(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-31
(54)【発明の名称】C6~C12-アルキル(メタ)アクリル酸エステルの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 67/54 20060101AFI20241024BHJP
C07C 69/54 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
C07C67/54
C07C69/54 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024531540
(86)(22)【出願日】2022-11-17
(85)【翻訳文提出日】2024-05-28
(86)【国際出願番号】 EP2022082221
(87)【国際公開番号】W WO2023094252
(87)【国際公開日】2023-06-01
(32)【優先日】2021-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521037411
【氏名又は名称】ベーアーエスエフ・エスエー
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100133086
【氏名又は名称】堀江 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100163522
【氏名又は名称】黒田 晋平
(72)【発明者】
【氏名】クラウス・ヘヒラー
(72)【発明者】
【氏名】オルトムント・ラング
(72)【発明者】
【氏名】ホルスト・ホフマン
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AD11
4H006BC52
4H006BD33
4H006BD53
4H006BD60
4H006KC14
4H006KE00
(57)【要約】
C6~C12-(メタ)アクリル酸エステルの製造方法は、微量の酢酸を含有する(メタ)アクリル酸とアルコールとをエステル化して粗(メタ)アクリル酸エステルを得るエステル化ステップと;粗(メタ)アクリル酸エステルを精製する精製ステップとを含む。精製ステップは、粗(メタ)アクリル酸エステルを、粗(メタ)アクリル酸エステルの供給点の上方に配置された精留部と、前記供給点の下方に配置されたストリッピング部とを有するローボイラー塔の側面に導入することと;ローボイラー塔から精製された(メタ)アクリル酸エステルを抜き出すことと;ローボイラー塔の頂部から、アルコール、酢酸エステル、及び10重量%未満の(メタ)アクリル酸エステルを含むローボイラー画分を抜き出すことと;ローボイラー画分を、ローボイラー塔圧力よりも少なくとも50 mbar高い圧力で運転されるアセテート塔に導き、ローボイラー画分を、アセテート塔の頂部で抜き出されるアルコール画分とアセテート塔の底部で抜き出される酢酸エステル画分に分離することと;アルコール画分をエステル化ステップに少なくとも部分的に再循環させることとを含み;本方法は、アセテート塔からローボイラー塔への再循環を含まない。本方法は、アセテート含有量が低いC6~C12-(メタ)アクリル酸エステルを調製するための有効で経済的に実行可能な方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
C
6~C
12-アルキル(メタ)アクリル酸エステルの製造方法であって、
微量の酢酸を含有する(メタ)アクリル酸とC
6~C
12-アルコールとをエステル化して粗(メタ)アクリル酸エステルを得るエステル化ステップと;
前記粗(メタ)アクリル酸エステルを精製する精製ステップと
を含み、
前記精製ステップは、
-粗(メタ)アクリル酸エステルを、前記粗(メタ)アクリル酸エステルの供給点の上方に配置された精留部及び前記供給点の下方に配置されたストリッピング部を有するローボイラー塔の側面に導入することと;
-前記ローボイラー塔から精製された(メタ)アクリル酸エステルを抜き出すことと;
-前記ローボイラー塔の頂部から、アルコール、酢酸エステル、及び10重量%未満の(メタ)アクリル酸エステルを含むローボイラー画分を抜き出すことと;
-前記ローボイラー画分を、前記ローボイラー塔の圧力よりも少なくとも50mbar高い圧力で運転されるアセテート塔に導き、前記ローボイラー画分を、前記アセテート塔の頂部で抜き出されるアルコール画分と、前記アセテート塔の底部で抜き出される酢酸エステル画分とに分離することと;
-前記アルコール画分を前記エステル化ステップに少なくとも部分的に再循環させることと
を含み、
前記アセテート塔から前記ローボイラー塔への再循環を含まない、方法。
【請求項2】
前記粗(メタ)アクリル酸エステルが本質的に無水である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アセテート塔が前記ローボイラー塔の圧力よりも2~10倍高い圧力で運転される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ローボイラー塔の前記精留部が少なくとも8段の理論段を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記ローボイラー塔の前記精留部が、トレイ、ランダムパッキン、又は1つ若しくは複数の構造化パッキン要素から選択される内部構造物を備え、前記構造化パッキン要素が、好ましくは少なくとも100m
2/m
3の表面積密度を有し、前記構造化パッキン要素が、好ましくは少なくとも6mの全高を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ローボイラー塔の頂部の圧力が40~200mbarであり、前記ローボイラー塔の底部の蒸留温度が120~180℃である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記アセテート塔の頂部の圧力が90~1000mbarであり、前記アセテート塔の底部の温度が120~190℃である、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記精製された(メタ)アクリル酸エステルが前記ローボイラー塔の底部から抜き出され、前記精製された(メタ)アクリル酸エステルが仕上げ塔に導入され、純粋な(メタ)アクリル酸エステルが前記仕上げ塔の塔頂から抜き出され、ハイボイラーが前記仕上げ塔の底部から抜き出される、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記精製された(メタ)アクリル酸エステルが前記ローボイラー塔から側流として抜き出され、ハイボイラーが前記ローボイラー塔の底部から抜き出される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記エステル化ステップがエステル化触媒を伴い、方法が前記エステル化ステップの後に触媒除去ステップを含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記粗(メタ)アクリル酸エステルを前記仕上げ塔に導入する前に、(メタ)アクリル酸除去ステップを含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記アルコールがC
6~C
12-アルカノール、好ましくは2-エチルヘキシルアルコールである、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
アクリル酸が前記エステル化ステップに供される、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
C
8-アルカノール、特に2-エチル-ヘキサノール又はイソ-オクタノールが前記エステル化ステップに供される、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記エステル化ステップがオレフィン系エントレーナの存在下で行われる、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記オレフィン系エントレーナが前記アルコールの脱水によって生成される固有の副生成物である、請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、C6~C12-アルキル(メタ)アクリル酸エステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(メタ)アクリル酸エステルは、一般に、エステル化触媒の存在下、(メタ)アクリル酸とアルコールのエステル化によって製造される。このような方法は、例えば、Kirk-Othmer,Encyclopedia of Chemical Technology,第1巻,347~348頁から公知である。2-エチルヘキシルアクリレートの製造の場合、これは通常、溶媒及び硫酸の存在下で行われる。
【0003】
レッペ法によって、又はプロパン/プロペン/アクロレイン若しくはイソブタン/イソブテン/メタクロレインの直接酸化によってアセチレンから製造された(メタ)アクリル酸は、ほぼ必然的に、副生成物として形成され、(メタ)アクリル酸から分離するのが非常に困難な微量の酢酸を含有する。したがって、粗(メタ)アクリル酸エステルには、未変換アルコールの他に、酢酸と使用したアルコールのエステル化によって形成された少量の酢酸エステルも含まれる。未変換アルコール画分がエステル化ステップに戻されると、エステル化反応で酢酸エステルが必然的に濃縮される。したがって、未変換アルコールの一部を廃棄することが必要であり、価値のある生成物が失われるという経済的欠点がある。本発明は、これらの欠点を回避しようとするものである。
【0004】
(メタ)アクリル酸のアルキルエステルは周知であり、例えば、接着剤、塗料又は織物、皮革及び紙補助物質としての用途が見出される水性ポリマー分散液を調製するための出発モノマーとして重要である。特に、長鎖エステル基を有する(メタ)アクリル酸エステル、いわゆる高級(メタ)アクリル酸エステルは、需要が高いため、商業的に非常に重要である。特に食品又は化粧品分野における用途のために、ポリマー分散液は、例えば面倒な化学的又は物理的脱臭によるこれらの不純物の費用のかかる除去を回避するために、揮発性不純物をほとんど含まない、特に酢酸エステルを含まないものであるべきである。工業的観点から、酢酸エステルを含有する(メタ)アクリル酸エステルから酢酸エステルを分離することは、純粋な(メタ)アクリル酸エステルを製造するためにしばしば重要である。純粋な(メタ)アクリレートの仕様要件は、例えば、99.5重量%の最小(メタ)アクリレート含有量及び1500 ppmの最大アセテート含有量を規定している。
【0005】
したがって、アセテート含有量が低い高級(メタ)アクリル酸エステルを調製するための有効で経済的に実行可能な方法が必要とされている。
【0006】
国際公開第01/85666号パンフレットは、C1~C8アルキル(メタ)アクリレート、C1~C8アルキルアセテート、重質炭化水素(heavies)及びC1~C8アルキルアルコールを含むC1~C8アルキル(メタ)アクリレート含有流を精錬する方法を開示している。通常、水が粗流中に存在して共沸混合物を形成するので、粗流は実際には上記成分のうちの1つ又は複数を含有するいくつかの共沸混合物から構成される。粗流をスプリッター蒸留塔に導入して、C1~C8アルキルアセテート、C1~C8アルキル(メタ)アクリレート及びC1~C8アルコールを含む塔頂画分とC1~C8アルキル(メタ)アクリレート及び重質炭化水素を含む底部画分を得る。スプリッター蒸留塔の塔頂画分をC1~C8アルコール回収塔でさらなる蒸留に供する。C1~C8アルコール回収塔は、C1~C8アルコールが底部流として回収されるように、水の存在下で運転されて共沸混合物を形成する。
【0007】
ドイツ特許第10246869号明細書は、重合禁止剤又は禁止剤混合物の存在下での(メタ)アクリル酸とアルコールとの酸触媒エステル化による(メタ)アクリル酸エステルの調製方法に関する。(メタ)アクリル酸エステルの回収/精製は、ローボイラー分離塔で酢酸エステル及び供給アルコールから粗(メタ)アクリル酸エステルを遊離させることを含む。酢酸エステルは、出発アルコール、酢酸エステル及び(メタ)アクリル酸エステルを含む混合物中で濃縮され、ローボイラー分離塔から抜き出され、廃棄される。この方法は、複数の蒸留塔を含むため、エネルギー需要が高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第01/85666号パンフレット
【特許文献2】ドイツ特許第10246869号明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Kirk-Othmer,Encyclopedia of Chemical Technology,第1巻,347~348頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の1つの目的は、上記の欠点を回避するか又は少なくとも低減する、高級(メタ)アクリル酸エステルを調製するための改善された方法を提供することである。したがって、本発明の方法は、高級(メタ)アクリル酸エステルのより効率的でより経済的に実行可能な調製を可能にするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
したがって、本発明は、C6~C12-アルキル(メタ)アクリル酸エステルの製造方法であって、微量の酢酸を含有する(メタ)アクリル酸と供給C6~C12-アルキルアルコールをエステル化して粗(メタ)アクリル酸エステルを得るエステル化ステップと;粗(メタ)アクリル酸エステルを精製する精製ステップとを含み、
精製ステップは、
-粗(メタ)アクリル酸エステルを、粗(メタ)アクリル酸エステルの供給点の上方に配置された精留部及び供給点の下方に配置されたストリッピング部を有するローボイラー塔の側面に導入することと;
-ローボイラー塔から精製された(メタ)アクリル酸エステルを抜き出すことと;
-ローボイラー塔の頂部から、アルコール及び酢酸エステル及び10重量%未満の(メタ)アクリル酸エステルを含むローボイラー画分を抜き出すことと;
-ローボイラー画分を、ローボイラー塔圧力よりも少なくとも50mbar高い圧力で運転されるアセテート塔に導き、ローボイラー画分を、アセテート塔の頂部で抜き出されるアルコール画分とアセテート塔の底部で抜き出される酢酸エステル画分とに分離することと;
-アルコール画分をエステル化ステップに少なくとも部分的に再循環させることと
を含み、
アセテート塔からローボイラー塔への再循環を含まない方法に関する。
【0012】
本発明は、いくつかの利点を伴う:
-本発明の方法により、(メタ)アクリル酸エステルが少なくとも99.7%、好ましくは少なくとも99.8%の高純度で得られる。特に、(メタ)アクリル酸エステルは、500 ppm未満、好ましくは400 ppm未満、特に300 ppm未満の酢酸エステルを含有する。
-粗(メタ)アクリル酸を使用しても、得られる(メタ)アクリレートは非常に高純度で得られ、アセテートを実質的に含まない。
-本発明の方法は、先行技術の方法よりも少ない加熱蒸気しか消費しない。
-未反応アルコールの少なくとも98重量%が回収され、エステル化ステップに少なくとも部分的に再循環され得る。
-本発明の方法は、アセテート含有流をローボイラー塔に再循環させることなく行われやすい。
-本発明の方法は、アセテート含有流をアクリル酸分離の下流のいずれの塔にも再循環させることなく行われる。
【0013】
ここで、及び本出願を通して、「(メタ)アクリル酸」、「(メタ)アクリル酸エステル」又は「(メタ)アクリレート」という用語は、アクリル酸又は対応するアクリル酸エステル若しくはアクリレート、及びまたメタクリル酸又は対応するメタクリル酸エステル若しくはメタクリレートに関する。
【0014】
ここで、及び本出願を通して、「粗(メタ)アクリル酸」という用語は、純度が少なくとも90%であり、微量の酢酸を含有し、その含有量が少なくとも0.05重量%かつ最大3重量%である(メタ)アクリル酸を意味すると理解される。
【0015】
粗(メタ)アクリル酸エステルは本質的に無水であり、これは、1重量%未満、好ましくは10 ppm未満、好ましくは5 ppm未満、最も好ましくは1 ppm又は1 ppm未満、例えば0.5 ppm未満、0.25 ppm未満又は0.1 ppm未満の含水量を有することを意味する。ローボイラー塔及びアセテート塔での蒸留中に共沸混合物は形成されない。本質的に無水である粗(メタ)アクリル酸エステルを得るために、反応水はエステル化中に実質的に除去され、後続のステップ、例えば触媒除去ステップ又は(メタ)アクリル酸除去ステップ中の水の再導入は回避される。
【0016】
ここで、及び本出願を通して、「純粋な(メタ)アクリル酸」又は「精製済(メタ)アクリル酸」という用語は、純度が少なくとも99.5重量%であり、通常0.01~0.2重量%の酢酸を含有する(メタ)アクリル酸を意味すると理解される。
【0017】
ここで、及び本出願を通して、「純粋な(メタ)アクリル酸エステル」という用語は、純度が少なくとも99.7%であり、酢酸エステル不純物の含有量が500 ppm未満である(メタ)アクリル酸エステルを意味すると理解される。
【0018】
ここで、及び本出願を通して、「ローボイラー(問題となっている(メタ)アクリレートに対して)」又は「ローエンド不純物(low-end impurity)」は、沸点が問題となっている(メタ)アクリレートの沸点よりも低い物質である。「ローエンド不純物」及び「ライトエンド不純物(light ends-impurity)」という用語は同義的に使用される。
【0019】
ここで、及び本出願を通して、「ハイボイラー(問題となっている(メタ)アクリレートに対して)」又は「ヘビーエンド不純物(heavy-end impurity)」は、沸点が問題となっている(メタ)アクリレートの沸点よりも高い物質である。「ヘビーエンド不純物」及び「ハイエンド不純物(high-ends impurity)」という用語は同義的に使用される。
【0020】
ここで、及び本出願を通して、「留出物」という用語は、副生成物又は頂部生成物として蒸留塔に抜き出された生成物を定義する。
【0021】
「アセテートエステル」及び「酢酸エステル」という用語は同義的に使用される。
【0022】
ここで、及び本明細書全体を通して、「wt%」及び「重量%」という用語は同義的に使用される。
【0023】
本発明の方法は、連続形態又はバッチ式形態で、好ましくは連続形態で行われ得る。
【0024】
本発明の方法は、メタクリレート又はアクリレートのいずれかの調製、好ましくはアクリレートの調製に使用される。
【0025】
本発明によると、本方法は、少なくともエステル化ステップ及び精製ステップを含むが、典型的には、さらなるステップ、例えば触媒除去ステップ及び(メタ)アクリル酸分離ステップを含んでもよい。
【0026】
エステル化
(メタ)アクリル酸は、公知の方法を介して合成することができる。例えば、本発明で使用される(メタ)アクリル酸は、プロパン/プロペン/アクロレイン又はイソブタン/イソブテン/メタクロレインの直接酸化によって得られるものであり得る。粗(メタ)アクリル酸は、不純物として低沸点化合物(例えば、アセトアルデヒド、アクロレイン、水、酢酸、プロピオン酸)及び/又は高沸点化合物(例えば、マレイン酸、フェノール、ベンズアルデヒド、アクリル酸二量体)を含有する。これらの不純物の含有量は、調製条件によって異なるため一定ではない。しかし、本発明は、不純物の含有量の変動の影響を受けない。
【0027】
粗(メタ)アクリル酸は以下の成分を含み得る:
(メタ)アクリル酸 90~99.9重量%
酢酸 0.05~3重量%
プロピオン酸 0.01~1重量%
ジアクリル酸 0.01~5重量%
水 0.05~10重量%
フルフラール 0.01~0.1重量%
ベンズアルデヒド 0.01~0.05重量%
他のアルデヒド及びカルボニル含有化合物 0.01~0.3重量%
禁止剤 0.01~0.1重量%
マレイン酸(無水物) 0.001~0.5重量%
【0028】
粗(メタ)アクリル酸は、多段階結晶化によって、又は必要に応じて、アルデヒド捕捉剤による化学処理及び蒸留によって精製することができる。
【0029】
純粋な(メタ)アクリル酸は以下の成分を含み得る。
(メタ)アクリル酸 99.5~99.9重量%
酢酸 0.01~0.15重量%
プロピオン酸 0.005~0.05重量%
ジアクリル酸 0.01~0.2重量%
水 0.01~0.1重量%
【0030】
粗及び純粋な又は精製済(メタ)アクリル酸は、典型的には、(メタ)アクリル酸の早期重合に対する重合禁止剤又は重合禁止剤混合物で安定化される。この目的のための適切で好ましい重合禁止剤(安定剤)に関しては、適切で好ましい安定剤に関して以下で行われる一般的な観察が参照される。
【0031】
粗(メタ)アクリル酸と純粋な(メタ)アクリル酸の両方を本発明による方法に使用することができる。粗(メタ)アクリル酸を使用することが好ましい。
【0032】
本発明による方法については、6~12個、好ましくは8~12個の炭素原子を含有するアルコールがエステル化ステップで使用されることが好ましく、例えば、C6~C12-アルカノール、例えばn-ヘキサノール、n-ヘプタノール、n-オクタノール、n-デカノール、n-ドデカノール(ラウリルアルコール)、2-エチルヘキサノール、2-プロピルヘプタノール、C6~C12-シクロアルカノール、例えばシクロヘキサノール、シクロオクタノール、シクロドデカノールだけでなく、グリコールエーテル、例えばエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル又はジエチレングリコールモノエチルエーテル、好ましくはn-オクタノール及び2-エチルヘキサノール、2エチルヘキサノールが特に好ましい。
【0033】
本発明の方法で使用される2-エチルヘキサノールは、例えば、以下の成分を含有することができる。
【0034】
【0035】
反応混合物中の(メタ)アクリル酸とアルコールのモル比は、典型的には1:0.7~2.0、好ましくは1:0.7~1.7、特に好ましくは1:0.7~1.3の範囲である。典型的には、(メタ)アクリル酸は、使用されるアルコールの量に基づいて不足して使用される。
【0036】
好ましくは、エステル化は少なくとも1種の触媒の存在下で行われる。酸触媒、特に強酸性触媒が好ましい。適切な触媒としては、硫酸、アルキル若しくはアリールスルホン酸、例えばメタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、パラ-トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸又は強酸性イオン交換体が挙げられる。触媒含有量は、通常、その中に存在する反応混合物に基づいて0.1~10重量%、好ましくは0.3~5重量%である。
【0037】
エステル化は、通常70~150℃、好ましくは80~130℃及び100 mbar~常圧、好ましくは200~800 mbar、特に好ましくは250~700 mbarの圧力で行われる。いくつかの反応領域の場合、反応温度は、好ましくはカスケードに沿って上昇するように設定される。
【0038】
エステル化は、従来の反応器又は塔で行われる。通常、エステル化は、1つ又は複数の反応領域、例えば2~4個、好ましくは2~3個の反応器の反応器カスケードからなる反応ゾーンで行われる。複数の反応領域を有する本発明の実施形態では、これらをカスケードにすることが有利である。(例えば、金属の分離シートを使用することによって)1つの同じ反応器内に2つ以上の反応領域が生成される場合、反応領域の数は4を超えることもできる。
【0039】
エステル化は、少なくとも1種の重合禁止剤又は禁止剤混合物の存在下で行われる。
【0040】
適切な重合禁止剤としては、場合により金属塩、例えば銅、マンガン、セリウム、ニッケル又はクロムの塩化物、ジチオカルバメート、硫酸塩、サリチル酸塩又は酢酸塩と組み合わせた、アルキルフェノール、例えばo-、m-又はp-クレゾール(メチルフェノール)、2-tert-ブチル-4-メチルフェノール、6-tert-ブチル-2,4-ジメチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、2-tert-ブチルフェノール、4-tert-ブチルフェノール、2,4-ジ-tert-ブチルフェノール、2-メチル-4-tert-ブチルフェノール、4-tert-ブチル-2,6-ジメチルフェノール、又は2,2’-メチレン-ビス-(6-tert-ブチル-4-メチルフェノール)、ヒドロキシフェノール、例えばヒドロキノン、2-メチルヒドロキノン、2,5-ジ-tert-ブチルヒドロキノン、カテコール(1,2-ジヒドロキシベンゼン)又はベンゾキノン、アミノフェノール、例えばパラ-アミノフェノール、ニトロソフェノール、例えばパラ-ニトロソフェノール、アルコキシフェノール、例えば2-メトキシフェノール(グアヤコール、ピロカテコールモノメチルエーテル)、2-エトキシフェノール、2-イソプロポキシフェノール、4-メトキシフェノール(ヒドロキノンモノメチルエーテル)、モノ-又はジ-tert-ブチル-4-メトキシフェノール、トコフェロール、例えばα-トコフェロール及び2,3-ジヒドロ-2,2-ジメチル-7-ヒドロキシベンゾフラン(2,2-ジメチル-7-ヒドロキシクマラン)、N-オキシル、例えば4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチル-ピペリジン-N-オキシル、4-オキソ-2,2,6,6-テトラメチル-ピペリジン-N-オキシル、4-アセトキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル、2,2,6,6-テトラメチル-ピペリジン-N-オキシル、4,4’,4’’-トリス(2,2,6,6-テトラメチル-ピペリジン-N-オキシル)ホスファイト又は3-オキソ-2,2,5,5-テトラメチル-ピロリジン-N-オキシル、芳香族アミン又はフェニレンジアミン、例えばN,N-ジフェニルアミン、N-ニトロソジフェニルアミン、N,N’-ジアルキル-パラ-フェニレンジアミン(アルキル基は同じであっても異なっていてもよく、それぞれ独立して1~4個の炭素原子からなり、直鎖であっても分岐であってもよい)、ヒドロキシルアミン、例えばN,N-ジエチルヒドロキシルアミン、リン含有化合物、例えばトリフェニルホスフィン、トリフェニルホスファイト、次亜リン酸又はトリエチルホスファイト、硫黄含有化合物、例えばジフェニルスルフィド又はフェノチアジンが挙げられる。安定剤の混合物も当然使用することができる。典型的には、1種又は複数、例えば2種又は3種の上述の重合禁止剤が使用される。上述の重合禁止剤のうちの1種又は2種を使用することが好ましい。
【0041】
好ましくはフェノチアジン又は同じ有効性を示す別の安定剤が使用される。
【0042】
安定化をさらに支援するために、酸素含有ガス、好ましくは空気又は空気と窒素の混合物(酸素含有量が低い空気)が存在してもよい。この酸素含有ガスは、好ましくは、反応混合物及び/又は塔の底部領域及び/又は循環蒸発器に計量供給される。
【0043】
反応領域は、蒸留ユニット、有利には共通の蒸留ユニットを備えている。この場合、蒸留ユニットからの還流が第1の反応領域に通される。
【0044】
蒸留ユニットは、それ自体公知の設計であり、従来の内部構造物を有する。適切な塔内部構造物は、原則として、全ての従来の内部構造物、例えばトレイ、積層パッキン及び/又はダンプパッキンである。トレイの中でも、バブルトレイ、シーブトレイ、バルブトレイ、Thormannトレイ及び/又はデュアルフロートレイが好ましい;ダンプパッキンの中でも、リング、コイル、サドル、ラシヒ、イントス若しくはポールリング、バレル若しくはインタロックスサドル、Top-Pakなど、又はブレードを含むものが好ましい。
【0045】
一般に、5~20段の理論段で、望ましい分離度を達成するのに十分である。
【0046】
熱は、従来の設計の内部及び/若しくは外部熱交換器を介して、並びに/又はジャケット加熱(使用される伝熱媒体は有利には蒸気である)を介して供給することができる。熱は、好ましくは、自然循環又は強制循環を用いる外部循環蒸発器を介して供給される。反応混合物の完全な混合は、公知の方法で、例えば撹拌、ポンプ循環又は自然循環によって行われる。エステル化中に形成された水は、低沸点成分と共に、又は水と共沸混合物を形成し、常圧で最高130℃の沸点を有し、公知の設計の凝縮器で凝縮する溶媒と共に、塔を介して排出される。好ましくは、外部溶媒は使用されない。
【0047】
好ましい実施形態では、エステル化が固有の共沸エントレーナの存在下で行われる。共沸エントレーナは、好ましくはオレフィン化合物、一般に供給アルコールと同じ炭素数を有するオレフィンである。これらのオレフィンは、本質的に、脱水副反応において低速で生成され、エステル化の過程中にアルコールのその後の異性化で生成される可能性がある。2-エチルヘキシルアルコールの場合、オレフィン副生成物はオクテン、例えば2-エチルヘキサ-1-エン、3-メチルヘプタ-2-エン、3-メチルヘプタ-3-エンである。共沸エントレーナは、エステル化段階の上方で塔の頂部まで蒸留する水と低沸点共沸混合物を形成して、水を同伴する。
【0048】
凝縮物は、排出される水相とオレフィン系エントレーナ、2-エチルヘキサノール、2-エチルヘキシルアセテート及びプロピオネートから主になる有機相とに分解する。副生成物は、通常、部分的に、好ましくは5~10%が除去され、新鮮なアルコールの一部と組み合わせて塔の最上底部への還流として部分的に再循環される。
【0049】
好ましい実施形態では、排出されなかった有機相の一部が、塔を迂回して完全に又は部分的にエステル化に直接戻され、新鮮なアルコールのみが、又は適切な場合にはこの有機相の一部と共に還流として使用される。
【0050】
別の好ましい実施形態では、有機相の少なくとも一部が、循環蒸発器が自然循環蒸発器である場合、これらの循環蒸発器に計量供給され、それによって循環が支援される。
【0051】
安定化のために、1種又は複数の安定剤の溶液が添加される。この目的のための適切で好ましい重合禁止剤(安定剤)に関しては、適切で好ましい安定剤に関して上記で行われた一般的な観察が参照される。フェノチアジン、メチレンブルー、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、アルキル置換フェノール若しくはN-オキシル化合物又はそれらの混合物が好ましい。典型的には、1種又は複数の安定剤の2-エチルヘキサノール中溶液が凝縮器に噴霧及び/又は還流に添加され、安定剤の総量が0.01~10重量%、好ましくは0.2~5重量%、特に好ましくは0.3~1重量%である。特に、0.1~1重量%、好ましくは0.2~0.8重量%、特に好ましくは0.3~0.7重量%のフェノチアジン及び0.001~0.1重量%、好ましくは0.002~0.05重量%の4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシルの2-エチルヘキサノール中溶液が好ましい。
【0052】
循環をさらに支援するために、不活性ガス、好ましくは酸素含有ガス、特に好ましくは空気又は空気と窒素の混合物(低酸素含有量、例えば5~10体積%の酸素含有量を有する空気)を、例えば反応混合物の体積に基づいて0.1~1、好ましくは0.2~0.8、特に好ましくは0.3~0.7 m3/m3hの量で循環、好ましくは循環蒸発器に導入することができる。当然、不活性ガスを、カバーとして反応混合物の上又は中に通すこともできる。
【0053】
触媒除去ステップ
エステル化から生じ、(メタ)アクリル酸エステル、未変換アルコール、(メタ)アクリル酸、ライトエンド、酢酸エステル、禁止剤、触媒及びヘビーボイラー(オキシエステル)を主に含む流れが、触媒分離塔に供給され、そこで流れが底部画分と塔頂画分に分離される。
【0054】
(メタ)アクリル酸エステル及びローボイラーから主になる塔頂生成物(凝縮物)は、部分的に、好ましくは3~10%が還流として塔に戻され、部分的に、好ましくは15~30%が、場合により安定剤(上記参照)の添加後に、凝縮器に導入され、残りがアクリル酸分離に供給され得る。
【0055】
好ましい実施形態では、凝縮物及び必要に応じて安定剤溶液が、凝縮器のヘッドに配置されたノズルを介して、好ましくは蒸気と並流で、上部チューブシート及び凝縮器フードの金属表面上に噴霧される。
【0056】
底部画分は、触媒、禁止剤、(メタ)アクリル酸エステル及びヘビーボイラーを本質的に含む。底部画分に含有される有価物を回収のために、これを反応ゾーン、好ましくはカスケードが使用される場合は第1の反応器に完全に若しくは部分的に戻すことができる、並びに/又は存在し得る残留物蒸留及び/若しくは残留物切断に供給することができる。好ましくは、1~30%が残留物切断に供給される。
【0057】
蒸留塔は、それ自体公知の設計であり、慣用的な内部構造物を有し、循環蒸発器及び凝縮器を備えている。供給流は、好ましくは底部領域に供給され、ここでの底部温度は130~160℃であり、ヘッド圧力は50~200 mbarである。
【0058】
塔は、好ましくは、少数のトレイのみを有するか、又は熱分離のために活性な内部構造物を有さない。塔は、好ましくは、蒸気流による重沸点成分、すなわち触媒の液滴同伴を最小限に抑えるために、1つ又は複数の液滴沈殿器(噴霧沈殿器)を備えている。
【0059】
凝縮物を塔に再循環させることが有利であり得、一部は塔ヘッドに供給され、有利には塔ヘッドは下方から噴霧され、一部は上方から液滴沈殿器に噴霧される、及び/又は一部は下方から液滴沈殿器に噴霧される。
【0060】
好ましい実施形態では、例えば噴霧保護としてデミスターを備えた流下膜、薄膜又はワイプドフィルム蒸発器、例えばLuwa、Rotafilm又はSambay蒸発器を使用することができる。
【0061】
さらに好ましい実施形態では、本発明の方法がまた、粗(メタ)アクリル酸エステルをローボイラー塔に導入する前に、(メタ)アクリル酸除去ステップを含む。
【0062】
(メタ)アクリル酸分離
触媒分離の塔頂流は、従来の構造の塔、循環蒸発器及び従来の構造の凝縮器からなる蒸留ユニットに供給され、(メタ)アクリル酸をほとんど含まない底部流((メタ)アクリル酸含有量が0.1重量%未満である)と、(メタ)アクリル酸含有ヘッド流とに分離される。底部流は、好ましくは90%超の(メタ)アクリル酸エステルから主になり、塔頂生成物は、未反応アルコール、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸及びライトエンドを本質的に含む。塔頂生成物は、粗(メタ)アクリル酸エステルと呼ばれる。底部の温度は通常130~160℃であり、頂部の圧力は通常50~130 mbarである。
【0063】
塔は、エステル化ステップで言及される分離活性内部構造物を含有し得る。そこで言及される分離活性内部構造物の中でも、トレイが特に好ましい。20~40の理論トレイを有する塔が好ましい。
【0064】
供給は、好ましくは上半分にある。
【0065】
塔頂流(凝縮物)は、部分的に、好ましくは10~20%が還流として塔にフィードバックされ、部分的に、好ましくは5~10%が塔の頂部に導入、好ましくは注入され、部分的に、好ましくは7~14%が凝縮器ヘッドに噴霧され、残りが反応ゾーン、カスケードが使用される場合、好ましくは第1の反応器に戻され得る。
【0066】
有利な実施形態では、還流の一部を使用して塔ヘッドを噴霧し、還流の残りの部分を分配装置又はノズルを介して分離内部構造物に適用する。
【0067】
安定剤は、凝縮器に、好ましくは凝縮器ヘッドに、例えば注入によって供給される。適切な安定剤は、上記のエステル化ステップで言及されたものである。0.1~1重量%、好ましくは0.2~0.8重量%、特に好ましくは0.3~0.7重量%のフェノチアジン及び0.001~0.1重量%、好ましくは0.002~0.05重量%の4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシルの、2-エチルヘキシルアクリレート又は2-エチルヘキサノール中溶液が好ましい。
【0068】
安定剤はまた、再循環凝縮物と共に凝縮器に供給することができる。好ましい実施形態では、凝縮物及び場合により安定剤溶液が、凝縮器のヘッドに配置されたノズルを介して、好ましくは蒸気と並流で、凝縮器表面上に噴霧される。
【0069】
精製
粗(メタ)アクリル酸エステル流は、粗(メタ)アクリル酸エステルの供給点の上方に配置された精留部及び供給点の下方に配置されたストリッピング部を有するローボイラー塔の側面に供給される。流れは、主成分としての標的エステル並びに未反応アルコール、酢酸エステル及びライトエンドを含有する。出発アルコールが2-エチルヘキサノールである場合、不純物は、2-エチルヘキサノール、2-エチルヘキシルアセテート、2-エチルヘキシルプロピオネート及びライトエンドである。
【0070】
精製された(メタ)アクリル酸エステルはローボイラー塔から取り出される。一般に、精製された(メタ)アクリル酸エステルは少なくとも99%の純度を有し、酢酸エステル不純物の含有量は500 ppm未満である。
【0071】
好ましい実施形態では、精製された(メタ)アクリル酸エステルが、ローボイラー塔の底部から抜き出され、精製された(メタ)アクリル酸エステルが仕上げ塔に導入される。仕上げ塔の塔頂から、純粋な(メタ)アクリル酸エステルが抜き出され、これが凝縮される。仕上げ塔の底部は、本質的に(メタ)アクリル酸エステル及びハイボイラーであり、収率を高めるために触媒除去塔に少なくとも部分的に再循環される。
【0072】
他のさらに好ましい実施形態では、精製された(メタ)アクリル酸エステルが、ローボイラー塔から、好ましくはそのストリッピング部から側流として抜き出され、本質的に(メタ)アクリル酸エステルであるローボイラー塔の底部成分及びハイボイラーが触媒除去塔に少なくとも部分的に再循環される。換言すれば、ローボイラー分離塔及び仕上げ塔が単一蒸留塔として構成される。好ましくは、ローボイラー塔から側流として抜き出された精製(メタ)アクリル酸エステルは、純粋な(メタ)アクリル酸エステルの仕様要件を満たし、さらなる蒸留にも精錬にも供されない。
【0073】
ローボイラー画分はローボイラー塔の頂部から抜き出される。ローボイラー画分はアセテート塔に供給される。本発明によると、ローボイラー画分は、10重量%未満、好ましくは5重量%未満の(メタ)アクリル酸エステルを含む。これは、ローボイラー塔の精留部の分離効率が、ローボイラー画分に持ち越される(メタ)アクリル酸エステルの量を適切に制限するのに十分でなければならないことを意味する。分離効率は、大部分が精留部及び塔内部構造物の高さによって決定される。
【0074】
好ましくは、ローボイラー塔の精留部は、例えば10~20段の範囲の少なくとも8段の理論段を含む。好ましくは、ローボイラー塔の精留部の理論段数は、ストリッピング部の場合よりも大きく、例えば1.2~4倍大きい。より好ましくは、ローボイラー塔の精留部の理論段数は1.5~3倍大きい。
【0075】
特に、ローボイラー塔は、13~30段の範囲の理論段数を有し、粗(メタ)アクリレート含有流の側方供給点は、最も下の理論段の上の少なくとも4段の理論段から始まり、最も上の理論段の下の少なくとも8段の理論段で終了する領域の理論段に配置される。純粋な(メタ)アクリレートの側方排出点は、最も下の理論段の上の少なくとも1段の理論段から始まり、最も上の理論段の下の少なくとも12段の理論段で終了する領域の理論段に配置される。
【0076】
使用される塔内部構造物は、原則として、全ての標準的な内部構造物、例えばトレイ、構造化パッキン要素及び/又はランダムパッキン要素であってもよい。
【0077】
ここで、及び本出願を通して、「パッキン」という用語は、2つの相の向流間の液体-蒸気界面での物質移動を可能にする液体の表面積を提供するための塔内部構造物として使用される所定のサイズ、形状、及び構成の中実又は中空体を意味する。パッキンの2つの広いクラスは、「ランダム」及び「構造化」である。
【0078】
「ランダムパッキン」とは、個々の部材が互い又は塔軸に対して特定の配向を有さないパッキンを意味する。ランダムパッキンは、塔にランダムに充填される単位体積当たりの表面積が大きい小型の中空構造である。
【0079】
「構造化パッキン」とは、個々の部材が互い及び塔軸に対して特定の配向を有するパッキンを意味する。構造化パッキンは、通常、層状に又は螺旋状の巻線として積み重ねられた薄い金属箔、エキスパンドメタル又は織りワイヤスクリーンで作られる。「表面積密度」という用語は、構造化パッキンの単位体積当たりの構造化パッキンの表面積を意味し、通常、m2/パッキンが占める体積のm3で表される。
【0080】
トレイの中でも、バブルキャップトレイ、シーブトレイ、バルブトレイ、Thormannトレイ及び/又はデュアルフロートレイが好ましい;ランダムパッキン要素の中でも、リング、螺旋、サドル、ラシヒ、イントス若しくはポールリング、ベルル若しくはインタロックスサドル、又はブレードを含むものが好ましい。
【0081】
より好ましくは、ローボイラー塔の精留部は、1つ又は複数の構造化パッキン要素を備える。構造化パッキン要素は、規則的な構造で互いに垂直に配置され、通常は付属物、例えば金属ワイヤ、薄い金属ロッド又は金属シートストリップによって一緒に複合体にまとめられる、パッキン要素、例えば金属シート、エキスパンドメタル及びワイヤファブリックの多数の個々の層で構成される。通常、構造化パッキン要素自体は、例えば直径約4~6 mmの折畳み又は円形孔の形態の幾何学的構造を有する。開口部は、パッキンの浸水限界を増加させ、より高い塔充填を可能にするように作用する。例としては、Sulzer AG、CH-8404ウィンタートゥール製の「Mellapak」、CY及びBX型、又はMontz GmbH、D-40723ヒルデン製のA3、BSH若しくはB1型がある。これらのパッキンのパッキン要素の折畳みは、直線状に、パッキンの長手方向軸に対して約30°~45°の角度で延びる。パッキン要素の折畳みは、構造化パッキン内にクロスチャネル構造をもたらす。構造化パッキンは、通常、個々のパッキン層として提供され、次いで、塔内に上下に積み重ねられて配置される。パッキン層は、通常、約0.17 m~約0.30 mの高さを有する。
【0082】
構造化パッキン層は、その高さにわたって変化する内部幾何学を有し得る。少なくとも100 m2/m3、好ましくは少なくとも200 m2/m3、より好ましくは少なくとも300 m2/m3の表面積密度を有する1つ又は複数の構造化パッキン要素を有する構造化パッキンが好ましい。一実施形態では、構造化パッキンが、約250 m2/m3~350 m2/m3の表面積密度を有し、平行な関係で配置された複数の波形板を含む。
【0083】
構造化パッキン要素は、好ましくは少なくとも6 m、好ましくは少なくとも8 mの全高を有する。
【0084】
市販の構造化パッキン要素は、例えば、Sulzer Mellapak 250Y;Raschig Super-Pak 350Y、Koch-Glitsch Flexipac HC 350Yである。
【0085】
熱は、従来の設計の内部及び/若しくは外部熱交換器を介して、並びに/又はジャケット加熱(使用される伝熱媒体は有利には蒸気である)を介して供給することができる。熱は、好ましくは、自然循環又は強制循環を用いる外部循環蒸発器を介して供給される。反応混合物の完全な混合は、公知の方法で、例えば撹拌、ポンプ循環又は自然循環によって行われる。
【0086】
一般に、圧力は、ローボイラー塔の頂部で測定して、40~200 mbar、好ましくは50~100 mbarである。温度は、ローボイラー塔の底部で測定して、120~180℃、好ましくは130~160℃である。
【0087】
安定剤溶液は、典型的には、精製された(メタ)アクリル酸エステルに添加される。この目的のための適切で好ましい重合禁止剤(安定剤)に関しては、適切で好ましい安定剤に関して上記で行われた一般的な観察が参照される。好ましくは、フェノチアジンの2-エチルヘキサノール又は2-エチルヘキシルアクリレート中溶液が、好ましくは側方テイクオフに添加される。
【0088】
仕上げ塔
場合により、本発明による方法は仕上げ塔を伴う。上述の実施形態では、精製された(メタ)アクリル酸エステルが、ローボイラー塔の底部から抜き出され、精製された(メタ)アクリル酸エステルが仕上げ塔に導入される。
【0089】
仕上げ塔は、それ自体公知の設計であり、慣用的な内部構造物を有する。有用な塔内部構造物には、原則として、全ての一般的な内部構造物、例えばトレイ、構造化パッキン及び/又はランダムパッキンが含まれる。一般に、2~6段の理論段で十分である。
【0090】
圧力は、通常、仕上げ塔Bの頂部で測定して40~200 mbarであり、蒸留温度は、仕上げ塔Bの底部で測定して120~180℃である。
【0091】
アセテート塔
ローボイラーからのローボイラーは、好ましくは連続的に、本質的に出発アルコールを含む画分が実質的に酢酸エステルを含む流れから分離されるアセテート塔に供給される。
【0092】
本発明によると、アセテート塔はローボイラー塔圧力よりも少なくとも50 mbar高い圧力で運転される。アセテート塔の運転圧力は、仕上げ塔及びアセテート塔の頂部でそれぞれ測定して、仕上げ塔圧力よりも少なくとも50 mbar、好ましくは少なくとも100 mbar、より好ましくは少なくとも200 mbar高い。代替的に見ると、アセテート塔がローボイラー塔圧力よりも2~10倍高い圧力で運転される。アルコール及び酢酸エステルは、ローボイラー塔圧力で同様の沸点を有するが、ローボイラー画分がさらされる圧力が変化するにつれて、相対沸点はかなりの程度変化する。酢酸エステルは、ローボイラー塔圧力で蒸留中に留出物中に濃縮され、より高い圧力で留出物を蒸留すると、底部成分中に濃縮される傾向がある。
【0093】
より高い圧力でのアセテート塔の安全な運転のために、ローボイラー画分が、10重量%未満の(メタ)アクリル酸エステル、好ましくは5重量%未満の(メタ)アクリル酸エステルを含むことが不可欠である。
【0094】
出発アルコールを本質的に含む流れは、エステル化ステップに少なくとも部分的に再循環される。酢酸エステルを本質的に含む流れは排出される。
【0095】
アセテート塔は、公知の設計の精留塔、例えば、トレイ塔又はランダムパッキンを有する塔又は構造化パッキンを有する塔である。この目的のための適切で好ましい分離活性内部構造物に関しては、仕上げ塔に適した適切で好ましい内部構造物に関して上記で行われた一般的な観察が参照される。特に、構造化パッキンを有する塔が好ましい。
【0096】
アセテート塔内の温度が、アセテート塔の底部で測定して120~190℃、好ましくは約160℃である運転モードが好ましい。塔の頂部で測定される圧力は、90~1000 mbarの範囲、好ましくは200~400 mbarの間の範囲である。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【
図2】物理的に分離されたローボイラー塔A及び仕上げ塔B、並びにアセテート塔Dを含む、実施例2による本発明による方法の図である。
【
図3】各塔が物理的に分離されている、ローボイラー塔A、仕上げ塔B、ローボイラー蒸留塔C及びアセテート塔Dを含む4つの塔を含む参照方法の図である。
【発明を実施するための形態】
【0098】
以下に記載される実施例により、本発明を詳細に説明する。これらの実施例は、本発明を限定するように理解されるべきではない。
【0099】
以下の実施例では、以下の略語が使用される。
【0100】
【0101】
特に明記しない限り、本明細書に示される部、パーセンテージ及びppmのデータは、重量部、重量%及び重量ppmに関する。
【0102】
運転モードは、2-エチルヘキシルアクリレートを製造するための完全なプラントの熱力学的シミュレーションからのデータを使用して示される。
【0103】
本方法の熱力学的シミュレーションは、独自のソフトウェアを使用して行った。同等の結果が得られると予想される、マサチューセッツ州ケンブリッジのAspen Technology,Inc.製のAspen Plus(登録商標)プログラムなどの市販のソフトウェアが利用可能である。Aspen Plus(登録商標)は、業界における化学プロセス及びプラントのモデリング、シミュレーション及び最適化に使用される包括的なシミュレーションソフトウェアである。Aspenは、基本運転をモデル化するための包括的なモデリングデータバンク、及びまた多くの異なる物質の材料特性についての材料データバンクを有する。混合物の特性は、純物質の材料データから様々な熱力学モデルによってAspen Plus(登録商標)によって算出される。
【0104】
本発明の方法及び参照方法についてシミュレーションを行った。全てのシミュレーションにおいて、アクリル酸分離から排出された流れは同じ組成を有していた。
【実施例】
【0105】
実施例1:
2つの塔(仕上げ塔A及びアセテート塔D)を使用した2-EHAの精製
図1に示されるように、不純物として2EHOL、2-EHOAc、ヘビーエンド及びローエンドを含む粗2EHA流1を仕上げ塔Aに供給した。仕上げ塔Aは24段の理論段を含んでいた;供給段は下から8番目の理論段であり、塔頂圧力は60 mbarであり、底部温度は147℃であった。2EHAから本質的になる液体流5を仕上げ塔Aのストリッピング部から取り出した。2EHA及びヘビーエンド不純物から本質的になる流れ6を塔Aのストリッピング部から抜き出し、触媒分離塔に送った。2EHA、2EHOL及び2EHOAcを含むローボイラー流2を仕上げ塔Aの頂部から抜き出し、アセテート塔Dに供給した。アセテート塔Dは24段の理論段を含み、供給段は下から15番目の理論段であり、底部温度は162℃であり、塔頂圧力は314 mbarであった。2EHOL及び2EHOAcから主になる流れ8をアセテート塔Dの頂部から取り出し、エステル化反応器に戻し、2EHOAc及び2EHAから主になる底部生成物9をアセテート塔Dから除去した。流れ1、2、5、6、8及び9の組成を以下の表1に示す。
【0106】
【0107】
実施例2:
3つの塔(ローボイラー分離塔A、仕上げ塔B及びアセテート塔D)を使用した2EHAの精製
図2に示されるように、不純物として2EHOL、2EHOAc、ヘビーエンド及びローエンドを含む粗2EHA流1をローボイラー分離塔Aに供給した。ローボイラー分離塔Aは20段の理論段を含んでいた;供給段は下から5番目の理論段であり、塔頂圧力は40 mbarであり、底部温度は126℃であった。2EHA及びヘビーエンド不純物を主に含む液体流3をローボイラー分離塔Aのストリッピング部から取り出し、仕上げ塔Bに供給した。仕上げ塔Bは6段の理論段を含んでいた;供給段は下から1番目の理論段であり、底部温度は129℃であり、塔頂圧力は22 mbarであった。2EHA及びヘビーエンド不純物を主に含む流れ6を仕上げ塔Bのストリッピング部から抜き出し、触媒分離塔に送った。標的エステル2EHAを主に含む流れ5を仕上げ塔Bの頂部から取り出した。2EHOL、2EHOAc及び2EHAを主に含むローボイラー流2をローボイラー分離塔Aの頂部から抜き出し、アセテート塔Dに供給した。アセテート塔Dは24段の理論段を含み、供給段は下から15番目の理論段であり、底部温度は162℃であり、塔頂圧力は314 mbarであった。2EHOL及び2EHOAcを主に含む流れ8をアセテート塔Dの頂部から取り出し、エステル化反応器に戻し、2EHOAc及び2EHAから本質的になる底部生成物9をアセテート塔Dから除去した。流れ1、2、3、5、6、8及び9の組成を以下の表2に示す。
【0108】
【0109】
実施例3(参照):
4つの塔(ローボイラー分離塔A、仕上げ塔B、ローボイラー蒸留塔C及びアセテート塔D)を使用した2EHAの精製
図3に示されるように、2EHA、2EHOL、2EHOAc、ヘビーエンド及びローエンド不純物を含む流れ1をローボイラー分離塔Aに供給した。ローボイラー蒸留塔Cからの粗2EHAの底部流4の少なくとも一部もローボイラー分離塔Aに供給した。ローボイラー分離塔Aは12段の理論段を含んでいた;供給段は下から5番目の理論段であり、塔頂圧力は40 mbarであり、底部温度は123℃であった。2EHA及びヘビーエンド不純物を主に含む液体流3をローボイラー分離塔Aのストリッピング部から取り出し、仕上げ塔Bに供給した。仕上げ塔Bは6段の理論段を含んでいた;供給段は下から1番目の理論段であり、底部温度は129℃であり、塔頂圧力は22 mbarであった。2EHA及びヘビーエンド不純物を主に含む流れ6を仕上げ塔Bのストリッピング部から抜き出し、触媒分離塔に送った。標的エステル2EHAから本質的になる流れ5を仕上げ塔Bの頂部から取り出した。2EHA、2EHOL及び2EHOAcを主に含むローボイラー流2をローボイラー分離塔Aの頂部から抜き出し、ローボイラー蒸留塔Cに供給した。ローボイラー蒸留塔Cは18段の理論段を含み、供給段は下から1番目の理論段であり、底部温度は120℃であり、塔頂圧力は40 mbarであった。2EHOL及び2EHOAcから主になるローボイラー蒸留塔Cの塔頂流7をアセテート塔Dに供給した。アセテート塔Dは24段の理論段を含み、供給段は下から15番目の理論段であり、底部温度は162℃であり、塔頂圧力は314 mbarであった。2EHOL及び2EHOAcから本質的になる流れ8をアセテート塔Dの頂部から取り出し、エステル化反応器に戻し、2EHOAc及び2EHAから本質的になる底部生成物9をアセテート塔Dから除去した。重量%及び時間当たりの質量流量(kg/時)で表される流れ1~9の主な構成成分を表3に示す。
【0110】
【0111】
モデリングは、先行技術の方法が本発明の方法よりも多くの加熱蒸気を必要とすることを示す。実施例1及び2の精製方法は、実施例3よりも22%及び12%少ない加熱蒸気しか消費しない。
【符号の説明】
【0112】
1 粗2EHA流
2 ローボイラー流
3 液体流
4 底部流
5 液体流
6 流れ
7 塔頂流
8 流れ
9 底部生成物
【国際調査報告】