(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-01
(54)【発明の名称】(パー)フルオロエラストマーを含む保護層を有する二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20241025BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20241025BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20241025BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20241025BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20241025BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20241025BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20241025BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0569
H01M4/525
H01M4/505
H01M10/0568
H01M4/134
H01M4/38 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024527143
(86)(22)【出願日】2022-11-02
(85)【翻訳文提出日】2024-07-04
(86)【国際出願番号】 EP2022080495
(87)【国際公開番号】W WO2023078891
(87)【国際公開日】2023-05-11
(32)【優先日】2021-11-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524170522
【氏名又は名称】サイエンスコ エスアー
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ギヨーム, マキシム
(72)【発明者】
【氏名】グランフィルス, ディディエ
(72)【発明者】
【氏名】メルロ, ルカ
(72)【発明者】
【氏名】チェ, ジエ
(72)【発明者】
【氏名】フィンシー, ヴァンセント
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ05
5H029AJ12
5H029AK03
5H029AL12
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H029DJ06
5H029HJ02
5H029HJ07
5H050AA07
5H050AA15
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB12
5H050FA04
5H050FA18
5H050HA02
5H050HA07
(57)【要約】
本発明は、a)アルカリ金属を含む負極;b)負極表面上の保護層;及びc)溶媒混合物と少なくとも1種の金属塩とを含む液体電解質;を含む二次電池であって、保護層が少なくとも1種の(パー)フルオロエラストマーを含み、溶媒混合物が、i)少なくとも1種のフッ素化エーテル化合物と、ii)少なくとも1種の非フッ素化エーテル化合物とを含む、二次電池に関する。本発明は、二次電池におけるアルカリ金属を含む負極の保護層としての(パー)フルオロエラストマーの使用であって、二次電池が、i)少なくとも1種のフッ素化エーテル化合物と、ii)少なくとも1種の非フッ素化エーテル化合物と、を含有する溶媒混合物を含む使用にも関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)アルカリ金属を含む負極;
b)負極表面上の保護層;及び
c)溶媒混合物と少なくとも1種の金属塩とを含む液体電解質;を含む二次電池であって、
前記保護層が少なくとも1種の(パー)フルオロエラストマーを含み、前記溶媒混合物が、i)少なくとも1種のフッ素化エーテル化合物と、ii)少なくとも1種の非フッ素化エーテル化合物とを含む、二次電池。
【請求項2】
前記アルカリ金属がリチウム金属である、請求項1に記載の二次電池。
【請求項3】
前記(パー)フルオロエラストマーが、フッ化ビニリデン(VDF)に由来する繰り返し単位と、VDFとは異なる少なくとも1種の追加の(パー)フッ素化モノマーに由来する繰り返し単位とを含むフッ化ビニリデン系フルオロエラストマーである、請求項1又は2に記載の二次電池。
【請求項4】
前記VDFとは異なる少なくとも1種の追加の(パー)フッ素化モノマーが、
- テトラフルオロエチレン(TFE)及びヘキサフルオロプロピレン(HFP)などのC
2~C
8パーフルオロオレフィン;
- フッ化ビニル(VF)、トリフルオロエチレン(TrFE)、式CH
2=CH-R
f(式中、R
fはC
1~C
6パーフルオロアルキル基である)のパーフルオロアルキルエチレンなどの、VDFとは異なる水素含有C
2~C
8オレフィン;
- クロロトリフルオロエチレン(CTFE)などのC
2~C
8クロロ及び/若しくはブロモ及び/若しくはヨード-フルオロオレフィン;
- 式CF
2=CFOR
f(式中、R
fは、C
1~C
6(パー)フルオロアルキル基、例えばCF
3、C
2F
5、C
3F
7である)の(パー)フルオロアルキルビニルエーテル(PAVE);
- 式CF
2=CFOX(式中、Xは、カテナリー酸素原子を含むC
1~C
12((パー)フルオロ)-オキシアルキル、例えば、パーフルオロ-2-プロポキシプロピル基である)の(パー)フルオロ-オキシ-アルキルビニルエーテル;
- 式:
【化1】
(式中、R
f3、R
f4、R
f5、R
f6のそれぞれは、互いに等しいか又は異なり、独立して、フッ素原子、任意選択的に1つ以上の酸素原子を含んでいてもよいC
1~C
6フルオロ-又はパー(ハロ)フルオロアルキル、例えば、-CF
3、-C
2F
5、-C
3F
7、-OCF
3、-OCF
2CF
2OCF
3である)を有する(パー)フルオロジオキソール、
- 式:
CFX
2=CX
2OCF
2OR”
f
(式中、R”
fは、直鎖又は分枝鎖のC
1~C
6(パー)フルオロアルキル、C
5~C
6環状(パー)フルオロアルキル、及び1~3個のカテナリー酸素原子を含む直鎖又は分枝鎖のC
2~C
6(パー)フルオロオキシアルキルの中から選択され、X
2=F、Hであり、好ましくは、X
2はFであり、R”
fは、-CF
2CF
3(MOVE1)、-CF
2CF
2OCF
3(MOVE2)、又は-CF
3(MOVE3)である)を有する(パー)フルオロ-メトキシ-ビニルエーテル(以下、MOVE);
を含む群の中から、好ましくはこれらからなる群から選択される、請求項3に記載の二次電池。
【請求項5】
前記(パー)フルオロエラストマーが、
- 好ましくはC
2~C
8非フッ素化オレフィン(Ol)、ジエンモノマー、及びスチレンモノマーから選択される、少なくとも1種の水素化モノマーに由来する少なくとも1種の繰り返し単位;及び/又は
- 一般式:
【化2】
(式中、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5及びR
6は、互いに等しいか又は異なり、H、ハロゲン、又は場合により1つ以上の酸素基を含むC
1~C
5の任意選択的にハロゲン化された基であり;Zは、酸素原子を任意選択的に含んでいてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1~C
18の任意選択的にハロゲン化されていてもよいアルキレン又はシクロアルキレンラジカル、又は(パー)フルオロポリオキシアルキレンラジカルである)
を有する少なくとも1種のビス-オレフィン[ビス-オレフィン(OF)]に由来する少なくとも1種の繰り返し単位;
をさらに含む、請求項3又は4に記載の二次電池。
【請求項6】
前記(パー)フルオロエラストマーが、二フッ化ビニリデン(VDF)とヘキサフルオロプロペン(HFP)とテトラフルオロエチレン(TFE)とのターポリマーであり、好ましくは50~80:15~25:5~25のモル比の範囲である、請求項1~5のいずれか一項に記載の二次電池。
【請求項7】
i)前記フッ素化エーテル化合物が、C
aF
bH
cO
dの化学式を有し、式中のa、b、c及びdは全て整数であり、dは1~3の整数であり、aは3~10、好ましくは4~7の整数であり、2*(a+1)=b+cである、請求項1~6のいずれか一項に記載の二次電池。
【請求項8】
i)前記フッ素化エーテル化合物が、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル(TTE)及び/又はCF
2HCF
2-OCH
2CH
2O-CF
2CF
2Hを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の二次電池。
【請求項9】
ii)前記非フッ素化エーテル化合物が、ジメトキシエタン(DME)、1,3-ジオキソラン(DOL)、ジブチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(TEGME)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(DEGME)、ジエチレングリコールジエチルエーテル(DEGDEE)、ポリエチレングリコールジメチルエーテル(PEGDME)、2-メチルテトラヒドロフラン、及びテトラヒドロフラン(THF)を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の二次電池。
【請求項10】
前記溶媒混合物が、前記溶媒混合物の総体積に対して、
- 60~90体積%(vol%)、好ましくは80~90体積%のi)少なくとも1種のフッ素化エーテル化合物;及び
- 10~40体積%、好ましくは10~20体積%のii)少なくとも1種の非フッ素化エーテル化合物;
を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の二次電池。
【請求項11】
前記金属塩が、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF
6)、過塩素酸リチウム(LiClO
4)、ヘキサフルオロヒ酸リチウム(LiAsF
6)、ヘキサフルオロアンチモン酸リチウム(LiSbF
6)、ヘキサフルオロタンタル酸リチウム(LiTaF
6)、テトラクロロアルミン酸リチウム(LiAlCl
4)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF
4)、クロロホウ酸リチウム(Li
2B
10Cl
10)、フルオロホウ酸リチウム(Li
2B
10F
10)、Li
2B
12F
xH
12-x(x=0~12)、LiPF
x(R
F)
6-x及びLiBF
y(R
F)
4-y(式中、R
Fは、パーフルオロ化C
1~C
20アルキル基又はパーフルオロ化芳香族基を表し、x=0~5であり、y=0~3である)、LiBF
2[O
2C(CX
2)
nCO
2]、LiPF
2[O
2C(CX
2)
nCO
2]
2、LiPF
4[O
2C(CX
2)
nCO
2](式中、Xは、H、F、Cl、C
1~C
4アルキル基及びフッ素化アルキル基からなる群から選択され、n=0~4である)、リチウムトリフルオロメタンスルホネート(LiCF
3SO
3)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドLi(FSO
2)
2N(LiFSI)、LiN(SO
2C
mF
2m+1)(SO
2C
nF
2n+1)及びLiC(SO
2C
kF
2k+1)(SO
2C
mF
2m+1)(SO
2C
nF
2n+1)(式中、k=1~10であり、m=1~10であり、n=1~10である)、LiN(SO
2C
pF
2pSO
2)及びLiC(SO
2C
pF
2pSO
2)(SO
2C
qF
2q+1)(式中、p=1~10であり、q=1~10である)、キレート化されたオルトボレート及びキレート化されたオルトホスフェートのリチウム塩、例えばリチウムビス(オキサラト)ボレート[LiB(C
2O
4)
2]、リチウムビス(マロナト)ボレート[LiB(O
2CCH
2CO
2)
2]、リチウムビス(ジフルオロマロナト)ボレート[LiB(O
2CCF
2CO
2)
2]、リチウム(マロナトオキサラト)ボレート[LiB(C
2O
4)(O
2CCH
2CO
2)]、リチウム(ジフルオロマロナトオキサラト)ボレート[LiB(C
2O
4)(O
2CCF
2CO
2)]、リチウムトリス(オキサラト)ホスフェート[LiP(C
2O
4)
3]、リチウムトリス(ジフルオロマロナト)ホスフェート[LiP(O
2CCF
2CO
2)
3]、リチウムジフルオロホスフェート(LiPO
2F
2)、リチウム2-トリフルオロメチル-4,5-ジシアノイミダゾール(LiTDI)、又はそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種のリチウム塩である、請求項1~10のいずれか一項に記載の二次電池。
【請求項12】
正極をさらに含み、前記正極が、式LiNi
xMn
yCo
zO
2のリチウム-ニッケル-マンガン-コバルトに基づく金属酸化物(x+y+z=1)、式LiNi
xCo
yAl
zO
2のリチウム-ニッケル-コバルト-アルミニウムに基づく金属酸化物(x+y+z=1)、リチウム-コバルトに基づく金属酸化物、及びリチウム-ニッケル-マンガンに基づく金属酸化物(LNMO)からなる群から選択される正極活物質層を含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の二次電池。
【請求項13】
二次電池におけるアルカリ金属を含む負極の保護層としての(パー)フルオロエラストマーの使用であって、前記二次電池が、i)少なくとも1種のフッ素化エーテル化合物と、ii)少なくとも1種の非フッ素化エーテル化合物と、を含有する溶媒混合物を含む、使用。
【請求項14】
前記(パー)フルオロエラストマーが、50~80:15:25:5~25のモル比範囲のVDFとHFPとTFEとのターポリマーである、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
前記溶媒混合物が、前記溶媒混合物の総体積に対して
- 60~90体積%、好ましくは80~90体積%のi)少なくとも1種のフッ素化エーテル化合物;及び
- 10~40体積%、好ましくは10~20体積%のii)少なくとも1種の非フッ素化エーテル化合物;
を含む、請求項13又は14に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2021年11月4日出願の欧州特許出願第21206360.6号に基づく優先権を主張するものであり、この出願の全内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、a)アルカリ金属を含む負極;b)負極表面上の保護層;及びc)溶媒混合物と少なくとも1種の金属塩とを含む液体電解質;を含む二次電池であって、保護層が少なくとも1種の(パー)フルオロエラストマーを含み、溶媒混合物が、i)少なくとも1種のフッ素化エーテル化合物と、ii)少なくとも1種の非フッ素化エーテル化合物とを含む、二次電池に関する。本発明は、二次電池におけるアルカリ金属を含む負極の保護層としての(パー)フルオロエラストマーの使用であって、二次電池が、i)少なくとも1種のフッ素化エーテル化合物と、ii)少なくとも1種の非フッ素化エーテル化合物と、を含有する溶媒混合物を含む使用にも関する。
【背景技術】
【0003】
リチウムイオン電池は、軽量であり、適度なエネルギー密度を有し、且つ良好なサイクル寿命を有することなどの多くの利点のため、充電式エネルギー貯蔵デバイスの市場で支配的な地位を維持してきた。それにもかかわらず、現在のリチウムイオン電池は、電気自動車、ハイブリッド電気自動車、グリッドエネルギー貯蔵(大規模エネルギー貯蔵とも呼ばれる)等の高出力用途の必要性を満たすために連続的に増加する、必要なエネルギー密度に対して比較的低いエネルギー密度を依然として抱えている。
【0004】
リチウム金属を負極として使用することは、その低い酸化還元電位及び高い比容量に起因するリチウム金属の好ましい特性のために1970年以来知られている。このようなリチウム金属電池は、通常、低粘度且つ高イオン伝導度であるカーボネート系電解質及び/又はエーテル系電解質等の従来の液体電解質を使用する。これらの液体電解質は、サイクルの開始時に分解して不動態化層を形成し、これによってデンドライトの成長が生じ、電解質と堆積した反応性リチウムイオンとの間のさらなる副反応も引き起こされる。これらは、リチウム金属電池の商業化を阻止する重要な問題であった。
【0005】
リチウム金属電池に適した電解質の基本的な要件は、リチウムイオン電池用の従来の液体電解質と同じである。すなわち、高いイオン伝導度、低い融点及び高い沸点、(電気)化学的安定性、並びに安全性である。上記の基本的な要件に加えて、リチウム金属電池に適した電解質は、上述の欠点に対する解決策を提供する必要がある。
【0006】
リチウムデンドライトの生成を軽減又は抑制し、リチウム金属電池のサイクル性能を向上させることを目的とした多様な研究の1つとして、液体電解質の代わりに固体電解質を用いることが検討されている。例えば、R.Sudoらは、Solid State Ionics,262,151(2014)において、Li金属を不局として含む電気化学セルの固体電解質として、AlドープさLi7La3Zr2O12を使用することについて記載している。しかしながら、やはりリチウムデンドライトが観察された。
【0007】
D.AurbachらはSolid State Ionics,148,405(2002)の中で、及びH.OtaらはElectrochimica Acta,49,565(2004)の中で、CO2、SO2、炭酸ビニレン等の添加剤が不動態化層の安定性の向上に役立つことを報告している。しかしながら、これらの添加剤はセルの動作中に消費される。したがって、デンドライト形成に対する長期的な解決策にはなり得ない。
【0008】
さらに、液体電解質の組成を変更することからなる、同じ目的を有する様々なアプローチが存在する。
【0009】
例えば、リチウムデンドライト形成を抑えるためにジメトキシエタン(DME)と1,3-ジオキソラン(DOL)(1:1 体積:体積)中のリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)の高リチウム塩濃度の液体電解質を使用することは、L.SuoらによってNature Communications,DOI:10.1038/ncomms2513(2013)に記載されている。
【0010】
H.Wangらは、ChemElectroChem,2,1144(2015)において、負極としてのリチウム金属と、電解質としてのテトラグリム(G4)及びリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)の溶媒和イオン液体とを含むセルが優れたサイクル性能を示すことを報告している。
【0011】
米国特許出願公開第2007/054186A1号明細書(3M Innovative Properties Company)は、エチレンカーボネート等の環状炭酸エステルと、特定の式のヒドロフルオロエーテル等の少なくとも80℃の沸点を有する少なくとも1種のフッ素含有溶媒と、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)等の少なくとも1種の電解質塩とを含有する溶媒組成物を含む、電気化学デバイス用の電解質組成物を開示している。
【0012】
特に、欧州特許第3118917B1号明細書(Samsung Electronics Co.,Ltd.)は、リチウムイオンを溶媒和することができる非フッ素置換エーテル、特定の式を有するグリム系溶媒であるフッ素置換エーテル、及びリチウム塩を含み、フッ素置換エーテルの量が非フッ素置換エーテルの量よりも多い、リチウム金属電池に特有の電解質を開示している。
【0013】
しかしながら、液体電解質と負極との間のデンドライト成長及び副反応を最小限に抑えながら、安全性を含むセル性能を向上させたリチウム金属電池用電解質を提供することが依然として求められている。
【発明の概要】
【0014】
本発明は、a)アルカリ金属を含む負極;b)負極表面上の保護層;及びc)溶媒混合物と少なくとも1種の金属塩とを含む液体電解質;を含む二次電池であって、保護層が少なくとも1種の(パー)フルオロエラストマーを含み、溶媒混合物が、i)少なくとも1種のフッ素化エーテル化合物と、ii)少なくとも1種の非フッ素化エーテル化合物とを含む、二次電池に関する。
【0015】
本発明は、二次電池におけるアルカリ金属を含む負極の保護層としての(パー)フルオロエラストマーの使用であって、二次電池が、i)少なくとも1種のフッ素化エーテル化合物と、ii)少なくとも1種の非フッ素化エーテル化合物と、を含有する溶媒混合物を含む使用にも関する。
【0016】
驚くべきことに、本発明者らは、上記技術的課題が、i)少なくとも1種のフッ素化エーテル化合物とii)少なくとも1種の非フッ素化エーテル化合物とを含有する溶媒混合物を含む二次電池において、アルカリ金属を含む負極の保護層として(パー)フルオロエラストマーを使用することによって解決できることを見出した。これは優れた容量維持率によって裏付けられる。特に、本発明は、負極、特にLi金属の表面に、局所高濃度電解液(LHCE)とフルオロエラストマーに基づく保護層とを組み合わせることを着想してなされたものであり、その結果、優れた容量維持率(容量80%におけるサイクル数で評価)が得られた。すなわち、保護層としてのフルオロエラストマーとLHCEとの組み合わせにより、優れたサイクル性能を得られることが見出された。
【発明を実施するための形態】
【0017】
定義
本明細書の全体にわたり、文脈上他の意味に解すべき場合を除いて、用語「含む(comprise)」若しくは「包含する(include)」又は「含む(comprises)」、「含んでいる(comprising)」、「包含する(includes)」、「包含している(including)」などの変形は、述べられた要素若しくは方法工程又は要素若しくは方法工程の群の包含を意味するが、任意の他の要素若しくは方法工程又は要素若しくは方法工程の群の排除を意味しないと理解されるであろう。好ましい実施形態によれば、用語「含む」及び「包含する」並びにそれらの変形は、「のみからなる」を意味する。
【0018】
本明細書において用いる場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その(the)」は、文脈がそうでないと明確に示さない限り、複数態様を包含する。用語「及び/又は」は、意味「及び」、「又は」及びまたこの用語と関係した要素の他の可能な組み合わせを全て包含する。
【0019】
用語「~」は、限界点を含むと理解されるべきである。
【0020】
本明細書で用いる場合、有機基に関する専門用語「(Cn~Cm)」(式中、n及びmは、それぞれ整数である)は、この基が1つの基当たりn個の炭素原子~m個の炭素原子を含有し得ることを示す。
【0021】
本明細書で使用される「アルキル」基には、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシルなどの直鎖アルキル基;シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル及びシクロオクチルなどの環状アルキル基(又は「シクロアルキル」、若しくは「脂環式」、若しくは「炭素環式」基);イソプロピル、tert-ブチル、sec-ブチル及びイソブチルなどの分岐鎖アルキル基;並びにアルキル置換シクロアルキル基及びシクロアルキル置換アルキル基などのアルキル置換アルキル基を含む、1つ以上の炭素原子を有する飽和炭化水素挙げられる。
【0022】
用語「脂肪族基」は、1~18個の間の炭素原子を典型的に有する、直鎖又は分岐鎖を特徴とする有機部分が含まれる。複雑な構造において、鎖は、分岐、橋架け又は架橋され得る。脂肪族基には、アルキル基、アルケニル基及びアルキニル基が含まれる。
【0023】
本発明に関連して、「重量%」(wt%)という用語は、成分の重量と混合物の総重量との間の比として計算される、混合物における特定成分の含有量を示す。(コ)ポリマーにおける特定のモノマーに由来する繰り返し単位を指す場合、重量%(wt%)は、(コ)ポリマーの総重量に対するこのようなモノマーの繰り返し単位の重量の比を示す。
【0024】
特に断りのない限り、本発明に関連して、組成物中の成分の量は、100を乗じた、成分の体積と組成物の総体積との比(すなわち体積%(vol%))として示される。
【0025】
比、濃度、量及び他の数値データは、本明細書では、範囲形式で示され得る。そのような範囲形式は、単に便宜上及び簡潔さのために用いられること並びに範囲の限界点として明示的に列挙された数値を包含するのみならず、各数値及び部分範囲が明示的に列挙されるかのように、その範囲内に包含される個々の数値又は部分範囲を全て包含すると柔軟に解釈されるべきであることが理解されるべきである。例えば、約120℃~約150℃の温度範囲は、約120℃~約150℃の明示的に列挙された限界点のみならず、125℃~145℃、130℃~150℃等などの部分範囲並びに122.2℃、140.6℃及び141.3℃など、明記された範囲内の小数量などの個々の量も包含すると解釈されるべきである。
【0026】
本明細書で使用される場合、モル濃度(「molar concentration」又は「molarity」)という用語は、溶液の単位体積当たりの物質の量に関しての、溶液中の化学種、特に溶質の濃度の尺度である。モル濃度の最も一般的に使用される単位は、mol/Lの単位を有する1リットル当たりのモル数である。1mol/Lの濃度を有する溶液は、1モル濃度として示され、1Mと示される。
【0027】
本発明において、ファラデー効率としても知られている「クーロン効率」という用語は、電気化学反応を促進するシステム、すなわち電池において電子が移動する充電効率を表すことを意図しており、全サイクルにわたって電池に投入された総電荷に対する電池から抽出された総電荷の比に対応する。さらに、クーロン効率(%)は、各サイクルの放電容量を、各サイクルの充電容量で除し、100を乗じて算出される。
【0028】
本発明において、「二次電池」又は「充電式電池」という用語は、複数回充電、放電、及び再充電を行うことが可能なタイプの電池を示すことを意図している。
【0029】
本明細書で使用される場合、「リチウム金属電池」という用語は、負極として金属リチウムを有する二次電池を示すことを意図している。
【0030】
用語「非晶質」は、本明細書では、ASTM D-3418-08に従って10℃/分の加熱速度で示差走査熱量測定(DSC)によって測定される、5J/g未満、好ましくは3J/g未満、より好ましくは2J/g未満の融解熱を有するポリマーを意味することが意図されている。
【0031】
用語「半結晶性」は、本明細書では、ASTM D3418-08に従って測定される10~90J/g、好ましくは30~60J/g、より好ましくは35~55J/gの融解熱を有するポリマーを意味することが意図されている。
【0032】
用語「アルカリ金属」は、本明細書では、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、及びフランシウム(Fr)、好ましくはLi、Na、及びK、より好ましくはLiの化学元素を意味することが意図されている。本発明では、アルカリ金属には合金も含まれる。
【0033】
前述の概要及び以下の詳細な説明の両方は、例示であり、特許請求される本発明のさらなる説明を提供することを意図していることが理解されるべきである。したがって、本明細書に記載される様々な変更形態及び修正形態は、当業者に明らかであろう。さらに、周知の機能及び構造の説明は、明確にするために且つ簡潔にするために省略されている場合がある。
【0034】
本発明は、
a)アルカリ金属を含む負極;
b)負極表面上の保護層;及び
c)溶媒混合物と少なくとも1種の金属塩とを含む液体電解質;
を含む二次電池であって、保護層が少なくとも1種の(パー)フルオロエラストマーを含み、溶媒混合物が、i)少なくとも1種のフッ素化エーテル化合物と、ii)少なくとも1種の非フッ素化エーテル化合物とを含む、二次電池に関する。
【0035】
一実施形態では、アルカリ金属はLi、Na、又はKである。
【0036】
好ましい実施形態では、アルカリ金属はLiである。
【0037】
別の実施形態では、アルカリ金属はリチウム合金であり、好ましくはLi-Si、Li-Sn、Li-Ge、Li-Si、又はLi-Bである。
【0038】
電気化学セルの電極は、アノード又はカソードと呼ばれる。アノードは電子がセルから出て酸化が起こる電極として定義され、カソードは電子がセルに入って還元が起こる電極として定義される。各電極は、セルを流れる電流の方向に応じて、アノード又はカソードのいずれかになり得る。双極電極は、あるセルのアノードとして機能し、別のセルのカソードとして機能する電極である。セルが充電されているときは、アノードが正極になりカソードが負極になる一方で、セルが放電されているときは、アノードが負極になりカソードが正極になる。
【0039】
本発明では、「負極」という用語は、特に、放電中に酸化が起こる電気化学セルの電極を表すことが意図されている。
【0040】
本発明では、「正極」という用語は、特に、放電中に還元が起こる電気化学セルの電極を表すことが意図されている。
【0041】
本発明において、「集電体」の種類は、それによって提供される電極がカソード又はアノードのいずれであるかに依存する。本発明の電極がカソードである場合、集電体は、典型的には、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)及びそれらの合金からなる群から選択される少なくとも1種の金属、好ましくはAlを含み、好ましくはそれらから構成される。本発明の電極がアノードである場合、集電体は、典型的には、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、銅(Cu)及びそれらの合金からなる群から選択される少なくとも1種の金属、好ましくはCuを含み、好ましくはそれらから構成される。
【0042】
本発明において、「アノードレスリチウムイオン電池」という用語は、特に、電池が組み立てられ最初に充電される前にアノード集電体上にアノード電気活性物質を含まないリチウムイオン電池を意味することが意図されている。最初の充電後、アノードレスリチウムイオン電池は、アノード集電体上にリチウム金属薄層又はリチウム合金薄層のいずれかを含む。すなわち、アノードレスリチウムイオン電池は負極を有するが、製造時には明らかなアノードレス電気活性物質がリチウムイオン電池内に存在しないため、「アノードレス」という用語が使用される。
【0043】
本発明の目的のためには、用語「フルオロエラストマー」は、真のエラストマーを得るためのベース構成成分としての機能を果たすフルオロポリマー樹脂を示すことを意図し、前記フルオロポリマー樹脂は、10重量%超、好ましくは30重量%超の、少なくとも1つのフッ素原子を含む少なくとも1種のエチレン性不飽和モノマー(本明細書では以下、(パー)フッ素化モノマー)に由来する繰り返し単位と、任意選択的な、フッ素原子を含まない少なくとも1種のエチレン性不飽和モノマー(本明細書では以下、水素化モノマー)に由来する繰り返し単位とを含む。
【0044】
真のエラストマーは、ASTM、Special Technical Bulletin、184号規格により、室温でその固有長さの2倍まで伸張させることができ、且つ5分間張力下に保持した後に解放した時点で同時にその初期長さの10%以内まで復帰する材料として定義される。
【0045】
フルオロエラストマーは、一般に、非晶質の生成物であるか、又は結晶化度が低く(結晶相が20体積%未満)、ガラス転移温度(Tg)が室温未満の生成物である。ほとんどの場合、フルオロエラストマーのTgは、有利には10℃未満、好ましくは5℃未満、より好ましくは0℃未満、さらにより好ましくは-5℃未満である。
【0046】
一実施形態では、(パー)フルオロエラストマーは、フッ化ビニリデン(VDF)に由来する繰り返し単位と、VDFとは異なる少なくとも1種の追加の(パー)フッ素化モノマーに由来する繰り返し単位とを含むフッ化ビニリデン系フルオロエラストマーである。
【0047】
(パー)フルオロエラストマーは、典型的には、フルオロエラストマーの全繰り返し単位に対して、少なくとも15モル%、好ましくは少なくとも20モル%、より好ましくは少なくとも35モル%のVDFに由来する繰り返し単位を含む。
【0048】
(パー)フルオロエラストマーは、典型的には、フルオロエラストマーの全繰り返し単位に対して、最大85モル%、好ましくは最大80モル%、より好ましくは最大78モル%のVDFに由来する繰り返し単位を含む。
【0049】
VDFとは異なる好適な(パー)フッ素化モノマーの非限定的な例は、とりわけ:
(a)テトラフルオロエチレン(TFE)及びヘキサフルオロプロピレン(HFP)などの、C
2~C
8パーフルオロオレフィン;
(b)フッ化ビニル(VF)、トリフルオロエチレン(TrFE)、式CH
2=CH-R
f(式中、R
fは、C
1~C
6パーフルオロアルキル基である)のパーフルオロアルキルエチレンなどの、VDFとは異なる水素含有C
2~C
8オレフィン;
(c)クロロトリフルオロエチレン(CTFE)などのC
2~C
8クロロ及び/又はブロモ及び/又はヨード-フルオロオレフィン;
(d)式CF
2=CFOR
f(式中、R
fは、C
1~C
6(パー)フルオロアルキル基、例えば、CF
3、C
2F
5、C
3F
7である)の(パー)フルオロアルキルビニルエーテル(PAVE);
(e)式CF
2=CFOX(式中、Xは、カテナリー酸素原子を含むC
1~C
12((パー)フルオロ)-オキシアルキル、例えば、パーフルオロ-2-プロポキシプロピル基である)の(パー)フルオロ-オキシ-アルキルビニルエーテル;
(f)式:
【化1】
(式中、R
f3、R
f4、R
f5、R
f6のそれぞれは、互いに等しく又は異なり、独立して、フッ素原子、任意選択的に1つ以上の酸素原子を含んでいてもよいC
1~C
6フルオロ-又はパー(ハロ)フルオロアルキル、例えば、-CF
3、-C
2F
5、-C
3F
7、-OCF
3、-OCF
2CF
2OCF
3である)
を有する(パー)フルオロジオキソール;
(g)式:
CFX
2=CX
2OCF
2OR”
f
(式中、R”
fは、直鎖又は分枝鎖のC
1~C
6(パー)フルオロアルキル、C
5~C
6環状(パー)フルオロアルキル、及び1~3個のカテナリー酸素原子を含む直鎖又は分枝鎖のC
2~C
6(パー)フルオロオキシアルキルの中から選択され、X
2=F、Hであり、好ましくは、X
2はFであり、R”
fは、-CF
2CF
3(MOVE1)、CF
2CF
2OCF
3(MOVE2)、又は-CF
3(MOVE3)である)
を有する(パー)フルオロ-メトキシ-ビニルエーテル(本明細書では以下、MOVE);
である。
【0050】
通常、(パー)フルオロエラストマーは、VDFに由来する繰り返し単位とC2~C8パーフルオロオレフィンに由来する繰り返し単位とを含む。好ましい実施形態では、前記C2~C8パーフルオロオレフィンはTFE及びHFPである。
【0051】
(パー)フルオロエラストマーは、任意選択的には、フッ素を含まない1種以上のモノマー(本明細書では以下、水素化モノマー)に由来する繰り返し単位をさらに含み得る。水素化モノマーの例は、とりわけ、C2~C8非フッ素化オレフィン(Ol)、特に、エチレン、プロピレン、1-ブテンなどの、C2~C8非フッ素化α-オレフィン(Ol)、ジエンモノマー、スチレンモノマー、C2~C8非フッ素化α-オレフィン(Ol)であり、より具体的にはエチレン及びプロピレンが、塩基への増加した耐性を達成するために選択されるであろう。
【0052】
任意選択的には、(パー)フルオロエラストマーは、一般式:
【化2】
(式中、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5及びR
6は、互いに等しいか又は異なり、H、ハロゲン、又は場合により1つ以上の酸素基を含むC
1~C
5の任意選択的にハロゲン化されていてもよい基であり、Zは、酸素原子を任意選択的に含んでいてもよい、直鎖又は分枝鎖のC
1~C
18の任意選択的にハロゲン化されていてもよいアルキレン又はシクロアルキレンラジカル、又は例えば、欧州特許出願公開第661304A号明細書(AUSIMONT SPA)に記載されているような(パー)フルオロポリオキシアルキレンラジカルである)
を有する少なくとも1種のビス-オレフィン[ビス-オレフィン(OF)]に由来する繰り返し単位を含み得る。
【0053】
ビス-オレフィン(OF)は、好ましくは、式(OF-1)、(OF-2)及び(OF-3):
(OF-1)
【化3】
(式中、jは、2~10、好ましくは4~8の整数であり、互いに等しいか若しくは異なる、R1、R2、R3、R4は、H、F、又はC
1~5アルキル若しくは(パー)フルオロアルキル基である)、
(OF-2)
【化4】
(式中、Aのそれぞれは、互いに及び出現ごとに等しいか又は異なり、F、Cl、及びHから独立して選択され、Bのそれぞれは、互いに及び出現ごとに等しいか又は異なり、F、Cl、H及びOR
Bから独立して選択され、R
Bは、部分的に、実質的に又は完全にフッ素化又は塩素化されていてもよい分岐鎖又は直鎖アルキルラジカルであり、Eは、エーテル結合が挿入されていてもよい、任意選択的にフッ素化された、2~10個の炭素原子を有する二価基であり、好ましくは、Eは、mが3~5の整数である-(CF
2)
m-基であり、(OF-2)型の好ましいビス-オレフィンは、F
2C=CF-O-(CF
2)
5-O-CF=CF
2である)、
(OF-3)
【化5】
(式中、E、A、及びBは、上で定義されたものと同じ意味を有し、R5、R6、R7は、互いに等しいか又は異なり、H、F又はC
1~5アルキル又は(パー)フルオロアルキル基である)
に従うものからなる群から選択される。
【0054】
本発明の組成物に適切な(パー)フルオロエラストマーは、VDF、TFE、及びHFPに由来する繰り返し単位に加えて、以下:
- 上に詳述された少なくとも1種のビス-オレフィン[ビス-オレフィン(OF)]に由来する繰り返し単位、
- VDF、TFE、及びHFPとは異なる少なくとも1種の(パー)フッ素化モノマーに由来する繰り返し単位、及び
- 少なくとも1種の水素化モノマーに由来する繰り返し単位、
のうち1つ以上を含み得る。
【0055】
本発明の目的に適するフ(パー)フルオロエラストマーの具体的なモノマー組成物の中では、以下:
(i)フッ化ビニリデン(VDF)35~85%、ヘキサフルオロプロペン(HFP)10~45%、テトラフルオロエチレン(TFE)0.1~30%、パーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)0~15%、ビス-オレフィン(OF)0~5%;
(ii)フッ化ビニリデン(VDF)50~80%、パーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)5~50%、テトラフルオロエチレン(TFE)0~20%、ビス-オレフィン(OF)0~5%;
(iii)フッ化ビニリデン(VDF)20~30%、C2~C8非フッ素化オレフィン(Ol)10~30%、ヘキサフルオロプロペン(HFP)及び/又はパーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)18~27%、テトラフルオロエチレン(TFE)10~30%、ビス-オレフィン(OF)0~5%;
(iv)テトラフルオロエチレン(TFE)45~65%、C2~C8非フッ素化オレフィン(Ol)20~55%、フッ化ビニリデン0.1~30%、ビス-オレフィン(OF)0~5%;
(v)テトラフルオロエチレン(TFE)33~75%、パーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)15~45%、フッ化ビニリデン(VDF)5~30%、ヘキサフルオロプロペンHFP0~30%、ビス-オレフィン(OF)0~5%;
(vi)フッ化ビニリデン(VDF)35~85%、フルオロビニルエーテル(MOVE)5~40%、パーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)0~30%、テトラフルオロエチレン(TFE)0~40%、ヘキサフルオロプロペン(HFP)0~30%、ビス-オレフィン(OF)0~5%;
のモノマー組成(モル%)を有するフルオロエラストマーを挙げることができる。
【0056】
さらに好ましくは、本発明の目的に適した(パー)フルオロエラストマーのモノマー組成は、以下の通りである(モル%):フッ化ビニリデン(VDF)50~80%、ヘキサフルオロプロペン(HFP)15~25%、テトラフルオロエチレン(TFE)5~25%。
【0057】
本発明において、「保護層」という用語は、特に、負極のアルカリ金属の表面にコーティングされた層であって、電解質とアルカリ金属、例えばリチウム金属との接触面積を減少させ、その結果副反応を軽減させる層を意味することが意図されている。電池内部の副反応によって形成される固体電解質界面(SEI)層とは対照的に、保護層は予め形成された人工的なSEI層とみなすことができる。コーティング材料の組成は、より優れた性能、例えばイオン伝導度、機械的特性、及び溶媒の透過性を得るために最適化することができる。
【0058】
一実施形態では、負極はLi金属と集電体とを含み、Li金属は少なくとも2つの面、すなわち集電体に貼付される一方の面と、本発明による保護層に面する他方の面とを有する。
【0059】
本発明において、用語「電気活性物質」は、電池の充電段階及び放電段階中にリチウムイオンをその構造中に組み入れるか又は挿入し、そこから実質的に放出することができる電気活性物質を意味することを意図する。
【0060】
本発明による二次電池用の正極を形成する場合、正極の電気活性物質は特に限定されない。それは、式LiMQ2(式中、Mは、Co、Ni、Fe、Mn、Cr及びVなどの遷移金属から選択される少なくとも1種の金属であり、Qは、O又はSなどのカルコゲンである)の複合金属カルコゲニドを含み得る。これらの中でも、式LiMO2(式中、Mは、上に定義されたものと同じものである)のリチウム系複合金属酸化物を使用することが好ましい。それらの好ましい例としては、LiCoO2、LiNiO2、LiNixCo1-xO2(0<x<1)及びスピネル構造化LiMn2O4が挙げられ得る。その別の好ましい例としては、式LiNixMnyCozO2のリチウム-ニッケル-マンガン-コバルトに基づく金属酸化物(x+y+z=1、NMCと呼ばれる)、例えばLiNi1/3Mn1/3Co1/3O2、LiNi0.6Mn0.2Co0.2O2及び式LiNixCoyAlzO2のリチウム-ニッケル-コバルト-アルミニウムに基づく金属酸化物(x+y+z=1、NCAと呼ばれる)、例えばLiNi0.8Co0.15Al0.05O2が挙げられ得る。
【0061】
代替形態として、アノードレスリチウムイオン電池のための正極を形成する場合にはさらに、正極の電気活性化合物は、式M1M2(JO4)fE1-f(式中、M1は、リチウムであり、M1金属の20%未満に対応する別のアルカリ金属によって部分的に置換されていてもよく、M2は、Fe、Mn、Ni又はこれらの混合物から選択される+2の酸化レベルの遷移金属であり、0を含めてM2金属の35%未満に対応する、+1~+5の酸化レベルの1つ以上のさらなる金属によって部分的に置換されていてもよく、JO4は、任意のオキシアニオンであり、Jは、P、S、V、Si、Nb、Mo又はこれらの組み合わせのいずれかであり、Eは、フルオリド、ヒドロキシド又はクロリドアニオンであり、fは、通常、0.75~1に含まれるJO4オキシアニオンのモル分率である)のリチウム化又は部分的にリチウム化された遷移金属オキシアニオン系電気活性物質を含み得る。
【0062】
上記に定義されているようなM1M2(JO4)fE1-f電気活性材料は、好ましくは、ホスフェートをベースとし、秩序立った又は修飾されたカンラン石構造を有し得る。
【0063】
より好ましくは、正極の電気活性物質は、式Li3-xM’yM’’2-y(JO4)3(式中、0≦x≦3であり、0≦y≦2であり、M’及びM’’は、同じ又は異なる金属であり、それらの少なくとも1つは、遷移金属であり、JO4は、好ましくは、別のオキシアニオンで部分的に置換されていてもよいPO4であり、Jは、S、V、Si、Nb、Mo又はそれらの組み合わせのいずれかである)を有する。さらに好ましくは、電気活性物質は、式Li(FexMn1-x)PO4(式中、0≦x≦1であり、xは好ましくは1である(すなわち式LiFePO4のリチウム鉄ホスフェートである))のホスフェート系の電気活性物質である。
【0064】
好ましい実施形態では、正極の電気活性物質は、LiMQ2(MはCo、Ni、Fe、Mn、Cr、及びVから選択される少なくとも1つの金属であり、QはO又はSである);LiNixCo1-xO2(0<x<1);スピネル構造のLiMn2O4;式LiNixMnyCozO2(x+y+z=1)のリチウム-ニッケル-マンガン-コバルトに基づく金属酸化物、式LiNixCoyAlzO2(x+y+z=1)のリチウム-ニッケル-コバルト-アルミニウムに基づく金属酸化物、及びLiFePO4からなる群から選択される。
【0065】
一実施形態では、本発明による正極の少なくとも1種の電気活性化合物は、1.0mAh/cm2~10.0mAh/cm2、好ましくは2.0mAh/cm2~8.0mAh/cm2の面積容量を有するように集電体上に担持される。
【0066】
別の実施形態では、本発明による正極の少なくとも1種の電気活性化合物は、4.0mAh/cm2~7.0mAh/cm2の面積容量を有するように集電体上に担持される。
【0067】
本発明において、「電極の厚さ」という表現は、集電体と電気活性材料層とを合わせた全体の厚さを表すことが意図されている。
【0068】
一実施形態では、本発明による正極の厚さは、40μm~150μm、好ましくは50μm~120μm、より好ましくは50μm~100μmである。
【0069】
一実施形態では、本発明による負極の厚さは、0μm~200、好ましくは20μm~150μm、より好ましくは20μm~100μmである。
【0070】
本発明において、溶媒混合物は、i)少なくとも1種のフッ素化エーテル化合物及びii)少なくとも1種の非フッ素化エーテル化合物を含む。
【0071】
本発明において、「フッ素化エーテル化合物」という用語は、少なくとも1つの水素原子がフッ素によって置き換えられたエーテル化合物を意味することが意図されている。1つ、2つ、3つ又はそれを超える数の水素原子がフッ素で置換され得る。
【0072】
一実施形態では、フッ素化エーテル化合物には、フッ素化モノエーテル化合物、フッ素化ジエーテル化合物、及びフッ素化トリエーテル化合物が含まれる。
【0073】
別の実施形態では、本発明によるフッ素化エーテル化合物は脂肪族化合物である。
【0074】
好ましい一実施形態では、フッ素化エーテル化合物はCaFbHcOdの化学式を有し、式中のdは1~3の整数であり、aは3~10、好ましくは4~7の整数であり、2*(a+1)=b+cである。
【0075】
より好ましい実施形態では、フッ素化エーテル化合物は、以下からなる群から選択される:
i)1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル(TTE)、1,1,3,3-テトラフルオロ-1-(1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ)プロパン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロ-3-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)プロパン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロ-3-(1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロポキシ)プロパン、1,1’-オキシビス(1,1,2,2-テトラフルオロエタン)、1,1,1,3,3-ペンタフルオロ-3-メトキシ-2-(トリフルオロメチル)プロパン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロ-3-(フルオロメトキシ)-2-(トリフルオロメチル)プロパン、2,2-ジフルオロ-2-メトキシ-1,1-ビス(トリフルオロメチル)エタン、2-(エトキシジフルオロメチル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、2-(ジフルオロプロポキシメチル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、1,1-ビス(ジフルオロメトキシ)-1,2,2,2-テトラフルオロエタン、1,1,2,2-テトラフルオロ-3-(1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ)プロパン、1-(2,2-ジフルオロエトキシ)-1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、1,1,2,2,3-ペンタフルオロ-3-(1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ)プロパン、1-(3,3-ジフルオロプロポキシ)-1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン、1-[ジフルオロ(1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ)メトキシ]-1,1,2,2,2-ペンタフルオロエタン、1,1’-[(ジフルオロメチレン)ビス(オキシ)]ビス(1,1,2,2,2-ペンタフルオロエタン)、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-フルオロメトキシメトキシプロパン、ペンタフルオロ[1,2,2,2-テトラフルオロ-1-(トリフルオロメトキシ)エトキシ]エタン、1,1,2,3,3-ペンタフルオロ-1,3-ジメトキシプロパン、1,1,2,2,3,3-ヘキサフルオロ-1-メトキシ-3-トリフルオロメトキシプロパン、1,1’-[(ジフルオロメチレン)ビス(オキシ)]-ビス(2,2,2-トリフルオロエタン)、1,2-ビス(ジフルオロメトキシ)-1,1,2,2-テトラフルオロエタン、[2-(ジフルオロメトキシ)-1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ]ジフルオロメタン、1-[ジフルオロ(トリフルオロメトキシ)メトキシ]-1,1,2,2-テトラフルオロ-2-メトキシエタン、1-(ジフルオロメトキシメトキシ)-1,1,2,2-テトラフルオロ-2-(トリフルオロメトキシ)エタン、1-[(ジフルオロメトキシ)ジフルオロメトキシ]-1,1,2,2-テトラフルオロ-2-メトキシエタン、及び1-(ジフルオロメトキシ)-2-[(ジフルオロメトキシ)ジフルオロメトキシ]-1,1,2,2-テトラフルオロエタン;
ii)一般式(A)で表される化合物
【化6】
(式中、XはH又はFである);並びに
iii)これらの混合物。
【0076】
さらにより好ましい実施形態では、フッ素化エーテル化合物には、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル(TTE)及びCF2HCF2-OCH2CH2O-CF2CF2Hが含まれる。
【0077】
本発明において、用語「非フッ素化エーテル化合物」は、フッ素原子が存在しないエーテル化合物を意味することが意図されている。
【0078】
本発明による適切な非フッ素化エーテル化合物の非限定的な例としては、特に以下のものが挙げられる:
- 脂肪族、脂環式、又は芳香族のエーテル、より具体的には、ジブチルエーテル、ジペンチルエーテル、ジイソペンチルエーテル、ジメトキシエタン(DME)、1,3-ジオキソラン(DOL)、テトラヒドロフラン(THF)、2-メチルテトラヒドロフラン、及びジフェニルエーテル;
- エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル(DEGDME)、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル(DEGDEE)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(TEGME)、ポリエチレングリコールジメチルエーテル(PEGDME)などのグリコールエーテル;
- グリコールエーテルエステル、例えばエチレングリコールメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテートなど;
【0079】
好ましい実施形態では、本発明による非フッ素化エーテル化合物は、ジメトキシエタン(DME)、1,3-ジオキソラン(DOL)、ジブチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(TEGME)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(DEGME)、ジエチレングリコールジエチルエーテル(DEGDEE)、ポリエチレングリコールジメチルエーテル(PEGDME)、2-メチルテトラヒドロフラン、及びテトラヒドロフラン(THF)を含む。
【0080】
より好ましい実施形態では、非フッ素化エーテル化合物は、DMEとDOLとの混合物である。
【0081】
さらにより好ましい実施形態では、非フッ素化エーテル化合物はDMEである。
【0082】
一実施形態では、本発明による溶媒混合物は、溶媒混合物の総体積に対して、
- 60~90体積%のi)フッ素化エーテル化合物;及び
- 10~40体積%のii)非フッ素化エーテル化合物;
を含む。
【0083】
別の実施形態では、本発明による溶媒混合物は、溶媒混合物の総体積に対して、
- 80~90体積%のi)フッ素化エーテル化合物;及び
- 10~20体積%のii)非フッ素化エーテル化合物;
を含む。
【0084】
特定の一実施形態では、本発明による液体電解質は、溶媒混合物の総体積を基準として
- 80体積%のi)6個の炭素原子を含むフッ素化エーテル化合物;
- 20体積%のii)非フッ素化エーテル化合物;及び
- 溶媒混合物中に溶解した1MのLiFSI;
を含む。
【0085】
別の特定の実施形態では、本発明による液体電解質は、溶媒混合物の総体積を基準として
- 80体積%のi)6個の炭素原子を含むフッ素化エーテル化合物;
- 20体積%のii)非フッ素化エーテル化合物;及び
- 溶媒混合物中に溶解した2MのLiFSI;
を含む。
【0086】
1つ以上の特定の実施形態では、溶媒混合物は、溶媒混合物の総体積に対して80体積%のTTE及び20体積%のDMEを含む。
【0087】
別の特定の実施形態では、溶媒混合物は、溶媒混合物の総体積に対して80体積%のCF2HCF2-OCH2CH2O-CF2CF2H及び20体積%のDMEを含む。
【0088】
一実施形態では、金属塩は、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)、過塩素酸リチウム(LiClO4)、ヘキサフルオロヒ酸リチウム(LiAsF6)、ヘキサフルオロアンチモン酸リチウム(LiSbF6)、ヘキサフルオロタンタル酸リチウム(LiTaF6)、テトラクロロアルミン酸リチウム(LiAlCl4)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)、クロロホウ酸リチウム(Li2B10Cl10)、フルオロホウ酸リチウム(2B10F10)、Li2B12FxH12-x(x=0~12)、LiPFx(RF)6-x及びLiBFy(RF)4-y(式中、RFは、パーフルオロ化C1~C20アルキル基又はパーフルオロ化芳香族基を表し、x=0~5であり、y=0~3である)、LiBF2[O2C(CX2)nCO2]、LiPF2[O2C(CX2)nCO2]2,LiPF4[O2C(CX2)nCO2](式中、Xは、H、F、Cl、C1~C4アルキル基及びフッ素化アルキル基からなる群から選択され、n=0~4である)、リチウムトリフルオロメタンスルホネート(LiCF3SO3)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドLi(FSO2)2N(LiFSI)、LiN(SO2CmF2m+1)(SO2CnF2n+1)、及びLiC(SO2CkF2k+1)(SO2CmF2m+1)(SO2CnF2n+1)(式中、k=1~10であり、m=1~10であり、n=1~10である)、LiN(SO2CpF2pSO2)及びLiC(SO2CpF2pSO2)(SO2CqF2q+1)(式中、p=1~10であり、q=1~10である)、キレート化されたオルトボレート及びキレート化されたオルトホスフェートのリチウム塩、例えばリチウムビス(オキサラト)ボレート[LiB(C2O4)2]、リチウムビス(マロナト)ボレート[LiB(O2CCH2CO2)2]、リチウムビス(ジフルオロマロナト)ボレート[LiB(O2CCF2CO2)2]、リチウム(マロナトオキサラト)ボレート[LiB(C2O4)(O2CCH2CO2)]、リチウム(ジフルオロマロナトオキサラト)ボレート[LiB(C2O4)(O2CCF2CO2)]、リチウムトリス(オキサラト)ホスフェート[LiP(C2O4)3]、リチウムトリス(ジフルオロマロナト)ホスフェート[LiP(O2CCF2CO2)3]、リチウムジフルオロホスフェート(LiPO2F2)、リチウム2-トリフルオロメチル-4,5-ジシアノイミダゾール(LiTDI)、又はこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種のリチウム塩である。好ましい実施形態では、リチウム塩はLiFSIである。
【0089】
一実施形態では、本発明による液体電解質中のリチウム塩のモル濃度(M)は、1M~8M、好ましくは1M~3M、より好ましくは1M~2Mである。
【0090】
本発明による二次電池は、セパレータをさらに含み得る。
【0091】
用語「セパレータ」とは、本明細書では、電気化学デバイス内の反対の極性の電極を電気的に及び物理的に分離し、それらの間を流れるイオンを透過させる、単層又は多層の高分子の不織セルロース又はセラミック材料/フィルムを意味することを意図する。
【0092】
本発明において、セパレータは、電気化学デバイスのセパレータのために一般的に使用される任意の多孔質基材であってよい。
【0093】
一実施形態では、セパレータは、ポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンスルフィド、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリエチレンナフタレン、ポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリル、ポリオレフィン(ポリエチレン及びポリプロピレンなど)又はそれらの混合物などのポリエステルからなる群から選択される少なくとも1つの材料を含む多孔質高分子材料である。
【0094】
特定の実施形態では、セパレータは、例えばSiO2、TiO2、Al2O3、ZrO2などの無機ナノ粒子でコーティングされた多孔質高分子材料である。
【0095】
別の特定の実施形態において、セパレータは、ポリ二フッ化ビニリデン(PVDF)でコーティングされた多孔質高分子材料である。
【0096】
特定の実施形態では、c)液体電解質は、少なくとも1種の添加剤、特に膜形成添加剤をさらに含み、これは、電極表面の溶媒の前に反応することによって、アノード表面及び/又はカソード表面における固体電解質界面(SEI)層の形成を促進する。したがってSEIの主成分は、電解質溶媒と、Li2CO3、アルキルリチウムカーボネート、アルキルリチウムオキシドなどの塩と、LiPF6系電解質についてはLiFなどのその他の塩部分との分解生成物を含む。通常、膜形成添加剤の還元電位は、反応がアノード表面で起こる時の溶媒の還元電位よりも高く、膜形成添加剤の酸化電位は、反応がカソード側で起こる時の溶媒の酸化電位よりも低い。
【0097】
別の実施形態では、本発明による膜形成添加剤は、1,3-プロパンスルトン(PS)、エチレンサルファイト(ES)、及びプロプ-1-エン-1,3-スルトン(PES)を含む環状亜硫酸塩及び硫酸塩化合物;ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホン(別名スルホラン)、エチルメチルスルホン、及びイソプロピルメチルスルホンを含むスルホン誘導体;スクシノニトリル、アジポニトリル、グルタロニトリル、及び4,4,4-トリフルオロニトリルを含むニトリル誘導体;硝酸リチウム(LiNO3);リチウムジフルオロオキサラトボレート(LiDFOB)、リチウムフルオロマロナト(ジフルオロ)ボレート(LiFMDFB)を含むホウ素誘導体塩;酢酸ビニル、ビフェニルベンゼン、イソプロピルベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン、トリス(トリメチルシリル)ホスフェート、トリフェニルホスフィン、エチルジフェニルホスフィナイト、トリエチルホスファイト、トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)ホスファイト、無水マレイン酸、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、一フッ化エチレンカーボネート(4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン)、二フッ化エチレンカーボネート、セシウムビス(トリフルオロスルホニル)イミド(CsTFSI)、及びフッ化セシウム(CsF)、並びにこれらの混合物からなる群から選択される。
【0098】
好ましい一実施形態では、本発明による膜形成添加剤はビニレンカーボネートである。
【0099】
本発明において、膜形成添加剤の合計量は、c)液体電解質溶液の総重量に対して0~30重量%、好ましくは0~20重量%、より好ましくは0~15重量%、さらに好ましくは0~5重量%であってよい。
【0100】
膜形成添加剤の合計量は、本発明の液体電解質溶液に含まれる場合、c)液体電解質の総重量に対して0.05~10.0重量%、好ましくは0.05~5.0重量%、より好ましくは0.05~2.0重量%であってよい。
【0101】
好ましい実施形態では、膜形成添加剤の合計量は、c)液体電解質の少なくとも1.0重量%を占める。
【0102】
本発明は、二次電池におけるアルカリ金属を含む負極の保護層としての(パー)フルオロエラストマーの使用であって、二次電池が、i)少なくとも1種のフッ素化エーテル化合物と、ii)少なくとも1種の非フッ素化エーテル化合物と、を含有する溶媒混合物を含む使用にも関する。
【0103】
好ましい実施形態では、(パー)フルオロエラストマーは、フッ化ビニリデン(VDF)とヘキサフルオロプロペン(HFP)とテトラフルオロエチレン(TFE)とのターポリマーであり、そのモル比は50~80:15~25:2~25の範囲である。
【0104】
別の好ましい実施態様では、溶媒混合物は、溶媒混合物の総体積に対して、
- 60~90体積%、好ましくは80~90体積%のi)フッ素化エーテル化合物;及び
- 10~40体積%、好ましくは10~20体積%のii)非フッ素化エーテル化合物;
を含む。
【0105】
特定の一実施形態では、溶媒混合物は、溶媒混合物の総体積に対して80体積%のTTEと20体積%のDMEとを含む。
【0106】
別の特定の実施形態では、溶媒混合物は、溶媒混合物の総体積に対して80体積%のCF2HCF2-OCH2CH2O-CF2CF2Hと20体積%のDMEとを含む。
【0107】
参照により本明細書に組み込まれる特許、特許出願及び公開資料の開示が、ある用語を不明瞭なものとさせ得る程度まで本出願の記載と矛盾する場合、本記載が優先する。
【0108】
ここで、以下の実施例に関連して本発明を詳細に説明するが、その目的は、例示的であるにすぎず、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【実施例】
【0109】
原材料
- TTE:約93℃の沸点を有する1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテルのフッ素化エーテル化合物、ChemFishから市販。
- TFEE:約160℃の沸点を有する1,2-ビス(1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ)エタン、すなわちCF2HCF2-OCH2CH2O-CF2CF2H、Solvay社内で合成
- DME:1,2-ジメトキシエタン、Sigma-Aldrichから市販
- フルオロエラストマーA:TECNOFLON(登録商標)TN(VDF-HFP-TFE)、Solvay Specialty Polymers Italy S.p.Aから入手可能
- フルオロエラストマーB:TECNOFLON(登録商標)HS(LX)(VDF-HFP)、Solvay Specialty Polymers Italy S.p.Aから入手可能
- Li塩:リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、株式会社日本触媒から市販
【0110】
薄膜キャスティング
A/キャスティング溶液の配合
テトラヒドロフラン(THF)中の1-Tecnoflon(登録商標)配合物
2~5重量%のTECNOFLON(登録商標)樹脂をTHF溶媒に溶解させることによってキャスティング溶液を調製した。3重量%の濃度の溶液50gを調製するために、以下の手順で混合を行った:
- TECNOFLON(登録商標)を80℃の真空オーブンで一晩(約16時間)乾燥させる。
- Arが充填されたグローブボックス内で、1.5gのTECNOFLON(登録商標)と48.5gのTHF(無水グレード)とを50mlのバイアル瓶の中で混合する。
- 完全に溶解するまでマグネチックスターラーで撹拌する。継続時間は使用するポリマー及び溶媒によって異なり得る。THF中のTECNOFLON(登録商標)については、50℃で16時間が適用された。
【0111】
リチウム塩を添加する場合、リチウム塩はTECNOFLON(登録商標)の含有量に対して20重量%の濃度で使用し、リチウム塩が適切に確実に溶解するように、TECNOFLON(登録商標)を添加する前の第2の工程で添加した。
【0112】
B/キャスティング手順
厚さ約2μmの層を作製するために、Arを充填したグローブボックス内で以下の手順でドクターブレード装置を使用した:
- 最初に、酸素と水分を含まない一枚の紙をドクターブレードの真空テーブルの上に置くが、全ての表面を覆う必要がある。
- 紙シートの上に、アノード基材を完全に平らにして置く。
- ブレードの厚さを100μm、基材の厚さを30μmに設定する(Li/Cu基材の場合)。
- 基材上を横切るようにブレードを配置する。
- 押し棒を低速に設定し、ポリマー溶液を基材の右端にそって垂らし、すぐにキャスティングを進める。
- ブレードをきれいにし、過剰な溶液を除去する。
【0113】
キャスティング後、Arを充填したグローブボックス内で、65~90℃の温度でフィルムを1時間乾燥させた。保護された負極は、さらに電池性能試験のためにコインセルに組み込んだ。
【0114】
C/電解液の配合:
局所高濃度電解液(LHCE)
電解液は、グローブボックスでマグネチックスターラーを使用する簡単な混合方法で調製した。リチウム塩としてLiFSIを使用し、主溶媒としてDMEを使用した。配合を最適化するために、最初にLiFSIをDMEに溶解し、透明な溶液になるまで混合した。透明な溶液を確認した後、フッ素化エーテル溶媒を希釈剤として混合し、1Mの濃度に到達させた。
【0115】
電池性能試験
A/Li金属セルの作製:
LCO正極は、片面がコーティングされた電極(16mg/cm2、プレスなし、幅200mm)としてLi-Fun Technology Corporation Limitedから購入した。Li/Cu負極は本庄ケミカル株式会社から購入した。電解液はDMEとTTEに基づいて配合した。標準的な東燃系の膜(厚さ20μmのポリオレフィン)をセパレータとして使用した。コインセルのケーシングとスペーサは、宝泉株式会社から購入した(CR2032タイプ、SS316ステンレス鋼)。
【0116】
電池の全ての要素は、組み込み又は混合の前に、真空チャンバー又はAr充填グローブボックス内で24時間乾燥させた。電解液とキャスティング配合物の溶媒は、モレキュラーシーブを使用して24時間乾燥させた。
【0117】
B/コインセルの取り付け手順
全ての部品が正確に中央に配置されていることを確認しながら、Arで満たしたグローブボックス内で全ての部品を順番に組み立てることによって、フルセルを作製した。その後、液体電解質を2回、すなわち1回目は負極側に70μl、2回目はセパレータ表面に70μl垂らし、約1000psiの圧力をかけることによって専用装置でセルを閉じた。このセルをそのまま10分間放置した後、電気化学的性能の分析を行った。
【0118】
C/電池性能の測定
20℃に調節された気候室内に配置した、セルホルダーを備えたBiologic BCS-805を使用することによってフルセルを試験した。電気化学インピーダンス分光法(EIS)分析は、サイクル開始時(形成サイクル前)、3回の形成サイクル後、及び試験終了時にそれぞれ実施した。容量の80%におけるサイクル数を測定した。
【0119】
E1~E2の本発明の実施例は、DME/TTE又はDME/TFEE溶媒混合物中の1MのLiFSIを用いて製造した。ここでのフルオロエラストマーA又はフルオロエラストマーBは、以下の表1に示されているように、リチウム金属表面の保護層に使用されるように組み込んだ。
【0120】
比較例として、同様に表1に示されているように、CE1~CE2を、DME/TTE又はDME/TFEE溶媒混合物中の1MのLiFSIを用いて、フルオロエラストマーなしで作製した。
【0121】
【0122】
本発明の実施例E1~E2は、容量維持率(80%の容量におけるサイクル数)の向上を示したが、フルオロエラストマーを含まないCE1及びCE2は、より低い容量維持率を示した。
【国際調査報告】