(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-31
(54)【発明の名称】コアラレトロウイルスエンベロープ糖タンパク質およびその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/867 20060101AFI20241024BHJP
C12N 15/48 20060101ALI20241024BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20241024BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20241024BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20241024BHJP
A61L 27/38 20060101ALI20241024BHJP
A61P 35/00 20060101ALN20241024BHJP
【FI】
C12N15/867 Z ZNA
C12N15/48
C12N7/01
C12N5/10
A61K35/17
A61L27/38
A61P35/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024549250
(86)(22)【出願日】2022-11-07
(85)【翻訳文提出日】2024-07-05
(86)【国際出願番号】 EP2022081009
(87)【国際公開番号】W WO2023083760
(87)【国際公開日】2023-05-19
(32)【優先日】2021-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509002626
【氏名又は名称】フラウンホーファーゲゼルシャフト・ツア・フェルデルング・デア・アンゲバンテン・フォルシュング・エー・ファウ
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【氏名又は名称】大木 信人
(74)【代理人】
【識別番号】100204582
【氏名又は名称】大栗 由美
(72)【発明者】
【氏名】フリッケ,シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】シュミーデル,ドミニク
(72)【発明者】
【氏名】レナー,アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】ケール,ウルリケ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C081
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA93X
4B065AA97X
4B065AA97Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BA21
4B065BB19
4B065BB25
4B065BB34
4B065BC03
4B065BC07
4B065BD15
4B065CA23
4B065CA24
4B065CA44
4C081AB11
4C081CD34
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB37
4C087BB65
4C087NA05
4C087ZB09
4C087ZB26
(57)【要約】
本発明は、少なくとも1つのコアラレトロウイルス(KoRV)エンベロープ糖タンパク質(Env)をコードする少なくとも1つの核酸を含む、発現ベクター、発現カセットまたはシュードタイピングされたウイルスベクター粒子、関連する核酸、シュードタイピングされたウイルスベクター粒子、哺乳動物パッケージング細胞株、形質導入された哺乳動物細胞、ならびに関連する方法および使用に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのコアラレトロウイルス(Koala Retrovirus:KoRV)エンベロープ糖タンパク質(Envelope glycoprotein:Env)をコードする少なくとも1つの核酸を含む、発現ベクター、発現カセットまたはシュードタイピングされたウイルスベクター粒子。
【請求項2】
前記少なくとも1つの核酸が、C末端Rペプチドを欠く少なくとも1つのKoRV Envをコードする、請求項1に記載の発現ベクター、発現カセットまたはシュードタイピングされたウイルスベクター粒子。
【請求項3】
融合阻害性Rペプチド(Rペプチド)を欠くか、または前記Rペプチドの一部を欠く少なくとも1つのKoRV Envをコードする、核酸。
【請求項4】
前記少なくとも1つのKoRV Envが、KoRVA、KoRVBおよびそれらの組み合わせから選択される、請求項1または2に記載の発現ベクター、発現カセットまたはシュードタイピングされたウイルスベクター粒子、または請求項3に記載の核酸。
【請求項5】
(i)前記KoRVA Envの配列が、(a)配列番号2、(b)配列番号6(配列番号6は、任意選択的に配列番号6のアミノ酸645~659のうちの1個以上についてC末端切断されている)、および(c)シグナルペプチドを欠く(a)または(b)の配列から選択され、
(ii)前記KoRVB Envの配列が、(a)配列番号4、(b)配列番号8(配列番号8は、任意選択的に配列番号8のアミノ酸652~666のうちの1つ以上についてC末端切断されている)、および(c)シグナルペプチドを欠く(a)または(b)の配列から選択され、
(iii)前記少なくとも1つのKoRV Envをコードする少なくとも1つの核酸の配列が、配列番号1、配列番号3、配列番号5(配列番号5は、任意選択的に48個の3’末端ヌクレオチドのうちの1つ以上について3’末端で切断されている)、配列番号7(配列番号7は、任意選択的に前記48個の3’末端ヌクレオチドのうちの1つ以上について3’末端で切断されている)、または1つ以上のサイレント変異を含むそれらのバリアントのうちの1つ以上を含むか、またはそれらからなる、請求項4に記載の発現ベクター、発現カセットまたはシュードタイピングされたウイルスベクター粒子、または請求項4に記載の単離された核酸。
【請求項6】
前記少なくとも1つのKoRV Envをコードする少なくとも1つの核酸が、(i)異種プロモーターおよび/または(ii)構成的プロモーターおよび/または(iii)ポリAテール配列に作動可能に連結されている、請求項1、2、4または5のいずれか一項に記載の発現ベクター、発現カセットまたはシュードタイピングされたウイルスベクター粒子、または請求項3~5のいずれか一項に記載の核酸。
【請求項7】
少なくとも1つのKoRV Envでシュードタイピングされている、シュードタイピングされたウイルスベクター粒子。
【請求項8】
前記ウイルスベクター粒子が、レンチウイルスまたはガンマレトロウイルスベクター粒子から選択される、請求項1、2、または4~7のいずれか一項に記載のシュードタイピングされたウイルスベクター粒子。
【請求項9】
目的の異種配列をコードする少なくとも1つのペイロード核酸を含む核酸を更に含む、請求項1、2、または4~8のいずれか一項に記載のシュードタイピングされたウイルスベクター粒子。
【請求項10】
請求項1、2、または4~9のいずれか一項に記載のシュードタイピングされたウイルスベクター粒子を産生する、哺乳動物パッケージング細胞株。
【請求項11】
前記哺乳動物パッケージング細胞株が、
(i)5’LTR、Psiパッケージングエレメント(Psi)、セントラルポリプリントラクト(cPPT)/セントラル終止配列(CTS)、ポリAテール配列、転写後調節エレメント、Rev応答エレメント(RRE)、および3’LTRの核酸配列のうちの1つ以上、
(ii)核酸である少なくとも1つのコアラレトロウイルス(KoRV)エンベロープ糖タンパク質(Env)、ならびに/または
(iii)Gag、Pol、およびRev、および任意選択的にTatのうちの1つ以上から選択されるウイルスパッケージングタンパク質をコードする核酸
を含む、請求項10に記載の哺乳動物パッケージング細胞株。
【請求項12】
少なくとも1つの哺乳動物細胞への少なくとも1つのペイロード核酸の送達のためのインビトロ方法であって、
(a)少なくとも1つの哺乳動物細胞を提供する工程と、
(b)請求項9に記載の少なくとも1つのシュードタイピングされたウイルスベクター粒子を提供する工程と、
(c)(a)の少なくとも1つの哺乳動物細胞を、インビトロで(b)の少なくとも1つのシュードタイピングされたウイルスベクター粒子と接触させる工程と、を含み、
それによって、前記少なくとも1つのペイロード核酸を含む少なくとも1つの形質導入された哺乳動物細胞を得る、インビトロ方法。
【請求項13】
(i)前記少なくとも1つの哺乳動物細胞が、ヒト細胞であり、および/または
(ii)前記少なくとも1つの哺乳動物細胞が、造血幹細胞、iPS細胞、幹細胞、または免疫細胞から選択され、任意選択的に、前記免疫細胞が、T細胞、NK細胞、B細胞、樹状細胞、単球、マクロファージ、もしくはそれらの混合物から選択され、および/または
(iii)前記少なくとも1つのペイロード核酸が、目的の1つ以上のタンパク質および/もしくはRNAをコードし、および/または
(iv)前記少なくとも1つの哺乳動物細胞が、工程(c)の前に活性化されるか、もしくは工程(c)の前に活性化されず、および/または
(v)前記少なくとも1つのペイロード核酸が、哺乳動物細胞ゲノムに組み込まれ、
任意選択的に、
(a)前記少なくとも1つの哺乳動物細胞が、T細胞、NK細胞、B細胞、樹状細胞、単球、マクロファージ、もしくはそれらの混合物から選択され、
任意選択的に、
(i)前記T細胞、NK細胞、B細胞、樹状細胞、単球、マクロファージ、もしくはそれらの混合物が、工程(c)の前に活性化されず、および/または
(ii)前記少なくとも1つのペイロード核酸によってコードされる前記目的の1つ以上のタンパク質が、キメラ抗原受容体(CAR)、T細胞受容体(TCR)、ケモカイン受容体、NK細胞受容体、免疫調節タンパク質、サイトカイン、抗体、標的化エンドヌクレアーゼから選択され、および/または前記目的の少なくとも1つのペイロード核酸によってコードされる前記1つ以上のRNAが、リボザイム、gRNA、アンチセンスRNA、siRNA miRNAもしくはそれらの組み合わせから選択され、および/または
(iii)前記少なくとも1つのKoRV Envが、KoRVAであり、および/または
(b)前記少なくとも1つのウイルスベクター粒子が、レンチウイルスベクター粒子である、請求項12に記載のインビトロ方法。
【請求項14】
請求項12または13に記載の方法によって得ることができる、形質導入された哺乳動物細胞であって、任意選択的に、前記形質導入された哺乳動物細胞が、養子細胞療法または移植に使用するためのものである、形質導入された哺乳動物細胞。
【請求項15】
(i)哺乳動物細胞への目的の1つ以上のタンパク質および/もしくはRNAをコードする少なくとも1つのペイロード核酸の送達、
(ii)哺乳動物細胞を安定して形質導入する、ならびに/または
(iii)免疫細胞の事前活性化を行わずに哺乳動物免疫細胞を形質導入するための、
少なくとも1つのKoRV Env糖タンパク質、KoRV Env糖タンパク質をコードする少なくとも1つの核酸、または請求項10または11に記載の哺乳動物パッケージング細胞株、または請求項1、2、4~6のいずれか一項に記載の発現ベクターもしくは発現カセット、または請求項1、2、または4~9のいずれか一項に記載のシュードタイピングされたウイルスベクター粒子、または請求項3~6のいずれか一項に記載の核酸のインビトロでの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つのコアラレトロウイルス(Koala Retrovirus:KoRV)エンベロープ糖タンパク質(Envelope glycoprotein:Env)をコードする少なくとも1つの核酸を含む、発現ベクター、発現カセットまたはシュードタイピングされたウイルスベクター粒子、関連する核酸、シュードタイピングされたウイルスベクター粒子、哺乳動物パッケージング細胞株、形質導入された哺乳動物細胞、ならびに関連する方法および使用に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子療法は、疾患の治療などの治療目的で、対象の標的細胞に核酸を導入することであると定義される。一過性のトランスフェクションには様々な方法が知られており、細胞を遺伝子操作するために使用され得る。
【0003】
しかし、様々な程度の効率、毒性、およびオフターゲット効果など、多くの障害が存在する。使用可能な方法の1つに、エレクトロポレーションがある。更に、永続的で安定した遺伝子導入のためには、ウイルスベクターなどの非細胞粒子が使用可能である。ウイルスベクターおよび関連する非細胞粒子は、一般に、インビトロ、エクスビボ、またはインビボで細胞を安定的に遺伝子操作することができる。例えば、遺伝子療法は、インビボ、またはエクスビボ、またはインビトロで実施され得る。インビトロ(またはエクスビボ)の遺伝子療法は、対象からの標的細胞の単離を含み、その後、培養され、ウイルスベクターによって保有される所望の核酸により形質導入され、対象(同一または異なる対象であってもよい)に再導入される。このことは、養子細胞導入とも呼ばれる。インビボでの遺伝子療法の間、所望の核酸を含むウイルスベクターを、治療される対象に直接注射してもよく、対象の体内で形質導入を行う。更に、哺乳動物細胞への安定した遺伝子導入は、研究、診断、モニタリング目的などの多くのインビトロ目的にとっても望ましい。
【0004】
しかし、ウイルスベクターもまた、ガンマレトロウイルスベクターによって引き起こされる挿入変異誘発など、ウイルスベクターに基づく遺伝子導入の最適化中に起こり得るいくつかの課題を依然として抱えている。したがって、例えば、レンチウイルスベクターは、細胞を遺伝的に改変するために一般的に使われるツールである。これらは通常、標的細胞の表面と相互作用し得るエンベロープ糖タンパク質によって覆われたレンチウイルスカプセルを含む。内部には、目的の核酸を含むウイルスベクターを保有する。
【0005】
シュードタイピングは、哺乳動物細胞、例えば造血標的細胞の形質導入レベルの改善に大きな役割を果たしている。シュードタイピングとは、ウイルスまたはウイルス粒子が、そのエンベロープタンパク質(例えば、その糖タンパク質)のうちの1つ以上に改変を有することを意味する。例えば、糖タンパク質は、他のエンベロープ化されたウイルスの糖タンパク質によって置き換えられる。これにより、通常はそれぞれのウイルスの糖タンパク質の目的地である細胞以外の標的細胞を標的とすることが可能になる。レンチウイルスベクターのシュードタイピングに一般的に広く使用されているウイルスエンベロープ糖タンパク質(Env)は、例えば、水疱性口内炎ウイルス(vesicular stomatitis virus:VSV)、ネコ白血病ウイルス(feline leukemia virus:FeLV、RD114としても知られる)、麻疹ウイルス、ニパウイルス、コーカルウイルスまたはヒヒ内在性レトロウイルス(Baboon endogenous retrovirus:BaEV)に由来するか、またはそれらに基づくEnvである。
【0006】
BaEV Envによりシュードタイピングされたレンチウイルスベクターは、非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3、特許文献1および特許文献2に以前に記載されている。
【0007】
しかし、BaEV Envによりシュードタイピングされた上述のレンチウイルスベクターなどのウイルスベクターを用いる場合であっても、改変することが困難な特定の細胞型が依然として存在する。このことが、このような細胞を標的とする遺伝子療法の開発を非常に困難なものにしている。そのような細胞の例は、哺乳動物細胞、例えば、造血細胞、iPS(induced pluripotent stem:人工多能性幹)細胞、幹細胞、例えば、造血細胞、または免疫細胞(例えば、T細胞、NK細胞、B細胞、樹状細胞、単球またはマクロファージ)である。
【0008】
しかし、上述の細胞型の改変は、多く利点をもたらすだろう。例えば、造血幹細胞は、その遺伝子改変が、造血幹細胞に由来するあらゆる系統に導入され得るため、遺伝子療法において望ましい標的細胞である。T細胞またはNK細胞を標的とすることで、例えば、がん細胞上の特定のタンパク質を標的とする能力を有するキメラ抗原受容体T細胞(Chimeric antigen receptor T cell:CAR-T細胞)およびキメラ抗原受容体ナチュラルキラー細胞(Chimeric antigen receptor natural killer cell:CAR-NK細胞)の開発が可能になる。ナチュラルキラー(NK)細胞は、自然免疫系の一部であり、刺激を必要とすることなく、ウイルス感染細胞および腫瘍細胞を死滅させ得る。
【0009】
例えば、BaEVによりシュードタイピングされたレンチウイルスベクターの場合であっても、形質導入の前に、NK細胞の活性化が必要である。
【0010】
細胞療法および遺伝子療法などの革新的な免疫療法の開発のために、免疫細胞の遺伝子操作のための効率的なツールが必要である。したがって、遺伝子改変された細胞の割合を増加させ、したがって、遺伝子療法の有効性を増加させるために、形質導入プロセス自体を改善する必要がある。適切な形質導入ツールは、効率的であり、迅速かつ正確にそのカーゴを送達することができるものでなければならず、細胞に対して非毒性でなければならず、細胞に対する最小限の操作を必要とするものでなければならない。可能であれば、形質導入前の過度なインビトロでの培養および事前活性化は、回避されるべきである。
【0011】
少なくとも1つのコアラレトロウイルス(KoRV)エンベロープ糖タンパク質(Env)をコードする少なくとも1つの核酸を含む本発明の発現ベクター、発現カセットまたはシュードタイピングされたウイルスベクター粒子は、上述の全ての問題を解決し、驚くべきことに、目的の哺乳動物細胞の遺伝的操作に有利である。
【発明の概要】
【0012】
上述の目的は、以下に指定される本発明の態様によって解決された。
【0013】
詳細には、コアラレトロウイルス(KoRV)エンベロープ糖タンパク質(Env)であるKoRVAおよびKoRVB、ならびにそれらの組み合わせであるKoRVABが、目的の導入遺伝子を含有するウイルスベクター粒子の生成を可能にすることが見出されている。更に、KoRVAまたはKoRVBタンパク質およびそれらの組み合わせ(本明細書ではKoRVABと称される)でエンベロープ化されたレンチウイルスベクター粒子が、形質導入に適していることが見出されている。特に、また、非常に驚くべきことに、NK細胞のための遺伝子導入は、KoRVA、KoRVBまたはKoRVABによりシュードタイピングされたレンチウイルスベクター粒子を用いると極めて効率的であり、特にサイトカインによるNK細胞の事前活性化を必要としないため、BaEVを含む以前に記載されたウイルスエンベロープよりも更に優れていることが見出された(
図3および4を参照されたい)。
【0014】
少なくとも1つのコアラレトロウイルス(KoRV)エンベロープ糖タンパク質(Env)をコードする少なくとも1つの核酸を含む、発現ベクター、発現カセットまたはシュードタイピングされたウイルスベクター粒子が提供される。
【0015】
更に、融合阻害性Rペプチド(Rペプチド)を欠くか、またはRペプチドの一部を欠く少なくとも1つのKoRV Envをコードする、核酸が提供される。
【0016】
また、少なくとも1つのKoRV Envでシュードタイピングされている、シュードタイピングされたウイルスベクター粒子が提供され、シュードタイピングされたウイルスベクター粒子を生成する、哺乳動物パッケージング細胞株が提供される。
【0017】
更に、少なくとも1つの哺乳動物細胞への少なくとも1つのペイロード核酸の送達のためのインビトロ方法、およびそのような方法によって得ることができる、形質導入された哺乳動物細胞が提供される。
【0018】
最後に、少なくとも1つのKoRV Env糖タンパク質、またはKoRV Env糖タンパク質をコードする少なくとも1つの核酸、または哺乳動物パッケージング細胞株、発現ベクターもしくは発現カセット、シュードタイピングされたウイルスベクター粒子、または核酸のインビトロでの使用が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】全長エンベロープ糖タンパク質KoRVA Env(上)および改変されたエンベロープ糖タンパク質KORVA Env(下)のタンパク質ドメインの概略図。詳細には、両方の形態が、アミノ酸位置1~35にN末端シグナルペプチド、アミノ酸位置36~606に細胞外ドメイン、アミノ酸位置607~627に膜貫通ドメイン、それらのC末端に細胞質ドメインを含む。全長エンベロープ糖タンパク質KoRVA Env(上)は、アミノ酸位置628~659に完全な細胞質ドメインを含み、アミノ酸位置645~659にC末端Rペプチドを含むが、改変されたエンベロープ糖タンパク質KoRVA env(下)は、そのようなC末端Rペプチドを欠き、したがって、細胞質ドメインのアミノ酸位置628~644のみを含む。そこから生成されたシュードタイピングされたウイルスベクター粒子では、シグナルペプチドが除去されている。シュードタイピングされたウイルスベクター粒子は、成熟KoRVA Envを含む。
【
図2】HEK293T細胞におけるシュードウイルス産生、ならびにその後のNK細胞形質導入およびNK細胞における導入遺伝子発現の概略図。詳細には、シュードウイルスは、適切なウイルスヘルパープラスミド(gagおよびpolなどの遺伝子をコードする)、特定のペイロード核酸(ここでは導入遺伝子と称され、例えば、CAR、緑色蛍光タンパク質(green fluorescent protein:GFP)など)を保有するウイルスベクター、ならびにKoRVエンベロープタンパク質を含む少なくとも1つのベクターによるトランスフェクションによって生成されてもよい。このような特徴を保有するウイルスベクターを使用して、HEK293T細胞をトランスフェクトし、その後、KoRVエンベロープタンパク質および導入ベクターを含むウイルスゲノムを含むシュードウイルス(すなわち、本発明のシュードタイピングされたウイルスベクター粒子)を生成する。このようにして生成されたシュードタイピングされたウイルスベクター粒子を、目的の哺乳動物細胞(例えば、精製されたNK細胞)に添加する。このことは、市販の形質導入エンハンサー(例えば、Vectofusin、Miltenyi Biotec GmbH、Bergisch Gladbach)を用いて行われ、これらの哺乳動物細胞(例えば、免疫細胞)に導入遺伝子を導入することができる。
【
図3】3名の異なるドナーの末梢血NK細胞における形質導入効率。単離されたNK細胞を、単離当日に、あるいは500U/mLのIL-2および140U/mLのIL-15(Peprotech)を含有するNK MACS培地(Miltenyi)中で活性化してから3日後、7日後および21日後に、KoRVまたはBaEVでシュードタイピングされたレンチウイルスベクター粒子により形質導入した。形質導入の72時間後に、蛍光性タンパク質mVenusのフローサイトメトリー分析によって、形質導入効率を決定した。
【
図4】新鮮な初代NK細胞における形質導入効率。末梢血から単離されたNK細胞を、単離当日に、KoRVまたはBaEVでシュードタイピングされたレンチウイルスベクター粒子により形質導入した。形質導入の72時間後に、蛍光性タンパク質mVenusのフローサイトメトリー分析によって、形質導入効率を決定した。3名のドナーにわたって平均された導入効率および標準偏差がプロットされている。統計分析は、一元配置分散分析(ANOVA)を用いて行った。*=p<0.05。
【
図5】KoRV-AまたはKoRV-Bによりエンベロープ化されたレンチウイルスによる末梢血単核細胞(peripheral blood mononuclear cell:PBMC)の形質導入。6名の健康なドナーの末梢血からPBMCを単離し、直ちに形質導入した(免疫細胞の集団を分離することなく)。蛍光性レポーター遺伝子mVenusを使用して、形質導入から3日後に、CD19+B細胞、CD14+単球、CD56+/CD3- NK細胞およびCD3+ T細胞において形質導入効率を決定した。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、少なくとも1つのコアラレトロウイルス(KoRV)エンベロープ糖タンパク質(Env)をコードする少なくとも1つの核酸を含む、発現ベクター、発現カセットまたはシュードタイピングされたウイルスベクター粒子を提供する。
【0021】
コアラレトロウイルス(KoRV)は、ガンマレトロウイルス属に属するエンベロープ型レトロウイルスである。今のところ、KoRVの標的生物として知られているのは、コアラだけであり、免疫不全症であるコアラ免疫不全症候群(koala immune deficiency syndrome:KIDS)を引き起こす可能性がある。他のレトロウイルスと同様に、KoRVは、ウイルスエンベロープを備えており、ウイルスエンベロープは、このウイルスの核酸材料を包み込むウイルスの外層を構成する。構成要素の中でも特に、KoRVのウイルスエンベロープは、エンベロープ糖タンパク質(Env)を含み、今までにKoRVAおよびKoRVBなどのいくつかのバリアントが知られている。例えば、当該技術分野で記載されているか、または想定されているKoRV Env配列としては、KoRVA Env、KoRVB Env、KoRVC Env、KoRVD Env、KoRVE Env、KoRVF Env、およびKoRVJ Envが挙げられる。このようなバリアントは、例えば異なる宿主細胞タンパク質を標的とし得る。例えば、KoRVAは、細胞接着および侵入のためにリン酸トランスポーター(PiT1)を使用することが示されているが、一方で、KoRVBは、SLC19A2を介して感染する。
【0022】
「KoRV Env」という用語は、そのような天然に存在するバリアントのキメラ、例えば、KoRVA EnvおよびKoRVB Envのキメラを更に含む。例えば、KoRV Envキメラは、独立して、少なくとも2つの天然に存在するバリアント由来のドメインから組み立てられ得る。Envのドメインとしては、シグナルペプチド、細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、および細胞質ドメインが挙げられる。
【0023】
細胞質ドメインは、好ましくは、融合阻害性Rペプチド(Rペプチド)を欠くか、またはRペプチドの一部を欠く。
【0024】
図3および4に示されるように、シュードタイピングされたウイルスベクター粒子を調製するためのRペプチドを欠くKoRVA、ペプチドを欠くKoRVB、またはRペプチドを欠くKoRVAおよびペプチドを欠くKoRVBの混合物のいずれかを使用して、形質導入することが困難であることが知られているNK細胞の効率的な形質導入を達成することができる。
【0025】
本発明の文脈で、「融合阻害性Rペプチド」、「C末端融合阻害性Rペプチド」、「Rペプチド」および「C末端Rペプチド」という表現は、同義語として使用され、ビリオン成熟中にウイルスプロテアーゼによって切断され、したがってエンベロープ糖タンパク質の膜融合を増強する、エンベロープ糖タンパク質の細胞質テールドメインのC末端部分を指す。
【0026】
KoRVA Envタンパク質の融合阻害性Rペプチドは、
図1に示されるように、全長野生型KoRVA Env配列のアミノ酸645~659に対応する。全長野生型KoRVA Env配列は、配列番号6に示される。
【0027】
KoRVB Envタンパク質の融合阻害性Rペプチドは、全長野生型KoRVB Env配列のアミノ酸652~666に対応する。全長野生型KoRVB Env配列は、配列番号8に示される。
【0028】
発現ベクター、発現カセットまたはシュードタイピングされたウイルスベクター粒子は、少なくとも1つのそのようなKoRV Envをコードする少なくとも1つの核酸を含む。
【0029】
「核酸」という用語は、本明細書で使用される場合、一般に、デオキシリボ核酸(deoxyribonucleic acid:DNA)、リボ核酸(ribonucleic acid:RNA)、または例えばペプチド核酸(peptide nucleic acid:PNA)のような当業者に公知の人工核酸の任意の形態を記述する。
【0030】
一実施形態では、核酸は、DNAである。一実施形態では、核酸は、RNAである。
【0031】
本明細書に記載のコアラレトロウイルス(KoRV)エンベロープ糖タンパク質(Env)をコードする核酸配列、およびこれらのタンパク質の改変された態様を、当該技術分野で周知の方法を用いて決定することができる。すなわち、特定のアミノ酸をコードすることが知られているヌクレオチドコドンを、Envタンパク質をコードする核酸を生成するような様式で組み立てる。そのようなEnvタンパク質をコードする核酸(またはポリヌクレオチド)を、化学合成されたオリゴヌクレオチドから組み立てることができ、簡単に言うと、Envタンパク質をコードする配列の一部を含有する重複するオリゴヌクレオチドの合成を伴い、これらのオリゴヌクレオチドをアニーリングし、ライゲーションして、次いで、PCRによって、ライゲーションされたオリゴヌクレオチドを増幅させる。あるいは、所望の核酸配列の生成および/または増幅は、PCR法などの増幅技術を用いて達成することができる。
【0032】
KoRV Envをコードする核酸が入手可能ではないが、タンパク質分子のアミノ酸配列が既知である場合、KoRV Envをコードする核酸を化学合成するか、または適切な供給源(例えば、核酸)から得て、配列の3’および5’末端にハイブリダイゼーション可能な合成プライマーを使用したPCR増幅によって、または例えば、Envタンパク質をコードするDNAクローンを特定するための特定の遺伝子配列に特異的なオリゴヌクレオチドプローブを使用したクローニングによって、タンパク質を発現する任意の組織または細胞から単離することができる。次いで、PCRによって生成された増幅された核酸は、当該技術分野でよく知られている任意の方法を用いて複製可能なクローニングベクターにクローニングすることができる。
【0033】
発現ベクター、発現カセットまたはシュードタイピングされたウイルスベクター粒子中に含まれる核酸は、少なくとも1つのそのようなKoRV Envをコードする少なくとも1つの核酸を含む。
【0034】
好ましくは、発現ベクター、発現カセットまたはシュードタイピングされたウイルスベクター粒子は、少なくとも1つのそのようなKoRV Envをコードする1つの核酸を含む。好ましくは、発現ベクター、発現カセットまたはシュードタイピングされたウイルスベクター粒子は、1つのそのようなKoRV Envをコードする1つの核酸を含む。好ましくは、KoRVは、KoRVAおよびKoRVBから選択される。別の好ましい実施形態では、発現ベクター、発現カセットまたはシュードタイピングされたウイルスベクター粒子は、2つ以上のKoRV Env、例えば、2、3、4、5、6、7、またはそれより多くのKoRV Envをコードする1つの核酸を含む。好ましくは、2つ以上のKoRV Envは、KoRVAおよびKoRVB Envを含むか、またはそれらからなる。
【0035】
好ましくは、発現ベクター、発現カセットまたはシュードタイピングされたウイルスベクター粒子中に含まれる核酸は、少なくとも2つのそのようなKoRV Env、少なくとも3つのそのようなKoRV Envまたは少なくとも4つのそのようなKoRV Envを含む。
【0036】
これらのKoRV Envは、例えば、KoRVAおよびKoRVBなどの異なるエンベロープ糖タンパク質バリアントに由来するという点で異なっていてもよく、そのようなバリアントのキメラであってもよく、または同じエンベロープ糖タンパク質バリアントの変異バリアントであるという点で異なっていてもよい。
【0037】
したがって、本発明のKoRV Envタンパク質は、全長または成熟野生型KoRVタンパク質と比較して1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20個の変異を含有し、任意選択的にC末端RペプチドまたはC末端Rペプチドの一部を欠くKoRV Envタンパク質も包含する。したがって、本発明のKoRV Envタンパク質は、配列番号2、4、6および8のうちのいずれかに示されるKoRVタンパク質、またはそれらの成熟形態と比較して1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20個の変異を含有するKoRV Envタンパク質を包含する。
【0038】
したがって、本発明の核酸はまた、全長または成熟野生型KoRVタンパク質と比較して1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20個の変異を含有し、任意選択的にC末端RペプチドまたはC末端Rペプチドの一部を欠く少なくとも1つのKoRV Envタンパク質をコードする核酸も包含する。したがって、本発明の核酸は、配列番号2、4、6および8のうちのいずれかに示されるKoRVタンパク質、またはそれらの成熟形態と比較して1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20個の変異を含有する少なくとも1つのKoRV Envタンパク質をコードする核酸を包含する。
【0039】
また、例えば、全長KoRVA Envをコードする核酸およびRペプチドもしくはその一部を欠くKoRVA Envをコードする核酸、または例えば、全長KoRVB Envをコードする核酸およびRペプチドもしくはその一部を欠くKoRVB Envをコードする核酸などの同じバリアントの切断されたKoRV Envタンパク質および全長KoRV Envタンパク質を使用することも可能である。
【0040】
本発明のシュードタイピングされたウイルスベクター粒子では、シグナルペプチドは、KoRV Envタンパク質から除去される。本発明のシュードタイピングされたウイルスベクター粒子は、成熟KoRV Envタンパク質を含む。好ましくは、成熟KoRV Envタンパク質は、Rペプチドを欠くか、またはRペプチドの一部を欠く。あるいは、成熟KoRV Envタンパク質は、完全な細胞質ドメインを含む。
【0041】
本発明のKoRVタンパク質または本発明の核酸によってコードされるKoRVタンパク質は、好ましくは、少なくとも1つの哺乳動物細胞膜に結合し、これと融合することができ、それによって、生体材料を上述の活性化されたNK細胞に導入する。少なくとも1つの哺乳動物細胞膜への結合およびそれとの融合を決定するための方法は、当該技術分野でよく知られている。例えば、ヒトNK細胞などのペイロード核酸で哺乳動物細胞を形質導入する能力は、実施例に示すように決定することができる。
【0042】
本発明の第1の態様では、少なくとも1つのKoRV Envをコードするそのような核酸は、発現ベクター、発現カセットまたはシュードタイピングされたウイルスベクター粒子の一部である。
【0043】
一般に、そのような発現ベクター、発現カセットまたはシュードタイピングされたウイルスベクター粒子は、少なくとも1つのKoRV Envをコードする少なくとも1つの核酸を含む。更に、発現ベクター、発現カセットまたはシュードタイピングされたウイルスベクター粒子はまた、少なくとも1つのKoRV Envをコードする少なくとも2つの核酸、少なくとも1つのKoRV Envをコードする少なくとも3つの核酸または少なくとも1つのKoRV Envをコードする少なくとも4つの核酸を含んでいてもよい。例えば、発現ベクター、発現カセットまたはシュードタイピングされたウイルスベクター粒子はまた、KoRVA Envをコードする少なくとも2つの核酸を含んでいてもよい。例えば、KoRVA Envをコードする少なくとも2つの核酸は、例えば、全長KoRVA Envをコードする核酸、およびRペプチドまたはその一部を欠くKoRVA Envをコードする核酸を含んでいてもよい。例えば、発現ベクター、発現カセットまたはシュードタイピングされたウイルスベクター粒子はまた、KoRVB Envをコードする少なくとも2つの核酸を含んでいてもよい。例えば、KoRVB Envをコードする少なくとも2つの核酸は、例えば、全長KoRVB Envをコードする核酸、およびRペプチドまたはその一部を欠くKoRVB Envをコードする核酸を含んでいてもよい。
【0044】
好ましくは、発現ベクター、発現カセットまたはシュードタイピングされたウイルスベクター粒子はまた、KoRVA Envをコードする少なくとも2つの核酸を含んでいてもよく、少なくとも1つのKoRV Envは、KoRVA Envをコードし、少なくとも1つのKoRV Envは、KoRVB Envをコードする。好ましくは、両方のKoRV Envは、Rペプチドを欠くか、またはRペプチドの一部を欠く。
【0045】
「発現ベクター」という用語は、本明細書で使用される場合、遺伝子などの所望の核酸配列を標的細胞に導入するために使用され、核酸配列によってコードされるタンパク質(例えば、KoRVA Env)の転写および翻訳が起こる、プラスミドを意味する。したがって、発現ベクターは、一般的に、発現ベクター上の核酸配列の効率的な転写を指示するために、プロモーターおよびエンハンサー領域などの調節配列、ならびに任意選択的にポリアデニル化部位を含む。発現ベクターは、追加の必要な領域または有用な領域、例えば、真核細胞または原核細胞における選択のための選択可能なマーカー、得られたタンパク質の精製のための精製タグ、複数のクローニング部位、または複製起点を更に含んでいてもよい。
【0046】
通常、発現ベクターは、ウイルスベクターまたは非ウイルスベクターであってもよい。一般に、レトロウイルスベクター、例えばレンチウイルス、ガンマレトロウイルスもしくはアデノウイルスベクターなどの様々な種類のウイルスベクター、またはプラスミドを発現ベクターとして使用してもよい。例えば、細菌中で発現させるためのプラスミドを、本発明のクローニングおよび増幅、または配列および発現カセットに使用してもよい。例えば、ベクターは、哺乳動物細胞における複製および組み込みに適しているだろう。更に、クローニングベクターは、所望の核酸配列の発現に有用な転写および翻訳ターミネーター、開始配列、プロモーターを含有していてもよい。プラスミドの場合、プラスミドは、好ましくは、細胞における発現に適したプロモーターを含む。
【0047】
「発現カセット」という用語は、本明細書で使用される場合、対応するRNAの合成に適した任意のDNAセグメントを意味し、その後に、対応するタンパク質に翻訳されてもよい。したがって、通常、タンパク質コード配列(本発明の場合には、通常は、KoRV Envタンパク質をコードする核酸配列である)、および転写の調節を可能にする調節配列を含む。詳細には、このような調節配列は、例えば、転写の開始点をコードするプロモーター領域、オープンリーディングフレーム(タンパク質コード配列、もしくは目的のRNAを含む)、リボソームのための結合部位、転写の終点をコードするターミネーター領域、または3’非翻訳領域(ポリアデニル化部位など)を含んでいてもよい。
【0048】
本発明のKoRV Envの発現のために、各プロモーター中の少なくとも1つのモジュールは、RNA合成のための開始部位を位置決めするように機能する。この最もよく知られた例は、TATAボックスであるが、TATAボックスを欠くいくつかのプロモーター(例えば、哺乳動物の末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ遺伝子のためのプロモーター、およびSV40遺伝子のためのプロモーター)では、開始点自体に重なる個別のエレメントが、開始点の固定に役立っている。
【0049】
核酸の発現は、典型的には、目的の遺伝子をコードする核酸をプロモーターに作動可能に連結し、その構築物を発現ベクターに組み込むことによって達成される。
【0050】
一般に、本発明の第1の態様による発現カセットは、少なくともタンパク質コード配列(本発明の場合には、KoRV Envタンパク質をコードする核酸配列である)、およびプロモーター領域を含む。任意選択的に、本発明の第1の態様による発現カセットは、オープンリーディングフレーム、リボソームのための結合部位、ターミネーター領域および/または3’非翻訳領域(ポリアデニル化部位など)を更に含んでいてもよい。
【0051】
本発明の第1の態様による発現カセットに使用され得る適切な調節エレメントは、当業者に周知であり、例えば、発現カセットがトランスフェクトされることを意図される宿主細胞の生物の種類に基づいて選択されてもよい。例えば、このような調節エレメントは、哺乳動物細胞(例えば、哺乳動物パッケージング細胞株から)、細菌、酵母、植物および/または昆虫に由来してもよい。好ましくは、本発明の第1の態様による発現カセットに使用され得る適切な調節エレメントは、哺乳動物細胞に由来する。
【0052】
「ウイルスベクター粒子」という用語は、本明細書で使用される場合、任意のウイルス粒子またはウイルス様粒子を意味する。「ウイルスベクター粒子」は、その表面上にKoRV Envタンパク質を含む。したがって、「ウイルス粒子」とは、本明細書で使用される場合、少なくとも1つの生細胞、好ましくは少なくとも1つの哺乳動物細胞に感染することができる任意の感染性薬剤を意味する。
【0053】
「ウイルス様粒子」という用語は、本明細書で使用される場合、感染を可能にするウイルス遺伝材料を欠くことに起因して非感染性であるという点で「ウイルス粒子」とは異なる。適切なウイルス粒子またはウイルス様粒子の例は、当業者に周知である。
【0054】
例えば、ウイルスベクター粒子またはウイルス様粒子は、レトロウイルスベクター粒子またはレトロウイルス様粒子(例えば、レンチウイルスベクター粒子またはレンチウイルス様粒子、またはガンマレトロウイルスベクター粒子またはガンマレトロウイルス様粒子)であってもよい。
【0055】
ウイルス様粒子(Virus-like particle:VLP)は、ウイルス粒子に似ているが、ウイルス様粒子のタンパク質をコードするウイルス遺伝材料を含まないため、感染または形質導入はしない。特に、レトロウイルスベクターの文脈でのVLPは、psiポジティブ核酸分子を含まない。Envなどのウイルス構造タンパク質が発現すると、ウイルス様粒子(VLP)の組立が生じ得る。ウイルスベクター粒子と同様に、VLPも本発明のKoRV Envを用いてシュードタイピングされ得る。VLPを使用して、標的細胞の細胞質に標的核酸を送達してもよい。特に、VLPは、ワクチンとして有用である。
【0056】
例えば、発現ベクターは、ウイルスベクターであってもよく、好ましくは、レンチウイルスベクター(例えば、レンチウイルス発現ベクター)またはガンマレトロウイルスベクター(例えば、ガンマレトロウイルス発現ベクター)であってもよい。ウイルスベクターは、レンチウイルス導入プラスミド(例えば、裸のDNAとして)を含んでいてもよく、レンチウイルスウイルス粒子またはガンマレトロウイルスウイルス粒子などの感染性ウイルス粒子に含まれていてもよい。
【0057】
クローニング部位、プロモーター、調節エレメント、異種核酸などのエレメントに関して、これらのエレメントの配列は、レンチウイルスまたはガンマレトロウイルスベクター粒子中のRNA形態で存在していてもよく、DNAプラスミド中にDNA形態で存在していてもよいことを理解されたい。
【0058】
「シュードタイピングされたウイルスベクター粒子」という用語は、本明細書で使用される場合、任意のシュードタイピングされたウイルスベクター粒子を意味する。「シュードタイピングされた」という用語は、本明細書で使用される場合、ウイルスベクター粒子またはウイルス様粒子が、そのエンベロープタンパク質の1つ以上に改変を有する(例えば、エンベロープタンパク質が、別のウイルス由来のエンベロープタンパク質で置換されている)ことを意味する。例えば、本発明の場合には、このことは、コアラレトロウイルスに由来しないウイルスベクター粒子またはウイルス様粒子が、KoRVAまたはKoRVBなどのKoRV Envタンパク質、またはそれらの混合物を含むことを意味する。このことは、例えば、
図2に示すように達成されてもよい。詳細には、そのウイルスの天然に存在するエンベロープタンパク質をコードする核酸は、KoRV Envタンパク質をコードする核酸に置き換えられてもよい。あるいは、KoRV Envタンパク質をコードする核酸もまた、そのウイルスの天然エンベロープタンパク質をコードする核酸配列を欠失させることなく、そのような天然ウイルス発現ベクターに導入されてもよい。得られたウイルス発現ベクターは、次いで、細胞にトランスフェクトされ、その後、KoRVエンベロープタンパク質および導入ベクターを含むウイルスゲノムを含むシュードタイピングされたウイルスベクター粒子が生成されてもよい。
【0059】
第2世代および第3世代のウイルス発現系、特に、レトロウイルス、より好ましくは、レンチウイルスおよびガンマレトロウイルスベクター系では、ウイルスゲノムの一部が欠失していてもよく、および/または異なる発現ベクター上に存在していることが理解される。例えば、少なくとも1つのKoRV核酸は、1つの発現プラスミド上に存在してもよい。例えば、更なるウイルスベクターは、gag、pol、および/またはRRE、ならびに任意選択的にRevを含んでいてもよい。代替的な実施形態では、Revは、別個のウイルスベクター上に存在していてもよい。更に、導入ベクターと呼ばれる更なる発現ベクターは、ペイロード核酸を含んでいてもよい。
【0060】
例えば、第3世代のレンチウイルスまたはガンマレトロウイルスパッケージングプラスミドは、(i)gagおよびpol、(ii)rev、および(iii)少なくとも1つのKoRVタンパク質を発現する発現ベクター、ならびに少なくとも1つのペイロード核酸を含む導入遺伝子導入プラスミドを含んでいてもよい。
【0061】
しかし、発現プラスミド上のエレメントの配置を変えることでも、シュードタイピングされたウイルスベクター粒子を生成することができる。
【0062】
例えば、特許文献3は、4つのプラスミドではなく、2つのプラスミドを利用して、必要なパッケージングエレメントおよび導入ベクターを細胞に提供し、それによって、本発明のパッケージング細胞株を生成する方法を開示している。本技術に適用されるこのような方法では、哺乳動物細胞は、以下を用いてトランスフェクトされる。i.1.第1のプロモーターの制御下でのビリオンタンパク質の発現のレンチウイルス制御因子(REV)遺伝子、2.第2のプロモーターの制御下でのレンチウイルスエンベロープ遺伝子、および3.第3のプロモーターの制御下でのレンチウイルスグループ特異的抗原(GAG)遺伝子およびレンチウイルスポリメラーゼ(POL)遺伝子の両方をコードする発現カセットを含むパッケージングベクター(発現カセットが、5’および3’末端の両方においてトランスポゾン特異的逆位末端反復(inverted terminal repeat:ITR)によって隣接されている)、ならびにii.1.第4のプロモーターの制御下での目的の遺伝子をコードする核酸配列(核酸配列が、5’および3’末端の両方においてトランスポゾン特異的逆位末端反復(ITR)によって隣接されている)を含む導入ベクター。この方法を本発明に適用すると、レンチウイルスエンベロープ遺伝子は、本発明のKoRV Env核酸で置き換えられる。
【0063】
使用可能な発現ベクターとして、更に異なる配置のプラスミドを用いた代替法が特許文献4に記載されている。本方法は、必要なパッケージングエレメントおよび導入ベクターを細胞に提供するために、4つではなく、3つのプラスミドを利用する。本発明に適用されるこのような代替的な方法では、哺乳動物細胞は、以下を用いてトランスフェクトされる。i.第1のプロモーターの制御下でのビリオンタンパク質の発現のレンチウイルス制御因子(REV)遺伝子、および第2のプロモーターの制御下でのエンベロープ糖タンパク質遺伝子をコードする第1の核酸、ii.第3のプロモーターの制御下での目的の遺伝子をコードする第2の核酸、ならびにiii.第4のプロモーターの制御下でのレンチウイルスグループ特異的抗原(GAG)遺伝子およびレンチウイルスポリメラーゼ(POL)遺伝子の両方をコードする第3の核酸。この方法を本発明に適用すると、レンチウイルスエンベロープ遺伝子は、本発明のKoRV Env核酸で置き換えられる。
【0064】
したがって、「シュードタイピングされたウイルスベクター粒子」という用語は、ベクターに対して外来性のウイルスエンベロープ糖タンパク質を含むウイルスベクター粒子を指す。
【0065】
「外来性」とは、タンパク質または薬剤が、レンチウイルスまたはガンマレトロウイルスなど、ウイルスベクター粒子の由来となる対応する野生型ウイルスによって構成されるものでもなく、それによってコードされるものでもないと理解される。
【0066】
本発明によるウイルスベクターは、少なくとも1つのKoRV Envによりシュードタイピングされている。
【0067】
好ましくは、シュードタイピングされたウイルスベクター粒子は、レンチウイルスまたはガンマレトロウイルスベクター粒子、および少なくとも1つのKoRV Envを有するウイルスベクター粒子である。このようなシュードタイピングされたウイルスベクター粒子は、例えば、
図1に示される。
【0068】
ウイルスベクターは、ウイルス由来の核酸エレメントを含む導入プラスミドなどの核酸分子を含み、典型的には、核酸分子の導入、または核酸分子の導入を媒介する細胞のゲノムへの組み込み、またはウイルスベクター粒子への組み込みを容易にする。ウイルスベクター粒子は、典型的には、核酸に加えて様々なウイルス構成要素を含み、時には宿主細胞構成要素も含む。
【0069】
ガンマレトロウイルスベクターは、主にガンマレトロウイルスに由来する構造的および機能的遺伝子エレメント、またはその一部を含むウイルスベクターまたはプラスミドを含んでいてもよい。レンチウイルスベクターは、主にレンチウイルスに由来するLTRを含む構造的および機能的遺伝子エレメント、またはその一部を含むウイルスベクターまたはプラスミドを含んでいてもよい。
【0070】
第1の態様では、本発明は、少なくとも1つのコアラレトロウイルス(KoRV)エンベロープ糖タンパク質(Env)をコードする少なくとも1つの核酸を含む、発現ベクター、発現カセットまたはシュードタイピングされたウイルスベクター粒子に関する。
【0071】
本発明の第1の態様の発現ベクター、発現カセットまたはシュードタイピングされたウイルスベクター粒子に含まれる核酸は、C末端RペプチドまたはRペプチドの一部を欠く少なくとも1つのKoRV Envを更にコードしてもよい。一般に、「C末端Rペプチド」という用語は、本明細書で使用される場合、KoRV Envの最C末端をコードする任意の核酸配列、または膜貫通ドメインをコードする核酸配列のC末端の任意の核酸配列を意味する。例えばKoRVAの場合、C末端Rペプチドは、KoRVAのアミノ酸位置645~659に対応する。全長タンパク質KoRVA配列は、配列番号6に示される。したがって、C末端Rペプチドは、KoRVAのその領域に対応する任意のKoRVタンパク質中の任意のペプチド領域であってもよい。Rペプチドは、配列モチーフの分析によって決定することができる。例えばKoRVBの場合、C末端Rペプチドは、KoRVBのアミノ酸位置652~666に対応する。全長タンパク質KoRVA配列は、配列番号8に示される。
【0072】
配列番号2、4、6および8に示されるKoRV Envタンパク質配列は、N末端シグナルペプチドを含む。
【0073】
本発明のシュードタイピングされたウイルスベクター粒子では、シグナルペプチドは、KoRV Envタンパク質から除去され、それによって、成熟KoRV Envタンパク質を生成する。本発明のシュードタイピングされたウイルスベクター粒子は、成熟KoRVA Envタンパク質を含む。好ましくは、成熟KoRVA Envタンパク質は、Rペプチドを欠くか、またはRペプチドの一部を欠く。あるいは、成熟KoRVA Envタンパク質は、完全な細胞質ドメインを含む。
【0074】
本発明によれば、「成熟KoRV Env」は、N末端シグナルペプチドを欠くKoRV Envタンパク質であると理解される。
【0075】
本発明のシュードタイピングされたウイルスベクター粒子では、シグナルペプチドは、KoRV Envタンパク質から除去される。本発明のシュードタイピングされたウイルスベクター粒子は、成熟KoRV Envタンパク質を含む。好ましくは、成熟KoRV Envタンパク質は、Rペプチドを欠くか、またはRペプチドの一部を欠く。あるいは、成熟KoRV Envタンパク質は、完全な細胞質ドメインを含む。
【0076】
更に、好ましくは、C末端Rペプチドを欠く少なくとも1つのKoRV Envをコードする本発明の発現ベクター、発現カセットまたはシュードタイピングされたウイルスベクター粒子中に含まれる本発明の核酸は、完全なC末端Rペプチドを欠いていてもよく、C末端Rペプチドの一部を欠いていてもよく、したがって、様々な長さのものであってもよい。発現ベクター、発現カセットまたはシュードタイピングされたウイルスベクター粒子中に含まれる核酸が、C末端Rペプチドの一部を欠く場合、その1つ、2つ、3つ、もしくはそれより多くの配列部分を欠いていてもよく、および/またはこれらの配列部分は、連続していてもよく、分離していてもよい。
【0077】
C末端Rペプチドを欠く少なくとも1つのKoRV Envをコードする核酸は、例えば、C末端Rペプチドをコードする核酸配列を既に欠いている核酸を発現ベクターまたは発現カセットに導入することによって調製されてもよい。更に、C末端Rペプチドを欠く少なくとも1つのKoRV Envをコードする核酸は、全長KoRV Envを発現ベクターまたは発現カセットに導入し、C末端Rペプチドをコードする核酸配列を酵素的に切り出すことによって調製されてもよい。
【0078】
好ましい実施形態では、少なくとも1つの核酸は、C末端Rペプチドを欠く少なくとも1つのKoRV Envをコードする。
【0079】
第2の態様では、本発明は、融合阻害性Rペプチド(Rペプチド)を欠くか、またはRペプチドの一部を欠く少なくとも1つのKoRV Envをコードする、核酸に関する。
【0080】
融合阻害性Rペプチド(Rペプチド)を欠くか、またはRペプチドの一部を欠く少なくとも1つのKoRV Envをコードする、そのような核酸は、本来は天然には存在しない。更に、このような核酸は、当該技術分野では開示されていない。
【0081】
本発明の第2の態様による核酸は、一般に、融合阻害性Rペプチド(Rペプチド)を欠くか、またはRペプチドの一部を欠き、様々な長さのものであってもよい、少なくとも1つのKoRV Envをコードする任意の核酸分子に関する。本発明の第2の態様による核酸の例としては、限定されないが、プラスミド、ベクター、または例えばイオン交換クロマトグラフィーを含む標準的な分子生物学的手順によって単離することができるあらゆる種類のDNAおよび/もしくはRNA断片が挙げられる。本発明の第2の態様による核酸は、特定の細胞または生物のトランスフェクションまたは形質導入に使用されてもよい。
【0082】
Rペプチドを欠くKoRVA Envをコードする核酸、Rペプチドを欠くKoRVA Envをコードする核酸、ならびにRペプチドを欠くKoRVA Envをコードする核酸およびRペプチドを欠くKoRVB Envをコードする核酸の組み合わせを、実施例1および2において、シュードタイピングされたウイルスベクター粒子の生成、およびその後のペイロード核酸によるNK細胞の効率的な形質導入のために首尾良く使用した。
【0083】
本発明に従って使用可能なKoRV Env配列、およびKoRV Env配列をコードする核酸配列を以下の表1に示す。
【0084】
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表1-5】
【0085】
本発明の第2の態様による核酸分子は、例えば、クローニングによって得られたか、または化学合成技術によって生成されたか、またはそれらの組み合わせによる、mRNAもしくはcRNAなどのRNAの形態であってもよく、または例えばcDNAおよびゲノムDNAを含むDNAの形態であってもよい。DNAは、三本鎖、二本鎖、または一本鎖であってもよい。一本鎖DNAは、センス鎖としても知られるコード鎖であってもよく、またはアンチセンス鎖とも称される非コード鎖であってもよい。本発明の第2の態様による核酸分子はまた、特に、一本鎖および二本鎖DNA、一本鎖および二本鎖RNAの混合物であるDNA、ならびに一本鎖領域および二本鎖領域の混合物であるRNA、一本鎖もしくは、より典型的には二本鎖、もしくは三本鎖、もしくは一本鎖領域および二本鎖領域の混合物であってもよいDNAおよびRNAを含むハイブリッド分子を指していてもよい。加えて、本明細書で使用される核酸分子は、RNAまたはDNA、またはRNAおよびDNAの両方を含む三本鎖領域を指す。
【0086】
加えて、核酸は、1つ以上の改変された塩基を含んでいてもよい。このような核酸はまた、生理学的環境におけるそのような分子の安定性および半減期を増加させるために、例えばリボース-リン酸骨格に改変を含んでいてもよい。したがって、安定性のため、あるいはその他の理由で骨格が改変されたDNAまたはRNAは、その特徴が本明細書で意図されるため、「核酸分子」である。更に、ほんの2つの例を挙げると、イノシンなどの非通常の塩基、またはトリチル化塩基などの改変塩基を含むDNAまたはRNAは、本発明の文脈内の核酸分子である。DNAおよびRNAには、当業者に知られている多くの有用な目的を果たすために、多種多様な改変が加えられてきたことが理解されるだろう。本明細書で使用される核酸分子という用語は、このような化学的、酵素的または代謝的に改変された形態の核酸分子、ならびに特に単純な細胞および複雑な細胞を含むウイルスおよび細胞に特徴的なDNAおよびRNAの化学形態を包含する。
【0087】
更に、融合阻害性Rペプチド(Rペプチド)を欠くか、またはRペプチドの一部を欠く少なくとも1つのKoRV Envをコードする核酸をコードする本発明の第2の態様による核酸分子は、例えば、融合タンパク質を作製するために、標準的なクローニング技術などの標準的な技術を使用して、調節配列、リーダー配列、異種マーカー配列または異種コード配列などの任意の所望の配列に機能的に連結することができる。
【0088】
本発明の第2の態様の核酸は、元来、一般にエンドヌクレアーゼおよび/もしくはエキソヌクレアーゼおよび/もしくはポリメラーゼおよび/もしくはリガーゼおよび/もしくはリコンビナーゼによる核酸の操作、または核酸を生成するための当業者に公知の他の方法によって、インビトロで、または培養物中の細胞において、形成されてもよい。
【0089】
本発明の第2の態様の核酸は、発現ベクター、発現カセットまたはシュードタイピングされたウイルスベクター粒子中に含まれてもよく、核酸は、宿主細胞において核酸の発現を促進することができるプロモーター配列に作動可能に連結される。
【0090】
融合阻害性Rペプチド(Rペプチド)を欠くか、またはRペプチドの一部を欠く少なくとも1つのKoRV Envをコードする第2の態様による核酸はまた、融合阻害性Rペプチド(Rペプチド)を欠くか、またはRペプチドの一部を欠く少なくとも2つのKoRV Env、融合阻害性Rペプチド(Rペプチド)を欠くか、またはRペプチドの一部を欠く少なくとも3つのKoRV Env、あるいは融合阻害性Rペプチド(Rペプチド)を欠くか、またはRペプチドの一部を欠く少なくとも4つのKoRV Envをコードしてもよい。
【0091】
第1および第2の態様では、少なくとも1つのKoRV Envは、任意のKoRV Env種の任意のKoRV Envから選択されてもよい。例えば、KoRV Envは、KoRVA Env、KoRVB Env、KoRVC Env、KoRVD Env、KoRVE Env、KoRVF Env、KoRVJ Envおよびそれらの任意の組み合わせから選択されてもよい。好ましくは、少なくとも1つのKoRV Envは、KoRVA、KoRVBおよびそれらの組み合わせまたは混合物から選択されてもよい。
【0092】
第1および第2の態様の好ましい実施形態では、少なくとも1つのKoRV Envは、KoRVA、KoRVBおよびそれらの組み合わせから選択される。
【0093】
更に、KoRV Envの配列は、(a)配列番号2、(b)配列番号6(配列番号6は、任意選択的に配列番号6のアミノ酸645~659のうちの1個以上についてC末端切断されている)、および(c)シグナルペプチドを欠く(a)または(b)の配列から選択されてもよい。
【0094】
KoRVの場合、シグナルペプチドは、アミノ酸位置1~35に対応する(
図1を参照されたい)。あるいは、シグナルペプチドの一部のみが欠失したKoRV Envも包含される。例えば、アミノ酸1~33または1~34が欠失していてもよい。
【0095】
更に、KoRV Envの配列が、(b)配列番号6(配列番号6は、配列番号6のアミノ酸645~659のうちの1個以上についてC末端切断されている)から選択される場合、配列番号6のC末端がまた、配列番号6のアミノ酸645~659のうちの2個以上、配列番号6のアミノ酸645~659のうちの3個以上、配列番号6のアミノ酸645~659のうちの5個以上、または配列番号6のアミノ酸645~659のうちの10個以上について末端切断されていてもよい。例えば、配列番号6のC末端は、配列番号6のアミノ酸645~659のうちの1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14または15個について末端切断されていてもよい。
【0096】
更に、KoRVB Envの配列は、(a)配列番号4、(b)配列番号8(配列番号8は、任意選択的に配列番号8のアミノ酸652~666のうちの1個以上についてC末端切断されている)、および(c)シグナルペプチドを欠く(a)または(b)の配列から選択されてもよい。
【0097】
KoRVBの場合、シグナルペプチドは、アミノ酸位置1~35に対応する。あるいは、シグナルペプチドの一部のみが欠失したKoRV Envも包含される。例えば、アミノ酸1~33または1~34が欠失していてもよい。
【0098】
更に、KoRV Envの配列が、(b)配列番号8(配列番号8が、配列番号8のアミノ酸652~666のうちの1個以上についてC末端切断されている)から選択される場合、配列番号8のC末端がまた、配列番号8のアミノ酸652~666のうちの2個以上、配列番号8のアミノ酸652~666のうちの3個以上、配列番号8のアミノ酸652~666のうちの5個以上、または配列番号8のアミノ酸652~666のうちの10個以上について末端切断されていてもよい。例えば、配列番号8のC末端は、配列番号8のアミノ酸652~666のうちの1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14または15個について末端切断されていてもよい。
【0099】
少なくとも1つのKoRV Envをコードする少なくとも1つの核酸の配列は、配列番号1、配列番号3、配列番号5(配列番号5は、任意選択的に48個の3’末端ヌクレオチドのうちの1つ以上について3’末端で切断されている)、配列番号7(配列番号7は、任意選択的に48個の3’末端ヌクレオチドのうちの1つ以上について3’末端で切断されている)、または1つ以上のサイレント変異を含むそれらのバリアントのうちの1つ以上を含んでいてもよく、またはそれらからなってもよい。
【0100】
少なくとも1つのKoRV Envをコードする少なくとも1つの核酸の配列が、配列番号1、配列番号3、配列番号5のうちの1つ以上を含むか、またはそれらからなる場合、これらの配列の任意の組み合わせを含んでいてもよく、またはそれらからなってもよい。すなわち、配列番号1;配列番号3;配列番号5;配列番号1および配列番号3;配列番号1および配列番号5;配列番号3および配列番号5、または配列番号1、配列番号3および配列番号5を含んでいてもよく、またはそれらからなってもよい。更に、任意の順序で、これらの配列を含むか、またはそれらからなることも意味し得る。更に、少なくとも1つのKoRV Envをコードする少なくとも1つの核酸が、配列番号1、配列番号3、配列番号5のうちの2つ以上からなるか、またはそれらからなる場合、これはまた、配列番号1、配列番号3、配列番号5の2倍のうちのいずれか1つからなるか、またはそれらからなることを意味し得る。
【0101】
配列番号5が、48個の3’末端ヌクレオチドのうちの1つ以上について3’末端で切断されている場合、このことは、配列番号5が、48個の3’末端ヌクレオチドの1~48個について、好ましくは、48個の3’末端ヌクレオチドの2~24個について、より好ましくは、48個の3’末端ヌクレオチドの4~12個について、3’末端で切断されてもよいことを意味する。配列番号5が、48個の3’末端ヌクレオチドのうちの2つ以上について3’末端で切断されている場合、切断されたヌクレオチドは、隣接していてもよく、または切断の一部ではないヌクレオチドによって分離していてもよい。配列番号7が、48個の3’末端ヌクレオチドのうちの1つ以上について3’末端で切断されている場合、48個の3’末端ヌクレオチドのうちの1つ以上について3’末端で切断された配列番号5の上述の特徴と同じことが適用される。
【0102】
「サイレント変異」という用語は、本明細書で使用される場合、そのような核酸によってコードされるタンパク質に何ら影響を及ぼさない任意のヌクレオチド変異を記述する。例えば、サイレント変異は、そのような核酸によってコードされるタンパク質の機能または折り畳みに影響を与え得ない。更なる例では、サイレント変異は、そのアミノ酸配列の修正をもたらさないなど、得られるタンパク質の合成に影響を与え得ない。またはアミノ酸配列の修正をもたらす場合、アミノ酸が類似のアミノ酸と交換され、それによって、その交換がタンパク質の機能に影響を与えない。例えば、サイレント変異は、あるヌクレオチドが別のヌクレオチドに置換されることによる点変異であってもよい。
【0103】
第1および第2の態様の更に好ましい実施形態では、
(i)KoRV Envの配列は、(a)配列番号2、(b)配列番号6(配列番号6は、任意選択的に配列番号6のアミノ酸645~659のうちの1個以上についてC末端切断されている)、および(c)シグナルペプチドを欠く(a)または(b)の配列から選択され、
(ii)KoRVB Envの配列は、(a)配列番号4、(b)配列番号8(配列番号8は、任意選択的に配列番号8のアミノ酸652~666のうちの1個以上についてC末端切断されている)、および(c)シグナルペプチドを欠く(a)または(b)の配列から選択され、
(iii)少なくとも1つのKoRV Envをコードする少なくとも1つの核酸の配列は、配列番号1、配列番号3、配列番号5(配列番号5は、任意選択的に48個の3’末端ヌクレオチドのうちの1つ以上について3’末端で切断されている)、配列番号7(配列番号7は、任意選択的に48個の3’末端ヌクレオチドのうちの1つ以上について3’末端で切断されている)、または1つ以上のサイレント変異を含むそれらのバリアントのうちの1つ以上を含むか、またはそれらからなる。
【0104】
少なくとも1つのKoRV Envをコードする核酸は、更に、(i)異種プロモーターおよび/または(ii)構成的プロモーターおよび/または(iii)ポリAテール配列に作動可能に連結されてもよい。
【0105】
「異種プロモーター」という用語は、本明細書で使用される場合、自然環境においてポリヌクレオチド配列と通常関連しない任意のプロモーターを意味する。適切な異種プロモーターは、当業者に周知である。例えば、ウイルスサルウイルス40(simian virus 40:SV40)(例えば、初期もしくは後期)、サイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV)(例えば、最初期)、モロニーマウス白血病ウイルス(Moloney murine leukemia virus:MoMLV)、ラウス肉腫ウイルス(Rous sarcoma virus:RSV)、またはヘルペス単純ウイルス(herpes simplex virus:HSV)(チミジンキナーゼ)プロモーターが使用されてもよい。
【0106】
「構成的プロモーター」という用語は、本明細書で使用される場合、関連する遺伝子の継続的な転写を可能にする、調節されないプロモーターを意味する。適切な構成的プロモーターは、当業者に周知である。例えば、ヒト伸長因子-1アルファ(EF-1アルファ)、サルウイルス40(SV40)初期プロモーター、マウス乳腺腫瘍ウイルス(mouse mammary tumor virus:MMTV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の長い末端反復(LTR)プロモーター、MoMLVプロモーター、トリ白血病ウイルスプロモーター、エプスタイン・バールウイルス最初期プロモーター、ラウス肉腫ウイルスプロモーター、ならびにヒト遺伝子プロモーター、例えば、アクチンプロモーター、ミオシンプロモーター、ヘモグロビンプロモーター、またはクレアチンキナーゼプロモーターを使用してもよい。
【0107】
「ポリAテール配列」という用語は、本明細書で使用される場合、2つ以上のアデノシン一リン酸の付加を意味する。一般に、ポリAテール配列は、核酸の3’末端に位置する。
【0108】
また、第1および第2の態様の好ましい実施形態では、少なくとも1つのKoRV Envをコードする核酸は、(i)異種プロモーターおよび/または(ii)構成的プロモーターおよび/または(iii)ポリAテール配列に作動可能に連結される。
【0109】
第3の態様では、本発明は、少なくとも1つのKoRV Envでシュードタイピングされている、シュードタイピングされたウイルスベクター粒子に関する。
【0110】
本発明の第1の態様の発現ベクター、発現カセットまたはシュードタイピングされたウイルスベクター粒子について上で指定した全ての特徴、および本発明の第2の態様の核酸について上で指定した全ての特徴は、本発明の第3の態様のシュードタイピングされたウイルスベクター粒子にも関連すると考えられる。
【0111】
本発明の第3の態様によるシュードタイピングされたウイルスベクター粒子は、少なくとも1つのKoRV Envでシュードタイピングされている。好ましくは、本発明の第3の態様によるシュードタイピングされたウイルスベクター粒子は、1つのKoRV Envタンパク質、例えば、KoRVA Envタンパク質でシュードタイピングされている。あるいは、本発明の第3の態様によるシュードタイピングされたウイルスベクター粒子は、更に、少なくとも2つ、3つ、4つ、5つ、またはそれより多くのKoRV Envでシュードタイピングされていてもよい。これらのKoRV Envは、例えば、KoRVAおよびKoRVBなどの異なるエンベロープ糖タンパク質バリアントに由来するという点で異なっていてもよく、そのようなバリアントのキメラであってもよく、単に、同じエンベロープ糖タンパク質バリアントの変異バリアントであるという点で異なっていてもよい。
【0112】
第1および第3の態様のシュードタイピングされたウイルスベクター粒子を調製するのに適したウイルスベクター粒子は、当業者に周知である。例えば、第1および第3の態様のシュードタイピングされたウイルスベクター粒子のためのウイルスベクター粒子は、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ラブドウイルス(例えば、水疱性口内炎ウイルス(VSV)またはコーカルウイルス)、パラミクソウイルス(例えば、麻疹ウイルス、ニパウイルス)および植物ウイルスなどの任意のウイルス種から選択されてもよく、また、上に述べられたものなどの任意のウイルス種のハイブリッドであってもよい。
【0113】
好ましくは、第1および第3の態様のシュードタイピングされたウイルスベクター粒子のウイルスベクター粒子は、レトロウイルス粒子から選択されてもよい。好適なレトロウイルスベクター粒子は、マウス白血病ウイルス(MLV)、トリ白血病ウイルス(avian leukosis virus:ALV)、呼吸器多核体ウイルス(respiratory syncytial virus:RSV)またはMason-Pfizerサルウイルス(Mason-Pfizer monkey virus:MPMV)ベクター粒子、レンチウイルス粒子、例えば、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、例えば、HIV-1またはHIV-2、サル免疫不全ウイルス(Simian Immunodeficiency Virus:SIV)、ネコ免疫不全ウイルス(feline immunodeficiency virus:FIV)、ウマ伝染性貧血ウイルス(equine infectious anemia virus:EIAV)およびヤギ関節炎脳脊髄炎ウイルス(caprine arthritis encephalitis virus:CAEV)ベクター粒子、ガンマレトロウイルス粒子およびスプーマウイルスベクター粒子、例えば、ヒトフォーミーウイルス(human foamy virus:HFV)ベクター粒子を含む、腫瘍ウイルスベクター粒子からなる群から選択されてもよい。
【0114】
より好ましくは、ウイルスベクター粒子は、レンチウイルスベクター粒子およびガンマレトロウイルスベクター粒子から選択されてもよい。
【0115】
Retroviridaeは、一本鎖であり、二倍体のポジティブセンスRNAゲノムを有するウイルス科であり、これがDNA中間体に逆転写され、次いで、宿主細胞ゲノムに組み込まれる。Retroviridae由来のウイルスは、直径80~120nmのエンベロープ化された粒子である。以下、Retroviridaeをレトロウイルスとも呼ぶ。
【0116】
レンチウイルスは、Retroviridae属の一種であり、ヒトおよび他の哺乳動物種において、長い潜伏期間を特徴とする慢性かつ致死的な疾患を引き起こす。最もよく知られているレンチウイルスは、ヒト免疫不全ウイルスHIVであり、非分裂細胞に効率的に感染することができるため、レンチウイルス由来のレンチウイルスベクターは、遺伝子送達の最も効率的な方法の1つである。
【0117】
Gammaretroviridaeは、Retroviridae科の属の一種である。代表的な種は、マウス白血病ウイルスおよびネコ白血病ウイルスである。以下、Gammaretroviridaeをガンマレトロウイルスとも呼ぶ。
【0118】
適切なレンチウイルスベクターは、当該技術分野でよく知られている。例えば、ヒト免疫不全ウイルス(HIV-1)、HIV-2サル免疫不全ウイルス、非霊長類レンチウイルス、ネコ免疫不全ウイルス、EIAV、CAEV、およびウシ免疫不全ウイルスなどに由来するレンチウイルスベクターを使用してもよい。
【0119】
更に、ガンマレトロウイルスベクターは、当該技術分野でよく知られている。例えば、MoMLV(モロニーマウス白血病ウイルス)またはMSCV(Murine Stem Cell Virus:マウス幹細胞ウイルス)に由来するガンマレトロウイルスベクターを使用してもよい。
【0120】
第1および第3の態様のシュードタイピングされたウイルスベクター粒子の好ましい実施形態では、ウイルスベクター粒子は、レンチウイルスまたはガンマレトロウイルスベクター粒子から選択される。
【0121】
レトロウイルスベクター粒子、レンチウイルスベクター粒子、およびガンマレトロウイルスベクター粒子は、対応するウイルス科に由来する複製欠損ウイルスベクター粒子である。それらは、一本鎖RNAゲノムであるGagおよびPolタンパク質を含有し、典型的には、他のウイルスに由来する異種エンベロープタンパク質によりシュードタイピングされる。本発明のウイルスベクター粒子は、少なくとも1つのKoRV Envによりシュードタイピングされる。上述のウイルスベクターのRNAゲノムは、ウイルス子孫を生成するためのウイルス遺伝子を何ら含有しないが、好ましくは、DNAにおける効率的なパッキングおよび逆転写に必要なpsiエレメントおよびLTRを含む。DNA中間体は、適切なプロモーター(例えば、CMVプロモーター)の制御下で目的の異種配列をコードするペイロード核酸を含有していてもよく、目的の異種配列は、上述のDNAを宿主細胞のゲノムに組み込んだときに発現される。宿主細胞に侵入し、RNAゲノムを送達し、目的の異種配列を組み込み、発現させるプロセスを、形質導入と呼ぶ。ガンマレトロウイルスまたはレンチウイルスベースのウイルスベクターの最小限の要件は、当該技術分野で十分に説明されている。
【0122】
実施例では、KoRV Envタンパク質によりシュードタイピングされたレンチウイルス粒子が、NK細胞の効率的な形質導入に首尾良く使用された。
【0123】
本発明のシュードタイピングされたウイルスベクター粒子は、核酸を含む内腔を更に含む。核酸は、好ましくは、以下の5’LTR(例えばU5を含み、機能的U3ドメインを欠く)、Psiパッケージングエレメント(Psi)、セントラルポリプリントラクト(cPPT)/セントラル終止配列(CTS)(例えば、DNAフラップ)、ポリAテール配列、転写後調節エレメント(例えばWPRE)、Rev応答エレメント(RRE)、および3’LTR(例えばU5を含み、機能的U3を欠く)の核酸配列のうちの1つ以上、例えば、全てを含むウイルス核酸を含む。
【0124】
シュードタイピングされたウイルスベクター粒子は、好ましくは複製不全である。
【0125】
第1および第3の態様のシュードタイピングされたウイルスベクター粒子は、目的の異種配列をコードする少なくとも1つのペイロード核酸を含む核酸を更に含んでいてもよい。
【0126】
「ペイロード核酸」という用語は、本明細書で使用される場合、目的の異種タンパク質をコードする任意の核酸を意味する。したがって、「異種タンパク質」という用語は、本明細書で使用される場合、第3の態様で使用されるウイルスベクター粒子にその自然環境で通常関連しない任意のタンパク質を意味する。好ましくは、「異種タンパク質」という用語は、本明細書で使用される場合、そのタンパク質が、加えて、形質導入される哺乳動物細胞中には存在しないことを意味する。一般に、適切なペイロード核酸は、当業者に周知である。例えば、ペイロード核酸は、抗原結合ドメインを含むキメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor:CAR)をコードしてもよく、または抗原結合ドメインを含むキメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸を含んでもよく、もしくはそれから構成されてもよい。
【0127】
少なくとも1つのペイロード核酸を含む核酸は、目的の異種タンパク質の翻訳および形質導入を支援する更なるエレメントを含んでいてもよい。少なくとも1つのペイロード核酸を含む核酸は、「導入ベクター」と称されてもよい。例えば、ペイロード核酸は、構成性プロモーターまたは誘導性プロモーターなどのプロモーターに作動可能に連結されていてもよい。例えば、CMVプロモーターを使用してもよい。
【0128】
本発明の第1または第3の態様の核酸について上で指定した全ての特徴は、本発明の第3の態様のシュードタイピングされたウイルスベクター粒子に含まれる核酸にも関連すると考えられる。
【0129】
また、第1および第3の態様のシュードタイピングされたウイルスベクター粒子の好ましい実施形態では、シュードタイピングされたウイルスベクター粒子は、目的の異種配列をコードする少なくとも1つのペイロード核酸を含む核酸を更に含む。
【0130】
第4の態様では、本発明は、本発明の第1または第3の態様によるシュードタイピングされたウイルスベクター粒子を生成する哺乳動物パッケージング細胞株に関する。
【0131】
「哺乳動物パッケージング細胞株」という用語は、本明細書で使用される場合、例えば、ウイルスベクター粒子をパッケージングすることができるウイルス構造タンパク質および複製酵素(例えば、gag、polおよびenv)を安定にまたは一過性に発現するよって、一般にウイルスベクター粒子を生成することができる任意の哺乳動物細胞株を意味する。好適な哺乳動物パッケージング細胞株は、当業者によく知られており、ヒト細胞株、マウス細胞株(マウス細胞株またはラット細胞株など)、ハムスター細胞株、イヌ細胞株またはサル細胞株など、任意の哺乳動物由来の細胞株であってもよい。好ましくは、哺乳動物パッケージング細胞株は、ヒト細胞株である。
【0132】
更に、適切な哺乳動物パッケージング細胞株は、腎臓、卵巣、胎盤、骨髄、肺、結合組織(線維芽細胞など)、肝臓、子宮頸部、結腸、脳または脾臓などの様々な臓器に由来していてもよい。適切な哺乳動物パッケージング細胞株は、更に、マクロファージなどの免疫系の細胞に由来するものであってもよい。また、神経細胞または上皮細胞も適している場合がある。更に、適切な哺乳動物パッケージング細胞株は、健康な生物または疾患に罹患している生物に由来していてもよい。例えば、適切な哺乳動物パッケージング細胞株は、腫瘍に由来していてもよい。最後に、適切な哺乳類パッケージング細胞株はまた、胚細胞または幹細胞に由来していてもよい。
【0133】
適切な哺乳動物細胞株の例は、CHO細胞、BHK細胞、MDCK細胞、C3H 10T1/2細胞、Psi-2細胞、BOSC 23細胞、PA317細胞、WEHI細胞、COS細胞、BSC 1細胞、BSC 40細胞、BMT 10細胞、VERO細胞、W138細胞、MRC5細胞、A549細胞、HT1080細胞、HEK 293細胞、HEK 293T細胞、B-50細胞、3T3細胞、NIH3T3細胞、HepG2細胞、Saos-2細胞、Huh7細胞、HeLa細胞、W163細胞、211細胞、および211A細胞である。好ましくは、哺乳動物パッケージング細胞株は、HEK 293T細胞である。
【0134】
本発明の第1または第3の態様のシュードタイピングされたウイルスベクター粒子について上で指定した全ての特徴は、本発明の第4の態様の哺乳動物パッケージング細胞株に含まれるシュードタイピングされたウイルスベクター粒子にも関連すると考えられる。
【0135】
本発明の第4の態様による哺乳動物パッケージング細胞株は、本発明の第1の態様による発現ベクターもしくは発現カセット、本発明の第1もしくは第3の態様によるシュードタイピングされたウイルスベクター粒子、または本発明の第2の態様による核酸を更に含んでいてもよい。第1の態様の発現ベクターもしくは発現カセット、第1もしくは第3の態様によるシュードタイピングされたウイルスベクター粒子、または第2の態様による核酸について上で指定した全ての特徴は、そのような発現ベクター、発現カセット、シュードタイピングされたウイルスベクター粒子または核酸を含む哺乳動物パッケージング細胞株にも関連すると考えられる。
【0136】
本発明の第4の態様による哺乳動物パッケージング細胞株は、長い末端反復(long terminal repeat:LTR)を含む核酸を含んでいてもよい。
【0137】
更に、第1および第3の態様のシュードタイピングされたウイルスベクター粒子は、長い末端反復(LTR)を含む核酸を含んでいてもよい。
【0138】
「長い末端反復」という用語は、本明細書で使用される場合、例えば、200~3000個の塩基対を有する反復核酸配列を意味し、通常、遺伝子に隣接し、そのゲノムへの転移を可能にする。適切なLTRは、当業者に周知であり、例えば、モロニーマウス白血病ウイルス(MoMLV)、骨髄増殖性肉腫ウイルス(myeloproliferative sarcoma virus:MPSV)、マウス胚性幹細胞ウイルス(murine embryonic stem cell virus:MESV)、マウス幹細胞ウイルス(murine stem cell virus:MSCV)、脾限局巣形成ウイルス(spleen focus forming virus:SFFV)、またはアデノ随伴ウイルス(adeno-associated virus:AAV)に由来していてもよい。適切なLTRは、例えば、5’LTRおよび/または3’LTRであってもよい。適切な5’LTRおよび3’LTRは、当業者によく知られており、例えばU5を含み、機能的U3ドメインを欠いていてもよい。
【0139】
本発明の第4の態様による哺乳動物パッケージング細胞株はまた、例えば、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)またはサル免疫不全ウイルス(SIV)に由来し得る、例えば、Psiパッケージングエレメント(Psi)を含む核酸を含んでいてもよい。更に、第1および第3の態様のシュードタイピングされたウイルスベクター粒子は、例えば、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)またはサル免疫不全ウイルス(SIV)に由来し得る、Psiパッケージングエレメント(Psi)を含む核酸を含んでいてもよい。
【0140】
本発明の第4の態様による哺乳動物パッケージング細胞株はまた、セントラルポリプリントラクト(cPPT)/セントラル終止配列(CTS)(例えば、DNA-フラップ)を含む核酸を含んでいてもよい。更に、第1および第3の態様のシュードタイピングされたウイルスベクター粒子は、セントラルポリプリントラクト(cPPT)/セントラル終止配列(CTS)(例えば、DNA-フラップ)を含む核酸を含んでいてもよい。一般に、cPPTまたはCTSは、少なくとも9個の核酸の配列を含み、これらは各々、アデノシンまたはグアノシンヌクレオチドのいずれかである。通常、cPPTは、コードされた目的の遺伝子(例えば、異種タンパク質)の下流に位置し、3’LTRが位置し得る位置の上流にある。CTSは、インテグラーゼのオープンリーディングフレーム内のウイルスゲノムの中心に位置し得る。本発明の第4の態様による哺乳動物パッケージング細胞株、または第1および第3の態様のシュードタイピングされたウイルスベクター粒子中の核酸は、セントラルポリプリントラクト(cPPT)もしくはセントラル終止配列(CTS)、またはその両方を含む核酸を含んでいてもよい。cPPTまたはCTSに適したヌクレオチド配列は、当業者によく知られている。例えば、cPPTおよびCTSは、それらの間にDNA-フラップを形成する能力に依存して選択されてもよい。
【0141】
本発明の第4の態様による哺乳動物パッケージング細胞株はまた、ポリAテール配列を含む核酸を含んでいてもよい。更に、第1および第3の態様のシュードタイピングされたウイルスベクター粒子は、ポリAテール配列を含む核酸を含んでいてもよい。第1の態様による発現ベクター、発現カセットまたはシュードタイピングされたウイルスベクター粒子中の核酸、または第2の態様による核酸に連結され得るポリAテール配列について上で指定した全ての特徴は、本発明の第4の態様の哺乳動物パッケージング細胞株中に含まれる核酸中に含まれるポリAテール配列にも関連すると考えられる。
【0142】
本発明の第4の態様による哺乳動物パッケージング細胞株はまた、転写後調節エレメントを含む核酸を含んでいてもよい。更に、第1および第3の態様のシュードタイピングされたウイルスベクター粒子は、転写後調節エレメントを含んでいてもよい。「転写後調節エレメント」という用語は、本明細書で使用される場合、通常は三次元構造を作製し、転写されると、イントロンを含まない異種遺伝子発現の増強を可能にする、核酸配列(例えば、DNA配列)を意味する。適切な転写後調節エレメントは、当業者に周知であり、例えば、ウッドチャック肝炎ウイルス(Woodchuck Hepatitis virus:WPRE)またはB型肝炎ウイルス(Hepatitis B virus:HPRE)に由来していてもよい。
【0143】
本発明の第4の態様による哺乳動物パッケージング細胞株はまた、例えば、ヒト免疫不全ウイルスに由来してもよい、Rev応答エレメント(RRE)を含む核酸を含んでいてもよい。更に、第1および第3の態様のシュードタイピングされたウイルスベクター粒子は、例えば、例えば、ヒト免疫不全ウイルスに由来してもよい、Rev応答エレメント(RRE)を含む核酸を含んでいてもよい。通常、RREは、スプライシングされていないウイルスmRNAおよび部分的にスプライシングされたウイルスmRNAのEnvコード領域に位置する。
【0144】
本発明の第4の態様による哺乳動物パッケージング細胞株は、以下の5’LTR、Psiパッケージングエレメント(Psi)、セントラルポリプリントラクト(cPPT)/セントラル終止配列(CTS)、ポリAテール配列、転写後調節エレメント、Rev応答エレメント(RRE)、および3’LTRの核酸配列のうちの1つ以上を含んでいてもよい。更に、第1および第3の態様のシュードタイピングされたウイルスベクター粒子は、以下の5’LTR、Psiパッケージングエレメント(Psi)、セントラルポリプリントラクト(cPPT)/セントラル終止配列(CTS)、ポリAテール配列、転写後調節エレメント、Rev応答エレメント(RRE)、および3’LTRの核酸配列のうちの1つ以上を含んでいてもよい。
【0145】
本発明の第4の態様による哺乳動物パッケージング細胞株はまた、少なくとも1つのコアラレトロウイルス(KoRV)エンベロープ糖タンパク質(Env)をコードする少なくとも1つの核酸をコードする核酸を含んでいてもよい。例えば、本発明の第4の態様による哺乳動物パッケージング細胞株は、少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、もしくはそれより多くのコアラレトロウイルス(KoRV)エンベロープ糖タンパク質(Env)をコードする少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、もしくはそれより多くの核酸をコードする1つ、2つ、3つ、4つ、もしくはそれより多くの核酸を含んでいてもよい。本発明の第1もしくは第3の態様による使用される核酸、または本発明の第2の態様による核酸について上で指定した全ての特徴は、本発明の第4の態様の哺乳動物パッケージング細胞株に含まれる核酸にも関連すると考えられる。
【0146】
本発明の第4の態様による哺乳動物パッケージング細胞株は、ウイルスパッケージングタンパク質をコードする核酸を更に含んでいてもよい。適切なウイルスパッケージングタンパク質は、当業者によく知られており、任意のウイルス種から選択されてもよく、好ましくは、レンチウイルスなどレトロウイルスから選択されてもよい。適切なウイルスパッケージングタンパク質の例は、Gag、Pol、RevおよびTatである。好ましくは、哺乳動物パッケージング細胞株は、第4の態様に従って含み、Gag、PolおよびRev、ならびに任意選択的にTatのうちの1つ以上から選択されるウイルスパッケージングタンパク質をコードする核酸を含む。
【0147】
このような哺乳動物パッケージング細胞株を作製するための方法は、当業者に周知であり、例えば、一般的なトランスフェクション法を含み、以下の実施例に例示的に記載されているように、TransIT VirusGen(Mirus Bio)などのトランスフェクション試薬を使用することによって支援されてもよい。
【0148】
本発明の第4の態様の哺乳動物パッケージング細胞株の好ましい実施形態では、哺乳動物パッケージング細胞株は、
(i)5’LTR、Psiパッケージングエレメント(Psi)、セントラルポリプリントラクト(cPPT)/セントラル終止配列(CTS)、ポリAテール配列、転写後調節エレメント、Rev応答エレメント(RRE)、および3’LTRの核酸配列のうちの1つ以上、
(ii)少なくとも1つのコアラレトロウイルス(KoRV)エンベロープ糖タンパク質(Env)をコードする核酸、および/または
(iii)Gag、PolおよびRev、ならびに任意選択的にTatのうちの1つ以上から選択されるウイルスパッケージングタンパク質をコードする核酸、
を含む。
【0149】
第5の態様では、本発明は、少なくとも1つの哺乳動物細胞への少なくとも1つのペイロード核酸の送達のためのインビトロ方法であって、
(a)少なくとも1つの哺乳動物細胞を提供する工程と、
(b)第3の態様による少なくとも1つのシュードタイピングされたウイルスベクター粒子を提供する工程と、
(c)(a)の少なくとも1つの哺乳動物細胞を、インビトロで(b)の少なくとも1つのシュードタイピングされたウイルスベクター粒子と接触させる工程と、を含み、
それによって、少なくとも1つのペイロード核酸を含む少なくとも1つの形質導入された哺乳動物細胞を得る、インビトロ方法に関する。
【0150】
工程(b)におけるシュードタイピングされたウイルスベクター粒子は、目的の異種配列をコードする少なくとも1つのペイロード核酸を含む核酸を含む。
【0151】
好ましくは、シュードタイピングされたウイルスベクター粒子は、レンチウイルスまたはガンマレトロウイルスベクター粒子から選択される。
【0152】
本発明の第5の態様におけるインビトロ方法は、少なくとも1つの哺乳動物細胞への少なくとも1つのペイロード核酸の送達に関する。
【0153】
本発明の第1および第3の態様の文脈においてペイロード核酸について上で指定した全ての特徴は、本発明の第5の態様のインビトロ方法に使用されるペイロード核酸にも関連すると考えられる。そのような少なくとも1つのペイロード核酸の送達は、例えば、哺乳動物細胞へのそのようなペイロード核酸の導入を意味する。
【0154】
第5の態様による少なくとも1つの哺乳動物細胞への少なくとも1つのペイロード核酸の送達のためのインビトロ方法は、少なくとも3つの工程(a)、(b)および(c)を含む。
【0155】
工程(a)
第5の態様による方法の工程(a)は、少なくとも1つの哺乳動物細胞を提供する工程である。少なくとも1つの哺乳動物細胞が、少なくとも2つの哺乳動物細胞である場合、これらは、同一であってもよく、または様々な哺乳動物細胞の混合物であってもよい。哺乳動物細胞は、当業者によく知られている細胞培養皿などの様々な反応容器で提供されてもよい。
【0156】
工程(b)
第5の態様による方法の工程(b)は、第3の態様による少なくとも1つのシュードタイピングされたウイルスベクター粒子を提供する工程である。これはまた、第3の態様による2つ、3つ、4つ、またはそれより多くの異なるシュードタイピングされたウイルスベクター粒子を提供することを含んでいてもよい。本発明の第1および第3の態様のシュードタイピングされたウイルスベクター粒子について上で指定した全ての特徴は、本発明の第5の態様のインビトロ方法に使用されるシュードタイピングされたウイルスベクター粒子にも関連すると考えられる。
【0157】
工程(c)
第5の態様による方法の工程(c)は、(a)の少なくとも1つの哺乳動物細胞を、インビトロで(b)の少なくとも1つのシュードタイピングされたウイルスベクター粒子と接触させることを含む。哺乳動物細胞およびシュードタイピングされたウイルスベクター粒子を接触させるインビトロ方法は、当業者によく知られている。例えば、少なくとも1つのシュードタイピングされたウイルスベクター粒子を、工程(a)について記載された少なくとも1つの哺乳動物細胞を含む反応容器に添加してもよい。
【0158】
少なくとも3つの工程(a)、(b)および(c)を含む、第5の態様による少なくとも1つの哺乳動物細胞への少なくとも1つのペイロード核酸の送達のためのインビトロ方法では、少なくとも1つのペイロード核酸を含む少なくとも1つの形質導入された哺乳動物細胞が得られる。
【0159】
ウイルスベクター粒子の適切な形質導入方法は、当業者に周知であり、例えば以下の実施例に記載されている。例えば、カチオン性ポリマー、脂質またはペプチドなどの形質導入エンハンサーを使用することによって、形質導入が更に改善されてもよい。例えば、ヒスチジンを豊富に含むカチオン性両親媒性短鎖ペプチドであるVectofusin-1を使用してもよく、BaEVおよびGALVなどの特定のシュードタイピングされたLVによる形質導入を増強する。
【0160】
第5の態様のインビトロ方法によって標的化可能な適切な哺乳動物細胞は、一般に、ヒト細胞、マウス細胞(マウス細胞もしくはラット細胞など)、ハムスター細胞、イヌ細胞またはサル細胞などの全ての哺乳動物細胞である。
【0161】
好ましくは、少なくとも1つの哺乳動物細胞は、ヒト細胞である。
【0162】
ペイロード核酸が送達され得る適切な哺乳動物細胞は、腎臓、卵巣、胎盤、骨髄、肺、結合組織(線維芽細胞など)、肝臓、子宮頸部、結腸、脳または脾臓などの様々な臓器の細胞であってもよい。ペイロード核酸が送達され得る適切な哺乳動物細胞は、マクロファージなどの免疫系の細胞であってもよい。更に、ペイロード核酸が送達され得る適切な哺乳動物細胞は、様々な腫瘍の細胞であってもよい。更に、ペイロード核酸が送達され得る適切な哺乳動物細胞は、非腫瘍細胞および/または非増殖細胞である細胞であってもよい。ペイロード核酸が送達され得る適切な哺乳動物細胞はまた、胚細胞であってもよい。一実施形態では、哺乳動物細胞は、ヒト胚細胞ではない。ペイロード核酸が送達され得る適切な哺乳動物細胞は、更に、造血細胞、iPS(人工多能性幹)細胞、幹細胞、または免疫細胞(例えば、T細胞、NK細胞、B細胞、樹状細胞、単球またはマクロファージ)であってもよい。好ましくは、少なくとも1つの哺乳動物細胞は、造血細胞、iPS細胞、幹細胞、または免疫細胞から選択され、任意選択的に、免疫細胞は、T細胞、NK細胞、B細胞、樹状細胞、単球、マクロファージ、またはそれらの混合物から選択される。より好ましくは、少なくとも1つの哺乳動物細胞は、T細胞またはNK細胞から選択される。更により好ましくは、少なくとも1つの哺乳動物細胞は、T細胞である。
【0163】
実施例1では、エンベロープタンパク質KoRVAおよびKoRVB、ならびにKoRVABと称されるそれらの組み合わせは、NK細胞の非常に効率的な形質導入を可能にすることが見出され、これは、NK細胞の単離日にBaEVを含む既に記載されているウイルスエンベロープよりも、すなわち、以前に活性化されなかったNK細胞に対して、更に良好であった。実施例1の結果と同様に、実施例2のデータは、KoRVA、KoRVB、またはKoRVABによりエンベロープ化されたレンチウイルスベクター粒子の各々の新鮮な初代NK細胞における形質導入効率が、BaEVシュードタイピングされたレンチウイルスベクター粒子と比較して優れていることを確認するものである。
【0164】
更に、末梢血単核細胞(PBMC)は、実施例3において、KoRV-AまたはKoRV-Bによりエンベロープ化されたレンチウイルスによって首尾良く改変された。したがって、PBMC試料は、哺乳動物細胞の混合物の一例を表す。更に、PBMC、B細胞(本実施例ではCD19+ B細胞)、単球(本実施例ではCD14+単球)、NK細胞(本実施例ではCD56+/CD3- NK細胞)、およびT細胞(本実施例ではCD3+ T細胞)における全ての細胞型を、KoRVAまたはKoRVBによりエンベロープ化されたレンチウイルスを使用して改変することができることが見出された。特に、単球およびB細胞は、NK細胞およびT細胞よりも、KoRVAまたはKoRVB媒介性の遺伝子導入がより起こりやすいことが見出された。
【0165】
少なくとも1つの哺乳動物細胞は、工程(c)の前に活性化されていてもよく、または工程(c)の前に活性化されなくてもよい。哺乳動物細胞を活性化するのに適した方法は、当業者によく知られている。例えば、哺乳動物細胞、特に、T細胞、NK細胞、樹状細胞、単球またはマクロファージなどの免疫細胞を活性化してもよい。免疫細胞を活性化するのに適した薬剤は、当業者によく知られており、通常は、細胞型に依存する。例えば、NK細胞を活性化するために、IL-2および/またはIL-15などのインターロイキンを使用してもよい。マクロファージは、例えばリポ多糖類およびIFN-ガンマなどのインターフェロン(interferon:IFN)を用いて活性化されてもよい。T細胞は、例えば、抗原提示細胞(antigen-presenting cell:APC)、抗CD3抗体および/または抗CD28抗体を用いて活性化されてもよい。好ましくは、少なくとも1つの哺乳動物細胞は、工程(c)の前に活性化されるか、または工程(c)の前に活性化されない。より好ましくは、T細胞、NK細胞、樹状細胞、単球、マクロファージ、またはそれらの混合物は、工程(c)の前に活性化されない。
【0166】
実施例1および2では、KoRVAおよびKoRVB Envは、活性化されなかったNK細胞に対して、NK細胞の優れた形質導入が見出された。
【0167】
本明細書で使用される「活性化」という用語は、標的細胞の機能、増殖および/または分化を増加させる生理学的変化を細胞に誘導することを指す。
【0168】
哺乳動物免疫細胞、特にNK細胞の活性化は、例えば特許文献2に記載されているように達成することができる。特に、NK細胞の活性化は、少なくとも1つのサイトカイン、フィーダー細胞もしくはフィーダー細胞の膜粒子の添加によって、または上述のNK細胞へのNK細胞活性化試薬を用いて、達成することができる。上述の少なくとも1つのサイトカインは、IL-2および/もしくはIL-15、またはIL-2および/もしくはIL-15とIL-1ファミリーサイトカインとの組み合わせであってもよく、上述のIL-1ファミリーサイトカインは、IL-18、IL-33またはIL-1ベータである。
【0169】
少なくとも1つのペイロード核酸は、目的の1つ以上のタンパク質および/またはRNAをコードしてもよい。更に、少なくとも1つのペイロード核酸は、目的の2つ、3つ、4つ、5つ、またはそれより多くのタンパク質および/またはRNAをコードしてもよい。
【0170】
少なくとも1つのペイロード核酸によってコードされる目的の1つ以上のタンパク質は、任意のタンパク質であってもよい。例えば、少なくとも1つのペイロード核酸によってコードされる目的の1つ以上のタンパク質は、キメラ抗原受容体(CAR)、T細胞受容体(T cell receptor:TCR)、ケモカイン受容体、NK細胞受容体、免疫調節タンパク質、サイトカイン、抗体および/または標的化エンドヌクレアーゼから選択される。更に、2つ以上の目的のタンパク質が、少なくとも1つのペイロード核酸によってコードされる場合、これらは、同じタンパク質の異なるバリアント(例えば、変異体)から選択されてもよく、またはキメラ抗原受容体(CAR)、T細胞受容体(TCR)、ケモカイン受容体、NK細胞受容体、免疫調節タンパク質、サイトカイン、抗体および/または標的化エンドヌクレアーゼの混合物であってもよい。更に、2つ以上の目的のタンパク質が、少なくとも1つのペイロード核酸によってコードされる場合、これらはまた、2つのキメラ抗原受容体(CAR)、2つのT細胞受容体(TCR)、2つのケモカイン受容体、2つのNK細胞受容体、2つの免疫調節タンパク質、2つのサイトカイン、2つの抗体および/または2つの標的化エンドヌクレアーゼなどのこれらの同じ種類の2つから選択されてもよい。
【0171】
少なくとも1つのペイロード核酸によってコードされる目的の1つ以上のRNAは、任意のRNAであってもよい。例えば、目的の1つ以上の(少なくとも1つのペイロード核酸によってコードされる)RNAは、リボザイム、gRNA、アンチセンスRNA、siRNA miRNA、またはそれらの組み合わせから選択される。
【0172】
好ましくは、少なくとも1つのペイロード核酸は、目的の1つ以上のタンパク質および/またはRNAをコードする。
【0173】
好ましくは、少なくとも1つのペイロード核酸によってコードされる目的の1つ以上のタンパク質は、キメラ抗原受容体(CAR)、T細胞受容体(TCR)、ケモカイン受容体、NK細胞受容体、免疫調節タンパク質、サイトカイン、抗体、標的化エンドヌクレアーゼから選択され、および/または目的の少なくとも1つのペイロード核酸によってコードされる1つ以上のRNAは、リボザイム、gRNA、アンチセンスRNA、siRNA miRNA、またはそれらの組み合わせから選択される。
【0174】
少なくとも1つのペイロード核酸は、哺乳動物細胞ゲノムに組み込まれてもよい。更に、2つ以上のペイロード核酸が使用される場合、これらは、部分的に哺乳動物細胞ゲノムに導入され、部分的に哺乳動物細胞ゲノムに導入されなくてもよい。ペイロード核酸を哺乳動物細胞のゲノムに組み込むための方法は、当業者によく知られている。特に、本発明のシュードタイピングされたウイルスベクター粒子は、形質導入後、ゲノムへの安定な組み込みを媒介してもよい。好ましくは、少なくとも1つのペイロード核酸は、哺乳動物細胞ゲノムに組み込まれる。好ましくは、少なくとも1つのペイロード核酸は、哺乳動物細胞ゲノムに安定して組み込まれる。
【0175】
更に、本発明の第1、第2、第3または第4の態様の少なくとも1つのKoRV Envについて上で指定した全ての特徴は、本発明の第5の態様のインビトロ方法に使用される少なくとも1つのKoRV Envにも関連すると考えられる。好ましくは、第5の態様のインビトロ方法に使用される少なくとも1つのKoRV Envは、KoRVAである。
【0176】
更に、本発明の第1または第3の態様の少なくとも1つのウイルスベクター粒子について上で指定した全ての特徴は、本発明の第5の態様のインビトロ方法に使用される少なくとも1つのウイルスベクター粒子にも関連すると考えられる。好ましくは、少なくとも1つのウイルスベクター粒子は、レンチウイルスベクター粒子である。
【0177】
好ましくは、
(i)少なくとも1つの哺乳動物細胞は、ヒト細胞であり、および/または
(ii)少なくとも1つの哺乳動物細胞は、造血細胞、iPS細胞、幹細胞、もしくは免疫細胞から選択され、任意選択的に、免疫細胞は、T細胞、NK細胞、B細胞、樹状細胞、単球、マクロファージ、もしくはそれらの混合物から選択され、および/または
(iii)少なくとも1つのペイロード核酸は、目的の1つ以上のタンパク質および/もしくはRNAをコードし、および/または
(iv)少なくとも1つの哺乳動物細胞は、工程(c)の前に活性化されるか、もしくは工程(c)の前に活性化されず、および/または
(v)少なくとも1つのペイロード核酸は、哺乳動物細胞ゲノムに組み込まれる。
【0178】
任意選択的に、
(a)少なくとも1つの哺乳動物細胞は、T細胞、NK細胞、B細胞、樹状細胞、単球、マクロファージ、もしくはそれらの混合物から選択され、
任意選択的に、
(i)T細胞、NK細胞、B細胞、樹状細胞、単球、マクロファージ、もしくはそれらの混合物は、工程(c)の前に活性化されず、および/または
(ii)少なくとも1つのペイロード核酸によってコードされる目的の1つ以上のタンパク質は、キメラ抗原受容体(CAR)、T細胞受容体(TCR)、ケモカイン受容体、NK細胞受容体、免疫調節タンパク質、サイトカイン、抗体、標的化エンドヌクレアーゼから選択され、および/または目的の少なくとも1つのペイロード核酸によってコードされる1つ以上のRNAは、リボザイム、gRNA、アンチセンスRNA、siRNA miRNA、またはそれらの組み合わせから選択され、および/または
(iii)少なくとも1つのKoRV Envは、KoRVAであり、および/または
(b)少なくとも1つのウイルスベクター粒子は、レンチウイルスベクター粒子である。
【0179】
第5の態様の方法の好ましい実施形態では、
(i)少なくとも1つの哺乳動物細胞は、ヒト細胞であり、および/または
(ii)少なくとも1つの哺乳動物細胞は、造血細胞、iPS細胞、幹細胞、もしくは免疫細胞から選択され、任意選択的に、免疫細胞は、T細胞、NK細胞、B細胞、樹状細胞、単球、マクロファージ、もしくはそれらの混合物から選択され、および/または
(iii)少なくとも1つのペイロード核酸は、目的の1つ以上のタンパク質および/もしくはRNAをコードし、および/または
(iv)少なくとも1つの哺乳動物細胞は、工程(c)の前に活性化されるか、もしくは工程(c)の前に活性化されず、および/または
(v)少なくとも1つのペイロード核酸は、哺乳動物細胞ゲノムに組み込まれ、
任意選択的に、
(a)少なくとも1つの哺乳動物細胞は、T細胞、NK細胞、B細胞、樹状細胞、単球、マクロファージ、もしくはそれらの混合物から選択され、
任意選択的に、
(i)T細胞、NK細胞、B細胞、樹状細胞、単球、マクロファージ、もしくはそれらの混合物は、工程(c)の前に活性化されず、および/または
(ii)少なくとも1つのペイロード核酸によってコードされる目的の1つ以上のタンパク質は、キメラ抗原受容体(CAR)、T細胞受容体(TCR)、ケモカイン受容体、NK細胞受容体、免疫調節タンパク質、サイトカイン、抗体、標的化エンドヌクレアーゼから選択され、および/または1つ以上のRNAは、リボザイム、gRNA、アンチセンスRNA、siRNA miRNA、またはそれらの組み合わせから選択され、および/または
(iii)少なくとも1つのKoRV Envは、KoRVAであり、および/または
(b)少なくとも1つのウイルスベクター粒子は、レンチウイルスベクター粒子である。
【0180】
第6の態様では、本発明は、第5の態様の方法によって得ることができる、形質導入された哺乳動物細胞であって、任意選択的に、形質導入された哺乳動物細胞が、養子細胞療法または移植に使用するためのものである、形質導入された哺乳動物細胞に関する。
【0181】
本発明の第5の態様のインビトロ方法について上で指定した全ての特徴は、本発明の第6の態様に使用される方法にも関連すると考えられる。
【0182】
「養子細胞療法」という用語は、本明細書で用いられる場合、身体が疾患(例えば、がん)と闘うのを助けるために患者にT細胞が投与される任意の種類の免疫療法を意味する。例えば、がん療法では、NK細胞、T細胞、マクロファージなどの免疫細胞、または腫瘍由来の細胞を患者から単離し、実験室で育成し、成長させて数を増やし、その後、改変し、次いで、患者に導入してもよい。育成された細胞の修正は、例えばそれぞれ、本発明の第1および第2の態様による発現ベクター、発現カセットまたは核酸を含む、例えば、本発明の第1または第3の態様に記載されるシュードタイピングされたウイルスベクター粒子を使用して、実行されてもよい。患者から単離された細胞を修正するための方法は、当業者に周知であり、本発明の第5の態様または以下の実施例にも例示的に記載されている。養子細胞療法の例は、例えば、キメラ抗原受容体T細胞(CAR T細胞)療法または腫瘍浸潤リンパ球(tumor-infiltrating lymphocyte:TIL)療法である。ドナー由来のNK細胞、T細胞、またはマクロファージなどの免疫細胞を使用する養子細胞療法は、ある種のがんおよびいくつかの感染症の治療にも使用されることがある。したがって、養子細胞療法では、自家細胞、同種細胞、または異種細胞を使用してもよい。
【0183】
「移植(transplantation)」または「移植(grafting)」という用語は、本明細書で使用される場合、レシピエントの身体における欠損、損傷または機能不全の臓器、組織または細胞を置き換えるための、ドナーの身体からレシピエントの身体への臓器、組織または細胞の何らかの除去を意味する。
【0184】
第7の態様では、本発明は、
(i)哺乳動物細胞への目的の1つ以上のタンパク質および/もしくはRNAをコードする少なくとも1つのペイロード核酸の送達、
(ii)哺乳動物細胞を安定して形質導入する、ならびに/または
(iii)免疫細胞の事前活性化を行わずに哺乳動物免疫細胞を形質導入するための、
少なくとも1つのKoRV Env糖タンパク質、KoRV Env糖タンパク質をコードする少なくとも1つの核酸、または本発明の第4の態様の哺乳動物パッケージング細胞株、または本発明の第1の態様による発現ベクターもしくは発現カセット、または本発明の第1もしくは第3の態様によるシュードタイピングされたウイルスベクター粒子、または本発明の第2の態様の核酸のインビトロでの使用に関する。
【0185】
例えば、本方法は、目的の少なくとも1つの異種配列を安定して組み込むことによって、目的の哺乳動物細胞を改変し、遺伝子操作するために使用することができる。このようにして得られた形質導入された哺乳動物細胞は、スクリーニング目的などの研究目的に使用されてもよい。あるいは、このようにして得られた形質導入された哺乳動物細胞、上述のように、治療または診断目的、例えば養子細胞療法または移植に使用されてもよい。形質導入された哺乳動物細胞は、育成され、それによって増幅され、任意選択的に、更に使用するまで保存されてもよい。
【0186】
少なくとも1つのKoRV Env糖タンパク質、またはKoRV Env糖タンパク質をコードする少なくとも1つの核酸、または本発明の第4の態様の哺乳動物パッケージング細胞株、または本発明の第1の態様による発現ベクターもしくは発現カセット、または本発明の第1もしくは第3の態様によるシュードタイピングされたウイルスベクター粒子、または本発明の第2の態様による核酸について上で指定した全ての特徴は、本発明の第7の態様におけるインビトロ使用にも関連すると考えられる。
【0187】
少なくとも1つのKoRV Env糖タンパク質、KoRV Env糖タンパク質をコードする少なくとも1つの核酸、または本発明の第4の態様の哺乳動物パッケージング細胞株、または本発明の第1の態様による発現ベクターもしくは発現カセット、または本発明の第1もしくは第3の態様によるシュードタイピングされたウイルスベクター粒子、または本発明の第2の態様の核酸のインビトロでの使用は、
(i)哺乳動物細胞への目的の1つ以上のタンパク質および/もしくはRNAをコードする少なくとも1つのペイロード核酸の送達、
(ii)哺乳動物細胞を安定して形質導入する、ならびに/または
(iii)免疫細胞の事前活性化を行わずに哺乳動物免疫細胞を形質導入するためのものであってもよい。
【0188】
第5の態様における哺乳動物細胞への目的の1つ以上のタンパク質および/またはRNAをコードする少なくとも1つのペイロード核酸の送達について上で指定した全ての特徴は、本発明の第7の態様におけるインビトロ使用にも関連すると考えられる。
【0189】
更に、少なくとも5、10、15、20または30回の細胞分裂サイクルのために、少なくとも1つのペイロード核酸が哺乳動物細胞のゲノム中で維持される場合、哺乳動物細胞の形質導入は、安定して形質導入されたと考えられ得る。
【0190】
好ましくは、このような安定した形質導入は、免疫細胞を事前活性化することなく達成される。以上説明したように、驚くべきことに、KoRV Env糖タンパク質をコードする核酸を用いてヒトNK細胞を効率よく形質導入することが可能であることが見出された。したがって、好ましい実施形態では、免疫細胞は、事前に活性化されることなく形質導入される。この文脈では、第5の態様の方法に適用され得る免疫細胞の事前活性化について上で指定した全ての特徴は、本発明の第7の態様におけるインビトロ使用にも関連すると考えられる。
【0191】
この文脈では、本発明の第1、第2または第3の態様について上で指定した全ての特徴は、適用可能な場合、本発明の第4、第5、第6または第7の態様、例えば、発現ベクター、発現カセット、シュードタイピングされたウイルスベクター粒子、KoRV Envまたは核酸に関連する特徴にも適用される。
【0192】
一般に、本開示は、様々に変動し得るため、本明細書に記載された特定の方法論、プロトコルおよび試薬に限定されない。更に、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明するためだけのものであり、本開示の範囲を限定することを意図するものではない。本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」および「the」は、文脈上明らかにそうでない場合を除き、複数形の参照物を含む。同様に、「含む(comprise)」、「含有する(contain)」、「包含する(encompass)」という単語は、排他的ではなく包括的に解釈される。
【0193】
別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語ならびに任意の略語は、本開示の分野における当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載されたものと類似または同等の任意の方法および材料は、本明細書に提示された実施において使用することができるが、具体的な方法および材料は本明細書に記載されている。
【0194】
別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語ならびに任意の略語は、本開示の分野における当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載されたものと類似または同等の任意の方法および材料は、本明細書に提示された実施において使用することができるが、具体的な方法および材料は本明細書に記載されている。
【実施例】
【0195】
一般的な方法
HEK293T細胞におけるKoRVシュードウイルス生成、およびNK細胞の形質導入
ウイルスベクター粒子は、293T細胞におけるいわゆる第2世代または第3世代のウイルスベクター系によって生成される。ウイルスパッケージングエレメントを含有するベクター、および導入遺伝子を含有する導入プラスミド、ならびにKoRVAまたはKoRVBの改変されたエンベロープタンパク質のいずれかを含有する、ここに記載される新しく開発された配列を、トランスフェクションに使用する(
図2)。両方のベクター(KoRVAおよびKoRVB)の混合物も、首尾良く使用することができる。
【0196】
詳細には、HEK293T細胞を、トランスフェクションの24~48時間前に播種し、トランスフェクション当日に50~70%のコンフルエンス密度に達するようにして、DMEM培地+10%のFCS+1%のPen/Strep中で成長させた。トランスフェクションの当日に、ペイロード核酸(ここでは、目的の遺伝子(gene of interest:GOI)と称される)、およびウイルスパッケージング機構をコードするプラスミドを比5:4:1:1(GOI:gag/pol:rev:KoRV)で含有するレンチウイルスベクターを用いて、DNA混合物を調製した。例えば、100mmの組織培養皿において10mLのウイルス上清を生成するために、これらのベクターは、5μgのEF1a-mVenus-H2B-IRES-mCherry-PGK-Puro:4μgのpMDLg-pRRE-gag/pol:1μgのpRSV-Rev:1 μgのKoRVA_pTwist_CMV_BetaGlobin_WPRE_NeoまたはKoRVB_pTwist_CMV_BetaGlobin_WPRE_Neo、または類似のものであってもよい。KoRVAおよびKoRVBを同時に使用した場合には、これらを1:1の比で混合した。プラスミド混合物を無血清培地に添加し、混合し、次いで、適切なトランスフェクション試薬、例えば、TransIT VirusGen(Mirus Bio)を添加した。静かにピペッティングして混合し、室温で15分間インキュベートした。この混合物を、HEK293T細胞を含有する細胞培養皿の異なる領域に滴下して加えた。培養容器を前後左右に優しくゆすり、複合体化したDNAを均一に分散させた。37℃、5%CO2で12~18時間インキュベートし、成長培地を交換し、更に48~60時間インキュベートした。ウイルスを含有する上清を新しいチューブに集め、10分間、300×g、4℃で遠心分離し、細胞および細胞残屑を除去し、新しい滅菌容器に移した。上清は、すぐに使用するか、後で使用するために-80℃で凍結させた。
【0197】
NK細胞は、NK MACS培地(Miltenyi)中で、1mL当たり500万個で調製した。例えば、48ウェルプレートに125000個のNK細胞を使用し、そこで、これを1回の形質導入当たり25μLで再懸濁させ、十分に混合した。48ウェルプレートに、各々の形質導入のために、ウェル当たり250μLのウイルス上清をピペッティングした。1:100のVectofusin(Miltenyi)形質導入エンハンサーを上清に加え、次いで、25μLのNK細胞懸濁液を各ウェルに加えた。400×g、37℃で60分間、スピンフェクションを行った。250μLのNK MACS培地を加え、37℃のインキュベーター内に約3日間置き、次いで、フローサイトメトリーを用いて導入遺伝子の発現を分析した。
【0198】
他の哺乳動物免疫細胞を、同様の方法で形質導入することができる。
【0199】
実験に使用したレンチウイルスベクターEF1a-mVenus-H2B-IRES-mCherry-PGK-Puroは、2つのヒトプロモーターを含み、それぞれ2つの蛍光マーカーと1つの選択マーカーをコードする3つのペイロード核酸をコードする。
【0200】
KoRV Env配列
KoRVAおよびKoRVB Envは、コアラレトロウイルスの2つのEnvバリアントであり、NK細胞への首尾良くかつ効率的な遺伝子導入を可能にするウイルス表面構造として、首尾良く特定された。加えて、KoRVAおよびKoRVB Envは、機能増強のために首尾良く更に改変された。この目的のために、C末端Rペプチドが除去された。これは、ウイルスベクター粒子と標的細胞との融合活性を可能にするために、同様のウイルスでは通常、ウイルスの寿命の間にタンパク質分解によって切断される(ドメイン構造KoRVAおよびKoRVB Envを示す
図1を参照されたい)。本明細書の実施例では、C末端Rペプチドが除去されるKoRVA Envをコードする配列(配列番号2)および/またはC末端Rペプチドが除去されるKoRVB Envをコードする配列(配列番号4)を使用した。KoRVA EnvおよびKoRVB Envの組み合わせ(本明細書ではKoRVABと称される)を使用する場合、配列番号2および配列番号4の配列が、別個のベクターに含まれ、トランスフェクトされた。しかし、KoRVA Env配列およびKoRVB Env配列を含む単一のベクターを使用することも可能である。配列番号2および6の配列は、N末端シグナルペプチドを含む。本発明で生成されたシュードタイピングされたウイルスベクター粒子では、KoRVA EnvおよびKoRVB Envからそれぞれシグナルペプチドが除去される。生成されたシュードタイピングされたウイルスベクター粒子は、成熟KoRVA EnvまたはKoRVB Envを含み、更に、C末端Rペプチドが除去される。
【0201】
BaEV配列
本明細書では、比較のためにBaEV Env配列を使用した。BaEV Envの配列を、非特許文献1によって以前に公開されたように使用した。このBaEVエンベロープは、活性化されたNK細胞を形質導入するために以前の刊行物でも使用された(非特許文献2、および非特許文献3。特許文献1および特許文献2も参照されたい)。本明細書で比較のために用いたBaEV Env配列も、C末端Rペプチドを欠く。
【0202】
[実施例1]末梢血NK細胞におけるKoRVA、KoRVB、KoRVABおよびBaEVによりエンベロープ化されたシュードウイルスの形質導入効率の比較
HEK293T細胞におけるKoRVシュードウイルス生成、およびNK細胞の形質導入を、上に記載したように行った。各々のエンベロープタンパク質(KoRVA、KoRVB、それらの混合物およびBaEV)の場合、3名の異なるドナーについて、形質導入効率を調べた。
【0203】
詳細には、単離されたNK細胞を、単離当日に、あるいは500U/mLのIL-2および140U/mLのIL-15(Peprotech)を含有するNK MACS培地(Miltenyi)中で活性化してから3日後、7日後および21日後に、KoRVまたはBaEVでシュードタイピングされたレンチウイルスベクター粒子により形質導入した。形質導入の72時間後に、蛍光性タンパク質mVenusのフローサイトメトリー分析によって、形質導入効率を決定した。
【0204】
エンベロープタンパク質KoRVAおよびKoRVB、ならびにKoRVABと称されるそれらの組み合わせは、目的の導入遺伝子(すなわち、ペイロード核酸)を含有するシュードタイピングされたウイルスベクター粒子の効率的な生成を可能にし、したがって、形質導入に適していることが見出された。更に、驚くべきことに、NK細胞の形質導入が、非常に効率的であり、NK細胞の単離日にBaEVを含む既に記載されているウイルスエンベロープを含め、すなわち、以前に活性化されなかったNK細胞に対して、以前に記載されたウイルスエンベロープよりも更に優れていることが見出された。特に、KoRVAおよびKoRVBの組み合わせは、単離当日の活性化されていないNK細胞の形質導入において優れていることがわかった(
図3)。したがって、KoRVAおよびKoRVB Envは、活性化されなかったNK細胞に対して、NK細胞の優れた形質導入が見出された。
【0205】
[実施例2]新鮮な初代NK細胞におけるKoRVA、KoRVB、KoRVABおよびBaEVによりエンベロープ化されたシュードウイルスの形質導入効率の比較
HEK293T細胞におけるKoRVシュードウイルス生成、およびNK細胞の形質導入を、上に記載したように行った。各々のエンベロープタンパク質(KoRVA、KoRVB、それらの混合物およびBaEV)の場合、3名の異なるドナーについて、形質導入効率を調べた。
【0206】
詳細には、末梢血から単離されたNK細胞を、単離当日に、KoRVまたはBaEVでシュードタイピングされたレンチウイルスベクター粒子により形質導入した。形質導入の72時間後に、蛍光性タンパク質mVenusのフローサイトメトリー分析によって、形質導入効率を決定した。3名のドナーにわたって平均された導入効率および標準偏差がプロットされている。統計分析は、一元配置分散分析(ANOVA)を用いて行った。*=p<0.05。
【0207】
実施例1の結果と同様に、実施例2のデータは、KoRVA、KoRVB、またはKoRVABによりエンベロープ化されたレンチウイルスベクター粒子の各々の新鮮な初代NK細胞における形質導入効率が、BaEVシュードタイピングされたレンチウイルスベクター粒子と比較して優れていることを確認するものである。その後の形質導入のためにシュードタイピングされたレンチウイルスベクター粒子を調製するためのKoRVAおよびKoRVBの混合物は、更に、BaEV Envによりシュードタイピングされたレンチウイルスベクター粒子と比較して、形質導入効率がほぼ倍増した。KoRVA Envによりシュードタイピングされたレンチウイルスベクター粒子を用いて、同様の有利な結果が得られた。
【0208】
[実施例3]KoRV-AまたはKoRV-Bによりエンベロープ化されたレンチウイルスによる末梢血単核細胞(PBMC)の形質導入
6名の健康なドナーの末梢血からPBMCを単離し、直ちに形質導入した(免疫細胞の集団を分離することなく)。蛍光性レポーター遺伝子mVenusを使用して、形質導入から3日後に、CD19+B細胞、CD14+単球、CD56+/CD3- NK細胞およびCD3+ T細胞において形質導入効率を決定した。
【0209】
KoRVAおよび/またはKoRVBによりエンベロープ化されたレンチウイルスを使用して、全ての細胞型を改変することができることが見出された。特に、単球およびB細胞は、NK細胞およびT細胞よりも、KoRVAまたはKoRVB媒介性の遺伝子導入がより起こりやすいことが見出された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0210】
【特許文献1】WO2013/045639
【特許文献2】WO2019/121945
【特許文献3】WO2021/041322
【特許文献4】WO2021/127076
【非特許文献】
【0211】
【非特許文献1】Girard-Gagnepain A. et al. (“Baboon envelope pseudotyped LVs outperform VSV-G-LVs for gene transfer into early-cytokine-stimulated and resting HSCs”), Blood (2014) 124 (8): 1221-1231; doi: 10.1182/blood-2014-02-558163.
【非特許文献2】Bari R. et al. (“A Distinct Subset of Highly Proliferative and Lentiviral Vector (LV)-Transducible NK Cells Define a Readily Engineered Subset for Adoptive Cellular Therapy”), Frontiers in Immunology, 2019, 10:2001. doi: 10.3389/fimmu.2019.02001. Erratum in: Front Immunol. 2019 Dec 04;10:2784.
【非特許文献3】Colamartino A.B.L. et al., (“Efficient and Robust NK-Cell Transduction With Baboon Envelope Pseudotyped Lentivector”), Frontiers in Immunology, 2019, 10:2873. doi: 10.3389/fimmu.2019.02873.
【配列表】
【国際調査報告】