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特表2024-540887炎症の治療のためのBAG3方法及び使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-06
(54)【発明の名称】炎症の治療のためのBAG3方法及び使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/17 20060101AFI20241029BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20241029BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241029BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20241029BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20241029BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20241029BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20241029BHJP
   A61P 1/14 20060101ALI20241029BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20241029BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20241029BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20241029BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20241029BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20241029BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20241029BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20241029BHJP
   A61K 36/06 20060101ALI20241029BHJP
   A61K 35/761 20150101ALI20241029BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20241029BHJP
   A61P 19/08 20060101ALI20241029BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20241029BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20241029BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20241029BHJP
   A61P 1/18 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
A61K38/17
A61K48/00
A61P43/00 111
A61K45/00
A61P29/00
A61P25/00
A61P7/00
A61P1/14
A61P1/00
A61P1/04
A61P29/00 101
A61P19/02
A61P9/00
A61P17/06
A61P17/02
A61K35/76
A61K36/06
A61K35/761
A61P11/00
A61P19/08
A61P21/00
A61P1/16
A61P13/12
A61P1/18
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024523137
(86)(22)【出願日】2022-10-21
(85)【翻訳文提出日】2024-06-17
(86)【国際出願番号】 US2022047479
(87)【国際公開番号】W WO2023069744
(87)【国際公開日】2023-04-27
(31)【優先権主張番号】63/262,953
(32)【優先日】2021-10-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/368,765
(32)【優先日】2022-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.トライトン
2.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】516131876
【氏名又は名称】テンプル ユニバーシティー オブ ザ コモンウェルス システム オブ ハイアー エデュケーション
(71)【出願人】
【識別番号】502099441
【氏名又は名称】ロヨラ ユニバーシティ オブ シカゴ
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】フェルドマン, アーサー エム.
(72)【発明者】
【氏名】カーク, ジョナサン
【テーマコード(参考)】
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA13
4C084AA17
4C084BA44
4C084DC50
4C084MA16
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA02
4C084ZA51
4C084ZA59
4C084ZA66
4C084ZA75
4C084ZA81
4C084ZA89
4C084ZA94
4C084ZA96
4C084ZB11
4C084ZB15
4C084ZC02
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC11
4C087BC83
4C087CA12
4C087MA16
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA02
4C087ZA51
4C087ZA59
4C087ZA66
4C087ZA75
4C087ZA81
4C087ZA89
4C087ZA94
4C087ZA96
4C087ZB15
(57)【要約】
Bag3は、心臓、骨格筋、中枢神経系において、及び多くのがんにおいて主に発現される多機能タンパク質である。BAG3はほんの10年前にクローニングされたものの、調査は、遺伝的バリアント、特にハプロ不全をもたらすものが、重度の左心室機能不全につながり得ることを示しており;しかしながら、関与する全メカニズムは不明確なままである。Bag3の生物学に対する心不全自体の影響を取り除くために、単一アレルノックアウトを持つトランスジェニック(ransgenic)マウスを、心不全の任意の明白な兆しが確かになる前の8~10週齢で調査した。結果は驚くべきものであり且つ有益な情報を与えた。まず、正常な表現型にもかかわらず、若齢Bag3+/-は、代謝及びアポトーシスと関連したタンパク質の変化によって特徴付けられるプロテオームの著しい変化を有することが見出された。この知見と一貫して、ミトコンドリア膜電位を維持する責任を負う重大なタンパク質のレベルの減少が観察された。若齢マウスは、アポトーシスの外因性及び内因性経路の間の均衡からシフトすることも見出された。しかしながら、ストレスの存在及びBag3の非存在下では、均衡から外因性優勢なシステム(切断カスパーゼ8)へのシフトがあった。Bag3によって調節される多種多様の重大な経路は、とりわけストレスの間のより重要な役割、及びこの役割が、タンパク質を偶然に会わせるのではなく、タンパク質が最も有効であり得る場所にタンパク質を保持する細胞内接着剤として働くことを含むことがあることを示唆する。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ある量のBCL2関連アサノジーン3(BAG3)コード核酸、BAG3タンパク質、又はBAG3ペプチドを患者に投与し、それによってTNFシグナル伝達を低下、阻害、又は減少させるステップを含む、TNFシグナル伝達を低下、阻害、又は減少させる方法又は製剤。
【請求項2】
BCL2関連アサノジーン3(BAG3)コード核酸、BAG3タンパク質、又はBAG3ペプチドの発現又は量をモジュレートするある量の作用物質を患者に投与し、それによって炎症を治療するステップを含む、炎症に罹患している又は炎症を発症するリスクがある患者を治療する方法又は製剤。
【請求項3】
ある量のBCL2関連アサノジーン3(BAG3)コード核酸、BAG3タンパク質、又はBAG3ペプチドを患者に投与し、それによって炎症又は炎症応答を低下、阻害、又は減少させるステップを含む、炎症又は炎症応答を低下、阻害、又は減少させる方法又は製剤。
【請求項4】
前記TNFシグナル伝達が、肺系、肺、心血管系、中枢神経系、骨、骨格関節、骨格筋、胃腸系、胃、小腸、大腸、肝臓、腎臓、又は膵臓において生じる、請求項1に記載の方法又は製剤。
【請求項5】
前記炎症又は炎症応答が、肺系、肺、心血管系、中枢神経系、骨、骨格関節、骨格筋、胃腸系、胃、小腸、大腸、肝臓、腎臓、又は膵臓に影響を及ぼす、請求項2又は3に記載の方法又は製剤。
【請求項6】
前記炎症又は炎症応答が、慢性炎症性疾患、慢性炎症性脱髄性多発神経炎、一次性免疫性血小板減少症、老人性摂食障害、腸管炎症、炎症性腸疾患、潰瘍性大腸炎、クローン病、ループス、関節リウマチ、慢性心筋炎、Covid19感染後の慢性心筋炎、乾癬、乾癬性関節炎、又は強直性脊椎炎を含む、請求項2又は3に記載の方法又は製剤。
【請求項7】
ある量のBCL2関連アサノジーン3(BAG3)コード核酸、BAG3タンパク質、又はBAG3ペプチドを患者に投与し、それによってPARP1レベルをモジュレートするステップを含む、PARP1レベル、発現、又は活性をモジュレートする方法又は製剤。
【請求項8】
ある量のBCL2関連アサノジーン3(BAG3)コード核酸、BAG3タンパク質、又はBAG3ペプチドを患者に投与するステップを含み、それによってPARP1レベル、発現、又は活性を低下、阻害、又は減少させる、PARP1レベル、発現、又は活性を低下、阻害、又は減少させる方法又は製剤。
【請求項9】
ある量のBCL2関連アサノジーン3(BAG3)コード核酸、BAG3タンパク質、又はBAG3ペプチドを患者に投与し、それによってアルファ-シヌクレインの量、発現、又は活性を低下、阻害、減少、又は安定させるステップを含む、アルファ-シヌクレインの量を低下、阻害、減少、又は安定させる方法又は製剤。
【請求項10】
ある量のBCL2関連アサノジーン3(BAG3)コード核酸、BAG3タンパク質、又はBAG3ペプチドを患者に投与し、それによってパーキンソン病の1つ又は複数の症状の悪化又は重症度を低下、阻害、又は減少させるステップを含む、パーキンソン病の1つ又は複数の症状の悪化又は重症度を低下、阻害、又は減少させる方法又は製剤。
【請求項11】
前記BAG3コード核酸が、BAG3タンパク質又はその活性BAG3ペプチドを発現する発現ベクターを含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法又は製剤。
【請求項12】
前記発現ベクターがプロモーターをさらに含み、前記プロモーターが、誘導性プロモーター、構成的プロモーター、2シストロン性プロモーター、組織特異的プロモーター、又は心臓特異的プロモーターを含む、請求項11に記載の方法又は製剤。
【請求項13】
前記発現ベクターが、ウイルスベクター、心臓指向性ベクター、プラスミド、又は酵母ベクターを含む、請求項11又は12に記載の方法又は製剤。
【請求項14】
ウイルス又は心臓指向性ベクターが、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター(AAV)、コクサッキーウイルスベクター、サイトメガロウイルスベクター、エプスタイン・バールウイルスベクター、パルボウイルスベクター、又は肝炎ウイルスベクターを含む、請求項13に記載の方法又は製剤。
【請求項15】
前記AAVベクターが、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、又はAAV12のうちのいずれかと90%以上の配列同一性を有するカプシドタンパク質を含む、請求項14に記載の方法又は製剤。
【請求項16】
前記発現ベクターがシュードタイピングされたウイルスベクターである、請求項12又は13に記載の方法又は製剤。
【請求項17】
前記炎症又は炎症応答が、サイトカインによって誘導される又は増加する、請求項2~16のいずれか一項に記載の方法又は製剤。
【請求項18】
前記サイトカインが腫瘍壊死因子(TNF)を含む、請求項17に記載の方法又は製剤。
【請求項19】
前記患者が、組織若しくは臓器において正常よりも低いレベルのBAG3を発現する、又は機能的BAG3を検出可能に発現若しくは産生しない、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法又は製剤。
【請求項20】
前記炎症又は炎症応答が、肺系、肺、心血管系、中枢神経系、骨、骨格関節、骨格筋、胃腸系、胃、小腸、大腸、肝臓、腎臓、又は膵臓において生じる、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法又は製剤。
【請求項21】
前記発現ベクターがプロモーターをさらに含み、前記プロモーターが、誘導性プロモーター、構成的プロモーター、2シストロン性プロモーター、又は組織特異的プロモーターを任意選択で含む、請求項11~20のいずれか一項に記載の方法又は製剤。
【請求項22】
前記プロモーターが、肺系、肺、心血管系、中枢神経系、骨、骨格関節、骨格筋、胃腸系、胃、小腸、大腸、肝臓、腎臓、又は膵臓における発現を与える、請求項21に記載の方法又は製剤。
【請求項23】
前記発現ベクターが、AAV逆位末端反復(ITR)をさらに含む、請求項11~23のいずれか一項に記載の方法又は製剤。
【請求項24】
前記発現ベクターが、ポリアデニル化配列及び/又は終止コドンをさらに含む、請求項11~23のいずれか一項に記載の方法又は製剤。
【請求項25】
前記患者がヒトである、請求項1~24のいずれか一項に記載の方法又は製剤。
【請求項26】
前記患者又はヒトが、彼らの内在性BAG3ポリヌクレオチド又はポリペプチドに変異を有する、請求項1~25のいずれか一項に記載の方法又は製剤。
【請求項27】
前記患者又はヒトが、内在性BAG3ポリヌクレオチド又はポリペプチドの発現又は活性の低下を有する、請求項1~26のいずれか一項に記載の方法又は製剤。
【請求項28】
前記ウイルスベクターが、約0.1×1012ベクターゲノム(vg)/キログラム単位での患者の重量(vg/kg)~約1.0×1014vg/kgの用量で投与又は製剤化される、請求項13~27のいずれか一項に記載の方法又は製剤。
【請求項29】
前記ウイルスベクターが、約1.0×1012vg/kg~約0.5×1014vg/kgの用量で投与又は製剤化される、請求項13~27のいずれか一項に記載の方法又は製剤。
【請求項30】
前記ウイルスベクターが、約3.0×1012vg/kg~約1.0×1013vg/kgの用量で投与又は製剤化される、請求項13~27のいずれか一項に記載の方法又は製剤。
【請求項31】
前記ウイルスベクターが、約3.0×1012vg/kg~約9.0×1012vg/kgの用量で投与又は製剤化される、請求項13~27のいずれか一項に記載の方法又は製剤。
【請求項32】
前記ウイルスベクターが、約3.0×1012vg/kg~約8.0×1012vg/kgの用量で投与又は製剤化される、請求項13~27のいずれか一項に記載の方法又は製剤。
【請求項33】
前記ウイルスベクターが、約3.0×1012vg/kg~約5.0×1012vg/kgの用量で投与又は製剤化される、請求項13~27のいずれか一項に記載の方法又は製剤。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[序論]
BAG3は、遍在的に発現されるが、心臓、骨格筋、中枢神経系において、及び多くのがんにおいて最も顕著な多機能タンパク質である(1、2)。遺伝性及び特発性拡張型心筋症(DCM)の両方を有する患者由来のDNAについての複数のゲノムワイド関連調査及び全エクソーム又は全ゲノムシーケンシングは、BAG3の単一アレルの喪失が、疾患の重要な原因であることを示している(3~6)。BAG3のホモ接合型欠失が、出生後早期に致死性であり(7)、一方で単一アレルの機能喪失が、ゼブラフィッシュにおいて(3)、ヒト変異を担持する間葉系幹細胞由来心筋細胞において(8)、点変異及びハプロ不全の両方を有するマウスモデルにおいて(9、10)、並びにハプロ不全を有するヒトにおいて(11、12)、筋細胞機能不全の発症につながることから、このことは動物モデルにおいて裏付けられている。調査は、遺伝子型的に正常である、心不全及び駆出率の低下(HFrEF)を有する患者が、BAG3短縮を有する患者において見られるものに匹敵する、心臓移植時の心室心筋におけるBAG3の低下を有することも示している(11、12)。心臓とは対照的に、がん細胞におけるBAG3の過剰発現は、化学療法抵抗性、並びに転移及び局所侵入の傾向の増加をもたらす(13、14)。先進国における2種の主な疾患である心臓疾患及びがんにおけるBAG3の明白な重要性にもかかわらず、健康及び疾患におけるBAG3の役割の全容は十分に規定されていない。
【0002】
BAG3の構造は、BAG3が多種多様の分子及び細胞活性に影響することを可能にする数多くのタンパク質-タンパク質結合ドメインを有する。心臓において、BAG3は、熱ショックタンパク質70(hsp/hsc70)に対するシャペロンとして働くことによってオートファジーを増進する(15)。BAG3は、抗アポトーシスタンパク質Bcl-2と相互作用することによってアポトーシスを阻害し(16)、ベータ-アドレナリン受容体(b-AR)とL型Ca2+チャネルとを連結することによって興奮-収縮連関を向上させ(17)、筋節の完全性を維持する(18)。BAG3の様々な機能は、複数の結合部位及び多様な群の結合パートナーの存在によって促される。例えば、PXXPドメインは、モーター・ダイニン輸送システムの近位端に対する分子アンカーとして働き、一方で2つのイソロイシン-プロリン-バリン(IPV)モチーフは、小型熱ショックタンパク質HspB6及びHspB8に結合し、マクロオートファジーを支持する(1)。
【0003】
動物モデルにおける最近の調査は、BAG3における特異的ヘテロ接合型遺伝的バリアントと、固有の細胞又は分子表現型とを関連付け始めている。例えば、E455K機能喪失変異は、BAG3とHsp-70との間の相互作用を妨害し、熱ショックタンパク質の不安定性及びタンパク質恒常性の喪失をもたらす(9)。稀なP209Lバリアントは、バリアント自身とHsp70クライアントとの凝集を引き起こす機能変異のドミナントゲインであり、この凝集はHsp70オートファジーネットワークの失速(stalling)をもたらし、拘束型心筋症につながる(19)。対照的に、BAG3のP209Sバリアントは、2人の患者において、遅発性軸索シャルコー・マリー・トゥースニューロパチーと関連して報告されている(20)。しかしながら、明瞭さの欠如は、マウスの心臓の表現型に対するBAG3P209L変異の効果の結果が不一致であることから、依然として存在する(21)(22)。
【発明の概要】
【0004】
本明細書に開示されるように、BAG3ハプロ不全の心臓生物学についてのより良い理解を得るために、タンデム質量分析と連動した高圧液体クロマトグラフィー(LC-MS/MS)を使用して、ヘテロ接合型BAG3除去を有する、左心室(LV)機能及び心臓サイズが依然として正常である時点である若齢8~10週齢のマウスにおいて示差的に発現されるタンパク質を特定した。BAG3のヘテロ接合型ノックアウトを有するマウスは、8~10週齢の時点で心エコー検査によって表現型的に正常であるが、18週齢までに左心室機能が著しく変化することが実証されている。
【0005】
プロテオーム解析は、心臓生物学の2つのエリア:ミトコンドリア機能及びプログラム細胞死又はアポトーシスを明らかにした。8~10週齢BAG3+/-マウスのプロテオームについての評価は、正常な表現型にもかかわらず、代謝及びプログラム細胞死又はアポトーシスと関連したタンパク質の異常を明らかにした。
【0006】
本明細書に開示されるように、とりわけ、BCL2関連アサノジーン(Athanogene)3(BAG3)は、心臓における、並びに他の組織及び細胞タイプにおけるアポトーシスの内因性及び外因性経路の両方の重大な構成要素であることがここで発見されている。特に、BAG3は、標準的並びに非標準的経路の両方を通じて、細胞アポトーシスを調節する。
【0007】
また本明細書に開示されるように、とりわけ、BAG3は、アポトーシスにおける後期ステップ、つまりカスパーゼ3の活性化を修飾することがここで発見されている。BAG3は、アポトーシスタンパク質1/2の阻害剤(cIAP1/2又はcIAP)と直接相互作用する。正常な条件下で、BAG3タンパク質は正常なレベルで存在し、アポトーシスの細胞阻害剤1(CIAP-1)に結合し、カスパーゼ3に結合し且つその活性を阻害するCIAP1の能力を促す。しかしながら、BAG3ハプロ不全の条件下では、ミトコンドリアから漏出する、カスパーゼの第2のミトコンドリア由来活性化因子、すなわちSMAC(直接IAP結合タンパク質(DIABLO)とも称される)につながる膜電位の減少を含めた、ミトコンドリア機能の著しい異常がある。SMACは、次いで細胞質へ移行し、CIAP-1に結合し、それによってカスパーゼ3からCIAP-1を解放し、カスパーゼ3が活性化されるのを可能にする。活性化されたカスパーゼ3は、次いで細胞の主要な構成要素を溶解し得る。したがって、BAG3は、カスパーゼ-3の活性化を低下、阻害、又は減少させ、それによって炎症又は炎症応答を低下させるために使用又は製剤化され得る。
【0008】
本明細書にさらに開示されるように、BAG3のレベルの減少は、カスパーゼ活性化の内因性及び外因性経路の間の均衡から、カスパーゼ-8の活性化(切断カスパーゼ8)を好むシグナル伝達へのシフトを引き起こすことがここで発見されている。したがって、BAG3は、カスパーゼ-8の活性化を低下、阻害、又は減少させるために使用又は製剤化され得る。
【0009】
本明細書に付加的に開示されるように、とりわけ、BAG3は、ミトコンドリアインポート受容体サブユニットTOM22、及びCa2+ユニポーター、ミトコンドリア代謝、並びにミトコンドリア膜電位の発生とそれぞれ直接相互作用することがここで発見されている。
【0010】
本明細書に付加的に開示されるように、とりわけ、BAG3の減少は、ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ1(PARP1)の増加をもたらすことがここで発見されている。そのようなPARP1の増加は、アルファ-シヌクレインの増加、及びパーキンソン症状の悪化をもたらし得る。したがって、BAG3は、PARP1を低下、阻害、又は減少させるために使用又は製剤化され得る。
【0011】
本発明によれば、BAG3は、TNFシグナル伝達をモジュレートするために使用又は製剤化され得る。特定の実施形態において、BAG3は、TNFシグナル伝達を低下、阻害、又は減少させるために使用又は製剤化され得る。
【0012】
本発明によれば、BAG3は、炎症をモジュレートするために使用又は製剤化され得る。特定の実施形態において、BAG3は、炎症を低下、阻害、減少、又は治療するために使用又は製剤化され得る。
【0013】
本発明によれば、BAG3は、炎症応答をモジュレートするために使用又は製剤化され得る。特定の実施形態において、BAG3は、炎症応答を低下、阻害、減少、又は治療するために使用又は製剤化され得る。
【0014】
炎症又は炎症応答は、臓器又は組織において等、全身的、領域的、又は局所的であり得る。特定の態様において、低下させるか、阻害するか、減少させるか、又は治療するためにBAG3が使用又は製剤化され得る、炎症又は炎症応答の非限定的な例は、肺系、肺、心血管系、中枢神経系、骨、骨格関節、骨格筋、胃腸系、胃、小腸、大腸、肝臓、腎臓、及び膵臓において生じる。
【0015】
特定の態様において、低下させるか、阻害するか、減少させるか、又は治療するためにBAG3が使用又は製剤化され得る、炎症又は炎症応答の非限定的な例は、慢性炎症性疾患、慢性炎症性脱髄性多発神経炎、一次性免疫性血小板減少症、老人性摂食障害、腸管炎症、炎症性腸疾患、潰瘍性大腸炎、クローン病、ループス、関節リウマチ、慢性心筋炎、Covid19感染後の慢性心筋炎、乾癬、乾癬性関節炎、及び強直性脊椎炎を含む。
【0016】
本発明によれば、BAG3は、PARP1レベル、発現、又は活性をモジュレートするために使用又は製剤化され得る。特定の実施形態において、BAG3は、PARP1レベル、発現、又は活性を低下、阻害、又は減少させるために使用又は製剤化され得る。特定の実施形態において、BAG3は、アルファ-シヌクレインの量を低下、阻害、減少、又は安定させるために使用又は製剤化され得る。特定の実施形態において、BAG3は、パーキンソン病の1つ又は複数の症状の悪化又は重症度を低下、阻害、減少、又は減少させるために使用又は製剤化され得る。
【0017】
特定の実施形態において、BAG3コード核酸は、BAG3タンパク質又はその活性BAG3ペプチドを発現する発現ベクターを含む。
【0018】
特定の実施形態において、発現ベクターはプロモーターを含み、プロモーターは、誘導性プロモーター、構成的プロモーター、2シストロン性プロモーター、組織特異的プロモーター、又は心臓特異的プロモーターを含む。
【0019】
特定の実施形態において、発現ベクターは、ウイルスベクター、心臓指向性ベクター、プラスミド、又は酵母ベクターを含む。
【0020】
特定の実施形態において、ウイルス又は心臓指向性ベクターは、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター(AAV)、コクサッキーウイルスベクター、サイトメガロウイルスベクター、エプスタイン・バールウイルスベクター、パルボウイルスベクター、又は肝炎ウイルスベクターを含む。
【0021】
特定の実施形態において、AAVベクターは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、又はAAV12のうちのいずれかと90%以上の配列同一性を有するカプシドタンパク質を含む。
【0022】
特定の実施形態において、発現ベクターはシュードタイピングされたウイルスベクターである。
【0023】
特定の実施形態において、炎症又は炎症応答は、サイトカインによって誘導される又は増加する。
【0024】
特定の実施形態において、サイトカインは腫瘍壊死因子(TNF)を含む。
【0025】
特定の実施形態において、患者は、組織若しくは臓器において正常よりも低いレベルのBAG3を発現する、又は機能的BAG3を検出可能に発現若しくは産生しない。
【0026】
特定の実施形態において、炎症又は炎症応答は、肺系、肺、心血管系、中枢神経系、骨、骨格関節、骨格筋、胃腸系、胃、小腸、大腸、肝臓、腎臓、又は膵臓において生じる。
【0027】
特定の実施形態において、発現ベクターはプロモーターをさらに含み、プロモーターは、誘導性プロモーター、構成的プロモーター、2シストロン性プロモーター、又は組織特異的プロモーターを任意選択で含む。
【0028】
特定の実施形態において、プロモーターは、肺系、肺、心血管系、中枢神経系、骨、骨格関節、骨格筋、胃腸系、胃、小腸、大腸、肝臓、腎臓、又は膵臓における発現を与える。
【0029】
特定の実施形態において、発現ベクターは、AAV逆位末端反復(ITR)をさらに含む。
【0030】
特定の実施形態において、発現ベクターは、ポリアデニル化配列及び/又は終止コドンをさらに含む。
【0031】
特定の実施形態において、患者又は対象はヒトである。
【0032】
特定の実施形態において、患者、対象、又はヒトは、彼らの内在性BAG3ポリヌクレオチド又はポリペプチドに変異を有する。
【0033】
特定の実施形態において、患者、対象、又はヒトは、内在性BAG3ポリヌクレオチド又はポリペプチドの発現又は活性の低下を有する。
【0034】
特定の実施形態において、ウイルスベクターは、約0.1×1012ベクターゲノム(vg)/キログラム単位での患者の重量(vg/kg)~約1.0×1014vg/kgの用量で投与又は製剤化される。
【0035】
特定の実施形態において、ウイルスベクターは、約1.0×1012vg/kg~約0.5×1014vg/kgの用量で投与又は製剤化される。
【0036】
特定の実施形態において、ウイルスベクターは、約3.0×1012vg/kg~約1.0×1013vg/kgの用量で投与又は製剤化される。
【0037】
特定の実施形態において、ウイルスベクターは、約3.0×1012vg/kg~約9.0×1012vg/kgの用量で投与又は製剤化される。
【0038】
特定の実施形態において、ウイルスベクターは、約3.0×1012vg/kg~約8.0×1012vg/kgの用量で投与又は製剤化される。
【0039】
特定の実施形態において、ウイルスベクターは、約3.0×1012vg/kg~約5.0×1012vg/kgの用量で投与又は製剤化される。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1A】Bag3の1つのアレルの欠失を有する若齢マウスが、正常なLV機能及びサイズが存在するにもかかわらず、アポトーシスの経路及び細胞代謝の変更が強調される固有のプロテオームを示すことを示したデータである。A)左心室(LV)駆出率(EF%)、両方ともミリメートル(mm)単位での拡張時LV内径(LVIDd)及び収縮時LV内径(LVIDs)の測定を含む、8~10週齢のBAG3+/-及びBAG3wtマウスの経胸壁心エコー検査の結果を示した棒グラフを有する散布図。
図1B】Bag3の1つのアレルの欠失を有する若齢マウスが、正常なLV機能及びサイズが存在するにもかかわらず、アポトーシスの経路及び細胞代謝の変更が強調される固有のプロテオームを示すことを示したデータである。B)BAG3のレベルは、すべてのBAG3+/-群においておよそ50%低減した。
図2A】心筋細胞特異的Bag3ノックアウト(KO)が、細胞代謝及びアポトーシスに関わるミトコンドリアタンパク質の発現を妨害することを示したデータである。(A)ボトムアップ質量分析によって特定された、野生型及びBAG3-KOマウス左心室由来のすべてのタンパク質についてのボルケーノプロット解析;有意性カットオフをp=0.05に設定した;緑色は野生型と比較した発現の減少を示し、赤色は発現の増加を示す;n=3匹のWT、3匹のKO。
図2B】心筋細胞特異的Bag3ノックアウト(KO)が、細胞代謝及びアポトーシスに関わるミトコンドリアタンパク質の発現を妨害することを示したデータである。B)タンパク質の主たる細胞コンパートメントによって群分けされた、BAG3 KOマウスにおける発現の変更を有するタンパク質のグラフ概要。
図2C】心筋細胞特異的Bag3ノックアウト(KO)が、細胞代謝及びアポトーシスに関わるミトコンドリアタンパク質の発現を妨害することを示したデータである。C)タンパク質の生物学的機能(複数可)によって群分けされた、BAG3 KOマウスにおける発現の変更を有するタンパク質のグラフ概要;生物学的機能及び細胞構成要素情報を、DAVIDバイオインフォマティクスプログラム(バージョ6.8)を使用して獲得した。
図3A】低酸素状態/再酸素化に供されたBag3+/-マウスにおいて、TUNEL陽性細胞はより高いが、ミトコンドリア膜電位はより低いことを示した図である。A)及びB)TUNEL染色。WT及びBAG3+/-マウスから単離された成体マウス心筋細胞を、低酸素状態/再酸素化(H/R)並びに酸素正常状態(Norm)対照条件に供した。Zeiss LSM 900共焦点顕微鏡を用いたイメージングの前に、細胞を、ノニルアクリジンオレンジ(Nonyl Acridine Orange)(NAO)、TMRレッド、及びDAPIで染色した。統計的有意性を、多重部分比較のためのボンフェローニ補正を有する1元配置ANOVAを使用して判定した。****は<0.0001を示し、「ns」は有意でないことを示す。群あたりn=10枚の画像。スケールバー=50μm。
図3B】低酸素状態/再酸素化に供されたBag3+/-マウスにおいて、TUNEL陽性細胞はより高いが、ミトコンドリア膜電位はより低いことを示した図である。A)及びB)TUNEL染色。WT及びBAG3+/-マウスから単離された成体マウス心筋細胞を、低酸素状態/再酸素化(H/R)並びに酸素正常状態(Norm)対照条件に供した。Zeiss LSM 900共焦点顕微鏡を用いたイメージングの前に、細胞を、ノニルアクリジンオレンジ(Nonyl Acridine Orange)(NAO)、TMRレッド、及びDAPIで染色した。統計的有意性を、多重部分比較のためのボンフェローニ補正を有する1元配置ANOVAを使用して判定した。****は<0.0001を示し、「ns」は有意でないことを示す。群あたりn=10枚の画像。スケールバー=50μm。
図3C】低酸素状態/再酸素化に供されたBag3+/-マウスにおいて、TUNEL陽性細胞はより高いが、ミトコンドリア膜電位はより低いことを示した図である。C)Bcl-2レベルは、WT対照と比較した場合に、BAG3+/- LV心筋において異ならなかった。
図3D】低酸素状態/再酸素化に供されたBag3+/-マウスにおいて、TUNEL陽性細胞はより高いが、ミトコンドリア膜電位はより低いことを示した図である。D)ミトソックス(MitoSOX)染色。WT及びBag3-/-マウスから単離された成体マウス心筋細胞をミトソックスで染色し、Zeiss LSM 900共焦点顕微鏡で撮像した。ミトソックス蛍光は、フィジーイメージJ(Fiji Image J)を使用して定量され、データはグラフパッドプリズム(GraphPad Prism)7ソフトウェアにおいてプロットされている。統計的有意性をt検定を使用して判定した。「ns」は有意でないことを示す。群あたりn=75~182個細胞。スケールバー=20μm。
図3E】低酸素状態/再酸素化に供されたBag3+/-マウスにおいて、TUNEL陽性細胞はより高いが、ミトコンドリア膜電位はより低いことを示した図である。E)TMRM染色。WT及びBag3-/-マウスから単離された成体マウス心筋細胞をTMRMで染色し、Zeiss LSM 900共焦点顕微鏡で撮像した。TMRM蛍光は、フィジーイメージJを使用して定量され、データはグラフパッドプリズム7ソフトウェアにおいてプロットされている。ミトコンドリア含有量を、イメージJにおけるミト形態(Mito-Morphology)mjciacroを使用して、個々のミトコンドリア面積として定量した。統計的有意性をt検定を使用して判定した。**は<0.001を示し、「ns」は有意でないことを示す。群あたりn=136~162個細胞。スケールバー=20μm。
図4A】若齢及び高齢のBag3+/-及びBag3WTマウスの両方における、ミトコンドリア依存性又はミトコンドリア非依存性アポトーシスシグナル伝達に関わるタンパク質のウェスタンブロット解析を示した図である。個々の棒グラフに示されるデータは、添付のウェスタンブロットから導き出される。「n」は、サンプルサイズが検討群あたり3である図3Bにおける高齢(18週)マウスから獲得されたサンプルを除いて、各調査群において5に等しかった。各調査を、同じマウス又は同一年齢のマウスから獲得された組織を用いて、少なくとも1回反復した。A)総カスパーゼ3のレベルは、BAG3WTマウスにおいてよりもBAG3+/-マウスにおいて有意に(p<0.01)高い。
図4B】若齢及び高齢のBag3+/-及びBag3WTマウスの両方における、ミトコンドリア依存性又はミトコンドリア非依存性アポトーシスシグナル伝達に関わるタンパク質のウェスタンブロット解析を示した図である。個々の棒グラフに示されるデータは、添付のウェスタンブロットから導き出される。「n」は、サンプルサイズが検討群あたり3である図3Bにおける高齢(18週)マウスから獲得されたサンプルを除いて、各調査群において5に等しかった。各調査を、同じマウス又は同一年齢のマウスから獲得された組織を用いて、少なくとも1回反復した。B)BAG3WTマウス由来の組織における切断カスパーゼ3対プロカスパーゼ3の比は、BAG3+/-マウスにおいてよりもBAG3WTマウスにおいて高く、高齢マウスにおいてLV EFは有意に低減され、LV拡張がはっきりしているという事実にもかかわらず、同じことが高齢18週齢マウスにおいて当てはまった(図1A参照)。
図4C】若齢及び高齢のBag3+/-及びBag3WTマウスの両方における、ミトコンドリア依存性又はミトコンドリア非依存性アポトーシスシグナル伝達に関わるタンパク質のウェスタンブロット解析を示した図である。個々の棒グラフに示されるデータは、添付のウェスタンブロットから導き出される。「n」は、サンプルサイズが検討群あたり3である図3Bにおける高齢(18週)マウスから獲得されたサンプルを除いて、各調査群において5に等しかった。各調査を、同じマウス又は同一年齢のマウスから獲得された組織を用いて、少なくとも1回反復した。C)TNFaのレベルは、BAG3+/-マウスにおいて有意に上昇するが、IL-6のレベルの変化はなく、サイトカイン効果が高度に特異的であることを示唆する。
図4D】若齢及び高齢のBag3+/-及びBag3WTマウスの両方における、ミトコンドリア依存性又はミトコンドリア非依存性アポトーシスシグナル伝達に関わるタンパク質のウェスタンブロット解析を示した図である。個々の棒グラフに示されるデータは、添付のウェスタンブロットから導き出される。「n」は、サンプルサイズが検討群あたり3である図3Bにおける高齢(18週)マウスから獲得されたサンプルを除いて、各調査群において5に等しかった。各調査を、同じマウス又は同一年齢のマウスから獲得された組織を用いて、少なくとも1回反復した。D)カスパーゼ3とは対照的に、総カスパーゼ8で割った切断カスパーゼ8のレベルの有意な(p<0.01)増加があり、明白な心不全を有しないマウスにおいて、カスパーゼ8が生理学的に増加することを示唆した。
図4E】若齢及び高齢のBag3+/-及びBag3WTマウスの両方における、ミトコンドリア依存性又はミトコンドリア非依存性アポトーシスシグナル伝達に関わるタンパク質のウェスタンブロット解析を示した図である。個々の棒グラフに示されるデータは、添付のウェスタンブロットから導き出される。「n」は、サンプルサイズが検討群あたり3である図3Bにおける高齢(18週)マウスから獲得されたサンプルを除いて、各調査群において5に等しかった。各調査を、同じマウス又は同一年齢のマウスから獲得された組織を用いて、少なくとも1回反復した。E)ミトコンドリアマトリックスにおいて産生されるより大きなタンパク質への後続の組み入れのための、ミトコンドリア膜を横断してアミノ酸及び小ペプチド配列及び膜断片を保持するタンパク質のTOM(外膜のトランスロカーゼ)ファミリーのメンバーであるTOM22のレベルの有意な減少(p<0.01)が観察された。
図4F】若齢及び高齢のBag3+/-及びBag3WTマウスの両方における、ミトコンドリア依存性又はミトコンドリア非依存性アポトーシスシグナル伝達に関わるタンパク質のウェスタンブロット解析を示した図である。個々の棒グラフに示されるデータは、添付のウェスタンブロットから導き出される。「n」は、サンプルサイズが検討群あたり3である図3Bにおける高齢(18週)マウスから獲得されたサンプルを除いて、各調査群において5に等しかった。各調査を、同じマウス又は同一年齢のマウスから獲得された組織を用いて、少なくとも1回反復した。F)は、BAG3ハプロ不全の生物学をより良く理解するために、BAG3パートナーを特定することを追及した免疫沈降調査を示す。BAG3は、TOM22及びcIAPに結合したが、相同なXIAP又はSMACに結合しなかった。
図4G】若齢及び高齢のBag3+/-及びBag3WTマウスの両方における、ミトコンドリア依存性又はミトコンドリア非依存性アポトーシスシグナル伝達に関わるタンパク質のウェスタンブロット解析を示した図である。個々の棒グラフに示されるデータは、添付のウェスタンブロットから導き出される。「n」は、サンプルサイズが検討群あたり3である図3Bにおける高齢(18週)マウスから獲得されたサンプルを除いて、各調査群において5に等しかった。各調査を、同じマウス又は同一年齢のマウスから獲得された組織を用いて、少なくとも1回反復した。
図4H】若齢及び高齢のBag3+/-及びBag3WTマウスの両方における、ミトコンドリア依存性又はミトコンドリア非依存性アポトーシスシグナル伝達に関わるタンパク質のウェスタンブロット解析を示した図である。個々の棒グラフに示されるデータは、添付のウェスタンブロットから導き出される。「n」は、サンプルサイズが検討群あたり3である図3Bにおける高齢(18週)マウスから獲得されたサンプルを除いて、各調査群において5に等しかった。各調査を、同じマウス又は同一年齢のマウスから獲得された組織を用いて、少なくとも1回反復した。
図5A】BAG3ハプロ不全を有するマウスにおいて、SMACもcIAPも示差的に発現されず;しかしながら、SMACは、Bag3がOMM(ミトコンドリア外膜)から細胞質に移行することを要することを示したデータである。A)新生児マウス心室筋細胞(NMVM)を単離し、酸素正常状態条件下、1時間の低酸素状態及び2時間の酸素正常状態を有する酸素正常状態条件下、酸素正常状態であるがBAG3に対するSiRNAの存在下、並びに低酸素状態の後に再酸素化が続く酸素正常状態実験条件下で培養した。TOM22(ミトコンドリア)、MCU(ミトコンドリア)、及びGAPDH(細胞質)を対照として使用して、ミトコンドリア(Mito)の分離が成し遂げられたことを実証した。BAG3は、H/Rストレスを受けた筋細胞の細胞質(Cyto)においてより大きな程度発現したが、BAG3の1つのアレルが除去された細胞においては非存在又はほぼ非存在であった。A)SMACは、細胞質及びミトコンドリアの両方に存在した;しかしながら、siRNAを用いてBAG3が除去された場合、SMACは細胞質において明白ではなく、TOM22ももっぱらミトコンドリアに見出された。
図5B】BAG3ハプロ不全を有するマウスにおいて、SMACもcIAPも示差的に発現されず;しかしながら、SMACは、Bag3がOMM(ミトコンドリア外膜)から細胞質に移行することを要することを示したデータである。B)及びC)エンドヌクレアーゼGのレベルもcIAP1のレベルも、BAG3生物学の因果関係のいずれか及びBAG3と細胞との相互作用によって変更されなかった。SMACは、ストレスの期間中、細胞の細胞質に見られなかった。
図5C】BAG3ハプロ不全を有するマウスにおいて、SMACもcIAPも示差的に発現されず;しかしながら、SMACは、Bag3がOMM(ミトコンドリア外膜)から細胞質に移行することを要することを示したデータである。B)及びC)エンドヌクレアーゼGのレベルもcIAP1のレベルも、BAG3生物学の因果関係のいずれか及びBAG3と細胞との相互作用によって変更されなかった。SMACは、ストレスの期間中、細胞の細胞質に見られなかった。
図5D】BAG3ハプロ不全を有するマウスにおいて、SMACもcIAPも示差的に発現されず;しかしながら、SMACは、Bag3がOMM(ミトコンドリア外膜)から細胞質に移行することを要することを示したデータである。
図6A】心不全の動物モデル及び不全のヒト心臓の両方において発現の変更を有することが公知のタンパク質のレベルは、心臓不全のBag3欠失モデルにおいて早期に代替的に調節されなかったことを示したデータである。A)~C)は、JNK、JUN、及びERK1/2の総計及びリン酸化形態の解析のためのウェスタンブロットを示す。各ブロットは、n=5を有する、単一調査に関するデータを表す。次いで、データは箱ひげ図で提示され、適当な場合にはp値が含まれる。データは、各タンパク質に対する総計で割ったリン酸化形態のタンパク質として提示される。各ウェスタンを添付した箱ひげ図に見られるように、野生型マウスと比較した場合に、BAG3ハプロ不全を有するマウスから獲得された組織において、これらのタンパク質のレベルの統計的に有意な差はなかった。
図6B】心不全の動物モデル及び不全のヒト心臓の両方において発現の変更を有することが公知のタンパク質のレベルは、心臓不全のBag3欠失モデルにおいて早期に代替的に調節されなかったことを示したデータである。A)~C)は、JNK、JUN、及びERK1/2の総計及びリン酸化形態の解析のためのウェスタンブロットを示す。各ブロットは、n=5を有する、単一調査に関するデータを表す。次いで、データは箱ひげ図で提示され、適当な場合にはp値が含まれる。データは、各タンパク質に対する総計で割ったリン酸化形態のタンパク質として提示される。各ウェスタンを添付した箱ひげ図に見られるように、野生型マウスと比較した場合に、BAG3ハプロ不全を有するマウスから獲得された組織において、これらのタンパク質のレベルの統計的に有意な差はなかった。
図6C】心不全の動物モデル及び不全のヒト心臓の両方において発現の変更を有することが公知のタンパク質のレベルは、心臓不全のBag3欠失モデルにおいて早期に代替的に調節されなかったことを示したデータである。A)~C)は、JNK、JUN、及びERK1/2の総計及びリン酸化形態の解析のためのウェスタンブロットを示す。各ブロットは、n=5を有する、単一調査に関するデータを表す。次いで、データは箱ひげ図で提示され、適当な場合にはp値が含まれる。データは、各タンパク質に対する総計で割ったリン酸化形態のタンパク質として提示される。各ウェスタンを添付した箱ひげ図に見られるように、野生型マウスと比較した場合に、BAG3ハプロ不全を有するマウスから獲得された組織において、これらのタンパク質のレベルの統計的に有意な差はなかった。
図6D】心不全の動物モデル及び不全のヒト心臓の両方において発現の変更を有することが公知のタンパク質のレベルは、心臓不全のBag3欠失モデルにおいて早期に代替的に調節されなかったことを示したデータである。D)及びE)対照的に、ウェスタンブロット解析は、有意により高いレベルのHuR及びC PARP1/GAPDHがあることを明らかにした。
図6E】心不全の動物モデル及び不全のヒト心臓の両方において発現の変更を有することが公知のタンパク質のレベルは、心臓不全のBag3欠失モデルにおいて早期に代替的に調節されなかったことを示したデータである。D)及びE)対照的に、ウェスタンブロット解析は、有意により高いレベルのHuR及びC PARP1/GAPDHがあることを明らかにした。
図7A】単離された筋細胞における、並びにBag3+/-及びBag3+/+マウス由来のミトプラストにおける、ミトコンドリア膜電位及びCa2+取り込みに対するBag3ハプロ不全の効果を示した図である。方法に記載されるように、LV筋細胞をBAG3+/-及びWTマウスから単離し、1時間の低酸素状態それに続く2時間の再酸素化に曝露した。細胞をジギトニンで透過処理し、スクシネートを補給した。A)レシオメトリック指示薬JC-1を、下向き矢印によって示されるように添加して、膜電位(ΔΨ)をモニターした。ミトコンドリア脱共役剤CCCP(2mM)を第2の矢印の時点で添加した。
図7B】単離された筋細胞における、並びにBag3+/-及びBag3+/+マウス由来のミトプラストにおける、ミトコンドリア膜電位及びCa2+取り込みに対するBag3ハプロ不全の効果を示した図である。方法に記載されるように、LV筋細胞をBAG3+/-及びWTマウスから単離し、1時間の低酸素状態それに続く2時間の再酸素化に曝露した。細胞をジギトニンで透過処理し、スクシネートを補給した。B)Ca2+の添加後、しかしCCCPの添加前のΔΨの概要(各群においてn=4)。
図7C】単離された筋細胞における、並びにBag3+/-及びBag3+/+マウス由来のミトプラストにおける、ミトコンドリア膜電位及びCa2+取り込みに対するBag3ハプロ不全の効果を示した図である。方法に記載されるように、LV筋細胞をBAG3+/-及びWTマウスから単離し、1時間の低酸素状態それに続く2時間の再酸素化に曝露した。細胞をジギトニンで透過処理し、スクシネートを補給した。C)0秒の時点におけるレシオメトリック色素Fura FFの添加、及び(矢印)によって示されるCa2+パルス(10mM)の後続の添加の後に、ミトコンドリア外Ca2+を別個の群の筋細胞において測定した。次いで、最初のCa2+パルスの後に、細胞質Ca2+クリアランス速度を蛍光任意単位として測定した。
図7D】単離された筋細胞における、並びにBag3+/-及びBag3+/+マウス由来のミトプラストにおける、ミトコンドリア膜電位及びCa2+取り込みに対するBag3ハプロ不全の効果を示した図である。方法に記載されるように、LV筋細胞をBAG3+/-及びWTマウスから単離し、1時間の低酸素状態それに続く2時間の再酸素化に曝露した。細胞をジギトニンで透過処理し、スクシネートを補給した。D)細胞質Ca2+クリアランス速度の概要。各測定に関してn=4。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。ΔΨは、5種のタンパク質:MICU1、MICU2、MCUb、MCU、及びEMREから構成されるCa2+ユニポーターを通じたCa2+流動によって生じる。
図7E】単離された筋細胞における、並びにBag3+/-及びBag3+/+マウス由来のミトプラストにおける、ミトコンドリア膜電位及びCa2+取り込みに対するBag3ハプロ不全の効果を示した図である。方法に記載されるように、LV筋細胞をBAG3+/-及びWTマウスから単離し、1時間の低酸素状態それに続く2時間の再酸素化に曝露した。細胞をジギトニンで透過処理し、スクシネートを補給した。E)及びF)BAG3ハプロ不全は、MICU1の相対レベルの有意な(p<0.05)減少、及びMICU2の減少の傾向をもたらし、このことは、膜機能電位の増加(有害)につながる。
図7F】単離された筋細胞における、並びにBag3+/-及びBag3+/+マウス由来のミトプラストにおける、ミトコンドリア膜電位及びCa2+取り込みに対するBag3ハプロ不全の効果を示した図である。方法に記載されるように、LV筋細胞をBAG3+/-及びWTマウスから単離し、1時間の低酸素状態それに続く2時間の再酸素化に曝露した。細胞をジギトニンで透過処理し、スクシネートを補給した。E)及びF)BAG3ハプロ不全は、MICU1の相対レベルの有意な(p<0.05)減少、及びMICU2の減少の傾向をもたらし、このことは、膜機能電位の増加(有害)につながる。
図7G】単離された筋細胞における、並びにBag3+/-及びBag3+/+マウス由来のミトプラストにおける、ミトコンドリア膜電位及びCa2+取り込みに対するBag3ハプロ不全の効果を示した図である。方法に記載されるように、LV筋細胞をBAG3+/-及びWTマウスから単離し、1時間の低酸素状態それに続く2時間の再酸素化に曝露した。細胞をジギトニンで透過処理し、スクシネートを補給した。G)及びH)において、心臓ミトプラストからの電流(IMCU)を、槽への5mM Ca2+の適用の前及び後に記録した。G)示されるように、電圧ランプの間に電流を測定した。トレース図は、WT-GFP、BAG3+/--GFP、及びBAG3+/--BAG3ミトプラストからの代表的な単一のIMCU記録である。
図7H】単離された筋細胞における、並びにBag3+/-及びBag3+/+マウス由来のミトプラストにおける、ミトコンドリア膜電位及びCa2+取り込みに対するBag3ハプロ不全の効果を示した図である。方法に記載されるように、LV筋細胞をBAG3+/-及びWTマウスから単離し、1時間の低酸素状態それに続く2時間の再酸素化に曝露した。細胞をジギトニンで透過処理し、スクシネートを補給した。G)及びH)において、心臓ミトプラストからの電流(IMCU)を、槽への5mM Ca2+の適用の前及び後に記録した。H)WT-GFP(n=5)、BAG3+/--GFP(n=4)、及びBAG3+/--BAG3(n=5)ミトプラストからのIMCU(pA/pF)の平均±SEM。*p<0.05。
図8A】ヒトBag3プロテオーム:不全の及び非不全のヒト心臓におけるBag3及びBag3関連タンパク質レベルを示した図である。組織を、心臓移植の時点で非虚血性拡張型心筋症(IDC)を有するヒト心臓の左心室遊離壁から獲得し、心臓が移植に使用され得なかった移植片ドナー由来の非不全の対照心臓(NF)から獲得された組織と比較した。A~Fは、各ブロットの右に累積的な図に集約されたデータを有する、示されたタンパク質のそれぞれに関するウェスタンブロットを表す。各調査を、少なくとも1回反復し、匹敵する結果を伴った。*p<0.05;**p<0.01。
図8B】ヒトBag3プロテオーム:不全の及び非不全のヒト心臓におけるBag3及びBag3関連タンパク質レベルを示した図である。組織を、心臓移植の時点で非虚血性拡張型心筋症(IDC)を有するヒト心臓の左心室遊離壁から獲得し、心臓が移植に使用され得なかった移植片ドナー由来の非不全の対照心臓(NF)から獲得された組織と比較した。A~Fは、各ブロットの右に累積的な図に集約されたデータを有する、示されたタンパク質のそれぞれに関するウェスタンブロットを表す。各調査を、少なくとも1回反復し、匹敵する結果を伴った。*p<0.05;**p<0.01。
図8C】ヒトBag3プロテオーム:不全の及び非不全のヒト心臓におけるBag3及びBag3関連タンパク質レベルを示した図である。組織を、心臓移植の時点で非虚血性拡張型心筋症(IDC)を有するヒト心臓の左心室遊離壁から獲得し、心臓が移植に使用され得なかった移植片ドナー由来の非不全の対照心臓(NF)から獲得された組織と比較した。A~Fは、各ブロットの右に累積的な図に集約されたデータを有する、示されたタンパク質のそれぞれに関するウェスタンブロットを表す。各調査を、少なくとも1回反復し、匹敵する結果を伴った。*p<0.05;**p<0.01。
図8D】ヒトBag3プロテオーム:不全の及び非不全のヒト心臓におけるBag3及びBag3関連タンパク質レベルを示した図である。組織を、心臓移植の時点で非虚血性拡張型心筋症(IDC)を有するヒト心臓の左心室遊離壁から獲得し、心臓が移植に使用され得なかった移植片ドナー由来の非不全の対照心臓(NF)から獲得された組織と比較した。A~Fは、各ブロットの右に累積的な図に集約されたデータを有する、示されたタンパク質のそれぞれに関するウェスタンブロットを表す。各調査を、少なくとも1回反復し、匹敵する結果を伴った。*p<0.05;**p<0.01。
図8E】ヒトBag3プロテオーム:不全の及び非不全のヒト心臓におけるBag3及びBag3関連タンパク質レベルを示した図である。組織を、心臓移植の時点で非虚血性拡張型心筋症(IDC)を有するヒト心臓の左心室遊離壁から獲得し、心臓が移植に使用され得なかった移植片ドナー由来の非不全の対照心臓(NF)から獲得された組織と比較した。A~Fは、各ブロットの右に累積的な図に集約されたデータを有する、示されたタンパク質のそれぞれに関するウェスタンブロットを表す。各調査を、少なくとも1回反復し、匹敵する結果を伴った。*p<0.05;**p<0.01。
図8F】ヒトBag3プロテオーム:不全の及び非不全のヒト心臓におけるBag3及びBag3関連タンパク質レベルを示した図である。組織を、心臓移植の時点で非虚血性拡張型心筋症(IDC)を有するヒト心臓の左心室遊離壁から獲得し、心臓が移植に使用され得なかった移植片ドナー由来の非不全の対照心臓(NF)から獲得された組織と比較した。A~Fは、各ブロットの右に累積的な図に集約されたデータを有する、示されたタンパク質のそれぞれに関するウェスタンブロットを表す。各調査を、少なくとも1回反復し、匹敵する結果を伴った。*p<0.05;**p<0.01。
図8G】ヒトBag3プロテオーム:不全の及び非不全のヒト心臓におけるBag3及びBag3関連タンパク質レベルを示した図である。組織を、心臓移植の時点で非虚血性拡張型心筋症(IDC)を有するヒト心臓の左心室遊離壁から獲得し、心臓が移植に使用され得なかった移植片ドナー由来の非不全の対照心臓(NF)から獲得された組織と比較した。A~Fは、各ブロットの右に累積的な図に集約されたデータを有する、示されたタンパク質のそれぞれに関するウェスタンブロットを表す。各調査を、少なくとも1回反復し、匹敵する結果を伴った。*p<0.05;**p<0.01。
図8H】ヒトBag3プロテオーム:不全の及び非不全のヒト心臓におけるBag3及びBag3関連タンパク質レベルを示した図である。組織を、心臓移植の時点で非虚血性拡張型心筋症(IDC)を有するヒト心臓の左心室遊離壁から獲得し、心臓が移植に使用され得なかった移植片ドナー由来の非不全の対照心臓(NF)から獲得された組織と比較した。A~Fは、各ブロットの右に累積的な図に集約されたデータを有する、示されたタンパク質のそれぞれに関するウェスタンブロットを表す。各調査を、少なくとも1回反復し、匹敵する結果を伴った。*p<0.05;**p<0.01。
図9】アポトーシスの外因性及び内因性経路の活性、ミトコンドリア機能、並びにそれらの経路におけるBAG3の役割を調節することによってミトコンドリア恒常性を維持することに関与する、ミトコンドリア及びミトコンドリア外経路の図解である。個々のタンパク質は、Bcl2、Bid、tBid、BAX、BAK-アポトーシスの阻害及び刺激の両方において機能するタンパク質のBcl-2ファミリーのメンバー;cIAP-1-アポトーシスの細胞阻害剤-1(cIAP-2は同一遺伝子によって形成される);OMMのメンバー-ミトコンドリア外膜;IMM-ミトコンドリア内膜;MCU-ミトコンドリアユニポーター;SMAC-DIABLO遺伝子によって発現され、cIAPによるカスパーゼ活性化の阻害を遮断することによってカスパーゼを活性化することによってアポトーシスを促進する、カスパーゼの第2のミトコンドリア由来活性化因子;TNFR1-腫瘍壊死因子-アルファ受容体;VDAC-タンパク質のBcl-2ファミリーのメンバー及びヘキソキナーゼと相互作用することによってアポトーシスを調節することにおいて役割を果たす代謝産物、ヌクレオチド、及びイオンの通過に対する門番である電圧依存性アニオンチャネル、を含む。いかなる理論によっても拘束されることを望まないものの、cIAPがカスパーゼ並びにBAG3に付着した場合、BAG3はcIAP-カスパーゼ二量体を安定させ、二量体が今度は、SMACがカスパーゼを活性化する(切断する)のを阻止する。BAG3が、TNFR受容体と共役しているciIAPに結合した場合、BAG3は受容体複合体を安定させ、TNFアルファを受容体に結合させない、又はBAG3は、カスパーゼ8の後続の活性化を伴う、受容体の正常な活性化がないような手段で受容体を下方調節すると仮説が立てられている。
【発明を実施するための形態】
【0041】
ある特定の実施形態についての以下の説明は、本来は単なる例示であり、本発明、その適用又は使用を限定することを意図されるわけでは決してない。本発明の実施形態は、提示される理論上の態様なしで実践されてもよい。さらに、任意の理論上の態様は、本出願人が、提示される理論によって拘束されることを求めないという理解とともに提示される。
【0042】
ある特定の実施形態において、炎症に罹患している又は炎症を発症するリスクがある患者を治療する方法又は治療するための製剤は、治療有効量の作用物質を患者に投与するステップを含み、作用物質は、BCL2関連アサノジーン3(BAG3)コード核酸、BAG3タンパク質、又はBAG3ペプチドの発現又は量をモジュレートし、それによって炎症を治療する。
【0043】
炎症は、限定されることなく、正常から外れた又は望ましくない炎症応答、自己免疫応答、障害、及び疾患を含む。そのような応答、障害、及び疾患は、抗体若しくは細胞媒介性、又は抗体及び細胞媒介性の組み合わせであることがある。そのような応答は、T細胞又はB細胞応答を含む。
【0044】
炎症応答とは、急性又は慢性の応答、活性、又は機能を含む、望まれるよりも大きい又は生理学的に正常な応答、活性、若しくは機能よりも大きい、任意の免疫応答、活性、又は機能を指す。そのような炎症応答は、免疫系の望ましくない又は正常から外れて増加した又は不適当な、応答、活性、又は機能として一般的に特徴付けられる。しかしながら、望ましくない炎症応答、機能、又は活性は、正常な応答、機能、又は活性であり得る。ゆえに、正常な炎症又は炎症応答は、正常な炎症又は炎症応答が望ましくないと考えられる限り、たとえ正常から外れたと考えられないとしても、これらの用語の意味に含まれる。異常な(正常から外れた)炎症応答、機能、又は活性は、正常から逸脱する。
【0045】
炎症及び炎症応答は、体液性、細胞媒介性、又はその組み合わせであり得る、多くの異なる生理学的な有害症状又は合併症によって特徴付けられる。本明細書における実施形態に従って治療され得る炎症、炎症応答、障害、及び疾患は、患者における細胞又は組織/臓器損傷に直接的に又は間接的につながる又は引き起こすものを含むが、それに限定されるわけではない。全身、領域、又は局所レベルで、炎症又は炎症応答は、腫脹、痛み、頭痛、発熱、嘔吐、骨格関節硬直、体液蓄積、可動性の欠如、発疹、発赤、又は他の変色によって特徴付けられ得る。細胞レベルで、炎症は、T細胞活性化及び/又は分化、領域の細胞浸潤、抗体の産生、サイトカイン、リンホカイン、ケモカイン、インターフェロン及びインターロイキン、細胞成長及び成熟因子(例えば、増殖及び分化因子)の産生、細胞蓄積又は移動、並びに細胞、組織、又は臓器損傷のうちの1つ又は複数によって特徴付けられ得る。ゆえに、方法、使用、及び製剤は、炎症又は炎症応答に特徴的な任意のそのような生理学的症状又は細胞応答若しくは生物学的応答の治療及びそれに対する改善効果を含む。
【0046】
特定の実施形態において、本明細書における実施形態に従った方法、使用、又は製剤は、患者における炎症又は炎症応答を減少、低下、阻害、抑制、制限、又は制御する。付加的な特定の実施形態において、方法、使用、又は製剤は、炎症又は炎症応答の有害症状を減少、低下、阻害、抑制、制限、又は制御する。
【0047】
BCL2関連アサノジーン3;MFM6;Bcl-2結合タンパク質Bis;CAIR-1;ドッキングタンパク質CAIR-1;BAGファミリー分子シャペロン調節因子3;BAG-3;BCL2結合アサノジーン3;又はBISとしても公知のBcl-2関連アサノジーン-3(BAG3)は、HSP70への結合をHip-1と競合する細胞保護ポリペプチドである。BAG3に対するNCBI参照アミノ酸配列は、アクセッション番号NP_004272.2;公開GI:14043024の下でGenbankに見出され得る。Genbankアクセッション番号NP_004272.2;公開GI:14043024のアミノ酸配列は、本明細書において配列番号1と称される。BAG3に対するNCBI参照核酸配列は、アクセッション番号NM_004281.3 GI:62530382の下でGenbankに見出され得る。Genbankアクセッション番号NM_004281.3 GI:62530382の核酸配列は、配列番号2と称される。他のBAG3アミノ酸配列は、例えば、限定されることなく、095817.3 GI:12643665(配列番号3);EAW49383.1 GI:119569768(配列番号4);EAW49382.1 GI:119569767(配列番号5);及びCAE55998.1 GI:38502170(配列番号6)を含む。本発明のBAG3ポリペプチドは、バリアントが機能性を保持するという条件で、本明細書に記載されるポリペプチドのバリアントであり得る。
【0048】
本明細書において使用するとき、「作用物質」という用語は、疾患又は他の医学的病状を阻止、改善、又は治療し得る任意の分子、化学的実体、組成物、薬物、治療剤、又は生物学的作用物質を包含することを意図される。該用語は、小分子化合物、アンチセンス試薬、siRNA試薬、抗体、酵素、ペプチド、有機又は無機分子、天然又は合成化合物等を含む。作用物質は、臨床試験中、試験前検査中、又はFDA承認後の任意の段階で、本発明の方法に従ってアッセイされ得る。
【0049】
「ポリペプチド」、「タンパク質」、及び「ペプチド」という用語は、本明細書において互換可能に使用される。「ポリヌクレオチド配列」によってコードされる「ポリペプチド」、「タンパク質」、及び「ペプチド」は、天然に存在するタンパク質のような全長天然配列だけでなく、機能的部分配列、修飾形態、又は配列バリアントを、該部分配列、修飾形態、又はバリアントが天然全長タンパク質のある程度の機能性を保持する限り、含む。ポリヌクレオチド配列によってコードされるそのようなポリペプチド、タンパク質、及びペプチドは、治療される患者における内在性タンパク質と同一であり得るが、同一であることを要されるわけではない。
【0050】
「核酸」及び「ポリヌクレオチド」という用語は、デオキシリボ核酸(DNA)及びリボ核酸(RNA)を含む、すべての形態の核酸、オリゴヌクレオチドを指すために本明細書において互換可能に使用される。核酸は、ゲノムDNA、cDNA、及びアンチセンスDNA、並びにスプライシングされた又はスプライシングされていないmRNA、rRNA、tRNA、並びに阻害性DNA又はRNA(RNAi、例えば低分子若しくは短いヘアピン(sh)RNA、マイクロRNA(miRNA)、低分子若しくは短い干渉(si)RNA、トランススプライシングRNA、又はアンチセンスRNA)を含む。
【0051】
核酸は、天然に存在する、合成の、及び意図的に修飾された又は変更されたポリヌクレオチドを含む。核酸は、単一、二重、又は三重、線状又は環状であり得、任意の長さのものであり得る。核酸を論じる際、特定のポリヌクレオチドの配列又は構造は、5’から3’方向に配列を提供するという慣習に従って本明細書に記載されることができる。
【0052】
「異種」ポリヌクレオチド又は核酸配列とは、細胞へのポリヌクレオチドのベクター媒介性移入/送達の目的で、プラスミド又はベクターに挿入されたポリヌクレオチドを指す。異種核酸配列はウイルス核酸と区別できる、つまりウイルス核酸に対して非天然である。いったん細胞に移入/送達されると、ベクターに含まれた異種核酸配列は発現され得る(例えば、転写され、適当な場合には翻訳される)。あるいは、ベクターに含まれた、細胞における移入/送達された異種ポリヌクレオチドは、発現される必要はない。「異種」という用語は、本明細書において、核酸配列及びポリヌクレオチドに関して常に使用されるわけではないものの、「異種」という修飾語がない場合でも、核酸配列又はポリヌクレオチドへの言及は、省略にもかかわらず、異種核酸配列及びポリヌクレオチドを含むことを意図する。
【0053】
本明細書において使用される「発現ベクター」という用語は、転写され得る遺伝子産物の少なくとも一部をコードする核酸配列(例えば、BAG3)を含むベクターを指す。ある場合には、RNA分子は、次いでタンパク質、ポリペプチド、又はペプチドに翻訳される。他の場合には、これらの配列は、例えばアンチセンス分子、siRNA、リボザイム等の産生において、翻訳されない。発現ベクターは様々な制御配列を含むことができ、制御配列とは、特定の宿主生命体における作動的に連結されたコード配列の転写及び場合によっては翻訳に必要な核酸配列を指す。転写及び翻訳を支配する制御配列に加えて、ベクター及び発現ベクターは、他の機能を果たす核酸配列も含むことがある。
【0054】
本明細書において使用される「プロモーター」とは、典型的には、核酸配列(例えば、BAG3)に近接して位置するDNA配列を指し得る。プロモーターは、典型的には、プロモーターが存在しない場合に発現される量と比較して、発現される核酸配列(例えば、BAG3)の量を増加させる。
【0055】
本明細書において使用される「エンハンサー」とは、核酸配列(例えば、BAG3)に近接して位置する配列を指し得る。エンハンサーエレメントは、典型的にはプロモーターエレメントの上流に位置するが、核酸配列(例えば、BAG3)の下流又は中でも機能し、位置し得る。それゆえ、エンハンサーエレメントは、核酸配列(例えば、BAG3)の100塩基対、200塩基対、又は300塩基対以上上流又は下流に位置し得る。エンハンサーエレメントは、典型的には、プロモーターエレメントによって与えられる発現の増加を上回って、核酸配列(例えば、BAG3)の発現を増加させる。
【0056】
本発明に従った方法において使用され得る発現調節エレメント又は発現制御エレメントの例は、例えば、限定されることなく、サイトメガロウイルス(CMV)最初期プロモーター/エンハンサー、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター/エンハンサー、SV40プロモーター、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)プロモーター、ニワトリβ-アクチン(CBA)プロモーター、ホスホグリセロールキナーゼ(PGK)プロモーター、及び伸長因子-1アルファ(EF1-アルファ)プロモーターを含む。
【0057】
ある特定の実施形態において、本発明の方法及び製剤において使用されることができるウイルスベクターは、例えば、限定されることなく、AAV粒子を含む。ある特定の実施形態において、本発明において使用されることができるウイルスベクターは、例えば、限定されることなく、その組み換え型を含めた、レトロウイルス、アデノウイルス、ヘルパー依存性アデノウイルス、ハイブリッドアデノウイルス、単純ヘルペスウイルス、レンチウイルス、ポックスウイルス、エプスタイン・バールウイルス、ワクシニアウイルス、及びヒトサイトメガロウイルスベクターを含む。
【0058】
組み換えAAV(rAAV)ベクター等、ウイルスベクターの修飾語、並びに組み換えポリヌクレオチド及びポリペプチド等の配列の修飾語としての「組み換え」という用語は、組成が、天然では一般的に存在しない方式で操られている(すなわち、操作されている)ことを意味する。それゆえ、「組み換えウイルスベクター」とは、1種又は複数の異種遺伝子産物又は配列を含むウイルスベクターを指す。
【0059】
多くのウイルスベクターは、パッケージングと関連したサイズ制限を呈することから、異種遺伝子産物又は配列は、典型的には、ウイルスゲノムの1つ又は複数の部分を置き換えることによって導入される。そのようなウイルスは複製欠損になることがあり、ウイルス複製及びカプシド化の間に、欠失した機能(複数可)がトランスで提供されること(すなわち、「ヘルパー」機能)を要する(例えば、AAV rep、AAV cap、ヒトアデノウイルスE4、及びアデノウイルスVA RNA等、複製及び/又はカプシド化に必要な遺伝子産物を担持するヘルパーウイルス又はパッケージング細胞株を使用することによる)。送達される対象となるポリヌクレオチドが、ウイルス粒子の外側に担持される修飾ウイルスベクターも記載されている(例えば、Curiel,D Tら、PNAS 88:8850~8854、1991を参照されたい)。
【0060】
組み換えAAVベクターの特定の例は、野生型AAVゲノムに通常存在しない核酸(異種ポリヌクレオチド)がウイルスゲノムに挿入されている場合であろう。その例は、治療用タンパク質をコードする核酸(例えば、遺伝子)又はポリヌクレオチド配列が、5’、3’、及び/又は遺伝子がAAVゲノム内で通常結び付いているイントロン領域の有無で、ベクター内にクローニングされている場合であろう。「組み換え」という用語は、本明細書において、AAVベクター及びポリヌクレオチド等の配列に関して常に使用されるわけではないものの、AAVベクター、ポリヌクレオチド等を含む組み換え形態は、そのような省略にかかわらず、明示的に含まれる。
【0061】
「rAAVベクター」は、例えば、分子的方法を用いて野生型AAVゲノムのすべて又は一部を除去し、治療用タンパク質をコードする核酸又はポリヌクレオチド配列等の非天然(異種)核酸で置き換えることによって、AAVの野生型ゲノムから導き出される。典型的には、rAAVベクターでは、AAVゲノムの一方又は両方の逆位末端反復(ITR)配列が保持される。AAVゲノムのすべて又は一部が治療用タンパク質をコードする異種核酸又はポリヌクレオチド配列など、AAVゲノム核酸に対する非天然配列で置き換えられていることから、rAAVはAAVゲノムと区別される。それゆえ、非天然(異種)配列の組み込みが、AAVを、「rAAVベクター」と称され得る「組み換え」AAVベクターとして定義づける。
【0062】
組み換えAAVベクター配列(又はゲノム)は、エクスビボ、インビトロ、又はインビボにおける細胞の後続の感染(形質導入)のために、パッケージされ得、本明細書において「粒子」と称される。組み換えベクター配列がAAV粒子内にカプシド化又はパッケージされる場合、粒子は、「rAAV」、「rAAV粒子」、及び/又は「rAAVビリオン」とも称され得る。そのようなrAAV、rAAV粒子、及びrAAVビリオンは、ベクターゲノムをカプシド化又はパッケージするタンパク質を含む。特定の例は、AAVの場合、カプシドタンパク質を含む。
【0063】
「vg」と略されることがある「ベクターゲノム」とは、最終的にパッケージ又はカプシド化されてrAAV粒子を形成する組み換えプラスミド配列の一部分を指す。組み換えAAVベクターを構築又は製造するために組み換えプラスミドが使用される場合、AAVベクターゲノムは、組み換えプラスミドのベクターゲノム配列に相当しない「プラスミド」の部分を含まない。組み換えプラスミドのこの非ベクターゲノム部分は、増殖及び組み換えAAVベクター産生に必要であるプロセスである、プラスミドのクローニング及び増幅に重要であるが、それ自身はrAAV粒子内にパッケージされない又はカプシド化されない「プラスミド骨格」と称される。ゆえに、「ベクターゲノム」とは、rAAVによってパッケージ又はカプシド化される核酸を指す。
【0064】
本明細書において使用するとき、AAVベクターに関する「血清型」という用語は、他のAAV血清型と血清学的に区別できるカプシドを意味する。血清学的独自性は、別のAAVと比較した、1種のAAVに対する抗体の間の交差反応性の欠如に基づいて判定される。交差反応性の差は、通常、カプシドタンパク質配列/抗原決定基の差に起因する(例えば、AAV血清型のVP1、VP2、及び/又はVP3配列差に起因する)。1種のAAVに対する抗体は、カプシドタンパク質配列の相同性に起因して、1種又は複数の他のAAV血清型と交差反応することがある。
【0065】
伝統的な規定の下で、血清型とは、関心対象のウイルスが、中和活性について、すべての既存の且つ特徴付けされた血清型に特異的な血清に対して検査されており、関心対象のウイルスを中和する抗体が見出されていないことを意味する。より多くの天然に存在するウイルス単離株が発見され及び/又はカプシド変異体が作出されるにつれて、現存する血清型のいずれかとの血清学的な差があってもなくてもよい。ゆえに、新しいウイルス(例えば、AAV)が血清学的な差を有しない場合、この新しいウイルス(例えば、AAV)は、相当する血清型のサブグループ又はバリアントであろう。多くの場合、変異体ウイルスが、血清型の伝統的な規定に従って別の血清型のものであるかどうかを判定するための、中和活性についての血清学検査は、カプシド配列修飾を有する変異体ウイルスに対してまだ実施されていない。したがって、利便性のために及び反復を回避するために、「血清型」という用語は、血清学的に区別できるウイルス(例えば、AAV)、並びに所与の血清型のサブグループ又はバリアントの内にあることがある血清学的に区別できないウイルス(例えば、AAV)の両方を広く指す。
【0066】
rAAVベクターは、任意のウイルス系統又は血清型を含む。例えば、限定されることなく、rAAVベクターゲノム又は粒子(VP1、VP2、及び/又はVP3等のカプシド)は、例えばAAV-1、-2、-3、-4、-5、-6、-7、-8、-9、-10、-11、-12、AAV3B、又はAAV-2i8等、任意のAAV血清型に基づき得る。そのようなベクターは、同じ系統若しくは血清型(又はサブグループ若しくはバリアント)に基づき得る、又は互いに異なり得る。例えば、限定されることなく、1種の血清型ゲノムに基づくrAAVプラスミド又はベクターゲノム又は粒子(カプシド)は、ベクターをパッケージするカプシドタンパク質の1種又は複数と同一であり得る。加えて、rAAVプラスミド又はベクターゲノムは、ベクターゲノムをパッケージするカプシドタンパク質の1種又は複数と区別できるAAV血清型ゲノムに基づき得、その場合、3種のカプシドタンパク質の少なくとも1種は、異なるAAV血清型、例えばAAV1、AAV2、AAV3、AAV3B、AAV-2i8(AAV2/AAV8キメラ)、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、又はそのバリアントであり得る。より具体的には、rAAV2ベクターゲノムは、AAV2 ITR、しかし、例えばAAV1、AAV3、AAV3B、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAV-2i8、又はそのバリアント等、異なる血清型由来のカプシドを含み得る。したがって、rAAVベクターは、特定の血清型、並びに「シュードタイプ」とも称され得る「混合」血清型に特徴的な遺伝子/タンパク質配列と同一の遺伝子/タンパク質配列を含む。
【0067】
ある特定の実施形態において、rAAVベクターは、1種又は複数のAAV1、AAV2、AAV3、AAV3B、AAV-2i8、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、又はAAV12カプシドタンパク質(VP1、VP2、及び/又はVP3配列)と少なくとも70%以上(例えば、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%等)同一のカプシド配列を含む又はそれからなる。ある特定の実施形態において、rAAVベクターは、1種又は複数のAAV1、AAV2、AAV3、AAV3B、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、又はAAV12 ITR(複数可)と少なくとも70%以上(例えば、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%等)同一の配列を含む又はそれからなる。
【0068】
ある特定の実施形態において、rAAVベクターは、国際公開第2013/158879号(国際出願PCT/US2013/037170)、国際公開第2015/013313号(国際出願PCT/US2014/047670)、及び米国特許出願公開第2013/0059732号(米国出願第13/594,773号)に明記される、例えばそのAAV1、AAV2、AAV3、AAV3B、AAV-2i8、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、又はAAV12バリアント(例えば、アミノ酸挿入、付加、置換、及び欠失等、ITR及びカプシドバリアント)を含む。
【0069】
AAV1、AAV2、AAV3、AAV3B、AAV-2i8、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、並びにバリアント、ハイブリッド、及びキメラ配列等のrAAVは、1種又は複数の機能的AAV ITR配列と隣接した1種又は複数の異種ポリヌクレオチド配列(導入遺伝子)を含むように、当業者に公知である組み換え技法を使用して構築され得る。そのようなAAVベクターは、典型的には、組み換えベクターのレスキュー、複製、及びrAAVベクター粒子内へのパッケージングに必要な少なくとも1種の機能的隣接ITR配列(複数可)を保持する。それゆえ、rAAVベクターゲノムは、複製及びパッケージングのためのシスに要される配列(例えば、機能的ITR配列)を含むであろう。
【0070】
ある特定の実施形態において、本発明において使用されるレンチウイルスは、ヒト免疫不全-1(HIV-1)、ヒト免疫不全-2(HIV-2)、サル免疫不全ウイルス(SIV)、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)、ウシ免疫不全ウイルス(BIV)、ジェンブラナ病ウイルス(JDV)、ウマ感染性貧血ウイルス(EIAV)、又はヤギ関節炎脳炎ウイルス(CAEV)であってもよい。レンチウイルスベクターは、インビトロ及びインビボの両方で、非分裂細胞への異種ポリヌクレオチド配列の効率的な送達、組み込み、及び長期発現を提供し得る。様々なレンチウイルスベクターが当技術分野において公知であり、Naldiniら(Proc.Natl.Acad.Sci.USA、93:11382~11388(1996);Science、272:263~267(1996))、Zuffereyら(Nat.Biotechnol.、15:871~875、1997)、Dullら(J Virol.1998 Nov;72(11):8463~71、1998)、米国特許第6,013,516号及び第5,994,136号を参照されたく、そのうちのいずれかは、本発明における使用のための適切なウイルスベクターであることがある。
【0071】
組み換えウイルスベクター用量は、任意の適当な用量で製剤化、投与、又は送達され得る。一般的に、用量は、効果を達成するために、患者の重量のキログラムあたり少なくとも1×10以上、例えば1×10、1×1010、1×1011、1×1012、1×1013、又は1×1014以上のベクターゲノム(vg/kg)に及ぶであろう。マウスにおける1×1010~1×1011vg/kg、及び犬における1×1012~1×1013vg/kgの域にあるAAV用量は有効であった。より特に、約1×1011vg/kg~約5×1014vg/kgを包摂する、又は約5×1011vg/kg~約1×1014vg/kgを包摂する、又は約5×1011vg/kg~約5×1013vg/kgを包摂する、又は約5×1011vg/kg~約1×1013vg/kgを包摂する、又は約5×1011vg/kg~約5×1012vg/kgを包摂する、又は約5×1011vg/kg~約1×1012vg/kgを包摂する用量。用量は、約2×1011~約2×1014vg/kgを包摂する用量、特に例えば約2×1012vg/kg、約6×1012vg/kg、又は約2×1013vg/kg等、例えば約5×1014vg/kg又は約5×1014vg/kgよりも少なくてもよい。
【0072】
「有効量」、「十分量」、又は「治療有効量」とは、単回又は複数回の投薬で、単独で、又は1種若しくは複数の他の組成物、治療、プロトコール、若しくは治療レジメン作用物質との組み合わせで、任意の時間の継続期間(長期又は短期)の検出可能な応答、任意の測定可能な若しくは検出可能な程度の、又は任意の時間の継続期間(例えば、数分間、数時間、数日間、数ヶ月間、数年間、又は治癒した)の患者における予想される若しくは望まれる転帰又は患者への有益性を提供する量を指す。疾患の進行又は悪化を減少、低下、阻害、抑制、制限、又は制御することは満足な転帰であるものの、治療(例えば、改善すること、又は治療的有益性若しくは向上を提供すること)のための「有効量」又は「十分量」という用量は、典型的には、疾患の1つ、複数、又はすべての有害症状、因果関係、又は合併症、例えば疾患によって引き起こされる又は疾患と関連した1つ又は複数の有害症状、障害、疾病、病理、又は合併症に対する応答を、測定可能な程度まで提供するのに有効である。
【0073】
有効量又は十分量は、単一の製剤又は投与で提供され得るがそうである必要はなく、複数回の投与を要してもよく、単独で、又は別の組成物(例えば、作用物質)、治療、プロトコール、若しくは治療レジメンとの組み合わせで投与され得るがそうである必要はない。例えば、量は、患者の必要性、治療される疾患のタイプ、状態、及び重症度、又は治療の副作用(もしあれば)によって示されるように、比例的に増加してもよい。加えて、そのような用量をはるかに超える付加的な用量、量、若しくは継続期間、又は付加的な組成物(例えば、薬物又は作用物質)、治療、プロトコール、若しくは治療レジメンが、所与の患者において有効である又は十分であると考えられるように含まれてよいことから、有効量又は十分量は、第2の組成物(例えば、別の薬物又は作用物質)、治療、プロトコール、又は治療レジメンなしで、単回又は複数回の投薬で与えられた場合に有効である又は十分である必要はない。有効であると考えられる量は、別の治療、治療レジメン、又はプロトコールの使用の低下をもたらす量も含む。
【0074】
有効量又は十分量は、治療されるありとあらゆる患者においても、所与の群又は集団における治療された患者の大多数においても有効である必要はない。有効量又は十分量は、群又は一般的集団ではなく、特定の患者における有効性又は十分性を意味する。そのような方法に典型的であるように、一部の患者は、所与の治療法又は使用に対して、より大きな応答を呈するであろう、又はほとんど若しくは全く応答を呈しないであろう。
【0075】
それゆえ、本発明の方法、使用、及び製剤は、患者に、検出可能な若しくは測定可能な有益な効果を、又は炎症若しくは炎症応答における任意の客観的な若しくは主観的な一過性の若しくは一時的な若しくは長期の向上(例えば、治癒)を提供することを含む。ゆえに、患者の病状の漸進的向上、炎症若しくは炎症応答の1つ若しくは複数の関連有害症状若しくは合併症の重症度、頻度、継続期間、若しくは進行の部分的低下、又は炎症若しくは炎症応答の生理学的な、生化学的な、若しくは細胞の兆候若しくは特徴のうちの1つ若しくは複数の阻害、低下、排除、阻止、若しくは反転がある場合、満足な臨床評価項目は達成される。それゆえ、治療的有益性又は向上(「改善する」が同義的に使用される)は、炎症又は炎症応答と関連した任意の又はすべての有害症状又は合併症の完全な除去である必要はないが、炎症又は炎症応答の任意の測定可能な又は検出可能な、客観的に又は主観的に意味のある向上である。例えば、炎症若しくは炎症応答又は関連症状の悪化又は進行を阻害すること(例えば、進行を減速すること、或いは1つ又は複数の症状、合併症、又は生理学的な若しくは心理学的な効果若しくは応答を安定させること)は、たとえほんの数日間、数週間、又は数ヶ月間だとしても、たとえ炎症若しくは炎症応答又は関連有害症状の完全な除去が達成されないとしても、有益な効果であると考えられる。
【0076】
「治療」とは、発症を阻止するか、障害の病理若しくは症状を変更するか、又は障害の進行若しくは悪化を遅延させる意図を有して実施される介入である。したがって、「治療」とは、治療的治療及び予防的又は阻止的手段の両方を指す。「治療」は、緩和ケアとしても指定されることがある。
【0077】
「予防」及びその文法的変形は、対象への接触、投与、又はインビボ送達が、病状、障害、又は疾患(或いは関連症状、又は生理学的若しくは心理学的応答)の兆候又は発生に先立つ、本発明に従った方法であって、それにより方法が、病状、障害、若しくは疾患、又は関連症状を有する可能性、感受性、発生、又は頻度を排除、阻止、阻害、減少、又は低下させ得る、方法を意味する。予防のための標的患者は、本明細書に明記されるように、炎症若しくは炎症応答又は関連症状にかかる、或いは以前に診断された炎症若しくは炎症応答又は関連症状の再発の増加したリスク(可能性又は感受性)のあるものであり得る。
【0078】
治療を必要とする者は、障害をすでに有する者、並びに障害が阻止されるべき者を含む。したがって、障害又は病状を「治療すること」又は「治療」は、(1)障害又は病状に苦しむ又はかかりやすい傾向があることがあるが、障害又は病状の臨床又は亜臨床症状をまだ経験しない又は呈示しないヒト又は他の哺乳類において発症する状態、障害、又は病状の臨床症状の出現を阻止すること又は遅延させること;(2)障害又は病状を阻害すること、すなわち、障害若しくは病状の発症、又はその再燃(維持治療の場合)、又はその少なくとも1つの臨床若しくは亜臨床症状を食い止めること、低下させること、又は遅延させること;或いは(3)疾患を軽減すること、すなわち、障害若しくは病状、又はその臨床若しくは亜臨床症状の少なくとも1つの退縮を引き起こすこと、を含む。治療されるべき患者に対する有益性は、統計的に有意である、又は患者にとって若しくは医師にとって少なくとも認知可能である。
【0079】
「改善する」という用語は、患者の疾患若しくはその症状、又は根底にある細胞応答の検出可能又は測定可能な向上を意味する。検出可能又は測定可能な向上は、疾患、又は疾患によって引き起こされる若しくは疾患と関連した合併症の発生率、頻度、重症度、進行、若しくは継続期間の主観的な又は客観的な減少、低下、阻害、抑制、限定、又は制御、或いは症状、又は疾患の根底にある原因若しくは因果関係の向上、或いは疾患の反転を含む。
【0080】
製剤は、日あたり1回若しくは複数回;1日おきに1回;週あたり1回若しくは複数回;月あたり1回若しくは複数回;年あたり1回若しくは複数回;又は、患者の生涯にわたって1~2回投与され得る。当業者であれば、疾患又は障害の重症度、所望の転帰、以前の治療、患者の全般的健康状態及び/又は年齢、並びに存在する他の疾患を含むがそれらに限定されない、ある特定の因子が、患者を治療するために要される投薬量及びタイミングに影響し得ることを解するであろう。さらに、本発明に従った治療有効量を用いた患者の治療は、一連の治療等、単回の治療又は複数回の治療を含み得る。
【0081】
本発明の製剤、組成物、及び医薬組成物は、活性剤が、意図される治療目的を達成するための有効量で含有される組成物を含む。有効用量を判定することは、当技術分野において公知の技法及び手引きを使用して、並びに本明細書において提供される教示を使用して、技能を有する医師の能力の十分に範囲内にある。
【0082】
医薬組成物等の製剤は、核酸転写及びコードタンパク質の翻訳を可能にするように、患者に送達されることができる。ある特定の実施形態において、医薬組成物等の製剤は、患者におけるBAG3の治療有効量の産生を可能にするための、例えばTNFシグナル伝達をモジュレートするための、十分な遺伝材料を含む。
【0083】
「モジュレートする」という用語は、本明細書において具現化された化合物の言及された活性のいずれかが、例えば、増加、増強、増加、アゴナイズ(アゴニストとして作用する)、促進、減少、低下、阻害、抑制、遮断、又はアンタゴナイズされる(アンタゴニストとして作用する)ことを意味する。モジュレートは、その活性をベースライン値よりも下に低下又は減少させ得る、例えば1~5倍、1~10倍、5~10倍、10~20倍、20~30倍、40~50倍等、又は少なくとも1倍、2倍、3倍、5倍、10倍、20倍、50倍、100倍等の低下又は減少。モジュレートは、また、活性をベースライン値よりも上に増加又は増強させ得る、例えば1~5倍、1~10倍、5~10倍、10~20倍、20~30倍、40~50倍等、又は少なくとも1倍、2倍、3倍、5倍、10倍、20倍、50倍、100倍等の増加又は増強。
【0084】
本発明の製剤、組成物、方法、及び使用は、霊長類(例えば、ヒト)及び獣医学適用において使用され得る。それゆえ、適切な患者は、ヒト等の哺乳類、並びに非ヒト哺乳類を含む。「患者」及び「対象」という用語は、動物、典型的には、ヒト、非ヒト霊長類(類人猿、テナガザル、ゴリラ、チンパンジー、オラウータン、マカク)、家庭の動物(犬及び猫)、家畜(ニワトリ及びアヒル等の家禽、馬、牛、山羊、羊、豚)、及び実験動物(マウス、ラット、ウサギ、モルモット)等の哺乳類を指す。ヒト患者は、胎児、新生児、幼児、若年、及び成人対象を含む。患者は、動物疾患モデル、例えばBAG3不全のマウス及び他の動物モデルも含む。
【0085】
組成物及び製剤は無菌であってもよく、方法及び使用は、無菌の組成物及び製剤を用いて実施されてもよい。組成物は、生理食塩水、緩衝生理食塩水、デキストロース、及び水を含むがそれらに限定されない、任意の生体適合性の薬学的キャリアとともに製剤化されてもよい又はそれにおいて投与されてもよい。組成物は、単独で、又は投薬量、投与頻度、及び/若しくは治療効力に影響する他の作用物質との組み合わせで、製剤化されてもよい又は患者に投与されてもよい。
【0086】
本発明の製剤、方法、及び使用は、全身的な、領域的な、若しくは局所的な(例えば、特定の領域、組織、臓器、又は細胞への)、又は任意の経路による、例えば注射若しくは注入による、送達及び投与を含む。組成物、製剤、及び医薬組成物のインビボでの投与又は送達は、対流増強送達等の他の送達法が想定されるものの、従来のシリンジを使用した注射を介して一般的に成し遂げられることができる(例えば、米国特許第5,720,720号を参照されたい)。例えば、製剤及び組成物は、皮下に、表皮に、皮内に、髄腔内に、眼窩内に、粘膜内に、腹腔内に、静脈内に、胸膜内に、動脈内に、経口的に、肝内に、又は筋肉内に送達されてもよい。患者の治療を専門とする臨床医であれば、患者の病状及び治療の目的(例えば、TNFシグナル伝達をモジュレートすること、TNFシグナル伝達を低下させること、炎症を治療すること、炎症応答を低下させること等)を含むがそれらに限定されないいくつかの基準に基づいて、投与のための最適な経路を判定することができる。
【0087】
また本発明によれば、核酸、ウイルスベクターを含めた発現ベクター、及びウイルス粒子は、リポソーム、ナノ粒子、脂質ナノ粒子、ポリマー、マイクロ粒子、マイクロカプセル、ミセル、又は細胞外小胞とともにカプセル化されてもよい又は複合体形成されてもよい。
【0088】
「脂質ナノ粒子」又は「LNP」とは、核酸、ナノスケールの、すなわち約10nm~約1000nm、又は約50~約500nm、又は約75~約127nmの大きさを有するウイルスベクターを含めた発現ベクターの投与又は送達に有用な脂質ベースの小胞を指す。理論によって拘束されることなく、LNPは、核酸、発現ベクター、又は組み換えウイルスベクターに免疫系からの部分的な又は完全な遮蔽を提供すると思われる。遮蔽は、組織又は細胞への核酸、発現ベクター、又はウイルスベクターの送達を可能にし、一方でインビボで核酸、発現ベクター、又はウイルスベクターに対する実質的な免疫応答を誘導することを回避する。遮蔽は、実質的な免疫応答を誘導することなく、反復投与も可能にすることができる。遮蔽は、インビボにおける送達効率、治療効果の継続期間、及び/又は治療効力を向上させることもできる又は増加させることもできる。
【0089】
AAV表面は、わずかな負の電荷を担持する。そのため、AAVは、LNPが例えばアミノ脂質等のカチオン性脂質を含むのに有益であることがある。例示的なアミノ脂質は、米国特許第9,352,042号、第9,220,683号、第9,186,325号、第9,139,554号、第9,126,966号、第9,018,187号、第8,999,351号、第8,722,082号、第8,642,076号、第8,569,256号、第8,466,122号、及び第7,745,651号、並びに米国特許出願公開第2016/0213785号、第2016/0199485号、第2015/0265708号、第2014/0288146号、第2013/0123338号、第2013/0116307号、第2013/0064894号、第2012/0172411号、及び第2010/0117125号に記載されている。
【0090】
「カチオン性脂質」及び「アミノ脂質」という用語は、1、2、3本、又はそれを上回る数の脂肪酸又は脂肪アルキル鎖、及びpH滴定可能なアミノ基(例えば、アルキルアミノ又はジアルキルアミノ基)を有するそうした脂質及びその塩を含むために、本明細書において互換可能に使用される。カチオン性脂質は、典型的には、カチオン性脂質のpKaよりも下のpHでプロトン化され(すなわち、正に帯電される)、pKaよりも上のpHで実質的に中性である。カチオン性脂質は、滴定可能なカチオン性脂質でもあってもよい。ある特定の実施形態において、カチオン性脂質は、プロトン化可能な第3級アミン(例えば、pH滴定可能な)基;各アルキル鎖が0~3(例えば、0、1、2、又は3)個の二重結合を独立的に有する、C18アルキル鎖;及び頭部基とアルキル鎖との間のエーテル、エステル、又はケタール連結を含む。
【0091】
ある特定の実施形態において、カチオン性脂質は、LNPの約10重量%~脂質ナノ粒子の約85重量%、又はLNPの約50重量%~LNPの約75重量%の量で存在してもよい。
【0092】
LNPは中性脂質を含み得る。中性脂質は、生理学的pHで非電荷又は中性双性イオン形態のいずれかで存在する任意の脂質種を含んでもよい。そのような脂質は、限定されることなく、ジアシルホスファチジルコリン、ジアシルホスファチジルエタノールアミン、セラミド、スフィンゴミエリン、ジヒドロスフィンゴミエリン、セファリン、及びセレブロシドを含む。中性脂質の選択は、一般的に、とりわけ粒子サイズ及び必須の安定性の考慮によって導かれる。ある特定の実施形態において、中性脂質構成要素は、2種のアシル基(例えば、ジアシルホスファチジルコリン及びジアシルホスファチジルエタノールアミン)を有する脂質であってもよい。
【0093】
ある特定の実施形態において、中性脂質は、脂質ナノ粒子の約0.1重量%~LNPの約75重量%、又はLNPの約5重量%~LNPの約15重量%の量で存在してもよい。
【0094】
生物学的サンプルは、典型的には、生物学的生命体から獲得される又はそれによって産生される。解析されることができる患者由来の生物学的サンプルの例は、例えば、限定されることなく、全血、血清、血漿等、及びその組み合わせを含む。患者由来の他の生物学的サンプルは、例えば、限定されることなく、脳脊髄液又は単なる脊髄液を含む。生物学的サンプルは、細胞を欠いていてもよい又は細胞を含んでもよい(例えば、赤血球、血小板、及び/又はリンパ球)。
【0095】
本発明は、パッケージ材料及びその中の1種又は複数の構成要素を含むキット等の組成物を提供する。キットは、典型的には、構成要素の説明、又はキットの中の構成要素のインビトロ、インビボ、若しくはエクスビボにおける使用のための使用説明書を含めた、標識又はパッケージ挿入物を含む。キットは、そのような構成要素、例えば核酸、組み換えベクター、ウイルス(例えば、AAV、レンチウイルス)ベクター、又はウイルス粒子の収集物を含有し得る。
【0096】
キットとは、キットの1種又は複数の構成要素を収納する物理的構造物を指す。パッケージ材料は、構成要素を無菌に維持し得、そのような目的によく使用される材料(例えば、紙、段ボール(corrugated fiber)、ガラス、プラスチック、アルミホイル、アンプル、バイアル、チューブ等)から作製され得る。
【0097】
標識又は挿入物は、キットの中の1種又は複数の構成要素、用量、作用のメカニズム、薬物動態、及び薬力学を含めた活性成分(複数可)の臨床薬理学についての識別情報を含み得る。標識又は挿入物は、メーカー、ロット番号、製造場所及び日付、消費期限を識別する情報を含み得る。標識又は挿入物は、メーカー情報、ロット番号、製造場所(manufacturer location)及び日付を識別する情報を含み得る。標識又は挿入物は、キット構成要素を使用することができる疾患に関する情報を含み得る。標識又は挿入物は、方法、使用、又は治療プロトコール若しくは治療レジメンにおいてキット構成要素の1種又は複数を使用するための、臨床医又は患者に対する使用説明書を含み得る。使用説明書は、本明細書に記載される方法、使用、治療プロトコール、又は予防若しくは治療レジームのいずれかを実践するための、投薬量、頻度又は継続期間、及び使用説明書を含み得る。
【0098】
標識又は挿入物は、予防的又は治療的有益性等、構成要素が提供することができる任意の有益性に関する情報を含み得る。標識又は挿入物は、特定の組成物を使用することが適当でないであろう事態に関する患者又は臨床医への警告等、潜在的な有害な副作用、合併症、又は反応に関する情報を含み得る。有害な副作用又は合併症は、患者が、組成物と不適合であることがある1種若しくは複数の他の医薬を有する、摂取するであろう、若しくは現在摂取している、又は患者が、組成物と不適合であろう別の治療プロトコール若しくは治療レジメンを有する、受けるであろう、若しくは現在受けている場合にも生じ得、それゆえ、使用説明書は、そのような不適合性に関する情報を含み得る。
【0099】
標識又は挿入物は、構成要素、キット、若しくはパッケージ材料(例えば、ボックス)から分離した若しくはそれに貼り付けられた、又はキット構成要素を含有するアンプル、チューブ、若しくはバイアルに取り付けられた「印刷物」、例えば紙又はボール紙を含む。
【0100】
別様に規定されない限り、本明細書において使用されるすべての技術的及び科学的用語は、本発明が属する技術分野における当業者によって共通に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載されるものと同様の又は等価の方法及び材料が、本発明の実践又は検査において使用され得るものの、適切な方法及び材料が本明細書に記載される。
【0101】
本明細書において引用されるすべての特許、特許出願、刊行物、及び他の参考文献、GenBank引用、並びにATCC引用は、参照によりそれら文献の全体として組み込まれる。矛盾する場合、規定を含む本明細書が制御するであろう。
【0102】
本明細書に開示される特質のすべては、任意の組み合わせで組み合わせられてもよい。本明細書に開示される各特質は、同じ、等価の、又は同様の目的を果たす代替的特質によって置き換えられてもよい。ゆえに、別様に明示的に記述されない限り、開示される特質は、等価の又は同様の特質の属の例である。
【0103】
本明細書において使用するとき、「a」、「an」、及び「the」という単数形形態は、文脈が別様にはっきりと指示しない限り、複数形の指示対象を含む。ゆえに、例えば、「核酸(a nucleic acid)」への言及は、複数のそのような核酸を含み、「ベクター(a vector)」への言及は、複数のそのようなベクターを含み、「ウイルス(a virus)」又は「粒子(particle)」への言及は、複数のそのようなウイルス/粒子を含む。
【0104】
本明細書において使用するとき、品目、組成物、製剤、方法、プロセス、システム等についての規定又は記載されるエレメントに関連した「含む(comprising)」、「含む(comprise)」、又は「含まれる(comprised)」という用語、及びその変形は、包摂的又はオープンエンドであることが意図され、付加的なエレメントを容認し、それによって、規定又は記載される品目、組成物、製剤、方法、プロセス、システム等が、そうした指定されるエレメント、又は必要に応じてその等価物を含むこと、及び他のエレメントが含まれ得、規定される品目、組成物、製剤、方法、プロセス、システム等の範囲/規定内に依然として入り得ることを示す。
【0105】
「約」又は「およそ」という用語は、値がどのように測定又は判定されるか、すなわち測定システムの限界に一部は依存するであろう、当業者によって判定される特定の値に対する許容できる誤差域内を意味する。例えば、「約」とは、当技術分野における実践に従って、1又は1を上回る標準偏差内を意味し得る。あるいは、「約」とは、所与の値内の最高20%、又は最高10%、又は最高5%の域を意味し得る。あるいは、特に生物学的システム又はプロセスに関して、該用語は、所与の値の1桁以内、例えば5倍、4倍、3倍以内、又は2倍以内を意味し得る。特定の値が本出願及び特許請求の範囲に記載される場合、別様に記述されない限り、特定の値に対する許容できる誤差域内を意味する「約」という用語が想定されるべきである。
【0106】
すべての数値又は数域は、文脈が別様にはっきりと指示しない限り、そのような域内の整数及び値の分数又は域内の整数を含む。ゆえに、例示するために、95%以上の低下への言及は、95%、96%、97%、98%、99%、100%等、並びに95.1%、95.2%、95.3%、95.4%、95.5%等、96.1%、96.2%、96.3%、96.4%、96.5%等、その他を含む。ゆえに、また例示するために、「1~4」等の数域への言及は、2、3、並びに1.1、1.2、1.3、1.4等、その他を含む。例えば、「1~4週間」は、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、又は28日間を含む。
【0107】
さらに、「0.01~10」等の数域への言及は、0.011、0.012、0.013等、並びに9.5、9.6、9.7、9.8、9.9等、その他を含む。例えば、約「0.01mg/kg~約10mg/kg」患者体重という投薬量は、0.011mg/kg、0.012mg/kg、0.013mg/kg、0.014mg/kg、0.015mg/kg等、並びに9.5mg/kg、9.6mg/kg、9.7mg/kg、9.8mg/kg、9.9mg/kg等、その他を含む。
【0108】
よりも上回る(よりも大きい)又はよりも少ないを有する整数への言及は、それぞれ参照数よりも大きい又は少ない任意の数を含む。ゆえに、例えば、2を上回るへの言及は、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15等、その他を含む。例えば、「2回以上」の回数の組み換えウイルスベクター、プロテアーゼ、及び/又はグリコシダーゼの投与は、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15回、又はそれを上回る回数を含む。
【0109】
さらに、「1~90」等の数域への言及は、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5等、並びに81、82、83、84、85等、その他を含む。例えば、「約1分間~約90日間」は、1.1分間、1.2分間、1.3分間、1.4分間、1.5分間等、並びに1日間、2日間、3日間、4日間、5日間…81日間、82日間、83日間、84日間、85日間等、その他を含む。
【0110】
「任意選択の」又は「任意選択で」とは、その後に記載される状況が生じても生じなくてもよいことを意味し、そのため、その記載は、状況が生じる場合と状況が生じない場合を含む。
【0111】
本発明は、本発明の数多くの実施形態を記載するために肯定的な言語を使用して本明細書に概して開示される。本発明は、組成物若しくは製剤、使用、方法ステップ及び条件、プロトコール、又は手順等、特定の主題が完全に又は一部除かれる実施形態も具体的に含む。例えば、本発明のある特定の実施形態において、組成物及び/又は方法ステップは除かれる。ゆえに、たとえ本発明が、本発明が含まないものという観点から本明細書に概して表現されないとしても、本発明において明示的に除かれない態様は、それにもかかわらず本明細書に開示される。
【0112】
本発明のいくつかの実施形態が記載されている。それにもかかわらず、当業者であれば、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、本発明の様々な変化及び改変を施して、本発明を様々な使用法及び条件に適応させ得る。したがって、以下の実施例は、主張される本発明の範囲を決して限定するのではなく、例示することを意図される。
【実施例
【0113】
実施例1:材料及び方法
動物、動物モデル、外科的手順、及びヒト組織
以前に記載されるように(10)、フロックス(floxed)BAG3を担持するマウス(BAG3フロックス/フロックス)と、α-ミオシン重鎖(α-MHC)を担持するCreマウスとを交配することによって(すべてC57Bl/6バックグランド)、BAG3の単一のアレル又は2つのアレルが欠失されたマウスを作出した。BAG3フロックス/フロックスマウス(BAG3(HEPD0556_7_B06)を、欧州マウス変異体アーカイブ(European Mouse Mutant Archive)(www.infrafrontier.eu)からの移管でトランスジェニックマウスを作出し且つ分配するMRC Harwell(国際マウス表現型コンソーシアム(International Mouse Phenotyping Consortium)のメンバー)から獲得した。Bag3+/-及びBag3-/-マウスの表現型は以前に記載され(10)、不全の及び非不全のヒト心臓のサンプルを、以前に記載されるように(23、24)、ピッツバーグ大学(University of Pittsburgh)及びコロラド大学健康科学キャンパス(University of Colorado Health Sciences Campus)における心臓組織貯蔵機関から獲得した。
【0114】
質量分析-Bag3+/+(WT)及びBag3+/-マウス
3匹の野生型及び3匹のBag3-KOマウス由来の左心室組織を、9M尿素を含有する溶解緩衝液にてホモジナイズし、次いで短時間超音波処理した。次いで、溶液を10,000RCFで10分間遠心分離し、可溶化されたタンパク質を含有する上清を回収した。タンパク質濃度をBCAアッセイ(Pierce)によって判定した。各サンプルからのおよそ300μgのタンパク質をプロテオミクスに使用した。
【0115】
質量分析生データをピークスバイオインフォマティクス(Peaks Bioinformatics)ソフトウェアにインポートし、固定した修飾としてカルバミドメチル化システイン及び可変の修飾としてリン酸化を用いて、マウス(Mus musculus)データベースに対して検索した。各サンプルの総イオン電流(TIC)に対して正規化された内蔵型ラベルフリー定量(LFQ)オプションを使用して、データを解析した。この方法によって特定された関心対象のタンパク質を、タンパク質機能及び細胞コンパートメント特徴付けを可能にするDAVIDバイオインフォマティクスプログラム(バージョン6.8)を使用したパスウェイ解析によってさらに調べた。
【0116】
細胞死に対するTUNEL染色
単離された成体マウス心筋細胞を、ラミニンでコートされた、No.1.5の10mm直径ガラスカバースリップインサートを有する35mmディッシュ(MatTek Corporation、カタログ番号P35G-1.5-10-C)に播種した。細胞を、タイロード(Tyrode)緩衝液中100nMノニルアクリジンオレンジ(Molecular Probes、カタログ番号A1372)で染色する前に、低酸素状態(1時間)及び再酸素化(2時間)に供した。次いで、以前に記載されるように、細胞を共焦点顕微鏡法又は蛍光顕微鏡法によって撮像した。
【0117】
ミトコンドリア膜電位及びミトコンドリア含有量に対するTMRM染色
単離された成体マウス心筋細胞を、TUNEL染色の節に記載されるように播種した。細胞を、タイロード緩衝液中100nMテトラメチルローダミン、メチルエステル、過塩素酸塩(TMRM)(Thermo Fisher Scientific、カタログ番号T668)で染色した。撮像を、共焦点顕微鏡法によって、以前に記載されるように実施した。
【0118】
ミトコンドリアROS含有量に対するミトソックス染色
単離された成体マウス心筋細胞を、TUNEL染色の節に記載されるように播種した。細胞を、5μMミトソックス(商標)赤色ミトコンドリアスーパーオキシド指示薬(Red Mitochondrial Superoxide Indicator)(Thermo Fisher Scientific、カタログ番号M36008)で染色し、共焦点画像をフィジーイメージJにおいて定量した。
【0119】
初代新生児マウス心室心筋細胞(NMVC)の調製
以前に記載されるように(27)、新生児マウス心室心筋細胞を、メーカーの使用説明書に従って、Pierce初代心筋細胞単離キット(Primary Cardiomyocyte Isolation Kit)(カタログ番号88281、Thermo Scientific、Rockford IL)を使用して、1~3日齢FVBマウスから単離した。
【0120】
成体筋細胞の単離及び培養
成体心臓筋細胞を、Bag3+/+(WT)、Bag3-/-、及びBag3+/-マウスの中隔及びLV遊離壁から単離し、ラミニンコートされたガラスカバースリップに播種し、次いで、Zhouら(28)によって最初に記載されたように扱い、この研究チームのメンバーによって後に公開された改変(29)、(30)を加えた。実験技法の詳細な説明は、以前に記載されている。
【0121】
Bag3ノックダウン
以前に記載されるように、メーカーの使用説明書に従って、60~70%コンフルエンスのNMVCに、リポフェクタミン(lipofectamine)RNAimax(ThermoFisher)と合わせたBag3特異的siRNAを、リポフェクタミン3000システム(Thermo Scientific、Waltham、MA)を使用してトランスフェクトした。
【0122】
低酸素状態/再酸素化(H/R)
以前に記載されるように(31)、NMVCをH/Rに供した。簡潔には、NMVCを加湿5%CO:95%Nに37℃で16時間曝露し、グルコースフリー培地においてインキュベートした。次いで、細胞を、グルコースを含有する培地において、5%CO:95%加湿空気を用いて4時間再酸素化した。
【0123】
細胞収穫及びタンパク質抽出
培養細胞を1×PBSにおいて洗浄し、哺乳類プロテアーゼ阻害剤カクテルを補給された溶解緩衝液において溶解し、次いでディッシュからかき集めた。細胞をボルテックスし、次いで冷所にて13,000×gで5分間遠心分離した。上清を回収し、タンパク質解析に使用した(27)。
【0124】
タンパク質単離
心臓を摘出し、左心室を分離し、液体窒素において瞬間凍結し、使用まで-80℃で保存した。膜タンパク質を、バレットブレンダー(Bullet Blender)(Next Advance、Averill Park、NY)を使用して、以前に記載されるように(32)調製した。
【0125】
細胞質及びミトコンドリア分画
ミトコンドリア及び細胞質タンパク質を、メーカーの使用説明書に従って、培養細胞に対するミトコンドリア単離キット(Mitochondria Isolation Kit for Cultured Cells)(Thermofisher、#89874)を使用して分離した。単離されたタンパク質を、ブラッドフォード(Braford)アッセイ(Bio-Rad、USA)を使用して定量した。次いで、タンパク質をウェスタンブロット解析によって分離した。
【0126】
免疫沈降
NVCM又はAC16心筋細胞を、10cmディッシュに播種し、上で記載されるように処理した。細胞を冷却PBSで迅速に洗浄し、ホスフェート阻害剤及びハルト(halt)プロテイナーゼ阻害剤を補給されたIP溶解緩衝液(Thermofisher)に入れ、バレットブレンダーにおいてビーズを用いてホモジナイズした。次いで、タンパク質溶解物を、マグナ(Magna)磁気ビーズ(A/G)(Millipore、Sigma)とともに1時間インキュベートし、溶解物の量を以前に記載されるように定量した。
【0127】
ウェスタンブロット解析
以前に記載されるように(17)、タンパク質溶解物(90μl)を還元剤(ThermoFisher)と混合し、タンパク質をニューページ(NuPAGE)ゲル(ThermoFisher)を使用して分離し、ウェット式転写システムを使用することによってニトロセルロース膜(LiCor、Lincoln、NE)に転写した。膜を迅速に洗浄し、Licorオデッセイ(Odyssey)ブロッキング緩衝液(LiCor)でブロッキングし、二次抗体とともにインキュベートし、結果として生じた画像をLicorイメージングシステムを用いてキャプチャーした。
【0128】
免疫蛍光染色
新生児又は成体心筋細胞を、PBS中4%パラホルムアルデヒドで15分間固定し、洗浄し;PBS中0.5%トライトン(Triton)X-100で10分間透過処理し、洗浄し;5%牛血清アルブミン(BSA)及び0.1%トライトンX-100を含有するLicorブロッキング緩衝液Sで1時間ブロッキングした;すべて室温。細胞を、ブロッキング溶液に希釈されたウサギ抗関心対象のタンパク質抗体(rabbit anti-protein of interest antibody)とともに4℃で一晩インキュベートした。次いで、細胞をPBSで洗浄し、ブロッキング溶液に希釈された適切な二次抗体及びDAPI(4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール)とともに室温で45分間インキュベートした。
【0129】
共焦点顕微鏡法
以前に記載されるように(17)、共焦点顕微鏡法を使用して、成体心筋細胞において検出した。簡潔には、NMVCを単離し、ラミニンコートされた4ウェルチャンバースライド(Lab-Tek.、Rochester、NY)に播種した。Bag3を、一次ウサギ抗体(1:200;Proteintech Group Inc、Chicago IL)を使用して特定した(28、29)。総レーザー強度及び光電子増倍管増大をすべての群に対して一定に設定し、設定及びデータを、実験群が分からない2人の独立した観察者によって検証した。最低3枚のカバースリップを各実験群に使用し、少なくとも3枚の細胞画像を各カバースリップから取得した。
【0130】
ミトコンドリア膜電位(ΔΨ)及びミトコンドリアCa2+取り込みの測定
以前に記載されるように(35)、測定を行った。簡潔には、WT及びBag3+/-心臓から単離されたLV筋細胞を、21%O-5%CO(酸素正常状態)又は1%O-5%CO(低酸素状態)のいずれかに30分間曝露し、その後に30分間の再酸素化が続いた(33)。透過処理された筋細胞に、スクシネートを補給した。Fura-FF(0.5μM)を0秒の時点で、及びJC-1(800nM;Molecular Probes)を20秒の時点で添加して、それぞれミトコンドリア外Ca2+及びΔΨを測定した。蛍光シグナルを、多波長励起及び2波長発光分光蛍光光度計(Delta RAM、Photon Technology International)を用いてモニターした。以前に記載されるように(30)、レシオメトリック色素Fura-FFを較正した。示される時点で、10μM Ca2+パルスを加え、ΔΨ及びミトコンドリア外Ca2+を同時にモニターした。ΔΨを、JC-1オリゴマー対モノマー形態の蛍光の比として算出した。細胞質Ca2+クリアランス速度を、ミトコンドリアCa2+取り込みを表すと捉えた。
【0131】
心エコー検査
以前に記載されるように(11)、全体的LV機能を、ビジュアルソニックベボ(VisualSonics Vevo)770イメージングシステム及び707走査ヘッド(Miami、FL)を使用して、軽い鎮静(2%イソフルレン)の後にすべてのマウスにおいて評価した。左心室駆出率(LVEF)を、式EF%=[(LVEDV-LVESV)/LVEDV]×100;式中、LVEDV及びLVESVは、それぞれ左心室拡張末期容積及び左心室収縮末期容積である、を使用して算出した。
【0132】
ミトコンドリアCa2+ユニポーター(MCU)電流(IMCU)の測定
筋細胞を、8~12週齢のWT又はBAG3+/-マウスのLV及び中隔から単離した(29)。次いで、筋細胞にAdv-GFP又はAdv-BAG3(7×10pfu/ml)を感染させ、ミトプラスト単離のための使用の前に24培養した(34)。以前に詳細に記載されるように(35~37)、ミトプラストパッチクランプ記録を30℃で行った。IMCUを、デジデータ(Digidata)1320A取得ボード(pClamp 10.0ソフトウェア;Axon Instruments)を有するコンピューター制御Axon200Bパッチクランプ増幅器を使用して記録した。ミトプラストを生理学的溶液に浸し、GΩシールの形成後、ミトプラストを破裂させ、キャパシタンスを測定した。キャパシタンス補償の後、ミトプラストを0mVに保ち、5mM Caの添加の前及び後の両方で、IMCUを電圧ランプ(-160mV~+80mV、120mV/秒)を用いて誘発した。
【0133】
統計解析
データは、連続的変数に対する平均±SEMとして提示される。ボンフェローニ多重比較調整を有するANOVAを使用して、検討群にわたる差を査定した。ウェスタンブロット解析に関しては、p<0.05のp値を有意と考えた。各実験に対する対照(例えば、Ad-GFP又は酸素正常状態)を1.0に設定した。ローディング標準を含めた、タンパク質レベルの査定に使用された全ブロットを各実験に対して示し、各実験を少なくとも1回再現し、匹敵する結果を達成した。すべてのブロットを、ブロットと同じゲル由来の適当な標準によって正規化した。各図の個々のエレメントは、1つのサンプルにおける個別の生物学的測定を表す。記されない限り、技術的再現は、この調査の結果の節には見られない。各図に対する元のブロットは、要請があれば、検証可能な科学者から入手可能である。ユニポーターの複数の構成要素のレベルの測定の場合、各実験における少ないタンパク質収量が理由で、各実験を5回反復した。
【0134】
実施例2:結果
マウスにおけるBAG3の1つのアレルの除去は、加齢に関連したLV機能不全をもたらす
Bag3の単一アレルノックアウトを有するマウスは、それらマウスは欠失又は短縮の分子生物学を映し出すため、Bag3の生物学を調査するための理想的なモデルを提供する(8~10、27、38)。図1Aに見られるように、BAG3の1つのアレルが除去された8~10週齢のマウス(Bag3+/-)は、心エコー検査による正常なLV表現型を有する。しかしながら、18週齢までに、Bag3+/-マウスは、LV機能並びにLV拡大の有意な縮小を有する。予想どおり、Bag3のレベルは、すべてのBag3+/-群においておよそ50%一貫して低減した(図1B)。それゆえ、若齢Bag3+/-マウスは、心臓の細胞及び分子生物学に対するBag3欠損の効果を調査するための理想的なモデルを提供した。
【0135】
マウスにおける心筋細胞に制限されたBag3 KOは、ミトコンドリアタンパク質発現の変更と関連する
心臓におけるBag3発現のおよそ50%の低下は、ヒトにおける心不全と関連し(11、12)、マウスにおける心筋細胞に制限されたBag3ハプロ不全は、ヒトにおける表現型と一貫した進行性左心室機能不全を引き起こす(10)。心臓におけるBag3の減少の影響を特徴付けし、特異的経路が調節不全になることについて洞察を得るために、不偏質量分析(unbiased mass spectrometry)を使用して、年齢を合わせた野生型対照と比較した、心筋細胞特異的Bag3ノックアウトを有する若齢マウスのプロテオームを解析した(9、10)。
【0136】
マウス左心室由来のタンパク質をトリプシンプロテアーゼで消化し、結果として生じたペプチドを、タンデム質量分析と連動した高圧液体クロマトグラフィー(LC-MS/MS)に供した。取得されたスペクトルを、次いで、マウスデータベースに対して検索し、総イオン電流によって正規化されたラベルフリー定量(LFQ)を使用して解析した。LFQ解析は、BAG3 KOマウスにおいて有意に変更された発現を有する86種のタンパク質を特定した(WTに対してp<0.05、図2A及び下の表1)。
【0137】
【表1】
【0138】
著しくは、これらのタンパク質のパスウェイ解析は、最も大きな割合(36%)が主としてミトコンドリアに局在することを明らかにし(図2B)、ミトコンドリア機能の妨害が、Bag3発現の低下と関連した心臓機能不全の一因となることがあることを示唆した。86種のタンパク質をそれらタンパク質の生物学的機能によって解析した場合、それらの主たる機能の中に、ミトコンドリア代謝及びミトコンドリア依存性アポトーシスを調節することがあった(図2C)。Bag3は、新生児ラット心室心筋細胞におけるミトコンドリア機能と関連付けられており、Bag3ノックダウンは、マイトファジーの低下と関連した(39)。しかしながら、このことは、Bag3を低下させることが、ミトコンドリアタンパク質の発現を大きく変更するということを最初に示すものであり、心臓におけるミトコンドリア媒介性細胞生存経路及び非ミトコンドリア炎症におけるBag3の役割をさらに示す。
【0139】
低酸素状態-再酸素化のストレス:BAG3+/-マウスにおけるアポトーシス
Bag3ハプロ不全が、BAG3欠損のマウスモデルにおけるアポトーシスにどのように影響するかを判定するために、成体筋細胞を8~10週齢のWT及びBAG3+/-マウスから収穫し、核DNA(DAPI)、生存ミトコンドリア(NAO)、及び損傷DNA(TMRレッド-TUNEL)についてそれら細胞を染色し、結果として生じた共焦点画像を、一元配置分散分析(図3A)、それに続くボンフェローニ補正を用いたサブグループ解析を用いて解析した(図3B;p<0.0125は統計的に有意である)。ストレスの非存在下では、Bag3+/-マウスにおいてアポトーシスのごくわずかで且つ有意でない(p=0.1130)増加があった。WT筋細胞に、1時間の低酸素状態及び後続の2時間の再酸素化(H/R)のストレスを加えた場合、WT-酸素正常状態細胞と比較した場合に、有意に(p<0.0001)より多くのTUNEL陽性細胞があった;H/R傷害後に予想されるとおり。同様に、H/Rは、Bag3+/--酸素正常状態細胞と比較した場合に、有意に(p<0.0001)より多くのTUNEL陽性Bag3+/-筋細胞をもたらした。より興味深いことに、H/Rは、WT-H/R筋細胞と比較した場合に、Bag3+/-筋細胞において有意に(p=0.0076)より多くのTUNEL陽性細胞をもたらし;BAG3ハプロ不全がH/R傷害を増悪させることを示した。
【0140】
BAG3のホモ接合型喪失は、ミトコンドリア膜電位(ΔΨ)を変更する
調査の別個の群は、共焦点顕微鏡法を使用して、ミトコンドリア面積(サイズ)及び活性酸素種(ROS)のレベルに対するBag3欠失の効果を測定することに着手した。パイロット実験は、ヘテロ接合型BAG3欠失がミトコンドリア活性酸素種に対して効果を有しないことを示唆したため、Bag3-/-マウスから単離された細胞をこれらの実験に使用し、肯定的調査を追跡する計画を立てた。図3Dに見られるように、ホモ接合型欠失はミトコンドリア活性酸素種に対しても効果を有せず、ホモ接合型欠失はミトコンドリア含有量に対しても効果を有しなかった。対照的に、これらの同じ細胞を膜電位のマーカーで染色した場合、WTマウスと比較した場合に、Bag3-/-マウスにおいてミトコンドリア膜電位(ΔΨ)の有意な(p<0.01)減少があった(図3E)。
【0141】
Bag3+/-及びBag3WTマウスにおける関連タンパク質レベルの比較解析
プロテオーム調査の結果を裏付けるために、アポトーシス関連タンパク質に焦点を合わせて、Bag3WT及びBag3+/-マウスの左心室心筋における筋細胞恒常性及びタンパク質恒常性(proteostasis)に重大であるタンパク質のレベルを測定した。アポトーシスの内因性経路は、ミトコンドリアに由来するシグナルによって活性化される。
【0142】
図4Aに見られるように、アポトーシスの主たる実行因子(エフェクター)タンパク質であるカスパーゼ3のレベルの有意な(p<0.01)増加があった。しかしながら、切断カスパーゼ3/総カスパーゼ3タンパク質の比は、WTマウスの心臓から単離されたタンパク質と比較した場合に、Bag3+/-マウス由来の心室心筋において上昇せず、Bag3ハプロ不全が、疾患の早期段階にほんのわずかから最小限のアポトーシスを引き起こすことを示唆した。いかなる理論又は仮説によっても拘束されることを望まないものの、心臓リモデリングがない時点である早期疾患に関してカスパーゼ-3の活性化が観察された一方で、心臓リモデリング及び機能の低減を有する高齢マウスではカスパーゼ3の活性化があることがある。しかしながら、10~12週齢又は18~22週齢のいずれかにおける高齢マウスにおいて、活性化カスパーゼ-3のレベルの有意な増加があったが、切断カスパーゼ3/総カスパーゼ3タンパク質の比は、(WTと比較して)依然として増加せず、高齢と合わせた重度のストレスのみが、マウス心臓におけるカスパーゼ-3媒介性アポトーシスを活性化するであろうことを示唆した(図4B)。
【0143】
BAG3欠損及びアポトーシスの外因性経路
カスパーゼ8の後続の切断及び活性化を伴う、TNFR1受容体への結合を通じて腫瘍壊死因子-アルファ(TNFa)によって活性化される外因性/ミトコンドリア非依存性経路(40)を、次いで評価した。切断カスパーゼ8は、次いでカスパーゼ3を活性化し得、これはアポトーシスに直接つながり、あるいは、カスパーゼ3は、Bcl-2ファミリーのメンバーであるbidに結合し得、bidは次いでtBidと相互作用し、tBidは、ミトコンドリアに移行した後、シトクロムcの放出を始動する。シトクロムcは、次いでアポトソームに結合し、プロカスパーゼ9の後続の活性化を伴う。
【0144】
TNFαのレベルが、WT同腹対照マウス(36.7 4 2.7;n=5)と比較した場合に、Bag3+/-マウスにおいて有意に高い(58.0±2.7、n=5;p=0.014)ことから、外因性経路はBag3+/-マウスにおいてはっきりと活性化された(図4C)。炎症誘発性サイトカインIL-6のレベルの変化が検出されなかったことから、これらの効果はTNF制限的であった(図4C)。切断カスパーゼ8/総カスパーゼ8の比(0.94±0.09、n=5)が、WTマウスから獲得された組織(0.54±0.03、n=5、図4D)と比較した場合に、Bag3+/-心室心筋において有意に(p<0.003)増加したという知見によって、Bag3+/-マウスにおけるアポトーシスにおける外因性シグナル伝達の役割がさらに支持された。
【0145】
Bag3+/-心臓が、ADP-リボースをアポトーシス誘導因子(AIF)に移し、ミトコンドリアから核へのAIFの移行をもたらし、そこでAIFはDNA断片化にシグナルを送ることによって細胞死を始動する(41、42)、タンパク質であるポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ-1(PARP-1)の有意な増加を有したという知見によって、Bag3のレベルの減少は細胞炎症の増加と関連することが支持された(図4E)。ゆえに、全体として、BAG3の1つのアレルが欠失されたマウス由来の心筋細胞におけるタンパク質レベルについてのこれらの調査は、標準的TNF受容体シグナル伝達がBag3ハプロ不全の特徴的な特質であること、並びに標準的TNF受容体シグナル伝達がPARP1及びAIFの活性化につながり、この活性化が今度は無菌性炎症及びDNA断片化をもたらすことを示す(41、42)。
【0146】
カスパーゼ、SMAC、及びcIAP-アポトーシスシグナル伝達の制御
アポトーシス及びミトコンドリア恒常性のBag3の調節のメカニズムをより良く理解するために、Bag3プロテオームの一部であるタンパク質を調べた。すでに記されたように、カスパーゼ3は、アポトーシスシグナル伝達カスケードの最終末端に座する実行因子カスパーゼの1種であり、カスパーゼ3の活性は、ミトコンドリアマトリックスからのシトクロムc及びエンドヌクレアーゼGの放出を含めた、ミトコンドリアを伴うシグナルに依存する。それゆえ、カスパーゼ3は、「ミトコンドリア依存性」カスパーゼであると考えられる。ストレスの非存在下において、アポトーシスの細胞阻害剤(cIAP)は、カスパーゼ3(並びに他のすべてのカスパーゼ)上の受容体に結合し、活性部分に切断されるカスパーゼ3の能力を阻害する。しかしながら、ストレス、例えば虚血又は毒素の存在下では、カスパーゼの第2のミトコンドリア由来活性化因子(SMAC)が、ミトコンドリア外膜(OMM)から放出される、(及び他のカスパーゼ)。次いで、カスパーゼ3は切断され、心臓細胞のアポトーシスを生じさせ始め得る。
【0147】
若齢Bag3+/-マウスにおけるデータは、切断/プロカスパーゼ3の比は不変でありながら、どのようにBag3+/-マウス由来の成体筋細胞においてアポトーシスをはっきりと増加させ得たのかとの難問を提示した。この明らかな食い違いに対する考え得る解説は、SMACの機能の潜在的変化である。DIABLO遺伝子によって転写されるタンパク質であるSMACは、ミトコンドリア間空間に位置する。初めて、図4Fに見られるように、cIAPは、SMACとではなく、Bag3と及びカスパーゼ-3と共免疫沈降(co-IP)し、Bag3は、SMACと又はカスパーゼ3とではなく、cIAPとco-IPする。Bag3は、高度に相同なXIAP(x連鎖IAP)と共免疫沈降しないことから、Bag3とcIAPとの間の関係性は選択的であった(図4F)。
【0148】
ミトコンドリアの恒常性をモジュレートすることにおける第2の重要なエレメントは、外膜のトランスロカーゼ(TOM)、及びTIMと呼ばれる内膜系のトランスロカーゼと呼ばれるタンパク質インポートシステムである。TOM及びTIMタンパク質は、ミトコンドリアの内及び外への主要エレメントの移行に要される。TOM22(TOM20とともに)は、ミトコンドリアマトリックスにタンパク質の短鎖を輸送するOMMにおける細孔である、外膜の移行因子(TOM)の付属ユニットである。興味深いことに、Bag3は、TOM22タンパク質とも共免疫沈降する(図4F)。
【0149】
Bag3の非存在下で、SMACはOMMにはまり込んでいる
いかなる理論又は作用のメカニズムによっても拘束されることを望まないものの、1つの仮説は、SMACがミトコンドリア膜で立ち往生し、細胞質に再局在化されないことに起因して、カスパーゼ-3がBag3ハプロ不全に関して活性化されないというものであった。この仮説に対処するために、野生型マウス由来の新生児筋細胞を、単離し且つ培養した。次いで、細胞を1)正常な対照条件、2)低酸素状態/再酸素化;3)Bag3に対するsiRNA;又は4)低酸素状態/再酸素化+Bag3 siRNAに曝露した。
【0150】
図5Aに見られるように、対照培養条件下で、SMACは、細胞質(Cyto)における少量のタンパク質を有して、ミトコンドリア(Mito)において顕著であった。SMAC自身に対するH/Rストレスの添加は、SMACのこの局在を変化させなかった。しかしながら、Bag3の非存在下(siRNA Bag3)では、細胞質において感知可能なSMACはなかった。同様に、Bag3を欠如する細胞(siBag3)をH/Rのストレスに曝露した場合、SMACは細胞質に見られなかった。TOM22はもっぱらミトコンドリア性であるため、TOM22は対照として働いた。4種の調査条件を通して、TOM22はミトコンドリアにとどまり、SMACの移行がBag3を要することを示した。
【0151】
BAG3+/-心不全前プロテオーム
Bag3欠失がどのようにアポトーシスに影響を与えるかについてのより広い理解を得るために、心筋不全と関連する他のアポトーシスシグナル伝達タンパク質を査定した。図5A~5Dは、8週齢Bag3+/-マウスにおけるBag3欠損の効果が、疾患の後期段階で見られるLV機能不全の証であるタンパク質レベルの変化とは実質的に異なることを示す。例えば、cIAP、又は炎症及びアポトーシスプロセスに伴う病理学的変化を媒介することに関わるMAPキナーゼである(43)総P39のいずれかの変化は観察されなかった(図5B)。図5A~5Cに見られるように、心不全において上方調節され、複数のアポトーシス誘発性シグナル伝達経路を活性化するJNKにおいて、又はHFrEFにおいて示差的に調節され、ミトコンドリアからSMACを放出することによって一部には細胞に対する非常に同様の効果を有するJunにおいて、変化は観察されなかった。最後に、ホスホロ-ERK1/2及び総ERKの発現を査定したが、BAG3に起因する変化はなかった。
【0152】
プロテオームスクリーニングから導き出された1つの観察結果は予想外であったが、Bag3の異常なレベルが、心臓インフラマソームの増加につながるという包括的な仮説と一致した。RNA結合タンパク質のヒト抗原R(HuR:ELAV-1)は、WT対照マウスにおけるレベル(1.07±0.11、n=9、p=0.03)と比較した場合に、Bag3+/-心臓において過剰発現された(1.51±0.16、n=8)(図5D)。HuRノックダウンは炎症応答を弱め、病的心肥大における治療標的であることがあることから(44、45)、Bag3ハプロ不全が、インフラマソームの活性の増加と関連するという観察結果に照らして、このことは驚くべきことではないかもしれない。ゆえに、全体として、Bag3の1つのアレルが欠失されたマウス由来の心筋細胞におけるタンパク質レベルについてのこれらの調査は、標準的TNF受容体シグナル伝達がBag3ハプロ不全の特徴的な特質であること、並びに標準的TNF受容体シグナル伝達が炎症及びDNA断片化につながることを強く示唆する。ミトコンドリアマトリックスへのタンパク質及び他の栄養素の取り込みを調節するタンパク質であるTOM22のレベルの有意な減少もあった(図4E)。
【0153】
Bag3ハプロ不全は、異常なミトコンドリアCa2+恒常性を引き起こす
図2A~2C及び表1に見られるように、本明細書に開示されるプロテオーム調査は、Bag3ハプロ不全の主たる効果が、細胞代謝及びエネルギー産生において機能する特異的ミトコンドリアタンパク質の量の変化であることを実証した。具体的には、1つのBAG3アレルのノックアウトは、イソクエン酸デヒドロゲナーゼ、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ、及びアルファケトグルタル酸デヒドロゲナーゼを含めた、ミトコンドリア機能と関連した酵素の発現の減少をもたらした。Bag3のハプロ不全は、異常なミトコンドリアCa2+恒常性につながったため、それゆえ、3つの検討手法を取って、Bag3のハプロ不全が、心臓におけるBag3+/-の機能の低減における原因因子であり得るという仮説を評価した。
【0154】
1)Bag3のハプロ不全は、ミトコンドリア膜電位(MMP)を維持する心臓の能力を妨げる
調査の第1セットにおいて、成体筋細胞をWT及びBag3+/-マウスから抽出した。次いで、筋細胞をH/Rに曝露し、ミトコンドリア膜電位(ΔΨm)をレシオメトリック指示薬JC-1を使用して、ミトコンドリアCa2+取り込みをレシオメトリック色素Fura-FFを使用して評価した。以前に記載されるように(35)、2波長発光分光蛍光光度計を使用して蛍光を測定した。
【0155】
図7A及び7Bに見られるように、予想どおり、H/Rのストレスに曝露されたWT心臓由来の筋細胞と比較した場合に、酸素正常状態WT心臓由来の筋細胞においてΔΨの有意な(p<0.001)減少があった。H/R後のBag3+/-マウス由来の筋細胞と比較した場合に、Bag3+/-マウス由来の筋細胞においてΔΨの有意な低下(p<0.001)もあった。しかしながら、H/Rに曝露されたWT筋細胞と比較した場合に、BAG3+/-筋細胞においてΔΨの付加的な有意な(p<0.05)低下があり、H/Rのストレスが、ミトコンドリア機能に対するBag3ハプロ不全の根底にある効果を悪化させることを示唆した。カルシウム恒常性に対するBag3の1つのアレルの欠失の効果に注目した場合に、同様の現象が観察された(図7C及び7D)。WTマウス由来の成体筋細胞を、Bag3+/-マウスから単離された細胞と比較した場合、WTマウス由来のミトコンドリアと比較したときに、Bag3+/-ミトコンドリアによる[Ca2+取り込みの速度(1/τ)の有意な(p<0.001)減少があった。全体として、これらの結果は、Bag3欠失が、とりわけストレスを受けている細胞において、Ca2+恒常性の実質的な変化をもたらすという仮説を支持する。
【0156】
2)Bag3のヘテロ接合型欠失は、Ca2+ユニポーターの機能を変更する
ユニポーターは、2種の細孔形成サブユニット(MCU及びMCUb)及び3種の調節サブユニット(MICU1、MICU2、及びEMRE)から構成され、これらは、ミトコンドリア外膜(OMM)の負の電位を一緒に維持する(46)。OMMにわたるこの負の電位は、ミトコンドリアへの貴重な資源の移動に関与する。静止条件下で、MICU1及びMICU2は二量体化し、MCUに対する門番として働く。ミトコンドリアへの細胞質[Ca2+]放出の始動は、Ca2+移動のMICU-2依存的阻害を遮断することによって、タンパク質複合体の立体構造変化を引き起こす。MICU1はチャネルを活性化し、ミトコンドリアへのCa2+輸送を刺激する。EMREはMCU-MICU1複合体を安定させ、MCU-MICU1複合体が今度は、ミトコンドリアに入り得るCa2+のレベルを微調整する。
【0157】
図7E及び7Fに見られるように、Bag3-WTマウスと比較した場合に、Bag3+/-マウスにおいてMICU2のレベルの減少の傾向があったが、この傾向は統計的有意性に達しなかった。しかしながら、WT対照と比較した場合に、Bag3+/-マウスにおいてMICU1のレベルの有意な(p<0.05)減少があり、BAG3ハプロ不全が、ミトコンドリアCa2+恒常性の異常の発症と直接関連し且つその原因となるというさらなる支持を提供した。
【0158】
3)MCU機能は、Bag3のアデノウイルス過剰発現によって正常化される
ミトコンドリアカルシウム取り込みの減少が、MCU活性の低下に起因し、Bag3のハプロ不全に直接関係することを裏付けるために、心臓ミトプラストをWT筋細胞及びBag3+/-筋細胞から単離した(両方とも、対照としてGFPを過剰発現する)。5mM Ca2+の添加の前及び後に、電流(IMCU)を、電圧をクランプされたミトプラストから測定した。これらの測定は、技術的に困難であるが、膜電位、Ca2+及びH勾配の条件を厳密に制御することによって、ミトコンドリアの異なる群の間のMCU活性の比較を可能にする。示されるように、電圧ランプ(voltage ramp)の間にIMCUを記録した。
【0159】
図7G及び7Hに示されるように、WT-GFPミトプラストにおけるピークIMCUは、Bag3+/-GFPミトプラストよりも有意に(p=0.018)高かった(それぞれn=5)。重要なことに、Bag3+/-筋細胞におけるWT Bag3のアデノウイルス媒介性過剰発現は、ピークIMCUを正常に戻した(Bag3+/-と比較した場合、p=0.028)。これらのデータは、MCU発現及び/又は活性を維持するために、BAG3の充分なレベルが必要であることを示す。
【0160】
ヒトプロテオーム及びインフラマソームは、Bag3+/-マウスに見られるものを反映する
図8Aに見られるように、Bag3のレベルは、非不全の対照と比較した場合に、不全のヒト心臓組織のLV心筋においておよそ50%低下する。さらに、ヒト心臓のインフラマソームは、Bag3のハプロ不全を有するマウスにおけるものと同様であるが同一ではないことが見出され:cPARP及び切断カスパーゼ8のレベルは上昇し、一方で切断カスパーゼ3のレベルは増加しない(図8D及び8E)。cPARPの増加も観察された(図8D)。マウスとは対照的に、HuRにおける有意な変化は観察されなかった(図8G)。
【0161】
実施例3:考察
ちょうど10年少し前に、Selcen及び同僚は、アミノ酸209位におけるプロリンの代わりにロイシンの置換をもたらす、BAG3における特発性単一ヌクレオチド多型(SNP)が、小児における巨大軸索、重度の骨格筋の乱れ(skeletal muscle dis-array)、及び軽度の心肥大を含む表現型につながることを最初に報告した。後続のゲノムワイド関連調査(GWAS)並びに全エクソーム(WES)及び全ゲノム(WGS)シーケンシングは、様々な心臓表現型、最も著しくはDCMの原因となるとして、BAG3における短縮及びSNPを特定している(3~6)。科学的知識の観点からは時代は新しいものの、Bag3ホモログが植物に見出されているという事実によって証明されるように、BAG3は、生物学的視点からはかなり古い(47)。これまでに、Bag3のゲノム異常は、オートファジーの低減、アポトーシスの増加、異常な興奮-収縮連関、及び異常な筋節機能と、タンパク質及び分子レベルで関連付けられている。しかしながら、Bag3の機能的能力の全範囲が既知であるかどうかは不明であった。
【0162】
BAG3の単一アレルが除去されたが駆出率の減少をまだ発症していない若齢マウス、及びタンデム質量分析と連動した高圧液体クロマトグラフィー(LC-MS/MS)を用いたプロテオミクスを使用して、Bag3ハプロ不全の以前は認識されていない因果関係を特定した。本明細書に開示されるプロテオミクス調査及び後続の検討に示されるように、BAG3は、アポトーシスの外因性経路を修飾することにおいても役割を果たし、一方で心臓インフラマソームの炎症から活性化まで、及び特にTNFR1シグナル伝達カスケードの調節因子としても働く。初めて本明細書に開示されるように、Bag3は、ミトコンドリアの内への及び外へのCa2+の輸送を支持することにおいて等しく重要な役割を果たすことが示されている。このCa2+の輸送は、トリ-カルボン酸(TCA)サイクルの酵素によって要されるエネルギーを提供する生物学的事象であるCa2+流動に要されるミトコンドリア膜電位を維持する。
【0163】
細胞が突然死んだ場合に生じる巻き添え的に損傷することなく、Bag3が、切り離すことのできないほどに損傷した又は罹患した細胞小器官及び細胞を組織から除外することを可能にする細胞機構は、複雑であり、複数の調節経路を伴う。アポトーシスと同様に細胞死がプログラムされる場合、機能的細胞小器官としての細胞が究極的に最後を迎える前に内部酵素及び毒性材料が分解されるように、細胞膜はプロセスを通して無傷のままである。10年以上前に報告されたように、2種の標準的経路が心臓におけるアポトーシスを調節する:I型又はII型経路(48)。1型(外因性又はミトコンドリア非依存性)経路は、腫瘍壊死因子受容体-1(TNFR-1)等の死ドメイン受容体の活性化から始まり、実行因子カスパーゼ-7及び-3の活性化で終わる事象のカスケードからなる。対照的に、II型(内因性又はミトコンドリア依存性)経路では、アポトーシスは、シトクロムc及びエンドヌクレアーゼgを含めた、ミトコンドリアからのアポトーシス誘発性シグナルの放出、並びにカスパーゼ-9及び-3の後続の活性化によって活性化される。
【0164】
アポトーシス細胞死は、1種又は複数の抗アポトーシスタンパク質が枯渇した後(一方でBcl-2の過剰発現がこの経路を部分的に弱めるのに十分である)、必ずしも細胞死経路の活性化の直接的結果として生じるのではなく、その代わりに、細胞死につながる持続性TNFシグナル伝達に起因することが提唱された(42)。しかしながら、このモデルが10年以上前に提唱されたとき、(BAG3はごく最近に発見されている)、細胞及び生命体全体へのBAG3の重要性は、完全に不明であった。実際には、BAG3は、Bcl2に結合することによってアポトーシスを調節し、アクチンフィラメントとZ板とを連結すると考えられた。事実、早期の論文は、BAG3のハプロ不全がHF表現型をもたらさないであろうことを誤って示唆した。しかしながら、強力な抗アポトーシスBag3タンパク質の完全相補体がないことは、総カスパーゼ3活性及びカスパーゼ8活性の増加を有して、Bag3ハプロ不全モデルと非常に同様の表現型をもたらしたことが現在公知である。Bag3モデルのハプロ不全に固有であるものは、TNFのレベルの増加、並びに外在性TNFから独立したミトコンドリア膜電位の有害な変化(減少)である。さらに、cIAPがBag3の完全相補体とパートナーになることができないことに起因したcIAPの役割の低減は、BAG3欠損の病理生物学における寄与因子である可能性がある。ゆえに、アポトーシスと生存との間の不均衡は、心筋において重度の因果関係を有する。
【0165】
アポトーシスの標準的経路において、1型経路は、アポトーシスの阻害剤(IAP)によって下方調節される(49)。対照的に、2型経路は、アポトーシス誘発性(BIM、BID、BAD、BAX/BAK)及び抗アポトーシス(Bcl-2、Bcl-X、MCL-1)メンバーの両方を含むタンパク質の非常に大きなBcl-2ファミリーの創設メンバーである(50)Bcl-2へのBag3の結合によって阻害される(50)。本明細書に開示されるように、1つのBag3アレルの喪失及び結果として生じるBag3レベルの50%の減少は、切断カスパーゼ3/総カスパーゼ-3の比の変化ではなく、カスパーゼ3の増加と関連した。むしろ、アポトーシスの増加と関連する、カスパーゼ-8及び切断カスパーゼ8の有意な増加、並びに切断カスパーゼ8対総カスパーゼ8の比の増加がある。活性化されると、カスパーゼ8は、死受容体Fas、TNFR1、及びDR3によって誘導されるアポトーシスに関与する。事実、以前の調査において、カスパーゼ-8及びRIPK3の欠失は、正常から外れた細胞死を阻止し、炎症を低下させ、マウス生存期間を引き延ばす(49)。カスパーゼ-8は、がんにおいて大々的に調査されているが、心臓においてはそれほど調査されていない(49、51、52)。しかしながら、これらの調査の結果は、カスパーゼ-8が、解されているよりも、心臓においてより大きな役割を果たすことを示唆する。
【0166】
本明細書における調査からの興味深く且つ新規の観察結果の1つは、cIAPがBag3と共免疫沈降することである。Bag3が、カスパーゼ-9並びにエフェクターカスパーゼ-3及び-7を直接中和する阻害剤であり、多くの異なるタイプの進行がんにおいて豊富に見出されるx連鎖ホモログXIAP(53)とは沈降しないことが見出されたことから、Bag3とcIAPとの間のこの結び付きは選択的である。炎症性腸疾患における及びがんにおける以前の調査は、cIAP及びそれらのアンタゴニストが、自然発生的な及びTNF誘導性の炎症誘発性サイトカイン及びケモカイン産生を調節することを示している(54)。BAG3はcIAPと免疫沈降し、cIAPは、TRAF2/TRAF5、LUBAC、及びRIPK1の重大なジャンクションでTNFR1と共役することが以前に示されていることから、Bag3の存在又は非存在は、TNFシグナル伝達において、ゆえに心筋細胞のインフラマソームにおいて重要な役割を有する可能性がある(55)。
【0167】
驚くべきことに、Bag3は、カスパーゼ-3又はSMACと共沈降しなかった。SMACが細胞質に移行した場合、SMACはcIAPと競合し、cIAPを押しのけ、カスパーゼ-3を活性化させる。本明細書における調査は、この移行がBag3の非存在下では生じないことを示唆するものの、さらなる調査は、Bag3及びSMACが互いに物理的に結び付かなかったという観察結果をとりわけ考慮して、BAG3がSMAC移行を調節するメカニズムを解明し得る。
【0168】
ミトコンドリアによるCa2+取り込みの主要な経路であるミトコンドリアCa2+(mCa2+)ユニポーターは、mCa2+ユニポーターが、トリ-カルボン酸サイクルによるATP産生、特にトリ-カルボン酸サイクルのCa2+調節性酵素の活性に関与することから(56)、心臓において重要な役割を果たす。事実、Bag3+/-マウスのプロテオーム調査は、Bag3が、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ、アルファケトグルタル酸デヒドロゲナーゼ、及びイソクエン酸デヒドロゲナーゼを含めた、Ca2+依存性トリ-カルボン酸酵素の増加と関連することを示した(57)。正常を超えるレベルのmCa2+は、作業負荷の増加をもたらし、それによって細胞ストレスを増加させ、一方でmCa2+レベルが低く、ストレスが最小限に抑えられる場合には、反対のことが生じる(58)。MCUは、ミトコンドリアによるCa2+取り込みの主要な経路であり、一方でミトコンドリア透過性遷移孔は、それを通じて過度のCa2+が喪失される部位である。
【0169】
Bag3+/-心臓におけるMCUレベル及び活性の減少がHFrEF表現型の一因となるということを示唆することは魅力的であろうが、mCa2+の生物学は複雑であり、論議がないわけではない。例えば、ミトコンドリアカルシウムユニポーター阻害は、機能の低下を有する心肥大及び心不全の両方において有益であると言われている(59、60)。対照的に、ゼブラフィッシュ(61)、糖尿病マウス心臓(62)、及び心不全のモルモットモデル(58)における調査は、正常な又は正常を超えるレベルのMCUの復帰が、心臓機能に対する良い効果を有するであろうことを示した。ミトコンドリアの分子及び細胞生物学に関与するメカニズム、特にミトコンドリアがどのようにCa2+恒常性に関わるかも議論されている(58、63)、(64)。論議を考慮すると、正常なレベルのBag3の回復が、ミトコンドリアCa2+取り込みを向上させ、転じて細胞生体エネルギーを増強し、それによって細胞に有益性を提供するという観察結果は、慎重に解釈されるべきである。
【0170】
Bag3の多くのタンパク質-タンパク質結合ドメインを考慮すると、Bag3はマルチタスクの役割に理想的に適している。しかしながら、筋鞘における受容体又は筋節における収縮性エレメント等、細胞の特異的ドメインにある細胞内タンパク質とは異なり、BAG3は遍在性である(図9)。しかしながら、BAG3の特異的な関与及び場所に基づき、BAG3は個別の細胞内微小環境を確立するように見える。例えば、BAG3は、心筋節において収縮性エレメントをZ板に共役させ、筋鞘においてb-アドレナリン受容体をL型Ca2+チャネルに共役させ、ダイニンモータータンパク質を核周囲アグリソームに接続させ、プロテアソームのドメイン内のオートファジーのタンパク質構成成分を共シャペロン(co-chaperone)する。
【0171】
本明細書に開示される結果は、BAG3が、ミトコンドリアにおいてTOM22とも共位置することを実証する。ゆえに、単に調節的な又はさらに構造的なタンパク質であるのではなく、Bag3は、Bag3がパートナータンパク質と相互作用し得、おそらくパートナータンパク質を共局在化し得る特異的細胞ドメインに、タンパク質を選択的に局在化する普遍的接着剤として働くように見える。一般的ではないものの、このタイプのタンパク質マルチタスクの例はあり:多機能タンパク質4.1Rは良い例である(65)。
【0172】
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【0173】
[政府支援]
本発明は、国立衛生研究所によって授与された助成金番号:HL091799及びHL123093の下で政府支援により行われた。政府は、本発明におけるある特定の権利を有する。
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図4G
図4H
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
図7F
図7G
図7H
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図8F
図8G
図8H
図9
【国際調査報告】