交換可能に使用され、遺伝子改変されたかまたは遺伝子操作された微生物または微生物株を指す。これは、これらの用語の通常の意味によれば、本発明の微生物は自然界では確認されず、その由来となる「親」微生物と比較した場合に遺伝子改変されていることを意味する。「親」微生物は、自然界に存在してもよく(すなわち、野生型微生物)、または以前に改変されていてもよい。本発明の組換え微生物は、遺伝エレメントの導入、欠失および/または改変によって顕著に改変され得る。このような改変は、例えば、遺伝子工学によって、微生物に特定のストレスを与えて変異を誘発する条件で微生物が培養される適応によって、および/または特定の選択圧下での定方向突然変異誘発と進化を組み合わせることにより代謝経路の発達および進化を強制することによって実施されてもよい。
【0027】
微生物は、内因性遺伝子の発現レベルまたは対応する酵素もしくは転写因子の活性を調節するように特に改変され得る。「内因性遺伝子」という用語は、任意の遺伝子改変以前にその遺伝子が微生物に存在していたことを意味する。内因性遺伝子は、内因性制御エレメントに加えて、またはそれに置き換わるように異種配列を導入することによって過剰発現され得る。内因性遺伝子発現レベル、タンパク質発現レベル、またはコード化タンパク質の活性はまた、遺伝子のコード配列または非コード配列に変異を導入することによって増加または減弱させることもできる。これらの変異は、対応するアミノ酸に改変が起こらない場合には同義であり得、対応するアミノ酸が変化される場合には非同義であり得る。同義変異は翻訳されたタンパク質の機能にはいかなる影響も及ぼさないが、変異した配列が制御因子の結合部位に配置されている場合、対応する遺伝子の制御または他の遺伝子の制御にさえ影響を及ぼし得る。非同義変異は、変異した配列の性質に応じて、翻訳されたタンパク質の機能または活性に影響を及ぼすだけでなく、制御にも影響を及ぼし得る。
【0028】
特に、非コード配列内の変異は、コード配列の上流に(すなわち、プロモーター領域、エンハンサー、サイレンサー、もしくはインシュレーター領域、特定の転写因子結合部位に)またはコード配列の下流に配置され得る。プロモーター領域に導入される変異は、コアプロモーター、近位プロモーター、または遠位プロモーターに存在し得る。変異は、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を使用した部位特異的変異誘発によって、例えば変異誘発剤(紫外線もしくはニトロソグアニジン(NTG)もしくはエチルメタンスルホン酸(EMS)などの化学試薬)、DNAシャッフリング、エラープローンPCRを介した、または微生物に特定のストレスを与えて変異を誘発する培養条件を使用したランダム変異誘発技術によって導入され得る。遺伝子の上流に位置する領域に1または2以上の補足ヌクレオチド(複数可)を挿入することにより、遺伝子発現を特に調節することができる。
【0029】
内因性遺伝子の発現を調節する特定の方法は、遺伝子の内因性プロモーター(例えば、野生型プロモーター)をより強いプロモーターまたはより弱いプロモーターと交換して、内因性遺伝子の発現をアップレギュレートまたはダウンレギュレートすることである。プロモーターは、内因性(すなわち、同じ種に由来するもの)または外因性(すなわち、異なる種に由来するもの)であり得る。内因性遺伝子の発現を調節するための適切なプロモーターを選択することは、当業者の能力の範囲内である。このようなプロモーターとしては、例えば、Ptrc、Ptac、もしくはPlacプロモーター、またはPRもしくはPLラムダプロモーターであってもよい。プロモーターは、特定の化合物によって、または温度もしくは光などの特定の外部条件によって「誘導可能」になり得る。
【0030】
内因性タンパク質活性を調節する特定の方法は、例えば、上記のいずれかの方法に従って、対応する遺伝子のコード配列に非同義変異を導入することである。転写因子に存在する非同義アミノ酸変異は、シスエレメントへの転写因子の結合親和性を顕著に変化させ、転写因子へのリガンド結合を変化させ得る。
【0031】
微生物はまた、対応する遺伝子産物(例えば、酵素)を発現または過剰発現するように、1または2以上の外因性(すなわち、異種)遺伝子を発現するように遺伝子改変されてもよい。本明細書において使用される「外因性」または「異種」遺伝子は、微生物に導入されるタンパク質またはポリペプチドをコードする遺伝子であって、その微生物内に前記遺伝子は天然には存在しない、遺伝子を指す。本明細書において使用される「異種遺伝子」はまた、微生物に内因的であった(すなわち、任意の遺伝子改変前に微生物内に存在していた)が、微生物に導入された場合に、内因性遺伝子が配置されている/配置されていた位置に導入されてない遺伝子を指す。より詳細には、微生物における内因性遺伝子自体の発現が、その遺伝子が天然に存在する微生物と比較して低下している場合(例えば、変異、遺伝子の完全欠失または部分的欠失、遺伝子の転写制御における改変などによる)、異種遺伝子は内因性遺伝子であり得る。特に、内因性遺伝子はもはや発現され得ないか、または非常に低レベルで発現され得る。外因性遺伝子は、微生物の染色体に直接組み込まれてもよく、またはプラスミドもしくはベクターによって微生物内の染色体外に発現されてもよい。発現を成功させるためには、外因性遺伝子(複数可)は、その発現に必要なすべての制御エレメントとともに微生物内に導入されるか、またはその発現に必要なすべての制御エレメントをすでに含む微生物内に導入されなければならない。1または2以上の外因性遺伝子による微生物の遺伝子改変または形質転換は、当業者にとっては日常的な作業である。
【0032】
所定の外因性遺伝子の1または2以上のコピーは、当技術分野において周知の方法によって、例えば、遺伝子組換えによって、染色体上に導入されてもよい。遺伝子が染色体外で発現される場合、それはプラスミドまたはベクターによって担持されていてもよい。様々な種類のプラスミドがとりわけ利用可能であり、複製起点および/または細胞内のコピー数に関して異なり得る。例えば、プラスミドによって形質転換された微生物は、選択されたプラスミドの性質に応じて、1~5コピー、約20コピー、または最大500コピーまでものプラスミドを含むことができる。例えば、pTrc、pACYC184、pBR322、pUC18、pUC19、pKC30、pRep4、pHS1、pHS2、またはpPLc236を含む、異なる複製起点および/またはコピー数を有する種々のプラスミドは当技術分野において周知であり、そのような目的のために当業者によって容易に選択され得る。
【0033】
本発明の文脈において、目的のタンパク質をコードする外因性遺伝子が微生物において発現される場合、この遺伝子の合成バージョンは、好ましくは、好ましくないコドンまたはあまり好ましくないコドンを、同じアミノ酸をコードする前記微生物の好ましいコドンと置き換えることによって構築され得ることを理解されたい。実際、コドンの使用法は微生物の種の間で異なること、またこれが目的のタンパク質の組換え発現レベルに影響を及ぼし得ることは、当技術分野において周知である。この問題を克服するために、コドン最適化法が開発されており、Grafら(2000)、Demlら(2001)およびDavis&Olsen(2011)によって広く説明されている。GeneOptimizer(登録商標)ソフトウェア(Lifetechnologies)またはOptimumGene(商標)ソフトウェア(GenScript)などのコドン最適化を決定するためのいくつかのソフトウェアプログラムが特に開発されている。言い換えれば、目的のタンパク質をコードする外因性遺伝子は、好ましくは、微生物における発現のためにコドン最適化されている。
【0034】
酵素などの目的のタンパク質の「発現する」、「過剰発現する」または「過剰発現」という用語は、本明細書において、対応する野生型微生物とも呼ばれる、遺伝子改変された微生物に存在する改変(複数可)を含まない対応する親微生物と比較して、微生物における前記タンパク質の発現レベルおよび/または活性の増加を指す。場合によっては、発現レベルは、親微生物の発現レベルと類似し得る。他の場合には、発現レベルは、親微生物の発現レベルよりも優れていてもよい。親微生物が目的のタンパク質を含まない場合には、「発現」または「過剰発現」という用語は、親微生物に存在しないことと比較して、目的のタンパク質が存在することを指す。
【0035】
対照的に、目的のタンパク質の「減衰する」または「減衰」という用語は、親微生物と比較して、微生物における前記タンパク質の発現レベルおよび/または活性の低下を指す。発現の減衰は、特に、野生型プロモーターをより弱い天然プロモーターもしくは合成プロモーターと交換するか、またはアンチセンスRNAもしくは干渉RNA(RNAi)、より詳細には低分子干渉RNA(siRNA)もしくはショートヘアピンRNA(shRNA)などの遺伝子発現を低下させる薬剤の使用によるものであり得る。プロモーターの交換は、特に、相同組換えの技術によって達成され得る(Datsenko & Wanner、2000)。目的のタンパク質の発現レベルおよび/または活性の完全な減衰は、発現および/または活性が消失され、したがって、前記タンパク質の発現レベルがnullであることを意味する。目的のタンパク質の発現レベルおよび/または活性の完全な減衰は、遺伝子の発現の完全な抑制によるものであり得る。この抑制は、遺伝子の発現の阻害、遺伝子の発現に必要なプロモーター領域の全部もしくは一部の欠失、または遺伝子のコード領域の全部もしくは一部の欠失のいずれかであり得る。欠失された遺伝子は、特に、改変された微生物の識別、分離、および精製を容易にする選択マーカー遺伝子により置き換えられてもよい。非限定的な例として、遺伝子発現の抑制は、当業者に周知である相同組換えの技術によって達成され得る(Datsenko & Wanner、2000)。
【0036】
1または2以上のタンパク質の発現レベルの調節は、したがって、上記のように微生物内で前記タンパク質をコードする1もしくは2以上の内因性遺伝子の発現を変化させることによって、または前記タンパク質をコードする1もしくは2以上の異種遺伝子を微生物に導入することによって起こり得る。
【0037】
本明細書において使用される「発現レベル」という用語は、微生物において発現される目的のタンパク質(または前記タンパク質をコードする遺伝子)の量(例えば、相対量、濃度)を指し、これは当技術分野において周知の方法によって測定され得る。遺伝子発現のレベルは、ノーザンブロット法、定量的RT-PCR法などを含む様々な公知の方法によって測定されてもよい。あるいは、前記遺伝子によってコードされるタンパク質の発現レベルは、例えば、SDS-PAGE、HPLC、LC/MS、および他の定量的プロテオーム技術(Bantscheffら、2007)によって、または前記タンパク質に対する抗体が利用され得る場合には、ウェスタンブロット-イムノブロット(Burnette、1981)、酵素結合免疫吸着法(例えば、ELISA)(Engvall and Perlman、1971)、タンパク質免疫沈降法、免疫電気泳動法などによって測定されてもよい。発現した遺伝子のコピー数は、例えば、染色体DNAを制限した後に遺伝子配列に基づくプローブを使用したサザンブロット法、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)、RT-qPCRなどによって定量されてもよい。
【0038】
所定の遺伝子または対応するタンパク質の過剰発現は、遺伝子改変された生物における前記遺伝子またはタンパク質の発現レベルを、遺伝子改変を有していない対照微生物(すなわち、親微生物)における同じ遺伝子またはタンパク質の発現レベルと比較することによって検証され得る。
【0039】
酵素の文脈で本明細書において使用される「活性」または「機能」という用語は、対応する基質(複数可)を別の分子(複数可)(すなわち、産物(複数可))に変換するために前記酵素によって触媒される反応を示す。当技術分野において周知のように、酵素の活性は、その触媒効率および/またはミカエリス定数を測定することによって評価され得る。そのような評価は、例えば、Segel、1993に、特に44~54ページおよび100~112ページに記載されており、これは参照により本明細書に組み込まれる。
【0040】
本明細書において提供される改良されたバリン生産のために遺伝子改変された微生物は、スレオニンデアミナーゼをコードするilvA遺伝子を過剰発現し、ならびに/あるいは対応する野生型微生物における発現レベルおよび/またはスレオニンデアミナーゼ活性と比較して増加したスレオニンデアミナーゼ活性を示す。実際、本発明者らは、驚いたことに、上記の遺伝子改変が、これらの改変を含まない親微生物と比較して、バリン生産を生産性および収率において著しく改良することを示した。この微生物における改良されたバリン生産は、バリン生産の改良を伴う先行技術の方法において、ilvA遺伝子発現またはスレオニンデアミナーゼ活性は一般に改変されないか減衰され、さらには欠失される、すなわちnullであることから、特に驚くべきことである。
【0041】
本発明で提供されるバリン生産のための遺伝子改変された微生物において、ilvA遺伝子発現を過剰発現させるために、またはスレオニンデアミナーゼ活性を増加させるために、任意の周知の先行技術の方法が使用され得る。「過剰発現」または「過剰発現する」とは、微生物における遺伝子の転写を増加させることを示すためにも使用される。遺伝子の転写を増加させることは、遺伝子のコピー数を増加させること、および/または遺伝子のより高いレベルの発現をもたらすプロモーターを使用することによって達成されてもよい。
【0042】
例えば、ilvA遺伝子は、ilvA遺伝子の発現を制御するプロモーターを改変することによって、微生物中に存在するilvA遺伝子のコピー数を増加させることによって、またはilvA mRNAの安定性を改良すること、もしくはリボソーム結合部位を最適化することでIlvAタンパク質の量を増加させることにより、プラスミドからilvA遺伝子を過剰発現させることによって、過剰発現され得る。
【0043】
好ましくは、ilvA遺伝子の発現は、特に、微生物中に存在するilvA遺伝子のコピー数を増加させることによって過剰発現される。
【0044】
微生物内の遺伝子のコピー数を増加させるために、遺伝子は、染色体上または染色体外でコードされる。遺伝子が染色体上に位置されている場合、その分野の専門家に公知である組換え方法(遺伝子置換を含む)によって、複数のコピーの遺伝子が染色体上に導入されてもよい。遺伝子が染色体外に位置されている場合、上記のように、複製起点したがって細胞内のコピー数に関して異なる様々なタイプのプラスミドによって担持されてもよい。
【0045】
好ましい一実施形態では、本発明に従って遺伝子改変された微生物に存在するilvA遺伝子のコピー数は、少なくとも2コピーの遺伝子である。2コピー、3コピー、4コピー、または5コピーの遺伝子が特に好ましい。最大10コピーまたは15コピーまでも考えられ得る。より好ましくは、2コピーから5コピーのilvA遺伝子は本発明の遺伝子改変された微生物に存在する。最も好ましくは、ilvA遺伝子は、2コピーの遺伝子が生じるように、遺伝子改変された微生物内で過剰発現される。
【0046】
mRNAの翻訳を増加させることは、リボソーム結合部位(RBS)を改変することによって達成されてもよい。RBSは、タンパク質の翻訳を開始する場合にリボソームにより結合されるmRNA上の配列である。これは、真核生物におけるmRNAの5’キャップ、原核生物における開始コドンAUGの6~7ヌクレオチド上流の領域(シャイン-ダルガルノ配列と呼ばれる)、またはウイルスにおける内部リボソーム進入部位(IRES)のいずれかであり得る。この配列を改変することによって、タンパク質の翻訳開始速度を変化させ、比例してその生産速度を変え、細胞内でのその活性を制御することが可能である。同じRBS配列は、mRNAの性質により同じ影響を有するものではない。ソフトウェアのRBS CALCULATOR(Salis、2011)を使用することにより、RBS配列の強度を最適化して、目標の翻訳開始速度を達成することが可能である。
【0047】
mRNAの安定性を改良することは、mRNAのターンオーバーを低下させることによって達成されてもよく、5’-非翻訳領域(5’-UTR)および/またはコード領域、および/または3’-UTRの遺伝子配列を改変することにより達成されてもよい(Carrier and Keasling、1999)。
【0048】
好ましい実施形態では、微生物は、配列番号2のスレオニンデアミナーゼをコードするilvA遺伝子、またはその機能的断片もしくは機能的バリアントを過剰発現する。
【0049】
本明細書において使用される、目的の生物学的活性を有する参照タンパク質の(例えば、スレオニンデアミナーゼ活性を有する酵素の)「機能的断片」という用語は、酵素のアミノ酸配列の部分を指し、前記部分は、前記タンパク質の生物学的活性を示すために必須の領域を少なくともすべて含む。配列のこれらの部分は、もし参照アミノ酸配列の生物学的活性が前記部分によって保持されているとすれば、様々な長さであってもよい。言い換えれば、本明細書で提供される酵素の機能的断片は、酵素的に活性である。
【0050】
本明細書に記載の酵素の(例えば、スレオニンデアミナーゼ活性を有する酵素の)「機能的バリアント」は、限定するものではないが、対応する参照酵素をコードするアミノ酸配列とアラインメントした後に少なくとも60%同一であるアミノ酸配列を有する酵素を含む。本発明によれば、バリアントは、好ましくは、本明細書に記載のタンパク質(例えば、IlvAタンパク質)と少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%のアミノ酸配列同一性を有する。したがって、スレオニンデアミナーゼ活性を有する酵素は、好ましくは、配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を有する。より好ましくは、スレオニンデアミナーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子は、配列番号1のヌクレオチド配列と少なくとも70%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を有する。非限定的な例として、配列同一性を決定する手段が以下にさらに提供されている。
【0051】
酵素活性を増加させることはまた、タンパク質触媒効率を改良することによって、またはタンパク質のターンオーバーを低下させることによって、またはメッセンジャーRNA(mRNA)のターンオーバーを低下させることによって、または遺伝子の転写を増加させることによって、またはmRNAの翻訳を増加させることよって達成され得る。
【0052】
タンパク質の触媒効率を改良することは、所定の基質および/または所定のコファクターに対するkcatを増加させること、および/またはKmを減少させること、および/または所定の阻害剤に対するKiを増加させることを意味する。kcat、KmおよびKiは、当業者が決定することができるミカエリス・メンテン定数である(Segel、1993)。タンパク質のターンオーバーを低下させることは、タンパク質を安定させることを意味する。タンパク質の触媒効率を改良し、および/またはタンパク質のターンオーバーを低下させる方法は、当業者には周知である。これらは、配列および/または構造解析と誘導変異誘発、ならびにランダム変異誘発とスクリーニングによる合理的操作を含む。変異は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などの通常の方法による部位特異的変異誘発によって、または変異誘発剤(紫外線、またはニトロソグアニジン(NTG)もしくはエチルメタンスルホン酸(EMS)などの化学試薬)の使用またはPCR技術(DNAシャッフリングもしくはエラープローンPCR)の使用などのランダム変異誘発技術によって導入され得る。タンパク質の安定化はまた、タンパク質のN末端またはC末端のいずれかに「タグ」と呼ばれるペプチド配列を付加することによって達成されてもよい。タグは、当業者には周知である。例えば、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)はタンパク質を安定化させるために使用され得る。
【0053】
遺伝子およびタンパク質は、本明細書では、別段の定めのない限り、大腸菌(例えば、Genbankアクセッション番号U00096.3を有する大腸菌K12 MG1655)において対応する遺伝子の呼称を使用して識別される。しかし、場合によっては、これらの呼称の使用は、本発明に従ってより一般的な意味を有し、微生物における対応する遺伝子およびタンパク質のすべてを網羅する。これは、特に、IlvAなどの本発明の微生物に内因性ではない(すなわち、異種性である)本明細書に記載の遺伝子およびタンパク質の場合である。特定の例として、また上記で示されているように、IlvAの機能的バリアント、その変異体および機能的断片も同様に、本明細書に含まれる。特定の態様が以下にさらに詳述される。
【0054】
PFAM(protein family database of alignments and hidden Markov models;http://www.sanger.ac.uk/Software/Pfam/)は、タンパク質配列アラインメントを大規模に集めたものを示す。各PFAMは、複数のアラインメントを可視化し、タンパク質ドメインを確認し、生物間の分布を評価し、他のデータベースにアクセスし、既知のタンパク質構造を可視化することを可能にする。
【0055】
COG(clusters of orthologous groups of proteins;http://www.ncbi.nlm.nih.gov/COG/)は、30の主要な系統を表す43の完全に配列決定されたゲノムからのタンパク質配列を比較することによって得られる。各COGは、少なくとも3つの系統から定義され、これにより以前に保存されたドメインを同定することができる。
【0056】
類似配列およびその同一性パーセントを同定する手段は当業者には周知であり、特に、ウェブサイトのhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/から、そのウェブサイトに示されたデフォルトパラメータを用いて使用され得るBLASTプログラムを含む。次いで、得られた配列は、例えばCLUSTALW(http://www.ebi.ac.uk/clustalw/)またはMULTALIN(http://prodes.toulouse.inra.fr/multalin/cgi-bin/multalin.pl)といったプログラムを使用して、これらのウェブサイトに示されるデフォルトのパラメータを用いて利用することができる。
【0057】
GenBankに記載されている既知の遺伝子についての参照情報を使用することにより、当業者は、他の生物、細菌株、酵母、真菌、哺乳動物、植物などにおける同等の遺伝子を決定することができる。この日常的作業は、有利には、コンセンサス配列を使用して行われ、他の微生物由来の遺伝子との配列アラインメントを実施すること、および別の生物における対応する遺伝子をクローニングするための縮重プローブを設計することによって決定され得る。分子生物学のこれらの日常的な方法は、当業者には周知である。
【0058】
アミノ酸配列間の配列同一性は、比較の目的でアラインメントされ得るそれぞれの配列内の位置を比較することによって決定されてもよい。比較された配列内のある位置が同じアミノ酸によって占められている場合、そのとき、その位置での配列は同一である。タンパク質間の配列同一性の程度は、前記タンパク質の配列によって共有される位置における同一アミノ酸残基の数の関数である。
【0059】
非限定的な例として、2つのアミノ酸配列間の同一性のパーセンテージを決定するために、配列は最適な比較のためにアラインメントされる。例えば、第2のアミノ酸配列との最適なアラインメントのために、第1のアミノ酸配列の配列にギャップが導入されてもよい。次いで、対応するアミノ酸位置のアミノ酸残基が比較される。第1の配列の位置が、第2の配列の対応する位置と同じアミノ酸残基で占められている場合、その位置で分子は同一である。
【0060】
2つの配列間の同一性のパーセンテージは、配列によって共有される同一位置の数の関数である。したがって、同一性%=同一位置の数/重複位置の総数×100である。
【0061】
配列の最適なアラインメントは、Needleman and Wunsch(1972)のグローバルアラインメントアルゴリズムによって、このアルゴリズムのコンピューター化された実装(CLUSTAL Wなど)によって、または目視検査によって実行され得る。様々な方法によって生成された最良のアラインメント(すなわち、比較された配列間の同一性のパーセンテージが最も高くなる)が選択される。
【0062】
言い換えると、配列同一性のパーセンテージは、最適にアラインメントされた2つの配列を比較し、両配列において同一のアミノ酸が生じる位置の数を決定して一致した位置の数を得て、一致した位置の数を位置の総数で割り、その結果に100を乗じて配列同一性のパーセンテージを得る。
【0063】
タンパク質の機能的断片および機能的バリアントに関する上記の定義および好ましい実施形態は、目的のタンパク質(すなわち、スレオニンデアミナーゼ活性を有する酵素)をコードする遺伝子などのヌクレオチド配列に準用する。
【0064】
上述の改変に加えて、本発明の遺伝子改変された微生物は、以下に記載される改変のうちの1または2以上の追加の改変を含んでもよい。前記改変は、バリン生産、力価、および/または収率を顕著にさらに改良し得るので有利である。1または2以上の前記改変は、顕著にバリン合成を促進し、下流の代謝経路における基質としてのバリンの使用を抑制し、バリンの安定的な蓄積を促進し、または微生物におけるバリンの毒性蓄積を抑制することができる。
【0065】
本発明によれば、微生物は、DNA結合性転写二重制御因子をコードする変異型argP遺伝子をさらに含む。
【0066】
好ましくは、argP遺伝子自体が変異される。より好ましくは、argP遺伝子は、128位または対応する位置でアミノ酸の置換をもたらすように改変される。この点で最も好ましい実施形態は、128位にあるGluのAspによる置換(本明細書では「argP*変異体」とも呼ばれる)または対応する位置での置換である。示されたアミノ酸残基の位置は、配列番号4に示された位置に対応する。また、argP遺伝子は、プロモーターまたは制御領域に直接結合することにより標的遺伝子の発現に対する様々な調節(過剰発現から発現低下まで)をもたらす転写制御因子をコードする。標的遺伝子のうち、以下のものを挙げることができる:gdhA、dapB、dapD、lysP、lysA、lysC、asd、dnaAN-recF、nrdAB-yfaE、argP、argO、argKなど。したがって、argPの128位または対応する位置でアミノ酸の置換によって生じる標的遺伝子の発現に対するすべての改変は、argPが変異していない、すなわち野生型の通常の改変と比較して、argP自体のこの同じアミノ酸位置の置換に比べて、同様にバリン生産および収率を改良すると考えられるはずである。
【0067】
対応する位置は、特に、手動アラインメントを使用して、またはアラインメントプログラム(例えばBLASTP)を使用して、当業者により決定され得る。対応する位置はまた、例えば、タンパク質構造のコンピューターシミュレートされたアラインメントを使用することにより構造アラインメントに基づいていてもよい。ポリペプチドのアミノ酸が開示された配列のアミノ酸に対応するという事実は、ポリペプチドと開示された配列がアラインメントされた場合に、GAP計算法などの標準的なアラインメント計算法が使用されることを意味する。特に、配列が最大化された同一性または相同性を有するように保存されたアミノ酸がアラインメントされている場合、対応するアミノ酸は同定され得る。本明細書において使用される場合、「対応する位置で」とは、参照核酸分子またはタンパク質内の位置に対する核酸分子またはタンパク質内の目的の位置(すなわち、ヌクレオチド塩基またはアミノ酸残基の番号)を指す。参照タンパク質内の位置に対する目的の位置は、例えば、対立遺伝子バリアント、異種タンパク質、他の種の同じタンパク質のアミノ酸配列などであり得る。対応する位置は、対になったヌクレオチドまたはアミノ酸残基の数が最大になるように配列を比較し、アラインメントさせることによって決定されてもよい。例えば、配列間の同一性は、95%、96%、97%、98%を超えてもよく、より詳細には99%を超えてもよい。次いで、目的の位置には、参照核酸分子またはポリペプチドの配列に割り当てられた番号が付与される。
【0068】
したがって本発明によれば、微生物は、上記のようなDNA結合性転写二重制御因子をコードする変異型argP遺伝子と組み合わされて、スレオニンデアミナーゼをコードするilvA遺伝子を過剰発現し、ならびに/あるいは対応する野生型における発現レベルおよび/またはスレオニンデアミナーゼ活性と比較して増加したスレオニンデアミナーゼ活性を示す。
【0069】
別の好ましい実施形態によれば、微生物は、鉄エンテロバクチン外膜輸送体をコードするfepA遺伝子をさらに過剰発現し、ならびに/あるいは対応する野生型微生物における発現レベルおよび/または鉄エンテロバクチン外膜輸送体活性と比較して増加した鉄エンテロバクチン外膜輸送体活性を示す。
【0070】
本明細書に記述されているように、本発明に記載の微生物においてfepA遺伝子を過剰発現させるために、当技術分野において公知の任意の方法が使用され得る。したがって、対応する野生型微生物における発現レベルおよび/または鉄エンテロバクチン外膜輸送体活性と比較して増加したfepA遺伝子発現または増加した鉄エンテロバクチン外膜輸送体活性をもたらす任意の技術的手段は、本発明の文脈において微生物を遺伝子改変するために使用され得る。特に、また単なる例としては、遺伝子改変によって、例えば、fepA遺伝子の発現を制御するプロモーターを改変することによって、微生物中に存在するfepA遺伝子のコピー数を増加させることによって、またはfepA mRNAの安定性を改良すること、もしくはリボソーム結合部位を最適化することでFepAタンパク質量を増加させることによりプラスミドからのfepA遺伝子を過剰発現させることによって、好ましくはfepA遺伝子の発現を制御するプロモーターを変異させることによってである。実際、対応する野生型微生物における発現レベルおよび/または鉄エンテロバクチン外膜輸送体活性と比較して増加したfepA遺伝子発現または増加した鉄エンテロバクチン外膜輸送体活性をもたらす可能性のある任意の改変は、本発明の範囲に含まれる。
【0071】
好ましくは、微生物は、fepA遺伝子の発現を制御するプロモーター配列における少なくとも1つの塩基置換によるfepA遺伝子の増加した発現をさらに含む。より好ましくは、少なくとも1つの塩基置換、特に1つの塩基置換は、転写開始点から約10対のヌクレオチド上流に配置されており、任意選択的にいくつかのバリエーションがあるが、一般にはTATAAT配列である6ヌクレオチドから構成される「-10ボックス」(「プリブノーボックス」とも呼ばれる)のすぐ下流で行われる。特に、1つのヌクレオチド置換は、配列番号7に記載のfepA遺伝子の発現を制御するプロモーターの転写開始から3ヌクレオチド上流で行われる。より好ましくは、fepAプロモーターの転写開始から-3位のチミンヌクレオチドは、配列番号8に記載のシトシンヌクレオチドで置き換えられる。
【0072】
本発明の別の有利な実施形態では、微生物は、上記のような鉄エンテロバクチン外膜輸送体をコードするfepA遺伝子の過剰発現および/または増加した鉄エンテロバクチン外膜輸送体活性と組み合わされて、スレオニンデアミナーゼをコードするilvA遺伝子を過剰発現し、ならびに/あるいは対応する野生型微生物における発現レベルおよび/またはスレオニンデアミナーゼ活性と比較して増加したスレオニンデアミナーゼ活性を示す。
【0073】
本発明のさらに有利な実施形態では、微生物は、上記のようなDNA結合性転写二重制御因子をコードする変異型argP遺伝子と組み合わされ、かつ上記のような鉄エンテロバクチン外膜輸送体をコードするfepA遺伝子の過剰発現および/または増加した鉄エンテロバクチン外膜輸送体活性と組み合わされて、ステオニンデアミナーゼをコードするilvA遺伝子を過剰発現し、ならびに/あるいは対応する野生型微生物における発現レベルおよび/またはスレオニンデアミナーゼ活性と比較して増加したスレオニンデアミナーゼ活性を示す。
【0074】
さらに別の好ましい実施形態によれば、微生物は、1または2以上の以下のタンパク質の発現の減衰をさらに含む:乳酸デヒドロゲナーゼ(LdhA)、アルコールデヒドロゲナーゼ(AdhE)、メチルグリオキサール合成酵素(MgsA)、フマル酸還元酵素複合体(FrdABCD)、ピルビン酸ギ酸リアーゼ(PflAB)、酢酸キナーゼ(AckA)およびリン酸アセチルトランスフェラーゼ(Pta)、および/または分岐鎖アミノ酸輸送体(BrnQおよびLivKHMGF)。前記遺伝子は、特に大腸菌で内因性である。
【0075】
好ましくは、LdhAは、配列番号10の配列と少なくとも80%、90%、95%、または100%の配列類似性または配列同一性を有する。好ましくは、AdhEは、配列番号12の配列と少なくとも80%、90%、95%、または100%の配列類似性または配列同一性を有する。好ましくは、MgsAは、配列番号14の配列と少なくとも80%、90%、95%、または100%の配列類似性または配列同一性を有する。好ましくは、FrdA、FrdB、FrdC、およびFrdDは、それぞれ、配列番号16、18、20、および22の配列と少なくとも80%、90%、95%、または100%の配列類似性または配列同一性を有する。好ましくは、PflAおよびPflBは、それぞれ、配列番号24および26の配列と少なくとも80%、90%、95%、または100%の配列類似性または配列同一性を有する。好ましくは、AckAは、配列番号28の配列と少なくとも80%、90%、95%、または100%の配列類似性または配列同一性を有する。好ましくは、Ptaは、配列番号30の配列と少なくとも80%、90%、95%、または100%の配列類似性または配列同一性を有する。好ましくは、BrnQは、配列番号32の配列と少なくとも80%、90%、95%、または100%の配列類似性または配列同一性を有する。好ましくは、LivK、LivH、LivM、LivG、およびLivFは、それぞれ、配列番号34、36、38、40、および42の配列と少なくとも80%、90%、95%、または100%の配列類似性または配列同一性を有する。
【0076】
好ましくは、発現の減衰は、前記タンパク質をコードする遺伝子(すなわち、IdhA、adhE、mgsA、frdABCD、pflAB、ackA-pta、brnQおよび/またはlivKHMGF遺伝子)の部分的または完全な欠失から生じる。好ましくは、本発明の遺伝子改変された微生物は、IdhA、adhE、およびmgsAからなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子の欠失をさらに含む。
【0077】
好ましくは、IdhA遺伝子は、配列番号9の配列と少なくとも80%、90%、95%、または100%の配列同一性を有する。好ましくは、adhE遺伝子は、配列番号11の配列と少なくとも80%、90%、95%、または100%の配列同一性を有する。好ましくは、mgsA遺伝子は、配列番号13の配列と少なくとも80%、90%、95%、または100%の配列同一性を有する。好ましくは、frdABCD遺伝子は、それぞれ、配列番号15、17、19、および21の配列と少なくとも80%、90%、95%、または100%の配列同一性を有する。好ましくは、pflAB遺伝子は、それぞれ、配列番号23および25の配列と少なくとも80%、90%、95%、または100%の配列同一性を有する。好ましくは、ackA-pta遺伝子は、それぞれ、配列番号27および29の配列と少なくとも80%、90%、95%、または100%の配列同一性を有する。好ましくは、brnQ遺伝子は、配列番号31の配列と少なくとも80%、90%、95%、または100%の配列同一性を有する。好ましくは、livKHMGF遺伝子は、それぞれ、配列番号33、35、37、39、および41の配列と少なくとも80%、90%、95%、または100%の配列同一性を有する。
【0078】
バリン生産する微生物は、以下のタンパク質:ケトール酸レダクトイソメラーゼ(NADP(+))(IlvC)、ジヒドロキシ酸デヒドラターゼ(IlvD)、アセト乳酸合成酵素(IlvBN*)、バリンデヒドロゲナーゼ(Vdh)、分岐鎖アミノ酸アミノトランスフェラーゼ(IlvE)、およびL-バリンエクスポーター(YgaZH)のうちの1または2以上の過剰発現をさらに含み得る。好ましくは、デヒドロゲナーゼは、ロイシンまたはバリンデヒドロゲナーゼである。
【0079】
好ましくは、IlvCは、配列番号44の配列と少なくとも80%、90%、95%、または100%の配列類似性または配列同一性を有する。好ましくは、IlvDは、配列番号46の配列と少なくとも80%、90%、95%、または100%の配列類似性または配列同一性を有する。好ましくは、IlvBおよびIlvN*は、それぞれ、配列番号48および52の配列と少なくとも80%、90%、95%、または100%の配列類似性または配列同一性を有し、IlvN*は、配列が配列番号52と100%同一でない場合には置換G20D、V21DおよびM22Fを含む。好ましくは、Vdhは、配列番号54の配列と少なくとも80%、90%、95%、または100%の配列類似性または配列同一性を有する。好ましくは、IlvEは、配列番号57の配列と少なくとも80%、90%、95%、または100%の配列類似性または配列同一性を有する。好ましくは、YgaZおよびYgaHは、それぞれ、配列番号59および61の配列と少なくとも80%、90%、95%、または100%の配列類似性または配列同一性を有する。
【0080】
好ましくは、1または2以上の前記タンパク質の過剰発現は、前記タンパク質をコードする遺伝子(すなわち、ilvC、ilvDおよび/またはilvBN*遺伝子)の過剰発現から生じる。好ましくは、本発明の遺伝子改変された微生物は、vdh、ilvD、ilvC、ilvB、およびilvN*からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子の過剰発現をさらに含む。
【0081】
好ましくは、ilvC遺伝子は、配列番号43の配列と少なくとも80%、90%、95%、または100%の配列同一性を有する。好ましくは、ilvD遺伝子は、配列番号45の配列と少なくとも80%、90%、95%、または100%の配列同一性を有する。好ましくは、ilvB遺伝子およびilvN*遺伝子は、それぞれ、配列番号47および51の配列と少なくとも80%、90%、95%、または100%の配列同一性を有し、ilvN*遺伝子は、配列番号50の配列を有する野生型タンパク質を参照として、置換G20D、V21D、およびM22Fを有するアミノ酸をコードする。好ましくは、vdhは、配列番号53の配列と少なくとも80%、90%、95%、または100%の配列同一性を有する。好ましくは、ilvEは、配列番号56の配列と少なくとも80%、90%、95%、または100%の配列同一性を有する。好ましくは、ygaZおよびygaHは、それぞれ、配列番号58および60の配列と少なくとも80%、90%、95%、または100%の配列同一性を有する。
【0082】
上述のように、本発明の微生物は、細菌、真菌または酵母の科に属し得る。
【0083】
好ましくは、前記微生物は、腸内細菌科、コリネバクテリア科、バシラス科、連鎖球菌科、もしくはラクトバシラス科に属するか、または真菌、例えば、半子嚢菌、糸状菌もしくは酵母などの科に属する。
【0084】
好ましい実施形態によれば、前記腸内細菌科細菌は大腸菌であり、前記コリネバクテリア科細菌はコリネバクテリウム・グルタミカムであり、または前記バシラス科は枯草菌であり、前記連鎖球菌科はストレプトコッカス・サーモフィルスであり、前記ラクトバシラス科はラクトバチルス・ラクティスであり、前記半子嚢菌酵母はサッカロミセス・セレビシエまたはヤロウィア・リポリティカであり、前記糸状菌はトリコデルマ・レゼイまたはアスペルギルス・ニガーであり、より好ましくは、前記微生物は大腸菌である。
【0085】
また、本発明による微生物は、改変された内因性遺伝子/酵素または異種遺伝子/酵素のいずれかを含むように遺伝子改変され得る。好ましくは、微生物は、スレオニンデアミナーゼ活性を有する内因性遺伝子または酵素を含み、より好ましくは、スレオニンデアミナーゼをコードする内因性ilvA遺伝子を含む。
【0086】
さらなる態様において、本明細書に記載の微生物が炭素源としてスクロースを使用することができない場合、前記微生物は炭素源としてスクロースを使用することができるように改変される。好ましくは、スクロースの取り込みおよび代謝に関与するタンパク質が過剰発現される。好ましくは、以下のタンパク質が過剰発現される。
- CscBスクロースパーミアーゼ(配列番号63)、CscAスクロースヒドロラーゼ(配列番号65)、CscKフルクトキナーゼ(配列番号67)、およびCscR csc特異的リプレッサー(配列番号69)、または、
- ホスホエノールピルビン酸依存性ホスホトランスフェラーゼ系のScrA酵素II(配列番号75)、ScrK遺伝子はATP依存性フルクトキナーゼをコードし(配列番号71)、ScrBスクロース6-リン酸加水分解酵素(インベルターゼ)(配列番号77)、ScrYスクロースポリン(配列番号73)、およびScrRスクロースオペロンリプレッサー(配列番号79)。
【0087】
好ましくは、前記タンパク質をコードする遺伝子は、本明細書で提供されている方法のうちの1つに従って過剰発現される。好ましくは、大腸菌微生物は以下を過剰発現する。
- 大腸菌EC3132の異種cscBKAR遺伝子(cscB遺伝子配列番号62;cscK遺伝子配列番号66;cscA遺伝子配列番号64、およびcscR遺伝子配列番号68)、または、
- サルモネラ属の異種scrKYABR遺伝子(scrK遺伝子配列番号70;scrY遺伝子配列番号72;scrA遺伝子配列番号74;scrB遺伝子配列番号76、およびscrR遺伝子配列番号78)。
【0088】
好ましい態様では、本発明による微生物は、2022年10月19日にパスツール研究所のコレクション・ナショナレ・デ・カルチューレ・デ・ミクロオルガニズム(Collection Nationale de Cultures de Microorganismes,Pasteur Institute)、25 Rue du Docteur Roux、75724 PARIS Cedex 15、FRANCEに寄託された番号CNCM I-5911の微生物である。
【0089】
本発明の第2の目的は、本明細書に記載の微生物を使用したバリン生産のための方法に関する。前記方法は、
a)本明細書に記載のバリン生産のために遺伝子改変された微生物を、炭素源を含む適切な培養培地で培養するステップと、
b)培養培地からバリンを回収するステップと
を含む。
【0090】
より詳細には、本発明は、本明細書に記載の微生物を使用した改良されたバリン発酵生産のための方法に関する。本発明によれば、「発酵工程」、「発酵生産」、「発酵」、または「培養」という用語は、微生物の増殖を示すために交換可能に使用される。この増殖は、一般的には、使用される微生物に適合した適切な増殖培地を備えた発酵槽で行われる。
【0091】
「適切な培養培地」とは、炭素源または炭素基質、窒素源、例えば、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、麦芽エキス、尿素、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、およびリン酸アンモニウム;リン源、例えば、リン酸一カリウムもしくはリン酸二カリウム;微量元素(例えば金属塩)、例えば、マグネシウム塩、コバルト塩、および/またはマンガン塩;ならびにアミノ酸およびビタミンなどの増殖因子などの細胞の維持および/または増殖に必須のまたは有益な栄養素を含む培地(例えば、滅菌液体培地)を示す。特に、大腸菌用の無機培養培地は、M9培地(Anderson、1946)、M63培地(Miller、1992)、またはSchaeferら(1999)によって定義されているような培地と同一のまたは類似の組成であってもよい。
【0092】
本発明による「炭素源(source of carbon)」、「炭素源(carbon source)」、または「炭素基質」という用語は、基質が少なくとも1個の炭素原子を含む、微生物によって代謝され得る任意の炭素源を指す。本発明によれば、前記炭素源は、好ましくは、少なくとも1種の炭水化物であり、場合によっては少なくとも2種の炭水化物の混合物である。CO2は、水素を含まないので炭水化物ではない。
【0093】
「炭水化物」という用語は、微生物によって代謝され、少なくとも1個の炭素原子、2個の水素原子、および1個の酸素原子を含み得る任意の炭素源を指す。1または2以上の炭水化物は、グルコース、フルクトース、マンノース、キシロース、アラビノース、ガラクトースなどの単糖類、スクロース、セロビオース、マルトース、ラクトースなどの二糖類、ラフィノース、スタキオース(stacchyose)、マルトデキストリンなどのオリゴ糖類、セルロース、ヘミセルロース、デンプンなどの多糖類、メタノール、ホルムアルデヒドおよびグリセロールからなる群の中から選択され得る。好ましい炭素源は、アラビノース、フルクトース、ガラクトース、グルコース、ラクトース、マルトース、スクロース、キシロース、またはデンプン、セルロースもしくはヘミセルロースなどの任意の多糖類、またはそれらの任意の組合せであり、より好ましくはグルコースである。
【0094】
本明細書において使用される「回収」という用語は、当業者に公知の従来の実験技術を使用することによって生産されたバリンを分離または単離する工程を示す。本明細書に記載の方法のステップb)に従ってバリンを回収することは、濾過、脱塩、陽イオン交換、液体抽出、結晶化、もしくは蒸留、またはそれらの組合せのステップを含んでいてもよい。バリンは、培養培地と微生物の両方から、またはどちらか一方のみから回収され得る。好ましくは、バリンは、少なくとも培養培地から回収される。培養培地の量は、例えば、セラミック膜濾過によって減らされてもよい。バリンはさらに、抽出発酵を含むin situ産物回収による微生物の培養中に、または発酵が終了した後に回収され得る。微生物は、特に、固体/液体分離が行われる装置、好ましくは5~200kDaの範囲のカットオフを持つフィルターを通過させることによって除去されてもよい。遠心分離機、適切な沈降装置、またはこれらの装置の組合せを用いることも可能であり、最初に少なくとも一部の微生物を沈降によって分離し、続いて微生物が少なくとも部分的に除去された発酵ブロスを限外濾過装置または遠心分離装置に供給することが特に好ましい。微生物が除去された後、残りの培養培地中に存在するバリンが回収され得る。バリンは、微生物から別々に回収されてもよい。微生物からのバリンの回収は、特に、微生物からのバリン遊離を誘導するために加熱による溶解または破壊を含み得る。
【0095】
本発明の第2の目的において、バリン生産のための方法に従って使用される微生物は、2022年10月19日にパスツール研究所のコレクション・ナショナレ・デ・カルチューレ・デ・ミクロオルガニズム(Collection Nationale de Cultures de Microorganismes,Pasteur Institute)、25 Rue du Docteur Roux、75724 PARIS Cedex 15、FRANCEに寄託された番号CNCM I-5911の微生物である。
【0096】
より好ましくは、ステップb)によりバリンを回収することは、少なくとも、
a)不溶性有機不純物を除去するための発酵培地の清澄化のステップと、
b)可溶性有機不純物および無機不純物を除去するための活性炭などの吸着剤上での前ステップの産物の処理のステップと、
c)得られた産物の水分の蒸発および結晶化のステップと、
d)バリンを回収するステップと
を含む。
【0097】
当業者は、本発明による微生物の培養条件を定義することが可能である。特に、細菌は、20℃~55℃、好ましくは25℃~40℃、より好ましくは約30℃~37℃、さらにより好ましくは約37℃の温度で発酵される。
【0098】
この工程は、バッチ工程、フェドバッチ工程、または連続工程のいずれかで実施されてもよい。これは、好気的条件、微好気的条件、または嫌気的条件、またはそれらの組合せ(例えば、好気的条件の後に嫌気的条件)で実施されてもよい。
【0099】
「好気的条件下」とは、気体を液相に溶解することにより酸素が培養物に供給されることを意味する。これは、(1)酸素含有気体(例えば空気)を液相に分散させること、または(2)ヘッドスペースに含まれる酸素を液相に移動させるために培養培地を入れた容器を振盪することによって得られる。好気的条件下での発酵の主な利点は、電子受容体としての酸素の存在が、細胞内プロセスのためにATPの形態でより多くのエネルギーを生成する菌株の能力を改良することである。したがって、この株はその全体的な代謝が改良される。
【0100】
微好気的条件とは、低パーセンテージの酸素(例えば、0.1~10%の酸素を含む気体の混合物を使用し、窒素で100%とする)を液相に溶解させた培養条件として定義される。
【0101】
嫌気的条件とは、培養培地に酸素が供給されない培養条件として定義される。厳密には嫌気的条件は、窒素のような不活性ガスを培養培地に曝気して他の気体の痕跡を除去することによって得られる。硝酸塩は電子受容体として使用され、菌株によるATP生成を改善し、代謝を改善し得る。
【0102】
培養ブロス中の微生物によるバリン生産は、当業者に公知の標準的な分析手段によって明確に決定され得る。非限定的な例として、バリンは、アイソクラティックHPLC(Pleissnerら、2011)または核磁気共鳴法を使用して定量されてもよい。
【実施例】
【0103】
本発明は、以下の実施例においてさらに定義される。これらの実施例は、本発明の好ましい実施形態を示すものであるが、単なる例示を目的として記載されていることを理解されたい。当業者には、これらの実施例は限定的なものではないこと、また本発明の範囲から逸脱することなく、様々な修正、置換、省略および変更が行われ得ることは、容易に理解されよう。
【0104】
方法
以下の実施例で使用されるプロトコルは次のとおりである。
本発明で使用されるプロトコル1(相同組換えによる染色体改変、組換え体の選択、およびFRT配列に隣接された抗生物質カセットの切除)ならびにプロトコル2(ファージP1の形質導入)は、特許出願国際公開第2013/001055号に十分に記載されている(特に、参照により本明細書に組み込まれる、「実施例プロトコル」の項目および実施例1~8を参照されたい)。
【0105】
プロトコル3:組換えプラスミドの構築。
組換えDNA技術は十分に説明されており、当業者には公知である。簡単に説明すると、DNA断片はオリゴヌクレオチド(当業者により定義され得るもの)を使用してPCR増幅され、大腸菌MG1655のゲノムDNAまたは適切な合成的に合成された断片がマトリックスとして使用された。DNA断片および選択されたプラスミドは、適合する制限酵素(当業者により定義され得るもの)で消化され、次いでライゲーションされ、コンピテント細胞に形質転換された。形質転換体は分析され、目的の組換えプラスミドはDNA配列決定により検証された。
【0106】
プロトコル4:L-バリン発酵性能の評価
生産株は、pH6.8に調整された、バリン生産のための培地MM_VAB10とMM_VAB20(表1)の両方を使用してバイオリアクターで評価された。MM_VAB10培地は、初期段階でバリンを生産する株の能力をモニターするための専用である。MM_VBA20培地は、高バリン含有量での遺伝子最適化の影響を示すために使用される。50mLの前培養物は、富栄養培地(5g.L-1グルコースを含むLB培地)中、30℃で、16時間培養された。これは、200mLの培養物にOD600が0.5になるように接種するために使用された。必要に応じて、抗生物質が培地に添加された(スペクチノマイシンおよびクロラムフェニコール、それぞれ最終濃度50mg.L-1および30mg.L-1)。培養温度は39℃であった。最大培養時間50時間以内にグルコースが完全に消費された時点で培養は停止された。細胞外アミノ酸は、OPA/Fmoc誘導体化後にHPLCで定量され、他の関連代謝物は、屈折率検出を備えたHPLC(有機酸)を使用して分析された。
【0107】
【0108】
これらの培養において、バリン収率(YVal)は以下のように表された。
【0109】
【数1】
またバリン生産性(PVal)は以下のように表された。
【0110】
【0111】
[実施例1]
1コピーより多くのilvA遺伝子を持つバリン生産株はバリン生産性能を改良した。
変更可能なコピー数のilvA遺伝子を持つバリン生産株の構築
株1の構築
プロトコル1、2および3に従って、大腸菌MG1655株1が順を追って得られた。
- 乳酸デヒドロゲナーゼ(IdhA遺伝子、配列番号9)、アルコールデヒドロゲナーゼ(adhE遺伝子、配列番号11)およびメチルグリオキサール合成酵素(mgsA遺伝子、配列番号13)をノックアウトする、
- アセトヒドロキシ酸合成酵素I小制御サブユニット(ilvN遺伝子、配列番号49)をバリンフィードバック耐性(FBR)タンパク質(IlvN* FBRタンパク質(配列番号52)のG20D、V21DおよびM22F置換 -Parkら、2012)に置き換え、ネイティブプロモーターを人工Ptrcプロモーター(Brosiusら、1985)に置き換えることによって過剰発現させる、
- pCL1920ベクター(Lerner & Inouye、1990)上で、ラムダファージの熱感受性リプレッサーのcl857対立遺伝子(配列番号80)(pFC1ベクターから増幅、Mermet-Bouvier & Chauvat、1994)とともに、PRプロモーターの制御下でオペロンに編成された以下の遺伝子を過剰発現させる:
- ストレプトマイセス・アウレオファシエンス(Streptomyces aureofaciens)のバリンデヒドロゲナーゼ(配列番号54、Uniprot A0A1E7N3I8)をコードするvdh遺伝子(配列番号53);より正確には、vdh遺伝子は、大腸菌に最適化されたコドン使用(配列番号55)により合成的に合成された、
- IlvDジヒドロキシ酸デヒドラターゼ(配列番号46)をコードするilvD遺伝子(配列番号45)、
- IlvCケトール酸レダクトイソメラーゼ(配列番号44)をコードするilvC遺伝子(配列番号43)、
- アセトヒドロキシ酸合成酵素Iの両サブユニットをコードするilvBN遺伝子と、ilvN* FBR対立遺伝子(ilvB遺伝子 配列番号47;ilvN*遺伝子 配列番号51)、これはプラスミド1を生じさせる。
【0112】
この株は、内因性のものであるスレオニンデヒドラターゼ(配列番号2)をコードするilvA遺伝子(配列番号1)の1コピーを有する。
【0113】
株2の構築
株2を構築するため、ilvA遺伝子の追加コピーとそのプロモーターが、プロトコル1および2に従って、米国特許出願公開第2012/0252077号に引用されているものの中から優先的に選択された株1の偽遺伝子に組み込まれた。
【0114】
株3の構築
株3を構築するため、ilvA遺伝子とそのプロモーターがpACYCプラスミド(Bartolomeら、1991)にクローニングされ、プラスミド2が作製され、これが株1に導入された。
【0115】
株1バックグラウンド内へのilvA遺伝子コピーに関連したバリン生産の改良
株1~3をプロトコル4に従って増殖させた。バリン生産性および収率を測定した。
【0116】
【0117】
MM_VAB10培地条件では、1コピーのilvA遺伝子を持つ株1のバリン生産性およびバリン収率は、それぞれ≪基準1≫および≪基準2≫と呼ばれ、またMM_VAB20培地条件では、1コピーのilvA遺伝子を持つ株1のバリン生産性およびバリン収率は、それぞれ≪基準3≫および≪基準4≫と呼ばれる。適切な基準と比較して、記号≪≒≫は10%未満の増加を示し、記号≪++≫は30~100%の増加を示し、記号≪+++≫は100%を超える増加を示す。
【0118】
表2に示されるように、2コピーのilvA遺伝子を持つ株2は、株1と比較して、使用される培地を問わず改良されたバリン生産性を有する。また、2コピーよりも多くのilvA遺伝子を持つ株3は、特にMM_VAB20培地条件において、改良されたバリン生産性および収率を有する。
【0119】
文献に記載されているバリン生産株においては、多くの場合ilvA遺伝子が欠失または減弱されているので、これらの結果は驚きである。
【0120】
他のバリン生産株バックグラウンド内へのilvA遺伝子コピーに関連したバリン生産の改良
他の遺伝的バックグラウンド内への、より正確には以下のものへのilvAコピーの有益な効果が実証された。
- Parkら、2011で「VAMF(pKBRilvBNmutCED、pTrc184ygaZHlrp)」と記載されており、ilvA遺伝子が欠失されているW3110大腸菌株、および、
- Haoら、2020で「VHY18」と記載されており、ilvA遺伝子の改変が行われていないW3110大腸菌株、そのためこの株は1コピーのilvA遺伝子を持つ。
【0121】
両株内へilvA遺伝子のコピー数を最大2まで増加させる目的において、プロトコル1および2に従って、追加コピーのilvA遺伝子およびそのプロモーターが両株に、米国特許出願公開2012/0252077号で引用されている遺伝子座へと追加され、元のilvA遺伝子がPark株内の内因性遺伝子座で再構築された。
【0122】
Park株およびHao株ならびに2コピーのilvA遺伝子を持つ同等の株は、Parkら、2011およびHaoら、2020に記載されているそれぞれの条件下で説明されているように培養され、バリン生産はプロトコル4に記載されているように評価された。
【0123】
Park株バックグラウンドでは、ilvA遺伝子の0コピーから2コピーへの変化は生産性をわずかに改良するが、Hao株バックグラウンドでは、ilvA遺伝子の1コピーから2コピーへの変化は、実施例1に記載の株2と比較して、生産性および収率を同規模のオーダーで改良する。
【0124】
さらに、Park株内のilvA遺伝子の再構築は、培養培地へのロイシンおよびイソロイシンの添加が不要であるため、経済的に有益である。
【0125】
[実施例2]
argP遺伝子内の点変異は、2コピーのilvA遺伝子を持つバリン生産株のバリン性能を改良する
株4の構築
株4を構築するため、プロトコル1および2に従って、DNA結合性転写二重制御因子をコードする野生型argP対立遺伝子(配列番号3)は、株2で128位のグルタミン酸のアスパラギン酸へのアミノ酸置換を有するArgP変異体(配列番号6)をコードするargP*対立遺伝子(配列番号5)により置き換えられた。
【0126】
argP*対立遺伝子による株2のバリン生産の改良
株2および株4をプロトコル4に従って増殖させた。バリン生産性および収率が測定された。
【0127】
【0128】
MM_VAB10培地条件では、野生型バージョンのargP遺伝子を持つ株2のバリン生産性およびバリン収率は、それぞれ≪基準5≫および≪基準6≫と呼ばれ、またMM_VAB20培地条件では、株2のバリン生産性およびバリン収率は、それぞれ≪基準7≫および≪基準8≫と呼ばれる。適切な基準と比較して、記号≪≒≫は10%未満の増加を示し、記号≪++≫は30~100%の増加を示し、記号≪+++≫は100%を超える増加を示す。
【0129】
表3に示されるように、argP遺伝子に変異(および2コピーのilvA遺伝子)を持つ株4は、argP遺伝子の野生型対立遺伝子を持つ株2と比較して、使用された培地を問わず、改良されたバリン生産性を有する。argPの変異は、バリンの収率に影響を及ぼさない。
【0130】
[実施例3]
fepA遺伝子のプロモーター内の点変異は2コピーのilvA遺伝子を持つバリン生産株のバリン性能を改良する
株5の構築
遺伝子fepA(配列番号82)は、鉄エンテロバクチン外膜輸送体であるFepAタンパク質(配列番号83)をコードする。株5を構築するため、プロトコル1および2に従って、野生型fepAプロモーター配列は株2で変異型のものに置き換えられた。変異型プロモーターは、転写開始から-3位でTからCへの核酸塩基置換を有する(配列番号8)。
【0131】
fepAプロモーター内の変異による株2のバリン生産の改良
株2および株5をプロトコル4に従って増殖させた。バリン生産性および収率が測定された。
【0132】
【0133】
MM_VAB10培地条件では、野生型バージョンのfepAプロモーターを持つ株2のバリン生産性およびバリン収率は、それぞれ≪基準5≫および≪基準6≫と呼ばれ、またMM_VAB20培地条件では、株2のバリン生産性およびバリン収率は、それぞれ≪基準7≫および≪基準8≫と呼ばれる。適切な基準と比較して、記号≪≒≫は10%未満の増加を示し、≪++≫は30~100%の増加を示す。
【0134】
表4に示されるように、fepAプロモーター内の変異(および2コピーのilvA遺伝子)を持つ株5は、fepAプロモーターの野生型配列を持つ株2と比較して、MM_VAB20培地条件において改良されたバリン生産性を有する。fepAプロモーターの変異は、バリンの収率に影響を及ぼさない。
【0135】
[実施例4]
fepAプロモーター内の点変異は、2コピーのilvA遺伝子とargP遺伝子内の変異を持つバリン生産株のバリン性能を改良する
株6の構築
株6を構築するため、プロトコル1および2に従って、野生型fepAプロモーター配列は株4で変異した配列に置き換えられた。変異プロモーターは、転写開始から-3位でTからCへの核酸塩基置換を有する(配列番号8)。
【0136】
fepAプロモーター内の変異による株4のバリン生産の改良
株4および株6は、プロトコル4に従って増殖された。バリン生産性および収率が測定された。
【0137】
【0138】
MM_VAB10培地条件では、argPの変異した対立遺伝子とfepAプロモーターの野生型配列を持つ株4のバリン生産性およびバリン収率は、それぞれ≪基準9≫および≪基準10≫と呼ばれ、またMM_VAB20培地条件では、株4のバリン生産性およびバリン収率は、それぞれ≪基準11≫および≪基準12≫と呼ばれる。適切な基準と比較して、記号≪≒≫は10%未満の増加を示し、≪+≫は10~30%の増加を示す。
【0139】
表5に示されるように、fepAプロモーター内の変異(および2コピーのilvA遺伝子とargP遺伝子内の変異)を持つ株6は、fepAプロモーターの野生型配列を持つ株4と比較して、MM_VAB20培地条件において改良されたバリン生産性を有する。fepAプロモーターの変異は、バリンの収率に影響を及ぼさない。
【0140】
参考文献
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【配列表】
【国際調査報告】