(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-06
(54)【発明の名称】非ウイルス性DNA送達のための方法および組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 15/88 20060101AFI20241029BHJP
C12N 15/867 20060101ALI20241029BHJP
C12N 15/869 20060101ALI20241029BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20241029BHJP
A61K 31/711 20060101ALI20241029BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20241029BHJP
A61K 47/46 20060101ALI20241029BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20241029BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241029BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20241029BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20241029BHJP
C12N 15/33 20060101ALN20241029BHJP
C12N 15/31 20060101ALN20241029BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20241029BHJP
C12N 15/11 20060101ALN20241029BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20241029BHJP
【FI】
C12N15/88 Z ZNA
C12N15/867
C12N15/869
C12N15/63 Z
A61K31/711
A61K48/00
A61K47/46
A61K47/26
A61P43/00 121
A61K47/22
A61K9/14
C12N15/33
C12N15/31
C12N15/12
C12N15/11 Z
C12N15/09 100
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024524371
(86)(22)【出願日】2022-07-22
(85)【翻訳文提出日】2024-04-23
(86)【国際出願番号】 US2022074084
(87)【国際公開番号】W WO2023004437
(87)【国際公開日】2023-01-26
(32)【優先日】2021-07-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518138077
【氏名又は名称】スパーク セラピューティクス インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】SPARK THERAPEUTICS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】アンゲラ ザビエル
(72)【発明者】
【氏名】セハス ペドロ
(72)【発明者】
【氏名】ナヴィ アリ
(72)【発明者】
【氏名】ヤジシオグル ムスタファ
(72)【発明者】
【氏名】ツァン ルイ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA31
4C076AA95
4C076DD60
4C084AA13
4C084NA05
4C084NA13
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA03
4C086MA05
4C086NA05
4C086NA13
(57)【要約】
本発明は、対象へのDNAの細胞内送達を促進するために使用できる方法および組成物を特徴とする。提供される方法と組成物は、細胞内DNA送達用のナノ粒子と細胞質DNA感知阻害剤を用いる。細胞質DNA感知阻害剤は、DNAによって刺激される対象の免疫反応を低下させるために提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象へのDNAの細胞内送達方法であって、
a.環状GMP-AMP合成酵素-インターフェロン遺伝子刺激因子(cGAS-STING)経路阻害剤およびインフラマソーム経路阻害剤からなる群より選択される少なくとも1つの細胞質DNA感知阻害剤;ならびに
b.前記DNAを含む第1のナノ粒子
を投与することを含み、
工程(b)は、工程(a)の前に、工程(a)と同時に、または工程(a)の後に実施される、方法。
【請求項2】
前記第1のナノ粒子が脂質ナノ粒子である場合、
(i)前記細胞質DNA感知阻害剤は、少なくともインフラマソーム経路阻害剤であるか;
(ii)脂質ナノ粒子は、エンドソーム溶解剤を含まないか;
(iii)DNAが環状であるか;
(iv)DNAが閉鎖型DNAでないか;または
(v)細胞質DNA感知阻害剤が第2のナノ粒子中に提供され、第2のナノ粒子は第1のナノ粒子と同じまたは異なる組成を有することができる、
の少なくとも1つである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記DNAが、調節エレメントに作動可能に連結された導入遺伝子を含むDNAベクターである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記導入遺伝子がプロモーターに作動可能に連結され;前記DNAベクターが、5´から3´に、前記プロモーター、前記導入遺伝子、およびポリアデニル化シグナルおよび終結シグナルを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記プロモーターがプロモーター/エンハンサーであり、前記ベクターが調節可能エレメントをさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記阻害剤がSTING阻害剤である、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記細胞質DNA感知阻害剤がcGAS-STING経路阻害剤である、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記cGAS-STING経路阻害剤がcGAS阻害剤である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記cGAS-STING経路阻害剤がSTING阻害剤である、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記cGAS-STING経路阻害剤がTBK1阻害剤である、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記cGAS-STING経路阻害剤が、(a)H-151、GSK-690693、RU-521、RO-3150、CYT387およびGSK8612からなる群より選択されるか、もしくはそれらの薬学的に許容可能な塩であるか;または(b)表1、表2、または表3の化合物、もしくはそれらの薬学的に許容可能な塩である、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記細胞質DNA感知阻害剤が、インフラマソーム経路阻害剤である、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記インフラマソーム経路阻害剤がAIM2阻害剤である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記インフラマソーム経路阻害剤が、配列番号1または配列番号2の配列を有するポリヌクレオチドである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記導入遺伝子が、ウイルス抗原、細菌抗原、治療用タンパク質、ショートヘアピンRNA(shRNA)、低分子干渉RNA(siRNA)、マイクロRNA(miRNA)、RNAi、リボザイム、アンチセンスRNA、CRISPR(clustered regularly interspaced short palindromic repeats)/Cas9構築物、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、または転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)をコードする、請求項3~14のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項16】
前記DNAが環状DNAである、請求項1~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記細胞質DNA感知阻害剤が第2のナノ粒子中に提供され、前記第2のナノ粒子が前記第1のナノ粒子と実質的に同じ組成を有する、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記DNAベクターおよび前記細胞質DNA感知阻害剤が、前記第1のナノ粒子中に一緒に提供される、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記第1のナノ粒子が脂質ナノ粒子または脂質ポリマーナノ粒子である、請求項1~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記第1のナノ粒子が、前記DNAまたは前記DNAベクターの放出の前に前記細胞質DNA感知阻害剤を放出するように構成される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記細胞質DNA感知阻害剤が、前記DNAまたは前記DNAベクターの投与とほぼ同時から約4時間前までに投与される、請求項1~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
インフラマソーム阻害剤およびcGAS-STING阻害剤の両方が投与される、請求項1~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記DNAが実質的に二本鎖DNAを含み、前記DNAベクターが実質的に二本鎖DNAを含む、請求項1~22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記対象がヒト患者であり、前記方法が治療的有効量の前記導入遺伝子を提供する、請求項3~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
a. DNA;および
b. 環状GMP-AMP合成酵素(cGAS-STING)経路阻害剤およびインフラマソーム経路阻害剤からなる群より選択される少なくとも1つの細胞質DNA感知阻害剤
を含むナノ粒子組成物。
【請求項26】
前記DNAが、調節エレメントに作動可能に連結された導入遺伝子を含むDNAベクターである、請求項25に記載の組成物。
【請求項27】
前記DNAベクターが、5´から3´に、プロモーター、前記導入遺伝子、およびポリアデニル化シグナルおよび終結シグナルを含む、請求項26に記載の組成物。
【請求項28】
前記プロモーターがプロモーター/エンハンサーであり、前記ベクターが調節可能エレメントをさらに含む、請求項27に記載の組成物。
【請求項29】
前記阻害剤がcGAS-STING経路阻害剤である、請求項25~28のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項30】
前記cGAS-STING経路阻害剤がcGAS阻害剤である、請求項29に記載の組成物。
【請求項31】
前記cGAS-STING経路阻害剤がSTING阻害剤である、請求項29に記載の組成物。
【請求項32】
前記cGAS-STING経路阻害剤がTBK1阻害剤である、請求項29に記載の組成物。
【請求項33】
前記cGAS-STING経路阻害剤が、(a)H-151、GSK-690693、RU-521、RO-3150、CYT387およびGSK8612からなる群より選択されるか、もしくはそれらの薬学的に許容可能な塩であるか;または(b)表1、表2、または表3の化合物、もしくはそれらの薬学的に許容可能な塩である、請求項29に記載の組成物。
【請求項34】
前記細胞質DNA感知阻害剤が、インフラマソーム経路阻害剤である、請求項25~28のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項35】
前記インフラマソーム経路阻害剤がAIM2阻害剤である、請求項34に記載の組成物。
【請求項36】
前記インフラマソーム経路阻害剤が、配列番号1または配列番号2の配列を有するポリヌクレオチドである、請求項35に記載の組成物。
【請求項37】
前記導入遺伝子が、ウイルス抗原、細菌抗原、治療用タンパク質、ショートヘアピンRNA(shRNA)、低分子干渉RNA(siRNA)、マイクロRNA(miRNA)、RNAi、リボザイム、アンチセンスRNA、CRISPR(clustered regularly interspaced short palindromic repeats)/Cas9構築物、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、または転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)をコードする、請求項25~36のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項38】
前記DNAベクターが環状DNAである、請求項25~37のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項39】
前記ナノ粒子が脂質ナノ粒子または脂質ポリマーナノ粒子である、請求項25~38のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項40】
前記ナノ粒子が、前記DNAベクターの前に前記細胞質DNA感知阻害剤を放出するように構成された脂質ポリマーナノ粒子である、請求項39に記載の組成物。
【請求項41】
前記ナノ粒子が、インフラマソーム阻害剤およびcGAS-STING阻害剤の両方を含む、請求項25~40のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項42】
前記DNAが実質的に二本鎖DNAを含み、前記DNAベクターが実質的に二本鎖DNAを含む、請求項25~41のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項43】
請求項25~42のいずれか1項に記載のナノ粒子と、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物。
【請求項44】
前記組成物が、請求項1~24のいずれか1項に記載の方法において使用するためのものである、請求項43に記載の医薬組成物。
【請求項45】
請求項1~24のいずれか1項に記載の方法において使用するための、請求項1~24のいずれか1項に記載の第1のナノ粒子を含む、医薬において、好ましくは遺伝子治療において使用するための医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象への細胞内非ウイルス性DNA送達の分野に関する。提供される方法および組成物は、遺伝子治療を含む様々な用途を有する。
電子的に提出された配列表への言及
【0002】
電子配列表の内容(SequenceListing_9WO1.xml;Size:3,810バイト、作成日:2022年7月14日)は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
遺伝子治療では、核酸を使って対象のDNAを改変し、有益な効果を得る。遺伝子改変は、遺伝子増強、遺伝子抑制、ゲノム編集など、さまざまな戦略を用いて行うことができる。(Anguela and High Annu. Rev. Med. 2019,70,73;and Li et al.,Signal Transduction and Targeted Therapy 2020,5,1.)
【0004】
遺伝子治療を成功させるためには、核酸の効果的な送達システムが重要である。核酸の送達に成功すると、許容できない副作用を生じることなく、有益な効果を得るのに十分な量が標的細胞に供給される。送達システムは、酵素的分解から遺伝物質を保護し、体内での寿命が十分に長く、体内で必要とされる部位に到達でき、許容できる毒性を持ち、細胞膜を通過できるものでなければならない。
【0005】
遺伝子治療ベクターは、ウイルス性と非ウイルス性に大別される。ベクターにはそれぞれ長所と短所がある。ウイルスベクターは一般に、遺伝物質を細胞に送達する効率は高いが、免疫原性、毒素産生、挿入突然変異誘発の可能性が高く、遺伝子導入の容量も限られている。非ウイルス性ベクターの利点には、導入遺伝子の容量が大きいこと、ベクターのカプシドに対する抗体がすでに存在する対象に投与できること、対象に再投与できることなどがある。非ウイルス性送達に関連する課題としては、ウイルス性アプローチに比べ、トランスフェクション効率の低下、核酸分解の可能性、自然免疫、体細胞標的への遺伝子送達効率の低さ、in vivoでの遺伝子発現レベルの低さなどが挙げられる。(Hardee et al.,Genes 2017,8,65 およびNayerossadat et al.,Adv.Biomed Res.2012,1,27.)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、対象へのDNAの細胞内送達を促進するために使用できる方法および組成物を特徴とする。提供される方法と組成物は、細胞内DNA送達のためのナノ粒子と、細胞質DNA感知阻害剤を用いる。細胞質DNA感知阻害剤は、DNAによって刺激される対象の免疫反応を低下させるために提供される。
【0007】
従って、本発明の第1の態様は、以下を対象に投与することを含むDNAの細胞内送達方法を記載する:
a)環状GMP-AMP合成酵素-インターフェロン遺伝子刺激因子(cGAS-STING)経路阻害剤およびインフラマソーム経路阻害剤からなる群より選択される細胞質DNA感知阻害剤;ならびに
b)DNAを含むナノ粒子。
【0008】
本発明の別の態様は、(a)DNAと、(b)cGAS-STING経路阻害剤およびインフラマソーム経路阻害剤からなる群から選択される細胞質DNA感知阻害剤とを含むナノ粒子について記載する。
【0009】
本発明のさらなる態様には、本明細書に記載のナノ粒子を含む医薬組成物、本明細書に記載の用途のための医薬組成物、および本明細書に記載の用途のための医薬の調製が含まれる。本明細書に記載される用途のための医薬組成物は、細胞質DNA感知阻害剤の前、同時に、または後に投与される、患者に使用するための導入遺伝子を含むDNAベクターを提供することができる。同様に、本明細書に記載した用途の医薬品の調製には、細胞質DNA感知阻害剤を投与する前、同時に、または投与した後に、患者に使用するための導入遺伝子を含むDNAベクターを含む医薬組成物の調製を含むことができる。
【0010】
本発明の他の特徴および利点は、様々な実施例を含む、本明細書に提供される追加の説明から明らかである。提供された実施例は、本発明の実施に有用な様々な構成要素および方法論を示している。このような実施例は、特許請求される発明を限定するものではない。本開示に基づき、当業者は、本発明の実施に有用な他の構成要素および方法論を特定し、採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、低分子STING阻害剤(H-151)のDNA-LNP誘導性インターフェロン制御因子(IRF)活性化阻害能に関する培養細胞を用いたin vitro 試験の結果を示している。H-151は2種類の量(0.2ngと2.1ng)使用した。左の白色棒グラフは、H-151阻害剤を使用せずにDNA-LNPで処理した細胞を示す(0)。H-151を添加した場合(0.2および2.1)、白色ボックスはH-151が可溶性であることを示し、灰色ボックスはH-151がDNA-LNPにカプセル化されていることを示す(LNPカプセル化)。
【0012】
【
図2】
図2A、2B、2C、および2Dは、DNA-LNPにカプセル化されたH-151が、DNA-LNP誘導性のIFN-β(
図2A)、IFN-α(
図2B)、IFN-γ(
図2C)、およびIL-6(
図2D)を阻害する能力に関するin vivo 研究の結果を示している。
【0013】
【
図3】
図3A、3B、3C、3D、3E、3F、3G、3Hは、RO3150、GSK690693、およびデキサメタゾンがDNA-LNPによって誘導されるサイトカイン/ケモカインレベルを阻害する能力に関するin vivo試験の結果を示している。
【0014】
【
図4】
図4A、4B、4C、4D、および4Eは、DNA-LNP遺伝子治療を投与したマウスにおける、DNA-LNPの忍容性および導入遺伝子の発現に対するSTINGシグナル遮断の影響を示している。DNA-LNPに対する炎症反応は、機能的なSTINGを持つ野生型マウス(WT)と、細胞質二本鎖DNA(dsDNA)センサーのGoldenticketミスセンス変異を持つマウス(STING(Gt))で評価された。ベースラインのサイトカインレベルは、DNA-LNPを投与していないWTマウス(ベースライン)のプールされた血漿サンプルから測定した。DNA-LNPを投与したマウスでは、STING(Gt)マウスはWTマウスと比較して、血漿中IL-6レベルが低下し(
図4A)、血漿中IFNαが減少し(
図4B)、血漿中IFN-γが減少し(
図4C)、生存期間が延長し(
図4D)、導入遺伝子の発現が増加した(
図4E)。ULOQは定量上限を示す。LLOQは定量下限を意味する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、DNAを含むナノ粒子と、cGAS-STING経路阻害剤およびインフラマソーム経路阻害剤からなる群から選択される細胞質DNA感知阻害剤とを用いる、対象への細胞内DNA送達のための方法および組成物を特徴とする。細胞内DNA送達には、導入遺伝子を発現させるためのDNAベクターの対象への送達など、さまざまな用途がある。cGAS-STING経路および/またはインフラマソーム経路を阻害することの利点としては、DNAペイロードによる炎症反応に対する感受性の低下が考えられる。
【0016】
「ナノ粒子」とは、DNAをカプセル化または結合させることができ、細胞へのDNA送達を容易にする小さな非ウイルス粒子を指す。ナノ粒子はまた、例えば、異なるDNAベクター、異なる導入遺伝子、細胞質DNA感知阻害剤、免疫細胞調節剤を送達するために使用することもできる。ナノ粒子の大きさは約10nmから約1000nmの範囲である。異なる実施形態では、ナノ粒子は約50nmから約500nm、または約50nmから約200nmである。
【0017】
「対象」とは、ヒト、類人猿、テナガザル、ゴリラ、チンパンジー、オランウータン、マカクなどの非ヒト霊長類、イヌやネコなどの家畜、家禽やアヒル、ウマ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ブタなどの家畜、マウス、ラット、ウサギ、モルモットなどの実験動物を含む哺乳類を指す。好ましい対象は、治療を受けるヒト対象である。しかし、対象には、動物疾患モデル、例えば、ポンペ病(GAA欠損)、グリコーゲン貯蔵病(GSD)などのタンパク質/酵素欠損のマウスや他の動物モデルも含まれる。
【0018】
「DNAベクター」とは、導入遺伝子を含むDNA配列と、導入遺伝子からRNAを発現させるための調節エレメントを連結したものである。生成されたRNAは、それ自体が機能的であることもあれば、タンパク質をコードすることもある。調節エレメントの一種がプロモーターで、RNAポリメラーゼと必要な転写因子を結合させて転写を開始させる。タンパク質をコードする場合、産生されたRNA配列はコード配列の末端に終止配列もコードする。その他の調節エレメントには、RNA発現、RNA安定性、タンパク質生産に影響を与えるものが含まれる。DNAベクターは一本鎖、二本鎖、あるいは一本鎖と二本鎖の組み合わせのいずれでもよい。DNAベクターはまた、複数の導入遺伝子と、同じタイプまたは異なるタイプの複数の調節エレメントを含むことができる。
【0019】
「作動可能に連結された」という用語は、1つの核酸において2つ以上の核酸セグメントが結合し、一方の機能が他方の機能によって影響を受けることを指す。
【0020】
「導入遺伝子」とは、ポリヌクレオチド配列の起源に関係なく、RNAに発現可能なDNA領域を示す。導入遺伝子は一般に、より長い核酸の一部であり、その核酸は、導入遺伝子が天然には通常関連しない少なくとも一つの領域を含んでいる。
【0021】
「からなる群から」選択される細胞質DNA感知阻害剤は、群の少なくとも1つのメンバーが存在することを提供し、例えば、群の両方のメンバーが存在すること、または1つ以上の追加の阻害剤の存在を排除するものではない。
【0022】
本発明の第1の態様は、以下を投与する工程を含む、対象へのDNAの細胞内送達方法を記載する:
a)cGAS-STING経路阻害剤およびインフラマソーム経路阻害剤からなる群より選択される細胞質DNA感知阻害剤;ならびに
b)DNAを含む第1のナノ粒子;ここで、工程(b)は、工程(a)の前に、工程(a)と同時に、または工程(a)の後に実施される。
【0023】
本発明の第二の態様は、以下を投与する工程を含む、対象へのDNAの細胞内送達方法を記載する:
a)cGAS-STING経路阻害剤およびインフラマソーム経路阻害剤からなる群より選択される細胞質DNA感知阻害剤;ならびに
b)DNAを含む第1のナノ粒子;ただし、第1のナノ粒子が脂質ナノ粒子である場合、以下の少なくとも1つである:(i)細胞質DNA感知阻害剤は、少なくともインフラマソーム経路阻害剤である;(ii)脂質ナノ粒子はエンドソーム溶解剤(endosomolytic agent)を含まない;(iii) DNAは環状である;(iv) DNAが閉鎖型(closed-ended)DNAでない、または(v)細胞質DNA感知阻害剤が第2のナノ粒子中に提供され、ここで第2のナノ粒子は第1のナノ粒子と同じまたは異なる組成を有することができる;ここで、工程(b)は、工程(a)の前に、工程(a)と同時に、または工程(a)の後に実施される。
【0024】
StantonとManganielloの国際特許公開第WO2020/181168号は、さまざまなエンドソーム溶解剤と、エンドソーム溶解剤と閉鎖型DNAを含むLNPの使用について言及している。
【0025】
第1および第2の態様の第1の実施形態では、DNAは、調節エレメントに作動可能に連結された導入遺伝子を含むDNAベクターである。さらなる実施形態において、導入遺伝子は、プロモーターに作動可能に連結され;プロモーター/エンハンサーに作動可能に連結され;プロモーター/エンハンサー、ポリアデニル化および終結シグナル、および/または調節可能エレメントに作動可能に連結され;そしてDNAベクターは、5´から3´にプロモーター/エンハンサー、導入遺伝子、およびポリアデニル化および終結シグナルを含む。
【0026】
特定のエレメントに関する5´から3´への言及は、異なるエレメントの相対的な位置を示し、異なるエレメントが互いに隣接している必要はなく、付加的な配列の存在を許容する。付加的な活性をもたらす付加的な配列は、2つの同定されたエレメントの間、3´末端、5´末端など、異なる位置に配置することができる。
【0027】
第1および第2の態様の第2の実施形態では、DNA感知阻害剤はcGAS-STING経路阻害剤であり;そしてDNAは、第1もしくは第2の態様、または第1の実施形態で提供される通りである。さらなる実施形態において、cGAS-STING経路阻害剤はcGAS阻害剤であり;cGAS-STING経路阻害剤はSTING阻害剤であり;cGAS-STING経路阻害剤はTBK1阻害剤であり;cGAS-STING経路阻害剤は、後述のセクションII.A.で提供されるcGAS阻害剤であり、cGAS-STING経路阻害剤は、後述のセクションII.A.で提供されるSTING阻害剤であり、および/またはcGAS-STING経路阻害剤は、後述のセクションII.A.で提供されるTBK1阻害剤である。さらなる実施形態において、阻害剤は、H-151、GSK-690693、RU-521、RO-3150、ISD 017、SI-001、CYT387もしくはGSK8612、またはそれらの薬学的に許容可能な塩であるか;または表1、表2もしくは表3の化合物、またはそれらの薬学的に許容される塩である。
【0028】
特定の実施形態への言及は、そこに提供されるさらなる実施形態への言及を含む。例えば、第2の実施形態における第1の実施形態への言及は、そこに提供されるさらなる実施形態を含む、第1の実施形態に提供されるすべての実施形態への言及を提供する。
【0029】
第1および第2の態様の第3の実施形態において、細胞質DNA感知阻害剤は、インフラマソーム経路阻害剤であり、DNAは、第1もしくは第2の態様、または第1の実施形態で提供される通りである。さらなる実施形態において、インフラマソーム経路阻害剤は、AIM2阻害剤である;AIM2阻害剤は、後述のセクションII.Bで提供されるものであり、AIM2阻害剤はA151である。
【0030】
第1および第2の態様の第4の実施形態において、DNAは、ウイルス抗原、細菌抗原、治療タンパク質、ショートヘアピンRNA(shRNA)、低分子干渉RNA(siRNA)をコードする導入遺伝子を含むDNAベクターである、マイクロRNA(miRNA)、RNAi、リボザイム、アンチセンスRNA、CRISPR(clustered regularly interspaced short palindromic repeats)/Cas9構築物、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、または転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)を含むDNAベクターであり;ここで、DNAは第1の実施形態で提供される通りであり;細胞質DNA感知阻害剤は第1または第2の態様、第2の実施形態または第3の実施形態で提供される通りである。さらなる実施形態において、治療用タンパク質は、後述のセクションIII.D.で提供される通りである。
【0031】
第5の実施形態では、第1もしくは第2の態様または関連する実施形態のいずれかで提供されるDNAは、環状DNAである。「関連する実施形態」への言及は、特定の態様に関して言及される提供される各実施形態(さらなる実施形態を含む)を示す。
【0032】
第1および第2の態様の第6の実施形態において、細胞質DNA感知阻害剤は第2のナノ粒子中に提供され;DNAは第1もしくは第2の態様または第1、第4もしくは第5の実施形態において提供される通りであり;細胞質DNA感知阻害剤は第1もしくは第2の態様、第2の実施形態または第3の実施形態において提供される通りである。さらなる実施形態では、第2のナノ粒子は第1のナノ粒子と実質的に同じ組成を有し;そして第1および第2のナノ粒子は脂質ナノ粒子または脂質ポリマーナノ粒子である。
【0033】
第1および第2の態様の第7の実施形態において、細胞質DNA感知阻害剤は、第1のナノ粒子中のDNAと共に提供され;DNAは、第1もしくは第2の態様、または第1、第4もしくは第5の実施形態において提供される通りであり;そして細胞質DNA感知阻害剤は、第1もしくは第2の態様、第2の実施形態または第3の実施形態において提供される通りである。さらなる実施形態では、第1のナノ粒子は脂質ナノ粒子であり;第1のナノ粒子は脂質ポリマーナノ粒子であり;第1のナノ粒子はエクソソームであり;第1のナノ粒子はDNAの放出に先立って阻害剤を放出するように構成され;第1のナノ粒子は、DNAの放出に先立って阻害剤を放出するように構成された脂質ナノ粒子であり;第1のナノ粒子は、DNAの放出に先立って阻害剤を放出するように構成された脂質ポリマーナノ粒子であり;そして第1のナノ粒子は、DNAの放出に先立って阻害剤を放出するように構成されたエクソソームである。
【0034】
第1および第2の態様の第8の実施形態、および関連する実施形態において、細胞質DNA感知阻害剤は、DNA投与とほぼ同時に、その前または後に、投与される。異なる実施形態では、細胞質DNA感知阻害剤は、DNAの少なくとも30分前、少なくとも60分前、少なくとも90分前、または少なくとも120分前に投与される;細胞質DNA感知阻害剤は、ほぼ同時に、DNA投与の約5分前まで、約15分前まで、約30分前まで、約45分前まで、約60分前まで、約90分前まで、約2時間前まで、約3時間前まで、約4時間前まで、約5時間前まで、約6時間前まで、約7時間前まで、約8時間前まで、約9時間前まで、約10時間前まで、約12時間前まで、約1日前まで、約2日前まで、約3日前まで、約4日前まで、または約1週間前までに投与される。好ましくは、細胞質DNA感知阻害剤は、DNAベクター投与とほぼ同時、DNAベクター投与の約5分前まで、約15分前まで、約30分前まで、約45分前まで、約60分前まで、約90分前まで、約2時間前まで、約3時間前まで、または約4時間前までに投与される。異なる実施形態では、細胞質DNA感知阻害剤は、DNAの少なくとも15分後、少なくとも30分後、少なくとも45分後、少なくとも60分後、少なくとも90分後、少なくとも120分後、または少なくとも1日後に投与される。
【0035】
第1および第2の態様の第9の実施形態では、2つの異なる 細胞質DNA感知阻害剤が使用される;ここで、他の成分および投与は、第1の態様、第2の態様、または関連する実施形態で提供される通りである。異なる阻害剤は、ナノ粒子なしで提供することも、異なるナノ粒子で提供することも、同じナノ粒子で提供することもできる。さらなる実施形態では、インフラマソーム経路阻害剤およびcGAS - STING経路阻害剤が投与され;2つの異なるインフラマソーム経路阻害剤が投与され;そして2つの異なるcGAS - STING経路阻害剤が投与される。
【0036】
第1および第2の態様または関連する実施形態の第10の実施形態では、対象はヒト患者である。
【0037】
第1および第2の態様または関連する実施形態の第11の実施形態では、DNAおよびDNAベクターは実質的に二本鎖DNAを含むか、またはDNAおよびDNAベクターは実質的に一本鎖DNAを含む。DNAには、二本鎖DNA、一本鎖DNA、一本鎖領域と二本鎖領域を持つDNAなどがある。ベクターを構成するDNAを含むDNAについて、「実質的に」二本鎖DNA含む、または構成されるとは、DNAの半分以上、少なくとも75%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%が二本鎖DNAであるか、またはDNAの100%が二本鎖DNAであることを示す。ベクターを構成するDNAを含むDNAについて、「実質的に」一本鎖DNAを含む、または構成されるとは、DNAの半分以上、少なくとも75%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%が一本鎖DNAであるか、またはDNAの100%が一本鎖DNAであることを示す。
【0038】
第1および第2の態様または関連する実施形態の第12の実施形態では、ナノ粒子はLNPである。さらなる実施形態において、LPN(mol%)は、以下の成分を含むか、それらから本質的になるか、またはそれらからなる:(1) 約20%から約65%の1種以上のカチオン性脂質、約1%から約50%の1種以上のリン脂質、約0.1%から10%の1種以上のPEG化脂質、および約0%~約70%のコレステロール;並びに(2)約20%~約50%の1種以上のカチオン性脂質、約5%~約20%の1種以上のリン脂質、約0.1%~約5%の1種以上のPEG化脂質、および約20%~約60%のコレステロール。さらなる実施形態において、リン脂質の脂質は中性脂質であり;そしてリン脂質の脂質はDOPEまたはDSPCである。
【0039】
第1および第2の態様の第13の実施形態または関連する実施形態において、LNP(モル%)は、以下の成分を含むか、それらから本質的になるか、またはそれらからなる:(1) cKK-E12(後述のI.A.にさらに記載)、約35%;C14-PEG2000、約2.5%;コレステロール、約46.5%;およびDOPE、約16%;(2) bCKK-E12(後述のI.Aにさらに記載)、約35%;C14-PEG2000、約2.5%;コレステロール、約46.5%;およびDOPE、約16%;(3) Lipid9(Sabnisら、および後述のI.A.にさらに記載)、約50%;C14-PEG2000、約1.5%;コレステロール、約38.5%;およびDSPC、約10%;または(4)Lipid5(Sabnisらおよび後述のI.A.さらに記載)約50%;C14-PEG2000約1.5%;コレステロール約38.5%;およびDSPC約10%;ならびに(5)イオン化可能脂質、約50%;DSPC、約10%;コレステロール、約37.5%;および安定剤(PEG-脂質)、約2.5%;または(6)GenVoy-ILMTM LNP(Precision NanoSystems)。
【0040】
本発明の第3の態様は、以下を含むナノ粒子組成物を特徴とする:
a)DNA、および
b)GAS-STING経路阻害剤およびインフラマソーム経路阻害剤からなる群から選択される細胞質DNA感知阻害剤。
【0041】
本発明の第4の態様は、以下を含むナノ粒子を特徴とする:
a)DNA、および
b)cGAS-STING経路阻害剤およびインフラマソーム経路阻害剤からなる群より選択される細胞質DNA感知阻害剤;ただし、ナノ粒子が脂質ナノ粒子である場合、以下の少なくとも1つである:(i)細胞質DNA感知阻害剤は、少なくともインフラマソーム経路阻害剤である;(ii)脂質ナノ粒子は、エンドソーム溶解剤を含まない;(iii)DNAが環状である;(iv)DNAが閉鎖型DNAでない;または(v)細胞質DNA感知阻害剤が第2のナノ粒子中に提供され、第2のナノ粒子は第1のナノ粒子と同じまたは異なる組成を有することができる。
【0042】
第3および第4の態様の第1の実施形態において、DNAは導入遺伝子を含むDNAベクターであり、導入遺伝子は調節エレメントに作動可能に連結されたプロモーターを含む。さらなる実施形態において、導入遺伝子は、プロモーターに作動可能に連結され;プロモーターエンハンサーに作動可能に連結され;プロモーター/エンハンサー、ポリアデニル化および終結シグナルおよび/または調節可能エレメントに作動可能に連結され;そしてDNAベクターは、5´から3´にプロモーター/エンハンサー、導入遺伝子、およびポリアデニル化および終結シグナルを含む。
【0043】
第3および第4の態様の第1の実施形態では、DNAは、調節エレメントに作動可能に連結された導入遺伝子を含むDNAベクターである。さらなる実施形態において、導入遺伝子は、プロモーターに作動可能に連結され;プロモーター/エンハンサーに作動可能に連結され;プロモーター/エンハンサー、ポリアデニル化および終結シグナル、および/または調節可能エレメントに作動可能に連結され;そしてDNAベクターは、5´から3´にプロモーター/エンハンサー、導入遺伝子、およびポリアデニル化および終結シグナルを含む。
【0044】
第3および第4の態様の第2の実施形態では、細胞質DNA感知阻害剤はcGAS-STING経路阻害剤であり;そしてDNAは第3もしくは第4の態様または第1の実施形態で提供される通りである。さらなる実施形態において、cGAS-STING経路阻害剤はcGAS阻害剤であり;cGAS-STING経路阻害剤はSTING阻害剤であり;cGAS-STING経路阻害剤はTBK1阻害剤であり;cGAS-STING経路阻害剤は、後述の セクションII.A.で提供されるcGAS阻害剤であり、cGAS-STING経路阻害剤は、後述の セクションII.A.で提供されるSTING阻害剤であり、および/またはcGAS-STING経路阻害剤は、後述のセクションII.A.で提供されるTBK1阻害剤である。さらなる実施形態において、阻害剤は、H-151、GSK-690693、RU-521、RO-3150、ISD 017、SI-001、CYT387もしくはGSK8612、またはそれらの薬学的に許容可能な塩であるか;または表1、表2もしくは表3の化合物、またはそれらの薬学的に許容可能な塩である。
【0045】
第3および第4の態様の第3の実施形態では、阻害剤は、インフラマソーム経路阻害剤であり;そしてDNAは、第3もしくは第4の態様または第1の実施形態で提供される通りである。さらなる実施形態において、インフラマソーム経路阻害剤は、AIM2阻害剤である;AIM2阻害剤は、後述のセクションII.Bで提供されるものであり、AIM2阻害剤はA151である。
【0046】
第3および第4の態様の第4の実施形態において、DNAは、ウイルス抗原、細菌抗原、治療タンパク質、ショートヘアピンRNA(shRNA)、低分子干渉RNA(siRNA)をコードする導入遺伝子を含むDNAベクターである、マイクロRNA(miRNA)、RNAi、リボザイム、アンチセンスRNA、CRISPR(clustered regularly interspaced short palindromic repeats)/Cas9構築物、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、または転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)を含むDNAベクターであり;ここで、DNAベクターは第1の実施形態で提供される通りであり;細胞質DNA感知阻害剤は第3または第4の態様、第2の実施形態または第3の実施形態で提供される通りである。さらなる実施形態において、治療用タンパク質は、後述のセクションIII.D.で提供される通りである。
【0047】
第5の実施形態では、DNAは第3もしくは第4の態様、または関連する実施形態のいずれかで提供されるような環状DNAである。
【0048】
第3および第4の態様の第6の実施形態では、ナノ粒子は脂質ナノ粒子、脂質ポリマーナノ粒子、またはエクソソームであり;DNAは第3もしくは第4の態様、または第1、第4もしくは第5の実施形態で提供される通りであり;細胞質DNA感知阻害剤は第3もしくは第4の態様、または第2もしくは第3の実施形態で提供される通りである。さらなる実施形態では、ナノ粒子は脂質ナノ粒子であり;ナノ粒子は脂質ポリマーナノ粒子であり;ナノ粒子はエクソソームであり;ナノ粒子はDNAの放出に先立って阻害剤を放出するように構成された脂質ナノ粒子であり;ナノ粒子はDNAの放出に先立って阻害剤を放出するように構成された脂質ポリマーナノ粒子であり;ナノ粒子はDNAの放出に先立って阻害剤を放出するように構成されたエクソソームである。
【0049】
さらなる実施形態では、ナノ粒子はLNPである。さらなる実施形態において、LPN(mol%)は、以下の成分を含むか、それらから本質的になるか、またはそれらからなる:(1) 約20%から約65%の1種以上のカチオン性脂質、約1%から約50%の1種以上のリン脂質、約0.1%から10%の1種以上のPEG化脂質、および約0%~約70%のコレステロール;並びに(2)約20%~約50%の1種以上のカチオン性脂質、約5%~約20%の1種以上のリン脂質、約0.1%~約5%の1種以上のPEG化脂質、および約20%~約60%のコレステロール。さらなる実施形態において、リン脂質の脂質は中性脂質であり;そしてリン脂質の脂質はDOPEまたはDSPCである。
【0050】
さらなる実施形態では、LPN(mol%)は、以下の成分を含むか、それらから本質的になるか、またはそれらからなる:(1) cKK-E12(後述のI.A.にさらに記載)、約35%;C14-PEG2000、約2.5%;コレステロール、約46.5%;およびDOPE、約16%;(2) bCKK-E12(後述のI.Aにさらに記載)、約35%;C14-PEG2000、約2.5%;コレステロール、約46.5%;およびDOPE、約16%;(3) Lipid9(Sabnisら、および後述のI.A.にさらに記載)、約50%;C14-PEG2000、約1.5%;コレステロール、約38.5%;およびDSPC、約10%;または(4)Lipid5(Sabnisらおよび後述のI.A.さらに記載)約50%;C14-PEG2000約1.5%;コレステロール約38.5%;およびDSPC約10%;ならびに(5)イオン化可能脂質、約50%;DSPC、約10%;コレステロール、約37.5%;および安定剤(PEG-脂質)、約2.5%;または(6)GenVoy-ILMTM LNP(Precision NanoSystems)。
【0051】
第3および第4の態様の第7の実施形態では、2つの異なる 細胞質DNA感知阻害剤がナノ粒子中に提供される;ここで、他の成分は第3または第4の態様または関連する実施形態で提供される通りである。さらなる実施形態において、インフラマソーム経路阻害剤およびcGAS - STING経路阻害剤が提供され;2つの異なるインフラマソーム経路阻害剤が提供され;そして2つの異なるcGAS - STING経路阻害剤が提供される。
【0052】
第3および第4の態様または関連する実施形態の第8の実施形態では、DNAおよびDNAベクターはそれぞれ実質的に二本鎖DNAを含み;そしてDNAおよびDNAベクターはそれぞれ実質的に一本鎖DNAを含む。
【0053】
第5の態様は、第3もしくは第4の態様または関連する実施形態のナノ粒子組成物および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物に向けられている。
【0054】
第6の態様は、導入遺伝子を含むDNAベクターを含む遺伝子治療に使用するための医薬組成物であって、該組成物が、細胞質DNA感知阻害剤の投与前、同時に、または投与後に使用するためのものであり、DNAベクターがナノ粒子内に提供される、医薬組成物に向けられている。追加の実施形態は、第1および第2の態様および関連する実施形態に記載される方法;ならびに第3および第4の態様および関連する実施形態に記載される組成物に提供される。
【0055】
本発明の第7の態様は、第1および第2の態様ならびに関連する実施形態で使用する医薬品の製造方法に向けられている。医薬品は、ナノ粒子を医薬的に許容される担体と組み合せることにより製造され、ここでナノ粒子は第1、第2、第3、第4の態様または関連する実施形態に記載されている通りである。
【0056】
単数形の「a」、「an」および「the」は、文脈上明らかにそうでない場合を除き、複数形の参照語を含む。
【0057】
本明細書で使用される場合、複数の言及された要素間の接続語「および/または」は、個々の選択肢と組み合わされた選択肢の両方を包含すると理解される。例えば、2つの要素が「および/または」で結ばれている場合、第一の選択肢は第二の選択肢を含まない第一の選択肢の適用可能性を指し、第二の選択肢は第一の選択肢を含まない第二の選択肢の適用可能性を指し、第三の選択肢は第一と第二の選択肢を合わせた適用可能性を指す。選択肢のいずれかは、その意味の範囲内にあり、したがって「および/または」という用語の要件を満たすと理解される。1つ以上の選択肢の同時適用も、「および/または」という用語の意味に含まれると理解される。
【0058】
また、文脈上別段の定めがない限り、「または」および「および」という用語は、「および/または」と同じ意味を持つ。
【0059】
「を含む」、「例えば」、「例」、「のような」といった用語の後に異なるメンバーや例が続くのは、列挙されたメンバーや例が例示であり、他のメンバーや例を提供または使用することができるオープンエンドの説明である。
【0060】
「ポリペプチド」、「タンパク質」、「ペプチド」という用語は、機能に関係なくアミノ酸配列を指すために互換的に使用することができる。ポリペプチドとペプチドは少なくとも2個のアミノ酸を含み、タンパク質は少なくとも約10個のアミノ酸を含む。提供されるアミノ酸には、天然に存在するアミノ酸と細胞修飾によって提供されるアミノ酸が含まれる。
【0061】
要素または要素群に関して使用される「含む(comprise)」、および「含む(comprises)」、「含む(comprising)」などの変化形への言及は、オープンエンドであり、追加の未述要素または方法工程を除外するものではない。「含む(including)」、「含む(containing)」、「~を特徴とする」などの用語は、「含む(comprising)」と同義である。本明細書に記載の異なる態様および実施形態において、「含む(comprising)」などのオープンエンドの用語への言及は、「からなる(consisting)」または「から本質的になる(consisting essentially of)」という用語に置き換えることができる。
【0062】
「からなる(consisting)」という言及は、列挙された請求項の要素に明記されていない要素、ステップ、または成分を除外するものであり、そのような要素、ステップ、または成分が請求項に記載された発明に関連する場合は、この限りでない。
【0063】
「から本質的になる(consisting essentially of)」という言及は、請求項の範囲を、特定された材料またはステップ、と請求項に記載された発明の基本的かつ新規な特性に重大な影響を与えないものに限定する。
【0064】
「約」という用語は、基礎となるパラメータの10%以内の値(すなわち、プラスマイナス10%)を指す。例えば、「約1:10」には1.1:10.1または0.9:9.9が含まれ、「約5時間」には4.5時間または5.5時間が含まれる。値の文字列の先頭に「約」を付けると、各値が10%ずつ変更される。
【0065】
すべての数値または数値範囲は、文脈上明らかにそうでない場合を除き、その範囲内の整数、および数値または数値範囲内の整数の端数を含む。このように、95%以上の低減という表現には、95%、96%、97%、98%、99%、100%のほか、95.1%、95.2%、95.3%、95.4%、95.5%などが含まれる、96.1%、96.2%、96.3%、96.4%、96.5%など;「1~4」のような数値範囲への言及は、2、3のほか、1.1、1.2、1.3、1.4などを含み、「1~4」は7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28日を含み、「0.01~10」などの数値範囲は0.011、0.012、0.013などのほか、9.5、9.6、9.7、9.8、9.9、10などを含む。例えば、対象の体重「0.01mg/kg~10mg/kg」の用量には、0.011mg/kg、0.012mg/kg、0.013mg/kg、0.014mg/kg、0.015mg/kgなどのほか、9.5mg/kg、9.6mg/kg、9.7mg/kg、9.8mg/kg、9.9mg/kgなどが含まれる。
【0066】
より多い(大きい)またはより少ない整数への参照は、それぞれ参照番号より大きいまたは小さい数を含む。したがって、例えば、2回以上という表現には、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回、10回、11回、12回、13回、14回、15回が含まれ、「2回以上」という表現には、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回、10回、11回、12回、13回、14回、15回、またはそれ以上の回数が含まれる。
【0067】
本明細書の背景および全体にわたって、論文や特許文献を含む様々な参考文献が引用または記載されている。これらの文献はそれぞれ、参照することによりその全体が本明細書に組み込まれる。いずれの文献も、開示またはクレームされた発明に関して先行技術であることを認めていない。場合によっては、特定の参考文献を参照により本明細書に組み入れることを示し、組み入れを強調している。
【0068】
本項および本願の他の項を含め、本明細書で規定される定義は、本願全体に適用される。
【0069】
別に定義しない限り、本明細書で使用される全ての技術および科学用語は、本発明が関連する技術分野の通常の技術者により一般に理解されているものと同じ意味を有する。
【0070】
本明細書は、様々な節や段落に分けられ、様々な実施形態を提供している。これらの分離は、ある段落や節や実施形態の実質を、別の段落や節や実施形態の実質から切り離すものと考えるべきではない。提供された記述は広範に適用され、想定されるさまざまな節、段落、文のすべての組み合わせを包含する。任意の実施形態の議論は、例示的なものであることのみを意図しており、特許請求の範囲を含む本開示の範囲が(特許請求の範囲に別段の定めがない限り)これらの例に限定されることを示唆することを意図していない。
【0071】
本明細書では、特定の特徴の組み合わせが強調されているが、本明細書に開示されているすべての特徴は、任意の組み合わせで組み合わせることができる。本明細書に開示されている各特徴は、同一、同等、または類似の目的を果たす代替的な特徴で置き換えることができる。
I. ナノ粒子
【0072】
脂質ナノ粒子(LNP)、ポリマーナノ粒子、脂質ポリマーナノ粒子(LPNP)、タンパク質およびペプチドベースのナノ粒子、DNAデンドリマーおよびDNAベースのナノキャリア、カーボンナノチューブ、マイクロ粒子、マイクロカプセル、無機ナノ粒子、ペプチドケージナノ粒子、エクソソームなど、さまざまな異なるナノ粒子を採用することができる。(例えば、Riley and Vermerris Nanomaterials 2017,7,94;Thomas et al.,Molecules 2019,24,3744;Bochicchio et al.,Pharmaceutics 2021,13,198;Munagala et al.,Cancer Letters 2021,505,58;Fu et al.,2020 NanoImpact 20,100261;and Neshat et al. 2020 Current Opin.Biotechnol.66:1-10)。
【0073】
必要であれば、例えば標的細胞レセプターを認識するターゲティングリガンドを用いて、ナノ粒子を細胞種にターゲティングすることができる。ターゲティングリガンドの例としては、炭水化物(例えば、ガラクトース、マンノース、グルコース、ガラクトマンナン)、内因性リガンド(例えば、葉酸、トランスフェリン)、抗体(例えば、抗HER2抗体、hD1)、タンパク質/ペプチド(例えば、RGD、上皮増殖因子、低密度リポタンパク質)およびペプチドが挙げられる。(For example,Teo et al.,Advanced Drug Delivery Reviews 2016,98,41.)
【0074】
本出願の特徴は、DNAを送達するためにナノ粒子を使用することである。異なる実施形態では、ナノ粒子は、細胞質DNA感知阻害剤、免疫抑制剤、貪食細胞減少化合物、追加的治療化合物などの追加的化合物を送達することができ、1つ以上の追加的化合物が異なるナノ粒子で提供され;および1つ以上の付加的な化合物は、DNAベクターと同じナノ粒子内に提供され、例えば、DNAベクターと細胞質DNA感知阻害剤、あるいはDNAベクターと細胞質DNA感知阻害剤と免疫細胞調節剤などである。「化合物」には、低分子、高分子(例えば、治療用タンパク質や抗体)、核酸が含まれる。
【0075】
さまざまなナノ粒子の製造と核酸やその他の化合物の組み込みは、当技術分野でよく知られており、セクションIの議論を通じてさまざまな刊行物に例示されている。一般に、ナノ粒子カーゴ(例えば、DNAおよび/または阻害剤)の曝露動態は、DNAと異なる化合物に異なる環境を与えたり、異なる構造と会合させたりすることによって影響を受ける可能性がある。
【0076】
LPNPおよびLNPなどの特定のナノ粒子における核酸の組み込みを例示する刊行物の例には、Teoら、Advanced Drug Delivery Reviews 2016、98、41;Bochicchioら、Pharmaceutics 2021、13、198;MahzabinおよびDas、IJPSR 2021、12(1)、65;およびTeixeiraら、Progress in Lipid Research 2017、1が含まれる(これらの各々は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。このような文献はまた、核酸や低分子と相互作用する様々な構造を提供することで、望ましい放出動態に影響を与えることができるというLPNPの利点を指摘している。低分子のナノ粒子への取り込みに影響を与える要因としては、疎水性とイオン化可能な部分の存在が挙げられる。(例えば、Nii and Ishii,International Journal of Pharmaceutics 2005,298,198;and Chen et al,Journal of Controlled Release 2018,286,46を参照)。
【0077】
一実施形態では、化合物(例えば、細胞質DNA感知阻害剤および/または免疫細胞調節剤)は、疎水性を高めるために脂肪酸と連結される。低分子と結合できる脂肪酸の例としては、Chenら、Journal of Controlled Release 2018,286,46-54によるものがある。
I.A.脂質ベースの送達系
【0078】
脂質ベースの送達系には、成分として脂質の使用が含まれる。脂質ベースの送達系の例としては、リポソーム、LNP、ミセル、細胞外小胞などがある。
【0079】
「脂質ナノ粒子」または「LNP」は、核酸分子の送達に有用で、ナノスケールの寸法を持つ脂質ベースの小胞を指す。異なる実施形態では、ナノ粒子は約10nm~約1000nm、約50nm~約500nm、または約50nm~約200nmである。
【0080】
DNAはマイナスに帯電している。したがって、LNPが例えばアミノ脂質のようなカチオン性脂質を含むことは有益である。例示的なアミノ脂質は、米国特許第9,352,042号、同第9,220,683号、同第9,186,325号、同第9,139,554号、同第9,126,966号、同第9,018,187号、同第8,999,351号、同第8,722,082号、同第8,642,076号、同第8,569,256号、同第8,466,122号、および同第7,745,651号ならびに米国特許公開第2016/0213785号、同第2016/0199485号、同第2015/0265708号、同第2014/0288146号、同第2013/0123338号、同第2013/0116307号、同第2013/0064894号、同第2012/0172411号、および同第2010/0117125号に記載されており、これらの特許はすべて、その全体が本明細書に組み込まれる。特定の実施形態において、LNPは、米国特許第9,512,073号(その全体が本明細書に組み込まれる)に記載されているアミノ脂質を含む。
【0081】
「カチオン性脂質」および「アミノ脂質」という用語は、本明細書において互換的に使用され、1、2、3、またはそれ以上の脂肪酸または脂肪アルキル鎖およびpH調整可能なアミノ基(例えば、アルキルアミノ基またはジアルキルアミノ基)を有する脂質およびその塩を含む。カチオン性脂質は通常、カチオン性脂質のpKa以下のpHではプロトン化(すなわち正に帯電)しており、pKa以上のpHでは実質的に中性である。カチオン性脂質は、滴定可能なカチオン性脂質であることもできる。特定の実施形態において、カチオン性脂質は、プロトン化可能な第三級アミン(例えば、pH滴定可能)基;C18アルキル鎖(ここで、各アルキル鎖は独立して、1つ以上の二重結合、1つ以上の三重結合を有することができる);および頭部基とアルキル鎖との間のエーテル、エステル、またはケタール結合を含む。
【0082】
カチオン性脂質は、1,2-ジリノオレイルオキシ-N,N-ジメチルアミノプロパン(DLinDMA)、1,2-ジリノレニルオキシ-N,N-ジメチルアミノプロパン(DLenDMA)、1,2-ジ-γ-リノレニルオキシ-N,N-ジメチルアミノプロパン(γ-DLenDMA)、2,2-ジリノレイル-4-(2-ジメチルアミノエチル)-[1,3]-ジオキソラン(DLin-K-C2-DMA、DLin-C2K-DMA、XTC2、C2Kとしても知られる)、2,2-ジリノレイル-4-ジメチルアミノメチル-[1,3]-ジオキソラン(DLin-K-DMA)、ジリノレイルメチル-3-ジメチルアミノプロピオネート(DLin-M-C2-DMA、別名MC2)、(6Z,9Z,28Z,31Z)-ヘプタトリアコンタ-6,9,28,31-テトラエン-19-イル 4-(ジメチルアミノ)ブタノエート(DLin-M-C3-DMA、別名MC3)、その塩、およびそれらの混合物を含む。その他のカチオン性脂質は、1,2-ジステアリルオキシ-N,N-ジメチル-3-アミノプロパン(DSDMA)、1,2-ジオレイルオキシ-N,N-ジメチル-3-アミノプロパン(DODMA)、2,2-ジリノレイル-4-(3-ジメチルアミノプロピル)-[1,3]-ジオキソラン(DLin-K-C3-DMA)、2,2-ジリノレイル-4-(3-ジメチルアミノブチル)-[1,3]-ジオキソラン(DLin-K-C4-DMA)、DLen-C2K-DMA、γ-DLen-C2K-DMA、および(DLin-MP-DMA)(1-B11としても知られる)を含む。
【0083】
さらに別のカチオン性脂質は、2,2-ジリノレイル-5-ジメチルアミノメチル-[1,3]-ジオキサン(DLin-K6-DMA)、2,2-ジリノレイル-4-N-メチルペピアジノ-[1,3]-ジオキソラン(DLin-K-MPZ)、1,2-ジリノレイルカルバモイルオキシ-3-ジメチルアミノプロパン(DLin-C-DAP)、1,2-ジリノレオキシ-3-(ジメチルアミノ)アセトキシプロパン(DLin-DAC)、1,2-ジリノレオキシ-3-モルフォリノプロパン(DLin-MA)、1,2-ジリノレオイル-3-ジメチルアミノプロパン(DLinDAP)、1,2-ジリノレイルチオ-3-ジメチルアミノプロパン(DLin-S-DMA)、1-リノレオイル-2-リノレイルオキシ-3-ジメチルアミノプロパン(DLin-2-DMAP)、1,2-ジリノオレイルオキシ-3-トリメチルアミノプロパンクロリド塩(DLin-TMA.Cl)、1,2-ジリノレオイル-3-トリメチルアミノプロパンクロライド塩(DLin-TAP.Cl)、1,2-ジリノールオキシ-3-(N-メチルピペラジノ)プロパン(DLin-MPZ)、3-(N,N-ジリノオレイルアミノ)-1,2-プロパンジオール(DLinAP)、3-(N,N-ジオレイルアミノ)-1,2-プロパンジオ(DOAP)、1,2-ジリノオレイルオキソ-3-(2-N,N-ジメチルアミノ)エトキシプロパン(DLin-EG-DMA)、N,N-ジオレイル-N,N-ジメチルアンモニウムクロリド(DODAC)、N-(1-(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル)-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA)、N,N-ジステアリル-N,N-ジメチルアンモニウムブロミド(DDAB)、N-(1-(2,3-ジオレオイルオキシ)プロピル)-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド(DOTAP)、3-(N-(N′,N′-ジメチルアミノエタン)-カルバモイル)コレステロール(DC-Chol)、N-(1,2-ジミリスチルオキシプロプ-3-イル)-N,N-ジメチル-N-ヒドロキシエチルアンモニウムブロミド(DMRIE)、2,3-ジオレイルオキシ-N-[2(スペルミンカルボキサミド)エチル]-N,N-ジメチル-1-プロパナミニウムトリフルオロアセテート(DOSPA)、ジオクタデシルアミドグリシルスペルミン(DOGS)、3-ジメチルアミノ-2-(コレスト-5-エン-3-β-オキシブタン-4-オキシ)-1-(シス,シス-9,12-オクタデカジエノキシ)プロパン(CLinDMA)、2-[5′-(コレスト-5-エン-3-β-オキシ)-3′-オキサペントキシ)-3-ジメチル-1-(シス,シス-9′,1-2′-オクタデカジエノキシ)プロパン(CpLinDMA)、N,N-ジメチル-3,4-ジオレイルオキシベンジルアミン(DMOBA)、1,2-N,N′-ジオレイルカルバミル-3-ジメチルアミノプロパン(DOcarbDAP)、1,2-N,N′-ジリノレイルカルバミル-3-ジメチルアミノプロパン(DLincarbDAP)、デキサメタゾン-スペリミン(DS)および二置換スペルミン(D2S)、またはそれらの混合物を含む。
【0084】
カチオン性脂質の多くの市販製剤、例えば、LIPOFECTIN(登録商標)(DOTMAおよびDOPEを含み、GIBCO/BRLから入手可能)、およびLIPOFECTAMINE(登録商標)(DOSPAおよびDOPEを含み、GIBCO/BRLから入手可能)を使用することができる。
【0085】
使用可能な追加のイオン化可能脂質としては、C12-200、306Oi10、MC3、cKK-E12、bCKK-E12、Lipid 5、Lipid 9、ATX-002、ATX-003、およびMerck-32が挙げられる。米国特許出願公開第2017/0367988号には、Merck-32が記載されている。
【0086】
さらなる実施形態では、カチオン性脂質は、LNPのモル比で約10%~LNPのモル比で約85%、またはLNPのモル比で約50%~LNPのモル比で約75%の量で存在することができる。
【0087】
LNPは中性脂質を含むことができる。中性脂質は、生理学的pHにおいて非荷電または中性の双性イオン形態で存在する脂質種を含む。このような脂質には、ジアシルホスファチジルコリン、ジアシルホスファチジルエタノールアミン、セラミド、スフィンゴミエリン、ジヒドロスフィンゴミエリン、セファリン、およびセレブロシドが含まれる。中性脂質の選択は、一般的に粒子径や安定性などを考慮して行われる。特定の実施形態において、中性脂質成分は、2つのアシル基(例えば、ジアシルホスファチジルコリンおよびジアシルホスファチジルエタノールアミン)を有する脂質であり得る。
【0088】
鎖長や飽和度の異なる様々なアシル鎖基を持つ脂質が入手可能であり、また単離や合成も可能である。特定の実施形態では、C14からC22の範囲の炭素鎖長を有する飽和脂肪酸を含む脂質を使用することができる。特定の実施形態では、C14からC22の範囲の炭素鎖長を有する一価または二価不飽和脂肪酸を有する脂質が使用される。さらに、飽和脂肪酸鎖と不飽和脂肪酸鎖の混合物を有する脂質を使用することもできる。例示的な中性脂質には、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジル-エタノールアミン(DOPE)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)、またはホスファチジルコリンが含まれる。さらに中性脂質はスフィンゴミエリン、ジヒドロスフィンゴミエリン、またはセリンやイノシトールのような他の頭部基を持つリン脂質で構成され得る。
【0089】
中性脂質を提供するさらなる実施形態では、中性脂質は、LNPの約0.1重量%~LNPの約99重量%、またはLNPの約5重量%~LNPの約15重量%の量で存在することができ、例えば、約1%、約2%、約3%、約4%、約5%、約6%、約7%、約8%、約9%、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、または約99%である。
【0090】
LNPは、ステロールやポリエチレングリコールなどの追加成分を含むことができる。ステロールはLNPに流動性を与えることができる。本明細書で使用する「ステロール」とは、植物(フィトステロール)または動物(ズーステロール)由来の天然に存在するステロール、および天然に存在しない合成ステロールを指し、これらはすべて、ステロイドA環の3位にヒドロキシル基が存在することを特徴とする。好適なステロールには、リポソーム、脂質ベシクルまたは脂質粒子調製の分野で従来から使用されているもの、最も一般的にはコレステロールが含まれる。フィトステロールには、カンペステロール、シトステロール、スチグマステロールなどがある。ステロールには、米国特許出願公開2011/0177156号に記載されているような、ステロール修飾脂質も含まれる。ステロールを提供する異なる実施形態では、ステロールは、LNPの約1重量%~LNPの約80重量%、またはLNPの約10重量%~LNPの約25重量%の量で存在する。
【0091】
ポリエチレングリコール(PEG)は、2つの末端水酸基を持つエチレンPEG繰り返し単位の直鎖状水溶性ポリマーである。PEGは分子量によって分類され、例えばPEG 2000は平均分子量約2000ダルトン、PEG 5000は平均分子量約5000ダルトンである。シグマ・ケミカル社などから市販されているPEGには、モノメトキシポリエチレングリコール(MePEG-OH)、モノメトキシポリエチレングリコール-スクシナート(MePEG-S)、モノメトキシポリエチレングリコール-スクシンイミジルスクシナート(MePEG-S-NHS)、モノメトキシポリエチレングリコール-アミン(MePEG-NH2)、モノメトキシポリエチレングリコール-トレシレート(MePEG-TRES)、およびモノメトキシポリエチレングリコール-イミダゾリル-カルボニル(MePEG-IM)が含まれる。
【0092】
PEGに関する特定の実施形態では、PEGは約550~約10,000ダルトンの平均分子量を有し、アルキル、アルコキシ、アシルまたはアリールで任意選択的に置換されている。さらなる実施形態において、PEGは末端ヒドロキシル位でメチルで置換されている。さらなる実施形態において、PEGは、約750~約5,000ダルトン、または約1,000~約5,000ダルトン、または約1,500~約3,000ダルトン、または約2,000ダルトン~、または約750ダルトン~の平均分子量を有する。
【0093】
PEG修飾脂質には、米国特許第8,936,942号および同第7,803,397号に記載されているPEG-ジアルキルオキシプロピルコンジュゲート(PEG-DAA)がある。PEG修飾脂質(または脂質-ポリオキシエチレンコンジュゲート)は、PEG部分を脂質ベシクルの表面に固定するために、様々な「アンカー」脂質部分を持つことができる。適切なPEG修飾脂質の例としては、PEG修飾ホスファチジルエタノールアミンおよびホスファチジン酸、米国特許第5,820,873号に記載されているPEG-セラミドコンジュゲート(例えば、PEG-CerC14またはPEG-CerC20)、PEG修飾ジアルキルアミンおよびPEG修飾1,2-ジアシルオキシプロパン-3-アミンが挙げられる。特定の実施形態において、PEG修飾脂質は、PEG修飾ジアシルグリセロールおよびジアルキルグリセロールであり得る。特定の実施形態では、PEGは、LNPの約0.1重量%~LNPの約50重量%、またはLNPの約5重量%~LNPの約15重量%の量であり得る。
【0094】
LNPサイズに関するさらなる実施形態では、核酸を封入する前のLNPは、約10nm~約500nm、または約50nm~約200nm、または75nm~約125nmの範囲のサイズを有する。
【0095】
LNPに関する特定の実施形態では、LNPは、Billingsleyら、Nano Lett. 2020,20,1578またはBillingsleyら、国際特許公開第WO 2021/077066号(いずれも参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に記載されている。Billingsleyらや WO2021/077066は、脂質固定化PEG、コレステロール、リン脂質、イオン化可能脂質を含むLNPを記載している。特定の実施形態において、LNPは、C14-4ポリアミンコアを含み、および/または約70nmの粒径を有する。C14-4は次の構造をしている。
【化1】
【0096】
特定の実施形態において、LNPは、米国特許第10,493,031号、米国特許第10,682,374号またはWO2021/077066(これらの各々は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)によって記載されるカチオン性脂質またはリポペプチドで構成される。特定の実施形態において、LNPは、カチオン性脂質、コレステロールベースの脂質、および/または1つ以上のPEG修飾脂質を含む。特定の実施形態において、LNPはcKK-E12を含む(Dongら、PNAS(2014)111(11)、3955):
【化2】
【0097】
特定の実施形態において、LNPは、本明細書において「bCKK-E12」と呼ばれる、以下の構造を有するcKK-E12の修飾形態を含む:
【化3】
【0098】
特定の実施形態において、LNPは、Sabnisら、Molecular Therapy 2018、26:6、1509~1519(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)によって記載される脂質1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10を含む。特定の実施形態において、LNPは、Sabnisらに記載されたLipid5、8、9、10、または11を含む。
【0099】
SabnisらのLipid5の構造は以下の通りである:
【化4】
【0100】
SabnisらのLipid9の構造は以下の通りである:
【化5】
【0101】
利用され得る追加の脂質としては、Rocesら、Pharmaceutics、2020、12,1095;Jayaramanら、Angew.Chem.Int.Ed.,2012,51,8529-8533;Maier et al.,www.moleculartherapy.org,2013,Vol.21,No.8,1570-1578;Liu et al.,Adv.Mater.2019,31,1902575,例えば、BAMEA-O16B;Cheng et al.,Adv.Mater.、2018、30、1805308、例えば、5A2-SC8;Hajj and Ball、Small、2019 15、1805097、例えば、306Oi10;Duら、米国特許出願公開第20160376224号;およびTanakaら、Adv.Funct.Mater.,2020,30,1910575を含む;これら文献の各々は、参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0102】
さらなる実施形態では、ナノ粒子はLNPである。さらなる実施形態において、LPN(mol%)は、以下の成分を含むか、それらから本質的になるか、またはそれらからなる:(1) 約20%から約65%の1種以上のカチオン性脂質、約1%から約50%の1種以上のリン脂質、約0.1%から10%の1種以上のPEG化脂質、および約0%~約70%のコレステロール;並びに(2)約20%~約50%の1種以上のカチオン性脂質、約5%~約20%の1種以上のリン脂質、約0.1%~約5%の1種以上のPEG化脂質、および約20%~約60%のコレステロール。さらなる実施形態において、リン脂質の脂質は中性脂質であり;そしてリン脂質の脂質はDOPEまたはDSPCである。
【0103】
さらなる実施形態では、LPN(mol%)は、以下の成分を含むか、それらから本質的になるか、またはそれらからなる:(1) cKK-E12(後述のI.A.にさらに記載)、約35%;C14-PEG2000、約2.5%;コレステロール、約46.5%;およびDOPE、約16%;(2) bCKK-E12(後述のI.Aにさらに記載)、約35%;C14-PEG2000、約2.5%;コレステロール、約46.5%;およびDOPE、約16%;(3) Lipid9(Sabnisら、および後述のI.A.にさらに記載)、約50%;C14-PEG2000、約1.5%;コレステロール、約38.5%;およびDSPC、約10%;または(4)Lipid5(Sabnisらおよび後述のI.A.さらに記載)約50%;C14-PEG2000約1.5%;コレステロール約38.5%;およびDSPC約10%;ならびに(5)イオン化可能脂質、約50%;DSPC、約10%;コレステロール、約37.5%;および安定剤(PEG-脂質)、約2.5%;または(6)GenVoy-ILMTM LNP(Precision NanoSystems)。
I.B.ポリマー・ベース・ナノ粒子
【0104】
ポリマーベースの送達系は、さまざまな天然素材や合成素材から作ることができる。DNAや他の化合物は、ポリマーナノ粒子のポリマーマトリックスに封入することも、ナノ粒子の表面に吸着または結合させることもできる。核酸デリバリーによく使われるポリマーの例としては、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリ(エチレンイミン)(PEI)およびPEI誘導体、キトサン、デンドリマー、ポリ無水物、ポリカプロラクトン ポリメタクリレート、ポリ-L-リジン、プルラン、デキストラン、およびヒアルロン酸、ポリ-β-アミノエステルを含む。(Thomas et al.,Molecules 2019,24,3744.)
【0105】
特定の実施形態において、ポリマー系ナノ粒子は、約1nm~約1000nm、約10nm~約500nm、約50nm~約200nm、約100nm~約150nm、および約150nm以下の範囲の異なるサイズを有する。
I.C.ー脂質ポリマーナノ粒子
【0106】
脂質ポリマーナノ粒子は、脂質成分とポリマー成分の両方を提供するハイブリッドナノ粒子であり、そのようなものとしてLNPまたはLPNPと考えることができる。LPNP構成は、外側ポリマーと内側脂質、または外側脂質と内側ポリマーを提供することができる。2つの異なるタイプの材料が存在することで、成分の遅延放出を実現するナノ粒子の設計が容易になる。異なる脂質およびポリマー成分は、I.A. 上掲およびI.B. 上掲で提供さ れ、当技術分野で提供されている ガイダンスとともに、送達される物質(例えば、細胞質DNA感知阻害剤およびDNAベクター )を考慮して選択することができる。(例えば Teo et al.,Advanced Drug Delivery Reviews 2016,98,41;Bochicchio et al.,Pharmaceutics,2021 13,198;Mahzabin and Das,IJPSR 2021,12(1),65;Teixeira et al.,Progress in Lipid Research,2018,1.)
I.D. タンパク質およびペプチドベースのナノ粒子
【0107】
タンパク質やペプチドをベースにしたシステムは、さまざまな種類のタンパク質やペプチドを用いることができる。タンパク質の例としては、ゼラチンやエラスチンを含む。ペプチドベースのシステムは、例えばCPPを用いることができる、
【0108】
CPPは短いペプチド(6-30アミノ酸残基)で、治療分子を細胞内に浸透させることができる可能性がある。CPPの大部分は主にアルギニン残基とリジン残基からなり、陽イオン性で親水性であるが、CPPは両親媒性、陰イオン性、疎水性であることもある。CPPは、天然の生物分子(例えば、HIV-1タンパク質のTat)から誘導することも できるし、合成法によって得ることもできる(例えば、ポリ-L-リジン、ポリアルギニン)(Singhら、Drug Deliv.2018;25(1):1996-2006). CPPの例としては、Tatペプチド、ペネトラチン、プロタミン、ポリ-L-リジン、ポリアルギニンなどのカチオン性CPP(高正電荷);トランスポルタン、VT5、バクテネシン-7(Bac7)、プロリンリッチペプチド(PPR)、SAP(VRLPPP)3、TP10、pep-1、MPGなどの両親媒性CPP(異なる供給源から構築され、正と負の両方の荷電アミノ酸配列を含むキメラペプチドまたは融合ペプチド);H625、SPIONs-PEG-CPP、NPのような膜向性CPP(疎水性と両親媒性の性質を同時に示し、大きな芳香族残基と小さな残基の両方を含む)、SG3、PFVYLI、pep-7、線維芽細胞増殖因子のような疎水性CPP(非極性のモチーフや残基のみを含む)を含む。
【0109】
タンパク質およびペプチドナノ粒子は、例えば、約1nmから約1000nm、約10nmから約500nm、約50nmから約200nm、約100nmから約150nm、または約150nm以下の範囲の異なるサイズで提供することができる。
I.E.ペプチドケージ・ナノ粒子
【0110】
ペプチドケージベースの送達系は、制約された内部環境を形成するケージ状の構造に組み立てることができるタンパク質質材料から製造することができる。ペプチドケージは、自己組織化してタンパク質ケージを形成するタンパク質性シェル(例えば、溶媒に自然にアクセスできるか、溶媒濃度、pH、平衡比を変化させることによってそうすることができる内部空洞を有する構造)を含むことができる。タンパク質ケージのモノマーは、天然に存在するものでも、アミノ酸置換、挿入、欠失(断片など)を含む変異体でもよい。
【0111】
さまざまな種類のタンパク質の「殻(shells)」を組み立て、さまざまな種類の材料を装填することができる。タンパク質ケージは、ウイルス性コートタンパク質(例えば、ササゲ葉緑素斑点病ウイルスタンパク質コートから)、ならびに非ウイルス性タンパク質(例えば、米国特許第6,180,389号および同第6,984,386号、米国特許出願公開第20040028694号、および米国特許出願公開第20090035389号、これらの各明細書中の記載は参照により本明細書に組み込まれる)を用いて作製され得る。
【0112】
非ウイルス性タンパク質由来のタンパク質ケージの例としては、真核生物または原核生物由来のフェリチンやアポフェリチン、例えば12および24サブユニットフェリチン;および熱ショックタンパク質(HSP)、例えば内部コア空間を形成する24サブユニット熱ショックタンパク質のクラス、Methanococcus jannaschiiの小型HSP、大腸菌の12量体Dsp HSP:およびMrgAタンパク質が挙げられる。
【0113】
特定の実施形態では、タンパク質ケージは、約1nmから約1000nm、約10nmから約500nm、約50nmから約200nm、約100nmから約150nm、または約150nm以下の範囲など、異なるコアサイズを有する。
I.F.エクソソーム
【0114】
エクソソームとは小さな生体膜小胞のことで、低分子、ペプチド、タンパク質、核酸など、さまざまなカーゴを運搬するために利用されている。エクソソームの大きさは一般に約30nmから100nmで、細胞に取り込まれ、カーゴを運搬することができる。カーゴはエクソソーム表面構造と結合していることもあれば、エクソソーム二重膜内に封入されていることもある。
【0115】
エクソソームには様々な修飾を加えることができ、カーゴ送達や細胞標的化を容易にする。カーゴの運搬を容易にするための修飾には、タンパク質の足場やポリマーのようなカーゴと会合するための構造が含まれる。細胞標的化のための修飾には、標的化リガンドと表面電荷の修飾が含まれる。異なるカーゴの送達のためのエクソソームの産生、修飾、および使用について記述した刊行物には、Munagalaら、Cancer Letters 2021、505、58;Fuら、2020 NanoImpact 20、100261;およびDooleyら、2021 Molecular Therapy 29(5)、1729(これらの各々は、参照により本明細書に援用される)が含まれる。
II.細胞質DNA感知経路阻害剤
【0116】
細胞質DNA感知経路は、外来DNAを感知し、炎症性サイトカイン、炎症性ケモカイン、I型インターフェロンの産生をもたらす免疫反応を引き起こす。(例えば、hypertext transfer protocol://www.genome.jp/dbget-bin/www_bget?pathway+hsa04623、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。DNAによって引き起こされる免疫反応を軽減するために、細胞質DNA感知経路阻害剤を提供することができる。異なる実施形態では、cGAS-STINGおよび/またはインフラマソーム経路阻害剤が採用される。1つ以上の標的を阻害する特定の阻害剤は、各標的またはいずれかの標的の阻害剤として提供することができる。
【0117】
様々な種類の化合物が、細胞質DNA感知経路に関与するタンパク質の生産や活性を阻害することができ、阻害剤として使用することができる。特定の実施形態において、細胞質DNA感知経路阻害剤は、低分子、抗体、ペプチド、核酸、または分解剤(プロタックまたは分解剤など)の標的タンパク質である。
II.A. cGAS-STING経路阻害剤
【0118】
cGAS-STING経路阻害剤は、cGAS、STING、TBK1などのcGAS-STING経路タンパク質に直接作用するか、あるいはcGAS-STING経路に影響を与える薬剤に作用しうる。cGAS - STING経路阻害剤設計を記載する参考文献、および阻害剤の例には、Ding et al.,Acta Pharmaceutica Sinica B 2020,10(12),2272(“Ding”),Fu et al.,iScience 2020,23,101026,Konno et al.,Cell Rep. 2018,23(24),1112,U.S. Patent Application Publication No. 20200291001,およびHaag et al.,Nature,2018,559,269-273(これらの各々は、参照により本明細書に組み込まれる)が含まれる。
【0119】
cGAS-STING経路阻害剤を含む本明細書に記載の様々な化合物は、薬学的に許容可能な塩として提供することができる。「薬学的に許容可能な塩」とは、投与に適した塩を指す。化合物にもよるが、薬学的に許容可能な塩には酸付加塩と塩基性塩がある。薬学的に許容可能な酸付加塩には以下のものが含まれる:塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硝酸塩、硫酸塩、重硫酸塩、リン酸塩、酸性リン酸塩、イソニコチン酸塩、炭酸塩、重炭酸塩、酢酸塩、乳酸塩、サリチル酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩、ピルビン酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、パントテン酸塩、重酒石酸塩、アスコルビン酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩 ゲンチシン酸塩、フマル酸塩、グルコン酸塩、グルカロン酸塩、サッカラート塩、ギ酸塩、安息香酸塩、グルタミン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩および パモ酸塩(すなわち、1,1′-メチレン-ビス-(2-ヒドロキシ-3-ナフトエート))。適切な塩基塩としては、アルミニウム塩、カルシウム塩、リチウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、亜鉛塩、ビスマス塩、ジエタノールアミン塩などが挙げられる。さらに、様々なアミノ酸を薬学的に許容可能な塩として採用することができる。
【0120】
特定の実施形態において、STING阻害剤は、1-オキソ-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン-4-イルカルボン酸(44)、9-アミノ-6-クロロ-2-メトキシアクリジン(59)、ヒドロクロロキン(60)から選択される:
【化6】
【化7】
【化8】
【0121】
GSK690693は、AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)/AKT阻害剤であり、cGAS-STING経路に影響を与える阻害剤の一例である。AMPK/AKT活性は、ULK1のリン酸化を低下させることにより、環状cGAS-STING経路に影響を与え、これによりULK1はSTINGをリン酸化し、STING活性を阻害する。GSK690693を含むAMPK阻害剤の例は、Konnoら,Cell Rep. 2018,23(4),1112に提供されている。
【0122】
追加のSTING阻害剤、STING阻害剤の足場およびモチーフ、ならびに設計に関する考察を提供する追加の参考文献には、Decoutら、Nat.Rev. Immunol.,2021,Sep;21(9):548-569;Dubenskyら、米国特許第10,189,873号;Katibahら、米国特許出願公開第20180369268号;Seidelら、国際特許公開第WO2020/150439号;Roushら、米国特許出願公開第20200172534号;Roushら、米国特許出願公開第2021236466号;Glickら、国際特許公開第WO2022/140410号;Hongら、Proc Natl Acad.Sci U S A.、2021、Jun 15;118(24);およびHongら、Journal of Molecular Cell Biology、2022、14(2)、njac005がある;これらの各出版物は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0123】
異なる実施形態において、阻害剤は、表1に提供されている通りであるか、またはその薬学的に許容可能な塩である。
【0124】
【0125】
異なる実施形態において、cGAS阻害剤は、以下のいずれかである:塩酸キナクリン(55)、臭化エチジウム(56)、アクチノマイシン(57)、キナクリン(58)、9-アミノ-6-クロロ-2-メトキシアクリジン(59)、ヒドロキシクロロキン(60)、
【化9】
【化10】
【0126】
Dingは、化合物55、56および57を、DNAをインターカレートする間接的なcGAS阻害剤として記載し、化合物58から64を、2´,3´-cGAMP合成を阻害する間接的なcGAS阻害剤として記載している。
【0127】
cGAS阻害剤、cGAS阻害剤の足場とモチーフ、および設計に関する考察を提供するその他の文献は以下を含む:Decout et al.,Nat. Rev. Immunol.,2021 Sep;21(9):548-569:Vincent et al.,Nat. Commun.,2017,8:750;Lama et al.,Nat. Commun.,2019,May 21;10(1):2261;Obioma et al.,U.S. Patent No. 10,738,056;Hong et al.,Journal of Molecular Cell Biology,2022,14(2),njac005;Zhao et al.,J. Chem. Inf.Model,2020,60,3265-3276;and Padilla-Salinas et al.,J. Org.Chem.,2020,85,1579-1600;これらの各出版物は、参照によりその全体が本明細書に援用される。
【0128】
異なる実施形態において、阻害剤は、表2に提供される通りであるか、またはその薬学的塩である。
【0129】
【0130】
異なる実施形態では、TBK1阻害剤はドビチニブのいずれかである、
【化11】
【0131】
その他のTBK1阻害剤、TBK1阻害剤の足場とモチーフ、および設計に関する考察を提供する参考文献は以下の通りである: Thomson et al.,Expert Opinion on Therapeutic Patents,2021,31:9 785-794;Cheklerら、米国出願特許公開第20210214339号;NewtonおよびStewart、米国特許第11,058,686号;Karraら、国際特許公開第WO2019/079373A1号;Bigiら、米国特許第9,994,547号;Schulzeら、米国特許第10,894,784号;Hassan and Yan,Parmacol.Res.,2016,111:336-342;Li et al.,Int.J. Cancer 2014,134:1972-1980;Alam et al.,International Journal of Biological Macromolecules,2022,2027:1022-1037;Perriorら、米国特許第8,962,609号;およびDuら、米国特許第10,316,049号;なお、これらの文献はすべて記載が、本明細書において参照により援用される。
【0132】
特定の実施形態において、阻害剤は、表3に提供されている通りであるか、またはその薬学的塩である。
【0133】
【0134】
II.B.インフラマソーム経路阻害剤
【0135】
インフラマソーム経路阻害剤は、Absent in Melanoma-2(AIM2)タンパク質のようなインフラマソーム経路タンパク質に直接作用するか、インフラマソーム経路に影響を与える薬剤に作用することができる。哺乳類のテロメアDNAによく見られるTTAGGGリピートのような特定のDNA配列は、AIM2と結合して自然免疫の活性化を抑制する。(Kaminski et al,The Journal of Immunology,2013,191,3876)。このような配列は、cGASやSTINGのような他の生来の反応も阻害することができる。AIM2阻害剤の例としては、TTAGGGモチーフの4つの反復を含む合成オリゴヌクレオチドであるA151があり、以下のヌクレオチド配列を有し、塩基はホスホロチオエート結合で結合している:5′-TTAGGGTTAGGGTTAGGGTTAGGG-3´(配列番号1);および5′-TTAGGGTTAGGGTTAGGGTTAGGG-3´(配列番号2)、ホスホジエステル結合を含む。追加のオリゴヌクレオチド配列には、他のタイプの修飾配列番号2、例えば、同じヌクレオチド配列を有するが、異なる修飾されたバックボーンを有するものなどである。このようなヌクレオチド配列は、cGASおよびSTING阻害剤としても使用できる。cGASおよびSTING阻害剤として、DNAまたはDNAベクターに組み込むことができる。
III.DNAベクター
【0136】
DNAベクターは、導入遺伝子と、導入遺伝子からのRNA発現またはプロセッシングに影響を及ぼす1つ以上の調節エレメントを含む。生成されたRNAは、例えば、機能的であったり、特定のタンパク質をコードしていたりする。調節エレメントには、例えば、機能性RNAの転写、導入遺伝子がコードするタンパク質の産生、タンパク質のプロセシングを調節する様々なエレメントが含まれる。存在しうる調節エレメントには、エンハンサー配列、イントロン、転写後調節エレメント、ポリアデニル化および終結シグナル配列、オンオフスイッチ、細胞特異的調節因子、および内部リボソーム進入部位が含まれる。DNAベクターによっては、調節エレメントに加えて、末端反転反復、プラスミドの複製や選択を促進するエレメント、タンパク質の分泌を促進する配列などのエレメントを含み得る。同じタイプであっても異なっていてもよい複数の導入遺伝子;および/または同じタイプであっても異なっていてもよい複数のエレメントが存在してもよい。
【0137】
DNAベクターはさらに、1つ以上の調節可能エレメントを含んでいてもよい。このようなエレメントは、遺伝子発現のオン/オフスイッチとなる。制御可能エレメントには、組織特異的エレメントや薬物応答性転写(プロモーター/エンハンサー)エレメントが含まれる。制御可能エレメントの例としては、テトラサイクリン誘導性エレメント、薬剤投与可能なリボザイム、薬剤投与可能なトーホールド(toe-hold)スイッチ、マイクロRNA応答性遺伝子(例えば、mRNA安定性またはタンパク質翻訳)、モルホリノ応答性mRNA(例えば、スプライシングまたはmRNA安定性)、サプレッサーtRNA制御遺伝子、代替スプライシングにより制御される遺伝子、およびdruggable degronsが挙げられる。
【0138】
一実施形態では、DNAベクターは遺伝子治療に用いられる。遺伝子治療には、機能喪失型遺伝子欠損と機能獲得型遺伝子欠損の両方が含まれる。遺伝子異常に関する「機能喪失型」という用語は、その遺伝子によってコードされるタンパク質が、通常野生型タンパク質に付随する機能の一部または全部を喪失する遺伝子変異を指す。遺伝的欠陥に関する「機能獲得型」という用語は、遺伝子に変異が生じ、その遺伝子によってコードされるタンパク質が、野生型タンパク質とは通常関連しない機能を獲得し、疾患または障害を引き起こす、あるいはその一因となることを指す。機能獲得型変異は、遺伝子中のヌクレオチドまたはヌクレオチドの欠失、付加、置換であり、コードされるタンパク質の機能に変化をもたらす。特定の実施形態では、機能獲得型変異は変異型タンパク質の機能を変化させるか、他のタンパク質との相互作用を引き起こす。特定の実施形態では、機能獲得型変異は、例えば、変化した変異型タンパク質と正常な野生型タンパク質との相互作用によって、正常な野生型タンパク質の減少または除去を引き起こす。
【0139】
ミニサークル、ナノプラスミド、オープン型直鎖二重鎖DNA、閉鎖型直鎖二重鎖DNA(CELiD/ceDNA/ドギーボーンDNA)、一本鎖環状DNA、一本鎖直鎖DNAなど、さまざまなタイプのDNAベクターを採用することができる。
【0140】
一実施形態では、DNAベクターは、対象として選択された特定の哺乳動物、遺伝子発現を増強するモチーフ、および哺乳動物に免疫刺激を誘導する配列とモチーフをバランスよく含んでいる。特定の哺乳類における遺伝子発現は、例えばコドンの最適化、CpGの減少、RNAの二次構造や不安定モチーフの 減少によって高めることができる。減少させる免疫刺激モチーフの例としては、CpG、ピリミジンに富んだ配列、回文配列などがある。
【0141】
異なる実施形態において、導入遺伝子は、ウイルス抗原、細菌抗原、治療用タンパク質、ショートヘアピンRNA(shRNA)、低分子干渉RNA(siRNA)、マイクロRNA(miRNA)、RNAi、リボザイム、アンチセンスRNA、CRISPR/Cas9コンストラクト、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、または転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)をコードする。
III.A.プロモーター
【0142】
プロモーターは一般に、発現されるポリヌクレオチド配列の5´に位置し、ポリヌクレオチド配列と作動可能に連結している。例えば、プロモーターがポリヌクレオチド配列と作動可能に連結しているのは、それが配列の発現に影響を与えることができる場合である(例えば、その配列はプロモーターの転写制御下にある)。プロモーターはRNAポリメラーゼと必要な転写因子を結合し、ポリヌクレオチド配列から転写を開始 する。プロモーター配列は、転写の方向とどのDNA鎖が転写されるかを規定する。
【0143】
コーディング配列は、センスまたはアンチセンスの方向で制御配列と作動可能に連結されていてもよい。特定の実施形態において、プロモーターは異種プロモーターである。「異種プロモーター」という用語は、自然界で所定のコード配列と作動的に連結していることが見出されていないプロモーターを指す。
【0144】
プロモーター配列は、近位およびより遠位の上流エレメントを提供することができる。一実施形態では、プロモーターはエンハンサーエレメントを含む。「エンハンサー」とは、プロモーター活性を刺激することができるヌクレオチド配列であり、プロモーターの生来のエレメントであってもよく、プロモーターのレベルや組織特異性を高めるために挿入される異種エレメントであってもよい。
【0145】
プロモーターは、異なる供給源に由来することも、異なるエレメントから生成されることもある。例えば、プロモーターは、ネイティブ遺伝子に由来するもの、天然に存在する異なるプロモーターに由来する異なるエレメントから構成されるもの、または合成ヌクレオチド配列から構成されるものがある。
【0146】
異なるプロモーターは、異なる組織や細胞型、あるいは発生の異なる段階、あるいは異なる環境条件、あるいは薬物や転写補因子の有無に応答して、ヌクレオチド配列の発現を指示するように選択され得る。ユビキタス、細胞型特異的、組織特異的、発生段階特異的、条件付きプロモーターは当技術分野でよく知られている。プロモーターの例は、ホスホグリセリン酸キナーゼ(PKG)プロモーター、CAG(CMVエンハンサー、ニワトリβアクチンプロモーター(CBA)、ウサギβグロビンイントロンの複合体)、NSE(神経特異的エノラーゼ)、NeuNプロモーター SV40初期プロモーター、マウス乳腺腫瘍ウイルスLTRプロモーター、アデノウイルス主要後期プロモーター(Ad MLP)、単純ヘルペスウイルス(HSV)プロモーター、CMV即時型初期プロモーター領域(CMVIE)のようなサイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、SFFVプロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター、合成プロモーターおよびハイブリッドプロモーター その他のプロモーターは、ヒト由来のものでも、マウスを含む他の種由来のものでもよい。一般的なプロモーターは以下の通りである:ヒトサイトメガロウイルス(CMV)即時型初期遺伝子プロモーター、ラウス肉腫ウイルスのロングターミナルリピート、[β]-アクチン、ラットインスリンプロモーター、ヒトα1アンチトリプシン(hAAT)プロモーター、トランスサイレチンプロモーター、TBGプロモーターと他の肝臓特異的プロモーター、デスミンプロモーターと同様の筋肉特異的プロモーター、EF1αプロモーター、CAGプロモーターおよび他の構成的プロモーター、複数組織特異性を持つハイブリッドプロモーター、シナプシンのようなニューロンに特異的なプロモーター、およびグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼプロモーター。さらに、マウスメタロチオネイン遺伝子のような非ウイルス遺伝子由来の配列も採用できる。様々なプロモーター配列が市販されている、例えば、Stratagene(カリフォルニア州サンディエゴ)を参照のこと。
III.B.追加要素
【0147】
存在し得る付加的なエレメントとしては、イントロン、エンハンサー、ポリアデニル化および終結シグナル、翻訳後調節エレメント、5´および3´インバーテッドリピート(ITR)、オンオフスイッチ(例えば、レオスタット)、細胞特異的調節因子(例えば、micoRNA結合エレメント)、内部リボソーム進入部位、またはコードされた配列の発現もしくは安定性に影響を及ぼす他のエレメント;またはタンパク質プロセッシング(例えば、分泌シグナル配列)が挙げられる。異なるエレメントの配置の例としては、5´から3´のプロモーター/エンハンサー、導入遺伝子、転写後調節エレメント、ポリアデニル化および終結シグナルがある。
【0148】
ポリアデニル化配列はmRNAの核内輸送、翻訳、安定性に重要である。ポリアデニル化配列の例としては、HGH、SV40 late、bGHpA、合成ポリA(SPA)、bGH、変異BGH、HSV TKなどがある。(Wang and Guo 2020,104,5673;および Powell et al.,Discovery Medicine 2015,19(102),49.).
【0149】
ウイルス転写後調節エレメントは、イントロンレスウイルスRNAの核外輸送に関与する シス作用エレメントである。例えば、B型肝炎ウイルスPREやウッドチャック・レスポンス・エレメント(WRE)などである。(Powell et al.,Discovery Medicine 2015,19(102),49)。
【0150】
プロモーターと導入遺伝子の間にイントロンがあると、遺伝子発現とRNAプロセシングが促進される。(Powell et al.,Discovery Medicine 2015,19(102),49)。イントロンの例としては、MVM、hCMVイントロン、hEF1プロモーターイントロン、キメライントロン、修飾SV40イントロン、βグロビンイントロンなどがある。
【0151】
所望により、コードされたポリペプチドは、ポリペプチドの細胞外分泌を促進する分泌シグナル配列とともに発現させることができる。「分泌シグナル配列」という用語は、分泌シグナル配列を欠くポリペプチドで見られる分泌レベルと比較して、作動的に連結したポリペプチドの細胞からの分泌を増強するように機能するアミノ酸配列を指す。ネイティブポリペプチドと比較して分泌レベルが向上していれば、ポリペプチドの本質的にすべて、あるいは大部分が分泌される必要はない。異なる実施形態では、ポリペプチドの少なくとも95%、97%、98%、または99%が分泌される。一般に、分泌シグナル配列は小胞体内で切断され、分泌前に切断されることもある。細胞からのポリペプチドの分泌が促進され、ポリペプチドが機能する限り、分泌シグナル配列が切断される必要はない。
【0152】
分泌シグナル配列は、分泌ポリペプチドの分泌シグナルから(すなわち、前駆体から)全体的または部分的に誘導することができ、および/または全体的または部分的に合成することができる。分泌シグナル配列の長さは重要ではなく、例えば約10-15から50-60アミノ酸の長さにすることができる。分泌ポリペプチドからの既知の分泌シグナルは、結果として生じる分泌シグナル配列が、作動的に連結したポリペプチドの分泌を増強するように機能する限り、(例えば、アミノ酸の置換、欠失、切断、または挿入によって)変更または修飾することができる。分泌シグナル配列は、天然に存在する分泌シグナル配列またはその改変体を含むか、本質的にそれらからなるか、またはそれらからなることができる。合成または人工の分泌シグナルペプチドの例は、Barashら,Biochem.Biophys.Res.Comm.294,835(2002)に記載されている。
III.D.治療用タンパク質
【0153】
DNAベクターは、所望の活性を有するタンパク質を提供するために発現させることができる様々な異なる導入遺伝子を送達することができる。導入遺伝子の例としては、遺伝子に欠陥のある対象に健康な遺伝子のコピーを提供するもの、あるいは疾患または障害の治療に役立つ新しい遺伝子、有益な効果をもたらすタンパク質をコードする新しい遺伝子などがある。
【0154】
異なる実施形態では、導入遺伝子は、以下のものをコードする:ポンペ病の治療のためのGAA(酸性α-グルコシダーゼ);後期小児神経性セロイドリポフスチン症2型(CLN2)の治療のためのTPP1(トリペプチジルペプチダーゼ-1);ウィルソン病の治療のためのATP7B(銅輸送性ATPase2);ファブリー病の治療のためのαガラクトシダーゼ;シトルリン血症1型の治療のためのASS1(アルギノコハク酸合成酵素);1型ゴーシェ病の治療のためのβ-グルコセレブロシダーゼ;テイ・サックス病の治療のためのβ-ヘキソサミニダーゼA;遺伝性血管性浮腫(HAE)(C1阻害剤欠乏症I型およびII型としても知られている)の治療のためのSERPING1(C1プロテアーゼ阻害剤またはC1エステラーゼ阻害剤);またはグリコーゲン貯蔵病I型(GSDI)の治療のためのグルコース-6-ホスファターゼ。
【0155】
異なる実施形態では、導入遺伝子は以下のものをコードする:インスリン、グルカゴン、成長ホルモン(GH)、副甲状腺ホルモン(PTH)、成長ホルモン放出因子(GRF)、卵胞刺激ホルモン(FSH)、黄体形成ホルモン(LH)、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)、血管内皮増殖因子(VEGF)、アンジオポエチン、アンジオスタチン、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)、エリスロポエチン(EPO)、結合組織増殖因子(CTGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、酸性線維芽細胞増殖因子(aFGF)、上皮増殖因子(EGF)、トランスフォーミング増殖因子α(TGFα)、血小板由来増殖因子(PDGF)、インスリン増殖因子IまたはII(IGF-IまたはIGF-II)、TGFβ、アクチビン、骨形成タンパク質(BMP)、神経成長因子(NGF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィンNT-3またはNT4/5、毛様体神経栄養因子(CNTF)、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)、ノイルトリン、アグリン ネトリン-1またはネトリン-2、肝細胞増殖因子(HGF)、エフリン、ノギン、ソニックヘッジホッグ、チロシン水酸化酵素などである。
【0156】
異なる実施形態では、導入遺伝子は以下をコードする:トロンボポエチン(TPO)、インターロイキン(IL-1~IL-36)、単球走化性タンパク質、白血病抑制因子、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、Fasリガンド、腫瘍壊死因子αまたはβ、インターフェロンα、β、γ、幹細胞因子、flk-2/flt3リガンド、IgG、IgM、IgA、IgDまたはIgE、キメラ免疫グロブリン、抗体、ヒト化抗体、単鎖抗体、T細胞受容体、キメラT細胞受容体、単鎖T細胞受容体、クラスIまたはクラスIIのMHC分子。抗体や免疫グロブリンは、例えば、癌細胞やその他の疾患または障害の原因となる細胞を標的として提供することができる。
【0157】
異なる実施形態では、導入遺伝子は以下のものをコードする:CFTR(嚢胞性線維症膜貫通調節因子タンパク質)、血液凝固(凝血)因子(第XIII因子、第IX因子(FIX)、第VIII因子(FVIII)、第X因子、第VII因子、第VIIa因子、またはプロテインC)、血液凝固因子の機能獲得、エリスロポエチン、LDL受容体、リポタンパク質リパーゼ、オルニチン・トランスカルバミラーゼ、β-グロビン、α-グロビン、スペクトリン、α-アンチトリプシン、アデノシンデアミナーゼ(ADA)、金属トランスポーター(ATP7AまたはATP7)、スルファミダーゼ、ライソゾーム貯蔵病(ARSA)に関与する酵素、ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ、β-25グルコセレブロシダーゼ、スフィンゴミエリナーゼ、リソソーム・ヘキソサミニダーゼ、分岐鎖ケト酸デヒドロゲナーゼ、ホルモン、増殖因子、インスリン様増殖因子1または2、血小板由来増殖因子、上皮増殖因子、神経成長因子、神経栄養因子-3および-4、脳由来神経栄養因子、グリア由来増殖因子、トランスフォーミング増殖因子αとβ、サイトカイン、α-インターフェロン、β-インターフェロン、インターフェロン-γ、インターロイキン-2、インターロイキン-4、インターロイキン12、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、リンパ毒素、自殺遺伝子産物、単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ、シトシンデアミナーゼ、ジフテリア毒素、チトクロームP450、デオキシシチジンキナーゼ、腫瘍壊死因子、薬剤耐性タンパク質、腫瘍抑制タンパク質(例えば、p53、Rb、Wt-1、NF1、Von Hippel-Lindau(VHL))、腺腫性大腸ポリポーシス(APC))、免疫調節作用を持つペプチド、寛容原性または免疫原性のペプチドまたはタンパク質TregitopeまたはhCDR1、インスリン、グルコキナーゼ、グアニル酸シクラーゼ2D(LCA-GUCY2D)、網膜色素上皮特異的65kDaタンパク質(RPE65)、Rabエスコートタンパク質1(コロイデレミア)、LCA5(LCA-レバシリン)、オルニチンケト酸アミノトランスフェラーゼ(回旋筋萎縮症)、レチノシシン1(X連鎖性網膜弛緩症)、X連鎖性網膜色素変性症GTPase(XLRP)、MER癌原遺伝子チロシンキナーゼ(MERTK)(常染色体劣性遺伝(AR)型網膜色素変性症(RP))、ABCA4(スターガルト)、ACHM 2、3、4(色覚異常)、抗血管内皮増殖因子(VEGF)剤ポリペプチド(ベバシズマブ、ブロルシズマブ、ラニビズマブ、アフリベルセプトなど)、DFNB1(コネキシン26難聴)、USH1C(アッシャー症候群1C)、PKD-1またはPKD-2(多発性嚢胞腎)、TPP1(トリペプチジルペプチダーゼ-1)、スルファターゼ、N-アセチルグルコサミン-1-リン酸転移酵素、カテプシンA、GM2-AP、NPC1、VPC2、スフィンゴ脂質活性化タンパク質、またはゲノム編集の修復テンプレートとして使用される1つ以上のドナー配列。
【0158】
異なる実施形態では、導入遺伝子は以下のものをコードする:貧血治療のためのエリスロポエチン(EPO);さまざまな免疫疾患、ウイルス感染症、癌の治療のためのインターフェロン-α、インターフェロン-β、インターフェロン-γ;様々な炎症性疾患または免疫不全の治療のための、IL-1からIL-36のいずれか1つを含むインターロイキン(IL)、および対応するレセプター;免疫疾患の治療のためのケモカイン(C-X-Cモチーフ)リガンド5(CXCL5)を含むケモカイン;クローン病などの免疫疾患の治療に用いられる顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF);様々な炎症性疾患の治療のための顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF);様々な炎症性疾患の治療のためのマクロファージコロニー刺激因子(M-CSF);上皮組織損傷の治療のためのケラチノサイト成長因子(KGF);再発性流産、HIV関連合併症、インスリン抵抗性の治療のための単球走化性タンパク質-1(MCP-1)などのケモカイン;様々な免疫疾患の治療のための腫瘍壊死因子(TNF)および受容体;肺気腫または慢性閉塞性肺疾患(COPD)の治療のためのα1-アンチトリプシン;ムコ多糖症I型(MPS I)の治療のためのα-L-イドロニダーゼ;オルニチントランスカルバモイル酵素(OTC)欠乏症の治療のためのOTC;フェニルケトン尿症(PKU)の治療のためのフェニルアラニン水酸化酵素(PAH)またはフェニルアラニンアンモニア分解酵素(PAL);リポタンパク質リパーゼ欠乏症の治療のためのリポタンパク質リパーゼ;アポリポタンパク質(Apo)A-I欠乏症治療のためのアポリポタンパク質;家族性高コレステロール血症(FH)治療のための低比重リポタンパク質受容体(LDL-R);低アルブミン血症治療のためのアルブミン;レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ(LCAT);カルバモイル合成酵素I;アルギニノコハク酸合成酵素;アルギニノコハク酸リアーゼ;アルギナーゼ;フマリルアセト酢酸ヒドロラーゼ;ポルホビリノーゲン・デアミナーゼ;ホモシスチン尿症の治療のためのシスタチオニンβ-シンターゼ;分岐鎖ケト酸脱炭酸酵素;イソバレリル-CoAデヒドロゲナーゼ;プロピオニルCoAカルボキシラーゼ;メチルマロニル-CoAミューターゼ;グルタリルCoAデヒドロゲナーゼ;インスリン;ピルビン酸カルボキシラーゼ;肝ホスホリラーゼ;ホスホリラーゼ・キナーゼ グリシン脱炭酸酵素;Hタンパク質;Tタンパク質;嚢胞性線維症膜貫通調節因子(CFTR);スターガルト病治療のためのATP結合カセット、サブファミリーA(ABC1)、メンバー4(ABCA4);あるいはジストロフィン。
【0159】
さらなる実施形態において、導入遺伝子は、遺伝性血管性浮腫、ポンペ病、血友病A、血友病B、ファブリー病、湿性黄斑変性症、レーベル遺伝性視神経症、およびシュタルガルト病からなる群より選択される疾患または障害を治療するためのタンパク質をコードする。
III.E.阻害性核酸
【0160】
DNAベクターは、ショートヘアピンRNA(shRNA)、低分子干渉RNA(siRNA)、マイクロRNA(miRNA)、RNAi、リボザイム、およびアンチセンスRNAなどの様々な異なる阻害性核酸をコードする様々な異なる導入遺伝子を提供することができる。異なる実施形態において、阻害性核酸は、以下からなる群より選択される遺伝子、遺伝子の転写産物、またはポリヌクレオチド反復疾患に関連する遺伝子の転写産物に結合する:ハンチンチン(HTT)遺伝子、歯槽膿漏性萎縮症に関連する遺伝子(アトロフィン1、ATN1)、棘突起筋萎縮症におけるX染色体上のアンドロゲン受容体、ヒトAtaxin-1、-2、-3、-7、Cav2.1 P/Q電位依存性カルシウムチャネル(CACNA1A)、TATA結合タンパク質、アタキシン8反対鎖(ATXN8OS)、脊髄小脳性運動失調症(1型、2型、3型、6型、7型、8型、12型17)におけるセリン/スレオニン・タンパク質ホスファターゼ2A 55kDa調節サブユニットBβアイソフォーム、脆弱X症候群におけるFMR1(脆弱X精神遅滞1)、脆弱X関連振戦/運動失調症候群におけるFMR1(脆弱X精神遅滞1)、脆弱XE精神遅滞におけるFMR2(脆弱X精神遅滞2)またはAF4/FMR2ファミリーメンバー2;筋強直性ジストロフィーにおけるミオトニン・プロテイン・キナーゼ(MT-PK);フリードライヒ運動失調症におけるフラタキシン;筋萎縮性側索硬化症におけるスーパーオキシドジスムターゼ1(SOD1)遺伝子の変異体;パーキンソン病やアルツハイマー病の発症に関与する遺伝子;アポリポタンパク質B(APOB)とプロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)、高コレステロール血症;HIV感染症におけるHIV Tat、ヒト免疫不全ウイルス転写活性化遺伝子;HIV感染におけるHIV TAR、HIV TAR、ヒト免疫不全ウイルスのトランスアクチベーター応答エレメント遺伝子;HIV感染におけるC-Cケモカイン受容体(CCR5);RSV感染におけるラウス肉腫ウイルス(RSV)ヌクレオカプシドタンパク質、C型肝炎ウイルス感染における肝臓特異的マイクロRNA(miR-122);p53、急性腎障害または移植片機能遅延腎移植または腎障害急性腎不全;再発性または転移性の固形悪性腫瘍の進行に関与するプロテインキナーゼN3(PKN3);LMP2、プロテアソームサブユニットβ型9(PSMB 9)としても知られるLMP2、転移性メラノーマ;プロテアソームサブユニットβ型8(PSMB 8)としても知られるLMP7、転移性メラノーマ;プロテアソームサブユニットβ型10(PSMB 10)としても知られる MECL1、転移性メラノーマ;固形腫瘍における血管内皮増殖因子(VEGF);固形腫瘍におけるキネシンスピンドルタンパク質、慢性骨髄性白血病におけるアポトーシス抑制因子B細胞CLL/リンパ腫(BCL-2);固形腫瘍におけるリボヌクレオチド還元酵素M2(RRM2);固形腫瘍におけるフーリン;肝腫瘍におけるポロ様キナーゼ1(PLK1)、C型肝炎感染におけるジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ1(DGAT1)、家族性腺腫性ポリポーシスにおけるβカテニン;β2アドレナリン受容体、緑内障;糖尿病性黄斑浮腫(DME)または加齢性黄斑変性症におけるDNA損傷誘導性転写物4タンパク質としても知られるRTP801/Redd1;加齢性黄斑変性症または脈絡膜新生血管における血管内皮増殖因子受容体I(VEGFR1);非動脈炎性虚血性視神経症におけるカスパーゼ2;先天性爪肥厚症におけるケラチン6A N17K変異型タンパク質;インフルエンザ感染におけるA型インフルエンザウイルスゲノム/遺伝子配列;重症急性呼吸器症候群(SARS)感染におけるSARSコロナウイルスゲノム/遺伝子配列;呼吸器合胞体ウイルス感染症における呼吸器合胞体ウイルスゲノム/遺伝子配列;エボラ出血熱感染におけるエボラフィロウイルスのゲノム/遺伝子配列;B型肝炎およびC型肝炎感染におけるB型肝炎ウイルスゲノム/遺伝子配列;HSV感染における単純ヘルペスウイルス(HSV)ゲノム/遺伝子配列;コクサッキーウイルスB3感染におけるコクサッキーウイルスB3ゲノム/遺伝子配列;原発性ジストニアにおけるトルシンA(TOR1A)様遺伝子の病因対立遺伝子のサイレンシング(対立遺伝子特異的サイレンシング)、移植における汎クラスIおよびHLAアレル特異性;および常染色体優性遺伝性網膜色素変性症(adRP)における変異体ロドプシン遺伝子(RHO)。
III.F 遺伝子編集
【0161】
DNAベクターは、ZFN、TALEN、CRISPR-Cas9などの様々な異なる遺伝子編集核酸をコードする様々な異なる導入遺伝子を提供することができる。異なる実施形態において、遺伝子編集核酸は、対象のDNAを編集して、セクションIII.D.(上掲)で提供されるような治療用タンパク質を提供するか、またはセクションIII.E.(上掲)で提供されるような遺伝子を破壊する。
IV.免疫細胞調節剤
【0162】
場合によっては、DNAベクターの投与は、例えばDNAベクター成分、導入遺伝子産物が異物として認識されること、あるいはタンパク質を産生する編集遺伝子が異物とみなされることなどにより、望ましくない免疫反応を引き起こす可能性がある。このような場合、所望であれば、例えば免疫細胞調節剤や免疫抑制剤を用いて、宿主の免疫反応を低下させることができる。癌治療、ウイルス治療、細菌治療など、場合によっては特定の反応が有利に働くこともある。
IV.A.貪食細胞減少剤
【0163】
「貪食細胞減少剤」とは、対象内の貪食細胞を減少もしくは破壊する薬剤、および/または1つ以上の貪食細胞の機能を阻害する薬剤を指す。貪食細胞は、本明細書では食細胞、貪食性免疫細胞、ファゴサイト細胞、またはファゴサイト免疫細胞とも呼ばれ、マクロファージ、単球、好中球、樹状細胞を含む。ランゲルハンス細胞は皮膚に存在する樹状細胞である。肥満細胞(マスト細胞)は肺や皮膚など多くの組織に存在し、貪食細胞としても働く。
【0164】
「単球および/またはマクロファージ減少剤」とは、対象中の単球および/またはマクロファージを枯渇または破壊し、および/または1つ以上の単球および/またはマクロファージの機能を阻害する薬剤を指す。単球および/またはマクロファージ減少剤は、単球および/またはマクロファージを標的とすることができる。マクロファージは分化した単球である単核貪食細胞である。異なる組織では、マクロファージは異なる名前で呼ばれる。組織特異的、または常在マクロファージの例としては、肝臓のクッパー細胞、腸の腸管マクロファージ、脳のミクログリア細胞、肺の肺胞マクロファージ、腎臓の常在マクロファージ、皮膚のマクロファージ、脾臓の赤肉マクロファージ、骨の破骨細胞などがある。単球および/またはマクロファージ減少剤の例としては、貪食性免疫細胞マーカーを標的とする薬剤、例えば、抗CD115抗体やCD115低分子阻害剤などのCD115阻害剤;抗F4/80抗体やF4/80低分子阻害剤などのF4/80阻害剤;抗CD68抗体やCD68低分子阻害剤などのCD68阻害剤;抗CD11b抗体やCD11b低分子阻害剤などのCD11b阻害剤;化学療法剤トラベクテジン;イントラリピッド(intralipids);空のリポソーム;およびクロドロン酸を含むビスフォスフォネート系薬剤を含む。特定の実施形態では、単球および/またはマクロファージ減少剤はクロドロン酸(Clodronate)ではない。特定の実施形態では、クロドロン酸と少なくとも1つの追加の単球および/またはマクロファージ減少剤が併用される。
【0165】
「好中球減少剤」とは、対象内の好中球を減少または破壊する薬剤、および/または1つ以上の好中球機能を阻害する薬剤を指す。好中球除去剤は好中球を標的とする。好中球除去剤の例としては、以下のような貪食性免疫細胞マーカーを標的とする薬剤がある:抗Ly6G抗体またはLy6G低分子阻害剤を含むLy6G阻害剤;抗CD177抗体またはCD177低分子阻害剤を含むCD177阻害剤;抗CD14抗体またはCD14低分子阻害剤を含むCD14阻害剤;抗CD15抗体またはCD15低分子阻害剤を含むCD15阻害剤;抗CD11b抗体またはCD11b低分子阻害剤を含むCD11b阻害剤;抗CD16抗体またはCD16低分子阻害剤を含むCD16阻害剤;抗CD32抗体またはCD32低分子阻害剤を含むCD32阻害剤;抗CD33抗体またはCD33低分子阻害剤を含むCD33阻害剤;抗CD44抗体またはCD44低分子阻害剤を含むCD44阻害剤;抗CD45抗体またはCD45低分子阻害剤を含むCD45阻害剤;抗CD66b抗体またはCD66b低分子阻害剤を含むCD66b阻害剤;または抗CD18抗体やCD18低分子阻害剤を含むCD18阻害剤;抗CD62L抗体またはCD62L低分子阻害剤を含むCD62L阻害剤;およびGr-1阻害剤である抗Gr-1抗体またはGr-1低分子阻害剤。
【0166】
「樹状細胞減少剤」とは、対象内の樹状細胞を枯渇または破壊する、および/または1つ以上の樹状細胞の機能を阻害する薬剤を指す。樹状細胞減少剤はあらゆる樹状細胞を標的とすることができる。樹状細胞減少剤の例としては、抗PDCA1抗体またはPDCA1低分子阻害剤を含むPDCA1阻害剤;および抗CD11c抗体またはCD11c低分子阻害剤を含むCD11c阻害剤のような、貪食性免疫細胞マーカーを標的とする薬剤が挙げられる。
【0167】
「阻害剤」とは、標的タンパク質の量および/または活性をダウンレギュレーション、減少、低減、抑制、または不活性化することができる任意の化合物を指す。阻害剤は、タンパク質、オリゴペプチド、ポリペプチド、核酸、遺伝子、または化学分子であり得る。適切なタンパク質阻害剤としては、例えば、標的タンパク質に結合するモノクローナル抗体やポリクローナル抗体、および低分子が挙げられる。
【0168】
CD115阻害剤の例としては、以下が挙げられる:CD115低分子阻害剤pexidartinib(PLX-3397)、BLZ-945、リニファニブ(ABT-869)、JNJ-28312141(ジョンソン・エンド・ジョンソン)、JNJ-40346527(ジョンソン・エンド・ジョンソン)、PLX7486(プレキシコン)、ARRY-382(アレイ・バイオファーマ)、以下のなどの抗CD115抗体、AFS98(InvitrogenまたはBioCell)、12-3A3-1B10(Invitrogen)、6C7(バイオス)、Cabiralizumab(FPA008)、25949-1-AP(プロテインテック)、1G4(アブノバ)、3G12(アブノバ)、604B5 2E11(Invitrogen)、Emactuzumab(RG-7155;ロシュ)、AMG 820(アムジェン)、IMC-CS4、および ROS8G11(Invitrogen)。特定の実施形態において、抗体またはその抗原結合性断片は、AFS98(例えば、BioCell BE0213およびOncogene 1995;11(12):2469-2476)である。
【0169】
本開示の観点から、当業者に公知のものを含む適切なLy6G阻害剤を使用することができる。抗Ly6G抗体の例としては、A8(BioCell BP0075-1)およびRB6-8C5(ab25377)がある。
【0170】
イントラリピッドや空のリポソームは、単球やマクロファージの1つ以上の機能を阻害することが示されている。例えば、Liuら、Biochim Biophys Acta.2013 Jun;1830(6):3447-53およびSaundersら、Nano Lett.2020 Jun 10;20(6):4264-4269を参照。イントラリピッドまたは空のリポソームによる前処理は、単球/マクロファージ細胞を効果的に飽和させ、非ウイルス性治療薬の貪食を防ぐことができる。イントラ脂質および空のリポソームの例としては、I141-100ML(Sigma Aldrich)、2B6063(Baxter)、およびLiuら、Biochim Biophys Acta.2013 Jun;1830(6):3447-53およびSaundersら、Nano Lett.2020 Jun 10;20(6):4264-4269に記載されているものが挙げられる。
【0171】
ビスホスホネートの例としては、クロドロン酸、パミドロネート、イバンドロネート、アレンドロネート、ゾレドロネートなどがある。
【0172】
「貪食細胞減少剤」の他の例としては、パルボシクリブ(Ibrance(登録商標);ファイザー)、クロモリンナトリウム(Nasalcrom(登録商標);ボシュロム)などがある。
IV.B.免疫抑制剤
【0173】
免疫抑制剤とは、対象の免疫系の活性を低下させたり、停止させたりすることができる化合物である。自然免疫応答や体液性免疫応答など、さまざまな免疫応答が産生される。例えば、免疫応答には、Toll受容体の活性化、リンホカイン(例えば、サイトカインまたはケモカイン)の発現および/または分泌、マクロファージの活性化、樹状細胞の活性化、T細胞の活性化(例えば、CD4+またはCD8+T細胞)、NK細胞の活性化、および/またはB細胞の活性化(例えば、抗体の生成および/または分泌)における検出可能な変化が含まれる。その他の免疫反応の例としては、以下が挙げられる:免疫原(抗原など)がMHC分子に結合し、細胞傷害性Tリンパ球(「CTL」)反応を誘導すること、B細胞応答(例えば、抗体産生)、および/またはTヘルパーリンパ球応答、および/または免疫原性ポリペプチドが由来する抗原に対する遅延型過敏症(DTH)反応、免疫系の細胞が増殖、および抗原提示細胞による抗原の処理と提示の増加を誘導すること。
【0174】
免疫抑制剤の例としては、以下が挙げられる:シクロスポリン、ISA(TX)247、タクロリムスまたはカルシニューリンなどのカルシニューリン阻害剤;シロリムス、エベロリムス、FK778、TAFA-93などのラパマイシン標的薬;バシリキシマブやダクリズマブなどのインターロイキン-2α鎖遮断薬;ミコフェノール酸モフェチルなどのイノシン一リン酸脱水素酵素阻害剤;メトトレキサートなどのジヒドロ葉酸還元酵素阻害剤;アザチオプリンなどの免疫抑制性代謝拮抗薬;ルキソリチニブなどのJAK阻害剤;抗サイトカイン抗体、例えば Siltuximabなどのサイトカイン阻害剤;あるいはステロイド。
【0175】
特定の実施形態において、免疫抑制剤は抗炎症剤である。特定の実施形態において、免疫抑制剤は、ステロイド、例えば、コルチコステロイド、プレドニゾン、プレドニゾロン、シクロスポリン(例えば、シクロスポリンA)、ミコフェノラート;B細胞標的抗体、例えばリツキシマブ;プロテアソーム阻害剤、例えばボルテゾミブ;哺乳類ラパマイシン標的(mTOR)阻害剤、例えばラパマイシン;チロシンキナーゼ阻害剤、例えばイブルチニブ;B細胞活性化因子(BAFF)の阻害剤;または増殖誘導リガンド(APRIL)の阻害剤またはその誘導体である。特定の実施形態において、免疫抑制剤は、抗IL-1β剤(例えば、抗IL-1βモノクローナル抗体カナキヌマブ(Ilaris(登録商標)))または抗IL-6剤(例えば、抗IL-6抗体sirukumabまたは抗IL-6受容体抗体tocilizumab(Actemra(登録商標)))、またはそれらの組み合わせである。
【0176】
「ステロイド」とは、3つのシクロヘキサン環と1つのシクロペンタン環を含む化学物質を指す。環は四環式シクロペンタフェナントレン、すなわちゴナンを形成するように配置されている。ステロイドにはコルチコステロイドやグルココルチコステロイドなどの様々な種類がある。
【0177】
用語「コルチコステロイド」とは、副腎皮質で産生される、あるいは合成的に産生されるステロイドホルモンの一群を指す。特定の実施形態において、ステロイドはコルチコステロイドであり得る。コルチコステロイドは、ストレス反応、免疫反応、炎症の制御、糖質代謝、タンパク質異化作用、血中電解質レベル、行動など、幅広い生理学的システムに関与している。コルチコステロイドは一般に、化学構造に基づいて4つのクラスに分類される。A群コルチコステロイド(短~中作用性グルココルチコイド)には、ヒドロコルチゾン、酢酸ヒドロコルチゾン、酢酸コルチゾン、ピバル酸チキソコルトール、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾンが含まれる。B群コルチコステロイドには、トリアムシノロンアセトニド、トリアムシノロンアルコール、モメタゾン、アムシノニド、ブデソニド、デソニド、フルオシノニド、フルオロシノロンアセトニド、ハルシノニドなどがある。C群コルチコステロイドには、ベタメタゾン、リン酸ベタメタゾンナトリウム、デキサメタゾン、リン酸デキサメタゾンナトリウム、フルオコルトロンが含まれる。D群コルチコステロイドには、17-酪酸ヒドロコルチゾン、ヒドロコルチゾン-17-バレレート、ジプロピオン酸アクロメタゾン、ベタメタゾンジバレレート、ジプロピオン酸ベタメタゾン、プレドニカルビン酸、17-酪酸クロベタゾン、17-プロピオン酸クロベタゾール、カプロン酸フルオコルトロン、ピバリン酸フルオコルトロン、酢酸フルプレドニデンなどがある。コルチコステロイドの非限定的な例としては、以下が挙げられる:アルドステルノン、ベクロメタゾン、ジプロピオン酸ベクロメタゾン、ベタメタハゾン、ベタメタハゾン-21-リン酸二ナトリウム、ベタメタハゾン・バレレート、ブデソニド、クロベタゾール、プロピオン酸クロベタゾール、酪酸クロベタゾン、ピバリン酸クロコルトロン、コルチゾール、コルチステロン、コルチゾン、デフラザコート、デキサメタゾン、酢酸デキサメタゾン、リン酸デキサメタゾンナトリウム、ジフロラゾンジアセテート、ジヒドロキシコルチゾン、フルシノニド、酢酸フルドロコルチゾン、フルメタゾン、フルニソリド、フルシオノロンアセトニド、フルチカゾンフレート、プロピオン酸フルチカゾンエ、ハルシノニド、ハルプタゾン、ヒドロコルチゾン、酢酸ヒドロコルチゾン、コハク酸ヒドロコルチゾン、16α-ヒドロキシプレドニゾロン、酢酸イソフルプレドン、メディソン(medrysone)、メチルプレドニゾロン、プレドナシノロン、プレドリカルベート、プレドニゾロン、酢酸プレドニゾロン、コハク酸プレドニゾロンナトリウム、プレドニン、トリアムシノロン、トリアムシノロン、トリアムシノロンジアセテート。
【0178】
コルチコステロイドは、ジェネリックもブランド名もさまざまな種類がある: コルチゾン(CORTONETM ACETATETM,ADRESONTM,ALTESONATM,CORTELANTTM,CORTISTABTM,CORTISYLTM,CORTOGENTM,CORTONETM,SCHEROSONTM);デキサメタゾン経口剤(DECADRON ORALTM、DEXAMETHTM、DEXONETM、HEXADROL-ORALTM、DEXAMETHASONETM INTENSOLTM、DEXONE 0.5TM、DEXONE 0.75TM、DEXONE 1.5TM、DEXONE 4TM);ヒドロコルチゾン経口剤(CORTEFTM,HYDROCORTONETM);シピオン酸ヒドロコルチゾン(CORTEF ORAL SUSPENSIONTM);メチルプレドニゾロン経口剤(MEDROL-ORALTM);プレドニゾロン経口剤(PRELONETM,DELTA-CORTEFTM,PEDIAPREDTM,ADNISOLONETM,CORTALONETM,DELTACORTRILTM,DELTASOLONETM,DELTASTABTM,DI-ADRESON FTM,ENCORTOLONETM,HYDROCORTANCYLTM,MEDISOLONETM,METICORTELONETM,OPREDSONETM,PANAAFCORTELONETM,PRECORTISYLTM,PRENISOLONATM,SCHERISOLONATM,SCHERISOLONETM);プレドニゾン(DELTASONETM,LIQUID PREDTM,METICORTENTTM,ORASONE 1TM,ORASONE 5TM,ORASONE 10TM,ORASONE 20TM,ORASONE 50TM,PREDNICEN-MTM,PREDNISONE INTENSOLTM,STERAPREDTM,STERAPRED DSTM,ADASONETM,CARTANCYLTM,COLISONETM,CORDROLTM,CORTANTM,DACORTINTM,DECORTINTM,DECORTISYLTM,DELCORTINTM,DELLACORTTM,DELTADOMETM,DELTACORTENETM,DELTISONATM,DIADRESONTM,ECONOSONETM,ENCORTONTM,FERNISONETM,NISONATM,NOVOPREDNISONETM,PANAFCORTTM,PANASOLTM,PARACORTTM,PARMENISONTM,PEHACORTTM,PREDELTINTM,PREDNICORTTM,PREDNICOTTM,PREDNIDIBTM,PREDNIMENTTM,RECTODELTTM,ULTRACORTENTM,WINPREDTM);トリアムシノロン経口剤(KENACORTTM,ARISTOCORTTM,ATOLONETM,SHOLOG ATM,TRAMACORT-DTM,TRI-MEDTM,TRIAMCOTTM,TRISTOPLEXTM,TRYLONE DTM,U-TRI-LONETM)。特定の実施形態において、コルチコステロイドは、以下である:デキサメタゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、トリアムシノロン、プロピオン酸クロベタゾール、ベタメタゾン・バレレート、ジプロピオン酸ベタメタゾン、またはモメタゾンフロエート。ステロイドとコルチコステロイドの合成法は当技術分野でよく知られており、その多くは市販もされている。
【0179】
コルチコステロイド、例えばデキサメタゾンは、遊離のデキサメタゾンとして、別のLNP組成物として、またはDNAと同じLNP組成物の一部として送達することができる。Chenら、Journal of Controlled Release 2018、286、46-54には、脂肪酸に連結した核酸とデキサメタゾンを提供するLNPに関する記述がある。
V.医薬組成物
【0180】
医薬組成物は、医薬的に許容される担体とともに、1つ以上の活性成分を含む。「薬学的に」または「薬学的に許容される」とは、投与および/または保存に適した非毒性の分子実体を指す。
医薬組成物は、複数の治療活性薬剤を含むことができる。薬学的に許容される担体の例としては、(使用量において)非毒性の固体、半固体または液体の充填剤、希釈剤、カプセル化材料または製剤が挙げられる。
【0181】
医薬組成物の形態、投与経路、投与量、およびレジメンは、治療される症状、病気の重症度、患者の年齢、体重、および性別などに当然依存する。本明細書に記載の薬剤のための医薬組成物は、局所投与、経口投与、経鼻投与、非経口投与、眼内投与、静脈内投与、筋肉内投与、または皮下投与のために処方することができる。
【0182】
一実施形態において、医薬組成物は、対象への注射が可能な製剤を含む。注射用製剤成分の例としては、等張化剤、無菌、生理食塩水(例えば、リン酸一ナトリウムまたは二ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウムまたは塩化マグネシウム、およびこれらの塩の混合物)、緩衝生理食塩水、糖類(例えば、ブドウ糖)、および注射用水が挙げられる。医薬組成物には、乾燥物、例えば凍結乾燥した組成物が含まれ、場合によっては滅菌水または生理的食塩水を加えることにより、注射用溶液を構成することができる。投与に使用される用量は、様々なパラメータ、例えば、投与様式、関連する病理、および/または所望の治療期間の関数として適合され得る。
【0183】
その他の薬学的に許容される形態としては、経口投与用の錠剤またはその他の固形剤(タイムリリースカプセルを含む)が挙げられる。
【0184】
治療用導入遺伝子を含むDNAベクターを含む医薬組成物は、特定の疾患または障害の治療に適した用量で対象に投与することができる。異なる実施形態において、好適な投薬量は、対象の体重1kgあたり約0.01mg/kg~約10mg/kgのベクター、対象の体重1kgあたり約0.01mg/kg~約0.1mg/kgのベクター、対象の体重1kgあたり約0.1mg/kg~約1.0mg/kgのベクター、および対象の体重1kgあたり約1.0mg/kg~約10mg/kgのベクターであり得る。
【0185】
低分子細胞質DNA感知阻害剤または免疫細胞調節剤阻害剤、特定の疾患または障害に適した用量で対象に投与することができる。異なる実施形態において、好適な投与量は、対象の体重約0.1mg/kg~約100mg/kg、約0.1mg/kg~約1mg/kg、約1.0mg/kg~約10mg/kg、および約10.0mg/kg~約100mg/kgであり得る。
【0186】
貪食性免疫細胞マーカーを標的とする抗体は、任意の適切な用量で対象に投与することができる。例えば、好適な投与量は、約0.01mg/kg~約5mg/kg体重の対象とすることができ、投与量は合計1~10回の注射で投与される。
【0187】
ペキシダルチニブのようなCD115阻害剤を適切な用量で対象に投与することができる。例えば、好適な投与量は、対象の体重あたり、約0.1mg/kgから約100mg/kg、約0.1mg/kgから約1mg/kg、約1.0mg/kgから約10mg/kg、および約10.0mg/kgから約100mg/kgであり得る。
【0188】
ビスフォスフォネート、例えばクロドロン酸は、任意の適切な用量で対象に投与することができる。例えば、好適な投与量は、対象の体重あたり、約0.1mg/kgから約100mg/kg、約0.1mg/kgから約1mg/kg、約1.0mg/kgから約10mg/kg、および約10.0mg/kgから約100mg/kgであり得る。
【0189】
コルチコステロイド、例えばデキサメタゾンは、任意の適切な用量で対象に投与することができる。例えば、好適な投与量は、対象の体重あたり、約0.1mg/kgから約100mg/kg、約0.1mg/kgから約1mg/kg、約1.0mg/kgから約10mg/kg、および約10.0mg/kgから約100mg/kgであり得る。
【0190】
VI.投与と治療
【0191】
本明細書に記載の異なる化合物および組成物は、研究目的や哺乳動物の疾患または障害の治療を含む異なる目的で対象に投与することができる。好ましい用途は、ヒトの疾患の治療である。
【0192】
「治療」または「処置」とは、疾患または障害を持つ患者の予防的治療と治療的治療の両方を指す。「予防的」治療とは、疾患または障害にかかる可能性を減少させたり、病気や障害の重篤度を減少させたりすることである。「治療的」とは、疾患または障害に関連する少なくとも一つの症状または原因において、臨床的に意味のある改善を意味する。したがって、治療には、疾患または障害に罹患する危険性のある対象、疾患または障害に罹患した疑いのある対象、ならびに疾患または障害に罹患している、または罹患していると診断された対象への投与が含まれ、臨床的再発の抑制も含まれる。
【0193】
「改善する(ameliorate)」および「改善(amelioration)」という用語は、疾患または障害の症状、または基礎となる細胞反応の、検出可能または測定可能な改善を指す。検出可能または測定可能な改善には、疾患もしくは障害、または疾患もしくは障害に起因もしくは関連する合併症の発生、頻度、重篤度、進行もしくは期間における主観的もしくは客観的な減少、軽減、抑制、制限もしくは制御、または症状もしくは疾患もしくは障害の根本原因もしくは結果の改善、または疾患もしくは障害の回復が含まれる。ポンペの場合、有効量には、グリコーゲンの産生または蓄積を阻害または減少させ、グリコーゲンの分解または除去を促進または増加させ、筋緊張および/または筋力および/または呼吸機能を改善する量が含まれる。HemAまたはHemBの場合、有効量には、対象における急性出血エピソードの頻度または重症度を減少させる量、および凝固アッセイによって測定される凝固時間を減少させる量が含まれる。
【0194】
「有効量」や「十分量」という用語は、所望の効果を得るために必要な量である。治療は、治療的有効量のDNAベクターを対象に投与することによって実施することができる。治療的または予防的効果を得るために、治療的有効量を単回または複数回に分けて投与することができる。
【0195】
他の薬剤は、所望の効果を得るために「有効量」または「十分量」投与することができる。一例として、DNA感知阻害剤の有効量は、cGAS-STING経路またはインフラマソーム経路の活性を阻害し、自然免疫応答の1つ以上の活性の低下をもたらす、単回または複数回投与で提供される量である。同様に、免疫細胞調節剤の有効量とは、例えば、セクションIV.A.で提供されるような、貪食細胞および/または貪食細胞の機能において検出可能な減少を提供する阻害を、単回または複数回の用量で提供される量である;有効量の免疫抑制剤とは、単回または複数回の投与で免疫系活性を阻害する量をいい、例えば、セクションIV.B.に規定されている。
【0196】
有効量は単独で投与することもできるし、別の組成物、治療法、プロトコル、または治療レジメンと組み合わせて投与することもできる。その量は、例えば、対象の必要性、治療される疾患または障害の種類、状態および重症度、または副作用に基づいて、比例的に増加させることができる。
【0197】
有効量または十分量は、処置された各対象において有効である必要はなく、所与の群または集団における処置された対象の大多数において有効である必要もない。有効量または十分量とは、特定の対象における有効性または十分性を意味し、集団や一般集団における有効性または十分性を意味しない。このような方法の典型的な例として、対象によっては、ある治療方法や使用法に対して、より大きな反応を示したり、あるいは反応が少なかったり、あるいは全く示さなかったりする。
【0198】
DNAベクターと細胞質DNA感知阻害剤を別々に投与する場合、どのような順序でも、あるいはほぼ同時に投与することができる。特定の実施形態では、阻害剤はDNAベクターの少なくとも60分前、少なくとも90分前、または少なくとも120分前に投与される。
【0199】
特定の実施形態では、細胞質DNA感知阻害剤は、ほぼ同時に、DNAベクター投与の約5分前まで、約15分前まで、約30分前まで、約45分前まで、約60分前まで、約90分前まで、約2時間前まで、約3時間前まで、約4時間前まで、約5時間前まで、約6時間前まで、約7時間前まで、約8時間前まで、約9時間前まで、約10時間前まで、約12時間前まで、約1日前まで、約2日前まで、約3日前まで、約4日前まで、または約1週間前までに投与される。好ましくは、細胞質DNA感知阻害剤は、DNAベクター投与とほぼ同時、DNAベクター投与の約5分前まで、約15分前まで、約30分前まで、約45分前まで、約60分前まで、約90分前まで、約2時間前まで、約3時間前まで、または約4時間前までに投与される。特定の実施形態では、細胞質DNA感知阻害剤は、DNAの約15分後、約30分後、約45分後、約60分後、約90分後、約120分後、または約1日後に投与される。
【0200】
特定の実施形態において、細胞質DNA感知阻害剤は、DNAベクター投与とほぼ同時、約5分、約10分、約15分、約30分、約45分、約60分、約90分、2時間、約2.5時間、約3時間、約3.5時間、または約4時間前に投与される。
【0201】
DNAベクターと細胞質DNA感知阻害剤は、ほぼ同時に放出されるように同じナノ粒子内に提供することもできるし、ナノ粒子は成分の一方の放出を遅らせるように設計することもできる。一実施形態では、ナノ粒子はDNAの放出に先立って阻害剤を放出するように設計されている。
【0202】
DNAベクターの治療用量は様々であり得、治療が指向される疾患または障害の種類、発症、進行、重症度、頻度、期間、または確率、所望される臨床評価項目、以前のまたは同時の治療、対象の一般的な健康状態、年齢、性別、人種、または免疫学的能力、および当業者に理解されるであろう他の要因に依存する。投与量、投与回数、投与頻度または投与期間は、治療または療法の副作用、合併症またはその他の危険因子および対象の状態に応じて、比例的に増減することができる。
【0203】
治療効果を達成するための投与量、例えば、体重1kgあたりmg(mg/kg)単位のDNAベクター投与量も、投与経路、治療効果を達成するために必要な導入遺伝子発現のレベル、治療される特定の疾患または障害、DNAに対する宿主免疫応答、宿主免疫応答導入遺伝子発現産物、発現されるタンパク質、ペプチドまたは核酸の安定性など、いくつかの要因に基づいて変化する。本明細書で提供されるガイダンスに基づいて、当業者は、特定の疾患または障害を有する患者を治療するのに適したDNAベクターの用量範囲を決定することができる。
【0204】
導入遺伝子の全体的な発現レベルは、DNAベクターの使用によって変わりうる。治療用タンパク質を提供する遺伝子治療の異なる実施形態において、提供される発現または活性は、対応する対象タンパク質の正常発現の少なくとも1%、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも100%である。
【0205】
特定の実施形態において、本発明による方法は、治療用核酸によって標的化されるタンパク質の発現または活性の低下をもたらし得る。異なる実施形態において、治療用核酸が標的とするタンパク質の発現または活性の低下は、標的タンパク質の正常発現の少なくとも1%、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも100%である。
【0206】
本発明の方法および使用には、例えば注射または注入による、全身的、局所的または局所的な送達および投与が含まれる。in vivoにおける医薬組成物の直接送達は、一般に、従来の注射器を用いた注射によって達成することができるが、対流促進送達などの他の送達方法も想定される(例えば、米国特許第5,720,720号を参照)。例えば、組成物は、皮下、表皮内、皮内、髄腔内、眼窩内、粘膜内、腹腔内(IP)、静脈内(IV)、胸膜内、動脈内、経口、肝内、門脈経由、または筋肉内に送達され得る。その他の投与方法としては、経口投与、肺投与、坐剤、経皮吸収製剤などがあります。
VI.A.例示の疾病と障害
【0207】
治療可能な疾患や障害は以下の通りである:肺疾患(嚢胞性線維症など)、血液疾患(貧血など)、CNS(中枢神経系)の病気と障害、てんかん、ライソゾーム貯蔵病(例:アスパルチルグルコサミン尿症)、バッテン病、乳児期後期神経細胞性セロイドリポフスチン症2型(CLN2)、シスチン症、ファブリー病、ゴーシェ病I型、II型、III型、グリコーゲン貯蔵病II型(ポンペ病)、GM2-ガングリオシドーシスI型(テイ・サックス病)、GM2-ガングリオシドーシスII型(サンドホフ病)、ムコリピドーシスI型(シアリドーシスI型およびII型)、II型(I細胞病)、III型(偽ハーラー病)、IV型、ムコ多糖貯蔵病(ハーラー病とその変種、ハンター病、サンフィリポA,B,C,D型、モルキオA,B型、マロトー-ラミー病、スライ病)、ニーマン・ピック病A/B型、C1型、C2型、シンドラー病I型、II型、遺伝性血管性浮腫(HAE)、銅または鉄の蓄積障害(ウィルソン病やメンケス病など)、リソソーム酸性リパーゼ欠損症、神経学的または神経変性疾患、癌1型または2型糖尿病、アデノシンデアミナーゼ欠損症、代謝異常症(例えば、グリコーゲン貯蔵病)、および固形臓器(脳、肝臓、腎臓、心臓など)の疾患。
【0208】
グリコーゲン貯蔵病II型(ポンペ病とも呼ばれる)は、本発明による方法で治療することができる。ポンペ病は、グリコーゲンの分解を触媒するリソソーム酵素酸性α-グルコシダーゼ(GAA)をコードする遺伝子の変異によって引き起こされる常染色体劣性疾患である。その結果、酵素欠乏はグリコーゲンの病的蓄積とリソソームの変化をもたらし、心臓、呼吸器、骨格筋の機能障害を引き起こす。
【0209】
治療可能な血液凝固障害には、血友病A、阻害性抗体を伴う血友病A、血友病B、阻害性抗体を伴う血友病B、凝固因子VII、VIII、IX、X、XI、V、XII、IIの何れかの欠損症、フォン・ヴィレブランド因子の欠損症、または複合型FV/FVIII欠損症、サラセミア、ビタミンKエポキシド還元酵素C1欠損症、またはガンマ-カルボキシラーゼ欠損症が含まれる。
【0210】
その他の治療可能な疾患および障害は、外傷、損傷、血栓症、血小板減少症、脳卒中、凝固障害、播種性血管内凝固(DIC)に伴う出血、ヘパリン、低分子ヘパリン、五炭糖、ワルファリン、低分子抗血栓薬(FXa阻害薬など)に伴う過剰抗凝固がある、FXa阻害剤)、またはBernard Soulier症候群、Glanzmann血小板無力症、貯蔵プール欠損症などの血小板障害を含む。
【0211】
治療可能な他の疾患や障害には、増殖性疾患(癌、腫瘍、異形成など)、クリグラー・ナジャールや肝臓の代謝性疾患などの代謝性疾患;フリードライヒ運動失調症;感染症;例えば、B型またはC型肝炎ウイルス、HIV、ヘルペス、レトロウイルスなどによって誘発されるウイルス性疾患;以下のような遺伝性疾患、嚢胞性線維症、ジストログリカノパチー、デュシェンヌ型筋ミオパチーやジストロフィーなどのミオパチー、筋管ミオパチー、鎌状赤血球貧血、鎌状赤血球症、ファンコニー貧血、糖尿病 筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ミオチュブラリンミオパチー、脊髄性筋萎縮症(SMA)、脊髄球筋萎縮症、またはシャルコー・マリー・トゥース病などの運動ニューロン疾患;関節炎;RS-SCID、ADA-SCID、X-SCIDなどの重症複合免疫不全症;ウィスコット・アルドリッチ症候群;X連鎖性血小板減少症;X連鎖性先天性好中球減少症;慢性肉芽腫性疾患;凝固因子欠乏症;再狭窄、虚血、脂質異常症、ホモ接合性家族性高コレステロール血症などの心血管疾患;以下のような眼疾患、網膜色素変性症、X連鎖性網膜色素変性症、常染色体優性網膜色素変性症、劣性網膜色素変性症、コロイデレミア、脈絡膜新生血管、回旋筋萎縮、網膜弛緩症、X連鎖性網膜弛緩症、黄斑変性症、糖尿病性黄斑浮腫(DME)、DMEを伴う糖尿病性網膜症、湿性加齢性黄斑変性症(wet AMDまたはwAMD)、網膜静脈閉塞症後の黄斑浮腫、非動脈炎性虚血性視神経症、レーベル先天性黒内障、レーベル遺伝性視神経症、色覚異常、およびスターガルト病;サンフィリッポ症候群のようなライソゾーム貯蔵病;CN I型やII型、ジルベール症候群などの高ビリルビン血症;GSDI、GSDII(ポンペ病)、GSDIII、GSDIV、GSDV、GSDVI、GSDVII、GSDVIIIなどのグリコーゲン貯蔵症、または致死性の先天性心臓グリコーゲン貯蔵症を含む。
【0212】
特定の実施形態において、対象は、中枢神経系(CNS)に影響を及ぼすか、または中枢神経系に由来する疾患または障害を有する。特定の実施形態では、疾患は神経変性疾患である。CNSまたは神経変性疾患の非限定的な例としては、アルツハイマー病、ハンチントン病、ALS、遺伝性痙性片麻痺、原発性側索硬化症、脊髄性筋萎縮症、ケネディ病、ポリグルタミン反復病、またはパーキンソン病が挙げられる。特定の実施形態において、疾患は、精神疾患、中毒(例えば、タバコ、アルコール、または薬物)、てんかん、カナヴァン病、またはアドレノロイコジストロフィーである。特定の実施形態において、CNSまたは神経変性疾患は、脊髄小脳性運動失調症(SCA1、SCA2、SCA3、SCA6、SCA7、またはSCA17)などのポリグルタミン反復疾患である。
VI.B.さまざまな疾患と症状の投与例
【0213】
本出願に基づいて、多種多様な疾患や障害を治療することができる。本項では、特定の疾患または障害に対する投与を取り上げる。提供された実施例は、本願の他の実施例と同様に、異なる実施形態および説明の目的を提供するためのものである。
【0214】
ポンペ病の場合、有効量とは、グリコーゲンの産生もしくは蓄積を阻害もしくは減少させ、グリコーゲンの分解もしくは除去を促進もしくは増加させ、対象の組織におけるリソソームの変化を減少させ、または対象の筋緊張および/もしくは筋力および/もしくは呼吸機能を改善するGAAの量である。有効量は、例えば、血漿からの筋芽細胞によるGAA取り込みの動態を確認することによって決定することができる。筋芽細胞のGAA取り込み速度(K取り込み)は、約141~147nMが有効のようである(例えば、Magaら、J. Biol.Chem.2012,8;288(3),1428)。動物モデルでは、血漿中のGAA活性レベルが約1,000nmol/hr/mL以上、例えば約1,000~約2,000nmol/hr/mLで治療効果が認められている。
【0215】
HemAとHemBについては、一般に、重症の疾患表現型を中等症に変化させるためには、血液凝固因子濃度が正常人に見られる因子濃度の1%を超えることが必要であると予想されている。重度の表現型は、関節の損傷と生命を脅かす出血を特徴とする。中等症の表現型を軽症の表現型に変えるには、血液凝固因子濃度が正常値の5%を超える必要があると予想される。
【0216】
FVIII正常値は約100-200ng/mlで、正常ヒトのFIXレベルは5000ng/mlであるが、活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)一段階凝固アッセイなどで決定される機能的凝固により、レベルはこれより多くても少なくても正常とみなされる。したがって、対象/ヒトにおけるFVIIIまたはFIXの総量が、正常な対象/ヒトに存在するFVIIIまたはFIXの1%より多くなるような(例えば、100~300ng/mLの1%)治療効果を達成することができる。
VI.C.免疫反応に関する考察
【0217】
免疫細胞調節剤および細胞質DNA感知阻害剤は、cGAS-STING経路およびインフラマソーム経路、ならびに導入遺伝子発現産物によって媒介される自然免疫応答を低下させるために用いることができる。例えば、cGAS-STING経路の活性化は、インターフェロン、炎症誘導性サイトカイン、IL-6、IFN-γ、IFN-β、CCL4、CCL5、CXCL10などの炎症誘導性ケモカインの産生を誘導し、炎症や細胞死などの有害な影響を引き起こす。インフラマソーム経路の活性化は、IL-1β、IL-18、IL-33のような炎症誘導性サイトカインを産生し、炎症やピロトーシス(pyroptosis)のような有害な作用を引き起こす。
【0218】
DNAベクターの投与は、「望ましくない免疫反応」を最小にするか、あるいは全く起こさないようにしなければならない。DNAによって誘導される望ましくない免疫応答は、ベクターによってコードされる場合、抗原(例えば、細菌またはウイルス)によって誘導される対象における望ましい免疫応答とは異なる。
【0219】
異なる実施形態において、安全または治療上許容される免疫応答は、DNAの投与に伴う対象における免疫応答のレベルに関し、炎症、サイトカイン放出、インフラマソーム活性化、およびピロトーシス阻害によって決定される。
【0220】
特定の実施形態において、本明細書に記載の方法は、対象において生じ得る、毒性サイトカイン放出または「サイトカイン放出症候群」(CRS)または「重症サイトカイン放出症候群」(sCRS)または「サイトカインストーム」;またはピロトーシスの発生率を減少させる。
【0221】
毒性サイトカイン放出または毒性サイトカインレベルを減少させることは、対象における毒性サイトカインレベルの産生を減少もしくは阻害すること、または対象におけるサイトカイン放出症候群もしくはサイトカインストームの発生を阻害もしくは減少させることを含む。特定の実施形態において、毒性サイトカインは炎症誘導性サイトカインを含む。特定の実施形態において、炎症誘導性サイトカインは、IL-6、IFN-γ、IL-1β、またはTNF-α、またはそれらの任意の組み合わせを含む。
【0222】
特定の実施形態において、サイトカイン放出症候群は、いくつかの炎症性サイトカインのレベルの上昇、および低血圧、高熱、震えなどの対象における有害な身体反応によって特徴づけられる。特定の実施形態において、CRSは、IL-6、IFN-γ、IL-1β、もしくはTNF-α、またはそれらの組み合わせのレベルの上昇によって特徴づけられる。
【0223】
特定の実施形態において、サイトカインストームまたはピロトーシスの指標としてのサイトカインレベルまたは濃度の測定は、サイトカインレベルまたは濃度の倍数増加、パーセント(%)増加、純増加、または変化率として表すことができる。特定の実施形態において、あるレベル以上の絶対的サイトカインレベルまたは濃度は、サイトカインストームを経験している、または経験しようとしている対象の指標となり得る。特定の実施形態において、あるレベルまたは濃度における絶対的サイトカインレベルまたは濃度、例えば、非ウイルス性遺伝子治療を受けていないコントロール対象において通常見出されるレベルまたは濃度は、遺伝子治療を受けている対象においてサイトカインストームの発生を阻害または低減する方法の指標となり得る。
【0224】
「サイトカインレベル」という用語は、濃度の尺度、倍数変化の尺度、パーセント(%)変化の尺度、または速度変化の尺度を包含し得る。さらに、血液、唾液、血清、尿、血漿中のサイトカインを測定する方法は、当技術分野でよく知られている。
【0225】
特定の実施形態において、IFN-γレベルは、サイトカインストームの指標として、および/またはサイトカインストームに対する治療の有効性の共通の指標として用いることができる。特定の実施形態において、IL-6レベルはサイトカインストームの共通の尺度として、および/またはサイトカインストームに対する治療の有効性の共通の尺度として用いることができる。他のサイトカインもサイトカインストームのマーカーとして用いることができ、例えばTNF-α、IB-1α、IL-8、IL-13などがある。
【0226】
特定の実施形態において、IL-18は、ピロトーシスの指標として、および/またはピロトーシスに対する治療の有効性の指標として使用される。
【0227】
対象におけるサイトカインのレベルは、DNAの投与前および/または投与後に分析、測定または決定することができる。対象のサイトカインレベルは、DNAの投与前および/または投与後に、複数回分析または測定することができる。生物学的試料中のサイトカインレベルを分析・測定するための例示的な方法には、メソスケールデリバリープラットフォーム(MSD)が含まれる。
【0228】
セクションIVで述べた免疫細胞調節剤は、DNAベクターまたは細胞質DNA感知阻害剤の投与前、投与中、投与後に投与することができる。異なる実施形態では、導入遺伝子を含むDNAベクターおよび薬学的に許容される担体が投与される約1分~約1時間、約2時間、約3時間、または約4時間前に免疫細胞調節剤が投与される。異なる実施形態では、DNAベクターは免疫細胞調節剤の約1分~約1時間、2時間、3時間、4時間前に投与される。異なる実施形態では、免疫細胞調節剤は、DNAの少なくとも1日前に、任意選択でDNAベクターの1年前までに投与され、例えば52週、51週、50週、49週、48週、47週、46週、45週、44週、43週、42週、41週、40週、39週、38週、37週、36週、35週、34週、33週、32週以下に投与される、31週、30週、29週、28週、27週、26週、25週、24週、23週、22週、21週、20週、19週、18週、17週、16週、15週、14週、13週、12週、11週、10週、9週、8週、7週、6週、5週、4週、3週、2週、1週、6日、5日、4日、3日、または2日前までにDNAベクターは投与され、任意選択でDNAベクターの、例えば1週間、2週間、3週間、4週間前に投与される。
【0229】
特定の実施形態では、ビスホスホネートおよび/または免疫細胞調節剤は、DNAを含むナノ粒子内に含まれる。例えば、LNP、LPNP、ポリマーナノ粒子、タンパク質ベースのナノ粒子、またはペプチドケージ内にカプセル化される。
VI.D.併用療法
【0230】
本明細書に記載のDNAベクターは、特定の疾患または障害に対する他の治療法と組み合わせて使用することができる。
VI.E.キット
【0231】
さらに本明細書では、少なくとも(a)DNAを含むナノ粒子を含む医薬組成物;(b)cGAS-STING経路阻害剤およびインフラマソーム経路阻害剤からなる群から選択される細胞質DNA感知阻害剤;および(c)任意選択で免疫細胞調節剤を別々の容器で提供するキットを提供する。異なる態様および実施形態において、DNAおよび細胞質DNA感知阻害剤は、第1、第2、第3、第4の態様および関連する実施形態のいずれかに記載されている通りであり;そして免疫細胞調節剤は、セクションIV(上掲)を通して記載されている通りである。異なる成分の量は、上掲のセクションV.およびVI.全体を含め、本明細書で提供されるガイダンスに基づいて容易に求めることができる。キットはまた、本明細書に記載される方法に従って投与するための指示を記載したラベルを提供することができる。
【0232】
本出願を通じて、本発明の多くの異なる態様と実施形態が説明されてきた。それにもかかわらず、当業者は、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、本発明を様々な用途および条件に適合させるために様々な変更および修正を加えることができる。
【実施例】
【0233】
以下に、本発明の異なる特徴および本発明を実施するための方法論をさらに例示する。提供された実施例は、特許請求された発明を限定するものではない。
実施例1:In Vitro H-151によるDNA-LNP誘導IRF活性化の抑制
【0234】
THP1-DualTM細胞(InvivoGen社製)を96ウェルプレートに45,000細胞/ウェルの密度で播種した。一晩培養した後、細胞を25ngのDNA-LNP/ウェルで、0、0.2または2.1ngの低分子STING阻害剤H-151(InvivoGen社製)の存在下で処理した。H-151は、a)LNP中のDNAと共封入されるか、b)可溶性の形態で提供される。24時間培養後、細胞培養上清中の 発光シグナル(ルシアルシフェラーゼ)を測定することにより、インターフェロン調節因子(IRF)経路の活性化(「fold IRF活性」)を決定した。DNA-LNPは、(1)DNAプラスミド(ヒト凝固第IX因子(hFIX)をコードするナノプラスミド発現カセット)と、(2)Lipid5(Sabnisら、I.A.後述にさらに記載)、50%;C14-PEG2000、1.5%;コレステロール、38.5%;およびDSPC、10%から構成された。
【0235】
可溶性H-151は、LNP-DNAによって誘導されたIRF活性化(サイトカイン誘導によって示される)に対して阻害効果を示し、この効果は、H-151をDNA-LNPでカプセル化した場合に顕著であった(
図1)。
実施例2:In Vivo LNPカプセル化H-151のDNA-LNP誘導サイトカイン放出抑制作用
【0236】
BALB/cマウスに10μgのDNA-LNPまたはH-151をカプセル化した10μgのDNA-LNPを注射した。H-151は約1-2μg/マウス(約0.04-0.08mg/kgマウス)の用量で投与された。血漿中のサイトカインレベルは注射後4時間で測定された。
図2A、2B、2Cおよび2Dは、DNA-LNPでカプセル化したH-151が、DNA誘導IFN-β(
図2A)、IFN-α(
図2B)、IFN-γ(
図2C)およびIL-6(
図2D)を阻害する能力を示している。DNA-LNPは上記の実施例1に記載された通りであった。
実施例3:In Vivo RO3150とGSK690693によるDNA-LNP誘発サイトカイン放出抑制作用
【0237】
DNA-LNP投与前にBALB/cマウスをデキサメタゾン、GSK690693、またはRO3150で前処理し、DNA-LNP投与4時間後に血漿中サイトカイン濃度を測定した。DNA-LNPは、(1)DNAプラスミド(hFIXをコードするナノプラスミド発現カセット);および(2)GenVoy-ILMTM LNPから構成された。GenVoy-ILMTM LNPは、イオン化可能な脂質を50%、DSPCを10%、コレステロールを37.5%、安定剤(PEG-Lipid)を2.5%含む(Rocesら,Pharmaceutics,2020 12,1095を参照)。前処置は、デキサメタゾン200μgをDNA-LNP投与の約1時間前に腹腔内投与、GSK69063 312.5μgをDNA-LNP投与の約1時間前に腹腔内投与、またはRO3015 60μgをDNA-LNP投与の直前に静脈内投与した。
【0238】
図3A、3B、3C、3D、3E、3F、3G、3Hは、RO3150、GSK690693、およびデキサメタゾンの、DNA-LNPによって誘導されるサイトカイン/ケモカインレベルを阻害する能力を示している。採用した用量では、デキサメタゾンとRO3150は広く活性を示し、GSK690693はIL-6とKC/GROを除くほとんどのサイトカイン/ケモカインレベルを低下させた。
実施例4:STINGシグナル伝達の遮断
【0239】
野生型(WT)マウスおよび細胞質二本鎖DNA(dsDNA)センサーであるSTINGのミスセンス変異であるGoldenticket(STING(Gt))を持つマウス(各群n=5)に、DNA-LNP(それぞれ0.625mpk(25μg/マウス)および1.25mpk(50μg/マウス))を2つの時点(t=0日およびt=41日)で全身投与(尾静脈からボーラス投与)した。DNA-LNPは、35%のbCKK-E12脂質(後述のI.A.にさらに記載);2.4%のC14-PEG2000;0.1%のGalNAc PEG C18;46.5%のコレステロール;および16%のDOPEを含むLNPにカプセル化されたヒト凝固因子IX(hFIX)をコードするナノプラスミドDNAから構成されていた。
図4A、4B、および4Cは、41日目の投与4時間後に測定した血漿中サイトカインレベル(それぞれIL-6、IFNα、およびIFNγ)を示し、WTマウスのプールした投与前の血漿中レベル(「ベースライン」)と比較した(すなわち、DNA-LNPを投与していないWTマウスで測定した)。
図4Dは、各群のマウスの生存期間を70日まで追跡したものである。
図4Eは、70日目までの各群の生存マウスにおいて、投与後の様々な時点でELISAにより測定した血漿中のトランスジェニックhFIXタンパク質レベルを示す。STINGシグナル伝達の遮断はDNA-LNPの忍容性、生存率、導入遺伝子発現を改善する。
【0240】
STINGの遺伝子遮断マウス(Goldenticketマウス)は、WTマウスと比較して、DNA-LNP遺伝子治療を投与したマウスのIL-6の減少(
図4A)、IFNαの減少(
図4B)、IFN-γの減少(
図4C)、および生存率の改善(
図4D)をもたらした。STING遮断により、DNA-LNP遺伝子治療導入遺伝子の発現もWTマウスに比べて増加した(
図4E)。
【0241】
このデータは、DNA-LNP遺伝子治療の忍容性と有効性を改善するアプローチとして、STINGシグナルを標的とした治療を支持するものである。遺伝子治療のdsDNAペイロードにより、免疫細胞(そしておそらく標的細胞も)の炎症反応に対する感受性が低下するなどの利点が期待される。
【0242】
本発明を、その特定の実施形態を参照して説明および図示したが、当業者は、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、手順およびプロトコルの様々な適合、変更、修正、置換、削除、または追加がなされ得ることを理解するであろう。
【配列表】
【国際調査報告】