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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-06
(54)【発明の名称】微生物分析用のメンブレン
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/10 20060101AFI20241029BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20241029BHJP
   B01D 71/06 20060101ALI20241029BHJP
   C12M 1/12 20060101ALI20241029BHJP
   C12M 1/26 20060101ALI20241029BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20241029BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALN20241029BHJP
   C12Q 1/24 20060101ALN20241029BHJP
【FI】
B01D71/10
B01D69/00
B01D71/06
C12M1/12
C12M1/26
C12M1/34 B
C12Q1/04
C12Q1/24
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024518622
(86)(22)【出願日】2022-11-15
(85)【翻訳文提出日】2024-03-25
(86)【国際出願番号】 EP2022081969
(87)【国際公開番号】W WO2023088888
(87)【国際公開日】2023-05-25
(31)【優先権主張番号】21208521.1
(32)【優先日】2021-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
3.BRIJ
4.Genapol
(71)【出願人】
【識別番号】511034561
【氏名又は名称】ザルトリウス ステディム ビオテック ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】エルンスト アンドレア
(72)【発明者】
【氏名】リュンゲリン エルケ
(72)【発明者】
【氏名】グニエウォシュ バスティアン
(72)【発明者】
【氏名】マズルカ-シヴィデレック カタリーナ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァーグナー ニールス
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
4D006
【Fターム(参考)】
4B029AA09
4B029HA02
4B029HA06
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ06
4B063QR75
4B063QS10
4B063QS12
4B063QS39
4B063QX01
4D006GA07
4D006KA33
4D006KD04
4D006MA22
4D006MA31
4D006MA40
4D006MB20
4D006MC07
4D006MC11
4D006MC16X
4D006MC18X
4D006NA40
4D006NA46
4D006NA54
4D006NA64
4D006NA65
4D006PA01
4D006PB20
4D006PB24
4D006PC80
(57)【要約】
本発明は微生物分析用のメンブレン、微生物分析用のメンブレンの製造方法、及びかかる微生物分析用のメンブレンの使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物分析用のセルロースメンブレンであって、非イオン界面活性剤を100ng/cm~1.0mg/cmの量で含浸させ、
0.20μm~0.80μmの公称孔径を有し、
0.010cm/g未満の累積吸着細孔容積を有する、セルロースメンブレン。
【請求項2】
前記非イオン界面活性剤がTriton X-100(4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-フェニル-ポリエチレングリコール)、Tween 80(ポリオキシエチレン(x)-ソルビタンモノオレエート(x=80))、ポリオキシエチレン(x)-ソルビタンモノオレエート(x=20、40、60、65)、Brij 35(ポリエチレンラウリルエーテル)、アルコールアルコキシレート(好ましくはアルコールエトキシレート)及びGenapol(ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル)からなる群から選択される、請求項1に記載のセルロースメンブレン。
【請求項3】
BET法によって測定される比表面積が5.0m/g未満である、請求項1又は2に記載のセルロースメンブレン。
【請求項4】
0.40μm~0.70μmの公称孔径を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載のセルロースメンブレン。
【請求項5】
115μm~145μmの厚さを有する、請求項1~4のいずれか一項に記載のセルロースメンブレン。
【請求項6】
セルロースメンブレンを製造する方法であって、
(a)蒸発プロセスにおける転相により、セルロースメンブレンキャスト液から原料メンブレンを調製する工程と、
(b)前記原料メンブレンを乾燥させる工程と、
(c)乾燥させた前記メンブレンと0.001wt%~1.0wt%の界面活性剤濃度を有する界面活性剤溶液とを接触させることにより、乾燥させた前記メンブレンに非イオン界面活性剤を含浸させ、セルロースメンブレンを製造する工程と、
を含み、前記工程(a)は、塗布された前記メンブレンキャスト液をメンブレンポリマーに対する非溶媒を含有するガス雰囲気に曝すことを含む、方法。
【請求項7】
前記ガス雰囲気が酸素を含有しない、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ガス雰囲気の相対湿度が10%~100%である、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記非イオン界面活性剤がTriton X-100(4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-フェニル-ポリエチレングリコール)、Tween 80(ポリオキシエチレン(x)-ソルビタンモノオレエート(x=80))、ポリオキシエチレン(x)-ソルビタンモノオレエート(x=20、40、60、65)、Brij 35(ポリエチレンラウリルエーテル)、アルコールアルコキシレート(好ましくはアルコールエトキシレート)及びGenapol(ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル)からなる群から選択される、請求項6~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
工程(a)後かつ工程(b)前に、工程(a)後に得られた前記原料メンブレンをブラッシングする工程(a1)を更に含む、請求項6~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
微生物分析への請求項1~5のいずれか一項に記載のセルロースメンブレン又は請求項6~10のいずれか一項に記載の方法によって得られたセルロースメンブレンの使用。
【請求項12】
サンプルの濾過中に1つ以上の微生物を保持する工程と、保持された前記微生物を計数する工程とを含む、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
前記1つ以上の微生物がエシェリキア・コリ、エンテロコッカス・フェシウム、アリサイクロバチルス・アシドテッレストリス及びレジオネラ・アニーサからなる群から選択される、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
第2の培養培地上のメンブレンフィルターを使用せずに得られたコロニーの総数に対する、第1の培養培地上のメンブレンフィルターから得られたコロニーの総数の回収率が0.50~2.00である、請求項11~13のいずれか一項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微生物分析用のメンブレン、微生物分析用のメンブレンの製造方法、及びかかる微生物分析用のメンブレンの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
液体溶液中の微生物の正確な検出及び定量化のために、飲料メーカーの品質管理室、又は水質検査室においてはメンブレンフィルターが使用されている。これらのメンブレンフィルターは、様々な設計で入手可能であり、使用される材料、並びに物理的特性及び化学的特性が異なる。通例、微生物検出用のメンブレンフィルターはニトロセルロース(NC)、セルロースアセテート(CA)、ポリエーテルスルホン(PESU)、ポリカーボネート(PC)又はポリフッ化ビニリデン(PVDF)製であり、種々の公称孔径で入手可能である(0.1μm~1.2μm)。公称孔径は、特徴的なフロー時間によって決定され、濾過された微生物の保持を確実にする必要がある。
【0003】
近年、微生物の回収に対するメンブレンフィルターの影響が、多数の刊行物において研究されている。それにより、選択された材料、孔径及び孔径分布、浸出物(すなわち、濾過プロセス中にメンブレンから抽出される望ましくない成分又は有害な成分)、疎水性部位、並びにメンブレンの帯電が微生物の回収に大きな影響を及ぼすことが観察された(非特許文献1)。
【0004】
L. Smith et al.(非特許文献2)は、PCメンブレンフィルター及びPESUメンブレンフィルターがレジオネラ属菌に最適であることを示した。さらに、微生物の増殖がメンブレンの孔径によって決まることが観察されている。公称孔径が0.8μm超の細孔は、最悪の回収結果をもたらしたが、0.2μmの公称孔径は、非常に良好な回収率をもたらした。しかしながら、このように小さな孔径は、濾過性能の低下につながり、それぞれのメンブレンは、高処理量を目的とする水質管理室での使用には魅力的ではなくなる。これまで、レジオネラ属菌の濾過にはPCメンブレンフィルター又はPESUメンブレンフィルターが推奨されてきた。しかしながら、これらのフィルターは、その後フィルターから細菌を洗い流す場合、例えば、細菌の検出がPCRによって行われる場合にしか使用することができない(DIN EN ISO 11731:2017)。フィルターを濾過の直後に選択寒天培地(selective agar)上に置いてレジオネラ属菌の検出を行う場合、ニトロセルロース又はセルロース混合エステル製のフィルターの使用が必須である(DIN EN ISO 11731:2017)。
【0005】
セルロースメンブレンの製造は、当該技術分野で既知である。例えば、特許文献1には、蒸発プロセスにおける転相によって製造することができる表面処理セルロースメンブレンが開示されている。メンブレン形成中に生じ、迅速診断検査への完成したメンブレンの使用を妨げるフィルターダストを除去するために、メンブレンをブラシ又はスクレーパーで処理する。特許文献2には、メンブレン形成ポリマーと洗浄剤との混合物から製造することができる診断用メンブレンの製造が開示されている。形成メンブレン構造に洗浄剤を固定するために、メンブレン製造に使用される溶媒の大部分を初めに乾燥によって除去した後、フィルターダスト粒子を続いてメンブレン構造から除去し、メンブレンを完全に乾燥させる。特許文献3には、蛍光色素を含浸させたニトロセルロースメンブレン及び免疫クロマトグラフィー試験ストリップへのその使用が開示されている。製造時に気相の水分含量を調節することによって転相が制御される。特許文献4には、紙片によって強化されたニトロセルロースメンブレンが開示されており、同様に調製時に気相の湿度を調節することによって転相が制御される。
【0006】
単純かつ効果的なメンブレン濾過試験用のフィルターは、長年にわたって利用可能であった。しかしながら、例えばレジオネラ属菌及びアリシクロバチルス属菌を含めて、1つの菌株だけでなく、様々な菌株の細菌増殖を顕著に阻害しないメンブレンは利用可能ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】独国特許出願公開第10102744号
【特許文献2】欧州特許出願公開第3277412号
【特許文献3】中国特許出願公開第110146693号
【特許文献4】中国特許出願公開第108499368号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】K. P. Brenner et al., Applied and Environmental Microbiology, 1990, 56 (1), 54-64
【非特許文献2】Applied and Environmental Microbiology, 1993, 59 (1), 344-346
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このため、本発明の根底にある技術的課題は、単純かつ効果的な方法で微生物分析に使用することができ、それにより、例えばレジオネラ属菌及びアリシクロバチルス属菌を含めて、1つの菌株だけでなく、様々な菌株の細菌増殖を顕著に阻害しないセルロースメンブレンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の技術的課題の解決は、特許請求の範囲に特徴付けられた実施形態によって達成される。
【0011】
特に、本発明は、微生物分析用のセルロースメンブレンであって、非イオン界面活性剤を100ng/cm~1.0mg/cmの量で含浸させ、0.20μm~0.80μmの公称孔径を有し、0.010cm/g未満の累積吸着細孔容積を有する、セルロースメンブレンに関する。
【0012】
ここで、「微生物分析」という用語は、濾過可能な任意の液体溶液中の微生物を検出し、定量する方法に関する。液体溶液は特に限定されず、関心のある任意の液体溶液を分析することができる。それぞれの液体溶液の例は、品質管理用サンプル、水サンプル、飲料、微生物学的流体サンプル、バイオテクノロジープロセス流体、可溶化後の医薬固形製品、及びバイオ医薬品プロセス流体である。
【0013】
本発明の微生物分析用のセルロースメンブレンは、有利には、様々な菌株の細菌増殖を阻害しない。本発明のメンブレンは、非イオン界面活性剤による特異的な含浸のために、濾過中又は濾過後に顕著な濡れ欠陥を示さないことが好ましい。濡れ欠陥は、フィルターの疎水性箇所で生じ得る。これらの欠陥は、フィルターが、例えば水で最初に濡れた後に目に見えるようになる。濡れていない部分は、濡れている部分よりも明るい。これらの箇所では、寒天培地の栄養素がフィルターを介して微生物に完全に到達しないため、微生物の増殖が阻害される可能性がある。本発明のメンブレンは、その良好な濡れ性から、様々な微生物に対して高い回収率を示す。
【0014】
さらに、本発明のメンブレンは、メンブレンブリッジ又はメンブレンウェブ上に平滑な構造を有し、本発明によるメンブレンブリッジ又はメンブレンウェブは、細孔を取り囲み、画定する固体ポリマーバルク材料として理解される。このことも本発明のメンブレンの回収率を有利に改善する。
【0015】
「回収率」という用語は、事前にメンブレンフィルターで濾過することなく培養培地上で増殖させた微生物の数(塗抹平板法)に対する、メンブレンフィルターで濾過し、培養培地上で増殖させた後に回収された微生物の比率に関する。回収率は、当該技術分野で既知の方法によって決定することができる。例えば、ISO 7704:1985に記載されている方法を用いることができる。それにより、規格ISO11133:2014/AMD1:2018/AMD2:2020を考慮に入れることができる。
【0016】
好ましい実施の形態においては、第2の培養培地上のメンブレンフィルターを使用せずに得られたコロニーの総数(例えば参照培地又は同じ培地での塗抹平板)に対する、第1の培養培地上のメンブレンフィルターから得られたコロニーの総数の回収率は、0.50~2.00、より好ましくは0.70~1.40、より好ましくは0.80~1.20、最も好ましくは0.90~1.10である。第1の培養培地及び第2の培養培地は、同じであっても又は異なっていてもよく、当該技術分野で既知の培養培地から適切に選択することができる。好ましくは、第1の培養培地は、メンブレンフィルターとともに使用される、ISO 9308-1、ISO 7899-2、ISO 11731:2017、ISO 14189、ISO 16266、ISO 11133:2020、USP 61及びEP 2.6.12等の特定の規格で指定される特定の培養培地である。メンブレンフィルターとともに使用される特定の培養培地の例は、発色性大腸菌群寒天培地(chromogenic coliform agar:CCA)、Slanetz-Bartley培地、グリシン-バンコマイシン-ポリミキシンB-シクロヘキシミド寒天培地(GVPC)、Wadowsky-Yee改変寒天培地(modified agar after Wadowsky and Yee;MWY)、選択サプリメントを加えた緩衝炭-酵母エキス寒天培地(BCYE+AB)、トリプトース-亜硫酸塩-サイクロセリン寒天培地(TSC)及びシュードモナス-CN(シュードモナス選択寒天培地;C:セトリミド、N:ナリジクス酸)である。第2の培養培地が第1の培養培地とは異なる場合、第2の培養培地は参照培養培地、好ましくは非選択的参照培養培地であるのが好ましい。参照培養培地の例は、トリプトンソイ寒天培地(TSA)、緩衝炭-酵母エキス寒天培地BCYE(レジオネラ属菌)及び血液寒天培地(クロストリジウム属菌(Clostrididiae))である。インキュベーションの期間、温度、及び必要に応じて任意の特別な条件は、例えば上述の規格に記載されているように選択することができる。計数は、例えばISO 8199:2018、USP 61及びEP 2.6.12に従って行うことができる。
【0017】
本発明のメンブレンによって保持することができる微生物は、限定されず、自然界又は他の環境に見られる、関心のある任意の微生物又は分離株であり得る。例えば、ISO 9308-1及びISO 7899-2、ISO 11731:2017、ISO 14189、ISO 16266、ISO 11133:2020、並びにUSP 61、EP 2.6.12、並びに他の薬局方に従って微生物を選択することができる。好ましくは、微生物はエシェリキア・コリ(Escherichia coli)、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)、アリサイクロバチルス・アシドテッレストリス(Alicyclobacillus acidoterrestris)、レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)、レジオネラ・アニーサ(Legionella anisa)及びクロストリジウム・パーフリンゲンス(Clostridium perfringens)からなる群の1つ以上から選択することができる。
【0018】
本発明のメンブレンは、セルロースメンブレンである。しかしながら、上述のように、原則として、ポリエーテルスルホン(PESU)、ポリカーボネート(PC)又はポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の他の材料を微生物分析用のメンブレンに使用することもできる。ここで、「セルロースメンブレン」という用語は、メンブレンが、メンブレンを構成する材料(含浸に使用される化合物を除く)の総重量をベースとして50wt%超のセルロース由来ポリマーを含有することを意味する。本発明のメンブレンは、60wt%~100wt%のセルロース由来ポリマー、より好ましくは70wt%~100wt%のセルロース由来ポリマー、最も好ましくは80wt%~100wt%のセルロース由来ポリマーを含有するのが好ましい。セルロース由来ポリマーの例は、セルロースエステル、ニトロセルロース及び再生セルロースである。メンブレンは、これらのメンブレン形成ポリマーの1つ以上、好ましくは1つ又は2つを独立して含んでいてもよい。セルロースエステルの例としては、セルロースアセテート、例えばセルロースモノアセテート、セルロースジアセテート及びセルローストリアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート及びセルロースアセトブチレートが挙げられる。最も好ましくは、本発明のメンブレンは、セルロース由来ポリマーとしてセルロースアセテートとニトロセルロースとの混合物を含有する。セルロースアセテートとニトロセルロースとの重量比(セルロースアセテート:ニトロセルロース)は特に限定されず、例えば100:1~1:1000であり得る。好ましくは、比率は50:1~1:500、より好ましくは20:1~1:200である。
【0019】
本発明のメンブレンには、非イオン界面活性剤を100ng/cm~1.0mg/cmの量で含浸させる。好ましくは、本発明のメンブレンに、非イオン界面活性剤を500ng/cm~500μg/cm、より好ましくは1.0μg/cm~200μg/cm、最も好ましくは10μg/cm~100μg/cmの量で含浸させる。非イオン界面活性剤の含浸は、微生物の増殖に有益であり、濾過中のメンブレンの均一な濡れを確実にする。それにより、好ましくは微生物の高い回収率を達成することができる。
【0020】
含浸に使用される非イオン界面活性剤は、特に限定されない。例えば、非イオン界面活性剤として、Triton X-100(4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-フェニル-ポリエチレングリコール)、Tween 80(ポリオキシエチレン(x)-ソルビタンモノオレエート(x=80))、ポリオキシエチレン(x)-ソルビタンモノオレエート(x=20、40、60、65)、Brij 35(ポリエチレンラウリルエーテル)、アルコールアルコキシレート(好ましくはアルコールエトキシレート)及びGenapol(ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル)からなる群から選択される1つ以上の非イオン界面活性剤を使用することができる。非イオン界面活性剤は、好ましくはTriton X-100、Tween 80及びBrij 35からなる群から選択される。最も好ましくは、非イオン界面活性剤はTriton X-100である。
【0021】
本発明のメンブレンは、0.20μm~0.80μmの公称孔径を有する。公称孔径は、DIN 58355:2011に従ってバブルポイント及び流量を測定することによって決定することができる。ASTM F316-03に従って分類を行うことができる。非限定的な例として、公称孔径が0.65μmのメンブレンについては、公称孔径は、全てのフィルター材料について2.1barのバブルポイント及び5[s/100mL 0.93bar 12.5cm]の水の流量を測定することによって決定することができる。好ましくは、本発明のメンブレンは、0.30μm~0.75μm、より好ましくは0.35μm~0.70μm、最も好ましくは0.40μm~0.70μmの公称孔径を有する。
【0022】
本発明のメンブレンの微細構造の孔径及びその分布は、BET測定によって決定することができる。Barrett, Joyner and Halenda (E. P. Barret et al, The Volume and Area Distribution of Porous Substances, 1951, 73, 373-380)による数学的方法では、BET測定の収着等温線から細孔半径の分布を決定することができる。
【0023】
本発明のメンブレンは、0.010cm/g未満の累積吸着細孔容積を有する。好ましくは、本発明のメンブレンは0.0095cm/g以下、より好ましくは0.0090cm/g以下、最も好ましくは0.0085cm/g以下の累積吸着細孔容積を有する。
【0024】
本発明のメンブレンは、BET法によって測定される比表面積が5.0m/g未満であることが好ましい。より好ましくは、本発明のメンブレンは4.5m/g以下、最も好ましくは4.0m/g以下の比表面積を有する。それぞれの比表面積を有するメンブレンは、好ましくは微生物の高い回収率を示す。
【0025】
本発明のメンブレンの厚さは、特に限定されない。例えば、本発明のメンブレンは、厚さが115μm~145μmである。好ましくは、本発明のメンブレンは、厚さが115μm~135μm、より好ましくは120μm~130μm、最も好ましくは120μm~125μmである。
【0026】
孔径が菌株の微生物増殖に影響を及ぼすため、メンブレンのバブルポイントは、0.3bar~4.0barの範囲であるのが好ましい。本発明のメンブレンは、より好ましくは1.5bar~3.0bar、最も好ましくは2.0bar~2.5barのバブルポイントを有する(水で測定、全てのフィルター材料に当てはまる)。
【0027】
更なる態様において、本発明は、セルロースメンブレンを製造する方法であって、
(a)蒸発プロセスにおける転相により、セルロースメンブレンキャスト液から原料メンブレンを調製する工程と、
(b)原料メンブレンを乾燥させる工程と、
(c)乾燥させたメンブレンと0.001wt%~1.0wt%の界面活性剤濃度を有する界面活性剤溶液とを接触させることにより、乾燥させたメンブレンに非イオン界面活性剤を含浸させ、セルロースメンブレンを製造する工程と、
を含み、工程(a)は、塗布されたメンブレンキャスト液をメンブレンポリマーに対する非溶媒を含有するガス雰囲気に曝すことを含む、方法に関する。上記の記述及び定義は、本発明の本態様にも同様に当てはまる。本発明のメンブレンは、本発明の方法によって製造することができる。
【0028】
転相によってメンブレンを形成する蒸発プロセスは、従来技術において(例えば特許文献1から)既知であり、本発明の方法に適用することができる。セルロースメンブレンキャスト液の組成物は、最終セルロースメンブレンの所望のメンブレン組成を提供するために、従来技術で既知のように適切に選択することができる。メンブレン形成ポリマーとは別に、溶媒、非溶媒及び様々な添加物がセルロースメンブレンキャスト液中に存在していてもよい。
【0029】
セルロースメンブレンキャスト液に使用される溶媒は、対応するポリマー(複数の場合もある)を溶解することができる限り、特に制限されることはない。好ましくは、対応するメンブレン形成ポリマー(又はメンブレン形成ポリマーの各々)の溶媒は、通常の条件(25℃、1013hPa)で(いずれの場合にも)少なくとも2wt%、特に少なくとも5wt%、より好ましくは少なくとも10wt%、更に好ましくは少なくとも20wt%、特に好ましくは少なくとも30wt%の溶解度を有する。好適な溶媒は、当業者に既知である。セルロースアセテートに適した溶媒は、例えばケトン(例えばアセトン)、ジオキサン、アミド(例えばジメチルアセトアミド(DMAc)、N-N-ジメチルプロパンアミド、2-ヒドロキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド)及びN-ブチルピロリドン、並びにそれらの混合物である。ニトロセルロースに適した溶媒は、例えばアセトン及び酢酸エチルである。
【0030】
セルロースメンブレンキャスト液は、1つ以上の添加剤を更に含有していてもよい。好適な添加剤としては、例えば膨潤剤、可溶化剤、親水化剤、細孔形成剤(ポロゲン)、及び/又は対応するポリマーの非溶媒が挙げられる。かかる添加剤は、当業者に既知であり、メンブレン形成ポリマーに適合する。例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、特にPEG 1000又はPEG 2000、グリセロール又はポリビニルピロリドン(PVP)を膨潤剤又は細孔形成剤として使用することができる。好ましくは、セルロースメンブレンキャスト液は、対応するメンブレン形成ポリマー(複数の場合もある)と、溶媒と、任意に1つ以上の添加剤、好ましくは細孔形成剤、膨潤剤及び/又は非溶媒とからなる。
【0031】
ここで、「非溶媒」という用語は、メンブレン形成ポリマーを溶解することができない液体を指す。好ましくは、メンブレン形成ポリマー(又はメンブレン形成ポリマーの各々)の非溶媒は、通常の条件下で(いずれの場合にも)最大でも1wt%、特に好ましくは最大でも0.1wt%の溶解度を有する。
【0032】
対応するメンブレン形成ポリマーの非溶媒(又は他の沈殿剤)がセルロースメンブレンキャスト液中に存在する場合、非溶媒(又は沈殿剤)は、最大でもメンブレン形成ポリマーの沈殿を引き起こすのに不十分な濃度で存在する。セルロースメンブレンキャスト液は、対応するメンブレン形成ポリマーの溶媒と、対応するメンブレン形成ポリマーと、非溶媒(混合物)とを含むのが好ましい。
【0033】
好適な非溶媒としては、例えば水、グリセロール、イソプロパノール、エタノール及びそれらの混合物が挙げられる。セルロースアセテートに適した非溶媒は、例えば水、グリセロール、イソプロパノール、エタノール(非溶媒特性が低下する)及びそれらの混合物である。ニトロセルロースに適した非溶媒は、例えば水及びアルコールである。
【0034】
セルロースメンブレンキャスト液中の固形分は、特に限定されることはない。ここで、「固形分」という用語は、純粋なメンブレン形成ポリマーの含有量を指す。好ましい実施の形態においては、セルロースメンブレンキャスト液は、1重量%~30重量%、特に2重量%~20重量%、更に好ましくは3重量%~15重量%、特に好ましくは4重量%~8重量%の固形分を有する。
【0035】
非限定的な例として、セルロースメンブレンキャスト液は、1重量%~80重量%の溶媒と、1重量%~70重量%の第1の非溶媒と、0重量%~20重量%の第2の非溶媒と、1重量%~10重量%のメンブレン形成ポリマーとを含有し得る。
【0036】
セルロースメンブレンキャスト液を塗布するプロセスは、従来技術から当業者に既知であり、本発明の方法において特に制限なしに使用することができる。かかるプロセスは例えば、キャリアが、例えばドクターブレードシステム又はスロットダイを通るようにガイドされ、そこから対応するセルロースメンブレンキャスト液が出るプロセスである。キャリアは、特に制限されることはない。従来技術のメンブレン製造プロセスに適した任意のキャリアを使用することができる。キャリアは平坦な表面を有し、使用される物質(例えば、セルロースメンブレンキャスト液及びその成分)に対して不活性であるのが好ましい。好ましくは、キャリアは移動ベルト(コンベヤーベルト)又はロールであり、連続運転を可能にする。
【0037】
工程(a)における塗布温度は、特に限定されることはない。例えば、塗布温度は4℃~40℃の範囲であり得る。塗布温度は、10℃~20℃であるのが好ましい。塗布温度は、例えばセルロースメンブレンキャスト液及び/又はキャリアを使用する場合に適用することができる。
【0038】
本発明によると、工程(a)は、塗布されたメンブレンキャスト液をメンブレンポリマーに対する非溶媒を含有するガス(雰囲気)に曝すことを含む。非溶媒に関する上記の定義及び実施の形態は、特に指定のない限り、ガスに含まれる非溶媒にも同様に当てはまる。工程(a)は規定の条件下で行うのが好ましい。メンブレンの微細構造は、ガス(雰囲気)中の非溶媒の存在に影響を受ける可能性がある。例えば、ガス(雰囲気)の水分含有量が増加すると、メンブレンの比表面積が減少する可能性がある。
【0039】
存在する場合、ガスの他の構成成分は、使用される物質又は装置に対して不活性であるのが好ましい。ガスの残りの成分は、例えば窒素、空気又は他のガス、好ましくは窒素であり得る。好ましくは、メンブレンキャスト液中のポリマーに対して、非溶媒を含有するガスとして(室内)空気のみが使用されるわけではない。ガスは酸素を含有しないのが好ましい。例えば、非溶媒を含有するガスは、メンブレンキャスト液中のポリマーをベースとして、キャリアガスとしての窒素と、非溶媒の総量をベースとして50体積%~100体積%の水及び0体積%~50体積%のエタノール、好ましくは80体積%~100体積%の水及び0体積%~20体積%のエタノール、より好ましくは90体積%~100体積%の水及び0体積%~10体積%のエタノールからなる非溶媒(混合物)とを含有するか又はそれからなるものであり得る。
【0040】
ガス(雰囲気)中の非溶媒は、水であるのが好ましい。ガス(雰囲気)の相対湿度(RH)は、10%~100%であり得る。好ましくは、ガス(雰囲気)の相対湿度は、好ましくは30℃~50℃の温度で25%~100%、より好ましくは50%~100%、最も好ましくは70%~100%である。
【0041】
メンブレンポリマーに対する非溶媒を含有するガス(雰囲気)の温度は、例えば20℃~60℃であり得る。好ましくは、温度は30℃~50℃、最も好ましくは35℃~45℃である。
【0042】
塗布されたメンブレンキャスト液をメンブレンポリマーに対する非溶媒を含有するガス雰囲気に曝すために使用することができる手段は、特に限定されることはない。例えば、塗布されたメンブレンキャスト液は、適切なガス雰囲気を有し、好ましくは規定の条件が作り出されるチャンバ(例えばキャリアを用いて)を通過してもよい。チャンバには、組成が維持されるように交換される非溶媒を担持させた雰囲気が含まれる。加えて、ガス雰囲気への曝露は例えば、好ましくは規定の条件が作り出されるチャネルに適切なガス流を供給することによって達成することができる。ガス供給の一般的な技術を用いることができる。
【0043】
本発明の方法の工程(a)において、塗布されたメンブレンキャスト液中に存在する溶媒は、除去するのが好ましい。
【0044】
工程(a)の時間は、特に限定されることはない。例えば、時間は2分~120分の範囲であり得る。好ましくは、時間は2分~60分、より好ましくは5分~40分、最も好ましくは10分~20分である。
【0045】
本発明の方法は、工程(a)後かつ工程(b)前に、任意に、工程(a)の後に得られた原料メンブレンをブラッシングする工程(a1)を更に含み得る。かかる工程(a1)により、フィルターダストを除去することが可能である。好適なブラッシング技術は、例えば特許文献1に開示されており、その開示全体が引用することにより本明細書の一部をなす。
【0046】
本発明の方法の工程(b)においては、原料メンブレンを乾燥させる。乾燥の条件及び手段は特に限定されず、一般的な乾燥手段及び乾燥条件を用いることができる。例えば、乾燥温度は15℃~40℃、好ましくは20℃~30℃とすることができ、乾燥時間は30分~3時間、好ましくは60分~120分とすることができる。この温度は例えば、キャリアを使用する場合に適用することができる。乾燥中のガス(雰囲気)は、不活性ガス雰囲気又は空気であり得る。乾燥中のガスとして窒素を使用するのが好ましい。
【0047】
本発明の方法の工程(c)においては、乾燥させたメンブレンと0.001wt%~1.0wt%の界面活性剤濃度を有する界面活性剤溶液とを接触させることにより、乾燥させたメンブレンに非イオン界面活性剤を含浸させ、セルロースメンブレンを製造する。好ましくは、界面活性剤溶液は0.01wt%~0.50wt%、より好ましくは0.02wt%~0.4wt%、最も好ましくは0.05wt%~0.2wt%の界面活性剤濃度を有する。含浸の条件及び手段は、その他の点では特に限定されず、一般的な含浸手段及び含浸条件を用いることができる。例えば、乾燥させたメンブレンに界面活性剤溶液を噴霧するか、又は乾燥させたメンブレンを界面活性剤溶液に浸漬することができる。塗布/浸漬後に得られたメンブレンを一般的な手段によって乾燥させ、含浸メンブレンを得ることができる。
【0048】
界面活性剤溶液に使用される溶媒は、対応する界面活性剤を溶解することができる限り、特に制限されることはない。好適な溶媒は、当業者に既知である。非イオン界面活性剤に適した溶媒は、例えば水、エタノール、メタノール、酢酸エチル及びそれらの混合物である。非イオン界面活性剤の溶媒として水を使用するのが好ましい。
【0049】
更なる態様においては、本発明は、微生物分析への本発明のセルロースメンブレン又は本発明による製造方法によって製造されたセルロースメンブレンの使用に関する。上記の記述及び定義は、本発明の本態様にも同様に当てはまる。
【0050】
本発明のセルロースメンブレンは、液体溶液中の微生物を検出し、定量するために使用することができる。
【0051】
好ましくは、本発明の使用は、サンプルの濾過中に1つ以上の微生物をセルロースメンブレン上に保持する工程と、保持された微生物を計数する工程とを含む。計数工程は、保持された微生物を培養培地上に移し、移した微生物をインキュベートし、インキュベーション後にコロニーを評価することを含み得る。インキュベーションは、回収された微生物とともにメンブレンフィルターを固体培養培地に移すか、又は回収された微生物のみを培養培地に移すことによって達成することができる。好適な培養培地及びインキュベーション方法は、当業者に既知である。例えば、好適な培養培地はISO 9308-1、ISO 7899-2、ISO 11731:2017、ISO 14189、ISO 16266、ISO 11133:2020、及びUSP 61、EP 2.6.12、並びに他の薬局方に従って選択することができる。インキュベーション方法は、ISO 8199:2018、ISO 9308-1、ISO 7899-2、ISO 11731:2017、ISO 14189、ISO 16266、ISO 11133:2020、及びUSP 61、EP 2.6.12、並びに他の薬局方に従って選択することができる。コロニーを評価する方法は当業者に既知である。例えば、ISO 8199:2018、USP 61及びEP 2.6.12に従って評価を行うことができる。
【0052】
フィルター上に保持された微生物は、例えばISO 11731:2017に記載されている方法によって取り出し、培地中での従来のインキュベーション、又は迅速な方法、例えばPCR、フローサイトメトリー、固相サイトメトリー、比色法若しくは化学的方法のいずれかによって更に分析することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
図1】活性炭を用いた評価後の非濡れ領域(白色)を示す従来技術のメンブレンサンプルを示す図である。
図2】活性炭と0.1wt%のTween 80を含浸させたセルロースメンブレンフィルターとを用いたセルロースメンブレン上の非濡れ領域の評価を示す図である。
図3】活性炭と0.1wt%のTriton X-100を含浸させたセルロースメンブレンフィルターとを用いたセルロースメンブレン上の非濡れ領域の評価を示す図である。
図4】活性炭と0.1wt%のBrij 35を含浸させたセルロースメンブレンフィルターとを用いたセルロースメンブレン上の非濡れ領域の評価を示す図である。
図5】活性炭と0.1wt%のSDSを含浸させたセルロースメンブレンフィルターとを用いたセルロースメンブレン上の非濡れ領域の評価を示す図である。
図6】活性炭と0.1wt%のSDBSを含浸させたセルロースメンブレンフィルターとを用いたセルロースメンブレン上の非濡れ領域の評価を示す図である。
図7】逆液体クロマトグラフィー(ILC)用に組み立てたサンプルを示す図である。
図8】セルロースメンブレン上の界面活性剤の吸着量の決定を示す図である。
図9】本発明のセルロースメンブレンフィルターのメンブレンブリッジ又はメンブレンウェブのAFM画像を示す図である。
図10】メンブレン形成時の気相の水分含有量が異なるセルロースメンブレンのBET表面積を示す図である。
図11】Barrett, Joyner, and Halendaによるメンブレンブリッジ又はメンブレンウェブの孔径分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
本発明を以下の実施例において更に説明するが、これに限定されるものではない。
【実施例
【0055】
実施例1:セルロースメンブレンの作製
特許文献1の発明実施例に従い、非溶媒、溶媒及び水に溶解した市販のニトロセルロースとセルロースアセテートとのポリマーブレンドからメンブレンキャスト液を作製する。キャスト液を厚さ1400μmのスチールコンベヤーベルトに塗布する。コーティングされたスチールベルトを延伸機に通し、溶媒混合物を蒸発させる。所望のメンブレンが転相によって形成される。
【0056】
蒸発プロセス中に形成メンブレンを温度40℃のガス流に曝す。ガスの組成は、窒素と種々の量の水蒸気(実施例5を参照されたい)とを混合することにより、所望に応じて選択される。その後の乾燥工程において、メンブレンを窒素ガス流のみに曝す。
【0057】
得られた乾燥メンブレンを直径4.7cmの断片に打ち抜く。次いで、これらの断片をそれぞれの含浸溶液に1.5分間入れ、適度に撹拌する。1.5分後に断片を含浸溶液から取り出し、室温で乾燥させる。種々の界面活性剤を含浸に使用し、それぞれのメンブレンフィルターを、特性及び濾過後に様々な微生物を効率的に回収する可能性に関して評価した。非イオン界面活性剤としては、Tween 80(ポリオキシエチレン(x)-ソルビタンモノオレエート(x=80))、Triton X100(4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-フェニル-ポリエチレングリコール)及びBrij 35(ポリエチレンラウリルエーテル)を使用した。陰イオン界面活性剤としては、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)及びドデシルベンジルスルホン酸ナトリウム(SDBS)を使用した。試験した濃度は0.01wt%、0.025wt%、0.05wt%、0.075wt%、0.1wt%、0.125wt%、0.15wt%及び0.2wt%であった。
【0058】
得られたメンブレンの公称孔径は、DIN 58355:2011に従い、2.1barのバブルポイント及び5[s/100mL 0.93bar 12.5cm]の流量を測定することによって決定する。全てのメンブレンについて、公称孔径0.65μmと決定された。
【0059】
実施例2:濡れ性の評価
Tween 80、Triton X100、Brij 35、SDS及びSDBSの各々を0.1wt%含浸させた、実施例1において得られたメンブレンフィルターの濡れ性を活性炭で濾過した後に評価した。この目的で、直径4.7cmの断片を、カップを取り付ける前の濾過ユニットのフリット上にメンブレンの塗布面を上に向けて置いた。濾過バーの全バルブは閉じている。0.2gの活性炭を1LのRO水に懸濁し、激しく撹拌した後に100mLの濾過量を測定し、濾過カップに充填する。次いで、ポンプのスイッチを入れ、バルブを開く。濾過後に黒色のフィルター断片を白色の紙の上に置き、写真を撮る。白色のスポットは、不均一な濡れパターンを示す(図1)。白色の濡れスポットが見られたTween 80(図2)を除き、他の全ての界面活性剤が均一な黒色の濡れパターンを示した(図3図6)。
【0060】
実施例3:微生物増殖の評価
実施例1において得られたメンブレンフィルターを微生物増殖に関して評価した。E.コリ(E. coli)、E.フェシウム(E. faecium)、L.アニーサ(L. anisa)及びA.アシドテッレストリス(A. acidoterrestris)を重要な試験菌として選択した。手順はISO 8199:2018(概要)、ISO 9308-1(E.コリ)、ISO 7899-2(E.フェシウム)及びISO 11731:2017(L.アニーサ)、並びにUSP 61、EP 2.6.12、並びに他の薬局方に記載されている。
【0061】
フィルターサンプルを4つの微生物(表1)に曝露し、微生物回収率を評価した。フィルターなしのスパチュラ塗布(Spatulated)寒天平板を参照とした。試験は五連で行った。
【0062】
【0063】
細菌懸濁液の力価は、寒天培地対照上に50cfu~150cfu存在するように調整する。100μlの細菌懸濁液を寒天平板上にスパチュラ塗布する。メンブレン濾過法を用いて、100μlの細菌懸濁液を10mlの緩衝液(リン酸緩衝液;L.アニーサについては滅菌水道水)に添加した後、フィルターサンプルで濾過する。濾過の直後にサンプルを指定の寒天培地に移し、以下のようにインキュベートする。
【0064】
【0065】
インキュベーション後に、増殖したコロニーを計数し、フィルター上の回収率を算出する。それぞれの結果を表3にまとめる。コロニー数に加えて増殖パターンを評定した。これはそれぞれの規格ISO 8199:2018(概要)、ISO 9308-1(E.コリ)、ISO 7899-2(E.フェシウム)及びISO 11731:2017(L.アニーサ)、並びにUSP 61、EP 2.6.12、並びに他の薬局方に適合する。
【0066】
【0067】
一例として、表3に概説する72%の回収率は、ISO 7704のセクション10.2及び附属書C、セクションC、C.3に従うISO 7704(改訂版は開発中;プレビュー版はwww.iso.orgで入手可能)による値0.72に相当する。
【0068】
フィルターなしの微生物の回収率と比較したコロニーの回収率の評価から、E.コリ及びE.フェシウムが使用される界面活性剤に顕著な依存性を示さないことが示される。しかしながら、A.アシドテッレストリスについては状況が異なる。SDSを含浸させたメンブレンにおいては、一貫して低い微生物増殖が見られる。より高濃度のSDBS(0.1wt%~)を含浸させたメンブレンフィルターでは、微生物増殖の減少も観察される。非イオン界面活性剤を使用した場合、回収率は一貫して100%を上回る。同様の効果がL.アニーサでも見られる。ここでは、特により高い界面活性剤濃度(0.1wt%~0.2wt%)で、SDBS含浸メンブレンについてコロニー形成単位(cfu)の急激な減少が観察される。0.01wt%~0.075wt%の界面活性剤濃度では、回収率は、むしろ中間範囲にある。Triton X-100の含浸が最良の結果をもたらす。
【0069】
実施例4:界面活性剤の吸着量の評価
界面活性剤の吸着量は、以下に記載する逆液体クロマトグラフィー(ILC)によって決定することができる。
【0070】
装置及び材料
Knauerの逆液体クロマトグラフィー(ILC)システム(製品番号:EZC00、DYBQEKEA、DYGAGAGA、EDB01、EPH34から構成)
非含浸セルロースメンブレン
Sartorius Stedim Plastics GmbHのフィルターテーブルMA15
Sartorius Stedim Plastics GmbHのカバーMA15
ステンレススチールハウジング上部(自作)
ステンレススチールハウジング下部(自作)
【0071】
サンプルの準備
実施例1の非含浸セルロースメンブレンから直径30mmの3つの円形断片を打ち抜く。メンブレンを、キャリア面又は塗布面を下にしてMA15フィルターテーブル上に置く。次いで、MA15カバーをMA15フィルターテーブル上に置き、組み立てたばかりのMinisartを、フィルターテーブルを下に向けてステンレススチールハウジングの下部に置く。ステンレススチールハウジングの上部を下部の上に置き、4本のネジで固定する(図7)。このプロセスを合計3回行う。加えて、このプロセスを更に6回行うが、セルロースメンブレンは用いない(ブランクと称する)。
【0072】
ILCの準備
ILCは、ソフトウェア「PurityChrom」バージョン5.9を適用して行う。ILCは6本のサンプルチューブを備え、合計6つの異なるサンプル溶液を吸引することができる。加えて、ILCは15個のメンブレンバルブ及びバイパスを備え、15個の異なるサンプルを次々に試験することが可能である。
【0073】
ここで、6つのブランク及びセルロースメンブレンを有する3つのハウジングを以下の工程においてサンプルテーブルに取り付ける。標準として3つのコネクタを設置し、同様に測定する。
【0074】
測定方法の説明
各コネクタ、各サンプル及び各ブランクを、以下に説明する同じ測定方法で測定する。全ての工程を測定方法に組み込み、自動的に実行する。システムを初めにサンプルホースS1に切り替え、脱イオン水が確実に吸引され得るようにした後、メンブレンバルブに切り替え、サンプル、ブランク又はコネクタで測定する。ポンプの流量を流量0.2mlに設定し、UV検出器により220nmの波長で強度を検出する。これに続いてUV検出器及び電導度検出器のオートゼロを行う。この時点からクロマトグラムを220nmの波長及び電導度で記録する。合計10mlの脱イオン水がそれぞれのメンブレンバルブを通して圧送され、これは50分の持続時間に相当する。続いて、システムをサンプルホースS2に切り替え、それぞれ15mlの特定の界面活性剤溶液を、システムを通して又はメンブレンバルブを介して搬送する。この工程が完了した後、システムを再びサンプルホースS1に切り替え、更に25mlの脱イオン水を搬送する。次いで、クロマトグラムの記録を停止し、1つのメンブレンバルブの測定が完了する。1回の測定には合計250分かかる。
【0075】
したがって、本方法においては、界面活性剤水溶液を一定の体積流量でメンブレンを通して搬送する。界面活性剤濃度に応じて一定量の界面活性剤がメンブレンに吸着する(図8)。
【0076】
吸着量を比較すると、非イオン界面活性剤Triton X-100が顕著に多量にメンブレンに吸着することが分かる。特に、0.1g/Lのより低濃度では、Triton X-100の吸着量(すなわち51.5μg/cm±0.6μg/cm)は、陰イオン界面活性剤SDBS(8.73μg/cm±0.97μg/cm)よりも多い。1.0g/Lの濃度では、Triton X-100の吸着量は、SDBSと比較して2倍高い。
【0077】
実施例5:微生物増殖に対するセルロースメンブレン構造の影響の評価
原子間力顕微鏡法(AFM)を用いてメンブレンブリッジ又はメンブレンウェブの構造を分析する。これにより、セルロースメンブレンフィルターは、メンブレンブリッジ又はメンブレンウェブ上に多孔微細構造を示す(図9)。加えて、一例としてE.コリを用いた共焦点顕微鏡法(CLSM)で撮影した画像から、微生物がメンブレンにおよそ5μm侵入し、そこからコロニーを形成することが示された。
【0078】
微生物の増殖に対する微細構造の影響を研究するために、メンブレン形成時のガス雰囲気の水蒸気含有量を変化させて様々なセルロースメンブレン構造を作製した(実施例1参照)。特に、0%、25%、50%、75%及び100%の水(RH換算)を窒素体積流に添加する。全てのセルロースメンブレンを0.45μmの公称孔径で調製し、続いてデュワー、Vac Prep、2つの真空ポンプ、PC及びモニターを備えるGemini 2390Tを含むGemini BETテストステーション(micromeritics)を使用し、Gemini VIIソフトウェアバージョン5.01を用いるBET測定によって分析した。再現可能な結果のために、0.3gのセルロースメンブレンをバイアルに量り入れ、真空下で少なくとも2時間十分に乾燥させる。比較用メンブレンとして、2つの異なる従来技術のメンブレンを使用した。これらを参照1(ニトロセルロースメンブレン、公称孔径0.45μm、厚さ100μm超、濡れ時間5秒未満、典型的な流量100mL/分・cm・bar)及び参照2(ニトロセルロースメンブレン、公称孔径0.45μm、厚さ115μm~180μm、流下時間25s~50s/500mL@47mm、27.5±0.5インチHg)と称する。
【0079】
BET表面積の評価から、ガス雰囲気の水分含有量が高まるにつれBET表面積が減少する傾向があることが示される(図10)。この傾向は、それぞれのメンブレンについて観察されるL.アニーサの回収率と相関する。メンブレンの比表面積が低いほど、微生物の回収率は高くなる。特に、比表面積がやや高い参照1及び参照2は、メンブレン上でのL.アニーサの増殖を全く(参照1)又は僅かにしか(参照2)示さない(表4)。
【0080】
【0081】
微細構造の孔径及びその分布は、BET測定によって決定することができる。Barrett, Joyner and Halenda (E. P. Barret et al, The Volume and Area Distribution of Porous Substances, 1951, 73, 373-380)による数学的方法では、BET測定の収着等温線から細孔半径の分布を決定することができる(図11)。
【0082】
水濃縮なしの場合(四角形)と、メンブレン形成段階においてガス流の75%(五角形)及び100%(星形)の水濃縮を行った場合とで図11の曲線を比較すると、水濃縮なしの場合、メンブレンブリッジ又はメンブレンウェブ上に全体としてより多くの細孔が見られることが分かる。特にミクロポーラス(2nm以下)及びメソポーラス(2nm~50nm)の範囲において、差がはっきりと見て分かる。細孔の総数が少ないほど、セルロースメンブレンフィルター上でのL.アニーサの回収が促進される。これは参照1及び参照2のBJH分布の分析によっても確認される。参照2は、依然として34%の回収率を示すが、L.アニーサのコロニーは、最高の多孔率を有する参照1では回収されない。
【0083】
本発明のセルロースメンブレンを用いた濾過の後に様々な微生物を確実に回収し得ることが示された。メンブレンに含浸させる非イオン界面活性剤の選択により、メンブレンの濡れ性を大幅に改善することができ、微生物の回収率を改善することができる。さらに、メンブレンの微細構造は、L.アニーサの増殖を支持する。メンブレンブリッジ又はメンブレンウェブの細孔が小さいほど、L.アニーサはメンブレン上でより良好に増殖する。このことは、種々のセルロースメンブレンフィルターのBET分析及びBJH分析によって示された。これら2つの特徴の組合せは、微生物の検出及び定量に使用されるセルロースメンブレンフィルターの顕著な改善をもたらす。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【国際調査報告】