(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-06
(54)【発明の名称】JVDの表面処理
(51)【国際特許分類】
C21D 9/46 20060101AFI20241029BHJP
C21D 3/04 20060101ALI20241029BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20241029BHJP
C22C 38/38 20060101ALI20241029BHJP
C23C 14/14 20060101ALI20241029BHJP
C22C 38/60 20060101ALN20241029BHJP
C22C 18/00 20060101ALN20241029BHJP
【FI】
C21D9/46 H
C21D3/04 G
C22C38/00 301T
C22C38/38
C22C38/00 302X
C23C14/14 G
C22C38/60
C22C18/00
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024523439
(86)(22)【出願日】2022-09-05
(85)【翻訳文提出日】2024-06-17
(86)【国際出願番号】 IB2022058327
(87)【国際公開番号】W WO2023067406
(87)【国際公開日】2023-04-27
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2021/059600
(32)【優先日】2021-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シャレクス,ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】エベール,ベロニク
(72)【発明者】
【氏名】ラフィヌール,ファブリス
(72)【発明者】
【氏名】リュベ,バンサン
【テーマコード(参考)】
4K029
4K037
【Fターム(参考)】
4K029AA02
4K029AA24
4K029BA21
4K029BA26
4K029BB02
4K029CA01
4K029CA05
4K029EA01
4K037EA01
4K037EA02
4K037EA06
4K037EA11
4K037EA13
4K037EA15
4K037EA16
4K037EA17
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4K037EA23
4K037EA25
4K037EA27
4K037EA31
4K037EB11
4K037FJ02
4K037FJ05
4K037FJ06
4K037FM02
4K037GA00
4K037GA05
(57)【要約】
この特許は、以下を含む、金属皮膜を基材上に堆積させる方法に関する。
- 焼鈍炉において、前記基材上に、厚さ10μm~50μmであり、表面分率で10%までの、マルテンサイト、ベイナイトの累積量を含み、残余がフェライトから構成される微細組織を有するフェライト表面層を形成する焼鈍工程、
- スキンパス工程、
- 真空チャンバ内の被覆工程であって、金属蒸気が前記基材の少なくとも1つの側に向かって噴出され、少なくとも1つの金属の表面層を形成する工程。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼基材上に金属皮膜を堆積させる方法であって、以下
i. 焼鈍炉内での焼鈍工程であって、
a. 前記鋼基材を600℃よりも低い温度T1まで加熱する予熱工程、
b. 前記基材を、0.1~90体積%のH
2を含み、残余が不活性ガス及び不可避の不純物であり、露点が-25℃~10℃である雰囲気中で、T1から720℃~1000℃の再結晶温度T2まで加熱する加熱工程、及び、次いで、
c. 前記基材を、0.1~90体積%のH
2を含み、残余が不活性ガス及び不可避の不純物であり、露点が-25℃~10℃の雰囲気中で720℃~1000℃の温度範囲で維持する均熱工程
を含み、そのような焼鈍工程が、前記基材上に、10μm~50μmの厚さを有するフェライト表面層と、表面分率で10%までの、マルテンサイト、オーステナイト、ベイナイト及び炭化物の累積量を含み、残余がフェライトから構成される微細組織とを形成することを可能にする焼鈍工程、
ii. テンパーミルでのスキンパス工程であって、前記基材は、0.02%~2%までの圧下率で圧延されるスキンパス工程、
iii. 真空チャンバ内の被覆工程であって、少なくとも1つの金属蒸気が、前記基材の少なくとも1つの側に向かって噴出されて、金属皮膜を形成する被覆工程
を含む方法。
【請求項2】
前記鋼基材が、0.5mm~5mmの厚さを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記鋼基材が、重量パーセントで、0.15<Si<0.4、0.5<Mn<2.5、0.1<C<0.4、P≦0.03、S≦0.02、0.01<Al≦0.1、Cu≦0.2、T1+Nb≦0.20、Cr+Mo≦1を含み、残余がFe及び不可避の不純物からなる組成を有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記鋼基材が、表面分率で最大10%の、フェライト、オーステナイト、ベイナイト及び炭化物の累積量を含み、残余がマルテンサイトから構成されるバルク微細組織を有する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記鋼基材が、重量パーセントで、0.15<Si<0.6、0.17<Mn<2.3、0.1<C<0.4、P≦0.05、S≦0.01、0.015<Al≦1.0、Cu≦0.2、B≦0.005、T1+Nb≦0.15、Cr+Mo≦1.4を含み、残余はFe及び不可避の不純物からなる組成を有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
前記鋼基材が、表面分率で最大5%のフェライトを含み、残余がマルテンサイト及びベイナイトから構成されるバルク微細組織を有する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記焼鈍工程では、前記基材が820℃~930℃の温度範囲に維持される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記フェライト層が、表面分率で5%までの、マルテンサイト、オーステナイト、ベイナイト及び炭化物の累積量を含み、残余はフェライトから構成される微細組織を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記フェライト層が、20μm~40μmの厚さを有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記被覆工程では、
- 重量で少なくとも8%のニッケル及び少なくとも10%のクロムを含み、残余は鉄及び製造プロセスから生じる不純物である第1の金属層が、物理的蒸着によって前記基材の少なくとも1つの側に形成され、
- 第2の金属蒸気は前記基材の少なくとも前記側に向かって噴出され、前記第1の金属層上に少なくとも1つの金属の層を形成する、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記第2の金属蒸気が防食層である、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記被覆工程において、前記表面層がJVDにより形成される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
被覆鋼帯であって、
- 鋼バルク10
- 前記鋼バルクの上の、10μm~50μmの厚さ、及び表面分率で10%までの、マルテンサイト、オーステナイト、ベイナイト及び炭化物の累積量を含み、残余はフェライトから構成される微細組織を有するフェライト層11
- 前記フェライト層の上の5~15nmの厚さを有する酸化鉄層12、
- 前記酸化鋼層の上の第1の金属層13、
- 前記第1の金属層の上の5~10μmの厚さを有する第2の金属層14
を含む被覆鋼帯。
【請求項14】
請求項10~12のいずれか一項に従って製造される、請求項13に記載の被覆鋼帯。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材上に金属皮膜を堆積させる方法に関する。本発明はまた、被覆鋼帯に関する。
【0002】
本発明は、特に、亜鉛又は亜鉛-マグネシウム系皮膜のような防食性金属皮膜を、走行している鋼帯上に堆積させることを意図するが、これに限定されない。そのような被覆鋼帯は、次いで、例えばスタンピング、曲げ、又は成形によって切断及び成形されて部品を形成し得て、次いで部品は、皮膜の上に塗膜を形成するために塗装され得る。
【背景技術】
【0003】
溶融めっき及び電着塗装などのいくつかの被覆方法が存在する。しかし、これらの従来の方法は、Si、Mn、Al、P、Cr又はBなどの高レベルの酸化性元素を含有する鋼グレードのための満足のいく皮膜を提供しない。その結果、例えば、JVD(ジェット蒸着)のような真空蒸着技術などの新しい方法が開発された。
【0004】
JVDでは、WO97/47782号及びWO2009/047333号に記載されるように、超音速で推進される金属蒸気スプレーが真空チャンバ内で基材と接触する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第97/47782号
【特許文献2】国際公開第2009/047333号
【発明の概要】
【0006】
それにもかかわらず、そのようなプロセスは、時として、特に成形プロセス中に皮膜の劣化をもたらすことが観察されている。本発明の目的は、この欠点を改善することである。
【0007】
他の特徴及び利点は、本発明の以下の詳細な説明から明らかになる。
【0008】
本発明を説明するために、特に以下の図を参照して、様々な実施形態を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明による焼鈍工程後の鋼基材層を具体化する。
【
図2】本発明による被覆工程後の鋼基材層を具体化する。
【
図3】3段階フランジング(flanging)試験の異なる工程を具体化する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、鋼基材上に金属皮膜を堆積させる方法であって、以下
i. 焼鈍炉内での焼鈍工程であって、
a. 前記鋼基材を600℃よりも低い温度T1まで加熱する予熱工程、
b. 前記鋼基材を、0.1~90体積%のH2を含み、残余が不活性ガス及び不可避の不純物であり、露点が-25℃~10℃である雰囲気中で、T1から720℃~1000℃の再結晶温度T2まで加熱する加熱工程、
c. 前記鋼基材を、0.1~90体積%のH2を含み、残余が不活性ガス及び不可避の不純物であり、露点が-25℃~10℃の雰囲気中で720℃~1000℃の温度範囲に維持する均熱工程
を含み、そのような焼鈍工程が、前記鋼基材上に、10μm~50μmの厚さを有するフェライト表面層と、表面分率で10%までの、マルテンサイト、オーステナイト、ベイナイト及び炭化物の累積量を含み、残余がフェライトから構成される微細組織とを形成することを可能にする焼鈍工程、
ii. テンパー(temper)ミルでのスキンパス工程であって、前記鋼基材は、0.02%~2%までの圧下率で圧延されるスキンパス工程、
iii. 真空チャンバ内の被覆工程であって、少なくとも1つの金属蒸気が、前記基材の少なくとも1つの側に向かって噴出されて、金属皮膜を形成する被覆工程
を含む方法に関する。
【0011】
焼鈍工程の前に、鋼基材を圧延することができる。例えば、基材を熱間圧延した後、冷間圧延することが好ましい。
【0012】
好ましくは、本方法は、鋼走行基材上に金属皮膜を堆積させる方法に関する。好ましくは、被覆工程において、前記少なくとも金属蒸気は、前記鋼走行基材の少なくとも1つの側に向かって噴出される。
【0013】
好ましくは、前記焼鈍工程は、連続焼鈍炉内で行われる。
【0014】
予熱中、鋼板は通常室温から600℃未満の温度T1まで加熱される。予熱は、任意の手段によって行うことができる。例えば、予熱は、RTF(放射管炉)内で、誘導装置を用いて、又はDFF(直火炉)内で行うことができる。
【0015】
予熱温度を600℃未満に制限することは、鋼板の酸化を低減するので有利である。好ましくは、T1は550℃未満である。さらにより好ましくは、T1は500℃未満である。
【0016】
好ましくは、加熱工程において、露点は-20℃~-1℃である。好ましくは、均熱工程において、露点は-20℃~-1℃である。
【0017】
加熱工程及び均熱工程における雰囲気は、予熱された蒸気を使用し、異なるセクションに雰囲気の露点温度を監視するH2検出器を備えた炉内にN2-H2ガスを導入することによって達成することができる。
【0018】
好ましくは、加熱工程及び/又は均熱工程において、雰囲気は0.1~10体積%のH2を含み、残余は不活性ガス及び不可避の不純物である。
【0019】
フェライト表面層は、焼鈍炉内の条件によって鋼の微細組織を変化させることによって、すなわち脱炭及び相転移によって形成される。実際に、焼鈍雰囲気中に存在する酸素は、鋼からの炭素と反応してCO2及びCOなどのガスを形成し、鋼表面下の炭素原子の枯渇をもたらし、フェライトの形成に有利である。例えば、マルテンサイト鋼は、当業者に周知の条件でフェライトに変換することができる。当業者に知られた任意の手段を使用して、前記基材上にフェライト表面層を形成することができる。好ましくは、水の注入は、所望のフェライト表面層を形成するために焼鈍中に行われる。
【0020】
図1に示すように、焼鈍炉を出る鋼基材は、少なくとも2つの層、すなわち、鋼バルク層10及び該鋼バルク10の上のフェライト表面層11を含む。5~15nmの酸化鉄層が、前記フェライト層の上に存在することができる。
【0021】
被覆工程では、被覆層は、真空チャンバ内の任意の可能な手段、例えば、任意のPVDプロセスによって行うことができる。好ましくは、金属被覆層はスパッタリングによって行われる。好ましくは、被覆工程は、少なくとも1つの被覆プロセスを含み、そこでは少なくとも1つの金属蒸気が超音波速度で前記基材の少なくとも1つの側に向かって噴出されて金属皮膜を形成する。
【0022】
被覆工程は、1つ又はいくつかの被覆プロセスを含むことができる。例えば、被覆工程は、第1の金属合金のPVDと、それに続く第2の金属合金のJVDを含むことができ、そこでは少なくとも1つの金属蒸気が超音速で前記基材の少なくとも1つの側に向かって噴出されて金属皮膜を形成する。その結果として、金属皮膜は、様々な金属又は金属合金のいくつかの層を含むことができる。
【0023】
被覆工程は、アルカリ脱脂とそれに続くすすぎ工程を行うことができる前処理を含むことができる。
【0024】
例えば、このプロセスは、
図2に示すような被覆帯を製造することを可能にする。この被覆帯は、鋼バルク10、フェライト層11、第1の金属層12及び第2の金属層13を備える。
【0025】
5~15nmの酸化鉄層は、フェライト層11と第1の金属層12との間のフェライト表面層の上に存在し得る。
【0026】
成形作業中の皮膜劣化の原因を研究した後、本発明者らは、多くの破損が最上層の被覆層の内部、例えば金属皮膜の内部で生じることを見出した。
【0027】
破損がほとんど最上層の被覆層で発生していることを確認した後、鋼基材の表面形状が被覆劣化の発生に大きな影響を与えることを見出した。これは、とりわけ、深い穴及び隙間を含む不均一な表面が、真空堆積プロセスの前処理セクションのすすぎ水との表面親和性に影響を及ぼすという事実によるものである。
【0028】
特許請求された方法により、焼鈍条件は、鋼バルクの脱炭によってフェライト層の形成を可能にする。延性であるフェライトは、スキンパス中に少なくとも部分的に前記穴及び隙間を塞ぐことを可能にする。その結果として、表面における穴及び隙間の存在、又は少なくともそれらの深刻度が低減され、被覆前の鋼基材表面上の残留水の量がより少なくなる。最終的に、この方法による被覆鋼帯は、特にその成形作業中に劣化しにくい。
【0029】
好ましくは、前記鋼基材は、帯又はバンド又は板である。
【0030】
好ましくは、前記鋼基材は、0.5mm~5mmの厚さを有する。さらにより好ましくは、前記基材は1~3mmの厚さを有する。
【0031】
好ましくは、前記鋼基材は、重量パーセントで、0.15<Si<0.4、0.5<Mn<2.5、0.1<C<0.4、P≦0.03、S≦0.02、0.01<Al≦0.1、Cu≦0.2、T1+Nb≦0.20、Cr+Mo≦1を含み、残余がFe及び不可避の不純物からなる。好ましくは、前記鋼基材は、表面分率で最大10%の、フェライト、オーステナイト、ベイナイト及び炭化物の累積量を含み、残余はマルテンサイトから構成されるバルク微細組織を有する。さらにより好ましくは、前記鋼基材は、表面分率で5%までの、フェライト、オーステナイト、ベイナイト及び炭化物の累積量を含み、残余はマルテンサイトから構成されるバルク微細組織を有する。このような鋼基材は、自動車用途に有利である。
【0032】
これらの鋼は、マルテンサイト鋼として知られている。
【0033】
好ましくは、前記鋼基材は、重量パーセントで、0.15<Si<0.6、0.17<Mn<2.3、0.1<C<0.4、P≦0.05、S≦0.01、0.015<Al≦1.0、Cu≦0.2、B≦0.005、T1+Nb≦0.15、Cr+Mo≦1.4を含み、残余はFe及び不可避の不純物からなる。好ましくは、前記鋼基材は、表面分率で最大10%のオーステナイト、フェライト及び炭化物を含み、残余はベイナイト及びマルテンサイトから構成される微細組織を有する。さらにより好ましくは、前記鋼基材は、表面分率で5%までの、フェライト、オーステナイト及び炭化物の累積量を含み、残余はベイナイト及びマルテンサイトから構成される微細組織を有する。このような鋼基材は、自動車用途に有利である。
【0034】
これらの鋼は二相鋼として知られている。
【0035】
好ましくは、前記焼鈍工程において、前記基材は820℃~930℃の温度範囲に維持される。
【0036】
好ましくは、前記フェライト層は、表面分率で5%までの、マルテンサイト、オーステナイト、ベイナイト及び炭化物の累積量を含み、残余はフェライトから構成される微細組織を有する。
【0037】
好ましくでは、前記フェライト層は、20μm~40μmの厚さを有する。
【0038】
好ましくは、前記鋼基材は、0.02%~0.5%の圧下率で圧延される。
【0039】
好ましくは、前記被覆工程iii.において、前記金属皮膜は、
- 重量で少なくとも8%のニッケル及び少なくとも10%のクロムを含み、残余は鉄及び製造プロセスから生じる不純物であり、物理的蒸着によって前記基材の少なくとも1つの側に形成される第1の金属層、
- ジェット蒸着によって前記第1の金属層上に形成される少なくとも1つの金属の第2の金属層を含む。
【0040】
好ましくは、前記第2の金属層は、防食性金属皮膜である。
【0041】
好ましくは、前記被覆工程iii.において、前記金属皮膜は、
- Fe、Ni、Cr及びTiを含み、Tiの量が≧5重量%であり、以下の式、すなわち、8重量%<Cr+Ti<40重量%を満たし、残余はFe及びNiであり、物理蒸着によって前記基材の少なくとも1つの側に形成される第1の金属層、
- ジェット蒸着によって前記第1の金属層上に形成される少なくとも1つの金属の第2の金属層を含む。
【0042】
好ましくは、前記第2の金属層は、防食性金属皮膜である。
【0043】
好ましくは、前記第1の金属層は、スパッタリングによって形成される。
【0044】
例えば、第1の金属層は、重量パーセントで、0.02<C<0.2、15<Cr<25、5<Ni<22、Mo<3、0.5<Si<1.5、1.5<Mn<2.5、P<0.1、S<0.05を含み、残余がFe及び不可避の不純物からなることができる。
【0045】
例えば、第1の金属層は、重量パーセントで、0.02<C<0.5、15<Cr<20、9<Ni<15、1.5<Mo<3、0.5<Si<1.5、1.5<Mn<2.5、P<0.1、S<0.05を含み、残余はFe及び不可避の不純物からなることができる。
【0046】
好ましくは、前記第2の金属層は、アルミニウム及びマグネシウム又は亜鉛又はマグネシウム及び亜鉛を含む。
【0047】
好ましくは、前記第2の金属層は、少なくとも金属蒸気が前記基材に向かって超音速で噴射されて金属皮膜を形成する被覆プロセスから生じる。さらにより好ましくは、前記第2の金属層は、ジェット蒸着プロセスから生じる。
【0048】
好ましくは、前記第2の金属層は、重量パーセントで、0≦Mg<20及び80<Zn≦100を含み、残余は不可避の不純物からなる。さらにより好ましくは、前記第2の金属層は、重量パーセントで、0≦Mg<10及び90<Zn≦100を含み、残余は不可避の不純物からなる。
【0049】
好ましくは、前記第2の金属層は防食層である。好ましくは、前記第2の金属層は、重量パーセントで、100%Znを含む。好ましくは、前記第2の金属層は、重量パーセントで、0<Mg<10及び90<Zn<100を含み、残余は不可避の不純物からなる。
【0050】
好ましくは、前記第2の金属層は、重量パーセントで、0<Mg<4及び96<Zn<100を含み、残余は不可避の不純物からなる。
【0051】
図2に示すように、本発明は被覆鋼帯であって、
- 鋼バルク10
- 前記鋼バルクの上の、10μm~50μmの厚さ、及び表面分率で10%までの、マルテンサイト、オーステナイト、ベイナイト及び炭化物の累積量を含み、残余はフェライトから構成される微細組織を有するフェライト層11
- 前記フェライト層の上の5~15nmの厚さを有する酸化鉄層12、
- 前記酸化鋼層の上の第1の金属層12、
- 前記第1の金属層の上の5~10μmの厚さを有する第2の金属層13を含む被覆鋼帯に関する。
【0052】
好ましくは、前記被覆鋼帯は、第1及び第2の金属層が被覆される前述の方法に従って製造される。
【0053】
好ましくは、前記被覆鋼帯は、0.5mm~5mmの厚さを有する。さらにより好ましくは、前記被覆鋼帯は1~3mmの厚さを有する。
【0054】
1つの可能性は、前記鋼バルク10が、重量パーセントで、0.15<Si<0.4、0.5<Mn<2.5、0.1<C<0.4、P≦0.03、S≦0.02、0.01<Al≦0.1、Cu≦0.2、T1+Nb≦0.20、Cr+Mo≦1を含み、残余がFe及び不可避の不純物からなる。好ましくは、前記鋼基材は、表面分率で最大10%のフェライト、オーステナイト、ベイナイト及び炭化物を含み、残余はマルテンサイトから構成される微細組織を有する。さらにより好ましくは、前記鋼基材は、表面分率で最大5%のフェライト、オーステナイト、ベイナイト及び炭化物を含み、残余はマルテンサイトから構成される微細組織を有する。このような鋼基材は、自動車用途に有利である。これらの鋼は、マルテンサイト鋼として知られている。
【0055】
別の可能性は、前記鋼バルク10が、重量パーセントで、0.15<Si<0.6、0.17<Mn<2.3、0.1<C<0.4、P≦0.05、S≦0.01、0.015<Al≦1.0、Cu≦0.2、B≦0.005、T1+Nb≦0.15、Cr+Mo≦1.4を含み、残余はFe及び不可避の不純物から構成され、表面分率で最大10%のオーステナイト、フェライト及び炭化物を含み、残余はベイナイト及びマルテンサイトから構成される微細組織を有する。
【0056】
好ましくは、前記鋼バルクは450MPa以上の強度を有する。
【0057】
5~10nmの酸化鉄層は、フェライト表面層の上に存在し得る。
【0058】
好ましくは、前記フェライト層は、表面分率で5%までの、マルテンサイト、オーステナイト、ベイナイト及び炭化物の累積量を含み、残余はフェライトから構成される微細組織を有する。
【0059】
好ましくは、前記フェライト層は20μm~40μmの厚さを有する。
【0060】
好ましくは、前記第1の金属層は2~15nmの厚さを有する。
【0061】
好ましくは、前記第1の金属層は、重量で少なくとも8%のニッケル及び少なくとも10%のクロムを含み、残余は鉄及び不純物である。
【0062】
例えば、第1の金属層は、重量パーセントで、0.02<C<0.2、15<Cr<25、5<Ni<22、Mo<3、0.5<Si<1.5、1.5<Mn<2.5、P<0.1、S<0.05を含み、残余がFe及び不可避の不純物からなる。
【0063】
例えば、第1の金属層は、重量パーセントで、0.02<C<0.5、15<Cr<20、9<Ni<15、1.5<Mo<3、0.5<Si<1.5、1.5<Mn<2.5、P<0.1、S<0.05を含み、残余はFe及び不可避の不純物からなる。
【0064】
好ましくは、前記第2の金属蒸気は防食層である。好ましくは、前記第2の金属蒸気は、重量パーセントで、100%Znを含む。好ましくは、前記第2の金属蒸気は、重量パーセントで、0<Mg<3、97<Zn<100を含み、残余は不可避の不純物からなる。
【実施例】
【0065】
[実験]
実験の目的は、被覆鋼帯の皮膜破損に対する請求された方法の効果を評価することである。
【0066】
アルセロールミタルによってMartINsite(R)1500のブランドで販売されているタイプの、1.5~2.0mmの厚さを有するMS1500鋼板の第1の一連の5つの試料を調製した。試料に使用した鋼の正確な組成は、C0.22%、Mn1.8%、Si0.26%、Cr0.17%、Al0.03%である。パーセンテージは重量によるものであり、残余は鉄及び製造から生じる潜在的な不純物である。
【0067】
全ての試料を以下の工程に供した。
【0068】
焼鈍工程は、加熱工程及び均熱工程を含む。
【0069】
加熱工程は、5体積%のH2を含み、残余はN2及び不可避の不純物である雰囲気中で860℃~870℃の温度T2を有する。加熱工程の露点は-40℃~-30℃(乾式焼鈍)又は-20℃~-1℃(湿式焼鈍)のいずれかであった。
【0070】
均熱工程は、5体積%のH2を含み、残余はN2及び不可避の不純物である雰囲気中で860℃~870℃の温度を有する。均熱工程の露点は-40℃~-30℃(乾式焼鈍)又は-20℃~-1℃(湿式焼鈍)のいずれかであった。
【0071】
次に、いくつかの試料(n°1、3、4、5)について0.1%の圧下率でのスキンパスを実施し、1つの試料(n°2)についてスキンパスを実施しなかった。
【0072】
スキンの後、0.02%のC、16~18%のCr、10.5~13%のNi、2~2.5%のMo、1%のSi、2%のMn、0.04%のP、0.03%のSを含み、残余は鉄及び製造から生じる潜在的不純物である金属蒸気の15nmの第1の層のPVD、及び7.5μmのZnの第2の層のJVDを実施した。
【0073】
次に、
図3に示すように、3段階のフランジング試験によって全ての試料を試験した。
【0074】
第1の工程において、厚さ「t」を有する試料を、第1の曲げゾーンB1において所与のパンチ半径R上で130°の角度を形成するように曲げる。第1のシリーズにおいて、全ての試料は、2.5のパンチ半径と試料厚さとの間の比、すなわちR/t=2.5を有していた
【0075】
次に、第2の工程において、第2の曲げゾーンB2から垂直な曲げ型を位置決めするように、試料を移動させる。
【0076】
第3の工程において、第2の曲げゾーンB2において90°の角度を形成するように帯を曲げ、一方、第1の曲げゾーンB1を再び平面になるように曲げる。
【0077】
この試験により、第1の工程で被覆鋼帯を変形させ、第3の工程で第1の屈曲部の屈曲解除により第1の屈曲ゾーンで被覆鋼帯を圧縮することができる。
【0078】
最終的に、接着剤を第1の曲げゾーンに押し付け、接着剤に付着する物質の量に応じて、品質を2つのカテゴリー、すなわち「OK」又は「NOK」に分類する。
【0079】
各試験片の特性を以下の表に示す。
【0080】
【0081】
試料1及び2は本発明によるものではない。試料3~5は本発明によるものである。
【0082】
鋼板が本発明によるプロセスを受けると、皮膜の良好な品質を達成できることは明らかである。被覆工程に先行する2つの工程のうちの少なくとも1つ、例えば焼鈍工程又はスキンパス工程が本発明によって行われない場合、良好な皮膜品質を確実に確保することができないことも明らかである。
【0083】
したがって、本発明による方法のみが、特にその成形作業中に劣化しにくい皮膜を確実に得ることを可能にする。
【手続補正書】
【提出日】2024-06-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼基材上に金属皮膜を堆積させる方法であって、以下
i. 焼鈍炉内での焼鈍工程であって、
a. 前記鋼基材を600℃よりも低い温度T1まで加熱する予熱工程、
b. 前記基材を、0.1~90体積%のH
2を含み、残余が不活性ガス及び不可避の不純物であり、露点が-25℃~10℃である雰囲気中で、T1から720℃~1000℃の再結晶温度T2まで加熱する加熱工程、及び、次いで、
c. 前記基材を、0.1~90体積%のH
2を含み、残余が不活性ガス及び不可避の不純物であり、露点が-25℃~10℃の雰囲気中で720℃~1000℃の温度範囲で維持する均熱工程
を含み、そのような焼鈍工程が、前記基材上に、10μm~50μmの厚さを有するフェライト表面層と、表面分率で10%までの、マルテンサイト、オーステナイト、ベイナイト及び炭化物の累積量を含み、残余がフェライトから構成される微細組織とを形成することを可能にする焼鈍工程、
ii. テンパーミルでのスキンパス工程であって、前記基材は、0.02%~2%までの圧下率で圧延されるスキンパス工程、
iii. 真空チャンバ内の被覆工程であって、少なくとも1つの金属蒸気が、前記基材の少なくとも1つの側に向かって噴出されて、金属皮膜を形成する被覆工程
を含む方法。
【請求項2】
前記鋼基材が、0.5mm~5mmの厚さを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記鋼基材が、重量パーセントで、0.15<Si<0.4、0.5<Mn<2.5、0.1<C<0.4、P≦0.03、S≦0.02、0.01<Al≦0.1、Cu≦0.2、T1+Nb≦0.20、Cr+Mo≦1を含み、残余がFe及び不可避の不純物からなる組成を有する、請求項
1に記載の方法。
【請求項4】
前記鋼基材が、表面分率で最大10%の、フェライト、オーステナイト、ベイナイト及び炭化物の累積量を含み、残余がマルテンサイトから構成されるバルク微細組織を有する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記鋼基材が、重量パーセントで、0.15<Si<0.6、0.17<Mn<2.3、0.1<C<0.4、P≦0.05、S≦0.01、0.015<Al≦1.0、Cu≦0.2、B≦0.005、T1+Nb≦0.15、Cr+Mo≦1.4を含み、残余はFe及び不可避の不純物からなる組成を有する、請求項
1に記載の方法。
【請求項6】
前記鋼基材が、表面分率で最大5%のフェライトを含み、残余がマルテンサイト及びベイナイトから構成されるバルク微細組織を有する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記焼鈍工程では、前記基材が820℃~930℃の温度範囲に維持される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記フェライト層が、表面分率で5%までの、マルテンサイト、オーステナイト、ベイナイト及び炭化物の累積量を含み、残余はフェライトから構成される微細組織を有する、請求項1~
6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記フェライト層が、20μm~40μmの厚さを有する、請求項1~
6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記被覆工程では、
- 重量で少なくとも8%のニッケル及び少なくとも10%のクロムを含み、残余は鉄及び製造プロセスから生じる不純物である第1の金属層が、物理的蒸着によって前記基材の少なくとも1つの側に形成され、
- 第2の金属蒸気は前記基材の少なくとも前記側に向かって噴出され、前記第1の金属層上に少なくとも1つの金属の層を形成する、請求項
1に記載の方法。
【請求項11】
前記第2の金属蒸気が防食層である、請求項
1に記載の方法。
【請求項12】
前記被覆工程において、前記表面層がJVDにより形成される、請求項
1に記載の方法。
【請求項13】
被覆鋼帯であって、
- 鋼バルク10
- 前記鋼バルクの上の、10μm~50μmの厚さ、及び表面分率で10%までの、マルテンサイト、オーステナイト、ベイナイト及び炭化物の累積量を含み、残余はフェライトから構成される微細組織を有するフェライト層11
- 前記フェライト層の上の5~15nmの厚さを有する酸化鉄層12、
- 前記酸化鋼層の上の第1の金属層13、
- 前記第1の金属層の上の5~10μmの厚さを有する第2の金属層14
を含む被覆鋼帯。
【請求項14】
請求項10~12のいずれか一項に従って製造される、請求項13に記載の被覆鋼帯。
【国際調査報告】