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特表2024-540668ゼラチン系生分解性マイクロカプセルの調製方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-31
(54)【発明の名称】ゼラチン系生分解性マイクロカプセルの調製方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 25/28 20060101AFI20241024BHJP
   A01N 53/08 20060101ALI20241024BHJP
   A01N 37/22 20060101ALI20241024BHJP
   A01P 13/00 20060101ALI20241024BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20241024BHJP
   B01J 13/10 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
A01N25/28
A01N53/08 120
A01N37/22
A01P13/00
A01P3/00
B01J13/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024531520
(86)(22)【出願日】2022-11-16
(85)【翻訳文提出日】2024-05-27
(86)【国際出願番号】 EP2022082139
(87)【国際公開番号】W WO2023094236
(87)【国際公開日】2023-06-01
(31)【優先権主張番号】63/283,644
(32)【優先日】2021-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520222106
【氏名又は名称】シンジェンタ クロップ プロテクション アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】ウィルキンス ルイス チャールズ
(72)【発明者】
【氏名】カフリン アンドリュー ジェイムズ
(72)【発明者】
【氏名】ストックマル ケリ アン
(72)【発明者】
【氏名】デ ヘール マルティーネ イングリッド
(72)【発明者】
【氏名】ライマルク マシュー ジョセフ
(72)【発明者】
【氏名】カイナストン エミリー ルイーズ
(72)【発明者】
【氏名】ウォーラー キャサリン ポーラ
【テーマコード(参考)】
4G005
4H011
【Fターム(参考)】
4G005AA01
4G005AB25
4G005BA07
4G005BB06
4G005DB06Z
4G005DB12Z
4G005DB14Z
4G005DB16Z
4G005DB17Z
4G005DC12W
4G005DD24W
4G005EA02
4H011AB01
4H011AC01
4H011BB06
4H011BB15
4H011BC19
4H011DA06
4H011DH10
4H011DH11
(57)【要約】
ゼラチン及びカルボキシル化多糖類の複合コアセルベーションを含む、農薬を生分解性カプセルにカプセル化する方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼラチン及びカルボキシル化多糖類の複合コアセルベーションを含む、農薬を生分解性カプセルにカプセル化する方法。
【請求項2】
(1)ゼラチンを含む水性相と前記農薬を含む油相とのエマルジョンを形成するステップ;
(2)前記カルボキシル化多糖類を添加するステップ;及び
(3)架橋剤を添加するステップ
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ(2)は、水溶液としてのカルボキシル化多糖類の前記添加を含み、及び/又は、酸性条件下で実施される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(2)は、前記カルボキシル化多糖類の前記添加の後に、高せん断ホモジナイゼーションステップを含む、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(3)は、分散剤の添加を含む、請求項2~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
(1)ゼラチン及びカルボキシル化多糖類を含む水性相と農薬を含む油相とのエマルジョンを形成するステップ;並びに
(2)架橋剤を添加するステップ
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記架橋剤は、ポリアルデヒド、多酸、ポリフェノール、アルドース糖質から選択される、請求項2~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記ゼラチンは、最終製剤の1~6質量%の量で存在する、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記カルボキシル化多糖類は、前記最終製剤の0.25~3質量%の量で存在する、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記架橋剤は、前記最終製剤の0.0001~2質量%の量で存在する、請求項2~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記農薬は、前記最終製剤の0.01~60質量%の量で存在する、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記農薬は、0.001~200mg/Lの溶解度を有し、好ましくは、前記農薬はλ-シハロトリン及び/又はテフルトリンである、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記カルボキシル化多糖類は、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム及びカルボキシメチルセルロースの1種以上から選択され、好ましくは、1種のカルボキシル化多糖類のみが使用される、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記プロセスは、追加の乳化剤を含まない、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記カプセルは、15μm未満、好ましくは10μm未満、より好ましくは5μm未満の直径を有し;及び/又は、徐放性を示す、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
請求項1~14のいずれか一項に記載の方法により調製されたマイクロカプセルを含む、組成物。
【請求項17】
雑草、有害生物、線虫、軟体動物及び/又は真菌の処理における、請求項16に記載の組成物の使用。
【請求項18】
請求項1~17のいずれか一項に記載の方法により調製された生分解性マイクロカプセルの使用。
【請求項19】
λ-シハロトリン及び/又はテフルトリンの遅延放出のための生分解性マイクロカプセルの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性マイクロカプセルの調製方法及び調製されたマイクロカプセルの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロカプセル化は多くの技術分野で知られている。農薬分野において、マイクロカプセル化は、例えば、有効成分の放出速度を制御するために、有効成分の化学安定性を確保するために、及び/又は、作業者を有効成分に対する曝露から保護するために有益である可能性がある。
【0003】
農薬分野においてマイクロカプセルの調製に通常採用されるプロセスは、ジイソシアネート及びポリイソシアネートから選択される油溶性モノマーの使用であって、これらは、油-水エマルジョンの油-水界面において、水又は水溶性ジアミン及びポリアミンとの反応に供される。これにより、ポリウレアカプセル壁の形成が達成される。農薬有効成分の製剤におけるこのようなカプセル化技術は当業者に周知である(例えば、P.J.Mulqueen“Chemistry and Technology of Agrochemical Formulations”,D.A.Knowles,editor,Kluwer Academic Publishers,1998,pages 132-147を参照のこと)。
【0004】
農薬製剤の持続可能性と環境負荷の低い製品の開発は農薬分野における重要な目標となっている。そのため、マイクロプラスチックの生分解性が重要なトピックとなっているが、多くの農薬製剤において用いられるポリウレア系マイクロカプセルは生分解性ではない。従って、生分解性カプセル化農薬を調製するための新規プロセスを提供する必要がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
従って、ゼラチン及びカルボキシル化多糖類の複合コアセルベーションを含む、農薬を生分解性カプセルにカプセル化する方法が提供されている。
【0006】
この方法では、いずれかの有効成分に対する栽培者への曝露の低減と共に、有効成分の化学的/物理的安定性の向上をもたらしつつも、生分解性挙動を示すカプセルが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、(a)希釈溶液中における、及び、(b)4日間乾燥させた架橋ゼラチン-NaCMCカプセル(組成物E)である。(c)希釈溶液中における、及び、(d)乾燥直後の非架橋カプセル。スケールバー=20μm。
図2図2は、架橋カプセル(組成物E、青い実線)及び非架橋カプセル(赤い破線)の両方について記録したレーザ回折データである。
図3-4】図3及び4は、カプセル化コアとしてλ-シハロトリン/Solvesso 200 ND混合物を含有する、非架橋(左)及び架橋(組成物E、右)ゼラチン/NaCMCカプセルのクライオSEM画像である。
図5図5は、(a)2:1比のゼラチン:アルギン酸ナトリウム及び30質量%油相を用いて調製したゼラチン/アルギン酸ナトリウムコアセルベートカプセルについて記録したレーザ回折データである。(b)希釈状態における同一のカプセルの光学顕微鏡写真である。(c)2時間乾燥させた後における同一のカプセルの光学顕微鏡写真である。
図6図6は、(a)ゼラチン/アラビアゴムコアセルベートカプセルのサンプルについて得られたカプセルサイズ分布である。ゼラチン:アラビアゴム比は、1で固定であり、総ポリマー濃度は2%で固定であり、油相は50質量%のλ-シハロトリン及び50質量%のSolvesso 200 NDを含んでいた。(b)水中で0.1質量%に希釈したカプセルの光学顕微鏡写真を示す。(b)16時間乾燥させた後の(b)に示すカプセルの光学顕微鏡写真である。
図7図7は、高温での保管前における、ゼラチン/アラビアゴムカプセル(組成物I)について得られた光学顕微鏡写真である。(a)湿潤状態の非架橋カプセル、(b)湿潤状態の架橋カプセル、(c)乾燥状態の非架橋カプセル、及び、(d)乾燥状態の架橋カプセル。スケールバーは、すべての場合において100μmに相当する。
図8図8は、24時間にわたる、架橋ゼラチン/NaCMCからのλ-シハロトリンの放出をカプセルサイズ別に示す。
図9図9は、90分間にわたる、架橋ゼラチン/アラビアゴム及び架橋ゼラチン/アルギン酸塩カプセルからのS-メトラクロールの放出を示す。
図10図10は、2:1比のゼラチン:ナトリウムCMC及び40質量%の油相を用いて実施形態2で調製したゼラチン/ナトリウムCMCコアセルベートカプセル(組成物L)について記録したレーザ回折データである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
「生分解性」という用語は、OECD Guidelines for the Testing of Chemicals,test no.301(OECD 301 test)に合格する化合物を意味すると定義される。特に、「生分解性」である化合物は、28日間で発生したCO2又は消費されたO2として測定した無機化が、少なくとも30%、好ましくは40%超、より好ましくは50%超、及び、もっとも好ましくは60%超である化合物として定義され、ここで、無機化は、試験法OECD TG 301 B、C、D、F又はOECD TG 310に準拠して測定される。
【0009】
「カルボキシル化多糖類」は、カルボン酸基を含有する天然の多糖類と、カルボン酸基を含有するよう化学的に変性された多糖類との両方を含む。
【0010】
本明細書において、「農薬」という名詞及び「農薬有効成分」という用語は互換的に使用され、除草剤、殺虫剤、殺線虫剤、殺軟体動物剤、殺菌・殺カビ剤、植物成長調節剤及び毒性緩和剤;好ましくは、除草剤、殺虫剤及び殺菌・殺カビ剤を含む。
【0011】
「複合コアセルベーション」自体は、2つの異なる電荷を有する高分子電解質間の複合体形成として定義される。
【0012】
第1の実施形態
第1の実施形態において、本方法は、3つの連続するステップを有利に含む。
1)ゼラチンを含む水性相と農薬を含む油相とのエマルジョンを形成するステップ;
2)カルボキシル化多糖類を添加するステップ;及び
3)架橋剤を添加するステップ。
【0013】
ステップ(1)
ステップ(1)におけるエマルジョンの形成は、高せん断ホモジナイゼーションにより行われ得る。ステップ(1)は30~55℃の温度で実施され得る。
【0014】
ステップ(1)は、4.5~7.5のpHであって、5~7、又は、さらには5.6~6.3などのpHで実施され得る。
【0015】
任意に、消泡剤及び/又は乳化剤をこの段階で添加することが可能である。消泡剤は0.05~0.2質量%の量で存在し得る。乳化剤は0.01~0.2質量%の量で存在し得る。
【0016】
ゼラチンは、タイプA又はタイプB、好ましくはタイプBであり得る。ゼラチンは、水性相の1~6質量%の量で存在し得る。ステップ(1)におけるゼラチンの濃度が高いと、エマルジョン液滴サイズが小さくなり、従って、最終的なコアセルベートカプセルも小さくなることが見い出された。従って、ゼラチンは、水性相中に、2~6質量%の量であって、3~6質量%、4~6質量%、又は、さらには4.5~5.8質量%などの量で存在することが好ましい。
【0017】
油相は、好適な疎水性溶剤を含んでいることが好ましい。「好適な疎水性溶剤」とは、本発明者らは、水への溶解度が無視可能な程度であるもの、すなわち、5g/L未満であって、4g/L未満、3g/L未満、好ましくは1g/L未満などであるものを意味する。例としては、これらに限定されないが、アルキル安息香酸塩、種子油、アルキル化種子油及び芳香族流体が挙げられる。
【0018】
油相中の農薬の濃度は、好ましくは1~100質量%であって、5~99質量%、10~75質量%、20~70質量%、30~65質量%、40~60質量%、好ましくは45~55質量%などである。有利には、濃度は45質量%超である。
【0019】
好ましくは、農薬は、最終製剤の0.01~65質量%の量であって、1~59質量%、2~58質量%、5~55質量%、10~20質量%、40~60質量%又は45~55質量%などの量で存在する。
【0020】
ステップ(2)
ステップ(2)は、好ましくは、水溶液としてのカルボキシル化多糖類の添加を含む。ステップ(2)は、30~55℃の温度で実施され得る。
【0021】
カルボキシル化多糖類は、好ましくは、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム及びカルボキシメチルセルロース;並びに、これらの誘導体の1種以上から選択される。
【0022】
好ましくは、1種のカルボキシル化多糖類のみが使用される。2種以上のカルボキシル化多糖類を用いる方法と比して、これは、同一又は小さいカプセル径を達成するために必要とされる材料が低減され、及び、方法が簡素化される。
【0023】
ゼラチン対カルボキシル化多糖類の比は、好ましくは、4:1~1:4であって、3:1~1:3、もっとも好ましくは2:1~1:2など、1:1などである。これらの比で作業することで凝集が低減することが見い出されている。
【0024】
ステップ(2)はまた、カルボキシル化多糖類の添加の後に、高せん断ホモジナイゼーションステップを有利に含み得る。意外なことに、この段階における追加の高せん断ホモジナイゼーションステップは、液滴径の低減に役立つことが見い出されている。
【0025】
ステップ(2)は酸性条件下で実施され得る。有利には、エマルジョンのpHは、カルボキシル化多糖類の添加の後に、3~6.5であって、3~5、又は、さらには3.2~4.2などに低減される。pHの変化は、酢酸、クエン酸又は塩酸などの酸で達成されると共に、複合コアセルベーションの誘起に役立つ。
【0026】
好ましくは、エマルジョンの温度は、カプセルを硬化させるために、15℃以下であって、12℃以下など、5~11℃などに徐々に下げられる。
【0027】
カルボキシル化多糖類は、好ましくは、最終製剤の0.25~3質量%の量で存在する。
【0028】
ステップ(3)
架橋剤の添加により、得られるカプセルの強固さ及び安定性が向上し、それ故、pH、温度、イオン強度(これらの組み合わせ)及び共配合物の添加に対するその許容範囲が変化する。
【0029】
架橋は、共有結合、及び/又は、水素結合などの二次的相互作用を介した「物理的」架橋により生じ得る。
【0030】
架橋剤は、好ましくは、ポリアルデヒド(グルタルアルデヒドなど)、多酸(クエン酸など)、カルボジイミド(1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドなど)、ポリフェノール化合物(タンニン酸など)及びアルドース糖質から選択される。
【0031】
架橋剤は、最終製剤の0.0001~2質量%の量で存在する。
【0032】
分散剤は、ステップ(3)の最中に添加され得る。可能な分散剤としては、リグノスルホネート(例えば、Vanisperse CB、Ultrazine NA又はReax 80D)、高分子分散剤(例えば、Morwet D425)、及び/又は、界面活性剤が挙げられる。
【0033】
ステップ(3)の後、組成物は、周囲温度にまで戻すか、又は、架橋を促進するために、40~50℃の温度に積極的に温めてもよい。
【0034】
第2の実施形態
第2の実施形態においては:
1)ゼラチン及びカルボキシル化多糖類を含む水性相と、農薬を含む油相とのエマルジョンを形成するステップ;並びに
2)架橋剤を添加するステップ
を含む方法が提供されている。
【0035】
第2の実施形態では、第1の実施形態と比較して、必要とされるステップの数が低減しており、それ故、相応の時間効率が得られる。また、第2の実施形態では、典型的には、より小さなカプセルが得られることが見い出されている。
【0036】
ステップ(1)
ステップ(1)におけるエマルジョンの形成は、高せん断ホモジナイゼーションにより行われ得る。ステップ(1)は、30~55℃の温度で実施され得る。
【0037】
ステップ(1)は、4~7.5のpHであって、5~7、又は、さらには5.6~6.3などのpHで実施され得る。
【0038】
任意に、消泡剤及び/又は乳化剤をこの段階で添加することが可能である。消泡剤は0.05~0.2質量%の量で存在し得る。乳化剤は0.01~0.2質量%の量で存在し得る。
【0039】
ゼラチンは、タイプA又はタイプB、好ましくはタイプBであり得る。ゼラチンは、水性相の1~6質量%の量で存在し得る。ステップ(1)におけるゼラチンの濃度が高いと、エマルジョン液滴サイズが小さくなり、従って、最終的なコアセルベートカプセルも小さくなることが見い出された。従って、ゼラチンは、水性相中に、2~6質量%の量であって、3~6質量%、4~6質量%、又は、さらには4.5~5.8質量%などの量で存在することが好ましい。
【0040】
カルボキシル化多糖類は、好ましくは、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム及びカルボキシメチルセルロース;並びに、これらの誘導体の1種以上から選択される。
【0041】
好ましくは、1種のカルボキシル化多糖類のみが使用されるが、これにより、同一又は小さいカプセル径を達成するために必要とされる材料が低減され、プロセスが簡素化される。
【0042】
ゼラチン対カルボキシル化多糖類の比は、好ましくは、4:1~1:4であって、3:1~1:3、もっとも好ましくは2:1~1:2など、1:1などである。有利には、これらの比で作業することで凝集が低減することが見い出されている。
【0043】
油相は、好適な疎水性溶剤を含んでいることが好ましい。「好適な疎水性溶剤」とは、本発明者らは、水への溶解度が無視可能な程度であるもの、すなわち、5g/L未満であって、4g/L未満、3g/L未満、好ましくは1g/L未満などであるものを意味する。例としては、これらに限定されないが、アルキル安息香酸塩、種子油、アルキル化種子油及び芳香族流体が挙げられる。
【0044】
油相中の農薬の濃度は、好ましくは1~100質量%であって、5~99質量%、10~75質量%、20~70質量%、30~65質量%、40~60質量%、好ましくは45~55質量%などである。有利には、濃度は45質量%超である。
【0045】
好ましくは、農薬は、最終製剤の0.01~65質量%の量であって、1~59質量%、2~58質量%、5~55質量%、10~20質量%、40~60質量%又は45~55質量%などの量で存在する。
【0046】
ステップ(2)
架橋剤の添加により、得られるカプセルの強固さ及び安定性が向上し、それ故、pH、温度、イオン強度(これらの組み合わせ)及び共配合物の添加に対するその許容範囲が変化する。
【0047】
架橋は、共有結合、及び/又は、水素結合などの二次的相互作用を介した「物理的」架橋により生じ得る。
【0048】
ステップ(2)は酸性条件下で実施され得る。有利には、エマルジョンのpHは、架橋剤の添加の前に、3~6.5であって、3~5、又は、さらには3.2~4.2などに低減される。pHの変化は、酢酸、クエン酸又は塩酸などの酸で達成されると共に、複合コアセルベーションの誘起に役立つ。
【0049】
架橋剤は、好ましくは、ポリアルデヒド(グルタルアルデヒドなど)、多酸(クエン酸など)、カルボジイミド(1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドなど)、ポリフェノール化合物(タンニン酸など)及びアルドース糖質から選択される。
【0050】
架橋剤は、最終製剤の0.0001~2質量%の量で存在する。
【0051】
分散剤はステップ(2)の最中に添加され得る。可能な分散剤としては、リグノスルホネート(例えば、Vanisperse CB、Ultrazine NA又はReax 80D)、高分子分散剤(例えば、Morwet D425)、及び/又は、界面活性剤が挙げられる。
【0052】
ステップ(2)の後、組成物は、周囲温度にまで戻すか、又は、架橋を促進するために、40~50℃の温度に積極的に温めてもよい。
【0053】
マイクロカプセル
特に遅延放出の達成に関して、カプセル化を試みる場合には、カプセル化される農薬の化学的性質は重要である。農薬は疎水性であることが有利である。理論に束縛されることは望まないが、親水性で水和したコアセルベートカプセル壁が従って疎水性農薬に対するバリアとなり、拡散を非常に遅いものとすると考えられている。有利には、農薬は、0.001~200mg/Lの溶解度であって、0.002~100mg/L、0.002~50mg/L、好ましくは0.002~20mg/L、又は、さらには0.002~1mg/Lなどの溶解度を有する。農薬は、λ-シハロトリン、プロスルホカルブ及び/又はテフルトリンであり得る。
【0054】
好ましくは、調製されたカプセルは徐放性を示す。「徐放性」は一定の期間にわたる即時的ではない放出を含み、従って、持続放出、遅延放出及びトリガー放出(例えば、乾燥時のカプセルの破壊による)を包含する。
【0055】
有利には、このプロセスは、追加の乳化剤を含まない。追加の乳化剤(例えばドデシル硫酸塩ナトリウム又はポリ(ビニルアルコール))の添加によりカプセルの凝集が高まることが見い出されているため、ゼラチンを唯一の乳化剤として用いることで、追加の乳化剤を存在させる必要性が回避される。
【0056】
有利には、調製されたカプセルは、14μm(ミクロン)未満、10μm(ミクロン)未満、9μm(ミクロン)未満、8μm(ミクロン)未満、又は、さらには7μm(ミクロン)未満などの15μm(ミクロン)未満の径(D50)を有する。好ましくは、カプセルは、2~5μm(ミクロン)などの1~6μm(ミクロン)の径を有する。
【0057】
それ故、本明細書に記載の方法により調製されたマイクロカプセルを含む組成物が提供されている。雑草、有害生物、線虫、軟体動物及び/又は真菌の処理におけるこのような組成物の使用が提供されている。
【0058】
調製された組成物はその後希釈されてもよい。この場合、農薬は、0.1~30質量%、0.5~20質量%、0.6~15質量%、又は1~10質量%などの最終製剤の0.01~45質量%の量で存在し得る。
【0059】
本明細書に記載の方法により調製された生分解性マイクロカプセルの使用、並びに、λ-シハロトリン及び/又はテフルトリンの徐放性のための生分解性マイクロカプセルの使用もまた提供されている。
【0060】
本発明を、以下の非限定的な実施例で示す。
【実施例
【0061】
組成物
一連のカプセルを、本発明の第1の実施形態に従って調製した。組成物を表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
本発明の第2の実施形態に係るカプセルを表2に係る組成で調製した。
【0064】
【表2】
【0065】
分析
組成物E-ゼラチン/カルボキシメチルセルロースナトリウムコアセルベートマイクロカプセル
ゼラチン及びカルボキシメチルセルロースナトリウムを用いて調製したコアセルベートマイクロカプセルを図1に示す。これらのカプセルは、2:1比のゼラチン:カルボキシメチルセルロースナトリウム、2.25質量%の総ポリマー濃度を用いて調製すると共に、0.25gのグルタルアルデヒドを用いて架橋した。
【0066】
光学顕微鏡観察では、架橋性の前後のカプセル(それぞれ図1a及び1c)は、球状の形態を示していた。しかも、非架橋及び架橋カプセルの両方が乾燥時にもその形態を維持していた(それぞれ図1b及び1d)。
【0067】
レーザ回折は、これらのカプセルが凝集することなく良好に分散しており、体積-平均径(D[4,3])は2.6μm、Dv50=2.3μm、及び、Dv95=5.3μmであることを示していた。非架橋サンプルは、D[4,3]=2.6μm、Dv50=2.0μm、及び、Dv95=4.6μm(図2)を有するとして特性決定された。
【0068】
非架橋及び架橋カプセルの構造をクライオSEMでさらに特性決定したところ、薄いが連続するコアセルベート複合体壁が各カプセルの周りに観察された(図3及び4)。
【0069】
架橋ゼラチン/NaCMCカプセルの放出特性を、Collaborative International Pesticides Analytical Council(CIPAC)method‘MT 190-Determination of release properties of lambda-cyhalothrin cs formulations’に基づく方法を用いて特性決定した。この方法においては、75mgのλ-シハロトリンを含有する製剤のアリコートを水で6.0gに希釈した。内標準溶液(エタノールを除去した標準ヘキサン溶液)を溶液に添加し、ローラにセットし、ここで、サンプリングのために1mLのアリコートを内標準溶液から抜き出した。1滴のトリフルオロ酢酸をバイアルに添加し、その後、GC分析のために蓋をした。
【0070】
カプセルは、24時間にわたってλ-シハロトリンをゆっくりと放出することが示された。しかしながら、同一組成の製剤についても、カプセルサイズの変化が徐放性レベルに影響を与えることも示された。図8に示されているとおり、24時間の期間の間に、より小さなカプセルは大きなカプセルよりも多くのλ-シハロトリンを放出した。
【0071】
組成物D-ゼラチン/アルギン酸ナトリウムコアセルベートマイクロカプセル
ゼラチン及びアルギン酸ナトリウムを用いて調製したコアセルベートマイクロカプセルの代表例を図5に示す。これらのカプセルは2:1比のゼラチン:アルギン酸ナトリウム、1.5質量%の総ポリマー濃度を用いて調製し、0.3gのグルタルアルデヒドを用いた架橋した。レーザ回折は、得られたカプセルが6.6μmのD[4,3]を有していたことを示した(図5a)。光学顕微鏡法では、希釈分散体に対する明確な球状の形態が示された(図5b)。しかも、これらのカプセルは2時間の乾燥後もその構造を保持していた(図5c)。
【0072】
組成物I-ゼラチン/アラビアゴムコアセルベートマイクロカプセル
ゼラチン及びアラビアゴムを用いて調製したコアセルベートマイクロカプセルの代表例が図6及び7に示されている。これらのカプセルは、1:1比のゼラチン:アラビアゴム、1質量%の総ポリマー濃度を用いて調製し、及び、0.2gのグルタルアルデヒドを用いて架橋した。レーザ回折は、得られたカプセルが34μmのD[4,3]を有していたことを示した(図6)。
【0073】
光学顕微鏡法では、希釈分散体に対する明確な球状の形態が示された(図7b)。しかも、これらのカプセルは16時間の乾燥後もその構造を保持していた(図7d)。非架橋カプセル(図7a及び7c)は同じプロセスの最中に同じ構造安定性を示さないことも分かる。
【0074】
組成物J及びK-ゼラチン/アラビアゴム及びゼラチン/アルギン酸塩カプセルとS-MOC
既述のプロセスにより、アラビアゴム及びアルギン酸塩の両方と共に、S-MOCをカプセル化して、それぞれ組成物J及びKを形成し、ステップ2における追加の高せん断ホモジナイゼーションステップは行わなかった。カプセルは90時間の間にS-メトラクロールを迅速に放出することが示され(図9)、これは上記の疎水性農薬とは対照的であった。プロセスは組成物Eについて既述のとおりであった。
【0075】
生分解
実施例BをOECD301Fテストで生分解性についてテストした。
【0076】
このようなテストを行うために、残存コア材料がカプセルの10質量%以下、より好ましくは、カプセルの5%未満を構成するよう、先ず疎水性コア材料をカプセルから抽出した。そして、OECD301テストの前に、得られた単離された壁材料を水中に再度懸濁させた。
【0077】
このようなカプセルは28日間以内に68%の無機化を達成したことが見い出された(データは、2回の分析で平均化した)。
【0078】
従って、特許請求されているプロセスにより、安定であるが生分解性である農薬用のマイクロカプセルの調製がもたらされる。
【0079】
本発明は特許請求の範囲によって定義される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7(a)】
図7(b)】
図7(c)】
図7(d)】
図8
図9
図10
【国際調査報告】