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特表2024-540615エフリンA型受容体10に単一又は多重特異的な抗体、それを発現するキメラ抗原受容体T細胞及びその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-31
(54)【発明の名称】エフリンA型受容体10に単一又は多重特異的な抗体、それを発現するキメラ抗原受容体T細胞及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/30 20060101AFI20241024BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20241024BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20241024BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20241024BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20241024BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20241024BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20241024BHJP
   C12N 5/078 20100101ALI20241024BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20241024BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20241024BHJP
   A61K 35/545 20150101ALI20241024BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241024BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
C07K16/30 ZNA
C07K16/46
C07K16/28
C12N15/62 Z
C12N15/13
C12N5/0783
C12N5/10
C12N5/078
A61K39/395 N
A61K35/17
A61K35/545
A61P35/00
G01N33/53 D
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024529988
(86)(22)【出願日】2022-11-22
(85)【翻訳文提出日】2024-07-19
(86)【国際出願番号】 CN2022133445
(87)【国際公開番号】W WO2023088482
(87)【国際公開日】2023-05-25
(31)【優先権主張番号】63/264,378
(32)【優先日】2021-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517423730
【氏名又は名称】チャイナ メディカル ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジェン,ロン-ビン
(72)【発明者】
【氏名】リュー,シ-ピン
(72)【発明者】
【氏名】ワン,チェ-ホン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C085
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA92Y
4B065AA94X
4B065AA94Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4B065CA46
4C085AA14
4C085BB11
4C085CC03
4C085DD62
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB65
4C087CA04
4C087NA14
4C087ZB26
4H045AA11
4H045AA30
4H045DA76
4H045EA28
4H045FA74
(57)【要約】
エフリンA型受容体10(EphA10)に単一又は多重特異的な抗体又はその抗原結合断片に関する。医薬組成物、必要とする対象におけるEphA10によって引き起こされる疾患及び/又は障害を処置及び/又は予防する方法、及び試料中のEphA10を検出する方法にも関する。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エフリンA型受容体10A10(EphA10)におけるエピトープに特異的な抗体又はその抗原結合断片であって;抗体又はその抗原結合断片が、重鎖可変領域の相補性決定領域(CDR)及び軽鎖可変領域の相補性決定領域を含み、重鎖可変領域の相補性決定領域が、CDRH1、CDRH2及びCDRH3領域を含み、軽鎖可変領域の相補性決定領域が、CDRL1、CDRL2及びCDRL3領域を含み、且つ
CDRH1領域が、配列番号1のアミノ酸配列又はその実質的に類似した配列を含み;CDRH2領域が、配列番号2のアミノ酸配列又はその実質的に類似した配列を含み;CDRH3領域が、配列番号3のアミノ酸配列又はその実質的に類似した配列を含み;且つ
CDRL1領域が、配列番号4のアミノ酸配列又はその実質的に類似した配列を含み;CDRL2領域が、配列番号5のアミノ酸配列又はその実質的に類似した配列を含み;CDRL3領域が、配列番号6のアミノ酸配列又はその実質的に類似した配列を含む、抗体又はその抗原結合断片。
【請求項2】
抗体又はその抗原結合断片が、配列番号7のアミノ酸配列又はその実質的に類似した配列を含む重鎖可変領域;及び配列番号8のアミノ酸配列又はその実質的に類似した配列を含む軽鎖可変領域を含む、請求項1に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項3】
抗体が、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、又はナノボディである、請求項1に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項4】
治療剤とコンジュゲートしている、請求項1に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項5】
治療剤が、代謝拮抗物質、アルキル化剤、アルキル化様作用剤、DNA副溝アルキル化剤、アントラサイクリン、抗生物質、カリケアマイシン、抗有糸分裂剤、トポイソメラーゼ阻害剤、HDAC阻害剤、プロテアソーム阻害剤、及び放射性同位体からなる群から選択される、請求項4に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項6】
細胞の表面上に発現している、請求項1に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項7】
細胞が免疫細胞又は幹細胞である、請求項6に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項8】
細胞がT細胞である、請求項6に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項9】
細胞が誘導多能性幹細胞である、請求項6に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項10】
請求項1に記載の抗体又はその抗原結合断片を含む第1の抗原結合部分;及び
少なくとも1つの第2の抗原結合部分
を含む、多重特異性抗体又はその抗原結合断片。
【請求項11】
第2の抗原結合部分が、CD3におけるエピトープに特異的な抗体又はその抗原結合断片を含む抗CD3部分、又はCD16におけるエピトープに特異的な抗体又はその抗原結合断片を含む抗CD16部分である、請求項10に記載の多重特異性抗体又はその抗原結合断片。
【請求項12】
第1の抗原結合部分及び抗CD3部分;
第1の抗原結合部分及び抗CD16部分;又は
第1の抗原結合部分、抗CD3部分及び抗CD16部分
を含む、請求項11に記載の多重特異性抗体又はその抗原結合断片。
【請求項13】
N末端からC末端へ、[第1の抗原結合部分]-[抗CD3部分]、[抗CD3部分]-[第1の抗原結合部分]、[第1の抗原結合部分]-[抗CD16部分]、[抗CD16部分]-[第1の抗原結合部分]、[第1の抗原結合部分]-[抗CD3部分]-[抗CD16部分]、[第1の抗原結合部分]-[抗CD16部分]-[抗CD3部分]、[抗CD3部分]-[第1の抗原結合部分]-[抗CD16部分]、[抗CD3部分]-[抗CD16部分]-[第1の抗原結合部分]、[抗CD16部分]-[抗CD3部分]-[第1の抗原結合部分]、又は[抗CD16部分]-[第1の抗原結合部分]-[抗CD3部分]の配置である、請求項12に記載の多重特異性抗体又はその抗原結合断片。
【請求項14】
第1の抗原結合部分及び第2の抗原結合部分の任意の2つの間に位置するリンカーをさらに含む、請求項10に記載の多重特異性抗体又はその抗原結合断片。
【請求項15】
分泌シグナルペプチドをさらに含む、請求項10に記載の多重特異性抗体又はその抗原結合断片。
【請求項16】
タンパク質精製タグをさらに含む、請求項10に記載の多重特異性抗体又はその抗原結合断片。
【請求項17】
治療剤とコンジュゲートしている、請求項10に記載の多重特異性抗体又はその抗原結合断片。
【請求項18】
治療剤が、代謝拮抗物質、アルキル化剤、アルキル化様作用剤、DNA副溝アルキル化剤、アントラサイクリン、抗生物質、カリケアマイシン、抗有糸分裂剤、トポイソメラーゼ阻害剤、HDAC阻害剤、プロテアソーム阻害剤、及び放射性同位体からなる群から選択される、請求項17に記載の多重特異性抗体又はその抗原結合断片。
【請求項19】
細胞の表面上に発現している、請求項10に記載の多重特異性抗体又はその抗原結合断片。
【請求項20】
細胞が免疫細胞又は幹細胞である、請求項10に記載の多重特異性抗体又はその抗原結合断片。
【請求項21】
細胞がT細胞である、請求項10に記載の多重特異性抗体又はその抗原結合断片。
【請求項22】
細胞が誘導多能性幹細胞である、請求項10に記載の多重特異性抗体又はその抗原結合断片。
【請求項23】
請求項1に記載の抗体又はその抗原結合断片をコードする、ベクター。
【請求項24】
請求項10に記載の多重特異性抗体又はその抗原結合断片をコードする、ベクター。
【請求項25】
請求項1に記載の抗体又はその抗原結合断片を発現する、遺伝子操作された細胞。
【請求項26】
免疫細胞又は幹細胞である、請求項25に記載の遺伝子操作された細胞。
【請求項27】
T細胞である、請求項25に記載の遺伝子操作された細胞。
【請求項28】
誘導多能性幹細胞である、請求項25に記載の遺伝子操作された細胞。
【請求項29】
請求項10に記載の多重特異性抗体又はその抗原結合断片を発現する、遺伝子操作された細胞。
【請求項30】
免疫細胞又は幹細胞である、請求項29に記載の遺伝子操作された細胞。
【請求項31】
T細胞である、請求項29に記載の遺伝子操作された細胞。
【請求項32】
誘導多能性幹細胞である、請求項29に記載の遺伝子操作された細胞。
【請求項33】
請求項25に記載の遺伝子操作された細胞から分化した、免疫細胞。
【請求項34】
請求項29に記載の遺伝子操作された細胞から分化した、免疫細胞。
【請求項35】
有効量の、請求項1~9のいずれか一項に記載の抗体若しくはその抗原結合断片、請求項10に記載の多重特異性抗体若しくはその抗原結合断片、請求項25に記載の遺伝子操作された細胞、請求項29に記載の遺伝子操作された細胞、請求項33に記載の免疫細胞又は請求項34に記載の免疫細胞を含む、医薬組成物。
【請求項36】
有効量の、請求項1~9のいずれか一項に記載の抗体若しくはその抗原結合断片、請求項10に記載の多重特異性抗体若しくはその抗原結合断片、請求項25に記載の遺伝子操作された細胞、請求項29に記載の遺伝子操作された細胞、請求項33に記載の免疫細胞又は請求項34に記載の免疫細胞を含む、必要とする対象におけるEphA10媒介シグナル伝達の阻害に使用するための医薬組成物。
【請求項37】
有効量の、請求項1~9のいずれか一項に記載の抗体若しくはその抗原結合断片、請求項10に記載の多重特異性抗体若しくはその抗原結合断片、請求項25に記載の遺伝子操作された細胞、請求項29に記載の遺伝子操作された細胞、請求項33に記載の免疫細胞又は請求項34に記載の免疫細胞を含む、EphA10活性及び/又はシグナル伝達によって引き起こされる又はそれに関連する疾患及び/又は障害に罹患している対象における該疾患及び/又は障害の処置、予防的処置及び/又は予防に使用するための医薬組成物。
【請求項38】
有効量の、請求項1~9のいずれか一項に記載の抗体若しくはその抗原結合断片、請求項10に記載の多重特異性抗体若しくはその抗原結合断片、請求項25に記載の遺伝子操作された細胞、請求項29に記載の遺伝子操作された細胞、請求項33に記載の免疫細胞又は請求項34に記載の免疫細胞を含む、腫瘍に罹患している対象における腫瘍の処置、予防的処置及び/又は予防に使用するための医薬組成物。
【請求項39】
腫瘍が固形腫瘍である、請求項38に記載の医薬組成物。
【請求項40】
腫瘍が、腎細胞がん、膵臓がん、乳がん、頭頸部がん、前立腺がん、悪性神経膠腫、骨肉腫、結腸直腸がん、胃がん、悪性中皮腫、多発性骨髄腫、卵巣がん、小細胞肺がん、非小細胞肺がん、滑膜肉腫、甲状腺がん、又は黒色腫からなる群から選択される、請求項39に記載の医薬組成物。
【請求項41】
試料を、請求項1~9のいずれか一項に記載の抗体又はその抗原結合断片と接触させるステップを含む、試料中のEphA10を検出する方法。
【請求項42】
有効量の、請求項1~9のいずれか一項に記載の抗体若しくはその抗原結合断片、請求項10に記載の多重特異性抗体若しくはその抗原結合断片、請求項25に記載の遺伝子操作された細胞、請求項29に記載の遺伝子操作された細胞、請求項33に記載の免疫細胞又は請求項34に記載の免疫細胞を含む、必要とする対象におけるEphA10の中和に使用するための医薬組成物。
【請求項43】
試料中のEphA10を検出するためのキットであって、請求項1~9のいずれか一項に記載の抗体若しくはその抗原結合断片又は請求項10に記載の多重特異性抗体若しくはその抗原結合断片を含む、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エフリンA型受容体10(EphA10)に特異的な抗体又はその抗原結合断片、それを発現するキメラ抗原受容体T細胞及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
固形悪性腫瘍及び血液悪性腫瘍を含むヒト疾患の処置のための治療用モノクローナル抗体の利用は、十分に検証され、確立されている。治療適用に特に有用なのは、その低下した免疫学的副作用に起因して、キメラ又はヒト化モノクローナル抗体である。がん処置のために開発された様々な免疫療法の中で、キメラ抗原受容体(CAR)T細胞療法は、強力な戦略と見なされている。一般に、CAR T細胞療法は、腫瘍特異的CARを発現させるための患者のT細胞の遺伝子改変、ex vivo細胞増殖、及び患者へ戻す再注入によって実施される。急性リンパ球性白血病における臨床試験では最大92%の完全回復率が達成されるが、CAR T細胞療法の臨床経験は、例えばCAR-T細胞の増殖及び腫瘍特異的抗原の選択などのいくつかの課題によって依然として限定されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって、がんを処置するための新規アプローチを開発する必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本開示は、新規がん抗原受容体及びその使用を提供する。
【0005】
したがって、本開示は、EphA10のエピトープに特異的な抗体又はその抗原結合断片を提供する。したがって、本開示による抗体は、EphA10活性及び/又はシグナル伝達によって引き起こされる又はそれに関連する疾患及び/又は障害を処置及び/又は予防するのに有用である。本開示の抗体は、EphA10を検出するのにも有用である。
【0006】
いくつかの実施形態では、本開示は、EphA10におけるエピトープに特異的な抗体又はその抗原結合断片であって;抗体又はその抗原結合断片が、重鎖可変領域の相補性決定領域(CDR)及び軽鎖可変領域の相補性決定領域を含み、重鎖可変領域の相補性決定領域が、CDRH1、CDRH2及びCDRH3領域を含み、軽鎖可変領域の相補性決定領域が、CDRL1、CDRL2及びCDRL3領域を含み、且つ
CDRH1領域が、配列番号1のアミノ酸配列又はその実質的に類似した配列を含み;CDRH2領域が、配列番号2のアミノ酸配列又はその実質的に類似した配列を含み;CDRH3領域が、配列番号3のアミノ酸又はその実質的に類似した配列を含み;且つ
CDRL1領域が、配列番号4のアミノ酸配列又はその実質的に類似した配列を含み;CDRL2領域が、配列番号5のアミノ酸配列又はその実質的に類似した配列を含み;CDRL3領域が、配列番号6のアミノ酸配列又はその実質的に類似した配列を含む、抗体又はその抗原結合断片を提供する。
【0007】
いくつかの実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、配列番号7のアミノ酸配列又はその実質的に類似した配列を含む重鎖可変領域;及び配列番号8のアミノ酸配列又はその実質的に類似した配列を含む軽鎖可変領域を含む。
【0008】
いくつかの実施形態では、抗体は、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、又はナノボディである。
【0009】
いくつかの実施形態では、本開示は、
本明細書に開示される抗EphA10抗体又はその抗原結合断片を含む第1の抗原結合部分;及び
少なくとも1つの第2の抗原結合部分
を含む、多重特異性抗体又はその抗原結合断片を提供する。
【0010】
いくつかの実施形態では、第2の抗原結合部分は、CD3におけるエピトープに特異的な抗体又はその抗原結合断片を含む抗CD3部分、又はCD16におけるエピトープに特異的な抗体又はその抗原結合断片を含む抗CD16部分である。
【0011】
いくつかの実施形態では、多重特異性抗体又はその抗原結合断片は、
第1の抗原結合部分及び抗CD3部分;
第1の抗原結合部分及び抗CD16部分;又は
第1の抗原結合部分、抗CD3部分及び抗CD16部分
を含む。
【0012】
いくつかの実施形態では、多重特異性抗体又はその抗原結合断片は、N末端からC末端へ、[第1の抗原結合部分]-[抗CD3部分]、[抗CD3部分]-[第1の抗原結合部分]、[第1の抗原結合部分]-[抗CD16部分]、[抗CD16部分]-[第1の抗原結合部分]、[第1の抗原結合部分]-[抗CD3部分]-[抗CD16部分]、[第1の抗原結合部分]-[抗CD16部分]-[抗CD3部分]、[抗CD3部分]-[第1の抗原結合部分]-[抗CD16部分]、[抗CD3部分]-[抗CD16部分]-[第1の抗原結合部分]、[抗CD16部分]-[抗CD3部分]-[第1の抗原結合部分]、又は[抗CD16部分]-[第1の抗原結合部分]-[抗CD3部分]の配置である。
【0013】
いくつかの実施形態では、多重特異性抗体又はその抗原結合断片は、第1の抗原結合部分及び第2の抗原結合部分の任意の2つの間に位置するリンカーをさらに含む。
【0014】
いくつかの実施形態では、多重特異性抗体又はその抗原結合断片は、分泌シグナルペプチドをさらに含む。
【0015】
いくつかの実施形態では、多重特異性抗体又はその抗原結合断片は、タンパク質精製タグをさらに含む。
【0016】
本開示のいくつかの実施形態では、抗体若しくはその抗原結合断片又は多重特異性抗体若しくはその抗原結合断片は、治療剤とコンジュゲートしている。治療剤の例としては、以下に限定されないが、代謝拮抗物質、アルキル化剤、アルキル化様作用剤、DNA副溝アルキル化剤、アントラサイクリン、抗生物質、カリケアマイシン、抗有糸分裂剤、トポイソメラーゼ阻害剤、HDAC阻害剤、プロテアソーム阻害剤、及び放射性同位体が挙げられる。
【0017】
本開示のいくつかの実施形態では、抗体若しくはその抗原結合断片又は多重特異性抗体若しくはその抗原結合断片は、細胞の表面上に発現している。細胞は免疫細胞又は幹細胞であり得る。本開示の一実施形態では、免疫細胞はT細胞である。別の態様では、幹細胞は誘導多能性幹細胞であり得る。
【0018】
本開示はまた、抗体若しくはその抗原結合断片又は多重特異性抗体若しくはその抗原結合断片をコードする、ベクターを提供する。
【0019】
別の態様では、本開示は、抗体若しくはその抗原結合断片又は多重特異性抗体若しくはその抗原結合断片を発現する、又はベクターを含有する、遺伝子操作された細胞を提供する。遺伝子操作された細胞は、免疫細胞又は幹細胞であり得る。また、本開示は、遺伝子操作された細胞から分化した、免疫細胞を提供する。
【0020】
本開示は、有効量の抗体若しくはその抗原結合断片、多重特異性抗体若しくはその抗原結合断片、遺伝子操作された細胞又は免疫細胞を含む、医薬組成物を提供する。
【0021】
本開示は、医薬組成物を対象に投与するステップを含む、必要とする対象におけるEphA10媒介シグナル伝達を阻害する方法を提供する。あるいは、本開示は、有効量の、本明細書に開示される抗体若しくはその抗原結合断片、多重特異性抗体若しくはその抗原結合断片、遺伝子操作された細胞又は免疫細胞を含む、必要とする対象におけるEphA10媒介シグナル伝達の阻害に使用するための医薬組成物を提供する。
【0022】
本開示はまた、医薬組成物を対象に投与するステップを含む、EphA10活性及び/又はシグナル伝達によって引き起こされる又はそれに関連する疾患及び/又は障害に罹患している対象における該疾患及び/又は障害を処置する、予防的に処置する及び/又は予防する方法を提供する。あるいは、本開示は、有効量の、本明細書に開示される抗体若しくはその抗原結合断片、多重特異性抗体若しくはその抗原結合断片、遺伝子操作された細胞又は免疫細胞を含む、EphA10活性及び/又はシグナル伝達によって引き起こされる又はそれに関連する疾患及び/又は障害に罹患している対象における該疾患及び/又は障害の処置、予防的処置及び/又は予防に使用するための医薬組成物を提供する。
【0023】
本開示はさらにまた、医薬組成物を対象に投与するステップを含む、腫瘍に罹患している対象における腫瘍を処置する、予防的に処置する及び/又は予防する方法を提供する。本開示のいくつかの実施形態では、腫瘍は固形腫瘍である。腫瘍の例としては、以下に限定されないが、腎細胞がん、膵臓がん、乳がん、頭頸部がん、前立腺がん、悪性神経膠腫、骨肉腫、結腸直腸がん、胃がん、悪性中皮腫、多発性骨髄腫、卵巣がん、小細胞肺がん、非小細胞肺がん、滑膜肉腫、甲状腺がん、又は黒色腫が挙げられる。あるいは、本開示は、有効量の、本明細書に開示される抗体若しくはその抗原結合断片、多重特異性抗体若しくはその抗原結合断片、遺伝子操作された細胞又は免疫細胞を含む、腫瘍に罹患している対象における腫瘍の処置、予防的処置及び/又は予防に使用するための医薬組成物を提供する。
【0024】
本開示は、試料を抗体又はその抗原結合断片と接触させるステップを含む、試料中のEphA10を検出する方法を提供する。
【0025】
本開示は、抗体又はその抗原結合断片を対象に投与するステップを含む、必要とする対象におけるEphA10を中和する方法を提供する。あるいは、本開示は、有効量の、本明細書に開示される抗体若しくはその抗原結合断片、多重特異性抗体若しくはその抗原結合断片、遺伝子操作された細胞又は免疫細胞を含む、必要とする対象におけるEphA10の中和に使用するための医薬組成物を提供する。
【0026】
本開示は、試料中のEphA10を検出するためのキットであって、抗体若しくはその抗原結合断片又は多重特異性抗体若しくはその抗原結合断片を含む、キットを提供する。
【0027】
本開示は、以下のセクションで詳細に説明される。本開示の他の特徴、目的及び利点は、詳細な説明及び特許請求の範囲に見出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1は、抗EphA10抗体CMU#5の結合特異性アッセイの結果を示す。
図2図2は、抗EphA10抗体CMU#5の結合親和性アッセイの結果を示す。
図3図3は、乳がん細胞に対するEphA10 TriNTEのその細胞毒性効果を示す。
図4図4は、乳がん細胞に対するEphA10 BiTEのその細胞毒性効果を示す。
図5図5は、乳がん細胞に対するEphA10 BiKEのその細胞毒性効果を示す。
図6図6は、T細胞又はNK細胞活性化に対するEphA10 TriNTEの効果を示す。
図7図7は、動物モデルにおけるがん阻害に対するEphA10 TriNTEの効果を示す。
図8図8は、T細胞、NK細胞、BT-549細胞及びEphA10 TriNTEを共培養する免疫染色の結果を示す。
図9図9は、抗EphA10 CAR-T細胞の細胞毒性効果の増加が、抗EphA10 CAR T細胞を乳がん細胞と共培養することによって検証されたことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、本明細書に記載される特定の材料及び方法に限定されないことが理解される。本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明することを目的としており、本発明の範囲を限定することは意図されず、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されることも理解されるべきである。
【0030】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、内容が明確に別段の指示をしない限り、複数の指示対象を含むことに留意されたい。
【0031】
用語「抗体」は、本明細書で使用される場合、特定の抗原(EphA10)と特異的に結合又は相互作用する少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含む任意の抗原結合分子又は分子複合体を意味する。用語「抗体」は、ジスルフィド結合によって相互接続された4つのポリペプチド鎖である2つの重(H)鎖及び2つの軽(L)鎖を含む免疫グロブリン分子、並びにその多量体(例えば、IgM)を含む。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではHCVR又はVHと略す)及び重鎖定常領域を含む。重鎖定常領域は、3つのドメインであるCH1、CH2及びCH3を含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではLCVR又はVLと略す)及び軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域は、1つのドメイン(CL1)を含む。VH領域及びVL領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる、より保存された領域が差し挟まれた、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変性の領域にさらに細分することができる。各VH及びVLは、3つのCDR及び4つのFRで構成され、アミノ末端からカルボキシ末端へ以下の順序:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4で配置される。本開示の異なる実施形態では、抗EphA10抗体(又はその抗原結合部分)のFRは、ヒト生殖系列配列と同一であってもよく、又は天然に若しくは人工的に改変されていてもよい。アミノ酸コンセンサス配列は、2つ以上のCDRの並列分析に基づいて定義され得る。
【0032】
本明細書で使用される場合、用語「~に特異的である」とは、抗体が他のエピトープと著しい程度まで交差反応しないことを意味する。
【0033】
本明細書で使用される場合、用語「エピトープ」は、抗体が結合する抗原上の部位をいう。
【0034】
本明細書で使用される場合、用語「相補性決定領域」(CDR)は、重鎖ポリペプチド及び軽鎖ポリペプチドの両方の可変領域内に見出される不連続な抗原結合部位をいう。CDRは、Kabat et al., J. Biol. Chem. 252:6609-6616 (1977); Kabat et al., U.S. Dept. of Health and Human Services, "Sequences of proteins of immunological interest" (1991); Chothia et al., J. Mol. Biol. 196:901-917 (1987);及びMacCallum et al., J. Mol. Biol. 262:732-745 (1996)によって記載されており、定義は、相互に比較した場合のアミノ酸残基の重複又はサブセットを含む。
【0035】
ポリペプチドに適用される場合、用語「実質的な類似性」又は「実質的に類似した」は、2つのペプチド配列が、例えばデフォルトのギャップウェイトを使用したプログラムGAP又はBESTFITによって、最適にアラインされた場合に、少なくとも95%の配列同一性、さらにより好ましくは少なくとも98%又は99%の配列同一性を共有することを意味する。好ましくは、同一ではない残基の位置は、保存的アミノ酸置換により異なる。「保存的アミノ酸置換」は、アミノ酸残基が類似の化学的特性(例えば、電荷又は疎水性)を有する側鎖(R基)を有する別のアミノ酸残基によって置換される置換である。一般に、保存的アミノ酸置換は、タンパク質の機能的特性を実質的に変化させない。2つ以上のアミノ酸配列が保存的置換により互いに異なる場合、配列同一性パーセント又は類似性の程度は、置換の保存的性質について補正するために上方調整される可能性がある。この調整を行うための手段は当業者に周知である。類似した化学的特性を有する側鎖を有するアミノ酸の群の例としては、(1)脂肪族側鎖:グリシン、アラニン、バリン、ロイシン及びイソロイシン;(2)脂肪族-ヒドロキシル側鎖:セリン及びトレオニン;(3)アミド含有側鎖:アスパラギン及びグルタミン;(4)芳香族側鎖:フェニルアラニン、チロシン、及びトリプトファン;(5)塩基性側鎖:リジン、アルギニン、及びヒスチジン;(6)酸性側鎖:アスパラギン酸及びグルタミン酸、及び(7)硫黄含有側鎖であるシステイン及びメチオニンが挙げられる。好ましい保存的アミノ酸置換の群は、バリン-ロイシン-イソロイシン、フェニルアラニン-チロシン、リジン-アルギニン、アラニン-バリン、グルタミン酸-アスパラギン酸、及びアスパラギン-グルタミンである。あるいは、保存的な置き換えは、参照により本明細書に組み込まれる、Gonnet et al. (1992) Science 256: 1443-1445に開示されるPAM250対数尤度マトリックスにおいて正の値を有するあらゆる変化である。「中等度に保存的な」置き換えは、PAM250対数尤度マトリックスにおいて非負の値を有するあらゆる変化である。
【0036】
用語「モノクローナル抗体」は、本明細書で使用される場合、ハイブリドーマ技術を通じて産生される抗体に限定されない。モノクローナル抗体は、当技術分野で利用可能な又は公知の任意の手段によって、任意の真核生物、原核生物、又はファージのクローンを含む、単一クローンから得られる。
【0037】
用語「キメラ」抗体は、本明細書で使用される場合、非ヒト免疫グロブリンに由来する可変配列及びヒト免疫グロブリン定常領域(典型的にはヒト免疫グロブリン鋳型から選択される)を有する抗体をいう。
【0038】
非ヒト抗体の「ヒト化」形態は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小限の配列を含有するキメラ免疫グロブリンである。一般に、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的にすべてを含み、この可変ドメイン中で、CDR領域のすべて又は実質的にすべてが非ヒト免疫グロブリンのCDR領域に対応し、FR領域のすべて又は実質的にすべてがヒト免疫グロブリン配列のFR領域である。
【0039】
本明細書で使用される場合、用語「ナノボディ」は、小さな単一可変ドメイン(ラクダ科動物及びヒトコブラクダから得られる抗体のVHH)を含む抗体をいう。ラマ種(ラマ・パコス、ラマ・グラマ及びラマ・ビクーニャ)などの新世界メンバーを含む、ラクダ及びヒトコブラクダ(カメルス・バクトリアヌス及びカメルス・ドロメダリウス)ファミリーのメンバーから得られる抗体タンパク質は、サイズ、構造的複雑性、及びヒト対象に対する抗原性に関して特徴付けられている。自然界に見られる哺乳動物のこのファミリーに由来するある特定のIgG抗体は、軽鎖を欠いており、したがって、他の動物に由来する抗体についての、2つの重鎖及び2つの軽鎖を有する典型的な4つの鎖の四次構造とは構造的に異なる。
【0040】
抗体の「抗原結合部分」、抗体の「抗原結合断片」などの用語は、本明細書で使用される場合、抗原に特異的に結合して複合体を形成する、あらゆる天然に存在する、酵素的に入手可能な、合成の、又は遺伝子操作されたポリペプチド又は糖タンパク質を含む。
【0041】
本明細書で使用される場合、「リンカー」又は「スペーサー」ペプチドは、2つのポリペプチド配列(又はそのようなアミノ酸配列をコードする核酸)を結合するアミノ酸の短い配列をいう。「ペプチドリンカー」は、2つのポリペプチド配列を結合するアミノ酸の短い配列をいう。ポリペプチドリンカーの例は、ペプチド形質導入ドメインを抗体に結合するリンカー、又はscFv断片などの合成抗体断片における2つの抗体鎖を結合するリンカーである。リンカーは周知であり、任意の公知のリンカーが、提供される方法において使用可能である。ポリペプチドリンカーの例は、溶解度を高めるために全体に分散されたいくつかのGlu又はLys残基を有する(Gly-Ser)nアミノ酸配列である。他の例示的なリンカーは本明細書に記載される;これら及び他の公知のリンカーのいずれも、提供される組成物及び方法とともに使用することができる。
【0042】
本開示で使用される場合、用語「治療剤」は、哺乳動物、例えばヒトへの投与に好適な、治療効果又は薬理学的効果を有する任意の化合物、物質、薬物、薬物又は活性成分を意味する。本明細書で使用される場合、用語「免疫細胞」は、免疫応答において役割を果たす細胞をいう。免疫細胞は造血起源であり、リンパ球、例えばB細胞及びT細胞;ナチュラルキラー細胞;骨髄系細胞、例えば単球、マクロファージ、好酸球、マスト細胞、好塩基球、及び顆粒球を含む。
【0043】
本明細書で使用される場合、用語「T細胞」は、CD4+ T細胞及びCD8+ T細胞を含む。T細胞という用語はまた、Tヘルパー1型T細胞、Tヘルパー2型T細胞、Tヘルパー17型T細胞及び阻害性T細胞を含む。
【0044】
本明細書で使用される場合、用語「幹細胞」は、自己再生の特性を有し、且つより分化した細胞型に自然に分化する発生能を有する、未分化又は部分的に分化した状態にある細胞を指し、発生能に関して特定の黙示的意味を有しない(すなわち、全能性、多能性、複能性など)。自己再生とは、幹細胞がその発生能を維持しながら、増殖し、より多くのそのような幹細胞を生じさせることが可能であることを意味する。したがって、用語「幹細胞」は、特定の状況下で、より特殊化又は分化した表現型に分化する発生能を有し、且つある特定の状況下で、実質的に分化することなく増殖する能力を保持する、細胞のあらゆるサブセットをいう。
【0045】
用語「多能性」は、「多能性細胞」に関して使用される場合、異なる条件下で、3つすべての胚細胞層(内胚葉、中胚葉及び外胚葉)に特徴的な細胞型に分化する能力を有する細胞をいう。多能性細胞は、例えばヌードマウス奇形腫形成アッセイを使用して、3つすべての胚葉に分化するそれらの能力によって主に特徴付けられる。多能性はまた、胚性幹(ES)細胞マーカーの発現によって証明されるが、多能性についての好ましい試験は、3つの胚葉のそれぞれの細胞に分化する能力の実証である。
【0046】
本明細書で使用される場合、用語「iPS細胞」及び「誘導多能性幹細胞」は、互換的に使用され、例えば、キサンチン、キサントシン、ヒポキサンチン、又はそれらの類似体から選択される任意の化合物のうちの少なくとも1つの化合物、例えばキサンチン核を有する化合物と細胞を接触させることによって、分化した細胞(例えば、非多能性細胞)、典型的には成体の分化した細胞から技術的に得られた(例えば、完全な又は部分的な逆転によって誘導された)多能性細胞をいう。
【0047】
本明細書で使用される場合、用語「ベクター」は、それが連結している別の核酸を輸送することが可能な核酸分子をいうことが意図される。ベクターの1つの種類は「プラスミド」であり、これは追加のDNAセグメントがライゲートされ得る環状二本鎖DNAループをいう。ベクターの別の種類は、追加のDNAセグメントがウイルスゲノムにライゲートされ得る、ウイルスベクターである。ある特定のベクターは、それらが導入される宿主細胞中で自律的複製が可能である(例えば、細菌の複製起点を有する細菌ベクター、及びエピソーム哺乳動物ベクター)。他のベクター(例えば、非エピソーム哺乳動物ベクター)は、宿主細胞への導入時に宿主細胞のゲノムに組み込まれる可能性があり、それによって宿主ゲノムとともに複製される。さらに、ある特定のベクターは、それらが作動可能に連結される遺伝子の発現を指示することが可能である。このようなベクターは、本明細書では「組換え発現ベクター」(又は単に「発現ベクター」)と呼ばれる。一般に、組換えDNA技術で有用な発現ベクターは、プラスミドの形態であることが多い。プラスミドはベクターの最も一般的に使用される形態であるため、本明細書では、「プラスミド」及び「ベクター」は互換的に使用され得る。しかし、本発明は、同等の機能を果たす、ウイルスベクター(例えば、複製欠損レトロウイルス、アデノウイルス及びアデノ随伴ウイルス)などの他の形態の発現ベクターを含むことが意図される。
【0048】
細胞の「遺伝子操作された」又は「遺伝子操作」という用語は、細胞における遺伝子コピー及び/又は遺伝子発現レベルの変化のために遺伝物質を使用して遺伝子を操作することを意味する。遺伝物質は、DNA又はRNAの形態であり得る。遺伝物質は、ウイルス形質導入及び非ウイルストランスフェクションを含む様々な手段によって細胞に導入することができる。遺伝子操作された後、細胞におけるある特定の遺伝子の発現レベルは、永続的又は一時的に変更可能である。
【0049】
細胞発生(cell ontogeny)の文脈において、形容詞「分化した」又は「分化している」は相対的な用語である。「分化した細胞」は、それが比較されている細胞よりも発生経路をさらに下流に進んだ細胞である。したがって、幹細胞は、系列が制限された前駆細胞に分化することができ、この系列が制限された前駆細胞は、今度は、その経路のさらに下流の他の種類の前駆細胞に分化することができ、次いで、最終段階の分化した細胞に分化することができ、この最終段階の分化した細胞はある特定の組織タイプにおいて特徴的な役割を果たし、さらに増殖する能力を保持していても又は保持していなくてもよい。
【0050】
本発明で使用される場合、用語「医薬組成物」は、哺乳動物が罹患する特定の疾患又は病理学的状態を予防、処置、又は除去するために、哺乳動物、例えばヒトに投与される治療剤を含有する混合物を意味する。
【0051】
本明細書で使用される場合、用語「治療有効量」又は「有効量」は、疾患を処置するために哺乳動物又は他の対象に投与された場合に、疾患についての当該処置をもたらすのに十分な抗体の量をいう。
【0052】
本明細書で使用される場合、用語「処置」、「処置すること」などは、哺乳動物、特にヒトにおける疾患のあらゆる処置を包含し、以下を含む:(a)疾患の素因を有し得るが、疾患を有するとまだ診断されていない対象において疾患が発症するのを防止すること;(b)疾患を阻害する、すなわち、その発症を阻止すること;及び(c)疾患を軽減する、すなわち、疾患の退行を引き起こすこと。
【0053】
用語「予防すること」又は「予防」は、当技術分野で認識されており、状態に関して使用される場合、それは、薬剤を受けない対象と比較して、対象において医学的状態の症状の頻度若しくは重症度を低減する又はその発症を遅延させる薬剤を、状態の発症前に投与することを含む。
【0054】
本明細書において互換的に使用される場合、用語「個体」、「対象」、「宿主」、及び「患者」は、ネズミ科動物(ラット、マウス)、非ヒト霊長類、ヒト、イヌ、ネコ、有蹄動物(例えば、ウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ)などを含むがこれらに限定されない哺乳動物をいう。
【0055】
本明細書で使用される場合、用語「処置を必要とする」は、介護者(例えば、ヒトの場合には医師、看護師、臨床看護師、又は個人;非ヒト哺乳動物を含む動物の場合には獣医師)によって下された、対象が処置を必要とし、又はそれから恩恵を受けるという判断をいう。この判断は、介護者の専門知識の領域である様々な要因に基づいて下されるが、それは、本開示の化合物によって処置可能な状態の結果として、対象が病気であり又は病気になるであろうという知識を含む。
【0056】
「がん」、「腫瘍」及び同様の用語は、前がん性、新生物性、形質転換した、及びがん性の細胞を含み、固形腫瘍又は非固形がんを指し得る(例えば、Edge et al. AJCC Cancer Staging Manual (7th ed. 2009); Cibas and Ducatman Cytology: Diagnostic principles and clinical correlates (3rd ed. 2009)を参照されたい)。がんは、良性新生物及び悪性新生物(異常な増殖)の両方を含む。「形質転換」は、自発的な又は誘導された表現型変化、例えば、細胞の不死化、形態学的変化、異常な細胞増殖、低下した接触阻害及び定着、及び/又は悪性腫瘍をいう(Freshney, Culture of Animal Cells a Manual of Basic Technique (3rd ed. 1994)を参照されたい)。形質転換は、形質転換ウイルスによる感染及び新しいゲノムDNAの組み込み、又は外因性DNAの取り込みから生じ得るが、それはまた、自発的に又は発がん物質への曝露後にも生じ得る。
【0057】
本明細書で使用される場合、用語「試料」は、個体、対象又は患者から得られる様々な試料の種類を包含し、診断又はモニタリングアッセイで使用することができる。この定義は、血液、及び生物学的起源の他の液体試料、固体組織試料、例えば、生検標本又は組織培養物又はそれに由来する細胞及びその子孫を包含する。
【0058】
本開示は、エフリンA型受容体10におけるエピトープに特異的な抗体又はその抗原結合断片を開発する。
【0059】
EphA10は、受容体チロシンキナーゼ(RTK)の最大のサブファミリーであるエフリン受容体のメンバーであり、発生、血管形成、及び細胞分化において重要な機能を有する。以前の研究は、がん免疫療法について、EphA10を標的とするモノクローナル抗体を開発する治療適用を示した。(1)EphA10レベルは、精巣を除く正常組織において非常に低く;(2)EphA10レベルは、正常組織におけるよりも様々な種類のがんにおいて高く;(3)EphA10欠失は、CTL媒介抗腫瘍免疫を増強することにより腫瘍退縮を誘導したことが見出される。
【0060】
特に、抗体又はその抗原結合断片は、重鎖可変領域の相補性決定領域(CDR)及び軽鎖可変領域の相補性決定領域を含み、重鎖可変領域の相補性決定領域は、CDRH1、CDRH2及びCDRH3領域を含み、軽鎖可変領域の相補性決定領域は、CDRL1、CDRL2及びCDRL3領域を含み、且つ
CDRH1領域は、配列番号1のアミノ酸配列、又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%若しくは少なくとも99%の配列同一性を有する実質的に類似した配列を含み;CDRH2領域は、配列番号2のアミノ酸配列、又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%若しくは少なくとも99%の配列同一性を有する実質的に類似した配列を含み;CDRH3領域は、配列番号3のアミノ酸配列、又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%若しくは少なくとも99%の配列同一性を有する実質的に類似した配列を含み;且つ
CDRL1領域は、配列番号4のアミノ酸配列、又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%若しくは少なくとも99%の配列同一性を有する実質的に類似した配列を含み;CDRL2領域は、配列番号5のアミノ酸配列、又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%若しくは少なくとも99%の配列同一性を有する実質的に類似した配列を含み;CDRL3領域は、配列番号6のアミノ酸配列、又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%若しくは少なくとも99%の配列同一性を有する実質的に類似した配列を含む。
【0061】
配列リストは表1に示される。
【0062】
【表1】
【0063】
いくつかの実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、配列番号7のアミノ酸配列又はその実質的に類似した配列を含む重鎖可変領域;及び配列番号8のアミノ酸配列又はその実質的に類似した配列を含む軽鎖可変領域を含む。いくつかのさらなる実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、配列番号7のアミノ酸配列、又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%若しくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似した配列を含む、重鎖可変領域を含む。いくつかのさらなる実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、配列番号8のアミノ酸配列、又は少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%若しくは少なくとも99%の配列同一性を有するその実質的に類似した配列を含む、軽鎖可変領域を含む。
【0064】
本開示による抗体は、全長(例えば、IgG1又はIgG4抗体)であってもよく、又は抗原結合部分のみを含んでもよく(例えば、Fab、F(ab')2又はscFv断片)、必要に応じて機能性に影響を与えるように改変してもよい。
【0065】
当業者に公知の様々な技術を使用して、抗体がポリペプチド又はタンパク質内の「1つ以上のアミノ酸に特異的である」かどうかを決定することができる。例示的な技術としては、例えば、日常的なクロス-ブロッキングアッセイ、例えば、Antibodies, Harlow and Lane(Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harb., N.Y.)に記載されるもの、アラニンスキャニング変異分析、ペプチドブロット分析(Reineke, 2004, Methods Mol Biol 248:443-463)、及びペプチド切断分析が挙げられる。さらに、エピトープ切除、エピトープ抽出、及び抗原の化学修飾などの方法を用いることができる(Tomer, 2000, Protein Science 9:487-496)。抗体が特異的に結合するポリペプチド内のアミノ酸を特定するために使用することができる別の方法は、質量分析法によって検出される水素/重水素交換である。一般論として、水素/重水素交換法は、目的のタンパク質を重水素標識し、続いて抗体を重水素標識タンパク質に結合させることを含む。次に、タンパク質/抗体複合体を水に移して、抗体によって保護された残基(重水素標識されたままである)を除くすべての残基において水素-重水素交換が起こるようにする。抗体の解離後、標的タンパク質は、プロテアーゼ切断及び質量分析を受け、それによって、抗体が相互作用する特定のアミノ酸に対応する重水素標識残基を明らかにする。例えば、Ehring (1999) Analytical Biochemistry 267(2):252-259; Engen and Smith (2001) Anal. Chem. 73:256A-265Aを参照されたい。
【0066】
抗体が参照抗EphA10抗体と同じエピトープに特異的であるか、又はそれと結合について競合するかどうかは、当技術分野で公知の日常的な方法を使用することによって、容易に決定することができる。例えば、試験抗体が本開示の参照抗EphA10抗体と同じエピトープに結合するかどうかを決定するために、参照抗体をEphA10タンパク質に結合させる。次に、試験抗体がEphA10分子に結合する能力を評価する。参照抗EphA10抗体との飽和結合後に試験抗体がEphA10に結合することができる場合、試験抗体は、参照抗EphA10抗体とは異なるエピトープに結合すると結論付けることができる。一方、参照抗EphA10抗体との飽和結合後に試験抗体がEphA10分子に結合することができない場合、試験抗体は、本開示の参照抗EphA10抗体によって結合されるエピトープと同じエピトープに結合する可能性がある。次いで、追加の日常的実験(例えば、ペプチド変異及び結合分析)を実行して、観察された試験抗体の結合欠如が、実際に参照抗体と同じエピトープへの結合によるものであるかどうか、又は立体妨害(又は別の現象)が、観察された結合欠如の原因であるかどうかを確認することができる。この種の実験は、ELISA、RIA、Biacore、フローサイトメトリー、又は当技術分野で利用可能な任意の他の定量的若しくは定性的抗体結合アッセイを使用して実施することができる。本開示のある特定の実施形態によれば、競合結合アッセイで測定した場合、例えば、1、5、10、20又は100倍過剰の一方の抗体が、もう一方の抗体の結合を少なくとも50%であるが、好ましくは75%、90%又はさらには99%阻害する場合、2つの抗体は同じ(又は重複する)エピトープに結合する。あるいは、一方の抗体の結合を低減又は排除する抗原における本質的にすべてのアミノ酸変異が、もう一方の抗体の結合を低減又は排除する場合、2つの抗体は同じエピトープに結合すると見なされる。一方の抗体の結合を低減又は排除するアミノ酸変異のサブセットのみが、もう一方の抗体の結合を低減又は排除する場合、2つの抗体は「重複するエピトープ」を有すると見なされる。
【0067】
抗体はまた、完全抗体分子の抗原結合断片を含む。抗体の抗原結合断片は、例えば、任意の好適な標準的技術、例えばタンパク質分解消化、又は抗体可変ドメイン及び場合により定常ドメインをコードするDNAの操作及び発現を含む組換え遺伝子操作技術を使用して、完全抗体分子から得てもよい。このようなDNAは公知であり、且つ/又は例えば商業的供給源、DNAライブラリー(例えばファージ-抗体ライブラリーを含む)から容易に入手可能であるか、又は合成することができる。DNAは、化学的に又は分子生物学技術を使用することによって配列決定及び操作して、例えば、1つ以上の可変ドメイン及び/又は定常ドメインを好適な構成に配置するか、又はコドンを導入し、システイン残基を作製し、アミノ酸を改変、付加又は欠失させることなどが可能である。
【0068】
抗原結合断片の非限定的な例としては以下が挙げられる:(i)Fab断片;(ii)F(ab')2断片;(iii)Fd断片;(iv)Fv断片;(v)単鎖Fv(scFv)分子;(vi)dAb断片;及び(vii)抗体の超可変領域(例えば、CDR3ペプチドなどの単離された相補性決定領域(CDR))、又は拘束されたFR3-CDR3-FR4ペプチドを模倣するアミノ酸残基からなる最小認識単位。他の操作された分子、例えばドメイン特異的抗体、単一ドメイン抗体、ドメイン欠失抗体、キメラ抗体、CDR移植抗体、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、ミニボディ、ナノボディ(例えば、一価ナノボディ、二価ナノボディなど)、小型モジュラー免疫医薬品(SMIP)、及びサメ可変IgNARドメインも、本明細書で使用される「抗原結合断片」という表現に包含される。
【0069】
抗体の抗原結合断片は、典型的には少なくとも1つの可変ドメインを含む。可変ドメインは、任意のサイズ又はアミノ酸組成であってもよく、一般に、1つ以上のフレームワーク配列に隣接する又はそれとインフレームの少なくとも1つのCDRを含む。VLドメインと会合したVHドメインを有する抗原結合断片において、VHドメイン及びVLドメインは、任意の好適な配置で互いに対して位置し得る。例えば、可変領域は、二量体であり、VH-VH、VH-VL又はVL-VL二量体を含有してもよい。あるいは、抗体の抗原結合断片は、単量体VH又はVLドメインを含有してもよい。
【0070】
ある特定の実施形態では、抗体の抗原結合断片は、少なくとも1つの定常ドメインに共有結合した少なくとも1つの可変ドメインを含有し得る。本開示の抗体の抗原結合断片内に見出され得る可変ドメイン及び定常ドメインの非限定的な例示的構成としては、以下が挙げられる:(i)VH-CH1;(ii)VH-CH2;(iii)VH-CH3;(iv)VH-CH1-CH2;(v)VH-CH1-CH2-CH3;(vi)VH-CH2-CH3;(vii)VH-CL;(viii)VL-CH1;(ix)VL-CH2;(x)VL-CH3;(xi)VL-CH1-CH2;(xii)VL-CH1-CH2-CH3;(xiii)VL-CH2-CH3;及び(xiv)VL-CL。上に列挙される例示的構成のいずれかを含む、可変ドメイン及び定常ドメインの任意の構成において、可変ドメイン及び定常ドメインは、互いに直接連結され得るか、又は完全若しくは部分的なヒンジ若しくはリンカー領域によって連結され得る。ヒンジ領域は、単一ポリペプチド分子における隣接する可変ドメイン及び/又は定常ドメイン間に可撓性又は半可撓性連結をもたらす少なくとも2個の(例えば、5、10、15、20、40、60個の、又はそれを超える)アミノ酸からなってもよい。さらに、本開示の抗体の抗原結合断片は、(例えば、ジスルフィド結合(複数可)による)互いの及び/又は1つ以上の単量体VH又はVLドメインとの非共有結合における、上に列挙される可変及び定常ドメイン構成のいずれかのホモ二量体又はヘテロ二量体(又は他の多量体)を含み得る。
【0071】
本明細書に開示される抗EphA10抗体は、抗体が由来する対応する生殖系列配列と比較して、重鎖可変ドメイン及び軽鎖可変ドメインのフレームワーク及び/又はCDR領域において、1つ以上のアミノ酸置換、挿入及び/又は欠失を含み得る。このような変異は、本明細書に開示されるアミノ酸配列を、例えば公開抗体配列データベースから入手可能な生殖系列配列と比較することによって、容易に確かめることができる。本開示は、本明細書に開示されるアミノ酸配列のいずれかに由来する抗体、及びその抗原結合断片を含み、1つ以上のフレームワーク及び/又はCDR領域内の1つ以上のアミノ酸は、抗体が由来する生殖系列配列の対応する残基(複数可)に、又は別の哺乳動物の生殖系列配列の対応する残基(複数可)に、又は対応する生殖系列残基(複数可)の保存的アミノ酸置換に変異している(このような配列変化は、本明細書ではまとめて「生殖系列変異」と呼ばれる)。当業者は、本明細書に開示される重鎖可変領域配列及び軽鎖可変領域配列から出発して、1つ以上の個々の生殖系列変異又はそれらの組み合わせを含む多数の抗体及び抗原結合断片を容易に生成することができる。ある特定の実施形態では、VHドメイン及び/又はVLドメイン内のフレームワーク及び/又はCDR残基のすべては、抗体が由来する元の生殖系列配列に見出される残基に戻るように変異している。他の実施形態では、特定の残基のみ、例えば、FR1の最初の8アミノ酸内若しくはFR4の最後の8アミノ酸内に見出される変異残基のみ、又はCDR1、CDR2若しくはCDR3内に見出される変異残基のみが、元の生殖系列配列に戻るように変異している。他の実施形態では、フレームワーク及び/又はCDR残基(複数可)のうちの1つ以上は、異なる生殖系列配列(すなわち、抗体が元々由来する生殖系列配列とは異なる生殖系列配列)の対応する残基(複数可)に変異している。さらに、本開示の抗体は、フレームワーク及び/又はCDR領域内の2つ以上の生殖系列変異の任意の組み合わせを含有してもよく、例えば、ある特定の個々の残基は、特定の生殖系列配列の対応する残基に変異しており、一方、元の生殖系列配列とは異なるある特定の他の残基は、維持されるか、又は異なる生殖系列配列の対応する残基に変異している。ひとたび得られたら、1つ以上の生殖系列変異を含有する抗体及び抗原結合断片は、1つ以上の所望の特性、例えば、結合特異性の改善、結合親和性の増加、アンタゴニスト又はアゴニスト的生物学的特性の改善又は増強(場合により)、免疫原性の低下などについて容易に試験することができる。この一般的な方法で得られる抗体及び抗原結合断片は、本開示内に包含される。
【0072】
本開示はまた、1つ以上の保存的置換を有する、本明細書に開示されるVH、VL、及び/又はCDRアミノ酸配列のいずれかのバリアントを含む抗EphA10抗体を含む。例えば、本開示は、本明細書に開示されるVH、VL、及び/又はCDRアミノ酸配列のいずれかと比較して、例えば、10個以下、8個以下、6個以下、4個以下などの保存的アミノ酸置換を有するVH、VL、及び/又はCDRアミノ酸配列を有する抗EphA10抗体を含む。
【0073】
本開示のいくつかの実施形態では、本開示による抗体はヒト化抗体である。本開示によるヒト化抗体の結合親和性を改善するために、ヒトフレームワーク領域におけるいくつかのアミノ酸残基は、例えばげっ歯類などの種におけるCDRの対応するアミノ酸残基によって置き換えられる。
【0074】
本開示の抗体は、単一特異性、二重特異性、又は多重特異性であり得る。多重特異性抗体は、1つの標的ポリペプチドの異なるエピトープに特異的であり得るか、又は2つ以上の標的ポリペプチドに特異的な抗原結合ドメインを含有し得る。本開示の抗EphA10抗体は、別の機能性分子、例えば、別のペプチド又はタンパク質と連結し得るか、又はそれと共発現し得る。例えば、抗体又はその断片は、1つ以上の他の分子実体、例えば、別の抗体又は抗体断片に(例えば、化学結合、遺伝子融合、非共有結合又は他の方法によって)機能的に連結して、第2の結合特異性を有する二重特異性又は多重特異性抗体を生成することができる。例えば、本開示は、免疫グロブリンの一方のアームがEphA10又はその断片に特異的であり、免疫グロブリンのもう一方のアームが第2の治療標的に特異的であるか又は治療部分にコンジュゲートしている、二重特異性抗体を含む。
【0075】
いくつかの実施形態では、本開示は、
本明細書に開示される抗EphA10抗体又はその抗原結合断片を含む第1の抗原結合部分;及び
少なくとも1つの第2の抗原結合部分
を含む、多重特異性抗体又はその抗原結合断片を提供する。
【0076】
いくつかの実施形態では、第2の抗原結合部分は、CD3におけるエピトープに特異的な抗体又はその抗原結合断片を含む抗CD3部分、又はCD16におけるエピトープに特異的な抗体又はその抗原結合断片を含む抗CD16部分である。
【0077】
用語「分化抗原群3」又は「CD3」は、本明細書で使用される場合、別段指示のない限り、霊長類(例えばヒト)及びげっ歯類(例えば、マウス及びラット)などの哺乳動物を含む、任意の脊椎動物源に由来する任意の天然CD3を指し、例えば、CD3ε、CD3γ、CD3α、及びCD3β鎖を含み、完全長の「プロセシングされていない」CD3(例えば、プロセシングされていない又は修飾されていないCD3ε又はCD3γ)だけでなく、細胞におけるプロセシングの結果生じる任意の形態のCD3、例えば、そのシグナルペプチドの全部又は一部のない「プロセシングされた」CD3εポリペプチドも包含する。CD3は、歴史的にはT3複合体として知られている、多量体タンパク質複合体であり、3対の二量体(εγ、εδ、ζζ)として集合し、機能する、4つの異なるポリペプチド鎖;ε、γ、δ、及びζで構成される。CD3複合体は、T細胞受容体と非共有結合するT細胞共受容体として機能する。
【0078】
本開示の一実施形態では、抗CD3部分は、配列番号11の配列を有するscFvである。
【0079】
抗体依存性細胞傷害(ADCC)に関与することが知られているいくつかのIgGのFc部分に対する低親和性受容体であるCD16(FcγRIIIとしても知られている)は、NK細胞による標的細胞溶解の誘発を担う最もよく特徴付けられた膜受容体である(Mandelboim et al., 1999, PNAS 96:5640-5644)。ヒトNK細胞の大部分(およそ90%)は、低密度でCD56(CD56dim)を発現し、高レベルでFcγRIII(CD16)を発現する(Cooper et al., 2001, Trends Immunol. 22:633-640)。ヒトFcγRIIIは、その細胞外免疫グロブリン結合領域において96%の配列同一性を共有する2つのアイソフォームであるFcγRIIIA及びFcγRIIIBとして存在する(van de Winkel and Capel, 1993, Immunol. Today 14(5):215-221)。
【0080】
本開示のいくつかの実施形態では、抗CD16部分は、配列番号12の配列を有するscFvである。
【0081】
いくつかの実施形態では、多重特異性抗体又はその抗原結合断片は、
第1の抗原結合部分及び抗CD3部分;
第1の抗原結合部分及び抗CD16部分;又は
第1の抗原結合部分、抗CD3部分及び抗CD16部分
を含む。
【0082】
いくつかの実施形態では、多重特異性抗体又はその抗原結合断片は、N末端からC末端へ、[第1の抗原結合部分]-[抗CD3部分]、[抗CD3部分]-[第1の抗原結合部分]、[第1の抗原結合部分]-[抗CD16部分]、[抗CD16部分]-[第1の抗原結合部分]、[第1の抗原結合部分]-[抗CD3部分]-[抗CD16部分]、[第1の抗原結合部分]-[抗CD16部分]-[抗CD3部分]、[抗CD3部分]-[第1の抗原結合部分]-[抗CD16部分]、[抗CD3部分]-[抗CD16部分]-[第1の抗原結合部分]、[抗CD16部分]-[抗CD3部分]-[第1の抗原結合部分]、又は[抗CD16部分]-[第1の抗原結合部分]-[抗CD3部分]の配置である。
【0083】
いくつかの実施形態では、多重特異性抗体又はその抗原結合断片は、第1の抗原結合部分及び第2の抗原結合部分の任意の2つの間に位置するリンカーをさらに含む。
【0084】
本開示のいくつかの実施形態では、多重特異性抗体又はその抗原結合断片は、分泌シグナルペプチドをさらに含む。シグナルペプチド(シグナル配列、標的化シグナル、局在化シグナル、局在化配列、輸送ペプチド、リーダー配列又はリーダーペプチドと呼ばれることもある)は、本明細書で使用される場合、分泌経路へ向けて運命づけられているタンパク質のN末端に位置する短いペプチドをいう。
【0085】
本開示のいくつかの実施形態では、多重特異性抗体又はその抗原結合断片は、タンパク質精製タグ、例えば6×His精製タグ(HHHHHH)、Myc検出タグ(EQKLISEEDL)及びstrepII親和性精製タグ(WSHPQFEK)をさらに含む。コンジュゲートされていない基質をコンジュゲートされた生成物から分離するためにNi-NTA親和性樹脂(6×Hisタグの場合)又はstreptactin親和性樹脂(strep IIタグの場合)が用いられる場合、これにより、コンジュゲートされた生成物についての選択が可能になる。
【0086】
本開示による融合タンパク質は、腫瘍細胞上のEphA10、T細胞上のCD3、及び/又はNK細胞上のCD16を認識する(TriNTE、BiTE、及びBiKE)。本開示のいくつかの実施形態では、融合タンパク質は、短いリンカーによって接続された3つの単鎖可変断片(scFv)として存在するT細胞結合三重特異性構築物である。1つのscFvはCD3受容体を介してT細胞に結合し;1つのscFvは腫瘍関連抗原を介して腫瘍細胞に結合し、且つ/又は残りはNK細胞CD16受容体に結合する。
【0087】
理論によって制限されることは望むものではないが、本開示による融合タンパク質は、T細胞及び/又はNK細胞をがん細胞周辺にもたらすと考えられる。それにより、T細胞又はNK細胞単独よりも優れた効果が達成される。本開示のいくつかの実施形態では、ヒトT細胞の存在下で、TriNTE、BiTE、及びBiKEは、ヒトがん細胞の特異的な死滅をもたらす。
【0088】
本開示の一実施形態では、抗体若しくはその抗原結合断片又は多重特異性抗体若しくはその抗原結合断片は、治療剤とコンジュゲートしている。
【0089】
本開示のいくつかの実施形態では、治療剤は、細胞増殖抑制剤若しくは細胞毒性剤、又は対応する放射性同位体を有する同位体キレート剤を表す。細胞増殖抑制剤又は細胞毒性剤の例としては、以下に限定されないが、代謝拮抗物質(例えば、フルオロウラシル(5-FU)、フロクスウリジン(5-FUdR)、メトトレキサート、ロイコボリン、ヒドロキシ尿素、チオグアニン(6-TG)、メルカプトプリン(6-MP)、シタラビン、ペントスタチン、リン酸フルダラビン、クラドリビン(2-CDA)、アスパラギナーゼ、ゲムシタビン、カペシチビン、アザチオプリン、シトシンメトトレキサート、トリメトプリム、ピリメタミン、又はペメトレキセド);アルキル化剤(例えば、メルファラン、クロラムブシル、ブスルファン、チオテパ、イホスファミド、カルムスチン、ロムスチン、セムスチン、ストレプトゾシン、ダカルバジン、マイトマイシンC、シクロホスファミド、メクロレタミン、ウラムスチン、ジブロモマンニトール、テトラニトレート、プロカルバジン、アルトレタミン、ミトゾロミド、又はテモゾロミド);アルキル化様作用剤(例えば、シスプラチン、カルボプラチン、ネダプラチン、オキサリプラチン、サトラプラチン、又はトリプラチン);DNA副溝アルキル化剤(例えば、デュオカルマイシン、例えばCC-1065、並びにその任意の類似体若しくは誘導体;ピロロベンゾジアゼピン、又はその任意の類似体若しくは誘導体);アントラサイクリン(例えば、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、又はバルルビシン);抗生物質(例えば、ダクチノマイシン、ブレオマイシン、ミトラマイシン、アントラマイシン、ストレプトゾトシン、グラミシジンD、マイトマイシン(例えば、マイトマイシンC);カリケアマイシン;抗有糸分裂剤(例えば、メイタンシノイド(DM1、DM3、及びDM4など)、アウリスタチン(例えば、モノメチルアウリスタチンE(MMAE)及びモノメチルアウリスタチンF(MMAF)を含む)、ドラスタチン、クリプトフィシン、ビンカアルカロイド(例えば、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシン、ビノレルビン)、タキサン(例えば、パクリタキセル、ドセタキセル、又は新規タキサン)、チューブリシン、及びコルヒチン);トポイソメラーゼ阻害剤(例えば、イリノテカン、トポテカン、カンプトテシン、エトポシド、テニポシド、アムサクリン、又はミトキサントロン);HDAC阻害剤(例えば、ボリノスタット、ロミデプシン、チダミド、パノビノスタット、又はベリノスタット);プロテアソーム阻害剤(例えば、ペプチジルボロン酸);並びに放射性同位体、例えば、At211、I131、I125、Y90、Re186、Re188、Sm153、Bi212又は213、P32、及びLu177を含むLuの放射性同位体が挙げられる。同位体キレート剤の例としては、以下に限定されないが、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン-N,N,N',N",N"-ペンタアセテート(DTPA)、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-N,N',N",N"'-テトラアセテート(DOTA)、1,4,7,10-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン(THP)、トリエチレンテトラアミン-N,N,N',N",N"',N"'-ヘキサアセテート(TTHA)、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-N,N',N",N"'-テトラキス(メチレンホスホネート)(DOTP)、及びメルカプトアセチルトリグリシン(MAG3)が挙げられる。
【0090】
本開示の一実施形態では、抗体若しくはその抗原結合断片又は多重特異性抗体若しくはその抗原結合断片は、細胞の表面上に発現している。特に、細胞は、T細胞又は幹細胞、例えばiPSCである。誘導多能性幹細胞は、山中因子を体細胞に誘導することによって再プログラムすることができる。胚性幹細胞と同様に、iPSCは、倫理的問題の懸念なく、三胚葉の細胞に分化する能力を有する。この特性により、iPSCは臨床用途に有望な適用を示す。
【0091】
本開示のいくつかの実施形態では、抗体若しくはその抗原結合断片又は多重特異性抗体若しくはその抗原結合断片は、キメラ抗原受容体の形態である。
【0092】
用語「キメラ抗原受容体」又は代替的に「CAR」は、少なくとも細胞外抗原結合ドメイン、膜貫通ドメイン、及び以下に定義される刺激分子に由来する機能的シグナル伝達ドメインを含む細胞質シグナル伝達ドメイン(本明細書では「細胞内シグナル伝達ドメイン」とも呼ばれる)を含む、組換えポリペプチド構築物をいう。いくつかの実施形態では、CARポリペプチド構築物中のドメインは、同じポリペプチド鎖中にあり、例えば、キメラ融合タンパク質を含む。いくつかの実施形態では、CARポリペプチド構築物中のドメインは、互いに隣接しておらず、例えば、異なるポリペプチド鎖中にある。CARの生成及び構築は、Jayaraman et al., EBioMedicine 58 (2020) 102931; Zhang et al., Biomarker Research (2017) 5:22; Feins et al., Am J Hematol. (2019) 94:S3-S9;及びRoselli et al., J Clin Invest. 2021;131(2):e142030によって一般化される。
【0093】
抗体若しくはその抗原結合断片又は多重特異性抗体若しくはその抗原結合断片は、抗体又はその抗原結合断片をコードするベクターにコードされていてもよい。例示的なベクターは、レンチウイルスベクターである。「レンチウイルス」は、分裂細胞及び非分裂細胞に感染することが可能なレトロウイルスの属をいう。レンチウイルスのいくつかの例としては、HIV(ヒト免疫不全ウイルス:HIV1型及びHIV2型を含む);ウマ伝染性貧血ウイルス;ネコ免疫不全ウイルス(FIV);ウシ免疫不全ウイルス(BIV);及びサル免疫不全ウイルス(SIV)が挙げられる。
【0094】
別の態様では、本開示は、抗体若しくはその抗原結合断片又は多重特異性抗体若しくはその抗原結合断片を発現する、又はベクターを含有する、遺伝子操作された細胞を提供する。遺伝子操作された細胞は、免疫細胞又は幹細胞であり得る。また、本開示は、遺伝子操作された細胞から分化した、免疫細胞を提供する。
【0095】
本開示の一実施形態では、EphA10遺伝子を保有するレンチウイルスを有する、抗EphA10 iPSC及びT細胞が生成される。さらに、iPSCは、CAR-免疫細胞に分化する。がん細胞に対するこれらのCAR-免疫細胞の細胞毒性効果が観察される。本開示は、腫瘍抗原の特異性を克服し、臨床がん処置適用のために無限のCAR-免疫細胞を生成するアプローチを提供する。
【0096】
本開示は、本開示の抗体若しくはその抗原結合断片又は多重特異性抗体若しくはその抗原結合断片、遺伝子操作された細胞又は免疫細胞を含む、医薬組成物を提供する。本開示の医薬組成物は、好適な希釈剤、担体、賦形剤、及び改善された移行、送達、忍容性などを提供する他の薬剤とともに製剤化される。組成物は、獣医学的用途又はヒトにおける医薬用途などの特定の用途のために製剤化され得る。使用される組成物の形態、並びに賦形剤、希釈剤及び/又は担体は、抗体の意図される用途、及び治療用途の場合は投与様式に依存する。多くの適切な製剤を、すべての製薬化学者に公知の処方集:Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company, Easton, Paに見出すことができる。これらの製剤は、例えば、粉末、ペースト、軟膏、ゼリー、ワックス、油、脂質、小胞を含有する脂質(カチオン性又はアニオン性)(例えばLIPOFECTIN(商標), Life Technologies, Carlsbad, Calif.)、DNAコンジュゲート、無水吸収ペースト、水中油型及び油中水型エマルション、エマルションカーボワックス(様々な分子量のポリエチレングリコール)、半固体ゲル、及びカーボワックスを含有する半固体混合物を含む。Powell et al. "Compendium of excipients for parenteral formulations" PDA (1998) J Pharm Sci Technol 52:238-311も参照されたい。
【0097】
患者に投与される抗体の用量は、患者の年齢及びサイズ、標的疾患、状態、投与経路などに応じて変化し得る。好ましい用量は、典型的には、体重又は体表面積に応じて計算される。本開示の抗体が成体患者におけるEphA10に関連する状態又は疾患を処置するために使用される場合、本開示の抗体を静脈内投与することが有利であり得る。状態の重症度に応じて、処置の頻度及び期間を調整することができる。抗体を投与するための有効な投薬量及びスケジュールは、経験的に決定してもよい;例えば、患者の経過を定期的な評価によってモニタリングし、それに応じて用量を調整することができる。さらに、投薬量の種間の調整は、当技術分野で周知の方法を使用して実施することができる(例えば、Mordenti et al., 1991, Pharmaceut. Res. 8:1351)。
【0098】
例えば、リポソーム、微粒子、マイクロカプセル、変異体ウイルスを発現することが可能な組換え細胞、受容体媒介エンドサイトーシスにおけるカプセル化など(例えば、Wu et al., 1987, J. Biol. Chem. 262:4429-4432を参照されたい)、様々な送達システムが公知であり、本開示の医薬組成物を投与するために使用することができる。導入の方法としては、以下に限定されないが、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外、及び経口経路が挙げられる。組成物は、任意の好都合な経路によって、例えば、注入又はボーラス注射によって、上皮又は皮膚粘膜内層(例えば、口腔粘膜、直腸及び腸粘膜など)を通じた吸収によって投与してもよく、他の生物学的に活性な薬剤と一緒に投与してもよい。投与は全身的又は局所的であり得る。
【0099】
本開示の医薬組成物は、標準的な針及び注射器を用いて皮下又は静脈内に送達することができる。さらに、皮下送達に関して、ペン型送達デバイスは、本開示の医薬組成物を送達する際に容易に適用される。このようなペン型送達デバイスは、再使用可能又は使い捨て可能であり得る。再使用可能なペン型送達デバイスは、一般に、医薬組成物を含有する交換可能なカートリッジを利用する。カートリッジ内の医薬組成物のすべてが投与され、カートリッジが空になると、空のカートリッジは容易に廃棄され、医薬組成物を含有する新しいカートリッジに置き換えることができる。次いで、ペン型送達デバイスは再使用することができる。使い捨て可能なペン型送達デバイスには、交換可能なカートリッジはない。むしろ、使い捨て可能なペン型送達デバイスには、デバイス内のリザーバに保持された医薬組成物が予め充填されている。医薬組成物が取り出されてリザーバが空になると、デバイス全体が廃棄される。
【0100】
ある特定の状況では、医薬組成物は制御放出システムで送達することができる。一実施形態では、ポンプを使用してもよい(Langer、上記; Sefton, 1987, CRC Crit. Ref. Biomed. Eng. 14:201を参照されたい)。別の実施形態では、ポリマー材料を使用することができる; Medical Applications of Controlled Release, Langer and Wise (eds.), 1974, CRC Pres., Boca Raton, Flaを参照されたい。さらに別の実施形態では、制御放出システムは、組成物の標的の近くに配置することができ、したがって全身用量の一部のみを必要とし得る(例えば、Goodson, 1984, in Medical Applications of Controlled Release、上記、vol. 2, pp. 115-138を参照されたい)。他の制御放出システムは、Langer, 1990, Science 249:1527-1533による概説で論じられる。
【0101】
注射用調製物は、静脈内、皮下、皮内及び筋肉内注射、点滴などのための剤型を含み得る。これらの注射用調製物は、公知の方法によって調製し得る。例えば、注射用調製物は、例えば、上記の抗体又はその塩を、注射剤に慣習的に使用される滅菌水性媒体又は油性媒体中に溶解、懸濁又は乳化することによって調製してもよい。注射剤のための水性媒体として、例えば、生理食塩水、グルコース及び他の助剤を含有する等張溶液などがあり、これらはアルコール(例えば、エタノール)、多価アルコール(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン性界面活性剤[例えば、ポリソルベート80、HCO-50(水添ヒマシ油のポリオキシエチレン(50mol)付加物)]などの適切な可溶化剤と組み合わせて使用してもよい。油性媒体として、例えば、ゴマ油、ダイズ油などが用いられ、これらは安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどの可溶化剤と組み合わせて使用してもよい。このようにして調製された注射剤は、好ましくは、適切なアンプルに充填される。
【0102】
有利には、上記の経口又は非経口使用のための医薬組成物は、活性成分の用量に合うように適合された単位用量における剤形へと調製される。このような単位用量における剤形としては、例えば、錠剤、丸剤、カプセル剤、注射剤(アンプル)、坐剤などが挙げられる。
【0103】
本開示は、医薬組成物を対象に投与するステップを含む、必要とする対象におけるEphA10媒介シグナル伝達を阻害する方法を提供する。あるいは、本開示は、有効量の、本明細書に開示される抗体若しくはその抗原結合断片、多重特異性抗体若しくはその抗原結合断片、遺伝子操作された細胞又は免疫細胞を含む、必要とする対象におけるEphA10媒介シグナル伝達の阻害に使用するための医薬組成物を提供する。
【0104】
本開示はまた、医薬組成物を対象に投与するステップを含む、EphA10活性及び/又はシグナル伝達によって引き起こされる又はそれに関連する疾患及び/又は障害に罹患している対象における該疾患及び/又は障害を処置する、予防的に処置する及び/又は予防する方法を提供する。あるいは、本開示は、有効量の、本明細書に開示される抗体若しくはその抗原結合断片、多重特異性抗体若しくはその抗原結合断片、遺伝子操作された細胞又は免疫細胞を含む、EphA10活性及び/又はシグナル伝達によって引き起こされる又はそれに関連する疾患及び/又は障害に罹患している対象における該疾患及び/又は障害の処置、予防的処置及び/又は予防に使用するための医薬組成物を提供する。
【0105】
本開示はさらにまた、医薬組成物を対象に投与するステップを含む、腫瘍に罹患している対象における腫瘍を処置する、予防的に処置する及び/又は予防する方法を提供する。本開示のいくつかの実施形態では、腫瘍は固形腫瘍である。腫瘍の例としては、以下に限定されないが、腎細胞がん、膵臓がん、乳がん、頭頸部がん、前立腺がん、悪性神経膠腫、骨肉腫、結腸直腸がん、胃がん、悪性中皮腫、多発性骨髄腫、卵巣がん、小細胞肺がん、非小細胞肺がん、滑膜肉腫、甲状腺がん、又は黒色腫が挙げられる。あるいは、本開示は、有効量の、本明細書に開示される抗体若しくはその抗原結合断片、多重特異性抗体若しくはその抗原結合断片、遺伝子操作された細胞又は免疫細胞を含む、腫瘍に罹患している対象における腫瘍の処置、予防的処置及び/又は予防に使用するための医薬組成物を提供する。
【0106】
本開示は、試料を抗体又はその抗原結合断片と接触させるステップを含む、試料中のEphA10を検出する方法を提供する。
【0107】
本開示は、抗体又はその抗原結合断片を対象に投与するステップを含む、必要とする対象におけるEphA10を中和する方法を提供する。あるいは、本開示は、有効量の、本明細書に開示される抗体若しくはその抗原結合断片、多重特異性抗体若しくはその抗原結合断片、遺伝子操作された細胞又は免疫細胞を含む、必要とする対象におけるEphA10の中和に使用するための医薬組成物を提供する。
【0108】
本開示は、試料中のEphA10を検出するためのキットであって、抗体若しくはその抗原結合断片又は多重特異性抗体若しくはその抗原結合断片又は多重特異性抗体若しくはその抗原結合断片を含む、キットを提供する。
【0109】
本開示の抗EphA10抗体はまた、例えば診断目的で、試料中のEphA10、又はEphA10発現細胞を検出及び/又は測定するために使用してもよい。例えば、抗EphA10抗体、又はその断片は、EphA10の異常発現(例えば、過剰発現、過小発現、発現欠如など)を特徴とする状態又は疾患を診断するために使用してもよい。EphA10の例示的な診断アッセイは、例えば、患者から得られた試料を本開示の抗EphA10抗体と接触させることを含んでよく、抗EphA10抗体は、検出可能な標識又はレポーター分子で標識されている。あるいは、未標識の抗EphA10抗体を、それ自体が検出可能に標識されている二次抗体と組み合わせて診断適用に使用することができる。検出可能な標識又はレポーター分子は、放射性同位体、例えば、3H、14C、32P、35S、又は125I;蛍光又は化学発光部分、例えば、フルオレセインイソチオシアネート、又はローダミン;又は酵素、例えば、アルカリホスファターゼ、ベータ-ガラクトシダーゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、又はルシフェラーゼであり得る。試料中のEphA10を検出又は測定するために使用することができる具体的な例示的なアッセイは、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、及び蛍光活性化細胞選別(FACS)を含む。
【実施例
【0110】
以下の実施例は、本開示の実施において当業者の助けとなるように提供される。
【0111】
実施例
ファージディスプレイライブラリースクリーン
ヒトB細胞由来のscFvファージディスプレイライブラリー(Creative BioLabs, USA)を使用して、C末端でDDK/Hisタグと融合した、組換えヒトEphA10細胞外ドメインタンパク質(Glu34-Ala565)、転写物バリアント3(Creative Biomart, USA、カタログ番号EPHA10-369H)に対してパンニングした。ELISAを使用して、陽性クローンをスクリーニングした。固有のCMU#5をDNA配列決定によって特定した。固有のクローンの結合特異性を、全長ヒトEphA10発現NIH 3T3細胞を使用したFACSによって確認した。
【0112】
EphA10-scFv-CD3z-scFv-CD16-scFv、EphA10-scFv-CD3z-scFv、及びEphA10-scFv-CD16-scFvプラスミドの構築
3つのプラスミドを設計及び構築して、TriNTE(EphA10(CMU#5)-scFv(配列番号9)-CD3z-scFv(配列番号11)-CD16-scFv(配列番号12))、BiTE(EphA10(CMU#5)-scFv(配列番号9)-CD3z-scFv(配列番号11))、及びBiKE(EphA10(CMU#5)-scFv(配列番号9)-CD3z-scFv(配列番号12))を生成した。各抗体についてのアミノ酸配列の組み立て後、scFv配列を合成し、真核生物発現ベクターにクローニングした。
【0113】
抗EphA10/抗CD3/抗CD16 TriNTE抗体の生成
TriNTE、BiTE、及びBiKEを、ExpiFectamine 293 Transfection Kit(Thermo Fisher Scientific)を使用して、HEK293細胞への発現プラスミドの一過的トランスフェクションによって生成した。簡単に述べると、プラスミドをOpti-MEMに希釈し、予め希釈したExpiFectamineと室温で20~30分間混合し、HEK293細胞に添加した。トランスフェクション効率を最適化して、良好な収率及び純度でTriNTE、BiTE、及びBiKEを生成するためのプラスミドの最適な比を決定した。トランスフェクトした細胞からの上清を収集し、トランスフェクションの4~5日後に0.45μmフィルターユニット(Nalgene)を通して濾過した。上清中のTriNTE、BiTE、及びBiKEを、抗Hisビーズを使用して精製した。次いで、精製したTriNTE、BiTE、及びBiKEを等分して、-80℃で保存した。
【0114】
酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)
ScFv配列をマウスIgG2a配列と融合させ、pcDNA3.1プラスミドにサブクローニングした。3つのScFv-マウスIgG2aプラスミドをHEK293細胞にトランスフェクトした。3つのScFv-マウスIgG2a抗体をプロテインA樹脂によって精製した。3つの抗体を、コーティングされた9つのEPHA抗原(EphA1~8及び10、R&D systems)に対する間接的ELISAについて試験した。
【0115】
結果を図1及び表2に示す。CMU#5は、0.117nMの、ELISAにより測定されたEphA10に対するEC50で、EphA10にのみ結合し、他のEphAには結合しないことが示される。
【0116】
【表2】
【0117】
細胞毒性アッセイ
ヒト乳がん細胞(BT-549)をCFSEで標識し、精製されたヒトT細胞及びNK細胞とともに、示されるE:T比で、TriNTE、BiTE、BiTE、又はPBSの存在下で4時間インキュベートした。自然死をモニタリングするために、CFSE標識された標的細胞を、同一条件下で単独で培養した。4時間後、細胞を回収し、分析前に7-アミノアクチノマイシンD(7AAD)を添加した。試料を完全に混合し、フローサイトメトリーによって分析した。
【0118】
EphA10 TriNTEの結果を図3に示す。3.125μg/ml超では、細胞毒性効果は、対照群のものよりも有意に高かった。50μg/ml超では、細胞毒性のパーセンテージは約80%であった。本発明者らは、EphA10 TriNTEが有効な抗腫瘍活性を提供すると結論付ける。
【0119】
EphA10 BiTEの結果を図4に示す。50μg/ml超では、細胞毒性のパーセンテージは約80%であった。本発明者らは、EphA10 BiTEが有効な抗腫瘍活性を提供すると結論付ける。
【0120】
EphA10 BiKEの結果を図4に示す。50μg/ml超では、細胞毒性のパーセンテージは約80%であった。本発明者らは、EphA10 BiKEが有効な抗腫瘍活性を提供すると結論付ける。
【0121】
NK細胞及びT細胞の単離及び精製
ヒトPBMC又は単離されたT細胞及びNK細胞(エフェクター細胞として)及び様々なEphA10陽性ヒト乳がん細胞株を使用したフローサイトメトリーを用いて、再指示された細胞毒性を調べた。PBMCを、標準的な手順を使用したフィコール密度勾配遠心分離を用いて健康なドナーから単離した。簡単に述べると、遠心分離後、細胞を10mlの赤血球溶解緩衝液(Sigma-Aldrich)中で室温にて10分間インキュベートし、PBSで洗浄し、RPMI-1640培地に6×106個の細胞/mlの濃度で再懸濁した。あるいは、T細胞を、Pan T-cell Isolation Kit II(Miltenyi Biotec)を使用して、PBMCから単離した。T細胞活性化のために、2×106個のT細胞を、1μgの抗CD3抗体及び1μgの抗CD28抗体(eBioscience)でコーティングされた24ウェルプレート中で培養した。細胞を、5%CO2加湿インキュベーター中で37℃にて3日間インキュベートした。NK細胞を、NK Cell Isolation Kit(Miltenyi Biotec)を使用して、PBMCから単離した。細胞をFACS緩衝液(PBS、2%FBS、及び0.02%NaN3)中で1回洗浄し、200μl中で4℃にて30分間インキュベートした。ヨウ化プロピジウム(PI)を最終濃度1μg/mlまで添加し、試料をフローサイトメトリー(BD Biosciences)によって分析した。標的細胞の溶解を、PI染色された細胞のパーセンテージとして決定した。すべての実験は二重反復で実施した。
【0122】
T細胞活性化の特徴付け
T細胞活性化を、フローサイトメトリー分析によってCD25発現に従って決定した。リンパ球を、自己標的MDM有り又は無しで、96ウェルプレート中でインキュベートし(E:T比4:1及び8:1)、TriNTE、BiTE、及びBiKEで処理した。実験を50%腹水中で実行した。4日間の共培養後、リンパ球を回収し、抗CD4、抗CD8、抗CD25、抗CD69、抗CD107a、及び抗HLA-DR抗体で染色した。
【0123】
NK細胞活性化の特徴付け
処理の存在下又は非存在下での腫瘍標的に対するNK細胞活性化を、フローサイトメトリーを使用して、CD107a媒介脱顆粒及びIFN-γ産生に従って測定した。リンパ球を、自己標的MDM有り又は無しで、96ウェルプレート中でインキュベートし(E:T比4:1及び8:1)、TriNTE、BiTE、及びBiKEで処理した。実験を50%腹水中で実行した。4日間の共培養後、リンパ球を回収し、抗CD69、抗CD107a、抗Trial、抗IFN-γ、及び抗TNF-α抗体で染色した。
【0124】
K細胞及びNK細胞の活性化の結果を図5に示す。乳がん細胞とT細胞又はNK細胞とを共培養した場合、EphA10 TriNTEで処理された群は、サイトカインの放出を約3倍増加させた。EphA10 TriNTEは、実際に、T細胞又はNK細胞の活性化を増加させ、サイトカインの放出を増加させる。
【0125】
乳がん細胞によるin vivo移植
1×106個の非刺激PBMCとともに1×106個のMDA-MB-231細胞の皮下移植を受けたNSGマウスにおいて、EphA10 TriNTEのin vivo効力を評価した。群あたり6匹の動物を1又は10μgのTriNTEで静脈内処置し、研究0、1、2、及び3日目に対照食塩水を投与した。2つの垂直方向の腫瘍増殖を、指定された日にノギスで測定し、腫瘍体積(mm3)を、次の式を使用して計算した:V=(幅2×長さ)/2(Taki et al., 2015)。IVISも、NSGマウスにおける腫瘍増殖を測定するために使用される。
【0126】
結果を図7に示す。EphA10 TriNTE処置群は、腫瘍増殖の著しい阻害を示す。したがって、EphA10 TriNTEは、EphA10陽性乳がん腫瘍に対してin vivo有効性を示す。
【0127】
免疫染色
T細胞、NK細胞及びBT-549細胞を、EphA10 TriNTEとともに培養した。細胞を4%PFA/PBSで10分間固定し、モノクローナル抗体とともに4℃で一晩インキュベートした。翌日、コロニーを、BT-549をモニタリングするためのDAPI、抗CD3(FITC)抗体及び抗CD16(TxRd)抗体で染色した。
【0128】
結果を図8に示す。EphA10 TriNTEは、T細胞、NK細胞及びBT-549細胞に同時に結合する。
【0129】
EphA10-CAR-Tレンチウイルスベクターの構築
CMU#5 ScFv(配列番号9)をクローニングし、CD8ヒンジ、CD28 TM及びIC、41-BB及びCD3ζを含有する第3世代CAR-Tレンチウイルスベクターに挿入した。CMU#5 ScFvの配列を合成し、第3世代CAR-Tレンチウイルスベクター(pCDH-EF1a-MCS)(Creative BioLabs, USA)にサブクローニングした。EphA10 CARレンチウイルスを生成するために、第3世代CAR-Tレンチウイルスベクター及びパッケージングベクター(LentiArt(商標)Virus Packaging Kit, Creative Biolabs, USA、カタログ番号CART-027CL)をHEK293細胞に共トランスフェクトした。
【0130】
EphA10-CAR Tの生成(EphA10-CAR T)
ヒトCD8+ T細胞を、EphA10-CAR Tの生成に使用した。簡単に述べると、CD8+ T細胞に、CMU#5 ScFv(配列番号9)をコードするCARレンチウイルスを安定に形質導入した。すべてのEphA10-CAR T細胞株をKBM502培地(コージンバイオ、日本)中で維持した。EphA10-CAR T細胞株を、マイコプラズマ混入について2か月ごとに試験した。
【0131】
細胞毒性アッセイ
EphA10-CAR-T細胞の細胞毒性能を、非放射性細胞毒性アッセイで評価した。EphA10-CAR-T細胞を、EphA10陽性MDA-MB-231細胞とともに、標的に対するエフェクターの比10(E/T比=10;エフェクター細胞:EphA10-CAR-T細胞;標的細胞:MDA-MB-231細胞)で24時間共培養した。MDA-MB-231の細胞生存率をMTTアッセイでアッセイした。
【0132】
結果を図9に示す。EphA10-CAR-T細胞の処理は、MDA-MB-231の生存率を有意に低減した。
【0133】
本開示は、上述の具体的な実施形態に関連して説明されてきたが、その多くの代替並びにその改変及びバリエーションは当業者には明らかである。このような代替、改変及びバリエーションはすべて、本開示の範囲内にあるものと見なされる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
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【国際調査報告】