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特表2024-540909電解質溶液中においてアナライトを他の成分から分離するためのデバイス
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-06
(54)【発明の名称】電解質溶液中においてアナライトを他の成分から分離するためのデバイス
(51)【国際特許分類】
   C07K 1/24 20060101AFI20241029BHJP
   C12N 15/10 20060101ALI20241029BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20241029BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20241029BHJP
   G01N 30/02 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
C07K1/24
C12N15/10 100Z
C12M1/00 Z
C12M1/34 Z
G01N30/02 L
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024523444
(86)(22)【出願日】2022-10-21
(85)【翻訳文提出日】2024-06-11
(86)【国際出願番号】 SE2022050955
(87)【国際公開番号】W WO2023068999
(87)【国際公開日】2023-04-27
(31)【優先権主張番号】2151286-8
(32)【優先日】2021-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TEFLON
(71)【出願人】
【識別番号】522187845
【氏名又は名称】ニクティア テクノロジーズ アーベー
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】フェラン-ドレイク デル カスティリョ,グスタフ
(72)【発明者】
【氏名】キリアキドウ,マリア
(72)【発明者】
【氏名】ダリン,アンドレアス
【テーマコード(参考)】
4B029
4H045
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029AA27
4B029BB15
4B029BB20
4B029CC01
4B029DG10
4H045AA10
4H045AA30
4H045EA50
4H045GA30
(57)【要約】
【課題】
電解質溶液中においてアナライトを他の成分から分離するためのデバイス。
【解決手段】
デバイス(100、100’、100”)は、溶液入口(104)及び溶液出口(105)を備えたハウジング(114、115、116、117、118、119)、入口から出口に流れる(F)ように配置された電解質溶液が作用電極の少なくとも一部分に接触するようにハウジング内に配置された作用電極(101)、ハウジング内に配置された対向電極(102)を含む。作用電極の表面の少なくとも一部分は、作用電極及び対向電極間の電位差の印加により第1及び第2の状態間で切り替わるように配置された高分子電解質コーティング(111)を備える。第1の状態では、アナライト(200)は高分子電解質コーティング中に捕捉され、第2の状態では、捕捉されたアナライトは高分子電解質コーティングから放出される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質溶液中においてアナライト(200)を他の成分から分離するためのデバイス(100、100’、100”)であって、前記デバイスは、
- 溶液入口(104)及び溶液出口(105)を備えたハウジング(114、115、116、117、118、119)、
- 前記溶液入口(104)及び前記溶液出口(105)間のスペース中で前記ハウジング(114、115、116、117、118、119)内に配置された、且つ前記入口から前記出口に流れる(F)ように配置された電解質溶液が作用電極の少なくとも一部分に接触するように配置された、作用電極(101)、
- 前記作用電極からある距離を置いて前記入口(104)及び前記出口(105)間のスペース中で前記ハウジング(114、115、116、117、118、119)内に配置された、且つ前記入口から前記出口に流れるように配置された前記電解質溶液を介して前記作用電極に電気接続するように配置された、対向電極(102)、
を含み、
前記作用電極(101)の表面の少なくとも一部分は、高分子電解質コーティング(111)を備え、前記高分子電解質コーティング(111)は、前記作用電極(101)及び前記対向電極(102)間の電位差の印加により第1及び第2の状態間で切り替わるように配置され、前記第1の状態では、前記アナライト(200)は前記高分子電解質コーティング(111)中に捕捉され、且つ前記第2の状態では、前記捕捉されたアナライト(200)は前記高分子電解質コーティング(111)から放出される、デバイス。
【請求項2】
前記アナライトが、タンパク質、脂質粒子、オリゴヌクレオチド、炭水化物、又はそれらのいずれかの組合せから選択される、請求項1に記載のデバイス(100、100’、100”)。
【請求項3】
前記作用電極の表面上に配置された前記高分子電解質コーティングが、アリール結合の単層を介して前記電極の表面に共有結合で結合されたpH応答性ポリマーを含む、請求項1又は2に記載のデバイス(100、100’、100”)。
【請求項4】
前記pH応答性ポリマーが、カルボン酸基を含むポリマーである、請求項3に記載のデバイス(100、100’、100”)。
【請求項5】
前記pH応答性ポリマーが、pH応答性及びアナライト特異的リガンドで機能化されたポリマーである、請求項3及び4のいずれか一項に記載のデバイス(100、100’、100”)。
【請求項6】
前記pH応答性及びアナライト特異的リガンドが、酵素、NTA-Me2+、プロテインA、プロテインG、カルモジュリン、又はストレプトアビジンである、請求項5に記載のデバイス(100、100’、100”)。
【請求項7】
前記作用電極(101)及び前記対向電極(102)間の平均距離が、20μm~20mmの範囲内である、請求項1~6のいずれか一項に記載のデバイス(100、100’、100”)。
【請求項8】
前記作用電極(101)上に設けられた前記高分子電解質コーティングの平均厚さが、10~50nmである、請求項1~7のいずれか一項に記載のデバイス(100、100’、100”)。
【請求項9】
前記溶液入口(104)から前記溶液出口(105)に向かう前記電解質溶液のフロー方向(F)に直交する平面内で見て、前記作用電極(101)の70~100%が前記対向電極にオーバーラップする、請求項1~8のいずれか一項に記載のデバイス(100、100’、100”)。
【請求項10】
前記作用電極(101)により占有されない前記ハウジング(114、115、116、117、118、119)の内体積が、5%~75%である、請求項1~9のいずれか一項に記載のデバイス(100、100’、100”)。
【請求項11】
前記作用電極(101)が、多孔性であるとともに、前記入口(104)から前記作用電極(101)の少なくとも一部分を介して前記出口(105)まで前記電解質溶液を流すことができるように前記ハウジング内(114、115、116、117、118、119)に配置される、請求項1~10のいずれか一項に記載のデバイス(100、100’、100”)。
【請求項12】
前記作用電極が、40%~99%の多孔率を有し、且つ前記作用電極の電気活性表面積が、100~10,000m/mである、請求項11に記載のデバイス(100、100’、100”)。
【請求項13】
前記対向電極(101)が、多孔性である、請求項12又は13に記載のデバイス(100、100’、100”)。
【請求項14】
前記入口から前記出口に流れる(F)ように配置された前記電解質溶液が最初に前記作用電極(101)を介して、次いで前記対向電極(102)を介して又は通って進行するように、前記作用電極(101)及び前記対向電極(102)が前記ハウジング(114、115、116、117、118、119)内に配置される、請求項11~12又は13のいずれか一項に記載のデバイス(100、100’、100”)。
【請求項15】
前記作用電極(101)を介して進行する前記電解質溶液が少なくともの1~20μmの大きさの電気化学的pH勾配を生成するように、前記作用電極(101)内のボイドスペースが構成される、請求項11~14のいずれか一項に記載のデバイス(100、100’、100”)。
【請求項16】
前記ハウジング(114、115、116、117、118、119)内に配置された、且つ前記作用電極(101)及び前記対向電極(102)が前記電解質溶液を介して電気接続されるように配置された、参照電極(103)をさらに含む、請求項1~15のいずれか一項に記載のデバイス(100、100’、100”)。
【請求項17】
前記参照電極(103)が、前記対向電極(102)から1~50mmの平均距離及び前記作用電極(101)から1~50mmの平均距離で配置される、請求項16に記載のデバイス(100、100’、100”)。
【請求項18】
前記ハウジング(114、115、116、117、118、119)内の前記作用電極(101)及び前記対向電極(102)間に配置されたイオン選択性メンブレン(106)をさらに含む、請求項1~17のいずれか一項に記載のデバイス(100、100、’100”)。
【請求項19】
前記対向電極(102)の表面の少なくとも一部分が、前記作用電極(101)と同一の高分子電解質コーティング(111)を備える、請求項1~18のいずれか一項に記載のデバイス(100、100’、100”)。
【請求項20】
前記対向電極(102)の有効表面積が、前記作用電極(101)の有効表面積の少なくとも2倍である、請求項19に記載のデバイス(100、100’、100”)。
【請求項21】
イオン透過性メンブレンにより分離された、前記作用電極(101)用の1つのチャンバー(118)及び前記対向電極(102)用の1つのチャンバー(117)の2つの接続されたチャンバー(117、118)を含む、請求項1~20のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項22】
電解質溶液中においてアナライト(200)を他の成分から分離するためのシステム(300)であって、前記システムは、
請求項1~18のいずれか一項に記載のデバイス(100、100’、100”)、並びに
前記作用電極(101)及び前記対向電極(102)間に電位差を印加するための配置物(301)、
前記溶液入口(104)で前記ハウジング(114、115、116、117、118、119)に前記電解質溶液を供給するように配置されたフローシステム、
前記溶液出口(105)を介して前記デバイス(100、100’、100”)から出る溶液及びアナライトを捕集するために前記ハウジング(114、115、116、117、118、119)の前記溶液出口(105)に配置された溶液捕集システム(302)、
を含む、システム。
【請求項23】
前記システム(300)が、前記溶液出口(105)で捕集された溶液の含分を解析するように配置された溶液解析デバイス(303)をさらに含む、請求項22に記載のシステム(300)。
【請求項24】
請求項22~23のいずれか一項に記載のシステム(300)を提供すること、
前記電解質溶液中において他の成分から分離されるアナライト(200)を含む電解質溶液を提供すること、
前記アナライト(200)を含む電解質溶液を前記溶液入口(104)で前記ハウジング(114、115、116、117、118、119)に供給すること、
前記作用電極(101)上に配置された前記高分子電解質コーティング(111)により前記アナライトが捕捉されるように、前記溶液を前記入口(104)から前記出口(105)まで流すこと、
前記作用電極(101)及び前記対向電極(102)間に電位差を印加し、それにより前記高分子電解質コーティング(111)から前記アナライト(200)を放出するとともに、前記作用電極(101)から前記アナライト(200)を溶出すること、
前記溶液出口(105)を介して出るアナライト(101)を含む溶液を捕集すること、
を含む、電解質溶液中においてアナライト(200)を他の成分から分離するための方法。
【請求項25】
前記アナライト(200)を含む前記電解質溶液を前記デバイス(100、100’、100”)に供給する前に、デバイス(100、100’、100”)を介して緩衝液をランするステップを含み、前記ランニング緩衝液がpH4~pH8のpHを有する、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記アナライト(200)を含む前記電解質溶液が、0mL/min~10L/minの流量で前記溶液入口(104)に供給される、請求項24又は25に記載の方法。
【請求項27】
前記作用電極(101)及び前記対向電極(103)間に電位差を印加して前記高分子電解質コーティング(111)から前記アナライト(200)を放出するとともに前記作用電極(101)から前記アナライト(200)を溶出するするとき、0mL/min~10mL/minのランニング緩衝液流量が使用される、請求項24~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記作用電極及び前記対向電極間に電位差を印加し、それにより前記作用電極から前記アナライトを溶出するステップが、経時的に1~3600秒間の持続時間にわたり定電位差を印加することを含む、請求項24~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
印加される前記定電位差が、0V~1.5Vの大きさの正又は負電位である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記作用電極及び前記対向電極間に電位差を印加し、それにより前記作用電極から前記アナライトを溶出するステップが、前記電位差を2電位値間で連続的に変動させることを含む、請求項24~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
印加される前記電位差が、0V~1.5Vの大きさの範囲内で1~3600秒間の持続時間にわたり2つの正又は負の電圧値間で連続的に変動される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
請求項22~23のいずれか一項に記載のシステム(300)を提供すること、
濃縮対象アナライト(200)を含む電解質溶液を提供すること
前記アナライト(200)を含む電解質溶液を前記溶液入口(104)で前記ハウジング(114、115、116、117、118、119)に供給すること、
前記作用電極(101)上に配置された前記高分子電解質コーティング(111)により前記アナライトが捕捉されるように、前記溶液を前記入口(104)から前記出口(105)まで流すこと、
前記作用電極(101)及び前記対向電極(103)間に-1.5~-0.5Vの電位差を印加し、それにより前記高分子電解質コーティング(111)から前記アナライト(200)を放出するとともに、前記作用電極(101)から濃縮された前記アナライト(200)を溶出すること、
前記溶液出口(105)を介して出る濃縮された前記アナライト(101)を含む溶液を捕集すること、
を含む、電解質溶液中においてアナライト(200)を濃縮するための方法。
【請求項33】
前記溶出ステップ後、前記作用電極(101)及び前記対向電極(103)間に電位差を印加することにより、前記デバイス(100、100’、100”)をクリーン化するステップをさらに含み、前記電位差が前記溶出時に使用された前記電位差よりも高い、請求項24~32のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
[001] 本文書は、電解質溶液中におけるアナライト、たとえば、タンパク質医薬、ウイルス遺伝子ベクター、細胞外ベシクル炭水化物、又はオリゴヌクレオチドの非侵襲的分離及び濃縮のためのデバイス、かかるデバイスを含むシステム、並びにかかるデバイスの使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
[002] 緊急のグローバルな難題は、新しい生物学的医薬、たとえば、抗体、遺伝子ベクター、及びワクチンの満たされない急増する需要に応じることである。生物学的医薬は、現在のところ高価で且つ生産が遅いため、これらの救命療法のグローバルな広範にわたる使用は、大幅に制限される。かなり多くのコストのかかる且つ律速となる生産ステップは、細胞培養物の採取後の複数のクロマトグラフィーステップによる下流の精製である。
【0003】
[003] クロマトグラフィーは、固形支持体材料とさまざまな分離対象化学種の混合物で構成された移動流体相とが関与する分離方法である。固形支持体と混合物の分子との多くの異なる物理的及び/又は化学的相互作用は、固形支持体材料を介する流体の各種成分のマイグレーション速度を支配する。これにより、分離を達成するためにさまざまな機構を使用する多くの異なるモードのクロマトグラフィーが可能になる。一般的には、固形支持体の表面化学は、一特異的標的分子又はある特定の化学的特徴を有する一分子型が分子間引力、たとえば、静電引力、リガンド相互作用により固形支持体の表面に強力に接着し、一方、混合物溶液の残留成分がクロマトグラフィーカラムを介してフラッシュされ、分離の成功をもたらすように準備される。しかしながら、クロマトグラフィー固形支持体表面から結合材料の標的分子溶出物の純サンプルを取り出すことが必要とされる。これは、典型的には、標的分子と固形支持体との相互作用を破壊するなんらかの化学剤の注入を行ってクロマトグラフィーカラムの流出物からの標的分子の捕集を可能にすることにより達成される。
【0004】
[004] クロマトグラフィーは、生物学的医薬を分離するために広範に使用されており、通常のタイプとしては、アフィニティー、イオン交換、サイズ排除、逆相、及び疎水性相互作用クロマトグラフィーが挙げられる。モノクローナル抗体は、最大クラスのタンパク質医薬を構成し、その下流の精製では、プロテインAアフィニティークロマトグラフィーが標準的であり、その後、一連の異なるポリシングクロマトグラフィーステップ(たとえば、イオン交換、サイズ排除)が続く。
【0005】
[005] アフィニティークロマトグラフィー、とりわけ、タンパク質リガンドが組み込まれたものは、クロマトグラフィー樹脂(固形支持体)のコストが高いため、きわめて費用がかかる。生産コストを低減可能であればいつでも、満足な純度でアフィニティークロマトグラフィーを回避するクロマトグラフィーステップのより安価な組合せが好ましい。しかしながら、宿主細胞タンパク質、内毒素、及び血清汚染物質のような不純物のない最終物の純度に対する要求がきわめて高いため、アフィニティークロマトグラフィーは、単一ステップできわめて高い特異性を呈することから、ほとんど常に必要要件である(Kelley, B. (2007)‘Very large scale monoclonal antibody purification: The case for conventional unit operations’, Biotechnology Progress, 23(5), pp. 995-1008)。例として、プロテインAクロマトグラフィーは、分離プロセスへの最も大きな全体コスト寄与因子であるにもかかわらず、依然としてモノクローナル抗体に対する標準的クロマトグラフィー方法である。
【0006】
[006] バイオ分子のほとんどのクロマトグラフィー方法の短所は、効率的な溶出方法の欠如、つまり、プロセスにおいて物質を損傷することも汚染することもなく固形支持体表面から標的バイオ分子を除去できないことである。
【0007】
[007] 多くの標的は、高感受性2次及び3次構造を有するので、こうした構造の保持が、治療効果又は触媒機能に関してその適正機能にクリティカルである場合、バイオ分子を溶出させることはとくに困難である。現在のところ、なんらかの化学添加剤による溶出を使用しないアフィニティークロマトグラフィー方法は、まったく存在しない。組換えポリヒスチジンタグ付きタンパク質では、イミダゾール250~1000mM溶液を注入して樹脂-タンパク質結合を破壊することにより溶出を達成する場合、固定金属イオンアフィニティークロマトグラフィーは標準的クロマトグラフィーステップである。プロテインAクロマトグラフィーでは、pH2~3緩衝液をクロマトグラフィーカラムに通してフラッシュし、抗体を溶出させる。イオン交換及び疎水性相互作用クロマトグラフィーのような他のタイプのクロマトグラフィーでさえも、非常に高い塩濃度(500~1000mM)の1価塩、たとえば、KCl、NaCl、又は界面活性剤で溶出を実施することが通常である。溶出を行うための化学剤の添加は、クロマトグラフィーカラムの出口フィード中の物質に追加される。多くの場合、非常に低いpH又はイミダゾールのような反応性化学剤への長い暴露は、医薬物のアグリゲーション汚染及び収率低減のリスクをもたらす。
【0008】
[008] 患者安全性及び規制要求を遵守するために純度に対してきわめて高い要求が課される場合、生物学的医薬の製造では化学添加剤はとくに取組み困難である。例として、金属イオンキレート化クロマトグラフィーでは、ポリヒスチジンタグ付きタンパク質を結合するために使用される金属イオン(たとえば、Ni2+及びCu2+)は、溶出液中に浸出して物質の下流汚染の原因になる実質的リスクが存在する。化学添加剤を除去し、潜在的損傷を防止し、且つ純物質を取り出すための追加の処理後ポリシング操作は、有意なプロセス時間を追加する。したがって、添加剤ひいては後処理ステップの必要性を低減する新しい精製プロトコルは、生産の経済性を改善する高い潜在能力を有する。抗体以外のタンパク質のアフィニティークロマトグラフィーは、その精製に必要なタグ(たとえば、グルタチオン、ストレプトアビジンタグ系)を導入するために組換え工学操作を必要とする。融合タンパク質及びペプチドタグを装着するためにいくつかの方法が開発されてきたが、非天然アミノ酸配列は、優良製造規範を遵守するために除去及びその除去の証拠を必要とする。そのため、可能であればいつでも、融合タグ及びその除去に関連する資源要求プロトコルを必要とすることなく高い純度及び収率を達成する分離を使用することが好ましい。
【0009】
[009] タンパク質精製用クロマトグラフィーには短所があるにもかかわらず、許容可能な収率を達成可能であれば、それは強烈な化学剤が使用されるにもかかわらずタンパク質の工業的精製に使用される。要求が高いことから、製造プロセスの効率の悪さは補償される。しかしながら、現代のバイオ医薬は、ますます複雑になり、より高い要求を生産及び精製プロセスに課す。注目すべき一例は、遺伝子療法及び癌処置のためのアデノ随伴ウイルス(AAV)などのウイルスベクターである。利用可能な解決策は、純度、生産のスピード及びコストの所望の必要性を満たさない。化学剤による溶出は、ウイルスベクター、細胞外ベシクル、及び細胞のような大きなバイオ分子アセンブリーを精製するために伝統的クロマトグラフィーを使用するうえで主要な障害となる。ウイルスは、ジェネティック材料をカプセル化するとともにひいては脂質膜により包囲されうる何百ものタンパク質の3次元アセンブリーである。したがって、ウイルス構造は、単一タンパク質と比較してより狭い安定性条件を有する。ウイルスベクターは、高塩濃度、界面活性剤、及びpH勾配に対して耐容性がないおそれがある。他の主要な一問題は、バイオ分子アセンブリーのより大きなサイズである。ウイルスベクターは、タンパク質医薬の10~100倍の大きさであるので、クロマトグラフィービーズ及び樹脂の構造への取組みを困難にする。従来のクロマトグラフィー樹脂は、ウイルスに対して細孔が小さすぎるので、結果として長いプロセス時間及びクロマトグラフィーカラムが目詰まりする実質的リスクを伴って拡散限界が導入される。
【0010】
[0010] すべてのクロマトグラフィー用途において、主要課題は、溶出物の低濃度及び溶出化学剤除去の必要性である。希釈サンプルをアップ濃縮するために、遠心分離及び濾過が使用される。緩衝液交換のために透析を使用可能である。しかしながら、これらの追加のプロセスステップの各々は、そのほか収率損失を伴うので、物品の全体コスト増を招く。
【0011】
[0011] 大規模生産に適用されるクロマトグラフィー分離は、プロセス質量強度に関してきわめて非効率的である。先導的バイオ医薬会社による最近の研究では、1kgの市販のモノクローナル抗体の生産には、クリーニング操作を含めずに10,000kg近くのインプット材料が必要とされることが判明した。>60%超は、下流の精製プロセスを起源とし、水消費が最も大きな寄与因子であり、その次は化学剤及び消耗材である。開発中の医薬は、かなりより大きなプロセス質量強度を有すると予想可能である。化学剤の使用による結合及び溶出が水及び化学剤の大量消費の主要理由であり、精製サイクルを完了させるのに頻繁な洗浄、平衡化、及びコンディショニングステップが必要とされる。
【0012】
[0012] 電気化学シグナルは、電極からバイオ分子を放出させるために使用されうる(Bellare, M. et al. (2019) ’Electrochemically stimulated molecule release associated with interfacial pH changes’, Chemical Communications. Royal Society of Chemistry, 55(54), pp. 7856-7859.)。還元電位は、電極の界面のpHを増加させて塩基性pH勾配を生成するために使用されうる。酸化電位は、電極の界面のpHを低減させて酸性pH勾配を生成するために使用されうる。確立されるpH勾配は、溶液の組成に依存するであろう。重要なこととして、緩衝剤種の濃度は、pH勾配の範囲、及びレドックス活性種の濃度、及び電極表面へのその質量輸送に影響を及ぼすであろう。
【0013】
[0013] かかる既知のデバイスは、分子の低ローディングに限定され、実用的適用に必要な大きな容量の結合を阻む。さらに、放出は単回使用であり、電極は繰返し使用能を欠如する。タンパク質バイオ分子の電気化学的放出表面のメジャーな限界は、結合時の表面との強い疎水性相互作用に起因するアンフォールディングや劣化を伴うことなく表面上でバイオ分子の構造を確実に持続可能な表面コーティングの欠如である。
【0014】
[0014] バイオ治療剤生産の多くのコストのかかる及び時間を消費する部分、特定的にはクロマトグラフィーを補完する又は置き換えることの可能なバイオ分子の新しい分離技術の必要性が存在することは、広く認められている。新しい分離技術は、好ましくは、高い収率及び特異性を達成し、高速であり、環境上及び健康上の懸念のある化学剤の必要性を低減又は排除し、且つアップ濃縮や緩衝液交換などの追加の後処理ステップを低減又は排除するものにすべきである。こうした技術は、スケーラブルなもの、つまり、物品のコストやインプット材料の環境負荷及び使用を増大させることなく小スケールのμg~mgから大スケールのg~kgに移行可能なものにすべきである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
概要
[0015] 本開示の目的は、電解質溶液中におけるバイオ分子などのアナライトの他の成分からの分取スケールの分離及び濃縮のための改善された又は少なくとも代替のデバイス、システム、及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
[0016] 本発明は、添付の独立特許請求項により規定される。非限定的実施形態は、従属請求項、添付図面、及び下記説明から生じる。
【0017】
[0017] 第1の態様によれば、電解質溶液中においてアナライトを他の成分から分離するためのデバイスが提供される。デバイスは、溶液入口及び溶液出口を備えたハウジング、溶液入口及び溶液出口間のスペース中でハウジング内に配置された、且つ入口から出口に流れるように配置された電解質溶液が作用電極の少なくとも一部分に接触するように配置された、作用電極を含む。対向電極は、作用電極からある距離を置いて入口及び出口間のスペース中でハウジング内に配置され、且つ入口から出口に流れるように配置された電解質溶液を介して作用電極に電気接続するように配置される。作用電極の表面の少なくとも一部分は、高分子電解質コーティングを備え、高分子電解質コーティングは、作用電極及び対向電極間の電位差の印加により第1及び第2の状態間で切り替わるように配置され、第1の状態では、アナライトは高分子電解質コーティング中に捕捉され、且つ第2の状態では、捕捉されたアナライトは高分子電解質コーティングから放出される。
【0018】
[0018] アナライトは、たとえば、生物学的物質でありうる。アナライトは、他の成分、たとえば、他のバイオ分子及び/又は化学剤を含む電解質溶液中に提供された合成起源又は生物学的起源のオリゴヌクレオチド、タンパク質、遺伝子ベクター、脂質ナノ粒子、リポソーム、炭水化物、グリコシル化バイオ分子、又は水素結合性マクロ分子でありうる。タンパク質は、タンパク質医薬でありうる。タンパク質は、ある特定の疾患、たとえば、限定されるものではないがパーキンソン病又はアルツハイマー病に対する処置を理解する、特徴付ける、又は開発するうえで、疾患についての理解に関係する重要な役割を有するタンパク質でありうる。脂質ナノ粒子は、薬剤送達担体でありうる。リポソームは、リポソーム薬剤送達担体でありうる。アナライトは、合成分子又はポリマーとタンパク質又はオリゴヌクレオチドとの融合物又はコンジュゲート物でありうる。
【0019】
[0019] アナライトがウイルス粒子又はエキソソームのようなタンパク質又は脂質で主として構成されたタンパク質又は構築物である場合、第1の中性状態では、アナライトは非静電結合たとえば水素結合を介して高分子電解質コーティング中に捕捉され、且つ第2の荷電状態では、捕捉されたアナライトは静電反撥により高分子電解質コーティングから放出される。反対に、アナライトが炭水化物又はオリゴヌクレオチドである場合、第1の荷電状態では、アナライトは高分子電解質コーティングに捕捉され、続いて第2の中性状態への切替えの際に放出が行われる。アナライトが2つの異なる種類のバイオ分子の融合体、たとえば、オリゴヌクレオチドにコンジュゲートされた抗体である場合、捕捉及び放出のどちらのモードも可能であり、どちらが実用的に使用されるかは、分子のどの部分が相互作用に支配的であるかに依存する。最後に、高分子電解質コーティングが生物学的リガンド分子で後機能化される場合、pHの関数としてのリガンド-バイオ分子対の生理化学的結合特性は、捕捉及び放出の条件を決定するであろう。
【0020】
[0020] 電解質溶液は、電子を失った又は獲得した原子又は分子であるイオンを一般に含有する溶液であり、且つ電気伝導性である。電解質溶液は、好ましくは、アナライトの溶出をトリガーする化学剤をまったく含まない。かかる電解質溶液は、たとえば、細胞培養培地、緩衝剤溶液などである。電解質は緩衝種で構成され、1mM(きわめて低い)から100mMの生理学的緩衝剤濃度までのすべて、及び最大1Mまでが機能しうる。塩、イオンは、電荷の担体として電解質中に存在する必要がある。合計塩濃度、イオン強度は、高分子電解質コーティングのpKaに影響を及ぼすであろう。高塩濃度は高pKaをもたらし、且つ低塩濃度は低pKaをもたらすので、第1の(中性)段階及び第2の(荷電状態)間のピボット点、つまり高分子電解質コーティングがアナライト結合性及び反撥性である点でのpHを変化させる。
【0021】
[0021] 電気化学反応を可能にするために、電解質溶液はレドックス活性種を含む。かかるレドックス活性種は、電解質溶液中に本質的に存在しうるもの、たとえば、酸素、若しくはグルコース、又は電解質溶液に添加されうるもの、たとえば、ヒドロキノン、過酸化水素、塩酸ドーパミン(DOPA)、アスコルビン酸、4-アミノフェネチルアルコール(チロソール)、3,4-ジヒドロキシフェネチル酢酸(DOPAC)、β-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド、酸素、及び還元型二ナトリウム塩水和物(NADH)のどれかである。
【0022】
[0022] レドックス活性種は、高分子電解質コーティングを荷電高表面pH状態から中性低表面pH状態に切り替えることができるように存在しなければならない。中性状態及び荷電状態間で切り替えるために、レドックス活性種は、酸素の形態で溶液中に存在する。
【0023】
[0023] 高分子電解質コーティングは、作用電極のいずれかの表面上又は一部の表面上に、電極のいくつかの又はすべての表面上に配置されうる。電極が多孔性である場合、高分子電解質コーティングは、電極の細孔中にも延在しうる。
【0024】
[0024] 高分子電解質コーティングは、高分子電解質ブラシ、フィルム、ゲル、又は層の形態でありうる。かかる高分子電解質コーティングの厚さは、ナノスケールの非常に薄いコーティング(約1nm)~何マイクロメートルかまでの厚さ(約1μm)のいずれかの値でありうる。
【0025】
[0025] 高分子電解質コーティングは、作用電極及び対向電極間の電位差の印加により第1及び第2の状態間で切り替わるように配置された刺激応答性コーティングである。タンパク質アナライトの場合、第1の状態の中性状態では、アナライトは非静電結合を介して高分子電解質コーティング中に捕捉され、且つ第2の状態の荷電状態では、捕捉されたアナライトは静電反撥を介して高分子電解質コーティングから放出/溶出される。炭水化物含有アナライトの場合、第1の状態の荷電状態では、アナライトは高分子電解質コーティング中に捕捉され、且つ第2の状態の中性状態では、捕捉されたアナライトは高分子電解質コーティングから放出/溶出される。
【0026】
[0026] 高分子電解質コーティング中へのたとえばタンパク質アナライトの固定は、高分子電解質コーティングが第1の中性状態であるときに非静電結合により媒介されるので、これにより高分子電解質コーティング中へのタンパク質のそのネイティブ状態での結合が可能になる。
【0027】
[0027] デバイスを用いて、非静電分子内引力相互作用たとえば水素結合により、高分子電解質コーティングにその中性プロトン化状態にあるときに多量(マルチ層)のタンパク質をそのネイティブ状態で自発的に固定しうる。タンパク質は、高分子電解質コーティングがその中性状態に留まっていたとしても保存構造及び触媒機能を有して高分子電解質コーティング中/上に不可逆的に結合される。その第2の荷電状態に変化したとき、アナライトはコーティングから反撥される。
【0028】
[0028] 記載のデバイスは、電極のサイズ(及び高分子電解質コーティングで被覆される面積)の調整により、広範にわたる量(μg~kg)のアナライトのスケーラブル且つ繰返し可能な分離に使用されうる。
【0029】
[0029] 作用電極は、その第2の状態に切り替えたとき、捕捉されたアナライトを反撥/放出/溶出することにより再生され、高分子電解質コーティングを電極表面上に保つ。それにより、デバイスは、まったく同一の高分子電解質コーティングで被覆された同一作用電極を用いて何回か繰り返して使用可能である。環境上及び健康上の懸念のある化学剤は、捕捉されたアナライトを作用電極から放出/除去するためにまったく必要とされない。
【0030】
[0030] アナライトは、タンパク質、脂質粒子、オリゴヌクレオチド、炭水化物、又はそれらのいずれかの組合せから選択されうる。
【0031】
[0031] 作用電極の表面上に配置された高分子電解質コーティングは、アリール結合の単層を介して電極の表面に共有結合で結合されたpH応答性ポリマーを含みうる。
【0032】
[0032] 高分子電解質コーティングは、作用電極に共有結合で結合されうる。高分子電解質コーティングは、アリール結合の電気化学的非感受性単層、たとえば、ジアゾニウム塩表面機能化などにより電極表面に共有結合で連結されうる。
【0033】
[0033] 電気化学的安定化学アンカー、すなわち、アリールを含む電気化学的非感受性結合は、捕捉されたアナライトのチューナブル放出を可能にする。こうした電気化学的安定アリール結合に起因して、デバイス及び作用電極表面上の高分子電解質コーティングは、多数回再使用可能である。
【0034】
[0034] 高分子電解質コーティングは、以前に国際公開第2021/107836号に記載された。
【0035】
[0035] 作用電極及び対向電極間の電位差の印加を介して、作用電極の表面から延在する局所マイクロスケールpH勾配が生成される。pH感受性/応答性ポリマーは、表面上の局所pH差の結果としてその状態が切り替わる。pH感受性/応答性ポリマーの切替えの結果として、電極の表面による前記アナライトの捕捉又は放出のどちらかを生じ、前記アナライトとサンプルの他の成分との分離を引き起こす。分離は、同一サンプル溶液中の他の成分と比較して電極へのアナライトの異なる親和性に起因して起こる。親和性の差は、非静電分子間引力、たとえば、アナライト及びポリマー被覆電極間の水素結合を含む。さらに、それは静電引力又は反撥に起因しうる。
【0036】
[0036] pH応答性ポリマーは、カルボン酸基を含むポリマーでありうる。
【0037】
[0037] pH応答性ポリマーは、たとえば、電極の界面のpH増加又は減少の結果としてそれぞれプロトンを解離する又はプロトンを取り込む能力を有するカルボン酸基を含むポリマーでありうるとともに、pH応答性ポリマーは、たとえば、ポリ(アクリル酸)(PAA)又はポリ(メタクリル酸)(PMAA)である。
【0038】
[0038] 高分子電解質コーティング中へのタンパク質などのアナライトの固定は、高分子電解質コーティングが第1の中性状態のプロトン化状態にあるとき、カルボン酸基からの非静電多価水素結合により媒介され、タンパク質のそのネイティブ状態での結合を可能にする。
【0039】
[0039] pH応答性ポリマーは、pH応答性及びアナライト特異的リガンドで機能化されたポリマーでありうる。
【0040】
[0040] ポリマー、たとえば、以上で考察されたカルボン酸基を含むポリマー、又は他の種類のポリマー、たとえば、ポリ(グリシジルメタクリレート)、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)、ヘパリン、ヒアルロン酸、デキストランは、pH応答性及び対象アナライトへの親和性を有する機能基を含有するように修飾/機能化可能である。いくつかの場合には、ポリマーは、特異的アナライトを掴持するための「ハンドル」を生成するいくつかの機能基を有する分子で機能化される。かかるハンドルは、1つのpHではアナライト結合性でありうるとともに、他の一状態ではアナライト反撥性でありうる。
【0041】
[0041] モノマーの側基(ポリマーの繰返し基)は、たとえばリンカーとして使用可能な機能基、たとえば、カルボン酸、エポキシ基、グリシジル機能基、又は2-ヒドロキシエチル基を含有しうるとともに、そのリンカーには、酵素、ニトリロ三酢酸-金属イオン2+(NTA-Me2+)、プロテインA、プロテインG、カルモジュリン、ストレプトアビジンなどが固定されうる。それにより、ポリマーは、酵素、NTA-Me2+、プロテインA、プロテインG、カルモジュリン、又はストレプトアビジンであるアナライト特異的リガンドで機能化されうる。
【0042】
[0042] ニトリロ三酢酸-金属イオン2+のNTA-Me2+リガンドは、たとえば、TRIS 50mM及びNaCl 250mMで構成された緩衝液中で、Hisタグ付きタンパク質と強力且つ特異的に相互作用する。NTA-Me2+で機能化された作用電極からのHisタグ付きタンパク質の溶出/放出は、アナライト-ポリマー結合を破壊して表面からの前記アナライトの溶出をもたらすNTA-Me2+リガンドの配位金属のレドックス反応をもたらす負電位の印加により達成されうる。NTA-Me2+表面からのHisタグ付きタンパク質の溶出は、酸化を行うことにより局所酸性pH勾配を生成してNTA-Me2+及びHisタグ付きタンパク質間のpH感受性金属イオンキレート化結合の破壊をもたらすヒドロキノン又は類似の化学剤の存在下で正電位の印加により達成されうる。
【0043】
[0043] 高分子電解質コーティングは、標的アナライト、たとえば、モノクローナル抗体、エキソソーム、ウイルスキャプシド、又は酵素との高特異的相互作用を達成するために、リガンド、たとえば、限定されるものではないがプロテインAを含有する生物学的分子で機能化されうる。
【0044】
[0044] pH応答性及びアナライト特異的リガンドは、酵素、NTA-Me2+、プロテインA、プロテインG、カルモジュリン、又はストレプトアビジンでありうる。
【0045】
[0045] たとえば、NTA-Me2+又はプロテインA機能化ポリマーを用いると、強烈な溶出緩衝液をなんら用いることなく、デバイスを使用してHISタグ付きタンパク質を分離又は濃縮することが可能である。アナライトを溶出するために、作用電極及び対向電極間の電位差のみが印加される。
【0046】
[0046] 溶液入口から溶液出口に向かう電解質溶液のフロー方向に直交する平面内で見て、作用電極の70~100%は対向電極にオーバーラップしうる。
【0047】
[0047] それにより、作用電極上でより効率的な電気化学反応を行いうる。作用電極及び対向電極のオーバーラッピング/絡合いにより、電解質溶液の距離を最小限に抑えうるとともに、2つの電極間でより大きな直接表面積露出を達成しうる。
【0048】
[0048] 電極間の平均距離は、1μm~200mmでありうる。
【0049】
[0049] 一実施形態では、平均距離は1μm~20μmのより短い距離であり、他の一実施形態では、距離は1μm~200mmでありうる。
【0050】
[0050] 第1の場合、電気化学シグナルが印加されたとき、作用電極のみがpH勾配を生成する。対向電極が作用電極上で生成された対応するpH勾配を打ち消す/中和する電気化学的pH勾配を引き起こさない場合、電極間距離はわずか数マイクロメートル分離されうる。距離は、1~10μm、1~5μm、5~10μm、又は10~15μmでありうる。
【0051】
[0051] 第2の場合、電気化学シグナルは、作用電極及び対向電極上で反対のpH勾配を生成する。
【0052】
[0052] 電気化学電位を印加することにより対向電極が作用電極上のpH勾配を打ち消すpH勾配を生成するとき、ミリメートルスケールで分離をより大きくする必要がありうる。すなわち、距離は、1~10mm、10~20mm、20~200mmでありうる。例として、対向電極は塩基性pH勾配を引き起こしうるとともに、作用電極は酸性pH勾配を引き起こしうる。ある流量下で2つの界面の液体が非常に近くで接触する場合、pHへの影響は中和となって放出が防止されるであろう。電気化学により生成されるpH勾配が一方のみである場合、すなわち、対向電極がプロトン発生/消費を伴うことなくファラデー反応を行う場合、又は電荷移動が主に2重層電荷蓄積により起こる場合、作用電極及び対向電極間の距離を制限する必要はまったくない。
【0053】
[0053] 作用電極上に設けられた高分子電解質コーティングの平均厚さは、10~50nmでありうる。
【0054】
[0054] 作用電極上に設けられた高分子電解質コーティングの平均厚さは、10~50nm、又は10~40nm、又は10~30nm、又は20~50nm、又は20~40nm、又は20~30nmでありうる。
【0055】
[0055] デバイスをアフィニティークロマトグラフィー用途に使用する場合、高分子電解質コーティングのかかる厚さは、作用電極からの溶出時にアナライトの放出を可能にする。10~50nmのコーティングであれば、pH勾配が高分子電解質コーティング内の十分に高い又は低いpH値に達してアナライト-親和性リガンド相互作用を破壊することが可能である。
【0056】
[0056] 作用電極により占有されないハウジングの内体積は、5%~75%でありうる。
【0057】
[0057] 作用電極により占有されないハウジングの内体積は、5~75%、又は10~75%、又は20~75%、又は30~75%、50~75%の、又は5~70%、又は5~60%、又は5~50%、又は5~30%、又は5~20%、又は5~10%、又は10~30%でありうる。
【0058】
[0058] これはサンプルの濃縮可能性に影響を及ぼす。というのは、作用電極により占有されないハウジングの内体積のパーセンテージは、溶出の際のアナライトサンプルの希釈効果に寄与するからである。
【0059】
[0059] しかしながら、ハウジングの内体積内の作用電極のパーセンテージをより低くしても、結合されたアナライトのすべてが電気化学電位により1秒の何分の1か以内で即時に放出されるという事実により補償さらには過補償されうる。放出は、電気化学電位のチューニングによりマイクロ秒程度の速さにしうる。その効果は、内ハウジングの捕捉スキャフォールドからのアナライトの放出を達成するために内側完全混合を必要とする溶液のpH変化により可能なことを超えたアナライトサンプルの高濃縮溶出である。
【0060】
[0060] 作用電極は、多孔性でありうるとともに、電解質溶液が入口から作用電極の少なくとも一部分を通って出口まで電極を貫流できるようにハウジング内に配置されうる。
【0061】
[0061] 多孔性電極を用いると、マイクロメートルアパーチャーを介して溶液を濾過しうる。それにより、不純物やアグリゲートのような大きな物体の分離が達成可能になる。マイクロメートルアパーチャーはまた、表面へのアナライトの高結合能を促進する高表面積を可能にする。
【0062】
[0062] 作用電極は、固形でありうるが結合能を増大させるマイクロ構造化表面を有しうるとともに、その場合、フローは、電極表面に対して接線方向に通過する。
【0063】
[0063] 作用電極の主要な延在方向は、溶液入口から溶液出口へのフロー方向に実質的に垂直な方向に延在しうる。
【0064】
[0064] 作用電極は、40%~99%の多孔率を有しうるとともに、作用電極の電気活性表面積は、100~10,000m/mでありうる。
【0065】
[0065] 多孔率は、40%~99%、又は50~99%、又は60~99%、又は70~99%、又は80~99%、又は50~90%、又は50~80%、又は50~70%、又は50~60%、又は60~80%でありうる。
【0066】
[0066] 99%までの高多孔率は、たとえば、フォーム又はスポンジ材料を電極に用いることにより得られうる。40%以上の多孔率は、たとえば、メッシュ電極を用いることにより得られうる。
【0067】
[0067] 作用電極の電気活性表面積は、100~10,000m/m、又は500~10,000m/m、又は1,000~10,000m/mでありうる。
【0068】
[0068] 多孔率をより高くすると、改善された物質移動が達成される。
【0069】
[0069] 多孔率が高いと、表面への対流物質移動が増強され、より低速のプロセスである表面へのアナライトの拡散に依拠する必要性が低減される。
【0070】
[0070] 作用電極の多孔率が高いと、デバイスの両端間の圧力低下が低減されるので、高圧フルイディックコンポーネントを使用する必要性が低下するとともに電力消費が低減される。圧力及び効果的物質移動は両方とも、デバイスをg~kgスケールにスケールアップするうえで重要である。
【0071】
[0071] 多孔性内部表面領域がナノスケールの粗さを有する場合、電気活性表面積は、作用電極の標準的表面積を超えて実質的に改善されうる。
【0072】
[0072] 作用電極は、好ましくは、高多孔率95%であるとともに、5000cm2/cm3の表面積を有し、且つ秩序細孔構造である。
【0073】
[0073] 100~10,000m/mの表面積の作用電極は、還元剤の濃度が1nM~100mMの範囲内であるとして、還元剤を用いた電気触媒反応により作用電極表面から少なくとも5マイクロメートル遠くまで延在するpH勾配を生成する能力を有する。
【0074】
[0074] 特異的作用電極材料は、さまざまな電気触媒能力を有する。還元剤を含有する電解質溶液を選択するとともに、この化合物を電気触媒してpH勾配を生成する作用電極材料の能力にマッチしたものにすることが好ましい。例として、酸性pH勾配を生成するための還元剤としてのヒドロキノンは、ステンレス鋼作用電極上では低電気活性を有するが、金及び白金被覆表面並びにナノ粒子上では高電気活性を有する。アスコルビン酸は、カーボンベース電極上では効率的に電気酸化されてpH勾配を生成するが、ステンレス鋼、金、又は白金上ではアナライト溶出を効率的にトリガー可能なpH勾配を生成するのに有用でない。さらに、いくつかの還元剤は、ほとんどの基材上で良好に機能し、酸素は、多種多様な電極材料上で簡単に還元されて塩基性pH勾配を生成する。
【0075】
[0075] 作用電極が多孔性フォーム構造である場合、それは1インチ当たり10~100細孔を有しうる。
【0076】
[0076] 作用電極がマイクロメートルメッシュ構造である場合、細孔サイズは10~0.01マイクロメートルでありうる。
【0077】
[0077] 作用電極は、好ましくは、サイズ1マイクロメートルの細孔又は開口を有する。作用電極の細孔又はチャネルは、好ましくは、オープンエンドのみであり、デッドエンドはまったくない。電極は、ウィーブパターンで製造されるような秩序細孔又はフォーミング型製造プロセスからのランダム細孔を有しうる。
【0078】
[0078] 対向電極は多孔性でありうる。
【0079】
[0079] 作用電極及び対向電極は、入口から出口に流れるように配置された電解質溶液が最初に作用電極を介して、次いで対向電極を介して又は通って進行するようにハウジング内に配置されうる。
【0080】
[0080] フローは、最初に作用電極を介して、次いで対向電極を介して又は通って進行する。それにより、電解質溶液のフロー方向は、作用電極表面からのアナライトの溶出をもたらす作用電極上の所望のpH勾配効果を打ち消さない。対向電極は、作用電極上に確立された電気触媒pH勾配を打ち消して/中和して作用電極表面からのアナライトの所望の溶出効果を除去する、電解質溶液を輸送する電気触媒pH勾配を生成しうる。
【0081】
[0081] フローは、作用電極構造を通って実質的に鉛直に進行しうる。
【0082】
[0082] 作用電極内の内部ボイドスペースは、作用電極を介して進行する電解質溶液が少なくとも1~20μmの大きさの電気化学的pH勾配を生成するように構成されうる。
【0083】
[0083] 作用電極の内部ボイドスペースとは、ここでは電解質溶液が占有可能な作用電極内の体積を意味する。電気化学的pH勾配は、1~20μm、又は1~10μm、又は1~5μm、又は5~10μmである。
【0084】
[0084] 作用電極は、マイクロ多孔性構造を有しうるが、作用電極を含むシート間にpH勾配を生成する可能性を低減するようにスタックすることも可能である。したがって、スタッキングは、全電極材料全体にわたり電気接続性を可能にすると同時に、電解質溶液が作用電極の最大表面領域上で1~20μmのスペースを占有できる十分なボイドスペースを維持することも重要である。
【0085】
[0085] 作用電極及び対向電極は、ハウジング内のボイド/デッド体積を最小限に抑えるように、すなわち、いずれのアナライトも捕捉しないハウジングの内部体積を最小限に抑えるように製造されデバイス中に組み込まれうる。ハウジング内のボイド/デッド体積を最小限に抑えることにより、同時にデバイスの電気化学的性質が最適化され、高濃度のアナライトの電気化学的放出を達成可能な条件が促進される。
【0086】
[0086] デバイスは、高電流/電荷移動容量の能力のある多孔性材料で作られうる対向電極を含有する。
【0087】
[0087] 対向電極は、高静電電荷貯蔵を有しうる。すなわち、非常に大きな表面積で且つたとえば活性炭のような好適な材料で生産することにより、2重層中に電荷を貯蔵しうる。
【0088】
[0088] 対向電極表面は、たとえば、白金のような高触媒性元素でドープしてファラデー電気化学反応により電荷を移動する非常に高い触媒能を有しうる。
【0089】
[0089] 対向電極は、高静電電荷貯蔵と高効率のファラデー電荷移動との組合せを有しうる。
【0090】
[0090] 対向電極は、pH変化をもたらさないファラデー反応による電荷移動を行いうる。
【0091】
[0091] プロセス溶液は、対向電極上でのpH変化を促進しないひいては作用電極上でのpH変化への干渉リスクを制限する、対向電極上での電気触媒変換を可能にする化学剤を含有しうる。
【0092】
[0092] 対向電極は、作用電極とは異なる材料で作られうるとともに、対向電極は、十分な電流容量を有するように最適化される。
【0093】
[0093] デバイスは、同一材料で作製された作用電極及び対向電極を含有しうるとともに、その場合、対向電極の有効表面積は、±1.5Vの全水系電位範囲内で作用電極上の制御規定電圧を設定できる電流の供給を可能にする対向電極の十分な電流容量を可能にするように作用電極の有効表面積の少なくとも2倍であれば好ましい。
【0094】
[0094] 作用電極及び対向電極は、好ましくは、プロセス溶液への暴露時又は電気化学シグナルの印加時に永久化学変化を受けないイナート材料である。
【0095】
[0095] デバイスは、電極間のいずれかの体積関係を許容するとともに依然としてアナライトの放出に必要とされる規定電圧を設定するための電流密度を可能にする、異なる電気触媒能の作用電極及び対向電極を含みうる。
【0096】
[0096] デバイスは、作用電極の体積と対比して対向電極の小型化を可能にする触媒ナノ粒子又はなんらかの他の表面改質を有する工学操作対向電極を含みうる。
【0097】
[0097] デバイス内側シェルは、デバイス壁の構造中への1つ又は複数の電極のインテグレーションを許容し、デバイス内側体積のさらなる最適化をもたらす伝導性材料で3Dプリントされうる。
【0098】
[0098] デバイスは、内部ボイド体積を低減して溶出アナライトサンプルの濃度を増加させつつ、デバイスの効率的電気化学的性質を許容すべくシステム内の電極のすべての間で十分な体積接触を有するように設計されうる。
【0099】
[0099] デバイスは、作用電極、対向電極、及び参照電極を有する3電極セットアップでありうる。
【0100】
[00100] デバイスは、参照電極を省略して作用電極及び対向電極の2電極のみを有しうる。
【0101】
[00101] デバイスは、ハウジング内に配置された且つ作用電極及び対向電極が電解質溶液を介して電気接続されるように配置された参照電極をさらに含みうる。
【0102】
[00102] 参照電極は、安定な周知の電極電位を有しうるとともに、電位制御及び測定のための参照点として使用される。作用電極及び対向電極は、同一電解質溶液中に配置されうるとともに、参照電極は、参照溶液を含有する別のチューブ内に配置されうる。参照電極は、塩化銀コーティング(AgCl)を有する銀ワイヤで作製されうるか、又はAgClコーティングを有する銀粒子で被覆されたカーボン電極などの電極であり、参照電極は、アナライト溶液に直接暴露されるか、又はイオンは輸送可能であるがアナライト溶液中に存在するアナライトや他の分子は輸送可能でない半透膜により分離される。半透膜によりシールドされた参照電極では、使用された参照電極溶液は、3M塩化カリウム(KCl)であり、それはまた、AgCl参照電極を貯蔵するために使用された溶液でもあった。参照電極は、原理的には、安定な周知の参照電極電位を有するいずれかの電極、たとえば、標準水素電極、飽和カロメル電極、又は硫酸銅電極でありうる。作用電極、対向電極、及び参照電極は、好ましくは、下流プロセスに有害な元素及び化合物、たとえば、金属イオン、ラジカル、及びアナライトと反応しうる他の化合物を能動的にも受動的にも浸出しないような材料で製造及び構成される。
【0103】
[00103] 参照電極は、対向電極から1~50mmの平均距離で及び作用電極(101)から1~50mmの平均距離で配置されうる。
【0104】
[00104] 平均距離は、対向電極及び作用電極から、それぞれ、1~50mm、1~300mm、1~20mm、1~10mm、1~5mm、5~30mm、10~20又は5~10mmでありうる。
【0105】
[00105] それにより、多孔性電極で構成された3電極システムの非補償溶液抵抗が低減され、システムの電荷移動が増強される。
【0106】
[00106] デバイスは、ハウジング内の作用電極及び対向電極間に配置されたイオン選択性メンブレンをさらに含みうる。
【0107】
[00107] イオン選択性メンブレンの存在に起因して、対向電極で形成された少なくともいくつかの反応生成物、たとえば、H、他の反応性酸素種、又は電気触媒作用を介して不純物により生成された反応性レドックス種、たとえば、酵素は、作用電極に達することがイオン選択性メンブレンにより止められうる。たとえば、スルホン化テトラフルオロエチレン、ポリ(スチレンスルホネート)などのイオン交換メンブレンは、作用電極コンパートメント中の流体成分を以上に記載の対向電極コンパートメント中に存在しうるものから保護するように作用するとともに、依然として電荷担体がメンブレンを透過して電気回路を完了することを可能にする。
【0108】
[00108] 対向電極の表面の少なくとも一部分は、作用電極と同一の高分子電解質コーティングを備えうる。
【0109】
[00109] 作用電極及び対向電極が両方ともpH応答性高分子電解質コーティングを有して提供される場合、電極間で高速切替えを行うことが可能である。第1のランでは、作用電極は作用電極として使用され、対向電極は対向電極として使用される。第2のランでは、対向電極は作用電極として使用され、作用電極は対向電極として使用される。
【0110】
[00110] 以上に記載のデバイスは、2つの接続されたチャンバー、すなわち、イオン透過性メンブレンにより分離された作用電極用の1つのチャンバー及び対向電極用の1つのチャンバーを含みうる。
【0111】
[00111] 別々のチャンバーのため、必要とされるとき、デバイスのパーツの交換が促進される。それにより、活性材料のアナライトに対してボイドスペースの最適化が可能になる。
【0112】
[00112] 装着機構によりロック一体化された2つの接続されたチャンバーは、デバイス内の電極の挿入を促進しうる。
【0113】
[00113] 第2の態様によれば、電解質溶液中においてアナライトを他の成分から分離するためのシステムが提供される。システムは、以上の記載のデバイス、作用電極及び対向電極間の電位差を印加するための配置物、溶液入口で電解質溶液をハウジングに供給するように配置されたフローシステム、並びに溶液出口を介してデバイスから出る溶液及びアナライトを捕集するためにハウジングの溶液出口に配置された溶液捕集システムを含む。
【0114】
[00114] 電位差を印加するための配置物は、対向電極を介して電流を供給することにより作用電極及び参照電極間の電圧差を制御するポテンシオスタットでありうる。配置物は、3電極システムでありうるか、又は参照電極を省略して配置物を作用電極及び対向電極のみを有する2電極システムにしうる。
【0115】
[00115] 参照電極の目的は、イナートの周知の参照点をもたせることであり、この場合、最小限の電流が参照電極を介して流れるが、作用電極との電位差は確実に規定可能であり、1Vの電圧は常に約1Vに対応し、別々の電気化学実験、文献値、及び標準電極電位表の1Vと比較可能である。例として、AgCl参照電極を用いてステンレス鋼作用電極に-1Vを印加すると、酸素還元反応が起こって作用電極界面上のプロトンの消費をもたらし、その結果、表面pHが上昇するであろう。
【0116】
[00116] デバイスで参照電極を省略して作用電極及び対向電極のみを使用した場合、十分に特徴付けられた参照点は失われる。-1Vを印加しても、標準電位の他の文献値と容易に比較できない。対向電極は、その電気触媒性を変化させる永久的又は一時的変化を受けるおそれがあり、アナライト溶出をトリガーするのに十分な程度に強いpH勾配を生成するのに必要とされる電位差のシフトの原因となる。
【0117】
[00117] デバイスのすべての実施形態において、電位は作用電極及び対向電極間に印加される。
【0118】
[00118] デバイスの使用方法では、使用される規定電圧値は、作用電極及び参照電極間の電位差を意味する。
【0119】
[00119] 対向電極が10~1000サイクルの多くのサイクルにわたり電気化学的性質のドリフトがほとんどなく相対的にイナートであると特徴付けられ知られている十分に確立された電気化学プロセスでは、参照電極は冗長パーツでありうる。それにより、単純化された2電極システムを使用可能であろう。
【0120】
[00120] 2電極システムでは、原理的にはデバイス用電源としてDCバッテリーを単純に接続することにより電位を印加可能であろうから、ポテンシオスタットもまた冗長になりうる。
【0121】
[00121] 2電極パーツを有するシステムの単純化は、より単純なシステムを含み、デバイスの電極に電力を供給するために適切な電圧ウィンドウ0~1.5Vのバッテリーを使用可能であろう。
【0122】
[00122] 溶液出口では、出口から出る溶液が捕集される。デバイスから出る溶液は、画分ごとに捕集されうる。この溶液は、異なる成分の画分を含む。印加される電圧に依存して、異なるアナライトがデバイスから溶出される。
【0123】
[00123] システムは、溶液出口で捕集された溶液の内容物を解析するために配置された溶液解析デバイスをさらに含みうる。
【0124】
[00124] 溶液解析デバイスは、たとえば、UVアナライザー、蛍光検出アナライザーを含むか、又は解析は、ナトリウムドデシルスルフェート-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)、若しくは他の解析アッセイにより実施されうる。
【0125】
[00125] 第3の態様によれば、電解質溶液中においてアナライトを他の成分から分離する方法が提供される。本方法は、以上に記載のシステムを提供すること、電解質溶液中において他の成分から分離されるアナライトを含む電解質溶液を提供すること、アナライトを含む電解質溶液を溶液入口でハウジングに供給し、作用電極上に配置された高分子電解質コーティングによりアナライトが捕捉されるように入口から出口に溶液を流すこと、作用電極及び対向電極間に電位差を印加し、それにより高分子電解質コーティングからアナライトを放出し、作用電極からアナライトを溶出すること、及び溶液出口を介して出たアナライトを含む溶液を捕集すること、を含む。
【0126】
[00126] 作用電極に結合されたアナライトの溶出、放出は、表面pHひいては作用電極上の高分子電解質コーティング及び結合されたアナライト間の分子間相互作用を改変する電位差、電気化学シグナルを印加することにより達成可能である。
【0127】
[00127] 電気化学電位は、両者間の特異的相互作用を破壊してデバイスの溶液のpHを変化させることなく溶出をもたらす局所pH勾配を生成する。
【0128】
[00128] 一方法では、好ましい結合条件は、中性pH~弱塩基性pH、たとえば、pH7~8で機能化高分子電解質コーティングへのアナライトの導入により達成され、この場合、高特異的リガンドとの即時結合が行われる。
【0129】
[00129] 電解質溶液のイオン濃度を変化させることにより、高分子電解質コーティングのpKaひいてはアナライト及び高分子電解質コーティング間の引力及び反撥相互作用の条件を変化させることが可能である。これにより、アナライトが自発的に高分子電解質コーティングに結合するpHを変化させることが可能である。例として、より低い合計塩濃度では、カルボン酸で構成された多酸コーティングのpKaは中性pHに上昇するので、弱酸性pHではなく中性pHでバイオ分子の捕捉を行うことが可能になる。
【0130】
[00130] 一方法では、電解質溶液の合計塩濃度及び緩衝剤能が低いと、非常に小さな電流(<100μA)及び電位(±100mV)の印加により界面pHの高感度切替えが可能になる。
【0131】
[00131] 本方法は、アナライトを含む電解質溶液をデバイスに供給する前にデバイスを介して緩衝液をランさせるステップを含みうるとともに、ランニング緩衝液は、pH5~pH7.5のpHを有する。
【0132】
[00132] pHは、アナライトが電極に自発的に結合する特異的pH及び溶液組成との組合せでアナライト用緩衝液の好ましい選択に基づいて選ばれる。
【0133】
[00133] 緩衝液は、分離が行われるべき選択されたpH及び塩濃度でシステムを平衡化するバックグラウンド緩衝液として使用される。ランニング緩衝液は、作用電極に結合しない。アナライト相互作用が有利であると、デバイスの作用電極への前記アナライトの結合がもたらされる。
【0134】
[00134] 使用されるランニング緩衝液は、アナライトに有害である、劣化を引き起こす、環境上の懸念のある、又は有意にプロセスコスト増を招くおそれのあるいずれの化学種も含まない緩衝液である。かかるランニング緩衝液の例及びかかる緩衝液の濃度は、イミダゾール500mM、高酸性緩衝液、たとえば、pH2~3 100mM酢酸緩衝液、又は0.1Mグリシン×HCl pH2~3、水酸化ナトリウム0.5M、有機界面活性剤及び有機溶媒、たとえば、エチレングリコール、グリセロール、PEG、アミノ酸、ナトリウムアルキルスルフェートである。
【0135】
[00135] アナライトを含む電解質溶液は、0mL/min~10L/minの流量で溶液入口に供給されうる。
【0136】
[00136] それにより、作用電極の高分子電解質コーティングへのアナライトの効率的結合に十分な滞留時間を提供するとともに、全アナライトサンプルがデバイスを貫流できるようにして取込みを最大化する。
【0137】
[00137] 高分子電解質コーティングからのアナライトの放出を媒介する作用電極及び対向電極間の電位差を印加するとき、ランニング緩衝液流量は、停滞0mL/min~10L/minのいずれかの値でありうる。
【0138】
[00138] 電位差を印加するのに好ましい流量値は、相対的に低い0~2mL/minの範囲内の値である。電気化学電位を実現する間の好適な流量範囲は、0.01~0.6mL/minである。
【0139】
[00139] ランニング緩衝液流量は、電位の印加の継続時間全体を通して変動されうる。
【0140】
[00140] それにより、高分子電解質コーティング内の表面pH値を十分にシフトさせてアナライトの放出をトリガーする電気化学的pH勾配の確立が促進される。
【0141】
[00141] 電気化学電位をオフにする5~15秒前、ランニング緩衝液の流量は、好ましくは、少なくとも5倍に上昇される。例として、電気化学的溶出を実施する間、流量が0.1mL/minである場合、シグナルをオフにする前、流量を0.5mL/minに一時的に増加させることが望ましい。
【0142】
[00142] それにより、アナライトは、作用電極表面から離れるように迅速に輸送されるので、作用電極の表面のpHが安定ランニング緩衝液pH値に戻ったときに作用電極の表面へのアナライトの再結合が防止される。
【0143】
[00143] 作用電極からアナライトを溶出するための全範囲は、0.01mL/min~10mL/minのランニング緩衝液流量でありうる。
【0144】
[00144] それにより、アナライトの高速排除が可能になる。
【0145】
[00145] 作用電極上に配置された高分子電解質コーティングによりアナライトが捕捉されるように電解質溶液が入口から出口に流れるようにするステップの後、デバイスは、デバイスの内側体積から溶液中の非結合アナライト及び他の成分を除去するために濯がれうる。
【0146】
[00146] 作用電極及び対向電極間に電位差を印加し、それにより作用電極からアナライトを溶出するステップは、経時的に定電位差を印加することを含みうるとともに、持続時間は1秒間~3600秒間でありうる。それは1~10秒間、10~30秒間、30~60秒間、60~120秒間、又は120~300秒間、又は300~600秒間でありうるとともに、それはまた600~3600秒間の長さでありうる。
【0147】
[00147] それにより、pH勾配が確立される。pH勾配の範囲は、(i)表面pHを改変する電気化学反応を打ち消す溶液の緩衝剤能、及び(ii)表面上の電気化学反応の速度を決定する電気化学電位の大きさ、(iii)電気活性種、すなわち、プロトン受容性種又はプロトン供与性種の濃度、(iv)緩衝液の流量更新並びにデバイスを介する物質移動性拡散及び対流により主に決定される。
【0148】
[00148] 印加される定電位差は、0V~1.5Vの大きさの正又は負電位でありうる。
【0149】
[00149] 電位差は、プロトンを生成又は消費してpHを変化させることが可能なレドックス種の存在下で印加される。
【0150】
[00150] 電極の表面上のpHを低下させることが意図される場合、電位は正であり、表面上のpHを増加させることが意図される場合、電位は負である。
【0151】
[00151] 作用電極及び対向電極間に電位差を印加し、それにより作用電極からアナライトを溶出することは、経時的に2電位値間で電位差を連続的に変動させることを含みうるとともに、持続時間は1秒間~600秒間でありうる。それは1~10秒間、10~30秒間、30~60秒間、60~120秒間、又は120~300秒間、又は300~600秒間でありうるとともに、それはまた600~3600秒間の長さでありうる。
【0152】
[00152] 可変電気化学電位の印加により、可変電気化学電位は、可変pH勾配を確立するであろう。この場合、以上に挙げた効果に加えて、電位変化の速度は、pH勾配の範囲に影響を及ぼすとともに、表面pHの変化の時間変動をもたらすであろう。可変電位は、電位差のステップワイズ増加でありうるとともに、電極及びアナライト間の正味の静電反撥を生成するpHのステップ増加をもたらす。印加される電位差は、0V~1.5Vの大きさの範囲内で且つ1~3600秒間の持続時間にわたり2つの正又は負の電圧値間で連続的に変動されうる。
【0153】
[00153] 持続時間は、1秒間~600秒間でありうる。それは1~10秒間、10~30秒間、30~60秒間、60~120秒間、又は120~300秒間、又は300~600秒間でありうるとともに、それはまた600~3600秒間の長さでありうる。
【0154】
[00154] 電圧が変動される選択電位ウィンドウは、電極表面pHを改変するどのレドックス活性種が存在するかに依存して変動しうる。表面上の局所pHは、使用される電位ウィンドウ及び電圧値と表面上に生成される実際のpHとを関連付ける解析技術を用いて測定されうる。
【0155】
[00155] アナライトを溶出するために、可変電位差を提供することと定電位差を提供することとを組み合わせうる。たとえば、初期に可変電位、続いて定電位差を使用しうる。
【0156】
[00156] 電位差を連続的に且つ異なるスピードで変動させることにより、単に電位を突然印加することと比較して、高い分解能の分離を得ることが可能であり、高分子電解質コーティングとの相互作用の変化に合わせてアナライトを徐々に分離することが可能である。
【0157】
[00157] 電位を変動させることにより、ジェネティック材料で満たされたウイルスキャプシドなどのある特定のアナライトを空のウイルスキャプシド又は部分的に空のウイルスキャプシドから及び宿主細胞タンパク質から選択的に脱着することが可能である。
【0158】
[00158] 等電点差によるアナライトの分離の分解能は、満たされた及び空のウイルスキャプシド間の分離に関しては、等電点差である0.4pH単位程度の低さでありうる。
【0159】
[00159] ある特定の等電点のバイオ分子がポリマー表面から脱結合される電位差の印加により、残留アナライト分子は、電解質溶液中に存在しうるバイオ分子不純物及び他の不純物から分離される。
【0160】
[00160] 電気化学シグナルの使用により、作用電極に結合されたアナライトのすべて/大多数を即時放出可能であるので、希釈サンプルから分離される純アナライトサンプルの濃度を増加させることが可能である。
【0161】
[00161] 1電気化学シグナルで、アナライトサンプル濃度を少なくとも20倍に増加させることが可能である。
【0162】
[00162] 作用電極の表面へのアナライトの結合は、アナライトの損失が低く、きわめて効率的でありうる。
【0163】
[00163] サンプル保持、すなわち、電気化学シグナルにより回収される結合されたアナライトの量は、限定されるものではないが最大94%まで測定された。
【0164】
[00164] デバイスを用いて、サンプル保持及び緩衝液交換によるインラインアップ濃縮は、遠心分離や透析のようなオフライン処理と比較してきわめて競争力のある数値で達成された。
【0165】
[00165] 第4の態様によれば、以上に記載のシステムを提供すること、濃縮対象アナライトを含む電解質溶液を提供すること、アナライトを含む電解質溶液を溶液入口でハウジングに供給し、作用電極上に配置された高分子電解質コーティングによりアナライトが捕捉されるように入口から出口に溶液を流すこと、作用電極及び対向電極間に-1.5~-0.5Vの電位差を印加し、それにより高分子電解質コーティングからアナライトをただちに放出すること、濃縮されたアナライトを作用電極から溶出すること、溶液出口を介して出る濃縮されたアナライトを含む溶液を捕集すること、を含む、電解質溶液中においてアナライトを濃縮する方法が提供される。
【0166】
[00166] 電位は、作用電極及び対向電極間に印加される。使用される規定電圧値は、以上の通り、作用電極及び参照電極(使用したときに)間の電位差を意味する。
【0167】
[00167] 濃縮方法は、アナライト物の実質的収率損失を引き起こすおそれのある遠心分離や透析によるオフラインの追加の後処理操作を必要としないアナライトのサンプルを生成し、さらにアナライトサンプルは、アナライトサンプルを汚染するおそれのある高濃度の塩、界面活性剤、有機化学剤、又は高酸性若しくは塩基性pH溶液のような溶出化学剤を含有しない。
【0168】
[00168] 本方法は、溶出ステップ後、作用電極及び対向電極間に電位差を印加することにより、デバイスをクリーン化するステップをさらに含みうるとともに、その電位差は、溶出時に使用される電位差よりも高い。
【0169】
[00169] 溶出後のクリーニングは、ディスアセンブリーを行うことなく作用電極の表面のクリーニングをもたらす高い一時的表面pHを達成するのに必要とされるよりもわずかに高い電位の印加を行って、作用電極に結合されたいずれの最終的非結合バイオ分子も除去する作用電極の電気化学クリーニングにより実施されうる。
【0170】
[00170] 代替的に、クリーニングは、デバイスを介してクリーニング溶液を流すことにより実施されうる。
【図面の簡単な説明】
【0171】
図面の簡単な説明
図1a】[00171]電解質溶液中においてアナライトを他の成分から分離するためのデバイスを示す。
図1b】[00171]同一デバイスを断面図で示す。
図1c】[00172]電解質溶液中においてアナライトを他の成分から分離するための図1aに類似したデバイスを示す。
図1d】[00172]同一デバイスを断面図で示す。
図2a】[00173]電解質溶液中においてアナライトを他の成分から分離するためのシステムを示し、システムは図1aのデバイスを含む。
図2b】[00174]電解質溶液中においてアナライトを他の成分から分離するためのシステムを示し、システムは図1cのデバイスを含む。
図3a】[00175]2つの接続されたチャンバーを含有する図1aのデバイスの実施形態を示し、1つのチャンバーは対向電極用であり、1つのチャンバーは作用電極用である。
図3b】[00175]2つの接続されたチャンバーを含有する図1aのデバイスの実施形態を示し、1つのチャンバーは対向電極用であり、1つのチャンバーは作用電極用である。
図3c】[00175]同一デバイスを断面図で示す。
図4a】[00176]作用電極が中空シリンダーを含むデバイスの実施形態を示す。液体は、作用電極のマントル表面を介して進行するように且つシリンダー形電極の中心軸を横切るように配置される。
図4b】[00176]同一デバイスをトップからボトムに切断した断面図で示す。
図4c】[00176]同一デバイスを中間セクションを介して切断した断面図で示す。
図5a】[00177]高分子電解質コーティングが作用電極上にどのように配置されるか並びにかかる機能化作用電極が作用電極及び対向電極間の電位差の印加によりどのように溶液中でタンパク質を捕捉し放出するかを例示する。
図5b】[00178]高分子電解質コーティングがデバイス内の多孔性作用電極上にどのように配置されるか並びにかかる機能化作用電極が作用電極及び対向電極間の電位差の印加によりどのように溶液中でタンパク質を捕捉し放出するかのクローズアップ例示である。
図6】[00179]pH5に設定されたヒト血清が電気化学シグナルを用いた選択的溶出により捕捉され分離される場合のクロマトグラムを示す。[00180]
図7】[00181]図に示されるように電位の大きさのステップワイズ増加の電気化学によりBSAが捕捉され放出される場合のPAA機能化ステンレス鋼表面のQCMDセンサーグラムを示す。
図8】[00182]作用電極上の高分子電解質コーティング中に捕捉されたタンパク質BSAの電気化学的溶出を示すクロマトグラムを示す。
図9】[00183]図8でシグナル1と記された図8に示されるタンパク質の電気化学的溶出のために適用されたサイクリックボルタンメトリー(CV)スキャン(100mV/sの速度で0V~-1V間の可変電位)からのポテンシオスタットリードアウトを示し、電気化学的溶出がどのように達成されうるかの一例を提供する。
図10】[00184]図8でシグナル2と記されたものでクロノアンペロメトリー(CA)スキャン(-1Vで300s印加された定電位)からのポテンシオスタットリードアウトを示し、電気化学的溶出がどのように達成されうるかの一例を提供する。
図11】[00185]作用電極上の高分子電解質コーティング中に捕捉されたタンパク質BSAのpHステップ溶出を示すクロマトグラムを示す。
図12】[00186]高分子電解質コーティング中に捕捉された3つのタンパク質(ウシ血清アルブミン(BSA)、リゾチーム(LYS)、及びラクトフェリン(LAC))の混合物の溶液pH勾配分離を示すクロマトグラムを示す。
図13】[00187]PBSで希釈されpH5に設定されたヒト血清が指示された個別ステップの電気化学シグナルを用いてディスクリート画分に分離される場合のクロマトグラムを示す。
図14】[00188]PBSで希釈されpH5に設定されたときにヒト血清が電気化学的溶出で分離される場合のクロマトグラムを示す。
図15】[00189]pH勾配によるヒト血清タンパク質の溶出サンプルの場合の染色SDS-PAGEゲルの画像を示す。
図16】[00190]電気化学シグナルにより溶出されたヒト血清タンパク質を示す染色SDS-PAGEゲルを示す。
図17】[00191]ヒト血清のサンプルがpH7の1/10×PBSと混合され電気化学シグナルを用いてディスクリート画分に分離される場合のクロマトグラムを示す。
図18】[00191]-0.4V~-1.2Vで図16のヒト血清タンパク質のディスクリートサンプルを溶出するために使用された電気化学シグナルを示す。[00192]
図19】[00193]ヒト血清のサンプルがpH7の1/10×PBSと混合されpH及び塩勾配(0.1M NaOH)により分離される場合のクロマトグラムを示す。
図20】[00194]電気化学的に精製されたヒト血清タンパク質(図17に示される)から捕集されたサンプルを含有するSDS-PAGEゲルの画像を示す。
図21】[00195]pH勾配により分離されたヒト血清(図17及び図18に示される)から捕集されたサンプルを含有するSDS-PAGEゲルの画像を示す。
図22】[00196]Hisタグを有する組換えタンパク質が図に示されるように金属イオン親和性により固定されイミダゾール溶出により及び電気化学的溶出により放出される場合のNTA-Me2+機能基を有するブラシに変換されたPAAポリマーブラシのQCMDセンサーグラムを示す。
図23】[00197]抗体が表面上のプロテインAとの特異的結合相互作用により固定されpH2.3溶液を注入することにより放出される場合の、プロテインAで後機能化された多酸高分子電解質コーティングブラシに対してモニターされた周波数及び散逸シグナルのQCMセンサーグラムを示す。
図24】[00198]抗体が特異的相互作用によりプロテインAに固定され5mMヒドロキノン溶液中で+0.6Vの正の電気化学電位の印加により放出される場合の、プロテインAで後機能化された多酸高分子電解質コーティングブラシに対してモニターされた周波数及び散逸シグナルのQCMセンサーグラムを示す。
図25】[00199]精製モノクローナル抗体(IGG)がマイクロ多孔性ステンレス鋼メッシュ上のプロテインA機能化ポリマーコーティングとの親和性相互作用を用いて捕捉され、次いで、溶液pH変化により溶出される場合のクロマトグラムを示す。
図26】[00200]精製モノクローナル抗体がマイクロ多孔性ステンレス鋼メッシュ上のプロテインA機能化ポリマーコーティングとの親和性相互作用を用いて捕捉され、次いで、負電位により塩基性電気化学シグナルを用いて溶出される場合のクロマトグラムを示す。
図27】[00201]表面pHを増加させてプロテインA抗体結合を破断し表面から抗体を放出する負電位ウィンドウ-0.7V~-0.8Vをスキャンすることにより塩基性溶出を引き起こすために使用されたサイクリックボルタンメトリースキャンを示す。
図28】[00202]精製モノクローナル抗体のサンプルがマイクロ多孔性ステンレス鋼電極上のプロテインA機能化ポリマーコーティングとの親和性相互作用を用いて捕捉され、続いて緩衝液中レドックスプローブ5mMヒドロキノンの存在下で酸性電気化学シグナル正電位による溶出を行う場合のクロマトグラムを示す。
図29】[00203]正電位ウィンドウ+0.7V~+0.8Vでサイクルすることにより表面上に局所酸性pH勾配を発生しプロテインAコーティングからの抗体の放出をもたらすために使用されたサイクリックボルタンメトリースキャンを示す(クロマトグラム図28参照)。
図30】[00204]塩基性電気化学的溶出によるモノクローナル抗体の溶出からのバンド(C6~C8)とpH溶液放出によるもの(A3~A5)とを比較するSDS-PAGEゲルを示す。
図31】[00205]対応するクロマトグラム図28に表されるレーンの電気化学的溶出によるモノクローナル抗体のフロースルー溶出のSDS-PAGEゲルを示す。
図32】[00206]モノクローナル抗体が清澄化細胞培養採取物から捕捉され続いて精製抗体の電気化学的溶出によりサンプル捕集される場合のクロマトグラムを示す(ウェルF1、F2、F4、G1~G4)。
図33】[00207]図32に記載のように生成されたサンプルからレーン(F1、F2、F4、G1~G4)の精製モノクローナル抗体の存在を示唆するSDS-PAGEゲルを示す。
図34】[00208]タンパク質サンプルの6%が結合することなく電極を貫流しサンプルの94%が捕捉され続いて電気化学シグナルの印加により富化/濃縮サンプルとして放出される場合の希釈タンパク質サンプルの富化を示すクロマトグラムである。
図35】[00209]図34に挙げた条件下で作用電極上に捕捉されたタンパク質を溶出するために使用されたサイクリックボルタンメトリースキャンを示す。電位は、120sにわたり-V1~-0.75Vで変動させた。
図36】[00210]空のウイルスベクター及び宿主細胞タンパク質を含有する濾過細胞上清からAAV(アデノ随伴ウイルス)の満たされたウイルスキャプシドの電気化学シグナルを用いて精製を示すクロマトグラムである。
図37】[00211]図36の精製からのサンプルの解析を示す。qPCRにより決定された遺伝子数、AAVキャプシド検出用のELISAによるキャプシド数、及び捕集された各サンプルについて満たされた粒子対空の粒子の比の計算を示す。
図38】[00212]空のウイルスキャプシド及び宿主細胞タンパク質を含有する濾過細胞上清からのAAVの満たされたウイルスキャプシドの溶出に対して溶液pH変化を用いた精製を示すクロマトグラムである。
図39】[00213]図38に示された精製からのサンプルの解析を示す。qPCRにより決定された遺伝子数、AAVキャプシド検出用のELISAによるキャプシド数、及び捕集された各サンプルについて満たされた粒子対空の粒子の比の計算を示す。
図40】[00214]複数の層中の高分子電解質被覆電極に高い結合能で自発的に捕捉され続いて温和な方式で放出されたリポソームを示しており、リポソームは、粒子サイズの後続測定により前後で比較してインタクトであることが証明される。
【発明を実施するための形態】
【0172】
詳細な説明
[00215] 以下には、電解質溶液中におけるバイオ分子などのアナライトの他の成分からの非侵襲的分離及び濃縮のためのデバイス、システム、及び方法が記載されている。図1a及び図1cは、かかるデバイス100を示す。図1b及び図1dは、同一デバイス100を断面図で示す。図1bでは、パーツ116及び114は、oリングガスケットパーツ121をスキーズしてデバイスをシールし、入口104及び出口105を貫流できるようにする。電極+スペーサーの組合せ厚さは、oリングの直径/又はガスケットの厚さにより限定される。デバイスの代替設計は、図1dに示されており、oリングは、パーツ114及び116の周りにラップされ、パート107が厚い電極に適応する好適な長さで延在可能である場合、より厚い電極を使用可能である。図3a~3cには、デバイス100’の他の一実施形態が示され、図4a及び4bには、デバイス100”の実施形態がさらに示される。
【0173】
[00216] デバイス100,100’、100”は、溶液入口104及び溶液出口105を備えたハウジング114、115、116、117、118、119を含む。ハウジングは、ワンパーツでありうる。代替的に、ハウジングは、互いに接続された/接続可能な2パーツ以上を含みうる。図3a、3b、及び3cには、2接続パーツ117、118を含むハウジングを有するデバイス100’が例示されている。図3bには、3接続パーツ114、115、116を含むハウジングが例示されている。ハウジング又はハウジングパーツは、たとえば、プラスチックで、たとえば、3Dプリント又は射出成形されうる。図3a、b、cに記載のデバイスを実現する一方法は、接続用スレッドを有する及びシーリング用パッキングとしてoリングを有するいくつか接続可能な3Dプリントパーツを作製することである。別々のパーツでアセンブルするデバイスは、デバイス内への電極の配置及び電極をポテンシオスタットのような電子機器に接続できるような外側電極ピンによるこれらの接続を促進するうえで有利でありうる。3Dプリンティングによりいくつかのパーツでデバイスを生産すれば、所定の設計で電極を直接インテグレートしたり又は伝導性コーティングを含有するようにパーツを後処理したりすることが可能であろう。しかしながら、デバイスは、異なる方法により成形プラスチック及びハーメチックシールパーツを含むシングルピースで生産されうるとともに、工業製造のために無菌環境にしたり規制遵守したりすることが必要でありうる。全高分子電解質コーティングプロセスは、ハーメチックシールデバイス内で行われうる。
【0174】
[00217] 作用電極101は、溶液入口104及び溶液出口105間のスペース中でハウジング内に配置され、入口から出口に流れるように配置された電解質溶液が作用電極の少なくとも一部分に接触するように配置される。
【0175】
[00218] 作用電極101は、いずれかの伝導性材料、たとえば、カーボン、貴金属たとえば金、伝導性酸化物、伝導性プラスチック、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル金属フォーム(マイクロメートルサイズの細孔)、又は伝導性ポリマーで作られうる。作用電極101は、固形材料で、メッシュ、フォーム、ナノホールアレイなど多孔性材料で作られうる。メッシュ又はフォーム又はメンブレンの伝導性シートは、分離操作に必要とされる全体アナライト結合容量を満たす合計電極体積に達するように複数の層でスタックされうる。
【0176】
[00219] 電極は、メソ多孔性又はマイクロ多孔性でありうるとともに、マルチスケール階層的多孔性構造にすれば、高表面積ひいては高アナライトローディング容量が可能になる。多孔性構造の電極を用いると、高表面積の電極が得られるので、アナライトの高容量(数μg/cm)固定が可能になる。多孔性電極は、約1μmの細孔を有する多孔性表面を有しうる。細孔サイズインターバルは、フォームでは500~10μm及びウォーブンメッシュでは10~1マイクロメートルの範囲内である。一般的には、0.5~2マイクロメートルの細孔サイズを有する電極が好ましい。
【0177】
[00220] ボイド体積のパーセンテージは、50%~99%のインターバルでありうる。材料密度は、0.05~1.5g/cm3の範囲内でありうる。電極の電気活性表面積/体積は、100~10,000m2/m3の範囲内でありうる。一方では、非常に高い多孔率は、表面へのアナライトの対流物質移動を増加させ、デバイスの両端間の圧力勾配を減少させる。他方では、非常に高い多孔率は、最終的に大きすぎる細孔サイズ、濾過効果の損失、捕捉表面積の損失をもたらし、機械的脆弱構造を生成する。作用電極の多孔率が低いと、非常に微細な細孔を有する大きな表面積及び機械的に安定な構造が可能になるが、多孔率が低すぎると、表面へのアナライトの拡散律速フローを生じ、目詰まりのリスクが増加し、大きな圧力低下を生じる。好ましい作用電極は、1マイクロメートルの細孔サイズを有し、95%の多孔率を有し、0.05g/cm3で非常に軽く、且つ少なくとも5000m2/m3の電気活性表面積である。
【0178】
[00221] 結合能5000ng/cm2を有する高分子電解質コーティングで機能化された5000m2/3の電気活性表面積を有する作用電極は、現状技術のクロマトグラフィー樹脂の結合能よりもはるかに優れた250mg/cm3の結合能に対応する。作用電極の体積結合能の範囲は、5~500mg/cmの範囲内でありうる。
【0179】
[00222] 合計結合能は、たとえば、高分子電解質コーティング厚さを改善することにより、又は結合能/表面積を増加させる他の手段により、又は表面粗さなどを導入して作用電極のさらにより高い電気活性表面積を生成することにより、拡大可能であろう。
【0180】
[00223] 電極表面の合計面積は、ボイドの50%~97%を含みうる。多孔性電極を用いると、溶液はマイクロメートルアパーチャーを介して濾過される。材料密度は、0.05~1.5g/cmでありうるとともに、多孔性電極の単位体積当たりの表面積は、体積1立方メートル当たりの何百~数千平方メートル(100~10,000m/m)の範囲内でありうる。
【0181】
[00224] 1マイクロメートルアパーチャー及び0.1mm厚さを有するマイクロ多孔性ウォーブン電極を使用したときのデバイスの両端間の圧力低下は、流量に依存しして0.05MPa~0.3MPaである。デバイスの両端間の圧力低下は、細孔アパーチャー、多孔率、及び電極の合計厚さに依存する。作用電極101は、シリンダーなどのいずれかの形状でありうるとともに、固形又は中空でありうる。作用電極は、矩形、円形などの形状のプレートでありうる。図4a及び4bは、中空シリンダーの作用電極101を示し、フローは、半径方向に作用電極を介して進行する。液体は、作用電極のマントル表面を介して進行するように且つシリンダー形電極の中心軸を横切るように配置される。
【0182】
[00225] 作用電極101は、多孔性でありうるとともに、たとえば、図1bに例示されるように、溶液入口104から作用電極101の少なくとも一部分を介して溶液出口105まで電解質溶液を流すことができるようにハウジング内に配置されうる。
【0183】
[00226] 作用電極101の主要な延在方向は、フローが作用電極101構造を介して実質的に鉛直に進行しうるように、溶液入口104から溶液出口105までのフロー方向Fに実質的に垂直な方向に延在しうる。作用電極101は、たとえば、図1bに例示されるように、溶液入口104及び溶液出口105間の全フロー路に広がりうるとともに、作用電極101を介する液体のフローFの存在が確保されうる。
【0184】
[00227] 対向電極102は、作用電極からある距離を置いて溶液入口104及び溶液出口105間のスペース中でハウジング内に配置され、且つ入口から出口に流れるように配置された電解質溶液を介して作用電極101に電気接続するように配置される。対向電極102は、電極間に非接触が存在するように、すなわち、短絡のリスクが低くなるように、作用電極101からある距離を置いてハウジング内に配置される。スペーサー107(たとえば、図1bを参照されたい)は、作用電極101及び対向電極102が物理的に分離された状態を保つように配置されうる。
【0185】
[00228] 対向電極102の有効表面積は、作用電極の-1.5V~+1.5Vのいずれかの所与の電位で劣化を伴うことなく回路を閉じるのに十分な対向電極の容量を確保するために、作用電極101の有効表面積の好ましくは少なくとも2倍又は2~4倍である。以上に挙げたサイズ関係は、電極材料が同一又は類似である場合、とりわけ妥当でありうる。異なる材料で構成された電極状況では、関係は異なりうる。一般的には、対向電極は、作用電極及び参照電極間に制御電圧を印加可能なように十分に電流容量の供給、静電電荷蓄積+ファラデー反応を確保すべく作用電極よりも大きい。しかしながら、電極の材料化学が異なれば、許容可能な電気化学的溶出性を持たせて対向電極を等しくさらには小さくすることが可能であるであろう。例として、対向電極は、スーパーキャパシター性の非常に大きな表面積を有するカーボンベースのものにすれば、大きな静電電荷蓄積が可能になるであろう。それは、高ファラデー電荷移動性を有する白金又はルテニウムでドープされたチタンで構成可能であろう。
【0186】
[00229] デバイス中へのアナライトのローディング時の流量は、濃縮されたアナライトサンプルでは0.01mL/min程度に小さくしうるので、すべてのアナライトを作用電極に結合させる時間が可能になる。最初にサンプルをデバイスにポンプ注入する場合、結合流量を停流程度に低くしうるとともに、フロースピードはゼロに設定され、可能な限り多くのアナライトサンプルが電極に結合される。低濃縮サンプルでは、流量をより高い1~5mL/minにしうると同時に、電極を貫流する際、依然としてほとんどのアナライトを表面に結合させることができる。現在のデバイスは、最大10mL/minまでのフロースピードを許容する。デバイスのスケールアップモデルでは、結合の最適化に必要とされる場合、結合流量をより高くしうる。
【0187】
[00230] デバイスは、漏れずに最大10mL/minまでの高フロースピード及び最大0.6MPaまでの高圧に耐えるようにデバイスのすべての開口に好適に配置されたОリング又はガスケット121を組み込みうる。ガスケット又はОリング材料は、ニトリル、ゴム、エラストマー、又はシリコーンで構成されうる。
【0188】
[00231] 全デバイス100のプラスチックパーツは、防水性でその操作時に高い圧力勾配に耐えるように靭性及び耐久性もある防水性プラスチック材料、たとえば、PETG、PP、PEEK、Teflon、及び類似の材料で3Dプリントされうる。
【0189】
[00232] デバイスは、融合堆積モデリング(FDM)3Dプリンティングではなく射出成形のような異なる製造方法の使用が必要とされる場合、より高い圧力勾配に実質的に耐えるように製造可能であろう。
【0190】
[00233] デバイスは、表面に結合する前にサンプルの混合及び乱流フローを促進して作用電極の表面への及びからの対流物質移動の増強を可能にするスペーサー120を入口104及び作用電極101間に含みうる。
【0191】
[00234] デバイスは、デバイスを貫流する溶液に接触するその内側表面上にかかる構造を有するように、その結果、対流を増加させ、乱流を促進し、電極表面への及びからの物質移動の増加により電極へのアナライトの取込みを追加するように製造されうる。
【0192】
[00235] ローディング段階時に出口105から流れるサンプルの還流は、すべての利用可能なアナライトの完全結合を確保するために、入口104を介して再導入され、デバイスに戻されうる。
【0193】
[00236] 図3a~3cは、ハウジング117、118が2接続パーツからなり、1つが作用電極101用及び1つが対向電極102用であるデバイス100’の実施形態を示す。
【0194】
[00237] 対向電極102は、好ましくは、作用電極101の近くに配置される(mm、マイクロメートル、さらにはnm距離)。さらに、対向電極102の表面積は、好ましくは、作用電極101のものと少なくとも同一のサイズであるべきであり、より大きくてもよい。作用電極の材料は、ステンレス鋼合金、たとえば、316Lでありうる。それはカーボンでありうる。それは貴金属、たとえば、金又は白金でありうる。それは伝導性ポリマー材料でありうる。それはアルミニウム、チタンで作製されうるか、又は半導体でありうる。材料は、伝導性元素でドープされうる。材料は、伝導性にするために伝導性フィルム又はフォイルで被覆された非常に大きな表面積を有する非伝導性ポリマースキャフォールドであってもよい。大きな表面積を有する伝導性材料は、有利な電気触媒性を有する貴金属又は金属フィルムで電気メッキされうる。
【0195】
[00238] 大きな表面積を有する高多孔率スキャフォールドを生成するために金属で被覆されうる非伝導性フィルターメンブレン構造の例は、ポリプロピレン、ナイロン、セルロース、Teflon、及びポリカーボネートメンブレンである。
【0196】
[00239] 電極の形状は、円形又は矩形でありうる。電極は、多孔性で電極を貫流しうるか、又は固形で電極の表面を通って流れうる若しくは進行しうる。電極が多孔性である場合及びフローが電極を介して進行する場合、多孔率は50%~97%でありうる。電極の内部表面積は、100m/m~X1000m/mでありうる。作用電極101及び/又は対向電極102は、異なる電気触媒性を提供するために、薄い金属フィルムで被覆されうるか又は異なる金属元素でドープされうるとともに、たとえば、限定されるものではないが金や白金などの薄層の金属蒸気堆積が施されうる。
【0197】
[00240] 図3cに示されるデバイスは、別々のただし接続された2コンパートメントへの作用電極101及び対向電極102の分離を可能にする。作用電極及び対向電極は、依然としてNafion(フッ素化ポリマー)やポリ(スチレンスルホネート)のようなイオン透過性メンブレンを介して接続されている。このことが有利であるのは、アナライトの捕捉を実施するデバイスの内部体積の合計ボイド体積の実質的低下が許容されるからである。内部体積から対向電極を除去すると、アナライトが導入された場合、デバイスの捕捉効率が上昇する。例として、対向電極体積が作用電極の2倍である場合、作用電極を対向電極から分離されたコンパートメント中に配置したとき、アナライトを捕捉するための体積効率は3倍効果的になる。
【0198】
[00241] 図4a~cは、作用電極(101)及び対向電極(102)が中空シリンダーの形状を有し、電極構造を介する側方フロー、つまり、シリンダーの側方表面を介する半径方向のフローが許容されるデバイスの実施形態を示す。液体は、電極のマントル表面を介して進行するように且つシリンダー形電極の中心軸を横切るように配置される。
【0199】
[00242] 電極材料がフレキシブルである場合、たとえば、フレキシブルな金属又は伝導性テキスタイルメッシュ又はフォームである場合、作用電極(101)及び対向電極(102)材料のシリンダー状配置が有利であり、中空シリンダー形状にラップ可能である。電極材料はまた、剛性ただし多孔性の電極構造からシリンダー形で製造されうる。
【0200】
[00243] シリンダー形作用電極の結合能を改善する一方法は、電極のより大きなシートを作製し、それを複数回ラップし、より厚い壁を有する中空シリンダーをクリーズすることである。側方向のフローは、効果的物質移動性を提供し、高結合速度を達成し、且つ作用電極の結合能を効果的に利用する。
【0201】
[00244] 対向電極102は、材料の容量荷電性を改善し、対向電極を介して進行するより高い電流密度を可能にし、ひいてはデバイス内の対向電極の所要の体積を減少させるために、たとえば、金属蒸気堆積により、金属層で被覆されうる。
【0202】
[00245] 作用電極101の表面の少なくとも一部分は、高分子電解質コーティング111を備える。電極が多孔性である場合、高分子電解質コーティングは、電極の細孔中にも延在しうる。マイクロ多孔性電極は、溶液が高分子電解質コーティングに達する前にフィルターを構成しうる。高分子電解質コーティングで被覆されたマイクロ多孔性電極の使用は、電気化学シグナルによりチューニングされた化学的相互作用に基づいて分離を呈するだけではない。それはまた、デバイスを介して進行する純物質からプロセスフロー中に存在しうるより大きな物体、不純物、アグリゲートを濾別する物理的バリアの働きもする。
【0203】
[00246] 刺激応答性コーティングの高分子電解質コーティング111は、作用電極101及び対向電極102間の電位差の印加により第1の中性状態及び第2の荷電状態間で切り替わるように配置され、第1の状態では、アナライトは非静電結合を介して高分子電解質コーティング中に捕捉され、第2の状態では、捕捉されたアナライトは静電反撥を介して高分子電解質コーティングから放出/溶出される。
【0204】
[00247] 作用電極は、その第2の荷電状態に切り替えたとき、捕捉されたアナライトを反撥/放出/溶出することにより再生され、高分子電解質コーティングを電極表面上に保つ。それにより、デバイスは、まったく同一の高分子電解質コーティングで被覆された同一作用電極を用いて何回か繰り返して使用可能である。環境上及び健康上の懸念のある化学剤は、捕捉されたアナライトを作用電極から放出/除去するためにまったく必要とされない。
【0205】
[00248] 図5a及び5bは、高分子電解質コーティング111が作用電極101の表面上にどのように配置されるかを例示し、図5bの例では、ステンレス鋼スレッドのウォーブンメッシュで構成された多孔性電極表面である。伝導性スレッドのクローズアップ図は、作用電極101の表面が電気化学的安定アリール単層501を有する表面にアンカーされた高分子電解質コーティングでどのように機能化されるか示す。図5bはまた、高分子電解質コーティングが作用電極101及び対向電極102間の電位差の印加により溶液中においてタンパク質200をどのように捕捉及び放出しうるかも示す。
【0206】
[00249] 高分子電解質コーティング111は、アリール結合の単層501を介して電極の表面に共有結合で結合されたpH応答性ポリマーを含みうる。アリール結合は、電気化学的安定化学アンカーであり、捕捉されたアナライトのチューナブル放出を可能にする。この電気化学的安定アリール結合に起因して、デバイス及び作用電極表面上の高分子電解質コーティングは、多数回再使用可能である。
【0207】
[00250] 作用電極101及び対向電極102間の電位差の印加を介して、作用電極の表面から延在する局所マイクロスケールpH勾配が生成される。pH感受性/応答性ポリマーは、表面上の局所pH差の結果としてその状態が切り替わる。pH感受性/応答性ポリマーの切替えの結果として、電極の表面によるアナライトの捕捉又は放出のどちらかを生じ、アナライトとサンプルの他の成分との分離を引き起こす。分離は、同一サンプル溶液中の他の成分と比較して電極へのアナライトの異なる親和性に起因して起こる。親和性の差は、非静電分子間引力、たとえば、アナライト及びポリマー被覆電極間の水素結合を含む。さらに、それは静電引力又は反撥に起因しうる。
【0208】
[00251] pH応答性ポリマーは、カルボン酸基を含むポリマーでありうる。pH応答性ポリマーは、pH応答性及び対象アナライトへの親和性を有する機能基を含有するように修飾/機能化されたポリマーでありうる。いくつかの場合には、ポリマーは、特異的アナライトを掴持するための「ハンドル」を生成するいくつかの機能基を有する分子で機能化される。かかるハンドルは、アナライトがモノクローナル抗体である場合、プロテインAのような生物学的リガンド分子でありうるか、又は標的アナライトへの親和性を有する合成的に生成されたペプチドでありうる。かかるハンドルは、1つのpHではアナライト結合性でありうるとともに、他の一状態ではアナライト反撥性でありうる。ポリマーは、捕捉されることが意図されるアナライトについての知識、アナライト上にどんな表面露出結合ポケットが存在しうるか、どんな特異的相互作用が存在するか、及び重要なこととして、結合強度がpH変化によりどのような影響を受けるかに基づいて選択されうる。ポリマーの設計及び化学修飾は、アナライトがポリマーの側基との特異的且つpH依存的相互作用を有するように調整される。
【0209】
[00252] 高分子電解質コーティングは、高分子電解質ブラシ、フィルム、ゲル、又は層の形態でありうる。かかる高分子電解質コーティングの厚さは、ナノスケールの非常に薄いコーティング(約1nm)~何マイクロメートルかまで(約1μm)のいずれかの値でありうる。一方では、薄いコーティングは、電極の単位表面積当たり低いアナライト固定容量をもたらすが、低電圧(約0.1V)ですでに全コーティングの効率的切替えを呈する。他方では、厚いマイクロスケールコーティングは、電極表面の単位表面積当たり多量のアナライトの貯蔵が可能であるが、全コーティングの効率的切替えにより強い電気化学シグナル(約1.0V)を必要とする。
【0210】
[00253] 図3b及び3cに例示されるように、デバイス100’は、ハウジング117、118内の作用電極101及び対向電極101間に配置されたイオン選択性メンブレン106を備えうる。それにより、対向電極102で形成されたHなどの少なくともいくつか反応生成物は、イオン選択性メンブレンにより作用電極102に達することが停止されうる。
【0211】
[00254] 電気化学シグナルを作用電極101に印加しその表面上のpHを変化させたとき、対向電極102上では対向電極表面上に反対のpH変化をもたらす他の電気化学反応が発生しうる。作用電極及び対向電極の表面が少量の液体により分離されている場合、液体の混合により作用電極上のpH効果の望ましくない中和が起こるおそれがある。その際、図3b及び3cのイオン交換メンブレン106は、対向電極101上の一時的な望まれないpH効果を制限するために使用されうるとともに、それにより作用電極101上で起こるpH変化との望まれない干渉を防止しうる。対向電極102の表面の少なくとも一部分は、作用電極101と同一の高分子電解質コーティング111を備えうる。それにより、電極101、102間で高速切替えを行うことが可能であり、電極に互換性がある。第1のランでは、作用電極101は作用電極として使用されうるとともに、対向電極102は対向電極として使用される。第2のランでは、対向電極102は作用電極として使用され、作用電極は101対向電極として使用される。その際、作用電極101及び対向電極102を同一材料及び同一サイズで作製しうるので、作用電極及び対向電極として電極間で切り替えて、迅速サイクリングにより両方をアナライト分離に利用可能である。
【0212】
[00255] 図2は、電解質溶液中においてアナライト200を他の成分から分離するためのシステム300を示し、システム300は、以上に記載のデバイス100、100’、100”を含む。システム300はまた、作用電極101及び対向電極102間に電位差を印加するための配置物301も含む。かかるシステム301は、ポテンシオスタットでありうる。フローシステムは、溶液入口104でハウジング114、115、116、117、118、119に電解質溶液を供給するように配置され、溶液捕集システム302は、溶液出口105を介してデバイスから出る溶液及びアナライト200を捕集するようにハウジングの溶液出口105に配置される。デバイスから出る溶液は、画分ごとに捕集されうる。この溶液は、異なる成分の画分を含む。印加される電圧に依存して、異なるアナライトがデバイスから溶出される。
【0213】
[00256] フローシステム及び溶液捕集システムは、伝統的クロマトグラフィーシステムの標準的セットアップでありうるとともに、本デバイスは、クロマトグラフィーシステムのカラムを置き換えるとともに、作用電極及び対向電極に電位差を印加するための配置物を追加する。
【0214】
[00257] システム300は、溶液出口105で捕集された溶液の内容物を解析するために配置されたUVアナライザーでありうる溶液解析デバイス303をさらに含みうる。溶液解析デバイスは、溶液中の異なるアナライト又はアナライトの画分を同定するために配置されうる。溶液解析デバイスは、標準的クロマトグラフィーシステムのパーツでありうる。
【0215】
[00258] アナライト200を含む電解質溶液が溶液入口104でハウジングに提供され、作用電極101上に配置された高分子電解質コーティング111によりアナライトが捕捉されたとき、電気化学シグナルの電位差を作用電極101及び対向電極102間に印加して表面pHを改変するとともに、作用電極101上の高分子電解質コーティング111及び結合されたアナライト200間の分子間相互作用を破壊する局所pH勾配を生成することにより、溶液出口105で捕集することが可能である。この結果として、電解質溶液の溶液pHを変化させることなくアナライト200の溶出が行われる。
【0216】
[00259] デバイスからアナライトを放出するために使用される流量は、対流によりアナライトを作用電極から輸送するのに十分な程度に高くべきである。流量は、フローがpH勾配を濯ぎ流すことなくマイクロ環境中でpH勾配がそれ自体で確立可能になるのに十分な程度に低くべきである。図1bに提示された具体的設計では、放出アナライトのクリアランス及び効率的電気化学間のトレードオフが見いだされた流量範囲は、0.01mL/min~5mL/minであった。デバイスの具体的設計及び作用電極の性質の選択に依存して、最適流量ウィンドウは変化を受けうる。
【0217】
[00260] 電解質溶液は、1mM~1M塩イオンを含みうる。合計塩濃度、イオン強度は、高分子電解質コーティングのpKaに影響を及ぼすであろう。高塩濃度は高pKaをもたらし、且つ低塩濃度は低pKaをもたらすので、第1の(中性)段階及び第2の(荷電状態)間のピボット点、つまり高分子電解質コーティングがアナライト結合性及び反撥性である点でのpHを変化させる。電気化学反応を可能にするために、電解質溶液はレドックス活性種も含む。
【0218】
[00261] 電解質溶液のイオン濃度を変化させることにより、アナライト及び高分子電解質コーティング間の相互作用を変化させることが可能である。これにより、アナライトが自発的に高分子電解質コーティングに結合するpHを変化させることが可能である。
【0219】
[00262] 一例では、電解質溶液の合計塩濃度及び緩衝剤能が低いと、非常に小さな電流(<100μA)及び電位(±100mV)の印加により界面pHの高感度切替えが可能になる。
【0220】
[00263] アナライト200を含む電解質溶液をデバイス100、100’、100”に供給する前、デバイスを介して緩衝液をランしうる。ランニング緩衝液は、分離が行われるべき選択されたpH及び塩濃度でシステムを平衡化するバックグラウンド緩衝液として使用される。ランニング緩衝液は、作用電極101に結合しない。アナライト相互作用が有利であると、デバイスの作用電極への前記アナライトの結合がもたらされる。
【0221】
[00264] ランニング緩衝液は、作用電極の主として中性高分子電解質コーティングへのアナライトエンティティーの水素結合などの非静電引力により好ましい結合条件を得るために、たとえば、pH5に設定されうる。
【0222】
[00265] 作用電極上に配置された高分子電解質コーティングによりアナライトが捕捉されるように電解質溶液が入口から出口に流れるようにするステップの後、デバイスは、デバイスの内側体積から溶液中の非結合アナライト及び他の成分を除去するために濯がれうる。
【0223】
[00266] これは、デバイスから出る溶液を解析するとき、インラインUVシグナルの減少及び安定化として観測可能である。
【0224】
[00267] 作用電極の高分子電解質コーティング111からアナライトを溶出するために、作用電極101及び参照電極103間に定電位差を適用しうる。
【0225】
[00268] それにより、pH勾配が確立される。pH勾配の範囲は、(i)表面pHを改変する電気化学反応を打ち消す溶液の緩衝剤能、及び(ii)表面上の電気化学反応の速度を決定する電気化学電位の大きさにより主に決定される。
【0226】
[00269] 印加される還元連続電位(クロノアンペロメトリー)は、-0.1V~-1.5Vでありうる。酸化連続電位は、+0.1~+1.5Vでありうる。使用される電位は、使用される高分子電解質コーティング、アナライト、電極などに依存する。一例では、還元電位に関して、すなわち、pHを上昇させるために-0.3V~-1.5Vの電位差を使用しうる。酸化電位(レドックス活性種としてヒドロキノンを使用)に関して、pHを上昇させるために及び電極を金や白金など金属で被覆したとき)、+0.25V~+1.5Vの電位差を使用しうる。
【0227】
[00270] 代替的に、作用電極の高分子電解質コーティング111からアナライトを溶出するために、連続的に変動する電位差(サイクリックボルタンメトリー)の電気化学電位を作用電極101及び参照電極103間に適用しうる。可変電気化学電位は、可変pH勾配を確立し、電位変化の速度は、pH勾配の範囲に影響を及ぼし、表面pHの変化の時間変動をもたらすであろう。可変電位は、電位差のステップワイズ増加でありうるとともに、電極及びアナライト間の正味の静電反撥を生成するpHのステップ増加をもたらす。
【0228】
[00271] アナライトを溶出するために、可変電位差を提供することと定電位差を提供することとを組み合わせうる。たとえば、初期に可変電位、続いて定電位差を使用しうる。
【0229】
[00272] 電位差を連続的に且つ異なるスピードで変動させることにより、単に電位を突然印加することと比較して、高い分解能の分離を得ることが可能であり、高分子電解質コーティングとの相互作用の変化に合わせてアナライトを徐々に分離することが可能である。
【0230】
[00273] 時間の調整、電気化学シグナルの持続時間は、バイオ分子が局所pH勾配に暴露される程度に影響を及ぼすであろう。シグナルの持続時間は、標的アナライトの相対pH感度プロファイルさらにまた電解質溶液中に存在する不純物に基づいて選択可能である。
【0231】
[00274] ブラシのきわめて高速のスイッチングでは、AC電気化学シグナルを発生可能なポテンシオスタット(301)を使用しうるとともに、電流及び電子フローの方向をレギュラーインターバル又はサイクルで周期的に交互に切り替える。このように、高速電気化学的インパルスは、依然として、作用電極に結合されたインタクトバイオ分子の迅速放出を伴って表面に一時的pH変化を発生可能である。
【0232】
[00275] pH増加の印加連続可変還元電位は、たとえば、0V~-1.5Vで変動されうる。pH減少の連続可変酸化電位は、たとえば、0V~+1.5Vで変動されうる。使用される具体的電位は、使用される高分子電解質コーティング、アナライト、電極などに依存する。
【0233】
[00276] 電極操作中の平均電力消費は、0,45mW/cmに対応する。電気化学シグナルは、電極の表面上にマイクロメートル~ナノメートルスケールのpH勾配を生成するにすぎないので、ブラシを切り替えるのに必要とされる電力消費は低い。デバイスは、精製の溶出ステップ時にのみ電力を消費するにすぎない。デバイスを操作するのに必要とされる電気は、さまざまな化学剤及び液体を管理するクロマトグラフィーシステムにより必要とされる電子機器、さらにはさまざまな溶出緩衝液の生産コスト及び関連する過剰廃物の取扱いと比較されるべきである。迅速サイクリックボルタンメトリースキャンを使用することにより、電気化学シグナルによる効率的溶出を維持しつつ、ピーク電流を有する電圧で費やされる時間をより短かくできるので、平均電力消費は、実質的に低減可能であろう。
【0234】
[00277] 本方法は、溶出ステップ後、作用電極及び対向電極間に電位差を印加することにより、デバイスをクリーン化するステップをさらに含みうるとともに、その電位差は、溶出時に使用される電位差よりも高い。このステップは、クロマトグラフィーカラムの最終カラム洗浄又は再生洗浄に類似している。最終洗浄ステップは、クロマトグラフィー媒体からいずれの残留アナライトもストリップするより強力な緩衝液又は化学剤を注入することにより、カラムを再使用できるようにする。同様に、その次の精製のために電極表面を再生すべく強力シグナルを用いてアナライトの安全溶出に使用されるおそれのあるウィンドウよりも優れた電気化学クリーニングステップである。たとえば、最終的非結合バイオ分子を除去して表面をクリーン化するために-1.5Vを印加する。非侵襲的分離のための安全且つ効果的なウィンドウは、-0.75V~-1.2Vであると決定された。
【0235】
[00278] 代替的に、作用電極上又はデバイスの他の内部表面のいずれかに残留するおそれのあるいずれの非結合バイオ分子も除去するために、デバイスを介してアルカリ性溶液、たとえば、0.5M NaOH若しくはいくつかの他の高pH溶液、高塩濃度溶液、又は界面活性剤溶液を流すことにより、クリーニングを実施しうる。電気化学クリーニングの利点は、健康上及び環境上有害なNaOHのような強アルカリ性溶液の低使用であろう。
【0236】
[00279] デバイスは、クロマトグラフィーで使用されるアナライトの従来のpHトリガー溶出と比較して、精製のための水使用を52%低減しうる。デバイスは、従来のクロマトグラフィーと比較して、精製に必要とされる時間を33%低減しうる。
【0237】
[00280] デバイスは、溶出を達成するために化学剤が使用される従来のクロマトグラフィーと比較して、化学剤の使用を57%低減しうる。
【0238】
実験
[00281] 以下には、デバイスをさまざまな用途でどのように生産及び使用するかの非限定的説明が続く。
【0239】
材料
[00282] 使用されたすべての化学剤及びタンパク質は、とくに明記されていない限り、Sigma-Aldrichから購入した。H(30%)及びNHOH(28~30%)はACROS製であり、一方、HSO(98%)及びエタノール(99.5%)はSOLVECO製であった。水は、ASTM研究グレード1型限外濾過水(milli-Q水)であった。ジアゾニウム塩1の合成に使用された化学剤は、4-アミノフェネチルアルコール、テトラフルオロホウ酸(48%、水中溶液)、アセトニトリル、tert-ブチルニトレート、及びジエチルエーテルである。ジアゾニウム塩を金に装着するために、水中でL-アスコルビン酸を使用した。ジアゾニウム単層を重合開始剤層に変換するとき、ジクロロメタン、トリエチルアミン、及びα-ブロモイソブチリルブロミドを使用した。重合に利用した化学剤は、tert-ブチルアクリレート、tert-ブチルメタクリレート、ジメチルスルホキシド、ジクロロメタン、メタンスルホン酸、N,N,N’,N”-ペンタメチルジエチレントリアミン(PMDTA)、CuBr、及びL-アスコルビン酸であった。合成後のブラシの後修正のために、1-エチル-3-8(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)、スルホ-N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、N,N-ビス(カルボキシメチル)-L-リシン水和物(NTA)、硫酸銅(CuSO)、硫酸ニッケル(NiSO)六水和物、及びプロテインAを使用した。この研究に使用された緩衝液は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)錠剤(0.01Mリン酸塩、0.13M NaCl、pH7.4)、リン酸水素二ナトリウム及びNaCl、又はトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(TRIS)に基づき、HCl(1M水性溶液)又はNaOH(1M水性溶液)で特異的pHに調整された。イミダゾールは、NTA-Me2+機能化ポリマーブラシからのタンパク質を溶出するために使用された。
【0240】
[00283] この試験で使用されたタンパク質は、アビジン(AVI, ThermoFisher)、ウシ血清アルブミン(BSA)、リゾチーム(LYS)、プロテインA、ラクトフェリン(LAC)、ヒト血清からの精製IgG、又はCHO培養からのモノクローナル抗体であった。HEK295培養からのアデノ随伴ウイルス(AAV)含有上清、モノクローナル抗体含有CHO上清を含有する清澄化細胞培養採取物。ヒト血清(ヒト男性AB血漿から)を40μm親水性フィルターに通して濾過し、使用前にPBS中に10倍希釈した。
【0241】
[00284] 脂質ホスファチジルコリン及びジパルミトイルホスファチジルコリン並びにリポソームの調製に使用された1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[アミノ(ポリエチレングリコール)-2000](アンモニウム塩)は、Avanti Polar Lipidsから得られた。
【0242】
[00285] ステンレス鋼及び金で被覆された石英結晶マイクロバランスセンサーは、それぞれ、Biolin Scientific及びQuartzProから購入された。マイクロメートルサイズのアパーチャーを有するステンレス鋼金属メッシュは、Anping Tianhao Wire Mesh Products Co., LTDから購入された。
【0243】
方法
ジアゾニウム塩合成
[00286] ジアゾニウム塩の合成は、修正文献手順が関与していた(S. Gam-Derouich et al., Aryl diazonium salt surface chemistry and ATRP for the preparation of molecularly imprinted polymer grafts on gold substrates. Surface and Interface Analysis 42, 1050-1056 (2010))。イナート雰囲気下で、4-アミノフェネチルアルコール(2.94g、20mmol)及びテトラフルオロホウ酸(9.94g、113mmol)をアセトニトリル(20mL)中に溶解した。別のフラスコ中で、tert-ブチルニトレート(2.269g、22mmol)をアセトニトリル(12mL)中に溶解した。200mLのジエチルエーテルと並行して、両方の溶液を脱ガスし-20℃に冷却した。
【0244】
[00287] 20分後、溶液を0℃に加温し、その後、撹拌しながらtert-ブチルニトレート溶液を4-アミノフェネチルアルコール溶液に添加した。次いで、反応物をさらに1時間撹拌した。迅速撹拌ジエチルエーテル(200mL)への暗黄色溶液の滴下により反応を終了させた。さらに1時間撹拌した後、上澄みをデカントして分離した。褐色着色沈殿物を乾燥させ、3.69gの不純ジアゾニウム塩を得た。
【0245】
[00288] 生成物を検証するために、Varian 400MHz NMR分光計により周囲温度でH NMRスペクトルを記録した。外部TMSと比べてスペクトルを解析し、最も低磁場の残留溶媒共鳴(CDCl:δH7.26ppm)を基準にした。ジアゾニウム塩のH NMR共鳴は、以前に報告されたものに一致し(S. Gam-Derouich et al., Aryl diazonium salt surface chemistry and ATRP for the preparation of molecularly imprinted polymer grafts on gold substrates. Surface and Interface Analysis 42, 1050-1056 (2010))、解析から80%の純度が明らかになった。
【0246】
表面クリーニング
[00289] 表面機能化前、QCMセンサー結晶(標準Au、Biolin Scientificから購入)並びに多孔性ステンレス鋼フォーム及びメッシュは、過酸化水素とアンモニア水との混合物でメッシュを洗浄し(HO:H:NHOH 5:1:1v/v 75℃で20分)、続いてmilli-Qで濯ぎ、エタノール中で超音波処理し、そしてN2で乾燥させることにより、クリーニングを行った。
【0247】
追加の金属層堆積
[00290] 金の電子ビーム物理気相堆積(Lesker PVD 225)により、50nm金層をステンレス鋼金属メッシュ上に堆積し、マイクロメートルアパーチャーを備えた金電極を生成した。堆積前、メッシュをイソプロパノールで洗浄し、Nで乾燥させた。
【0248】
表面活性化
[00291] ジアゾニウム塩(0.301g、1.28mmol)を含有するセプタムシール付きガラスジャー中に金表面、QCMセンサー、並びにステンレス鋼メッシュ及びフォームを配置し、ジャーをNでパージした。別のフラスコ中で、アスコルビン酸(0.028g、0.16mmol)を水(40mL)に溶解し、溶液を1時間脱ガスした。次いで、アスコルビン酸溶液をシールされたガラスジャー中に移し、ジアゾニウム塩の溶解を引き起こした。プラットフォームシェーカーの使用により金表面を溶液中で1時間撹拌し(15分後に表面上に現れた窒素バブルは、ジアゾニウム塩単層形成の成功を示唆する)、その後、水、次いでエタノールで徹底的に濯ぎ、そして乾燥させた。
【0249】
[00292] ジアゾニウム単層(単層は図5bの501に例示される)を重合開始剤層に変換するために、金表面をジクロロメタン(20mL)中のα-ブロモイソブチリルブロミド(0.222mL、1.80mmol)及びトリエチルアミン(0.302mL、2.17mmol)に10分間暴露し、その後、表面をエタノールで濯ぎ、そしてN下で乾燥させた。
【0250】
表面開始重合
[00293] 公開手順に類似した方式でSI-ATRP(表面開始活性化剤再生原子移動ラジカル重合)を用いてポリ(アクリル酸)(PAA)ポリマーブラシすなわち高分子電解質コーティングを作製した(G. Ferrand-Drake del Castillo, G. Emilsson, A. Dahlin, Quantitative analysis of thickness and pH actuation of weak polyelectrolyte brushes. J Phys Chem C 122, 27516-27527 (2018))。
【0251】
[00294] アルミナカラムを用いてモノマーtert-ブチルアクリレート(TBA)から阻害剤を除去し、その後、-20℃で貯蔵し、次いで、使用直前に室温に加温した。標準的シュレンクライン技術を用いてNのイナート雰囲気下で反応を行った。CuBr(0.006g、0.03mmol)及びペンタメチルジエチレントリアミン(PMDTA)(0.056mL、0.276mmol)をジメチルスルホキシド(20mL)中に溶解し、並行して、Nの激しいバブリングを介してtert-ブチルアクリレート(20mL、0.1378mol)の別のフラスコを30分間脱酸素化した。
【0252】
[00295] 次いで、開始剤調製金表面を含有するスクリュートップジャー(ゴムセプタ蓋付き)中にカニューレを介して反応溶液及びモノマーを移した。アスコルビン酸(0.049g、0.276mmol)の添加により反応を開始した。反応媒体中の各成分の最終濃度は、[モノマー]=3.4M、[CuBr]=1.1mM、[PMDTA]=11.0mM、及び[アスコルビン酸]=11.0mMであった。反応を磁気撹拌下に配置した。純エタノール中にサンプルを浸漬することにより反応をクエンチした。次いで、ジクロロメタン(10mL)中の0.2mMメタンスルホン酸に15分間暴露し、続いてジクロロメタン及びエタノールで濯ぐことにより、ポリ(tert-ブチルアクリレート)(PTBA)ブラシをPAAに変換した。
【0253】
ポリマーブラシの後修飾
[00296] 重合後、金属イオン錯体NTA-Me2+を装着するか又はプロテインAの固定によるかのどちらかによりタンパク質結合性を改変するPAAのカルボン酸の変換により、ポリマーブラシを修飾した。50mM EDC及び50mM NHSを水中に溶解してEDC/NHSカップリング技術を利用した。この溶液に電極表面を30分間暴露し、続いて水で濯いだ。金属イオン錯体化では、NTA溶液を100mMで調製してpH10に設定し、この溶液に電極を1時間暴露し、続いて水で濯いだ。30分間にわたるCuSO又はNiSOの100mM溶液への暴露により2価金属イオンを装着し、続いて水で濯いだ。プロテインA固定では、電極表面を同一EDC/NHS活性化で処理したが、ただし、NTA及び金属イオン溶液への暴露の代わりに、pH7.4でプロテインA 0.3g/Lの溶液中に電極を1時間浸漬し、続いて水で濯いだ。
【0254】
リポソームの調製
[00297] 正味のカチオン性機能基(5%)又はPEG2000kDaポリマー(5%)のどちらかを含有するヘッド基を有する脂質と混合されたDPPC脂質を主として含有するリポソームをAvanti Mini Extruderキットを用いて調製した。ナノ粒子トラッキング顕微鏡法を用いて、サンプルのリポソームサイズ、リポソームサイズの分布を検証するとともに、作用電極への捕捉及び放出の前及び後のサイズ及び分布を比較した。
【0255】
ポリマーブラシ被覆電極へのタンパク質の固定及びポリマーブラシ被覆電極からのタンパク質の放出
[00298] 電極表面上のポリマーブラシへのタンパク質の固定は、以下の3つの方法の1つで行われた。
1. PAA機能化電極へのいずれかのタンパク質又は一群のタンパク質の固定。緩衝剤溶液(電解質溶液)は、リン酸塩(5mM)及び塩化ナトリウム(75mM)で構成されpH5.0に設定された。最初に、電極を緩衝剤溶液中で平衡化し、平衡化後、サンプルをタンパク質溶液(5g/L)に暴露した。続いて、電極を同一緩衝剤溶液で濯ぎ、緩く結合されたタンパク質を除去した。溶出は、(i)電位の大きさ及び電位の持続時間により電極表面からの放出の速度及び量が決定される負(還元)電位(-0.3V~-1.2V)の印加により、(ii)ブラシが十分に荷電した状態になりポリマーブラシに結合されたタンパク質を反撥し始めるか又はブラシに結合されたタンパク質のある画分を反撥し始めるように溶液pHをpH6~pH11.5の範囲内の塩基性pH値に変化させることにより、を実施された。
2. NTA-Me2+機能化電極へのHisタグ付き組換えタンパク質の固定。組成TRIS(50mM)及びNaCl(250mM)を有するバックグラウンド緩衝剤溶液中で電極を平衡化し、続いてポリヒスチジンタグ付きタンパク質(5g/L)の注入を行った。電極をバックグラウンド緩衝剤溶液で濯ぎ、緩く結合されたタンパク質を除去した。Hisタグ付きタンパク質の溶出は、(i)NTA-Me2+リガンドの2価金属イオンを還元しHisタグ付きタンパク質との金属イオン配位結合を破断する還元(負)電位により達成された。(ii)金表面を有する電極に対する追加の選択肢は、ヒドロキノン溶液(5mM)及び正(酸化)電位(+0.3~+0.6V)への暴露である。(iii)最終方法は、250mMイミダゾール溶液に表面を暴露することであった。
3. プロテインA機能化金電極への抗体の固定。バックグラウンド緩衝液は、中性緩衝液pH7.4(電解質溶液)で構成された。バックグラウンド緩衝液中での電極表面の平衡化後、それを抗体の溶液(0.25g/L)に暴露し、この後、電極をバックグラウンド緩衝液で濯ぎ、緩く結合された又は非結合の抗体を除去した。溶出は、(i)酸化(正)電位(+0.3~+0.6V)と組み合わせた5mMヒドロキノン緩衝剤溶液への暴露、(ii)溶液pHをpH2~3の酸性値に変化させ、プロテインA及び抗体リガンド間相互作用の解除をもたらすことより達成された。
【0256】
電気化学的QCMD測定
[00299] 金又はステンレス鋼(316L)で被覆されたセンサー結晶を使用し、Q-Sense E4(Biolin Scientific)を用いて測定を実施した。示されたデータはすべて、第1又は第3倍音に対応する。電気化学的モジュール(QEM 401)を備えたフローセルを用いてin-situ電気化学実験を実施した。Gamry Interface 1010Eポテンシオスタット(Gamry Instruments)を電気化学セルに接続した。どの実験でも、回路の内部抵抗を測定し(Get Ru)、開回路電位を測定し、許容可能参照電極性能及び適正接続回路を検証した。使用された参照電極は、World Precision Instrument低漏出「Dri-ref」電極であった。CV実験でのスキャンレートは、100mV/sであった。
【0257】
参照電極作製
[00300] 10×希釈の濃HCl中で5分間にわたり+1.0Vを印加してベア銀ワイヤ上に塩化物イオンを電気化学的に堆積することにより、デバイスの参照電極を作製した。参照電極パーツを作製するために、銀ワイヤに厳密にマッチする直径を備えた小さな穴の中空開口を一方の端に備えた3Dプリントナット及びデバイス上に耐密に螺合させるネジ切りを介して銀ワイヤをネジ切りした。電解質溶液にインターフェースされることが意図されたAgCl被覆銀ワイヤのティップをナット内の中空スペース内に位置決めした。ナットのトップから突出してポテンシオスタットに接続させるように、ワイヤの他の未被覆端を位置決めした。ワイヤがその位置に固定されるように且つ参照電極ナットが一度接続されたら参照電極の開口が防水性になるように、銀ワイヤ及び3Dプリントパーツを一体的にグルー接合した。
【0258】
デバイスの3Dプリンティング
[00301] 図1a及び1bに示される実施形態のデバイスの3次元モデルをCADソフトウェアで設計した。PrusaSlicer(Prusa3D)でプロトタイプをスライスし、漏出に対する耐性のあるデバイスを作製するために、プリント設定(0.1mm層高さ、5~6壁層、5%押出し乗数、100%充填密度)を用いて、ポリ(エチレンテレフタレートグリコール)(PETG)又はポリプロピレン(PP)フィラメントを用いて、MK3S 3Dプリンター(Prusa3D)でプリントした。
【0259】
デバイスのアセンブリー
[00302] 入口ボディーピース114上にセンターボディーピース115をネジ接続することにより、図1bに示されるようにデバイスをアセンブルした。参照電極103は、入口ボディーピース114に接続された。対向電極102は、入口ボディーピース114の内部表面上に配置され、その後、スペーサーエレメント107及びoリングは、oリングが入口ボディーピースに十分に接触するように対向電極102の上に位置決めされた。作用電極は、スペーサーエレメントディスク上に横たわるように配置され、出口ボディーピースは、それをセンターピースにネジ接続により接続された。ステンレス鋼中に金属スクリューを含む作用電極及び対向電極用のコネクターピンは、それらがそれぞれの電極に接触するまでそれぞれの入口ポート上でネジ接続された。
【0260】
市販のクロマトグラフィーシステム上でのデバイスの使用方法
[00303] M6コネクターネジ接続を用いて市販のクロマトグラフィーシステムAKTA Explorer(Cytiva)にデバイスを接続した。インラインUV光検出器を用いてタンパク質分離をモニターし、溶出サンプルアリコートの解析により評価した。
【0261】
[00304] クロマトグラフィーシステムにデバイスの入口を接続し、10カラム体積(1CV=1mL)の水でプロトタイプをフラッシュすることにより、各実験を始めた。この後、デバイスアウトプットをクロマトグラフィーシステムに接続し、システムを洗浄しインライン接続されたデバイスを介して濯ぐことにより、システムをPBS pH5で平衡化させた。
【0262】
[00305] 1つのタンパク質(たとえば、BSA)、タンパク質の混合物、又は血清サンプル(1mL)のどれかからなるタンパク質サンプルをサンプルロードラインのサンプルポートに注入した(3mL合計容量)。215nm及び280nmの固定波長検出でインラインUVモニターによりUV吸収を測定するようにして実験をスタートした。最初に、0.1mL/minの流量でサンプルをカラム上に30分間ロードした。ローディング後、流量を0.5mL/minに増加させた。シグナルが安定化したとき、電気化学的溶出を実施してデバイスからタンパク質を溶出した。代替的に、バルク溶液pH増加を用いてデバイスからタンパク質を溶出した。電気化学的溶出の使用前、開回路電位(OCP)、溶液抵抗(Get Ru)、及びサイクリックボルタンメトリースイープサイクル(100mV/sで0V~-0.5V)を適用して3電極システムが適正に構成されたことをチェックした。
【実施例
【0263】
実施例
[00306] 以下の実施例は、単に例示を目的として提供されているにすぎず、限定と解釈されるべきではない。
【0264】
実施例1:下記5ステップにより特徴付けられるPAA機能化電極表面を備えた電気化学的バイオ分子分離用デバイスの使用。各ステップ1~5は図6のクロマトグラムに表される。
0.電気化学シグナルの試験
[00307] デバイスが緩衝剤溶液を含有するとき、下記実験を実施するようにして、システムの電気化学的構成の試験を実施し、デバイスの電極間で効率的電気化学シグナルを確立可能であることが確保されるように、開回路電位(OCP)、溶液抵抗測定(Get Ru)、及びサイクリックボルタンメトリースキャンを実施する。有用(OCP)シグナルは、安定であることにより特徴付けられ、±0.5Vの範囲内にあり、溶液抵抗は、低いことにより特徴付けられ、ポテンシオスタット製造業者により設定された許容限度内であり、サイクリックボルタンメトリースキャンは、-0.5Vで1~5mA/cm電極幾何表面積のピーク電流を有することにより特徴付けられる。
【0265】
1.濯ぎ及び平衡化
[00308] ポンプ、ポンプバルブ、緩衝剤溶液、インラインモニタリングセンサー(UV光学、pH、伝導率)を含む液体管理システムにデバイスを接続する。バックグラウンド緩衝液(電解質溶液)は、分離が行われるべき選択されたpH及び塩濃度でシステムを平衡化するように使用される。この実施例では、電解質溶液の組成は、pH5.0、5mMのリン酸緩衝剤濃度、及び75mMの合計イオン強度塩濃度より特徴付けられる。平衡化は、クロマトグラフィーシステムのインラインセンサーを用いてモニターされる。
【0266】
2.サンプル結合
[00309] これに由来するアナライト及び他の不純物成分を含有するサンプルは、液体管理システムにより入口を介して注入される。破過の発生は、サンプル溶液の少なくとも一部がデバイスを通り抜けたことを示唆し、アナライトがデバイスを貫流した場合、デバイスの電極表面へのバイオ分子の結合速度がすべてのサンプルアナライトを結合するのに十分でないか、又は電極表面上のすべての結合性部位が結合性アナライトにより占有されたかのどちらかである。(ここでの破過は、デバイス出口よりも後に位置決めされたインラインセンサーモニターによりバイオ分子が検出されたときのサンプル結合時点として定義される。)
【0267】
3.濯ぎ
[00310] 作用電極への結合後、デバイスは、非結合バイオ分子がデバイスの内側体積から排除されるまで緩衝液で濯がれ、これはインラインUVシグナルの減少及び安定化により特徴付けられる。
【0268】
4.溶出
[00311] 作用電極に結合されたアナライトの溶出は、表面pHひいては作用電極上のポリマーブラシ及び結合されたバイオ分子間の分子間相互作用を改変する電気化学シグナルにより達成可能である。溶出はまた、全溶液pHを変化させることにより達成可能である。
【0269】
[00312] 電気化学的溶出は、以下により実施可能である:
A1.一定電気化学電位の印加。定電位が印加されたとき、pH勾配が確立される。A2.可変電気化学電位の印加による。可変電気化学電位は、可変pH勾配を確立し、以上に挙げた効果に加えて、電位変化の速度は、pH勾配の範囲に影響を及ぼし、表面pHの変化の時間変動をもたらすであろう。電気化学的pH勾配の範囲は、(i)表面pHを改変する電気化学反応を打ち消す溶液の緩衝剤能、(ii)表面上の電気化学反応の速度ひいてはpH変化の速度を決定する電気化学電位の大きさ、(iii)電極表面への及びからの物質移動に影響を及ぼすデバイスを介する流量及び設計上の特微、(iv)pH勾配の確立の際の過渡要素を除去する電気化学シグナルの継続時間により決定される。
【0270】
[00313] これらの因子を調整することにより、緩衝剤能、電位ウィンドウ、フロースピード、シグナルの持続時間、電極の表面に拘束される特異的局所pH値が得られ、それにより、表面に結合された特異的アナライトの放出をトリガー可能である。ある特定のpH値で放出する特異的バイオ分子の電位分離のチューニングにより、純サンプルの溶出が起こるように達成可能であり、液体管理システムのフラクションコレクターにより別々の液体アリコートサンプルで捕集可能になる。
【0271】
[00314] 全pH溶液を変化させることによる溶出は、デバイスを介して異なるpHの緩衝液をポンプ操作して溶液pHを変化させることにより実施可能である。表面pHを変化させることに類似して、溶液pHを変化させると、結合されたバイオ分子の溶出をもたらすであろう。
【0272】
5.クリーニング
[00315] 溶出後のクリーニングは、以下のように実施されうる。
I.作用電極上又はデバイスの他の内部表面のいずれかに残留するおそれのあるいずれの非結合バイオ分子も除去するために、デバイスを介してアルカリ性溶液、たとえば、0.5M NaOH若しくはいくつかの他の高pH溶液、高塩濃度溶液、又は界面活性剤溶液を流すこと。
II.高い一時的表面pHを達成するのに必要とされるよりもわずかに高い電位の印加により、ディスアセンブリーを行うことなく作用電極の表面のストリッピング、再生、及び完全クリーニングをもたらす、作用電極に結合されたいずれの最終的非結合バイオ分子も除去するための作用電極の電気化学クリーニング、又はクリーニング溶液、たとえば、0.5M NaOHのフロースルー。
【0273】
ステップ1~5は、アナライト/バイオ分子の新しいサンプルが入口プロセスストリームに注入されたときに繰り返される。
【0274】
NaOHのようなアルカリ性溶液によるクリーンインプレイス又は余分な強い緩衝剤溶液によるストリッピングは、原理的には、ここに記載のデバイスでは任意である。電極の完全クリーニングは、電気化学シグナルの最適化及び電極の全電気活性表面積の暴露により達成可能である。したがって、ステップ5は、本明細書に記載のデバイスでは完全に排除可能であろう。
【0275】
デバイスは、所要の水体積、時間、及び化学剤を節約することにより、精製の際の実質的生産性向上を可能にする潜在能力がある。表1は、クロマトグラフィーで使用される従来のステップ、続いて本明細書に記載のデバイスで精製を達成するのに必要とされる対応する最小ステップをまとめる。1Lの理論カラム体積を用いて化学剤の量を計算し、0.02Mの緩衝液組成及び0.15M塩濃度を使用し、クリーンインプレイス(CIP)ステップは0.5Mを必要とすると計算された。溶出に使用される高酸性pH緩衝液の中和は、従来のクロマトグラフィーの計算には含まれるが、電気化学的溶出では必要とされない。
【0276】
【表1】
【0277】
表2は、精製のための水使用、時間、及び精製に必要とされる化学剤使用に関して、デバイスの使用がもたらしうる生産性の増加のまとめを示す。デバイスは、水使用を52%、時間を33%、及び化学剤使用を57%低下可能であった。
【0278】
【表2】
【0279】
実施例2:PAA機能化ステンレス鋼QCMセンサーからのウシ血清アルブミン(BSA)の捕捉及び放出
[00316] 散逸モニタリング(QCMD)を備えた石英結晶マイクロバランスを使用し、SI-ATRPを用いて調製されたPAAブラシで機能化され、ジアゾニウム塩化学を用いてステンレス鋼にアンカーされた表面が、タンパク質溶液への暴露及び電気化学シグナルにどのように応答するかをリアルタイムで検知した。
【0280】
[00317] 図7は、タンパク質捕捉及び放出実験時にモニターされた周波数及び散逸シグナルを備えたQCMセンサーグラムを示す。BSA(0.3g/L)は、1000Hzを超える周波数のシフトにより検証されるようにpH5.0で多量に捕捉される。これは、主として中性ブラシ内に固定されたマルチ層又はBSAに対応するが、水和度は、タンパク質の複数の層を収容するのに十分な大きさである。
【0281】
[00318] 固定及び濯ぎステップの後、電気化学シグナルを用いてPAAポリマーブラシを可逆的に荷電し、表面からのタンパク質のチューナブル制御放出を引き起こす。徐々に高い電位を印加すると、荷電度に起因するタンパク質の放出が電位の大きさ及び電位の持続時間による影響を受けることが示唆される。
【0282】
[00319] 図7は、ステンレス鋼表面の機能化PAAが、実質的塩基性pH勾配を生成する速度で酸素還元反応を実施する電気触媒能を有して、チューナブルバイオ分子放出を可能にするPAAブラシの可逆切替えをもたらすことを示す。我々は、貴金属(国際公開第2021/107836号)が、こうした界面電気化学的pH勾配を生成するのに十分に良好な電気触媒であることを以前の研究から知っている。図7は、本デバイスの固形支持体電極材料としてステンレス鋼のような豊富な非貴金属を使用可能であるので、電気化学を用いた大スケールのタンパク質分離の産業上の利用可能性が存在することを浮き彫りにする。
【0283】
実施例3:市販のクロマトグラフィーシステムにデバイスを接続したときのポリ(アクリル酸)PAAブラシで機能化された多孔性ステンレス鋼メッシュ電極からのBSAの捕捉及び放出
[00320] 図8は、多孔性ステンレス鋼メッシュ電極へのBSA(5g/L)のローディングを示す。ローディング及び非結合タンパク質の濯ぎ後、電気化学的溶出を2ステップで達成した。第1のサイクリックボルタンメトリースキャンでは、(0V~-1V)が印加され(図9参照)、小さな溶出ピークがもたらされた。第2の溶出シグナルでは、一定負電位-1Vが印加され、より大きなピークがもたらされた(図10のポテンシオスタットから得られた対応するクロノアンペロメトリーシグナルを参照されたい)。両方のシグナルは、デバイスからの流出で検出されるタンパク質の後続放出を伴ってブラシを切り替える実質的電気化学的pH勾配を生成する。電圧に関する電子シグナルの大きさは低く、タンパク質放出は、-0.5Vですでに検出される。可変電位(シグナル1)でのピーク電流密度は6mA/cm電極表面であるが、-1.0Vに設定された定電位でのピーク電流密度は、約32mA/cmである。ブラシを切り替える両方の方法は、電流密度の非常に短いスパイクを生じることから、pH勾配を電気化学的に確立するのに非常に小さな電力アウトプットが必要とされることが示唆される。1度シグナルをオンにするとpH勾配が迅速に確立され、電極の表面からわずか約1μm遠くまで延在するにすぎないので、経時的な低電流密度が予想される。電気化学的pH勾配が確立されたとき、電気触媒反応は、新しい反応剤の物質移動による速度律速となり、長時間の操作にわたり電極界面を通るより低い電子移動、低電力アウトプット、及び1mA/cm未満の平均電流の大きさに寄与する。
【0284】
[00321] 負の電気化学シグナルの印加により、ステンレス鋼メッシュ表面の表面上に一時的pH勾配が確立される。これは、多孔性構造内のPAAポリマーブラシに荷電を誘起し、BSA分子との水素結合の破断並びにブラシ及びタンパク質間の静電反撥をもたらす。印加されるシグナルの大きさは、QCMD及び図7に示される結果からの明白な類推で、溶出度を決定し、デバイスからのチューナブル電気化学的放出を可能にする。しかしながら、タンパク質を捕捉及び放出するためにステンレス鋼のフラット表面を使用するQCMD実験に反して、図8のクロマトグラムでは、タンパク質サンプルは、マイクロメートルアパーチャーを備えた電極を通り抜ける。タンパク質サンプルがデバイスを貫流するとき、捕捉され溶出されるタンパク質の量は、デバイスの有効表面積がかなり大きいので、QCMDセンサーのときよりも実質的に多くなる。結合ピーク及び溶出ピークの積分により、デバイスのローディング容量を推定した。電気化学的溶出から結合能を測定したところ29mgBSA/cm電極メッシュ体積であった。QCMDセンサーのようなフラット表面と比較して多孔性電極メッシュでは体積結合能の明白な改善が見られ、約1μg/cm貯蔵可能であるので、高結合能が必要要件である商業用途では有用なデバイスとなる。
【0285】
[00322] 勾配溶出を介して、全溶液pHを変化させることは、図11に示されるように、ステンレス鋼メッシュからBSAを溶出する代替法になる。溶液pHが十分に高い値に達したとき、PAAは荷電状態となり、BSA及びPAA間の静電反撥をもたらし、BSAはデバイスから溶出し、クロマトグラム中のピークをもたらす。溶液pH溶出を増加させることにより溶出したとき、対応する結合能は、31mgBSA/cmであった。このことから、電極メッシュは、電気化学シグナルによる効率的放出の能力があり、溶液pHを変化させることによる溶出を実施したときのタンパク質の溶出量にマッチすることが示される。そのため、pH溶液溶出の電気化学を実施したにもかかわらず、溶出結果は同一である。
【0286】
[00323] マイクロ多孔性樹脂ベースクロマトグラフィー又はメンブレンベースクロマトグラフィーで得られる値にマッチする、さらにはそれを超えるより大きな結合能は、単位表面積当たりの結合容量を追加的に増大させるポリマーブラシの使用と組み合わせて、大きな表面積を有するように電極材料を工学操作することにより可能である。
【0287】
[00324] タンパク質の完全排除は、電気化学により達成された。つまり、結合されたすべてのタンパク質を放出することによりデバイスをリセット可能であり、デバイスを再使用して、別のタンパク質ローディングサイクルを実施することが可能である。
【0288】
実施例4:ポリ(アクリル酸)PAAで機能化された多孔性ステンレス鋼メッシュ電極からのタンパク質の混合物、BSA、ラクトフェリン(LAC)、及びリゾチーム(LYS)の捕捉及び放出。
[00325] デバイスを用いてタンパク質の混合物を画分に分離可能である。図12は、この概念の証拠の働きをし、タンパク質の混合物、この場合、BSA、LAC、及びLYSは、その溶液pH勾配により分離される。図12は、前記3つのタンパク質の混合物がpH5でデバイス内の電極に結合される場合のクロマトグラムを示す。
【0289】
[00326] 作用電極上でのタンパク質のローディング及び飽和に続いて、デバイスをpH5緩衝溶液で濯いだ。pH勾配が適用され、この場合、BSAは最も低い(pI=4.2)を有するので最初に、続いてラクトフェリン(pI約8.7)、続いてリゾチーム(pI=11)が溶出する。このことから、デバイスを介してフローに供給された溶液のpHは溶出を引き起こすことが実証される。同様に、電気化学シグナルによる局所pH勾配の適用もまた、異なるタンパク質(図示せず)間の分離を引き起こすであろう。
【0290】
実施例5:pH5及び生理学的塩濃度での捕捉、続いて、ポリ(アクリル酸)PAAで機能化された多孔性ステンレス鋼メッシュ電極を用いた電気化学シグナルの印加によるタンパク質画分への複合バイオ分子混合物のヒト血清の分離。
[00327] 図13は、ヒト血清のサンプルをPBSで10×希釈し、pHをpH5.0に設定した場合のクロマトグラムを示す。最初にバイオ分子をデバイスにより捕捉し、続いて作用電極のポリマー被覆表面が血清バイオ分子で飽和状態になったとき、捕捉されていないタンパク質の破過を行う。緩衝液で濯いた後、漸増する大きさの電気化学シグナルを印加したところ、クロマトグラムにシャープなピークが現れたことから、電気化学電位は、明確に規定された鋭い濃縮溶出イベントを引き起こすことが確認された。溶出の継続時間は、オンデマンド且つリアルタイムで制御可能であり、溶出される生成物の相対量もまた、印加電圧の大きさを調整することによりチューニング可能である。
【0291】
[00328] 図14は、デバイス内で溶液pHをpH5.0よりも高い値に漸増させることによりタンパク質の溶出をもたらす電気化学を用いない溶出を示し、より高いpH溶液を注入するにつれてpHが増加し、最終的に高分子電解質コーティングの荷電、続いてタンパク質及び作用電極の高分子電解質ブラシコーティング間の水素結合の破壊をもたらす。結合されたタンパク質間の分離は、緩やかな又は急な勾配の設定により調整可能である。緩やかな勾配、低速pH増加は、溶出ピークを分離するが、生成物の高希釈及び低最終濃度という犠牲を払う。急な勾配は、不十分な分離をもたらすが、より少ない希釈の生成物となる。図14に示される溶液pH勾配による溶出は、デバイス内の全溶液のpHをシフトすることを必要とするので、シグナルの大きさが小さいブロードなピークをもたらす。図13に示される電気化学的溶出は、結合されたタンパク質が位置する作用電極の表面上のpHを迅速にシフトするので、鋭いディスクリート溶出ピークにより特徴付けられる。鋭い溶出ピークは、より高濃度の溶出生成物をもたらすので、明白な長所を有する。さらに、それは、結合されたタンパク質を溶出するためにpHを変化させる追加の物質の必要性を除去する。
【0292】
[00329] 図15及び図16は、それぞれ、溶液pH溶出及び電気化学的溶出のクロマトグラフィー実験(図6及び14に示されるクロマトグラム)から得られる捕集された画分を解析するために使用されたSDS-PAGEゲルの写真である。SDS-PAGEゲルの解析は、タンパク質が、両方の方法により溶出されたこと、ある特定のサイズのタンパク質が、それぞれ、異なる大きさの電気化学電位を印加しつつ及び溶液pHを増加させつつ捕集されたサンプル画分(E5~E7及びA5~A7)に富化されたことを明らかにする。前記デバイスが、電気化学シグナルにより制御されて血清タンパク質及びバイオ分子の分離を実施すること、デバイスを貫流する溶液pHを漸増することにより得られる分離に類似していることが確認される。
【0293】
実施例6:中性pH及び低減塩濃度で捕捉、続いてポリ(アクリル酸)PAAで機能化された多孔性ステンレス鋼電極からの電気化学的放出によるヒト血清のような複合生物学的流体の純タンパク質への分離。
[00330] いくつかの生物学的溶液の分離では、溶液pH変化に対するサンプルの不安定性に起因して、サンプルを電極コーティングに結合するためにサンプルのpHをpH5に低下することができない。ブラシへの結合をトリガーする代替法は、塩濃度を低下することである。こうすると、高分子電解質コーティングのpKaは、より高い値にシフトし、中性pH 7.0~7.5でサンプル分子に結合するプロトン化中性PAAコーティングがもたらされる。図17は、pH7.0の弱い0.1×PBS緩衝液で希釈されたヒト血清の捕捉、続いて図18に示される大きさの増加を伴う一連のサイクリックボルタンメトリースキャンを適用することによる電気化学的溶出を示す。溶液pH放出に対応するクロマトグラフィーは、図19に示され、0.1M NaOHの混合の増加を用いて溶液pHを上昇させ、それにより、結合された血清バイオ分子の放出をトリガーする。クロマトグラフィー実験では両方とも、サンプル画分を捕集し、電気化学(図20)及び溶液pH(図21)により達成されたSDS-PAGE分離により比較した。図20の矢印により示されるように、-0.4V~-0.8Vのピーク電圧を有する電気化学シグナル時に捕集されたサンプル画分は、70kDaよりもわずかに小さなタンパク質の放出をトリガーし、一方、-0.9~-1.2Vのより大きな大きさ電位は、55kDa近くのより小さなタンパク質の溶出をもたらした。溶液pH溶出の勾配時に捕集されたサンプルの対応する分離分解能は得られず(図21)、その代わりに両方のタンパク質種は、矢印により示されるように同一サンプルで溶出されることが分かった。より小さなタンパク質種は、図21では検出されたとはいえ、電気化学的溶出(図20)による画分では明確に観測されなかった。ゲルの比較から、溶液pH変化により媒介される従来のイオン交換と比較して、どのようにデバイスが異なる分離を生じうるかが実証される。分離は、中性pH値及び電極界面のナノスケールのpH変化にサンプルをごく短時間暴露して行われ、溶液中で電気化学的に媒介されるいずれのpH変化も、緩衝液流体がデバイスを離れると、急速に逆転され、pH感受性バイオ分子の精製の重要な特徴となる。
【0294】
実施例7:NTA-Me2+ポリマーブラシで機能化されたQCMDセンサー電極からのポリヒスチジンタグ付き組換えタンパク質のイミダゾールによる溶出に置き換えたアフィニティータグ結合及び電気化学的溶出。
[00331] 図22は、EDC/NHSカップリング化学プロトコルを用いてPAAブラシから変換されたNTA-Me2+機能基付きポリマーブラシへの組換えタンパク質の自発的結合を示す。組換えタンパク質は、Hisタグ付きで発現されたものであり、数百Hzの周波数シグナルシフトにより検証されるブラシ上のNTA-Me2+リガンドへの特異的結合を呈するであろう。伝統的には、溶出は、図22のセンサーグラムの1つ(○印)に示されるように、イミダゾール250mMにより実施される。しかしながら、弱い還元電位の印加による電気化学シグナルによっても放出が実施され、Cu2+イオンの還元による結合された組換えタンパク質の放出を引き起こした。この方法は、イミダゾールのような溶出をトリガーする化学添加剤の添加を必要としない電気化学を用いたHisタグ付きタンパク質の高容量可逆溶出の代替法を呈する。
【0295】
実施例8:プロテインA機能化ポリマーブラシ上への抗体のアフィニティータグ結合及び従来の酸性低pH溶液溶出を置き換えるQCMDセンサー電極上での電気化学的溶出。
[00332] 図23は、EDC/NHSを用いたプロテインA機能化表面への抗体の自発的結合を示す。表面への抗体結合により起こる散逸シグナル変化は、BSAを多酸性ブラシに結合したときに観測される対応する散逸シフトと比較してより少ない(図7)。このことから、ブラシは、ブラシ内のカルボン酸の大多数がEDC/NHS処理を介するプロテインAとのコンジュゲーションを成功裏に起こすことにより、より低い親水性及び膨潤性であることが示唆される。したがって、表面及び抗体間で起こる相互作用は、カルボン酸によるものではなく、プロテインA及び抗体結合性領域(特定的にはIGGのFc領域)間で起こる高特異的相互作用に起因するものであると仮定することが合理的である。pHを7.4に設定したとき、抗体は、表面上のプロテインAに自発的に結合する。結合された抗体は、表面をpH7.4緩衝液で濯いだときは結合状態を維持するが、結合された抗体は、表面がpH2.3に10分間暴露されたときは表面から放出される。このことから、抗体の工業的精製は、高特異的捕捉、続いて低pH溶出洗浄のためにプロテインA被覆多孔性樹脂材料を使用する場合、クロマトグラフィーにより実施されると予想される。
【0296】
[00333] 代替的に、図24に示されるように、プロテインAコーティングは、酸性溶液洗浄を必要とすることなく捕捉された抗体を溶出可能である。その代わりに、コーティングからの放出は、5mMヒドロキノンの存在下で正の電気化学電位が印加したときに局所低pH勾配を生じることにより実施される。ヒドロキノンは、界面で酸化を受けてプロトン生成をもたらすことによりpHを一時的に低下させるが、プロテインA-IGGリガンド結合を破壊するには十分な長さである。+0.6Vの定電位を5分間印加したとき、有意量の抗体が表面から放出される。3回の繰返しの後、シグナルがベースラインに戻ったので、つまり、結合された抗体がすべて表面から除去されたことになるので、十分な溶出が達成された。電気化学シグナル、ヒドロキノン濃度の調整により、又は別の還元剤の選択により、電気化学的溶出のスピード及び効率を増加させるようにpH勾配の大きさをチューニングしうる。
【0297】
[00334] まとめると、図23及び図24は、多量のプロテインAを後機能化高分子電解質コーティングに結合して高特異的生物学的リガンド相互作用によりタンパク質を捕捉するために多酸性ブラシをどのように使用可能であるかを示すとともに、敷衍すると、きわめて低いpHを有する溶液を使用する代わりに溶出のために電気化学電位を用いてこうした生物学的相互作用を表面上でどのように局所的にチューニング可能であるかも示す。
【0298】
実施例9:酸性低pH溶液による問題のある溶出を置き換えるプロテインA機能化マイクロ多孔性ステンレス鋼メッシュ電極を用いた清澄化細胞培養採取物からのmAbの電気化学的精製。
[00335] ここで、我々は、電気化学的アフィニティークロマトグラフィーのためにデバイスの使用を可能にするポリマーブラシコーティングにコンジュゲートされるプロテインAを用いて、図23及び24のQCMDセンサーと同様の方式でマイクロ多孔性電極支持体をどのように機能化可能であるかを示す。IgG及び他のモノクローナル抗体との高特異的相互作用は、捕捉ステップそれに続く非侵襲的電気化学的放出の特異性を増強するために使用された。最初に、図25では、プロテインA機能化マイクロ多孔性ステンレス鋼電極を備えたデバイスを介してIgG 0.5mg/mLの純サンプルを注入する。溶液pH値を2~3で変化させることにより、結合されたIgGを溶出する。図26では、IgGの結合を繰り返すが、今度は電気化学シグナルにより放出をトリガーする。溶出を達成するために使用されるサイクリックボルタンメトリースキャンは図27に示され、電極の表面上に局所高pH値を生じる。図25及び26の溶出ピークの比較により、ピークの曲線下面積が同等であることから、電気化学により溶出された抗体の量は、溶液pH溶出量に等しいことが確認される。電気化学シグナルはまた、図28に示されるようにデバイス内に局所酸性pH勾配を生じさせるためにも使用された。酸性勾配は、クロマトグラムで溶出を検出するために使用されるUV光を強力に吸収するヒドロキノンの使用を必要とするため、リアルタイムで溶出を比較することを困難にするが、それにもかかわらず、シグナルを印加しながらヒドロキノンをデバイス内で反応させたときに、UVシグナルが変動しても電気化学的活性を確認できた。酸性pH勾配を生じさせるために使用されたCVスキャンは図29に示される。
【0299】
[00336] 抗体の溶出を確認するために、サンプル画分を捕集し、SDS-PAGE解析を実施した。図30は、pH溶液溶出と比較して塩基性電気化学シグナルにより溶出された抗体からのバンドを示し、図31は、酸性電気化学的溶出からのサンプルが、非結合抗体のデバイスを介するフロースルーと比較される。電気化学的溶出のバンドは、pH溶出及びフロースルーで得られるよりも弱い。電気化学シグナルの最適化は、抗体の全結合量のより効率的な放出をもたらしうる。実験は、電気化学が溶出を達成するための化学剤の使用を部分的又は完全に置換え可能であることを示す。抗体のアフィニティー精製の場合、このことは、実質的収率損失をもたらす生成物の変性及びアグロメレーションに関連付けられてきた酸性緩衝液を置き換えることを意味する。
【0300】
[00337] 他の一試験では(図32)、バイオプロセスからのIgG及び不純物を含有する上清、清澄化細胞培養採取物を用いて精製を実証した。サンプルを多孔性金属メッシュ上のプロテインA機能化ポリマーブラシ上にロードした。電気化学を用いて、IgGを上清中の不純物から精製した。SDS-PAGE解析(図33)は、電気化学シグナルの印加時に捕集されたサンプル中に存在するIgGからのいくつかのバンドを示す。抗体精製のために溶液pH勾配の使用を伴うことなく高特異的相互作用(99%)と電気化学的溶出との組合せが可能であることが確認される。プロテインAは、強いpH依存性を有する多くのリガンド相互作用の1つにすぎない。ほとんどすべての生物学的相互作用は、pHプロファイルを呈するか、又はpH依存性を有するように工学操作可能である。これは、特定的には、溶出用化学剤が標的分子の劣化及び/又はアグロメレーションを引き起こすリスクが存在する場合、電気化学的溶出による他の特化された標的のアフィニティークロマトグラフィーを試験する道を開く。
【0301】
実施例10:高濃縮サンプルへの希釈タンパク質サンプルの電気化学による濃縮。
[00338] 図34は、希釈タンパク質サンプル(BSA)をデバイスに注入した場合のクロマトグラムを示し、この場合、タンパク質の大多数は、電極表面に捕捉され、小さなフロースルーピークをもたらし、続いて、電気化学シグナル(-1.0~-0.75V、120秒間)により生成された大きなシャープピークをもたらす(印加電圧に対して電流が測定された図35を参照されたい)。サンプル濃度は、元々は0.05g/Lであり、捕集された溶出ピークサンプル濃度は、1g/Lと測定されたので、サンプル濃度の増加倍率20×をもたらす。元の希釈サンプルのうち、サンプルの94%は、電気化学により溶出され、タンパク質の6%は、電極に結合しなかったことから、入手可能な市販の濃縮遠心分離機フィルターのサンプル保持に類似して、非常に高いサンプル保持が示唆される。
【0302】
[00339] 濃度及び緩衝液組成を変化させる現在の技術的方法では、脱塩カラム又はサイズ排除カラムが使用される。しかしながら、得られる濃縮は、通常、低いか、又は完了するまでに非常に長い時間を必要とする。バッチ濃縮又は緩衝液交換には、遠心分離及びスピンカラム又は透析が関与しているが、これらは、時間を消費するとともに、通常、収率損失をもたらす。サンプルの損失を最小限に抑えたサンプルのインライン濃縮は、収率損失を低減するとともに、生産性を改善する。
【0303】
実施例11:空のウイルスキャプシドからの満たされたウイルスキャプシドの電気化学的精製
[00340] 同様に電気化学シグナルを用いてモノマータンパク質(アルブミン、IgG、タンパク質、酵素)よりも大きなタンパク質構築物を精製しうる。図36に示されるように、AAVの非エンベロープ付きウイルスキャプシドをPAA被覆マイクロ多孔性ステンレス鋼電極上に捕捉した。120sの持続時間にわたり弱い可変電気化学シグナル(0V~-0.5V)、続いて同一設定で別のシグナルを印加することにより電気化学による後続放出を実施し、続いて120sの持続時間にわたりより強い電気化学シグナルをより大きな電位ウィンドウ(0V~-0.75V)で印加した。最後に、電極表面からいずれの残留キャプシドも除去するために溶液pHステップを導入した。電気化学シグナルの印加時にサンプルを捕集し、捕集されたサンプルの各々で満たされた及び空のタンパク質キャプシドの量を決定するために、タンパク質キャプシド含分ELISA及びqPCR試験で解析し、結果を図37に示す。図36のクロマトグラムから、最終のより強い電気化学シグナルで最大量のバイオ分子が捕集されたことが示される。しかしながら、強い電気化学シグナル及びpH溶液溶出で捕集されたサンプルで、最小量のウイルスキャプシドが検出された。予想される説明として、最終的溶出ピークは、ウイルスキャプシドではなく主に宿主細胞タンパク質で構成される。とりわけ、ほとんどのウイルスキャプシドは、2つの弱いシグナルの印加時に捕集されたサンプルで検出されたことから、ウイルスキャプシドが宿主細胞タンパク質から分離されたことが確認される。さらに、より高濃度の満たされたウイルスキャプシドは、最初の電気化学シグナルで検出され、満たされたキャプシド対空のキャプシドの比は、上清の値を超えたことから、満たされたキャプシドの濃縮が実証された。
【0304】
[00341] 図38は、放出をトリガーするために溶液pHを用いて比較として実施された場合のクロマトグラムを示す。この実験では、宿主細胞タンパク質、満たされた及び空のウイルスキャプシドを含有する単一ピークが生成される。
【0305】
[00342] 溶液pH溶出時に捕集された画分の解析から、AAVキャプシドの溶出が確認される。満たされた及び空のキャプシド間の比は、同一溶出ピークから捕集されたサンプル間で異なる。そのことから、満たされた及び空のキャプシド間のいくらかの分離が行われることが示唆される。しかしながら、捕集されたサンプルのいずれで観測された満たされたキャプシドでも顕在化された濃縮は見られないうえに、さらに宿主細胞タンパク質からの分離の明白な徴候も見られない。
【0306】
[00343] タンパク質の捕捉の場合と同様に(図18~19)、我々は、上清からウイルス粒子を分離するために、それらの生理化学的性質、電荷、サイズ、化学的特徴に基づいて電気化学シグナルを使用可能であることに気付いている。電気化学的分離は、事実上、pH又は塩濃度勾配による従来の溶液イオン交換と比較してよりシャープである。
【0307】
実施例12:脂質ナノ粒子捕捉及び電気化学的媒介放出。
[00344] これまで、タンパク質ベースアナライトの解析センサースケール及び分取スケールクロマトグラフィー分離を示すデータが実証されている。図32は、脂質ベースナノスケール物体の捕捉及び電気化学的放出を示す。荷電イオン化ヘッド基5%(mol)又はPEG-2000kDa鎖のどちらかを含む脂質及び主として中性脂質95%(mol)を含有する平均直径120nmのリポソームをポリ(メタクリル酸)機能化QCMDセンサー上に最初にロードし、続いて異なる大きさの一連の電位を印加したときに放出し、センサーシグナルが完全放出を示唆するベースラインに戻るまで行った。放出されたリポソーム及び表面に決して結合されないリポソームを捕集し解析した。表3では、ストックリポソームの直径が放出リポソームの直径と比較される。放出リポソームはわずかに大きな直径であったが、ポリマーブラシ表面に対する結合及び脱結合から本質的に無傷であったことから、本方法は、非共有結合相互作用により一体的に保持される大きな生物学的関連サンプルに対して温和且つ非侵襲的であることが検証される。
【0308】
【表3】
【0309】
実施例13:オリゴヌクレオチド又は炭水化物の静電捕捉及び電気化学的放出のためにアニオン性PAAコーティングをカチオン性コーティング、たとえば、PDEA(ポリ(2-ジメチルアミノメチル)メタクリレート)に置き換える。
[00345] タンパク質は、中性状態のPAAに自発的に結合し、電気化学シグナルの印加によりカルボン酸又は後機能化により装着された他のリガンドの荷電をトリガーすると脱着する。mRNAや1本鎖及び2本鎖DNAのようなオリゴヌクレオチドは、中性PAAに自発的に結合しない永久負荷電分子であり、負荷電ポリマーコーティングにより反撥される。このことは、PAAが自発的にオリゴヌクレオチドに結合する状態が存在しないことを意味する。しかしながら、PDEAオリゴヌクレオチドのようなカチオン性高分子電解質コーティングを作製することにより、正荷電第3級アミン機能基に自発的に結合しうるとともに、電気化学シグナルによりコーティングをオリゴヌクレオチド及びコーティング間の電気化学的引力を抑制する中性状態に切り替えて、電気化学的媒介放出をもたらすことが可能である。クロマトグラフィーが従来の精製方法である場合、オリゴヌクレオチドは、通常使用されるバイオ治療剤のタンパク質に類似している。本研究に記載のデバイスは、ほとんど修正を加えることなく、DNA、RNA、及びさまざまなオリゴヌクレオチド誘導体、さらには治療関連炭水化物及びグリカン、たとえば、ヘパリン、ヒアルロン酸、グリコサミノグリカン、及びデンドリティックグリセロールスルフェートを精製するために使用されうる。原理的には、pHの関数として標的アナライト電荷プロファイルについての知識を用いて少なくとも1つ結合状態及び1つの放出状態が見いだされる場合、ここに記載のデバイス及びコーティングは、電気化学を用いて対象となるいずれの大きな及び/又は荷電のマクロ分子を精製するためにも適合化されうる。
【0310】
考察
[00346] 従来のクロマトグラフィーは、すべてのタイプのバイオ医薬、モノクローナル抗体、タンパク質-グリカン(炭水化物)コンジュゲート、オリゴヌクレオチド対タンパク質コンジュゲート、二重特異的抗体、酵素、エキソソーム、炭水化物、ウイルス粒子、RNA及びDNA、さらには細胞の生産プロセスで使用され、解析用mLスケールから産業用何1000Lスケールまでのすべてのスケールで使用される。しかしながら、クロマトグラフィーは、高生産コスト、大量の水、化学剤、及び消耗材使用に関係するいくつかの制約を伴うとともに、長い生産時間をもたらす。
【0311】
[00347] 以上に記載の生物学的分子の分離用デバイスは、非侵襲的方法で同時にアナライトを分離及び濃縮する新規精製機構を組み込む。デバイスは、分離用の現在の商用システム及び機器とインラインで接続可能である。デバイスは、電気化学を用いてマイクロ多孔性電極の高分子電解質コーティングからのバイオ分子の捕捉及び放出を最適化する非慣用設計を有するとともに、組合せで低希釈のアナライトの高効率質量輸送を伴う液体フロースルーを可能にする。豊富な材料を用いて大規模に(mgからgスケールまで)機能することが実証されることから、この技術を用いた産業用調製生産が実現可能となる。デバイスにより分離可能なるアナライトの範囲は、であるは、比類なく広い範囲にわたるタンパク質及び/又は脂質含有アナライト、オリゴヌクレオチド、及び炭水化物であり、アナライトのサイズはさまざまであり、約1nmから数百nmまでの直径でありうる。
【0312】
[00348] 電気化学シグナルによる分離は、クロマトグラフィーによるバイオ分子の伝統的分離方法と比較して顕著な利点を呈する。主な利点は、バイオ分子の結合及び放出のチューニングに必要とされる化学変化が、電極表面上の化学的マイクロ環境に限定されるので、溶出をトリガーする条件への一時的暴露で非常に迅速な溶出機構が提供されることである。これとは対照的に、現在のクロマトグラフィー方法は、全カラムを介してさまざまな緩衝液を流して固形支持体及びバイオ分子間の相互作用を改変することにより時間を消費する溶出ステップを必要とする。
【0313】
[00349] さらに、イオン交換及び疎水性クロマトグラフィーは、非常に高い塩濃度を必要とするか又は界面活性剤を添加する必要があり、後者は、緩衝液交換及び透析により除去する必要がある。アフィニティークロマトグラフィーの場合、化学剤の添加剤が使用されるので、バイオ分子との望ましくない副反応のリスクが加わるとともに、さらには変性による収率低減を招く。本デバイスは、アフィニティークロマトグラフィーで使用される侵襲的溶出プロトコルを電気化学的溶出に置き換える可能性がありうることを示す。例として、組換えタンパク質のHisタグ精製での溶出剤としてのイミダゾールの除去、又はプロテインAクロマトグラフィーを実施するときの抗体分離時のきわめて酸性のpH溶液(pH2~3)洗浄の除去。電気化学的溶出は、酸性pH、塩、イミダゾール界面活性剤、化学剤のような生成物供給の際の望ましくない成分を除去するための後処理の必要性を排除する。
【0314】
[00350] いくつかの場合には、クロマトグラフィーの現在の方法は、強烈で侵襲的な精製方法に起因して許容可能な収率及び純度を提供できず、有望な新しいバイオ医薬の製品化までの時間を長引かせる。電気化学的溶出を利用する以上の記載のデバイスは、いかなる化学添加剤も用いることなく非常に短時間の処理を提供するので、取組み困難な標的アナライトの代替生産方法の役割を果たす。
【0315】
[00351] 電気化学による調製物精製は、デバイスの設計に2つの主要な条件を課す。第1に、電気化学に関する最適化ある。我々は、電気化学の最適化では、電極が物理的に分離され液体の流れを可能にするボイドギャップスペースが得られる十分に大きなデバイスの内側体積を有することが重要であることを見いだした。さらに、対向電極は、作用電極上の規定電圧を持続できる必要がある。第2に、デバイスの全体内側体積は、液体体積が必要以上に生成物を希釈しないように十分小さくする必要がある、マルチ電極セルの電気化学的性質間のトレードオフ及び過剰ボイド体積による希釈への寄与をみいだす必要がある。1つは作用電極用及び1つは対向電極用の2つのコンパートメントに電極セルをスプリットすると、液体体積の少なくとも半分は除去されるので、生成物濃縮の実質的改善が可能になる。しかしながら、電極を単一コンパートメントに配置した設計でさえも、クロマトグラフィー生成物の場合と同等又はそれを超える生産性を得ることが可能である。たとえば、94%サンプル保持でサンプルのインライン濃縮が可能であることが示されたことから、緩衝液交換及びアップ濃縮を実施する必要性が限定される。濃縮及び緩衝液交換は、バイオ生産に通常使用される2つのオフライン操作であり、濃縮は遠心分離により行われ、緩衝液交換は透析により行われる。オフラインプロセスステップは、生産時間を増加させ大きな収率損失の原因になる。
【0316】
[00352] バイオ分子を捕捉する材料の結合能は、調製物精製の鍵を握る性能メトリックである。本明細書に記載のデバイスは、高分子電解質ブラシなどの刺激応答性高分子電解質コーティングで被覆された作用電極を含む。高分子電解質コーティングは、単位表面積当たり多量のアナライトを結合する利点を呈する。親水性高分子電解質コーティング(たとえば、ポリアクリル酸)は、タンパク質構造を保存する軟質3次元スキャフォールドを生成するとともに~μg/cmの範囲内の例外的表面カバレッジ容量を有する。これとは対照的に、クロマトグラフィー樹脂、たとえば、アガロース又はアクリルアミドは、樹脂表面上の単層中にタンパク質を直接結合するために活性化された表面である。
【0317】
[00353] クロマトグラフィー固形支持体の結合能は、より大きな表面積をもたらす樹脂ビーズの細孔及び粒子サイズに調整することにより増大される。しかしながら、表面積及び多孔率は、いずれの固形支持体に対してもチューニング可能であり、ポリマーブラシで機能化されたものに対しても同様である。きわめて小さい多孔率は、最終的に他の問題、たとえば、物質移動及びフロー限界並びにクリーニング困難を導入する。高表面結合能を獲得する高分子電解質コーティングを使用することにより、本明細書に記載のデバイスは、伝統的デバイスよりもより良好な質量輸送性を呈することが可能である。さらに、電極の形状は、デバイスに望ましい特徴を与えるように調整可能である。
【0318】
[00354] クロマトグラフィー材料のランダム内部構造及びクロマトグラフィーカラム内の粒子のランダム充填とは対照的に、このデバイスで使用される電極材料は、クロマトグラフィーカラムと比較して、より予測可能なものさらにはデバイスを介するフローパターンに寄与しうるより秩序性の構造を提供する。ジアゾニウム塩堆積により生成されるアリール結合は多用途であり、鋼、炭素、金、白金、アルミニウム、シリコン、及び他の半導体に対して機能するので、多くの伝導性材料は、作用電極に適すとみなすことが可能である。
【0319】
[00355] 刺激応答性高分子電解質コーティングの使用は、アナライトとの多モードの相互作用を可能にする。刺激応答性高分子電解質は、非静電引力、静電引力、及び静電反撥により生物学的アナライトと相互作用可能である。例示されるように、デバイスの高分子電解質コーティングは、アナライトとのこれらのモードの相互作用を呈し、引力及び反撥は、制御された迅速な非侵襲的電気化学シグナルである。これらのシグナルは、静電相互作用(イオン交換)とマイルドな疎水性相互作用(水素結合)との組合せを介しアナライトの多くの異なる種類の分子性によりアナライトを分離する(いわゆる多モード分離)。溶液の性質を変化させることにより、主にpH及び塩濃度を変化させることにより、相互作用の条件を変化させることが可能である。高分子電解質コーティングの化学的アイデンティティーの工学操作により、さまざまなタイプのアナライトを捕捉及び放出するようにデバイスを調整できる可能性がかなり高い。PAAブラシ以外の他の高分子電解質コーティング、たとえば、ポリ(カルボキシベタインメタクリルアミド)(PCBMAM)、ポリ(2-ジエチルアミノ)エチルメタクリレート(PDEA)、アミノ酸側基を有するモノマー、たとえば、ポリ(セリンメタクリレート)(PSMA)を使用可能である。コーティングは、高分子電解質コーティングのカルボン酸及びアミン機能基のEDC/NHSのようなバイオコンジュゲーション技術を用いて、生物学的リガンド、たとえば、ペプチド、アフィニティータグ、プロテインA/G、カルモジュリンを担持するように後機能化しうるので、高分子電解質コーティングの化学的アイデンティティーにさらに変更を加えることが可能である。さらに、高特異的生物学的リガンドを有する高分子電解質コーティングは、エポキシ基のよう機能基に生物学的リガンドを結合することによりPGMAやPHEMAのような初期に中性のコーティングから調製可能である。バイオポリマーもまた、コーティングとして使用可能であり、かかるポリマーの例は、ヒアルロン酸、ヘパリン、デキストランである。高分子電解質コーティングは、ポリマーブラシでありうるが、ヒドロゲルなどのゲル、層被覆による架橋層のような緻密ポリマーコーティングが生成されるブラシ以外の他のコーティングも使用可能であろう。作用電極の開発の際の主要な必要要件は、ポリマーコーティングが、アナライト及び固形支持体間の結合親和性変化をトリガーする電気化学シグナルに耐えられるように、作用電極表面に十分に強力に結合されること(ここでは共有結合により)を確保することである。
【0320】
[00356] 高分子電解質コーティングの物理性と化学性との組合せは、具体的バイオ精製プロセスの必要条件を満たすように調整可能である。例として、炭水化物、オリゴヌクレオチドは、タンパク質と比較してより大きな分子でありそれほどコンパクトではない。より疎密なグラフト化密度を有するポリマーブラシの調製により、高分子電解質コーティングは、マルチ層の表面へのより大きな分子の高効率の結合が許容可能になる。組合せで、高分子電解質コーティング化学は、静電引力によるか又は非共有結合相互作用によるかのどちらかにより、アナライトの自発的結合が達成される状況に合うように調整可能であり、この場合、放出は逆状態で達成される。
【0321】
[00357] 高分子電解質コーティングのグラフト化密度は、マルチ層のポリマー層内の効率的インターカレーションのために高分子電解質コーティング内の十分なボイドスペースを確保するために大きな分子の結合を促進するうえで重要な因子でありうる。基礎となるスキャフォールドの十分な多孔率もまた、重要である。例として、遺伝子療法からのウイルスベクターの生産では、生産コストに寄与する精製に対する良好な選択肢の不足に起因して取組み困難である。モノメリックタンパク質に最適化されたクロマトグラフィー材料は、細孔が微細すぎて樹脂が目詰まりするリスクがあり、溶出用化学剤の使用は、ウイルス構築物を構成するキャプシドタンパク質間の非共有結合性接着が、pH、塩、界面活性剤などの溶出用化学剤により、容易に破壊されるので、複雑化される。遺伝子療法では、担体は、典型的には、ジェネティック材料がロードされた非常に低い分率の粒子を有する。空のキャプシド及び空の担体ナノ粒子は、患者の安全性リスクであり、深刻なアレルギー反応及び免疫原性応答のリスクを増加させ、低効能で高濃度注入の使用を必要とする。現在のところ、空の担体ナノ粒子から満たされたものを分離可能であるアフィニティークロマトグラフィーの良好なツール(高特異的精製方法)が存在しない。
【0322】
[00358] 遺伝子療法用として検討されるいくつかのウイルスベクター、たとえば、レンチウイルスは、エンベロープ付きであり、つまり、脂質二重層外側シェルを有する。エンベロープ付きウイルスベクターやエキソソームなどの生物学的標的は、遺伝子療法用キャリア材料としてますます妥当なものとなっている。これらの生物学的構築物は、主として脂質で建築される。タンパク質ベースアナライトの精製に加えて、我々はまた、脂質ベース標的の電気化学シグナルによる捕捉及び放出を実証する。
【0323】
[00359] 最後に、デバイスは、現在のところ、非常に非効率的生産プロセスの実質的改善を提供する。本明細書のデバイスは、水、時間、及び化学剤の使用を実質的に低減する可能性があるので、生産品のコストを低減し、生産スピードを加速し、バイオ医薬生産の気候影響を低減する。デバイス使用の帰趨は、新しいバイオ治療剤のより短い開発期間、バイオ医薬のより高いアクセス性でありえる。
図1a
図1b
図1c
図1d
図2a
図2b
図3a
図3b
図3c
図4a
図4b
図4c
図5a
図5b
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
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図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
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図39
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【国際調査報告】