(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-06
(54)【発明の名称】電気化学装置
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20241029BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20241029BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20241029BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20241029BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20241029BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20241029BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20241029BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20241029BHJP
H01G 11/36 20130101ALI20241029BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/36 C
H01M4/58
H01M4/62 Z
H01M10/0569
H01M10/0568
H01M4/48
H01M10/052
H01G11/36
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024523468
(86)(22)【出願日】2022-01-21
(85)【翻訳文提出日】2024-04-18
(86)【国際出願番号】 CN2022073239
(87)【国際公開番号】W WO2023137708
(87)【国際公開日】2023-07-27
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513054978
【氏名又は名称】寧徳新能源科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】Ningde Amperex Technology Limited
【住所又は居所原語表記】No.1 Xingang Road, Zhangwan Town, Jiaocheng District, Ningde City, Fujian Province, 352100, People’s Republic of China
(74)【代理人】
【識別番号】100177426
【氏名又は名称】粟野 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】李 ▲シン▼
【テーマコード(参考)】
5E078
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5E078BA15
5H029AJ02
5H029AJ05
5H029AK03
5H029AL03
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H029DJ08
5H029DJ16
5H029EJ12
5H029EJ14
5H029HJ00
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ04
5H029HJ05
5H050AA02
5H050AA07
5H050BA01
5H050BA08
5H050BA17
5H050CA08
5H050CB03
5H050DA11
5H050EA23
5H050EA24
5H050EA27
5H050EA28
5H050FA16
5H050FA17
5H050FA18
5H050HA00
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA04
5H050HA05
5H050HA07
(57)【要約】
本発明は、負極活物質およびそれを含む電気化学装置に関する。本発明の一部の実施例は電気化学装置を提供し、当該電気化学装置は負極を含み、負極は負極活物質層を含み、当該負極活物質層は負極活物質を含み、かつ、負極活物質はマグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料を含み、マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料の結晶酸化物の表面上にカーボンナノチューブ被覆層が設けられている。本発明にかかる電気化学装置は、カーボンナノチューブ被覆層を有するマグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料を用いることで、電気化学装置の初回クーロン効率を向上させ、電気化学装置のサイクル過程中の構造安定性を改善することができ、さらに電気化学装置のサイクル維持率およびサイクル特性を向上させることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極活物質層を含む負極を含み、
前記負極活物質層は負極活物質を含み、かつ、前記負極活物質はマグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料を含み、
前記マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料の結晶酸化物の表面上にカーボンナノチューブ被覆層が設けられている、電気化学装置。
【請求項2】
前記マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料の前記結晶酸化物の一般式は、Mg
zSiC
xO
yであり、ここで、x、y及びzは、0<x<0.3、0.4<y<1.0、かつ0.1<z<0.2を満たす、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項3】
前記マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料において、ケイ素のモル含有量が40%~70%であり、炭素のモル含有量が3.5%~24%であり、かつマグネシウムのモル含有量が7.0%~7.5%である、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項4】
前記マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料における、ケイ素に対するマグネシウムのモル比が0.1~0.2であり、炭素に対するマグネシウムのモル比が0.2~10.0である、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項5】
前記マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料のラマンスペクトルにおけるI
D/I
G値は、0.023~0.32である、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項6】
炭素のモル含有量に対する前記マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料のラマンスペクトルにおけるI
D/I
G値の比の値は、0.095~6.78である、請求項3または5に記載の電気化学装置。
【請求項7】
前記カーボンナノチューブ被覆層は、
(1)前記カーボンナノチューブ被覆層の厚さが0.5nm~5.0μmであることと、
(2)前記カーボンナノチューブ被覆層がカーボンナノチューブクラスターを含み、前記カーボンナノチューブクラスターが前記カーボンナノチューブ被覆層の表面から延在し、前記カーボンナノチューブクラスターの長さが0.1μm~1.0μmであることと、
のうちの少なくとも1つを満たす、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項8】
前記マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料は、
(1)前記マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料の粒度Dv50が2.5μm~10.0μmであることと、
(2)前記マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料の粒径分布が0.3≦Dn10/Dv50≦0.6を満たすことと、
(3)前記マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料の比表面積が1m
2/g~50m
2/gであることと
のうちの少なくとも1つを満たす、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項9】
前記負極活物質層は、バインダーをさらに含み、
前記バインダーは、合成ゴムを含み、
前記バインダーは、ポリアクリル酸エステル、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリビニリデンフルオライド、スチレン-ブタジエンゴム、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカリウム、ヒドロキシメチルセルロースナトリウム、およびヒドロキシメチルセルロースカリウムからなる群から選ばれる1種または複数種を含み、
前記負極活物質層の総重量に対して、前記バインダーの重量百分率が2%~6%である、請求項1に記載の電気化学装置。
【請求項10】
前記電気化学装置の電解液は、有機溶媒とリチウム塩と含み、
前記有機溶媒は、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルエチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、プロピオン酸プロピル、およびプロピオン酸エチルからなる群から選ばれる1種または複数種を含み、
前記リチウム塩は、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF
6)、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF
4)、ジフルオロリン酸リチウム(LiPO
2F
2)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF
3SO
2)
2)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(Li(N(SO
2F)
2))、リチウムビス(オキサレート)ボレート(LiB(C
2O
4)
2)およびリチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート(LiBF
2(C
2O
4))からなる群から選ばれる1種または複数種を含む、請求項1に記載の電気化学装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギー貯蔵分野に関し、具体的に、負極活物質およびそれを含む電気化学装置、特に、リチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
技術の発展およびモバイル装置に対する需要の増加に伴い、電気化学装置(例えば、リチウムイオン電池)に対する需要は顕著に増加している。高エネルギー密度、高放電特性および高サイクル特性の電気化学装置を提供するために、電気化学エネルギー貯蔵分野における主要な研究方向の一つは、電気化学装置における電極材料の研究および改善である。
【0003】
現在、商用電気化学装置の多くは、黒鉛を電極の負極活物質として採用したが、黒鉛のグラム容量が低い。ケイ素系材料は、黒鉛に比べて、負極活物質としてより高い理論グラム容量を有し、将来体積エネルギー密度の高い電気化学装置を開発するために主要な負極活物質である。しかしながら、実際の応用において、このような高エネルギー密度の負極活物質は、リチウムの吸蔵放出過程において巨大の体積変化効果があるため、電気化学装置のサイクル特性の低下、初回クーロン効率が悪い原因となる。ケイ素系材料に関する改善案には、依然として様々な欠陥が存在する。
【0004】
このような事情に鑑みて、電気化学装置の電池容量、サイクル特性およびレート特性を向上させるために、負極材料や負極活物質に対する研究と改善を継続する必要がある。
【発明の概要】
【0005】
本発明の実施例は、関連分野に存在する問題の少なくとも1つを少なくともある程度で解決するために、基材のない接着フィルムを有する負極活物質およびそれを含む電気化学装置を提供する。
【0006】
本発明の一態様によれば、本発明の一部の実施例は、負極活物質を提供し、当該負極活物質は、マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料を含む。カーボンナノチューブを使用してマグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料の粒子を被覆することで、マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料がカーボンナノチューブ被覆層を更に含み、当該カーボンナノチューブ被覆層はマグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料の結晶酸化物の粒子表面上に設けられている。本発明にかかる負極活物質は、マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料を用いることで、ドープされたマグネシウムは炭素ケイ素酸素材料の初回クーロン効率を改善し、炭素ケイ素酸素材料のレート特性を向上させることができる。また、マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料の結晶酸化物の粒子表面にカーボンナノチューブ被覆層を設けることで、網状導電構造を形成し、負極活物質の電気伝導率を向上させることができる。
【0007】
本発明の別の態様によれば、本発明の一部の実施例は、電気化学装置を提供し、当該電気化学装置は負極を含み、負極は負極活物質層を含み、当該負極活物質層は負極活物質を含み、かつ、負極活物質はマグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料を含み、マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料はカーボンナノチューブ被覆層を含み、カーボンナノチューブ被覆層は前記マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料の結晶酸化物の表面上に設けられている。本発明にかかる電気化学装置は、カーボンナノチューブ被覆層を有するマグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料を用いることで、電気化学装置の初回クーロン効率を向上させ、電気化学装置のサイクル過程中の構造安定性を改善することができ、さらに電気化学装置のサイクル維持率およびサイクル特性を向上させることができる。
【0008】
本発明のいくつかの実施例によれば、マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料の結晶酸化物の一般式は、MgzSiCxOyであり、ここで、x、y及びzは、0<x<0.3、0.4<y<1.0、かつ0.1<z<0.2を満たす。
【0009】
本発明のいくつかの実施例によれば、マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料において、ケイ素のモル含有量が40%~70%であり、炭素のモル含有量が3.5%~24%であり、かつ、マグネシウムのモル含有量が7.0%~7.5%である。
【0010】
本発明のいくつかの実施例によれば、マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料における、ケイ素に対するマグネシウムのモル比が0.1~0.2であり、炭素に対するマグネシウムのモル比が0.2~10.0である。
【0011】
本発明のいくつかの実施例によれば、マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料のラマンスペクトルにおけるID/IG値は、0.023~0.32である。
【0012】
本発明のいくつかの実施例によれば、炭素のモル含有量に対するマグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料のラマンスペクトルにおけるID/IG値の比の値は、0.095~6.78である。
【0013】
本発明のいくつかの実施例によれば、カーボンナノチューブ被覆層の厚さが0.5nm~5.0μmである。
【0014】
本発明のいくつかの実施例によれば、カーボンナノチューブ被覆層はカーボンナノチューブクラスターを含み、前記カーボンナノチューブクラスターは前記カーボンナノチューブ被覆層の表面から延在し、前記カーボンナノチューブクラスターの長さが0.1μm~1.0μmである。
【0015】
本発明のいくつかの実施例によれば、負極活物質層は、バインダーをさらに含み、前記バインダーは、合成ゴムを含み、前記バインダーは、ポリアクリル酸エステル、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリビニリデンフルオライド、スチレン-ブタジエンゴム、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカリウム、ヒドロキシメチルセルロースナトリウム、およびヒドロキシメチルセルロースカリウムからなる群から選ばれる1種または複数種を含む。
【0016】
本発明のいくつかの実施例によれば、負極活物質層の総重量に対して、バインダーの重量百分率は2%~6%である。
【0017】
本発明のいくつかの実施例によれば、電気化学装置の電解液は有機溶媒とリチウム塩と含み、有機溶媒は、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルエチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、プロピオン酸プロピル、およびプロピオン酸エチルからなる群から選ばれる1種または複数種を含み、リチウム塩は、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF4)、ジフルオロリン酸リチウム(LiPO2F2)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3SO2)2)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(Li(N(SO2F)2))、リチウムビス(オキサレート)ボレート(LiB(C2O4)2)、およびリチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート(LiBF2(C2O4))からなる群から選ばれる1種または複数種を含む。
【0018】
本発明の実施例の他の態様および利点については、後述の説明で部分的に説明され、示され、または本願の実施例の実施で説明される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
以下では、本願の実施例を説明するために、本願の実施例または先行技術を説明するための必要な図面を概要的に説明する。明らかに、以下に説明される図面は、本願における一部の実施例にすぎない。当業者にとっては、創造的な労働なしに、依然として、これらの図面に例示された構造に基づいて他の実施例の図面を得ることができる。
【0020】
【
図1】
図1は本発明のいくつかの実施例の負極活物質の粒子構造の模式図である。
【
図2】
図2は本発明の実施例1のマグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料のXRD回折スペクトルである。
【
図3】
図3は本発明の実施例1の負極活物質の走査型電子顕微鏡による5000倍の顕微鏡画像である。
【
図4】
図4は本発明の実施例1と比較例1の電気化学装置のサイクル容量曲線グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施例は、以下に詳細に説明される。本発明の実施例は、本願に対する制限として解釈されるべきではない。
【0022】
本明細書で使用される以下の用語は、別に断らない限り、以下に示す意味を有する。
【0023】
本明細書で使用されるように、「略」、「だいたい」、「実質的」、「約」という用語は、小さな変化を示して説明するためのものである。事例または情況と組み合わせて使用される場合、前記用語は、事例または情況が精確に発生した例およびその事例または情況が極めて近似的に発生した例を指すことができる。例を挙げて説明すると、数値と組み合わせて使用される場合、用語は、前記数値の±10%以下、例えば、±5%以下、±4%以下、±3%以下、±2%以下、±1%以下、±0.5%以下、±0.1%以下、または±0.05%以下の変化範囲を指すことができる。例を挙げて説明すると、2つの数値との間の差が前記値の平均値の±10%以下(例えば、±5%以下、±4%以下、±3%以下、±2%以下、±1%以下、±0.5%以下、±0.1%以下、または±0.05%以下)である場合、前記2つの数値が「だいたい」同じであると考えられる。
【0024】
発明を実施するための形態および請求の範囲において、用語「のうちの少なくとも一方」、「のうちの少なくとも1つ」、「からなる群から選ばれる1種または複数種」、「のうちの少なくとも一方または多方」または他の類似な用語によって接続される項目のリストは、リストされた項目の任意の組み合わせを意味することができる。例えば、項目AおよびBをリストした場合、「AおよびBのうちの一方または多方」というフレーズは、Aのみ、Bのみ、またはAおよびBを意味する。別の実施例において、項目A、BおよびCをリストした場合、「A、BおよびCのうちの一方または多方」というフレーズは、Aのみ、Bのみ、Cのみ、AおよびB(Cを取り除く)、AおよびC(Bを取り除く)、BおよびC(Aを取り除く)、または、A、BおよびCの全部を意味する。項目Aは、1つの素子または複数の素子を含んでよい。項目Bは、1つの素子または複数の素子を含んでよい。項目Cは、1つの素子または複数の素子を含んでよい。
【0025】
また、説明の便宜上、「第1」、「第2」、「第3」などは、本明細書で1つの図または一連の図における異なるコンポーネントを区別するために使用することができる。「第1」、「第2」、「第3」などは、特に指定または限定されない限り、対応するコンポーネントを説明することを意図していない。
【0026】
電気化学エネルギー貯蔵分野では、最適のエネルギー密度を求めるために、従来の負極活物質中の黒鉛を高エネルギー密度の負極活物質に置換することを試みられてきた。しかし、このような高エネルギー密度の負極活物質を応用する場合、異なる材料特性が有されるため、さらなるプロセス処理が必要である。例えば、ケイ素系材料は、4200mAh/gと高い理論グラム容量を有するため、将来の高体積エネルギー密度の電気化学装置(例えば、リチウムイオン電池)の開発に主流の負極活物質となる。このような高エネルギー密度の負極活物質は、リチウムの吸蔵放出過程において、巨大な体積変化効果(例えば、約300%超)をもたらす。負極が著しく膨張すると、負極とセパレーターの界面が変形され分離され、さらに、リチウムイオン電池のサイクル特性が低下する。同時に、ケイ素系材料のリチウムの吸蔵放出過程中のリチウムイオン経路が不安定であるため、不均一なリチウム金属の析出、死リチウム(dead lithium)現象を引き起こしやすくなる。これにより、負極活物質としてケイ素系材料を用いた電気化学装置の初回クーロン効率が悪くなる。初回充放電クーロン効率は、当該電気化学装置の電気化学性能を直接反映することができる。
【0027】
中国特許CN108767241Aは負極材料を開示し、当該負極材料は、ケイ素酸素材料にマグネシウムをドープして形成されたマグネシウムドープケイ素酸化物を用いて、リチウムイオン電池のレート特性および初回クーロン効率を向上させることができる。しかしながら、充放電サイクル過程において、マグネシウムドープケイ素酸化物の導電性が不十分であり、かつリチウムの吸蔵放出過程中の体積膨張率が高いため、負極活物質としてのマグネシウムドープケイ素酸化物が、依然として、均一なリチウム金属析出を効果的に形成できず、その結果、マグネシウムドープケイ素酸化物のサイクル効率が低下し、使用寿命が短くなる。
【0028】
上記の課題に鑑みて、本発明の一態様によれば、
図1に示すように、本発明の一部の実施例は、負極活物質を提供し、当該負極活物質は、高温の製造プロセスによってケイ素酸化物に対して炭素ドーピングおよびマグネシウムドーピングを行って形成した複合材料、すなわちマグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料を含む。マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料の結晶酸化物101の表面上には、カーボンナノチューブ被覆層102をさらに含む。当該カーボンナノチューブ被覆層102は、カーボンナノチューブ被覆プロセスを通じてマグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料の結晶酸化物101の粒子表面上に設けられている。
【0029】
本発明は、ケイ素酸素材料に対してマグネシウムドーピングを行うことにより、マグネシウムケイ素酸化物を形成することができ、電気化学装置の初回クーロン効率を向上させることができる。同時に、炭素をドープすることで、複合マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料中に、炭素含有マグネシウムケイ素酸化物をさらに形成することができる。炭素含有マグネシウムケイ素酸化物は、リチウムの吸蔵放出過程において、低い体積膨張率および優れたサイクル構造安定性を有する。マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料は、サイクル過程において均一なリチウム金属析出を効果的に形成でき、電気化学装置のサイクル特性を向上させ、その使用寿命を長くすることができる。また、本発明は、カーボンナノチューブによってマグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料の粒子表面を被覆することで、負極活物質の導電性をさらに向上させることができる。
【0030】
マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料は、マグネシウム、炭素、ケイ素および酸素からなる結晶酸化物と、その表面に被覆されているカーボンナノチューブとを含む複合材料である。いくつかの実施例において、マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料の結晶酸化物は、一般式MgzSiCxOyで表すことができる。いくつかの実施例において、マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料の結晶酸化物の一般式MgzSiCxOyの化学量論は、0<x<0.3、0.4<y<1.0、かつ0.1<z<0.2である。いくつかの実施例には、0.15<x<0.28、0.6<y<0.8、かつ0.1<z<0.2である。いくつかの実施例には、0.2<x<0.25、0.7<y<0.78、かつ0.1<z<0.2である。
【0031】
マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料における各成分およびその結晶構造組成は、電気化学装置でのマグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料のサイクル特性、グラム容量および構造安定性に一定の影響を与える。いくつかの実施例において、マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料におけるケイ素元素Siのモル含有量が40%~70%である。ケイ素元素の含有量が低すぎると、負極活物質のグラム容量が少なくなり、ケイ素元素の含有量が高すぎると、負極活物質の体積膨張率が高くなる。いくつかの実施例において、マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料におけるケイ素元素Siのモル含有量は60%である。
【0032】
いくつかの実施例において、マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料におけるマグネシウム元素Mgのモル含有量は7.00%~7.5%である。マグネシウム元素が上記含有量範囲にあると、炭素含有マグネシウムケイ素酸化物を効果的に形成できるとともに、マグネシウム元素と酸素が高活性な酸化マグネシウムまたはマグネシウム金属の形成を回避することができ、それにより、負極活物質としてのマグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料の初回クーロン効率を向上させ、マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料の電気化学サイクル反応中の安全性リスクを低減することができる。
【0033】
いくつかの実施例において、マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料における炭素元素Cのモル含有量は3.5%~24%である。マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料における炭素元素源は、結晶酸化物にドープされた炭素と、結晶酸化物を被覆したカーボンナノチューブを含む。炭素のドーピング量が低すぎると、負極活物質の構造安定性が低下して体積膨張率が高くなり、炭素のドーピング量が高すぎると、負極活物質のグラム容量が低下する。いくつかの実施例において、マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料における炭素元素Cのモル含有量は4.5%~10%である。いくつかの実施例において、マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料における炭素元素Cのモル含有量は約6%である。
【0034】
なお、本発明のマグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料における各元素成分の含有量は、当該分野の任意の適切な検出方法を用いて検出することができるが、これに限定されないことを理解すべきである。いくつかの実施例において、マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料におけるマグネシウム含有量およびケイ素含有量は、X線回折分析によって測定できる。いくつかの実施例において、マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料の炭素含有量は、下記の炭素含有量試験によって測定できる。酸素富化条件下で、サンプルを高周波炉によって高温で加熱して燃焼させ、炭素と硫黄をそれぞれ二酸化炭素と二酸化硫黄に酸化させる。上記気体は処理された後に対応する吸収セルに入り、対応する赤外線輻射を吸収し、検出器によって対応するシグナルに変換される。このシグナルをコンピューターによりサンプリングし、直線性補正した後、二酸化炭素と二酸化硫黄の濃度に比例した数値に変換する。そして、分析全過程の数値を累積し、分析が完了した後、コンピューターでこの累積値を重量の値で割り、補正係数を乗じてブランクを差し引くと、サンプル中の炭素、硫黄の含有率が得られる。サンプル試験には、高周波赤外線硫黄炭素分析装置(Shanghai Dekai Instrument Co.,Ltd.HCS-140)を使用する。
【0035】
図2は本発明の実施例1のマグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料のXRD回折スペクトルである。
図2に示すように、一実施例において、マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料に対してX線回折分析を行い、XRD回折スペクトルには、マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料がSi、SiO
2、MgSiO
3、Mg
2SiO
4から選ばれる1種または複数種の特徴的なピークを含む。いくつかの実施例において、マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料における、ケイ素に対するマグネシウムのモル比が0.1~0.2であり、炭素に対するマグネシウムのモル比が0.2~10.0である。それにより、マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料の電気化学装置でのサイクル特性および初回クーロン効率が改善される。いくつかの実施例において、マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料における、ケイ素に対するマグネシウムのモル比が約0.12である。
【0036】
図3は本発明の実施例1のマグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料の走査型電子顕微鏡による5000倍の顕微鏡画像である。
図3から分かるように、マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料の結晶酸化物の粒子表面上に設けられたカーボンナノチューブ被覆層は、網状導電構造を形成でき、それにより、サイクル過程中のリチウム金属析出の分布をさらに均一にするとともに、マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料の体積膨張分布を改善し、負極活物質がサイクル過程においてより優れた構造安定性を有させることができる。
【0037】
いくつかの実施例において、カーボンナノチューブ被覆層の厚さは、マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料の電気化学装置での導電性およびエネルギー密度に影響を与えることができる。カーボンナノチューブ被覆層の厚さが厚すぎると、マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料のグラム容量が低下し、カーボンナノチューブ被覆層の厚さが薄すぎると、その導電性が低下し、マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料の構造安定性を向上させることができない。いくつかの実施例において、カーボンナノチューブ被覆層の厚さは、約0.5nm、1.0nm、5nm、10nm、50nm、100nm、250nm、500nm、1.0μm、もしくは5.0μmであり、または上記数値のいずれか2つからなる数値範囲である。いくつかの実施例において、カーボンナノチューブ被覆層の厚さは、0.5nm~5.0μmである。いくつかの実施例において、カーボンナノチューブ被覆層の厚さは、2.0nm~150nmである。
【0038】
いくつかの実施例において、カーボンナノチューブ被覆層は、カーボンナノチューブクラスターを含む。カーボンナノチューブクラスターは、マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料の粒子表面から外向きに延在し、他の粒子表面のカーボンナノチューブ被覆層に接触することで、有効な導電ネットワークを形成し、マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料の導電性を改善する。いくつかの実施例において、カーボンナノチューブクラスターの延在長さが0.1μm~1.0μmである。いくつかの実施例において、カーボンナノチューブクラスターの厚さが約0.5μmである。
【0039】
本明細書では、カーボンナノチューブ被覆層の厚さおよびカーボンナノチューブクラスターの延在長さは、特に限定されなく、当該分野の任意の適切な検出方法を用いて検出することができる。いくつかの実施例において、カーボンナノチューブ被覆層の厚さおよびカーボンナノチューブクラスターの延在長さは、走査型電子顕微鏡(SEM)または透過型電子顕微鏡(TEM)で評価する。いくつかの実施例において、走査型電子顕微鏡での評価は、PhilipsXL-30型電界放出型走査電子顕微鏡を用いて記録し、10kV、10mAの条件で行った。
【0040】
いくつかの実施例において、マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料粒子の粒度(Dv50)が2.5μm~10.0μmである。いくつかの実施例において、マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料粒子の粒度(Dv50)を2.7μm~5.3μmとしたことで、マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料の負極活物質層中での塗布分布が改善される。いくつかの実施例において、マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料粒子の粒径分布は、関係式:0.3≦Dn10/Dv50≦0.6を満たす。
【0041】
本明細書において、用語「粒度」は、特に指定されていない場合、粒度試験によって得られたサンプルの特徴的な粒子特性、例えば、Dn10またはDv50を含む。ここで、Dn10は、材料の粒径基準の粒子分布において、小粒径側から粒子数量累積が10%となる粒子径を示す。Dv50は、材料の体積基準の粒子分布において、小粒径側から体積累積が50%となる粒子径を示す。いくつかの実施例において、粒度試験方法は、Mastersizer2000レーザー粒度分布試験装置を用いてサンプルの粒子の粒径を分析した。サンプルを100mLの分散剤(脱イオン水)中に分散し、遮光度を8~12%にする。その後、40KHz、180wの超音波強度でサンプルに対して5分間超音波処理を行った。超音波処理した後、サンプルに対してレーザー粒径分布分析を行い、粒径分布データを得た。
【0042】
いくつかの実施例において、マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料粒子の比表面積が1m2/g~50m2/gである。いくつかの実施例において、マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料粒子の比表面積を5m2/g~20m2/gとしたことで、マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料と電解液との反応速度を維持する。
【0043】
いくつかの実施例において、マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料におけるカーボンナノチューブ被覆層の被覆度および構造安定性は、ラマンスペクトル検出によって評価できる。ここで、ラマンスペクトルにおける約1350cm-1と1580cm-1付近のDピークおよびGピークは炭素原子結晶のラマンスペクトル特徴的なピークである。いくつかの実施例において、マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料のラマンスペクトルにおける特徴的なピークであるDピークの値と特徴的なピークであるGピークの値との比の値、即ちID/IG値は、マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料粒子中のカーボンナノチューブ被覆層による網状導電構造を評価できる。マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料のラマンスペクトルにおけるID/IG値が低いと、そのカーボンナノチューブ被覆層の網状導電構造が比較的に完全であることを示す。いくつかの実施例において、マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料のラマンスペクトルにおけるID/IG値が0.32以下である。いくつかの実施例において、マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料のラマンスペクトルにおけるID/IG値を0.023~0.32としたことで、カーボンナノチューブ被覆層の網状導電構造が改善される。
【0044】
いくつかの実施例において、炭素のモル含有量に対するマグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料のラマンスペクトルにおけるID/IG値の比の値は、さらに、マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料に対するカーボンナノチューブ被覆層の被覆程度を評価できる。炭素のモル含有量に対するマグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料のラマンスペクトルにおけるID/IG値の比の値が低すぎると、マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料のグラム容量が少なくなる。炭素のモル含有量に対するマグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料のラマンスペクトルにおけるID/IG値の比の値が高すぎると、マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料に対するカーボンナノチューブ被覆層の被覆が不良になる。いくつかの実施例において、炭素のモル含有量に対するマグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料のラマンスペクトルにおけるID/IG値の比の値が0.095~6.78である。
【0045】
本発明の別の態様によれば、本発明の一部の実施例は、前記マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料の調製方法を提供し、具体的なプロセスは以下のとおりである。
【0046】
(1)カーボンナノチューブ原料とエタノールとを混合し、所定のカーボンナノチューブ濃度を有するエタノール分散液として調製する。いくつかの実施例において、エタノール分散液におけるカーボンナノチューブの重量パーセント濃度が1.5%~10.0%である。いくつかの実施例において、エタノール分散液におけるカーボンナノチューブの重量パーセント濃度が1.6%~6.6%である。
【0047】
(2)マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料の前駆体とエタノール分散液とを混合し、均一に撹拌する。マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料の前駆体とエタノール分散液との混合液を蒸発乾燥し、乾燥粉末を収集する。
【0048】
(3)収集した乾燥粉末をアルゴン雰囲気下で高温処理し、マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料を得る。いくつかの実施例において、高温処理の温度が400℃~800℃である。いくつかの実施例において、高温処理の温度が約600℃である。いくつかの実施例において、高温処理の時間が1h~5hである。いくつかの実施例において、高温処理の時間が約3hである。
【0049】
本発明は、エタノール分散液を用いることで、カーボンナノチューブでマグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料の前駆体を被覆して、カーボンナノチューブ被覆層を有するマグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料を形成することができる。本発明のカーボンナノチューブ被覆層を有するマグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料は、単純の炭素被覆または炭素ドープ処理された負極活物質に比べて、電気伝導性を高めるだけでなく、炭素材料がマグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料の電気性能およびグラム容量に与える影響も低減でき、マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料のリチウム析出の吸蔵放出メカニズムを改善でき、さらに、マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料の電気化学装置での電気性能およびサイクル特性を改善できる。いくつかの実施例において、高温処理の温度と反応時間を調節することで、マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料におけるカーボンナノチューブ被覆層の導電と被覆構造をさらに改善し、マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料が負極活物質として優れたサイクル特性および初回クーロン効率を発揮することができる。
【0050】
本発明の別の態様によれば、本発明の一部の実施例は、電気化学装置を提供し、当該電気化学装置は負極を含み、負極は負極活物質層を含み、当該負極活物質層は負極活物質を含み、かつ、負極活物質は上記の実施例におけるマグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料を含む。電気化学装置は、カーボンナノチューブ被覆層を有するマグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料を用いることで、電気化学装置の初回クーロン効率を向上させ、電気化学装置のサイクル過程中の構造安定性を改善することができ、さらに電気化学装置のサイクル維持率およびサイクル特性を向上させることができる。いくつかの実施例において、負極活物質の総重量に対して、マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料の重量百分率が20%以上である。いくつかの実施例において、マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料の重量百分率が60%以上である。いくつかの実施例において、負極活物質は、上記の実施例におけるマグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料から形成される。
【0051】
いくつかの実施例において、負極活物質は黒鉛をさらに含み、黒鉛は天然黒鉛、人造黒鉛、及びメソカーボンマイクロビーズからなる群から選ばれる1種または複数種を含む。それにより、負極活物質の導電性およびサイクル特性を向上させることができる。負極活物質は、本発明の趣旨に反しない限り、リチウム(Li)を吸蔵および放出できる当該分野の他の一般的な負極活物質を含むことができる。他の一般的な負極活物質は、例えば、炭素材料、金属化合物、酸化物、硫化物、LiN3などのリチウムの窒化物、リチウム金属、リチウムとともに合金を形成した金属元素と半金属元素、重合体材料およびそれらの組み合わせから選ばれる1種または複数種を含むが、これらに限定されない。
【0052】
いくつかの実施例において、負極活物質は、マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料の含有量を調節することによって負極活物質の粉体電気伝導率を制御することができ、それにより、負極活物質層のサイクル特性を改善できる。いくつかの実施例において、負極活物質の粉体電気伝導率が2.0S/cm~30S/cmである。いくつかの実施例において、負極活物質の粉体電気伝導率が5.0S/cm~10S/cmである。本明細書において、負極活物質の粉体電気伝導率は、特に限定されなく、当該分野の任意の適切な検出方法を用いて検出することができる。いくつかの実施例において、負極活物質の粉体電気伝導率の検出方法は以下のとおりである。抵抗率測定装置(Suzhou Jingge Electronic Co.,LTD、ST-2255A)を採用して、粉末サンプルを5g取って、電子プレス機で5000kg±2kgの定圧で15~25s保持し、サンプルを測定装置の電極間に置いて、式δ=h/(S*R)/1000により粉末電子電気伝導率を算出し、ここで、hがサンプルの高さ(cm)であり、Rが抵抗(KΩ)であり、Sが粉末サンプルをシートにプレスした後の面積、即ち3.14cm2である。
【0053】
いくつかの実施例において、負極活物質層の抵抗範囲が0.2Ω~1Ωである。
【0054】
いくつかの実施例において、負極活物質層はバインダーをさらに含み、負極活物質層の構造安定性を向上させることができる。いくつかの実施例において、バインダーは、合成ゴムを含み、前記バインダーは、ポリアクリル酸エステル、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリビニリデンフルオライド、スチレン-ブタジエンゴム、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカリウム、ヒドロキシメチルセルロースナトリウム、およびヒドロキシメチルセルロースカリウムからなる群から選ばれる1種または複数種を含む。いくつかの実施例において、負極活物質層の総重量に対して、バインダーの重量百分率は2%~6%である。別の実施例において、負極活物質の総重量に対して、バインダーの重量百分率は、例えば、約2%、約3%、約4%、約5%、もしくは約6%であり、またはこれらの数値のいずれか2つからなる範囲である。
【0055】
いくつかの実施例において、負極活物質層は導電剤をさらに含み、負極活物質層の導電性を向上させることができる。導電剤は、カーボンナノチューブ、導電性カーボンブラック、アセチレンブラック、グラフェン、及びケッチェンブラックからなる群から選ばれる1種または複数種を含む。なお、当業者は、実際の必要に応じて当該分野の通常の導電剤を選択することができるが、これらに限定されることない。いくつかの実施例において、負極活物質層の総重量に対して、導電剤の重量百分率は1%~10%である。別の実施例において、負極活物質の総重量に対して、導電剤の重量百分率は、例えば、約1%、約2%、約3%、約5%、もしくは約10%であり、またはこれらの数値のいずれか2つからなる範囲である。
【0056】
いくつかの実施例において、負極は、負極集電体をさらに含む。負極集電体は銅箔またはニッケル箔であってよいが、当該分野によく用いられる他の負極集電体を用いることができるが、これらに限定されることない。
【0057】
いくつかの実施例において、電気化学装置は、正極とセパレーターとをさらに含み、正極、セパレーター、および上記の実施例における負極は、巻取りまたは重ね合わせにより電極アセンブリを形成することができる。本発明における電極アセンブリは、本発明の趣旨に反しない限り、当該分野における任意の適切の電極アセンブリであってよいが、これらに限定されることない。いくつかの実施例において、電極アセンブリは巻回構造である。いくつかの実施例において、電極アセンブリは積層構造またはマルチタブ構造(multi tab structure)であることができる。いくつかの実施例において、電気化学装置はリチウムイオン電池である。
【0058】
いくつかの実施例において、正極は正極集電体と正極活物質層とを含む。正極集電体はアルミニウム箔またはニッケル箔であってよいが、当該分野によく用いられる他の正極集電体を用いることができるが、これらに限定されることない。いくつかの実施例において、正極活物質層はリチウム(Li)を吸蔵および放出できる正極活物質(以下、「リチウムLiを吸蔵/放出できる正極活物質」と称することがある)を含む。リチウム(Li)を吸蔵/放出できる正極活物質の例としては、コバルト酸リチウム、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム、ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウム、マンガン酸リチウム、リン酸マンガン鉄リチウム、リン酸バナジウムリチウム、リン酸バナジウム酸素リチウム、リン酸鉄リチウム、チタン酸リチウムおよびリチウムリッチマンガン系材料からなる群から選ばれる1種または複数種を含む。
【0059】
いくつかの実施例において、正極活物質層はさらに、バインダーおよび導電剤のうちの少なくとも1種を含むことができる。バインダーは、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレンの共重合体、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ポリアクリル酸エステル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン、ポリビニルエーテル、ポリメチルメタクリレート、ポリテトラフルオロエチレンおよびポリヘキサフルオロプロピレンからなる群から選ばれる1種または複数種を含む。導電剤は、カーボンナノチューブ、導電性カーボンブラック、アセチレンブラック、グラフェン、及びケッチェンブラックからなる群から選ばれる1種または複数種を含む。なお、当業者は、実際の必要に応じて当該分野の通常のバインダーおよび導電剤を選択することができるが、これらに限定されることない。
【0060】
いくつかの実施例において、セパレーターは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、およびアラミドからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むが、これらに限定されることない。例えば、ポリエチレンは、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、および超高分子量ポリエチレンから選ばれる少なくとも1種の成分を含む。中でも、ポリエチレンおよびポリプロピレンは、短絡を防止するために良好な役割を果たし、オフ効果により電池の安定性を改善することもできる。なお、当業者は、実際の必要に応じて当該分野の通常のセパレーターを選択することができるが、これらに限定されることない。
【0061】
いくつかの実施例において、本発明の電気化学装置は電解液をさらに含み、当該電解液はリチウム塩と有機溶媒とを含む。
【0062】
いくつかの実施例において、リチウム塩は、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF4)、ジフルオロリン酸リチウム(LiPO2F2)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3SO2)2)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(Li(N(SO2F)2))、リチウムビス(オキサレート)ボレート(LiB(C2O4)2)およびリチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート(LiBF2(C2O4))からなる群から選ばれる1種または複数種を含む。例えば、リチウム塩としては、イオン導電率が高くかつサイクル特性を改善できるため、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)を選択する。
【0063】
いくつかの実施例において、有機溶媒は、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルエチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、プロピオン酸プロピル、およびプロピオン酸エチルからなる群から選ばれる1種または複数種を含む。リチウム塩は、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF4)、ジフルオロリン酸リチウム(LiPO2F2)、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiN(CF3SO2)2)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(Li(N(SO2F)2))、リチウムビス(オキサレート)ボレート(LiB(C2O4)2)、およびリチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート(LiBF2(C2O4))からなる群から選ばれる1種または複数種を含む。
【0064】
いくつかの実施例において、電解液は添加剤をさらに含む。添加剤は、本発明の趣旨に反しない限り、当該分野における任意の適切の添加剤であってよいが、これらに限定されることない。
【0065】
なお、本発明の実施例における正極、セパレーター、負極および電解液の製造方法、本発明の趣旨に反しない限り、具体的な需要に応じて当該分野の任意の適切な通常方法を選択してよいが、これらに限定されることない。電気化学装置の製造方法の一実施形態において、リチウムイオン電池の製造方法は以下のステップを含む。実施例における負極、セパレーターおよび正極を順に巻き、折り畳み、または積層して電極アセンブリになり、その後、電極アセンブリをアルミプラスチックフィルムなどの筐体に入れて、電解液を注入し、電極アセンブリが取り付けられたリチウムイオン電池に対して、後続の真空封止、静置、フォーメーション(formation)、整形(shaping)などの工程を行うことにより、リチウムイオン電池を得た。
【0066】
上記では、リチウムイオン電池を例として説明したが、当業者は本発明に基づき、本発明の負極活物質の接着フィルムを他の適切な電気化学装置に適用できることを想到できる。このような電気化学装置は、電気化学反応を発生する任意の装置を含む、その具体的な例として、全種類の一次電池、二次電池、燃料電池、太陽電池、またはキャパシタを含む。特に、当該電気化学装置は、リチウム金属二次電池、リチウムイオン二次電池、リチウム重合体二次電池またはリチウムイオン重合体二次電池を含むリチウム二次電池である。
【0067】
本発明のいくつかの実施例は電子装置をさらに提供し、電子装置は、本発明の実施例における電気化学装置を含む。
【0068】
本発明の実施例の電子装置は、特に限定されず、先行技術で知られている任意の電子装置であってよい。ある実施例において、電子装置は、ノートパソコン、ペン入力型コンピューター、モバイルコンピューター、電子ブックプレーヤー、携帯電話、携帯型ファクシミリ、携帯型コピー機、携帯型プリンター、ステレオヘッドセット、ビデオレコーダー、液晶テレビ、ポータブルクリーナー、携帯型CDプレーヤー、ミニCD、トランシーバー、電子ノートブック、計算機、メモリーカード、ポータブルテープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、モーター、自動車、オートバイ、補助自転車、自転車、照明器具、おもちゃ、ゲーム機、時計、電動工具、閃光灯、カメラ、大型家庭用ストレージバッテリー、およびリチウムイオンコンデンサーなどを含んでよいが、これらに限定されない。
【0069】
具体的な実施例
以下、いくつかの具体的な実施例および比較例を挙げ、その電気化学装置(リチウムイオン電池)に対するラマン試験、サイクル試験、レート特性試験、膨張率試験の試験方法および結果について説明することで、本発明の技術的解決策をよりよく説明する。
【0070】
一、試験方法
1.1 ラマン試験:
ラマン分光計(Jobin Yvon LabRAM HR)を利用し、光源の波長が532nmであり、試験範囲が0cm-1~4000cm-1であった。100μm×100μmのサイズの負極活物質に対して試験を行い、1350cm-1および1580cm-1付近のピーク強度を記録した。組ごとに100回数値を取り、DピークとGピークという特徴的なピーク値の比の平均値、即ち、ID/IG値を算出した。
【0071】
1.2 レート特性試験:
以下の実施例および比較例におけるフォーメーションされたリチウムイオン電池を45℃±2℃の恒温器に2時間放置し、0.5Cの定電流で4.45Vまで充電した後、4.45Vの定電圧で0.025Cまで充電して5分間放置し、そして、0.2Cの定電流で3.0Vまで放電した。これは初回容量であり、リチウムイオン電池の初回サイクルの放電容量を記録した。その後、0.5Cの定電流で4.45Vまで充電し、そして、2Cの定電流で3.0Vまで放電し、放電容量を記録した。初回容量から負極活物質のグラム容量を算出し、初回容量に対する2Cの放電容量の比の値を負極活物質の初回効率として算出した。
【0072】
1.3 サイクル特性試験:
以下の実施例および比較例におけるフォーメーションされたリチウムイオン電池を25℃±2℃の恒温器に2時間放置し、0.5Cの定電流で4.45Vまで充電した後、4.45Vの定電圧で0.025Cまで充電して5分間放置し、そして、0.3Cの定電流で3.0Vまで放電した。これは1回の充放電サイクル過程であり、リチウムイオン電池の初回サイクルの放電容量を記録した。その後、上記の方法に従って充放電サイクル過程を繰り返し、初回放電容量に対する放電容量の比の値を記録して、容量変化曲線グラフを得た。
【0073】
組ごとにリチウムイオン電池を4本取って、リチウムイオン電池の容量維持率の平均値を算出した。リチウムイオン電池のサイクル容量維持率=第400回のサイクルの放電容量(mAh)/初回サイクル後の放電容量(mAh)×100%である。
【0074】
1.4 サイクル厚さ膨張率試験:
600g平板厚さ計(flat plate thickness gauge)(ELASTOCON、EV01)を利用して、リチウムイオン電池の厚さを測定した。
【0075】
以下の実施例および比較例におけるフォーメーションされたリチウムイオン電池を25℃±2℃の恒温器に2時間放置し、0.7Cの定電流で4.45Vまで充電した後、4.45Vの定電圧で0.05Cまで充電して15分間放置し、満充電されたリチウムイオン電池の厚さを記録し、そして、0.5Cの定電流で3.0Vまで放電した。これは1回の充放電サイクル過程であり、リチウムイオン電池の初回サイクルのリチウムイオン電池の厚さを記録した。その後、上記の方法に従って充放電サイクル過程を400回繰り返し、400回サイクルされたリチウムイオン電池の厚さを記録した。
【0076】
組ごとにリチウムイオン電池を4本取って、リチウムイオン電池のサイクル厚さ膨張率の平均値を算出した。リチウムイオン電池のサイクル厚さ膨張率=(第400回のサイクルのリチウムイオン電池の厚さ/初回サイクルのリチウムイオン電池の厚さ-1)×100%である。
【0077】
二、製造方法
2.1 正極の製造
正極活物質であるコバルト酸リチウム(LiCoO2)と、導電性カーボンブラック(SuperP)と、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、97.5:1.0:1.5の質量比で混合して、溶媒としてN-メチルピロリドン(NMP)を入れて、固形分が0.75であるスラリーを調製し、均一に攪拌した。スラリーを正極集電体であるアルミニウム箔に均一に塗布し、90℃で乾燥した。そして、冷間プレス、裁断、スリッティング(slitting)工程を行った後、正極を得た。
【0078】
2.2 電解液の調製
含水率150ppm未満の環境(乾燥アルゴン雰囲気)下、リチウム塩であるLiPF6と有機溶媒(エチレンカーボネート(EC):ジエチルカーボネート(DEC):プロピレンカーボネート(PC):プロピオン酸プロピル(PP):ビニレンカーボネート(VC)=20:30:20:28:2、質量比)とを8:92の質量比で調製した溶液をリチウムイオン電池の電解液として使用した。
【0079】
2.3 負極の製造
負極集電体として銅箔を利用し、以下の実施例または比較例が提供した負極活物質と黒鉛とを等質量比(1:1)で混合し、設計混合グラム容量が850mAh/gである混合粉末を得た。混合粉末と、アセチレンブラックと、ポリアクリル酸(PAA)とを95:1.2:3.8の重量比で脱イオン水溶媒系中において均一になるまで十分に攪拌混合して、負極活物質スラリーを形成した。その後、銅箔の表面に1層の負極活物質スラリーを均一に塗布し、90℃で乾燥した。そして、冷間プレス、裁断、スリッティング工程を行った後、85℃の真空で4h乾燥して、負極を製造した。
【0080】
2.4 リチウムイオン電池の製造
セパレーターとして、厚さが15μmであるポリエチレンフィルムを利用し、セパレーターが正極と負極との間に介在して隔離の役割を果たすように、上記の正極と、セパレーターと、負極とを順に積み重ねた。積み重ねた電極アセンブリを80℃で水分を除去した後、乾燥した電極アセンブリを得た。乾燥した電極アセンブリを外装に入れて、調製した電解液を注入し、封止し、フォーメーション、脱気、サイドカット(Side Cutting)などの工程を経て、リチウムイオン電池を得た。
【0081】
2.5 負極活物質の調製
実施例1
(1)カーボンナノチューブ原料とエタノールとを混合し、3.3wt%のカーボンナノチューブ濃度を有するエタノール分散液を調製した。
【0082】
(2)マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料の前駆体とエタノール分散液とを均一に混合攪拌し、当該前駆体がマグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料の一般式:Mg0.14SiC0.25O0.77の化学量論比で混合してなり、ここで、マグネシウム原料(マグネシウム粉)と、炭素原料(アセチレンガス)と、ケイ素酸素原料との重量比が2:1:10であった。マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料の前駆体とエタノール分散液との混合液を蒸発乾燥し、乾燥粉末を収集した。
【0083】
(3)収集した乾燥粉末をアルゴン雰囲気下で高温処理して、マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料を得た。ここで、高温処理は、温度が約600℃であり、時間が3hであった。
【0084】
実施例2と3
第(1)ステップにおいて、エタノール分散液におけるカーボンナノチューブ濃度が異なる以外は、実施例1の製造方法とだいたい同じであり、具体的には、以下の実施例の表を参照すればよい。
【0085】
実施例4~7
第(3)ステップにおいて、高温処理の温度が異なる以外は、実施例1の製造方法とだいたい同じであり、具体的には、以下の実施例の表を参照すればよい。
【0086】
実施例8と9
第(3)ステップにおいて、高温処理の時間が異なる以外は、実施例3の製造方法とだいたい同じであり、具体的には、以下の実施例の表を参照すればよい。
【0087】
比較例1
マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料の前駆体をアルゴン雰囲気下で高温処理し、マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料を得た。当該前駆体がマグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料の一般式:Mg0.14SiC0.18O0.8の化学量論比で混合してなり、ここで、マグネシウム原料(マグネシウム粉)と、炭素原料(アセチレンガス)と、ケイ素酸素原料との重量比が2:1:10であり、高温処理は、温度が約600℃であり、時間が3hであった。
【0088】
三、比較結果
3.1 負極活物質の組成の比較
実施例1~9と比較例1のリチウムイオン電池の区別は、それらに用いられる負極活物質(カーボンナノチューブ被覆層を配置した後)およびその前駆体(カーボンナノチューブ被覆層を配置していない)の組成が異なり、負極活物質の前駆体の組成およびマグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料に対する成分試験およびラマン試験の結果は、以下の表1に記載した。
【0089】
【0090】
N/Aは対応している数値がないことを示す。
【0091】
表1により分かるように、本発明は、エタノール分散液を採用する製造プロセスによって、負極活物質粒子の結晶酸化物の表面にカーボンナノチューブ被覆層を効果的に形成することができる。それにより、製造された負極活物質粉末が製造する前の負極活物質より高い炭素含有量を有する。実施例1~3により分かるように、カーボンナノチューブ被覆層の厚さは、エタノール分散液におけるカーボンナノチューブ濃度を調節することで制御できる。そして、ラマン試験の結果により分かるように、カーボンナノチューブ被覆層の厚さは、その炭素構造の安定性と導電性に影響を与える。
【0092】
実施例1および4~9により分かるように、カーボンナノチューブ被覆層の被覆構造は、高温処理の温度と時間によって影響を受けることができる。ラマン試験の結果により分かるように、高温処理の温度が下がると、カーボンナノチューブ被覆層の炭化度が低下し、そのカーボンナノチューブ被覆層の無秩序度と炭素構造の欠陥が増加する。高温処理の温度が上がると、カーボンナノチューブ被覆層の炭化度が増加し、そのカーボンナノチューブ被覆層の無秩序度と炭素構造の欠陥が低減する。
【0093】
3.2 電気化学装置性能の比較
実施例1~9および比較例1のリチウムイオン電池に対するレート試験、サイクル特性試験およびサイクル厚さ膨張率試験の結果は、以下の表2に記載した。
【0094】
【0095】
表2に参照すれば、本発明の実施例にかかるマグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料は、優れた初回クーロン効率およびサイクル特性を有する。本発明は、マグネシウムドープケイ素酸化物に炭素を更にドープすることで、負極活物質のサイクル効果を向上させ、その高いサイクル回数後のサイクル厚さ膨張率を低減し、そのサイクル寿命を長くすることができる。実施例と比較例1をさらに比較すると、
図4は本発明の実施例1のサイクル容量曲線201と比較例1の電気化学装置のサイクル容量曲線202との比較図である。
図4に示すように、本発明の実施例1は、カーボンナノチューブ被覆層を有するマグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料を含み、特定のカーボンナノチューブ被覆層を設けることによって、負極活物質のサイクル容量維持率を向上させ、サイクル厚さ膨張率を大幅に低減することができ、それにより、電気化学装置が優れた初回クーロン効率およびサイクル特性を有することができる。
【0096】
実施例1~3により分かるように、カーボンナノチューブ被覆層の厚さが薄いと、被覆層が緻密ではなく、連続的かつ均一な導電ネットワークを効果的に形成できず、材料のサイクル維持率が低下する。カーボンナノチューブ被覆層の厚さが厚いと、副生成物の蓄積が増加し、電解液の消費および活性リチウムの消費が増加するため、材料のサイクル維持率が低下し、材料の初回導電効率も低下する。
【0097】
実施例4~9により分かるように、焼成温度が下がると、マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料の炭化度が低下し、それにより、被覆層の欠陥が増加し、ID/IG値が増加し、導電ネットワークの電子伝導性能が低下し、サイクル維持率が低下する。焼成温度が上がると、マグネシウムドープ炭素ケイ素酸素材料の炭化度が増加し、それにより、被覆層の欠陥が減少し、ID/IG値が低下し、導電ネットワークの電子伝導性能が向上する。しかしながら、温度が上がると、炭素ドープケイ素材料におけるケイ酸塩相が増加するため、初回効率が低下する。また、ケイ酸塩相が増加すると、材料の構造安定性が悪化するため、サイクル維持率が低下する。
【0098】
明細書全体では、「実施例」、「一部の実施例」、「一実施例」、「別の例」、「例」、「具体的な例」または「一部の例」についての引用は、本発明における少なくとも1つの実施例または例が当該実施例または例に記載した特定の特徴、構造、材料または特性を含むことを意味する。したがって、明細書の各処に記載した、例えば「いくつかの実施例において」、「実施例において」、「一実施例において」、「別の例において」、「一例において」、「特定の例において」または「例」は、必ずしも本明細書における同じ実施例または例を引用したものではない。また、本明細書における特定の特徴、構造、材料または特性は、任意の適切な方法で一个または複数の実施例または例に組み込むことができる。
【0099】
例示的な実施例を示して説明したが、当業者は、上述した実施例が本願に対する制限として解釈されるべきではなく、本願の趣旨、原理および範囲から逸脱しない範囲内で、実施例を変更、置換、修正することができる。
【国際調査報告】