(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-01
(54)【発明の名称】進行性慢性間質性肺疾患の治療方法
(51)【国際特許分類】
C07K 16/28 20060101AFI20241025BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20241025BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20241025BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241025BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20241025BHJP
C12P 21/08 20060101ALN20241025BHJP
C12Q 1/686 20180101ALN20241025BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALN20241025BHJP
C12Q 1/6851 20180101ALN20241025BHJP
C12Q 1/6837 20180101ALN20241025BHJP
【FI】
C07K16/28 ZNA
A61K39/395 N
A61P11/00
A61P43/00 105
A61P31/14
C12P21/08
C12Q1/686 Z
C12Q1/6869 Z
C12Q1/6851 Z
C12Q1/6837 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024529180
(86)(22)【出願日】2022-11-17
(85)【翻訳文提出日】2024-07-11
(86)【国際出願番号】 EP2022082299
(87)【国際公開番号】W WO2023089042
(87)【国際公開日】2023-05-25
(32)【優先日】2021-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524150476
【氏名又は名称】ユーシービー ビオファルマ ソシエタ ア レスポンサビリタ リミタータ
【氏名又は名称原語表記】UCB BIOPHARMA SRL
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】ジョンソン、 ティモシー スコット
(72)【発明者】
【氏名】ジェイムス、 イアン トロロペ
(72)【発明者】
【氏名】シム、 パトリシア ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】タッチャー、 トーマス ヘンリー
【テーマコード(参考)】
4B063
4B064
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA13
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ08
4B063QQ53
4B063QR55
4B063QR58
4B063QS32
4B063QS34
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4B064AG27
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4B064DA01
4C085AA14
4C085BB11
4C085BB31
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4C085EE01
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA09
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、特発性肺線維症(IPF)等の進行性慢性間質性肺疾患の治療に使用する、酵素のトランスアミダーゼ活性を阻害する抗トランスグルタミナーゼ2型抗体に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
進行性慢性間質性肺疾患を有する対象の治療又は進行性慢性間質性肺疾患の発症予防の使用のための抗トランスグルタミナーゼ2(抗TG2)抗体。
【請求項2】
前記肺疾患が、特発性肺線維症(IPF)、剥離性間質性肺炎(DIP)、急性間質性肺炎(AIP;或いはHamman-Rich症候群として知られる)、過敏性肺炎(HSP)、非特異的間質性肺炎(NSIP)、呼吸性細気管支炎関連間質性肺疾患(RB-ILD)、特発性器質化肺炎(COP;或いは閉塞性気管支炎器質化肺炎(Bronchiolitis Obliterans Organizing Pneumonia)又はBOOPとも称される)、サルコイドーシス、石綿症及びリンパ性間質性肺炎(LIP)からなる群から選択される、請求項1に記載の使用のための抗TG2抗体。
【請求項3】
COVID感染に関連する肺線維症を有する対象の治療又はCOVID感染に罹患した対象における肺線維症の発症予防の使用のための抗トランスグルタミナーゼ2(抗TG2)抗体。
【請求項4】
前記肺疾患又は肺線維症が、対象のサンプル中のマーカーの増加によって特徴付けられ、前記マーカーが、TG2活性、TG2をコードするmRNA、TG2抗原、TG2の輸送の増強又はそれらの任意の組み合わせの群から選択される、前記請求項の何れか一項に記載の使用のための抗TG2抗体。
【請求項5】
前記抗体は、トランスグルタミナーゼ2型(TG2)のコア領域内のエピトープに結合し、TG2活性を阻害し、前記コア領域は、TG2のアミノ酸143~473からなり、及び、阻害される前記TG2活性は、N-ε(γ-グルタミル)リジンのイソペプチド結合によるリジン及びグルタミンとのTG2架橋である、前記請求項の何れか一項に記載の使用のための抗TG2抗体。
【請求項6】
前記抗体又はその抗原結合フラグメントが、
a.インタクトな抗体を含むか又はインタクトな抗体からなる、
b.抗原結合フラグメントを含むか又は抗原結合フラグメントからなる、
前記請求項の何れか一項に記載の使用のための抗TG2抗体。
【請求項7】
前記抗体が以下の配列を含む、前記請求項の何れか一項に記載の使用のための抗TG2抗体:
(i)KASQDINSYLT(LCDR1;配列番号NO.1);LVNRLVD(LCDR2;配列番号NO.2);LQYDDFPYT(LCDR3;配列番号NO.3);THAMS(HCDR1;配列番号NO.4);TISSGGRSTYYPDSVKG(HCDR2;配列番号NO.5);及び、LISTY(HCDR3;配列番号NO.6);又は、
(ii)KASQDINSYLT(LCDR1;配列番号NO.1);LTNRLMD(LCDR2;配列番号NO.7);LQYVDFPYT(LCDR3;配列番号NO.8);SSAMS(HCDR1;配列番号NO.9);TISSGGRSTYYPDSVKG(HCDR2;配列番号NO.5);及び、LISPY(HCDR3;配列番号NO.10);又は、
(iii)KASQDINSYLT(LCDR1;配列番号NO.1);RTNRLFD(LCDR2;配列番号NO.11);LQYDDFPYT(LCDR3;配列番号NO.3);SSAMS(HCDR1);TISVGGGKTYYPDSVKG(HCDR2;配列番号NO.9);及び、LISLY(HCDR3;配列番号NO.12)。
【請求項8】
前記請求項の何れか一項に記載の使用のための抗TG2抗体であって、該抗体は、以下を含む、抗TG2抗体:
a)配列番号NO:13から配列番号No.27の何れか1つに定義される配列を有する軽鎖可変ドメイン及び配列番号NO.28から配列番号No.40の何れか1つに定義される配列を有する重鎖可変ドメイン、
b)配列番号NO.13から配列番号No.27の何れか1つに定義される配列に対して少なくとも80%の同一性又は類似性、好ましくは少なくとも90%の同一性若しくは類似性又は好ましくは少なくとも95%の同一性若しくは類似性を有する軽鎖可変ドメイン及び配列番号NO.28から配列番号No.40の何れか1つに定義される配列に対して少なくとも80%の同一性若しくは類似性、好ましくは少なくとも90%の同一性若しくは類似性又は好ましくは少なくとも95%の同一性若しくは類似性を有する重鎖可変ドメイン。
【請求項9】
請求項1~6の何れか一項に記載の使用のための抗TG2抗体であって、前記抗体が、請求項7及び8の何れか一項に定義される抗体とTG2への結合と競合する、抗TG2抗体。
【請求項10】
進行性慢性間質性肺疾患を有する対象を治療するための又は対象における進行性慢性間質性肺疾患の発症を予防するための方法であって、治療上有効な量の抗TG2抗体を前記対象に投与することを含む方法。
【請求項11】
COVID感染に関連する肺線維症を有する対象を治療するための又はCOVID感染に罹患した対象における肺線維症の発症を予防するための方法であって、前記方法が、治療上有効な量の抗TG2抗体を前記対象に投与する工程を含む、方法。
【請求項12】
進行性慢性間質性肺疾患を有する対象者の治療のための又は進行性慢性間質性肺疾患の発症予防のための医薬の製造のための抗トランスグルタミナーゼ2(TG2)抗体の使用。
【請求項13】
COVID感染に関連する肺線維症を有する対象の治療のための又はCOVID感染に罹患した対象における肺線維症の発症予防のための医薬の製造のための、抗トランスグルタミナーゼ2(TG2)抗体の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野:
本発明は、特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis)(IPF)等の進行性慢性間質性肺疾患(progressive chronic interstitial lung disease)の治療に使用する、酵素のトランスアミダーゼ活性を阻害する抗トランスグルタミナーゼ2型抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景:
組織トランスグルタミナーゼ(tissue transglutaminase)又はトランスグルタミナーゼ2型(TG2)は、イプシロン(ガンマ-グルタミル)リジンジペプチド結合を介してタンパク質間に架橋を形成する酵素である。TG2の高発現は、異常なタンパク質架橋を引き起こし、様々なタイプの組織瘢痕化、線維化、いくつかの脳疾患における神経原線維のもつれの形成、いくつかの癌における化学療法への抵抗性等、いくつかの病態に関連している。低分子、サイレンシングRNA又は抗体等の様々なTG2阻害剤(例えば、非特許文献1、非特許文献2、特許文献1、特許文献2又は特許文献3)が、TG2が介在する疾病(disorder)の可能性のある治療のために開示されている。
【0003】
進行性慢性間質性肺疾患には、特発性肺線維症(IPF)があり、肺間質に瘢痕組織が沈着して肺胞膜が肥厚し、肺機能が進行性に低下し、最終的には死に至る。IPFと診断された後の全体的な予後は、病状が着実に進行し、最終的には死に至るため、一般的に不良である。
【0004】
TG2及びLOXL2の増加は、特発性肺線維症等の進行性慢性間質性肺疾患と関連している(非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5)。IPF由来の線維芽細胞においてTG2が過剰発現又は過剰活性化すると、細胞外マトリックス(ECM)のタンパク質間のイプシロン(ガンマ-グルタミル)リジン架橋が増加する。
TG2及びLOXL2を、小さな阻害剤の使用又は線維症誘導中のヌルマウスの使用によって操作すると、ブレオマイシン処理動物(bleomycin-treated animals)における肺の炎症及び線維症が減少する(非特許文献3、非特許文献6、非特許文献7、非特許文献8、非特許文献5を参照されたい)。
例えば、線維芽細胞の接着及び増殖アッセイでは、TG2とシスタミン(汎TG阻害剤)の同時添加が、TG2に関連する(associated with)接着の増加を阻害することが示されている(非特許文献5を参照されたい)。
線維化リモデリングにおけるTG2架橋活性の主な役割は、ECMタンパク質にプロテアーゼ耐性の分子内架橋を組み込むことによって細胞外マトリックス(ECM)のターンオーバーを遅らせ、TGFβ1を局所的に活性化することにあるようであるが、in vitroで肺線維芽細胞の接着を低下させるシスタミンの使用に代表されるように、肺細胞では、細胞接着におけるTG2の非酵素的な役割は、トランスアミド化活性を阻害することによって調節されるかもしれないという新たな証拠もいくつか出てきている。
【0005】
承認された2つの治療薬、ピルフェニドン(pirfenidone)(コラーゲン合成を含むTGFβ1関連経路の調節を介して部分的に機能すると思われる)及びニンテダニブ(nintedanib)(複数のチロシンキナーゼを標的とする)は、一部の患者において疾患の進行を遅らせるのに有効であり、追加の治療選択肢が緊急に必要とされている(非特許文献9)。
しかしながら、IPFのような進行性慢性間質性肺疾患の治療及び予防における使用並びにCOVID感染に関連する肺線維症を有する対象の治療における使用又はCOVID感染に罹患した患者における肺線維症の発症の予防における使用のための、さらなる有効な療法を同定する必要性が残っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2006/100679号
【特許文献2】国際公開第2012/146901号
【特許文献3】国際公開第2013/175229号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Siegel et al.,2007
【非特許文献2】Wang et al.,2020
【非特許文献3】Olsen et al.、2011
【非特許文献4】Olsen et al.、2020
【非特許文献5】Philp et al.、2018
【非特許文献6】Olsen et al.,2014
【非特許文献7】Raghu 2017
【非特許文献8】Vaidya et al.,2017
【非特許文献9】Margaritopoulos et al.,2016
【発明の概要】
【0008】
発明の概要:
本発明の目的は、特発性肺線維症(IPF)等の進行性慢性間質性肺疾患の治療に使用するため又は特発性肺線維症(IPF)等の進行性慢性間質性肺疾患の発症予防に使用するための特異的抗トランスグルタミナーゼ2(抗TG2)抗体を提供することである。或いは、本発明は、COVID感染に関連する(associated with)肺線維症(lung fibrosis)を有する対象(subject)の治療又はCOVID感染に罹患した患者(patient)における肺線維症の発症予防に使用するための特異的抗トランスグルタミナーゼ2(抗TG2)抗体を提供する。
【0009】
第二の態様において、本発明は、進行性慢性間質性肺疾患を治療するための又はその発症を予防するための方法であって、治療上有効な量の抗TG2抗体を投与することを含む、方法を提供する。
或いは、本発明は、COVID感染に関連する肺線維症を有する対象を治療するための又はCOVID感染に罹患した患者における肺線維症の発症を予防するための方法であって、治療上有効な量の抗TG2抗体を投与することを含む方法を提供する。
【0010】
第三の態様において、本発明は、進行性慢性間質性肺疾患の治療のための又は特発性肺線維症(IPF)等の進行性慢性間質性肺疾患の発症予防のための医薬の製造のための抗TG2抗体の使用に関する。
あるいは、本発明は、COVID感染に関連する肺線維症を有する対象の治療又はCOVID感染に罹患した患者における肺線維症の発症の予防における医薬の製造のための抗TG2抗体の使用に関する。
【0011】
定義:
本明細書全体は、統一された開示として関連付けられることを意図しており、本明細書に記載されている特徴の組み合わせは、例えその組み合わせが本明細書の同じ文又は段落又は節に一緒に記載されていなくても、すべて想定されていることを理解されたい。「a」又は「an」を用いて記載又は特許請求され得る本発明の態様に関して、文脈上より限定された意味が明確に要求されない限り、これらの用語は、「1つ又は複数(one or more)」を意味すると理解すべきである。「又は(or)」という用語は、文脈上明確にそうでないことが要求されない限り、代替的な(alternative)又は一緒の(together)項目を包含するものと理解されるべきである。本発明の態様がある特徴を「含む(comprising)」と記載されている場合、実施形態は、その特徴「からなる(consisting)」又は「本質的になる(consisting essentially of)」とも考えられる。
【0012】
- 「組織トランスグルタミナーゼ(tissue transglutaminase)」、「トランスグルタミナーゼ2型(transglutaminase type 2)」又は「TG2」という用語は、イプシロン(ガンマ-グルタミル)リジンジペプチド結合を介してタンパク質間に架橋を形成する酵素を指す。
TG2は、典型的にはUniProtエントリーP21980(配列番号NO.41)に記載されているアミノ酸配列を有するタンパク質、すなわちヒトTG2を指す。
用語「TG2」はまた、(a)TG2の活性を保持する配列番号NO.41のアミノ酸配列に対して、1つ若しくは複数のアミノ酸置換、修飾、欠失若しくは挿入を有する誘導体又は(b)その変異体であるタンパク質、例えば変異体は、典型的には、配列番号NO.41に対して、少なくとも約75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%又は95%の同一性(又は配列番号NO.41に対して約96%、97%、98%若しくは99%の同一性さえも)を保持するタンパク質を指しても良い。タンパク質TG2は遺伝子Tgm2によってコードされている。
【0013】
- 「抗TG2抗体」という用語は、本明細書で使用する場合、TG2と結合し、そのトランスアミダーゼ活性を阻害して架橋を防ぐ抗体分子を意図している。このような抗体の例は、国際公開第2013/175229号に記載されている。限定はしないが、本発明に従って使用できる抗TG2抗体は、例えば、配列番号NO.24で定義される軽鎖可変領域及び配列番号NO.37で定義される重鎖可変領域を含む。
【0014】
- 本明細書で使用する「抗体」という用語には、モノクロ-ナル抗体、ポリクロ-ナル抗体及び当技術分野で知られているような組換え技術によって生成される組換え抗体が含まれるが、これらに限定されるものではない。「抗体」には、あらゆる種の抗体、例えば、あらゆるアイソタイプ(isotype)のヒト抗体、例えば、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3、IgG4、IgE、IgD及びIgGA1、IgGA2又はIgMのような5量体並びにそれらの修飾バリアントを含むこれらの基本構造の2量体として産生される抗体;非ヒト霊長類抗体、例えば、チンパンジ-、ヒヒ、アカゲザル又はシノモルガン猿由来の抗体;げっ歯類抗体、例えば、マウス又はラット由来の抗体;ウサギ又はヤギ又はウマ抗体;ラクダ類抗体(例えば、Nanobodies(登録商標)のようなラクダ又はラマ由来の抗体)及びその誘導体;ニワトリ抗体のような鳥類種の抗体;又はサメ抗体のような魚類種の抗体、が含まれる。「抗体」という用語は、少なくとも1つの重鎖及び/又は軽鎖抗体配列の第1部分(first portion)が第1種(first species)由来で、前記重鎖及び/又は軽鎖抗体配列の第2部分(second portion)が第2種(second species)由来である「キメラ」抗体も指す。本明細書で関心のあるキメラ抗体には、非ヒト霊長類(例えば、ヒヒ、アカゲザル又はカニクイザル等の旧世界サル)由来の可変ドメイン抗原結合配列及びヒト定常領域配列を含む「霊長類化(primatized)」抗体が含まれる。「ヒト化」抗体は、非ヒト抗体由来の配列を含むキメラ抗体である。ほとんどの場合、ヒト化抗体は、レシピエントの超可変領域の残基を、マウス、ラット、ウサギ、ニワトリ、非ヒト霊長類等の非ヒト種(ドナ-抗体)の超可変領域[又は相補性決定領域(complementarity determining region)(CDR)]の残基で置換したヒト抗体(レシピエント抗体)であり、所望の特異性、親和性及び活性を有する。ほとんどの場合、CDRの外側、すなわちフレ-ムワ-ク領域(FR)のヒト(レシピエント)抗体の残基は、対応する非ヒト残基でさらに置換される。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体にもドナ-抗体にもない残基を含むことがある。これらの修飾は、抗体の特性をさらに洗練させるために行われる。ヒト化によって、ヒト以外の抗体のヒトにおける免疫原性が低下するため、ヒトの疾患治療への抗体の応用が容易になる。ヒト化抗体とその生成技術は当技術分野でよく知られている。また、「抗体」という用語は、ヒト化の代替として生成できるヒト抗体も指す。例えば、内在性マウス抗体の産生がなくても、免疫によりヒト抗体の全レパ-トリ-を産生できるトランスジェニック動物(例えばマウス)を作製することは可能である。ヒト抗体/抗体フラグメントをインビトロで得るための他の方法は、ファ-ジディスプレイ(phage display)やリボソ-ムディスプレイ技術(ribosome display technology)等のディスプレイ技術に基づくもので、少なくとも部分的に人工的に生成された、あるいはドナ-の免疫グロブリン可変(V)ドメイン遺伝子レパ-トリ-から生成された組み換えDNAライブラリ-が使用される。ヒト抗体を生成するためのファ-ジ及びリボソ-ムディスプレイ技術は当技術分野でよく知られている。ヒト抗体はまた、目的の抗原でエクスビボ免疫した単離ヒトB細胞から生成することもでき、その後融合させてハイブリド-マを作製し、最適なヒト抗体をスクリ-ニングすることができる。「抗体」という用語は、グリコシル化抗体及びアグリコシル化抗体の両方を指す。さらに、本明細書で使用する「抗体」という用語は、完全長抗体だけでなく、抗体フラグメント、より詳細にはその抗原結合フラグメントも指す。抗体フラグメントは、当該技術分野で知られているように、少なくとも1つの重鎖又は軽鎖免疫グロブリンドメインを含み、1つ又は複数の抗原に結合する。本発明に係る抗体フラグメントの例には、Fab、修飾Fab、Fab’、修飾Fab’、F(ab’)2、Fv、Fab-Fv、Fab-dsFv、Fab-Fv-Fv、scFv及びBis-scFvフラグメントが含まれる。前記フラグメントは、ダイアボディ、トライボディ、トリアボディ、テトラボディ、ミニボディ、sdAb、VL、VH、VHH又はラクダ科抗体(例えば、Nanobody(登録商標)のようなラクダ又はラマ由来)のようなシングルドメイン抗体(dAb)及びVNARフラグメントであることもできる。本発明に係る抗原結合フラグメントはまた、1つ又は2つのscFv又はdsscFvに連結されたFabを含むことができ、各scFv又はdsscFvは、同一又は異なる標的(例えば、治療標的を結合する1つのscFv又はdsscFvと、例えばアルブミンを結合することによって半減期を増加させる1つのscFv又はdsscFv)を結合する。このような抗体フラグメントの例としては、FabdsscFv(BYbe(登録商標)とも呼ばれる)又はFab-(dsscFv)2(TrYbe(登録商標)とも呼ばれ、例えば国際公開第2015/197772号を参照)が挙げられる。上記で定義した抗体分子は、その抗原結合フラグメントを含め、当技術分野で知られている。
【0015】
- 用語「エピトープ(epitope)」は、抗体が結合する抗原の領域を指す。エピトープには、構造的に定義されるものと機能的に定義されるものがある。機能性エピトープは、一般に構造性エピトープのサブセットであり、相互作用の親和性に直接寄与する残基を有する。エピトープはまた、コンフォメーション、すなわち非直線アミノ酸からなることもある。ある実施形態において、エピトープは、アミノ酸、糖側鎖、ホスホリル基又はスルホニル基等の分子の化学的に活性な表面基である決定基を含み得、及び、ある実施形態において、特定の三次元構造特性及び/又は特定の電荷特性を有し得る。
【0016】
- 疾患状態(disease state)の「治療(treating)」又は「治療(treatment)」という用語には、(i)疾患状態を抑制すること、すなわち疾患状態又はその臨床症状の発症を阻止すること、又は(ii)疾患状態を緩和すること、すなわち疾患状態又はその臨床症状を一時的又は永続的な退行を引き起こすことが含まれる。
【0017】
- 疾患状態の「予防(preventing)」又は「防止(prevention)」という用語には、疾患状態に曝露され得るか又は罹りやすいが、まだ疾患状態の症状を経験していない又は示していない対象において、疾患状態の臨床症状が発現しないようにすることが含まれる。
【0018】
発明の詳細な説明:
本発明は、IPF患者の肺組織において、総TG2mRNA及び総TG2タンパク質が増加しているという本発明者の発見に基づく。TG2は、肺機能低下と相関するコラーゲンレベルの上昇と関連している。また、TG2を欠損させたマウス(ノックアウト又はKOマウスと呼ばれる)は、ブレオマイシン(肺線維症を引き起こす薬剤で、肺線維症の動物モデルに広く用いられている)での誘発(provocation)後、間質性肺線維症の発症から保護され、その後肺機能が低下することも発見された。その後、本発明者らは、驚くべきことに、抗TG2抗体が、in vitroアッセイにおいて、ヒトIPF初代細胞によるECM沈着を減弱させるだけでなく、抗TG2抗体(TG2の細胞外タンパク質架橋活性を阻害する)を予防的に投与すると、in vivo(ウサギ肺珪肺症モデルにおける)における肺線維症を有意に減弱させ、線維症開始28日後から投与すると線維症のさらなる進行を阻止することを実証することができた。さらに本発明者らは、驚くべきことに、COVID-19感染(SARS-Cov2ウイルスにより引き起こされた)で死亡した患者の死後肺サンプルでTG2がアップレギュレートされ、広範なマトリックス沈着の証拠があることを示した。
【0019】
本発明の主な目的は、進行性慢性間質性肺疾患の治療又は進行性慢性間質性肺疾患の発症予防に使用するための抗トランスグルタミナーゼ2(抗TG2)抗体である。例えば、本発明に係る使用するための抗TG2抗体は、以下の配列を含むことができる:
(i)KASQDINSYLT(LCDR1;配列番号NO.1);LVNRLVD(LCDR2;配列番号NO.2);LQYDDFPYT(LCDR3;配列番号NO.3);THAMS(HCDR1;配列番号NO.4);TISSGGRSTYYPDSVKG(HCDR2;配列番号NO.5);及び、LISTY(HCDR3;配列番号NO.6);又は、
(ii)KASQDINSYLT(LCDR1;配列番号NO.1);LTNRLMD(LCDR2;配列番号NO.7);LQYVDFPYT(LCDR3;配列番号NO.8);SSAMS(HCDR1;配列番号NO.9);TISSGGRSTYYPDSVKG(HCDR2;配列番号NO.5);及び、LISPY(HCDR3;配列番号NO.10);又は、
(iii)KASQDINSYLT(LCDR1;配列番号NO.1);RTNRLFD(LCDR2;配列番号NO.11);LQYDDFPYT(LCDR3;配列番号NO.3);SSAMS(HCDR1);TISVGGGKTYYPDSVKG(HCDR2;配列番号NO.9);及び、LISLY(HCDR3;配列番号NO.12)、又は、
(iv)前記(i)~(iii)の何れか1つに記載の抗体と競合する。
【0020】
本発明はまた、進行性慢性間質性肺疾患の治療のための又は発症予防のための方法であって、治療上有効な量の抗トランスグルタミナーゼ2(抗TG2)抗体を投与することを含む、方法を提供する。例えば、このような方法で投与することができる前記抗TG2は、以下の配列を含む:
(i)KASQDINSYLT(LCDR1;配列番号NO.1);LVNRLVD(LCDR2;配列番号NO.2);LQYDDFPYT(LCDR3;配列番号NO.3);THAMS(HCDR1;配列番号NO.4);TISSGGRSTYYPDSVKG(HCDR2;配列番号NO.5);及び、LISTY(HCDR3;配列番号NO.6);又は、
(ii)KASQDINSYLT(LCDR1;配列番号NO.1);LTNRLMD(LCDR2;配列番号NO.7);LQYVDFPYT(LCDR3;配列番号NO.8);SSAMS(HCDR1;配列番号NO.9);TISSGGRSTYYPDSVKG(HCDR2;配列番号NO.5);及び、LISPY(HCDR3;配列番号NO.10);又は、
(iii)KASQDINSYLT(LCDR1;配列番号NO.1);RTNRLFD(LCDR2;配列番号NO.11);LQYDDFPYT(LCDR3;配列番号NO.3);SSAMS(HCDR1);TISVGGGKTYYPDSVKG(HCDR2;配列番号NO.9);及び、LISLY(HCDR3;配列番号NO.12)、又は、
(iv)前記(i)~(iii)の何れか1つに記載の抗体と競合する。
【0021】
また、進行性慢性間質性肺疾患の治療のための医薬の製造のための又は進行性慢性間質性肺疾患の発症予防のための抗トランスグルタミナーゼ2(抗TG2)抗体の使用も記載されている。例えば、本発明に係る使用するための抗TG2は、以下の配列を含むことができる:
(i)KASQDINSYLT(LCDR1;配列番号NO.1);LVNRLVD(LCDR2;配列番号NO.2);LQYDDFPYT(LCDR3;配列番号NO.3);THAMS(HCDR1;配列番号NO.4);TISSGGRSTYYPDSVKG(HCDR2;配列番号NO.5);及び、LISTY(HCDR3;配列番号NO.6);又は、
(ii)KASQDINSYLT(LCDR1;配列番号NO.1);LTNRLMD(LCDR2;配列番号NO.7);LQYVDFPYT(LCDR3;配列番号NO.8);SSAMS(HCDR1;配列番号NO.9);TISSGGRSTYYPDSVKG(HCDR2;配列番号NO.5);及び、LISPY(HCDR3;配列番号NO.10);又は、
(iii)KASQDINSYLT(LCDR1;配列番号NO.1);RTNRLFD(LCDR2;配列番号NO.11);LQYDDFPYT(LCDR3;配列番号NO.3);SSAMS(HCDR1);TISVGGGKTYYPDSVKG(HCDR2;配列番号NO.9);及び、LISLY(HCDR3;配列番号NO.12)、又は、
(iv)前記(i)~(iii)の何れか1つに記載の抗体と競合する。
【0022】
本発明の別の目的は、COVID感染に関連する肺線維症を有する対象の治療又はCOVID感染に罹患した対象における肺線維症の発症予防に使用するための抗トランスグルタミナーゼ2(抗TG2)抗体である。例えば、本発明に係る使用するための抗TG2抗体は、以下の配列を含むことができる:
(i)KASQDINSYLT(LCDR1;配列番号NO.1);LVNRLVD(LCDR2;配列番号NO.2);LQYDDFPYT(LCDR3;配列番号NO.3);THAMS(HCDR1;配列番号NO.4);TISSGGRSTYYPDSVKG(HCDR2;配列番号NO.5);及び、LISTY(HCDR3;配列番号NO.6);又は、
(ii)KASQDINSYLT(LCDR1;配列番号NO.1);LTNRLMD(LCDR2;配列番号NO.7);LQYVDFPYT(LCDR3;配列番号NO.8);SSAMS(HCDR1;配列番号NO.9);TISSGGRSTYYPDSVKG(HCDR2;配列番号NO.5);及び、LISPY(HCDR3;配列番号NO.10);又は、
(iii)KASQDINSYLT(LCDR1;配列番号NO.1);RTNRLFD(LCDR2;配列番号NO.11);LQYDDFPYT(LCDR3;配列番号NO.3);SSAMS(HCDR1);TISVGGGKTYYPDSVKG(HCDR2;配列番号NO.9);及び、LISLY(HCDR3;配列番号NO.12)、又は、
(iv)前記(i)~(iii)の何れか1つに記載の抗体と競合する。
【0023】
本発明はまた、COVID感染に関連した肺線維症を有する患者を治療するための又はCOVID感染に罹患した患者における肺線維症の発症を予防するための方法であって、治療上有効な量の抗トランスグルタミナーゼ2(抗TG2)抗体を投与する工程を含む、方法を提供する。例えば、このような方法で投与することができる抗TG2は、以下の配列を含むことができる:
(i)KASQDINSYLT(LCDR1;配列番号NO.1);LVNRLVD(LCDR2;配列番号NO.2);LQYDDFPYT(LCDR3;配列番号NO.3);THAMS(HCDR1;配列番号NO.4);TISSGGRSTYYPDSVKG(HCDR2;配列番号NO.5);及び、LISTY(HCDR3;配列番号NO.6);又は、
(ii)KASQDINSYLT(LCDR1;配列番号NO.1);LTNRLMD(LCDR2;配列番号NO.7);LQYVDFPYT(LCDR3;配列番号NO.8);SSAMS(HCDR1;配列番号NO.9);TISSGGRSTYYPDSVKG(HCDR2;配列番号NO.5);及び、LISPY(HCDR3;配列番号NO.10);又は、
(iii)KASQDINSYLT(LCDR1;配列番号NO.1);RTNRLFD(LCDR2;配列番号NO.11);LQYDDFPYT(LCDR3;配列番号NO.3);SSAMS(HCDR1);TISVGGGKTYYPDSVKG(HCDR2;配列番号NO.9);及び、LISLY(HCDR3;配列番号NO.12)、又は、
(iv)前記(i)~(iii)の何れか1つに記載の抗体と競合する。
【0024】
また、COVID感染に関連する肺線維症を有する対象の治療又はCOVID感染に罹患した対象における肺線維症の発症予防における医薬の製造のための抗トランスグルタミナーゼ2(抗TG2)抗体の使用も記載されている。例えば、本発明に係る使用するための抗TG2は、以下の配列を含むことができる:
(i)KASQDINSYLT(LCDR1;配列番号NO.1);LVNRLVD(LCDR2;配列番号NO.2);LQYDDFPYT(LCDR3;配列番号NO.3);THAMS(HCDR1;配列番号NO.4);TISSGGRSTYYPDSVKG(HCDR2;配列番号NO.5);及び、LISTY(HCDR3;配列番号NO.6);又は、
(ii)KASQDINSYLT(LCDR1;配列番号NO.1);LTNRLMD(LCDR2;配列番号NO.7);LQYVDFPYT(LCDR3;配列番号NO.8);SSAMS(HCDR1;配列番号NO.9);TISSGGRSTYYPDSVKG(HCDR2;配列番号NO.5);及び、LISPY(HCDR3;配列番号NO.10);又は、
(iii)KASQDINSYLT(LCDR1;配列番号NO.1);RTNRLFD(LCDR2;配列番号NO.11);LQYDDFPYT(LCDR3;配列番号NO.3);SSAMS(HCDR1);TISVGGGKTYYPDSVKG(HCDR2;配列番号NO.9);及び、LISLY(HCDR3;配列番号NO.12)、又は、
(iv)前記(i)~(iii)の何れか1つに記載の抗体と競合する。
【0025】
本発明全体の文脈において、慢性進行性肺線維性疾患(chronic progressive lung fibrotic disease)は、対象のサンプル中のマーカーの増加によって特徴付けられ、マーカーは、例えば、TG2活性、TG2発現(例えばTG2をコードするmRNA又はTG2抗原の増加)、TG2の輸送(export)又はそれらの任意の組み合わせの何れか1つであり、対象のサンプルは、前記疾患に関連する細胞又は組織(例えば、肺細胞又は肺組織)である。前記マーカーの増加は、前記疾患に関連する細胞/組織において、任意の手段により決定することができる。ある対象のサンプルにおけるマーカーの増加は、典型的には、対象のサンプルにおける前記マーカーのレベルを、同じ組織型の正常細胞における同じマーカーのレベル(すなわち、基底レベル(basal level);例えば、基底TG2活性、基底発現レベル(mRNAレベル及び/又はタンパク質レベル)及び/又はTG2輸送の基底レベル)と比較することによって決定される。少なくとも1つのマーカーのレベルが、当該マーカーの基底レベルと比較して、10%と同一若しくはそれ以上、15%と同一若しくはそれ以上、20%と同一若しくはそれ以上、25%と同一若しくはそれ以上又はさらには30%と同一若しくはそれ以上である対象のサンプルは、当該マーカーの増加を示すとみなされる。例えば、患者の肺細胞におけるTG2mRNAの量を決定すること(determination)により、TG2発現の増加(或いは、TG2過剰発現とも呼ばれる)を決定する(determined)ことができる。慢性進行性肺線維化細胞/組織は、例えば、対象の肺細胞におけるTG2mRNAの量(過剰発現を表す)が、同じ組織型の正常細胞と比較して増加することによって特徴づけられる。TG2mRNAの発現は、基底レベルと比較して、10%と同一若しくはそれ以上、15%と同一若しくはそれ以上、20%若しくがそれ以上、25%と同一若しくはそれ以上又はさらには30%と同一若しくはそれ以上等、任意の量だけ増加させることができる。mRNAの量は、定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(qRT-PCR)、リアルタイムqRT-PCR、quantigene assay(Affymetrix/Thermo Fisher)、ノーザンブロッティング若しくはマイクロアレイ(microarrays)の使用による、RNA配列決定、各種in situハイブリダイゼーション(例えば、RNAscope)等、既知の方法を用いて測定することができる。あるいは、患者の肺細胞におけるTG2抗原の量を決定することによって、過剰発現を決定することもできる。従って、慢性進行性肺線維化細胞は、例えば、対象の肺細胞において、同じ組織型の正常細胞と比較等して、TG2タンパク質(又はTG2抗原)の量が増加する(過剰発現を示す)ことによって特徴付けられる。TG2タンパク質の発現は、基底レベルと比較して、10%と同一若しくはそれ以上、15%と同一若しくはそれ以上、20%と同一若しくはそれ以上、25%と同一若しくはそれ以上又はさらには30%と同一若しくはそれ以上等、任意の量だけ増加させることができる。タンパク質の量は、本発明の抗TG2抗体の使用を含め、免疫組織化学、ウェスタンブロッティング、質量分析又は蛍光活性化細胞選別(FACS)等の公知の方法を使用して測定することができる。発現を決定するための閾値は、使用する技術によって異なる場合があり、免疫組織化学のスコアに対して検証される場合がある。あるいは、慢性進行性肺線維化細胞は、対象の肺細胞において、同じ組織型の正常細胞と比較してTG2活性が上昇することによって特徴づけられる。TG2活性は、基底レベルと比較して、10%と同一若しくはそれ以上、15%と同一若しくはそれ以上、20%と同一若しくはそれ以上、25%と同一若しくはそれ以上又はさらには30%と同一若しくはそれ以上等、任意の量だけ増加させることができる。TG2活性は、凍結生検(TG-ISA)、呼気凝縮液(EBC)又は気管支肺胞洗浄液(BALF)等を介して、既知の方法を用いて測定することができる。
【0026】
使用のための抗TG2抗体、治療もしくは予防のための方法、又は、本発明に係る抗TG2の、例えば、対象における進行性慢性間質性肺疾患の治療若しくは予防のための又はCOVID感染に関連する肺線維症の治療/予防のための、使用は、
従って、(a)対象からのサンプル(例えば肺細胞)におけるTG2発現、TG2活性又はTG2輸送を測定する工程、(b)(a)から得られた測定結果を、正常な細胞/組織(肺細胞など)における対応する測定結果と比較する工程、及び(c)発現の増加(すなわち、TG2の過剰発現)、活性の増加又は輸送の増加が観察された場合、患者に抗TG2抗体を投与し、これにより、進行性慢性間質性肺疾患又はCOVID感染に関連する肺線維症を治療又は予防する工程を含むことができる。
工程(a)で測定されるTG2発現量は、mRNAでもタンパク質量でもよく、その増加は、上述したような発現の増加であれば何でもよい。正常細胞/組織における対応する測定値を、比較を行うたびに得る必要はない。前記対応する測定値は、比較が行われる前であればいつでも得ることができ、正常細胞/組織における平均TG2発現量又はTG2活性とすることができる。
【0027】
本発明全体の文脈において、進行性慢性間質性肺疾患は、特発性肺線維症(IPF)、剥離性間質性肺炎(DIP)、急性間質性肺炎(AIP;或いはHamman-Rich症候群として知られる)、過敏性肺炎(HSP)、非特異的間質性肺炎(NSIP)、呼吸性細気管支炎関連間質性肺疾患(RB-ILD)、特発性器質化肺炎(COP;或いは閉塞性気管支炎器質化肺炎(Bronchiolitis Obliterans Organizing Pneumonia)又はBOOPとも称される)、サルコイドーシス、石綿症及びリンパ性間質性肺炎(LIP)からなる群から選択される。
好ましくは、進行性慢性間質性肺疾患は、特発性肺線維症(IPF)からなる群から選択される。
【0028】
本発明全体の文脈において、抗TG2抗体は、好ましくは、トランスグルタミナーゼ2型(TG2)のコア領域内のエピトープに結合し、TG2活性を阻害し、ここで、前記コア領域は、TG2のアミノ酸143~473(例えば、配列番号No.41)からなり、阻害されるTG2活性が、N-ε(γ-グルタミル)リジンイソペプチド結合によるリジン及びグルタミンのTG2架橋である。さらに好ましくは、抗体は、TG2のアミノ酸304~326(例えば、配列番号No.41)を含む若しくはからなる領域又はこの領域の一部に結合する。前記抗体は、インタクトな(intact)抗体を含むか又はからなる。
あるいは、Fvフラグメント(例えば、一本鎖Fvフラグメント又はジスルフィド結合Fvフラグメント);Fabフラグメント;及びFab様フラグメント(例えば、Fab’フラグメント又はF(ab)2フラグメント)、単一ドメイン抗体(又は本明細書で定義される又は当業者によって公知の任意の他のフラグメント)等の抗原結合フラグメント(しかし、これらに限定されない)を含むか又はからなることができる。
好ましくは、本発明全体に係る使用する抗TG2抗体は、
a)以下からなる群から選択される6個のCDRを含む:
(i)KASQDINSYLT(LCDR1;配列番号NO.1);LVNRLVD(LCDR2;配列番号NO.2);LQYDDFPYT(LCDR3;配列番号NO.3);THAMS(HCDR1;配列番号NO.4);TISSGGRSTYYPDSVKG(HCDR2;配列番号NO.5);及び、LISTY(HCDR3;配列番号NO.6);又は、
(ii)KASQDINSYLT(LCDR1;配列番号NO.1);LTNRLMD(LCDR2;配列番号NO.7);LQYVDFPYT(LCDR3;配列番号NO.8);SSAMS(HCDR1;配列番号NO.9);TISSGGRSTYYPDSVKG(HCDR2;配列番号NO.5);及び、LISPY(HCDR3;配列番号NO.10);又は、
(iii)KASQDINSYLT(LCDR1;配列番号NO.1);RTNRLFD(LCDR2;配列番号NO.11);LQYDDFPYT(LCDR3;配列番号NO.3);SSAMS(HCDR1);TISVGGGKTYYPDSVKG(HCDR2;配列番号NO.9);及び、LISLY(HCDR3;配列番号NO.12)、
b)配列番号NO:13から配列番号No.27の何れか1つに定義される配列を有する軽鎖可変ドメイン及び配列番号NO.28から配列番号No.40の何れか1つに定義される配列を有する重鎖可変ドメイン、を含む、
c)配列番号NO.13から配列番号No.27の何れか1つに定義される配列に対して少なくとも80%の同一性又は類似性、好ましくは少なくとも90%の同一性若しくは類似性又は好ましくは少なくとも95%の同一性若しくは類似性を有する軽鎖可変ドメイン及び配列番号NO.28から配列番号No.40の何れか1つに定義される配列に対して少なくとも80%の同一性若しくは類似性、好ましくは少なくとも90%の同一性若しくは類似性又は好ましくは少なくとも95%の同一性若しくは類似性を有する重鎖可変ドメイン、を含む、
d)TG2(例えば配列番号NO.41)のアミノ酸304~326若しくはこの領域の一部を含む又はからなるエピトープと、上記a)、b)又はc)で定義した抗体との結合を競合させる。
【0029】
【0030】
【0031】
【0032】
ある抗体が他の抗体と同じエピトープに結合するか又は他の抗体と結合を競合するかは、当該技術分野で知られている日常的な方法を用いて容易に決定することができる。例えば、試験抗体が本発明の参照抗体と同じエピトープに結合するかどうかを決定するために、前記参照抗体を飽和条件下でタンパク質又はペプチドに結合させる。次に、試験抗体がタンパク質又はペプチドに結合する能力を評価する。前記参照抗体との飽和結合後、前記試験抗体がタンパク質又はペプチドに結合できる場合、前記試験抗体は前記参照抗体とは異なるエピトープに結合すると結論づけることができる。一方、前記試験抗体が前記参照抗体との飽和結合後にタンパク質又はペプチドに結合できない場合、試験抗体は本発明の参照抗体が結合するエピトープと同じエピトープに結合する可能性がある。
抗体が参照抗体と結合競合するかどうかを決定するために、上述の結合方法論(binding methodology)は2つの方向で実施される。
第一の方向では、前記参照抗体を飽和条件下でタンパク質/ペプチドに結合させ、その後、前記試験抗体のタンパク質/ペプチド分子への結合を評価する。
第二の方向では、前記試験抗体を飽和条件下でタンパク質/ペプチドに結合させ、その後、前記参照抗体のタンパク質/ペプチドへの結合を評価する。
どちらの方向でも、第一抗体(飽和抗体)のみがタンパク質/ペプチドに結合できる場合、前記試験抗体及び前記参照抗体は、タンパク質/ペプチドへの結合で競合していると結論づけられる。当業者には理解されるように、参照抗体と結合を競合する抗体は、必ずしも前記参照抗体と同一のエピトープに結合するとは限らず、重複又は隣接するエピトープに結合することによって前記参照抗体の結合を立体的に阻害することがある。
【0033】
2つの抗体が同じ又は重複するエピトープに結合するのは、それぞれがもう一方の抗体の抗原への結合を競合的に阻害(ブロック)する場合である。すなわち、1倍、5倍、10倍、20倍又は100倍過剰の一方の抗体は、競合結合アッセイで測定した場合、他方の抗体の結合を少なくとも50%、75%、90%又はさらに99%阻害する。
あるいは、抗原内の本質的にすべてのアミノ酸変異が、一方の抗体の結合を減少又は排除し、他方の抗体の結合も減少又は排除する場合、2つの抗体は同じエピトープを持つ。
いくつかのアミノ酸変異が、一方の抗体の結合を減少又は排除し、他方の抗体の結合も減少又は排除する場合、2つの抗体は重複するエピトープを持つ。その後、追加のルーチン実験(例えば、ペプチド変異及び結合解析)を実施し、前記試験抗体の結合の欠如が観察されると、実際に前記参照抗体と同じエピトープへの結合によるものなのか又は立体障害(又は別の現象)が、観察された結合の欠如の原因となっているのかを確認することができる。この種の実験は、ELISA、RIA、表面プラズモン共鳴、フローサイトメトリー又は当技術分野で利用可能なその他の定量的若しくは定性的抗体結合アッセイを用いて実施することができる。
【0034】
どのような対象(subject)であっても、本発明に従って治療することができる。対象は人間であることが望ましい。しかし、対象は他の哺乳類動物、例えばヒト以外の霊長類、ウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、イヌ、ネコ、ウサギ、ラット、マウス、モルモット又はハムスターであってもよい。あるいは、対象の代わりに患者(patient)という用語を無作為に使うこともできる。
【0035】
本発明に係る任意の抗TG2抗体は、局所、鼻腔内、皮内、静脈内、皮下又は筋肉内等(ただし、これらに限定されない)、任意の方法で対象に投与するのに適した医薬組成物に組み込むことができる。典型的には、前記医薬組成物は、抗TG2抗体と、1つ若しくは複数の薬学的に許容されるアジュバント及び/又は担体とを含む。
したがって、本明細書には、特発性肺線維症(IPF)等の進行性慢性間質性肺疾患の治療に使用するための医薬組成物も記載され、前記医薬組成物は、抗TG2抗体と、1つ若しくは複数の薬学的に許容されるアジュバント及び/又は担体とを含む。本発明に係る医薬組成物は、使用説明書及び任意で、それを必要とする個体への静脈内、皮下又は筋肉内投与のための装置を含む、使用説明書付きキットの一部とすることができる。
【0036】
本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される担体(pharmaceutically acceptable carrier)」には、生理学的に適合性であり、本明細書に記載される方法及び使用のための対象への投与に適する、あらゆる溶媒、分散媒体、コーティング、抗菌剤及び抗真菌剤、等張剤及び吸収遅延剤などが含まれる。薬学的に許容される担体の例としては、水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、ブドウ糖、グリセロール、エタノール等の1つ若しくは複数及びそれらの組み合わせが挙げられる。
投与経路又は製剤の種類(液体、凍結乾燥又は噴霧乾燥製剤など)に応じて、等張化剤、例えば、糖類、マンニトール、ソルビトール等の多価アルコール、又は、塩化ナトリウムなどを組成物に配合することができる。薬学的に許容される担体には、湿潤若しくは乳化剤、保存剤又は緩衝剤など、抗体又は抗体部分の保存期間や有効性を高める補助物質が少量含まれていてもよい。
【0037】
本発明に係る医薬組成物は、様々な形態であってよい。これらには、例えば、液体溶液(例えば、注射液又は輸液液)、分散液又は懸濁液、粉末及びリポソームなどが含まれる。好ましい形態は、意図する投与様式や治療用途によって異なる。典型的な好ましい組成物は、注射可能又は注入可能な溶液の形態であり、例えば、他の抗体によるヒトの受動免疫に使用されるものと同様の組成物である。
【0038】
本発明に係る抗TG2抗体の適切な投与量は、熟練した医師によって決定され得る。本発明の医薬組成物中の活性成分の実際の投与量は、特定の患者、組成物及び投与様式に対して所望の治療応答を達成するのに有効であり、かつ患者に毒性でない活性成分の量を得るように変化させることができる。選択される投与量は、投与経路、投与時間、抗体の排泄速度、治療期間、特定の抗体と併用される他の薬物、化合物及び/又は材料、治療される患者の年齢、性別、体重、状態、一般的健康状態及び既往歴など、さまざまな薬物動態学的要因に依存する。
【0039】
適切な用量は、例えば、治療される患者の約0.01pg/kg~約1000mg/kg体重、典型的には約0.1pg/kg~約100mg/kg体重の範囲とすることができる。用量レジメンは、最適な所望の反応(例えば、治療反応)を提供するために調整することができる。例えば、1回量を投与してもよいし、数回に分けて時間をかけて投与してもよい。本明細書で使用される投与単位形態とは、治療される対象のための単位投与量として適する物理的に離散した単位をいい、各単位は、必要な薬学的アーナと関連して所望の治療効果をもたらすように計算された所定量の活性化合物を含む。投与は単回投与でも複数回投与でもよい。複数回投与は、同一又は異なる経路で、同一又は異なる部位に行うことができる。
本発明全体から見ると、抗TG2抗体は1つ若しくは複数の他の治療薬と共投与することができる。2種類若しくはそれ以上の薬剤の併用投与は、さまざまな方法で行うことができる。両者は単一の組成物で一緒に投与してもよいし、併用療法の一部として別々の組成物で投与してもよい。例えば、一方を他方の前に投与してもよいし、別々に投与してもよいし、他方の後に投与してもよいし、順次投与してもよいし、他方と同時に投与してもよいし、同時に投与してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】IPF患者の肺生検ではコラーゲン染色が上昇している。(A)成熟した瘢痕組織(mature scar tissue)に関連する高密度(dense)コラーゲン繊維に対してピコシリウスレッド(picosirius red)染色が陽性であった組織切片の面積の割合。(B)総組織切片における気道以外の(non-airway)コラーゲンの割合。非線維化性(non-fibrotic)(ILDのない肺生検を必要とする患者)を対照サンプルとして使用した(n=8)。IPF/UIPサンプルはまとめて平均した(n=9)。
*p<0.05、非対立、両側t検定による(by unpaired, 2-sided t-tests)。
【0041】
【
図2】IPF患者の生検でTG2mRNA(RNAscope)が上昇している。ホルマリン固定したパラフィン包埋肺組織サンプルを、in-situハイブリダイゼーション技術RNAscopeを使用してTgm2の発現をプローブ(probed)した。赤/ピンクの染色は、Tgm2mRNA転写物を表す。(A):生検内のTgm2陽性細胞の総数。(B):染色強度によるTgm2陽性細胞。染色強度は、1+(細胞あたり1~6プローブ)、2+(細胞あたり7~13プローブ)、3+(細胞あたり≧14プローブ)で表す(p<0.015)。分析された10件の「非線維化性」生検のうち2件のみ表示し、残りは、RNA品質QCチェックに不合格であった(failed)。
【0042】
【
図3】(A)IPF患者の生検でTG2抗原が上昇している。非線維化性及びIPFサンプルのパラフィン固定切片のTG2免疫組織化学染色を分析し、ハイコンテンツ画像解析(high content image analysis)によって染色面積の割合を算出した。非線維化性サンプル(n=7)とIPF/UIPサンプル(n=10)を平均した。p=0.03、非対、両側t検定(unpaired,2-sided t-tests)による。(B)患者の肺機能測定、予測率(percent predicted)として努力肺活量(FVC)を使用する(n=10)。FVCとコラーゲン〔PSR染色(丸印参照;P=0.0128、R2=0.5597)と、SHG染色(三角印参照;P=0.0983、R2=0.3043)とで決定〕の間に線形回帰を実施した。
【0043】
【
図4】ノックアウト(KO)マウスは、間質性肺疾患のブレオマイシンモデルにおいて、第二高調波発生顕微鏡(second harmonic generation microscopy)、すなわちSHGによって測定されるコラーゲンの増加から保護される。(A):野生型及びTG2 KOマウスにおける間質コラーゲンの面積の割合。(B):野生型及びTG2 KOマウスにおけるブレオマイシンに対する肺間質コラーゲンの倍数増加(Fold increase)(n=9-12)。
【0044】
【
図5】TG2ノックアウトマウスは、間質性肺疾患のブレオマイシンモデルにおいて、主要な間質性コラーゲンのmRNA(RT QPCR)が上昇していない。N=5マウス/群。Tukeyの事後検定付きANOVA。
【0045】
【
図6】TG2ノックアウトマウスは、ブレオマイシン間質性肺疾患モデルにおいて肺機能を維持した。(A):抵抗(Rrs=呼吸器系抵抗(全体);Rn=ニュートン(気道)抵抗)。(B):コンプライアンス(Crs=動的コンプライアンス(呼吸器系のコンプライアンス)、Cst=準静的コンプライアンス)。(C):圧力容積ループ(K=PVループの収縮辺縁の曲率、PV=圧力容積)。(D):エラスタンス(Ers=呼吸器系のエラスタンス(全体)、H=組織のエラスタンス);
**P<0.01,
***P<0.001、Tukeyの事後検定付きANOVAによる。
【0046】
【
図7】(A):TGFβ1刺激細胞の代表的な画像であり、スクラッチ直後(左パネル)、1時間後(中央パネル)及び3時間後(右パネル)の5-BP(すなわちトランスグルタミナーゼ活性)の取り込みを示し、スクラッチ後最初の1時間以内に活性が失われていることがわかる。 (B):フィブロネクチン及びTG2活性は、非線維化(NF)及び線維化(F)線維芽細胞に関し、TGFβ1処理有り及び無しにおいて、(スクラッチから離れた)細胞層及びスクラッチ境界で定量した。スクラッチ傷を導入した直後に5-BPを添加し、1時間後に細胞を固定した。各ポイントは1ウェルでの染色を表す。P値は示した通りである。(C):TGFβ1処理した肺線維芽細胞の単層をスクラッチし、上記のように直後に5-BPを添加し、ビヒクル(vehicle)(左パネル)又はTG2阻害抗体300uM rbBB7(右パネル)で処理した。rbBB7は、染色がないことからわかるように、5-BPの取り込みを完全に阻害した。
【0047】
【
図8】ウサギ肺珪肺症試験計画。ニュージーランド白ウサギには、気管支鏡で右肺下葉に傷をつけた後、生理食塩水又はシリカを投与した。6つの実験群を設定した。5匹(群1)は、「健常」群として、生理食塩水を投与し、56日間放置した。40匹にシリカを投与した。10匹(群2)は28日後に投与を中止し、治療投与開始時の疾患の指標として使用した。10匹の動物をビヒクル(群3、n=5)又は対照IgG rb922(群4、n=5)で処理し、「未処理」対照として56日間実施した(ビヒクルと対照IgG群の結果は本質的に類似していたため、この群を10匹の未処理対照の単一群にまとめた)。10匹の動物を治療的投与群として28日目から56日目までTG2阻害ウサギ抗体rbBB7で処理し(群5)、10匹の動物を「予防的」投与群として1日目から56日目までrbBB7で処理した。rbBB7は5日ごとに投与した。末端分析は、TG2活性(TG ISA)、TG2抗原(TG2 Ant)、Picosirius red染色(PSR)、Masson’s Trichrome染色(MT)、肺コラーゲンの第二高調波発生定量(HG)及び各種メッセンジャーRNA(mRNA)で構成された。
【0048】
【
図9】ウサギ珪肺症モデルにおけるrbBB7血清暴露。予防的投与(1日目から、プロットA及びB)と治療的投与(26日目から56日目まで、プロットC及びD)は、2回に分けて行われたため、個別にプロットした。
【0049】
【
図10】ILDのウサギ珪肺症モデルにおいて、rbBB7はPicrosirius red染色で測定した場合、肺の総コラーゲンを減少させた。コラーゲンは、「実質細胞」(疾患過程とは無関係な既存のコラーゲンを含む大きな気道は除く)(A)及び活動性の線維化病変内(B)で測定された。シリカd28及びシリカd56群は、それぞれ28日目又は56日目に投与を中止し、何も投与しない(d28)か、ビヒクル/対照IgGを投与して(d56)、薬剤による処理はしない。シリカ+rbBB7(d28-d56)は、28日目から56日目までrbBB7を投与する治療投与群である。シリカ+rbBB7(1~56日目)は、シリカ注入の1日前からrbBB7を投与する予防投与群である。各ポイントはウサギ1羽を表す。群間の統計は、一元配置スチューデントt検定(1-way Students t-tests)であり、予防と治療群の両方で線維化が抑制されていることを示している。ANOVAで分析したところ、全体的な治療効果は有意であった(病変部のコラーゲンはp=0.002、実質部のコラーゲンはp=0.0037)。
【0050】
【
図11】ILDのウサギ珪肺症モデルにおいて、第二高調波発生顕微鏡(SHG)で測定したところ、rbBB7は総肺コラーゲンを減少させた。シリカd28群及びシリカd56群は、それぞれ28日目又は56日目に投与を中止し、何も投与しない(d28)か、ビヒクル/対照IgGを投与して(d56)薬剤による処理はしない。シリカ+rbBB7(d28-d56)は、28日目から56日目までrbBB7を投与する治療投与群である。シリカ+rbBB7(1~56日目)は、シリカ注入の1日前からrbBB7を投与する予防投与群である。各ポイントは、ウサギ1羽を表す。群間の統計は一元配置スチューデントt検定であり、予防群と治療群の両方で線維化が抑制されていることを示している。
【0051】
【
図12】ウサギ珪肺症モデルにおいて、rbBB7はTG2活性を阻害する。TG2抗原(A)とin situ 細胞外TG(ISA)活性(B)は、
図11に記載した試験において、免疫蛍光法を用いてTG2抗原を染色した肺切片の高含有率画像解析又はフルオロクロムラベルカダベリンの取り込みによるTG2活性をそれぞれ用いて、動物終了時に測定した。染色は、核DAPI染色で定義された組織の面積割合として定量した。ANOVAによる*=P<0.05。データによると、TG2抗原レベルには変化がなかったが、シリカ投与群ではTG活性が明らかに上昇し、治療的投与群では減少し、予防的投与群では有意に減少した。
【0052】
【
図13】COVID-19感染(SARS-Cov2ウイルスにより引き起こされた)で死亡した患者の死後肺サンプルでは、TG2mRNA(RNAscope)がアップレギュレートしていた。ホルマリン固定したパラフィン包埋肺組織サンプルを、in-situハイブリダイゼーション技術RNAscopeを用いてTgm2の発現をプローブした。黒い点/染色はTgm2mRNA転写物を表す。TG2mRNAの発現を正常肺組織とIPF肺組織とで比較した。
【0053】
【
図14】死後牛(Covid)肺におけるTgm2の発現。Tgm2の発現は、正常、IPF、及びCOVID感染の結果死亡した対象からの肺組織で評価した。発現は、Tgm2に染色された組織切片の面積率として計算した。Tgm2は、健康な対照組織と比較して、死後のCOVID組織で有意に上昇した(*=ANOVAによるP<0.05)。
【実施例】
【0054】
材料:
抗TG2抗体:
以下の実施例で使用した抗TG2mAbは、配列番号NO.25で定義される軽鎖可変領域及び配列番号NO.38で定義される重鎖可変領域を含んでいた。これはオリジナルのBB7をウサギ化したバージョン(rabbitised version)で、以下の実施例ではrbBB7と呼ぶ。
Zampilimab(UCB7858としても知られる、抗体DC1由来)は、配列番号NO.24に係る可変軽鎖及び配列番号NO.37に係る可変重鎖を有する抗TG2抗体で、ヒトTG2に特異的に結合するヒト化抗体である。ウサギのような動物モデルでその効果を模倣できるように、rbBB7が開発された。Zampilimab/DC1及びrbBB7/BB7は同様の挙動を示すことが示されている。これらは、TG2コアの同じエピトープ(配列番号No.41のaa 313-325)に結合し、ヒトTG2に対して、ほぼ同じIC50(0.25対0.3nM)及びKd(<50対<60pm)を有し、in vitroの細胞ベースの評価においてECMの蓄積を同等に阻害する。唯一の顕著な違いは、ウサギTG2に対するZampilimabのIC50が劣っていることである(103対8nM)。したがって、rbBB7を使用した以下の実施例から得られた知見は、Zampilimab及び本明細書に記載したような他の抗TG2抗体にも十分に適用可能である。
【0055】
実施例1-IPFにおけるコラーゲン及びTG2の発現:
この研究の目的は、コラーゲンの存在及びTG2の発現が、ヒト患者の肺線維症と関連しているかどうかを調べることであった。
【0056】
方法:
ヒト組織:
肺生検サンプルは、NIH及びロチェスター大学から入手した。非線維化患者10人及びIPF患者10人の検体を分析した。
【0057】
組織サンプルの調製:
ホルマリン固定したパラフィン包埋ヒトサンプルを連続切片化し、線維化の程度とTG2とを相関させるために染色した。染色は、コラーゲン含有量及びトランスグルタミナーゼ2型(TG2)のmRNAとタンパク質の発現によって測定される線維化を評価するために実施した。
【0058】
ピクロシリウス・レッド染色(PSR):
サンプル切片をピクロシリウス・レッドで染色した。ピクロシリウス・レッドはコラーゲン線維を明るい赤色に染色し、コラーゲン以外の部分はピンク色又は黄褐色に染色する。Zeiss Zen 2.6(Blue Edition)ソフトウェアを使用し、Zeiss Axio Z.1スキャナーでスライド全体のスキャンを行った。画像は、Definiens Tissue Studioソフトウェアを用いて多相分析で処理した。画像処理では、病変(活動性線維症)、実質組織(前線維症)、白斑(white space)又は気道コラーゲン等の領域を識別するために、組織のマスクを作成した。各マスク内のPSR陽性染色率は以下のように計算された:
([マスクの面積率%]×[マスク内の陽性染色率%])/100=領域内のコラーゲン率%。
病変部と実質部の領域内のコラーゲン含有率の合計は、生検内の非気道コラーゲン含有率の合計を示す。
【0059】
TG2タンパク質の発現:
TG2の免疫組織化学は、自動染色プラットフォームLeica Bond RXを用いて、Dewax(Bond Dewax Solution、72℃、30分)、H1(20)抗原回収(Bond ER solution 1で100℃)及びDAB 30 Min Marker検出(マウス抗TG2抗体DH2(UCB、内部抗体)を83ng/mlで使用)の染色プロトコルで行った。染色は、Definiens tissue studioソフトウェアの多相領域解析を用いて定量化した。
【0060】
TG2mRNA:
TG2mRNAは、ホルマリン固定、パラフィン包埋(FFPE)組織において、RNAscope In Situ Hybridization(ISH)アッセイを用い、Leica Bond RX processorにRNAscope 2.5 LS Reagent Kit Red(Advanced Cell Diagnostics製)及びLeica Bond Polymer Refine Red Detection Kitを用いて、製造元の指示に従って評価した。組織の質は、ハウスキーピング遺伝子Homo sapiens ubiquitin C mRNAのmRNAについてRNAscope分析を行うことによって評価した。切片は5μmの厚さでSuperfrost Plus Goldスライドに採取し、Leica Bond RX factoryの‘Bake and Dewax’プロトコルに従って37℃で一晩乾燥させた。スライドは前処理なしでLeica BOND RXの染色ラックに置き、60℃で、定位置でベークした後、エタノールを使用して再水和する前に脱脂した。熱によるRNA回収は、回収バッファーER2(pH9、AR9640 Leica)で95℃、15分間インキュベートした後、プロテアーゼ処理(Advanced Cell Diagnostics)を15分間行い、前処理の間に蒸留水で2回すすいでペルオキシダーゼブロッキングを行った。簡単に説明すると、関連するゲノム核タンパク質遺伝子を標的とする20のZZプローブペアが設計され(標的ヌクレオチドTarget 160-2563)、Advanced Cell Diagnostics社によって合成された。切片をISH標的プローブに曝露し、42℃で2時間インキュベートした。Hs-TGM2(Advanced Cell Diagnostics)。細菌遺伝子DapB mRNAに対するプローブを各ラン(run)の陰性対照として用いた。水洗後、ISHシグナルを会社提供のPre-amplifierとアルカリホスファターゼ(AP)に結合したAmplifierを用いて増幅し、赤色基質-発色液とともに室温で10分間インキュベートした。その後、切片をヘマトキシリンで対比染色し、風乾した後、Ecomount permanent mounting medium(Biocare Medical)でマウントした。画像はオリンパスのスライドスキャナーで取得し、イメージング専門会社Oracle Bio社のHalo画像解析ソフトウェアを用いて、TG2mRNA陽性に染色された細胞数と各細胞内の染色強度(プローブ数)に基づいて定量化した。
【0061】
結果:
コラーゲンの存在(図1):
ピクロシリウスレッド(PSR)染色を用いてコラーゲンを可視化した。全生検スキャンでは、非線維化サンプルと比較して、IPF生検では組織が高密度で、空隙(airspace)が少ないことが示されたが、これらの「非線維化性」対照の中には、明らかにリモデリング(remodelling)が起こっているものもあった(写真は示していない)。組織内に次の4つの領域が定義された:(1)活性線維性病変領域(active fibrotic lesion area)は、赤色コラーゲン線維の高密度さに基づいて割り当てられ、(2)総実質組織(total parenchyma)は、コラーゲンを含まない組織のピンク色又は黄色の染色が支配的な領域における赤色コラーゲン線維の低密度さによって定義され、(3)空隙は、組織周辺部内のスライドの白い間隔又は染色されていない領域によって定義され、そして(4)気道コラーゲンは、気道を取り囲むコラーゲンの密集した領域として定義された(これは肺組織病理の正常な特徴であり、線維性疾患ではあまり変化しないと予想される)。
IPFと非IPFの切片を比較すると、病変の大きさと高密度コラーゲン領域が増大し、空隙と実質組織領域が縮小した。組織内の気道以外のコラーゲンの割合も有意に増加した(
図1A/B)。
【0062】
TG2の発現(図2及び3):
組織トランスグルタミナーゼ2は、Tgm2遺伝子によってコードされている。対応するmRNAを定量したところ、IPF生検では面積当たりのTG2mRNA陽性細胞数が全体的に有意に増加していた(
図2A)。細胞あたりのプローブ数も、細胞あたり低、中、高TG2 RNAを発現している細胞を細分化して(subdividing)定量した(
図2B)。IPF群では、TG2mRNA高発現細胞数が非線維化群と比較して有意に3倍増加した。TG2の免疫組織化学染色により、組織内でのタンパク質発現の局在が確認された。観察によると、TG2陽性染色は非線維化組織では上皮に局在し、IPFサンプルでは線維化領域に強く局在していた。IPFサンプルでは、非線維化サンプルと比較して、全生検でTG2陽性染色面積が42%の増加を示した(
図3A)。
図3Bに示すように、努力肺活量(FVC)の減少は、PSR染色によって決定された非気道コラーゲンの割合と有意に関連していた(丸印;P=0.0128、R2=0.5597)。FVCの低下もSHGで検出されたコラーゲンと関連していたが、有意ではなかった(三角印、P=0.0983、R2=0.3043)。
【0063】
実施例1の結論:
肺コラーゲンの総量(total lung collagen)は、IPF組織で有意に増加し、肺機能の低下と相関し(R2 0.56、p=0.01)、これは予想される疾患表現型(disease phenotype)及びこれまでの報告と一致していた。IPF肺組織では、TG2mRNAの発現及び固定サンプルで検出可能なTG2タンパク質が増加していた。
【0064】
実施例2-ノックアウト動物モデル
TG2ノックアウトマウスは、間質性肺疾患の肺ブレオマイシンモデルにおいて線維性リモデリングから保護されることが、以前示された(Olsen et al.,2011)。しかし、TG2が減少した場合の肺における組織学的保護と機能的利益とを関連付ける絶対的な必要性が残っている。
【0065】
方法:
すべての動物処置(animal procedures)は、承認された認定のもとで実施された。
野生型マウスとTG2ノックアウトマウス:
これらの実験に使用したマウスは、市販の雄若しくは雌のC57BL/6J(The Jackson Laboratories製、n=20)又は自家繁殖のTG2ノックアウトマウス(n=21)である。TG2ノックアウトマウスは、Tgm2tm1.1Rmgr(Victor Chang Institute製)株で、Tgm2遺伝子のエクソン6-8をCre媒介組換え(Cre-mediated recombination)によって除去した。この株はその後、C56BL/6Jに少なくとも10世代戻し交配され、ゲノムスキャンによって確認された。
【0066】
ブレオマイシンモデル:
マウスは、イソフルラン麻酔下で、2U/kgのブレオマイシン(Fresenius Kabi製)を40μlの生理食塩水で又は40μlの生理食塩水だけを、口腔咽頭吸引した。21日後、米国獣医師会の安楽死に関するパネルによる最新のガイドラインに沿った方法でマウスを安楽死させた。心臓及び肺は一括摘出した。右気管支を切断し、右肺葉を液体窒素で凍結した。左肺を2%低融点アガロースで膨張させ、10%中性緩衝ホルマリンに入れるか、又は中性緩衝ホルマリンで膨張させ、一晩ホルマリンに入れた。
【0067】
組織学:
マウスの肺片を10%中性緩衝ホルマリンで一晩固定し、その後70%エタノールに移し、パラフィンに包埋した。5ミクロンの切片を標準的な方法でH&E、Masson’s Trichrome又はPicrosirius Redで染色した。一部の実験では、コラーゲン染色をOracle Definiens Tissue studioソフトウェアで定量化した。
【0068】
肺機能検査:
肺機能検査では、マウスに麻酔をかけ、気管にカニュレーションをし、FlexiVent装置(SciReq製)に接続した人工呼吸器に接続した。マウスは2mg/kgのベクロニウム臭化物(vecuronium bromide)を腹腔内(i.p.)投与して麻痺させ、自発的な呼吸努力を妨げ、FlexiVentにより、通常、約10分間続く、一連の強制換気操作を実施し、肺機能パラメータを導出するのに使用した。マウスを人工呼吸器から外し、安楽死させ、組織を採取した。
【0069】
RNA定量:
右中肺葉は安楽死時に液体窒素で瞬間凍結し、RNA精製まで-80℃で保存した。RNA精製には、Qiazol抽出を用い、ビュレットブレンダー(bullet blender)で組織を粉砕した後、RNAeasyキット(Qiagen製)を用い、メーカーのプロトコルに従って精製した。cDNAへの逆転写はiScript Supermix(Bio-Rad製)を用いて完了した。リアルタイムPCRは、1ngのサンプルcDNAと、COL1A1、COL3A1、フィブロネクチン、Tgm2及びGADPH(ハウスキーピング遺伝子)をターゲットとする、事前検証済みのウサギのプライマーを用いて実施した。
【0070】
結果:
肺コラーゲン発現(図4及び5):
肺コラーゲンの第二高調波発生法による評価(
図4)は、ブレオマイシン処理後のTG2 KOマウスでは、野生型C56BL/6マウスと比較してコラーゲンレベルの増加が抑制されているという、以前の細胞化学染色による評価を確認した(Olson et al.,2011)。しかし、TG2の欠損は、線維化におけるTG2の作用機序に関する現在の理解からすると、現実的に予想されるよりも大きな、間質性コラーゲン遺伝子発現の明確かつ有意な減少をもたらした(
図5)。
【0071】
ブレオマイシン処理後の肺機能(図6):
組織採取の前に、FlexiVent装置を用いてマウスの肺機能を測定した。強制換気(forced ventilation)に対する呼吸器系の抵抗を2段階で測定した。最初のRrsあるいは総抵抗は、強制換気に対する呼吸器系全体の抵抗である。Rrsはブレオマイシンに反応してC57BL/6マウスで有意に増加したが、TG2 KOマウスでのわずかな増加は有意ではなく、C57BL/6マウスのRrsより有意に低かった(
図6A)。2つ目のRnあるいはニュートン抵抗は、総システム抵抗のうち、気道抵抗の変化(喘息における気道狭窄など)に起因するものがどの程度あるかを推定するものである。野生型及びTG2 KOマウスの両方において、ニュートン抵抗性は、ブレオマイシンに影響されなかった(
図6A)。胸壁もブレオマイシンの影響を受けなかったと仮定すると、Rrsにおける野生型及びKOマウスの明らかな違いは、肺実質組織(すなわち間質性肺疾患)の抵抗性の変化によるものでなければならない。
【0072】
コンプライアンスは、呼吸器系の拡張のし易さを表す。線維化では肺が硬くなり、瘢痕化し、拡張しにくくなるため、一般的にコンプライアンスが低下する。動的コンプライアンスは、潮汐呼吸中に測定される。静的コンプライアンスは、ヒトの患者では、深い息止め操作中に測定される。マウスはコマンドで息を止めることができないため、Flexivent装置では、人工呼吸器による1回の深い膨張中に準静的コンプライアンスを測定する(マウスはコマンドで息を止めることができないため)。ブレオマイシンは、C57BL/6マウスにおいて、動的及び準静的コンプライアンスを著しく失った(
図6B)。TG2 KOマウスもまたコンプライアンスが低下したが、これはC57BL/6と比較すると保たれており、C57BL/6マウスの約半分のコンプライアンスしか失っていなかった。
【0073】
PVループ面積は、強制換気操作によって肺胞を呼吸にリクルートする(recruit)能力を反映し、PVループ面積が小さいほどリクルート可能な肺胞容積が少ないことを示す。KはPVループの収縮辺縁の曲率を測定する。Kの減少は、呼吸後の初期収縮がより速いことを示唆し、これは弾性剛性の増加と一致する(肺は膨張時にそれほど伸びないので、収縮時に速く潰れる)。C57BL/6マウスでは、ブレオマイシンに反応して、K PV曲線及びPVループ面積の両方が有意に低下した(
図6C)。対照的に、TG2 KOマウスはこの低下から保護され、どちらも有意な低下は見られなかった。
【0074】
エラスタンスは、肺組織の弾性剛性を測定するもので、コンプライアンスの逆数である。Ersは、呼吸器系全体のエラスタンスで、組織、胸壁、気道からの寄与を含み、Hは組織のみのエラスタンスで、肺組織の2つの異なる数学モデルから計算される。生理食塩水で処理したマウスと比較して、ブレオマイシンはC57BL/6マウスの肺組織の弾性剛性を有意に増加させたが、TG2 KOマウスでは増加させなかった(
図6E)。この総系統のエラスタンス(Ers)の変化は、組織のエラスタンス(H)に関連する所見と同様に、肺組織の変化に起因する。まとめると、TG2 KOマウスは、呼吸機能を評価するために用いられたすべてのパラメータにおいて、ブレオマイシン間質性肺疾患モデルにおいて機能的に保護されていた。野生型マウスに比べ、総抵抗の増加もなく、弾性剛性の増加もなく、圧容積ループの損失もなく、コンプライアンスの損失は有意に減少した。
【0075】
実施例2の結論:
TG2 KOマウスは、ブレオマイシン誘発性間質性肺線維症後の肺機能喪失から保護されるという所見であった。保護の大きさは特に驚くべきものであった。C57BL/6マウスは、ブレオマイシンの投与により、コンプライアンスの低下、弾性剛性の増大、組織抵抗の増大及び気腔のリクルートメントの低下を示したが、これらはすべてヒトのIPFや他の線維化性ILDと一致していた。それどころか、TG2 KOマウスはこれらの影響から保護され、気道のリクルートメント及び抵抗に変化はなく、コンプライアンスの低下は約50%減少し、エラスタンスは、増加した。これらの驚くべきエキサイティングな結果は、TG2欠損が組織の組織学的変化だけでなく、最も重要な肺機能にも影響を及ぼすことを示している。
【0076】
実施例3-抗TG2抗体のin vitro阻害活性:
方法:
スクラッチ創傷実験:
初代肺線維芽細胞をカルシウム添加ATCC RPE培地で7日間培養した。一部の細胞は未処理のまま、一部の細胞は示されているように、1ng/mlのTGFβで処理した。単層膜をスクラッチし、250μMのTG2基質5-BPを直ちに、1時間後に、又は3時間後に添加した。その後、細胞を採取し、洗浄後、5-BP添加1時間後にメタノールで固定した(全細胞マウント(whole cell mount))。フィブロネクチンは抗体染色で検出し、TG2活性は、5-BPラベルを検出するためにHRP-ストレプトアビジン(streptavidin)で検出した。蛍光シグナルの強度は、スクラッチ境界とスクラッチから離れた細胞層で定量した。使用した短いインキュベーション時間では、5-BPは細胞外又は細胞表面のTG2活性を検出するだけで、細胞内活性は検出しない。
【0077】
結果:
スクラッチ評価におけるTG2活性の定量と阻害(図7):
スクラッチ評価は、異なるヒトドナー由来の8つの細胞初代細胞株(8 cell primary cell lines)(非線維化3株及びIPF5株)を用いて、ネイティブ及びTGFβ1処理状態の両方で実施した。TG2活性はスクラッチ後に急速に上昇し、生の蛍光強度によって可視化されたトランスグルタミナーゼ基質5-ビオチン化ペンチルアミン(5BP)の細胞外マトリックスへの取り込みによって示された(
図7A左パネル)。しかし、時間を決めて基質を投与し、5BPの基質投与1時間後に実験を中止したところ、この活性化は一過性であり、スクラッチから1時間以内にすべての活性が消失することが示され、スクラッチ1時間後に5BPを投与した場合には活性は記録されなかった(
図7A中、右パネル)。予想されたように、IPF細胞株は非線維化株よりも多くのフィブロネクチンを発現した。線維化株も非線維化株もスクラッチ後にTG2活性の増加を示し、IPF株は非線維化株よりも有意に活性が高かった。TG2の活性化はTGFβによって増強され、IPF線維芽細胞では非線維化線維芽細胞よりも大きい(
図7B)。これはIPFにおけるTG2の役割に示唆を与える重要な発見である。TG2阻害抗体(rbBB7)を投与すると、スクラッチに沿ったTG活性の上昇を完全にブロックすることができ、このことから、活性の上昇はTG2のみによるものであり、TG2は傷に反応して細胞外で上昇することが確認された。
【0078】
実施例3の結論:
培養中の初代ヒト肺線維芽細胞は、TG2を細胞外に輸送するが、スクラッチ傷によって活性化されない限り不活性である。活性化は一過性で、持続時間は1時間未満である。IPFドナーの線維芽細胞は、非線維化線維芽細胞よりも多くのTG2活性を輸送する。この活性はrbBB7によって完全に阻害される。このデータは、IPFにおける活性化TG2を、rbBB7及びZampilimab等の抗TG2抗体で阻害できるという証拠を示している。このデータは、初代ヒト肺細胞におけるZampilimabの抗線維化反応を構成している。
【0079】
実施例4-抗TG2抗体のin vivo阻害活性:
方法:
rbBB7、ビヒクル又は対照抗体処理による介入試験:
全体的な研究デザイン(
図8)は、45匹の動物(ウサギ)を用い、10mgのシリカを56日間にわたって予防的及び治療的に投与するものであった。
・ 5羽のウサギには、生理食塩水を投与し、56日目に採取した(健常群)。
・ 10羽のウサギには、シリカを投与をし、28日目に採取した(治療開始時の罹病レベル)。
・ 10羽のウサギには、シリカを投与し、28日目にrbBB7(100mg/kg)による処理を開始し、56日目に採取した(治療投与)。
・ 10羽のウサギには、シリカ注入の1日前にrbBB7(100mg/kg)による処理を開始し(すなわち-1日目に処理)、56日目に採取した(予防投与)。
・ 5羽のウサギには、シリカを投与し、シリカ注入の1日前にrb922対照抗体(100 mg/kg)による処理を開始し、56日目に採取した(対照抗体)。
・ 5羽のウサギには、シリカを投与し、シリカ注入の1日前からビヒクルによる処理を開始し、56日目に採取した(ビヒクル対照)
【0080】
この計画により、抗体対照とビヒクル対称を組み合わせて、群間に違いがない場合には10匹の動物からなる未処理群を形成することができる。ウサギに、rbBB7、rb922対照抗体又はビヒクルを5日ごとに頸部皮下に注射した。注射前にウサギの体重を測定し、100mg/kgの投与量が得られるように抗体の注射量を適宜調整した。対照用ビヒクルを投与されたウサギは、抗体を投与された場合の体重と同じ量のビヒクルを投与された。ウサギの飼い始めの平均体重は2.5kg、56日後の平均体重は3.2kgであった。
【0081】
薬物動態:
rbBB7で処理中のウサギから5日又は10日ごとに血液を採取した。最初の採血は最初のrbBB7注射の5日後であった。動物のリスクを最小限に抑えるために、各ウサギから最大4回サンプルを採取した。トラフ(最小)曝露値を計算するために、rbBB7の次回の予定された注射の直前に常に採血を実施した。採血は、トラフ(trough)(最小)暴露値を計算するために、rbBB7を次に注射する予定の直前に常に実施した。予防的投与(1日目から、プロットA及びB)と治療的投与(26日目から56日目まで、プロットC及びD)は、2回に分けて実施したため、個別にプロットした。血液を室温で45分間凝固させた後、300×gで15分間遠心分離した。血清をデカントし、-80℃で凍結保存した。rbBB7は質量分析を用いて血清中で定量した。
【0082】
組織処理:
肺は、凍結保護剤として、気管を通してPBS中の30%スクロースで膨張させて、切断刃に対する抵抗力を与え、簡単に破れたり潰れたりしないようにした。右下葉はカスタムブロック(custom block)に入れ、各厚さ約4mmに5~6分割した。中心片を10%ホルマリンに24時間漬け、その後70%エタノールに移し、組織学的に処理した。
左右(中央と遠位(distal))のスライスは、後の解析のために-80℃で凍結した。
【0083】
組織学と分析:
ホルマリン固定した肺スライスを1枚として処理し、1つの大きなパラフィンブロックに包埋した。切片を切り出し、H&E、Trichrome、Picrosirius red(PSR)で染色し、Olympus又はZeissのスライドスキャナーで画像化した。コラーゲンの定量化のために、PSRの全スライド画像をDefiniens Tissue studioソフトウェアを用いて多相分析処理した。このソフトウェアにより、細胞密度と非染色空胞の消失に基づいて、「病変(lesion)」と非病変(non-lesion)/非影響実質細胞(unaffected parenchyma))領域を識別するアルゴリズムを実行した。次に、病変及び非病変領域のコラーゲン(明赤色に染色された線維)を、全領域面積に対する割合として定量した。同じパラフィン切片の分析を、多光子顕微鏡/第二高調波発生(SHG)を用いて繰り返し、Genesis 200スキャナーを用いてコラーゲンを定量化した。SHG顕微鏡は2光子(2P)顕微鏡の一種で、外来性ラベルなしで線維性コラーゲンを検出することができる。線維形成コラーゲンは、コラーゲンタイプ1-3、5、11、24及び27を含む。I、III及びV型等のこれらの線維性コラーゲンのいくつかは、肺線維症の主要な担い手である(Kottmann et al.2015)。
【0084】
TG2抗原及び活性の免疫組織化学:
TG2抗原は、標準的なプロトコルに従って、肺組織の凍結スライス(採取時に30%スクロースで膨潤させ、その後スナップ冷凍した)を免疫染色することにより検出した。トランスアミダーゼ(架橋)活性は、既述のようにビオチン化カダベリンの組み込みを使用したトランスグルタミナーゼin situ活性(TG ISA)評価法を用いて、肺組織の凍結スライスで測定した。肺を膨潤するためにスクロースを使用すると、この評価が妨害され、スクロースを除去するために必要な余分な洗浄サイクルが、測定されたTG活性をかなり低下させた。絶対的なTG2活性は、スクロースを使用しない同様の実験よりも低いにもかかわらず、すべての組織が同じように処理されたため、群間の相対的な差は同じであるはずである。
【0085】
結果:
RbBB7を用いた介入試験:
45匹中43匹が実験レジメンを成功裏に完了した(2匹のウサギは最初のシリカ注入中に死亡したが、これは麻酔の影響によるものと思われる)。rbBB7を投与したウサギに有害な影響は見られなかった。対照ウサギと同程度の体重増加を示し(データは示さず)、治療用抗体の反復注射に関連した身体的問題は生じなかった。
【0086】
薬物動態(図9):
最初のrbBB7注射の5日後(シリカ投与後4日目、トラフPKのための最初のサンプル)、血清レベルは平均395μg/mlであった。次のサンプリングポイント(19日目)までに、rbBB7レベルは700μg/mlの領域にあり、平均600~700μg/mlの定常状態を維持した(トラフで前回の注射から5日後に測定した場合)。アレルギー反応及び抗抗体反応の発現を示唆するような、56日間にわたる抗体レベルの有意な低下は見られなかった。このレベルはウサギのモデルで治療効果が期待できる。動物へのストレスを軽減するため、サンプリングはすべての治療後に行わなかった。
【0087】
線維症の組織学的分析(図10):
H&E又はPicrosirius redで染色したウサギの肺切片は、シリカ処理ウサギにおける線維症の存在を示している(写真は示していない)。線維化の程度を定量化するために、PSR染色切片に対してDefiniens画像解析を行った。このソフトは、コラーゲン(赤)染色を、病変領域だけでなく肺葉全体も(すなわち正常実質組織又は非病変領域プラス病変領域)定量化した(写真は示していない)。葉全体の染色を見ると、28日目まではPSR染色に明確な変化はなかったが、28日目から56日目の間に平均35%増加した(
図10A)。rbBB7はコラーゲン量を減少させる有意な治療効果を示した。葉全体の染色を見ると、コラーゲンの増加は保護的及び治療的投与群の両方で50%減少したが、これは保護的レジメンでのみ有意になった。病変だけのコラーゲンPSR染色の評価でも、28日目と56日目の間のコラーゲンの92%増加が顕著に減少し、治療群と保護群でそれぞれ58%と48%の有意な減少を示した(
図10B)。
【0088】
第二高調波発生(SHG)顕微鏡によるコラーゲン含量の分析(図11):
SHGを用いて、シリカ処理葉の総繊維状コラーゲンを検出した。ウサギの肺組織切片をスキャンし、コラーゲンを定量化した。SHGは、シリカ注入後28日目にはコラーゲンの増加を検出しなかったが、これはコラーゲンがSHGで検出できるほど成熟していないことを反映しているのかもしれない。しかし、検出可能な線維性コラーゲンのレベルは、シリカ注入後28日目から56日目の間に2倍以上に増加した。rbBB7により処理をすると、早期及び遅期の処理群ともにコラーゲンの蓄積が著しく減少した。SHG検出可能コラーゲンの平均レベルをベースラインとすると、両処理群で52%の減少がみられたが、有意差に達したのは保護的処理群のみであった。
【0089】
TG2活性の変化(図12):
凍結肺切片の1枚から凍結切片を作製し、TG2抗原と活性を測定した。TG2抗原レベルは、シリカの注入によって変化せず、rbBB7処理によって影響を受けなかった(
図12A)。肺を膨張させるための液体にスクロースを使用し、TG ISA評価を著しく損なうにもかかわらず、TG活性は、シリカ注入後28日目及び56日目の両方で、シリカ処理により2.3倍に有意に増加した。RbBB7はどちらのシリカ群でもTG2活性を低下させた(
図12B)。治療的投与群における45%の減少は有意ではなかったが(変動が大きかったためと思われる)、保護的投与群における85%の減少は有意であり、正常肺のレベルと同程度であった。
【0090】
実施例4の結論:
この実施例の驚くべき発見は、1)早期の予防的処理(シリカ注入の前日から5日ごとに投与する治療)と遅期の処理(シリカ注入の28日後から5日ごとに投与する治療)の両方が組織学的線維化の抑制に有効であったこと、2)細胞外TG2のみを標的とすることができる抗体阻害剤として、(マウスモデルの)全TG2ノックアウトと同様に動物を線維化から保護することができたことであり、肺線維化が主に細胞外TG2活性に起因することを示している。線維化の減少は、肺組織のコラーゲンを分析する2つの方法(PSR染色とSHG顕微鏡検査)により独立して確認した。抗TG2抗体は、凍結肺切片で検出されたTG2酵素活性もブロックした。言い換えれば、抗TG2抗体(TG2の細胞外タンパク質架橋活性を阻害する)は、珪肺症モデルのウサギに予防的に投与すると肺線維症を有意に抑制し、肺のリモデリング開始28日後から投与すると線維症のさらなる進行を阻止することができた。
【0091】
実施例5-TG2はCOVID-19感染でアップレギュレートされる
方法:
ヒト組織:
肺組織サンプルは、Tissue Solutions Ltd.から入手した。COVID-19感染で死亡した患者22人のサンプルと、正常肺及びIPF患者の組織サンプル6つとを分析した。慢性閉塞性肺疾患(COPD)を含む既知の肺疾患を有する患者は除外した。
組織サンプルの調製:
ホルマリン固定したパラフィン包埋ヒトサンプルを連続切片化し、トランスグルタミナーゼ2型(TG2)のmRNA発現を評価するために染色を実施した。
TG2mRNA(RNAscope):
実施例1で詳述したものと同様のプロトコルを使用した。
【0092】
結果:
図13及び
図14に示すように、TG2mRNA発現は、正常肺組織における発現と比較して、COVID-19で死亡した患者から得られた死後組織サンプルにおいて有意に上昇した(P<0.05)。IPFのサンプルは、参考としてのみ含む。この高発現は、広範なマトリックス沈着の証拠(ピクロシルスレッド染色-データは示さず)を伴う。
【0093】
実施例5の結論:
重症のSARS-cov2ウイルス感染で起こる肺組織の炎症反応とリモデリングの間に、TG2がCOVID-19感染で死亡した患者の死後肺サンプルの大部分で非常に高発現することが本発明者らによって示された。抗TG2抗体、例えば、Zampilimabは、急性期だけでなく、COVID疾患の長期慢性期においてもリモデリングを遅らせることができると期待されている。
【0094】
参考文献:
1)Siegel et al.,2007,Pharmacol.Ther.,115(2):232-245
2)Wang et al.,2020,3 Biotech.,10:287
3)国際公開第2006/100679号
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7)Olsen 2020,Am.J.Respir.Crit.Care Med.,201:A1963
8)Philp et al.,2018,Am.J.Resp.Cell Mol.Biol.,58(5):594-603
9)Olsen et al.,2014,Am.J.Resp.Cell Mol.Biol.,50(4):737-747
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11)Vaidya et al.,2017,Curr.Med.Chem.,24:1-20
12)Margaritopoulos et al.,2016,Core Evidence,11:11-22
13)国際公開第2015/197772号
14)Kottmann et al.,2015,Resp.Res.,16:61
【配列表】
【国際調査報告】