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  • 特表-次亜塩素酸塩発生用電極 図1
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  • 特表-次亜塩素酸塩発生用電極 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-06
(54)【発明の名称】次亜塩素酸塩発生用電極
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/097 20210101AFI20241029BHJP
   C25B 1/26 20060101ALI20241029BHJP
   C25B 11/053 20210101ALI20241029BHJP
   C25B 11/081 20210101ALI20241029BHJP
   C01B 11/06 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
C25B11/097
C25B1/26 C
C25B11/053
C25B11/081
C01B11/06 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024524426
(86)(22)【出願日】2022-10-26
(85)【翻訳文提出日】2024-06-07
(86)【国際出願番号】 EP2022079965
(87)【国際公開番号】W WO2023073037
(87)【国際公開日】2023-05-04
(31)【優先権主張番号】IT102021000027536
(32)【優先日】2021-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507128654
【氏名又は名称】インドゥストリエ・デ・ノラ・ソチエタ・ペル・アツィオーニ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ラムニ, アンナ
(72)【発明者】
【氏名】加藤 昭博
(72)【発明者】
【氏名】カッツァニーガ, クリスティーナ
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4K011AA21
4K011AA30
4K021AB07
4K021BA02
4K021DC07
(57)【要約】
本発明は、導電性基板と、前記基板上に適用された触媒コーティングとを含む次亜塩素酸塩発生用電極およびその製造のための多層方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次亜塩素酸塩発生用電極を製造する方法であって、少なくとも2つの連続する段階(I)および(II):
(I)バルブ金属基板上で、以下の工程a)~b):
a)第1の組成物の少なくとも1つの層を含む第1の活性コーティングを適用することであって、ここで、前記第1の組成物は、元素に関する以下の重量比:20~70%のTa、30~80%のIrを有するTaおよびIrの前駆体を含み、各層は、45~75℃で5~15分間乾燥され、続いて480~530℃で5~15分間焼成される、第1の組成物の少なくとも1つの層を含む第1の活性コーティングを適用すること
b)前記第1の活性コーティングの上に第2の組成物の少なくとも1つの層を含む第2の活性コーティングを適用することであって、ここで、前記第2の組成物は、元素に関する以下の重量比:20~50%のRu、50~80%のTiを有するRuおよびTiの前駆体を含み、各層は、45~75℃で5~15分間乾燥され、続いて480~530℃で5~15分間焼成される、前記第1の活性コーティングの上に第2の組成物の少なくとも1つの層を含む第2の活性コーティングを適用すること
を少なくとも1回実行することと;
(II)段階(I)から得られた電極上で工程a)を実行し、任意に480~530℃で1~6時間ポストベークを行うことと
を含む、方法。
【請求項2】
第1の活性コーティング組成物が、Rhの前駆体溶液をさらに含み、Ta、IrおよびRhの前駆体が、元素に関する以下の重量比:20~45%のTa、30~70%のIr、10~25%のRhを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第1の活性コーティング組成物中のTaおよびIrの前駆体が、元素に関する以下の重量比:20~45%のTa、55~80%のIrを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
第1の活性コーティングが、1~4層で適用され、第2の活性コーティングが、2~10層で適用される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
第2の活性組成物が、以下のリスト:スカンジウム、ストロンチウム、ハフニウム、ビスマス、ジルコニウム、アルミニウム、およびそれらの組合せから選択される1つ以上のドーピング剤Xの前駆体溶液をさらに含み、Xが、元素に関する重量パーセントで表して0,5~5%である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
第2の活性組成物が、以下のリスト:銅、白金およびそれらの組合せから選択される1つ以上のドーピング剤Yの前駆体溶液をさらに含み、Yが、元素に関する重量パーセントで表して0,2~3,2%である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
段階(I)において、工程a)~b)が段階(II)の前に1~6回連続して実行される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
段階(I)および(II)が、2~6g/mの第9族貴金属元素の総負荷に達するまで行われる、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の方法で得られ得る、電極。
【請求項10】
次亜塩素酸塩発生用電極であって、好ましくはTiまたはその合金で作製されたバルブ金属基板と、前記基板上に適用された活性コーティングとを含み、前記コーティングが、10~30ミクロンの平均厚さ「T」を有し、元素に関する以下の相対重量パーセント:4~35%のIr、1,5~22,5%のTa、10~45,5%のRu、25~75%のTi、および任意に0,5~12,5%のRhに従って、Ti、Ta、Ir、Ruおよび任意にRhの金属酸化物を含み、Ta、Ir、Ruおよび任意にRhの相対重量パーセントが、
Ir、Ta、およびRhが、存在する場合、基板から出発して、コーティング厚さTの2~25%を中心とする重量パーセントのピークを示し、Tの1~10%のFWHMを有し、
Ruが、コーティング厚さTの10~40%に達するまで重量パーセントの増加を示し、そこで実質的に安定化する
ようにコーティング厚さに応じて変化し、
前記重量パーセントが、試料に対してスタンダードレス半定量的EDAX-SEMラインスキャンの平均を行うことによって測定され、各ラインスキャンが、ZAF補正を用いて、触媒コーティングの厚さTに沿った少なくとも100個の取得点にわたって行われる
ことを特徴とする、次亜塩素酸塩発生用電極。
【請求項11】
請求項9または10に記載の電極と、電解質とを含む、バイポーラ電気分解装置。
【請求項12】
電解質が、水道水から実質的になる、請求項11に記載のバイポーラ電気分解装置。
【請求項13】
次亜塩素酸塩媒介水消毒のための、請求項11または12に記載のバイポーラ電気分解装置の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、次亜塩素酸塩発生用電極およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
次亜塩素酸塩発生用電極は、単独でまたは他の方法(UV、オゾン)と組み合わせて使用され、水処理用途のためのセルおよびシステムに有利に使用される可能性がある。特に、これらの電極は、プールおよびトイレを含む家庭用水消毒の分野で首尾よく使用され得る。
【0003】
上記の例では、処理される水は、通常水道水であり、電解質として機能する。水道水は、その中に溶解する塩化物イオンの濃度が非常に低い(≦10ppm)ために、通常は1000Ωをはるかに超える高い電気抵抗率を特徴とする。これらの条件下で、セルの動作電流密度が特定の閾値を超えて増加すると、競合する塩素発生反応が塩化物イオンの質量輸送によって制限されるため、酸素発生反応がアノードで起こり始める。酸素の生成は最終的に電極腐食に寄与し、それによってその効率および寿命が制限される。
【0004】
さらに、水の硬度は、電極表面にスケールを形成させる可能性があり、これはセルの次亜塩素酸塩生成効率に悪影響を及ぼし、したがって電極の定期的な洗浄を必要とする。
【0005】
この問題を回避するために、家庭用消毒用途は、通常、バイポーラおよび対称電極パック、すなわち、効果的な「自己洗浄」システムを得るために極性反転を受ける同一のアノード-カソード対を使用する。
【0006】
しかしながら、この動作条件は、存在する場合、電極の触媒コーティングにとって非常に有害であり、その理由は、その不活性化および層間剥離プロセスを加速するためである。
【0007】
大量の第9族貴金属元素(例えば、10g/mを超えるIrおよびRh酸化物)でコーティングされた電極は、良好な耐食性を示し、満足のいく遊離有効塩素(FAC)効率(30%)を示す。しかしながら、良好な結果を達成するために必要とされる大量の希少かつ特に高価な材料が、関連する調達問題、価格変動、希少性および全体的なコストのために、商業的および工業的観点から抑止力を表す。
【0008】
他方で、より手頃なRu-Ti酸化物活性コーティング組成物は、極性反転動作を受ける場合に満足のいく挙動を示すが、酸素腐食に対して不安定である。
【0009】
したがって、使用される希少貴金属の量に関して工業的および商業的魅力を維持しながら、家庭用水消毒用途(または高い電解質抵抗率を特徴とする他の用途)に見られ得る厳しい動作条件に耐える可能性がある次亜塩素酸塩発生用電極を有することが望ましい。
【発明の概要】
【0010】
発明の説明
本発明の目的は、特に極性反転条件および水道水などの高抵抗電解質にさらされる場合に、当技術分野で公知の次亜塩素酸塩発生用電極の欠点を克服することである。
【0011】
前述のように、第9族貴金属(すなわち、イリジウムおよび/またはロジウム)などの希少貴金属を大量かつ高負荷で含有する触媒コーティングを備えた電極は、良好な耐食性を示すが、酸化ルテニウムおよび酸化チタンを含有する活性コーティング組成物は、極性反転条件にさらされる場合に満足のいく挙動を示す。
【0012】
酸化イリジウムと酸化ルテニウムとを混合すると、酸化イリジウムの安定性を有する材料が得られる場合があるが、かなり安価であることがしばしば観察されている。この効果は、バンド混合によって引き起こされる酸化電位のシフトに起因する可能性が高く、ルテニウムによるイリジウムの部分化(partialisation)と呼ばれる。
【0013】
しかしながら、本発明者らは、得られた混合物が安定なまたは制御可能な材料を生成しないので、この場合、Ru-Ti組成物と、Irおよび任意にRhを含む組成物との単なる組合せは満足のいく結果をもたらさないことを観察した。様々なRu:Ir比率で相分離が観察され、このようにして得られたコーティングは、満足のいく耐久性ではない。したがって、より低いプライスポイントで酸化イリジウムの安定性を有する材料を得るために電気化学においてしばしば利用されるRu:Tiマトリックスの生成は、この場合に必要なロバスト性を保証しない。
【0014】
驚くべきことに、本発明者らは、2つの組成物を別々に順次適用すると、熱分解を受ける1つ以上の層において、得られた電極が改善された耐食性および増加したFACを示すことに注目した。ZAF補正を用いたスタンダードレス半定量的SEM/EDAX分析によって推測される場合があるように、この技術によって得られた触媒コーティングされた電極は、製造方法で使用される2つの異なる交互の組成物の存在を正確に反映していない。特定のSEM画像では複数の層の存在が視覚的に示唆される場合があるが、最終的には、2つの異なるコーティング組成物の元素が混在し、活性コーティング厚さにわたって異なるように拡散する。いくつかの要因がこの効果に寄与している可能性があり、すなわち、それらの異なる結晶親和性、および/またはそれらの分子量、ならびに作製中に行われる連続的かつ特異的な熱処理である。その結果は、半定量的スタンダードレスEDAX SEM測定で電極基板から外面までコーティング組成物をスキャンすることによって観察され得るように、最終的な全体的なコーティングの元素の濃度において変化する予想外のプロファイルである。
【0015】
使用される作製方法によって与えられるこの複雑で特異的な組成物プロファイルは、電極性能に明らかに寄与することが観察されている。したがって、標的とされる用途における電極性能は、活性コーティング中に存在する元素に依存するだけでなく、使用される作製方法を介して電極に運ばれる特定の特性、および活性コーティング内の元素の結果としての分布に関連すると結論付けられる可能性がある。
【0016】
一態様では、本発明は、水道水中での次亜塩素酸塩発生に好適な電極を製造する方法に関する。本方法は、少なくとも2つの連続する段階(I)および(II)を含む。
【0017】
第1の段階(I)は、バルブ金属基板上での、以下に定義される工程a)~b)の実行を含む。
【0018】
工程a)は、元素に関する以下の重量パーセント:20~70%のTa、30~80%のIrを有するTaおよびIrの前駆体を含有する第1の組成物の少なくとも1つの層を含む第1の活性コーティング(簡潔にするために「A」)を適用することを含む。各層は、45~75℃で5~15分間乾燥され、続いて480~530℃で5~15分間焼成される。他の前駆体が第1の組成物中に存在してもよい。例えば、Rh、Pt、Nbおよび/またはWの前駆体が、首尾よく使用される場合がある。
【0019】
工程b)は、コーティングAの上に第2の活性コーティング(簡潔にするために「B」)を適用することを含む。コーティングBは、元素に関する以下の重量パーセント:20~50%のRu、50~80%のTiを有するRuおよびTiの前駆体を含む第2の組成物の少なくとも1つの層を含む。
【0020】
各層は、45~75℃で5~15分間乾燥され、続いて480~530℃で5~15分間焼成される。
【0021】
この第1の段階(I)では、工程a)およびb)は、少なくとも1回行われるものとする。
【0022】
第2の段階(II)は、段階(I)から得られた電極上での上記の工程a)の実行、および任意に480~530℃で1~6時間ポストベークを行うことを含む。
【0023】
したがって、電極は、以下のコーティングシーケンス:A-B-A、またはA-B-A-B-A、またはA-B-A-B-A-B-A、などに従って作製され、コーティングAおよびBの総数は、実用上の理由から、好ましくは3~31の範囲であってもよい。この数は、段階(I)における工程a)~b)を1~15回実行することに対応する。
【0024】
得られた電極についての半定量的スタンダードレスEDAX SEM測定は、製造方法で使用される別個のコーティング組成物AおよびBが、最終コーティング全体において別個の(多)層として明確に識別可能ではないが、元素の分布もまた、第1および第2の組成物の両方の混合物を単に適用することによって得られる可能性があるものとは異なることを示す。さらに、2つの組成物が適用される順序もまた、以下の実施例に示されるように、電極性能に測定可能な効果を与える(すなわち、シーケンスは、好ましくはコーティングAで開始および終了すべきである)ことが示されている。
【0025】
本発明者らは、段階(I)における工程a)~b)を1~6回実行すると、このようにして得られた電極が本発明の実施において特に良好に機能することを観察した。
【0026】
本発明による方法は、コーティングAの適用前の電極基板上へのバリアコーティング組成物、または段階(II)の後のトップコーティング組成物、または異なる段階および工程の間の他の組成物などの追加のコーティング組成物の適用を排除しない。
【0027】
段階(I)および(II)の両方における工程a)、ならびに段階(I)における工程b)の各単一実行中に、対応する活性コーティングの層の数、および総貴金属負荷は変化する場合がある。
【0028】
好ましくは、当業者は、少なくとも10ミクロン、さらにより好ましくは10~30ミクロンの全体的な最終コーティング厚さに達するまで、実行される工程の数、各層のピックアップおよび負荷、ならびに層の数を一般的な知識に従って調整してもよい。
【0029】
したがって、電極は、以下のコーティングシーケンス:A-B-AまたはA-B-A-B-...-Aに従って作製されてもよく、ここで、n、m、o、p、qは、各コーティングAおよびBが適用される層の数を示し、これらの数は互いに異なっていてもよい。
【0030】
使用される貴金属の総量を減少させながら、腐食に対する基板と接触する活性コーティングの保護効果の最適なバランスをとるために、1~4の層数で第1の活性コーティングを適用することによって工程a)を実行し、2~10の層数で第2の活性コーティングを適用することによって工程b)を実行することが有利である可能性がある。
【0031】
一実施形態によれば、第2の活性コーティングの層の数は、好ましくは第1の活性コーティングの層の数よりも多い。
【0032】
好ましくは、第2の活性コーティングの貴金属負荷は、第1の活性コーティングの貴金属負荷よりも高く、さらにより好ましくは、第2の活性コーティングの貴金属負荷は、第1の活性コーティングの貴金属負荷よりも2~10倍高い。
【0033】
当業者は、段階(I)および(II)の工程a)およびb)が所望の総貴金属負荷に達するまで行われてもよいことを理解する。
【0034】
別の実施形態によれば、希少貴金属、すなわち周期表の第9族に属する貴金属の総負荷は、好ましくは最終電極全体で2~6g/mに等しい。
【0035】
別の実施形態では、第1の組成物中のTaおよびIrの前駆体は、以下の範囲内:20~45%のTaおよび55~80%のIrで有利に選択されてもよい。この場合、組成物は、さらなる金属前駆体を含有しても含有しなくてもよい。後者の場合、電極の作製が簡略化される。さらに、電極作製に必要な材料の調達は、特に希少金属および/または貴金属が関係する場合、金属前駆体の価格変動および入手可能性に関して不確実性の影響を受けにくい。得られた電極は、先行技術の電極の性能をはるかに高い貴金属負荷と有利に一致させる。
【0036】
別の実施形態では、第1の組成物は、好ましくは、Rhの前駆体をさらに含有し、Ta、IrおよびRhの前駆体は、元素に関する以下の重量比:20~45%のTa、30~70%のIr、10~25%のRhを有する。ロジウムの存在により、電極の耐久性がさらに改善される。
【0037】
有利には、この実施形態では、工程a)のIr+Rhの総負荷は、好ましくは1~3g/mの間で選択されてもよい。
【0038】
別の実施形態によれば、最終電極全体におけるIr+Rhの総負荷は、好ましくは2~6g/mに等しくなるように選択されてもよい。
【0039】
一般に、工程b)について、Ruの総負荷は、有利には5~10g/mの間で選択されてもよい。
【0040】
電極基板は、任意の好適な導電性材料、好ましくはチタンまたはその合金などのバルブ金属で作製されてもよい。基板は、異なる幾何学的形状、すなわち、メッシュ、シート、ブレード、チューブまたはワイヤ形状を含む電気塩素処理用途に使用される場合がある形状のいずれかであってもよい。
【0041】
基板の材料および形状にかかわらず、そのような基板の表面は、有利には洗浄された表面であってもよい。これは、当技術分野で公知の処理のいずれかによって得られてもよい。さらに、洗浄された表面は、活性コーティング組成物の接着性を高めるためにさらに処理されてもよい。これは、基板金属の粒間エッチング、金属表面の鋭いグリットブラスト、またはプラズマ溶射、続いて埋め込まれたグリットを除去するための表面処理を含む任意の通常の手段によって達成されてもよい。
【0042】
材料の耐久性をさらに高めるために、より良好な粗さ、したがってより良好な接着性を得るために、バルブ金属基板をサンドブラストし、次いでエッチングすることが好ましい。
【0043】
本発明による方法のさらなる実施形態によれば、第2の活性組成物は、集合的に「X」として識別される1つ以上のドーピング剤の前駆体溶液をさらに含み、Xは、元素に関する重量パーセントで表して0,5~5%であり、以下のリスト:スカンジウム、ストロンチウム、ハフニウム、ビスマス、ジルコニウム、アルミニウム、およびそれらの組合せから選択される。
【0044】
得られたXドープ組成物は、電極が典型的に動作する可能性のある低塩分条件において効率の向上をもたらす可能性がある。
【0045】
本発明による方法のさらなる実施形態によれば、第2の活性組成物は、集合的に「Y」として識別される1つ以上のドーピング剤の前駆体溶液をさらに含んでもよく、Yは、元素に関する重量パーセントで0,2~3,2%であり、以下のリスト:銅、白金およびそれらの組合せから選択される。
【0046】
得られたYドープ組成物は、極性反転に対する改善されたロバスト性を提供することが観察されている。
【0047】
第2の活性組成物のXおよびYドーピングは相互に排他的ではなく、それらは一緒にまたは別々に実行されてもよい。
【0048】
前述のように、本発明による代替コーティング組成物の多層作製方法は、同じ材料および量の第9族からの希少貴金属を活用する他の方法と比較して、より高い耐食性およびより高いFAC効率を示す電極をもたらす。この方法はまた、性能を損なうことなく、電流反転を受ける対称電極パッケージの自己洗浄に利用され得る極性反転に対する高い抵抗性を有する電極を提供する。
【0049】
説明したように、本方法で得られ得る電極は、上記の異なる組成物の交互の異なる層の代わりに、最初から一緒に適用された同じ材料で作製された電極に関して測定可能に改善された性能を達成する。2つのコーティング組成物に適用される特異的な熱処理の独特な効果、層の順序、数および交互性は、元素の固有の異なる揮発性と組み合わされて、独特な特性および性能を有する製品を提供する。
【0050】
実際、第1および第2の組成物の特定の元素は、全体的な触媒コーティング厚さに沿ってかなり均一に分布するが、他の元素は、ほとんどが基板の近く、および/または上部で濃縮/枯渇するが、それにもかかわらず、限定されないが、段階(I)が実行される回数、工程a)およびb)の各々で使用される層の数、ならびにそれらの厚さおよび/または金属負荷などの多種多様なパラメータに依存する可能性が高いため、予測し難い変動を受ける。最終製品中の元素のこの分布は、電極作製中に実行されるA-B-...-Aパターンとの直接的な関連を持たない。
【0051】
したがって、最終電極コーティング全体における元素の分布は、電極性能に測定可能な効果を与える作製方法に間違いなく関連しているが、特許請求の範囲の範囲を過度に制限しない限り、前記方法を参照せずに定義されることは不可能である。
【0052】
したがって、第2の態様では、本発明は、上記の方法の実施形態のいずれかによって得られ得る電極に関する。この電極は、使用される方法によって与えられる特性のために、希少で高価であり、劇的な価格変動および入手可能性の問題を受けやすい第9族に属する貴金属元素の総負荷の減少量を比較として使用することによって、当技術分野で公知の電極と比較して改善されたまたは同等の寿命および改善された塩素発生効率を示す。
【0053】
本発明は、使用される作製方法にかかわらず、前述の電極と類似の特徴を有するすべての電極を網羅することを理解されたい。
【0054】
説明したように、上記の電極は、過度の制限なしにその構造/材料特性のみに関して適切に定義され得ないが、本発明者らは、驚くべきことに、特定の特に有利な実施形態が、以下に説明するように、コーティング厚さを通る元素の分布に共通の特徴を示すことを観察した。
【0055】
第3の態様では、本発明は、本発明による方法を用いて得られる可能性があり、水消毒、特に水道水に好適な、改善された寿命および塩素発生効率を有する電極に関する。電極は、好ましくはTiまたはその合金で作製されたバルブ金属基板と、前記基板上に適用された活性コーティングとを含み、前記コーティングが、10~30ミクロンの平均厚さ「T」を有し、元素に関する以下の相対重量パーセント:Ir4~35%、Ta1,5~22,5%、Ru10~45,5%、Ti25~75%および任意にRh0,5~12,5%に従って、Ti、Ta、Ir、Ruおよび任意にRhの金属酸化物を含むことを特徴とする。金属は、厚さT全体にわたって拡散するが、それらの相対重量パーセントは、
-Ir、Ta、およびRhが、存在する場合、基板から出発して、コーティング厚さTの2~25%を中心とする重量パーセントのピークを示し、Tの1~10%のFWHMを有し、
-Ruが、コーティング厚さTの10~40%に達するまで重量パーセントの増加を示し、そこで実質的に安定化する(すなわち、基板から出発して、Tの25%~100%で測定された平均値の平均3倍を超えて、機器誤差にもかかわらず、重量パーセントにおけるいずれの系統的なピークもディップも示さず、変動しない)
ようにコーティング厚さに応じて変化する。
【0056】
重量パーセントは、ZAF補正を用いてスタンダードレス半定量的EDAX-SEMラインスキャンの試料に対して平均を行うことによって測定され、各ラインスキャンは、触媒コーティングの厚さTに沿った少なくとも100個の取得点にわたって行われる。各点について、触媒コーティング中に存在するすべての元素の重量パーセントの和を100%に正規化する。試料に対する平均は、電極の異なる領域上で測定された適切な数のラインスキャンを考慮することによって測定されるべきである。当業者が理解する場合があるように、適切な数のラインスキャンは、試料の全体的なサイズおよび均一性に依存する。
【0057】
そのようなラインスキャンは、触媒コーティングの欠陥または細孔、機器の精度および感度、不純物などによる変動を本質的に呈することを理解されたい。
【0058】
ピークとは、ガウス分布または歪んだ正規分布によっておおよそ適合される可能性がある相対的または絶対的な最大値を意味し、上記の半値全幅(FWHM)によって特徴付けられる。
【0059】
前記ピークに対応して計算された重量パーセントは、活性コーティングの外面に向かう方向(基板から最も遠い)のピークの位置から距離Zで測定された平均値の少なくとも3倍であるべきであり、Z=1,75*FWHM-2,75*FWHMである。
【0060】
上記のSEM/EDAX測定によって捕捉されるもの以外に、本発明による作製方法によって他の構造的/化学的特性が付与される可能性があることに留意されたい。
【0061】
第3の態様では、本発明は、上記の態様および実施形態に記載の電極を使用するバイポーラ電気分解装置に関する。好ましくは、バイポーラ電気分解装置は、水道水から実質的になる電解質を使用する。有利には、電気分解装置は、少なくとも一対の同一の電極を使用し、各電極は、上記の本発明による電極のうちの1つである。
【0062】
第4の態様では、本発明は、次亜塩素酸塩媒介水消毒のための本発明によるバイポーラ電気分解装置の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0063】
図1図1のパネルa)は、実施例1に記載の方法に従って作製された試料のSEM画像を表す。パネルb)は、パネルa)に示された線に沿って、同じ試料に対して行われたスタンダードレス半定量的EDAX-SEMラインスキャンをプロットしている。
図2図2のパネルa)は、実施例2に記載の方法に従って作製された試料のSEM画像を表す。パネルb)は、パネルa)に示された線に沿って、同じ試料に対して行われたスタンダードレス半定量的EDAX-SEMラインスキャンをプロットしている。
図3図3のパネルa)は、反例1に記載の方法に従って作製された試料のSEM画像を表す。パネルb)は、パネルa)に示された線に沿って、同じ試料に対して行われたスタンダードレス半定量的EDAX-SEMラインスキャンをプロットしている。
【発明を実施するための形態】
【0064】
図面の詳細な説明
図1のパネルa)は、実施例1に記載の方法に従って、すなわち、「A-B-A」タイプの適用パターンに従って段階(I)を1回実行することによって作製された試料のSEM画像を表す。コーティングは、20ミクロンの平均厚さを有していた。
【0065】
同じ試料を指すパネルb)は、パネルa)に示された線に沿って100個の取得点にわたって行われたスタンダードレス半定量的EDAX-SEMラインスキャンをプロットしている。ZAF補正がEDAX測定に適用される。各点について、触媒コーティング中に存在するすべての元素の重量パーセントの和を100%に正規化する。明確にするために、Ru、Rh、TaおよびIrの測定のみを示す。
【0066】
図2のパネルa)は、実施例2に記載の方法に従って、すなわち、「A-B-A-B-A-B-A」タイプの適用パターンに従って段階(I)を3回実行することによって作製された試料のSEM画像を表す。コーティングは、20ミクロンの平均厚さを示した。
【0067】
同じ試料を指すパネルb)は、パネルa)に示された線に沿って100個の取得点にわたって行われたスタンダードレス半定量的EDAX-SEMラインスキャンをプロットしている。ZAF補正がEDAX測定に適用される。各点について、触媒コーティング中に存在するすべての元素の重量パーセントの和を100%に正規化する。明確にするために、Ru、Rh、TaおよびIrの測定のみを示す。
【0068】
図3のパネルa)は、反例1に記載の方法に従って、すなわち組成物AおよびBを一緒に混合し、20ミクロンの平均厚さのコーティングを得るまで溶液を層状に適用することによって作製された試料のSEM画像を表す。
【0069】
同じ試料を指すパネルb)は、パネルa)に示された線に沿って100個の取得点にわたって行われたスタンダードレス半定量的EDAX-SEMラインスキャンをプロットしている。ZAF補正がEDAX測定に適用される。各点について、触媒コーティング中に存在するすべての元素の重量パーセントの和を100%に正規化する。明確にするために、Ru、Rh、TaおよびIrの測定のみを示す。
【0070】
特許請求される方法が、電極基板の近くでのこれらの元素の濃度の相対的増加を支持することによって、得られたコーティング内のIr、RhおよびTa含有量の半定量的重量パーセントの分布にどのように影響するかに注目することが可能である。
【0071】
上述の図は、最終コーティング内の元素の構造および濃度に使用される作製方法の影響を示し、一方、以下の実施例は、本方法が電極性能にどのように影響するかをさらに示す。
【0072】
以下の実施例は、本発明を実施化する特定の方法を実証するために含まれ、その実用性は、特許請求される値の範囲内で大部分検証されている。
【0073】
以下に開示される機器、組成物および技術は、本発明の実施において良好に機能するために本発明者らによって発見された機器、組成物および技術を表すことを当業者は理解すべきである。しかしながら、当業者は、本開示に照らして、本発明の範囲から逸脱することなく、開示されている特定の実施形態において多くの変更が行われ得、依然として同様または類似の結果を得ることができることを理解すべきである。
【実施例
【0074】
実験準備
以下の実施例および反例で使用したすべての電極試料において、100mm×100mm×1mmサイズのチタングレード1プレートから出発し、超音波浴中で10分間アセトンで脱脂して電極基板を製造した。次いで、プレートをグリットブラストに供して、2μmを超える表面粗さ値Rzを得、続いて650℃で6時間アニールした。最後に、22重量%のHClを含有する溶液中で、沸騰温度にて30分間プレートをエッチングし、200g/mの総重量減少をもたらした。
【0075】
別途指示がない限り、すべてのパーセントは重量基準で表される。
【0076】
実施例1
一対の電極E1-E1を以下の手順に従って作製した。
【0077】
上記の「実験準備」に従って作製した各電極基板を、10%HCl中の30%タンタル、50%イリジウムおよび20%ロジウムの第1の塩酸塩前駆体溶液「S」の2層をブラシで適用することによって得られた第1の活性コーティング「A」でコーティングした。各単層を60℃で10分間乾燥させ、続いて500℃で10分間焼成した。Ir-Rhの負荷は、2g/mであった。
【0078】
このようにして得られた第1の活性コーティング「A」を適用した後、各電極を、10%HCL中の65%チタン、30%ルテニウム、1%銅および4%ジルコニウムの塩酸塩前駆体溶液「S」をブラシで適用することによって得られた第2の活性コーティング「B」でコーティングした。コーティングを9層で適用し、各層を60℃で10分間乾燥させ、続いて500℃で10分間焼成した。ルテニウムの負荷は、9g/mであった。
【0079】
最後に、上記の第1のコーティング「A」に等しい第3のコーティングをコーティング「B」の上に適用した。
【0080】
さらに、各E1電極を500℃で3時間焼成した。
【0081】
得られた最終コーティングは、SEM顕微鏡で測定して、平均20ミクロンの厚さであった。画像を図1に示す。
【0082】
電極対E1-E1の寿命は、電極を公称条件と比較して頻繁な極性反転に供することによって、電流密度>7A/dmで加速条件にて試験した。
【0083】
両方の電極を、1Iの循環水道水(最大10ppmのCl)を含む専用ビーカーに室温で挿入した。対を試験条件に維持し、測定された次亜塩素酸塩生成効率が0.5ppm未満である場合には、不合格とみなした。
【0084】
実施例2
一対の電極E2-E2を以下の手順に従って作製した。
【0085】
上記の「実験準備」に従って作製した各電極基板を、実施例1に詳述した第1の前駆体溶液「S」の1層をブラシで適用することによって得られた第1の活性コーティング「A」でコーティングした。層を60℃で10分間乾燥させ、続いて500℃で10分間焼成した。Ir-Rhの負荷は、1g/mであった。
【0086】
このようにして得られた第1の活性コーティング「A」を適用した後、各電極を、実施例1に記載の前駆体溶液「S」を適用することによって得られた第2の活性コーティング「B」でコーティングした。コーティングを3層でブラシで適用し、各層を60℃で10分間乾燥させ、続いて500℃で10分間焼成した。ルテニウムの負荷は、3g/mであった。
【0087】
全体として、上記のコーティングシーケンスを3回行い、最後の1回の「A」コーティングの適用で終了した(それによってパターンA-B-A-B-A-B-Aに従った)。
【0088】
さらに、各E2電極を500℃で3時間焼成した。
【0089】
得られた最終コーティングは、SEM顕微鏡で測定して、平均20ミクロンの厚さであった。SEM画像を図2に示す。
【0090】
電極対E2-E2を実施例1の手順に従って試験し、寿命結果を表1に示す。
【0091】
実施例3
一対の電極E3-E3を以下の手順に従って作製した。
【0092】
上記の「実験準備」に従って作製した各電極基板を、10%HCl中の35%タンタルおよび65%イリジウムの第1の塩酸塩前駆体溶液「S」の2層をブラシで適用することによって得られた第1の活性コーティング「A」でコーティングした。各単層を60℃で10分間乾燥させ、続いて500℃で10分間焼成した。Irの負荷は、2g/mであった。
【0093】
このようにして得られた第1の活性コーティング「A」を適用した後、各電極を、実施例1に記載の前駆体溶液「S」を適用することによって得られた第2の活性コーティング「B」でコーティングした。コーティングを9層でブラシで適用し、各層を60℃で10分間乾燥させ、続いて500℃で10分間焼成した。ルテニウムの負荷は、9g/mであった。
【0094】
全体として、上記のコーティングシーケンスを1回行い、最後の1回の「A」コーティングの適用で終了した(それによってパターンA-B-Aに従った)。
【0095】
さらに、各E3電極を500℃で3時間焼成した。
【0096】
得られた最終コーティングは、SEM顕微鏡で測定して、平均20ミクロンの厚さであった。
【0097】
電極対E3-E3を実施例1の手順に従って試験し、寿命結果を表1に示す。
【0098】
反例1
一対の電極C1-C1を以下の手順に従って作製した。
【0099】
上記の「実験準備」に従って作製した各電極基板を、10%HCl中の9.2%タンタル、15.4%イリジウム、6.1%ロジウム、20.8%ルテニウム、45%チタン、0.7%銅および2.8%ジルコニウムを含む塩酸塩前駆体溶液の13層をブラシで適用することによって得られた活性コーティングでコーティングした。各層を60℃で10分間乾燥させ、続いて500℃で10分間焼成した。Ir-Rh-Ruの最終負荷は、13g/mであった。
【0100】
得られた最終コーティングは、SEM技術で測定して、平均20ミクロンの厚さであった。画像を図3に示す。
【0101】
電極対C1-C1を実施例1の手順に従って試験し、寿命結果を表1に示す。
【0102】
反例2
一対の電極C2-C2を以下の手順に従って作製した。
【0103】
上記の「実験準備」に従って作製した各電極基板を、実施例1に記載の第1の前駆体溶液「S」の1層をブラシで適用することによって得られた第1の活性コーティング「A」でコーティングした。層を60℃で10分間乾燥させ、続いて500℃で10分間焼成した。Ir-Rhの負荷は、4g/mであった。
【0104】
このようにして得られた第1の活性コーティング「A」を適用した後、各電極を、実施例1に記載の前駆体溶液「S」をブラシで適用することによって得られた第2の活性コーティング「B」でコーティングした。第2の活性コーティングを3層で適用し、各層を60℃で10分間乾燥させ、続いて500℃で10分間焼成した。ルテニウムの負荷は、9g/mであった。
【0105】
さらに、各電極を500℃で3時間焼成した。
【0106】
得られた最終コーティングは、SEM顕微鏡で測定して、平均20ミクロンの厚さであった。
【0107】
電極対C2-C2を実施例1の手順に従って試験し、寿命結果を表1に示す。
【0108】
反例3
一対の電極C3-C3を以下の手順に従って作製した。
【0109】
上記の「実験準備」に従って作製した各電極基板を、10%HCL中の30%タンタル、50%イリジウムおよび20%ロジウムを含む塩酸塩前駆体溶液の6層をブラシで適用することによって得られた活性コーティングでコーティングした。各層を60℃で10分間乾燥させ、続いて500℃で10分間焼成した。Ir-Rhの最終負荷は、12g/mであった。
【0110】
得られた最終コーティングは、SEM顕微鏡で測定して、平均20ミクロンの厚さであった。
【0111】
電極対C3-C3を実施例1の手順に従って試験し、寿命結果を表1に示す。
図1
図2
図3
【国際調査報告】