(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-31
(54)【発明の名称】二次電池用負極材及びこの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/38 20060101AFI20241024BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/36 C
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024531715
(86)(22)【出願日】2022-11-29
(85)【翻訳文提出日】2024-05-28
(86)【国際出願番号】 KR2022019115
(87)【国際公開番号】W WO2023101372
(87)【国際公開日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】10-2021-0169867
(32)【優先日】2021-12-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513280854
【氏名又は名称】オーシーアイ カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】OCI Company Ltd.
【住所又は居所原語表記】94,Sogong-ro,Jung-gu,Seoul,100-718(KR)
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】弁理士法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ジュンヒョン
(72)【発明者】
【氏名】ノ,ミンホ
(72)【発明者】
【氏名】オ,ミンギョン
(72)【発明者】
【氏名】チ,ウンオク
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA07
5H050AA08
5H050BA17
5H050CB11
5H050GA02
5H050GA10
5H050HA05
5H050HA14
5H050HA20
(57)【要約】
本発明は、ナノシリコン粒子の表面にピッチが均一かつ緻密にコーティングされた高品質のナノシリコン-炭素複合材を含む、二次電池用負極材の製造方法を提供する。
また、本発明は、二次電池の初期放電容量、初期効率および寿命特性を向上させることができるように、前記二次電池用負極材の製造方法に従って製造された二次電池用負極材、及びこれを含む二次電池を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノシリコン粒子、有機系樹脂および導電材を第1溶媒に混合して、スラリー(slurry)を形成する段階;
前記スラリーを乾燥して、球状パウダー粒子を形成する段階;
前記球状パウダー粒子を硬化させる段階;
高軟化点ピッチを第2溶媒に溶解させて、ピッチ溶液を形成する段階;
前記硬化した球状パウダー粒子に前記ピッチ溶液をコーティングさせる段階;及び
前記ピッチでコーティングされたパウダーを炭化させる段階;
を含む、
二次電池用負極材の製造方法。
【請求項2】
ナノシリコン粒子、有機系樹脂、導電材、及び硬化剤を第1溶媒に混合して、スラリー(slurry)を形成する段階;
前記スラリーを乾燥して、球状パウダー粒子を形成する段階;
前記球状パウダー粒子を硬化させる段階;
高軟化点ピッチを第2溶媒に溶解させて、ピッチ溶液を形成する段階;
前記硬化した球状パウダー粒子に前記ピッチ溶液をコーティングさせる段階;及び
前記ピッチでコーティングされたパウダーを炭化させる段階;
を含む、
二次電池用負極材の製造方法。
【請求項3】
前記第1溶媒は、エタノール、メタノール、アセトン、及びイソプロピルアルコールからなる群から選択される1種以上を含むものである、
請求項1又は2に記載の二次電池用負極材の製造方法。
【請求項4】
前記有機系樹脂は、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、熱硬化性ポリイミド、ポリエステル、ポリウレタン、メラミン樹脂、及びアミノ樹脂からなる群から選択される1種以上を含むものである、
請求項1又は2に記載の二次電池用負極材の製造方法。
【請求項5】
前記導電材は、カーボンブラック(carbon black)を含むものである、
請求項1又は2に記載の二次電池用負極材の製造方法。
【請求項6】
前記乾燥段階は、噴霧乾燥法(spray drying)で行うことである、
請求項1又は2に記載の二次電池用負極材の製造方法。
【請求項7】
前記球状パウダー粒子の平均粒径は、5~10μmである、
請求項1又は2に記載の二次電池用負極材の製造方法。
【請求項8】
前記第2溶媒は、テトラヒドロフラン(THF)、キノリン、トルエン、ピリジン、N-メチルピロリドン(NMP)、キシレン、クロロホルム、ジメチルスルホキシド、及びn-ヘキサンからなる群から選択される1種以上を含む、
請求項1又は2に記載の二次電池用負極材の製造方法。
【請求項9】
上記硬化は、120~250℃の温度で、30分以上、熱硬化で行われることである、
請求項1に記載の二次電池用負極材の製造方法。
【請求項10】
前記硬化剤は、アミン系硬化剤、酸無水物系(anhydride-based)硬化剤、及びアミド系硬化剤からなる群から選択される1種以上の硬化剤を含むものである、
請求項2に記載の二次電池用負極材の製造方法。
【請求項11】
前記硬化は、20~27℃の温度で行うことである、
請求項2に記載の二次電池用負極材の製造方法。
【請求項12】
前記炭化は、1000~1100℃の温度で行うことである、
請求項1又は2に記載の二次電池用負極材の製造方法。
【請求項13】
請求項1又は2に記載の製造方法に従って製造された、二次電池用負極材。
【請求項14】
請求項1又は2に記載の製造方法に従って製造された、二次電池用負極材を含む二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池の初期放電容量(IDC)、初期効率(ICE)および寿命特性を向上させることができる二次電池用負極材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池の性能の向上は、正極材、負極材、電解液の構成要素に基づく。
【0003】
上記構成要素のうち負極材として主に使用される黒鉛系素材は、優れた電気化学的性能、安値により商業的に常用されているが、理論容量が370mAh/gに制限されるため、高容量の二次電池に適用するには限界点がある。
【0004】
上記限界点を克服するためにシリコン、スズ、ゲルマニウムなどの非黒鉛系負極材が代替材料として台頭し、そのうちシリコンは、理論容量が4000~4200mAh/gに至り、黒鉛に比べてほぼ10倍以上の高容量を示すことから、黒鉛に取り替えられる物質として注目されている。しかし、高い理論容量に比べて充放電過程で、約400%に達する大きな体積膨張が発生して、物質の構造的な破壊と低い寿命を有するようになる。
【0005】
シリコンの体積膨張を緩和する方法では、炭素素材を混合して、複合素材を製造する方法が考案されたが、シリコンを炭素素材と効果的に結合させることは、依然として困難である。
【0006】
このため、ナノシリコン(Nano Silicon)粒子を含むスラリーで球状パウダー粒子を形成した後、球状パウダー粒子の表面に炭素素材としてピッチ(pitch)をコーティングする方法が開発されてきている。このとき、ナノシリコンを球状パウダー粒子化させるために、ナノシリコンを互いに結合させることができる有機系樹脂または水系樹脂を混合することができるが、使用される樹脂の特性によって、負極材及び最終に適用される二次電池の性能に影響を及ぼし得る。
【0007】
具体的には、水系樹脂を使用すると、溶媒として水を添加することになるが、ナノシリコン粒子を製造する際に有機溶媒を使用するため、溶媒である水がナノシリコンと反応して酸化が起こり、分散及び酸化度に問題が生じて、製造される二次電池の性能が低下する問題点がある。
【0008】
有機系樹脂を使用すると、次の工程であるピッチをコーティングする段階において、ピッチ溶液に使用された有機溶媒に有機系樹脂も併せて溶解されて、シリコンを含む粒子の形状が破壊する問題点がある。
【0009】
溶媒を使用せずにコーティングする乾式コーティング法の場合は、物理的にラビング(rubbing)方式でコーティングされるため、球状パウダー粒子が破壊して、微細な粉末が多く発生し、コーティングの均一性が顕著に減少するという問題点がある。
【0010】
よって、上記問題点を解決して、二次電池の初期放電容量、初期効率および寿命特性を向上させることができる高品質の二次電池用負極材の製造方法を開発することが必要な実情である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、ナノシリコン粒子の表面にピッチが均一かつ緻密にコーティングされた高品質のナノシリコン-炭素複合材を含む二次電池用負極材の製造方法を提供することである。
【0012】
本発明の他の目的は、二次電池の初期放電容量、初期効率および寿命特性を向上させることができるように、上記二次電池用負極材の製造方法に従って製造された二次電池用負極材、及びこれを含む二次電池を提供することである。
【0013】
本発明の目的は、以上で言及した目的に限らず、言及していない本発明の他の目的及び長所は、下記の説明によって理解することができ、本発明の実施例によってより明らかに理解することができる。また、本発明の目的及び長所は、特許請求の範囲に示した手段及びその組み合わせによって実現できることが分かりやすい。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一態様によれば、ナノシリコン粒子、有機系樹脂および導電材を第1溶媒に混合して、スラリー(slurry)を形成する段階;前記スラリーを乾燥して、球状パウダー粒子を形成する段階;前記球状パウダー粒子を硬化させる段階;高軟化点ピッチを第2溶媒に溶解させて、ピッチ溶液を形成する段階;前記硬化した球状パウダー粒子に前記ピッチ溶液をコーティングさせる段階;及び前記ピッチでコーティングされたパウダーを炭化させる段階;を含む二次電池用負極材の製造方法を提供することができる。
【0015】
本発明の他の一態様によれば、ナノシリコン粒子、有機系樹脂、導電材、及び硬化剤を第1溶媒に混合して、スラリー(slurry)を形成する段階;前記スラリーを乾燥して、球状パウダー粒子を形成する段階;前記球状パウダー粒子を硬化させる段階;高軟化点ピッチを第2溶媒に溶解させて、ピッチ溶液を形成する段階;前記硬化した球状パウダー粒子に前記ピッチ溶液をコーティングさせる段階;及び前記ピッチでコーティングされたパウダーを炭化させる段階;を含む二次電池用負極材の製造方法を提供することができる。
【0016】
本発明のさらに他の一態様によれば、本発明の二次電池用負極材の製造方法に従って製造された二次電池用負極材を提供することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明による二次電池用負極材の製造方法によれば、シリコン粒子の表面にピッチを均一かつ緻密にコーティングすることができ、高品質のシリコン-炭素複合材を含む二次電池用負極材を製造することができる。
【0018】
本発明による二次電池用負極材の製造方法に従って製造された二次電池用負極材を適用することにより、二次電池の初期放電容量、初期効率および寿命特性を向上させることができる。
【0019】
上述した効果並びに本発明の具体的な効果は、以下の発明を実施するための形態を説明すると共に記述する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一態様による二次電池用負極材の製造方法を示した手順図である。
【
図2a】本発明による実施例1のシリコン粒子の表面にピッチがコーティングされたシリコン-炭素複合材のSEMイメージを示した図である。
【
図2b】本発明による実施例1のシリコン粒子の表面にピッチがコーティングされたシリコン-炭素複合材のPSA(Particle size analysis)粒度分析の結果グラフを示した図である。
【
図3a】本発明による比較例1のシリコン粒子の表面にピッチがコーティングされたシリコン-炭素複合材のSEMイメージを示した図である。
【
図3b】本発明による比較例1のシリコン粒子の表面にピッチがコーティングされたシリコン-炭素複合材のPSA(Particle size analysis)粒度分析の結果グラフを示した図である。
【
図4a】本発明による比較例2のシリコン粒子の表面にピッチがコーティングされたシリコン-炭素複合材のSEMイメージを示した図である。
【
図4b】本発明による比較例2のシリコン粒子の表面にピッチがコーティングされたシリコン-炭素複合材のPSA(Particle size analysis)粒度分析の結果グラフを示した図である。
【
図5】本発明による実施例1及び比較例1のハーフセルテストの結果グラフを示した図である。
【発明を実施するための最善の形態】
【0021】
前述した目的、特徴及び長所は、添付の図面を参照して詳細に後述され、これによって、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明の技術思想を容易に実施することができる。本発明の説明にあたり、本発明に係る公知の技術に関する具体的な説明が、本発明の要旨を曖昧にすると判断される場合には、詳細な説明を省略する。以下では、添付の図面を参照して、本発明による好ましい実施例を詳説することとする。図面における同じ参照符号は、同一又は類似の構成要素を示すために使われる。
【0022】
本明細書で記載していない内容のうち、この技術分野における通常の技術者であれば、技術的に十分類推できるものは、その説明を省略することとする。
【0023】
以下における構成要素の「上部(又は下部)」又は構成要素の「上(又は下)」に任意の構成が配されるということは、任意の構成が、上記構成要素の上面(又は下面)に接して配されるだけでなく、上記構成要素と、上記構成要素上に(又は下に)配された任意の構成との間に他の構成が介在し得ることを意味する。
【0024】
また、ある構成要素が他の構成要素に「連結」、「結合」または「接続」されると記載されている場合、上記構成要素は、互いに直接に連結されるかまたは接続されていてもよいものの、各構成要素の間に他の構成要素が「介在」するか、各構成要素が他の構成要素を介して「連結」、「結合」または「接続」されていてもよいものと理解すべきである。
【0025】
以下では、本発明による二次電池用負極材の製造方法を詳説することとする。
【0026】
本発明は、二次電池用負極材としてのシリコン-炭素複合材を製造することにおいて、シリコン粒子に炭素材料であるピッチをコーティングする際の従来技術の限界点を改善して、ピッチコーティングの均一性及び緻密性を顕著に向上させることにより、前記負極材を二次電池に使用するとき、二次電池の性能を向上させることができる高品質の二次電池用負極材を提供することができる。
【0027】
特に、本発明は、シリコン粒子を含むスラリーを製造するとき、有機系樹脂を使用し、かつ、ピッチコーティング段階の前に硬化工程段階を含むことにより、後続するピッチコーティング工程で使用されるピッチ溶液の有機溶媒に有機系樹脂が溶解されないため、シリコン粒子を含む活物質の球状パウダー粒子の形状を維持することができ、シリコンの表面のピッチコーティング性が顕著に向上し得る。
【0028】
このように、本発明は、シリコン粒子を含むスラリーで球状パウダー粒子を形成した後、かつ、ピッチ溶液でコーティングする前に硬化工程をさらに含み、ピッチコーティングを液状状態で行っても、ピッチ溶液の有機溶媒に有機系樹脂が溶解しないようにすることを特徴とする。
【0029】
本発明では、硬化工程を2種に導出しており、一番目は、熱硬化工程であり、二番目は、シリコンを含むスラリーを製造するとき、硬化剤を一緒に添加して混合することにより、適宜な時間の間に熱を加えることがなくても、硬化が起こり得る工程である。
【0030】
図1は、本発明の一実施例による負極活物質の製造方法の手順図であって、上述したように、硬化工程を熱硬化工程で行った製造方法であり、
図1を参照して、以下では、各段階について説明する。
【0031】
S1:ナノシリコン粒子、有機系樹脂および導電材を第1溶媒に混合して、スラリーを形成する段階
先ず、ナノシリコン粒子、有機系樹脂および導電材を第1溶媒に混合して、スラリーを形成する。
【0032】
前記第1溶媒としては、ナノシリコン粒子、有機系樹脂および導電材に対して溶解性に優れるものを選択することができる。例えば、第1溶媒として、エタノール、メタノール、アセトン、イソプロピルアルコールなどを含んでいてもよく、好ましくは、エタノールを含んでいてもよい。
【0033】
前記有機系樹脂は、熱が加わったとき、硬化が行われる熱硬化性樹脂を選択することができる。例えば、熱硬化性樹脂として、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、熱硬化性ポリイミド、ポリエステル、ポリウレタン、メラミン樹脂、アミノ樹脂などを含んでいてもよい。好ましくは、フェノール樹脂であってもよく、より好ましくは、熱硬化性に優れるレゾール型フェノール樹脂(resol type phenol resin)であるのがさらに好ましい。
【0034】
前記導電材は、負極材に導電性を付与するために含んでいてもよく、化学変化を引き起こさないで、電気伝導性を有するものであれば、制限なく使用することができる。例えば、導電材は、炭素系物質、金属粉末、金属繊維、金属酸化物、伝導性高分子のうち1種以上を含んでいてもよく、例えば、炭素系物質であるのが好ましく、カーボンブラックを含むのがさらに好ましい。
【0035】
前記スラリー内のナノシリコン粒子、有機系樹脂および導電材の混合の割合は、特に制限なく、通常の混合の割合によって混合することができ、例えば、ナノシリコン粒子:有機系樹脂:導電材の割合は、60~70:20~30:5~10であってもよい。
【0036】
また、ナノシリコン粒子の酸化を防止し、分散性を高めるために、ステアリン酸などの添加剤を一緒に混合することができる。
【0037】
S2:前記スラリーを乾燥して、球状パウダー粒子を形成する段階
前記シリコンを含むスラリーを、球状パウダー粒子を形成するために乾燥する段階を行うことができ、球状パウダー粒子を形成することができれば、乾燥方法は、特に制限されないものの、好ましくは、噴霧乾燥法(spray drying)で行うことができる。
【0038】
噴霧乾燥法(spray drying)は、液体状態の材料を熱風によって急速に乾燥して、粉末状態で製造する技術であって、液体状態の材料を微粒子化する噴霧器、加熱器、乾燥機を含むスプレードライヤー装備によって行うことができる。
【0039】
噴霧乾燥は、実験条件、液体状態など、様々な条件によって粒子のサイズ、形態などを調節することができ、大量生産に好適である。
【0040】
上記製造される球状パウダー粒子の平均粒径は、使用する負極材の用途によって選択することができるものの、例えば、5~10μmであるのが好ましい。
【0041】
S3:前記球状パウダー粒子を硬化させる段階
前記S2段階で得たナノシリコン粒子を含む球状パウダー粒子にピッチでコーティングする段階を行う前に、前記球状パウダー粒子を硬化させる段階を含んでいてもよい。これにより、その後、球状パウダーに対して液状でピッチコーティングを行っても、ピッチ溶液を製造するために使用していた有機溶媒(以下、S4段階における第2溶媒に対応する)に有機系樹脂が溶解することを防止することができ、球状パウダー粒子の形状を維持することができるという利点がある。
【0042】
上述したように、硬化工程段階(S3)は、熱硬化工程またはスラリーを製造するとき、硬化剤を一緒に混合することにより、適宜な時間の間に加熱せずに行われる硬化工程のうち一つを選択することができる。
【0043】
熱硬化工程で行う場合、有機系樹脂としては、熱硬化性樹脂を用いるのが好ましい。例えば、熱硬化工程は、120~250℃の温度で、30分~90分間行うことができるものの、必ずしもこれに制限されるものではなく、温度及び時間は、選択される有機系樹脂の種類によって調節することができ、樹脂の縮合反応によって硬化が起こるようになる。
【0044】
一方、熱硬化工程を省略する場合には、硬化剤を用いなければならず、熱硬化に要する高い温度に熱を加える必要はないものの、硬化剤によって過硬化が起こらないように、硬化時間内に全体工程を仕上げる必要があるため、時間的制限が発生し得る。このとき、硬化時間は、硬化剤の添加量、硬化剤の種類によって異なり、当業界の知識によって調節することができる。前記硬化剤の種類としては、例えば、アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、アミド系硬化剤などがあり、この際には、熱硬化性有機系樹脂を用いる必要がないため、選択可能な有機系樹脂の種類がさらに多い。例えば、フェノール樹脂のうち熱硬化性を示さないノボラック型フェノール樹脂(novolac-type phenol resin)も樹脂として用いることができる。
【0045】
このように、硬化工程は、熱硬化で行うか、硬化剤を含み、熱硬化を省略するか否かによってそれぞれ利点が異なるため、各工程の目標及び条件によって選択することができる。
【0046】
S4:高軟化点ピッチを第2溶媒に溶解させて、ピッチ溶液を形成する段階
上述したように、乾式法でピッチをコーティングすると、ラビング(rubbing)方式を用いることになるため、球状パウダー粒子の形状が破壊し得、コーティングの均一性及び緻密性が低くなる。よって、本発明では、シリコンを含む球状パウダー粒子にピッチをコーティングするために、ピッチを第2溶媒に溶解させて、ピッチ溶液を形成することができる。第2溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、キノリン、トルエン、ピリジン、N-メチルピロリドン(NMP)、キシレン、クロロホルム、ジメチルスルホキシド、n-ヘキサンなどを含んでいてもよく、好ましくは、テトラヒドロフラン(THF)を含んでいてもよい。
【0047】
本発明では、特に、高軟化点ピッチ(high softening point pitch;HSPP)を用いるところ、常温で、液体であるピッチは、低い分子量によって炭化収率及び炭化後の電気伝導度が低い問題があり、不適合であるため、高軟化点ピッチを第2溶媒に混合して、ピッチ溶液を形成することが好ましい。
【0048】
S5:前記硬化した球状パウダー粒子に前記ピッチ溶液をコーティングさせる段階
前記硬化した球状パウダー粒子と前記高軟化点ピッチ溶液とを混合して、混ぜた後、蒸発(evaporating)させて、高軟化点ピッチが球状パウダー粒子に湿式コーティングされるようにする。このとき、蒸発器(evaporator)を用いて35~40℃で、湯煎条件で蒸発乾燥させることができる。
【0049】
S6:前記ピッチでコーティングされたパウダーを炭化させる段階
前記高軟化点ピッチでコーティングされたパウダーを炭化させることにより、有機系樹脂を除去することができ、最終粒子として表面がピッチでコーティングされたシリコン-炭素複合材を得た。例えば、前記炭化は、不活性気体雰囲気(例:窒素雰囲気)下で、1000~1100℃の温度まで昇温した後、約1時間位維持して行うことができ、このとき、昇温速度は、例えば、5~10℃/minであってもよい。炭化温度を高くすると、有機系樹脂内の水素、酸素などの除去効果は、さらに高いものの、1100℃を超えると、SiCが形成される問題点があるため、1000~1100℃の温度で炭化することが好ましい。
【0050】
このように、本発明の二次電池用負極材の製造方法に従って製造された二次電池用負極材は、シリコン粒子に高軟化点ピッチが均一かつ緻密にコーティングされたシリコン-炭素複合材を含むことにより、二次電池に適用するとき、初期放電容量、初期効率および寿命特性を向上させることができる効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下では、本発明の好ましい実施例によって、本発明の構成及び作用をさらに詳説することとする。但し、これは、本発明の好ましい例示として提示されたものであり、どのような意味でも、これによって本発明が制限されるとは解釈されない。
【0052】
1.二次電池用負極材の製造
実施例1
ナノシリコン粒子(D50の平均値111nm、D90の平均値158nm)65重量%、ステアリン酸(Stearic acid)18重量%、有機系樹脂としてレゾール型フェノール樹脂(江南化成社、KC-4300N)10重量%、及び導電材としてカーボンブラック(Imerys Graphite&Carbon社、Super-P製品)7重量%をエタノールに混合して、スラリーを形成した(固形分20%)。
【0053】
その後、前記スラリーを噴霧乾燥して(spray drying)、5~10μmのサイズ(D50の平均値7.255μm)に球状パウダー粒子を製造した。その後、前記球状パウダー粒子に150℃で、1時間熱を加えて、前記樹脂の縮合反応による熱硬化を行った。
【0054】
一方、高軟化点ピッチ(HSPP,OCI)をテトラヒドロフラン(THF)に溶解させて、ピッチ溶液を製造した後、前記球状パウダー粒子100重量部に対し前記ピッチ溶液32.4重量部を添加して、混合した後、蒸発器を用いて 35~40℃で、湯煎条件で蒸発乾燥させて、前記球状パウダー粒子に湿式でピッチコーティングを行った。
【0055】
次いで、窒素雰囲気下で、5℃の速度で、1000~1100℃の温度まで昇温した後、1時間維持して炭化させ、最終的に二次電池用負極材を製造した。
【0056】
比較例1
上記実施例1と同様に二次電池用負極材を製造するものの、有機系樹脂であるレゾール型フェノール樹脂の代わりに水系樹脂であるデキストリン(dextrin)樹脂を、かつ、溶媒としてエタノールの代わりに水を使用しており、熱硬化を行っていない点で相違する。
【0057】
比較例2
上記実施例1と同様に二次電池用負極材を製造するものの、熱硬化を行っていない点で相違する。
【0058】
2.負極材の表面に関する評価
2-1.SEMイメージの観察
実施例1及び比較例1~2で製造された負極材(シリコン-炭素複合材)の断面をSEMを用いて観察し、
図2a、
図3aおよび
図4aにそれぞれSEMイメージを示した。
【0059】
図2aから分かるように、実施例1によるシリコン-炭素複合材の大きさは、相対的に均一であり、丸い球状を維持し、ピッチコーティング前後の形状維持性に優れている。
【0060】
図3aから分かるように、比較例1によるシリコン-炭素複合材の大きさが不均一であり、大きい粒子と小さい微粉が混じっており、表面も相対的に荒かった。
【0061】
図3bから分かるように、比較例2によるシリコン-炭素複合材は、THFに有機系樹脂が溶解して溶けており、球状が破壊するか、互いに固まって、負極材として使用することができなかった。
【0062】
2-2.PSA(Particle size analysis)粒度分析
実施例1及び比較例1~2で製造された負極材(シリコン-炭素複合材)に対して、PSA(Particle Size Analyzer)分析装備である「BECKMAN COULTER life Sciences,LS 13 320 Particle Size Analyzer」を用いて、レーザ回折法でD
10、D
50およびD
90を測定し(下記の表1に示す)、粒度分布を分析した。このとき、上記測定を3回行って、平均直径及び体積を測定した後、それぞれ横軸及び縦軸にフローティングし、その結果グラフを
図2b、
図3bおよび
図4bにそれぞれ示した。
【0063】
また、上記グラフに基づいて、differential volume(average)(以下、「C.V.」と略称する)を計算しているが、C.V.値は、粒径の標準偏差/平均サイズの百分率(%)値であって、値が小さいほど、サイズが一定であり、サイズ分布が狭いという結果を意味し、その結果値は、下記の表1に示しており、均一度が非常に高い粒度を示すためには、C.V.値が50%以下であるのが好ましく、40%以下であるのがさらに好ましい。
【0064】
分析の結果、実施例1の
図2bのグラフにおけるピークの幅が最も狭く、単一ピークが観察され、比較例1の
図3bのグラフにおけるピークの幅は、
図2bに比べて広く、2つのピークが観察され、比較例2の
図4bのグラフにおけるピークは、幅が最も広く、ピークも3つ以上観察されている。
【0065】
また、下記の表1から分かるように、実施例1の場合が、粒径サイズが最も小さく、C.V.値も最も低く、目標値である50%以下を満たして、均一度が非常に高いことを確認した。他方、比較例1及び比較例2は、粒径サイズもさらに大きいだけでなく、C.V.値が比較的に高いか非常に高くて、均一度が低下している結果を確認した。
【0066】
【0067】
3.ハーフセルテスト(Half-Cell Test)
二次電池用負極材の電気化学的特性を分析するために、実施例1及び比較例1でそれぞれ製造された負極材15重量%と人造黒鉛85重量%とを混合した粉末を活物質として適用する負極極板を製作した。前記負極極板は、活物質、導電材(Imerys Graphite&Carbon社、Super-P)、バインダを94:1:5の重量比で混合したスラリーを銅ホイルにキャスティングして製造し、このとき、バインダは、CMCとSBRを3:7の重量比で混合して使用した。製作された負極極板は、Li metalを相対電極として使用して、コインセルに製作し、電気化学的特性を確認した。充放電条件は、充電CC/CV:0.01V/0.01C、放電CC1.5Vであり、律速は、0.2Cとした。
【0068】
ハーフセル装置であるTOSCAT-3100装備を用いて、初期充電効率(Initial coulombic efficiency;ICE;最初充電量に対する放電量)、初期充電容量(Initial charge capacity;ICC;最初充電容量)、及び初期放電容量(Initial discharge capacity;IDC;最初放電容量)をそれぞれ測定して、下記の表1に示し、寿命特性を確認するために、50サイクルでの放電比容量を測定して、
図5のグラフで示した(横軸:サイクル数、縦軸:比容量)。
【0069】
【0070】
表2及び
図5から分かるように、実施例1の負極材を適用した場合、性能が、比較例1の負極材を適用した場合に比べて、電気化学的性能により優れることが分かった。
【0071】
以上のように、本発明について例示の図面を参照して説明したが、本発明は、本明細書で開示の実施例と図面によって限定されるものではなく、本発明の技術思想の範囲内における通常の技術者にとって様々な変形を行えることは自明である。さらに、本発明の実施例を上述しながら、本発明の構成による作用効果を明示的に記載して説明しなかったとしても、該構成によって予測可能な効果も認めるべきであることは当然である。
【手続補正書】
【提出日】2024-05-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】変更
【補正の内容】
【国際調査報告】