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特表2024-540617グラフェンを用いた伝導性が向上したポリイミド粉末及び製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-31
(54)【発明の名称】グラフェンを用いた伝導性が向上したポリイミド粉末及び製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/10 20060101AFI20241024BHJP
【FI】
C08G73/10
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024529994
(86)(22)【出願日】2022-11-30
(85)【翻訳文提出日】2024-05-21
(86)【国際出願番号】 KR2022019254
(87)【国際公開番号】W WO2023101433
(87)【国際公開日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】10-2021-0168250
(32)【優先日】2021-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520160738
【氏名又は名称】ピーアイ・アドバンスド・マテリアルズ・カンパニー・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ホ・スン・イ
(72)【発明者】
【氏名】ミン・ソク・ヤン
(72)【発明者】
【氏名】イク・サン・イ
【テーマコード(参考)】
4J043
【Fターム(参考)】
4J043PA04
4J043QB26
4J043RA34
4J043RA35
4J043SA06
4J043TA22
4J043TB03
4J043UA122
4J043UA131
4J043UA132
4J043UA142
4J043UA151
4J043UB061
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4J043UB121
4J043UB122
4J043UB131
4J043UB162
4J043UB221
4J043UB231
4J043VA021
4J043VA022
4J043VA031
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4J043VA042
4J043VA051
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4J043VA061
4J043VA062
4J043VA081
4J043VA092
4J043XA03
4J043XA14
4J043XA16
4J043XA34
4J043XB27
4J043YA01
4J043YA06
4J043YA23
4J043ZA34
4J043ZA44
4J043ZB47
4J043ZB52
(57)【要約】
本発明は、ポリイミド粉末及びその製造方法に関し、本発明によるポリイミド粉末は、ジアミンモノマー及びジアンヒドリドモノマーにグラフェンを用いて重合することにより、引張強度と伸びの低下を最小限に抑えながらも、電気伝導性を発現して帯電防止が可能なポリイミド粉末を提供しうる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラフェンを含む有機溶媒内でジアンヒドリドモノマーとジアミンモノマーを溶液重合してポリアミック酸溶液を製造する段階と、
前記ポリアミック酸溶液を加熱してポリイミド混合液を製造する段階と、
前記混合液内に存在する沈殿物をろ過及び乾燥してポリイミド粉末を得る段階と、を含む、ポリイミド粉末の製造方法。
【請求項2】
有機溶媒内に含まれる前記グラフェンの含量は、ジアンヒドリドモノマーとジアミンモノマーの合計100重量部に対して5~70重量部である、請求項1に記載のポリイミド粉末の製造方法。
【請求項3】
前記有機溶媒は、非プロトン性溶媒及びプロトン性溶媒の混合溶媒である、請求項1に記載のポリイミド粉末の製造方法。
【請求項4】
前記非プロトン性溶媒は、トルエン、キシレン、ナフサ、アニソール、クレゾール、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、ビフェニル、ターフェニル、ジフェニルエーテル、ジフェニルスルフィド、アセトフェノン、塩素化ビフェニル、及び塩素化ジフェニルエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1つであり、
前記プロトン性溶媒は、N-メチル-ピロリドン(NMP)、N,N’-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N’-ジエチルホルムアミド(DEF)、N,N’-ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルプロパンアミド(DMPA)、N,N-ジメチルアセトアミド(DEAc)、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド(KJCMPA)、及びガンマブチロラクトン(GBL)からなる群から選ばれる少なくとも1つである、請求項3に記載のポリイミド粉末の製造方法。
【請求項5】
前記混合溶媒は、非プロトン性溶媒10~50重量%及びプロトン性溶媒50~90重量%を含む、請求項3に記載のポリイミド粉末の製造方法。
【請求項6】
前記ポリアミック酸溶液を製造する段階は、50~100℃で行われる、請求項1に記載のポリイミド粉末の製造方法。
【請求項7】
前記ポリイミド混合液を製造する段階は、140~200℃で行われる、請求項1に記載のポリイミド粉末の製造方法。
【請求項8】
前記ジアンヒドリドモノマーは、ピロメリティックジアンヒドリド(PMDA)、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボキシリックジアンヒドリド(s-BPDA)、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボキシリックジアンヒドリド(a-BPDA)、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンヒドリド(BTDA)、オキシジフタリックジアンヒドリド(ODPA)、4,4-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタリックアンヒドリド(6-FDA)及びp-フェニレンビス(トリメリテートアンヒドリド)(TAHQ)からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む、請求項1に記載のポリイミド粉末の製造方法。
【請求項9】
前記ジアミンモノマーは、1,4-ジアミノベンゼン(PPD)、1,3-ジアミノベンゼン(MPD)、2,4-ジアミノトルエン、2,6-ジアミノトルエン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(ODA),4,4’-メチレンジアミン(MDA)、4,4-ジアミノベンズアニリド(4,4-DABA),N,N-ビス(4-アミノフェニル)ベンゼン-1,4-ジカルボキサミド(BPTPA)、2,2-ジメチルベンジジン(M-TOLIDINE)、2,2-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFDB)、1,4-ビスアミノフェノキシベンゼン(TPE-Q)、ビスアミノフェノキシベンゼン(TPE-R)、2,2-ビスアミノフェノキシフェニルプロパン(BAPP)及び2,2-ビスアミノフェノキシフェニルヘキサフルオロプロパン(HFBAPP)からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む、請求項1に記載のポリイミド粉末の製造方法。
【請求項10】
ジアンヒドリドモノマーとジアミンモノマーから誘導された重合単位を有するポリイミドマトリックス、及び
前記ポリイミドマトリックス内に分散されたグラフェンを含み、
ASTM D1708で測定した引張強度が70MPa以上であり、ASTM D1708で測定した伸びが7%以上であり、ASTM D257で測定した表面抵抗が10Ω/cm以下である、ポリイミド粉末。
【請求項11】
ポリイミド粉末100重量部に対して、0.01~50重量部のグラフェンを含む、請求項10に記載のポリイミド粉末。
【請求項12】
前記ジアンヒドリドモノマーは、ピロメリティックジアンヒドリド(PMDA)、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボキシリックジアンヒドリド(s-BPDA)、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボキシリックジアンヒドリド(a-BPDA)、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンヒドリド(BTDA)、オキシジフタリックジアンヒドリド(ODPA)、4,4-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタリックアンヒドリド(6-FDA)及びp-フェニレンビス(トリメリテートアンヒドリド)(TAHQ)からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む、請求項10に記載のポリイミド粉末。
【請求項13】
前記ジアミンモノマーは、1,4-ジアミノベンゼン(PPD)、1,3-ジアミノベンゼン(MPD)、2,4-ジアミノトルエン、2,6-ジアミノトルエン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(ODA),4,4’-メチレンジアミン(MDA)、4,4-ジアミノベンズアニリド(4,4-DABA),N,N-ビス(4-アミノフェニル)ベンゼン-1,4-ジカルボキサミド(BPTPA)、2,2-ジメチルベンジジン(M-TOLIDINE)、2,2-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFDB)、1,4-ビスアミノフェノキシベンゼン(TPE-Q)、ビスアミノフェノキシベンゼン(TPE-R)、2,2-ビスアミノフェノキシフェニルプロパン(BAPP)及び2,2-ビスアミノフェノキシフェニルヘキサフルオロプロパン(HFBAPP)からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む、請求項10に記載のポリイミド粉末。
【請求項14】
請求項10に記載のポリイミド粉末を加圧成形する段階を含む、ポリイミド成形品の製造方法。
【請求項15】
加圧成形する段階は、30~1,000MPaの圧力で行われる、請求項14に記載のポリイミド成形品の製造方法。
【請求項16】
加圧成形する段階は、200~450℃で行われる、請求項14に記載のポリイミド成形品の製造方法。
【請求項17】
加圧成形されたポリイミド粉末を200~450℃で焼結する段階をさらに含む、請求項14に記載のポリイミド成形品の製造方法。
【請求項18】
請求項14~17のいずれか一項に記載の製造方法により製造されたポリイミド成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフェンを用いた伝導性が向上したポリイミド粉末及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ポリイミド(polyimide,PI)は、ジアンヒドリドとジアミン又はジイソシアネートを溶液重合して形成されたイミドモノマーの重合体であって、イミド環の化学的安定性に基づいて優れた強度、耐化学性、耐候性及び耐熱性などの機械的特性を有する。また、ポリイミドは絶縁特性、低誘電率などの優れた電気的特性により電子、通信及び光学などの広範囲な産業分野に適用可能な高機能性高分子材料として脚光を浴びている。
【0003】
一般に、ポリイミドは、ジアンヒドリドとジアミンを溶媒中で反応させて前駆体であるポリアミック酸(polyamic acid)を先ず合成し、次の段階でポリアミック酸をイミド化する方法で製造され、使用される反応溶媒はN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に代表される極性有機溶媒が主に使用される。このような一般的な方法は、ポリアミック酸製造段階とポリアミック酸のイミド化段階の2段階反応で工程が複雑で、溶媒が有害であり、高分子量のポリイミドを得ることが難しく、イミド化段階で付加的な触媒や300℃以上の高温の熱を必要とする問題が存在する。
【0004】
一方、ポリイミドは、前述のように絶縁特性、及び低誘電率などの電気的特性を有するが、従来のポリイミド粉末の場合、高い表面抵抗(>1015)を有する絶縁体で帯電の可能性が高いという問題がある。このような従来のポリイミド粉末の高い表面抵抗を下げるために伝導性フィラーを投入するが、前記伝導性フィラーを多量に投入する場合、ポリイミドの引張強度と伸びが低下するという問題がある。
【0005】
したがって、ポリイミドの引張強度と伸びの低下を最小限に抑えながらも、電気伝導性を発現して帯電防止が可能な方法についての研究が必要なのが実状である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記のような従来技術の問題点と技術的課題を解決することを目的とする。
【0007】
本発明は、ポリイミドの引張強度と伸びの低下を最小限に抑えながらも、電気伝導性を発現して帯電防止が可能なポリイミド粉末及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ポリイミド粉末及びその製造方法に関する。
【0009】
本発明によるポリイミド粉末は、ジアンヒドリドモノマー成分とジアミンモノマー成分を重合単位で有する。
【0010】
従来のポリイミド粉末の場合、高い表面抵抗(>1015)を有する絶縁体で帯電の可能性が高いという問題があった。このような従来のポリイミド粉末の高い表面抵抗を下げるために伝導性フィラーを投入するが、前記伝導性フィラーを多量に投入する場合、ポリイミドの引張強度と伸びが低下するという問題があった。
【0011】
本発明は、ジアンヒドリドモノマー成分とジアミンモノマー成分とともにグラフェンを用いて重合することにより、引張強度と伸びの低下を最小限に抑えながらも、電気伝導性を発現して帯電防止が可能なポリイミド粉末を提供しうる。
【0012】
本発明の一実施形態によるポリイミド粉末の製造方法は、グラフェンを含む有機溶媒内でジアンヒドリドモノマーとジアミンモノマーを溶液重合させてポリアミック酸溶液を製造する段階、前記ポリアミック酸溶液を加熱してポリイミド混合液を製造する段階、及び前記混合液内に存在する沈殿物をろ過及び乾燥してポリイミド粉末を得る段階を含む。
【0013】
従来はジアンヒドリドモノマー及びジアミンモノマーを水系溶媒に分散させて分散液を製造した後、熱処理してポリイミド粉末を製造した。しかし、従来のように水系溶媒にグラフェンをさらに含んで分散液を製造して熱処理する場合、疎水性のグラフェンは分散液内で凝集して分散性が低下するという問題があった。
【0014】
本発明の一実施形態によるポリイミド粉末の製造方法は、ジアンヒドリドモノマー及びジアミンモノマーとグラフェンを混合有機溶媒に分散させて重合溶液(ワニス)を形成した後、これを熱処理してポリイミド粉末を製造するため、疎水性のグラフェンの分散性が良好である。
【0015】
有機溶媒内に含まれる前記グラフェンの含量は、ジアンヒドリドモノマーとジアミンモノマーの合計100重量部に対して、例えば、5~80重量部、7~60重量部、8~55重量部、または10~50重量部であってもよい。グラフェンの含量が小さすぎる場合、所望の表面抵抗を得ることが困難であり、その含量が多すぎる場合、引張強度や伸びなどの機械的物性が低下することがある。
【0016】
本発明の有機溶媒は、非プロトン性溶媒とプロトン性溶媒の混合溶媒を使用してもよい。混合溶媒を使用する場合、非プロトン性溶媒単独またはプロトン性溶媒単独で使用する場合に比べて、成形性及び加工性に優れた長所がある。
【0017】
理論に縛られないが、非プロトン性溶媒の場合は一種のイミド化触媒の役割を果たし、プロトン性溶媒の場合は分子量を成長させることができる役割を果たすものと判断される。
【0018】
非プロトン性溶媒は、特に制限されないが、トルエン、キシレン、ナフサ、アニソール、クレゾール、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、ビフェニル、ターフェニル、ジフェニルエーテル、ジフェニルスルフィド、アセトフェノン、塩素化ビフェニル、及び塩素化ジフェニルエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1つを使用してもよい。プロトン性溶媒は特に制限されないが、N-メチル-ピロリドン(NMP)、N,N’-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N’-ジエチルホルムアミド(DEF)、N,N’-ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルプロパンアミド(DMPA)、N,N-ジメチルアセトアミド(DEAc)、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド(KJCMPA)、及びガンマブチロラクトン(GBL)からなる群から選ばれる少なくとも1つを使用してもよい。
【0019】
混合溶媒は、非プロトン性溶媒10~50重量%及びプロトン性溶媒50~90重量%を含んでもよい。非プロトン性溶媒の含量が小さすぎると、加熱工程でイミド化が十分に行われず、成形性が確保できず、固有粘度(IV)が低くなるという短所があり、その含量が大きすぎると、重合液の分子量があまりにも遅く(鎖があまりにも小さく)形成され、その後の成形品の成形時に成形性が確保できないという短所がある。
【0020】
ポリアミック酸溶液を製造する段階は、50~100℃、例えば60~90℃、65~85℃、または70~80℃で行われてもよく、ポリイミド混合液を製造する段階は、160~200℃、例えば、170~190℃または175~185℃で行われてもよい。
【0021】
前記加熱温度が前記範囲より低い場合、伸び及び引張強度などの機械的物性が低下し、成形加工時に破断が発生して収率が低下し、加工性が低下することがある。また、前記加熱温度が前記範囲より高い場合、粉末の色が暗くなり、粒子の大きさが増加することがある。
【0022】
前記ポリアミック酸溶液を製造する段階及び/又はポリイミド混合液を製造する段階は、加圧条件、例えば、1~10barの条件で行われてもよい。特に、本発明の一実施形態では、ジアンヒドリドモノマー及びジアミンモノマーとグラフェンを混合溶媒に分散させて重合するため、常圧または1bar~3bar以下の加圧条件で重合反応を行ってもよい。加圧は、反応器内に不活性ガスを注入するか、または反応器内で生成された水蒸気を用いることができる。前記不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオンなどを使用してもよい。
【0023】
前記加圧条件が前記範囲より低い場合、伸び及び引張強度などの機械的物性が低下し、成形加工時に破断が発生して収率が低下し、加工性が低下することがある。また、加圧条件が前記範囲より高い場合、粉末の色が暗くなり、粒子の大きさが増加することがある。
【0024】
前記ポリアミック酸溶液を製造する段階及び/又はポリイミド混合液を製造する段階の反応時間は1~20時間であってもよく、例えば、1~10時間、1~8時間、1~6時間又は1~4時間であってもよい。
【0025】
前記反応時間が前記範囲より低い場合、反応収率が低下し、伸び及び引張強度などの機械的物性が低下し、成形加工時に破断が発生して収率が低下し、加工性が低下することがある。また、反応時間が前記範囲より高い場合、粉末の色が暗くなり、粒子の大きさが増加することがある。
【0026】
前記ポリイミド粉末を得る段階は、前記混合液内に存在する沈殿物をろ過及び乾燥してポリイミド粉末を得る段階である。
【0027】
前記ろ過及び乾燥する方法は特に制限されず、例えば、真空乾燥またはオーブン乾燥を行ってもよい。
【0028】
前記ジアンヒドリドモノマーは、ジアミンモノマーと反応してポリイミドを形成できるものであれば、特に制限されるものではない。例えば、本発明によるジアンヒドリドモノマーは、ピロメリティックジアンヒドリド(PMDA)、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボキシリックジアンヒドリド(s-BPDA)、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボキシリックジアンヒドリド(a-BPDA)、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボキシリックジアンヒドリド(BTDA)、オキシジフタリックジアンヒドリド(ODPA)、4,4-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタリックアンヒドリド(6-FDA)及びp-フェニレンビス(トリメリテートアンヒドリド)(TAHQ)からなる群から選ばれる少なくとも1つを含んでもよい。
【0029】
前記ジアミンモノマーは、ジアンヒドリドモノマーと反応してポリアミック酸を形成できるものであれば、特に制限されるものではない。例えば、本発明によるジアミンモノマーは、1,4-ジアミノベンゼン(PPD)、1,3-ジアミノベンゼン(MPD)、2,4-ジアミノトルエン、2,6-ジアミノトルエン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(ODA),4,4’-メチレンジアミン(MDA)、4,4-ジアミノベンズアニリド(4,4-DABA),N,N-ビス(4-アミノフェニル)ベンゼン-1,4-ジカルボキサミド(BPTPA)、2,2-ジメチルベンジジン(M-TOLIDINE)、2,2-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFDB)、1,4-ビスアミノフェノキシベンゼン(TPE-Q)、ビスアミノフェノキシベンゼン(TPE-R)、2,2-ビスアミノフェノキシフェニルプロパン(BAPP)及び2,2-ビスアミノフェノキシフェニルヘキサフルオロプロパン(HFBAPP)からなる群から選ばれる少なくとも1つを含んでもよい。
【0030】
このとき、前記ジアンヒドリドモノマー成分のモル数(a)に対するジアミンモノマー成分のモル数(b)を表すモル比(b/a)は、1以下である。例えば、前記ジアンヒドリドモノマー成分に対するジアミンモノマー成分のモル比(b/a)の上限は、0.99以下、0.98以下、0.97以下、0.96以下または0.95以下であってもよく、モル比の下限は、0.9以上、0.91以上、0.92以上、0.93以上または0.94以上であってもよく、具体的には、前記ジアンヒドリドモノマー成分に対するジアミンモノマー成分のモル比は、0.9~0.99、0.93~0.99、0.94~0.99、0.95~0.99、0.95~0.98または0.96~0.98であってもよい。
【0031】
例えば、本発明は、ジアンヒドリドモノマー成分のモル数よりもジアミンモノマー成分のモル数が少ない。化学量論的には、ジアンヒドリドモノマー及びジアミンモノマーは、1:1反応によりポリイミドが製造されてもよいが、反応の進行は主に溶媒及び/又は触媒存在下で行われていて、このとき、溶媒または触媒の作用基とジアミンの副反応が行われてもよく、一般に、ジアミンを過量で投入するか、またはジアンハイドライドとジアミンを等しいモル数で投入する。
【0032】
前記混合溶媒内で固形分は、1~30重量%であってもよい。前記固形分はジアンヒドリドモノマー成分及びジアミンモノマー成分を意味する。例えば、前記混合溶媒中の固形分の含量は、1~20%または10~20%であってもよい。前記のような固形分の含量を有することにより、ポリイミド粉末の固有粘度を適切な加工性を有するように調節しうる。
【0033】
特に、本発明の一実施形態によるポリイミド粉末の製造方法は、ジアンヒドリドモノマー成分及びジアミンモノマー成分とグラフェンを混合溶媒に分散させて重合溶液(ワニス)を形成した後、これを熱処理してポリイミド粉末を製造するため、ポリイミド粉末の固有粘度が従来の水系重合方式に比べてより高く(>0.9dL/g)、成形性及び加工性に優れている。
【0034】
本発明の他の実施形態によるポリイミド粉末は、ジアンヒドリドモノマーとジアミンモノマーから誘導された重合単位を有するポリイミドマトリックス、及びポリイミドマトリックス内に分散したグラフェンを含む。
【0035】
グラフェンは、ポリイミド粉末100重量部に対して、0.01~50重量部の含量で含んでもよく、好ましくは、0.1~50重量部の含量で含んでもよい。グラフェンは、ポリイミド粉末の重合時に含まれてもよく、さらにポリイミド粉末に粉末形態で混合されてもよい。
【0036】
ポリイミド粉末は、ASTM D1708で測定した引張強度が70MPa以上であってもよい。例えば、本発明によるポリイミド粉末は、ASTM D1708で測定した引張強度の下限が60MPa以上、70MPa以上、80MPa以上または90MPa以上であってもよく、引張強度の上限が110MPa以下または105MPa以下であってもよい。
【0037】
ポリイミド粉末は、ASTM D1708で測定した伸びが7%以上であってもよい。例えば、本発明によるポリイミド粉末は、ASTM D1708で測定した伸びの下限が7%以上、7.5%以上または8%以上であってもよく、伸びの上限が10%以下または15%以下であってもよい。
【0038】
ポリイミド粉末は、ASTM D257で測定した表面抵抗が10Ω/cm以下、10Ω/cm以下、10Ω/cm以下、10Ω/cm以下、または10Ω/cm以下であってもよい。例えば、本発明によるポリイミド粉末は、ASTM D257で測定した表面抵抗の下限が10Ω/cm以上であってもよく、表面抵抗の上限が10Ω/cm以下であってもよい。
【0039】
また、本発明は、上述したポリイミド粉末を加圧成形する段階を含むポリイミド成形品の製造方法を提供する。
【0040】
前記加圧成形する段階は、30~1000MPaの圧力で行われてもよく、加圧成形する段階は、200~400℃で行われてもよい。また、加圧成形段階は、常温で行い、加圧成形されたポリイミド粉末を200~400℃で焼結する段階をさらに含んでもよい。前記圧力範囲より低いと成形時に粉末の成形性が不足することがあり、高いと成形品の加工性が低下することがある。前記温度範囲より低いと分子の流動性が確保できず、成形性が大きく低くなることがあり、高いと過熱により一部が酸化されることがある。
【0041】
本発明は、さらにポリイミド粉末を用いて製造される成形品を提供する。本発明によって製造されたポリイミド粉末は、様々な成形方法によって成形品として製造されてもよく、例えば、圧縮成形、射出成形、スラッシュ成形、中空成形、押出成形または紡績方法を用いて必要とされる成形品を製造しうる。成形品の形態は制限されないが、フィルム、シート、ペレット、チューブ、ベルト、射出成形品または押出成形品であってもよい。
【0042】
本発明によって製造されたポリイミド粉末は、電気/電子、半導体、ディスプレイ、自動車、医療、電池及び宇宙航空などの様々な分野で使用されてもよい。
【発明の効果】
【0043】
本出願によるポリイミド粉末は、引張強度と伸びの低下を最小限に抑えながらも、電気伝導性を発現して帯電防止が可能である。
【0044】
本出願によるポリイミド粉末は、成形品基準表面抵抗が10Ω/cm以下まで下げることができ、電気伝導性の発現を通じて帯電防止が可能である。
【0045】
また、本出願によるポリイミド粉末は、グラフェンをフィラーとして含むことにより、他の伝導性フィラーとは異なり、伸びを6%以上維持しながらも伝導性の発現が可能であり、他の伝導性フィラーに比べて少量投入しても目標とする伝導性の確保が可能であり、引張強度及び伸びの低下を最小限に抑えることができる。
【0046】
また、本出願によるポリイミド粉末は、グラフェンを従来の水系溶媒に投入して重合する方法ではなく、高沸点混合有機溶媒に分散及び重合して製造するため、グラフェンの分散性に優れ、これにより他の伝導性フィラーに比べて少量投入しても目標とする伝導性の確保が可能であり、引張強度及び伸びの低下を最小限に抑えることができる。
【0047】
しかし、本発明の効果は、前記言及した効果に制限されず、言及されていない他の効果は、下記の記載から当業者が明確に理解できるだろう。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、本発明による実施例及び本発明によらない比較例を介して本発明をより詳細に説明するが、本発明の範囲が下記の実施例によって制限されるものではない。
【実施例
【0049】
<実施例1>
ガラス反応器にm-キシレン30wt%とNMP(N-メチルピロリドン)70wt%の混合溶媒900g、ODA46g、グラフェン(Graphene)10g、PMDA40g、及びODPA14gを順に投入した後、75℃で2時間撹拌してポリアミック酸溶液を製造した。完成したポリアミック酸溶液を常圧で2時間180℃で加熱してポリイミド混合液を製造した。混合液内に沈殿したパウダーをろ過し、エタノールを用いて洗浄した後、24時間乾燥してポリイミド粉末を製造した。製造された前記粉末を>50MPa、及び>300℃で加圧成形して成形品を製造した。
【0050】
<実施例2>
グラフェン20gを使用したことを除いては、実施例1と同様に成形品を製造した。
【0051】
<実施例3>
グラフェン30gを使用したことを除いては、実施例1と同様に成形品を製造した。
【0052】
<実施例4>
グラフェン50gを使用したことを除いては、実施例1と同様に成形品を製造した。
【0053】
<比較例1~5>
下記表1のようにフィラーの成分が異なることを除いては、実施例1と同様の方法でポリイミド粉末を製造した。
【0054】
具体的には、比較例1はフィラーを追加しない場合であり、比較例2~5は従来投入される様々な成分のフィラーを追加した場合である。
【0055】
実験例
製造されたポリイミド粉末の物性を下記方式を用いて測定し、その結果を下記表1に示した。
【0056】
実験例1-伸び及び引張強度の測定
引張強度を分析するために、ポリイミドパウダーの圧縮成形試験片を使用し、ASTM D1708規格に従ってDog bone形状の試験片を作製した。ポリイミドパウダーを常温で6ton/cmで5分間加圧して成形した後、オーブンで390℃で1時間焼結して分析試験片を製造した。圧縮成形には25tonの油圧プレスを用い、引張強度はインストロン(Instron)社のInstron 5564 UTM装備を使用して測定した。
【0057】
実験例2-表面抵抗の測定
表面抵抗の測定のためにポリイミドパウダーの圧縮成形試験片を用い、ASTM D257規格に従って実施例及び比較例の表面抵抗を測定した。具体的に、表面抵抗の測定はASTM-D257測定方法に基づいて55%RH、23℃、印加電圧500Vの条件下で測定し、測定装備は4-point probe meter(CMT-SR 1000N,AIT)を使用して測定した。
【0058】
【表1】
【0059】
前記表1を参照すると、本発明のようにジアンヒドリドモノマー成分とジアミンモノマー成分を重合単位として有するポリイミド粉末であって、グラフェンをさらに含む実施例1~4の場合、表面抵抗が10Ω/cm以下であり、特に実施例4の場合には、グラフェン含量が5wt%であり、表面抵抗が10Ω/cmまで減少したことが分かる。これにより、本発明の実施例1~4の場合には成形品基準表面抵抗が10Ω/cmまで下げることができ、電気伝導性の発現を通じて帯電防止が可能であることが分かる。本発明の実施例1~4の場合には成形品基準表面抵抗が10Ω/cmまで下げることができ、電気伝導性の発現を通じて帯電防止が可能であり、また、引張強度が90MPa~102MPa程度であり、伸びが8%~9%であり、引張強度及び伸びの低下が大きくなく、従来の伝導性フィラーに対して引張強度と伸びを目標値以上に維持しながらも伝導性を発現することができ、帯電防止が可能であることが分かる。一方、フィラーが投入されない場合(比較例1)及び表面抵抗の減少のために投入された従来のフィラーの場合(比較例2~5)には、表面抵抗が1015Ω/cmまで増加する場合のあることが分かる。たとえ、比較例4の場合にはグラファイトを添加して表面抵抗が10Ω/cm値を有していてもフィラーの含量があまりにも過量であるため、引張強度及び伸びが低下するという問題があることが分かる。
【0060】
下記表2は、本発明の一実施形態による非プロトン性溶媒及びプロトン性溶媒の混合溶媒を使用した実施例と非プロトン性溶媒単独またはプロトン性溶媒単独で使用した場合の比較例による固有粘度(IV)、成形性及び加工性を比較した実験結果を示す。
【0061】
具体的には、比較例6は、m-クレゾール単独で使用した場合であり、比較例7は、NMP単独で使用したことを除いては、実施例1と同様の場合である。また、実施例6は、m-クレゾール/NMPの50/50wt%混合液の場合であり、実施例7は、m-クレゾール/NMPの30/70wt%混合液の場合であり、実施例8は、m-クレゾール/NMPの70/30wt%混合液であることを除いては、実施例1と同様の場合である。
【0062】
【表2】
【0063】
前記表2に示すように、プロトン性溶媒単独または非プロトン性溶媒単独で使用した比較例6及び7の場合には固有粘度(IV)が低く、成形性及び加工性の確保が難しいことが分かる。一方、本発明の実施形態のようにプロトン性溶媒と非プロトン性溶媒の混合溶媒を使用した実施例6~8の場合には、固有粘度(IV)が高く、成形性及び加工性がすべて優れていることが分かる。
【0064】
以上で説明した本発明は、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者において本発明の技術的思想から逸脱しない範囲内で様々な置換、変更が可能であるため、前述した実施例に限定されるものではない。
【国際調査報告】