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特表2024-540768フィブリノゲン調節方法およびフィブリノゲン調節用組成物
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  • 特表-フィブリノゲン調節方法およびフィブリノゲン調節用組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-01
(54)【発明の名称】フィブリノゲン調節方法およびフィブリノゲン調節用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/713 20060101AFI20241025BHJP
   A61K 9/51 20060101ALI20241025BHJP
   A61K 9/127 20060101ALI20241025BHJP
   A61K 47/44 20170101ALI20241025BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20241025BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20241025BHJP
   A61K 47/28 20060101ALI20241025BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20241025BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20241025BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20241025BHJP
   C12N 15/88 20060101ALI20241025BHJP
【FI】
A61K31/713
A61K9/51
A61K9/127
A61K47/44
A61K47/24
A61K47/14
A61K47/28
A61P7/00
A61K48/00
C12N15/113 Z ZNA
C12N15/88 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024531009
(86)(22)【出願日】2022-11-17
(85)【翻訳文提出日】2024-07-18
(86)【国際出願番号】 CA2022051702
(87)【国際公開番号】W WO2023092218
(87)【国際公開日】2023-06-01
(31)【優先権主張番号】63/282,241
(32)【優先日】2021-11-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】300066874
【氏名又は名称】ザ・ユニバーシティ・オブ・ブリティッシュ・コロンビア
(74)【代理人】
【識別番号】100109634
【弁理士】
【氏名又は名称】舛谷 威志
(74)【代理人】
【識別番号】100160831
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 元
(72)【発明者】
【氏名】カストロプ,クリステャン ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ジュアン,リー ジン
(72)【発明者】
【氏名】ストリルチャック,エイミー ワン
(72)【発明者】
【氏名】レオン,ジェリー
(72)【発明者】
【氏名】ロバートソン,マデリン
(72)【発明者】
【氏名】カリス,ピエール アール.
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA19
4C076AA65
4C076AA95
4C076CC11
4C076CC14
4C076CC21
4C076CC27
4C076CC31
4C076DD17
4C076DD37
4C076DD46
4C076DD63
4C076DD70
4C076FF16
4C076FF43
4C084AA13
4C084MA24
4C084MA38
4C084NA13
4C084NA14
4C084ZA36
4C084ZA51
4C084ZA70
4C084ZA96
4C084ZB32
4C084ZB35
4C084ZC35
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA38
4C086NA14
4C086ZA36
4C086ZA51
4C086ZA54
4C086ZA70
4C086ZA96
4C086ZB26
4C086ZB32
4C086ZB35
4C086ZC35
(57)【要約】
【要約】本開示は、フィブリノゲンアルファ鎖に対するsiRNA分子を含む脂質ナノ粒子を提供する。siRNA分子は、修飾または非修飾ヌクレオチドを含む。さらにフィブリノゲンアルファ鎖に対するsiRNA分子が提供され、当該siRNA分子は修飾または非修飾ヌクレオチドを含み、長さが15~35ヌクレオチドであり、配列番号1~10に対して少なくとも80%の配列同一性を有する。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィブリノゲンアルファ鎖mRNAに対するsiRNA分子と、
5.5~7.0のpKaを有し、10mol%~85mol%で存在する、イオン化可能なカチオン性アミノ脂質と、
リン脂質およびトリグリセリドの少なくとも一方から選択される、中性のベシクル形成脂質と、
ステロールと、
0.5mol%~5mol%の親水性ポリマ脂質結合体と、
を含む脂質ナノ粒子。
【請求項2】
フィブリノゲンのアルファ鎖がヒトである、請求項1に記載の脂質ナノ粒子。
【請求項3】
前記siRNA分子は、修飾または非修飾ヌクレオチドを含み、前記修飾ヌクレオチドはメチル化されている、請求項1に記載の脂質ナノ粒子。
【請求項4】
前記二本鎖siRNAの鎖の少なくとも1つが、配列番号1~10または17~26のいずれか1つと、少なくとも80%の配列同一性を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の脂質ナノ粒子。
【請求項5】
前記二本鎖siRNAの鎖の少なくとも1つが、配列番号1~10または17~26のいずれか1つと、少なくとも80%の配列同一性を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の脂質ナノ粒子。
【請求項6】
前記二本鎖siRNAの鎖の少なくとも1つが、配列番号1~10または17~26のいずれか1つと、少なくとも85%の配列同一性を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の脂質ナノ粒子。
【請求項7】
前記二本鎖siRNAの鎖の少なくとも1つが、配列番号1~10または17~26のいずれか1つと、少なくとも90%の配列同一性を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の脂質ナノ粒子。
【請求項8】
前記二本鎖siRNAの鎖の少なくとも1つが、配列番号1~10または17~26のいずれか1つと、少なくとも95%の配列同一性を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の脂質ナノ粒子。
【請求項9】
前記siRNA分子の長さが15~35ヌクレオチドである、請求項1~8のいずれか1項に記載の脂質ナノ粒子。
【請求項10】
前記siRNA分子の長さが18~35ヌクレオチドである、請求項9に記載の脂質ナノ粒子。
【請求項11】
前記siRNA分子の長さが20~30ヌクレオチドである、請求項9に記載の脂質ナノ粒子。
【請求項12】
前記siRNA分子は結合分子である、請求項1~11のいずれか1項に記載の脂質ナノ粒子。
【請求項13】
前記結合分子が糖基を含む、請求項12に記載の脂質ナノ粒子。
【請求項14】
前記糖基がGalNAcからなる、請求項13に記載の脂質ナノ粒子。
【請求項15】
配列番号1~10または17~26のいずれか1つと少なくとも80%の配列同一性を有するsiRNA分子。
【請求項16】
配列番号1~10または17~16のいずれか1つと少なくとも85%の配列同一性を有する、請求項15に記載のsiRNA分子。
【請求項17】
配列番号1~10または17~26のいずれか1つと少なくとも90%の配列同一性を有する、請求項15に記載のsiRNA分子。
【請求項18】
配列番号1~10または17~26のいずれか1つと少なくとも95%の配列同一性を有する、請求項15に記載のsiRNA分子。
【請求項19】
請求項15~18のいずれか1項に記載のsiRNA分子、または請求項1~14のいずれか1項に記載の脂質ナノ粒子を含む医薬組成物であって、前記医薬組成物は、薬学的に許容し得る塩および/または賦形剤を含む、医薬組成物。
【請求項20】
患者への投与後、フィブリノゲンの血中または血漿中濃度が約1g/Lを下回らない、請求項19に記載の医薬組成物。
【請求項21】
フィブリン(フィブリノゲン)依存性障害の治療を必要とする患者に対して、フィブリン(フィブリノゲン)依存性障害の治療を行うための請求項19または20に記載の医薬組成物の用途。
【請求項22】
フィブリン(フィブリノゲン)依存性障害の治療を行うための薬剤の製造における請求項19または20に記載の医薬組成物の用途。
【請求項23】
フィブリン(フィブリノゲン)依存性障害の治療を必要とする患者に対して、請求項19または20に記載の医薬組成物を投与することを含む、前記患者に対するフィブリン(フィブリノゲン)依存性障害の治療方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2021年11月23日に出願された「LIPID NANOPARTICLE DELIVERY OF SIRNA(仮訳:脂質ナノ粒子によるSiRNAの送達)」と題する米国仮特許出願整理番号63/282241に基づき利益を主張するものである。
【0002】
本開示は、フィブリノゲンを標的とする核酸およびその医薬製剤に関する。
【背景技術】
【0003】
フィブリノゲンは肝臓で合成され、血漿中を2~4g/Lの濃度で循環し、血漿中での半減期は3~5日である。フィブリノゲンは炎症過程や悪性過程を修飾することで、様々な病態に関与する。フィブリノゲンの肝発現は、COVID-19、癌、敗血症、肥満などの炎症課題に対する急性期反応時に著しく上昇する。フィブリノゲンは止血に必須であるが、フィブリノゲンの上昇(高フィブリノゲン血症)は、血液粘度の上昇や線維素溶解に対する抵抗の上昇を引き起こし、血栓症の危険因子となる。実際のところ、血栓症は死亡の主な原因である。多くの心血管系の事象の基礎となる病態であり、癌患者の死因の第2位である。血栓症は、血液が透析装置や体外式膜型人工肺(ECMO)機器などの外部医療デバイスに接触することで頻繁に発生し、機器の故障につながり、ひいては患者のリスクを高める。血栓症はまた、凝固タンパク質の合成の増加、抗凝固作用の抑制、線維素溶解の阻害によって引き起こされる重篤な炎症(血栓性炎症)においても発生する。さらに、フィブリン(フィブリノゲン)はナチュラルキラー細胞の活性を阻害することによって、腫瘍細胞の転移に寄与する。
【0004】
循環中のフィブリノゲン濃度を低下させることによって、炎症と血栓症の両方を抑制できる可能性があるが、現在の薬剤ではフィブリノゲン濃度を長期間安全に低下させることはできない。ヘビ毒から単離されたフィブリノゲン除去プロテアーゼは、再灌流療法に使用されることがあるものの、半減期が短く、フィブリノゲンの減少、機能転帰の改善し、血栓症再発の予防といった能力については、結果がまちまちである。さらに、プロテアーゼを繰り返し注入することによって、フィブリノゲン除去作用に対する抵抗性が報告されている。一本鎖アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)は、マウス体内のフィブリノゲン濃度を低下させるために使用されてきた。しかし、一般的に、臨床使用のためのASOの開発は、肝臓や腎臓の毒性、重篤な血小板減少症といった課題に直面している。体外での研究では、標的タンパク質の発現を抑制するうえで、低分子干渉RNA(siRNA)がASOよりも有効であることが示唆されている。しかし、siRNA配列の使用により、標的タンパク質を完全にノックダウンし得る。これは特定の疾患には望ましいことかもしれないが、フィブリノゲンが完全にノックダウンされることにより止血ができなくなる可能性がある。
【0005】
本開示は、先行技術に記載された1つ以上の問題に対処しおよび/または、フィブリノゲンおよび/またはフィブリンのレベルを低下させるための既知のアプローチに対する代替的なアプローチを提供する。
【発明の概要】
【0006】
いくつかの実施の形態では、本開示は、フィブリノゲンの発現を修飾するためのsiRNAを含む脂質ナノ粒子(LNP)を提供することにより、フィブリノゲンおよび/または(LNP)フィブリンのレベルが低いことが望まれる1つ以上の状態、疾患または障害を治療および/または予防する。いくつかの実施例において、本発明者らは、本明細書に記載の脂質成分を有し、フィブリノゲンアルファ鎖mRNAを標的とするsiRNAを封入した脂質ナノ粒子が、血液または他の身体部位におけるフィブリノゲンレベルの制御および/または持続的な低下を成し得ることを見出した。別の実施例では、上述のLNP組成物を使用することによる止血効果の損失を招来することなく、循環フィブリノゲンおよび/またはフィブリンを制御可能に低下させることによって、長時間にわたって血漿中フィブリノゲン濃度を安全に低下させることができる。
【0007】
本開示の一態様によれば、フィブリノゲンアルファ鎖mRNAに対するsiRNA分子と、5.5~7.0のpKaを有し、10mol%~85mol%で存在するイオン化可能なカチオン性アミノ脂質と、リン脂質およびトリグリセリドの少なくとも一方から選択される、中性のベシクル形成脂質と、ステロールと、0.5mol%~5mol%の親水性ポリマ脂質結合体と、を含む脂質ナノ粒子が提供される。
【0008】
本開示の一実施の形態では、フィブリノゲンのアルファ鎖はヒト由来のものである。
【0009】
本明細書におけるいずれかの態様または実施の形態の別の実施例によれば、siRNA分子は、修飾または非修飾ヌクレオチドを含み、前記修飾ヌクレオチドはメチル化されている。
【0010】
本明細書におけるいずれかの態様または実施の形態の別の実施例によれば、二本鎖siRNAの少なくとも1つは、配列番号1~10または17~26のいずれか1つと少なくとも80%の配列同一性を有する配列を有している。
【0011】
本明細書におけるいずれかの態様または実施の形態のさらに別の実施例では、二本鎖siRNAの少なくとも1つは、配列番号1~10または17~26のいずれか1つと少なくとも80%の配列同一性を有する配列を有している。
【0012】
本明細書におけるいずれかの態様または実施の形態の別の実施例によれば、二本鎖siRNAの少なくとも1つは、配列番号1~10または17~26のいずれか1つと少なくとも85%の配列同一性を有する配列を有している。
【0013】
本明細書におけるいずれかの態様または実施の形態のさらに別の実施例では、二本鎖siRNAの少なくとも1つは、配列番号1~10または17~26のいずれか1つと少なくとも90%の配列同一性を有する配列を有している。
【0014】
本明細書におけるいずれかの態様または実施の形態のさらに別の実施例では、二本鎖siRNAの少なくとも1つは、配列番号1~10または17~26のいずれか1つと少なくとも95%の配列同一性を有する配列を有している。
【0015】
本明細書におけるいずれかの態様または実施の形態のさらに別の実施例では、siRNA分子の長さは15~35ヌクレオチドである。
【0016】
本明細書におけるいずれかの態様または実施の形態のさらに別の実施例では、siRNA分子の長さは18~35ヌクレオチドである。
【0017】
本明細書におけるいずれかの態様または実施の形態のさらに別の実施例では、siRNA分子の長さは20~30ヌクレオチドである。
【0018】
本明細書におけるいずれかの態様または実施の形態のさらに別の実施例では、siRNA分子は結合分子である。例えば、結合分子は糖基を含んでいてもよい。一実施の形態では、糖基はGalNAcからなる。
【0019】
さらなる態様によれば、本開示は、配列番号1~10、または17~26のいずれか1つと少なくとも80%、85%、90%、95%、または97%の配列同一性を有するsiRNA分子を提供する。
【0020】
さらなる態様によれば、本開示は、配列番号17~26のいずれか1つと少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、または97%の配列同一性を有するsiRNA分子を提供する。
【0021】
本開示のさらなる態様によれば、本明細書におけるいずれかの態様または実施の形態で記載のsiRNA分子または脂質ナノ粒子を含む医薬組成物が提供され、前記医薬組成物は薬学的に許容し得る塩および/または賦形剤を含む。
【0022】
本明細書におけるいずれかの態様または実施の形態のさらに別の実施例では、患者に医薬組成物を投与した後に、前記患者の血液または血漿中のフィブリノゲンレベルが(例えば、投与後1日~3週間まで)約1g/Lを下回らない。
【0023】
本明細書におけるいずれかの態様または実施の形態のさらに別の実施例では、前記医薬組成物は、フィブリン(フィブリノゲン)依存性障害を治療する必要のある患者に対して当該障害の治療に使用される。
【0024】
本明細書におけるいずれかの態様または実施の形態のさらに別の実施例では、フィブリン(フィブリノゲン)依存性障害を治療するための医薬の製造における医薬組成物の用途が提供される。
【0025】
本明細書におけるいずれかの態様または実施の形態のさらに別の実施例では、フィブリン(フィブリノゲン)依存性障害有す患者の治療方法が提供され、当該方法は、前記障害の治療を必要とする本明細書のいずれかの態様または実施の形態において記載される医薬組成物の投与を含む。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、体外でHUH7細胞への添加後の、空の脂質ナノ粒子(LNP)対照(Ctrl)およびLNP二本鎖siRNA配列であるhs.Ri.FGA.13.5(配列番号1、2の二本鎖siRNA)、CD.Ri.281933.13.5(配列番号3、4の二本鎖siRNA)、hs.Ri.FGA.13.8(配列番号5、6の二本鎖siRNA)、hs.Ri.FGA.13.4(配列番号7、8の二本鎖siRNA)、hs.Ri.FGA.13.7(配列番号9、10の二本鎖siRNA)(表1参照)に対するヒトフィブリノゲンアルファ鎖(FGA)mRNAの相対量(%)を示す図である。
図2A図2Aは、ルシフェラーゼsiRNA対照(siLuc)、および二本鎖siRNA配列であるms.FGA.1(配列番号11、12の二本鎖siRNA)、ms.FGA.2(配列番号13、14の二本鎖siRNA)、ms.FGA.3(配列番号15、16の二本鎖siRNA)(表2)のsiRNAを用いて、マウスに注射後1週間および3週間の対照に対するフィブリノゲンアルファ鎖(Fga)mRNAの相対量(%)を示す図である。
図2B図2Bは、二本鎖siLuc対照、およびms.FGA.1(配列番号11、12の二本鎖siRNA)、ms.FGA.2(配列番号13、14の二本鎖siRNA)、ms.FGA.3(配列番号15、16の二本鎖siRNA)(表2)のsiRNAを用いて、マウスに注射後1週間および3週間の対照に対する血漿中フィブリノゲンの相対量を示す図である。
図2C図2Cは、対照LNPのsiLucおよびフィブリノゲンアルファ鎖を標的とするLNPのsiRNAであるms.FGA.1(配列番号11、12の二本鎖siRNA)、ms.FGA.2(配列番号13、14の二本鎖siRNA)、ms.FGA.3(配列番号15、16の二本鎖siRNA)(表2)を投与したマウスの血小板におけるフィブリノゲンと血小板因子(PF4)を検出するウェスタンブロットを示す図である。
図2D図2Dは、対照LNPのsiLucおよびフィブリノゲンアルファ鎖を標的とするLNPのsiRNAであるms.FGA.1(配列番号11、12の二本鎖siRNA)、ms.FGA.2(配列番号13、14の二本鎖siRNA)、ms.FGA.3(配列番号15、16の二本鎖siRNA)(表2)を投与したマウスの血小板におけるフィブリノゲンおよび血小板因子(PF4)バンドのウェスタンブロットで検出されたフィブリノゲンおよびPF4のシグナル強度の定量を示す図である。
図2E図2Eは、表2のms.FGA.2(配列番号13、14)に対応するフィブリノゲンアルファ鎖(siFga)を標的とするsiRNAを0.1mg/kg注射したマウスの血漿中の週別フィブリノゲンレベルを示す図である。
図2F図2Fは、表2のms.FGA.2(配列番号13、14)に対応するフィブリノゲンアルファ鎖(siFga)を標的とするsiRNAを0.5mg/kg(右上)注射したマウスの血漿中の週別フィブリノゲンレベルを示す図である。
図2G図2Gは、表2のms.FGA.2(配列番号13、14)に対応するフィブリノゲンアルファ鎖(siFga)を標的とするsiRNAを1.0mg/kg注射したマウスの血漿中の週別フィブリノゲンレベルを示す図である。
図2H図2Hは、表2のms.FGA.2(配列番号13、14)に対応するフィブリノゲンアルファ鎖(siFga)を標的とするsiRNAを2.0mg/kg注射したマウスの血漿中の週別フィブリノゲンレベルを示す図である。
図3A図3Aは、トロンボエラストグラフィ(TEG)によって、対照siLuc(黒)および表2のms.FGA.2(配列番号13、14)(灰色)を投与したマウスから血液を採取して、生体外における血液中の血栓の特性を測定した結果を、振幅(mm)対時間(時間)で示した図である。
図3B図3Bは、ルシフェラーゼ(siLuc)(黒)および表2のms.FGA.2(配列番号13、14)(灰色)に対応するsiFgaに対応するsiFgaを投与したマウスに対して、siRNAを投与したマウスの血液中の血栓形成時間(分)を示す図である。
図3C図3Cは、ルシフェラーゼ(siLuc)(黒)および表2のms.FGA.2(配列番号13、14)(灰色)に対応するsiFgaを投与したマウスに対して、siRNAを投与したマウスの血液中の血栓形成速度(角度)を示す図である。
図3D図3Dは、ルシフェラーゼ(siLuc)(黒)および表2のms.FGA.2(配列番号13、14)(灰色)に対応するsiFgaを投与したマウスに対して、siRNAを投与したマウスの血液中の血栓の硬さ(mm)を示す図である。
図3E図3Eは、ルシフェラーゼ(siLuc)および表2のms.FGA.2(配列番号13、14)に対応するsiFgaを投与したマウス(灰色)に対して、siRNAを投与したマウスに伏在静脈穿刺を行った後の出血時間(分、左グラフ)および血液損失量(μL/g、右グラフ)を示す図である。
図3F図3Fは、ルシフェラーゼ(siLuc)および表2のms.FGA.2(配列番号13、14)に対応するsiFgaを投与したマウス(灰色)に対して、siRNAを投与したマウスに尾部切断を行った後の出血時間(分、左グラフ)および血液損失量(μL/g、右グラフ)を示す図である。
図4A図4Aは、下大静脈(IVC)鬱血を誘発させる直前に、siLuc(黒)および表2のms.FGA.2(配列番号13、14)に対応するsiFga(灰色)を投与したマウスの血漿中のフィブリノゲンレベルを示す図である。
図4B図4Bは、siLuc(黒)および表2のms.FGA.2(配列番号13、14)に対応するsiFga(灰色)を投与したマウスのIVCにおいて形成された血栓の重量を示す図である。
図5A図5Aは、リポ多糖(LPS)によって誘発された内毒素血の調査終了時に採取されたマウスの肝臓におけるフィブリノゲンアルファ鎖(Fga)mRNAレベルを示す図である。マウスを、まずsiLuc(黒丸)とms.FGA.2(配列番号13、14)に対応するsiFga(灰色菱形)で処理し、続いてリン酸緩衝生理食塩水(PBS)キャリア対照とLPSで処理した。
図5B図5Bは、リポ多糖(LPS)によって誘発された内毒素血の調査終了時に採取されたマウスの肝臓におけるフィブリノゲンベータ鎖(Fgb)mRNAレベルを示す図である。マウスを、まずsiLuc(黒丸)とms.FGA.2(配列番号13、14)に対応するsiFga(灰色菱形)で処理し、続いてリン酸緩衝生理食塩水(PBS)キャリア対照とLPSで処理した。
図5C図5Cは、リポ多糖(LPS)によって誘発された内毒素血の調査終了時に採取されたマウスの肝臓におけるフィブリノゲンガンマ鎖(Fgg)mRNAレベルを示す図である。マウスを、まずsiLuc(黒丸)とms.FGA.2(配列番号13、14)に対応するsiFga(灰色菱形)で処理し、続いてリン酸緩衝生理食塩水(PBS)キャリア対照とLPSで処理した。
図5D図5Dは、リポ多糖(LPS)によって誘発された内毒素血の調査終了時に採取されたマウスの血漿におけるフィブリノゲンレベルを示す図である。マウスを、まずsiLuc(黒丸)とms.FGA.2(配列番号13、14)に対応するsiFga(灰色菱形)で処理し、続いてリン酸緩衝生理食塩水(PBS)キャリア対照とLPSで処理した。
図5E図5Eは、リポ多糖(LPS)によって誘発された内毒素血の調査終了時に採取されたマウスの血漿の活性化された凝固を表すD二量体レベルを示す図である。マウスを、まずsiLuc(黒丸)とms.FGA.2(配列番号13、14)に対応するsiFga(灰色菱形)で処理し、続いてリン酸緩衝生理食塩水(PBS)キャリア対照とLPSで処理した。
図5F図5Fは、リポ多糖(LPS)によって誘発された内毒素血の調査終了時に採取されたマウスの血漿における炎症性サイトカイン、腫瘍壊死因子-α(TNFα)、インターロイキン-1β(IL-1b)、IL-17、単球走化性タンパク質-1(MCP-1)、マクロファージ炎症性タンパク質-1α(MIP-1α)のレベルを示す図である。マウスを、まずsiLuc(黒バー)とms.FGA.2(配列番号13、14)に対応するsiFga(灰色バー)で処理し、続いてリン酸緩衝生理食塩水(PBS)キャリア対照とLPSで処理した。
図6A図6Aは、チオグリコール酸で誘発された腹膜炎調査の終了時点で採取したマウスの血漿におけるフィブリノゲンレベルを示す図である。プラスミノーゲンをノックアウトした(Plg-/-)マウスを、表2のms.FGA.2(配列番号13、14)に対応するsiLuc(薄い灰色)およびsiFga(濃い灰色)で処理した。比較のためにプラスミノーゲンが充分な(Plg+/+、黒)マウスを含むすべてのマウスにチオグリコール酸を投与した。
図6B図6Bは、チオグリコール酸で誘発された腹膜炎調査の終了時点で採取したマウスの腹膜潅流液における総白血球細胞数を示す図である。プラスミノーゲンをノックアウトした(Plg-/-)マウスを、表2のms.FGA.2(配列番号13、14)に対応するsiLuc(薄い灰色)およびsiFga(濃い灰色)で処理した。比較のためにプラスミノーゲンが充分な(Plg+/+、黒)マウスを含むすべてのマウスにチオグリコール酸を投与した。
図6C図6Cは、チオグリコール酸で誘発された腹膜炎調査の終了時点で採取したマウスの腹膜潅流液における単核白血球/マクロファージ細胞の数を示す図である。プラスミノーゲンをノックアウトした(Plg-/-)マウスを、表2のms.FGA.2(配列番号13、14)に対応するsiLuc(薄い灰色)およびsiFga(濃い灰色)で処理した。比較のためにプラスミノーゲンが充分な(Plg+/+、黒)マウスを含むすべてのマウスにチオグリコール酸を投与した。
図6D図6Dは、チオグリコール酸で誘発された腹膜炎調査の終了時点で採取したマウスの腹膜潅流液におけるT細胞の数を示す図である。プラスミノーゲンをノックアウトした(Plg-/-)マウスを、表2のms.FGA.2(配列番号13、14)に対応するsiLuc(薄い灰色)およびsiFga(濃い灰色)で処理した。比較のためにプラスミノーゲンが充分な(Plg+/+、黒)マウスを含むすべてのマウスにチオグリコール酸を投与した。
図6E図6Eは、チオグリコール酸で誘発された腹膜炎調査の終了時点で採取したマウスの腹膜潅流液におけるB細胞の数を示す図である。プラスミノーゲンをノックアウトした(Plg-/-)マウスを、表2のms.FGA.2(配列番号13、14)に対応するsiLuc(薄い灰色)およびsiFga(濃い灰色)で処理した。比較のためにプラスミノーゲンが充分な(Plg+/+、黒)マウスを含むすべてのマウスにチオグリコール酸を投与した。
図6F図6Fは、チオグリコール酸で誘発された腹膜炎調査の終了時点で採取したマウスの腹膜潅流液における好中球細胞の数を示す図である。プラスミノーゲンをノックアウトした(Plg-/-)マウスを、表2のms.FGA.2(配列番号13、14)に対応するsiLuc(薄い灰色)およびsiFga(濃い灰色)で処理した。比較のためにプラスミノーゲンが充分な(Plg+/+、黒)マウスを含むすべてのマウスにチオグリコール酸を投与した。
図7A図7Aは、実験的転移調査の終点で採取した、表2のms.FGA.2(配列番号13、14)に対応するsiLuc(黒色)およびsiFga(灰色)を投与したマウスの血漿中のフィブリノゲンレベルを示す図である。
図7B図7Bは、実験的転移調査の終点で採取した、表2のms.FGA.2(配列番号13、14)に対応するsiLuc(黒色)およびsiFga(灰色)を投与したマウス肺における肺病巣の総数を示す図である。
図7C図7Cは、実験的転移調査の終点で採取した、表2のms.FGA.2(配列番号13、14)に対応するsiLuc(黒色)およびsiFga(灰色)を投与したマウスの肺における肉眼的転移数(左グラフ)および微小転移(右)を示す図である。
図7D図7Dは、実験的転移調査の終点で採取した、表2のms.FGA.2(配列番号13、14)に対応するsiLuc(左画像)およびsiFga(右画像)を投与したマウスの肺葉における肉眼的転移数(大きな白矢印)および微小転移(小さい白矢印)の画像を示す図である。
【詳細な説明】
【0027】
本明細書において、特段の記載がない限り、「comprise」、「comprising」、「include」、「including」などの文言は、排他的意味とは対照的に、包含的意味(即ち、限定されない)と解釈されるべきである。
【0028】
本開示の一実施の形態によればフィブリノゲンのアルファ鎖の発現を低下させるsiRNA配列を含む脂質ナノ粒子が提供される。フィブリノゲンにはアルファ鎖、ベータ鎖、ガンマ鎖という3つの鎖がある。いくつかの実施の形態では、アルファ鎖をコード化するmRNAは、siRNA配列によって標的化され、これにより肝臓によるフィブリノゲンタンパク質のアセンブリを減少または防止する。いくつかの実施の形態では、これによってフィブリノゲンの血液中への分泌が減少する。特定の有益な実施の形態において、本発明者らは本明細書に記載のLNP製剤が、循環フィブリノゲンのレベルを、止血効果が損なわれない範囲(例えば、患者の血液または血清中1g/Lの閾値以上)に制御することができることを見出した。したがって、本開示の組成物は、フィブリノゲンレベルの低下に関する従来の方法における安全性の問題を解決できる点において有益である。
【0029】
本明細書で記載されるsiRNAは、フィブリノゲンおよびフィブリン(後者は、本明細書では「フィブリン(フィブリノゲン)」とも称す)の一方または両方のレベルを調節し得る。当業者に周知のように、フィブリノゲンは翻訳後に切断されてフィブリンになる。したがって、フィブリノゲンのアルファ鎖をコード化するmRNAを標的とすることにより、siRNAは身体部位におけるフィブリノゲンおよび/またはフィブリンのレベルを低下させ得る。
【0030】
フィブリノゲンのアルファ鎖を標的とするsiRNAは二本鎖siRNAである。このような実施の形態では、siRNAはセンス鎖とアンチセンス鎖からなり、siRNAの各ヌクレオチドは修飾または非修飾ヌクレオチドであり、センス鎖とアンチセンス鎖は少なくとも部分的に相補的である。本開示のさらなる非限定的な例示を、以下により詳細に記載する。
【0031】
siRNA
本明細書に記載のsiRNAは、「フィブリノゲン依存性の状態、疾患または障害」を治療、改善または予防するために使用される。いくつかの例において、前述の用語は、フィブリノゲンが正常レベルを超えて上昇することによって生じる状態、疾患または障害を包含する。別の例では、フィブリノゲンを正常レベル以下に低下させることが望ましい場合もある。フィブリン(フィブリノゲン)依存性疾患または障害の例としては、非限定的に、高フィブリノゲン血症、微生物および/またはウイルス感染後の急性炎症(例えば、敗血症、COVID-19など)、慢性炎症(例えば、加齢に伴うもの、肥満、関節炎、糖尿病などの疾患)、癌や外傷に伴う血栓症を含む血栓症、血栓性炎症(炎症の亢進に伴う血栓症)、心血管疾患、癌の成長、進行、転移、が挙げられる。
【0032】
本明細書における「フィブリノゲンアルファ鎖mRNAに対するsiRNA分子」という表現は、生体外または生体内で測定されるsiRNA配列に相補的なmRNAの分解を媒介または翻訳の阻害をすることなどにより、フィブリノゲンの発現を低減または阻害する二本鎖RNA(即ち、siRNA、aiRNA、またはpre-miRNAなどの二本鎖RNA)を包含する。siRNAは、フィフィブリノゲンアルファ鎖または配列をコード化する遺伝子と実質的または完全に同一であるか、ミスマッチ領域(即ち、ミスマッチモチーフ)を含んでいてもよい。siRNAの配列は、標的配列全体、または部分配列に対応し得る。
【0033】
いくつかの実施の形態では、siRNAは15~40または20~35ヌクレオチドの長さである。siRNAは二本鎖なので、ヌクレオチドの長さはアンチセンス鎖とセンス鎖の短い方の長さに相当する。
【0034】
本明細書に記載のsiRNAは、「ミスマッチモチーフ」または「ミスマッチ領域」を含んでいてもよく、これは標的配列と100%の相補性を持たないsiRNA配列の部分を指す。siRNAは少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つまたはそれ以上のミスマッチ領域を有していてもよい。ミスマッチ領域は連続していてもよいし、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12またはそれ以上のヌクレオチドで隔てられていてもよい。ミスマッチモチーフまたは領域は、単一のヌクレオチドから構成されてもよいし、2つ、3つ、4つ、5つ、またはそれ以上のヌクレオチドから構成されてもよい。
【0035】
いくつかの実施の形態では、siRNAは、生体外または生体内で測定されるフィブリノゲンの発現を減少または阻害する。フィブリノゲン発現の阻害または減少は、siRNAで得られたmRNAの減少が関連する対照(例えば、バッファまたは空の脂質ナノ粒子)に対して、約90%、85%、80%、75%、70%、65%、60%、55%、50%、45%、40%、35%、30%、25%、20%、15%、10%、5%または0%である場合に達成される。標的遺伝子または標的配列の発現を測定するための適切なアッセイとしては、例えば、定量的PCR(qPCR)、ウェスタンブロット、ドットブロット、ノーザンブロット、in situハイブリダイゼーション、ELISA、免疫沈降、酵素機能、および当業者に公知の表現型分析など、当業者に公知の手法を用いたタンパク質またはRNAレベルの検査が挙げられる。体外での発現低下は、実施例において記載されるようなアッセイを用いて測定することができる。表現型分析には、フィブリノゲン依存性疾患の治療または予防を評価するために、本明細書の実施例に記載されるようなモデル生物における凝固または他のアッセイが含まれる。
【0036】
「フィブリノゲン発現の阻害または低減」という表現は、上記アッセイのいずれか1つを使用して、関連する対照に対する干渉RNAで得られた値が約90%、85%、80%、75%、70%、65%、60%、55%、50%、45%、40%、35%、30%、25%、20%、15%、10%、5%または0%である場合に達成されるフィブリノゲンアルファ鎖発現の阻害または低減を包含する。特定の実施の形態では、mRNAレベルまたはタンパク質レベルのいずれかをアッセイしてもよい。
【0037】
siRNAのヌクレオチドは修飾されていてもよい。修飾の例としては、2’-O-Me修飾などの2’-O-アルキル修飾、および2’-フルオロ修飾などの2’-ハロゲン修飾が挙げられるが、これらに限定されない。
【0038】
siRNAは、以下の表1、表2、および表3に示されるヌクレオチド配列のいずれか1つと配列同一性を有していてもよい。より一般的には、siRNAは表1または表3に示すヒトヌクレオチド配列との配列同一性を有する。本明細書において2つの核酸に言及する場合の表現「配列同一性」とは、公知の比較アルゴリズムまたは手動アラインメントと目視検査によって測定された比較ウィンドウまたは指定領域にわたって最大限一致させるために比較およびアラインメントされた際に、同一であるかまたは同一であるヌクレオチドが特定パーセンテージである2つの配列または部分配列を指す。
【0039】
配列同一性の判定において、通常一方の配列が基準配列となり、これに対してテスト配列が比較される。配列比較アルゴリズムを使用する場合、テスト配列と基準配列をコンピュータに入力し、必要に応じて部分配列座標を指定し、配列アルゴリズムプログラムパラメータを指定する。既定のプログラムパラメータを使用してもよく、代替パラメータを指定してもよい。次に、配列比較アルゴリズムは、プログラムパラメータに基づいて、基準配列に対するテスト配列の配列同一性パーセントを計算する。配列同一性は、当業者には周知のBLASTによって測定されるのが一般的である。
【0040】
一実施の形態では、siRNAは、以下の表1、表2、および表3の配列番号1~26のいずれか1つに対して少なくとも30%~100%の配列同一性を有している。例えば、siRNAは、配列番号1~26のいずれか1つに対して、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%の配列同一性を有し得る。一実施の形態では、siRNAの鎖は、基本的に配列番号1~26のいずれか1つから構成され、鎖の違いは4ヌクレオチド以下であるものの、メチル化またはハロゲン修飾(以下に記載)などのヌクレオチドの修飾が除外されることを意味する。
【0041】
別の実施の形態では、siRNAまたは二本鎖siRNAの鎖は、配列番号1~26に示されるように、異なるヌクレオチド数が1、2、3、4、5、7、8、9、10、11、12、13、14、または15以下である。一実施の形態では、siRNAは異なるヌクレオチド数が10ヌクレオチド以下または5ヌクレオチド以下でしかない。これは、一実施の形態では、メチル化またはハロゲン修飾(以下に記載)のような、所与のヌクレオチドの修飾による差異が除外されている。
【0042】
別の実施の形態では、本開示は、フィブリノゲン発現を阻害または低減させるために、配列番号1~10または配列番号17~26(ヒト配列)から選択される1つ以上の例示的なsiRNA配列またはその二本鎖を提供する。
【0043】
一実施の形態では、siRNAは、以下の表1の配列番号1~10または表3の配列番号17~26のいずれか1つに対して少なくとも30%~100%の配列同一性を有している。例えば、siRNAは、以下の表1の配列番号1~10または表3の配列番号17~26のいずれか1つに対して、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%の配列同一性を有し得る。一実施の形態では、siRNAは、基本的に以下の表1の配列番号1~10または表3の配列番号17~26のいずれか1つから構成され、鎖の違いは4ヌクレオチド以下であるものの、メチル化またはハロゲン修飾(以下に記載)などのヌクレオチドの修飾が除外されることを意味する。
【0044】
本明細書における配列同一性は、2つのヌクレオチドの完全な一致を必須としないことを理解されたい。具体的に説明すると、あるヌクレオチドはメチル化されていてもよく、メチル化されていないヌクレオチドとは同一性があるとみなされる。
【0045】
別の実施の形態では、siRNAまたは二本鎖siRNAの鎖は、以下の表1の配列番号1~10および表3の配列番号17~26に示されるように、異なるヌクレオチド数が1、2、3、4、5、7、8、9、10、11、12、13、14、または15以下である。一実施の形態では、siRNAは、以下の表1および表3の配列に対して、異なるヌクレオチド数が10ヌクレオチド以下、または8、7、6、または5ヌクレオチド以下でしかない。これは、一実施の形態では、メチル化またはハロゲン修飾(以下に記載)のような、所与のヌクレオチドの修飾による差異が除外されている。
【0046】
別の実施の形態では、本開示は、フィブリノゲン発現を阻害または低減させるために、配列番号1~10(表1)および配列番号17~26(表3)から選択される1つ以上のsiRNA配列またはその二本鎖を提供する。
【0047】
別の実施の形態では、本開示は、フィブリノゲン発現を阻害または低減させるために、配列番号1~10(表1)から選択される1つ以上のsiRNA配列またはその二本鎖を提供し、siRNAまたは二本鎖siRNAの鎖は、異なるヌクレオチド数が1、2、3、4、5、7、8、9、10、11、12、13、14、または15以下であり、および/または0%~50%または10%~40%のヌクレオチドが、2’-O-Me修飾などの2’-O-アルキル修飾および/または2’-ハロゲン修飾を有する。
【0048】
siRNA配列は、以下の表2または表3に記載されたものと同様の修飾パターンを示し得るが、これらに限定はされない。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
【表3】
【0052】
配列表に記載されたものと同様の配列を有するsiRNAは、必要に応じて、非限定的にリガンドなどの他の部位(以下に記載)と結合され得ることを理解されたい。
【0053】
siRNAにおいてアンチセンス鎖とセンス鎖は、塩基対の相補性により二本鎖を形成する際に、突出末端(overhang)を伴わずにアニールされ、二本鎖の両端に鈍端を形成するか、またはセンス鎖の3’末端、アンチセンス鎖の3’末端、センス鎖の5’末端、アンチセンス鎖の5’末端の1つ以上に突出末端を有するように設計することができる。いくつかの実施の形態では、5’突出末端はなく、3’アンチセンス突出末端もないが、3’センス突出末端は存在する。別の態様では、5’突出末端は存在せず、3’アンチセンス突出末端および3’センス突出末端が存在する。
【0054】
突出末端が存在する場合、その長さは例えば1~6ヌクレオチドである。いくつかの態様において、突出末端はジヌクレオチドである。非限定的な例として、ある態様では、3’センス突出末端のdTdTがあり、アンチセンス鎖には突出末端がなく、5’センス突出末端もない。別の非限定的な例として、別の態様では、3’センス突出末端のdTdTと、同じく3’アンチセンス突出末端のdTdTが存在するが、アンチセンス鎖とセンス鎖のいずれにも5’突出末端は存在しない。別の非限定的な例として、ある態様では、3’センス突出末端のdTdTと、二本鎖内のアンチセンス鎖の領域が相補的である標的分子の領域に隣接する標的分子上の2つのヌクレオチドに相補的な3’ジヌクレオチドアンチセンス突出末端が存在する。この態様では、アンチセンス鎖にもセンス鎖にも5’突出末端はない。突出末端が存在する場合、その中のヌクレオチドは、各鎖について前述の18~30ヌクレオチドの範囲に含まれる。
【0055】
いくつかの態様において、siRNAは1つ以上の他の分子と共有結合することによって結合部を形成する。いくつかの態様において、siRNAの生物への送達または細胞への送達を容易にするために結合部が選択される。siRNAは、例えばアンチセンス鎖の5’末端、アンチセンス鎖の3’末端、センス鎖の5’末端、センス鎖の3’末端、または両鎖の3’末端および5’末端以外の位置にあるヌクレオチドに結合され得る。
【0056】
結合の例としては、抗体、ペプチド、アミノ酸、アプタマ、リン酸基、コレステロール部分、脂質、細胞透過性ペプチドポリマ、および糖基1つ以上が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、糖モノマ、オリゴ糖およびそれらの修飾が含まれる。ある態様では、結合はN-アセチルガラクトサミン(GalNAc)である。
【0057】
脂質ナノ粒子
一実施の形態では、本開示は、脂質ナノ粒子内に封入されたフィブリノゲンアルファ鎖mRNAに対する核酸を提供する。一実施の形態では、核酸はフィブリノゲンの発現を阻害または低減させるものである。
【0058】
本発明は、核酸を脂質ナノ粒子内へ取り込む位置や性質によって限定されないことを理解されたい。すなわち、「封入された」という表現は、核酸と脂質ナノ粒子との間の特定の相互作用に限定されることを意味するものではない。核酸は、水性部分、脂質層内、またはその両方に取り込むことができる。
【0059】
本明細書に記載の脂質ナノ粒子(LNP)は、核酸と結合または複合化しうるイオン化可能な脂質を含んでいてもよい。「イオン化可能な脂質」という用語は、そのpKa以下の選択されたpHで正味の正電荷を運ぶ多くの脂質種のいずれかを指している。いくつかの実施の形態では、カチオン性脂質は、アミノ基からなる頭部基を有する。いくつかの実施の形態では、カチオン性脂質は、プロトン化可能な第3級アミン(例えば、pH滴定可能な)頭部基、C16~C18アルキル鎖、頭部基とアルキル鎖との間のエーテル結合、および0~3の二重結合を含む。
【0060】
特定の実施の形態では、カチオン性脂質含量は、脂質ナノ粒子中に存在する全脂質の20mol%~70mol%、または30mol%~55mol%、または35mol%~55mol%である。
【0061】
本明細書に記載の脂質ナノ粒子(LNP)は、イオン化可能な脂質に加えて、ヘルパ脂質を含んでいてもよい。本開示において、「ヘルパ脂質」という用語は、ホスファチジルコリン脂質、スフィンゴミエリン、またはこれらの混合物から選択され得る任意のベシクル形成脂質(例えば、二重層形成脂質)を包含する。いくつかの実施の形態では、ヘルパ脂質は、スフィンゴミエリン、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)、1-パルミトイル-2-オレイル-ホスファチジルコリン(POPC)およびジパルミトイル-ホスファチジルコリン(DPPC)から選択される。特定の実施の形態では、ヘルパ脂質はDOPC、DSPCまたはスフィンゴミエリンである。一実施の形態では、ヘルパ脂質はDSPCである。含有されるヘルパ脂質には、二種類以上の異なるヘルパ脂質の混合物が含まれてもよい。
【0062】
例えば、特定の実施の形態では、ホスファチジルコリン含量は、脂質ナノ粒子中に存在する全脂質の20mol%~60mol%、または25mol%~60mol%、または30mol%~60mol%、または35mol%~60mol%、または40mol%~60mol%である。ホスファチジルコリン脂質含量は、ステロールを含む脂質ナノ粒子中の脂質の総量に基づいて決定される。
【0063】
一実施の形態では、LNPはステロール、親水性ポリマ脂質結合体、またはその両方からなる。
【0064】
ステロールの例としては、コレステロール、またはコレステロール誘導体、例えばコレスタノール、コレスタノン、コレステノン、コプロスタノール、コレステリル-2′-ヒドロキシエチルエーテル、コレステリル-4′-ヒドロキシブチルエーテル、ベータ-シトステロール、フコステロールなどが挙げられる。一実施の形態では、ステロールは、脂質ナノ粒子中に存在する全脂質に基づいて、15mol%~65mol%、18mol%~50mol%、20mol%~50mol%、25mol%~50mol%、または30mol%~50mol%で存在する。別の実施の形態では、ステロールはコレステロールであり、脂質ナノ粒子中に存在する脂質とステロールの合計に基づいて、15mol%~65mol%、18mol%~50mol%、20mol%~50mol%、25mol%~50mol%、または30mol%~50mol%で存在する。
【0065】
一実施の形態では、親水性ポリマ脂質結合体は、(i)極性頭部基を有するベシクル形成脂質、および(ii)頭部基に共有結合した親水性ポリマ鎖を含む。親水性ポリマの例としては、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリヒドロキシプロピルメタクリレート、ポリヒドロキシプロピルメタクリルアミド、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ポリメタクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、ポリメチルオキサゾリン、ポリエチルオキサゾリン、ポリヒドロキシエチルオキサゾリン、ポリヒドロキシプロピルオキサゾリン、ポリサルコシン、ポリアスパルタミド。一実施の形態では、親水性ポリマ脂質結合体はPEG-脂質結合体である。
【0066】
親水性ポリマ脂質結合体は、ナノ粒子中の全脂質に対して0mol%~5mol%、または0.5mol%~3mol%、または0.5mol%~2.5mol%、または0.5mol%~2.0mol%、または0.5mol%~1.8mol%で存在してもよい。別の実施の形態では、PEG脂質結合体は、ナノ粒子中の全脂質に対して0mol%~5mol%、または0.5mol%~3mol%、または0.5mol%~2.5mol%、または0.5mol%~2.0mol%、または0.5mol%~1.8mol%で存在する。特定の実施の形態では、PEG脂質結合体は、ナノ粒子中の全脂質に対して0mol%~5mol%、または0mol%~3mol%、または0mol%~2.5mol%、または0mol%~2.0mol%、または0mol%~1.8mol%で存在してもよい。
【0067】
フィブリン(フィブリノゲン)依存性疾患の治療または予防方法
別の態様において、本開示は、フィブリノゲン発現の低減から利益を得られる障害または病状を有する被験者に対する処置方法を提供する。
【0068】
これには「炎症性疾患」が含まれ、本明細書で使用される「炎症性疾患」としては、白血球、炎症性サイトカイン/ケモカイン、または急性期タンパク質(例えばフィブリノゲンが挙げられるがこれに限定されない)が被験者体内で異常に多くなる状態を含み、あらゆる重症度が含まれる。フィブリン(フィブリノゲン)依存性の疾患または障害には、COVID-19、癌、敗血症、肥満、微生物/ウイルス感染症、血栓症が含まれるが、これらに限定されるものではない。前記方法は、治療に有効な量のsiRNAを、必要に応じて脂質ナノ粒子に封入された状態で、被験者に投与することを含んでおり、これにより被験者を治療、または被験者に予防効果を提供する。
【0069】
本明細書において「被験者」という用語には、フィブリノゲン発現を低減させる処置が欠如している場合と比較して、フィブリノゲン発現を低減させることにより利益を得られるであろう、ヒトまたは非ヒト哺乳動物被験体が包含される。当該利益には、いくつかの実施の形態における予防的利益も含まれる。いくつかの実施形態では、被験者はヒトである。
【0070】
一実施の形態では、本開示はフィブリノゲン発現を低減させることにより利益を得られる障害を有する被験者において、例えば、血栓症などの少なくとも1つの症状を防止する方法を提供する。前記方法は、被験者に対して、治療に有効な量のsiRNAを投与することを含み、これによりフィブリノゲン発現の低減が有効な障害を有する被験者の少なくとも1つの症状を防止する。
【0071】
一実施の形態では、被験者にsiRNAを投与することで、血栓症、炎症を低減させ、および/またはフィブリノゲンタンパク質の発現および/または蓄積を低減させる。
【0072】
別の実施の形態では、本開示は、凝固を調節することによって患者を治療する方法を提供し、当該方法にはフィブリノゲンの発現を阻害するためにsiRNAを必要とする被験者に、siRNAを投与することが含まれる。凝固または血液凝固の調節は、本明細書の実施例の項で述べるように評価することができる。
【0073】
フィブリノゲン発現のノックダウン、阻害および/または低減を評価するさらなる方法には、トロンボエラストグラフィ(TEG)、血栓硬化アッセイ、血餅融解アッセイ、および/または血漿フィブリノゲンタンパク質濃度の定量化が含まれる。標的遺伝子または標的配列の発現阻害は、siRNAで得られた値が関連するコントロールに対して約90%、85%、80%、75%、70%、65%、60%、55%、50%、45%、40%、35%、30%、25%、20%、15%、10%、5%、または0%の場合に達成される。
【0074】
別の実施の形態では、siRNAは生体外または生体内で細胞を治療するために使用される。当該細胞は、フィブリン(フィブリノゲン)依存性障害に罹患している例えばヒトの被験者などの哺乳類の被験体内のものであってもよい。本開示の一実施の形態では、肝細胞に送達されたsiRNAを用いてフィブリノゲンをノックダウンする方法を提供する。
【0075】
医薬製剤
いくつかの実施の形態では、フィブリノゲン発現を低減させる核酸を含むsiRNAまたは脂質ナノ粒子は、医薬組成物の一部であり、疾患状態を治療および/または予防するために投与される。当該治療は、フィブリノゲン依存性疾患の予防(防止)、改善または治療といった利益を提供可能である。医薬組成物は、任意の適切な用量で投与される。
【0076】
一実施の形態では、医薬組成物は、非経口で、即ち、動脈内、静脈内、皮下または筋肉内に投与される。別の実施の形態では、医薬組成物は、経鼻的に、硝子体内に、網膜下に、髄腔内に、または他の局所経路を介して投与される。
【0077】
医薬組成物は、薬学的に許容し得る塩および/または賦形剤を含む。本明細書において、「薬学的に許容し得る塩」という用語は、当技術分野で周知の様々な有機および無機の対イオンから導出される薬学的に許容し得る塩を指し、例としては、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アンモニウム、およびテトラアルキルアンモニウム、ならびに分子が塩基性官能基を含む場合、塩酸塩、臭化水素酸塩、酒石酸塩、メシラート、酢酸塩、マレイン酸塩、およびシュウ酸塩などの有機酸塩または無機酸塩が挙げられる。好適な塩としては、P. Heinrich Stahl, Camille G. Wermuth(Eds.), Handbook of Pharmaceutical Salts Properties, Selection, and Use(仮訳:医薬用塩のプロパティのハンドブック、選択と用途)、2002に記載されているものが挙げられる。
【0078】
本明細書において、「賦形剤」という用語は、薬剤成分(API)を医薬製剤に配合するために使用される物質を意味する。例えば、マンニトール、Captisol(登録商標)、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、滑石、セルロース、クロスカルメロースナトリウム、ブドウ糖、ゼラチン、スクロース、炭酸マグネシウムなどが挙げられる。許容され得る賦形剤は非毒性であり、当業者が一般に入手可能な固体、液体、半固体の賦形剤であればいずれであってもよい。
【0079】
実施例は、本発明の調製および特性を説明するためのものであり、決して本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例
【0080】
材料および方法
siRNA-LNPの調製、分析、投与
各生物種について、Fga mRNA(siFga)の異なる領域を標的とする三種類のマウス特異的siRNA配列と五種類のヒト特異的siRNA配列がコンピュータ・シミュレーション(in silico)で設計された。siRNAは25mMの酢酸ナトリウムpH4緩衝剤にアミン対リン酸(N/P)比3で溶解した。イオン化可能なアミノ脂質、DSPC、コレステロール、PEG-DMGを、最終的な総脂質濃度が20mMになるように、それぞれ50/10/38.5/1.5mol%のモル比でエタノールに溶解した。2つの溶液を前述のようにT字型ミキサで混合し、得られたsiRNA脂質ナノ粒子(LNP)を、500倍のリン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH7.4)で透析した。コレステロール含量は、総コレステロール測定キット(Cholesterol E Assay Kit(和光ケミカル社、カリフォルニア州マウンテンビュー))を用いて測定し、そこから総脂質濃度を推定した。核酸捕捉はRiboGreenTMアッセイを用いて測定した。siRNA‐LNPをマウスとイヌの静脈内に投与した。siFgaで処置を行い、PBSまたはルシフェラーゼを標的とするsiRNA(siLuc)をマウス研究の対照として用いた。ヒトsiFga配列のスクリーニングには、空のLNPsを対照として用いた。siRNA-LNPを製剤化後1週間以内に使用する場合は、4℃で保存し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で希釈した。さらに長期保存が必要な場合は、10mMのLのヒスチジンと10%のスクロースを含む緩衝液(pH7.4)で希釈し、使用可能になるまで-80℃で保存した。siRNA-LNPは指示された用量で投与された。
【0081】
マウス
各施設で実施された処置は、各地域の動物ケア委員会によって承認されたものであり、特段の記載がない限り、8~14週齢の野生型(WT)C57BL/6Jマウス(ストック#000664、ジャクソン・ラボラトリ)が用いられた。
【0082】
マウス採血
血液検体は、イソフルラン麻酔をかけたマウスから、非末期採血の場合は眼窩後方採血、末期採血の場合は心臓穿刺により行った。採血には、クエン酸ナトリウム(最終濃度0.32%または0.38%)を全血中最終v/v濃度10%まで含む23G注射針を用いた。全血を1500xgで、10分間、二度遠心分離し、血小板の乏しい血漿を得た。血小板を単離するために、300mLのTyrode緩衝剤(pH6.5)を全血に添加し、その後600×gで3分間遠心分離して多血小板血漿(PRP)を得た。プロスタグランジンE1(10mg/ml、シグマ社)をPRPとその後のすべてのスピン工程に添加し、血小板の活性化を最小限に抑えた。PRPを再度400xgで2分間遠心分離し、残存する赤血球(RBC)を除去した。続いてPRPを800xgで10分間遠心分離し、ペレット化した血小板を分離した。
【0083】
mRNAの定量化
特段の記載がない限り、細胞を培養プレートから採取するか、肝臓組織を麻酔下のマウスから外科手術により摘出し、Trizol(ThermoFisher社製、マサチューセッツ州ウォルサム)で均質化した。核酸はフェノールクロロホルム沈殿法で抽出した。DNAは、検体をTURBO DNase(ThermoFisher社製)を用いて、37℃で1時間培養することにより切断した。DNaseはTrizolクロロホルム抽出を繰り返すことで除去した。iScript cDNA Synthesis Kit(Bio-Rad社製、カリフォルニア州ヘラクレス)を用いて逆転写を行い、続いてSYBR Green Master Mix(ThermoFisher社製)およびDNAプライマ(IDT、アイオワ州コーラルビル)を用いてqPCRを行った。
【0084】
タンパク質の定量化
フィブリノゲンタンパク質レベルは、酵素免疫測定法(ELISA)(Innovative Research and Enzyme Research Laboratories)、またはウェスタンブロットで定量化した。ウェスタンブロットでは、検体を還元、煮沸し、4%~15%のアクリルアミドグラジエントゲル(Bio-Rad)で分離した。電気泳動後、検体をニトロセルロースメンブレン(GE Healthcare社)に移し、Odyssey Blocking Buffer(LI-COR)でブロッキングした。メンブレンをウサギ抗ヒトフィブリノゲン抗体(1:10000、A0080、 Agilent Dako)、または血小板因子4(PF4、1:1000、SAPF4-AP、 Affinity Biologicals)で培養した。HRP結合ヤギ抗ウサギ二次抗体(1:20000、ab7090、Abcam)で培養した後、ECL基質(Bio-Rad)を用いてSapphire Biomolecular Imager(Azure Biosystems)で、特定バンドを検出した。フィブリノゲンバンドの定量化はImageJソフトウェアを用いて行い、PF4ローディング・コントロールに対する相対強度で表した。
【0085】
トロンボエラストグラフィ(TEG)
せん断弾性率はTEG Hemostasis Analyzer System 5000(Haemonetics社)を用いて37℃で評価した。クエン酸処理したマウス全血をカルシウム-生理食塩水緩衝液(50mMのCaCl2、90mMのNaCl)および組み換え組織因子(Innovin、10pM、MedCorp)と混合した。
【0086】
ヒト肝癌(HUH7)細胞培養におけるsiFgaのスクリーニング
HUH7細胞はトランスフェクションの一日前に1×10個/ウェルで播種した。その後、細胞を五種類のLNP-hsiFgaで3μg/mLのsiRNAの用量でトランスフェクションするか、陰性対照として空のLNPを用いた。翌日、細胞を溶解し、PureLink RNA Mini Kit(Thermo Fisher、マサチューセッツ州ウォルサム)を用いて、メーカーのプロトコルに従ってRNAを抽出した。フィブリノゲンmRNAレベルは、上記のようにSYBR Green qPCRを用いて検出・定量した。
【0087】
伏在静脈穿刺出血モデル
siFga(1mg/kg)またはPBS投与1週間後、マウスを10%~15%イソフルランで麻酔し、ヒーティングパッド上に載置した。毛皮除去後、静脈を10倍のステレオスコープで観察した。静脈を動脈と神経から分離し、約5分間放置後、23ゲージの針のベベルを使って伏在静脈の内壁に穿刺創傷を作った。出血が止まるまで、あらかじめ計量した濾紙で穿刺部位の血液を穏やかに吸収することにより、経時的な失血量を測定した。出血は40分間観測された。出血量は、血液吸収後の紙の重量で測定した。
【0088】
尾部切断出血モデル
siFgaまたはsiLuc(ともに1mg/kg)投与1週間後、マウスを10%~15%イソフルランで麻酔し、ヒーティングパッド上に載置した。尾を先端から4mmのところで切断し、直ちに0.9%NaCl溶液(生理食塩水)に浸し、20分間出血を観測した。失血量を定量するため、血液-生理食塩水検体を赤血球溶解液(1.5MのNH4Cl、0.1MのNaHCO3、0.01MのEDTA)で処理し、室温で10分間穏やかに振とうしながら培養した後、509nmで吸光度を測定した(Tecanマイクロプレートリーダ)。吸光度は、心臓内穿刺で採取した既知量のマウス血液による標準曲線を用いて出血量に換算し、体重で正規化した。
【0089】
下大静脈(IVC)鬱血性血栓症モデル
マウスにsiFgaまたはsiLuc(2mg/kg)を、IVC鬱血を誘導する六日前に尾静脈から注射した。IVCを露出させ、分離し、結紮した。側枝も結紮し、腰枝は焼灼した。24時間後、IVCから血栓を除去し、重量を測定した。
【0090】
内毒血症モデル
10mg/kgのリポ多糖(LPS、シグマ)を腹腔内注射する1週間前に、尾静脈からsiFgaまたはsiLuc(1mg/kg)をマウスに注射した。マウスはLPS注射の24時間後に安楽死させられ、分析のために血液と肝臓が採取された。Fga、Bβ鎖(Fgb)、およびγ鎖(Fgg)の肝臓mRNA発現レベルを、ABI StepOne Plus配列検出システム(Applied Biosystems)上のTaqMan Gene Expression アッセイ(Applied Biosystems)を用いて測定した。各遺伝子の発現はB2m発現レベルに対して正規化し、Pfaffl法を用いて相対発現レベルを決定した。フィブリノゲンおよびD二量体の血漿レベルをELISA(それぞれImmunology Consultants Laboratory INC、Siemens Healthcare Diagnostics、Diagnostica Stago)により定量した。TNFα、IL‐1β、IL‐17、MCP‐1およびMIP‐1αを含む血小板の乏しい血漿中のサイトカインを、UNC Chapel HillのAdvanced Analytics Coreによる多重サイトカイン分析を用いて測定した。
【0091】
チオグリコール酸誘発腹膜炎モデル
腹膜炎を誘発する1週間前に、プラスミノーゲン欠損(Plg-/-)マウスにsiFgaまたはsiLuc(1mg/kg)を注射した。プラスミノーゲン十分性(Plg+/+)マウスは腹膜炎の前にsiRNAで処理されなかった。腹膜炎は500μLの4%Brewerチオグリコール酸培地(BD Difco)の腹腔内注射により誘発させた。投与から72時間後、腹腔を5mLのPBSで洗浄した。洗浄液は、前述のように、盲検化した観察者により、細胞分類とフローサイトメトリーにより分析された。血液を採取し、血漿中のフィブリノゲンレベルを上記のように定量した。
【0092】
実験的転移モデル
マウスにsiFgaまたはsiLuc(2mg/kg)を-3週目、-2週目、-1週目および0日目に尾静脈を介して注射し、その後腫瘍細胞を接種した。最後のsiRNA-LNP注射の30分後、マウスに尾静脈から300μLのGFP発現ルイス肺癌(LLCGFP)細胞(3.0x 10^5細胞)を注射し、14日目に安楽死させた。細胞を、少なくとも1回の継代で完全培地(DMEM、10%のFBS、2mMのL-Glut、2%のPen/Strep)中で増殖させ、集密度が70%に達した。細胞をトリプシン/EDTAに短時間暴露することによって回収し、洗浄し、氷冷PBSに再懸濁した。腫瘍接種14日後に肺を採取し、盲検化した観察者が蛍光顕微鏡を用いて肺LLCGFP病巣を数えた。投与から14日後にマウスの一部から血液を採取し、血漿フィブリノゲンレベルを上記のように測定した。
【0093】
統計分析
データが正規分布しているかどうかを調べるために、シャピロ-ウィルク検定を行った。1対比較は、両側対応のないスチューデントのt検定またはマン・ホイットニーのU検定で行った。一変数の多群間の比較は、正規の一元配置分散分析(ANOVA)と、正規分布データと非対応データに対するテューキーの多重比較検定により行った。正規分布でないデータは、クラスカル・ウォリス検定(非対)またはフリードマン(対)検定、それに続くダンの多重比較検定で比較した。二元配置分散分析とテューキーの多重比較検定は、二変数を持つデータセットの比較に用いられた。統計的比較はすべてGraphpad Prism 9(Graphpad Software、米国)で行った。サイトカインデータセットについては、標準曲線の範囲外の値を部分的に観測された値として扱い(打ち切り観測法)、Rを使用してインプット値を得た。
【0094】
実施例1:生体外でのsiRNAノックダウン
本実施例では、体外でヒト肝細胞のフィブリノゲンをsiRNAでノックダウンすることを実証する。
【0095】
異なるsiRNA配列のヒトフィブリノゲンアルファ鎖mRNA(siFga)を培養中のヒト肝細胞に投与後に、材料および方法に記載される定量的PCRを用いてヒトフィブリノゲンアルファ鎖(FGA)mRNAレベルを測定した。
【0096】
図1に示されるように、表1のsiRNA配列、具体的にはhs.Ri.FGA.13.5(hs.13.5)(配列番号1、2)、CD.Ri.281933.13.5(CD.13.5)(配列番号3、4)、hs.Ri.FGA.13.8(hs.13.8)(配列番号5、6)、hs.Ri.FGA.13.4(hs.13.4)(配列番号7、8)、hs.Ri.FGA.13.7(hs.13.7)(配列番号9、10)を含むLNPで処置後、ヒトHUH7細胞における陰性対照(ctrl)としての空のLNPと比較して、生体外でFGA mRNAの有意な低下が観察された。
【0097】
実施例2:生体内におけるフィブリノゲンのsiRNAノックダウン。
本実施例では、siRNAがマウスのフィブリノゲンアルファ鎖mRNAをノックダウンし、生体内で循環フィブリノゲンタンパク質の枯渇をもたらすことを実証している。
【0098】
組織採取の1週間および3週間前に、マウスにフィブリノゲンを標的とする三種類のマウスsiRNA配列を投与後、材料および方法に記載されるPCR(qPCR)を用いて肝臓フィブリノゲンアルファ鎖mRNAレベルを定量し、ルシフェラーゼを標的とする対照siRNA(siLuc)と比較した。
【0099】
結果を図2Aに示す。図2Aからわかるように、表2のms.FGA.1(配列番号11、12)、ms.FGA.2(配列番号13、14)およびms.FGA.3(配列番号15、16)のsiRNA配列の投与後、1週間でマウスの肝臓組織における肝臓フィブリノゲンmRNAが、対照(siLuc)に対して減少した。
【0100】
血液採取の1週間および3週間前に、マウスにフィブリノゲンアルファ鎖mRNAを標的とする三種類のマウスsiRNA配列を投与後、材料および方法に記載されるELISAを用いて血漿中のフィブリノゲンタンパク質レベルを定量し、siLucと比較した。
【0101】
結果を図2Bに示す。図2Bからわかるように、表2のms.FGA.1(配列番号11、12)、ms.FGA.2(配列番号13、14)およびms.FGA.3(配列番号15、16)のsiRNA配列の投与後、1週間でマウスの血漿におけるフィブリノゲンタンパク質レベルが、対照siLucと比較して有意に減少した。
【0102】
血液採取の1週間前に、マウスにフィブリノゲンアルファ鎖mRNAを標的とする三種類のマウスsiRNA配列を投与後、材料と方法に記載されるウェスタンブロットを用いて血小板のフィブリノゲンタンパク質レベルを定量し、siLucと比較した。
【0103】
結果を図2C図2Dに示す。代表的なウェスタンブロットが図2Cに示されており、フィブリノゲンと血小板因子4(PF4、ローディング・コントロール)バンドのシグナル強度を定量化し、相対的な存在量を図2Dに示す。表2のms.FGA.1(配列番号11、12)、ms.FGA.2(配列番号13、14)およびms.FGA.3(配列番号15、16)のsiRNA配列の投与後、1週間でマウスの血小板におけるフィブリノゲンタンパク質レベルが、対照siLucと比較して有意に減少した。
【0104】
材料および方法に記載されるように、投与試験を実施し、表2のms.FGA.2(配列番号13、14)に対応するsiFgaを単回投与し、投与量0.1、0.5、1.0、2.0mg/kgで4週間にわたり毎週、血漿中のフィブリノゲンタンパク質レベルをELISAによって定量した。各週のフィブリノゲンレベルを定量し、siFga注射の3日前に採取した血液を用いて、基線フィブリノゲンレベルと比較した。
【0105】
結果を図2E図2Hに示す。表2のms.FGA.2(配列番号13、14)に対応するsiFgaを徐々に高用量で投与すると、投与後1週間で血漿からのフィブリノゲンタンパク質の減少量が増加し、基線に戻る回復速度が鈍化した。
【0106】
実施例3:フィブリノゲンのsiRNAノックダウンおよび生体外および生体内における凝固の影響。
本実施例では、マウスのフィブリノゲンアルファ鎖をノックダウンしたsiRNAが、生体外では凝固を阻害するが、傷害後の生体内では血栓形成を阻害しないことを示している。
【0107】
材料および方法に記載されるトロンボエラストグラフィ(TEG)によって、siLuc(黒)および表2のms.FGA.2(配列番号13、14)(灰色)を投与したマウスから血液を採取して、生体外における血液中の血栓の特性を測定した。血栓形成時間、血栓形成速度、血栓の硬さはTEGから定量した。
【0108】
図3は代表的なトロンボエラストグラフィ曲線を示す。表2のms.FGA.2(配列番号13、14)に対応するsiFga投与マウスの血液(灰色)は、siLuc投与マウスの血液(黒色)と比較して、有意に凝固が阻害された。
【0109】
図3Bは、siLucを投与したマウスおよび表2のms.FGA.2(配列番号13、14)に対応するsiFGAを投与したマウス(灰色)の血液における血栓形成までの時間を比較したものである。siFga投与マウス二匹ではアッセイ期間中血栓形成しなかったが、siLuc投与マウス5匹の血液はすべて血栓を形成した。
【0110】
図3Cは、siLuc投与マウスおよび表2のms.FGA.2(配列番号13、14)に対応するsiFGA投与マウス(灰色)の血液における血栓形成速度を比較したものであり、siFga投与マウスの血液のほうがsiLuc投与マウスの血液よりも、血栓形成が遅いことを示している。
【0111】
図3Cは、siLuc投与マウスおよび表2のms.FGA.2(配列番号13、14)に対応するsiFGA投与マウス(灰色)の血液における血栓の硬さを比較したものであり、siFga投与マウスの血液で形成される血栓のほうがsiLuc投与マウスの血液で形成される血栓に比べて、有意に弱いことを示している。
【0112】
マウスの出血モデルでは、傷害を誘発する1週間前に、マウスに表2のms.FGA.2(配列番号13、14)に対応するsiFgaと、陰性対照としてPBSまたはsiLucを投与した。伏在静脈穿刺または尾部切断を行い、材料および方法に記載されるように、経時的に出血と血液損失をモニタリングした。
【0113】
図3Eは、伏在静脈穿刺後のマウスの出血時間と血液損失を示している。図3Eに示されるように、表2のms.FGA.2(配列番号13、14)に対応するsiFga投与マウスは、対照のPBS投与マウスと比較して、同様の期間出血し、血液損失も同程度であった。
【0114】
図3Fは、尾部切断後のマウスの出血時間と血液損失を示している。図3Eに示されるように、表2のms.FGA.2(配列番号13、14)に対応するsiFga投与マウスは、対照のsiLuc投与マウスと比較して、同様の期間出血し、血液損失も同程度であった。
【0115】
実施例4:siRNAによる血漿フィブリノゲンの減少による血栓症の減少。
本実施例では、フィブリノゲンアルファ鎖のsiRNAノックダウンが生体内で血栓症を減少させることを示している。
【0116】
マウスにsiLuc(黒)または表2のms.FGA.2(配列番号13、14)に対応するsiFga(灰色)を投与した。下大静脈(IVC)鬱血を誘発させる前に、血漿フィブリノゲンを定量するために、材料および方法に記載されているように血液を採取した。
【0117】
図4Aに示すように、フィブリノゲンタンパク質レベルは、IVCの鬱血を誘発させる前に著しく減少していた。図4Bに示すように、siFga投与マウスでは、siLuc投与マウスと比較して、IVCに有意に小さい血栓が形成された。
【0118】
実施例5:siRNAにより血漿フィブリノゲンが減少することによるリポ多糖(LPS)で誘発される急性期反応の抑制。
本実施例では、フィブリノゲンのsiRNAノックダウンが内毒素血症モデルにおける急性期反応を抑制することを実証している。
【0119】
リポ多糖(LPS)注射によって内毒素血症を誘発させる前に、材料および方法に記載されるように、マウスにsiLuc(黒)または表2のms.FGA.2(配列番号13、14)に対応するsiFga(灰色)を投与した。
【0120】
フィブリノゲンアルファ鎖(Fga)、ベータ鎖(Fgb)、ガンマ鎖(Fgg)の肝レベルを、材料および方法に記載するように定量し、結果をそれぞれ図5A図5B図5Cに示す。これらの図に示されるように、LPSを投与することによって、事前にsiLucを投与したマウスにおいて、Fga、Fgb、Fgg mRNAの各レベルが有意に増加し、事前にsiFgaを投与したマウスではFgaとFgg mRNAの同様のレベル増加が抑制されたが、Fgb mRNAでは抑制されなかった。
【0121】
血漿フィブリノゲン、D-二量体、および腫瘍壊死因子-α(TNFα)、インターロイキン-1β(IL-1β)、IL-17、単球走化性タンパク質-1(MCP-1)、マクロファージ炎症性タンパク質-1α(MIP-1α)を含むサイトカインレベルを、材料および方法に記載するように定量し、結果をそれぞれ図5D図5E図5Fに示す。
【0122】
図5Dに示すように、LPSが誘発した血漿フィブリノゲンの増加は、siFgaで予め処置することによって抑制された。
【0123】
図5Dに示すように、LPSが誘発した血漿D-二量体の増加は、siFgaで予め処置することによって抑制された。
【0124】
図5Fに示すように、siFgaで予め処置することにより、LPS投与マウスとPBS(陰性対照)投与マウスの血漿中の各サイトカインレベルは、LPS投与マウスのIL-1βを除いて低下した。
【0125】
実施例6:siRNAによって血漿フィブリノゲンを減少させることによる、プラスミノーゲン欠乏マウスのマクロファージ遊走障害の回復。
本実施例では、プラスミノーゲン欠乏(Plg-/-)マウスのマクロファージ遊走障害が、フィブリノゲンアルファ鎖を標的とするsiRNAで血漿フィブリノゲンを減少させることによって回復することを示している。
【0126】
材料および方法に記載されるように、Plg-/-マウスに、チオグリコレートで腹膜炎を誘発させる前に、表2のms.FGA.2(配列番号13、14)に対応するsiLuc(薄い灰色)またはsiFga(濃い灰色)を投与した。調査において、プラスミノーゲンが正常なマウス(Plg+/+)も対照として用いた。
【0127】
調査の終了時点での血漿中フィブリノゲンタンパク質レベルの定量には、材料および方法に記載されたELISAが用いられた。
【0128】
結果を図6Aに示す。siFgaを投与したPlg-/-マウスの血漿中のフィブリノゲンは、siLucを投与したPlg-/-マウスと比較して有意に減少していた。
【0129】
終了時に腹膜潅流液を採取し、材料および方法に記載されるように白血球数を定量した。
【0130】
図6Bは腹膜潅流液中の総白血球数を示しており、単球/マクロファージ、T細胞、B細胞、好中球を含む特定のタイプの白血球のレベルをそれぞれ図6C図6D図6E図6Fに示す。
【0131】
図6B図6Cに示すように、siLucを投与したPlg-/-マウスは、Plg+/+マウスと比較して、主に単球/マクロファージが有意に減少することによって、腹膜潅流液中の白血球が有意に少なかった。腹膜炎を誘発する前にsiFgaで処置することにより、腹腔に回復した白血球の数はPlg+/+マウスと同程度に回復した。
【0132】
図6Dは、siLucを投与したPlg-/-マウスは、Plg+/+マウスと比較して、腹膜潅流液中のT細胞数が有意に少なかったことを示す一方、腹膜炎を誘発させる前にsiFgaを投与すると、腹膜潅流液中のT細胞数はPlg+/+マウスと同等の数に回復したことを示している。
【0133】
図6E図6Fは、siLucまたはsiFgaを投与したPlg-/-マウスでは、B細胞数も好中球数もPlg+/+マウスと変わらないことを示している。
【0134】
実施例7:siRNAによって血漿フィブリノゲンが減少することによる腫瘍細胞の転移能の低下。
本実施例では、siRNAによるフィブリノゲンのノックダウンが生体内での癌転移を減少させることを示している。
【0135】
蛍光腫瘍細胞を注射する前に、材料および方法に記載されるように、マウスにsiLuc(黒)または表2のms.FGA.2(配列番号13、14)に対応するsiFga(灰色)を投与した。
【0136】
調査の終了時点での血漿中フィブリノゲンタンパク質レベルの定量には、材料および方法に記載されたELISAが用いられた。
【0137】
図7Aは、siLuc投与マウスと比較して、siFga投与マウスの終了時点における血漿中フィブリノゲンが有意に減少していることを示している。
【0138】
肺転移の数は、材料および方法に記載されるように数えた。
【0139】
図7Bは、siFga投与マウスでは総肺転移数が減少する傾向があることを示している。
【0140】
図7Cは、siLuc投与マウスと比較して、siFga投与マウスの肺に形成された肉眼的転移は有意に少なかったが、siFga投与マウスの肺に形成された微小転移の数はsiLuc投与マウスと同程度であったことを示している。
【0141】
図7Dは、siLuc投与マウスとsiFga投与マウスのそれぞれの肺葉の代表的な画像であり、siLuc投与マウスでは肉眼的転移(大きな白矢印)と微小転移(小さな白矢印)の両方が認められたが、siFga投与マウスでは微小転移のみが認められた。
本発明を前述の詳細な説明および実施例を参照して説明および図示したが、本発明から逸脱することなく種々の変形例および変更が可能であることは明らかであろう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
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【国際調査報告】