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特表2024-540767血清たん白質濃縮物含有乳児用調製乳
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-01
(54)【発明の名称】血清たん白質濃縮物含有乳児用調製乳
(51)【国際特許分類】
   A23J 3/12 20060101AFI20241025BHJP
   A23C 9/152 20060101ALI20241025BHJP
   A23L 33/17 20160101ALI20241025BHJP
【FI】
A23J3/12
A23C9/152
A23L33/17
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024530588
(86)(22)【出願日】2022-11-22
(85)【翻訳文提出日】2024-05-22
(86)【国際出願番号】 EP2022082857
(87)【国際公開番号】W WO2023094398
(87)【国際公開日】2023-06-01
(31)【優先権主張番号】21210033.3
(32)【優先日】2021-11-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505310426
【氏名又は名称】フリースランドカンピーナ ネーデルランド ベスローテン フェンノートシャップ
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ファン エールテン、ルーラント
(72)【発明者】
【氏名】ランバーズ、テアルツェ ティム
(72)【発明者】
【氏名】レイスウェイク、トーマス
【テーマコード(参考)】
4B018
【Fターム(参考)】
4B018LB07
4B018MD19
4B018MD20
4B018MD21
4B018ME02
4B018MF01
4B018MF03
(57)【要約】
総アミノ酸含量の少なくとも90重量%が血清タンパク質濃縮物から得られる調製乳であって、前記血清タンパク質濃縮物は、カゼインに富む濃縮物及び透過物として血清に富む画分が得られる乳の精密濾過を含み、その後血清に富む画分の濃縮が行われるプロセスによって得られる調製乳。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のアミノ酸組成:
- 2.0~3.0g/100gタンパク質、好ましくは2.3~2.9g/100gタンパク質の範囲のL-システイン
- 2.0~3.0g/100gタンパク質、好ましくは2.3~2.9g/100gタンパク質の範囲のL-ヒスチジン
- 5.5~6.5g/100gタンパク質、好ましくは5.8~6.4g/100gタンパク質の範囲のL-イソロイシン
- 12.0~13.0g/100gタンパク質、好ましくは12.0~12.8g/100gタンパク質の範囲のL-ロイシン
- 9.5~10.5g/100gタンパク質、好ましくは9.7~10.3g/100gタンパク質の範囲のL-リシン
- 2.5~3.0g/100gタンパク質、好ましくは2.6~2.8g/100gタンパク質の範囲のL-メチオニン
- 4.3~4.7g/100gタンパク質、好ましくは4.4~4.6g/100gタンパク質の範囲のL-フェニルアラニン
- 5.0~5.5g/100gタンパク質、好ましくは5.0~5.4g/100gタンパク質の範囲のL-トレオニン
- 4.1~4.5g/100gタンパク質、好ましくは4.1~4.3g/100gタンパク質の範囲のL-チロシン
- 6.0~6.5g/100gタンパク質、好ましくは6.0~6.3g/100gタンパク質の範囲のL-バリン
- 2.0~2.5g/100gタンパク質、好ましくは2.0~2.3g/100gタンパク質の範囲のL-トリプトファン
を有する血清タンパク質濃縮物。
【請求項2】
調製乳における請求項1に記載の血清タンパク質濃縮物の使用。
【請求項3】
請求項1に記載の血清タンパク質濃縮物を製造するためのプロセスであって、カゼインに富む残留物と透過物としての血清に富む画分とを生じる150~200kDaの膜を用いて乳を精密濾過し、続いて5~10kDaの膜を用いて限外濾過により前記血清に富む画分を濃縮する工程を含み、前記精密濾過及び限外濾過は、10~20℃、好ましくは10~15℃、最も好ましくは10~12℃の範囲の温度で行われるプロセス。
【請求項4】
前記精密濾過及び限外濾過は、5000~8000m、好ましくは5200~7500m、より好ましくは5400~7000m、最も好ましくは5400~6600m又は6200~7000mの範囲の総膜表面積を使用して行われる、請求項3に記載のプロセス。
【請求項5】
前記精密濾過中の操作圧力は、0.8~3.5バール、好ましくは0.8~3.0バール、より好ましくは0.8~2.5バール、より一層好ましくは0.8~2.0バール、より好ましくは0.8~1.5バール、最も好ましくは0.8~1.3バールの範囲で変動する、請求項3又は4に記載のプロセス。
【請求項6】
前記限外濾過中の操作圧力は、3.5~5.2バール、好ましくは3.5~5.0バール、より好ましくは3.5~4.5バール、最も好ましくは3.5~4.0バールの範囲で変動する、請求項3~5のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記膜上の流束、すなわち生成物流量と膜表面積との間の比は、2~30l/m/時、好ましくは2~10l/m/時の範囲である、請求項3~6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
精密濾過中の膜間圧力差は、0~4.0バール、好ましくは0.8~3.5バール、最も好ましくは0.8~1.3バールの範囲である、請求項3~7のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項9】
精密濾過中の膜間圧力差は、0~6.0バール、好ましくは3.5~5.0バール、最も好ましくは3.5~4.0バールの範囲である、請求項3~8のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項10】
1つ以上のアミノ酸減源の組み込みを必要とする調製乳の製造方法であって、前記アミノ酸源の少なくとも1つは、請求項1に記載の血清タンパク質濃縮物であり、前記調製乳の総アミノ酸含量の少なくとも90重量%、好ましくは少なくとも95重量%、より好ましくは少なくとも99重量%、最も好ましくは100重量%が、請求項1に記載の血清タンパク質濃縮物から得られる方法。
【請求項11】
前記調製乳は、多くとも2.3gタンパク質/100kcal、好ましくは多くとも2.2gタンパク質/100kcal、より好ましくは多くとも2.1gタンパク質/100kcal、より一層好ましくは多くとも2.0gタンパク質/100kcal、より好ましくは多くとも1.9gタンパク質/100kcalのタンパク質含量を有する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記調製乳は、以下のアミノ酸組成:
- 合計濃度が、少なくとも61mg/100kcal、好ましくは90~110mg/100kcalの範囲、最も好ましくは100~110mg/100kcalのL-メチオニン及びL-システイン
- 合計濃度が、少なくとも156mg/100kcal、好ましくは159~180mg/100kcalの範囲、最も好ましくは160~170mg/100kcalのL-チロシン及びL-フェニルアラニン
- 少なくとも40mg/100kcal、好ましくは40~60mg/100kcal、より好ましくは45~55mg/100kcalのL-ヒスチジン
- 少なくとも90mg/100kcal、好ましくは93~140mg/100kcal、より好ましくは100~140mg/100kcalのL-イソロイシン
- 少なくとも166mg/100kcal、好ましくは190~280mg/100kcal、より好ましくは230~280mg/100kcalのL-ロイシン
- 少なくとも113mg/100kcal、好ましくは155~235mg/100kcal、より好ましくは180~235mg/100kcalのL-リシン
- 少なくとも77mg/100kcal、好ましくは77~120mg/100kcal、より好ましくは95~120mg/100kcalのL-トレオニン
- 少なくとも32mg/100kcal、好ましくは32~48mg/100kcal、より好ましくは40~48mg/100kcalのL-トリプトファン
- 少なくとも88mg/100kcal、好ましくは90~140mg/100kcal、より好ましくは110~140mg/100kcalのL-バリン
を有する、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記調製乳は、L-メチオニン含量が、少なくとも23mg/100kcal、好ましくは少なくとも40mg/100kcalであり、L-システイン含量が、少なくとも38mg/100kcal、好ましくは少なくとも50mg/100kcalである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記調製乳のL-フェニルアラニン含量は、少なくとも81mg/100kcal、好ましくは81~90mg/100kcalであり、L-チロシン含量は、少なくとも75mg/100kcal、好ましくは75~85mg/100kcalである、請求項12又は13に記載の方法。
【請求項15】
前記調製乳は、乳清タンパク質:カゼイン重量比が、70:30~90:10、好ましくは75:25~85:15、最も好ましくは77:23~83:17の範囲である、請求項10~14のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血清タンパク質濃縮物を含有する乳児用調製乳に関する。
【背景技術】
【0002】
乳児に供給される最良の栄養は、一般に、それ自身の母乳、すなわちヒト乳であると考えられる。しかしながら、乳児にヒト乳を与えることができない状況が生じ得る。そのような場合、乳児に栄養を与えるために、ウシ乳ベースの調製乳が一般に使用される。これらの調製乳は、カゼインと乳清タンパク質との混合物を含有し、ヒト乳のアミノ酸プロファイルにできるだけ近いアミノ酸プロファイルを提供する。残念ながら、ヒト乳及びウシ乳のタンパク質組成は、量及び質の両方で実質的に異なっている。顕著な差異は、ヒト乳の総タンパク質含量の低さであり、ヒト乳の総タンパク質含量(すなわち、総窒素含量に6.25を乗じたもの)は一般に約11g/Lであり、ウシ乳のそれは約33~35g/Lである。
【0003】
ヒト乳とウシ乳は、含有するタンパク質のタイプがさらに異なっている。乳中の全窒素含有成分は、純タンパク質窒素と非タンパク質窒素(NPN)とに分けることができ、カゼイン及び血清タンパク質(乳清タンパク質とも呼ばれる)を主要なタンパク質クラスとして含有する。カゼインはpH4.6で沈殿するタンパク質であり、一方乳清タンパク質はこのpHで可溶性のままである。ヒト乳において、乳清タンパク質対カゼインの比は、生後最初の日の約90:10から成熟ヒト乳において約60:40まで変動し、一方、ウシ乳では、乳清タンパク質対カゼイン比は、約20:80である。
また、カゼイン及び乳清タンパク質画分の組成は、ヒト乳とウシ乳とで異なる。ヒト乳汁中で最も豊富な乳清タンパク質は、α-ラクトアルブミン、ラクトフェリン及び免疫グロブリンであり、一方、ウシ乳の乳清タンパク質画分は、約50%のβ-ラクトグロブリン及び約15%のα-ラクトアルブミンを含む。ヒト乳中の最も豊富なカゼインは、ベータ-カゼインであり、一方、ウシ乳は、約50%のアルファ-カゼイン及び約35%のベータ-カゼインを含む。
【0004】
別の重要な違いは、ヒト乳における必須アミノ酸の比較的高い含量である。これらのアミノ酸は、人体で合成することができず、食品を介して人体に導入する必要がある。
【0005】
調製乳には、乳児用調製乳及びフォローアップ調製乳が含まれ、これらは適切な補助食が導入されるまでの生後1か月間の乳児の完全な栄養要求量を供給することができる。このような調製乳に必要な成分を規制する法的要件が存在する。これらの要件の1つは、ヒト乳の組成と合わせた必須アミノ酸及びいくつかの条件付き必須アミノ酸の最小含有量である。例えば、CODEX Alimentarus又は2015年9月25日付の欧州委員会(EU Commission)指令2016/127/ECを参照されたい。
これらの(条件付き)必須アミノ酸の最小量を確実にするために、従来の乳製品ベースの調製乳のタンパク質含量は、ヒト乳のタンパク質含量よりもかなり高い。
例えば、調製乳中の従来のタンパク質源は、粉乳又は乳濃縮物と脱塩乳清タンパク質濃縮物、一般に脱塩チーズ乳清濃縮物との組合せである。乳清タンパク質濃縮物は、乳清:カゼイン比をヒト乳に近付けるために添加される。
必須アミノ酸の必要な含量を確実にするために、乳児用調製乳の総タンパク質含量は、一般に1.8~3.0g/100kcalの範囲である。この範囲の最高値は、いくつかの研究によって示されているように、生後1年間の急速な体重増加を引き起こし、高齢期の身体組成に影響を及ぼし得るという欠点を有する。その結果、必須アミノ酸含量を損なうことなく、より低い総タンパク質含量を有する乳児用調製乳に向けて多くの研究が進行中である。
この問題を解決し得る方法の例としては、遊離アミノ酸の添加、カゼイングリコマクロペプチド(CMP)枯渇乳清の使用、タンパク質加水分解物の添加、及び/又はα-ラクトアルブミン富化乳清の使用が挙げられる。
【0006】
本発明は、ここで、主要な、好ましくは唯一のアミノ酸源として血清タンパク質濃縮物(SPC)を含む調製乳を提供する。これにより、良好な必須アミノ酸プロファイル、及びヒト乳に近いカゼイン/乳清タンパク質比を有する低タンパク質調製乳の調製が可能になる。また、SPCの使用により、最小数の処理工程でラクトフェリン及び免疫グロブリンなどの生物活性成分を変性させることができる調製乳の調製が可能になる。
さらに、チーズ乳清タンパク質と比較して、SPCは、CMPを天然に含まない。CMPは、酵素キモシンの影響下でチーズ製造中に形成されるκ-カゼインの切断産物である。CMPはトレオニンに富み、そのオリゴペプチド形態は体によるトレオニンの迅速な吸収を可能にし、これは、早産児において高トレオニン血症を引き起こす過剰投与につながり得る。さらに、高レベルのCMPは、アミノ酸パターン、特に必須アミノ酸の量に悪影響を及ぼす。
さらにSPCはアルファ-ラクトアルブミン及びベータ-カゼインが豊富で、これは特許請求される製剤の全体的なタンパク質組成が母乳のタンパク質組成とより一致することを意味する。
【0007】
血清タンパク質濃縮物(SPC)は、乳清タンパク質濃縮物(WPC)と同様に、脱脂乳をカゼインに富む画分と乳清タンパク質に富む画分とに分離し、その後濃縮工程を行った結果である。
乳清タンパク質濃縮物(WPC)は、酸性乳清(乳の酸性化、すなわちカゼイン生成によって得られる)又はチーズ乳清(レンネット化、すなわちチーズ製造によって得られる)の限外濾過及び/又は逆浸透、並びに任意選択の脱塩によって得られる生成物である。限外濾過により、水、ラクトース及び灰分の大部分が生成物から除去され、それにより乳清タンパク質が濃縮される。逆浸透を使用して水を除去し、WPCをさらに濃縮することができる。
一方、SPCの調製は、(脱脂)乳の精密濾過を含む。前記精密濾過により、濃縮された(ミセルの)カゼイン残留物と、透過物としてホエータンパク質の大部分を含有する血清画分とが生じる。血清タンパク質画分は、理想乳清とも呼ばれる。従来、この透過画分は、次いで、ラクトース、灰分及び水を除去するために限外濾過及び/又は逆浸透にかけられる。
【0008】
したがって、調製乳における乳清タンパク質源としてのSPCの使用が知られている。例えば、国際公開第00/30461号パンフレット、国際公開第2008/127104A1号パンフレット、国際公開第2013/068653A2号パンフレット、及び国際公開第2020/159356A1号パンフレットを参照されたい。しかしながら、SPCに加えて、従来技術の調製乳は、乳、ミセルカゼイン又はカゼインに富む精密濾過残留物などの少なくとも1つの追加のタンパク質源を常にかなりの量で含有する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、総アミノ酸含量の少なくとも90重量%、好ましくは少なくとも95重量%、より好ましくは少なくとも99重量%、最も好ましくは100重量%が血清タンパク質濃縮物から得られる調製乳に関する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
好ましい実施形態では、調製乳は、多くとも2.3gタンパク質/100kcal、好ましくは多くとも2.2、より好ましくは多くとも2.1、より一層好ましくは多くとも2.0、より好ましくは多くとも1.9gタンパク質/100kcalの低タンパク質含量を有する。調製乳のタンパク質含量は、好ましくは少なくとも1.6gタンパク質/100kcal、より好ましくは少なくとも1.7、最も好ましくは少なくとも1.8gタンパク質/kg100kcalである。
【0011】
低タンパク質含量及び/又はSPCが(ほとんど)唯一のアミノ酸源であるにもかかわらず、必須アミノ酸の濃度は、法的要件を満たす。より詳細には、調製乳は、以下の必須アミノ酸組成を有する:
- 合計濃度が、少なくとも61mg/100kcal、好ましくは90~110mg/100kcalの範囲、最も好ましくは100~110mg/100kcalのL-メチオニン及びL-システイン
- 合計濃度が、少なくとも156mg/100kcal、好ましくは159~180mg/100kcalの範囲、最も好ましくは160~170mg/100kcalのL-チロシン及びL-フェニルアラニン
- 少なくとも40mg/100kcal、好ましくは40~60mg/100kcal、より好ましくは45~55mg/100kcalのL-ヒスチジン
- 少なくとも90mg/100kcal、好ましくは93~140mg/100kcal、より好ましくは100~140mg/100kcalのL-イソロイシン
- 少なくとも166mg/100kcal、好ましくは190~280mg/100kcal、より好ましくは230~280mg/100kcalのL-ロイシン
- 少なくとも113mg/100kcal、好ましくは155~235mg/100kcal、より好ましくは180~235mg/100kcalのL-リシン
- 少なくとも77mg/100kcal、好ましくは77~120mg/100kcal、より好ましくは95~120mg/100kcalのL-トレオニン
- 少なくとも32mg/100kcal、好ましくは32~48mg/100kcal、より好ましくは40~48mg/100kcalのL-トリプトファン
- 少なくとも88mg/100kcal、好ましくは90~140mg/100kcal、より好ましくは110~140mg/100kcalのL-バリン。
【0012】
好ましい実施形態において、L-メチオニン含量は、少なくとも23mg/100kcal、より好ましくは少なくとも40mg/100kcalであり、L-システイン含量は、少なくとも38mg/100kcal、より好ましくは少なくとも50mg/100kcalである。
さらなる実施形態において、L-フェニルアラニン含量は、少なくとも81mg/100kcal、より好ましくは81~90mg/100kcalであり、L-チロシン含量は、少なくとも75mg/100kcal、より好ましくは75~85mg/100kcalである。
【0013】
SPC及び乳児用調製乳中の乳清タンパク質:カゼイン重量比は、好ましくは60:40~90:10、好ましくは65:35~85:15、最も好ましくは70:30~80:20の範囲である。
【0014】
SPCのベータ-カゼイン含量は、好ましくは0~25重量%、より好ましくは5~20重量%、最も好ましくは9~16重量%の範囲である。ベータ-カゼインはプロリンに富み、プロリンはポリアミンの形成のための前駆体であり、ポリアミンはオルニチンを中間体として用いて体内で合成される。
【0015】
SPCは、好ましくは以下のアミノ酸含量を有する:
- 2.0~3.0g/100gタンパク質、好ましくは2.3~2.9g/100gタンパク質の範囲のL-システイン
- 2.0~3.0g/100gタンパク質、好ましくは2.3~2.9g/100gタンパク質の範囲のL-ヒスチジン
- 5.5~6.5g/100gタンパク質、好ましくは5.8~6.4g/100gタンパク質の範囲のL-イソロイシン
- 12.0~13.0g/100gタンパク質、好ましくは12.0~12.8g/100gタンパク質の範囲のL-ロイシン
- 9.5~10.5g/100gタンパク質、好ましくは9.7~10.3g/100gタンパク質の範囲のL-リシン、
- 2.5~3.0g/100gタンパク質、好ましくは2.6~2.8g/100gタンパク質の範囲のL-メチオニン
- 4.3~4.7g/100gタンパク質、好ましくは4.4~4.6g/100gタンパク質の範囲のL-フェニルアラニン
- 5.0~5.5g/100gタンパク質、好ましくは5.0~5.4g/100gタンパク質の範囲のL-トレオニン
- 4.1~4.5g/100gタンパク質、好ましくは4.1~4.3g/100gタンパク質の範囲のL-チロシン
- 6.0~6.5g/100gタンパク質、好ましくは6.0~6.3g/100gタンパク質の範囲のL-バリン
- 2.0~2.5g/100gタンパク質、好ましくは2.0~2.3g/100gタンパク質の範囲のL-トリプトファン。
【0016】
このようなSPCは、(脱脂)乳(任意選択により水で希釈(水/乳の体積比0.5~1.5)を、150~200kDaの精密濾過膜、及び10~20℃、好ましくは10~15℃、最も好ましくは10~12℃の範囲の温度を用いる精密濾過により調製することができる。この温度は、膜を介するベータ-カゼイン透過を可能にする。
この精密濾過に続いて、5~10kDaの膜を用いた限外濾過により血清に富む画分の濃縮を行うが、これもまた、10~20℃、好ましくは10~15℃、最も好ましくは10~12℃の範囲の温度で行われる。限外濾過により、水、ラクトース及びミネラルが除去される。得られるUF残留物がSPCである。
【0017】
好ましい実施形態では、これらの濾過は、所望のアミノ酸プロファイルが得られるように膜を透過するタンパク質画分を調整するために、5000~8000m、好ましくは5200~7500m、より好ましくは5400~7000m、最も好ましくは5400~6600m又は6200~7000mの範囲の総膜表面積(いくつかの(例えば10~16)ループに分割される)を使用して実施される。
このような大きな膜表面により、より大きく一定の、すなわち変動の少ない操作圧力が可能になる。この操作圧力は膜に対する圧力である。この操作圧力は、好ましくは0.8~3.5バール、より好ましくは0.2~3.0バール、より一層好ましくは0.2~2.0バール、より一層好ましくは0.2~1.0バール、最も好ましくは0.8~1.3バールの範囲で変動する。
【0018】
供給流量は、好ましくは16~19m/時の範囲である。
膜上の流束、すなわち生成物流量と膜表面積との間の比は、比較的低いことが好ましく、より好ましくは2~30、好ましくは2~10l/m/時の範囲である。これにより、最小のカゼイン分子のみの膜の通過が可能になり、それによって、高い乳清タンパク質対カゼイン比が得られる。
精密濾過は、透析濾過と組み合わせることが好ましく、より好ましくは透析濾過流量と膜表面積との間の比が2~30、好ましくは2~10l/m/時の範囲である。
膜上のクロスフローは、50~300m/時の範囲であることが好ましい。
精密濾過中の膜間圧力差は、好ましくは0~4.0バール、より好ましくは0.8~3.5バール、最も好ましくは0.8~1.3バールの範囲である。
限外濾過中の膜間圧力差は、好ましくは0~6.0バール、より好ましくは3.5~5.0バール、最も好ましくは3.5~4.0バールの範囲である。
【0019】
前記精密濾過の前に、好ましくは任意の脱脂と前記精密濾過との間に、細菌を残存させ、乳タンパク質を透過させることができる膜による濾過工程、例えばセラミック膜、例えば孔径が約1.4μmの膜による濾過を適用する濾過工程に、乳を供してもよい。
【0020】
プロセス中に低温殺菌工程を実施することができる。この低温殺菌工程は、任意の濾過工程の前、好ましくは乳の脱脂後に実施することが好ましい。或いは、SPCは、その調製後又は栄養組成物中への混入後にのみ低温殺菌される。
【0021】
スパイラル、セラミック、中空糸などのあらゆる従来型の精密濾過膜を使用することができる。膜は、ポリスルホン(PS)、(変性)ポリエーテルスルホン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリアクリロニトリル(PAN)、酢酸セルロース(CA)及びポリプロピレン(PP)などの様々なポリマーの種類から構成することができる。
好ましい限外濾過膜は、スパイラル型の膜である。親水性ポリエーテルスルホン(PES)膜がより一層好ましい。
【0022】
必要に応じて、SPCはさらに、例えばナノ濾過、イオン交換、電気透析、逆浸透、脱塩、蒸発、及び/又は(噴霧)乾燥によって、濃縮、脱塩、及び/又は乾燥し得る。
【0023】
総タンパク質含量は、よく知られたケルダール法(変換係数6.25)によって決定される。
血清タンパク質濃縮物のアミノ酸含量は、ISO 13903:2005に従って、加水分解後のイオン交換クロマトグラフィーによって決定することができる。
タンパク質組成は、逆相HPLCにより、疎水性に基づく分離及びUVによる検出を用いて決定することができる。
SPCのカゼイン含量は、ISO 17997/DIF 29-1の方法を用い、pH4.6での沈殿によって決定することができる。
【0024】
本発明による調製乳は、SPCを少なくとも脂質源、炭水化物源、ビタミン及びミネラルと組み合わせることによって調製することができる。脂質源は、調製乳に使用するのに好適な任意の脂質又は脂肪であり得る。好ましい脂肪源としては、乳脂肪、ベニバナ油、卵黄脂質、キャノーラ油、オリーブ油、ヤシ油、パーム核油、ダイズ油、魚油、パームオレイン、高オレイン酸ヒマワリ油及び高オレイン酸ベニバナ油、並びに長鎖多価不飽和脂肪酸を含有する微生物発酵油が挙げられる。一実施形態では、無水乳脂肪が使用される。脂質源は、これらの油に由来する画分、例えばパームオレイン、中鎖トリグリセリド及び脂肪酸(例えば、アラキドン酸、リノール酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ドコサヘキサエン酸、リノレン酸、オレイン酸、ラウリン酸、カプリン酸、カプリル酸、カプロン酸など)のエステルの形態でもあり得る。事前に形成されたアラキドン酸及びドコサヘキサエン酸を多量に含む油(魚油又は微生物油)の少量を添加してもよい。この脂肪源は、n-6脂肪酸とn-3脂肪酸との比が約5:1~約15:1、例えば約8:1~約10:1であることが好ましい。特定の態様では、本乳児用調製乳は、トリアシルグリセロールにエステル結合したパルミチン酸を含む油混合物を含み、例えば、トリアシルグリセロールのsn-2位にエステル結合したパルミチン酸は、総パルミチン酸の20重量%~60重量%の量であり、トリアシルグリセロールのsn-1/sn-3位にエステル結合したパルミチン酸は、総パルミチン酸の40重量%~80重量%の量である。
調製乳中に存在することが好ましいビタミン及びミネラルの例は、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンE、ビタミンK、ビタミンC、ビタミンD、葉酸、イノシトール、ナイアシン、ビオチン、パントテン酸、コリン、カルシウム、リン、ヨウ素、鉄、マグネシウム、銅、亜鉛、マンガン、塩化物、カリウム、ナトリウム、セレン、クロム、モリブデン、タウリン及びL-カルニチンである。ミネラルは、通常、塩の形態で添加される。
調製乳中に存在することが好ましい炭水化物の例は、ラクトース、難消化性オリゴ糖、例えばガラクトオリゴ糖(GOS)、フラクトオリゴ糖(FOS)、イヌリン、キシロオリゴ糖、及びヒトミルクオリゴ糖(HMO)である。好適なHMOとしては、2’FL、3-FL、3’-GL、3’-SL、6’-SL、LNT、LNnT、及びこれらの組み合わせが挙げられる。HMOは、市販されているか、又は乳、特にヒト母乳から単離することができる。
必要に応じて、栄養組成物は、乳化剤及び安定化剤、例えばダイズレシチン、モノグリセリド及びジグリセリドのクエン酸エステルなどを含有してもよい。栄養組成物はまた、有益な効果を有し得る他の物質、例えばラクトフェリン、ヌクレオチド、ヌクレオシド、プロバイオティクスなどを含有してもよい。
好適なプロバイオティクスとしては、乳酸菌(Lactobacteria)、ビフィドバクテリウム・ラクティス(Bifidobacterium lactis)、例えばビフィドバクテリウム・ラクティス(Bifidobacterium lactis)Bb12、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)、ラクトバチルス・ジョンソニ(Lactobacillus johnsonii)La1、ビフィドバクテリウム・ロングム(Bifidobacterium longum)BL999、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)LPR、L.ラムノサス(L.rhamnosus)GG、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)、ラクトバチルス・サリバリウス(Lactobacillus salivarius)が挙げられる。このようなプレバイオティクスは市販されている。
【0025】
調製乳は、通常、粉末(水と混合)又は液体(追加の水の有無にかかわらず)からボトル授乳又はカップ授乳用に調製される。
調製乳は、一般に、噴霧乾燥粉末として入手可能である。噴霧乾燥は、追加の加熱工程を含む。可能な限り多くの天然タンパク質を保存するために、噴霧乾燥中の加熱条件を可能な限り穏やかに維持することが望ましい。
任意のタンパク質を変性させる可能性のある処理工程の数を減らすために、SPCを調製乳の他の成分とドライブレンドするか、又は液体SPCを他の液体成分と混合することが好ましい。
【0026】
本発明による調製乳は、乾燥、半乾燥又は液体組成物の形態であり得る。例えば、調製乳は、水溶液、好ましくは水で再構成した後、液体組成物を作製するのに適した粉末組成物であり得る。
別の実施形態では、調製乳は、液体組成物、例えばすぐに飲む又はスプーンで飲むことができる組成物である。
【実施例
【0027】
実施例1
脱脂乳を50℃でセラミック膜により濾過処理し、72℃で15秒間低温殺菌した。
この脱脂乳を続いて精密濾過し、さらに続いてこの精密濾過透過液を限外濾過した。ともに15℃で行い、合計6200mのMF+UF膜表面積を用いた。操作圧力は、精密濾過中0.8~1.3バールで変動し、限外濾過中3.5~4.0バールで変動した。
完全な実行中、供給流量は16.5m/時であった。
【0028】
得られた血清タンパク質濃縮物は、乾燥固体で65重量%のタンパク質を含有した。
【0029】
得られたSPCのアミノ酸パターンを、ISO 13903:2005に従って決定した;結果を表1に示す。
この表はまた、唯一のアミノ酸源としてこのSPCを用いて作製され、1.9g/100kcalのタンパク質含量を有する乳児用調製乳のアミノ酸含量を列挙する。これらのアミノ酸含量は、全て、EUの法律によって要求される最小量を上回っている。
【0030】
【表1】
【0031】
比較例A
総膜表面積が4828mであることを除いて、実施例1を繰り返した。その結果、操作圧力は、精密濾過中0.8~3.5、限外濾過中3.5~5.2と、さらに大きく変動した。
得られたSPCのアミノ酸組成を表2に示すが、表は、このSPCの特にシステイン、ロイシン、リシン、トレオニン、及びトリプトファン含量が実施例1と比較して有意に低く、このSPCを乳児用調製乳における唯一のアミノ酸源として使用することができず、特に低タンパク質乳児用調製乳において使用することができないことを示している。
【0032】
【表2】

【国際調査報告】