(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-06
(54)【発明の名称】ファントムデバイスおよび関連する電磁界ドシメトリシステム
(51)【国際特許分類】
G01N 22/00 20060101AFI20241029BHJP
G01R 29/08 20060101ALI20241029BHJP
G09B 23/18 20060101ALI20241029BHJP
G09B 23/28 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
G01N22/00 U
G01R29/08 Z
G01N22/00 Y
G01N22/00 Z
G09B23/18 Z
G09B23/28
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024523950
(86)(22)【出願日】2022-10-20
(85)【翻訳文提出日】2024-06-21
(86)【国際出願番号】 EP2022079292
(87)【国際公開番号】W WO2023067107
(87)【国際公開日】2023-04-27
(32)【優先日】2021-10-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523150772
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ドゥ・レンヌ
(71)【出願人】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(71)【出願人】
【識別番号】523169039
【氏名又は名称】アンスティテュ・ナシオナル・デ・シアンス・ザプリケ・ドゥ・レンヌ
(71)【出願人】
【識別番号】507421289
【氏名又は名称】ナント・ユニヴェルシテ
【氏名又は名称原語表記】NANTES UNIVERSITE
(71)【出願人】
【識別番号】523224741
【氏名又は名称】サントラルシュペレック
【氏名又は名称原語表記】CENTRALESUPELEC
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】マキシム・ザドボフ
(72)【発明者】
【氏名】アルテム・ボリスキン
(72)【発明者】
【氏名】ロナン・ソロー
【テーマコード(参考)】
2C032
【Fターム(参考)】
2C032BD00
2C032CA00
(57)【要約】
電磁(EM)波源(2)によって放出された所定の周波数f1を有するEM波によって照明されたときの、電磁損失媒質、特に生体組織で作られた参照物体の少なくとも1つのEM特性を再現するためのファントムデバイス(10)であって、前記所定の周波数f1は、1GHz~10THz、好ましくは6GHz~300GHzの周波数範囲であり、前記ファントムデバイスは、少なくとも1つの単位構造を備え、前記単位構造は、所定の周波数f1におけるEM波を少なくとも部分的に透過させ、ファントムデバイスは、電磁波源(2)に面する上面(13)と、上面(13)とは反対側の下面(14)とを備える少なくとも1つの第1の誘電体層(12)とを備え、前記上面(13)は、電磁波源(2)によって放出された電磁波を少なくとも部分的に透過させ、前記下面(14)は、第1の誘電体層(12)を透過した電磁波を少なくとも部分的に反射し、前記少なくとも1つの第1の誘電体層(12)は、誘電体層(12)のバルク材料の有効複素誘電率
ε1
*=ε1′-jε1′′が3~40の範囲内の絶対値を有することを特徴とし、前記少なくとも1つの第1の誘電体層(12)は、有効複素誘電率と厚さT1との組合せについて参照物体の少なくとも1つの電磁特性を再現するように選択される厚さT1をさらに特徴とする、ファントムデバイス。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁(EM)波源(2)によって放出された所定の周波数f1を有するEM波によって照明されたときの、電磁損失媒質、特に生体組織で作られた参照物体の少なくとも1つのEM特性を再現するためのファントムデバイス(10)であって、前記所定の周波数f1は、1GHz~10THz、好ましくは6GHz~300GHzの周波数範囲であり、前記ファントムデバイスは、少なくとも1つの単位構造を備え、前記単位構造は、前記所定の周波数f1における前記EM波を少なくとも部分的に透過させ、前記ファントムデバイスは、
前記電磁波源(2)に面する上面(13)と、前記上面(13)とは反対側の下面(14)とを備える少なくとも1つの第1の誘電体層(12)とを備え、
前記上面(13)は、前記電磁波源(2)によって放出された電磁波を少なくとも部分的に透過させ、
前記下面(14)は、前記第1の誘電体層(12)を透過した電磁波を少なくとも部分的に反射し、
前記少なくとも1つの第1の誘電体層(12)は、前記誘電体層(12)のバルク材料の有効複素誘電率
【数1】
が3~40の範囲内の絶対値を有することを特徴とし、
前記少なくとも1つの第1の誘電体層(12)は、前記有効複素誘電率と厚さT
1との組合せについて前記参照物体の前記少なくとも1つの電磁特性を再現するように選択される前記厚さT
1をさらに特徴とする、ファントムデバイス。
【請求項2】
ヒト組織を表す前記参照物体、前記第1の誘電体層(12)の複素誘電率
【数2】
および前記厚さT
1は、少なくとも前記EM波の法線入射の場合には前記参照物体の表面から少なくとも複素反射係数の前記絶対値を再現するように一緒に選択され、前記絶対値は、6GHz~300GHzの前記周波数範囲内の前記周波数f1において0.40~0.75の範囲である、請求項1に記載のファントムデバイス。
【請求項3】
前記少なくとも1つの誘電体層(12)はさらに、前記厚さT
1が、前記EM波の、前記第1の誘電体層(12)の媒質への侵入深さ以下であり、前記EM波源(2)によって放出された周波数f1において前記EM波を少なくとも部分的に透過させる、請求項1または2に記載のファントムデバイス。
【請求項4】
少なくとも1つの第2の層(16)をさらに備え、前記第1の誘電体層(12)は、前記少なくとも1つの第2の層(16)上に配置され、前記少なくとも1つの第2の層(16)は、誘電材料で作られ、前記第1の誘電体層(12)および前記第2の誘電体層(16)は、少なくとも前記参照物体の表面からの反射係数の前記絶対値を再現するように一緒に構成され、前記第1の層(12)と前記第2の層(16)との間の界面において前記下面(14)から反射された前記EM波の一部の、前記ファントムデバイスの前記上面(13)からの全反射係数への相対寄与が、少なくとも5%を構成する、請求項1から3のいずれか一項に記載のファントムデバイス。
【請求項5】
前記第2の層(16)は、電磁波の、前記第2の層(16)の媒質への侵入深さが、少なくとも前記第2の層(16)の厚さに等しくなるように選択される厚さT
2を有し、前記第1の誘電体層(12)および前記第2の誘電体層(16)は、前記参照物体の表面からの複素反射係数の前記絶対値を再現する一方、依然として入射EM波を少なくとも部分的に透過させるように一緒に構成される、請求項4に記載のファントムデバイス。
【請求項6】
少なくとも1つの第2の層(16)をさらに備え、前記第1の誘電体層(12)は、前記少なくとも1つの第2の層(16)上に配置され、前記少なくとも1つの第2の層(16)は、複合媒質で作られ、導電率σ
2が少なくとも10
2S/mである導電性材料で作られた第1の部分と、誘電材料で作られた第2の部分とを備え、前記第1の部分と前記第2の部分との間の体積比は、前記第1の層(12)と前記第2の層(16)との間の界面において前記下面(14)から反射された前記EM波の一部の、前記ファントムデバイスの前記上面(13)からの全反射係数への相対寄与が少なくとも5%を構成するように、10%~90%の範囲内で選択される、請求項1から5のいずれか一項に記載のファントムデバイス。
【請求項7】
前記少なくとも1つの第2の層(16)は、導電性材料で作られ、導電率が少なくとも10
2S/mに等しく、厚さT
2が、前記EM波の前記導電性材料への侵入深さよりも大きいことを特徴とし、前記第2の層(16)は、EM波用の透過ゾーンを形成する少なくとも1つの貫通孔(18)をさらに備え、前記少なくとも1つの貫通孔は、前記単位構造の全表面の10%~90%の範囲の表面積を有し、誘電性媒質で充填され、前記少なくとも1つの貫通孔は、前記下面(14)と揃えられたxy平面内で任意の形状を有し、前記任意の形状は、前記少なくとも1つの貫通孔(18)を充填する前記誘電性媒質内または前記第1の層(12)の媒質内のEM波の波長の2分の1に少なくとも等しい長さを有する輪郭線によって画定される、請求項6に記載のファントムデバイス。
【請求項8】
前記第1の層(12)および前記第2の層(16)は、2つの異なるEM波、すなわち、第1の周波数部分範囲内の周波数f1を有する第1のEM波および第2の周波数部分範囲内の周波数f2を有する第2のEM波によって照明されたときの参照物体の前記少なくとも1つのEM特性の前記少なくとも2つの異なる値を再現するように一緒に構成され、2つの部分範囲は、6GHz~300GHzの前記周波数範囲内である、請求項4から7のいずれか一項に記載のファントムデバイス。
【請求項9】
前記第1の誘電体層(12)の厚さは、前記周波数f1を有する前記第1のEM波の侵入深さよりも小さく、同時に、前記周波数f2を有する前記第2のEM波の侵入深さに少なくとも等しい、請求項8に記載のファントムデバイス。
【請求項10】
第1の周波数f1における第1の入射電磁波を反射し第2の周波数f2における第2の入射電磁波を透過させる周波数選択層(19)をさらに備え、前記周波数選択層(19)は、前記少なくとも1つの第1の層(12)に埋め込まれるか、または前記少なくとも1つの第1の層(12)の前記下面(14)に取り付けられる、請求項4から9のいずれか一項に記載のファントムデバイス。
【請求項11】
前記参照物体の局所可変電磁応答を再現するための複数の単位構造を備え、各単位構造は、前記参照物体の表面の一部から前記少なくとも1つの電磁特性を再現するように構成される、請求項1から10のいずれか一項に記載のファントムデバイス。
【請求項12】
各単位構造を形成する層のサイズ、形状および組成、ならびに/または2つの隣接する単位構造間の距離は、前記ファントムシステムの表面に沿った電磁応答の連続的な変化を取得するように選択される、請求項11に記載のファントムデバイス。
【請求項13】
各単位構造を形成する層のサイズ、形状および組成、ならびに/または2つの隣接する単位構造間の距離は、前記ファントムシステムの表面に沿った電磁応答の離散的な変化を取得するように選択される、請求項11に記載のファントムデバイス。
【請求項14】
各単位構造は、前記単位構造の全厚さおよび/もしくは前記単位構造の上面の曲率、または前記第1の層(12)もしくは前記第2の層(16)の有効複素誘電率を変化させるように構成された微小電気機械スイッチを備える、請求項11から13のいずれか一項に記載のファントムデバイス。
【請求項15】
電磁波源(2)によって放出された電磁場に関する電磁界ドシメトリ量を測定するためのドシメトリシステム(100)であって、
請求項1から14のいずれか一項に記載のファントムデバイスであって、前記電磁波源(2)に面する上面(13)と下面(17)とを備え、前記電磁波源(2)によって放出されたEM波を少なくとも部分的に透過させる、ファントムデバイスと、
前記下面(17)に取り付けられるかまたは前記下面(17)の下方に配置され、前記ファントムデバイスを透過した前記電磁波に関する物理量を測定するように構成された少なくとも1つのセンサー(101)と、
前記少なくとも1つのセンサー(101)から送信された信号を分析するように構成された信号分析ユニット(102)と、前記信号から前記電磁界ドシメトリ量を算出するように構成された処理ユニット(103)と、メモリユニット(104)と
を備える、ドシメトリシステム(100)。
【請求項16】
前記少なくとも1つのセンサー(101)は、前記電磁波源(2)の周波数において動作する電磁センサーを備える、請求項15に記載のドシメトリシステム。
【請求項17】
前記少なくとも1つのセンサー(101)は、前記電磁波源(2)の周波数とは異なる周波数で動作する電磁センサーを備え、前記デバイスは、周波数変換器要素をさらに備える、請求項15に記載のドシメトリシステム。
【請求項18】
前記少なくとも1つのセンサー(101)は、熱センサーを備える、請求項15に記載のドシメトリシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁界ドシメトリ用のファントムデバイスに関し、より詳細には、本発明は、損失媒質、たとえば、生体組織、特にヒト組織で作られた参照物体の電磁特性をシミュレートするためのファントムデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤレス技術が発展するに伴って、特に人体に近接して使用される携帯電話の場合に、人体における電磁曝露レベルを厳密に判定することが重要な要素になっている。
【0003】
電磁波に対する人体の曝露を評価するために、一般に「ファントム」と呼ばれる生体組織の電磁特性を再現する様々な範疇のデバイスが提案されている。
【0004】
空気と皮膚の表面との間の界面における電磁応答を再現するために、液体ファントムが提案されている。そのようなファントムデバイスは、測定周波数においてヒト生体組織の一般電磁特性と同様の一般電磁特性を有するゲルまたは液体で充填されたプラスチック部品または固体シェルを備える。これらのデバイスはいくつかの問題を有する。すなわち、液体は、蒸発および/または液体の物理的特性の経時的な劣化に起因して頻繁に交換する必要がある。これらのデバイスは、その重量および含水量を支持するために特殊な試験機器を必要とする。そのようなデバイスは一般に、300MHz~6GHzの周波数範囲で使用され、これらの周波数における電磁場の媒質への侵入深さが浅いことに起因して約6GHzを超える周波数での電磁界ドシメトリに適していない。
【0005】
代替解決策として固体ファントムが提供されている。固体ファントムは、たとえば、セラミック、黒鉛もしくは炭素元素、または合成ゴムで作られた固体片である。主な利点は、その寿命、言い換えれば、経時的な電磁特性の恒常性である。しかしながら、これらのデバイスは、製作が複雑であり、製造コストがかかり、一般に特に高い温度および高い圧力を必要とする。さらに、6GHzよりも低い周波数で動作するように設計された固体ファントムは、液体ファントムと同様に、材料特性の周波数依存性変化に起因してより高い周波数で使用することはできず、高EM損失をもたらす。したがって、固体ファントムは、液体ベースのファントムに固有の蒸発問題を解消するために使用され得る。しかしながら、生体組織の複素誘電率を再現する固体ファントムは、6GHzを超える周波数において相対的に高い電磁損失を被る。たとえば、60GHzにおいて、ヒト組織における電磁放射の侵入深さは0.5mm程度であり、したがって、EM放射の吸収は基本的に、人体の表層に限定される。これによって、前記生体組織のEM特性を再現するファントムに埋め込まれた任意のセンサーについての信号対ノイズ比(SNR)が非常に低くなる。
【0006】
マイクロ波スペクトルの上部における高電磁損失の問題は、支配的な水濃度に起因する複素誘電率の高い虚数部によって特徴付けられるすべての軟性生体組織に固有の問題であり、ドシメトリデバイスの設計における固有の制約を構成する。したがって、そのような損失媒質の複素誘電率を再現する材料で作られたファントムデバイスは、6GHzを超える周波数で動作する5G以上の世代のワイヤレスデバイスの準拠性テストに適合しない。
【0007】
文献WO2017/0173350は、ヒト組織の特性を有する固体ファントムデバイスについて説明している。この固体ファントムデバイスは、炭素の導電性微粒子がドープされ、複数の開口部を有する金属化シールドを支持する誘電材料の1つの層と、センサーのアレイとを備える。センサーは、電磁源によって放出され、ファントムを通して伝送される電磁界を測定するように構成される。この固体ファントムは、液体ファントムデバイスに固有の蒸発問題を解消することを可能にする一方、導電性ドーピングに起因して反射係数の所望の値がもたらされている。しかしながら、この提案されたファントムデバイスにおいて使用される媒質では依然として、電磁場が6GHzを超える高い周波数で複合誘電材料を通して伝播する間に電磁場強度が顕著に失われる。
【0008】
したがって、特に6GHzを超える周波数において以前の解決策よりも厳密に測定を実施するために使用され得る電磁界ドシメトリ用のファントムデバイスの新規の最適な設計が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO2017/0173350
【特許文献2】EP1326070
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Guraliuc Andaら、“Solide Phantom for body-Centric propagation measurements at 60GHz”
【非特許文献2】Ziane Massinissaら、“High-resolution Technical for Near-Field Power Density Measurement Accounting for Antenna/Body Coupling at Millimeter Waves”
【非特許文献3】Guraliuc Andaら、“Effect of Textile on the Propagation Along the Body at 60Ghz”
【非特許文献4】小林岳彦ら、“Dry Phantom composed of ceramics and its application to SAR estimation”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、6GHz~少なくとも300GHzの周波数範囲内の所定の周波数において、電磁損失材料で作られた参照物体を代表し得る生体組織、たとえば、ヒト組織の表面からの電磁応答を必要に応じて再現する一方、より損失の少ない誘電材料で作られたファントム構造を使用することによって電磁波侵入深さを向上させ得るファントムデバイスを提供することである。そのような新規のファントムデバイスは、信号対ノイズ比を改善するために電磁界ドシメトリシステムにおいて使用され得る。
【0012】
本発明の別の目的は、たとえば、人体の一部の解剖学的形態を再現する、3D形状物体に容易に取り付けられ得るかまたは3D形状物体を容易に包み得るファントムデバイスを提案することである。
【0013】
本発明の別の目的は、複雑な3D形状を有し得る、たとえば、人体の解剖学的な一部である、参照物体の形状とは異なる形状を有する一方、この参照物体からの電磁応答を維持する、ファントムデバイスを提案することである。特に、本発明のファントムデバイスは、より実用的で製造するのにより好都合な形状を有する一方、参照物体の表面からの電磁応答を再現し得る。
【0014】
本発明の別の目的は、生体組織、たとえば、ヒト組織などの参照物体の表面からの電磁放射を、少なくとも2つの異なる所定の周波数、すなわち、第1の部分周波数範囲内の第1の周波数、および第2の部分周波数範囲内の第2の周波数において再現することができ、前記2つの周波数部分範囲は、6GHz~少なくとも300GHzの範囲であるファントムデバイスを提供することである。非限定的な例として、この2つの周波数部分範囲は、26~28GHzおよび57~66GHzとすることができる。
【0015】
本発明の別の目的は、製造がより容易であり、製造費用がより安いファントムデバイスを提供することである。
【0016】
Guraliuc Andaらによる“Solide Phantom for body-Centric propagation measurements at 60GHz”では、60GHzワイヤレス人体中心システム用の伝播チャネルを特徴付けるための皮膚同等ファントムについて述べている。このファントムは、空気/ファントム界面において空気/皮膚界面と同じ反射係数をエミュレートするように設計される。ファントムは、カーボンブラック粉をポリジメチルシロキサン(PDMS)と結合させ、得られた可撓性カーボンPDMS複合物の片面を金属化することによって製作される。2つの開口端導波管を使用して、平坦な円筒形のファントムに沿った伝播が58~63GHz周波数範囲における皮膚に沿った伝播と同様であることが実証される。
【0017】
Ziane Massinissaらによる“High-resolution Technical for Near-Field Power Density Measurement Accounting for Antenna/Body Coupling at Millimeter Waves”では、ミリメートル波(mmW)におけるアンテナ/人体結合を考慮した近距離における電力密度(PD)パターン測定のための技法について述べている。提案された方法は、ヒトの皮膚からの反射係数を再現する特定的に設計された構造を使用する。この構造は、吸収されたPDを赤外線(IR)パターンに変換するように最適化され、IRパターンは、PD分布を再構成するために高解像度IRカメラを使用して遠隔的に記録される。
【0018】
Guraliuc Andaらによる“Effect of Textile on the Propagation Along the Body at 60Ghz”では、グリーン関数を使用して、フラットスキンモデルおよび衣服を表す多層構造上の微小ダイポールによって励起される電場を分析的に調査することについて述べている。
【0019】
EP1326070は、その要約によると、吸収された電力を測定するための装置であって、人体の頭部の構成および電磁特性をシミュレートする頭部シミュレーションファントム内に固定的に取り付けられた電磁場プローブを含み、頭部シミュレーションファントム上に外部から照射された電波の電場または磁場の強度が磁場プローブによって測定され、頭部によって吸収された電波の電力が測定値に基づいて推定され、頭部シミュレーションファントムが、人体の頭部の構成および電磁特性をシミュレートする固体誘電体、または人体の頭部の電磁特性をシミュレートし人体の頭部の構成をシミュレートする密閉容器に充填される液体誘電体を備える、装置について述べている。
【0020】
小林岳彦らによる“Dry Phantom composed of ceramics and its application to SAR estimation”では、UHF帯域において生体組織と同じ電気的特性を有する乾燥ファントム材料について述べている。この新規の複合材料は、マイクロ波セラミック粉、黒鉛粉、および接着用樹脂で構成される。マイクロ波源に曝露されたヒト頭部の比吸収率(SAR)を推定するために実験が実施されている。
【課題を解決するための手段】
【0021】
この開示は、状況を改善する。電磁(EM)波源によって放出された所定の周波数f1を有するEM波によって照明されたときの、電磁損失媒質、特に生体組織で作られた参照物体の少なくとも1つのEM特性を再現するためのファントムデバイスであって、前記所定の周波数f1が、1GHz~10THz、好ましくは6GHz~300GHzの周波数範囲であり、前記ファントムデバイスが、少なくとも1つの単位構造を備え、前記単位構造が、所定の周波数f1におけるEM波を少なくとも部分的に透過させ、前記ファントムデバイスが、
電磁波源に面する上面と、上面とは反対側の下面とを備える少なくとも1つの第1の誘電体層とを備え、
前記上面が、電磁波源によって放出された電磁波を少なくとも部分的に透過させ、
前記下面が、第1の誘電体層を透過した電磁波を少なくとも部分的に反射し、
前記少なくとも1つの第1の誘電体層が、誘電体層のバルク材料の有効複素誘電率
【0022】
【0023】
が3~40の範囲内の絶対値を有することを特徴とし、
前記少なくとも1つの第1の誘電体層が、有効複素誘電率と厚さT1との組合せについて参照物体の少なくとも1つの電磁特性を再現するように選択される厚さT1をさらに特徴とする、ファントムデバイスが提案される。
【0024】
したがって、誘電体層の厚さとこの層の誘電率との特定の組合せに起因して、ファントムデバイスの層状構造は、マイクロ波スペクトルの上部において高電磁損失を有する生体組織の表面からの電磁応答を再現する一方、信号対雑音比を向上させるためにファントムの部分的透過性を確保することができる。
【0025】
一実施形態では、ヒト組織を表す参照物体、第1の誘電体層の複素誘電率
【0026】
【0027】
および厚さT1は、少なくともEM波の法線入射の場合には参照物体の表面から少なくとも複素反射係数の絶対値を再現するように一緒に選択され、前記絶対値は、6GHz~300GHzの周波数範囲内の周波数f1において0.40~0.75の範囲である。
【0028】
好ましい実施形態では、少なくとも1つの誘電体層はさらに、厚さT1が、EM波の、前記第1の誘電体層の媒質への侵入深さ以下であり、EM波源によって放出された周波数f1においてEM波を少なくとも部分的に透過させる。
【0029】
別の実施形態では、ファントムデバイスは、少なくとも1つの第2の層をさらに備え、第1の誘電体層は、少なくとも1つの第2の層上に配置され、前記少なくとも1つの第2の層は、誘電材料で作られ、前記第1の誘電体層および前記第2の誘電体層は、少なくとも参照物体の表面からの反射係数の絶対値を再現するように一緒に構成され、第1の層と第2の層との間の界面において下面から反射されたEM波の一部の、ファントムデバイスの上面からの全反射係数への相対寄与が、少なくとも5%を構成する。
【0030】
好ましい実施形態では、第2の層は、電磁波の、第2の層の媒質への侵入深さが、少なくとも前記第2の層の厚さに等しくなるように選択される厚さT2を有し、前記第1の誘電体層および前記第2の誘電体層は、参照物体の表面からの複素反射係数の絶対値を再現する一方、依然として入射EM波を少なくとも部分的に透過させるように一緒に構成される。
【0031】
さらなる一実施形態では、ファントムデバイスは、少なくとも1つの第2の層をさらに備え、第1の誘電体層は、少なくとも1つの第2の層上に配置され、前記少なくとも1つの第2の層は、複合媒質で作られ、導電率σ2が少なくとも102S/mである導電性材料で作られた第1の部分と、誘電材料で作られた第2の部分とを備え、第1の部分と第2の部分との間の体積比は、第1の層と第2の層との間の界面において下面から反射されたEM波の一部の、ファントムデバイスの上面からの全反射係数への相対寄与が少なくとも5%を構成するように、10%~90%の範囲内で選択される。
【0032】
さらに別の実施形態では、少なくとも1つの第2の層は、導電性材料で作られ、導電率が少なくとも102S/mに等しく、厚さT2が、EM波の前記導電性材料への侵入深さよりも大きいことを特徴とし、前記第2の層は、EM波用の透過ゾーンを形成する少なくとも1つの貫通孔をさらに備え、前記少なくとも1つの貫通孔は、単位構造の全表面の10%~90%の範囲の表面積を有し、誘電性媒質で充填され、前記少なくとも1つの貫通孔は、下面と揃えられたxy平面内で任意の形状を有し、任意の形状は、少なくとも1つの貫通孔を充填する誘電性媒質内または第1の層の媒質内のEM波の波長の2分の1に少なくとも等しい長さを有する輪郭線によって画定される。
【0033】
一実施形態では、第1の層および第2の層は、2つの異なるEM波、すなわち、第1の周波数部分範囲内の周波数f1を有する第1のEM波および第2の周波数部分範囲内の周波数f2を有する第2のEM波によって照明されたときの参照物体の少なくとも1つのEM特性の少なくとも2つの異なる値を再現するように一緒に構成され、前記2つの部分範囲は、6GHz~300GHzの周波数範囲内である。
【0034】
一例では、第1の誘電体層の厚さは、周波数f1を有する第1のEM波の侵入深さよりも小さく、同時に、周波数f2を有する第2のEM波の侵入深さに少なくとも等しい。
【0035】
別の実施形態では、ファントムデバイスは、第1の周波数f1における第1の入射電磁波を反射し第2の周波数f2における第2の入射電磁波を透過させる周波数選択層をさらに備え、周波数選択層は、少なくとも1つの第1の層に埋め込まれるか、または少なくとも1つの第1の層の下面に取り付けられる。
【0036】
一実施形態では、ファントムデバイスは、参照物体の局所可変電磁応答を再現するための複数の単位構造を備え、各単位構造は、参照物体の表面の一部から少なくとも1つの電磁特性を再現するように構成される。
【0037】
一例では、各単位構造を形成する層のサイズ、形状および組成、ならびに/または2つの隣接する単位構造間の距離は、ファントムシステムの表面に沿った電磁応答の連続的な変化を取得するように選択される。
【0038】
別の例では、各単位構造を形成する層のサイズ、形状および組成、ならびに/または2つの隣接する単位構造間の距離は、ファントムシステムの表面に沿った電磁応答の離散的な変化を取得するように選択される。
【0039】
さらに別の例では、各単位構造は、単位構造の全厚さおよび/もしくは単位構造の上面の曲率、または第1の層もしくは第2の層の有効複素誘電率を変化させるように構成された微小電気機械スイッチを備える。
【0040】
別の態様では、電磁波源によって放出された電磁場に関する電磁界ドシメトリ量を測定するためのドシメトリシステムであって、
上記で定義されたファントムデバイスであって、電磁波源に面する上面と下面とを備え、電磁波源によって放出されたEM波を少なくとも部分的に透過させる、ファントムデバイスと、
下面に取り付けられるかまたは下面の下方に配置され、ファントムデバイスを透過した電磁波に関する物理量を測定するように構成された少なくとも1つのセンサーと、
少なくとも1つのセンサーから送信された信号を分析するように構成された信号分析ユニットと、信号から電磁界ドシメトリ量を算出するように構成された処理ユニットと、メモリユニットとを備える、ドシメトリシステムが提案される。
【0041】
一実施形態では、少なくとも1つのセンサーは、電磁波源の周波数において動作する電磁センサーを備える。
【0042】
別の実施形態では、少なくとも1つのセンサーは、電磁波源の周波数とは異なる周波数で動作する電磁センサーを備え、デバイスは、周波数変換器要素をさらに備える。
【0043】
別のさらなる実施形態では、少なくとも1つのセンサーは、熱センサーを備える。
【0044】
他の特徴、詳細、および利点は、以下の詳細な説明および図に示される。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【
図1】厚さが、電磁波源によって放出された入射電磁波の侵入深さよりも大きい、損失材料で作られた層からの電磁反射の概略図である。
【
図2A】ヒト皮膚組織の複素誘電率の実部および虚部と周波数との関係を表す図である。
【
図2B】皮膚組織の媒質における誘電正接およびヒト皮膚組織に対する法線入射における電磁波の侵入深さと周波数との関係を表す図である。
【
図2C】ヒト皮膚組織の界面における反射係数および透過係数と周波数との関係を表す図である。
【
図3】単一の誘電体層を備えるファントムデバイスの一実施形態の概略断面図である。
【
図4】半無限無損失誘電性媒質の等価誘電率の計算値と誘電性媒質の表面からの基本反射係数との関係を表す図である。
【
図5A】
図3のファントムデバイスについての複素反射係数の計算された絶対値と複素誘電率
【数3】
を有する第1の誘電体層の厚さとの関係を示す図である。
【
図5B】
図5Aと同じファントムデバイスについての複素反射係数の計算された位相と第1の誘電体層の厚さとの関係を示す図である。
【
図5C】
図5Aおよび
図5Bにおけるファントムデバイスの表面からの複素反射係数の計算された絶対値と、異なる厚さ値T
1=0.95mm、T
1=1.21mm、およびT
1=1.80mmについてのEM波の入射角との関係を表す図である。
【
図6】第1の誘電体層と第2の層とを備える電磁界ドシメトリ用のファントムデバイスの別の実施形態の概略断面図である。
【数4】
を有する
図6のファントムデバイスの一例からの反射係数の計算された絶対値と第1の誘電体層の厚さとの関係を表す図である。
【
図7B】
図6と同様のファントムデバイスについての複素反射係数の位相と第1の誘電体層の厚さとの関係を表す図である。
【
図7C】
図7Aおよび
図7Bにおけるファントムデバイスの表面からの複素反射係数の絶対値と、異なる厚さ値T
1=2.19mm、T
1=2.54mm、T
1=3.02mm、およびT
1=3.26mmについてのEM波の入射角との関係を表す図である。
【
図8】貫通孔を備える実施形態による複合媒質で作られた第2の層の概略断面図である。
【数5】
を有する第1の層と、矩形(実線)または円形(破線)を有する導電性材料(σ
2=10
7、T
2=0.1mm)のインクルージョンを含む複合材料で作られた第2の層とを備える
図6のファントムデバイスの透過係数および反射係数とインクルージョンの表面充填率(SFF)との関係を表す図である。
【
図9B】円形パッチ(1)、矩形パッチ(2)、円形貫通孔(3)、および矩形貫通孔(4)と呼ばれる異なる形態のインクルージョンによって特徴付けられる、
図9Aにおけるデバイスの単位構造の4つの異なる構成を表す図である。
【
図10】発生源からの電磁波に曝露されたヒト頭部の形態の参照物体の例を再現する電磁界ドシメトリ用のファントムデバイスのさらに別の実施形態の概略断面図である。
【
図11A】複雑な幾何学的形状を有する3D参照物体の概略図である。
【
図11B】
図11Aの3D参照物体の電磁応答を再現しつつ3Dプリミティブ形状を形成する複数の単位構造を備えるファントムデバイスの概略図である。
【
図11C】
図11Aの3D参照物体の電磁応答を再現しつつ2D平面構造を形成する複数の単位構造を備えるファントムデバイスの概略図である。
【
図12A】一実施形態による、各第2の層が円形貫通孔を備える、複合媒質で作られた第2の層にZ交差する水平XY平面内に4つの単位構造を備えるファントムデバイスの概略断面図である。
【
図12B】隣接する単位構造の貫通孔が結合するように単位構造の表面の表面積比が約80%である円形貫通孔を備える複合媒質で作られた第2の層にZ交差する水平XY平面内に4つの単位構造を備えるファントムデバイスの概略断面図である。
【
図12C】一実施形態による、各単位構造が、導電性媒質内の導電性円形インクルージョンを備える、複合媒質で作られた第2の層にZ交差する水平XY平面内に4つの単位構造を備えるファントムデバイスの概略断面図である。
【
図13A】2つの周波数部分帯域において2つの異なる電磁応答を再現するように構成された電磁界ドシメトリ用のファントムデバイスの一実施形態の概略断面図である。
【
図13B】2つの周波数部分帯域において2つの異なる電磁応答を再現するように構成された電磁界ドシメトリ用のファントムデバイスの別の実施形態の概略断面図である。
【
図14】2つの周波数における2つの電磁応答を再現するように第1の誘電体層に埋め込まれた周波数選択層を備える電磁界ドシメトリ用のファントムデバイスのさらに別の実施形態の概略断面図である。
【
図15】
図6のファントムデバイスを備える電磁界ドシメトリ用のシステムの一実施形態の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
「上部」、「下部」、「上方」、「下方」、「間」、「上」、および他の同様の用語は、相対的な位置を指す。これらの用語の相対位置は、各層をベクトル空間の向きに定義するものでも限定するものでもない。
【0047】
理解を容易にするために、各図に共通する同一の要素を指定するために同一の参照番号が使用されている。1つの実施形態において開示された要素は、特定の記載なしに他の実施形態に有益に利用され得る。
【0048】
本開示では、「層」という用語は、一定の厚さまたは可変厚さを有する構造を指す。層は平面状であっても曲面状であってもよい。特に、層は、人体の一部、たとえば、頭部または手の3D形態を再現するように形作られてもよい。層は、円筒形の物体の側壁などの閉ループを形成するように形作られてもよい。
【0049】
本開示では、「ドシメトリ」という用語は、平均表面積または体積に対して定義された電力密度、エネルギー密度、比吸収率、比エネルギー吸収率、電界強度、磁界強度、電圧、または電流を含む、電磁曝露レベルを定量化するために使用される任意のメトリックを指す。
【0050】
本開示では、「有効誘電率」という用語は、一様な層を表すバルク材料の誘電率の加重平均ではなく、複合材料の異なる部分の誘電率の加重平均の意味で理解され得る。波長よりも小さいサイズを有するインクルージョンを含む複合材料については、2つの部分の体積比として近似的に定義され得る。より大きいインクルージョンの場合、有効値は、インピーダンスマッチング条件(2つの隣接する媒質の複素誘電率の比によって定義される)として理解され得る。たとえば、このことは、貫通孔のサイズを変化させるか、または媒質に埋め込まれたインクルージョンのサイズを変化させることによって行うことができる。厚さが1波長よりも小さい誘電体層の場合、「有効誘電率」は2つのパラメータ、すなわち、波長によって正規化されたバルク誘電率および層厚さの、関数として定義される。
【0051】
本開示では、「侵入深さ」は、電磁表皮深さの従来の定義に従って、媒質の内部の1GHz~10THzの周波数範囲内の所定の周波数f1を有するEM波の強度がファントム構造の誘電体層の表面における強度の約13%である媒質の内部の深さを指す。
【0052】
本開示では、「参照物体」という用語は、所定の周波数、偏光、および表面法線ベクトルに対して定義された入射角によって特徴付けられる、電磁波源によって放出された電磁波によって照明されたときの所定の電磁応答によって特徴付けられる構造を指す。以下では、電磁応答は、複素反射係数の絶対値(すなわち、大きさ)、または複素反射係数の位相、または散乱断面、または少なくとも参照物体の表面領域の一部および/もしくは前記表面領域に入射する電磁界の一部について定義することのできる散乱パターンを含む、前記参照物体によって散乱させられる電磁界を定量化するために使用される任意のメトリックを指すことができる。電磁界の前記一部は、1つの偏光、または入射角の所与の角度範囲、またはより広い周波数範囲内の周波数部分範囲を表し得る。参照物体の前記所定の電磁応答は、現実的な使用の場合の照明条件の下で得られる電磁測定値または文献から判定され得る。本発明によって説明される参照物体の例の非限定的なリストには、生物(たとえば、ヒト、鳥、動物)の任意の生体組織、前記生物の体の任意の解剖学的部分(たとえば、頭部、胴部、腕、手、脚など)、または有する形状によって、もしくは所定の周波数、偏光、および入射角を有する電磁波によって照明されたときの既知の電磁応答もしくは目標電磁応答によって特徴付けされ得る任意の他の参照物体が含まれ得る。好ましい実施形態では、参照物体は、電磁応答が文献から知られている、ヒト皮膚組織などの生体組織を表す。
【0053】
図1を参照すると、参照物体、たとえば、ヒトの皮膚の表面からの電磁応答が示されている。ヒトの皮膚は、厚さT
1を有し、平面(XY)に沿って延びる損失材料の層を備える構造によって表される。この構造は、空気であり得るホスト媒質によって取り囲まれる。
【0054】
参照物体の上面からある距離に電磁波源2が配設されている。発生源2は、携帯電話、またはウエアラブルデバイスもしくは携帯デバイスを含む任意の他のワイヤレスデバイスであってもよい。発生源は、電磁信号を送受信するために発生源の本体に接続された1つまたは複数のアンテナまたは照射構造を備える。
【0055】
図1に示されるように、発生源2によって提供される所定の周波数における電磁波4は、ヒトの皮膚の上面を照明する。入射電磁波5の一部は、層1の上面3によって反射され、入射電磁波6の一部は、層1を貫通し、層1の損失媒質に吸収される。
【0056】
図2A~
図2Cは、ヒト皮膚組織の電磁特性と入射電磁波の周波数との関係を示す。
【0057】
図2Aは、複素誘電率の実部および虚部と6GHz~300GHzの周波数との関係を示す。
【0058】
図2Bの曲線Aは、
図2Aに表された複素誘電率の虚部と実部との比として定義される6~60GHzの周波数範囲内の誘電正接の増大を示す。曲線Bは、侵入深さの減少と周波数との関係を示す。侵入深さは、周波数が60GHzを超える場合は0.5mm未満である。
【0059】
図2Cは、空気と層との間の界面における、皮膚表面での反射係数および透過係数と、層1の上面3への法線入射における電磁波の周波数との関係を示す。
【0060】
本発明は、生体組織などの電磁損失媒質で作られた参照物体の表面が、電磁波源2によって放出された電磁波によって照明されたときの参照物体の電磁応答を再現する新しいファントムデバイスを提案する。
【0061】
次に、
図3を参照しながら、本開示の一実施形態によるファントムデバイス10について説明する。
【0062】
ファントムデバイス10は、水平面(XY)内を延びる誘電体層12を備える。
図3の実施形態では、ファントムデバイス10は、誘電体層12を備え、誘電体層12は2つの主面、すなわち、電磁波源2に面する上面13および電磁波源2とは反対側の下面14を画定する。
【0063】
別の実施形態では、ファントムデバイスは、複数の誘電体層を備えてもよい。
【0064】
上面13は、入射電磁波4を少なくとも部分的に透過させる。下面14は、発生源によって放出され、層12を透過した電磁波4を少なくとも部分的に反射する。
【0065】
図3を参照すると、発生源2によって放出された電磁波4は、第1の誘電体層12の上面13に入射し、入射電磁波は、上面13によって部分的に反射される。反射されたEM波は、参照番号5によって示される。空気-誘電体界面における、上面によって反射されないEM波の一部が、上面13から誘電体層12を通って下面14まで伝播し、層12の誘電体層媒質において部分的に吸収される。第1の誘電体層12を透過した電磁波は次いで、下面14によって部分的に反射される。反射されたEM波は、参照番号6によって示される。
【0066】
ファントムデバイス10は、上面13から反射された波5と下面14から反射された波6との間の相互作用を使用することによって参照物体の上面からの所望の電磁応答を再現することができる。このことは、ファントムデバイスの上面13からの、程度の差はあるが顕著な反射をもたらす2つの波の間の強め合いの干渉または弱め合いの干渉を介して実現され得る。上面13からの複素反射係数は次のように定義される。
【0067】
【0068】
上式において、
【0069】
【0070】
および
【0071】
【0072】
は、上面13および下面14に関連付けられた2つの反射されたEM波であり、ρ1およびρ2はそれぞれ、EM界偏光および入射角の関数として定義される上面および下面に関連付けられた基本反射係数であり、T1は、層12の厚さであり、γ1 = α1 + jβ1は、次のように定義される、層12の媒質内の減衰α1および位相β1因子を記述する伝播定数である。
【0073】
【0074】
【0075】
関係式(1)によれば、第1の反射波
【0076】
【0077】
は、誘電体層12と層12の上方のホスト媒質との間の界面における上面13からの基本反射係数ρ1によって決定される。第2の反射波
【0078】
【0079】
は、誘電体層12と層12の下方のホスト媒質との間の界面における下面14からの基本反射係数ρ2に関連付けられる。第2の反射波
【0080】
【0081】
は、層12の複素誘電率、層12の厚さT1、および層12の下方のホスト媒質の複素誘電率によって決定される。したがって、層12の厚さT1および/もしくは複素誘電率
【0082】
【0083】
、ならびに/または層12の下方のホスト媒質の複素誘電率を変化させることによって、第2の反射波の振幅および位相を適応させることが可能である。
【0084】
本開示のファントムデバイスは、参照物体、たとえばヒト組織の上面から対応する電磁応答を再現するために必要な、層12の表面からの、複素反射係数rpまたは複素反射係数の大きさ|rp|のみなどの所望の電磁応答を生成するための複素誘電率
【0085】
【0086】
と厚さT1との特定の組合せによって定義される。
【0087】
好ましい実施形態では、半導体(結晶シリコン)、酸化物(金属酸化物および強誘電酸化物など)、セラミックス(アルミナおよびドープされたペロブスカイト材料)ならびに複合セラミック/ポリマー材料を含む材料のグループからの、高い誘電率(7~40の範囲内の
【0088】
【0089】
)および比較的低損失の(tanδ<0.05)材料、または逆に、有効複素誘電率の必要な値を実現するために導電性添加物(微粒子、ナノロッド、ナノワイヤなどの形態の炭素、グラフェン、銀など)がドープされた様々なタイプのガラス、プラスチック(テフロン(登録商標)、カプトン、ポリメチルメタクリレート、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリカーボネートなど)、樹脂(エポキシなど)または有機ポリマー材料(PDMSなど)を含むグループ材料からの、複素誘電率の実部の適度な値(3~16の範囲内の
【0090】
【0091】
)および比較的高い損失(tanδ<0.5)を有する材料に対応し得る、3~40の範囲内の絶対値を有する複素誘電率
【0092】
【0093】
によって特徴付けられる。より具体的には、第1の誘電体層12の複素誘電媒質の有効複素誘電率の実部は、4~12の範囲で選択されてもよく、誘電正接は0.01~0.3の範囲になる。
【0094】
この好ましい実施形態では、誘電体層12は、層12の媒質内の、周波数f1を有する電磁波の、1/10波長~10波長の範囲内、好ましくは1/4波長~4波長の範囲内の厚さT1によってさらに特徴付けられる。
【0095】
有利には、しきい値Trによって定義される公差によってシミュレートされる参照物体から複素反射係数の絶対値(すなわち、大きさ)を再現するように層12の有効複素誘電率
【0096】
【0097】
および厚さT1を選択することが可能である。
【0098】
(|rp|-|rref|)2/|rref|2≦Tr (4)
【0099】
上式において、r
refは、参照物体の上面からの複素反射係数、言い換えれば、達成すべき目標値を表す。r
pは、数式(1)によって定義された
図3におけるファントムデバイスの上面からの複素反射係数を表し、T
rは、目標値およびファントムデバイスによって再現される値から許容される相対偏差を表す。好ましい実施形態では、T
rは10
-4~10
-2である。
【0100】
誘電体層12は、粒子もしくはインサートなどの導電性フィラーで有益にドープされた誘電材料、または複素誘電率の異なる値によって特徴付けられる別の材料のインクルージョンを備える材料で作られてもよい。層の材料、ドーピングのタイプ、およびその体積比は、複素反射係数またはその大きさなど、層12の上面13からの所望の電磁応答を再現するために必要であり、層12の厚さT1と組み合わされる複素誘電率
【0101】
【0102】
を有するように選択される。
【0103】
一実施形態では、参照物体は、ヒト皮膚組織であり、第1の誘電体層12の複素誘電率
【0104】
【0105】
および厚さT1は、ヒト組織の表面から複素反射係数の絶対値を再現するように選択される。たとえば、複素反射係数の絶対値は、6GHz~300GHzの周波数範囲内の周波数f1において0.40~0.75の範囲内である。
【0106】
ファントムデバイスは、生体組織の電磁反射係数を再現する単位構造を作成するために使用され得る。有利には、ファントムデバイスは、1GHz~10THz、たとえば6GHz~300GHzの周波数範囲内の所定の周波数を有する非電離電磁放射に曝露されたときの比較的高い反射率(|rref|≧0.4の範囲内)によって特徴付けられる任意の他の平面状または3D物体の電磁応答を再現する単位構造を作成するために使用され得る。たとえば、本開示のファントムデバイスは、少なくとも1つの反射面を有する参照物体、たとえば、車両、ドローン、ロボット、または屋内環境の要素の表面からの電磁応答を再現するために有益に使用され得る。言い換えれば、本開示のファントムデバイスは、対応するEM散乱問題を解決することによって測定され得るかまたは分析的に予測され得る所与の参照パターンに従って、反射モードと透過モードの両方において表面から調整されたEM応答を生成するために使用され得る。
【0107】
一実施形態では、ファントムデバイスは、
図3および
図6に示されるように2D平面状構造を形成し得る1つの単位構造を備える。別の実施形態では、
図10および
図11Bを参照すると、ファントムデバイスは、参照物体の形態を再現する複雑な形状を形成する複数の単位構造を備えてもよい。
【0108】
図4は、半無限無損失誘電性媒質の等価誘電率と次のように算出される上面における空気/誘電体界面からの基本反射係数ρとの関係を表す。
【0109】
【0110】
陰影ゾーンは、
図2Cに表される生体組織などの参照物体からの基本反射係数の値の範囲を表す。等価誘電率が12未満である一般的な低損失誘電材料(テフロン(登録商標)、架橋ポリスチレン樹脂、石英、シリコンなど)では、基本反射係数によって表される上面からの反射は0.55を超えず、これは、生体組織などの参照物体の表面からの基本反射係数の所望の値の全範囲をカバーするには不十分である。さらに、一般的な材料を限定的に選択すると、基本反射係数の離散した1組の実施可能な値のみが許容される。半無限媒質を誘電体層12で置き換え、下面14などの第2の反射面を設けることによって、層の厚さが層の媒質内の入射電磁界の半波長の倍数であるので、上面13からの反射係数の大きさはほぼ2倍にされ得る。逆に、4分の1波長厚さでは、複素反射係数の大きさは、非常に小さいレベルに低減され、下面によって反射される波の部分が、層媒質内において伝播損失を受け得る。層媒質の厚さおよび有効複素誘電率を変化させることによって、当業者は、生体組織などの参照物体の反射係数に等しい反射係数の必要な値をもたらすこれらのパラメータの組合せを求めることができる。
【0111】
図5Aは、例示的なファントムデバイスからの複素反射係数の大きさと層12の厚さとの関係を表す。層12は、有効複素誘電率
【0112】
【0113】
によって特徴付けられる化合物で作られる。
図5Aに表されたデータによって予測されるように、ファントムデバイスが、実線水平線によって示される60GHz(|r
ref| = 0.615)におけるヒト皮膚組織からの複素反射係数の大きさを再現することを可能にする、円形マークによって強調された複数の厚さ値がある。これらの値は、2つの波、すなわち、数式1によって定義される、上面(13)から反射された第1の波および下面(14)から反射された第2の波の部分的な寄与を記述する2つの項の和によって定義されるファントム反射係数(|r
p| = |r
1+r
2|)の大きさを表す振動する実線曲線の交差点に出現する。
【0114】
図5Bでは、
図5Aと同じ例示的なファントムデバイスについての複素反射係数の位相と層12の厚さとの関係が、実線水平線によって示される、参照物体の複素反射係数と重畳されている。円形マークは、
図5Aによれば、反射係数の同じ大きさを提供する厚さ値のセットを示す。厚さ値のこのセットが、周波数60GHzを有する電磁波によって照明されたときの生体組織などの参照物体と同じ複素反射係数の位相および大きさの所望の値を同時に提供する1つの値(T1=0.95)を含むことが理解されよう。同時に、円形マークによって強調表示された厚さ値のセットにおける他の値は、反射係数の大きさを再現するのを可能にする一方、異なる位相応答をもたらす。以下において説明するように、この機能は、人体の解剖学的一部などの参照物体の反射係数の大きさを再現するファントムデバイスの角度散乱特性を制御する手段として有益に使用され得る。したがって、ファントムデバイスが下記において
図11Bおよび
図11Cにおいて示されるように複数の単位構造を備え、反射係数の同じ大きさを再現する構成では、層12についての厚さ値の適切なセットを選択することによって異なる位相応答を取得することが可能である。これによって、平面状ファントムデバイスの表面からの反射角度を変化させて3D形状の参照物体の散乱特性を再生することが可能になる。
【0115】
図5Cは、
図5Aにおける円形マークによって示される厚さ値のセットからの3つの異なる厚さ値についての複素反射係数の大きさとTEおよびTM偏光を有する電磁波の入射角との関係を表す。
図5Cにおいて表されたデータによって予測されるように、すべての3つの構成におけるファントムデバイスは、参照物体の角度応答と同様の角度応答を提供する。すべての3つの場合に、少なくとも1つの偏光についておよび少なくともある角度範囲について完全な一致がもたらされる。特に、厚さT
1=0.95を有するファントムデバイスの場合、0~45度の角度範囲における少なくともTM偏光についてT
r=10
-4の精度しきい値がもたらされ、一方、2つの他の構成について、TE偏光について角度範囲全体において、およびTM偏光の場合に少なくとも0~30度の範囲において同じしきい値がもたらされる。
【0116】
したがって、本開示のファントムデバイスは、生体組織などの電磁損失媒質で作られた参照物体の表面が、電磁波源によって放出された所定の周波数を有する電磁波によって照明されたときの、参照物体の電磁応答を再現する一方、6GHz~300GHzの範囲においてファントムデバイスの表面に入射する電磁波をファントム構造が電磁透過させるように特に設計されてもよい。言い換えれば、本開示のファントムデバイスは、参照物体、たとえばヒト組織の表面からの複素反射係数を再現する一方、入射電磁波をファントムデバイスの構造全体に部分的に透過させることができる。
【0117】
図3の実施形態では、層12は、ファントム構造を形成し、層12の上面13から反射応答を再現する一方、周波数f1において電磁波源によって放出された入射電磁波についてある電磁透過性(または透過率)をもたらすことができる。したがって、電磁波の一部が層12を透過する。一近似では、層12における透過係数は、次式のように、層12の上面13および下面14における基本反射係数ならびに数式2および3によって定義される伝播定数の関数として推定され得る。
【0118】
【0119】
三角形マークによって強調表示された厚さT
1=0.95mmを有する
図5Aにおけるファントムデバイスについて、数式6は、約30%のファントムデバイスにおける透過係数の大きさを予測し、すなわち、|tp|≒0.3である。
【0120】
好ましい実施形態では、第1の誘電体層12は、絶対値(すなわち、大きさ)を有する透過係数が少なくとも0.1に等しいことによって特徴付けられる。言い換えれば、誘電体層を透過する電磁波の振幅は、ファントムデバイスの上面13に入射する電磁波の少なくとも10%であるものとする。
【0121】
そのような実施形態では、ファントムデバイスは、電磁波源によって放出された非電離電磁放射に曝露されたヒト組織の複素反射係数の大きさまたは大きさと位相の両方を再現する2D平面状ファントム構造を作成するために使用され得る。たとえば、電磁波源は、1GHzを超えるマイクロ波範囲、特に6GHzを超える周波数において動作する携帯ワイヤレスデバイスであってもよい。そのような半透過ファントムデバイスは、ワイヤレスデバイスの曝露限界順守試験用のドシメトリシステムにおいて使用され得る。提案されたファントムデバイスは、ヒト組織に置き換わることができ、電磁波のファントムデバイスへの侵入深さを深くするための高電磁損失(tanδ≧0.3)および/またはファントムデバイスの構造を透過する電力の量によって特徴付けられ、したがって、6GHzを超える周波数でも測定の感度および精度を向上させる。ドシメトリシステムの一実施形態について以下に
図15を参照しながら説明する。少なくとも1つのセンサーが、誘電体層12の下方に配置され、誘電体層12を透過した電磁波に関する物理量を測定するように適応される。
【0122】
図6は、ファントムデバイス30の別の実施形態の概略断面図である。
【0123】
デバイス30は、複素誘電率
【0124】
【0125】
によって特徴付けられる第1の誘電体層12と第2の誘電体層16とを備える。第1の誘電体層12は第2の層16上にある。
【0126】
発生源2によって放出された電磁波4は、第1の誘電体層12の上面に入射し、入射電磁波は上面13によって部分的に反射される。反射されたEM波は参照番号5によって示される。空気-誘電体界面において上面13によって反射されないEM波の一部は、誘電体層12を通って上面13から下面14まで伝播する。第1の誘電体層12を透過した電磁波は、次いで下面14によって部分的に反射される。反射されたEM波は、参照番号6によって示される。第1の層12と第2の層16との間の界面における入射電磁波の一部は第2の層16を透過する。
【0127】
一実施形態では、この第2の層16は、102S/m~107S/mの範囲内の導電率σ2によって特徴付けられる。この第2の層は、層12の媒質の誘電率と層16の媒質の誘電率との比に応じて下面14からの反射を調整し、増大または低減させることを可能にする。したがって、導電性材料で作られたこの第2の層16の存在に起因して、入射波の大部分が下面14によって反射され、第1の層12内の電磁波の減衰が高くない場合、第2の波の振幅が第1の波の振幅を超え得
【0128】
【0129】
、下面14から反射された第2の波からの寄与が優勢になる。
【0130】
有利には、厚さT2を変化させることによって基本反射係数ρ2を適応させることが可能である。
【0131】
厚さT2が層16の媒質内の電磁波の侵入深さよりも大きい実施形態では、下面14からの反射は単に、層16のバルク材料の複素誘電率によって定義される。
【0132】
厚さT2が層16の媒質内の電磁波の侵入深さよりも小さい実施形態では、下面14からの反射は、導電層のシート抵抗の関数として予測され得、導電層のシート抵抗は、直接測定され得るか、または層16のバルク材料導電率および厚さの関数として文献から得ることができる。
【0133】
厚さT2が層16の媒質内の電磁波の侵入深さと同等であるさらに別の実施形態では、下面14からの反射は、第1の層の場合と同様に、バルク材料誘電率および厚さの関数として定義され得る。有利には、第2の層は、第1の誘電体層と第3の層との間に挟まれ得る。したがって、第2の層16の選択された材料について、第2の層16の厚さと第3の層の複素誘電率および厚さとを調整することによって、第2の波
【0134】
【0135】
の振幅および位相を変化させることが可能である。
【0136】
一実施形態では、第1の層12の厚さは有利には、しきい値
【0137】
【0138】
とほぼ等しい値が選択され、ここで、
【0139】
【0140】
は上面および下面から反射された2つの波(数式1において定義されている)が同じ振幅(すなわち、
【0141】
【0142】
)を有する平衡点である。この厚さは、
図7Aにおいて点Pによって示されており、厚さの値は次のように推定され得る。
【0143】
【0144】
好ましい実施形態では、第1の層12の厚さは、平衡点よりもわずかに大きい厚さが有益に選択され得る
【0145】
【0146】
。その理由は、この値が、ほぼゼロから、層12の上面からの基本反射係数の2倍値までのファントム反射係数変動のより広い動的範囲、ならびにファントムデバイス(rp)からの反射係数の大きさが、数式4に定義されたある許容可能な公差を伴って皮膚(rref)の反射係数に等しい周波数範囲に対応するより広い性能帯域幅をもたらすより遅い位相変動を提供することができるからである。
【0147】
図7Aおよび
図7Bは、
図6の例示的なファントムデバイスの表面からの複素反射係数の大きさおよび位相と第1の層の厚さとの関係を表す。第1の層12は、
【0148】
【0149】
によって特徴付けられる複合材料で作られる。第2の層16は、高導電性σ2=107 S/mを有する材料で作られる。
【0150】
図7Aに示されるように、複素反射係数の大きさを表す曲線の挙動は、単一層構造12について
図5Aにおいて観測される複素反射係数と同様である。複素反射係数の絶対値は振動し、第1の層の基本反射係数の値に等しくなる(r
1=ρ
1)。点Pは、数式(7)によって定義される平衡点を表す。
【0151】
第2の層16からのより強い反射に起因して、反射係数|rp|の初期値は、60GHz(rref)においてヒト皮膚組織の目標参照値を超える。このことは太い水平線によって表されている。しかしながら、ヒト組織の反射の目標値は、それにもかかわらず、T1=0.36mmまたはT1=0.47mmもしくは1.06mmなどについて円形マークによって強調表示されたいくつかの点において提供され得る。
【0152】
第2の導電性層16の存在は、下面14における基本反射係数の制御に寄与する。言い換えれば、第2の導電性層16は、第2の反射波の振幅および位相の制御を行う。全反射の最大値は、2つの波
【0153】
【0154】
が同相であるときに取得される。この条件は、第1の層12の厚さの適応された値および第1の層の複素誘電率の適切な値を判定するために使用され得る。
【0155】
複素反射係数の位相を表す
図7Bによって予測されるように、反射係数の大きさの同じ目標値は、±60°の範囲内の異なる位相値に対応してもよい。対応する厚さ値は、
図7Aと同様に円形マークを用いて強調表示されている。
図5におけるファントムデバイスと同様に、強調表示された厚さ値のセットは、60GHzにおけるヒト皮膚などの参照物体と同じ複素反射係数の大きさおよび位相を提供する1つの値(T
1=3.02mm)を含む。
【0156】
図7Cは、
図7Aおよび
図7Bと同じ例示的なファントムデバイスの表面からの反射係数と
図7Aにおける強調表示された厚さ値のセットに対応する4つの厚さ値、T
1=2.19mm、T
1=2.54mm、T
1=3.02mm、およびT
1=3.26mmについてのTEおよびTM偏光を伴う電磁波の入射角との関係を表す。
図5Cにおけるファントムデバイスと同様に、
図7Cにおけるファントムデバイスは、すべてのその構成において、少なくとも1つの偏光および公差しきい値の所与の値について定義することができるある角度範囲について提供される許容可能な公差を含む参照物体の角度応答と同様の角度応答をもたらす。
【0157】
一実施形態では、第2の層16は、ファントム構造に入射し、第1の誘電体層12を透過した電磁波を少なくとも部分的に透過させる。
【0158】
一実施形態では、第2の層16は、複素誘電率
【0159】
【0160】
および厚さT2を有する誘電材料で作られ、それによって、電磁波の第2の層16への侵入深さは少なくとも1つの第2の層の厚さよりも小さい。侵入深さは、第2の層の減衰係数によって定義される。この設計は、第2の層の下面17からのあり得る反射の影響を最小限に抑えることを可能にし、したがって、第2の層16の複素誘電率を変化させることによって第1の層12の下面14からの基本反射を制御することを可能にする。
【0161】
有利な実施形態では、デバイスは、第1の層12と、第2の層16と、第3の層とを備える。第2の層16は、侵入深さを厚さT2よりも大きくする誘電材料で作られる。第2の層16は、第3の層上にあり、第2の層16の下面は、第3の層の上面に接触している。第3の層は、抑制しなければ第2の層16の下面からの第2の反射波
【0162】
【0163】
の振幅および/または位相を変化させ得る後方反射を、少なくとも部分的に抑制することができる吸収材料で作られる。したがって、この実施形態では、第2の層16が第1の層と第3の層との間に挟まれ、第2の層16の複素誘電率および厚さならびに/または第3の層の複素誘電率および厚さを変化させて第2の波
【0164】
【0165】
の振幅および位相を調整することが可能である。
【0166】
さらに別の実施形態では、ファントムデバイスは、第1の誘電材料12と第2の層16とを備える。第2の層16は、複合媒質で作られ、複合媒質は、少なくとも102S/mに等しい導電率σ2を有する導電性材料で作られた第1の部分と、誘電材料で作られた第2の部分とを備える。第1の層12と第2の層16との間の界面に関連付けられた、下面14からの基礎反射の係数および下面14を貫通する透過の係数は、第2の層16の複合媒質の2つの部分の体積比によって定義される。第2の層は、反射性を有し、したがって、入射電磁波に対して基本的に不透過である導電性材料の第1の部分と、入射電磁波を少なくとも部分的に透過させる、誘電材料の第2の部分とを備える。言い換えれば、そのような複合媒質は、2つの部分の体積比の関数として定義された有効複素誘電率によって特徴付けられ得る。したがって、2つの部分の体積比または表面充填率(SFF)を変化させることによって全反射係数rpおよび全透過係数を変化させることが可能である。
【0167】
好ましい実施形態では、第1の部分と第2の部分との間の体積比は、第1の層12と第2の層16との間の界面において下面14から反射されたEM波の一部の、ファントムデバイスの上面13からの全反射係数への相対寄与が、少なくとも5%を構成するように、10%~90%の範囲内で選択される。
【0168】
図8は、複合媒質で作られた第2の層を備える単位構造30の実施形態を表す。
図8は、一実施形態による水平XY平面内の第2の層16の断面図を表す。第2の層16は、導電性材料で作られ、導電率が少なくとも10
2S/mに等しく、厚さT
2がEM波の前記導電性材料への侵入深さよりも大きいことによって特徴付けられる。導電性材料は、金属、酸化物、半導体、炭素、黒鉛、グラフェン、または前記導電性材料のうちのいずれかの微粒子がドープされたポリマー材料であってもよい。第2の層は、XY平面において任意の形状を有する貫通孔18を備える。貫通孔は、誘電材料が充填され、EM波についての透過ゾーンを形成する。誘電材料は、固体誘電体、ゲル、液体、または気体であってもよい。貫通孔18は、第1の層の媒質または貫通孔18を充填する媒質内において波長の4分の1に少なくとも等しい長さを有する輪郭線によって特徴付けられる。貫通孔の表面積は、単位構造の全表面の10~90%の範囲内である。貫通孔は、円形形状または方形形状を有してもよい。この構成では、表面充填率(SFF)は、前記貫通孔を備える単位構造の全表面に対する貫通孔によって占有される表面の比に対応する。
【0169】
図9Aは、
図6のファントムデバイスの複素透過係数および反射透過係数の大きさと第2の層16の媒質内の導電性インクルージョンの表面充填率(SFF)との関係を表す。第1の層12は、
【0170】
【0171】
および厚さT
1=1.55mmによって特徴付けられる
図7と同じ材料で作られる。第2の層16は、誘電性媒質内に規則的パターンを有するように配置された導電性インクルージョンの可変表面充填率(SFF)を有する複合材料で作られる。
図9Bは、以下では円形パッチ、矩形パッチ、円形貫通孔、および矩形貫通孔と呼ばれる4種類のインクルージョンを概略的に示す。
図9Aは、4種類のインクルージョンについての透過係数および反射係数を表す曲線を示す。
図9Aは、EM反射係数が、
図3の単一層ファントムの最小値にほぼ等しい|r
p|≒0.4の最小値から
図6の2層構造に対応する|rp|≒0.8の最大値まで単調に調整され得ることを示す。したがって、インクルージョンを導入することによって、反射係数は徐々に大きくなる。インクルージョンのタイプに応じて、|rp|≒0.61の目標参照値が35%~60%の範囲内の表面充填率(SFF)の異なる値について提供され、35%~60%の範囲は、0.1~0.3の範囲内のデバイス|t
p|の全透過係数に対応する。したがって、本開示のデバイスに起因して、電磁波源2の反対側の、ファントム層の下方に配置されたセンサーについて信号対ノイズ比を改善することができる。このことは、高損失皮膚組織の電磁特性を直接再現することによって電磁応答を再現することを目的とする先行技術の解決策に対する電磁界ドシメトリ用の提案されたデバイスの利点の1つである。
【0172】
図12A、
図12B、および
図12Cは、ファントムデバイスが複数の単位構造を備えるときに第2の複合層の3つの実施形態を示す。
【0173】
図12Aは、4つの同一の単位構造を備えるファントムデバイスの例を表す。各単位構造は、第1の誘電体層と第2の複合層16.1、16.2、16.3、16.4とを備える。
図12Aは、4つの単位構造のそのようなアセンブリにおいて使用される水平XY平面内の第2の層の断面図を表す。各第2の層16.1、16.2、16.3、16.4はそれぞれ、(空気などの)ホスト媒質で充填され表面積比が単位構造の表面の約20%である円形貫通孔18.1、18.2、18.3、18.4を備える。この実施形態では、貫通孔は孤立物体を形成する。
【0174】
図12Bは、4つの単位構造を備えるファントムデバイスの例を表す。各単位構造は、第1の誘電体層と第2の複合層16.1、16.2、16.3、16.4とを備える。
図12Bは、4つの単位構造のそのようなアセンブリにおいて使用される水平XY平面内の第2の層の断面図を表す。各第2の層16.1、16.2、16.3、16.4はそれぞれ、表面積比が単位構造の表面の約80%である円形貫通孔18.1、18.2、18.3、18.4を備える。この実施形態では、貫通孔が結合されて孤立金属物体を形成する。
【0175】
図12Cは、4つの同一の単位構造を備えるファントムデバイスの一例を表す。各単位構造は、第1の誘電体層と第2の複合層16.1、16.2、16.3、16.4とを備える。
図12Cは、4つの単位構造のそのようなアセンブリにおいて使用される水平XY平面内の第2の層の断面図を表す。各第2の層16.1、16.2、16.3、16.4は、それぞれ、導電性材料で作られ表面積比が単位構造の表面の約20%である円形インクルージョン18.1、18.2、18.3、18.4を備える。この実施形態では、円形インクルージョンは、孤立導電性物体を形成する。
【0176】
貫通孔のこの2つのトポロジーによって、第2の層16の異なる導電性および熱伝導性が得られる。孤立金属パッチを有する
図12Bにおける構造の利点は、局所的な電流および加熱がもたらされ、それによって、反射波を自然に局所的に操作することが可能になることである。
図12Aでは、孤立貫通孔によって、第2の層16を通して透過波を局所的に操作することが可能になる。適切なEMおよび熱センサーの位置は、
図12Bの金属パッチまたは
図12Aの穴のいずれかに有益に揃えられてもよい。
【0177】
一実施形態では、第2の層16に、第1の層12の上面に入射し第1の層12を透過した電磁波を少なくとも部分的に透過させることが、さらに有益であり得る。この半透過ファントム構造は、第2の層16の下方に配置された少なくとも1つのセンサーを備える電磁界ドシメトリシステムにおいて使用され得る。センサーは、第2の層16の下面からある距離に配置されてもよく、または第2の層16の下面に取り付けられてもよい。センサーは、デバイスに入射する電磁界に関する物理量を測定するように構成される。構造における透過率は、上面(ρ1)および下面(ρ2)の基本反射係数の値、厚さT1、および数式(6)によるバルク材料複素誘電率に関する伝播定数γ1に基づいて推定され得る
【0178】
図10を参照しながら、ファントムデバイス40の別の実施形態の概略断面図について説明する。
【0179】
図10は、発生源2によって放出された電磁波に曝露されたヒト頭部の形の参照物体20を表す。参照物体20は、位相幾何学図によって定義されるノードのセットによって表される上面21を備える。一近似では、各メッシュセル21.iは平坦であると見なされ、したがって、メッシュセルのノードの位置、および既知であると仮定される電磁波源の位置に対して定義される入射角θ
iによって特徴付けられる。厳密には、入射角θ
iは、電磁波源2のアンテナ位相中心の位置および表面法線ベクトルに対して定義される。この仮定の下に、ファントムデバイスの少なくとも1つの単位構造によって各メッシュセルを表すことが可能である。したがって、複数の単位構造によって参照物体の表面領域の一部を再現することが可能である。一実施形態では、電磁波源の周りの後方反射をもたらす表面領域のみからEM散乱を再現すれば十分であり得る一方、入射電磁波を発生源以外の方向に散乱させる他のすべての領域は無視され得る。たとえば、
図10では、参照物体20の表面領域の再現すべき部分はAとBとの間である。別の実施形態では、位相幾何学図のメッシュセルを表す各単位構造は、入射EM波のある角度範囲について複素反射係数の大きさ(または大きさと位相の両方)を再現するように設計され、この角度範囲は、発生源の相対位置および各セルに関連付けられた表面法線ベクトルによって定義される。これによってより大きい表面領域からEM散乱特性を再現することが可能になり得る。
【0180】
図10を参照すると、ファントムデバイス40は、複雑な幾何学的形状を有する参照物体から電磁応答を再現するための複数の単位構造を備える。各単位構造は、それ自体の複素反射係数r
p, nによって特徴付けられ、この場合、nは正数である。各単位構造は、
図3または
図6のファントムデバイスとして設計することができる。
【0181】
一例では、単位構造は、
図3と同様に単一の誘電体層12を備える。別の例では、単位セルは、
図6と同様に第1の誘電体層12と第2の層16とを備える。さらに別の例では、少なくとも1つの単位セルは、単一の誘電体層12と、第2の層16と、第3の層とを備える。各層の複合材料の厚さおよび/または有効複素誘電率は、参照物体の電磁応答を局所的に再現するように適応され得る。
【0182】
したがって、デバイスの複数の単位構造によって提供される電磁応答は、参照物体の複雑な形状を再現せずに、参照物体20の複雑な幾何学的表面21からの大きさおよび位相の両方に関して電磁応答を再現することを可能にする。たとえば、参照物体の表面領域の一部(AB)から電磁応答を再現する上面41の部分は、部分(AB)の凸形状とは異なる凸形状を呈する。複数の単位構造に起因して、デバイスは、参照物体の上面の形状とは異なる上面の形状を修正する一方、参照物体の電磁応答を再現することができる。
【0183】
図11Aは、それぞれに異なる入射角の下で参照物体に入射する電磁波源2からの複数の入射電磁波4に曝露された3D参照物体の別の例を表す。参照物体90は、複雑な幾何学的形状を有する外面を呈する。
【0184】
図11Bに示される一例では、ファントムデバイス70は、参照物体にある程度似ているが製造がより単純である形態でシェルを形成する複数の単位構造70.1、70.2、70.3、70. 4を備える。単位構造は、参照物体のそれぞれに異なる表面領域からの現実的なEM応答を再現するために使用される。
【0185】
図11Cに示される別の例では、ファントムデバイス80は、平面状構造を形成する一方、参照物体90の対応する表面領域から電磁応答を局所的に再現する複数の単位構造80.1、80.2、80.3、80.4を備える。
【0186】
一実施形態では、複数の単位構造は、反射係数の離散的な変更を行うように構成される。各単位構造は、それ自体の複素反射係数によって特徴付けられる。単位構造のサイズおよび形状は、表面に沿った複素反射係数の必要な変更を行うように選択され得る。そのようなデバイスが電磁界ドシメトリにおいて使用されるとき、各単位構造は少なくとも1つのセンサーに関連付けられてもよい。たとえば、単位構造は、熱を測定する広い視野を有する単一のセンサー、たとえば、IR画像センサーに関連付けられてもよい。
【0187】
別の実施形態では、複数のセル構造は、デバイスの上面に沿った位相の勾配および/または振幅の変化を伴う反射係数の連続的な変更を行うように構成される。単位構造のサイズおよび形状は、反射係数の連続的な変更を行うように選択され得る。
【0188】
好ましい実施形態では、複数の単位構造の使用に起因して、デバイスの局所的な透過性を適応させることも可能である。デバイスの上面からの反射と同様に、各単位構造はそれ自体の透過係数t
p, nによって特徴付けられ、この場合、nは正数である。一実施形態では、複数のセル構造は、単位構造に電磁波を離散的に透過させるように構成される。別の実施形態では、複数の単位構造は、単位構造における電磁波の透過を連続的に変化させるように構成される。
図10では、デバイスの、AとBとの間の部分の透過性が、連続的に変化するかまたは離散的に変化することができる。
【0189】
一実施形態では、デバイスは、少なくとも1つの単位構造に組み込まれた少なくとも1つの微小電気機械スイッチを備える。スイッチは、必要に応じて単位構造の幾何学的形状を変更することができる。たとえば、微小電気機械スイッチは、単位構造の厚さ、または単位構造の上面の曲率を変化させることができる。スイッチはまた、寄生要素のサイズまたは形状を変更することによって複素特性インピーダンスを制御するために使用され得る。スイッチはまた、必要に応じてインクルージョンのサイズもしくは形状またはインクルージョン間の間隔を変更することによって、複合材料で作られた第2の層16からの反射を変化させるために使用され得る
【0190】
一実施形態では、提案されたファントムデバイスは、参照物体を包んだり、参照物体の形状を再現する物体の外面に取り付けたりすることができる。したがって、最初平面状表面を呈する本開示のデバイスは、物体の形状に合わせることができる。したがって、デバイスは、物体の人工皮膚層を形成する。人工皮膚は、ファントムデバイスによって包まれた(または覆われた)物体の複素反射係数とは異なり得る参照物体の複素反射係数の特定の所望の値を再現することができる。
【0191】
好ましい実施形態では、提案されたデバイスは、3Dの複雑な形状によって特徴付けられる人体の一部、たとえば、頭部、胸部、手などであってもよいヒト組織の複素反射係数を再現するために使用され得る。
【0192】
一実施形態では、
図13Aを参照すると、ファントム構造50は、参照物体の電磁応答、たとえば、参照物体の電磁散乱および反射特性を少なくとも2つの異なる周波数において同時に再現するように構成される。ワイヤレス通信デバイスの大部分はいくつかの周波数帯域を使用することができる。たとえば、
図13Aでは、発生源は、6~300GHzの周波数範囲内のそれぞれに異なる部分範囲に対応する2つの異なる周波数f1、f2において電磁波を放出することができる2つのアンテナを備える。
【0193】
図13Aを参照すると、第1の層12の厚さは、対応する周波数における波長に関する第1の層12の相対厚さによって定義される、下面14から反射される第2の波によって累積される位相差に起因して、デバイスが2つの異なる周波数において複素反射係数の2つの所望の値を再現するように選択される。
【0194】
別の実施形態では、
図13Bを参照すると、第1の層12の厚さは、周波数f1を有するEM波の侵入深さよりも大きい一方、周波数f2を有するEM波の侵入深さよりも小さくなるように選択される。したがって、第1の周波数f1において下面14からの反射はなく、したがって、第1の周波数f1において上面13からの反射に対する寄与はない。2つの異なる周波数において2つの異なるEM応答が得られる。
【0195】
別の実施形態では、
図14を参照すると、ファントムデバイス60は、2つの周波数における異なる反射率および透過率を有する周波数選択層19をさらに備える。周波数選択層19は、少なくとも上面13または下面14に取り付けられ得る。別の実施形態では、周波数選択層19は層のうちの1つに埋め込まれ得る。
【0196】
図14では、ファントムデバイス60は、第1の層12に埋め込まれた周波数選択層19を備える。周波数選択層19は、第1の周波数f1における第1の入射電磁波を反射し、第2の周波数f2における第2の入射電磁波を透過させる。
図14では、周波数f1を有する第1の電磁波は、周波数選択層19から反射され、一方、周波数f2を有する第2の電磁波は、下面14から反射される。
【0197】
別の実施形態では、周波数選択層19は、共振スタブまたはパッチ要素を備える単一または二重層マイクロストリップ回路などの共振要素のアレイを備える。
【0198】
ファントムデバイスは、周波数選択層に起因して、両方の周波数において複素反射係数の所望の値を提供することができる。
【0199】
図15を参照しながら、次に、本開示の実施形態による電磁量を測定するためのドシメトリシステムについて説明する。
【0200】
システム100は、提案されたファントムデバイス、たとえば、
図7のファントムデバイスと、電磁波源2の位置とは反対側のファントムデバイスの下方に配置された少なくとも1つのセンサー101とを備える。次いで、信号が、測定データを後処理して記憶するために使用される処理ユニット103(PU)およびメモリユニット104(MU)に接続された信号分析ユニット102(SAU)に送信される。
【0201】
センサー101は、ファントムデバイスを形成する層を透過した電磁界に関する物理量を測定するように適応され、電気信号を形成する。測定された物理量は、ファントムデバイスのそれぞれに異なる層を透過した電磁界のEまたはH界成分の電磁界強度または振幅に関してもよい。センサー101は、透過した電磁界を測定するための電磁センサー、THz電磁センサー、赤外線電磁センサー、光学電磁センサー、熱センサー、またはファントムデバイスの層を透過したEM界に関する物理量を測定することができる任意の他のセンサーであってもよい。一実施形態では、システム100は、EM界を発生源2の周波数において吸収し、発生源2の周波数とは異なる別の周波数で再放出することができる周波数変換要素をさらに備えてもよい。たとえば、この第2の周波数は、赤外線範囲または光学範囲に対応することができる。この実施形態では、少なくとも1つのセンサー101は、赤外線センサーまたは最適な画像センサーである。
【符号の説明】
【0202】
1 層
2 電磁波源
3 上面
4 電磁波、入射電磁波
5 入射電磁波
6 入射電磁波
10 ファントムデバイス
12 誘電体層
13 上面
14 下面
16 第2の層
16.1、16.2、16.3、16.4 第2の複合層、第2の層
17 下面
18 貫通孔
18.1、18.2、18.3、18.4 円形貫通孔
19 周波数選択層
20 参照物体
21 上面、複雑な幾何学的表面
30 ファントムデバイス
70 ファントムデバイス
70.1、70.2、70.3、70.4 単位構造
80 ファントムデバイス
80.1、80.2、80.3、80.4 単位構造
41 上面
90 参照物体
100 システム
101 センサー
102 信号分析ユニット
103 処理ユニット
104 メモリユニット
f1、f2 周波数
T1、T2 厚さ
ρ1、ρ2 基本反射係数
|rp| 複素反射係数
σ1、σ2 導電率
θ 入射角
【手続補正書】
【提出日】2024-06-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁(EM)波源(2)によって放出された所定の周波数f1を有するEM波によって照明されたときの、電磁損失媒質、特に生体組織で作られた参照物体の少なくとも1つのEM特性を再現するためのファントムデバイス(10)であって、前記所定の周波数f1は、1GHz~10THz、好ましくは6GHz~300GHzの周波数範囲であり、前記ファントムデバイスは、少なくとも1つの単位構造を備え、前記単位構造は、前記所定の周波数f1における前記EM波を少なくとも部分的に透過させ、前記ファントムデバイスは、
前記電磁波源(2)に面する上面(13)と、前記上面(13)とは反対側の下面(14)とを備える少なくとも1つの第1の誘電体層(12)とを備え、
前記上面(13)は、前記電磁波源(2)によって放出された電磁波を少なくとも部分的に透過させ、
前記下面(14)は、前記第1の誘電体層(12)を透過した電磁波を少なくとも部分的に反射し、
前記少なくとも1つの第1の誘電体層(12)は、前記誘電体層(12)のバルク材料の有効複素誘電率
【数1】
が3~40の範囲内の絶対値を有することを特徴とし、
前記少なくとも1つの第1の誘電体層(12)は、前記有効複素誘電率と厚さT
1との組合せについて前記参照物体の前記少なくとも1つの電磁特性を再現するように選択される前記厚さT
1をさらに特徴とする、ファントムデバイス。
【請求項2】
ヒト組織を表す前記参照物体、前記第1の誘電体層(12)の複素誘電率
【数2】
および前記厚さT
1は、少なくとも前記EM波の法線入射の場合には前記参照物体の表面から少なくとも複素反射係数の前記絶対値を再現するように一緒に選択され、前記絶対値は、6GHz~300GHzの前記周波数範囲内の前記周波数f1において0.40~0.75の範囲である、請求項1に記載のファントムデバイス。
【請求項3】
前記少なくとも1つの誘電体層(12)はさらに、前記厚さT
1が、前記EM波の、前記第1の誘電体層(12)の媒質への侵入深さ以下であり、前記EM波源(2)によって放出された周波数f1において前記EM波を少なくとも部分的に透過させる、請求項1または2に記載のファントムデバイス。
【請求項4】
少なくとも1つの第2の層(16)をさらに備え、前記第1の誘電体層(12)は、前記少なくとも1つの第2の層(16)上に配置され、前記少なくとも1つの第2の層(16)は、誘電材料で作られ、前記第1の誘電体層(12)および前記第2の誘電体層(16)は、少なくとも前記参照物体の表面からの反射係数の前記絶対値を再現するように一緒に構成され、前記第1の層(12)と前記第2の層(16)との間の界面において前記下面(14)から反射された前記EM波の一部の、前記ファントムデバイスの前記上面(13)からの全反射係数への相対寄与が、少なくとも5%を構成する、請求項1から3のいずれか一項に記載のファントムデバイス。
【請求項5】
前記第2の層(16)は、電磁波の、前記第2の層(16)の媒質への侵入深さが、少なくとも前記第2の層(16)の厚さに等しくなるように選択される厚さT
2を有し、前記第1の誘電体層(12)および前記第2の誘電体層(16)は、前記参照物体の表面からの複素反射係数の前記絶対値を再現する一方、依然として入射EM波を少なくとも部分的に透過させるように一緒に構成される、請求項4に記載のファントムデバイス。
【請求項6】
少なくとも1つの第2の層(16)をさらに備え、前記第1の誘電体層(12)は、前記少なくとも1つの第2の層(16)上に配置され、前記少なくとも1つの第2の層(16)は、複合媒質で作られ、導電率σ
2が少なくとも10
2S/mである導電性材料で作られた第1の部分と、誘電材料で作られた第2の部分とを備え、前記第1の部分と前記第2の部分との間の体積比は、前記第1の層(12)と前記第2の層(16)との間の界面において前記下面(14)から反射された前記EM波の一部の、前記ファントムデバイスの前記上面(13)からの全反射係数への相対寄与が少なくとも5%を構成するように、10%~90%の範囲内で選択される、請求項1から5のいずれか一項に記載のファントムデバイス。
【請求項7】
前記少なくとも1つの第2の層(16)は、導電性材料で作られ、導電率が少なくとも10
2S/mに等しく、厚さT
2が、前記EM波の前記導電性材料への侵入深さよりも大きいことを特徴とし、前記第2の層(16)は、EM波用の透過ゾーンを形成する少なくとも1つの貫通孔(18)をさらに備え、前記少なくとも1つの貫通孔は、前記単位構造の全表面の10%~90%の範囲の表面積を有し、誘電性媒質で充填され、前記少なくとも1つの貫通孔は、前記下面(14)と揃えられたxy平面内で任意の形状を有し、前記任意の形状は、前記少なくとも1つの貫通孔(18)を充填する前記誘電性媒質内または前記第1の層(12)の媒質内のEM波の波長の2分の1に少なくとも等しい長さを有する輪郭線によって画定される、請求項6に記載のファントムデバイス。
【請求項8】
前記第1の層(12)および前記第2の層(16)は、2つの異なるEM波、すなわち、第1の周波数部分範囲内の周波数f1を有する第1のEM波および第2の周波数部分範囲内の周波数f2を有する第2のEM波によって照明されたときの参照物体の前記少なくとも1つのEM特性の前記少なくとも2つの異なる値を再現するように一緒に構成され、2つの部分範囲は、6GHz~300GHzの前記周波数範囲内である、請求項4から7のいずれか一項に記載のファントムデバイス。
【請求項9】
前記第1の誘電体層(12)の厚さは、前記周波数f1を有する前記第1のEM波の侵入深さよりも小さく、同時に、前記周波数f2を有する前記第2のEM波の侵入深さに少なくとも等しい、請求項8に記載のファントムデバイス。
【請求項10】
第1の周波数f1における第1の入射電磁波を反射し第2の周波数f2における第2の入射電磁波を透過させる周波数選択層(19)をさらに備え、前記周波数選択層(19)は、前記少なくとも1つの第1の層(12)に埋め込まれるか、または前記少なくとも1つの第1の層(12)の前記下面(14)に取り付けられる、請求項4から9のいずれか一項に記載のファントムデバイス。
【請求項11】
前記参照物体の局所可変電磁応答を再現するための複数の単位構造を備え、各単位構造は、前記参照物体の表面の一部から前記少なくとも1つの電磁特性を再現するように構成される、請求項1から10のいずれか一項に記載のファントムデバイス。
【請求項12】
各単位構造を形成する層のサイズ、形状および組成、ならびに/または2つの隣接する単位構造間の距離は、前記ファントムシステムの表面に沿った電磁応答の連続的な変化を取得するように選択される、請求項11に記載のファントムデバイス。
【請求項13】
各単位構造を形成する層のサイズ、形状および組成、ならびに/または2つの隣接する単位構造間の距離は、前記ファントムシステムの表面に沿った電磁応答の離散的な変化を取得するように選択される、請求項11に記載のファントムデバイス。
【請求項14】
各単位構造は、前記単位構造の全厚さおよび/もしくは前記単位構造の上面の曲率、または前記第1の層(12)もしくは前記第2の層(16)の有効複素誘電率を変化させるように構成された微小電気機械スイッチを備える、請求項11から13のいずれか一項に記載のファントムデバイス。
【請求項15】
電磁波源(2)によって放出された電磁場に関する電磁界ドシメトリ量を測定するためのドシメトリシステム(100)であって、
請求項1から14のいずれか一項に記載のファントムデバイスであって、前記電磁波源(2)に面する上面(13)と下
面とを備え、前記電磁波源(2)によって放出されたEM波を少なくとも部分的に透過させる、ファントムデバイスと、
前記下
面に取り付けられるかまたは前記下
面の下方に配置され、前記
上面(13)を透過した前記電磁波に関する物理量を測定するように構成された少なくとも1つのセンサー(101)と、
前記少なくとも1つのセンサー(101)から送信された信号を分析するように構成された信号分析ユニット(102)と、前記信号から前記電磁界ドシメトリ量を算出するように構成された処理ユニット(103)と、メモリユニット(104)と
を備える、ドシメトリシステム(100)。
【請求項16】
前記少なくとも1つのセンサー(101)は、前記電磁波源(2)の周波数において動作する電磁センサーを備える、請求項15に記載のドシメトリシステム。
【請求項17】
前記少なくとも1つのセンサー(101)は、前記電磁波源(2)の周波数とは異なる周波数で動作する電磁センサーを備え、前記デバイスは、周波数変換器要素をさらに備える、請求項15に記載のドシメトリシステム。
【請求項18】
前記少なくとも1つのセンサー(101)は、熱センサーを備える、請求項15に記載のドシメトリシステム。
【国際調査報告】