(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-31
(54)【発明の名称】強皮症疾患の治療方法
(51)【国際特許分類】
C07K 16/40 20060101AFI20241024BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20241024BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20241024BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241024BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20241024BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20241024BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
C07K16/40 ZNA
A61P9/00
A61P29/00 101
A61P43/00 105
A61P17/00
A61K39/395 P
A61P37/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024529845
(86)(22)【出願日】2022-11-17
(85)【翻訳文提出日】2024-07-18
(86)【国際出願番号】 EP2022082293
(87)【国際公開番号】W WO2023089037
(87)【国際公開日】2023-05-25
(32)【優先日】2021-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524150476
【氏名又は名称】ユーシービー ビオファルマ ソシエタ ア レスポンサビリタ リミタータ
【氏名又は名称原語表記】UCB BIOPHARMA SRL
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】ジョンソン、 ティモシー スコット
(72)【発明者】
【氏名】アトキンソン、 ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ディストラー、 ジョルグ ハンス ウィルヘルム
(72)【発明者】
【氏名】アブラハム、 デヴィッド ジョン
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA14
4C085BB22
4C085EE01
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA75
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、限局性又は全身性強皮症等の強皮症疾患の治療に使用するための抗トランスグルタミナーゼ2型(TG2)抗体に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
強皮症疾患を有する対象の治療又は強皮症疾患の発症予防の使用のための抗トランスグルタミナーゼ2型(TG2)抗体。
【請求項2】
前記強皮症疾患が、限局性強皮症、全身性強皮症又は間質性肺疾患を伴う全身性強皮症である、請求項1に記載の使用のための抗TG2抗体。
【請求項3】
前記強皮症疾患が、対象のサンプル中のマーカーの増加によって特徴付けられ、前記マーカーが、例えば、TG2発現又はTG2活性の何れか1つである、前記請求項の何れか一項に記載の使用のための抗TG2抗体。
【請求項4】
前記抗体は、ヒトトランスグルタミナーゼ2型(TG2)のコア領域内のエピトープに結合し、ヒトTG2活性を阻害し、前記コア領域は、ヒトTG2のアミノ酸143~473からなり、阻害されるヒトTG2活性は、Nε(γ-グルタミル)リジンのイソペプチド結合によるリジン及びグルタミンのTG2架橋である、前記請求項の何れか一項に記載の使用のための抗TG2抗体。
【請求項5】
抗体又はその抗原結合フラグメントが、
a.インタクトな抗体を含むか又はインタクトな抗体からなる、
b.Fvフラグメント(例えば、単鎖Fvフラグメント又はジスルフィド結合Fvフラグメント);Fabフラグメント;及びFab様フラグメント(例えば、Fab’フラグメント又はF(ab)
2フラグメント)からなる群より選択される抗原結合フラグメントを含むか又はそれらからなる、前記請求項の何れか一項に記載の使用のための抗TG2抗体。
【請求項6】
前記抗体が以下の配列を含む、前記請求項の何れか一項に記載の使用のための抗TG2抗体:
(i)KASQDINSYLT(LCDR1;配列番号NO.1);LVNRLVD(LCDR2;配列番号NO.2);LQYDDFPYT(LCDR3;配列番号NO.3);THAMS(HCDR1;配列番号NO.4);TISSGGRSTYYPDSVKG(HCDR2;配列番号NO.5);及び、LISTY(HCDR3;配列番号NO.6);又は、
(ii)KASQDINSYLT(LCDR1;配列番号NO.1);LTNRLMD(LCDR2;配列番号NO.7);LQYVDFPYT(LCDR3;配列番号NO.8);SSAMS(HCDR1;配列番号NO.9);TISSGGRSTYYPDSVKG(HCDR2;配列番号NO.5);及び、LISPY(HCDR3;配列番号NO.10);又は、
(iii)KASQDINSYLT(LCDR1;配列番号NO.1);RTNRLFD(LCDR2;配列番号NO.11);LQYDDFPYT(LCDR3;配列番号NO.3);SSAMS(HCDR1);TISVGGGKTYYPDSVKG(HCDR2;配列番号NO.9);及び、LISLY(HCDR3;配列番号NO.12)。
【請求項7】
前記請求項の何れか一項に記載の使用のための抗TG2抗体であって、該抗体は、以下を含む、抗TG2抗体:
a)配列番号NO:13から配列番号No.27の何れか1つに定義される配列を有する軽鎖可変ドメイン及び配列番号NO.28から配列番号No.40の何れか1つに定義される配列を有する重鎖可変ドメイン、
b)配列番号NO.13から配列番号No.27の何れか1つに定義される配列に対して少なくとも80%の同一性又は類似性、好ましくは少なくとも90%の同一性若しくは類似性又は好ましくは少なくとも95%の同一性若しくは類似性を有する軽鎖可変ドメイン及び配列番号NO.28から配列番号No.40の何れか1つに定義される配列に対して少なくとも80%の同一性若しくは類似性、好ましくは少なくとも90%の同一性若しくは類似性又は好ましくは少なくとも95%の同一性若しくは類似性を有する重鎖可変ドメイン。
【請求項8】
請求項1から5の何れか一項に記載の使用のための抗TG2抗体であって、前記抗体が、請求項6及び7の何れか一項に定義される抗体とTG2への結合と競合する、抗TG2抗体。
【請求項9】
強皮症疾患を有する対象を治療するための又は対象における強皮症疾患の発症を予防するための方法であって、治療上有効な量の抗TG2抗体を前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項10】
強皮症疾患を有する対象の治療のための医薬の製造のための又は対象の強皮症疾患の発症予防のための抗トランスグルタミナーゼ2型(TG2)抗体の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野:
本発明は、限局性又は全身性強皮症(localized or systemic scleroderma)等の強皮症疾患(scleroderma disease)の治療に使用する、酵素のトランスアミダーゼ活性を阻害する抗トランスグルタミナーゼ2型(TG2)抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景:
組織トランスグルタミナーゼ(tissue transglutaminase)又はトランスグルタミナーゼ2型(TG2)は、イプシロン(ガンマ-グルタミル)リジンジペプチド結合を介してタンパク質間に架橋を形成する酵素である。TG2の高発現は、異常なタンパク質架橋を引き起こし、様々なタイプの組織瘢痕化、いくつかの脳疾患における神経原線維のもつれの形成、いくつかの癌における化学療法への抵抗性等、いくつかの病態に関連している。低分子、サイレンシングRNA又は抗体等の様々なTG2阻害剤(例えば、非特許文献1、非特許文献2、特許文献1、特許文献2又は特許文献3)が、TG2が介在する疾病(disorder)の可能性のある治療のために開示されている。
【0003】
強皮症(全身性硬化症(systemic sclerosis)とも呼ばれる)は、免疫介在性のリウマチ性疾患であり、主に皮膚及び内臓の線維化と血管障害を特徴とする(非特許文献3及び非特許文献4)。強皮症には、全身性強皮症(SSc)と局所性強皮症(LoS)の2つのカテゴリがこれまでに特定されている(非特許文献3)。SScは皮膚硬化と内臓病変を特徴とし、通常、皮膚及び/又はその下の組織に限局している。LoSは、LoSのサブタイプによって異なる臨床症状を示す慢性結合組織疾患である。
【0004】
現在、SScの治療では免疫抑制療法が中心的な役割を担っており、シクロホスファミドはSSc間質性肺疾患(ILD)治療の第一選択薬であり続け、呼吸機能の安定化に成功している。しかし、無視できるほどの副作用はなく、治療中止後も効果は維持されない(非特許文献5)。したがって、限局性又は全身性強皮症等の強皮症疾患の治療及び予防に使用するための、さらなる有効な治療法を同定する必要性が残っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2006/100679号
【特許文献2】国際公開第2012/146901号
【特許文献3】国際公開第2013/175229号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Siegel 2007
【非特許文献2】Wang 2020
【非特許文献3】Careta&Romiti 2015
【非特許文献4】Denton&Khanna 2017
【非特許文献5】Barsotti 2019
【発明の概要】
【0007】
発明の概要:
本発明の目的は、強皮症疾患の治療に使用するための又は強皮症疾患の発症予防に使用するための抗トランスグルタミナーゼ2型(TG2)抗体を提供することである。好ましくは、前記強皮症疾患は、限局性強皮症、全身性強皮症又は間質性肺疾患を伴う全身性強皮症である。
【0008】
第二の態様において、本発明は、強皮症疾患の治療のための又は発症予防のための方法であって、治療上有効な量の抗TG2抗体を投与することを含む、方法を提供する。
【0009】
第三の態様において、本発明は、強皮症疾患の治療のための又は強皮症疾患の発症予防のための医薬の製造のための、抗トランスグルタミナーゼ2型(TG2)抗体の使用に関する。
【0010】
定義:
本明細書全体は、統一された開示として関連付けられることを意図しており、本明細書に記載されている特徴の組み合わせは、例えその組み合わせが本明細書の同じ文又は段落又は節に一緒に記載されていなくても、すべて想定されていることを理解されたい。「a」又は「an」を用いて記載又は特許請求され得る本発明の態様に関して、文脈上より限定された意味が明確に要求されない限り、これらの用語は、「1つ又は複数(one or more)」を意味すると理解すべきである。「又は(or)」という用語は、文脈上明確にそうでないことが要求されない限り、代替的な(alternative)又は一緒の(together)項目を包含するものと理解されるべきである。本発明の態様がある特徴を「含む(comprising)」と記載されている場合、実施形態は、その特徴「からなる(consisting)」又は「本質的になる(consisting essentially of)」とも考えられる。
【0011】
- 「組織トランスグルタミナーゼ(tissue transglutaminase)」、「トランスグルタミナーゼ2型(transglutaminase type 2)」又は「TG2」という用語は、イプシロン(ガンマ-グルタミル)リジンジペプチド結合を介してタンパク質間に架橋を形成する酵素を指す。
TG2は、典型的にはUniProtエントリーP21980(配列番号NO.41)に記載されているアミノ酸配列を有するタンパク質、すなわちヒトTG2を指す。
用語「TG2」はまた、(a)TG2の活性を保持する配列番号NO.41のアミノ酸配列に対して、1つ若しくは複数のアミノ酸置換、修飾、欠失若しくは挿入を有する誘導体又は(b)その変異体であるタンパク質、例えば変異体は、典型的には、配列番号NO.41に対して、少なくとも約75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%又は95%の同一性(又はさらに配列番号NO.41に対して約96%、97%、98%若しくは99%の同一性)を保持するタンパク質を指しても良い。
【0012】
- 「抗TG2抗体」という用語は、本明細書で使用する場合、TG2と結合し、そのトランスアミダーゼ活性を阻害して架橋を防ぐ抗体分子を意図している。このような抗体の例は、国際公開第2013/175229号に記載されている。限定はしないが、本発明に従って使用できる抗TG2抗体は、例えば、配列番号NO.24で定義される軽鎖可変領域及び配列番号NO.37で定義される重鎖可変領域を含む。
【0013】
- 本明細書で使用する「抗体」という用語には、モノクロ-ナル抗体、ポリクロ-ナル抗体及び当技術分野で知られているような組換え技術によって生成される組換え抗体が含まれるが、これらに限定されるものではない。「抗体」には、あらゆる種の抗体、特に哺乳類の抗体、例えば、あらゆるアイソタイプ(isotype)のヒト抗体、例えば、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3、IgG4、IgE、IgD、及び、IgGA1、IgGA2又はIgMのような5量体並びにそれらの修飾バリアントを含むこれらの基本構造の2量体として産生される抗体;非ヒト霊長類抗体、例えば、チンパンジ-、ヒヒ、アカゲザル又はシノモルガン猿由来の抗体;げっ歯類抗体、例えば、マウス又はラット由来の抗体;ウサギ又はヤギ又はウマ抗体;ラクダ類抗体(例えば、Nanobodies(登録商標)のようなラクダ又はラマ由来の抗体)及びその誘導体;ニワトリ抗体のような鳥類種の抗体;又はサメ抗体のような魚類種の抗体、が含まれる。「抗体」という用語は、少なくとも1つの重鎖及び/又は軽鎖抗体配列の第1部分(first portion)が第1種(first species)由来で、前記重鎖及び/又は軽鎖抗体配列の第2部分(second portion)が第2種(second species)由来である「キメラ」抗体も指す。本明細書で関心のあるキメラ抗体には、非ヒト霊長類(例えば、ヒヒ、アカゲザル又はカニクイザル等の旧世界サル)由来の可変ドメイン抗原結合配列及びヒト定常領域配列を含む「霊長類化(primatized)」抗体が含まれる。「ヒト化」抗体は、非ヒト抗体由来の配列を含むキメラ抗体である。ほとんどの場合、ヒト化抗体は、レシピエントの超可変領域の残基を、マウス、ラット、ウサギ、ニワトリ、非ヒト霊長類等の非ヒト種(ドナ-抗体)の超可変領域[又は相補性決定領域(complementarity determining region)(CDR)]の残基で置換したヒト抗体(レシピエント抗体)であり、所望の特異性、親和性及び活性を有する。ほとんどの場合、CDRの外側、すなわちフレ-ムワ-ク領域(FR)のヒト(レシピエント)抗体の残基は、対応する非ヒト残基でさらに置換される。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体にもドナ-抗体にもない残基を含むことがある。これらの修飾は、抗体の特性をさらに洗練させるために行われる。ヒト化によって、ヒト以外の抗体のヒトにおける免疫原性が低下するため、ヒトの疾患治療への抗体の応用が容易になる。ヒト化抗体とその生成技術は当技術分野でよく知られている。また、「抗体」という用語は、ヒト化の代替として生成できるヒト抗体も指す。例えば、内在性マウス抗体の産生がなくても、免疫によりヒト抗体の全レパ-トリ-を産生できるトランスジェニック動物(例えばマウス)を作製することは可能である。ヒト抗体/抗体フラグメントをインビトロで得るための他の方法は、ファ-ジディスプレイ(phage display)やリボソ-ムディスプレイ技術(ribosome display technology)等のディスプレイ技術に基づくもので、少なくとも部分的に人工的に生成された、あるいはドナ-の免疫グロブリン可変(V)ドメイン遺伝子レパ-トリ-から生成された組み換えDNAライブラリ-が使用される。ヒト抗体を生成するためのファ-ジ及びリボソ-ムディスプレイ技術は当技術分野でよく知られている。ヒト抗体はまた、目的の抗原でエクスビボ免疫した単離ヒトB細胞から生成することもでき、その後融合させてハイブリド-マを作製し、最適なヒト抗体をスクリ-ニングすることができる。「抗体」という用語は、グリコシル化抗体及びアグリコシル化抗体の両方を指す。さらに、本明細書で使用する「抗体」という用語は、完全長抗体だけでなく、抗体フラグメント、より詳細にはその抗原結合フラグメントも指す。抗体フラグメントは、当該技術分野で知られているように、少なくとも1つの重鎖又は軽鎖免疫グロブリンドメインを含み、1つ又は複数の抗原に結合する。本発明に係る抗体フラグメントの例には、Fab、修飾Fab、Fab’、修飾Fab’、F(ab’)2、Fv、Fab-Fv、Fab-dsFv、Fab-Fv-Fv、scFv及びBis-scFvフラグメントが含まれる。前記フラグメントは、ダイアボディ、トライボディ、トリアボディ、テトラボディ、ミニボディ、sdAb、VL、VH、VHH又はラクダ科抗体(例えば、Nanobody(登録商標)のようなラクダ又はラマ由来)のようなシングルドメイン抗体(dAb)及びVNARフラグメントであることもできる。本発明に係る抗原結合フラグメントはまた、1つ又は2つのscFv又はdsscFvに連結されたFabを含むことができ、各scFv又はdsscFvは、同一又は異なる標的(例えば、治療標的を結合する1つのscFv又はdsscFvと、例えばアルブミンを結合することによって半減期を増加させる1つのscFv又はdsscFv)を結合する。このような抗体フラグメントの例としては、FabdsscFv(BYbe(登録商標)とも呼ばれる)又はFab-(dsscFv)2(TrYbe(登録商標)とも呼ばれ、例えば国際公開第2015/197772号を参照されたい)が挙げられる。上記で定義した抗体分子は、その抗原結合フラグメントを含め、当技術分野で知られている。
【0014】
- 用語「エピトープ(epitope)」は、抗体が結合する抗原の領域を指す。エピトープには、構造的に定義されるものと機能的に定義されるものがある。機能性エピトープは、一般に構造性エピトープのサブセット(subset)であり、相互作用の親和性に直接寄与する残基を有する。エピトープはまた、コンフォメーション、すなわち非直線アミノ酸からなることもある。ある実施形態において、エピトープは、アミノ酸、糖側鎖、ホスホリル基又はスルホニル基等の分子の化学的に活性な表面基である決定基を含み得、及び、ある実施形態において、特定の三次元構造特性及び/又は特定の電荷特性を有し得る。
【0015】
- 疾患状態(disease state)の「治療(treating)」又は「治療(treatment)」という用語には、(i)疾患状態を抑制すること、すなわち疾患状態又はその臨床症状の発症を阻止すること、又は(ii)疾患状態を緩和すること、すなわち疾患状態又はその臨床症状を一時的又は永続的な退行を引き起こすことが含まれる。
【0016】
- 疾患状態の「予防(preventing)」又は「防止(prevention)」という用語には、疾患状態に曝露され得るか又は罹りやすいが、まだ疾患状態の症状を経験していない又は示していない対象において、疾患状態の臨床症状が発現しないようにすることが含まれる。
【0017】
発明の詳細な説明:
本発明は、TG2タンパク質の総量がSSc対象の皮膚(skin)及び肺線維芽細胞で増加し(特に、TG2の発現レベル及び活性がSSc線維芽細胞で増加した)、肺病変を有するSSc対象でより高レベルであるという本発明者の発見に基づく。これに対し、血清及び血漿中のTG2の循環レベルは低く、SSc対象及び対照のサブセットでのみ検出可能である。そして本発明者らは、抗TG2抗体がSSc線維芽細胞のサブセットにおいて、標準的な2D培養条件下だけでなく、全層皮膚での3D培養条件下でも細胞外マトリックス(ECM)の沈着を抑制できることを、驚くべきことに証明することができた。
【0018】
本発明の主な目的は、強皮症疾患の治療に使用するための又は強皮症疾患の発症予防に使用するための抗トランスグルタミナーゼ2型(TG2)抗体である。好ましくは、強皮症疾患は、限局性強皮症又は全身性強皮症である。強皮症疾患は、間質性肺疾患を伴う全身性強皮症であることもある。例えば、本発明に係る使用のための抗TG2抗体は、以下の配列を含むことができる:
(i)KASQDINSYLT(LCDR1;配列番号NO.1);LVNRLVD(LCDR2;配列番号NO.2);LQYDDFPYT(LCDR3;配列番号NO.3);THAMS(HCDR1;配列番号NO.4);TISSGGRSTYYPDSVKG(HCDR2;配列番号NO.5);及び、LISTY(HCDR3;配列番号NO.6);又は、
(ii)KASQDINSYLT(LCDR1;配列番号NO.1);LTNRLMD(LCDR2;配列番号NO.7);LQYVDFPYT(LCDR3;配列番号NO.8);SSAMS(HCDR1;配列番号NO.9);TISSGGRSTYYPDSVKG(HCDR2;配列番号NO.5);及び、LISPY(HCDR3;配列番号NO.10);又は、
(iii)KASQDINSYLT(LCDR1;配列番号NO.1);RTNRLFD(LCDR2;配列番号NO.11);LQYDDFPYT(LCDR3;配列番号NO.3);SSAMS(HCDR1);TISVGGGKTYYPDSVKG(HCDR2;配列番号NO.9);及び、LISLY(HCDR3;配列番号NO.12)、又は、
(iv)前記(i)~(iii)の何れか1つに記載の抗体と競合する。
【0019】
本発明はまた、強皮症疾患の治療のための又は発症予防のための方法であって、治療上有効量の抗TG2抗体を投与することを含む、方法を提供する。好ましくは、前記強皮症疾患は、限局性強皮症又は全身性強皮症である。前記強皮症疾患は、間質性肺疾患を伴う全身性強皮症であることもある。例えば、本発明に係る使用のための抗TG2は、以下の配列を含むことができる:
(i)KASQDINSYLT(LCDR1;配列番号NO.1);LVNRLVD(LCDR2;配列番号NO.2);LQYDDFPYT(LCDR3;配列番号NO.3);THAMS(HCDR1;配列番号NO.4);TISSGGRSTYYPDSVKG(HCDR2;配列番号NO.5);及び、LISTY(HCDR3;配列番号NO.6);又は、
(ii)KASQDINSYLT(LCDR1;配列番号NO.1);LTNRLMD(LCDR2;配列番号NO.7);LQYVDFPYT(LCDR3;配列番号NO.8);SSAMS(HCDR1;配列番号NO.9);TISSGGRSTYYPDSVKG(HCDR2;配列番号NO.5);及び、LISPY(HCDR3;配列番号NO.10);又は、
(iii)KASQDINSYLT(LCDR1;配列番号NO.1);RTNRLFD(LCDR2;配列番号NO.11);LQYDDFPYT(LCDR3;配列番号NO.3);SSAMS(HCDR1);TISVGGGKTYYPDSVKG(HCDR2;配列番号NO.9);及び、LISLY(HCDR3;配列番号NO.12)、又は、
(iv)前記(i)~(iii)の何れか1つに記載の抗体と競合する。
【0020】
また、強皮症疾患の治療における医薬品を製造するための又は強皮症疾患の発症予防のための、抗トランスグルタミナーゼ2型(TG2)抗体の使用も記載されている。好ましくは、前記強皮症疾患は、限局性強皮症又は全身性強皮症である。前記強皮症疾患は、間質性肺疾患を伴う全身性強皮症であることもある。例えば、本発明に係る使用のための抗TG2は、以下の配列を含むことができる:
(i)KASQDINSYLT(LCDR1;配列番号NO.1);LVNRLVD(LCDR2;配列番号NO.2);LQYDDFPYT(LCDR3;配列番号NO.3);THAMS(HCDR1;配列番号NO.4);TISSGGRSTYYPDSVKG(HCDR2;配列番号NO.5);及び、LISTY(HCDR3;配列番号NO.6);又は、
(ii)KASQDINSYLT(LCDR1;配列番号NO.1);LTNRLMD(LCDR2;配列番号NO.7);LQYVDFPYT(LCDR3;配列番号NO.8);SSAMS(HCDR1;配列番号NO.9);TISSGGRSTYYPDSVKG(HCDR2;配列番号NO.5);及び、LISPY(HCDR3;配列番号NO.10);又は、
(iii)KASQDINSYLT(LCDR1;配列番号NO.1);RTNRLFD(LCDR2;配列番号NO.11);LQYDDFPYT(LCDR3;配列番号NO.3);SSAMS(HCDR1);TISVGGGKTYYPDSVKG(HCDR2;配列番号NO.9);及び、LISLY(HCDR3;配列番号NO.12)、又は、
(iv)前記(i)~(iii)の何れか1つに記載の抗体と競合する。
【0021】
本発明全体の文脈において、強皮症疾患は、対象のサンプル中のマーカーの増加によって特徴付けられ、マーカーは、例えば、TG2発現又はTG2活性の何れか1つであり、対象のサンプルは、前記疾患に関連する細胞又は組織(例えば、線維芽細胞又はケラチノサイト)である。TG2発現の増加(あるいはTG2の過剰発現とも呼ばれる)は、例えば線維芽細胞やケラチノサイトにおける任意の手段によって決定することができる。ある対象のサンプルにおけるマーカーの増加は、典型的には、対象のサンプルにおける前記マーカーのレベルを、同じ組織型の正常細胞における同じマーカーのレベル(すなわち、基底レベル(basal level);例えば、基底TG2活性、基底発現レベル(mRNAレベル及び/又はタンパク質レベル)と比較することによって決定される。少なくとも1つのマーカーのレベルが、当該マーカーの基底レベルと比較して、10%と同一若しくはそれ以上、15%と同一若しくはそれ以上、20%と同一若しくはそれ以上、25%と同一若しくはそれ以上又はさらには30%と同一若しくはそれ以上である対象のサンプルは、当該マーカーの増加を示すとみなされる。例えば、TG2発現の増加(あるいはTG2過剰発現と呼ばれる)は、対象の真皮線維芽細胞(dermal fibroblasts)又はケラチノサイトにおけるTG2 mRNAの量を決定すること(determination)によって決定する(determined)ことができる。従って、強皮症疾患細胞/組織は、例えば、正常な真皮線維芽細胞又はケラチノサイトと比較しての、対象の真皮線維芽細胞又はケラチノサイトにおけるTG2 mRNAの増加量(過剰発現を表す)によって特徴付けられる。TG2mRNAの発現は、基底レベルと比較して、10%と同一若しくはそれ以上、15%と同一若しくはそれ以上、20%若しくがそれ以上、25%と同一若しくはそれ以上又はさらには30%と同一若しくはそれ以上等、任意の量だけ増加させることができる。mRNAの量は、定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(qRT-PCR)、リアルタイムqRT-PCR、quantigene assay(Affymetrix/Thermo Fisher)、ノーザンブロッティング若しくはマイクロアレイ(microarrays)の使用による、RNA配列決定、各種in situハイブリダイゼーション(例えば、RNAscope)等、既知の方法を用いて測定することができる。あるいは、過剰発現は、例えば真皮線維芽細胞、ケラチノサイト、肺細胞など、対象者の一部の細胞におけるTG2抗原の量を測定することによって決定することができる。従って、強皮細胞は、例えば、正常な真皮線維芽細胞又はケラチノサイトと比較して、対象の真皮線維芽細胞又はケラチノサイトにおけるTG2タンパク質(又はTG2抗原)の量の増加(過剰発現を表す)によって特徴付けられ得る。TG2タンパク質の発現は、基底レベルと比較して、10%と同一若しくはそれ以上、15%と同一若しくはそれ以上、20%と同一若しくはそれ以上、25%と同一若しくはそれ以上又はさらには30%と同一若しくはそれ以上等、任意の量だけ増加させることができる。タンパク質の量は、本発明の抗TG2抗体の使用を含め、免疫組織化学、ウェスタンブロッティング、質量分析又は蛍光活性化細胞選別(FACS)等の公知の方法を使用して測定することができる。発現を決定するための閾値は、使用する技術によって異なる場合があり、免疫組織化学のスコアに対して検証される場合がある。あるいは、強皮細胞は、対象の真皮線維芽細胞又はケラチノサイトにおいて、同じ組織型の正常細胞と比較してTG2活性が上昇することによって特徴づけられる。TG2活性は、基底レベルと比較して、10%と同一若しくはそれ以上、15%と同一若しくはそれ以上、20%と同一若しくはそれ以上、25%と同一若しくはそれ以上又はさらには30%と同一若しくはそれ以上等、任意の量だけ増加させることができる。TG2活性は、生検等を介して、既知の方法を用いて測定することができる。
【0022】
使用のための抗TG2抗体、治療のための方法、又は、本発明に係る抗TG2の、例えば、対象における強皮症疾患の治療若しくは予防のための、使用は、
従って、(a)対象からのサンプル(例えば、線維芽細胞(真皮線維芽細胞など)又はケラチノサイト)におけるTG2発現又はTG2活性を測定する工程、(b)(a)から得られた測定結果を、正常な細胞/組織(例えば、線維芽細胞(真皮線維芽細胞など)又はケラチノサイト)における対応する測定結果と比較する工程、及び(c)発現の増加(すなわち、TG2の過剰発現)又は活性の増加が観察された場合、対象に抗TG2抗体を投与し、これにより、強皮症疾患を治療又は予防する工程を含むことができる。
工程(a)で測定されるTG2発現量は、mRNAでもタンパク質量でもよく、その増加は、上述したような発現の増加であれば何でもよい。正常細胞/組織(例えば、線維芽細胞(真皮線維芽細胞など)又はケラチノサイト)における対応する測定値を、比較を行うたびに得る必要はない。前記対応する測定値は、比較が行われる前であればいつでも得ることができ、前記正常細胞/組織(例えば、線維芽細胞(真皮線維芽細胞など)又はケラチノサイト)における平均TG2発現量又はTG2活性とすることができる。
【0023】
本発明全体の文脈において、抗TG2抗体は、ヒトトランスグルタミナーゼ2型(TG2)のコア領域内のエピトープに結合し、ヒトTG2活性を阻害し、ここで、前記コア領域は、ヒトTG2のアミノ酸143~473からなり、阻害されるヒトTG2活性が、Nε(γ-グルタミル)リジンイソペプチド結合によるリジン及びグルタミンのTG2架橋である。さらに好ましくは、抗体は、ヒトTG2のアミノ酸304~326を含む若しくはからなる領域又はこの領域の一部に結合する。前記抗体は、インタクトな(intact)抗体を含むか又はからなる。
あるいは、Fvフラグメント(例えば、一本鎖Fvフラグメント又はジスルフィド結合Fvフラグメント);Fabフラグメント;及びFab様フラグメント(例えば、Fab’フラグメント又はF(ab)2フラグメント)等の抗原結合フラグメント(しかし、これらに限定されない)を含むか又はからなることができる。
好ましくは、本発明全体に係る使用する抗TG2抗体は、
a)以下からなる群から選択される6個のCDRを含む:
(i)KASQDINSYLT(LCDR1;配列番号NO.1);LVNRLVD(LCDR2;配列番号NO.2);LQYDDFPYT(LCDR3;配列番号NO.3);THAMS(HCDR1;配列番号NO.4);TISSGGRSTYYPDSVKG(HCDR2;配列番号NO.5);及び、LISTY(HCDR3;配列番号NO.6);又は、
(ii)KASQDINSYLT(LCDR1;配列番号NO.1);LTNRLMD(LCDR2;配列番号NO.7);LQYVDFPYT(LCDR3;配列番号NO.8);SSAMS(HCDR1;配列番号NO.9);TISSGGRSTYYPDSVKG(HCDR2;配列番号NO.5);及び、LISPY(HCDR3;配列番号NO.10);又は、
(iii)KASQDINSYLT(LCDR1;配列番号NO.1);RTNRLFD(LCDR2;配列番号NO.11);LQYDDFPYT(LCDR3;配列番号NO.3);SSAMS(HCDR1);TISVGGGKTYYPDSVKG(HCDR2;配列番号NO.9);及び、LISLY(HCDR3;配列番号NO.12)、
b)配列番号NO:13から配列番号No.27の何れか1つに定義される配列を有する軽鎖可変ドメイン及び配列番号NO.28から配列番号No.40の何れか1つに定義される配列を有する重鎖可変ドメイン、を含む、
c)配列番号NO.13から配列番号No.27の何れか1つに定義される配列に対して少なくとも80%の同一性又は類似性、好ましくは少なくとも90%の同一性若しくは類似性又は好ましくは少なくとも95%の同一性若しくは類似性を有する軽鎖可変ドメイン及び配列番号NO.28から配列番号No.40の何れか1つに定義される配列に対して少なくとも80%の同一性若しくは類似性、好ましくは少なくとも90%の同一性若しくは類似性又は好ましくは少なくとも95%の同一性若しくは類似性を有する重鎖可変ドメイン、を含む、
d)ヒトTG2(配列番号NO.41)のアミノ酸304~326若しくはこの領域の一部を含む又はからなるエピトープと、上記a)、b)又はc)で定義した抗体との結合を競合させる。
【0024】
【0025】
【0026】
【0027】
ある抗体が他の抗体と同じエピトープに結合するか又は他の抗体と結合を競合するかは、当該技術分野で知られている日常的な方法を用いて容易に決定することができる。例えば、試験抗体が本発明の参照抗体と同じエピトープに結合するかどうかを決定するために、前記参照抗体を飽和条件下でタンパク質又はペプチドに結合させる。次に、試験抗体がタンパク質又はペプチドに結合する能力を評価する。前記参照抗体との飽和結合後、前記試験抗体がタンパク質又はペプチドに結合できる場合、前記試験抗体は前記参照抗体とは異なるエピトープに結合すると結論づけることができる。一方、前記試験抗体が前記参照抗体との飽和結合後にタンパク質又はペプチドに結合できない場合、試験抗体は本発明の参照抗体が結合するエピトープと同じエピトープに結合する可能性がある。
抗体が参照抗体と結合競合するかどうかを決定するために、上述の結合方法論(binding methodology)は2つの方向で実施される。
第一の方向では、前記参照抗体を飽和条件下でタンパク質/ペプチドに結合させ、その後、前記試験抗体のタンパク質/ペプチド分子への結合を評価する。
第二の方向では、前記試験抗体を飽和条件下でタンパク質/ペプチドに結合させ、その後、前記参照抗体のタンパク質/ペプチドへの結合を評価する。
どちらの方向でも、第一抗体(飽和抗体)のみがタンパク質/ペプチドに結合できる場合、前記試験抗体及び前記参照抗体は、タンパク質/ペプチドへの結合で競合していると結論づけられる。当業者には理解されるように、参照抗体と結合を競合する抗体は、必ずしも前記参照抗体と同一のエピトープに結合するとは限らず、重複又は隣接するエピトープに結合することによって前記参照抗体の結合を立体的に阻害することがある。
【0028】
2つの抗体が同じ又は重複するエピトープに結合するのは、それぞれがもう一方の抗体の抗原への結合を競合的に阻害(ブロック)する場合である。すなわち、1倍、5倍、10倍、20倍又は100倍過剰の一方の抗体は、競合結合アッセイで測定した場合、他方の抗体の結合を少なくとも50%、75%、90%又はさらに99%阻害する。
あるいは、抗原内の本質的にすべてのアミノ酸変異が、一方の抗体の結合を減少又は排除し、他方の抗体の結合も減少又は排除する場合、2つの抗体は同じエピトープを持つ。
いくつかのアミノ酸変異が、一方の抗体の結合を減少又は排除し、他方の抗体の結合も減少又は排除する場合、2つの抗体は重複するエピトープを持つ。
その後、追加のルーチン実験(例えば、ペプチド変異及び結合解析)を実施し、前記試験抗体の結合の欠如が観察されると、実際に前記参照抗体と同じエピトープへの結合によるものなのか又は立体障害(又は別の現象)が、観察された結合の欠如の原因となっているのかを確認することができる。この種の実験は、ELISA、RIA、表面プラズモン共鳴、フローサイトメトリー又は当技術分野で利用可能なその他の定量的若しくは定性的抗体結合アッセイを用いて実施することができる。
【0029】
どのような対象(subject)であっても、本発明に従って治療することができる。対象は人間であることが望ましい。しかし、対象は他の哺乳類動物、例えばヒト以外の霊長類、ウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、イヌ、ネコ、ウサギ、ラット、マウス、モルモット又はハムスターであってもよい。
【0030】
本発明全体の文脈において、強皮症疾患は、好ましくは、限局性強皮症又は全身性強皮症である。限局性強皮症には、強皮症(Morphea)、線状強皮症、好酸球性筋膜炎又は毒素誘発症候群が含まれる。全身性強皮症には、限局性強皮症(limited scleroderma)、びまん性強皮症及び重複症候群が含まれる。強皮症疾患は、間質性肺疾患を伴う全身性強皮症であることもある。強皮症疾患は、皮膚、肺、肝臓、胃腸、膵臓、心臓及び/又は腎臓等の様々な組織や臓器で起こり得る。
【0031】
本発明に係る任意の抗TG2抗体は、局所、鼻腔内、皮内、静脈内、皮下又は筋肉内等(ただし、これらに限定されない)、任意の方法で対象に投与するのに適した医薬組成物に組み込むことができる。典型的には、前記医薬組成物は、抗TG2抗体と、1つ若しくは複数の薬学的に許容されるアジュバント及び/又は担体とを含む。
したがって、本明細書には、限局性強皮症又は全身性強皮症等の強皮症疾患の治療に使用するための医薬組成物も記載され、前記医薬組成物は、抗TG2抗体と、1つ若しくは複数の薬学的に許容されるアジュバント及び/又は担体とを含む。この医薬組成物は、間質性肺疾患を伴う全身性強皮症の治療に使用することもできる。本発明に係る医薬組成物は、使用説明書及び任意で、それを必要とする個体への静脈内、皮下又は筋肉内投与のための装置を含む、使用説明書付きキットの一部とすることができる。
【0032】
本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される担体(pharmaceutically acceptable carrier)」には、生理学的に適合性であり、本明細書に記載される方法及び使用のための対象への投与に適する、あらゆる溶媒、分散媒体、コーティング、抗菌剤及び抗真菌剤、等張剤及び吸収遅延剤などが含まれる。薬学的に許容される担体の例としては、水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、ブドウ糖、グリセロール、エタノール等の1つ若しくは複数及びそれらの組み合わせが挙げられる。
投与経路又は製剤の種類(液体、凍結乾燥又は噴霧乾燥製剤など)に応じて、等張化剤、例えば、糖類、マンニトール、ソルビトール等の多価アルコール、又は、塩化ナトリウムなどを組成物に配合することができる。薬学的に許容される担体には、湿潤若しくは乳化剤、保存剤又は緩衝剤など、抗体又は抗体部分の保存期間や有効性を高める補助物質が少量含まれていてもよい。
【0033】
本発明に係る医薬組成物は、様々な形態であってよい。これらには、例えば、液体溶液(例えば、注射液又は輸液液)、分散液又は懸濁液、粉末及びリポソームなどが含まれる。好ましい形態は、意図する投与様式や治療用途によって異なる。典型的な好ましい組成物は、注射可能又は注入可能な溶液の形態であり、例えば、他の抗体によるヒトの受動免疫に使用されるものと同様の組成物である。
【0034】
本発明に係る抗TG2抗体の適切な投与量は、熟練した医師によって決定され得る。本発明の医薬組成物中の活性成分の実際の投与量は、特定の対象、組成物及び投与様式に対して所望の治療応答を達成するのに有効であり、かつ対象に毒性でない活性成分の量を得るように変化させることができる。選択される投与量は、投与経路、投与時間、抗体の排泄速度、治療期間、特定の抗体と併用される他の薬物、化合物及び/又は材料、治療される対象の年齢、性別、体重、状態、一般的健康状態及び既往歴など、さまざまな薬物動態学的要因に依存する。
【0035】
適切な用量は、例えば、治療される対象の約0.01pg/kg~約1000mg/kg体重、典型的には約0.1pg/kg~約100mg/kg体重の範囲とすることができる。用量レジメンは、最適な所望の反応(例えば、治療反応)を提供するために調整することができる。例えば、1回量を投与してもよいし、数回に分けて時間をかけて投与してもよい。本明細書で使用される投与単位形態とは、治療される対象のための単位投与量として適する物理的に離散した単位をいい、各単位は、必要な薬学的アーナと関連して所望の治療効果をもたらすように計算された所定量の活性化合物を含む。投与は単回投与でも複数回投与でもよい。複数回投与は、同一又は異なる経路で、同一又は異なる部位に行うことができる。
【0036】
本発明全体から見ると、抗TG2抗体は1つ若しくは複数の他の治療薬と共投与することができる。2種類若しくはそれ以上の薬剤の併用投与は、さまざまな方法で行うことができる。両者は単一の組成物で一緒に投与してもよいし、併用療法の一部として別々の組成物で投与してもよい。例えば、一方を他方の前に投与してもよいし、別々に投与してもよいし、他方の後に投与してもよいし、順次投与してもよいし、他方と同時に投与してもよいし、同時に投与してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】TG2検出MSDを使用したSSc対象及び健常対照サンプルの血清中のTG2検出。データは個々のデータポイント及び平均値±SEMで示す。
【0038】
【
図2】TG2検出MSDを使用したSSc対象及び健常対照サンプルの血漿中のTG2検出。データは、箱髭図(box and whisker plot)で示し、箱は10~90パーセンタイル、個々の値はその外側に示す(
**=p<0.01)。
【0039】
【
図3】A)SSc対象とマッチした健常人のパラフィン包埋皮膚切片におけるTG2免疫蛍光染色。ドット(dot)は個々の対象、横線(line)は平均±標準偏差を示す。B)SSc関連肺線維症を伴う又は伴わないSSc対象のパラフィン包埋皮膚切片におけるTG2免疫蛍光染色。0(染色なし)、1以上(中程度の染色)、2(強い染色)の範囲の半定量的評価。ドットは個々の対象、横線は平均±標準偏差を表す。
【0040】
【
図4】健常及びSSc対照の凍結切片のTG2免疫蛍光染色。0(染色なし)、1以上(中程度の染色)、2(強い染色)の範囲の半定量的評価。ドットは個々の対象、横線は平均±標準偏差を表す。
【0041】
【
図5】IA12を用いた、強皮症疾患スペクトラムの全体及び特定の真皮区画内でのTG2発現パターンの比較。染色の発現と分布を評価し、0(染色なし)から3(最大染色)まで0.5刻みで0~3の間でスコア化した。データは5つの生検サンプルの平均染色スコア±SDを表す。
*=p,0.05。
**p<0.01、
***p<0.001。
【0042】
【
図6】SSc対照及びマッチさせた健常ボランティア(NF)由来の培養ヒト真皮又は肺線維芽細胞におけるTG2抗原。データはウェスタンブロットからの平均±SEM濃度測定(densitometry)データを表す。
*=p<0.05(t検定)。
【0043】
【
図7】SSc患者及びマッチさせた健常人(NF)由来の培養ヒト真皮線維芽細胞におけるTG2活性(左)。正常細胞では、抗TG2抗体BB7を適用するとTG2活性が低下する(右)。ドットは個々の患者を表し、横線は平均値を示す。
【0044】
【
図8】別の部位からのSSc対象及びマッチさせた健常人由来の培養ヒト真皮線維芽細胞におけるTG2活性。限局性皮膚SSc及びびまん性皮膚SScの比較も示した。ドットは個々の対象を表し、横線は平均値を示す。
**=p<0.01、
***=p<0.001(ANOVA)。
【0045】
【
図9】肺線維症を伴う又は伴わないSSc対象由来の培養ヒト真皮線維芽細胞におけるTG2活性。ドットは個々の対象を表し、横線は平均値を示す。
*=p<0.05、
**=p<0.01、
***=p<0.001(ANOVA)。
【0046】
【
図10】SSc対象及び健常人から分離した培養ヒト真皮線維芽細胞におけるTG2発現。SSc対象から採取した5株及びそれぞれの対照から採取した5株のウェスタンブロット(A)及びその後の定量(B)。ドットは個々の対象、横線は平均±標準偏差を表す。
**=p<0.01(t検定)。
【0047】
【
図11】ヒト真皮線維芽細胞におけるBB7のTG2活性に対する阻害活性。アイソタイプ抗体922を対照として、ヒト真皮線維芽細胞における抗TG2抗体BB7の用量滴定。ドットは個々の対象を表し、バー(bars)は平均値、エラーバーは標準偏差を表す。
【0048】
【
図12】SSc線維芽細胞におけるECM沈着に対するBB7の阻害活性(inhibitory activity)。抗TG2抗体BB7又はアイソタイプ抗体922でインキュベートしたTGFβ1刺激SSc真皮線維芽細胞におけるフィブロネクチン(A)及びコラーゲンI/III(B)の沈着をCX5ベースで定量したもの。ドットは個々の対象を表し、バーは平均値、エラーバーは標準偏差を表す。
*=p<0.05(ANOVA)。
【0049】
【
図13】反応性(responsive)SSc線維芽細胞株におけるBB7のコラーゲン沈着の阻害活性。抗TG2抗体BB7又は対照アイソタイプ抗体922をインキュベートしたSSc真皮線維芽細胞のコラーゲン(I及びIII型)沈着のCX5ベースの定量化。ドットは1人の反応性対象(one responsive subject)の細胞の反復培養を表し、バーは平均値、エラーバーは標準偏差を表す。
*=p<0.05、
**=p<0.01)(ANOVA)。
【0050】
【
図14】反応性ヒト真皮線維芽細胞「株」におけるECM沈着に対するBB7の阻害活性。抗TG2抗体BB7を、アイソタイプ抗体922を対照として用量滴定を行い、その後CX5を用いてフィブロネクチン(A)及びI型コラーゲン(B)の沈着を定量した。バーは平均値、エラーバーは技術的反復(technical replicates)の標準偏差を表す。
*=p<0.05(ANOVA)。
【0051】
【
図15】ヒト真皮線維芽細胞における線維芽細胞活性化及びTGFβ1-Smadシグナル伝達のmRNAマーカーに対するBB7の阻害活性。(A)リアルタイムqPCRで測定したα-平滑筋アクチン(αSMA、ACTA2)及びCol1a1のmRNAレベルに対する抗TG2抗体BB7と非標的対照抗体(いずれも濃度1000nM)の効果。(B)リアルタイムqPCR及びSirColアッセイでそれぞれ測定した、上清中の代表的なSmad標的遺伝子Ctgf及び可溶性コラーゲンのmRNAレベル。(C)pSMAD3に対する免疫蛍光染色の平均蛍光強度の定量化。(D)I型コラーゲン、α-平滑筋アクチン(a-MA)及びCTGF/CCN2の発現をウェスタンブロッティングにより分析し、GAPDHの発現に対して正規化した。ウェスタンブロットの濃度測定解析(densitometry analysis)(RHSパネル)。バーは平均±SEMを示す。統計的有意性はT-検定で試験され、
*p<0.05であった。
図A)、B)及びC)において、ドットは個々の対象、バーは平均値及びエラーバーは技術的反復の標準偏差を表す。
【0052】
【
図16】SSc線維芽細胞及び正常線維芽細胞におけるECM成分に対するBB7の阻害活性。画像は、個々のECM成分に対するグレイスケール(greyscale)の単一チャンネル免疫蛍光画像又は合成画像である。グラフは、BB7で処理した場合としない場合のECMの存在比率を表し、BB7はSSc線維芽細胞ではECMを減少させるが、正常線維芽細胞では減少させないことを示している。
【0053】
【
図17】全層皮膚モデルにおけるECM沈着に対するBB7の阻害活性。全層皮膚モデルは、分化するヒトケラチノサイトからなる完全に分極化した真皮の上に、3DのECM内のヒト真皮線維芽細胞で構成されている。(A)三色(Trichrome)染色した代表的な組織切片と、真皮の厚さの組織学的定量化。(B)巨視的な定量化におけるゲルの厚さ。(C)筋線維芽細胞数の定量化。(D)I型コラーゲン及びハウスキーピングタンパク質β-アクチンの代表的ウェスタンブロット、(E)発現の正規化された定量化。ドットは個々の対象を表し、バーは平均値、エラーバーは技術的反復の標準偏差を表す。
*=p<0.05、
**=p<0.01(ANOVA)。
【0054】
【
図18】TG2欠失は、皮膚におけるブレオマイシン誘発性組織学的変化からマウスを保護する。ブレオマイシンを皮内注射したWT及びTG2KOマウスの皮膚の厚さ。ドットは個々の動物を表し、マッソン三色染色又はPSR染色した切片の皮膚の厚さを3回測定した平均値である。個々のp値を示す。
【0055】
【
図19】(A)健常対照(NF)(n=6)及び強皮症線維芽細胞(n=6)の初代線維芽細胞におけるTG2(IA12抗体)の発現をウェスタンブロット法で分析し、GAPDHの発現に対して正規化した。(B)健常対照(NF)の初代線維芽細胞(n=3)におけるTG2発現を、線維芽細胞をTGFβ1(4mg/ml)で24時間処理した後に測定した。
【0056】
【
図20】TG2阻害は、対照及びSSc真皮線維芽細胞におけるTGFβ1誘導性線維化タンパク質マーカーの発現を抑制する。健常対照(NF;n=3)又は強皮症線維芽細胞(SSc: n=1)から単離した真皮線維芽細胞を、単独又は組換えTGFβ1(4ng/ml)で培養した後、対照IgG、抗体BB7、汎TGFβ1阻害抗体の組み合わせ又はALK5/TGFβ1RIの低分子阻害剤の存在下で処理した。コラーゲンタイプI及びα-平滑筋アクチン(α-SMA)の発現はウェスタンブロット法で分析した。
【0057】
【
図21】初代SSc真皮線維芽細胞における対照IgG及び無処理と比較したBB7のTGFβ1発現阻害活性。データは平均発光±SEMを表す。
【0058】
【
図22】TG2ノックアウトマウスの皮膚は、偏光下でより薄く、より架橋されていない。野生型及びTG2欠損マウスにおいて、ピクロシリウス・レッド染色後、偏光下で緑、黄、橙及び赤のコラーゲン線維の総パーセンテージを測定した。下部の赤いバー、それに続くオレンジのバー、黄色のバー及び上部の緑のバーは、それぞれ一般的に太く架橋度の高いコラーゲン線維から細いコラーゲン線維までを示す。各群N=6マウス。
【0059】
【
図23】TG2欠失は、ブレオマイシンが誘発する皮膚のコラーゲン変化からマウスを保護する。WT及びTG2KOマウスにおけるブレオマイシン誘発皮膚損傷後の4mm真皮生検からのSirColアッセイを使用した真皮コラーゲン含量。ドットは個々の対象を表す。測定値は、生理食塩水処理した対照(WTマウス)との相対的な倍数変化で示した。データは、コラーゲンレベルの倍数変化として示す。p=0.0001
****(ANOVA)。
【0060】
【
図24】スクラッチ創傷評価を使用した真皮線維芽細胞の遊走の評価。初代真皮線維芽細胞をコンフルエンス(confluence)まで培養し、単層をスクラッチして単層に単一の損傷を誘発した。左のパネルは創傷後0時間の時点を示す。中央及び右のパネルは、それぞれWTとTG2欠損線維芽細胞集団の48時間後のスクラッチ修復を示す。上及び下のパネルはそれぞれTGFβ1非存在下及び存在下である。パネルは0.5%BSA存在下である。
【0061】
【
図25】3Dコラーゲンゲル収縮アッセイを使用した生体力学的力。摘出皮膚培養由来のWT及びTG2KO線維芽細胞集団を3Dコラーゲンゲルに配置した。収縮のレベルは、TGFβ1の非存在下又は存在下で48時間後に評価した。収縮は、収縮後のゲル重量の定量によって決定した。
*=p<0.05、
***=p<0.0001(ANOVA)。
【0062】
実施例:
素材:
抗TG2抗体:
- 実施例で使用した抗TG2 mAbの一つはBB7であり、配列番号NO.19で定義される軽鎖可変領域及び配列番号NO.32で定義される重鎖可変領域を含んでいた。
- 実施例で使用された別の抗TG2 mAbは、配列番号NO.25で定義される軽鎖可変領域及び配列番号NO.38で定義される重鎖可変領域を含んでいた。これはオリジナルのBB7をウサギ化したバージョン(rabbitised version)であり、本明細書では以下の実施例においてrbBB7又はmAb1と命名する。ヒトTG2に対するIC50は両者とも同程度であるため(データは示さず)、以下の実施例では、入手可能性に応じて両者を使い分けている。
Zampilimab(UCB7858としても知られる、抗体DC1由来)は、配列番号NO.24に係る可変軽鎖及び配列番号NO.37に係る可変重鎖を有する抗TG2抗体で、ヒトTG2に特異的に結合するヒト化抗体である。ウサギ、mAb1(rbBB7)のような動物モデルでその効果を模倣できるように、rbBB7が開発された。Zampilimab/DC1及びrbBB7/BB7は同様の挙動を示すことが示されている。これらは、TG2コアの同じエピトープ(配列番号No.41のaa 313-325)に結合し、ヒトTG2に対して、ほぼ同じIC50(0.25対0.3nM)及びKd(<50対<60pm)を有し、in vitroの細胞ベースの評価においてECMの蓄積を同等に阻害する。唯一の顕著な違いは、ウサギTG2に対するZampilimabのIC50が劣っていることである(103対8nM)。したがって、BB7/rbBB7を使用した以下の実施例から得られた知見は、Zampilimab及び本明細書に記載したような他の抗TG2抗体にも十分に適用可能である。
【0063】
抗TG2抗体IA12:
以下の実施例で使用された抗TG2 mAbは、配列番号NO.26で定義される軽鎖可変領域及び配列番号NO.39で定義される重鎖可変領域を含んでいた。以下の実施例ではmAb2と命名されている。この抗体はBB7/Zampilimabのエピトープとは異なるエピトープに結合する。
【0064】
抗体922:
Clostridium Difficile毒素と結合する対照抗体である。
【0065】
方法:
ヒトサンプル:
Friederich-Alexander-University Erlangen-Nuremberg and Royal Free Hospital Londonより入手した。
【0066】
血清、血漿及び尿サンプル中のTG2の評価:
LGCプロトコルを用いたMSD(登録商標)アッセイを使用した。プレート(plated)は、MSD SI600で測定した。
【0067】
組織サンプルの調製:
ホルマリン固定し、パラフィン包埋した皮膚サンプルを連続切片化し、SSc/線維症の程度とTG2を関連付けるために染色した。染色は、コラーゲン量、組織トランスグルタミナーゼ2型タンパク質の発現及び酵素活性によって測定されるSSc/線維症を評価するために行った。
【0068】
TG2抗原及び活性免疫組織化学:
TG2抗原及びイソペプチダーゼ活性(ISA)は、標準プロトコルに従って、肺組織の凍結スライス(採取時に30%スクロースで膨潤させ、その後スナップ凍結したもの)を免疫染色することにより検出した。
【0069】
TG2の発現:
組織学的検査では、経験豊富な科学者によって半定量的に(semi-quantitatively)スコア化され、ウェスタンブロットでは、濃度測定(densitometry)によって決定された。
【0070】
ウェスタンブロット:
ウェスタンブロットは標準プロトコルに従って実施した。膜は、TG2に対する抗体(1:100希釈)、β-アクチンに対する抗体(1:5000希釈)、α-SMAに対する抗体(71ng/mL)、コラーゲンI型/Col-1に対する抗体(0.4μg/mL)、又はGAPDHに対する抗体(0.2μg/mL)と一晩インキュベートした。その後、膜を二次抗体とともに室温で1時間インキュベートした。強化化学発光(ECL)を用いてブロットを明らかにした。成長因子処理では、細胞をTGFβ(4ng/ml)とインキュベートし、さらに24時間インキュベートした後、ウェスタンブロット分析用に溶解した。
【0071】
TG2 MSD:
患者血漿中のTG2は、標準プロトコルに従ってMSDアッセイで測定した。
【0072】
細胞外TG活性評価:
細胞を96ウェルプレートで7日間培養した。培地を1mMのカルシウムと100uMのビオチン-カダベリン(biotin-cadaverine)を含む培地に交換した。これを37度で1時間インキュベートした後、10mM EDTAで2回洗浄した。その後、細胞を50mmol/L TRIS中の0.25mol/L水酸化アンモニウム100μLで5分間溶解した。溶解した細胞をPBSで洗浄し、5%BSAで30分間ブロックした(blocked)。ブロッキング緩衝液(blocking buffer)を除去し、Streptavidin-HRPをRTで1時間添加した。その後、ウェルをPBSで3回洗浄した。100μLのTMB溶液を加え、5~10分間発色させた。50μLのストップ液を加え、450nmの吸光度を測定した。
【0073】
全層皮膚相当(Full thickness skin equivalent)(3D皮膚モデル):
線維芽細胞をコラーゲン中和液(DMEM、子牛胎児血清、HEPES及びコンドロイチン硫酸を含む)に懸濁し、I型ラットコラーゲンと混合した。この溶液をトランズウェル(transwell)に分注した。コラーゲンを重合させるために37℃で45分間インキュベートした後、DMEM-F12(熱不活性化ウシ胎児血清、ペニシリン/ストレプトマイシン、L-グルタミン及びアムホテリシンBをさらに含む)をコラーゲンマトリックスの上部の各トランズウェル内に加えた。翌日、ケラチノサイトを加えた。添加する前に、ケラチノサイトをアキュターゼ(Thermo Fisher Scientific)を用いて注意深く剥離し、遠心分離して、0.5.106ケラチノサイトをE2培地(Human Keratinocyte Growth Supplement、ペニシリン/ストレプトマイシン及びCaCl2を添加したEpiLife基礎培地)に再懸濁した。トランズウェルの培地もE2培地に交換した。翌日、培地をE3(2-ホスホ-L-アスコルビン酸三ナトリウム塩及びケラチノサイト増殖因子を添加したE2培地)に変更した。培地をトランズウェル上部から除去し、ケラチノサイト層を空気に曝露した。3日目以降、E3培地は1日おきに交換した。サンプルのサブセット(subset)では、培地交換ごとにTGFβ(10ng/mL)と抗体(BB7又は対照抗体、いずれも1000nM)を添加した。
【0074】
TGFβ1評価:
4人のdcSSC患者由来の細胞の初代培養を、1000nMのBB7又は対照IgGで処理しながら48時間培養した。その後培地を除去し、ミンク肺細胞バイオアッセイを用いて活性型TGFβ1のレベルを一晩測定した(標準プロトコルに従う)。
【0075】
スクラッチ創傷評価:
創傷閉鎖評価(wound closure assays)は、WTマウス又はTG2KOマウスの線維芽細胞の単層を傷つけ、滅菌したプラスチック製ピペットチップでコンフルエント(confluent)な細胞単層上に無細胞株を作製して実施した。その後、クリアリングスペース(clearing space)への細胞の移動を48時間モニターし、標準プロトコルに従って写真を撮った。細胞は、0.5%BSA(陰性対照、FBSなし)又は10%FBS(陽性対照)で、単独又は0.1% 2ng/ml TGFβ1とともに処理した。
【0076】
3Dコラーゲンマトリックス収縮:
24ウェル組織培養プレートは、ゲルがプラスチックに結合するのを防ぐため、滅菌した2%ウシ血清アルブミンをPBSに溶かしたもの(2ml/ウェル)でプレコートした(precoated)。ゲル収縮評価(Gel contraction assays)は、10%ウシ胎児血清(FBS)、1.0mg/mlウシI型コラーゲン、WT若しくはTG2KOマウスの線維芽細胞/周皮細胞8×104個を加えた2mlのDMEMを37℃で3時間ゲル化させた後、皿(dish)からゲルを放出して実施した。ゲルの収縮は、48時間を通してゲル重量の減少とゲル直径の減少によって定量化された。その後、ゲルを10%ウシ胎児血清(FCS)又は2ng/ml TGFβ1を含むDMEMで処理し、機械的張力が発現するように48時間維持した。収縮を開始させるために、滅菌ピペットチップを使って培養皿からゲルを静かに放出し、48時間を通して収縮をモニターした。
【0077】
統計分析:
統計学的有意差は、Microsoft Excel又はGraphPad Prism V8.43を用い、一元配置分散分析(one way ANOVA)又は対応のないスチューデントの両側検定(unpaired student two-tailed t-test)により算出した。p値<0.05を有意とした。
【0078】
実施例1-強皮症患者におけるTG2の発現:
この研究の目的は、コラーゲンの存在とTG2の発現が強皮症及びその重症度と相関しているかどうかを調べることであった。200人のSSc対象と26人の健康なボランティアの血清サンプルにおけるTG2の存在を評価した。TG2は、200人のSSc対象のうち29人、26人の健常人のうち2人でしか検出されなかった(
図1)。TG2陽性の対象とTG2陰性の対象とでは、疾患サブタイプ、抗体プロファイル、疾患期間、疾患活動性、臓器病変、潜在的疾患修飾性抗リウマチ薬による治療に関して差はなかった。
上記分析の血清サンプルに加え、76人のSSc対象と20人の健康なボランティアの血漿サンプル中のTG2の存在も評価した。これらのサンプルでは、SSc患者の血漿中のTG2が対照と比較して明らかに増加していた(
図2)。
その後、30人のSSc対象と20人の健康なボランティアの尿サンプルを分析し、TG2の存在を検出した。このタンパク質は、どのサンプルからも検出されなかった。
血清、血漿及び尿サンプルから明確な臨床的サブタイプが特定されなかったため、対象を含めるために、認知された臨床的表現型に従って対象を分類した:
・進行性/活動性の疾患、
・疾患が安定又は退行している対象、
・確立した疾患(すなわち>5年)を有する対象、
・新たに診断された疾患(<18ヵ月)を有する対象、
・主要な線維性内臓病変を伴う。
【0079】
染色には抗体IA12を使用した。経験豊富な研究者が盲検下で、染色がない場合を0点、中程度の染色を1点、強い染色を2点として切片を採点した。56人のSSc対象と13人の対照の皮膚切片を染色し、半定量的評価(semiquantitative evaluation)のために観察した(
図3A)。その結果、SScでは対照と比較して染色性(staining)が増加していることが強調された。びまん性皮膚SSc(dcSSc)は限局性皮膚SSc(lcSSc)と比較して、より強い染色性を示した。さらに、肺線維症を伴うSSc対象は、肺線維症を伴わないSSc対象よりも強い染色性を示した(
図3B)。炎症性浸潤におけるTG2染色プロファイルの上昇は、DcSScの非病変及び病変組織で顕著である(
図3A)。疾患期間、炎症サブタイプ、他臓器病変等の他の臨床的特徴は、TG2発現の変化とは関連しなかった。
【0080】
TG2が活性を持ち、抗体で標的になるためには、細胞外に存在する必要がある。これは、TG2(抗原)及びTG2 ISA(活性)に対する免疫蛍光を用いて評価することができる。18人の健常人の皮膚凍結切片を染色したところ、2人の対象で弱から中程度の染色がみられた以外は、TG2染色がないか、皮膚の表皮層に限定されたTG2染色がみられた(
図4)。これに対し、dcSSc及びILDに富むSSc対象からの14の凍結切片の染色では、表皮だけでなく真皮、特に乳頭状真皮にもTG2染色が認められた(データは示さず)。
【0081】
図5は、強皮症疾患スペクトラムにおけるTG2の発現パターンを比較することを目的とする。真皮線維芽細胞におけるTG2発現の上昇プロファイルは、DcSSc病変部、確立したSSc及び2つのタイプの強皮症(Morphea)の真皮で観察されたが、LcSSc及び非病変性DcSScでは発現レベルに変化はなかった(
図5C)。TG2の血管及び血管周囲の染色レベルは、確立したSScでわずかに増加した以外は、強皮症疾患のスペクトラムにわたって変化しなかった。LcSScサンプルではTG2血管染色レベルの減少が観察された(
図5D)。炎症性浸潤におけるTG2染色プロファイルの上昇は、DcSSc非病変及び病変組織、そして確立したSScで顕著である。しかし、LcSScの炎症性浸潤におけるTG2染色は変化していなかった(
図5B)。表皮層内のケラチノサイトにおけるTG2発現レベルは、健常対照(HC)と強皮症組織で均一に分布している。DcSScの非病変サンプルとLcSScでは、染色レベルのわずかな減少が認められた(
図5E)。TG2抗原は、SSc患者及び健常ボランティアの真皮及び肺線維芽細胞でウェスタンブロット法により測定された。
【0082】
実施例1の結論:
これらの結果は、TG2が強皮症の病変組織で高発現していること、また皮膚内でTG2が広く分布し、表皮の細胞、線維化した真皮細胞、線維芽細胞様細胞、炎症細胞を含む多くの細胞型と関連していること、さらに微小血管系とも密接に関連していることを示している。
【0083】
実施例2-ヒト初代細胞を用いた介入研究:
最初に、TG2抗原をdcSSc患者の真皮及び肺線維芽細胞並びにlcSSc患者の真皮線維芽細胞で評価したところ、健常対照の細胞と比較して患者細胞で上昇していることが示された(
図6)。TG2活性も評価され、SSc患者の線維芽細胞で上昇していることが示された。正常線維芽細胞におけるTG2活性は、BB7抗体処理によって低下することが示された(
図7)。
【0084】
次に、TG2活性を2番目の部位の培養ヒト真皮線維芽細胞で評価した。SSc線維芽細胞では、健常人の線維芽細胞と比較してTG2活性の上昇が検出された(
図8)。さらに、びまん性皮膚SSc対象は限局性皮膚SSc対照よりも高レベルを示した。
【0085】
数が少なすぎて正確な統計的評価はできなかったが、肺病変のある対象の線維芽細胞はTG2レベルが高い傾向があった(
図9)。SSc対象及び健常ボランティア由来の真皮線維芽細胞におけるTG2の総レベルをウェスタンブロットで定量した(
図10、
図19A)。TG2の総レベルは、SSc線維芽細胞において、マッチさせた健常人の線維芽細胞と比較して増加していた。TGFβ1で24時間前処理すると、健常ボランティアの真皮線維芽細胞ではTG2が増加し、SScの真皮細胞の一部でみられるのと同様のレベルになった(
図19B)。
【0086】
さらに、阻害性TG2抗体BB7の阻害活性を、TG2活性の高い6つの真皮線維芽細胞株で検証した。以下の抗体濃度:1000、750、500、250、100、50、25、10、5nMでTG2阻害抗体の用量反応を実施し、6つの線維芽細胞株におけるTG2活性に対する抗体の効果を評価した。
図11に示すように、BB7では用量依存的なTG2活性の低下が観察されたが、対照抗体922では観察されなかった。TGFβ及び抗TG2抗体BB7を250及び1000nMの濃度でインキュベートした線維芽細胞株における平均マトリックス沈着(コラーゲンI/III及びフィブロネクチン)の比較では、5つの異なる株において、対照抗体と同濃度でインキュベートした細胞と一定の統計的な差は認められなかった(
図12)。対照IgGをインキュベートしたいくつかの線維芽細胞株は、特に1000nMの用量で、フィブロネクチン及びコラーゲンI/IIIの沈着に対して穏やかな阻害効果を示したことは注目に値する。
【0087】
個々の線維芽細胞「株」の解析から、TG2阻害はフィブロネクチン及びコラーゲンI/IIIの沈着を強く減少させることが示された(
図14)。コラーゲン2,4,5及び6については、同濃度の抗TG2抗体及び対照抗体との間に差は認められなかった(データは示さず)。
【0088】
最も抗TG2反応性の高い細胞株を、用量滴定試験、リン酸化SMAD 2/3の変化並びにSMA、コラーゲン1及びCTGFの細胞産生の測定に使用した(
図14-15)。抗TG2抗体でインキュベートした線維芽細胞株では、対照抗体と比較してpSMAD2/3のレベルに差は検出されなかった(
図15C)。TG2阻害は、pSMAD2/3の基底レベルを減少させることも、TGFβ1によって誘導されたpSMAD2/3の蓄積を減少させることもなかった(
図15C)。さらに、抗TG2抗体でインキュベートした線維芽細胞では、対照抗体と比較してCTGF mRNAの減少は検出されなかった(
図15B)。しかしながら、対照抗体ではCTGF mRNAの穏やかなダウンレギュレーションが観察された。CTGF mRNAの結果と同様に、COL1A1 mRNA及びACTA2 mRNAのレベルも、対照抗体と比較して、抗TG2抗体でインキュベートした線維芽細胞間で差がなかった(
図15A)。CTGFに関しては、対照抗体はCOL1A1及びACTA2のmRNAを軽度減少させた。
【0089】
mRNAレベルでは強い効果は観察されなかったが、
図15Dで強調した結果は、BB7で処理することにより、強皮症線維芽細胞によるCol-1、α-SMA及びCTGFタンパク質の発現が劇的かつ有意に減少したことを示している。強皮症由来の線維芽細胞における3つのマーカーのタンパク質発現レベルは、BB7非存在時の70~90%に低下していることがわかった。BB7で処理すると、真皮線維芽細胞をTGFβ1で培養した場合にも、Col-1及びα-SMAの発現が減少した(
図20)。この減少は、汎TGFβ1阻害抗体(pan TGFβ1 blocking antibody)及びALK5の低分子阻害剤と同様であった。この減少は、健常対照(NF)から得た線維芽細胞でも、強皮症線維芽細胞でも明らかであった。健常対照線維芽細胞と比較して、強皮症線維芽細胞はTGFβ1を添加しなくてもCol-1及びα-SMAの顕著な基底レベルを示した(
図20B)。IgG対照で処理しても、対照及び強皮症線維芽細胞には影響を与えなかった。
【0090】
これらの驚くべき発見は、TG2活性を阻害することによって、TGFβ1が駆動するSMADシグナル伝達が変化することを示していた。これを確認するため、BB7に暴露した細胞の培地中の活性TGFβ1のレベルを、ミンク肺バイオアッセイ(mink lung bioassay)を用いて測定したところ、>80%減少していることが示された(
図21)。
【0091】
個々のECM成分は免疫蛍光法で染色し、自動画像解析で定量化した。フィブロネクチン、コラーゲン1及び2(一緒に分析)、コラーゲンIVはすべて、SSc線維芽細胞にBB7を適用すると減少したが、健常線維芽細胞では減少しなかった(
図16)。
【0092】
実験は、皮膚複合モデルで再現した。このようなモデル化には、TG2が重要な役割を果たすと思われる、特定された臨床表現型からの初代培養液を使用した。このいわゆる全層皮膚モデル(full-thickness skin model)では、線維芽細胞は通常、3次元コラーゲンマトリックス中で増殖する。真皮様部分には、表皮ケラチノサイトが重なり、分化と極性化が誘導され、1週間以内に、機能的な基底膜によって真皮から分離された、完全に極性化した表皮が形成される。SSc線維芽細胞だけでなく、健常人の線維芽細胞も使用できる。皮膚における2つの主要な細胞集団間のクロストーク(crosstalk)を研究する機会以外に、このモデルの大きな利点は、従来の培養皿の硬いプラスチック表面によって線維芽細胞がそれ自体あらかじめ活性化されないことである。
【0093】
架橋酵素としてのTG2の作用様式を考え、この作用様式は、硬いプラスチック表面上での線維芽細胞の標準的な2D培養よりも、皮膚における線維芽細胞の生理学的環境によく似た3D培養環境において、より適切であるかもしれないという仮説を立てた。4つの異なる線維芽細胞「株」を試験した。線維芽細胞「株」を2Dで予備試験し、TG2阻害に対して少なくとも軽度の反応を示した株のみを、全層皮膚モデルでのさらなる検証のために選択した。これらの4つの「株」には、軽度から中等度の反応を示した上記の2つの線維芽細胞「株」と、別の6つのSSc「株」のスクリーニングによって同定された2つの「株」が含まれる(スクリーニングされた11株中4株)。抗TG2抗体(1000nM)の存在下では、有意な抗線維化作用が観察され、TGFβ1誘導性のゲル肥厚、真皮肥厚、筋線維芽細胞数、コラーゲンI沈着が、未処理の皮膚等価物と比較して、また1000nMの対照抗体でインキュベートした皮膚等価物と比較して、統計学的に有意に減少した(
図17)。この実験環境では、対照抗体の穏やかな効果も観察された。
【0094】
実施例2の結論:
TG2阻害のターゲットは、従来の2D培養系及び全層3D皮膚モデルにおけるSSc線維芽細胞「株」のサブセットにおけるECM沈着に関して有望であることがわかった。その効果は、全層皮膚モデルにおいてより顕著であったことから、TG2阻害の治療可能性を評価するためには、標準的な細胞培養アプローチが最適ではない可能性が示された。これらの抗線維化作用は、TGFβ1/SMADシグナルとは無関係のようである。
【0095】
実施例3-TG2ノックアウトによる皮膚線維症モデルの保護:
真皮線維症の発症に対するTG2欠失の影響を調べるため、グローバル(global)TG2 KOマウスで、ブレオマイシン誘発皮膚リモデリングの程度を調べた。この目的のために、野生型(WT)又はトランスグルタミナーゼ2ノックアウト(TG2KO)マウスに、生理食塩水(対照)又は2U/mLのブレオマイシン(Bleo)50μLを背中の1cm×1cmの皮膚パッチに1日おきに28日間皮内注射した。28日後、動物は飼育を中止し、組織学、コラーゲンアッセイ、TG2架橋定量化のために皮膚を採取した。
【0096】
皮膚の切片をマッソン三色染色(Masson’s Trichrome)とピクロシリウス・レッド染色し、それぞれECM及びコラーゲンを可視化した。その後、真皮の厚さを測定し、断面全体で3回の平均値をとった。ピクロシリウス・レッドで染色した切片を偏光下に置き、コラーゲンの厚みを可視化した。
【0097】
WT動物-TG2が正常レベルの動物は、ブレオマイシン傷害に反応して皮膚の厚みが有意に増加した(コラーゲン染色で表される)(
図18)。これに対し、TG2欠損マウス(TG2 null mouse)の線維化反応は明らかに減弱しており、生理食塩水又はブレオマイシンで処理したTG2欠損マウスの間で、真皮コラーゲン量に有意差や変化は認められなかった。皮膚の厚さの所見は、ブレオマイシン傷害に対する真皮コラーゲン量の測定によって確認した(
図23)。ブレオマイシンを注射したWTマウスは、生理食塩水を注射したWTマウス及びTG2KOマウス、ブレオマイシンを注射したWTマウスと比較して、真皮コラーゲンの増加が有意に高かった。
【0098】
偏光下で見ると、太いコラーゲン線維は赤く見え、次第に細くなり、オレンジ、黄色、そして最も細いコラーゲン線維は緑色に見える。コラーゲン繊維の太さの分布率を計算した(
図22)。WTの皮膚は赤色及びオレンジ色が優勢に見えたが、これは太いコラーゲン線維の割合が高かったことを意味する。TG2KOマウスの皮膚は緑色と黄色が優勢で、これは細いコラーゲン線維の割合が高いことを意味する。この観察は走査型電子顕微鏡で確認され、WTの皮膚に最もよく見られる太い「明るい」コラーゲン線維は、TG2KOマウスでは全く見られない(データは示さず)。TG2KOマウスにブレオマイシンを投与すると、ブレオマイシンを投与したWTマウスに見られるような真皮の変化は見られなかった。
【0099】
TG2欠失の影響は、線維芽細胞の遊走とTGFβ1に対する反応を調べるために、スクラッチ試験を使用して機能的にも調べた(
図24)。線維芽細胞単層への傷害の後、WT線維芽細胞は傷の隙間に移動し、6時間後からスクラッチ傷を修復し始め、48時間後にはかなりの数の細胞が傷の部位に存在することが観察された。同じ48時間の間に、創傷部位に入り込んだTG2KO線維芽細胞はわずかであった。TGFβ1の添加はTG2KO線維芽細胞の遊走に影響を与えなかった。TG2KO細胞をin vitroで培養すると、WT細胞よりも遊走能の低下を示した。
【0100】
真皮のWT及びTG2KO線維芽細胞集団の収縮能力を、3D I型コラーゲンゲル収縮アッセイを用いて調べた(
図25)。TGFβ1は、線維芽細胞を刺激して弛緩したコラーゲンゲルを収縮させるが、このプロセスは、遊走する細胞の牽引力と収縮性線維芽細胞(筋線維芽細胞)への分化に依存している。WT群はTG2KO群に比べ、担体単独でインキュベートした場合に有意に収縮した(P<0.0001)。TGFβ1存在下でインキュベートしたTG2KO細胞のゲル収縮は、担体のみでインキュベートしたTG2KO細胞の収縮よりも有意に大きかった(P<0.0001)。このことは、TG2遺伝子のノックアウトがゲルの収縮に大きく影響したことを示しており、細胞の遊走及び分化が損なわれていることが確認され、外因性TGFβ1を添加することにより、線維芽細胞の遊走機能が回復し、収縮促進作用が回復したことを示している。
【0101】
線維芽細胞によるTG2発現の欠損は、細胞遊走やTG2欠損細胞のI型コラーゲン3Dマトリックスのリモデリング能力への影響によって示されるように、瘢痕形成や線維化に重要ないくつかの機能障害をもたらした。スクラッチ創傷後のこれらの線維芽細胞の遊走が有意に減少し、コラーゲンゲルを効果的に収縮させることができないことから、細胞の接着、付着及び運動性に変化が生じ、線維芽細胞が活性化された収縮性筋線維芽細胞への遊走に障害があることが示唆される。これらの驚くべき発見は、線維形成及び強皮症におけるTG2の役割についての理解を深めるものである。
【0102】
全体的な結論:
これらの研究は、TG2発現と皮膚線維症との関連性を示す良い証拠となり、また、関連する潜在的な分子メカニズムについてもある程度の洞察を与えるものである。これらのことから、結合組織線維症の有効な治療法として、本明細書で示したような抗TG2抗体等によるTG2阻害が有望であることが示唆される。このデータは、TG2と線維化病態との関連を支持する証拠を追加するものであり、強皮症の組織線維化を促進するTG2の潜在的役割についてさらなる手がかりを与えるものである。
【0103】
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