(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-06
(54)【発明の名称】高保磁力Nd-Fe-B系焼結磁石及びその製造方法並びに応用
(51)【国際特許分類】
H01F 1/057 20060101AFI20241029BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20241029BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20241029BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20241029BHJP
B22F 9/04 20060101ALI20241029BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20241029BHJP
B22F 1/05 20220101ALI20241029BHJP
C22C 33/02 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
H01F1/057 170
H01F1/057 130
H01F41/02 G
C22C38/00 303D
B22F3/00 F
B22F9/04 C
B22F9/04 D
B22F9/04 E
B22F1/00 Y
B22F1/05
C22C33/02 H
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024525290
(86)(22)【出願日】2023-06-07
(85)【翻訳文提出日】2024-04-26
(86)【国際出願番号】 CN2023098983
(87)【国際公開番号】W WO2024007808
(87)【国際公開日】2024-01-11
(31)【優先権主張番号】202210800345.X
(32)【優先日】2022-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522310502
【氏名又は名称】烟台正海磁性材料股▲フン▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】于永江
(72)【発明者】
【氏名】顧暁倩
(72)【発明者】
【氏名】王聡
(72)【発明者】
【氏名】張玉孟
(72)【発明者】
【氏名】馬丹
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
5E040
5E062
【Fターム(参考)】
4K017AA04
4K017BA06
4K017BB06
4K017BB07
4K017BB09
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5E040AA04
5E040AA19
5E040BD01
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5E040HB03
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5E040NN01
5E040NN06
5E040NN18
5E062CD04
5E062CE04
5E062CG02
5E062CG05
(57)【要約】
本発明は、高保磁力Nd-Fe-B系焼結磁石及びその製造方法と応用を開示し、上記焼結磁石は質量比が100%で、以下の成分を含み、R 26~37 wt%、そのうち、RはNdを含む少なくとも1種の希土類元素であり、Mn 0.07~0.23 wt%、B 0.8~1 wt%、M 0.5~4 wt%、上記MはCu及び/又はAlを含み、Co、Ti、Ni、Zr、Gaから選ばれる少なくとも1つを更に含み、残部がFeである。本発明は、Mn含有補助合金粉末とMn無しネオジム鉄ボロン主合金粉末を混合した後、Nd-Fe-B焼結磁石を製造し、Mn含有補助合金粉末は、本発明の範囲内のMn元素に加えて、金属Cu、Alの少なくとも1つを含む必要があり、Mnが主相のFeの一部と置換されることにより、粒界に有益元素の主相への固溶量を減少させ、保磁力を向上させることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高保磁力Nd-Fe-B系焼結磁石であって、質量比が100%で、前記焼結磁石は以下の成分を含み、
R 26~37 wt%、そのうち、Rは、Ndを含む少なくとも1種の希土類元素であり、
Mn 0.07~0.23 wt%、
B 0.8~1 wt%、
M 0.5~4 wt%、前記Mは、Cu及び/又はAlを含み、Co、Ti、Ni、Zr、Gaから選ばれる少なくとも1つを更に含み、
残量がFeである、ことを特徴とする焼結磁石。
【請求項2】
前記高保磁力Nd-Fe-B系焼結磁石の結晶粒サイズは、3~6 μmである、ことを特徴とする請求項1に記載の焼結磁石。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の焼結磁石の製造方法であって、前記方法は以下のステップを含み、
(S1)まず、Mn無しネオジム鉄ボロン主合金フレークとMn含有補助合金フレークをそれぞれ製造し、
そのうち、前記Mn無しネオジム鉄ボロン主合金フレークは、R 29~36 wt%、B 0.9~1 wt%、M 0.1~3.5 wt%を含み、残量がFeであり、
前記Mn含有補助合金フレークは、R 12~37 wt%、Mn 1~10 wt%、B 0~1 wt%、M 0.5~30 wt%を含み、残量がFeであり、
(S2)ステップ(S1)のMn無しネオジム鉄ボロン主合金フレークとMn含有補助合金フレークを水素破砕とジェットミリングし、混合合金粉末を得、プレス加工、焼結、焼き戻し処理を経て、前記高保磁力Nd-Fe-B系焼結磁石を製造する、ことを特徴とする焼結磁石の製造方法。
【請求項4】
ステップ(S1)において、前記主合金フレーク中のMは、Cu及び/又はAlを含まず、前記補助合金フレーク中のMは、Cu及び/又はAlを必ず含み、補助合金フレーク中のCuの含有量は、0~9 wt%であり、Alの含有量は、0~8 wt%であり、且つCuとAlの含有量は、同時に0になることはない、ことを特徴とする請求項3に記載の焼結磁石の製造方法。
【請求項5】
ステップ(S1)において、前記Mn含有補助合金フレークにおいて、前記Rは、少なくともNd 12~30 wt%を含む、ことを特徴とする請求項3に記載の焼結磁石の製造方法。
【請求項6】
ステップ(S2)において、前記Mn無しネオジム鉄ボロン主合金フレークは、Mn無しネオジム鉄ボロン主合金フレークとMn含有補助合金フレークの総量の87~98 wt%を占め、
及び/又は、ステップ(S2)において、前記混合合金粉末は、Mn無しネオジム鉄ボロン主合金粉末と、Mn含有補助合金粉末とを含み、
及び/又は、ステップ(S2)において、焼結温度は800~1200℃で、温度維持時間は3~20 hであり、
及び/又は、二次焼結を使用し、1回目の焼結温度は900~1200℃で、温度維持時間は3~8 hであり、2回目の焼結温度は800~1100℃で、温度維持時間は3~7 hであり、
及び/又は、焼結磁石におけるMnの割合が0.15~0.23 wt%で、且つ合金粉末粒度が3.0~3.8 μmである場合、1回目の焼結温度は900~1050℃で、温度維持時間は6~8 hである、ことを特徴とする請求項3に記載の焼結磁石の製造方法。
【請求項7】
ステップ(S2)において、焼き戻し処理は二次焼き戻しであり、一次焼き戻し温度は700~950℃で、温度維持時間は4~8 hであり、二次焼き戻し温度は450~600℃で、温度維持時間は4~8 hである、ことを特徴とする請求項3に記載の焼結磁石の製造方法。
【請求項8】
ステップ(S2)は、(S2a)ステップ(S1)におけるMn無しネオジム鉄ボロン主合金フレークとMn含有補助合金フレークをそれぞれ水素破砕とジェットミリングし、Mn無しネオジム鉄ボロン主合金粉末とMn含有補助合金粉末をそれぞれ得、また、Mn無しネオジム鉄ボロン主合金粉末とMn含有補助合金粉末を均一に混合して混合合金粉末を得、プレス加工、焼結、焼き戻し処理を経て、前記高保磁力Nd-Fe-B系焼結磁石を製造することであり、
及び/又は、ステップ(S2a)において、前記Mn無しネオジム鉄ボロン主合金粉末の平均粒度は3.0~3.8 μmであり、
及び/又は、前記Mn含有補助合金粉末の平均粒度は3~4 μmである、ことを特徴とする請求項3に記載の焼結磁石の製造方法。
【請求項9】
ステップ(S2)は、(S2b)ステップ(S1)のMn無しネオジム鉄ボロン主合金フレークとMn含有補助合金フレークを混合した後、水素破砕とジェットミリングし、混合合金粉末を得、プレス加工、焼結、焼き戻し処理を経て、前記高保磁力Nd-Fe-B系焼結磁石を製造することであってもよく、
及び/又は、ステップ(S2b)において、前記混合合金粉末の平均粒度は3.0~3.8 μmである、ことを特徴とする請求項3に記載の焼結磁石の製造方法。
【請求項10】
新エネルギー車産業と風力発電の分野において、請求項1又は2に記載の焼結磁石の応用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2022年7月6日に中国国家知識産権局に提出された、特許出願番号が202210800345Xであり、発明名称が「高保磁力Nd-Fe-B系焼結磁石及びその製造方法並びに応用」である先行出願の優先権を主張する。上記先行出願は全体として援用により本願に組み込まれている。
【0002】
本発明は、希土類永久磁石分野に属し、具体的には、高保磁力Nd-Fe-B系焼結磁石及びその製造方法並びに応用に関する。
【背景技術】
【0003】
永久磁石材料は、新エネルギー車産業と風力発電等のようなクリーンエネルギー分野に広く利用されており、クリーンエネルギー分野が今後の重要な発展方向であることは勿論である。クリーンエネルギー分野の急速な発展により、焼結磁石の磁気性能に対する要求が高まり、ますます過酷な作業環境下では焼結磁石の保磁力をより高めることが要求されている。
【0004】
永久磁石材料の保磁力の最適化は、従来から突破する必要のある技術的な困難点であり、プロセス手段により粉末粒度を低下させ、結晶粒度を細化し、保磁力を向上することができるが、粒度の細化により粉末表面エネルギーが増加し、焼結結晶粒が異常成長しやすくなる。ネオジム鉄ボロンプロセスの継続的な進歩につれて、プロセス手段による性能の飛躍はますます弱くなり、他の技術が積極的に取られるべきである。
【0005】
プロセス手段に加えて、粒界構造を調整して保磁力を向上させることが可能であり、Al、Cuに代表される金属は、主相と粒界相との濡れ性を効果的に改善できて保磁力を向上させることが実証された。Alを例として、主相へのAl固溶は、キュリー温度の低下及び残留磁気の低下を引き起こす。Cuを例として、Cuは主相と粒界相との界面に分布する場合、保磁力を効果的に高めることができるが、Cuは主相に入り込んだ場合、逆に磁気性能の低下を引き起こす。このような金属の添加による粒界構造の調整で保磁力を向上させる方法は、金属添加量に依存し、金属添加量が一定限度未満である場合、磁気性能はほとんど向上せず、金属添加量が一定限度を超えた場合、逆に磁気性能は低下する。従って、より高い保磁力指数を達成するため、既存技術をベースにして粒界構造を調整する新たな技術を導入する必要がある。
【0006】
上記技術問題に対して、文献CN101657863Bには、希土類-鉄-ボロン系焼結磁石にAlを添加することにより保磁力を向上させると共に、鉄成分をMnで置換することにより、磁気性能の低下を極小に抑えて保磁力を向上させることができることが開示されている。文献CN102067249Bには、希土類-遷移金属-ボロン系焼結磁石に所定量のMnを添加することにより、Cuの添加量を増やすことができ、且つ保磁力を向上できることが開示されている。上記文献は、何れも希土類-鉄-ボロン系焼結磁石にMnを添加することにより保磁力を向上させることを提案し、且つMnの添加により焼結磁石中の保磁力を向上できることを証明したが、2つの文献は、Mn含有量の範囲が異なっている。文献CN101657863Bの実施例表4において、保磁力の最高値はMn原子量が0.05%で現れ、Mn原子添加量が0.05%を超えると、保磁力の向上効果は顕著ではなく、Mn原子量が0.4%であると、保磁力レベルはMn原子添加量が0.01%である場合より低く、Mnの含有量は文献に記載されている「Mn:0.02 原子%以上、0.5 原子%未満」とはかけ離れることが分かる。
【0007】
文献CN101689416Bには、Pr、Mnを所定の範囲で焼結磁石に添加すると、室温保磁力を向上できることが開示されていると共に、Pr添加量が所定の量より低いと、技術的効果が得られないことも言及されているが、具体的な理論は展開されていない。
【発明の概要】
【0008】
上記技術問題を改善するために、本発明の技術案は以下の通りである。
【0009】
高保磁力Nd-Fe-B系焼結磁石であって、質量比が100%で、上記焼結磁石は、以下の成分を含み、
R 26~37 wt%、そのうち、Rは、Ndを含む少なくとも1種の希土類元素であり、
Mn 0.07~0.23 wt%、
B 0.8~1 wt%、
M 0.5~4 wt%、上記Mは、Cu及び/又はAlを含み、Co、Ti、Ni、Zr、Gaから選ばれる少なくとも1つを更に含み、
残量がFeである。
【0010】
本発明の実施形態によれば、上記Rは、28~36 wt%であり、上記RはNdを含み、Pr、Dy、Ho、Tbから選ばれる少なくとも1つを更に含む。
【0011】
本発明の実施形態によれば、上記Mnは、0.07 wt%、0.08 wt%、0.1 wt%、0.12 wt%、0.14 wt%、0.15 wt%、0.16 wt%、0.17 wt%、0.18 wt%、0.19 wt%、0.2 wt%、0.21 wt%、0.22 wt%又は0.23 wt%である。
【0012】
本発明の実施形態によれば、上記Bは、0.8 wt%、0.82 wt%、0.84 wt%、0.86 wt%、0.88 wt%、0.9 wt%、0.92 wt%、0.94 wt%、0.95 wt%、0.98 wt%又は1 wt%である。
【0013】
本発明の実施形態によれば、上記Mは、0.8~3 wt%が好ましく、上記Mは、Cu及び/又はAlを含み、Co、Ti、Ni、Zr、Gaから選ばれる少なくとも1つを更に含む。
【0014】
本発明の実施形態によれば、上記高保磁力Nd-Fe-B系焼結磁石の結晶粒サイズは、3~6 μm、好ましくは3.9~4.8 μmである。
【0015】
本発明は、上記高保磁力Nd-Fe-B系焼結磁石の製造方法を更に提供し、上記方法は以下のステップを含み、
(S1)まず、Mn無しネオジム鉄ボロン主合金フレークとMn含有補助合金フレークをそれぞれ製造し、
そのうち、上記Mn無しネオジム鉄ボロン主合金フレークは、R 29~36 wt%、B 0.9~1 wt%、M 0.1~3.5 wt%を含み、残量がFeであり、
上記Mn含有補助合金フレークは、R 12~37 wt%、Mn 1~10 wt%、B 0~1 wt%、M 0.5~30 wt%を含み、残量がFeであり、
好ましくは、ステップ(S1)において、上記主合金フレーク中のMは、Cu及び/又はAlを含まず、上記補助合金フレーク中のMは、Cu及び/又はAlを必ず含み、補助合金フレーク中のCuの含有量は、0~9 wt%であり、Alの含有量は、0~8 wt%であり、且つCuとAlの含有量は、同時に0となることはなく、
(S2)ステップ(S1)のMn無しネオジム鉄ボロン主合金フレークとMn含有補助合金フレークを水素破砕とジェットミリングし、混合合金粉末を得、プレス加工、焼結、焼き戻し処理を経て、上記高保磁力Nd-Fe-B系焼結磁石を製造する。
【0016】
本発明の実施形態によれば、ステップ(S1)において、上記Mn含有補助合金フレークにおいて、上記Rは、少なくともNd 12~30 wt%を含む。
【0017】
本発明の実施形態によれば、ステップ(S2)において、上記Mn無しネオジム鉄ボロン主合金フレークは、Mn無しネオジム鉄ボロン主合金フレークとMn含有補助合金フレークの総量の87~98 wt%を占め、例えば、87 wt%、87.6 wt%、89 wt%、91 wt%、92 wt%、93 wt%、95 wt%、96.3 wt%、97 wt%、97.6 wt%、97.8 wt%、98 wt%であってもよい。
【0018】
本発明の実施形態によれば、ステップ(S2)において、上記混合合金粉末は、Mn無しネオジム鉄ボロン主合金粉末と、Mn含有補助合金粉末とを含む。
【0019】
本発明の実施形態によれば、ステップ(S2)において、混合合金粉末は、磁化磁場で配向成形され、成形後に冷間静水圧プレスを経て、プレス加工によって圧粉体を形成することができる。
【0020】
本発明の実施形態によれば、ステップ(S2)において、焼結温度は800~1200℃であり、温度維持時間は3~20 hである。好ましくは、二次焼結を使用し、1回目の焼結温度は900~1200℃、好ましくは900~1080℃であり、温度維持時間は3~8 h、好ましくは6~8 hであり、2回目の焼結温度は800~1100℃であり、温度維持時間は3~7 hである。
【0021】
好ましくは、焼結磁石におけるMnの割合が0.15~0.23 wt%で、且つ合金粉末粒度が3.0~3.8 μmである場合、1回目の焼結温度は900~1050℃であり、温度維持時間は6~8 hである。
【0022】
本発明の実施形態によれば、ステップ(S2)において、焼き戻し処理は二次焼き戻しであり、例えば、真空焼き戻し炉で二次焼き戻し処理を行い、一次焼き戻し温度は700~950℃で、温度維持時間は4~8 hであり、二次焼き戻し温度は450~600℃で、温度維持時間は4~8 hである。
【0023】
本発明の実施形態によれば、ステップ(S2)は、(S2a)ステップ(S1)におけるMn無しネオジム鉄ボロン主合金フレークとMn含有補助合金フレークをそれぞれ水素破砕とジェットミリングし、Mn無しネオジム鉄ボロン主合金粉末とMn含有補助合金粉末をそれぞれ得、また、Mn無しネオジム鉄ボロン主合金粉末とMn含有補助合金粉末を均一に混合して混合合金粉末を得、プレス加工、焼結、焼き戻し処理を経て、上記高保磁力Nd-Fe-B系焼結磁石を製造することであってもよい。
【0024】
本発明によれば、ステップ(S2a)において、上記Mn無しネオジム鉄ボロン主合金粉末の平均粒度は3.0~3.8 μmであり、例えば、3 μm、3.1 μm、3.2 μm、3.3 μm、3.4 μm、3.5 μm、3.6 μm、3.7 μm又は3.8 μmである。
【0025】
好ましくは、上記Mn含有補助合金粉末の平均粒度は3~4 μmであり、例えば、3 μm、3.1 μm、3.2 μm、3.3 μm、3.4 μm、3.5 μm、3.6 μm、3.7 μm、3.8 μm、3.9 μm又は4 μmである。
【0026】
本発明の実施形態によれば、ステップ(S2)は、(S2b)ステップ(S1)のMn無しネオジム鉄ボロン主合金フレークとMn含有補助合金フレークを混合した後、水素破砕とジェットミリングし、混合合金粉末を得、プレス加工、焼結、焼き戻し処理を経て、上記高保磁力Nd-Fe-B系焼結磁石を製造することであってもよい。
【0027】
本発明によれば、ステップ(S2b)において、上記混合合金粉末の平均粒度は3.0~3.8 μmであり、例えば、3.0 μm、3.1 μm、3.2 μm、3.3 μm、3.4 μm、3.5 μm、3.6 μm、3.7 μm又は3.8 μmである。
【0028】
本発明の例示的な実施形態として、上記高保磁力Nd-Fe-B系焼結磁石の製造方法は、具体的に以下のステップを含み、
(1)Mn無しネオジム鉄ボロン主合金フレークとMn含有補助合金フレークをそれぞれ製造し、
(2)Mn無しネオジム鉄ボロン主合金フレークとMn含有補助合金フレークを比率で混合した後、水素破砕-ジェットミリングし、Mn無しネオジム鉄ボロン主合金粉末とMn含有補助合金粉末とを含む混合合金粉末を得、
又は、Mn無しネオジム鉄ボロン主合金フレークとMn含有補助合金フレークをそれぞれ水素破砕-ジェットミリングし、Mn無しネオジム鉄ボロン主合金粉末とMn含有補助合金粉末をそれぞれ得、上記主合金粉末と補助合金粉末を混合し、そのうち、Mn無しネオジム鉄ボロン主合金粉末の粒度は3.0~3.8 μmであり、Mn含有補助合金粉末の粒度は3.0~4.0 μmであり、
そのうち、Mn無しネオジム鉄ボロン主合金フレークは、Mn無しネオジム鉄ボロン主合金フレークとMn含有補助合金フレークの総量の87~98 wt%を占め、
(3)ステップ(2)における均一に混合した混合合金粉末を磁化磁場で配向成形され、成形後に冷間静水圧プレスを経て圧粉体を形成し、圧粉体を真空焼結炉で焼結し、1回目の焼結温度は900~1200℃であり、温度維持時間は3~8 hであり、また2回目の焼結を行い、2回目の焼結温度は800~1100℃であり、温度維持時間は3~7 hであり、素体を製造し、
焼結磁石におけるMnの割合が0.15~0.23 wt%で、且つ合金粉末粒度が3.0~3.8 μmである場合、1回目の焼結温度は900~1050℃であり、温度維持時間は6~8 hであり、
(4)ステップ(3)における素体を真空焼き戻し炉で二次焼き戻しを行い、第一次焼き戻し温度は700~950℃で、温度維持時間は4~8 hであり、第二次焼き戻し温度は450~600℃で、温度維持時間は4~8 hであり、上記高保磁力Nd-Fe-B系焼結磁石を製造する。
【0029】
本発明は、新エネルギー車産業と風力発電等の分野において、上記高保磁力Nd-Fe-B系焼結磁石の応用を更に提供する。
〔本発明の有益な効果:〕
本発明は、Mn含有補助合金粉末とMn無しネオジム鉄ボロン主合金粉末を混合した後、Nd-Fe-B焼結磁石を製造し、Mn含有補助合金粉末は、本発明の範囲内のMn元素に加えて、金属Cu、Alの少なくとも1つを含む必要があり、Mnが主相のFeの一部と置換されることにより、粒界に有益元素の主相への固溶量を減少させ、保磁力を向上させることができる。本発明はまた、Ndの一部をPrで置換しているが、Ndが主相の主元素であることを確保することに加えて、Pr添加量とMn添加量は関連性がなく、Prが主相に添加された後に反応しない可能性がある。
【0030】
従来技術では、低融点金属であるCu、Alにより粒界構造を改善して保磁力を向上させることが一般的である。Alは、主相への溶解度が大きく、主相に入り込むと、磁気性能を損なう可能性があり、Cuは、粒界において粒界相の濡れ性を改善し、薄い粒界相の生成を助長するので、Al、Cuの添加量は、適正範囲に制御されるべきである。本発明は、補助合金粉末の形態でMnを添加し、Mn元素でFe元素を置換する際に、Mnの被覆層を形成し、Cu、Alの主相への入り込みを減少し、粒界構造を改善するので、従来技術の合金溶解法に比べて、本発明の二合金法は、焼結磁石の保磁力を向上させると共に、従来技術による残留磁気の低下幅が大きいという問題を克服することができる。
【0031】
本発明は、ジェットミリングを用いて、主合金フレーク及び補助合金フレークをそれぞれ3.0~3.8 μm及び3~4 μmの範囲内に破砕するか、又は主合金フレーク及び補助合金フレークを混合した後に3.0~3.8 μmに破砕して、より微細な結晶粒を得ることができ、同時に、補助合金に添加されるMn、Cu、Alなどの粒界元素は、主相結晶粒の周囲をより充分均一に包み、粒界を強化することができる。更に、混合合金粉末の粒度が小さくなると、表面エネルギーが急激に増加し、焼結体密度を十分確保する前提で、焼結温度と焼結時間を制御することにより、より高保磁力の焼結磁石を製造することができる。本発明は、焼結磁石に占めるMnの割合が0.15~0.23 wt%、合金粉末粒度が3.0~3.8 μmである場合、900~1050℃の焼結温度で適正な焼結時間を延長し、同様の焼き戻しプロセスでより高い保磁力が得られることを更に見出した。
【0032】
本発明は、二合金法による高保磁力Nd-Fe-B系焼結磁石を製造する方法を提供し、主合金粉末と、Mn、Cu及び/又はAlを含有する補助合金粉末とを混合し、焼結温度を調整することにより、均一で連続的な粒界相を得て保磁力を向上させ、結晶粒サイズが小さい場合に、より高い保磁力の焼結磁石を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】実施例3、8~16、比較例9~13の焼結磁石のMn添加量によるHcjの変化を示すグラフである。
【
図2】実施例17~21及び比較例14~18の混合合金粉末の平均粒度と焼結磁石の結晶粒サイズと保磁力の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、具体的な実施例に合わせて、本発明の装置を更に詳しく説明する。下記の実施例は、単に本発明を例示的に説明し解釈するものであり、本発明の請求範囲を限定するものとして解釈されるべきではないことを理解すべきである。本発明の上記内容に基づいて実現される技術は、何れも本発明による請求範囲内に含まれる。
【0035】
特に説明のない限り、下記の実施例に使用される部品は何れも市販品であり、又は既知の方法によって製造することができる。
〔実施例1~6、比較例1~6〕
以下の方法で製造した。
【0036】
(1)表1の各主合金フレークの配合比に合わせて原料(単位は何れもwt%)を秤量し、配置した原料をアルゴンガス雰囲気中で溶解し、急冷ロールに鋳込み、Mn無しネオジム鉄ボロン主合金フレーク(即ち、表1の主合金)を製造した。同様に、補助合金原料をアルゴンガス雰囲気中で溶解してMn含有補助合金フレーク(即ち、表1の補助合金)を鋳造し、主合金フレークと補助合金フレークを比率で混合した後、水素破砕とジェットミリング破碎を経て、粒度が均一な混合合金粉末を得、混合合金粉末の粒度は表2に示す通りである。
【0037】
(2)ステップ(1)における混合合金粉末は、磁化磁場で配向成形され、成形後に冷間静水圧プレスを経て圧粉体を形成した。圧粉体を表2の焼結温度、焼結時間で二次焼結熱処理を行った。
【0038】
(3)上記素体を真空焼き戻し炉で二次焼き戻しを行い、第一次焼き戻し温度は800℃で、温度維持時間は5 hであり、第二次焼き戻し温度は500℃で、温度維持時間は5 hであり、焼結磁石を製造した。
〔実施例7〕
実施例7は、実施例1~6と以下の点で異なる。
【0039】
(1)実施例7における各元素の配合比は表1に示す通りであり、表1の各主合金フレークの配合比に合わせて原料(単位は何れもwt%)を秤量し、配置した原料をアルゴンガス雰囲気中で溶解し、急冷ロールに鋳込み、Mn無しネオジム鉄ボロン主合金フレーク(即ち、表1の主合金)を作製した。同様に、補助合金原料をアルゴンガス雰囲気中で溶解してMn含有補助合金フレーク(即ち、表1の補助合金)を鋳造し、製造した主合金フレークと補助合金フレークをそれぞれ水素破砕とジェットミリング破碎を経て、粒度が均一な主合金粉末と補助合金粉末をそれぞれ得、主合金粉末の平均粒度は3.4 μmであり、補助合金粉末の平均粒度は3.4 μmであり、上記主合金粉末と補助合金粉末を均一に混合して混合合金粉末を得た。
【0040】
(2)ステップ(1)における混合合金粉末は、磁化磁場で配向成形され、成形後に冷間静水圧プレスを経て圧粉体を形成した。圧粉体を表2の焼結温度、焼結時間で二次焼結熱処理を行った。
【0041】
(3)上記素体を真空焼き戻し炉で二次焼き戻しを行い、第一次焼き戻し温度は800℃で、温度維持時間は5 hであり、第二次焼き戻し温度は500℃で、温度維持時間は5 hであり、焼結磁石を製造した。
〔比較例7~8〕
(1)表1の合金成分の配合比に合わせて原料(単位は何れもwt%)を秤量し、配置した原料をアルゴンガス雰囲気中で溶解し、急冷ロールに鋳込み、フレークを作製し、水素破砕とジェットミリング破碎を経て、粒度が均一なネオジム鉄ボロン合金粉末を得た。
【0042】
(2)ステップ(1)におけるネオジム鉄ボロン合金粉末は、磁化磁場で配向成形され、成形後に冷間静水圧プレスを経て圧粉体を形成した。圧粉体を表2の焼結温度、焼結時間で二次焼結熱処理を行った。
【0043】
(3)上記素体を真空焼き戻し炉で二次焼き戻しを行い、第一次焼き戻し温度は800℃で、温度維持時間は5 hであり、第二次焼き戻し温度は500℃で、温度維持時間は5 hであり、焼結磁石を製造した。
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
【0048】
実施例1及び比較例1のデータを比べると、比較例1にMn元素を含有せず、双方の磁気性能の評価結果から、本発明がMn元素を含有するので、製造した焼結磁石のHcjがより高く、且つBrの減少幅がたいへん小さいことが分かる。
【0049】
実施例1と比較例7を比べると、本発明の二合金製造プロセスにより製造された焼結磁石のHcjが明らかに向上し、同様に実施例6と比較例8を比べると、二合金製造プロセスにより製造された焼結磁石のHcjが明らかに向上した。本発明のMnは、補助合金として焼結磁石に添加されており、より高い保磁力を有することが分かる。
【0050】
実施例2と比較例2、比較例3を比べると、実施例2は補助合金にAl、Cuを添加し、且つMnを添加するのに対し比較例2は補助合金にMnのみを添加し、合金にAl、Cuを添加せず、比較例3は補助合金にAl、Cuを添加し、主合金にMnを添加した。表3の磁気性能結果から、比較例2、3ではMnを添加したにもかかわらず、補助合金にAl、Cuを添加せず、焼結磁石のHcjが不足になり、Mnは主合金として添加しても焼結磁石のHcjが不足になった。同様に、実施例5、比較例6を比べると、実施例5は補助合金にAl、Cu、Mnを添加し、比較例6は補助合金のみにMnを添加し、表3の磁気性能結果から見れば、比較例6のHcjがより低かった。
【0051】
本発明は補助合金にAl及び/又はCuを添加し、且つMnを同時に添加することにより、保磁力効果に優れた焼結磁石を製造できることが分かる。以上により、本発明のMn元素は、補助合金に添加されて粒界に作用し、粒界に包囲層を形成した後にCu、Alが主相に入り込むことを低減し、保磁力を効果的に向上させることができることが分かる。
【0052】
実施例6と実施例7を比べると、実施例6の主合金フレークと補助合金フレークとを水素破砕前に混合してジェットミリングにより更に解砕するのに対し、実施例7の主合金フレークと補助合金フレークとをそれぞれ水素破砕、ジェットミリング処理を経て、主合金粉末と補助合金粉末とをそれぞれ得、更に主合金粉末と補助合金粉末とを混合し、表3から分かるように、2つの混合方式が磁気性能に与える影響が大きくない。
【0053】
実施例3と比較例4を比べると、実施例3は0.12 wt%のMnを含有するのに対し比較例4は0.3 wt%のMnを含有し、実施例4と比較例5を比べると、実施例4は0.14 wt%のMnを含有するのに対し比較例5は0.25 wt%のMnを含有し、表3の磁気性能結果から見れば、本発明により製造された焼結磁石の性能がより優れ、Mn添加量がある限度を超えると、焼結磁石の磁気性能が低下することが分かる。
〔実施例8~16、比較例9~13〕
(1)実施例8~16、比較例9~13は実施例3に基づき、Mnの合計含有量のみを変化させ、実施例8~16のMnの総含有量は0.07 wt%、0.08 wt%、0.1 wt%、0.14 wt%、0.16 wt%、0.18 wt%、0.2 wt%、0.22 wt%、0.23 wt%であり、比較例9~12のMnの含有量は0.00 wt%、0.24 wt%、0.26 wt%、0.28 wt%、0.3 wt%である。各主合金フレークの配合比に合わせて原料(単位は何れもwt%)を秤量し、配置した原料をアルゴンガス雰囲気中で溶解し、急冷ロールに鋳込み、Mn無しネオジム鉄ボロン主合金フレークを作製した。同様に、補助合金原料をアルゴンガス雰囲気中で溶解してMn含有補助合金フレークを鋳込み、主合金フレークと補助合金フレークを比率で混合した後、水素破砕とジェットミリング破碎を経て、粒度が均一な混合合金粉末を得、混合合金粉末の平均粒度は3.7 μmである。
【0054】
(2)ステップ(1)における混合合金粉末は、磁化磁場で配向成形され、成形後に冷間静水圧プレスを経て圧粉体を形成した。圧粉体を温度1060℃で温度維持時間5.4 hで1回目の焼結を行い、その後、温度1080℃で温度維持時間5.5 hで2回目の焼結を行った。
【0055】
(3)上記素体を真空焼き戻し炉で二次焼き戻しを行い、第一次焼き戻し温度は800℃で、温度維持時間は5 hであり、第二次焼き戻し温度は500℃で、温度維持時間は5 hであり、焼結磁石を製造した。
【0056】
実施例3、実施例8~16、比較例9~13のMn添加量による保磁力の変化傾向を
図1に示し、
図1から分かるように、Mn添加量のみを変化させた場合、その他が変化せず、Mn含有量は0.17~0.23%の時に、保磁力が最も高くなっている。
【0057】
以上により、補助合金のMn添加範囲は0.17~0.23%が好ましい。
〔実施例17~21、比較例14~18〕
(1)表4の配合比に合わせて原料(単位は何れもwt%)を秤量し、配置した原料をアルゴンガス雰囲気中で溶解し、急冷ロールに鋳込み、Mn無しネオジム鉄ボロン主合金フレークを作製し、同様に、補助合金原料をアルゴンガス雰囲気中で溶解してMn含有補助合金フレークを鋳造した。主合金フレークと補助合金フレークを比率で混合した後、水素破砕とジェットミリング破碎を経て、粒度が均一な混合合金粉末の粒度は表5に示す通りであり、そのうち、実施例17~21、比較例14~18は、何れも同じ原料を用いた。
【0058】
(2)ステップ(1)における混合合金粉末は、磁化磁場で配向成形され、成形後に冷間静水圧プレスを経て圧粉体を形成した。圧粉体を表5の焼結温度、焼結時間で二次焼結熱処理を行った。
【0059】
(3)上記素体を真空焼き戻し炉で二次焼き戻しを行い、第一次焼き戻し温度は800℃で、温度維持時間は5 hであり、第二次焼き戻し温度は500℃で、温度維持時間は5 hであり、焼結磁石を製造した。
【0060】
【0061】
【0062】
表5から分かるように、焼結磁石の結晶粒を細化することが有効的に保磁力を向上させることができる。
【0063】
図2は、実施例17~21及び比較例14~18の混合合金粉末の平均粒度、結晶粒サイズと保磁力の変化を示すグラフであり、混合粉末の平均粒度を調整することにより、特定の温度範囲において磁石結晶粒の成長を制御することができ、好ましい結晶粒度は3.9~4.8 μmである。表5と
図2を合わせて見ると、混合合金粉末の平均粒径が3.0~3.8 μmの間にある時に、保磁力が最も優れていることが分かる。混合合金粉末の粒度<3.0 μmであると、焼結による過焼結が生じやすくなり、保磁力が急激に低下する。混合合金粉末の粒度>3.8 μmであると、製品の結晶粒サイズの均一性を効果的に制御することができず、製品の結晶粒サイズ>4.8 μmである。
【0064】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は上記実施形態に限定されない。本発明の精神及び原則を逸脱しない範囲で行われた修正、同等置換、改良などは、何れも本発明の請求範囲内に含まれる。
【国際調査報告】