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特表2024-540974細胞の添加療法及び補充療法の予測評価のためのヒト化キメラ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-06
(54)【発明の名称】細胞の添加療法及び補充療法の予測評価のためのヒト化キメラ
(51)【国際特許分類】
   A01K 67/0271 20240101AFI20241029BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20241029BHJP
【FI】
A01K67/0271 ZNA
C12N5/071
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024523841
(86)(22)【出願日】2022-10-08
(85)【翻訳文提出日】2024-04-19
(86)【国際出願番号】 US2022077825
(87)【国際公開番号】W WO2023069843
(87)【国際公開日】2023-04-27
(31)【優先権主張番号】63/257,727
(32)【優先日】2021-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.PYTHON
(71)【出願人】
【識別番号】521145462
【氏名又は名称】ユニヴァーシティ オヴ ロチェスター
【氏名又は名称原語表記】University of Rochester
【住所又は居所原語表記】601 Elmwood Avenue, Box URV, Rochester, NY 14642 (US)
(71)【出願人】
【識別番号】520349056
【氏名又は名称】ユニバーシティ・オブ・コペンハーゲン
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】スティーブン エー. ゴールドマン
(72)【発明者】
【氏名】リカルド ダ コスタ バルベド ヴィエイラ
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AC20
4B065BA30
4B065BD50
4B065CA46
(57)【要約】
キメラ非ヒト哺乳動物疾患モデルであって、(1)キメラ非ヒト哺乳動物の脳梁におけるすべてのグリア細胞の少なくとも30%が、ヒトグリア細胞であり、ならびに/又は(2)キメラ非ヒト哺乳動物の脳及び/もしくは脳幹の白質におけるすべてのグリア細胞の少なくとも5%が、ヒトグリア細胞であり、ヒトグリア細胞が、第1の標識でタグ付けされたヒトグリア細胞の第1の群及び第1の標識と区別可能な第2の標識でタグ付けされたヒトグリア細胞の第2の群の組み合わせを含む、キメラ非ヒト哺乳動物疾患モデル。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キメラ非ヒト哺乳動物であって、(1)キメラ非ヒト哺乳動物の脳梁におけるすべてのグリア細胞の少なくとも30%が、ヒトグリア細胞であり、ならびに/又は(2)キメラ非ヒト哺乳動物の脳及び/もしくは脳幹の白質におけるすべてのグリア細胞の少なくとも5%が、ヒトグリア細胞であり、
ヒトグリア細胞が、ヒト疾患特異的グリア細胞及び健康なヒトグリア細胞の組み合わせを含み、ヒト疾患特異的グリア細胞が、第1の検出可能な標識でタグ付けされており、健康なヒトグリア細胞が、第1の検出可能な標識と区別可能な第2の検出可能な標識でタグ付けされている、
キメラ非ヒト哺乳動物。
【請求項2】
ヒト疾患特異的グリア細胞が、ヒト神経変性障害特異的グリア細胞、又はヒト神経精神障害特異的グリア細胞、又はヒトミエリン疾患特異的グリア細胞を含む、請求項1に記載のキメラ非ヒト哺乳動物。
【請求項3】
ヒト疾患特異的グリア細胞が、ヒト神経変性障害特異的グリア細胞を含み、ヒト神経変性障害が、ハンチントン病、前頭側頭型認知症、パーキンソン病、多系統萎縮症、及び筋萎縮性側索硬化症からなる群から選択される、請求項1に記載のキメラ非ヒト哺乳動物。
【請求項4】
ヒト疾患特異的グリア細胞が、ハンチントン病特異的グリア細胞を含む、請求項に3記載のキメラ非ヒト哺乳動物。
【請求項5】
ヒト疾患特異的グリア細胞が、ヒト神経精神障害特異的グリア細胞を含み、ヒト神経精神障害が、統合失調症、自閉症スペクトラム障害、及び双極性障害からなる群から選択される、請求項1に記載のキメラ非ヒト哺乳動物。
【請求項6】
ヒト疾患特異的グリア細胞が、ヒトミエリン疾患特異的グリア細胞を含み、ヒトミエリン疾患が、白質ジストロフィー又は白質疾患である、請求項1に記載のキメラ非ヒト哺乳動物。
【請求項7】
哺乳動物が、出生後である、請求項1~6のいずれか一項に記載のキメラ非ヒト哺乳動物。
【請求項8】
哺乳動物が、マウスである、請求項1~7のいずれか一項に記載のキメラ非ヒト哺乳動物。
【請求項9】
哺乳動物が、免疫能力がない、免疫が不十分である、又は免疫が抑制されている、請求項1~8のいずれか一項に記載のキメラ非ヒト哺乳動物。
【請求項10】
ヒト疾患特異的グリア細胞が、第1の埋め込み日に埋め込まれたヒト疾患特異的グリア前駆細胞に由来し、健康なヒトグリア細胞が、第2の埋め込み日に埋め込まれた健康なヒトグリア前駆細胞に由来し、第1の埋め込み日が、第2の埋め込み日と同じである、請求項1~9のいずれか一項に記載のキメラ非ヒト哺乳動物。
【請求項11】
ヒト疾患特異的グリア細胞が、第1の埋め込み日に埋め込まれたヒト疾患特異的グリア前駆細胞に由来し、健康なヒトグリア細胞が、第2の埋め込み日に埋め込まれた健康なヒトグリア前駆細胞に由来し、第1の埋め込み日が、第2の埋め込み日よりも早い、請求項1~9のいずれか一項に記載のキメラ非ヒト哺乳動物。
【請求項12】
第1の埋め込み日が、第2の埋め込み日よりも30~40週間早い、請求項11に記載のキメラ非ヒト哺乳動物。
【請求項13】
キメラ非ヒト哺乳動物であって、(1)キメラ非ヒト哺乳動物の脳梁におけるすべてのグリア細胞の少なくとも30%が、ヒトグリア細胞であり、ならびに/又は(2)キメラ非ヒト哺乳動物の脳及び/もしくは脳幹の白質におけるすべてのグリア細胞の少なくとも5%が、ヒトグリア細胞であり、
ヒトグリア細胞が、第1の検出可能な標識でタグ付けされた健康なヒトグリア細胞の第1の群及び第1の検出可能な標識と区別可能な第2の検出可能な標識でタグ付けされた健康なヒトグリア細胞の第2の群を含む、
キメラ非ヒト哺乳動物。
【請求項14】
健康なヒトグリア細胞の第1の群が、第1の埋め込み日に埋め込まれた健康なヒトグリア前駆細胞の第1の群に由来し、健康なヒトグリア細胞の第2の群が、第2の埋め込み日に埋め込まれた健康なヒトグリア前駆細胞の第2の群に由来し、第1の埋め込み日が、第2の埋め込み日と同じである、請求項13に記載のキメラ非ヒト哺乳動物。
【請求項15】
健康なヒトグリア細胞の第1の群が、第1の埋め込み日に埋め込まれた健康なヒトグリア前駆細胞の第1の群に由来し、健康なヒトグリア細胞の第2の群が、第2の埋め込み日に埋め込まれた健康なヒトグリア前駆細胞の第2の群に由来し、第1の埋め込み日が、第2の埋め込み日よりも早い、請求項13に記載のキメラ非ヒト哺乳動物。
【請求項16】
第1の埋め込み日が、第2の埋め込み日よりも30~40週間早い、請求項15に記載のキメラ非ヒト哺乳動物。
【請求項17】
ヒトグリア細胞を含むキメラ非ヒト哺乳動物を生成するための方法であって、方法が、
ヒトグリア前駆細胞の第1の集団を非ヒト哺乳動物の脳及び/又は脳幹に導入する工程であって、ヒトグリア前駆細胞の第1の集団が、第1の検出可能な標識でタグ付けされている、工程;
ヒトグリア前駆細胞の第2の集団を非ヒト哺乳動物の脳及び/又は脳幹に導入する工程であって、ヒトグリア前駆細胞の第2の集団が、第1の検出可能な標識と区別可能な第2の検出可能な標識でタグ付けされている、工程;
前記導入する工程の結果として、脳又は脳幹におけるネイティブグリア細胞を少なくとも部分的に置き換えるヒトグリア細胞を有するキメラ非ヒト哺乳動物を回収する工程であって、(1)キメラ非ヒト哺乳動物の脳梁におけるすべてのグリア細胞の少なくとも30%が、ヒトグリア細胞であり、ならびに/又は(2)キメラ非ヒト哺乳動物の脳及び/もしくは脳幹の白質におけるすべてのグリア細胞の少なくとも5%が、ヒトグリア細胞である、工程
を含む、方法。
【請求項18】
ヒトグリア前駆細胞の第1の集団が、ヒト疾患特異的グリア前駆細胞であり、ヒトグリア前駆細胞の第2の集団が、健康なヒトグリア前駆細胞である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
ヒト疾患特異的グリア前駆細胞が、ヒト神経変性障害特異的グリア前駆細胞、又はヒト神経精神障害特異的グリア前駆細胞、又はヒトミエリン疾患特異的グリア前駆細胞を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
ヒト疾患特異的グリア前駆細胞が、ハンチントン病特異的グリア前駆細胞を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
ヒトグリア前駆細胞の第1の集団が、健康なヒトグリア前駆細胞であり、ヒトグリア前駆細胞の第2の集団が、健康なヒトグリア前駆細胞である、請求項17に記載の方法。
【請求項22】
ヒトグリア前駆細胞の第1の集団及びヒトグリア前駆細胞の第2の集団が、同じ時に、非ヒト哺乳動物の脳及び/又は脳幹に導入される、請求項17~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
ヒトグリア前駆細胞の第1の集団が、第1の埋め込み日に非ヒト哺乳動物の脳及び/又は脳幹に導入され、ヒトグリア前駆細胞の第2の集団が、第2の埋め込み日に非ヒト哺乳動物の脳及び/又は脳幹に導入され、第1の埋め込み日が、第2の埋め込み日よりも早い、請求項17~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
第1の時が、第2の時よりも30~40週間早い、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
哺乳動物が、マウスである、請求項17~24のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2021年10月20日に出願された米国仮出願第63/257,727号からの優先権を主張し、これは、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
分野
本発明は、細胞の添加療法及び補充療法の予測評価のためのヒト化キメラに関する。
【背景技術】
【0003】
背景
グリア機能障害は、幅広い神経学的状態に対する原因寄与体である。ミエリンの多くの障害に加えて、アストロサイト及びオリゴデンドロサイトの病理が、多くの神経変性障害及び神経精神障害の両方の発生及び進行の根底にあることが現在明らかになっており、これには、筋萎縮性側索硬化症(ALS)(Giorgio,F.P.D.ら、「Non-Cell Autonomous Effect of Glia on Motor Neurons in an Embryonic Are Sensitive to the Toxic Effect of Glial Cells Carrying an ALS-Causing Mutation」、Cell Stem Cell 3:637~648(2008);Yamanaka,K.ら「Astrocytes as determinants of disease progression in inherited amyotrophic lateral sclerosis」、Nat Neurosci 11:251~253(2008);Lee,Y.ら「Oligodendroglia Metabolically Support Axons and Contribute to Neurodegeneration」、Nature 487:443~448(2012);及びMeyer,K.ら「Direct Conversion of Patient Fibroblasts Demonstrates Non-Cell Autonomous Toxicity of Astrocytes to Motor Neurons in Familial and Sporadic ALS」、Proc National Acad Sci 111:829~832(2014))及びハンチントン病(HD)(Shin,J.-Y.ら「Expression of Mutant Huntingtin in Glial Cells Contributes to Neuronal Excitotoxicity」、J Cell Biology 171:1001~1012(2005);Faideau,M.ら「In Vivo Expression of Polyglutamine-Expanded Huntingtin by Mouse Striatal Astrocytes Impairs Glutamate Transport:A Correlation with Huntington’s Disease Subjects」、Hum Mol Genet 19:3053~3067(2010);Tong,X.ら「Astrocyte Kir4.1 Ion Channel Deficits Contribute to Neuronal Dysfunction in Huntington’s Disease Model Mice」、Nat Neurosci 17、694~703(2014);Benraiss,A.ら、Human Glia can both Induce and Rescue Aspects of Disease Phenotype in Huntington Disease」、Nat Commun 7、11758(2016);Diaz-Castro,B.ら、「Astrocyte Molecular Signatures in Huntington’s Disease」、Sci Transl Med 11、eaaw8546(2019);Benraiss,A.ら「Cell-intrinsic Glial Pathology is Conserved Across Human and Murine Models of Huntington’s Disease」、Cell Reports 36、109308(2021))、ならびに統合失調症及び双極性疾患(Tkachev,D.ら、「Oligodendrocyte Dysfunction in Schizophrenia and Bipolar Disorder」、Lancet 362、798~805(2003);Katsel,P.ら、「Astrocyte and Glutamate Markers in the Superficial,Deep,and White Matter Layers of the Anterior Cingulate Gyrus in Schizophrenia」、Neuropsychopharmacol 36、1171~1177(2011);Voineskos,A.N.ら、「Oligodendrocyte Genes,White Matter Tract Integrity,and Cognition in Schizophrenia」、Cereb Cortex 23、2044~2057(2013);Aleksovska,K.ら、「Systematic Review and Meta-Analysis of Circulating S100B Blood Levels in Schizophrenia」、Plos One 9、e106342(2014);Windrem,M.S.ら、「Human iPSC Glial Mouse Chimeras Reveal Glial Contributions to Schizophrenia」、Cell Stem Cell 21、195~208.e6(2017)のような多くの状態が含まれる。
【0004】
そのような状態において、罹患グリアの健康な野生型グリア前駆細胞による置き換えは、ヒトグリア前駆細胞(hGPC)の遊走及び拡大増殖コンピテンス、ならびにそれらの系統可塑性及び状況依存性の様式でアストロサイト及びミエリン形成オリゴデンドロサイトの両方を発生する能力に起因して(Nunes,M.C.ら、「Identification and Isolation of Multipotential Neural Progenitor Cells from the Subcortical White Matter of the Adult Human Brain」、Nat Med 9、439~447(2003);Sim,F.J.ら、「CD140a Identifies a Population of Highly Myelinogenic,Migration-competent and Efficiently Engrafting Human Oligodendrocyte Progenitor cells」、Nat Biotechnol 29、934~941(2011);Windrem,M.S.ら、「A Competitive Advantage by Neonatally Engrafted Human Glial Progenitors Yields Mice Whose Brains Are Chimeric for Human Glia」、J Neurosci 34、16153~16161(2014);及びWindrem,M.S.ら、「Human Glial Progenitor Cells Effectively Remyelinate the Demyelinated Adult Brain」、Cell Reports 31、107658(2020))、実質的な治療的利点を提供し得る(Goldman,S.A.、「Stem and Progenitor Cell-Based Therapy of the Central Nervous System:Hopes,Hype,and Wishful Thinking」、Cell Stem Cell 18、174~188(2016)及びFranklin,R.J.M.ら、「Remyelination in the CNS:from Biology to Therapy」、Nat Rev Neurosci 9、839~855(2008))。しかしながら、治療的置き換えをもたらすために、同種hGPCは、内因性プールに対して競合し、それらに取って代わり、最終的に、宿主の脳の罹患領域に再配置しなければならない。マウス間同種移植の以前の研究において、健康なグリア前駆細胞(GPC)及び罹患したグリア前駆細胞の間の競合的相互作用は、健康なドナー集団の拡大増殖及び組み込みに好都合である(Givogri,M.I.ら、「Oligodendroglial Progenitor Cell Therapy Limits Central Neurological Deficits in Mice with Metachromatic Leukodystrophy」、J Neurosci 26、3109~3119(2006)、Goldmanに対する米国特許第10,279,051号、及びGoldmanに対する米国特許第10,779,519号)。それにもかかわらず、健康なヒトGPCが、それらの罹患したヒトカウンターパートを打ち負かし、置き換え得るかどうかは不明確なままである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、これら及び当技術分野における他の欠損症を打ち負かすことを対象とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
概要
本発明の一態様は、キメラ非ヒト哺乳動物であって、(1)キメラ非ヒト哺乳動物の脳梁におけるすべてのグリア細胞の少なくとも30%が、ヒトグリア細胞であり、ならびに/又は(2)キメラ非ヒト哺乳動物の脳及び/もしくは脳幹の白質におけるすべてのグリア細胞の少なくとも5%が、ヒトグリア細胞であり、ヒトグリア細胞が、ヒト疾患特異的グリア細胞及び健康なヒトグリア細胞の組み合わせを含み、ヒト疾患特異的グリア細胞が、第1の検出可能な標識でタグ付けされており、健康なヒトグリア細胞が、第1の検出可能な標識と区別可能な第2の検出可能な標識でタグ付けされている、キメラ非ヒト哺乳動物に関する。
【0007】
本発明の別の態様は、キメラ非ヒト哺乳動物であって、(1)キメラ非ヒト哺乳動物の脳梁におけるすべてのグリア細胞の少なくとも30%が、ヒトグリア細胞であり、ならびに/又は(2)キメラ非ヒト哺乳動物の脳及び/もしくは脳幹の白質におけるすべてのグリア細胞の少なくとも5%が、ヒトグリア細胞であり、ヒトグリア細胞が、第1の検出可能な標識でタグ付けされた健康なヒトグリア細胞の第1の群及び第1の検出可能な標識と区別可能な第2の検出可能な標識でタグ付けされた健康なヒトグリア細胞の第2の群を含む、キメラ非ヒト哺乳動物に関する。
【0008】
本発明の別の態様は、ヒトグリア細胞を含むキメラ非ヒト哺乳動物を生成するための方法であって、当該方法が、ヒトグリア前駆細胞の第1の集団を非ヒト哺乳動物の脳及び/又は脳幹に導入する工程であって、ヒトグリア前駆細胞の第1の集団が、第1の検出可能な標識でタグ付けされている、工程;ヒトグリア前駆細胞の第2の集団を非ヒト哺乳動物の脳及び/又は脳幹に導入する工程であって、ヒトグリア前駆細胞の第2の集団が、第1の検出可能な標識と区別可能な第2の検出可能な標識でタグ付けされている、工程;前記導入する工程の結果として、脳又は脳幹におけるネイティブグリア細胞を少なくとも部分的に置き換えるヒトグリア細胞を有するキメラ非ヒト哺乳動物を回収する工程であって、(1)キメラ非ヒト哺乳動物の脳梁におけるすべてのグリア細胞の少なくとも30%が、ヒトグリア細胞であり、ならびに/又は(2)キメラ非ヒト哺乳動物の脳及び/もしくは脳幹の白質におけるすべてのグリア細胞の少なくとも5%が、ヒトグリア細胞である、工程を含む、方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1-1】図1のパネルA~Bは、WT-mCherry及びHD-EGFPの発現の代表画像を示す。パネルAは、目的の導入遺伝子を構成的に発現するhESC株のアデノ随伴ウイルス組込み部位(AAVS1)遺伝子座の遺伝子操作において用いられるワークフローを示す。パネルA’は、AAVS1遺伝子座(プロテインホスファターゼ1調節サブユニット12C(PPP1R12C)遺伝子の第1のイントロンに位置する)へのCRISPR-Cas9媒介導入遺伝子組み込みのメカニズムを示す。
図1-2】パネルB~B’は、WT-mCherry及びHD-EGFPの発現の代表画像を示す。
図1-3】パネルC~Dは、WT GENEA019(mcherry)及びHD GENEA020(EGFP)hESCのAAVS1セーフハーバー遺伝子座に挿入されたmCherry又はEGFP(高感度緑色蛍光タンパク質)のいずれかの発現を駆動する導入遺伝子構築物を図示する。
図1-4】パネルEは、脳におけるWT-mCherry(パネルB)及びHD-EGFP発現(パネルB’)の代表画像を示す。
図2-1】図2のパネルAは、後天的コピー数多型(CNV)及びヘテロ接合性領域の喪失(LOH)を評価するためのWT-mCherry及びHD-EGFPからの代表的な核型を示す。
図2-2】パネルB~Cは、核型分析を示す。
図3-1】図3のパネルAは、HDキメラマウスの作出を図示する。
図3-2】パネルBは、HDキメラマウスにおける細胞の代表画像及び特性評価を示す。
図3-3】パネルCは、HDキメラマウスにおける細胞の代表画像及び特性評価を示す。
図3-4】パネルDは、HDキメラマウスにおける細胞の代表画像及び特性評価を示す。
図4-1】図4は、成体移植WTヒトGPCが、新生児期に常在するHD hGPCを打ち負かし、置き換えることを示す。パネルA:実験設計及び分析エンドポイント。 パネルB:HDキメラの線条体へのWTグリア(mCherry+、赤色)の生着は、それらの進展において広範な独占的ドメインを作出するHDグリア(EGFP+、緑色)の進行的な置き換えを生じた。破線輪郭(白色)は、線条体の輪郭の境界を画定し、その中で、ヒト細胞は、マッピング及び定量化された。スケール:パネルB、500μm。
図4-2】パネルC~D:WTの進展及びHD hGPCの再処置の間の境界は、典型的には、十分に描かれ、その結果、独占的ドメインは、それらのHDカウンターパートに取って代わるWT GPC(Olig2+、白色)として形成される。パネルE:WT hGPCによってコロニー形成された領域内で、迷い出たHDアストロサイト(hGFAP+、白色)が依然として見出され得るので、GPC置き換えは、アストロサイトの置き換えに先行する。スケール;パネルC’:100μm;パネルD:50μm;パネルE:10μm。
図4-3】パネルF:宿主線条体におけるマッピングされたヒトグリアの分布。ヒトグリアは、15の等しい切片においてマッピングされ(5つを例として示す)、3Dで再構成された。それらの分布は、注射部位までの距離の関数として容易に測定された。パネルG:マッピングされた線状体の表示例。パネルH:体積定量化は、WTが、それらがそれらの置き換え部位から拡大増殖するにつれて、それらのHDカウンターパートを徐々に置き換えたことを示す;H1:WT対HD(同種移植;54週間についてn=8、72週間についてn=7)。WT細胞の進展は、未移植HDキメラと比べて、組織からのHDグリアの進行的排除によって達成された(HD対照);H2:HD(同種移植;54週間についてn=8、72週間についてn=7)対HD対照(両時点についてn=4;シダック多重比較検定を伴う2元配置分散分析。****P<0.0001、***P<0.001、**P<0.01、P<0.05;データは平均±SEMとして表される)。
図4-4】パネルI:WT及びHDグリアの間の境界で、Ki67+(白色)細胞の高い発生率が、WTグリア集団内で独占的に見られ得る。パネルI’:競合的境界の端でのより高い倍率の2つのWT娘細胞。パネルJ:実験全体を通して持続する、時間の関数がWTグリアによる有意な増殖の利益を示すようなそれぞれの集団内のKi67+グリアの定量化。HD対照:54週間(n=4)、72週間(n=4);WT対照:54週間(n=5)、72週間:n=3;WT対HD同種移植:54週間(n=5)、72週間(n=3)。シダック多重比較検定を伴う2元配置分散分析による比較;平均±SEM。STR、線条体(尾状核被殻);LV、側脳室;CTX、皮質。破線長方形(オレンジ色)は、インサートを表す(B’)。スケール;パネルI:100μm;パネルI’:10μm。
図5図5は、HD対WTマウス及びHD対照マウスの実験設計を図示する。
図6-1】図6のパネルA~Cは、ヒト野生型グリアが、事前に組み込まれたヒトHDグリアを打ち負かすことを示す。パネルAは、HDグリアの総数が、WTグリアがヒト化線条体内で拡大増殖するにつれて、HDキメラ対照に対して相対的に進行的に減少することを実証する立体解析学的推定を提供する;シダック多重比較検定を伴う2元配置分散分析。パネルB及びパネルCは、それらが線条体優位性と競合したので、両集団におけるGPC(Olig2+、パネルB)及びアストロサイト(GFAP+、パネルC)の割合が維持されたことを示す;HD対照-両時点についてn=4;WT対照-54週間についてn=4、72週間についてn=3;HD対WT-54週間についてn=5、72週間についてn=3;オレンジ色矢印は共標識された細胞を指し示す。データは、個々のデータポイントとともに平均±s.e.mとして示される
図6-2】パネルD~Eは、Olig2+(白色)GPCがそれらのHDカウンターパートに取って代わるにつれて拡大増殖されたWTグリアのHDグリア(パネルD)及びWTグリア(パネルE)の代表画像を示す。それらが優位になる領域内で、それらは、hGFAP+(白色)アストロサイトにさらに分化した。
図7-1】図7のパネルA~Bは、WT対照群の実験設計及び分析時点を図示する(パネルA)。パネルBは、Rag1(-/-)マウスの成体線条体へのWTグリア(mCherry+、赤色)の生着が、経時的に、マウス線条体の実質的なヒト化を生じる代表画像を示す。
図7-2】パネルC~Dは、WTグリアが、経時的に、マウス線条体全体にわたって浸潤し、分散すること、及びそれらが、HDキメラに移植されたものよりも幅広いことを示す体積定量化を示す;WT(HD対WT群)-54週間についてn=8、72週間についてn=7対WT対照-54週間についてn=7、72週間についてn=5;シダック多重比較検定を伴う2元配置分散分析;主な効果は数的P値として示され;データは平均±s.e.mとして表される。
図8図8は、mCherryタグ付け(WT-mCherry)及びタグなし(WTタグなし)WTグリアの1:1混合物を受けたマウスのための実験設計を図示する。
図9図9のパネルA~Dは、野生型グリアの共生着した同質遺伝子クローンが、HDグリアに取って代わりながら、発育し、混合することを示す。パネルAは、ヒト核抗原(hN)に対する免疫標識が、WT-mCherry(mCherry+hN+、赤色、白色)及びWTタグなし(mCherry-EGFP-hN+、白色)グリアの両方が、以前にヒト化された線条体内で拡大増殖し、進行的にHDグリア(EGFP+hN+、緑色、白色)に取って代わることを示す。スケールバー500μm。パネルBは、混合WTグリアが拡大増殖し、常在HDグリアに取って代わるように、膨大な同型ドメインが形成されたことを示す。スケールバー100μm。パネルCは、同質遺伝子WT-mCherry及びWTタグなしが、混合して見出されたことを示す。スケールバー100μm。パネルDは、WTグリアが支配するドメイン内で、より複雑なアストロサイト様HDグリアのみが、典型的には、白質路内で見出されることを示す。スケールバー:10μm。
図10図10は、線条体内のWT-mCherry及びWTタグなしグリアの割合の定量化が、いずれかの定量化時点で、2つの集団間で有意差を示さなかったことを示す(それぞれの時点についてn=6);シダック多重比較検定を伴う2元配置分散分析;平均±s.e.m.。
図11図11は、新生仔マウスにおける共生着WT及びHTグリアのための実験設計を図示する。
図12-1】図12のパネルA~Cは、WT及びHTグリアで共生着したマウスにおける線条体内のWT及びHDグリアの割合の代表画像を示す。画像は、いずれかの細胞集団に対して有意な成長の利益がないことを示す;n=5;両側の対応のあるt検定。
図12-2】パネルCは、WT及びHTグリアで共生着したマウスにおける線条体内のWT及びHDグリアの割合の代表画像を示す。
図13図13のパネルA~Bは、新生仔に生着したWT及びHDグリアの等しい成長が、同様に増殖性のKi67+(白色)グリアプールによって持続することを実証する;HD対照-n=3;WT対照-n=4;HD対WT-n=5;チューキー多重比較検定を伴う一元配置分散分析。
図14図14のパネルA~Bは、細胞年齢の相違が、ヒトグリア再増殖を駆動するのに十分であることを実証する。
図15-1】パネルA~Bは、HDグリアによって実質的にヒト化された線条体を有するマウスキメラが、それによりそれらの健康なカウンターパートによる罹患ヒトグリアの置き換えを評価するために、インビボモデルを提供するために作成されたことを示す。EGFPを発現するように操作されたmHTT発現hESCに由来するhGPCを、免疫無防備状態のRag1(-/-)マウスの新線条体に埋め込み、それらの発現を組織学的にモニターした。
図15-2】パネルC~Dは、HDグリアによって実質的にヒト化された線条体を有するマウスキメラが、それによりそれらの健康なカウンターパートによる罹患ヒトグリアの置き換えを評価するために、インビボモデルを提供するために作成されたことを示す。
図15-3】パネルE~Fは、HDグリアによって実質的にヒト化された線条体を有するマウスキメラが、それによりそれらの健康なカウンターパートによる罹患ヒトグリアの置き換えを評価するために、インビボモデルを提供するために作成されたことを示す。
図15-4】パネルG~Iは、HDグリアによって実質的にヒト化された線条体を有するマウスキメラが、それによりそれらの健康なカウンターパートによる罹患ヒトグリアの置き換えを評価するために、インビボモデルを提供するために作成されたことを示す。
図15-5】パネルJは、HDグリアによって実質的にヒト化された線条体を有するマウスキメラが、それによりそれらの健康なカウンターパートによる罹患ヒトグリアの置き換えを評価するために、インビボモデルを提供するために作成されたことを示す。
図16図16のパネルA~Bは、増殖の利益が、WTグリアがヒト化HD線条体を通して進展するように駆動することを示す。
図17-1】図17のパネルA~Eは、細胞年齢の相違が、競合的グリア再増殖を駆動するのに十分であることを示し、細胞年齢の相違が、ヒト化線状体の競合的再増殖を駆動するのに十分であることを示す。パネルA:実験設計及び分析エンドポイント。パネルB:WTキメラの線条体へのより若いWTグリア(EGFP+、緑色)の生着が、それらの:高齢カウンターパート(mCherry+、赤色)の選択的な置き換えを生じた。破線輪郭は、線条体領域の境界を画定し、その中で、ヒト細胞は、マッピング及び定量化された。パネルB:STR、線条体(尾状核被殻);LV、側脳室;CTX、皮質)。スケール:パネルB、500μm。
図17-2】パネルC:WTキメラ対照、出生時にのみ生着。パネルD:マッピングされた線状体の表示例。体積定量化は、より若いWTグリアが、それらがそれらの注入部位から拡大増殖するにつれて、それらのより古い同質遺伝子カウンターパートを置き換えることを示す。パネルC:STR、線条体(尾状核被殻);LV、側脳室;CTX、皮質)。スケール;パネルC、100μm。
図17-3】パネルE:高齢対若い(同系移植)、n=3。それらの進展は、対照WTキメラ(高齢対照)と比べて、組織からの高齢WTグリアの進行的排除を追跡した。パネルF:高齢(同系移植)対高齢(対照)それぞれn=3;シダック多重比較検定を伴う2元配置分散分析;相互作用又は主な効果は数的P値として示されるが、事後比較は、****P<0.0001、***P<0.001、**P<0.01、P<0.05として示され;データは平均±SEMとして表される。スケール;パネルE、100μm。
図17-4】パネルG:若い及び高齢WTグリアの間の界面で、Ki67+(白色)細胞のより高い発生率が、より若い集団内で見られ得る。破線四角形は、挿入図カラー分割を表す(パネルH)。パネルI:Ki67+細胞の定量化は、より若いWTグリアが、それらの高齢対象物よりも有意により増殖性であることを示す;すべての実験群についてn=3;シダック多重比較検定を伴う一元配置分散分析;データは、個々のデータポイントとともに平均±SEMとして示される。スケール;パネルG、50μm。
図18-1】パネルAは、フローサイトメトリー分析のゲーティング戦略を示す。
図18-2】パネルBは、フローサイトメトリー分析のゲーティング戦略を示す。
図19-1】図19は、WTグリアが、常在HDグリアに直面して優位な競合因子の転写プロファイルを獲得することを示す。パネルA:実験設計。パネルB及びC:統合(パネルB)及び群による分割(パネルC)scRNA-seqデータの均一マニフォールド近似と投影(UMAP)の視覚化は、6つの主要な細胞集団を特定する。
図19-2】パネルD:それぞれの群における細胞型の積み上げバープロットの割合。パネルE:サイクリングGPC及びG2/M期のGPCの細胞周期分析のノッチ付き箱ひげ図。ボックスは、四分位範囲を示し、ノッチは、ノッチの中央で中央値を有する95%の信頼区間を示し、エラーバーは、最小及び最大の非外れ値を表す。パネルF:対での差次的発現GPC遺伝子のベン図(Log2倍数変化>0.15、調整p値<0.05)。
図19-3】パネルG:GPC群間で差次的発現した遺伝子の精選されたingenuity pathway analysis。円のサイズは、p値を表す一方で、陰影は活性化Zスコアを示し、赤色は、上側群においてより活性であり、緑色は、下側群においてより活性である。
図19-4】パネルH:精選された対での差次的発現GPC遺伝子のヒートマップ。パネルI:対での差次的発現GPCリボソーム遺伝子のlog2倍数変化のバイオリンプロット。E)における群間の比較は、ベンジャミーニ-ホッホベルク法を介して調整された多重比較を伴うクルスカル-ワリス検定後に、ダン検定を利用した。=<0.05、**<0.01、***=<0.001、****=<0.0001 調整p値。
図20-1】図20は、高齢ヒトグリアが、誘導アポトーシスによりそれらのより若いカウンターパートによって排除されることを示す。パネルA:若い(EGFP+、緑色)及び高齢WTグリア(mCherry+、赤色)の間の境界で、より高い発生率のアポトーシスTUNEL+(白色)細胞が、高齢集団において明らかである。パネルB:より高い倍率のこれらの別個の集団間の競合的界面は、アポトーシスを選択的に受けている常在グリアを示す。スケール:パネルA、100μm;パネルB、50μm。
図20-2】パネルC:TUNEL+細胞の定量化は、それらのより若い同質遺伝子カウンターパート、及びより若い細胞でチャレンジされなかった高齢WTキメラ対照の両方と比べて、高齢の常在WTグリアのうち、TUNEL+細胞の有意により高い発生率を示す。定量化は、60~80週間の時点で、プールされた試料において行った(すべての実験群についてn=5)。シダック多重比較検定を伴う一元配置分散分析;データは、個々のデータポイントとともに平均±SEMとして示される。
図21-1】図21は、WTグリアが、それらの高齢カウンターパートに直面する場合に、優位な転写を獲得することを示す。パネルA:実験設計。パネルB~C:統合(パネルB)及び群による分割(パネルC)scRNA-seqデータの均一マニフォールド近似と投影(UMAP)の視覚化は、6つの主要な細胞集団を特定する。
図21-2】パネルD:それぞれの群における細胞型の積み上げバープロットの割合。パネルE:サイクリングGPC及びG2/M期のGPCの細胞周期分析のノッチ付き箱ひげ図。ボックスは、四分位範囲を示し、ノッチは、ノッチの中央で中央値を有する95%の信頼区間を示し、エラーバーは、最小及び最大の非外れ値を表す。パネルF:対での差次的発現GPC遺伝子のベン図(Log2倍数変化>0.15、調整p値<0.05)。
図21-3】パネルG:GPC群間で差次的発現した遺伝子の精選されたIngenuity Pathway analysis。円のサイズは、p値を表す一方で、陰影は活性化Zスコアを示し、赤色は、上側群においてより活性であり、緑色は、下側群においてより活性である。
図21-4】パネルH:精選された対での差次的発現GPC遺伝子のヒートマップ。パネルI:対での差次的発現GPCリボソーム遺伝子のlog2倍数変化のバイオリンプロット。Eにおける群間の比較は、ベンジャミーニ-ホッホベルク法を介して調整された多重比較を伴うクルスカル-ワリス検定後に、ダン検定を利用した。=<0.05、**<0.01、***=<0.001、****=<0.0001 調整p値。
図22-1】図22は、競合的利益の転写シグネチャーを示す。パネルA:転写因子候補特定の概略図。
図22-2】パネルB:条件ごとの特定されたWGCNAモジュールの第一主成分のバイオリンプロット。有意なモジュール(黒色、緑色、青色、茶色、赤色、青緑色)が表され、そのメンバーは、パネルEにおける5つの転写因子の下流標的について濃縮される。パネルC:それぞれのモジュールの第一主成分に対するそれぞれの生物学的因子(年齢対遺伝子型)の異なる寄与を推定するための相対的重要性分析。
図22-3】パネルD:そのレギュロンが優位な若いWT細胞において上方調節された遺伝子について濃縮されたこれらの優先的な転写因子を強調した遺伝子セット濃縮分析(GSEA)。パネルE:群にわたって競合的利益及びそれらの相対活性を確立するためのSCENICを介して予測された重要な転写因子。
図22-4】パネルF:下流標的及びそれらの機能的シグナル伝達経路を表す調節ネットワーク。標的は、パネルBにおける強調されたモジュールに属し、それらの発現は、パネルEにおける少なくとも1つの他の重要な転写因子によって制御される。NES:ネットワーク濃縮スコア。
【発明を実施するための形態】
【0010】
詳細な説明
添付の構造及び図面に例を示し、本発明のある特定の態様及び例示的な実施形態に対して詳細に説明する。本発明の態様は、方法、材料及び例を含む例示的な実施形態と併せて記載され、そのような記載は、非限定的であり、本発明の範囲は、一般に公知の又は本明細書に組み込まれる、すべての均等物、代替物、及び改変を包含することが意図される。本発明の記載される態様、特徴、利益、及び特性は、任意の好適な様式で、1つ又は複数のさらなる実施形態と組み合わされてもよい。当業者は、本発明が、具体的な態様又は特定の実施形態の利益の1つもしくは複数なしで実行され得ることを認識するであろう。他の例において、追加の態様、特徴、及び利益は、本発明のすべての実施形態に示されていないことがあるある特定の実施形態において認識されてもよく、特許請求の範囲に記載されてもよい。さらに、当業者は、本明細書に記載されるものと類似の又は等価な多くの技法及び材料を認識し、これは、本発明の態様及び実施形態の実行において使用される。本発明の記載される態様及び実施形態は、記載される方法及び材料に限定されない。
【0011】
他に定義されない限り、本明細書において使用されるすべての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者に通常理解されるものと同じ意味を有する。
【0012】
範囲は、本明細書において、「約」1つの特定の値から、及び/又は「約」別の特定の値までとして表され得る。そのような範囲が表される場合、別の実施形態は、1つの特定の値から、及び/又は他の特定の値までを含む。同様に、値が「約」という先行詞の使用によって近似値として表される場合、特定の値が、別の実施形態を形成することが理解されるであろう。範囲のそれぞれの端点が、他の端点に関連して、及び他の端点とは無関係に、意味をなすことがさらに理解されるであろう。本明細書において開示されるいくつかの値が存在し、それぞれの値も、本明細書において、値それ自身に加えて、「約」その特定の値として開示されることも理解される。例えば、「10」という値が開示される場合、「約10」も開示される。値が開示される場合、当業者に適切に理解されるように、値「以下」、「値以上」、及び値間の可能な範囲も、開示されることも理解される。例えば、「10」という値が開示される場合、「10以下」及び「10以上」も開示される。
【0013】
本明細書及び添付の特許請求の範囲において使用される場合、単数形の「a」、「an」及び「the」は、文脈が他を明確に示さない限り、複数の指示対象を含む。そのため、例えば、「ペプチド(a peptide)」への言及は、「1つ又は複数」のペプチド又は「複数の」のそのようなペプチドを含む。
【0014】
本発明は、グリアのヒト化の実質的な度合いが、インビボで健康なヒトグリア及び罹患ヒトグリアの間の競合をモデル化するために、ヒトグリア前駆細胞(GPC)の出生時送達後に達成され得る、ヒトグリアキメラマウスモデル(Goldman,S.A.ら、「Modeling Cognition and Disease Using Human Glial Chimeric Mice」、Glia 63:1483~1493(2015)、これは、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)を利用する。その目的で、健康なhGPCは、ハンチントン病(HD)を有する対象に由来するヒト胚性幹細胞(ESC)から生成したhGPCで新生児期にすでにキメラ化されている成体グリアキメラの線条体に生着された。HDは、プロトタイプの一遺伝子性神経変性疾患であり、変異型CAGリピート伸長HTT遺伝子の発現から生じる(Waldvogel,H.J.ら、「Behavioral Neurobiology of Huntington’s Disease and Parkinson’s Disease、Curr Top Behav Neurosci 22:33~80(2014)、Bates,G.P.ら「Huntington Disease」、Nat Rev Dis Primers 1:15005(2015)、及びTabrizi,S.J.ら、「Huntington Disease:New Insights into Molecular Pathogenesis and Therapeutic Opportunities」、Nat Rev Neurol 16:529~546(2020)、これらは、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる)。グリア病理が、必然的に、HDのシナプス機能障害に関与していること、及びHDのトランスジェニックマウスモデルにおけるマウスハンチンチン遺伝子(mHTT)発現マウスグリアの正常な野生型ヒトグリアによる置き換えが、HD表現型の態様をレスキューするのに十分であったことが以前に確立された。しかしながら、ヒト野生型ヒトグリアが、インビボでmHTT発現ヒトhGPCを置き換えることができるかは知られていなかった。
【0015】
インビボでmHTT発現hGPCを置き換える能力は、以前に知られていなかった。出願人らは、健康なhGPCが、mHTT発現hGPCにより新生児期にキメラ化された成体マウスの線条体に送達された場合に、健康なhGPCが、ヒト化宿主線条体に広がり、すでに常在するmHTT発現実質ヒトグリア前駆細胞を打ち負かし、それに取って代わることを確立した。健康な細胞の支配は、持続的な増殖の利益によって持続し、組織からの常在するHDグリアの能動的な排出を伴って進行した。けれども、mHTTの発現は、HDグリアに対する競合的不利益を与えた一方で、共注射された場合に、両集団が拡大増殖及び生存したことを、野生型(WT)及びHD hGPCの出生時共生着が一緒に明らかにしたので、疾患状態単独では、すべての結果を説明するには不十分であった。むしろ、健康なグリアによるHD線条体の競合的再増殖は、疾患状態によって駆動されなかったが、新たに埋め込まれた健康なGPC及び常在するHDグリアの間の年齢の相違、したがって増殖能力によって駆動された。これらの観察は、グリア置き換えから利益を受け得る各種の神経障害のための治療用ベクターとしてのヒトGPCの可能性を強調する。
【0016】
I.定義
本明細書において使用される場合、以下の用語又は語句(丸括弧内)は、以下の意味を有するものとする。
【0017】
本明細書において使用される場合、「哺乳動物」という用語は、哺乳綱を構成する脊椎動物の群を指し、雌において、それらの若い新皮質(脳の領域)、毛皮又は髪、及び3つの中耳骨に栄養を与える(授乳する)ために乳を生成する乳腺の存在によって特徴付けられる。ヒトは哺乳動物である。「非ヒト哺乳動物」という用語は、ヒトを除くすべての哺乳動物を包含する。
【0018】
本明細書において使用される場合、「キメラ」という用語は、初期胚の融合、移植又は変異などのプロセスによって形成される、遺伝的に異なる組織の混合物を含有する生物を指す。
【0019】
本明細書において使用される場合、「脳梁」という用語は、左及び右大脳半球の対応する領域が連絡するのを可能にする、脳の長軸方向の亀裂における神経線維の束を指す。脳梁シナプスにおけるニューロンの軸索及び樹状突起と皮質ニューロンは、半球のポイントに対称的に関連した。そのため、1つの半球におけるポイントの電気刺激は、通常、これらの脳梁の接続のおかげで、他の半球における対称的に関連するポイントにおける応答に対して生じる。脳梁におけるニューロンはまた、ミエリン鞘によって遮蔽され、これは、半球間の電気的な活動電位の迅速な伝導を容易にする。
【0020】
本明細書において使用される場合、「脳幹」という用語は、大脳を脊髄と接続する脳の後側の柄のような部分を指す。ヒトの脳において、脳幹は、中脳、脳橋、及び延髄から構成される。中脳は、テント切痕を通して間脳の視床に続き、間脳は、脳幹に含まれる場合がある。
【0021】
本明細書において使用される場合、「グリア細胞」という用語は、支持及び栄養を提供し、ホメオスタシスを維持し、ミエリンを形成する又はミエリン形成を促進し、神経系におけるシグナル伝達に関与する、非神経細胞の集団を指す。本明細書において使用される「グリア細胞」は、オリゴデンドロサイト又はアストロサイトなどのグリア系列の完全に分化した細胞、及びグリア前駆細胞を包含し、それらのそれぞれは、マクログリア細胞と称され得る。「HDグリア」という用語は、本明細書において使用される場合、mHTTを発現するグリアを指す。「WTグリア」という用語、本明細書において使用される場合、mHTTを発現しないグリアを指す。
【0022】
本明細書において使用される場合、「ヒト疾患特異的グリア細胞」という用語は、そのような細胞を持つ個体の健康に負の影響を与える様式で、グリア細胞の機能又は他の挙動の低下に関連するある特定のヒト疾患の状態を示すグリア細胞を指す。そのような疾患としては、限定されるものではないが、ハンチントン病、前頭側頭型認知症、パーキンソン病、多系統萎縮症、及び筋萎縮性側索硬化症が挙げられ得る。
【0023】
本明細書において使用される場合、「健康なヒトグリア細胞」という用語は、正常に機能して、機能的オリゴデンドロサイト及びアストロサイトに拡大増殖及び/又は分化し得る、グリア前駆細胞を含むグリア細胞を指す。健康なヒトグリア細胞は、機能的オリゴデンドロサイト及びアストロサイトを含み得る。一部の実施形態において、移植された健康なヒトグリア細胞は、宿主グリアプールを打ち負かして、最終的にコロニー形成し、レシピエントの脳を支配し得る。
【0024】
本明細書において使用される場合、「ヒト神経変性障害特異的グリア細胞」という用語は、そのような細胞を持つ個体の健康に負の影響を与える様式で、グリア細胞の機能又は他の挙動の低下に関連するある特定のヒト神経変性障害の状態を示すグリア細胞を指す。そのような神経変性障害としては、ハンチントン病、前頭側頭型認知症、パーキンソン病、多系統萎縮症、及び筋萎縮性側索硬化症が挙げられ得る。
【0025】
本明細書において使用される場合、「ハンチントン病(HD)」という用語は、壊滅的な精神及び認知衰退を伴う容赦のない進行性運動障害によって特徴付けられる常染色体優性神経変性疾患を指す。ハンチントン病は、線条体の主要な出力ニューロンであるGABA作動性の中型棘状突起ニューロンの顕著な喪失に関連する、新線条体の一貫した重度の萎縮に関連する。ハンチントン病は、ハンチンチン遺伝子(「HTT」)の第一エクソンにおける異常に長いCAGリピート伸長によって特徴付けられる。変異型ハンチンチンタンパク質のコードされるポリグルタミン伸長は、その正常な機能及びタンパク質間相互作用を破壊し、最終的に、広範な神経病理を生じ、新線条体において最も迅速に明らかである。
【0026】
本明細書において使用される場合、「前頭側頭型認知症」という用語は、脳の側頭葉及び前頭葉の進行性の変性から生じる関連する状態の群を指す。脳のこれらの領域は、意思決定、行動制御、情動、及び言語における重要な役割を果たす。
【0027】
本明細書において使用される場合、「パーキンソン病」という用語は、運動に影響を及ぼす進行性の神経系障害を指す。パーキンソン病は、進行性の神経変性によって特徴付けられる。
【0028】
本明細書において使用される場合、「多系統萎縮症」という用語は、自律神経系(血圧又は消化などの不随意活動を制御する神経系の部分)及び運動の両方に影響を及ぼす症状の組み合わせによって特徴付けられる進行性の神経変性障害を指す。症状は、進行性の機能消失、ならびに脳及び脊髄における異なる種類の神経細胞の死を反映する。
【0029】
本明細書において使用される場合、「筋萎縮性側索硬化症(ALS、通常、「ルー・ゲーリック病」と呼ばれる)」という用語は、成人における最も一般的な運動ニューロン疾患を指す。運動ニューロン疾患は、脳を筋肉に直接接続する神経細胞の選択的喪失を引き起こす神経変性疾患である。
【0030】
本明細書において使用される場合、「ヒト神経精神障害特異的グリア細胞」という用語は、そのような細胞を持つ個体の健康に負の影響を与える様式で、グリア細胞の機能又は他の挙動の低下に関連するある特定のヒト神経精神障害の状態を示すグリア細胞を指す。そのような神経精神障害としては、統合失調症、双極性障害及び自閉症スペクトラム障害が挙げられ得る。
【0031】
本明細書において使用される場合、「統合失調症」という用語は、人々がどのように考え、感じ、行動するかに影響を及ぼす重篤な精神疾病を指す。統合失調症の症状は、一般に、以下の3つのカテゴリー:1)知覚の変化を含む精神病症状、2)意欲喪失、無関心、及び喜びの欠如を含む陰性症状、ならびに3)注意、集中、及び記憶の問題を含む認知的症状に分類される。
【0032】
本明細書において使用される場合、「自閉症スペクトラム障害」という用語は、社会的コミュニケーションにおける広範囲の機能障害、ならびに制限的及び反復的行動を引き起こす神経発達障害を指す。
【0033】
本明細書において使用される場合、「双極性障害」という用語は、極度の気分変動によって特徴付けられる重篤な精神疾病を指す。それらは、極度の興奮エピソード又は極度の抑うつ性の感情を含み得る。3種類の双極性障害には、1)躁病エピソードによって定義される双極性I型障害、2)うつ病エピソードによって定義される双極性II型障害、及び3)軽躁症状及びうつ症状の時期によって定義される気分循環性障害が含まれる。
【0034】
本明細書において使用される場合、「ヒトミエリン疾患特異的グリア細胞」という用語は、そのような細胞を持つ個体の健康に負の影響を与える様式で、グリア細胞の機能又は他の挙動の低下に関連するある特定のヒトミエリン疾患の状態を示すグリア細胞を指す。そのようなヒトミエリン疾患としては、白質ジストロフィー又は白質疾患が挙げられ得る。
【0035】
本明細書において使用される場合、「白質ジストロフィー」という用語は、ミエリン及び中枢神経系(CNS)白質の他の構成要素、例えば、オリゴデンドロサイト及びアストロサイトと呼ばれる細胞の、異常な産生、プロセシング又は発生から生じる、白質ジストロフィーとして公知の稀な主に遺伝性の神経障害の群を指す。すべての白質ジストロフィーは、遺伝的欠陥(変異)の結果である。
【0036】
本明細書において使用される場合、「白質」という用語は、脳及び表在脊髄における中枢神経系の構成要素に関し、これは主に、大脳のある領域から別の領域に、ならびに大脳及び下位脳中枢の間のシグナルを伝達する、グリア細胞及びミエリン化軸索からなる。
【0037】
本明細書において使用される場合、「検出可能な標識」という用語は、それが視覚的に又は他の手段によって標識されるかにかかわらず、その標識化によって、その背景からそれを識別する又は区別することを可能にしなければならない標的を標識する任意の手段を指す。検出可能な標識の例としては、限定されるものではないが、緑色蛍光タンパク質(GFP)及び赤色蛍光タンパク質(RFP)が挙げられる。
【0038】
本明細書において使用される場合、「出生前」という用語は、妊娠の前、その間、又はそれに関連することを指す。
【0039】
本明細書において使用される場合、「新生児期」という用語は、生後1か月の乳児に関連する又はそれに影響を及ぼす期間を指す。
【0040】
本明細書において使用される場合、「出生後」という用語は、成体を含む、出生後の発達段階を指す。
【0041】
本明細書の以下で使用される場合、「youth関連遺伝子」という用語は、より古いグリア前駆細胞と比較して、若いグリア前駆細胞において有意に増加した発現を有する遺伝子を指す。
【0042】
一部の実施形態において、「若いグリア細胞」という用語は、Wangら Cell Stem Cell 12、252~264、2013のプロトコールに基づく分化段階6で、又は他のプロトコールに基づく同等の分化段階で、インビトロの状況において、グリア前駆細胞への分化を開始するように誘導される幹細胞を指す。古いグリア細胞と比較して、若いグリア細胞は、以下の特性の1つ又は複数を有し得る:(i)より速く成長する又は増殖する又は分裂する、及び(ii)より長いテロメア又はより高いテロメラーゼ活性。一部の実施形態において、「若いグリア細胞」という用語は、宿主への移植の1~20週間以内であるグリア前駆細胞又はそれらの子孫を指す。「より古いグリア細胞」又は「古いグリア細胞」という用語は、「若いグリア細胞」という用語に対して使用される。一部の実施形態において、若いグリア細胞は、Wangら Cell Stem Cell 12、252~264、2013のプロトコールに基づく分化段階6で、又は他のプロトコールに基づく同等の分化段階で、1~5、5~10、5~20、5~30、10~20、10~30、又は20~30週間培養されたグリア細胞である。
【0043】
一部の実施形態において、より古いグリア細胞は、5~10、5~20、5~30、5~40、5~50、5~60、5~70、5~80、5~90、5~100、10~20、10~30、10~40、10~50、10~60、10~70、10~80、10~90、10~100、20~30、20~40、20~50、20~60、20~70、20~80、20~90、20~100、30~40、30~50、30~60、30~70、30~80、30~90、30~100、40~50、40~60、40~70、40~80、40~90、40~100、50~60、50~70、50~80、50~90、50~100、60~70、60~80、60~90、60~100、70~80、70~90、70~100、80~90、80~100、又は90~100週間、宿主に移植されたグリア前駆細胞に由来するグリア細胞である。一部の実施形態において、より古いグリア細胞は、Wangら Cell Stem Cell 12、252~264、2013のプロトコールに基づく分化段階6で、又は他のプロトコールに基づく同等の分化段階で、5~100、5~10、5~20、5~30、5~40、5~50、5~60、5~70、5~80、5~90、10~20、10~30、10~40、10~50、10~60、10~70、10~80、10~90、10~100、20~30、20~40、20~50、20~60、20~70、20~80、20~90、20~100、30~40、30~50、30~60、30~70、30~80、30~90、30~100、40~50、40~60、40~70、40~80、40~90、40~100、50~60、50~70、50~80、50~90、50~100、60~70、60~80、60~90、60~100、70~80、70~90、70~100、80~90、80~100、又は90~100週間培養されたグリア細胞である。
【0044】
II.キメラ非ヒト哺乳動物モデル
本発明の一態様は、キメラ非ヒト哺乳動物であって、(1)キメラ非ヒト哺乳動物の脳梁におけるすべてのグリア細胞の少なくとも30%が、ヒトグリア細胞であり、ならびに/又は(2)キメラ非ヒト哺乳動物の脳及び/もしくは脳幹の白質におけるすべてのグリア細胞の少なくとも5%が、ヒトグリア細胞であり、ヒトグリア細胞が、ヒト疾患特異的グリア細胞及び健康なヒトグリア細胞の組み合わせを含み、ヒト疾患特異的グリア細胞が、第1の検出可能な標識でタグ付けされており、健康なヒトグリア細胞が、第1の検出可能な標識と区別可能な第2の検出可能な標識でタグ付けされている、キメラ非ヒト哺乳動物に関する。
【0045】
一部の実施形態において、ヒト疾患特異的グリア細胞は、ヒト神経変性障害特異的グリア細胞、又はヒト神経精神障害特異的グリア細胞、又はヒトミエリン疾患特異的グリア細胞を含む。
【0046】
一部の実施形態において、ヒト疾患特異的グリア細胞は、ヒト神経変性障害特異的グリア細胞を含み、ヒト神経変性障害は、ハンチントン病、前頭側頭型認知症、パーキンソン病、多系統萎縮症、及び筋萎縮性側索硬化症からなる群から選択される。
【0047】
一部の実施形態において、ヒト疾患特異的グリア細胞は、ハンチントン病特異的グリア細胞を含む。
【0048】
一部の実施形態において、ヒト疾患特異的グリア細胞は、ヒト神経精神障害特異的グリア細胞を含み、ヒト神経精神障害は、統合失調症、自閉症スペクトラム障害、及び双極性障害からなる群から選択される。
【0049】
一部の実施形態において、ヒト疾患特異的グリア細胞は、ヒトミエリン疾患特異的グリア細胞を含み、ヒトミエリン疾患は、白質ジストロフィー又は白質疾患である。
【0050】
一部の実施形態において、ヒト疾患特異的グリア細胞は、第1の埋め込み日に埋め込まれたヒト疾患特異的グリア前駆細胞に由来し、健康なヒトグリア細胞は、第2の埋め込み日に埋め込まれた健康なヒトグリア前駆細胞に由来し、第1の埋め込み日は、第2の埋め込み日と同じである。
【0051】
一部の実施形態において、ヒト疾患特異的グリア細胞は、第1の埋め込み日に埋め込まれたヒト疾患特異的グリア前駆細胞に由来し、健康なヒトグリア細胞は、第2の埋め込み日に埋め込まれた健康なヒトグリア前駆細胞に由来し、第1の埋め込み日は、第2の埋め込み日よりも早い。
【0052】
一部の実施形態において、第1の埋め込み日は、第2の埋め込み日の5~100、5~10、5~15、5~20、5~25、5~30、5~35、5~40、5~45、5~50、5~55、5~60、5~65、5~70、5~75、5~80、5~85、5~90、5~95、10~15、10~20、10~25、10~30、10~35、10~40、10~45、10~50、10~55、10~60、10~65、10~70、10~75、10~80、10~85、10~90、10~95、10~100、15~20、15~25、15~30、15~35、15~40、15~45、15~50、15~55、15~60、15~65、15~70、15~75、15~80、15~85、15~90、15~95、15~100、20~25、20~30、20~35、20~40、20~45、20~50、20~55、20~60、20~65、20~70、20~75、20~80、20~85、20~90、20~95、20~100、25~30、25~35、25~40、25~45、25~50、25~55、25~60、25~65、25~70、25~75、25~80、25~85、25~90、25~95、25~100、30~35、30~40、30~45、30~50、30~55、30~60、30~65、30~70、30~75、30~80、30~85、30~90、30~95、30~100、35~40、35~45、35~50、35~55、35~60、35~65、35~70、35~75、35~80、35~85、35~90、35~95、35~100、40~45、40~50、40~55、40~60、40~65、40~70、40~75、40~80、40~85、40~90、40~95、40~100、45~50、45~55、45~60、45~65、45~70、45~75、45~80、45~85、45~90、45~95、45~100、50~55、50~60、50~65、50~70、50~75、50~80、50~85、50~90、50~95、50~100、55~60、55~65、55~70、55~75、55~80、55~85、55~90、55~95、55~100、60~65、60~70、60~75、60~80、60~85、60~90、60~95、60~100、65~70、65~75、65~80、65~85、65~90、65~95、65~100、70~75、70~80、70~85、70~90、70~95、70~100、75~80、75~85、75~90、75~95、75~100、80~85、80~90、80~95、80~100、85~90、85~95、85~100、90~95、90~100又は95~100週間前である。
【0053】
一部の実施形態において、第1の埋め込み日は、第2の埋め込み日の30~40週間前である。
【0054】
一部の実施形態において、本明細書に記載される非ヒト哺乳動物のヒト神経変性障害特異的グリア細胞は、神経変性障害に関連する、グリア細胞病理、例えば、グリア細胞特異的な遺伝子発現、成長、構造、組織化、分化、増殖などを示す。同様に、本明細書に記載されるヒト神経変性疾患の非ヒト哺乳動物モデルは、ヒト神経変性障害に関連する、病理学的、生理学的及び行動学的特性及び表現型の少なくとも一部を示す。例えば、一実施形態において、非ヒト哺乳動物モデルは、ハンチントン病のモデルである。この実施形態において、哺乳動物モデルは、健康な非ヒト哺乳動物(すなわち、非罹患ヒトグリア細胞を含む非ヒト哺乳動物)と比較して、ハンチントン病の特徴である有意に遅い運動学習及び運動協調性の減衰を示す。同様に、ハンチントン病の非ヒト哺乳動物モデルの線条体ニューロンは、健康な非ヒト哺乳動物の線条体ニューロンと比較して、ニューロン興奮性の増加及び入力抵抗の減少を示す。このニューロン表現型は、ハンチントン病を有するヒト患者におけるニューロン表現型に特徴的である。
【0055】
一部の実施形態において、非ヒト哺乳動物モデルのヒト神経変性障害特異的グリア細胞は、障害を有するヒト患者に由来する。別の実施形態において、非ヒト哺乳動物モデルのヒト神経変性障害特異的グリア細胞は、神経変性障害特異的であるように操作されており、すなわち、細胞は、神経変性疾患に関連する1つもしくは複数の遺伝子変異を含有するように、及び/又は1つもしくは複数の疾患関連生体分子(例えば、タンパク質、多糖、脂質、又は核酸分子)の発現を増加もしくは減少させるように操作されている。例えば、本明細書に記載されるように、ハンチントン病の例示的な非ヒト哺乳動物モデルは、CAG(シトシン-アデニン-グアニン)トリプレットリピートの伸長を有する変異型ハンチンチン遺伝子を発現するように操作されたヒトグリア細胞を含み得る。
【0056】
本明細書に記載される非ヒト哺乳動物モデルのヒト神経変性障害特異的グリア細胞は、例えば、限定されないが、下記により詳細に記載される、ヒト誘導多能性幹細胞(iPSC)、胚性幹細胞、胎児組織、グリア前駆細胞、及び/又はアストロサイトなどのグリア細胞の任意の好適な起源に由来し得る。
【0057】
一部の実施形態において、キメラ非ヒト哺乳動物の脳及び/又は脳幹の白質におけるすべてのグリア細胞の少なくとも10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%又は50%が、ヒトグリア細胞である。一部の実施形態において、白質は、小脳白質であり、哺乳動物の脳の小脳白質におけるすべてのグリア細胞の少なくとも50%が、ヒトグリア細胞である。
【0058】
一部の実施形態において、キメラ非ヒト哺乳動物の脳の脳梁におけるすべてのグリア細胞の少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%又は85%が、ヒトグリア細胞である。
【0059】
一部の実施形態において、キメラ非ヒト哺乳動物の脳の脳梁におけるすべてのグリア細胞の少なくとも70%が、ヒトグリア細胞である。
【0060】
一部の実施形態において、キメラ非ヒト哺乳動物の脳梁におけるグリア細胞の少なくとも30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、又は90%が、ヒト神経変性障害特異的グリア細胞である。
【0061】
別の実施形態において、キメラ非ヒト哺乳動物の脳梁におけるすべてのグリア細胞の少なくとも50%が、ヒト神経変性障害特異的グリア細胞である。
【0062】
別の実施形態において、キメラ非ヒト哺乳動物の脳梁におけるすべてのグリア細胞の少なくとも70%が、ヒト神経変性障害特異的グリア細胞である。
【0063】
さらに別の実施形態において、非ヒト哺乳動物の脳梁におけるすべてのグリア細胞の少なくとも90%が、ヒト神経変性障害特異的グリア細胞である。
【0064】
一部の実施形態において、キメラ非ヒト哺乳動物の脳又は脳幹は、ヒト神経変性障害グリア細胞を含み、ヒト神経変性障害は、ハンチントン病、アルツハイマー病、前頭側頭型認知症、パーキンソン病、多系統萎縮症、及び筋萎縮性側索硬化症からなる群から選択される。本明細書に記載される非ヒト哺乳動物モデルは、ヒト神経変性障害のモデルである。神経変性障害又は神経変性疾患は、運動系、感覚系、又は認知系のニューロンの選択的な及び概して対称の喪失によって特徴付けられる慢性の進行性ニューロパチーである。
【0065】
一部の実施形態において、キメラ非ヒト哺乳動物の脳又は脳幹は、ヒト神経精神障害グリア細胞を含み、ヒト神経精神障害は、統合失調症、自閉症スペクトラム障害、及び双極性障害からなる群から選択される。
【0066】
一部の実施形態において、キメラ非ヒト哺乳動物の脳又は脳幹は、ヒトミエリン疾患を有し、ヒトミエリン疾患は、白質ジストロフィー又は白質疾患である。一実施形態において、キメラ非ヒト哺乳動物は、低ミエリン化される。低ミエリン化哺乳動物は、異常に低減された量のミエリンを含む。別の実施形態において、キメラ非ヒト哺乳動物は、その脳及び脳幹全体にわたって、正常レベルのミエリンを有する。
【0067】
本発明の別の態様は、キメラ非ヒト哺乳動物であって、(1)キメラ非ヒト哺乳動物の脳梁におけるすべてのグリア細胞の少なくとも30%が、ヒトグリア細胞であり、ならびに/又は(2)キメラ非ヒト哺乳動物の脳及び/もしくは脳幹の白質におけるすべてのグリア細胞の少なくとも5%が、ヒトグリア細胞であり、ヒトグリア細胞が、第1の検出可能な標識でタグ付けされた健康なヒトグリア細胞の第1の群及び第1の検出可能な標識と区別可能な第2の検出可能な標識でタグ付けされた健康なヒトグリア細胞の第2の群を含む、キメラ非ヒト哺乳動物に関する。
【0068】
一部の実施形態において、健康なヒトグリア細胞の第1の群は、第1の埋め込み日に埋め込まれた健康なヒトグリア前駆細胞の第1の群に由来し、健康なヒトグリア細胞の第2の群は、第2の埋め込み日に埋め込まれた健康なヒトグリア前駆細胞の第2の群に由来し、第1の埋め込み日は、第2の埋め込み日と同じである。
【0069】
一部の実施形態において、健康なヒトグリア細胞の第1の群は、第1の埋め込み日に埋め込まれた健康なヒトグリア前駆細胞の第1の群に由来し、健康なヒトグリア細胞の第2の群は、第2の埋め込み日に埋め込まれた健康なヒトグリア前駆細胞の第2の群に由来し、第1の埋め込み日は、第2の埋め込み日よりも早い。
【0070】
一部の実施形態において、第1の埋め込み日は、第2の埋め込み日の5~100、5~10、5~15、5~20、5~25、5~30、5~35、5~40、5~45、5~50、5~55、5~60、5~65、5~70、5~75、5~80、5~85、5~90、5~95、10~15、10~20、10~25、10~30、10~35、10~40、10~45、10~50、10~55、10~60、10~65、10~70、10~75、10~80、10~85、10~90、10~95、10~100、15~20、15~25、15~30、15~35、15~40、15~45、15~50、15~55、15~60、15~65、15~70、15~75、15~80、15~85、15~90、15~95、15~100、20~25、20~30、20~35、20~40、20~45、20~50、20~55、20~60、20~65、20~70、20~75、20~80、20~85、20~90、20~95、20~100、25~30、25~35、25~40、25~45、25~50、25~55、25~60、25~65、25~70、25~75、25~80、25~85、25~90、25~95、25~100、30~35、30~40、30~45、30~50、30~55、30~60、30~65、30~70、30~75、30~80、30~85、30~90、30~95、30~100、35~40、35~45、35~50、35~55、35~60、35~65、35~70、35~75、35~80、35~85、35~90、35~95、35~100、40~45、40~50、40~55、40~60、40~65、40~70、40~75、40~80、40~85、40~90、40~95、40~100、45~50、45~55、45~60、45~65、45~70、45~75、45~80、45~85、45~90、45~95、45~100、50~55、50~60、50~65、50~70、50~75、50~80、50~85、50~90、50~95、50~100、55~60、55~65、55~70、55~75、55~80、55~85、55~90、55~95、55~100、60~65、60~70、60~75、60~80、60~85、60~90、60~95、60~100、65~70、65~75、65~80、65~85、65~90、65~95、65~100、70~75、70~80、70~85、70~90、70~95、70~100、75~80、75~85、75~90、75~95、75~100、80~85、80~90、80~95、80~100、85~90、85~95、85~100、90~95、90~100又は95~100週間前である。
【0071】
一部の実施形態において、第1の埋め込み日は、第2の埋め込み日の30~40週間前である。
【0072】
本発明のキメラ非ヒト哺乳動物は、任意の年齢であり得る。一部の実施形態において、キメラ非ヒト哺乳動物は、出生後である。本明細書において使用される場合、「出生後」という用語は、成体哺乳動物を含む、誕生後の任意の年齢の哺乳動物を指す。一部の実施形態において、キメラ非ヒト哺乳動物は、新生児期である。一部の実施形態において、キメラ非ヒト哺乳動物は、成体である。
【0073】
本発明のキメラ非ヒト哺乳動物は、マウス、ラット、モルモット、他の小型げっ歯動物、イヌ、ネコ、ヒツジ、ヤギ、及びサルを含む任意の哺乳動物であり得る。本発明の好ましい実施形態において、キメラ非ヒト哺乳動物は、マウスである。マウスの好適な系統としては、限定されないが、CD-1(登録商標)ヌードマウス、NU/NUマウス、BALB/Cヌードマウス、BALB/Cマウス、NIH-IIIマウス、SCID(登録商標)マウス、非近交系SCID(登録商標)マウス、SCID Beigeマウス、C3Hマウス、C57BL/6マウス、DBA/2マウス、FVBマウス、CB17マウス、129マウス、SJLマウス、B6C3F1マウス、BDF1マウス、CDF1マウス、CB6F1マウス、CF-1マウス、Swiss Websterマウス、SKH1マウス、PGPマウス、及びB6SJLマウスが挙げられる。
【0074】
一部の実施形態において、本発明のキメラ非ヒト哺乳動物は、免疫能力がない、免疫が不十分である、又は免疫が抑制されている。
【0075】
III.キメラ非ヒト哺乳動物を生成する方法
本発明の別の態様は、ヒトグリア細胞を含むキメラ非ヒト哺乳動物を生成するための方法に関する。一部の実施形態において、当該方法は、ヒトグリア前駆細胞の第1の集団を非ヒト哺乳動物の脳及び/又は脳幹に導入する工程であって、ヒトグリア細胞の第1の集団が、第1の検出可能な標識でタグ付けされている、工程;ヒトグリア前駆細胞の第2の集団を非ヒト哺乳動物の脳及び/又は脳幹に導入する工程であって、ヒトグリア細胞の第2の集団が、第1の検出可能な標識と区別可能な第2の検出可能な標識でタグ付けされている、工程;ならびに前記導入する工程の結果として、脳又は脳幹におけるネイティブグリア細胞を少なくとも部分的に置き換えるヒトグリア細胞を有するキメラ非ヒト哺乳動物を回収する工程であって、(1)キメラ非ヒト哺乳動物の脳梁におけるすべてのグリア細胞の少なくとも30%が、ヒトグリア細胞であり、ならびに/又は(2)キメラ非ヒト哺乳動物の脳及び/もしくは脳幹の白質におけるすべてのグリア細胞の少なくとも5%が、ヒトグリア細胞である、工程を含む。
【0076】
一部の実施形態において、ヒトグリア前駆細胞の第1の集団は、ヒト疾患特異的グリア前駆細胞であり、ヒトグリア前駆細胞の第2の集団は、健康なヒトグリア前駆細胞である。一部の実施形態において、ヒト疾患特異的グリア前駆細胞は、ヒト神経変性障害特異的グリア前駆細胞、又はヒト神経精神障害特異的グリア前駆細胞、又はヒトミエリン疾患特異的グリア前駆細胞を含む。一部の実施形態において、ヒト疾患特異的グリア前駆細胞は、ハンチントン病特異的グリア前駆細胞を含む。
【0077】
一部の実施形態において、ヒトグリア前駆細胞の第1の集団は、健康なヒトグリア前駆細胞であり、ヒトグリア前駆細胞の第2の集団は、健康なヒトグリア前駆細胞である。
【0078】
一部の実施形態において、ヒトグリア前駆細胞の第1の集団及びヒトグリア前駆細胞の第2の集団は、同じ時に、非ヒト哺乳動物の脳及び/又は脳幹に導入される。
【0079】
一部の実施形態において、ヒトグリア前駆細胞の第1の集団は、第1の埋め込み日に非ヒト哺乳動物の脳及び/又は脳幹に導入され、ヒトグリア前駆細胞の第2の集団は、第2の埋め込み日に非ヒト哺乳動物の脳及び/又は脳幹に導入され、第1の埋め込み日は、第2の埋め込み日よりも早い。
【0080】
一部の実施形態において、第1の埋め込み日は、第2の埋め込み日の5~100、5~10、5~15、5~20、5~25、5~30、5~35、5~40、5~45、5~50、5~55、5~60、5~65、5~70、5~75、5~80、5~85、5~90、5~95、10~15、10~20、10~25、10~30、10~35、10~40、10~45、10~50、10~55、10~60、10~65、10~70、10~75、10~80、10~85、10~90、10~95、10~100、15~20、15~25、15~30、15~35、15~40、15~45、15~50、15~55、15~60、15~65、15~70、15~75、15~80、15~85、15~90、15~95、15~100、20~25、20~30、20~35、20~40、20~45、20~50、20~55、20~60、20~65、20~70、20~75、20~80、20~85、20~90、20~95、20~100、25~30、25~35、25~40、25~45、25~50、25~55、25~60、25~65、25~70、25~75、25~80、25~85、25~90、25~95、25~100、30~35、30~40、30~45、30~50、30~55、30~60、30~65、30~70、30~75、30~80、30~85、30~90、30~95、30~100、35~40、35~45、35~50、35~55、35~60、35~65、35~70、35~75、35~80、35~85、35~90、35~95、35~100、40~45、40~50、40~55、40~60、40~65、40~70、40~75、40~80、40~85、40~90、40~95、40~100、45~50、45~55、45~60、45~65、45~70、45~75、45~80、45~85、45~90、45~95、45~100、50~55、50~60、50~65、50~70、50~75、50~80、50~85、50~90、50~95、50~100、55~60、55~65、55~70、55~75、55~80、55~85、55~90、55~95、55~100、60~65、60~70、60~75、60~80、60~85、60~90、60~95、60~100、65~70、65~75、65~80、65~85、65~90、65~95、65~100、70~75、70~80、70~85、70~90、70~95、70~100、75~80、75~85、75~90、75~95、75~100、80~85、80~90、80~95、80~100、85~90、85~95、85~100、90~95、90~100又は95~100週間前である。
【0081】
一部の実施形態において、第1の埋め込み日は、第2の埋め込み日の30~40週間前である。
【0082】
本発明の方法を行うために好適な非ヒト哺乳動物は、任意の年齢であり得る。一部の実施形態において、非ヒト哺乳動物は、出生前である。一部の実施形態において、非ヒト哺乳動物は、新生児期である。一部の実施形態において、非ヒト哺乳動物は、成体である。
【0083】
マウス、ラット、モルモット、他の小型げっ歯動物、イヌ、ネコ、ヒツジ、ヤギ、及びサルを含む、任意の非ヒト哺乳動物が、本発明の方法を行うために好適である。本発明の好ましい実施形態において、非ヒト哺乳動物は、マウスである。マウスの好適な系統としては、限定されないが、CD-1(登録商標)ヌードマウス、NU/NUマウス、BALB/Cヌードマウス、BALB/Cマウス、NIH-IIIマウス、SCID(登録商標)マウス、非近交系SCID(登録商標)マウス、SCID Beigeマウス、C3Hマウス、C57BL/6マウス、DBA/2マウス、FVBマウス、CB17マウス、129マウス、SJLマウス、B6C3F1マウス、BDF1マウス、CDF1マウス、CB6F1マウス、CF-1マウス、Swiss Websterマウス、SKH1マウス、PGPマウス、及びB6SJLマウスが挙げられる。
【0084】
一部の実施形態において、本発明の方法を行うために好適な非ヒト哺乳動物は、免疫能力がない、免疫が不十分である、又は免疫が抑制されている。
【0085】
本発明の方法に従って、キメラ非ヒト哺乳動物に移植されるヒトグリア細胞の集団は、好ましくは、二分化能グリア前駆細胞である。一実施形態において、グリア前駆細胞は、オリゴデンドロサイトの生成に偏り得る。あるいは、グリア前駆細胞は、アストロサイトの生成に偏り得る。本発明のさらなる実施形態において、非ヒト哺乳動物に移植され得るヒトグリア細胞は、アストロサイトであり得る。
【0086】
グリア前駆細胞は、胚、胎児、もしくは成体脳組織、胚性幹細胞、又は誘導多能性細胞から得られ得る。好ましくは、グリア前駆細胞は、脳の脳室帯及び脳室下帯から、又は皮質下白質から単離される。
【0087】
iPSCは、体細胞などの非多能性細胞に由来する多能性細胞である。例えば、限定されないが、iPSCは、組織、末梢血、臍帯血、及び骨髄に由来し得る(例えば、Caiら、「Generation of Human Induced Pluripotent Stem Cells from Umbilical Cord Matrix and Amniotic Membrane Mesenchymal Cells」、J.Biol.Chem.285(15):112227~11234(2110);Giorgettiら、「Generation of Induced Pluripotent Stem Cells from Human Cord Blood Cells with only Two Factors:Oct4 and Sox2」、Nat.Protocol.5(4):811~820(2010);Streckfuss-Bomekeら、「Comparative Study of Human-Induced Pluripotent Stem Cells Derived from Bone Marrow Cells,Hair Keratinocytes,and Skin Fibroblasts」、Eur.Heart J.(2012);Huら、「Efficient Generation of Transgene-Free Induced Pluripotent Stem Cells from Normal and Neoplastic Bone Marrow and Cord Blood Mononuclear Cells」、Blood(2011);Sommerら、「Generation of Human Induced Pluripotent Stem Cells from Peripheral Blood using the STEMCCA Lentiviral Vector」、J.Vis.Exp.68:e4327(2012)を参照されたく、これらは、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる)。体細胞は、遺伝子操作を使用して、胚性幹細胞様状態に初期化される。iPSCの形成に好適な例示的な体細胞としては、線維芽細胞(例えば、Streckfuss-Bomekeら、「Comparative Study of Human-Induced Pluripotent Stem Cells Derived from Bone Marrow Cells,Hair Keratinocytes,and Skin Fibroblasts」、Eur.Heart J.(2012)を参照されたく、これは、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)、例えば、皮膚試料又は生検によって得られる皮膚線維芽細胞、滑膜組織由来の滑膜細胞、ケラチノサイト、成熟B細胞、成熟T細胞、膵臓β細胞、メラニン形成細胞、肝細胞、包皮細胞、頬細胞、又は肺線維芽細胞が挙げられる。
【0088】
誘導多能性幹細胞を生成する方法は、当技術分野において公知であり、典型的には、体細胞において初期化因子の組み合わせを発現させる工程を含む。iPSC作成を促進及び誘導する好適な初期化因子としては、オクタマー結合転写因子4(Oct4)、クルッペル様因子4(Klf4)、SRY(性決定領域Y)-ボックス2(Sox2)、c-Myc、Nanog、CCAATエンハンサー結合タンパク質アルファ(C/EBPα)、エストロゲン関連受容体ベータ(Esrrb)、Lin28、及び 核内受容体サブファミリー5、グループA、メンバー2(Nr5a2)の1つ又は複数が挙げられる。ある特定の実施形態において、少なくとも2つの初期化因子が、体細胞において発現されて、体細胞を成功裏に初期化する。他の実施形態において、少なくとも3つの初期化因子が、体細胞において発現されて、体細胞を成功裏に初期化する。
【0089】
iPSCは、細胞初期化を促進する遺伝子を送達するために、組み込みウイルスベクター(例えば、レンチウイルスベクター、誘導性レンチウイルスベクター、及びレトロウイルスベクター)、切除可能ベクター(例えば、トランスポゾン及びloxPが導入されたレンチウイルスベクター)、及び非組み込みベクター(例えば、アデノウイルス及びプラスミドベクター)の使用を含む、当技術分野において公知の方法によって誘導されてもよい(Takahashi,K.及びYamanaka,S.、「Induction of Pluripotent Stem Cells from Mouse Embryonic and Adult Fibroblast Cultures by Defined Factors」、Cell 126:663~676(2006);Okita.ら、「Generation of Germline-Competent Induced Pluripotent Stem Cells」、Nature 448:313~317(2007);Nakagawaら、Nat.Biotechnol.26:101~106(2007);Takahashiら、「Induction of Pluripotent Stem Cells from Adult Human Fibroblasts by Defined Factors」、Cell 131:1~12(2007);Meissnerら、「Direct Reprogramming of Genetically Unmodified Fibroblasts into Pluripotent Stem Cells」、Nat.Biotech.25:1177~1181(2007);Yuら、「Induced Pluripotent Stem Cell Lines Derived from Human Somatic Cells」、Science 318:1917~1920(2007);Parkら、「Reprogramming of Human Somatic Cells Pluripotency with Defined Factors」、Nature 451:141~146(2008);及び米国特許出願公開第2008/0233610、これらは、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる)。IPS細胞を作成するための他の方法としては、WO2007/069666号、WO2009/006930号、WO2009/006997号、WO2009/007852号、WO2008/118820号、Ikedaらに対する米国特許出願公開第2011/0200568号、Egusaらに対する米国特許出願公開第2010/0156778号、Musickに対する米国特許出願公開第2012/0276070号、及びNakagawaに対する米国特許出願公開第2012/0276636号、Shiら、「Induction of Pluripotent Stem Cells from Mouse Embryonic Fibroblasts by Oct4 and Klf4 with Small-Molecule Compounds」 Cell Stem Cell 3(5):568~574(2008)、Kimら、「Pluripotent Stem Cells Induced from Adult Neural Stem Cells by Reprogramming with Two Factors」、Nature 454:646~650(2008)、Kimら、「Oct4-induced Pluripotency in Adult Neural Stem Cells」、Cell 136(3):411~419(2009)、Huangfuら、「Induction of Pluripotent Stem Cells from Primary Human Fibroblasts with Only Oct4 and Sox2」、Nat.Biotechnol.26:1269~1275(2008)、Zhaoら、「Two Supporting Factors Greatly Improve the Efficiency of Human iPSC Generation」、Cell Stem Cell 3:475~479(2008)、Fengら、「Reprogramming of Fibroblasts into Induced Pluripotent Stem Cells with Orphan Nuclear Receptor Esrrb」、Nat.Cell Biol.11:197~203(2009)、及びHannaら、「Direct Reprogramming of Terminally Differentiated Mature B Lymphocytes to Pluripotency」 Cell 133(2):250~264(2008)に開示されるものが挙げられ、これらは、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0090】
上記に記載されるiPSC作成の方法は、初期化効率を増強する低分子、又はさらに初期化因子についての置換を含むように改変され得る。これらの低分子としては、限定されないが、エピジェネティックモジュレーター、例えば、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤の5’-アザシチジン、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤のVPA、及びG9aヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤のBIX-01294とBayK8644、L型カルシウムチャネルアゴニストが挙げられる。他の低分子初期化因子としては、シグナル伝達経路を標的にするもの、例えば、トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF-β)阻害剤及びキナーゼ阻害剤(例えば、ケンパウロン)(Sommer及びMostoslavsky、「Experimental Approaches for the Generation of Induced Pluripotent Stem Cells」、Stem Cell Res.Ther.1:250~264(2010)による総説を参照されたく、これは、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)が挙げられる。
【0091】
本明細書に記載されるキメラ非ヒト哺乳動物モデルを作製するために好適である、iPSCからグリア前駆細胞の高度に濃縮された調製物を得る方法は、Goldman及びWangに対するWO2014/124087号、ならびにWangら、「Human iPSC-Derived Oligodendrocyte Progenitors Can Myelinate and Rescue a Mouse Model of Congenital Hypomyelination」、Cell Stem Cell 12(2):252~264(2013)に開示されており、これらは、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0092】
一部の実施形態において、本明細書に記載されるキメラ非ヒト哺乳動物モデルのヒト神経変性障害特異的グリア細胞は、胚性幹細胞に由来する。ヒト胚性幹細胞は、組織補充療法に潜在的に有用なクローン/遺伝子改変細胞の事実上非限定的な起源を提供する。本開示のキメラ非ヒト哺乳動物モデルを作製するために好適である胚細胞由来のグリア前駆細胞の高度に濃縮された調製物を得る方法は、Wangら、「Human iPSC-Derived Oligodendrocyte Progenitor Cells can Myelinate and Rescue a Mouse Model of Congenital Hypomyelination」、Cell Stem Cell 12:252~264(2013)に開示されるように、本明細書に記載され、これは、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0093】
一部の実施形態において、キメラ非ヒト哺乳動物のヒトグリア細胞は、ヒト胎児組織に由来する。グリア前駆細胞は、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれるGoldmanに対する米国特許出願公開第20040029269号及び同第20030223972号に記載されるように、プロモーター特異的分離技法を使用することによって、直接、細胞の混合集団を含有する胎児脳組織から抽出することができる。この方法は、グリア前駆細胞において特異的に機能するプロモーターを選択する工程、及び前記プロモーターの制御下でマーカータンパク質をコードする核酸を混合集団細胞に導入する工程を含む。細胞の混合集団は、マーカータンパク質を発現することが可能であり、マーカータンパク質を発現する細胞は、細胞の集団から分離され、分離される細胞は、グリア前駆細胞である。ヒトグリア前駆細胞は、脳の脳室帯もしくは脳室下帯から、又は皮質下白質から単離され得る。
【0094】
グリア前駆細胞は、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれるGoldmanに対する米国特許出願公開第20040029269号及び同第20030223972号に記載されるように、プロモーター特異的分離技法を使用することによって、直接、細胞の混合集団を含有する脳組織から抽出することができる。この方法は、グリア前駆細胞において特異的に機能するプロモーターを選択する工程、及び前記プロモーターの制御下でマーカータンパク質をコードする核酸を混合集団細胞に導入する工程を含む。細胞の混合集団は、マーカータンパク質を発現することが可能であり、マーカータンパク質を発現する細胞は、細胞の集団から分離され、分離される細胞は、グリア前駆細胞である。
【0095】
グリア前駆細胞を細胞の混合集団から単離するために使用され得るグリア特異的プロモーターとしては、CNPプロモーター(Schererら、「Differential Regulation of the 2’,3’-cyclic nucleotide 3’phosphodiesterase Gene During Oligodendrocyte Development」、Neuron 12:1363~75(1994)、これは、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)、NCAMプロモーター(Hoistら、J.Biol.Chem.269:22245~52(1994)、これは、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)、ミエリン塩基性タンパク質プロモーター(Wrabetzら、「Analysis Of Human MBP Promoter In Primary Cultures Of Oligodendrocytes:Positive And Negative Cis- Acting Elements In Proximal MBP Promoter Mediate Oligodendrocyte-Specific Expression Of MBP」、J.Neurosci.Res.36:455~71(1993)、これは、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)、JCウイルスミニマルコアプロモーター(Krebsら、J.Virol.69:2434~42(1995)、これは、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)、ミエリン関連糖タンパク質プロモーター(Laszkiewiczら、「Structural Characterization of Myelin-associated Glycoprotein Gene Core Promoter」、J.Neurosci.Res.50(6):928~36(1997)、これは、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)、又はプロテオリピドタンパク質プロモーター(Cookら、「Regulation of Rodent Myelin Proteolipid Protein Gene Expression」、Neurosci.Lett.137(1):56~60(1992);Wightら、「Regulation of Murine Myelin Proteolipid Protein Gene Expression」、J.Neurosci.Res.50(6):917~27(1997);及びCambiら、Neurochem.Res.19:1055~60(1994)、これらは、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる)が挙げられる。Goldmanらに対する米国特許第6,245,564号も参照されたく、これは、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0096】
一部の実施形態において、グリア前駆細胞は、最初に、ニューロン又はニューロン前駆細胞を混合細胞集団から除去することによって単離される。ニューロン前駆細胞が、細胞の混合集団から分離されるべきである場合、それらは、神経細胞接着分子(NCAM)、ポリシアル酸-NCAM(PSA-NCAM)、又はニューロンもしくはニューロン前駆細胞に特異的な任意の他の表面部分のそれらの表面発現に基づいて除去することができる。ニューロン又はニューロン前駆細胞はまた、分離技法に基づいて、プロモーターを使用して、細胞の混合集団から分離されてもよい。神経系細胞を細胞の混合集団から分離するために使用され得るニューロン又はニューロン前駆細胞特異的プロモーターとしては、Tαlチューブリンプロモーター(Glosterら、J.Neurosci.14:7319~30(1994)、これは、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)、Huプロモーター(Parkら、「Analysis of Upstream Elements in the HuC Promoter Leads to the Establishment of Transgenic Zebrafish with Fluorescent Neurons」、Dev.Biol.227(2):279-93(2000)、これは、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)、ELAVプロモーター(Yaoら、「Neural Specificity of ELAV Expression:Defining a Drosophila Promoter for Directing Expression to the Nervous System」、J.Neurochem.63(1):41~51(1994)、これは、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)、微小管関連タンパク質(MAP)-IBプロモーター(Liuら、Gene 171:307~08(1996)、これは、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)、又はGAP-43プロモーターが挙げられる。Goldmanらに対する米国特許第6,245,564号を参照されたく、これは、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0097】
目的の細胞に特異的なプロモーターを選択し、プロモーターの制御下でタンパク質マーカー、好ましくは、緑色蛍光タンパク質をコードする核酸分子は、選別される多数の細胞に導入される。緑色蛍光タンパク質をコードする単離された核酸分子は、その全体が参照により本明細書に組み込まれるGoldmanに対する米国特許出願第20040029269号に記載されるように、デオキシリボ核酸(DNA)又はリボ核酸(RNA、メッセンジャーRNA又はmRNAを含む)、ゲノム、組換え、又は変異、生物学的に単離又は合成であり得る。他の好適なマーカータンパク質としては、lacZ/ベータ-ガラクトシダーゼ又はアルカリホスファターゼが挙げられる。
【0098】
次いで、標準的な技法を使用して、選択した細胞特異的プロモーターの制御下でマーカータンパク質をコードする核酸分子を配置する。一般に、これは、制限酵素の使用及びライゲーションを含む。
【0099】
選択されたプロモーター(核酸分子それ自身)の制御下でマーカータンパク質をコードする核酸分子を含む得られた構築物(所望により、他の好適な調節エレメントを有する)は、次いで選別される多数の細胞に導入され、次いで選別される。構築物の核酸分子を多数の細胞に導入し、次いで細胞を選別するための技法は、Goldmanらに対する米国特許出願第20040029269号に記載されており、これは、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0100】
マーカータンパク質をコードする核酸分子が多数の細胞に導入されると、マーカータンパク質の発現を制御するプロモーターのみが、目的の細胞において機能する。したがって、マーカータンパク質は、目的の細胞においてのみ発現され、その細胞は、マーカータンパク質の発現によって、多数の細胞の中から特定され得る(例えば、蛍光検出の任意の好適な手段を使用する、緑色蛍光タンパク質(GFP)の蛍光)。GFPについて、細胞は、落射蛍光光学を使用して特定されてもよく、物理的に取り出され、Laser Tweezers(Cell Robotics Inc.、Albuquerque、N.Mex.)によって一緒にされ得る。あるいは、細胞は、蛍光細胞を非蛍光細胞から効率的に分離する方法である蛍光標識細胞分取によりバルクにおいて分離することができる。
【0101】
プロモーターに基づく細胞選別を使用して、グリア前駆細胞を混合集団から回収する代替として、免疫分離手順が利用され得る。陽性免疫選択技法において、所望の細胞(すなわち、グリア前駆細胞)は、前駆細胞上に天然に存在するタンパク質性表面マーカーに基づいて単離される。例えば、表面マーカーA2B5は、最初に発現される初期マーカーである。Nunesら、「Identification and Isolation of Multipotential Neural Progenitor Cells from the Adult Human White Matter」、Soc.Neurosci.Abstr.(2001)を参照されたく、これは、参照により本明細書に組み込まれる。そのマーカーに特異的な抗体を使用して、グリア前駆細胞は、細胞型の混合集団から分離することができる。A2B5に特異的な抗体を使用して、グリア前駆細胞は、細胞型の混合集団から分離することができる。同様に、表面マーカーCD44は、アストロサイトに偏ったグリア前駆細胞を特定する(Liuら、「CD44 Expression Identifies Astrocyte-Restricted Precursor Cells」、Dev.Biol.276:31~46(2004)、これは、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)。
【0102】
CD44コンジュゲートマイクロビーズ技術を使用して、アストロサイトに偏ったグリア前駆細胞は、細胞型の混合集団から分離することができる。オリゴデンドロサイトに偏ったグリア前駆細胞は、血小板由来増殖因子受容体アルファ(PDGFαR)、PDGFαRエクトドメインCD140a、又はCD9の発現に基づいて、細胞型の混合集団から分離することができる。非グリア細胞型のマーカーを発現する細胞(例えば、ニューロン、炎症細胞など)は、免疫分離技法を使用して、グリア細胞の調製物から除去されて、所望のグリア細胞型について調製物がさらに濃縮され得る。例えば、グリア前駆細胞集団は、好ましくは、PSA-NCAMマーカー及び/又はニューロン系列の細胞についての他のマーカーに陰性、1つ又は複数の炎症細胞マーカーに陰性、例えば、ミクログリアのためのマーカーである、CD11マーカーに陰性、CD32マーカーに陰性、及び/またCD36マーカーに陰性である。例示的なマイクロビーズ技法としては、MACS(登録商標)マイクロビーズ、MACS(登録商標)カラム、及びMACS(登録商標)セパレーターが挙げられる。免疫分離の追加の例は、Wangら、「Prospective Identification,Direct Isolation,and Expression Profiling of a Telomerase Expressing Subpopulation of Human Neural Stem Cells,Using Sox2 Enhancer-Directed FACS」、J.Neurosci.30:14635~14648(2010);Keyoungら、「High-Yield Selection and Extraction of Two Promoter-Defined Phenotypes of Neural Stem Cells from the Fetal Human Brain」、Nat.Biotechnol.19:843~850(2001);及びWindremら、「Neonatal Chimerization with Human Glial Progenitor Cells can both Remyelinate and Rescue the Otherwise Lethally Hypomyelinated Shiverer Mouse」、Cell Stem Cell 2:553~565(2008)に記載されており、これらは、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる.
【0103】
代替的に、又は上記に記載される陽性免疫選択法と組み合わせて、混合細胞集団は、所望されない細胞型が枯渇され得、所望の細胞集団が残る。この方法は、グリア前駆細胞以外の細胞集団(すなわち、神経細胞、内皮細胞など)に特異的であるタンパク質性細胞マーカーに基づいて細胞を分離する工程、及びグリア前駆細胞集団を保持する工程を含む。ヒト神経変性障害の非ヒト哺乳動物モデルを生成する方法に従って、投与されるヒト神経変性障害特異的グリア細胞の選択された調製物は、例えば、約80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、100%のグリア細胞を含んで、少なくとも約80%のグリア細胞を含む。グリア細胞の選択された調製物は、他の細胞型、例えば、ニューロン又はニューロン系列の細胞、線維性アストロサイト及び線維性アストロサイト系列の細胞、ならびに多能性幹細胞(胚性幹細胞のような)を相対的に欠き得る(例えば、20、15、10、9、8、7、6、5、4、3、2、又は1%未満を含有する)。任意に、細胞集団の例は、グリア細胞の実質的に純粋な集団である。
【0104】
免疫分離技法のための細胞特異的抗体は、蛍光、ビオチン、又はハプテン標識で標識されて、それらが結合する細胞の分離を容易にし得る。
【0105】
あるいは、抗体は、付着した抗体を通してビーズに結合する細胞が、バイオ磁気分離プロセスによって回収され得るように、常磁性ビーズに付着させることができる。固相への付着及びそれからの脱離を含む当技術分野において公知の細胞分離のための任意の他の好適な方法(すなわち、イムノパニング)も、本発明の範囲内である。
【0106】
本明細書に記載されるキメラ非ヒト哺乳動物モデルを生成するために、単離されたヒト神経変性障害特異的グリア細胞の集団は、非ヒト哺乳動物の前脳及び/又は脳幹内の複数の場所に導入される。導入された細胞の集団は、グリア前駆細胞及び/又はアストロサイト細胞の集団であってもよい。上記に記載されたように、グリア前駆細胞及び/又はアストロサイトは、任意の好適な起源、例えば、iPSC、胚性幹細胞、胎児組織、グリア前駆細胞に由来し得る。上記に記載されたように、グリア前駆細胞及び/又はアストロサイトは、神経変性疾患を有する患者に由来し得る。あるいは、グリア前駆細胞又はアストロサイトは、神経変性障害特異的状態に操作される。細胞を非ヒト哺乳動物の前脳及び/又は脳幹に導入する好適な方法は、当業者に周知であり、限定されるものではないが、本明細書に記載される注射、沈着、及び移植が挙げられる。
【0107】
グリア前駆細胞は、非哺乳動物宿主動物の複数の部位に、両側的に移植され得る。神経組織及び細胞を宿主脳に移植するための方法は、Bjorklund及びStenevi(編)、Neural Grafting in the Mammalian CNS、3~8章、Elsevier、Amsterdam(1985);Gageらに対する米国特許第5,082,670号;ならびにWeissらに対する米国特許第6,497,872号によって記載されており、これらは、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。一実施形態において、グリア前駆細胞は、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる、Goldmanに対する米国特許第7,524,491号、Windremら、「Neonatal Chimerization With Human Glial Progenitor Cells Can Both Remyelinate and Rescue the Otherwise Lethally Hypomyelinated Shiverer Mouse」、Cell Stem Cell 2:553~565(2008)、Hanら、「Forebrain Engraftment by Human Glial Progenitor Cells Enhances Synaptic Plasticity and Learning Adult Mice」、Cell Stem Cell 12:342~353(2013)、及びWangら、「Human iPSC-Derived Oligodendrocyte Progenitor Cells Can Myelinate and Rescue a Mouse Model of Congenital Hypomyelination」、Cell Stem Cell 12:252~264(2013)に記載されたようにして、非哺乳動物宿主動物の複数の部位に、両側的に移植される。神経組織及び細胞を宿主脳に移植するための方法が記載されており、一実施形態において、グリア前駆細胞は、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる、Goldmanに対する米国特許第7,524,491号、Windremら、「Neonatal Chimerization With Human Glial Progenitor Cells Can Both Remyelinate and Rescue the Otherwise Lethally Hypomyelinated Shiverer Mouse」、Cell Stem Cell 2:553~565(2008)、Hanら、「Forebrain Engraftment by Human Glial Progenitor Cells Enhances Synaptic Plasticity and Learning Adult Mice」、Cell Stem Cell 12:342~353(2013)、及びWangら、「Human iPSC-Derived Oligodendrocyte Progenitor Cells Can Myelinate and Rescue a Mouse Model of Congenital Hypomyelination」、Cell Stem Cell 12:252~264(2013)に記載されたようにして、非哺乳動物宿主動物の複数の部位に、両側的に移植される。神経組織及び細胞を宿主脳に移植するための方法は、Bjorklund及びStenevi(編)、Neural Grafting in the Mammalian CNS、3~8章、Elsevier、Amsterdam(1985);Gageらに対する米国特許第5,082,670号;ならびにWeissらに対する米国特許第6,497,872号によって記載されており、これらは、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。典型的な手順は、実質内、脳梁内、脳室内、くも膜下腔内、及び静脈内移植を含み、これらは、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0108】
実質内移植は、移植の時に脳実質に並置されるように、宿主脳内の組織の注射又は沈着によって達成される。実質内移植のための2つの主な手順は、1)ドナー細胞を宿主脳実質内に注射すること、又は2)外科的手段によって空洞を調製して、宿主脳実質を露出させること、及び次いで、移植片を空洞に沈着させること(Bjorklund及びStenevi(編)、Neural Grafting in the Mammalian CNS、第3章、Elsevier、Amsterdam(1985)、これは、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)である。両方法は、移植する時に、ドナー細胞及び宿主脳組織の間の実質の並置を提供し、両方とも、移植片及び宿主脳組織の間の解剖学的組み込みを容易にする。これは、ドナー細胞が宿主脳の不可欠な部分になり、宿主の生涯の間生存することが必要とされる場合に重要である。
【0109】
グリア前駆細胞は、Goldmanに対する米国特許出願第20030223972号に記載されるようにして、脳梁内に送達することもできる。本出願の好ましい実施形態において、グリア前駆細胞は、前脳皮質下に、具体的には、脳梁の前側及び後側原基に、直接送達される。グリア前駆細胞は、小脳脚白質に送達されて、主な小脳及び脳幹路へのアクセスを獲得することもできる。グリア前駆細胞は、脊髄に送達することもできる。
【0110】
あるいは、細胞は、室、例えば、脳室に配置されてもよい。室における細胞の移植は、ドナー細胞の注射によって、又は30%コラーゲンなどの基材において細胞を成長させて、次いで移植細胞の転位を防止するために室に埋め込まれ得る固形組織のプラグを形成することによって、達成されてもよい。硬膜下移植のために、細胞は、硬膜にスリットを作った後、脳の表面の周りに注射されてもよい。
【0111】
上記に示されたように、ヒト神経変性障害特異的グリア細胞の単離された集団は、ミエリン欠損又はミエリン枯渇非ヒト哺乳動物に導入される。あるいは、ヒト神経変性障害特異的グリア細胞の単離された集団は、正常なミエリン化非ヒト哺乳動物に導入される。
【0112】
本発明の別の実施形態において、グリア前駆細胞の移植は、その全体が参照により本明細書に組み込まれるPluchinoら、「Injection of Adult Neurospheres Induces Recovery in a Chronic Model of Multiple Sclerosis」、Nature 422(6933):678~94(2003)によって記載されたようにして、静脈内又はくも膜下腔内投与を使用して行うことができる。
【0113】
ヒトグリア前駆細胞が導入されると、哺乳動物は、老化が許容され、老化するにつれて、哺乳動物により多くのヒトグリア細胞を生成させる。加えて、哺乳動物は、老化するにつれて、ミエリン化を受ける。
【0114】
単離されたヒト神経変性障害特異的グリア細胞の集団が、非ヒト哺乳動物の前脳及び/又は脳幹に導入された後、非ヒト哺乳動物が回収される。本明細書において使用される場合、「非ヒト哺乳動物を回収する」という用語は、導入されたヒトグリア細胞が、非ヒト哺乳動物の脳に機能的に生着することを可能にするプロセス又は手段を指す。回収された非ヒト哺乳動物モデルの脳及び脳幹の白質及び/又は脳梁に存在するヒトグリア細胞の例示的なパーセンテージは、上記に記載されている。
【0115】
宿主哺乳動物におけるヒトグリア前駆細胞の生存は、さまざまな非侵襲的スキャン、例えば、コンピュータ断層撮影(CATスキャン又はCTスキャン)、核磁気共鳴画像もしくは磁気共鳴画像(NMR又はMRI)、又はより好ましくは、陽電子放射断層撮影(PET)スキャンを使用して、調べることができる。細胞の生存及び組み込みの死後の検査は、さまざまな脳の領域の巨視的な組織学的検査によって、又はより好ましくは、顕微鏡法を使用して、行うことができる。細胞は、光学顕微鏡又は電子顕微鏡条件下で目に見える任意の染色で、より具体的には、宿主グリア細胞に特異的である染色で標識することができる。マウス抗ヒト核、クローン235-1、及び抗ミエリン塩基性タンパク質抗体を含むドナー細胞によるミエリン産生を実証する抗体を含む、ヒトドナー細胞を特異的に特定する抗体が特に有用である。移植された細胞は、ローダミンもしくはフルオレセイン標識ミクロスフェア、ファストブルー、ビスベンズアミド、又はベータガラクトシダーゼを産生するlac Z遺伝子などのレトロウイルスで導入された組織化学マーカーなどのトレーサー色素の事前組み込みによって特定することもできる。
【0116】
IV.特異的グリア前駆細胞を提供する方法
本発明の別の態様は、単離されたヒト神経変性障害特異的グリア前駆細胞又はヒト神経精神障害特異的グリア前駆細胞又はヒトミエリン疾患特異的グリア前駆細胞、第1の検出可能な標識でタグ付けされているヒト神経変性障害特異的グリア前駆細胞又は前記ヒト神経精神障害特異的グリア前駆細胞又はヒトミエリン疾患特異的グリア前駆細胞の集団を準備する工程を含む方法に関する。この方法は、第1の検出可能な標識を有する単離されたヒト神経変性障害特異的グリア前駆細胞又はヒト神経精神障害特異的グリア前駆細胞又はヒトミエリン疾患特異的グリア前駆細胞の集団を非ヒト哺乳動物の脳及び/又は脳幹に導入して、キメラ非ヒト哺乳動物を生成する工程をさらに含む。
【0117】
この方法は、単離された健康なヒトグリア前駆細胞の集団を準備する工程であって、健康なヒトグリア前駆細胞が、第1の検出可能な標識と区別可能な第2の検出可能な標識を発現する、工程も含む。この方法は、単離された健康なヒトグリア前駆細胞の集団をキメラ非ヒト哺乳動物の脳及び/又は脳幹に導入する工程をさらに含む。この方法は、単離された健康なヒトグリア前駆細胞の集団をキメラ非ヒト哺乳動物の脳及び/又は脳幹に導入する工程の結果として、第1の検出可能な標識でタグ付けされたヒト神経変性障害特異的グリア細胞又はヒト神経精神障害特異的グリア細胞又はヒト白質疾患特異的グリア細胞を少なくとも部分的に置き換える第2の検出可能な標識を発現する健康なヒトグリア細胞をその脳及び/又は脳幹中に有する処置されたキメラ非ヒト哺乳動物を回収する工程を追加的に含む。
【0118】
本発明の態様において、方法は、キメラ非ヒト哺乳動物から、ネイティブグリア細胞が少なくとも部分的に置き換えられているグリア細胞の集団を単離する工程を含む。
【0119】
単離された健康なヒトグリア前駆細胞の集団を準備する方法であって、前記健康なヒトグリア前駆細胞が、第1の検出可能な標識と区別可能な第2の検出可能な標識を発現する、方法は、上記に開示される脳に対してヒトグリア前駆細胞を単離するための方法のいずれかを使用してもよい。
【0120】
単離された健康なヒトグリア前駆細胞の集団をキメラ非ヒト哺乳動物の脳及び/又は脳幹に導入する方法は、上記に開示されるヒトグリア前駆細胞を脳に導入するための方法のいずれかを使用してもよい。
【0121】
単離された健康なヒトグリア前駆細胞の集団をキメラ非ヒト哺乳動物の脳及び/又は脳幹に前記導入する工程の結果として、第1の検出可能な標識でタグ付けされたヒト神経変性障害特異的グリア細胞又はヒト神経精神障害特異的グリア細胞又はヒト白質疾患特異的グリア細胞を少なくとも部分的に置き換える第2の検出可能な標識を発現する健康なヒトグリア細胞をその脳及び/又は脳幹中に有する処置されたキメラ非ヒト哺乳動物を回収する方法は、上記に開示される回収するための方法のいずれかを使用してもよい。
【0122】
本発明の態様において、方法は、処置されたキメラ非ヒト哺乳動物の脳及び/又は脳幹をイメージングして、第1及び第2の検出可能な標識を有するグリア細胞を示す画像を生成する工程をさらに含む。本発明の態様において、方法は、画像を評価して、健康なヒトグリア前駆細胞のヒト対象への移植が、ヒト神経変性障害又はヒト神経精神障害又はヒトミエリン疾患を処置するのに有用であるかどうかを決定する工程をさらに含む。
【0123】
本発明の態様において、方法は、第2の検出可能な標識を発現するグリア細胞から第1の標識を有するグリア細胞を少なくとも部分的に置き換えるグリア細胞の集団を、処置されたキメラ非ヒト哺乳動物から単離する工程をさらに含む。
【0124】
本発明の態様において、方法は、ここで、第1の検出可能な標識を有する単離されたヒト神経変性障害特異的グリア前駆細胞又はヒト神経精神障害特異的グリア前駆細胞又はヒトミエリン疾患特異的グリア前駆細胞の集団が導入される非ヒト哺乳動物が、出生前又は新生児期の非ヒト動物である。本発明の態様において、方法は、ここで、第2の検出可能な標識を発現する単離された健康なヒトグリア前駆細胞の集団が導入される非ヒト動物が、成体非ヒト動物である。
【0125】
本発明の別の態様は、単離されたヒト神経変性障害特異的グリア前駆細胞又はヒト神経精神障害特異的グリア前駆細胞又はヒトミエリン疾患特異的グリア前駆細胞の集団を準備する工程であって、ヒト神経変性障害特異的グリア前駆細胞又は前記ヒト神経精神障害特異的グリア前駆細胞又はヒトミエリン疾患特異的グリア前駆細胞が、第1の検出可能な標識でタグ付けされる、工程を含む方法に関する。この方法は、単離された健康なヒトグリア前駆細胞の集団を準備する工程をさらに含み、健康なヒトグリア前駆細胞は、第1の検出可能な標識と区別可能な第2の検出可能な標識を発現する。この方法は、(1)第1の検出可能な標識を有する単離されたヒト神経変性障害特異的グリア前駆細胞又はヒト神経精神障害特異的グリア前駆細胞又はヒトミエリン疾患特異的グリア前駆細胞の集団、及び(2)第2の検出可能な標識を発現する単離された健康なヒトグリア前駆細胞の集団を非ヒト哺乳動物の脳及び/又は脳幹に共導入する工程を追加して含む。この方法は、前記共導入する工程の結果として、第2の検出可能な標識を発現する健康なヒトグリア細胞、及び第1の検出可能な標識でタグ付けされたヒト神経変性障害特異的グリア細胞又はヒト神経精神障害特異的グリア細胞又はヒト白質疾患特異的グリア細胞をその脳及び/又は脳幹中に有する処置されたキメラ非ヒト哺乳動物を回収する工程も含む。
【0126】
本発明の態様において、方法は、処置されたキメラ非ヒト哺乳動物の脳及び/又は脳幹をイメージングして、第1及び第2の検出可能な標識を有するグリア細胞を示す画像を生成する工程をさらに含む。本出願の態様において、方法は、画像を評価して、健康なヒトグリア前駆細胞のヒト対象への移植が、ヒト神経変性障害又はヒト神経精神障害又はヒトミエリン疾患を処置するのに有用であるかどうかを決定する工程をさらに含む。
【0127】
健康なヒトグリア前駆細胞のヒト対象への移植が、ヒト神経変性障害又はヒト神経精神障害又はヒトミエリン疾患を処置するのに有用であるかどうかを決定するために、第2の検出可能なマーカーを発現する細胞の体積が、第1の検出可能なマーカーを発現する細胞の体積と比較されてもよい。マウス脳内のヒト細胞分布をマッピングするために、脳は、目的の脳構造の距離に及ぶ等間隔の切片に切断される。本出願の一部の態様において、目的の脳構造は、線条体である。切片は、増殖マーカーで免疫標識される。本出願のある態様において、増殖マーカーは、増殖Ki-67(MKI67)又はKi76のマーカーである。切片はまた、グリア(グリア線維酸性タンパク質、GFAP)及びオリゴデンドロサイト(オリゴデンドロサイト転写因子、Olig2)のためマーカーなどの目的の任意の他のマーカーについて免疫染色されてもよい。イメージング後、切片の画像は、デジタル的に整列させ、三次元構造に再構成される。脳構造の境界が決定され、体積が決定される。脳構造中の細胞は、カウントされて、細胞型の細胞密度が決定される。
【0128】
具体的には、第1の検出可能なマーカーを発現する細胞の細胞密度及び第2の検出可能なマーカーを発現する細胞の密度が決定される。第2の検出可能なマーカーを発現する細胞の割合を、健康なヒトグリア前駆細胞の移植が成功したかどうかを決定するために、第1の検出可能なマーカーと比較した。
【0129】
本発明の態様において、方法は、第2の検出可能な標識を発現するグリア細胞及び第1の標識を有するグリア細胞が存在するグリア細胞の集団を、処置されたキメラ非ヒト哺乳動物から単離する工程をさらに含む。
【0130】
本発明の態様において、方法は、ここで、ヒト神経変性障害が、ハンチントン病、前頭側頭型認知症、パーキンソン病、多系統萎縮症、及び筋萎縮性側索硬化症からなる群から選択される。本出願の態様において、方法は、ここで、ヒト神経精神障害が、統合失調症、自閉症スペクトラム障害、及び双極性障害からなる群から選択される。本発明の態様において、方法は、ここで、ヒトミエリン疾患が、白質ジストロフィー又は白質疾患である。
【0131】
本発明の態様において、方法は、ここで、前記導入する工程が、独立して、実質内、脳梁内、脳室内、くも膜下腔内、大脳内、大槽内、又は静脈内移植によって行われる。本発明の態様において、方法は、ここで、前記導入する工程が、独立して、非ヒト哺乳動物の前脳、線条体、及び/又は小脳に以前に存在するヒトグリア前駆細胞の置き換えをもたらす。
【0132】
本発明の別の態様は、第1の検出可能な標識でタグ付けされた単離された罹患したヒトの選択された器官特異的前駆細胞の集団を準備する工程を含む方法に関する。この方法は、第1の検出可能な標識を有する単離された罹患したヒトの選択された器官特異的前駆細胞の集団を非ヒト哺乳動物の選択された器官に導入して、キメラ非ヒト哺乳動物を生成する工程をさらに含む。この方法は、第1の検出可能な標識と区別可能な第2の検出可能な標識を発現する単離された健康なヒトの選択された器官特異的前駆細胞の集団を準備する工程をさらに含む。この方法は、単離された健康なヒトの選択された器官特異的前駆細胞の集団をキメラ非ヒト哺乳動物の選択された器官に導入する工程も含む。この方法は、単離された健康なヒトの選択された器官特異的前駆細胞の集団をキメラ非ヒト哺乳動物の選択された器官に導入する工程の結果として、第2の検出可能な標識を発現する健康なヒトの器官特異的細胞及び第1の検出可能な標識でタグ付けされた罹患したヒトの選択された器官特異的細胞を有する選択された器官で処置されたキメラ非ヒト哺乳動物を回収する工程をさらに含む。
【0133】
本発明の別の態様は、第1の検出可能な標識でタグ付けされた単離された罹患したヒトの選択された器官特異的前駆細胞の集団を準備する工程、及び第1の検出可能な標識と区別可能な第2の検出可能な標識を発現する単離された健康なヒトの選択された器官特異的前駆細胞の集団を準備する工程を含む方法に関する。第1の検出可能な標識を有する単離された罹患したヒトの選択された器官特異的前駆細胞の集団及び第2の検出可能な標識を発現する単離された健康なヒトの選択された器官特異的前駆細胞の集団は、非ヒト哺乳動物の選択された器官に共導入される。共導入する工程の結果として、第2の検出可能な標識を発現する健康なヒトの器官特異的細胞及び第1の検出可能な標識でタグ付けされた罹患したヒトの選択された器官特異的細胞を有する選択された器官で処置されたキメラ非ヒト哺乳動物が回収される。
【0134】
第1の検出可能な標識でタグ付けされた単離された罹患したヒトの選択された器官特異的前駆細胞の集団を準備する方法は、上記に記載された方法のいずれかを使用してもよく、当業者に公知であるようにして、選択された器官に適合されてもよい。
【0135】
第1の検出可能な標識を有する単離された罹患したヒトの選択された器官特異的前駆細胞の集団を非ヒト哺乳動物の選択された器官に導入して、キメラ非ヒト哺乳動物を生成する方法は、上記に記載された方法のいずれかを使用してもよく、当業者に公知であるようにして、選択された器官に適合されてもよい。
【0136】
単離された健康なヒトの選択された器官特異的前駆細胞の集団をキメラ非ヒト哺乳動物の選択された器官に導入する前記工程の結果として、第2の検出可能な標識を発現する健康なヒトの器官特異的細胞及び第1の検出可能な標識でタグ付けされた罹患したヒトの選択された器官特異的細胞を有する選択された器官で処置されたキメラ非ヒト哺乳動物を回収する方法は、上記に記載された方法のいずれかを使用してもよく、当業者に公知であるようにして、選択された器官に適合されてもよい。
【0137】
本発明の態様において、方法は、処置されたキメラ非ヒト哺乳動物の選択された器官をイメージングして、第1及び第2の検出可能な標識を有する細胞を示す画像を生成する工程をさらに含む。本発明の態様において、方法は、画像を評価して、健康なヒトの選択された器官特異的前駆細胞のヒト対象への移植が、選択されたヒト器官の疾患を処置するのに有用であるかどうかを決定する工程をさらに含む。方法は、上記に記載された方法のいずれかを使用してもよく、当業者に公知であるようにして、選択された器官に適合されてもよい。
【0138】
本発明の態様において、方法は、ここで、第1の検出可能な標識を有する単離された罹患したヒトの選択された器官特異的前駆細胞の集団が導入される非ヒト哺乳動物が、出生前又は新生児期の非ヒト動物である。本発明の態様において、ここで、第2の検出可能な標識を発現する単離された健康なヒトの選択された器官特異的前駆細胞の集団が導入される非ヒト動物は、成体非ヒト動物である。方法は、上記に記載された方法のいずれかを使用してもよく、当業者に公知であるようにして、選択された器官に適合されてもよい。
【0139】
本発明の態様において、方法は、ここで、選択された器官が、肝臓、骨髄及び造血幹細胞、皮膚、膵臓、心臓、肺、ならびに腎臓である。
【0140】
本発明は、以下の実施例によってさらに説明され、これは、限定として解釈されるべきではない。本明細書全体を通して引用されるすべての参考文献、特許及び公開特許出願、ならびに図面及び表の内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【実施例
【0141】
実施例1
材料及び方法
ヒト胚性幹細胞株及び培養条件
同胞ヒト胚性幹細胞(hESC)株GENEA019(WT:18;15 CAG;Giorgio,F.P.D.ら、「Non-Cell Autonomous Effect of Glia on Motor Neurons in an Embryonic Stem Cell-Based ALS Model」、Nat Neurosci 10:608~614(2007)、これは、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)及びGENEA020(HD:48;17 CAG;Giorgio,F.P.D.ら、「Human Embryonic Stem Cell-Derived Motor Neurons Are Sensitive to the Toxic Effect of Glial Cells Carrying an ALS-Causing Mutation」、Cell Stem Cell 3:637~648(2008)、これは、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)を、GENEA,Inc.(Sydney、オーストラリア)から入手した。hESCを、フィーダーフリー条件下、mTeSR1培地(StemCell Technologies、カタログ番号85850)を有する0.55μg/cmのヒト組換えラミニン521(Biolamina、カタログ番号LN521)コーティング細胞培養フラスコにおいて、定期的に培養した。毎日の培地交換を行った。hESCを、新鮮なコーティングフラスコにおいて、80%の培養密度でルーチン的に継代した。継代は、ReLeSR(StemCell Technologies、カタログ番号05872)を使用して行った。すべてのhESC及び分化した培養物を、5%のCOインキュベーター中、37℃で維持し、混入物及びマイコプラズマを含まない状態についてルーチン的にチェックした。
【0142】
蛍光レポーターhESCの作成
野生型(WT)及びハンチントン病(HD)細胞の遍在性の別個の蛍光標識化のために(図1)、mCherry又はEGFP(高感度緑色蛍光タンパク質)のいずれかの発現を駆動するレポーター構築物を、(Yamanaka,K.ら、「Astrocytes as Determinants of Disease Progression in Inherited Amyotrophic Lateral Sclerosis」、Nat Neurosci 11:251~253(2008)、これは、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)に以前に記載されたCRISPR-Cas9(クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート-CRISPR関連タンパク質9)媒介戦略の改変バージョンを使用して、それぞれ、WT GENEA019及びHD GENEA020 hESCのAAVS1セーフハーバー遺伝子座に挿入した。エレクトロポレーションによるプラスミド送達のためのhESCを調製するために、hESCを、Accutase(StemCell Technologies、カタログ番号07920)による解離後に、単一細胞懸濁液として回収し、培養培地中で洗浄し、自動細胞カウンターNucleoCounter NC-200(ChemoMetec)を用いてカウントした。エレクトロポレーションごとに、合計で1.5×10個細胞を、5μgのAAVS1標的化CRISPR-Cas9プラスミド(pXAT2)及び5μgのレポータードナープラスミド(pAAVS1-P-CAG-mCh又はpAAVS1-P-CAG-GFP)と混合した。pXAT2(Addgene plasmid 番号80494)、pAAVS1-P-CAG-mCh(Addgene plasmid 番号80491)及びpAAVS1-P-CAG-GFP(Addgene plasmid 番号80492)は、Knut Woltjen氏からの贈与であった。エレクトロポレーションを、製造業者のガイドラインに従って、Amaxa 4D-Nucleofector(Lonza)とP3初代細胞キット(Lonza、カタログ番号V4XP-3024)を使用して行った。ヌクレオフェクション後、エレクトロポレーションされたhESC懸濁液を、10cmの細胞培養皿に移し、10μMのY-27632(Tocris、Sカタログ番号1254)が補充されたmTeSR1とともに、最初に24時間、培養した。エレクトロポレーションされたhESCを、48~72時間成長させ、次いで、0.5μg/μLのピューロマイシン(ThermoFisher、カタログ番号A1113803)で処理した。エレクトロポレーションされたhESC培養物を、個々のコロニーが手作業で選別するのに十分な大きさになるまで、ピューロマイシン下で保った。コロニーを、蛍光顕微鏡によって評価し、蛍光タンパク質発現の均一性に基づいて、96ウェルプレートに移した。それらの発現後、それぞれのクローンを、さらなる拡大増殖及びジェノタイピングのために分けた。ジェノタイピングのために、DNAを、prepGEM Tissue DNA抽出キット(Zygem)を使用して抽出した。AAVS1遺伝子座における正確に標的化された導入遺伝子組込みを、以下のプライマー:dna803:TCGACTTCCCCTCTTCCGATG(配列番号1)及びdna804:CTCAGGTTCTGGGAGAGGGTAG(配列番号2)を使用するPCRによって検出した一方で、組込みのヘテロ接合性を、追加のプライマー:(dna803及びdna183:GAGCCTAGGGCCGGGATTCTC(配列番号3))を使用して、WT対立遺伝子の存在又は非存在によって決定した。正確に標的化されたインサートを有するhESCクローンを、Pro-Freeze CDM培地(Lonza、カタログ番号BEBP12-769E)を用いて凍結保存し、実験適用の前に、核型分析及びアレイ比較ゲノムハイブリダイゼーション(aCGH)特性評価のために拡大増殖した。
【0143】
核型分析及びaCGH
作成されたレポーターhESC株の核型を、G-banding(Institut fuer Medizinishche Genetik und Angewandte Genomik、Universitaetsklinikum Tuebingen)による分裂中期の広がりにおいて分析した。この研究において使用されたすべてのhESC株は、正常な核型を保有する。加えて、後天的コピー数多型(CNV)及びヘテロ接合性領域の喪失(LOH)を、aCGH(Cell Line Genetics)によって評価した。正常範囲内及び正常範囲外の各種のCNV及びLOHを特定したが(図2)、クローン間の競合的相互作用の結果に影響を及ぼすとは予想されなかった。
【0144】
レポーターWT及びHD hESCからのhGPCの誘導
ヒトGPCは、我々の十分に確立されたプロトコール(Lee,Y.ら、「Oligodendroglia Metabolically Support Axons and Contribute to Neurodegeneration」、Nature 487:443~448(2012)、これは、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)を使用して、胚様体(EB)作成工程に対するマイナーな改変を用いて、レポーターWT及びHD hESCの両方から誘導した。EB作成工程についての詳細は、補足情報に含まれる。細胞を、150~200DIVの異種移植のために収集し、その時に、WT-mCherry及びHD-EGFP hESCの両方に由来する培養物は、PDGFRα+/CD44+二分化能グリア前駆細胞においてリッチであった。フローサイトメトリー及び免疫細胞化学による作成された培養物の詳細な特性評価は、図3及び図18のパネルA及びBに見ることができる。
【0145】
異種移植のための細胞調製
異種移植のための細胞を調製するために、グリア培養物を、Ca2+/Mg2+フリーのハンクス平衡塩類溶液(HBSS(-/-);ThermoFisher、カタログ番号14170112)に収集し、穏やかなピペッティングによって小クラスターに機械的に解離させ、血球計を用いてカウントした。次いで、細胞懸濁液を、スピンし、10個細胞/μLの最終濃度で冷HBSS(-/-)に再懸濁させ、移植まで氷上で保った。
【0146】
宿主及び異種移植のパラダイム
ヒトグリア線条体再増殖のインビボモデリング:mHTT発現ヒトグリアを保有するヒト-マウスキメラ(HDキメラ)を作成するために、新生仔免疫無防備状態Rag1(-/-)の子(Meyer,K.ら「Direct Conversion Of Patient Fibroblasts Demonstrates Non-Cell Autonomous Toxicity Of Astrocytes To Motor Neurons In Familial And Sporadic ALS.」 Proc National Acad Sci 111:829~832(2014)、これは、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)を、寒冷麻酔し、慣習の焼成粘土ステージに固定し、誕生から48時間以内に、100,000個のHD-EGFPグリア(半球あたり50,000個)を予定線条体に両側注射した。細胞を、1.2~1.4mmの深さで、引張ガラスピペットを有する10μLの注射器(Hamilton、カタログ番号7653-01)を使用して送達した。次いで、子を、乳離れまで、その母親に戻した。ヒトグリア線条体再増殖をモデル化するために、36週齢のHDキメラを、ケタミン/キシラジンによって麻酔し、定位固定フレームに固定した。200,000個のWTグリアを、10μLの注射器及び金属針を使用して、ヒト化線条体に、両側送達した(AP:+0.8mm;ML:±1.8mm;DV:-2.5~-2.8mm)。損傷を最小化するために、細胞を、制御されたマイクロポンプシステム(World Precision Instruments)を使用して、175nL/分の制御された速度で注入した。逆流を、針を所定の位置に追加で5分間放置することによって防止した。実験動物を、この正確な手順後に、WTグリアを受けなかったHDキメラ同腹仔及び36週齢でWTグリアを受けた非キメラRag1(-/-)マウスと比較した。
【0147】
新生仔線条体共生着
ヒトグリア間の競合の結果に対するmHTT発現の細胞固有の効果をモデル化するために、新生仔Rag1(-/-)マウスに、上記に記載される同じ新生仔線条体異種移植プロトコールに従って注射したが、代わりに、WT-mCherry及びHD-EGFP hESCに由来するグリアの1:1混合物から構成される合計で200,000個のヒトグリア(半球あたり100,000個)が送達された。対照同腹仔は、WT-mCherry又はHD-EGFPヒトグリアのいずれかから構成される注射を受けた。
【0148】
無菌技法をすべての異種移植のために使用した。すべてのマウスを、食物及び水への自由なアクセスを伴う病原体を含まない環境に収容し、すべての手順を、University of Rochester Committee on Animal Resourcesによって承認されたプロトコールに従って行った。
【0149】
組織処理
実験動物に、HBSS(-/-)、それに続いて4%のPFAを灌流した。脳を取り出し、4%のPFA中で2時間、後固定し、PBSで3回すすいだ。次いで、それらを、そのポイントで平衡化するまで、30%のスクロース溶液(Sigma-Aldrich、カタログ番号S9378)中でインキュベートし、それらを、矢状方向でOCTに包埋し(Sakura、カタログ番号4583)、2-メチルブタン(Fisher Scientific、カタログ番号11914421)中、-60~-70℃の温度で凍結し、-80℃の冷凍庫に移した。次いで、得られたブロックを、CM1950クリオスタット(Leica)において、20μmの切片に切断し、接着スライド上で順次収集し、さらなる使用まで-20℃で保管した。
【0150】
免疫染色
ヒト細胞のフェノタイピングを、特異的表現型マーカー:Olig2(オリゴデンドロサイト転写因子、GPCをマークする)及びGFAP(グリア原線維酸性タンパク質、アストロサイトをマークする)と一緒に、それらの個々の蛍光レポーターについて免疫染色することによって達成した。蛍光レポーターを、それらの発現が動物の寿命全体を通して遍在性のままであったので、ヒト細胞のためのマーカーとして使用した(図4)。WT-mCherry及びWTタグなしヒトグリアの1:1混合物を受けた動物において、後者を、ヒト核抗原の発現及び蛍光レポーター発現の欠如によって特定した。免疫標識するために、切片を、PBSで再水和し、次いで、透過処理/ブロッキング緩衝液(PBS+0.1%のTriton-X(Sigma-Aldrich カタログ番号T8787)+10%の正常ヤギ血清(ThermoFisher、カタログ番号16210072))を使用して、2時間、透過処理及びブロッキングした。次いで、切片を、表現型マーカーを標的にする一次抗体とともに、4℃で、終夜インキュベートした。次の日に、一次抗体を、PBSを用いて切片から完全にすすぎ、二次抗体を切片に1時間適用した。二次抗体をPBSで完全にすすいだ後、一次抗体の第2ラウンドを、蛍光レポーターに対してこの時に、切片に4℃で終夜適用した。これらを、次の日にPBSですすぎ、切片を二次抗体とともに1時間インキュベートした。スライドを、再度PBSで完全に洗浄し、Vectashield Vibrance(Vector Labs、カタログ番号H-1800)に載せた。
【0151】
異種移植マッピング及び3D再構成
マウス線条体内のヒト細胞分布をマッピングするために、線条体全体に及ぶ15の等間隔で160μm離れた矢状切片の全脳モンタージュを、10倍の倍率で、DS-Fi1カメラを備えたNikon Ni-E Eclipse顕微鏡を使用してキャプチャーし、NIS-Elementsイメージングソフトウェア(Nikon)において処理した。それぞれの切片内の線条体の輪郭を描き、免疫標識されたヒト細胞を特定し、StereoInvestigatorソフトウェア(MicroBrightField Bioscience)を使用して、輪郭が描かれた線条体内でマッピングした。適用可能な場合、WTグリアのための注射部位を、ヒト細胞分布のさらなる体積定量化のための参照ポイントとしてマッピングした。次いで、マッピングされた切片を、参照として側脳室を使用して整列させて、ヒト化マウス線条体の3D再構成モデルを生成した。
【0152】
3D再構成後、それぞれのヒト細胞マーカーのためのデカルト座標、注射部位及び線条体の輪郭を、さらなる分析のためにエクスポートした。
【0153】
線条体内のそれぞれのヒト細胞集団中の増殖性細胞の分布及び割合を評価するために、Ki67を発現する免疫標識されたヒト細胞を、3D再構成を行う場合に、15の切片の3つの切片ごとにマッピングした。
【0154】
体積定量化
HDキメラにおけるHDグリアの空間的分布を定量化するために、それぞれの定量化された線状体切片についての体積を、切片の厚さ(20μm)に切片の面積を掛けることによって計算した。次いで、それぞれの切片についての細胞密度を、それぞれの切片中のマークされた細胞の数をそれらの個々の体積で割ることによって計算した。
【0155】
競合するWT及びHDグリアの時空間的な動態を定量化するために、プログラムを開発して、それぞれの細胞集団の体積分布を、3D再構成されたデータセットにおけるWTグリア送達部位までの距離の関数として計算した(図4)。その目的で、それぞれの定量化された切片に、切片の厚さ(20μm)だけ互いから離れた2つの同一の多角形として線条体の輪郭を表すことによって、上方及び下方境界z、zを与えた。次いで、それぞれの個々の切片内のそれぞれの細胞マーカーの深さ方向の場所が未知であるので、それぞれの切片内のマークされた細胞を、切片にわたって一定の確率を有する均一点確率関数として表した。すなわち、zzllからzzuuの切片におけるそれぞれの細胞マーカーは、確率関数を有する:
【0156】
【数1】
【0157】
次いで、それぞれの細胞集団の空間分布を、125μmの半径方向増分でWTグリア送達部位から放射状に広がる同心円状の球形シェル内のマークされた細胞の数をカウントするによって測定した(対照HDキメラについて、WTグリア送達部位の座標の平均を使用した)。マークされた細胞を、それらの個々の代表的な線分が、球形シェルの完全に内側にあるか、完全に外側にあるか、又は上方もしくは下方境界のいずれかで球形シェルと交差している場合に、カウントした。次いで、それぞれの細胞集団の密度ρa,b(ここで、a、bは、球形シェルの最小及び最大半径を表す)を、球形シェル内のマークされた細胞の数をシェル内の合計切片体積で割ることによって計算した。
【0158】
【数2】
【0159】
ここで、Na,bは、それぞれのポイントについてのそれぞれのセクションにわたる積分点確率関数の合計であり、Va,bは、球形シェル内の合計切片体積である。その後の分析は、2mmの球半径に制限した。コードを、Python 3.8及びパッケージShapely 1.7において実施して、多角形を表し、多角形の円の交点を計算した。
【0160】
立体的推定及びフェノタイピング
ヒト細胞の総量の推定及びそれらの個々のフェノタイピングを、線条体全体に及ぶ5つの等間隔で480μm離れた切片において、光学的分画法(Shin,J.-Y.ら「Expression Of Mutant Huntingtin In Glial Cells Contributes To Neuronal Excitotoxicity」 J Cell Biology 171、1001~1012(2005)、これは、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)を使用して立体的に行った。最初に、全線条体のzスタックモンタージュを、20倍の倍率で、DS-Fi1カメラを備えたNikon Ni-E Eclipse顕微鏡を使用してキャプチャーし、NIS-Elementsイメージングソフトウェア(Nikon)において処理した。それぞれのzスタックタイルを、0.9μmのステップサイズを使用してキャプチャーした。次いで、モンタージュを、StereoInvestigatorにロードし、線条体の輪郭を規定した。200×200μmのカウンティングフレームのセットを、ソフトウェアによって、それぞれの切片の輪郭が描かれた線条体をカバーする400×400μmのグリッド内で系統的なランダム様式で配置した。カウントを、切片の高さ全体(ガードゾーンなし)で行い、細胞を、それらが最初に焦点が合った光学断片におけるそれらの免疫標識に基づいてカウントした。
【0161】
統計分析及び再現性
実験手順由来の技術的問題、例えば、標的を誤った注射、明白な外科的損傷、又はグリオーシス病巣への注射に関連する人為的結果を示す試料を、この研究から除外した。統計学検定を、GraphPad Prism 9を使用して行った。2つよりも多くの群間の比較のために、一元配置分散分析(チューキー多重比較検定)を適用した。2つよりも多くの因子を有する2群間の比較のために、二元配置分散分析(シダック多重比較検定)を適用した。2つのマッチした群間を比較する場合、対応のある両側t検定を、正規分布したデータセットのために適用したが、マッチしていない群のために、独立両側t検定を適用した。有意性は、P<0.05として定義した。個々のP値を可能であれば図に提示し、そうでなければ、****P<0.0001、***P<0.001、**P<0.01、P<0.05を提示した。反復数は、図の凡例に示し、nは、独立した実験の数を表す。データは、平均±平均の標準誤差(s.e.m)として表す。
【0162】
実施例2
WT及びHD hESCからの別個に色でタグ付けされたヒトグリアの作成
健康なグリアがインビボでそれらの罹患カウンターパートに置き換わる能力を評価するために、それぞれの遺伝子型のスペクトル的に別個のGPCの産生を可能にするように、WT及びHDヒト胚性幹細胞(hESC)の蛍光タグ付けレポーター株を最初に作成し、次いで、インビボでのその成長を独立してモニターした。CRISPR-Cas9媒介ノックイン戦略を最初に使用して、EGFP及びmCherryレポーターカセットを、マッチした雌同胞野生型(WT、GENEA019)及びmHTT発現(HD、GENEA020)hESCのAAVS1遺伝子座に組み込んだ(図1のパネルA)。レポーターカセットを、これらのクローンのそれぞれに安定に組み込まれたとして(図1、パネルD)、及び編集が、タグ付けhESCの自己再生、多能性又は核型安定性に影響を及ぼさなかった(図1のパネルE及び図2のパネルA)ことを検証した。これらのタグ付け及びスペクトル的に別個の株から、分化プロトコールを使用して(Benraiss,A.ら Human glia can both induce and rescue aspects of disease phenotype in Huntington disease.Nature Communications 7、11758(2016))、それぞれの株から色をコードしたヒトグリア前駆細胞(hGPC)を生成し、そのインビボでの挙動を、単独及び競合の両方で、比較した。それぞれの株がアストロサイト又はオリゴデンドロサイトとしての成熟後にEGFP又はmCherry発現を維持する能力を検証し、任意の有意な差次的発現癌遺伝子変異又はコピー数多型(CNV)のそれらの欠如は、成長に偏りをもたらし(図2のパネルB~パネルC)、WT及びmHTT発現hGPCの両方が、単独で注射された場合に、マウス宿主脳でコロニー形成したことも検証した(図15のパネルA~B、図5、及び図6のパネルA)。
【0163】
WT-mCherry及びHD-EGFP hESCの両方を、hGPCを作成するためのプロトコール(Wang、S.ら Human iPSC-Derived Oligodendrocyte Progenitor Cells Can Myelinate and Rescue a Mouse Model of Congenital Hypomyelination.Cell Stem Cell 12、252~264(2013))を使用して分化し、グリアに分化するそれらの能力及びグリア運命の取得の際のそれらのレポーター発現の安定性の両方を評価した(図3のパネルA~D)。インビトロで150日(DIV)まで、WT-mCherry及びHD-EGFPの両方に由来するグリア培養物は、培養物中の細胞のおよそ半分を含んで、PDGFRα+/CD44+二分化能GPC(P=0.78)について等しく濃縮され、残りは、未成熟A2B5+GPC 27及びPDGFRα-/CD44+アストロサイト、ならびにそれらの前駆細胞であった(図3のパネルC、及び図18のパネルA~B)。重要なことには、成熟アストロサイト及びGPCを含む、WT-mCherry及びHD-EGFP hESCに由来する事実上すべての免疫フェノタイピングされた細胞は、それらの個々の蛍光レポーターを発現し続け、導入遺伝子発現が、末端グリアアイデンティティーの取得の際に安定なままであったことを示した(図3のパネルD)。
【0164】
実施例3
ヒトHDグリアキメラマウスの確立
HDグリアによって実質的にヒト化された線条体を有するマウスキメラ(HDキメラ、図5)を作成して、インビボモデルを提供し、それによって、それらの健康なカウンターパートによる罹患ヒトグリアの置き換えを評価した。EGFPを発現するように操作されたmHTT発現hESCに由来するhGPC(図1及び図5;これ以降、HDと表す)を、免疫無防備状態Rag1(-/-)マウスの新線条体に埋め込み、それらの拡大増殖を組織学的にモニターした(図15のパネルA)。
【0165】
埋め込み後、HDグリアは、マウス線条体に迅速に浸潤し、線状体白質路内で、最初に遊走及び拡大増殖した(図15のパネルB)。徐々に、これらの細胞は外側に拡大増殖し、進行的に、線条体神経網由来のそれらのマウスカウンターパートに取って代わり、その結果、36週間までに、マウス線条体は、HDグリアによって実質的にヒト化された(図15のパネルB、図15のパネルF、及び図15のパネルG)。HDグリアの進展は、それらの有糸分裂拡大増殖によって駆動され、それらの総数は、12~36週間で二倍になった(図15のパネルC;P=0.0032)。逆に、それらが拡大増殖し、それらの新たに確立されたドメイン内で成熟するにつれて、それらの増殖性細胞プール(Ki67+)は、進行的に枯渇し(図15のパネルD及びI;P=0.0036)、経時的にそれらの拡大増殖速度はゆっくりになった。
【0166】
ほとんどのHDグリアは、Olig2+GPCとして拡大増殖し(72.7±1.9%)、これは、それらのマウスカウンターパートを置き換えた後、新たな常在プールとして存続した。これらの画分(4.8±0.9%)は、GFAP+アストロサイトにさらに分化した(図15のパネルI、及び図15のパネルJ)。アストロサイト分化は、大部分が、線条体白質路内で観察された。構造的複雑性を欠いたこれらの病的アストロサイトは、典型的には、健康なカウンターパートにおいて観察され、以前に報告されたように(図15のパネルJ;Osipovitch,M.ら、「Human ESC-Derived Chimeric Mouse Models of Huntington’s Disease Reveal Cell-Intrinsic Defects in Glial Progenitor Cell Differentiation」、Cell Stem Cell 24:107~122(2019)、これは、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)、異常な線維構造を示した。
【0167】
実施例4
健康なWT hGPCは、HDキメラ成体線条体に浸潤し、常在グリアを打ち負かす
線条体グリアが主にmHTT発現する確立されたキメラ及びヒトを使用して、常在HDヒトグリアが、健康なhGPCの導入にどの程度応答する可能性があるか、及び常在グリア集団が、ある程度置き換えられる可能性があるかどうかを決定した。mCherryを発現するように操作されたWT hESCに由来するhGPC(図1図2、及び図3;これ以降、WTと表す)を、36週齢のHDキメラの線条体に生着させ、それらが線条体支配に競合するので、組織学を使用して拡大増殖についてモニターした(図5)。
【0168】
生着後、WTグリアは、以前にヒト化された線条体に広がり、徐々に、それらがそれらの埋め込み部位から拡大増殖するにつれて、それらのHDカウンターパートに取って代わった(図4)。このプロセスは、遅いが、持続し、経時的に、HD線条体の実質的な再増殖を生じた(図4;54週間、p<0.0001;72週間、p<0.0001)。注目すべきことに、WTグリアの拡大増殖は、組織からのHDグリアの同時排除に並行し(それらの空間的再配置とは逆に)(図4;54週間-P<0.0001、72週間-P<0.0001)、典型的には、HDグリアがほとんど見出されずに前後に個別に進展することによって特徴付けられる(図4)。
【0169】
相互に排他的なドメインは、Olig2+GPC間の競合のせいで形成された(図4)。これらは、ほとんどのWTグリア集団を含み(72週間で80.1±4.7%)、これは、それらのHDカウンターパートを置き換えた後、新たな常在GPCプールとして存続した。これらの画分(72週間で4.0±1.5%)が、それらの新たに確立されたドメイン内でGFAP+アストロサイト(図6)にさらに分化したので、アストログリアを作成するそれらの可能性は維持された。不思議なことに、WTグリアによって支配される領域内で、HDアストロサイト(GFAP+)は、白質路内で主に残存した(図4)。それにもかかわらず、Olig2+及びGFAP+グリアの間の全体的な比は、両方の集団における実験全体を通して安定なままであり(図6)、GPC置き換えが、アストロサイトの置き換えに先行するが、比例的な表現型再増殖が経時的に達成されることを示す。
【0170】
興味深いことに、ヒト間のグリア置き換えは、ナイーブ成体Rag1(-/-)マウスに埋め込まれたWT hGPCが、新生仔でキメラ化された成体Rag1(-/-)マウスに移植されたものよりも幅広く宿主線条体全体にわたって拡大増殖されたので、ヒト-マウスグリア置き換えよりも遅い速度で発展した(図7;54週間:P=0.14、72週間:P=0.0009)。これらの結果は、競合的グリア置き換えが、異種移植及び同種移植の間で異なる種間動態により発展することを示す。
【0171】
これらの結果は、WT-mCherry及びそれらの未改変カウンターパート(WTタグなし)に由来する共生着hGPC(図8)が、HDキメラの線条体内で等しく拡大増殖し、類似のグリア再増殖を生じたので、遺伝子編集にも蛍光レポーター発現毒性にも由来しないオフターゲット効果の人為的結果ではなかった(図9及び図10;54週間-P=0.5075-72週間-P=0.1460)。そのため、(図4)及び(図6及び図7)において行われた分析は、両実験パラダイムからの試料を報告する。注目すべきことに、WT及びHDグリアは、互いから強く分離されたが、WTグリアの2つの同質遺伝子クローンは、混合して見出され(図9)、能動的認識が、組織からのHDグリアの競合的排除に先行することを示した。
【0172】
実施例5
ヒトWTグリアは、常在HDグリアと比べて、増殖の利益を享受する
HDグリアによる線条体ヒト化は、それらが組織内で拡大増殖及び成熟するにつれて、それらの増殖性細胞プールの徐々の消耗を伴って進行した。したがって、HD線条体内のより若いWTグリアの選択的拡大増殖が、2つの集団間の増殖能力の相違によって持続したかどうかを試験した。WT及びHDグリア集団の両方におけるKi67の一時的発現を、ほどけた競合的な線条体の再増殖として評価した。
【0173】
54及び72週齢の両方で、埋め込まれたWTグリアの有糸分裂画分は、常在HDグリアのものよりも有意に大きかった(図4のパネルI及びJ、54週-P<0.0001、72週-P=0.009)。これらのデータは、WTグリアによるHD線条体の再増殖が、比較的濃縮された増殖性細胞プールによって加速されたことを示す。この増殖の利益が、細胞が老化するにつれて顕著でなくなるが、実験全体を通して維持されたことに留意することが重要である。これを考慮して、それらのHDカウンターパートに対して、埋め込まれたWTグリアの持続的な増殖の利益は、観察された実験の時点を越えて、継続的な線条体再増殖のための推進力を提供するはずである。
【0174】
実施例6
ヒトWTグリアは、HDグリアと遭遇する場合に、優位な競合プロファイルをとる
埋め込まれたWT hGPCが、常在mHTT発現グリアを犠牲して、HDグリアキメラ線状体を効果的にコロニー形成することを確立し、次に、それらの競合優位性の根底にある分子シグナルを定義することを試みた。その目的で、WT及びHDヒトグリアの転写プロファイルは、2つの細胞集団が共常在し、競合が分析されたキメラの線条体から、ならびに1つ又は他のものが単一細胞RNAシークエンシング(scRNA-seq;10X Genomics、v3.1 chemistry)を使用して、他のものなしで移植されたそれらの個々の対照から、単離された(図19のパネルA)。すべてのキャプチャー及びヒト配列に対する整列の統合後、Louvainコミュニティー検出は、ヒトグリアの6つの主な集団を明らかにし、これには、hGPC、サイクリングhGPC、未成熟オリゴデンドロサイト(iOL)、神経系前駆細胞(NPCs)、アストロサイト、及びそれらの中間前駆細胞(アストロサイト前駆細胞、APC)が含まれた(図19のパネルB~D)。これらの集団内で、細胞周期分析は、組織学的観察と協調して(図4のパネルJ)、それらのHDカウンターパートと比較して(図19のパネルE)、WT細胞と競合する活発に増殖しているG2/M期の細胞のより高い画分を予測した。前進するために、研究は、モデルにおける主要な競合集団として、hGPCに焦点を当てた。対での差次的発現は、グループにわたる差次的発現した遺伝子の個別のセットを明らかにし(図19のパネルF)、hGPC集団内のIngenuity pathway analysis(IPA)によるその後の機能性分析は、それらの競合に関する多数の目立ったタームを明らかにした(図19のパネルG)。
【0175】
競合の間、WT GPC活性化経路がタンパク質合成を駆動することが見出されたが、HD GPCは、それらを下方制御すると予測された。予測された上流の転写因子活性化は、実験群にわたって有意にモジュレートされる、細胞成長及び増殖の保存されたマスター調節因子であるYAP1、MYC、及びMYCNを特定した。重要なことには、YAP1及びMYC標的は、それらの対照と比較的競合するHD GPCにおいて、選択的に下方調節されることが見出された(図19のパネルG)。とりわけ、この下方調節は、リボソームコード遺伝子の著しい抑制を伴った(図19のパネルI)。逆に、競合するWT hGPCは、対照と比べて、YAP1及びMYC標的両方の上方調節、ならびにリボソームコード遺伝子の発現における上方調節を示した(図19のパネルG~H)。そのため、これらのデータは、埋め込まれたWT hGPCは、積極的に、それらのHDカウンターパートとの接触の際に競合的に優位な表現型をとり、それら自身の拡大増殖及びコロニー形成を促進しながら、後者の局所排除を駆動することを示唆する。
【0176】
実施例7
年齢の相違は競合的ヒトグリア再増殖を駆動する
成体宿主に移植されたWT細胞は、根本的に、それらが取って代わり、置き換わった常在宿主細胞よりも若かったので、これは、次に、細胞の年齢の相違が、疾患状態以外に、後のドナー細胞の競合的成功に寄与する可能性があるかを要求した。その目的で、WT hESCから新たに生成された生着hGPCは、40週齢の生体グリアキメラの線条体にEGFPを発現するように操作され、これは、mCherryタグ付けされた、そうでなければ同質遺伝子WT hESCに由来するhGPCにより、周産期に生着された(図17のパネルA)。移植された細胞の拡大増殖は、これらの同質遺伝子であるが、そうでなければ明らかに高齢のhGPCプールの相対的適合性及び競合性能をマッピングするために、組織学的にモニターされた。
【0177】
WTキメラの線条体内の埋め込まれたWTグリアの拡大増殖は、HDキメラの線状体におけるそれらの拡大増殖に著しく類似していた(図4)。生着後、より若いWTグリアは、以前にヒト化された線条体に迅速に浸潤し、それらがそれらの埋め込み部位から拡大増殖するにつれて、それらの高齢のカウンターパートに進行的に取って代わり、最終的に組織の実質的な再コロニー形成を生じた(図17のパネルB~D及びE;P<0.0001)。それらの拡大増殖は、高齢のWTグリアの局所的排除に並行し(図17のパネルB~D及びF;P<0.0001)、これはまた、個別に進行する前面によってマークされ、その後ろでは、いくらかのすでに常在するWTグリアが見出された(図17のパネルC)。したがって、埋め込まれたWTグリアの有糸分裂画分が、それらの常在の高齢のカウンターパートのものよりも有意に大きかったことも注目された(図17のパネルG~I;P=0.018)。一緒に、これらのデータは、より若い同質遺伝子hGPCによるヒトWTグリアキメラ線条体の再増殖が、それらのより若いカウンターパートによるより古い細胞の置き換えを伴い、一部では、より若く、より有糸分裂が活発な細胞集団の関連する拡大増殖によって加速されることを示した。
【0178】
実施例8
若い細胞は、アポトーシスの誘導を介して、それらのより古いカウンターパートを置き換える
より若いグリアは、それらのより古いカウンターパートに対して明確な競合優位性を示すように見えたので、次に、より若い細胞によるより古いグリアの排除が、受動的に起こり、より若い細胞のより高い増殖速度の結果として、正常なターンオーバーの間により古い常在物の相対的消耗をもたらすかどうか、又は置き換えが、より適合したより若い細胞によるより古い細胞のプログラム細胞死の誘導によって能動的に駆動されたかどうかを要求した。この疑問に対処するために、それらが、単回移植された対照におけるそれらのそれぞれのベースラインだけでなく、宿主線条体において競合したので、TUNELアッセイを使用して、高齢及び若いWTグリア集団におけるアポトーシスの速度を比較した。競合的再増殖が広がるにつれて、高齢のWTグリアはそれらのより若いカウンターパートよりも著しく高い速度でアポトーシスを経験したことが見出された(図20のパネルA~C;P<0.0001)。決定的に、より古い常在グリアのアポトーシスの増加は、高齢のグリアの著しく高い割合が、より若い細胞を成体として移植されたキメラにおいて、後に成体で注射を受けなかった対照よりも、アポトーシス性であることが見出されたので、より若い細胞とのそれらの相互作用によって駆動されると思われた(図30のパネルC;P=0.0013)。これらのデータは、それらのより若いカウンターパートに直面した高齢の常在グリアが、少なくとも一部では、より若いhGPCとのそれらの遭遇によって引き起こされるアポトーシスを介して、能動的に排除され、そのより大きな相対的適応度が、キメラ宿主線条体のそれらの再増殖を許容したことを示唆する。
【0179】
実施例9
若いhGPCはより古い同質遺伝子細胞でチャレンジされた場合に、優位性のシグネチャーを獲得する
高齢のWTグリアに対するより若いWTグリアの競合優位性の根底にある分子シグナルが、HDグリアに対するそれらの優位性の根底にあるものと類似するかを解明するために、競合する若い及び高齢WTグリア、ならびにそれらの個々の対照の転写シグネチャーを、scRNA-seqを使用して分析した(図21のパネルA)。配列決定された集団内で(図21のパネルB~D)、組織学データと一致して(図17のパネルI)、細胞周期のG2/M期における競合する高齢のWT細胞の画分が、それらのより若いカウンターパートよりも著しく低いことが注目された(図21のパネルE)。差次的発現分析は、競合する若い及び高齢のWT GPCの間で差次的に発現される遺伝子の個別のセットを明らかにし(図21のパネルF及びH)、これらの遺伝子セットのその後のIPA分析は、我々の競合的同種移植モデルにおいて、ドナー(若い)WT及びすでに常在する(高齢の)HD GPCの間で観察されたものと類似のシグネチャーを明らかにした(図21のパネルG)。特に、リボソーム遺伝子、ならびに上流のYAP1、MYC及びMYCNシグナル伝達を含む、タンパク質合成と機能的に関連する遺伝子は、それらの高齢のカウンターパートと比べて、競合する若いWT GPCにおいてすべて活性化された(図21のパネルG)。しかし、これらの類似性にもかかわらず、他の関連において、高齢のWT GPCは、新たに埋め込まれたWT GPCに対して、HD GPCとは異なって応答した。HD GPCとは対照的に、より若い同質遺伝子競合物質に直面した高齢のWT細胞は、リボソーム遺伝子の同時上方調節(図21のパネルI)を有するそれらの非競合対照と比べて(図21のパネルG)、YAP1及びMYC標的の両方を上方調節した。それらのプロファイルにおけるこの相違は、チャレンジされた場合に、競合的に応答する固有の能力を表し得、これは、mHTT発現HD hGPCを欠く。それにもかかわらず、この上方調節は、それらのより若いカウンターパートのより大きな適合性にマッチするには不十分であり、相対的に大きな度合いであるが、この類似性は、それらの非競合対照と比べて、YAP1及びMYC標的、ならびにリボソーム遺伝子の選択的上方調節を呈した(図21のパネルG~H)。一緒に、これらのデータは、相対細胞適合性の決定が、チャレンジの異なるシナリオにわたって保存され得ること、及び結果として起こる競合の結果が、競合する集団の相対年齢によって大きな影響を受けることを示す。
【0180】
実施例10
競合的利益は転写因子の個別のセットに関連する
これは、次に、どの遺伝子シグネチャーが、常在細胞に対する新たに移植されたヒトGPCの競合的利益を定義するかを要求した。その目的で、lasso調整ロジスティック回帰を使用する複数工程の分析を適用し(図22のパネルA)、これは、その活性が高齢のHD及び高齢のWT GPCの両方に対する若いWT GPCの優位性を大いに説明する、5つのTF(CEBPZ、MYBL2、MYC、NFYB、TFDP1)を指し示した。これらの5つのTF及びそれらの推定標的は、同種移植及び同系移植モデルの両方において、若いWT細胞において上方調節された(正規化濃縮スコア[NES]> 0、調整p<10~2)遺伝子セット(レギュロン)を確立した(図22のパネルD)。競合環境にない場合のそれらの活性がさまざまであるが(高齢のHD、高齢のWT、若いWT単独)、これらの平均活性が、同種移植(対HD)及び同系移植(対より古い同質遺伝子自身)パラダイムの両方で、特に、MYCについて、優位な若いWT細胞においてより高かったことも注目された(図22のパネルE)。
【0181】
次に、定義された発現パターン、ならびに上記の5つの優先的なレギュロンとの有意な重複を有する遺伝子のコホートを特定することを開始した。重み付け遺伝子の共発現ネットワーク分析(WGCNA)を最初に用いて、GPCデータセットにおいて、合計で19のモジュールを検出した(図22のパネルA)。6つのモジュールが、CEBPZ、MYBL2、MYC、NFYB、及びTFDP1の標的との有意な重複を有する遺伝子を保有していた(図22のパネルB)。これは、次いで、優先的なモジュールの発現パターンが、細胞の年齢によって(若い対古い)、それらの遺伝子型によって(HD対WT)、又はその両方によって説明できるかを要求した。WGCNAは、モジュールの第一主成分を遺伝子コホートの第1の主要構成要素として定義し、それによって、そのモジュール内のすべての遺伝子の一般的な発現パターンを表した。そのため、モジュールの第一主成分が年齢及び表現型の両方によって記載された応答であった、線形モデルを構築した。茶色、赤色、及び青緑色のモジュールが、年齢によって最も影響を受けた一方で、黒色、青色、及び緑色のモジュールが、年齢及び表現型の両方によって影響を受けたことが観察された(図22のパネルC)。
【0182】
調節された経路の活性化が競合的利益を付与するとしてすでに推定されているMYCは、5つの優先的なTFの1つでもあった。MYCレギュロン及びその下流の標的をさらに特性評価し、これは、どの程度これらの下流の標的も他の優先的なTFによって調節されたかに注目した(図22のパネルF)。興味深いことに、MYCは茶色のモジュールに局在したが、その標的の高い割合が、青色のモジュールに属した。青色のモジュールの遺伝子は、非競合対照パラダイムにおいて同様に発現したが、それらの発現レベルは、WT対HD同種移植パラダイムにおいて高齢のHDと比較して、若いWTにおいてより高く(図22のパネルB)、パターンは、青色のシグネチャーが、細胞が競合する環境になかった限り、活性化されなかったことを示唆した。さらにまた、これらの遺伝子のより低い発現は、高齢のWT hGPCと比べて、高齢のHDにおいて注目され(図22のパネルE~F)、これは、WT細胞が競合する能力が、本質的により大きいことを強調し得、新たに生着したWT GPCでチャレンジされた場合に、高齢のWT hGPCがHD hGPCとは異なって応答するという以前の観察と一致した。重要なことには、青色のモジュールの第一主成分は、遺伝子型及び年齢の両方によって記載され、MYCシグナル伝達に関連する競合的利益が、これらの変数の両方によって駆動されたことを実証した。したがって、このネットワークにおける標的は、細胞増殖(TP53、RICTOR、YAP)、遺伝子転写(MYCN、MLXIPL)、及びタンパク質合成(LARP1)を調節する経路について濃縮され、これらのそれぞれは、それぞれの競合シナリオにおいて、差次的発現されたとして以前に注目されていた(図19及び21)。そのため、この競合が引き起こす調節ネットワークの結果は、より古いHD由来又は同質遺伝子hGPCに直面するかにかかわらず、成体脳に導入された場合に、若いWT hGPCに対する競合的利益を付与すると思われた。
【0183】
さまざまな実施形態を上記に記載したが、そのような開示が、例としてのみ示され、限定するものではないことが理解されるべきである。そのため、対象の組成物及び方法の幅及び範囲は、上記に記載される例示的実施形態のいずれによっても限定されるべきではなく、以下の特許請求の範囲及びそれらの均等物に従ってのみ定義されるべきである。
【0184】
上記の記載は、どのようにして本発明を実行するかを当業者に教示する目的のためのものであり、記載を読む際に当業者に明らかになるそのすべての自明な改変及び変形を詳述することを意図するものではない。しかしながら、そのような自明な改変及び変形のすべてが、以下の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲内に含まれることが意図される。特許請求の範囲は、文脈が具体的に反対のことを示さない限り、構成要素及びそこで意図される目的を満たすのに有効である任意の順番での工程を包含することが意図される。
図1-1】
図1-2】
図1-3】
図1-4】
図2-1】
図2-2】
図3-1】
図3-2】
図3-3】
図3-4】
図4-1】
図4-2】
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図4-4】
図5
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図7-1】
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図8
図9
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図15-2】
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図16
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図17-2】
図17-3】
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図18-1】
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図19-1】
図19-2】
図19-3】
図19-4】
図20-1】
図20-2】
図21-1】
図21-2】
図21-3】
図21-4】
図22-1】
図22-2】
図22-3】
図22-4】
【配列表】
2024540974000001.xml
【国際調査報告】